東京都の中古マンション価格が28か月ぶり下落|売却前に見られる修繕積立金と大規模修繕の状態、オーナーが備える3つの視点【2026年10月】
この記事で分かること
「中古マンションの価格が下がり始めたと聞きましたが、うちの建物は大丈夫でしょうか」——一棟マンションのオーナーさまや、分譲マンションの理事長さまから、こうしたご相談をいただくようになりました。
この記事では、次の問いにお答えします。東京都の中古マンション価格が28か月ぶりに下落したという報道を受けて、オーナーや管理組合は、売却や資産価値の面で何を見ておけばよいのか?
きっかけは、2026年10月2日にGoogleアラート(「分譲マンション」)で届いたYahoo!ニュースなどの報道です。東京カンテイの調べによると、2026年8月の東京都(市部を含む)の中古マンション価格(70平米換算)は、前月比0.2%下落の1億1,274万円で、28か月ぶりの下落でした(出典:東京カンテイ「2026年8月 東京23区は-0.4%の12,677万円と3ヵ月連続の下落」)。
私は株式会社明誠の本間と申します。東京都東大和市を拠点に、マンション・ビル・ホテルの大規模修繕を20年以上やってきました。足場を組む工事も、足場を使わないロープアクセス工事も、現場で両方を経験しています。
結論を先に書きます。価格の調整局面では、立地や築年数に加えて、「管理と修繕の状態が説明できるか」が、買い手や金融機関に見られやすくなると私は考えています。外壁・防水・修繕積立金の状態を、売る・持つのどちらの場合でも早めに把握しておくことが、費用対効果の高い備えの一つだと私は考えています。
なお、この記事は報道された統計を起点にした一般論です。個別の建物の価値や売却価格を示すものではありません。具体的な判断は、不動産会社や専門家による現地確認を前提にしてください。
何が起きた?東京カンテイの数字を整理する
報道で分かっていること
東京カンテイが公表している2026年8月分の中古マンション価格(70平米換算)は、次のとおりです。数値は、いずれも東京カンテイの月例レポートに基づきます(出典:東京カンテイ 70㎡換算価格推移、2026年9月24日公表)。
| 地域 | 2026年8月の価格(70平米換算) | 前月比 | 補足 |
|---|---|---|---|
| 東京都 | 1億1,274万円 | -0.2% | 28か月ぶりの下落 |
| 東京23区 | 1億2,677万円 | -0.4% | 3か月連続の下落 |
| 首都圏全体 | 7,606万円 | +0.8% | 25か月連続の上昇 |
東京カンテイは、都心部で流通戸数・価格改定シェア・値下げ率に弱い動きが見られると説明しています。一方で、神奈川・埼玉・千葉の周辺3県は堅調で、首都圏全体では上昇が続いています。
数字を読むときの注意点
ここは、私がオーナーさまに毎回お伝えしている部分です。この数字は「市場に出た事例の平均」であり、あなたの建物の価格が下がったことを意味するものではありません。
理由は3つあります。1つ目は、70平米換算の平均価格が、その月にどんな物件が流通したか(立地・築年・規模の構成)で動くことです。2つ目は、下落幅が0.2%や0.4%と小さく、1か月の動きだけでは傾向と断定できないことです。3つ目は、首都圏全体ではむしろ上昇していることです。
つまり、今は「全面的に下がる」というより、エリアや物件ごとに差がつきやすい局面に入りつつあると読むのが、冷静な見方だと思います。
市場の別の見方も押さえておく
別の報道(2026年4月分のレインズ(不動産流通機構)データを扱った記事)では、不動産会社の担当者が、都心部の価格水準が一般的な会社員世帯には届きにくくなり、毎月の返済負担や将来の修繕積立金のリスクを気にして戸建てを選ぶ買い手が増えている、という趣旨のコメントを紹介しています(出典:ライブドアニュース)。
買い手が「将来の修繕積立金」を気にしているという点は、重要です。価格だけでなく、購入後にかかる修繕の費用と見通しが、判断材料になっているということだからです。
価格の調整局面で、買い手や金融機関は何を見る?
結論:「建物の状態を説明できる資料」があるかどうか
私が現場で多くの建物を見てきた経験上、同じエリア・同じ築年数でも、売却や借り換えの場面で話が進みやすい建物と、止まりやすい建物があります。その差は、築年数そのものよりも、修繕の履歴と今後の計画を、書類で説明できるかに表れやすいと感じています。
具体的には、次のような資料です。
- 長期修繕計画(今後の修繕の時期と費用の見通しをまとめた計画)
- 過去の大規模修繕工事の記録(時期・範囲・金額・保証書)
- 建築基準法第12条に基づく定期報告や外壁調査の記録
- 修繕積立金の残高と、今後の積立方針
- 直近の外壁・防水・シーリング(目地のゴム状の充填材)の劣化状況
これらが整理されていると、買い手側の不安が減り、価格交渉でも根拠のある説明がしやすくなります。逆に、資料がないと、買い手は「何があるか分からない」と考えて、保守的な見積りをしがちです。
管理の状態を「見える化」する国と民間の仕組み
管理状態を見える化する制度も、整ってきています。
| 制度 | 運営 | 概要 | 出典 |
|---|---|---|---|
| マンション管理計画認定制度 | 地方公共団体(国の制度) | 令和4年4月開始。長期修繕計画の計画期間、修繕積立金の平均額、総会の定期開催などを基準に認定。令和7年10月末時点の認定件数は3,060件 | 国土交通省 |
| マンション管理適正評価制度 | 一般社団法人マンション管理業協会 | 管理組合体制・収支・建築設備・耐震診断・生活関連の5カテゴリ30項目で評価。登録料は5,500円(税込)、評価の有効期間は1年 | マンション管理業協会 |
マンション管理適正評価制度の資料では、制度の目的として「定期的に管理状態をチェックし、居住・市場価値の向上を図る」ことが示されています。また、この制度に登録されたマンションを対象に、オリックス銀行が予定配当率を上乗せする「修繕積立金信託」の取扱いについて、2026年7月に募集を開始する予定と、2026年4月時点で発表しています(対象は一定の条件を満たす管理会社の管理物件に限られます)(出典:マンション管理業協会 2026年4月13日付資料)。
ただし、これらの制度の認定や評価が、実際の売却価格にどの程度反映されるかは、物件や市場によって異なります。制度を使えば価格が上がる、と断定できるものではありません。私は「管理状態を客観的に示す材料の1つ」として捉えるのが現実的だと考えています。
買い手が気にする「修繕積立金」の現実
買い手が気にする修繕積立金について、国の調査では厳しい数字が出ています。令和5年度マンション総合調査では、計画上の積立額に対して現在の修繕積立金の積立額が不足しているマンションの割合は36.6%で、前回調査から1.8ポイント増加しました(出典:国土交通省「令和5年度マンション総合調査結果」)。
同じ調査では、長期修繕計画(計画期間25年以上)に基づいて修繕積立金の額を設定しているマンションの割合は59.8%(前回調査比6.2ポイント増)でした。計画に基づく設定は進んでいる一方、積立の不足も増えている状況です。
では、積立金の水準はどのくらいが目安なのでしょうか。国土交通省の「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」(令和6年6月改定)では、専有床面積あたりの月額の目安(平均値)が、規模別に示されています。
| 区分(地上20階未満) | 月額の目安(円/㎡・事例の3分の2が収まる範囲) | 平均 |
|---|---|---|
| 延床5,000㎡未満 | 235〜430円 | 335円 |
| 延床5,000〜10,000㎡ | 170〜320円 | 252円 |
| 延床10,000〜20,000㎡ | 200〜330円 | 271円 |
| 延床20,000㎡以上 | 190〜325円 | 255円 |
地上20階以上の場合は、240〜410円(平均338円)です。機械式駐車場がある場合は、別途の加算が必要とされています(出典:国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」)。
このガイドラインは、将来の増額を前提にしない「均等積立方式」を、安定的な積立ができる方法として位置づけています。一方、段階的に増額する方式では、計画どおりに増額しようとしても、区分所有者間の合意形成ができず、積立金が不足する場合があると注意喚起しています。
オーナーの立場別|どこを見ればよいか
一棟マンション・賃貸ビルのオーナーさまの場合
収益不動産では、売却価格だけでなく、家賃収入の安定と出口(売却)の選びやすさの両方が大切です。外壁のタイル浮きや防水の劣化は、放置すると雨漏りや外壁の落下リスクにつながり、入居者の退去や賠償問題に発展することがあります。
見ておきたいのは、次の3点です。
- 雨漏りの履歴:いつ、どの部屋で、原因は何だったか
- 屋上・バルコニー・外廊下の防水:前回の施工時期と工法、保証の有無
- 外壁の状態:タイルの浮き、塗膜のチョーキング(白い粉が手につく現象)、シーリングの割れ
これらを把握していれば、売却を考えたときに「いつ・いくらの工事が必要か」を買い手に説明でき、値引き交渉の材料を減らせます。
分譲マンションの管理組合・区分所有者の場合
区分所有者の方が売却や住み替えを考える際に、買い手から聞かれるのは、管理費・修繕積立金の額、積立金の残高、直近の大規模修繕の実施時期と、次回の予定です。
理事会としては、今のうちに長期修繕計画と積立金の状況を点検し、必要なら見直しの議論を始めておくことが、将来の区分所有者全員の資産を守る行動になります。積立金の増額は住民の負担感が強く、合意形成に時間がかかります。市況が落ち着いている今のうちに、丁寧に説明する時間を確保しておくことをお勧めしています。
融資や借り換えの場面でも、建物の状態は見られる
