マンション修繕費が1戸156万円で過去最高、13年比1.67倍|経済調査会「修繕費指数2026」で分かった“仮設費2.2倍”と、管理組合・オーナーが今できる備え【2026年10月】
この記事で分かること
「前回の大規模修繕から12年。同じような工事なのに、見積りが1.5倍を超えてきた」——。最近、理事長さまやオーナーさまから、こうしたご相談をいただくことが本当に増えました。
その実感を裏付ける数字が、9月末に公表されました。一般財団法人 経済調査会が公表した「マンション修繕費指数」2026年版によると、2013年を100とした指数は166.8ポイントで調査開始以来の最高値。1戸あたりの平均修繕費は156.0万円で、前年から3.6%増えました(出典:経済調査会「マンション修繕費指数」2026年版を公開、2026年9月29日)。
この記事では、次の問いにお答えします。マンションの大規模修繕費は、なぜここまで上がっているのか? その中で、管理組合や賃貸マンションのオーナーは、何を確認し、どう備えればよいのか?
結論を先に書きます。
- 大規模修繕費は2013年比で約1.67倍。ただし直近1年の伸びは3.6%で、急騰していた前回(2年で年平均7.7%)より上昇ペースは鈍化しています。
- 内訳で最も伸びが大きいのは足場などの「仮設」で、1戸あたり17.8万円(2013年)→38.7万円(2026年)と約2.2倍。工事費の約4分の1を占めます。
- 一方で「その他工事」の比率は14.0%→9.5%に低下。限られた積立金を主要工事に回し、ほかの工事を先送りする動きが数字に表れています。
- 備えの柱は、①指数と構成比率を使った見積りチェック、②長期修繕計画と修繕積立金の見直し、③仮設費を含めた工法の比較(足場・ロープアクセス・ハイブリッド)の3つです。
本記事の数値は、2026年10月14日時点で経済調査会・国土交通省が公表している資料に基づいています。最新の情報は各機関の公式サイトでご確認ください。
2026年10月14日 更新
ニュースの要点|修繕費指数は166.8、1戸あたり156.0万円
指数は過去最高、ただし伸びは鈍化
まず、経済調査会の発表を整理します。
| 項目 | 2025年調査 | 2026年調査 | 変化 |
|---|---|---|---|
| マンション修繕費指数(2013年=100) | 161.1 | 166.8 | +5.7ポイント |
| 1戸あたり平均修繕費総額 | 150.6万円 | 156.0万円 | +3.6% |
| 2013年との比較 | 約1.61倍 | 約1.67倍 | 過去最高を更新 |
出典:経済調査会「マンション修繕費指数」2026年版(2026年9月29日)、同2025年版(2025年9月4日)
「マンション修繕費指数」とは、民間のマンション大規模修繕工事費が、基準年の2013年からどれだけ変わったかを示す数字です。100なら2013年と同じ、166.8なら約1.67倍という意味になります。経済調査会は、建設資材の価格や工事費を調べている一般財団法人で、この指数は2025年9月から公開が始まりました。
注目したいのは、前回の2025年調査では、2023年からの2年間で年平均7.7%という急騰だったのに対し、今回は1年で3.6%増と、ペースが落ち着いてきたことです。
2013年からの推移
12年あまりの流れを並べると、次のようになります。
| 調査年 | 1戸あたり平均修繕費 | 指数 |
|---|---|---|
| 2013年 | 93.5万円 | 100.0 |
| 2014年 | 93.9万円 | 100.4 |
| 2019年 | 119.5万円 | 127.8 |
| 2021年 | 124.1万円 | 132.7 |
| 2023年 | 129.9万円 | 138.9 |
| 2025年 | 150.6万円 | 161.1 |
| 2026年 | 156.0万円 | 166.8 |
出典:経済調査会「マンション修繕費指数」2026年版。2015〜2018年はサンプル不足で調査未実施、2019〜2025年は隔年、2025年以降は毎年の調査です。
2013年から2023年までの10年間で約1.39倍。そこからわずか3年で1.67倍まで跳ね上がったことが分かります。私が現場で感じている「ここ数年の値上がりの速さ」と、ほぼ同じ感覚です。
なぜ上がっているのか
経済調査会は、上昇の背景として建設資材価格の高騰や、人手不足による人件費の上昇を挙げています(出典:同2025年版)。2026年版でも、資材価格の上昇・高止まりが続き、指数は上昇基調が続く可能性が高いとの見通しが示されています。
塗料やシーリング材、防水材などの石油系の材料、足場の鋼材、そして職人さんの手間賃。大規模修繕は、そのすべての値上がりを受ける工事です。
内訳を読む|いちばん伸びたのは「仮設(足場)」
工事別の構成比率
今回の発表で私がいちばん注目したのは、工事の内訳です。
| 工事区分 | 2013年(1戸あたり) | 2026年(1戸あたり) | 伸び | 2026年の構成比率 |
|---|---|---|---|---|
| 仮設 | 17.8万円 | 38.7万円 | 約2.17倍 | 24.8% |
| 躯体・外装 | 27.2万円 | 38.3万円 | 約1.41倍 | 24.6% |
| 防水 | 28.5万円 | 45.8万円 | 約1.61倍 | 29.4% |
| その他 | ― | ― | ― | 9.5% |
| 修繕費総額 | 93.5万円 | 156.0万円 | 約1.67倍 | 100% |
出典:経済調査会「マンション修繕費指数」2026年版をもとに筆者が伸び率を計算。諸経費率は2026年で11.8%です。
ここでいう「仮設」とは、工事のために一時的に設ける足場や養生シート、現場事務所などのことです。大規模修繕では、その大部分を外壁を囲う足場が占めます。
仮設費は12年あまりで約2.2倍。総額の伸び(約1.67倍)を大きく上回り、工事区分の中で最も伸びています。 構成比率も19.0%(2013年)から24.8%(2026年)に上がりました。いまや工事費のおよそ4分の1が「仮設」です。
防水は屋根防水の伸びが目立つ
防水工事も1戸あたり28.5万円→45.8万円と大きく伸びています。細かく見ると、屋根防水が9.9万円→18.2万円と、ほぼ倍増です。シーリング(外壁の目地を埋めるゴム状の材料)防水も7.1万円→10.5万円に上がっています。
「その他工事」が減っている意味
もう一つ見逃せないのが、「その他工事」の比率が前回の14.0%から9.5%へ下がったことです。経済調査会は、これを限られた修繕積立金を主要工事に優先配分し、その他工事の範囲や時期を調整して総額を抑えようとする動きの表れと推測しています。
その他工事には、たとえば外構(駐車場や植栽まわり)、手すりや設備まわりの改修などが入ります。予算が足りないときに、こうした工事を後回しにするのは、現場でもよく見る判断です。
ただ、私は先送りそのものより、「何を、いつまで先送りしたのか」が記録に残っていないことの方が怖いと考えています。次の長期修繕計画の見直しで、先送りした工事をどこに入れ直すのか。これを決めておかないと、数年後にまとめて大きな出費になります。
管理組合・オーナーが受ける影響
修繕積立金が足りなくなるリスク
国土交通省の令和3年度の調査では、大規模修繕工事の戸あたり工事金額は「100〜125万円/戸」の割合が最も高いという結果でした(出典:国土交通省 マンション大規模修繕工事に関する実態調査)。
もし長期修繕計画が、数年前の単価のまま作られていたら、どうなるでしょうか。今回の指数の平均値(156.0万円)と比べると、1戸あたり30万円以上の差が出ることもあり得ます。 60戸なら1,800万円を超える計算です。
もちろん、平均値はあくまで平均で、建物ごとに工事の中身は大きく違います。それでも「計画の単価が古い」こと自体が、積立金不足の大きな原因になり得ることは、覚えておいていただきたいと思います。
国のガイドラインは、積立金の引き上げ幅に目安を示している
国土交通省は、令和6年6月7日に「長期修繕計画作成ガイドライン・同コメント」と「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」を改定しました。そこでは、段階的に積立金を引き上げる「段階増額積立方式」の場合、初期額は均等に積み立てた場合の基準額の0.6倍以上、最終額は1.1倍以内とする考え方が示されています(出典:国土交通省 報道発表資料(令和6年6月7日))。
最初の積立額を低く抑えすぎると、後から大幅な値上げが必要になり、合意がとれずに積立金不足につながる——。国はそうした事態を防ぐために、この考え方を示しています。改定後のガイドラインは、国土交通省「マンション管理について」で公開されています。
賃貸オーナーは「利回り」に直結する
賃貸マンションやビルのオーナーさまの場合、修繕費の上昇はそのまま手取りの家賃収入(利回り)に響きます。分譲マンションのように積立金を集める仕組みがない分、ご自身で修繕の資金を準備する必要があります。
修繕を先送りすれば、外壁の劣化や雨漏りが進み、入居者の満足度や物件の評価にも影響します。「上がる前提」で修繕の資金計画を組み直すことが、資産価値を守る第一歩です。
今できる3つの備え
備え1:指数と構成比率で、見積りをチェックする
経済調査会は、構成比率を使った見積りのチェック方法も示しています(出典:同2025年版)。手順を、私なりに分かりやすく言い直すと次のとおりです。
- 「1戸あたり平均額 × 戸数」で、ざっくりとした工事費を出す(例:156.0万円 × 60戸 = 約9,360万円)
- 手元の見積りの総額と比べる
- 「その他工事」の比率の違いを調整して、もう一度比べる
- 仮設・躯体外装・防水の比率を比べ、差が大きい項目の中身を確かめる
たとえば、見積りの仮設費の比率が平均(24.8%)より大きく上回っていたら、「足場の範囲や期間はどうなっているか」「別の工法で減らせないか」と質問するきっかけになります。
ただし、経済調査会自身も、マンションごとに仕様や状態が違うため、金額の多寡だけで見積りの水準を判断するのは難しいと注意しています。平均との差は「悪い見積り」の証拠ではなく、「理由を聞くべき箇所」の目印として使ってください。
備え2:長期修繕計画と修繕積立金を見直す
2026年版の発表でも、積立金の水準や長期修繕計画の見直しを検討する動きが、管理組合の間で広がる可能性が指摘されています。
見直しのときに確認したいポイントを整理します。
| 確認すること | 見るポイント |
|---|---|
| 計画の単価 | いつの単価で作られているか。直近の資材・人件費の上昇が反映されているか |
| 計画期間 | 国のガイドラインでは、既存マンションも大規模修繕2回を含む30年以上が目安 |
| 積立方式 | 段階増額の場合、将来の引き上げ幅が大きすぎないか |
| 先送りした工事 | 「その他工事」で後回しにした項目が、計画に入れ直されているか |
| 工法の前提 | 足場を前提にした計画になっていないか。ほかの工法の可能性を検討したか |
最後の「工法の前提」は、意外と見落とされがちです。多くの長期修繕計画は、外壁の工事を全面足場で行う前提で費用が組まれています。
備え3:仮設費を含めて、工法を比べる
仮設費が工事費の約4分の1を占め、しかも最も速いペースで上がっている。この事実は、「足場をどう組むか」「そもそも足場が要るのか」を考えることが、工事費全体に効くということでもあります。
明誠では、大規模修繕工事のご紹介でご案内しているとおり、通常足場・ロープアクセス・ハイブリッドの3工法から、建物ごとに比べてご提案しています。
仮設費を抑える選択肢|足場・ロープアクセス・ハイブリッド
3つの工法の比較
| 工法 | 特徴 | 向いている建物・部位 |
|---|---|---|
| 通常足場工法 | 建物の外周に足場を組んで施工。作業量の多い面や大がかりな補修に強い | 中低層、形状が複雑な建物、下地補修が多い面 |
| ロープアクセス工法(無足場工法) | 屋上などからロープで外壁に降りて施工。足場の仮設費と工期を抑えやすい | 高層、足場を組みにくい立地、部分補修・調査 |
| ハイブリッド工法 | 部位ごとに足場とロープアクセスを使い分ける | 大規模・複雑な建物で、総額を最適化したい場合 |
ロープアクセス工法の安全について
ロープアクセス工法は、屋上などに設けた支点からロープを吊り下げ、作業員がそのロープを使って外壁の作業を行う工法です。
安全面について正確に書いておきます。作業員はメインロープとバックアップロープの2本に接続し、吊元(ロープを固定する支点)も2点以上確保して作業します。万一1本に問題が起きても、もう1本で体が保持される二重の安全確保が、国際的な産業ロープアクセスの基準に沿った業界標準です。技術的な基準や実例は、姉妹サイトのロープアクセスドットコムで詳しく解説しています。
明誠のロープアクセス工法の特徴は、明誠のロープアクセス工法の技術詳細でもご紹介しています。
費用の目安
明誠でよくご相談いただく工種の単価帯は、次のとおりです。建物の状態・規模・仕様で大きく変わるため、参考値としてご覧ください。
| 工種 | 単価の目安 |
|---|---|
| 外壁塗装 | 3,500〜4,500円/㎡ |
| 外壁打診調査 | 250〜500円/㎡ |
| 防水工事 | 5,000〜8,000円/㎡ |
※明誠の施工事例をもとにした目安で、2026年10月時点のものです。資材価格の変動により変わる場合があります。
足場の費用を抑えると、工事費全体の構成がどう変わるかは、大規模修繕の料金の考え方でも説明しています。
ロープアクセスが向かないケースもある
公平のために書いておくと、ロープアクセス工法はすべての建物に向くわけではありません。
- 下地補修やタイルの張り替えが大量にある面は、足場の方が効率的なことがある
- 屋上に吊元を確保できない建物では、そもそも採用が難しい
- 低層で足場が安く組める建物では、差が小さくなることもある
だからこそ私は、一つの工法を前提にせず、現地調査をしてから3つを比べることを大切にしています。
想定ケースで考える|関東・築24年・60戸のマンション
具体的なイメージを持っていただくために、首都圏(東京都多摩地域や神奈川県・埼玉県の郊外)によくある、築24年・60戸・10階建てのマンションを想定してみます。数字はすべて説明のための仮定です。
平均値で計算すると
今回の指数の平均値を、そのままこの建物に当てはめてみます。
- 工事費の概算:156.0万円 × 60戸 = 約9,360万円
- うち仮設(24.8%):約2,320万円
- うち防水(29.4%):約2,750万円
- うち躯体・外装(24.6%):約2,300万円
13年前(2013年)の1回目の大規模修繕が当時の平均(93.5万円/戸)並みだったとすると、当時は約5,610万円。同じような工事でも、約3,750万円の差が出る計算です。積立金の計画が前回の実績をもとにしていれば、不足が生じても不思議ではありません。
仮設費を見直すとどうなるか
この建物で、外壁の多くの面をロープアクセス工法で施工でき、足場は低層部や補修の多い面だけに絞れたとします(ハイブリッド工法)。仮に仮設費が半分程度に収まれば、1,100万円を超える差になります(ロープアクセス側の作業費の増減は考慮しない単純計算です)。
もう一度強調しますが、これはあくまで仮定の計算です。実際にどれだけ下がるかは、建物の高さ・形状・屋上の構造・劣化の状態で大きく変わります。ただ、仮設費の比率が高まっている今だからこそ、工法の比較で得られる差も大きくなりやすいことは、知っておいていただきたいと思います。
工期の短さも効いてくる
足場の費用は、組んでいる期間(工期)にも左右されます。工期が短くなれば、足場のレンタル期間や現場管理の費用も小さくなりやすく、居住者の方がベランダを使えない期間や、窓を開けにくい期間も短くなります。
賃貸物件なら、工事中の入居者募集への影響も小さくできます。費用と生活への影響の両方で、工期は大切な比較ポイントです。
管理組合と賃貸オーナー、それぞれの視点
分譲マンションの管理組合の方へ
修繕費の上昇局面では、積立金の値上げと、工事の中身・工法の見直しを、同じテーブルで話し合うことをおすすめします。「値上げしか道がない」と説明されるのと、「工法を比べた結果、ここまでは抑えられた。そのうえで不足分はこれだけ」と説明されるのとでは、総会での納得感がまったく違います。
管理組合さま向けの進め方は、管理組合向け大規模修繕のご案内でも紹介しています。
賃貸マンション・ビルのオーナーの方へ
オーナーさまは、判断が速いことが強みです。資材価格の上昇基調が続く見通しを踏まえると、劣化診断で必要な工事を早めに把握し、優先順位をつけて計画的に進めることが、結果として総額を抑えることにつながりやすいと考えます。
ビル・賃貸マンションのオーナーさま向けのご案内は、ビル・賃貸マンションオーナー様向けサービスをご覧ください。
関東エリアで相談先を探すときは
東京・神奈川・埼玉・千葉など関東の自治体では、マンションの管理や修繕に関する相談窓口、専門家の派遣制度を設けているところがあります。内容は自治体ごとに異なるため、お住まいの市区町村の公式サイトでご確認ください。
私が現場で見てきたこと
ここからは、少し私自身の話をさせてください。
私がこの仕事を始めたころ、足場は「あって当たり前」のものでした。見積りの1行目に仮設工事があり、誰もそこに疑問を持たない。けれど、20年近く現場に立ってきて、足場の費用が工事の中身に回せたはずのお金を食っている場面を何度も見てきました。
たとえば、外壁のひび割れ補修は一部の面に集中しているのに、見積りは全面足場が前提——というケースは珍しくありません。そうした建物で、補修の多い面だけ足場、残りはロープアクセスという組み方に変えると、浮いた費用で、先送りしかけていた鉄部塗装などを計画に戻せることがあります。私は理事長さまと図面を広げて、こうした組み立てを一緒に考える時間を大切にしています。
数字の上で仮設費が2倍を超えた今、こうした「組み方の工夫」の価値は、以前より大きくなっていると私は感じています。
株式会社明誠は、これまでに約6,000棟のマンション・ビル・ホテルの大規模修繕に携わってきました。日本初のロープアクセス工事フランチャイズ本部として、塗装・防水・タイル・電気・看板などの専門職の加盟企業と連携しています。実際の工事の様子は、明誠の施工事例でご覧いただけます。
同業の施工会社の方で、ロープアクセスの技術や安全基準、フランチャイズについて知りたい方には、ロープアクセスドットコム(無足場工法専門メディア)もおすすめです。
注意点|この記事の読み方について
- 「マンション修繕費指数」は、経済調査会が集めた民間のマンション大規模修繕工事費の平均的な動向を示すものです。個々の建物の適正な工事費を示すものではありません。
- 本文中の伸び率(約2.17倍など)は、経済調査会の公表値をもとに筆者が計算したものです。
- 想定ケースの金額はすべて説明のための仮定で、実際の工事費や削減額を約束するものではありません。
- 修繕積立金の見直しや総会での合意形成は、マンション管理士などの専門家にもご相談ください。
よくあるご質問
Q1. マンションの大規模修繕費は、どのくらい上がっていますか?
A. 経済調査会の「マンション修繕費指数」2026年版では、2013年を100として166.8となり、約1.67倍です。1戸あたりの平均修繕費は156.0万円で、前年比3.6%増でした(出典:経済調査会)。
Q2. 修繕費は、これからも上がり続けますか?
A. 経済調査会は、資材価格や工事費の上昇傾向が当面続くとみられ、指数も上昇基調が続く可能性が高いとしています。一方で、直近1年の伸びは前回より鈍化しています。将来の値動きを断定することはできないため、長期修繕計画は定期的に見直すことをおすすめします。
Q3. 工事費の中で、何がいちばん上がっていますか?
A. 2013年からの伸びで見ると、足場などの「仮設」が1戸あたり17.8万円から38.7万円へと約2.2倍で、最も大きく伸びています。構成比率も24.8%と、工事費のおよそ4分の1を占めています。
Q4. 見積りが高いかどうかは、どう判断すればよいですか?
A. 「1戸あたり平均額×戸数」で概算を出し、仮設・躯体外装・防水の構成比率を平均と比べる方法があります。差が大きい項目は、理由を施工会社に質問してみてください。ただし建物ごとに仕様が違うため、平均との差だけで良し悪しは判断できません。
Q5. 修繕積立金の値上げは避けられませんか?
A. 建物の状態や計画によりますが、工事の中身や工法を見直すことで、必要額を抑えられる場合があります。国土交通省のガイドラインでは、段階増額積立方式の初期額を基準額の0.6倍以上、最終額を1.1倍以内とする考え方が示されています(出典:国土交通省)。
Q6. ロープアクセス工法なら、どのマンションでも費用が下がりますか?
A. すべての建物で下がるわけではありません。高層の建物や足場を組みにくい立地では差が出やすい一方、補修量が多い面や吊元を確保できない建物では足場の方が向くこともあります。部位ごとに使い分けるハイブリッド工法も含めて比べるのがおすすめです。
Q7. 明誠に相談すると費用はかかりますか?
A. 建物の現地調査と概算のお見積りは無料で承っています。足場・ロープアクセス・ハイブリッドの3工法を比べたうえで、長期修繕計画の見直しの考え方も含めてご提案します。お問い合わせフォームからお気軽にご相談ください。
この記事のポイントまとめ
- マンション修繕費指数は2026年に166.8で過去最高、2013年比で約1.67倍
- 1戸あたり平均修繕費は156.0万円、前年比3.6%増で上昇ペースは鈍化
- 足場などの仮設費は2013年の約2.2倍で、工事費の約4分の1を占める
- 「その他工事」の比率は14.0%→9.5%に低下し、先送りの動きがうかがえる
- 見積りチェック、長期修繕計画の見直し、工法比較の3つで備える
出典・参考資料
- 一般財団法人 経済調査会「「マンション修繕費指数」2026年版を公開 調査開始以来の最高値を更新」(2026年9月29日)
- 一般財団法人 経済調査会「『マンション修繕費指数』を新たに公開しました」(2025年9月4日)
- 国土交通省「「長期修繕計画作成ガイドライン・同コメント」及び「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」の改定について」(令和6年6月7日)
- 国土交通省「住宅:マンション管理について」
- 国土交通省「マンション大規模修繕工事に関する実態調査」(令和3年度)
- Housing Tribune Online「マンション修繕費が過去最高 2013年比で1.67倍」(2026年9月30日)
▼ロープアクセス工法・無足場工法の詳細解説はこちら
ロープアクセスドットコム|無足場工法専門メディア
修繕費が上がっている今、私がいちばんお伝えしたいのは「慌てて値上げだけを決めないでください」ということです。工事の中身と工法を比べてから、必要な積立額を考える。その順番を守るだけで、総会での議論はずっと前向きになります。現地調査と概算のお見積りは無料で承っていますので、お問い合わせフォームから、ご相談だけでもお気軽にどうぞ。次回も、現場で本当に使える話だけをお届けします。
この記事の執筆者
本間 幸紘(ほんま ゆきひろ)
株式会社明誠 代表取締役/東京都東大和市
マンション・ビル・ホテルの大規模修繕20年以上の実務経験。3工法(通常足場/ロープアクセス/ハイブリッド)から建物特性に応じて最適提案。日本初のロープアクセス工事フランチャイズ本部を運営。JCSA(一般社団法人 全国建設業支援協会)代表理事。
最終更新:2026年10月14日
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ロープアクセス工法の詳細や実例については、姉妹サイト「ロープアクセスドットコム」の以下の記事もぜひご覧ください。
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『大規模修繕工事 職人だから言える本当の話 —— 見積書では見えない業界の裏側と、修繕積立金を守る発注術』(Kindle版)を出版しています。20年以上の現場経験から、管理組合・オーナーが修繕積立金を守るための発注術と、業界の内幕を書き下ろしました。
大規模修繕の施工会社が倒産したら?|建設業の倒産・廃業が上半期5,937件で過去最多、管理組合・オーナーが契約前に確認したい7つの備え【2026年10月】
この記事で分かること
「契約した工事会社が、着工して2か月で連絡が取れなくなった」——。業界に長くいると、こうした話を耳にすることがあります。足場は組まれたまま、外壁は洗浄しただけ、職人さんも来なくなる。そうなったとき、発注者が一番困るのは「すでに払ったお金がどうなるのか分からない」ことです。
いま、この話は決して他人事ではありません。帝国データバンクの集計では、2026年上半期(1〜6月)に建設業の倒産と休廃業・解散を合わせた「撤退」は5,937件となり、上半期としてはリーマン・ショック直後の2009年(5,811件)を上回って過去最多になりました(出典:帝国データバンク「建設業」の倒産・休廃業解散動向(2026年上半期))。
この記事では、次の問いにお答えします。マンションやビルの大規模修繕工事の途中で施工会社が倒産したら、何が起きるのか? 管理組合や賃貸オーナーは、契約前に何を確認しておけば被害を小さくできるのか?
