取手市のマンション補助金・税制ガイド2026|管理組合が使える制度を、市の一次情報で整理しました
取手市の分譲マンションを見せていただくと、私はいつも同じことを感じます。「この街は、いい時期に、いい場所に、たくさんのマンションが建った。だからいま、まとまって修繕の山が来ている」と。
取手市は、JR常磐線と関東鉄道常総線が通り、上野・東京へ常磐線快速でおおむね45分という、昔から人気の高いベッドタウンです。高度成長期からバブル期にかけて、駅前や団地エリアに分譲マンションが一気に増えました。その建物が、いま築40年から50年にさしかかっています。2回目・3回目の大規模修繕を迎え、同時に修繕積立金の不足に頭を抱える管理組合が、本当に増えています。
私は塗装屋として二十年以上、マンションやビルの外壁と向き合ってきました。現場で一番悔しい思いをするのは、「使えるお金の制度があったのに、誰も知らないまま、言い値で工事を発注してしまっていた」というケースに出くわしたときです。取手市の理事長さんには、そういう思いをしてほしくない。だからこの記事を書きます。
この記事では、2026年(令和8年)7月時点で、取手市の分譲マンション管理組合が使える制度を、市役所の一次情報にあたって整理しました。先に、いちばん大事な結論から正直に申し上げます。取手市にも、「大規模修繕工事の費用そのものに現金を出してくれる市の補助金」は、残念ながら確認できませんでした。ここはごまかしません。
しかし、がっかりするのはまだ早いです。取手市には、管理組合が使える制度の「筋道」がちゃんと通っています。ひとつはマンション管理計画認定制度がすでに申請できる状態にあること。ふたつめは、マンション長寿命化促進税制で固定資産税が減額される道があり、しかも市のページが国の期限延長を正確に反映していて申告しやすいこと。この2つを軸に、認定から税制、融資、そして工法によるコスト削減まで、順番につないでいきましょう。
まず結論:取手市の管理組合が押さえるべき制度・早見表
理事会の配布資料にそのまま貼れるよう、先に一覧にします。詳しい中身は、このあと順番に解説していきます。
| # | 制度名 | 誰が出しているか | 管理組合にとっての意味 | 窓口 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 取手市マンション管理計画認定制度 | 取手市 | 管理レベルの公的なお墨付き。すべての入口 | 市 都市計画課 |
| 2 | マンション長寿命化促進税制(固定資産税3分の1減額) | 国/取手市 | 認定+大規模修繕で翌年度の固定資産税が3分の1減る | 市 課税課(資産税) |
| 3 | マンション共用部分リフォーム融資(すまい・る融資) | 住宅金融支援機構 | 認定等で金利引下げ。積立金不足の補完に | 住宅金融支援機構 |
| 4 | 住宅リノベーション補助金 | 取手市 | ※自己居住・専有部向け。共用部の大規模修繕は対象外 | 市 都市計画課 |
| 5 | 令和8年度木造住宅耐震改修費補助 | 取手市 | ※木造戸建向け。RC造マンション共用部は対象外 | 市 建築指導課 |
| 6 | 住宅用太陽光・自立分散型エネルギー補助 | 取手市 | ※基本は個人住宅向け。共用部利用は要確認 | 市 環境対策課 |
この表でいちばんお伝えしたいのは、「1番と2番はセットで効く」ということです。管理計画の認定を取り、その上できちんと大規模修繕をやると、翌年度の固定資産税が3分の1軽くなる。取手市は、この道がちゃんとつながっている街です。順番に見ていきます。
制度1:取手市マンション管理計画認定制度――すべての入口はここ
令和6年4月から、取手市で申請できるようになりました
まず大前提の話です。マンション管理計画認定制度とは、管理組合の運営や長期修繕計画などが国の基準を満たしていることを、市が公的に認定する仕組みです(マンションの管理の適正化の推進に関する法律の第3章に基づく制度です)。かみくだくと、「このマンションはちゃんと管理されています」という、行政のお墨付きだと考えてください。
この制度は、全国どこでも自動的に使えるわけではありません。各市区町村が「うちでも認定を始めます」と体制を整えて、はじめてその市のマンションが申請できるようになります。取手市は、この認定制度を令和6年4月1日から運用開始しています。つまり、取手市の分譲マンションは、いま申請しようと思えば申請できる状態にあります。「申請できる街」なのです。
対象は、市内にある既存の区分所有された分譲マンションです。申請できるのは、マンション管理組合の管理者等(理事長など)です。認定を受けると、市場価値の向上が期待できるほか、このあと説明する固定資産税の特例措置や、融資の金利引下げなどが利用できる、と市も明記しています。
認定基準は「国の基準そのまま」――取手市の上乗せはありません
取手市は、認定基準についてこう書いています。「国土交通省告示で定められた基準のとおりです。(市独自の基準はありません)」。
これは地味ですが、管理組合にとって大きな安心材料です。市が独自のハードルを追加していないので、全国共通の国の基準さえクリアすれば認定される。ほかの市の事例やマニュアルがそのまま参考にできる、ということです。取手市のホームページには、認定基準をまとめた「管理計画の認定基準(茨城県)」というPDFも用意されています。
国の認定基準を、理事長の目線でおおまかに噛みくだくと、次のような柱になります。
第一に、管理組合の運営。管理者等(理事長など)が定められ、監事も置かれ、集会(総会)が年1回以上ちゃんと開かれていること。第二に、管理規約。適切に定められ、緊急時の対応や、組合員名簿・修繕等の情報開示についても規定されていること。第三に、管理組合の経理。管理費と修繕積立金の会計が分かれ、区分経理されていること。第四に、いちばん実務的に大事な長期修繕計画。計画期間が30年以上あり、その中に大規模修繕工事が2回以上含まれ、かつ7年以内に見直されたものであること。そして、その計画に見合った修繕積立金が設定されていること。第五に、組合員名簿・居住者名簿を備え、1年に1回以上更新していること。
こうして並べると、これは「認定のための特別なハードル」というより、「そもそも健全な管理組合の姿」そのものです。認定を目指す過程で、管理が自然と整っていく。私はこれこそが認定制度の一番の価値だと考えています。
申請は「事前確認 → 市へ申請」の流れ。市の手数料は無料です
取手市が案内している認定手続きの流れは、次のとおりです。
まず、総会での合意が出発点です。認定申請を行うには、管理組合の総会で認定申請の承認を得る必要があります。ここは管理組合ならではのステップですので、総会のスケジュールから逆算して動きましょう。
次に、事前確認です。市に認定申請を行う前に、認定基準に適合しているかどうかの確認を、公益財団法人マンション管理センターに依頼します。基準を満たすと認められると、「管理計画認定手続支援サービス」という電子システムを通じて、マンション管理センターから「事前確認適合証」が発行されます。
最後に、市への認定申請です。都市計画課の窓口で申請します(先ほどの支援サービスを通じてオンラインで申請することも可能です)。審査が完了すると、市から管理計画認定通知が発行されます。
費用について、取手市は明快に書いています。「取手市への申請手数料は無料です」。ただし注意として、公益財団法人マンション管理センターが運用する支援サービスのシステム使用料と事前確認審査料が別途かかります。ここは「市に払うお金はゼロ、事前確認の実費だけがかかる」と整理して理解しておきましょう。認定の有効期限は、認定を受けた日から5年間です。
窓口は、取手市役所の都市計画課です。都市計画課は市役所の「分庁舎」内にあり、本庁舎とは場所が違いますのでご注意ください(住所は取手市西2-35-3、電話は0297-74-2141)。制度の入口として、まずここに一本電話を入れるところから始めるのが、いちばんの近道です。
なお取手市は、マンションの管理の適正化の推進に関する法律にもとづく「茨城県マンション管理適正化推進計画」を、茨城県と共同で作成しています。取手市のマンション施策は、この県との共同の枠組みの上に成り立っている、という点も知っておくとよいでしょう。
制度2:マンション長寿命化促進税制――取手市は「3分の1減額」、しかも期限が正確
大規模修繕をやると、翌年度の固定資産税が3分の1減ります
ここが、取手市の管理組合にとって、いちばん現金メリットの見えやすい制度です。
マンション長寿命化促進税制とは、一定の要件を満たすマンションが、長寿命化に資する大規模修繕工事を行った場合に、工事完了の翌年度分の家屋にかかる固定資産税を減額する制度です。取手市の場合、減額の範囲は「翌年度分の固定資産税(家屋分)の3分の1」で、住宅1戸あたり100平方メートル相当分まで(共用部分も含みます)が対象です。
正直にお伝えすると、この「3分の1」という割合は、国が示す標準的な水準です。日立市やひたちなか市のように「2分の1」まで踏み込んでいる市もあり、それらと比べると取手市は控えめです。ただ、それでも翌年度の固定資産税が3分の1減るのは、決して小さくありません。大規模修繕という大きな決断の背中を、確かに押してくれる制度です。
なお、都市計画税は減額の対象外です。また、耐震改修工事・バリアフリー改修工事・省エネ改修工事などの固定資産税減額とは、併せて適用することはできません。そして、過去にこの制度で減額を受けている場合、2回目の適用は受けられません。ここは「一世代に一度の切り札」だと考えておきましょう。
取手市の強み――市のページが「国の2年延長」を正しく反映しています
私がこの制度で取手市を評価しているのは、市のホームページが正確だという点です。
この長寿命化促進税制は、もともと令和5年度に始まった制度で、当初の対象期間は「令和5年4月1日から令和7年3月31日まで」でした。その後、国の税制改正で対象期間が2年延長され、いまは令和7年4月1日から令和9年3月31日までの工事が対象です。
ところが、この延長を市のページに反映しきれていない自治体が、実は少なくありません。古い期限のまま載っていて、「もう終わった制度だ」と誤解されてしまうのです。取手市のマンション長寿命化修繕に関する固定資産税減額のページは、更新日が2026年(令和8年)7月21日で、対象期間を「令和7年4月1日から令和9年3月31日まで」と正しく記載しています。制度が生きていることが、市の一次情報ではっきり確認できる。これは申告する管理組合にとって、大きな安心材料です。
要件は「3つの防水・塗装工事を一体で」――ここを外すと減額されません
減額を受けるための要件を、正確に押さえましょう。取手市のページには、次のように書かれています。
まず、大規模修繕工事の内容です。次の3つが、同一の工事請負契約の中で行われるなど、一体として扱われる工事である必要があります。
- マンションの外壁の修繕または模様替(外壁塗装等工事)
- 直接外気に開放されている廊下・バルコニーなどの防水措置のための修繕または模様替(床防水工事)
- 建物の屋上・屋根・ひさしなどの防水措置のための修繕または模様替(屋根防水工事)
ここが実務上いちばん大事なポイントです。「外壁だけ塗り替えました」「屋上防水だけやりました」では、この税制の対象になりません。外壁・床防水・屋根防水の3つを、ひとつの大規模修繕として一体で実施する必要があります。私が管理組合に「どうせやるなら、この3点をワンセットで計画に組み込みましょう」と必ずお伝えしているのは、まさにこの税制の要件に合わせるためです。
そのほかの要件は次のとおりです。築後20年以上が経過している、総戸数10戸以上のマンションであること。過去に大規模修繕工事を1回以上、適切に行っていること(複数回に分けて行った場合も対象になります)。そして、長寿命化に資する大規模修繕工事を適切に実施するために必要な修繕積立金が確保されていること。管理計画認定マンションの場合は、令和3年9月1日以降に、修繕積立金を認定基準未満から認定基準以上に引き上げていること、が積立金確保の要件になります(申告時に証明書が必要です)。
申告は、大規模修繕工事が完了してから3か月以内に、必要書類をそろえて市役所の課税課(資産税)へ提出します。工事が終わってから慌てないよう、着工前の段階で「この工事は税制の対象になるか」を、あらかじめ課税課(電話0297-74-2141)に確認しておくことを強くおすすめします。
制度3:住宅金融支援機構「マンションすまい・る融資」――積立金が足りないときの補完
大規模修繕を前にして、いちばん多いお悩みが「修繕積立金が足りない」というものです。そこで力になるのが、住宅金融支援機構のマンション共用部分リフォーム融資(マンションすまい・る融資)です。これは管理組合が申し込める、共用部分の工事のための公的な融資制度です。
2026年度の案内によると、この融資には、認定マンションにとって有利なポイントがいくつかあります。まず、管理計画認定を取得しているマンションが一定の工事を行う場合、返済期間を最長35年とすることができます。さらに、浸水対策工事や省エネルギー対策工事を実施する場合は、それぞれ0.2パーセントずつ金利を引き下げることができます。融資金利は、借入申込み時の金利が全期間固定で適用されます。
ここでも、制度1の「管理計画認定」が効いてくることに気づいていただけると思います。認定を取ると、税制だけでなく融資でも優遇される。認定は、取手市の管理組合にとって「いろいろな扉を開ける共通のカギ」なのです。
融資には、公益財団法人マンション管理センターによる債務保証を利用でき、あわせて「マンションすまい・る債」で計画的に積立金を運用する仕組みもあります。「借りる」だけでなく「貯める」側も整えておくと、次の大規模修繕がぐっと楽になります。
正直に言います――「使えそうで使えない」制度も、ちゃんとお伝えします
ここからは、取手市のホームページで見かけるものの、分譲マンションの共用部大規模修繕には使いにくい・使えない制度を、正直に整理します。「あるはずだ」と探し回って時間を無駄にしないために、あえて書いておきます。
住宅リノベーション補助金――対象は自己居住・専有部です
取手市には「住宅リノベーション補助金」があります。工事費の10パーセント(上限30万円、加算を含めて最大55万円)が出る、なかなか手厚い制度です。マンションも居住用床面積40平方メートル以上なら対象に入っており、対象工事には屋根・外壁の塗り替えなども含まれます。
ここだけ見ると「共用部の大規模修繕にも使えるのでは」と期待してしまいますが、この補助金は、中古で購入した自宅を自分が住むために改修するかた向けの制度です。市街化区域内にあること、自己居住用であること、住宅の登記簿に所有者として登記されていること、などが要件になっています。つまり、管理組合が共用部全体を大規模修繕する場面ではなく、区分所有者の個人が、自分の部屋(専有部)を直す場面で使う補助金だと理解してください。制度の期限は令和10年3月31日までです。
区分所有者の中に「中古で買った部屋を、これからリフォームする」というかたがいれば、その個人にとっては使える可能性があります。管理組合として案内するなら、そういう位置づけです。
木造住宅耐震改修費補助――RC造・SRC造マンションは対象外です
取手市は「令和8年度木造住宅耐震改修費または耐震建替費の補助」を行っています。工事費の5分の4または115万円のいずれか少ない額という、かなり手厚い補助です(募集は先着1棟、申込期間は令和8年6月1日から8月31日まで)。
ただし、対象は昭和56年5月31日以前に建築された、地上2階以下の木造一戸建て住宅などに限られます。鉄筋コンクリート造(RC造)や鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)のマンション共用部は、この補助の対象外です。ここを勘違いして期待してしまう理事長さんが時々いらっしゃるので、はっきりお伝えしておきます。
とはいえ、旧耐震のマンションが打つ手がないわけではありません。耐震改修促進法という法律には、要耐震改修認定を受けたマンションについて、共用部分の耐震改修工事の決議要件を、通常の「各4分の3以上」から「各過半数」に緩和する仕組みがあります。旧耐震のマンションで耐震補強を進めたい場合、この決議緩和は大きな武器になります。まずは市の建築指導課(分庁舎2階、電話0297-74-2141)に相談してみてください。
太陽光・蓄電池などの省エネ補助――基本は個人住宅向けです
取手市の環境対策課は、住宅用太陽光発電システムの補助金や、蓄電池を含む自立・分散型エネルギー設備導入事業費補助金など、再生可能エネルギー関連の補助を用意しています(住宅用太陽光は、令和8年度分の受付が令和8年3月17日午前9時から始まる案内が出ています)。
これらは基本的に、住宅における温室効果ガス削減を目的とした個人住宅向けの制度です。分譲マンションの共用部での活用が可能かどうかは、募集要項や年度ごとの予算枠によって変わり、私の側で断定はできません。管理組合として共用部にこうした設備を検討する場合は、必ず事前に環境対策課(電話0297-74-2141)へ、管理組合名義での申請が可能かどうかを確認してください。年度ごとに予算枠に達し次第終了する制度が多いので、動くなら早めがよいです。
取手市のマンション事情――「まとまって修繕期が来ている」という現実
ここで、取手市という街の特徴を、修繕の観点から少し整理させてください。
取手市は、高度成長期からバブル期にかけて、常磐線沿線のベッドタウンとして大きく発展しました。駅前や団地エリアに、当時の「新しい住まい」として分譲マンションが数多く供給されました。その建物が、いま一斉に築40年から50年を迎えつつあります。
これが何を意味するか。建物の劣化の波が、街全体でほぼ同じ時期に来ているということです。外壁のタイルが浮いてくる(叩くと「ポンポン」と軽い音がします。これを「浮き」と呼び、放置すると剥落=落下の危険につながります)、屋上防水が寿命を迎える、鉄部の塗装が錆びてくる――こうした症状が、あちこちのマンションで同時に表面化しています。
そして、多くの管理組合が同じ悩みを抱えます。「2回目、3回目の大規模修繕が近いのに、修繕積立金が足りない」。当初の積立計画が甘かったマンションほど、この局面で苦しみます。私が取手市の管理組合に、「まず管理計画認定を取り、税制と融資という公的な仕組みをフルに使いましょう」と繰り返しお伝えしているのは、この街の建物事情を踏まえてのことです。
修繕積立金が足りないとき――理事会で検討したい4つの打ち手
「積立金が足りない」と分かったとき、選択肢は大きく4つあります。理事会で、この4つを机の上に並べて議論してみてください。
第一に、積立金の値上げです。いちばん王道ですが、住民合意のハードルは高い。ただし、先ほどの長寿命化促進税制の要件に「積立金を認定基準以上に引き上げていること」が入っていることを思い出してください。値上げは、税制メリットへの入場券でもあるのです。
第二に、一時金の徴収です。工事の直前に各戸から集める方法ですが、負担感が大きく、これも合意が難しい局面が多いです。
第三に、融資の活用です。先ほどのマンションすまい・る融資などを使い、工事を先に行って、返済を積立金で賄っていく方法です。「いま直さないと危険」という緊急性がある場合に有効です。
そして第四に、私がいちばん強調したいのが、工事費そのものを下げることです。積立金を増やす努力と同じくらい、「出ていくお金を減らす」努力が効きます。ここで効いてくるのが、次にお話しする工法の選択です。
工事費を下げる本命――足場・ロープアクセス・ハイブリッドの3工法
大規模修繕の費用の中で、意外と大きな割合を占めるのが足場代です。建物の全面に足場を組むと、それだけで数百万円から、規模によっては一千万円を超えることもあります。しかも、足場を組んでいる間は日当たりや防犯の面で住民の生活にも影響が出ます。
私たち明誠は、この足場の問題に対して、3つの工法から建物にとってベストなものを選べる体制を持っています。
