賃貸オーナーの6割超が家賃値上げへ|金利上昇で手残りが減る今、修繕計画と家賃の「納得感」をどう両立するか【2026年10月】
この記事で分かること
「金利が上がって、毎月の返済が2万円以上増えた。家賃を上げたいけれど、外壁も傷んできていて、入居者に言い出しにくい」——。ここ数か月、東京や埼玉、神奈川で賃貸マンションをお持ちのオーナーさまから、こうしたご相談をいただくことが増えました。
その実感を数字で示す調査が、10月6日に公表されました。不動産投資サイト「楽待」を運営する楽待株式会社の調査では、物件を持つ大家さん286人のうち36.7%が「すでに家賃を値上げした」、26.9%が「検討中・予定あり」と答え、合計63.6%が値上げに動いていました(出典:楽待株式会社 プレスリリース(PR TIMES)、2026年10月6日)。
この記事では、次の問いにお答えします。金利が上がり、家賃の値上げを考えている賃貸オーナーは、建物の修繕をどう位置づければよいのか? 修繕費を抑えながら、入居者に納得してもらえる家賃改定を進めるには何から始めればよいのか?
結論を先に書きます。
- ローンを使う投資家の77.8%が「この1年で金利が上がった」と回答し、返済額が増えた人の増加額は中央値で月1万5,000円でした。
- 日本銀行は2026年9月18日に政策金利を1.25%程度へ引き上げており、変動金利の借入には今後も影響が及ぶ可能性があります。
- 手残りが減ると修繕を先送りしがちですが、国土交通省は修繕の先送りが「物件価値の低下→入居率の低下→家賃収入の減少」という悪循環を招くと整理しています。
- 備えの柱は、①返済増と修繕費を同じ表に載せた収支の見直し、②修繕と家賃改定をセットで考えること、③足場・ロープアクセス・ハイブリッドの工法比較で修繕費そのものを抑えることの3つです。
本記事の数値は、2026年10月15日時点で楽待株式会社・日本銀行・国土交通省が公表している資料に基づいています。金利や制度は変わることがあるため、最新の情報は各機関の公式サイトでご確認ください。
2026年10月15日 更新
ニュースの要点|賃貸オーナーの63.6%が家賃値上げに動く
調査の概要
まず、楽待株式会社の発表を整理します。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 調査名 | 金利動向に関するアンケート |
| 調査時期 | 2026年8月20日〜9月8日 |
| 調査対象 | 「楽待」に会員登録している不動産投資家ら |
| 調査方法 | インターネットリサーチ |
| 有効回答数 | 339件 |
出典:楽待株式会社 プレスリリース(2026年10月6日)
回答者は不動産投資に関心の高い会員に限られるため、すべての賃貸オーナーの平均とは言い切れません。それでも、現場で私が耳にしている声とよく重なる結果です。
主な数字
| 設問 | 結果 |
|---|---|
| この1年でローン金利が上がった | 77.8%(全ての借入先で54.4%+一部で23.4%、n=239) |
| 最も上がった借入1件の上昇幅 | 平均0.625ポイント(n=123) |
| 返済額が増えた人の月の増加額 | 中央値1万5,000円(n=130) |
| 月5万円以上増えた人 | 13.3%(n=149) |
| 家賃を「すでに値上げした」 | 36.7%(n=286) |
| 家賃値上げを「検討中・予定あり」 | 26.9% |
| 値上げ「しない・できない」 | 33.2% |
| 物件購入に「慎重になった」 | 44.0% |
出典:楽待株式会社 プレスリリース、詳細は楽待新聞
値上げの理由として、金利の上昇のほかに「周辺の家賃相場が上がって割安になっていた」「固定資産税・修繕費・光熱費の上昇」が挙がっています。修繕費が値上げの理由の一つに数えられている点は、私たち施工会社にとっても重く受け止めるべきところです。
背景にある日銀の利上げ
金利上昇の背景には、日本銀行の金融政策の変化があります。日本銀行は2026年9月18日の金融政策決定会合で、無担保コールレート(オーバーナイト物、銀行同士が翌日まで資金を貸し借りする際の金利)を1.0%程度から1.25%程度へ引き上げると決めました(出典:日本銀行「金融市場調節方針の変更について」、2026年9月18日)。
アパートローンには変動金利の商品も多く、その場合は短期の金利の動きが返済額に反映されやすくなります。今後の金利の動きを断定することはできませんが、「金利は上がる可能性がある」という前提で収支を組み直しておくのが現実的だと、私は考えています。
返済増はどのくらい手残りに響く?|簡単な試算
モデルケースで計算してみる
数字のイメージを持っていただくために、簡単なモデルで試算します。
| 前提 | 内容 |
|---|---|
| 建物 | RC造5階建て・20戸の賃貸マンション(首都圏) |
| 家賃 | 1戸あたり月8万円(満室で年1,920万円) |
| 借入残高 | 8,000万円・残り期間20年・元利均等返済 |
| 金利 | 2.0% → 2.625%(楽待調査の平均上昇幅0.625ポイントを適用) |
この条件で計算すると、毎月の返済額は約2万4,000円増え、年間では約29万円の負担増になります(筆者試算)。
一方、家賃を1戸あたり月2,000円上げられた場合、20戸満室で年48万円の増収です。数字だけを見れば、返済増は家賃改定で十分に吸収できそうに見えます。
ここからが本題です。この試算には「建物の修繕費」が入っていません。
修繕費を入れると景色が変わる
国土交通省の「賃貸住宅管理業者向け 計画修繕ガイドブック」には、18戸の賃貸住宅で35年間の修繕費合計を9,500万円と見込み、毎月約22万6,000円(1戸あたり約1万2,600円)を積み立てるという例が示されています(出典:国土交通省「賃貸住宅管理業者向け 計画修繕ガイドブック」)。
この例をそのまま当てはめることはできませんが、規模が近い建物なら修繕のための積立は月20万円前後になってもおかしくありません。返済増の月2万4,000円よりも、ずっと大きな金額です。
つまり、金利上昇で手残りが減ったときに一番削られやすいのは、実は修繕の積立なのです。私が現場で20年やってきて一番悔しい思いをするのは、「返済が先、修繕は後で」と考えているうちに外壁や屋上防水の劣化が進み、早めに直していれば外壁と防水の工事で済んだはずが、雨漏りの補修や内装の復旧まで含めた大きな工事になってしまうケースです。
修繕を後回しにすると何が起きる?|国交省が示す「負のスパイラル」
悪循環と好循環
国土交通省の計画修繕ガイドブックは、修繕を先送りしたときの流れを次のように整理しています。
| 修繕を後回しにした場合 | 計画修繕を続けた場合 |
|---|---|
| 1. 建物の老朽化が進む | 1. 長期修繕計画を作り、計画修繕を実施 |
| 2. 物件価値が下がる | 2. 老朽化の進行を止める |
| 3. 入居率が下がる | 3. 物件価値と入居率を維持 |
| 4. 家賃収入が減る | 4. 安定した家賃収入 |
| 5. 修繕資金が不足し、さらに修繕できない | 5. 修繕に必要な資金を確保できる |
出典:国土交通省「賃貸住宅管理業者向け 計画修繕ガイドブック」
同じガイドブックでは、計画修繕を実施したことのあるオーナーの約3割が「高い入居率を確保できた」「家賃水準を維持できた」と答えたというアンケート結果も紹介されています。
計画修繕をしているオーナーは約4割
一方で、国土交通省の令和4年度の家主アンケートでは、計画的に修繕しているオーナーは約4割にとどまり、約2割は計画修繕を実施していないと回答しています(出典:同ガイドブック「はじめに」)。
背景として、オーナーが計画修繕の必要性を十分に理解していないことや、資金的な余裕がないことが挙げられています。金利上昇で手残りが減っている今は、この「資金的な余裕がない」状態に陥るオーナーが増えやすい局面だと言えます。
入居者は「建物の状態」を見ている
ガイドブックには、民間賃貸住宅の入居者が住み替え先を選ぶ際に重視したことのデータも載っています。「住宅の状況(いたみ・劣化等)」を重視した人は70.9%、「住宅の維持管理」は67.3%でした(資料:一般財団法人住宅改良開発公社「賃貸住宅市場の動向と将来予測(展望)調査」2020年8月、同ガイドブックより)。
外壁の汚れやひび割れ、鉄部のさびは、内見に来た方の目に真っ先に入ります。家賃を上げたいときほど、建物の見た目と維持管理の状態が問われるということです。
家賃値上げの前に確認したい「納得感」の条件
法律上の考え方を押さえる
家賃の改定について、借地借家法第32条は、建物の借賃が土地・建物に対する租税その他の負担の増減、土地・建物の価格の上昇や低下その他の経済事情の変動、近傍同種の建物の借賃との比較によって不相当となったときに、当事者が将来に向かって増減を請求できると定めています(一定期間増額しない旨の特約がある場合を除く。出典:e-Gov法令検索「借地借家法」)。
つまり、家賃改定は一方的に決められるものではなく、周辺相場や負担の変化といった「理由」を示して、入居者と合意を目指すのが基本です。個別の契約や交渉の進め方は、管理会社や弁護士などの専門家にご相談ください。
入居者が納得しやすいのはどんなときか
私が多くのオーナーさまと話してきた経験では、家賃改定が比較的スムーズに進むのは、次のような条件がそろっているときです。
