【出版のご報告】『大規模修繕工事 職人だから言える本当の話』をAmazonで出版しました|見積書では見えない業界の裏側と、修繕積立金を守る発注術

はじめに|工事をする側の人間が、業界の内側を書きました

株式会社明誠 代表取締役の本間幸紘です。

このたび、初めての著書『大規模修繕工事 職人だから言える本当の話 ― 見積書では見えない業界の裏側と、修繕積立金を守る発注術』(明誠ブックス)を、AmazonのKindleストアで出版いたしました。発売日は2026年9月12日、本文274ページです。

▼ 書籍ページはこちら
https://www.amazon.co.jp/dp/B0HJLNPQ25/

正直に申し上げると、この本を出すかどうかは最後まで迷いました。私は大規模修繕工事を請け負う会社の経営者です。中立の第三者ではありません。これから批判する業界で、自分も家族を養い、ご飯を食べている当事者です。

それでも書こうと決めたのは、現場で25年以上、建物の外壁に触れ続けてきて、どうしても納得できないことがあったからです。

修繕積立金は、区分所有者の皆さまが月々数千円から数万円を、何年もかけて積み立ててきたお金です。そのお金が、何に使われるのかわからないまま出ていく。工事をする側の人間として、私はそれを恥ずかしいことだと思っています。

この記事では、本書に何を書いたのか、そしてなぜ書いたのかを、著者自身の言葉でご紹介させていただきます。


第1章|「その見積書には、何をいくつ直すのか書いてありますか」

マンションの大規模修繕工事は、10数年に1度の大きな買い物です。50戸のマンションであれば総額は数千万円。1住戸あたり100万円前後が動くことも珍しくありません。

家を買うとき、車を買うとき、私たちは仕様も金額も徹底的に比べます。ところが大規模修繕では、こういう見積書が当たり前に通ってしまう。

外壁タイル補修工事 一式 概算◯%

どのように、どれだけ直すのか。 発注する側の誰も把握しないまま、契約が結ばれていく。これが、この業界の日常です。

なぜ、そんなことが起きるのか。理由は驚くほど単純です。

建物の外壁は、足場を組まなければ誰も触れられなかったからです。

触れなければ、浮きの数も、ひび割れの長さも、シーリングの劣化具合もわからない。数量がわからないから比較できない。比較できないから価格競争が働かない。価格競争が働かないから、談合が成立する余地が生まれ、過剰な仕様が通り、追加費用を断れなくなる。

大規模修繕をめぐる不透明さは、すべてこの一点から始まっています。本書は、その構造を解剖し、発注する側が主導権を取り戻すための方法を書いた本です。


第2章|2026年6月、業界の常識が崩れた日

本書の序章のタイトルは「2026年6月、業界の常識が崩れた日」です。

2026年6月、マンションの大規模修繕工事をめぐる入札談合について、公正取引委員会が施工会社と設計コンサルタントあわせて約40社に対し、独占禁止法違反(不当な取引制限)で処分を行う方針であることが大きく報じられました。課徴金の総額は約16億円規模、対象となった期間は遅くとも2021年秋以降とされています。

報道のなかで最も重く受け止めたのは、本来は中立であるべき設計コンサルタントが受注調整に関与し、受注額の数%をバックマージンとして受け取っていたとされる点でした。

私はこのニュースを、驚きよりも「やはり表に出たか」という気持ちで受け止めました。現場で25年以上、同業者としてこの業界を見てきた人間として、構造的に起こりうることだと分かっていたからです。

誤解のないように申し上げますが、私は「設計監理方式そのものが悪い」と言うつもりはありません。設計コンサルタントの第三者性が正しく機能すれば、管理組合にとって心強い仕組みです。問題は方式の名前ではなく、中立性が担保される構造になっているかどうかです。

  • コンサルタントと施工会社の間に、資本・人的・取引上の関係はないか
  • 業者を集める役割を、一者に任せきりにしていないか
  • 複数社が同じ条件で見積りを出せる状態になっているか
  • 入札の経過が記録され、後から検証できるようになっているか

そして、これらすべての前提になるのが、繰り返しになりますが「数量が確定していること」です。数量が「一式」「概算」のままでは、どんなに公正な手続きを踏んでも、比較のしようがありません。

談合事件は、発注の仕組みを見直すきっかけとしては、あまりに痛いきっかけでした。それでも、ここで変わらなければ意味がない。本書を世に出そうと最終的に腹を決めたのは、この報道がきっかけです。

※本件は報道内容にもとづく概要です。処分の最終的な内容・対象事業者については、公正取引委員会の公表資料をご確認ください。


第3章|「12年周期」は、誰が決めたのか

第1章で扱った論点のひとつが、大規模修繕の周期です。

「マンションの大規模修繕は12年ごと」——これは業界でも管理組合でも、半ば常識のように語られています。ですが、12年という数字に法的な根拠はありません。

国土交通省の「長期修繕計画作成ガイドライン」(令和6年6月改定)では、外壁塗装や屋上防水などの修繕周期について、一定の目安が示されています。しかしそれはあくまで計画を立てるための標準的な想定であり、「12年たったら必ず工事をしなさい」という義務ではありません。

実際の建物は、それぞれ条件が違います。

  • 立地:海沿いで塩害を受けるのか、幹線道路沿いで排気ガスにさらされるのか
  • 方位:南面・西面は紫外線の影響が強く、北面は湿気とカビの影響を受けやすい
  • 仕上げ材:タイル張りか、吹付け塗装か、サイディングか
  • 前回工事の仕様と施工品質:どこまで丁寧に下地処理がなされたか
  • 日常のメンテナンス:シーリングの打ち替えや部分補修を都度行ってきたか

同じ築年数でも、状態はまったく違います。にもかかわらず、周期だけを根拠に工事を始めてしまうと、まだもつ部位まで一律に直すことになります。それが過剰仕様の温床です。

逆に、周期を機械的に延ばすのも危険です。タイルの浮きが進行しているのに「まだ12年たっていないから」と放置すれば、剥落事故のリスクが高まります。外壁タイルの剥落は、通行人に重大な被害を与えかねない事故です。

では、何を判断材料にすべきか。答えは単純で、建物の実際の状態です。カレンダーではなく、調査結果で決める。第1章と第3章は、この一点でつながっています。


第4章|本書の構成 ― 序章+全6章+終章+付録2本

全体像をご紹介します。

章 内容
序章 2026年6月、業界の常識が崩れた日
第1章 大規模修繕という「見えない買い物」
第2章 足場という聖域 ― 工事費の2〜3割はどこへ消えるのか
第3章 診断なき修繕はギャンブルである
第4章 ロープアクセスのすべて ― 限界も正直に書く
第5章 調査から施工まで、一気通貫という答え
第6章 職人が主役に戻る ― 日本初のロープアクセスFC
終章 明日から使える12のチェックリスト
付録1 見積書の読み方
付録2 大規模修繕 用語ミニ辞典

第1章では、「12年周期は誰が決めたのか」「相見積りが機能しない理由」「設計コンサルタントという立場の危うさ」「中間マージンという商流」「過剰仕様はこうして生まれる」といった論点を、ひとつずつ分解しています。

ビル・大手ホテルチェーン・賃貸物件のオーナー様に特有の論点も、独立した項目として扱いました。管理組合とオーナー様では、意思決定の構造も、時間の制約も、まったく違うからです。


第5章|足場という聖域 ― 工事費の2〜3割はどこへ消えるのか

第2章で扱ったのが、仮設足場です。

大規模修繕工事の見積書を開いたとき、最初に目に入るのが「仮設工事」の項目です。そして多くの現場で、ここが工事費全体の2〜3割を占めます。数千万円の工事なら、数百万円から1,000万円近くが足場に消える計算です。

もちろん、足場は必要なものです。作業量が多い工事、広い面を一気に仕上げる工事では、足場を組んだほうが安全で確実で、結果として安く済みます。私自身、足場を組む工事を今も数多く手がけています。

問題は、その費用構造が発注者から見えないことです。

本書の第2章では、

  • 仮設足場の費用が、どの項目にどう乗っているのか
  • 足場は「工事のため」だけに組まれているのか
  • 見積書に載らないコスト(居住者の生活制約、防犯リスク、営業補償など)
  • 足場が要らない部位と、足場でなければ無理な部位の線引き
  • ドローン・赤外線サーモグラフィー・打診棒の得手不得手

を、実務の数字で説明しています。

「一式」という2文字の下に何が隠れているのか。その中身を開いて見せる、というのが第2章の役割です。


第6章|本書の核心は第3章 ― 順序を変えれば、交渉の形が変わる

もし1章だけ読んでいただけるなら、第3章「診断なき修繕はギャンブルである」を読んでいただきたいと思っています。

外壁の全面打診調査は、じつは任意の追加サービスではありません。建築基準法第12条にもとづく定期報告制度のなかで求められている調査です。特定建築物定期調査において、タイル張りなどの外壁は、一定の条件下で全面打診が義務づけられています。

そして今は、足場を組まなくても、屋上からロープで降りて壁を叩き、浮きを確かめることができます。これがロープアクセス工法(無足場工法)による外壁打診調査です。

ここが決定的に重要です。

足場を組む「前」に、外壁の状態を数量で知ることができる。

数量が確定して、はじめて同じ土俵の相見積りが成立します。

  • タイルの浮きが何平米あるのか
  • ひび割れが何メートルあるのか
  • シーリングの打ち替えが何メートル必要なのか

これが数字で出ていれば、複数社に同じ条件で見積りを出させることができます。不要な工事が消えます。工法を選べるようになります。そして何より、仕様書を発注者の側が握れる。

業者を疑う必要そのものがなくなる ― 本書が示す出口は、ここにあります。

第3章では、あわせて「なぜ調査は工事とセットにされるのか」「外壁が落ちたとき、責任を負うのは誰か」「『無料調査』は信用していいのか」「調査報告書のどこを見るか」といった、実務で必ずぶつかる論点も扱いました。


第7章|自分に不利なことも、そのまま書きました

本を書くうえで、私が最も気をつけたのはポジショントークにしないことでした。

私はロープアクセス工法を推進する立場です。日本で初めてとなるロープアクセスのフランチャイズ本部も運営しています。だからこそ、この工法が万能ではないことを、自分の口から書く必要があると考えました。

第4章では、1章まるごとを使って「向かない建物・向かない工事」を列挙しています。

  • 作業面積が広く、作業量が多い全面改修
  • 上部に固定できる支点(アンカー)が確保できない構造
  • 外壁からの張り出しが大きく、ロープで降りても壁面に到達しにくい形状
  • 居住者・テナントの安全確保のため、確実に養生を要する条件

足場を組んだほうがいい建物は、確実に存在します。それを隠して勧める会社は信用しないでください ― 私自身も含めて、と本書には書きました。

そして私たちが実務で最も多く採用しているのが、ハイブリッド工法です。作業量が多い面や高所作業が集中する部分には足場を架け、部分補修で足りる面はロープアクセスで対応する。「全面足場」と「全面ロープ」の中間解として、コストと品質のバランスが最も取りやすい選択肢です。

第4章には「悪質な業者を見抜く9つのポイント」も収めました。これは私自身が、同業者として見てきたものを書いています。


第8章|理事会に、そのまま持ち込める形にしました

本書をつくるうえで決めていたことがもうひとつあります。読んで終わりの本にしないということです。

終章には、明日から使える12のチェックリストを収めました。工事が始まってからではなく、「工事の話が出る前」から順番に使えるよう並べてあります。

巻末付録も実務向けです。

付録1|見積書の読み方
仮設・下地補修・シーリング・塗装・防水・諸経費の項目ごとに、「あるべき記載」と「危険信号」を対比した一覧にしました。手元の見積書と並べて、一項目ずつ照合できます。

付録2|大規模修繕 用語ミニ辞典
理事会で飛び交う専門用語を、発注者の立場から必要な範囲でまとめました。「Uカット」「ピンニング工法」「エポキシ樹脂注入」「可とう性」——こうした言葉の意味がわかるだけで、説明を受けたときの理解度がまったく変わります。

理事会の資料として、修繕委員会の共通言語として、そのままお使いいただける形を目指しました。


第9章|こんな方に読んでいただきたい

具体的には、次のような方を想定して書きました。

  • マンション管理組合の理事、修繕委員の方
  • これから大規模修繕を控えている、または見積書を受け取ったばかりの方
  • 世間で話題になった大規模修繕工事の談合問題の本質的な課題と解決策を知りたい方
  • ビル・大手ホテルチェーン・賃貸物件を所有し、相談できる相手がいないオーナーの方
  • すでに他社の見積りを持っていて、その妥当性を確かめたい方
  • 修繕積立金の値上げを提案され、判断に迷っている方

274ページありますので、通読には時間がかかります。お急ぎの方は、序章と終章だけでも構いません。それだけでも、次の理事会でのご発言は変わるはずです。

そして、同業の皆さまにも読んでいただきたいと思っています。第6章「職人が主役に戻る」は、業界に向けて書いた章です。


第10章|職人が主役に戻る ― 本を書いて、あらためて思ったこと

原稿を書きながら、何度も立ち止まった論点があります。中間マージンという商流です。

元請けから一次下請け、二次下請けへと工事が流れていく過程で、実際に壁を触る職人の手元に残る金額は削られていきます。腕のいい職人ほど、割に合わないと感じて現場を離れていく。人が減れば、品質は落ちる。品質が落ちれば、建物の寿命が縮む。そのツケは、最終的に建物を所有する方が払うことになります。

私が日本で初めてロープアクセスのフランチャイズ展開を始めたのは、この流れを変えたかったからです。塗装・防水・タイル・電気・看板工事など、各分野の専門職が直接加盟し、それぞれの工程をその道のプロが責任をもって施工する。中間を減らせば、高品質と低価格は両立できるというのが、私たちの実践してきた答えです。

また、一般社団法人 全国建設業支援協会(JCSA)を通じて、全国の建設業者に向けた経営支援の情報発信、オンラインセミナー、交流会、ビジネスマッチングにも取り組んでいます。

発注者が正しい判断材料を持ち、職人が正当な対価を受け取る。この2つは対立しません。むしろ、数量が見える化されたときに初めて、両方が成立する。それが、本を1冊書き終えた今の実感です。


第11章|本書を読んだあと、実際にどう進めるか ― 5つのステップ

本を読んでいただいたあと、実務としてどう動けばよいのか。当社がご支援する場合の標準的な流れをご紹介します。ご自身で進められる場合も、順序は同じです。

ステップ1|長期修繕計画と過去の工事履歴を確認する
前回いつ、どこを、どの仕様で直したのか。図面、竣工時の仕様書、前回の工事報告書を集めます。ここが揃っているかどうかで、以降の精度がまったく変わります。書類が見当たらない場合は、管理会社に開示を依頼してください。

ステップ2|足場を組む前に、外壁の全面打診調査を行う
ロープアクセスによる打診調査で、タイルの浮き、ひび割れ、シーリングの劣化、鉄部の腐食、屋上防水の状態を確認します。必要に応じてドローン撮影や赤外線サーモグラフィーを併用します。成果物は、位置と数量が入った調査報告書です。「劣化しています」という所見だけの報告書では意味がありません。

ステップ3|調査結果をもとに、仕様書と数量表をつくる
「タイル浮き補修 ◯◯㎡」「シーリング打ち替え ◯◯m」「ひび割れUカット補修 ◯◯m」——この形にして初めて、複数社が同じ条件で見積りを出せます。ここが、発注者が主導権を握る瞬間です。

ステップ4|同条件で相見積りを取り、工法を比較する
足場仮設工法、ロープアクセス工法、ハイブリッド工法。同じ数量に対して、それぞれいくらになるのかを並べます。仮設足場が工事費の2〜3割を占めることを踏まえれば、工法選択がコストに与える影響の大きさが見えてきます。管理組合であれば、この比較表がそのまま総会の説明資料になります。

ステップ5|工事中・工事後の確認方法を決めておく
着工前に、施工記録の残し方(写真の撮り方、数量の実測方法、変更が生じたときの手続き)を取り決めます。「終わってみたら数量が増えていた」を防ぐのは、契約前の取り決めだけです。

当社では、外壁打診調査、漏水調査、散水調査、外壁塗装、防水工事、タイル補修、シーリング打ち替え、鉄部塗装、看板・サインの改修まで、建物に関することであれば一貫してご対応しています。あわせて、空室対策、不動産管理、地震保険や補助金・助成金の申請サポート、各分野の士業のご紹介など、オーナー様のお困りごとをトータルでご支援しております。


第12章|書籍情報とご購入方法

あらためて、書籍情報をまとめます。

項目 内容
書名 大規模修繕工事 職人だから言える本当の話
副題 見積書では見えない業界の裏側と、修繕積立金を守る発注術
著者 本間 幸紘(株式会社明誠 代表取締役)
レーベル 明誠ブックス
形式 Kindle版(電子書籍)
本文ページ数 274ページ
発売日 2026年9月12日
ASIN B0HJLNPQ25

▼ Amazon商品ページ
https://www.amazon.co.jp/dp/B0HJLNPQ25/

おかげさまで、Kindleストア「不動産」カテゴリで1位をいただきました。レビューも多数ちょうだいしており、「大規模修繕を始める前に読むべき一冊」「見積りを見る目が変わる」といったお声をいただいています。一級建築士の方から「よくぞここまで踏み込んで書いてくれた」というご感想をいただいたときは、書いてよかったと心から思いました。

※価格およびキャンペーンの実施状況は変動します。最新の情報はAmazonの商品ページでご確認ください。紙の書籍(ペーパーバック)版も準備を進めております。

Kindle端末をお持ちでない方も、スマートフォンやタブレットの無料Kindleアプリ、パソコンのブラウザからお読みいただけます。


よくあるご質問(FAQ)

Q1. 専門知識がなくても読めますか?

はい。専門用語には都度説明を入れ、巻末に用語ミニ辞典も収めました。想定読者はマンション管理組合の理事・修繕委員の方、つまり建築の専門家ではない方です。理事会で説明を受けたときに「何を聞き返せばいいか」が分かる状態を目標に書いています。

Q2. すでに見積書を受け取っているのですが、間に合いますか?

間に合います。巻末付録1「見積書の読み方」は、まさにその状況を想定してつくりました。仮設・下地補修・シーリング・塗装・防水・諸経費の項目ごとに「あるべき記載」と「危険信号」を対比していますので、お手元の見積書と並べて一項目ずつ照合してみてください。「一式」「概算」が並んでいる項目があれば、そこが確認すべきポイントです。

Q3. 分譲マンションではなく、賃貸やビルのオーナーでも役に立ちますか?

はい。第1章にビル・大手ホテルチェーン・賃貸物件のオーナー様特有の論点を独立して設けています。管理組合と違って総会決議は不要な分、意思決定は速い一方で、相談相手がいないまま業者の提案をそのまま受けてしまうケースが少なくありません。収益不動産では修繕費が直接利回りに効きますので、数量の見える化の効果はむしろ大きいと考えています。

Q4. 全面打診調査は、本当に足場なしでできるのですか?

できます。ロープアクセス工法(無足場工法)では、屋上のアンカーやパラペットなどに支点を設け、作業者がロープで降下しながら打診棒で外壁を打診します。浮きの位置と範囲を平面図に落とし込むことで、補修数量を平米単位で確定できます。建築基準法第12条にもとづく特定建築物定期調査での全面打診にも対応可能です。ただし、建物形状や支点の確保状況によっては適さない場合がありますので、現地確認が前提になります。

Q5. 調査だけを依頼することもできますか?

可能です。むしろ本書でお勧めしているのは、調査と工事の発注先を分けて考えることです。調査で数量が確定していれば、その数量を仕様書にして複数社から同条件の見積りを取ることができます。結果として当社以外の会社に発注されても構いません。発注者が数量を持っている状態こそが、この本の目的だからです。

Q6. 紙の本は出ますか?

紙の書籍(Amazon KDPのペーパーバック)も準備を進めております。理事会で回覧したい、修繕委員会で複数部そろえたい、というご要望をいただいておりますので、あらためてご案内いたします。

Q7. 本を読んだうえで相談したいのですが、費用はかかりますか?

ご相談は無料です。セカンドオピニオンとして、お手元の見積書や調査報告書を拝見することも可能です。「他社に発注することが決まっているが、内容の妥当性だけ見てほしい」というご依頼も歓迎しております。


まとめ|「何を、どれだけ、どの仕様で」を、発注する側が握るために

最後に、本書でお伝えしたかったことを3点に絞ります。

1. 不透明さの出発点は「数量がわからないこと」にある
談合も、過剰仕様も、断れない追加費用も、すべては「足場を組むまで外壁に触れられなかった」という一点から生まれています。原因が一点であるということは、そこを変えれば構造ごと変わるということです。

2. 順序を変えれば、交渉の形が変わる
足場を組む前に、ロープアクセスで全面打診調査を行い、数量を確定させる。それから相見積りを取る。この順序にするだけで、同じ土俵の比較が成立し、仕様書を発注者側が握れるようになります。

3. 工法に「唯一の正解」はない
足場が最適な建物、ロープアクセスが最適な建物、ハイブリッドが最適な建物。それぞれ確実に存在します。大切なのは、根拠を示して選べることです。「うちはこれしかできません」ではなく、「この建物にはこれが最適です」と説明できるかどうか。そこを見極めていただければと思います。

大規模修繕は、10数年に1度しか経験しない工事です。だからこそ、発注する側に経験が蓄積されにくい。その非対称性を少しでも埋めたくて、この本を書きました。

見積書を前に迷っておられる方、修繕積立金の値上げを提案されて判断に困っておられる方。まずは本書を開いてみてください。そして、それでも判断がつかないときは、セカンドオピニオンとしてお声がけいただければ幸いです。ご相談は無料です。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

株式会社明誠 代表取締役 本間 幸紘


▼ 明誠のロープアクセス工法 詳細はこちら
https://rope-access-method.com/


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我孫子市の賃貸マンション・アパートオーナー向け補助金|2026年版・入居率とNOIを底上げする大規模修繕

我孫子市の賃貸マンション・アパートオーナー向け補助金|2026年版・入居率とNOIを底上げする大規模修繕

この記事で答える質問:千葉県我孫子市に賃貸マンション・アパートを保有するオーナーが、2026年度(令和8年度)に使える補助金と税務・修繕の打ち手はどれか。そして、入居率とNOI(実質賃料収入)を守るために、いま何から動けばよいのか。

結論から申し上げます。我孫子市に「賃貸オーナーの大規模修繕にお金を出します」というド直球の制度はありません。ただ、これは我孫子市に限った話ではなく、全国165の自治体を1つずつ読んできた私の連載で言うと、むしろ標準です。

その代わりに我孫子市には、個人住宅向けの住宅リフォーム補助金、住宅用設備等の脱炭素化促進補助金、そして空き家関連の制度が並んでいます。私はこれらを「オーナーに直接効く1本」ではなく、「税務と融資と組み合わせて、はじめて意味を持つ道具箱」として見ています。

そして、我孫子市のオーナーさまがいま本当に取り組むべきなのは、補助金の申請以上に、入居率とNOIを1〜2ポイント底上げする大規模修繕の再設計です。これはロープアクセス工法(無足場工法)を選択肢に入れるかどうかで、投資利回りが目に見えて変わります。

私は東京都東大和市を拠点に、株式会社明誠として大規模修繕とロープアクセス工事を専門でやっています。今日は我孫子市のオーナーさま向けに、9,500字を超える長さで、税務・補助金・工事の3本柱を1本の記事にまとめました。

最終更新:2026年9月7日


この記事の結論:我孫子市のオーナーが動かすべきレバーは4本

先に全体像を出します。我孫子市に賃貸マンション・アパートを保有するオーナーが、2026年度に握れるレバーは4本です。

レバー 中身 オーナー視点の効き方
① 市の住宅リフォーム補助金の枠組み理解 我孫子市住宅リフォーム補助金(税込20万円以上の対象工事、自宅所有者向け) 自宅併用・区分所有・親族名義戸建て等の周辺物件に効く
② 住宅用設備等脱炭素化促進補助金 令和8年度・省エネ設備の設置支援 賃貸物件でも設備更新は入居率と光熱費訴求に直結
③ 修繕費/資本的支出の税務仕分け 損金算入で当期税負担を圧縮 手取りCFに直接反映。補助金以上に効くことが多い
④ ロープアクセス工法(無足場)による工事費削減 中低層アパート・小規模マンションで足場費を圧縮 1棟あたり数十万〜数百万円の直接コスト減

我孫子市の場合、①は限定的です。市の住宅リフォーム補助金は「市に定住する個人住宅所有者」が原則で、賃貸オーナーがそのまま使える制度ではありません(出典:我孫子市住宅リフォーム補助金、令和8年度手引きPDF)。

だからこそ、②〜④で稼ぐ設計が要ります。以下、順番に読み解いていきます。


我孫子市の賃貸市場を3つの数字で押さえる

制度の話に入る前に、我孫子市の賃貸市場の前提を数字で押さえます。ここを飛ばすと、修繕投資の意思決定が「なんとなく」で終わります。

都心通勤圏でありながら成熟した住宅都市

我孫子市は千葉県北西部、手賀沼と利根川に挟まれた人口約13万人の住宅都市です。JR常磐線と成田線が交わり、上野・東京・品川まで快速で30〜40分。志賀直哉ら白樺派の別荘地として発展した歴史があり、教育・文化水準の高いエリアとして知られてきました。

私はこの街を、次の3つの数字で見ています。

項目 位置づけ オーナー視点の含意
都心通勤時間 上野まで快速30分台 単身・DINKS・ファミリーの中間層に強い
住宅ストック年齢 昭和末期〜平成初期の中層アパート・分譲マンションが多い 築30〜40年帯の大規模修繕がまさに山場
高齢化と世帯構成 高齢者比率が高い一方、手賀沼周辺は子育て世帯にも人気 サ高住・見守り型賃貸+子育て向けの二極化

我孫子市に賃貸を持つオーナーさまは、この二極化を意識せずに一律のリフォームをかけると、投下資本のリターンが平均化されて弱くなります。単身・高齢向けの住戸と、若年ファミリー向けの住戸で、修繕予算の配分そのものを変える必要があります。

賃料は動かなくても、退去1回で数十万円飛ぶ

我孫子市の中古アパートで賃料が動く幅は、正直、大きくありません。1Kで数千円、ファミリー向けで1万円前後。ここで戦うより、私はいつも「空室期間を1か月縮める設計」の話をします。

たとえば1戸あたり月額7万円のアパートで、退去のたびに空室が2か月出ているとします。募集開始から成約まで1か月短縮できれば、それだけで年間ベースの実質利回りは0.5〜1ポイント動きます。物件価格が5,000万円なら、キャッシュベースで年25〜50万円の差です。

大規模修繕の意思決定は、この「入居率を落とさないための投資」として組むべきです。景観と外壁の見映え、共用廊下の清潔感、鉄部の錆の抑制。この3つは、募集写真の第一印象に直結します。


【背骨①】我孫子市住宅リフォーム補助金の「賃貸オーナーへの効き方」

まず、我孫子市の代表的な住宅系補助金である「我孫子市住宅リフォーム補助金」を読み解きます。多くのオーナーさまが「賃貸には使えないんですよね?」と最初に聞かれる制度です。

制度の骨格

我孫子市住宅リフォーム補助金は、市内の住宅所有者が市内施工業者を使って行う一定のリフォーム工事に対して、費用の一部を補助する制度です。令和8年度の手引きによれば、対象工事費が税込20万円以上であること、市に住所を有する個人がその住宅を所有していることなどが要件になっています(出典:我孫子市住宅リフォーム補助金 手引きPDF R8)。

この制度の性格は「市内経済循環型のリフォーム補助」です。市内の建設業者に発注することが要件になっている点も、その狙いを表しています。

賃貸オーナーは「原則対象外」だが、道はある

賃貸マンション・アパートの共用部工事や、投資用物件のリフォームは、原則としてこの補助金の対象にはなりません。ここは正直にお伝えします。

ただ、私が我孫子市のオーナーさまと話していると、次のようなケースが少なくありません。

  • 自宅の1階を店舗・事務所として賃貸し、2〜3階を自宅として使っている自宅併用型物件
  • 区分所有マンションの1住戸を自宅、別の住戸を賃貸として持っている自宅+区分投資型
  • 我孫子市内に個人所有の戸建てを親族に貸している(形式的には賃貸だが実態は自宅相当)ケース

こうした場合、「所有者本人の住居部分に係る工事」であれば適用余地があることが手引きから読み取れます。ここは窓口の判断ですので、担当課である建築住宅課への事前相談が必須です(我孫子市 建築住宅課)。

私はいつもオーナーさまに、「制度が使えないと決めつける前に、1本電話をかけてください」とお伝えしています。1時間の相談で、20万円の補助が動く可能性が残っているなら、動かない理由はありません。

20万円の補助を、税務と組み合わせる

仮に自宅併用部分で20万円の補助が下りたとします。ここで大切なのは、補助金は原則として雑収入計上が必要である点です。個人事業として不動産賃貸をされている方が補助金を受け取った場合、その分は所得として認識されます。

「補助金は非課税」と思い込んでいるオーナーさまが少なくないのですが、これは違います。国税庁の見解でも、給付目的に応じた課税関係の整理が必要とされています(参考:国税庁タックスアンサー)。顧問税理士との打ち合わせで、「補助金の入金月」と「対応する修繕費・資本的支出の計上月」をそろえておくのが、私の推奨です。


【背骨②】令和8年度・住宅用設備等脱炭素化促進事業補助金の使いどころ

我孫子市の環境系補助金として、令和8年度の「住宅用設備等脱炭素化促進事業補助金」があります(出典:我孫子市 住宅用設備等脱炭素化促進事業補助金)。

賃貸物件でも設備更新は投資対効果が読みやすい

この補助金は、太陽光発電、蓄電池、V2H充放電設備、家庭用燃料電池(エネファーム)、電気自動車、HEMS、断熱窓の設置などが対象になっています(詳細と要件は年度・改正で動きます。必ず窓口確認をお願いします)。

賃貸オーナーの視点では、次の使い方が現実的です。

  • 共用部のLED化+高効率給湯器の切替で、共用部電気代・ガス代を圧縮
  • 満室時に専有部の断熱窓を先行更新し、次回募集の光熱費訴求に使う
  • 太陽光+蓄電池をサ高住・見守り賃貸の付加価値として組み込む

このうち、共用部の高効率設備は減価償却資産としての取り扱いが基本になります。私が現場で見ていて感じるのは、「共用部の光熱費が1万円下がる」ことの威力です。管理費に組み込んで賃料相当を維持できれば、実質賃料は上がったのと同じ効果です。

断熱窓は、退去率を下げるレバー

賃貸物件で意外と効くのが窓の断熱です。単板ガラスのアルミサッシから、樹脂サッシ+Low-E複層ガラスに替えるだけで、冬の結露と夏の遮熱性能が別物になります。

我孫子市の場合、手賀沼周辺の中低層アパートでは、冬場の結露によるカーテン・壁紙の汚損クレームが少なくありません。この1点だけで退去率が動くケースがあります。国の先進的窓リノベや子育てグリーン住宅支援事業と組み合わせられれば、投下資本の回収は一段速くなります(出典:国土交通省 住宅の省エネリフォーム支援策)。


【背骨③】修繕費/資本的支出の税務仕分けを、補助金より先に整理する

これは、我孫子市に限らずすべての賃貸オーナーさまに毎回申し上げていることです。

補助金の20万円より、税務処理の仕分けの方が、キャッシュに大きく効く場面が多い。

修繕費と資本的支出の区分

国税庁は、修繕費と資本的支出の区分について明確な考え方を示しています(出典:国税庁 修繕費とならないものの判定)。

大まかな整理はこうです。

区分 内容 税務処理
修繕費 通常の維持管理・原状回復 全額当期損金算入(当期の税負担を圧縮)
資本的支出 使用可能期間を延長/価値を高める支出 減価償却(複数年で費用配分)

同じ「外壁塗装」でも、既存塗装の劣化補修に留まれば修繕費として整理される余地がありますが、下地からの全面改修や、耐久性を大きく向上させる仕様変更を伴う場合は資本的支出に区分される可能性が高くなります。

「30万円」「60万円」「10%」を覚えておく

税務上、修繕費と資本的支出の判定には形式基準があります。

  • 一の修理・改良のために要した金額が60万円未満であれば、修繕費として処理できる(原則)
  • 対象資産の取得価額のおおむね10%相当額以下であれば、修繕費として処理できる(原則)
  • 少額または周期の短い修繕(3年以内周期)は、金額にかかわらず修繕費

(詳細は必ず国税庁の通達と顧問税理士に確認してください)

私が現場で見ていて感じるのは、「発注書と見積書の書き方1つで、税務処理の結論が動く」ということです。外壁塗装と屋上防水と鉄部塗装を1本の契約書で括るのか、部位別に分けて発注するのか。この設計だけで、その年の所得税・法人税が数十万円単位で動くことがあります。

大規模修繕の設計段階で、顧問税理士を巻き込んで発注書のかたちを決める。これが、我孫子市のオーナーさまへの私の第1提案です。


【背骨④】ロープアクセス工法で、我孫子市の中層物件の工事費を圧縮する

ここからが、私が株式会社明誠として最も自信を持ってお話しできる領域です。

我孫子市の物件ストックとロープアクセスの相性

我孫子市に多い中層アパート・小規模マンション(3〜7階建て)は、実はロープアクセス工法(無足場工法)と非常に相性が良い建物群です。

一般的な仮設足場を組む場合、建物の外周にぐるりと足場を架け、防音・防塵の養生シートで覆います。この費用が、外壁塗装工事費の20〜30%を占めることが少なくありません。中規模の物件で言えば、足場だけで100万〜300万円が動きます。