売却だけでなく、融資の借り換えや追加借入の場面でも、担保となる建物の状態が確認されることがあります。金融機関によって見る項目は異なりますが、一般に、築年数、修繕の履歴、今後の大規模な支出の見通しは、説明を求められやすい項目です。
私の経験でも、「いつ・どの範囲の工事をして、次はいつ頃・いくら程度を見込んでいるか」を一枚の資料で示せるオーナーさまは、金融機関や買い手との話が前に進みやすい印象があります。もちろん、結果は個別の条件で変わりますので、あくまで一般的な傾向としてお伝えしています。
資料づくりは、専門的な知識がなくても始められます。まずは、過去の工事の時期と金額、現在の積立金の残高、気になっている不具合の3点を、1枚の表にしてみてください。この表が、調査や見積りを依頼するときの出発点にもなります。
現場で見る「差がつく建物」の特徴
私が最初に見る場所
私が建物を見せていただくとき、最初に確認するのは、地上から目で見える部分です。
エントランスまわり、外階段、外廊下の床と手すり、ひさしの裏、エアコン室外機の周辺、ベランダの排水口。こうした場所は、人の目に触れやすく、劣化が出やすい場所でもあります。
内覧に来た買い手や、物件を見に来た不動産会社の担当者も、同じ場所を見ています。外壁にひび割れや汚れが目立つ、エントランスの天井に雨染みがある、ベランダの床が膨れている。こうした「第一印象」は、建物全体の管理水準を連想させます。
見えない部分こそ、先に傷む
一方で、本当に怖いのは、見えない部分の劣化です。屋上防水の端部、外壁の目地、ベランダの笠木(手すりの上のカバー)まわりは、水が入りやすく、内部で劣化が進んでも外から分かりにくい箇所です。
私の経験では、「数年前に塗り替えたのに雨漏りがした」というご相談の多くは、塗装そのものではなく、防水やシーリングの処理が不十分だったことが原因でした。外観を整える工事と、水を止める工事は、別の目的を持つものです。この2つを混同すると、見た目はきれいでも、水の問題が残ってしまいます。
外装工事のやり方が、収益に影響する理由
外装の工事では、足場を組むかどうかで、費用と工期、居住者・入居者への影響が変わります。足場を組む工事では、仮設の費用がかかり、足場の設置期間中は、窓の開閉やベランダの使用が制限されることがあります。ロープアクセス工法(ロープで吊り下がって作業する工法)は、条件が合えば、足場の仮設・解体の費用や工期を抑えられる可能性があります。
ただし、ロープアクセスが有利かどうかは、建物の形状、作業量、工事内容で変わります。広い面積を全面的に直す工事では足場が適する場合もあります。ロープアクセスの基本的な考え方や安全基準は、姉妹サイトのロープアクセスドットコムでも解説しています。
明誠では、足場・ロープアクセス・両者を組み合わせたハイブリッド工法の3つを比べて、建物にとって合理的な方法を提案しています。一つの工法に決め打ちしないことで、費用と品質のバランスを見極めやすくなります。
| 工法 | 向いているケース | 注意点 |
|---|---|---|
| 通常の足場工法 | 全面的な改修、高い品質確認が必要な広範囲の工事 | 仮設費・工期がかかる。足場期間中は眺望・採光・防犯面の配慮が必要 |
| ロープアクセス工法(無足場) | 部分補修、打診調査、シーリング、小面積の塗装・防水 | 作業量が多い場合は割高になることも。建物の形状や周辺環境による制約あり |
| ハイブリッド工法 | 高層部は無足場、低層部は足場など、部位で使い分けたい建物 | 工程調整が必要。事前の現地調査での設計が大切 |
想定ケースで考える|築30年・5階建て・24戸の一棟マンション
ここからは、あくまで説明のための想定ケースです。実在の建物や実際の金額ではありません。
想定する建物
築30年、鉄筋コンクリート造5階建て、全24戸の一棟賃貸マンション。前回の大規模修繕は築18年で実施。現在のオーナーは、数年以内の売却も選択肢として考え始めています。
第1段階:現状の把握(1〜2か月)
まず、書類を集めます。前回の工事の見積書・竣工図書・保証書、長期修繕計画、12条点検の記録、雨漏りの履歴です。そのうえで、目視と打診による外壁の調査を行います。
ここで、足場を組まずに調査できるのが、ロープアクセスの強みの1つです。外壁の打診調査では、足場の費用をかけずに、全面の状態を確認できる場合があります。
第2段階:工事の優先順位づけ(1か月)
調査結果をもとに、「水に関わる工事(防水・シーリング・タイル補修)」と、「見た目に関わる工事(塗装・共用部の美装)」に分けて、優先順位をつけます。
売却を視野に入れる場合でも、水に関わる部分を先に確認し、必要な補修の範囲を明確にすることが、買い手への説明力を高めます。
第3段階:持つか売るかを見比べる
工事を実施してから売る場合と、現状のまま売る場合を、複数の視点で比べます。工事費と、工事後に期待できる価格や賃料の変化は、市況と建物次第で変わります。工事をしたほうが有利になる、と言い切ることはできません。不動産会社の査定と、改修会社の調査結果の両方を見て、判断することをお勧めしています。
最初の90日でやること|売る・持つの両方に役立つ5ステップ
売却するかどうか決まっていなくても、次の5つは、どちらの場合にも役立ちます。
- 書類を1つのファイルにまとめる(1〜2週間):長期修繕計画、過去の工事の見積書・保証書、12条点検の報告書、修繕積立金の残高が分かる資料を集めます。
- 雨漏り・不具合の履歴を整理する(1〜2週間):管理会社やサブリース会社、入居者からの連絡記録を、日付・場所・原因ごとに一覧にします。
- 外壁・防水の現況調査を依頼する(2〜6週間):目視、打診、必要に応じて赤外線調査やドローン調査を組み合わせます。足場なしで調べられる方法もあります。
- 工事の概算と優先順位を出してもらう(調査後2〜3週間):「今すぐ必要」「1〜3年以内」「長期で検討」の3区分で出してもらうと、判断しやすくなります。
- 3工法の見積りを並べて比べる:金額だけでなく、工期、居住者・入居者への影響、保証の内容も比較します。
調査にお金をかけることを、惜しまないでください
調査費用は、工事費に比べれば小さな金額です。にもかかわらず、「調査にお金をかけたくない」というお声をいただくことがあります。私は、調査こそ、工事費の無駄を減らす有効な方法の一つだと考えています。必要のない工事を省き、本当に必要な工事に予算を集中できるからです。
見積りは、金額だけで比べない
見積りを比べるときは、数量の根拠(面積・長さ・箇所数)が書かれているか、仕様(使用する材料の種類やグレード)が明記されているか、保証の範囲と年数が書かれているかを確認してください。安い見積りには、必要な工程が含まれていないことがあります。
注意点|この記事の読み方について
注意点①:統計は「平均」であり、個別の建物の価値ではない
東京カンテイの数字は、あくまで流通した事例の平均です。あなたの建物の価格や賃料がどう動くかは、立地・築年・管理状態・需給で変わります。
注意点②:制度は変わる
管理計画認定制度の基準は、見直しが進められています(国土交通省「マンション管理計画認定基準の見直し等について」令和7年11月)。補助金や融資の条件も、年度ごとに変わります。実際に使う際は、最新の公式情報を確認してください。
注意点③:工事をすれば価格が上がるとは限らない
修繕工事は、建物の価値を維持するための支出です。工事費がそのまま売却価格に上乗せされる、という関係ではありません。工事の要否と時期は、専門家の調査と、不動産会社の査定の両方を見て判断してください。
注意点④:工事中の入居者対応
賃貸物件では、工事中の騒音や、窓・ベランダの使用制限が、入居者の不満につながることがあります。事前の周知を早く、具体的に行うことが、退去の抑制につながります。
収益不動産オーナーに伝えたい、私の考え
市況が上向いているときは、建物の状態が多少悪くても、売れてしまうことがあります。しかし、市場が調整に入ると、買い手は、建物の状態をより細かく見るようになります。
私は、修繕を「コスト」ではなく、「建物の状態を説明できる状態にしておくための備え」と捉えています。大規模修繕の実績がある、積立金が計画どおりに積まれている、雨漏りの履歴がきちんと整理されている。こうした事実は、すべて、建物の信頼につながります。
足場を組むか、ロープで吊るか、両方を使うか。選べる工法が増えれば、建物ごとに合った方法を選べます。明誠は、その3つを比べて提案する会社として、オーナーさまと管理組合の「見えない不安」を、「見える数字」に変えるお手伝いをしていきたいと思っています。
よくある質問(FAQ)
Q1. 東京の中古マンション価格が下がったら、自分の建物の価値も下がりますか?
A. 一概には言えません。東京カンテイの数値は流通事例の平均で、2026年8月の東京都は前月比0.2%の下落、首都圏全体は0.8%の上昇でした。個別の建物の価格は、立地・築年・管理状態などで変わります。
Q2. 売却前に大規模修繕をしたほうがよいですか?
A. 状況によります。工事費が価格にそのまま反映されるとは限りません。まず現況調査で必要な工事の範囲を把握し、不動産会社の査定と比べて判断することをお勧めします。
Q3. 修繕積立金が足りているかは、どう確認すればよいですか?
A. 長期修繕計画の積立予定額と現在の残高を比べます。国土交通省の令和5年度マンション総合調査では、計画上の積立額に対して不足しているマンションが36.6%でした(出典:国土交通省)。
Q4. 管理計画認定やマンション管理適正評価は、取ったほうがよいですか?
A. 管理状態を客観的に示す材料になります。ただし、売却価格への影響は物件や市場で異なります。費用と手間、期待する効果を見比べて検討してください。
Q5. 足場なしで、外壁の調査はできますか?
A. 条件が合えば可能です。ロープアクセスによる目視・打診調査や、ドローン調査などがあります。建物の形状や周辺環境により向き不向きがありますので、現地確認のうえでご提案します。
Q6. 足場とロープアクセス、どちらが安いですか?