結論を先に書きます。
- 建設業の倒産・廃業は増えていますが、月によって増減があり、すべての会社が危ないわけではありません。 東京商工リサーチの集計では、2026年9月の建設業の倒産は132件で、前年同月から27.4%減っています。
- 発注者がいちばん損をしやすいのは、工事の進み具合より多くのお金を先に払っている状態で倒産が起きたときです。
- 被害を小さくする鍵は、①支払条件を出来高(工事の進み具合)に合わせる、②大規模修繕工事瑕疵保険の登録業者かを確認する、③会社の許可・決算・下請体制を見るの3点です。
- 工法の選び方も、「工事が止まったときの影響の大きさ」を左右します。足場を使う工事と、ロープアクセス工法・ハイブリッド工法では、止まったときに残るもの、前払いの規模が変わります。
なお、本記事の統計は、2026年10月13日時点で帝国データバンク・東京商工リサーチ・国土交通省が公表している資料に基づいています。最新の数値は各機関の公式サイトでご確認ください。
2026年10月13日 更新
ニュースの要点|建設業の「撤退」は上半期で過去最多
倒産1,043件、休廃業・解散4,894件
まず、数字を整理します。
| 項目 | 2026年上半期(1〜6月) | 前年同期比 |
|---|---|---|
| 建設業の倒産(負債1,000万円以上・法的整理) | 1,043件 | 57件・5.8%増 |
| 建設業の休廃業・解散 | 4,894件 | 1,064件・27.8%増 |
| 合計(撤退) | 5,937件 | 上半期として過去最多 |
出典:帝国データバンク「建設業」の倒産・休廃業解散動向(2026年上半期)、2026年7月14日発表
ここで注目していただきたいのは、倒産よりも休廃業・解散の増え方が大きいことです。休廃業・解散とは、裁判所の手続きを取らずに事業をやめることを指します。借金を抱えて行き詰まる「倒産」とは違い、余力のあるうちに自主的に店を閉じるケースも含まれます。
大規模修繕に関わる職種で増えている
同じ発表では、前年同期から増加率が大きかった業態として、左官工事(104件・67.7%増)、金属製屋根工事(50件・66.7%増)、タイル工事(45件・60.7%増)が挙げられています。
左官やタイルはマンションの大規模修繕で欠かせない専門工事で、屋根工事も建物によっては関わります。元請の施工会社が健全でも、その下で実際に手を動かす専門工事会社が途中で抜けると、工程が止まることがあります。私が「元請だけでなく、下請の体制も聞いてください」と申し上げるのは、このためです。
物価高と人手不足が背景に
帝国データバンクの別の集計では、仕入れ価格の上昇を価格に転嫁できずに倒産する「物価高倒産」は2026年上半期に556件で、半期として過去最多でした。そのうち建設業は151件で、業種別で最も多くなっています(出典:帝国データバンク「物価高倒産」の動向(2026年上半期))。
建設業の151件のうち、鋼材・木材・コンクリートなど資材費の高騰による倒産が65件で、約4割を占めたとされています。資材の値上がりに加え、職人不足による外注費や人件費の上昇も重なっています。
直近の月次はどうか
月ごとの動きも見ておきます。
| 集計 | 全体の倒産件数 | 建設業 |
|---|---|---|
| 帝国データバンク 2026年9月 | 800件(前年同月比12.0%減) | 145件(同18.5%減) |
| 東京商工リサーチ 2026年9月 | 831件(同4.8%減) | 132件(同27.4%減、今年最少) |
出典:帝国データバンク 倒産集計 2026年9月報、東京商工リサーチ 2026年9月の全国企業倒産831件
※両社は調査方法・集計基準が異なるため、数字を単純に比べることはできません。
9月は帝国データバンク・東京商工リサーチの両集計とも、建設業の倒産が前年同月を下回りました。つまり、「建設会社がバタバタ倒れている」と一括りにするのは正確ではありません。 一方で、東京商工リサーチは、日本銀行が9月に政策金利を1.25%程度へ引き上げたことに触れ、コスト高に加えて金利上昇の影響がじわりと広がる可能性を指摘しています。
私の見立ても同じです。数字の上下に一喜一憂するより、「どの会社に頼んでも、万一に備えた契約にしておく」ことが、管理組合とオーナーにとって一番現実的な守り方だと考えています。
工事中に施工会社が倒産すると、何が起きるのか
よくある流れ
大規模修繕の途中で元請の施工会社が倒産した場合、一般的には次のようなことが起こり得ます。個別の事情で大きく異なりますので、あくまで一例としてお読みください。
- 工事が止まる。 職人さんや下請会社への支払いが滞り、現場に人が来なくなります。
- 前払金が戻らない可能性がある。 工事の進み具合より多く払っていた分は、倒産手続きの中で「債権」として扱われ、全額は戻らないことが多いです。
- 仮設足場の扱いが問題になる。 足場は仮設会社からのレンタルであることが多く、レンタル料が払われていないと、撤去や残置をめぐって調整が必要になります。
- 引き継ぐ会社を探し直す。 途中まで進んだ工事を引き継ぐには、現状の調査と見積りのやり直しが必要です。施工範囲の切り分けが難しく、割高になりやすい傾向があります。
- 保証が受けられなくなる。 施工会社が発行する工事保証は、会社がなくなると原則として履行されません。
一番つらいのは「時間」
こうした事態で発注者にとって一番つらいのは、お金よりも「いつ終わるのか分からない」状態が続くことだと、私は考えています。
足場とメッシュシートに覆われたまま、窓も開けにくく、洗濯物も外に干せない。居住者の方からの問い合わせは、すべて理事会に集まります。工事を引き継ぐ会社が決まるまでに数か月かかることも珍しくありません。賃貸マンションやテナントビルであれば、その間の入居募集や賃料交渉にも影響します。
だからこそ、倒産が起きた後にどう動くかより、起きる前に「被害の上限」を決めておくことが大切なのです。
契約前に確認したい7つの備え
ここからが本題です。管理組合・オーナーが施工会社と契約する前に確認しておきたいことを、7つにまとめます。
備え1:支払条件は「出来高」に合わせる
大規模修繕の支払いは、「契約時」「中間」「完成時」の3回程度に分けるのが一般的です。たとえば契約時30%・中間30%・完成時40%のような形です。
ここで大切なのは、それぞれの支払いが、実際の工事の進み具合を超えないようにすることです。
- 契約時の支払いが大きすぎないか(材料の確保や足場の仮設に必要な範囲か)
- 中間金は「○月○日」ではなく「○○工事の完了確認後」など、工事の進み具合に結びつけているか
- 支払いの前に、設計監理者や理事会が現場を確認する手順があるか
工事の進み具合に合わせて支払う考え方を、業界では「出来高払い」と呼びます。前払いの額が小さいほど、万一のときに戻らないお金も小さくなります。
備え2:「大規模修繕工事瑕疵保険」に入れる業者かを確かめる
国土交通省のサイトでは、共同住宅の大規模修繕工事を対象にした「大規模修繕工事瑕疵保険」が紹介されています(出典:国土交通省 住まいの安心総合支援サイト「大規模修繕工事瑕疵保険」)。
瑕疵(かし)とは、工事の不具合・欠陥のことです。この保険の主な内容は次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 支払いの対象 | 修補費用、調査費用、仮住居・転居費用など |
| 保険期間 | 1〜10年(対象部分などによって異なる) |
| 保険金額 | 1,000万円〜5億円(請負金額などによって異なる) |
| 免責金額 | 10万円 |
| 填補率 | 事業者へは80%、発注者(管理組合など)へは100%(事業者倒産等時) |
特に重要なのは最後の行です。施工会社が倒産などで不具合の補修をしない場合、発注者である管理組合などが保険法人に直接請求できる仕組みになっています(詳しい条件は保険法人・商品ごとに異なります)。
ただし、注意点が2つあります。
- この保険は、保険法人にあらかじめ登録した事業者でなければ利用できません。 見積りの段階で「登録していますか」「この工事で加入しますか」と聞いておくことをおすすめします。
- 保険がカバーするのは工事完了後に見つかった不具合です。工事の途中で倒産したときの前払金や、工事の中断そのものを補償するものではありません。 だからこそ、備え1の支払条件とセットで考える必要があります。
備え3:建設業許可と経営の状態を見る
建設業の許可は、国土交通省の「建設業者・宅建業者等企業情報検索システム」で、許可番号・許可業種・有効期限などを確認できます。
あわせて、次の点も聞いてみてください。
- 直近2〜3期の決算書(売上・利益・自己資本の推移)
- 同規模のマンション・ビルの施工実績と、その発注者
- 経営事項審査(公共工事を受ける会社が受ける審査)の結果があれば、その内容
決算書を見せてもらうのは失礼ではないか、と遠慮される理事長さまもいらっしゃいます。私の経験上、誠実な会社ほど、こうした質問にはきちんと答えてくれます。逆に、説明をはぐらかす会社には、慎重になった方がよいでしょう。
備え4:下請・専門工事会社の体制を聞く
先ほどの統計のとおり、左官・タイルなどの専門工事会社の倒産・廃業も増えています。元請の会社に、次のことを聞いてみてください。
- 主要な工種(塗装・防水・シーリング・タイル補修など)を、自社施工か外注か
- 外注の場合、何社くらいと継続的に取引しているか
- ある会社が抜けたとき、代わりの職人を手配できるか
1つの工種を1社だけに頼っている体制だと、その会社が抜けたときに工程が止まりやすくなります。
備え5:契約書に「もしも」の条項を入れる
工事請負契約書には、国土交通省に置かれた中央建設業審議会が作成・勧告している「民間建設工事標準請負契約約款」や、これに沿った約款を使うのが基本です。そのうえで、次のような点を確認しておくと安心です。
- 施工会社が工事を続けられなくなったときの、発注者からの契約解除の条件
- 解除した場合の、出来高(できあがった部分)の確認方法と精算方法
- 工事の遅れに対する取り決め(遅延損害金など)
- 仮設足場や資材の所有者と、中断時の扱い
契約書の具体的な文言については、マンション管理士や弁護士などの専門家にご相談ください。私は施工会社の立場ですので、法律の判断ではなく、現場で困りやすい点をお伝えしています。
備え6:工期を短く、段階を区切る
前払いの額や、工事が止まったときの影響は、工期が長いほど大きくなる傾向があります。工程を「外壁」「防水」「鉄部」などの段階に区切り、段階ごとに検査と支払いを行うと、どこまで終わっているかが分かりやすくなります。
備え7:困ったときの相談先を知っておく
工事の発注や契約で不安を感じたときは、公的な相談窓口を使えます。国土交通省は2026年9月28日、関東地方の大規模修繕工事をめぐる独占禁止法違反事案(公正取引委員会の排除措置命令)を受けて、管理組合向けに発注等の相談窓口を周知しました。その一つである公益財団法人住宅リフォーム・紛争処理支援センターの「住まいるダイヤル」(電話03-3556-5147、平日10時〜17時・祝日と年末年始を除く)では、マンション管理士や建築士などによるアドバイスを受けられます(出典:国土交通省 報道発表「マンション大規模修繕工事の発注等に関する相談窓口の周知等について」)。
受付時間などは変わることがあるため、ご利用前に公式サイトでご確認ください。
工法の選び方で「止まったときの影響」が変わる
足場を使う工事は、仮設の比重が大きい
国土交通省の調査では、1回目の大規模修繕工事の戸あたり工事金額は「100〜125万円/戸」の割合が最も高いという結果が出ています(出典:国土交通省 マンション大規模修繕工事に関する実態調査)。この調査は令和3年度のもので、現在は資材費・人件費の上昇が続いている点にご注意ください。
足場を使う工事では、工事費のうち仮設足場の費用が大きな割合を占めます。そして足場は、工事の最初に組み、最後に解体するものです。
つまり、着工直後に仮設費が発生し、その分の支払いも前の段階に寄りやすくなります。工事が途中で止まれば、足場は建物を覆ったまま残ることがあります。
ロープアクセス工法・ハイブリッド工法という選択肢
ロープアクセス工法は、屋上などから吊るしたロープを使って外壁の作業を行う、足場を組まない工法です。安全面について誤解のないように書いておくと、作業員はメインロープとバックアップロープの2本に接続し、吊元(ロープを固定する支点)も2点以上確保して作業します。国際的な産業ロープアクセスの基準に沿った二重の安全確保が、業界の標準です。技術的な基準や事例は、姉妹サイトのロープアクセスドットコムで詳しく解説しています。
倒産リスクという視点で見ると、ロープアクセス工法には次のような特徴があります。
- 仮設足場の費用が大きく減るため、着工時にまとまったお金を払う必要が小さくなりやすい
- 工期が短くなりやすいため、工事期間中に起こるリスクにさらされる時間も短い
- 万一工事が止まっても、建物全体を覆う足場が長期間残るといった事態は起きにくい
一方で、すべての建物・工種に向いているわけではありません。下層階の大がかりな補修や、作業量の多い面では、足場の方が効率的なこともあります。そこで、部位ごとに足場とロープアクセスを使い分けるのがハイブリッド工法です。
明誠では、大規模修繕工事のご紹介でご案内しているとおり、通常足場・ロープアクセス・ハイブリッドの3工法から、建物ごとに比べてご提案しています。ロープアクセス工法の技術的な特徴は、明誠のロープアクセス工法の技術詳細をご覧ください。
費用の目安
工事費の目安として、明誠でよくご相談いただく工種の単価帯を示します。建物の状態・規模・仕様で大きく変わりますので、参考値としてご覧ください。
| 工種 | 単価の目安 |
|---|---|
| 外壁塗装 | 3,500〜4,500円/㎡ |
| 外壁打診調査 | 250〜500円/㎡ |
| 防水工事 | 5,000〜8,000円/㎡ |
※明誠の施工事例をもとにした目安で、2026年10月時点のものです。資材価格の変動により変わる場合があります。
足場費用を抑えられる工法を選ぶと、コストを抑えた修繕のご提案でご紹介しているように、工事費全体の構成が変わります。見積りを比べるときは、総額だけでなく「仮設費がいくらで、いつ払うのか」にも目を向けてみてください。
想定ケースで考える|築25年・60戸のマンション
具体的なイメージを持っていただくために、東京都多摩地域にある築25年・60戸のマンションを想定して考えてみます。数字はあくまで説明のための仮定です。
想定する状況
- 工事総額:約7,800万円(戸あたり約130万円)
- 工期:足場を使う場合で約5か月
- 支払条件案A:契約時40%・中間30%・完成時30%
- 支払条件案B:契約時20%・足場完了後10%・外壁完了後30%・防水完了後20%・完成時20%
着工2か月後に施工会社が倒産したら
着工2か月の時点で、足場の仮設と外壁洗浄・下地補修の一部まで進んでいたとします。出来高は、仮に全体の25%程度とします。
- 案Aの場合、契約時の40%(約3,120万円)を払っているため、出来高との差は約15%分(約1,170万円)になります。
- 案Bの場合、契約時20%と足場完了後10%の計30%(約2,340万円)を払っている計算で、差は約5%分(約390万円)にとどまります。
もちろん、実際には倒産手続きの中で一部が戻る可能性もありますし、逆に引き継ぎの費用がかかることもあります。ただ、支払条件を工程に結びつけておくだけで、「戻らないかもしれないお金」の上限がこれだけ変わることは、知っておいていただきたいと思います。
工法を変えるとどうなるか
この建物の外壁の多くをロープアクセス工法で施工できる場合、仮設足場の費用が減り、工期も短くなる可能性があります。着工時に大きな仮設費を払う必要がなくなれば、契約時の支払いもさらに小さくできます。
ただし、ロープアクセスが向くかどうかは、建物の高さ・形状・屋上の構造(吊元を取れるか)・劣化の状態で決まります。現地調査をしたうえで、足場・ロープアクセス・ハイブリッドを比べることをおすすめします。
管理組合と賃貸オーナー、それぞれの視点
分譲マンションの管理組合の方へ
管理組合の場合、施工会社の選定や契約条件は、理事会・修繕委員会・総会で決めていきます。支払条件や保険の加入は、見積りを依頼する段階で条件として示しておくと、各社の見積りを同じ土俵で比べやすくなります。
発注の進め方については、管理組合向け大規模修繕のご案内でも紹介しています。
賃貸マンション・ビルのオーナーの方へ
オーナーさまの場合、発注から契約まで、ご自身でスピーディーに決められるのが強みです。一方で、相見積りを省いたり、知り合いの会社に任せきりにしたりして、契約条件の確認が甘くなるケースも見かけます。
賃貸物件では、工事が長引くと空室の募集や入居者対応にも響きます。 工期の短さと、支払条件の安全性を、同じくらい重視していただきたいと思います。ビルオーナーさま向けのご案内は、ビル・賃貸マンションオーナー様向けサービスをご覧ください。
関東の発注者が使える情報源
東京・神奈川・埼玉・千葉など関東で大規模修繕を検討されている方は、国土交通省の相談窓口に加え、お住まいの自治体のマンション相談窓口も活用できます。自治体によって支援の内容が違いますので、各市区町村の公式サイトでご確認ください。
私が施工会社として心がけていること
ここまで、発注者の方を守るための話をしてきました。最後に、施工会社の側として私が心がけていることも、正直に書いておきます。
私たち施工会社にとっても、物価高と職人不足は他人事ではありません。資材の値上がりを見積りに反映できず、無理な金額で受注してしまうと、工事の途中で資金繰りが苦しくなります。無理な安値受注は、結果として発注者さまに一番迷惑をかける——これは、私が若いころに先輩から言われ、今も肝に銘じていることです。
株式会社明誠は、これまでに約6,000棟のマンション・ビル・ホテルの大規模修繕に携わってきました。日本初のロープアクセス工事フランチャイズ本部として、塗装・防水・タイル・電気・看板などの専門職の加盟企業と連携しています。一つの工種を一社に頼りきらない体制をつくることも、工事を止めないための備えのひとつだと考えています。実際の現場の様子は、明誠の施工事例でご覧いただけます。
同業の施工会社の方で、ロープアクセス技術者の育成や安全基準について知りたい方には、ロープアクセスドットコム(無足場工法専門メディア)もおすすめです。
注意点|この記事の読み方について
- 本記事の統計は、帝国データバンク・東京商工リサーチが公表した集計です。両社は調査方法や集計の基準が異なります。
- 倒産時の前払金や契約の扱いは、契約書の内容や倒産手続きの種類によって大きく変わります。具体的な判断は、弁護士・マンション管理士などの専門家にご相談ください。
- 大規模修繕工事瑕疵保険の補償内容・条件は、保険法人や商品によって異なります。加入前に約款をご確認ください。
- 想定ケースの金額は説明のための仮定であり、実際の工事費を示すものではありません。
よくあるご質問
Q1. 建設業の倒産は本当に増えているのですか?
A. 帝国データバンクの集計では、2026年上半期の建設業の倒産は1,043件で、前年同期から5.8%増えました。休廃業・解散を合わせた「撤退」は5,937件で、上半期として過去最多です。ただし、東京商工リサーチの2026年9月の集計では建設業の倒産は前年同月から27.4%減っており、月によって増減があります。
Q2. 工事の途中で施工会社が倒産したら、払ったお金は戻りますか?
A. 工事の進み具合を超えて払った分は、倒産手続きの中で債権として扱われ、全額は戻らないことが多いです。戻る割合は、手続きの種類や会社の資産状況によって異なります。契約前に、支払いを工事の進み具合に合わせておくことが大切です。
Q3. 大規模修繕工事瑕疵保険は、工事中の倒産も補償しますか?
A. 国土交通省の資料では、この保険は工事後に見つかった不具合の修補費用などが対象です。施工会社が倒産した場合は、発注者が保険法人に直接請求でき、填補率は100%とされています。ただし、工事の途中で倒産した場合の前払金や工事の中断は、原則として対象外です。詳しくは各保険法人の約款をご確認ください。
Q4. 施工会社の経営状態は、どうやって確認すればよいですか?
A. 建設業許可は国土交通省の企業情報検索システムで確認できます。あわせて、直近の決算書、同規模の施工実績、主要工種を外注しているかどうかを、見積りの段階で質問するのがおすすめです。
Q5. 大規模修繕の費用は、戸あたりどのくらいですか?
A. 国土交通省の令和3年度の実態調査では、1回目の大規模修繕で「100〜125万円/戸」の割合が最も高くなっています。現在は資材費・人件費が上がっているため、最新の見積りで確認してください。明誠の工種別の目安は、外壁塗装3,500〜4,500円/㎡、防水工事5,000〜8,000円/㎡です。
Q6. ロープアクセス工法なら、倒産リスクはなくなりますか?
A. なくなるわけではありません。ただ、足場の仮設費が小さくなり、工期も短くなりやすいため、前払いの額や工事が止まったときの影響を小さくしやすい特徴があります。建物によっては足場やハイブリッド工法の方が向く場合もあります。
Q7. 明誠に相談すると費用はかかりますか?
A. 建物の現地調査と概算のお見積りは無料で承っています。足場・ロープアクセス・ハイブリッドの3工法を比べたうえで、支払条件や工程の組み方も含めてご提案します。お問い合わせフォームからお気軽にご相談ください。
この記事のポイントまとめ
- 2026年上半期、建設業の倒産・休廃業・解散は5,937件で、上半期として過去最多
- 左官・タイルなど、大規模修繕に関わる専門工事の撤退も増えている
- 一方で月ごとの増減はあり、9月の建設業倒産は前年同月比27.4%減
- 発注者の備えは「出来高に合わせた支払い」「瑕疵保険の登録確認」「許可・決算・下請体制の確認」
- 工法によって、前払いの規模や工事が止まったときの影響が変わる
出典・参考資料
- 帝国データバンク「建設業の倒産・廃業、前年比3割増「リーマン超え」で過去最多(「建設業」の倒産・休廃業解散動向 2026年上半期)」(2026年7月14日)
- 帝国データバンク「「物価高倒産」の動向(2026年上半期)」(2026年7月7日)
- 帝国データバンク「倒産集計 2026年9月報」(2026年10月8日)
- 東京商工リサーチ「2026年9月の全国企業倒産831件」(2026年10月8日)
- 国土交通省「大規模修繕工事瑕疵保険(住まいの安心総合支援サイト)」
- 国土交通省「マンション大規模修繕工事の発注等に関する相談窓口の周知等について」(2026年9月28日)
- 国土交通省「マンション大規模修繕工事に関する実態調査」
- 国土交通省「建設業者・宅建業者等企業情報検索システム」
▼ロープアクセス工法・無足場工法の詳細解説はこちら
ロープアクセスドットコム|無足場工法専門メディア
工事は、始めることより、最後まできちんと終えることの方がずっと難しいものです。だからこそ私は、契約の前に「もしも」の話を発注者さまと一緒にしておくことを大切にしています。現地調査と概算のお見積りは無料で承っていますので、お問い合わせフォームから、ご相談だけでもお気軽にどうぞ。次回も、現場で本当に使える話だけをお届けします。
この記事の執筆者
本間 幸紘(ほんま ゆきひろ)
株式会社明誠 代表取締役/東京都東大和市
マンション・ビル・ホテルの大規模修繕20年以上の実務経験。3工法(通常足場/ロープアクセス/ハイブリッド)から建物特性に応じて最適提案。日本初のロープアクセス工事フランチャイズ本部を運営。JCSA(一般社団法人 全国建設業支援協会)代表理事。
最終更新:2026年10月13日
関連記事(姉妹サイト)
ロープアクセス工法の詳細や実例については、姉妹サイト「ロープアクセスドットコム」の以下の記事もぜひご覧ください。
本間社長の著書のご案内
『大規模修繕工事 職人だから言える本当の話 —— 見積書では見えない業界の裏側と、修繕積立金を守る発注術』(Kindle版)を出版しています。20年以上の現場経験から、管理組合・オーナーが修繕積立金を守るための発注術と、業界の内幕を書き下ろしました。
大規模修繕の契約に入れたい「談合違約金特約条項」|国交省が9月28日に周知、相談窓口2か所と発注前に確認したい6点【2026年10月】
この記事で分かること
「談合があったら違約金を払う、という約束を、契約書に書いておけるのですか?」——2026年9月28日以降、理事長さまや修繕委員会の方から、こうしたご質問をいただくようになりました。
この日、公正取引委員会が関東のマンション大規模修繕工事をめぐる独占禁止法違反事案で排除措置命令などを出し、同じ日に国土交通省が、管理組合向けに大規模修繕工事の発注に関する相談窓口と発注時の留意点を関係団体に周知しました。留意点の中には、談合があった場合に受注者が違約金を支払う義務を、請負契約の中であらかじめ定めておく「違約金特約条項」の考え方も含まれています。
この記事では、次の問いにお答えします。管理組合は、大規模修繕の契約と発注の進め方を、今回の国交省の周知を受けてどう見直せばよいのか? 相談窓口は誰が、どう使えばよいのか?
結論を先に書きます。
- 国交省の周知文書には、相談窓口が2か所(住まいるダイヤル/マンション管理センター)、そして談合の防止策として「違約金特約条項」を請負契約に入れる考え方が示されています。 違約金の割合は例文では空欄で、管理組合が自分たちで決める形です。
- 特約は「入れれば安心」という魔法の条項ではありません。 国交省自身が、訴訟リスクや不払いリスクがあるため、弁護士など専門家に相談して個別に対応することを勧めています。
- 契約書の一文よりも前に、「設計コンサルタントの中立性」と「選定の手続き」を確認することが大切です。 周知文書もここを重視しています。
- 見積りが届く前に、窓口へ相談できます。 見積書の費用については、住まいるダイヤルに無料の「見積チェックサービス」があると案内されています。
なお、この記事は特定の会社や特定のマンションについて、違法性や損害の有無を断定するものではありません。制度や窓口の受付時間は変更されることがありますので、最新の情報は各公式サイトでご確認ください。
2026年10月12日 更新
1. ニュースの要点:公取委の命令と、国交省の「相談窓口の周知」
1-1. 2026年9月28日に何があったか
まず、2つの発表を整理します。
| 項目 | 内容 | 出典 |
|---|---|---|
| 公正取引委員会の発表日 | 令和8年(2026年)9月28日 | 公正取引委員会 報道発表資料 |
| 対象 | 関東地区のマンション大規模修繕工事を巡る2件の事案(管理組合が設計コンサルタントに業務を委託し、工事を発注する方式) | 同上 |
| 適用条文 | 独占禁止法第3条(不当な取引制限の禁止) | 同上 |
| 命令の種類 | 排除措置命令および課徴金納付命令 | 同上 |
| 課徴金の納付期限 | 令和9年(2027年)4月30日 | 同上 |
| 国交省の周知文書 | 「マンション大規模修繕工事の発注等の相談窓口の周知等について」(令和8年9月28日付、国住参マ第168号・国不建第83号) | 国土交通省 |
| 周知先 | マンション管理センター、マンション管理業協会、日本マンション管理士会連合会、全国マンション管理組合連合会 | 国土交通省 |
(出典:公正取引委員会 報道発表資料(2026年9月28日)、国土交通省 周知文書(PDF))
公取委の発表によると、2件の事案では、設計コンサルタント(リノシスコーポレーション、翔設計)が管理組合から設計・調査などの業務を受託し、施工業者らが物件ごとに受注予定者を決めていたと認定されています。受注予定者以外の業者は、受注予定者が落札できるよう協力し、見積価格を事前に決めたり、見積りを提出しなかったりしたとされています。また、設計コンサルタントが設計予算などの情報を受注予定者に提供したり、受注予定者の意向を踏まえて業務を行ったりしたと認定されています。
課徴金の総額などの数字は、報道では「37社で計16億3,788万円」と伝えられています(出典:データマックス)。ただし、正確な金額や対象事業者の内訳は、公取委の別表で確認する必要があります。本記事では、公表資料で確認できた範囲を中心に書いています。
1-2. 同じ日に国交省が管理組合向けに示したこと
国土交通省は、公取委の命令を受けて、管理組合と区分所有者に向けた周知を行いました。私が大切だと感じたのは、「事件があった」という報告で終わらず、管理組合が次の発注で使える具体的な道具が並べられている点です。
| 国交省の周知文書にある項目 | 内容の要点 |
|---|---|
| 相談窓口 | 住まいるダイヤル(住宅リフォーム・紛争処理支援センター)/マンション管理センター |
| 専門家の活用 | マンション管理士・建築士などの協力を得ることが有効。自治体の専門家派遣制度の確認も勧める |
| 発注時の留意点 | 「設計・監理方式」では、設計コンサルタントの中立性を確保し、適正な手続の下で受注者を選定することが重要 |
| 違約金特約条項 | 談合があった場合の違約金支払い義務を請負契約締結時に特約することが「考えられる」。弁護士等への相談を推奨 |
| 参考資料 | マンション改修マニュアル(令和8年3月改訂)、大規模修繕の手引き、長期修繕計画・修繕積立金算出サービス |
(出典:国土交通省 周知文書(PDF)、国土交通省 マンション大規模修繕工事の発注等に関する情報)
談合そのものの構図や、国交省が設置した検討会の動きについては、先日の記事「マンション大規模修繕の談合を受け国交省が検討会を設置」でも書きました。今回はそこから一歩進めて、契約書の一文と、相談窓口の使い方という「今日から使える道具」に絞ってお伝えします。
2. 「談合違約金特約条項」とは何か:現場の職人が読み解く3つのポイント
2-1. 一言でいうと「談合が見つかったら、あらかじめ決めた額を払ってもらう約束」
違約金特約条項は、請負契約を結ぶときに、「もし談合があったと認められた場合は、受注者が発注者に対して違約金を支払う」ことをあらかじめ書いておく条項です。国交省の周知文書では(令和7年6月26日付の事務連絡で周知された考え方です)、談合の防止を図る観点から「談合があった場合における受注者の違約金支払い義務を請負契約締結時に併せて特約すること(違約金特約条項)が考えられます」と書かれています。
この条項には、二つの働きがあると私は考えています。
- 抑止力:業者側に「談合が見つかれば、契約金額に応じた負担が生じる」と意識してもらえる
- 請求の根拠:万一、談合が認められた場合に、損害額の立証が難しくても、一定額を請求する根拠になり得る
ただし、後者がどこまで認められるかは、個別の事案と裁判所の判断によります。この点は後ほど「限界」として詳しく書きます。
2-2. 国交省の例文は「割合が空欄」——数字は管理組合が決める
周知文書に添えられた例文では、違約金の額は「〇%に相当する額」と、割合が空欄になっています。つまり、何%にするかは、管理組合が弁護士などと相談して決める設計です。
参考として、国土交通省の直轄工事で使われている特約条項の考え方が、周知文書の別紙に載っています。
| 項目 | 国交省直轄工事の特約条項(別紙の記述) |
|---|---|
| 基本の違約金 | 請負代金額の10分の1に相当する額 |
| 加算 | 違反の首謀者と認められる場合には、上記に加えて請負代金額の100分の5に相当する額 |
| 遅延利息 | 支払いが遅れた場合は年3パーセント |
| 注記 | 政府調達協定の適用を受ける工事以外の工事で使うひな形として示されている |
(出典:国土交通省 周知文書(PDF))
これはあくまで国の直轄工事のひな形であり、マンションの大規模修繕にそのまま当てはまる数字ではありません。 管理組合が何%に設定するのが妥当かは、工事規模や相手方との関係によって変わりますので、専門家のご意見を踏まえて決めることになります。
2-3. 計算例で金額感をつかむ
イメージをつかむために、請負代金が1億円の工事を例に、簡単な計算をしてみます。ここで使う数字は、説明のための仮の計算であり、実際の工事や特約の設定を示すものではありません。
| 項目 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| 請負代金額(仮) | — | 1億円 |
| 基本の違約金(10分の1とした場合) | 1億円 × 10% | 1,000万円 |
| 首謀者と認められる場合の加算(100分の5) | 1億円 × 5% | 500万円 |
| 遅延利息(年3%、1,000万円を1年遅延した場合) | 1,000万円 × 3% | 30万円 |
修繕積立金が数千万円から数億円という規模で動く中で、1,000万円という違約金は決して小さくありません。だからこそ、何%にするか、誰が談合の有無を判断するか、どう請求するかを契約の時点で整理しておく意味があります。
3. 特約は「入れれば安心」ではない:知っておきたい4つの限界
私は、違約金特約条項を入れること自体には意味があると思っています。一方で、現場に長くいる人間として、特約だけに頼るのは危ういとも感じています。国交省の周知文書も、特約を設けても「賠償の有無をめぐる訴訟リスクや不払いリスクがある」ことを踏まえ、弁護士等の専門家に相談して個別に対応することを勧めています。ここでは、管理組合が理解しておきたい限界を4つに分けて整理します。
3-1. 限界①:「談合があった」と誰が認定するのか
契約書に「談合が認められた場合」と書いても、何をもって認められたとするかを決めておかないと、争いになります。たとえば次のような場面が考えられます。
- 公正取引委員会の排除措置命令や課徴金納付命令が確定した場合に限るのか
- 命令の前でも、立入検査を受けた時点で請求できるのか
- 刑事手続きや裁判所の判断が出た場合はどうするのか
このあたりの書き方次第で、特約が使えるかどうかが変わります。条文の細部は、弁護士に確認してもらうのが安全です。
3-2. 限界②:発覚するまでに時間がかかる
今回の公取委の認定でも、違反行為の期間は、一方の事案で遅くとも2021年9月27日以降、もう一方で遅くとも2021年11月16日以降と発表されています。工事が終わってから、数年後に発覚する可能性があるということです。
その間に、管理組合の理事は交代します。 契約書の存在を知らない理事会が、数年後に請求の判断をする場面も想定されます。だからこそ、特約を入れたら、契約書の写しと、特約の趣旨を書いた引き継ぎメモを、理事会の資料として残すことが大切です。
3-3. 限界③:相手が払えない場合がある
違約金の請求権があっても、相手方に支払い能力がなければ、現実の回収は難しくなります。大規模修繕業界には中小の施工会社が多く、仮に請求が認められても、満額を回収できるとは限りません。国交省が「不払いリスク」に触れているのは、この点を指していると私は受け止めています。
3-4. 限界④:特約があることで、良い業者が敬遠する可能性
これは私の個人的な見方ですが、まじめに仕事をしている施工会社ほど、特約の条文を丁寧に読みます。 談合とは無縁でも、条文が曖昧だと「疑われたときに自社が不利になる」と考えて参加を見送る会社が出る可能性は否定できません。
特約を入れるなら、条文が明確で、双方に公平なものにすることが、結果として良い業者に参加してもらうことにつながると考えています。
| 限界 | 起こり得ること | 組合側の備え |
|---|---|---|
| ①認定の基準が曖昧 | 請求できるかで争いになる | 「命令の確定」など基準を条文で明確にする |
| ②発覚が遅い | 理事交代で契約の趣旨が伝わらない | 契約書と引き継ぎメモを保管する |
| ③相手が払えない | 請求しても回収できない | 特約以外の予防策(手続きの透明化)を重ねる |
| ④参加業者が減る | 良い業者が見送る | 条文を平易にして、説明会で趣旨を伝える |
4. 契約書の一文より前に:設計コンサルタントの「中立性」を確かめる
国交省の周知文書で、私が最も重く受け止めたのは、特約の話よりも次の記述です。
管理組合がこの「設計・監理方式」を採用する場合には、設計コンサルタントの中立性を確保した上で、適正な手続の下、工事の受注者を選定することが重要です。
(出典:国土交通省 周知文書 別添「3. マンション大規模修繕工事の発注等における留意点について」)
4-1. 「設計・監理方式」そのものが悪いわけではありません
設計・監理方式は、管理組合が設計コンサルタントに、調査・設計・工事業者の選定支援・工事の監理を委託する方式です。専門知識の乏しい管理組合が、プロの目で仕様と見積りをチェックしてもらえる良い仕組みで、広く使われています。
問題になるのは、コンサルタントが誰の側に立っているのかが見えなくなったときです。公取委の認定は、コンサルタントが管理組合の予算情報を特定の業者に伝えるなど、本来は管理組合のために働くはずの立場が損なわれた状況を示しています。
4-2. 発注前に確認したい6点(中立性チェック)
私が、管理組合の方にお伝えしている確認事項を6つにまとめます。国交省の周知文書や公取委の発表を踏まえつつ、現場の感覚で整理したものです。
- コンサルタントの報酬の仕組みを、書面で確認する。 管理組合から受け取る報酬のほかに、施工業者から何らかの対価を受け取る取り決めがないか。公取委は、施工業者がコンサルタントに支払う手数料等(いわゆる紹介料)について、業界団体に会員への周知を求めたと発表しています。
- 予算額は、仕様と見積書の様式が固まるまで、参加業者に伝えない。 予算情報が先に渡ると、価格競争が成り立ちにくくなります。
- 見積依頼の参加業者の選び方を、理事会で決めておく。 誰が候補を挙げ、どういう基準で絞ったかを議事録に残します。
- 仕様書と見積書の様式を統一する。 内訳(仮設・下地補修・塗装・防水・シーリングなど)を同じ項目で比べられるようにします。
- 見積りが「揃いすぎている」ときは、理由を聞く。 金額が近いこと自体は、仕様が同じなら自然な場合もあります。大切なのは、理由を説明してもらうことです。
- 推薦理由を文章で出してもらう。 コンサルタントが特定の業者を推すとき、なぜその業者なのかを書面で説明してもらいます。
4-3. 「相見積り」を取っても安心できない場合がある
「3社から見積りを取ったから大丈夫」と考える方は多いのですが、公取委が認定したような構図では、見積りの形だけが揃っていても、競争が成り立っていない可能性があります。見積りの枚数ではなく、中身が本当に独立して作られているかが大切です。
そのために役立つのが、次章の相談窓口と、第三者の目です。
5. 相談窓口2か所の使い方:見積りが届く前に電話できます
5-1. 国交省が案内した相談窓口
国交省の周知文書には、次の2つの窓口が掲載されています。
| 窓口 | 電話番号 | 受付時間(公表資料) | 相談できること |
|---|---|---|---|
| 公益財団法人 住宅リフォーム・紛争処理支援センター「住まいるダイヤル」 | 03-3556-5147 | 月〜金 10:00〜17:00(祝日・年末年始を除く) | 発注等に関する疑問や相談。マンション管理士や建築士などが助言。見積費用は無料の「見積チェックサービス」あり(国交省の周知による) |
| 公益財団法人 マンション管理センター | 03-3222-1519 | 月〜金 9:30〜17:00(祝日・年末年始を除く) | 建物・設備の維持管理に関する相談 |
(出典:国土交通省 マンション大規模修繕工事の発注等に関する情報(受付時間)、国土交通省 周知文書(PDF・電話番号)、住まいるダイヤル)
受付時間や電話番号は変更されることがありますので、かける前に公式サイトで確認してください。
5-2. 「見積チェックサービス」を使う場面
国交省の周知文書では、見積費用については、住まいるダイヤルの「見積チェックサービス(無料)」があると案内されています。私は、次のような場面で使えると考えています。
- 設計コンサルタントから「この金額が妥当です」と言われたが、第三者の意見も聞いてみたいとき
- 3社の見積りの内訳の読み方が分からないとき
- 理事会で「本当にこの金額でよいのか」と意見が割れたとき
利用の条件や手順は、住まいるダイヤルの公式案内で確認してください。窓口は、特定の業者を推薦する場所ではなく、判断材料を整理する場所と捉えるのがよいと思います。
5-3. 自治体の専門家派遣制度も確認を
周知文書では、自治体によっては、マンション管理士や建築士を派遣する制度や相談窓口があるため、まず居住地の自治体に確認することが勧められています。たとえば、横浜市は同様の内容の周知文書をホームページに掲載しています(出典:横浜市 マンション大規模修繕工事の発注等について)。お住まいの自治体のホームページで、「マンション 大規模修繕 相談」「マンション管理士 派遣」といった言葉で探してみてください。
5-4. 国交省の参考資料を理事会で共有する
周知文書には、次の参考資料も挙げられています。
| 資料名 | 発行元 | 使いどころ |
|---|---|---|
| マンション改修マニュアル(令和8年3月改訂) | 国土交通省 | 改修工事の進め方(P.15)、専門家等の選定(P.16〜)、見積依頼・施工会社の募集と候補者選定(P.24〜) |
| 大規模修繕の手引き/マンションライフサイクルシミュレーション | 住宅金融支援機構 | 大規模修繕を検討する際の基礎資料。建物規模や築年数に応じた平均的な修繕費用の試算 |
| 長期修繕計画・修繕積立金算出サービス | マンション管理センター | 長期修繕計画と修繕積立金の算出の支援 |
(出典:国土交通省 周知文書(PDF))
理事会の最初の勉強会では、マンション改修マニュアルの該当ページを全員で読むだけでも、議論のものさしがそろいます。
6. 工法が違うと、見積りの「ものさし」も変わります
ここからは、私たち施工側の立場からのお話です。談合や中立性の議論とは一見関係がないようですが、見積りを比べるときの「ものさし」を増やすという意味で、工法の選択は管理組合の武器になります。
6-1. 足場の有無で、見積書の構成が変わる
大規模修繕の見積書は、一般に足場などの仮設工事、下地補修、塗装、防水、シーリングといった項目で構成されます。足場を組む工法では仮設費が項目として大きく立ち、足場を使わないロープアクセス工法では、その分が別の項目(作業員の技能や安全管理など)に表れます。
同じ建物でも、工法が違えば見積書の中身が変わる。 だからこそ、工法の違う案を一つ入れておくと、「この金額は何に対する費用なのか」を考えるきっかけになります。
| 工法 | 特徴(一般論) | 向いていることが多い場面 |
|---|---|---|
| 通常の足場仮設 | 広い面積を安定して施工できる。足場が建物を覆う期間がある | 全面的な改修、高所の面積が広い建物 |
| ロープアクセス(無足場)工法 | 足場を組まずに外壁などの作業ができる。工期や居住者への影響を抑えられる場合がある | 部分補修、点検、シーリングや防水の局所対応、足場が組みにくい建物 |
| ハイブリッド工法 | 足場とロープアクセスを部位ごとに使い分ける | 部位ごとに最適な方法が異なる建物 |
どの工法が良いかは、建物の形状、劣化の状況、周辺環境、工事の範囲によって変わります。当社は3つの工法を扱っていますが、最適な工法は建物ごとに異なります。第三者の意見も併せて確認し、特定の工法に偏らずに比べてください。
6-2. ロープアクセスの安全基準や事例を調べるときは
ロープアクセス工法の一般的な安全基準や事例を知りたい方は、姉妹サイトのロープアクセスドットコムで解説していますので、理事会の勉強資料としてご活用ください。工法の違いを理解しておくと、設計コンサルタントや施工会社の説明を聞くときに、質問の幅が広がります。
6-3. 「見積りを増やす」より「見積りの質を上げる」
談合の疑いを避けるために、むやみに見積りの数を増やせばよいわけでもありません。社数が増えれば、理事会の負担も、各社の見積り作成の負担も増えます。私は、社数を増やすよりも、仕様書と見積書の様式をそろえ、内訳で比べられるようにするほうが、管理組合の守りには効果的だと考えています。
内訳で比べると、たとえば「下地補修の数量が、他社の半分しか見込まれていない」「シーリングの打ち替えが、増し打ちになっている」といった違いが見えてきます。こうした違いを質問し、答えを書面で残すことが、選定の透明性につながります。
7. 収益物件のオーナーにとっての意味
マンションの管理組合だけでなく、賃貸マンション、ビル、ホテルのオーナーさまにも、今回の件から持ち帰っていただきたい点があります。
7-1. 発注者が1人でも「情報の非対称」は起こります
オーナーさまが1人で発注する場合は、理事会のような合議の手間はありません。その反面、相談相手が少なく、見積りの妥当性を第三者に確認する機会が乏しくなりがちです。設計コンサルタントや施工会社の言葉をそのまま受け取るしかない状況は、管理組合と同じ構図です。
収益物件では、工事の期間中の稼働や賃料への影響も大切な判断材料です。足場の有無、工期、営業しながら進められるかといった点も、見積りと一緒に比べたい項目です。
7-2. オーナーさまが契約書で確認したい3点
- 業務範囲と報酬の根拠:設計・監理を委託する場合、報酬が何に対するものか、成功報酬的な要素がないか
- 紹介料や手数料の有無:施工会社との間に、金銭のやり取りがないか、書面で申告してもらう
- 特約の可否:談合や不正があった場合の取り決めを、弁護士に相談して入れられるか
8. すでに契約済み・工事中・工事済みの管理組合が確認したいこと
「うちはもう契約してしまった」「工事は終わったが、少し不安がある」という方もいらっしゃるでしょう。私は、次のように整理してお伝えしています。
8-1. まずは事実の確認から
- 自分たちのマンションが、公取委の公表した事案の対象に含まれているのかは、公表資料や管理会社・設計コンサルタントからの説明で確認する必要があります。インターネット上の噂だけで判断しないことが大切です。
- 不安な場合は、住まいるダイヤルなどの窓口に、契約書や見積書を手元に置いて相談できます。
8-2. 契約書に特約がない場合
すでに結んだ契約に特約がなくても、損害があった場合の請求の考え方は、法律の一般原則に基づきます。ただ、請求できるかどうか、どの範囲かは、個別の事情と専門家の判断によります。私は法律の専門家ではありませんので、具体的な対応は弁護士にご相談ください。
8-3. 工事中の組合ができる工夫
- 追加工事や変更契約の見積りは、元の見積書と同じ様式の内訳で出してもらう
- 追加の金額が大きい場合は、第三者(別の建築士やマンション管理士)の意見も聞く
- 変更の経緯と理由は、議事録に残す
9. 理事会がこの1か月でできる「5つのアクション」
最後に、今日から動ける行動を整理します。
| 順番 | アクション | 目安の時期 |
|---|---|---|
| 1 | 国交省の周知文書と、マンション改修マニュアルの該当ページを理事会で共有する | 次回の理事会まで |
| 2 | 住まいるダイヤルやマンション管理センターに、現状を伝えて相談する | 1〜2週間以内 |
| 3 | 設計コンサルタントの報酬の仕組みと、施工業者との金銭関係を書面で確認する | 発注の前 |
| 4 | 契約書に違約金特約条項を入れるか、弁護士に相談する | 契約の前 |
| 5 | 仕様書・見積書の様式を統一し、工法の違う案も1つ入れて比べる | 見積依頼の前 |
私が現場で見てきた中で、トラブルになりにくい管理組合は、特別な知識を持つ人がいる組合ではなく、「分からないことを分からないと言える」組合でした。窓口に電話をする、専門家に質問する、議事録に残す。どれも地味な作業ですが、積み重ねが組合の資産を守ります。
よくある質問(FAQ)
Q1. 談合違約金特約条項は、法律で入れることが義務づけられていますか?
