新宿区の管理組合が無料で使える相談・派遣9つ|「管理相談員派遣」は1回2時間、理事会にそのまま呼べます
新宿区の管理組合が無料で使える相談・派遣9つ|「管理相談員派遣」は1回2時間、理事会にそのまま呼べます
2026年9月13日 更新
「相談って、区役所まで出向いて15分話すやつですよね」
新宿区の、築30年を超えたマンションの理事長さまから、こう言われたことがあります。大規模修繕の見積りを3社から取ったものの、どれが妥当なのか判断がつかない。誰かに聞きたいが、平日の昼間に区役所へ出向く時間がない。だから相談は諦めていた、という話でした。
私は株式会社明誠の本間幸紘と申します。東京都東大和市を拠点に、20年近くマンションやビルの外壁と向き合ってきました。足場を組む工事も、ロープ1本でぶら下がる無足場の工事も、両方やってきた人間です。
そのときお伝えしたのは、「新宿区は、専門家のほうから理事会に来てくれる制度がありますよ」ということでした。
新宿区マンション管理相談員派遣。1回あたり2時間、1年度につき同一マンションで3回まで、費用は無料。しかも派遣先は「複数の区分所有者の方が集まる場」、つまり総会や理事会、修繕委員会の場そのものです。
理事長さまは「2時間も、理事会に来てくれるんですか」と言われました。そうなのです。区役所の窓口相談が1件15分から20分程度であることを思えば、2時間という枠がどれだけ大きいかが分かります。しかも理事全員がその場で同じ話を聞ける。
今日は、新宿区のマンション管理組合とビルオーナーが、お金をかけずに使える相談・派遣の制度を9つ、令和8年度(2026年4月1日から2027年3月31日まで)の一次情報で整理します。
結論:新宿区で無料で使える相談・派遣は9つある
先に一覧でお見せします。
| # | 制度・窓口 | 誰が対応するか | 費用 | 申込先 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 新宿区マンション管理相談員派遣 | 区が委嘱した専門家 | 無料(1回2時間・年度3回まで) | 住宅課居住支援係 03-5273-3567 |
| 2 | マンション管理相談 | 区が委嘱した相談員 | 無料(第2・第4金曜/要予約) | 住宅課居住支援係 03-5273-3567 |
| 3 | 分譲マンション無料なんでも相談 | マンション管理士 | 無料(第1・第3水曜) | 東京都マンション管理士会新宿支部 |
| 4 | 令和8年度 無料建築相談会 | 区職員+建築士 | 無料(年度内2回まで・1組30分) | 建築指導課管理係 03-5273-3732 |
| 5 | 管理計画認定制度 相談ダイヤル | マンション管理士 | 無料(月〜土) | (一社)日本マンション管理士会連合会 03-5801-0858 |
| 6 | 東京都 マンションアドバイザー無料派遣 | マンション管理士等 | 無料 | (公財)東京都防災・建築まちづくりセンター |
| 7 | 東京都 マンション管理士無料派遣 | マンション管理士 | 無料(防災力向上・認知症対応) | 東京都マンションポータルサイト |
| 8 | (公財)マンション管理センター 電話相談 | 相談員 | 無料 | 03-3222-1517/03-3222-1519 |
| 9 | 東京都 分譲マンション総合相談窓口 | マンション管理士 | 無料 | (公財)東京都防災・建築まちづくりセンター |
これに加えて、長期修繕計画の作成費や管理計画認定の手数料に対する補助も新宿区にはあります。こちらは無料ではなく補助なので本稿の主題から外れますが、後半で触れます。
ここからが本題です。
1. マンション管理相談員派遣:新宿区の本命は「2時間×3回」という枠
新宿区の支援メニューのなかで、私が一番もったいないと感じているのがこの制度です。
費用と回数
新宿区の公式ページには、こう書かれています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 区内にある分譲マンションの管理組合、賃貸マンションの所有者 |
| 派遣先 | 複数の区分所有者が集まる場など(総会、理事会、専門委員会など) |
| 時間 | 1回あたり2時間 |
| 回数 | 1年度につき同一マンションで3回まで(区長が特に必要と認めたときは3回に限らない) |
| 相談員 | マンション管理士、一級建築士、建築設備士、弁護士などの資格を有する者、またはマンション問題に知見を有する者で区の委嘱を受けた専門家 |
| 費用 | 無料 |
(出典:新宿区「「新宿区マンション管理相談員派遣」」/最終更新日 2026年9月1日)
私がここで強調したいのは、相談員の顔ぶれが「マンション管理士」だけではないという点です。一級建築士、建築設備士が含まれている。つまり大規模修繕の話、劣化診断の話、設備更新の話を、それぞれ専門の人に聞ける設計になっています。
申請のときに相談内容を書きますから、そこで「外壁の劣化診断と修繕の進め方」と書けば、建築の分かる相談員が来る可能性が高くなります。逆に「滞納の督促方法」と書けば法律に強い相談員が来る。3回の枠を、論点ごとに割り当てるのが私のお勧めです。
賃貸マンションのオーナーも対象
見落とされがちですが、対象には「賃貸マンションの所有者」が入っています。分譲の管理組合限定ではありません。新宿区に収益物件をお持ちの個人オーナー・法人オーナーさまも使える制度です。
ただし派遣先が「複数の区分所有者が集まる場など」とされている点は、賃貸の場合どう扱われるかを事前に住宅課へご確認ください。
管理組合がまだ無い場合でも申請できる
ここは実務上とても大きいところです。
分譲マンションの場合は、管理組合の理事会の決定を経て理事長名で申請します。ただし管理組合設立前などで管理組合がない場合は、区分所有者の概ね5分の1以上、かつ議決権の概ね5分の1以上の区分所有者の連名で申請できるとされています。
「管理組合が機能していないから相談もできない」という詰まり方をしなくていい。私が現場で見てきたなかで、一番動けなくなっているのはこのパターンでした。5分の1という数字は、決して届かない数字ではありません。
手続きの流れ
| 順番 | やること |
|---|---|
| 1 | 派遣希望日の2週間前までに申請(紙の申請書または電子申請) |
| 2 | 区が審査し「派遣決定通知書」または「派遣不承認通知書」が届く |
| 3 | 派遣終了後、相談員が持参する「派遣業務報告書」に申請者が署名 |
申請書は令和8年9月1日に一部改正されています。古い様式を使い回さないよう、区のページから最新版をダウンロードしてください。電子申請のフォームも令和7年3月28日に変更されています。
そして希望日の2週間前までという締切。これが効きます。「次の理事会に呼びたい」と思いついてからでは間に合いません。理事会の年間スケジュールを決める段階で、派遣の申請日も一緒に決めてしまう。それが現実的な進め方です。
2. マンション管理相談:毎月2回、80分枠が2つ
派遣ほど大がかりでなく、理事長さま個人が持ち込む相談にはこちらです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 区内の分譲マンションの管理組合役員・区分所有者、賃貸マンションの所有者 |
| 相談員 | マンション管理士、一級建築士、弁護士等の資格を持つ者、またはマンション問題に知見を有する者で区の委嘱を受けた者 |
| 日程 | 原則として毎月第2・第4金曜日(祝日を除く) |
| 時間 | [1] 13時00分〜14時20分/[2] 14時30分〜15時50分 |
| 場所 | 新宿区役所 第一分庁舎2階 区民相談室(歌舞伎町一丁目5番1号) |
| 相談料 | 無料 |
| 予約 | 住宅課居住支援係 03-5273-3567(相談日の2日前まで/電子申請も可) |
| 人数 | 相談者は2名以内 |
(出典:新宿区「マンション管理相談」/最終更新日 2026年4月1日)
令和8年度の相談日は、4月10日・24日、5月8日・22日、6月12日・26日、7月10日・24日、8月14日・28日、9月11日・25日、10月9日・23日、11月13日・27日、12月11日・25日、令和9年1月8日・22日、2月12日・26日、3月12日・26日です。
注目していただきたいのは1枠80分という設計です。よくある「1件15分」の窓口相談とは性格が違います。図面や見積書を広げて話す時間が取れます。
ただし相談者は2名以内。理事長さまと修繕委員長さま、といった組み合わせが現実的です。そして賃貸マンションの所有者の場合は「建物の維持管理に関する相談のみ」とされています。
3. 分譲マンション無料なんでも相談:予約なしで、月2回
区の事業ではなく、東京都マンション管理士会新宿支部が主催している相談会です。区のページからも案内されています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 開催日 | 毎月第1・第3水曜日 |
| 時間 | 午後1時〜4時 |
| 場所 | 新宿区役所 本庁舎1階ロビー |
| 対応 | マンション管理士 |
| 費用 | 無料 |
(出典:東京都マンション管理士会新宿支部「分譲マンション無料なんでも相談」)
本庁舎1階のロビーで開かれます。区役所に別の用事で来たついでに立ち寄れる形です。「いきなり理事長になってしまった」「管理規約が実態に合っていない」「大規模修繕の進め方が分からない」といった、まだ整理できていない段階の相談に向いています。
私が思うに、この相談会の使いどころは「何を相談すべきかを相談する」ところです。ここで論点を整理してから、1の派遣や2の管理相談に持ち込むと、限られた枠が生きます。
4. 令和8年度 無料建築相談会:建物そのものの話はここ
管理組合の運営ではなく、建物の話に寄った相談はこちらです。一般社団法人東京都建築士事務所協会新宿支部との協働で実施されています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 相談内容 | 建替え、リフォーム、バリアフリー、耐震診断など(紛争等に関するもの、工事業者のあっせんは除く) |
| 相談員 | 新宿区都市計画部職員/東京都建築士事務所協会新宿支部所属の建築士 |
| 費用 | 無料 |
| 時間 | 1組30分まで |
| 回数 | 年度内2回まで |
| 対象 | 新宿区内の建築物・土地についての相談 |
| 予約 | 開催日の3日前までの予約制(予約フォーム) |
| 問合せ | 建築指導課管理係 03-5273-3732 |
(出典:新宿区「令和8年度 無料建築相談会」)
令和8年度の開催日は、原則として毎月の水曜日に本庁舎3階302会議室で、13時30分・14時15分・15時00分の3枠です。10月15日(木)と2月18日(木)だけは本庁舎1階ロビーでの開催で、朝9時30分からの枠も含めて7枠に増え、当日受付も可能(予約優先)になります。
年度内2回までという上限があるので、使うタイミングを選んでください。私のお勧めは、劣化診断の見積りを取る前と、工事の見積書が出そろった後です。
なお「工事業者のあっせんは除く」とされています。ここで施工会社を紹介してもらうことはできません。図面や仕様の読み方、耐震診断の必要性といった、判断の土台を作る場です。
5. 管理計画認定制度の相談ダイヤル:制度そのものの疑問はここ
マンション管理計画認定制度や、マンション長寿命化促進税制について聞ける無料の電話相談です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 電話番号 | 03-5801-0858 |
| 受付時間 | 月曜から土曜 午前10時〜午後5時(祝日、年末年始を除く) |
| 相談内容 | マンション管理計画認定制度をはじめマンション管理適正化法全般 |
| 対応者 | 原則として相談者の地元の都道府県マンション管理士会の相談員 |
(出典:新宿区「新宿区マンション管理計画認定制度」/最終更新日 2026年6月1日)
土曜日も受け付けているのがこの窓口の強みです。平日昼間に電話できない理事長さまでも使えます。
新宿区は令和6年2月に新宿区マンション管理適正化推進計画を策定し、同月から管理計画認定制度の運用を開始しています。区への申請手数料は当面の間無料。ただしシステム利用料と事前確認審査料は別途かかります(この費用には補助があります。後述します)。
認定を取ると、住宅金融支援機構の金利優遇(マンションすまい・る債の債券利率上乗せ、【フラット35】や共用部分リフォーム融資の金利引下げ)の対象になります。長寿命化工事を実施して一定の要件を満たせば、固定資産税の減税措置の対象となる場合もあります。
大規模修繕を控えた管理組合にとって、認定は「借入条件が良くなるかもしれない札」です。工事の資金計画を立てる前に、この電話1本で確認しておく価値はあります。
6・7. 東京都の2つの無料派遣:区の枠を使い切っても、まだある
新宿区の枠とは別に、東京都の制度が2つあります。
マンションアドバイザー無料派遣
(公財)東京都防災・建築まちづくりセンターが実施しています。東京都の管理状況届出制度に届け出た管理組合が対象の枠と、管理不全の兆候がある場合の枠があり、回数の扱いが異なります。区の派遣と併用できるかを含め、事前に確認してください。
マンション管理士無料派遣(防災力向上・認知症対応)
東京都のマンション社会的機能向上支援事業(分譲)として、防災力向上と認知症対応の2つのテーマでマンション管理士を無料派遣するものです。募集件数の上限があり、達した時点で締め切られます。
(出典:(公財)東京都防災・建築まちづくりセンター「マンションアドバイザー無料派遣」、東京都マンションポータルサイト「分譲マンション向けマンション管理士無料派遣」)
防災は、大規模修繕と相性のいいテーマです。工事のタイミングでしか手を入れられない部位(屋上、避難ハッチ周り、外部階段の手すり)があります。防災の派遣で洗い出した課題を、修繕の仕様に織り込む。この順番で進めると、工事1回あたりの密度が上がります。
8・9. 国と都の常設窓口:区の外にもタダの窓口はある
(公財)マンション管理センター
国土交通大臣の指定を受けたマンション管理適正化推進センターです。
| 相談内容 | 電話 |
|---|---|
| 管理組合運営、管理規約等 | 03-3222-1517 |
| 建物・設備の維持管理 | 03-3222-1519 |
受付は月曜から金曜(祝日・年末年始を除く)の9時30分から17時。1件あたり15分前後でのアドバイスを心がけている、とされています(出典:(公財)マンション管理センター「相談窓口について」)。
公平・中立の立場でのアドバイスが原則で、特定の企業の紹介はしない、個別事案の適法性の判断はしない、回答は口頭のみ、という前提です。「うちの見積書は高いか安いか」を判定してもらう窓口ではありません。
東京都の分譲マンション総合相談窓口
(公財)東京都防災・建築まちづくりセンターが、分譲マンションの管理・建替え・改修に関する相談に専門のマンション管理士が総合的に応じる窓口を置いています。
なお、管理会社との契約トラブルや訪問販売型のリフォーム勧誘など、消費者トラブルの色が濃い話は消費生活相談の領域です。新宿区の消費生活相談の電話番号と受付時間は、変更されることがあるため、新宿区ホームページの相談窓口のページでご確認ください。法テラス(日本司法支援センター)も選択肢になります。
無料ではないが、知っておきたい3つの補助
無料の枠の外に置きましたが、新宿区には大規模修繕の準備段階に直結する補助があります。
長期修繕計画作成費等補助事業
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 区内のマンション管理組合が当該年度に行う長期修繕計画の作成・見直しの委託経費 |
| 補助額 | 対象経費(消費税等を除く)の2分の1、上限20万円 |
| 主な要件 | 区分所有者5人以上/延べ面積の過半が住宅用途/建築後5年以上/作成・見直し後の計画期間が30年以上/総会等で決議済み |
| 完了実績報告 | 令和9年3月31日まで |
補助事業の着手(委託経費の支払いを含む)は交付決定後である必要があります。すでに契約したもの、すでに作成・見直しを実施したものは申請できません。ここで失敗する管理組合が本当に多い。「先に業者と契約してしまった」が一番よくある取りこぼしです。
順番は、総会で決議 → 区へ申請 → 交付決定 → 契約・着手、です。
管理計画認定手続支援サービス手数料補助事業
システム利用料(1万円)と事前確認審査料の補助で、合計5万円が限度です。事前確認審査料は依頼先によって上限が4通りに分かれており、事前確認講習を修了したマンション管理士に依頼する場合と、管理会社等を経由してマンション管理適正評価制度と併せて申請する場合が上限4万円。マンション管理士会連合会経由の管理適正化診断サービスと併せる場合とセンターのサービス利用の場合が1万円です。
要件として「管理計画の認定を受けたマンションである」ことが必要です。認定を取ってから申請する流れになります。
管理計画認定取得促進補助事業
認定を取得した区内分譲マンションの管理組合が新たに宅配ボックスを設置する費用の20%、上限20万円です。申請時点で宅配ボックスが設置されていないことが条件。総会等での決議も必要です。
(出典:新宿区「新宿区マンション管理計画認定制度」/最終更新日 2026年6月1日)
新宿区で令和8年10月1日に施行される2つの条例
相談窓口の話からは少し外れますが、新宿区の管理組合・オーナーさまに関わる制度変更なので触れておきます。
新宿区は、令和7年3月に策定した「新宿区マンション等まちづくり方針」に基づき、「新宿区大規模マンション及び開発事業に係る市街地環境の整備に関する条例」を制定し、「新宿区ワンルームマンション等の建築及び管理に関する条例」を改正しました。いずれも令和8年10月1日施行です。
大規模マンション条例は、100戸以上の共同住宅などと、都市開発諸制度等を活用した新築などの開発事業が対象で、計画の届出と事前協議が義務付けられます。
ワンルームマンション条例の改正は、既存のオーナーさまにも関わります。対象が「地階を除く階数3以上・ワンルーム形式10戸以上」から「地階を含む階数3以上」に広がり、「ワンルーム形式の住戸が総住戸の3分の1以上のもの」も加わりました(階数3の場合は総住戸10戸以上に限る)。基準の見直しでは、建築に関する基準に「再配達の削減のための設置」が追加され、管理に関する基準では管理人による管理方法が見直され、「廃棄物及び資源の適切な管理」「管理人用郵便受けの設置等」が追加されています。
(出典:新宿区「【令和8年4月配信】大規模マンション条例ほか1条例を公布しました!」/最終更新日 2026年4月1日)
新宿区にワンルーム主体の賃貸物件をお持ちのオーナーさまは、施行後の基準が自分の物件にどう当たるかを、1の派遣や4の建築相談で確認されるといいと思います。
何を用意していけばいいか:3点セット+1
相談窓口へ手ぶらで行くと、一般論しか返ってきません。私がいつも理事長さまにお伝えしているのは、次の3点を持っていくことです。
| # | 書類 | なぜ必要か |
|---|---|---|
| 1 | 総会議事録(直近2〜3年分) | 何が決議済みで何が未決議かが分かる。相談員は「総会で何が決まっているか」を最初に確認する |
| 2 | 長期修繕計画書 | 次の大規模修繕の時期と想定費用の前提が分かる。積立金不足の議論はここが出発点 |
| 3 | 管理規約(+使用細則) | 工事の決議要件、専有と共用の区分、理事会の権限が書かれている |
+1:修繕積立金の残高と滞納額
3点セットに加えて、修繕積立金の現在残高と滞納額を数字で言えるようにしておいてください。この2つの数字があるかないかで、相談の解像度がまるで変わります。
「積立金は足りていますか」と聞かれて「たぶん足りないと思います」と答える理事長さまを、私は何度も見てきました。残高が分からないと、工法の選択肢も絞れません。
写真があればもっといい
外壁のひび割れ、タイルの浮き、鉄部のさび、屋上の防水層の膨れ。スマートフォンで撮った写真で構いません。建築相談で建築士と話すとき、写真1枚が説明の10分を短縮します。撮影日が分かるようにしておくと、劣化の進行を後から追えます。
新宿区の物件で、私が工法の話を急がない理由
ここで工法の話に少し触れます。
新宿区は、西新宿の超高層から、四谷・神楽坂の敷地に余裕のない中層まで、建物の性格が大きく分かれる区です。隣地との距離が取れない物件、前面道路が狭く資材の搬入に制約がある物件、繁華街に面していて足場の養生が近隣営業に影響する物件。いずれも新宿区では珍しくありません。
こういう建物で足場を組む前提だけで予算を組むと、見積金額が想定を大きく超えることがあります。仮設足場の費用は工事全体の2割から3割を占めることも珍しくありません。そこで選択肢として出てくるのが、ロープアクセス工法(無足場工法)です。産業用ロープで作業員が壁面に取り付き、足場を組まずに塗装や補修を行う方法です。
私は「ロープアクセスがいつでも安い」とは申し上げません。全面的にタイルを貼り替えるような工事では、足場のほうが適している場面もあります。私が提案しているのは、部位ごとに足場と無足場を使い分けるハイブリッド工法という選び方です。この考え方は明誠の考え方にまとめています。
無足場工法の技術的な中身や、適した建物の条件は、ロープアクセス工法の専門サイト(rope-access-method.com)に整理してあります。作業手順や安全管理の考え方も同じサイトにまとめました。相談員を理事会に呼ぶ前にこちらへ目を通しておかれると、2時間の中身が濃くなると思います。
ただ、この判断は劣化の実態が分かってからの話です。だから私は、区や都の無料派遣で劣化診断と工法の考え方を先に聞いていただくことをお勧めしています。工法を決めてから診断する順番では、選択肢が残りません。
管理組合向け・オーナー向けのサービスの全体像は大規模修繕のサービスご案内にまとめてあります。
まとめ:今週動くこと3点
長くなりました。新宿区の管理組合とオーナーさまが、今週できることを3つに絞ります。
① 住宅課居住支援係(03-5273-3567)に電話して、令和8年度の派遣残数を確認する
マンション管理相談員派遣は1年度につき3回まで。令和8年度の枠は令和9年3月31日で切り替わり、残りはリセットされます。前の理事会が令和8年度に何回使ったかを確認しないと、残り枠が分かりません。まずここからです。
② 3点セットをそろえる
総会議事録(直近2〜3年分)、長期修繕計画書、管理規約。この3つをファイル1冊にまとめておく。理事が交代しても引き継げます。修繕積立金の残高と滞納額をメモに書き添えておくと、相談の質が変わります。
③ 理事会の年間予定と、派遣の申請日を一緒に決める
派遣は希望日の2週間前までに申請が必要です。申請書は令和8年9月1日に一部改正されているので、最新版を区のページから取ってください。年度内に3回使い切るなら、9月・12月・2月あたりに割り当てるのが現実的です。
長期修繕計画作成費等補助を使う予定があるなら、契約前に区へ申請して交付決定を受ける。この順番だけは外さないでください。完了実績報告の締切は令和9年3月31日です。
無料の相談窓口は、使わなければゼロですが、使えば専門家の時間そのものです。新宿区の管理相談員派遣は1回2時間が年度3回、管理相談は毎月2回の80分枠、なんでも相談は毎月2回、建築相談会は年度2回。これを組み合わせている管理組合と、1回も使っていない管理組合の差は、5年後の修繕積立金残高に出ます。
大規模修繕の工法や見積の読み方について、総会の前段階の整理だけでもお力になれることがあります。お問合せフォームからご相談だけでも遠慮なくお声がけください。どの制度をどの順番で使うかの整理からご一緒できます。
出典・参考資料
- 新宿区「「新宿区マンション管理相談員派遣」」(最終更新日 2026年9月1日)
- 新宿区「マンション管理相談」(最終更新日 2026年4月1日)
- 新宿区「新宿区マンション管理計画認定制度」(最終更新日 2026年6月1日)
- 新宿区「令和8年度 無料建築相談会」
- 新宿区「【令和8年4月配信】大規模マンション条例ほか1条例を公布しました!」(最終更新日 2026年4月1日)
- 東京都マンション管理士会新宿支部「分譲マンション無料なんでも相談」
- 新宿区「新宿区マンション管理適正化推進計画」
- (公財)東京都防災・建築まちづくりセンター「マンションアドバイザー無料派遣」
- 東京都マンションポータルサイト「分譲マンション向けマンション管理士無料派遣(防災力向上・認知症対応)」
- (公財)マンション管理センター「相談窓口について」
- (一社)日本マンション管理士会連合会「マンション管理計画認定制度相談ダイヤル」
- 国土交通省「マンション管理計画認定制度」
本記事の情報の鮮度について:本記事は2026年9月13日時点で公表されている新宿区および国土交通省・東京都の公式情報をもとに執筆しています。制度は年度途中でも改正・予算終了があり得ます。実際に申請される前に、必ず新宿区および該当窓口へ最新の内容をご確認ください。
株式会社明誠|東京都東大和市
大規模修繕・足場工法・ロープアクセス工法(無足場工法)・ハイブリッド工法
ロープアクセス工法の専門情報:https://rope-access-method.com/
港区の管理組合が無料で使える相談・専門家派遣9つ|管理アドバイザー「合計10回」を使い切っていますか
港区の管理組合が無料で使える相談・専門家派遣9つ|管理アドバイザー「合計10回」を使い切っていますか
2026年9月13日 更新
「1回だけ来てもらって、それで終わりました」
高輪のマンションで、理事長さまからこう言われたことがあります。港区の管理アドバイザー派遣を使って、長期修繕計画(12年から30年先までの修繕工事と費用をまとめた計画書)の見直しについて専門家に一度だけ話を聞いた。それで「制度は使った」ことになっていました。
私は株式会社明誠の本間幸紘と申します。東京都東大和市を拠点に、20年近くマンションやビルの外壁と向き合ってきました。足場を組む工事も、ロープ1本でぶら下がる無足場の工事も、両方やってきた人間です。
そのとき私がお伝えしたのは、「港区の派遣は、年度に関係なく合計10回まで無料ですよ」ということでした。
理事長さまは驚いていました。10回。1回ごとに論点を変えて、劣化診断の話、業者選定の話、修繕積立金の話、規約の話と積み上げていける枠が、まだ9回分残っていたのです。
私が現場で一番悔しい思いをするのは、こういう場面です。工事の見積書を前にして「もっと早く誰かに相談できていれば」とおっしゃる管理組合に、私は何度も出会ってきました。港区は23区のなかでも支援メニューが多い区で、しかも派遣回数の上限が桁違いに大きい。使い切らない理由がありません。
今日は、港区のマンション管理組合とビルオーナーが、お金をかけずに使える相談・派遣の制度を9つ、令和8年度(2026年4月1日から2027年3月31日まで)の一次情報で整理します。
結論:港区で無料で使える相談・派遣は9つある
先に一覧でお見せします。
| # | 制度・窓口 | 誰が対応するか | 費用 | 申込先 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 管理アドバイザー派遣 | 区が選定した専門家 | 無料(年度にかかわらず合計10回) | 住宅課住宅支援係 03-3578-2229 |
| 2 | マンション総合窓口 | 区職員(マンション総合調整担当) | 無料(予約不要・随時) | 本庁舎6階 03-3578-2459 |
| 3 | マンション管理組合運営相談 | マンション管理士 | 無料(月2回・要予約) | 住宅課住宅支援係 03-3578-2229 |
| 4 | マンション管理の法律相談 | 弁護士 | 無料(月2回・要予約) | 住宅課住宅支援係 03-3578-2229 |
| 5 | すまいの建築相談 | 建築士 | 無料(月1回・要予約) | 住宅課住宅支援係 03-3578-2229 |
| 6 | マンション建替え相談 | 建築士 | 無料(月1回・要予約) | 住宅課住宅支援係 03-3578-2229 |
| 7 | 東京都 マンション管理士無料派遣 | マンション管理士 | 無料(各テーマ2回) | 東京都マンション管理士会 |
| 8 | 東京都 マンションアドバイザー無料派遣 | マンション管理士等 | 無料(届出組合1回/管理不全の兆候5回) | 東京都防災・建築まちづくりセンター |
| 9 | 港区マンション交流会 | 管理組合同士+専門家 | 無料(会員登録制) | 住宅課住宅支援係 03-3578-2224 |
これに加えて、劣化診断そのものに対する費用助成(上限50万円)も港区にはあります。こちらは無料ではなく助成なので本稿の主題から外れますが、後半で触れます。
ここからが本題です。
1. 管理アドバイザー派遣:港区最大の武器は「合計10回」という上限
港区の分譲マンション等管理支援事業のなかで、私が一番もったいないと感じているのがこの制度です。
費用と回数
港区の公式ページには、こう書かれています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 派遣の費用 | 無料(すべて区で負担) |
| 派遣の回数 | 年度にかかわらず合計10回までが限度 |
| 派遣場所 | 申請者が用意 |
(出典:港区「分譲マンション等管理支援事業」/更新日 2026年5月8日)
「年度にかかわらず合計10回」。ここが港区の特徴です。年度内2回、といった年度単位の枠ではなく、通算で10回という設計になっています。つまり令和8年度に3回使って、令和9年度に4回、令和10年度に3回、という配分もできる。
私はこれを、論点ごとに1回ずつ割り当てる使い方でお勧めしています。
相談できる内容
港区が示しているアドバイザー業務内容は次のとおりです。
- 管理組合の設立および運営に関する相談
- 管理規約、使用規則等の作成および見直しに関する相談
- 管理費、修繕積立金等の財務に関する相談
- 管理費、修繕積立金等の滞納に関する相談
- 区分所有者等のマナーおよびルールに関する相談
- 管理委託契約の契約等に関する相談
- 修繕計画の作成および修繕積立金の設定に関する相談
- 建築物、設備等の劣化診断および修繕工事に関する相談
大規模修繕に関わる項目が、この中に3つ入っています。「修繕計画の作成および修繕積立金の設定」「建築物、設備等の劣化診断および修繕工事」「管理委託契約の契約等」です。
私が理事会に呼ばれてお話しするとき、いつも先にお伝えしているのは「工法を決める前に、この3つを別々の回で相談してください」ということです。劣化の実態を知らずに工法を選ぶと、足場を組む前提で予算を組んでしまって、あとから選択肢が減ります。
できないこと(ここを誤解しないでください)
港区は制約も明記しています。
- マンション管理に関する業務を、アドバイザーが作業するものではない
- 管理組合や区分所有者等の紛争の解決や権利調整は行わない
- 管理規約や長期修繕計画書等の作成は派遣内容に含まない
つまり「アドバイザーに長期修繕計画を作ってもらう」ことはできません。判断の材料をもらう制度であって、成果物を作ってもらう制度ではない。ここを取り違えると、派遣を受けても手応えがないまま1回分を消費してしまいます。
申込のスケジュール
ここが実務上、一番大事なところです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 希望日の記入 | 申請日から2週間以降の日付を記入 |
| 土日 | 対応可能 |
| 電子申請 | 可能 |
| 申請の締切 | 2月末日 |
| 派遣日の締切 | 第2希望を含めて3月21日 |
土曜・日曜の派遣に対応しているのは、理事会が平日夜か週末に開かれる管理組合にとって大きい点です。理事会当日にアドバイザーを呼ぶ、という段取りが組めます。
申請から2週間以降でないと希望日にできないので、「次の理事会で呼びたい」という思いつきでは間に合いません。理事会の年間スケジュールを決めた段階で、派遣の申請日も一緒に決めてしまうのが現実的な進め方です。
申請書類は港区の申請ページからダウンロードできます。
2. マンション総合窓口:令和8年6月に本庁舎6階へ
港区は令和8年6月9日更新のページで、マンションに関する相談を分野や所管部署を問わず最初に受け付ける窓口として「マンション総合窓口」を案内しています(出典:港区「マンション総合窓口」)。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 場所 | 港区役所 本庁舎6階(看板が目印) |
| 電話 | 03-3578-2459(マンション総合調整担当) |
| 費用 | 無料 |
| 予約 | 電話相談も受付 |
私がこの窓口を評価しているのは、「どこに相談すればいいか分からない」段階で使えるからです。
大規模修繕の相談は住宅課、耐震は別の担当、エレベーターの安全装置はまた別。管理組合の役員は1年から2年で交代することが多く、前任者の引き継ぎメモに窓口名が書かれていないことも珍しくありません。総合窓口があれば、まずそこに電話して振り分けてもらえます。
順番としては、総合窓口で全体像を聞く → 専門相談を予約する → 管理アドバイザー派遣を申し込むという流れが無駄がありません。
3〜6. 区民相談室の専門相談:月2回のマンション管理士と弁護士
港区は区役所3階の区民相談室で、住まいに関する専門相談を分野ごとに開いています。令和8年4月1日更新の「すまいの相談一覧」から、マンションに関わる4つを抜き出します。
| 相談名 | 開催日 | 時間 | 相談員 | 予約締切 |
|---|---|---|---|---|
| マンション管理組合運営相談 | 第2・第4火曜日 | 13時〜16時(1人1時間・先着3人) | マンション管理士 | 前週の金曜正午 |
| マンション管理の法律相談 | 第2・第4火曜日 | 13時〜16時(1人1時間・先着3人) | 弁護士 | 前週の金曜正午 |
| すまいの建築相談 | 第4火曜日 | 13時〜16時(1人1時間・先着3人) | 建築士 | 前週の金曜正午 |
| マンション建替え相談 | 第3火曜日 | 13時30分〜16時30分(1人1時間・先着3人) | 建築士 | 前週の月曜正午 |
予約はすべて住宅課住宅支援係(03-3578-2229)への電話です。受付時間は平日午前8時30分から午後5時(土日祝・年末年始を除く)。
1人1時間、という枠の使い方
1人1時間という枠は、23区の管理相談としては長めです。港区の場合、第2・第4火曜日にはマンション管理士と弁護士が同じ時間帯に入っています。管理費滞納のように「運営の実務」と「法的手続き」の両面がある論点なら、両方を別の回で予約して突き合わせる、という使い方ができます。
私が現場で見てきた限り、管理費・修繕積立金の滞納は大規模修繕の資金計画を最も揺らす要因です。滞納額が積立金総額の数パーセントでも、工事の入札直前に「予定していた予算が組めない」という話になる。弁護士相談で督促の手順を確認しておくことは、工事の準備そのものだと私は考えています。
対面か電話か(リモートはなし)
相談方法は電話または対面です。港区のページには「リモート相談は行っておりません」と明記されています。申込時にどちらかを申し出る形です。電話相談を選んだ場合、相談時間になると相談員から電話がかかってきます。
対面を選んだ場合は当日、港区役所(港区芝公園一丁目5番25号)3階の区民相談室へ直接向かいます。
注意点:すまいの相談は「港区在住の人のみ」
ここは正直に申し上げます。港区のすまいの相談一覧には、はっきりこう書かれています。
港区在住の人のみとなります。在勤の人、区内に不動産を所有しているが在住していない人のご相談は受付けておりません。
港区に収益不動産をお持ちで、ご自身は別の区や県にお住まいのオーナーさまは、この専門相談の対象外です。
では手がないのか、というとそうではありません。管理アドバイザー派遣は「区内の分譲マンションの管理組合」が対象であり、居住地要件ではなく建物の所在地で判断されます。管理組合として申請する形なら、理事長さまのお住まいがどこであっても使えます。また、後述する東京都の制度は都内のマンション管理組合が対象で、こちらも区民要件はありません。
オーナーさま個人としての相談は、港区の一般の法律相談という選択肢もあります。こちらは対象が「区内在住・在勤・在学者」で、在勤の方まで広がります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 区内在住・在勤・在学者 |
| 日時 | 月・金曜日 13時〜16時/水曜日 13時〜16時および17時〜19時 |
| 相談方法 | 対面・電話・オンライン(Microsoft Teams) |
| 相談時間 | 25分 |
| 回数制限 | 1人につき1年度内(4月1日〜翌年3月31日)に3回まで |
| 予約 | みなとコール 03-5472-3710/港区相談予約システム |