A. 条件で変わります。足場の仮設・解体費が不要な分、ロープアクセスが有利になる場合がある一方、作業量が多い工事では足場が適することもあります。両方の見積りを並べて比較することをお勧めします。
この記事のポイントまとめ
- 東京都の中古マンション価格(70平米換算)は2026年8月に前月比0.2%下落し、28か月ぶりの下落となった
- 東京23区は3か月連続の下落だが、首都圏全体では25か月連続の上昇で、エリアにより差がある
- 平均値は個別の建物の価値ではないため、冷静に受け止める
- 調整局面では、修繕履歴・長期修繕計画・積立金の状況を説明できるかが見られやすい
- 最初に、書類整理と現況調査を行い、3工法の見積りを並べて判断する
出典・参考資料
- 東京カンテイ「2026年8月 東京23区は-0.4%の12,677万円と3ヵ月連続の下落」(2026年9月24日)
- 国土交通省「令和5年度マンション総合調査結果」
- 国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」(令和6年6月改定)
- 国土交通省「マンション管理計画認定基準の見直し等について」(令和7年11月)
- 一般社団法人マンション管理業協会「マンション管理適正評価制度パンフレット」
- 一般社団法人マンション管理業協会「修繕積立金信託の取扱い開始について(2026年4月13日)」
- ライブドアニュース「東京23区の不動産市場に関する記事」
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この記事の執筆者
本間 幸紘(ほんま ゆきひろ)
株式会社明誠 代表取締役/東京都東大和市
マンション・ビル・ホテルの大規模修繕20年以上の実務経験。3工法(通常足場/ロープアクセス/ハイブリッド)から建物特性に応じて最適提案。日本初のロープアクセス工事フランチャイズ本部を運営。JCSA(一般社団法人 全国建設業支援協会)代表理事。
最終更新:2026年10月4日
建物の状態を、数字と書類で説明できる。それだけで、市況が動いたときの選べる道は広がります。まずは、長期修繕計画と過去の工事の記録を、1つのファイルにまとめるところから始めてみてください。ご相談だけでも遠慮なくお声がけください。お問合せフォームから承ります。これは私が現場で20年以上見てきた実感です。次回も、現場で本当に使える話だけをお届けします。
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「中古マンションが選ばれる時代」を直す側から読む——新築1億円超・中古成約2.2倍の2026年、オーナーと管理組合が“選ばれ続ける建物”になるための大規模修繕と工法最適化【2026年7月】
「築40年の中古マンションが、いま選ばれている」——そのニュース、直す側から見ると景色が違います
先日、ある記事が私の周りで少し話題になりました。「家を買うなら新築、はもう変わったのか。なぜ築40年前後の中古マンションが選ばれるのか」という趣旨のものです(出典:ITmedia ビジネスオンライン 2026年7月25日)。
この記事を読んでいて、私は「なるほど、買う側の価値観がここまで動いたか」と感じました。同時に、20年近く大規模修繕の現場に立ってきた人間として、もう一歩踏み込んだことを考えました。中古が選ばれる時代になったとして、では「選ばれ続ける中古」と「選ばれない中古」を分けるものは何か、ということです。
この記事は、賃貸マンションや収益ビルをお持ちのオーナーさま、築古の区分マンションを投資でお持ちの方、そして管理組合の理事長さま・修繕委員の方に向けて書いています。「うちの物件も築年数が気になってきた」「新築を建てる時代ではないと聞くが、では手持ちの建物をどうすればいいのか」——そんな漠然とした期待や不安を、公的なデータと、工事会社の立場から見た「本当に効く打ち手」に翻訳するのが狙いです。
結論から申し上げます。2026年のいま、建物で長く収益を上げる勝ち筋は「新しく建てる」ことではなく、「今ある建物を、正しい工法で、適正なコストで直し続けて活かす」ことに移っています。そして、その「直し方」の巧拙が、これからの中古市場で選ばれるかどうかを左右します。ここからが本題です。
数字で見る「新築離れ・中古選好」——2026年の市場構造
感覚論ではなく、公的なデータで現在地を確認します。
新築マンションは、ついに平均1億円台へ
不動産経済研究所の調査によると、2026年上半期(1〜6月)の首都圏の新築分譲マンションの平均価格は1億135万円となり、半期として初めて1億円台に乗りました。1平方メートルあたりの単価も151.4万円と高水準です(出典:日本経済新聞 2026年7月 不動産経済研究所 首都圏新築分譲マンション市場動向、不動産経済研究所 マンション市場動向)。
先ほどのITmediaの記事によれば、首都圏の新築マンションの平均価格は2015年には約5,500万円でした。それが10年で1億円を超えた計算になります。給料が2倍になった方はほとんどいませんから、「新築は現実的な選択肢から外れつつある」というのが、多くの購入検討者の実感でしょう。
中古の成約は、新築供給の約2.2倍
一方で、中古はどうか。東日本不動産流通機構(東日本レインズ)の集計では、2025年の首都圏の中古マンション成約件数は49,114件で、前年比31.9%増、3年連続の増加となりました。成約の平均価格は5,200万円で13年連続の上昇、1平方メートルあたりの単価も82.98万円で13年連続の上昇です(出典:東日本レインズ 季報 Market Watch)。
新築の供給が細る一方、中古は動いている。ITmediaの記事では、2025年の首都圏の新築マンション供給戸数が2万1,962戸と、オイルショック後の1973年以来という低水準まで落ち込み、中古の成約件数はその約2.2倍に達したと紹介されています。市場の主役が、静かに新築から中古へ移っているのです。
価格高騰は「二極化」も生んでいる
価格の上昇は、都心だけの話ではなくなってきました。不動産情報サービスのLIFULLは、都心の価格高騰の波が神奈川・埼玉・千葉にも及び、千葉県の船橋市・柏市、埼玉県さいたま市浦和区などが牽引して「局地バブル」ともいえる状態になり、同じ県内でも値上がりするエリアとそうでないエリアに分かれる二極化が進んでいると指摘しています(出典:株式会社LIFULL プレスリリース(2026年))。
これは買う側にとっては悩ましい話ですが、建物を持つ側にとっては示唆に富みます。立地という「動かせない条件」で差がつく以上、動かせる条件——つまり建物の状態と管理の質——で勝負するしかない物件も出てくるということです。同じエリア、同じ築年数でも、手入れの行き届いた建物が選ばれ、放置された建物が沈む。二極化の時代は、修繕の差がより残酷に効いてくる時代でもあるのです。
なぜ「築40年前後」が選ばれるのか
さらに興味深いのは、選ばれている中古の「築年数」です。リノベーション会社の調査では、利用者の8割以上が中古マンションを第一候補として検討し、首都圏で購入したマンションの平均築年数は36.5年、築40年前後の物件も珍しくないとされています(出典:ITmedia ビジネスオンライン 2026年7月25日)。
理由は、大きく3つに整理できます。1つ目は価格。築40年前後になると価格が下がりきって安定期に入り、買った後に価値が急落しにくい。浮いた予算をリノベーション(内装や設備の刷新)に回せます。2つ目は立地。築40年前後に建てられたマンションは、駅の近くや公園のそばなど、いまでは新築が建てられない一等地に建っていることが多い。3つ目は総量。そもそも数が多く、選択肢が豊富です。
私はこの3つの理由を読んで、あらためて思いました。買う人は「古いこと」を嫌っているのではない。「価値が読めないこと」を嫌っているのだ、と。
「選ばれる中古」と「選ばれない中古」を分けるもの=修繕の質
ここが、オーナーさまと管理組合にとって一番大事なところです。
築40年でも選ばれる物件がある一方で、同じ築40年でも見向きもされない物件があります。何が違うのか。立地や間取りももちろんありますが、私が現場で20年見てきて確信しているのは、「外から見える手入れの状態」と「これから直せる状態かどうか」が、想像以上に効いているということです。
買う人・借りる人は、外壁のひび割れ、鉄部のサビ、廊下やバルコニーの防水の傷みを、素人でも敏感に感じ取ります。そして中古の購入者の多くは、購入前に管理組合の「重要事項調査報告書」(そのマンションの管理・修繕の状況をまとめた書類)を確認します。ここには修繕積立金の残高、これまでの修繕履歴、長期修繕計画(今後の修繕の予定表)が載っています。積立金が枯渇していたり、大規模修繕が何年も先送りにされていたりすると、それだけで候補から外れることがあります。
とくに近年は、住宅ローンを扱う金融機関や、中古を仲介する不動産会社が、この管理状態を以前よりシビアに見るようになりました。「管理を買う」という言葉があるとおり、いまや中古マンションの評価は、部屋の内装以上に「建物全体がどう管理され、これからどう直されていくか」で決まります。オーナーさま個人の一室がどれだけ綺麗でも、建物全体の修繕が滞っていれば、その一室まで評価を下げられてしまう。ここに、区分所有という仕組みの難しさと、管理組合の役割の重さがあります。
正直に申し上げます。建物は、放っておけば必ず古びます。ですが「古びた建物」と「手入れされた建物」は、同じ築年数でもまったく別の資産です。前者は買い叩かれ、後者は選ばれる。この差を生むのが、計画的な大規模修繕(12年前後の周期で行う建物全体の改修工事)なのです。
私が忘れられない現場があります。ある築38年、80戸ほどの中規模マンションで、外壁のタイルが一部浮いていました。理事会では「まだ落ちていないから、次の大規模修繕まで待とう」という声が大半でした。私は打診調査(棒で叩いて浮きを探す検査)の結果をお見せしながら、「浮いているタイルは、いつ落ちてもおかしくありません。人に当たれば取り返しがつきません」とお伝えしました。結局、部分補修を先行することになり、剥落を未然に防げました。あのとき先送りしていたら、と考えると、私は今でも背筋が寒くなります。手入れの差は、資産価値の差であると同時に、人の安全の差でもあるのです。
「建て替え」という選択肢は、思うほど簡単ではない
「そこまで古いなら、いっそ建て替えては」と思われる方もいるでしょう。ですが、区分所有マンションの建て替えは、現実にはきわめてハードルが高いのが実情です。建て替えには原則として区分所有者の多数の合意が必要で、加えて解体・新築の費用負担、工事期間中の仮住まい、権利関係の調整など、乗り越えるべき壁がいくつも重なります。合意形成に何年もかかり、途中で頓挫する例も少なくありません。