A. 国交省の周知文書では、談合の防止を図る観点から「特約すること(違約金特約条項)が考えられます」と書かれており、義務ではなく、選択肢の一つとして示されています。入れるかどうか、割合をどうするかは、弁護士など専門家に相談して決めることが勧められています。
Q2. 違約金の割合は何%にすればよいですか?
A. 国交省の例文では割合は空欄になっています。国の直轄工事では請負代金額の10分の1などが使われていますが、マンションの大規模修繕にそのまま当てはまるとは限りません。工事規模や契約の内容に応じて、弁護士と相談して決めるのが安全です。
Q3. 相談窓口にはどんなことを聞けますか?
A. 国交省の周知文書では、住まいるダイヤルが発注等に関する疑問・相談(見積費用の無料の見積チェックサービスを含む)、マンション管理センターが建物・設備の維持管理に関する相談を受け付けると案内されています。受付時間などは公式サイトで最新の情報をご確認ください。
Q4. 設計・監理方式は使わないほうがよいのでしょうか?
A. そうとは限りません。専門家に調査・設計・監理を任せられる利点があります。大切なのは、設計コンサルタントの中立性を確保し、適正な手続の下で受注者を選ぶことです。報酬の仕組みや施工業者との金銭関係を書面で確認することが、有効な備えになります。
Q5. 工法を変えれば談合は防げますか?
A. 工法の選択だけで談合を防げるわけではありません。ただ、足場・ロープアクセス・ハイブリッドなど工法の違う案を比べることで、見積りの内訳や費用の根拠を考えるきっかけが増え、判断材料が豊かになります。
Q6. 明誠に相談すると費用はかかりますか?
A. 建物の現地調査と概算のお見積りは無料で承っています。足場・ロープアクセス・ハイブリッドの3工法を比べたうえでご提案します。お問い合わせフォームからお気軽にご相談ください。
この記事のポイントまとめ
- 国交省は2026年9月28日、大規模修繕の発注に関する相談窓口と留意点を関係団体に周知した
- 談合違約金特約条項は「考えられる」選択肢で、割合は管理組合が専門家と決める
- 特約だけでなく、設計コンサルタントの中立性と選定手続きの透明化が土台になる
- 住まいるダイヤルには無料の見積チェックサービスがある
- 工法の違う案を比べると、見積りの内訳を考える「ものさし」が増える
出典・参考資料
- 国土交通省「マンション大規模修繕工事の発注等の相談窓口の周知等について(令和8年9月28日、PDF)」
- 国土交通省「マンション大規模修繕工事の発注等に関する情報」
- 国土交通省「マンション大規模修繕工事の発注等の適正化に関する検討会」
- 公正取引委員会「報道発表資料(令和8年9月28日)」
- 住宅リフォーム・紛争処理支援センター「住まいるダイヤル 電話相談」
- 横浜市「マンション大規模修繕工事の発注等について(PDF)」
- データマックス「マンション大規模修繕で談合、公取委が38社に排除措置命令」
▼ロープアクセス工法・無足場工法の詳細解説はこちら
ロープアクセスドットコム|無足場工法専門メディア
相談窓口に電話する前の整理や、見積書の内訳の読み方など、当社でもお手伝いできる範囲でご相談をお受けしています。現地調査と概算のお見積りは無料です。お問い合わせフォームから、ご相談だけでもお気軽にどうぞ。次回も、現場で本当に使える話だけをお届けします。
この記事の執筆者
本間 幸紘(ほんま ゆきひろ)
株式会社明誠 代表取締役/東京都東大和市
マンション・ビル・ホテルの大規模修繕20年以上の実務経験。3工法(通常足場/ロープアクセス/ハイブリッド)から建物特性に応じて最適提案。日本初のロープアクセス工事フランチャイズ本部を運営。JCSA(一般社団法人 全国建設業支援協会)代表理事。
最終更新:2026年10月12日
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ロープアクセス工法の詳細や実例については、姉妹サイト「ロープアクセスドットコム」の以下の記事もぜひご覧ください。
▶ 施工事例:東京都豊島区 無足場工法ロープアクセス外壁改修工事
本間社長の著書のご案内
『大規模修繕工事 職人だから言える本当の話 —— 見積書では見えない業界の裏側と、修繕積立金を守る発注術』(Kindle版)を出版しています。20年以上の現場経験から、管理組合・オーナーが修繕積立金を守るための発注術と、業界の内幕を書き下ろしました。
カスハラ対策義務化と大規模修繕|2026年10月施行、管理組合・オーナーが知っておきたい居住者クレームの受け止め方と工事前の備え【2026年10月】
この記事で分かること
「ベランダの植木を動かせと言われても困る」「朝8時半から音を出すなんて聞いていない」——大規模修繕工事の現場では、毎日のように居住者の方からさまざまな声をいただきます。私はそのひとつひとつが、住まいを大切に思う気持ちから出たものだと考えています。
ただ、20年以上この仕事をしてきて、ごくまれに「これはもう苦情の範囲を超えている」と感じる場面に立ち会ったこともあります。作業員を何十分も足止めして怒鳴り続ける、毎日のように同じ要求を電話で繰り返す、といったケースです。
この記事では、次の問いにお答えします。2026年10月1日にカスタマーハラスメント(カスハラ)対策が事業主の義務になったことで、マンションの大規模修繕工事では何が変わるのか? 管理組合や収益マンションのオーナーは、工事前に何を準備しておけばよいのか?
結論を先に書きます。
- 法律上の義務を負うのは、作業員や管理員を雇っている「事業主」(施工会社・管理会社など)です。 管理組合や居住者に新しい罰則ができたわけではありません。
- ただし、厚生労働省の指針では、カスハラを行う「顧客等」に取引の相手方や施設の近隣住民も含まれると整理されています。大規模修繕では、居住者・理事・近隣の方の言動が、施工会社の作業員にとっての「顧客等の言動」になり得ます。
- 苦情のすべてがカスハラではありません。 騒音・臭気・プライバシーへの不安は、工事側が誠実に受け止めるべき正当な声です。
- 管理組合にできる一番の備えは、工事前に「窓口」「ルール」「記録」の3点を決めておくこと、そして居住者の負担が小さい工法・工程を選ぶことです。
なお、本記事の制度内容は、2026年10月11日時点で厚生労働省が公表している資料に基づいています。運用の詳細は今後変わる可能性がありますので、最新の情報は厚生労働省・都道府県労働局でご確認ください。
2026年10月11日 更新
何が変わった?2026年10月1日施行「カスハラ対策の義務化」を整理する
改正法と指針の基本情報
まず、制度の骨格を表で整理します。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 根拠となる法律 | 労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(労働施策総合推進法)等の一部を改正する法律(令和7年法律第63号) |
| 公布日 | 令和7年(2025年)6月11日 |
| 施行日 | 令和8年(2026年)10月1日 |
| 指針 | 事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和8年厚生労働省告示第51号、令和8年2月26日公布) |
| 義務を負う人 | 労働者を雇用する事業主 |
| 同時に義務化されたもの | 求職者等に対するセクシュアルハラスメントの防止措置 |
(出典:厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために」、厚生労働省リーフレット(詳細版))
これまでパワハラ・セクハラについては、事業主に防止措置が義務づけられていました。今回、そこに「お客さま側からのハラスメント」が加わった形です。
業界団体の動きも出ています。賃貸住宅管理業者の団体である公益財団法人日本賃貸住宅管理協会(日管協)は、2026年10月9日付の会員向けメールマガジンで、カスハラ対応ブックや啓発ポスター、契約解除に踏み込んだ条文を加えた管理受託契約書などのひな形を会員ページで公開したと案内しています。管理会社の側でも、具体的な備えが一気に進み始めていると私は受け止めています。
「カスタマーハラスメント」の定義——3つの要素
厚生労働省のリーフレットでは、職場におけるカスタマーハラスメントを、次の3つの要素をすべて満たすものと定義しています。
- 顧客等の言動であること
- 業務の性質その他の事情に照らして、社会通念上許容される範囲を超えたものであること
- 労働者の就業環境が害されること
電話やSNSなどインターネット上の言動も含まれます(出典:厚生労働省リーフレット(詳細版))。
ここで大規模修繕に関わる方にぜひ知っておいていただきたいのが、①の「顧客等」の範囲です。指針の整理では、顧客等にはサービスの利用者やその家族、取引先の担当者、契約交渉の担当者、そして施設の近隣住民も含まれます。
「社会通念上許容される範囲を超える」とは
リーフレットでは、典型例を「言動の内容」と「手段・態様」の2つに分けて示しています。
| 区分 | 典型例(厚生労働省の整理) |
|---|---|
| 言動の内容が範囲を超えるもの | 理由のない要求、サービスと全く関係のない要求/契約で想定したサービスを著しく超える要求/対応が著しく困難・不可能な要求/不当な損害賠償要求 |
| 手段・態様が範囲を超えるもの | 身体的な攻撃/脅迫・中傷・侮辱・暴言・土下座の強要などの精神的な攻撃/威圧的な言動/継続的・執拗な言動/不退去・居座り・監禁などの拘束的な言動 |
(出典:厚生労働省リーフレット(詳細版))
大切なのは、リーフレット自身が「顧客等からの苦情の全てがカスタマーハラスメントに該当するわけではありません」と明記している点です。また、障害のある方が合理的配慮を求めることそのものは、カスハラには当たらないとされています。判断にあたっては、言動の目的や経緯、頻度、労働者側の問題行動の有無なども含めて総合的に考えることが適当とされています。
大規模修繕工事がカスハラ問題と無関係ではない3つの理由
理由1:居住者が「住みながら」行う工事だから
マンションの大規模修繕工事は、居住者の方が毎日生活している建物で、数か月にわたって行う工事です。新築工事のように、工事エリアと生活エリアがはっきり分かれていません。
ベランダの私物移動、洗濯物を外に干せない期間、窓を開けられない日、塗料の臭い、ドリルやケレン(古い塗膜をはがす作業)の音。どれも工事の性質上、ある程度は避けられないものです。そのぶん、居住者の方のストレスが作業員や管理員に向かいやすい構造があります。
理由2:関係者が多く、「誰に言えばいいか」が分かりにくいから
大規模修繕工事には、少なくとも次の関係者がいます。
| 立場 | 主な役割 | カスハラ対策義務との関係 |
|---|---|---|
| 管理組合(理事会・修繕委員会) | 発注者 | 職員を雇用していれば事業主として義務の対象になり得る。発注者として、施工会社の作業員にとっての「取引の相手方」にもなる |
| 管理会社 | 管理委託先、居住者対応の窓口 | 事業主として、フロント担当・管理員を守る措置が義務 |
| 施工会社(元請・協力会社) | 工事の実施 | 事業主として、現場代理人・作業員を守る措置が義務 |
| 設計監理者(コンサルタント) | 監理・品質チェック | 事業主として、自社社員を守る措置が義務 |
| 居住者・近隣住民 | 生活者 | 新たな罰則はない。ただし言動によっては「顧客等」として問題になり得る |
※表の整理は、厚生労働省の指針・リーフレットの考え方をもとに、大規模修繕の現場に当てはめた私の解釈です。個別のケースの法的判断は、専門家や労働局にご相談ください。
窓口があいまいだと、居住者の方は目の前にいる作業員に直接声をかけるしかありません。作業員は判断する権限を持っていないので「確認します」としか言えず、それがさらに不満を大きくする。私はこの悪循環を、何度も現場で見てきました。
理由3:工期が長いほど「継続的・執拗な言動」に発展しやすいから
国土交通省の「令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査」によると、工事費に占める仮設工事費の割合は約22.8%でした(共通仮設費・消費税を除く集計)(出典:国土交通省 マンション大規模修繕工事に関する実態調査)。仮設足場は費用だけでなく、組んでいる期間そのものが居住者の負担になります。
足場とメッシュシートに覆われた期間が長くなると、日当たりや眺望、防犯への不安が積み重なります。最初は穏やかだったご意見が、工事の後半になるほど強い口調になっていく。これは私の実感でもあります。
正当な苦情とカスハラはどう違う?大規模修繕の現場でよくある例
判断の目安を表で比べる
ここが一番大切なところです。居住者の方の声を「カスハラ」と決めつけて切り捨てるのは、本来の制度の趣旨にも反します。私が現場で使っている目安を、厚生労働省の整理に沿って表にしました。
| 場面 | 正当な苦情・要望として受け止めるべき例 | カスハラに該当し得る例 |
|---|---|---|
| 騒音・作業時間 | 「告知より早い時間に音が出ていた」「在宅勤務の時間帯を教えてほしい」 | 作業員を1時間以上その場に引き留めて大声で責め続ける |
| ベランダ・専有部 | 「植木の移動を手伝ってほしい」「室外機の扱いを相談したい」 | 契約にない専有部のリフォームを無償で要求し、断ると脅す |
| 塗料の臭い | 「体調が悪いので臭いの少ない日を知りたい」 | 根拠なく高額な慰謝料を要求し、毎日電話をかけ続ける |
| 作業員の態度 | 「挨拶がなかった」「ベランダをのぞかれた気がして不安」 | 作業員の顔写真を撮ってSNSに中傷とともに投稿する |
| 工期・仕上がり | 「色見本と違う気がする」「工期が延びた理由を知りたい」 | 土下座を求める、個人の自宅や家族に連絡すると言う |
※あくまで目安です。実際には、言動の目的・経緯・頻度・態様などを総合的に考慮して判断されます(厚生労働省リーフレット(詳細版))。
左側の声には、工事側が誠実に、具体的に応える責任があります。右側に進みそうなときに、作業員一人で抱え込ませない仕組みをつくるのが、今回の義務化の中心です。
私が現場で見てきた「こじれ方」のパターン
正直に申し上げます。私が見てきたトラブルの多くは、最初から悪意があったわけではありません。
ある築30年ほどのマンションの現場では、工事の初週に「ベランダの物干し金物を外すと聞いていなかった」というご意見が1件ありました。工事説明会の資料には書いてあったのですが、その方は説明会を欠席されていました。窓口がはっきりしていなかったため、作業員、管理員、理事長と3人がそれぞれ違う説明をしてしまい、2週間後には「誰も責任を取らない」というお怒りに変わっていました。
最終的には現場代理人が書面で経緯を説明し、物干しの代替手段をご用意して落ち着きました。振り返ると、最初の1件を決まった窓口で、記録を取りながら、1回で正確に答えていれば、こじれることはなかったと思います。
管理組合・オーナーが工事前に決めておきたい「窓口・ルール・記録」
備え1:窓口を一本化する
工事が始まる前に、次の3点を理事会で決めておくことをおすすめしています。
- 居住者からの問い合わせ先を1か所にする(例:現場事務所の「工事相談窓口」)
- 窓口の受付時間と連絡手段を掲示する(電話・意見箱・専用フォームなど)
- 作業員は個別対応せず、窓口に案内するというルールを、居住者にも作業員にも周知する
作業員が「その件は現場事務所でうかがいます」と言えるだけで、現場の空気はかなり変わります。居住者の方にとっても、「ここに言えば記録され、回答が来る」という安心感につながります。
備え2:ルールを書面にする
厚生労働省の指針では、事業主が講ずべき措置として、方針の明確化と周知、相談体制の整備、事後の迅速かつ適切な対応、特に悪質なカスハラへの対処方針の策定などが挙げられています。そして、可能な限り労働者を一人で対応させない、犯罪に該当し得る言動は警察へ通報する、といった対処の例も示されています(出典:厚生労働省リーフレット(詳細版))。
これは施工会社・管理会社の義務ですが、発注者である管理組合も、次のような書面の段階で関与できます。
| 書面 | 盛り込みたい内容 |
|---|---|
| 工事請負契約書・特記仕様書 | 居住者対応の窓口と責任者、苦情の記録と報告の方法、悪質な言動があった場合の協議方法 |
| 工事説明会資料 | 作業時間、ベランダ立ち入り日、洗濯物の制限期間、窓口の連絡先、「作業員への直接のご要望はご遠慮ください」の一文 |
| 掲示物・お知らせ | 週間工程、臭いや音の大きい作業の予告、問い合わせ先 |
| 理事会決議・細則 | 管理組合としてのカスハラに対する基本姿勢(居住者の声は窓口で受け止める、威圧的な言動は認めない) |
なお指針では、自社の労働者や役員が他社の労働者にカスハラに当たる言動をした場合に、他の事業主から事実関係の確認などへの協力を求められたら応じるよう努めることとされています。これは居住者一人ひとりに向けた規定ではありませんが、施工会社から「居住者の方とのやり取りを確認したい」と相談があったときに管理組合や管理会社が協力できる体制を、あらかじめ話し合っておくとよいでしょう。
備え3:記録を残す
苦情は「記録」があって初めて、正当な声なのか、行き過ぎた言動なのかを冷静に判断できます。私の現場では、次の項目を「工事相談受付票」に残すようにしています。
- 受付日時、受付者
- 部屋番号(お名前は任意)
- ご意見の内容(できるだけ言われたままの言葉で)
- 回答内容と回答日
- 再発防止のために変えたこと
この記録は、トラブル対応のためだけのものではありません。工事が終わったあとに「次回の大規模修繕では、どんな説明が足りなかったのか」を振り返る、管理組合の大切な財産になります。
東京都の条例と相談窓口——関東の管理組合・オーナーが押さえたいこと
東京都カスタマー・ハラスメント防止条例(令和7年4月1日施行)
国の法改正より一足早く、東京都では令和7年(2025年)4月1日に「東京都カスタマー・ハラスメント防止条例」が施行されています。都は条例に基づく指針や、業界団体向けの「各団体共通マニュアル」、事業者マニュアルのひな形も公表しています(出典:東京労働局掲載資料「東京都におけるカスタマーハラスメント防止施策の概要」)。
同資料によると、都はカスハラに関する問い合わせを一元的に受け付ける総合相談窓口を設けており、事業者・就業者だけでなく「顧客等」の立場の方も相談できるとされています。「自分の伝え方がカスハラと誤解されないか心配」という居住者側の相談も例として挙がっているのが印象的です。
また、条例施行日以降にマニュアルを整備し、実践的な防止対策を行った中小企業等への奨励金(令和7年度は定額40万円)も紹介されています。令和8年度の募集状況・要件は変わる可能性があるため、利用を検討される事業者の方は、東京都産業労働局などの最新の募集要項をご確認ください。
相談先の一覧
| 相談先 | 主な相談内容 | 出典 |
|---|---|---|
| 都道府県労働局 雇用環境・均等部(室) | 改正法・指針の内容、事業主の措置義務 | 厚生労働省リーフレット(詳細版) |
| 総合労働相談コーナー | 職場のハラスメント全般(無料) | 厚生労働省 |
| 東京都のカスハラ総合相談窓口 | 都内の事業者・就業者・顧客等からの相談 | 東京労働局掲載資料 |
| マンション管理士・弁護士 | 管理組合内のルールづくり、個別の法的判断 | — |
神奈川・埼玉・千葉など他県の管理組合の方も、国の改正法・指針は全国共通で適用されます。県独自の条例や支援策の有無は、各都県の公式サイトでご確認ください。
工法の選び方で居住者の負担は変わる——足場・ロープアクセス・ハイブリッドの比較
そもそも「不満の種」を減らすという発想
ここからは、施工会社としての私の考えです。カスハラ対策の義務化で「対応の仕組み」は整っていきますが、私はそれと同じくらい、居住者の方の不満の種そのものを減らす工事計画が大切だと考えています。
その選択肢のひとつが、工法の選び方です。明誠では、通常の足場工法、足場を使わないロープアクセス工法(無足場工法)、そして両者を部位ごとに使い分けるハイブリッド工法の3つから、建物ごとに比べてご提案しています。
3工法の比較表
| 比較項目 | 足場工法 | ロープアクセス工法 | ハイブリッド工法 |
|---|---|---|---|
| 仮設の期間 | 組立・解体を含め工事期間中ずっと設置 | 作業する日・面だけロープを設置 | 足場は必要な面・期間に限定 |
| 日照・眺望 | メッシュシートで暗くなりやすい | 作業時以外はほぼ影響なし | 足場の範囲だけ影響 |
| 防犯面の不安 | 足場が侵入経路になる懸念が出やすい | 足場がないため、その懸念は小さい | 足場の範囲で対策が必要 |
| ベランダへの影響 | 足場の設置・作業で長期間影響 | 作業日の窓前通過が中心 | 部位による |
| 向いている建物 | 中低層、複雑な形状、全面的な下地補修 | 高層、足場が組みにくい敷地、部分補修 | 大規模・複雑な建物で総合的に最適化したい場合 |
| 注意点 | 費用・工期が大きくなりやすい | 大量のタイル張り替えなど、工種によっては不向き | 計画・調整の手間がかかる |
ロープアクセス工法でも、作業日には作業員が窓の前を通りますし、ベランダや窓まわりの作業ではご協力をお願いすることがあります。「足場がないから苦情が出ない」わけではありません。ただ、足場が建物を覆う期間がないぶん、日照・防犯・圧迫感への不安は小さくなるのが一般的です。
安全面についても誤解のないように書いておきます。ロープアクセス工法では、作業員はメインロープとバックアップロープの2本に接続し、吊元(ロープを固定する支点)も2点以上確保して作業します。国際的な産業ロープアクセスの基準に沿った二重の安全確保が業界の標準です。技術的な基準や事例は、姉妹サイトのロープアクセスドットコムで詳しく解説しています。
費用の目安——戸あたり・㎡あたりで考える
国土交通省の「令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査」では、1回目の大規模修繕工事の戸あたり工事金額は「100〜125万円/戸」の割合が最も高く、次いで「75〜100万円/戸」「125〜150万円/戸」という結果でした(出典:国土交通省 マンション大規模修繕工事に関する実態調査)。ただし、この調査は数年前のもので、2026年現在は資材費・人件費の上昇が続いています。
参考までに、明誠が現場で使っている工事単価の目安をお示しします。
| 工種 | 単価の目安(明誠の参考値) |
|---|---|
| 外壁塗装 | 3,500〜4,500円/㎡ |
| 外壁打診調査 | 250〜500円/㎡ |
| 防水工事 | 5,000〜8,000円/㎡ |
※建物の規模・劣化状況・立地・工法により大きく変わります。あくまで目安であり、実際の金額は現地調査のうえでお見積りします。
「工法を変えると、どれくらい仮設費が変わるのか」は建物ごとにまったく違います。明誠の大規模修繕の料金の考え方もあわせてご覧ください。
管理組合の理事会で使える「カスハラ対策」チェックリスト
工事前(発注・契約の段階)
- [ ] 施工会社に「居住者対応の窓口と責任者」を確認した
- [ ] 施工会社・管理会社が、改正法に沿ったカスハラ対策の方針を定めているか確認した
- [ ] 苦情の記録方法と、理事会への報告の頻度を決めた
- [ ] 工法(足場・ロープアクセス・ハイブリッド)の比較で、居住者負担も検討項目に入れた
工事説明会・着工前
- [ ] 作業時間、ベランダ立ち入り日、洗濯物の制限期間を具体的に説明した
- [ ] 欠席者にも資料を配布し、窓口の連絡先を伝えた
- [ ] 在宅勤務の方、小さなお子さまや高齢の方がいる世帯の要望を事前に聞いた
- [ ] 「作業員への直接の要望はご遠慮いただき、窓口へ」と丁寧にお願いした
工事中
- [ ] 週間工程と、音・臭いの大きい作業を事前に掲示している
- [ ] 受付票の記録を、理事会で定期的に確認している
- [ ] 同じ内容のご意見が複数あれば、工程や説明の改善につなげている
- [ ] 行き過ぎた言動があった場合に、施工会社・管理会社・理事会で協議する手順がある
このチェックリストは、カスハラを「取り締まる」ためのものではありません。居住者の声を正しく受け止め、作業員も居住者も安心して工事期間を過ごすための段取りです。
明誠が現場で大切にしていること
「言われる前に伝える」が一番の予防
私が新人の現場代理人にいつも伝えているのは、「苦情は、伝えていなかったことから生まれる」ということです。
明誠では、工事説明会に加えて、音や臭いの大きい作業の前日にはお知らせを掲示し、ベランダに入る日は個別にご案内するようにしています。ご意見をいただいたら、その日のうちに一次回答をすることを目標にしています。完璧にできているとは申しません。ただ、こうした積み重ねで、こじれる前に解決できるケースが確実に増えたと感じています。
工事中の安全管理や品質管理の考え方は、明誠の大規模修繕の安全管理のページにまとめています。
3工法とフランチャイズで「建物に合った工事」を
株式会社明誠は、これまでに約6,000棟のマンション・ビル・ホテルの大規模修繕に携わってきました。日本初のロープアクセス工事フランチャイズ本部として、塗装・防水・タイル・電気・看板などの専門職の加盟企業と連携しています。
管理組合の皆さまには、管理組合向け大規模修繕のご案内で、発注の流れや進め方を紹介しています。ロープアクセス工法の技術的な特徴は明誠のロープアクセス工法の技術詳細で、実際の現場の様子は明誠の施工事例でご覧いただけます。
同業の施工会社の方や、ロープアクセス技術者の育成・安全基準について知りたい方には、ロープアクセスドットコム(無足場工法専門メディア)もおすすめです。
よくあるご質問
Q1. カスハラ対策の義務化は、いつから始まりましたか?
