省エネ改修は「大規模修繕と同時」が正解——足場を二度組まないで賃料と資産価値を守る、新・省エネ基準時代のオーナー実務【2026年6月】
「うちは築古だから、省エネなんて関係ないよ」。
収益物件をお持ちのオーナーさまと現場でお話ししていると、いまでもよくこう言われます。
私は外壁・防水の現場で20年やってきました。足場を組む工事も、ロープでぶら下がる無足場の工事も、その両方をくぐってきた立場です。その私から、はっきり申し上げたいことがあります。「省エネは新築の話」という時代は、もう終わりました。
2025年4月から、新築の建物には省エネ基準への適合が原則すべて義務づけられました。賃貸や売買の広告には、断熱性能や光熱費の目安を示す「省エネ性能ラベル」が並ぶようになっています。さらに2027年4月には、エアコンの省エネ基準そのものが大きく引き上げられます。
つまり、これから入居者は「光熱費でこの部屋を選ぶ」ようになる。新築や築浅が次々と省エネ性能を打ち出してくるなかで、何もしていない築古の収益物件は、家賃でも、売却でも、じわじわと選ばれにくくなっていきます。
ですが、ここで慌てて省エネ改修だけを単発で発注するのは、いちばんもったいない動き方です。本日お伝えしたい結論は、ひとつです。省エネ改修は「大規模修繕と同時にやる」のが、コストでも工期でも圧倒的に有利——現場の言葉で、その理由と段取りを整理します。
1. 2026年のいま、賃貸市場で「省エネ性能」が選別基準になり始めた
まず、足元で何が起きているのか。判断の前提が変わってきているので、ここから整理させてください。
新築は2025年4月から、省エネ基準への適合が「義務」になった
これまで省エネ基準の適合義務は、延べ面積2,000平方メートル以上の大規模な建物に限られていました。それが2025年4月1日に工事着手する建物から、原則すべての新築建築物(住宅・非住宅)に拡大されています。背景には、2050年のカーボンニュートラル、2030年度に温室効果ガスを2013年度比46%削減するという国の目標があります(国土交通省)。
ここでオーナーさまに知っておいていただきたいのは、「義務化されたのは新築」だという点です。お持ちの既存物件に、いますぐ何かが義務づけられるわけではありません。ですが、市場に出てくる新築・建替え物件は、これから全部が省エネ基準クリア品になる。比較される側の既存物件は、相対的に見劣りしていく——これが、じわじわ効いてくる変化の正体です。
賃貸・売買の広告には「省エネ性能ラベル」が並び始めた
もうひとつ、2024年4月から始まったのが「建築物の省エネ性能表示制度」です。新築建築物を販売・賃貸する事業者は、チラシやインターネット広告に、断熱性能とエネルギー消費性能を★マークや数値で示す「省エネ性能ラベル」を表示することが努力義務となりました(国土交通省)。対象には賃貸住宅や貸しビルも含まれます。
すでにSUUMOやアットホームといった不動産ポータルサイトでも、このラベル表示が始まっています。入居希望者は、間取りや家賃と並んで「この部屋は光熱費がどれくらいか」を、検索画面の段階で見比べられるようになりつつある、ということです。
「努力義務だから、まだ大丈夫」と受け取るか、「次に募集をかけるとき、性能の低い部屋は最初の比較で外される」と受け取るか。私は、後者の感覚で備えておくほうが、オーナーさまの賃貸経営は守られると考えています。
エアコン「2027年問題」——旧設備のままでは、差がつく
設備の側でも、大きな節目が近づいています。2027年4月から、エアコンの省エネ基準(トップランナー制度)が引き上げられます。壁掛け形エアコン全体で2016年度比およそ13.7%の効率改善、普及機種の多い4.0kWクラス(14畳用)では最大34.7%の改善が求められ、2027年4月以降は基準を満たさない機種は製造も販売もできなくなります(資源エネルギー庁)。これがいわゆる「エアコン2027年問題」です。
現在の最安〜スタンダードクラスの多くは新基準を満たしておらず、底上げのために格安モデルの価格帯も全体的に上がる見通しとされています。つまり、設備を「ただ古いものに入れ替える」だけでもコストが上がっていく。だからこそ、建物の断熱性能そのものを底上げして、設備の負担を軽くする発想が効いてきます。
2. なぜ「既存の収益物件」にこそ、この話が効いてくるのか
「義務は新築でしょう」と、ここまでで思われた方。正しいです。でも、オーナーさまの賃貸経営にとっての本当の論点は、義務かどうかではありません。
入居者は、これから「光熱費」で部屋を選ぶ
電気代が高止まりしている今、入居者にとって家賃と光熱費は、ほとんど同じ「毎月の住居費」です。家賃が同じ2部屋が並んだとき、片方が「冬は窓から冷気が入る築古」、もう片方が「内窓が入っていて光熱費が抑えられる部屋」だったら、どちらが選ばれるか。答えははっきりしています。
省エネ性能は、これからの賃貸では空室期間の長さと、設定できる家賃の上限にじかに効いてきます。「築古だから家賃を下げるしかない」と諦める前に、性能を底上げして「選ばれる理由」を作る、という発想に切り替える時期に来ています。
省エネ性能は、売却と融資にも効いてくる
出口(売却)の場面でも同じです。買い手や金融機関が物件を見る目線に、「この建物は今後も競争力を保てるか」という観点が、確実に加わってきています。断熱・省エネ改修の履歴がある建物は、「手をかけて維持されてきた資産」として評価されやすい。逆に、何もしていない築古は、将来かかる改修コストを織り込んで値を引かれやすくなります。
私は以前のコラムでも「修繕履歴が収益物件の売り時を左右する」とお伝えしました。省エネ改修は、その履歴のなかでも、これから価値の差を生む新しい一項目になっていく——そう見ています。
「光熱費の見える化」が、空室対策の言葉を変える
もうひとつ、賃貸経営の現場感覚として申し上げたいことがあります。これまで空室対策といえば、家賃を下げる、フリーレントをつける、設備を一部入れ替える——どれも「コストを払って埋める」打ち手が中心でした。
ところが省エネ性能ラベルが浸透すると、募集の言葉が変わります。「この部屋は断熱性能が高く、光熱費が抑えられます」という、入居者にとって毎月のお金に直結する訴求ができるようになる。家賃を下げずに「選ばれる理由」を作れる、ということです。
築古だからと家賃の値下げ競争に入る前に、性能でポジションを取り直す。これは、長い目で見れば家賃の下支えにもつながります。省エネ改修は「コスト」ではなく「賃貸経営の競争力への投資」だと、私はオーナーさまにお伝えしています。
3. 省エネ改修は「大規模修繕と同時」が圧倒的に有利な理由
ここからが本日の本題です。なぜ単発ではなく、大規模修繕と同時にやるべきなのか。理由は、現場の構造そのものにあります。
足場は、二度組まない——仮設費は工事費の約2割
外壁の断熱改修も、窓まわりの改修の一部も、屋根・屋上の断熱も、外側から手を入れる工事には足場(仮設)が必要です。そして、この仮設費は、大規模修繕の工事費全体のおよそ2割を占める大きな費目です(国土交通省「マンション大規模修繕工事に関する実態調査」では、仮設費が工事費に占める割合は2割前後とされています)。
ここがポイントです。大規模修繕で一度足場を組み、それを撤去し、数年後に省エネ改修でまた足場を組む——これは、いちばん高い費目を二回払っているのと同じです。大規模修繕の足場が建っているうちに省エネ改修も一緒に済ませれば、二度目の仮設費がまるごと不要になります。これだけで、トータルのコストは大きく変わります。
外壁・防水・断熱を「一度の足場」で束ねる
大規模修繕では、外壁塗装、タイルの補修、シーリングの打ち替え、屋上・バルコニーの防水を行います。そこに、外壁の断熱、屋上の断熱、開口部(窓・サッシ)まわりの改修を束ねると、足場・養生・近隣対応といった「工事のたびに必ずかかる固定費」を一回分に圧縮できます。
工期の面でも、居住者・テナントへの影響を「一回」にまとめられる意味は大きい。収益物件では、工事のたびに入居者へ気をつかい、退去リスクを抱えるのが現実です。工事の機会を一回にまとめることは、コストだけでなく、入居者満足と稼働率を守ることでもある——私はそう考えています。
数字でイメージする「二度組み」の損
抽象論だけでは伝わりにくいので、あくまで一例として、ざっくりした数字でイメージしてみます。仮に、ある規模のマンションで大規模修繕の工事費総額が3,000万円だったとします。仮設費がそのおよそ2割なら、足場まわりにかかる費用は600万円前後という計算になります。
ここで、省エネ改修(外壁断熱や窓まわりの工事)を数年後に別発注すれば、その都度、足場を組み直すたびに同じような規模の仮設費が、もう一度のしかかってきます。工事の内容や面積によって金額は上下しますが、「いちばん高い費目を、わざわざ二回払う」という構造そのものが、もったいないのです。
逆に、大規模修繕の足場が建っているうちに省エネ改修を束ねてしまえば、この二度目の仮設費はゼロにできます。さらに、その一度きりの仮設費自体も、後でお話しするロープアクセス・ハイブリッドで圧縮できる。「足場を二度組まない」と「足場そのものを軽くする」を重ねると、効果は足し算ではなく掛け算で効いてきます。(※金額はあくまでイメージのための一例で、実際は建物の状態・規模・仕様により大きく変わります。)
ここで効いてくる、足場を減らす「無足場・ハイブリッド」
そして、仮設費が2割を占めるのなら、その仮設費そのものを圧縮できれば、効果はさらに大きくなります。ここが、私たちのいちばんの強みです。
私たちは、通常の足場を組む工法に加えて、ロープアクセス(無足場工法)、そして両者を建物の部位ごとに使い分けるハイブリッド工法——この3つから、建物にとってベストなやり方をご提案できます。高層部や足場の架けにくい面はロープアクセスで、足場が必要な面だけ足場を組む。こうすると、仮設費そのものを抑えながら、省エネ改修まで一度の工事で束ねられます。
3つの工法から最適なものを選べる会社は、日本でも数えるほどです。「足場ありきの見積もり」を一度ほどいて、本当にその足場が全面に必要かを見直すだけで、コストの絵はかなり変わります。
4. 使える補助金——「先進的窓リノベ2026」を逃さない
省エネ改修には、国の補助金が手厚く用意されています。代表的なのが、環境省の「先進的窓リノベ2026事業」です。窓の断熱改修は、費用対効果がもっとも高い省エネ改修のひとつなので、ここは押さえておきたいところです。
住宅は1戸あたり最大100万円、管理組合名義での申請も可能
先進的窓リノベ2026事業は、令和7年度補正予算で1,125億円が計上された大型の事業です。戸建てやマンションなどの住宅では、補助の上限は1戸あたり最大100万円。内窓の設置、ガラス交換、外窓の交換などが対象です(環境省)。
注意点として、2025年の事業では上限が200万円だったものが、2026年は100万円に減額されています。手厚いうちに動くという判断が効く局面です。そして重要なのが、マンションでは管理組合名義での申請も可能という点。共用部・専有部を束ねて、建物全体の断熱改修に活用できます。大規模修繕の計画にうまく組み込めば、補助金と仮設費の節約が両取りできます。
非住宅(貸しビル)は、1棟あたり最大1,000万円
2026年の事業からは、非住宅建築物も補助の対象に加わりました。貸しビルやテナントビルでは、1棟あたりの上限が最大1,000万円となっています(環境省)。オフィスや店舗の窓改修は、これまで補助の薄い領域でしたが、ここが大きく動いた格好です。ビルオーナーさまにとっては、大規模修繕のタイミングで窓の断熱改修を束ねる強い理由になります。
補助金「ありき」にはしない——申請の段取りだけ先に押さえる
ひとつ、現場の人間として正直に申し上げます。補助金は、予算の上限に達すると受付が終了します。また、対象製品や申請のタイミング、補助下限(先進的窓リノベでは補助額5万円以上が必要)など、要件も毎年変わります。
ですから、「補助金が取れたら工事する」という順番ではなく、「大規模修繕の計画を立てるとき、省エネ改修と補助金活用を最初から選択肢に入れておく」のが正解です。設計・仕様の段階で補助対象の製品を選んでおけば、申請のタイミングを逃しにくくなります。段取りが、そのまま金額の差になります。
5. オーナーが大規模修繕の前に確認すべき、5つの実務
ここまでを、具体的な行動に落とします。次の大規模修繕の前に、この5つだけは確認しておいてください。
実務1:長期修繕計画に「省エネ改修」の行を足しておく
多くの長期修繕計画は、塗装・防水・鉄部といった従来の費目だけで組まれています。ここに、外壁・屋上の断熱、窓まわりの改修という行を、検討項目として足しておくこと。計画の段階で並べておくだけで、「同時施工」という選択肢が消えずに残ります。
実務2:次の足場を「省エネ改修と束ねられないか」で考える
次に足場を組む工事の予定が決まっているなら、その足場で省エネ改修も束ねられないかを、必ず一度検討してください。仮設費を二回払わないための、いちばん効く一手です。
実務3:補助金のスケジュールを「設計の前」に確認する
先進的窓リノベ2026事業などの補助金は、予算と期間に限りがあります。工事の発注前ではなく、仕様を決める設計の段階で、対象製品・申請時期を確認しておくこと。これが申請の取りこぼしを防ぎます。
実務4:工法を「足場ありき」で決めない
見積もりが「全面足場」で組まれていたら、一度立ち止まってください。高層部や一部の面だけロープアクセスに置き換える、あるいはハイブリッドにするだけで、仮設費が変わることがあります。3工法を扱える会社に、別の絵も描いてもらうのが安全です。
実務5:省エネ改修の履歴を「記録」として残す
工事をしたら、内容・数量・使った製品を記録に残しておくこと。この履歴が、将来の売却・融資・入居者募集で「手をかけて維持されてきた建物」という説明材料になります。やった工事を、ちゃんと価値に変えるための一手です。
6. 工法の選び方——足場・ロープアクセス・ハイブリッド
「無足場って、本当に大丈夫なの?」というご質問を、現場でよくいただきます。ここで、3つの工法の使い分けを整理しておきます。
居住者・テナントがいる収益物件こそ、無足場が効く
ロープアクセス(無足場工法)は、産業用ロープを使って建物の外壁にアクセスし、足場を架けずに施工する方法です。足場の架設・撤去がない分、仮設費を抑えられ、工期も短く、足場で窓がふさがれる期間がない。居住者やテナントが入ったまま工事を進める収益物件では、この「生活・営業への影響の小ささ」が大きな価値になります。
一方で、広い面を一気に仕上げる作業や、重い資材を扱う工事は、足場のほうが向きます。だから「無足場が万能」とは申しません。建物の形・高さ・工事内容によって、最適な工法は変わります。
3つの工法から「建物にとってベスト」を選ぶ
私たちは、通常足場・ロープアクセス・ハイブリッドの3つを、建物の特性に応じて使い分けてご提案します。足場が必要な面は足場で、不要な面はロープアクセスで——この組み合わせ(ハイブリッド)で、品質を落とさずに仮設費を圧縮します。
さらに、私たちは日本で初めてロープアクセス工事のフランチャイズを展開しており、塗装・防水・タイル・電気・看板といった各分野の専門職が加盟しています。それぞれの専門職が直接施工に入ることで、中間マージンを抑えながら高品質を保つ——これが、高品質と低価格を両立できる理由です。
7. 私が現場で見てきた、同時施工の「失敗」と「成功」
最後に、現場の話を少しだけ。
失敗のほうから。あるオーナーさまは、大規模修繕で足場を組み、外壁と防水をきれいに仕上げました。その2年後、入居者からの「冬が寒い」という声を受けて、窓の断熱改修を別発注。また足場を組み、また近隣にあいさつまわりをして、また仮設費を払いました。「あのとき一緒にやっていれば、足場代がまるまる浮いたのに」——後から悔やまれていました。これは、計画の段階で省エネ改修が選択肢に入っていなかったために起きたことです。
成功のほうも。別の一棟オーナーさまは、大規模修繕の計画を立てる段階で、私たちと一緒に「この足場で、できることを全部やる」と決めました。外壁塗装・防水に加えて、窓の断熱改修を束ね、補助金の対象製品を設計段階で選定。高層部はロープアクセスに切り替えて仮設費を抑えました。結果、工事は一回で済み、入居者へのお願いも一回だけ。工事後の募集では「省エネ性能」を打ち出せるようになり、空室の埋まりが目に見えて変わりました。
差は、能力ではありません。「次の足場を、最大限に使い切る」という発想があったかどうか。それだけです。
8. よくあるご質問(FAQ)
Q1. 既存の築古マンションにも、省エネ基準の適合義務はかかりますか?
A. いいえ。2025年4月から義務化されたのは、原則すべての「新築」建築物です(国土交通省)。既存物件にいますぐ適合義務がかかるわけではありません。ただし、新築・建替えが省エネ基準クリア品になるなかで、何もしていない既存物件は相対的に競争力が下がっていきます。義務ではなく「選ばれ続けるための備え」として考えるのが実務的です。
Q2. 省エネ改修だけを単発で発注するのは損ですか?
A. 足場を要する外壁・屋上の断熱改修については、大規模修繕と別々に発注すると、仮設費(工事費のおよそ2割)を二回払うことになります。内窓の設置など足場が不要な工事は単発でも構いませんが、足場を使う工事は大規模修繕と束ねるほうが、コスト面で有利です。
Q3. 補助金は、いつ申請すればいいですか?
A. 工事の発注後ではなく、仕様を決める設計の段階で、対象製品とスケジュールを確認しておくのが安全です。先進的窓リノベ2026事業のような補助金は、予算上限に達すると受付が終了し、要件も毎年変わります(環境省)。「取れたらやる」ではなく「最初から計画に組み込む」のが正解です。
Q4. マンションの管理組合でも補助金は使えますか?
A. はい。先進的窓リノベ2026事業は、マンションの管理組合名義での申請が可能です(環境省)。共用部・専有部を束ねて、建物全体の断熱改修に活用できます。大規模修繕の計画と一緒に検討すると効果的です。
Q5. ロープアクセス(無足場工法)は、足場の工事より品質が落ちませんか?
A. 工事内容によります。外壁の塗装・補修やシーリング、調査・点検などはロープアクセスでも十分な品質で施工できます。一方、広い面を一気に仕上げる作業や重量物の扱いは足場が向きます。だからこそ、私たちは部位ごとに使い分けるハイブリッド工法で、品質を保ちながら仮設費を抑えるご提案をしています。
Q6. まず何から始めればいいですか?
A. お持ちの建物の長期修繕計画を見直し、「次に足場を組む工事はいつか」を確認するところからです。そのタイミングに省エネ改修と補助金活用を束ねられないか、図面と現地を見たうえでご提案します。判断の前の整理だけでも、お手伝いできます。
9. まとめ——「次の足場」を、最大限に使い切る
本日お伝えしたかったことは、ひとつに尽きます。省エネ改修は、大規模修繕と同時にやる。次に組む足場を、最大限に使い切る。
新築は2025年4月から省エネ基準が義務化され、賃貸広告には省エネ性能ラベルが並び、2027年にはエアコンの基準も上がります。市場は、確実に「省エネ性能で建物を見る」方向に動いています。そのなかで、既存の収益物件が選ばれ続けるためには、性能を底上げする一手が要る。
ただし、慌てて単発で発注すれば、いちばん高い仮設費を二度払うことになります。大規模修繕の足場が建っているうちに省エネ改修を束ね、補助金を計画段階から組み込み、足場そのものをロープアクセス・ハイブリッドで圧縮する——この段取りができるかどうかが、コストと資産価値の分かれ目です。
私たちは、足場・ロープアクセス・ハイブリッドの3工法から、建物にとってベストなご提案ができる、日本でも数少ない会社です。「次の足場で、できることを全部やる」——そのプランニングを、図面と現地から一緒に組み立てます。
無足場・ロープアクセスでの大規模修繕について詳しくはロープアクセス工事のご案内を、調査・お見積もりのご相談は大規模修繕・調査のご案内をご覧ください。具体的なご相談はお問い合わせフォームから承ります。
出典
- 国土交通省「全ての新築住宅・非住宅に省エネ基準適合が義務付けられます(建築物省エネ法/2025年4月施行)」 https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001519931.pdf
- 国土交通省「建築物の販売・賃貸時の省エネ性能表示制度(2024年4月開始)」 https://www.mlit.go.jp/shoene-label/
- 環境省「先進的窓リノベ2026事業(公式)」 https://window-renovation2026.env.go.jp/
- 環境省「先進的窓リノベ2026事業の概要(令和7年度補正予算1,125億円)」 https://www.env.go.jp/content/000367224.pdf
- 資源エネルギー庁「2027年4月からエアコンの新たな省エネ基準がスタート」 https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/air_conditioner_2026.html
- 国土交通省「マンション大規模修繕工事に関する実態調査」(仮設費が工事費に占める割合の目安)
本記事の試算・割合はあくまで目安であり、実際の費用・補助内容は建物の状態や年度の制度改正により変わります。個別の判断は現地調査のうえご相談ください。
▼ロープアクセス工法・無足場工法の詳細解説はこちら
ロープアクセスドットコム|無足場工法専門メディア
大規模修繕の履歴が、収益物件の「売り時」を左右する——中古マンション在庫が動く2026年、オーナーが出口の前に確認すべき5つの実務
「そろそろ、この一棟を手放そうか」。
収益物件をお持ちのオーナーさまから、私がいま一番よくいただくのが、この出口(売却)のご相談です。
そして、ほぼ必ずセットで出てくるのが「大規模修繕は、売る前にやるべきか、やらずに売るべきか」という問いです。
正直に申し上げます。これは、物件によって答えが正反対になります。
ですが、判断の「ものさし」は共通しています。それが、本日お伝えする修繕履歴という考え方です。
私は外壁・防水の現場で20年やってきて、足場を組む工事も、ロープでぶら下がる無足場の工事も、その両方を見てきました。その立場から、いまの市場で収益物件のオーナーさまが損をしないために、出口の前に確認すべきことを整理します。
結論から先に申し上げます。出口で得をするオーナーさまに共通しているのは、特別なことではありません。「自分の建物の状態を、数字と記録で説明できる」——ただそれだけです。逆に、ここが曖昧なまま売りに出ると、本来の価値より安く見られてしまう。本日は、その差がどこで生まれるのかを、現場の言葉でお話しします。
1. 2026年のいま、中古マンション市場で起きていること
まず、足元の市場を私なりに整理させてください。判断の前提が変わってきているからです。
都心の高額帯では「売却の長期化」、ただし首都圏全体の在庫は減少基調
2026年に入ってから、一部のメディアで「山手線の内側で中古マンションの在庫が増えている」「都心離れが始まった」という指摘が出ています。高額帯の物件で売却までの期間が延び、需要が周辺県へ動いている、という見立てです。
一方で、公的な統計を見ると、景色は少し違います。
東日本不動産流通機構(東日本レインズ)のまとめでは、2026年2月の首都圏中古マンションの在庫件数は4万5,112件で、前年同月比0.2%減と、7か月連続で減少しています。成約件数は4,241件(前年同月比2.1%増)、成約平均価格は5,458万円(同9.5%上昇)で、㎡単価は70か月連続の上昇です(出典:東日本レインズ 不動産市場動向)。
つまり、「全体としては在庫が増えて値崩れしている」のではなく、一部の高額帯・特定エリアで売れ行きにばらつきが出ている、というのが実態に近い。私はこの差を、現場の感覚でこう読んでいます。
「市場全体が悪いのではなく、物件ごとの“選ばれる/選ばれない”の差が、はっきり値段と日数に出るようになった」。
ここが、修繕履歴の話につながります。買い手が選別を始めた局面では、建物のコンディションが、いままで以上に価格と売却スピードを左右するのです。
一棟収益ビルが「大規模修繕工事中」のまま売りに出る時代
もう一つ、私が最近目にして「なるほど」と思った動きがあります。
一棟もの(建物を丸ごと一棟保有する収益物件)の販売情報で、「大規模修繕工事中」「下地補修・シーリング工事・外壁塗装・防水工事を実施」といった条件を、わざわざ前面に出して売り出すケースが増えてきました。
これは売り手が、修繕を「コスト」ではなく「セールスポイント(買い手の安心材料)」として使い始めた、ということです。
かつては「修繕したばかり=出費した直後で利回りが下がる」とネガティブに見られがちでした。いまは逆に、「直近で大規模修繕済み=当面の大きな出費が読める」と、ポジティブに評価する買い手が増えています。
私はこの変化を、とても良い兆候だと思っています。建物を丁寧に直してきたオーナーさまが、その努力をきちんと値段で回収できる時代になりつつある、ということだからです。
現場で見た「履歴がある建物」と「ない建物」の差
少し、現場の話をさせてください。
以前、ある一棟ビルのオーナーさまから「売却を考えているが、外壁が気になる」とご相談を受けたことがあります。築20年を超え、タイルの一部に浮き(タイルが下地から剥がれかけ、叩くと空洞音がする状態)が出ていました。図面も、過去の修繕の記録も、ほとんど残っていない物件でした。
私が一番困ったのは、劣化そのものよりも「これまで何をしてきたか分からない」ことでした。
記録がないと、買い手は最悪を想定します。「下地までやられているかもしれない」「配管も限界かもしれない」と。結果として、本来は健全な部分まで割り引かれて値踏みされてしまう。これは、オーナーさまにとって本当にもったいない話です。
逆に、修繕の記録をきちんと残してきた建物は、強い。
「12年目に外壁と防水を一式やり、シーリングは18年目に打ち替えた」という履歴が一枚あるだけで、買い手の不安は一気に下がります。現場で20年やってきて、私が一番悔しい思いをするのは、丁寧に管理してきたオーナーさまが、記録がないというだけで安く買い叩かれる場面です。
だから私は、工事そのものと同じくらい、「記録を残すこと」を大切にしてください、とお伝えしています。
2. なぜ「修繕履歴」が収益物件の価格と速さを左右するのか
ここからが本題です。なぜ修繕履歴が、それほど効くのか。理由はシンプルです。
買い手が本当に見ているのは「これからいくらかかるか」
収益物件の買い手は、投資家です。投資家が見ているのは、表面的な利回りだけではありません。
「買った後、何年で、いくらの修繕費が追加でのしかかるか」——この将来コストの見通しこそが、買い手にとっての最大のリスクです。
ここで、国土交通省の調査が一つの目安になります。
国交省が200社・818件の工事事例を集計した「令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査」によると、戸あたりの工事金額で最も多かったのは100万〜125万円/戸の価格帯でした(出典:国土交通省 マンション大規模修繕工事に関する実態調査)。
仮に30戸の物件なら、単純計算で3,000万〜3,750万円。これだけのまとまった出費が「いつ来るか分からない」のと、「直近でやったばかりで、次は10年以上先」とでは、買い手の安心感がまったく違います。