(出典:港区「相談窓口」/更新日 2026年4月8日)
水曜日に17時から19時の夜間枠があり、オンライン相談にも対応しています。平日日中に区役所へ行けない方にとっては、こちらのほうが現実的かもしれません。
7. 東京都のマンション管理士無料派遣:令和9年2月26日まで受付
区の制度と重ねて使えるのが、東京都の制度です。こちらは防災力向上と認知症対応という2つのテーマに絞られています。
令和8年度の募集内容は次のとおりです(出典:東京都マンションポータルサイト「分譲マンション向けマンション管理士無料派遣(防災力向上・認知症対応)」)。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 都内に所在するマンション管理組合 |
| 回数 | 1管理組合につき、防災力向上と認知症対応それぞれ2回まで |
| 利用料 | 無料 |
| 受付期間 | 令和8年6月23日(火)〜令和9年2月26日(金) |
| 募集数 | 防災力向上・認知症対応あわせて160件(達し次第締切) |
| 申込先 | 東京都マンション管理士会(https://www.kanrisi.org/) |
| 問い合わせ | 東京都住宅政策本部 マンション課 03-5320-5004 |
ここで見落としやすい点が1つあります。派遣回数は通算でカウントされます。過去(令和5年度から令和7年度)に本事業で派遣を受けている管理組合は、その回数も各テーマ2回の上限に含まれます。「前の理事会が使ったかどうか」を確認してから申し込むほうが確実です。
受付は令和9年2月26日までですが、募集数160件に達した時点で新規の申込みは締め切られます。年度後半になるほど枠は減ると考えたほうがよいでしょう。
防災の相談が、なぜ大規模修繕の話につながるか
アドバイスの例として、東京都は「発災時の緊急対応を定める管理規約の整備方法」「災害時にも活用できる居住者等名簿の作成」などを挙げています。
一見、修繕工事とは別の話に見えます。私の経験上、これは同じ話です。
台風の翌朝、外壁のタイルが1枚落ちていた。誰がどう判断して、誰に連絡して、どこまでを緊急工事として発注するのか。この段取りが決まっていない管理組合では、落下の報告が理事長さまに届くまでに数日かかることがあります。その数日のあいだに、下に人が通っています。
居住者名簿と緊急連絡の流れを整えることは、外壁の安全管理とつながっています。私はこれを、修繕の話と切り離さずに考えていただきたいと思っています。
8. 東京都のマンションアドバイザー無料派遣:管理状況届出とセットの制度
もう1つ、東京都の制度があります。こちらは条件付きです。
(公財)東京都防災・建築まちづくりセンターが運営する「マンションアドバイザー無料派遣」は、東京都の管理状況届出制度の届出・更新を行った管理組合限定で、有料のアドバイザー派遣を無料で使える仕組みです。
| 区分 | 無料回数 |
|---|---|
| 届出が受理、または更新を届け出た要届出マンション | 1回まで無料 |
| うち、管理不全の兆候があるマンション | 5回まで無料 |
1コースあたり2時間程度です。
届出の対象になるマンション
東京都の条例(東京におけるマンションの適正な管理の促進に関する条例/平成31年3月制定、令和2年4月から届出制度開始)では、昭和58年12月31日以前に新築された、居住用の独立部分が6以上ある分譲マンションに管理状況の届出義務があります。前回の届出から5年以内ごとに更新が必要です。
つまり築40年を超えるマンションであれば、届出義務があり、届出をすればこの無料派遣の対象になります。
大規模修繕に直結するコース
無料で使えるコースのうち、修繕の検討段階で効くのは次の2つです。
| コース | 内容 |
|---|---|
| B-5① | 修繕工事検討段階での相談(建物・設備等の劣化状況の調査・診断、修繕工事の検討組織、修繕工事の方式等) |
| B-5② | 修繕工事準備段階での相談(修繕工事の内容、業者選定の仕方、合意形成等) |
B-5①に「修繕工事の方式」が入っています。ここで足場を組む方式と無足場の方式を比較する、という論点を持ち込めます。
私は自社の工事を売り込むためにこれを言っているのではありません。第三者の専門家から工法の選択肢を聞いておいていただくほうが、あとの合意形成が楽になるからです。理事会で「なぜこの工法なのか」を説明するとき、区や都の派遣で聞いた話が根拠になります。
申込は申込書に記入のうえ、FAX・メール・郵送でセンターへ。申し込みから1週間から2週間程度でアドバイザーから日程調整の連絡が入ります。問い合わせは東京都防災・建築まちづくりセンター まちづくり推進課(03-5989-1453)です。
なお、無料派遣を利用した相談内容は、東京都・マンション所在の特別区および市町村で共有される旨がセンターのページに明記されています。行政目的以外には利用しないとされていますが、把握しておいたほうがよい点です。
9. 港区マンション交流会:管理組合同士で情報を持ち寄る
制度というより「場」ですが、私はこれも支援メニューの1つだと思っています。
港区マンション交流会は、区内の分譲マンションの管理組合の理事会役員や区分所有者を対象にした会です。管理運営や維持管理の問題について情報を共有し、どう対処したかを持ち寄ることで、理事会役員の負担を軽くする趣旨とされています。
会員のメリットとして港区が挙げているのは次の4点です。
- マンションに関する問題を他の会員と情報共有できる
- マンション管理士等の専門家のアドバイスを受けられる
- 上記を通じて適正で円滑な運営管理の知識が身につく
- セミナーの開催日程や内容等の案内をメールや郵送で受け取れる
活動回数は年2回程度とされています。申込はオンライン申請、またはFAX・郵送・持参。問い合わせは住宅課住宅支援係(03-3578-2224)です。
情報の鮮度について1点お断りします。 港区の「港区マンション交流会の会員登録」ページは、本稿執筆時点(2026年9月13日)で更新日が2025年6月30日、つまり令和7年度の内容です。令和8年度の開催回数や日程が同じかどうかは、このページからは確認できません。会員登録や次回開催の予定は、住宅課へ直接お問い合わせいただくのが確実です。
私が交流会をお勧めする理由
工事の見積書を比較するとき、一番効くのは「同じ規模のマンションが、いくらでどこまでやったか」という実例です。これはインターネットで探しても出てきません。同規模・同年代のマンションの理事長さま同士が話せる場は、それだけの価値があります。
私が伺った現場でも、交流会で聞いた他組合の進め方を参考に、修繕委員会の立ち上げ方を決めた管理組合がありました。
番外:無料ではないが強力な「劣化診断費用助成」
無料ではないので9つの外に置きましたが、港区には劣化診断の費用助成があります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 助成額 | 劣化診断に要した費用の2分の1 |
| 上限額 | 50万円 |
| 助成回数 | 年度内1回限り |
| 対象建物 | 区内のマンション(分譲または賃貸)/延べ面積の2分の1以上が居住用/関係法令に適合/建築後5年以上経過 |
| 対象者 | 区内の分譲マンション管理組合、区内の賃貸マンション経営者(個人・法人) |
| 完了報告の締切 | 2月末日 |
(出典:港区「分譲マンション等管理支援事業」/更新日 2026年5月8日)
賃貸マンションの経営者も対象である点に注目してください。分譲の管理組合限定ではありません。港区に賃貸物件をお持ちの法人・個人オーナーさまが使える制度です。
ただし条件が厳しめです。
- 申請が予算額に達した場合は受付終了
- すでに診断の契約をしたもの、すでに診断を実施したものは申請できない
- 同一項目の診断は、助成を受けてから10年経過するまで対象外
- アスベスト関連の経費は対象外
- 調査・診断後に要するもの(大規模修繕の見積り、長期修繕計画の作成等)は含まない
港区が示している参考スケジュールでは、11月15日に申請した場合、助成金の支払いは翌年4月末日まで。申請から入金まで半年近くかかる設計です。完了報告の最終締切が2月末日なので、年明けの申請では間に合わない可能性が高い。
管理組合の場合は、総会で劣化診断の実施が決議され、費用の予算案が承認されていることが申請の条件です。つまり総会の議決が先。秋の総会で決議して、11月から12月に申請、というのが現実的な線です。
予算額に達した時点で受付が終了する制度なので、令和8年度の予算残額については住宅課住宅支援係へ事前に確認されることをお勧めします。本稿では残額を確認できていません。
都・国の相談窓口:区の外にもタダの窓口はある
港区の窓口が対象外だった場合、あるいは区の枠を使い切った場合の行き先です。
(公財)マンション管理センター
国土交通大臣の指定を受けた「マンション管理適正化推進センター」です。指定を受けている唯一の団体とされています。
| 相談内容 | 電話 |
|---|---|
| 管理組合運営、管理規約等 | 03-3222-1517 |
| 建物・設備の維持管理 | 03-3222-1519 |
受付は月曜から金曜(祝日・年末年始を除く)の9時30分から17時。1件あたり15分前後でのアドバイスを心がけている、とされています。メールでの相談フォームもあります(出典:(公財)マンション管理センター「相談窓口について」)。
公平・中立の立場でのアドバイスが原則で、特定の弁護士や企業の紹介はしない、個別事案の適法性の判断はしない、回答は口頭のみ、という前提です。「うちのマンションの見積書は高いか安いか」を判定してもらう窓口ではありません。標準管理規約や法令に照らして一般的な考え方を確認する窓口です。
なお同センターは令和7年の法改正に対応した『マンション管理基本法令集』を令和8年6月25日に発行しています。規約の見直しを検討中の管理組合には参考になるはずです。
東京都の分譲マンション総合相談窓口
(公財)東京都防災・建築まちづくりセンターが、分譲マンションの管理・建替え・改修に関する相談に専門のマンション管理士が総合的に応じる窓口を置いています。港区自身が関連リンクとして案内している窓口です。
港区立消費者センター・法テラス
管理会社との契約や訪問販売型のリフォーム勧誘など、消費者トラブルの色が濃い話はこちらです。
| 窓口 | 電話 | 受付 |
|---|---|---|
| 港区立消費者センター(相談専用) | 03-3456-6827 | 月〜土 9時30分〜16時(土は電話のみ) |
| 東京都消費生活総合センター | 03-3235-1155 | 月〜土 9時〜17時 |
| 法テラス(日本司法支援センター) | 0570-078374 | 月〜金 9時〜21時、土 9時〜17時 |
(出典:港区「消費者の相談窓口」/更新日 2024年10月25日、港区「相談窓口」/更新日 2026年4月8日)
消費者の相談窓口ページの更新日は2024年10月です。令和8年度の受付時間が同じかどうかは、このページからは確認できません。電話番号と受付時間は、お問い合わせの前に港区のページで再確認いただくのが確実です。
高齢の区分所有者が強引な訪問販売でリフォーム契約をしてしまった、という相談を私も現場で聞いたことがあります。東京都消費生活総合センターには「高齢者被害110番」(03-3235-3366/月〜土 9時〜17時)という専用窓口もあります。
国土交通省のマンション政策情報
制度の全体像は国土交通省のマンション政策のページにまとまっています。法改正の動きを追うときはこちらが起点です。
令和7年5月30日公布の「老朽化マンション等の管理及び再生の円滑化等を図るための建物の区分所有等に関する法律」(令和7年法律第47号)が令和7年11月28日に一部施行されています。標準管理規約も令和7年に改正されました。港区も「令和7年マンション標準管理規約の改正について」というページを設けています。規約の見直しを相談内容にする場合、この改正が反映されているかが論点になります。
何を用意していけばいいか:3点セット+1
相談窓口へ行くとき、手ぶらで行くと一般論しか返ってきません。私がいつも理事長さまにお伝えしているのは、次の3点を持っていくことです。
3点セット
| # | 書類 | なぜ必要か |
|---|---|---|
| 1 | 総会議事録(直近2〜3年分) | 何が決議済みで何が未決議かが分かる。相談員は「総会で何が決まっているか」を最初に確認する |
| 2 | 長期修繕計画書 | 次の大規模修繕の時期と想定費用の前提が分かる。積立金不足の議論はここが出発点 |
| 3 | 管理規約(+使用細則) | 工事の決議要件、専有と共用の区分、理事会の権限が書かれている |
港区の管理アドバイザー派遣では、相談内容に応じて管理規約・使用規則・管理委託契約書・会計関係資料・総会や理事会の議事録・長期修繕計画書・修繕工事の履歴資料を借りることがある、とされています。求められる資料はおおむねこの範囲です。
+1:修繕積立金の残高と滞納額
3点セットに加えて、修繕積立金の現在残高と滞納額を数字で言えるようにしておいてください。この2つの数字があるかないかで、相談の解像度が変わります。
「積立金は足りていますか」と聞かれて「たぶん足りないと思います」と答える理事長さまを、私は何度も見てきました。残高が分からないと、工法の選択肢も絞れません。
写真があればもっといい
外壁のひび割れ、タイルの浮き、鉄部のさび、屋上の防水層の膨れ。スマートフォンで撮った写真で構いません。建築相談で建築士と話すとき、写真1枚が説明の10分を短縮します。
撮影の日付が分かるようにしておくと、劣化の進行を後から追えます。
港区の物件で、私が工法の話を急がない理由
ここで工法の話に少し触れます。
港区は高層・超高層の物件が多い区です。芝浦港南地区の湾岸エリアには足場を組むことが難しい建物もあります。敷地に余裕がなく、隣地との距離が取れない物件もあります。
こういう建物で、足場を組む前提だけで予算を組むと、見積金額が想定を大きく超えることがあります。仮設足場の費用は工事全体の2割から3割を占めることも珍しくありません。そこで選択肢として出てくるのが、ロープアクセス工法(無足場工法)です。産業用ロープで作業員が壁面に取り付き、足場を組まずに塗装や補修を行う方法です。
私は「ロープアクセスがいつでも安い」とは申し上げません。全面的にタイルを貼り替えるような工事では、足場のほうが適している場面もあります。私が提案しているのは、部位ごとに足場と無足場を使い分けるハイブリッド工法という選び方です。この考え方は明誠の考え方にまとめています。
無足場工法の技術的な中身や適した建物の条件は、ロープアクセス工法の専門サイト(rope-access-method.com)に整理してあります。作業手順や安全管理の考え方も同じサイトにまとめました。無料相談に行かれる前にこちらに目を通しておかれると、アドバイザーへの質問の質が上がると思います。
ただ、この判断は劣化の実態が分かってからの話です。だから私は、区や都の無料派遣で劣化診断と工法の考え方を先に聞いていただくことをお勧めしています。工法を決めてから診断する順番では、選択肢が残りません。
管理組合向け・オーナー向けのサービスの全体像は大規模修繕のサービスご案内にまとめてあります。
まとめ:今週動くこと3点
長くなりました。港区の管理組合とオーナーさまが、今週できることを3つに絞ります。
① マンション総合窓口(03-3578-2459)に電話して、過去の利用履歴を確認する
管理アドバイザー派遣は通算10回。東京都の管理士派遣も令和5年度からの通算でカウントされます。前の理事会が何回使ったかを確認しないと、残り枠が分かりません。まずここからです。
② 3点セットをそろえる
総会議事録(直近2〜3年分)、長期修繕計画書、管理規約。この3つをファイル1冊にまとめておく。理事が交代しても引き継げます。修繕積立金の残高と滞納額をメモに書き添えておくと、相談の質が変わります。
③ 理事会の年間予定と、派遣の申請日を一緒に決める
港区の管理アドバイザー派遣は、申請日から2週間以降の日付でないと希望日にできません。申請締切は2月末日、派遣日の締切は3月21日。土日の派遣に対応しているので、理事会の日に合わせて呼べます。年間予定を立てる段階で申請日を決めてしまうのが確実です。
東京都のマンション管理士無料派遣は令和9年2月26日まで受付ですが、160件に達した時点で締切です。防災か認知症対応のテーマで使う予定があるなら、年度後半を待たないほうがいいでしょう。
無料の相談窓口は、使わなければゼロですが、使えば専門家の時間そのものです。港区の管理アドバイザー派遣は合計10回。1回1時間の専門相談が月2回。これを使い切っている管理組合と、1回で終わっている管理組合の差は、5年後の修繕積立金残高に出ます。
大規模修繕の工法や見積の読み方について、総会の前段階の整理だけでもお力になれることがあります。お問合せフォームからご相談だけでも遠慮なくお声がけください。どの制度をどの順番で使うかの整理からご一緒できます。
出典・参考資料
- 港区「分譲マンション等管理支援事業」(更新日 2026年5月8日)
- 港区「すまいの相談一覧」(更新日 2026年4月1日)
- 港区「マンション総合窓口」(更新日 2026年6月9日)
- 港区「相談窓口」(更新日 2026年4月8日)
- 港区「港区マンション交流会の会員登録」(更新日 2025年6月30日)
- 港区「消費者の相談窓口」(更新日 2024年10月25日)
- 港区「令和7年マンション標準管理規約の改正について」
- 東京都マンションポータルサイト「分譲マンション向けマンション管理士無料派遣(防災力向上・認知症対応)」(令和8年度募集内容)
- (公財)東京都防災・建築まちづくりセンター「マンションアドバイザー無料派遣」
- (公財)マンション管理センター「相談窓口について」
- 国土交通省「マンション政策」
本記事の情報の鮮度について:本記事は2026年9月13日時点で公表されている港区および国土交通省・東京都の公式情報をもとに執筆しています。制度は年度途中でも改正・予算終了があり得ます。実際に申請される前に、必ず港区および該当窓口へ最新の内容をご確認ください。
株式会社明誠|東京都東大和市
大規模修繕・足場工法・ロープアクセス工法(無足場工法)・ハイブリッド工法
ロープアクセス工法の専門情報:https://rope-access-method.com/
中央区の管理組合が無料で使える相談・専門家派遣8つ|「有料の制度がタダになる」仕組みを使っていますか
中央区の管理組合が無料で使える相談・専門家派遣8つ|「有料の制度がタダになる」仕組みを使っていますか
2026年9月12日 更新
「東京都のアドバイザー制度、有料なので見送りました」
日本橋のマンションで、修繕委員の方からこう言われたことがあります。長期修繕計画(12年〜30年先までの修繕工事と費用をまとめた計画書)の見直しをどう進めるか、という話の途中でした。
私は株式会社明誠の本間幸紘と申します。東京都東大和市を拠点に、20年近くマンションやビルの外壁と向き合ってきました。足場を組む工事も、ロープ1本でぶら下がる無足場の工事も、両方やってきた人間です。
そのとき私がお伝えしたのは、「中央区なら、その料金は区が全額出してくれますよ」ということでした。
これは中央区の制度設計の特徴です。東京都が有料で提供しているアドバイザー派遣の費用を、中央区が全額助成する。つまり管理組合の持ち出しはゼロになります。ところが「東京都の制度=有料」という情報だけが理事会に伝わっていて、区の助成とセットで考えられていないことが、驚くほど多い。
今日は、中央区のマンション管理組合とビルオーナーが、お金をかけずに使える相談・派遣の制度を8つ、令和8年度の一次情報で整理します。
結論:中央区で無料で使える相談・派遣は8つある
先に一覧でお見せします。
| # | 制度・窓口 | 誰が対応するか | 費用 | 申込先 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | マンション管理士派遣 | マンション管理士 | 無料(年度内5回) | 中央区都市整備公社 03-3561-5191 |
| 2 | 分譲マンション管理相談 | 建築士事務所協会・マンション管理士会・公社職員 | 無料(月2回・要予約) | 中央区都市整備公社 03-3561-5191 |
| 3 | 東京都の専門相談 | 弁護士 または 一級建築士 | 無料 | 中央区都市整備公社が受付 |
| 4 | アドバイザー制度利用助成 | 東京都のマンションアドバイザー | 区が全額助成=実質無料 | 中央区都市整備公社 03-3561-5191 |
| 5 | 東京都 マンションアドバイザー無料派遣 | マンション管理士等 | 無料(要届出) | 東京都防災・建築まちづくりセンター 03-5989-1453 |
| 6 | 東京都 マンション管理士無料派遣(防災力向上・認知症対応) | 講習受講済みマンション管理士 | 無料 | 東京都マンション管理士会 |
| 7 | 中央区 法律相談(予約制) | 弁護士 | 無料(年度内3回) | まごころステーション 03-3546-9590 |
| 8 | 管理組合交流会/管理セミナー | 他マンションの役員・講師 | 無料 | 中央区都市整備公社 03-3561-5191 |
これに加えて、国指定の(公財)マンション管理センターの電話相談も無料で使えます。
ここからが本題です。1つずつ、回数・時間・申込方法まで見ていきます。
1. まず電話すべきは「中央区都市整備公社」
中央区のマンション施策は、一般財団法人中央区都市整備公社が実務を担っています。区役所の住宅課に電話するより、こちらが早いことが多い。
私は中央区の案件で理事長さまとお話しするとき、最初にこの番号をメモ用紙に書いてお渡しするようにしています。
中央区都市整備公社 まちづくり支援第一課 電話 03-3561-5191
所在地は中央区八丁堀一丁目25番3号、京華スクエア内です。八丁堀駅からすぐの場所にあります。
マンション管理士派遣
中央区の発表によれば、分譲マンションの維持管理・大規模修繕・建替えなどについて助言・提案等を行うマンション管理士を、管理組合の総会・理事会・勉強会等に無料で派遣しています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 派遣対象 | 区内に所在する分譲マンションの管理組合 |
| 派遣回数 | 1管理組合につき同一年度内に5回まで |
| 1回の時間 | 2時間以内 |
| 派遣先 | 利用者の希望する場所 |
| 費用 | 利用者の負担なし |
| 申込 | マンション管理士派遣申込書を公社へ提出 |
(出典:中央区「マンション管理士派遣」、一般財団法人中央区都市整備公社「マンション管理士派遣」)
年度内5回、1回2時間。合計10時間分の専門家の時間が、無料で使えるということです。
これがどういう意味を持つか。大規模修繕の検討は、だいたい次のような順番で進みます。
- 劣化の状況を知る(調査・診断をどうするか)
- 修繕委員会を立ち上げる(誰が入るか、権限はどこまでか)
- 発注方式を決める(責任施工方式か、設計監理方式か)
- 業者を選ぶ(何社に声をかけ、何で比べるか)
- 総会で決議する(説明資料をどう作るか)
この5つの段階それぞれに1回ずつ管理士を呼ぶと、ちょうど5回です。設計事務所にコンサルティングを依頼すれば数十万円かかる部分の、かなりの割合がここでカバーできます。
私の経験上、修繕委員会が一番揉めるのは(3)の発注方式です。理事会のなかで「知り合いの業者に頼めばいい」という方と「設計事務所を入れないと不安だ」という方が対立する。ここに中立の第三者が1人入るだけで、話の進み方がまったく変わります。
派遣先は「利用者の希望する場所」とされています。つまりマンションの集会室に来てもらえるということです。役員が公社まで出向く必要がない。これは平日日中に働いている理事さまにとって、地味ですが大きい違いです。
2. 月2回・予約制の「分譲マンション管理相談」
派遣まで踏み切る前の、もっと軽い入口がこれです。
中央区都市整備公社では、分譲マンションの計画修繕・維持管理や日常のトラブルなど、管理組合の役員や区分所有者が抱える問題について相談を受け付けています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | (1) 区内の分譲マンション管理組合 (2) 区内の分譲マンション区分所有者 |
| 日時 | 原則として毎月第2・第4月曜日 午後1時/2時/3時(予約制・各回1時間以内) |
| 場所 | 京華スクエア(中央区八丁堀一丁目25番3号) |
| 相談員 | 一般社団法人東京都建築士事務所協会(建物維持管理等) 一般社団法人東京都マンション管理士会(管理全般) 中央区都市整備公社職員 |
| 費用 | 無料 |
| 予約 | 03-3561-5191(当日の飛び込みは不可) |
(出典:中央区「分譲マンション管理相談」、中央区都市整備公社「分譲マンション管理相談」)
ここで押さえておきたいのは、相談員に建築士事務所協会の建築士が入っていることです。
管理士だけが対応する窓口も多いなかで、建物の維持管理そのものを専門にする建築士が席に座っているのは、修繕を検討している組合にとって意味があります。「外壁のこのひび割れは放置していいのか」「管理会社が出してきた診断報告書の読み方が分からない」——こうした技術寄りの質問が、その場で処理できるからです。
なお、当日その場で申し込むことはできません。第2・第4月曜日と分かっていても、前もって電話が要ります。ここで「今日行けば聞ける」と勘違いして空振りする方が時々いらっしゃいます。
3. 弁護士・一級建築士が出てくる「東京都の専門相談」
意外と知られていないのがこれです。
東京都では、区市の分譲マンション相談窓口で相談を受けた上で「専門家による対応が必要」と認めたものについて、弁護士または一級建築士が対応する専門相談を行っています。無料、完全予約制です。
中央区の場合、申込は中央区都市整備公社で受け付けます。都に直接申し込むのではありません。
(出典:中央区都市整備公社「分譲マンション管理相談」、東京都マンションポータルサイト「専門相談」)
つまり、流れはこうなります。
中央区都市整備公社の管理相談(無料・第2/第4月曜)
↓ 専門家の判断が要ると認められた場合
東京都の専門相談(無料・弁護士 or 一級建築士)
一級建築士が無料で見てくれるという点が、修繕を考えている組合にとっては大きい。たとえば「管理会社から提示された修繕見積が妥当かどうか」「調査報告書の書きぶりが工事を煽っていないか」といった、判断に技術的な裏付けが要る話です。
私は工事をする側の人間です。だからこそ申し上げますが、発注する側にも技術が分かる人が1人いてくれたほうが、話は速く、そして公平になります。値切られるのが嫌だから第三者を入れないでほしい、という業者がいるとしたら、それは疑ってかかっていい相手です。
4. 中央区の目玉:有料のアドバイザー制度が「全額助成」で実質無料になる
ここが中央区の最大の特徴です。冒頭で触れた話に戻ります。
東京都(公益財団法人東京都防災・建築まちづくりセンター)が運営するマンションアドバイザー制度は、本来は有料です。ところが中央区は、区内の管理組合がこれを利用する際の費用を全額助成しています。
助成の対象と内容
| 建替え・改修アドバイザー | 管理アドバイザー | |||
|---|---|---|---|---|
| コース | Aコース(入門編) | Bコース(検討書の作成) | Aコース(講座編) | Bコース(相談編) |
| 内容 | 建替えか改修かの検討に必要な法律・税制・公的支援等のアドバイス | 建替えか改修かを比較検討できるよう、現況や法規制を確認し検討書を作成 | 基本的な事項をテキストを使いながら解説 | 具体的な個別の相談内容にアドバイス |
| 対象 | 区内の分譲マンション管理組合 | 概ね築30年以上経過している区内の分譲マンション管理組合 | 区内の分譲マンション管理組合 | 区内の分譲マンション管理組合 |
| 助成額 | まちづくりセンターの定める料金を全額助成(テキスト代は対象外) | 同左 | 同左 | 同左 |
| 助成回数 | 1管理組合につき各1回 | 1管理組合につき各1回 | 1管理組合につき同一年度内に各1回 | 1管理組合につき同一年度内に各1回 |
(出典:中央区「分譲マンションアドバイザー制度利用助成」)
テキスト代だけは自己負担ですが、それ以外は区が持ちます。
なぜこれが効くのか。次章で説明する東京都の「無料派遣」は、管理状況届出制度の届出をした要届出マンション(昭和58年以前の建物)に限られるからです。
中央区には晴海・勝どき・月島の湾岸エリアを中心に、築浅のタワーマンションが数多くあります。これらは要届出マンションではないので、東京都の無料派遣の対象外です。そこを中央区の全額助成が埋めている。築年数を問わず、区内の管理組合なら実質無料でアドバイザーを呼べるということです。
この構図を理解している理事会は、私の実感ではかなり少数派です。
5. 東京都のマンションアドバイザー無料派遣(届出制度とセット)
こちらは古い建物向けのルートです。
公益財団法人東京都防災・建築まちづくりセンターは、管理状況届出制度の届出・更新を行った管理組合限定で、管理アドバイザーA・Bコース、建替え・改修アドバイザーAコース、B-0コースを無料で提供しています。
前提となる「管理状況届出制度」
「東京におけるマンションの適正な管理の促進に関する条例」(平成31年3月制定)に基づき、令和2年4月から始まった制度です。
- 昭和58(1983)年12月31日以前に新築された
- 居住の用に供する独立部分が6以上ある分譲マンション
この条件に当てはまるマンションは、管理状況の届出が義務付けられています(要届出マンション)。前回の届出から5年以内ごとに更新が必要です。
無料になる回数
| 状況 | 無料回数 |
|---|---|
| 届出が受理、または更新を届け出た要届出マンション | 1回まで無料 |
| 上記のうち、管理不全の兆候があるマンション | 5回まで無料 |
1コースあたり2時間程度です。
使えるコース(大規模修繕に効くもの)
講座編(A)
| コース | 内容 |
|---|---|
| A-2 | 長期修繕計画作成ガイドライン活用の手引きの解説 |
| A-4 | 計画修繕工事の進め方 |
| A-5 | 滞納管理費・修繕積立金督促の仕方 |
相談編(B)
| コース | 内容 |
|---|---|
| B-4 | 修繕計画の作成や修繕積立金等の設定に関すること |
| B-5① | 修繕工事検討段階での相談(劣化状況の調査・診断、修繕工事の検討組織、工事の方式 等) |
| B-5② | 修繕工事準備段階での相談(工事の内容、業者選定の仕方、合意形成 等) |
※講座編には有料のテキストが必要なコースがあります。
申込みは申込書をFAX・メール・郵送でセンターへ。申込後1〜2週間程度で担当アドバイザーから日程調整の連絡が入ります。押印書類は郵送が必要です。
(出典:公益財団法人東京都防災・建築まちづくりセンター「マンションアドバイザー無料派遣」)
お問い合わせ:公益財団法人東京都防災・建築まちづくりセンター まちづくり推進課 TEL 03-5989-1453
私がこの制度で一番おすすめするのはB-5①です。「調査・診断をどこに頼めばいいか分からない」という段階で呼べる。ここで判断を誤ると、必要のない工事が数百万円単位で見積書に乗ることがあります。
なお、日本橋・京橋・八丁堀のあたりには昭和58年以前の建物が相当数残っています。「うちは届出したっけ?」が分からない状態は、無料派遣の権利を眠らせているのと同じです。理事が交代すると、この記憶はあっさり消えます。
また、中央区の全額助成(前章)と、東京都の無料派遣(本章)は、どちらも同じアドバイザー制度を指しています。自分のマンションがどちらのルートで無料になるのかは、公社に電話すれば整理してもらえます。二重に申し込む必要はありません。
6. 東京都のマンション管理士無料派遣(防災力向上・認知症対応)
東京都が令和5年度から実施している事業で、令和8年度も継続しています。
防災力向上や認知症対応の講習を受講したマンション管理士が、実践的なノウハウの習得や手続を支援し、円滑な合意形成に向けたアドバイスを行うものです。
令和8年度の募集内容
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 都内に所在するマンション管理組合 |
| 回数 | 防災力向上・認知症対応 それぞれ2回まで(無料) |
| 通算 | 令和5〜7年度に派遣を受けている場合、その回数も上限に含まれる |
| 受付期間 | 令和8年6月23日(火)〜令和9年2月26日(金) |
| 募集数 | 防災力向上・認知症対応 合わせて160件(達し次第、新規受付を締切) |
| 申込先 | 東京都マンション管理士会 https://www.kanrisi.org/ |
(出典:東京都マンションポータルサイト「分譲マンション向けマンション管理士無料派遣(防災力向上・認知症対応)」)
アドバイスの例として公表されているのは次のような内容です。
- 自主防災組織の設置や強化の方法
- 災害時にも活用できる居住者等名簿の作成
- 発災時の緊急対応を定める管理規約の整備方法
- 認知症の可能性のある居住者への理解や対応方法
- バリアフリー改修を含む長期修繕計画の策定
注意点を2つ、正直に申し上げます。
1つは、都内全体で160件しか枠がないということ。都内の分譲マンション数を考えれば、これは相当に少ない枠です。受付は9月時点でまだ開いている可能性がありますが、年明けに動こうとすると締め切られていることも考えられます。
もう1つは、過去の利用回数が通算されること。令和5〜7年度にすでに2回使っている場合、そのテーマではもう無料枠が残っていません。申込前に管理会社か前任の理事長さまに確認しておくと、二度手間を防げます。
中央区の湾岸エリアは、高層階からの避難という固有の課題を抱えています。停電時にエレベーターが止まったあと、上層階の高齢居住者をどうするか。この論点は防災力向上のテーマとして相談できる範囲です。そして避難計画は、外壁工事中の仮設計画とも無関係ではありません。
問い合わせ先:東京都住宅政策本部 民間住宅部 マンション課 マンション管理担当 03-5320-5004(直通)
管理が行き詰まっている場合の「伴走型」支援
もう1つ、東京都には管理不全予防・改善支援事業(伴走型)という枠組みがあります。
管理組合や管理規約がない等、管理不全の兆候があり、区分所有者のみでは管理の適正化が困難なマンションに対して、一定期間、マンション管理士を管理組合の役員等として無料で派遣するものです。派遣された管理士は現地調査を行って支援提案書を作成し、説明会を経て外部管理者方式等の導入を支援します。
(出典:東京都マンションポータルサイト「管理不全予防・改善支援事業(伴走型)」)
これは「相談」ではなく「介入」に近い支援です。そもそも理事会が機能していないという段階のマンション向けで、応募は先着順。お問い合わせ先は東京都住宅政策本部 マンション課 マンション施策調整担当(03-5320-7532)です。
自分のマンションがここに当てはまるかもしれない、と思われた場合は、まず中央区都市整備公社に相談されるのが順序として自然です。
7. 中央区の法律相談(令和8年4月からオンライン予約に)
管理費・修繕積立金の滞納、区分所有者間のトラブル、管理委託契約の解約——こうした法律寄りの問題は、中央区の法律相談が使えます。
令和8年度から、オンライン予約が始まりました。 これは実務上かなり大きい変更です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 中央区在住または在勤の方(個人) |
| 相談料 | 無料 |
| 相談時間 | 1回30分 |
| 回数 | 令和8年度内(令和8年4月1日〜令和9年3月31日)に1人3回まで |
| 予約 | 相談日の60日前から前日まで/オンラインフォームまたは電話 |
| 電話予約 | まごころステーション 03-3546-9590(午前8時30分〜午後5時) |
相談場所と日時
| 場所 | 日程 |
|---|---|
| 中央区役所 区民相談室 | 毎週金曜日 午後1時〜4時 |
| 日本橋特別出張所 | 毎月第2・第4水曜日 午後1時〜4時 |
| 月島特別出張所 | 毎月第1・第3月曜日 午後1時〜4時 |
| 晴海特別出張所 | 毎月第3木曜日 午後1時〜4時 |
各会場とも13時00分/13時35分/14時10分/14時45分/15時20分の5枠(各30分)です。
(出典:中央区「法律相談(予約制)」掲載日:2026年4月1日)
ここで見逃されがちなのが、「在勤」も対象に含まれる点です。中央区は昼間人口が夜間人口を大きく上回る地域です。区内の会社にお勤めで、区外のマンションの理事をされている方——この方も、中央区の法律相談は使えます。
また、月島・晴海の特別出張所でも相談できるのは湾岸エリアの方にとって現実的です。区役所(築地)まで出向く必要がない。