- 周辺相場と比べて割安になっていることを、データで示せる
- 共用部の清掃や設備点検など、日頃の管理がきちんとしている
- 外壁塗装や防水など、建物に手を入れたことが目に見える
- 改定の時期と金額を、更新のタイミングに合わせて早めに伝えている
- 入居者からの修繕依頼に、これまで誠実に対応してきた
逆に、外壁がくすみ、共用廊下の鉄部にさびが浮いたままの建物で家賃だけ上げようとすると、退去の引き金になりかねません。空室が1室出れば、月2,000円の値上げ分を何戸分も帳消しにしてしまいます。
修繕と家賃改定は「セット」で考える
私はいつもオーナーさまに、「修繕と家賃の見直しは、同じ収支表の上で考えてください」とお伝えしています。
例えば、来年に外壁と屋上防水の修繕を予定しているなら、工事の完了を入居者にお知らせし、建物がきれいになったタイミングで、更新時の家賃改定をお願いする。順番を逆にしないだけで、入居者の受け止め方は大きく変わります。
手残りが減る今こそ見直したい長期修繕計画
計画修繕の6つの手順
国土交通省のガイドブックは、計画修繕を次の6段階で進めるよう示しています。
- 計画:長期修繕計画を作り、修繕項目ごとの時期と費用の目安を決める
- 点検:予定時期が近づいたら、劣化や不具合を確認する
- 検討と調整:予定どおり実施するか、時期や範囲、資金を調整する
- 実施:施工会社を選び、入居者へ周知して工事を行う
- 記録:工事期間・内容・金額・施工会社名を残す
- 計画の見直し:実績を反映して、その後の時期と費用を修正する
出典:国土交通省「賃貸住宅管理業者向け 計画修繕ガイドブック」
修繕周期の目安
同じガイドブックには、分譲マンション向けの「長期修繕計画作成ガイドライン」をもとにした修繕周期の目安が載っています。主なものを抜き出すと、次のとおりです。
| 修繕項目 | 工事の内容 | 修繕周期の目安 |
|---|---|---|
| 仮設工事 | 足場などの仮設 | 12〜15年 |
| 屋根防水 | 補修・修繕 | 12〜15年 |
| 外壁塗装等 | 塗装・シーリング | 12〜15年 |
| 鉄部塗装等 | 塗装 | 5〜7年 |
出典:国土交通省「賃貸住宅管理業者向け 計画修繕ガイドブック」(「長期修繕計画作成ガイドライン」の記載例を基に簡略化したもの)
分譲マンションの長期修繕計画については、国土交通省のガイドラインも参考になります。
資金が足りないときの「調整」
ガイドブックでは、資金が十分に用意できない場合に、緊急度の高い箇所から実施し、残りを翌年以降にずらすといった調整の考え方も示されています。複数の物件をお持ちのオーナーなら、物件ごとに工事の時期をずらして、同じ年に資金需要が重ならないようにする方法もあります。
ただし、雨水の浸入につながる屋上防水や外壁のひび割れ、落下の危険があるタイルの浮きは、先送りの対象にしないことをおすすめします。ここを後回しにすると、修繕費が膨らむだけでなく、入居者や通行人の安全に関わるからです。
修繕費そのものを抑える|足場・ロープアクセス・ハイブリッドの比較
足場の費用は工事費の大きな割合を占める
外壁や防水の修繕では、足場などの「仮設費」が工事費の大きな割合を占めます。昨日の記事でご紹介した経済調査会の「マンション修繕費指数」2026年版では、分譲マンションの大規模修繕で仮設費の構成比率が24.8%と、工事費のおよそ4分の1でした(出典:経済調査会「マンション修繕費指数」2026年版)。賃貸マンションでも、建物の形や高さによっては同じような構造になります。
3つの工法の特徴
| 工法 | 特徴 | 向いている建物・工事 |
|---|---|---|
| 通常の足場工法 | 建物の周りに足場を組んで施工。広い面を一度に施工しやすい | 補修量が多い外壁、複雑な形の中低層建物 |
| ロープアクセス工法(無足場工法) | 屋上から下ろしたロープで作業。足場の組立・解体が不要 | 高層の建物、足場を組みにくい立地、部分補修 |
| ハイブリッド工法 | 部位ごとに足場とロープアクセスを使い分ける | 面ごとに劣化の程度が違う建物 |
ロープアクセス工法の安全面について、正確に書いておきます。作業員はメインロープとバックアップロープの2本に接続し、吊元(ロープを固定する支点)も2点以上確保して作業します。万一1本に問題が起きても、もう1本で体が保持される二重の安全確保が、国際的な産業ロープアクセスの基準に沿った業界標準です。技術的な基準や実例は、姉妹サイトのロープアクセスドットコムで詳しく解説しています。
費用差の目安
明誠の試算例では、10階建て・外周80m・工期3か月の建物で、足場の費用が約168万円のところ、ロープアクセスでは約59万円(差額約109万円)となったケースがあります。これはあくまで一つの試算例で、建物の形や劣化の状態、工事の範囲によって金額は大きく変わります。
賃貸マンションで工法の違いが効いてくるのは、費用だけではありません。
- 入居者の生活への影響:足場とメッシュシートで窓がふさがる期間が短く、日当たりや防犯面の不安を抑えやすい
- 工期:足場の組立・解体の日数がかからない
- 空室募集への影響:足場に覆われた外観では内見の印象が下がりやすい
家賃改定を控えている時期ほど、入居者の不満を増やさない工事の進め方が大切になります。
ロープアクセスが向かないケースもある
正直に申し上げます。ロープアクセス工法がすべての建物で安くなるわけではありません。補修の量が非常に多い面や、屋上に吊元を確保できない建物、低層で足場の費用がもともと小さい建物では、足場工法の方が合理的なこともあります。
だからこそ明誠では、足場・ロープアクセス・ハイブリッドの3工法を同じ条件で比べたうえで、建物ごとに提案しています。料金の考え方は大規模修繕の料金の考え方にまとめています。
現場でよく見る2つのケース
ここでご紹介するのは、私がこれまでに伺った複数の現場をもとに、個別の物件が特定されないよう再構成したケースです。
外壁を後回しにしたA棟
例えば、首都圏の築30年近いRC造の賃貸マンションで、オーナーさまが返済を優先して外壁の修繕を数年見送っていたケースです。調査に伺ったときには、北面のひび割れから雨水が入り、上の階の2部屋で天井に染みが出ていました。
外壁の修繕に加えて、室内の内装復旧と、その間の入居者への対応が必要になり、当初の見込みより工事の範囲が広がりました。こうした現場で「もう少し早く相談していれば」という言葉を伺うたびに、私は悔しい思いをします。
修繕のあとに家賃を見直したB棟
別のケースでは、オーナーさまが外壁塗装と鉄部塗装、共用廊下の床の改修をまとめて実施し、工事の完了後に入居者へ写真付きのお知らせを配りました。そのうえで、契約更新の時期に合わせて家賃の見直しをお願いしたところ、大きな反発はなかったというお話を伺うことがあります。
もちろん、すべての建物で同じ結果になるとは限りません。それでも、「建物に手を入れたことが目に見える」ことが、入居者の受け止め方を変える一つの要素になると、私は現場で感じています。
明誠のこれまでの施工事例は、明誠の施工事例からご覧いただけます。
今すぐできる5つのアクション
金利と修繕の両方に備えるために、オーナーさまが今月から始められることを5つにまとめました。
- 借入ごとの金利と返済額を一覧にする:変動か固定か、次の見直し時期はいつかを確認します。
- 長期修繕計画を作る、または見直す:計画がない場合は、外壁・屋上防水・鉄部の3つだけでも時期と費用の目安を決めます。国土交通省の「賃貸住宅の修繕・点検時期セルフチェック」も参考になります。
- 返済増・修繕積立・家賃収入を1枚の収支表に載せる:手残りがどれだけあるかを、修繕費を含めて確認します。
- 周辺の家賃相場を調べる:管理会社に相場データを出してもらい、家賃改定の根拠を整理します。
- 工法を比較した見積りを取る:足場だけでなく、ロープアクセスやハイブリッドも含めて比べます。
明誠ができること
株式会社明誠は、東京・神奈川・埼玉・千葉を中心とした首都圏で、マンション・ビル・ホテルの大規模修繕を手がけています。これまでに約6,000棟の修繕に携わり、足場・ロープアクセス・ハイブリッドの3つの工法から、建物ごとに最適な方法をご提案しています。
また、日本初のロープアクセス工事フランチャイズ本部として、塗装・防水・タイル・電気・看板などの専門職が加盟するネットワークを運営しています。安全管理については明誠の安全への取り組みを、オーナーさま向けのサービスはビルオーナー・賃貸マンションオーナー向けの大規模修繕をご覧ください。
同業の施工会社の方で、ロープアクセスの技術や安全基準、フランチャイズについて知りたい方には、ロープアクセスドットコム(無足場工法専門メディア)もおすすめです。
注意事項
- 楽待株式会社の調査は、同社サイトの会員である不動産投資家を対象としたもので、全国の賃貸オーナー全体の傾向を示すものではありません。
- 返済額の試算は、元利均等返済の一般的な計算式による筆者の試算です。実際の返済額は金融機関との契約条件によって異なります。
- 足場とロープアクセスの費用差は一つの試算例で、実際の工事費や削減額を約束するものではありません。
- 家賃改定や税務の取り扱いは、管理会社・弁護士・税理士などの専門家にご相談ください。
よくあるご質問
Q1. 家賃の値上げに動いている賃貸オーナーは、どのくらいいますか?