修繕履歴とは、この将来コストの不確実性を下げる証明書なのです。だから価格と売却スピードに効きます。
区分所有なら、修繕積立金と長期修繕計画の整合も見られる
一棟ものではなく、区分マンション(建物の一室単位で保有する形態)を収益物件としてお持ちの場合は、もう一段見られるポイントがあります。管理組合の修繕積立金と長期修繕計画(将来の修繕を時系列で見積もった計画書)の状態です。
国土交通省は2024年6月に「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」を改定しました。
段階的に積立金を増やしていく「段階増額積立方式」について、計画初期の額は均等積立とした場合の基準額の0.6倍以上、最終額は1.1倍以内に収める、という考え方が新たに示されています(出典:国土交通省 修繕積立金ガイドライン改定)。
これは裏を返せば、積立金が極端に安く据え置かれている物件は、「いずれ大幅値上げか一時金徴収が来る」と買い手に警戒される、ということです。
区分の収益物件を売るなら、修繕積立金が計画に対して健全か、直近の大規模修繕がいつ行われたかを、買い手は必ず確認してきます。
売却査定の現場で、修繕履歴はこう効く
もう少し具体的にお話しします。
不動産会社が収益物件を査定するとき、外壁や屋上防水の状態は、査定額の調整項目として必ずチェックされます。「外壁に大きなひび割れがある」「屋上の防水が切れていて雨染みがある」となれば、買い手は補修費用を見込んで指値(値引き交渉)をしてきます。
このとき、修繕履歴があると交渉の景色が変わります。
「外壁・防水は3年前に一式実施済み、保証書もあります」と一枚の資料で示せれば、買い手は補修費の上乗せ分を差し引く理由を失います。つまり、修繕履歴は指値をはね返す盾になるのです。
私は、これを「攻めの履歴管理」と呼んでいます。工事をするだけでなく、いつ・どこを・どんな仕様で直したかを記録として残し、売却時にそのまま渡せる形にしておく。これだけで、同じ建物でも数十万円から、規模によってはそれ以上、手残りが変わってきます。
3. 「修繕してから売る」か「現状のまま売る」か——4つの判断軸
では、本丸の問いです。出口の前に大規模修繕をやるべきか、やらずに売るべきか。
私はいつもオーナーさまに、次の4つの軸で一緒に整理しましょう、とお伝えしています。
判断軸の比較
| 判断軸 | 「修繕してから売る」が有利 | 「現状のまま売る」が有利 |
|---|---|---|
| 建物の劣化状況 | 外壁のひび割れ・タイル浮き・雨漏りなど、見て分かる劣化がある | 劣化が軽微で、買い手が「すぐ直す必要なし」と判断できる |
| 買い手の層 | 実需に近い・修繕を嫌う個人投資家が中心 | 自分で直す前提のプロ・買取再販業者が中心 |
| 市場の状況 | 在庫が多く、差別化が必要な局面 | 売り手有利で、現状でも複数の買い手がつく局面 |
| 資金と時間 | 工事資金があり、売却を急がない | 手元資金を使いたくない・早期に現金化したい |
ざっくり言えば、「劣化が目に見えていて」「修繕を嫌う買い手が相手で」「急がない」なら、直してから売る方が有利になりやすい。逆に、プロが相手で早く現金化したいなら、現状のまま価格を調整して売る方が合理的なこともあります。
ただし、こういうケースは「修繕してから」が不利になる
両論併記でお伝えします。修繕してから売れば必ず得、というわけではありません。
第一に、かけた工事費がそのまま売値に上乗せできるとは限らないケースです。買取再販のプロが相手だと、「修繕済みでも自社基準でやり直す」ため、工事費を評価してもらえないことがあります。この場合、修繕は持ち出しになりかねません。
第二に、売却を急ぐのに工事期間を待てないケースです。大規模修繕は足場を組む一般的な工法だと、規模にもよりますが数か月かかります。その間に市況が変わるリスクもあります。
第三に、過剰な修繕です。出口が決まっているのに、20年先まで見据えた仕様で直してしまうと、回収できない投資になります。出口前の修繕は「買い手が安心する最小限」に絞るのが、私の考えです。
だからこそ、出口の前の修繕は「やるか・やらないか」の二択ではなく、「どこまでやるか・いくらで・どの工法で」まで含めて設計する必要があるのです。
4. 大規模修繕のコストを、出口から逆算して最適化する
「やる」と決めた場合、次は中身です。出口前の修繕は、コストの最適化がそのまま手残りに直結します。
工事費の約2割を占める「仮設足場」をどう削るか
ここで、多くのオーナーさまが見落としがちな数字をお伝えします。
先ほどの国交省の実態調査では、工事費に占める仮設工事費の割合は約22.8%でした(建築工事は約60.3%)(出典:国土交通省 マンション大規模修繕工事に関する実態調査)。
仮設工事の中心は、建物の周りに組む足場です。つまり、工事費のおよそ5分の1が、直接「直す」ためではなく「作業の足場を作る」ためのコストだということです。
戸あたり100万円の工事なら、ざっと20万円強が足場関係。これは「直した結果」として建物に残るものではありません。
出口を見据えるなら、ここを削れるかどうかは大きい。だから私は、足場をどう扱うかを最初に考えます。
ロープアクセス(無足場工法)という選択肢
そこで登場するのが、ロープアクセス工法です。
これは、産業用ロープで作業員が建物の上から吊り下がり、足場を組まずに外壁の補修や塗装、防水を行う「無足場工法」のことです(屋上などからロープで降りて作業する方法、とイメージしてください)。
足場を組まない分、仮設費を抑えられ、工期も短くできるケースが多い。さらに、足場がないことで居住者・テナントの生活や営業への影響が小さく、防犯面(足場を伝った侵入リスク)でも安心という副次的なメリットもあります。
ただし、ロープアクセスが万能というわけではありません。広い面を一気に塗る作業や、大量の資材を扱う工事では、足場の方が効率的なこともあります。だから私は、足場・ロープアクセス・その両方を部位ごとに使い分けるハイブリッド工法の3つを、建物ごとに比較してご提案するようにしています。
(工法の詳しい考え方はロープアクセス工法のご紹介、修繕全体の進め方は大規模修繕工事のご紹介をご覧ください。)
私はこれを、必ずワンセットで提案するようにしています。なぜなら、「足場ありき」で見積もると、削れたはずのコストが見えないまま埋もれてしまうからです。出口を控えたオーナーさまにとって、この差は手残りそのものです。
戸あたり換算で、自分の財布で考える
数字を、もう一度オーナーさまの財布感覚に落とし込みます。
戸あたり100万〜125万円という工事費のうち、約2割が仮設足場。仮にロープアクセスやハイブリッドで仮設の一部を圧縮できれば、戸あたり数万円〜十数万円の差が出ることもあります。30戸なら、その差は数十万円〜数百万円規模です。
もちろん、これは建物の形状や劣化状況によって大きく変わりますので、断定はできません。
ですが、「足場が当たり前」という前提を一度外して比較するだけで、出口の手残りが変わる可能性がある——この点だけは、ぜひ頭の片隅に置いていただきたいのです。
数字でイメージする——あくまで一例として
具体的なイメージを持っていただくために、あくまで一例として簡単な試算をしてみます。
築20年・30戸の一棟マンションで、外壁塗装・防水・シーリングを中心に大規模修繕を行うとします。先ほどの国交省データの戸あたり100万円を仮の基準にすると、工事費はおよそ3,000万円。このうち仮設工事が約2割なら、足場関係は600万円前後という計算になります。
ここで、建物の形状や立地が無足場施工に向いていて、仮設の一部をロープアクセスやハイブリッドに置き換えられたとします。仮に仮設費の一部を圧縮できれば、全体で数十万円から、条件次第では百万円単位の差が生まれることもあります。
繰り返しますが、これはあくまで前提を置いた一例で、実際の金額は建物ごとにまったく異なります。断定はできません。
私がお伝えしたいのは、金額の大小そのものではなく、「足場という前提を疑ってみる価値がある」ということです。出口を控えたオーナーさまにとって、この一手間が、最後の手残りを左右します。
5. なぜ私は「足場ありきの一社見積もり」を勧めないのか
工法の話をすると、必ずいただく質問があります。「結局、どの会社に頼めばいいのか」。
ここは利益相反になりますので、見出しで区切ったうえで、私の考えを正直に申し上げます。
相見積もりは、工法をまたいで取る
大規模修繕の見積もりは、複数社から取る「相見積もり」が基本です。これは多くのオーナーさまがご存じです。
ですが、見落とされがちなのは、工法をまたいで比較するという視点です。足場前提の会社ばかり3社に声をかけると、3社とも仮設足場のコストを前提にした見積もりが並びます。比べているようで、実は同じ土俵の中でしか比べていない。
私がおすすめしたいのは、足場前提の見積もりと、ロープアクセスやハイブリッドを含む見積もりを、並べて比べることです。そうして初めて、「この建物は、どの工法が一番コスト効率が良いのか」が見えてきます。出口を控えているなら、この一手間が手残りに直結します。
「安かろう悪かろう」を避ける仕組み
とはいえ、安ければいいという話ではありません。安い見積もりの裏で、下地補修の数量がごまかされていたり、塗料のグレードが落とされていたりすれば、結局すぐに再劣化します。それでは、売った後にトラブルの種を残すことにもなりかねません。
私たちは、塗装・防水・タイル・シーリングといった各分野の専門職が連携する体制で施工しています。各工程に専門の職人が責任を持つことで、「無足場でコストは抑えつつ、品質は落とさない」を両立させる——これが、私が現場でこだわってきたことです。
価格と品質は、本来トレードオフではありません。工法の選択と、職人の組み方しだいで、両立できる余地があるのです。
6. 出口の前に、オーナーが確認すべき5つの実務
最後に、読み終えたら何をすべきか。具体的なチェックリストにします。
- 直近の修繕履歴を一枚にまとめる。 いつ・どこを・いくらで直したかを時系列で整理する。これが買い手への「将来コストの見通し」になります。区分なら長期修繕計画と修繕積立金の状況も添える。
- 建物診断(劣化調査)を受ける。 いまの建物が「直してから売る」べき状態か、「現状で売れる」状態かを、客観的に把握する。主観で決めない。
- 修繕の範囲を「出口仕様」に絞る。 20年先までではなく、買い手が安心する最小限に。過剰修繕は回収できません。
- 複数の工法で見積もりを取る。 足場前提だけでなく、ロープアクセス・ハイブリッドを含めて比較し、仮設費を見える化する。
- 「修繕してから売る/現状で売る」を数字で比較する。 第3章の4つの軸に、工事費・想定上乗せ額・工期を当てはめ、手残りで判断する。
このうち、私が特にお伝えしたいのは4番です。
工法を比較するだけで、出口の手残りが変わることがある。けれど、足場前提の一社見積もりだけでは、その差はそもそも見えません。
「うちの建物は、足場とロープ、どちらが向いているのか」。
それだけでも、お問合せフォームからご相談いただければ、現場目線で一緒に整理します。売る前提でも、まだ売らない前提でも構いません。判断材料を増やすことが、オーナーさまの損を防ぐ一番の近道だと、私は考えています。
7. 6月は「総会・予算」の季節——出口の話を切り出す好機
ここで、季節の話を一つ。
6月は、マンション管理組合の通常総会が集中する時期です。区分の収益物件をお持ちの方なら、ちょうど管理組合から決算や修繕の議案が届いている頃でしょう。一棟ものでも、年度初めの予算を見直すには良いタイミングです。
私は、この6月という時期を、出口を考えるオーナーさまにこそ活用してほしいと思っています。理由は二つあります。
一つは、情報が手元に揃うからです。総会資料には、長期修繕計画の進捗、修繕積立金の残高、次回の大規模修繕の予定時期が書かれています。これは、買い手が見たがる「将来コストの見通し」そのものです。総会のタイミングで一度整理しておけば、いざ売るときの資料がそのまま使えます。
もう一つは、判断に使える時間があるからです。仮に「修繕してから売る」と決めても、工事の計画から完了までには時間がかかります。秋から冬の工事を狙うなら、夏前のいまから工法の比較や見積もりを始めるくらいで、ちょうど良い。慌てて決めた修繕ほど、過剰になったり割高になったりしがちです。
総会の議案を眺めながら、「この建物、あと何年で次の大規模修繕が来るのか」「そのとき、足場とロープ、どちらが合うのか」を一度考えてみてください。
理事会や管理会社との会話の中で、1分だけでもこの話題を出しておくと、半年後・1年後の判断がずいぶん楽になります。
8. よくある質問(FAQ)
Q. 大規模修繕をしてから売ると、工事費はそのまま売値に上乗せできますか。
A. できるとは限りません。実需に近い買い手なら評価されやすい一方、買取再販のプロが相手だと自社基準でやり直すため、評価されないこともあります。買い手の層を見極めることが先決です。
Q. ロープアクセス(無足場工法)は、足場を組む工事より必ず安くなりますか。
A. 必ずではありません。仮設足場の費用を抑えられるケースは多いですが、広い面を一気に施工する工事などでは足場の方が効率的なこともあります。建物ごとに比較するのが前提です。
Q. 売却を急いでいます。それでも修繕してから売るべきですか。
A. 急ぐ場合は、現状のまま価格調整で売る方が合理的なことが多いです。大規模修繕は規模により数か月かかるため、工期と市況変動のリスクを天秤にかけてください。
Q. 区分(一室)の収益物件です。何を準備すればよいですか。
A. 管理組合の長期修繕計画と修繕積立金の健全性が見られます。積立金が計画に対して不足していないか、直近の大規模修繕の実施時期を確認し、資料として用意しておくと売却がスムーズです。
Q. まだ売るか決めていません。それでも相談していいですか。
A. もちろんです。むしろ、出口を決める前に建物の状態と工法の選択肢を把握しておくことが、後悔しない判断につながります。
Q. 修繕履歴の資料は、どの程度まとめておけば十分ですか。
A. 完璧な書類でなくて構いません。実施時期・工事箇所・おおよその金額・施工会社・保証の有無が一枚で分かれば、買い手の不安は大きく下がります。見積書や工事写真が残っていれば、あわせて保管しておくとより安心です。
出典・参考資料
- 東日本不動産流通機構(東日本レインズ)「不動産市場動向(統計)」(2026年2月 首都圏中古マンション 成約・在庫データ)
- 国土交通省「マンション大規模修繕工事に関する実態調査」(令和3年度/200社818件、戸あたり工事費・仮設費割合)
- 国土交通省「「長期修繕計画作成ガイドライン」及び「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」の改定について」(令和6年6月)
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
出口の前にやるべきことは、突き詰めれば「自分の建物の状態を、客観的な数字で把握しておく」——ただそれだけです。
売る・売らないにかかわらず、ご相談だけでも遠慮なくお声がけください。総会や売却の前段階の整理だけでも、お力になれることがあります。次回も、現場で本当に使える話だけをお届けします。
▼ロープアクセス工法・無足場工法の詳細解説はこちら
ロープアクセスドットコム|無足場工法専門メディア
「ランニングコスト削減」を過半数のビルオーナーが最重視する時代に──築年数の増えたビル・マンションで、私が無足場のロープアクセスを“必ずワンセット”で提案する理由
「ランニングコスト削減」を過半数のビルオーナーが最重視する時代に──築年数の増えたビル・マンションで、私が無足場のロープアクセスを“必ずワンセット”で提案する理由
築年数が15年、20年と過ぎたビルやマンションのオーナーさまから、私が最近いちばん多くいただくご相談は、工事の中身そのものよりも「どうやって支出を抑えるか」です。家賃は思うように上げられない。一方で、修繕費・光熱費・人件費・法令対応のコストは、放っておいても増えていく。この「入りは横ばい、出は右肩上がり」の挟み撃ちが、いま全国のビルオーナーの共通の悩みになっています。
正直に申し上げます。私はこの相談に対して、「とにかく安い業者を探しましょう」とは決して言いません。なぜなら、価格だけで業者を選んだ結果、数年後にもっと大きな出費を抱えることになった建物を、現場で20年近く、何件も見てきたからです。
ここからが本題です。これからのビル経営で支出を本当に抑えられるかどうかは、「1社1社の見積もりを値切れるか」ではなく、「修繕の組み立て方そのものを変えられるか」で決まります。そしてその鍵を握るのが、足場を組まずに施工できるロープアクセス工法(産業用ロープで職人が壁面を上下しながら作業する無足場の工法)です。今日はこの話を、最近のビルオーナー調査と、見落とされがちな法律の話を絡めながら、現場目線で丁寧にお伝えします。
いま何が起きているか──ビルオーナーの過半数が「ランニングコスト削減」を最重視
きっかけは、2026年4月から5月にかけて行われた、あるビルオーナー向けの意識調査でした。管理物件のオーナーやPM(プロパティマネジメント=建物の管理運営)契約先を対象にした調査で、ビルオーナーの半数以上が、これからの建物管理において「ランニングコスト削減」を重視していると回答した、という内容です(出典:新栄不動産ビジネス「ビルオーナー意識調査」2026年)。
この「コスト削減を重視する」という空気は、私が現場で感じている肌感覚と完全に一致します。そしてこれは、もっと大きな公的・準公的な調査データとも符合しています。
たとえば、ビルオーナーの実態を長年追っている調査では、直近1年で「収入が増えた」と感じたオーナーよりも、「支出が増えた」と感じたオーナーのほうがはるかに多く、支出増を実感する割合は6割を超えています(出典:ザイマックス総研「ビルオーナーの実態調査2025」)。賃貸ビル経営における支出増の中身を見ると、修繕・更新費、エネルギーコスト、管理コストといった項目が軒並み押し上げられているのが実態です(出典:ザイマックス総研「賃貸ビル経営における支出増加の現状」)。
ビルメンテナンス業界の側でも、人手不足による賃金上昇とエネルギーコストの高騰を背景に、単なる価格競争から「付加価値の提案」へと軸足を移そうという議論が進んでいます(出典:公益社団法人 全国ビルメンテナンス協会)。
つまり、「コストを削りたいオーナー」と「安売りでは続かない管理・工事業者」が、いままさに向き合っている。この構図のなかで、削るべきコストと、削ってはいけないコストを見分けることが、何より大切になっています。
築年数が増えると、なぜ支出が雪だるま式に膨らむのか
私が現場で見てきた範囲で言うと、築年数の増えた建物の支出が膨らむのには、はっきりした順番があります。
第一に、外壁や屋上防水といった「建物の外皮」の劣化です。新築から10年を過ぎたあたりから、外壁タイルの浮き、シーリング(窓まわりなどの目地に充填するゴム状の防水材)の硬化・痩せ、屋上防水層の膨れといった症状が出始めます。
第二に、これらを放置したことによる「二次被害」です。外壁のひび割れから雨水が入れば、内部の鉄筋がさびて膨張し、コンクリートを内側から押し割る「爆裂」が起きます。私が現場で20年やってきて、一番悔しい思いをするのは、早めに数十万円で直せたはずのひび割れが、放置された結果、数百万円の構造補修に化けてしまっているのを見るときです。
第三に、こうした症状が「同時多発」することです。築20年を超えた建物では、外壁・防水・鉄部塗装・設備が、申し合わせたように一斉に寿命を迎えます。だからこそ、修繕の周期と順番をあらかじめ設計しておく「長期修繕計画」が欠かせません。マンションでは国の作成ガイドラインが整備され、計画的な修繕の重要性が示されています(出典:国土交通省「長期修繕計画作成ガイドライン」)。
支出が雪だるま式に膨らむのは、劣化そのものよりも、「後追いで、バラバラに、慌てて」直すからです。逆に言えば、ここに支出を抑える最大の余地があります。
見落とされがちな「10年に一度の義務」──建築基準法第12条の外壁全面打診調査
コスト削減の話をする前に、どうしてもお伝えしておきたい法律があります。建築基準法第12条に基づく、特定建築物の定期調査・定期報告の制度です。
専門的な話になるので、かみ砕いてお伝えします。一定規模以上のマンション・ビル・ホテルなどは、資格を持つ調査者による定期調査を行い、その結果を特定行政庁(都道府県や市など)に報告する義務があります。ホテルや店舗など不特定多数が利用する建物では、おおむね半年〜1年ごとの報告が求められます。
そのなかでも特に重要なのが、外壁タイルなどの「全面打診調査」です。国は、竣工または外壁改修から10年を経過した建物について、その後の最初の調査時に、落下によって歩行者などに危害を加えるおそれのある部分を、原則として全面的に打診などで調べるよう定めています(2008年〔平成20年〕4月の制度改正による)。この点は、東京都も定期報告制度のQ&Aで明確に説明しています(出典:東京都都市整備局「定期調査・検査報告制度」)。
ここで多くのオーナーさまが驚かれるのが、「全面打診のために、わざわざ足場やゴンドラが必要になるのか」という点です。確かに、足場を組んでテストハンマーで全面を叩く方法は王道です。しかし、調査方法はそれだけではありません。赤外線調査や、ロープアクセスによる打診も認められるケースがあり、近年はドローンを使った赤外線調査も、国土交通省によって全面調査の手法として正式に位置づけられました(令和4年〔2022年〕1月)。
私がここで申し上げたいのは、「10年に一度、外壁を全面的に見なければならない法的な節目が必ず来る」という事実です。そして、その節目をどう使うかで、コストは大きく変わります。
なお、定期報告は単なる努力目標ではありません。報告を怠ったり、虚偽の報告をしたりした場合には、建築基準法上の罰則の対象となり得ます。万一、外壁タイルの落下で通行人にけがをさせれば、オーナーが管理責任を問われることにもなりかねません。「報告のための調査」ではなく、「人を傷つけないための調査」だと捉えていただきたいのです。
ここが本題:足場を組むかどうかで、同じ工事の値段が変わる
大規模修繕の見積書を見るとき、オーナーさまの目はどうしても「塗装」「防水」「タイル補修」といった、実際に手を加える項目に向かいます。ところが、コストを左右する大きな要素は、その手前の「仮設」にあります。
仮設足場は、外周をぐるりと囲って組み、工事が終われば解体・撤去します。この足場の架設・解体・運搬・養生は、それ自体が建物に何かを足すわけではないのに、共通仮設費としてまとまった金額を占めます。建物の形状・高さ・敷地条件によって幅はありますが、規模の大きい修繕では無視できない割合になるのが実情です。
さらに見落とされがちなのが、足場の「副作用」です。足場を組むと、外からの侵入経路ができてしまうため防犯対策が必要になり、住戸やテナントの窓は養生シートで覆われて日当たりや眺望が損なわれます。商業ビルやホテルでは、外観が隠れること自体が営業上のマイナスになることもあります。
私はこれを、いつもオーナーさまにこうお伝えしています。「足場は、工事そのものではなく、職人を壁面に届けるための“移動手段”です」。だとすれば、移動手段にだけ別の選択肢があれば、その分のコストと副作用を減らせる、というのが自然な発想です。その選択肢が、ロープアクセスです。
無足場のロープアクセスが、ランニングコスト削減と相性が良い3つの理由
ロープアクセス工法は、産業用の高強度ロープを使い、訓練を受けた職人が壁面を上下しながら、調査・補修・塗装・防水・シーリングなどを行う無足場の工法です。私がこの工法を、コスト削減を重視するオーナーさまに繰り返しおすすめするのには、はっきりした理由が3つあります。
ひとつ目は、仮設費そのものを圧縮できることです。足場を全面に組まずに済むため、架設・解体・運搬にかかる費用と工期を抑えられます。「移動手段」の部分をスリムにできるわけです。
ふたつ目は、部分補修・スポット対応に強いことです。築年数の増えた建物では、「外壁の一部だけタイルが浮いている」「特定の階のシーリングだけ劣化している」といった、ピンポイントの不具合が頻繁に起きます。こうしたときに、わざわざ建物全体に足場を組むのは過剰です。ロープアクセスなら、必要な箇所に、必要な分だけ職人を届けられます。これは、まさにランニングコストの考え方そのものです。
みっつ目は、入居者・利用者の生活や営業への影響が小さいことです。足場と養生シートで建物全体を覆う期間が短く、あるいは不要になるため、住戸の眺望や日照、テナントやホテルの営業を損ないにくい。空室対策や賃料維持に神経を使うオーナーさまにとって、この「営業を止めない」という価値は、見積金額には現れにくいけれど確実なメリットです。
明誠では、この工法を独立した強みとして整理し、ロープアクセス工法のご紹介としてご案内しています。
現場であった話──「足場ありき」の見積もりが、組み立て直しで変わった一例
抽象的な説明ばかりでは伝わりにくいので、私が現場で実際に経験した話を、物件が特定されない範囲でお話しします。
あるオーナーさまから、「外壁の一部にタイルの浮きが見つかり、是正の指摘を受けた。修繕の見積もりを取ったら、思っていたより高かった」というご相談をいただいたことがあります。拝見すると、その見積もりは建物の外周をぐるりと全面足場で囲う前提で組まれていました。劣化していたのは主に高層部の一面と、窓まわりのシーリングだったにもかかわらず、です。
私はまず、劣化の範囲を一面ずつ確認させていただきました。そのうえで、「全面改修が必要な状態ではなく、傷んでいる箇所への部分補修で十分です」とお伝えし、足場を全面に組むのではなく、傷んだ面にロープアクセスで職人を届ける段取りに組み替えました。結果として、仮設にかかっていた費用と工期を圧縮でき、入居者の窓を長期間ふさぐこともありませんでした。
私がこの仕事でいちばんやりがいを感じるのは、こうして「工事の中身は変えずに、届け方だけを変える」ことで、オーナーさまの負担を軽くできた瞬間です。逆に言えば、足場ありきで話が進んでいたら、その分の費用はそのまま支出になっていたということでもあります。コスト削減の余地は、案外こういう「当たり前だと思っていた前提」のなかに眠っています。
無足場だからこそ問われる「安全管理」──私が職人に絶対に妥協させないこと
ここまでロープアクセスの利点を中心にお伝えしてきましたが、無足場の工法だからこそ、安全管理には人一倍うるさくあるべきだ、というのが私の考えです。これは、コストの話と同じくらい大切なので、あえて一節を割いてお伝えします。
ロープアクセスは、訓練を受けた職人が、二重のロープ(作業用と万一に備えるバックアップ用)で身体を確保しながら作業します。命綱が一本でも切れたら終わり、という工法では決してありません。むしろ、足場のように「組んでしまえば安心」と気が緩みがちな現場よりも、一手一手の確認が習慣として徹底されているのが、良いロープアクセスの現場です。
私が職人に絶対に妥協させないのは、支点(アンカー)の確認と、作業前の点検です。屋上のどこにロープを固定するか、その支点が本当に荷重に耐えるか。ここを曖昧にしたまま下降することは、どんなに工期が押していても許しません。現場で20年やってきて、私が一番こだわってきたのは、実はこの「地味な確認作業」です。