なお、この相談は個人が対象です。賃貸マンションやビルを法人で所有しているオーナーさまの場合は、対象の考え方が変わりますので、まごころステーション(03-3546-9590)に確認されることをおすすめします。
経済的に余裕のない方向けには、日本司法支援センター(法テラス東京 050-3383-5300)が無料法律相談と弁護士・司法書士費用の立替を行っています。
8. 交流会・セミナー・国のセンター
分譲マンション管理組合交流会
分譲マンションの管理組合の運営に係る知識や情報を交換する会です。入会申込みは随時受け付けられています。対象は区内の分譲マンションの管理組合代表者または区分所有者です。
(出典:中央区「分譲マンション管理組合交流会」)
私はこれを軽視していません。理由は単純で、他のマンションの実際の工事金額と失敗談が聞ける場だからです。
現場で20年やってきて、私が一番悔しい思いをするのは、相場より明らかに高い金額で契約してしまった組合に、工事が終わってから出会うときです。「なんで着工前に一言、近所のマンションに聞かなかったんだろう」と思うことがある。交流会は、その一言を聞ける場所です。
中央区都市整備公社は、このほかに分譲マンション管理セミナーとマンション情報誌の発行も行っています(出典:中央区都市整備公社「マンション管理支援」)。情報誌は、新任の理事さまへの引き継ぎ資料として使い勝手がいい。理事会の役員は1年〜2年で交代することが多く、そのたびに知識がリセットされます。紙で残るものは、意外と効きます。
国の指定センターにも無料で電話できる
(公財)マンション管理センターは、マンション管理適正化法に基づく「マンション管理適正化推進センター」の指定を受けている唯一の団体です。
| 相談内容 | 電話番号 |
|---|---|
| 管理組合運営、管理規約等 | 03-3222-1517 |
| 建物・設備の維持管理 | 03-3222-1519 |
- 受付:月曜日〜金曜日(祝日・年末年始を除く)9時30分〜17時
- 1件あたり15分前後でアドバイスできるよう運用
- メール相談フォームあり(回答は口頭)
- 面談は事前予約制
(出典:公益財団法人マンション管理センター「相談窓口について」)
公平・中立の立場でアドバイスする窓口で、特定の弁護士や企業を紹介することはしないと明記されています。一方で、専門家レベルの法律相談や、修繕等の個別具体的なアドバイスは行っていない、当事者間の仲裁には立たない、という限界もはっきり書かれています。
賃貸マンションの相談は対象外です。賃貸をお持ちのオーナーさまはご注意ください。
相談に行くとき、何を持っていけばいいか
ここが一番実務的な話です。
無料相談は30分〜2時間と時間が限られています。手ぶらで行くと、状況の説明だけで持ち時間が終わります。私は理事長さまに、3点セットをお持ちくださいとお伝えしています。
持参する3点セット
| # | 資料 | なぜ要るか |
|---|---|---|
| 1 | 直近の総会議事録(できれば2期分) | 何が決まっていて、何が保留かが一発で伝わる |
| 2 | 長期修繕計画書 | 次の工事時期と、積立金の残高・不足額が分かる |
| 3 | 管理規約(最新の改正版) | 決議要件、専有部と共用部の境界がここで決まる |
余裕があれば、この3つに加えて直近の決算書(収支報告)と、建物の全景写真・気になる箇所の写真があると話が速く進みます。スマートフォンで撮った写真で構いません。
相談前に決めておくこと
資料より大事なのが、「今日、何を持ち帰りたいか」を1行で決めておくことです。
- ×「大規模修繕について相談したい」
- ○「調査・診断を、管理会社に頼むか第三者に頼むかを決めたい」
前者だと一般論で30分が終わります。後者なら、判断材料が手に入る。私はいつも理事長さまに「相談の目的を、総会の議案書の1行のつもりで書いてみてください」とお伝えしています。
中央区の場合、管理士派遣はマンションの集会室に来てもらえるのが強みです。理事会の日程に合わせて呼べば、役員全員が同じ説明を同時に聞ける。これは伝言ゲームによる誤解を防ぐ意味で、かなり効きます。
無料相談で聞いたあと、工事の話はどうなるか
ここは私の立場から、正直に書いておきます。
無料の相談・派遣で得られるのは、中立の情報と判断の枠組みです。実際に足場を組むのか、ロープアクセス工法(産業用ロープで作業員が壁面に降下して施工する、足場を架けない工法)で行くのか、部位ごとに使い分けるのか——具体的な施工の話は、最終的に施工会社との対話になります。
中央区は、建物の性格が地域ごとにはっきり分かれる区です。
日本橋・京橋・八丁堀は、狭い敷地に中低層のビル・マンションが密集しています。隣地との離隔がほとんどなく、道路使用の制約も厳しい。私が八丁堀エリアで関わった建物では、4面のうち1面が隣のビルと50cmしか離れておらず、その面だけ足場が入らないという状況がありました。
このとき使えるのが、足場とロープアクセスを部位ごとに使い分けるハイブリッド工法です。足場が組める3面は足場で、組めない1面はロープで。仮設費を抑えながら、施工品質は落とさない。
晴海・勝どき・月島の湾岸エリアは、逆に超高層です。20階を超える建物に全面足場を架けると、仮設費だけで工事費の3割前後に達することがあります。しかも海に近いため、風の影響を強く受ける。この条件では、足場の一部をロープアクセスに置き換える検討に、はっきり意味が出てきます。
工法ごとの向き・不向きは、ロープアクセス工法のご紹介と、工法解説専門サイトのロープアクセス工法の基礎知識(rope-access-method.com)に整理してあります。無料相談に行かれる前に目を通していただくと、アドバイザーへの質問の質が上がると思います。
特に「うちの建物で無足場工法が成立するのか」を判断したい方は、無足場工法が向く建物・向かない建物の見極め方を先に読んでおかれると、専門家との会話が早く進みます。
私たち明誠がどういう考え方で工法を選んでいるかは明誠の工事に対する考え方に、管理組合さま向け・オーナーさま向けのサービス内容は管理組合の皆さまへ、ビルオーナーの皆さまへにまとめています。
誤解のないように書きますが、無料相談に行ったから見積を取らなければいけない、ということはありません。むしろ順番は逆で、無料相談で判断の軸を作ってから見積を取ったほうが、業者の比較が正確になります。私は自社が比較されることを嫌だと思ったことがありません。比較されて選ばれない仕事は、そもそも受けても長続きしないからです。
まとめ:今週、理事会で動ける3つのこと
長くなったので、今週できることだけに絞ります。
1. 中央区都市整備公社に電話して「うちはどのルートで無料になるか」を聞く
03-3561-5191(まちづくり支援第一課)
築30年超か築浅かで、使える無料枠が変わります。東京都の無料派遣(要届出マンション)なのか、中央区の全額助成(築年数不問)なのか。これは電話1本、5分で整理できる確認です。
2. マンション管理士派遣の申込書を取り寄せておく
年度内5回・1回2時間、集会室まで来てもらえます。年度は3月末で切り替わり、使わなかった回数は繰り越されません。9月の時点で残り半年という事実は、意識しておいて損はないと思います。
3. 3点セットをPDFにして共有フォルダに置く
総会議事録・長期修繕計画書・管理規約。この3つをスキャンしてPDFにし、理事会で共有できる状態にしておく。相談に行くときも、業者に見積を依頼するときも、この3つが起点になります。理事が交代しても消えない形にしておくことが、結局は組合の資産を守ります。
9月です。年度の折り返しを過ぎました。東京都のマンション管理士無料派遣は令和9年2月26日までの受付で、枠は都内160件。中央区の管理士派遣は年度内5回で、3月末にリセットされる。動ける期間は、思っているより短いというのが、カレンダーから見た実際のところです。
中央区の建物は、私たち施工側から見ても難易度の高い物件が多い地域です。日本橋の狭い敷地、晴海の超高層、築地・月島の入り組んだ路地。だからこそ、判断を1人で抱え込まないでいただきたいと思っています。無料で使える窓口が8つもあるのに、使われないまま年度が終わるのを何度も見てきました。
工法や仮設の相談だけでも構いません。総会の前段階の整理だけでも、お力になれることがあります。お問合せフォームから、遠慮なくお声がけください。
出典・参考資料
- 中央区「マンション管理士派遣」
- 中央区「分譲マンション管理相談」
- 中央区「分譲マンションアドバイザー制度利用助成」
- 中央区「分譲マンション管理組合交流会」
- 中央区「その他の分譲マンション管理支援」
- 中央区「法律相談(予約制)」(掲載日:2026年4月1日)
- 一般財団法人中央区都市整備公社「マンション管理士派遣」
- 一般財団法人中央区都市整備公社「分譲マンション管理相談」
- 一般財団法人中央区都市整備公社「マンション管理支援」
- 公益財団法人東京都防災・建築まちづくりセンター「マンションアドバイザー無料派遣」
- 東京都マンションポータルサイト「分譲マンション向けマンション管理士無料派遣(防災力向上・認知症対応)」
- 東京都マンションポータルサイト「管理不全予防・改善支援事業(伴走型)」
- 東京都マンションポータルサイト「専門相談」
- 東京都マンションポータルサイト「管理状況届出制度」
- 公益財団法人マンション管理センター「相談窓口について」
- 国土交通省「マンション政策」
本記事の情報の鮮度について:本記事は2026年9月12日時点で公表されている中央区、一般財団法人中央区都市整備公社、および東京都・国土交通省の公式情報をもとに執筆しています。制度は年度途中でも改正・予算終了があり得ます。実際に申請される前に、必ず中央区および該当窓口へ最新の内容をご確認ください。なお、中央区のマンション管理支援に関する各ページ(マンション管理士派遣・分譲マンション管理相談・アドバイザー制度利用助成・交流会)は表示上の掲載日が2023年1月18日であり、令和8年度の運用と異なる可能性があります。回数・日時・助成額は、申込前に中央区都市整備公社(03-3561-5191)へ電話でご確認ください。法律相談のページは掲載日2026年4月1日で、令和8年度の情報です。
ロープアクセス工法・無足場工法の技術情報は、専門サイト https://rope-access-method.com/ にまとめています。
千代田区の管理組合が無料で使える相談・専門家派遣8つ|補助金だけ見ていると損をします
千代田区の管理組合が無料で使える相談・専門家派遣8つ|補助金だけ見ていると損をします
2026年9月12日 更新
「補助金、うちは使えないみたいなんですよ」
千代田区内のマンションで、理事長さまからこう言われたことがあります。長期修繕計画(12年〜30年先までの修繕工事と費用をまとめた計画書)の見直しで悩んでいらっしゃって、区の補助金一覧を印刷して、一通り目を通したあとの一言でした。
私は株式会社明誠の本間幸紘と申します。東京都東大和市を拠点に、20年近くマンションやビルの外壁と向き合ってきました。足場を組む工事も、ロープ1本でぶら下がる無足場の工事も、両方やってきた人間です。
そのとき私がお伝えしたのは、「補助金の前に、タダで専門家を呼べる制度から使いませんか」ということでした。
補助金は、使える建物と使えない建物がはっきり分かれます。築年数、用途、耐震性能、届出状況——条件が細かい。一方で相談窓口と専門家派遣は、条件がずっと緩く、そして無料です。それなのに、理事会で話題に上がることが驚くほど少ない。
今日は、千代田区のマンション管理組合とビルオーナーが、お金をかけずに使える相談・派遣の制度を8つ、令和8年度の一次情報で整理します。
結論:千代田区で無料で使える相談・派遣は8つある
先に一覧でお見せします。
| # | 制度・窓口 | 誰が対応するか | 費用 | 申込先 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 分譲マンション総合相談窓口 | 常駐のマンション管理士 | 無料 | まちみらい千代田 03-3233-3223 |
| 2 | まちづくりアドバイザー派遣 | 一級建築士・マンション管理士・再開発プランナー等 | 無料 | まちみらい千代田 03-3233-3223 |
| 3 | マンション管理講座 | 講師(テーマ別) | 無料(一部有料テキスト) | まちみらい千代田 |
| 4 | マンション連絡会 | 他マンションの理事長同士 | 無料(要入会) | まちみらい千代田 |
| 5 | マンションアドバイザー無料派遣 | マンション管理士等 | 無料(要届出) | 東京都防災・建築まちづくりセンター 03-5989-1453 |
| 6 | マンション管理士無料派遣(防災力向上・認知症対応) | 講習受講済みマンション管理士 | 無料 | 東京都マンション管理士会 |
| 7 | 東京都 専門相談 | 弁護士 または 一級建築士 | 無料・完全予約制 | 区の相談窓口を経由 |
| 8 | 区民相談室の専門相談 | 弁護士・宅地建物取引士・司法書士 等 | 無料 | 千代田区 03-5211-4176 |
これに加えて、国指定の(公財)マンション管理センターの電話相談も無料で使えます。
ここからが本題です。1つずつ、回数・時間・申込方法まで見ていきます。
1. まず電話すべきは「まちみらい千代田」
千代田区のマンション施策は、公益財団法人まちみらい千代田という区の外郭団体が実務を担っています。区役所に電話するより、こちらが早いことが多い。
私は千代田区の案件で理事長さまとお話しするとき、最初にこの番号をメモ用紙に書いてお渡しするようにしています。
分譲マンション総合相談窓口
まちみらい千代田の発表によれば、相談窓口にはマンション管理士が常駐しており、窓口・電話・オンライン(Zoom)で相談を受け付けています。相談内容に応じて、助成制度や専門家派遣といった支援策を案内してくれる仕組みです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 場所 | 千代田区神田錦町3-21 ちよだプラットフォームスクウェア4階 |
| 電話 | 03-3233-3223 |
| メール | kyojyu(at)mm-chiyoda.or.jp |
| 方法 | 窓口・電話・オンライン(Zoom)/要予約 |
| 曜日 | 月曜日〜金曜日(祝日、年末年始を除く) |
| 時間 | 午前9時〜午後4時(水曜日は午前10時〜午後4時) |
(出典:公益財団法人まちみらい千代田「分譲マンション総合相談窓口」2025年5月22日掲載)
ポイントは、オンライン(Zoom)に対応していることです。理事会の役員さまは平日日中に働いている方がほとんどです。区役所の窓口に行けないから相談しない、という状態が一番もったいない。Zoomなら、昼休みに会議室から30分だけつなぐこともできます。
「何を相談していいか分からない」という段階でも、私は電話していいと思っています。管理士の側が整理してくれます。
2. 年度内6回・1回2時間の「まちづくりアドバイザー派遣」
これが千代田区で一番使い出のある制度だと、私は考えています。
まちみらい千代田では、マンションの維持管理、修繕や建替え、管理組合の運営といった課題に対して、一級建築士・マンション管理士・再開発プランナーなどの資格を持つ専門家を無料で派遣しています。
回数と条件
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 派遣回数の上限 | 1団体につき年度内6回 |
| 1回の時間 | 2時間まで |
| 費用 | 無料 |
| 対象(2) | マンションの大規模修繕工事や適正な維持・管理に関する勉強会 |
| 条件 | 主たる活動範囲が千代田区内/自主的かつ継続的に活動すること 等 |
| 提出書類 | まちづくりアドバイザー派遣申請書、構成員名簿 |
| 注意 | 派遣調整に1か月〜1か月半程度かかる場合あり |
| 事前相談 | kyojyu(at)mm-chiyoda.or.jp または 03-3233-3223 |
(出典:公益財団法人まちみらい千代田「管理・コミュニティ支援」)
年度内6回、1回2時間。合計12時間分の専門家の時間が、無料で使えるということです。
これがどういう意味を持つか。大規模修繕の検討は、だいたい次のような順番で進みます。
- 劣化の状況を知る(調査・診断をどうするか)
- 修繕委員会を立ち上げる(誰が入るか、権限はどこまでか)
- 発注方式を決める(責任施工方式か、設計監理方式か)
- 業者を選ぶ(何社に声をかけ、何で比べるか)
- 総会で決議する(説明資料をどう作るか)
この5つの段階それぞれに1回ずつアドバイザーを呼んで、最後の総会前にもう1回。ちょうど6回です。設計事務所にコンサルティングを依頼すれば数十万円かかる部分の、かなりの割合がここでカバーできます。
私の経験上、修繕委員会が一番揉めるのは(3)の発注方式です。理事会のなかで「知り合いの業者に頼めばいい」という方と「設計事務所を入れないと不安だ」という方が対立する。ここに中立の第三者が1人入るだけで、話の進み方がまったく変わります。
ただし、申請前の事前相談が求められており、調整に1か月〜1か月半かかることがあります。総会の3か月前に思い立っても間に合わない可能性がある。動くなら早めに、というのが実務上の正直なところです。
3. マンション管理講座とマンション連絡会
マンション管理講座
まちみらい千代田は、千代田区内のマンション居住者・所有者を対象に、マンション管理講座を年4回程度開催しています。関心のあるテーマを設定して行うもので、アーカイブ動画も公開されています(出典:まちみらい千代田「管理・コミュニティ支援」)。
アーカイブがあるのは大きい。理事会の役員さまは1年〜2年で交代することが多く、引き継ぎのたびに知識がリセットされます。新任の理事さまに「まずこの動画を2本見てください」とお願いできる状態は、管理組合の財産です。
なお、同ページによるとセミナーの開催は休止中とされています。講座とセミナーは別枠なので、混同しないようご注意ください。
マンション連絡会
マンション管理組合の代表者同士による意見交換・情報交換の会です。入会申請書をまちみらい千代田に提出すると参加できます。
私はこれを軽視していません。理由は単純で、他のマンションの実際の工事金額と失敗談が聞ける場だからです。
現場で20年やってきて、私が一番悔しい思いをするのは、相場より明らかに高い金額で契約してしまった組合に、工事が終わってから出会うときです。「なんで着工前に一言、隣のマンションに聞かなかったんだろう」と思うことがある。連絡会は、その一言を聞ける場所です。
4. 東京都のマンションアドバイザー無料派遣(届出制度とセット)
ここからは東京都の制度です。千代田区内のマンションも当然使えます。
公益財団法人東京都防災・建築まちづくりセンターが運営するマンションアドバイザー制度は、通常は有料ですが、管理状況届出制度の届出・更新を行った管理組合は無料になります。
前提となる「管理状況届出制度」
「東京におけるマンションの適正な管理の促進に関する条例」(平成31年3月制定)に基づき、令和2年4月から始まった制度です。
- 昭和58(1983)年12月31日以前に新築された
- 居住用の独立部分が6以上ある分譲マンション
この条件に当てはまるマンションは、管理状況の届出が義務付けられています(要届出マンション)。前回の届出から5年以内ごとに更新が必要です。
(出典:公益財団法人東京都防災・建築まちづくりセンター「マンションアドバイザー無料派遣」)
千代田区は古いビル・マンションが密集している地域です。昭和58年以前の建物は決して少なくありません。「うちは届出したっけ?」が分からない状態は、無料派遣の権利を眠らせているのと同じです。
無料になる回数
| 状況 | 無料回数 |
|---|---|
| 届出が受理、または更新を届け出た要届出マンション | 1回まで無料 |
| 上記のうち、管理不全の兆候があるマンション | 5回まで無料 |
1コースあたり2時間程度です。
使えるコース(大規模修繕に効くもの)
無料対象は、管理アドバイザーA・Bコース、建替え・改修アドバイザーAコース、B-0コースです。このうち修繕に直結するものを挙げます。
講座編(A)
| コース | 内容 |
|---|---|
| A-2 | 長期修繕計画作成ガイドライン活用の手引きの解説 |
| A-4 | 計画修繕工事の進め方 |
| A-5 | 滞納管理費・修繕積立金督促の仕方 |
相談編(B)
| コース | 内容 |
|---|---|
| B-4 | 修繕計画の作成や修繕積立金等の設定に関すること |
| B-5① | 修繕工事検討段階での相談(劣化状況の調査・診断、修繕工事の検討組織、工事の方式 等) |
| B-5② | 修繕工事準備段階での相談(工事の内容、業者選定の仕方、合意形成 等) |
※講座編には有料のテキストが必要なコースがあります。
申込みは申込書をFAX・メール・郵送でセンターへ。申込後1〜2週間程度で担当アドバイザーから日程調整の連絡が入ります。押印書類は郵送が必要です。
お問い合わせ:公益財団法人東京都防災・建築まちづくりセンター まちづくり推進課 TEL 03-5989-1453
私がこの制度で一番おすすめするのはB-5①です。「調査・診断をどこに頼めばいいか分からない」という段階で呼べる。ここで判断を誤ると、必要のない工事が数百万円単位で見積書に乗ることがあります。
5. 東京都のマンション管理士無料派遣(防災力向上・認知症対応)
東京都が令和5年度から実施している事業で、令和8年度も継続しています。
防災力向上や認知症対応の講習を受講したマンション管理士が、実践的なノウハウの習得や手続を支援し、円滑な合意形成に向けたアドバイスを行うものです。
令和8年度の募集内容
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 都内に所在するマンション管理組合 |
| 回数 | 防災力向上・認知症対応 それぞれ2回まで(無料) |
| 通算 | 令和5〜7年度に派遣を受けている場合、その回数も上限に含まれる |
| 受付期間 | 令和8年6月23日(火)〜令和9年2月26日(金) |
| 募集数 | 防災力向上・認知症対応 合わせて160件(達し次第、新規受付を締切) |
| 申込先 | 東京都マンション管理士会 https://www.kanrisi.org/ |
(出典:東京都マンションポータルサイト「分譲マンション向けマンション管理士無料派遣(防災力向上・認知症対応)」)
アドバイスの例として公表されているのは次のような内容です。
- 自主防災組織の設置や強化の方法
- 災害時にも活用できる居住者等名簿の作成
- 発災時の緊急対応を定める管理規約の整備方法
- 認知症の可能性のある居住者への理解や対応方法
- バリアフリー改修を含む長期修繕計画の策定
注意点を2つ、正直に申し上げます。
1つは、都内全体で160件しか枠がないということ。都内の分譲マンション数を考えれば、これは相当に少ない枠です。受付は9月時点でまだ開いている可能性がありますが、年明けに動こうとすると締め切られていることも考えられます。
もう1つは、過去の利用回数が通算されること。令和5〜7年度にすでに2回使っている場合、そのテーマではもう無料枠が残っていません。理事が交代していると、過去の利用履歴が引き継がれていないことがあります。申込前に管理会社か前任の理事長さまに確認しておくと、二度手間を防げます。
問い合わせ先:東京都住宅政策本部 民間住宅部 マンション課 マンション管理担当 03-5320-5004(直通)
6. 弁護士・一級建築士が無料で出てくる「東京都 専門相談」
意外と知られていないのがこれです。
東京都では、区市の分譲マンション相談窓口で相談を受けた上で「専門家による対応が必要」と認めたものについて、弁護士または一級建築士が対応する専門相談を行っています。無料、完全予約制です。
申込みは都に直接ではなく、各区市の相談窓口を経由します。千代田区の場合は、先ほどのまちみらい千代田(03-3233-3223)が入口になります。
(出典:東京都マンションポータルサイト「専門相談」)
つまり、流れはこうなります。
まちみらい千代田に相談(無料・常駐のマンション管理士)
↓ 専門家の判断が要ると認められた場合
東京都の専門相談(無料・弁護士 or 一級建築士)
一級建築士が無料で見てくれるという点が、修繕を考えている組合にとっては大きい。たとえば「管理会社から提示された修繕見積が妥当かどうか」「調査報告書の書きぶりが工事を煽っていないか」といった、判断に技術的な裏付けが要る話です。
私は工事をする側の人間です。だからこそ申し上げますが、発注する側にも技術が分かる人が1人いてくれたほうが、話は速く、そして公平になります。値切られるのが嫌だから第三者を入れないでほしい、という業者がいるとしたら、それは疑ってかかっていい相手です。
7. 千代田区 区民相談室の専門相談(管理費滞納・区分所有トラブル)
管理費・修繕積立金の滞納、区分所有者間のトラブル、管理委託契約の解約——こうした法律寄りの問題は、千代田区役所2階の区民相談室が使えます。
主な専門相談(無料)
| 相談名 | 日時 | 相談員 | 受付 |
|---|---|---|---|
| 法律相談 | 水曜日・金曜日(第5週は休み)午後1時〜3時45分 | 弁護士 | 予約制 03-5211-4176 |
| 不動産相談 | 第1・第3木曜日 午後1時〜3時30分 | 宅地建物取引士 | 先着順 |
| 司法書士相談 | 第2木曜日 午後1時〜3時30分 | 司法書士 | 先着順 |
| 土地家屋調査士相談 | 第3木曜日 午後1時〜3時30分 | 土地家屋調査士 | 先着順 |
- 相談時間は30分以内、電話での相談は受け付けていません
- 対象は区内在住・在勤・在学者
- 法律相談は同一案件で原則1回(新たな問題が生じた場合は最大3回まで)
- 企業・法人の相談、個人事業主の営業上の相談は対象外
- 係争中の事案・弁護士に依頼済みの案件は対象外
千代田区 総合窓口課 区民相談室 電話 03-5211-4176
(出典:千代田区「区民相談室とその他の相談窓口での相談」)
重要な注意点:この区民相談室のページは、区の表示上の更新日が2022年10月11日となっています。新型コロナウイルス関連の記載も残っており、令和8年度の運用と異なる可能性があります。曜日・時間・予約方法は、訪問前に03-5211-4176へ電話で確認されることをおすすめします。本記事でも、掲載日が現行年度より前であることを明記した上で紹介しています。
また、法人・企業の相談は対象外という制約があります。賃貸マンションやビルを法人で所有しているオーナーさまの場合、この窓口ではなく後述のルートを使うことになります。
法人・事業者の場合
| 相談名 | 日時 | 窓口 |
|---|---|---|
| ビジネス法律相談 | 第2金曜日 午後1時〜4時(予約制) | まちみらい千代田 03-3233-3222 |
| 経営相談 | 月〜金 午前9時〜午後5時(予約制) | 千代田区 商工観光課 03-5211-4344 |
| 消費生活相談 | 月〜金 午前9時〜午後4時30分 | 消費生活センター(千代田会館8階)03-5211-4314 |
8. 国の指定センターにも無料で電話できる
(公財)マンション管理センターは、マンション管理適正化法に基づく「マンション管理適正化推進センター」の指定を受けている唯一の団体です。しかも本部は千代田区一ツ橋にあります。
| 相談内容 | 電話番号 |
|---|---|
| 管理組合運営、管理規約等 | 03-3222-1517 |
| 建物・設備の維持管理 | 03-3222-1519 |
- 受付:月曜日〜金曜日(祝日・年末年始を除く)9時30分〜17時
- 1件あたり15分前後でアドバイスできるよう運用
- メール相談フォームあり(回答は口頭)
- 面談は事前予約制
(出典:公益財団法人マンション管理センター「相談窓口について」)
公平・中立の立場でアドバイスする窓口で、特定の弁護士や企業を紹介することはしないと明記されています。一方で、専門家レベルの法律相談や、修繕等の個別具体的なアドバイスは行っていない、当事者間の仲裁には立たない、という限界もはっきり書かれています。
賃貸マンションの相談は対象外で、その場合は(公財)日本賃貸住宅管理協会が案内されています。ここは間違えやすいので、賃貸をお持ちのオーナーさまはご注意ください。
なお、東京弁護士会マンション管理相談窓口(03-3581-2223)もありますが、こちらは紹介窓口であって電話相談窓口ではなく、相談料は30分5,500円(税込)です。無料と誤解されている方に何度かお会いしたので、念のため書いておきます(出典:東京弁護士会「東京弁護士会マンション管理相談窓口のご案内」)。
相談に行くとき、何を持っていけばいいか
ここが一番実務的な話です。
無料相談は30分〜2時間と時間が限られています。手ぶらで行くと、状況の説明だけで持ち時間が終わります。私は理事長さまに、3点セットをお持ちくださいとお伝えしています。
持参する3点セット
| # | 資料 | なぜ要るか |
|---|---|---|
| 1 | 直近の総会議事録(できれば2期分) | 何が決まっていて、何が保留かが一発で伝わる |
| 2 | 長期修繕計画書 | 次の工事時期と、積立金の残高・不足額が分かる |
| 3 | 管理規約(最新の改正版) | 決議要件、専有部と共用部の境界がここで決まる |
余裕があれば、この3つに加えて直近の決算書(収支報告)と、建物の全景写真・気になる箇所の写真があると話が速く進みます。スマートフォンで撮った写真で構いません。
相談前に決めておくこと
資料より大事なのが、「今日、何を持ち帰りたいか」を1行で決めておくことです。
- ×「大規模修繕について相談したい」
- ○「調査・診断を、管理会社に頼むか第三者に頼むかを決めたい」
前者だと一般論で30分が終わります。後者なら、判断材料が手に入る。私はいつも理事長さまに「相談の目的を、総会の議案書の1行のつもりで書いてみてください」とお伝えしています。
千代田区の場合、まちみらい千代田のオンライン(Zoom)相談が使えるので、理事会の前半30分を相談の時間にあてるという使い方もできます。役員全員が同じ説明を同時に聞ける。これは伝言ゲームによる誤解を防ぐ意味で、かなり効きます。
無料相談で聞いたあと、工事の話はどうなるか
ここは私の立場から、正直に書いておきます。
無料の相談・派遣で得られるのは、中立の情報と判断の枠組みです。実際に足場を組むのか、ロープアクセス工法(産業用ロープで作業員が壁面に降下して施工する、足場を架けない工法)で行くのか、部位ごとに使い分けるのか——具体的な施工の話は、最終的に施工会社との対話になります。
千代田区のように、隣地との離隔がほとんどなく、道路使用の制約も厳しい土地では、足場が組めない面が出てくることがあります。私が神田・神保町エリアで関わった建物では、4面のうち1面が隣のビルと50cmしか離れておらず、その面だけ足場が入らないという状況がありました。
このとき使えるのが、足場とロープアクセスを部位ごとに使い分けるハイブリッド工法です。足場が組める3面は足場で、組めない1面はロープで。仮設費を抑えながら、施工品質は落とさない。
工法ごとの向き・不向きは、ロープアクセス工法のご紹介と、工法解説専門サイトのロープアクセス工法の基礎知識(rope-access-method.com)に整理してあります。無料相談に行かれる前に目を通していただくと、アドバイザーへの質問の質が上がると思います。
特に「うちの建物で無足場工法が成立するのか」を判断したい方は、無足場工法が向く建物・向かない建物の見極め方を先に読んでおかれると、専門家との会話が早く進みます。
私たち明誠がどういう考え方で工法を選んでいるかは明誠の工事に対する考え方に、管理組合さま向け・オーナーさま向けのサービス内容は管理組合の皆さまへ、ビルオーナーの皆さまへにまとめています。
誤解のないように書きますが、無料相談に行ったから見積を取らなければいけない、ということはありません。むしろ順番は逆で、無料相談で判断の軸を作ってから見積を取ったほうが、業者の比較が正確になります。私は自社が比較されることを嫌だと思ったことがありません。比較されて選ばれない仕事は、そもそも受けても長続きしないからです。
まとめ:今週、理事会で動ける3つのこと
長くなったので、今週できることだけに絞ります。
1. まちみらい千代田に電話して「うちは届出済みか」を確認する
03-3233-3223(月〜金 午前9時〜午後4時、水曜は午前10時から)
昭和58年12月31日以前に新築された、居住用独立部分6戸以上の分譲マンションなら、管理状況届出制度の対象です。届出済みかどうかで、東京都のアドバイザー無料派遣が使えるかが変わります。電話1本、5分で終わる確認です。
2. 「まちづくりアドバイザー派遣」の申請書をダウンロードしておく
年度内6回・1回2時間。調整に1か月〜1か月半かかることがあるため、次の総会から逆算して、今から枠を押さえるのが現実的です。事前相談が要るので、まずは上記の電話と同時に「派遣も検討しています」と伝えておくと一度で済みます。
3. 3点セットをPDFにして共有フォルダに置く
総会議事録・長期修繕計画書・管理規約。この3つをスキャンしてPDFにし、理事会で共有できる状態にしておく。相談に行くときも、業者に見積を依頼するときも、この3つが起点になります。理事が交代しても消えない形にしておくことが、結局は組合の資産を守ります。
9月です。年度の折り返しを過ぎました。東京都のマンション管理士無料派遣は令和9年2月26日までの受付で、枠は都内160件。まちみらい千代田のアドバイザー派遣は調整に1か月半かかることがある。動ける期間は、思っているより短いというのが、カレンダーから見た実際のところです。
千代田区の建物は、私たち施工側から見ても難易度の高い物件が多い地域です。狭い、高い、道路が使えない、テナントが動かせない。だからこそ、判断を1人で抱え込まないでいただきたいと思っています。無料で使える窓口が8つもあるのに、使われないまま年度が終わるのを何度も見てきました。
工法や仮設の相談だけでも構いません。総会の前段階の整理だけでも、お力になれることがあります。お問合せフォームから、遠慮なくお声がけください。
出典・参考資料
- 千代田区「マンションに関する支援など」(更新日:2026年4月15日)
- 千代田区「区民相談室とその他の相談窓口での相談」(更新日:2022年10月11日)
- 公益財団法人まちみらい千代田「分譲マンション総合相談窓口」(2025年5月22日掲載)
- 公益財団法人まちみらい千代田「管理・コミュニティ支援」
- 公益財団法人東京都防災・建築まちづくりセンター「マンションアドバイザー無料派遣」
- 東京都マンションポータルサイト「分譲マンション向けマンション管理士無料派遣(防災力向上・認知症対応)」
- 東京都マンションポータルサイト「専門相談」
- 東京都マンションポータルサイト「管理状況届出制度」
- 公益財団法人マンション管理センター「相談窓口について」
- 東京弁護士会「東京弁護士会マンション管理相談窓口のご案内」
- 国土交通省「マンション政策」
本記事の情報の鮮度について:本記事は2026年9月12日時点で公表されている千代田区、公益財団法人まちみらい千代田、および東京都・国土交通省の公式情報をもとに執筆しています。制度は年度途中でも改正・予算終了があり得ます。実際に申請される前に、必ず千代田区および該当窓口へ最新の内容をご確認ください。なお、千代田区「区民相談室とその他の相談窓口での相談」のページは表示上の更新日が2022年10月11日であり、現行年度より前の情報が含まれる可能性があります。相談日時・予約方法は電話(03-5211-4176)でご確認ください。
ロープアクセス工法・無足場工法の技術情報は、専門サイト https://rope-access-method.com/ にまとめています。
塗料の値上げは大規模修繕のどこに効くのか|溶剤系20〜35%改定の2026年、管理組合とオーナーが見積書で確認すべき3行【2026年8月】
title: “塗料の値上げは大規模修繕のどこに効くのか|溶剤系20〜35%改定の2026年、管理組合とオーナーが見積書で確認すべき3行【2026年8月】”
slug: “toryo-neage-daikibo-shuzen-mitsumori-news-am”
category: “本間社長ブログ”
tags: [“大規模修繕”, “塗料値上げ”, “修繕積立金”, “長期修繕計画”, “ロープアクセス工法”, “管理組合”, “賃貸オーナー”, “外壁塗装”]
excerpt: “2026年、塗料の値上げが相次いでいます。関西ペイントは溶剤系20〜35%、水性15〜30%。大規模修繕の見積書のどこに、いくら効くのか。国土交通省の366事例データで費用構造を分解し、管理組合とオーナーが今すぐ確認すべき3行を解説します。”
この記事で答える質問:塗料メーカーの値上げは、私たちのマンションやビルの大規模修繕工事費を、いくら押し上げるのか? そして、その分をどこで取り戻せるのか?