A. 楽待株式会社の2026年10月6日公表の調査では、物件を持つ大家さん286人のうち36.7%が「すでに値上げした」、26.9%が「検討中・予定あり」と答え、合計63.6%でした(出典:楽待株式会社)。
Q2. 金利が0.625ポイント上がると、返済はいくら増えますか?
A. 借入残高8,000万円・残り20年・元利均等返済で、金利が2.0%から2.625%に上がった場合、毎月の返済は約2万4,000円、年間で約29万円増える計算です(筆者試算)。実際の金額は契約条件によって変わります。
Q3. 手残りが減ったので、修繕は先送りしても大丈夫ですか?
A. 国土交通省のガイドブックでは、修繕の先送りが物件価値と入居率の低下を招き、家賃収入が減る悪循環につながると整理しています。資金が足りない場合でも、屋上防水や外壁のひび割れなど、雨水の浸入や落下の危険に関わる箇所は優先して対応することをおすすめします。
Q4. 家賃は、オーナーの判断で自由に上げられますか?
A. 借地借家法第32条では、税金などの負担の増減や経済事情の変動、近隣の同種の建物の家賃との比較で不相当になった場合に、家賃の増減を請求できると定めています。入居者との合意が基本になるため、管理会社や弁護士などの専門家にご相談ください(出典:e-Gov法令検索)。
Q5. 賃貸マンションの修繕費は、毎月いくら積み立てればよいですか?
A. 建物によって大きく異なります。国土交通省のガイドブックには、18戸の建物で35年間の修繕費9,500万円を見込み、毎月約22万6,000円(1戸あたり約1万2,600円)を積み立てる例が示されています。まずは長期修繕計画で必要額を見積もることが出発点です。
Q6. ロープアクセス工法なら、どの賃貸マンションでも修繕費が下がりますか?
A. すべての建物で下がるわけではありません。高層の建物や足場を組みにくい立地では差が出やすい一方、補修量が多い面や吊元を確保できない建物では足場の方が向くこともあります。部位ごとに使い分けるハイブリッド工法も含めて比べるのがおすすめです。
Q7. 明誠に相談すると費用はかかりますか?
A. 建物の現地調査と概算のお見積りは無料で承っています。足場・ロープアクセス・ハイブリッドの3工法を比べたうえで、長期修繕計画の考え方も含めてご提案します。お問い合わせフォームからお気軽にご相談ください。
この記事のポイントまとめ
- 楽待の調査で、賃貸オーナーの63.6%が家賃値上げに動いている
- ローン利用者の77.8%が金利上昇を経験し、返済増は中央値で月1万5,000円
- 日銀は2026年9月18日に政策金利を1.25%程度へ引き上げた
- 修繕の先送りは、物件価値・入居率・家賃収入の低下という悪循環を招きやすい
- 修繕と家賃改定を同じ収支表で考え、工法比較で修繕費そのものを抑える
出典・参考資料
- 楽待株式会社「「キャッシュフローが半減」金利上昇に苦しむ大家 6割超が家賃値上げに動く 楽待調べ」(PR TIMES、2026年10月6日)
- 楽待新聞「金利動向に関するアンケート(詳細)」
- 日本銀行「金融市場調節方針の変更について」(2026年9月18日)
- 国土交通省「賃貸住宅管理業者向け 計画修繕ガイドブック」
- 国土交通省「賃貸住宅の修繕・点検時期セルフチェック」
- 国土交通省「「長期修繕計画作成ガイドライン・同コメント」及び「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」の改定について」(令和6年6月7日)
- e-Gov法令検索「借地借家法」
- 一般財団法人 経済調査会「「マンション修繕費指数」2026年版を公開」(2026年9月29日)
▼ロープアクセス工法・無足場工法の詳細解説はこちら
ロープアクセスドットコム|無足場工法専門メディア
金利が上がると、どうしても「まず返済、修繕はあとで」と考えたくなります。その気持ちはよく分かります。それでも私は、修繕と家賃を同じ表の上で考えていただきたいとお伝えしています。建物を守ることが、結局は家賃と入居者を守ることにつながるからです。現地調査と概算のお見積りは無料で承っていますので、お問い合わせフォームから、ご相談だけでもお気軽にどうぞ。次回も、現場で本当に使える話だけをお届けします。
この記事の執筆者
本間 幸紘(ほんま ゆきひろ)
株式会社明誠 代表取締役/東京都東大和市
マンション・ビル・ホテルの大規模修繕20年以上の実務経験。3工法(通常足場/ロープアクセス/ハイブリッド)から建物特性に応じて最適提案。日本初のロープアクセス工事フランチャイズ本部を運営。JCSA(一般社団法人 全国建設業支援協会)代表理事。
最終更新:2026年10月15日
関連記事(姉妹サイト)
ロープアクセス工法の詳細や実例については、姉妹サイト「ロープアクセスドットコム」の以下の記事もぜひご覧ください。
本間社長の著書のご案内
『大規模修繕工事 職人だから言える本当の話 —— 見積書では見えない業界の裏側と、修繕積立金を守る発注術』(Kindle版)を出版しています。20年以上の現場経験から、管理組合・オーナーが修繕積立金を守るための発注術と、業界の内幕を書き下ろしました。
大規模修繕の資金は「金利」で目減りする時代へ|長期金利2.945%・約30年ぶり高水準の2026年、管理組合とオーナーが今なお守れる2つのコスト【2026年8月】
2026年8月20日 更新
この記事で答える質問:金利が上がると、マンションやビルの大規模修繕にいくら余計にかかるのか。そして、いま自分の手で下げられるコストはどこに残っているのか。
昨日、理事長さまからこんなご連絡をいただきました。「工事費が上がっているのは分かった。でも今度は、銀行の人に『借りるなら早いほうがいい』と言われた。何が起きているんですか」と。
私は建設・改修の人間で、金融の専門家ではありません。それでも、この夏の数字の動き方は、20年近く現場を歩いてきた私の目から見ても、明らかに今までと違います。工事費が上がるだけなら「工法と仕様で削る」という戦い方がありました。しかし2026年8月にいま起きているのは、工事費・金利・土地評価という三つの数字が、同じ方向へ同時に動いているという状況です。
正直に申し上げます。このうち工事費と金利と土地評価、その全部を管理組合やオーナーの側でコントロールすることはできません。ただし、確実に自分の手で下げられるコストが二つだけ残っています。今日はその話をします。
結論:金利は、もはや「工事費の一部」です
先に結論から申し上げます。
- 借入前提で大規模修繕を計画するなら、金利は仕様や数量と同じ「見積項目」として扱うべき段階に入りました。 借入額5,000万円・返済7年なら、金利が年0.4%違うだけで総返済額は数十万円単位で変わります。
- その0.4%は、いま制度で下げられます。 住宅金融支援機構の「マンションすまい・る融資」は、金利引き下げの要件を2つ満たすと、令和8年8月時点で返済期間1年以上10年以内の金利が年1.51%→年1.11%まで下がります。引き下げ要件は3つあり、3つすべてを満たせば最大年0.60%の引き下げになります(出典:住宅金融支援機構「マンション共用部分リフォーム融資の融資金利について」、マンションすまい・る融資のご案内)。
- そしてもう一つ、借入額そのものを小さくする方法があります。 大規模修繕の工事費のうち、建物を1ミリも良くしないまま消えていく費用——仮設足場です。ここは工法の選択で変えられる余地が残っています。
金利も、工事費の相場も、路線価も、私たちの側では動かせません。動かせるのは、「どの制度を使って借りるか」と「どの工法で施工するか」の二つです。今日はこの二つを、数字で追います。
| いま起きていること | 2026年8月時点の数字 | 管理組合・オーナー側で動かせるか |
|---|---|---|
| 長期金利の上昇 | 新発10年物国債利回りが一時2.945%(30年ぶり高水準) | ✕ 動かせない |
| 建設工事費の上昇 | 建設工事費デフレーターは2015年度=100に対し130台 | ✕ ほぼ動かせない |
| 土地評価の上昇 | 令和8年分路線価は全国平均+2.9%、5年連続上昇 | ✕ 動かせない |
| 借入金利の引き下げ | 管理計画認定+すまい・る債で年0.40%、省エネ・耐震・浸水対策工事も行えば最大年0.60%の引き下げ | ○ 動かせる |
| 仮設費の圧縮 | 工事費に占める仮設足場の割合は一般に2割前後とされる | ○ 動かせる |
何が起きているのか:2026年8月、三つの数字が同時に動きました
数字① 長期金利が30年ぶりの水準へ
2026年8月18日の国内債券市場で、長期金利の指標である新発10年物国債の利回りが一時2.945%まで上昇しました。これは1996年10月以来、約29年10か月ぶり(およそ30年ぶり)の高い水準です(出典:日本経済新聞「長期金利上昇、一時2.945% 財政懸念や日銀利上げ観測で」)。
背景には、日本銀行が追加の利上げに動くという市場の見方があります。2026年7月31日の金融政策決定会合では政策金利が1.0%程度で据え置かれましたが(出典:日本銀行「金融政策決定会合の運営/各会合の公表資料」)、市場では9月会合での利上げが相応の確度で織り込まれている、と報じられています。同じ8月18日には、金利上昇を嫌気して不動産株が相次いで年初来安値を更新しました。