オーナーさまにお伝えしたいのは、「無足場=手抜き」では決してない、ということです。むしろ、足場という大掛かりな仮設を省くからこそ、職人一人ひとりの技量と安全意識が、品質に直結します。だからこそ私は、価格の安さだけでなく、「どんな職人が、どんな手順で施工するのか」まで含めて、必ずご説明するようにしています。
ただしロープアクセスが万能ではない──向き・不向きの正直な話
ここで、両論をきちんと併記させてください。ロープアクセスは魔法の杖ではありません。向かない場面が確実にあります。
たとえば、外壁の広い面を一斉に全面改修する場合や、複数の重い資材を同時に扱う工事では、足場のほうが効率的で、結果的に安く・早く終わることがあります。また、屋上にロープを固定する支点(アンカー)が十分に取れない建物や、隣地との関係で職人が安全に下降できない形状の建物では、ロープアクセスは適しません。低層で複雑な形状の建物も、足場のほうが扱いやすいケースが多いです。
だからこそ私は、「ロープアクセスありき」で話を進めることは決してしません。建物の高さ・形状・劣化の範囲・予算・住民やテナントの事情を一つひとつ確認したうえで、足場が向く部位は足場、ロープが向く部位はロープ、と使い分ける。これがいちばん誠実なやり方だと、現場で20年やってきて確信しています。
私が必ず提案する「3工法の使い分け」と、提案型ビル管理の中身
冒頭の調査では、これからのビル管理に「提案型」が求められている、という指摘がありました。では、提案型とは具体的に何か。私の答えは、3つの工法を建物ごとに最適に組み合わせることです。
ひとつ目は、従来型の通常足場工法。中低層や複雑な形状、外壁を一斉に全面改修する場面で力を発揮します。
ふたつ目は、無足場のロープアクセス工法。高層、足場の架設が難しい物件、部分補修、そしてコストと営業影響を最重視する物件に向きます。
みっつ目は、両者を部位ごとに使い分けるハイブリッド工法です。たとえば「劣化の激しい低層部は足場、高層部はロープアクセス」というように、一棟のなかで最適化します。大規模で複雑な建物ほど、この使い分けが総額を左右します。
正直に申し上げると、1つか2つの工法しか持たない会社は、どうしても「自社の持っている工法に合わせた提案」になりがちです。私はこれを、必ず3つの選択肢を机に並べてから提案するようにしています。大規模修繕の総合的なご提案は、大規模修繕工事のご紹介にまとめています。
ビルオーナー・管理組合が、次の修繕の前に確認すべき5つの実務
ここからは、読み終えたらすぐ動けるよう、具体的なチェックリストにまとめます。
実務1:直近の定期調査報告書を引っ張り出す
まず、建築基準法第12条に基づく直近の定期調査報告書を確認してください。外壁の指摘事項、次回の全面打診の時期がいつ来るのかを把握するだけで、「いつ、何にお金がかかるか」の見通しが立ちます。報告書が見当たらない、内容がよく分からない場合は、その時点が相談のタイミングです。
実務2:足場を「組む前提」で考えていないか疑う
過去の修繕見積もりが、すべて足場前提になっていないかを見直してください。共通仮設費の金額を確認し、「この工事は本当に全面足場が必要か」を一度問い直すだけで、選択肢が広がります。
実務3:劣化を「全面」か「部分」かで切り分ける
いま必要なのが建物全体の一斉改修なのか、それとも特定箇所のスポット補修なのかを切り分けてください。部分補修で足りるなら、ロープアクセスの出番です。
実務4:長期修繕計画と「同時施工」できる項目を探す
外壁の全面打診が必要な年に、防水や塗装、設備更新を同時に組み合わせられないかを検討してください。職人を壁面に届ける手間(仮設)を一度で共有できれば、トータルのコストは下がります。
実務5:複数工法で見積もりを取り、比較する
最後に、足場・ロープアクセス・ハイブリッドのそれぞれで、どう金額と工期が変わるかを比較してください。比較できて初めて、「どこを削れて、どこを削ってはいけないか」が見えてきます。ご相談だけでも遠慮なく、お問合せフォームからお声がけください。
数字の体感化:20年スパンで見た「削れるコスト」と「守れる資産価値」
抽象的な話だけでは実感が湧きにくいので、財布の感覚に置き換えてみます。
築20年を超えた建物は、その後の20年でおおむね2回の大規模修繕の節目を迎えます。このとき、毎回すべてを全面足場で囲うのか、それとも全面改修が必要な回だけ足場を使い、間のスポット補修はロープアクセスで機動的に対応するのか。この「組み立て方」の差は、20年というスパンで積み上がると、無視できない金額になります。
そしてもう一方の皿には、「守れる資産価値」が載ります。外壁の浮きやひび割れを早期に直し、雨水の侵入による爆裂を防いだ建物は、見た目が整っているだけでなく、構造そのものが健全に保たれます。実際、住環境が安定し、管理の行き届いた建物ほど資産価値が落ちにくいことは、市場でも繰り返し指摘されています。超富裕層が、派手な新築よりも「管理の行き届いた築古」を選ぶ、という話が語られるのも、根は同じです。
私はいつもオーナーさまに、「修繕は支出ではなく、資産を傷ませないための投資です」とお伝えしています。削るべきは、足場という“移動手段”のムダであって、建物を守る工事そのものではありません。
もう一段、具体的にお話しします。たとえば10戸のテナントが入る建物で、修繕のたびに長期間、外観が養生シートで覆われ、看板や入口が隠れてしまうとどうなるか。テナントにとっては集客のしづらい期間が生まれ、退去や賃料交渉の口実にもなりかねません。これを1戸あたり、1か月あたりの賃料の感覚に置き換えると、「工事金額には現れない損失」が、じわじわと積み上がっているのが見えてきます。無足場で工期を短くし、外観を隠す期間を減らせることは、こうした「見えない出血」を止めることでもあるのです。
私はこれを、「削減できるコスト」だけでなく「守れる収益」として、必ずセットでオーナーさまにご説明するようにしています。コスト削減という言葉を、単なる値切りで終わらせないために、です。
公共工事入札に挑む私が、民間オーナーに伝えたいこと
私はいま、これまでの民間の大規模修繕に加えて、公共工事の入札にも挑戦しています。公共の世界は、価格の妥当性、施工体制、品質の裏付けを、これでもかというほど厳しく問われる世界です。
その準備を進めるなかで、改めて思うことがあります。民間のオーナーさまも、本当はこの「厳しい目」を持っていいはずだ、ということです。提示された金額が、何にいくらかかっているのか。仮設に過剰な費用が乗っていないか。安いのには、安いなりの理由がないか。こうした問いを、遠慮なくぶつけてくださって構いません。むしろ、それに正面から答えられる会社こそ、長く付き合う価値があると、私は思っています。
ロープアクセス・フランチャイズだからできる、提案型の大規模修繕
最後に、自社のサービスについて、利益相反を開示したうえでお話しします。
明誠は、ロープアクセス工事の分野で、日本で初めてフランチャイズ展開を行っています。塗装・防水・タイル・電気・看板といった各分野の専門職が加盟しており、それぞれの専門性を持ち寄ることで、高品質と低価格を両立しています。1社で抱え込むのではなく、得意な職人が得意な仕事をする。この仕組みそのものが、コスト削減と品質の両立につながっています。
また私たちは、一般社団法人全国建設業支援協会(JCSA)を運営し、全国の建設業に向けて経営支援の情報発信やオンラインセミナー、交流会、ビジネスマッチングを行っています。業界全体の底上げに取り組んでいるからこそ、目先の安さではなく、長く建物を守る視点でご提案ができると考えています。
「ランニングコスト削減」という言葉は、ともすれば「とにかく安く」と受け取られがちです。けれど私が現場で20年やってきて出した答えは、安さの追求ではなく、「修繕の組み立て方を変えること」でした。足場とロープアクセス、そしてハイブリッド。この3つを必ずワンセットで机に並べ、建物にとって本当に最適な一手を選ぶ。これは私が現場で見てきた、嘘偽りのない実感です。次回も、現場で本当に使える話だけをお届けします。
出典・参考資料
- 新栄不動産ビジネス「ビルオーナー意識調査」(2026年4〜5月実施、PR TIMES等で公表)
- ザイマックス総研「ビルオーナーの実態調査2025」
- ザイマックス総研「賃貸ビル経営における支出増加の現状」
- 公益社団法人 全国ビルメンテナンス協会「価格競争から脱却!ビルオーナーに選ばれる付加価値戦略」
- 国土交通省「長期修繕計画作成ガイドライン」
- 東京都都市整備局「定期調査・検査報告制度に関するQ&A」
▼ロープアクセス工法・無足場工法の詳細解説はこちら
ロープアクセスドットコム|無足場工法専門メディア
【2026年5月版】塗料・防水材不足で大規模修繕が止まる──ナフサショックから資産を守るオーナー・管理組合の動き方
【2026年5月版】塗料・防水材不足で大規模修繕が止まる──ナフサショックから資産を守るオーナー・管理組合の動き方
こんにちは、株式会社明誠の本間です。私はマンション・ビル・ホテルの大規模修繕を、足場仮設とロープアクセス、そして両者を組み合わせたハイブリッド工法という三つの選択肢で提案しつづけて20年近くになります。今朝、社員と現場ミーティングをする前に、テレビと建設業界紙の見出しに目を通していて、思わず机を叩きました。
「塗料が入ってこない、防水材も足りない、もう請けられない仕事が増えている」──。中小の塗装業者や防水の一人親方が、顔と名前を出してそう訴えています(出典:「私たちの声は届いていないのか」止まる工事現場、追いつめられる中小建設業者の切実な声(Yahoo!ニュース/TBS NEWS DIG・2026年5月23日))。私の周りでも、4月の連休明けから「塗料の見積りが先週よりまた上がった」「今月中に発注しないと8月以降は何も保証できないと言われた」という声が、加盟店、同業の社長、付き合いの長い問屋から日替わりで届いています。
正直に申し上げます。これは大規模修繕を計画している管理組合と、収益不動産を持つオーナーにとって、来年・再来年の話ではありません。今月、今週の意思決定が、来年の総会で説明できるかどうかを決めます。
この記事では、私が現場で見ている「ナフサショック」の実像と、管理組合・オーナーが資産を守るために何を、いつまでに、どう動かすべきかを、できるだけ具体的にお話しします。9000字を超える長文になりますが、修繕委員会の資料としてもそのまま使えるように構成しました。お時間が許す範囲で、一節ずつでも結構ですから、読み進めていただけると嬉しいです。
1. 今、現場で何が起きているのか
「塗料が、入ってこないんです」。
これは、ある加盟店の若い職長が、先月の私との電話で漏らした一言です。彼が担当している現場は、首都圏の築22年・約160戸のファミリーマンション。長期修繕計画どおりに動いていて、3月に塗装の試験施工まで終わっていました。ところが4月、塗料メーカーから「該当製品は受注を一時停止します。在庫分の出荷で打ち切ります」という通知が突然届いた。代替品の提案を受けたものの、色見本と仕上がりが微妙に違う。住民総会で承認をいただいた色番号ではありません。「色を変えるなら、もう一度説明会と理事会承認が要りますよね」と、彼は半泣きでした。
これは特殊な現場の話ではありません。テイガク屋根修理が公開している建材値上げ・受注停止リストには、2026年5月22日更新時点で塗料・シンナー・断熱材・ルーフィング・屋根材まで、ありとあらゆる主要部材が並んでいます(出典:【2026年5月22日更新】建材資材の値上げと受注停止の影響(テイガク))。塗装業界の児玉塗装も、メーカー別の出荷停止状況を5月11日付で更新し、複数の大手塗料メーカーで主力製品の受注制限が続いていることを公表しています(出典:【2026年5月11日更新】ナフサショック・中東情勢による塗装材料への影響(児玉塗装))。
業界紙の日経クロステック建築は、5月の連載記事で「建材不足でマンション大規模修繕に停止の危機、計画見直しも」と踏み込んだ見出しを掲げました(出典:日経クロステック建築「建材不足でマンション大規模修繕に停止の危機、計画見直しも 中東情勢混迷」)。専門誌が「停止の危機」という言葉を使うのは、それだけ業界内の温度感が逼迫しているということです。
私の経験上、大規模修繕の現場というのは、部材が一品種でも欠けると工程全体が止まります。塗料が来なければ下地補修の次の工程に進めない。防水材がなければ屋上やバルコニーの止水が打てない。シンナーが希釈に使えなければ、刷毛塗りもローラー塗りも始まりません。そして足場を組んだまま工程が止まれば、足場のレンタル料は1日単位で課金され、住民の生活ストレスも積み上がります。これが、今、現場で起きていることです。
2. 原因はホルムズ海峡──「ナフサショック」が建設業を直撃した経緯
なぜ、こんなことになっているのか。原因をできるだけ簡潔に整理します。
ナフサ(粗製ガソリン)は原油を蒸留して取り出される石油化学製品の基礎原料で、プラスチック、合成樹脂、塗料、シンナー、断熱材、ルーフィングなど、現代の建材の大半に使われています。日本は産業用ナフサの多くを中東からの原油に頼っており、原油の主要輸送ルートがホルムズ海峡であることはよく知られています。
2026年2月末以降、中東情勢の緊迫化を背景に、ホルムズ海峡経由の原油輸送に支障が出ました。ナフサの調達価格は急騰し、供給量も不安定化。3月中旬には大手塗料メーカーが「最大75%値上げ」を表明、4月以降は次々と他のメーカーが追随し、出荷停止や受注制限に踏み切る事態になっています(出典:ナフサショック(ナフサ不足)完全解説2026(造改築.com))。
建設業に関わる方には釈迦に説法ですが、念のため業界全体の構造を確認しておきます。
| 部材 | 主な用途 | ナフサとの関係 |
|---|---|---|
| 塗料(アクリル・ウレタン・シリコン・フッ素) | 外壁・鉄部・屋根の塗装 | 樹脂・希釈用シンナーがナフサ由来 |
| シンナー | 塗料の希釈、洗浄 | ほぼ100%ナフサ由来 |
| 防水材(ウレタン・FRP・塩ビシート) | 屋上・バルコニー・廊下の止水 | 樹脂・希釈材がナフサ由来 |
| シーリング材 | サッシ廻り・打継ぎの止水 | 主成分の樹脂がナフサ由来 |
| 断熱材(発泡系) | 外断熱・屋根断熱 | 発泡樹脂がナフサ由来 |
| ルーフィング・アスファルト系防水 | 屋根下葺き・押え工法 | 改質剤がナフサ由来 |
つまり、外装の修繕に使う材料のほぼ全てがナフサに紐づいているということです。一品目だけ我慢すれば乗り切れる、という構造ではありません。
東京新聞の報道では、政府は「足りている」と表明していますが、実際の現場ではすでに供給に明確な支障が出ている、と多くの中小事業者が証言しています(出典:東京新聞「建築資材や日用品…ナフサ由来製品が出荷停止・値上げ 政府『足りている』と言っても、すでに供給に影響が」)。私が会員数百社のJCSA(一般社団法人全国建設業支援協会)の運営に関わっている立場で言わせていただくと、現場の体感と政府発信の温度差は、相当に大きいと言わざるを得ません。
3. 何が、どれだけ値上がりしているのか
「具体的にどれぐらいの値上げなのか」が、管理組合の理事長さま・修繕委員のみなさまにとっては一番気になるところだと思います。私が業界紙・専門メディアから直近1か月で確認できた数字を、表に整理します。
| 部材 | 値上げ幅の例 | 出典 |
|---|---|---|
| 塗料(大手メーカー) | 最大75% | 造改築.com(2026年3月中旬通告) |
| 断熱材(発泡系) | 約40~50% | テイガク/s-housing |
| ルーフィング | 約40~50% | テイガク/新建ハウジング |
| アスファルトシングル屋根材 | 30%(旭ファイバーグラス「リッジウェイ」、2026年7月1日出荷分より) | テイガク |
| シンナー | 出荷停止・量制限 | 児玉塗装/塗装源 |
| 副資材全般 | 段階的に複数回 | 新建ハウジング |
(出典:【値上げ一覧】”ナフサショック”で相次ぐ大幅値上げ(新建ハウジング)、【2026年5月最新】ナフサショックによる建材受注制限・値上げ情報まとめ(髙橋秀樹note)、中東情勢によるナフサ(シンナー)不足について(塗装源))
戸あたりに換算するとどうなるか。100戸規模のマンションで外壁塗装・屋上防水・シーリング打替えを含むフルメニューの大規模修繕を行う場合、私の経験では資材費の比率は工事費全体の25〜35%程度です。仮に資材費が全体の30%、そのうち塗料・防水・シーリングなどナフサ由来材料が半分を占めるとすると、ナフサ由来材料は工事費の約15%を構成します。ここが平均で40%値上がりしたと仮定すると、工事費全体で約5〜8%の押し上げになる計算です。これは造改築.comの試算とほぼ符合します。
100戸規模で工事費1.2億円のマンションなら、600万円〜960万円のコスト増。戸あたりに直すと6万〜10万円です。「修繕積立金月額5,000円の人にとって、丸1年分以上の追加負担」と言い換えれば、理事会での重みが伝わるのではないでしょうか。
ただし注意していただきたいのは、これは「平均的に試算した上振れ幅」であり、個別物件の条件で振れ幅は大きく変わるということです。屋上のアスファルト防水比率が高い物件、外断熱を採用している物件、シーリング量が多いタワー型物件は、もっと影響を受けます。逆に、シート防水中心で塗装面積が比較的少ない低層物件は、影響を抑えやすいケースもあります。「絶対○%値上がりします」と言い切る業者には、私は警戒したほうがよいと考えています。
4. なぜ大規模修繕が「止まる」のか──工程が崩れる3つの理由
値上げ以上に深刻なのが、工程の停止リスクです。私が現場で見ているのは、おおむね次の3つのパターンです。
理由1:部材の納期確約ができない
これまで「発注から2週間で現場に届きます」と言えていた塗料が、今は「6〜8週間、場合によってはそれ以上、しかも数量保証なし」と回答されるケースが出ています。施工会社としては、住民への工程説明や足場貸出会社との契約が、根拠を持って組めなくなります。
理由2:色番号・グレードの変更が頻発する
特定の樹脂や顔料が手に入らないために、メーカーがレシピを微調整したり、廃番にしたりする動きが続いています。総会で承認をいただいた色番号と仕上がりが微妙に違うと、住民代表からは「説明と違う」というクレームが必ず出ます。理事会・修繕委員会の手戻りが発生するため、工程が1〜2か月単位で押します。
理由3:足場が無駄に長く立つ
足場は1日単位の固定費です。私のいる現場感覚で、戸あたり月1万円〜2万円程度の足場関連コストが、何もしなくても発生し続けます。100戸なら月100万〜200万円。部材待ちで足場が1か月延びるだけで、それだけのキャッシュが空気に消えるわけです。これが、私が「無足場工法(ロープアクセス)」を強く提案する最大の理由でもあります。
5. 修繕積立金への影響と、管理組合が今やるべき5つの行動
ここからが本題です。理事長さま・修繕委員のみなさまに、今月から動いていただきたいことを5つに整理します。
(1) 長期修繕計画の前提条件を即時に再確認する
国土交通省の「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」では、機械式駐車場の有無や階数によって積立金の目安水準が示されています(出典:国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」)。多くの長期修繕計画は、こうした目安と過去の単価を前提に組まれています。しかし、今回のナフサショックは前提を崩しに来ています。まずは、現行計画が「いつの単価」を前提にしているかを確認してください。3年以上前の単価で組まれていれば、ほぼ間違いなく見直しが必要です。
(2) 「直近2年以内の見積り」を施工各社に再依頼する
理事会で「業者選定は2年前にやったから今のままで」となりがちですが、それは危険です。直近2年以内、できれば3か月以内の見積りに更新してください。複数社から取り直すのが原則ですが、相見積りの比較条件は揃えること。比較条件の揃え方は、修繕委員だけでは難しい場合、第三者のコンサルタントに「比較表のフォーマット」だけ作ってもらうのも有効です。
(3) 工事仕様書の「代替品許容条項」を確認・追記する
仕様書に「メーカー指定・型番指定」とだけ書いてあると、塗料メーカーの出荷停止が直撃します。「同等性能の代替品を、書面承認のうえで採用できる」旨の条項を追加してください。性能の同等性は、JIS規格の等級、メーカー試験成績書、第三者検査機関の判定など、客観的に確認できる指標を明記すること。「同等品で良いですよね」と現場任せにすると、住民とのトラブルの火種になります。
(4) 「工程遅延時のリスク分担」を契約書で明確化する
足場が延びた場合の足場料金、住民への説明会再開催費用、人件費の追加負担を、誰がどう負担するかを契約書で決めておきます。「資材入手困難の場合は、双方協議のうえ工程と費用を見直す」と一文入れるだけでも、いざというときの揉め事は大きく減ります。
(5) 「工法のセカンドオピニオン」を取る
足場仮設一択で計画が組まれている場合、ロープアクセスやハイブリッドでの代替提案を受けてみるのは、今のタイミングだからこそ価値があります。次章で詳しくお話しします。
6. オーナー側の視点──資産価値を守るための判断基準
ここからは、収益不動産を持っておられるオーナーさま向けです。築年数や用途が違っても、判断軸はそれほど多くありません。
(A) 「先送り」が最もコストの高い選択肢になりつつある
私の経験上、これは大規模修繕を5年単位で見送るときに、いつも申し上げてきたことです。今は、その傾向がさらに強まっています。ナフサショックが少なくとも2026年内は続くという業界の見立てがあり(出典:ナフサショックはいつまで続く?なぜ今、工務店に影響を与えているのか(makehouse))、来年・再来年の単価が今より下がる保証はどこにもありません。むしろ、外壁の劣化を1年放置した結果、追加の躯体補修が必要になり、結果として工事費が大きく膨らむケースを、私は何度も見てきました。
(B) 入居率と賃料水準は「見た目」に強く反応する
築20年を超えた物件で、外壁の汚れや錆だれ、シーリングの劣化が見えてくると、内見時の印象は劇的に落ちます。特に都心の収益マンション・テナントビルでは、「修繕積立を取り崩してでも、まず外観を仕上げたほうが回収が早い」という判断のほうが、長期では合理的なケースが多いです。Yahoo!ニュースの不動産記事でも、東京23区の中古マンションは「資産性重視」が契約理由のトップになったと指摘されています(出典:資産性重視が「契約理由のトップ」に 東京23区新築マンション価格指数(TBS NEWS DIG・2026年5月))。資産性を語るうえで、外観のメンテナンスは無視できない要素です。
(C) 工法選択で、コストとスケジュールは大きく変わる
ここが、私の本業の核心です。同じ建物を、ただ足場で囲んで塗るのか、ロープアクセスで部分施工と組み合わせるのか、ハイブリッドで合理化するのか。選択次第で、見積額もスケジュールも、住民への影響も変わります。
7. 工法選択で守れるコストとスケジュール
私は普段から、お客様には「答えはひとつではない」と申し上げています。建物の形状、住民構成、立地、修繕積立金の残高、そしてオーナーであれば収益計画次第で、最適な工法は変わるからです。
| 工法 | 工事費の傾向 | 工期 | 居住者・利用者への影響 | 適しているケース |
|---|---|---|---|---|
| 通常足場工法 | 標準 | 標準 | 大(眺望・採光・防犯すべてに影響) | 中低層、複雑形状、全面的な躯体補修が必要な場合 |
| ロープアクセス工法(無足場) | 足場費を大幅圧縮できるケースあり | 短縮しやすい | 小(眺望・採光は維持、洗濯物制限は短期間) | 高層、シーリング・部分補修・部分塗装、緊急対応 |
| ハイブリッド工法 | 部位ごとに最適化 | バランス型 | 中(足場区画を限定) | 大規模・複雑物件、コストと工期の両立が必要 |
ロープアクセス工法は、日本ではまだ全国普及率が高くありませんが、明誠は日本で初めてロープアクセス工事のフランチャイズ展開を行っており、塗装・防水・タイル・電気・看板など各分野の専門職が加盟する全国ネットワークを持っています。これは、自社単独では受けきれないボリュームや、繁忙期の人手確保、地方案件への展開に強みを発揮します。
正直に申し上げます。ロープアクセスがすべての建物・すべての工事に万能ということではありません。たとえば、躯体側に大面積の爆裂・剥離があり、ハツリと打ち増しを大量に伴う場合は、足場で囲って一気に進めたほうが結果的に安く、安全なケースが多いです。「足場かロープか」ではなく、「どこは足場、どこはロープ、どこはハイブリッドか」を建物ごとに切り分けること。これが、いま単価が上がりつつあるなかで、最もコストを守れる発想だと、私は確信しています。
ロープアクセス工法の詳細はロープアクセス工法のご紹介を、大規模修繕の総合的なご相談は大規模修繕工事のご紹介をご覧ください。
8. 私が現場で見ている「動ける管理組合」の共通点
20年ほど現場をやってきて、ナフサショックのような外部ショックに強い管理組合には、いくつか共通点があると感じます。
ひとつ目は、理事会で「数字の出どころ」が常に共有されていることです。「業者が言っていたから」ではなく、「○月発行の業界紙にこう書いてある」「国交省ガイドラインのこの版にこう書いてある」と、出どころの確認が会議の中で行われています。情報の出どころが明確だと、議論が早く、住民総会の説明も短く済みます。
ふたつ目は、修繕委員のなかに、建築・設備・財務のいずれかの実務経験を持つ住民が、1人は入っていることです。これは「専門家を雇え」という話ではありません。住民の中の経験者を、ちゃんと巻き込めているかどうか、ということです。「お任せください」と全員を黙らせるタイプの理事長さんよりも、「皆さんの知見を貸してください」と言える理事長さんのほうが、こういう局面で強いです。
みっつ目は、業者を「敵」にしないことです。値上げの通告を受けたとき、感情的に業者を責める管理組合と、「これは業者個別の問題ではなく業界全体の問題だ」と切り分けて、共同で対策を考える管理組合では、結果が違います。後者のほうが、最終的に良い条件・良い品質を引き出しています。
私が一番悔しい思いをするのは、頑張って動かれている管理組合が、ほんの少しのコミュニケーションのズレで、業者と疎遠になってしまい、結果として割高な工事を別社に発注してしまうケースです。ナフサショックは、業者と管理組合の信頼関係を試すリトマス紙でもあるな、と最近よく思います。
9. JCSAから業界への呼びかけ──今こそネットワークの出番
ここから少し業界向けの話です。読み飛ばしていただいて構いません。
私が代表理事を務めるJCSA(一般社団法人全国建設業支援協会)では、5月から「ナフサショック対応 緊急情報交換会」をオンラインで月2回、開催しています。会員社からは、「塗料メーカーごとの在庫情報をリアルタイムで共有してほしい」「代替樹脂の試験施工データを共有してほしい」「住民説明用のテンプレを共有してほしい」という声が、毎週のように届いています。
私は、これに本気で応えるつもりです。協会の役割は、平時に勉強会や交流会を開くことだけではないと考えています。こうした非常時に、業界全体で持っている情報を素早くつなぐことこそ、業界団体の存在意義だと思っています。