2026年に入ってから、塗料の値上げのニュースが立て続けに流れています。理事会でこの話題が出て、「うちの工事、いくら高くなるんだ」と不安になった方も多いのではないでしょうか。
先に結論から申し上げます。塗料そのものの値上げが工事総額に与える影響は、多くの物件で1〜2%程度にとどまります。 一方で、同じ工事費の中には、塗料代よりも大きく、しかも「工法の選び方」で動かせる費目が確実に存在します。そこを知らずに値上げの話だけで慌てるのが、一番もったいない。
私は塗装と改修の現場に20年近くいます。値上げの局面は、これで何度目か分かりません。そのたびに感じるのは、慌てて発注を早めた組合よりも、見積書の中身を3行だけ確認した組合のほうが、結果的に安く、良い工事をしているということです。
この記事では、2026年の塗料値上げを時系列で整理したうえで、国土交通省が公表している実データを使って大規模修繕工事費の中身を分解し、管理組合と賃貸オーナーが今すぐできる確認事項までをまとめます。
最終更新:2026年8月28日
1. 結論|塗料の値上げで動くのは工事費の約1%。効いてくるのは「次の長期修繕計画」
1-1. 先に数字で答えます
Q. 塗料が20〜35%値上げされると、大規模修繕工事費はいくら上がる?
A. 工事総額に対しては、おおむね1〜2%程度と見込まれます。 総額1億円の工事なら、100万〜200万円のレンジです。決して小さくはありませんが、「工事費が2割上がる」という話とはまったく違います。
なぜそうなるのか。理由は単純で、塗料代は工事費のごく一部だからです。大規模修繕工事の費用は、材料費だけでなく、仮設足場、人件費(労務費)、諸経費、設計監理費などで構成されています。塗料はそのうちの「塗装工事の材料費」という、さらに内側の一部にすぎません。
具体的な分解は本文の「4. 大規模修繕工事費の中身を分解する」で、国土交通省が366件の長期修繕計画を集計したデータを使って行います。
1-2. 本当に警戒すべきは「今回」ではなく「次回」
私が理事長さまにお伝えしているのは、こういう話です。
今まさに見積もりを取っている工事については、値上げの影響は限定的です。多くの元請会社は、見積提出時点の単価で一定期間は据え置きます(この「一定期間」が何日なのかが重要で、後述します)。
問題は、5年後・10年後の工事です。長期修繕計画に書かれている修繕工事費の想定単価は、多くのマンションで数年前の相場のまま止まっています。塗料に限らず、シーリング材、防水材、そして労務費が継続的に上がっている以上、計画上の金額と実際の金額の乖離は年々広がります。
国土交通省は「長期修繕計画は5年程度ごとに見直すこと」を推奨しています(出典:国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」令和6年6月改定)。この「5年ごと」が、値上げ局面ではこれまで以上に重い意味を持ちます。
1-3. この記事の要点を3行で
- 塗料値上げの工事総額へのインパクトは1〜2%程度。慌てて発注を前倒しする理由にはなりにくい
- ただし長期修繕計画の想定単価は確実に古くなっている。次回の見直しでの上振れに備える必要がある
- 値上げ分を吸収する余地は「材料の値切り」ではなく「仮設のつくり方」にある
2. 2026年に何が起きたか|主要塗料メーカーの価格改定を時系列で整理
2-1. 一次情報で確認できる改定内容
まず、事実関係を正確に押さえます。噂や又聞きではなく、メーカーが公表している情報に基づいて整理します。
| メーカー | 対象 | 改定幅 | 実施時期 | 出典 |
|---|---|---|---|---|
| 関西ペイント | シンナー製品 | 50%以上 | 2026年4月2日〜 | 関西ペイント お知らせ |
| 関西ペイント | 溶剤系塗料 | 20〜35% | 2026年6月15日出荷分〜 | 同上 |
| 関西ペイント | 水性塗料 | 15〜30% | 2026年6月15日出荷分〜 | 同上 |
| 関西ペイント | 粉体系塗料 | 15〜25% | 2026年6月15日出荷分〜 | 同上 |
| エスケー化研 | 水性製品 | 15〜25% | 2026年5月11日出荷分〜 | 2026年4月1日公表 |
| エスケー化研 | 溶剤製品 | 20〜30% | 2026年5月11日出荷分〜(主力品は4月21日出荷分から先行) | 同上 |
| エスケー化研 | 粉体製品 | 10〜15% | 2026年5月11日出荷分〜 | 同上 |
| 日本ペイント | シンナー製品 | 最大75% | 2026年3月19日発注分〜 | 各社報道 |
関西ペイントの案内文には、注意して読むべき記述が2つあります。
ひとつは「これまでご注文いただいた製品についても、6月15日出荷分からは価格改定の対象とさせていただきます」という一文。つまり、発注済みでも出荷が改定日以降なら新単価が適用されるということです。工事の着工が遅れた場合、材料費が後から膨らむ可能性がある、という意味になります。
もうひとつは「原材料市況や調達環境の変動状況によっては、追加の価格改定をお願いする場合がございます」という記述。これは2026年内に第2弾がありうる、というメーカー側の予告と読むのが自然でしょう(出典:関西ペイント「中東情勢を背景とした当社製品の価格改定に関するご案内」2026年5月29日)。
2-2. 「運賃は含まない」という但し書き
同じ案内には「本ご案内には運賃改定は含んでおりません」とも書かれています。
これは実務的にはかなり重い一文です。塗料は重量物で、現場までの配送コストが単価に上乗せされます。2024年の物流問題以降、配送コストは全国的に上昇傾向が続いています。塗料本体の値上げ率だけを見ていると、実際の納入単価はもう少し上がるという前提で読んだほうが安全です。
2-3. なぜ「シンナー」の値上げ率が突出しているのか
表を見ると、シンナー(塗料用希釈剤)だけが50〜75%と桁違いです。ここが今回の値上げの震源地です。
シンナーの主原料は、原油を精製して得られるナフサから作られる溶剤類です。塗料本体に比べて原料構成がシンプルなぶん、原油・ナフサ価格の変動がほぼダイレクトに製品価格へ跳ね返ります。塗料本体は樹脂・顔料・添加剤など多様な原料の集合体なので、値上げ率はいくぶんマイルドになる、という構造です。
現場で言えば、溶剤系の塗料を使う工事ほど、今回の値上げの影響を強く受けるということになります。
3. なぜ上がったのか|中東情勢からマンションの外壁まで、4段の連鎖
3-1. 連鎖を1本の線でたどる
管理組合の理事会で「なぜ上がるのか」を説明するとき、私はいつもこの4段で話します。
- 中東情勢の緊張 → 原油の供給リスクと海上輸送ルートの不安定化
- 原油・ナフサ価格の上昇 → 石油化学製品の原料コストが上昇
- 溶剤(シンナー)・樹脂の値上げ → 塗料メーカーの製造原価が上昇
- 塗料製品の値上げ → 改修工事の材料費が上昇
関西ペイントは公表文で、「昨今の中東地域における緊張の高まりを背景に、原油・石油化学製品をはじめとする原材料市場や、国際物流を取り巻く環境は依然として極めて不安定な状況が続いております」と説明しています。原材料の代替調達や調達先の多元化を進めたうえで、なお自助努力では対応困難、という順序で書かれている点は、押さえておいてよいでしょう。
3-2. 「値上げは一時的か」を判断する材料
理事会で必ず出る質問が「待てば下がりますか」です。
正直に申し上げます。私には分かりません。 原油価格の見通しを断定できる人は、この業界にはいません。ただ、判断材料としてお伝えしていることが2つあります。
ひとつは、今回の値上げが原料要因だけではないということ。物流費、そして後述する労務費という、原油が下がっても下がりにくい要素が同時に上がっています。仮に原油が落ち着いても、工事費全体が値上げ前の水準に戻る道筋は見えにくい。
もうひとつは、待つことのコストです。外壁のひび割れやシーリングの劣化は、待っている間も進みます。雨水が入れば鉄筋が錆び、コンクリートが押し割られる(爆裂と呼びます)。そこまで進むと、塗装工事ではなく躯体補修工事になり、単価も工期も別次元になります。塗料が2割上がることより、こちらのほうがはるかに怖い、というのが私の実感です。
3-3. 労務費という、もう一本の値上げ
材料の話に隠れがちですが、大規模修繕工事のコストを長期的に押し上げているのは労務費です。
国土交通省は都道府県別・工種別の公共工事設計労務単価を毎年公表しています。大規模修繕工事の主要3工種である「とび工(仮設工事)」「塗装工(塗装工事)」「防水工(防水・シーリング工事)」は、いずれも継続的に上昇してきました。
参考として、令和3年3月から適用された東京都の単価は、とび工27,900円、塗装工29,200円、防水工29,900円(1日あたり)です(出典:国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」資料編)。その後も建設業の担い手不足を背景に、単価は上昇基調が続いています。最新値は国土交通省の公共工事設計労務単価のページでご確認ください。
同ガイドラインも「労務費は建設業の担い手不足や技能労働者の就労環境の変化等により変動する可能性がありますので、必要に応じて上昇分について考慮することも重要です」と明記しています。塗料の値上げは目立つが、静かに効いているのは人件費のほう、というのが現場の実感です。
4. 大規模修繕工事費の中身を分解する|国交省366事例が示す構成比
4-1. 費目別の割合(一次データ)
ここが本記事の核心です。塗料の値上げがどこに、どれだけ効くのかを知るには、まず工事費の内訳を知る必要があります。
国土交通省は「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」で、長期修繕計画作成ガイドラインに概ね沿って作成された長期修繕計画366事例を収集・分析し、修繕工事費の項目別割合を公表しています。
| 項目 | 割合 |
|---|---|
| 1. 仮設工事 | 9.0% |
| 2. 屋根防水 | 6.1% |
| 3. 床防水 | 6.1% |
| 4. 外壁塗装等 | 13.6% |
| 5. 鉄部塗装等 | 3.4% |
| 6. 建具・金物等 | 9.7% |
| 7. 共用内部 | 1.1% |
| 8. 給水設備 | 8.1% |
| 9. 排水設備 | 5.8% |
| 10. ガス設備 | 0.3% |
| 11. 空調・換気設備 | 0.7% |
| 12. 電灯設備等 | 4.0% |
| 13. 情報・通信設備 | 4.1% |
| 14. 消防用設備 | 3.5% |
| 15. 昇降機設備 | 4.3% |
| 16. 立体駐車場設備 | 5.2% |
| 17. 外構・附属施設 | 2.9% |
| 18. 調査・設計・監理 | 1.9% |
| 19. 長期修繕計画策定 | 0.2% |
| その他 | 10.0% |
(出典:国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」令和6年6月改定 資料編、366事例の平均値)
注意点をひとつ。 この割合は「長期修繕計画の計画期間全体」の修繕工事費の内訳であり、1回の大規模修繕工事だけの内訳ではありません。給水設備・昇降機設備など、大規模修繕とは別のタイミングで実施される項目も含まれています。ただ、塗装・防水・仮設の相対的な大きさを掴む材料としては十分に使えますので、以下ではこの数字を目安として使います。
4-2. モデルケースで試算してみる
数字を体感に変えるため、具体的に置いてみます。
モデル:70戸・総専有床面積4,900㎡・1回目の大規模修繕工事費1億円(戸あたり約143万円)
まず、塗装関係の工事費を拾います。
- 外壁塗装等(外壁修繕・タイル修繕・塗装等を含む):13.6% → 1,360万円
- 鉄部塗装等:3.4% → 340万円
- 合計:1,700万円
このうち、塗料そのものの材料費が占める割合はどれくらいか。工事の仕様や下地の状態によって大きく変わりますが、塗装工事費に占める塗料材料費は概ね2〜3割というのが、私が現場で見てきた感覚値です(この比率は公的統計ではなく、あくまで実務上の目安としてお読みください)。
- 塗料材料費:1,700万円 × 25% = 約425万円
ここに、今回の値上げ幅を当ててみます。仕様の中心が水性か溶剤系かで変わるので、幅で見ます。
| 想定値上げ率 | 増加額 | 工事総額1億円に対する比率 |
|---|---|---|
| 15%(水性中心) | 約64万円 | 約0.6% |
| 25%(混在) | 約106万円 | 約1.1% |
| 35%(溶剤系中心) | 約149万円 | 約1.5% |
結論:塗料値上げによる工事総額の押し上げは、概ね0.6〜1.5%のレンジ。 総額1億円なら64万〜149万円です。
戸あたりに直すと、70戸で約9,000円〜21,000円。修繕積立金の月額に換算すれば、30年計画のごく一部の変動です。これが「1〜2%程度」と申し上げた根拠です。
4-3. では、それより大きいのはどこか
同じ表をもう一度見てください。
仮設工事:9.0% → モデルケースで900万円。
塗料材料費の推定425万円に対し、仮設工事はその倍以上です。しかも仮設工事費の中身は、そのほとんどが足場材のリース費と、とび工の人件費、そして養生費です。
つまり、塗料代を1割値切る交渉より、仮設のつくり方を見直すほうが、動く金額は圧倒的に大きい。これが、私が管理組合やオーナーに一番お伝えしたいことです。
5. 塗料値上げは見積書のどこに現れるか|3つの現れ方
5-1. 現れ方①:単価がそのまま上がる(最も健全)
塗装工事の平米単価が、前回見積もりより素直に上がっているケース。これは正直な見積もりです。上がった理由を聞けば説明できる会社であれば、信頼していい相手だと私は思います。
確認すべきは、「どの塗料を、何回塗りで、どのメーカーの何という製品で」という仕様が明記されているかどうか。ここが「外壁塗装一式」で済まされている見積書は、値上げ局面では特に危険です。
5-2. 現れ方②:見積有効期限が短くなる
これは見落とされがちですが、非常に重要です。
先ほど確認したとおり、関西ペイントは「これまでご注文いただいた製品についても、6月15日出荷分からは価格改定の対象」としています。元請会社にとって、材料の仕入単価は発注時点ではなく出荷時点で決まるわけです。
そのため、値上げ局面では見積書の有効期限が30日、あるいはそれ以下に短縮されることがあります。総会での決議に3か月かかる管理組合の場合、決議した頃には見積もりが失効しているという事態が起こりえます。
5-3. 現れ方③:仕様が静かに下がる(最も注意すべき)
金額を据え置いたまま、塗料のグレードだけが下がっているケース。これが一番厄介です。
たとえば、当初提案がフッ素樹脂塗料だったものがシリコン系に、シリコン系がウレタン系に。塗り回数が3回塗りから2回塗りに。下塗り材が指定品から汎用品に。金額が同じなら誰も気づきません。
しかし塗料のグレードは、次に塗り替えるまでの年数を左右します。目安として、ウレタン系で8〜10年、シリコン系で10〜13年、フッ素系で15年前後とされることが多い。仮に13年もつはずの仕様が10年になれば、30年間で塗り替え回数が1回増える可能性があります。その1回分は、今回の値上げ分をはるかに超える金額です。
見積比較の際は、金額の欄より先に、塗料メーカー名・製品名・塗り回数・希釈率の記載を確認してください。
6. 管理組合とオーナーが見積書で確認すべき3行
前章を踏まえ、実務でそのまま使える確認事項に落とし込みます。理事会で配れるように、3つに絞りました。
6-1. 1行目:「見積有効期限」は何日か
確認する場所: 見積書の表紙、または末尾の但し書き。
なぜ見るか: 総会決議までのスケジュールと突き合わせるためです。有効期限30日の見積もりを、3か月後の総会にかけても意味がありません。
どう動くか: 期限が短い場合は、「臨時総会での決議を前提に、この単価で何日まで押さえられるか」を書面で確認してください。多くの会社は、材料を押さえられる範囲で応じてくれます。応じられない場合も、その理由を説明してもらえば、市況の実態が見えてきます。
なお、極端に安い見積もりの読み方については、大規模修繕の見積もりが安すぎる時|倒産リスクを見抜く5つの兆候でも整理しています。
6-2. 2行目:「塗料メーカー名・製品名・塗り回数」が書かれているか
確認する場所: 塗装工事の内訳明細。
なぜ見るか: 前章の「現れ方③」を防ぐためです。仕様が特定されていない見積もりは、比較する意味がありません。
どう動くか: 「外壁塗装 一式」となっている場合は、必ず内訳を出してもらってください。複数社に相見積もりを取るなら、仕様を発注側で固定してから依頼するのが原則です。仕様がバラバラの見積もりを金額だけで比べると、必ず一番安い=一番グレードが低いものが選ばれます。
6-3. 3行目:「仮設工事費」がいくらで、その根拠は何か
確認する場所: 内訳明細の冒頭、仮設工事の項目。
なぜ見るか: モデルケースで見たとおり、仮設工事は工事費の約9%を占め、塗料材料費の推定額を上回る規模です。ここが最も大きく動かせる余地のある費目です。
どう動くか: 「足場の架設面積は何㎡か」「単価は㎡あたりいくらか」「リース期間は何か月で計上されているか」を確認してください。工期が延びれば足場のリース期間も延び、費用は増えます。逆に言えば、工期を短縮できる工法は、仮設費を直接圧縮します。
7. 値上げを「工法」で吸収するという発想
7-1. 足場・ロープアクセス・ハイブリッドの3択
私が代表を務める株式会社明誠では、大規模修繕工事の提案にあたって、必ず3つの工法を比較したうえでお出しするようにしています。
| 工法 | 仮設コスト | 工期 | 居住者・テナントへの影響 | 向いている建物 |
|---|---|---|---|---|
| 通常足場工法 | 高い(工事費の1割前後) | 標準 | 目隠しシート・防犯面の負担が大きい | 中低層、外壁の劣化が広範囲、複雑形状 |
| ロープアクセス工法(無足場工法) | 大幅に圧縮できる | 短縮しやすい | 窓を塞がない期間が長い | 高層、足場架設が困難、部分補修中心 |
| ハイブリッド工法 | 部位ごとに最適化 | 部位により短縮 | 足場設置範囲を限定できる | 大規模・複雑形状で総合最適が必要 |
ロープアクセス工法とは、産業用のロープと下降器を使って、作業員が建物の屋上から吊り下がって施工する無足場の工法です。ヨーロッパの高所作業技術をルーツに持ち、日本でも高層建築の外壁補修や調査で採用が広がっています。ロープアクセス工法の技術的な解説や安全基準の考え方は、姉妹サイトのロープアクセスドットコムに詳しくまとめていますので、仕組みから知りたい方はそちらもご覧ください。
7-2. 「無足場なら必ず安い」は誤りです
ここは正直に申し上げておきます。ロープアクセスが常に安いわけではありません。
外壁の劣化が全面に及んでいて、全面打診・全面塗装が必要な物件では、足場を組んだほうが施工効率が高く、結果的に安くなることは普通にあります。また、バルコニーが深い、庇が張り出している、屋上にアンカーを取れる構造がない、といった条件では、ロープアクセスの適用範囲が限られます。
適しているのは、こういうケースです。
- 劣化が部分的で、全面足場を組むほどではない
- 高層で、足場の架設・解体だけで工期と費用が膨らむ
- 敷地に余裕がなく、隣地との離隔が取れない
- 店舗やホテルが入っていて、営業を止めたくない
- 賃貸物件で、足場設置期間中の入居者退去や賃料減額のリスクを避けたい
逆に不向きなケースも明記します。外壁全面の大規模な躯体補修、重量物の搬出入を伴う工事、屋上にロープの支点を確保できない構造。こうした場合は、素直に足場を組むほうが安全で確実です。
だからこそ、私は3工法を並べて提案します。選択肢が1つしかない会社の見積もりは、その1つが最適だから出てきたのか、それしかできないから出てきたのか、発注側からは区別がつきません。
7-3. ハイブリッドという中間解
実務で最も効くのは、この中間解です。
たとえば、劣化の激しい北面と、シーリングの打ち替えが必要な妻壁だけに足場を架け、南面と東西面はロープアクセスで対応する。あるいは、外壁は足場、屋上防水と高所の看板・設備まわりはロープアクセスで並行施工する。
こうすると、足場の架設面積そのものが減り、リース期間も短くなります。前章の「3行目」で確認した仮設工事費が、ここで直接動きます。
モデルケースの仮設工事900万円のうち、仮に3割を圧縮できれば270万円。これは塗料値上げによる増加額(推定64万〜149万円)を上回ります。 数字の桁が違う、という話です。
なお、工法の詳細と施工実績はロープアクセス工法のご紹介、大規模修繕工事全体の進め方は大規模修繕工事のご紹介にまとめています。
8. 長期修繕計画と修繕積立金にどう反映するか
8-1. 修繕積立金の目安(国交省ガイドライン)
値上げの話は、最終的に修繕積立金の話につながります。ここは国土交通省が明確な目安を示しているので、そのまま使えます。
計画期間全体における修繕積立金の平均額の目安(機械式駐車場分を除く/円・㎡・月)
| 地上階数/建築延床面積 | 事例の3分の2が包含される幅 | 平均値 |
|---|---|---|
| 20階未満・5,000㎡未満 | 235〜430円 | 335円 |
| 20階未満・5,000〜10,000㎡未満 | 170〜320円 | 252円 |
| 20階未満・10,000〜20,000㎡未満 | 200〜330円 | 271円 |
| 20階未満・20,000㎡以上 | 190〜325円 | 255円 |
| 20階以上 | 240〜410円 | 338円 |
(出典:国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」令和6年6月改定)
ご自身のマンションの数字を出す計算式は単純です。
Z(円/㎡・月)=(計画期間当初の修繕積立金残高 + 計画期間全体で集める修繕積立金総額 + 専用使用料等からの繰入額総額)÷ 総専有床面積 ÷ 計画期間(月数)
必要な数字はすべて長期修繕計画に載っています。理事会で15分もあれば出せます。
注意点: ガイドライン自身が「目安の範囲に収まっていないからといって、直ちに不適切であると判断される訳ではありません」と明記しています。物件ごとに形状・立地・共用施設が違うためです。あくまで健康診断の基準値のようなもの、とお考えください。
8-2. 段階増額積立方式の「0.6倍以上・1.1倍以内」ルール
令和6年6月の改定で追加された、実務上とても重要な考え方です。
段階増額積立方式における月あたりの徴収金額は、均等積立方式とした場合の月額を基準額として、計画の初期額は基準額の0.6倍以上、計画の最終額は基準額の1.1倍以内とする。
言い換えれば、「最初はうんと安く、最後にドンと上げる」という計画は望ましくない、と国が明示したということです。
しかも、ガイドラインには重要な留意事項が付いています。「工事費高騰等の状況を踏まえた長期修繕計画の見直しにあたって、管理適正化のために現在の修繕積立金額の額を大幅に引上げる等を制限するものではない」。
つまり、今回のような値上げ局面での積立金引き上げは、この0.6〜1.1倍ルールに縛られないという整理です。これは総会での説明材料として、そのまま使えます。
8-3. マンション長寿命化促進税制も確認を
修繕積立金の引き上げを検討するなら、あわせて確認しておきたいのがこの制度です。
マンション長寿命化促進税制は、管理計画認定を受けた一定のマンションで、修繕積立金の額を一定以上に引き上げたうえで大規模修繕工事を行った場合、翌年度分の固定資産税が減額される制度です。減額割合は6分の1から2分の1以下の範囲で市町村(特別区にあっては都)の条例で定められ、参酌基準は3分の1。1戸あたり100㎡相当分までが対象です。
適用には管理計画認定やマンション管理士・建築士による修繕積立金引上証明書の発行など、複数の要件があります。詳細は国土交通省のマンション管理のページで最新の要件をご確認ください。制度は変更される可能性がありますので、実際の判断は必ず公式情報と専門家への確認のうえで行ってください。
8-4. 次の見直しで入れておくべき3つの前提
長期修繕計画の見直しにあたって、私が入れておくことをおすすめしている前提です。
- 材料費の上昇を年率で織り込む — 個別の値上げを追いかけるのではなく、一定の上昇率を前提に置く。国土交通省の建設工事費デフレーターには「建築補修」の区分があり、改修工事の物価変動を追う指標として使えます
- 労務費の上昇を別枠で見る — 材料と労務は動き方が違います。公共工事設計労務単価の推移が参考になります
- 工法の選択肢を計画段階で残す — 「全面足場」を前提に金額を積んでいる計画は、実施時点で工法を変える余地が消えていることがあります
積立金そのものの目減りという観点では、大規模修繕の資金は「金利」で目減りする時代へもあわせてお読みいただくと、資金計画の全体像がつかみやすいと思います。
9. 賃貸オーナーの場合|見るべき数字が管理組合とは違う
9-1. オーナーにとっては「工事費」より「工期×空室リスク」
収益物件をお持ちの方の場合、判断軸が管理組合とは変わります。
分譲マンションの管理組合にとって、大規模修繕は「資産価値の維持」であり、費用は修繕積立金という既に積んだ原資から出ます。一方、賃貸オーナーにとっては、工事期間中の稼働低下が直接キャッシュフローに効きます。
足場を組んで防音・防塵シートで建物を覆えば、日照と通風が落ち、洗濯物が干せず、防犯上の不安も出ます。入居者からの賃料減額交渉や、更新時期の退去につながることは珍しくありません。
仮に月額賃料8万円の部屋が20戸あり、工事期間中の3か月間で2戸が退去し、次の入居まで2か月空いたとします。8万円×2戸×2か月=32万円の機会損失。原状回復費と広告料を加えれば、簡単に50万円を超えます。
これは、前章で試算した塗料値上げの増加額(総額1億円の工事で64万〜149万円)と、同じ桁の話です。オーナーにとっては、材料費の1割より、工期の1か月のほうが重いということがしばしば起こります。
9-2. だから工期が意思決定変数になる
ロープアクセス工法やハイブリッド工法が賃貸物件で選ばれる理由は、単価が安いからではなく、足場の架設・解体期間そのものが不要または短縮できるからです。
一般的な中規模マンションで、足場の架設に1〜2週間、解体に1週間程度。これに加えて、足場が建っている全期間、入居者は窓の外に他人が通る可能性を意識して生活することになります。
部分補修中心の工事であれば、ロープアクセスで施工日数を大幅に短縮できるケースがあります。ただし、これも物件条件次第です。「うちの物件でどちらが有利か」は、屋上の支点条件と劣化範囲を実際に見ないと判断できません。
9-3. 値上げ局面でオーナーがやるべきこと
- 来年度の修繕予算に、材料費上昇分を明示的に上乗せしておく(丸めた予備費ではなく、根拠のある数字で)
- 緊急性のある部分補修と、周期的な全面改修を分けて考える。漏水やタイル浮きは待てないが、美観目的の塗り替えは時期をずらせる
- 複数工法での見積もりを取る。1社1工法の見積もりでは、比較の土俵が作れない
10. 私が現場で見てきたこと
10-1. 「安くなった見積書」が一番高くついた話
数年前、ある管理組合から相談を受けたことがあります。相見積もりを取ったところ、1社だけ2割ほど安い金額を出してきた。その会社に決めるべきか、という相談でした。
内訳を見せていただいて、すぐに分かりました。塗料のグレードが1段階下がり、塗り回数が3回から2回になっていたのです。しかも見積書の表記は「外壁塗装工事 一式」。金額の内訳がなければ、誰も気づけません。
私はその場で、両方の見積書を並べて、10年後・20年後の累計コストを電卓で叩いてお見せしました。塗り替え周期が3年短くなると、30年間で1回分の足場費と塗装費が余分に発生する。試算すると、当初の2割の差は、20年で逆転していました。
現場で20年やってきて、私が一番悔しい思いをするのは、こういう「見えない差」で判断が曲がってしまう場面です。塗料の値上げが話題になる今こそ、金額の欄より仕様の欄を見ていただきたい。
10-2. 足場を組まずに済んだ物件のこと
もうひとつ。高層の賃貸マンションで、外壁の一部にひび割れとシーリングの劣化が見つかった案件がありました。
当初、設計事務所からは全面足場での改修が提案されていました。しかしオーナーさまが一番気にされていたのは、工事費ではなく「入居者に出ていかれること」でした。満室に近い稼働で回っている物件です。
私たちは屋上のパラペットと構造を確認したうえで、劣化の集中している面だけロープアクセスで先行補修し、全面改修は次の周期まで延ばすという段階施工をご提案しました。結果として、その年に足場は1本も組まずに済みました。
これは、たまたま条件が合ったから成立した話です。すべての物件でできることではありません。ただ、「足場ありき」で考えていたら、この選択肢は出てこなかった。それだけは確かです。
10-3. 値上げの局面で、私が理事長さまにお伝えしていること
私はこうお伝えしています。
「値上げのニュースで慌てて発注を早めるより、見積書の3行を確認するほうが、金額としては大きく効きます」
有効期限。仕様。仮設費。この3つです。塗料が2割上がったことより、この3行の確認漏れのほうが、最終的な支払額を大きく動かします。
よくある質問(FAQ)
Q1. 塗料が値上げされたので、大規模修繕を前倒しで発注したほうがいいですか?
A. 値上げだけを理由に前倒しする合理性は高くありません。工事総額への影響は概ね0.6〜1.5%程度と試算されるためです。ただし、外壁のひび割れや漏水など劣化が進行している場合は、値上げとは別の理由で早期着手を検討すべきです。詳しくは本文の「1. 結論」をご覧ください。
Q2. 2026年の塗料値上げ幅は具体的にどれくらいですか?
A. 関西ペイントは溶剤系塗料20〜35%、水性塗料15〜30%、粉体系塗料15〜25%を2026年6月15日出荷分から実施しています。シンナー製品は4月2日から50%以上の改定です(出典:関西ペイント)。エスケー化研も5月11日出荷分から水性15〜25%、溶剤20〜30%、粉体10〜15%の改定を行っています。
Q3. 見積書を取り直したら金額が同じでした。安心していいですか?
A. 金額が同じでも仕様が変わっている可能性があります。塗料メーカー名・製品名・塗り回数・下塗り材の指定を、前回見積もりと1行ずつ突き合わせてください。塗料のグレードが下がっていると、塗り替え周期が短くなり、長期では割高になることがあります。
Q4. 無足場のロープアクセス工法にすれば工事費は必ず安くなりますか?
A. いいえ。外壁全面の改修が必要な物件では、足場を組んだほうが施工効率が高く、結果的に安くなることがあります。部分補修中心、高層、敷地に余裕がない、営業や入居を止めたくない、といった条件で有利になりやすい工法です。物件ごとの比較が必要です。ロープアクセス工法の技術的な解説はロープアクセスドットコムにまとめています。
Q5. 値上げを理由に修繕積立金を引き上げると、国のガイドラインに抵触しませんか?