ここで一点、注意を添えておきます。先行きの利上げの有無や時期については、報道と市場の見方であって、決まった事実ではありません。私はこの記事で「これから必ずこうなる」という書き方はしません。ただ、「借入コストが上がる方向に振れている」という事実だけは、もう資金計画に織り込んでおくべき段階だと考えています。
数字② 建設工事費は、下がる気配がありません
工事費のほうも、上がり続けています。国土交通省が公表している建設工事費デフレーター(過去と現在の建設コストを物価変動を調整して比べるための指標)は、2015年度を100とした指数で130台に達しています。単純に読めば、この10年でおよそ3割コストが上がった計算です(出典:国土交通省「建設工事費デフレーター」/政府統計の総合窓口 e-Stat。指数は系列・時点により異なるため、実務では最新値をご確認ください)。
私の実感とも合います。私が独立した頃、外壁の下地補修材やシーリング材の単価は、ここまで毎年見直される性質のものではありませんでした。いまは見積の有効期限を短く区切らざるを得ない場面が増えています。これは私だけの話ではなく、業界全体の話です。
数字③ 路線価は5年連続の上昇、しかも過去最大の伸び
2026年7月1日に国税庁が公表した令和8年分の路線価は、全国約31万地点の標準宅地の平均で前年比+2.9%。5年連続の上昇で、平成22年(2010年)分以降で最大の伸び幅となりました。都道府県庁所在都市の最高路線価は、バブル期の1991年以来35年ぶりに下落地点がゼロ。全国最高は東京・銀座5丁目の中央通りで1平方メートルあたり5,336万円(41年連続の全国1位)です。東京都全体では+9.4%と、全国で最も高い上昇率でした。
ここが収益不動産オーナーにとって効いてきます。路線価が上がるということは、相続税や贈与税の計算で使う土地の評価額が上がるということです。つまり、帳簿上の資産は増え、将来の税負担は重くなり、それでいて日々の家賃収入が自動的に増えるわけではない。この非対称性が、いまオーナーの手元のキャッシュを静かに圧迫しています。
| 数字 | 内容 | 出典 |
|---|---|---|
| 長期金利 2.945% | 2026年8月18日、1996年10月以来の高水準 | 日本経済新聞 |
| 政策金利 1.0%程度 | 2026年7月31日会合で据え置き | 日本銀行 |
| 建設工事費デフレーター 130台 | 2015年度=100 | 国土交通省/e-Stat |
| 路線価 全国平均+2.9% | 令和8年分、5年連続上昇(標準宅地 約31万地点) | 国税庁 |
| 銀座5丁目 5,336万円/㎡ | +11.0%、41年連続1位 | 国税庁 |
管理組合の借入金利は、いま実際いくらなのか
「金利が上がっている」と言われても、管理組合が実際に借りるときの数字を知らなければ判断できません。ここは一次情報にあたるのが早いので、住宅金融支援機構の公表資料をそのまま引きます。
管理組合が大規模修繕の資金を借りるときの代表的な制度が、住宅金融支援機構のマンション共用部分リフォーム融資(愛称:マンションすまい・る融資)です。令和8年8月時点の適用金利は次のとおりです(出典:住宅金融支援機構、管理組合申込みの場合)。
| 返済期間 | 標準の金利 | 引き下げ要件を1つ充足(▲0.20%) | 引き下げ要件を2つ充足(▲0.40%) |
|---|---|---|---|
| 1年以上10年以内 | 年1.51% | 年1.31% | 年1.11% |
| 11年以上20年以内 | 年1.74% | 年1.54% | 年1.34% |
| 21年以上35年以内 | 年2.25% | 年2.05% | 年1.85% |
金利引き下げの要件は、次の3つです。該当した数に応じて引き下げ幅が決まり、3つすべてに該当すれば最大で年0.60%の引き下げ(引き下げ後の下限は年0.1%)となります。
- 耐震改修工事、浸水対策工事、または省エネルギー対策工事のいずれかを伴うこと
- 申込み時点で「マンションすまい・る債」の残高があること
- 申込み時点でマンション管理計画認定を取得していること
この制度は全期間固定金利で、申込み時点の金利がそのまま適用されます。金利は毎月見直されるため、上の数字は令和8年8月時点のものです。
※返済期間には条件があります(ここは誤解が多い箇所です)。返済期間は原則として1年以上10年以内です。11年以上20年以内とできるのは、①耐震改修 ②浸水対策 ③省エネルギー対策 ④給排水管取替 ⑤玄関またはサッシ取替 ⑥エレベーター取替・新設 ⑦アスベスト対策 ⑧機械式駐車場解体、のいずれかの工事を行う場合に限られます。21年以上35年以内とできるのは、①〜③のいずれかを行い、かつマンション管理計画認定を取得している場合に限られます。外壁塗装と防水だけの大規模修繕であれば、返済期間の上限は10年です。(出典:住宅金融支援機構「マンションすまい・る融資 商品概要説明書」)
「毎月の返済額は修繕積立金の80%以内」という壁
もう一つ、実務で必ず引っかかるルールがあります。毎月の返済額は、毎月徴収している修繕積立金の額の80%以内でなければなりません。他に借入がある場合は、その返済額も合算して80%以内である必要があります(修繕積立金の滞納割合が10%超20%以内の管理組合は、条件を満たしたうえで60%以内)。
つまり、金利が上がると毎月の返済額が増える → 80%の枠に収まらなくなる → 借りられる額そのものが減る、という順番で効いてきます。私が「金利は工事費の一部です」と申し上げるのは、この意味です。金利の上昇は、単に利息が増えるという話にとどまらず、組める工事の規模を直接縛ります。
同機構の資料では、借入金100万円あたりの毎月返済額の目安も示されています。返済期間7年・元利均等・年1.51%なら、100万円あたり月12,552円。融資額5,000万円なら月627,600円という計算です。
「管理計画認定」で年0.4%——工事費に換算するといくらか
前の表で、いちばん右の列と左の列の差は年0.40%でした。管理計画認定と「マンションすまい・る債」の2つを満たした場合の差です。この0.40%を、金額に直してみます。
前提:借入額5,000万円、返済期間7年、元利均等毎月払い。機構公表の「借入金100万円あたりの毎月返済額」を使った試算です。
| 金利 | 100万円あたり月返済額 | 5,000万円の月返済額 | 7年間の総返済額(概算) |
|---|---|---|---|
| 年1.51%(標準) | 12,552円 | 627,600円 | 約5,272万円 |
| 年1.31%(要件1つ充足) | 12,465円 | 623,250円 | 約5,235万円 |
| 年1.11%(要件2つ充足) | 12,378円 | 618,900円 | 約5,199万円 |
差額は7年間でおよそ73万円。100戸のマンションなら1戸あたり7,000円強、50戸なら1戸あたり1万5,000円弱に相当します。
※この試算に保証料は含んでいません。機構の融資では、機構が認める保証機関(公益財団法人マンション管理センター等)の保証が必要で、保証料は融資金から差し引かれます。金額は返済期間や管理組合の区分によって変わるため、具体的な額は申込み前にご確認ください。
正直に申し上げると、この金額を見て「思ったより小さい」と感じる方もいらっしゃると思います。私も、これ単体では工事の成否を分ける金額ではないと思っています。ただ、この73万円は「工事の中身を一切削らずに」出てくる差額です。同じ73万円を工事側で捻出しようとすれば、どこかの仕様を落とすか、どこかの数量を削ることになります。それと比べれば、はるかに筋のいいお金です。
そもそもマンション管理計画認定制度とは
管理計画認定制度は、マンションの管理の適正化の推進に関する法律(平成12年法律第149号)にもとづき、管理組合が作成した管理計画を都道府県等の長が認定する制度です。長期修繕計画が適切な内容で作られ、定期的に見直されていることなどが認定の要件に含まれます。
私が理事会でこの話をするとき、いつもお伝えしているのは「認定は金利のためだけの制度ではありません」ということです。認定を取るために長期修繕計画を作り直す過程で、積立金の水準が実際の工事費に追いついているかが可視化されます。むしろそちらが本体で、金利の引き下げはついてくるもの、という順番で考えたほうが健全です。
なお、認定の要件・審査期間・手数料は自治体ごとに運用が異なります。ご自身のマンションが所在する市区町村の公式サイトで最新の情報をご確認ください。制度は変更される可能性があります。
オーナー側の話:路線価+2.9%は「評価は上がるが、キャッシュは増えない」
ここからは、賃貸マンションやテナントビルをお持ちのオーナーさま向けの話です。
路線価が上がると、相続税評価額が上がります。一方で、金利が上がると、変動金利で借りている物件の返済額が増えます。そして工事費が上がると、修繕の実額が増えます。三つとも、手元に残るキャッシュを減らす方向に働きます。