会員社の皆さまには、6月の交流会で詳細をお伝えしますが、JCSA未加入の方でも、関心のある事業者の方はJCSAのお問合せフォームからご連絡いただければ、緊急情報交換会のオブザーバー参加もご案内できる体制を準備中です。一社で抱え込まず、業界の知恵を持ち寄って乗り越えていきましょう。
10. まとめ:今月、今週、明日できること
長くなりました。最後に、お読みいただいた方がそのまま動けるよう、行動チェックリストを置いておきます。
【管理組合 理事長さま・修繕委員さま】
– [ ] 長期修繕計画の単価前提を、いつの時点のものか確認する
– [ ] 直近の見積りを2〜3社から取り直す(比較条件を揃える)
– [ ] 仕様書に「代替品許容条項」を入れる
– [ ] 工程遅延時のリスク分担を契約書で明確化する
– [ ] 足場工法以外(ロープアクセス・ハイブリッド)のセカンドオピニオンを取る
– [ ] 住民説明会の資料に、ナフサショックの一次情報リンクを添える
【収益不動産オーナーさま】
– [ ] 物件ごとに、「先送りした場合の追加リスク」を試算する
– [ ] 外観の劣化が入居率・賃料に与える影響を、近隣相場と比較して確認する
– [ ] 部分施工で凌げる物件は、ロープアクセスでの早期対応を検討する
– [ ] 長期保有予定の物件は、来年以降の単価高止まりを前提に資金計画を見直す
【同業の経営者さま】
– [ ] 自社の在庫・受注残・代替品試験のステータスを毎週棚卸しする
– [ ] お客様への説明用テンプレを早めに準備する(業界全体の話と自社の対応を分けて書く)
– [ ] 一社で背負わず、業界団体・地域の同業との情報共有を強める
ナフサショックは、私たち建設業にとっても、管理組合・オーナーにとっても、たしかに厳しい局面です。けれど、20年現場をやってきた私の正直な感想は、「こういう時こそ、ちゃんと動いた人と組織だけが、来年・再来年に資産価値で報われる」というものです。
ご相談だけでも遠慮なくお声がけください。総会の前段階の整理だけでも、お力になれることがあります。お問合せはこちらのフォームから、もしくは長年付き合っていただいている管理会社さま経由でも結構です。次回も、現場で本当に使える話だけをお届けします。
出典・参考資料
- TBS NEWS DIG/Yahoo!ニュース「『私たちの声は届いていないのか』止まる工事現場、追いつめられる中小建設業者の切実な声」(2026年5月23日)
- 日経クロステック建築「建材不足でマンション大規模修繕に停止の危機、計画見直しも 中東情勢混迷」
- 造改築.com「ナフサショック(ナフサ不足)完全解説2026|石油化学製品が住宅から消える日」
- 新建ハウジング「【値上げ一覧】”ナフサショック”で相次ぐ大幅値上げ」
- テイガク「【2026年5月22日更新】建材資材の値上げと受注停止の影響」
- 児玉塗装「【2026年5月11日更新】ナフサショック・中東情勢による塗装材料への影響|各メーカーの出荷・受注状況まとめ」
- 東京新聞デジタル「建築資材や日用品…ナフサ由来製品が出荷停止・値上げ 政府『足りている』と言っても、すでに供給に影響が」
- 塗装源「中東情勢によるナフサ(シンナー)不足について」
- 国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」
- TBS NEWS DIG「資産性重視が『契約理由のトップ』に 東京23区新築マンション価格指数 タワマン19%上昇で過去最高」(2026年5月)
- makehouse「ナフサショックはいつまで続く?なぜ今、工務店に影響を与えているのか」
- 髙橋秀樹note「【2026年5月最新】ナフサショックによる建材受注制限・値上げ情報まとめ」
本記事の数値や制度情報は2026年5月25日時点での公開情報をもとに整理しています。最新の業界動向や個別物件のご相談については、株式会社明誠お問合せフォームよりお寄せください。
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【令和8年度開始】東京都の集合住宅向け再エネ助成で屋上防水工事に最大18万円/kW──管理組合が今やるべき3つの準備
結論先出し ── 5月29日の申請開始前に動かないと「来年回し」になります
東京都が令和8年5月22日付プレスリリースで、「集合住宅における再エネ電気導入促進事業」の令和8年度受付を令和8年5月29日(金)から令和9年3月31日(水)まで実施すると発表しました(出典:東京都報道発表「高圧一括受電による集合住宅再エネ100%化を支援」)。
この助成のポイントは、太陽光発電設備の本体に加えて、「架台工事の上乗せ」と「屋上の防水工事」までが助成の対象になっていることです。令和7年度の単価ベースでは、防水工事に最大18万円/kW、架台工事に20万円/kWが上乗せされていました(出典:クール・ネット東京 令和7年度実施要綱)。50kW弱の太陽光を載せれば、屋上防水だけで900万円近い助成枠が動くことになります。
私はこの2週間、いくつかの管理組合さまから「うちの理事会でも検討したい」というご相談をいただきました。正直に申し上げます。ここから動き始めて、年内に発注まで持っていけるかどうかが分かれ目です。本記事では、この助成制度の本質と、管理組合・所有者さまが今月中にやるべきことを、現場目線で整理します。
この助成制度の全体像 ── なぜ「太陽光」と「防水」がセットなのか
高圧一括受電とは何か
「高圧一括受電」とは、マンション全体で一つの大口契約として高圧電力をまとめて受電し、各住戸へ低圧で配分する仕組みです。各戸が個別に東京電力等と契約する従来方式に比べ、電気の調達コストが2〜3割程度下がるケースが一般的です。新築マンションでは導入実績が増えていますが、既存マンションでの導入はまだ少なく、合意形成と既存契約解約のハードルがネックになっていました。
再エネ100%電気の意味
今回の助成は、その高圧一括受電を再エネ100%プランで行うことが大前提です。建物全体で使う電気を、太陽光・風力・水力など再生可能エネルギー由来の電気に切り替えることが条件になります。東京都が「ゼロエミッション東京」の旗印で進めている政策の集合住宅版、と理解していただくのが分かりやすいでしょう。
なぜ太陽光と「架台工事」「防水工事」がセットなのか
私はこの設計を、東京都の制度設計者がよく考えたなと感心しました。屋上に太陽光パネルを載せるためには、当然ながらパネルを支える架台が必要です。そして、その架台を陸屋根(フラットな屋上)に固定する際、既存の防水層を傷めずに済む施工が要ります。
ここで現場の本音を申し上げます。「太陽光を載せたら屋上の防水が早く傷んだ」というトラブルは、業界では決して珍しい話ではありません。私は20年現場をやってきて、屋上に後付けの設備を載せて防水が10年保たなかった事例を、片手では数えきれないほど見てきました。
東京都はこの「防水と太陽光の相性問題」を見越して、太陽光設置の機会に合わせて屋上防水を更新する費用を補助するという、極めて実務的な枠組みを作ったわけです。これは管理組合さまにとって、長期修繕計画の屋上防水工事と、創エネ・再エネ対応をワンセットで前倒しできる、稀有なタイミングです。
令和8年度の概要と、令和7年度との関係
申請スケジュール(公式発表ベース)
東京都の発表によれば、令和8年度の助成金申請期間は令和8年5月29日(金)から令和9年3月31日(水)までです(出典:東京都報道発表)。
ただし、これは「期間の上限」であって、令和7年度同様に申請総額が予算枠に達した時点で前倒し終了する仕組みと考えるのが妥当です。令和7年度の同事業は、令和7年5月22日に受付を開始し、令和8年3月31日をもって受付終了が告知されています(出典:クール・ネット東京 令和7年度ページ)。年度途中での予算到達は珍しくありません。
助成額(令和7年度実績ベース/令和8年度は最新の実施要綱で要確認)
参考までに、令和7年度の助成額をまとめます。令和8年度の正式な助成単価は、5月29日開始時点で公表される実施要綱で必ず確認してください。
| 助成対象 | 助成単価(令和7年度実績) | 上限 |
|---|---|---|
| 受変電設備 | 助成対象経費の2/3 | 850万円/棟 または 8.5万円/戸 |
| 太陽光発電設備(既存集合住宅) | 12万円/kW | 発電出力50kW未満 |
| 太陽光発電設備(新築集合住宅) | 10万円/kW | 発電出力50kW未満 |
| 架台工事上乗せ | 20万円/kW | 陸屋根への施工に限る |
| 防水工事 | 18万円/kW | 既存集合住宅の陸屋根への施工に限る |
(出典:クール・ネット東京 令和7年度実施要綱)
例えば、屋上に45kWの太陽光を載せた場合、令和7年度ベースで以下のような助成総額が見込めます。
- 太陽光発電設備(既存):12万円 × 45kW = 540万円
- 架台工事上乗せ:20万円 × 45kW = 900万円
- 防水工事:18万円 × 45kW = 810万円
- 合計:2,250万円(受変電設備の助成は別途)
これは戸数50戸のマンションであれば、戸あたり45万円相当の補助です。修繕積立金の負担感覚で言えば、月額数百円〜千円の値上げを5年前倒しできるレベルのインパクトがあります。
押さえるべき2つの主体 ── 高圧一括受電事業者と管理組合
この助成のややこしいところは、助成対象者が2系統に分かれる点です。
- 受変電設備など:クール・ネット東京に登録された高圧一括受電事業者が申請(助成金は利用者である管理組合等に還元される設計)
- 太陽光発電設備(架台・防水含む):高圧一括受電が導入される集合住宅の所有者・管理組合等が申請
つまり管理組合さまが直接申請するのは、太陽光・架台・防水のパートです。受変電設備は事業者経由になります。私の経験上、ここを混同して「全部うちが申請するのか」と理事会で議論が止まる組合さまが少なくありません。役割分担をまず明確にすることが第一歩です。
管理組合がつまずきやすい3つの実務ポイント
① 屋上防水の劣化診断は誰が、いつ、どうやるか
私はいつも理事長さまに、こう申し上げています。「補助金の話より先に、まず屋上の現状診断をしてください」と。
なぜか。太陽光のパネル架台は、設置後20年以上はそこに居座り続けます。今の防水層がそのまま20年保つかどうかを見極めずに架台を載せると、5〜10年後に「防水だけ更新したいのに、パネルがあって工事できない」という最悪のケースに陥ります。
診断のやり方は3通りです。
- 足場仮設による全面打診・赤外線調査:精度は高いが費用と工期が大きい
- ロープアクセスによる屋上端部・パラペット点検:足場不要で1〜2日、費用は足場の1/3〜1/5
- ドローン目視+部分的なサンプル採取:初期スクリーニング向き
築15年以上で過去に防水更新履歴がない物件であれば、ロープアクセスで屋上端部と排水ドレン周りを集中的に点検するのが、コストと情報密度のバランスが最も良いと私は考えています。私の会社では、これを単独の見積もりとしても、太陽光・防水のセット提案の前段としても請けています。
② 長期修繕計画への組み込み
築20年前後のマンションでは、第2回大規模修繕の時期がそろそろ視野に入ってきます。この助成を使う最大の意味は、「次回の大規模修繕での屋上防水更新を、補助金付きで前倒しできる」ことです。
ただし、長期修繕計画を改訂せずにこの工事を突っ込むと、後でややこしくなります。修繕積立金の取り崩し計画、次回大規模修繕の工事範囲、第2回・第3回の長期見積もり──このあたりを理事会・修繕委員会で1回は議論にあげることを強くお勧めします。
国土交通省「長期修繕計画作成ガイドライン」(出典:国土交通省)でも、修繕計画は概ね5年ごとに見直すこととされています。今回の助成は、その見直しタイミングを早める良いきっかけになります。
③ 高圧一括受電事業者の選定リスク
ここが一番、私が理事会で「ちょっと待ってください」と申し上げたいポイントです。
高圧一括受電は、契約期間が10〜15年の長期契約になるのが一般的です。途中解約には違約金が発生するケースが多く、また「再エネ100%プラン」と謳いつつ、内訳が非化石証書のみで実質的には通常電気と変わらない、というケースも市場には存在します。
事業者選定の際は、以下を必ず確認してください。
- 契約期間・違約金条項・更新条件
- 「再エネ100%」の中身(実物の再エネ電気か、証書ベースか)
- 各戸への料金体系(メリットが各戸の電気料金にどう還元されるか)
- 撤去・解約時の費用負担
- クール・ネット東京の登録事業者であること
「クール・ネット東京の登録事業者」というのは、東京都が一定の要件を確認した事業者という意味です。これ自体は安心材料ですが、「登録されている=ベストである」ではありません。最低2〜3社からの提案を取り、契約条件を横並びで比較するのが大原則です。
私が現場で見てきた「失敗」と「正解」
失敗例1:「太陽光だけ」設置で防水が劣化した物件
5年ほど前、私は他社さまが施工された築23年の中規模マンション(48戸、陸屋根)の屋上を、管理組合さまからのセカンドオピニオン依頼で見せていただいたことがあります。3年前に屋上に太陽光パネル30kWを設置されていました。
ロープアクセスで端部から見て、まず驚いたのは架台アンカーの周辺の防水シートが波打っていることでした。設置時に既存防水を傷めないよう養生はされていたのですが、3年間の日射と温度変化で、アンカー周りに局所的な応力が集中し、シートの接着が浮き始めていたのです。
このまま放置すれば5年以内に漏水。しかし防水を更新するためには、太陽光パネルを一度撤去する必要がある。撤去・再設置のコストだけで300万円近くかかる見積もりになりました。
もし最初から防水更新と同時に施工していれば、この300万円は不要だったわけです。今回の東京都の助成は、まさにこの種の悲劇を防ぐためにあると言っても過言ではありません。
失敗例2:高圧一括受電の解約条件を読み込んでいなかった理事会
別の物件では、高圧一括受電を導入した10年後に、「やはり各戸が自由に電力会社を選べる方が良い」という意見が住民から出て、解約を検討された組合さまがありました。契約書を見たら、残存期間の電気料金見込み額の30%が違約金として規定されており、撤去費を合わせると総額1,500万円超。結果、解約を断念されました。
これは10年前の話ですが、現在も類似の契約条件は存在します。契約締結時に「将来の出口」をどう設計するかを理事会の議事録に残しておくことが、5年後10年後の理事の方々を救います。
正解例:ロープアクセスで先に防水診断、屋上荷重も同時調査
逆に上手くいった例も紹介します。築18年・60戸のマンションさまでは、最初の相談時点で「太陽光を載せたい、補助金も使いたい」というご要望でしたが、私たちはまず屋上の現状診断から入りました。
具体的にはロープアクセスで以下を1日半で実施。
- 屋上防水層の打診・赤外線調査
- パラペット・笠木周りのシーリング劣化確認
- 構造躯体への追加荷重に対する設計図書のレビュー(管理組合保管の建築確認申請書類)
- 排水ドレン周りの土砂堆積と排水勾配の確認
結果、防水層は部分補修で5年延命可能、構造的には45kWまで載せられる、ただし排水勾配の関係でパネル配置を一部見直す必要あり、という診断書をお渡ししました。
理事会ではこの診断書をもとに、「今年は屋上防水更新と太陽光・架台・受変電をセットで実施」という方針を全戸合意で固められました。設計から実工事まで通して、補助金を含めた管理組合さまの実質負担は、当初想定の40%程度に収まりました。
これが「正解」だと私は思っています。順番が大事なのです。診断 → 計画 → 補助金申請 → 工事、この順序を守れば、補助金は最大化し、リスクは最小化できます。
東京都の脱炭素政策の中での、この助成の位置づけ
ここで一度、視点を引き上げて、東京都全体の動きを整理しておきます。今回の助成は単発の制度ではなく、東京都が進める「ゼロエミッション東京」という大きな政策パッケージの中の一部分です。
東京都は、2030年までに温室効果ガス排出量を2000年比50%削減(カーボンハーフ)、2050年までに実質ゼロを目標として掲げています(出典:東京都環境局 ゼロエミッション東京)。東京都内のCO2排出量のうち、家庭部門が約30%、業務部門が約40%を占めており、合計で7割が「建物起因」と言ってよい構造です。
私が現場で実感するのは、ここ2〜3年、東京都の補助金がはっきりと「建物の脱炭素化」に予算を集中させてきたということです。屋根太陽光、断熱改修、窓改修、エコキュート、EV充電器、そして今回の集合住宅向け再エネ電気導入。一つひとつは単独制度ですが、組み合わせて活用すると、マンション1棟あたり数千万円規模の助成を引き出せる可能性があります。
たとえば、共用部の照明LED化、エレベーター更新時の高効率モーター採用、各戸への省エネガラス導入助成(クール・ネット東京の関連事業)と、今回の太陽光・再エネ電気導入を組み合わせれば、修繕積立金の取り崩し額を相当圧縮しながら、建物の長期価値を上げることができます。今回の助成を単発で見るのではなく、「次回大規模修繕とのパッケージとして組み立てる」視点を、ぜひ理事会に持ち込んでください。
ここからが本題です。では実際に屋上を見るとき、ロープアクセスでは何が分かるのか、現場の具体を一段深くお伝えします。
ロープアクセスでの屋上診断の実際 ── 1日でわかること
「屋上診断はロープアクセスで」と申し上げると、よく「目視で何が分かるんですか」という質問をいただきます。正直に申し上げます。目視だけで分かることは、想像以上に多いです。
私が現場で1日でチェックする項目を、参考までに列挙します。
- 防水層の物理的劣化:シート防水のジョイント開き、塗膜防水のクラック・剥離、アスファルト防水の浮き
- パラペット笠木周りのシーリング:充填材の硬化・断裂、笠木ジョイントからの雨水侵入痕
- 排水ドレン周辺:土砂・落葉の堆積、勾配の崩れ、ドレン金具の腐食
- 既設配管・架台の固定状況:エアコン室外機台、アンテナ、避雷針などのアンカー部
- 打診による浮き診断:必要に応じてサンプリング的に実施(テストハンマーまたは赤外線併用)
- 屋根面の温度分布(赤外線カメラ併用時):水分滞留箇所の特定
これらをロープアクセスで体系的に見れば、「あと何年保つか」「太陽光を載せて大丈夫か」「補強が必要な箇所はどこか」の3点が、現場1日+報告書作成2〜3日で出せます。費用感覚としては、中規模マンション(50戸前後)であれば20〜40万円程度が目安です。
「いきなり大規模修繕の見積依頼」よりも、まずこの屋上診断単独でお声がけいただく方が、管理組合さまの選択肢を狭めません。私たちはこの診断を、太陽光・防水のセット提案前の入口商品として位置づけており、診断後に他社施工を選ばれても全く構いません。情報を持って意思決定していただくことが、結局は管理組合さま、そして業界全体のためになると考えているからです。
工法の選び方 ── 「足場」「ロープアクセス」「ハイブリッド」のどれが向くか
私の会社、株式会社明誠は、大規模修繕工事において通常足場工法・ロープアクセス工法・ハイブリッド工法の3つを建物特性に応じて使い分けることができる、日本でも数少ない会社です。今回の助成案件のように「屋上工事+部分的な外壁・パラペット工事」が中心になる場合の使い分けを、簡単に整理します。
屋上点検・防水工事におけるロープアクセスの強み
- 足場架設不要のため工期が短い(屋上1棟分の防水診断なら1〜2日)
- 居住者の生活影響が小さい(足場による日照阻害・洗濯物干せない問題なし)
- コストが足場の1/3〜1/5になることも多い
- 足場を架けにくい複雑形状・狭隘地でも対応可能
特に「補助金の申請前提で診断書を急ぎたい」という場面では、ロープアクセスは強力な選択肢です。
足場が向くケース/ハイブリッドが活きるケース
ロープアクセスが万能というわけではありません。以下のような場合は、足場、もしくはハイブリッド工法が向きます。
- 外壁全面の塗装・タイル補修も同時に実施するなら、結局足場を架けた方が総合的に安い
- 大量の資材(架台パーツ、防水材ロール、太陽光モジュール)を屋上に揚重する場合、足場経由の方が安全
- 第2回大規模修繕の一環として総合的に実施するなら、足場前提で工程を組み、ロープは補助的に使う
ハイブリッド工法は、例えば「外壁は足場、屋上端部とバルコニー側溝の補修はロープアクセスで先行」というふうに、部位ごとに最適工法を組み合わせるやり方です。これにより、全面足場の半分弱の費用で、同等の品質を実現できる場合があります。
私はこれを、必ずワンセットで提案するようにしています。「3工法から、お宅にとって最も合理的な組み合わせを設計します」と。
理事会で必ず聞かれる7つの質問(FAQ)
Q1:うちのマンションは陸屋根じゃないけど対象になりますか
防水工事の助成は既存集合住宅の陸屋根への施工に限ると明記されています(出典:クール・ネット東京 令和7年度実施要綱)。勾配屋根の物件は防水工事分の助成対象外ですが、太陽光本体と受変電設備は別途検討の余地があります。
Q2:管理組合の決議は普通決議でいいですか、特別決議が必要ですか
工事の規模と「共用部分の変更」の度合いによって変わります。屋上に太陽光を新設し、防水も全面更新する場合、区分所有法上の「共用部分の重大変更」にあたる可能性が高く、原則として特別決議(区分所有者・議決権の各3/4以上)が必要と整理されるケースが多いです(出典:マンション管理センター)。実際の判断は管理規約と物件状況によりますので、専門家にご相談ください。
Q3:今ある電力契約はどうなりますか
高圧一括受電を導入すると、共用部・各戸の電力契約は新しい一括受電事業者経由に切り替わります。各戸の住民さまの合意取得は、理事会で最も時間がかかる部分です。「全戸書面同意」が事業者から求められるケースが大半なので、説明会と同意書回収のスケジュールを早めに組んでください。
Q4:賃貸住戸が多いマンションでも可能ですか
可能ですが、賃借人の同意取得や、賃料への影響などを整理する必要があります。区分所有者が法人で、賃貸経営を主たる目的としているマンションの場合は、所有者単位の合意で進められるケースが多くなります。
Q5:太陽光のメンテナンスは誰がやるんですか
これは契約スキームによります。事業者所有・管理組合借り受け(PPAモデル)か、管理組合所有かで分かれます。前者の場合、メンテナンスは事業者責任。後者の場合は管理組合が外部委託することになり、年間維持費が10〜30万円程度別途必要になります。
Q6:補助金申請の事務は誰がやりますか
申請書類は管理組合さま単独でも可能ですが、実務上は施工会社や太陽光事業者が代行するケースがほとんどです。私の会社では、必要書類のドラフト作成と現場写真・図面の整備をセットでお引き受けしています。
Q7:補助金の入金はいつになりますか
一般論として、工事完了報告 → 完了検査 → 助成金確定 → 入金、というフローで工事完了から3〜6ヶ月かかります。資金繰り上、補助金が「後から入る」設計であることを理事会で共有しておくことが重要です。
今月中(5月末)にやるべきこと ── 管理組合チェックリスト
5月29日の受付開始までに、以下のうち最低3つは着手しておきたいところです。
- 屋上の現状診断(簡易でも良いので、防水・排水・荷重の3点)に着手
- 過去5年の電気料金(共用部・各戸の合算可能なら)の整理
- 高圧一括受電事業者2〜3社の提案依頼(NDA前提でも可)
- 第2回大規模修繕の修繕積立金残高と、長期修繕計画上の屋上防水更新時期の確認
- 6月理事会の議題に「東京都の集合住宅再エネ助成について」を追加
- クール・ネット東京の最新情報ページ(こちら)をブックマーク
- 信頼できる施工会社・太陽光事業者・設計事務所の連絡先を確保
「今月中に全部やる」必要はありません。まず屋上を見ること、まず情報を集めること、この2つから始めれば十分です。
東京都外のオーナーさま・管理組合さまへ ── 他自治体の動きと、共通する考え方
ここまで東京都の制度を中心に書いてきましたが、実は同種の集合住宅向け再エネ・防水関連助成は、他の自治体でも徐々に拡充されてきています。
横浜市、川崎市、さいたま市、千葉市など、いわゆる首都圏政令指定都市では、マンション省エネ改修やZEH-M(ゼッチ・マンション)対応工事への助成メニューが整備されつつあります。大阪市、京都市、神戸市など関西の主要都市でも、独自の脱炭素マンション支援が動き始めています。
これらの自治体助成と、東京都の今回の制度との共通点を3つ挙げます。
- 「電気の脱炭素化」と「建物の躯体性能改善」をセットで評価する設計が増えている
- 既存マンションの大規模修繕タイミングと噛み合わせることが想定されている
- 書類の煩雑さは年々増しており、専門家の代行ニーズが高い
私の会社は東京都を中心に活動していますが、ロープアクセス工法のフランチャイズを通じて全国の地域パートナーと連携しています。日本初となる、ロープアクセス工事のフランチャイズ展開を行っており、塗装・防水・タイル・電気・看板工事など、各分野の専門職が加盟しています。お住まいの地域の自治体助成と組み合わせて、「高品質×低価格×地元工事店」の組み合わせを設計できる体制を整えてきました。
「うちは東京じゃないから関係ない」と思われた方こそ、お住まいの市区町村の最新の補助金検索ページを一度開いてみることをお勧めします。意外な助成枠が眠っているケースが、本当に少なくありません。
まとめ ── 「順番」を間違えなければ、この助成は活きます
私はこの東京都の助成制度を、マンション管理組合さまにとって今年最大級の機会と見ています。理由は3つです。
- 屋上防水更新という、本来は単独では「億の自己負担」になる工事に、まとまった公的助成が入る
- 太陽光・受変電とセットで実施することで、長期の電気料金削減も同時に得られる
- 申請開始から年度末まで10ヶ月あり、理事会の合意形成と工事実施のスケジュールが現実的に組める
ただし、何度も申し上げますが、順番を間違えると逆効果になります。診断なしで太陽光を載せて屋上を傷める。事業者選定を急いで違約金リスクを背負う。長期修繕計画を見直さずに突っ込んで、後年の修繕予算に穴が空く──こうした「失敗」は、すべて順番のミスから生まれます。
私はいつも理事長さまに、こう申し上げています。「補助金は急がず、でも逃さず」。9月の防水点検シーズンまでに屋上診断、10月までに事業者選定の絞り込み、12月の臨時総会で決議、年明けから工事──このペースで、十分間に合います。
ご相談だけでも遠慮なくお声がけください。屋上の現状診断や、高圧一括受電事業者からの提案内容のセカンドオピニオンなど、契約前段階の整理だけでも、お力になれることがあります。私たちは大規模修繕の総合提案として、ロープアクセス工法のご紹介、大規模修繕工事のご紹介、そしてお問合せフォームでご質問を承っています。
次回も、現場で本当に使える話だけをお届けします。
出典・参考資料
- 東京都「高圧一括受電による集合住宅再エネ100%化を支援|5月(令和8年度報道発表)」
- クール・ネット東京「令和7年度 集合住宅における再エネ電気導入促進事業」
- 東京都環境局「集合住宅における再エネ電気導入先行実装事業」
- 国土交通省「長期修繕計画作成ガイドライン」
- 公益財団法人マンション管理センター「マンション管理に関する各種情報」
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中東発「ナフサショック」が大規模修繕を直撃|塗料1か月待ち時代に、収益物件オーナーと管理組合が今やるべき5つの判断【2026年5月】
はじめに ── 今朝、現場の塗装職長から「在庫6月末で尽きるかも」と電話がありました