A. 抵触しません。国土交通省のガイドラインは段階増額積立方式について「初期額は基準額の0.6倍以上、最終額は1.1倍以内」という考え方を示していますが、あわせて「工事費高騰等の状況を踏まえた長期修繕計画の見直しにあたって、管理適正化のために現在の修繕積立金額の額を大幅に引上げる等を制限するものではない」と明記されています(出典:国土交通省)。
この記事のポイントまとめ
- 塗料値上げの工事総額へのインパクトは概ね0.6〜1.5%。慌てた前倒し発注の根拠にはなりにくい
- 関西ペイントは溶剤系20〜35%、水性15〜30%を2026年6月15日出荷分から実施
- 国交省366事例では外壁塗装等13.6%、仮設工事9.0%。動かせる余地は仮設側に大きい
- 見積書で見るべきは3行——有効期限、塗料の製品名と塗り回数、仮設工事費の根拠
- 賃貸オーナーは工事費より工期と稼働低下のほうが金額インパクトが大きい場合がある
出典・参考資料
- 国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン(平成23年4月策定/令和6年6月改定)」
- 国土交通省「住宅:マンション管理(長期修繕計画作成ガイドライン等)」
- 国土交通省「建設工事費デフレーター」
- 国土交通省「公共工事設計労務単価」
- 関西ペイント株式会社「中東情勢を背景とした当社製品の価格改定に関するご案内(2026年5月29日)」
- 独立行政法人住宅金融支援機構「マンションライフサイクルシミュレーション〜長期修繕計画ナビ〜」
※本記事に記載した制度・価格・単価は、記事作成時点で公表されている情報に基づくものです。制度や価格は変更される可能性がありますので、最新の情報は必ず各公式サイトでご確認ください。また、本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務・法務判断については専門家にご相談ください。
最後に
値上げのニュースは不安を煽ります。しかし数字を分解してみると、動いているのは工事費の1%前後で、それより大きい費目が、まだ手つかずで残っていることが分かります。
私はこれを、必ずワンセットでご提案するようにしています。「材料の値上げをどう受け止めるか」と「仮設をどうつくるか」は、同じテーブルで話すべき問題だからです。
見積書の3行を確認するだけなら、理事会で30分もかかりません。それでも判断に迷われるようでしたら、お問合せフォームからご相談だけでも遠慮なくお声がけください。総会の前段階の整理だけでも、お力になれることがあります。
これは私が現場で20年見てきた、嘘偽りのない感想です。次回も、現場で本当に使える話だけをお届けします。
執筆者:本間 幸紘(株式会社明誠 代表取締役)
専門領域:マンション大規模修繕/ロープアクセス工法/建物長寿命化計画
実務経験:建設・改修業界 20年以上
所属:一般社団法人 全国建設業支援協会(JCSA)
株式会社明誠について:東京都小平市を拠点に、東京・関東一円でロープアクセス工法と従来足場工法の両方を提案できる改修会社。日本初のロープアクセス工事フランチャイズを展開し、塗装・防水・タイル・電気・看板工事などの専門職が加盟しています。
最終更新:2026年8月28日
大規模修繕の見積もりが安すぎる時|倒産リスクを見抜く5つの兆候
2026年8月27日 更新
「相見積もりで一番安い会社に頼んで、本当に大丈夫なのでしょうか?」 ——この記事は、その一点にお答えします。
先日、年間家賃収入5,700万円という不動産投資家の方が、「最安値を出してきた建設会社が実は倒産寸前だった」という体験を語った記事が出ていました(出典:マネーポストWEB/Yahoo!ニュース)。私はこれを読んで、正直、背筋が寒くなりました。ヒヤリとした話ではなく、私自身が20年近くこの業界で何度も後始末をしてきた光景そのものだったからです。
株式会社明誠の本間です。今日は「安い見積もり」との向き合い方を、公的データと現場の実感の両方から整理します。
1. 結論:安い見積もりを疑い始める3つのライン
先に結論から申し上げます。相見積もりの中に極端に安い1社があるとき、私が最初に見るのは次の3つのラインです。ここを超えていたら、金額の話をする前に「なぜ安いのか」を潰しにいきます。
| ライン | 判断の目安 | 何を疑うか |
|---|---|---|
| ① 戸あたり単価 | 国土交通省の実態調査の中央値を大幅に下回る | 数量の拾い漏れ/仕様落ち |
| ② 他社との乖離幅 | 最安と2番手の差が総額の20%以上 | 積算根拠の不成立/赤字受注 |
| ③ 内訳の粒度 | 主要工種が「一式」表記で数量が無い | 後からの追加請求/実行予算の破綻 |
1-1. ライン①:戸あたり単価が国交省の中央値を大きく下回る
国土交通省が公表した「令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査」では、944件の工事事例をもとに戸あたり工事金額の分布が整理されています。1回目の大規模修繕では「100万円超120万円以下/戸」が31.4%で最多、中央値は110.2万円。2回目は中央値106.1万円、3回目以降は中央値97.0万円という結果でした(出典:国土交通省 報道発表資料/調査結果本体(PDF))。
この調査は2022年6月公表で、集計対象は直近3年間の工事です。つまり2026年の物価水準とは前提が違います。後述しますが、この4年間で建設コストは相当上がっています。それでもなお、この中央値を大きく割り込む見積もりが出てきたら、まず理由を確認する。これが私の基本姿勢です。
戸あたり単価は「総額 ÷ 総戸数」という単純な割り算で出せます。50戸のマンションで総額4,500万円なら90万円/戸。100戸で6,000万円なら60万円/戸。理事会の場でも1分で計算できますので、最初のスクリーニングとして非常に使いやすい指標です。
1-2. ライン②:最安と2番手の差が20%以上
3社見積もりを取って、A社4,500万円、B社4,900万円、C社5,100万円なら、これは健全なばらつきです。差は最大13%程度で、仕様の解釈や仮設計画の違いで十分に説明がつきます。
一方、A社3,400万円、B社4,900万円、C社5,100万円だとしたら、話が変わります。最安と2番手の差が30%。この幅は「企業努力」では出ません。同じ数量・同じ仕様を積み上げたら、まともな会社の見積もりは似た金額に収束するからです。収束しないのなら、数量か仕様か、そのどちらかが違っている。あるいは、会社の懐事情が違っている。
1-3. ライン③:内訳が「一式」で潰れている
見積書を開いて、「外壁補修工事 一式」「防水工事 一式」「仮設工事 一式」と並んでいたら、私はその時点で比較を止めます。数量が書かれていない見積書は、比較の土俵に乗らないからです。
私はいつも理事長さまに、「金額を見る前に、数量欄を見てください」とお伝えしています。タイル浮き補修なら「○○㎡」、シーリング打替なら「○○m」、外壁塗装なら「○○㎡」。この数字が入っていて初めて、A社とB社の単価を比べられます。数量が無い見積書は、安いのではなく「まだ見積もられていない」のです。
2. 今回のニュース:4,500万円の最安値を蹴ったオーナーの判断
2-1. 何が起きたのか
冒頭で触れた記事の要旨はこうです。複数社から見積もりを取り、最も安い4,500万円の建設会社と契約する直前まで進んでいた。ところが取引銀行から、その会社について良くない情報があると知らされる。調べてみると、大型案件で契約を反故にし、下請への支払いも滞り、現場が止まっている状態だった。最終的に4,900万円の別会社と契約し、400万円のコスト増を受け入れた——という話です(出典:マネーポストWEB/Yahoo!ニュース)。
2-2. 400万円の差額は「高くついた」のか
私は、この400万円は保険料として極めて安かったと考えます。理由を、施工者側の目線で申し上げます。
工事の途中で元請が倒れると、現場では次のことが同時に起こります。
- 足場が撤去できない/されない — 仮設リース会社は元請と契約しています。元請が払えなくなれば、リース料は止まり、足場は宙に浮きます。撤去費用を誰が持つかで揉めます。
- 下請の職人が全員引く — 支払いが飛べば、翌日から人は来ません。塗装の中塗りまで終わって上塗り前、という最悪のタイミングで止まることもあります。
- 出来高の査定でもめる — 前払金や中間金を払っていた場合、「どこまで出来ているか」を第三者に査定してもらう必要が出ます。
- 引き継ぎ業者が割高になる — 他社が途中から入る工事は、前工程の品質を保証できないため、健全な会社ほど値段を高く出します。私の経験上、残工事の見積もりは当初単価の1.3〜1.5倍になることが珍しくありません。
- 瑕疵の受け皿が消える — 一番痛いのはここです。倒産した会社の保証書は紙切れです。
2-3. 私が現場で見てきた「安値の後始末」
数年前、私は都内の築28年・42戸のマンションで、途中で止まった大規模修繕の残工事を引き継いだことがあります。当初契約は約3,800万円。相見積もりの中で最も安く、2番手より600万円ほど安かったと後から聞きました。
現場に入って最初に驚いたのは、足場が組まれてから4か月半が経過していたことでした。工期は5か月の予定でしたから、ほぼ工期いっぱいを使って、外壁の下地補修が半分終わったところで止まっていた。シーリングは撤去済みで打っていない箇所が残り、そこから雨が回って室内側にシミが出ていました。
理事長さまと最初にお会いしたとき、「もう誰も信用できない」と言われたのを今でも覚えています。現場で20年やってきて、私が一番悔しい思いをするのは、こういう瞬間です。工事そのものより先に、信頼の回復から始めなければならない。
結果として、残工事に約2,400万円かかりました。当初契約からの持ち出しは、居住者アンケートの再実施や仮設の延長も含めて1,000万円を超えたと聞いています。600万円を惜しんだ結果でした。
3. 見積もりが安くなる理由は、突き詰めると4つしかない
安い見積もりのすべてが危険なわけではありません。むしろ、正当な理由で安い見積もりは存在します。ここを混同すると、良い提案まで一緒に捨ててしまいます。私が使っている4分類を共有します。
| 分類 | 内容 | 危険度 | 見分け方 |
|---|---|---|---|
| A:工法が違う | 足場を使わない、または部分的にしか使わない | 低(正当) | 仮設工事費の項目と数量を確認 |
| B:仕様が落ちている | 塗料グレード、防水の層厚、保証年数が下がっている | 中 | 材料メーカー名・品番・保証年数を突合 |
| C:数量が拾えていない | 補修数量を過少に見積もり、後から追加請求 | 高 | 数量根拠(調査報告書)の有無 |
| D:資金繰りのための受注 | 赤字と分かっていて受注、手元資金を回す | 最高 | 決算・経審・支払サイトの確認 |
3-1. 理由A:工法が違う(これは正当な安さ)
大規模修繕工事の総額のうち、仮設足場が占める割合は決して小さくありません。建物の形状や階数によりますが、一般的な中高層マンションで総額の15〜25%程度を仮設が占めるケースがあります。
ここで、ロープアクセス工法(無足場工法。産業用ロープで作業員が壁面を昇降しながら施工する工法) を使えば、その仮設費の相当部分を圧縮できます。全面をロープアクセスで行うケースもあれば、足場が必要な部位だけ足場を組み、それ以外をロープで対応する ハイブリッド工法 もあります。
これは「安かろう悪かろう」ではなく、仮設という費目そのものを設計し直しているだけです。見積書を見れば一目で分かります。仮設工事費の行が小さく、そのぶん本工事の単価は他社と大きく変わらない。これがAパターンです。
ロープアクセス工法の一般的な安全基準や技術的な背景は、姉妹サイトのロープアクセスドットコムで詳しく解説しています。工法の中身を先に知っておくと、見積書の読み方が変わります。
3-2. 理由B:仕様が落ちている(要確認)
外壁塗装の塗料は、アクリル系・ウレタン系・シリコン系・フッ素系・無機系と幅があり、期待耐用年数も価格も大きく異なります。屋上防水も、ウレタン塗膜防水・塩ビシート防水・アスファルト防水で単価と耐用年数が違います。
A社が「シリコン系・保証7年」、B社が「フッ素系・保証10年」を提案していれば、金額差が出るのは当たり前です。問題は、見積書に材料メーカー名と品番が書かれていないケース。これだと比較のしようがありません。
私はこれを、必ずワンセットで提案するようにしています。「材料の品番」と「保証年数」と「保証の主体(メーカー保証か施工店保証か)」の3点セットです。この3つが揃っていない見積書は、金額の比較に使えません。
3-3. 理由C:数量が拾えていない(危険)
これが最も多い「後で揉める安さ」です。
タイル張りの建物で、打診調査をせずに「浮き補修 500㎡」と置いておき、着工後に実測したら1,200㎡だった——という事態は起こり得ます。差分の700㎡は追加工事として請求されます。当初の見積もりは確かに安かった。しかし最終の支払額は他社より高くなる。
これを避ける方法はシンプルです。発注前に、劣化診断(建物調査)を工事会社とは別に、あるいは工事会社に実施させたうえで、その報告書の数量を全社共通の条件として渡すこと。同じ数量表で見積もらせれば、比較は一気に楽になります。
なお、建築基準法第12条に基づく定期報告制度では、竣工後10年を超えた一定の建築物について外壁全面打診等の調査が求められています。この報告資料が手元にあれば、数量根拠の出発点として使えます。
3-4. 理由D:資金繰りのための受注(最も危険)
今回のニュースの会社は、おそらくこれに該当します。手元資金が細っている会社は、赤字と分かっていても受注します。前払金と中間金で当座を凌ぎ、次の受注で穴を埋める。自転車を漕ぎ続けている状態です。
そして、漕ぐのを止めた瞬間に倒れます。倒れる先が、たまたま自分の物件の工事期間中だった——それが今回のオーナーが回避したシナリオです。
4. 倒産リスクを見抜く5つの兆候
では、Dパターンをどう見抜くか。私が実務で使っているチェックポイントを5つ挙げます。すべて、理事会やオーナーご自身の手で確認できるものです。
4-1. 兆候①:前払金の比率が異常に高い
工事契約における前払金は、材料の先行手配などの理由で一定額を支払うこと自体は一般的です。しかし、契約時に総額の40%、50%を求めてくるようであれば、資金使途を確認したほうが良いと私は考えます。
対策としては、「前払金保証」を付けてもらう方法があります。保証事業会社による前払金保証は公共工事で広く使われている仕組みですが、民間工事でも同種の保証やエスクロー的な取り扱いを相談できる場合があります。少なくとも「なぜその比率が必要か」に明確な回答が返ってこない場合は、慎重に判断するのが無難です。
4-2. 兆候②:建設業許可と経営事項審査を自分で調べる
これは無料でできます。国土交通省の「建設業者・宅建業者等企業情報検索システム」で、会社名から建設業許可の有無、許可番号、業種、そして経営事項審査(経審)の結果を確認できます。
見るべきポイントは3つです。
- 許可業種:塗装工事業・防水工事業・とび土工工事業など、今回の工事に必要な業種の許可があるか
- 許可の更新履歴:5年ごとの更新が途切れていないか
- 経審のY点(経営状況分析):自己資本比率や負債回転期間などが反映された指標
経審は公共工事を受注する会社が受ける審査ですので、民間専業の会社は受けていないこともあります。その場合は次の項目で補います。
4-3. 兆候③:下請への支払サイトを聞く
これは私が一番重視している質問です。管理組合やオーナーの立場から、「御社は下請さんに、何日サイトで支払っていますか」と聞いてみてください。
建設業法では、元請負人は下請代金を、注文者から出来高払や竣工払を受けた日から1か月以内のできる限り短い期間内に支払わなければならないと定められています(建設業法第24条の3)。また、下請代金の支払いは、原則として現金払いが望ましいとされ、手形期間についても短縮の方向で行政指導が進んでいます。
支払サイトが長い会社ほど、資金繰りが苦しいというのは、業界の中では常識に近い経験則です。逆に「うちは月末締め翌月末現金です」と即答できる会社は、少なくともその点では健全です。
4-4. 兆候④:主任技術者・監理技術者の専任配置を確認する
建設業法では、一定金額以上の工事について、監理技術者または主任技術者の専任配置が求められます。要は、その現場に張り付く技術者が名前入りで決まっているかということです。
「工事が始まったら決めます」「複数現場を掛け持ちします」という回答が返ってくる場合、その会社は技術者が足りていない可能性があります。技術者不足は、受注過多か、離職の進行か、どちらかのサインです。
契約前に、配置予定の技術者の氏名・資格・経験を書面で出してもらう。これだけで、かなりの会社がふるいにかかります。
4-5. 兆候⑤:金融機関・保険・保証で裏を取る
今回のニュースのオーナーが助かったのは、取引銀行からの情報でした。これは非常に示唆的です。
管理組合の場合、修繕積立金を預けている金融機関や、住宅金融支援機構の共用部分リフォーム融資を利用する場合の窓口が、間接的な情報源になり得ます。また、以下のような「第三者が関与する保証」の有無も判断材料になります。
- 住宅瑕疵担保責任保険法人によるリフォーム瑕疵保険(工事会社が倒産しても保険法人に直接請求できる仕組みがあります)
- 完成保証(元請が倒産した場合に、保証会社が代替履行や損害の補填を行う仕組み)
保険や保証に加入するには、保険法人・保証会社の審査を通る必要があります。つまり、これらに入れる会社は、第三者の与信審査を一度通過しているということです。これは非常に分かりやすいシグナルです。
5. 数字で押さえる、2026年の工事費の「地合い」
「今年は安く出せます」という営業トークを聞いたら、私は必ず根拠を尋ねます。なぜなら、2026年の建設コストは、構造的に下がりにくいからです。
5-1. 公共工事設計労務単価は14年連続で上昇
国土交通省が2026年2月に公表し、2026年3月から適用されている令和8年度の公共工事設計労務単価は、全国全職種平均で25,834円。前年度比4.5%の引き上げで、平成25年度から数えて14年連続の上昇、そして初めて25,000円を超えました(出典:一般財団法人 建設物価調査会)。
労務単価は公共工事の積算に使う数字ですが、職人の賃金相場を反映しているため、民間の改修工事の原価にも直結します。人件費が14年連続で上がっている市場で、「今年は安い」は成立しにくいというのが私の実感です。
5-2. 実態調査の中央値は「4年前の物価」である
先に挙げた国交省の実態調査(中央値110.2万円/戸など)は、2022年6月公表・直近3年間の事例集計です。単純に考えれば、そこから労務単価だけでも複数年分の上昇が乗っています。
したがって、私は次のように考えています。
- 実態調査の中央値を上回る見積もり → 直ちに割高とは言えない(物価上昇分がある)
- 実態調査の中央値を大きく下回る見積もり → 工法の違い(Aパターン)で説明がつかない限り、要確認
5-3. 修繕積立金ガイドラインとの突合
国土交通省の「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」は令和6年6月に改定され、専有面積あたりの積立金額の目安が示されています(出典:国土交通省(PDF))。
ここで大事なのは、「積立金が足りないから安い業者を選ぶ」という順番にしないことです。積立金が不足しているなら、まず検討すべきは工法の見直し、工事範囲の優先順位付け、時期の分割、そして融資の活用です。品質を下げる方向で辻褄を合わせると、次の周期でツケが回ってきます。
私はいつも理事長さまに、「削るなら仮設から」とお伝えしています。塗膜や防水層は建物を守る本体ですが、足場は工事のための手段です。手段のコストを先に見直す。これが順番だと考えています。
6. 発注方式のリスク:設計監理方式と責任施工方式
安い見積もりの話をするうえで、避けて通れないのが発注方式です。
6-1. 国土交通省も注意喚起している「不適切コンサル」問題
国土交通省は、設計コンサルタントを活用した大規模修繕工事について、コンサルタントと施工会社の癒着やバックマージンの懸念に関する注意喚起を行っています。2023年4月には、公益財団法人マンション管理センターおよび一般社団法人マンション管理業協会宛てに、大規模修繕工事の発注等の適正化に関する通知が出されています(出典:国土交通省(PDF))。
通知で強調されているのは、コンサルタントが利益相反を起こさない中立的な立場を保つことの重要性です。実際に、コンサルタントに依頼したはずの調査診断や設計を、施工会社の社員が行っていたという事例も紹介されています。
6-2. 2つの方式の比較
| 項目 | 設計監理方式 | 責任施工方式 |
|---|---|---|
| 設計・監理者 | 第三者コンサルタント | 施工会社が一貫して担当 |
| コスト | コンサル費用が別途(総額の3〜6%程度が一般的) | 別途費用は不要 |
| 比較のしやすさ | 同一仕様で相見積もりが取りやすい | 各社の提案内容が異なり比較しにくい |
| リスク | コンサルと施工会社の癒着 | 施工会社によるチェック機能の弱さ |
| 向くケース | 大規模・複雑、組合に専門知識が乏しい | 小〜中規模、信頼できる施工会社がある |
どちらが優れているという話ではありません。それぞれのリスクが違うだけです。設計監理方式を選ぶなら、コンサルタントの独立性をどう担保するか。責任施工方式を選ぶなら、施工会社の技術力と誠実さをどう検証するか。論点はそこに絞られます。
6-3. 相見積もりの「同一条件」をどう作るか
比較できる見積もりを取るために、私が推奨している手順は次の通りです。
- 劣化診断を先に実施し、補修数量の根拠を作る
- 数量表(内訳明細のひな形)を作成し、全社に同じ様式で提出させる
- 材料の指定はグレードで行う(「シリコン系以上、期待耐用年数10年以上」など)
- 仮設計画は各社の提案に委ねる(ここで工法の差が出る)
- 保証条件を明記(年数・対象・保証主体)
4番目がポイントです。本工事は同一条件で揃え、仮設だけ各社の創意工夫に開く。こうすると、足場・ロープアクセス・ハイブリッドの差が金額に素直に出ます。
7. 【自社サービスのご案内】工法で正当にコストを下げるという選択肢
※このセクションは弊社サービスのご紹介を含みます。中立的な情報をお求めの場合は、前章までをご参照ください。
7-1. 3つの工法の比較
株式会社明誠では、通常足場工法・ロープアクセス工法(無足場工法)・ハイブリッド工法の3つから、建物特性に応じた提案を行っています。
| 工法 | 仮設コスト | 工期 | 居住者への影響 | 向く建物 |
|---|---|---|---|---|
| 通常足場工法 | 大 | 長め | 全面シート養生、防犯面の配慮が必要 | 中低層、複雑形状、全面的な打診・補修が必要な建物 |
| ロープアクセス工法 | 小 | 短め | 窓周りの一時的な作業のみ | 高層、足場架設が困難な立地、部分補修中心 |
| ハイブリッド工法 | 中 | 中 | 足場部位のみ限定的 | 大規模・複雑物件で総合コスト最適化が必要なケース |
3つを持っているからこそ、「この建物なら足場を組んだほうが結果的に安い」という提案もできます。ロープアクセスありきではないことが、私たちの提案の前提です。
7-2. ロープアクセスは法令の枠組みが整備されている
「ロープで作業して大丈夫なのか」というご質問を、私は本当によく受けます。結論から申し上げると、ロープ高所作業は労働安全衛生規則で明確に規定された作業です。
労働安全衛生規則第36条第40号は、ロープ高所作業を「高さが2メートル以上の箇所であって作業床を設けることが困難なところにおいて、昇降器具を用いて、労働者が当該昇降器具により身体を保持しつつ行う作業(40度未満の斜面における作業を除く)」と定義し、特別教育の対象としています。あわせて、ライフライン(作業用ロープとは別の墜落防止用ロープ)の設置、作業計画の作成、要求性能墜落制止用器具の使用などが義務づけられています(出典:安全衛生情報センター/厚生労働省(PDF))。
この規定は2016年1月1日から施行されています。つまり、ロープアクセスは「規制の外側にある工法」ではなく、規制の中で運用されている工法です。工法の技術的な詳細はロープアクセスドットコムにまとめていますので、理事会での説明資料をお探しの方はご覧ください。
7-3. 日本初のフランチャイズ体制
明誠は、ロープアクセス工事として日本で初めてのフランチャイズ展開を行っています。塗装・防水・タイル・電気・看板といった各分野の専門会社が加盟しており、専門職が専門工事を担当する体制です。中間マージンの階層を減らせるため、品質を落とさずに価格を抑えられる構造になっています。
工法の詳細はロープアクセス工法のご紹介、大規模修繕全体の進め方は大規模修繕工事のご紹介にまとめています。過去の記事は本間社長ブログにも蓄積していますので、あわせてご覧いただければと思います。
8. 今日からできる5つのステップ
最後に、理事会やオーナーの方が明日から動ける形に落とし込みます。
- 総額 ÷ 戸数を計算する(1分で終わります)。国交省の実態調査の中央値と並べて、位置を把握する。
- 見積書の数量欄を確認する。「一式」が並んでいたら、数量入りの再提出を依頼する。
- 建設業許可を検索する。国土交通省の企業情報検索システムで、許可業種と更新履歴を確認する。
- 支払サイトと配置技術者を質問する。回答の速さと具体性が、そのまま会社の体力を映します。
- 保証の主体を確認する。施工店保証なのか、メーカー保証なのか、第三者保証(リフォーム瑕疵保険等)が付くのか。
このうち1〜2は、理事会の場でその場でできます。3〜5は、事務局や修繕委員の方が1日あれば揃えられます。
安い見積もりが悪いのではありません。安い理由を説明できない見積もりが危ないのです。 説明を求めて、納得できる答えが返ってくるなら、その安さは信じていい。答えが濁るなら、そこで立ち止まる。それだけの話だと私は思っています。
よくある質問(FAQ)
Q1. 相見積もりは何社取るのが適切ですか?
A. 3社前後が実務的です。多すぎると比較の手間が増え、各社の提案の質も下がりやすくなります。ただし、同一の数量表・同一の仕様条件を渡すことが前提です。条件が揃っていない5社より、条件が揃った3社のほうが判断できます。
Q2. 最安の会社が倒産寸前かどうか、素人でも調べられますか?
A. 完全な判定はできませんが、手がかりは取れます。国土交通省の建設業者等企業情報検索システムで許可と経営事項審査を確認し、支払サイトと配置技術者を質問し、リフォーム瑕疵保険や完成保証に加入できるかを尋ねる。この3点で、かなりの情報が集まります。詳しくは本文の「倒産リスクを見抜く5つの兆候」を参照ください。
Q3. 戸あたり単価の目安はいくらですか?
A. 国土交通省「令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査」では、1回目の中央値110.2万円/戸、2回目106.1万円/戸、3回目以降97.0万円/戸と報告されています(出典:国土交通省)。ただし2022年公表の調査であり、その後の労務単価上昇分は反映されていません。目安としてお使いください。
Q4. ロープアクセス工法にすれば、どんな建物でも安くなりますか?
A. いいえ。全面的な打診調査と広範囲の下地補修が必要な建物や、バルコニー内部の作業が多い建物では、足場を組んだほうが総額で有利になるケースがあります。低層でタイル面積が大きい建物なども、ロープアクセス単独では割高になり得ます。建物ごとの判断が必要です。
Q5. 積立金が不足していますが、工事の質を落とすしかないでしょうか?
A. 質を落とす前に検討できることがいくつかあります。仮設工法の見直し、工事範囲の優先順位付け(漏水リスクの高い部位を先行)、工期の分割、住宅金融支援機構の共用部分リフォーム融資などの活用です。優先順位の整理だけでも、選択肢が見えてくることがあります。
この記事のポイントまとめ
- 最安と2番手の差が総額の20%以上なら、金額より先に理由を確認する
- 国交省の実態調査では1回目の大規模修繕の戸あたり中央値は110.2万円
- 令和8年度の公共工事設計労務単価は25,834円、14年連続の上昇
- 安さの理由は「工法・仕様・数量・資金繰り」の4分類で切り分けられる
- 支払サイトと配置技術者の質問だけで、会社の体力はかなり見える
執筆者:本間 幸紘(株式会社明誠 代表取締役)
専門領域:マンション大規模修繕/ロープアクセス工法/建物長寿命化計画
実務経験:建設・改修業界 20年以上
所属:一般社団法人 全国建設業支援協会(JCSA)
株式会社明誠について:東京都東大和市を拠点に、東京・関東一円でロープアクセス工法と従来足場工法の両方を提案できる改修会社。日本初のロープアクセス工事フランチャイズを展開しています。
最終更新:2026年8月27日
見積書の読み方だけでも、ご相談は無料でお受けしています。他社さまの見積書を並べて「この数字は何ですか」と聞いていただくだけで構いません。総会の前段階の整理だけでも、お力になれることがあります。お問合せフォームからお気軽にどうぞ。
※本記事の制度・単価情報は2026年8月27日時点のものです。制度や基準は変更される場合がありますので、最新の内容は各公式サイトでご確認ください。
出典・参考資料
- 国土交通省「マンション大規模修繕工事に関する実態調査を初めて実施」(報道発表資料)
- 国土交通省「令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査 結果(PDF)」
- 国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン(令和6年6月改定・PDF)」
- 国土交通省「大規模修繕工事の発注等の適正化について(令和5年4月3日通知・PDF)」
- 厚生労働省「ロープ高所作業における危険の防止(PDF)」
- 安全衛生情報センター「ロープ高所作業における危険の防止を図るための労働安全衛生規則の一部を改正する省令等の施行について」
- 一般財団法人 建設物価調査会「最新労務単価(令和8年度適用分)が公表されました」
- マネーポストWEB「年間家賃収入5700万円の不動産投資家・JOJO氏が“手痛い失敗”から学んだこと」
藤枝市のマンション補助金|大規模修繕2026年版
2026年8月26日 更新
この記事で答える質問:静岡県藤枝市の分譲マンションで大規模修繕をするとき、市・県・国のどの制度が使えて、どの制度は使えないのか?
先に結論からお伝えします。藤枝市には、マンションの外壁塗装や屋上防水といった大規模修繕工事の工事費そのものを直接補助する市の制度は、2026年8月26日時点でありません。藤枝市の公式サイトにも「現在お住まいの住宅の外壁塗装や屋根塗装の補助金はありません」と明記されています(出典:藤枝市「各種補助事業」)。
ただ、それで話が終わるわけではありません。藤枝市には「大規模修繕の前後を支える制度」が確実に存在します。私はこの記事で、その4つを整理し、そのうえで補助金が薄い地域だからこそ効く「もう一つの原資」の作り方までお話しします。
私は株式会社明誠の本間と申します。マンション・ビル・ホテルの大規模修繕を20年近く手がけ、足場を組む工事と、ロープアクセス工法(産業用ロープで職人が壁面を降りながら施工する無足場工法)の両方を扱ってきました。補助金の相談は毎週のように受けますが、正直に申し上げます。補助金だけを追いかけて工事の中身が薄くなった管理組合を、私は何度も見てきました。この記事は、そうならないための整理です。
結論|藤枝市で使えるのは「工事費補助」ではなく、この4制度
まず全体像を1つの表にまとめます。藤枝市の分譲マンションの管理組合・区分所有者が、2026年度(令和8年度)に現実的に検討できるのは次の4つです。
| # | 制度名(正式名称) | 主体 | 対象になる場面 | 出典 |
|---|---|---|---|---|
| ① | マンション管理計画認定制度/藤枝市の認定申請費補助 | 藤枝市 | 管理体制と長期修繕計画を整えるとき | 藤枝市 |
| ② | 藤枝市既存建築物耐震性向上事業 | 藤枝市 | 旧耐震マンションの耐震診断をするとき | 藤枝市 |
| ③ | 藤枝市住宅省エネ改修推進事業 | 藤枝市 | 断熱・省エネ改修をするとき(主に住戸単位) | 藤枝市 |
| ④ | マンションストック長寿命化等モデル事業 | 国土交通省 | 先導性のある大規模改修・再生に挑むとき | 国土交通省 |
この表を見て、「どれも塗装や防水そのものには効かないじゃないか」と思われたはずです。そのとおりです。だからこそ、順番が大事になります。
押さえるべき順番は「①→②→③→④」
私が藤枝市の理事長さまにお会いしたら、この順番でお話しします。
- まず①で管理体制を整える。管理計画認定は、それ自体が補助金ではありませんが、後述する融資の条件を有利にし、資産価値の評価にも効きます。
- 旧耐震なら②を先に。耐震診断の結果が出ていないまま大規模修繕を発注すると、数年後に足場を組み直す羽目になります。
- ③は住戸単位の省エネ改修が中心。共用部の工事とセットで考えると、住民の合意形成の材料になります。
- ④は「挑戦枠」。応募のハードルは高いですが、令和8年度の第3回応募期間は2026年9月14日(月)から9月18日(金)と公表されています(出典:国土交通省)。この記事を読んでいる時点で、まだ間に合う可能性があります。
「補助金ゼロ」でも工事費は下げられる
ここが本題の入口です。工事費補助が薄い自治体では、補助金で取れなかった分を、工法の選択で取り返すという発想が要ります。マンションの大規模修繕では、総工事費の15〜25%程度を仮設足場が占めるのが一般的です。この部分に手を入れられるかどうかで、藤枝市の管理組合の負担は大きく変わります。ロープアクセス工法の技術的な背景は、姉妹サイトのロープアクセスドットコムで詳しく解説しています。
藤枝市のマンションは、いま静かに高経年化している
制度の話に入る前に、藤枝市という街の前提を共有させてください。数字を見ると、なぜ市が2023年(令和5年)にわざわざ計画を作ったのかが分かります。
人口約13.9万人、6.2万世帯の「静岡県中部の住宅都市」
藤枝市の人口は139,131人、世帯数は62,286世帯、1世帯あたり2.23人です(2025年6月末時点/出典:藤枝市「人口統計」)。1世帯2.23人という数字は、単身・二人世帯が主流になっていることを示します。分譲マンションでいえば、住民の高齢化と賃貸化が同時に進む局面です。
JR東海道本線の藤枝駅周辺には、駅徒歩圏の分譲マンションが一定量あります。静岡市・焼津市への通勤圏として、1980年代後半から2000年代にかけて供給された物件が中心です。つまり2026年時点で、築25年から築40年のゾーンに入っている建物が多いということになります。
藤枝市は令和5年3月に「マンション管理適正化推進計画」を策定済み
藤枝市は市のサイトでこう述べています。
藤枝市においては、今後、建築後相当の年数を経たマンションが、急激に増大していくものと見込まれており、これらに対して適切な修繕がなされないままに放置されると、老朽化したマンションは、区分所有者等自らの居住環境の低下のみならず、ひいては周辺の住環境や都市環境の低下など、深刻な問題を引き起こす可能性があります。
(出典:藤枝市「分譲マンションの管理について」)
行政がここまで踏み込んだ表現を使うのは、それだけ切迫しているからです。令和2年6月の「マンションの管理の適正化の推進に関する法律」改正を受け、藤枝市は令和5年3月に「藤枝市マンション管理適正化推進計画」を策定しました。
私が藤枝市エリアの現場で感じること
私は静岡県内の物件も見てきました。首都圏の物件と比べたときの藤枝市エリアの特徴は、建物の傷み方が「潮風と紫外線」に寄っていることです。駿河湾から距離があるとはいえ、県中部の平野部は日射が強く、南面のバルコニー手すりや外壁の塗膜劣化が早い傾向があります。
一方で、東京23区のように高額な工事単価に慣れていない管理組合が多く、見積書を見た瞬間に理事会が凍りつく、という場面に何度も立ち会いました。修繕積立金の水準が首都圏より低めに設定されている物件も少なくありません。だからこそ、藤枝市では「補助金をどう取るか」より「工事費をどう設計するか」の比重が大きいと私は考えています。
【制度①】マンション管理計画認定制度と藤枝市の申請費補助
4制度のうち、私が藤枝市の管理組合に最初にお勧めするのがこれです。
制度の概要|「管理が良いマンション」を国の基準で証明する
マンション管理計画認定制度は、管理組合の管理計画が一定の基準を満たす場合に、地方公共団体(藤枝市)が認定する制度です。認定基準には次のような項目が含まれます(出典:国土交通省「マンション管理計画認定制度」)。
- 管理組合の運営:年1回以上の集会(総会)の開催
- 管理規約が作成されていること
- 管理費と修繕積立金が区分経理されていること
- 長期修繕計画の計画期間が30年以上で、残存期間内に大規模修繕工事が2回以上含まれていること
- 修繕積立金の平均額が著しく低額でないこと
藤枝市は「認定申請書の作成に要する経費」を一部補助
ここが藤枝市固有のポイントです。藤枝市は、認定申請書の作成に要する経費について一部補助金を交付しています(出典:藤枝市「分譲マンションの管理について」)。
補助額・補助率・年度ごとの予算枠は、公表資料に金額の記載がないため、この記事では断定しません。実際に申請を検討される場合は、藤枝市 建築住宅課(電話:054-643-3481)へ直接ご確認ください。制度の運用は年度ごとに見直されるため、最新情報は市の公式ページでのご確認をお願いします。
認定を取ると、何が具体的に変わるのか
「認定を取っても補助金が増えるわけじゃないなら意味がないのでは」と聞かれることがあります。私の答えは3つです。
| 効果 | 内容 |
|---|---|
| 融資条件 | 住宅金融支援機構の共用部分リフォーム融資で、返済期間を1年以上35年以内まで延ばせる(出典:住宅金融支援機構) |
| 金利 | 一定の工事要件に合致した場合、それぞれ0.2%ずつ金利が引き下げられる仕組みがある(出典:住宅金融支援機構) |
| 資産価値 | 中古流通時に「管理が評価されるマンション」として説明材料になる |
積立金が不足している藤枝市の物件では、2番目の金利差が効きます。仮に借入5,000万円・返済期間20年で0.2%の差が付くと、総返済額は100万円単位で変わってきます。私はこれを、必ずワンセットで理事会にご説明するようにしています。
相談先|マンション管理計画認定制度相談ダイヤル
制度そのものの疑問には、(一社)日本マンション管理士会連合会が運営する相談ダイヤルがあります。
- 電話番号:03-5801-0858
- 受付時間:月曜〜金曜(祝日、年末年始を除く)午前10時〜午後5時
- (出典:藤枝市「分譲マンションの管理について」)
静岡県内であれば、静岡県マンション管理士会の無料相談会も選択肢になります。
【制度②】藤枝市既存建築物耐震性向上事業|旧耐震なら大規模修繕より先に
築40年前後の物件、つまり1981年(昭和56年)5月31日以前に建築確認を受けた「旧耐震」のマンションには、この制度が関わってきます。
耐震診断への補助がある
藤枝市は「藤枝市既存建築物耐震性向上事業」として、建築物の耐震診断をする費用の一部を補助しています(出典:藤枝市「建築物の耐震診断に対する補助」)。
重要な運用ルールが2つあります。
- 着手前(契約前)の申請が必要
- 同じ対象事業費について、他の補助金と重複して補助を受けることはできない
補助率と上限額は、市の交付要綱で建物用途・規模ごとに定められています。分譲マンション(非木造の共同住宅)に適用される具体的な数字は要綱の確認が要るため、この記事では金額を断定せず、建築住宅課(054-643-3481)への確認をお勧めします。
なぜ「大規模修繕より先に」なのか
これは制度の話ではなく、私の現場感覚の話です。
耐震診断の結果、耐震補強が必要だと判明した場合、補強工事は外壁面に大きく手を入れます。ブレース(斜め材)を入れる、外付けフレームを設置する、袖壁を増設する——いずれも外壁の仕上げをやり直す工事です。
ここで、先に大規模修繕で外壁塗装を終わらせていたらどうなるか。きれいに塗り直した壁を、数年後にまた壊すことになります。 私は静岡県ではありませんが、関東のある団地でこの順番を間違えた現場を見ました。塗装から3年後に耐震補強が決まり、足場を2回組むことになった。単純計算で、仮設費だけが二重に発生します。
正直に申し上げます。旧耐震のマンションで理事会が「まず外壁をきれいにしよう」と言い出したとき、私は工事を受注する立場でありながら「診断が先です」とお伝えしています。順番を間違えると、20年スパンで見たときに管理組合が損をするからです。
藤枝市は南海トラフ地震の想定区域
静岡県は南海トラフ巨大地震の想定区域であり、藤枝市も例外ではありません。静岡県は木造住宅の耐震化について「プロジェクトTOUKAI-0」を長年展開してきました。藤枝市の木造住宅向け制度では、1981年5月以前に建てられた木造住宅の耐震補強計画策定費と工事費を一体で補助する仕組みがあり、補助率100%・上限115万円という水準が案内されています(出典:藤枝市「木造住宅の耐震化の補助」)。
ただし、これは木造住宅向けです。分譲マンション(RC造・SRC造)は対象が異なります。 ここを混同した相談を、私は何度も受けました。ネット記事で「藤枝市は耐震補強に上限115万円」という数字だけを見て、マンションでも使えると思い込んでしまうケースです。制度は建物の構造で切り分けられています。
【制度③】藤枝市住宅省エネ改修推進事業|住戸単位が主戦場
3つ目は省エネです。ここは2026年度の目玉といえる制度ですが、マンション管理組合にとっては読み方に注意が要ります。
補助額の目安
藤枝市住宅省エネ改修推進事業では、補助上限額として次の水準が案内されています。
| 到達水準 | 補助上限額 |
|---|---|
| 省エネ基準 | 76.6万円/戸 |
| ZEH水準 | 102.5万円/戸 |
| ZEH水準+構造補強工事を行う場合 | 138.5万円/戸 |
補助額は「モデル工事費×23%の合計額」「実際の工事費×23%」「補助上限額」のうち、最も低い額とする計算方式が案内されています(出典:藤枝市「藤枝市住宅省エネ改修推進事業」)。
管理組合が誤解しやすいポイント
この制度は「住宅の省エネリフォーム」に対する補助です。窓の断熱改修、床・壁・天井の断熱、高効率設備の導入など、住戸内の工事が中心になります。
一方、マンションの大規模修繕で行う外壁塗装や屋上防水は、それ自体では省エネ改修に該当しません。外壁に外断熱を新設する、共用部の窓(アルミサッシ)を高断熱型に交換する、といった工事内容であれば検討の余地がありますが、共用部改修が対象になるかどうかは工事内容ごとに市の判断が分かれます。契約と工事着手の前に、建築住宅課へ確認してください。
藤枝市の補助制度は、いずれも契約および工事着手前の申請が原則です(出典:藤枝市「各種補助事業」)。見積を取って、施工会社を決めて、契約書に判を押してから「補助金は使えますか」と相談に来られる管理組合が、毎年一定数いらっしゃいます。その時点では、もう手遅れです。
私からの提案|共用部と専有部を同じ総会で扱う
現実的な使い方として、私は次のご提案をしています。
- 共用部の大規模修繕(外壁・防水・シーリング)は管理組合の工事として発注する
- 同時期に、希望する区分所有者が住戸の窓断熱改修を行い、この省エネ補助を各自で申請する
- 足場やロープアクセスの仮設が架かっているタイミングに合わせれば、サッシ交換の施工効率が上がる
管理組合の総会で「共用部の工事に合わせて、ご自宅の窓を替えたい方は補助金が使えます」と案内すると、住民の関心が一気に上がります。大規模修繕の合意形成は「自分ごと化」で決まる、というのが私の20年の実感です。
【制度④】国のマンションストック長寿命化等モデル事業|9月18日が次の締切
4つ目は国の制度です。ハードルは高いですが、金額の桁が違います。
令和8年度の応募スケジュール
国土交通省は令和2年度から「マンションストック長寿命化等モデル事業」を実施しています。令和8年度(2026年度)の第1回では、4者4件の応募に対し、評価委員会の評価を踏まえて1者1件が採択されました(出典:国土交通省「報道発表資料」)。
今後の応募期間は次のとおり公表されています。
| 回 | 応募期間 |
|---|---|
| 第2回 | 2026年6月22日(月)〜6月26日(金)※終了 |
| 第3回 | 2026年9月14日(月)〜9月18日(金) |
この記事の公開日は2026年8月26日です。第3回まで、あと3週間ほどあります。
どんなマンションが対象になるのか
この事業は「先導性のある取組」を支援するものです。単に古いから、積立金が足りないから、という理由では採択されません。長寿命化に資する改修の計画・工事、あるいは建替えなどで、他のマンションの参考になる先導性が評価されます。
倍率で見れば第1回は4件中1件の採択です。決して簡単ではありません。ただ、応募資料を作る過程そのものが、管理組合にとって「自分たちのマンションの弱点を棚卸しする作業」になります。私は、採択されなかった管理組合が、その資料をそのまま長期修繕計画の見直しに使った例を知っています。
問い合わせ先
- マンションストック長寿命化等モデル事業評価室事務局
- メール:info@mansion-hyouka.jp
- 電話:03-6801-5902(平日10〜16時、12〜13時を除く)
- (出典:国土交通省「報道発表資料」)
補助金が薄い藤枝市だからこそ効く「もう一つの原資」
ここからが本題です。ここまで読んで、こう感じた方が多いはずです。「結局、藤枝市では大規模修繕の工事費に直接効く補助金はない」と。
そのとおりです。だからこそ、私は工事費の構造そのものを見直すことをご提案しています。
総工事費の15〜25%を占める「仮設足場」
マンションの大規模修繕の見積書を開くと、最初の項目はたいてい「仮設工事」です。外部足場、養生シート、昇降設備、仮設電気。この仮設費が、総工事費の15〜25%程度を占めるのが一般的です。
10戸〜30戸規模の中層マンションで総額3,000万円の工事なら、仮設だけで450万〜750万円。この金額は、藤枝市で使える制度①〜③をすべて足しても届かない水準です。
ロープアクセス工法という選択肢
ロープアクセス工法は、産業用ロープを使って職人が建物の屋上から降下しながら施工する無足場工法です。足場を組まないため、次のような違いが出ます。
| 項目 | 通常足場工法 | ロープアクセス工法 |
|---|---|---|
| 仮設費 | 総工事費の15〜25%程度 | 大幅に圧縮できる |
| 工期 | 足場架設・解体に各1〜2週間 | 架設・解体の工程が不要 |
| 居住者への影響 | 全戸のバルコニー・窓が長期間ふさがる | 施工中の面のみ一時的 |
| 防犯面 | 足場を伝った侵入リスクが指摘される | 足場がないため該当しない |
| 適する部位 | 全面的な改修、複雑形状 | 高層部、部分補修、点検 |
ロープアクセス工法の一般的な安全基準や技術的背景は、ロープアクセスドットコムにまとめています。
私が推すのは「ハイブリッド工法」
ただ、正直に申し上げます。すべての工事をロープアクセスに置き換えられるわけではありません。
大量の下地補修が必要な壁面、タイルの全面張り替え、バルコニー内部の防水——こうした部位は足場を組んだほうが確実で、結果的に安いこともあります。
そこで私が提案しているのが、足場とロープアクセスを部位ごとに使い分けるハイブリッド工法です。
- 傷みが集中している北面・低層部:足場を架けて丁寧に補修
- 傷みが軽く手が届きにくい高層部・妻側:ロープアクセスで施工
- 屋上防水:足場不要のため単独工程で
こうすると、足場の架設面積が減り、仮設費が下がります。同時に、品質が必要な部位には足場を使うので工事の中身は落ちません。株式会社明誠は、通常足場工法・ロープアクセス工法・ハイブリッド工法の3つを建物の特性に応じてご提案できる、日本でも数少ない会社です。詳しくは大規模修繕工事のご紹介とロープアクセス工法のご紹介をご覧ください。
積立金不足には融資という手もある
もうひとつの原資が融資です。制度①で触れたとおり、住宅金融支援機構には管理組合が借主になる「マンション共用部分リフォーム融資」があります。また、積立金を計画的に積み増す「マンションすまい・る債」という仕組みもあります(出典:住宅金融支援機構)。
藤枝市の公式サイトも、これらへのリンクを掲載しています。市が民間の管理組合に向けて機構の融資を案内しているというのは、それだけ「積立金だけでは足りない管理組合が多い」という現実の裏返しだと私は受け止めています。
藤枝市のマンションで大規模修繕を進める12か月スケジュール
制度は「いつ動くか」で使えるかどうかが決まります。藤枝市の管理組合向けに、私が実際にご提案している12か月の流れを共有します。
第1〜3か月|現状把握
- 長期修繕計画の確認(計画期間が30年以上あるか、大規模修繕が2回以上含まれるか)
- 修繕積立金の残高と、今後10年の収支見込みを整理
- 旧耐震の場合、藤枝市既存建築物耐震性向上事業の相談(建築住宅課 054-643-3481)
- 建物の劣化状況の一次調査(外壁打診、屋上防水の目視、シーリングの状態)
第4〜6か月|制度の適用可否を確定させる
- マンション管理計画認定の要件を満たしているかチェック
- 満たしていない項目があれば、規約改正や長期修繕計画の見直しを理事会で議論
- 認定申請書の作成費補助について、藤枝市に予算枠と申請時期を確認
- 省エネ改修を含める場合、藤枝市住宅省エネ改修推進事業の対象工事を確認
第7〜9か月|工法の比較と見積取得
- 足場工法・ロープアクセス工法・ハイブリッド工法の3案で概算を取る
- 仮設費が総工事費に占める割合を、案ごとに比較する
- 居住者アンケート(工期中の生活影響への許容度を測る)
- 見積は最低3社。ただし、金額だけでなく仮設計画の妥当性で比べる
第10〜12か月|合意形成と契約
- 理事会で工法・施工会社・資金計画の3点セットを固める
- 説明会を開催(藤枝市の制度で使えるもの・使えないものを正直に伝える)
- 総会で決議
- 補助金を使う工事は、契約前・着手前に申請
最後の1行が、いちばん見落とされます。藤枝市の補助制度は「契約及び工事着手前に申請が必要」と市が明記しています。契約書に判を押した瞬間に、その工事は補助の対象外になります。
藤枝市の管理組合で見てきた「よくある失敗」3つ
制度の話だけでは伝わらないので、現場で実際にあった話を3つお伝えします。物件が特定されないよう、細部は変えています。
失敗①|ネット記事の数字を信じて総会で説明してしまった
ある管理組合の理事長さまが、総会資料に「市の耐震補助で最大115万円が使えます」と書いてしまいました。前述のとおり、これは木造住宅向けの制度の数字です。RC造の分譲マンションには適用されません。
総会当日、区分所有者から指摘が入り、資料を作り直すことになりました。理事長さまは悪気なくネット記事を引用しただけです。ですが、制度は建物の構造・用途で切り分けられているという前提を知らないと、こういう事故が起きます。
私は理事長さまに、こうお伝えしています。「補助金の数字は、市の公式ページか、市の窓口で聞いた内容だけを資料に載せてください」と。
失敗②|足場を組んでから「思ったより傷んでいなかった」
これは私の側の反省でもあります。事前調査が甘いまま全面足場を組み、いざ壁面を近くで見たら補修箇所が想定の半分以下だった、という現場がありました。
足場は組んでしまえば費用は確定します。「思ったより傷んでいなかった」は、管理組合にとって喜ばしいことのはずなのに、支払う金額は減りません。
これを避けるには、足場を組む前に、ロープアクセスで詳細調査をするのが有効です。数十万円の調査費で、数百万円の仮設費の設計が変わります。私はこれを、必ずワンセットでご提案するようにしています。
失敗③|補助金の申請時期を逃して1年待った
省エネ改修の補助を使うつもりだった管理組合が、年度当初の予算枠を確認しないまま夏に相談に来られ、その年度分は既に受付を終えていた、というケースです。
自治体の補助制度は、予算枠に達した時点で受付を終了するものが少なくありません。藤枝市の場合も、令和8年度(2026年度)の交付申請について「受付開始日は未定、受付可能となり次第公表」という案内が出ていた制度がありました。
年度をまたぐと、工事全体が1年後ろにずれます。その1年で、雨漏りが進行することもあります。制度の受付時期を確認するのは、見積を取るより先です。
よくある質問(FAQ)
Q1. 藤枝市に、マンションの外壁塗装や屋上防水そのものへの補助金はありますか?