制度面では区分所有法の見直しなど、建て替えや管理を円滑にしようとする動きも進んでいます。それでも「壊して建て直す」より「直して活かす」ほうが、時間・費用・合意形成のいずれの面でも現実的な選択肢であることが多い。だからこそ、市場全体としても中古を直して使う流れが強まっているのだと、私は現場で実感しています。壊すのは一瞬ですが、住み続けられる建物を守るのは、地道な修繕の積み重ねなのです。
賃貸・収益物件のオーナーにとっての「直す価値」
収益物件をお持ちのオーナーさまには、もう少し踏み込んだ話をさせてください。大規模修繕は「守りの支出」だと捉えられがちですが、実際には「攻めの投資」にもなり得ます。
外壁がくすみ、鉄部にサビが浮いた建物と、清掃・塗装が行き届いた建物では、内見に来た入居希望者の第一印象がまるで違います。第一印象は、成約率と家賃水準に直結します。私の経験上、修繕直後の物件で「募集して数週間で決まった」「近隣より家賃を下げずに済んだ」というお声を、オーナーさまから何度もいただいてきました。空室が1戸埋まるか埋まらないかで、年間の家賃収入は大きく変わります。戸あたりの修繕費を、この「空室を減らす効果」と「家賃を維持する効果」まで含めて考えると、見え方が変わってくるはずです。
ここでロープアクセス工法がもう一つ効いてきます。足場を組む工事は、その間の防犯不安や生活の不便から、既存入居者の退去につながることさえあります。足場を組まない、あるいは最小限にできれば、入居者を止めずに、収益を止めずに直せる。私はこれを、必ずワンセットでご提案するようにしています。
資産価値を守る大規模修繕——ただし、コストの壁がある
とはいえ、「では大規模修繕をしっかりやりましょう」で話が終わらないのが、2026年の難しさです。工事費そのものが上がり続けているうえに、それを支える修繕積立金が足りていないマンションが少なくありません。
修繕積立金ガイドラインは、令和6年に改定されている
国土交通省は「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」を令和6年(2024年)6月に改定しました。ポイントは、当初の積立額を低く抑えて後から段階的に上げていく「段階増額積立方式」で、計画どおりの値上げができず積立金が不足するケースが目立ってきたことを踏まえ、”適切な引上げの考え方”を示した点です。すでに徴収済みの積立金の残高も考慮して、今後の目安を出す計算に見直されています(出典:国土交通省 報道発表資料 令和6年6月 ガイドライン改定、修繕積立金に関するガイドライン(PDF))。
私はいつも理事長さまに、こうお伝えしています。「積立金の値上げは、住民の理解という一番のハードルがあります。だからこそ、同じ品質の工事をいかに賢く安く実現するか——つまり工法の選び方が、値上げ幅そのものを左右するんです」と。
コストの壁を越える鍵は「工法」——株式会社明誠の3工法最適提案
大規模修繕のコストで、意外と見落とされているのが「足場代」です。従来の大規模修繕は、建物全体に仮設足場(外壁を囲う鉄骨の作業床)を組みます。この足場の設置・解体・レンタルだけで、工事全体の2〜3割を占めることも珍しくありません。しかも足場は、住戸の窓をふさぎ、防犯上の不安を生み、居住者の生活に長期間の影響を与えます。
ここで、私たち株式会社明誠が強みとしているのが「3つの工法を、建物にとって中立的に提案できる」ことです。他社の多くは「足場ありき」か「ロープありき」のどちらか一方しか持っていません。私たちは両方を持っているからこそ、建物ごとに最適解を選べます。
3工法の比較
| 工法 | 概要 | 向いている建物 | コスト・工期の傾向 |
|---|---|---|---|
| 通常足場工法 | 建物全体に仮設足場を組む従来型 | 中低層、外壁が複雑な形状、全面的な打診・補修が必要な建物 | 足場費がかさむが、面での作業は安定 |
| ロープアクセス工法(無足場工法) | 屋上から産業用ロープで吊り下がり、足場を組まずに直接施工 | 高層、足場が組みにくい狭小地、部分補修、コスト最重視の建物 | 足場費を大幅に削減、工期短縮、生活影響が小さい |
| ハイブリッド工法 | 必要な部位にだけ足場を使い、それ以外はロープアクセスで施工 | 大規模・複雑で、総合的なコスト最適化が要る建物 | 全面足場より安く、全面ロープより確実 |
ロープアクセス(無足場工法)の3つのメリット
ロープアクセス工法とは、屋上から産業用ロープでぶら下がって高所を施工する、足場を組まない工法です。私がこの工法をご提案するとき、必ずお伝えするメリットは次の3点です。
1つ目は、足場コストの削減です。足場を組まない、あるいは最小限で済むぶん、工事全体の費用を抑えられます。2つ目は、工期の短縮です。足場の設置・解体という工程がなくなるため、着手から完了までが早い。3つ目は、居住者・利用者への影響が小さいことです。窓が長期間ふさがれず、賃貸物件なら入居者の生活を止めずに直せる。稼働中のホテルや満室のビルで、この違いは決定的です。
以前、狭い敷地に隣家がびっしり迫った物件で、「足場を組むスペースがなく、他社に断られた」というご相談を受けたことがあります。私たちはロープアクセスで屋上から吊り下がり、外壁の補修と塗装をやり切りました。理事長さまから「足場が無理だと言われて諦めかけていた」とお礼をいただいたとき、この工法を持っている意味を、あらためて実感しました。足場ありきの発想では「できない」で終わる工事が、手段を増やすだけで「できる」に変わる。これが、複数の工法を持つことの本当の価値だと私は思っています。
ただし、ロープアクセスが「不向き」なケースもあります
工事会社として、良い面だけを申し上げるつもりはありません。ロープアクセスにも不向きな場面があります。たとえば、外壁のタイルが広範囲に浮いていて全面的な打診・張り替えが必要な場合や、バルコニー内部の込み入った補修が多い場合は、足場を組んで面で作業したほうが確実で、結果的に安くなることもあります。だからこそ「ロープありき」で押し切らず、建物を実際に見てから工法を決めることが大事なのです。私はこの中立性こそが、お客さまの資産を守る近道だと考えています。
大規模修繕の全体像や工法の選び方については、大規模修繕工事のご紹介とロープアクセス工法のご紹介もあわせてご覧ください。
管理計画認定・長寿命化税制も「選ばれる建物」の武器になる
もう一つ、”選ばれ続ける建物”にするうえで知っておきたい制度があります。マンションの「管理計画認定制度」です。これは、長期修繕計画や修繕積立金の状況など、一定の基準を満たした管理組合を自治体が認定する仕組みです。認定を受けると、管理状態が「見える化」され、中古として売買されるときの安心材料になります。
さらに、認定を受けたマンションなどで一定の長寿命化工事(大規模修繕)を行うと、工事が実施された翌年度の建物部分の固定資産税が、おおむね6分の1〜2分の1減額される制度もあります(詳細・要件は自治体によって異なるため、必ず所在地の自治体と最新の国の資料でご確認ください/出典:国土交通省 マンション管理・再生ポータル)。
「きちんと直して、認定を取り、税の軽減も受ける」。この3点セットが揃った建物は、いざ売るときにも貸すときにも強い。私はこれを、資産価値を守るための”ワンセット”として、理事会でよくご説明しています。
オーナー・管理組合が今日からできる5つのチェック
難しく考える必要はありません。まずは次の5点を確認してみてください。
- 直近の大規模修繕はいつ実施したか(前回から12年以上経っていれば要検討)。
- 長期修繕計画は5年以内に見直されているか(令和6年改定のガイドラインに沿っているか)。
- 修繕積立金は、計画に対して不足していないか。段階増額方式なら、次の値上げは現実的か。
- 外壁・鉄部・屋上防水に、素人目にもわかる劣化サインが出ていないか。
- 見積りを取るとき、足場・ロープアクセス・ハイブリッドの3工法で比較検討したか。
とくに5つ目は、多くの管理組合で抜けています。足場前提の1社見積りだけで判断すると、本来削れたはずの足場費を丸ごと払うことになりかねません。3工法で比較すると聞くと難しく感じるかもしれませんが、要は「同じ工事を、どの手段で高所に届かせるか」を並べて見比べるだけです。手段が変われば費用も工期も変わる。それを知らずに1つの前提で判断してしまうのは、あまりにもったいない。
もう一つ添えるなら、大規模修繕は「最安の1社」を選ぶ入札ではありません。私は理事長さまに、金額だけでなく「劣化診断の丁寧さ」「工法提案の中立性」「工事中の居住者対応」まで含めて比べてくださいとお伝えしています。安さだけで選んだ結果、必要な補修が抜け落ち、数年後にまた足場を組む羽目になっては本末転倒だからです。
よくある質問(FAQ)
Q. ロープアクセス工法は、足場より品質が落ちませんか?
A. 施工内容が同じであれば、仕上がりの品質に差はありません。ロープアクセスは「作業員が高所へアプローチする手段」の違いであって、塗装や防水・補修そのものの工程は足場工事と同じです。ただし前述のとおり、全面的な打診・張り替えが必要な建物では足場のほうが適することもあります。
Q. 中古で売る予定はないのですが、それでも大規模修繕は必要ですか?
A. はい。売らずに保有し続ける場合でも、外壁の剥落は事故・賠償のリスクになり、劣化の放置は結局のところ将来の修繕費を膨らませます。長く貸して収益を得るためにも、計画的な修繕が最も確実な資産防衛です。
Q. 修繕積立金が足りていません。工事を諦めるしかないですか?
A. 諦める前に、工法の見直しと工事範囲の優先順位づけをおすすめします。3工法の比較で足場費を圧縮できれば、限られた予算でも必要な部位を守れる場合があります。まずは建物を見せていただくのが早道です。
Q. 大規模修繕の周期は何年ですか?
A. 一般的には12年前後を目安とすることが多いですが、建物の立地(海沿いは塩害で劣化が早いなど)や前回工事の仕上げ材によって適切な周期は変わります。周期はあくまで目安で、実際には定期的な点検で劣化の進み方を見ながら判断するのが望ましいと、私は考えています。
Q. ハイブリッド工法とは、具体的にどういう使い分けですか?
A. たとえば、面での補修が必要な低層部や複雑な形状の部分には足場を組み、平滑で作業しやすい高層部の外壁はロープアクセスで施工する、といった使い分けです。「全面足場」より足場費を抑えつつ、「全面ロープ」では届きにくい作業も確実に行えるため、大規模で複雑な建物の総合コスト最適化に向いています。