おはようございます。株式会社明誠の本間です。
今朝、私は協力会社の塗装職長から1本の電話を受けました。
「社長、ぶっちゃけ言うと、いつも使っているメーカーの塗料、次の発注からは納期1か月で見ておいてください。在庫、本気で6月末には尽きる可能性があります」
電話を切ってすぐ、私は朝日新聞の記事を確認しました。「ナフサ不足で塗装業者から悲鳴 塗料の在庫『6月末で尽きてしまう』」という見出しが目に飛び込んできました(出典:朝日新聞 2026年5月20日)。同じ日、Yahoo!ニュースでは石川県塗装工業会が「橋に塗る塗料が納入1か月待ち、塗装資材の安定供給を」と緊急要望を出しています(出典:Yahoo!ニュース 2026年5月20日)。
これは、現場の一部の話ではありません。私は20年近くこの業界で仕事をしてきましたが、塗料・シーリング・防水材といった大規模修繕の根幹資材が、ここまで一斉に揺らぐ局面は東日本大震災直後以来です。
ここからが本題です。本記事では、収益物件を保有するオーナー様、そしてマンション管理組合の理事長様に向けて、今この瞬間に確認していただきたい5つの判断を、現場の本音とともにお伝えします。
H2-1:なぜ「ナフサショック」が大規模修繕に直撃するのか
ナフサと塗料・建設資材の関係
まず用語を整理します。ナフサとは、原油を蒸留して得られる軽質油の一種で、プラスチック、合成樹脂、塗料、シーリング材、防水材といった石油化学製品の出発原料です。建設現場で使う主要資材の多くが、このナフサ由来の合成樹脂を含んでいます。
ナフサが高騰・不足すると、川下で何が起きるか。
まず塗料:ウレタン系・シリコン系・フッ素系といった主流の樹脂塗料は、ほぼ全量がナフサ由来の合成樹脂をベースにしています。次にシーリング材:マンションの外壁目地に詰めるあの白い・黒いゴム状の材料も、ポリウレタン系やポリサルファイド系といったナフサ由来の樹脂です。防水材もウレタン防水、塩ビシート防水、改質アスファルト防水のいずれも、ナフサ系の樹脂・添加剤に依存しています。
つまり、大規模修繕の工事費の中で「材料費」の50〜70%を占める仕上げ材は、ほぼ全てナフサ価格の影響をストレートに受けるのです。これが、私が「ナフサショックは大規模修繕にとって直撃の問題だ」と申し上げる理由です。
朝日新聞・石川県報道が示す「6月末で在庫が尽きる」現場
朝日新聞が報じた関西の住宅向け塗装業者の言葉が、私には刺さりました。「うちは大丈夫です」と顧客には言い切る。しかし内心は不安でいっぱい、というのです(出典:朝日新聞 2026年5月20日)。
石川県塗装工業会の事例では、浅野川にかかる橋の塗装工事で、塗料納入に1か月かかったとされています。橋梁塗装は構造物の長寿命化に直結する工事ですから、自治体側もこれを待たざるを得ません。
私が痛感したのは、「我慢して待てる工事」と「待てない工事」の差です。橋梁の再塗装は、極論を言えば数か月遅れても倒壊するわけではない。一方、マンションの屋上防水工事で梅雨入りまでに完了させたかった案件が、塗料1か月待ちで7月にずれ込むと、雨季の漏水リスクを丸ごと住民が背負うことになります。
経産省ガソリン補助金41.8円/Lが示す原油・原料価格の異常事態
もう一つ、私が見逃せないと感じているのが、経済産業省が2026年5月20日に発表したガソリン補助金の支給額です。1リットルあたり41.8円。経産省自身、6月にも基金が枯渇する可能性に言及しています(出典:Yahoo!ニュース 2026年5月20日)。
ガソリン1Lに対して41.8円の補助が必要というのは、原油・石油由来製品の市況がそれだけ異常事態だということです。建設現場では、職人の通勤・資材運搬・重機燃料のすべてに軽油・ガソリンが使われます。資材費だけでなく輸送費にも、ナフサショックは波及します。
私はこの数字を見て、「これは数か月で収まる話ではない」と判断しました。長期化を前提に経営判断を組み直す局面に入ったと考えています。
H2-2:実例で見る「価格と工期」の二重打撃
大手3社は増収営業増益、しかし末端工事業者は痛手
ここで一つ、誤解されやすい点を整理させてください。
総合塗料メーカー大手3社(日本ペイントホールディングス、関西ペイント、エスケー化研系列など)の2027年3月期業績予想は、全社が増収営業増益を見込んでいます(出典:Yahoo!ニュース 2026年5月20日)。
これだけ見ると「塗料業界は元気じゃないか」と思われるかもしれません。しかし、これはメーカー視点の話です。原料高を製品価格に転嫁できる大手メーカーは利益を確保できるが、末端の塗装工事会社、ひいては発注者であるオーナー様・管理組合は、その値上げを正面から引き受ける構図なのです。
正直に申し上げます。我々のような工事会社にとって、メーカーが増益でも嬉しくはありません。むしろ、値上げを発注者にどう説明し、どう仕様調整で吸収するかという胃の痛い仕事が増えるだけです。
健美家報道「2027年エアコン省エネ基準改正+ナフサショック」収益物件オーナー直撃
不動産投資情報誌「健美家」が2026年5月20日に配信した記事のタイトルが、私の今日のテーマと完全に一致していました。「2027年エアコン価格が改定? ナフサショックで新築の工期遅れ? 収益物件オーナーが」(出典:健美家 2026年5月20日)。
健美家の指摘は、新築のみならず既存物件の修繕にも波及するというものです。エアコン省エネ基準は2027年の改正でハードルが上がります。室外機の更新や、断熱性能を上げる外壁修繕とセットで考える収益物件オーナー様にとっては、ナフサショックと省エネ基準のダブルパンチが2027年問題として迫っています。
防水・塗装・シーリング、各工程への影響度合い
私の体感ベースで、影響度合いを整理します。あくまで現場の声に基づく目安で、すべての物件に当てはまるわけではありません。
| 工程 | 主原料 | 価格影響 | 工期影響 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 外壁塗装(シリコン・フッ素) | ナフサ系樹脂 | ★★★ | ★★ | メーカー指定品の確保が課題 |
| 屋上防水(ウレタン) | ウレタン樹脂 | ★★★ | ★★★ | 梅雨前需要と重なり最も逼迫 |
| シーリング | ポリウレタン系 | ★★ | ★★ | 主剤・硬化剤の納期長期化 |
| タイル張替 | モルタル+接着剤 | ★ | ★ | セメント系で影響軽微 |
| 鉄部塗装(錆止め・上塗り) | アルキド樹脂 | ★★ | ★★ | 代替品流通あり |
ご覧の通り、屋上防水(ウレタン)が最も逼迫しています。梅雨入り前に終わらせたい工事と、ナフサショックの真っ只中が重なるからです。
H2-3:大規模修繕の現場で何が起きるか ── 私が見てきた3つのリスク
リスク①:工期遅延 ── 足場リース料は1日単位で発生する
ここで現場の話を一つ。
私が以前担当した築20年・96戸のマンションで、塗料納期が3週間遅れたことがありました。その3週間、足場は組んだまま動けません。足場のリース料は、1日単位で発生します。物件規模にもよりますが、私の現場感覚で月あたり数十万円〜100万円超のリース費用が積み増しになるケースは珍しくありません。
これが、「足場が組んであるのに何もできない」という最悪のシナリオです。発注者から見れば、何も進んでいないのに毎日お金が消えている。私が一番悔しい思いをするのは、こういう場面です。
リスク②:仕様変更 ── 「同等品」への切替で品質低下リスク
塗料が確保できない場合、現場では「同等品」と称した代替品への切替が提案されることがあります。
これ自体は悪いことではありません。問題は「同等品の定義が曖昧」なまま発注書に書かれることです。たとえば塗膜の耐用年数、紫外線劣化への耐性、伸び率、これらが似ているようで微妙に違う製品同士が「同等品」として処理されてしまうと、5年後・10年後に外壁の劣化進行が想定より早く出てきます。
私はいつも理事長さまにこうお伝えしています。「同等品の切替が出てきたら、必ず製品名・メーカー名・JIS規格番号を文書で残してください」と。
リスク③:入札不調 ── 見積もり段階で塗料単価が確定しない
管理組合の理事会で予算化された金額に対し、入札してきた業者がすべて予算オーバー、というケースが今年4月から増えています。
理由は単純で、業者が仕入れ価格をリアルタイムで読めないのです。3か月前なら塗料単価をある程度固定で出せたものが、今は2週間後にメーカー値上げが入るかもしれない。だから業者は安全マージンを乗せて見積もる。結果、予算と入札額が乖離する。
私の経験上、これは2026年いっぱい続く可能性が高いと見ています。
H2-4:ロープアクセス工法が今、選ばれる理由
ここまで、ナフサショックが大規模修繕に与える影響をお話してきました。ここからは少しだけ、明誠の話をさせてください。
足場仮設費削減で資材高騰分を吸収
ロープアクセス工法のご紹介でも詳しくご説明していますが、ロープアクセス工法は産業用ロープを用いて職人が建物の壁面に直接アクセスする無足場工法です。
メリットを一言で言えば、足場を組まないので、足場代がかからないこと。これは平時でも工事費全体の10〜30%程度の削減効果がありますが、ナフサショックで資材価格が上昇している今、「材料費の上昇分を、足場代の削減で相殺する」という現実的な戦略が成立します。
もちろん、すべての工事にロープアクセスが向くわけではありません。面の広い外壁全面塗装で工期を短縮したい場合は足場のほうが適していることも多いですし、複雑形状の中低層では足場が向くケースもあります。
工期短縮で居住者・テナントの生活影響を最小化
ロープアクセス工法のもう一つの強みが、工期短縮です。
足場を組むには通常3〜7日、解体にも同程度かかります。これに対しロープアクセスは、設営は半日〜1日。シート養生やバルコニーへの工事員出入りで居住者にお願いする期間が、足場工法に比べて短くなります。
賃貸オーナー様で「テナント満室で、空室期間を作りたくない」という案件、私はロープアクセスをまずシミュレーションするようにしています。
「3工法から最適提案できる」会社の優位性
明誠は、通常足場工法・ロープアクセス工法・両者を組み合わせたハイブリッド工法の3つから、建物特性とご予算に応じて最適な提案ができる、日本でも数少ない会社です。
なぜこの「3工法持っている」ことが、ナフサショックの時代に効くのか。
ナフサショックは、すべての建物に均等に襲ってくるわけではありません。たとえば、屋上防水だけが急を要するなら、ロープアクセスは使えませんから足場が必要です。逆に、外壁の補修が中心で全面塗装は次回でいいなら、ロープアクセスでスポット施工して足場代をゼロにできます。
「足場一択」「ロープ一択」の会社では、今回のような原料ショックの最中、選択肢が硬直して逃げ場がありません。3工法を持っていると、部位ごと・季節ごとに最適な工法を組み合わせることで、資材高騰の影響を最小化できます。
明誠は、この3工法対応に加え、日本で初めてロープアクセス工事のフランチャイズ展開を行っており、塗装・防水・タイル・電気・看板など各分野の専門職が加盟しています。詳しくは大規模修繕工事のご紹介もご覧ください。
H2-5:収益物件オーナーが今やるべき5つの判断
ここからが、本記事で一番お伝えしたい部分です。収益物件オーナー様向けに、2026年5〜6月のうちに動いていただきたい5つの判断を整理しました。
判断①:長期修繕計画の前倒し可否を6月総会前にチェック
築15年を超えた物件で、「次の大規模修繕は2027年予定」と書いてある長期修繕計画をお持ちのオーナー様は、まず計画書を取り出してください。
ナフサショックが長期化すれば、2027年の工事費は2026年比で5〜10%、場合によってはそれ以上の上昇もあり得ます。逆に、2026年内に発注できれば、現時点の単価で固定できる可能性があります。
私はいつも「長期修繕計画は1年単位で見直してください」とお伝えしています。今年は特に、計画前倒しの是非を真剣に検討する時期です。
判断②:見積もり有効期限を従来90日→30日に短縮交渉
業者から出てくる見積書には、必ず「有効期限」が書かれています。従来は90日(3か月)が一般的でした。
しかし、ナフサショック下では、業者にとって90日先の単価固定はリスクが高すぎます。だから安全マージンを乗せた高い見積もりになる。
逆に発注者側から「有効期限30日でいいので、その代わり単価を抑えてください」と提案すると、業者は安全マージンを下げられます。3か月後に再見積もりするのは確かに面倒ですが、結果的に総額を抑えられるケースを私は何件か見ています。
判断③:塗料ブランドの「同等品許容範囲」を仕様書で明文化
リスク②で触れた「同等品問題」を防ぐため、仕様書の段階で「同等品許容範囲」を明文化してください。
たとえば、
「シリコン樹脂系塗料 ◯◯メーカー △△グレード を標準とする。同等品への変更は、JIS K 5658に適合し、かつ塗膜耐用年数12年以上の製品に限る。変更時は書面で承諾を得ること」
ここまで書いておけば、同等品トラブルの大半は防げます。仕様書を作るのは設計事務所やコンサルタントの仕事ですが、オーナー様・理事長様が「ここを書いておいてほしい」とお願いするだけで、大きく変わります。
判断④:足場・ロープアクセスのハイブリッド工法をシミュレーション
3工法のどれが最適かは、建物条件と工事内容で変わります。
私がご提案するなら、こうです。
- 屋上防水が急を要し、外壁は次回で良い物件:屋上のみ足場(or 移動足場)で短工期施工
- 外壁の部分補修・シーリング打替がメイン、全面塗装は不要:ロープアクセスで部位限定施工
- 全面塗装が必要だが、コストを抑えたい中高層:ハイブリッド工法(低層階は足場、中高層階はロープアクセス)
これを「シミュレーション」として複数案で見積もり比較するのが、ナフサショック下では効果的です。1社だけに任せず、明誠のように3工法持つ会社に提案させていただくか、複数社に相見積もりを取って比較してください。
判断⑤:補助金(令和8年度エネルギー需給構造高度化基準認証推進事業費補助金等)を併用
修繕工事と省エネ・脱炭素を組み合わせると、各種補助金の対象になることがあります。
2026年5月20日に経済産業省が公募開始した「令和8年度エネルギー需給構造高度化基準認証推進事業費補助金」(出典:経済産業省 2026年5月20日)など、エネルギー関連の補助金は事業者向けが多いですが、収益物件オーナー様にも適用可能なメニューがあります。
また、東京都のマンションポータルサイトでは、断熱改修・省エネ改修と組み合わせた助成金情報が随時更新されます。
ただし、補助金は予算枠到達で締切となるものが大半です。「絶対通る」「必ず取れる」とお約束はできません。早めの情報収集と申請準備が重要です。
H2-6:管理組合理事長へ ── 総会で必ず聞かれる質問と模範回答
私は管理組合の総会に呼ばれることが多いのですが、ナフサショックが報道されてから、必ずと言っていいほど聞かれる質問が3つあります。
質問1:「来年の修繕、本当に間に合うのか」
私の回答は、こうです。
「間に合わせる方法は2つあります。1つは前倒しで2026年内に契約を済ませること。もう1つは、工法を変えて工期を圧縮することです。たとえばロープアクセス工法を併用すれば、足場架設・解体の期間がカットでき、結果として全体工期が短縮されます」
質問2:「価格上昇分は積立金で吸収できるのか」
これは正直、物件ごとに状況が違います。築古マンションで積立金不足の場合、一時金徴収か、借入か、工事内容の優先順位付けの3択を冷静に話し合っていただくしかありません。
私からは「優先順位付けのご相談には乗ります」とお答えしています。屋上防水・外壁シーリングが最優先、外壁の全面塗装はもう一周ずらしてもよい、といった現実的な順位付けは、現場感覚を持った業者の意見が役に立つ場面です。
質問3:「他社の見積もりと比べて高くないか」
これは正直、ありがたい質問です。私はいつも「ぜひ比べてください」とお答えします。
ただし、比べ方が重要です。「総額」だけで比べると、安い見積もりに大事な工程が抜けていたり、グレードの低い材料が紛れていたりします。仕様書ベースで、材料グレード・施工面積・工期・保証年数を揃えて比較してください。明誠では、相見積もり用の仕様書フォーマットもお渡ししています。
質問4:「ロープアクセスは本当に安全なのか」
これも繰り返し聞かれます。私の回答は決まっています。「法令に基づく作業手順と、二重ロープによるバックアップが基本です」と。
ロープアクセスは厚生労働省の労働安全衛生規則改正(2022年4月施行)で、特別教育の対象となるロープ高所作業として明確に位置付けられています。明誠のフランチャイズ加盟社では、必要な特別教育を受けた職人が、必ずメインロープとバックアップロープの二系統で作業しています。
私は新人にも、お客様にも、いつもこう言います。「安全はコストではなく、最初に守る前提条件です」。この前提が崩れる現場は、どれだけ安くても請けません。
H2-7:私が現場で20年見てきた、嘘偽りのない感想
正直に申し上げます。
私はこの業界に入って20年近くになりますが、「数十年に一度のショック」は10年に1回くらいは起きるというのが、現場感覚です。リーマンショック、東日本大震災、コロナ禍、そして今回のナフサショック。そのたびに、「準備していた会社」と「していなかった会社」で結果が大きく分かれてきました。
オーナー様や理事長様も同じです。今回のショックを「うちには関係ない」と素通りした物件と、「いったん業者と話して、計画を見直しておこう」と動いた物件では、2027年・2028年の修繕費総額で数百万円〜千万円単位の差が出る可能性があります。
「足場一択」「ロープ一択」の会社では、今回のような状況で動きが取れません。これは批判ではなく、構造的な事実です。私たち明誠は、ロープアクセス工事の日本初フランチャイズ展開を通じて、全国の専門職と組んで、この難局でも発注者の側に立った提案ができる体制を整えてきました。
これは私が現場で20年見てきた、嘘偽りのない感想です。
補足:戸あたり換算で考えると分かりやすい
数字の話を、もう少し読者の感覚に近い形で言い直します。
たとえば100戸のマンションで、修繕積立金から3億円を投じる大規模修繕を予定していたとします。ナフサショックで材料費が10%上昇すると、単純計算で3,000万円。これを戸あたりに換算すると、1戸あたり30万円の追加負担です。
修繕積立金が潤沢な物件であれば吸収できますが、私が見る限り、築20年超の物件の半数は追加徴収か借入を検討せざるを得ない水準です。30万円を月割すれば、1戸あたり月2,500円を1年間徴収する規模になります。
ここを冷静に試算するか、目を背けるかで、数年後の組合運営の安定感が大きく変わります。私が「総会前に1分だけ話題に出してください」と申し上げているのは、こういう理由です。
H2-8:まとめ ── 2026年6月までに動く理由
最後にもう一度、本記事の要点を整理します。
第1に、ナフサショックは塗料・防水・シーリングといった大規模修繕の根幹資材を直撃しています。朝日新聞の報道では、関西の塗装業者で「6月末で在庫が尽きる」可能性が指摘されました。
第2に、ガソリン補助金41.8円/L(経済産業省2026年5月20日発表)が示すように、これは数か月で収まる話ではありません。長期化を前提に経営判断を組み直す局面に入っています。
第3に、収益物件オーナー様・管理組合理事長様が今やるべき5つの判断は、①長期修繕計画の前倒し可否確認、②見積有効期限30日交渉、③同等品許容範囲の仕様書明文化、④3工法のハイブリッドシミュレーション、⑤補助金併用、の5つです。
そして第4に、6月総会前に動くことに意味があります。6月以降、塗料納期はさらに長期化する見通しです。理事会で1分だけでも、この話題を出してみてください。
ご相談だけでも遠慮なくお声がけください。総会の前段階の整理だけでも、お力になれることがあります。「うちの物件はロープアクセスが向くのか」「ハイブリッド工法のシミュレーションだけ出してほしい」といった軽いご依頼も大歓迎です。
次回も、現場で本当に使える話だけをお届けします。
出典・参考資料
- 朝日新聞「ナフサ不足で塗装業者から悲鳴 塗料の在庫『6月末で尽きてしまう』」(2026年5月20日)
- Yahoo!ニュース「橋に塗る塗料が納入 1か月待ち 『塗装資材の安定供給を』中東情勢受け、石川県塗装工業会が要望」(2026年5月20日)
- Yahoo!ニュース「ガソリン補助金、1リットル40円台で高止まり 6月にも基金枯渇か」(2026年5月20日)
- Yahoo!ニュース「総合塗料3社の通期見通し、全社増収営業増益…中東リスクの見方は?」(2026年5月20日)
- 健美家「2027年エアコン価格が改定? ナフサショックで新築の工期遅れ? 収益物件オーナーが」(2026年5月20日)
- 経済産業省「令和8年度エネルギー需給構造高度化基準認証推進事業費補助金の公募について」(2026年5月20日)
- 東京都「マンションポータルサイト」
- 厚生労働省「ロープ高所作業に係る労働安全衛生規則の改正」
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塗料が6月から最大35%値上げ──大規模修繕の見積もりはいつ確定すべきか、私が現場で考えていること
メタディスクリプション
日本ペイントが6月1日から塗料を最大35%値上げ。大規模修繕の総工費に与える影響を実数で試算し、見積もり凍結条項やロープアクセス工法で値上げ分を相殺する実務策まで、本間が現場目線で解説します。
築15〜25年のマンション理事長さま、収益物件をお持ちのオーナーさま。今この記事を開いてくださったのは、間違いなく正解です。
私は株式会社明誠で長年、大規模修繕の現場に立ってきました。先週、業界紙の見出しを見て、思わず手元の電卓を叩いたほどの話があります。「日本ペイントが6月1日出荷分から塗料を最大35%値上げ」(出典:建設通信新聞 2026年5月19日)。
35%、です。これは消費税の率を二度上乗せするくらいのインパクトで、しかも対象は溶剤系塗料が25〜35%、水性塗料が20〜30%。大規模修繕の工事原価のうち、塗料費が占める割合は決して小さくありません。今ご自宅マンションで「来年の総会で大規模修繕の発注を決める予定です」と仰っている理事長さまが、もし手元の見積もりを6月以降に持ち越したら、何が起きるか。
ここからが本題です。
1. 6月1日からの「塗料ショック」──現場で今、何が起きているか
1-1. 日本ペイントの値上げが意味するもの
建設通信新聞によると、日本ペイントは2026年6月1日出荷分から、溶剤系塗料を25〜35%、水性塗料を20〜30%引き上げます。塗料メーカー大手の価格改定は、業界全体のベンチマークになります。私の経験上、トップメーカーが30%動くと、関西ペイント、エスケー化研、SK化研系の中堅メーカーもおおむね1〜2か月以内に同水準まで追随します。
つまり「日本ペイント以外の塗料を選べば安く済む」という逃げ道は、半年以内に塞がる可能性が高い。これが私の見立てです。
1-2. シンナー不足という、もう一つの深刻な問題
塗料そのものの価格だけでなく、シンナー(希釈用の溶剤)も4月ごろから全国的に供給不足が続いています。日本塗装工業会の地方支部から国に支援要望が出ているという報道(出典:Yahoo!ニュース 2026年5月19日)まで出ているのが現状です。記事では「4月ごろからシンナーや塗料の供給不足、相次ぐ値上げで、工事の見積もりが出せず、7月以降の予定が立たない」と塗装業者の声が紹介されています。
これは、現場の私たちが日々肌で感じている話そのものです。先週も、ある協力会社から「シンナーは入るが、いつ入るかが読めない。来月の現場の段取りが組めない」という相談を受けました。値段が上がるだけでなく、「そもそも仕入れられるかどうかが不確実」という二重苦が、いま塗装業界を覆っています。
1-3. なぜ多くの管理組合は、このニュースをまだ知らないのか
正直に申し上げます。このニュースは建設業界紙では一面級の話題ですが、一般のマンション住民や管理組合の理事長さまには、まったく届いていません。理由はシンプルで、塗料の価格改定は管理組合側からすれば「業者の都合」に見えてしまうからです。
しかし実態は逆です。これは紛れもなく管理組合の修繕予算を直撃する話であり、知らずに6月以降に発注すると、見積もり総額が数十万〜数百万円単位で変わる可能性がある、と私は読んでいます。
2. なぜここまで急騰しているのか──ナフサ・原油・為替の三重苦
2-1. 原料ナフサのひっ迫が引き金
塗料の主原料の一つがナフサです。ナフサは原油から精製される石油化学製品の素で、シンナーや溶剤、樹脂の原料になります。「スギの粉と水だけで作る木質塗料」が富山県で開発されたというニュース(出典:Yahoo!ニュース 2026年5月19日)が話題になっているのも、まさにこのナフサ依存からの脱却を目指したものです。
ナフサが入ってこない理由は複合的ですが、主因として指摘されているのは、(1)中東情勢に伴う原油市場の不安定化、(2)アジアの石化プラントの定期修繕集中、(3)為替の円安基調、の三つです。
2-2. 円安が「輸入塗料」と「国産塗料」の両方を押し上げる
意外と知られていないことですが、国産の塗料も原料の多くは輸入に頼っています。ですから円安は、輸入塗料の値段だけでなく、国産塗料の製造原価まで押し上げます。
私が現場でいつも理事長さまに申し上げているのは、「為替が動くと、塗料はもれなく動く」ということです。為替の方向感がはっきりしない局面では、塗料の価格交渉は買い手側が極めて不利になります。
2-3. 構造的な値上げで、もう「待てば下がる」は通用しない
過去10年、塗料は10〜15%の値上げを段階的に経験してきました。今回の25〜35%という幅は、構造的な要因が一気に表面化したものと私は捉えています。「半年待てば落ち着くだろう」「来期は下がるだろう」という楽観論は、現場の感覚では通用しないフェーズに入っています。
3. 大規模修繕の総工費に与える影響を、実数で試算する
3-1. 100戸マンションのモデルケースで考える
ここから具体的な数字に入ります。築20年・100戸・延床面積8,000㎡規模のマンションを想定し、大規模修繕の概算をシミュレーションしてみます。あくまで一例ですが、現場感覚に近い数字です。
| 項目 | 改修前提算 | 内訳の特徴 |
|---|---|---|
| 外壁塗装(吹付・ローラー含む) | 約2,200万円 | うち材料費(塗料)約30%=660万円 |
| シーリング打ち替え | 約800万円 | 材料費約25%=200万円 |
| 防水(屋上・バルコニー) | 約1,500万円 | 材料費約30%=450万円 |
| 鉄部塗装 | 約400万円 | 材料費約30%=120万円 |
| 仮設足場 | 約1,800万円 | ほぼ全額が手間賃/資材レンタル |
| 共通仮設・諸経費 | 約700万円 | 一式 |
| 合計 | 約7,400万円 | 戸あたり約74万円 |
塗料・シーリング・防水材の材料費合計は、約1,430万円です。ここに今回の値上げ幅(おおむね30%とする)を適用すると、材料費が約429万円上振れする計算になります。
戸あたり換算では、約4万3千円。修繕積立金から見れば、決して小さな差額ではありません。「100戸×4万3千円=429万円」を、もし足場代の見直しや工法の選択で取り戻せたら、これは数字以上に大きな意味を持ちます。
3-2. 「上振れ分」は誰が負担するのか──ここに落とし穴がある