A. 2026年8月26日時点で、藤枝市には外壁塗装・屋根塗装への補助金はありません。市の公式サイトにも明記されています(出典:藤枝市)。使えるのは、管理計画認定の申請費補助、耐震診断補助、省エネ改修補助、国のモデル事業の4つです。
Q2. 築25年の分譲マンションですが、管理計画認定は取れますか?
A. 築年数そのものは認定基準ではありません。長期修繕計画が30年以上の計画期間を持ち、残存期間内に大規模修繕工事が2回以上含まれていること、修繕積立金が著しく低額でないこと、年1回以上の総会開催などが基準になります(出典:国土交通省)。詳しくは本文の「【制度①】」を参照してください。
Q3. 賃貸マンションのオーナーですが、藤枝市の制度は使えますか?
A. マンション管理計画認定制度は分譲マンションの管理組合が対象のため、賃貸物件では対象外です。耐震診断補助や省エネ改修補助は、建物用途と工事内容によって適用可否が変わります。建築住宅課(054-643-3481)にご確認ください。
Q4. 補助金の申請は、工事契約の後でも間に合いますか?
A. 藤枝市は「各補助制度は契約及び工事着手前に申請が必要」と明記しています(出典:藤枝市)。契約後の申請は対象外になります。なるべく早い段階で市にご相談ください。
Q5. ロープアクセス工法にすると、工事の品質は落ちませんか?
A. 部位によります。高層部の外壁塗装、シーリング打ち替え、部分的な躯体補修、タイルの打診調査などはロープアクセスに適しています。一方、下地補修が広範囲に及ぶ壁面やバルコニー内部の工事は足場のほうが確実です。だから私は、足場とロープアクセスを部位ごとに使い分けるハイブリッド工法をご提案しています。
Q6. 国のマンションストック長寿命化等モデル事業は、いつまでに応募すればよいですか?
A. 令和8年度の第3回応募期間は2026年9月14日(月)〜9月18日(金)と公表されています(出典:国土交通省)。応募には計画資料の準備が要るため、検討される場合は早めに評価室事務局(03-6801-5902)へご相談ください。
この記事のポイントまとめ
- 藤枝市に外壁塗装・屋根塗装への直接補助はなく、市が公式に明記している
- 使えるのは管理計画認定の申請費補助・耐震診断補助・省エネ改修補助・国のモデル事業の4つ
- 藤枝市の補助制度はすべて契約前・工事着手前の申請が原則
- 管理計画認定は融資の返済期間35年・金利引下げにつながる実利がある
- 国のモデル事業 令和8年度第3回の応募期間は2026年9月14日〜18日
- 補助が薄い地域では、総工事費の15〜25%を占める仮設費の設計が最大の節約余地
- 旧耐震なら、大規模修繕より耐震診断を先に行うほうが20年スパンで得になる
おわりに
藤枝市は、マンションの工事費に直接効く補助金という点では、決して手厚い自治体ではありません。この記事で正直にそう書いたのは、期待させてから落とすほうが管理組合にとって残酷だからです。
ですが、藤枝市は令和5年3月にマンション管理適正化推進計画を策定し、管理計画認定の申請費補助という形で「管理を良くする努力」を支える姿勢を示しています。行政が支えているのは工事費ではなく、管理の質です。私はこの設計自体は、長い目で見て正しいと思っています。
そして、工事費の側は、私たち施工会社が工法の選択で下げられます。足場を全面に組むか、ロープアクセスで済ませるか、部位ごとに使い分けるか。この判断は、建物を実際に見なければできません。
ご相談だけでも遠慮なくお声がけください。総会の前段階の整理だけでも、お力になれることがあります。お問合せフォームからお気軽にどうぞ。
出典・参考資料
- 藤枝市「各種補助事業」
- 藤枝市「分譲マンションの管理について(藤枝市マンション管理適正化推進計画)」
- 藤枝市「建築物の耐震診断に対する補助(藤枝市既存建築物耐震性向上事業)」
- 藤枝市「木造住宅の耐震化の補助」
- 藤枝市「藤枝市住宅省エネ改修推進事業」
- 藤枝市「人口統計(2025年6月末)」
- 国土交通省「マンション管理計画認定制度」
- 国土交通省「「マンションストック長寿命化等モデル事業」の採択プロジェクトを決定しました!」
- 住宅金融支援機構「マンションすまい・る融資(管理組合申込みの場合)」
- 住宅金融支援機構「マンション共用部分リフォーム融資の融資金利について」
- 住宅金融支援機構「マンションすまい・る債」
- 静岡県「マンションの管理」
- 静岡県マンション管理士会「公式サイト」
※本記事の制度内容は2026年8月26日時点の公表情報に基づきます。補助制度は年度ごとに要件・予算枠が見直されます。申請前に藤枝市 建築住宅課(電話:054-643-3481)および各制度の公式ページで最新情報をご確認ください。
執筆者:本間 幸紘(株式会社明誠 代表取締役)
専門領域:マンション大規模修繕/ロープアクセス工法/建物長寿命化計画
実務経験:建設・改修業界 20年以上
所属:一般社団法人 全国建設業支援協会(JCSA)
株式会社明誠について:東京都東大和市を拠点に、東京・関東一円でロープアクセス工法と従来足場工法の両方を提案できる改修会社。日本初のロープアクセス工事フランチャイズを展開し、塗装・防水・タイル・電気・看板などの専門職が加盟しています。ロープアクセスの技術情報はロープアクセスドットコムにまとめています。
最終更新:2026年8月26日
大規模修繕の業者選定、談合リスクをどう避けるか|国交省818事例の相場と「設計コンサルの利益相反」を一次情報で整理【2026年8月】
2026年8月25日 更新
この記事で答える質問:大規模修繕の業者選定で「不透明な受注調整」に巻き込まれないために、管理組合とオーナーは何を見て、何を決めればよいのか?
結論を先に申し上げます
先に結論から書きます。
談合や不透明な受注調整は、「見抜く」ことよりも「起きにくい発注のかたちをつくる」ことのほうが、はるかに確実です。
理由は単純で、談合というのは水面下で行われるものだからです。理事会の会議室に座って、目の前に並んだ3社の見積書を眺めているだけでは、その3社が事前に話をつけていたかどうかは、まず分かりません。分からないものを見抜こうとするから、管理組合の皆さまは疲弊してしまいます。
そこで発想を変えます。「誰が決めるのか」「どうやって候補を集めるのか」「何を根拠に金額の妥当性を判断するのか」——この3点を先に決めておけば、そもそも談合が成立しにくくなる。これが本記事の骨子です。
そして金額の妥当性については、私たちには公的な物差しがあります。国土交通省が実施した「マンション大規模修繕工事に関する実態調査」です。令和3年度版では200社・818件の工事実績が集計されており、戸あたり工事金額は「100〜125万円/戸」が27.0%で最多、次いで「75〜100万円/戸」が24.7%という分布が公表されています(出典:国土交通省令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査)。
この数字を理事会が知っているかどうかで、業者との会話の質はまるで変わります。
以下、順に整理していきます。
| 本記事で扱う論点 | 結論 |
|---|---|
| 談合は見抜けるか | 単体では困難。発注設計で「起きにくく」するのが現実的 |
| 金額の妥当性の物差し | 国交省実態調査(818事例)の戸あたり・㎡あたり分布 |
| 国が警鐘を鳴らしている論点 | 設計コンサルタントの利益相反(平成29年1月通知) |
| 管理組合が最初に確認すべき数字 | 仮設工事費の比率(工事金額の約2割を占める) |
| 困ったときの相談先 | 住まいるダイヤル、マンション管理センター(いずれも公的窓口) |
2026年8月の報道と、国が9年前から鳴らしていた警鐘
2026年8月23日、産経新聞が「住宅クライシス」の連載の中で、マンションの大規模修繕工事における談合と住民のリスクを取り上げました(参考:産経ニュース「お住まいのマンション、管理会社は安心ですか 大規模修繕工事で横行する談合と住民リスク」2026年8月23日)。
正直に申し上げます。私はこの記事を読んで、驚きませんでした。
驚かなかったのは、この論点が今に始まった話ではないからです。国土交通省は平成29年(2017年)1月の時点で、すでに通知を発出して管理組合への注意喚起を行っています。そのタイトルが「設計コンサルタントを活用したマンション大規模修繕工事の発注等の相談窓口の周知について」です。
つまり、国は9年以上前から「この構造は危ない」と言い続けてきた。にもかかわらず、2026年の今も報道されるテーマとして残っている。ここに、この問題の根深さがあります。
なぜ大規模修繕は不透明になりやすいのか
理由を私なりに3つ挙げます。
- 発注が一生に数回しかない。マンションの大規模修繕は12〜15年に一度です。理事も数年で交代しますから、「前回どうやって決めたか」の記憶と資料が組織に残りません。発注者側だけが毎回ゼロからのスタートになります。
- 金額が大きく、内訳が専門的。数千万円から数億円の工事で、しかも「シーリング打ち替え」「爆裂補修」「エポキシ樹脂注入」といった言葉が並びます。素人が見て高いか安いかを判断できる形になっていません。
- 判断を外部の専門家に委ねざるを得ない。だからこそ設計コンサルタントに頼ることになる。ところがその専門家自身が利害関係を持ってしまうと、チェック機能が丸ごと失われます。
この3点目こそが、国交省が正面から取り上げた論点です。
国土交通省が示した「利益相反」の具体像
平成29年1月の通知、そして平成30年5月11日の報道発表資料では、利益相反の事例が驚くほど具体的に書かれています。原文を引用します。
設計コンサルタントが、自社にバックマージンを支払う施工会社が受注できるように不適切な工作を行い、割高な工事費や、過剰な工事項目・仕様の設定等に基づく発注等を誘導するため、格安のコンサルタント料金で受託し、結果として、管理組合に経済的な損失を及ぼす事態
(出典:国土交通省「マンション大規模修繕工事に関する実態調査を初めて実施」平成30年5月11日)
ここに書かれている構造を、順番にほどいてみます。
構造①:「格安のコンサルタント料金で受託」がスタート地点
管理組合から見ると、設計コンサルタント料が安いのはありがたい話です。「A社は300万円、B社は80万円。B社にしよう」——この判断は、感覚的にはまったく自然です。
しかし、コンサルタント業務には相応の工数がかかります。国交省の令和3年度調査では、設計コンサルタント業務量(合計)の中央値は129.0人・時間(下位25%値86.0人・時間、上位25%値214.8人・時間、n=335)と集計されています。1回目の大規模修繕に限れば、中央値130.1人・時間(下位25%値79.0、上位25%値223.5、n=154)です。そして業務量の内訳で最も比重が大きいのは「工事監理」で全体の47.9%です。
1人日は所定労働8時間ですので、「人・時間」を8で割れば人日に換算できます。中央値129.0人・時間なら、およそ16人日という規模感です。
工数を積み上げれば、それなりの金額になるはずのものが、極端に安い。その差額はどこから埋めているのか——というのが、国が示した問いです。
構造②:「過剰な工事項目・仕様の設定」で工事金額が膨らむ
利益の回収は、設計コンサルタント料ではなく工事金額のほうで行われる、という指摘です。必要のない工事項目が仕様書に入る。あるいは過剰なグレードが指定される。総額が膨らみ、その一部が還流する。
管理組合から見ると、見積書はきれいに揃っています。3社から相見積もりも取っています。ただし、その3社が同じ「膨らんだ仕様書」に基づいて金額を出しているなら、3社比較の意味は大きく減ります。比較できているのは「膨らんだ工事をどこが安くやるか」であって、「その工事が必要かどうか」ではないからです。もちろん施工力や数量の拾い方の差は残りますから、無意味になるわけではありません。ただ、いちばん効く論点が比較の外に出てしまいます。
私はここが一番の落とし穴だと思っています。相見積もりを取ったという安心感が、かえって疑問を封じてしまう。
構造③:「不適切な工作」で選定プロセスが操作される
見積依頼先のリストを誰が作るのか。質問回答をどう配るのか。金額の開札をどこで行うのか。こうした運用の細部で、結果はいくらでも動きます。
だからこそ国交省の通知は、参考となる取組みとして次の2つを例示しています。
「利益相反的な提案をしてきた設計会社を除外して選定した事例」
「施工会社を公募など透明な形で募集し、理事会における投票・審議など公正な手続の下で決定した事例」(出典:国土交通省「設計コンサルタントを活用したマンション大規模修繕工事の発注等の相談窓口の周知について」平成29年1月27日・別紙2)
要するに、公募と、理事会という合議体による記録の残る決定です。地味ですが、これが効きます。
数字で持つ物差し①:戸あたり工事金額(818事例)
ここからが本題です。管理組合が自前で持てる、いちばん強い武器は「相場の分布を知っていること」です。
国土交通省は令和3年度に、814社に配布・200社から回収(回収率24.6%)、工事サンプル878件のうち完了済み818件を集計した実態調査を公表しています。この調査の目的そのものが、「管理組合が適正な発注等に活用すること」です。使わない手はありません。
戸あたり工事金額の分布(令和3年度調査・n=818)

| 戸あたり工事金額 | 割合 |
|---|---|
| 25万円/戸 以下 | 2.1% |
| 〜50万円/戸 | 3.5% |
| 〜75万円/戸 | 9.5% |
| 〜100万円/戸 | 24.7% |
| 〜125万円/戸 | 27.0%(最多) |
| 〜150万円/戸 | 17.4% |
| 〜175万円/戸 | 6.8% |
| 〜200万円/戸 | 2.3% |
| 200万円/戸 超 | 2.8% |
| (無回答) | 3.8% |
(出典:国土交通省令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査。この統計の工事金額には共通仮設費と消費税相当額が含まれていません。ご自身の見積総額と比べる際は、この差を意識してください)
工事回数別の中央値

| 工事回数 | 下位25%値 | 中央値 | 上位25%値 |
|---|---|---|---|
| 1回目(n=331) | 90.9万円/戸 | 110.2万円/戸 | 134.0万円/戸 |
| 2回目(n=194) | 87.8万円/戸 | 106.1万円/戸 | 129.8万円/戸 |
| 3回目以上(n=242) | 76.8万円/戸 | 97.0万円/戸 | 125.7万円/戸 |
この表の使い方を、具体的にお伝えします。
たとえば60戸のマンションで1回目の大規模修繕、提示された見積総額が1億800万円だったとします。戸あたりに割り戻すと180万円/戸です。上の表で見ると、上位25%値の134.0万円/戸を大きく超えています。
ここで大事なのは、「だから高すぎる」と結論づけないことです。機械式駐車場があるのか、タイル張りの面積が大きいのか、給排水管の更生工事を同時にやるのか。条件次第で180万円/戸は十分にあり得ます。
やるべきことは、「この物件が、なぜ分布の上位25%を超えるのかを説明してください」と業者に聞くことです。合理的な説明が返ってくるなら問題ありません。返ってこないなら、そこに論点があります。
床面積あたりで見る物差し
戸あたりは住戸面積のばらつきに影響されます。もう一つの物差しが㎡あたりです。
| 床面積あたり工事金額 | 割合 |
|---|---|
| 0.5万円/㎡ 以下 | 3.7% |
| 〜1.0万円/㎡ | 19.9% |
| 〜1.5万円/㎡ | 33.4%(最多) |
| 〜2.0万円/㎡ | 15.4% |
| 〜2.5万円/㎡ | 3.4% |
| 2.5万円/㎡ 超 | 3.7% |
| (無回答) | 20.5% |
工事回数別の中央値は、1回目1.1万円/㎡、2回目1.3万円/㎡、3回目以上1.2万円/㎡です。なお㎡あたりの集計は無回答が20.5%と多く、戸あたりの分布(無回答3.8%)に比べて母数が絞られている点はご留意ください。
私はいつも理事長さまに、「戸あたりと㎡あたり、両方で自分の位置を確認してください」とお伝えしています。片方だけだと、住戸面積が広いマンションや、共用部の比率が高いマンションで判断を誤ります。
数字で持つ物差し②:修繕周期は12〜15年が約7割
「そろそろ12年だから大規模修繕を」という提案を受けた理事会は多いはずです。この12年という数字は、長期修繕計画作成ガイドライン等に基づく一般的な目安で、現行のガイドライン(令和6年6月改訂)では外壁塗装等の修繕周期をおおむね12〜15年として例示しています。
実際のデータを見てみましょう。令和3年度調査で648件のマンションの平均修繕周期を集計した結果です。
- 最も多いのは13年(23.1%)、次いで12年(18.8%)、14年(15.4%)、15年(11.1%)
- 12〜15年に収まるサンプルは全体の68.5%
- 平均修繕周期(n=648)の中央値は14年(下位25%値12.0年、上位25%値15.0年)
そして工事回数別に見ると、平均修繕周期は1回目15.6年、2回目14.0年、3回目12.9年と、回を重ねるほど短くなる傾向が出ています。
築年数のほうも押さえておきましょう。
| 工事回数 | 下位25%値 | 中央値 | 上位25%値 | 平均値 |
|---|---|---|---|---|
| 1回目 | 14年 | 15年 | 18年 | 18.2年 |
| 2回目 | 26年 | 28年 | 32年 | 29.4年 |
| 3回目以上 | 31.5年 | 40年 | 46年 | 37.3年 |
築12年ちょうどで1回目の大規模修繕をやっている管理組合は、実は多数派ではありません。中央値は15年です。もちろん劣化が進んでいれば早めるべきですし、逆に引き延ばせばよいという話でもありません。
ただ、「12年周期だから今年」という理由だけで数千万円の工事を決議するのは、根拠として弱い。劣化診断の結果があって、その結果が周期の判断を裏付けている——この順番であるべきです。診断より先に工事時期が決まっている提案には、私は必ず理由を尋ねます。
数字で持つ物差し③:仮設工事が工事金額の2割強を占める
ここは私の本業に直結する話なので、少し丁寧に書きます。
国交省が平成29年度に実施した最初の実態調査(134社944サンプル)では、大規模修繕工事の工事内訳が金額ベースで公表されています。
| 工事区分 | 金額ベースの構成比 |
|---|---|
| 外壁関係(外壁塗装+外壁タイル) | 24.0% |
| 防水関係(屋根防水+床防水) | 22.0% |
| 仮設工事 | 19.2% |
| その他(鉄部塗装・建具・設備・外構等) | 残余 |
(出典:国土交通省「マンションの大規模修繕工事に関する実態調査について(概要)」)
そして最新の令和3年度調査では、総工事金額の内訳は建築系工事60.3%、仮設工事22.8%、諸経費①②合わせて10.3%となっています(出典:国土交通省「令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査について(概要)」)。平成29年度の19.2%から、比率はむしろ上がっています。
この2割強という数字を、私はいつも「建物を良くしない費用」と呼んでいます。
誤解のないように申し上げます。足場が悪いという意味ではまったくありません。足場は安全に作業するための必須の設備で、必要な現場では迷わず組むべきものです。私の会社も足場工事を日常的に施工しています。
ただ、足場そのものは、工事が終われば解体して撤去されます。外壁の塗膜のようにマンションに残るものではない。工事金額のおよそ5分の1が、完成後には跡形もなく消える費用に充てられている。この事実は、発注者として知っておく価値があります。
なぜこれが「業者選定」の話になるのか
理由は2つあります。
1つ目。仮設工事費は、見積書の中で最も比較しやすい項目だからです。足場は「架面積(かけめんせき)×単価」という単純な計算で出せます。専門的な劣化補修の数量に比べて、素人でも検算しやすい。3社の見積を比べるとき、まずここを見ると差が可視化されます。
2つ目。工法の選択肢を持つ業者と持たない業者では、そもそも提案の土俵が違うからです。足場しか持たない会社は、足場を組む前提でしか見積を出せません。無足場工法(ロープアクセス工法)を持つ会社は、「この面は足場、この面はロープ」という組み合わせを提案できます。
ロープアクセス工法というのは、産業用のロープを使って作業員が建物の壁面を降下しながら作業する工法です。足場を架設しないため、仮設費を大きく圧縮でき、工期も短くなります。バルコニーが塞がれない、洗濯物が干せる、窓を開けられる、といった居住者側のメリットも大きい工法です。技術的な安全基準や事例については、姉妹サイトのロープアクセスドットコムに詳しくまとめています。
株式会社明誠は、通常の足場工法・ロープアクセス工法(無足場)・両者を部位ごとに使い分けるハイブリッド工法の3つから、建物の形状と劣化状況に応じて最適な組み合わせをご提案しています。3つの選択肢を持っているというのは、私たちの都合ではなく、発注者が「本当に足場が必要な面はどこか」を検証できる状態をつくるためです。詳しくはロープアクセス工法のご紹介と大規模修繕工事のご紹介をご覧ください。
発注方式の3類型と、それぞれのリスク
業者選定の話をするとき、まず整理すべきは「どの発注方式で行くか」です。代表的な3類型を比較します。
| 方式 | 概要 | 主なメリット | 注意すべき点 |
|---|---|---|---|
| 設計監理方式 | 設計コンサルタントが調査・診断→設計→施工会社選定の協力→工事監理を担い、施工は別会社 | 発注者側に専門家が立つ。第三者の目が入る | コンサルタントが施工側と利害を共有すると、チェック機能が失われる(国交省が注意喚起した論点) |
| 責任施工方式 | 施工会社が調査・診断から施工までを一貫して担う | 窓口が一本化され、責任の所在が明確。中間コストが乗りにくい | 診断した会社が工事も受注するため、過剰工事の抑制は発注者側の見識に依存する |
| 管理会社主導(元請)方式 | 管理会社が元請となり、施工は協力会社が担う | 日常管理との連携がスムーズ。組合側の事務負担が軽い | 元請手数料の透明性、協力会社の選定プロセスがブラックボックス化しやすい |
どの方式が正解か、という問いには一般解がありません。マンションの規模、理事会の体制、修繕積立金の状況、前回工事の経緯によって適解は変わります。
ただし、どの方式を選んでも共通して必要なものが1つあります。それは「決定プロセスの記録」です。誰がいつ何を根拠に決めたか。議事録に残っているか。この一点だけは、方式を問わず外せません。
なお、事業者間で受注予定者や価格を事前に取り決める行為は、独占禁止法(正式名称:私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律)上の「不当な取引制限」に該当し得る行為として、公正取引委員会の所管する規制の対象になります(参考:公正取引委員会「独占禁止法の概要」)。管理組合の側でこれを立証するのは現実的に困難ですが、「立証できない代わりに、成立しにくいプロセスを設計する」という発想に立ち返っていただければと思います。
談合リスクを見抜く7つの視点
ここからが実務です。理事会でそのまま使っていただける形に落とし込みました。
視点1:候補業者のリストを、誰が作ったか
確認すること:見積依頼先の5社は、誰がどうやって選んだのか。
コンサルタントや管理会社が「弊社の推薦です」とリストを持ってきた場合、そのリスト自体が競争の範囲を規定します。少なくとも1社は、管理組合が独自に見つけた会社を入れてください。インターネットで探した会社でも、他のマンションの理事長から紹介された会社でも構いません。
外部から1社入れるだけで、事前の話し合いは格段に成立しにくくなります。
視点2:公募をかけたか
国交省の通知が例示している「施工会社を公募など透明な形で募集」です。掲示板やホームページで公募すれば、誰が応募してくるかを事前に統制できません。
小規模なマンションで公募が現実的でない場合は、せめて「見積依頼先を何社にするか」「どの範囲から選ぶか」を総会または理事会で先に決議しておく。決めた後で追加・削除する場合は理由を議事録に残す。これだけでも効果があります。
視点3:見積書の様式が統一されているか
確認すること:3社の見積書は、同じ項目・同じ数量で比較できる形になっているか。
各社バラバラの様式で出てきた見積書は、実質的に比較不能です。総額しか比べられません。逆に言えば、総額だけで比較させようとする状況は、それ自体が注意信号です。
内訳明細(数量・単価・金額)を統一様式で提出させる。これは発注者の当然の権利です。
視点4:仮設工事費の比率を計算したか
前述のとおり、仮設工事は工事金額の約2割を占めます。総額のうち仮設工事費が何%か、3社分を電卓で出してください。
比率が異常に高い会社、逆に低すぎる会社の両方に理由を尋ねます。低すぎる場合は、着工後に追加が発生する設計になっている可能性もあります。
そして「この面は本当に足場が必要ですか」と一度は聞いてみてください。この質問に対して、部位ごとの必要性を説明できる会社と、「全面足場が標準です」としか言わない会社では、その後の工事の透明性がまるで違います。
視点5:設計コンサルタント料の水準と業務量を確認したか
国交省が挙げている「事前に検討した方がよい主なポイント」の3つ目が、まさにこれです。
設計コンサルタントの業務量(人・時間)が著しく低く抑えられていないか。特に業務量のウェートの多くを占める工事監理の業務量が低すぎないか。
令和3年度調査での中央値は、業務量合計129.0人・時間(下位25%値86.0、上位25%値214.8)、うち工事監理57.8人・時間(下位25%値35.0、上位25%値95.2)です。
コンサルタント料が相場より極端に安い場合、「工事監理に何人・何時間充てるのか」を書面で出してもらってください。そこが薄い契約は、工事中に現場を見る人がいないということです。
なお参考までに、国土交通省の令和3年度設計業務委託等技術者単価(設計業務)は、主任技師57,400円/人日、技師(B)40,600円/人日、技師(C)32,800円/人日です。1人日は8時間ですから、「人・時間」を8で割れば人日に換算でき、提示金額がどの技術者を何日投入する想定なのかは、おおよそ見当がつきます。
ただしこの単価は、国が発注する公共工事の設計業務委託の積算に用いるもので、民間契約の技術者単価を拘束するものではありません。単価は毎年改定されており令和3年度以降も引き上げが続いていますので、最新値は国土交通省「設計業務委託等技術者単価」でご確認ください。あくまで「桁を確かめる」ための物差しとしてお使いください。
視点6:長期修繕計画の見直しが業務に含まれているか
これは意外に知られていない論点です。令和3年度調査では、設計コンサルタント業務のうち「長期修繕計画の見直し」を実施していない工事が全体の70.7%を占めています。
大規模修繕をやった直後というのは、建物の状態がいちばん正確に分かっているタイミングです。そこで長期修繕計画を更新しないのは、率直に言ってもったいない。次の12〜15年の資金計画が、古い前提のまま放置されることになります。
契約前に「長期修繕計画の見直しは業務範囲に含まれますか」と一言確認してください。含まれないなら、別途どうするかを決めておく。
視点7:決定の場に記録が残る形になっているか
最後は運用の話です。
- 開札(かいさつ/提出された見積金額を封を開けて公開すること)は理事会の場で、複数名の立会いのもとで行っているか
- 選定理由を議事録に残しているか
- 質疑応答の内容を全社に同一に配布しているか(1社だけが得た情報がないか)
これらは技術ではなく、事務手続きです。専門知識がなくてもできます。そして、事前に話をつけたい側にとっては、これがいちばん邪魔になります。
見積書のここを見る——実務チェックリスト
7つの視点をさらに具体化します。理事会の資料にそのまま貼っていただいて構いません。
| チェック項目 | 見るポイント | 判断の目安 |
|---|---|---|
| 戸あたり金額 | 総額÷戸数 | 分布の中央値(1回目110.2万円/戸)と比較。乖離があれば理由を確認 |
| ㎡あたり金額 | 総額÷延べ床面積 | 中央値1.1〜1.3万円/㎡と比較 |
| 仮設工事の比率 | 仮設工事費÷総額 | 目安2割強(令和3年度調査22.8%)。ただし国交省の統計は共通仮設費・消費税を含まない金額なので、見積総額をそのまま分母にすると比率は低めに出ます |
| 数量の根拠 | 補修数量(m・㎡・箇所) | 「一式」表記が多い見積は要注意。数量根拠を求める |
| 単価の妥当性 | 3社の同一項目の単価を横比較 | 同じ数量で単価だけが極端に違う項目を洗い出す |
| 追加工事の扱い | 契約書の変更条項 | 数量増減の精算ルールが明記されているか |
| 工事監理の体制 | 常駐か巡回か、頻度は | 巡回頻度が週1回未満なら理由を確認 |
| 保証内容 | 保証期間と対象範囲 | 部位ごとに年数が違うのが通常。一律表記は要確認 |
| 瑕疵保険 | 大規模修繕瑕疵(かし)保険への加入有無。施工の不具合が見つかったときに補修費用が保険でまかなわれる制度です | 加入する場合、保険料が見積に計上されているか |
「一式」という表記について、少しだけ補足します。「外壁補修 一式 800万円」という書き方では、何をどれだけ直すのかが分かりません。着工後に「思ったより傷んでいたので追加で」となったとき、当初の800万円が何を含んでいたのかを検証できないのです。
タイル補修なら「浮き部注入○○箇所」「タイル張替え○○㎡」、シーリングなら「打ち替え○○m」。数量が書いてある見積書は、それだけで誠実さの証拠です。
私が現場で見てきたこと
数字の話が続きましたので、現場の話を1つ書かせてください。
数年前のことです。都内のある中規模マンションで、2回目の大規模修繕のご相談をいただきました。すでに他社の見積が出ていて、総額は約1億2,000万円。80戸ですから、戸あたり150万円です。
理事長さまは「高い気はするが、根拠がない」とおっしゃいました。この「根拠がない」という感覚が、実はいちばん苦しいところなのです。
私が最初にお願いしたのは、見積書の内訳を1枚だけ見せていただくことでした。仮設工事の項目です。総額に対する仮設工事費の比率は、27%を超えていました。
現地を拝見して、理由が分かりました。その建物は、一部の面が隣地と非常に近接しており、足場を架けるには隣地の使用許可を取ったうえで、狭小部用の特殊な架設を組む前提になっていたのです。だから高い。業者が不当に上乗せしていたわけではありませんでした。
そこで私がご提案したのは、離隔の取れない面をロープアクセス、道路に面した面を通常の足場とするハイブリッド工法でした。屋上のパラペット(屋上の外周に立ち上がっている低い壁のこと)に支点を確保できるかを確認し、バルコニー側は足場を残して居住者の出入り動線を守る。この組み合わせで、仮設費は当初提示の半分以下に収まりました。
このとき理事長さまに申し上げたのは、「相手が悪かったのではなく、選択肢が1つしかなかったのです」ということでした。
私が現場で20年やってきて、一番悔しい思いをするのは、悪意のある業者に出会ったときではありません。誰も悪くないのに、選択肢を知らなかったせいで数千万円が余計に出ていく場面に、後から立ち会うときです。
だから私は、3つの工法の比較表を必ずワンセットでお出しするようにしています。ロープアクセスを売りたいからではありません。「足場が最適です」という結論になる建物も、実際にたくさんあります。大事なのは、比較したという事実が理事会の記録に残ることです。
修繕積立金36.6%不足時代の意思決定
もう一つ、避けて通れない前提条件を確認しておきます。お金の話です。
国土交通省が令和6年6月21日に公表した「令和5年度マンション総合調査結果」によると——
- 計画上の修繕積立金の積立額に対して、現在の積立額が不足しているマンションの割合は36.6%(前回調査より+1.8ポイント)
- 計画期間25年以上の長期修繕計画に基づいて修繕積立金の額を設定しているマンションの割合は59.8%(前回調査より+6.2ポイント)
- 居住者の高齢化が進み、世帯主が70歳以上の割合は25.9%(前回調査より+3.7ポイント)。昭和59年(1984年)以前に完成したマンションでは、70歳以上の割合が55.9%
- 賃貸住戸のあるマンションの割合は77.8%、空室があるマンションの割合は34.0%
(出典:国土交通省「高経年マンションに居住する70歳以上の世帯主が半数以上に〜令和5年度マンション総合調査結果(とりまとめ)〜」令和6年6月21日)
この4つの数字を並べると、管理組合が置かれた状況が見えてきます。
3組合に1組合以上が積立不足で、居住者の4分の1が70歳以上。築40年超のマンションでは半数以上が70歳以上。この状況で「積立金を値上げしましょう」「一時金を集めましょう」という決議を通すのが、どれほど難しいか。
だからこそ、発注の透明性は「正義の問題」であると同時に、「資金繰りの問題」なのです。仮に1回目の中央値110.2万円/戸で80戸なら工事金額は約8,800万円。これが相場より1割高い水準で発注されれば、差は約880万円になります。その880万円は、次の12〜15年の資金計画から消えます。
賃貸住戸のあるマンションが77.8%という数字も見逃せません。区分所有者のなかに投資目的のオーナーがいるということは、意思決定の場に「利回り」の視点が入るということです。オーナーにとって、根拠の薄い工事費は直接、投資収益を毀損します。逆に、透明性の高い発注は、賃貸オーナーからも支持を得やすい。理事会の合意形成という観点からも、プロセスの可視化は効いてきます。
収益不動産をお持ちのオーナーさまについては、ビル・テナントオーナーさま向けのご案内もご用意しています。
公的な相談窓口という切り札
「業者の説明が腑に落ちない。でも、どこに聞けばいいか分からない」
こういうとき、多くの管理組合が別の業者にセカンドオピニオンを求めます。それも有効ですが、その業者もまた受注を狙う立場です。
公的な窓口があります。しかも無料です。
| 窓口 | 運営 | 内容 | 連絡先 |
|---|---|---|---|
| 住まいるダイヤル | (公財)住宅リフォーム・紛争処理支援センター | 建築士等によるアドバイス。施工費用については「見積チェックサービス」(無料) | 0570(016)100 |
| 建物・設備の維持管理のご相談 | (公財)マンション管理センター | マンションの維持管理全般の相談 | 03(3222)1519 |
(出典:国土交通省「設計コンサルタントを活用したマンション大規模修繕工事の発注等の相談窓口の周知について」平成29年1月27日、および「マンションの大規模修繕工事に関する実態調査について(概要)」)
特に「見積チェックサービス」が無料である点は、もっと知られてよいと思います。数千万円の意思決定の前に、第三者の建築士に見積を見てもらえる制度があるのです。
ただし、利用には条件があります。対象は契約前・着工前の見積書で、確認できるのは1〜2通。大規模修繕の場合、図面から個々の数量を確認するところまでは行いません。設計・監理に関するものや、すでに施工業者等とトラブルが起きている場合は対象外です。回答は電話のみで、最長60分という枠もあります(出典:(公財)住宅リフォーム・紛争処理支援センター「リフォームの相談」)。
それでも、契約前に第三者の建築士と60分話せる機会に、費用がかからない。使わない手はないと思います。
私自身、施工会社の立場ですが、これを使ってくださいと申し上げることに何のためらいもありません。むしろ、第三者のチェックを歓迎しない会社があるとしたら、そちらのほうが問題です。
なお、これらの窓口の案内は、前述の平成29年1月27日通知でも周知されています(出典:国土交通省「設計コンサルタントを活用したマンション大規模修繕工事の発注等の相談窓口の周知について」)。
さらに、国交省は長期修繕計画作成ガイドラインや修繕積立金に関するガイドラインも公表しています(参考:国土交通省マンションに関する統計・データ等)。理事会の資料づくりの土台として、一度目を通しておく価値があります。
今日から理事会でできる5つのこと
長くなりましたので、明日の理事会で実際に動かせる形にまとめます。
- 国交省の実態調査PDFを印刷して、理事会の全員に配る。戸あたり金額の分布グラフ1枚で構いません。共通の物差しを全員が持つところから始まります。
- 現在の見積(またはこれから取る見積)について、戸あたり金額と仮設工事比率を電卓で出す。5分で終わります。
- 見積依頼先に、理事会が独自に見つけた1社を加える。これだけで競争の前提が変わります。
- 見積様式を統一し、「一式」表記の項目には数量根拠を求める。発注者として当然の要求です。
- 開札と選定理由を議事録に残す運用を決議する。次の12年後の理事会への申し送りにもなります。
どれも専門知識を必要としません。必要なのは「決めておく」ことだけです。
よくある質問(FAQ)
Q1. 相見積もりを3社取れば、談合は防げますか?