ひとつめが、通常の足場工法です。建物の全面に仮設足場を組む、いちばんオーソドックなやり方です。工事範囲が広く複雑な建物では、いまも足場が最適な場面は多くあります。
ふたつめが、ロープアクセス工法(無足場工法)です。屋上から専用のロープで作業員が降りながら、外壁の補修や塗装、防水を行う工法です。足場を組まないため、足場代を大きく削減でき、工期も短くできます。取手市に多い、部分的な補修や、限られた面の塗り替えでは、この工法が費用面で威力を発揮します。ロープアクセス工法の詳しい内容は、ロープアクセス工法のご紹介をご覧ください。
みっつめが、ハイブリッド工法です。これは、足場が要る面には足場を組み、ロープアクセスで対応できる面はロープで行う、という「使い分け」です。建物全体を一律の工法で縛らず、部位ごとに最適解を選ぶことで、総額を抑えます。私は大規模で複雑な建物ほど、このハイブリッドを提案するようにしています。大規模修繕の総合的な進め方については、大規模修繕工事のご紹介もあわせてご覧ください。
「足場を組まないと工事はできない」と思い込んでいる管理組合は、まだまだ多いです。しかし、工法の選択肢を持っているだけで、同じ工事が数百万円単位で変わることがあります。これは、脅しでも売り込みでもなく、私が現場で二十年見てきた事実です。ピンポイントの補修で足りる場合の考え方は、ピンポイント補修という選択肢でも紹介しています。
モデルケースで考える――「戸あたり」で見ると分かりやすい
制度と工法の話を、数字で体感していただくために、取手市に多いタイプの建物を想定した、2つのモデルケースで考えてみます。あくまで一般的な想定に基づく試算で、実際の金額は建物の状態によって変わりますが、考え方の参考にしてください。
ケースA:取手駅周辺、築28年・11階建て・48戸・新耐震のマンション
外壁・床防水・屋根防水を一体で行う、標準的な2回目の大規模修繕を想定します。全面足場で見積もると総額はおよそ9,000万円。これをハイブリッド工法に切り替えて足場を必要な面に絞ると、総額はおよそ7,800万円まで下がる、という試算になります。差額はおよそ1,200万円。48戸で割ると、1戸あたりおよそ25万円の差です。さらに、この工事は3工事を一体で行っているので、管理計画認定と積立金の引き上げをそろえれば、長寿命化促進税制で翌年度の固定資産税が3分の1減額される対象になり得ます。
ケースB:市街地の築44年・5階建て・18戸・旧耐震のマンション
こちらは規模が小さく、限られた面の補修が中心になるケースです。全面足場では過剰になりがちなので、ロープアクセスを主体にした計画が有効です。旧耐震のため、耐震改修促進法の要耐震改修認定を取れば、共用部の耐震改修の決議要件が各過半数に緩和されます。積立金が薄い場合は、マンションすまい・る融資で工事を先行させ、返済を平準化していく――こうした組み合わせで、無理なく前に進められます。
数字を「戸あたり」に落とすと、住民説明会での納得感がまるで違います。私は理事長さんに、必ず「総額」と「戸あたり」の両方で資料を作りましょう、とお伝えしています。
制度を使う順番――逆算カレンダーで動きましょう
制度はたくさんありますが、使う順番を間違えると、せっかくのメリットを取り逃します。取手市の管理組合が動くなら、次の8ステップの順番がおすすめです。
第一に、建物診断を受け、いまの劣化状況と、必要な工事の全体像をつかむ。第二に、長期修繕計画を見直す(30年以上・大規模修繕2回以上・7年以内見直し、という認定基準に合わせる)。第三に、修繕積立金の水準を点検し、必要なら引き上げの検討を始める。第四に、マンション管理計画認定の事前確認を、マンション管理センターに依頼する。第五に、総会で認定申請と大規模修繕の方針を決議する。第六に、外壁・床防水・屋根防水を一体にした工事内容で、工法(足場/ロープアクセス/ハイブリッド)を比較して発注する。第七に、必要に応じてマンションすまい・る融資を活用する。第八に、工事完了から3か月以内に、課税課へ長寿命化促進税制の申告を行う。
この順番の肝は、「認定と積立金の引き上げを、工事より前に段取りしておく」ことです。税制の申告は工事の後ですが、その資格づくりは工事の前から始まっています。総会は年に1回のことも多いので、逆算して1年から2年前には動き始めるのが現実的です。
住民合意を進める3つのコツ
制度と工法がそろっても、最後は住民の合意がなければ前に進みません。現場で見てきた、合意形成の3つのコツをお伝えします。
ひとつめは、「お金の話を、隠さず先に出す」こと。総額と戸あたり負担、そして使える制度(税制・融資)を、最初の説明会で正直に並べる。あとから小出しにすると、かえって不信感を招きます。
ふたつめは、「やらなかった場合のリスクを、具体的に見せる」こと。外壁タイルの浮きを放置すれば、剥落して通行人にケガをさせる恐れがあり、管理組合が責任を問われることもあります。「直すコスト」だけでなく「直さないリスク」を並べて示すと、判断が進みます。
みっつめは、「相談だけの段階から、専門家を入れる」こと。理事だけで抱え込まず、早い段階で診断や見積もりの妥当性を第三者にチェックしてもらう。これだけで、無駄な工事や過剰な金額を避けられることが多いです。
よくあるご質問(取手市のマンション管理組合向け)
Q. 取手市に、大規模修繕の工事費そのものへの補助金はありますか。
2026年7月時点で、市の一次情報を確認した限り、大規模修繕工事費に直接現金を出す市の補助金は確認できませんでした。代わりに、管理計画認定を土台とした固定資産税の減額(3分の1)や、機構融資の金利引下げが、実質的なメリットになります。
Q. 長寿命化促進税制は、いつまでの工事が対象ですか。
取手市のページ(更新日2026年7月21日)は、対象期間を令和7年4月1日から令和9年3月31日までと記載しています。国の2年延長が正しく反映されています。着工前に、最新の期限と要件を課税課(資産税)へご確認ください。
Q. 減額されるのは「3分の1」とのことですが、どのくらいの期間ですか。
減額されるのは、大規模修繕工事が完了した年の翌年度分の固定資産税(家屋分)で、1回限りです。住宅1戸あたり100平方メートル相当分まで(共用部分を含む)が対象です。都市計画税は対象外です。
Q. 外壁の塗り替えだけでも、税制の対象になりますか。
なりません。取手市の要件では、外壁塗装等工事・床防水工事・屋根防水工事の3つを、同一の工事請負契約の中で一体として行う必要があります。大規模修繕の計画段階から、この3点をワンセットで組み込んでおくことが大切です。
Q. 旧耐震のマンションですが、耐震の補助は使えますか。
取手市の耐震改修費補助は木造戸建てが対象で、RC造・SRC造マンションの共用部は対象外です。ただし、耐震改修促進法の要耐震改修認定を取れば、共用部の耐震改修の決議要件が各過半数に緩和されます。まずは建築指導課へご相談ください。
Q. 管理組合の運営や、見積もりの妥当性を相談できる窓口はありますか。
マンション管理計画認定制度に関する相談は、一般社団法人マンション管理士会連合会の相談ダイヤル(03-5801-0858、平日10時から17時)が利用できます。公益財団法人マンション管理センターも、管理や共用部リフォーム融資の相談に対応しています。
私たち明誠について
私たち明誠は、マンション・ビル・ホテルの大規模修繕を専門とする建設会社です。通常の足場工法、ロープアクセス工法(無足場工法)、そして両者を組み合わせたハイブリッド工法という3つの工法から、建物にとってベストなものを提案できる、日本でも数少ない会社です。
また、ロープアクセス工事としては日本で初めてとなるフランチャイズ展開も行っており、塗装・防水・タイル・電気・看板工事など各分野の専門職が加盟しています。専門職が直接施工することで、中間マージンを削り、高品質と低価格を両立しています。詳しくは加盟店ネットワークのご紹介をご覧ください。
あわせて、私どもはJCSA(一般社団法人 全国建設業支援協会)を運営しています。全国の建設業者に向けて、経営支援情報の発信、オンラインセミナー、リアル交流会、ビジネスマッチングを行っている団体です。茨城県内の同業の方で、大規模修繕の技術や経営に関心のある方は、こちらものぞいてみてください。
取手市のマンションについて、「うちはどの工法が合うのか」「この制度は使えるのか」といったご相談は、お問合せフォームからお気軽にどうぞ。見積もりの前段階、総会に出す資料の整理だけでも、お力になれることがあります。
最後に、もう一度だけ。取手市は、高度成長期にたくさんの良いマンションが建った街です。その建物が、いま一斉に修繕の時期を迎えています。管理計画の認定を取り、税制で少し取り戻し、融資で資金を平準化し、工法で無駄を削る。この流れを順につないでいけば、大切な資産を、無理なく、確実に次の世代へ渡していけます。その道筋づくりを、ぜひ私たちにお手伝いさせてください。
出典・参考(すべて2026年7月時点)
- 取手市「マンション管理計画認定制度(令和6年4月1日運用開始)」 https://www.city.toride.ibaraki.jp/toshikeikaku/kurashi/sumai/sumai/manshonkanrikeikakuninteiseido.html
- 取手市「マンション長寿命化修繕に対する固定資産税の減額」 https://www.city.toride.ibaraki.jp/kazei-shisan/kurashi/zekin/koteshisan/daikibosyuuzen.html
- 取手市「住宅リノベーション補助金」 https://www.city.toride.ibaraki.jp/toshikeikaku/kurashi/sumai/sumai/hojosedo/jutakurenovation.html
- 取手市「令和8年度木造住宅耐震改修費または耐震建替費の補助」 https://www.city.toride.ibaraki.jp/kenchiku/kurashi/sumai/sumai/hojosedo/taishinhojo.html
- 取手市「住まい・土地の補助制度」 https://www.city.toride.ibaraki.jp/kurashi/sumai/sumai/hojosedo/index.html
- 国土交通省「マンション長寿命化促進税制(固定資産税の特例措置)」 https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000121.html
- 住宅金融支援機構「2026年度お申込分 マンションすまい・る融資(マンション共用部分リフォーム融資)のご案内」 https://www.jhf.go.jp/files/topics/7113_ext_99_1.pdf
- 住宅金融支援機構「マンション共用部分リフォーム融資等の融資金利」 https://www.jhf.go.jp/kinri/kyouyoureform.html
- 公益財団法人マンション管理センター https://www.mankan.or.jp/
▼ロープアクセス工法・無足場工法の詳細解説はこちら
ロープアクセスドットコム|無足場工法専門メディア
管理会社に「切られる」マンションが急増する時代へ——小規模物件から始まった“管理難民”のなかで、収益物件オーナーと管理組合が大規模修繕を自ら主導し、工法選択でコストを守る実務【2026年7月】
「うちのマンション、来年から管理会社が引き受けてくれないかもしれない」。
そんな相談を、私はこの半年でずいぶん受けるようになりました。以前なら、管理組合が管理会社を「選ぶ」のが当たり前でした。ところが今は逆です。管理会社の側から「この規模では採算が合わないので、契約を更新できません」と通告される。いわゆる管理会社の“逆リプレイス”、そして行き場を失った「管理難民」という言葉が、業界の外にまで広がり始めています。
先日、日本経済新聞が「小規模マンションを切り捨てる管理会社『うまみない』と突然解約」という記事を出しました(出典:日本経済新聞)。ここで語られているのは、単なる一部の話ではありません。マンション管理という仕組みそのものが、静かに、しかし確実に地殻変動を起こしているという話です。
私は塗装・防水から始めて、足場を組む大規模修繕もロープアクセス(産業用ロープを使った無足場の高所作業)も、20年近く現場でやってきました。その立場から正直に申し上げます。管理会社に切られる時代というのは、裏を返せば「管理組合とオーナーが、修繕を自分の頭で考えなければ生き残れない時代」だということです。今日はその現実と、では何をすればいいのかを、できるだけ具体的にお話しします。
なぜ管理会社は小規模マンションを「切る」のか
管理業者は13年連続で減っている
まず、これは一部の管理会社の気まぐれではありません。構造的な問題です。
国土交通省が2025年6月に公表したデータによれば、マンション管理業者の登録数は2025年3月末時点で1,776社。前年から28社減り、13年連続の減少となりました(出典:国土交通省「マンション管理業者」)。
一方で、管理を委託したいマンション(管理組合)の数は増え続けています。分譲マンションのストックは全国で700万戸を超え、築古物件も年々積み上がっている。つまり、「頼みたい側」は増え、「引き受ける側」は減っている。需要と供給が逆転しているのです。
供給が足りなくなれば、供給する側が相手を選ぶようになる。これは経済の当たり前の帰結です。そして最初に選別の対象になるのが、手間の割に実入りの少ない小規模マンションでした。
小規模ほど「割に合わない」という現実
なぜ小規模から切られるのか。理由はコスト構造にあります。
30戸のマンションと100戸のマンションで、清掃や設備点検、フロント業務にかかる手間はそれほど変わりません。管理員を配置する手間も、理事会に出席する手間も、戸数に単純比例はしないのです。ところが管理会社が受け取る管理委託費は、おおむね戸数に比例します。
結果として、戸数が少ないマンションほど、1戸あたり・1㎡あたりの管理コストが割高になる。管理会社から見れば「同じ人手をかけても利益が薄い現場」ということになります。
私が現場でお付き合いのある管理組合でも、20戸台・30戸台の物件は、正直なところ管理会社の担当者の顔が半年に一度しか見えない、というところが少なくありません。人手が足りないから、採算の合う大規模物件に人が回される。小さいマンションほど後回しになる——これが今、全国で静かに起きていることです。
人手不足とカスハラ、そして法改正が背中を押した
もう一つ、現場を預かる者として見逃せない要因があります。担い手不足です。
管理員の高齢化が進み、募集をかけても応募が来ない。労働条件の厳しさもあって、現場に十分な人を配置できない。これは私たち工事会社の職人不足とまったく同じ構図で、建設・不動産管理の業界全体が抱える病です。
加えて2025年6月には、企業に対してカスタマーハラスメント対策を義務づける法律が成立しました。従業員を守る観点から、「クレームが過剰で継続が難しい現場からは撤退する」という判断を下す管理会社も出てきています。従業員を守るのは当然のことですが、その反射として「切られる」管理組合が生まれているわけです。
そして2026年4月には、改正マンション管理適正化法と改正区分所有法が施行されました(参考:国土交通省「マンション管理」)。管理組合を守るための制度整備が進む一方で、管理会社にとっては対応コストが増える面もあり、「不採算物件からの撤退」に拍車がかかるのではないか、という見方が業界内で語られています。組合を守るはずの制度が、皮肉にも撤退を後押しする一因になり得る——ここは冷静に見ておくべきところです。
「管理難民」が大規模修繕にとって本当に怖い理由
管理会社に解約されること自体も大変ですが、私がもっと心配しているのは、その先にある大規模修繕です。管理難民の問題は、実は修繕の問題と一本の線でつながっています。
「丸投げ」が通用しなくなる
これまで多くのマンションでは、大規模修繕の段取りを管理会社に任せてきました。修繕時期の判断、業者選び、見積りの取りまとめ、工事中の窓口——その多くを管理会社が担ってきたのです。
ところが管理会社が薄く広くしか関われなくなる、あるいは撤退してしまうと、この「丸投げ」が成立しなくなります。修繕の主導権を、管理組合とオーナー自身が握らざるを得なくなる。準備不足のまま12〜15年に一度の大工事に臨むことになれば、判断を誤ってコストが膨らんだり、必要な工事を先送りして劣化を進行させてしまったりする危険があります。
私はいつも理事長さまに、「管理会社にお任せでも、修繕の中身だけはご自分の言葉で説明できるようにしておいてください」とお伝えしています。管理難民の時代には、この備えが効いてきます。
「談合」という、もう一つの落とし穴
主導権を握らなければならないのに、判断材料が乏しい。そこにつけ込まれるリスクもあります。
記憶に新しいところでは、2026年6月、公正取引委員会がマンション大規模修繕工事をめぐる談合を認定し、施工会社と設計コンサルタントあわせて約40社に排除措置命令を出す方針を固めた、という報道がありました。対象は関東のマンション大規模修繕で、施工会社36社と設計コンサルタント2社の計38社。工事業者には総額約16億円の課徴金納付命令が予定され、遅くとも2021年秋以降、見積り合わせで受注予定業者を事前に決めていたとされます。しかも、その調整の場に関わっていたのが、本来は中立であるべき設計コンサルタントだったというのです(出典:さくら事務所「マンション大規模修繕の談合、約40社に排除措置命令へ」)。
これは私にとって、現場20年で一番悔しいタイプの話です。管理組合は「専門家に任せておけば安心」と信じていた。ところがその専門家の中立性が崩れていた。管理会社にも十分頼れず、頼った相手にも足元を見られる——この二重の不安こそが、今の管理難民時代の本質だと私は考えています。
だからこそ、「誰かに任せきりにしない」体制づくりが、これまで以上に大切になっているのです。
管理会社に頼り切らないための、修繕の「自衛」5ステップ
では、具体的に何をすればいいのか。ここからが本題です。管理会社に切られても、あるいは切られる前でも、管理組合とオーナーが自分たちで修繕を守るための手順を、5つに整理します。
ステップ1:自分のマンションの「劣化の現在地」を知る
修繕の主導権を握る第一歩は、建物の状態を自分たちで把握することです。外壁のひび割れ、タイルの浮き、屋上防水の膨れ、鉄部のサビ——こうした劣化は、素人目にもある程度は見えます。
私がおすすめしているのは、年に一度、理事会メンバーで建物を一周する「点検散歩」です。専門的な打診調査(タイルを叩いて浮きを探す検査)まではできなくても、「去年より汚れが増えた」「あの継ぎ目から水が垂れた跡がある」といった変化に気づけるだけで、業者任せにしない目が育ちます。
管理会社が薄くしか関われないなら、その分を組合の「気づく力」で補う。これが出発点です。
ステップ2:長期修繕計画を「現実の数字」で見直す
次に、長期修繕計画(今後20〜30年の修繕時期と費用を見込んだ計画書)を開いてみてください。多くのマンションで、この計画が数年前の物価で作られたままになっています。
ご存じのとおり、ここ数年で建設資材も人件費も大きく上がりました。塗料も防水材も値上がりが続き、計画時の見積りと実際の相場が乖離しているケースは珍しくありません。計画上は「積立金で足りるはず」でも、いざ発注すると足りない——という事態が起きやすくなっています。
管理会社に任せきりだと、この見直しも後回しになりがちです。最新の相場観で計画を洗い直し、積立金の不足があるなら早めに手を打つ。値上げにせよ工法の工夫にせよ、選択肢は時間があるほど広がります。
ステップ3:見積りは「複数社・同じ条件」で取る
談合の話でも触れたとおり、1社だけの見積りを鵜呑みにするのは危険です。かならず複数社から、同じ工事範囲・同じ仕様で見積りを取ってください(これを「相見積り」といいます)。