ここで多くの理事長さまが落ちる落とし穴があります。それは、契約書に「塗料の価格変動はスライド条項の対象外」と書かれているケースが意外と多いことです。
つまり、6月1日以降の発注で、塗料価格が想定より30%上がっても、追加見積もりの根拠として施工会社が請求できる文面になっていない、ということがあります。逆に「実費精算」と書かれていれば、上振れ分はすべて発注者(管理組合)負担になります。
私はこれを「契約の読み落とし」と呼んでいます。普段の修繕では問題にならない文言が、こういう値上げ局面で初めて牙を剥きます。理事長さまには、「契約書の単価表と、原材料スライドの条項を、必ず1ページ目に出してください」とお願いしています。
3-3. すでに見積もり済みの管理組合がすべきこと
もしすでに2026年4月や5月の時点で見積もりを取得済みであれば、その見積もりの有効期限を確認してください。一般的な大規模修繕の見積もり有効期限は30日〜90日です。期限切れの直前に再見積もりを取ると、6月の値上げ後の単価が反映され、想定外の総額に跳ね上がる恐れがあります。
逆に、有効期限内であれば、その単価で契約を締結することで、値上げ前の価格を確定できる可能性があります。この一週間が、まさに分水嶺です。
3-4. 50戸クラスでも数百万円が動く
念のため、50戸規模のマンションで同じ計算を回してみます。総工費は概算で4,000万円前後、材料費(塗料・シーリング・防水材)合計は約780万円。ここに30%の上振れを適用すると、約234万円の追加負担になります。戸あたり約4万7千円。100戸でも50戸でも、戸あたり負担で見るとほぼ同じレンジに収まる、というのが私の現場感覚です。
つまり、規模が小さいから影響が軽いということはありません。むしろ50戸クラスの管理組合の方が、修繕積立金の絶対額が少ないため、上振れの体感ダメージは大きくなります。
3-5. 「値上げが定着すると、次の修繕周期まで響く」という視点
もう一点、長期目線で重要なのが、塗料の値上げが「定着」するリスクです。大規模修繕は12〜15年周期で繰り返されます。今回の25〜35%値上げが定着すれば、次回の修繕でも同じ単価がベースになります。
私の経験上、一度上がった単価が元に戻ったケースは、過去10年でほぼ記憶にありません。値上げは「ストック」として効いてくる、と申し上げる方が正確かもしれません。だからこそ、今期の修繕計画だけでなく、長期修繕計画の改訂時にも、この値上げ前提を必ず反映してください。
4. 「見積もり凍結条項」を組まないと痛い目に遭う──私が現場で必ず確認すること
4-1. 私が理事長さまに必ず提案する3つの条項
20年現場でやってきて、値上げ局面のたびにトラブルを見てきました。私が今、必ずワンセットで提案するようにしているのが、次の3つの契約条項です。
第一に、「材料価格凍結条項」。発注時点の単価を、工期途中の原材料価格変動にかかわらず維持する条項です。当然、施工会社側はリスクを取ることになりますが、信頼関係のある会社であれば、ある程度のレンジ(例:±10%以内)であれば呑むケースが多いです。
第二に、「価格スライド条項の発動条件と上限」。たとえば「ナフサ価格が契約時から20%以上変動した場合のみ協議」と具体的な数字を入れます。あいまいな条項は、必ず後でもめます。
第三に、「支払いの分割と前払い割合の調整」。値上げが見込まれる材料は、発注後に前払いで仕入れる選択肢もあります。前払い率を高める代わりに、単価を抑える交渉余地は意外と残されています。
4-2. 「言い値」を防ぐための3社相見積もりの活かし方
相見積もりの取り方にもコツがあります。値上げ局面では、特に「材料費の内訳明示」を要件に入れてください。
総額だけで比較すると、塗料グレードや使用量の差が見えません。私はいつも「主要材料の数量×単価まで出してください」とお願いします。これをやると、各社の見積もりの精度が一気に上がり、後の追加請求リスクも下がります。
4-3. 専門委員会だけでは判断しきれない場面では
大規模修繕の経験が浅い理事会や修繕委員会では、ここまで踏み込んだ契約交渉は重荷だと感じる方が多いはずです。私はそういう場面でこそ、第三者の専門家を入れることを推奨しています。コンサルタントが必ずしも必要というわけではありません。施工会社2〜3社から「同じ条件で出してもらえないか」を提案させるだけでも、契約品質は大きく向上します。
4-4. 契約締結のタイミングは、慎重に、しかしスピーディーに
最後に、契約締結のタイミングについて一言申し上げます。
「慎重に検討する」と「先延ばしにする」は、似ているようで全く違います。今回のような明確な値上げ予告が出ている局面では、議論を引き延ばすこと自体がコストです。理事会で「もう少し情報を集めてから」と先送りした結果、6月以降の単価で契約することになり、数百万円単位で総額が膨らんだケースを、私は何度も見ています。
もちろん、よく分からないまま急いで判断するのは論外です。私が理事長さまにお伝えしているのは、「判断材料を1週間以内に揃え、2週間以内に決議する」というスケジュール感です。動ける時間軸を明確にすることで、議論の質も上がります。
5. コストを抑える3つの実務手段──工法選択/工期分割/材料調達
5-1. 工法選択──足場費を圧縮できれば、塗料値上げを相殺できる
ここからは、明誠の本業の話に踏み込ませてください。
大規模修繕の総工費の中で、仮設足場費は全体の20〜25%を占めます。先ほどの100戸マンションの例では、約1,800万円。塗料の値上げ分429万円を相殺するには、足場費を23〜25%削減できれば、ちょうど打ち消せる計算になります。
これを可能にするのが、私たち明誠が提案しているロープアクセス工法(産業用ロープを使った無足場施工)です。建物の形状や規模によりますが、塗装・防水・シーリング工事を全面ロープアクセス化することで、足場費の70〜90%削減を実現したケースが、過去の自社施工で複数あります。
もちろん、すべての建物に向く工法ではありません。低層・複雑形状・足場が立てやすい建物は通常足場が向きますし、高層・直線的・コスト最重視であればロープアクセスが圧倒的に有利です。詳しくはロープアクセス工法のご紹介もご覧ください。
5-2. 工期分割──「全棟一括」から「区画分割」へ
もう一つの実務手段が、工期分割です。総工費が大きすぎる場合、全棟一括発注で1社の言い値になりがちです。これを区画ごと(例:A棟・B棟・C棟)に分割発注し、競合圧をかけ続ける方法があります。
ただし注意点として、足場の架設費は分割するほど割高になります。ここでロープアクセス工法と組み合わせると、分割発注のデメリットが薄まり、競合圧のメリットだけを取り出せる場面があります。これは私たちが「ハイブリッド工法」と呼んでいる提案です。
5-3. 材料調達──大量発注と前倒し仕入れ
最後に材料調達です。発注規模が大きいマンションであれば、塗料メーカーから直接、特別単価を引き出せる場合があります。これは元請けの裁量で決まることが多いので、契約交渉時に「メーカー特別単価の取得可否」を必ず確認してください。
また、値上げ前の最後の駆け込みとして、5月末までに材料を前倒し発注する選択肢もあります。倉庫費は若干かかりますが、35%の値上げ幅と比べれば、十分に元が取れます。
6. ロープアクセス工法で、塗料費高騰の影響を相殺する具体策
6-1. なぜロープアクセスが値上げ局面で強いのか
ロープアクセス工法は、足場の架設と解体にかかる人件費・材料費・搬入搬出費を、産業用ロープと専門技能で代替する工法です。私はこれを「足場費を消す工法」と呼んでいます。
塗料の値上げに弱いのは、塗料の使用量が多い大規模工事です。一方で、足場費の削減幅は、建物の高さと階数に正比例して大きくなります。つまり、塗料費の上振れと足場費の削減幅は、ある意味で同じ方向に動きます。
これが、ロープアクセス工法が値上げ局面で特に強い理由です。
6-2. 居住者の生活への影響も最小化できる
塗料価格の話とは少しずれますが、ロープアクセス工法のもう一つの強みは、居住者の生活影響を最小化できる点です。足場を組まないため、バルコニーが封鎖される期間が大幅に短縮されます。洗濯物が干せない期間が半分以下になったという声もいただいています。
私の経験上、大規模修繕で住民満足度を左右する一番の要素は、工事品質ではなく「日常生活がどれだけ通常通りに送れたか」です。これは数字には出ない、しかし極めて大きな価値です。
6-3. フランチャイズ加盟店による全国対応
明誠は日本で初めてロープアクセス工事のフランチャイズ展開を行っています。塗装、防水、タイル、電気、看板といった各分野の専門職が加盟しており、全国どこでも一定の品質と価格でロープアクセス施工が可能な体制を整えています。これは、私たちが何年もかけて積み上げてきた強みです。
6-4. 過去事例の数字を、率直に共有します
具体的なイメージを掴んでいただくために、過去の事例の数字を率直にお伝えします(個別物件が特定できる情報は伏せます)。
10階建て・80戸クラスの分譲マンションで、当初の通常足場案では足場費が約1,650万円。これをロープアクセス工法に切り替えた結果、足場・ロープ込みの仮設関連費が約490万円に圧縮されました。差額は約1,160万円。同じ工事内容で、です。
別の事例では、ホテル棟の外壁改修で、足場架設が困難な接道条件があり、通常足場案では工期が4か月見込みでした。これをロープアクセスに切り替えたところ、工期2.3か月に短縮。ホテルの営業損失を大幅に圧縮できました。
数字は建物条件で大きく変動しますので、これらをそのまま当てはめることはできません。ただ、「ロープアクセスでここまで効くのか」という肌感を持っていただくには、十分な振れ幅だと思います。
6-5. ハイブリッド工法という第三の選択肢
「全面ロープアクセスは怖い」「住民理解が得られにくい」という管理組合さまには、ハイブリッド工法(足場とロープアクセスの併用)も視野に入れていただきたいです。低層部分は足場、高層部分はロープアクセス、というように部位ごとに最適な工法を選択する設計です。
私が提案で重視しているのは、「無理に一つの工法に統一しない」ということです。建物の形状、住民の生活動線、近隣との接道条件、これらを全部考慮して、最もコスト効果が高い組み合わせを設計します。日本でも、3工法すべてを自社で提案できる会社は数えるほどです。明誠はその数少ない一社です。
7. 補助金・助成金で値上げ分の一部を取り戻す方法
7-1. 自治体の大規模修繕助成は、まだ多くが現役
塗料値上げの直撃を、補助金・助成金で部分的に相殺する方法があります。たとえば東京都内の多くの区市町村では、分譲マンションの長期修繕計画策定や大規模修繕への助成制度を継続しています。
最新の情報は東京都マンションポータルサイトにまとまっています。「自治体マンション施策・支援制度」のページから、ご自身のマンション所在地の自治体を検索できます。
ただし、ここで一つ注意していただきたいのは、助成金は予算枠到達で締切になる点です。「絶対に通る」「必ず使える」と私は申し上げません。あくまで「使える可能性があるので、確認する価値が十分にある」という温度感です。
7-2. 国の制度も並行して確認したい
国土交通省の「長期優良住宅化リフォーム推進事業」など、国の制度も並行して確認の余地があります。マンション全体での申請になるため、管理組合の決議が必要です。詳しくは国土交通省 住宅局のページから、最新の公募状況を確認してください。
7-3. 中小企業庁の「新事業進出補助金」は対象外だが参考に
念のため申し上げますと、5月19日に公募が始まった中小企業庁の新事業進出補助金は、企業の新事業向けで、マンション大規模修繕は対象外です。ただし、収益不動産を法人で保有しているオーナーさまの場合は、リフォーム・リノベーション事業として活用できる可能性が一部あります。法人での運用をされている方は、税理士・行政書士に相談されると良いでしょう。
8. 今こそ「修繕積立金の運用化」と並走させたい長期戦略
8-1. 日経の報じる「積立金 預金から国債運用へ」が示す方向性
日経新聞は5月19日付で、マンション修繕積立金を預金から国債運用へ振り向ける動きが出始めていると報じました(出典:日本経済新聞 2026年5月19日)。物価高をにらみ、3000万円規模の積立金を国債で運用する管理組合の事例が紹介されています。
修繕積立金の運用は、これまで多くの管理組合で「現預金で寝かせる」のが慣習でした。しかし、今回のような材料価格の急騰が続けば、積立金の実質購買力は確実に目減りします。インフレ環境で何もしないことは、それ自体が判断であり、結果として損失を被ることになります。
8-2. 運用は本業外、しかし無関心ではいられない
正直に申し上げます。私は塗装と防水と仮設の専門家であって、資産運用の専門家ではありません。ですから、運用方法の具体的な助言はできません。
しかし、現場の声として、「修繕費の見積もりがどんどん上がる中で、積立金の額面だけは増えていない」というジレンマを、何度も理事長さまから聞いています。塗料費が30%上がるのと同じ速度で積立金が増えていないなら、その差分はどこかで埋めなければなりません。
長期修繕計画の改訂時期と合わせて、「積立金の運用」も検討項目に入れることを、私は強くお勧めしています。
8-3. 短期の値上げ対応と、長期の積立計画は別物として捉える
ここで一つだけ整理させてください。塗料値上げへの短期対応(契約条項、工法選択、補助金)と、長期の積立計画(運用、増額、世代間負担)は、別物として議論すべきです。
短期対応は来月の発注で完結します。長期計画は10年単位の話で、住民の世代交代まで視野に入れます。同じ理事会で両方を一度に決めようとすると、議論が混乱します。
私が理事長さまにいつもお伝えしているのは、「短期は今期の理事会で、長期は来期に向けた専門委員会で」という分け方です。
8-4. 増額決議のタイミングは、住民の納得が9割
積立金の増額は、住民の納得が9割を占める難題です。値上げ局面の今こそ、客観的な根拠(塗料値上げ、人件費上昇、長期金利動向)を住民に丁寧に説明する好機です。
私は理事長さまに、「外部の数字を盾にしてください」とお伝えしています。理事会の主観ではなく、業界紙や公的機関の数字を引用する。これだけで、住民の受け止め方は大きく変わります。
9. 5月22日(金)までに動いていただきたい4つのアクション
ここまで読んでくださった理事長さま、オーナーさまに、今週中に動いていただきたい4つのアクションを整理します。
第一に、手元の見積もりの有効期限を確認してください。期限が5月末以降の場合、6月の値上げ後の単価で再見積もりが出る可能性があります。
第二に、契約書の「価格スライド条項」を確認してください。原材料価格の変動条項がどう書かれているかが、上振れ負担の分かれ目です。
第三に、3社相見積もりを取る場合は、材料費の内訳明示を必須条件にしてください。総額だけの比較は、もはや危険です。
第四に、工法選択の余地が残っているなら、ロープアクセス工法を選択肢に入れて検討してください。足場費の削減で、塗料値上げ分を打ち消せる可能性があります。
10. よくあるご質問──現場で頻繁にいただく3つの問い
Q1. 「値上げ前に駆け込み発注した方がいいですか?」
慎重なご検討をお勧めします。発注を急ぐと、契約条件や工事内容の精査が甘くなる懸念があります。「値上げ前に契約しなければ」というプレッシャーで判断を誤ると、結果的に塗料値上げ分以上の損失を被ることがあります。
私の経験上、最善は「現在の見積もりの有効期限を確認し、その範囲内で品質と価格を見極めて契約する」です。期限切れの場合は、再見積もりの単価上昇を覚悟したうえで、上昇幅の妥当性をチェックします。
Q2. 「ロープアクセスは本当に安全ですか?」
ロープアクセスは欧州・北米を中心に普及している正式な高所作業手法で、IRATA(Industrial Rope Access Trade Association)などの国際資格制度があります。日本国内でも一般社団法人ロープアクセス技術協会が技能認定を行っており、認定者が施工します。
明誠の現場では、二重ロープ(メインロープと安全ロープ)の二重化、毎日の機材点検、現場ごとのリスクアセスメントを徹底しています。20年前の「危ないかもしれない」というイメージは、現在の運用とは大きく異なります。
Q3. 「ロープアクセスだと工事品質は落ちませんか?」
工事品質と工法は、本来別物です。重要なのは、施工者の技能と管理体制です。ロープアクセスでも足場でも、優れた職人が丁寧に施工すれば、品質は同等以上に保てます。
逆に、足場を組んでも職人の技能が低ければ品質は出ません。「足場だから安心」「ロープだから不安」は、いずれも誤った認識です。判断軸は、工法ではなく施工会社の実績と職人の技能です。
11. 結語──現場で20年、私が一番悔しい思いをすること
これは私が現場で20年見てきた、嘘偽りのない感想です。
私が一番悔しい思いをするのは、「もう少し早く相談に来ていただければ、数百万円単位でコストを抑える提案ができたのに」という場面です。塗料値上げのような構造的なコスト要因は、待っても下がりません。動ける一週間、動ける一ヶ月で、結果が大きく変わります。
ご相談だけでも遠慮なくお声がけください。総会の前段階の整理だけでも、お力になれることがあります。大規模修繕の全体設計から工法選択、契約条項のチェックまで、私たちが現場で積み上げてきた知見を、惜しまずお出しします。
次回も、現場で本当に使える話だけをお届けします。
出典・参考資料
- 建設通信新聞「【価格改定】6月1日出荷分から塗料30%前後値上げ/日本ペイント」2026年5月19日
- Yahoo!ニュース「塗装資材の供給不足・価格高騰「ナフサ、なぜ入ってこないのか…」塗装業者の団体が支援要望」2026年5月19日
- Yahoo!ニュース「「スギの粉+水→塗料」に? シンナー要らず「オール富山」の木質塗料とは」2026年5月19日
- 日本経済新聞「マンション修繕積立金、預金から運用へ 物価高にらみ国債に3000万円」2026年5月19日
- 中小企業庁「新事業進出補助金の第4回公募の申請受付を開始しました」2026年5月19日
- 東京都「東京都マンションポータルサイト」
- 国土交通省「住宅局 ホームページ」
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筆者:本間(株式会社明誠 代表)
公開日:2026年5月21日
カテゴリ:本間社長ブログ
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ナフサ危機で外壁・防水工事が「止まる」——大規模修繕の発注を凍らせる前に、理事長が今すぐ押さえるべき5つの実務対策【2026年5月最新】
1. 何が起きているのか——2026年5月14日に並んだ3つのニュース
まず、今週の業界を揺らした3つのニュースを、感情を抑えて時系列で並べます。私はいつも理事長さまに、ネット記事の見出しに反応する前に「誰が、いつ、何を発表したのか」を表に並べてから議論することをお勧めしています。今回もそれをします。
ひとつ目。鹿児島県の発表です。中東情勢の影響でナフサ原料の建築資材が不足し、県営住宅や職員宿舎などの改修工事6件で作業が一時中断していることが、5月14日に明らかになりました。当初4月に発注予定だった県営住宅の屋根防水工事についても、発注が見送られているとされています(出典:Yahoo!ニュース「【中東情勢の影響】ナフサ原料の建築資材が不足―県営住宅・職員宿舎6件で外壁改修が一時中断」(2026年5月14日))。私はこの記事を最初に目にしたとき、「ついに公共工事の発注側が動けなくなる事態に踏み込んだのか」と背筋が伸びる思いでした。県営住宅は、地方自治体が住民に対して責任を負う居住空間です。そこに手を入れる工事の停止は、軽い意思決定ではありません。
ふたつ目。塗料メーカー大手の日本ペイントが、塗料類全般および直送運賃の価格を6月1日出荷分から改定すると発表しました(出典:新建ハウジング「日本ペイント、塗料類全般を値上げ 6月1日出荷分から」(2026年5月13日))。塗料の値上げは、私たち施工側にとっては、見積もりを出し直さなければならないほどのインパクトを持つ事象です。マンション大規模修繕は、外壁塗装が工事費全体の3〜4割を占めるからです。
みっつ目。ダイヤモンド・オンラインが、断熱材で40%、塗料で80%という高騰を伝えました。建材ごとに上昇率の差はあるものの、住宅のほぼ全領域に影響が及んでおり、木造に限らず鉄骨造やRC造、新築だけでなくリフォームも、すべてが影響圏内にあるとされています(出典:ダイヤモンド・オンライン「断熱材40%、塗料80%高騰…家づくり総額が数百万円上がる『ナフサ危機』新築・リフォーム前に確認したい影響」(2026年5月14日))。マンション管理組合の理事長さまは「うちは新築じゃないから関係ない」と思われるかもしれませんが、ここはぜひ受け止めていただきたい点です。RC造のリフォームも、塗料も防水も影響圏内です。むしろ既存マンションの大規模修繕は、新築よりも材料費が工事費に占める割合が大きい——だからこそ、価格高騰のしわ寄せが直撃しやすい構造にあります。
3行でまとめます。第一に、外壁改修・防水工事の現場で、ナフサ系資材の不足を理由とした「工事中断」が現実に発生し始めた。第二に、塗料メーカーが正式に値上げを発表し、6月以降に動く工事の見積もり前提が一段階引き上がる。第三に、これは新築だけの話ではなく、既存マンションの大規模修繕の発注プロセスにもまもなく波及する。
ここからが本題です。理事長さまにとっては「うちのマンションでは何をすればいいのか」が一番気になるところだと思います。順を追って整理していきます。
2. 「ナフサ危機」とは何か——理事会で言葉の定義をそろえる
ここで一度、専門用語の補足をさせてください。ニュース報道で頻出するようになった「ナフサ」という言葉ですが、理事会の議論で、私が最初にお願いしているのが「言葉の定義をそろえること」です。
ナフサ(粗製ガソリン)とは、原油を蒸留して得られる軽質留分のひとつで、主に石油化学工業の原料として使われます。プラスチック、合成樹脂、塗料、接着剤、断熱材(ウレタンフォーム)、防水材の主原料となるエチレン・プロピレン・ベンゼンといった石油化学基礎製品の親元です。経済産業省の資源エネルギー庁は、ナフサ価格は中東情勢、原油価格、為替の3要素で決まると整理しています(出典:資源エネルギー庁「石油精製・石油化学」)。今回の高騰は、中東情勢の悪化と為替の円安が同時に効いた結果です。
ここで大事なポイントを2つだけ強調させてください。第一に、ナフサ価格の上昇は、すぐに製品価格に反映されるわけではありません。塗料メーカーや断熱材メーカーは、ナフサから原料樹脂を作り、樹脂から建材を作るという2段階の工程を経るため、ナフサ高騰から建材値上げまでには通常2〜6か月のタイムラグがあります。今回、5月時点で値上げが発表されているのは、半年前のナフサ上昇を反映したものです。逆に言えば、いまの中東情勢が悪化したままだと、年末から来春にかけてさらに第2波・第3波の値上げが続く可能性があります。
第二に、ナフサ危機は「あった/なかった」の二元論ではなく、「いつまで続くか」の問題です。私の経験上、過去のナフサショック(2008年、2022年)でも、上昇局面は半年から1年半続きました。理事会で「もう少し待てば落ち着く」と判断するのは危険です。下がらない前提で発注計画を組み直すほうが、結果的に組合の損失を抑えられます。
正直に申し上げます。私はこれまで20年近く現場をやってきて、「待っていれば下がる」と言い続けて結局3年間発注を引き延ばし、最終的に当初の1.5倍の予算で発注せざるを得なくなった管理組合をいくつも見てきました。だからこそ、今回のような報道があったタイミングで、理事会が「動かす前提」「動かさない前提」の両方をシミュレーションすることが大事だと、私は思っています。
3. 影響を受ける建築資材の全体像——マンション大規模修繕の何が高くなるのか
ここで一度、マンション大規模修繕で使われる建築資材のうち、ナフサ危機の影響を受けるものを整理しておきます。理事会で「うちの工事のどこに効くのか」を共有できるよう、分類して並べました。
第一カテゴリは塗料です。外壁塗装に使われるアクリル樹脂塗料、ウレタン樹脂塗料、シリコン樹脂塗料、フッ素樹脂塗料は、いずれも合成樹脂を原料としており、その樹脂はナフサ由来です。ダイヤモンド・オンラインの報道では塗料80%高騰とされており(出典:ダイヤモンド・オンライン)、グレードによって上昇幅は異なるものの、塗料費全体で見て3〜5割の上昇は織り込んでおく必要があります。塗料は外壁塗装で大規模修繕の総工事費の25〜30%を占めるため、塗料費1.5倍は、総工事費の10〜15%押し上げに相当します。
第二カテゴリは防水材です。屋上やバルコニーの防水工事に使われるウレタン防水、塩ビシート防水、アスファルト防水のうち、ウレタン防水と塩ビシート防水はナフサ由来の樹脂を多く含みます。鹿児島県が屋根の防水工事の発注を見送ったとされる背景(出典:Yahoo!ニュース)も、ここに直結しています。アスファルト系の改質アスファルトシートは比較的影響が小さいものの、施工に使われる接着剤やプライマーはやはりナフサ由来です。
第三カテゴリは断熱材です。外断熱改修やバルコニー床改修で使われる硬質ウレタンフォーム、押出法ポリスチレンフォーム、ビーズ法ポリスチレンフォームは、いずれもナフサ由来の樹脂を原料とします。断熱材40%高騰の報道(出典:ダイヤモンド・オンライン)は、これらすべてを含んだ平均値です。マンション大規模修繕で外断熱工事を予定している組合は、特に影響が大きくなります。
第四カテゴリは接着剤・シーリング材です。タイル張替工事に使う有機系接着剤、外壁目地のシーリング材(ウレタン系、変成シリコン系、ポリサルファイド系)も、いずれもナフサ由来の合成樹脂を原料とします。シーリングの全面打ち替えは大規模修繕の標準工程ですから、これも避けて通れません。
第五カテゴリは配管材です。給排水管の更新工事に使う塩ビ管、ポリブテン管、架橋ポリエチレン管は、すべて樹脂製品です。給排水管更新を大規模修繕に組み込んでいる組合では、ここも上昇圧力にさらされます。
私はいつも理事長さまに、「大規模修繕の見積書を見るときは、塗料・防水・シーリングの3つの単価変動を必ずチェックしてください」とお伝えしています。この3つが工事費の半分以上を占めるからです。ナフサ危機の局面では、この3つが同時に上がる——これが理事会にとって最も厄介な構造です。
4. 大規模修繕への波及シナリオ——3つのリスクを時系列で並べる
ニュースの整理と資材の整理を終えたうえで、いよいよ「では、マンション大規模修繕にどう波及するのか」を時系列で考えてみます。私の経験上、これから6〜18か月で、3つのリスクが順に顕在化する可能性があります。
第一のリスクは、見積書の有効期限切れです。一般的に大規模修繕の見積書は、提出から60〜90日が有効期限とされます。今年2〜3月に取った見積書をベースに、夏の総会で予算承認を取り、秋に契約締結——というスケジュールを組んでいる組合は要注意です。日本ペイントの6月1日値上げ(出典:新建ハウジング)が反映された見積もりが、契約直前に提示されると、当初想定よりも工事費が大幅に膨らむ事態が起こり得ます。私はいつも理事長さまに、「見積書の有効期限と発注時期の関係を、契約前に必ず確認してください」とお伝えしています。