Q. まず何から相談すればいいですか?
A. まずは建物を実際に見せていただく無料調査からで大丈夫です。図面や過去の修繕履歴があれば、より精度の高いご提案ができます。工法を決めるのはその後で構いません。「うちの建物はどの工法が向いているのか」を一緒に整理するところから始めましょう。
おわりに
中古が選ばれる時代とは、裏を返せば「手入れの差がそのまま資産価値の差になる時代」です。新築という選択肢が遠のいたぶん、いま建物をお持ちの方には、直して活かすという確かな勝ち筋が残されています。しかもその勝ち筋は、正しい工法を選べば、思っているよりコストを抑えて実現できることがあります。値上げありき、足場ありきで諦める前に、一度立ち止まって選択肢を並べてみてほしいのです。
これは私が現場で20年見てきた、嘘偽りのない感想です。足場かロープか、という二択で悩む前に、まずは「この建物にとって何が最適か」をご一緒に考えさせてください。総会の前段階の整理や、工法比較のためのご相談だけでも遠慮なくお声がけください。お力になれることがあります(お問合せフォームはこちら)。次回も、現場で本当に使える話だけをお届けします。
出典・参考資料
- ITmedia ビジネスオンライン「「家を買うなら新築」は変わった? なぜ、築40年前後の中古マンションが選ばれるのか(2026年7月25日)」
- 日本経済新聞「不動産経済研究所、2026年上半期の首都圏の新築分譲マンション市場動向を発表」/不動産経済研究所 マンション市場動向
- 東日本不動産流通機構(東日本レインズ)「季報 Market Watch/首都圏中古マンション成約動向」
- 株式会社LIFULL「都心の価格高騰で神奈川・埼玉・千葉にも「局地バブル」発生、新築マンション価格の二極化が進む(2026年)」
- 国土交通省「「長期修繕計画作成ガイドライン」及び「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」の改定について(令和6年6月)」/マンションの修繕積立金に関するガイドライン(PDF)
- 国土交通省「マンション管理・再生ポータルサイト(管理計画認定制度・長寿命化促進税制)」
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税制・補助制度の適用可否や法的判断を保証するものではありません。制度の要件・金額・期限は年度や自治体によって異なるため、実際の適用にあたっては所在地の自治体および国の最新の一次情報をご確認ください。
株式会社明誠(東京都東大和市)は、マンション・ビル・ホテルの大規模修繕工事を手がけ、通常足場工法・ロープアクセス工法(無足場工法)・ハイブリッド工法の3つから、建物にとって最適な工法を中立的にご提案できる、日本でも数少ない会社です。無料調査・お見積りを承っております。
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都心3区の中古マンションが73カ月ぶり下落——「価格調整」局面で収益物件オーナーが資産価値を守る最後の砦は、大規模修繕の“工法選択”にある【2026年6月】
「都心のマンションは持っていれば上がる」。長くそう信じられてきた前提が、いま静かに揺らいでいます。2026年6月、東洋経済オンラインやダイヤモンド不動産研究所などが相次いで「都心3区の中古マンション価格が下落に転じた」と報じました。千代田・中央・港の都心3区で、成約価格が約6年ぶり(73カ月ぶり)に前年同月を下回ったという内容です。
私は大規模修繕の現場を20年以上預かってきましたが、こうした「価格の潮目」が変わる局面こそ、オーナーさんの真価が問われると考えています。なぜなら、金利も為替も海外マネーの動きも、私たちにはコントロールできません。けれど、自分の物件の「物理的な状態」と「維持管理コスト」は、唯一オーナー自身がコントロールできる変数だからです。
この記事では、いま都心マンション市場で何が起きているのかを公的データで整理したうえで、価格調整局面で収益物件オーナーと管理組合が資産価値を守るために何をすべきか、現場の視点で具体的にお伝えします。結論から言えば、これからは「選ばれる物件」と「選ばれない物件」の二極化が進みます。その分かれ目を握るのが、大規模修繕の進め方、とりわけ「工法選択」です。
いま都心マンション市場で起きていること——「73カ月ぶり下落」の中身
まず事実関係を、冷静に押さえておきましょう。
報道によると、都心3区(千代田区・中央区・港区)の中古マンションの成約平均坪単価は、2026年4月の739万円から5月には643万円へと、ひと月で約13%下がりました。成約された物件の平均価格で見ると、約1億4,600万円から約1億1,700万円へと、こちらは約20%の下落です。前年の同じ月と比べても2割ほど低い水準で、過去1年でもっとも低い成約価格になったと報じられています(ダイヤモンド不動産研究所、マンションリサーチ株式会社のレポートより、2026年6月時点)。
ここで一度、言葉の整理をします。「坪単価」とは1坪(約3.3平方メートル)あたりの価格のことで、物件の広さに関係なく値段の水準を比べるための指標です。「成約価格」は実際に売買が成立した価格で、売り出し価格(売主の希望額)とは別物です。つまり、売主が下げたというより、「実際に取引が成立した値段」が下がってきた、という点が今回のポイントです。
ただし、私はこれを「バブル崩壊」「投げ売り」と煽るつもりはありません。複数の専門家が指摘しているとおり、これは市場全体の暴落というより、これまで突出して高騰していた一部の物件で「実需(実際に住む人の予算)に見合った価格への調整」が進んでいる、という解釈が妥当だと考えています。
なぜ潮目が変わったのか——3つの構造変化
では、なぜこのタイミングで価格が頭打ちになったのでしょうか。背景には、いくつかの構造的な変化が重なっています。
ひとつは金利です。日本の政策金利が1%近辺まで上がってきたことで、住宅ローンや不動産投資の借入コストが上昇しました。借入金利が上がれば、同じ家賃収入でも手元に残る利益は減りますから、買い手が出せる価格には自然と上限ができます。
ふたつめは在庫の増加です。2026年に入ってから、都心部では売り出される中古マンションの数が増えてきたと報じられています。売り物が増えれば、買い手は選べる立場になり、強気の価格は通りにくくなります。
みっつめは、これまで都心のタワーマンション市場を支えてきた投資需要の変化です。中国経済の減速や、海外投資家・インバウンド需要の動きが変わったことで、「値上がり益(キャピタルゲイン)狙い」で都心物件を買っていた一部のマネーが、以前ほど勢いよく入ってこなくなった可能性が指摘されています。
参考までに、より長い目で見ると、国土交通省が公表している「不動産価格指数」では、マンション(区分所有)の価格は2010年平均を100とした基準で、2025年時点でおよそ220前後——つまり約2.1倍まで上がってきました(国土交通省「不動産価格指数」)。13年近くにわたって上がり続けてきたわけですから、どこかで一服する局面が来ること自体は、不思議ではありません。
「値上がり益の時代」から「実力の時代」へ
ここからが本題です。
価格が右肩上がりの時代は、極端に言えば「どんな物件でも持っていれば値上がりした」面がありました。多少手入れが行き届いていなくても、立地さえよければ価格が上がってくれたのです。けれど、価格が調整局面に入ると話は変わります。買い手が冷静になり、物件を選別し始めるからです。
私は、これを「値上がり益の時代から、物件の実力の時代へ」の転換だと捉えています。これからは、同じエリア・同じ築年数でも、「資産価値が保てる物件」と「じわじわ評価を下げる物件」の差がはっきり出てきます。
その差はどこから生まれるのか。立地はもう変えられません。総戸数も変えられません。けれど、変えられるものがあります。それが「建物の物理的なコンディション」と「修繕の財務的な健全性」です。具体的には、外壁・防水・鉄部などがきちんと維持されているか、長期修繕計画(今後の修繕の見通しを示した計画書)が現実的に組まれているか、そして修繕積立金が将来必要な工事に対して足りているか。これらは、オーナーや管理組合の努力で確実に動かせる変数です。
中古を買う人・貸す相手は「ここ」を見ている
買い手や借り手の立場に立って考えてみます。
中古マンションを買う人、とりわけ住むために買う実需層は、いまや管理状態をシビアに見ます。中古マンションの取引では「重要事項に係る調査報告書」を通じて、修繕積立金の総額、滞納の有無、長期修繕計画の有無、大規模修繕の実施履歴などが買主側に開示されるのが一般的です。積立金が枯渇していたり、大規模修繕の予定が立っていなかったりすれば、それは値引き材料になります。「買ったあとに一時金(追加の負担金)を求められるかもしれない」というリスクは、買い手にとって価格を下げる十分な理由になるのです。
賃貸でも同じです。外壁が色あせ、共用部に雨染みが残るような建物は、内見の段階で敬遠されます。価格調整で空室が出やすくなる局面では、この「第一印象の差」がそのまま稼働率の差、ひいては家賃水準の差になって表れます。
つまり、価格が緩む局面ほど、「きちんと維持されている建物」のプレミアムが効いてくるということです。
資産価値を守る現実解——大規模修繕の「工法選択」でコストを下げる
ここで多くのオーナーさんがぶつかる壁が、「資産価値のために修繕は大事だと分かっている。でも、その修繕費そのものが重いのだ」という現実です。資材価格は高止まりし、職人の人件費も上がっています。価格調整で売却益も家賃も伸びにくい局面で、修繕費だけが膨らんでいく——これでは利回りが削られる一方です。
だからこそ私は、「工事の中身を削る」のではなく「工事のやり方(工法)を見直す」ことをお勧めしています。同じ品質の修繕でも、工法を変えるだけで総額を大きく下げられる余地があるからです。
大規模修繕には、大きく分けて3つの工法があります。
| 工法 | 概要 | 向いている物件・状況 |
|---|---|---|
| 通常足場工法 | 建物全体に仮設足場を組んで施工する従来型 | 中低層、形状が複雑な建物、全面的な改修 |
| ロープアクセス工法(無足場工法) | 産業用ロープで作業員が降下して施工。足場を架けない | 高層、足場が組みにくい立地、部分補修、コスト最重視 |
| ハイブリッド工法 | 足場とロープアクセスを部位ごとに使い分ける | 大規模・複雑な物件で総合的にコストを最適化したいケース |
なかでも私が長く力を入れてきたのが、ロープアクセス工法です。これは産業用のロープを使い、作業員が建物の上から降下しながら外壁の塗装・補修や防水、シーリング(目地のゴム状の充填材)の打ち替えなどを行う、足場を架けない工法です。
ロープアクセスの利点は、まず仮設足場の架設・解体費がかからないこと。大規模修繕の費用のうち、足場関連は決して小さくない割合を占めます。ここを圧縮できれば、総額に対するインパクトは大きくなります。次に、工期の短縮が見込めること。足場の組み立て・解体に必要な日数が要らないぶん、工事全体が早く終わる傾向があります。そして、居住者や利用者の生活への影響を抑えられること。建物全体を足場とメッシュシートで覆わないため、日当たりや眺望、防犯面のストレスが軽くなります。賃貸物件であれば、「工事中だから」という理由での退去や空室リスクを抑えやすい、という実利にもつながります。
ただし、ロープアクセスが万能なわけではない
ここは正直にお伝えしておきます。ロープアクセスは、すべての物件・すべての工事に最適というわけではありません。
たとえば、外壁の広範囲を一度に張り替えるような全面改修や、バルコニー内部の込み入った作業など、足場があったほうが効率的で品質を担保しやすいケースもあります。建物の形状や周辺環境によっては、ロープを下ろす支点が取りにくいこともあります。
だからこそ、私たちは「ロープアクセスありき」では考えません。建物を実際に調査したうえで、足場が向く部分は足場で、ロープアクセスが向く部分はロープで、と部位ごとに使い分ける「ハイブリッド工法」を提案することが少なくありません。大切なのは、工法を売ることではなく、その建物にとっての総合的な最適解を見つけることです。3つの工法を自社の選択肢として持ち、フラットに比較提案できる会社は、日本でも多くありません。私たちはそこに価値があると考えています。
そもそも、なぜ建物は定期的に直さなければならないのか