私が現場で見てきた範囲で、いちばん危ないパターンをお話しします。ある築30年前後の賃貸マンションで、オーナーさまが「今期は借入の返済が重いので、外壁は次の期に回したい」とおっしゃったことがありました。気持ちはよく分かります。ただ、私が図面と現地を見た限り、その建物はシーリングの切れが目地の広い範囲に出ていて、雨仕舞いが崩れかけていました。
修繕の先送りは、金利が上がる局面では二重に高くつきます。理由は二つです。
- 工事費そのものが上がる。 建設工事費デフレーターが示すとおり、待っている間に相場が動きます。
- その増えた工事費を、より高い金利で借りることになる。 先送りした分だけ、着工が金利上昇後にずれ込みます。
さらに三つ目として、劣化が進んだ分だけ補修数量そのものが増えるという要素があります。シーリングの打ち替えで済んだ範囲が、下地のモルタル補修まで必要になる。その差は、見積書では「数量」の欄に静かに現れます。
| 先送りで増えるもの | 増え方 |
|---|---|
| 工事単価 | 資材・労務の相場上昇分 |
| 借入コスト | 金利上昇分 ×(増えた工事費) |
| 補修数量 | 劣化進行による実数量の増加 |
| 機会損失 | 空室・賃料交渉力の低下、入居者からの信頼低下 |
借入額そのものを小さくする:仮設足場という「建物を良くしない費用」
ここからが本題です。金利を下げる話は、借りる額が決まったあとの話でした。もっと効くのは、借りる額そのものを小さくすることです。
大規模修繕の見積書を開くと、いちばん上のほうに「仮設工事」という項目があります。枠組足場、養生シート、昇降設備、仮設電気、仮設トイレ。ここに計上される金額は、建物の性能を1ミリも上げません。塗膜も防水層もタイルも、仮設足場では良くならない。職人が安全に作業できる場所をつくるための費用です。
工事費に占める仮設足場の割合は、建物の形状・階数・敷地条件によって大きく変わりますが、一般に2割前後とされることが多い項目です。ここは幅を持って読んでいただきたいところで、隣地との離隔が取れない、道路使用許可が必要、敷地内に段差が多いといった条件が重なれば、比率はさらに上がります。逆に、単純な形状の低層物件なら下がります。
私が「工法の話をさせてください」と申し上げるのは、この2割前後のかたまりが、建物によっては圧縮できるからです。
ロープアクセス工法(無足場工法)とは
ロープアクセス工法は、産業用のロープと専用器具を使い、建物の屋上などから作業員が降下して外壁や設備の作業を行う工法です。足場を組まないため「無足場工法」とも呼ばれます。もともとは高所の点検・調査の分野で発達した技術で、近年は外壁の補修・塗装・シーリング打ち替え・タイルの打診調査などにも使われるようになりました。
ロープアクセス工法の技術的な背景や安全基準の考え方については、姉妹サイトのロープアクセスドットコムで詳しく解説しています。工法そのものを腰を据えて理解したい方は、そちらもあわせてご覧ください。
私どもが提案しているのは、次の3つの工法の使い分けです(ロープアクセス工法のご紹介)。
| 工法 | 仮設費 | 工期 | 居住者・テナントへの影響 | 向いている建物 |
|---|---|---|---|---|
| 通常足場工法 | 大きい | 標準 | 大きい(窓が塞がる、防犯上の懸念、日照低下) | 中低層、複雑な形状、全面的な補修が必要な建物 |
| ロープアクセス工法(無足場工法) | 小さい | 短くなる傾向 | 小さい(バルコニー・窓が塞がらない) | 高層、足場架設が困難、部分補修が中心の建物 |
| ハイブリッド工法 | 中間 | 部位により最適化 | 中間 | 大規模・複雑で、部位ごとに条件が違う建物 |
ハイブリッド工法というのは、同じ建物のなかで部位ごとに工法を使い分けるやり方です。たとえば、面積が大きく作業が集中する妻壁は足場を架け、狭小地に面していて足場が組みにくい面はロープアクセスで対応する。全体の仮設費を抑えながら、施工品質が落ちる面をつくらない。これが私どもの考え方です(大規模修繕工事のご紹介)。
ただし、ロープアクセスが向かない建物もあります
ここは正直に書きます。ロープアクセス工法は万能ではありません。私は、向かない建物に無理に提案しないことのほうが、会社としてはるかに大事だと思っています。
向かない、あるいは慎重な検討が必要なケースを挙げます。
- 外壁の全面改修で、補修数量が非常に多い場合:作業効率の点で足場のほうが合理的になることがあります。
- 屋上に確実な支点(アンカー)が確保できない場合:構造上の支点が取れなければ、そもそも成立しません。
- 大型の資機材や大量の材料を常時揚重する必要がある場合:ロープアクセスは運搬能力に制約があります。
- 強風・落雷など気象条件の影響を受けやすい立地:稼働できない日が増え、かえって工期が読みにくくなることがあります。
- 管理組合の合意形成上、施工状況を目視で確認したいという要望が強い場合:足場があるほうが理事会の納得は得やすい面があります。
私が理事会や役員会でお話しするときは、この「向かない条件」のほうを先にお伝えするようにしています。都合の悪い話を後から出す会社は、工事が始まってからも都合の悪い話を後から出します。それは、私が20年見てきた業界の、あまり気持ちのよくない側面のひとつです。
ホテル・テナントビルは、「営業を止めない」ことが金利対策になります
分譲マンションの管理組合と違い、ホテルやテナントビルのオーナーさまには、もう一つ固有の事情があります。工事期間中の売上です。
足場を架けて全面を養生シートで覆えば、外観は数か月にわたって隠れます。ホテルなら客室の眺望と採光が落ち、テナントビルなら1階路面店の視認性が落ちます。この間の減収は、見積書のどこにも載りません。しかし、実際にはオーナーさまの財布から出ていくコストです。
私が以前ご相談を受けたビジネスホテルでは、当初の計画では全面足場で約4か月の予定でした。現地を見たところ、劣化が集中していたのは東面と北面の一部で、南面と西面は打診調査の結果も良好でした。そこで、劣化が集中する面は足場を架け、良好な面はロープアクセスで部分補修とシーリングの打ち替えのみ行う——というハイブリッドの案をお出ししました。
結果として、養生シートで覆われる面と期間が減り、稼働率への影響を抑えることができました。もちろん、これはこの建物の劣化状況がそうだったからです。すべてのホテルで同じ提案が成り立つわけではありません。ただ、「全面足場か、何もしないか」の二択で考える必要はない、ということは申し上げておきたいと思います。
| 検討項目 | 分譲マンション | ホテル・テナントビル |
|---|---|---|
| 意思決定 | 理事会・総会の合意形成 | オーナーの単独判断(比較的速い) |
| 資金 | 修繕積立金+機構融資 | 自己資金+金融機関借入(金利上昇の影響が直接的) |
| 工事期間中の損失 | 生活の不便 | 売上の減少(見積に載らないコスト) |
| 工法選択の効き方 | 仮設費の圧縮 | 仮設費+営業継続の両方 |
金利が上がる局面では、借入で工事をするオーナーさまほど、工期そのものがコストになります。工期が延びれば足場のリース期間が延び、営業への影響期間も延びる。ここでも、工法の選択が効いてきます。
金利上昇局面で、次の総会までにやっておきたい5つのこと
具体的な行動に落とします。順番にも意味があります。
- 長期修繕計画の「工事費の前提年」を確認する。 何年時点の単価で積算されているかを見てください。5年以上前の単価で組まれていれば、いまの相場とは相当に乖離している可能性があります。
- 借入を前提にするかどうかを、先に決める。 借入をするなら、返済期間と金利によって「借りられる上限」が決まります。とくに、外壁塗装と防水だけの工事なら機構融資の返済期間は10年が上限です。工事の仕様を詰める前に、資金の枠を確定させるほうが手戻りがありません。
- マンション管理計画認定の取得を検討する。 金利の引き下げに加えて、長期修繕計画そのものが点検されます。所在する自治体の窓口に、要件と標準的な審査期間を確認してください。
- 「マンションすまい・る債」の残高の有無を確認する。 既に積み立てているなら、金利引き下げの要件を一つ満たしている可能性があります。
- 見積を取る前の段階で、工法の選択肢を検討する。 仕様が固まってから工法を変えるのは大変です。劣化診断の段階で「この建物は足場が要るのか、要らない面があるのか」を整理しておくと、その後の見積比較が一段クリアになります。
見積書と資金計画、ここを見てください
理事会で見積書を配られたときに、私がいつも「まずここを見てください」とお伝えしている箇所です。
見積書のチェックポイント
- 仮設工事の金額と、その内訳。 「仮設工事一式」で1行になっている見積書は、内訳を求めてください。枠組足場の架面積(㎡)と単価が出ているかどうかで、比較の精度がまるで違います。
- 架面積の㎡数が、業者ごとに揃っているか。 同じ建物なのに架面積が業者間で1割以上違うなら、どちらかの拾いが実態と合っていない可能性があります。
- 足場の設置期間(リース期間)。 仮設足場は多くの場合、期間に応じた費用が発生します。工期が延びれば、その分だけ費用が積み上がる構造です。
- 数量の根拠。 下地補修の数量は「想定」で入っていることが多く、実測で増減します。増減の精算ルールが契約書に書かれているかを必ず確認してください。