第二のリスクは、工事中断・工期延長です。鹿児島県のケース(出典:Yahoo!ニュース)が示すように、資材が入手できなければ工事は止まります。マンション大規模修繕でも、塗料・防水材・断熱材の納入遅延が発生すれば、足場架設を済ませた状態で工事が止まるという最悪のシナリオがあり得ます。足場のリース料は1日単位で発生するため、工事が止まっているのに足場代が積み上がるという、組合にとって耐え難い構造になりかねません。私の経験上、これは資材高騰そのものよりも、組合の財務に打撃を与えやすい事象です。
第三のリスクは、長期修繕計画の前提崩壊です。多くの管理組合が、5年前または10年前に策定した長期修繕計画をベースに、修繕積立金の額を決定しています。しかし、ナフサ危機が常態化すれば、その計画上の単価では工事ができなくなります。すると、修繕積立金を一気に増額するか、一時金を徴収するか、工事内容を圧縮するかのいずれかを選ばざるを得ません。国土交通省の調査では、すでに修繕積立金が10年で平均5割増加しているとの報道もあり(出典:Yahoo!ニュース「分譲マンション『修繕積立金』10年間で平均5割『負担増』」(2026年5月14日))、組合員の負担余力は決して大きくありません。
ここからが本題です。3つのリスクを並べた上で、では理事長さまが今すぐ取れる行動は何か。次の章で5つに整理します。
5. 理事長が今すぐ取れる5つの実務対策
ここからは、私が実際に管理組合さまにお伝えしている対策を、優先度の高い順に5つ並べます。今週の理事会で1つ、来月までにあと2つ、というペースで進めていただければ十分です。
対策1:既存の長期修繕計画を「資材高騰」前提で再シミュレーション
最初にやっていただきたいのは、いまの長期修繕計画書を引っ張り出して、「資材費1.3倍」「資材費1.5倍」の2パターンで再シミュレーションすることです。専用のツールは要りません。Excelでも十分です。塗料・防水・シーリング・断熱材の項目に1.3〜1.5倍を掛け、残りの労務費・足場費・諸経費はそのままで合計を出すだけです。
これをやると、いま予定している大規模修繕の総額が、楽観シナリオでもプラス5〜8%、悲観シナリオでプラス10〜15%膨らむことが目に見えてきます。次回の総会で「いまの修繕積立金で足りるのか」「足りないなら、いつから・いくら積み増すのか」を議論する素材になります。私の経験上、数字を見ないまま「とりあえず据え置き」を続けると、3年後に必ず深刻な議論が押し寄せます。
対策2:見積書の有効期限を短縮し、再見積もり前提で契約条項を整える
第二に、すでに大規模修繕の見積書を取っている組合は、その有効期限を確認してください。発注予定日が有効期限を超える場合は、施工会社に早めに連絡し、再見積もりのスケジュールを擦り合わせるのが安全です。
それ以上に大事なのが、契約書の「材料費スライド条項」の確認です。公共工事では当然のように使われるスライド条項(材料費が一定割合以上上昇した場合に契約金額を見直す条項)が、民間の大規模修繕では入っていないケースが少なくありません。スライド条項がない契約で工事中に材料費が急騰した場合、施工会社が泣くか、組合が追加負担を飲むか、最悪のケースでは工事が止まるかの3択になります。
私はいつも理事長さまに、「契約書ひな型にスライド条項を最初から組み込み、上下5%・10%・15%の3段階で『どこから組合と協議するか』を明文化しておくのが、結果的にお互いにとって安全」とお伝えしています。これは押し売りでも何でもなく、組合と施工会社の双方を守る発想です。
対策3:設計コンサルタント・施工会社に「材料調達ルート」を質問項目として渡す
第三に、業者選定や設計監理契約のヒアリング項目に、「材料の調達ルート」を必ず加えてください。具体的には、塗料・防水材・断熱材それぞれについて、メーカーと商社・問屋の関係、在庫保有月数、納期見通し、代替メーカーの有無、を質問するのです。
これは、工事中断リスクを発注前にスクリーニングする最も実務的な手段です。複数メーカーと直接の取引関係を持つ施工会社、特定問屋に強い施工会社、フランチャイズや連合体で在庫情報を共有している施工会社は、納期遅延リスクをある程度コントロールできます。一方、小規模な施工会社のなかには、目の前の問屋にしか発注ルートを持っておらず、その問屋で品切れが起きたら一緒に止まってしまうケースもあります。
正直に申し上げます。これまで管理組合さまは、施工会社選定で「価格」と「実績」を重視されてきました。これからの局面では、それに「調達力」を加えていただきたいのです。明誠でも、ロープアクセスのフランチャイズ加盟店ネットワークを通じて、塗料・防水材の調達情報を共有する仕組みを少しずつ整えています。詳しくはロープアクセス工法のご紹介もご参照ください。
対策4:足場費の圧縮で、資材高騰分を吸収する設計を検討する
第四に、ぜひ検討していただきたいのが、足場仮設費の圧縮です。大規模修繕の総工事費に占める足場仮設費の割合は、建物形状や階数にもよりますが10〜20%にも達します。ここを圧縮できれば、資材高騰分の一部または全部を吸収できる可能性があります。
具体的な選択肢は3つあります。第一に、すべての作業を従来型の枠組足場で行う通常工法。第二に、外壁塗装や調査などを産業用ロープアクセス工法で行う無足場工法。第三に、足場が必要な部位(タイル張替、大規模なシーリング打ち替え、笠木交換など)は足場、それ以外(点検、補修、塗装の一部)はロープアクセスで行うハイブリッド工法です。
明誠では、この3つの工法から、建物の形状・階数・工事内容・近隣条件に応じて最適なご提案ができる体制を整えています。日本のなかで、この3つを自社で扱える会社は実は多くありません。たとえば10階建てのマンションで全面足場をかけると、足場費だけで3,000万円を超えるケースが珍しくありませんが、適切な部位でロープアクセスを併用すると、足場費を1,500〜2,000万円に抑えられることがあります。差額の500〜1,500万円は、そのまま資材高騰分の吸収原資になります。
私はいつも理事長さまに、「資材費を下げるのは難しい。労務費を下げるのはもっと難しい。でも、足場費は工法の選択で大きく変えられる」とお伝えしています。これは、私の20年の現場経験で得た数少ない確信のひとつです。
対策5:補助金・補正予算情報を継続的に追う仕組みを作る
第五に、補助金・補正予算の情報を継続的に追ってください。2026年5月14日には、政府が物価高対策で補正予算編成を検討しているとの報道が出ています(出典:TBS NEWS DIG「物価高対策で補正予算編成を検討 電気ガス補助金7月から再開」(2026年5月14日))。電気・ガス補助だけでなく、住宅・建築関連の支援策が組み込まれる可能性があります。
国の常設制度としては、国土交通省の「マンションストック長寿命化等モデル事業」が長期修繕計画の策定や先進的な修繕工事を支援しています(出典:国土交通省「マンションストック長寿命化等モデル事業」)。また、東京都および23区・市町村レベルでは、分譲マンションの修繕に対する助成制度が整備されています(出典:東京都マンションポータルサイト)。ナフサ危機を受けて拡充される可能性もあるため、年に数回はチェックする習慣をつけていただきたいのです。
私の経験上、補助金は「いつでも申請できる」ものではなく、「予算枠到達で締切」になる制度がほとんどです。情報を待つのではなく、取りに行く姿勢が結局は組合の利益につながります。詳しくは大規模修繕工事のご紹介のなかでも継続的に発信していきます。
6. 明誠の3工法×フランチャイズで何ができるか——施工側からの率直な話
ここから少しだけ、私たち施工側からの話をさせてください。押し売りにならないよう、事実だけを淡々と書きます。
明誠は、マンション・ビル・ホテルの大規模修繕工事を主な業務としています。通常足場工法、ロープアクセス工法(無足場工法)、両者を組み合わせたハイブリッド工法の3つを、自社で扱える数少ない会社のひとつです。日本のなかで、この3工法を1社で提案できる会社は片手で数えられるほどしかありません。
なぜこれが今回のナフサ危機の文脈で意味を持つのか、3つの理由を挙げます。
第一に、工法の選択肢が多いほど、コスト最適化の余地が大きいからです。先ほどの対策4で書いた通り、足場費の圧縮は資材高騰分の有力な吸収手段になります。1工法しか持たない会社は、足場の有無を切り替えられません。
第二に、ロープアクセス工法のフランチャイズ展開を日本で初めて行っている会社として、各分野の専門職(塗装、防水、タイル、電気、看板)と全国で連携できる仕組みを持っているからです。この連携網は、資材調達の局面でも機能します。複数の加盟店が異なるメーカー・問屋と取引関係を持つため、特定の品目で在庫が逼迫しても、別ルートを探す余地があります。
第三に、JCSA(一般社団法人全国建設業支援協会)の運営を通じて、業界全体の情報収集と発信に関わっているからです。ナフサ危機のような業界横断的な事象では、特定の会社だけでなく業界全体の動きを掴むことが、発注側にも施工側にも価値を持ちます。
繰り返しになりますが、これは押し売りではありません。私は、組合さまが他社さまから見積もりを取ることを止めません。むしろ、複数社に同条件で見積もりを依頼し、価格・実績・調達力の3軸で比較していただくのが、組合員さまにとって最も誠実な発注プロセスだと考えています。そのうえで、もし「3つの工法を組み合わせて見積もりを取ってみたい」「いまの長期修繕計画を資材高騰前提で見直したい」というご要望があれば、お問合せフォームからご相談だけでも遠慮なくお声がけください。総会の前段階の整理だけでも、お力になれることがあります。
7. 補助金・公的支援との組み合わせ——いま追っておくべき5本
最後に、ナフサ危機の局面で追っておくべき補助金・公的支援を5本に絞ってご紹介します。それぞれ、年度や予算枠で内容が変わるため、最新情報は必ず一次情報サイトで確認してください。
第一に、国土交通省「マンションストック長寿命化等モデル事業」(出典:国土交通省)。先進的な改修工事や、長期修繕計画の策定支援に充てられる事業です。
第二に、国土交通省「住宅・建築物省エネ改修推進事業」(出典:国土交通省 住宅・建築物の省エネルギー対策)。外断熱改修や窓改修など、省エネ性能の向上を伴う改修工事に活用できる支援制度の総称です。
第三に、東京都「分譲マンション総合相談窓口・各種助成」(出典:東京都マンションポータルサイト)。長期修繕計画の作成、修繕工事、管理状況の届出に応じた助成や相談支援が用意されています。
第四に、23区・市町村レベルの分譲マンション修繕助成。区によって名称・対象・上限額が異なります。たとえば千代田区、中央区、港区などはマンション施策に力を入れています。お住まいの自治体名と「マンション 修繕 助成」で検索するのが最短ルートです。
第五に、政府の補正予算動向(出典:TBS NEWS DIG)。電気・ガス補助の文脈で語られていますが、物価高対策として住宅・建築関連の臨時支援が組み込まれる可能性があります。補正予算は通年制度ではないため、発表のタイミングで一気に動く必要があります。
私の経験上、補助金は「うちのマンションは対象だろうか」と迷っているうちに締切になります。年度初頭の4月、補正予算の検討が始まる秋、年度末の駆け込み——この3つのタイミングで一度ずつ自治体の助成ページを覗いていただくだけで、機会損失は大きく減ります。
8. 出典・参考資料
- Yahoo!ニュース(読売新聞配信)「【中東情勢の影響】ナフサ原料の建築資材が不足―県営住宅・職員宿舎6件で外壁改修が一時中断」(2026年5月14日)
- Yahoo!ニュース「中東情勢の影響で塗料など入手困難…県営住宅など工事6件中断 鹿児島」(2026年5月14日)
- 新建ハウジング「日本ペイント、塗料類全般を値上げ 6月1日出荷分から」(2026年5月13日)
- ダイヤモンド・オンライン「断熱材40%、塗料80%高騰…家づくり総額が数百万円上がる『ナフサ危機』新築・リフォーム前に確認したい影響」(2026年5月14日)
- Yahoo!ニュース「断熱材が40%値上がり ナフサの供給不安定が住宅の建築現場に影響 建築資材の品薄状態」(2026年5月14日)
- TBS NEWS DIG「物価高対策で補正予算編成を検討 電気ガス補助金7月から再開 ガソリン補助継続で財源枯渇の懸念」(2026年5月14日)
- Yahoo!ニュース「分譲マンション『修繕積立金』10年間で平均5割『負担増』それでも費用が足りず高額な一時金請求」(2026年5月14日)
- 国土交通省「マンションストック長寿命化等モデル事業」
- 国土交通省「住宅・建築物の省エネルギー対策」
- 東京都「東京都マンションポータルサイト」
- 資源エネルギー庁「石油精製・石油化学」
最後に一言だけ。私は、この種の業界ニュースを目にするたびに、現場で会う組合員のみなさまのお顔が浮かびます。理事長を引き受けてくださっているのは、たいていの場合「やってもいいよ」と手を挙げてくださった善意の方です。そんな方に、ナフサ危機の細かい話まで全部を負わせるのは、私たち施工側にも申し訳ない気持ちがあります。だからこそ、私たちが情報を整理し、選択肢を並べて差し出す——それが施工会社としての本分だと、私は思っています。次回も、現場で本当に使える話だけをお届けします。
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塗料が届かない2026年——ナフサ供給不安と大規模修繕、理事長が今すべき7つの確認
1. 何が起きているのか——3つのニュースを時系列で押さえる
まず、2026年5月12日前後に立て続けに出てきた3つのニュースを、感情を抑えて並べてみます。情報を整理するときには、「誰が・いつ・何を発表したか」をそろえて見るのが一番です。私はいつも理事長さまに、新聞やネットの見出しに振り回されず、こうして時系列で並べてみることをお勧めしています。
ひとつ目。2026年5月、ナフサ供給不安を受けて塗料の納入リードタイムが延びている、という現場発の声が複数のメディアで取り上げられました。北海道のニュースでは、通常なら1日で入る塗料が現在は半月待ちになっているケースがあると報じられています(出典:Yahoo!ニュース/HBC「ナフサ供給不安 塗料の納入まで通常1日に対し、いまは半月待ち」)。納期の長期化は、すでに首都圏や関西の元請会社にも波及しはじめており、私たちのもとにも仕入先からの「来月以降の入荷見通しが立ちにくい」という連絡が増えています。
ふたつ目。大手分譲マンションデベロッパーが、新築物件の引き渡しに遅れが出る可能性を公表しました。ナフサを原料とする塗料・建材の供給が不確実になっており、当初の計画と異なる建材を使用する可能性があるとも報じられています(出典:Yahoo!ニュース「新築マンションで引き渡し遅れの可能性 ナフサ原料の塗料供給が不確実のため」)。新築でこれだけの影響が出ているということは、改修・修繕の発注側にも同じ波が来るということです。私はこのニュースを見たとき、「これは新築だけの話では終わらない」と直感しました。
みっつ目。京都のラグジュアリーホテル「ホテルオークラ京都」を運営する京都ホテルが、2027年以降に予定していた客室の全面改装を延期すると発表しました。背景は中東情勢を踏まえた資材調達難で、中期経営計画で掲げていた売上目標も取り下げています(出典:京都新聞「『ホテルオークラ京都』客室リニューアル延期」、日本経済新聞「『ホテルオークラ京都』、客室改装計画を延期 中東情勢下の資材不足で」)。
3件をひとことでまとめると、「中東情勢起因のナフサ需給逼迫が、塗装・改装・大規模修繕の現場に同時多発的な工程リスクをもたらしている」ということになります。これは一過性のニュースではなく、向こう半年から1年の発注計画にじわりと影響してくるテーマだと私は受け止めています。
2. ナフサとは何か——なぜ塗装・防水・シーリングに直撃するのか
ここで一度、専門用語の整理をさせてください。ナフサ(Naphtha)とは、原油を蒸留したときに出てくる、ガソリンより少し軽い液体のことです。プラスチック、塗料、接着剤、合成ゴム、化粧品の容器、ペットボトルのラベルなど、私たちの暮らしの周りにある石油化学製品の、いわば「親」のような原料になっています(出典:Yahoo!ニュース/専門家解説「ナフサとは何か」)。
経済産業省のエネルギー白書でも、ナフサは石油化学産業の中核原料と位置づけられており、その大半が中東からの原油・石油製品調達に依存していることが繰り返し指摘されています(出典:経済産業省 エネルギー白書)。日本の石油化学産業の輸入依存度の高さは、私が現場の人間として痛感している弱点でもあります。
大規模修繕の現場で日常的に使っている資材を思い浮かべてみてください。外壁の塗装材、屋上やバルコニーのウレタン防水材、目地のシーリング材、エポキシ系の補修材、鉄部塗装の下塗りに使う錆止め塗料——これらの大半は、ナフサを起点にした石油化学品から作られています。つまりナフサの供給が止まれば、塗装・防水・シーリングという、大規模修繕工事の主役級の工程がそろって影響を受ける構造になっているわけです。
もう少しだけ踏み込んで説明します。塗装材を例に取ると、アクリル樹脂系・ウレタン樹脂系・シリコン樹脂系・フッ素樹脂系・無機ハイブリッド系といった主要な樹脂分のほとんどが、石油化学を経由して作られています。防水材で言えば、ウレタン塗膜防水、塩ビシート防水、改質アスファルトといった工法の主役材料は、いずれもナフサと無縁ではありません。シーリング材も、変成シリコーン系、ポリウレタン系、アクリル系といった主要系統が、原料の上流をたどればナフサ供給と接続しています。私が現場で20年触れてきた塗装・防水・シーリングのほぼ全てが、いま注目されているサプライチェーンの上に乗っているわけです。
職人さんの世界では、「白い塗料が入りにくい」という話題が春先からじわりと広がっていました。白系の塗料は酸化チタンという顔料の使用量が多く、酸化チタンの供給状況にも影響を受けやすい。さらに艶あり仕上げになると樹脂分の依存度が高くなる。結果として、白系・艶あり・大量同色という条件が重なる現場で、納期の読みにくさが目立っています。修繕計画でこの組み合わせの仕様を予定しているなら、早めに色の確定と発注タイミングの相談をしておくことをお勧めします。
正直に申し上げます。資材高騰や納期遅延は、リーマンショック後の原油急騰、新型コロナ初期のサプライチェーン分断、ウッドショック、円安局面と、この20年で何度も経験してきました。ただ、今回の難しさは「中東情勢」という地政学的な要因が背景にあることです。為替や金利と違って、これは現場の交渉や努力ではほぼ動かせない領域です。だからこそ、発注側である管理組合の理事会も、「何を確認し、何を備えておくか」を早めに整理しておく必要があると私は考えています。
3. 大規模修繕の現場で実際に起きていること
ここからが本題です。私たちが日々関わっている首都圏の大規模修繕の現場で、いま実際に起きている事象を整理しておきます。固有名詞は伏せますが、いずれも複数の現場で確認している話です。
ひとつ目。特定色の塗料の納期が読みにくくなっていることです。とくに、メーカー指定の調色色(建物ごとに合わせる特注色)と、白系の艶あり塗料の一部で「次回入荷時期が未確定」と回答されるケースが増えています。私の経験上、ここまで「未確定」と回答される頻度が増えるのは久しぶりです。これまでの感覚なら、1〜2週間で入っていたものが、いまは1か月以上の見通しになっていることが珍しくありません。
ふたつ目。シーリング材・ウレタン防水材の単価が見直されていることです。元請として複数の資材商社から見積を取っていますが、4月から5月にかけて、品目によっては数%の値上げ通知や、見積有効期限の短縮(従来30日 → 7〜10日)が相次いでいます。価格そのものよりも、「見積の鮮度」が短くなっている点に、私たちは強い緊張感を持っています。
みっつ目。工程の組み直しが必要な現場が出てきていることです。たとえば、5月着工で6月から塗装に入る予定だった現場で、希望色の塗料が間に合わず、先に防水工程を入れ替えるなどの調整をしました。これは、足場仮設のみの工法だと工程の柔軟性が低くなる、ということを改めて実感した出来事でもありました。
私はこれを、必ずワンセットで提案するようにしています。すなわち、足場仮設工事とロープアクセス工法の両方を選択肢に乗せて、工程ロスを最小化する。これが、いまのような資材調達リスクが高まる局面で、発注側の管理組合さまにできる最大の防御策のひとつだと私は信じています。
4. 理事会・修繕委員会が今すぐ確認すべき7つのポイント
ここから本題の核です。築15〜25年、50〜200戸規模のマンション管理組合さまを想定して、私が「いま理事会で1分だけでもこの話題を出してください」とお伝えしたい7つの確認項目を、優先順位順に並べます。
ポイント1:今期もしくは来期の大規模修繕工事の「資材発注時期」を、施工会社に確認する。施工会社がいつ塗料・防水材・シーリング材を発注する予定か、を確認してください。発注が着工の1〜2週間前なのか、2〜3か月前なのかで、リスクの見え方が大きく変わります。私は元請の立場で、発注計画は理事会の会議資料に1行でよいので明示するべきだと考えています。「いつ・どこから・どの品番を・いくらで・どれだけ」を一覧にしておくと、後で代替提案が出たときに比較が容易になります。
ポイント2:使用予定の塗料・防水材の「メーカーと品番」を契約書に明記してもらう。ナフサ供給が不安定な局面では、メーカーから「同等品への変更」を提案されることがあります。これ自体は悪いことではないのですが、契約時に何を選んでいたかが曖昧だと、グレードダウンに気付けません。仕様書のメーカー・品番欄を理事会で1分だけ確認してください。
ポイント3:「代替品提案時のルール」を事前に決めておく。資材調達難でメーカー欠品が出た場合、代替品にどのくらいまで許容するか、誰の承認で進めるかを、契約時もしくは着工前打合せで合意しておくことをお勧めします。私の経験上、これを事前に決めていない現場ほど、代替提案が出たときに理事会内で消耗します。
ポイント4:「工期延長時の追加費用ルール」を契約書で確認する。仮設足場の延長費用は、発注者負担か施工会社負担か、いつ・どの条件で発生するか、を契約書で確認してください。一般的な仮設リース費は、足場のみで戸あたり数千円/月単位の影響が出ることもあります。
ポイント5:「不可抗力条項(フォースマジュール)」の運用を確認する。地政学的な事象による資材調達難は、契約上の不可抗力扱いになる場合があります。条文があるかどうかだけでなく、どこまでが不可抗力で、どこからが施工会社の責任かを、文章ベースで読み合わせておくと、後でトラブルになりにくいです。
ポイント6:「色のサンプル承認」をできるだけ早く済ませる。特注色や個別調色がある場合、色決定から発注までのリードタイムが、いまは普段より長めに見ておくべきです。私はいつも、色決定は工程の最初に集中させるよう、現場の段取りを組んでいます。
ポイント7:「相見積もりを取っていない理事会」は、もう一度市場感覚を取り直す。資材高騰局面では、相場が短期間で動きます。前回見積が3か月以上前のものなら、もう一度市場感覚を取り直すことをお勧めします。私の感覚では、塗料・防水まわりの単価は、ここ半年でじわじわ動いています。相見積もりを取るときは、価格だけでなく「同じ仕様で揃えているか」「材工分離の内訳が出ているか」「数量根拠が比較可能か」の3点をチェックしてください。安いだけの見積は、後で追加費用に化けることがあります。
7つの確認項目を私なりに一言ずつ要約すると、「いつ・誰が・何を・どの条件で発注するか」を文書化し、変更が出たときの判断ルートを事前に決めておく、ということに尽きます。難しいことではありません。ただ、こうした「平時に決めておくべき小さな約束」をきちんと積み上げておくかどうかで、有事の対応スピードが変わります。私が現場で実感している事実です。
5. 工法の選択で工期影響を最小化する——ロープアクセス×足場×ハイブリッド
私たちは、足場仮設による従来工事と、無足場工法であるロープアクセス工事、そして両者を組み合わせたハイブリッド工法の3つから、建物にとってベストな工法をご提案できる、日本でも数少ない会社です。資材調達リスクが高まっているいまだからこそ、この3択をテーブルに乗せる意味が大きいと私は考えています。
足場仮設工事のメリットと、いまの局面での留意点。足場仮設は、全面塗装・全面シーリング打ち替えなど、面積の大きな工事に向きます。職人の作業効率が高く、安全管理もしやすい。一方で、いまの局面で気をつけたいのは「足場をかけたまま資材待ちで止まる」リスクです。仮設足場のリース費は工期に比例しますから、資材遅延が工期に直結する場合、コスト面での影響が出やすくなります。
ロープアクセス工法のメリットと、いまの局面での価値。ロープアクセス工法は、産業用ロープと安全帯を使って高所作業を行う無足場工法です。足場を組まない分、仮設費が大幅に抑えられ、必要な範囲だけ・必要なタイミングだけ作業に入れます。資材調達のタイミングに合わせて、工程を柔軟に組み直せるのが大きな利点です。ロープアクセスについての詳しい考え方はロープアクセス工法のご紹介にまとめてあります。
ハイブリッド工法という第3の選択肢。すべての面で足場を組むのではなく、人の動線が多い妻側だけ足場を組み、それ以外の面はロープアクセスで対応するなど、面ごとに工法を使い分ける考え方です。私はこれを、「資材リスクと工期リスクのヘッジ」として、ますます多くの現場でご提案するようになっています。詳しくは大規模修繕工事のご紹介にまとめています。
少しだけ事例を補足させてください。先日、首都圏のあるマンションで、当初は全面足場の見積で進んでいた現場がありました。理事会の打合せで、ナフサ起因の資材リスクの話題が出たので、急遽ハイブリッド案を併せて試算しました。結果として、北面と東面はロープアクセス、南面と西面のみ足場仮設、という構成に変更。仮設費はおよそ2割削減でき、工期も従来案より3週間短縮できる見通しになりました。何より、塗料の納期が読みにくい局面で「短い工期で済む」ことそのものが、発注側のリスクヘッジになります。私はこの案件で改めて、工法の組み合わせの自由度こそ、いまの局面で発注側を守る武器だと感じました。
もうひとつ、よくある誤解についても触れておきます。ロープアクセスは「特殊な現場でしか使えない工法」と思われがちですが、実態は逆です。一般的な分譲マンションの外壁補修・塗装・シーリング打ち替え・タイル浮き調査・部分防水補修など、ほとんどの中規模修繕の工程は、ロープアクセスでカバーできます。私が現場で20年やってきて、足場でしかできない工事は実は限定的だ、というのが正直な実感です。だからこそ、選択肢として常に乗せる価値があると考えています。
私たちはロープアクセス会社として日本で初めてのフランチャイズ展開も行っており、塗装・防水・タイル・電気・看板など、各分野の専門職が加盟する仕組みを作っています。専門職が一気通貫でつながっているからこそ、資材遅延時の工程組み直しも、現場ごとに最適解を出せると考えています。
実務的な工法比較の早見表として、足場・ロープアクセス・ハイブリッドの3工法の違いを整理しておきます。
| 観点 | 足場仮設のみ | ロープアクセス | ハイブリッド |
|---|---|---|---|
| 仮設費 | 高め | 大幅に低い | 中程度 |
| 工程の柔軟性 | 低め(足場期間に縛られる) | 高い | 高い |
| 資材遅延時のリスク | 大きい(足場延長費が発生) | 小さい | 中程度 |
| 大面積の塗装 | 効率が高い | 工区分割が必要 | 面ごとに最適化 |
| 部分補修・調査 | 部分対応が難しい | 数日単位で対応可 | 機動的に対応可 |
| 騒音・占有期間 | 長い | 短い | 中程度 |