価格や工法の話の前に、建物の劣化そのものを少し整理しておきます。ここを理解しておくと、修繕の優先順位が見えやすくなります。
外壁の塗装は、紫外線・雨・温度差にさらされ続けることで、年々保護機能が落ちていきます。塗膜が劣化すると、表面を触ると白い粉が手につく「チョーキング(白亜化)」が起き、やがてひび割れや色あせにつながります。塗装は見た目の問題と思われがちですが、実は建物内部への水の侵入を防ぐ「防水の最前線」でもあります。
シーリングは、外壁パネルやサッシまわりの目地を埋めているゴム状の充填材です。これも時間とともに硬化し、痩せたり切れたりします。シーリングが切れると、そこから雨水が壁の内部に入り込み、鉄筋の腐食やコンクリートの劣化を早めます。
屋上やバルコニーの防水層も同様です。表面の保護層が傷むと、下地まで水が回り、最悪の場合は最上階の住戸で雨漏りが発生します。雨漏りは、起きてから直すと費用も手間も跳ね上がります。
そしてもっとも注意したいのが、タイル外壁の「浮き」です。タイルが下地から剥がれかけている状態を放置すると、ある日突然、上階のタイルが落下します。これは資産価値以前に、通行人や居住者の安全に関わる重大事故になりかねません。だからこそ、建築基準法第12条では一定の建物に定期的な外壁の調査・報告が義務づけられているのです。
つまり大規模修繕は「きれいにするため」だけのものではなく、「水と劣化から建物の構造を守り、事故を防ぐため」のものです。一般的に12年前後が一つの周期の目安とされますが、立地や建物の仕様によって最適なタイミングは異なります。だからこそ、画一的な年数ではなく、現地の状態を見て判断することが大切になります。
足場とロープアクセス、それぞれの長所と短所を正直に
工法選択を語る以上、それぞれの長所と短所を公平にお伝えするのが筋だと考えています。
通常足場工法の長所は、作業の安定性と全面的な施工のしやすさです。建物全体を覆って一度に作業できるため、大規模な張り替えや、込み入った部位の作業に向いています。職人が安定した足場の上で作業できるため、作業効率が高い場面も多くあります。一方の短所は、架設・解体に費用と日数がかかること、工事期間中は建物がシートで覆われ、日当たりや眺望、防犯面で居住者にストレスがかかること、そして足場が近隣との距離問題や駐車スペースの確保を必要とする場合があることです。
ロープアクセス工法の長所は、足場費がかからないこと、工期が短くなりやすいこと、建物を覆わないため生活への影響が小さいこと、そして足場が組みにくい高層部や狭隘地でも施工できることです。短所は、一度に作業できる範囲が足場ほど広くないこと、天候の影響を受けやすいこと、そして広範囲の全面改修には必ずしも向かないことです。また、ロープアクセスは高度な技能と安全管理を要するため、施工者の技術力と資格・実績の見極めが、足場以上に重要になります。
この長所・短所を見比べれば、「どちらが優れている」という単純な話ではないことが分かります。要は、建物のどの部分を、どんな状態で、いつ直すのか。その条件に合わせて工法を選び、必要なら組み合わせる。これがハイブリッド工法の発想です。
数字で実感する——工法選択で「いくら」変わるのか
抽象論ではイメージが湧きにくいので、ざっくりとした目安で考えてみます。ここでお示しするのは、あくまで考え方を伝えるための概算であり、実際の金額は建物の規模・形状・劣化状況・地域によって大きく変わります。正確な数字は必ず現地調査のうえでの見積もりでご確認ください。
大規模修繕工事の費用は、一般に「仮設工事費(足場など)」「直接工事費(塗装・防水・タイル補修など実際の施工)」「諸経費」に大きく分かれます。このうち仮設足場の費用は、工事総額のおおよそ2割前後を占めると言われることが多く、決して無視できない金額です。
仮に、ある中規模マンションの大規模修繕で、足場の架設・解体に関わる費用が1,000万円かかるとします。建物の形状や工事内容によっては、この部分をロープアクセスやハイブリッドに置き換えることで、仮設にかかるコストを大きく圧縮できる余地があります。圧縮できた金額は、そのまま組合の負担軽減になり、あるいは「足場を浮かせたぶんで、本当に直すべき箇所により予算を回す」という前向きな選択にもつながります。
ここで大切なのが「一世帯あたりに換算する」感覚です。たとえば総戸数50戸のマンションで、工法見直しによって総額が500万円圧縮できたとすれば、単純計算で一世帯あたり10万円の負担軽減です。総会で「総額500万円」と言われてもピンとこなくても、「一世帯あたり10万円」と聞けば、合意形成は一気に進みやすくなります。私が現場で実感してきたのは、こうした「自分ごとに翻訳された数字」が、止まりかけた大規模修繕を動かす力になるということです。
賃貸オーナーの視点——「利回り」で考える修繕
収益物件を持つオーナーさんにとって、修繕は感情論ではなく、利回りの問題です。少し計算で考えてみましょう。
価格調整局面では、売却益(キャピタルゲイン)を当てにしにくくなります。すると、収益の柱は家賃収入(インカムゲイン)に戻ってきます。家賃収入を守るうえで効いてくるのが「稼働率」と「家賃水準」、そして「支出のコントロール」です。
たとえば、外壁や共用部の見た目が劣化して空室期間が延びれば、年間の実質家賃収入は確実に目減りします。逆に、適切なタイミングできれいに整えれば、内見時の印象が良くなり、空室の埋まりが早くなります。これは数字に直結します。家賃8万円の部屋が1部屋、空室期間を2カ月短縮できれば、それだけで16万円。10戸あれば、その効果は積み上がります。
一方で、修繕にかける支出を工法選択で抑えれば、同じ建物のコンディションを「より少ない支出」で維持できます。収入を守り、支出を抑える。この両面から、ネット利回り(諸経費を差し引いた実質的な利回り)を守るのが、価格調整時代のオーナーの基本戦略だと私は考えています。修繕を先送りして見た目を悪化させ、結果として家賃も売値も下げてしまう——これがいちばん避けたいシナリオです。
ホテル・宿泊施設のオーナーにも同じことが言える
今日(2026年6月)のニュースを見ても、ホテルの新築・改修の話題が続いています。重要文化財を活用した宿泊施設の開業や、地方都市での歴史的建物のホテル改修工事など、既存ストックを活かす動きが活発です。
ホテルや宿泊施設のオーナーにとって、外壁や防水の修繕は「稼働を止められない」という固有の難しさを抱えています。足場を建物全体に架けてしまえば、外観の印象が悪くなり、予約や客室稼働率に響きかねません。ここでもロープアクセス工法は、建物全体を覆わずに必要な箇所を補修できるため、「営業しながら直す」選択肢として有効です。マンションでも、ホテルでも、商業ビルでも、「利用者の生活・利用を止めずに資産価値を守る」という課題は共通しています。
長期修繕計画は「価格が緩んだ今」こそ見直す
長期修繕計画とは、これから30年程度の間に、いつ・どこを・いくらかけて修繕するかを示した計画書のことです。多くのマンションで作られていますが、「作って以来、一度も見直していない」というケースが少なくありません。
資材価格や人件費が上がっている今、数年前に作った計画の金額は、現実から乖離している可能性が高いです。計画上は積立金で足りるはずだったのに、いざ工事の段になって「全然足りない」と判明する——これがいちばん怖いパターンです。
価格調整で市場が落ち着いてきた今は、腰を据えて計画を点検する好機でもあります。工法の選択肢を織り込んだうえで計画を組み直せば、「想定よりも安く、想定よりも長く建物を保たせる」道筋が見えてくることもあります。計画の見直しは、専門家を交えて行うことをお勧めします。
オーナー・管理組合が「いま」打つべき3つの手
価格調整というニュースを前に、不安を感じる必要はありません。やるべきことは、むしろシンプルです。今日からできる順に整理します。
第一に、自分の物件の「健康診断」をすることです。前回の大規模修繕からの経過年数、外壁や防水の劣化状況、長期修繕計画と修繕積立金の残高のバランスを、いま一度棚卸ししてください。とくに、外壁タイルの浮きやひび割れは、放置すると剥落事故につながり、資産価値どころか賠償リスクの問題になります。建築基準法第12条に基づく定期報告(一定規模以上の建物に義務づけられた、専門家による定期的な調査・報告)の対象であれば、その結果も確認しておきましょう。
第二に、次の修繕の「見積もりの取り方」を変えることです。1社の言い値で進めるのではなく、工法の違いを含めて複数の提案を比較してください。「足場前提でいくらか」だけでなく、「ロープアクセスやハイブリッドならいくらか」を並べて初めて、本当に妥当なコストが見えてきます。
第三に、判断を急がないことです。価格調整局面は、裏を返せば「冷静に建物の足元を固める好機」でもあります。慌てて売るのではなく、維持管理で物件の評価を底上げしてから次の一手を考える——そのほうが、長い目で見て収益を守れるケースは多いはずです。
なお、補助金を活用できる場合もありますが、省エネ改修などの補助制度は年度ごとに内容が変わり、予算枠に達し次第その年度の受付が締め切られることが一般的です。利用を検討する際は、各自治体の公式情報で最新の要件と期限をご確認ください(参考:国土交通省「マンション管理・再生」関連情報)。
良い施工会社をどう見極めるか
価格調整局面では、工事費を抑えたいという思いから、つい「いちばん安い見積もり」に飛びつきたくなります。けれど、ここは慎重になっていただきたいところです。
近年、塗装・防水工事を手がける会社の倒産が増えているという報道もあります。工事の途中で施工会社が立ち行かなくなれば、工事は止まり、追加の費用や時間がかかり、結局は高くつきます。安さだけで選ぶことには、こうしたリスクがあるのです。
見極めのポイントはいくつかあります。まず、見積書の内訳がきちんと開示されているか。「一式」ばかりの見積もりは、後から追加請求が出やすい傾向があります。次に、工法の選択肢を提示してくれるか。足場一択ではなく、ロープアクセスやハイブリッドも含めて比較してくれる会社は、その建物に合った最適解を探そうとしている証拠です。そして、ロープアクセスを扱う場合は、その技術力と安全管理体制、実績を確認することです。
私たち明誠は、塗装・防水・タイル・電気・看板といった各分野の専門職が加盟するフランチャイズの形で、高い品質と適正な価格の両立を目指してきました。また、一般社団法人全国建設業支援協会(JCSA)の運営を通じて、建設業界全体の底上げにも取り組んでいます。こうした体制の背景には、「目の前の一棟を大切に直すこと」と「業界全体が誠実であること」は地続きだ、という私たちの考えがあります。
「直してから売る」か「そのまま売る」か——売却を考えるオーナーへ
価格調整のニュースを受けて、「いっそ売却を」と考えるオーナーさんもいるでしょう。その場合に悩ましいのが、修繕してから売るか、現状のまま売るか、という判断です。
一概には言えませんが、考え方の軸はあります。買い手は、購入後に大きな修繕費がかかると分かれば、その分を価格交渉の材料にします。とくに大規模修繕が長く行われていない物件は、「買ったあとにお金がかかる物件」として敬遠されやすくなります。一方で、修繕に大金をかけても、その全額がそのまま売値に上乗せされるとは限りません。
ですから、フルリノベーションのような大がかりな投資ではなく、外壁や共用部の「見た目と安全に直結する部分」を、工法選択でコストを抑えながら整える——という現実的な落としどころが、費用対効果の面で合理的なことが多いのです。ここでも、「いくらかけて、どこまで価値が戻るか」を冷静に見積もることが欠かせません。判断に迷うときは、売却に詳しい専門家と、修繕に詳しい専門家の双方に相談されることをお勧めします。
よくあるご質問(FAQ)
Q. 都心3区の価格が下がったということは、いま修繕にお金をかけても無駄になりませんか?
A. むしろ逆だと考えています。価格が緩む局面ほど、買い手や借り手は物件を選別します。維持管理が行き届いた物件は評価を保ち、そうでない物件は値を下げます。修繕は「コスト」ではなく、資産価値を守る「投資」として捉えるのが現実的です。
Q. ロープアクセス工法にすると、足場工法より品質が落ちませんか?
A. 作業の種類によります。外壁の塗装・補修やシーリングの打ち替え、防水の部分補修などはロープアクセスで十分な品質を確保できます。一方で全面的な張り替えなどは足場が向く場合もあります。だからこそ、部位ごとに最適な工法を組み合わせるハイブリッドのご提案をしています。