このとき大事なのは、金額の安さだけで比べないことです。安いには安い理由が、高いには高い理由があります。使う塗料のグレード、防水の工法、足場の有無、保証年数——条件を揃えて初めて、金額の差が意味を持ちます。
私はお客さまに、「見積書は金額の欄より、仕様の欄をじっくり読んでください」とお願いしています。数字だけを見比べても、本当に比較したことにはならないからです。
ステップ4:発注方式のメリット・デメリットを理解する
大規模修繕の進め方には、大きく分けて2つの方式があります。ここは自分のマンションの規模に合わせて選ぶべきところです。
設計監理方式は、設計コンサルタントが仕様づくりと工事監理を担い、施工会社を分けて発注する方式です。透明性が高いとされる一方、今回の談合報道が示したように、コンサルタントの中立性が崩れると逆効果になります。また、コンサルタント費用が別途かかるため、小規模マンションには負担が重くなりがちです。
責任施工方式は、調査から設計、施工までを一つの施工会社に任せる方式です。窓口が一本化されて話が早く、コンサルタント費用が不要な分、小規模物件では総額を抑えやすいという利点があります。ただし、施工会社の力量と誠実さに結果が左右されるため、信頼できる会社を見極める目が前提になります(参考:国土交通省 マンション管理関連情報)。
どちらが正解ということはありません。ただ、管理会社に頼りきれない小規模マンションほど、責任施工方式が現実的な選択肢になりやすい、というのが私の実感です。大切なのは、両方の長所と短所を理事会が理解したうえで選ぶことです。
ステップ5:工法の選択肢を「発注前に」持っておく
そして、私が一番お伝えしたいのがこれです。工事のコストは、工法の選び方で大きく変わります。
大規模修繕というと、多くの方が「建物全体に足場を組む」ことを当たり前だと思っています。たしかに足場は万能で、複雑な形状の建物や、全面的にじっくり作業したい場合には欠かせません。ただ、足場の設置と解体には、工事費全体の2割前後がかかるとも言われます。ここは見過ごせないコストです。
そこで選択肢になるのが、ロープアクセス工法です。産業用ロープを使い、足場を架けずに高所を作業する工法で、足場費を抑えられ、工期も短くなりやすい。何より、足場で建物を覆わないぶん、住んでいる方・使っている方の生活への影響が小さくて済みます。窓が塞がれない、防犯面の不安が減る、日当たりが確保される——居住者にとってのメリットは小さくありません。
もちろん、ロープアクセスが万能というわけではありません。大きな面をまとめて塗る作業や、足場が必要な部位もあります。だからこそ私は、足場とロープアクセスを部位ごとに使い分ける「ハイブリッド工法」を、必ずワンセットで検討するようにしています。ベランダ側は足場、外周のシンプルな壁面はロープアクセス、というように組み合わせれば、品質を落とさずに総額を下げられる余地が生まれます。
管理会社に頼れない時代だからこそ、「足場一択」ではなく、複数の工法から自分の建物に最適なものを選ぶという発想を、発注の前に持っておいていただきたいのです。
弊社では、ロープアクセス工法と足場仮設の両方を自社で扱い、建物ごとにどの工法が最適かをご提案しています。大規模修繕工事の総合的なご相談にも応じていますので、「そもそもうちは足場が要るのか要らないのか」という段階からでも、遠慮なくお声がけください。
もし管理会社から「更新しません」と言われたら——最初の90日でやること
ここまでは「切られる前の備え」の話でしたが、すでに更新拒否や解約の通告を受けてしまった管理組合もあるでしょう。その場合に、私が理事長さまにお伝えしている「最初の90日」の動き方を整理しておきます。慌てて動くと足元を見られますが、順序立てて動けば、必ず道はあります。
最初の30日:事実確認と引き継ぎ資料の確保
まずやるべきは、感情的に反発することではなく、事実の確認です。契約書を開いて、解約の予告期間(多くは3〜6か月前)と、次の管理者へ引き継ぐべき書類の範囲を確認してください。
このとき何より大切なのが、管理に関する書類・データの確保です。長期修繕計画書、過去の修繕履歴、設計図書、点検記録、修繕積立金の会計帳簿——これらは管理組合の財産であり、次の体制に移るための命綱です。私は「解約を告げられたら、まず紙とデータを全部こちらの手元に集めてください」とお願いしています。ここが抜けると、次の見積りも計画も組み直しになってしまうからです。
31〜60日:自主管理か、新しい管理会社か
次に、これからの体制を決めます。大きく分けて、自主管理(管理組合が自分たちで運営する)か、新しい管理会社を探す(リプレイス)かの二択です。
小規模マンションほど、この判断は悩ましいところです。新しい管理会社を探しても、同じ理由で断られたり、委託費が大幅に上がったりすることが珍しくありません。一方で、清掃や点検などの業務を個別の専門業者に切り分けて発注し、会計や総会運営だけをマンション管理士などの専門家に部分委託する「一部委託型の自主管理」で、むしろコストを下げている組合もあります。
正解は物件ごとに違います。ただ、どちらを選ぶにせよ、「大規模修繕をどう進めるか」だけは、この段階で切り離して考えておくことをおすすめします。管理体制が固まるのを待っていると、肝心の修繕が何年も先送りされ、その間に劣化が進んでしまうからです。
61〜90日:修繕の“単独ライン”を確保しておく
管理体制の移行と並行して、修繕については独立した相談ラインを持っておくと安心です。管理会社が薄くなっても、劣化は待ってくれません。
私のところにも、「管理会社が変わる過渡期で、修繕の話が完全に止まってしまった」というご相談がよく来ます。そういうとき私は、まず建物を見せていただき、「これは急ぐ工事か、数年待てる工事か」を切り分けます。雨漏りや鉄部の激しい腐食のように待てないものだけ先に手を打ち、全面的な大規模修繕は体制が落ち着いてから——という段取りにすれば、混乱期でも建物を守れます。
管理難民の時期こそ、「修繕だけは止めない」。これが資産価値を守る要だと、私は考えています。
工法で何が変わるのか——生活影響とコストの早見表
「工法を選ぶ」と言われても、素人にはイメージがわきにくいものです。そこで、足場・ロープアクセス・ハイブリッドの3つが、コストと生活にどう影響するかを、私の現場感覚で早見表にまとめました。あくまで一般的な傾向で、実際は建物の形状や劣化状況で変わりますが、判断の入り口としてお使いください。
| 比較項目 | 通常足場工法 | ロープアクセス工法(無足場) | ハイブリッド工法 |
|---|---|---|---|
| 仮設コスト | 高い(工事費の2割前後) | 大幅に抑えられる | 部位を絞るため中間 |
| 工期 | 長め | 短くなりやすい | 中間 |
| 生活への影響 | 建物を覆い、窓が塞がれやすい | 影響が小さい | 部位により差 |
| 防犯面 | 足場からの侵入リスクに注意 | リスクが小さい | 部位により差 |
| 向く建物 | 複雑形状・全面的な作業 | 高層・足場架設が難しい物件 | 大規模・部位ごとに条件が違う物件 |
| 注意点 | 費用と工期がかさみやすい | 大面積の一括作業には不向きな面も | どの部位をどちらで施工するか設計が要 |
この表で一番お伝えしたいのは、「足場が悪い・ロープが良い」という単純な話ではないということです。複雑な形状で全面をじっくり直したい建物なら、足場が最適解になることもあります。逆に、シンプルな四角い建物で、住民の生活影響を抑えたいなら、ロープアクセスやハイブリッドが効いてきます。
大切なのは、発注する前に、この3つを同じ土俵で比較できる会社に相談することです。1つの工法しか扱っていない会社に相談すれば、当然その工法の見積りしか出てきません。私たちが3つの工法を自社で持っていることにこだわるのは、まさにこの「比較して選べる」状態を、お客さまにお渡ししたいからです。
よくある質問(管理難民と大規模修繕)
最後に、実際に理事会や個別相談でよく受ける質問を、いくつかお答えの形でまとめておきます。
Q. 管理会社に切られたら、大規模修繕はもうできないのでしょうか。
いいえ、できます。大規模修繕は、管理会社を通さずに、管理組合が直接、施工会社に相談・発注することも可能です。むしろ「責任施工方式」で施工会社に一本化すれば、窓口はシンプルになります。管理会社の有無と、修繕ができるかどうかは、別の問題だとお考えください。
Q. 小規模マンションだと、工事も割高になりますか。
戸数が少ないと1戸あたりの負担が大きく見えるのは事実です。ただ、そこで効いてくるのが工法の工夫です。足場費を抑えられるロープアクセスやハイブリッドは、総額を圧縮できる分、小規模物件ほど1戸あたりの効果が体感しやすい、という面もあります。まずは工法込みで概算を出してみることをおすすめします。
Q. 相見積りは何社くらい取ればいいですか。
一般的には3社程度が目安とされます。大切なのは社数よりも、同じ工事範囲・同じ仕様で揃えて比較することです。条件がバラバラの見積りを何枚集めても、正しい比較にはなりません。
Q. 談合のニュースを見て不安です。どう身を守ればいいですか。
「専門家に任せておけば安心」という発想を、少しだけ疑うことです。中立であるはずの立場が崩れる可能性があると知ったうえで、複数社から仕様を揃えて見積りを取り、金額の根拠を説明できる会社を選ぶ。この基本を徹底するだけで、リスクはかなり下げられます。
Q. まだ管理会社に切られていませんが、今から準備すべきですか。
はい、切られる前こそ動きどきです。管理会社が元気なうちに、長期修繕計画を最新の数字で見直し、工法の選択肢を知っておく。この準備があれば、万が一体制が変わっても、修繕で慌てずに済みます。
戸あたりで考えると、判断はもっとシンプルになる
ここまで制度や工法の話をしてきましたが、最後に、理事会で判断するときの「ものさし」を一つお渡しします。それは、すべてを戸あたりで考えるということです。
たとえば、ある工事で全体の見積りが100万円下がったとします。総額だと大きな数字に見えますが、40戸のマンションなら1戸あたり2万5千円、20戸なら5万円です。逆に、足場費を削れずに総額が膨らめば、その負担も戸あたりで全員にのしかかります。
管理会社に任せきりだった時代は、こうした数字を「自分の財布の話」として実感する機会が少なかったかもしれません。けれど、これからは違います。管理難民の時代には、理事会の一人ひとりが「これは自分の家計にいくら響く話か」を体感として持つことが、いい判断につながります。
私はいつも、見積書を戸あたりに割り戻してお見せするようにしています。「総額300万円の差」より「1戸あたり月々いくらの積立で吸収できる差」のほうが、皆さん腹落ちが早いからです。数字を体感に変える——これは管理会社の手が薄くなるほど、組合自身が身につけるべき力だと思います。
まとめ:切られる時代は、選べる時代でもある
管理会社に切られるかもしれない、という不安は、決して小さくありません。頼れる相手が減っていくのは事実です。管理業者は13年連続で減り、人手不足も法改正も、その流れを後押ししています。
ただ、私はこの状況を、悲観だけで語りたくはありません。管理会社に「切られる」時代は、裏を返せば、管理組合とオーナーが自分の建物のことを、自分の頭で選べるようになる時代でもあるからです。劣化の現在地を知り、計画を現実の数字で見直し、相見積りを取り、発注方式を理解し、工法の選択肢を持つ。この5つを備えておけば、たとえ管理会社が薄くなっても、修繕でつまずくことはぐっと減ります。
そして工法の選択は、その中でも一番、コストと住み心地に直結する部分です。足場か、ロープアクセスか、その組み合わせか。ここを発注前に検討できるかどうかで、同じ建物でも結果は変わります。
これは私が現場で20年見てきた、嘘偽りのない感想です。管理会社の動きに不安を感じたら、あるいは次の大規模修繕が5年以内に控えているなら、お問合せフォームからご相談だけでも遠慮なくお声がけください。総会の前段階の、工法や概算の整理だけでも、お力になれることがあります。次回も、現場で本当に使える話だけをお届けします。
出典・参考資料
- 日本経済新聞「小規模マンションを切り捨てる管理会社 「うまみない」と突然解約」
- 国土交通省「マンション管理業者」(登録業者数の推移)
- 国土交通省「マンション管理」(改正マンション管理適正化法・改正区分所有法の施行)
- さくら事務所「マンション大規模修繕の談合、約40社に排除措置命令へ。管理組合が今すべきこととは」
- 大規模修繕工事新聞「管理会社に見捨てられる日―13年連続減少が示す「管理難民」時代の到来」
本記事は2026年7月20日時点の公開情報にもとづきます。制度・補助金・法令の内容は変更される場合がありますので、実際のご検討にあたっては各機関の最新の一次情報をご確認ください。
▼ロープアクセス工法・無足場工法の詳細解説はこちら
ロープアクセスドットコム|無足場工法専門メディア
マンション共用部の蛍光灯が”買えなくなる”——2027年末で製造終了する「2027年問題」を、大規模修繕と一体で解くLED化。オーナーと管理組合が電気代・資産価値・工事コストで損をしないための実務【2026年7月】
今朝、いつものようにニュースに目を通していると、ある地方議会の報告に目が留まった。「【2027年問題】分譲マンションの共用部照明は大丈夫か」——市議会でこのテーマが取り上げられた、という内容だった。正直に言えば、私はこの「2027年問題」という言葉が、ようやく建物の現場だけでなく、行政や住民の側からも語られ始めたことに、少しほっとしている。
というのも、蛍光灯の製造が終わるという話は、私たち施工会社の世界ではもう何年も前から「そう遠くない現実」として意識してきたテーマだからだ。ところが、マンションの管理組合やビル・ホテルのオーナーと話すと、「え、蛍光灯って買えなくなるんですか?」と驚かれることがまだ多い。
結論から言えば、2027年末をもって、直管型を含むほぼすべての一般照明用蛍光ランプが国内で製造・輸出入できなくなる。使用そのものが禁止されるわけではないが、共用部に大量の蛍光灯を抱えたマンションやビルにとって、これは避けて通れない設備更新のトリガーになる。そして——ここが今日いちばんお伝えしたいことだが——この照明のLED化は、大規模修繕と切り離してバラバラにやると割高になり、一体で計画すると驚くほどコストを圧縮できる。この記事では、2027年問題の正確な中身を公的な一次情報で押さえたうえで、収益不動産のオーナーと管理組合が損をしないための実務を、できるだけ具体的にお伝えしたい。
今朝のニュースが示すもの——「2027年問題」は住民・行政の議題になった
きっかけになったのは、地方議会での「2027年問題——分譲マンションの共用部照明は大丈夫か」という問題提起だった。マンションの廊下・階段・エントランス・駐車場・非常照明といった共用部には、いまも大量の蛍光灯が使われている。それが2027年末で製造終了になれば、球切れのたびに交換球を探し回ることになる。行政がわざわざ議題に上げるということは、それだけ多くの住民が「自分ごと」として不安を持ち始めた、ということだ。
私がこのニュースを重く受け止めるのは、それが一過性の話題ではなく、日本中のほぼすべての集合住宅・ビルに例外なく訪れる期限だからである。外壁のひび割れや防水の劣化は建物によって進み方が違うが、蛍光灯の製造終了は、築年数にも立地にも関係なく、2027年12月31日という同じ日付で全国一斉にやってくる。これほど「予定が確定している修繕テーマ」も珍しい。
そして、これはマンションだけの話ではない。オフィスビル、テナントビル、ホテル、賃貸マンションを保有するオーナーにとっても、共用部・専有部の照明は建物運営コストの一角を占める。電気代という毎月の固定費と、球交換という地味だが手のかかるメンテナンス——その両方に、この2027年問題は直結している。
なぜ蛍光灯が製造終了になるのか——水俣条約という国際ルール
感覚論では動けないので、まずは制度の中身を正確に押さえておきたい。
蛍光灯の製造終了は、企業の都合でも国内だけの規制でもない。根拠は「水銀に関する水俣条約(みなまた条約)」という国際条約である。蛍光灯には微量の水銀が使われており、水銀による地球規模の汚染を防ぐために、各国が段階的に水銀製品を減らしていく——その一環だ。
2023年10〜11月にスイス・ジュネーブで開かれた第5回締約国会議(COP5)で、一般照明用の蛍光ランプについて、製造と輸出入を段階的に禁止することが合意された。日本でも環境省・経済産業省がこの内容を国内制度に反映しており、禁止の時期はランプの種類によって次のように分かれている。
- コンパクト形蛍光ランプ:2026年12月31日をもって製造・輸出入禁止
- 直管形蛍光ランプ・環形(丸形)蛍光ランプ:2027年12月31日をもって製造・輸出入禁止
つまり、2028年1月1日以降は、一般照明用の蛍光灯は新たに作ることも、海外から輸入することもできなくなる。マンションやビルの共用部で圧倒的に多く使われている直管形が2027年末で終わる——これが「2027年問題」と呼ばれるゆえんだ。
ここで一つ、誤解を解いておきたい。「2028年から蛍光灯の使用が違法になる」わけではない。手元にある蛍光灯を使い続けることも、在庫品を買うことも、法律で禁じられるわけではない。禁止されるのは「新規の製造と輸出入」だ。ただし、供給が止まれば市場の在庫は必ず先細る。日本照明工業会によれば、国内で蛍光灯を製造しているメーカーはすでにごくわずかにまで減っている。世界的にLEDへの置き換えが進むなかで、蛍光灯は「作られなくなり、やがて手に入りにくくなり、価格も上がっていく」——その入口に、私たちは立っている。
共用部で実際に何が起きるのか——3つの現実的なリスク
「製造が終わるといっても、まだ在庫があるなら慌てなくていいのでは」。そう考える管理組合の理事の方もいる。だが、共用部の照明を放置したまま2027年を越えると、次の3つの現実的なリスクが顕在化してくる。
1. 交換球が手に入りにくくなり、価格も上がる
共用部の蛍光灯は、24時間点灯している廊下や階段も多く、球切れは日常的に起きる。製造が止まれば流通在庫は徐々に枯渇し、いざ球が切れたときに「同じ規格の交換球が見つからない」「見つかっても以前より高い」という事態になりやすい。数十本、数百本の蛍光灯を抱える大規模マンションほど、この影響はボディブローのように効いてくる。
2. 安全・防犯に直結する場所ほど、切れたままにできない
廊下・階段・エントランス・駐車場・非常用照明といった共用部の明かりは、住民や利用者の安全と防犯に直結する。暗がりは転倒事故や犯罪の温床になりやすく、「球が手に入らないから当分このまま」というわけにはいかない。とりわけ非常用照明・誘導灯は法令上の維持義務もあり、機能を落としたまま放置することは許されない。
3. 「切れてから慌てて交換」は、いちばん割高になる
最も避けたいのが、球が切れるたびに1本ずつ、その都度業者を呼んで交換していくやり方だ。高所作業車や脚立の手配、作業員の出張——こうした付帯コストは、1本交換でも100本交換でもそれほど変わらない。切れるたびにバラバラに対応すれば、付帯コストを何度も払うことになり、トータルでは最も高くつく。共用部照明は「一斉に、計画的に」更新するのが原則なのだ。
LED化の効果を数字で見る——消費電力は約3分の1、投資回収は5〜7年が目安
では、蛍光灯をLEDに切り替えると何が変わるのか。ここは感覚ではなく、数字で押さえておきたい。
LED照明の消費電力は、一般に蛍光灯の約3分の1とされる(水銀灯と比べれば約8分の1)。共用部の照明は台数が多く、しかも長時間点灯しているため、この差は毎月の電気代にそのまま効いてくる。さらにLEDは寿命が長く、球交換の頻度が大幅に減るため、電気代とメンテナンス費(球代・交換の手間)の両方を圧縮できる。