A. 令和8年(2026年)10月1日からです。令和7年6月11日に公布された改正労働施策総合推進法等(令和7年法律第63号)により、カスタマーハラスメントの防止措置が事業主の義務になりました(厚生労働省)。
Q2. 管理組合や居住者に罰則ができたのですか?
A. いいえ。義務を負うのは労働者を雇用する事業主で、雇用管理上の措置を講じることが求められています。ただし、管理組合が管理員などを直接雇用している場合は、管理組合も事業主として対象になり得ます。
Q3. 大規模修繕工事の騒音について苦情を言うと、カスハラになりますか?
A. 通常の苦情はカスハラではありません。厚生労働省も「顧客等からの苦情の全てがカスハラに該当するわけではない」と明記しています。問題になるのは、内容や手段が社会通念上許容される範囲を超え、作業員などの就業環境が害される場合です。
Q4. 近隣住民からの苦情も対象になりますか?
A. 厚生労働省の整理では、「顧客等」には施設の近隣住民も含まれます。ただし、近隣の方からの正当な苦情に誠実に対応することは、施工会社の基本的な責任です。
Q5. 管理組合が工事前にできる一番の対策は何ですか?
A. 居住者からの問い合わせ窓口を1か所に決め、作業時間やベランダ立ち入り日などのルールを書面で伝え、受け付けた声を記録することです。窓口・ルール・記録の3点がそろうと、トラブルの多くは早い段階で解決しやすくなります。
Q6. ロープアクセス工法にすれば、居住者の苦情はなくなりますか?
A. なくなるわけではありません。ただ、足場が建物を覆う期間がないため、日照・眺望・防犯面の不安は小さくなるのが一般的です。工種によっては足場の方が向いている場合もあるため、3工法を比べて決めることをおすすめします。
Q7. 明誠に相談すると費用はかかりますか?
A. 建物の現地調査と概算のお見積りは無料で承っています。足場・ロープアクセス・ハイブリッドの3工法を比べたうえでご提案します。お問い合わせフォームからお気軽にご相談ください。
この記事のポイントまとめ
- 2026年10月1日から、カスハラ防止措置が事業主の義務になった
- 義務を負うのは施工会社・管理会社などの事業主で、居住者に新たな罰則はない
- 指針上の「顧客等」には、取引の相手方や施設の近隣住民も含まれる
- 苦情の全てがカスハラではなく、正当な声には誠実に応えることが前提
- 管理組合の備えは「窓口・ルール・記録」と、居住者負担の小さい工法選び
出典・参考資料
- 厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために」
- 厚生労働省「令和8年10月1日から、カスタマーハラスメント対策、求職者等に対するセクシュアルハラスメント対策が義務化されます!(リーフレット詳細版)」
- 厚生労働省「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和8年厚生労働省告示第51号)」
- 東京労働局掲載資料(東京都作成)「東京都におけるカスタマーハラスメント防止施策の概要」
- 国土交通省「マンション大規模修繕工事に関する実態調査」
- 公益財団法人日本賃貸住宅管理協会 会員向けメールマガジン(2026年10月9日配信)
▼ロープアクセス工法・無足場工法の詳細解説はこちら
ロープアクセスドットコム|無足場工法専門メディア
工事の主役は、建物とそこに暮らす皆さまです。作業員も居住者も、お互いを尊重しながら工事期間を過ごせるように、段取りの段階からお手伝いします。現地調査と概算のお見積りは無料で承っていますので、お問い合わせフォームから、ご相談だけでもお気軽にどうぞ。現場で20年以上見てきた実感です。次回も、現場で本当に使える話だけをお届けします。
この記事の執筆者
本間 幸紘(ほんま ゆきひろ)
株式会社明誠 代表取締役/東京都東大和市
マンション・ビル・ホテルの大規模修繕20年以上の実務経験。3工法(通常足場/ロープアクセス/ハイブリッド)から建物特性に応じて最適提案。日本初のロープアクセス工事フランチャイズ本部を運営。JCSA(一般社団法人 全国建設業支援協会)代表理事。
最終更新:2026年10月11日
関連記事(姉妹サイト)
ロープアクセス工法の詳細や実例については、姉妹サイト「ロープアクセスドットコム」の以下の記事もぜひご覧ください。
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長期修繕計画にない工事に要注意|会計検査院が橋・トンネル修繕で補助対象外149億円を指摘、マンション管理組合が大規模修繕で学ぶべき5つの教訓【2026年10月】
この記事で分かること
「足場を組んでいるうちに、ついでにここも直しておきましょう」——大規模修繕の現場で、私が何度も耳にしてきた言葉です。合理的に聞こえますが、その「ついで」が積立金を少しずつ削り、本当に急ぐべき修繕を後回しにしてしまうことがあります。
この記事では、次の問いにお答えします。会計検査院が指摘した「計画にない修繕工事への補助金149億円」から、マンション管理組合や収益マンションのオーナーは、長期修繕計画と大規模修繕の進め方について何を学べるのか?
きっかけは、2026年10月6日に報じられた会計検査院の抽出調査です。国土交通省の「道路メンテナンス事業補助制度」を使った橋やトンネルの修繕で、本来は補助の対象にならない工事の契約が、15府県の88自治体で計469件、補助金相当額で約149億円あったと報じられました(出典:東京新聞(共同通信)2026年10月6日、日本経済新聞 2026年10月6日)。
私は株式会社明誠の本間と申します。東京都東大和市を拠点に、マンション・ビル・ホテルの大規模修繕を20年以上やってきました。足場を組む工事も、足場を使わないロープアクセス工法(無足場工法)も、両方を現場で経験しています。
結論を先に書きます。今回の問題の核心は「点検の結果を踏まえた計画に載っていない工事」に、計画のためのお金が流れたことです。これはマンションの長期修繕計画と修繕積立金にもそのまま当てはまります。 管理組合が守るべきことは、①点検→計画→工事の順番を崩さない、②「ついで工事」は理由と金額を見える化する、③補助金・税制の要件は契約前に確認する、④工法は比べてから決める、の4点に集約できると私は考えています。
なお、本記事で紹介する会計検査院の指摘内容は、2026年10月9日時点の報道に基づいています。報道によって数字の切り方が異なる部分があるため、詳細は今後公表される会計検査院の資料でご確認ください。
2026年10月9日 更新
何が起きた?会計検査院が指摘した「補助対象外149億円」を整理する
報道で分かっている数字
| 項目 | 内容 | 出典 |
|---|---|---|
| 対象の補助制度 | 国土交通省「道路メンテナンス事業補助制度」 | 共同通信・日経 |
| 調査した契約 | 2023〜2024年度に16府県・416市町村が契約した修繕工事の補助金 約1,027億円 | 時事通信 |
| 補助対象外とされた契約 | 15府県の88自治体で計469件 | 共同通信・日経 |
| 補助金相当額 | 約149億円 | 共同通信・日経 |
| 国交省の対応 | 2026年8月に補助対象を明確にする事務連絡を出したと説明 | 報道各社 |
(出典:時事ドットコム 2026年10月6日、東京新聞(共同通信)、日本経済新聞)
調べた補助金約1,027億円のうち約149億円ですから、およそ7分の1が「対象外」と指摘された計算になります。調査した自治体の約2割で、こうした事例が見つかったと報じられています。
問題になった工事の3つの型
日本経済新聞の報道によると、指摘の中身は大きく分けて次のとおりです(自治体・契約の一部は重複します)。
- 長寿命化修繕計画に記載のない修繕を補助対象にしていた:61自治体・286件
- 定期点検の結果を踏まえていない橋の耐震補強工事を補助対象にしていた
- トンネル内の照明のLED化を補助対象にしていた(2と3を合わせて38自治体・201件)
時事通信は、カ所数ベースで「計画にない修繕工事が314カ所、対象外の耐震補強工事が160カ所、LED化が47カ所」と伝えています。
誤解のないように書いておきます。耐震補強やLED化そのものが悪い工事だ、という話ではありません。問題は、「点検で傷みが見つかった構造物を、計画に沿って直す」ための補助金が、別の目的の工事に使われていたことです。
なぜ起きたのか——予算の余りと周知の不足
原因として報道で挙げられているのは、次の2点です。
- 予算が余り、自治体が予定になかった工事を行った
- 国交省が補助の対象を自治体に明確に周知していなかった
また、制度の要綱では補助金の申請時に修繕計画の提出を求めていなかった、とも報じられています。さらに自治体側(秋田県道路課)からは、足場の組み立てなどを同時に行った方が工事がスムーズになる、という趣旨の説明もあったと伝えられています(出典:読売新聞オンライン(Yahoo!ニュース配信)2026年10月6日)。
この「足場があるうちに、まとめてやった方が効率的」という考え方。マンションの大規模修繕に携わる方なら、どこかで聞いたことがあるはずです。後ほど詳しく取り上げます。
そもそも道路メンテナンス事業補助制度は「計画に基づく修繕」を支援する制度
点検→計画→工事の順番が制度の前提
国土交通省関東地方整備局の資料では、この補助制度の対象を「道路の点検結果を踏まえ策定される長寿命化修繕計画に基づき実施される道路メンテナンス事業」と定めています。対象は橋梁・トンネル・道路附属物等で、対象事業は修繕・更新・撤去です(出典:国土交通省関東地方整備局「道路メンテナンス事業補助制度」)。
同じ資料には、長寿命化修繕計画(個別施設計画)に書くべき項目として、施設名・判定区分・点検や修繕の実施年度・修繕内容・対策費用などが並んでいます。つまり、
- 定期点検で傷みを見つける
- 判定区分(どのくらい急ぐか)を付ける
- いつ・何を・いくらで直すかを計画に書く
- 計画に沿って工事をする
という順番が、制度の土台になっているわけです。今回の指摘は、この順番の「3」を飛ばして「4」にお金が流れたものだと私は受け止めています。
「従来工法だけでなく新技術も比べる」ことも要件に
もう一つ注目したのは、令和3年4月の要綱改正で新技術等の活用の検討が補助要件に加わったことです。修繕・更新・撤去の事業では、費用の縮減や効率化のために「従来工法のみでなく新工法や新材料などの新技術等を加えた比較検討」を行うことが求められています(出典:同上 関東地方整備局資料)。
公共インフラでは「一つの工法に決め打ちせず、比べてから決める」ことが、すでにルールになっているのです。
横浜市の橋梁計画には「ロープアクセス点検」も登場
同じ資料には、長寿命化修繕計画の記載事例として横浜市の橋梁計画が紹介されています。そこでは、1巡目の点検でロープアクセスにより点検した30橋について新技術の活用を検討し、点検費用を300万円縮減するという目標が書かれています。
道路の橋でも、足場や高所作業車が使いにくい場所ではロープアクセスが点検手段の一つとして使われ、その先の効率化まで計画に書き込まれている。現場の人間として、心強く感じる記述でした。ロープアクセスの技術的な基礎や安全の考え方は、姉妹サイトのロープアクセスドットコムで詳しく解説しています。
マンションの長期修繕計画も構造は同じ|管理組合にとって「対岸の火事」でない理由
長期修繕計画作成ガイドライン(令和3年9月・令和6年6月改定)のポイント
マンションには、道路の長寿命化修繕計画にあたるものとして「長期修繕計画」があります。国土交通省は令和3年9月に「長期修繕計画作成ガイドライン」を改定し、既存マンションの計画期間を大規模修繕工事2回を含む30年以上としました(出典:国土交通省 報道発表資料)。さらに令和6年6月7日には、段階増額積立方式の考え方を「長期修繕計画作成ガイドライン」と「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」に反映しています(出典:国土交通省 報道発表資料(PDF))。
| 項目 | 主な内容 | 出典 |
|---|---|---|
| 計画期間 | 既存マンションも、大規模修繕工事2回を含む30年以上(従来は25年以上) | 国交省 報道発表 |
| 段階増額積立方式 | 初期額は均等積立方式の0.6倍以上、最終額は1.1倍以内が目安 | 国交省 報道発表資料(PDF) |
| 修繕積立金の目安 | 例:20階未満・延床面積5,000㎡未満の平均は専有床面積1㎡あたり月額335円 | 修繕積立金ガイドライン |
| 管理計画認定の基準 | 計画期間30年以上、残存期間内に大規模修繕工事を2回以上含むこと等 | 管理計画認定に関する事務ガイドライン |
道路の計画と同じく、マンションの長期修繕計画も「劣化診断の結果を踏まえて、いつ・どこを・いくらで直すか」を書く設計図です。
修繕積立金は「計画」の裏付けで集めたお金
ここが一番大切な点です。修繕積立金の月額は、長期修繕計画に載っている工事の費用を、区分所有者みんなで少しずつ積み立てるために決められています。言い換えると、修繕積立金は「計画の工事をするため」に集めたお金です。
道路の補助金が「計画に基づく修繕」のために用意されていたのと、構造はよく似ています。計画にない工事にお金を回せば、計画にある工事の財源がその分減る。それが、会計検査院が指摘した問題の本質であり、マンションでも起こり得ることです。
(用語補足:長期修繕計画=30年程度先までの修繕工事の時期と費用の予定表。劣化診断=外壁や防水、設備の傷み具合を専門家が調べること。)
教訓① 「足場があるうちに、ついでに」は本当に得か
足場の同時施工には、確かに合理性がある
まず公平に書きます。足場を組む工事では、足場の費用が工事全体の中で大きな割合を占めます。私の見積実務の目安では、30戸規模のマンションの大規模修繕で総工費3,500万〜5,000万円のうち、仮設足場が15〜25%程度になることがあります(物件の形状・階数・立地で大きく変わります)。
足場を一度払ってしまえば、次に外壁で何かするときにまた足場代がかかる。だから「組んでいるうちにまとめてやる」のは、多くの場合に理にかなった判断です。
それでも「ついで工事」が積立金を食う構造
問題は、その「ついで」が積み重なったときです。現場でよく見る例を挙げます。
- 計画では次回に予定していた鉄部塗装を、前倒しで今回に入れる
- 劣化診断で「当面問題なし」とされた部位まで、念のため交換する
- 共用部の照明や意匠の変更(グレードアップ)を、修繕工事の追加として入れる
一つひとつは数十万〜数百万円でも、合計すると数百万円から1,000万円を超えることがあります。しかも、これらが「修繕工事の一部」として一括で決議されると、本来の修繕と、ついでの改良工事の区別が区分所有者に見えにくくなります。
グレードアップ自体は悪いことではありません。資産価値を上げる改良工事は、私もむしろ積極的に提案します。大事なのは、「計画の修繕」と「計画外の改良」を分けて、それぞれ理由と金額を説明することです。
ロープアクセスなら「必要な時に、必要な場所だけ」を選びやすい
ここで、足場とロープアクセスの違いが効いてきます。ロープアクセス工法は、屋上などの堅固な支持点からメインロープとバックアップロープの2本に接続して作業員が下降し、外壁を直接補修する工法です。足場を組まないので、「次にまた足場代がかかるから今やっておく」というプレッシャーが小さくなります。
つまり、
- 急ぐ部位は、今回まとめて直す
- まだ急がない部位は、計画どおり次回に回す
- 途中で不具合が出たら、その場所だけロープアクセスで部分補修する
という、計画に忠実な進め方を取りやすいのです。明誠のロープアクセス工法の技術詳細はロープアクセス工法のご紹介でご覧いただけます。
ただし、ロープアクセスにも向き不向きがあります。広い面積を一度に塗り替える工事や、複雑な形状の建物では、足場の方が効率的な場合もあります。だから明誠では、通常足場・ロープアクセス・ハイブリッドの3工法を比べたうえでご提案しています。
教訓② 優先順位を崩すと、本当に急ぐ修繕が遅れる
会計検査院の懸念は「早期対応が必要な修繕の遅れ」
報道によると、会計検査院は、補助対象外の工事に補助金が使われると、早期の対応が必要な修繕が遅れるおそれがあると指摘しています。予算は有限です。計画にない工事に使えば、計画にある工事の順番が後ろにずれます。
私が現場で見てきた「順番の逆転」
私が20年の現場で何度も見てきたのは、こんなパターンです。前回の大規模修繕で、エントランスの改装や植栽の整備など目に見える部分に予算をかけた一方、屋上防水の更新は「まだもつだろう」と次回送りにしていた。
数年後、最上階の住戸で雨漏りが起き、調べると防水層の端部から雨水が回り込んで、下地のコンクリートまで傷んでいる。防水だけを予定どおり更新していれば済んだはずの工事に、下地の補修と室内の復旧が加わり、結果的に費用が膨らんでしまう——というものです。
私はいつも理事長さまに、「見た目の改良は後からでも取り返せますが、防水と外壁の劣化は放置すると工事の範囲が広がります」とお伝えしています。道路の橋でも、マンションでも、順番を守ることがいちばんの節約になります。
判定区分の考え方を、マンションにも
道路の点検では、構造物の状態を判定区分で整理し、急ぐものから計画に載せます。マンションの劣化診断でも、部位ごとに「すぐ直す」「次回の大規模修繕で直す」「経過観察」の3段階程度に分けてもらうと、理事会での議論がしやすくなります。
| 区分(例) | 状態の目安 | 長期修繕計画での扱い |
|---|---|---|
| A:すぐ直す | 漏水・タイルの浮き・鉄筋の露出など | 直近の工事で優先的に実施する |
| B:次回で直す | 塗膜の劣化・シーリングの硬化など | 計画どおりの時期に入れる |
| C:経過観察 | 軽微な汚れ・ヘアクラックなど | 点検で推移を見る |
(区分の名称と内容は、説明のための例です。実際は診断を行う専門家の基準に従ってください。)
教訓③ 補助金・税制の要件は「契約前」に確認する
公的な支援には「要件」がある
今回の問題は自治体と国の間の話ですが、マンションの管理組合が補助金や税制優遇を使う場面でも、同じことが言えます。要件に合わない工事をしてしまうと、後から「対象外」と言われても取り返しがつきません。
例:マンション長寿命化促進税制
代表例が「マンション長寿命化促進税制」です。横浜市の案内によると、主な要件は次のとおりです(出典:横浜市「長寿命化に資する大規模修繕工事を行ったマンションに対する固定資産税の減額」)。
- 令和5年4月1日から令和9年3月31日までに、長寿命化に資する大規模修繕工事が完了していること
- 外壁塗装等工事・床防水工事・屋根防水工事のすべてを行うこと
- 今回の工事より前に、外壁塗装等・床防水・屋根防水の工事を1回以上すべて実施していること
- 新築から20年以上経過し、総戸数が10戸以上であること
- 専有部分の床面積の2分の1以上が居住用であること
- 管理計画の認定を受けている、または自治体の助言・指導を受けて長期修繕計画を見直した管理組合であること
- (管理計画認定マンションの場合)令和3年9月1日以降に、修繕積立金を管理計画の認定基準まで引き上げていること
- 工事完了から3か月以内に申告すること
減額の割合は自治体によって異なり、横浜市では工事完了の翌年度分の固定資産税(家屋、1戸あたり100㎡相当分まで)を2分の1減額としています。
注目してほしいのは、「外壁・床防水・屋根防水をすべて行う」という工事内容の要件です。たとえば「屋根防水は次回に回す」と決めた場合、この税制の対象から外れる可能性があります。工事範囲を決める段階で、税制の要件と照らし合わせておく必要があるのです。
自治体の助成も、要件は個別に違う
東京都や都内の区市、神奈川・埼玉・千葉の各自治体にも、マンションの劣化診断や長期修繕計画の作成、改修工事への助成制度があります。ただ、対象となる工事・申請の時期(多くは工事の契約前)・予算枠は自治体ごとに異なります。年度によって内容が変わることも多いので、令和8年度の最新の要綱を、各自治体の公式ページで確認してください。
私の経験上、もったいないのは「工事が終わってから助成制度を知った」というケースです。契約の前に、理事会で一度「使える制度はないか」を確認するだけで、結果が変わることがあります。
教訓④ 計画の外の工事をするなら、総会で「理由」を残す
計画外の工事が「悪」なのではない
長期修繕計画は予定表です。実際の建物は計画どおりに傷むとは限りません。点検で想定外の劣化が見つかれば、計画を前倒しして直すべき場面もあります。逆に、想定より状態が良ければ先送りできることもあります。
大切なのは、計画から外れるときに、その理由と金額を記録に残すことです。道路の補助制度でも、計画の策定・更新そのものが事業に含まれています。マンションも同じで、工事の前に長期修繕計画を見直し、その内容を総会で確認する流れをつくっておくと、後から説明に困りません。
総会資料に入れておきたい3点
私が管理組合の皆さまにおすすめしているのは、総会の議案書に次の3点を明記することです。
- 計画どおりの工事:長期修繕計画のどの項目に当たるか
- 計画を前倒し・追加する工事:どの診断結果を根拠に、なぜ今やるのか
- 改良工事(グレードアップ):修繕とは分けて、金額と効果を示す
こうしておけば、区分所有者の方も「何にいくら使うのか」を判断しやすくなります。公正取引委員会がマンション大規模修繕工事の談合で42社の独占禁止法違反を認定したと報じられたいま(出典:日経クロステック)、発注の透明性を高める意味でも有効だと考えています。
教訓⑤ 工法は「比べて」から決める
公共インフラが求める比較検討を、マンションでも
先ほど触れたとおり、道路メンテナンス事業補助制度では、従来工法だけでなく新技術を加えて比較することが補助要件になっています。マンションの大規模修繕でも、最初から「足場ありき」で見積りを取るのではなく、工法を比べるところから始めることをおすすめします。
3工法の比較
| 工法 | 向いている建物・工事 | 主なメリット | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 通常足場工法 | 中低層、全面塗装、複雑な形状 | 作業範囲が広く、全面工事に強い | 足場費がかかる。採光・防犯面の負担 |
| ロープアクセス工法(無足場) | 高層、部分補修、調査、足場が組みにくい立地 | 仮設費と工期を抑えやすい。居住者の負担が小さい | 大面積の一括塗装は工期が延びる場合あり |
| ハイブリッド工法 | 面ごとに条件が違う大規模・複雑な建物 | 部位ごとに最適な方法を選べる | 計画と工程管理の力量が必要 |
部位ごとの単価の目安
参考として、明誠の見積実務での目安を示します。実際の金額は建物の規模・劣化の状態・立地で大きく変わりますので、あくまで目安としてご覧ください。
| 工事項目 | 単価の目安 |
|---|---|
| 外壁塗装 | 3,500〜4,500円/㎡ |
| 外壁打診調査 | 250〜500円/㎡ |
| 防水工事 | 5,000〜8,000円/㎡ |
足場・ロープアクセス・ハイブリッドで見積りを並べると、仮設費の差だけでなく、工期や居住者への影響まで比べられます。明誠の大規模修繕の料金の考え方は料金についてにまとめています。
想定ケースで考える|築28年・50戸・延床4,000㎡のマンション
数字で考えてみます。以下は説明のための想定です。
想定する建物
- RC造8階建て、50戸、延床面積4,000㎡、築28年
- 総専有床面積は3,000㎡(50戸×平均60㎡)と仮定
- 修繕積立金は国のガイドラインの平均(20階未満・延床5,000㎡未満の区分で専有1㎡あたり月額335円)と同水準と仮定 → 月約100万円、年約1,206万円(335円×3,000㎡)
「ついで工事」を足すと何が起きるか
2回目の大規模修繕で、計画外の「ついで工事」を300万円分追加したとします。300万円は、このマンションの修繕積立金の約3か月分です(300万円÷約100万円)。
一見小さく見えますが、同じことを毎回の工事で繰り返せば、30年の計画期間のうちに積立金の不足が生じ、一時金の徴収や積立金の値上げにつながる可能性があります。
計画に忠実に進めた場合
一方で、劣化診断をもとに次のように整理したとします。
- A区分(すぐ直す):屋上防水・外壁のタイル浮き補修 → 今回実施
- B区分(次回で直す):一部の鉄部塗装 → 計画どおり次回
- 改良工事:共用部の照明更新 → 修繕とは別議案で、効果(電気代の削減など)を示して決議
さらに、外壁の部分補修が中心の面にはロープアクセスを使い、全面塗装が必要な面だけ足場を組むハイブリッドにすれば、仮設費を抑えられる場合があります。どの程度抑えられるかは建物次第ですが、こうした比較を見積りの段階で行うことが、積立金を守る第一歩です。
管理組合・オーナーが今月からできるチェックリスト
- 長期修繕計画の最終見直し日を確認する(国の長期修繕計画作成ガイドラインでは5年程度ごとの見直しが示されています。国交省 報道発表)
- 直近の劣化診断の結果を、計画に反映しているか確認する
- 次回の大規模修繕の工事項目を、「計画どおり」「前倒し・追加」「改良」に色分けする
- 使えそうな補助金・税制を、契約前にリストアップする(自治体の公式ページで令和8年度の要綱を確認)
- 工法を比較した見積りを依頼する(足場・ロープアクセス・ハイブリッド)
- 総会資料に、計画外工事の理由と金額を明記する
管理組合向けの明誠のサービスは管理組合さま向けページで紹介しています。賃貸マンションのオーナーさまも、考え方は同じです。
注意点|この記事の読み方について
注意点①:会計検査院の数字は報道ベース
本記事の149億円・469件などの数字は、2026年10月6日の各社報道に基づいています。報道によって、件数を「契約」で数えるか「カ所」で数えるかが異なります。正確な内容は、会計検査院の公表資料で確認してください。
注意点②:「計画外の工事=悪」ではない
想定外の劣化が見つかれば、計画を前倒しすることは正しい判断です。問題は、理由と金額が説明されないまま計画外の工事が積み重なることです。
注意点③:税制・助成の要件は自治体ごとに異なる
マンション長寿命化促進税制の減額割合や、自治体の助成の内容は地域で異なります。適用の可否は、各自治体の税務・住宅担当窓口でご確認ください。
注意点④:単価は目安
本記事の単価や費用は、明誠の見積実務での目安や説明のための想定です。実際の金額は現地調査のうえでお見積りします。
私が管理組合の皆さまに伝えたいこと
正直に申し上げます。大規模修繕の見積書は、工事項目が多く、どれが計画どおりで、どれが「ついで」なのか、専門家でないと見分けにくい作りになっていることがあります。
私は、管理組合さまやオーナーさまに「全部やりましょう」とお勧めすることはしません。点検の結果を見て、急ぐものから順番に、そして足場・ロープアクセス・ハイブリッドのどれが建物に合うかを比べて、必要な分だけを提案する。それが、修繕積立金という皆さまの大切なお金を預かる者の責任だと考えています。
明誠はこれまでに約6,000棟のマンション・ビル・ホテルの大規模修繕を手がけてきました。ロープアクセス工法での高所作業について、明誠および全国のフランチャイズ加盟企業では過去16年間、墜落による労働災害ゼロを維持しています。IRATA(国際産業ロープアクセス協会)水準の技能訓練、ISO9001の品質マネジメントのもとで、安全と品質を両立させています。明誠の安全管理の取り組みは安全管理についてをご覧ください。これまでの施工は明誠の施工事例でご紹介しています。
ロープアクセスの技術情報や業界の動きは、姉妹サイトロープアクセスドットコムでも発信しています。工法の詳しい比較を知りたい方は、あわせてご覧ください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 会計検査院は何を指摘したのですか?
A. 報道によると、国土交通省の道路メンテナンス事業補助制度で、長寿命化修繕計画に記載のない修繕や、点検結果を踏まえない耐震補強、トンネル照明のLED化などが補助対象とされていた契約が、88自治体で計469件、補助金相当額で約149億円あったと指摘しました。
Q2. マンションの管理組合に関係があるのですか?
A. 直接の関係はありませんが、構造はよく似ています。マンションの修繕積立金も長期修繕計画の工事のために集めたお金で、計画にない工事に回すと、計画にある工事の財源が減ります。
Q3. 「足場があるうちに、ついでに直す」のはダメなのですか?
A. ダメではありません。足場を使う工事では、まとめて行う方が合理的な場合も多くあります。大切なのは、計画どおりの修繕と、計画外の追加・改良を分けて、理由と金額を区分所有者に示すことです。
Q4. 長期修繕計画は、どのくらいの頻度で見直せばよいですか?
A. 国土交通省の長期修繕計画作成ガイドラインでは、5年程度ごとに長期修繕計画を見直すことが示されています(国交省 報道発表)。計画期間は、既存マンションも大規模修繕工事2回を含む30年以上とされています(国交省 報道発表)。
Q5. マンション長寿命化促進税制を使うには何が必要ですか?