Q. 修繕積立金が足りていない場合、どうすればよいですか?
A. 選択肢は主に「一時金の徴収」「借入」「積立金の増額」の3つです。どれを選ぶにせよ、まず工事費そのものを工法選択で抑えれば、必要な金額自体が小さくなります。資金計画と工法は、セットで考えることをお勧めします。
おわりに
ニュースの見出しは、どうしても「暴落」「崩壊」と刺激的になりがちです。けれど、現場で建物と向き合ってきた私の実感は少し違います。市場が冷静さを取り戻すというのは、ごまかしの効かない、まっとうな時代が来るということでもあります。
立地や金利は変えられません。でも、自分の建物をどう守り、どう整えるかは、オーナーさんと管理組合の手の中にあります。私たちは、その建物にとっていちばん無理のない方法を、足場・ロープアクセス・ハイブリッドという3つの引き出しから一緒に探すお手伝いをしています。「うちの物件はどうだろう」と少しでも気になったら、見立てだけでもかまいません。お気軽にご相談いただければと思います。
価格の潮目が変わるいまだからこそ、足元を固める。それが、これからの時代に資産を守る、いちばん確かな一手だと考えています。
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大規模修繕の履歴が、収益物件の「売り時」を左右する——中古マンション在庫が動く2026年、オーナーが出口の前に確認すべき5つの実務
「そろそろ、この一棟を手放そうか」。
収益物件をお持ちのオーナーさまから、私がいま一番よくいただくのが、この出口(売却)のご相談です。
そして、ほぼ必ずセットで出てくるのが「大規模修繕は、売る前にやるべきか、やらずに売るべきか」という問いです。
正直に申し上げます。これは、物件によって答えが正反対になります。
ですが、判断の「ものさし」は共通しています。それが、本日お伝えする修繕履歴という考え方です。
私は外壁・防水の現場で20年やってきて、足場を組む工事も、ロープでぶら下がる無足場の工事も、その両方を見てきました。その立場から、いまの市場で収益物件のオーナーさまが損をしないために、出口の前に確認すべきことを整理します。
結論から先に申し上げます。出口で得をするオーナーさまに共通しているのは、特別なことではありません。「自分の建物の状態を、数字と記録で説明できる」——ただそれだけです。逆に、ここが曖昧なまま売りに出ると、本来の価値より安く見られてしまう。本日は、その差がどこで生まれるのかを、現場の言葉でお話しします。
1. 2026年のいま、中古マンション市場で起きていること
まず、足元の市場を私なりに整理させてください。判断の前提が変わってきているからです。
都心の高額帯では「売却の長期化」、ただし首都圏全体の在庫は減少基調
2026年に入ってから、一部のメディアで「山手線の内側で中古マンションの在庫が増えている」「都心離れが始まった」という指摘が出ています。高額帯の物件で売却までの期間が延び、需要が周辺県へ動いている、という見立てです。
一方で、公的な統計を見ると、景色は少し違います。
東日本不動産流通機構(東日本レインズ)のまとめでは、2026年2月の首都圏中古マンションの在庫件数は4万5,112件で、前年同月比0.2%減と、7か月連続で減少しています。成約件数は4,241件(前年同月比2.1%増)、成約平均価格は5,458万円(同9.5%上昇)で、㎡単価は70か月連続の上昇です(出典:東日本レインズ 不動産市場動向)。
つまり、「全体としては在庫が増えて値崩れしている」のではなく、一部の高額帯・特定エリアで売れ行きにばらつきが出ている、というのが実態に近い。私はこの差を、現場の感覚でこう読んでいます。
「市場全体が悪いのではなく、物件ごとの“選ばれる/選ばれない”の差が、はっきり値段と日数に出るようになった」。
ここが、修繕履歴の話につながります。買い手が選別を始めた局面では、建物のコンディションが、いままで以上に価格と売却スピードを左右するのです。
一棟収益ビルが「大規模修繕工事中」のまま売りに出る時代
もう一つ、私が最近目にして「なるほど」と思った動きがあります。
一棟もの(建物を丸ごと一棟保有する収益物件)の販売情報で、「大規模修繕工事中」「下地補修・シーリング工事・外壁塗装・防水工事を実施」といった条件を、わざわざ前面に出して売り出すケースが増えてきました。
これは売り手が、修繕を「コスト」ではなく「セールスポイント(買い手の安心材料)」として使い始めた、ということです。
かつては「修繕したばかり=出費した直後で利回りが下がる」とネガティブに見られがちでした。いまは逆に、「直近で大規模修繕済み=当面の大きな出費が読める」と、ポジティブに評価する買い手が増えています。
私はこの変化を、とても良い兆候だと思っています。建物を丁寧に直してきたオーナーさまが、その努力をきちんと値段で回収できる時代になりつつある、ということだからです。
現場で見た「履歴がある建物」と「ない建物」の差
少し、現場の話をさせてください。
以前、ある一棟ビルのオーナーさまから「売却を考えているが、外壁が気になる」とご相談を受けたことがあります。築20年を超え、タイルの一部に浮き(タイルが下地から剥がれかけ、叩くと空洞音がする状態)が出ていました。図面も、過去の修繕の記録も、ほとんど残っていない物件でした。
私が一番困ったのは、劣化そのものよりも「これまで何をしてきたか分からない」ことでした。
記録がないと、買い手は最悪を想定します。「下地までやられているかもしれない」「配管も限界かもしれない」と。結果として、本来は健全な部分まで割り引かれて値踏みされてしまう。これは、オーナーさまにとって本当にもったいない話です。
逆に、修繕の記録をきちんと残してきた建物は、強い。
「12年目に外壁と防水を一式やり、シーリングは18年目に打ち替えた」という履歴が一枚あるだけで、買い手の不安は一気に下がります。現場で20年やってきて、私が一番悔しい思いをするのは、丁寧に管理してきたオーナーさまが、記録がないというだけで安く買い叩かれる場面です。
だから私は、工事そのものと同じくらい、「記録を残すこと」を大切にしてください、とお伝えしています。
2. なぜ「修繕履歴」が収益物件の価格と速さを左右するのか
ここからが本題です。なぜ修繕履歴が、それほど効くのか。理由はシンプルです。
買い手が本当に見ているのは「これからいくらかかるか」
収益物件の買い手は、投資家です。投資家が見ているのは、表面的な利回りだけではありません。
「買った後、何年で、いくらの修繕費が追加でのしかかるか」——この将来コストの見通しこそが、買い手にとっての最大のリスクです。
ここで、国土交通省の調査が一つの目安になります。
国交省が200社・818件の工事事例を集計した「令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査」によると、戸あたりの工事金額で最も多かったのは100万〜125万円/戸の価格帯でした(出典:国土交通省 マンション大規模修繕工事に関する実態調査)。
仮に30戸の物件なら、単純計算で3,000万〜3,750万円。これだけのまとまった出費が「いつ来るか分からない」のと、「直近でやったばかりで、次は10年以上先」とでは、買い手の安心感がまったく違います。
修繕履歴とは、この将来コストの不確実性を下げる証明書なのです。だから価格と売却スピードに効きます。
区分所有なら、修繕積立金と長期修繕計画の整合も見られる
一棟ものではなく、区分マンション(建物の一室単位で保有する形態)を収益物件としてお持ちの場合は、もう一段見られるポイントがあります。管理組合の修繕積立金と長期修繕計画(将来の修繕を時系列で見積もった計画書)の状態です。
国土交通省は2024年6月に「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」を改定しました。
段階的に積立金を増やしていく「段階増額積立方式」について、計画初期の額は均等積立とした場合の基準額の0.6倍以上、最終額は1.1倍以内に収める、という考え方が新たに示されています(出典:国土交通省 修繕積立金ガイドライン改定)。
これは裏を返せば、積立金が極端に安く据え置かれている物件は、「いずれ大幅値上げか一時金徴収が来る」と買い手に警戒される、ということです。
区分の収益物件を売るなら、修繕積立金が計画に対して健全か、直近の大規模修繕がいつ行われたかを、買い手は必ず確認してきます。
売却査定の現場で、修繕履歴はこう効く
もう少し具体的にお話しします。
不動産会社が収益物件を査定するとき、外壁や屋上防水の状態は、査定額の調整項目として必ずチェックされます。「外壁に大きなひび割れがある」「屋上の防水が切れていて雨染みがある」となれば、買い手は補修費用を見込んで指値(値引き交渉)をしてきます。
このとき、修繕履歴があると交渉の景色が変わります。
「外壁・防水は3年前に一式実施済み、保証書もあります」と一枚の資料で示せれば、買い手は補修費の上乗せ分を差し引く理由を失います。つまり、修繕履歴は指値をはね返す盾になるのです。
私は、これを「攻めの履歴管理」と呼んでいます。工事をするだけでなく、いつ・どこを・どんな仕様で直したかを記録として残し、売却時にそのまま渡せる形にしておく。これだけで、同じ建物でも数十万円から、規模によってはそれ以上、手残りが変わってきます。
3. 「修繕してから売る」か「現状のまま売る」か——4つの判断軸
では、本丸の問いです。出口の前に大規模修繕をやるべきか、やらずに売るべきか。
私はいつもオーナーさまに、次の4つの軸で一緒に整理しましょう、とお伝えしています。
判断軸の比較
| 判断軸 | 「修繕してから売る」が有利 | 「現状のまま売る」が有利 |
|---|---|---|
| 建物の劣化状況 | 外壁のひび割れ・タイル浮き・雨漏りなど、見て分かる劣化がある | 劣化が軽微で、買い手が「すぐ直す必要なし」と判断できる |
| 買い手の層 | 実需に近い・修繕を嫌う個人投資家が中心 | 自分で直す前提のプロ・買取再販業者が中心 |
| 市場の状況 | 在庫が多く、差別化が必要な局面 | 売り手有利で、現状でも複数の買い手がつく局面 |
| 資金と時間 | 工事資金があり、売却を急がない | 手元資金を使いたくない・早期に現金化したい |
ざっくり言えば、「劣化が目に見えていて」「修繕を嫌う買い手が相手で」「急がない」なら、直してから売る方が有利になりやすい。逆に、プロが相手で早く現金化したいなら、現状のまま価格を調整して売る方が合理的なこともあります。
ただし、こういうケースは「修繕してから」が不利になる
両論併記でお伝えします。修繕してから売れば必ず得、というわけではありません。
第一に、かけた工事費がそのまま売値に上乗せできるとは限らないケースです。買取再販のプロが相手だと、「修繕済みでも自社基準でやり直す」ため、工事費を評価してもらえないことがあります。この場合、修繕は持ち出しになりかねません。
第二に、売却を急ぐのに工事期間を待てないケースです。大規模修繕は足場を組む一般的な工法だと、規模にもよりますが数か月かかります。その間に市況が変わるリスクもあります。
第三に、過剰な修繕です。出口が決まっているのに、20年先まで見据えた仕様で直してしまうと、回収できない投資になります。出口前の修繕は「買い手が安心する最小限」に絞るのが、私の考えです。