A. 3社が同じ仕様書に基づいて金額を出している場合、比較できるのは「その工事をいくらでやるか」だけで、「その工事が必要か」は検証できません。仕様の妥当性を別途チェックする仕組みと、候補業者を管理組合側でも1社以上加えることをおすすめします。詳しくは本文の「談合リスクを見抜く7つの視点」をご覧ください。
Q2. 設計監理方式と責任施工方式、どちらが安全ですか?
A. どちらにも固有の注意点があり、一般的な優劣はありません。設計監理方式は第三者の目が入る一方、そのコンサルタントが利害関係を持つと機能不全に陥ります(出典:国土交通省 平成30年5月11日報道発表)。責任施工方式は窓口が一本化される一方、診断者と施工者が同一である点を発注者が意識しておく必要があります。
Q3. うちの見積金額が適正かどうか、無料で確認する方法はありますか?
A. (公財)住宅リフォーム・紛争処理支援センターの「住まいるダイヤル」(0570-016-100)に、施工費用の見積チェックサービス(無料)があります。(公財)マンション管理センター(03-3222-1519)でも維持管理全般の相談が可能です。
Q4. 大規模修繕は本当に12年ごとにやらないといけませんか?
A. 法律で義務づけられた周期ではありません。国交省の令和3年度調査では平均修繕周期の中央値は14年で、12〜15年に収まるサンプルが68.5%でした。1回目の実施時の築年数は中央値15年です。劣化診断の結果に基づいて判断するのが本筋です。
Q5. 足場を組まない工法にすると、品質が落ちませんか?
A. 工法と品質は別の軸です。品質を左右するのは、下地補修の数量をどこまで正確に拾えているか、材料の仕様が適切か、工事監理が機能しているかであって、足場かロープかではありません。外壁タイル等の全面打診調査(建築基準法第12条の定期調査報告に関して、平成20年国土交通省告示第282号で求められるもの)でも、ロープアクセスは足場と併用・使い分けが可能です。重要なのは、部位ごとに適切な工法が選ばれているかと、工事監理の体制が確保されているかです。技術的な解説はロープアクセスドットコムにまとめています。
Q6. 修繕積立金が足りません。工事を先送りしてもよいですか?
A. 先送りは劣化の進行によって将来の工事費を押し上げる可能性があります。積立不足のマンションは36.6%(令和5年度マンション総合調査)にのぼり、珍しい状況ではありません。工事範囲の優先順位づけ、工法の見直しによる仮設費の圧縮、借入や補助制度の活用など、複数の選択肢を並べて検討されることをおすすめします。
この記事のポイントまとめ
- 談合は見抜くより、公募と記録で「起きにくい発注」を設計するほうが確実
- 戸あたり工事金額は100〜125万円/戸が最多(27.0%)、1回目の中央値は110.2万円/戸
- 仮設工事は工事金額の約2割。工法の選択肢が原価に直結する
- 国交省は平成29年から設計コンサルタントの利益相反に注意喚起している
- 修繕積立金の不足は36.6%。発注の透明性は資金繰りの問題でもある
- 住まいるダイヤルの見積チェックサービスは無料。使わない手はない
最後に
大規模修繕の業者選定というのは、理事の皆さまにとって、人生で数えるほどしか経験しない仕事です。分からなくて当たり前ですし、分からないことを恥じる必要はまったくありません。
ただ、「分からないから任せる」と「分からないから確認する」の間には、決定的な差があります。確認するために必要なのは、専門知識ではなく、この記事に書いたような公的な数字と、いくつかの質問です。
正直に申し上げます。私たち施工会社にとって、数量根拠を求められ、仮設費の比率を計算され、第三者に見積をチェックされるのは、決して楽な話ではありません。それでも、そういう管理組合さまとお付き合いさせていただいた工事のほうが、結果として現場は締まりますし、竣工後のお付き合いも長く続きます。
これは私が現場で20年見てきた、嘘偽りのない感想です。次回も、現場で本当に使える話だけをお届けします。
見積書の1枚目だけでも構いません。「これって高いんでしょうか」という段階でのご相談も、遠慮なくお声がけください。現地の無料調査とお見積りに対応していますので、総会の前段階の整理だけでも、お力になれることがあります。お問合せフォームからどうぞ。
関連する過去記事
同じ「発注の意思決定」というテーマで、直近に書いた記事もあわせてご覧ください。
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執筆者:本間 幸紘(株式会社明誠 代表取締役)
専門領域:マンション大規模修繕/ロープアクセス工法/建物長寿命化計画
実務経験:建設・改修業界 20年以上
所属:一般社団法人 全国建設業支援協会(JCSA)
株式会社明誠について:東京都東大和市を拠点に、東京・関東一円でロープアクセス工法(無足場工法)と従来の足場工法の両方、およびその組み合わせであるハイブリッド工法を提案できる改修会社。日本初のロープアクセス工事フランチャイズを展開しています。
最終更新:2026年8月25日
※本記事に記載した制度・調査結果は執筆時点の公表内容に基づくものです。制度は変更される可能性がありますので、最新の情報は各公式サイトでご確認ください。また、個別の紛争に関する法的判断については、専門家にご相談ください。
出典・参考資料
- 国土交通省「マンション大規模修繕工事に関する実態調査を初めて実施〜工事を発注しようとする管理組合等が適正な見積りかどうか検討する際の指標となります〜」(平成30年5月11日)
- 国土交通省「マンションの大規模修繕工事に関する実態調査について(概要)」(PDF)
- 国土交通省「令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査」(PDF)
- 国土交通省「高経年マンションに居住する70歳以上の世帯主が半数以上に〜令和5年度マンション総合調査結果(とりまとめ)〜」(令和6年6月21日)
- 国土交通省「マンションに関する統計・データ等」
- 国土交通省「令和3年度 設計業務委託等技術者単価について」(令和3年2月19日・PDF)
- 公正取引委員会「公正取引委員会ウェブサイト」
- (公財)住宅リフォーム・紛争処理支援センター「住宅リフォームに関する相談」
- (公財)マンション管理センター「建物・設備の維持管理のご相談」
- 産経ニュース「お住まいのマンション、管理会社は安心ですか 大規模修繕工事で横行する談合と住民リスク」(2026年8月23日・報道)
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大規模修繕が「決まらない」時代は終わるのか|2026年4月施行の改正区分所有法、出席者多数決と外壁剥落2/3ルールを一次情報で整理【2026年8月】
2026年8月23日 更新
この記事で答える質問
「大規模修繕の決議が総会で通らない」という悩みは、2026年4月に施行された改正区分所有法で本当に解決するのでしょうか。そして、決議のルールが変わったあと、管理組合とオーナーは何から手をつければよいのでしょうか。
株式会社明誠の本間です。建設・改修の現場に20年以上関わってきて、私が一番悔しい思いをするのは、劣化がはっきり見えている建物なのに「決まらない」まま季節がひとつ、ふたつと過ぎていく場面です。
外壁のタイルが浮いている。屋上の防水が切れかけている。理事の皆さまも分かっている。それでも総会で議案が通らない。理由は反対多数ではなく、「欠席が多くて、賛成が過半数に届かなかった」。これが、私がこの十数年、いくつもの管理組合で見てきた現実でした。
その前提が、2026年(令和8年)4月1日に変わりました。老朽化マンション等の管理及び再生の円滑化等を図るための建物の区分所有等に関する法律等の一部を改正する法律(令和7年法律第47号)のうち、区分所有法・被災区分所有法の改正部分が施行されたためです(出典:法務省「老朽化マンション等の管理及び再生の円滑化等を図るための建物の区分所有等に関する法律等の一部を改正する法律について」)。
施行から、この記事を書いている2026年8月23日でおよそ4か月半。秋の理事会シーズンを前に、「何がどう変わったのか」を一次情報だけで整理し、そのうえで現場の人間として「では工事はどう動かすか」をお話しします。正直に申し上げます。この改正は「決めやすくする」改正であって、「お金を増やす」改正ではありません。そこを取り違えると、次の総会で別の壁にぶつかります。
結論:変わったのは「母数」と「ハードルの高さ」の2点
先に結論を申し上げます。大規模修繕に直結する改正は、大きく2系統です。
- 決議の母数が「全区分所有者」から「集会(総会)の出席者」に変わった(建替えなど区分所有権の処分を伴う決議を除く)
- 共用部分の変更決議は原則3/4のままだが、外壁剥落のおそれなど一定の事由があるときは、その除去に必要な範囲で2/3に引き下げられた
この2つだけでも、実務の景色はかなり変わります。法務省が公表している資料には、次のような例が図示されています。従来は賛成2/5で否決だったケースが、改正後は同じ賛成票数で「賛成2/3」となり可決される、というものです(出典:法務省「区分所有法・被災区分所有法の改正について」(令和8年4月))。
決議要件の新旧比較(大規模修繕に関係する部分)
| 決議事項 | 改正前の母数 | 改正前の割合 | 改正後の母数 | 改正後の割合 |
|---|---|---|---|---|
| 共用部分の管理等(普通決議) | 全区分所有者及び議決権 | 過半数(規約で別段の定め可) | 出席区分所有者及びその議決権 | 過半数(規約で別段の定め可) |
| 共用部分の変更(特別決議) | 全区分所有者及び議決権 | 4分の3(区分所有者の割合のみ規約で過半数まで引下げ可) | 出席区分所有者及びその議決権 | 4分の3(規約で過半数まで引下げ可)。一定の事由があるときは3分の2 |
| 共用部分の復旧 | 全区分所有者及び議決権 | 4分の3 | 出席区分所有者及びその議決権 | 3分の2 |
| 規約の設定・変更・廃止 | 全区分所有者及び議決権 | 4分の3 | 出席区分所有者及びその議決権 | 4分の3 |
| 建替え | 全区分所有者及び議決権 | 5分の4 | 所在等不明者を除く区分所有者及び議決権 | 5分の4。一定の客観的事由があるときは3/4 |
(出典:法務省「区分所有法・被災区分所有法の改正について」(令和8年4月)の「決議の多数決要件の緩和に関する対照表」をもとに作成)
ここでいう「一定の事由」とは、共用部分の設置または保存に瑕疵があることによって他人の権利や法律上保護される利益が侵害され、または侵害されるおそれがある場合と、高齢者・障害者等の移動や施設利用の利便性・安全性を向上させるために必要な場合(バリアフリー化)です。前者の具体例として、法務省の資料は耐震性の不足、火災に対する安全性の不足、外壁等の剥落により周辺に危害を生ずるおそれ、給排水管等の腐食等により著しく衛生上有害となるおそれ、を挙げています。
つまり、「外壁が落ちるかもしれない」という状態が確認できれば、共用部分の変更決議のハードルは3/4から2/3に下がり得る。これは、私たちのような外壁改修を生業にしている側から見ると、かなり大きな変化です。
ただし、ここは正確に理解しておく必要があります。引下げの対象は、その事由に対応するために必要となる共用部分の変更と解されます。「外壁に浮きがあるから、大規模修繕の議案が丸ごと2/3で通る」という意味ではありません。美観目的のグレードアップや、共用部のリニューアルまでを一括りにした議案であれば、原則どおり3/4が必要になる可能性があります。議案をどう切り分けるかが、実務上の要になります。
なお、改正後は規約で共用部分の変更の多数決割合を過半数まで引き下げることも可能になりました(改正前は区分所有者の割合のみ引下げ可)。2/3ルールより射程が広い緩和ですので、規約の見直しをする際は、あわせて検討する価値があります。
ここからが本題です。 順に見ていきます。
なぜ改正されたのか──「2つの老い」を数字で押さえる
制度の理屈を理解するには、背景の数字を押さえるのが一番早い、というのが私の経験則です。法務省の資料には、次のようなデータが並んでいます。
建物の老い:築40年以上が20年で約3.3倍に
- 分譲マンションのストック総数は約713.1万戸(2024年末時点の推計)
- うち旧耐震基準のストックは約103万戸
- 令和2年国勢調査の1世帯当たり平均人員2.2人を掛けると約1,570万人(法務省資料の表記は「約1,600万人」)、国民の1割超が居住している推計
- 築40年以上のマンションは全体の約2割。同資料のグラフでは、2014年末48.5万戸 → 2024年末148万戸 → 2034年末293万戸 → 2044年末483万戸と推移し、10年で約2倍、20年で約3.3倍になる見込み
(出典:法務省「区分所有法・被災区分所有法の改正について」(令和8年4月))
居住者の老い:築40年超では55%の住戸で世帯主が70歳以上
そして、建物が古くなるほど、住んでいる人も高齢化します。国土交通省の令和5年度マンション総合調査によると、世帯主が70歳以上の住戸の割合は完成年次別に次のとおりです。
| 築年数の区分 | 世帯主が70歳以上の住戸の割合 |
|---|---|
| 築10年未満 | 9% |
| 築10年以上20年未満 | 15% |
| 築20年以上30年未満 | 19% |
| 築30年以上40年未満 | 35% |
| 築40年以上 | 55% |
(出典:国土交通省「令和5年度マンション総合調査の結果について」)
築40年を超えると、半数以上の住戸で世帯主が70歳以上。ここに、相続で持ち主が変わったまま連絡先が更新されていない住戸、投資用として買われて所有者が海外にいる住戸、3か月以上の空室が加わります。同調査では、昭和59年(1984年)以前完成のマンションのうち、3か月以上の空室が「0%」と答えた管理組合は32.1%にとどまり、残りは何らかの空室を抱えていました。
この状態で「全区分所有者の過半数」を取るのは、率直に言って難しい。反対されているのではなく、届かない・返ってこない・返す人がいない。だから決まらない。改正法は、この「無関心と不在による否決」を解消することを狙ったものです。
変更点①:決議の母数が「出席者」になった
「出席者」には委任状・議決権行使書も含まれる
改正区分所有法第39条第1項では、集会の議事は、区分所有法または規約に別段の定めがない限り、出席した区分所有者及びその議決権の各過半数で決するとされました。共用部分の変更(第17条第1項)も同様に、母数が出席者になっています。
ここでの「出席者」には注意点があります。法務省の資料は、議決権行使書や委任状により議決権を行使した者を含むと明示しています。つまり、当日会場に来た人だけではありません。書面やオンライン、委任状で意思表示をした人はすべて母数に入ります。
一方で、特別決議には定足数が設けられました。共用部分の変更は改正区分所有法第17条第1項、規約の設定・変更・廃止は同法第31条第1項に、それぞれ定足数が置かれています。いずれも区分所有者の人数と議決権のそれぞれについて過半数の出席が必要です。ここが実務でつまずきやすいところで、多くのマンションが使っている国土交通省のマンション標準管理規約(令和6年6月7日改正時点)は定足数を「半数以上」と定めていました。「半数以上」と「過半数」は違います。ちょうど半数の場合、「半数以上」なら満たしますが、「過半数」は満たしません。
法務省の資料も、この点を「注意が必要」として明記しています。
改正区分所有法31条1項では、定足数について議決権だけでなく区分所有者(組合員)の人数の要件も設けられている。それぞれの定足数は「過半数」であり、現行規約の「半数以上」とは異なる(「過半数」の場合、半数ちょうどは含まれない)ことに注意が必要
(出典:法務省「区分所有法・被災区分所有法の改正について」(令和8年4月))
私はいつも理事長さまに、「決議要件が緩くなった話より先に、定足数の話を確認してください」とお伝えしています。緩和ばかりが報道されますが、入口の定足数はむしろ厳格化されたのが実態です。
「出席者多数決」で何が変わるか──60戸のマンションで試算
数字の体感を持っていただくために、60戸・議決権も60(1戸1議決権)のマンションを例に考えてみます。あくまで単純化した計算例です。
| ケース | 出席(書面・委任状含む) | 賛成 | 改正前の判定(母数60) | 改正後の判定(母数=出席者) |
|---|---|---|---|---|
| 普通決議(工事の実施) | 36 | 24 | 24/60=40% → 否決 | 24/36=66.7% → 可決 |
| 特別決議(共用部分の変更・原則) | 40 | 30 | 30/60=50% → 否決 | 出席40 ≧ 定足数31 を満たし、30/40=75% → 可決 |
| 特別決議(外壁剥落のおそれあり・2/3) | 32 | 22 | 22/60=36.7% → 否決 | 出席32 ≧ 定足数31 を満たし、22/32=68.8% → 可決 |
改正前は「欠席=反対」と同じ扱いになっていたものが、改正後は母数から外れる。同じ賛成票でも結果が変わることが分かると思います。
ただし、3つ目のケースは出席32で、定足数31(区分所有者・議決権の各過半数)をぎりぎり満たしているにすぎません。もし出席が30以下だったら、賛成率がいくら高くても特別決議そのものが成立しません。出席率を上げる努力が不要になったわけではない、というのがここでの結論です。
変更点②:外壁剥落のおそれがあれば、共用部分の変更は2/3
大規模修繕に一番効くのが、この改正だと私は考えています。
2/3に下がるのはどんなときか
改正区分所有法第17条第1項・第5項により、共用部分の変更決議の原則的な多数決割合は3/4のまま維持されつつ、次の事由がある場合には2/3に引き下げられました。
- 共用部分の設置または保存の瑕疵により、他人の権利もしくは法律上保護される利益が侵害され、または侵害されるおそれがある場合
– 法務省の例示:耐震性の不足、火災に対する安全性の不足、外壁等の剥落により周辺に危害を生ずるおそれがあるとき、給排水管等の腐食等により著しく衛生上有害となるおそれがあるとき など - バリアフリー化のために必要な場合
– 法務省の例示:階段しかない5階建てのマンションにエレベーターを設置する など
あわせて、共用部分の復旧決議の多数決割合も2/3に引き下げられました。
「おそれがある」ことを、どう示すか
ここで実務的に重要なのは、「外壁剥落のおそれがある」ことを、誰がどう認定するのかという点です。法務省の資料は具体的な認定手続を定めているわけではなく、「共用部分の設置又は保存に瑕疵があることによって他人の権利若しくは法律上保護される利益が侵害され、又は侵害されるおそれがある場合」という要件を示しているにとどまります。個別の事案でどう判断されるかは、最終的には裁判所の判断になり得る領域です。
だからこそ、客観的な調査記録が要になります。私の経験上、これは「議案書の説得力」の問題であると同時に、「後から争いになったときに残るもの」の問題です。
- 建築基準法第12条に基づく定期調査報告の指摘事項
- 打診調査・赤外線調査の記録(浮きの位置・面積・進行度)
- 剥落した破片の写真、落下位置、通行動線との関係
- 過去の補修履歴と再発の有無
このあたりを揃えたうえで議案化すると、「2/3でよい理由」を理事会が自分の言葉で説明できるようになります。私はこれを、必ずワンセットで提案するようにしています。
なお、ここで一点、誤解が生まれやすいので付け加えます。多数決要件が下がることと、工事の必要性が高いことは別問題です。「2/3で通るから」を理由に議案を組むのは順序が逆で、まず劣化の実態があり、その結果として要件が下がる、という順番です。
変更点③:所在等不明区分所有者を母数から外せる
裁判所の裁判が前提。名簿の整備が手続コストを左右する
改正区分所有法第38条の2により、裁判所が認定した所在等不明区分所有者を、すべての決議の母数から除外する制度が創設されました。所在等不明区分所有者は、集会における議決権を有しないこととされます。
法務省の資料は、「所在等不明区分所有者」を必要な調査を尽くしても氏名等や所在が不明な区分所有者と定義し、次のような例を挙げています。
- 住民票など通常アクセスし得る公簿上の住所等を調査しても所在が明らかでない場合
- 区分所有者が死亡しているが、調査をしてもその相続人の存否が不明である場合
これは建替え決議の母数にも及びます。前掲の対照表のとおり、建替え決議は「所在等不明者を除く区分所有者及び議決権の5分の4」となりました。
ポイントは、裁判所の裁判が必要だということです。管理組合が独自に「あの人は不明だから外す」と判断できる制度ではありません。裁判手続が前提になる以上、日頃の組合員名簿・居住者名簿の整備が、そのまま手続コストの差になります。令和5年度マンション総合調査では、「組合員名簿、居住者名簿が適切に備えられている」に適合したのは59.4%でした。4割のマンションは、いざというときの入口で足踏みすることになりかねません。
変更点④:招集通知のルールが厳しくなり、規約の一部が無効になる
見落とされがちですが、実務で真っ先に効いてくるのがここです。改正区分所有法第35条により、次の2点が変わりました。
- すべての会議の招集通知において、会議の目的たる事項および議案の要領を示さなければならない(従来は普通決議の招集通知に議案の要領の記載は不要でした)
- 招集通知の発出から集会の会日までの期間は、規約で1週間より短縮することはできない
そして、改正法附則第2条第3項により、施行日(2026年4月1日)以降、改正区分所有法に抵触する規約の規定は効力を失います。
具体例を挙げます。国土交通省のマンション標準管理規約(令和6年6月7日改正時点)第43条第9項には、緊急を要する場合に理事会の承認を得て5日間を下回らない範囲で招集期間を短縮できる旨の規定がありました。法務省の資料は、この規定は改正法に抵触するため、これに則った招集手続はできないと明記しています。少なくとも1週間前に発送する必要があります。
つまり、規約を改正していないマンションでも、法律のほうが優先して規約の一部が無効になっている状態です。「うちはまだ規約を直していないから、当面は今までどおり」ではありません。
国土交通省は、これに対応するためマンション標準管理規約を令和7年10月17日に改正し、単棟型・団地型・複合用途型の3種類を公表しています(出典:国土交通省「マンション標準管理規約」)。管理組合向けの周知用パンフレット「分譲マンション管理組合の皆さん!管理規約の見直しが必要です!」も無償で公開されていますので、理事会資料としてそのまま配れます。
変更点⑤:管理会社が管理者を兼ねるとき、工事発注の説明が義務になった
いわゆる第三者管理方式(管理会社などの外部専門家が管理組合の管理者=代表者に就任する方式)が広がるなかで、工事の受発注に利益相反の懸念があるとの指摘がありました。
改正では、管理業者が管理組合の管理者(代表者)を兼ね、工事等の受発注者となる場合、自己取引等につき区分所有者への事前説明を義務化しています(マンション管理適正化法=正式名称「マンションの管理の適正化の推進に関する法律」平成12年法律第149号。施行日は令和8年4月1日)。
(出典:法務省「改正法の概要(全体・概要版)」、国土交通省「マンション関係法令」)
私はこの改正を、業界の一員として前向きに受け止めています。管理会社が管理者を兼ねること自体が悪いわけではありません。役員のなり手がいない管理組合にとって、現実的な選択肢のひとつです。ただ、「発注する人」と「受注する人」が同じ側にいるなら、金額の根拠は外から見えるようにしておく。それだけの話だと思っています。
オーナーの皆さま、理事の皆さまが確認すべきは、事前説明があるかどうかだけではありません。
- 見積の内訳が、数量×単価で分解されているか(「外壁改修工事一式」で終わっていないか)
- 相見積を取ったのか、取っていないならその理由が説明されているか
- 工法の選択肢が提示されたか、それとも1つの工法しか出てこなかったか
3つ目が、私たちが最もお役に立てるところです。
変更点⑥:管理不全の共用部分を裁判所選任の管理人に管理させる制度と、自治体からの勧告
もうひとつ、外壁に直結する改正があります。改正区分所有法第46条の8から第46条の14により、管理不全の専有部分・共用部分の管理制度が創設されました。区分所有者が共用部分を管理せず放置していることで他人の権利が侵害されるおそれがある場合に、裁判所が選任する管理人に管理させる仕組みです。
法務省の資料は、活用が想定される場面として、「共用部分である外壁が剝落するおそれがある場合」、「共用部分である廊下やテラスに危険物や悪臭を放つゴミが放置されている場合」を挙げています。同様に、所在等不明区分所有者の専有部分に特化した財産管理制度(第46条の2から第46条の7)も新設されました。
さらに行政サイドでは、外壁剥落等の危険な状態にあるマンションに対する報告徴収、助言指導・勧告、あっせん等が措置されました(マンション再生法=正式名称「マンションの再生等の円滑化に関する法律」平成14年法律第78号。令和7年改正で「マンションの建替え等の円滑化に関する法律」から名称が変更されました。およびマンション管理適正化法。施行日は令和7年11月28日)。
法務省の概要資料が掲げるKPI(目標)には、「外壁剥落等の危険なマンションを10年後に概ね解消できる水準」という表現が入っています。あわせて、管理計画認定の取得割合を約3%(令和6年)から20%へ、マンションの再生等の件数を472件(令和6年)から1,000件へ、という数値目標も示されています。
これが何を意味するか。「外壁の劣化を放置している」という状態が、行政の関与を招き得る領域に入ったということです。従来は「管理組合の内部問題」で済んでいたものが、そうではなくなりつつある。ビルやマンションを収益資産としてお持ちのオーナーの皆さまにとっては、資産価値の話であると同時に、管理責任の話にもなってきたということです。
決議は通りやすくなった。でも、お金は増えていない
ここで冷や水を浴びせるようで恐縮ですが、正直に申し上げます。
改正法は「決め方」を変えましたが、「原資」は1円も増やしていません。国土交通省の令和5年度マンション総合調査が示す現実は、かなり厳しいものです。工事費そのものの高騰については大規模修繕の費用高騰は、賃料上昇では埋まらない(2026年8月19日)で、借入で賄う場合の金利負担については大規模修繕の資金は「金利」で目減りする時代へ(2026年8月20日)で、それぞれ詳しく整理していますので、あわせてご覧ください。
| 指標 | 令和5年度の数値 |
|---|---|
| 月/戸当たり修繕積立金の額(平均) | 13,054円 |
| 現在の修繕積立金残高が計画に対して不足していると回答 | 36.6% |
| 不足していない | 39.9% |
| 不明 | 23.5% |
| 長期修繕計画を作成している管理組合 | 88.4% |
| 25年以上の長期修繕計画に基づいて修繕積立金を設定している割合 | 59.8% |
| 長期修繕計画を5年目安で定期的に見直している | 約63%(残る約37%は「定期的には」見直していない) |
(出典:国土交通省「令和5年度マンション総合調査の結果について」)
さらに、管理計画認定制度の認定基準に照らすと、同調査で回答のあった1,589組合のうち基準を満たしていたのは4.8%でした。項目別に見ると、
- 「長期修繕計画の計画期間が30年以上かつ残存期間内に大規模修繕工事が2回以上含まれている」に適合:42.5%
- 「計画期間全体での修繕積立金の平均額が著しく低額でない」に適合:37.4%
なお「約37%」は、まったく見直していないという意味ではありません。修繕工事の直前・直後に見直している組合が相当数を占め、「見直していない」と答えた組合はごく一部です。それでも、5年ごとの定点観測をしていなければ、資材価格や労務費の変動を計画に取り込めないという点は変わりません。
つまり、議案が通る条件は緩くなったのに、通した工事を払える組合は多数派ではない。ここが2026年秋の一番のねじれだと、私は見ています。
そして、この「決議は通るがお金が足りない」局面で起きやすいのが、工事範囲の削り合いです。塗装のグレードを落とす、シーリングの打ち替えを打ち増しに変える、屋上防水を先送りする。どれも一時的には金額が下がりますが、次の周期で戻ってきます。私が現場で20年見てきて、一番もったいないと思うのがこのパターンです。
だから「工法」で総額を下げる──足場・ロープアクセス・ハイブリッド
削るべきは、建物に残る部分ではなく、建物に残らない部分です。
大規模修繕の見積のなかで、工事が終われば跡形もなく消えるものがあります。仮設足場です。建物の規模や形状によりますが、足場の架設・解体・養生・仮設費が総工事費に占める割合は決して小さくありません。ここを圧縮できれば、塗装や防水の仕様を落とさずに総額を下げられます。
明誠が提案できる工法は3つです。
| 工法 | 概要 | 向いているケース | 留意点 |
|---|---|---|---|
| 通常足場工法 | 従来型の仮設足場を架設して施工 | 中低層、複雑な形状、全面的な改修 | 架設・解体の期間とコスト、居住者の防犯・採光への影響 |
| ロープアクセス工法(無足場工法) | 産業用ロープで作業員が壁面に降下して施工 | 高層、足場の架設が難しい立地、部分補修、調査 | 一度に投入できる人数・資機材に制約。全面的な大規模改修では工程設計が要 |
| ハイブリッド工法 | 部位ごとに足場とロープアクセスを使い分ける | 大規模・複雑物件で総合的なコスト最適化が必要なケース | 工程管理の精度が品質を左右する |
ロープアクセス工法の技術的な背景や一般的な安全基準、事例については、姉妹サイトのロープアクセスドットコムに詳しくまとめています。工法の考え方を理事会で共有する際の資料としてもお使いいただけます。
今回の法改正との関係で、私が特にお伝えしたいのは次の2点です。
1. 「外壁剥落のおそれ」の確認は、足場を組まなくてもできる
共用部分の変更決議を2/3で通すには、その前提となる劣化の実態把握が要ります。ところが、「調べるために足場を組む」となると、調査の段階で数百万円が飛び、そこで議論が止まってしまう。これが従来の構造的な問題でした。
ロープアクセスなら、足場を架設せずに近接目視・打診・写真記録まで行えます。高層のビルやマンションでも、常設ゴンドラや仮設足場に頼らずに壁面へアプローチできるため、調査のための初期コストを大きく圧縮できます。「まず調べる」という一歩目のハードルが下がることが、そのまま議案の質につながります。建築基準法第12条の定期報告における外壁全面打診と調査手法の関係については、「10年に一度の外壁全面打診」は足場なしで乗り切れるか(2026年8月22日)で告示・ガイドラインをもとに整理しています。
ただし、正直に申し上げると、万能ではありません。極端に張り出した庇の下や、ロープの支点が取れない構造では、他の手段の併用を検討すべき部位もあります。「うちの建物ではどこまでロープアクセスで見られるか」は、図面と現地を見ないと確定しません。
2. 決議が2/3で通っても、資金が足りなければ「部分補修」から動ける
全面改修の議案が通らない、あるいは通っても着工が先になる。その間に外壁が落ちるリスクは待ってくれません。
ロープアクセスは、浮きが確認された部位だけを狙って、短工期・低コストで先行補修するという動き方ができます。足場を組む工事では「一部だけ直す」が費用的に成立しにくいのですが、無足場ならそれが選択肢になる。大規模修繕の本工事は次年度以降に据えつつ、危険な部位だけ今年のうちに手当てする——という組み立てが可能になります。
このあたりの実務は、ロープアクセス工法のご紹介と大規模修繕工事のご紹介でも整理しています。
現場から:私が理事会でよく聞かれること
制度の話ばかりだと実感が湧きにくいので、この数か月、実際に理事会でいただいた質問を3つご紹介します。個別の物件が特定されないよう、内容は一般化しています。