ロープアクセス工法は、産業用のロープ2本を使って、屋上から作業員が懸垂下降しながら塗装・防水・シーリング打替・タイル部分補修などを行う工法です。足場を組まないため、この足場費用そのものが不要になります。

詳しくはロープアクセスドットコムに工法の説明と施工事例をまとめていますので、比較検討の材料としてご覧ください。

オーナー視点での「入居者への影響」

もう1つ、ロープアクセス工法がオーナーさまに効くのは、入居者の生活影響が小さいことです。

足場を組むと、次の負担が発生します。

  • 全戸のバルコニー使用制限(洗濯物を干せない、植木鉢を移動しなければならない)
  • 窓の開閉制限(防犯上、面するバルコニー側は施錠推奨)
  • 日照の低下(養生シートで室内が暗くなる)
  • 「見られている感」への不快感

これらは、退去理由の引き金になります。私は過去、ある首都圏の物件で「大規模修繕がきっかけで3戸連続退去した」という管理会社の悲鳴を聞いたことがあります。オーナー側から見ると、工事費だけでは見えないコストです。

ロープアクセス工法なら、作業員がロープで下降する時間帯だけ窓を閉めていただければ、生活はほぼ通常通り継続できます。ファミリー物件・サ高住・見守り型賃貸のように、日中在宅の入居者が多い物件では、この差は決定的です。

3工法の使い分けで、我孫子市の物件は最適化できる

私が本間として株式会社明誠を運営している中で、常にお伝えしているのは「通常足場・ロープアクセス・ハイブリッドの3工法を、建物と入居者特性に応じて使い分ける」という考え方です。

工法 向く物件 オーナーメリット
通常足場 低層・複雑形状・大規模一斉更新 全面同時工事で工期集中
ロープアクセス 中高層・シンプル形状・部分補修 足場費削減+入居者影響最小
ハイブリッド 大規模・複雑・部位別最適化 総合コスト最適化

我孫子市に多い中層アパートなら、外壁塗装とシーリングはロープアクセス、屋上防水は屋上作業なので足場不要、玄関周りだけ簡易足場、というハイブリッド設計で、通常足場の見積もりから15〜25%圧縮できるケースがよくあります。

ロープアクセスドットコムには、実際の施工前後の写真と工事費の比較データを載せていますので、我孫子市の物件で見積もりを取る前に、一度ご覧いただくとイメージしやすいと思います。


銀行融資・アパートローンで、修繕投資の資金繰りを整える

補助金と税務の話をしてきましたが、現実には修繕投資は融資で組むことが多いというのがオーナーさまの実感でしょう。

修繕ローンとDSCR

大規模修繕をローンで賄う場合、銀行が見るのは主にDSCR(Debt Service Coverage Ratio、債務返済カバー率)です。

DSCR= NOI ÷ 元利返済額

DSCRが1.2〜1.3を下回ると、金融機関の審査は目に見えて厳しくなります。我孫子市の中古アパート・マンションでよくあるのが、「築古で家賃が緩やかに下がり、DSCRが1.1台まで落ちているところに修繕融資を上乗せしようとして通らない」ケースです。

この打開策として、私は次の順番をお勧めしています。

  1. まず修繕費/資本的支出の仕分けで当期税負担を圧縮し、手取りCFを底上げする
  2. ロープアクセス工法による工事費圧縮で、必要融資額そのものを下げる
  3. 対象工事に住宅金融支援機構のマンション共用部リフォーム融資などの公的資金を組み込む余地を検討する(出典:住宅金融支援機構)

住宅金融支援機構のマンション共用部リフォーム融資は、分譲マンションの管理組合向けが主ですが、賃貸オーナー向けにも金融機関経由で活用可能な商品があります。金利水準や条件は時期で変動しますので、機構と取引金融機関の両方で確認するのが定石です。

相続税評価と小規模宅地等の特例

もう1つ、賃貸不動産オーナーが忘れがちなのが相続税評価の視点です。

賃貸マンション・アパートは、更地に比べて相続税評価額が下がる(貸家建付地・貸家)ため、相続対策として重宝されてきました。ここに小規模宅地等の特例(貸付事業用宅地等、200㎡まで50%減額)が乗るかどうかで、次世代への引継ぎコストが大きく変わります(出典:国税庁 小規模宅地等の特例)。

我孫子市で先代から物件を引き継いだオーナーさまが、「相続後に大規模修繕をいつやるか」で悩まれることが少なくありません。私の答えはシンプルで、「相続の直前と直後は避け、収支が落ち着いた3〜5年目で計画する」ことをお勧めしています。相続時の債務控除・特例判定に影響を及ぼす可能性があるためです。

ここは税理士と相談のうえ、修繕計画の時期そのものを税務戦略に組み込むべきです。


空き家・住み替えの制度は、出口戦略にも効く

我孫子市には、空き家関連の制度と情報も整備されています。

賃貸オーナーの視点では、これらは直接使う制度ではありません。ただし、次の2つのシーンで効いてきます。

出口戦略としての「戸建て化・売却」

我孫子市の場合、駅から離れた立地の築古アパートは、アパートのまま売るより解体して戸建て用地として売る方が高いという物件が一定数あります。ここに、空き家対策・跡地活用の情報が絡んできます。

私はオーナーさまに、「現時点の家賃収入から見た売却価格」と「解体後の土地売却価格」を並べて比較することをお勧めしています。この比較のうえで、「あと1回だけ大規模修繕を打って延命する」のか、「次の1〜2年で売却シナリオに乗せる」のか、意思決定を分けます。

サ高住・見守り型賃貸への転換

我孫子市の高齢化率を踏まえると、既存アパートをサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)や見守り型賃貸に転換するという選択肢もあります。国のサービス付き高齢者向け住宅整備事業は、既存建築物の改修も対象になります(出典:国土交通省 サービス付き高齢者向け住宅制度)。

これは大掛かりな話ですが、我孫子市のオーナーさまの中には、この方向で物件を再生されている方も増えています。


我孫子市オーナー向け・2026年度の申請カレンダー

補助金は「申請できる期間」に取りに行かないと使えません。我孫子市の主な制度の受付時期を、私の視点で表にまとめます(正確な期間は必ず市の公式ページと担当課で確認してください)。

月 やること 参照先
2026年4月 新年度の住宅リフォーム補助金・脱炭素化促進補助金の要件確認 我孫子市 助成金・補助金一覧
4〜5月 顧問税理士と修繕費/資本的支出の年度計画をすり合わせ ―
5〜6月 現地調査と工法比較(通常足場・ロープアクセス・ハイブリッド) ―
6〜7月 施工業者選定と発注書の税務観点レビュー ―
7〜9月 補助金申請(該当ケースのみ)/工事契約 建築住宅課
9〜11月 工事実施(気候が安定する時期) ―
12〜翌2月 実績報告・補助金請求/確定申告に向けた資料整理 ―

補助金と修繕投資は、同じ年度内でスケジュールを重ねられるかが勝負です。年度末近くに慌てて動くと、施工業者の繁忙期にぶつかり、工事費が上振れします。

我孫子市の場合、4〜6月に情報収集、7〜9月に発注、9〜11月に工事、というリズムがもっとも安定します。私自身、この時期に我孫子・柏・松戸・流山エリアの現地調査に伺うことが多いです。


我孫子市オーナーからよくいただく質問(FAQ)

私が普段お受けする質問を、我孫子市のオーナーさま向けに整理しました。

Q1. 「賃貸には市の補助金は使えない」と言われました。本当ですか?

A. 我孫子市の住宅リフォーム補助金は原則として「市に定住する個人住宅所有者」向けで、投資用の賃貸物件そのものには使えません。ただし、自宅併用部分・自宅として使う区分所有部分については、要件を満たせば適用余地があります。窓口である建築住宅課への事前相談を強くお勧めします。

Q2. 外壁塗装は修繕費ですか、資本的支出ですか?

A. 一律の答えはありません。既存塗料の劣化補修に留まれば修繕費として整理される余地がありますが、下地からの全面改修や仕様変更を伴う場合は資本的支出に該当する可能性が高くなります。詳細は国税庁の通達と顧問税理士にご確認ください。

Q3. ロープアクセス工法は雨の日はどうしますか?

A. 雨天時は塗装・防水作業は基本的に中断します。ここは足場工法と同じです。ただし、ロープアクセスは仮設物がないため、作業員が撤退してしまえば足場養生シートに雨水が溜まる等のトラブルもありません。工程管理は工法によらず、天候リスクを織り込んだ余裕日数の設定が大切です。

Q4. 補助金を受け取ったら確定申告はどうなりますか?

A. 補助金は原則として受給時の年度に雑収入(総収入金額算入)となります。同時に、対応する修繕費・資本的支出を計上することで、通期の課税所得は補助金の分だけ増える一方、修繕支出は損金または減価償却として計上されます。仕訳のタイミングは顧問税理士とすり合わせてください。

Q5. 我孫子市外の物件でも相談できますか?

A. はい。株式会社明誠は東京都東大和市を拠点に、首都圏全域とフランチャイズ加盟先を通じて全国対応しています。柏市・松戸市・流山市・野田市・印西市・取手市(茨城県)のオーナーさまからのご相談も多数いただいています。


我孫子市のオーナーが「今日から」できる3つのアクション

長い記事になりました。ここまでお読みいただいたオーナーさまが、明日から動くための3つのアクションで締めます。

1. 顧問税理士に「修繕費/資本的支出の年度計画」の相談を1時間入れる

これがもっとも即効性があります。補助金申請より前に、既存の修繕計画を税務目線で再点検するだけで、当期の税負担が数十万円動くことがあります。

2. 我孫子市の担当窓口に電話を1本かける

制度は「読む」より「聞く」方が早いです。我孫子市 建築住宅課に、お持ちの物件の状態と、検討中の工事内容を伝えて、使える制度がないかを確認してください。20〜30分の電話で、20万〜30万円の補助が動く可能性があります。

3. 工法比較の現地調査を1棟だけ依頼する

大規模修繕は「見積もり比較」ではなく、「工法比較」から始めるべきです。通常足場・ロープアクセス・ハイブリッドの3つで、同じ物件を見たときにコストと入居者影響がどう変わるか。この比較なしに発注しては、投資利回りを取りこぼします。

株式会社明誠では、我孫子市を含む首都圏の賃貸マンション・アパートに対して、1棟の現地調査と利回り改善シミュレーションのご相談を承っています。工法比較の資料と、想定される工事費・工期・入居者影響を1枚にまとめてお渡しします。

明誠のロープアクセス工法の詳細については、ロープアクセスドットコムのサービスページもあわせてご覧ください。オーナー向けの大規模修繕サービス、ロープアクセス工法の解説、投資・収益不動産向けのご案内、お問い合わせは、明誠公式サイト内の各ページからご確認いただけます。


まとめ:補助金は「入口」、勝負は工法と税務の設計

我孫子市に賃貸マンション・アパートを保有するオーナーさまへ、最後に1点だけ。

補助金は使えるなら使うべきです。20万円でも、30万円でも、キャッシュに直接効くお金には違いありません。ただ、我孫子市のような住宅都市で、賃貸オーナーが本当に稼ぐレバーは補助金ではありません。

入居率を1〜2ポイント底上げする修繕設計、修繕費と資本的支出の税務仕分け、そしてロープアクセス工法による工事費の直接圧縮。この3つが揃うと、投下資本利回りが目に見えて動きます。

私はいつもオーナーさまに、「制度がないのではなく、まだ組み合わされていないだけ」とお伝えしています。我孫子市は、まさにその余地が大きく残っている街です。

お持ちの物件で、まだ工法比較を始めていないオーナーさまは、ぜひ一度お問合せください。1棟の現地調査と利回り改善シミュレーションだけでも、ご相談を承ります。

株式会社明誠 代表取締役 本間幸紘
TEL:042-508-3567


参考リンク(我孫子市 公式ページ)

明誠のロープアクセス工法、投資・オーナー向けサービス、大規模修繕(オーナー向け)、お問い合わせもあわせてご覧ください。工法比較の詳細はロープアクセスドットコムまで。

https://rope-access-method.com/

白井市の賃貸マンション・アパートオーナー向け補助金|2026年版・NOIと入居率で選ぶ大規模修繕

白井市の賃貸マンション・アパートオーナー向け補助金|2026年版・NOIと入居率で選ぶ大規模修繕

この記事で答える質問:千葉県白井市に賃貸マンション・アパートを所有するオーナーが、2026年度(令和8年度)に使える補助金はどれか。そして、NOI(実質賃料収入)と入居率、出口価格を守るために、大規模修繕の投資判断をどう組み立てるべきか。

結論から申し上げます。白井市に「賃貸マンションの大規模修繕にお金を出します」という名称の補助金はありません。北総鉄道沿線の市としてはこれが標準です。

しかし、白井市には戸建住宅耐震改修工事補助金の上限が令和7年度から100万円に引き上げられており、住宅系の設備補助にも2026年6月1日から2027年2月26日まで受付の「住宅用省エネルギー設備等導入促進事業補助金」があります。そして何より、私が本連載で95件目の自治体としてお伝えしたい論点は、補助金の議論とNOIの議論は同じテーブルで整理しないと意味がない、という一点です。

私は東京都東大和市を拠点に、20年以上、マンション・ビル・ホテルの大規模修繕を専門にやってきました。オーナーさまとお話しするたびに感じるのは、「補助金が出るかどうか」ではなく「入居率が1%落ちる前に、何を直しておくか」が本当の勝負だということです。

最終更新:2026年9月6日


この記事の結論:白井市の賃貸物件オーナーが押さえるべき「4つの制度」

先に全体像を出します。白井市の住宅系制度を、賃貸物件オーナーの視点で仕分けた結果が下の表です。

制度名 賃貸への適合 上限・補助率 窓口
戸建住宅耐震改修工事補助金 ○(戸建賃貸のみ) 上限100万円(令和7年度改定) 都市建設部 建築宅地課
住宅用省エネルギー設備等導入促進事業補助金 ○(オーナー自ら居住/一部賃貸検討要) 太陽光・蓄電池・HEMS等 環境課
住宅の改造費助成 △(バリアフリー・要介護入居者向け) 個別査定 福祉部
千葉県 サービス付き高齢者向け住宅 整備補助 ○(サ高住オーナー) 国+県で厚い 千葉県 住宅課
国 マンションストック長寿命化等モデル事業 ○(投資型マンションも対象になり得る) 計画支援型・工事支援型 国土交通省
先進的窓リノベ2026 ◎(賃貸でも施主が施工発注可) 開口部工事に厚い補助 経産省・環境省・国交省

(出典:白井市 支援・助成一覧、白井市 戸建住宅耐震改修工事補助金、白井市 住宅用省エネルギー設備等導入促進事業補助金)

オーナー経営における意思決定の時間は有限です。○以上の4つに寄せて、△の1つは入居者属性しだい、という順番で読み進めてください。


白井市の賃貸市場を、3つの数字と1本の路線で押さえる

制度の話に入る前に、白井市がなぜオーナー投資の対象として選ばれ続けているのかを、数字で整理します。ここを飛ばすと、次章以降の投資判断の土台が抜けます。

項目 内容
人口規模 約6.3万人(千葉県北西部、印旛郡から市制移行)
交通軸 北総鉄道 北総線(新鎌ヶ谷・千葉ニュータウン中央方面)
都心アクセス 都心60分圏、成田空港30分圏
主要産業 千葉ニュータウンの物流・研究・住宅、および梨の産地

賃貸需要の内訳は、私が現地で見てきた範囲でこう分かれます。

  1. 都心・京成上野方面への通勤者(船橋・鎌ヶ谷経由)
  2. 成田空港の従業員・LCC関連ワーカー(空港30分圏の希少性)
  3. 印西・白井の研究機関、物流拠点の従業員
  4. 千葉ニュータウンの学生・研究者・若い家族(近隣自治体からの流入含む)

つまり、単一の需要層に依存していないポートフォリオ都市です。都心通勤層が減ればLCCワーカーが埋め、物流が減れば研究層が下支えする。これは空室リスクの分散が構造として効いているということで、オーナーにとって長期保有の合理性が高い立地です。

ただし、築古の中層マンションが増えている

もう1つ、白井市の賃貸物件オーナーが直面している現実があります。昭和末期〜平成初期に建てられた分譲・賃貸マンションが、そろって築30〜40年帯に入ってきていることです。

千葉ニュータウン開発の初期に建った建物、北総線開業前後に建った中層マンション。これらは今、2回目・3回目の大規模修繕のタイミングを迎えています。オーナー経営の視点で言えば、この2回目・3回目をどう設計するかが、次の10年のNOIと出口価格を決めます。

私はいつも、オーナーさまにこうお伝えしています。

1回目の大規模修繕は「維持」の投資、2回目以降は「差別化」の投資です。

その差別化に、補助金は使えるのか。ここから本題です。


【使える制度①】白井市 戸建住宅耐震改修工事補助金(上限100万円)

まず、戸建賃貸を運用しているオーナーさまに直結する制度です。

制度概要

白井市は令和7年度(2025年度)から、戸建住宅耐震改修工事補助金の上限を100万円に引き上げました。以前の水準から見ると大きな増額で、これは白井市の住宅政策として「昭和56年5月31日以前の旧耐震建物の耐震化を、市の意志として進める」というシグナルです。

項目 内容
対象建物 昭和56年5月31日以前に建築された市内の戸建住宅
対象工事 耐震診断の結果、上部構造評点が1.0未満の建物を1.0以上に補強する工事
上限額 100万円(令和7年度改定)
申請前提 工事着手前の申請(交付決定後に契約・着手)
窓口 白井市 都市建設部 建築宅地課

(出典:白井市 戸建住宅耐震改修工事補助金)

オーナー視点での使い方

戸建賃貸のオーナーさまがまず確認すべきは、その建物が旧耐震(1981年5月以前)か新耐震かです。木造戸建の平均耐用年数は22年(減価償却上)ですが、実際の建物寿命はメンテナンス次第で40〜60年に延びます。旧耐震の戸建を保有している場合、以下の3つの判断軸で読み解いてください。

① 出口価格への影響
新耐震基準に適合しているかどうかは、住宅ローン控除・フラット35適合・買主の融資審査に直結します。100万円の補助を受けて耐震補強を行い、「新耐震相当」の証明書を取得できれば、売却時の買主層が広がります。これは実質的な出口価格の底上げです。

② 損害保険料への影響
耐震等級が上がれば、地震保険の割引率が変わります。等級1で10%、等級2で30%、等級3で50%。長期保有前提のオーナーにとって、これはキャッシュフローに毎年効く数字です。

③ 税務仕分けの注意点
耐震改修工事は原則として「資本的支出」(減価償却対象)になります。修繕費として一括損金算入できるケースは限られます。国税庁の「修繕費と資本的支出」の通達を必ず読み、税理士と相談してから工事契約を結んでください。

補助金100万円は雑収入として課税されます。工事費500万円のうち補助100万円を受けた場合、資本的支出400万円を減価償却しつつ、補助100万円は受給年度の益金計上、という流れです。ここを混同すると、翌年の申告で慌てます。


【使える制度②】白井市 住宅用省エネルギー設備等導入促進事業補助金

省エネ関連の直接補助として、白井市には次の制度があります。

項目 内容
制度名 白井市 住宅用省エネルギー設備等導入促進事業補助金
令和8年度受付期間 2026年6月1日〜2027年2月26日
対象設備 太陽光発電システム、家庭用蓄電池、HEMS、V2H、家庭用燃料電池等(年度により細目が変動)
窓口 白井市 環境課

(出典:白井市 住宅用省エネルギー設備等導入促進事業補助金)

オーナー投資として太陽光・蓄電池をどう見るか

賃貸物件への太陽光発電・蓄電池導入は、10年前とは意味が変わってきています。

変わったこと:
– FIT(固定価格買取制度)の売電単価は下がった
– 一方で、電気代が上がったため自家消費の経済性は改善
– 蓄電池の価格が下がってきた
– ZEH賃貸への需要が、若年ファミリー層で伸びている

オーナーが取るべき視点:
賃貸物件で太陽光を導入する場合、電力を「共用部で自家消費」する形が最も筋がよいです。共用廊下・エントランス・エレベーター・給水ポンプ・防犯灯。これらの電力を太陽光と蓄電池でまかなえば、共用部の電気代という「見えないコスト」を圧縮できます。

共用部電気代は入居者からは見えませんが、オーナーの手取りNOIには直接効きます。1棟あたり月1〜2万円の共用部電気代を半減できれば、年間6〜12万円のNOI改善。10年で60〜120万円。補助金と合わせれば、投資回収年数はさらに短縮されます。

白井市の制度は「オーナー自らが居住」の条件に注意

ただし、白井市の省エネ補助は住宅政策の枠組みで、「申請者が居住する住宅」を主眼にした設計です。賃貸専用物件に使えるかどうかは、必ず環境課に事前確認してください。

同時に、国の「先進的窓リノベ2026」(経産省・環境省・国交省の連携事業)は、賃貸集合住宅の共用部を除く専有部窓の断熱改修に厚い補助が出ます。開口部の熱損失は建物のエネルギーロスの半分以上を占めますから、この制度は賃貸オーナーにとって非常に相性がよい。空室リフォームのタイミングで内窓・複層ガラス化を仕込めば、募集賃料に「断熱・省エネ」の1行を加えられます。


【使える制度③】千葉県の耐震・省エネ・改修支援

白井市の制度が届かない部分は、千葉県の制度で補完します。

千葉県の住宅施策のポータルは千葉県 住まいづくりです。ここから、耐震改修補助・共同住宅の管理支援・省エネ住宅支援など、県レベルの制度にアクセスできます。

賃貸オーナーが特に確認すべきは以下の3つです。

  1. 千葉県 住宅・建築物安全ストック形成事業:市町村と連携する耐震関連補助の県上乗せ
  2. サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)整備補助:介護不動産オーナー向け
  3. 既存住宅省エネ改修支援:断熱改修・高効率設備への県レベル支援

サ高住オーナー、および介護・医療系のテナントを想定した物件を検討されているオーナーさまは、白井市より千葉県、そして国土交通省のサ高住情報まで一気通貫でご覧ください。介護報酬・医療報酬とセットで見たキャッシュフローになるため、単純な賃貸物件とは投資判断のロジックが変わります。


【重要】NOIと入居率の視点:大規模修繕は「守り」ではなく「攻め」

ここからが、本記事の背骨です。オーナーさまが本当に読むべきパートです。

入居率1%の改善が、いくらのキャッシュフローになるか

具体的な数字で書きます。

例:白井市内・築25年・20戸・平均家賃7.5万円/月の賃貸マンション

入居率 年間家賃収入 空室損
95% 1,710万円 90万円
90% 1,620万円 180万円
85% 1,530万円 270万円

入居率5%の差は、年間90万円の差です。10年で900万円、15年で1,350万円。これが、大規模修繕の投資判断の分母になります。

私はいつも、こうお伝えしています。

「入居率を1%改善する外壁塗装」が3,000万円かかっても、10年で回収可能な水準です。「大規模修繕は5,000万円もかかる」ではなく、「入居率をどう戻すか」で見てください。

出口価格に効く3つの数字

売却を視野に入れるなら、収益還元価格=NOI÷キャップレートの式を頭に入れてください。

  • NOI(Net Operating Income):年間家賃収入 − 空室損 − 運営費(管理費・修繕費・固定資産税・保険料等)
  • キャップレート:投資家が期待する利回り(築年・立地・建物状態で変動)

例:NOI 1,300万円、キャップレート7%の物件 → 収益還元価格は約1.86億円
  NOI 1,400万円、キャップレート6.5%の物件 → 収益還元価格は約2.15億円

NOIを100万円上げ、キャップレートを0.5%下げるだけで、売却価格は約2,900万円変わる計算になります。大規模修繕後の物件は、投資家の目に「あと10年は大きな修繕が要らない」と映るため、キャップレートが下がりやすい。これが、修繕投資が出口価格を押し上げる本当の理屈です。


修繕費 vs 資本的支出:税務仕分けを間違えない

オーナー経営で最も間違いが多い論点が、これです。同じ工事でも税務仕分けを間違えると、翌年の申告で慌てます。

原則の考え方

国税庁の通達に基づく、大枠の整理です。

区分 内容 税務処理
修繕費 建物の維持管理・原状回復のための支出 一括損金算入(当年度費用)
資本的支出 建物の使用可能期間を延長、または価値を増加させる支出 減価償却(複数年で費用化)

実務でよくある判定

大規模修繕でよく出てくる工事の、実務的な判定目安です。

工事内容 一般的な判定
外壁塗装(既存と同等仕様) 修繕費
外壁塗装(高耐候・遮熱・断熱性能向上) 資本的支出(部分的に判定)
屋上防水(既存工法の再施工) 修繕費
屋上防水(高耐久工法へグレードアップ) 資本的支出
シーリング打ち替え 修繕費
給排水管の全面更新 資本的支出
耐震補強 資本的支出
バリアフリー化 内容により分かれる

(出典:国税庁「No.5402 修繕費とならないものの判定」)

60万円未満、または前期末取得価額のおおむね10%以下の支出は修繕費として処理できる特例もあります(形式基準)。ただし、この特例には条件があるため、必ず税理士とご相談ください。

なぜこれがNOIに効くのか

修繕費として処理できれば、当年度のキャッシュアウトと同じ年に損金算入できます。資本的支出になれば、10年〜30年かけて減価償却するため、当年度の税負担が重くなる代わりに、翌年以降の減価償却費が増えます。

投資回収のシミュレーションでは、この差が5年で数百万円のキャッシュフロー差になります。同じ工事内容でも、契約書と見積書の書き方で仕分けが変わることがある。ここは工事会社との打ち合わせ段階で、税理士と一緒に整理する価値があります。


銀行融資・アパートローン・住宅金融支援機構

自己資金だけで大規模修繕をまかなえるオーナーさまは限られます。融資の選択肢を整理します。

アパートローンでの追加借入

既存のアパートローンに追加融資を組み込むケース。DSCR(Debt Service Coverage Ratio:年間NOI÷年間元利返済額)が1.2倍以上を維持できる範囲が、金融機関の一般的な許容ラインです。

  • NOI 1,300万円の物件で、既存返済700万円、追加返済200万円 → DSCR = 1,300 ÷ 900 = 1.44倍。OK。
  • NOI 1,300万円の物件で、既存返済900万円、追加返済300万円 → DSCR = 1,300 ÷ 1,200 = 1.08倍。金融機関は慎重になります。

DSCRが1.2倍を割るなら、借入で修繕をやるべきではありません。工事範囲の絞り込みか、段階施工の検討に移ってください。

住宅金融支援機構のリフォーム融資

賃貸オーナーにとって、金利面で相性がよいのが、住宅金融支援機構のマンション共用部分リフォーム融資です。

管理組合向けの融資が中心ですが、一棟オーナー・法人所有の物件でも活用できるケースがあります。特に、管理計画認定を取得している物件(分譲マンションの場合)は金利引き下げがあります。

住宅金融支援機構の融資と、地銀・信金のアパートローンを比較して、総返済額と修繕費計上との合算で見た手取りキャッシュフローを試算するのが、正しい選び方です。


白井市の建物に、ロープアクセス工法が効きやすい理由

ここからは、株式会社明誠のサービスの話を含みます。利益相反があることを先に開示したうえで、お読みください。

白井市の立地条件と工法選択

白井市の賃貸マンション・アパートには、通常の足場工法が苦手とする条件が揃っている物件が少なくありません。

白井市の立地条件 足場工法での問題 ロープアクセスの効き方
千葉ニュータウン開発初期の中層マンションが多い 建物高さが中途半端で足場費が割高になる 高さに関わらず1日単価がフラット
狭隘道路・電線密集地に建つ物件 足場部材の搬入車両が入れない・電線接触リスク 資材量が少なく、電線に触れずに施工可能
敷地に余裕がなく駐車場が建物に近接 全周足場で駐車場が長期閉鎖 → 入居者クレーム 面ごとに施工でき、駐車場閉鎖期間を最小化
隣地との境界が近い 境界越境の使用承諾書が必要になる 建物内部から下降するので越境しにくい
**入居中の物件が多い(賃貸物件) ** メッシュシートで日照・眺望・洗濯物に影響 → 家賃減額請求リスク 工期そのものが3〜5割短縮

5つ目が、賃貸物件オーナーにとって最大のポイントです。足場が長期間かかっている物件では、入居者からの家賃減額請求・退去申し出が実際に発生します。ロープアクセス工法の詳細な安全基準と技術解説は、姉妹サイトのロープアクセスドットコムにまとめています。

賃貸物件のオーナー経営で「工期短縮」が意味すること

管理組合の大規模修繕で工期が1か月延びても、住民は「早く終わってほしい」と思うだけです。しかし、賃貸物件のオーナー経営では、工期の1か月がこう効いてきます。

  • 工期中の退去申し出リスク:3〜5%の入居率下振れ
  • 工期中の新規入居募集の停滞:内見時に足場が見えると成約率が半減する
  • 家賃減額請求:長期足場が視覚的圧迫を与えると、正当な減額請求が通ることがある

私が現場で見てきた実感として、足場工法で5か月かかる工事が、ハイブリッドで3.5か月に縮まるだけで、退去数が2〜3件は変わります。1件あたり月8万円の家賃×3か月の空室期間 = 24万円。3件で72万円。工法の選定だけで、これだけの空室損が動きます。

万能ではないことも、正直に

私は毎回、同じことを書いています。

ロープアクセス工法が向かない条件も、当然あります。

足場工法が有利な条件
外壁タイルの張り替え面積が大きく、材料の荷揚げが大量に発生する
屋上防水の全面改修で、資材の搬入量が多い
バルコニー内部の工事が全戸に及ぶ
大規模な外壁修繕で、面的な同時作業が必要

だから、多くの物件で最適解になるのは、部位ごとに足場とロープアクセスを使い分けるハイブリッド工法です。3つの工法から選べる意味は、ロープアクセス工法のご紹介とビルオーナー向けサービスのページにまとめています。


白井市のオーナー物件で、モデルケースを2つ

実在の物件を特定できない形で、白井市の一般的な条件をもとに試算します。

ケース1:白井駅圏/築28年・4階建て・16戸・平均家賃6.8万円

項目 全面足場 ハイブリッド工法
工事総額 3,600万円 3,050万円
差額 ― ▲550万円
1戸あたり 225万円 190万円(▲35万円)
工期 4.5か月 3か月
工期中の空室損(推定) ▲60万円 ▲25万円
10年NOIへの効果 基準 +200万円/年 × 10年 = 2,000万円

道路側と隣地境界の狭い面をロープアクセス、正面と搬入量の多い面を足場、という配分です。

ケース2:西白井駅圏/築33年・5階建て・24戸・平均家賃7.2万円

項目 全面足場 ロープアクセス主体
工事総額 5,200万円 4,300万円
差額 ― ▲900万円
1戸あたり 216万円 180万円(▲36万円)
工期 5か月 3.5か月
工事後の想定賃料(1戸月額) 7.2万円維持 7.5万円へ

築古中層マンションでは、外壁の質感回復と共用部の刷新で、募集賃料を月3,000円上げられるケースがあります。年間で1戸3.6万円、24戸で86万円のNOI改善。キャップレート6.5%として、収益還元価格で約1,300万円の底上げです。


見積書チェックポイント【オーナー版】

私が賃貸オーナーさまにお渡ししているチェックリストです。

1.仮設工事の分解

大規模修繕総額の15〜25%を占める仮設足場。「仮設工事一式 1,200万円」と書かれた見積書は、そのままにしないでください。

「仮設工事を、架面積の平米単価とリース期間に分解して見せてください。」

これを言うだけで、金額の根拠が見えます。

2.修繕費/資本的支出の内訳整理

契約書・見積書の段階で、税務仕分けを意識した書き分けを依頼してください。

「同等仕様の再施工と、性能向上を伴う工事を、別項目で見積してください。」

これで税理士が仕分けしやすくなります。

3.入居者影響の記述

見積書の脇に、「工期中の入居者への影響」を書面で出してもらってください。バルコニー使用制限期間、洗濯物干し場の代替、駐車場閉鎖期間。これらが書面にないと、入居者クレーム対応で工期が延びます。

4.保証内容と、保証書の発行時期

塗装10年、防水10年、シーリング5年など、部位ごとの保証年数を確認します。保証書は完工時に発行を必須にしてください。「後日発行」と口約束されて、そのまま発行されないケースを、私は何度も見てきました。

5.退去時原状回復との切り分け

大規模修繕と、退去時の原状回復工事は別物です。しかし、大規模修繕のタイミングで空室になった住戸のリフォームを同時発注できれば、コスト圧縮になります。同じ会社に発注するのか、専有部は別会社にするのか。ここは投資判断として先に決めておくと、後で揉めません。


相続税評価と、賃貸物件の税務ポイント

賃貸物件オーナーが避けて通れない論点として、相続税評価にも触れておきます。

賃貸マンション・アパートは、居住用戸建に比べて相続税評価額が下がります。土地は貸家建付地として、更地評価から借地権割合×借家権割合を控除できます。建物は貸家として、固定資産税評価額から借家権割合(通常30%)を控除できます。

さらに、被相続人が事業として貸付を行っていた敷地には、小規模宅地等の特例(貸付事業用宅地等)により、200㎡までの部分について評価額を50%減額できる可能性があります。

これらの詳細は国税庁の「相続税の計算」や税理士・不動産鑑定士にご相談いただく前提として、大規模修繕を「相続対策の一環として、いつ、どの規模で行うか」も投資判断に含めてください。相続開始直前の大規模修繕は、キャッシュ資産を建物価値に振り替えるため、相続税評価上の効果があります。