- 諸経費率。 現場管理費と一般管理費が何%で計上されているか。工事費全体に対する比率で見ると、業者間の差が見えやすくなります。
資金計画のチェックポイント
- 毎月の返済額が、修繕積立金月額の80%以内に収まっているか
- 借入金利は全期間固定か、変動か(機構の融資は全期間固定)
- 保証料が融資額から差し引かれることを織り込んでいるか
- 次回(12年後前後)の大規模修繕までに、返済と積立の両方が回るか
なお、国土交通省のマンションの修繕積立金に関するガイドライン(平成23年4月策定/令和6年6月改定)には、専有面積あたりの積立金額の目安が示されています。自組合の水準を客観的に確認する材料として使えます。
また、令和5年度マンション総合調査によれば、修繕積立金の積立額が計画に対して不足しているマンションは36.6%にのぼり、そのうち11.7%は不足の割合が20%を超えていました。これは特殊な話ではなく、3組合に1組合以上が直面している状況です。
なお、工事費そのものがどう動いているかについては、大規模修繕の費用高騰は、賃料上昇では埋まらないで資材価格の側から整理しています。自治体ごとの補助制度については上野原市のマンション補助金|大規模修繕2026年版のような自治体別の記事もあわせてご覧ください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 金利が上がる前に、大規模修繕を前倒しすべきですか。
A. 一概には言えません。ただし、劣化診断の結果として「いま着手すべき」と判断された工事を、資金面の理由だけで先送りする場合は、工事費・金利・補修数量の三つが増える可能性を織り込んで比較してください。判断材料は本文の「先送りで増えるもの」の表にまとめています。
Q2. マンション管理計画認定を取ると、金利はいくら下がりますか。
A. 住宅金融支援機構のマンションすまい・る融資には金利引き下げの要件が3つあり(①耐震・浸水対策・省エネのいずれかの工事を伴う ②すまい・る債の残高がある ③管理計画認定を取得している)、該当数に応じて1つで年0.20%、2つで年0.40%、3つすべてで年0.60%下がります(引き下げ後の下限は年0.1%)。令和8年8月時点の返済期間1年以上10年以内なら、標準の年1.51%が2つ充足で年1.11%になります。金利は毎月見直されるため、申込み時点の最新金利をご確認ください(出典:住宅金融支援機構)。
Q3. 管理組合はいくらまで借りられますか。
A. 融資対象工事費の範囲内で、かつ毎月の返済額が毎月徴収する修繕積立金の額の80%以内であることが条件です。他の借入がある場合は合算して判定されます。金利が上がると毎月の返済額が増えるため、借入可能額は実質的に縮みます。
Q4. ロープアクセス工法にすれば、必ず安くなりますか。
A. なりません。建物の形状、補修数量、支点の確保可否、周辺環境によって、足場のほうが合理的なケースがあります。私どもは劣化診断の結果をもとに、通常足場・ロープアクセス・ハイブリッドの3案を比較したうえでご提案しています。
Q5. 路線価が上がると、賃貸マンションのオーナーには何が起きますか。
A. 相続税・贈与税の計算に使う土地の評価額が上がります。一方で家賃収入が自動的に増えるわけではないため、資産評価とキャッシュフローの差が広がります。具体的な税額への影響は個別事情によって大きく異なるため、税理士等の専門家にご相談ください。私は税務の専門家ではありませんので、この記事は税務上の助言ではありません。
この記事のポイントまとめ
- 長期金利は2026年8月18日に一時2.945%と、30年ぶりの高水準になった
- 借入前提の大規模修繕では、金利は仕様や数量と同じ「見積項目」として扱う段階に入った
- 機構融資の金利引き下げ要件は3つあり、併用でき、3つすべて満たせば最大年0.60%下がる
- 返済期間は原則10年以内。20年・35年にできるのは特定の工事を伴う場合に限られる
- 毎月の返済額は修繕積立金月額の80%以内という制約があり、金利上昇は借入可能額を縮める
- 仮設足場は建物の性能を上げない費用であり、工法の選択で圧縮できる余地がある
- ロープアクセス工法は万能ではなく、向かない建物・条件がはっきり存在する
おわりに
金利のことも、路線価のことも、私たち施工会社が動かせるものではありません。私にできるのは、同じ建物を、同じ品質で、より少ない仮設費で直す方法を一緒に探すことだけです。
ただ、その「だけ」が、いまの局面ではかなり効きます。借入額が小さくなれば、金利が0.4%上がろうが下がろうが、影響そのものが小さくなるからです。金利を追いかけるより、借りる額を小さくするほうが、たいていの場合は確実です。
工事のご発注が決まっていなくても構いません。長期修繕計画の数字が現実と合っているかどうか、その一次的な整理だけでも、お力になれることがあります。総会の前段階のご相談だけでも、お問合せフォームから遠慮なくお声がけください。
これは私が現場で20年見てきた、嘘偽りのない感想です。次回も、現場で本当に使える話だけをお届けします。
執筆者:本間 幸紘(株式会社明誠 代表取締役)
専門領域:マンション大規模修繕/ロープアクセス工法/建物長寿命化計画
実務経験:建設・改修業界 20年以上
所属:一般社団法人 全国建設業支援協会(JCSA)
株式会社明誠について:東京都小平市を拠点に、東京・関東一円でロープアクセス工法と従来足場工法の両方を提案できる改修会社。日本初のロープアクセス工事フランチャイズを展開しています。
最終更新:2026年8月20日
※本記事は制度・金利・統計の一般的な解説であり、税務・法務・金融に関する個別の助言ではありません。制度および金利は変更される可能性があります。適用の可否や最新の数値は、必ず各公式窓口でご確認ください。
出典・参考資料
- 住宅金融支援機構「マンション共用部分リフォーム融資・災害復興住宅融資(管理組合申込み)等の融資金利について」(令和8年8月適用分)
- 住宅金融支援機構「マンションすまい・る融資(管理組合申込みの場合)」
- 国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」(平成23年4月策定/令和6年6月改定)
- 国土交通省「令和5年度マンション総合調査結果」
- 日本銀行「金融政策決定会合の運営/各会合の公表資料」
- 国土交通省「建設工事費デフレーター」(政府統計の総合窓口 e-Stat)
- 国税庁「路線価図・評価倍率表」(令和8年分、2026年7月1日公表)
- 日本経済新聞「長期金利上昇、一時2.945% 財政懸念や日銀利上げ観測で」(2026年8月18日)
- 日本経済新聞「不動産株が相次ぎ年初来安値 金利上昇加速で売り」(2026年8月18日)
- ロープアクセスドットコム(ロープアクセス工法の技術解説)
日銀が31年ぶりの「金利1%」へ——“逆ザヤ”が膨らむ局面で、収益物件オーナーが唯一コントロールできる変数は、大規模修繕の「工法選択」だ【2026年6月】
「金利が上がっても、自分の物件には関係ない」。もしそう感じているオーナーさんがいらっしゃったら、いったん立ち止まって読んでいただきたい記事です。2026年6月、日本銀行は金融政策決定会合で政策金利を1.0%程度へと引き上げたと報じられました。1.0%という水準は、報道によれば実に31年ぶりの高さです。長く「ゼロ金利が当たり前」だった時代が、静かに、しかし確実に終わろうとしています。
私は大規模修繕の現場を20年以上預かってきました。金利や為替、海外マネーの動きは、私たちオーナーや管理組合の力ではどうにもなりません。けれど、物件の「物理的な状態」と「維持管理コスト」だけは、唯一こちら側でコントロールできる変数です。金利上昇でキャッシュフローが細る局面でこそ、このコントロールできる一手をどう使うかが、収益と資産価値を左右します。
この記事では、まず金利の世界でいま何が起きているのかを公的な情報で整理します。そのうえで、収益物件オーナーと管理組合が「逆ザヤ(持ち出し)」の拡大に備え、資産価値を守るために何をすべきかを、現場の視点で具体的にお伝えします。結論から言えば、これからの不動産は「選ばれる物件」と「選ばれない物件」の二極化がさらに進みます。その分かれ目を握るのが、大規模修繕の進め方、とりわけ「工法選択」です。
いま金利の世界で起きていること——「31年ぶりの1%」の中身
まず事実関係を冷静に押さえます。報道によれば、日本銀行は2026年6月の金融政策決定会合で、政策金利をそれまでの0.75%程度から1.0%程度へと引き上げました。1.0%という政策金利は、1990年代半ば以来、およそ31年ぶりの高水準だと伝えられています。
ここで言葉を整理しておきます。「政策金利」とは、日本銀行が金融政策として誘導する短期の金利のことで、これが上がると銀行間でお金を貸し借りする際のコストが上がり、めぐりめぐって私たちが借りる住宅ローンや事業用ローンの金利にも影響します。とりわけ「変動金利」は、この政策金利の動きにおおむね連動して見直されていく仕組みです。
住宅金融支援機構の利用者調査によると、住宅ローンを新たに借りる人の約79%が変動型を選んでいると報じられています。つまり、いま借りている人の多くが、金利上昇の影響を受けうる立場にいるということです。投資用・事業用のローンも、変動で組んでいるケースは少なくありません。