A. 主な要件は、令和9年3月31日までの工事完了、外壁塗装等・床防水・屋根防水のすべての実施、築20年以上・10戸以上、管理計画認定などです。詳細と減額割合は自治体ごとに異なるため、所在地の自治体でご確認ください。
Q6. ロープアクセス工法の見積りや調査をお願いすると、費用はかかりますか?
A. 明誠では、建物の現地調査と概算のお見積りを無料で承っています。足場・ロープアクセス・ハイブリッドの3工法を比べたうえでご提案します。お問い合わせフォームからご相談ください。
この記事のポイントまとめ
- 会計検査院の調査で、橋・トンネル修繕の補助金のうち約149億円(88自治体・469件)が補助対象外と報じられた
- 主な原因は「長寿命化修繕計画にない工事」「点検結果を踏まえない工事」への支出
- マンションの修繕積立金も、長期修繕計画の工事のために集めたお金で、構造は同じ
- 「ついで工事」は、計画どおりの修繕と分けて理由と金額を見える化する
- 補助金・税制の要件は契約前に確認し、工法は足場・ロープアクセス・ハイブリッドを比べてから決める
出典・参考資料
- 東京新聞(共同通信)「補助対象外工事に149億円 自治体の2割、トンネルや橋修繕」(2026年10月6日)
- 日本経済新聞「道路補修の補助対象外工事に149億円 検査院調査、自治体2割で判明」(2026年10月6日)
- 時事ドットコム「橋やトンネル修繕補助金を目的外使用 照明LED化などに149億円―検査院」(2026年10月6日)
- 国土交通省関東地方整備局「道路メンテナンス事業補助制度」
- 国土交通省「『長期修繕計画標準様式、長期修繕計画作成ガイドライン・同コメント』及び『マンションの修繕積立金に関するガイドライン』の見直しについて」(令和3年9月28日)
- 国土交通省「『長期修繕計画作成ガイドライン・同コメント』及び『マンションの修繕積立金に関するガイドライン』の改定について」(令和6年6月7日)
- 国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」(令和6年6月改定)
- 国土交通省「マンションの管理計画認定に関する事務ガイドライン」
- 横浜市「長寿命化に資する大規模修繕工事を行ったマンションに対する固定資産税の減額」
- 日経クロステック「マンション修繕談合に独禁法違反認定、有力企業含む42社 国交省が対策へ」
▼ロープアクセス工法・無足場工法の詳細解説はこちら
ロープアクセスドットコム|無足場工法専門メディア
計画を守ることは、地味ですが、いちばん確実に修繕積立金を守る方法です。次の大規模修繕の前に、長期修繕計画と見積書を一度見比べてみてください。現地調査と概算のお見積りは無料で承っています。お問い合わせフォームからお気軽にご相談ください。次回も、現場で本当に使える話だけをお届けします。
この記事の執筆者
本間 幸紘(ほんま ゆきひろ)
株式会社明誠 代表取締役/東京都東大和市
マンション・ビル・ホテルの大規模修繕20年以上の実務経験。3工法(通常足場/ロープアクセス/ハイブリッド)から建物特性に応じて最適提案。日本初のロープアクセス工事フランチャイズ本部を運営。JCSA(一般社団法人 全国建設業支援協会)代表理事。
最終更新:2026年10月9日
関連記事(姉妹サイト)
ロープアクセス工法の詳細や実例については、姉妹サイト「ロープアクセスドットコム」の以下の記事もぜひご覧ください。
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『大規模修繕工事 職人だから言える本当の話 —— 見積書では見えない業界の裏側と、修繕積立金を守る発注術』(Kindle版)を出版しています。20年以上の現場経験から、管理組合・オーナーが修繕積立金を守るための発注術と、業界の内幕を書き下ろしました。
マンション理事会の運営が不透明なとき区分所有者にできること|総会招集請求と改正区分所有法、大規模修繕の発注を理事長任せにしない備え【2026年10月】
この記事で分かること
「理事長や理事会に意見を言っても取り合ってもらえない」「管理会社は、規約に反していても理事長に従うだけに見える」——マンション管理の現場では、こうした不満の声を耳にすることが少なくありません。
この記事では、次の問いにお答えします。マンションの理事会運営が不透明だと感じたとき、区分所有者は法的にどんな手段を使えるのか。そして、その不透明さは、大規模修繕の費用や品質にどう響くのか?
きっかけは、2026年10月3日にGoogleアラート(「マンションオーナー」)で届いた、THE GOLD ONLINEの記事です。マンション管理士の松本洋さんが、不満を抱く住民が行使できる法的な対抗手段を解説しています。記事によると、管理組合は区分所有者が自ら役員を選び運営する自治組織であるため、行政が個々の対立を仲裁したり、総会決議の有効・無効を判断したりすることには限界がある、という趣旨です。そのうえで、総会招集請求という手段が紹介されています(出典:THE GOLD ONLINE 配信記事)。なお、私が確認できたのは記事の一部で、全文ではありません。ここでは紹介されている内容を起点に、一般論としてお話しします。
私は株式会社明誠の本間と申します。東京都東大和市を拠点に、マンション・ビル・ホテルの大規模修繕を20年以上やってきました。足場を組む工事も、足場を使わないロープアクセス工事も、現場で両方を経験しています。
結論を先に書きます。理事会が不透明だと感じたとき、いきなり対立に進むのではなく、①情報の開示を書面で求める、②区分所有者の5分の1以上で総会の招集を請求する、③専門家を交えて第三者の目を入れる、という順に考えるのが現実的だと私は考えています。 規約によって要件が異なる場合もあるため、最終的な判断は規約の確認と専門家への相談が前提です。
そして大規模修繕に関わる立場として強くお伝えしたいのは、「不透明さ」が一番お金に響くのは、工事の発注の場面だということです。理事長ひとりに任せきりにしない仕組みを、工事の前につくっておくことが、修繕積立金を守る近道だと私は思っています。
なお、この記事は法的な助言ではありません。個別の管理組合の規約や決議の有効性は、規約の内容や経緯によって変わります。判断に迷う場合は、マンション管理士や弁護士などの専門家にご相談ください。
何が起きている?理事会の「不透明さ」と管理会社任せの構図
不満の中身は、大きく3つに分かれる
私が理事長さまや区分所有者の方からお聞きする不満は、おおむね次の3つに整理できます。
- 情報が出てこない:理事会の議事録が共有されない、収支の説明が簡単すぎる、見積りの中身が見られない
- 意見が通らない:総会や理事会で質問しても、十分な回答がないまま議事が進む
- 管理会社が動かない:規約違反が疑われる場面でも、管理会社が理事長の意向に従うだけに見える
どれも、感情的な対立に発展しやすいテーマです。ただ、私は現場で多くの管理組合を見てきて、悪意のある理事長さんは少数ではないかと感じています。多くの場合は、ボランティアで役員を引き受けた方が、専門知識のないまま、忙しさのなかで判断を急いでしまった結果として「不透明」に見えている、というのが私の実感です。
管理組合は「自治組織」だから、行政は個別の対立に入りにくい
前述の記事が指摘するとおり、管理組合は区分所有者が自ら運営する自治組織です。そのため、国や自治体が「この総会決議は有効」「この理事長の判断は無効」と判定することは、基本的にはできないと考えられます。
行政ができるのは、主に標準管理規約などの指針の整備、相談窓口の案内、管理計画認定制度のような仕組みづくりです。個別の紛争は、組合内部の手続きや、マンション管理士・弁護士などの専門家、場合によっては裁判所を通じて解決していくことになります。
だからこそ、組合員自身が「どんな手続きがあるのか」を知っておくことが、とても大切になります。
管理会社は「理事長の指示で動く」立場であることが多い
もう一点、知っておきたいのは管理会社の立ち位置です。管理会社は管理委託契約に基づいて業務を行う受託者で、指示の相手は管理組合、実際には理事長や理事会であることが一般的です。
そのため、理事長が決めたことに管理会社が異を唱えにくい構造があります。管理会社が悪い、という話ではありません。構造として、第三者のチェックが働きにくいのです。だからこそ、区分所有者の側から、手続きに沿って確認の声をあげる意味があります。
区分所有者が使える手段|まずは「情報の開示」から
手段1:帳票類の閲覧を、理由を付けた書面で請求する
最初の一歩として、私がお勧めしやすいのは、感情的な議論ではなく書面での情報開示の請求です。国土交通省が示す標準管理規約(マンション標準管理規約。コメントを含む)には、理事長が会計帳簿や組合員名簿などの帳票類を保管し、組合員や利害関係人から理由を付した書面で請求があったときは閲覧させる、という趣旨の定めがあります(出典:国土交通省 マンション標準管理規約)。
ただし、実際に適用されるのは、各マンションが定めている管理規約です。条文の番号や細かな要件は、規約によって異なる場合があります。まずは、お住まいのマンションの規約で「閲覧」「帳票」「議事録」といった言葉を探してみてください。
請求のときのコツは3つあります。
- 目的を具体的に書く:「大規模修繕の見積り比較資料を確認したい」など、理由を明確にする
- 対象を絞る:「全部見せてください」ではなく、議事録、見積書、契約書の写しなど、必要なものを特定する
- 記録を残す:口頭ではなく書面で請求し、日付と控えを保管する
手段2:理事会・総会で、書面による質問をする
次に、総会の議案書に質問を書き込む、あるいは理事会に対して質問書を提出する方法です。口頭の質問は、その場の空気に流されたり、議事録に残らなかったりします。書面にしておけば、回答の有無が記録として残ります。
質問は、事実を問う形にするのがコツです。「なぜ○○なのか」と責めるのではなく、「見積りは何社から取りましたか」「選定の基準は何ですか」と、答えやすい形で聞きます。
手段3:専門家(マンション管理士など)に第三者の目を入れてもらう
役員が代わったばかり、あるいは専門知識が足りないことが、不透明さの原因になっている場合は、外部の専門家に入ってもらうのが効果的です。マンション管理士は、管理組合の運営や規約、修繕計画について助言する国家資格者です。
最近は、外部の専門家が理事長や監事を務める「第三者管理者方式」を採る組合もありますが、費用や責任の範囲、利益相反の防止など、検討すべき点も多い仕組みです。導入する場合は、総会で十分に議論するのが前提です。
総会招集請求とは|区分所有者の5分の1以上でできる手続き
区分所有法に定められた「少数者の権利」
それでも話が進まない場合に検討されるのが、総会(集会)の招集請求です。区分所有法には、区分所有者の5分の1以上で、議決権の5分の1以上を有するものは、会議の目的である事項を示して、管理者に集会の招集を請求できるという趣旨の規定があります。この定数は、規約で減らすことができるとされています(出典:e-Gov法令検索 建物の区分所有等に関する法律 第34条第3項)。
前述の記事では、標準管理規約に沿った運用として、次のような流れが紹介されています。
| 項目 | 内容(記事の紹介を要約) |
|---|---|
| 請求の要件 | 組合員総数と議決権総数の両方で、5分の1以上の同意 |
| 理事長の対応 | 請求から2週間以内に招集通知を発する |
| 開催の時期 | 原則として、請求から4週間以内に開催 |
| 理事長が応じない場合 | 請求した組合員が、自ら総会を招集できる |
これらの数字や期限は、各マンションの規約によって異なる場合があります。お住まいの規約を、まず確認してください。
実際に進めるときの現実的な手順
総会招集請求は、権利として認められている一方で、進め方を間違えると、組合内の人間関係に長く影響が残ります。私が現場でお聞きした範囲での、現実的な進め方をまとめます。
- 規約と議事録を読み込む:請求の要件、議題の立て方、費用負担のルールを確認する
- 賛同者を静かに集める:5分の1という数字は、思っているよりも高いハードルです。賛同者名簿を作り、署名の形で記録する
- 議題を具体的にする:「理事長の解任」といった人への批判ではなく、「大規模修繕の発注方法の見直し」など、運営の改善に焦点を当てる
- 請求書を、記録の残る方法で提出する:内容証明郵便や、受領印をもらう方法を検討する
- 専門家に事前相談する:書面の書き方や、議案の立て方を確認する
議題の立て方で、結果は大きく変わります。「誰が悪いか」ではなく「どう仕組みを直すか」に焦点を当てた議案のほうが、多くの区分所有者の共感を得やすいと私は感じています。
令和8年4月施行の改正区分所有法|総会の決議はどう変わったのか
施行日と、国が示した「2つの老い」への対応
2025年(令和7年)5月30日に公布された、老朽化マンション等の管理及び再生の円滑化等を図るための区分所有法等の改正は、令和8年(2026年)4月1日に施行されています(出典:法務省 改正法の概要ページ)。国土交通省と法務省は、建物の高経年化と居住者の高齢化という「2つの老い」に対応して、管理と再生を円滑にすることを狙いとしています。
決議の円滑化|出席者を母数とする考え方
法務省の資料によると、改正の柱の一つが決議の円滑化です。区分所有権の処分を伴わない事項について、全区分所有者ではなく出席者を母数とした多数決で決議できるようになりました。総会に出席しない(できない)区分所有者が多いマンションで、決議が成立しにくいという課題に対応するものです。
加えて、裁判所の決定により所在等が不明な区分所有者を、決議の母数から除外できる仕組みも整えられました。連絡のつかない所有者がいても、総会の意思決定が止まりにくくなります。
具体的な決議要件の数値は、決議の種類によって異なります。詳細は、法務省の最新資料(区分所有法・被災区分所有法の改正について)で、ご確認ください。
標準管理規約も改正された
国土交通省は、この法改正に合わせて、令和7年10月17日にマンション標準管理規約の改正を公表しています。総会の決議要件や修繕積立金の使途など、全8項目程度が見直しの対象とされており、「皆様のマンションの管理規約も見直しが必要です」と呼びかけられています(出典:国土交通省 報道発表資料)。
この改正は、理事会の不透明さの問題とどうつながるか
ここが大切なポイントだと私は考えています。決議が円滑になるということは、少人数の出席でも、重要な決議が成立しやすくなるということでもあります。裏を返せば、総会に出席せず、議決権行使書や委任状だけで済ませてきた区分所有者の「意思表示の重み」が、これまで以上に大きくなります。
大規模修繕のような高額な議案が、少数の出席者で決まってしまう可能性もゼロではありません。だからこそ、議案書を事前によく読む、質問は書面で出す、可能な限り総会に出席することが、区分所有者自身の財産を守る行動になります。
大規模修繕で「不透明さ」が一番お金に響く理由
発注の場面は、ひとりの判断に集中しやすい
マンションの大規模修繕は、一般に築12〜15年前後から繰り返し行われ、1回の工事費は規模により数千万円から数億円になる例が多いとされます。管理組合にとって、最も大きな支出の一つです。
その一方で、工事会社の選定、設計監理の依頼先、見積りの比較といった重要な判断が、理事長や一部の理事、あるいは管理会社の提案に集中してしまう例があります。ここに情報の偏りが生じると、価格や仕様の妥当性を、他の区分所有者が検証できなくなります。
談合報道が示した「発注の仕組み」の弱さ
朝日新聞の社説では、関東地方のマンション大規模修繕工事で談合を繰り返したとして、公正取引委員会が独占禁止法違反を認定した問題が取り上げられました。報道によれば、設計コンサルタント会社が、受注予定の工事会社が選ばれるよう誘導したとされ、対象は171か所に及んだとされています(出典:朝日新聞 社説「マンション談合 業者は補償、国は是正を」)。私は、この件の詳細な事実関係を、公式資料で一つずつ確認したわけではなく、社説の本文も全文は確認できていません。ここでは報道が指摘した点として紹介します。
私がこの種の報道から受け取るのは、特定の会社や人への批判ではありません。「発注の仕組みが、第三者の目の届かないところで固まってしまうと、管理組合の側に不利益が生じかねない」という、構造的な教訓です。
談合のような不正までいかなくても、次のような「不透明さ」は、現場で珍しくありません。
- 見積りの比較表が、金額だけで、仕様や数量の違いが分からない
- 選定の理由が、総会で十分に説明されない
- 設計コンサルタントや管理会社と、工事会社との関係が開示されない
- 工事中の変更や追加の費用が、事後報告になりやすい
私が現場で感じる「説明できる発注」の価値
私は施工の側にいる人間ですが、説明のできる発注のほうが、結果として工事の品質も、施工会社との信頼関係も良くなると感じています。見積りの内訳が明確で、住民の質問に答える場が設けられている現場は、工事中のトラブルも少なく、完成後の評価も安定している、というのが私の経験上の実感です。
理事会を開かれたものにする、5つの実務
不透明さを解消するのは、疑いの目を向けることではなく、仕組みで見える化することだと私は考えています。理事会側、区分所有者側のどちらにも役立つ5つの実務を挙げます。
実務1:修繕委員会を設け、理事会と役割を分ける
大規模修繕は、専門的で時間のかかる検討事項です。理事会とは別に、修繕委員会を設置し、複数の区分所有者が検討に関わる形にすると、判断の偏りが減ります。委員会の設置や権限は、総会の決議や規約の定めに沿って整えます。
実務2:検討経過を、議事録と掲示・配布で共有する
検討の経過を、議事録として残し、掲示板や配布物で共有します。電磁的方法(メールや専用の連絡ツール)を使えば、コストを抑えながら、共有の頻度を上げられます。
実務3:見積りは、条件をそろえた「相見積り」で取る
見積りは、同じ仕様書(工事の範囲、使用材料、数量、工期)をもとに、複数社から取ります。条件がそろっていない見積りは、金額を比べても意味がありません。目安として、3社程度に声をかける管理組合が多い印象ですが、社数が多ければよいわけでもありません。条件のそろえ方と、各社への説明会の持ち方が大切です。
実務4:設計コンサルタントや管理会社の関与を、開示する
設計監理を依頼する会社や、管理会社の関与の仕方、報酬の仕組みを、総会などで説明します。工事会社との関係に利益相反がないか、関係がある場合はどう管理するかを、あらかじめ確認します。
実務5:「工法の比較」も、検討の入り口に入れる
大規模修繕は、足場を組む通常工法だけではありません。ロープアクセス工法(ロープで建物の外壁を移動して作業する工法)や、足場とロープアクセスを組み合わせるハイブリッド工法という選択肢もあります。工法の選択肢が1つしかないと、比較そのものができません。 検討の入り口で複数の工法を並べることも、透明性を高める有効な方法の一つです。ロープアクセス工法の技術情報は、姉妹サイトのロープアクセスドットコムにも詳しくまとめています。
足場・ロープアクセス・ハイブリッドの3工法を比べる
建物の形、劣化の状況、周辺の環境によって、向いている工法は変わります。特定の工法が常に優れているわけではない、というのが私の基本的な立場です。
| 項目 | 通常足場工法 | ロープアクセス工法 | ハイブリッド工法 |
|---|---|---|---|
| 向いている建物 | 大規模・複雑な形状で、全面的な改修が必要 | 部分補修、外壁調査、ゴンドラ不可の狭小地 | 全面と部分が混在する建物 |
| 費用の傾向 | 足場の仮設費がかかる | 足場費を抑えやすい場合がある | 条件に応じた組み合わせで最適化 |
| 工期の傾向 | 足場の組立・解体の期間が必要 | 仮設が少なく、短くなる場合がある | 組み合わせにより調整 |
| 注意点 | 近隣への圧迫感、防犯面の配慮 | 作業量が多いと割高になる場合がある | 計画と工程管理に経験が必要 |
この表は一般的な傾向を示したもので、実際の費用や工期は、現地調査と見積りで確認する必要があります。私たち明誠は、3工法のどれも自社で提案できる立場です。だからこそ、「この工法ありき」ではなく、建物にとってのベストを、比較のうえで説明することを大切にしています。詳しくは、大規模修繕工事のご紹介とロープアクセス工法のご紹介をご覧ください。
想定ケースで考える|築26年・90戸のマンションの場合
ここからは、実在の物件ではない、想定ケースです。
想定する状況
築26年、90戸のマンション。2回目の大規模修繕を控え、理事長が管理会社の推薦する工事会社1社から見積りを取り、総会で承認を得ようとしています。一部の区分所有者は「金額の根拠が分からない」と感じています。
想定される3つの進め方
- そのまま進める:総会で承認が得られれば工事は進みます。ただし、金額の妥当性への疑問が残り、工事後も不信感が残る可能性があります
- 書面で情報開示を求め、質問書を出す:見積りの内訳、選定理由、他社への依頼状況を確認します。理事会が丁寧に回答すれば、疑問が解消されることも多いと考えられます
- 修繕委員会を立ち上げ、相見積りに切り替える:条件をそろえた複数社の見積りと、工法の比較を行います。時間はかかりますが、説明の根拠が整います
私は、この3つのうち、2から3へと進むのが、一番現実的だと考えています。総会招集請求は、これらの手段で解決しない場合の、最後の選択肢として位置づけるのが、組合内の関係を守るうえでも望ましいと私は思います。
区分所有者・理事会、それぞれが今日からできること
区分所有者の方へ
- 規約を読み、「閲覧請求」「総会招集請求」の条文と要件を確認する
- 議案書は事前に読み、不明点は書面で質問する
- 総会には、できるだけ出席する。出席が難しい場合も、議決権行使書には意思を示す
- 疑問は、人への批判ではなく「仕組みの改善」として提案する
理事長・理事の方へ
- 検討の経過を、議事録と配布物で共有する
- 見積りは、条件をそろえた相見積りで取り、比較表を示す
- 修繕委員会など、複数の目が入る体制をつくる
- 令和7年改正の標準管理規約を踏まえ、自分のマンションの規約を見直す
理事長のお仕事は、本当に大変です。無報酬で、専門外のことを判断する責任を負っています。だからこそ、「ひとりで抱え込まない」ための仕組みが、理事長ご自身を守ることにもつながると私は考えています。
注意点|この記事の読み方について
注意点①:報道は一例であり、個別の事案の評価ではない
この記事は、特定の管理組合や個人を評価するものではありません。報道で紹介された内容は、一般論として参考にしています。私が全文を確認できていない記事も含まれます。
注意点②:規約や制度は変わる
区分所有法の改正は令和8年4月に施行され、標準管理規約も令和7年10月に改正されています。数値や手続きは、今後の運用や各マンションの規約改正によって変わることがあります。最新の情報は、法務省・国土交通省の公式ページでご確認ください。
注意点③:法的な判断は専門家に
総会招集請求、役員の解任、決議の有効性の争いなどは、規約や経緯によって結論が変わります。この記事は法的な助言ではありません。具体的な手続きに入る前に、マンション管理士や弁護士にご相談ください。
注意点④:透明にすれば安くなるとは限らない
発注の透明性を高めても、工事費が下がるとは限りません。適正な価格と品質を、納得して選べるようになる、という意味での効果と考えてください。
管理組合と区分所有者に伝えたい、私の考え
私はこれまで20年以上、現場で職人として、また経営者として、数多くのマンションの大規模修繕に関わってきました。そのなかで強く感じているのは、「揉めている管理組合の多くは、悪い人がいるのではなく、情報が共有されていない」ということです。
理事長さんも、区分所有者の皆さんも、同じマンションの資産価値を守りたいという目的は一緒です。違うのは、持っている情報と、見えている景色です。その差を埋めるのが、書面での情報開示であり、修繕委員会であり、複数社の見積りであり、工法の比較だと私は考えています。
正直に申し上げます。私は施工会社の立場ですから、「工事をやらせてください」と言えば、それで話が早いのかもしれません。でも、それでは長くお付き合いいただけません。説明のできる発注を、一緒につくる。 それが、管理組合さまにとっても、私たちにとっても、一番長続きする形です。
よくある質問(FAQ)
Q1. 理事長が理事会の議事録を見せてくれません。どうすればよいですか?
A. まず、お住まいの規約で閲覧に関する定めを確認し、理由を付けた書面で請求します。標準管理規約には、帳票類の閲覧に関する定めがあります。それでも応じてもらえない場合は、マンション管理士や弁護士にご相談ください。
Q2. 総会招集請求は、何人の賛同があれば出せますか?
A. 区分所有法では、区分所有者の5分の1以上で、議決権の5分の1以上を有するものが、会議の目的を示して請求できるとされています。この定数は規約で減らせるため、お住まいの規約をご確認ください(出典:e-Gov法令検索 建物の区分所有等に関する法律)。
Q3. 令和8年4月の改正で、総会の決議は何が変わりましたか?
A. 法務省の資料では、決議の円滑化として出席者を母数とする多数決の考え方や、所在等不明区分所有者を決議の母数から除外する仕組みなどが示されています。決議の種類ごとの要件は、法務省の最新資料で確認してください(出典:法務省 改正法の概要)。
Q4. 標準管理規約が改正されたら、うちの規約も変えなければなりませんか?
A. 標準管理規約は、各マンションが規約を定める際の「ひな型」です。直ちに適用されるわけではありませんが、国土交通省は法改正に合わせた見直しを呼びかけています。総会の決議で、規約の改正を検討することになります(出典:国土交通省 報道発表資料)。
Q5. 大規模修繕の見積りは、何社から取るのがよいですか?
A. 一律の決まりはありません。同じ仕様書で、複数社から見積りを取るのが基本です。社数を増やすよりも、条件をそろえること、各社の説明を受ける場を設けることが大切です。
Q6. ロープアクセスやハイブリッド工法は、どんなマンションに向いていますか?
A. 部分補修が中心の建物、狭小地、足場の設置が難しい建物などで、検討の価値がある場合があります。全面改修では通常足場が適することもあります。現地調査のうえで、3工法を比較して判断します。
この記事のポイントまとめ
- 理事会の不透明さに悩んだら、書面での情報開示請求から始める
- 区分所有者の5分の1以上で、総会の招集を請求できる。数値は規約で異なる場合がある
- 改正区分所有法は令和8年4月に施行。決議の円滑化などが盛り込まれた
- 大規模修繕の発注は、修繕委員会・相見積り・工法比較で、見える化する
- 足場・ロープアクセス・ハイブリッドの3工法を、建物ごとに比べて判断する
出典・参考資料
- THE GOLD ONLINE「マンション理事会の不透明な運営と、従うだけの管理会社…不満を抱く住民が行使できる〈法的な対抗手段〉」(2026年10月3日アラート配信分)
- 法務省「老朽化マンション等の管理及び再生の円滑化等を図るための建物の区分所有等に関する法律等の一部を改正する法律について」
- 法務省民事局「区分所有法・被災区分所有法の改正について」(令和8年4月)
- 国土交通省「「マンション標準管理規約」を改正します」(令和7年10月)
- 国土交通省「マンション標準管理規約」
- e-Gov法令検索「建物の区分所有等に関する法律」
- 朝日新聞「(社説)マンション談合 業者は補償、国は是正を」
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この記事の執筆者
本間 幸紘(ほんま ゆきひろ)
株式会社明誠 代表取締役/東京都東大和市
マンション・ビル・ホテルの大規模修繕20年以上の実務経験。3工法(通常足場/ロープアクセス/ハイブリッド)から建物特性に応じて最適提案。日本初のロープアクセス工事フランチャイズ本部を運営。JCSA(一般社団法人 全国建設業支援協会)代表理事。
最終更新:2026年10月6日
理事会の運営に不安を感じたら、まずは規約と議事録を読み、書面で質問することから始めてみてください。大規模修繕の進め方や、見積りの見方、工法の比較についてのご相談だけでも遠慮なくお声がけください。お問合せフォームから承ります。これは私が現場で20年以上見てきた実感です。次回も、現場で本当に使える話だけをお届けします。管理組合向けのご案内はこちらもご覧ください。
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分譲マンションで防犯カメラ更新費10万円の臨時徴収|管理費とは別に求められたら確認したい5点と、一時金に頼らない修繕資金の備え方【2026年10月】
この記事で分かること
「毎月、管理費も修繕積立金も払っているのに、防犯カメラの更新で10万円を追加で払ってほしいと言われました。これは普通のことなのでしょうか」——管理組合の理事長さまや、区分所有者の方から、こうしたご相談を耳にする機会が増えました。
この記事では、次の問いにお答えします。分譲マンションで「防犯カメラ更新費」などの名目で臨時徴収(一時金)を求められたとき、区分所有者と管理組合は、何を確認し、どう備えればよいのか?