費用の目安についても、公的な情報や管理士会などが試算を公表している。共用部のLED化工事は器具1か所あたりおおむね数千円〜が目安とされ、マンション全体では規模により数十万円から、大規模物件では100万円を超えることもある。一方で、削減できる電気代とメンテナンス費を積み上げると、多くのケースで5〜7年程度で投資を回収できるという試算が示されている(物件の点灯時間・器具数・電気料金単価によって変動する)。
イメージしやすいように、前提を置いた試算をひとつ挙げておきたい。共用部に40W級の直管蛍光灯を100本抱える中規模マンションで、それらが1日およそ10時間点灯していると仮定すると、年間の点灯時間は延べ36万灯時にのぼる。これをLEDに置き換えて消費電力がおよそ3分の1になれば、単純計算でも電気使用量は年間で数千kWh規模で減っていく。あくまで条件を仮定した概算にすぎないが、”塵も積もれば”の典型で、器具の台数が多く長時間点灯している共用部ほど、削減の効果が大きく出ることは押さえておきたい。
つまりLED化は、「環境規制で仕方なくやらされる出費」ではない。毎月の固定費を下げ、数年で元が取れ、その後はプラスに転じる”投資”として捉えるべきものだ。数字の前提は物件ごとに違うので断定は避けるが、少なくとも「やってもやらなくても同じ」という性質の工事ではない、ということははっきりしている。
本題——「2027年問題」を大規模修繕と一体で解くべき3つの理由
ここからが、私がいちばんお伝えしたい実務の話だ。照明のLED化そのものは、多くの電気工事会社ができる。だが、それを大規模修繕と切り離して単独でやるか、一体で計画するかで、総コストは大きく変わる。理由は3つある。
理由1:足場・仮設・工程を”共用”できる
大規模修繕では、外壁塗装や防水のために足場を架けたり、高所作業の段取りを組んだりする。エントランスの高天井照明、外構灯、屋外階段や外廊下の照明といった「高いところ・外まわりの照明」は、この大規模修繕の仮設や工程に相乗りできる。照明のためだけに改めて足場や高所作業車を手配すれば、その費用は丸ごと二重払いになる。修繕のタイミングに合わせて照明も更新すれば、その付帯コストを一度で済ませられる。
理由2:足場が要らない部位は、ロープアクセスで機動的に
一方で、照明のLED化のためだけに建物全体へ足場を架けるのは、明らかに過剰だ。外壁面に付いた照明器具や、高所の看板灯・外構灯など、限られた箇所の更新であれば、私たちが得意とするロープアクセス工法(無足場工法)が効く。産業用ロープで作業員が直接その場所にアプローチするため、足場の架設費も工期もかからず、居住者や利用者の生活・営業を止めずに進められる。「大規模修繕は足場、部分的な照明更新はロープアクセス」——このように部位ごとに最適な工法を使い分けるハイブリッドの発想こそ、コストを最小化する鍵になる。
理由3:長期修繕計画と修繕積立金に、あらかじめ織り込める
照明のLED化を「ある日突然の臨時出費」にしてしまうと、資金繰りに無理が出る。だが、2027年末という期限はすでに確定している。だからこそ、次の大規模修繕の計画に、照明更新をあらかじめ一項目として組み込んでおくことができる。長期修繕計画に落とし込み、修繕積立金の使途として位置づけておけば、住民合意も取りやすく、資金の見通しも立つ。期限が分かっている修繕は、慌てて対応するのではなく、先に計画へ織り込んだ側が必ず得をする。
物件タイプ別に見る——あなたの建物では何を優先すべきか
「2027年問題」への向き合い方は、建物の性格によって少しずつ変わる。ここでは、私たちがよくご相談を受ける4つのタイプに分けて、優先順位の考え方を整理しておきたい。
分譲マンション(管理組合)の場合。 いちばんの論点は住民合意と資金だ。共用部の照明は管理組合の管轄であり、更新には総会での合意が要る。だからこそ、次回の大規模修繕の議案とセットで「照明も一緒に更新すれば付帯費が節約できる」という形で提案すると、合意が得やすい。長期修繕計画に一項目として明記し、修繕積立金の使途として位置づけておくのが王道である。まだ修繕まで数年あるなら、球切れが頻発する廊下・階段だけを先行更新し、残りは修繕時に一斉更新、という二段構えも現実的だ。
賃貸マンション・アパート(オーナー)の場合。 共用部の電気代はオーナーの負担であることが多く、LED化による固定費削減がそのまま手残りの改善につながる。入居者にとっても、明るく清潔なエントランスや廊下は物件の印象を左右する。空室対策・資産価値維持の観点からも、照明更新は費用対効果の高い投資になりやすい。
オフィスビル・テナントビルの場合。 共用部に加え、専有部(テナント区画)の照明も台数が多い。テナントの入れ替えや原状回復のタイミングは、照明を更新する好機だ。ビル全体の外壁改修とあわせて外構灯・看板灯まで一体で計画すれば、テナントの営業を止めずに、無駄なく進められる。
ホテルの場合。 客室・共用部あわせて照明の台数が非常に多く、電気代のインパクトも大きい。一方で、稼働を止めずに改修したいという制約が強い。ここでこそ、居住者・利用者の生活や営業を止めないロープアクセスやフロアごとの分割施工といった、明誠の得意とする手法が生きてくる。
いずれのタイプでも共通するのは、「照明だけを単独で考えない」という原則だ。建物全体の維持計画の中に照明を位置づけて初めて、工法とタイミングの最適化が効いてくる。
補助金という追い風——ただし”当てにしすぎない”のが実務
共用部のLED化には、省エネ・脱炭素を後押しする補助金が使える場合がある。国や自治体、関連団体が省エネ改修向けの支援制度を設けており、共用部照明のLED化がその対象になることは少なくない。条件が合えば、更新費用の一部を補助でまかなえるため、投資回収の期間はさらに短くなる。
ただし、ここは慎重にお伝えしたい。補助金の内容は、年度・自治体・制度によって毎年のように変わる。募集期間が限られていたり、予算の上限に達すると締め切られたり、対象要件が細かく定められていたりする。「補助金が出る前提で計画を組んだのに、いざ申請しようとしたら受付が終わっていた」という話は珍しくない。
だから私は、補助金は「使えたら嬉しいボーナス」として位置づけ、補助金なしでも成立する計画を先に立てておくことをお勧めしている。LED化は補助金がなくても数年で回収できる投資である以上、制度に振り回される必要はない。そのうえで、実施のタイミングで使える制度があれば取りに行く——この順番が、いちばん堅実だ。申請の可否や要件は、実施時点で必ず最新情報を確認してほしい。
よくある3つの誤解
現場でよく耳にする誤解も、ここで解いておきたい。
誤解1「2028年になったら蛍光灯は使えない」——前述のとおり、使用は禁止されない。禁止されるのは製造と輸出入だ。ただし供給が細るため、「使えるうちに、計画的に切り替える」のが賢明である。
誤解2「まだ在庫があるから、当面は買いだめすれば十分」——蛍光灯には保管期限の問題があり、長期在庫が必ずしも安泰とは限らない。しかも買いだめは、電気代の削減という本来のメリットを先送りにするだけだ。LED化を遅らせるほど、下げられたはずの固定費を払い続けることになる。
誤解3「LED化は電気屋に頼めば済む、修繕とは別の話」——単独発注すれば足場や高所作業の付帯費が二重になりやすい。建物全体の修繕計画の中に位置づけて初めて、工法とタイミングの最適化が効いてくる。照明は”建物全体の維持計画の一部”として捉えるべきものだ。
オーナー・管理組合が今日からできる3ステップ
大がかりな準備は要らない。次の3つは、今日からでも着手できる。
ステップ1:共用部の照明を”棚卸し”する。 どこに、どんな種類の蛍光灯が、何本あるのか。廊下・階段・エントランス・駐車場・非常灯・外構灯——場所と本数、器具の種類をざっと把握するだけで、更新の規模感が見えてくる。
ステップ2:次の大規模修繕の時期と照らし合わせる。 次回の修繕が近いなら、照明更新をその計画に組み込めないか検討する。修繕が数年先なら、それまでの間に球切れが多発しそうな箇所だけ先行してLED化する、という段階的な進め方も現実的だ。
ステップ3:工法まで含めて相談できる専門家に、現状を整理してもらう。 「どの照明を、いつ、どの工法で更新すれば総コストが最小になるか」は、建物の形状・階数・器具の位置によって変わる。ここは、足場・ロープアクセス・ハイブリッドの3つを比較検討できる会社に相談するのが近道だ。
この3ステップは、特別な費用をかけずに始められる。そして、どの段階でも「工法の選択肢を持っているか」が、最終的なコストを大きく左右する。
なぜ明誠は照明のLED化も「高品質かつ低価格」で提案できるのか
「工法を選べるのは分かった。ではなぜ、それで品質を落とさずに価格を抑えられるのか」。もっともな疑問だと思う。ここには、私たちが築いてきた仕組みの話がある。
明誠は、ロープアクセス工事として日本で初めてのフランチャイズ展開を進めてきた。塗装・防水・タイル・電気・看板といった各分野の専門職の会社が加盟し、それぞれの得意領域で腕を振るうネットワークになっている。照明のLED化は、まさにこの電気工事の専門職が担う領域だ。大規模修繕を担う塗装・防水の専門職と、照明を担う電気の専門職が、同じネットワークの中で連携できる——だからこそ、外壁も防水も照明も、一つの計画の中でまとめて、無駄なく提案できる。
この仕組みが効くのは、中間マージンを重ねずに、各工程を専門職が直接担えるからだ。元請けが下請けへ丸投げし、そこからまた孫請けへ——という多層構造をなくせば、その分だけ価格は下げられる。そして、専門職が自分の分野を責任を持って施工するから、品質はむしろ上がる。
もう一つ、私たちはJCSA(一般社団法人全国建設業支援協会)の運営も手がけている。建設業向けの経営支援、オンラインセミナー、リアルの交流会、ビジネスマッチングを通じて、全国の建設事業者とつながり、技術と情報を共有している。この裾野の広さが、地域を問わず一定水準以上の施工体制を確保できる背景にある。
「安かろう悪かろう」ではなく、「仕組みで無駄を削ったから、その分お客様に還元できる」。これが、私たちが工法の選択とあわせて大切にしている考え方だ。照明のLED化も、ロープアクセス工法(/rope/)や大規模修繕(/sure/)と同じ発想で、建物にとって最適な形をご提案できる。
まとめ——期限が決まっている修繕は、先に計画へ織り込んだ側が得をする
今朝のニュースが示していたように、蛍光灯の「2027年問題」は、いよいよ住民や行政の議題にのぼるところまで来た。直管形を含む一般照明用の蛍光灯は2027年末で製造・輸出入が終わり、2028年からは新たに作られなくなる。使用が禁じられるわけではないが、供給は細り、交換球は入手しにくく、価格も上がっていく。共用部に大量の蛍光灯を抱えるマンション・ビル・ホテルにとって、これは避けて通れない設備更新のトリガーだ。
だが、悲観する話ではない。LED化は消費電力を約3分の1に下げ、多くのケースで5〜7年で投資を回収できる”効く投資”だ。そして何より、この更新を大規模修繕と一体で計画すれば、足場や高所作業の付帯コストを二重払いせずに済み、総コストを大きく圧縮できる。期限が確定しているからこそ、慌てて対応するのではなく、先に長期修繕計画へ織り込んだ側が必ず得をする。
私たち明誠は、足場工法・ロープアクセス工法・ハイブリッド工法の3つを、建物ごとに最適に組み合わせて提案できる、日本でも数少ない会社だと自負している。塗装・防水・タイル・電気・看板といった各分野の専門職が加盟するフランチャイズ・ネットワークを通じて、照明のLED化まで含めて高品質と低価格を両立できる体制も整えている。
「うちの共用部照明はどう進めればいいのか」「次の大規模修繕と一緒にやるべきか」——そんなお悩みがあれば、まずは現状を一緒に整理するところからで構わない。照明・工法・タイミングを含めた最適な打ち手を、建物の特性に合わせてご提案する。ご相談はお問い合わせ(/contact/)からお気軽にどうぞ。
修繕は、慌ててやるものではなく、期限を見越して賢く効かせるもの。その一点を、この記事を通じてお伝えできていれば嬉しい。
[出典・参考]
- 環境省「一般照明用の蛍光ランプの規制について」(水俣条約に基づく製造・輸出入禁止の対象と時期)
- 経済産業省/製品評価技術基盤機構(NITE)「水俣条約における蛍光ランプ製造等廃止と今後の措置」(令和6年12月)
- 一般社団法人日本照明工業会(JLMA)「全ての一般照明用蛍光ランプについて製造・輸出入の禁止が決定」
- 日本経済新聞「蛍光灯、27年末で製造禁止 水銀規制の水俣条約会議」(2023年11月)
- 水銀に関する水俣条約 第5回締約国会議(COP5、2023年10〜11月・ジュネーブ)
- 共用部LED化の費用・電気代削減・投資回収の目安:京都府マンション管理士会、日本照明工業会、各種LED施工事業者の公表資料(消費電力は蛍光灯の約1/3、投資回収5〜7年程度/物件条件により変動)
- Googleアラート(2026年7月8日ダイジェスト/分譲マンション・2027年問題関連ニュース)を起点に執筆
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別物件の照明更新・修繕計画・資金計画については専門家にご相談ください。LED化に使える補助金は年度・自治体によって内容が変わるため、実施時に最新情報をご確認ください。
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遮熱塗料はマンション大規模修繕の“投資”になるか——2026年の酷暑局面で、屋上・屋根塗装が電気代と資産価値に効く理由と、ロープアクセス工法でコストを抑える実務【2026年7月】
理事長さまから先週いただいた質問が、そのまま今日のテーマです。「テレビで遮熱塗料というのをやっていた。うちの大規模修繕でも使えるのか。使うと得なのか」。
正直に申し上げます。この質問は、答え方をひとつ間違えると、管理組合の予算を10万円単位で無駄にも、逆に生かしもします。だからこそ、今日は数字と現場の実感の両方で、できるだけ誠実にお答えしたいと思います。
きっかけは、2026年7月に放送されたテレビ番組で、大手塗料メーカーの屋根用遮熱塗料が紹介されたことでした(出典:日本ペイントホールディングス ニュース)。一般の視聴者にまで「遮熱」という言葉が届いたのは、良いことだと思っています。ただ、テレビはメリットを短く伝えるのが仕事です。マンションの大規模修繕という、10年に一度・数千万円の意思決定に当てはめるには、もう少し補助線が要ります。
私はこれを、屋上防水と外壁塗装の計画と必ずワンセットで考えるようにしています。ここからが本題です。
1. なぜ今、遮熱塗料が話題になっているのか
背景には、単純ですが避けられない事実があります。夏が、年々暑くなっているということです。
気象各社の2026年夏の見通しでは、「ダブル高気圧」の影響で7月下旬から8月上旬が暑さのピークとなり、最高気温40℃以上の「酷暑日」が全国で延べ7〜14地点にのぼると予想されています(出典:ウェザーニュース 猛暑見解2026、日本気象協会 tenki.jp 3か月予報)。気象庁の暖候期予報でも、全国的に平年より気温が高い見込みとされています(出典:気象庁 季節予報解説資料)。
この暑さが、マンションの最上階や、鉄骨造の商業ビル・ホテルの屋根に直撃します。屋上のコンクリートやスレート屋根は、真夏の日中に表面温度が60〜80℃まで上がることも珍しくありません。その熱が、じわじわと最上階の室内に伝わります。
私が現場で20年やってきて、夏場の最上階の理事さんから必ず聞くのが「エアコンが効かない」という声です。遮熱塗料は、この「屋根から入ってくる熱」を減らすための塗料です。番組をきっかけに問い合わせが増えているのは、暑さという体感が、そのまま関心につながっているからだと思います。
2. 遮熱塗料とは何か——「反射」で熱を防ぐ仕組み
まず言葉の整理からです。遮熱塗料(しゃねつとりょう)とは、太陽光、とくに熱を持つ近赤外線を通常の塗料より多く反射することで、塗った面の温度上昇を抑える塗料のことです。素人向けに言えば、「屋根に白っぽい鏡を薄く敷いて、太陽の熱を跳ね返す」イメージが近いです。
よく混同される「断熱塗料」とは別物です。断熱は熱を“伝えにくくする”、遮熱は熱を“反射して入れない”。仕組みが違います。この初出の区別を曖昧にしたまま契約すると、期待と結果がずれます。私は必ず、ここを最初にご説明します。
JIS K 5675という公的なものさし
遮熱塗料の性能には、公的な規格があります。屋根用については日本産業規格の「JIS K 5675 屋根用高日射反射率塗料」が定められており、平成23年(2011年)7月20日に公示されました(出典:日本建築仕上材工業会/建材試験センター 規格基準紹介、日本塗料工業会 高日射反射率塗料)。
なぜ規格の話をするかというと、「遮熱」とうたっていても、日射反射率がどの水準にあるかは製品ごとに差があるからです。管理組合として発注するなら、カタログの雰囲気ではなく、JIS K 5675に適合しているか、日射反射率の数値はいくつかを、見積書と一緒に確認してください。私はこれを、施工会社の誠実さを測る最初のリトマス試験紙だと思っています。
表面温度と室内温度は、どのくらい下がるのか
効果の目安として、メーカーが公表している実験値を紹介します。大手メーカーの屋根用遮熱塗料では、屋根表面で約20℃、室内で約4℃の温度低下という実験結果が示されています(出典:日本ペイント サーモアイ シリーズ 製品ページ)。
ここで、正直にお伝えしておきたいことがあります。これはあくまでメーカーの実験条件下の数値であり、実際のマンションで同じ数字が出ると約束するものではありません。屋根の形状、色、断熱材の有無、方位、周辺の日当たりで結果は変わります。「必ず4℃下がります」と言い切る営業がいたら、その場では契約しないでください。私自身、現場では「条件が良ければ体感が変わる範囲」という言い方しかしません。
3. なぜ「大規模修繕のタイミング」が投資判断の分かれ目なのか
ここが、今日いちばんお伝えしたい実務です。
遮熱塗料を単体で塗るために足場を組むと、費用対効果はまず合いません。塗料そのものより、足場の設置・解体の費用のほうが大きくなりがちだからです。逆に言えば、どうせ塗装をやり直す大規模修繕のタイミングでなら、遮熱塗料の“上乗せコスト”は塗料のグレード差だけで済みます。ここに、投資判断の分かれ目があります。
塗装は12〜15年周期の「主役の工種」
マンションの大規模修繕は、国土交通省の「長期修繕計画作成ガイドライン」(令和6年6月改定)で、修繕周期の目安が部材や仕様により異なるものの一般的に12〜15年程度と示されています(出典:国土交通省 長期修繕計画作成ガイドライン)。実態調査でも、平均的な修繕周期は13年前後が最多です。
この12〜15年ごとの工事で、外壁塗装・屋上防水・屋根塗装は必ず主役級の工種になります。つまり、どのマンションもいずれ「屋根や屋上をもう一度塗る」タイミングが来ます。そのときに、標準塗料にするか遮熱塗料にするか。この一択の差が、次の10年以上の夏の快適性と電気代を左右します。
上乗せ額は「塗料のグレード差」だけ
私が理事会でよくお見せするのは、単純な比較です。足場や下地補修、養生といった費用は、標準塗料でも遮熱塗料でも大きくは変わりません。差が出るのは塗料の材料費と、色数・工程の違いくらいです。
だからこそ、私は「遮熱にするかどうかは、大規模修繕の見積もりが固まる“前”に決めてください」とお伝えしています。工事が始まってから追加すると、足場の再設置が必要になり、割高になってしまうことがあるからです。タイミングを外さない。これが最大のコスト最適化です。大規模修繕の全体設計については、大規模修繕工事のご紹介もあわせてご覧ください。
4. メリットを“戸あたり”で体感する
理事会の説明では、総額よりも「1戸あたりいくら」で語るほうが、圧倒的に伝わります。読者の財布感覚に翻訳する、ということです。
遮熱塗料のメリットは、大きく三つです。