「法改正を理由に、管理会社から規約改正を急かされている。急ぐべきか」
急ぐ必要があるかどうかは、現在の規約の中身次第です。招集期間を5日に短縮できる規定のように、すでに効力を失っている条項があるなら、実務が混乱する前に直したほうがよいでしょう。一方で、規約を直さなくても改正法は適用されます。焦って総会を1回増やすより、次の定期総会の議案に組み込むほうが、費用も手間も抑えられるケースが多いと感じています。国土交通省が公表している標準管理規約の新旧対照表とパンフレットを、まず理事会で回覧するところからで十分です。
「2/3でよくなったなら、劣化診断はしなくていいのでは」
これは逆だと思います。要件を下げる根拠が診断結果そのものですから、診断の重みはむしろ増しました。それに、診断をせずに議案を出すと、総会で「本当に落ちるのか」と聞かれたときに答えられません。改正後は出席者ベースの決議になった分、その場にいる人を納得させられるかどうかで結果が決まります。写真と数量が入った報告書は、そのための道具です。
「所在不明の住戸が3戸ある。裁判所の手続をすれば、すぐ外せるのか」
「必要な調査を尽くしても不明」であることが前提で、裁判所の裁判が必要です。時間も費用もかかります。私がお勧めしているのは、まず名簿の棚卸しから始めることです。前述のとおり、名簿が適切に備えられている管理組合は約6割にとどまります。連絡が取れないと思われていた住戸のうち何戸かは、単に名簿が古いだけ、ということも珍しくありません。
2026年秋、管理組合とオーナーが確認したい7つのこと
秋の理事会・総会シーズンに向けて、そのまま議題にできる形でまとめます。
- 定足数の条文を確認する — 規約の「半数以上」は、改正法の「過半数」と一致しません。特別決議を予定しているなら、招集前に確認を。
- 招集通知のテンプレートを直す — すべての決議で「議案の要領」が必要になりました。発送は会日の1週間前まで(規約で短縮不可)。
- 組合員名簿・居住者名簿を棚卸しする — 所在等不明者の除外制度を使うにも、使わないにも、ここが起点です。
- 外壁・屋上の劣化状況を客観的な記録として残す — 打診・近接目視・写真。2/3ルールを使う根拠であり、行政対応の備えでもあります。
- 管理会社が管理者を兼ねている場合、工事発注の事前説明の運用を確認する — 内訳・相見積・工法の選択肢が示されているか。
- 長期修繕計画と修繕積立金を、決議の前に突き合わせる — 通ったのに払えない、が一番つらい展開です。定期的な見直しをしていない組合は約37%あります。
- 足場ありき/なしありきで考えず、3工法を比較した見積を1度は取ってみる — 総額の差が、仕様を落とさずに済む余地になります。
よくある質問(FAQ)
Q1. 改正区分所有法はいつから適用されますか。うちの管理規約はまだ古いままです。
A. 区分所有法・被災区分所有法の改正部分は令和8年(2026年)4月1日から施行されています。原則として施行日前に生じた事項にも適用され、既存のマンションにも適用されます。また、施行日以降、改正法に抵触する規約の規定は効力を失います(改正法附則第2条第3項)。規約が古いままでも、法律のほうが優先します(出典:法務省)。
Q2. 大規模修繕工事の決議は、何分の何で通るようになったのですか。
A. 工事の内容によります。共用部分の管理にあたる通常の修繕は出席者の過半数(普通決議)、共用部分の変更にあたる工事は出席者の4分の3が原則です。ただし、外壁剥落のおそれなど一定の事由がある場合、または高齢者等のバリアフリー化に必要な場合は3分の2に引き下げられます。この引下げはその事由に対応するために必要となる変更についてのものと解されますので、工事一式がまるごと2/3になるわけではない点にご注意ください。なお特別決議には、区分所有者・議決権の各過半数という定足数があります。
Q3. 「外壁剥落のおそれ」は誰が判断するのですか。
A. 法令上、特定の機関による認定手続が定められているわけではありません。「共用部分の設置又は保存に瑕疵があることによって他人の権利若しくは法律上保護される利益が侵害され、又は侵害されるおそれがある場合」という要件に該当するかどうかは、個別の事案ごとに判断されることになります。争いになれば最終的には裁判所の判断となり得るため、打診調査・赤外線調査・写真記録などの客観的な資料を揃えておくことが実務的な備えになります。
Q4. 委任状や議決権行使書を出した人は「出席者」に入りますか。
A. 入ります。法務省の資料は、出席者には議決権行使書や委任状により議決権を行使した者を含むと明記しています。したがって、書面での意思表示を集める活動は、改正後もそのまま議決の成否に効いてきます。
Q5. 管理会社が管理者を兼ねている場合、大規模修繕の発注で何が変わりますか。
A. 管理業者が管理組合の管理者を兼ね、工事等の受発注者となる場合、自己取引等について区分所有者への事前説明が義務化されました(マンション管理適正化法、令和8年4月1日施行)。区分所有者の側としては、説明の有無に加えて、見積内訳の粒度、相見積の有無、工法の選択肢が示されているかを確認されるとよいと思います。
Q6. 足場を組まずに外壁の状態を調べることはできますか。
A. ロープアクセス工法(無足場工法)であれば、仮設足場を架設せずに近接目視や打診、写真記録を行えます。高層建物でも常設ゴンドラや仮設足場に頼らずに壁面へアプローチできるため、調査段階のコストを抑えやすくなります。ただし、庇の張り出しやロープの支点条件によっては他の手段の併用を検討すべき部位もあるため、図面と現地の確認が前提になります。
この記事のポイントまとめ
- 改正区分所有法は2026年4月1日施行。既存マンションにも適用され、抵触する規約は失効する
- 決議の母数が全区分所有者から出席者へ。委任状・議決権行使書の提出者も出席者に含まれる
- 共用部分の変更は原則3/4のまま。外壁剥落のおそれ等があれば、その除去に必要な範囲で2/3に引き下げ
- 特別決議には区分所有者・議決権の各過半数という定足数。規約の「半数以上」とは異なる
- 修繕積立金が計画に不足する管理組合は36.6%。決議が通っても原資は増えない
- 総額を下げるなら、建物に残らない仮設費から。3工法の比較が現実的な打ち手になる
執筆者:本間 幸紘(株式会社明誠 代表取締役)
専門領域:マンション・ビル・ホテルの大規模修繕/ロープアクセス工法(無足場工法)/建物長寿命化計画
実務経験:建設・改修業界 20年以上
所属:一般社団法人 全国建設業支援協会(JCSA)
株式会社明誠について:東京都東大和市を拠点に、東京・関東一円でマンション・ビル・ホテルの大規模修繕を手がける改修会社です。通常足場工法、ロープアクセス工法(無足場工法)、両者を組み合わせたハイブリッド工法の3つから、建物にとって最適な工法をご提案します。ロープアクセス工事としては日本で初めてとなるフランチャイズ展開を行っており、塗装・防水・タイル・電気・看板などの専門職が加盟しています。
免責事項:本記事は2026年8月23日時点で公表されている情報をもとに作成しています。法令および制度の運用は変更される場合がありますので、実際の手続にあたっては、所管官庁の最新の公表資料および専門家の助言をあわせてご確認ください。本記事は法的助言を提供するものではありません。
大規模修繕の議案づくりでお困りのことがあれば、お問合せフォームからお気軽にお声がけください。現地調査とお見積りは無料です。総会前の整理だけでも、お力になれることがあります。次回も、現場で本当に使える話だけをお届けします。
出典・参考資料
- 法務省「老朽化マンション等の管理及び再生の円滑化等を図るための建物の区分所有等に関する法律等の一部を改正する法律について」(令和7年7月24日掲載/最終更新 令和8年1月23日)
- 法務省民事局「区分所有法・被災区分所有法の改正について」(令和8年4月)
- 法務省「マンションの管理・再生の円滑化等のための改正法(改正の概要)」
- 国土交通省「マンション関係法令」(令和7年マンション関係法改正関連情報)
- 国土交通省「令和5年度マンション総合調査の結果について」
- 国土交通省「マンション標準管理規約」(令和7年10月17日改正)
- 国土交通省「マンション管理計画認定制度」
- e-Gov法令検索「建物の区分所有等に関する法律(昭和37年法律第69号)」
- 関連リソース:ロープアクセスドットコム(ロープアクセス工法の技術情報・安全基準の解説)
築40年マンションの資産価値|修繕で差がつく3つの判断軸
築41年以上が中古マンション反響の約半分に──いま市場で起きていること
この記事で答える質問:築40年を超えたマンションの資産価値は、これから上がるのか下がるのか。オーナーと管理組合は何から手をつければいいのか。
先に結論を申し上げます。築40年超のマンションは「古いから価値がない」時代を抜けつつあります。ただし価値が残るのは、立地・管理履歴・これから10年の修繕計画の3つが揃った物件だけです。この3つのうち、管理組合とオーナーが今からでも動かせるのは後ろの2つ。ここに手を打てるかどうかで、10年後の売却価格と入居率がはっきり分かれます。
株式会社LIFULLが2026年7月21日に公表した「LIFULL HOME’S 築年数別 東京23区中古マンション調査」によれば、東京23区の中古マンションで築41年以上の物件が占める反響(問い合わせ)シェアは49.1%。2018年の25.5%から、8年でほぼ倍になりました(出典:株式会社LIFULL プレスリリース、2026年7月21日)。
数字で見る変化:25.5% → 49.1%
同調査で特に目を引いたのは、「築51年以上」の物件の伸びです。
| 築年帯 | 2018年の反響シェア | 2026年の反響シェア | 変化 |
|---|---|---|---|
| 築51年~ | 3.9% | 22.2% | 約5.7倍 |
| 築41~50年 | (21.6%相当) | 26.9% | 拡大 |
| 築41年以上 合計 | 25.5% | 49.1% | 約1.9倍 |
出典:株式会社LIFULL「LIFULL HOME’S 築年数別 東京23区中古マンション調査」(集計期間2020年~2026年6月/駅徒歩10分以内、専有面積30㎡未満・リノベ済み物件・異常値を除外)。
築50年を超えた物件への問い合わせが5.7倍というのは、私が20年近くこの業界にいて、正直かなり驚いた数字でした。
掲載シェアは18.3%──需要と供給がねじれている
もう一つ重要なのが、同じ調査の「掲載シェア」です。築41年以上の物件は、市場に出ている数(掲載シェア)では18.3%にとどまるのに、問い合わせは49.1%集まっている。つまり売り物より買いたい人のほうが多い状態です。
これは築古マンションのオーナーにとって、売却でも賃貸でも追い風です。ただし条件があります。買い手・借り手は「築年数は妥協するが、管理状態は妥協しない」からです。
現場で私が感じている「問い合わせの質」の変化
ここからは私の実感です。5年ほど前まで、築40年前後のマンションからいただくご相談は「雨漏りが出たので直したい」という事後対応が大半でした。ところがここ2年、「売却前に外観を整えたい」「重要事項調査報告書に修繕履歴をきちんと書きたい」という資産価値起点のご相談が明確に増えています。
先日も、築43年・68戸の管理組合さまから「来年の売却を考えている区分所有者が複数いるので、外壁の状態を数値で説明できる資料が欲しい」というご依頼をいただきました。工事の前に、まず調査と説明資料。20年前には、まずなかった依頼です。
背景には、買い手側の変化があります。築古マンションを検討する方は、いま住宅ローンの審査でも管理状態を見られます。金融機関は融資期間を決めるとき、建物の残存耐用年数と管理の質を判断材料にします。管理が良好で修繕履歴が明確な物件のほうが、買い手が長期のローンを組みやすく、結果として売却価格が下支えされる。この連鎖が、築古マンションの世界で現実に起きています。
つまり、管理組合が修繕にどう向き合ってきたかが、区分所有者一人ひとりの売却額として跳ね返る時代になった、ということです。
築40年マンションの資産価値を決める3つの判断軸
築古物件を見るとき、私はこの3つで判断しています。
軸1:立地──これは変えられない
1970年代・80年代に分譲されたマンションは、駅前・駅近の一等地に建っているケースが少なくありません。当時は駅周辺から順に開発されたためです。LIFULL HOME’S総研の中山登志朗氏も、築古マンションが注目される理由として立地の良さを挙げています(前掲プレスリリース)。
立地は後から変えられません。裏を返せば、立地が良い築古物件ほど、管理と修繕に投資する価値が高いということです。
軸2:管理・修繕の履歴と、修繕積立金の残高
買い手も金融機関も、いま最も厳しく見るのがここです。具体的には次の4点。
- 長期修繕計画が25年以上の期間で作られ、直近5年以内に見直されているか
- 修繕積立金が計画どおり積み上がっているか
- 過去の大規模修繕の実施年と施工内容が記録として残っているか
- 建築基準法第12条に基づく定期報告(後述)がきちんと出されているか
このうち3番目は、意外と多くの管理組合で抜け落ちています。管理会社が変わった、理事会の引き継ぎが口頭だった、施工会社が廃業した──理由はさまざまですが、「10年前に何をどこまで直したか」が分からなくなっているケースは珍しくありません。
私は建物調査に入るとき、まず過去の工事記録を見せていただきます。記録がないと、外壁のどこが改修済みでどこが竣工時のままなのかを、目視と打診で一から拾い直すことになります。これは調査費が上がる要因ですし、なにより長期修繕計画の精度を落とします。
もし記録が散逸しているようであれば、この機会に修繕履歴台帳を作り直すことを強くお勧めします。工事写真、仕様書、竣工図、定期報告書のコピーをまとめておくだけで、次の理事会も、次の買い手も助かります。台帳づくりは費用がほとんどかかりませんが、資産価値への効き方は大きい取り組みです。
軸3:これから10年の修繕計画に「現実性」があるか
一番見落とされるのがこれです。計画書に「12年後に2回目の大規模修繕、総額1億2,000万円」と書いてあっても、そのとき積立金が6,000万円しかなければ、計画は絵に描いた餅になります。
私はいつも理事長さまに、「計画の総額ではなく、積立残高との差額を見てください」とお伝えしています。差額が見えれば、値上げか、借入か、工法の見直しか、打てる手が具体的になります。
築40年マンションは「安くない」──価格データの読み方
築古=割安、というイメージをお持ちの方は、次の表を見てください。
| 築年数 | 2018年 平均掲載価格 | 2026年 平均掲載価格 | 上昇率 |
|---|---|---|---|
| ~5年 | 7,351万円 | 1億9,387万円 | 263.7% |
| 6~10年 | 6,141万円 | 1億5,631万円 | 254.5% |
| 11~20年 | 5,618万円 | 1億5,872万円 | 282.5% |
| 21~30年 | 4,462万円 | 1億1,564万円 | 259.1% |
| 31~40年 | 3,757万円 | 7,358万円 | 195.9% |
| 41~50年 | 3,359万円 | 6,088万円 | 181.2% |
| 51年~ | 3,404万円 | 5,602万円 | 164.6% |
出典:株式会社LIFULL プレスリリース(東京23区・2026年6月まで)。
築41~50年で平均6,088万円、築51年以上でも5,602万円。「築古だから安い」という水準ではありません。
上昇率が低い=伸びしろ、と読むこともできる
築浅が250〜280%上昇しているのに対し、築41年以上は160〜180%。この差は、市場が築古物件に「管理と修繕のリスク」を織り込んでいるからです。
逆に言えば、そのリスクを潰した物件は、価格差を縮められる余地があるということです。私はここに、修繕という仕事の意味があると思っています。塗り替えは見た目の話ではなく、価格差を縮める投資です。
固定資産税は下がるが、維持費は上がる
築古マンションのメリットとして、法定耐用年数の経過により固定資産税評価額が下がる点が挙げられます。一方で、管理費・修繕積立金は築年数とともに上がるのが一般的です。買い手も借り手も、いまは月々のランニングコスト込みで比較しています。
修繕積立金は足りているか──公的データで自己診断する
ここからが本題です。資産価値の話は、最終的に修繕積立金の話に着地します。
月額平均は13,054円
国土交通省「令和5年度マンション総合調査」によれば、月/戸当たりの修繕積立金の平均額は13,054円、駐車場使用料等からの充当額を含む総額の平均は13,378円でした(出典:国土交通省 令和5年度マンション総合調査の結果について)。
戸あたり月13,054円ということは、100戸のマンションで年間約1,566万円。12年で約1億8,800万円。ここから日常修繕や小規模工事を差し引いた残りが、大規模修繕の原資になります。ご自身のマンションの数字と、ぜひ突き合わせてみてください。
36.6%が「計画に対して不足」
同調査では、長期修繕計画上の必要額に対して積立額が不足しているマンションが36.6%、そのうち「20%超の不足」が11.7%という結果が出ています(同調査)。3棟に1棟は足りていない計算です。
また、計画期間25年以上の長期修繕計画に基づいて積立額を設定しているマンションは59.8%。裏を返せば、4割は25年未満の計画で運営していることになります。築40年を超えた建物で25年未満の計画は、次の設備更新(給排水管、エレベーター、サッシ)を織り込めていない可能性があります。
値上げを総会で通すための3ステップ
「値上げが必要なのは分かるが、総会で否決される」というご相談を、私は毎年いただきます。私の経験上、通る提案には共通点があります。
- 現状の差額を1枚の表にする(計画必要額/現在残高/不足額/戸あたり不足額)
- 選択肢を3つ出す(値上げのみ/工法見直しで工事費を下げる/両方の組み合わせ)
- 値上げしない場合に起こることを金額で示す(借入利息、劣化進行による工事費増、売却価格への影響)
3番目が抜けている資料が本当に多い。「上げてください」だけでは、区分所有者の財布は動きません。「上げないと、こちらのコストが増えます」まで示して、はじめて比較になります。
築40年超で必ず来る「外壁の全面打診調査」──建築基準法第12条
築古マンションのオーナー・管理組合に、法令面で必ず関わってくるのがこれです。
10年ごとの調査義務
建築基準法第12条に基づく定期報告制度では、一定規模以上の特定建築物について、竣工または外壁改修から10年を経過したものは、外壁のタイル・モルタル等について全面打診等による調査が求められます。2008年(平成20年)4月1日施行の改正で、調査項目・方法・判定基準が国土交通省告示第282号に定められました(出典:国土交通省 建築基準法に基づく定期報告制度について、定期報告制度パンフレット)。
対象建築物の用途・規模や報告の頻度は特定行政庁(都道府県・市区)ごとに定められています。ご自身の物件が対象かどうかは、必ず所在地の特定行政庁の公表資料でご確認ください。
なお2024年(令和6年)6月には告示の一部改正が公布され、調査方法の選択肢が広がっています。赤外線調査(無人航空機=ドローンを用いるものを含む)なども、一定の条件下で活用しうる方向です。制度は変更される可能性がありますので、最新の内容は必ず国土交通省または特定行政庁の公式情報でご確認ください。
「調査のためだけに足場を組む」という無駄
ここが、私が一番もったいないと感じている点です。
全面打診調査のためだけに建物全周へ仮設足場を組むと、足場費用だけで数百万円規模になることがあります。しかも調査の結果「まだ修繕は先で大丈夫」と分かった場合、その足場費は丸ごと調査コストになってしまいます。
調査から工事までの期間が空くと、工事のときにもう一度足場を組むことになります。同じ費用を2回払う構図です。
ロープアクセス工法・ドローンという選択肢
私たちが提案しているのは、調査は足場を組まずに行い、工事が必要な範囲が確定してから最適な工法を選ぶという順番です。
ロープアクセス工法(産業用ロープで作業員が壁面を昇降しながら調査・施工する無足場工法)であれば、足場を組まずに打診調査ができます。ドローンによる赤外線調査と組み合わせれば、全体をスクリーニングしてから、要注意箇所だけロープで直接打診する、という段取りも可能です。ロープアクセス工法の一般的な安全基準や技術解説は、姉妹サイトロープアクセスドットコムにまとめています。
明誠のドローン点検・調査のご案内、点検・調査サービスもあわせてご覧ください。
足場とロープアクセス、どちらを選ぶべきか──費用と工期の比較
「ロープアクセスは安い」と単純に言い切るつもりはありません。向き不向きがあります。
| 比較項目 | 通常足場工法 | ロープアクセス工法(無足場) | ハイブリッド工法 |
|---|---|---|---|
| 仮設費 | 建物全周分が必要 | 原則不要 | 必要部位のみ |
| 工期 | 架設・解体の期間が加算 | 架設不要のため短縮しやすい | 中間 |
| 居住者の生活影響 | 窓周りの養生期間が長い/防犯面の配慮が必要 | 窓が塞がれる期間が短い | 部位により限定的 |
| 作業効率(広い面) | 高い | 足場に劣る場合がある | 面は足場、狭所はロープ |
| 適する場面 | 全面改修、複雑形状、低層 | 部分補修、調査、高層、足場架設が難しい立地 | 大規模・複雑物件の総合最適化 |
ロープアクセスが向かないケース──正直に申し上げます
- 外壁全面を一気に塗り替えるような大面積の工事は、足場のほうが作業効率で有利な場合があります
- 屋上にアンカーを取れる支持点が確保できない建物では、採用が難しいことがあります
- 強風・降雨時は作業を止める判断が必要で、天候による工程変動があります
- 部材の搬入量が多い工事(サッシ交換など)は足場と併用したほうが現実的です
私は、ロープアクセスを「すべての現場の答え」だとは考えていません。建物ごとに、足場・ロープアクセス・その組み合わせの3つを見積もって比較する。これが正しい進め方だと思っています。
工法を1つしか持たない会社に相談すると、当然その工法での見積りしか出てきません。足場専門の会社は足場で、ロープ専門の会社はロープで組み立てる。どちらが悪いという話ではなく、比較する材料が最初から片方しかない状態になってしまう、ということです。
管理組合さまが相見積りを取るときは、「足場案とロープアクセス案を両方出せますか」と最初に聞いてみてください。この一言で、比較の土俵が整います。
ハイブリッド工法という第3の答え
たとえば、大面積のバルコニー側は足場、道路に面して足場が組みにくい面と塔屋・高所の狭所はロープアクセス、という組み合わせ方です。仮設費を圧縮しつつ、作業効率も落とさない。私はこれを、条件が合う物件では必ずワンセットで提案するようにしています。
工法の考え方は明誠の3工法・強みのご紹介、大規模修繕の全体像は大規模修繕工事のご紹介、ロープアクセスの詳細はロープアクセス工法のご紹介にまとめています。
賃貸オーナー視点:築古物件で入居率と売却価格を守る
ここからは、収益物件をお持ちのオーナーさま向けの話です。
外観は「内見前」に効いている
賃貸の内見では、部屋に入る前にエントランスと外壁を見られます。室内をいくらリノベーションしても、外壁のチョーキング(手で触ると白い粉が付く塗膜劣化)やタイルの浮き、シーリングの割れが目立てば、そこで検討から外れることがあります。
私が現場で悔しい思いをするのは、「室内フルリノベに1戸あたり300万円かけたのに、共用部が手つかずで空室が埋まらない」というご相談を受けたときです。順番が逆だったのではないか、と思うことがあります。
一棟フルリノベか、部分修繕か
前掲のLIFULL HOME’S総研の解説でも、築古マンションを買う際は「一棟丸ごとフル・リノベーションされている物件が比較的安心」との指摘がありました。売却を見据えるなら、共用部の状態は買い手にとって分かりやすい判断材料になります。
とはいえ、いきなり一棟フルリノベは資金的に難しいケースがほとんどです。私がお勧めしているのは次の順番です。
- 調査(足場なしで現状を数値化する)
- 止血(漏水・タイル剥落リスクなど、事故につながる箇所を先に処置)
- 見せ場(エントランス・共用廊下・道路側の外壁など、内見動線を優先)
- 全面(積立と補助制度のタイミングを見て実施)
2番目の「止血」を後回しにすると、費用は雪だるま式に増えます。タイルの浮きは放置すると剥落につながり、剥落は第三者への事故に直結します。雨水が躯体に入れば鉄筋が錆び、爆裂(コンクリートが内部から押し出されて割れる現象)に進みます。爆裂まで進んだ箇所の補修は、塗り替えだけで済んだ段階と比べて、費用も工期も大きく変わります。
私が現場で見てきた範囲でも、「あと2年早く手を打っていれば、この面は塗装だけで済んだ」という物件はいくつもありました。劣化は静かに進んで、ある時期から急に加速します。だからこそ、調査を安く早く済ませられる手段を持っておくことに意味があると考えています。
なお、収益物件の場合は工事費を修繕費として計上できるか、資本的支出として減価償却するかで、単年度の損益への影響が変わります。この線引きは工事内容によって判断が分かれるため、実際の処理は必ず顧問税理士にご確認ください(本記事は税務上の助言を行うものではありません)。
漏水でお困りの場合は漏水・雨漏り調査のご案内、部分補修はピンポイント施工のご案内、オーナーさま向けの体制はマンション・ビルオーナーさま向けサービスをご覧ください。
管理計画認定制度を「資産価値の証明書」として使う
最後に、管理組合さまにお伝えしたい制度の話です。
制度の概要
マンションの管理の適正化の推進に関する法律(マンション管理適正化法)の改正により、マンション管理計画認定制度が2022年(令和4年)4月1日から施行されています。管理適正化推進計画を作成した地方公共団体の区域内で、管理計画が一定の基準を満たすマンションが認定を受けられる仕組みです(出典:国土交通省 マンション管理計画認定制度)。
認定基準には、管理組合の運営(集会が年1回以上開催されていること等)、管理規約、経理、長期修繕計画の作成および見直しなどが含まれます。手続の支援は公益財団法人マンション管理センターが行っています。
認定を取りに行く順番
認定基準の中で、多くの管理組合がつまずくのが長期修繕計画の要件です。逆に言えば、長期修繕計画をきちんと作り直すことが、認定への最短ルートであり、同時に資産価値対策そのものになります。
私は、順番としてこう考えています。
| 順番 | やること | 得られるもの |
|---|---|---|
| 1 | 建物調査(足場なしで実施可能) | 現状の劣化状況の数値データ |
| 2 | 長期修繕計画の見直し | 認定基準の充足+総会説明の根拠 |
| 3 | 工法比較(足場/ロープ/ハイブリッド) | 工事費の圧縮余地 |
| 4 | 積立金計画の再設計 | 不足額の解消道筋 |
| 5 | 管理計画認定の申請 | 対外的な「管理が良い」証明 |
制度の要件や運用は自治体によって異なり、変更される可能性もあります。申請にあたっては、必ずお住まいの自治体の公式情報をご確認ください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 築40年を超えたマンションは、もう資産価値が上がることはないのでしょうか。
A. 東京23区の中古マンションでは、築41年以上の物件が反響(問い合わせ)シェアの49.1%を占めるまで拡大しており、需要は明確に存在します(出典:株式会社LIFULL、2026年7月21日)。ただし価格を左右するのは立地・管理履歴・修繕計画の3点です。詳しくは本文の「築40年マンションの資産価値を決める3つの判断軸」をご覧ください。
Q2. 修繕積立金が足りているかどうか、簡単に確認する方法はありますか。
A. 長期修繕計画の必要積立額と現在の残高を突き合わせるのが基本です。国土交通省「令和5年度マンション総合調査」では、計画に対して不足しているマンションが36.6%、うち20%超の不足が11.7%という結果でした(出典:国土交通省)。まずは戸あたり月額と、全国平均13,054円を比べてみてください。
Q3. 外壁の打診調査のために、毎回足場を組む必要がありますか。
A. 建築基準法第12条に基づく定期報告では、竣工または外壁改修から10年を経過した建築物について全面打診等による調査が求められますが、調査方法には選択肢があります。ロープアクセス工法やドローンによる赤外線調査を用いれば、足場を組まずに実施できる場合があります。対象範囲・方法は特定行政庁により異なるため、国土交通省の定期報告制度のページと所在地の特定行政庁の公表資料をご確認ください。
Q4. ロープアクセス工法は足場より安いのですか。
A. 仮設足場の架設・解体費が原則不要になるため、部分補修や調査では費用を抑えやすい傾向があります。一方、外壁全面を一括で塗り替えるような大面積工事では足場のほうが効率的な場合もあります。明誠では足場・ロープアクセス・ハイブリッドの3案を比較してご提示しています。工法の技術解説はロープアクセスドットコムもご参照ください。
Q5. 管理計画認定を取ると、何が変わりますか。
A. 地方公共団体から「適切な管理計画を持つマンション」として認定されるため、売買・賃貸の場面で管理状態を対外的に示す材料になります。認定基準には長期修繕計画の作成・見直しが含まれるため、取得に向けた作業そのものが修繕計画の整備につながります(出典:国土交通省)。
この記事のポイントまとめ
- 東京23区の中古マンションで築41年以上の反響シェアは49.1%(2018年は25.5%)
- 掲載シェアは18.3%にとどまり、築古物件は需要超過の状態にある
- 築41~50年の平均掲載価格は6,088万円、築古=割安とは言えない水準
- 修繕積立金は月/戸あたり全国平均13,054円、36.6%が計画に対して不足
- 築40年超は建築基準法第12条の全面打診調査が関わる、足場なしの調査手段がある
- 足場・ロープアクセス・ハイブリッドの3案比較が、工事費圧縮の出発点になる
- 管理計画認定制度は、修繕計画の整備と資産価値の対外証明を同時に進められる
最後に、私の実感をひとつだけ。
築年数は、どうやっても巻き戻せません。けれど「この建物は手が入っている」という印象は、外壁と共用部で確実に作れます。そして今、市場はその印象にきちんと値段をつけ始めています。
まずは、いまの建物の状態を数字にするところからで構いません。ご相談だけでも遠慮なくお声がけください。総会の前段階の整理だけでも、お力になれることがあります。
執筆者:本間 幸紘(株式会社明誠 代表取締役)
専門領域:マンション大規模修繕/ロープアクセス工法(無足場工法)/建物長寿命化計画
実務経験:建設・改修業界 20年以上
所属:一般社団法人 全国建設業支援協会(JCSA)
株式会社明誠について:東京都小平市を拠点に、東京・関東一円でロープアクセス工法と従来足場工法の両方を提案できる改修会社です。建物ごとに足場・ロープアクセス・ハイブリッドの3工法から最適な組み合わせをご提案します。日本初のロープアクセス工事フランチャイズを展開しています。
最終更新:2026年8月16日
※本記事の制度・統計情報は執筆時点のものです。制度は変更される可能性がありますので、申請等にあたっては必ず各公式サイトで最新情報をご確認ください。
出典・参考資料
- 国土交通省「令和5年度マンション総合調査の結果について」
- 国土交通省「建築基準法に基づく定期報告制度について」
- 国土交通省「建築基準法第12条に基づく定期報告制度パンフレット」
- 国土交通省「マンション管理計画認定制度」
- 国土交通省「マンションに関する統計・データ等」
- 公益財団法人マンション管理センター「管理計画認定手続支援サービス」
- 株式会社LIFULL「【築41年以上の反響シェアが約半分を占める】東京23区中古マンションの築年数別反響をLIFULL HOME’Sが調査」(2026年7月21日)