きっかけは、2026年10月3日にGoogleアラート(「分譲マンション」)で届いたYahoo!ニュースの記事です。見出しや冒頭の記述によると、毎月管理費を払っているのに「防犯カメラ更新費」として10万円の臨時徴収を求められた、という相談が取り上げられ、普段の管理費とは別にこうした費用まで負担しなければならないのか、という疑問が示されています(出典:Yahoo!ニュース 配信記事)。なお、私はこの記事の全文を確認したわけではありません。ここでは冒頭で紹介されている相談内容を起点にした、一般論としてお話しします。
私は株式会社明誠の本間と申します。東京都東大和市を拠点に、マンション・ビル・ホテルの大規模修繕を20年以上やってきました。足場を組む工事も、足場を使わないロープアクセス工事も、現場で両方を経験しています。
結論を先に書きます。臨時徴収そのものは、規約と総会の決議に基づいて行われるものであり、それだけで直ちに不当と判断されるものではないと考えられます。ただし、「なぜ今必要か」「なぜ10万円なのか」「なぜ修繕積立金ではなく一時金なのか」の3点に、書面で答えられない場合は、一度立ち止まって確認する価値があると私は考えています。 そして、管理組合側から見れば、臨時徴収が必要になる前に、設備更新を長期修繕計画に織り込んでおくことが、住民との信頼を守る最も確実な方法の一つだと私は考えています。
なお、この記事は法的な助言ではありません。個別の管理組合の規約や決議の有効性は、規約の内容と経緯によって変わります。判断に迷う場合は、マンション管理士や弁護士などの専門家にご相談ください。
何が起きている?「防犯カメラ更新費10万円」の相談を整理する
相談の中身は、とても身近な話
防犯カメラは、いまや多くの分譲マンションに設置されている設備です。エントランス、エレベーター、駐輪場、ゴミ置き場。入居者の安心感に直結する一方で、機器は永遠には使えません。録画装置の故障、画質の劣化、カメラ本体の経年劣化、保存媒体の容量不足など、更新が必要になる場面は、いつか訪れます。
今回の相談で気になるのは、金額そのものよりも、「毎月の管理費とは別に」という点への戸惑いです。区分所有者の側から見れば、毎月払っているお金で賄われるはずの設備が、なぜ別途の請求になるのか、という素朴な疑問です。
管理費・修繕積立金・臨時徴収の違い
ここで、用語を整理しておきます。マンションの管理組合が集めるお金には、大きく3つの種類があります。
| 種類 | 主な使い道 | 集め方 |
|---|---|---|
| 管理費 | 日常の管理に必要な費用(清掃、設備の保守点検、管理員、共用部分の水道光熱費など) | 毎月、規約に基づいて徴収 |
| 修繕積立金 | 長期修繕計画に基づく計画的な修繕、不測の事故などの特別な修繕 | 毎月、規約に基づいて積み立て |
| 臨時徴収(一時金) | 上記で賄えない不足分や、特別な支出 | 総会の決議などを経て、必要なときに徴収 |
どの費用で何を賄うかは、各マンションの管理規約で定められています。防犯カメラの更新費用が、管理費で賄われるのか、修繕積立金で賄われるのか、それとも別枠になるのかは、マンションごとの規約・長期修繕計画・過去の運用によって異なります。 全国一律のルールがあるわけではありません。
国の標準管理規約は、改正のたびに使途の考え方を整理している
国土交通省は、管理組合が規約を作る際の参考として「マンション標準管理規約」を示しています。令和7年(2025年)10月の改正の概要では、修繕積立金について、計画的な修繕や不測の事故などに加えて、「敷地及び共用部分等の改良」にも充当できるよう規定されたことが示されています(出典:国土交通省「令和7年マンション標準管理規約改正の概要」)。
これは、あくまで標準的なひな型の話です。実際に各マンションの規約が同じ内容になっているとは限りません。ご自身のマンションの規約で、修繕積立金や管理費の使途がどう書かれているかを、一度ご確認いただくことをお勧めしています。
臨時徴収を求められたら、確認したい5つのポイント
ここからが、私が理事長さまや区分所有者の方に、よくお伝えしている部分です。感情的に反発する前に、次の5点を、書面で確認してください。
ポイント1:決議の根拠はあるか
臨時徴収は、通常、管理規約の定めと、総会(または規約で定められた手続き)での決議を根拠に行われます。確認したいのは次の点です。
- 総会の議案書に、臨時徴収の議案として明記されていたか
- 議案書に、金額・徴収時期・使途・徴収方法が書かれていたか
- 決議の結果(賛成・反対の数)が議事録に記録されているか
- 規約上、理事会だけで決められる範囲を超えていないか
議案書や議事録は、区分所有者であれば閲覧を求められるのが一般的です。まずは、冷静に資料を見せてもらうことから始めてください。
ポイント2:金額の根拠は、見積りで示されているか
「1戸あたり10万円」という数字の裏には、総額の見積りと、戸数(または専有面積などの負担割合)の計算があるはずです。たとえば、総戸数が80戸のマンションで、1戸あたり10万円を集めるなら、総額は800万円です(単純計算)。
その800万円が、防犯カメラの更新費として妥当かどうかは、台数、画質、録画装置の仕様、配線工事の範囲、保守契約の有無などで大きく変わります。確認したいのは次の点です。
- 見積りは複数社から取っているか
- 見積りの内訳(機器代、工事費、保守費、諸経費)は開示されているか
- 機器の仕様(台数、画素数、保存期間)は、必要な水準に見合っているか
- 更新後の保守費用(月額・年額)は、どう変わるか
ポイント3:なぜ「臨時徴収」なのか、積立金では賄えないのか
ここが、最も大事な確認点です。防犯カメラの更新が、長期修繕計画に入っていれば、修繕積立金から支出できる可能性があります。入っていなければ、積立金の残高に余裕があっても、使途の規定によっては使えない場合があります。
つまり、臨時徴収が必要になった理由は、「設備更新が計画に入っていなかったから」か、「計画には入っていたが積立金が足りないから」のどちらかであることが多いのです。この2つは、意味が全く違います。前者は計画の見直し不足、後者は積立不足の問題です。
ポイント4:支払い方法と時期に、配慮はあるか
臨時徴収が決議された場合でも、一括払いだけでなく、分割払いや、支払い時期の猶予を設けている管理組合もあります。年金生活の世帯が多いマンションや、築年数が進んで高齢化が進んだマンションでは、こうした配慮が、トラブルの予防になります。
ポイント5:今後も同じことが起きないか
一度きりの臨時徴収なのか、今後も設備更新のたびに同様の徴収が続くのかは、区分所有者にとって重要な情報です。「今回だけ」と説明されても、他の設備(インターホン、給水ポンプ、エレベーター、照明など)の更新時期が近づいていれば、同じことが繰り返されるかもしれません。 長期修繕計画に、設備更新がどう織り込まれているかを、確認してください。
修繕積立金の不足は、全国的な課題になっている
国の調査が示す「積立不足」の現実
臨時徴収が必要になる背景には、修繕積立金の不足があります。国土交通省の令和5年度マンション総合調査では、計画上の修繕積立金の積立額に対して、現在の積立額が不足しているマンションの割合は36.6%でした。不足していないマンションは39.9%、不明が23.5%です(出典:国土交通省「令和5年度マンション総合調査結果」)。
また、同じ調査では、25年以上の長期修繕計画に基づいて修繕積立金の額を設定しているマンションの割合は59.8%でした。計画に基づく設定が進んでいる一方で、現実の積立額が追いついていないマンションが、少なくない割合で存在していることが分かります。
積立金の目安と、段階増額方式のリスク
国土交通省の「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」(令和6年6月改定)では、専有床面積あたりの月額の目安が、事例にもとづき規模別に示されています(事例の3分の2が収まる幅)。地上20階未満・延床5,000㎡未満のマンションでは、月額235〜430円/㎡(平均335円)です。延床5,000〜10,000㎡では170〜320円(平均252円)です(出典:国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」)。
このガイドラインは、将来の増額を前提にしない「均等積立方式」を、安定的に積み立てられる方法として位置づけています。一方、段階的に増額する方式では、計画どおりに増額しようとしても、区分所有者間で合意形成ができず、積立金が不足する場合があると注意喚起しています。
私が現場で見てきた感覚でも、「最初は安く、あとで上げる」という計画を立てたマンションほど、増額の総会で苦労されている印象があります。住民の負担感が強い増額議案は、通りにくいからです。その結果、計画上の工事ができなくなったり、臨時徴収に頼らざるを得なくなったりします。
設備更新を、長期修繕計画にどう織り込むか
「建物の修繕」と「設備の更新」を、別々に考えない
大規模修繕というと、外壁、屋上防水、鉄部塗装といった「建物の工事」を思い浮かべる方が多いと思います。しかし、実際の長期修繕計画には、給排水管、電気設備、エレベーター、インターホン、防犯カメラ、照明など、「設備の更新」も数多く含まれます。
私がご相談を受けるときに、最初に確認するのは、長期修繕計画の項目に、設備の更新がどれだけ入っているかです。外壁と防水だけが細かく書かれていて、設備は「その他」にまとめられている計画は、要注意です。
設備更新を計画に入れるときの3つのコツ
- 更新の目安時期を、機器ごとに書き出す:メーカーの推奨や、これまでの故障履歴をもとに、目安時期を一覧にします。
- 概算費用を、複数社から取って幅で持つ:1社の見積りだけでなく、幅(最低〜最高)で持っておくと、積立の計画が現実的になります。
- 5年ごとに見直す:機器の仕様や価格は変わります。長期修繕計画は、5年程度を目安に見直すのが望ましいとされています。
管理計画認定制度を使って、計画の質を点検する
マンション管理計画認定制度は、地方公共団体が、長期修繕計画の内容や修繕積立金の状況などを基準に、管理計画を認定する制度です。認定を目指す過程で、長期修繕計画の見直しが進むという副次的な効果も期待できます。ただし、認定を受けたからといって、臨時徴収が不要になるわけではありません。制度は、あくまで「計画の質を点検する機会」として活用するのが現実的だと思います。
現場で見る「更新費が膨らむ理由」と、足場を共用する考え方
高所の機器更新は、作業費が意外と大きい
防犯カメラの更新といっても、エントランス内の低い位置にあるカメラと、建物の外壁面や外階段の上部、駐車場の天井に取り付けられたカメラでは、工事の手間が大きく違います。高い位置の機器を交換するには、脚立では届かず、高所作業車や仮設足場が必要になることがあります。
私が現場で見てきた中でも、機器代そのものより、高所で作業するための仮設費や手配費が、見積りの中で目立っているケースがありました。見積りを見るときは、機器代と工事費、仮設費が分けて書かれているかを確認してください。
大規模修繕の足場と同時にできる工事は、まとめて検討する
外壁の大規模修繕で足場を組む場合、その足場を使って、外壁面に取り付けられた照明、カメラ、センサー、看板などの点検や交換を一緒に行える可能性があります。別々に工事をすれば、そのたびに高所作業の費用がかかります。
ただし、これは「安くなる」と言い切れる話ではありません。機器の更新時期が大規模修繕の時期と合うか、足場の設置範囲に機器が含まれるか、電気工事の資格を持つ業者の手配が可能か、といった条件があります。だからこそ、設備更新の時期を長期修繕計画に書き出しておくことが、工事の組み合わせを考える前提になります。
足場・ロープアクセス・ハイブリッドの3工法を比べる
明誠では、足場、ロープアクセス、両者を組み合わせたハイブリッド工法の3つを比べて、建物にとって合理的な方法を提案しています。高所にある機器の点検・交換でも、考え方は同じです。
| 工法 | 向いているケース | 注意点 |
|---|---|---|
| 通常の足場工法 | 外壁全面の改修と同時に、広範囲の機器を更新する場合 | 仮設費・工期がかかる。足場期間中は居住者への配慮が必要 |
| ロープアクセス工法(無足場) | 数か所の機器の点検・交換、部分的な補修 | 作業量が多いと割高になることも。建物の形状や周辺環境による制約あり |
| ハイブリッド工法 | 高層部は無足場、低層部は足場など、部位で使い分けたい場合 | 工程調整が必要。事前の現地調査での設計が大切 |
ロープアクセス工法の基本的な考え方や安全基準は、姉妹サイトのロープアクセスドットコムでも解説しています。
想定ケースで考える|築22年・80戸のマンション
ここからは、説明のための想定ケースです。実在の建物や実際の金額ではありません。
想定する建物
築22年、鉄筋コンクリート造10階建て、全80戸の分譲マンション。1回目の大規模修繕は築12年で実施済みで、2回目を築24年ごろに予定しています。防犯カメラは築時の機器をそのまま使っていて、録画装置が不調になりつつあります。
想定される3つの進め方
パターンA:臨時徴収で対応する
防犯カメラの更新費を、総会で一時金として決議し、全戸から徴収します。短期間で資金を集められる反面、区分所有者の負担感が強く、納得感を得るための説明に手間がかかります。
パターンB:修繕積立金で対応する
規約上、使途として認められている場合は、積立金から支出します。ただし、2回目の大規模修繕の資金に影響が出ないか、残高と今後の計画を、あわせて確認する必要があります。
パターンC:大規模修繕と合わせて計画する
2回目の大規模修繕の長期修繕計画に、設備更新を正式に組み込みます。足場を使える範囲の機器は、同時に更新する前提で、費用と時期を整理します。住民への説明も、大規模修繕の議案の一部として行えます。
どれが最適かは、積立金の残高、機器の状態、規約の定めによって変わります。私は、「緊急でなければ、パターンCを先に検討する」ことをお勧めしています。 緊急性が高い場合は、最低限の応急対応をしたうえで、本格更新を計画に織り込む二段構えも、現実的な選択です。
理事会・管理組合が、臨時徴収の前にやっておくべきこと
説明資料は「なぜ」に答える内容にする
区分所有者が納得しやすい説明資料には、次の要素が入っています。
- 機器の現状(故障の履歴、写真、メーカーの保守終了時期など)
- 更新しなかった場合のリスク(防犯上の問題、録画データが残らない場合の影響)
- 複数社の見積り比較と、選定理由
- 資金の出どころの検討過程(積立金で賄えない理由、他の選択肢との比較)
- 負担の方法(一括、分割、猶予)と、今後の再発防止策
反対意見を、早い段階で聞く
総会の直前に議案を出すと、「説明が足りない」という不満が出やすくなります。私の経験上、議案の骨子を、総会の1〜2か月前に広報紙や説明会で共有しておくと、反対意見を早い段階で拾えます。反対意見の中には、運営を改善するヒントが含まれていることも多いのです。
専門家の力を、早めに借りる
見積りの妥当性を判断するには、第三者の目が役立ちます。マンション管理士や、設備に詳しい設計者のセカンドオピニオンを取ることを、ためらわないでください。調査や相談の費用は、工事費に比べて小さく収まることが多いと感じています。必要のない工事を省き、必要な工事に予算を集中させることが、区分所有者全員の負担を抑えることにつながる場合があります。
臨時徴収に頼らない、資金面の選択肢を知っておく
一時金のほかに、どんな選択肢があるのか
資金が足りないとき、選べる方法は臨時徴収だけではありません。管理組合が検討できる主な選択肢を、整理しておきます。
- 修繕積立金の見直し(増額):毎月の積立額を引き上げ、将来の支出に備える方法です。時間はかかりますが、特定の月に大きな負担が集中しにくくなります。
- 金融機関からの借入れ:住宅金融支援機構などが、マンション共用部分の工事向けの融資制度を設けています。借入れは返済の原資を確保する必要があり、条件も金融機関ごとに異なりますので、最新の内容は各機関でご確認ください。
- 自治体の補助・助成の活用:自治体によっては、防犯カメラの設置や、防犯・防災に関わる共用部分の整備を対象とした補助制度を設けている場合があります。対象となる設備、補助率、申請期限は自治体ごとに異なり、年度で変わることもあります。工事の契約前に、管理組合のある自治体の窓口で確認することをお勧めします。
- 仕様の見直し:機器の台数や性能を、本当に必要な水準に絞り込む方法です。防犯上の必要性を損なわない範囲で、設置場所や画質、保存期間を見直すだけでも、費用が変わることがあります。
順番は「計画」「見積り」「資金」の順に
私がご相談を受けるときにお伝えしているのは、資金の集め方から考え始めないことです。先に、何が、いつまでに必要かを整理し、複数の見積りで金額の幅をつかみ、そのうえで、積立金・借入れ・補助・一時金の組み合わせを考える。この順番を守るだけで、住民の方々の納得感は、大きく変わります。
逆に、先に「足りないから集めます」と決めてしまうと、金額の根拠が弱くなり、反対意見が出やすくなります。理事会の皆さまは、日々の運営でお忙しいと思います。だからこそ、外部の専門家の知見を、早い段階で取り入れてほしいと願っています。
注意点|この記事の読み方について
注意点①:報道は相談の一例であり、個別の事案の評価ではない
この記事は、報道された相談を起点にした一般論です。個別のマンションの臨時徴収が適切かどうかは、規約や決議の経緯、機器の状態などによって変わります。
注意点②:規約や制度は変わる
国の標準管理規約は、令和6年、令和7年と改正が続いています。各マンションの規約も、時代に合わせて見直されることがあります。実際の判断では、最新の規約と、国土交通省などの公式情報を確認してください。
注意点③:法的な判断は専門家に
臨時徴収の決議の有効性や、支払いを拒否した場合の対応などは、法律の専門的な判断が必要です。この記事は法的な助言ではありません。具体的なご相談は、マンション管理士や弁護士にお願いします。
注意点④:工事を同時にすれば安くなるとは限らない
足場を共用できれば、仮設費を抑えられる可能性はあります。しかし、機器の更新時期や工事の範囲、電気工事の手配によって、効果は変わります。工事の組み合わせは、見積りを並べて比較して判断してください。
管理組合と区分所有者に伝えたい、私の考え
私は、臨時徴収そのものが悪いとは思っていません。想定外の故障や、計画に入っていなかった支出は、どのマンションでも起こり得ます。大切なのは、「いきなり請求される」状態を、できるだけ減らすことです。
そのためには、理事会が、機器の状態と今後の更新時期を、日ごろから区分所有者に見える形で共有しておくことが有効だと考えています。毎年の総会で、「今年はここまで点検しました。来年から3年のうちに、これとこれの更新が必要になりそうです」と一言添えるだけでも、住民の受け止め方は変わります。
足場を組むか、ロープで吊るか、両方を使うか。選べる工法が増えれば、建物ごとに合った方法を選べます。明誠は、その3つを比べて提案する会社として、管理組合の「見えない不安」を、「見える数字」に変えるお手伝いをしていきたいと思っています。
よくある質問(FAQ)
Q1. 管理費を払っているのに、防犯カメラの更新で臨時徴収をされるのは普通ですか?
A. 規約や決議の内容によっては、臨時徴収が行われる場合があります。管理費で賄う範囲は規約で決まっており、設備更新が管理費や修繕積立金の対象外の場合は、総会決議を経て臨時徴収される場合があります。まず議案書と規約を確認してください。
Q2. 臨時徴収の請求を、断ることはできますか?
A. 有効な決議に基づく請求の場合、支払いを求められるのが通常とされています。個別の有効性は専門家にご確認ください。決議の手続きに疑問がある場合は、マンション管理士や弁護士などの専門家にご相談ください。
Q3. 防犯カメラの更新費は、修繕積立金から出せますか?
A. マンションの規約と長期修繕計画によります。国の標準管理規約(令和7年10月改正)では、修繕積立金を「敷地及び共用部分等の改良」にも充当できる規定が示されていますが(出典:国土交通省)、各マンションの規約が同じとは限りません。
Q4. 修繕積立金が足りないマンションは多いのですか?
A. 国土交通省の令和5年度マンション総合調査では、計画上の積立額に対して現在の積立額が不足しているマンションが36.6%でした(出典:国土交通省)。
Q5. 臨時徴収を避けるには、どうすればよいですか?
A. 設備の更新時期と概算費用を長期修繕計画に入れ、5年程度ごとに見直すことが基本です。積立金の水準は、国土交通省のガイドラインの目安と比べて点検してください。
Q6. 高い場所にある機器の更新は、足場なしでもできますか?
A. 条件によっては可能です。ロープアクセスによる点検・交換という方法もあります。数か所の作業なら有利になる場合がある一方、作業量が多い場合は足場が適することもあります。現地確認のうえで比較します。
この記事のポイントまとめ
- 防犯カメラ更新費10万円の臨時徴収を求められた相談が、2026年10月にYahoo!ニュースで取り上げられた
- 臨時徴収は規約と総会決議が根拠。決議・金額・費用区分・支払い方法・再発の有無の5点を書面で確認する
- 令和5年度の国の調査では、積立額が計画に対して不足するマンションは36.6%
- 設備更新は長期修繕計画に書き出し、5年程度ごとに見直す
- 高所の機器更新は、足場・ロープアクセス・ハイブリッドの3工法を比べて判断する
出典・参考資料
- Yahoo!ニュース「分譲マンションの防犯カメラ更新費に関する配信記事」(2026年10月3日アラート配信分)
- 国土交通省「令和5年度マンション総合調査結果」
- 国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」(令和6年6月改定)
- 国土交通省「令和7年マンション標準管理規約改正の概要」(令和7年10月)
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この記事の執筆者
本間 幸紘(ほんま ゆきひろ)
株式会社明誠 代表取締役/東京都東大和市
マンション・ビル・ホテルの大規模修繕20年以上の実務経験。3工法(通常足場/ロープアクセス/ハイブリッド)から建物特性に応じて最適提案。日本初のロープアクセス工事フランチャイズ本部を運営。JCSA(一般社団法人 全国建設業支援協会)代表理事。
最終更新:2026年10月5日
「いきなり請求される」をなくす一番の近道は、機器の状態と更新の見通しを、日ごろから住民と共有することです。まずは長期修繕計画の設備項目を、一度見直してみてください。ご相談だけでも遠慮なくお声がけください。お問合せフォームから承ります。これは私が現場で20年以上見てきた実感です。次回も、現場で本当に使える話だけをお届けします。
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老朽マンション改修に国交省32.4億円|令和9年度予算要求で一棟リノベ補助拡充、空き家賃貸への新融資まで管理組合とオーナーが今知るべきこと【2026年9月】
この記事で分かること
「国交省の来年度予算で、マンションの大規模修繕やロープアクセス工事に使える補助金は増えるのか、減るのか」——この記事はその疑問に、公表されたばかりの令和9年度(2027年度)予算概算要求の数字でお答えします。
2026年8月、国土交通省住宅局は令和9年度の予算概算要求概要を公表しました(出典:国土交通省「令和9年度住宅局関係予算概算要求概要」)。この中で、老朽化したマンションの再生を支援する「マンション総合対策モデル事業」に32.40億円が計上され、一棟リノベーションや給排水設備の長寿命化工事への補助が拡充される見込みとなりました。同時に、空き家をリフォームして賃貸に出す事業者向けに、住宅金融支援機構を通じた低利融資制度も新たに創設される方向です。
私は株式会社明誠の本間と申します。東京都東大和市を拠点に、マンション・ビル・ホテルの大規模修繕を20年近くやってきましたが、正直に申し上げると、こうした予算のニュースは管理組合の理事長さまや収益不動産のオーナーさまにはあまり届いていません。数字だけ見ても「自分の建物に関係あるのか」が分かりにくいからです。今日はこの令和9年度予算概算要求の中身を、私なりに現場目線でかみ砕いてお伝えします。
令和9年度予算概算要求、結論から言うとマンション関連は増額基調
先に結論をお伝えします。国土交通省住宅局の令和9年度予算概算要求は、前年度から大きく積み増しされており、その中でもマンションの老朽化対策・空き家活用に関する項目が明確に拡充されています(出典:国土交通省「令和9年度住宅局関係予算概算要求概要」)。
主なポイントは次の3つです。
1. マンション総合対策モデル事業:32.40億円
老朽化したマンションの改修・再生を支援する事業で、一棟リノベーション工事や給排水設備の長寿命化工事などが補助対象に含まれています。
2. 空き家対策総合支援事業・空き家再生等推進事業:70.80億円(社会資本整備総合交付金等の内数)
空き家の除却・活用を支援する事業で、除却は国費1/3〜1/2、活用は国費1/3〜2/5が補助率の目安として示されています。
3. 住宅ストックを活用した賃貸住宅融資制度の創設
住宅金融支援機構が事業主体となり、出資金21億円の内数を使って、空き家のサブリース事業や状態の良い空き家を賃貸流通させる取り組みを金融面から支援する制度が新設される見込みです。
いずれも「まだ決まった」ではなく「予算として要求した」段階である点には注意が必要です(出典:国土交通省「令和9年度予算」)。年末の予算編成で金額や制度設計が変わる可能性はありますが、国が老朽マンションと空き家の再生に本気で予算をつけようとしている方向性そのものは、管理組合・オーナーの皆さまが知っておいて損はない情報だと思います。
私がこのブログでお伝えしている範囲だけでも、2026年9月は区分所有法改正やマンション管理適正化法の改正、大規模修繕を巡る談合問題への対応など、マンションに関する制度面のニュースが立て続けに動いた月でした。今回の令和9年度予算概算要求も、単発の話ではなく、こうした一連の制度整備の流れの延長線上にあると私は見ています。全国的に築年数の古いマンションが年々増えていることは、国土交通省が公表しているマンションストック関連の統計からも明らかで(出典:国土交通省「マンションに関する統計・データ等」)、制度・予算・法律の3方向から国が老朽化対策を後押ししようとしている、というのが私の受け止め方です。
「マンション総合対策モデル事業」とは何か
まず主役となる「マンション総合対策モデル事業」について、私の理解を整理してお伝えします。この事業は国土交通省が公表している制度で、マンションの「建物の老い」と「居住者の老い」という2つの老いに対応するための先導的な取り組みを支援するものです(出典:国土交通省「マンション総合対策モデル事業」)。
大きく分けると、次の2つの柱で構成されています。
| 事業名 | 主な対象 | 支援内容 |
|---|---|---|
| マンションストック長寿命化等モデル事業 | 個別のマンション・管理組合等 | 先導的再生モデルタイプ(新工法・材料導入など創意工夫に富む改修の計画・工事支援)/管理適正化モデルタイプ(管理水準の低いマンションが自治体と協力して大規模修繕等を実施) |
| 老朽マンション対策モデル事業 | マンション管理適正化推進計画を策定した地方公共団体 | ソフト事業(実態調査・専門家派遣・相談窓口設置)とハード事業(劣化調査・再生設計・工事実施) |
補助対象となる工事の例としては、一棟リノベーション、劣化部材の補修、給排水設備などの設備改修・長寿命化、管理不全マンションの再生工事が挙げられています。申請主体はコンサルタントや設計事務所、管理会社、施工業者、買取再販事業者などで、管理組合が直接申請するというよりは、専門家や事業者と組んで活用する制度という位置づけです。
公募のスケジュールも参考になります。令和8年度(今年度)は4月、6月、9月と複数回に分けて公募が行われており、直近の第3回は2026年9月14日から18日の日程で受け付けが行われました(出典:国土交通省「マンション総合対策モデル事業」)。年に複数回チャンスがある制度だということは、覚えておいて良いポイントだと思います。
一棟リノベーション・給排水長寿命化への補助、現場ではどう使うか
ここからは、私が現場で工事に携わる立場として感じていることをお伝えします。マンション総合対策モデル事業が対象とする「一棟リノベーション」や「給排水設備の長寿命化工事」は、築30年、40年を超えるマンションで特に相談が増えているテーマです。
私の経験上、これは築年数が古い建物ほど顕著になる話ですが、外壁や屋上防水といった「見える劣化」への対応は理事会でも合意が取りやすい一方、給排水管のように「壁の中・床下に隠れている劣化」は、実際に漏水事故が起きるまで後回しにされがちです。ところが給排水設備の更新は、一棟あたりの工事費が高額になりやすく、修繕積立金だけでは賄いきれないケースも少なくありません。国の補助金・補助率(国1/3〜1/2程度)が使える制度があると知っているかどうかで、理事会の議論の進め方は大きく変わってきます。
ここで一つ、現場の話をさせてください。私が数年前に担当したあるマンションでは、屋上防水と外壁塗装だけを検討していた理事会に、給排水管の劣化診断も同時に行うことをご提案しました。結果として、劣化診断で配管の内部腐食が想定より進んでいることが分かり、次回の大規模修繕で給排水更新も一体で計画することになりました。もし劣化診断をせずに外壁だけで終えていたら、数年後にまた別工事で足場やロープアクセスの仮設費用が二重にかかっていたはずです。補助制度の有無にかかわらず、こうした「まとめて診断し、まとめて直す」視点は、長期的なコスト圧縮につながると私は考えています。
補助金を使う・使わないにかかわらず、まず押さえておきたいのは次の3点です。
- 一棟リノベーション・給排水長寿命化は国の補助対象になり得る工事である
- 申請は管理組合単独ではなく、設計事務所や施工業者など専門家との連携が前提となる
- 公募は年に複数回あるため、次回大規模修繕の計画段階から情報収集を始めることが望ましい
自治体経由の「老朽マンション対策モデル事業」、対象になる条件
マンション総合対策モデル事業のもう一つの柱である「老朽マンション対策モデル事業」は、管理組合が直接申請する制度ではなく、地方公共団体が事業主体となる仕組みです。対象となるのは「マンション管理適正化推進計画」を策定した地方公共団体に限られます(出典:国土交通省「マンション総合対策モデル事業」)。
内容はソフト事業とハード事業の2段階に分かれています。ソフト事業では、管内マンションの実態調査、専門家の派遣、相談窓口の設置といった、いわば「困っているマンションを見つけて伴走する」取り組みが支援対象です。ハード事業に進むと、劣化調査、再生設計、実際の工事実施までを自治体が後押しする形になります。
つまり、この制度が実際に自分たちの建物で使えるかどうかは、「お住まいの自治体がマンション管理適正化推進計画を策定済みかどうか」にかかっています。東京都内・関東一円だけでも策定状況は自治体ごとに差があるのが実情です。管理組合の理事長さまにおかれては、まずは物件所在地の自治体窓口(住宅課・建築指導課など)に、マンション管理適正化推進計画の策定状況と、老朽マンション対策モデル事業の活用実績を問い合わせてみることをおすすめします。制度を知っているだけで終わらせず、自治体側の準備状況とセットで確認することで、実際に使える制度かどうかが見えてきます。
空き家対策総合支援事業70.80億円の内訳、除却と活用で補助率が違う
先ほど触れた空き家対策総合支援事業・空き家再生等推進事業についても、もう少し詳しく見ておきます。令和9年度予算概算要求では、社会資本整備総合交付金等の内数として70.80億円が計上されており、空き家の除却(取り壊し)と活用(改修して使う)とで、補助率の目安が分けて示されています(出典:国土交通省「令和9年度住宅局関係予算概算要求概要」)。
| 対応の種類 | 補助率の目安 | 主な対象 |
|---|---|---|
| 除却(取り壊し) | 国費1/3〜1/2 | 管理不全な空き家等 |
| 活用(改修して活用) | 国費1/3〜2/5 | 賃貸活用・地域活性化に資する空き家等 |
「除却より活用の方が補助率が低い」という設計自体は、老朽化した建物を安易に壊すのではなく、直して使う方向に誘導したい国の意図の表れだと私は受け止めています。この事業の対象は主に地方公共団体・NPO・民間事業者ですが、収益不動産を複数保有されているオーナーさまであれば、空き家化した保有物件について自治体の空き家対策窓口に相談する価値は十分にあると思います。
フラット35・管理計画認定マンション制度ともあわせて確認したい
国の住宅関連の優遇策という意味では、フラット35における「管理計画認定マンション」向けの金利優遇制度も、あわせて知っておきたいところです。管理計画認定を受けたマンションは、住戸を購入する個人がフラット35を利用する際に金利優遇の対象となる仕組みがすでに用意されています。今回の令和9年度予算概算要求の一連の施策も、老朽化したマンションの「管理」と「修繕」の両面を国が下支えしようとしている流れの中にあると私は捉えています。
管理計画認定制度そのものは自治体ごとに申請窓口や審査の運用が異なり、当ブログでも自治体別の解説記事を別途お届けしています。今回ご紹介したマンション総合対策モデル事業や空き家関連の予算とあわせて、管理計画認定の取得状況もセットで見直しておくと、今後の資産価値維持・資金調達の両面で選択肢が広がるはずです。
新設・空き家賃貸活用への低利融資制度は、老朽賃貸マンションにも関係するのか
もう一つの注目点が、住宅金融支援機構を通じた新しい融資制度です。時事通信の報道によれば、国土交通省は空き家をリフォームして子育て世帯や中低所得層向けの賃貸住宅として提供する事業者、または老朽化した公営住宅をリフォームして活用する事業者を対象に、低利融資制度を創設する方針です(出典:nippon.com「空き家の賃貸活用を促進=国交省、事業者の資金調達支援」)。
仕組みとしては、政府が住宅金融支援機構に資金を拠出し、その運用益を活用してリフォーム資金を低利で融資するというものです。背景には、空き家は資産価値の低さから金融機関の担保評価が付きにくく、リフォームして賃貸に活用する事例がごく一部の小規模事業者に限られてきたという課題があります(出典:国土交通省「令和9年度住宅局関係予算概算要求概要」)。
この制度は空き家が主な対象ですが、私が注目しているのは、この考え方の延長線上に「老朽化した賃貸マンション・アパートのリノベーション資金調達」の問題があるという点です。区分マンションを5戸、10戸と保有されているオーナーさまの中には、築古の賃貸住戸を持て余していたり、リノベーションしたくても金融機関の担保評価がネックになっているという声を、私自身もお客さまとのやり取りの中でよく耳にします。空き家対策として始まった低利融資の枠組みが、将来的に賃貸住宅全般の改修支援へと広がっていく可能性は、注視しておく価値があると思います。
現時点での制度設計はあくまで「空き家をリフォームして子育て世帯・中低所得層向け賃貸住宅として提供する事業者」と「老朽公営住宅をリフォームして活用する事業者」が対象であり、個人が区分所有する賃貸マンションの一室をリノベーションする際に直接使えるかどうかは、今後の詳細設計を見る必要があります。ただし、住宅金融支援機構という同じ実施主体が、空き家分野で低利融資の実績を積み上げていけば、その仕組みが将来的にマンション・アパートといった他の住宅ストックにも応用されていく流れは十分に考えられます。私自身、こうした制度の広がり方は今後も継続してこのブログで追いかけていきたいと思っています。
既存の「マンション共用部分リフォーム融資」との違いと使い分け
ここで、管理組合の皆さまにとってより身近な既存制度についても整理しておきます。住宅金融支援機構には、管理組合が大規模修繕の資金を借り入れる際に使える「マンション共用部分リフォーム融資」という制度が以前からあります(出典:住宅金融支援機構「マンション共用部分リフォーム融資・災害復興住宅融資(管理組合申込み)等の融資金利について」)。修繕積立金だけで大規模修繕の費用を賄えない管理組合が、借入という形で資金を調達する際に使われてきた制度です。
令和9年度予算概算要求で新設が検討されている制度と、既存のマンション共用部分リフォーム融資は、対象も申込者も異なります。両者の違いを整理すると、次のようになります。
| 項目 | マンション共用部分リフォーム融資(既存) | 住宅ストック活用賃貸住宅融資制度(新設予定) |
|---|---|---|
| 申込者 | マンション管理組合 | 空き家等をリフォームして賃貸活用する事業者 |
| 主な対象 | 共用部分の大規模修繕工事 | 空き家・老朽公営住宅のリフォーム |
| 実施主体 | 住宅金融支援機構 | 住宅金融支援機構 |
| 開始時期 | 運用中 | 令和9年度予算成立後(2027年度予定) |
| 出典 | 住宅金融支援機構 | 国土交通省 |
管理組合として大規模修繕の資金を借り入れたい場合は既存のマンション共用部分リフォーム融資、区分所有する賃貸住戸を個別にリノベーションして貸し出したい場合は今回新設が検討されている制度、というように、立場によって見るべき制度が変わってくる点は誤解のないようにお伝えしたいところです。
私の経験上、管理組合の理事会で「借入」という言葉が出ると、それだけで慎重論が強くなりがちです。ただ、修繕積立金の値上げか、借入か、工事の範囲を縮小するか、といった選択肢を並べて比較検討すること自体は、決して後ろ向きな話ではありません。マンション共用部分リフォーム融資は住宅金融支援機構が長年運用してきた制度で、金利や返済期間の条件は公式サイトで確認できます(出典:住宅金融支援機構)。次回の大規模修繕に向けて資金計画を立てる段階で、積立金だけで賄えるのか、一部を借入で補うのかを、早めに専門家を交えて試算しておくことを私はおすすめしています。
明誠の視点:補助金頼みにしない工法選びで工事費そのものを圧縮する
ここまで補助金・融資制度の話をしてきましたが、私が現場で20年近く見てきた実感として、補助金はあくまで「使えたら助かるもの」であり、工事費そのものを適正に抑える工法選びの方が、管理組合・オーナーさまの負担を左右する影響は大きいと感じています。
株式会社明誠では、通常の足場仮設工事、無足場工法であるロープアクセス工事、そして足場とロープアクセスを組み合わせたハイブリッド工法という3つの工法から、建物にとって最適な提案ができる体制を整えています。この3工法すべてを中立的に提案できる会社は、日本国内でも数が限られていると私は認識しています。ロープアクセス工法は足場を組まずに高所へ直接アプローチできるため、足場の仮設・解体コストの削減、工期の短縮、入居者さまや利用者さまへの生活影響の軽減につながりやすい点が特徴です。今回ご紹介した一棟リノベーションや給排水長寿命化工事のように、部分的・ピンポイントな改修が必要な場面では、全面足場を組むよりロープアクセスやハイブリッド工法の方が費用対効果に優れるケースも少なくありません。
ロープアクセス工法についてさらに詳しく知りたい方は、ロープアクセス工法のご紹介のページもご参照ください。また、ロープアクセス工法・無足場工法そのものの技術的な背景や安全基準については、姉妹サイトであるロープアクセスドットコムに詳しくまとめられていますので、あわせてご覧いただければと思います。当社はロープアクセス工事の分野で日本初のフランチャイズ展開も行っており、塗装・防水・タイル・電気・看板工事など各分野の専門職が加盟することで、高品質かつ低価格な施工体制を全国に広げています。
具体的な工法選びの流れとしては、私はいつも理事長さまに、まず建物全体の劣化診断を行ったうえで、外壁・屋上防水のように面で広く点検・補修が必要な箇所は通常足場、給排水配管の立て管や一部のひび割れ補修のように点で対応できる箇所はロープアクセス、というように部位ごとに工法を使い分けることをお伝えしています。全面足場を組むと、足場の仮設・解体だけで数週間、費用も工事全体の一定割合を占めることが珍しくありません。ピンポイントの補修であれば、その仮設コストと工期を圧縮できる余地が生まれます。もちろん建物の形状や劣化の広がり方によっては全面足場の方が合理的な場合もあり、私はどのケースでもロープアクセスを優先すべきだとは考えていません。大切なのは、足場・ロープアクセス・ハイブリッドのどれか一つに偏らず、建物の状態に応じて選べる体制を持っているかどうかだと思います。
管理組合・オーナーが今すぐやっておきたい3つのこと
令和9年度予算はまだ概算要求の段階で、年末の予算編成を経て確定します。とはいえ、「予算が確定してから動く」のでは、公募のタイミングに間に合わないことも起こり得ます。私からは、今の段階でできる準備として、次の3つをおすすめしています。
1. 次回大規模修繕の劣化診断を、外壁・防水だけでなく給排水設備まで含めて計画する
補助対象になり得る工事の範囲を把握しておくことで、公募が具体化した際にすぐ動けます。
2. 設計事務所・施工業者など、制度に詳しい専門家との接点を早めに持つ
マンション総合対策モデル事業の申請主体はコンサルタントや施工業者などの専門家であり、管理組合単独では申請が完結しません。
3. 修繕積立金の水準と、既存のマンション共用部分リフォーム融資の要否を並行して確認する
補助金がついても自己負担分は残ります。積立金の不足が見込まれる場合は、借入も選択肢に入れて早めに資金計画を立てることが安心につながります。積立金の値上げは総会での合意形成に時間がかかるテーマですから、次回大規模修繕まで数年の余裕がある今のうちに、理事会内で問題提起しておくことが結果的に近道になると私は考えています。
予算が確定するのはまだ先の話ですが、劣化診断や資金計画の検討そのものは、今日からでも始められます。「制度が固まってから」ではなく「制度が固まる前から」動き始めた管理組合ほど、いざ公募が始まったときにスムーズに専門家と連携できる、というのが私の現場での実感です。これから大規模修繕や給排水設備の更新を検討される管理組合・オーナーさまは、ロープアクセス・足場・ハイブリッドのどの工法が建物に合っているかも含めて、無料調査・お見積りだけでもご相談いただければと思います。ご相談だけでも遠慮なくお声がけください。総会の前段階の整理だけでも、お力になれることがあります。ご相談はお問合せフォームから承っております。管理組合向けのサービス詳細は管理組合さま向けページ、大規模修繕工事全般については大規模修繕工事のご紹介もあわせてご覧ください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 令和9年度予算概算要求のマンション関連補助金は、いつから使えますか?