報道や金融機関の解説をまとめると、今回の利上げを受けて、住宅ローンの変動金利は2026年の秋以降に多くの銀行が一斉に0.25%程度引き上げる、という見方が有力とされています。私たち事業者が現場で感じるのは、「金利は当面ゼロ近辺」という前提で組んだ資金計画が、いま静かに揺らぎ始めているという実感です。
「すぐには返済額が増えない」——5年ルールという時限装置の正体
ここで多くのオーナーさんが安心しがちな落とし穴に触れておきます。変動金利には、いわゆる「5年ルール」「125%ルール」と呼ばれる仕組みがあります。金利が上がっても、毎月の返済額そのものは5年間据え置かれ、見直し後も従来の1.25倍までしか増えない、という借り手保護の仕組みです(適用の有無や内容は金融機関・商品により異なります)。
一見、ありがたい仕組みに見えます。けれど、ここに落とし穴があります。返済額が据え置かれても、金利が上がれば「返済額のうち利息が占める割合」は増えます。つまり、同じ金額を払っていても元金がなかなか減らなくなる。最悪の場合、利息が返済額を上回り、払っても元金が減らない「未払い利息」が発生することもあります。
要するに5年ルールは、痛みを消してくれるのではなく、痛みを先送りする時限装置です。「返済額が変わっていないから大丈夫」と感じている今このときに、水面下で利息負担は増えている可能性がある。これが、金利局面で収益物件オーナーが最初に理解しておくべき構造です。
収益物件オーナーを直撃する“逆ザヤ”の正体
賃貸経営でいちばん怖いのは、毎月の「持ち出し」、いわゆる逆ザヤです。家賃収入よりも、ローン返済・管理費・修繕積立金・税金などの支出が多くなり、毎月身銭を切って物件を維持する状態を指します。
メディアの報道では、金利上昇局面で、当初は月1万円ほどだった持ち出しが、3万円、5万円と膨らんでいくケースが増えていると指摘されています。逆ザヤを押し広げる要因は、大きく三つです。一つ目はローン金利の上昇による返済負担増。二つ目は、ここ数年の物価高と人手不足を背景にした管理費の上昇。そして三つ目が、本記事の核心でもある修繕積立金の値上げです。
金利は日銀が決めるもので、私たちには止められません。管理費も、人件費や物価が上がるなかで簡単には下げられません。では、三つのうちオーナーや管理組合が主体的にコントロールできる変数はどれか——それが「修繕」にかかるコストなのです。ここを甘く見るか、戦略的に使うかで、逆ザヤの幅は大きく変わります。
なぜ「個人はマンション破産、企業不動産は外国ファンドへ」なのか
2026年6月、ある経済メディアが「個人はマンション破産、企業不動産は外国ファンドへ」という、やや刺激的な見出しで金利上昇後の不動産の未来図を論じ、話題になりました。私はこの構図を、現場の実感に近いものとして受け止めています。
個人の側では、逆ザヤに耐えきれなくなったオーナーが、投資用マンションを手放す動きが出始めていると報じられています。ところが、金融機関が融資に慎重になり、買い手の投資需要も冷えるため、「売りたい値段」と「実際に売れる値段」の差が広がる。売るに売れない、けれど持ち続けると毎月の持ち出しがかさむ——この板挟みが、いわゆる「マンション破産」と呼ばれる事態の入り口です。
一方、企業や大型物件の世界では、円安を背景に海外投資家の存在感が増しています。ある調査では、2025年の日本の不動産投資に占める海外投資家の割合が約39%に達し、過去のピークを上回ったとされています。同じ「金利上昇」という出来事が、資金力と時間軸の違いによって、個人には逆風、海外マネーには追い風として働く。これが、いま静かに進んでいる二極化の正体です。
この二極化のなかで、個人や中小のオーナーが「選ばれる側」に残るには何が必要か。価格を決めるのは最終的に「その物件が将来も収益を生み続けられるか」という信頼であり、その信頼を支えるのが、建物の物理的な健全性、すなわち適切な修繕です。
コントロールできる変数は「維持管理コスト」だけ
ここまでを整理します。金利は止められない。為替も海外マネーも止められない。家賃も、相場が緩んでいる地域では強気に上げられない。つまり、収益の方程式に出てくる変数のうち、オーナーが自分の意思で動かせるものは驚くほど少ない。
そのなかで、ほぼ唯一、戦略的に動かせるのが「維持管理コスト」、とりわけ大規模修繕にかかる費用です。大規模修繕は、十数年に一度、数百万円から、規模によっては数千万円単位の支出が発生する、キャッシュフロー上の最大級のイベントです。ここで「言われるがまま」に発注するか、「工法から最適化」して発注するかで、総額が大きく変わります。
私がこの記事でいちばんお伝えしたいのは、金利局面では「修繕費を削ること」ではなく「修繕費を最適化すること」が答えだ、という点です。削れば建物が傷み、結局は資産価値を下げてしまう。そうではなく、同じ品質を、より少ない費用で実現する。その鍵が、次にお話しする「工法選択」です。
修繕コストを左右する最大の要素——「工法選択」とは
大規模修繕の費用を考えるとき、多くの方が「塗料のグレード」や「職人の手間賃」に目を向けます。もちろんそれも大切ですが、実は総額を最も大きく左右するのは、もっと手前の「どうやって建物の高いところまで人が到達するか」、すなわち工法の選択です。
外壁を直すには、まず作業する人が壁面に安全に届かなければなりません。その「到達手段」には、大きく分けて三つあります。従来型の足場を組む方法、足場を使わずロープでぶら下がって作業するロープアクセス工法(無足場工法)、そして両者を部位ごとに使い分けるハイブリッド工法です。
ここで補足します。「ロープアクセス工法」とは、産業用のロープと安全器具を使い、作業者が建物の屋上などから降下しながら外壁の補修・塗装・防水・調査などを行う無足場の工法です。高い安全基準のもとで訓練された技術者が施工します。足場の組み立て・解体が不要なため、足場の架設費や、足場を借り続ける期間に応じた費用を抑えられるのが大きな特徴です。
3つの工法を、長所も短所も正直に比較する
どの工法が「いつも最善」ということはありません。建物の高さ、形状、劣化の度合い、入居者の状況によって、最適解は変わります。明誠が他社と違うのは、特定の工法を売りたいのではなく、三つすべてを自社の選択肢として持ち、建物にとってベストな組み合わせを提案できる点にあります。日本でも、これができる会社は多くありません。
| 工法 | 主な長所 | 主な短所 | 向いている建物 |
|---|---|---|---|
| 通常足場工法 | 全面を一度に施工でき、大規模・複雑な作業に強い。作業が安定 | 足場の架設・解体費がかかり、設置期間が長い。窓がふさがれ、防犯面の懸念も | 中低層、形状が複雑、全面的な改修が必要な物件 |
| ロープアクセス工法(無足場) | 足場費が不要で総額を抑えやすい。工期が短く、生活への影響が小さい | 一度に作業できる範囲が限られ、大量の部材を扱う作業には不向き | 高層、足場が架けにくい、部分補修やコスト最重視の物件 |
| ハイブリッド工法 | 部位ごとに足場とロープを使い分け、総コストと品質を両立 | 工程管理に高い技術と経験が必要 | 大規模・複雑で、総合的なコスト最適化が要る物件 |
大切なのは、この表の「短所」の欄も含めて、正直にお伝えすることだと考えています。短所を隠して契約を取っても、現場で必ずほころびが出るからです。
ロープアクセスは万能ではない——ここは正直に申し上げます
コスト面で有利なロープアクセス工法ですが、万能ではありません。たとえば、外壁全面のタイルを大量に張り替えるような作業や、足場上で資材を多く扱う必要がある工事では、足場のほうが効率的で安全な場合があります。また、建物の形状によってはロープを下ろす支点が確保しにくく、適さないこともあります。
だからこそ、私たちは現地調査を重視します。「ロープアクセスありき」でも「足場ありき」でもなく、建物を診たうえで、足場が向く部位は足場で、ロープが向く部位はロープで、と冷静に切り分ける。この「正直な切り分け」こそが、結果としてオーナーの総コストを最も下げる近道だと、現場の経験から確信しています。
数字で実感する——工法選択で「いくら」変わるのか
具体的なイメージを持っていただくために、考え方をお示しします。一般に、大規模修繕の総額に占める足場の費用は決して小さくありません。建物の規模や形状によりますが、足場の架設・解体・賃料は工事費全体のなかで相当の比率を占めることがあります。
仮に、ある中規模マンションで足場を使う前提だと総額が見えていたとして、外壁の傷み具合や形状によっては、その一部または全部をロープアクセスやハイブリッドに置き換えることで、足場関連の費用を圧縮できる可能性があります。浮いた費用は、塗料や防水材のグレードアップに回すこともできますし、そのまま積立金の温存、つまり逆ザヤの圧縮に充てることもできます。
ここで申し上げたいのは、「いくら下がる」と断定することではありません。削減幅は建物ごとにまったく違うからです。お伝えしたいのは、「工法を見直すだけで、品質を落とさずにコストの選択肢が広がる」という事実です。金利で支出が増える局面では、この選択肢の有無が効いてきます。