着工19か月前からの逆算カレンダー【オーナー版】

賃貸オーナーの大規模修繕は、管理組合と違って総会がないため、意思決定は速いです。ただし、融資の実行・工法の選定・入居者告知の3点が、律速要因になります。

時期 やること
19〜16か月前 劣化状況調査・長期修繕計画の見直し。融資の内諾を得る
15〜13か月前 工法を決める(ここを過ぎると設計が固まり、実質的に選べなくなる)
12か月前 補助金申請の準備・税理士との税務仕分け打ち合わせ
9〜6か月前 施工会社の選定・相見積
6か月前 補助金の交付申請(着手前が原則)
3か月前 入居者への工事告知・仮設物の説明
着工直前 改修前の写真撮影(高圧洗浄後は撮れません)
工事期間中 募集停止せず、内見時の説明を工夫
完了後3か月以内 税務処理(修繕費/資本的支出の仕分け)確定
完了後 募集賃料の見直し(大規模修繕効果の反映)

律速は融資と工法選定です。融資が付かなければ工事はできず、工法を先に決めなければ設計が固まりません。この2つを早めに握ってください。


今週できること(合計1時間かかりません)

所要時間 やること
5分 白井市 建築宅地課へ電話。戸建賃貸をお持ちなら耐震改修補助を確認
5分 白井市 環境課へ電話。省エネ設備補助の令和8年度受付の細目確認
10分 白井市 住まい・自治会ページを通し読み
10分 顧問税理士に「大規模修繕の税務仕分け方針」を確認するアポを入れる
15分 過去5年の入居率・退去理由・原状回復費用の集計を出す(次の投資判断の土台)
15分 メインバンクに「大規模修繕資金の内諾」を打診する電話をする

電話3本と、社内資料の準備2つ。今週中に着手すれば、来月には工法選定に入れます。


よくある質問(FAQ)

Q1. 白井市に、賃貸マンションの大規模修繕を直接補助する制度はありますか?
A. 白井市独自の「大規模修繕そのものへの補助金」はありません。ただし、戸建賃貸なら耐震改修工事補助金(上限100万円)が使えます。共同住宅の場合は、国のマンションストック長寿命化等モデル事業や先進的窓リノベ2026の活用を検討してください。

Q2. 補助金は、税務上どう処理しますか?
A. 受給した年度の雑収入として益金計上します。工事費は、修繕費として一括損金算入する分と、資本的支出として減価償却する分に仕分けます。詳細は必ず顧問税理士にご相談ください。

Q3. 大規模修繕の費用は、修繕費で全額処理できますか?
A. できません。国税庁の通達に照らして、既存の性能を回復する部分は修繕費、性能を向上させる部分は資本的支出、と仕分けます。契約書・見積書の書き分けが実務上のポイントです。

Q4. アパートローンで大規模修繕資金を借りるとき、注意すべき指標は?
A. DSCR(返済カバー率) です。年間NOI÷年間元利返済額が1.2倍以上を維持できるかが目安です。1.2倍を割るなら、工事範囲の絞り込みか、段階施工の検討に移ってください。

Q5. ロープアクセス工法は、白井市の中層マンションで使えますか?
A. 使えます。むしろ、狭隘道路・電線密集地・隣地境界の近い立地では、足場工法より合理的な選択になることが多いです。ただし、外壁タイルの大面積張り替えなど資材の荷揚げが多い工事は足場が向きます。部位ごとに使い分けるハイブリッド工法を含めてご検討ください。詳細はロープアクセスドットコムをご覧ください。

Q6. 入居中の物件で大規模修繕を行うと、家賃減額請求が来ますか?
A. 可能性はあります。特に長期の足場設置・メッシュシート・騒音・粉塵は、正当な減額請求の根拠になり得ます。工期短縮できる工法(ロープアクセス・ハイブリッド)の採用と、入居者への事前説明が予防策です。

Q7. 補助金の交付決定を待たずに工事を始めても大丈夫ですか?
A. 大丈夫ではありません。ほとんどの補助金は「交付決定後に契約・着手」が原則です。着手後の申請は対象外になります。工事の着手前に、必ず自治体窓口と補助金交付決定通知を確認してください。

Q8. 千葉県内の他の自治体の補助金と、白井市の制度を組み合わせて使えますか?
A. 原則として、同一の工事に対して複数の自治体補助を重複させることはできません。ただし、国の制度(先進的窓リノベ・マンションストック長寿命化等モデル事業)と、白井市の制度は、対象工事が別であれば併用できるケースがあります。個別に確認してください。


この記事のポイントまとめ

  • 白井市には賃貸マンション大規模修繕への直接補助はないが、戸建賃貸なら耐震改修100万円上限が使える
  • 住宅用省エネルギー設備等導入促進事業補助金は2026年6月1日〜2027年2月26日受付
  • オーナー経営では入居率1%の改善が年間数十万円のキャッシュフローに直結する
  • NOI改善とキャップレート低下で、大規模修繕後の売却価格は数千万円単位で動く
  • 修繕費と資本的支出の税務仕分けは、契約書・見積書の書き分け段階で決める
  • 補助金は雑収入として課税される。仕訳ミスに注意
  • DSCR 1.2倍以上を維持できる範囲で借入する
  • 白井市の狭隘道路・電線密集地・築古中層マンションはロープアクセス工法との相性がよい
  • 賃貸物件の工期短縮は、退去防止と家賃減額請求防止の観点で管理組合物件より重い
  • ハイブリッド工法で工期が1〜2か月短縮できれば、退去数と空室損が数十〜数百万円変わる
  • 相続税評価上、賃貸物件は貸家建付地評価と貸家評価で有利。大規模修繕のタイミングも相続対策の一環に
  • 律速は融資の内諾と工法選定。着工19か月前から動く

主なお問い合わせ先

窓口 主な担当
白井市 都市建設部 建築宅地課 戸建住宅耐震改修工事補助金
白井市 環境課 住宅用省エネルギー設備等導入促進事業補助金
白井市 福祉部 住宅の改造費助成
千葉県 都市整備局 住宅課 県レベルの住宅・建築物補助
国土交通省 住宅局 マンションストック長寿命化等モデル事業
住宅金融支援機構 マンション共用部分リフォーム融資
国税庁 税務相談(修繕費・資本的支出の判定)

実務メモ:白井市役所は北総線 白井駅から徒歩圏。開庁時間は月曜日から金曜日の8時30分から17時15分までです。


白井市の賃貸物件のこと、まずはご相談ください

株式会社明誠は、東京都東大和市を拠点に、マンション・ビル・ホテルの大規模修繕を専門とする改修会社です。通常の足場仮設工事、無足場のロープアクセス工事、その両方を組み合わせたハイブリッド工法という3つの選択肢から、建物と経営目標にとって最適な工法をご提案します。

  • 千葉ニュータウン開発初期の中層マンションを保有していて、2回目の大規模修繕の時期に来ている
  • 狭い道路・電線密集地に建っていて、足場が組めるのか分からない
  • 入居中の物件で、工期短縮と入居者影響最小化を両立したい
  • 補助金と融資、税務処理を含めた総合的な投資回収シミュレーションが欲しい
  • 相見積の内訳が業者ごとにバラバラで、比較できない

こうしたご相談に、無料の現地調査・お見積りで対応しています。お問い合わせフォームからご連絡ください。収益不動産オーナー向けサービス、大規模修繕工事のご紹介、投資物件の相談窓口からも承ります。

1棟の現地調査と、利回り改善シミュレーションだけでも、ご相談を承ります。


執筆者:本間 幸紘(株式会社明誠 代表取締役)
専門領域:マンション・ビル・ホテルの大規模修繕/ロープアクセス工法(無足場工法)/建物長寿命化計画/収益不動産オーナー向け投資判断コンサルティング
実務経験:建設・改修業界 20年以上
所属:一般社団法人 全国建設業支援協会(JCSA)

株式会社明誠について:東京都東大和市を拠点に、東京・関東一円と全国のフランチャイズ加盟店を通じて、ロープアクセス工法・足場工法・ハイブリッド工法の3つを提案できる改修会社。ロープアクセス工事として日本初のフランチャイズを展開し、塗装・防水・タイル・電気・看板など各分野の専門職が加盟しています。

最終更新:2026年9月6日

注記:本記事は2026年9月6日時点で公開されている情報にもとづいて作成しています。補助制度は年度途中で内容・金額・受付状況が変更されることがあります。税務処理の詳細は、必ず顧問税理士にご相談ください。本記事は法務・税務・投資助言を目的としたものではありません。


出典・参考資料


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明誠のロープアクセス工法・大規模修繕の総合情報は、姉妹サイト https://rope-access-method.com/ でもご覧いただけます。

「開所1年半で、また足場」札幌・147億円の新庁舎でシート1500枚がめくれた件を、オーナーと管理組合はどう読むか|熱伸縮・契約不適合責任・そして工事費を決めている仮設の話【2026年9月】

2026年9月2日 更新

この記事で答える質問

  • 札幌市中央区の複合庁舎で何が起きたのか。事実関係はどこまで確認できているのか。
  • 「熱でシートがめくれた」とは、建築の現場では何が起きている現象なのか。
  • 費用を工事会社が負担することになったのは、どういう法的な仕組みによるのか。民間のマンションやビルでも同じことが起きるのか。
  • 築1年半の建物に足場が架かるという事態から、収益不動産オーナーと管理組合は何を学ぶべきなのか。
  • 修繕費のうち、実は何が一番効いているのか。それを下げる方法はあるのか。

1. 結論

2026年8月末、札幌市中央区の複合庁舎(中央区役所・中央保健センター・中央区民センターが入る施設)が、開所からわずか1年半で大がかりな改修工事に入ると報じられました。約147億円をかけて2025年2月に開所した建物です。

窓ガラスの内側に貼られた装飾用の木材シートが、774か所あるほぼすべての窓でめくれ上がり、その枚数は1500枚以上。原因は「熱」でした。

この話は、公共施設の失敗談として消費されがちです。しかし大規模修繕の現場から見ると、収益不動産のオーナーとマンション管理組合にとって、極めて実務的な教訓が3つ含まれています。

  1. 建物の不具合は「築年数」ではなく「納まりと材料の選定」で起きる。 築1年半でも起きるときは起きます。長期修繕計画を「築12年で1回目」といったカレンダーだけで運用していると、こういう事象を拾えません。
  2. 費用の話は、材料費ではなく仮設と工期で決まる。 今回、シートそのものの単価より、建物全体に足場を架け、ガラスを外し、約1年かけて直すという段取りのほうが、はるかに大きなコストを生んでいます。テラスは合計4か月閉鎖されます。
  3. 「誰が払うのか」は契約と時間で決まる。 今回は施工会社の負担と報じられていますが、これは契約不適合責任という制度が生きている時間帯だったからです。この時計は、黙っていると止まります。

そして3番目に付け加えるなら、修繕費を実質的に決めているのは、工事の中身よりも「どうやって外壁に人を近づけるか」という一点です。ここに選択肢を持っているかどうかで、総額は変わります。


2. 何が起きたのか──報道で確認できる事実

まず、事実関係を整理します。以下は複数の報道で共通して確認できる内容です。

項目 内容
施設 札幌市中央区複合庁舎(中央区役所・中央保健センター・中央区民センター)
開所 2025年2月
事業費 約147億円
不具合 窓ガラス内側に貼られた装飾用の木材シートのめくれ・剥離
規模 庁舎の774か所あるほぼ全ての窓、シート1500枚以上
原因 直射日光等により、施工会社の想定を上回る熱がガラス内側にこもり、シートが伸縮して剥離
対策 段階的に足場を設置し、ガラスを取り外して、木目調のアルミ製板に交換
期間 改修工事は2027年8月末まで、約1年かかる見込み
利用者への影響 4階テラスを2026年10〜11月、2027年6〜7月の合計4か月閉鎖
費用負担 工事を行った会社側がすべて負担(金額は未公表)

道産木材やレンガを用い、自然と調和した意匠を売りにした庁舎でした。その意匠の核だった木材シートが、開所1年半で全面的にやり直しになったことになります。

なお、報道各社で工期の見立てには幅があります。「6〜8か月かかる見通しで年内に着手」と報じたものもあれば、「2027年8月末まで約1年」と報じたものもあります。段階的な足場設置を含む全体工程と、実作業の期間の切り分けの違いと考えられます。本記事では、工程と閉鎖期間まで具体的に報じられている内容を基準にしています。

2-1. これは「特殊な失敗」ではない

読者の多くは、「うちのマンションやビルには、窓の内側に木材シートなんて貼っていない」と思われるかもしれません。そのとおりです。

しかし、この事象の本質は「材料が、その場所の熱環境に耐えられなかった」ということであって、材料がシートであるかどうかは本質ではありません。

同じ構図の不具合は、民間の建物で日常的に起きています。

  • 南面・西面の外壁塗膜だけが、他の面より数年早くチョーキング(白亜化)する
  • 屋上防水のシートが、押さえのない部分で膨れる・端部が浮く
  • アルミ笠木やシーリングが、日射を受ける面から先に切れる
  • 濃色系の塗装をした金属部分が、熱で反る・目地が開く
  • 外壁タイルが、日射と凍結融解の繰り返しで浮く

いずれも「日が当たる」「温度が動く」という、どの建物にもある条件が引き金です。今回の庁舎は、その現象がガラスの内側という熱がこもりやすい最悪の条件で、しかも建物のほぼ全面で同時に起きたために、極端な形で表面化しました。


3. 「熱伸縮」という、設計と見積で最も軽く扱われる変数

3-1. 何が起きているのか

物質は温度が上がれば伸び、下がれば縮みます。これ自体は当たり前の話ですが、建築の外皮では、この「当たり前」がかなり過酷な条件で起きます。

夏の晴天時、日射を受けた外壁表面の温度は、気温よりはるかに高くなります。ガラスの内側であればさらに条件は厳しく、いわゆる温室状態になります。冬の札幌なら、朝は氷点下です。同じ材料が、1年のうちに極めて大きな温度幅を往復するわけです。

材料と下地の伸縮率が違えば、その差は接着面に応力として溜まります。接着剤が耐えられる限界を超えたところから、端部が浮き、つなぎ目が開き、めくれます。今回、報道で「シートのつなぎ目が大きく離れている」と描写されているのは、まさにこの応力の逃げ場が継ぎ目だったということです。

3-2. 意匠を優先すると、なぜ修繕費が上がるのか

デザインを重視した仕様は、それ自体が悪いわけではありません。問題は、意匠材ほど「その場所の熱・水・紫外線の条件で、何年もつか」という検証が甘くなりやすいという点です。

しかも意匠材は、たいてい目立つ場所に使われます。目立つ場所は、劣化したときに真っ先に見つかり、真っ先に「みっともない」と言われる場所でもあります。つまり、放置できない。

収益不動産のオーナーにとって、これは資産価値の問題に直結します。エントランス廻りの意匠材、外壁のアクセントパネル、サイン廻りの化粧材──こうした部位が劣化すると、建物全体の印象が一段落ちます。内見時の第一印象が落ちれば、募集条件に跳ね返ります。

だからこそ、新築時・大規模修繕時の仕様決定の段階で、「この材料は、この面で、何年もつのか」を問うことが必要です。カタログの耐候性データは、多くの場合「標準的な条件下」の値です。西日が直撃する面や、ガラス越しに熱がこもる部位は、標準的な条件ではありません。


4. 「工事会社が全額負担」を成立させているもの──契約不適合責任

4-1. 時計は動いている

今回の改修費用は、施工した会社側がすべて負担すると報じられています。これは施工会社の善意ではなく、契約上の責任の話です。

民法では、引き渡された目的物が種類・品質・数量に関して契約の内容に適合しない場合、注文者は履行の追完(修補)、代金の減額、損害賠償、契約の解除を請求できます。これがいわゆる契約不適合責任です。建設工事の請負契約では、この責任を負う期間が契約約款で定められています。

公共工事では、国土交通省が公表している公共建築工事標準仕様書等の官庁営繕関係基準と標準的な請負契約約款の体系のもとで、この責任関係が整理されています。今回のケースは、その枠組みが機能した事例と見ることができます。

4-2. 民間のマンション・ビルではどうなるか

分譲マンションの新築については、住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)により、構造耐力上主要な部分と雨水の浸入を防止する部分について、10年間の瑕疵担保責任(契約不適合責任)が義務づけられています。

ただし、注意が必要なのは次の点です。

  • 10年の対象は「構造」と「雨水の浸入」に限られる。 意匠材の剥がれ、塗装の変色、タイルの浮きの一部などは、この10年保証の対象外になることがあります。
  • 大規模修繕工事のアフター保証は、契約で決まる。 法定ではありません。塗装3〜5年、シーリング5年、防水10年といった年数が一般的ですが、これは見積書と契約書に書いてあるかどうかがすべてです。
  • 期間内に「言う」ことが必要。 不具合を認識しながら通知しないまま期間が過ぎれば、請求できなくなります。

つまり、管理組合やオーナーの側に、点検と記録の体制がなければ、この制度は使えないということです。

実務的には、次の3点をおすすめしています。

  1. 大規模修繕の契約時に、部位ごとの保証年数一覧を書面で受け取る(口頭の「10年もちます」は保証ではありません)
  2. 保証年数の満了半年前に、必ず点検を入れる。管理会社任せにせず、日付を長期修繕計画に書き込む
  3. 不具合を見つけたら、写真・日付・部位をセットで記録し、書面で通知する

この3つを回しているだけで、後年の「言った・言わない」がほぼ消えます。


5. 本当に高いのは、シート代ではない

ここからが、大規模修繕の実務者として最も申し上げたい点です。

今回の改修で発生するコストの中身を、報道されている工程から分解してみます。

コスト要素 内容
仮設 建物全体に段階的に足場を設置・解体
撤去・復旧 窓ガラスを取り外し、旧シートを撤去し、ガラスを復旧
材料・施工 木目調アルミ製板の製作・取付
期間 約1年(段階施工)
機会損失 4階テラスの合計4か月閉鎖、庁舎の景観低下

材料そのものの単価が占める割合は、この中で決して大きくありません。

大規模修繕工事において、仮設足場が工事費全体に占める割合は、一般に2割前後になることが多く、建物の形状・高さ・敷地条件によってはさらに大きくなります。加えて、足場は「架けている期間」がそのまま工期であり、工期はそのまま近隣対応・警備・現場管理費・そして利用者への影響に変換されます。

つまり、建物に人を近づける方法が、工事費と生活影響の両方を決めているのです。

5-1. 収益不動産では、この「閉鎖」が直接キャッシュに効く

庁舎であればテラスの閉鎖は「市民の不便」で済みます。しかし収益不動産では、同じことが数字になります。

  • テナントビル:足場・養生シートによるファサードの視認性低下、看板の隠蔽、来客動線の制限
  • ホテル:客室からの眺望の消失、バルコニー使用不可、稼働率と客室単価への影響、口コミ評価の低下
  • 賃貸マンション:バルコニー使用制限、洗濯物、防犯不安、内見時の印象低下、更新時の交渉力低下
  • 商業施設:ファサード隠蔽による集客への影響

これらは見積書に書かれません。しかし、オーナーの手元に残る金額には確実に効いています。工事費の総額だけを比較する見積比較は、この部分を丸ごと無視しているということです。

5-2. 国も「仮設が効く」と明記している

これは現場感覚だけの話ではありません。国土交通省のマンションの修繕積立金に関するガイドライン(平成23年4月策定/令和6年6月改定)では、超高層マンション(一般に20階以上)について、外壁等の修繕のために特殊な足場が必要となること等から、修繕工事費が高くなる傾向にあると整理されています。

同ガイドラインでは、20階以上のマンションの修繕積立金の目安として338円/平方メートル・月という水準が示されています。仮に専有面積70平方メートルであれば、月額約2万3,660円という計算になります。

国が公式文書で「仮設のせいで高くなる」と書いているという事実は、管理組合の総会で工法を議論するときに、そのまま使える材料です。


6. 「築浅だから大丈夫」は、計画ではない

6-1. 長期修繕計画は30年以上が基本

国土交通省の長期修繕計画作成ガイドライン・同コメント(平成20年6月策定/令和6年6月改定)では、長期修繕計画の計画期間を30年以上とし、かつ大規模修繕工事が2回含まれる期間以上とすることが標準とされています。令和6年6月の改定では、修繕周期についても一律の年数ではなく幅を持たせた考え方が示されました(改定の概要は国土交通省の報道発表で確認できます)。

「幅を持たせる」という改定の意味は重要です。建物の劣化は、築年数だけで決まらないという前提に、国のガイドラインが寄ったということだからです。

海に近いか。日射条件はどうか。前回どんな材料でどんな下地処理をしたか。これらによって、次の修繕が必要な時期は前後します。札幌の庁舎は、その極端な例にすぎません。

6-2. 制度としての点検は、すでに存在している

一定規模以上の建築物には、建築基準法第12条に基づく定期報告制度があります。外壁のタイル・モルタル等の仕上げについては、定期報告制度における外壁のタイル等の調査として、打診等による調査が求められ、落下により歩行者等に危害を加えるおそれのある部分については、一定期間ごとに全面的な打診等による調査を行うこととされています。

近年は、打診と同等以上の精度を確保できる場合に、赤外線調査(無人航空機によるものを含む)を用いる方法についても、国土交通省のガイドラインが整備されています。

つまり、「調べる」ための手段は、法制度の側でも広がっているということです。にもかかわらず、多くの建物で調査が形骸化しているのは、「調べるためにわざわざ足場を架けるのは高い」という壁があるからです。

ここは、後述する工法の選択で解ける問題です。


7. オーナーの85.4%が不安、最大の懸念は「修繕費と維持管理コスト」

2026年8月、株式会社中央プロパティーが全国の40代以上の不動産オーナー137名を対象に実施した調査結果が公表されました。所有不動産の資産価値見直しと組み換えに関する実態調査です。

主な結果は次のとおりです。

項目 数値
将来への不安または現状への不満を抱えている 85.4%
「収益を生んでおらず、税金等の持ち出しになっている」 34.3%
今後の運用における懸念のトップ「建物の修繕費や維持管理コストの増大」 43.1%
資産組み換えに踏み切れない理由「新たな借入をしてまでリスクを背負いたくない」 30.6%

(出典:株式会社中央プロパティー「インフレ・市況変化に伴う、所有不動産の『資産価値見直し』と『組み換え』に関する実態調査」2026年8月、n=137)

サンプル数137という規模ですので、この数字を過度に一般化することは避けるべきです。しかし、懸念のトップが「修繕費・維持管理コストの増大」であり、同時に「新たな借入は避けたい」が組み換えの最大の障壁になっているという構図は、現場での相談内容と一致します。

つまり、多くのオーナーが置かれている状況は、こうです。

建物は直さなければいけない。しかし、これ以上の借入はしたくない。売却も簡単ではない。

この条件下でできることは、実はそれほど多くありません。「工事の必要性を減らす」(=点検と予防保全の精度を上げる)か、「同じ工事を安くやる」(=工法を選ぶ)かの二つです。

札幌の庁舎の件は、前者を怠ると後者の負担がどれだけ重くなるかを、非常に分かりやすい形で示した事例だと言えます。


8. 「同じ工事を安くやる」ための、たった一つの大きな変数

8-1. 仮設足場を前提にしない、という選択肢

株式会社明誠では、大規模修繕工事において次の3つの工法を扱っています。

工法 概要 向いている条件
通常足場工法 従来型の仮設足場を架設して施工 中低層、施工範囲が全面的、形状が複雑
ロープアクセス工法(無足場工法) 産業用ロープで作業員が外壁に直接アクセスして施工 高層、足場架設が困難、部分補修、居住者・利用者への影響を抑えたい
ハイブリッド工法 部位ごとに足場とロープアクセスを使い分ける 大規模・複雑な建物で総合的なコスト最適化が必要

ロープアクセス工法の本質は、「安い工法」ではありません。足場という巨大な固定費を、必要な部位だけに限定できるという点にあります。

  • 足場の架設・解体そのものが不要(または最小限)になる
  • 工期が短縮される(架設・解体の期間がゼロに近づく)
  • 足場・養生シートによる採光と眺望の阻害がない
  • 足場を伝った侵入という防犯上の懸念が生じない
  • 部分補修に、その日のうちに着手できる

札幌の庁舎のように「特定の部位(窓廻り)だけを、建物のほぼ全面にわたって直す」という工事は、本来、工法選択の効果が最も大きく出るタイプの工事です。もちろん今回はガラスの取り外しを伴うため、足場が必要な判断だったと考えられますが、「足場か、そうでないか」を検討する余地があったかどうかは、民間建物でも常に問うべき論点です。

8-2. 「安いから無足場」ではありません

誤解のないよう申し上げますが、ロープアクセス工法がすべての建物・すべての工事で最適なわけではありません。

  • 外壁の全面改修で、施工面積が非常に大きい場合は、足場のほうが総合的に有利になることがあります
  • サッシ交換や躯体補修など、資機材の揚重が必要な工事には足場が必要です
  • 建物の形状によっては、支点が取れず適用できない部位があります

だからこそ、3つの工法をすべて自社で扱えることに意味があると考えています。足場工事会社は足場を、無足場業者はロープアクセスを勧めます。それぞれの立場では自然なことですが、建物にとって最適とは限りません。

明誠は、日本で初めてとなるロープアクセス工事のフランチャイズ展開を行っており、塗装・防水・タイル・電気・看板の各分野の専門職が加盟しています。工法と職種の両方に選択肢を持っているため、「この建物のこの部位には、この工法」という組み合わせを、利害から切り離して提案できます。

工法別の詳しい比較や施工事例は、ロープアクセス工法の専門サイトにまとめています。

8-3. まず「調べる」から始める

最も費用対効果が高いのは、実は工事ではなく調査です。

ロープアクセスであれば、足場を架けずに、外壁の任意の位置に人が到達して、目視と打診で確認できます。ドローンによる赤外線調査と組み合わせれば、面的なスクリーニングと点的な精査を役割分担させることもできます。

これにより、次のような判断が可能になります。

  • 本当に全面をやる必要があるのか、部分補修で足りるのか
  • 次の大規模修繕を、計画どおりの時期にやるべきか、前倒し・後ろ倒しすべきか
  • 前回工事の保証期間内に対応すべき不具合が残っていないか

調査の精度が上がると、長期修繕計画の精度が上がり、修繕積立金の設定根拠が変わります。 これは、値上げの説明にも、値上げを回避する説明にも使えます。


9. オーナー・管理組合の実務チェックリスト

今日から確認できる項目を並べます。

契約と保証

  • [ ] 前回の大規模修繕工事の契約書に、部位ごとの保証年数一覧が添付されているか
  • [ ] その保証年数の満了日を、カレンダーまたは長期修繕計画に書き込んでいるか
  • [ ] 満了半年前の点検が、誰の担当として決まっているか
  • [ ] 新築後10年未満の建物の場合、品確法の10年保証の対象部位を把握しているか

建物の状態

  • [ ] 南面・西面の外壁・シーリング・意匠材の状態を、他の面と比較して見たことがあるか
  • [ ] 建築基準法第12条の定期報告を提出している建物か。直近の報告内容を読んだか
  • [ ] 外壁の打診調査を、最後にいつ、どの範囲で実施したか記録があるか
  • [ ] 「見た目が悪い」で放置している部位のリストがあるか

計画とお金

  • [ ] 長期修繕計画の計画期間は30年以上あるか。最終見直しはいつか
  • [ ] 修繕積立金の水準を、国のガイドラインの目安と比較したことがあるか
  • [ ] 次回工事の想定額に、仮設足場費が全体の何割として計上されているか把握しているか

工法

  • [ ] 前回の見積は、足場前提の1パターンだけだったか
  • [ ] 部分補修で対応できる部位と、全面改修が必要な部位を切り分けたことがあるか
  • [ ] 工事期間中のバルコニー使用制限・眺望阻害・稼働率への影響を、金額に換算したことがあるか

チェックが3つ以上つかなかった項目があれば、そこが次の一手です。


10. よくある質問

Q1. 築1年半で不具合が出た場合、必ず施工会社の負担になるのですか。

必ずではありません。契約不適合責任の対象となるかどうかは、その不具合が「契約の内容に適合しないもの」と評価できるかによります。設計上の指示に従って施工した結果である場合や、注文者の指定した材料に起因する場合など、責任の所在が単純でないケースもあります。重要なのは、不具合を発見した時点で速やかに書面で通知し、記録を残すことです。

Q2. うちのマンションは築15年ですが、意匠材のチェックはどうすればいいですか。

まず、南面と西面を優先して確認してください。日射条件が最も厳しい面から症状が出ます。次に、金属と樹脂・シートなど、異なる材料が接している部分を見てください。伸縮率の違いが最も出やすいのが、この接合部です。目視で判断がつかない場合は、部分的な打診調査から始めることをおすすめします。

Q3. ロープアクセス工法は、足場と比べて品質が落ちませんか。

作業員が外壁面に直接近づいて施工するという点では、足場と同じです。むしろ、足場の場合は建地・布・ブラケットが邪魔になる位置が生じますが、ロープアクセスでは支点を変えることで死角を減らせます。一方で、大量の資機材を持ち込む工事や、揚重が必要な工事には向きません。品質の問題ではなく、工事の種類との相性の問題とご理解ください。

Q4. 修繕積立金が国のガイドラインの目安より低い場合、すぐに値上げすべきですか。

即断は避けたほうがよいと考えます。ガイドラインの数値は目安であり、実際に必要な額は建物の仕様・形状・立地・前回工事の内容によって変わります。まず現状の建物の状態を調査し、次回工事の実額の見通しを立てること。その上で、必要額から逆算するのが順序です。値上げの提案は、根拠となる調査結果があるかどうかで、総会での通り方がまったく変わります。

Q5. テナントビルやホテルのオーナーですが、分譲マンション向けの話とどう違いますか。

構造はほぼ同じですが、工事の影響がそのまま収益に直結する点が決定的に違います。ホテルであれば、足場と養生シートによる眺望の消失は客室単価と口コミに影響します。テナントビルであれば、ファサードの隠蔽は入居企業の来客対応に影響します。この「営業への影響」を金額に換算すると、工法選択の損益分岐点は、分譲マンションの場合とは別の場所に来ます。

Q6. 相談だけでもできますか。

可能です。図面と過去の修繕履歴をお持ちいただければ、現状の把握と工法の方向性についてお話しできます。他社で取得済みのお見積りの内容確認だけでも構いません。特に「仮設費が総額のどれくらいを占めているか」は、その場で確認できます。


11. まとめ

札幌市中央区の複合庁舎で起きたことを、もう一度整理します。

  • 約147億円をかけた建物が、開所1年半で、774か所ほぼ全ての窓・1500枚以上のシートの張り替えを迫られた
  • 原因は、施工会社の想定を上回る熱によるシートの伸縮
  • 対策は、建物全体への段階的な足場設置とガラス取り外しを伴う、約1年の工事
  • 費用は工事会社が負担するが、テラスは合計4か月閉鎖され、利用者への影響は避けられない

ここから読み取るべきことは、「公共工事はずさんだ」ではありません。

建物の不具合は築年数と無関係に起こりうること。そして、それを直すコストの大部分は、材料ではなく「外壁に人を近づける方法」が決めているということ。 この2点です。

不動産オーナーの85.4%が将来に不安を抱え、その最大の懸念が修繕費と維持管理コストの増大である、という調査結果があります。借入を増やさずに建物を維持していくには、工事を減らすか、同じ工事を安くやるしかありません。

そのどちらにも、「足場を架けずに調べられる」「部位ごとに工法を選べる」という選択肢が効いてきます。

株式会社明誠は、通常足場工法・ロープアクセス工法(無足場工法)・ハイブリッド工法の3つを自社で扱い、建物ごとに最適な組み合わせをご提案しています。工法比較と施工事例はこちらをご覧ください。

まずは、お手元の長期修繕計画と、前回工事の保証年数一覧を開いてみてください。話はそこから始まります。


参考・一次情報


執筆者

本間 幸紘(ほんま ゆきひろ)
株式会社明誠 代表取締役

マンション・ビル・ホテルの大規模修繕工事を専門とし、通常の足場仮設工法・ロープアクセス工法(無足場工法)・両者を組み合わせたハイブリッド工法の3つから、建物ごとに最適な工法をご提案しています。ロープアクセス工事としては日本で初めてとなるフランチャイズ展開を行い、塗装・防水・タイル・電気・看板の各分野の専門職が加盟することで、高品質かつ適正価格の施工体制を構築しています。

また、一般社団法人 全国建設業支援協会(JCSA)を運営し、全国の建設業者に向けた経営支援情報の発信、オンラインセミナー、交流会、ビジネスマッチングを行っています。

株式会社明誠
TEL:042-508-3567
Mail:info@meiseitosou.com

最終更新日:2026年9月2日

「40階建てタワマンの解体費用は1戸540〜800万円」報道を管理組合はどう読むか|改正区分所有法が施行された2026年、解体を語る前に確認すべき5つの一次情報【2026年9月】

2026年9月1日 更新

この記事で答える質問

  • 2026年8月30日に報じられた「タワーマンションの解体費用」の試算は、どういう前提で出された数字なのか。
  • なぜ超高層マンションは、修繕も解体もコストが跳ね上がるのか。国はその理由をどう説明しているのか。
  • 2026年4月1日に施行された改正区分所有法で、老朽化したマンションの扱いはどう変わったのか。
  • 「外壁の剥離」が、なぜ建替え決議の要件緩和事由に入っているのか。オーナーにとって何を意味するのか。
  • 解体や建替えを議論する前に、管理組合とオーナーが現実的にできることは何か。