この早見表は、私が理事会の説明資料に毎回1枚入れるようにしているものです。お住まいのマンションの形状や、近隣との関係、工事予算、修繕積立金の残高によって、3工法のどれが最適解になるかは大きく変わります。1社の提案だけで決めるのではなく、複数の選択肢を並べて比較することを、私はいつも理事会にお願いしています。
6. 補助金・助成金の活用——資材高騰と工期延長への備え
資材高騰局面では、「工事費を全額自前で吸収する」前提から少し離れて、使える補助制度を改めて棚卸しすることもお勧めしています。私はいつも理事長さまに、補助制度は採択を保証されたものではないが、「申請したかどうかで結果が変わる」ものだ、とお伝えしています。
国の制度としては、長期優良住宅化リフォーム推進事業、住宅省エネ2025キャンペーン関連の制度の継続有無、ストックマネジメントに関連する各種事業の動きが参考になります(出典:国土交通省 マンション施策)。年度ごとに名称・要件が変わりますので、最新情報の確認は不可欠です。
東京都の制度としては、東京都マンション管理推進条例に基づく管理状況届出制度、東京都マンションポータルサイトに掲載されている改修関連の助成制度などがあります(出典:東京都マンションポータルサイト)。区市町村レベルでも、独立した助成金を設けている自治体があります。たとえば、都内の一部の区では、長期修繕計画の作成や見直しに対する補助、調査・診断費用への補助、耐震改修やアスベスト調査への助成といった、修繕周辺で使える制度を整備しているところもあります。区市町村の制度は、年度初頭の予算公表時にひととおりチェックしておくと、計画段階で組み込める可能性が広がります。
申請の実務で押さえておきたいのは、書類準備のリードタイムです。事業計画書、修繕仕様書、見積書、長期修繕計画書、総会議事録、組合の規約や名簿、登記情報——制度によって求められる書類は異なりますが、いずれも準備に2〜4週間程度かかるのが一般的です。年度内の補助金枠は早い時期に埋まりやすいため、年明けには動き出しておきたい、というのが私の感覚です。私たちは、見積作成段階から「この制度が適用できるかもしれない」という観点で情報をご提供するようにしています。
注意点は、いずれの制度も予算枠到達で締切になることが多い点と、令和○年度の制度名称・補助率・上限額・期限が年度ごとに変わる点です。本稿執筆時点の数値感をそのまま来年度に当てはめるのは避け、申請時には公式ページの最新情報をご確認いただくことをお勧めします。私たちは無料相談の中で、お住まいの自治体の制度の有無を一緒に確認するようにしています。
7. 「資材リスクが見えてきたいま」、私が現場で20年見てきたこと
ここで少し、私自身の話を書かせてください。私は現場で20年やってきて、何度も「資材が入らない」「価格が動く」局面を経験してきました。リーマンショック直後、コロナ初期、ウッドショック、円安局面——いずれも、現場の判断ひとつで、最終的なコストと品質が大きく変わりました。
その経験から私が学んだのは、たった3つのことです。
ひとつ目は、「情報の鮮度こそが価値」だということです。新聞報道や業界紙だけでなく、現場の仕入担当・職人さんの声を最速で拾うこと。私は今でも、毎週どこかの現場に顔を出すようにしています。資材商社からの電話一本、職人さんとの立ち話一回が、見積精度を左右します。報道で「半月待ち」と聞いてから慌てて動くのではなく、その2〜3週間前に現場で吸い上げた違和感を、見積に反映できるかどうか。これが、発注側の管理組合さまの利益を守ることに直結すると私は考えています。
ふたつ目は、「工法の選択肢を複数持っておくこと」です。足場一択、ロープアクセス一択、どちらに偏っても、こうした資材調達リスクの局面で身動きが取りにくくなります。私が大規模修繕を語るとき、いつも「足場とロープの両方を持つ意味」を口にするのは、こうした経験の積み重ねがあるからです。
みっつ目は、「お客さまへの正直さ」です。資材が遅れるかもしれないとき、価格が動くかもしれないとき、私は理事長さまに早めに、正直にお伝えするようにしています。現場で20年やってきて、私が一番悔しい思いをするのは、「もっと早く言ってくれれば対応できたのに」と言われる瞬間です。だからこそ、悪い情報ほど早く、丁寧に共有することを大切にしています。
これは私が現場で20年見てきた、嘘偽りのない感想です。
8. よくあるご質問——理事会で出やすい論点を3つ
最後に、私たちが最近の打合せでよく頂戴するご質問を3つ取り上げます。
Q1. 現在施工中の現場で塗料が遅れた場合、追加費用は誰が負担するのですか。
A. 契約書の条文と、遅延の原因によって変わります。施工会社が発注タイミングを誤ったことが原因なら、施工会社の責任で対応するのが一般的です。一方で、メーカー側のナフサ起因の供給遅延や、地政学的事象を背景にした調達難であれば、不可抗力条項の対象になる場合もあります。私たちは契約締結時に、不可抗力の範囲を文章で読み合わせるよう、理事会にお願いしています。
Q2. 修繕積立金が潤沢ではない管理組合は、こうした局面でどう動けばよいですか。
A. 私は3つの順序でお伝えしています。第1に、長期修繕計画を1〜2年単位で前後にずらせるか、修繕委員会で点検する。第2に、足場仮設だけで設計されている見積を、ロープアクセスとのハイブリッドに置き換えた場合の試算を施工会社に出してもらう。第3に、補助金・助成金で取りに行ける制度がないか、自治体に問い合わせる。順序を意識するだけで、判断のスピードが変わります。
Q3. 「資材が遅れるかもしれない」という理由で、工事自体を先送りすべきでしょうか。
A. 一概には言えません。築年数や劣化進行度によっては、先送りで補修費がかえって膨らむことがあります。雨水浸入や鉄筋爆裂、外壁タイル浮きの放置は、修繕費の指数的な増加につながりやすい領域です。「先送りでいいリスク」と「先送りすると損するリスク」を切り分けて、専門家とディスカッションすることをお勧めします。
9. 保証・アフター対応への影響——「代替品で工事した場合」の取り扱い
ここはあまり語られないテーマですが、私自身、現場で何度も悩んだ論点なのでお伝えしておきます。塗料や防水材を代替品で施工した場合、メーカー保証や工事会社のアフターサービスがどう変わるか、です。
メーカーの長期保証は、原則として「指定の材料・指定の仕様・指定の手順」で施工したことが前提です。代替品を使う場合、メーカー保証が対象外になる、あるいは保証年数が短くなることがあります。施工会社が独自に提供するアフターサービスについても、契約書の対象範囲を読み直しておく価値があります。
私が理事長さまにお勧めしているのは、次の3点を契約前に確認することです。第1に、本来仕様で施工された場合のメーカー保証年数。第2に、代替品で施工された場合の保証範囲の変化。第3に、施工会社独自のアフターサービスが代替品施工時にも有効か。地味なポイントですが、ここを曖昧にしたまま代替品施工に踏み切ると、5年後・10年後に「保証対象外」と言われて初めて気づくことになります。
代替品の選定基準そのものについても、私は「メーカー推奨の同等品リストにあるかどうか」「JIS規格や公的試験データで同等性能が示されているか」「価格優先の安易な代替ではないか」の3軸で見るようにしています。代替提案が出てきたら、この3軸で施工会社に質問することで、提案の質を見極めやすくなります。
10. これからの半年で押さえたい「3つの観測点」
最後に、向こう半年で私たちが注視している3つの観測点を共有して終わります。
ひとつ目は、ナフサ価格と輸入量の月次データです。経済産業省や日本石油化学工業協会が発表する月次データが、塗料・建材価格の先行指標になります(出典:経済産業省 統計情報)。価格と輸入量がどちらも前年比で大きく動いている時期は、見積の鮮度がさらに短くなる可能性があると見ています。
ふたつ目は、国土交通省の建設工事費デフレーターです。建設工事費全体の価格指数で、四半期ごとに公表されます(出典:国土交通省 建設工事費デフレーター)。マンション改修工事を含む建築リフォーム部門の動きを把握すると、修繕積立金の取り崩し計画を見直す判断材料になります。
みっつ目は、自治体の補助金スケジュールです。年度初頭は予算枠が比較的潤沢ですが、夏から秋にかけて締切や予算枠到達のアナウンスが出始める傾向があります。私はいつも、東京都および各区市町村の補助金ページを月1回はチェックするよう、社内に共有しています。
これら3つの観測点を、年に4回程度、理事会の議題に1行加えていただくだけでも、「気づいたら世の中の流れに置いていかれていた」という事態を避けやすくなります。
11. まとめと、理事会で1分だけ話題に出してほしいこと
長くなりましたので、ポイントだけ最後に整理させてください。
中東情勢を背景としたナフサ供給不安は、塗料・シーリング・防水材といった、大規模修繕の主役級の資材の納期と価格に影響を及ぼし始めています。新築マンションの引き渡し遅延、ホテルの改装計画延期といったニュースは、改修工事にも同じ波が来ることを示唆しています。
管理組合の理事会としてできる備えは、難しいことではありません。資材発注時期の確認、メーカー・品番の明示、代替品ルールの事前合意、工期延長時の費用ルール、不可抗力条項の運用、色決めの前倒し、相見積もりの再取得——この7つを次の理事会で1分ずつでも話題に出していただければ、半年先・1年先のリスクは大きく減らせます。
工法の選択でも、足場一択ではなく、ロープアクセスとのハイブリッドを含めて検討することで、資材調達リスクをヘッジできます。私たちが選ばれている理由のひとつは、ここの3択を中立的に提示できる点だと自負しています。
そして、補助金・助成金は「使えるかもしれない」前提で、相談ベースでもよいので情報を取りに行く価値があります。年度をまたいで名称や上限額が変わるため、最新情報の確認だけは欠かさないようにしてください。
私たちは、塗装・防水・タイル・電気・看板などの専門職がフランチャイズの形でつながっている、ロープアクセス領域で日本初のネットワークを運営しています。資材が動きにくいいまだからこそ、「相談だけでも」遠慮なくお声がけいただければと思います。お問合せフォームからのご相談は、24時間受け付けています。総会の前段階の整理だけでも、お力になれることがあります。
これは私が現場で20年見てきた、嘘偽りのない感想です。次回も、現場で本当に使える話だけをお届けします。
出典・参考資料
- Yahoo!ニュース/HBC「ナフサ供給不安 塗料の納入まで通常1日に対し、いまは半月待ち」
- Yahoo!ニュース「新築マンションで引き渡し遅れの可能性 ナフサ原料の塗料供給が不確実のため」
- 京都新聞「『ホテルオークラ京都』客室リニューアル延期」
- 日本経済新聞「『ホテルオークラ京都』、客室改装計画を延期 中東情勢下の資材不足で」
- Yahoo!ニュース/専門家解説「ナフサとは何か」
- 経済産業省「エネルギー白書」
- 経済産業省「統計情報」
- 国土交通省「マンション施策」
- 国土交通省「建設工事費デフレーター」
- 東京都「マンションポータルサイト」
免責事項:本記事は2026年5月13日時点で公開されている公的情報・報道情報をもとに、株式会社明誠の知見を交えて執筆したものです。補助金・助成金の制度内容、申請可否、補助率・上限額・期限は変更されることがあります。最終的な制度活用の可否は、公式ページおよび所管自治体への確認のうえで判断してください。また、資材調達状況や価格動向は今後変化する可能性があります。本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の工事案件における意思決定を保証するものではありません。
▼ロープアクセス工法・無足場工法の詳細解説はこちら
ロープアクセスドットコム|無足場工法専門メディア
ビル外壁が崩れて高速道路の標識が倒れる事故から、私たちが学ばなければならないこと|大阪・高麗橋の現場を見て、本間社長が考えたこと
はじめに:被害がなかったから良かった、では済まない
こんにちは、株式会社明誠の本間です。
2026年5月10日の夜、大阪市中央区東高麗橋で、築年の経った4階建て商業ビルの外壁が崩れ落ち、近くの阪神高速の標識の柱を折って、走行中のタクシーに直撃する事故が起きました(出典:FNNプライムオンライン、読売テレビ)。
タクシー運転手の方も乗客の方も、奇跡的に命に別条はありませんでした。運転手の方は足の痛みを訴えておられるとの報道です。報道映像にあった「ゴンゴンゴン、バラバラバラ…ていうから、お客さんとわーって言いながら、突然のことでびっくりしてます。よく生きてたなって。」というご本人の言葉に、現場で20年近くこの仕事をやってきた私は、胸が締め付けられました。
この記事は、ニュースの一過性の話題として消費するために書くのではありません。私たちが管理しているマンションやビルの足元で、いつでも起こりうる事故として、何をどう変えれば防げたのかを、現場の人間として可能な限り正直にお伝えしたいのです。
1. 何が起きたのか — 現場感覚で読み解く
報道によれば、現場は阪神高速・高麗橋入り口付近の道路東側、4階建ての商業ビルです。建物は近く老朽化対策の補修工事が予定されていたとされています(出典:MBSニュース)。
つまり、「劣化に気づいていなかった」のではなく、「補修工事をやろうとしていた途中だった」という事案です。これは私たち改修業界の人間にとって、きわめて重い意味を持ちます。
ビルやマンションの外壁を構成しているのは、おおむね以下の層です。
- 一番外側:仕上げ材(タイル張り、モルタル吹付、塗装、石貼り など)
- その下:下地モルタル
- さらに下:構造躯体(コンクリート)
この外側の仕上げ材は、完成した瞬間から雨水・凍結融解・紫外線・温度伸縮にさらされて少しずつ劣化していきます。タイルの場合は、下地との接着が弱まって「浮き」が発生し、ある日突然「剥落」します。モルタルの場合は、ひび割れから水が浸入し、内部の鉄筋が錆びて膨張し、「爆裂」と呼ばれる剥離を起こすことがあります。
報道の限られた情報から原因を断定することはできませんが、私が現場の写真や映像から推察するに、仕上げ材が広範囲で躯体から離れた状態にあった可能性は十分にあります。それが何らかのきっかけ(風、温度差、振動、降雨後の重み)で一気に崩れたとすれば、説明はつきます。
少し専門的な話を加えますと、タイル外壁の浮きは、接着面に水分が侵入して凍結と融解を繰り返す「凍害サイクル」、温度差による伸縮、躯体側のひび割れからの水分供給、この3つが組み合わさって進行することが多いです。10年単位で蓄積したダメージが、ある日の温度急変や降雨後の重量増加で限界を超える、というのが典型パターンです。「昨日まで何ともなかった」というのは現場では珍しいことではなく、むしろ「気づきにくいまま限界点に近づいている」ほうがふつうです。
2. 法律はどう求めているのか — 建築基準法第12条の建付け
ここで、法律の建付けをひとつだけ整理させてください。
建築基準法第12条では、特殊建築物(一定規模以上の店舗、共同住宅、事務所など)に対して、定期的に有資格者が調査を行い、その結果を行政に報告することを求めています。マンション管理組合さまや商業ビルのオーナーさまには馴染みの「12条点検」と呼ばれているものです。
このうち外壁については、おおむね2〜3年ごとの目視・部分打診調査に加えて、10年ごとに「全面打診等調査」を実施することが義務付けられています(出典:国土交通省「建築基準法第12条に基づく定期報告制度の見直しのポイント」、ビューローベリタスジャパン 12条点検)。
10年ごとの全面打診調査の対象は、タイル張り・石貼り(乾式工法を除く)・モルタルなどの外壁仕上げです。打診とはハンマーや打診棒で壁を軽くたたき、その音の違いから「浮き」を検出する古典的かつ確実な調査手法です。
この義務を怠ったり、虚偽の報告をしたりした場合、建築基準法第101条で100万円以下の罰金が定められています(出典:ケーワンテック 外壁打診調査とは)。
私が強調したいのは罰則の話ではありません。「義務」と書かれているということは、社会が「この調査をしないと人命が脅かされる」と認めているという意味です。事実、過去にもタイル剥落事故では死亡事故が複数発生しており、これがまさに今回の高麗橋で起きそうになったことでもあります。
3. 「補修工事を予定していたのに」起きてしまう理由
「補修工事を予定していたのに崩落した」という事実は、私たち実務者にとって最も重く受け止めなければならないポイントです。
私が現場で繰り返し見てきたパターンは、次の3つです。
ひとつめ:劣化の進行スピードを過小評価していた
「来月から足場を組む予定」「総会で工事発注を決めたばかり」というタイミングで、想定より早く崩落が発生するケース。建物の劣化は線形ではなく、一度バランスが崩れると加速度的に進む性質があります。
ふたつめ:見えていない箇所が放置されていた
道路に面した正面だけを見て「まだ大丈夫」と判断し、裏側や上層部の劣化を見落としているケース。地上から目視できる範囲と、実際にロープなどで近接調査して初めて分かる範囲は、まったく違います。
みっつめ:足場代を惜しんだ結果、調査の頻度が落ちていた
正面の足場を組むだけで数百万円かかるため、「次の大規模修繕までは様子見」となり、結果として10年に一度の全面打診調査すら遅れがちになるケース。
これら3つに共通するのは、「全面足場」を前提にしている限り、調査と補修の頻度は構造的に上がらないということです。私たち改修業界が、ここを変えなければなりません。
4. どんな建物が特にリスクが高いのか — 「うちは大丈夫」の落とし穴
ここで一度、ご自分の管理されている建物に当てはめて考えていただきたいので、私が現場で「特に注意したい」と判断する建物の特徴を整理します。
ひとつめ:築20年以上で、タイル張りまたはモルタル吹付の外壁。素材的にもっとも剥落リスクが高く、かつ全面打診の必要性も法律で求められている層です。
ふたつめ:海風や交通量の多い道路に面している。塩分・排気ガス・振動の影響で劣化が加速します。今回の高麗橋のように、阪神高速のすぐ脇という立地は、まさにこの層に該当します。
みっつめ:足場を組みにくい立地(隣地境界が極端に近い、道路占用許可が出にくい)。これは皮肉ですが、足場が組みにくい建物ほど、これまで大規模修繕が後回しになっており、結果として劣化が進んでいるケースが多いのです。
よっつめ:直近10年の12条点検報告書で「目視のみ」「部分打診のみ」となっている。10年ごとの全面打診をやっていないなら、要件未充足の可能性があります。
このうち2つ以上に当てはまる建物は、「全面足場を組む大規模修繕の時期を待つ」のではなく、いま部分的な近接調査を行うことを真剣に検討するべきタイミングだと、私は申し上げています。
5. 管理組合・オーナーが「明日から動ける」3つのこと
長くなりますので、まず動けることを先にお伝えします。
Step 1:12条点検の最新報告書を理事会で読み合わせる
管理会社や前回の調査会社から、直近の12条点検報告書を取り寄せて、外壁の章だけでも理事会全員で読み合わせることを強くお勧めします。「異常なし」と書かれていても、いつの調査か、どこを目視で済ませてどこを打診で確認したかを必ず確認してください。10年経っているのに目視のみだったとしたら、それは見直しのタイミングです。
Step 2:気になる箇所を「足場なしで」近接確認する
「正面の8階あたりにヒビが見える気がする」「裏のバルコニー手すりの根本が錆びていた」など、理事や住民から上がってきた“気になる箇所”は、必ず近接調査を。ここでロープアクセス工法が威力を発揮します。全面足場を組まなくても、気になる箇所のスポット調査だけなら数万〜数十万円で対応可能です。
Step 3:長期修繕計画と予算を「最悪シナリオ」で見直す
「12年に一度の大規模修繕」だけでなく、「来年、想定外の部分補修が500万円必要になったら積立金は足りるか」という最悪シナリオで一度キャッシュフローを引き直してください。今回の高麗橋のような事故が自分のマンションで起きてしまった場合、社会的責任の重さは比較になりません。
Step 4:「打診で浮きが見つかった」ときの段取りを事前に決めておく
実は、いざ調査で「タイル数十枚分の浮きが見つかった」となったときに、「次の理事会で議題にします」「総会まで待ちます」では遅いことがあります。事前に、
- 緊急性が高い場合は理事長単独で部分補修を発注できる金額レンジ(例:50万円まで)を管理規約で確認
- 周辺住民への注意喚起・通行規制の手順
- 加入している保険(施設賠償責任保険)の補償範囲
を、平時のうちに紙1枚で整理しておくことを強くお勧めします。判断の遅れがもっとも被害を拡大させるのがこの種のリスクの怖さです。具体的な準備の進め方は、私たちでよろしければご相談ください。詳しくはお問合せフォームからお声がけください。
6. 明誠の優位性 — ロープアクセスと足場仮設の「両刀」だからできること
ここからは、明誠が他の改修会社と違う点を、率直にお伝えします。
明誠は、東京・関東一円でロープアクセス工法と従来の足場仮設による大規模修繕の両方を提案できる改修会社です。これは「うちは何でもできます」というアピールではありません。両方提案できることが、組合さま・オーナーさまの選択肢を本質的に広げるからこそ意味がある、と私たちは考えています。
具体的にどう違うのかを、3つのシーンに分けてご説明します。
シーン①:「気になる1箇所」だけ早く・安く確認したい
全面足場を組むと数百万円・1か月単位の準備期間が必要です。しかしロープアクセスなら、翌週には現場に入って、当該箇所のみを近接調査・写真撮影・打診確認できます。「タイル1枚が浮いていそう」「特定階のシール材が剥がれている」というレベルの相談で、即応が可能です。詳しくはロープアクセス工法のご紹介をご覧ください。
シーン②:「大規模修繕までのつなぎ補修」を計画的にやりたい
次の大規模修繕まであと3年、しかし今すぐ漏水や落下リスクがある——という状況。全面足場を立てるのは予算的にも時期的にも厳しい。ロープアクセスで該当箇所だけ部分補修し、3年後の大規模修繕で本格対応する、という二段構えが組めます。これにより「今あるリスクを今すぐ消す」と「将来の本格修繕」を両立できます。
シーン③:「次の大規模修繕は本当に全面足場が要るのか」を見極めたい
すべての大規模修繕に全面足場が必要だとは限りません。明誠では、ロープアクセスで先に詳細な現況調査を行い、「どの面は足場、どの面はロープアクセスで足りる」というハイブリッド設計を提案できます。この設計が組めるかどうかで、総事業費が2〜3割変わることもざらです。詳しくは大規模修繕工事のご紹介をご覧ください。
シーン④:「12条点検の全面打診を、できるだけ低コストで完遂したい」
10年に一度の全面打診調査も、足場前提だと数百万円〜が必要になります。ロープアクセスを併用することで、正面・裏面・東西面のうち足場が組みにくい面だけをロープでカバーし、足場面積を最小化することで、調査コストを抑えながら法令義務を満たすことが可能です。報告書の品質を落とさず、「義務だからとりあえずやる」から「コスト最適で確実にやる」に運用を変えられます。
私が現場でいつもお伝えしているのは、「ロープアクセスは足場の代替ではなく、足場と並ぶ第二の選択肢」ということです。両方を持っていない会社は、結局のところ自分が持っているほうの工法に話を寄せます。明誠は両方を持っているからこそ、組合さまの建物にとって本当に最適な組み合わせを、利益相反なく提案できると自負しています。
参考までに、私たちが実際にお引き受けする目安をご紹介します。ロープアクセスでのスポット近接調査は、規模にもよりますが1日〜数日・数万円〜数十万円のレンジで対応できることが多いです。一方で全面足場を組む大規模修繕は、準備期間1〜3ヶ月・足場費だけで数百万〜数千万円かかります。この“桁が違う2つの選択肢”を、案件ごとに正しく使い分けることが、結果として管理組合さまの修繕積立金を守ることに直結します。
7. 私が現場で本当に怖いと思っていること
最後にひとつだけ、業界の人間として正直な気持ちをお話しさせてください。
今回のような事故が起きると、メディアや世論は「ビルのオーナーは何をしていた」「管理会社は何をしていた」と、責任の所在を問います。それは当然のことです。
ですが、現場の改修会社の側にも、向き合わなければならない宿題があります。それは、「全面足場を組まないと提案できない」「相見積もりに出さないと動けない」という、自分たちの動きの遅さや硬直性です。組合さまが「気になる」と感じた瞬間に、来週には現場で確認できる体制を作っておかないと、結局は被害者側に責任が押し付けられてしまう。
私たち明誠は、ロープアクセスを「営業の差別化ツール」ではなく「社会インフラの予防保全のための機動部隊」として位置づけ、地域の管理組合さま・オーナーさまの「気になる」に最速で応える会社でありたい、と本気で思っています。
今回の高麗橋の現場で被害に遭われた運転手の方の一日も早いご回復をお祈りするとともに、二度と同じような事故を起こさないために、私たち業界の側ができることを、これからも一つずつ積み重ねてまいります。
8. まとめ
- 2026年5月10日の大阪・高麗橋の事故は、「補修予定だったのに間に合わなかった」という、業界の構造的な遅さが背景にある可能性がある事案。
- 建築基準法第12条で、外壁は2〜3年ごとの目視・部分打診と、10年ごとの全面打診が義務化されている。義務だからではなく、人命に直結するからやる。
- 「全面足場前提」の発想を改め、ロープアクセスを使った機動的な部分調査・部分補修を組み合わせることで、調査と補修の頻度は実務的に上げられる。
- 明誠はロープアクセスと従来工法の両方を提案できる東京の改修会社として、組合さま・オーナーさまの「気になる」に最速で応える体制をご用意しています。
「うちのマンションも、外壁の状態が気になる」「12条点検の報告書を一緒に読み合わせてほしい」とお考えの理事長さま、検討委員さま、オーナーさまは、まず一度声をかけてください。現地調査だけでも、ご相談ください。お問合せはこちらから、明誠の工法の詳細はロープアクセス工法のご紹介および大規模修繕工事のご紹介をご覧ください。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。次回も、現場で本当に使える話だけをお届けします。
株式会社明誠 代表取締役 本間
出典・参考資料
- FNNプライムオンライン「「よく生きてたなって…」ビル外壁が崩れ、高速道路の標識がタクシー直撃」(2026年5月11日)
- 読売テレビ「「よう生きてたなと」阪神高速・高麗橋入り口付近でビルの壁崩落」
- MBSニュース「【ビル外壁崩落】「よう生きてたな」阪神高速の標識倒れてタクシーとぶつかる」
- 国土交通省「建築基準法第12条に基づく定期報告制度 見直しのポイント(PDF)」
- ビューローベリタスジャパン「12条点検(建築基準法第12条 定期報告)」
- ケーワンテック株式会社「外壁打診調査とは?調査方法や義務について解説」
- 板橋区「建築基準法に基づく特定建築物の外壁全面打診などの調査について」
※ 本記事は2026年5月時点で公表されている報道および公的資料をもとに執筆しています。事故原因については現時点で警察・消防の調査が継続中であり、本記事中の技術的考察はあくまで一般的な可能性に基づくものです。本記事の内容は法的助言を構成するものではありません。
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