私が現場でよく申し上げるのは、「足場は“見えないコスト”の塊だ」ということです。足場そのものの材料費だけでなく、組み立てと解体の人件費、運搬費、そして設置している期間ぶんの賃料が積み重なります。工期が延びれば、その分だけ足場のコストも膨らむ。逆に言えば、工法を見直して工期を縮められれば、目に見える工事費だけでなく、この「見えないコスト」も同時に圧縮できるのです。金利でキャッシュフローが細る局面では、この差が効いてきます。
「金利上昇でも円安」が示す、これからの修繕戦略
今回の局面でもう一つ押さえておきたいのが、「金利が上がっても、必ずしも円高にはならない」という構図です。欧米との金利差がなお大きいため、利上げ後も円安基調が続くと見る専門家は少なくありません。円安は、海外投資家にとって日本の不動産を割安に見せ、企業や大型物件への海外マネー流入を後押しします。
これは個人オーナーにとって、二つの意味を持ちます。一つは、円安と資材の輸入価格上昇が続けば、塗料や防水材といった修繕資材のコストも高止まりしやすいということ。もう一つは、海外マネーが「選ぶ」物件と「選ばない」物件の差が、今後さらに鮮明になるということです。選ばれる物件であり続けるための条件は、結局のところ「きちんと手入れされ、収益を生み続けられる建物」であること。その手入れを、いかに賢く、無駄なく行うか——ここでも工法選択が効いてきます。私は、円安と金利高が重なるこの局面こそ、修繕を「守りの支出」から「価値を守る投資」へと捉え直す好機だと考えています。
利回りで考える——修繕費はネット利回りに直撃する
収益物件は「利回り」で評価されます。とくに重要なのは、表面利回りではなく、諸経費を引いたあとの「ネット利回り(実質利回り)」です。大規模修繕は十数年に一度とはいえ金額が大きいため、長期で均してみると、ネット利回りを確実に押し下げる要素になります。
金利が上がると、買い手は物件をより厳しい目で評価します。同じ家賃でも、返済負担が増える前提では、求められる利回り水準が上がる。すると、ネット利回りを左右する修繕コストの巧拙が、そのまま売却時の評価、つまり資産価値に跳ね返ってきます。修繕を「コスト最適化」できているオーナーは、利回りを守れる分だけ、価格調整局面でも値崩れしにくいのです。
逆に言えば、工法を見直さず、漫然と高い修繕費を払い続けてきた物件は、いざ売ろうとしたときに「利回りが出ない物件」として買い叩かれるリスクがあります。金利上昇は、こうした「修繕の巧拙」を価格として可視化させる引き金になります。
修繕積立金の値上げも“逆ザヤ”要因——管理組合の理事として
分譲マンションの一室を貸している区分所有オーナーにとって、もう一つの逆ザヤ要因が修繕積立金の値上げです。資材高騰と人手不足で工事単価が上がり、計画どおりの積立では足りず、増額や一時金が議論される管理組合が増えていると報じられています。
ここで効いてくるのが、管理組合としての工法選択です。管理組合が大規模修繕を発注する際、複数の工法を比較検討するだけで、同じ工事を実現しつつ総額を抑えられる可能性があります。総額が抑えられれば、積立金の急激な値上げや一時金の徴収を避けやすくなり、結果として各区分所有者の逆ザヤも緩みます。区分オーナーであり管理組合の一員でもある立場なら、総会で「工法の比較検討」を提案する価値は十分にあります。
なお、自治体によっては、マンションの長寿命化や省エネ改修に対する補助制度が用意されている場合があります。制度は年度ごとに内容や予算枠が変わり、受付期間も限られます。利用を検討する場合は、必ず最新の募集要領を自治体窓口で確認することをおすすめします。
ホテル・宿泊施設のオーナーにも、同じ理屈が効く
ここまで賃貸・分譲を中心にお話ししてきましたが、ホテルや宿泊施設を所有・運営されている方にも、まったく同じ理屈が当てはまります。むしろ宿泊施設では、修繕中に客室を止めれば、その間の売上がそのまま失われます。工期の長さが、直接、機会損失につながるのです。
足場を全面に組めば、外観が損なわれ、客室からの眺望や採光も妨げられます。稼働を維持しながら外壁や防水を直したい——そんなニーズに対して、足場を使わないロープアクセスや、稼働中の棟を避けて部位ごとに使い分けるハイブリッドは、有力な選択肢になります。金利上昇で資金繰りがシビアになる局面では、「工期を縮め、稼働を止めない修繕」の価値はいっそう高まります。
長期修繕計画は「金利が上がった今」こそ精査する
長期修繕計画とは、十数年〜数十年先までの修繕の時期と費用を見通した計画のことです。多くの計画は、低金利・低物価の時代に作られたまま更新されていません。資材費も人件費も金利も動いた今、その前提はもう古くなっている可能性があります。
金利が上がった今こそ、長期修繕計画を一度棚卸しすることをおすすめします。ポイントは三つです。第一に、工事費の前提単価が現在の相場に合っているか。第二に、各工事に工法選択の余地が織り込まれているか(足場前提で積算されたまま放置されていないか)。第三に、積立や資金計画が、金利上昇後の返済負担を踏まえても無理のないものになっているか。この精査だけで、将来の一時金リスクを大きく下げられることがあります。
オーナー・管理組合が「いま」打つべき3つの手
最後に、金利1%時代に入った今、具体的に何から始めればよいかを三つに絞ってお伝えします。
第一に、自分のローンの金利タイプと見直し時期を確認することです。変動なのか固定なのか、5年ルールの対象か、次の見直しはいつか。痛みが先送りされているだけの可能性があるという前提で、資金繰りを点検してください。
第二に、次の大規模修繕について「工法の比較見積もり」を取ることです。足場前提の見積もりだけでなく、ロープアクセスやハイブリッドを含めた複数案を比較する。これだけで、品質を落とさずコストの選択肢が見えてきます。明誠は三つの工法すべてを自社で扱うため、フラットな比較提案ができます。
第三に、長期修繕計画と積立計画を、現在の相場と金利を前提に見直すことです。古い前提のまま走り続けると、いざというときの一時金が逆ザヤを一気に深くします。早めの精査が、将来のキャッシュフローを守ります。
良い施工会社をどう見極めるか
工法の選択肢を持つことと同じくらい大切なのが、信頼できる施工会社を選ぶことです。見極めの目安をいくつか挙げます。まず、特定の工法だけを強く推さず、建物を診たうえで複数の選択肢を正直に提示してくれるか。次に、短所やリスクも隠さず説明してくれるか。そして、見積もりの内訳が明朗で、足場費や工法ごとのコストが比較できる形になっているか。
明誠は、塗装・防水・タイル・電気・看板など各分野の専門職が加盟するロープアクセスのフランチャイズネットワークを、日本で初めて構築しました。各分野のプロが連携することで、高品質と低価格の両立を目指しています。金利でコストに敏感にならざるを得ない今だからこそ、「正直な比較提案」ができるパートナーを選んでいただきたいと思います。
よくあるご質問(FAQ)
Q. 金利が上がっても、当面は返済額が変わらないと聞きました。今すぐ動く必要はありますか。
A. 返済額が据え置かれていても、金利上昇分は利息として水面下で負担が増えている可能性があります。「痛みが先送りされている」状態と捉え、次の大規模修繕や資金計画の点検を早めに始めておくことをおすすめします。
Q. ロープアクセスは足場より必ず安いのですか。
A. いいえ、必ずではありません。建物の形状や工事の内容によっては足場のほうが効率的・経済的な場合があります。だからこそ、建物を診たうえで工法を切り分ける比較検討が大切です。
Q. 修繕費を削れば、逆ザヤは改善しますか。
A. 単純に削ると建物が傷み、結局は資産価値と利回りを下げてしまいます。お伝えしたいのは「削る」ではなく「同じ品質をより少ない費用で実現する=最適化する」という考え方です。
Q. 分譲マンションの一室を貸しています。工法選択は個人にもメリットがありますか。
A. はい。管理組合の大規模修繕で工法を比較検討すれば、総額を抑えられ、積立金の急な値上げや一時金を避けやすくなります。区分オーナーの逆ザヤ対策にもつながります。
Q. 補助金は使えますか。
A. 自治体によって長寿命化・省エネ改修などの補助制度がある場合があります。年度ごとに内容や予算枠が変わり、受付期間も限られるため、必ず最新の募集要領をご確認ください。
おわりに
金利が31年ぶりの水準まで上がった今、収益物件を取り巻く環境は確かに厳しくなりました。けれど、悲観する必要はありません。金利も為替も海外マネーも止められないなかで、私たちが自分の意思で動かせる変数が、まだ一つ残っているからです。それが、大規模修繕の「工法選択」です。
同じ建物を、同じ品質で、より少ない費用で守る。その積み重ねが、逆ザヤを抑え、ネット利回りを守り、二極化の時代に「選ばれる物件」として生き残る力になります。金利の波は止められなくても、波の受け方は選べます。私たちは、その選択を、足場・ロープアクセス・ハイブリッドの三つの工法を正直に並べて、お手伝いしたいと考えています。
工法の比較や長期修繕計画の見直しについては、お気軽にご相談ください。建物を一度しっかり診たうえで、いまの金利環境に合った最適な進め方を、数字とともにご提案します。
関連情報・参考リンク
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