A. 2026年9月時点ではまだ概算要求の段階で、年末の予算編成・国会審議を経て正式に決まります。開始時期は令和9年度(2027年度)予算成立後となる見込みです(出典:国土交通省)。
Q2. マンション総合対策モデル事業は、うちの管理組合が単独で申請できますか?
A. 申請主体はコンサルタントや設計事務所、施工業者、買取再販事業者などの専門家です。管理組合単独ではなく、専門家と連携して活用する制度です(出典:国土交通省)。
Q3. 給排水設備の更新工事は、この補助の対象になりますか?
A. マンション総合対策モデル事業では、給排水設備などの設備改修・長寿命化工事が補助対象の例として挙げられています。詳細な要件は募集要領で確認する必要があります。
Q4. 空き家向けの新しい融資制度は、賃貸マンションのオーナーも使えますか?
A. 現時点で公表されている内容では、対象は空き家をリフォームして賃貸活用する事業者や、老朽公営住宅をリフォームする事業者です。区分所有の賃貸住戸を保有する個人オーナーが直接対象になるかは、今後の制度設計の詳細を確認する必要があります。
Q5. ロープアクセス工法は、こうした国の補助対象工事にも使えますか?
A. 工法そのものを指定する補助金ではないため、一棟リノベーションや設備改修といった対象工事の中で、足場・ロープアクセス・ハイブリッドのいずれの工法を採用するかは施工計画次第です。ロープアクセス工法を含めた工法選定については、明誠までご相談ください。
Q6. 予算が概算要求の段階でも、今から理事会で話し合う意味はありますか?
A. あると私は考えています。制度が確定してから劣化診断や専門家探しを始めると、公募のタイミングに間に合わないことがあります。予算が固まる前の今の段階から、次回大規模修繕の計画づくりと情報収集を並行して進めておくことをおすすめします。
この記事のポイントまとめ
- 国交省令和9年度予算要求でマンション総合対策モデル事業が32.40億円に
- 一棟リノベーション・給排水長寿命化工事が補助対象の例に含まれる
- 空き家賃貸活用への低利融資制度が住宅金融支援機構を通じて新設予定
- 既存のマンション共用部分リフォーム融資とは対象・申込者が異なる
- 補助金確定前の今こそ、劣化診断と専門家との接点づくりが有効
執筆者:本間 幸紘(株式会社明誠 代表取締役)
専門領域:マンション大規模修繕/ロープアクセス工法/建物長寿命化計画
実務経験:建設・改修業界 20年以上
所属:一般社団法人 全国建設業支援協会(JCSA)
株式会社明誠について:東京都東大和市を拠点に、東京・関東一円でロープアクセス工法と従来足場工法の両方を提案できる改修会社。日本初のロープアクセス工事フランチャイズを展開しています。
最終更新:2026年9月24日
出典・参考資料
- 国土交通省「令和9年度住宅局関係予算概算要求概要」
- 国土交通省「令和9年度予算」
- 国土交通省「マンション総合対策モデル事業」
- 国土交通省「空き家再生等推進事業について」
- 住宅金融支援機構「マンション共用部分リフォーム融資・災害復興住宅融資(管理組合申込み)等の融資金利について」
- nippon.com「空き家の賃貸活用を促進=国交省、事業者の資金調達支援」(時事通信配信)
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新宿区の管理組合が無料で使える相談・派遣9つ|「管理相談員派遣」は1回2時間、理事会にそのまま呼べます
新宿区の管理組合が無料で使える相談・派遣9つ|「管理相談員派遣」は1回2時間、理事会にそのまま呼べます
2026年9月13日 更新
「相談って、区役所まで出向いて15分話すやつですよね」
新宿区の、築30年を超えたマンションの理事長さまから、こう言われたことがあります。大規模修繕の見積りを3社から取ったものの、どれが妥当なのか判断がつかない。誰かに聞きたいが、平日の昼間に区役所へ出向く時間がない。だから相談は諦めていた、という話でした。
私は株式会社明誠の本間幸紘と申します。東京都東大和市を拠点に、20年近くマンションやビルの外壁と向き合ってきました。足場を組む工事も、ロープ1本でぶら下がる無足場の工事も、両方やってきた人間です。
そのときお伝えしたのは、「新宿区は、専門家のほうから理事会に来てくれる制度がありますよ」ということでした。
新宿区マンション管理相談員派遣。1回あたり2時間、1年度につき同一マンションで3回まで、費用は無料。しかも派遣先は「複数の区分所有者の方が集まる場」、つまり総会や理事会、修繕委員会の場そのものです。
理事長さまは「2時間も、理事会に来てくれるんですか」と言われました。そうなのです。区役所の窓口相談が1件15分から20分程度であることを思えば、2時間という枠がどれだけ大きいかが分かります。しかも理事全員がその場で同じ話を聞ける。
今日は、新宿区のマンション管理組合とビルオーナーが、お金をかけずに使える相談・派遣の制度を9つ、令和8年度(2026年4月1日から2027年3月31日まで)の一次情報で整理します。
結論:新宿区で無料で使える相談・派遣は9つある
先に一覧でお見せします。
| # | 制度・窓口 | 誰が対応するか | 費用 | 申込先 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 新宿区マンション管理相談員派遣 | 区が委嘱した専門家 | 無料(1回2時間・年度3回まで) | 住宅課居住支援係 03-5273-3567 |
| 2 | マンション管理相談 | 区が委嘱した相談員 | 無料(第2・第4金曜/要予約) | 住宅課居住支援係 03-5273-3567 |
| 3 | 分譲マンション無料なんでも相談 | マンション管理士 | 無料(第1・第3水曜) | 東京都マンション管理士会新宿支部 |
| 4 | 令和8年度 無料建築相談会 | 区職員+建築士 | 無料(年度内2回まで・1組30分) | 建築指導課管理係 03-5273-3732 |
| 5 | 管理計画認定制度 相談ダイヤル | マンション管理士 | 無料(月〜土) | (一社)日本マンション管理士会連合会 03-5801-0858 |
| 6 | 東京都 マンションアドバイザー無料派遣 | マンション管理士等 | 無料 | (公財)東京都防災・建築まちづくりセンター |
| 7 | 東京都 マンション管理士無料派遣 | マンション管理士 | 無料(防災力向上・認知症対応) | 東京都マンションポータルサイト |
| 8 | (公財)マンション管理センター 電話相談 | 相談員 | 無料 | 03-3222-1517/03-3222-1519 |
| 9 | 東京都 分譲マンション総合相談窓口 | マンション管理士 | 無料 | (公財)東京都防災・建築まちづくりセンター |
これに加えて、長期修繕計画の作成費や管理計画認定の手数料に対する補助も新宿区にはあります。こちらは無料ではなく補助なので本稿の主題から外れますが、後半で触れます。
ここからが本題です。
1. マンション管理相談員派遣:新宿区の本命は「2時間×3回」という枠
新宿区の支援メニューのなかで、私が一番もったいないと感じているのがこの制度です。
費用と回数
新宿区の公式ページには、こう書かれています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 区内にある分譲マンションの管理組合、賃貸マンションの所有者 |
| 派遣先 | 複数の区分所有者が集まる場など(総会、理事会、専門委員会など) |
| 時間 | 1回あたり2時間 |
| 回数 | 1年度につき同一マンションで3回まで(区長が特に必要と認めたときは3回に限らない) |
| 相談員 | マンション管理士、一級建築士、建築設備士、弁護士などの資格を有する者、またはマンション問題に知見を有する者で区の委嘱を受けた専門家 |
| 費用 | 無料 |
(出典:新宿区「「新宿区マンション管理相談員派遣」」/最終更新日 2026年9月1日)
私がここで強調したいのは、相談員の顔ぶれが「マンション管理士」だけではないという点です。一級建築士、建築設備士が含まれている。つまり大規模修繕の話、劣化診断の話、設備更新の話を、それぞれ専門の人に聞ける設計になっています。
申請のときに相談内容を書きますから、そこで「外壁の劣化診断と修繕の進め方」と書けば、建築の分かる相談員が来る可能性が高くなります。逆に「滞納の督促方法」と書けば法律に強い相談員が来る。3回の枠を、論点ごとに割り当てるのが私のお勧めです。
賃貸マンションのオーナーも対象
見落とされがちですが、対象には「賃貸マンションの所有者」が入っています。分譲の管理組合限定ではありません。新宿区に収益物件をお持ちの個人オーナー・法人オーナーさまも使える制度です。
ただし派遣先が「複数の区分所有者が集まる場など」とされている点は、賃貸の場合どう扱われるかを事前に住宅課へご確認ください。
管理組合がまだ無い場合でも申請できる
ここは実務上とても大きいところです。
分譲マンションの場合は、管理組合の理事会の決定を経て理事長名で申請します。ただし管理組合設立前などで管理組合がない場合は、区分所有者の概ね5分の1以上、かつ議決権の概ね5分の1以上の区分所有者の連名で申請できるとされています。
「管理組合が機能していないから相談もできない」という詰まり方をしなくていい。私が現場で見てきたなかで、一番動けなくなっているのはこのパターンでした。5分の1という数字は、決して届かない数字ではありません。
手続きの流れ
| 順番 | やること |
|---|---|
| 1 | 派遣希望日の2週間前までに申請(紙の申請書または電子申請) |
| 2 | 区が審査し「派遣決定通知書」または「派遣不承認通知書」が届く |
| 3 | 派遣終了後、相談員が持参する「派遣業務報告書」に申請者が署名 |
申請書は令和8年9月1日に一部改正されています。古い様式を使い回さないよう、区のページから最新版をダウンロードしてください。電子申請のフォームも令和7年3月28日に変更されています。
そして希望日の2週間前までという締切。これが効きます。「次の理事会に呼びたい」と思いついてからでは間に合いません。理事会の年間スケジュールを決める段階で、派遣の申請日も一緒に決めてしまう。それが現実的な進め方です。
2. マンション管理相談:毎月2回、80分枠が2つ
派遣ほど大がかりでなく、理事長さま個人が持ち込む相談にはこちらです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 区内の分譲マンションの管理組合役員・区分所有者、賃貸マンションの所有者 |
| 相談員 | マンション管理士、一級建築士、弁護士等の資格を持つ者、またはマンション問題に知見を有する者で区の委嘱を受けた者 |
| 日程 | 原則として毎月第2・第4金曜日(祝日を除く) |
| 時間 | [1] 13時00分〜14時20分/[2] 14時30分〜15時50分 |
| 場所 | 新宿区役所 第一分庁舎2階 区民相談室(歌舞伎町一丁目5番1号) |
| 相談料 | 無料 |
| 予約 | 住宅課居住支援係 03-5273-3567(相談日の2日前まで/電子申請も可) |
| 人数 | 相談者は2名以内 |
(出典:新宿区「マンション管理相談」/最終更新日 2026年4月1日)
令和8年度の相談日は、4月10日・24日、5月8日・22日、6月12日・26日、7月10日・24日、8月14日・28日、9月11日・25日、10月9日・23日、11月13日・27日、12月11日・25日、令和9年1月8日・22日、2月12日・26日、3月12日・26日です。
注目していただきたいのは1枠80分という設計です。よくある「1件15分」の窓口相談とは性格が違います。図面や見積書を広げて話す時間が取れます。
ただし相談者は2名以内。理事長さまと修繕委員長さま、といった組み合わせが現実的です。そして賃貸マンションの所有者の場合は「建物の維持管理に関する相談のみ」とされています。
3. 分譲マンション無料なんでも相談:予約なしで、月2回
区の事業ではなく、東京都マンション管理士会新宿支部が主催している相談会です。区のページからも案内されています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 開催日 | 毎月第1・第3水曜日 |
| 時間 | 午後1時〜4時 |
| 場所 | 新宿区役所 本庁舎1階ロビー |
| 対応 | マンション管理士 |
| 費用 | 無料 |
(出典:東京都マンション管理士会新宿支部「分譲マンション無料なんでも相談」)
本庁舎1階のロビーで開かれます。区役所に別の用事で来たついでに立ち寄れる形です。「いきなり理事長になってしまった」「管理規約が実態に合っていない」「大規模修繕の進め方が分からない」といった、まだ整理できていない段階の相談に向いています。
私が思うに、この相談会の使いどころは「何を相談すべきかを相談する」ところです。ここで論点を整理してから、1の派遣や2の管理相談に持ち込むと、限られた枠が生きます。
4. 令和8年度 無料建築相談会:建物そのものの話はここ
管理組合の運営ではなく、建物の話に寄った相談はこちらです。一般社団法人東京都建築士事務所協会新宿支部との協働で実施されています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 相談内容 | 建替え、リフォーム、バリアフリー、耐震診断など(紛争等に関するもの、工事業者のあっせんは除く) |
| 相談員 | 新宿区都市計画部職員/東京都建築士事務所協会新宿支部所属の建築士 |
| 費用 | 無料 |
| 時間 | 1組30分まで |
| 回数 | 年度内2回まで |
| 対象 | 新宿区内の建築物・土地についての相談 |
| 予約 | 開催日の3日前までの予約制(予約フォーム) |
| 問合せ | 建築指導課管理係 03-5273-3732 |
(出典:新宿区「令和8年度 無料建築相談会」)
令和8年度の開催日は、原則として毎月の水曜日に本庁舎3階302会議室で、13時30分・14時15分・15時00分の3枠です。10月15日(木)と2月18日(木)だけは本庁舎1階ロビーでの開催で、朝9時30分からの枠も含めて7枠に増え、当日受付も可能(予約優先)になります。
年度内2回までという上限があるので、使うタイミングを選んでください。私のお勧めは、劣化診断の見積りを取る前と、工事の見積書が出そろった後です。
なお「工事業者のあっせんは除く」とされています。ここで施工会社を紹介してもらうことはできません。図面や仕様の読み方、耐震診断の必要性といった、判断の土台を作る場です。
5. 管理計画認定制度の相談ダイヤル:制度そのものの疑問はここ
マンション管理計画認定制度や、マンション長寿命化促進税制について聞ける無料の電話相談です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 電話番号 | 03-5801-0858 |
| 受付時間 | 月曜から土曜 午前10時〜午後5時(祝日、年末年始を除く) |
| 相談内容 | マンション管理計画認定制度をはじめマンション管理適正化法全般 |
| 対応者 | 原則として相談者の地元の都道府県マンション管理士会の相談員 |
(出典:新宿区「新宿区マンション管理計画認定制度」/最終更新日 2026年6月1日)
土曜日も受け付けているのがこの窓口の強みです。平日昼間に電話できない理事長さまでも使えます。
新宿区は令和6年2月に新宿区マンション管理適正化推進計画を策定し、同月から管理計画認定制度の運用を開始しています。区への申請手数料は当面の間無料。ただしシステム利用料と事前確認審査料は別途かかります(この費用には補助があります。後述します)。
認定を取ると、住宅金融支援機構の金利優遇(マンションすまい・る債の債券利率上乗せ、【フラット35】や共用部分リフォーム融資の金利引下げ)の対象になります。長寿命化工事を実施して一定の要件を満たせば、固定資産税の減税措置の対象となる場合もあります。
大規模修繕を控えた管理組合にとって、認定は「借入条件が良くなるかもしれない札」です。工事の資金計画を立てる前に、この電話1本で確認しておく価値はあります。
6・7. 東京都の2つの無料派遣:区の枠を使い切っても、まだある
新宿区の枠とは別に、東京都の制度が2つあります。
マンションアドバイザー無料派遣
(公財)東京都防災・建築まちづくりセンターが実施しています。東京都の管理状況届出制度に届け出た管理組合が対象の枠と、管理不全の兆候がある場合の枠があり、回数の扱いが異なります。区の派遣と併用できるかを含め、事前に確認してください。
マンション管理士無料派遣(防災力向上・認知症対応)
東京都のマンション社会的機能向上支援事業(分譲)として、防災力向上と認知症対応の2つのテーマでマンション管理士を無料派遣するものです。募集件数の上限があり、達した時点で締め切られます。
(出典:(公財)東京都防災・建築まちづくりセンター「マンションアドバイザー無料派遣」、東京都マンションポータルサイト「分譲マンション向けマンション管理士無料派遣」)
防災は、大規模修繕と相性のいいテーマです。工事のタイミングでしか手を入れられない部位(屋上、避難ハッチ周り、外部階段の手すり)があります。防災の派遣で洗い出した課題を、修繕の仕様に織り込む。この順番で進めると、工事1回あたりの密度が上がります。
8・9. 国と都の常設窓口:区の外にもタダの窓口はある
(公財)マンション管理センター
国土交通大臣の指定を受けたマンション管理適正化推進センターです。
| 相談内容 | 電話 |
|---|---|
| 管理組合運営、管理規約等 | 03-3222-1517 |
| 建物・設備の維持管理 | 03-3222-1519 |
受付は月曜から金曜(祝日・年末年始を除く)の9時30分から17時。1件あたり15分前後でのアドバイスを心がけている、とされています(出典:(公財)マンション管理センター「相談窓口について」)。
公平・中立の立場でのアドバイスが原則で、特定の企業の紹介はしない、個別事案の適法性の判断はしない、回答は口頭のみ、という前提です。「うちの見積書は高いか安いか」を判定してもらう窓口ではありません。
東京都の分譲マンション総合相談窓口
(公財)東京都防災・建築まちづくりセンターが、分譲マンションの管理・建替え・改修に関する相談に専門のマンション管理士が総合的に応じる窓口を置いています。
なお、管理会社との契約トラブルや訪問販売型のリフォーム勧誘など、消費者トラブルの色が濃い話は消費生活相談の領域です。新宿区の消費生活相談の電話番号と受付時間は、変更されることがあるため、新宿区ホームページの相談窓口のページでご確認ください。法テラス(日本司法支援センター)も選択肢になります。
無料ではないが、知っておきたい3つの補助
無料の枠の外に置きましたが、新宿区には大規模修繕の準備段階に直結する補助があります。
長期修繕計画作成費等補助事業
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 区内のマンション管理組合が当該年度に行う長期修繕計画の作成・見直しの委託経費 |
| 補助額 | 対象経費(消費税等を除く)の2分の1、上限20万円 |
| 主な要件 | 区分所有者5人以上/延べ面積の過半が住宅用途/建築後5年以上/作成・見直し後の計画期間が30年以上/総会等で決議済み |
| 完了実績報告 | 令和9年3月31日まで |
補助事業の着手(委託経費の支払いを含む)は交付決定後である必要があります。すでに契約したもの、すでに作成・見直しを実施したものは申請できません。ここで失敗する管理組合が本当に多い。「先に業者と契約してしまった」が一番よくある取りこぼしです。
順番は、総会で決議 → 区へ申請 → 交付決定 → 契約・着手、です。
管理計画認定手続支援サービス手数料補助事業
システム利用料(1万円)と事前確認審査料の補助で、合計5万円が限度です。事前確認審査料は依頼先によって上限が4通りに分かれており、事前確認講習を修了したマンション管理士に依頼する場合と、管理会社等を経由してマンション管理適正評価制度と併せて申請する場合が上限4万円。マンション管理士会連合会経由の管理適正化診断サービスと併せる場合とセンターのサービス利用の場合が1万円です。
要件として「管理計画の認定を受けたマンションである」ことが必要です。認定を取ってから申請する流れになります。
管理計画認定取得促進補助事業
認定を取得した区内分譲マンションの管理組合が新たに宅配ボックスを設置する費用の20%、上限20万円です。申請時点で宅配ボックスが設置されていないことが条件。総会等での決議も必要です。
(出典:新宿区「新宿区マンション管理計画認定制度」/最終更新日 2026年6月1日)
新宿区で令和8年10月1日に施行される2つの条例
相談窓口の話からは少し外れますが、新宿区の管理組合・オーナーさまに関わる制度変更なので触れておきます。
新宿区は、令和7年3月に策定した「新宿区マンション等まちづくり方針」に基づき、「新宿区大規模マンション及び開発事業に係る市街地環境の整備に関する条例」を制定し、「新宿区ワンルームマンション等の建築及び管理に関する条例」を改正しました。いずれも令和8年10月1日施行です。
大規模マンション条例は、100戸以上の共同住宅などと、都市開発諸制度等を活用した新築などの開発事業が対象で、計画の届出と事前協議が義務付けられます。
ワンルームマンション条例の改正は、既存のオーナーさまにも関わります。対象が「地階を除く階数3以上・ワンルーム形式10戸以上」から「地階を含む階数3以上」に広がり、「ワンルーム形式の住戸が総住戸の3分の1以上のもの」も加わりました(階数3の場合は総住戸10戸以上に限る)。基準の見直しでは、建築に関する基準に「再配達の削減のための設置」が追加され、管理に関する基準では管理人による管理方法が見直され、「廃棄物及び資源の適切な管理」「管理人用郵便受けの設置等」が追加されています。
(出典:新宿区「【令和8年4月配信】大規模マンション条例ほか1条例を公布しました!」/最終更新日 2026年4月1日)
新宿区にワンルーム主体の賃貸物件をお持ちのオーナーさまは、施行後の基準が自分の物件にどう当たるかを、1の派遣や4の建築相談で確認されるといいと思います。
何を用意していけばいいか:3点セット+1
相談窓口へ手ぶらで行くと、一般論しか返ってきません。私がいつも理事長さまにお伝えしているのは、次の3点を持っていくことです。
| # | 書類 | なぜ必要か |
|---|---|---|
| 1 | 総会議事録(直近2〜3年分) | 何が決議済みで何が未決議かが分かる。相談員は「総会で何が決まっているか」を最初に確認する |
| 2 | 長期修繕計画書 | 次の大規模修繕の時期と想定費用の前提が分かる。積立金不足の議論はここが出発点 |
| 3 | 管理規約(+使用細則) | 工事の決議要件、専有と共用の区分、理事会の権限が書かれている |
+1:修繕積立金の残高と滞納額
3点セットに加えて、修繕積立金の現在残高と滞納額を数字で言えるようにしておいてください。この2つの数字があるかないかで、相談の解像度がまるで変わります。
「積立金は足りていますか」と聞かれて「たぶん足りないと思います」と答える理事長さまを、私は何度も見てきました。残高が分からないと、工法の選択肢も絞れません。
写真があればもっといい
外壁のひび割れ、タイルの浮き、鉄部のさび、屋上の防水層の膨れ。スマートフォンで撮った写真で構いません。建築相談で建築士と話すとき、写真1枚が説明の10分を短縮します。撮影日が分かるようにしておくと、劣化の進行を後から追えます。
新宿区の物件で、私が工法の話を急がない理由
ここで工法の話に少し触れます。
新宿区は、西新宿の超高層から、四谷・神楽坂の敷地に余裕のない中層まで、建物の性格が大きく分かれる区です。隣地との距離が取れない物件、前面道路が狭く資材の搬入に制約がある物件、繁華街に面していて足場の養生が近隣営業に影響する物件。いずれも新宿区では珍しくありません。
こういう建物で足場を組む前提だけで予算を組むと、見積金額が想定を大きく超えることがあります。仮設足場の費用は工事全体の2割から3割を占めることも珍しくありません。そこで選択肢として出てくるのが、ロープアクセス工法(無足場工法)です。産業用ロープで作業員が壁面に取り付き、足場を組まずに塗装や補修を行う方法です。
私は「ロープアクセスがいつでも安い」とは申し上げません。全面的にタイルを貼り替えるような工事では、足場のほうが適している場面もあります。私が提案しているのは、部位ごとに足場と無足場を使い分けるハイブリッド工法という選び方です。この考え方は明誠の考え方にまとめています。
無足場工法の技術的な中身や、適した建物の条件は、ロープアクセス工法の専門サイト(rope-access-method.com)に整理してあります。作業手順や安全管理の考え方も同じサイトにまとめました。相談員を理事会に呼ぶ前にこちらへ目を通しておかれると、2時間の中身が濃くなると思います。
ただ、この判断は劣化の実態が分かってからの話です。だから私は、区や都の無料派遣で劣化診断と工法の考え方を先に聞いていただくことをお勧めしています。工法を決めてから診断する順番では、選択肢が残りません。
管理組合向け・オーナー向けのサービスの全体像は大規模修繕のサービスご案内にまとめてあります。
まとめ:今週動くこと3点
長くなりました。新宿区の管理組合とオーナーさまが、今週できることを3つに絞ります。
① 住宅課居住支援係(03-5273-3567)に電話して、令和8年度の派遣残数を確認する
マンション管理相談員派遣は1年度につき3回まで。令和8年度の枠は令和9年3月31日で切り替わり、残りはリセットされます。前の理事会が令和8年度に何回使ったかを確認しないと、残り枠が分かりません。まずここからです。
② 3点セットをそろえる
総会議事録(直近2〜3年分)、長期修繕計画書、管理規約。この3つをファイル1冊にまとめておく。理事が交代しても引き継げます。修繕積立金の残高と滞納額をメモに書き添えておくと、相談の質が変わります。
③ 理事会の年間予定と、派遣の申請日を一緒に決める
派遣は希望日の2週間前までに申請が必要です。申請書は令和8年9月1日に一部改正されているので、最新版を区のページから取ってください。年度内に3回使い切るなら、9月・12月・2月あたりに割り当てるのが現実的です。
長期修繕計画作成費等補助を使う予定があるなら、契約前に区へ申請して交付決定を受ける。この順番だけは外さないでください。完了実績報告の締切は令和9年3月31日です。
無料の相談窓口は、使わなければゼロですが、使えば専門家の時間そのものです。新宿区の管理相談員派遣は1回2時間が年度3回、管理相談は毎月2回の80分枠、なんでも相談は毎月2回、建築相談会は年度2回。これを組み合わせている管理組合と、1回も使っていない管理組合の差は、5年後の修繕積立金残高に出ます。
大規模修繕の工法や見積の読み方について、総会の前段階の整理だけでもお力になれることがあります。お問合せフォームからご相談だけでも遠慮なくお声がけください。どの制度をどの順番で使うかの整理からご一緒できます。
出典・参考資料
- 新宿区「「新宿区マンション管理相談員派遣」」(最終更新日 2026年9月1日)
- 新宿区「マンション管理相談」(最終更新日 2026年4月1日)
- 新宿区「新宿区マンション管理計画認定制度」(最終更新日 2026年6月1日)
- 新宿区「令和8年度 無料建築相談会」
- 新宿区「【令和8年4月配信】大規模マンション条例ほか1条例を公布しました!」(最終更新日 2026年4月1日)
- 東京都マンション管理士会新宿支部「分譲マンション無料なんでも相談」
- 新宿区「新宿区マンション管理適正化推進計画」
- (公財)東京都防災・建築まちづくりセンター「マンションアドバイザー無料派遣」
- 東京都マンションポータルサイト「分譲マンション向けマンション管理士無料派遣(防災力向上・認知症対応)」
- (公財)マンション管理センター「相談窓口について」
- (一社)日本マンション管理士会連合会「マンション管理計画認定制度相談ダイヤル」
- 国土交通省「マンション管理計画認定制度」
本記事の情報の鮮度について:本記事は2026年9月13日時点で公表されている新宿区および国土交通省・東京都の公式情報をもとに執筆しています。制度は年度途中でも改正・予算終了があり得ます。実際に申請される前に、必ず新宿区および該当窓口へ最新の内容をご確認ください。
株式会社明誠|東京都東大和市
大規模修繕・足場工法・ロープアクセス工法(無足場工法)・ハイブリッド工法
ロープアクセス工法の専門情報:https://rope-access-method.com/
港区の管理組合が無料で使える相談・専門家派遣9つ|管理アドバイザー「合計10回」を使い切っていますか
港区の管理組合が無料で使える相談・専門家派遣9つ|管理アドバイザー「合計10回」を使い切っていますか
2026年9月13日 更新
「1回だけ来てもらって、それで終わりました」
高輪のマンションで、理事長さまからこう言われたことがあります。港区の管理アドバイザー派遣を使って、長期修繕計画(12年から30年先までの修繕工事と費用をまとめた計画書)の見直しについて専門家に一度だけ話を聞いた。それで「制度は使った」ことになっていました。