1. 結論

2026年8月30日、現代ビジネスが「40階建タワマンの解体費用」を試算した記事を公開しました。築20年・40階建て・総戸数500戸・延べ床面積5万5000平方メートルという想定で、50年後(築70年時点)に解体する場合、総額27〜40億円、1戸あたり540〜800万円という数字が示されています。

この数字だけを見ると、「タワマンは終わっている」という話に着地しがちです。しかし、大規模修繕の現場から見ると、この報道はまったく別の読み方ができます。

解体費用が高くなる理由と、修繕費用が高くなる理由は、根っこが同じだからです。

その根っこは「高いところで作業するための仮設コストが、建物の高さに対して指数関数的に効いてくる」という一点に尽きます。そして国土交通省は、この点を修繕積立金のガイドラインのなかで、はっきり言葉にしています。超高層マンションは「外壁等の修繕のための特殊な足場が必要となる」ため、修繕工事費が増大する傾向にある、と。

さらに2026年4月1日、改正区分所有法が施行されました。そこには、「外壁等の剥離により周辺に危害を生ずるおそれ」がある場合、建替え決議の多数決要件が5分の4から4分の3に緩和されるという規定が置かれています。外壁を放置した建物は、法律上「再生を急ぐべき建物」として扱われる時代に入ったということです。

この記事では、報道の試算そのものではなく、その背後にある国の一次情報5点を並べ、解体の話をする前にオーナー・管理組合が確認できることを整理します。


2. 何が報じられたのか──試算の前提を分解する

まず、報道された試算の前提を確認します。前提を見ないまま数字だけが独り歩きするのが、この手の話でいちばん起こりやすい事故だからです。

項目 報道された前提
建物 40階建て・総戸数500戸
延べ床面積 約5万5000平方メートル(約1万6600坪)
現在の築年数 築20年
解体を想定する時期 50年後(築70年時点)
一般的なRC造の解体単価 1坪あたり8〜12万円程度
超高層の割増 2〜4倍(試算では最も低い2倍を採用)
試算総額 27〜40億円
1戸あたり 540〜800万円

注目すべきは「超高層の割増2〜4倍」という部分です。なぜ2倍から4倍になるのか。理由は解体工法にあります。

一般的な中低層のRC造であれば、重機で上から解体していく工法が使えます。しかし超高層になると、地上からのアプローチが物理的に届きません。上階に解体機械を持ち上げる、階上解体工法や、屋根ごと下げていく閉鎖型の解体工法など、特殊な仮設と工程が必要になります。さらに、周辺への飛散・落下防止、粉じん対策、騒音対策、交通規制と、地上での制約も重なります。

つまり、割増の大半は「高所で安全に作業を成立させるためのコスト」です。解体そのものの単価が2倍になるのではなく、そこに至るまでの段取りが2倍以上になる、という構造です。

2-1. この構造は、修繕でもまったく同じ

ここが今日いちばんお伝えしたいところです。

大規模修繕工事の見積書を分解すると、直接仮設・共通仮設(つまり足場と養生)が全体の20〜25%程度を占めることは珍しくありません。建物が高くなるほど、この比率は上がります。40階建ての外壁に枠組足場を架けることは、そもそも現実的ではありません。ゴンドラ設備や特殊な吊り足場が前提になります。

解体が高いのは、修繕が高いのと同じ理由です。そして修繕は、解体と違って「今から30年、50年にわたって何度も発生する」費用です。オーナーと管理組合にとって、先に手をつけるべきはどちらか。答えははっきりしています。


3. 国はなぜ「超高層は高い」と明記しているのか

推測ではなく、国の文書を見ます。

国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」(平成23年4月策定、令和6年6月改定)は、修繕積立金の額の目安を、建物の規模別に専有床面積あたりの月額で示しています。

このガイドラインでは、地上20階以上の超高層マンションについて、他の区分とは分けて目安を示しています。

区分(建築延床面積) 月額の目安(平均値)
5,000平方メートル未満 335円/平方メートル・月
5,000〜10,000平方メートル 252円/平方メートル・月
地上20階以上(超高層) 338円/平方メートル・月

※出典:国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」(令和6年6月改定)

そして、なぜ超高層を分けたのかについて、ガイドラインはこう説明しています。超高層マンション(一般に地上20階以上)は、外壁等の修繕のための特殊な足場が必要となるほか、共用部分の占める割合が高くなるため、修繕工事費が増大する傾向にある、と。

国が公式文書で「特殊な足場が必要だから高い」と書いている。これは、大規模修繕を発注する側にとって、非常に重要な一文です。

なぜなら、コスト構造の主犯がはっきり名指しされているからです。主犯がわかっているなら、対策も立てられます。

3-1. 70平方メートルの住戸で計算するといくらか

目安を実額に直します。専有面積70平方メートルの住戸で、338円/平方メートル・月を当てはめると、

  • 338円 × 70平方メートル = 月額 23,660円

これが超高層マンションで国が示す目安の水準です。一方、国土交通省「令和5年度マンション総合調査」で報告された、現在の修繕積立金の額の月額平均は13,054円(駐車場使用料等からの充当額を含む平均は13,378円)です。

もちろん総合調査の平均値は全マンションの平均であり、超高層に限った数字ではありません。単純比較はできません。しかし、目安と実態の間に相当な開きがあるという傾向は読み取れます。


4. 2026年4月1日、改正区分所有法が施行された

ここからが、2026年の新しい前提です。

2025年(令和7年)5月23日、「老朽化マンション等の管理及び再生の円滑化等を図るための建物の区分所有等に関する法律等の一部を改正する法律」(令和7年法律第47号)が成立し、同年5月30日に公布されました。区分所有法および被災区分所有建物の再建等に関する特別措置法の改正部分は、2026年(令和8年)4月1日から施行されています。

この改正の背景を、法務省・国土交通省は「建物の老朽化」と「区分所有者の高齢化」が同時に進む「二つの老い」と表現しています。

4-1. 建替え決議の要件が、条件付きで4分の3に

改正の柱のひとつが、建替え決議の多数決要件の緩和です。

区分 決議要件
原則 区分所有者および議決権の各5分の4以上
一定の事由に該当する場合 区分所有者および議決権の各4分の3以上

そして「一定の事由」として挙げられているのが、次の5つです。

  1. 耐震性の不足
  2. 火災に対する安全性の不足
  3. 外壁等の剥離により周辺に危害を生ずるおそれ
  4. 給排水管等の腐食等により著しく衛生上有害となるおそれ
  5. バリアフリー基準への不適合

3番目に注目してください。「外壁等の剥離により周辺に危害を生ずるおそれ」です。

4-2. オーナーにとって、これは何を意味するのか

この規定は、二つの方向から読めます。

再生を進めたい側から見れば、老朽化が進み外壁が危険な状態にあるマンションについて、建替えの合意形成のハードルが下がったということです。これは制度としては前進です。

一方、資産を持ち続けたいオーナーから見れば、外壁の剥離を放置することが、自分の区分所有権そのものの前提を揺るがしうる、ということでもあります。外壁の状態は、もはや「見た目」や「美観」の問題ではありません。法律が定める建物再生の入口条件の一つになりました。

賃貸で運用している収益物件のオーナーであれば、話はさらに直接的です。外壁の剥離は、賃料水準、入居率、そして万一の落下時の工作物責任(民法717条)に直結します。


5. 数字で見る「これから20年」──何が起きるのか

一次情報をもう一つ重ねます。国土交通省が公表している、築40年以上のマンションストック数の推移です。

時点 築40年以上のマンション戸数
2023年末(現在) 約137万戸
10年後(2033年末) 約274万戸
20年後(2043年末) 約464万戸

※出典:国土交通省「築40年以上のマンションストック数の推移」

20年で約3.4倍です。そして国交省の資料では、築40年以上のマンションについて、世帯主が70歳以上の住戸の割合が5割を超えているという課題も示されています。

つまり、これから20年のあいだに起こるのは、次の3つが同時進行する状況です。

  1. 修繕が必要な建物が3倍以上に増える
  2. 修繕費を負担する区分所有者が高齢化し、収入が年金中心になる
  3. 建設業の担い手不足により、施工単価は下がりにくい

この3つが重なるとき、「積立金を上げましょう」という正論だけでは、合意は取れません。必要なのは、必要工事量を落とさずに総額を下げる技術的な選択肢です。

5-1. 長期修繕計画のルールも変わった

国土交通省「長期修繕計画作成ガイドライン」も、令和6年6月に改定されています。主な変更点は次のとおりです。

改定項目 従来 令和6年6月改定後
既存マンションの計画期間 25年以上 30年以上(大規模修繕工事2回を含む)
大規模修繕工事の修繕周期 一律の目安 工事事例等を踏まえた「幅のある周期」
省エネ改修 — 省エネ性能を向上させる改修工事の有効性を追記
昇降機 — 「昇降機の適切な維持管理に関する指針」に沿った定期点検の重要性を追記

この改定のうち、実務的にいちばん効くのは「修繕周期に幅を持たせた」という部分です。

かつては「大規模修繕は12年周期」という言い方が一人歩きしていました。改定後のガイドラインは、工事事例等を踏まえて一定の幅のある周期を示しています。建物の実態に応じて、周期を伸ばす判断も、計画のなかで正当化できるようになったということです。

ただしここには条件があります。周期を伸ばすには、建物の状態を根拠のあるかたちで把握していなければなりません。つまり、調査・診断の質が、そのまま総額に効いてきます。

5-2. 「段階増額積立方式」に、国が数値の枠をはめた

令和6年6月の改定で、もうひとつ実務に直結する変更が入りました。段階増額積立方式における適切な引上げの考え方です。

段階増額積立方式とは、新築時の積立金を低く設定し、年数の経過とともに段階的に引き上げていく方式です。分譲時の月額負担を軽く見せられるため、広く採用されてきました。しかし国土交通省は、この方式を採用したマンションのなかに、計画期間中の積立金水準が著しく上昇し、予定していた引上げが実現できずに積立不足に陥るリスクを抱えるケースがあることを課題として挙げています。

そこでガイドラインは、均等積立方式とした場合の額を「基準額」と置いたうえで、次の目安を示しました。

段階増額積立方式における目安 基準額(=均等積立方式とした場合の額)との関係
最初の徴収額 基準額の0.6倍以上
最終の徴収額 基準額の1.1倍以内

※出典:国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」(令和6年6月改定)

狙いは明確です。現実的な引上げ幅のうちに早期の増額を完了させ、均等積立方式へ誘導することにあります。

管理組合の実務としては、まず自分たちのマンションが段階増額積立方式なのか均等積立方式なのかを確認し、段階増額であれば、計画上の最終額が基準額の1.1倍以内に収まっているかを見てください。大きく超えている場合、その計画は「将来の総会で必ず揉める計画」だということになります。

そしてここでも、分母である工事費そのものを工法選択で下げられれば、基準額自体が下がります。積立金の議論は、工事費の議論と切り離せません。


6. 解体を語る前に、できること①──「調べる」ための足場を組まない

ここから、現場としての提案に入ります。

大規模修繕の総額を下げようとするとき、多くの管理組合が最初に検討するのは「工事内容を削る」ことです。しかしこれは、次の周期に費用を先送りしているだけで、多くの場合は総額を増やします。

私たちが最初に見るのは、仮設のかけ方です。

6-1. 「調査のために足場を組む」という無駄

建築基準法第12条に基づく定期報告のなかで、竣工または外壁改修から10年を超えた建物には、外壁の全面打診等調査が求められます(タイル張り・モルタル塗り等の場合)。

この調査を行うために、「足場を組むしかない」と言われた経験を持つ管理組合は少なくありません。しかし、調査のためだけに全面足場を架けるのは、費用対効果として明らかに過剰です。

ロープアクセス工法(無足場工法)であれば、産業用ロープで作業員が壁面に直接アプローチし、打診調査を行うことができます。足場の架設・解体・養生が不要になるため、調査段階のコストは大きく変わります。

さらに副次的な効果として、次の点があります。

  • 居住者の生活影響が小さい:足場を組むと、窓が開けられない、洗濯物が干せない、日照が落ちる、防犯上の不安が生じる、といった問題が数か月続きます。ロープアクセスであれば、作業日のみの影響で済みます。
  • 賃貸物件の場合、入居率への影響が小さい:足場と養生シートに覆われた建物は、内見時の印象を確実に落とします。
  • 工期が短い:架設と解体の期間がまるごと不要になります。

6-2. 診断の精度が上がると、計画の精度が上がる

そして、調査コストが下がることの本当の意味は、「調査を十分にできるようになる」ことです。

部分的な調査で「たぶん全面補修が必要でしょう」と見積もるのと、全面を打診したうえで「補修が必要なのはこの範囲だけです」と特定するのとでは、工事数量がまったく変わります。長期修繕計画の精度も、当然変わります。

令和6年6月改定のガイドラインが修繕周期に幅を認めた以上、「幅のどちら側に寄せられるか」を決めるのは診断の質です。


7. 解体を語る前に、できること②──工法を「選ぶ」という発想を持つ

大規模修繕の工法は、ひとつではありません。

工法 特徴 向いている建物
通常足場工法 枠組足場等を全面に架設する従来型。作業性が高く、大量の工事数量をこなせる 中低層、外壁の劣化範囲が広い、複雑な形状
ロープアクセス工法(無足場工法) 産業用ロープで壁面にアプローチ。足場費・工期・生活影響を大幅に削減 高層・超高層、足場架設が困難な立地、部分補修が中心、調査・診断
ハイブリッド工法 部位ごとに足場とロープアクセスを使い分ける 大規模・複雑物件で、総額最適化が必要なケース

多くの施工会社は、このうち1つ、多くても2つの選択肢しか持っていません。そうすると、建物に工法を合わせるのではなく、工法に建物を合わせる提案になります。

40階建てのタワーマンションに、通常足場しか選択肢がない会社が見積もれば、その見積書は必然的に高くなります。そして管理組合は、「大規模修繕とはこういう金額なのだ」と受け止めることになります。

株式会社明誠は、通常足場・ロープアクセス・ハイブリッドの3つを自社で持ち、建物ごとに最適な組み合わせをご提案しています。ロープアクセス工事としては日本で初めてとなるフランチャイズ展開を行い、塗装・防水・タイル・電気・看板の各分野の専門職が加盟することで、高品質と適正価格を両立する施工体制を構築しました。工法比較の考え方については、ロープアクセス工法の専門サイトでも詳しく解説しています。

7-1. ハイブリッドという現実解

実務でいちばん多いのは、実はハイブリッドです。

たとえば、低層部(1〜5階)は工事数量が多く人の出入りも多いため足場を架け、6階以上はロープアクセスで対応する。あるいは、バルコニー側は足場、外周面はロープアクセス。屋上防水は足場不要、外壁補修だけロープアクセス。

「全部足場」か「全部ロープ」かの二択にしない。これだけで、総額が2割前後変わることは珍しくありません。

7-2. 収益不動産・ホテルでは、工事費よりも「営業への影響」が効く

ここまでは分譲マンションを前提に書いてきましたが、賃貸マンション、テナントビル、ホテルのオーナーにとっては、判断軸がもうひとつ加わります。工事期間中の収益への影響です。

影響項目 通常足場工法 ロープアクセス工法
建物外観 数か月間、養生シートで全面が覆われる 作業日のみ、作業面に限定
内見・集客 印象が落ち、成約率に影響しやすい 影響は限定的
ホテルの客室稼働 窓の眺望・採光が長期間失われる 作業時間帯の調整で対応可能
店舗テナントの視認性 看板・ファサードが隠れる 隠れる期間が短い
防犯上のリスク 足場が侵入経路になりうる 該当なし
近隣への影響 長期の設置による苦情リスク 期間が短く、苦情も出にくい

工事費が仮に同額だったとしても、3か月にわたって全客室の眺望が失われるホテルと、作業日だけ調整すればよいホテルでは、事業として意味がまったく違います。

ホテル・商業ビルのオーナー様からご相談をいただく際、私たちが最初にうかがうのは、工事のご予算ではなく「繁忙期はいつか」「稼働率をどこまで落とせるか」です。工法の選択は、そこから逆算します。

7-3. 「安いから無足場」ではない

念のため申し上げておきますが、ロープアクセス工法は万能ではありません。

  • 外壁の劣化が全面に及び、補修数量が膨大な場合
  • 大型の外装材を交換する場合(重量物の揚重が必要)
  • 複数工種が同時並行で、常時多人数が壁面に取り付く必要がある場合

こうしたケースでは、足場を架けたほうが工期も費用も有利になります。「安いから無足場」ではなく、「この建物のこの部位には、この工法が合理的だから」という説明ができるかどうかが、施工会社を見極めるポイントです。

3工法を持つ会社であれば、自社にとって不利な結論(=足場を架けたほうがよい、という結論)も含めて、フラットに比較できます。


8. 解体を語る前に、できること③──合意形成の「材料」をそろえる

改正区分所有法の施行により、老朽化マンションの再生に関する決議は取りやすくなりました。しかし、決議が取りやすくなったことと、正しい判断ができることは別問題です。

管理組合の総会で必要なのは、次の3点セットです。

材料 内容 誰が用意するか
① 現況の客観的データ 外壁全面打診の結果、劣化度の分布、緊急性の判定 調査会社/施工会社
② 複数工法での費用比較 通常足場/ロープアクセス/ハイブリッドの3案比較 施工会社(3工法を持つ会社に限る)
③ 積立金への影響シミュレーション 各案を採用した場合の30年間のキャッシュフロー 管理会社/管理組合

このうち②が揃わないまま総会にかけられるケースが、現実には非常に多いのが実情です。1社1案の見積書を見て「高い」「安い」を議論しても、判断の軸が立ちません。

8-1. 相見積もりの取り方には順番がある

相見積もりを取ること自体は正しいのですが、「同じ仕様で3社」より先にやるべきことがあります。それは「工法の選択肢を洗い出す」ことです。

  1. まず、建物の現況を客観的に把握する(全面打診等調査)
  2. 次に、その建物で成立する工法を洗い出す(足場/ロープ/ハイブリッド)
  3. そのうえで、工法ごとの概算を並べる
  4. 最後に、採用する工法を決めてから、同一仕様で相見積もりを取る

この順番を逆にすると、「全部足場」という前提のまま3社の価格だけを比べることになり、いちばん大きな削減余地を見逃します。


9. オーナー・管理組合の実務チェックリスト

今日から費用をかけずに確認できる項目を整理します。

# 確認項目 確認先
1 直近の定期報告(建築基準法第12条)を提出しているか 管理会社/特定行政庁
2 竣工または外壁改修から10年を超えているか。全面打診等調査は済んでいるか 管理組合の記録
3 長期修繕計画の計画期間は30年以上か(令和6年6月改定に適合しているか) 長期修繕計画書
4 修繕積立金は、国交省ガイドラインの目安(超高層は338円/平方メートル・月)と比べてどの水準か 管理費等の明細
5 前回の大規模修繕の見積書で、仮設費が総額の何%だったか 過去の見積書
6 過去にロープアクセス工法での比較見積もりを取ったことがあるか 管理組合の記録
7 管理規約は、改正区分所有法(2026年4月1日施行)に対応した見直しを検討しているか 管理規約/管理会社

7番目については補足します。改正区分所有法の施行に伴い、国土交通省はマンション標準管理規約の改正も行っています。既存の管理規約が改正法の内容と整合しているかは、一度確認しておく価値があります。


10. よくある質問

Q1. タワーマンションは本当に解体できないのですか。

「できない」と断定できる根拠は、公的にはありません。報道されているのは、現行の技術・費用水準で試算すると、非常に高額になるという試算です。50年後の技術水準、解体工法、建設市場の状況は誰にもわかりません。

現時点で確実に言えるのは、解体を議論する段階に至る前の50年間で、修繕にどれだけの費用がかかるかは、今の判断で変えられるということです。

Q2. 修繕積立金が国のガイドラインの目安より低い場合、すぐに値上げすべきですか。

値上げの判断は管理組合の総会事項であり、私たちが決められることではありません。ただし判断の順番として、「必要額を確定させてから、不足額を決める」ことをおすすめします。

必要額は、長期修繕計画で想定している工法によって変わります。工法を見直さないまま積立金だけを上げると、本来不要な額まで積み立てることになりかねません。

Q3. ロープアクセス工法は、足場と比べて品質が落ちませんか。

工法と品質は別の軸です。品質を決めるのは、施工する職人の技能と、施工管理の体制です。

ロープアクセス工法は、労働安全衛生規則に基づくロープ高所作業の規定(第36条第40号、特別教育の義務化等)の枠組みのなかで行われる正規の作業方法です。塗装・防水・タイル補修の各工種について、足場作業と同等の品質基準で管理できます。

ただし、工事数量が非常に多い場合は、足場のほうが効率的で結果的に安くなるケースもあります。だからこそ、3工法から比較する意味があります。

Q4. 「外壁等の剥離により周辺に危害を生ずるおそれ」は、誰がどう判定するのですか。

改正区分所有法における具体的な認定の運用については、施行後の実務の積み重ねを見ていく必要があります。現時点で確実なのは、この認定の前提となるのは客観的な建物調査の結果であるということです。

言い換えれば、日常的に外壁の状態を把握し、記録を残している管理組合ほど、いざというときの判断材料を持っているということになります。

Q5. 賃貸のオフィスビルや店舗ビルのオーナーにも関係しますか。

区分所有法は分譲マンションの制度ですが、外壁の維持管理義務と定期報告の義務は、賃貸ビルにも同様にかかります。むしろ単独所有の賃貸ビルのほうが、合意形成が不要な分、判断のスピードで有利です。

そして外壁の落下事故が起きた場合、所有者は民法717条の工作物責任を問われます。テナントビル・ホテルの場合、営業補償の問題も加わります。

Q6. 相談だけでも可能ですか。

可能です。現地を拝見したうえで、通常足場・ロープアクセス・ハイブリッドの3案でご提案します。工法の比較検討そのものが、管理組合の総会資料として使える材料になります。


11. まとめ

  • 2026年8月30日の報道で示された「40階建てタワマンの解体費用27〜40億円、1戸540〜800万円」という試算の割増要因は、高所で安全に作業を成立させるための仮設コストです。
  • 同じ構造は修繕にも働きます。国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」(令和6年6月改定)は、地上20階以上について「外壁等の修繕のための特殊な足場が必要となる」ため工事費が増大すると明記し、目安を338円/平方メートル・月としています。
  • 一方、令和5年度マンション総合調査における修繕積立金の月額平均は13,054円です。目安と実態には開きがあります。
  • 2026年4月1日施行の改正区分所有法では、「外壁等の剥離により周辺に危害を生ずるおそれ」がある場合、建替え決議の要件が5分の4から4分の3に緩和されました。外壁の管理状態は、法律上の意味を持つようになりました。
  • 同じ令和6年6月の改定で、段階増額積立方式について「最初は基準額の0.6倍以上、最終は1.1倍以内」という目安が示されました。計画上の最終額が基準額を大きく超えていれば、その計画は将来必ず揉めます。
  • 築40年以上のマンションは、2023年末の約137万戸から、2043年末には約464万戸に増える見込みです。
  • 「長期修繕計画作成ガイドライン」は令和6年6月に改定され、既存マンションの計画期間は30年以上(大規模修繕工事2回を含む)、修繕周期は幅のある設定に変わりました。周期を伸ばす判断を支えるのは、診断の質です。
  • 解体を語る前にできることは3つ。①調査のために足場を組まない、②工法を3つから選ぶ、③合意形成の材料を揃える。

点検のために、毎回足場を組む必要はありません。そして、大規模修繕の総額を決めているのは、多くの場合、工事の内容ではなく仮設の組み方です。


参考・一次情報


執筆者

本間 幸紘(ほんま ゆきひろ)
株式会社明誠 代表取締役

マンション・ビル・ホテルの大規模修繕工事を専門とし、通常の足場仮設工法・ロープアクセス工法(無足場工法)・両者を組み合わせたハイブリッド工法の3つから、建物ごとに最適な工法をご提案しています。ロープアクセス工事としては日本で初めてとなるフランチャイズ展開を行い、塗装・防水・タイル・電気・看板の各分野の専門職が加盟することで、高品質かつ適正価格の施工体制を構築しています。

また、一般社団法人 全国建設業支援協会(JCSA)を運営し、全国の建設業者に向けた経営支援情報の発信、オンラインセミナー、交流会、ビジネスマッチングを行っています。

株式会社明誠
TEL:042-508-3567
Mail:info@meiseitosou.com

最終更新日:2026年9月1日

今週は建築物防災週間(8月30日〜9月5日)|国交省に報告された令和8年上半期の建築物事故6件と、オーナー・管理組合が9月5日までに確認する7項目【2026年8月】

2026年8月31日 更新

この記事で答える質問

  • 建築物防災週間とは何か。今年(令和8年度秋季)はいつからいつまでか。
  • この週間中に行われる「防災査察」では、何を見られるのか。査察の対象になりやすい建物はどこか。
  • 令和8年の上半期に、国土交通省へ報告された建築物の事故はどんなものだったのか。
  • 外壁タイルの剥落や看板の転倒を防ぐために、所有者・管理者は今週何を確認すればいいのか。
  • 点検のために、毎回足場を組まなければいけないのか。組まずに診る方法はあるのか。

1. 結論

今週(2026年8月30日〜9月5日)は、国土交通省が定める「建築物防災週間」の期間中です。この期間、全国の特定行政庁(建築主事を置く自治体)が防災査察を行います。査察の対象は、国交省の通知にはっきり書かれています。「定期報告書が提出されていない建築物等を中心に」です。

そして、令和8年の上半期(1月1日〜6月30日)に国交省へ報告された建築物事故6件のうち、5件が「外まわりの落下・転倒」でした。外壁、タイル、笠木、看板、屋根。すべて、私たち大規模修繕の現場が扱う部位です。

この記事では、国交省が令和8年8月10日付で全国の都道府県知事宛に出した通知(国住事防第11号)の原文をもとに、今週のうちにオーナー・管理組合が確認すべき7項目を整理します。あわせて、「点検のたびに足場を組むしかないのか」という長年の悩みに対する現実的な選択肢も示します。


2. 建築物防災週間とは何か──昭和35年から、年2回

建築物防災週間は、火災、地震、がけ崩れ等による建築物の被害や人的被害を防止し、安心して生活できる空間を確保することを目的として、昭和35年(1960年)以来、毎年2回実施されています。

項目 内容
春季 毎年3月1日〜3月7日
秋季(今回) 毎年8月30日〜9月5日
令和8年度秋季の実施期間 2026年8月30日(日)〜9月5日(土)
根拠通知 国住事防第11号(令和8年8月10日、国土交通省住宅局長)
宛先 各都道府県知事(管内特定行政庁へも周知)
所管 国土交通省 住宅局 建築指導課 建築物事故調査・防災対策室

66年続いている取り組みですが、「名前は聞いたことがあるが、自分の建物に何か関係があるのか分からない」という所有者の方がほとんどだと思います。実際、私が現場で管理組合の理事や一棟オーナーの方とお話ししていても、防災週間の話題が出ることはまずありません。

しかし今年の通知を読むと、この週間は「啓発イベント」ではなく「執行の週」に寄ってきていることが分かります。

2-1. 今年の通知に書かれた8つの取組

令和8年度秋季の通知では、以下の8項目が「建築物防災週間における取組」として列挙されています。

  1. 住宅・建築物の耐震化の促進
  2. 大規模地震・火災対策の推進等(密集市街地の防災対策、感震ブレーカーの設置促進)
  3. 狭あい道路に関する課題解決に向けた取組の推進
  4. 住宅などの窓及びベランダからの子ども転落事故防止
  5. 建築物及び昇降機等事故の再発防止
  6. 防災査察の実施
  7. 住宅・建築物の所有者・管理者に対する広報活動
  8. 関係部局及び関係団体との連携

このうち、収益不動産オーナーと管理組合が直接影響を受けるのが、5番と6番です。

2-2. 「防災査察」の対象は、はっきり書かれている

通知の「(6)防災査察の実施」には、こうあります。

防災査察の機会を捉えた是正指導については、適正な維持保全による建築物の安全性を確保するため、定期報告書が提出されていない建築物等を中心に、特定行政庁の職員により、現地において建築物等の状況を調査し必要な指導を実施するなどの取組の推進をお願いします。

──国住事防第11号(令和8年8月10日)より引用

読み替えると、こうなります。

「建築基準法第12条の定期報告を出していない建物には、行政職員が現地に来る可能性がある」

ここが今週の実務上のポイントです。定期報告を出しているかどうか、まず確認してください。


3. 令和8年上半期、国交省に報告された建築物事故6件

今年の通知には、別表として「特定行政庁等より報告を受けた建築物及び昇降機等事故一覧」が添付されています。対象期間は令和8年上半期(2026年1月1日〜6月30日)。この6か月間に、全国の特定行政庁から国交省へ報告が上がった建築物事故は、次の6件です。

発生年月日 発生場所 事故の概要 人身被害
2026年1月11日 北海道内 1.5m四方の倉庫屋根が飛散した なし
2026年1月11日 北海道内 屋上部分にある屋外広告物の一部が剥離し地上に落下した なし
2026年1月11日 北海道内 強風により屋根のアルミ笠木(幅約2m、重さ約5kg)が外れ、歩道上に落下した なし
2026年3月5日 栃木県内 商業施設敷地内の看板が転倒し、3名が負傷した 重傷1名・軽傷2名
2026年5月25日 神奈川県内 外壁タイル(幅2.5m×高さ2m程度)がモルタル下地ごと剥離し、駐輪場屋根に落下した なし
2026年6月26日 栃木県内 建築物の外壁が落下し、通行人2名が負傷した 軽傷2名

※出典:国住事防第11号 別表「特定行政庁等より報告を受けた建築物及び昇降機等事故一覧」(対象期間:令和8年1月1日〜6月30日)

この表を、私はしばらく黙って眺めていました。

6件中5件が、建物の「外まわりの落下・転倒」です。倉庫屋根、屋外広告物、アルミ笠木、看板、外壁タイル、外壁。塗装・防水・タイル・看板──つまり、大規模修繕で扱う部位そのものです。

3-1. 「幅2.5m×高さ2m、モルタル下地ごと」の重さ

2026年5月25日、神奈川県内の事故に注目してください。外壁タイルが「モルタル下地ごと」剥離しています。

タイル1枚が落ちたのではありません。幅2.5m×高さ2m、およそ5㎡の面が、下地のモルタルごと剥がれ落ちた。仮に厚さ25mm、比重2.0で概算すると、重量は250kg前後になります(※厚さ・比重は一般的な想定値による概算であり、実際の重量は仕様により異なります)。

幸い落下先が駐輪場の屋根で、人身被害はありませんでした。しかし、これが1か月後の栃木県の事故のように歩道側だったら、結果は違っていたはずです。実際、6月26日の栃木県の事故では通行人2名が負傷しています。

タイルの浮きは、外から見て分かりません。目視では健全に見える面が、打診してみると「コンコン」と乾いた音を返す。これが浮きです。年に何度も遭遇します。そして浮きは、必ずしも1枚単位では発生しません。下地との界面で面的に進行していることがある。だから「モルタル下地ごと」という記述になるのです。

3-2. 3月5日の看板転倒は「防災週間の最中」に起きた

もうひとつ、見落とせない事実があります。

2026年3月5日に栃木県で起きた看板転倒事故(重傷1名・軽傷2名)について、国交省は別の事務連絡でこう記しています。

建築物防災週間中の令和8年3月5日に栃木県那須町で屋外広告物が転倒し、複数の負傷者が出る事案が発生しました。転倒した屋外広告物は、建築基準法第88条に基づき建築基準法令の規定が準用される工作物(準用工作物)に該当することから建築確認の手続が必要であったところ、その手続が行われておらず、屋外広告物条例に基づく屋外広告物の設置許可申請についてもなされておりませんでした。

──「準用工作物に該当する屋外広告物の建築基準法令への適合及び手続の徹底について」(令和8年3月30日 事務連絡)より引用

防災週間の最中に、無確認の看板が倒れて3人が負傷した。これが今年の春の出来事です。だから秋の通知では、屋外広告物への言及が例年より強くなっています。

自社ビルやテナントビルの屋上・壁面に看板を出しているオーナーの方は、この一件を他人事にしないでください。「その看板、建築確認は取っていますか」という問いに、即答できるでしょうか。

4. 定期報告の「対象」は、静かに広がっている

防災査察が「定期報告未提出の建物」を中心に行われる以上、まず押さえるべきは自分の建物が定期報告の対象かどうかです。

ここで、多くのオーナーが見落としている変更があります。

4-1. 事務所ビルの指定範囲が「階数3以上・200㎡超」まで下りた

令和3年12月17日に大阪市北区で発生したビル火災を契機に行われた緊急立入検査で、比較的小規模な雑居ビル等においても、竪穴区画や直通階段等の建築基準法令違反や不十分な維持管理状態のものが一定数存在することが明らかになりました。

これを受け、建築基準法施行令の一部を改正する政令(令和5年政令第34号)により、特定行政庁が定期調査報告の対象として指定できる範囲が、事務所その他これに類する用途の建築物について見直されました。

改正前 改正後
事務所等の指定可能範囲 階数5以上 かつ 延べ面積1,000㎡超 階数3以上 かつ 延べ面積200㎡超

これは「全国一律で対象になった」という意味ではありません。特定行政庁が指定できる範囲が広がったという意味です。指定するかどうかは自治体の判断ですが、国交省は今年の通知でこう求めています。

各特定行政庁におかれては、管内の建築物の建築の動向やその他の事情を勘案しつつ、事務所その他これに類する用途に供する建築物を定期調査報告対象に指定することや、既に指定している場合には指定範囲の拡大について検討するとともに、継続的な違反等の確認及び是正指導に取り組むようお願いします。