第一に、電気代です。省エネの一般的な目安として、資源エネルギー庁はエアコンの設定温度を1℃調整すると消費電力が約10%変わるとしています(出典:資源エネルギー庁 省エネポータルサイト)。遮熱で最上階の体感温度が下がれば、設定温度を無理なく上げられ、その分が電気代の節約につながります。メーカーの事例では電気使用量を大きく削減できたケースも紹介されていますが、これは条件の良い事例であり、全戸で同じ効果が出るとは限らない点は正直に申し添えます。
第二に、居住性です。とくに最上階と、屋根に接する住戸の夏の快適性が変わります。これは電気代のように数字にはしにくいのですが、居住者満足度、ひいては賃貸オーナーであれば入居率・空室期間に効いてきます。収益物件をお持ちのオーナーさまには、私はここを強調します。「夏に涼しい最上階」は、地味ですが確かな差別化です。
第三に、資産価値です。省エネ性能の高い建物は、これからの不動産評価で少しずつ有利になっていきます。屋根の遮熱化そのものが劇的に価格を押し上げるわけではありませんが、「暑さ対策まで手を入れている建物」という積み重ねが、長期の資産維持に効きます。オーナーの長期収益の視点で見れば、遮熱は“守り”の投資です。
“戸あたり”で考えるとどう見えるか(あくまで一例)
具体的な金額感を、あえて一例としてお示しします。ここから先の数字は建物によって大きく変わる試算であり、見積もりの約束ではないことを、先にお断りしておきます。
たとえば50戸のマンションで、屋根・屋上の塗装を標準塗料ではなく遮熱塗料に切り替える場合、上乗せになるのは主に塗料のグレード差です。仮にその差が総額で数十万円だったとすると、50戸で割れば1戸あたりは数千円から一万円程度、という水準に収まることも珍しくありません。しかもこれは、次の12〜15年を通じて効き続けるコストです。
私が理事会で必ずこの「戸あたり」に翻訳するのは、総額で聞くと身構えてしまう金額も、戸あたり・年あたりに直すと、判断のものさしがまるで変わるからです。逆に言えば、この翻訳をせずに総額だけで否決される遮熱の提案は、少なくないと感じています。もったいない話です。
5. ただし万能ではない——不向きなケースと注意点
ここは、あえてデメリットからお話しします。両方お伝えするのが、私の考える誠実さだからです。
まず、屋根に直射日光がほとんど当たらない建物、たとえば周囲を高い建物に囲まれて日陰になっている低層マンションでは、遮熱の効果は限定的です。反射する太陽光そのものが少ないからです。
次に、すでに屋上に十分な断熱材が入っている建物では、遮熱を足しても体感差が小さいことがあります。遮熱と断熱は役割が違うので、「うちはどちらが効くのか」を診断してから決めるべきです。
さらに、遮熱塗料は汚れが付くと反射率が落ちる性質があります。真っ白い服が汚れると熱を吸うのと同じ理屈です。定期的な点検と、必要に応じた洗浄をセットで考えないと、数年で効果が目減りします。「塗って終わり」ではない、ということです。
最後に、色の制約があります。反射率は明るい色ほど高くなる傾向があるため、濃い色を選ぶと遮熱効果は弱まります。デザイン上の希望と遮熱性能のバランスを、事前にすり合わせておく必要があります。
私はいつも理事長さまに、「遮熱は“効く建物”と“効きにくい建物”がある。だから、まず診断です」とお伝えしています。カタログの数字だけで全戸一律に決めない。これが失敗しないコツです。
6. 屋上・高所こそロープアクセス——足場をかけずに塗る選択肢
ここで、私たちの本業の話を少しだけさせてください。利益相反にならないよう、はっきり「自社の提案」として区切ってお話しします。
屋根や屋上の塗装で悩ましいのは、そこへ「どうやって人と道具を運ぶか」です。従来は建物全体に足場を組みますが、屋上・塔屋・高所の一部だけが対象なら、足場は大がかりで割高になりがちです。
そこで選択肢になるのが、ロープアクセス工法(無足場工法)です。産業用のロープで作業員が高所に直接アクセスし、足場を架けずに塗装や点検を行う工法です。素人向けに言えば、「命綱の技術を使って、足場なしで壁面・屋上まわりを施工する」方法です。足場費を抑えられ、工期も短く、居住者の生活への影響も小さく抑えられます。詳しくはロープアクセス工法のご紹介をご覧ください。
足場とロープの「いいとこ取り」=ハイブリッド工法
とはいえ、ロープアクセスが常に最適とは限りません。外壁の全面改修や、大量の資材を上げ下げする工事では、足場のほうが効率的です。
そこで私が必ずワンセットで提案するのが、ハイブリッド工法です。外壁の広い面は足場、屋上まわりや塔屋、狭い箇所はロープアクセス、というように部位ごとに使い分けて、総コストを最適化します。足場一辺倒でもロープ一辺倒でもなく、建物ごとに最適な組み合わせを設計できる会社は、日本でもまだ多くありません。遮熱塗料のように「屋根・屋上に効くもの」を、余計な足場費をかけずに施工できるかどうか。ここが、総額を大きく左右します。
工法ごとの向き・不向きを、ざっくり整理すると次のとおりです。
| 工法 | 向いている場面 | 費用感 | 居住者への影響 |
|---|---|---|---|
| 足場仮設 | 外壁全面の改修、大量の資材上下 | 足場設置・解体費が大きい | 設置期間中は視界・防犯面で影響 |
| ロープアクセス(無足場) | 屋上まわり・高所の一部・点検 | 足場費を抑えられる | 生活影響が小さく工期も短い |
| ハイブリッド | 大規模で部位ごとに条件が異なる物件 | 部位ごとに最適化し総額を圧縮 | 必要な範囲だけ足場を使い影響を限定 |
遮熱塗料を「屋根・屋上」に効かせたいだけなら、建物全体に足場を組むのは過剰になりがちです。どの範囲に、どの工法でアクセスするか。ここを設計できるかどうかで、同じ塗料でも総額はまるで変わってきます。
7. 効果を最大化する“施工品質”の見極め方
同じ遮熱塗料を使っても、施工の質で結果はまったく変わります。ここは、材料の話以上に大切なところです。私が現場で20年見てきて、一番悔しい思いをするのは、良い塗料を使いながら施工が雑で、数年で効果が落ちてしまった建物に出会うときです。
下地処理で8割が決まる
屋上・屋根の塗装は、塗る前の下地処理で仕上がりの寿命がほぼ決まります。古い塗膜やチョーキング(塗装面が白い粉を吹く劣化現象)、コケ・汚れをきちんと除去し、下地を乾燥させてから塗る。この地味な工程を省くと、どんな高性能塗料でも密着せず、早期に剥がれます。見積書に「高圧洗浄」「ケレン(さび・旧塗膜の除去)」の工程と単価が明記されているかを、必ず確認してください。
「ダブル遮熱」で性能を引き出す
遮熱塗料は、上塗りだけでなく下塗りにも遮熱機能を持たせる「ダブル遮熱」の構成にすると、反射性能をより引き出せるとされています(出典:日本ペイント サーモアイ シリーズ)。とくに濃い色を選びたい場合、上塗りだけでは反射率が下がりやすいので、下塗りで遮熱を補う設計が効いてきます。「上塗りだけ遮熱」なのか「下塗りも遮熱」なのか。ここは見積書の仕様欄で確認できます。
膜厚(まくあつ)を守れているか
塗料は、規定の厚み(膜厚)で塗って初めてカタログどおりの性能が出ます。薄く塗り伸ばして材料をケチると、遮熱性能も耐久性も落ちます。私は必ず、使用量の記録(缶数の管理)と、必要なら膜厚計での確認をお願いするようにしています。真面目な会社ほど、この記録を嫌がりません。むしろ、記録を提示できることが施工品質の証明になります。
このあたりは専門的に聞こえるかもしれませんが、管理組合として「工程・使用量・記録が見積書と報告書に出てくるか」を見るだけで、施工の丁寧さは驚くほど判別できます。
8. 省エネ改修という文脈——これからの建物評価
遮熱塗料は、単体の“暑さ対策グッズ”ではなく、建物の省エネ改修という大きな流れの一部として捉えると、判断がぶれません。
屋根・屋上の高反射化は、都市の気温上昇を抑えるヒートアイランド対策としても位置づけられてきました。環境省もクールルーフ(高反射屋根)をヒートアイランド対策の手法のひとつとして紹介しています(出典:環境省 ヒートアイランド対策)。つまり遮熱は、個々の建物の快適性だけでなく、社会的にも意味のある改修だということです。
補助金・制度は「年度」と「自治体」で必ず変わる
ここで注意点をひとつ、はっきり申し上げます。省エネ改修に対する補助金や助成制度は、国・都道府県・区市町村ごとに、そして年度ごとに、内容も締切も大きく変わります。「去年あった制度が今年も同じ条件である」という前提で計画を立ててはいけません。予算枠に達した時点で締め切られる制度も多くあります。
だからこそ、遮熱を含む省エネ改修を検討するなら、大規模修繕の計画段階で、その時点の最新の一次情報(お住まいの自治体の公式サイトや国の事業ページ)を必ず確認してください。私たちも、ご相談の際にはその時点で使える制度を一緒に整理しますが、最終的な適用可否は必ず公的な一次情報でご確認いただくようお願いしています。
「守りの投資」としての位置づけ
省エネ性能の高い建物が、これからの不動産評価で少しずつ有利になっていく——この流れは、しばらく続くと私は見ています。遮熱塗料そのものが資産価値を跳ね上げるわけではありませんが、「暑さ対策まで手を入れている、管理の行き届いた建物」という積み重ねが、10年20年の長期では効いてきます。派手ではありませんが、これは私が現場で見てきた、嘘偽りのない実感です。
9. 屋上は「防水」と「遮熱」をセットで考える
ここは、私たちが防水工事も手がけているからこそ、強くお伝えしたい話です。
屋上の一番大切な役割は、言うまでもなく防水です。雨水を建物内部に入れない。その防水層(ウレタンやシート、アスファルトなどで作る雨をはじく層)の上に、仕上げのトップコートが乗っています。遮熱を考えるとき、この「防水層との関係」を切り離してはいけません。
なぜなら、防水層は紫外線と熱で少しずつ劣化するからです。真夏に表面温度が60〜80℃まで上がる屋上では、防水層も同じように高温にさらされ、ひび割れや膨れが進みます。ここで遮熱を効かせて表面温度を下げられれば、防水層への熱ストレスもやわらぎ、結果として防水の寿命を延ばせる可能性があります。つまり遮熱は、単なる省エネだけでなく、防水層を守るための“上着”にもなり得るということです。
私は屋上に上がると、必ず防水層の状態を先に確認します。膨れ、ひび、そしてドレン(排水口)の詰まり。ここが傷んでいる屋上に遮熱だけ塗っても、根本の雨漏りリスクは消えません。だからこそ、「次の防水改修はいつか」「そのトップコートに遮熱機能を持たせられないか」を、防水と遮熱をワンセットで検討していただきたいのです。防水の種類によって遮熱トップコートとの相性もあるため、ここは必ず専門家の診断を挟んでください。防水も含めた全体設計は大規模修繕工事のご紹介でも触れています。
10. 現場で見た「入れて良かった」ケースと「悩ましかった」ケース
抽象論だけでは伝わりにくいので、物件が特定されない範囲で、私の経験を二つご紹介します。
入れて良かったのは、南向きで日当たりのよい、最上階が暑さに悩んでいた鉄骨系の建物でした。大規模修繕の屋根塗装のタイミングに合わせて遮熱を採用したところ、翌年の夏、最上階の理事さんから「去年より昼間が楽になった」という声をいただきました。数字で証明したわけではありませんが、体感が変わったという感想は、私にとって何よりの手応えでした。足場ではなく高所の一部をロープアクセスで施工したことで、余計な足場費もかけずに済みました。
一方で悩ましかったのは、周囲を高い建物に囲まれ、屋根に直射日光があまり当たらない立地の建物でした。カタログ上の効果は魅力的でしたが、そもそも反射する日射が少ないため、費用に見合う体感差が見込みにくい。私は正直に「この建物では、遮熱に予算を割くより、防水の質を上げるほうが効きます」とお伝えしました。契約は小さくなりましたが、無責任に勧めなかったことは、今でも間違っていなかったと思っています。
この二つのケースが示すのは、結局は同じ結論です。遮熱は建物ごとに効き方が違う。だから、カタログの数字ではなく、その建物を診てから決める。これは私が現場で20年見てきた、嘘偽りのない感想です。
11. 発注前に管理組合・オーナーが確認すべきチェックリスト
読み終えたあとに動けるよう、確認すべき点を整理します。
まず、次回の大規模修繕がいつかを長期修繕計画で確認してください。その塗装のタイミングに、遮熱の採否をぶつけるのが最も無駄がありません。
次に、見積書で「JIS K 5675適合か」「日射反射率の数値」「色による性能差」を必ず確認してください。ここを説明できる会社は信頼できます。
そして、屋根・屋上の日当たりと断熱の現状を診断してもらってください。効きにくい建物に高い塗料を塗るのは、投資ではなく浪費です。
最後に、屋上・高所の施工方法(足場かロープアクセスか、ハイブリッドか)で総額がどう変わるか、複数案で比較してください。塗料のグレードだけでなく、そこへどうアクセスするかで、総コストは大きく動きます。
よくあるご質問(FAQ)
Q. 遮熱塗料は必ず電気代が下がりますか。
A. 下がる可能性はありますが、建物の条件によります。断言はできません。設定温度を上げやすくなることで結果的に節電につながる、という位置づけでお考えください。
Q. 大規模修繕とは別に、遮熱塗料だけ塗るのはどうですか。
A. 足場費が上乗せになるため、費用対効果は合いにくいです。次回の塗装工事のタイミングで採否を決めるのが実務的です。
Q. 遮熱塗料の効果はどのくらい持ちますか。
A. 塗料のグレードにもよりますが、汚れで反射率が落ちるため、定期的な点検・洗浄が前提になります。「塗って終わり」ではありません。
Q. 収益物件(賃貸マンション)でもメリットはありますか。
A. 最上階の夏の快適性が入居率・空室期間に効きます。守りの資産維持策として検討する価値はあります。
Q. 遮熱塗料と断熱塗料は、どちらを選べばよいですか。
A. 屋根から入る熱を反射で防ぎたいなら遮熱、室内外の熱の出入り全体を抑えたいなら断熱が向きます。多くのマンションの屋上・屋根では、まず遮熱が検討対象になりますが、既存の断熱状況によって最適解は変わります。ここも診断が前提です。
Q. 高層マンションでも屋上塗装のために足場は必要ですか。
A. 屋上まわりや高所の一部が対象なら、ロープアクセス工法で足場をかけずに施工できる場合があります。外壁全面の工事は足場、高所の一部はロープ、というハイブリッドで総額を抑える設計も可能です。まずは建物を見せていただくのが早道です。
私からのお願い
2026年の夏は、7月下旬から8月上旬が暑さのピークと予想されています。今夏の暑さを実際に体感してから、「次の大規模修繕では屋根の暑さ対策も考えたい」という声が必ず出てきます。そのとき慌てないために、いまのうちに長期修繕計画のどこで塗装のタイミングが来るかだけでも、理事会で1分、話題に出してみてください。動けるかどうかは、この夏の“気づき”を計画に落とし込めるかで決まります。
診断とご相談だけでも、遠慮なくお声がけください。総会の前段階の整理だけでも、お力になれることがあります。お問い合わせはこちらからどうぞ。次回も、現場で本当に使える話だけをお届けします。
出典・参考資料
- 気象庁「季節予報解説資料」
- ウェザーニュース「猛暑見解2026 ダブル高気圧で酷暑に ピークは7月下旬から」
- 日本気象協会 tenki.jp「6月〜8月も全国的に高温 3か月予報」
- 日本建築仕上材工業会/建材試験センター「JIS K 5675 屋根用高日射反射率塗料 規格基準紹介」
- 日本塗料工業会「高日射反射率塗料」
- 日本ペイント「サーモアイ シリーズ 製品ページ」
- 国土交通省「長期修繕計画作成ガイドライン(令和6年6月改定)」
- 資源エネルギー庁「省エネポータルサイト(家庭の省エネ)」
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の製品・工法の効果や、補助制度の適用を保証するものではありません。実際のご判断は、建物ごとの診断と最新の一次情報にもとづいて行ってください。
▼ロープアクセス工法・無足場工法の詳細解説はこちら
ロープアクセスドットコム|無足場工法専門メディア
「修繕積立金が足りない」が当たり前になる時代に——値上げ・借入・工事の先送りの前に、管理組合とオーナーが検討すべき“工法でコストを下げる”第4の選択肢【2026年7月】
今朝、いつものようにニュースに目を通していると、「物価高騰で修繕積立金が不足するマンションが急増している」という記事が流れてきた。分譲マンションは住民全員で共有する建物の一区画にすぎず、購入後に修繕積立金の値上げや一時金の負担がのしかかる——そんな”落とし穴”を指摘する内容だった。
私は大規模修繕の現場に長く身を置いてきたが、この「積立金が足りない」という言葉を、ここ数年で本当に何度聞いたか分からない。マンションの管理組合の理事長からも、ビルや賃貸マンションを持つオーナーからも、口をそろえて相談される。「計画では足りるはずだったのに、いざ工事の見積もりを取ったら全然届かない」と。
結論から言えば、積立金不足への対応は「値上げ」「借入」「先送り」の三択ではない。もう一つ、多くの管理組合とオーナーが見落としている選択肢がある。それが「工法でコストを下げる」という発想だ。この記事では、今なぜ積立金が足りなくなっているのかを公的データで整理したうえで、私たち施工会社の側から見た”現実的な打ち手”を、できるだけ具体的にお伝えしたい。
今朝のニュースが示すもの——「積立金不足」はもはや例外ではない
きっかけになった記事は、物価高騰によって修繕積立金が不足するマンションが急増している、という指摘だった。似た論調の記事は、住宅情報サイトSUUMOでも「インフレでマンション修繕積立金が約4割で不足」という見出しで報じられている。
私がこの手のニュースを重く受け止めるのは、それが一過性の景気の話ではなく、構造的な問題だからだ。資材も人件費も上がり続けている。一方で、多くのマンションは分譲時に設定された積立金の水準のまま走ってきた。両者のギャップが、いよいよ「工事の見積もり」という形で表面化しているのが今だ。
そして、これはマンションだけの話ではない。オフィスビルやホテル、賃貸マンションを保有するオーナーにとっても、外壁・屋上防水・鉄部塗装といった大規模修繕のコストは、そのまま収益を圧迫する。積立金という言葉こそ使わなくても、「修繕にいくらかかり、それをどう賄うか」という本質的な悩みは、収益不動産を持つすべての方に共通している。
データで見る不足の実態——約4割が「計画割れ」、平均積立金は25年で1.8倍
感覚論では動けないので、まずは国が出している一次データで現状を押さえておきたい。
国土交通省が公表した令和5年度マンション総合調査によれば、計画上の積立額に対して現在の積立額が不足しているマンションは36.6%にのぼる。しかも、不足額が計画の20%を超えるマンションが11.7%ある。長期修繕計画に照らして「積立残高が不足していない」と答えた組合は約4割にとどまり、裏を返せば残りの約6割は何らかの不安を抱えているという構図だ。
積立金そのものの水準も上がっている。同じ調査で、修繕積立金の月額平均は13,054円(1戸あたり)となり、25年間で約1.8倍に増えた。つまり、住民はすでにかなりの負担増を受け入れてきた。それでもなお「足りない」という声が絶えないのが、今の局面である。
背景には資材と労務費の上昇がある。国交省の建設工事費デフレーターはこの10年で約3割上昇し、公共工事設計労務単価は14年連続で上がり続けている。工事の”元値”そのものが押し上げられているのだから、25年前の想定で組んだ計画が届かなくなるのは、ある意味当然の帰結だ。
こうした実態を受けて、国も動いた。国交省は令和6年(2024年)6月に「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」を改定し、資材高騰を反映した新しい目安単価を示している。専有床面積あたりの目安は、規模により月額202〜218円/㎡。段階的に積立金を上げていく「段階増額積立方式」についても、初期額は均等積立額の0.6倍以上、最終額は1.1倍以内に収める、という考え方が明記された。国が「無理のない引き上げの目安」をわざわざ示すほど、積立金の水準見直しは全国的な課題になっているということだ。