だからこそ、出口の前の修繕は「やるか・やらないか」の二択ではなく、「どこまでやるか・いくらで・どの工法で」まで含めて設計する必要があるのです。
4. 大規模修繕のコストを、出口から逆算して最適化する
「やる」と決めた場合、次は中身です。出口前の修繕は、コストの最適化がそのまま手残りに直結します。
工事費の約2割を占める「仮設足場」をどう削るか
ここで、多くのオーナーさまが見落としがちな数字をお伝えします。
先ほどの国交省の実態調査では、工事費に占める仮設工事費の割合は約22.8%でした(建築工事は約60.3%)(出典:国土交通省 マンション大規模修繕工事に関する実態調査)。
仮設工事の中心は、建物の周りに組む足場です。つまり、工事費のおよそ5分の1が、直接「直す」ためではなく「作業の足場を作る」ためのコストだということです。
戸あたり100万円の工事なら、ざっと20万円強が足場関係。これは「直した結果」として建物に残るものではありません。
出口を見据えるなら、ここを削れるかどうかは大きい。だから私は、足場をどう扱うかを最初に考えます。
ロープアクセス(無足場工法)という選択肢
そこで登場するのが、ロープアクセス工法です。
これは、産業用ロープで作業員が建物の上から吊り下がり、足場を組まずに外壁の補修や塗装、防水を行う「無足場工法」のことです(屋上などからロープで降りて作業する方法、とイメージしてください)。
足場を組まない分、仮設費を抑えられ、工期も短くできるケースが多い。さらに、足場がないことで居住者・テナントの生活や営業への影響が小さく、防犯面(足場を伝った侵入リスク)でも安心という副次的なメリットもあります。
ただし、ロープアクセスが万能というわけではありません。広い面を一気に塗る作業や、大量の資材を扱う工事では、足場の方が効率的なこともあります。だから私は、足場・ロープアクセス・その両方を部位ごとに使い分けるハイブリッド工法の3つを、建物ごとに比較してご提案するようにしています。
(工法の詳しい考え方はロープアクセス工法のご紹介、修繕全体の進め方は大規模修繕工事のご紹介をご覧ください。)
私はこれを、必ずワンセットで提案するようにしています。なぜなら、「足場ありき」で見積もると、削れたはずのコストが見えないまま埋もれてしまうからです。出口を控えたオーナーさまにとって、この差は手残りそのものです。
戸あたり換算で、自分の財布で考える
数字を、もう一度オーナーさまの財布感覚に落とし込みます。
戸あたり100万〜125万円という工事費のうち、約2割が仮設足場。仮にロープアクセスやハイブリッドで仮設の一部を圧縮できれば、戸あたり数万円〜十数万円の差が出ることもあります。30戸なら、その差は数十万円〜数百万円規模です。
もちろん、これは建物の形状や劣化状況によって大きく変わりますので、断定はできません。
ですが、「足場が当たり前」という前提を一度外して比較するだけで、出口の手残りが変わる可能性がある——この点だけは、ぜひ頭の片隅に置いていただきたいのです。
数字でイメージする——あくまで一例として
具体的なイメージを持っていただくために、あくまで一例として簡単な試算をしてみます。
築20年・30戸の一棟マンションで、外壁塗装・防水・シーリングを中心に大規模修繕を行うとします。先ほどの国交省データの戸あたり100万円を仮の基準にすると、工事費はおよそ3,000万円。このうち仮設工事が約2割なら、足場関係は600万円前後という計算になります。
ここで、建物の形状や立地が無足場施工に向いていて、仮設の一部をロープアクセスやハイブリッドに置き換えられたとします。仮に仮設費の一部を圧縮できれば、全体で数十万円から、条件次第では百万円単位の差が生まれることもあります。
繰り返しますが、これはあくまで前提を置いた一例で、実際の金額は建物ごとにまったく異なります。断定はできません。
私がお伝えしたいのは、金額の大小そのものではなく、「足場という前提を疑ってみる価値がある」ということです。出口を控えたオーナーさまにとって、この一手間が、最後の手残りを左右します。
5. なぜ私は「足場ありきの一社見積もり」を勧めないのか
工法の話をすると、必ずいただく質問があります。「結局、どの会社に頼めばいいのか」。
ここは利益相反になりますので、見出しで区切ったうえで、私の考えを正直に申し上げます。
相見積もりは、工法をまたいで取る
大規模修繕の見積もりは、複数社から取る「相見積もり」が基本です。これは多くのオーナーさまがご存じです。
ですが、見落とされがちなのは、工法をまたいで比較するという視点です。足場前提の会社ばかり3社に声をかけると、3社とも仮設足場のコストを前提にした見積もりが並びます。比べているようで、実は同じ土俵の中でしか比べていない。
私がおすすめしたいのは、足場前提の見積もりと、ロープアクセスやハイブリッドを含む見積もりを、並べて比べることです。そうして初めて、「この建物は、どの工法が一番コスト効率が良いのか」が見えてきます。出口を控えているなら、この一手間が手残りに直結します。
「安かろう悪かろう」を避ける仕組み
とはいえ、安ければいいという話ではありません。安い見積もりの裏で、下地補修の数量がごまかされていたり、塗料のグレードが落とされていたりすれば、結局すぐに再劣化します。それでは、売った後にトラブルの種を残すことにもなりかねません。
私たちは、塗装・防水・タイル・シーリングといった各分野の専門職が連携する体制で施工しています。各工程に専門の職人が責任を持つことで、「無足場でコストは抑えつつ、品質は落とさない」を両立させる——これが、私が現場でこだわってきたことです。
価格と品質は、本来トレードオフではありません。工法の選択と、職人の組み方しだいで、両立できる余地があるのです。
6. 出口の前に、オーナーが確認すべき5つの実務
最後に、読み終えたら何をすべきか。具体的なチェックリストにします。
- 直近の修繕履歴を一枚にまとめる。 いつ・どこを・いくらで直したかを時系列で整理する。これが買い手への「将来コストの見通し」になります。区分なら長期修繕計画と修繕積立金の状況も添える。
- 建物診断(劣化調査)を受ける。 いまの建物が「直してから売る」べき状態か、「現状で売れる」状態かを、客観的に把握する。主観で決めない。
- 修繕の範囲を「出口仕様」に絞る。 20年先までではなく、買い手が安心する最小限に。過剰修繕は回収できません。
- 複数の工法で見積もりを取る。 足場前提だけでなく、ロープアクセス・ハイブリッドを含めて比較し、仮設費を見える化する。
- 「修繕してから売る/現状で売る」を数字で比較する。 第3章の4つの軸に、工事費・想定上乗せ額・工期を当てはめ、手残りで判断する。
このうち、私が特にお伝えしたいのは4番です。
工法を比較するだけで、出口の手残りが変わることがある。けれど、足場前提の一社見積もりだけでは、その差はそもそも見えません。
「うちの建物は、足場とロープ、どちらが向いているのか」。
それだけでも、お問合せフォームからご相談いただければ、現場目線で一緒に整理します。売る前提でも、まだ売らない前提でも構いません。判断材料を増やすことが、オーナーさまの損を防ぐ一番の近道だと、私は考えています。
7. 6月は「総会・予算」の季節——出口の話を切り出す好機
ここで、季節の話を一つ。
6月は、マンション管理組合の通常総会が集中する時期です。区分の収益物件をお持ちの方なら、ちょうど管理組合から決算や修繕の議案が届いている頃でしょう。一棟ものでも、年度初めの予算を見直すには良いタイミングです。
私は、この6月という時期を、出口を考えるオーナーさまにこそ活用してほしいと思っています。理由は二つあります。
一つは、情報が手元に揃うからです。総会資料には、長期修繕計画の進捗、修繕積立金の残高、次回の大規模修繕の予定時期が書かれています。これは、買い手が見たがる「将来コストの見通し」そのものです。総会のタイミングで一度整理しておけば、いざ売るときの資料がそのまま使えます。
もう一つは、判断に使える時間があるからです。仮に「修繕してから売る」と決めても、工事の計画から完了までには時間がかかります。秋から冬の工事を狙うなら、夏前のいまから工法の比較や見積もりを始めるくらいで、ちょうど良い。慌てて決めた修繕ほど、過剰になったり割高になったりしがちです。
総会の議案を眺めながら、「この建物、あと何年で次の大規模修繕が来るのか」「そのとき、足場とロープ、どちらが合うのか」を一度考えてみてください。
理事会や管理会社との会話の中で、1分だけでもこの話題を出しておくと、半年後・1年後の判断がずいぶん楽になります。
8. よくある質問(FAQ)
Q. 大規模修繕をしてから売ると、工事費はそのまま売値に上乗せできますか。
A. できるとは限りません。実需に近い買い手なら評価されやすい一方、買取再販のプロが相手だと自社基準でやり直すため、評価されないこともあります。買い手の層を見極めることが先決です。
Q. ロープアクセス(無足場工法)は、足場を組む工事より必ず安くなりますか。
A. 必ずではありません。仮設足場の費用を抑えられるケースは多いですが、広い面を一気に施工する工事などでは足場の方が効率的なこともあります。建物ごとに比較するのが前提です。
Q. 売却を急いでいます。それでも修繕してから売るべきですか。
A. 急ぐ場合は、現状のまま価格調整で売る方が合理的なことが多いです。大規模修繕は規模により数か月かかるため、工期と市況変動のリスクを天秤にかけてください。
Q. 区分(一室)の収益物件です。何を準備すればよいですか。
A. 管理組合の長期修繕計画と修繕積立金の健全性が見られます。積立金が計画に対して不足していないか、直近の大規模修繕の実施時期を確認し、資料として用意しておくと売却がスムーズです。
Q. まだ売るか決めていません。それでも相談していいですか。
A. もちろんです。むしろ、出口を決める前に建物の状態と工法の選択肢を把握しておくことが、後悔しない判断につながります。
Q. 修繕履歴の資料は、どの程度まとめておけば十分ですか。
A. 完璧な書類でなくて構いません。実施時期・工事箇所・おおよその金額・施工会社・保証の有無が一枚で分かれば、買い手の不安は大きく下がります。見積書や工事写真が残っていれば、あわせて保管しておくとより安心です。
出典・参考資料
- 東日本不動産流通機構(東日本レインズ)「不動産市場動向(統計)」(2026年2月 首都圏中古マンション 成約・在庫データ)
- 国土交通省「マンション大規模修繕工事に関する実態調査」(令和3年度/200社818件、戸あたり工事費・仮設費割合)
- 国土交通省「「長期修繕計画作成ガイドライン」及び「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」の改定について」(令和6年6月)
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
出口の前にやるべきことは、突き詰めれば「自分の建物の状態を、客観的な数字で把握しておく」——ただそれだけです。
売る・売らないにかかわらず、ご相談だけでも遠慮なくお声がけください。総会や売却の前段階の整理だけでも、お力になれることがあります。次回も、現場で本当に使える話だけをお届けします。
▼ロープアクセス工法・無足場工法の詳細解説はこちら
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