──国住事防第11号 別添より引用

つまり、3階建て・延べ200㎡超の小さなテナントビルが、今後お住まいの自治体で定期報告対象になる可能性があるということです。「うちは小さいビルだから関係ない」という前提は、そろそろ更新が必要です。

4-2. 共同住宅も「指定を検討せよ」と書かれている

さらに、賃貸マンション・アパートを持つオーナーにとって重要な一節があります。

各特定行政庁におかれては、管内の建築物の建物の動向やその他の事業を勘案しつつ、共同住宅等を定期報告調査対象に指定することについて検討するとともに、所有者・管理者に対しては、経年劣化による老朽化や損傷が著しい建築物等の適切な維持保全を促し、必要に応じて専門家等に相談するよう、広く働きかけをお願いします。

──国住事防第11号 別添より引用

背景には、実際に起きている事故があります。通知にはこう記されています。

昨今、老朽化や劣化が一要因となり木造共同住宅の屋外階段や煙突、木造のあずまやが倒壊する事故が起こり死傷者が発生しているほか、外壁や庇の落下事故も毎年一定程度発生しています。また、令和7年9月30日には、擁壁及び家屋が倒壊する事案が発生しました。

木造共同住宅の屋外階段の倒壊は、記憶に新しい方も多いはずです。鉄骨階段の腐食も同様で、外階段の踏板の裏側やささら桁の付け根は、外からは絶対に見えません。私たちがロープアクセスで下から覗いて、初めて錆の進行が判明したケースは何度もあります。


5. 外壁:10年ごとの「全面打診等調査」と、足場をめぐる現実

定期報告の中で、大規模修繕と最も密接に関わるのが外壁の調査です。

5-1. ルールの要旨

建築基準法第12条第1項に基づく特定建築物定期調査では、外壁について次の2段構えが求められています(以下は制度の要旨であり、詳細は所管の特定行政庁にご確認ください)。

調査の種類 頻度 内容
通常の定期調査 おおむね1〜3年ごと(特定行政庁が定める) 目視・部分打診等による調査
全面打診等調査 10年ごと 竣工・外壁改修等から10年を超えて最初の調査時に、落下により歩行者等に危害を加えるおそれのある部分について全面打診等

「10年ごと」というのは、建物の年齢が10年を超えたら毎回ではなく、10年を経過してから最初の調査の際に全面打診等を行い、以後10年周期で繰り返すという運用です。ここは誤解が多いところなので、所管の特定行政庁または調査資格者に必ず確認してください。

5-2. 「打診のために足場を組むのか」という問題

ここからが本題です。

全面打診は、原則として壁面に手が届く距離まで人が近づく必要があります。タイル面をパルハンマーで叩き、返ってくる音で浮きを判断する。この「音を聴く」作業を、地上から双眼鏡で行うことはできません。

では、どうやって壁面に近づくか。選択肢は主に3つです。

方法 概要 コスト感 居住者・テナントへの影響
仮設足場 建物全周に枠組足場を架設 大きい(工事費全体の2割前後を占めることが多い) 大きい(窓が塞がる・防犯上の不安・工期が長い)
ゴンドラ・高所作業車 屋上から吊るす/地上から伸ばす 中程度 中程度(設置条件・敷地条件の制約が大きい)
ロープアクセス(無足場工法) 産業用ロープで作業員が壁面に降下 小さい(足場費が不要) 小さい(窓を塞がない・準備が短い)

※足場費が工事費に占める比率は建物形状・階数・敷地条件により大きく変動します。実際の金額は必ず個別見積もりでご確認ください。

打診調査だけのために全周足場を架設する──これは、費用対効果の面で管理組合の総会を通しにくい提案です。実際、「10年目の全面打診が必要なのは分かるが、そのためだけに足場を組む予算がない」という理由で先送りにされているケースを、私は何度も見てきました。

先送りされた結果として起きるのが、5月25日の神奈川県の事故のような剥落です。

5-3. ロープアクセスなら「調査だけ」を単独で発注できる

ロープアクセス工法(無足場工法)を使うと、調査を工事から切り離して単独で発注できるようになります。これが実務上、いちばん大きな違いです。

  • 足場を架設しないので、調査だけを短期間・低コストで実施できる
  • 調査結果を持って、必要な範囲だけを補修する計画が立てられる
  • 「全面やり替え」か「何もしない」かの二択から抜け出せる

私たち株式会社明誠は、通常の足場仮設による工事、ロープアクセスによる無足場工法、そして両者を部位ごとに使い分けるハイブリッド工法の3つを、建物ごとに選んでご提案しています。ロープアクセス工法の詳細と施工事例は、専門サイト「ロープアクセス工法|無足場工法の専門サイト」にまとめています。

ただし、正直に申し上げます。ロープアクセスが常に最適解ではありません。

  • 屋上に十分な支点(アンカー・構造体)が確保できない建物
  • バルコニーの手すり内側など、ロープでは物理的に届かない部位が多い建物
  • 全面的な下地補修・タイル張替えが広範囲に及ぶことが確定している建物

これらの場合は、素直に足場を組んだほうが安全で、結果的に安く上がります。「調査と軽微な補修はロープ、大規模な下地補修は足場」という切り分けができるのがハイブリッド工法で、私たちが最も多くご提案している形です。

5-4. ドローン赤外線調査という選択肢

近年は、ドローンによる赤外線調査を全面打診等の代替手法として活用できる場面も広がっています。この論点については、以前の記事「「10年に一度の外壁全面打診」は足場なしで乗り切れるか|ドローン赤外線調査の告示改正と、2026年に動いた”打診免除”ルールを一次情報で整理」で詳しく整理しました。あわせてご覧ください。


6. 屋根・笠木・看板:強風で飛ぶものは、全部あなたの責任になる

令和8年上半期の事故6件のうち、3件が2026年1月11日の北海道に集中しています。倉庫屋根の飛散、屋上の屋外広告物の剥離落下、屋根のアルミ笠木の落下。同じ日に同じ地域で3件。おそらく強い低気圧による暴風だったのでしょう。

6-1. 屋根瓦:告示109号は令和4年から強化されている

近年の台風被害を踏まえ、瓦の緊結方法に関する告示(昭和46年建設省告示第109号)が改正され、令和4年(2022年)1月1日に施行されています。

今年の防災週間通知には、こう書かれています。

既存の住宅等で屋根の耐風性能が十分でないものは強風時に周囲の建築物に被害を及ぼすおそれがあるため、同告示に基づく強風対策の周知をお願いします。なお、同対策は地震時の屋根瓦の飛散防止としても寄与するものであることも併せて周知をお願いします。

──国住事防第11号 別添より引用

重要なのは次の一文です。

告示基準に適合しない屋根の改修工事については、住宅・建築物安全ストック形成事業等が活用可能ですので、積極的な活用及び周知をお願いします。なお、同事業については、令和7年度補正予算において耐風診断及び耐風改修に係る補助限度額の引き上げを行っています。

耐風診断・耐風改修の補助限度額は、令和7年度補正予算で引き上げられています。補助の有無・金額は自治体ごとに異なるため、必ず所在地の建築部局にご確認ください。

6-2. アルミ笠木:重さ5kg、幅2m、落下先は歩道

2026年1月11日、北海道内で「強風により屋根のアルミ笠木(幅約2m、重さ約5kg)が外れ、歩道上に落下」しています。

笠木は、パラペット(屋上の立ち上がり)の天端に載せる金属のカバーです。防水層の端部を守る、地味だが重要な部材です。そして建物の最上部にあるため、地上からは絶対に見えません。

笠木の固定は、経年で緩みます。シーリングが切れ、下地の木材が腐り、ビスが効かなくなる。屋上に上がって天端を歩けば、浮きは足裏で分かることがあります。しかし、外側にオーバーハングしている部分の裏側は、屋上からも見えません。

ここも、ロープアクセスで外側から降りて初めて確認できる部位です。「屋上点検はしています」という管理会社の報告があっても、笠木の外側裏面まで見ているとは限りません。今週、聞いてみてください。

6-3. 看板:建築確認を取っていない屋外広告物が「散見される」

先ほど触れた那須町の事故を受け、国交省は令和8年3月30日付の事務連絡で、大阪市の調査結果にも言及しています。

令和7年8月18日に大阪市中央区宗右衛門町で発生したビル火災を受けて大阪市が火災現場を含む地区一帯について調査を実施しているところですが、大阪市によると準用工作物に該当する屋外広告物について、法の規定に適合していないものや、屋外広告物条例に基づく屋外広告物の設置許可申請等が行われていないものもあるとのことです。

──令和8年3月30日 事務連絡より引用

そして、行政側の対応方針として、こう書かれています。

建築主務部局においては、建築パトロールや日常的な防災査察の機会を利用して、このような準用工作物について、屋外広告物条例所管部局や消防部局など関係部局と連携の上、建築確認手続の実施状況などの実態を把握し、法令及び屋外広告物条例に基づく手続の未実施や、これらに基づく基準への不適合があった場合には、情報共有の上で適切に是正指導を行うなど、必要な取組をお願いします。

「防災査察の機会を利用して、看板の建築確認の実施状況を把握する」と明記されています。今週、それが行われます。

看板の安全点検義務とオーナー責任については、「看板の安全点検義務とオーナー責任|道頓堀ビル火災から1年」でも整理しています。テナントビルをお持ちの方は、こちらもご確認ください。

7. エレベーター:戸開走行保護装置が「約6割未設置」という数字

大規模修繕とは直接の守備範囲が違いますが、収益不動産オーナーとして知っておくべき数字が今年の通知に載っています。

令和6年度に定期報告のあったエレベーター約78万台のうち、約4割に当たる31万台に戸開走行保護装置が設置されていますが、依然として、約6割のエレベーターには戸開走行保護装置が設置されていない状況です。

──国住事防第11号より引用(※令和8年1月28日報道発表「エレベーターへの戸開走行保護装置の設置率は4割」)

戸開走行保護装置(UCMP)は、扉が開いたままカゴが動き出す事故を防ぐ装置です。平成21年(2009年)9月28日以降の新設エレベーターには設置が義務付けられていますが、それ以前の既設機には遡及適用されません。

日本のエレベーターの約6割──47万台前後が、この装置なしで動いています。

令和8年上半期の事故一覧には、次の3件のエレベーター事故と、1件の違法設置エレベーター事故(死亡1名)が記載されています。

発生年月日 発生場所 事故の概要 人身被害
2025年10月19日 神奈川県内 カゴが最上階フロア+490mmのところで停止し、突き上げ状態となっていた なし
2026年2月22日 東京都内 4階から展望デッキを結ぶエレベーターが途中停止し、乗客20名が閉じ込め。外部との連絡装置が不通 なし
2026年6月24日 兵庫県内 エレベーターから降りる際、カゴ床とホールとの間に9cmの段差が発生し、躓いて転倒 軽傷1名
2026年4月28日 広島県内 【違法設置エレベーター】カゴ枠と2階床の間に利用者の体が挟まれた 死亡1名

既設エレベーターへの戸開走行保護装置の設置には、住宅・建築物安全ストック形成事業および住宅・建築物防災力緊急促進事業が活用可能で、令和7年度補正予算で防災対策改修工事費に係る補助限度額が引き上げられています。

「うちのエレベーターは何年製か」──オーナーの方は、この機会に確認してみてください。平成21年より前なら、まず設置されていません。


8. 使える支援制度の一覧(令和8年度時点)

今年の通知には、防災対策に使える国の支援制度が横断的に整理されています。実際の適用可否・補助率・限度額は自治体によって異なるため、必ず所在地の建築部局にご確認ください。

制度名 主な対象 令和7年度補正・令和8年度当初での動き
住宅・建築物安全ストック形成事業 耐震・耐風・耐雪・土砂災害対策改修、アスベスト改修、エレベーター防災対策改修 耐風診断・耐風改修、耐雪診断・耐雪改修、土砂災害対策改修、防災対策改修工事費の補助限度額をそれぞれ引き上げ
建築物耐震対策緊急促進事業(住宅・建築物防災力緊急促進事業) 耐震診断義務付け対象建築物 事業期間を令和12年度末まで延長
災害危険区域等建築物防災改修等事業 災害危険区域・浸水被害防止区域で既存不適格となった建築物の改修 令和7年度補正予算で補助事業額を引き上げ
住宅市街地総合整備事業(水害対策型) 大規模水害が想定される住宅市街地の水害対策 令和8年度当初予算で創設
建築物火災安全改修事業 既存建築物の防火上・避難上の安全性確保 ──
狭あい道路整備等促進事業 セットバックに要する測量・分筆・登記・用地取得・道路舗装等 ──

税制面でも動きがあります。令和8年度税制改正において、既存住宅のリフォームに係る特例措置について所得税が3年間、固定資産税が5年間延長され、耐震改修促進法に基づき耐震診断が義務付けられる建築物の耐震改修に係る特例措置については固定資産税が3年間延長されました。

補助金の話が出ると、「うちは対象外だろう」と最初から諦めてしまう方が多いのですが、限度額が引き上げられた年は、前年に見送った工事が通ることがあります。今週、自治体の窓口に電話1本入れる価値はあります。


9. 9月5日までに確認する7項目

ここまでの内容を、実際に動ける形に落とし込みます。今週中に確認してください。すべて、電話や書類確認でできることです。

① 直近の定期報告書(建築基準法第12条)が提出されているか

管理会社または前任の理事から、定期調査報告書・定期検査報告書の写しを受け取っていますか。報告年月日と受理印を確認してください。提出していない建物が、今週の防災査察の主対象です。

② 外壁の「全面打診等調査」を最後に行ったのはいつか

竣工(または前回の外壁改修)から10年を超えていませんか。超えているのに全面打診等の記録がない場合、次の定期報告で指摘される可能性が高いと考えてください。

③ 屋上の笠木・パラペット天端の点検記録があるか

「屋上点検をしています」ではなく、「笠木の固定状態を確認しましたか」と具体的に聞いてください。外側にオーバーハングした部分の裏面まで見ているかどうかが分かれ目です。

④ 看板・屋外広告物の建築確認と設置許可を取っているか

自社ビル・テナントビルの屋上看板、壁面看板、袖看板。建築基準法第88条の準用工作物に該当する場合、建築確認が必要です。設置業者に確認書類の有無を照会してください。屋外広告物条例に基づく設置許可の更新も同様です。

⑤ エレベーターの製造年と、戸開走行保護装置の有無

平成21年9月以前に設置された機なら、まず未設置です。保守会社に確認し、補助制度の対象になるか自治体に問い合わせてください。

⑥ 外階段・バルコニー手すり・庇の付け根に腐食がないか

木造・鉄骨の外階段は、踏板の裏側とささら桁の付け根が最も危険です。庇の付け根、バルコニー手すりの支柱基部も同様。いずれも外からは見えません。

⑦ 修繕積立金・修繕予算の残高と、直近3年の支出予定

上記①〜⑥で「要対応」が出た場合、原資があるか。ここを確認しておかないと、指摘を受けてから慌てることになります。


10. オーナーと管理組合で、優先順位は変わる

同じ「防災週間」でも、立場によって最初に手をつけるべきところは違います。

10-1. 一棟所有オーナー(収益不動産)の場合

最優先は、④の看板と⑥の外階段です。理由は3つあります。

  1. 第三者への加害リスクが直接オーナーに来る。通行人が負傷すれば、工作物責任(民法第717条)の議論になります。管理組合のような合議体を挟まないぶん、責任の所在が明確です。
  2. 保険が効かない可能性がある。建築確認を取っていない看板の事故は、保険会社との交渉が難航することがあります。
  3. 是正のコストが読める。看板の点検・補強、外階段の防錆処理は、いずれも百万円単位で収まることが多く、判断しやすい。

賃料や稼働率と違って、こうした安全対策は「やっても収益が増えない支出」に見えます。しかし、事故が1件起きたときの逸失利益と対応コストを考えれば、これは保険料に近い性質の支出です。

10-2. 分譲マンション管理組合の場合

最優先は、①の定期報告と②の全面打診等調査です。

管理組合の場合、意思決定に総会を経る必要があるため、「気づいてから動くまで」に半年〜1年かかります。だからこそ、指摘を受ける前に、次年度予算に調査費を積んでおくことが実務的な解になります。

そして、ここで工法の選択が効いてきます。全面打診のために足場を組む前提で予算を立てると、調査費だけで数百万円規模になり、総会を通りにくい。ロープアクセスで調査を先行させれば、「まず正確な現状把握、その結果を見て工事範囲を決める」という二段構えが取れます。

なお、2026年4月1日施行の改正マンション管理適正化法により、管理業者管理者方式のマンションでは利益相反のおそれがある取引について事前説明が義務化され、「相手方以外に提出させた見積もりの内容」「相見積もりをさせなかった理由」が開示事項になりました。この点は「マンション管理業者31社に是正指導・49件|「管理者が発注者」になった2026年、大規模修繕の見積書で必ず確認する6項目」で詳しく整理しています。

10-3. ホテル・商業施設の場合

最優先は、③の笠木と④の看板、そして「営業を止めない点検手段」の確保です。

ホテルや商業施設では、足場を架設すること自体が営業機会の損失に直結します。客室の窓が塞がれば稼働率が落ち、店舗の看板が隠れれば売上が落ちる。点検のたびに足場を組むという選択肢が、そもそも現実的でないのがこの業態です。

だからこそ、ロープアクセスによる調査・部分補修は、ホテル・商業施設との相性が最もよい工法だと考えています。夜間や閑散期に、営業を止めずに壁面を診る。詳細は「ロープアクセス工法|無足場工法の専門サイト」の施工事例をご覧ください。


11. 台風シーズンとの重なりは、偶然ではない

建築物防災週間の秋季が「8月30日〜9月5日」に設定されているのは、9月1日の防災の日(関東大震災の日)を含むためです。しかし実務的には、この時期が台風シーズンの入口であることのほうが意味を持ちます。

強風で飛ぶものは、飛ぶ前に留めるしかありません。台風が来てから屋上に上がることはできない。今週のうちに、飛びそうなものを洗い出す。それが、この週間の実務的な使い方です。

台風・豪雨のあとの点検については、「台風・豪雨のあとの建物点検は「72時間」で決まる|令和8年8月千葉豪雨に学ぶ、足場を組まずに屋上・外壁を診る手順」で手順をまとめています。今週は「前」の点検、来月以降は「後」の点検。セットでお考えください。


12. 施工会社として、正直に書いておきたいこと

ここまで「点検してください」「確認してください」と繰り返してきました。工事会社がこれを書くと、営業目的に見えるのは承知しています。

だから、逆のことも書きます。

防災週間だからといって、慌てて工事を発注する必要はありません。

この時期、「行政の査察が入りますよ」「今すぐ点検しないと危険です」といった煽り方で営業をかける業者が出てきます。私たちの業界の悪い癖です。

冷静に考えてください。防災査察で指摘を受けたとしても、その場で工事を命じられるわけではありません。多くの場合、是正指導と報告の督促です。そこから調査・見積・比較検討をして、必要な工事を必要な範囲で行えばいい。

今週やるべきなのは、工事の発注ではなく「現状の把握」です。前ページの7項目は、すべて書類確認と問い合わせでできることです。費用はかかりません。

そのうえで、調査が必要だと判明したら、複数社から見積もりを取ってください。私たちも、そのうちの1社として声をかけていただければ十分です。工法の選択肢を3つ持っている会社として、「足場を組むべきです」と正直に申し上げる場面もあります。

現場を20年見てきて思うのは、建物の事故は「知らなかった」ではなく「知っていたが後回しにした」から起きるということです。5月25日に神奈川で落ちたタイルも、6月26日に栃木で落ちた外壁も、おそらく誰かが一度は「そろそろ見たほうがいい」と思っていたはずです。

今週は、その「そろそろ」を「今」に変えるための1週間です。

よくある質問(FAQ)

Q1. 建築物防災週間の期間中、必ず行政の査察が来るのですか?

A. 必ず来るわけではありません。国交省の通知(国住事防第11号)は、特定行政庁に対して「定期報告書が提出されていない建築物等を中心に」現地調査と必要な指導を実施するよう求めています。つまり、対象の選定は各特定行政庁の判断です。

ただし、定期報告を提出していない建物は、優先度が高いと考えるのが自然です。また、今年は屋外広告物について「建築パトロールや日常的な防災査察の機会を利用して、建築確認手続の実施状況などの実態を把握」するよう求める事務連絡(令和8年3月30日)が出ています。看板を設置している建物は、例年より注意が必要です。

Q2. 外壁の全面打診等調査は、必ず足場を組まないとできませんか?

A. いいえ。全面打診等調査の「等」には、赤外線調査などの他の手法も含まれ得ます。また、打診そのものを行う場合でも、壁面に近づく手段は仮設足場だけではありません。ゴンドラ、高所作業車、そしてロープアクセス(無足場工法)が選択肢になります。

ロープアクセスなら足場費が不要になるため、調査だけを単独で発注することが現実的になります。ただし、屋上に十分な支点が確保できない建物や、バルコニー内側など物理的に届きにくい部位が多い建物では、足場のほうが適切です。どの手法が使えるかは建物ごとに異なるため、調査資格者と施工会社の双方に相談することをおすすめします。詳しくはロープアクセス工法の専門サイトをご覧ください。

Q3. 3階建て・延べ面積250㎡の小さなテナントビルですが、定期報告の対象になりますか?

A. 所在地の特定行政庁が指定しているかどうかによります。令和5年政令第34号により、事務所その他これに類する用途の建築物について、特定行政庁が定期調査報告の対象として指定できる範囲が「階数5以上かつ延べ面積1,000㎡超」から「階数3以上かつ延べ面積200㎡超」へ拡大されました。

これは自動的に全国で対象になったという意味ではなく、各特定行政庁が指定するかどうかを判断します。国交省は今年の通知で、指定の検討および既に指定している場合の指定範囲の拡大の検討を求めています。所在地の市区町村の建築部局に、自分の建物が対象かどうかを直接確認してください。

Q4. 看板に建築確認が必要かどうかは、どう判断すればいいですか?

A. 建築基準法第88条に基づき、一定の規模を超える広告塔・広告板等は「準用工作物」として建築基準法令の規定が準用され、建築確認の手続が必要になります。規模の要件は建築基準法施行令に定められており、屋上に設けるものと地上に自立するもので基準が異なります。

判断に迷う場合は、設置業者に確認申請の写しを求めるのが最も早い方法です。書類が出てこない場合は、所在地の建築部局に建物の情報を伝えて相談してください。令和8年3月5日に栃木県那須町で発生した看板転倒事故(重傷1名・軽傷2名)では、建築確認も屋外広告物条例に基づく設置許可申請も行われていませんでした。

Q5. 防災週間を機に、点検や改修に使える補助金はありますか?

A. あります。屋根の耐風改修については住宅・建築物安全ストック形成事業が活用可能で、令和7年度補正予算において耐風診断および耐風改修に係る補助限度額が引き上げられています。同事業は耐雪診断・改修、土砂災害対策改修、アスベスト改修、既設エレベーターの戸開走行保護装置設置にも使えます。

ただし、補助制度は自治体ごとに創設状況・補助率・限度額が異なります。国の事業として枠があっても、お住まいの自治体が制度化していなければ使えません。まずは所在地の建築部局・住宅部局に電話で確認してください。防災週間中は広報活動が強化されているため、窓口で情報を得やすい時期でもあります。


まとめ:今週の1週間で、費用ゼロでできること

# 確認項目 確認先 所要
① 直近の定期報告書の提出状況 管理会社・前任理事 電話1本
② 外壁の全面打診等調査の実施履歴 管理会社・調査会社 電話1本
③ 屋上笠木・パラペット天端の点検記録 管理会社 電話1本
④ 看板の建築確認・設置許可の有無 設置業者・建築部局 電話2本
⑤ エレベーター製造年と戸開走行保護装置 保守会社 電話1本
⑥ 外階段・庇・手すり基部の腐食状況 目視+専門家相談 30分
⑦ 修繕積立金・修繕予算の残高 会計資料 30分

建築物防災週間は、2026年9月5日(土)までです。

上の7項目は、どれも工事の発注を伴いません。書類を1枚確認し、電話を1本かけるだけです。それでも、この7つが埋まっていれば、あなたの建物の防災上の弱点はかなりの精度で見えてきます。

そして、もし「調査が必要そうだ」という結論になったら──足場を組む前に、足場を組まずに診る方法があるかどうかを、一度検討してみてください。それだけで、判断に使える予算の幅は大きく変わります。


参考・一次情報


執筆者

本間 幸紘(ほんま ゆきひろ)
株式会社明誠 代表取締役

マンション・ビル・ホテルの大規模修繕工事を専門とし、通常の足場仮設工法・ロープアクセス工法(無足場工法)・両者を組み合わせたハイブリッド工法の3つから、建物ごとに最適な工法をご提案しています。ロープアクセス工事としては日本で初めてとなるフランチャイズ展開を行い、塗装・防水・タイル・電気・看板の各分野の専門職が加盟することで、高品質かつ適正価格の施工体制を構築しています。

また、一般社団法人 全国建設業支援協会(JCSA)を運営し、全国の建設業者に向けた経営支援情報の発信、オンラインセミナー、交流会、ビジネスマッチングを行っています。

株式会社明誠
TEL:042-508-3567
Mail:info@meiseitosou.com

最終更新日:2026年8月31日

マンション管理業者31社に是正指導・49件|「管理者が発注者」になった2026年、大規模修繕の見積書で必ず確認する6項目【2026年8月】

2026年8月30日 更新

この記事で答える質問:
管理会社が「管理者」を務めるマンションで、大規模修繕の発注は誰がどう決めているのか。2026年4月に何が変わり、区分所有者やオーナーは総会の前に何を確認すればいいのか。

私は20年、マンションやビルの外壁の前に立ってきました。その中で、ここ数年で一番はっきり変わったと感じているのが、「見積書を受け取る相手が誰なのか」という一点です。

かつては理事長さまでした。次に修繕委員長さまが増えました。そして今、発注の相手方が管理会社そのものというケースが、静かに、しかし確実に増えています。

その流れに、国が明確に線を引きました。


1. 結論:大規模修繕の発注は「説明できる形」でしか通らなくなった

先に結論を3行で申し上げます。

  1. 国土交通省は令和7年度、全国112社のマンション管理業者に立入検査を実施し、31社に対して合計49件の是正指導を行いました(令和8年5月29日公表)。前年度は107社中22社。社数も件数も増えています。
  2. 2026年4月1日、改正マンション管理適正化法が施行され、「第77条の2」が新設されました。管理業者が管理者を務めるマンション(管理業者管理者方式)で、利益相反のおそれがある取引を行う場合、区分所有者への事前の説明会が義務になりました。
  3. その説明で開示すべき事項には、「相手方以外に提出させた見積もりの内容」と「相手方以外に見積もりさせなかった理由」が含まれます。つまり国は、相見積もりを取ったのか、取らなかったならなぜか、を言語化させる制度にしたということです。

大規模修繕は、多くのマンションにとって修繕積立金の使い道として最大の支出です。その発注が、これからは「誰が決めたか」ではなく「どう説明されたか」で評価されます。

そして正直に申し上げると、この制度は私たち施工会社にとっても、決して楽な話ではありません。説明できない金額は通らなくなるからです。それでいいと思っています。


2. 何が起きたのか──国交省の令和7年度立入検査

2-1. 数字の全体像

まず、国土交通省が公表した一次情報を、そのまま置きます。

項目 令和7年度 令和6年度
立入検査を実施した業者数 112社 107社
是正指導を行った業者数 31社 22社
是正指導件数(合計) 49件 45件
是正等が確認された業者 31社すべて -

(出典:国土交通省「マンション管理業者への全国立入検査結果(令和7年度)について」令和8年5月29日)

前提として、マンション管理業者の登録数は1,735社(令和7年度末現在)、マンションのストック戸数は約713万戸(令和6年末現在)です。112社という検査対象は全体の6.5%程度ですから、これは「業界の悉皆調査」ではなく、抽出調査です。それでも4社に1社以上で是正指導が出ている、という事実は重く見るべきだと思います。

2-2. 是正指導事項の内訳

# 適正化法の条項 令和7年度 令和6年度
① 専任の管理業務主任者の設置義務違反(第56条) 4件 3件
② 重要事項説明義務違反(第72条) 16件 14件
③ 契約成立時の書面交付義務違反(第73条) 19件 10件
④ 財産の分別管理義務違反(第76条) 5件 9件
⑤ 管理事務の報告義務違反(第77条) 5件 9件
合計 49件 45件

指導率で見ると、契約成立時の書面交付義務違反が17.0%(前年度9.3%)と、ほぼ倍増しています。重要事項説明義務違反も14.3%(前年度13.1%)、専任の管理業務主任者の設置義務違反も3.6%(前年度2.8%)と増加しました。

2-3. 現場感覚で読むと、この数字は何を意味するか

私は法律家ではありませんので、あくまで現場の人間としての読み方を申し上げます。

①〜③はいずれも「書面と説明」の問題です。お金を横領したとか、工事を手抜きしたという話ではありません。契約書を渡していない、渡すのが遅れた、記載が足りない、説明会をやっていない——そういう類です。

ただ、これを「手続きのミスにすぎない」と受け取るのは危険だと考えています。なぜなら、大規模修繕でトラブルになる案件のほとんどが、この「書面と説明」の欠落から始まるからです。

  • なぜこの会社に決まったのか、記録がない
  • 見積もりが何社から取られたのか、誰も答えられない
  • 追加工事の金額が、総会で承認された範囲を超えている

こうしたご相談を受けるとき、たいてい共通しているのは「その時は説明を聞いた気がするが、紙が残っていない」という状態です。書面交付義務違反が増えているという事実は、その入り口が広がっていることを意味します。

そして国土交通省は、今回の公表資料で、次に何を重点的に見るかを明言しました。

特に、昨年改正された適正化法及び同法施行規則が今年4月1日から施行されていることから、今後、管理業者管理者方式のマンションに関して、利益相反のおそれがある場合の取引の事前説明義務等に関しても、重点的に法令遵守の指導を行ってまいります。
(国土交通省 令和8年5月29日 別添資料より)

これが今日の本題です。


3. 「管理業者管理者方式」とは何か

3-1. 理事会のないマンションが、増えている

区分所有法上、マンションの管理は区分所有者で構成される管理組合が主体です。従来は、区分所有者の中から理事を選び、理事会を作り、理事長が管理者を兼ねるのが一般的でした。

これに対して外部管理者方式は、管理組合の外部の人・会社が管理者に就任する方式です。そのうち、マンション管理業者自身が管理者に就任するものを「管理業者管理者方式」と呼びます。理事会を置かない運営も可能になります。

なぜ増えているのか。理由ははっきりしています。

令和5年度マンション総合調査(国土交通省、管理組合1,589件・区分所有者3,102件の有効回収)から、関連する数字を挙げます。

  • 世帯主の年齢は「60歳代」27.8%+「70歳以上」25.9%=53.7%。平成15年度調査の31.7%から22ポイント増加
  • 完成年次が昭和59年以前のマンションでは、70歳以上が55.9%
  • 外部役員について「検討している/将来必要となれば検討したい」が34.6%。その理由は「区分所有者の高齢化」42.7%、「役員のなり手不足」42.3%

(出典:国土交通省「令和5年度マンション総合調査」)

理事のなり手がいない。高齢で負担が重い。だから外部にお願いする。この流れ自体は、私はまったく否定しません。むしろ、担い手のいない理事会が形骸化したまま数千万円の工事を決めるより、専門家が入るほうが健全な場面は現実に多いと感じています。

3-2. ただし、国は2024年の時点で警告していた

国土交通省は令和6年6月7日、「マンションにおける外部管理者方式等に関するガイドライン」を策定しています。その背景説明が、極めて率直です。

このような管理方式については、その運営方法によっては、区分所有者の意思から離れた不適切な管理、管理組合と管理業者との利益相反の発生、管理業者に支払うコストの増大等が生じるおそれがあることから、その導入の判断にあたってはメリット・デメリットを踏まえた慎重な検討が必要です。
(出典:国土交通省「マンションにおける外部管理者方式等に関するガイドラインの策定について」令和6年6月7日)

このガイドラインは第3章で管理業者管理者方式の留意事項を整理し、その中に「大規模修繕工事におけるプロセスや区分所有者に対する情報開示のあり方」という項目が明示的に置かれました。さらに2026年4月1日に改訂され、既存・新築それぞれの導入プロセス、利益相反取引にかかるプロセス、通帳・印鑑等の保管体制などが整理されています。

3-3. なぜ大規模修繕で問題になるのか

構造を一枚の絵にすると、こうなります。

通常の管理組合:発注者=管理組合(理事会)/施工者=工事会社/管理会社=あいだで事務を担う

管理業者管理者方式:発注者側の意思決定を管理会社が担い、その管理会社のグループ会社が施工者として手を挙げることがある

つまり、発注する側と受注する側が、資本関係でつながる可能性がある。これが「利益相反のおそれ」です。

念のため申し添えますが、管理会社のグループ会社が施工することが、それ自体で悪いわけではありません。日常の管理を熟知している会社は、建物の履歴も設備の癖も分かっています。品質面で有利なことは実際にあります。

問題は、それが「比較の結果」なのか、「比較なしの既定路線」なのか、区分所有者に見えないことです。

この「見えなさ」が最悪の形で表面化したのが、今年相次いで発覚した大規模修繕の談合問題でした。業者選定のプロセスと設計コンサルタントの利益相反については、大規模修繕の業者選定、談合リスクをどう避けるかで国交省818事例の相場データとあわせて整理していますので、本記事とあわせてご覧ください。


4. 2026年4月施行・改正マンション管理適正化法「第77条の2」を読む

ここが今回の記事の中心です。

4-1. 何が義務になったか

改正前の適正化法には、第77条で「管理事務の報告」義務がありました。しかし、管理業者が関係会社に工事を発注するような利益相反行為への対応を定めた条文はありませんでした。