なぜ足りなくなるのか——3つの構造要因
「うちの管理組合は真面目に積み立ててきたのに、なぜ足りないのか」。理事の方からよく受ける質問だ。理由は主に3つある。
1つ目は、当初設定の低さ。新築分譲時は、販売のしやすさもあって積立金が低めに設定されがちだ。段階増額方式を前提にしていても、いざ増額決議の段になると住民合意が難しく、計画どおりに上げられないケースが多い。
2つ目は、段階増額の”つまずき”。前述のガイドライン改定は、まさにこの段階増額が現場でうまく機能してこなかった反省から来ている。将来の大幅な値上げを前提にした計画は、その将来が来たときに合意形成でつまずきやすい。
3つ目が、資材・労務費の高騰。これは個々のマンションの努力ではどうにもならない外部要因だ。10年で3割という工事費の上昇は、どんなに堅実な積立計画でも吸収しきれない。
重要なのは、この3要因のうち管理組合やオーナーがコントロールできるのは限られているという点だ。だからこそ、「収入(積立金)を増やす」だけでなく、「支出(工事費)そのものを設計しなおす」という発想が要る。
付け加えると、積立金の不足は「気づいた時にはもう遅い」構造になりやすい。大規模修繕は12〜15年周期でやってくるが、その間に資材費がじわじわ上がると、いざ工事の年に見積もりを取って初めてギャップが露見する。日々の管理では見えにくく、数年に一度、まとまった金額として一気に表面化するのだ。だからこそ、次の修繕までまだ時間があるうちに、早めに現状を点検しておくことが何よりの備えになる。
「不足」への典型的な3つの対応と、その副作用
積立金が足りないと分かったとき、多くの管理組合・オーナーが取る対応は、だいたい次の3つに集約される。そして、そのどれにも副作用がある。
(1) 積立金の値上げ・一時金徴収
最も正攻法だが、住民合意のハードルが高い。高経年マンションほど、年金生活の高齢世帯が増えている。国交省の同調査では、高経年マンションで70歳以上の世帯主が半数以上を占めるという結果も出ている。負担増を求めても「これ以上は払えない」という現実に突き当たりやすい。
(2) 金融機関からの借入
住宅金融支援機構などのマンション共用部リフォーム融資を使う手はある。ただし当然ながら利息が乗り、将来の積立金でその返済を賄うことになる。今の不足を未来に付け替えているだけ、という側面は否めない。
(3) 工事範囲の縮小・先送り
最も安易で、最も危険な選択だ。外壁のひび割れや防水の劣化を先送りすれば、雨水が構造躯体に回り、数年後にはるかに高額な補修が必要になる。資産価値も、居住者・利用者の安全も損なう。”節約”のつもりが、長い目では最も高くつく。
私が現場で見てきた限り、この3つだけで議論が煮詰まり、結局「今回は最低限だけ」と工事を痩せさせてしまう組合は少なくない。だが、そこには決定的に抜けている視点がある。
見落とされがちな第4の選択肢——「工法でコストを下げる」
大規模修繕の見積もりを見たことがある方なら分かると思うが、工事費のなかで意外に大きな比率を占めるのが「仮設足場」の費用だ。建物の規模や形状にもよるが、外壁改修工事において足場の仮設・解体・養生が総工費の2〜3割を占めることは珍しくない。
つまり、「何を直すか」を削る前に、「どうやって足場をかけるか」を見直すだけで、工事の中身を減らさずにコストを圧縮できる余地があるということだ。ここが、値上げ・借入・先送りの三択に埋もれてしまいがちな”第4の選択肢”にあたる。
私たち明誠が、通常の足場を組む足場工法に加えて、ロープアクセス工法(無足場工法)、そして両者を組み合わせるハイブリッド工法という3つの選択肢を持っているのは、まさにこの一点のためだ。建物ごとに最適な工法を選び分けることで、「工事の質を落とさずにコストを下げる」ことを本気で狙える。
ロープアクセス(無足場工法)が積立金不足に効く理由
ロープアクセス工法とは、産業用のロープに専門資格を持つ技術者がぶら下がり、外壁の塗装・防水・タイル補修・シーリングの打ち替えといった作業を、足場を組まずに行う工法だ。ビルの窓ガラス清掃をイメージしていただくと近い。積立金不足に悩む管理組合・オーナーにとって、この工法には具体的なメリットがいくつもある。
第一に、足場費の削減。前述のとおり総工費の2〜3割を占めうる足場を、必要な部位だけロープアクセスに置き換えることで、その分のコストを圧縮できる。全面足場が本当に必要な建物ばかりではない。部分的な補修や、高層階だけの作業であれば、無足場のほうが合理的なケースは多い。
第二に、工期の短縮。足場の架設・解体には相応の日数がかかる。ロープアクセスはその工程を省けるため、工事全体の期間を短くできることが多い。工期が短くなれば、共通仮設費や現場管理費も抑えられる。
第三に、居住者・利用者への影響が小さい。全面足場は、窓の外に骨組みとメッシュシートが張り巡らされ、日当たりも眺望も遮られる。防犯上の不安を訴える住民も出る。ロープアクセスなら、そうした生活への負荷を最小限にできる。賃貸マンションやホテルであれば、これは稼働率・入居率の維持に直結する重要なポイントだ。
もちろん、ロープアクセスは万能ではない。大量の資材を上げ下げする必要がある工事や、建物の全面を一度に施工したい場合には、足場のほうが向いている。だからこそ「工法の選択」が意味を持つ。明誠のロープアクセス工事について、より詳しくはロープアクセス工事のご案内(/rope/)をご覧いただきたい。
ロープアクセスをめぐる、よくある3つの誤解
「無足場」と聞くと、まだ身構える方が多い。相談の場でよく耳にする誤解を、3つほど解いておきたい。
誤解1:「危ないのでは?」
ロープアクセスは、命綱と作業ロープの2本を独立してかける「二重系」が基本だ。仮に片方が損傷しても、もう片方で墜落を確実に止める。国際的な技能認定(IRATA等)や国内の労働安全衛生法に基づく特別教育など、技術者は所定の訓練と資格を経て現場に立つ。むしろ、組み立て途中の足場からの墜落・倒壊のリスクを考えれば、適材適所で使えば安全性は十分に確保できる工法だ。
誤解2:「品質が落ちるのでは?」
作業員が壁面に直接張り付いて手作業で仕上げるため、細部の目視と施工はむしろ丁寧になりやすい。塗装・シーリング・タイル補修など、職人の手仕事が品質を決める工程では、足場作業と遜色ない仕上がりを出せる。要は、それを担う技術者の練度の問題であり、無足場だから雑になるわけではない。
誤解3:「対応できる工事が限られるのでは?」
確かに全面改修のすべてを無足場で完結させるのは難しい。しかし、外壁の部分補修、シーリングの打ち替え、鉄部塗装、タイルの浮き調査・補修、屋上まわりの防水補修など、対応できる範囲は想像以上に広い。そして”限られる”からこそ、足場と組み合わせるハイブリッドが生きてくる。
実は今、ホテル・旅館の「改修ラッシュ」も起きている
積立金不足はマンションの文脈で語られがちだが、ここ最近のニュースを眺めていると、ホテルや旅館の改修・リニューアルの話題が目に見えて増えている。全面改修工事に着手して受け入れ再開を目指す温泉ホテルや、閉館した老舗をリブランドして新しい宿として生まれ変わらせる計画など、”建て替え”ではなく”改修で価値を上げる”動きが各地で進んでいる。
これは、インバウンド需要の回復と施設の老朽化が同時に進んでいることの表れだと私は見ている。壊して建て直すには時間もコストもかかりすぎる。だからこそ、既存建物を活かした改修・リニューアルに注目が集まる。ここでも本質は同じで、「いかにコストを抑え、営業への影響を最小化しながら外装・共用部を刷新するか」が勝負になる。
ホテルや旅館の外装改修で全面足場を組めば、客室からの眺望が塞がり、工事期間中の稼働率は確実に落ちる。ロープアクセスやハイブリッド工法で、営業を止めずに——あるいは休業を最小限にして——外装を更新できれば、その差はそのまま収益の差になる。マンションの管理組合であれ、ホテルのオーナーであれ、「工法でコストと影響を下げる」という発想が効く場面は、確実に広がっている。
3工法の使い分け——建物特性で最適解は変わる
「無足場が安いなら全部それでいいのでは」と思われるかもしれないが、話はそう単純ではない。工法にはそれぞれ得意・不得意があり、建物の特性に合わせて選ぶことで初めてコストと品質の両立ができる。整理すると次のようになる。
| 工法 | 特徴 | 向いている建物・工事 | コスト面の効き方 |
|---|---|---|---|
| 通常足場工法 | 従来型の仮設足場。全面を一度に施工でき、大量の資材搬送に強い | 中低層、複雑な形状、外壁全面の大規模な改修 | 足場費はかかるが、全面同時施工で工程効率は高い |
| ロープアクセス工法(無足場) | 産業用ロープによる無足場施工 | 高層、足場架設が困難な立地、部分補修、コスト最重視の物件 | 足場費を削減。工期短縮で共通費も圧縮 |
| ハイブリッド工法 | 部位ごとに足場とロープアクセスを使い分け | 大規模・複雑物件で総合的なコスト最適化が必要なケース | 足場が必須の部位だけに絞り、残りを無足場化して総額を最適化 |
現場では、ハイブリッド工法が効くケースが非常に多い。たとえば、資材の搬入が多いバルコニー側は足場を組み、人が張り付いて作業すれば足りる妻側や高層階はロープアクセスで対応する。こうして「足場が本当に必要な部位」だけに足場費を集中させれば、全面足場よりも総額を抑えつつ、施工品質は落とさずに済む。
こうした使い分けの提案ができる施工会社は、実は全国的にもそう多くない。多くの会社は足場工法か、あるいは無足場工法か、どちらか一方しか手札を持っていないからだ。3つの工法を建物ごとに最適設計できることが、コスト面でも工期面でも効いてくる。明誠の大規模修繕の考え方については大規模修繕のご相談(/sure/)にもまとめている。
数字で考える——工法を変えると総額はどう動くか(イメージ)
具体的な金額感がないとピンとこないと思うので、あくまで考え方を示すためのイメージとして、単純化した例で説明したい。実際の金額は建物の規模・形状・劣化状況で大きく変わるため、以下は正確な見積もりではなく、あくまで「構造の理解」のための試算だとお断りしておく。
たとえば、ある大規模修繕の総額を仮に1億円とする。このうち仮設足場が総額の約25%、つまり2,500万円を占めていたとしよう。もし建物の特性上、足場が本当に必要なのは全体の6割程度で、残り4割はロープアクセスで対応できると判断できたなら、その4割分の足場費——単純計算で1,000万円程度——に手を入れる余地が生まれる。無足場化によってこの部分のコストを圧縮できれば、工事の中身(塗り面積も、補修範囲も)は一切削らずに、総額を数百万円単位で下げられる可能性がある。
ここで強調したいのは、「工事を減らして安くした」のではないという点だ。直すべきところは同じだけ直し、仮設のかけ方だけを最適化して総額を下げる。これが「工法でコストを下げる」の本質だ。積立金が不足しているとき、多くの組合は”工事の中身”を削ろうとするが、先に見直すべきは”仮設のかけ方”のほうなのだ。
もちろん、無足場化できる比率は建物次第で、ゼロのこともあれば半分を超えることもある。だからこそ、複数の工法を扱える会社に「工法別」で見てもらう価値がある。
オーナー視点で見る——「稼働率」と「資産価値」という2つの物差し
ここまで管理組合を主な想定に書いてきたが、賃貸マンション・オフィスビル・ホテルを保有するオーナーにとって、工法選択の意味はさらに大きい。判断の物差しが「積立金」だけでなく、「稼働率」と「資産価値」に広がるからだ。
稼働率の観点では、工事期間中の”営業への影響”が収益を直撃する。全面足場を組んで数か月、窓の外が塞がり、テナントや宿泊客から苦情が出る——これは家賃・宿泊料の値引きや解約、予約キャンセルという形で、目に見えるコストになる。ロープアクセスやハイブリッド工法で足場の設置面積・期間を抑えられれば、営業を止めずに、あるいは影響を最小限にして改修を進められる。ホテルの客室改修や外装リニューアルで、この差は非常に大きい。
資産価値の観点では、適切なタイミングで適切な範囲の修繕を行えることが重要だ。「積立金が足りないから先送り」を続ければ、外装の劣化はそのまま物件の見た目と評価を下げ、賃料相場やバリュエーションに響く。工法を工夫してコストを下げ、必要な修繕を必要な時期に打てるようにすることは、長期的な収益と資産価値を守る投資そのものだ。
私は、修繕を「削るべきコスト」としてだけ捉えてほしくないと思っている。賢く効かせれば、修繕はむしろ収益を守り、伸ばすための手段になる。
積立金不足のマンションが、今すぐできる3ステップ
では、実際に「積立金が足りないかもしれない」と感じている管理組合・オーナーは、何から始めればいいのか。私がいつもお勧めしている順序は次の3つだ。
ステップ1:長期修繕計画と積立残高の”ギャップ”を可視化する
まずは現状把握だ。今の積立残高と、直近の大規模修繕に必要な概算額を突き合わせ、どれだけ不足しているかを数字で出す。国交省のガイドライン(月額202〜218円/㎡の目安)は、自分たちの積立水準が全国の目安と比べて高いか低いかを判断する良い物差しになる。
ステップ2:工事の見積もりを”工法別”で取る
ここが最も見落とされるポイントだ。多くの見積もりは全面足場を前提に作られている。同じ工事内容で「足場工法」「ロープアクセス」「ハイブリッド」の3パターンを比較できれば、削らずに下げられる余地が見えてくる。相見積もりを取る際は、無足場工法に対応できる会社を必ず一社は入れておくことをお勧めしたい。
ステップ3:修繕の”優先順位”を専門家と整理する
不足が大きい場合でも、すべてを一度にやる必要はない。安全・防水に直結する部位を優先し、それ以外は次期に回すという判断も現実的だ。ただし、この優先順位づけは素人判断では危うい。劣化の進行度を正しく読める専門家と一緒に整理してほしい。
この3ステップは、特別な準備がなくても今日から着手できる。そして、どの段階でも「工法の選択肢を持っているか」が結果を大きく左右する。
なぜ明誠は「高品質かつ低価格」を両立できるのか——フランチャイズという仕組み
「工法を選べるのは分かった。ではなぜ、それで品質を落とさずに価格を抑えられるのか」。もっともな疑問だと思う。ここには、私たちが築いてきた仕組みの話がある。
明誠は、ロープアクセス工事として日本で初めてのフランチャイズ展開を進めてきた。塗装・防水・タイル・電気・看板といった各分野の専門職の会社が加盟し、それぞれの得意領域で腕を振るうネットワークになっている。これが効くのは、中間マージンを重ねずに、各工程を専門職が直接担えるからだ。元請けが下請けに丸投げし、そこからまた孫請けへ——という多層構造をなくせば、その分だけ価格は下げられる。そして、専門職が自分の分野を責任を持って施工するから、品質はむしろ上がる。
もう一つ、私たちはJCSA(一般社団法人全国建設業支援協会)の運営も手がけている。建設業向けの経営支援、オンラインセミナー、リアルの交流会、ビジネスマッチングを通じて、全国の建設事業者とつながり、技術と情報を共有している。この裾野の広さが、地域を問わず一定水準以上の施工体制を確保できる背景にある。
「安かろう悪かろう」ではなく、「仕組みで無駄を削ったから、その分お客様に還元できる」。これが、私たちが工法の選択とあわせて大切にしている考え方だ。
まとめ——修繕は「削る」より「賢く効かせる」
今朝のニュースが伝えていたように、修繕積立金の不足はもはや一部のマンションの問題ではない。国交省の調査でも約4割が計画割れという水準にあり、資材・労務費の高騰を考えれば、この傾向はしばらく続くだろう。
だが、不足への答えは「値上げ・借入・先送り」の三択だけではない。工事の中身を削る前に、工事の”やり方”=工法を見直す——この第4の選択肢を持てるかどうかで、管理組合の負担も、オーナーの収益も、そして建物の資産価値も変わってくる。
私たち明誠は、足場工法・ロープアクセス工法・ハイブリッド工法の3つを、建物ごとに最適に組み合わせて提案できる、日本でも数少ない会社だと自負している。ロープアクセスのフランチャイズ・ネットワークを通じて、塗装・防水・タイル・電気・看板といった各分野の専門職が加盟し、高品質と低価格を両立できる体制も整えている。
「積立金が足りない」「工事費が想定を超えた」「営業を止めずに改修したい」——そんなお悩みがあれば、まずは現状を一緒に整理するところからで構わない。工法を含めた最適な打ち手を、建物の特性に合わせてご提案する。ご相談はお問い合わせ(/contact/)からお気軽にどうぞ。
修繕は、削るものではなく、賢く効かせるもの。その一点を、この記事を通じてお伝えできていれば嬉しい。
[出典・参考]
– 国土交通省「令和5年度マンション総合調査結果」(修繕積立金の不足割合36.6%、不足20%超11.7%、月額平均13,054円、高経年マンションの世帯主高齢化)
– 国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」令和6年6月改定(目安単価202〜218円/㎡・月、段階増額の考え方)
– 国土交通省「建設工事費デフレーター」「公共工事設計労務単価」(工事費の上昇)
– Googleアラート(2026年7月7日ダイジェスト/分譲マンション関連ニュース)を起点に執筆
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別物件の修繕計画・資金計画については専門家にご相談ください。
▼ロープアクセス工法・無足場工法の詳細解説はこちら
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マンション管理の“見える化”が資産価値を左右する時代へ——神戸市が2026年7月から管理状況届出を義務化。収益物件オーナーと管理組合が認定制度・大規模修繕・工法選択で先手を打つ実務【2026年7月】
2026年7月、神戸市で「マンション管理の届出」が義務になりました
2026年7月1日、神戸市で分譲マンションの「管理状況の届出」が義務になりました。これは、神戸市が2025年9月11日に公布した「神戸市マンション管理の適正化の推進に関する条例」に基づくもので、条例そのものの施行は2026年4月1日、そのうち管理状況の届出義務化については2026年7月1日からと段階的に始まっています(出典:神戸市「マンション管理状況の届出・情報開示」)。
制度の狙いは大きく二つあります。一つは、市がマンションの管理の実態を把握し、その状況に応じた支援を行えるようにすること。もう一つが、私が今日いちばんお伝えしたいポイントなのですが、「管理状況の見える化によってマンションの市場評価の向上を図る」こと、つまり資産価値に直結させることです。届け出た内容は、届出者の意向に基づいて、届出の翌月から5年間、神戸市のホームページで公開されます(出典:神戸市 前掲)。
ニュースとしては「また役所の手続きが一つ増えた」くらいに読み流されてしまいそうな話です。実際、NHKも「神戸市は市内の分譲マンションの適切な管理につなげようと、管理組合などに対して大規模修繕の実施状況といった管理に関する届け出を今月から求める」と、淡々と報じています。ですが、収益物件を運用しているオーナーさまや、資産としてのマンションを預かる管理組合の理事長さまにとって、この動きは決して他人事ではありません。ここからが本題です。
なぜ「届出の義務化」が、オーナーと管理組合にとって重い意味を持つのか
正直に申し上げます。私はこの十数年、外壁や防水の現場に立ちながら、「管理がしっかりしている建物」と「そうでない建物」の差が、年々くっきり分かれてきたと感じています。そして今回の神戸市の動きは、その差を「行政と市場が公式に見える化する」という点で、これまでとは意味合いが違います。
これまで、マンションの管理の良し悪しは、外からはなかなか分かりませんでした。エントランスが綺麗かどうか、掲示板が整っているか——せいぜいその程度で、長期修繕計画があるのか、修繕積立金が足りているのか、大規模修繕をいつやったのかは、買う側にも借りる側にも見えなかったのです。