私は株式会社明誠の本間幸紘と申します。東京都東大和市を拠点に、20年近くマンションやビルの外壁と向き合ってきました。足場を組む工事も、ロープ1本でぶら下がる無足場の工事も、両方やってきた人間です。
そのとき私がお伝えしたのは、「港区の派遣は、年度に関係なく合計10回まで無料ですよ」ということでした。
理事長さまは驚いていました。10回。1回ごとに論点を変えて、劣化診断の話、業者選定の話、修繕積立金の話、規約の話と積み上げていける枠が、まだ9回分残っていたのです。
私が現場で一番悔しい思いをするのは、こういう場面です。工事の見積書を前にして「もっと早く誰かに相談できていれば」とおっしゃる管理組合に、私は何度も出会ってきました。港区は23区のなかでも支援メニューが多い区で、しかも派遣回数の上限が桁違いに大きい。使い切らない理由がありません。
今日は、港区のマンション管理組合とビルオーナーが、お金をかけずに使える相談・派遣の制度を9つ、令和8年度(2026年4月1日から2027年3月31日まで)の一次情報で整理します。
結論:港区で無料で使える相談・派遣は9つある
先に一覧でお見せします。
| # | 制度・窓口 | 誰が対応するか | 費用 | 申込先 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 管理アドバイザー派遣 | 区が選定した専門家 | 無料(年度にかかわらず合計10回) | 住宅課住宅支援係 03-3578-2229 |
| 2 | マンション総合窓口 | 区職員(マンション総合調整担当) | 無料(予約不要・随時) | 本庁舎6階 03-3578-2459 |
| 3 | マンション管理組合運営相談 | マンション管理士 | 無料(月2回・要予約) | 住宅課住宅支援係 03-3578-2229 |
| 4 | マンション管理の法律相談 | 弁護士 | 無料(月2回・要予約) | 住宅課住宅支援係 03-3578-2229 |
| 5 | すまいの建築相談 | 建築士 | 無料(月1回・要予約) | 住宅課住宅支援係 03-3578-2229 |
| 6 | マンション建替え相談 | 建築士 | 無料(月1回・要予約) | 住宅課住宅支援係 03-3578-2229 |
| 7 | 東京都 マンション管理士無料派遣 | マンション管理士 | 無料(各テーマ2回) | 東京都マンション管理士会 |
| 8 | 東京都 マンションアドバイザー無料派遣 | マンション管理士等 | 無料(届出組合1回/管理不全の兆候5回) | 東京都防災・建築まちづくりセンター |
| 9 | 港区マンション交流会 | 管理組合同士+専門家 | 無料(会員登録制) | 住宅課住宅支援係 03-3578-2224 |
これに加えて、劣化診断そのものに対する費用助成(上限50万円)も港区にはあります。こちらは無料ではなく助成なので本稿の主題から外れますが、後半で触れます。
ここからが本題です。
1. 管理アドバイザー派遣:港区最大の武器は「合計10回」という上限
港区の分譲マンション等管理支援事業のなかで、私が一番もったいないと感じているのがこの制度です。
費用と回数
港区の公式ページには、こう書かれています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 派遣の費用 | 無料(すべて区で負担) |
| 派遣の回数 | 年度にかかわらず合計10回までが限度 |
| 派遣場所 | 申請者が用意 |
(出典:港区「分譲マンション等管理支援事業」/更新日 2026年5月8日)
「年度にかかわらず合計10回」。ここが港区の特徴です。年度内2回、といった年度単位の枠ではなく、通算で10回という設計になっています。つまり令和8年度に3回使って、令和9年度に4回、令和10年度に3回、という配分もできる。
私はこれを、論点ごとに1回ずつ割り当てる使い方でお勧めしています。
相談できる内容
港区が示しているアドバイザー業務内容は次のとおりです。
- 管理組合の設立および運営に関する相談
- 管理規約、使用規則等の作成および見直しに関する相談
- 管理費、修繕積立金等の財務に関する相談
- 管理費、修繕積立金等の滞納に関する相談
- 区分所有者等のマナーおよびルールに関する相談
- 管理委託契約の契約等に関する相談
- 修繕計画の作成および修繕積立金の設定に関する相談
- 建築物、設備等の劣化診断および修繕工事に関する相談
大規模修繕に関わる項目が、この中に3つ入っています。「修繕計画の作成および修繕積立金の設定」「建築物、設備等の劣化診断および修繕工事」「管理委託契約の契約等」です。
私が理事会に呼ばれてお話しするとき、いつも先にお伝えしているのは「工法を決める前に、この3つを別々の回で相談してください」ということです。劣化の実態を知らずに工法を選ぶと、足場を組む前提で予算を組んでしまって、あとから選択肢が減ります。
できないこと(ここを誤解しないでください)
港区は制約も明記しています。
- マンション管理に関する業務を、アドバイザーが作業するものではない
- 管理組合や区分所有者等の紛争の解決や権利調整は行わない
- 管理規約や長期修繕計画書等の作成は派遣内容に含まない
つまり「アドバイザーに長期修繕計画を作ってもらう」ことはできません。判断の材料をもらう制度であって、成果物を作ってもらう制度ではない。ここを取り違えると、派遣を受けても手応えがないまま1回分を消費してしまいます。
申込のスケジュール
ここが実務上、一番大事なところです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 希望日の記入 | 申請日から2週間以降の日付を記入 |
| 土日 | 対応可能 |
| 電子申請 | 可能 |
| 申請の締切 | 2月末日 |
| 派遣日の締切 | 第2希望を含めて3月21日 |
土曜・日曜の派遣に対応しているのは、理事会が平日夜か週末に開かれる管理組合にとって大きい点です。理事会当日にアドバイザーを呼ぶ、という段取りが組めます。
申請から2週間以降でないと希望日にできないので、「次の理事会で呼びたい」という思いつきでは間に合いません。理事会の年間スケジュールを決めた段階で、派遣の申請日も一緒に決めてしまうのが現実的な進め方です。
申請書類は港区の申請ページからダウンロードできます。
2. マンション総合窓口:令和8年6月に本庁舎6階へ
港区は令和8年6月9日更新のページで、マンションに関する相談を分野や所管部署を問わず最初に受け付ける窓口として「マンション総合窓口」を案内しています(出典:港区「マンション総合窓口」)。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 場所 | 港区役所 本庁舎6階(看板が目印) |
| 電話 | 03-3578-2459(マンション総合調整担当) |
| 費用 | 無料 |
| 予約 | 電話相談も受付 |
私がこの窓口を評価しているのは、「どこに相談すればいいか分からない」段階で使えるからです。
大規模修繕の相談は住宅課、耐震は別の担当、エレベーターの安全装置はまた別。管理組合の役員は1年から2年で交代することが多く、前任者の引き継ぎメモに窓口名が書かれていないことも珍しくありません。総合窓口があれば、まずそこに電話して振り分けてもらえます。
順番としては、総合窓口で全体像を聞く → 専門相談を予約する → 管理アドバイザー派遣を申し込むという流れが無駄がありません。
3〜6. 区民相談室の専門相談:月2回のマンション管理士と弁護士
港区は区役所3階の区民相談室で、住まいに関する専門相談を分野ごとに開いています。令和8年4月1日更新の「すまいの相談一覧」から、マンションに関わる4つを抜き出します。
| 相談名 | 開催日 | 時間 | 相談員 | 予約締切 |
|---|---|---|---|---|
| マンション管理組合運営相談 | 第2・第4火曜日 | 13時〜16時(1人1時間・先着3人) | マンション管理士 | 前週の金曜正午 |
| マンション管理の法律相談 | 第2・第4火曜日 | 13時〜16時(1人1時間・先着3人) | 弁護士 | 前週の金曜正午 |
| すまいの建築相談 | 第4火曜日 | 13時〜16時(1人1時間・先着3人) | 建築士 | 前週の金曜正午 |
| マンション建替え相談 | 第3火曜日 | 13時30分〜16時30分(1人1時間・先着3人) | 建築士 | 前週の月曜正午 |
予約はすべて住宅課住宅支援係(03-3578-2229)への電話です。受付時間は平日午前8時30分から午後5時(土日祝・年末年始を除く)。
1人1時間、という枠の使い方
1人1時間という枠は、23区の管理相談としては長めです。港区の場合、第2・第4火曜日にはマンション管理士と弁護士が同じ時間帯に入っています。管理費滞納のように「運営の実務」と「法的手続き」の両面がある論点なら、両方を別の回で予約して突き合わせる、という使い方ができます。
私が現場で見てきた限り、管理費・修繕積立金の滞納は大規模修繕の資金計画を最も揺らす要因です。滞納額が積立金総額の数パーセントでも、工事の入札直前に「予定していた予算が組めない」という話になる。弁護士相談で督促の手順を確認しておくことは、工事の準備そのものだと私は考えています。
対面か電話か(リモートはなし)
相談方法は電話または対面です。港区のページには「リモート相談は行っておりません」と明記されています。申込時にどちらかを申し出る形です。電話相談を選んだ場合、相談時間になると相談員から電話がかかってきます。
対面を選んだ場合は当日、港区役所(港区芝公園一丁目5番25号)3階の区民相談室へ直接向かいます。
注意点:すまいの相談は「港区在住の人のみ」
ここは正直に申し上げます。港区のすまいの相談一覧には、はっきりこう書かれています。
港区在住の人のみとなります。在勤の人、区内に不動産を所有しているが在住していない人のご相談は受付けておりません。
港区に収益不動産をお持ちで、ご自身は別の区や県にお住まいのオーナーさまは、この専門相談の対象外です。
では手がないのか、というとそうではありません。管理アドバイザー派遣は「区内の分譲マンションの管理組合」が対象であり、居住地要件ではなく建物の所在地で判断されます。管理組合として申請する形なら、理事長さまのお住まいがどこであっても使えます。また、後述する東京都の制度は都内のマンション管理組合が対象で、こちらも区民要件はありません。
オーナーさま個人としての相談は、港区の一般の法律相談という選択肢もあります。こちらは対象が「区内在住・在勤・在学者」で、在勤の方まで広がります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 区内在住・在勤・在学者 |
| 日時 | 月・金曜日 13時〜16時/水曜日 13時〜16時および17時〜19時 |
| 相談方法 | 対面・電話・オンライン(Microsoft Teams) |
| 相談時間 | 25分 |
| 回数制限 | 1人につき1年度内(4月1日〜翌年3月31日)に3回まで |
| 予約 | みなとコール 03-5472-3710/港区相談予約システム |
(出典:港区「相談窓口」/更新日 2026年4月8日)
水曜日に17時から19時の夜間枠があり、オンライン相談にも対応しています。平日日中に区役所へ行けない方にとっては、こちらのほうが現実的かもしれません。
7. 東京都のマンション管理士無料派遣:令和9年2月26日まで受付
区の制度と重ねて使えるのが、東京都の制度です。こちらは防災力向上と認知症対応という2つのテーマに絞られています。
令和8年度の募集内容は次のとおりです(出典:東京都マンションポータルサイト「分譲マンション向けマンション管理士無料派遣(防災力向上・認知症対応)」)。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 都内に所在するマンション管理組合 |
| 回数 | 1管理組合につき、防災力向上と認知症対応それぞれ2回まで |
| 利用料 | 無料 |
| 受付期間 | 令和8年6月23日(火)〜令和9年2月26日(金) |
| 募集数 | 防災力向上・認知症対応あわせて160件(達し次第締切) |
| 申込先 | 東京都マンション管理士会(https://www.kanrisi.org/) |
| 問い合わせ | 東京都住宅政策本部 マンション課 03-5320-5004 |
ここで見落としやすい点が1つあります。派遣回数は通算でカウントされます。過去(令和5年度から令和7年度)に本事業で派遣を受けている管理組合は、その回数も各テーマ2回の上限に含まれます。「前の理事会が使ったかどうか」を確認してから申し込むほうが確実です。
受付は令和9年2月26日までですが、募集数160件に達した時点で新規の申込みは締め切られます。年度後半になるほど枠は減ると考えたほうがよいでしょう。
防災の相談が、なぜ大規模修繕の話につながるか
アドバイスの例として、東京都は「発災時の緊急対応を定める管理規約の整備方法」「災害時にも活用できる居住者等名簿の作成」などを挙げています。
一見、修繕工事とは別の話に見えます。私の経験上、これは同じ話です。
台風の翌朝、外壁のタイルが1枚落ちていた。誰がどう判断して、誰に連絡して、どこまでを緊急工事として発注するのか。この段取りが決まっていない管理組合では、落下の報告が理事長さまに届くまでに数日かかることがあります。その数日のあいだに、下に人が通っています。
居住者名簿と緊急連絡の流れを整えることは、外壁の安全管理とつながっています。私はこれを、修繕の話と切り離さずに考えていただきたいと思っています。
8. 東京都のマンションアドバイザー無料派遣:管理状況届出とセットの制度
もう1つ、東京都の制度があります。こちらは条件付きです。
(公財)東京都防災・建築まちづくりセンターが運営する「マンションアドバイザー無料派遣」は、東京都の管理状況届出制度の届出・更新を行った管理組合限定で、有料のアドバイザー派遣を無料で使える仕組みです。
| 区分 | 無料回数 |
|---|---|
| 届出が受理、または更新を届け出た要届出マンション | 1回まで無料 |
| うち、管理不全の兆候があるマンション | 5回まで無料 |
1コースあたり2時間程度です。
届出の対象になるマンション
東京都の条例(東京におけるマンションの適正な管理の促進に関する条例/平成31年3月制定、令和2年4月から届出制度開始)では、昭和58年12月31日以前に新築された、居住用の独立部分が6以上ある分譲マンションに管理状況の届出義務があります。前回の届出から5年以内ごとに更新が必要です。
つまり築40年を超えるマンションであれば、届出義務があり、届出をすればこの無料派遣の対象になります。
大規模修繕に直結するコース
無料で使えるコースのうち、修繕の検討段階で効くのは次の2つです。
| コース | 内容 |
|---|---|
| B-5① | 修繕工事検討段階での相談(建物・設備等の劣化状況の調査・診断、修繕工事の検討組織、修繕工事の方式等) |
| B-5② | 修繕工事準備段階での相談(修繕工事の内容、業者選定の仕方、合意形成等) |
B-5①に「修繕工事の方式」が入っています。ここで足場を組む方式と無足場の方式を比較する、という論点を持ち込めます。
私は自社の工事を売り込むためにこれを言っているのではありません。第三者の専門家から工法の選択肢を聞いておいていただくほうが、あとの合意形成が楽になるからです。理事会で「なぜこの工法なのか」を説明するとき、区や都の派遣で聞いた話が根拠になります。
申込は申込書に記入のうえ、FAX・メール・郵送でセンターへ。申し込みから1週間から2週間程度でアドバイザーから日程調整の連絡が入ります。問い合わせは東京都防災・建築まちづくりセンター まちづくり推進課(03-5989-1453)です。
なお、無料派遣を利用した相談内容は、東京都・マンション所在の特別区および市町村で共有される旨がセンターのページに明記されています。行政目的以外には利用しないとされていますが、把握しておいたほうがよい点です。
9. 港区マンション交流会:管理組合同士で情報を持ち寄る
制度というより「場」ですが、私はこれも支援メニューの1つだと思っています。
港区マンション交流会は、区内の分譲マンションの管理組合の理事会役員や区分所有者を対象にした会です。管理運営や維持管理の問題について情報を共有し、どう対処したかを持ち寄ることで、理事会役員の負担を軽くする趣旨とされています。
会員のメリットとして港区が挙げているのは次の4点です。
- マンションに関する問題を他の会員と情報共有できる
- マンション管理士等の専門家のアドバイスを受けられる
- 上記を通じて適正で円滑な運営管理の知識が身につく
- セミナーの開催日程や内容等の案内をメールや郵送で受け取れる
活動回数は年2回程度とされています。申込はオンライン申請、またはFAX・郵送・持参。問い合わせは住宅課住宅支援係(03-3578-2224)です。
情報の鮮度について1点お断りします。 港区の「港区マンション交流会の会員登録」ページは、本稿執筆時点(2026年9月13日)で更新日が2025年6月30日、つまり令和7年度の内容です。令和8年度の開催回数や日程が同じかどうかは、このページからは確認できません。会員登録や次回開催の予定は、住宅課へ直接お問い合わせいただくのが確実です。
私が交流会をお勧めする理由
工事の見積書を比較するとき、一番効くのは「同じ規模のマンションが、いくらでどこまでやったか」という実例です。これはインターネットで探しても出てきません。同規模・同年代のマンションの理事長さま同士が話せる場は、それだけの価値があります。
私が伺った現場でも、交流会で聞いた他組合の進め方を参考に、修繕委員会の立ち上げ方を決めた管理組合がありました。
番外:無料ではないが強力な「劣化診断費用助成」
無料ではないので9つの外に置きましたが、港区には劣化診断の費用助成があります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 助成額 | 劣化診断に要した費用の2分の1 |
| 上限額 | 50万円 |
| 助成回数 | 年度内1回限り |
| 対象建物 | 区内のマンション(分譲または賃貸)/延べ面積の2分の1以上が居住用/関係法令に適合/建築後5年以上経過 |
| 対象者 | 区内の分譲マンション管理組合、区内の賃貸マンション経営者(個人・法人) |
| 完了報告の締切 | 2月末日 |
(出典:港区「分譲マンション等管理支援事業」/更新日 2026年5月8日)
賃貸マンションの経営者も対象である点に注目してください。分譲の管理組合限定ではありません。港区に賃貸物件をお持ちの法人・個人オーナーさまが使える制度です。
ただし条件が厳しめです。
- 申請が予算額に達した場合は受付終了
- すでに診断の契約をしたもの、すでに診断を実施したものは申請できない
- 同一項目の診断は、助成を受けてから10年経過するまで対象外
- アスベスト関連の経費は対象外
- 調査・診断後に要するもの(大規模修繕の見積り、長期修繕計画の作成等)は含まない
港区が示している参考スケジュールでは、11月15日に申請した場合、助成金の支払いは翌年4月末日まで。申請から入金まで半年近くかかる設計です。完了報告の最終締切が2月末日なので、年明けの申請では間に合わない可能性が高い。
管理組合の場合は、総会で劣化診断の実施が決議され、費用の予算案が承認されていることが申請の条件です。つまり総会の議決が先。秋の総会で決議して、11月から12月に申請、というのが現実的な線です。
予算額に達した時点で受付が終了する制度なので、令和8年度の予算残額については住宅課住宅支援係へ事前に確認されることをお勧めします。本稿では残額を確認できていません。
都・国の相談窓口:区の外にもタダの窓口はある
港区の窓口が対象外だった場合、あるいは区の枠を使い切った場合の行き先です。
(公財)マンション管理センター
国土交通大臣の指定を受けた「マンション管理適正化推進センター」です。指定を受けている唯一の団体とされています。
| 相談内容 | 電話 |
|---|---|
| 管理組合運営、管理規約等 | 03-3222-1517 |
| 建物・設備の維持管理 | 03-3222-1519 |
受付は月曜から金曜(祝日・年末年始を除く)の9時30分から17時。1件あたり15分前後でのアドバイスを心がけている、とされています。メールでの相談フォームもあります(出典:(公財)マンション管理センター「相談窓口について」)。
公平・中立の立場でのアドバイスが原則で、特定の弁護士や企業の紹介はしない、個別事案の適法性の判断はしない、回答は口頭のみ、という前提です。「うちのマンションの見積書は高いか安いか」を判定してもらう窓口ではありません。標準管理規約や法令に照らして一般的な考え方を確認する窓口です。
なお同センターは令和7年の法改正に対応した『マンション管理基本法令集』を令和8年6月25日に発行しています。規約の見直しを検討中の管理組合には参考になるはずです。
東京都の分譲マンション総合相談窓口
(公財)東京都防災・建築まちづくりセンターが、分譲マンションの管理・建替え・改修に関する相談に専門のマンション管理士が総合的に応じる窓口を置いています。港区自身が関連リンクとして案内している窓口です。
港区立消費者センター・法テラス
管理会社との契約や訪問販売型のリフォーム勧誘など、消費者トラブルの色が濃い話はこちらです。
| 窓口 | 電話 | 受付 |
|---|---|---|
| 港区立消費者センター(相談専用) | 03-3456-6827 | 月〜土 9時30分〜16時(土は電話のみ) |
| 東京都消費生活総合センター | 03-3235-1155 | 月〜土 9時〜17時 |
| 法テラス(日本司法支援センター) | 0570-078374 | 月〜金 9時〜21時、土 9時〜17時 |
(出典:港区「消費者の相談窓口」/更新日 2024年10月25日、港区「相談窓口」/更新日 2026年4月8日)
消費者の相談窓口ページの更新日は2024年10月です。令和8年度の受付時間が同じかどうかは、このページからは確認できません。電話番号と受付時間は、お問い合わせの前に港区のページで再確認いただくのが確実です。
高齢の区分所有者が強引な訪問販売でリフォーム契約をしてしまった、という相談を私も現場で聞いたことがあります。東京都消費生活総合センターには「高齢者被害110番」(03-3235-3366/月〜土 9時〜17時)という専用窓口もあります。
国土交通省のマンション政策情報
制度の全体像は国土交通省のマンション政策のページにまとまっています。法改正の動きを追うときはこちらが起点です。
令和7年5月30日公布の「老朽化マンション等の管理及び再生の円滑化等を図るための建物の区分所有等に関する法律」(令和7年法律第47号)が令和7年11月28日に一部施行されています。標準管理規約も令和7年に改正されました。港区も「令和7年マンション標準管理規約の改正について」というページを設けています。規約の見直しを相談内容にする場合、この改正が反映されているかが論点になります。
何を用意していけばいいか:3点セット+1
相談窓口へ行くとき、手ぶらで行くと一般論しか返ってきません。私がいつも理事長さまにお伝えしているのは、次の3点を持っていくことです。
3点セット
| # | 書類 | なぜ必要か |
|---|---|---|
| 1 | 総会議事録(直近2〜3年分) | 何が決議済みで何が未決議かが分かる。相談員は「総会で何が決まっているか」を最初に確認する |
| 2 | 長期修繕計画書 | 次の大規模修繕の時期と想定費用の前提が分かる。積立金不足の議論はここが出発点 |
| 3 | 管理規約(+使用細則) | 工事の決議要件、専有と共用の区分、理事会の権限が書かれている |
港区の管理アドバイザー派遣では、相談内容に応じて管理規約・使用規則・管理委託契約書・会計関係資料・総会や理事会の議事録・長期修繕計画書・修繕工事の履歴資料を借りることがある、とされています。求められる資料はおおむねこの範囲です。
+1:修繕積立金の残高と滞納額
3点セットに加えて、修繕積立金の現在残高と滞納額を数字で言えるようにしておいてください。この2つの数字があるかないかで、相談の解像度が変わります。
「積立金は足りていますか」と聞かれて「たぶん足りないと思います」と答える理事長さまを、私は何度も見てきました。残高が分からないと、工法の選択肢も絞れません。
写真があればもっといい
外壁のひび割れ、タイルの浮き、鉄部のさび、屋上の防水層の膨れ。スマートフォンで撮った写真で構いません。建築相談で建築士と話すとき、写真1枚が説明の10分を短縮します。
撮影の日付が分かるようにしておくと、劣化の進行を後から追えます。
港区の物件で、私が工法の話を急がない理由
ここで工法の話に少し触れます。
港区は高層・超高層の物件が多い区です。芝浦港南地区の湾岸エリアには足場を組むことが難しい建物もあります。敷地に余裕がなく、隣地との距離が取れない物件もあります。
こういう建物で、足場を組む前提だけで予算を組むと、見積金額が想定を大きく超えることがあります。仮設足場の費用は工事全体の2割から3割を占めることも珍しくありません。そこで選択肢として出てくるのが、ロープアクセス工法(無足場工法)です。産業用ロープで作業員が壁面に取り付き、足場を組まずに塗装や補修を行う方法です。
私は「ロープアクセスがいつでも安い」とは申し上げません。全面的にタイルを貼り替えるような工事では、足場のほうが適している場面もあります。私が提案しているのは、部位ごとに足場と無足場を使い分けるハイブリッド工法という選び方です。この考え方は明誠の考え方にまとめています。
無足場工法の技術的な中身や適した建物の条件は、ロープアクセス工法の専門サイト(rope-access-method.com)に整理してあります。作業手順や安全管理の考え方も同じサイトにまとめました。無料相談に行かれる前にこちらに目を通しておかれると、アドバイザーへの質問の質が上がると思います。
ただ、この判断は劣化の実態が分かってからの話です。だから私は、区や都の無料派遣で劣化診断と工法の考え方を先に聞いていただくことをお勧めしています。工法を決めてから診断する順番では、選択肢が残りません。
管理組合向け・オーナー向けのサービスの全体像は大規模修繕のサービスご案内にまとめてあります。
まとめ:今週動くこと3点
長くなりました。港区の管理組合とオーナーさまが、今週できることを3つに絞ります。
① マンション総合窓口(03-3578-2459)に電話して、過去の利用履歴を確認する
管理アドバイザー派遣は通算10回。東京都の管理士派遣も令和5年度からの通算でカウントされます。前の理事会が何回使ったかを確認しないと、残り枠が分かりません。まずここからです。
② 3点セットをそろえる
総会議事録(直近2〜3年分)、長期修繕計画書、管理規約。この3つをファイル1冊にまとめておく。理事が交代しても引き継げます。修繕積立金の残高と滞納額をメモに書き添えておくと、相談の質が変わります。
③ 理事会の年間予定と、派遣の申請日を一緒に決める
港区の管理アドバイザー派遣は、申請日から2週間以降の日付でないと希望日にできません。申請締切は2月末日、派遣日の締切は3月21日。土日の派遣に対応しているので、理事会の日に合わせて呼べます。年間予定を立てる段階で申請日を決めてしまうのが確実です。
東京都のマンション管理士無料派遣は令和9年2月26日まで受付ですが、160件に達した時点で締切です。防災か認知症対応のテーマで使う予定があるなら、年度後半を待たないほうがいいでしょう。
無料の相談窓口は、使わなければゼロですが、使えば専門家の時間そのものです。港区の管理アドバイザー派遣は合計10回。1回1時間の専門相談が月2回。これを使い切っている管理組合と、1回で終わっている管理組合の差は、5年後の修繕積立金残高に出ます。
大規模修繕の工法や見積の読み方について、総会の前段階の整理だけでもお力になれることがあります。お問合せフォームからご相談だけでも遠慮なくお声がけください。どの制度をどの順番で使うかの整理からご一緒できます。
出典・参考資料
- 港区「分譲マンション等管理支援事業」(更新日 2026年5月8日)
- 港区「すまいの相談一覧」(更新日 2026年4月1日)
- 港区「マンション総合窓口」(更新日 2026年6月9日)
- 港区「相談窓口」(更新日 2026年4月8日)
- 港区「港区マンション交流会の会員登録」(更新日 2025年6月30日)
- 港区「消費者の相談窓口」(更新日 2024年10月25日)
- 港区「令和7年マンション標準管理規約の改正について」
- 東京都マンションポータルサイト「分譲マンション向けマンション管理士無料派遣(防災力向上・認知症対応)」(令和8年度募集内容)
- (公財)東京都防災・建築まちづくりセンター「マンションアドバイザー無料派遣」
- (公財)マンション管理センター「相談窓口について」
- 国土交通省「マンション政策」
本記事の情報の鮮度について:本記事は2026年9月13日時点で公表されている港区および国土交通省・東京都の公式情報をもとに執筆しています。制度は年度途中でも改正・予算終了があり得ます。実際に申請される前に、必ず港区および該当窓口へ最新の内容をご確認ください。
株式会社明誠|東京都東大和市
大規模修繕・足場工法・ロープアクセス工法(無足場工法)・ハイブリッド工法
ロープアクセス工法の専門情報:https://rope-access-method.com/