2026年4月1日施行の改正法で新設された第77条の2は、こう定めています(要旨)。

管理業者管理者方式で管理者となった管理業者が、利益相反のおそれがある取引を行う場合、区分所有者に対して説明会を開催し、事前に説明しなければならない。

災害時など、やむを得ず説明会を開けない場合の例外は施行規則第89条の5で明示されましたが、施行通知では、その場合も「事後的に総会などで報告することが望ましい」とされています。

(参考:建設通信新聞「マンション管理適正化法 4月1日施行/利益相反で事前説明が義務化」)

4-2. 「利益相反のおそれがある相手」とは誰か

施行規則第89条の2で対象が示されました。管理業者の親会社、子会社、関連会社などです。標準管理者事務委託契約書では、該当する企業を契約書に列挙することとされています。

つまり、契約書を見れば「この管理会社にとって身内はどこか」が分かる形になった、ということです。これは区分所有者にとって、かなり大きな前進だと私は思います。

4-3. ★核心:開示すべき6項目

施行規則第89条の4が、利益相反のおそれがある場合に開示すべき事項を列挙しています。ここは表で押さえてください。

# 開示が求められる事項 大規模修繕に置き換えると
① 管理業者と取引相手との関係 施工会社は管理会社の子会社か、関連会社か
② 取引内容 工事の範囲・仕様・工期
③ 金額(内訳と算出根拠) 数量、単価、歩掛、仮設費の積算根拠
④ 取引する理由 なぜこの会社なのか
⑤ 相手方以外に提出させた見積もりの内容 相見積もりの中身
⑥ 相手方以外に見積もりさせなかった理由 なぜ他社に声をかけなかったのか

私が20年この業界にいて、⑤と⑥が法令上の開示事項として明文化されたのは、率直に言って画期的だと感じています。

これまで「相見積もりを取りましたか」と伺うと、返ってくる答えは概ね3種類でした。「取りました(枚数だけ)」「取っていません(理由は特になし)」「その質問には答えられません」。これからは3つ目が成立しません。

さらに標準管理者事務委託契約書のコメントでは、利益相反のおそれがある会社と取引する場合、組合員への事前説明と総会の承認の「両方」が必要とされています。片方では足りません。

4-4. 管理業者管理者方式でなくても、無関係ではない

見落とされがちな点を一つ。

通常の管理委託契約(管理会社が管理事務を受託するだけで、管理者ではない場合)についても、2025年12月12日公表の「マンション標準管理委託契約書」第26条「誠実義務等」に、次の趣旨が盛り込まれました。

  • 紹介手数料・仲介料・謝礼など、実際の業務を伴わない金銭を、管理組合の承認を経ずに授受してはならない
  • 工事発注プロセスについて、工事費用の内訳や積算根拠を管理組合に説明する
  • 理事会から求めがあった場合は、相見積もりを取得する

つまり、理事会があるマンションでも、「求めれば相見積もりを取ってもらえる」ことが標準契約書に明記されたということです。ご自身のマンションの管理委託契約書を、一度この目で読み直してみてください。


5. 総会の前に確認する6つのチェックポイント

ここまでを、区分所有者・オーナーの手元で使える形に落とします。管理者や管理会社から大規模修繕の提案が出てきたら、この6つを紙で求めてください。

  1. 施工会社と管理会社の資本関係。親会社・子会社・関連会社に該当するか。該当するなら、契約書の列挙欄に載っているか
  2. 相見積もりの社数と、各社の見積書の中身。「取りました」ではなく、他社の見積書そのものを見せてもらう
  3. 相見積もりを取っていない場合、その理由。公募したが応募がなかった、というのも理由になり得ます。ただしその事実の記録が必要です
  4. 金額の内訳と算出根拠。特に仮設(足場)費、直接仮設と共通仮設の区分、諸経費率
  5. 事前説明会が開催されたか、議事の記録があるか。開催されていない場合、その根拠条文(施行規則第89条の5に該当するか)
  6. 総会承認の決議事項に、利益相反取引であることが明記されているか

なお、2026年4月には改正区分所有法も施行され、総会決議の多数決要件そのものが見直されています。決議のハードルと出席者多数決のルールについては、大規模修繕が「決まらない」時代は終わるのかにまとめました。また、提示された金額が安すぎる場合の見抜き方は、大規模修繕の見積もりが安すぎる時をご参照ください。

このうち4番の「仮設費」について、次章で少し踏み込みます。ここが私たち施工会社の本業であり、区分所有者・オーナーにとって最も金額が動く一行だからです。


6. 「相見積もりが取れない」を作らないために──工法という選択肢

6-1. 足場前提の見積書は、比較の土俵が狭い

相見積もりを取るとき、多くの管理組合は「同じ仕様で3社に出してもらう」という取り方をします。公平で、正しいやり方です。

ただ、ひとつだけ申し上げたいことがあります。その「同じ仕様」が、はじめから全面足場を前提に書かれていた場合、比較しているのは工事費の一部分だけになります。

マンションの大規模修繕において、仮設足場は工事費全体の2割前後を占めることが珍しくありません(建物形状・階数・敷地条件により変動します。金額は必ず個別見積もりでご確認ください)。仕様書が「全面足場」で固定されていれば、その2割は3社とも動きません。3社の競争は、残り8割の中だけで起きているのです。

6-2. ロープアクセス工法(無足場工法)という比較軸

ロープアクセス工法(無足場工法)は、産業用ロープで作業員が屋上から降下し、外壁の補修・塗装・シーリング・打診調査などを行う工法です。足場を架けないため、次の点が変わります。

  • 仮設費の構造が変わる(架設・解体・養生・足場レンタル期間の費用が発生しない)
  • 工期が短くなりやすい(足場の架設・解体に要する日数がなくなる)
  • 居住者・テナントの生活影響が小さい(窓の外に足場と養生シートが張り付く期間が短い、または生じない)
  • 防犯上の不安が減る(足場は侵入経路になり得ます)
  • 部分補修・優先順位付けの発注がしやすい(傷んでいる面から直せる)

私たち株式会社明誠は、通常の足場仮設による工事、ロープアクセス工法(無足場工法)、そして両者を部位ごとに使い分けるハイブリッド工法の3つを、建物ごとに選べる体制を取っています。工法別の考え方や施工事例については、ロープアクセス工法の専門サイト(rope-access-method.com)に整理していますので、比較検討の材料としてご覧いただければと思います。

6-3. ハイブリッド工法という現実解

実務では、「全部足場」か「全部ロープ」かの二択になることはほとんどありません。

  • バルコニー側は足場を架けて手すり・床防水までまとめて施工する
  • 隣地に寄っていて足場が架けられない妻壁側はロープアクセスで対応する
  • 高層部の外壁補修と打診調査だけロープアクセスにして、足場の設置期間そのものを短縮する

こうした部位ごとの使い分け=ハイブリッド工法が、総額と居住者影響の両方でバランスが取れることが多い、というのが現場の実感です。

6-4. 正直に申し上げます。ロープアクセスが向かないケース

押し売りにならないよう、はっきり書いておきます。次のような場合、ロープアクセス工法はお勧めしません。

  1. 外壁の全面的な劣化が進み、大面積の下地補修が必要な建物。作業面積あたりの効率で足場が上回ります
  2. 屋上に十分な支点(アンカー等)が確保できない建物。安全確保が第一です。支点新設のコストが足場費を上回ることもあります
  3. バルコニー内部や共用廊下の床防水など、水平面の作業が工事の主体になる場合。ロープの土俵ではありません

工法は目的ではなく手段です。建物の状態と、オーナー・管理組合が守りたいもの(総額なのか、工期なのか、居住者の生活なのか)から逆算して決めるべきだと考えています。だからこそ、私たちは3工法を持ったうえで、「今回は足場です」と申し上げることもあります。


7. 賃貸オーナー・ビルオーナーには関係ない話か

いいえ、構造はまったく同じです。

一棟所有の賃貸マンションやテナントビルでも、実務上は管理会社に運営を任せているオーナーさまが大多数です。そして修繕の提案は、たいてい管理会社から上がってきます。

このとき、

  • 提案されてきた施工会社は、管理会社のグループ会社ではないか
  • 他社に見積もりを取ったか
  • 足場費を含む内訳の説明を受けたか

——この3点は、分譲マンションの区分所有者が確認すべきこととまったく同じです。

違うのは、分譲には第77条の2という法的な後ろ盾ができたのに対し、一棟所有のオーナーには「自分で聞く」以外の仕組みがないという点です。

賃貸経営では、修繕費は利回りを直接削る支出です。総務省の令和5年住宅・土地統計調査では、空き家は899.5万戸、空き家率13.8%と過去最高を記録しました(出典:総務省統計局)。選ばれる建物であり続けるための修繕は避けられない。だからこそ、その一回一回の発注が適正かどうかが、10年後の手残りを分けます。


8. 3カ月以内にやること(5つ)

  1. 管理委託契約書を出してくる。第26条(誠実義務等)に相当する条項があるか、あるなら何と書いてあるかを読む
  2. 管理者が誰かを確認する。理事長か、外部の専門家か、管理会社そのものか。管理会社なら管理業者管理者方式です
  3. 管理業者管理者方式なら、契約書の「利益相反のおそれがある会社」の列挙欄を見る。空欄なら、なぜ空欄なのかを確認する
  4. 次回大規模修繕の予定時期を、長期修繕計画で確認する。3年以内なら、今から工法の比較検討を始めてよいタイミングです
  5. 足場を前提としない見積もりも一度取ってみる。金額だけでなく、仕様書の書き方がどう変わるかを見るためです

(4と5については、株式会社明誠の大規模修繕やお問い合わせ窓口からご相談いただければ、工法比較のたたき台をお出しします。相見積もりの1社としてお使いいただく形で構いません。)


FAQ

Q1. うちのマンションが管理業者管理者方式かどうか、どうすれば分かりますか。

A. 管理規約と、管理組合が締結している契約書を見てください。管理者の氏名・名称欄に管理会社の社名が入っていれば管理業者管理者方式です。理事長個人の氏名なら従来型です。新築分譲では、当初から管理会社が管理者に就任する前提で分譲される事例もありますので、購入時の重要事項説明書も確認してください。

Q2. 第77条の2の事前説明会は、どのタイミングで開かれますか。

A. 条文上は「利益相反のおそれがある取引を行う場合、事前に」です。大規模修繕であれば、施工会社を決める総会の前ということになります。総会当日に初めて資料が配られるようなら、その時点で手続きに疑問を投げてよい、と私は考えます。

Q3. ロープアクセス工法だと、足場工法より必ず安くなりますか。

A. 必ず安くなるとは申し上げられません。仮設足場の費用が発生しない分は下がりますが、作業効率は施工面積・劣化状況・支点の確保状況で大きく変わります。全面的な下地補修が必要な建物では足場のほうが総額で有利なこともあります。工法別の考え方はrope-access-method.comにまとめていますが、最終的には現地調査に基づく個別見積もりでの比較が必要です。

Q4. 管理会社のグループ会社が施工することは、法律違反ですか。

A. 違反ではありません。改正法が求めているのは「取引の禁止」ではなく「事前説明と情報開示」です。開示すべき6項目(本記事第4章)を満たしたうえで総会の承認を得ていれば、適法に発注できます。逆に言えば、説明も開示もないまま進む発注が問題視されている、ということです。

Q5. 相見積もりを取ろうとしたら、管理会社に「仕様が揃わないので比較できない」と言われました。

A. よくあるご相談です。仕様を揃えるのは正しいのですが、その仕様書を誰が書いたかを確認してください。管理会社側が作成した仕様書であれば、その仕様が特定の工法や特定の会社に有利になっていないかという視点は持っておいてよいと思います。第三者の設計事務所やコンサルタントに仕様書だけレビューしてもらう、という方法もあります(設計コンサルタント自身の利益相反にも注意が必要です)。


まとめ

2026年は、マンション管理の透明化が制度として動き出した年でした。

  • 国交省の令和7年度立入検査は、112社中31社・49件の是正指導。契約成立時の書面交付義務違反が前年比で倍増
  • 2026年4月1日施行の改正適正化法第77条の2で、管理業者管理者方式における利益相反取引の事前説明会が義務化
  • 施行規則第89条の4は、相見積もりの内容と、相見積もりを取らなかった理由まで開示事項に含めた
  • 標準管理委託契約書の改正で、理事会がある通常の管理組合でも「求めれば相見積もり」が明文化された

私たち施工会社の側から見れば、これは「説明できない金額は通らない時代になった」ということです。歓迎しています。工法を3つ持っていることの価値も、説明の材料が増えるという一点にあります。

大規模修繕は、多くのマンションにとって12年に一度しか来ません。だからこそ、その1回で、聞くべきことを聞いてください。国は今年、聞いていいことの範囲を、はっきり広げました。


執筆者

本間 幸紘(株式会社明誠 代表取締役)
マンション・ビル・ホテルの大規模修繕を20年にわたり手がける。通常の足場仮設工法、ロープアクセス工法(無足場工法)、両者を組み合わせたハイブリッド工法の3工法を建物特性に応じて提案。日本初となるロープアクセス工事のフランチャイズを展開し、塗装・防水・タイル・電気・看板の各専門職が加盟。一般社団法人 全国建設業支援協会(JCSA)代表理事として、建設業向けの経営支援・オンラインセミナー・ビジネスマッチングも行う。

株式会社明誠
TEL:042-508-3567 / meiseitosou.com
ロープアクセス工法専門サイト:rope-access-method.com

最終更新日:2026年8月30日


参考・一次情報


東京23区の単身向け家賃が26カ月ぶり下落|「家賃で吸収する」が効かなくなった賃貸オーナーが、次に触るべき一行【2026年8月】

この記事で答える質問:東京23区の単身向け家賃が2年ぶりに下がりました。家賃の上昇でコスト増を吸収してきた賃貸オーナーは、これから何で利回りを守ればいいのか?

2026年8月27日、アットホームが2026年7月の募集家賃動向を公表しました。見出しになったのは一行です。25カ月連続で最高値を更新していた東京23区マンションのシングル向きが、26カ月ぶりに下落した(出典:アットホーム調査/2026年8月27日発表)。

下落幅は前年同月比0.1%。金額にすると1戸あたり月100円ほどです。これだけを見れば、慌てる話ではありません。

ただ、私はこのニュースを別の意味で重く受け止めています。「家賃を上げれば、上がったコストは吸収できる」という2年間の前提が、いま静かに終わりかけているからです。

先に結論を申し上げます。下落した0.1%は、1戸あたり年1,400円ほどの話です。一方、外壁の改修工事はいま1戸あたり40万〜90万円かかります。桁が3つ違う。守るべきは家賃の小数点以下ではなく、10年に一度の支出の中身です。

私は塗装と改修の現場に20年近くいます。賃貸オーナーさまとお話ししていて一番もったいないと感じるのは、家賃を1,000円上げるための議論に何時間もかけて、300万円の見積書を1時間で決めてしまうケースです。この記事では、そこを逆にする話をします。

最終更新:2026年8月29日


1. 結論|「家賃で吸収する」から「支出で守る」へ、賃貸経営の主戦場が移る

1-1. 先に数字で答えます

Q. 家賃0.1%の下落は、オーナーの収支をいくら悪化させるか?

A. 東京23区の単身向けマンション(募集家賃 月11万4,147円)で計算すると、1戸あたり月約114円、年約1,370円です。

20戸のマンションでも、年間2万7,000円ほど。これ自体は、経営判断を変えるような数字ではありません。

Q. では、同じ物件で「外壁の改修工事」はいくらかかるか?

A. 国土交通省が公表している実例では、築41年・RC造5階建て20戸(延床約1,365㎡)の外壁全体改修工事で約1,800万円。1戸あたり90万円です(出典:国土交通省「賃貸住宅管理業者向け 計画修繕ガイドブック」)。

家賃0.1%の下落=年1,370円/戸。外壁改修1回=90万円/戸。 その差は約660倍です。

もちろん、修繕は10年以上に一度ですから単純比較はできません。それでも、どちらの数字を先に精査すべきかは、はっきりしていると思います。

1-2. なぜ「今」なのか

2024年から2026年前半にかけて、賃貸オーナーは幸運でした。建築費も修繕費も上がりましたが、それ以上に家賃が上がったからです。東京23区のシングル向きマンションは、25カ月連続で最高値を更新し続けていました。上がったコストは、次の入居者の家賃に乗せられた。

その連鎖に、今回初めてブレーキがかかりました。1カ月の数字なので、これがトレンドの転換かどうかはまだ分かりません。ただ、少なくとも「上がり続けることを前提に計画を立てる」フェーズは終わったと考えて、経営を組み直しておく価値はあります。

1-3. この記事の要点を3行で

  • 下落したのは東京23区マンションのシングル向きだけ。アパートのシングル向きは15カ月連続で最高値更新中で、市場全体が崩れたわけではない
  • 家賃の伸びが止まると、上昇し続ける修繕費との挟み撃ちになる。国交省の試算では、計画修繕の有無で実質利回りがRC造で0.25ポイント変わる
  • 修繕費で削る余地は「材料の値切り」ではなく「仮設のつくり方」にある。ロープアクセス工法やハイブリッド工法が選択肢になるのはここ

2. データを正確に読む|「26カ月ぶり下落」で下落したものは何か

2-1. まず調査の定義を押さえる

ニュースの見出しだけで判断すると、市場全体が下落に転じたように読めてしまいます。実際は違います。アットホームの調査定義を確認しておきます。

項目 内容
調査主体 アットホーム株式会社(調査・分析:アットホームラボ株式会社)
対象データ 不動産情報サイト「アットホーム」で登録・公開された居住用賃貸マンション・アパート(重複物件はユニーク化)
「家賃」の定義 入居者が1カ月に支払う「賃料+管理費・共益費等」
面積区分 30㎡以下=シングル向き/30〜50㎡=カップル向き/50〜70㎡=ファミリー向き/70㎡超=大型ファミリー向き
対象エリア 首都圏(東京23区・東京都下・神奈川・埼玉・千葉)、札幌、仙台、名古屋、京都、大阪、神戸、広島、福岡の計13エリア
家賃指数の基準 2015年1月=100

(出典:アットホーム「全国主要都市の賃貸マンション・アパート募集家賃動向(2026年7月)」)

重要な点が2つあります。

ひとつは、これが「募集家賃」であって「成約家賃」ではないこと。つまり、募集時点でオーナー・管理会社が提示した金額の平均です。値付けの姿勢が変わったことを先に映す指標であり、実際に決まった賃料の平均とは別物です。

もうひとつは、管理費・共益費を含むこと。管理費を上げて賃料を据え置く、という値付けの調整はこの指標では見えません。

2-2. 下落したのは「東京23区マンションのシングル向き」だけ

同じ発表資料の全体概況を整理します。

区分 2026年7月の状況
マンション全体 首都圏全エリア+名古屋・京都・大阪・神戸・福岡の計10エリアが全面積帯で前年同月超
マンション/東京23区シングル向き 25カ月連続で最高値更新 → 26カ月ぶりに下落(今回のニュース)
マンション/カップル向き 6カ月連続して全エリアで前年同月超。東京23区は14カ月連続で2015年1月以降の最高値を更新
アパート/シングル向き 5カ月連続して全エリアで前年同月超。東京23区は15カ月連続で最高値を更新

こうして並べると、印象がかなり変わるはずです。下落したのは13エリア×4面積帯×2物件種別のうち、たった1マスです。残りはほぼ全面的に上昇継続、しかも東京23区のカップル向きとアパートのシングル向きは最高値を更新し続けています。

私がここで申し上げたいのは「だから心配ない」ということではありません。逆です。最も需要が厚く、最も強気に値付けできていた区画で、最初に頭打ちが出たという事実のほうが示唆的だ、ということです。

2-3. 賃貸経営の背景にある構造

数字の背景として、押さえておきたいストックの状況があります。

  • 民間賃貸住宅は全国に約1,530万戸と推計され、住宅ストック総数の3割近くを占める。毎年新規に概ね30万戸が供給されている(出典:国土交通省「賃貸住宅管理業者向け 計画修繕ガイドブック」)
  • 総務省「令和5年住宅・土地統計調査」(確報:2024年9月25日公表)では、空き家数899.5万戸、空き家率13.8%でいずれも過去最高。共同住宅の空き家の約8割は賃貸用(出典:総務省統計局)

供給ストックは厚く、空室も増えている。その中で価格が上がり続けてきたのは、都心部の需給が特別にタイトだったからです。その特別さが、少しだけ緩んだ。今回の数字はそう読むのが妥当だと私は考えています。


3. なぜ「シングル向き」から止まったのか

私は不動産市況の専門家ではありませんので、断定は避けます。ただ、現場で建物を見て回っている立場から、思い当たる要因を3つ挙げておきます。いずれも仮説です。

3-1. 単身者の負担限度に近づいた

東京23区のシングル向きマンションの平均募集家賃は月11万4,147円(管理費込み)です。単身の勤労者にとって、この水準は既に重い。家賃負担率が3割を超えてくると、次の値上げは「別の駅を探す」という行動に直結します。金額の絶対水準が、値上げの余地を物理的に削っている可能性があります。

3-2. アパートという代替がある

同じ調査で、アパートのシングル向きは東京23区で15カ月連続の最高値更新中です。これは裏を返せば、マンションから溢れた需要をアパートが吸収しているとも読めます。マンション側だけを見ていると需要減に見えますが、市場全体では移動が起きているだけかもしれません。

3-3. 供給される部屋のミックスが変わった

募集家賃の平均値は、その月にどんな部屋が募集に出たかで動きます。都心の高額物件の募集が一時的に減れば、平均は下がります。0.1%という幅は、こうした構成変化でも十分に説明がつく範囲です。

つまり、この1カ月の数字だけで「家賃下落局面入り」と断定するのは早計です。それでも、経営計画を「上がり続ける前提」から「横ばい前提」に置き換えておくことは、コストのかからないリスク管理です。


4. 家賃が横ばいになると、オーナーの何が壊れるか

4-1. NOIの分解式で見る

賃貸経営の収益は、乱暴に書けばこうです。

NOI(純収益)= 満室想定家賃 ×(1 − 空室率)− 運営費 − 修繕費

これまでの2年間は、左端の「満室想定家賃」が毎月上がっていたので、右側の運営費・修繕費が多少増えても差し引きはプラスでした。

家賃が横ばいになると、この構図が変わります。右側が増えた分は、そのままNOIの減少になる。そして右側の修繕費は、いま確実に増えている側です。

4-2. 修繕費は「上がり続ける」側にある

国土交通省が公表する建設工事費デフレーター(2015年度=100)は、建設総合で130台に達しています。10年で建設コストがおよそ3割上がった計算です(出典:国土交通省「建設工事費デフレーター」。最新値は必ず国交省の公表ページでご確認ください)。

塗料についても、2026年に入って主要メーカーの価格改定が相次いでいます。関西ペイントは溶剤系20〜35%、水性15〜30%を6月15日出荷分から実施しました。この点は先日の記事で詳しく分解しています。

つまり、収入側は横ばい、支出側は上昇。これが2026年後半の賃貸オーナーが置かれている構図です。

4-3. 挟み撃ちを数字で見る

築20年・RC造・20戸・シングル向きのマンションを想定して、ざっくり試算してみます。あくまでモデルケースで、実際の数値は物件ごとに大きく異なります。

項目 従来(家賃上昇局面) これから(家賃横ばい局面)
満室想定家賃(20戸×11.4万円) 年2,736万円(前年比+2〜3%) 年2,736万円(前年比±0%)
家賃上昇による増収 年+55万〜82万円 年±0円
修繕・工事コストの上昇 年数十万円規模で増加 年数十万円規模で増加(継続)
差し引き ほぼ相殺できた そのままNOI減

家賃の上昇が止まった瞬間に、コスト上昇を吸収する原資が消えます。これが「挟み撃ち」の実態です。


5. 国交省データが答えている|計画修繕は「コスト」ではなく「利回り」

ここからが本題です。支出側で何ができるのか。まず、修繕を削ることは解決にならないという国のデータを見てください。

5-1. 計画修繕の有無で、実質利回りはこれだけ変わる

国土交通省が実施したシミュレーション調査の結果です。

構造 計画修繕あり 計画修繕なし 差
木造 2.13% 1.90% +0.23ポイント
RC造 2.78% 2.53% +0.25ポイント

(出典:国土交通省住宅局「賃貸住宅の計画的な維持管理及び性能向上の推進について〜計画修繕を含む投資判断の重要性〜」平成31年3月/計画修繕ガイドブックに収載。注:木造の計画修繕ありは経営期間30年・なしは22年、RCのありは60年・なしは47年と設定)

注目していただきたいのは、利回りの差だけでなく「経営期間」の差です。計画修繕をしなければ、RC造で60年もつはずの建物が47年で経営終了になる。13年分の家賃収入が丸ごと消えるという試算です。20戸×11.4万円なら、13年で3億5,000万円を超えます。

5-2. オーナー自身が実感していること

計画修繕を実施したことのあるオーナーへのアンケート結果です。

効果 回答率
高い入居率を確保できた 29.3%
家賃水準を維持できた 28.0%
周辺物件に対し競争力が高まった 22.5%
入居期間の長期化につながった 約2割

(出典:「民間賃貸住宅市場の実態把握及び分析に関する調査検討 計画修繕の実態等調査報告書」令和5年3月・国土交通省)

約3割のオーナーが「家賃水準を維持できた」と回答している。これは、今回のニュースの文脈でそのまま効いてくる数字です。家賃が上げにくくなる局面で、維持できるかどうかを分けるのが計画修繕だ、ということです。

5-3. 入居者は、思っている以上に建物の状態を見ている

民間賃貸住宅の入居者に「住み替え先を選ぶ際に重視したこと」を聞いた調査です。

項目 重視率
住宅の広さや間取り 81.7%
家賃・管理費の負担水準 81.0%
収納の多さ、使いやすさ 77.2%
住宅の状況(いたみ・劣化等) 77.2%
台所・トイレ・浴室などの使いやすさ、広さ 70.9%
住宅の維持管理 67.3%

(出典:一般財団法人住宅改良開発公社「賃貸住宅市場の動向と将来予測(展望)調査」2020年8月/国交省ガイドブック収載。重視率は「とても重視」+「重視」の合計)

「住宅の状況(いたみ・劣化等)」は、家賃負担水準に次ぐレベルで重視されています。外壁のチョーキング(白い粉)、階段の錆、バルコニーのひび。内見に来た方は、言葉にしないだけで確実に見ています。

5-4. それなのに、計画修繕をしているオーナーは約4割

ここが問題です。国交省の家主アンケート(令和4年度)によれば、

  • 計画的に修繕を実施しているオーナー:約4割
  • 計画修繕を実施していないオーナー:約2割

管理会社側も同様で、計画修繕を実施していない管理業者が全体の約2割。その理由は約4割が「提案したくてもノウハウがない」、約3割が「必要な時に修繕すれば十分」と回答しています。

つまり、多くのオーナーは「修繕の相談相手がいない」状態で放置されているのが現状です。私が現場でお会いするオーナーさまの実感とも、この数字は一致します。


6. 修繕費のどこを削れるのか|答えは「材料」ではなく「仮設」

計画修繕が必要なことは分かった。では、上がり続ける工事費をどう抑えるのか。ここが本題の核心です。

6-1. まず修繕周期を正確に知る

国交省ガイドラインの標準様式に基づく、修繕項目ごとの周期の目安です。

修繕項目 工事区分 修繕周期(年)
仮設工事 仮設 12〜15
屋根防水(補修・修繕) 建物 12〜15
屋根防水(撤去・新設) 建物 24〜30
床防水(補修・塗替) 建物 12〜15
外壁塗装等 建物 12〜15
鉄部塗装等(塗装) 建物 5〜7
建具・金物等(取替) 建物 24〜28
給水設備(取替・貯水槽) 設備 30〜40
排水設備(取替・排水管) 設備 30〜40
昇降機設備(補修) 設備 12〜15

(出典:国土交通省「長期修繕計画作成ガイドライン」の長期修繕計画標準様式第3-2号記載例をもとに簡略化。中高層の単棟型を想定)

ここで気づいていただきたいのは、「仮設工事」が独立した修繕項目として、外壁塗装と同じ12〜15年周期で計上されていることです。

足場は、建物を直しません。にもかかわらず、外壁を塗るたびに、防水をやり直すたびに、同じ回数だけ発生します。分譲マンションの長期修繕計画366事例を集計した国交省データでは、仮設工事は工事費全体の9.0%を占めています。小規模な賃貸物件で外壁改修だけを単独発注する場合、この比率はさらに高くなりやすいというのが、私の実務上の感覚です(物件形状・道路条件に大きく左右されるため、断定はできません)。

6-2. 鉄部塗装の5〜7年周期という落とし穴

表の中で、賃貸オーナーに特に見ていただきたいのが鉄部塗装等の5〜7年です。

外階段、廊下の手すり、鉄扉、避難ハッチ。これらは12〜15年ではなく、5〜7年で塗り直しが必要です。ところが、多くの賃貸物件では「大規模修繕のときにまとめてやる」運用になっている。結果、12年目を迎えるころには錆が進行し、塗装では済まず部材交換になります。

国交省ガイドブックも、手すりについて「錆や腐食によって、美観が損なわれるだけでなく、損壊・崩落の危険性が増大」と明記しています。ここは費用の話であると同時に、安全の話です。

6-3. ロープアクセス工法という選択肢

では、5〜7年ごとの鉄部塗装のために、毎回足場を組むのか。現実的ではありません。

ここで選択肢になるのが、ロープアクセス工法(無足場工法)です。産業用ロープで作業員が建物の外壁を上下し、足場を架けずに調査・補修・塗装を行う工法で、私たちが日本で初めてフランチャイズ展開している分野でもあります。工法の詳細はロープアクセス工法の専門サイトで技術面から解説していますので、興味のある方はそちらもご覧ください。

賃貸オーナーにとっての意味は、大きく3つです。

① 部分的な工事が現実的な価格でできる
足場を組む前提だと、「錆びた手すりだけ塗る」ための工事は割に合いません。仮設費が工事本体より高くなってしまうからです。ロープアクセスなら、必要な箇所だけを、必要なタイミングで直せます。5〜7年周期の鉄部塗装を、周期どおりに実施できるようになる。これが長期的には一番効きます。

② 工事中の稼働率を落としにくい
足場を組むと、防犯上の不安、日照・眺望の悪化、洗濯物が干せない、といった理由で、工事期間中の空室が埋まりにくくなります。1戸の空室が3カ月続けば、11.4万円×3=34万円の機会損失です。20戸のうち2戸で起きれば68万円。工事費の値引き交渉で得られる金額より、稼働の維持で守れる金額のほうが大きいケースは珍しくありません。

③ 調査だけでも頼める
長期修繕計画を作る前段階の「いま建物がどうなっているか」の確認を、足場なしで実施できます。国交省も賃貸住宅の修繕・点検時期セルフチェックという無料ツールを公開していますので、まずはご自身で当たりをつけてから、専門家の調査に進むのが合理的です。

6-4. ロープアクセスが向かないケースも正直に書きます

営業のために都合のいいことばかり書いても仕方がないので、向かないケースも挙げます。

  • 外壁を全面的に張り替える/タイルを広範囲に貼り替えるような、材料の搬出入が大量に発生する工事
  • バルコニーの内側など、ロープでのアプローチが構造的に困難な部位が主体の工事
  • 足場を使った全面改修を、10年以上先送りにしてきた物件。劣化が進みすぎている場合は、結局足場を組んだほうが安く確実です

私たちがハイブリッド工法(足場とロープアクセスを部位ごとに使い分ける方法)を提案するのは、まさにこの中間領域があるからです。全部を足場で囲うのでも、全部をロープでやるのでもなく、部位ごとに安い方を選ぶ。これが現時点でいちばん総額が下がるやり方だと考えています。


7. 実データでモデルケース|国交省の事例3件で「1戸あたり」を見る

抽象論では判断できませんので、国交省ガイドブックに実額で掲載されている大規模修繕の事例3件を、1戸あたりに割り戻してみます。

事例 建物 工事内容 工事費 1戸あたり 家賃(11.4万円)換算
物件A 築34年・RC造4階建8戸(延床約335㎡) 外壁全体改修(屋上除く) 約700万円 約87.5万円 約7.7カ月分
物件B 築41年・RC造5階建20戸(延床約1,365㎡) 外壁全体改修 約1,800万円 約90.0万円 約7.9カ月分
物件C 築28年・木造2階建12戸(延床約266㎡) 外壁全体改修(屋根塗替・バルコニー防水打ち直し含む) 約470万円 約39.2万円 約3.4カ月分

(出典:国土交通省「賃貸住宅管理業者向け 計画修繕ガイドブック」Case Study)

1戸あたり40万〜90万円。家賃の3.4〜7.9カ月分。これが、10年から15年に一度必ずやってくる支出の実額です。

冒頭の数字と並べてみます。

  • 家賃0.1%の下落 = 1戸あたり 年1,370円
  • 外壁改修1回 = 1戸あたり 40万〜90万円

家賃下落のニュースに反応するエネルギーの10分の1でも、この見積書の精査に向けたほうが、収支への効き目は圧倒的に大きい。私が申し上げたいのは、その一点です。

7-1. では、いくら積み立てておくべきか

国交省ガイドブックには、積立額の設定例が具体的に載っています。

項目 数値
戸数 18戸
戸あたり月額家賃 10万円
年間家賃収入 2,160万円
長期修繕計画35年間の修繕費合計 9,500万円
毎月の修繕積立額(9,500万円÷420カ月) 22万6,190円
戸あたり月額積立額 1万2,566円

(出典:同ガイドブック「修繕資金積立額設定の例」)

家賃10万円に対して、月1万2,566円。家賃の約12.6%を修繕に積み立てる計算です。

これを見て「そんなに?」と思われた方は、率直に申し上げて、修繕資金が不足する可能性が高いです。逆に言えば、この12%前後という比率を知っているだけで、経営判断の精度がまったく変わります。

ガイドブックには、より簡便な目安も併記されています。

  • 例1:物件建築費に対する一定割合を年間積立額の目安とする(建築費1億円なら年1%=100万円。10年で1,000万円)
  • 例2:大規模修繕工事費が年間の総家賃収入を超えない程度とする

そして、修繕資金の確保手段として、賃貸住宅修繕共済(共済掛金は経費算入可)、積立型の金融商品、住宅金融支援機構などの賃貸住宅リフォーム融資、修繕資金信託などが紹介されています。積み立てが間に合わない場合の選択肢も、制度としては用意されているということです。


8. 賃貸オーナーが、この3カ月でやっておくべき5つのこと

家賃の伸びが止まったというニュースを受けて、実際に何をするか。優先順位順に5つ挙げます。

① 自分の物件の「最後の外壁工事はいつか」を確認する

これが分からないオーナーさまは、驚くほど多いです。外壁塗装の周期は12〜15年、鉄部塗装は5〜7年。前回から何年経っているかを確認するだけで、次の支出のタイミングが見えます。書類が見つからない場合は、購入時の重要事項説明書や、前オーナー・前管理会社への確認から始めてください。

② 長期修繕計画があるか確認する。なければ作る

国交省は、分譲マンションでは計画期間30年以上・大規模修繕2回以上を含む計画が一般的だとしたうえで、民間賃貸住宅もこれを参考にすべきとしています。新築時に施工会社や建築士から交付されている場合があるので、まず「あるかどうか」の確認からです。

③ 修繕積立額を「家賃の◯%」で言えるようにする

前章の12.6%はあくまで一例ですが、自分の物件で何%になるのかを一度計算しておく。これだけで、毎年の資金繰りの見え方が変わります。

④ 見積書は「仮設工事費」の行から読む

工事の見積を取る際、多くの方は材料のグレードと総額を見ます。私がお勧めしているのは、仮設工事費の行を最初に見て、その金額の根拠(架面積の単価×数量)を質問することです。ここに納得がいけば、残りの費目は比較的判断しやすくなります。

⑤ 「足場を組まない選択肢はあるか」を1社には聞いておく

すべての工事にロープアクセスが向くわけではありません。ただし、選択肢として検討したうえで足場を選ぶのと、足場しか知らずに足場を選ぶのとでは、意味がまったく違います。相見積もりを取る3社のうち1社は、無足場工法を扱える会社を入れておくことをお勧めします。工事の進め方や当社の施工体制についてはサービス案内ページもあわせてご覧ください。


9. よくある質問

Q1. 家賃が下がり始めたのなら、修繕を先送りしたほうが手元資金は守れるのでは?