それが、届出制度によって「総会を開いているか」「管理規約があるか」「修繕積立金をいくらに設定しているか」「修繕を計画的に実施しているか」といった中身が、行政に把握され、場合によっては公開されます。つまり、管理の実態が資産価値の一部として値付けされる時代に、はっきり足を踏み入れたということです。管理を放置してきた建物は、売るときも貸すときも、これから確実に不利になっていきます。
私はいつも理事長さまに、「修繕は建物のためだけでなく、皆さまの資産の“通知表”を良くするための投資です」とお伝えしています。今回の制度は、その通知表が本当に外から見えるようになった、という話なのです。
これは「神戸だけ」の話ではありません——全国に広がる潮流
ここで多くの方が「うちは神戸じゃないから関係ない」と思われるかもしれません。ですが、それは危険な読み方だと私は考えています。管理状況の届出制度は、すでに全国に広がりつつある大きな流れの一部だからです。
先行しているのは東京都です。東京都は2019年3月に「東京におけるマンションの適正な管理の促進に関する条例」を制定し、これに基づいて2020年4月から管理状況届出制度を始めています。一定の要件に当てはまるマンションの管理組合は、運営体制の整備、管理規約の設定、総会の開催、管理費・修繕積立金の額の設定、修繕の計画的な実施などの状況を届け出ることになっています(出典:東京都マンションポータルサイト「管理状況届出制度」)。
つまり、東京都が2020年に始めた仕組みを、神戸市が2026年に義務化という形で続いた、という構図です。私の経験上、こういう制度は先行自治体で回り始めると、他の政令市や中核市が追随していくのが常です。今はまだ「うちの街にはない」としても、数年のうちに同じ届出を求められる可能性は十分にあります。今のうちに「いつ来ても出せる状態」に管理を整えておくことが、結局はいちばんの近道です。
そして、この自治体の動きの背景には、国そのものの法整備があります。次はそこを整理します。
国も動いている——マンション管理適正化法と区分所有法の改正
自治体の届出制度の土台になっているのが、国の「マンションの管理の適正化の推進に関する法律」(マンション管理適正化法)です。この法律に基づいて、都道府県や東京都の特別区・市などが「マンション管理適正化推進計画」を作り、その中で管理状況の把握や後述する認定制度を運用しています。
さらに近年、この分野の法改正が相次いでいます。マンション管理適正化法の改正法は2025年11月28日に一部が施行され、老朽化した建物の建替えや売却をしやすくするための改正区分所有法は2026年4月1日に施行されました(出典:国土交通省「管理計画認定制度」)。区分所有法(マンションの所有関係を定めた法律)というのは、私たち施工側から見ても「合意形成のルールブック」のような存在で、ここが変わるということは、大規模修繕や建替えの意思決定のやり方そのものが変わっていくということを意味します。
言い換えれば、「国が枠組みを整え、自治体が届出で実態を把握し、市場が管理の良し悪しで値付けをする」——この三段構えが、いま同時に動き出しているのです。この流れの中で、管理組合とオーナーが具体的に何を求められるのか。その答えの中心にあるのが、次にお話しする「管理計画認定制度」です。
管理計画認定制度とは何か——認定基準を分解して読む
「管理計画認定制度」とは、管理組合が作った管理計画を自治体が審査し、一定の基準を満たしていれば「きちんと管理されているマンション」として認定する制度です(出典:国土交通省「管理計画認定制度」)。神戸市の場合、この認定を受けるための基準の一つとして、まさに今回義務化された「管理状況の届出」を行っていることが求められます(出典:神戸市「マンション管理計画認定制度」)。届出と認定は、別々の制度でありながら、しっかり地続きになっているわけです。
認定の基準は多岐にわたりますが、私たち大規模修繕に携わる立場から見て特に重要なのは、次の二つです。
一つ目は、管理費と修繕積立金が区分して経理されていること。修繕積立金が日常の管理費に紛れ込まず、いざというときの工事のためにきちんと分けて管理されているか、ということです。二つ目、そして私がいちばん強調したいのが、長期修繕計画(今後の修繕を30年単位で見通した計画)の計画期間が30年以上あり、かつ、その残りの期間に大規模修繕工事が2回以上含まれる内容になっていることです(出典:国土交通省「報道発表:マンションの管理の適正化の推進を図るための基本的な方針」)。
ここに、私たちのような施工会社が本気で関わるべき理由があります。「30年で大規模修繕2回以上」というのは、単に計画書を作れば済む話ではありません。その計画の中身が現実的か——工事費の見積もりが妥当か、工法の選び方が建物に合っているか、積立金が足りるのか——という、施工の実務そのものが問われるのです。絵に描いた計画は、認定の場でも、実際の工事の場でも、必ずどこかで綻びます。
認定を取ると、具体的に何が変わるのか
「手間をかけて認定を取って、何かいいことがあるのか」——理事会でよく出る質問です。メリットははっきりしています。
管理計画認定を受けたマンションは、住宅金融支援機構の「フラット35」や「マンション共用部分リフォーム融資」で金利の引下げを受けられます。さらに、認定を受けたマンションを中古で取得する購入者も、フラット35で金利の引下げを受けられます(出典:国土交通省「住宅:管理計画認定制度」)。
この「買う人の金利が下がる」という点が、資産価値の観点では見逃せません。同じ立地・同じ築年数のマンションが二つ並んでいて、片方は認定あり・買い手のローン金利が優遇される、もう片方は認定なし。中古市場でどちらが選ばれ、どちらが高く売れるか。答えは考えるまでもありません。管理の良し悪しが、そのまま売却価格や賃料の底堅さに効いてくる時代になった、ということです。
収益物件オーナーさまの視点で言えば、これは「出口戦略」に直結します。将来売却するにせよ、賃貸で回し続けるにせよ、認定という“公式のお墨付き”があることは、資産としての建物の競争力そのものです。私は、区分所有のマンションを複数お持ちのオーナーさまには、「管理組合の総会で認定取得を議題に上げるだけでも、あなたの資産を守る一手になります」とお伝えしています。
認定の“肝”は、結局「長期修繕計画と大規模修繕の実行力」
ここまでお読みいただくと、届出も認定も、突き詰めれば「修繕をきちんと計画し、きちんと実行できているか」に行き着くことがお分かりいただけると思います。制度が新しくなっても、建物を守る本質は変わりません。変わったのは、その本質が「見えるようになった」ことです。
そして、長期修繕計画で「30年に大規模修繕2回以上」を無理なく成立させようとしたとき、真正面からぶつかるのが工事コストと工期の問題です。大規模修繕は、一般的にマンションで12年周期前後を目安に行われますが、そのたびに数千万円から、規模によっては億単位の費用がかかります。この費用の中で、実は意外なほど大きな割合を占めるのが「足場代」です。
足場は、工事そのものの品質には直接寄与しません。あくまで職人が作業するための“仮設”です。ところが、建物をぐるりと囲って組み、工事が終われば解体する。この架設・解体の費用と期間が、総工費と工期を確実に押し上げます。私が「長期修繕計画を現実的なものにしたいなら、まず工法から考えましょう」とお伝えするのは、このためです。
「最安の1社」に飛びつくと、かえって“見える化”で不利になる
先日も、あるオーナー向けメディアで「最安の1社に違和感」という趣旨の、大規模修繕をめぐる体験談が話題になっていました。6,500万円規模の修繕議案で、いちばん安い見積もりに疑問を持ったという、一棟物件オーナーの話です。私はこの感覚を、現場の人間として強く支持します。
正直に申し上げます。大規模修繕で「最安」だけを基準に選ぶのは、これからの時代、かなり危うい判断です。理由は二つあります。
一つは品質です。安さの中身が「必要な工程を削った安さ」であれば、数年後に不具合が出て、結局やり直しになります。もう一つが、まさに今日のテーマである「見える化」です。管理状況が届け出され、公開され、認定の対象になる時代には、「安かろう悪かろうの修繕を繰り返している履歴」そのものが、資産の評価を下げる材料になりかねません。
では、品質を落とさずにコストを下げるにはどうするか。ここで効いてくるのが、冒頭からお話ししている工法の選択肢を持っているかどうかです。
私が現場で見てきた、「工法を選べる会社」と「選べない会社」の差
現場で20年近くやってきて、私が一番もどかしい思いをするのは、「この建物なら足場を全面に組む必要はないのに」という物件に、判で押したように総足場の見積もりが出ているのを見るときです。
理由は単純で、多くの施工会社は自分たちの持っている工法でしか提案できないからです。足場屋さんは足場で、ロープの会社はロープで組み立てる。建物にとって何が最適かではなく、自社にとって何が売りやすいかで工法が決まってしまう。これは、発注する側からは非常に見えにくい構造的な問題です。
私どもが大切にしているのは、足場仮設・ロープアクセス(無足場工法)・その両方を組み合わせるハイブリッド工法の三つを、建物ごとに最適に選び分けて提案するという姿勢です。私はこれを、必ずワンセットで比較したうえでご提案するようにしています。工法を「選べる」ということは、無駄な足場を省ける、工期を縮められる、居住者の生活への影響を減らせる——つまり、コストと品質と暮らしやすさを同時に最適化できる、ということなのです。この考え方は、ロープアクセス工法のご紹介や大規模修繕工事のご紹介でも詳しくお伝えしています。
ロープアクセス(無足場工法)とは何か——素人向けに整理します
専門用語が続いたので、ここで「ロープアクセス工法」という言葉を、はじめての方向けに整理させてください。
ロープアクセス工法とは、産業用のロープを使い、作業員が建物の上から吊り下がって外壁の調査・補修・塗装・防水などを行う、足場を組まない工法(無足場工法)のことです。ビルの窓ガラス清掃で、ゴンドラや足場なしに人が降りてくる光景を見たことがある方もいらっしゃると思います。あのイメージに近い、確立された技術です。
この工法の利点は、大きく三つあります。第一に、足場の架設・解体が不要になるため、その分の費用と期間を圧縮できること。第二に、建物を丸ごと囲わないので、居住者や利用者の採光・通風・眺望への影響、そして「足場を伝った侵入」という防犯上の不安を大きく減らせること。第三に、部分的な補修や高所の一部だけの工事など、足場を組むには大げさすぎる工事にも、機動的に対応できることです。
もちろん万能ではありません。塗装の全面塗り替えのように、建物全体を長期間・面で押さえる工事では、足場のほうが効率的な場合もあります。だからこそ、「どこをロープで、どこを足場で」と使い分けるハイブリッド工法が生きてきます。大切なのは、工法ありきではなく、建物ありきで考えることです。
三つの工法を、正直に比較します
理事会や、オーナーさま同士でご検討いただけるよう、三つの工法の特徴を私なりに整理しておきます。あくまで一般的な傾向であり、実際は建物の形状・階数・劣化状況によって変わりますので、目安としてお読みください。
| 工法 | 主な特徴 | 費用・工期の傾向 | 向いている建物 | 留意点 |
|---|---|---|---|---|
| 通常足場工法 | 建物全体に仮設足場を組む従来型 | 足場費と工期がかさみやすい | 中低層、複雑な形状、全面塗替え | 生活への影響・防犯面の配慮が必要 |
| ロープアクセス工法(無足場) | 産業用ロープで上から施工 | 足場費を圧縮、工期短縮 | 高層、足場架設が難しい物件、部分補修 | 面で押さえる大規模工事は不向きな場合あり |
| ハイブリッド工法 | 足場とロープを部位ごとに使い分け | 総合コストを最適化 | 大規模・複雑物件で最適化したいケース | 精度の高い事前調査と設計力が前提 |
この表で私がお伝えしたいのは、「どれが一番か」ではありません。あなたの建物にとってどれが一番かを、正しく判定できる会社を選んでください、ということです。三つを比較できて初めて、「なぜこの工法なのか」を管理組合として説明でき、その説明こそが、届出や認定の場でも、住民への合意形成の場でも、強い武器になります。
数字を、オーナーさまの財布感覚に落とすと
大規模修繕の金額は、桁が大きすぎて実感が湧きにくいものです。そこで、戸あたりで考えてみましょう。
たとえば50戸のマンションで大規模修繕に6,000万円かかるとすると、単純計算で1戸あたり120万円の負担です。仮に工法の最適化によって総額の1割を圧縮できれば、総額で600万円、1戸あたり12万円が浮く計算になります。修繕積立金の議論で「月あたり数百円の値上げ」を巡って総会が紛糾することを思えば、工法選択で生まれるこの差がいかに大きいか、お分かりいただけると思います。
もちろん、これはあくまで概算の一例であり、実際の削減額は建物によって大きく変わります。断定はできません。ですが、「足場を当たり前と思わずに、まず工法から見直す」という発想を持つだけで、財布に返ってくるものが確かにある——これは、現場で20年見てきた私の実感です。
賃貸マンション・ビル・ホテルのオーナーさまへ——制度の“外”にいても本質は同じ
ここまで分譲マンションと管理組合を中心にお話ししてきましたが、一棟の賃貸マンションやテナントビル、ホテルを単独で所有されているオーナーさまにも、ぜひ立ち止まっていただきたいことがあります。
届出制度や管理計画認定は、区分所有のマンションが主な対象です。ですから、一棟所有の賃貸物件やビルは、多くの場合、制度の直接の対象にはなりません。ですが、だからといって「管理を見える化する必要がない」わけでは決してありません。むしろ賃貸物件のオーナーさまは、分譲マンションのように複数の区分所有者で費用を分け合うのではなく、外壁も屋上防水もエレベーターも、数百万円から一千万円を超える出費を、ご自身一人で、しかも工事をしたその年に丸ごと背負うことになります。この負担の重さは、私も現場で何度も目の当たりにしてきました。
だからこそ、賃貸物件やビル、ホテルのオーナーさまにとって、工法選択によるコストと工期の最適化は、分譲マンション以上に切実な意味を持ちます。とりわけホテルや稼働中の店舗が入るビルでは、「工事のために営業を止められない」「利用者の動線を塞げない」という制約が強く、足場を全面に組むことが売上の逸失に直結します。私どもがロープアクセスやハイブリッド工法を、稼働を止めずに進める提案としてよくご案内するのは、まさにこうした収益への影響を最小化するためです。制度の内側にいるか外側にいるかにかかわらず、「計画的に、建物に合った工法で、生活と営業への影響を抑えて直す」という本質は、まったく同じなのです。
管理組合が、いま動くべき順番
制度の話と工法の話をつなげて、管理組合として今から何をすべきかを、順番で整理します。
第一に、自分の街の届出制度の有無を確認すること。神戸市や東京都のように、すでに届出が求められる、あるいは近く求められる可能性があります。お住まいの自治体名と「マンション 管理状況 届出」で調べるか、自治体の窓口に問い合わせてみてください。神戸市であれば、相談窓口として「すまいるネット」(神戸市すまいの安心支援センター、電話078-647-9955)が設けられています(出典:神戸市「マンション管理状況の届出・情報開示」)。
第二に、長期修繕計画を点検すること。計画期間は30年以上あるか、その中に大規模修繕が2回以上組み込まれているか、修繕積立金は区分経理されているか。これは管理計画認定の基準そのものです。
第三に、次回の大規模修繕を、工法から見直すこと。前回と同じ会社に同じ足場で、と自動的に決めてしまう前に、ロープアクセスやハイブリッドを含めて比較する。この一手間が、コストと工期、そして資産価値の三つに効いてきます。
第四に、その検討過程を記録に残すこと。「なぜこの工法・この金額にしたか」を議事録に残しておくことは、届出・認定の時代において、管理組合の説明責任を果たす何よりの備えになります。
よくあるご質問(FAQ)
届出をしないと罰則があるのですか。
制度は自治体ごとに設計が異なります。神戸市は2026年7月1日から届出を義務としていますが、罰則や運用の詳細は自治体によって違うため、必ずお住まいの自治体の公式情報をご確認ください。ここで「必ずこうなる」と断定はいたしません。
賃貸専用のマンションやビルも対象ですか。
届出制度は分譲マンション(区分所有のマンション)を主な対象としています。一棟を単独所有する賃貸マンションやテナントビルは、制度の直接の対象外であることが多いです。ただし、後述するように、賃貸・自社ビルであっても「計画的な修繕と工法選択で資産価値を守る」という考え方は全く同じです。
管理計画認定は義務ですか。
いいえ、認定制度は義務ではなく、取得を目指す任意の制度です。ただしフラット35の金利引下げなど、取得によるメリットがあります(出典:国土交通省「住宅:管理計画認定制度」)。
うちは築古で積立金も不足しています。もう手遅れですか。
手遅れということはありません。むしろ、そういう建物こそ工法の最適化による効果が大きく出やすいのが実情です。まずは現状の劣化と計画を正直に把握するところからです。
デメリット・注意点も、正直にお伝えします
良いことばかりお話しするのはフェアではありませんので、両面をお伝えします。
届出制度には、当然ながら書類作成の手間がかかります。理事の負担も増えますし、慣れない管理組合には最初のハードルが高く感じられるはずです。ここは、管理会社や専門家、私どものような施工会社の力もうまく借りていただくのがよいと思います。
また、管理計画認定は「取れば安心」という魔法ではありません。認定は管理の枠組みが整っていることの証であって、実際の建物の劣化が止まるわけではありません。認定を取ったからと修繕の手を緩めれば本末転倒です。制度はあくまで、私たちが本来やるべき「建物を守る」という営みを、後押しし、可視化するための道具だとお考えください。
そして工法についても、ロープアクセスが常に安いわけでも、ハイブリッドが常に最適なわけでもありません。ただし○○の場合は不向き、という判断を含めて正直に提案できるかどうか。そこにこそ、施工会社の力量が表れます。
まとめ——制度が変わっても、建物を守る本質は変わりません
神戸市の届出義務化、東京都の先行事例、そして国のマンション管理適正化法の改正。これらが指し示しているのは、「管理の良し悪しが、これまで以上に、はっきりと資産価値になる」という一つの方向です。
その中で、収益物件オーナーさまと管理組合にできる最も確実な備えは、派手なものではありません。長期修繕計画を現実的に整え、次の大規模修繕を工法から見直し、その過程をきちんと記録に残す。この地道な積み重ねが、届出・認定の時代に、あなたの資産を静かに、しかし確実に守ります。
私どもは、足場・ロープアクセス・ハイブリッドの三つを建物ごとに比較してご提案できる、数少ない会社です。工法の比較や長期修繕計画の点検は、お問合せフォームからご相談だけでも遠慮なくお声がけください。総会や理事会の前段階の整理だけでも、お力になれることがあります。次回も、現場で本当に使える話だけをお届けします。
出典・参考資料
- 神戸市「マンション管理状況の届出・情報開示」
- 神戸市「マンション管理計画認定制度」
- 東京都マンションポータルサイト「管理状況届出制度」
- 国土交通省「住宅:管理計画認定制度」
- 国土交通省「報道発表:マンションの管理の適正化の推進を図るための基本的な方針の策定について」
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収益不動産の資産価値は「大規模修繕」で守る時代に——企業の不動産売却18年ぶり高水準が映す“持つ・持たない”の分かれ目【2026年6月】
収益不動産の資産価値は「大規模修繕」で守る時代に——企業の不動産売却18年ぶり高水準が映す“持つ・持たない”の分かれ目【2026年6月】