A. 短期的にはそうですが、国交省の試算では逆の結果が出ています。計画修繕を実施した場合の実質利回りは、木造で2.13%(未実施1.90%)、RC造で2.78%(未実施2.53%)。加えて、未実施の場合は経営期間そのものがRC造で60年→47年と13年短くなる想定です。先送りは、手元資金の確保と引き換えに、経営期間と利回りを削る行為になります。

また、ガイドブックは「不具合や劣化が進行し、腐朽や破損が生じてから修繕を行う場合の方が、計画修繕と比較して工事費がかさむ」と明記しています。外壁から雨水が浸入すれば、入居者に一時退去してもらう必要が生じ、宿泊費や所持物の補償まで発生します。

Q2. 家賃0.1%の下落は、うちの物件にも波及しますか?

A. 現時点では、東京23区のマンション・シングル向き(30㎡以下)という限られた区画の話です。同じ調査で、アパートのシングル向きは東京23区で15カ月連続の最高値更新、マンションのカップル向きも14カ月連続の最高値更新中です。ご自身の物件がどの区画に属するかで、読み方は変わります。一方で、「上がり続ける前提」で立てた事業計画を横ばい前提に置き換えて再計算しておくことは、どの区画のオーナーにとっても損のない備えだと思います。

Q3. ロープアクセス工法にすると、工事費はどのくらい下がりますか?

A. 物件の形状・高さ・道路条件・工事範囲によって大きく変わるため、「◯%下がります」という言い方はできません。分かっているのは、仮設工事が分譲マンションの長期修繕計画366事例平均で工事費の9.0%を占めること、そして小規模物件の部分改修ではその比率がさらに高くなりやすいことです。足場を組まないことで消える費用の絶対額は、見積を取れば1分で分かります。まず両方の見積を並べてみるのが確実です。工法ごとの適用条件や施工手順については、ロープアクセス工法の技術解説サイトと明誠のロープアクセス工事ページにまとめてあります。

Q4. 工事中に入居者が退去してしまうのが心配です

A. これは、工事費の議論より先に検討すべき論点です。足場は防犯不安、日照・眺望の悪化、洗濯物が干せないといった負担を入居者にかけます。1戸の空室が3カ月続けば、東京23区の単身向け平均家賃で約34万円の機会損失です。ロープアクセス工法は施工範囲が限定される代わりに、建物全体を囲わないため生活への影響を小さくできます。また、国交省ガイドブックも「住戸内の修繕工事期間中は家賃を得ることができないため、その点も考慮して提案する必要がある」と管理業者に求めています。工期と稼働は、必ず工事費とセットで見てください。

Q5. 管理会社に相談しても、修繕の提案が出てきません

A. 珍しいことではありません。国交省の管理業者アンケートでは、計画修繕を実施していない管理業者が全体の約2割を占め、その理由として約4割が「提案したくてもノウハウがない」と回答しています。管理業務と修繕工事は、必要な知見が異なります。管理会社を責めるのではなく、修繕については別途、施工側の専門家に直接相談するという切り分けが現実的です。国交省の賃貸住宅の修繕・点検時期セルフチェックで当たりをつけてから相談すると、話が早く進みます。


10. まとめ

  • 2026年7月、東京23区マンションのシングル向き募集家賃が26カ月ぶりに下落(前年同月比0.1%安、月11万4,147円)。ただし下落したのはこの1区画のみで、アパートのシングル向きは15カ月連続で最高値更新中
  • 家賃0.1%の下落は1戸あたり年1,370円。一方、外壁改修は国交省の実例で1戸あたり40万〜90万円。精査すべき優先順位ははっきりしている
  • 国交省の試算では、計画修繕の有無で実質利回りが木造+0.23/RC+0.25ポイント、経営期間がRC造で13年変わる
  • 修繕費で動かせる余地は「材料の値切り」ではなく「仮設のつくり方」。仮設工事は外壁塗装と同じ12〜15年周期で発生し、分譲マンション366事例では工事費の9.0%を占める
  • 鉄部塗装は5〜7年周期。足場前提だと周期どおりに実施できず、結果として部材交換になる。ロープアクセス工法・ハイブリッド工法が効くのはここ

出典・参考資料

※本記事に記載した統計・制度・金額は、記事作成時点で公表されている情報に基づくものです。数値や制度は変更される可能性がありますので、最新の情報は必ず各公式サイトでご確認ください。モデルケースの試算は一般的な前提を置いたものであり、個別物件の収支を保証するものではありません。税務・法務の個別判断については専門家にご相談ください。


最後に

「家賃が下がった」というニュースは不安を煽ります。けれど数字を分解してみると、動いたのは1戸あたり年1,400円ほどで、その何百倍もの金額が、10年に一度の見積書の中で決まっていることが分かります。

私が賃貸オーナーさまにいつもお願いしているのは、家賃表と長期修繕計画を、同じテーブルに並べて見てくださいということだけです。収入側だけを見ていると、支出側の12%が視界から消えてしまう。

外壁の状態を見て「あと何年もつか」を判断するだけなら、足場は要りません。ロープアクセスなら半日で調査できます。判断材料が足りないと感じられたら、お問合せフォームからご相談だけでも遠慮なくお声がけください。工事のご依頼が前提でなくても構いません。

これは私が現場で20年見てきた、嘘偽りのない感想です。次回も、現場で本当に使える話だけをお届けします。


執筆者:本間 幸紘(株式会社明誠 代表取締役)
専門領域:マンション大規模修繕/ロープアクセス工法/建物長寿命化計画
実務経験:建設・改修業界 20年以上
所属:一般社団法人 全国建設業支援協会(JCSA)

株式会社明誠について:東京都小平市を拠点に、東京・関東一円でロープアクセス工法・従来足場工法・両者を組み合わせたハイブリッド工法の3工法から、建物にとって最適な方法をご提案できる改修会社です。日本初のロープアクセス工事フランチャイズを展開し、塗装・防水・タイル・電気・看板工事などの専門職が加盟しています。

最終更新:2026年8月29日

塗料の値上げは大規模修繕のどこに効くのか|溶剤系20〜35%改定の2026年、管理組合とオーナーが見積書で確認すべき3行【2026年8月】


title: “塗料の値上げは大規模修繕のどこに効くのか|溶剤系20〜35%改定の2026年、管理組合とオーナーが見積書で確認すべき3行【2026年8月】”

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category: “本間社長ブログ”

tags: [“大規模修繕”, “塗料値上げ”, “修繕積立金”, “長期修繕計画”, “ロープアクセス工法”, “管理組合”, “賃貸オーナー”, “外壁塗装”]

excerpt: “2026年、塗料の値上げが相次いでいます。関西ペイントは溶剤系20〜35%、水性15〜30%。大規模修繕の見積書のどこに、いくら効くのか。国土交通省の366事例データで費用構造を分解し、管理組合とオーナーが今すぐ確認すべき3行を解説します。”


この記事で答える質問:塗料メーカーの値上げは、私たちのマンションやビルの大規模修繕工事費を、いくら押し上げるのか? そして、その分をどこで取り戻せるのか?

2026年に入ってから、塗料の値上げのニュースが立て続けに流れています。理事会でこの話題が出て、「うちの工事、いくら高くなるんだ」と不安になった方も多いのではないでしょうか。

先に結論から申し上げます。塗料そのものの値上げが工事総額に与える影響は、多くの物件で1〜2%程度にとどまります。 一方で、同じ工事費の中には、塗料代よりも大きく、しかも「工法の選び方」で動かせる費目が確実に存在します。そこを知らずに値上げの話だけで慌てるのが、一番もったいない。

私は塗装と改修の現場に20年近くいます。値上げの局面は、これで何度目か分かりません。そのたびに感じるのは、慌てて発注を早めた組合よりも、見積書の中身を3行だけ確認した組合のほうが、結果的に安く、良い工事をしているということです。

この記事では、2026年の塗料値上げを時系列で整理したうえで、国土交通省が公表している実データを使って大規模修繕工事費の中身を分解し、管理組合と賃貸オーナーが今すぐできる確認事項までをまとめます。

最終更新:2026年8月28日


1. 結論|塗料の値上げで動くのは工事費の約1%。効いてくるのは「次の長期修繕計画」

1-1. 先に数字で答えます

Q. 塗料が20〜35%値上げされると、大規模修繕工事費はいくら上がる?

A. 工事総額に対しては、おおむね1〜2%程度と見込まれます。 総額1億円の工事なら、100万〜200万円のレンジです。決して小さくはありませんが、「工事費が2割上がる」という話とはまったく違います。

なぜそうなるのか。理由は単純で、塗料代は工事費のごく一部だからです。大規模修繕工事の費用は、材料費だけでなく、仮設足場、人件費(労務費)、諸経費、設計監理費などで構成されています。塗料はそのうちの「塗装工事の材料費」という、さらに内側の一部にすぎません。

具体的な分解は本文の「4. 大規模修繕工事費の中身を分解する」で、国土交通省が366件の長期修繕計画を集計したデータを使って行います。

1-2. 本当に警戒すべきは「今回」ではなく「次回」

私が理事長さまにお伝えしているのは、こういう話です。

今まさに見積もりを取っている工事については、値上げの影響は限定的です。多くの元請会社は、見積提出時点の単価で一定期間は据え置きます(この「一定期間」が何日なのかが重要で、後述します)。

問題は、5年後・10年後の工事です。長期修繕計画に書かれている修繕工事費の想定単価は、多くのマンションで数年前の相場のまま止まっています。塗料に限らず、シーリング材、防水材、そして労務費が継続的に上がっている以上、計画上の金額と実際の金額の乖離は年々広がります。

国土交通省は「長期修繕計画は5年程度ごとに見直すこと」を推奨しています(出典:国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」令和6年6月改定)。この「5年ごと」が、値上げ局面ではこれまで以上に重い意味を持ちます。

1-3. この記事の要点を3行で

  • 塗料値上げの工事総額へのインパクトは1〜2%程度。慌てて発注を前倒しする理由にはなりにくい
  • ただし長期修繕計画の想定単価は確実に古くなっている。次回の見直しでの上振れに備える必要がある
  • 値上げ分を吸収する余地は「材料の値切り」ではなく「仮設のつくり方」にある

2. 2026年に何が起きたか|主要塗料メーカーの価格改定を時系列で整理

2-1. 一次情報で確認できる改定内容

まず、事実関係を正確に押さえます。噂や又聞きではなく、メーカーが公表している情報に基づいて整理します。

メーカー 対象 改定幅 実施時期 出典
関西ペイント シンナー製品 50%以上 2026年4月2日〜 関西ペイント お知らせ
関西ペイント 溶剤系塗料 20〜35% 2026年6月15日出荷分〜 同上
関西ペイント 水性塗料 15〜30% 2026年6月15日出荷分〜 同上
関西ペイント 粉体系塗料 15〜25% 2026年6月15日出荷分〜 同上
エスケー化研 水性製品 15〜25% 2026年5月11日出荷分〜 2026年4月1日公表
エスケー化研 溶剤製品 20〜30% 2026年5月11日出荷分〜(主力品は4月21日出荷分から先行) 同上
エスケー化研 粉体製品 10〜15% 2026年5月11日出荷分〜 同上
日本ペイント シンナー製品 最大75% 2026年3月19日発注分〜 各社報道

関西ペイントの案内文には、注意して読むべき記述が2つあります。

ひとつは「これまでご注文いただいた製品についても、6月15日出荷分からは価格改定の対象とさせていただきます」という一文。つまり、発注済みでも出荷が改定日以降なら新単価が適用されるということです。工事の着工が遅れた場合、材料費が後から膨らむ可能性がある、という意味になります。

もうひとつは「原材料市況や調達環境の変動状況によっては、追加の価格改定をお願いする場合がございます」という記述。これは2026年内に第2弾がありうる、というメーカー側の予告と読むのが自然でしょう(出典:関西ペイント「中東情勢を背景とした当社製品の価格改定に関するご案内」2026年5月29日)。

2-2. 「運賃は含まない」という但し書き

同じ案内には「本ご案内には運賃改定は含んでおりません」とも書かれています。

これは実務的にはかなり重い一文です。塗料は重量物で、現場までの配送コストが単価に上乗せされます。2024年の物流問題以降、配送コストは全国的に上昇傾向が続いています。塗料本体の値上げ率だけを見ていると、実際の納入単価はもう少し上がるという前提で読んだほうが安全です。

2-3. なぜ「シンナー」の値上げ率が突出しているのか

表を見ると、シンナー(塗料用希釈剤)だけが50〜75%と桁違いです。ここが今回の値上げの震源地です。

シンナーの主原料は、原油を精製して得られるナフサから作られる溶剤類です。塗料本体に比べて原料構成がシンプルなぶん、原油・ナフサ価格の変動がほぼダイレクトに製品価格へ跳ね返ります。塗料本体は樹脂・顔料・添加剤など多様な原料の集合体なので、値上げ率はいくぶんマイルドになる、という構造です。

現場で言えば、溶剤系の塗料を使う工事ほど、今回の値上げの影響を強く受けるということになります。


3. なぜ上がったのか|中東情勢からマンションの外壁まで、4段の連鎖

3-1. 連鎖を1本の線でたどる

管理組合の理事会で「なぜ上がるのか」を説明するとき、私はいつもこの4段で話します。

  1. 中東情勢の緊張 → 原油の供給リスクと海上輸送ルートの不安定化
  2. 原油・ナフサ価格の上昇 → 石油化学製品の原料コストが上昇
  3. 溶剤(シンナー)・樹脂の値上げ → 塗料メーカーの製造原価が上昇
  4. 塗料製品の値上げ → 改修工事の材料費が上昇

関西ペイントは公表文で、「昨今の中東地域における緊張の高まりを背景に、原油・石油化学製品をはじめとする原材料市場や、国際物流を取り巻く環境は依然として極めて不安定な状況が続いております」と説明しています。原材料の代替調達や調達先の多元化を進めたうえで、なお自助努力では対応困難、という順序で書かれている点は、押さえておいてよいでしょう。

3-2. 「値上げは一時的か」を判断する材料

理事会で必ず出る質問が「待てば下がりますか」です。

正直に申し上げます。私には分かりません。 原油価格の見通しを断定できる人は、この業界にはいません。ただ、判断材料としてお伝えしていることが2つあります。

ひとつは、今回の値上げが原料要因だけではないということ。物流費、そして後述する労務費という、原油が下がっても下がりにくい要素が同時に上がっています。仮に原油が落ち着いても、工事費全体が値上げ前の水準に戻る道筋は見えにくい。

もうひとつは、待つことのコストです。外壁のひび割れやシーリングの劣化は、待っている間も進みます。雨水が入れば鉄筋が錆び、コンクリートが押し割られる(爆裂と呼びます)。そこまで進むと、塗装工事ではなく躯体補修工事になり、単価も工期も別次元になります。塗料が2割上がることより、こちらのほうがはるかに怖い、というのが私の実感です。

3-3. 労務費という、もう一本の値上げ

材料の話に隠れがちですが、大規模修繕工事のコストを長期的に押し上げているのは労務費です。

国土交通省は都道府県別・工種別の公共工事設計労務単価を毎年公表しています。大規模修繕工事の主要3工種である「とび工(仮設工事)」「塗装工(塗装工事)」「防水工(防水・シーリング工事)」は、いずれも継続的に上昇してきました。

参考として、令和3年3月から適用された東京都の単価は、とび工27,900円、塗装工29,200円、防水工29,900円(1日あたり)です(出典:国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」資料編)。その後も建設業の担い手不足を背景に、単価は上昇基調が続いています。最新値は国土交通省の公共工事設計労務単価のページでご確認ください。

同ガイドラインも「労務費は建設業の担い手不足や技能労働者の就労環境の変化等により変動する可能性がありますので、必要に応じて上昇分について考慮することも重要です」と明記しています。塗料の値上げは目立つが、静かに効いているのは人件費のほう、というのが現場の実感です。


4. 大規模修繕工事費の中身を分解する|国交省366事例が示す構成比

4-1. 費目別の割合(一次データ)

ここが本記事の核心です。塗料の値上げがどこに、どれだけ効くのかを知るには、まず工事費の内訳を知る必要があります。

国土交通省は「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」で、長期修繕計画作成ガイドラインに概ね沿って作成された長期修繕計画366事例を収集・分析し、修繕工事費の項目別割合を公表しています。

項目 割合
1. 仮設工事 9.0%
2. 屋根防水 6.1%
3. 床防水 6.1%
4. 外壁塗装等 13.6%
5. 鉄部塗装等 3.4%
6. 建具・金物等 9.7%
7. 共用内部 1.1%
8. 給水設備 8.1%
9. 排水設備 5.8%
10. ガス設備 0.3%
11. 空調・換気設備 0.7%
12. 電灯設備等 4.0%
13. 情報・通信設備 4.1%
14. 消防用設備 3.5%
15. 昇降機設備 4.3%
16. 立体駐車場設備 5.2%
17. 外構・附属施設 2.9%
18. 調査・設計・監理 1.9%
19. 長期修繕計画策定 0.2%
その他 10.0%

(出典:国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」令和6年6月改定 資料編、366事例の平均値)

注意点をひとつ。 この割合は「長期修繕計画の計画期間全体」の修繕工事費の内訳であり、1回の大規模修繕工事だけの内訳ではありません。給水設備・昇降機設備など、大規模修繕とは別のタイミングで実施される項目も含まれています。ただ、塗装・防水・仮設の相対的な大きさを掴む材料としては十分に使えますので、以下ではこの数字を目安として使います。

4-2. モデルケースで試算してみる

数字を体感に変えるため、具体的に置いてみます。

モデル:70戸・総専有床面積4,900㎡・1回目の大規模修繕工事費1億円(戸あたり約143万円)

まず、塗装関係の工事費を拾います。

  • 外壁塗装等(外壁修繕・タイル修繕・塗装等を含む):13.6% → 1,360万円
  • 鉄部塗装等:3.4% → 340万円
  • 合計:1,700万円

このうち、塗料そのものの材料費が占める割合はどれくらいか。工事の仕様や下地の状態によって大きく変わりますが、塗装工事費に占める塗料材料費は概ね2〜3割というのが、私が現場で見てきた感覚値です(この比率は公的統計ではなく、あくまで実務上の目安としてお読みください)。

  • 塗料材料費:1,700万円 × 25% = 約425万円

ここに、今回の値上げ幅を当ててみます。仕様の中心が水性か溶剤系かで変わるので、幅で見ます。

想定値上げ率 増加額 工事総額1億円に対する比率
15%(水性中心) 約64万円 約0.6%
25%(混在) 約106万円 約1.1%
35%(溶剤系中心) 約149万円 約1.5%

結論:塗料値上げによる工事総額の押し上げは、概ね0.6〜1.5%のレンジ。 総額1億円なら64万〜149万円です。

戸あたりに直すと、70戸で約9,000円〜21,000円。修繕積立金の月額に換算すれば、30年計画のごく一部の変動です。これが「1〜2%程度」と申し上げた根拠です。

4-3. では、それより大きいのはどこか

同じ表をもう一度見てください。

仮設工事:9.0% → モデルケースで900万円。

塗料材料費の推定425万円に対し、仮設工事はその倍以上です。しかも仮設工事費の中身は、そのほとんどが足場材のリース費と、とび工の人件費、そして養生費です。

つまり、塗料代を1割値切る交渉より、仮設のつくり方を見直すほうが、動く金額は圧倒的に大きい。これが、私が管理組合やオーナーに一番お伝えしたいことです。


5. 塗料値上げは見積書のどこに現れるか|3つの現れ方

5-1. 現れ方①:単価がそのまま上がる(最も健全)

塗装工事の平米単価が、前回見積もりより素直に上がっているケース。これは正直な見積もりです。上がった理由を聞けば説明できる会社であれば、信頼していい相手だと私は思います。

確認すべきは、「どの塗料を、何回塗りで、どのメーカーの何という製品で」という仕様が明記されているかどうか。ここが「外壁塗装一式」で済まされている見積書は、値上げ局面では特に危険です。

5-2. 現れ方②:見積有効期限が短くなる

これは見落とされがちですが、非常に重要です。

先ほど確認したとおり、関西ペイントは「これまでご注文いただいた製品についても、6月15日出荷分からは価格改定の対象」としています。元請会社にとって、材料の仕入単価は発注時点ではなく出荷時点で決まるわけです。

そのため、値上げ局面では見積書の有効期限が30日、あるいはそれ以下に短縮されることがあります。総会での決議に3か月かかる管理組合の場合、決議した頃には見積もりが失効しているという事態が起こりえます。

5-3. 現れ方③:仕様が静かに下がる(最も注意すべき)

金額を据え置いたまま、塗料のグレードだけが下がっているケース。これが一番厄介です。

たとえば、当初提案がフッ素樹脂塗料だったものがシリコン系に、シリコン系がウレタン系に。塗り回数が3回塗りから2回塗りに。下塗り材が指定品から汎用品に。金額が同じなら誰も気づきません。

しかし塗料のグレードは、次に塗り替えるまでの年数を左右します。目安として、ウレタン系で8〜10年、シリコン系で10〜13年、フッ素系で15年前後とされることが多い。仮に13年もつはずの仕様が10年になれば、30年間で塗り替え回数が1回増える可能性があります。その1回分は、今回の値上げ分をはるかに超える金額です。

見積比較の際は、金額の欄より先に、塗料メーカー名・製品名・塗り回数・希釈率の記載を確認してください。


6. 管理組合とオーナーが見積書で確認すべき3行

前章を踏まえ、実務でそのまま使える確認事項に落とし込みます。理事会で配れるように、3つに絞りました。

6-1. 1行目:「見積有効期限」は何日か

確認する場所: 見積書の表紙、または末尾の但し書き。

なぜ見るか: 総会決議までのスケジュールと突き合わせるためです。有効期限30日の見積もりを、3か月後の総会にかけても意味がありません。

どう動くか: 期限が短い場合は、「臨時総会での決議を前提に、この単価で何日まで押さえられるか」を書面で確認してください。多くの会社は、材料を押さえられる範囲で応じてくれます。応じられない場合も、その理由を説明してもらえば、市況の実態が見えてきます。

なお、極端に安い見積もりの読み方については、大規模修繕の見積もりが安すぎる時|倒産リスクを見抜く5つの兆候でも整理しています。

6-2. 2行目:「塗料メーカー名・製品名・塗り回数」が書かれているか

確認する場所: 塗装工事の内訳明細。

なぜ見るか: 前章の「現れ方③」を防ぐためです。仕様が特定されていない見積もりは、比較する意味がありません。

どう動くか: 「外壁塗装 一式」となっている場合は、必ず内訳を出してもらってください。複数社に相見積もりを取るなら、仕様を発注側で固定してから依頼するのが原則です。仕様がバラバラの見積もりを金額だけで比べると、必ず一番安い=一番グレードが低いものが選ばれます。

6-3. 3行目:「仮設工事費」がいくらで、その根拠は何か

確認する場所: 内訳明細の冒頭、仮設工事の項目。

なぜ見るか: モデルケースで見たとおり、仮設工事は工事費の約9%を占め、塗料材料費の推定額を上回る規模です。ここが最も大きく動かせる余地のある費目です。

どう動くか: 「足場の架設面積は何㎡か」「単価は㎡あたりいくらか」「リース期間は何か月で計上されているか」を確認してください。工期が延びれば足場のリース期間も延び、費用は増えます。逆に言えば、工期を短縮できる工法は、仮設費を直接圧縮します。


7. 値上げを「工法」で吸収するという発想

7-1. 足場・ロープアクセス・ハイブリッドの3択

私が代表を務める株式会社明誠では、大規模修繕工事の提案にあたって、必ず3つの工法を比較したうえでお出しするようにしています。

工法 仮設コスト 工期 居住者・テナントへの影響 向いている建物
通常足場工法 高い(工事費の1割前後) 標準 目隠しシート・防犯面の負担が大きい 中低層、外壁の劣化が広範囲、複雑形状
ロープアクセス工法(無足場工法) 大幅に圧縮できる 短縮しやすい 窓を塞がない期間が長い 高層、足場架設が困難、部分補修中心
ハイブリッド工法 部位ごとに最適化 部位により短縮 足場設置範囲を限定できる 大規模・複雑形状で総合最適が必要

ロープアクセス工法とは、産業用のロープと下降器を使って、作業員が建物の屋上から吊り下がって施工する無足場の工法です。ヨーロッパの高所作業技術をルーツに持ち、日本でも高層建築の外壁補修や調査で採用が広がっています。ロープアクセス工法の技術的な解説や安全基準の考え方は、姉妹サイトのロープアクセスドットコムに詳しくまとめていますので、仕組みから知りたい方はそちらもご覧ください。

7-2. 「無足場なら必ず安い」は誤りです

ここは正直に申し上げておきます。ロープアクセスが常に安いわけではありません。

外壁の劣化が全面に及んでいて、全面打診・全面塗装が必要な物件では、足場を組んだほうが施工効率が高く、結果的に安くなることは普通にあります。また、バルコニーが深い、庇が張り出している、屋上にアンカーを取れる構造がない、といった条件では、ロープアクセスの適用範囲が限られます。

適しているのは、こういうケースです。

  • 劣化が部分的で、全面足場を組むほどではない
  • 高層で、足場の架設・解体だけで工期と費用が膨らむ
  • 敷地に余裕がなく、隣地との離隔が取れない
  • 店舗やホテルが入っていて、営業を止めたくない
  • 賃貸物件で、足場設置期間中の入居者退去や賃料減額のリスクを避けたい

逆に不向きなケースも明記します。外壁全面の大規模な躯体補修、重量物の搬出入を伴う工事、屋上にロープの支点を確保できない構造。こうした場合は、素直に足場を組むほうが安全で確実です。

だからこそ、私は3工法を並べて提案します。選択肢が1つしかない会社の見積もりは、その1つが最適だから出てきたのか、それしかできないから出てきたのか、発注側からは区別がつきません。

7-3. ハイブリッドという中間解

実務で最も効くのは、この中間解です。

たとえば、劣化の激しい北面と、シーリングの打ち替えが必要な妻壁だけに足場を架け、南面と東西面はロープアクセスで対応する。あるいは、外壁は足場、屋上防水と高所の看板・設備まわりはロープアクセスで並行施工する。

こうすると、足場の架設面積そのものが減り、リース期間も短くなります。前章の「3行目」で確認した仮設工事費が、ここで直接動きます。

モデルケースの仮設工事900万円のうち、仮に3割を圧縮できれば270万円。これは塗料値上げによる増加額(推定64万〜149万円)を上回ります。 数字の桁が違う、という話です。

なお、工法の詳細と施工実績はロープアクセス工法のご紹介、大規模修繕工事全体の進め方は大規模修繕工事のご紹介にまとめています。


8. 長期修繕計画と修繕積立金にどう反映するか

8-1. 修繕積立金の目安(国交省ガイドライン)

値上げの話は、最終的に修繕積立金の話につながります。ここは国土交通省が明確な目安を示しているので、そのまま使えます。

計画期間全体における修繕積立金の平均額の目安(機械式駐車場分を除く/円・㎡・月)

地上階数/建築延床面積 事例の3分の2が包含される幅 平均値
20階未満・5,000㎡未満 235〜430円 335円
20階未満・5,000〜10,000㎡未満 170〜320円 252円
20階未満・10,000〜20,000㎡未満 200〜330円 271円
20階未満・20,000㎡以上 190〜325円 255円
20階以上 240〜410円 338円

(出典:国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」令和6年6月改定)

ご自身のマンションの数字を出す計算式は単純です。

Z(円/㎡・月)=(計画期間当初の修繕積立金残高 + 計画期間全体で集める修繕積立金総額 + 専用使用料等からの繰入額総額)÷ 総専有床面積 ÷ 計画期間(月数)

必要な数字はすべて長期修繕計画に載っています。理事会で15分もあれば出せます。

注意点: ガイドライン自身が「目安の範囲に収まっていないからといって、直ちに不適切であると判断される訳ではありません」と明記しています。物件ごとに形状・立地・共用施設が違うためです。あくまで健康診断の基準値のようなもの、とお考えください。

8-2. 段階増額積立方式の「0.6倍以上・1.1倍以内」ルール

令和6年6月の改定で追加された、実務上とても重要な考え方です。

段階増額積立方式における月あたりの徴収金額は、均等積立方式とした場合の月額を基準額として、計画の初期額は基準額の0.6倍以上、計画の最終額は基準額の1.1倍以内とする。

言い換えれば、「最初はうんと安く、最後にドンと上げる」という計画は望ましくない、と国が明示したということです。

しかも、ガイドラインには重要な留意事項が付いています。「工事費高騰等の状況を踏まえた長期修繕計画の見直しにあたって、管理適正化のために現在の修繕積立金額の額を大幅に引上げる等を制限するものではない」。

つまり、今回のような値上げ局面での積立金引き上げは、この0.6〜1.1倍ルールに縛られないという整理です。これは総会での説明材料として、そのまま使えます。

8-3. マンション長寿命化促進税制も確認を

修繕積立金の引き上げを検討するなら、あわせて確認しておきたいのがこの制度です。

マンション長寿命化促進税制は、管理計画認定を受けた一定のマンションで、修繕積立金の額を一定以上に引き上げたうえで大規模修繕工事を行った場合、翌年度分の固定資産税が減額される制度です。減額割合は6分の1から2分の1以下の範囲で市町村(特別区にあっては都)の条例で定められ、参酌基準は3分の1。1戸あたり100㎡相当分までが対象です。

適用には管理計画認定やマンション管理士・建築士による修繕積立金引上証明書の発行など、複数の要件があります。詳細は国土交通省のマンション管理のページで最新の要件をご確認ください。制度は変更される可能性がありますので、実際の判断は必ず公式情報と専門家への確認のうえで行ってください。

8-4. 次の見直しで入れておくべき3つの前提

長期修繕計画の見直しにあたって、私が入れておくことをおすすめしている前提です。

  1. 材料費の上昇を年率で織り込む — 個別の値上げを追いかけるのではなく、一定の上昇率を前提に置く。国土交通省の建設工事費デフレーターには「建築補修」の区分があり、改修工事の物価変動を追う指標として使えます
  2. 労務費の上昇を別枠で見る — 材料と労務は動き方が違います。公共工事設計労務単価の推移が参考になります
  3. 工法の選択肢を計画段階で残す — 「全面足場」を前提に金額を積んでいる計画は、実施時点で工法を変える余地が消えていることがあります

積立金そのものの目減りという観点では、大規模修繕の資金は「金利」で目減りする時代へもあわせてお読みいただくと、資金計画の全体像がつかみやすいと思います。


9. 賃貸オーナーの場合|見るべき数字が管理組合とは違う

9-1. オーナーにとっては「工事費」より「工期×空室リスク」

収益物件をお持ちの方の場合、判断軸が管理組合とは変わります。

分譲マンションの管理組合にとって、大規模修繕は「資産価値の維持」であり、費用は修繕積立金という既に積んだ原資から出ます。一方、賃貸オーナーにとっては、工事期間中の稼働低下が直接キャッシュフローに効きます。

足場を組んで防音・防塵シートで建物を覆えば、日照と通風が落ち、洗濯物が干せず、防犯上の不安も出ます。入居者からの賃料減額交渉や、更新時期の退去につながることは珍しくありません。

仮に月額賃料8万円の部屋が20戸あり、工事期間中の3か月間で2戸が退去し、次の入居まで2か月空いたとします。8万円×2戸×2か月=32万円の機会損失。原状回復費と広告料を加えれば、簡単に50万円を超えます。

これは、前章で試算した塗料値上げの増加額(総額1億円の工事で64万〜149万円)と、同じ桁の話です。オーナーにとっては、材料費の1割より、工期の1か月のほうが重いということがしばしば起こります。

9-2. だから工期が意思決定変数になる

ロープアクセス工法やハイブリッド工法が賃貸物件で選ばれる理由は、単価が安いからではなく、足場の架設・解体期間そのものが不要または短縮できるからです。

一般的な中規模マンションで、足場の架設に1〜2週間、解体に1週間程度。これに加えて、足場が建っている全期間、入居者は窓の外に他人が通る可能性を意識して生活することになります。

部分補修中心の工事であれば、ロープアクセスで施工日数を大幅に短縮できるケースがあります。ただし、これも物件条件次第です。「うちの物件でどちらが有利か」は、屋上の支点条件と劣化範囲を実際に見ないと判断できません。

9-3. 値上げ局面でオーナーがやるべきこと

  • 来年度の修繕予算に、材料費上昇分を明示的に上乗せしておく(丸めた予備費ではなく、根拠のある数字で)
  • 緊急性のある部分補修と、周期的な全面改修を分けて考える。漏水やタイル浮きは待てないが、美観目的の塗り替えは時期をずらせる
  • 複数工法での見積もりを取る。1社1工法の見積もりでは、比較の土俵が作れない

10. 私が現場で見てきたこと

10-1. 「安くなった見積書」が一番高くついた話

数年前、ある管理組合から相談を受けたことがあります。相見積もりを取ったところ、1社だけ2割ほど安い金額を出してきた。その会社に決めるべきか、という相談でした。

内訳を見せていただいて、すぐに分かりました。塗料のグレードが1段階下がり、塗り回数が3回から2回になっていたのです。しかも見積書の表記は「外壁塗装工事 一式」。金額の内訳がなければ、誰も気づけません。

私はその場で、両方の見積書を並べて、10年後・20年後の累計コストを電卓で叩いてお見せしました。塗り替え周期が3年短くなると、30年間で1回分の足場費と塗装費が余分に発生する。試算すると、当初の2割の差は、20年で逆転していました。

現場で20年やってきて、私が一番悔しい思いをするのは、こういう「見えない差」で判断が曲がってしまう場面です。塗料の値上げが話題になる今こそ、金額の欄より仕様の欄を見ていただきたい。

10-2. 足場を組まずに済んだ物件のこと

もうひとつ。高層の賃貸マンションで、外壁の一部にひび割れとシーリングの劣化が見つかった案件がありました。

当初、設計事務所からは全面足場での改修が提案されていました。しかしオーナーさまが一番気にされていたのは、工事費ではなく「入居者に出ていかれること」でした。満室に近い稼働で回っている物件です。

私たちは屋上のパラペットと構造を確認したうえで、劣化の集中している面だけロープアクセスで先行補修し、全面改修は次の周期まで延ばすという段階施工をご提案しました。結果として、その年に足場は1本も組まずに済みました。

これは、たまたま条件が合ったから成立した話です。すべての物件でできることではありません。ただ、「足場ありき」で考えていたら、この選択肢は出てこなかった。それだけは確かです。

10-3. 値上げの局面で、私が理事長さまにお伝えしていること

私はこうお伝えしています。

「値上げのニュースで慌てて発注を早めるより、見積書の3行を確認するほうが、金額としては大きく効きます」

有効期限。仕様。仮設費。この3つです。塗料が2割上がったことより、この3行の確認漏れのほうが、最終的な支払額を大きく動かします。


よくある質問(FAQ)

Q1. 塗料が値上げされたので、大規模修繕を前倒しで発注したほうがいいですか?

A. 値上げだけを理由に前倒しする合理性は高くありません。工事総額への影響は概ね0.6〜1.5%程度と試算されるためです。ただし、外壁のひび割れや漏水など劣化が進行している場合は、値上げとは別の理由で早期着手を検討すべきです。詳しくは本文の「1. 結論」をご覧ください。

Q2. 2026年の塗料値上げ幅は具体的にどれくらいですか?

A. 関西ペイントは溶剤系塗料20〜35%、水性塗料15〜30%、粉体系塗料15〜25%を2026年6月15日出荷分から実施しています。シンナー製品は4月2日から50%以上の改定です(出典:関西ペイント)。エスケー化研も5月11日出荷分から水性15〜25%、溶剤20〜30%、粉体10〜15%の改定を行っています。

Q3. 見積書を取り直したら金額が同じでした。安心していいですか?

A. 金額が同じでも仕様が変わっている可能性があります。塗料メーカー名・製品名・塗り回数・下塗り材の指定を、前回見積もりと1行ずつ突き合わせてください。塗料のグレードが下がっていると、塗り替え周期が短くなり、長期では割高になることがあります。

Q4. 無足場のロープアクセス工法にすれば工事費は必ず安くなりますか?

A. いいえ。外壁全面の改修が必要な物件では、足場を組んだほうが施工効率が高く、結果的に安くなることがあります。部分補修中心、高層、敷地に余裕がない、営業や入居を止めたくない、といった条件で有利になりやすい工法です。物件ごとの比較が必要です。ロープアクセス工法の技術的な解説はロープアクセスドットコムにまとめています。

Q5. 値上げを理由に修繕積立金を引き上げると、国のガイドラインに抵触しませんか?

A. 抵触しません。国土交通省のガイドラインは段階増額積立方式について「初期額は基準額の0.6倍以上、最終額は1.1倍以内」という考え方を示していますが、あわせて「工事費高騰等の状況を踏まえた長期修繕計画の見直しにあたって、管理適正化のために現在の修繕積立金額の額を大幅に引上げる等を制限するものではない」と明記されています(出典:国土交通省)。


この記事のポイントまとめ

  • 塗料値上げの工事総額へのインパクトは概ね0.6〜1.5%。慌てた前倒し発注の根拠にはなりにくい
  • 関西ペイントは溶剤系20〜35%、水性15〜30%を2026年6月15日出荷分から実施
  • 国交省366事例では外壁塗装等13.6%、仮設工事9.0%。動かせる余地は仮設側に大きい
  • 見積書で見るべきは3行——有効期限、塗料の製品名と塗り回数、仮設工事費の根拠
  • 賃貸オーナーは工事費より工期と稼働低下のほうが金額インパクトが大きい場合がある

出典・参考資料

※本記事に記載した制度・価格・単価は、記事作成時点で公表されている情報に基づくものです。制度や価格は変更される可能性がありますので、最新の情報は必ず各公式サイトでご確認ください。また、本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務・法務判断については専門家にご相談ください。


最後に

値上げのニュースは不安を煽ります。しかし数字を分解してみると、動いているのは工事費の1%前後で、それより大きい費目が、まだ手つかずで残っていることが分かります。

私はこれを、必ずワンセットでご提案するようにしています。「材料の値上げをどう受け止めるか」と「仮設をどうつくるか」は、同じテーブルで話すべき問題だからです。

見積書の3行を確認するだけなら、理事会で30分もかかりません。それでも判断に迷われるようでしたら、お問合せフォームからご相談だけでも遠慮なくお声がけください。総会の前段階の整理だけでも、お力になれることがあります。

これは私が現場で20年見てきた、嘘偽りのない感想です。次回も、現場で本当に使える話だけをお届けします。


執筆者:本間 幸紘(株式会社明誠 代表取締役)

専門領域:マンション大規模修繕/ロープアクセス工法/建物長寿命化計画

実務経験:建設・改修業界 20年以上

所属:一般社団法人 全国建設業支援協会(JCSA)

株式会社明誠について:東京都小平市を拠点に、東京・関東一円でロープアクセス工法と従来足場工法の両方を提案できる改修会社。日本初のロープアクセス工事フランチャイズを展開し、塗装・防水・タイル・電気・看板工事などの専門職が加盟しています。

最終更新:2026年8月28日

大規模修繕の見積もりが安すぎる時|倒産リスクを見抜く5つの兆候

2026年8月27日 更新

「相見積もりで一番安い会社に頼んで、本当に大丈夫なのでしょうか?」 ——この記事は、その一点にお答えします。

先日、年間家賃収入5,700万円という不動産投資家の方が、「最安値を出してきた建設会社が実は倒産寸前だった」という体験を語った記事が出ていました(出典:マネーポストWEB/Yahoo!ニュース)。私はこれを読んで、正直、背筋が寒くなりました。ヒヤリとした話ではなく、私自身が20年近くこの業界で何度も後始末をしてきた光景そのものだったからです。

株式会社明誠の本間です。今日は「安い見積もり」との向き合い方を、公的データと現場の実感の両方から整理します。


1. 結論:安い見積もりを疑い始める3つのライン

先に結論から申し上げます。相見積もりの中に極端に安い1社があるとき、私が最初に見るのは次の3つのラインです。ここを超えていたら、金額の話をする前に「なぜ安いのか」を潰しにいきます。

ライン 判断の目安 何を疑うか
① 戸あたり単価 国土交通省の実態調査の中央値を大幅に下回る 数量の拾い漏れ/仕様落ち
② 他社との乖離幅 最安と2番手の差が総額の20%以上 積算根拠の不成立/赤字受注
③ 内訳の粒度 主要工種が「一式」表記で数量が無い 後からの追加請求/実行予算の破綻

1-1. ライン①:戸あたり単価が国交省の中央値を大きく下回る

国土交通省が公表した「令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査」では、944件の工事事例をもとに戸あたり工事金額の分布が整理されています。1回目の大規模修繕では「100万円超120万円以下/戸」が31.4%で最多、中央値は110.2万円。2回目は中央値106.1万円、3回目以降は中央値97.0万円という結果でした(出典:国土交通省 報道発表資料/調査結果本体(PDF))。

この調査は2022年6月公表で、集計対象は直近3年間の工事です。つまり2026年の物価水準とは前提が違います。後述しますが、この4年間で建設コストは相当上がっています。それでもなお、この中央値を大きく割り込む見積もりが出てきたら、まず理由を確認する。これが私の基本姿勢です。

戸あたり単価は「総額 ÷ 総戸数」という単純な割り算で出せます。50戸のマンションで総額4,500万円なら90万円/戸。100戸で6,000万円なら60万円/戸。理事会の場でも1分で計算できますので、最初のスクリーニングとして非常に使いやすい指標です。

1-2. ライン②:最安と2番手の差が20%以上

3社見積もりを取って、A社4,500万円、B社4,900万円、C社5,100万円なら、これは健全なばらつきです。差は最大13%程度で、仕様の解釈や仮設計画の違いで十分に説明がつきます。

一方、A社3,400万円、B社4,900万円、C社5,100万円だとしたら、話が変わります。最安と2番手の差が30%。この幅は「企業努力」では出ません。同じ数量・同じ仕様を積み上げたら、まともな会社の見積もりは似た金額に収束するからです。収束しないのなら、数量か仕様か、そのどちらかが違っている。あるいは、会社の懐事情が違っている。

1-3. ライン③:内訳が「一式」で潰れている

見積書を開いて、「外壁補修工事 一式」「防水工事 一式」「仮設工事 一式」と並んでいたら、私はその時点で比較を止めます。数量が書かれていない見積書は、比較の土俵に乗らないからです。

私はいつも理事長さまに、「金額を見る前に、数量欄を見てください」とお伝えしています。タイル浮き補修なら「○○㎡」、シーリング打替なら「○○m」、外壁塗装なら「○○㎡」。この数字が入っていて初めて、A社とB社の単価を比べられます。数量が無い見積書は、安いのではなく「まだ見積もられていない」のです。


2. 今回のニュース:4,500万円の最安値を蹴ったオーナーの判断

2-1. 何が起きたのか

冒頭で触れた記事の要旨はこうです。複数社から見積もりを取り、最も安い4,500万円の建設会社と契約する直前まで進んでいた。ところが取引銀行から、その会社について良くない情報があると知らされる。調べてみると、大型案件で契約を反故にし、下請への支払いも滞り、現場が止まっている状態だった。最終的に4,900万円の別会社と契約し、400万円のコスト増を受け入れた——という話です(出典:マネーポストWEB/Yahoo!ニュース)。

2-2. 400万円の差額は「高くついた」のか

私は、この400万円は保険料として極めて安かったと考えます。理由を、施工者側の目線で申し上げます。

工事の途中で元請が倒れると、現場では次のことが同時に起こります。

  1. 足場が撤去できない/されない — 仮設リース会社は元請と契約しています。元請が払えなくなれば、リース料は止まり、足場は宙に浮きます。撤去費用を誰が持つかで揉めます。
  2. 下請の職人が全員引く — 支払いが飛べば、翌日から人は来ません。塗装の中塗りまで終わって上塗り前、という最悪のタイミングで止まることもあります。
  3. 出来高の査定でもめる — 前払金や中間金を払っていた場合、「どこまで出来ているか」を第三者に査定してもらう必要が出ます。
  4. 引き継ぎ業者が割高になる — 他社が途中から入る工事は、前工程の品質を保証できないため、健全な会社ほど値段を高く出します。私の経験上、残工事の見積もりは当初単価の1.3〜1.5倍になることが珍しくありません。
  5. 瑕疵の受け皿が消える — 一番痛いのはここです。倒産した会社の保証書は紙切れです。

2-3. 私が現場で見てきた「安値の後始末」

数年前、私は都内の築28年・42戸のマンションで、途中で止まった大規模修繕の残工事を引き継いだことがあります。当初契約は約3,800万円。相見積もりの中で最も安く、2番手より600万円ほど安かったと後から聞きました。

現場に入って最初に驚いたのは、足場が組まれてから4か月半が経過していたことでした。工期は5か月の予定でしたから、ほぼ工期いっぱいを使って、外壁の下地補修が半分終わったところで止まっていた。シーリングは撤去済みで打っていない箇所が残り、そこから雨が回って室内側にシミが出ていました。

理事長さまと最初にお会いしたとき、「もう誰も信用できない」と言われたのを今でも覚えています。現場で20年やってきて、私が一番悔しい思いをするのは、こういう瞬間です。工事そのものより先に、信頼の回復から始めなければならない。

結果として、残工事に約2,400万円かかりました。当初契約からの持ち出しは、居住者アンケートの再実施や仮設の延長も含めて1,000万円を超えたと聞いています。600万円を惜しんだ結果でした。


3. 見積もりが安くなる理由は、突き詰めると4つしかない

安い見積もりのすべてが危険なわけではありません。むしろ、正当な理由で安い見積もりは存在します。ここを混同すると、良い提案まで一緒に捨ててしまいます。私が使っている4分類を共有します。

分類 内容 危険度 見分け方
A:工法が違う 足場を使わない、または部分的にしか使わない 低(正当) 仮設工事費の項目と数量を確認
B:仕様が落ちている 塗料グレード、防水の層厚、保証年数が下がっている 中 材料メーカー名・品番・保証年数を突合
C:数量が拾えていない 補修数量を過少に見積もり、後から追加請求 高 数量根拠(調査報告書)の有無
D:資金繰りのための受注 赤字と分かっていて受注、手元資金を回す 最高 決算・経審・支払サイトの確認

3-1. 理由A:工法が違う(これは正当な安さ)

大規模修繕工事の総額のうち、仮設足場が占める割合は決して小さくありません。建物の形状や階数によりますが、一般的な中高層マンションで総額の15〜25%程度を仮設が占めるケースがあります。

ここで、ロープアクセス工法(無足場工法。産業用ロープで作業員が壁面を昇降しながら施工する工法) を使えば、その仮設費の相当部分を圧縮できます。全面をロープアクセスで行うケースもあれば、足場が必要な部位だけ足場を組み、それ以外をロープで対応する ハイブリッド工法 もあります。

これは「安かろう悪かろう」ではなく、仮設という費目そのものを設計し直しているだけです。見積書を見れば一目で分かります。仮設工事費の行が小さく、そのぶん本工事の単価は他社と大きく変わらない。これがAパターンです。

ロープアクセス工法の一般的な安全基準や技術的な背景は、姉妹サイトのロープアクセスドットコムで詳しく解説しています。工法の中身を先に知っておくと、見積書の読み方が変わります。

3-2. 理由B:仕様が落ちている(要確認)

外壁塗装の塗料は、アクリル系・ウレタン系・シリコン系・フッ素系・無機系と幅があり、期待耐用年数も価格も大きく異なります。屋上防水も、ウレタン塗膜防水・塩ビシート防水・アスファルト防水で単価と耐用年数が違います。

A社が「シリコン系・保証7年」、B社が「フッ素系・保証10年」を提案していれば、金額差が出るのは当たり前です。問題は、見積書に材料メーカー名と品番が書かれていないケース。これだと比較のしようがありません。

私はこれを、必ずワンセットで提案するようにしています。「材料の品番」と「保証年数」と「保証の主体(メーカー保証か施工店保証か)」の3点セットです。この3つが揃っていない見積書は、金額の比較に使えません。

3-3. 理由C:数量が拾えていない(危険)

これが最も多い「後で揉める安さ」です。

タイル張りの建物で、打診調査をせずに「浮き補修 500㎡」と置いておき、着工後に実測したら1,200㎡だった——という事態は起こり得ます。差分の700㎡は追加工事として請求されます。当初の見積もりは確かに安かった。しかし最終の支払額は他社より高くなる。

これを避ける方法はシンプルです。発注前に、劣化診断(建物調査)を工事会社とは別に、あるいは工事会社に実施させたうえで、その報告書の数量を全社共通の条件として渡すこと。同じ数量表で見積もらせれば、比較は一気に楽になります。

なお、建築基準法第12条に基づく定期報告制度では、竣工後10年を超えた一定の建築物について外壁全面打診等の調査が求められています。この報告資料が手元にあれば、数量根拠の出発点として使えます。

3-4. 理由D:資金繰りのための受注(最も危険)

今回のニュースの会社は、おそらくこれに該当します。手元資金が細っている会社は、赤字と分かっていても受注します。前払金と中間金で当座を凌ぎ、次の受注で穴を埋める。自転車を漕ぎ続けている状態です。

そして、漕ぐのを止めた瞬間に倒れます。倒れる先が、たまたま自分の物件の工事期間中だった——それが今回のオーナーが回避したシナリオです。


4. 倒産リスクを見抜く5つの兆候

では、Dパターンをどう見抜くか。私が実務で使っているチェックポイントを5つ挙げます。すべて、理事会やオーナーご自身の手で確認できるものです。

4-1. 兆候①:前払金の比率が異常に高い

工事契約における前払金は、材料の先行手配などの理由で一定額を支払うこと自体は一般的です。しかし、契約時に総額の40%、50%を求めてくるようであれば、資金使途を確認したほうが良いと私は考えます。

対策としては、「前払金保証」を付けてもらう方法があります。保証事業会社による前払金保証は公共工事で広く使われている仕組みですが、民間工事でも同種の保証やエスクロー的な取り扱いを相談できる場合があります。少なくとも「なぜその比率が必要か」に明確な回答が返ってこない場合は、慎重に判断するのが無難です。

4-2. 兆候②:建設業許可と経営事項審査を自分で調べる

これは無料でできます。国土交通省の「建設業者・宅建業者等企業情報検索システム」で、会社名から建設業許可の有無、許可番号、業種、そして経営事項審査(経審)の結果を確認できます。

見るべきポイントは3つです。

  • 許可業種:塗装工事業・防水工事業・とび土工工事業など、今回の工事に必要な業種の許可があるか
  • 許可の更新履歴:5年ごとの更新が途切れていないか
  • 経審のY点(経営状況分析):自己資本比率や負債回転期間などが反映された指標

経審は公共工事を受注する会社が受ける審査ですので、民間専業の会社は受けていないこともあります。その場合は次の項目で補います。

4-3. 兆候③:下請への支払サイトを聞く

これは私が一番重視している質問です。管理組合やオーナーの立場から、「御社は下請さんに、何日サイトで支払っていますか」と聞いてみてください。

建設業法では、元請負人は下請代金を、注文者から出来高払や竣工払を受けた日から1か月以内のできる限り短い期間内に支払わなければならないと定められています(建設業法第24条の3)。また、下請代金の支払いは、原則として現金払いが望ましいとされ、手形期間についても短縮の方向で行政指導が進んでいます。

支払サイトが長い会社ほど、資金繰りが苦しいというのは、業界の中では常識に近い経験則です。逆に「うちは月末締め翌月末現金です」と即答できる会社は、少なくともその点では健全です。

4-4. 兆候④:主任技術者・監理技術者の専任配置を確認する

建設業法では、一定金額以上の工事について、監理技術者または主任技術者の専任配置が求められます。要は、その現場に張り付く技術者が名前入りで決まっているかということです。

「工事が始まったら決めます」「複数現場を掛け持ちします」という回答が返ってくる場合、その会社は技術者が足りていない可能性があります。技術者不足は、受注過多か、離職の進行か、どちらかのサインです。

契約前に、配置予定の技術者の氏名・資格・経験を書面で出してもらう。これだけで、かなりの会社がふるいにかかります。

4-5. 兆候⑤:金融機関・保険・保証で裏を取る

今回のニュースのオーナーが助かったのは、取引銀行からの情報でした。これは非常に示唆的です。

管理組合の場合、修繕積立金を預けている金融機関や、住宅金融支援機構の共用部分リフォーム融資を利用する場合の窓口が、間接的な情報源になり得ます。また、以下のような「第三者が関与する保証」の有無も判断材料になります。

  • 住宅瑕疵担保責任保険法人によるリフォーム瑕疵保険(工事会社が倒産しても保険法人に直接請求できる仕組みがあります)
  • 完成保証(元請が倒産した場合に、保証会社が代替履行や損害の補填を行う仕組み)

保険や保証に加入するには、保険法人・保証会社の審査を通る必要があります。つまり、これらに入れる会社は、第三者の与信審査を一度通過しているということです。これは非常に分かりやすいシグナルです。


5. 数字で押さえる、2026年の工事費の「地合い」

「今年は安く出せます」という営業トークを聞いたら、私は必ず根拠を尋ねます。なぜなら、2026年の建設コストは、構造的に下がりにくいからです。

5-1. 公共工事設計労務単価は14年連続で上昇

国土交通省が2026年2月に公表し、2026年3月から適用されている令和8年度の公共工事設計労務単価は、全国全職種平均で25,834円。前年度比4.5%の引き上げで、平成25年度から数えて14年連続の上昇、そして初めて25,000円を超えました(出典:一般財団法人 建設物価調査会)。

労務単価は公共工事の積算に使う数字ですが、職人の賃金相場を反映しているため、民間の改修工事の原価にも直結します。人件費が14年連続で上がっている市場で、「今年は安い」は成立しにくいというのが私の実感です。

5-2. 実態調査の中央値は「4年前の物価」である

先に挙げた国交省の実態調査(中央値110.2万円/戸など)は、2022年6月公表・直近3年間の事例集計です。単純に考えれば、そこから労務単価だけでも複数年分の上昇が乗っています。

したがって、私は次のように考えています。

  • 実態調査の中央値を上回る見積もり → 直ちに割高とは言えない(物価上昇分がある)
  • 実態調査の中央値を大きく下回る見積もり → 工法の違い(Aパターン)で説明がつかない限り、要確認

5-3. 修繕積立金ガイドラインとの突合

国土交通省の「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」は令和6年6月に改定され、専有面積あたりの積立金額の目安が示されています(出典:国土交通省(PDF))。

ここで大事なのは、「積立金が足りないから安い業者を選ぶ」という順番にしないことです。積立金が不足しているなら、まず検討すべきは工法の見直し、工事範囲の優先順位付け、時期の分割、そして融資の活用です。品質を下げる方向で辻褄を合わせると、次の周期でツケが回ってきます。

私はいつも理事長さまに、「削るなら仮設から」とお伝えしています。塗膜や防水層は建物を守る本体ですが、足場は工事のための手段です。手段のコストを先に見直す。これが順番だと考えています。


6. 発注方式のリスク:設計監理方式と責任施工方式

安い見積もりの話をするうえで、避けて通れないのが発注方式です。

6-1. 国土交通省も注意喚起している「不適切コンサル」問題

国土交通省は、設計コンサルタントを活用した大規模修繕工事について、コンサルタントと施工会社の癒着やバックマージンの懸念に関する注意喚起を行っています。2023年4月には、公益財団法人マンション管理センターおよび一般社団法人マンション管理業協会宛てに、大規模修繕工事の発注等の適正化に関する通知が出されています(出典:国土交通省(PDF))。

通知で強調されているのは、コンサルタントが利益相反を起こさない中立的な立場を保つことの重要性です。実際に、コンサルタントに依頼したはずの調査診断や設計を、施工会社の社員が行っていたという事例も紹介されています。

6-2. 2つの方式の比較

項目 設計監理方式 責任施工方式
設計・監理者 第三者コンサルタント 施工会社が一貫して担当
コスト コンサル費用が別途(総額の3〜6%程度が一般的) 別途費用は不要
比較のしやすさ 同一仕様で相見積もりが取りやすい 各社の提案内容が異なり比較しにくい
リスク コンサルと施工会社の癒着 施工会社によるチェック機能の弱さ
向くケース 大規模・複雑、組合に専門知識が乏しい 小〜中規模、信頼できる施工会社がある

どちらが優れているという話ではありません。それぞれのリスクが違うだけです。設計監理方式を選ぶなら、コンサルタントの独立性をどう担保するか。責任施工方式を選ぶなら、施工会社の技術力と誠実さをどう検証するか。論点はそこに絞られます。

6-3. 相見積もりの「同一条件」をどう作るか

比較できる見積もりを取るために、私が推奨している手順は次の通りです。

  1. 劣化診断を先に実施し、補修数量の根拠を作る
  2. 数量表(内訳明細のひな形)を作成し、全社に同じ様式で提出させる
  3. 材料の指定はグレードで行う(「シリコン系以上、期待耐用年数10年以上」など)
  4. 仮設計画は各社の提案に委ねる(ここで工法の差が出る)
  5. 保証条件を明記(年数・対象・保証主体)

4番目がポイントです。本工事は同一条件で揃え、仮設だけ各社の創意工夫に開く。こうすると、足場・ロープアクセス・ハイブリッドの差が金額に素直に出ます。


7. 【自社サービスのご案内】工法で正当にコストを下げるという選択肢

※このセクションは弊社サービスのご紹介を含みます。中立的な情報をお求めの場合は、前章までをご参照ください。

7-1. 3つの工法の比較

株式会社明誠では、通常足場工法・ロープアクセス工法(無足場工法)・ハイブリッド工法の3つから、建物特性に応じた提案を行っています。

工法 仮設コスト 工期 居住者への影響 向く建物
通常足場工法 大 長め 全面シート養生、防犯面の配慮が必要 中低層、複雑形状、全面的な打診・補修が必要な建物
ロープアクセス工法 小 短め 窓周りの一時的な作業のみ 高層、足場架設が困難な立地、部分補修中心
ハイブリッド工法 中 中 足場部位のみ限定的 大規模・複雑物件で総合コスト最適化が必要なケース

3つを持っているからこそ、「この建物なら足場を組んだほうが結果的に安い」という提案もできます。ロープアクセスありきではないことが、私たちの提案の前提です。

7-2. ロープアクセスは法令の枠組みが整備されている

「ロープで作業して大丈夫なのか」というご質問を、私は本当によく受けます。結論から申し上げると、ロープ高所作業は労働安全衛生規則で明確に規定された作業です。

労働安全衛生規則第36条第40号は、ロープ高所作業を「高さが2メートル以上の箇所であって作業床を設けることが困難なところにおいて、昇降器具を用いて、労働者が当該昇降器具により身体を保持しつつ行う作業(40度未満の斜面における作業を除く)」と定義し、特別教育の対象としています。あわせて、ライフライン(作業用ロープとは別の墜落防止用ロープ)の設置、作業計画の作成、要求性能墜落制止用器具の使用などが義務づけられています(出典:安全衛生情報センター/厚生労働省(PDF))。

この規定は2016年1月1日から施行されています。つまり、ロープアクセスは「規制の外側にある工法」ではなく、規制の中で運用されている工法です。工法の技術的な詳細はロープアクセスドットコムにまとめていますので、理事会での説明資料をお探しの方はご覧ください。

7-3. 日本初のフランチャイズ体制

明誠は、ロープアクセス工事として日本で初めてのフランチャイズ展開を行っています。塗装・防水・タイル・電気・看板といった各分野の専門会社が加盟しており、専門職が専門工事を担当する体制です。中間マージンの階層を減らせるため、品質を落とさずに価格を抑えられる構造になっています。

工法の詳細はロープアクセス工法のご紹介、大規模修繕全体の進め方は大規模修繕工事のご紹介にまとめています。過去の記事は本間社長ブログにも蓄積していますので、あわせてご覧いただければと思います。


8. 今日からできる5つのステップ

最後に、理事会やオーナーの方が明日から動ける形に落とし込みます。

  1. 総額 ÷ 戸数を計算する(1分で終わります)。国交省の実態調査の中央値と並べて、位置を把握する。
  2. 見積書の数量欄を確認する。「一式」が並んでいたら、数量入りの再提出を依頼する。
  3. 建設業許可を検索する。国土交通省の企業情報検索システムで、許可業種と更新履歴を確認する。
  4. 支払サイトと配置技術者を質問する。回答の速さと具体性が、そのまま会社の体力を映します。
  5. 保証の主体を確認する。施工店保証なのか、メーカー保証なのか、第三者保証(リフォーム瑕疵保険等)が付くのか。

このうち1〜2は、理事会の場でその場でできます。3〜5は、事務局や修繕委員の方が1日あれば揃えられます。

安い見積もりが悪いのではありません。安い理由を説明できない見積もりが危ないのです。 説明を求めて、納得できる答えが返ってくるなら、その安さは信じていい。答えが濁るなら、そこで立ち止まる。それだけの話だと私は思っています。


よくある質問(FAQ)

Q1. 相見積もりは何社取るのが適切ですか?

A. 3社前後が実務的です。多すぎると比較の手間が増え、各社の提案の質も下がりやすくなります。ただし、同一の数量表・同一の仕様条件を渡すことが前提です。条件が揃っていない5社より、条件が揃った3社のほうが判断できます。

Q2. 最安の会社が倒産寸前かどうか、素人でも調べられますか?

A. 完全な判定はできませんが、手がかりは取れます。国土交通省の建設業者等企業情報検索システムで許可と経営事項審査を確認し、支払サイトと配置技術者を質問し、リフォーム瑕疵保険や完成保証に加入できるかを尋ねる。この3点で、かなりの情報が集まります。詳しくは本文の「倒産リスクを見抜く5つの兆候」を参照ください。

Q3. 戸あたり単価の目安はいくらですか?

A. 国土交通省「令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査」では、1回目の中央値110.2万円/戸、2回目106.1万円/戸、3回目以降97.0万円/戸と報告されています(出典:国土交通省)。ただし2022年公表の調査であり、その後の労務単価上昇分は反映されていません。目安としてお使いください。

Q4. ロープアクセス工法にすれば、どんな建物でも安くなりますか?

A. いいえ。全面的な打診調査と広範囲の下地補修が必要な建物や、バルコニー内部の作業が多い建物では、足場を組んだほうが総額で有利になるケースがあります。低層でタイル面積が大きい建物なども、ロープアクセス単独では割高になり得ます。建物ごとの判断が必要です。

Q5. 積立金が不足していますが、工事の質を落とすしかないでしょうか?

A. 質を落とす前に検討できることがいくつかあります。仮設工法の見直し、工事範囲の優先順位付け(漏水リスクの高い部位を先行)、工期の分割、住宅金融支援機構の共用部分リフォーム融資などの活用です。優先順位の整理だけでも、選択肢が見えてくることがあります。


この記事のポイントまとめ

  • 最安と2番手の差が総額の20%以上なら、金額より先に理由を確認する
  • 国交省の実態調査では1回目の大規模修繕の戸あたり中央値は110.2万円
  • 令和8年度の公共工事設計労務単価は25,834円、14年連続の上昇
  • 安さの理由は「工法・仕様・数量・資金繰り」の4分類で切り分けられる
  • 支払サイトと配置技術者の質問だけで、会社の体力はかなり見える

執筆者:本間 幸紘(株式会社明誠 代表取締役)

専門領域:マンション大規模修繕/ロープアクセス工法/建物長寿命化計画

実務経験:建設・改修業界 20年以上

所属:一般社団法人 全国建設業支援協会(JCSA)

株式会社明誠について:東京都東大和市を拠点に、東京・関東一円でロープアクセス工法と従来足場工法の両方を提案できる改修会社。日本初のロープアクセス工事フランチャイズを展開しています。

最終更新:2026年8月27日

見積書の読み方だけでも、ご相談は無料でお受けしています。他社さまの見積書を並べて「この数字は何ですか」と聞いていただくだけで構いません。総会の前段階の整理だけでも、お力になれることがあります。お問合せフォームからお気軽にどうぞ。

※本記事の制度・単価情報は2026年8月27日時点のものです。制度や基準は変更される場合がありますので、最新の内容は各公式サイトでご確認ください。


出典・参考資料

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