おはようございます。明誠の本間です。
先日、ある新聞の見出しに目が留まりました。「企業の不動産売却、18年ぶり高水準」。あの味の素さんが、京橋の本社ビルを手放したというのです。私はこの記事を、現場へ向かう車の中で読みました。そして正直に申し上げます。これは収益不動産をお持ちのオーナーさまにとって、他人事ではない話だと感じました。
なぜなら、大きな会社が「不動産を持たない」方向へ舵を切る一方で、個人や中小法人のオーナーさまは、これからも「持ち続ける」前提で資産と向き合っていく方が多いからです。同じ不動産でも、立場が違えば判断はまるで逆になります。そして「持ち続ける」と決めた瞬間から、本当の勝負が始まります。その勝負を左右するのが、ほかでもない大規模修繕(建物全体を一定周期でまとめて直す計画的な工事)なのです。
今日は、このニュースを入り口に、収益ビル・マンション・ホテルをお持ちのオーナーさまが、これからの時代に資産価値をどう守り、どう高めていくのか。現場で20年やってきた私の視点で、できるだけ具体的にお話しします。
「持つ会社」が減り始めた——18年ぶりの売却ラッシュが意味すること
まず、ニュースの中身を正確に押さえておきます。
報道によれば、2025年に上場企業が国内不動産を売却した金額は約1兆2318億円にのぼり、これは18年ぶりの高水準だといいます(出典:日本経済新聞「企業の不動産売却18年ぶり高水準 味の素は本社ビル、資産効率を改善」)。味の素さんは京橋の本社ビルを売却し、近隣の複合ビルへ本社機能を移すと報じられています。ほかにもIHIさんが都内の不動産を、松竹さんや三陽商会さんも保有物件の売却を決めたとされています。
なぜ、いま売るのか。背景には、不動産市況が好調であること、そしてROE(自己資本利益率=株主が出したお金でどれだけ効率よく稼いだかを示す指標)やPBR(株価純資産倍率)の改善を求める投資家からの圧力があると見られています。平たく言えば、「使っていない、あるいは効率の悪い不動産は、持っているより売って身軽になった方が、会社の数字が良く見える」という判断です。
これは、企業経営としては合理的な動きです。本社ビルを所有していれば、固定資産税もかかり、維持管理費もかかり、何より多額の資金が建物に縛り付けられます。その資金を本業に回した方が稼げる、と考える会社が増えているわけです。
ただ、私がここで立ち止まってほしいと思うのは、「だから不動産はもう持つ価値がないのか」という早合点です。話はそう単純ではありません。
法人と個人で逆向きの判断——なぜオーナーは「持ち続ける」前提で考えるべきか
大企業が本社ビルを売るのと、収益不動産オーナーさまが物件と向き合うのとでは、そもそもの目的が違います。
事業会社にとって、本社ビルは「コストセンター」、つまりお金を生まない費用のかたまりです。だから身軽にしたい。一方、オーナーさまにとっての収益物件は「プロフィットセンター」、毎月家賃という収益を生み続ける装置です。性格がまったく逆なのです。
収益物件は、保有し続けて家賃収入を得ながら、出口(売却)のタイミングで売却益も狙える。これが不動産投資の基本構造です。途中で安易に手放してしまえば、その収益装置そのものを失うことになります。ですから多くのオーナーさまは、「いつ売るか」よりも「どう持ち続けるか」を軸に考える方が、長期の収益は安定しやすいのです。
もちろん、これは投資判断であり、私は不動産の専門アドバイザーでも金融の専門家でもありません。売る・持つの最終判断は、税理士さんやファイナンシャルプランナーなど専門家と相談のうえ、ご自身で決めていただくべきものです。私がお伝えできるのは、あくまで「建物を維持する側」から見た現実です。
その現実とは——「持ち続ける」と決めたなら、建物の状態こそが資産価値を決める、という一点に尽きます。
価格はもう「立地と築年数」だけでは決まらない——二極化の本当の分岐点
「うちの物件は駅から近いし、まだ価格は大丈夫」。そうおっしゃるオーナーさまは少なくありません。たしかに立地は重要です。しかし、いま市場で起きているのは、もう一段深い変化です。
国土交通省の不動産価格指数を見ると、マンション(区分所有)の全国指数は2010年平均を100として、2025年12月時点で225.1まで上昇しています(出典:国土交通省「不動産価格指数」)。長い目で見れば、マンション価格は大きく上がってきました。新築価格の高騰が中古価格をも押し上げる流れも続いています。
ただ、この「上昇」は全部の物件に等しく恵みをもたらすわけではありません。市場関係者の多くが指摘するのは、二極化です。都心・駅近・築浅・そして「管理状態の良い物件」は価格が底堅い。一方で、郊外・築古・そして「修繕に不安のある物件」は価格が伸びにくく、調整を受けやすい。
ここで注目していただきたいのが、「管理状態の良し悪し」「修繕への備え」が、立地や築年数と並ぶ価格の分岐点として、はっきり語られるようになったことです。同じ駅、同じ築年数でも、外壁がきれいで修繕履歴が整った建物と、シーリング(目地のゴム状の防水材)がひび割れ、外壁に汚れが目立つ建物とでは、買い手の評価がまったく違います。私は仲介会社の方から、「修繕履歴がしっかりしている物件は、商談が早い」という話を何度も聞いてきました。
つまり、これからの収益不動産は、「建物をどう維持してきたか」という履歴そのものが、資産価値として値付けされる時代に入ったのです。
数字で見る「修繕の備え不足」——36.6%という現実
では、世の中のオーナーや管理組合は、その備えが十分にできているのでしょうか。残念ながら、データは厳しい現実を示しています。
国土交通省の令和5年度マンション総合調査によれば、計画上の積立額に対して現在の修繕積立金が不足しているマンションは36.6%にのぼります(出典:国土交通省「令和5年度マンション総合調査結果」)。3棟に1棟以上が、計画通りにお金を貯められていないということです。
同じ調査では、修繕積立金の額(駐車場使用料等からの充当額を除く月・戸当たり)の平均は13,054円。長期修繕計画(これから数十年でいつ・何を・いくらで直すかを定めた計画書)を作成している管理組合は88.4%ある一方で、25年以上の計画期間で積立額を設定しているのは62.4%にとどまります。
この数字を、私は現場の感覚と重ねて読みます。計画は作ったものの、資材価格や人件費の上昇に積立額が追いついていない。気づいたときには、いざ大規模修繕という段になって「お金が足りない」。だから工事を先送りする。先送りしている間に劣化が進み、いざ着工すると追加の補修が増えてさらに費用がかさむ——この悪循環を、私は何度も見てきました。
賃貸オーナーさまの場合、管理組合という仕組みがない分、この「備え」はすべてご自身の判断にかかってきます。毎月の家賃が入ってくると、つい修繕の積み立てを後回しにしてしまう。お気持ちはよく分かります。ですが、後回しにしたツケは、必ず建物の劣化と価値の下落という形で返ってきます。
私が現場で20年見てきた、「価値が落ちる建物」と「落ちない建物」の差
少し、現場の話をさせてください。
私はこれまで、数えきれないほどのマンションやビルの外壁に、足場やロープでよじ登り、手で叩き、目で見てきました。築20年を超えた建物を前にすると、その建物が「どう扱われてきたか」が、手に取るように分かります。
価値が落ちない建物には、共通点があります。劣化が「小さいうちに」手当てされているのです。たとえば、シーリングの軽いひび割れ。これを早めに打ち替えておけば、水は壁の中に入りません。ところが放置すると、雨水が外壁の内部に回り、鉄筋を錆びさせ、コンクリートを内側から押し割る「爆裂」という現象を引き起こします。こうなると、補修費は桁が一つ変わります。
私が一番悔しい思いをするのは、「あと2年早く相談してくださっていれば、この費用の半分で済んだのに」という現場に立ち会うときです。タイル(外壁に貼られた化粧材)が浮いて、いつ落ちてもおかしくない状態になっている。下は人が通る歩道。こうなると、資産価値どころか、第三者への落下事故という賠償リスクまで背負うことになります。
逆に、価値が落ちない建物のオーナーさまは、決まって「早めの点検」を習慣にされています。派手なことではありません。年に一度、専門家の目で建物をぐるりと見てもらう。それだけで、大きな出費の芽を小さいうちに摘めるのです。私はいつもオーナーさまに、「建物は人間の体と同じで、人間ドックが一番安い投資です」とお伝えしています。
大規模修繕は「コスト」ではなく「資産価値の維持装置」
ここからが本題です。
大規模修繕というと、多くの方が「大きな出費」「できれば避けたいもの」と捉えがちです。気持ちは分かります。一回あたり数百万円から、規模によっては数千万円、大型物件なら億単位になることもあります。
しかし、視点を変えてみてください。先ほど見たように、いまや「修繕の状態」そのものが資産価値の値付けに直結する時代です。だとすれば、大規模修繕は単なる出費ではなく、資産価値を維持し、ときに高めるための「投資」と捉えるべきものです。
私は、これを「資産価値の維持装置」と呼んでいます。きちんと修繕された建物は、家賃を維持でき、空室を埋めやすく、出口で高く売れる。逆に修繕を怠った建物は、家賃を下げざるを得ず、空室が増え、売るに売れなくなる。同じ建物が、修繕という一手で正反対の道をたどるのです。
ですから私は、収益物件のオーナーさまにこそ、修繕を「守り」ではなく「攻め」の経営判断として位置づけていただきたいと考えています。物件の利回りを守るのは、新しい入居者を探すこと以上に、いまある建物の価値を落とさないことなのですから。
足場を二度組まない——工法選択が利回りを左右する
では、その大規模修繕を、いかに賢く行うか。ここで効いてくるのが「工法の選択」です。
実は、大規模修繕の費用のうち、決して小さくない割合を占めるのが「足場代」です。建物の周りに仮設足場を組み、終わったら解体して撤去する。この足場の架設・解体だけで、工事全体の2割前後を占めることも珍しくありません。しかも足場は、組んでいる間ずっとレンタル料がかかり、工期が延びればその分コストも膨らみます。
私が現場で20年やってきて確信しているのは、「足場を二度組まない」ことの大切さです。たとえば外壁塗装と防水工事を別々の年に発注すれば、足場を二度組むことになります。これは本当にもったいない。同時に行えば、足場代は一回で済みます。だから私は、複数の工事はできる限り「一つの足場でまとめて」提案するようにしています。
そして、もう一歩進んだ選択肢があります。そもそも足場を組まずに工事ができないか、という発想です。これが、無足場工法(足場を架設せずに行う施工方法)、なかでもロープアクセス工法という選択です。
ロープアクセスという選択肢が、なぜ収益物件と相性がいいのか
ロープアクセス工法とは、産業用のロープを使い、技術者が建物の屋上から吊り下がって、外壁の点検・補修・塗装・防水などを行う工法です。橋梁やダム、高層ビルの点検で発展してきた技術で、私たちはこれをマンション・ビル・ホテルの大規模修繕に応用しています。
この工法が収益物件と相性がいい理由を、私は3つお伝えしています。
第一に、足場代を大きく削減できることです。足場を組まないので、その費用がまるごと不要になる。部分的な補修や、高層階だけの工事では、コスト差がとくに大きく出ます。
第二に、工期が短く、入居者・利用者への影響が小さいことです。足場を組むと、組むだけで数日、解体にも数日かかります。その間、窓の外に人が立ち、足場用のネットで日当たりや眺望がさえぎられる。賃貸物件なら入居者の不満につながり、ホテルなら稼働への影響が出ます。ロープアクセスなら、必要な場所だけを、必要な期間だけ施工できます。私はこれを「住みながら、営業しながら直せる工法」とお伝えしています。
第三に、足場を組みにくい立地でも施工できることです。隣地との距離が近い、前面道路が狭い、敷地形状が複雑——足場の架設が難しい物件ほど、ロープアクセスの価値は際立ちます。
もちろん、ロープアクセスが万能だと申し上げるつもりはありません。建物全体を一度に塗り替えるような大規模な工事や、複雑な造作を伴う工事では、足場の方が効率的なこともあります。ですから私たちは、足場・ロープアクセス・そして両者を部位ごとに使い分けるハイブリッド工法の3つから、その建物にとって本当に最適な組み合わせをご提案しています。3つの工法を建物特性に応じて選べる会社は、日本でもまだ多くありません。私はここに、現場叩き上げの会社としての矜持を持っています。
工法の詳しい比較は、ロープアクセス工法のご紹介と大規模修繕工事のご紹介のページでも整理していますので、あわせてご覧ください。
総会・理事会で、今月できること
6月は、マンション管理組合にとって総会シーズンです。賃貸オーナーさまにとっても、年度の折り返しに向けて、修繕計画を見直すよい時期です。
私から、今月できることを3つ提案させてください。
ひとつ目は、長期修繕計画の「賞味期限」を確認することです。計画は作って終わりではありません。国の調査でも、5年ごとを目安に見直している管理組合が63.2%です(出典:国土交通省「令和5年度マンション総合調査結果」)。前回の見直しから5年以上経っているなら、資材高騰を反映できていない可能性が高い。まずはここを点検してください。
ふたつ目は、修繕積立金の水準を、現在の工事相場と突き合わせることです。計画当時の金額のままでは、いざというとき足りないかもしれません。値上げは住民や共同オーナーの合意が要りますから、早く議題に上げるほど、丁寧な説明の時間がとれます。
みっつ目は、次の大規模修繕で「足場を二度組まない」設計になっているかを確認することです。外壁・防水・鉄部塗装などを、できるだけ一つの工事機会にまとめられないか。工法をロープアクセスやハイブリッドに切り替える余地はないか。この一手で、総工費が大きく変わることがあります。
総会の場で、1分でもこの話題を出してみてください。「修繕の備えは足りているか」「足場代は減らせないか」。この二つの問いが、数年後のあなたの資産価値を守ります。
「持ち続ける」と決めたなら、まず長期修繕計画の棚卸しから
冒頭の話に戻ります。大企業が不動産を手放す時代に、あなたはその収益物件を持ち続けるのか。これは経営判断であり、私が口を出すことではありません。
ただ、もし「持ち続ける」と決めたのなら、やるべきことは明確です。建物の価値を、計画的に守り続けること。そのために、長期修繕計画を棚卸しし、積立の備えを点検し、次の工事を賢い工法で行うこと。この地道な積み重ねこそが、二極化の時代に「価値が落ちない側」に立つための、唯一の確実な方法だと私は考えています。
国土交通省も、長期修繕計画の作成・見直しの考え方を「長期修繕計画作成ガイドライン」として公開しています(出典:国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン/長期修繕計画作成ガイドライン」)。まずはこうした公的な資料に一度目を通すだけでも、見えてくるものがあります。
よくある質問(FAQ)
Q. 築浅なので、まだ大規模修繕は関係ないのでは?
建物にもよりますが、外壁やシーリング、防水は新築から10〜15年程度で最初の本格的な手当ての時期を迎えるのが一般的です。築浅のうちから劣化の進み方を把握しておくと、最初の大規模修繕を最小コストで迎えられます。早すぎる相談はありません。
Q. ロープアクセスにすると、品質は足場より落ちませんか?
作業の中身は、足場であってもロープであっても、人の手で行う点検・補修・塗装です。大切なのは技術者の技量と管理体制です。私たちはフランチャイズに塗装・防水・タイル・電気・看板など各分野の専門職が加盟する体制で、高品質と低価格の両立をめざしています。工法の違いより、誰がどう施工するかが品質を決めます。
Q. まず何から始めればいいですか?
建物の現状を知ることからです。点検は、その後の判断のすべての土台になります。費用感や工法の向き不向きは、建物を一度見てからでないと正確には申し上げられません。
まとめ——価値は「持ち方」で決まる
今日は、企業の不動産売却が18年ぶり高水準になったというニュースを入り口に、収益不動産オーナーさまが資産価値を守るために何ができるかを、現場の視点でお話ししました。
要点を3つに絞ります。第一に、不動産価値はもう「立地と築年数」だけでなく、「どう維持されてきたか」で二極化していること。第二に、大規模修繕は出費ではなく「資産価値の維持装置」であり、攻めの経営判断であること。第三に、足場を二度組まない設計と、足場・ロープアクセス・ハイブリッドの最適な工法選択が、利回りと出口価格を左右すること。
これは私が現場で20年見てきた、嘘偽りのない感想です。大きな会社が身軽になる時代だからこそ、持ち続けると決めたオーナーさまには、建物という資産にきちんと手をかけていただきたい。それが、いちばん確実な資産防衛だと信じています。
点検や工法の見直しは、ご相談だけでも遠慮なくお声がけください。総会や来期予算の前段階で、現状を整理するだけでも、お力になれることがあります。お問合せフォームからお気軽にどうぞ。次回も、現場で本当に使える話だけをお届けします。
出典・参考資料
- 日本経済新聞「企業の不動産売却18年ぶり高水準 味の素は本社ビル、資産効率を改善」
- 国土交通省「令和5年度マンション総合調査結果について」
- 国土交通省「不動産価格指数」
- 国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン・長期修繕計画作成ガイドライン」
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の不動産の売買・投資・税務に関する助言ではありません。個別の判断にあたっては、税理士・不動産鑑定士などの専門家にご相談ください。
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監理技術者の交代で違約金1.4億円が積み上がった理由──世田谷区×大成建設の事案と改正建設業法から、マンション・ビル所有者と発注者が今すぐ確認すべき5つの実務
監理技術者の交代で違約金1.4億円が積み上がった理由──世田谷区×大成建設の事案と改正建設業法から、マンション・ビル所有者と発注者が今すぐ確認すべき5つの実務
結論──「誰が現場を見ているか」を契約後も問い続ける時代になりました
2026年5月27日、Googleアラートに「世田谷区が大成建設に約1.4億円の違約金請求、『免震接続』実績ない監理技術者を配置」という見出しが流れてきました。私自身、朝のコーヒーを飲みながらこの記事を読み、思わず手を止めました。世田谷区の本庁舎建て替え工事をめぐっては、すでに約16億円の違約金が発生していて、今回の追加分を含めると合計は17億円を超える計算になります(出典:東京新聞「世田谷区、庁舎の建て替えの『違約金』計17億円超に 大成建設に請求へ」)。
これは「公共工事と大手ゼネコンの話だから自分には関係ない」と片付けてよいニュースではありません。私は仕事柄、マンション・ビル・ホテルの大規模修繕の現場を毎日のように回っていますが、ここ数年、契約時の説明書類と実際に現場に立つ技術者が一致しているか、所有者・管理組合がきちんと確認できているかという問題は、規模を問わず起きています。今回の事案は、その「契約と現場の一致」の重要さを、業界全体に突き付ける教訓になりました。
本記事では、世田谷区×大成建設の事案を入り口に、建設業法第26条の専任義務、令和6年12月13日と令和7年2月1日に段階施行された改正建設業法の専任特例、そして大規模修繕の発注者・マンション所有者が明日から動ける5つの実務までを、私自身の現場経験を交えてお話しします。私は2026年から自社で公共工事の入札にも挑戦している立場です。だからこそ、この問題を「他人事」にせず、明誠の社員にも繰り返し共有しています。
世田谷区×大成建設の事案──17億円の違約金がどう積み上がったのか
まず事案の全体像を整理します。世田谷区の本庁舎等整備工事は、旧庁舎の解体と新庁舎(東棟・西棟)の建設、世田谷区民会館の改修を同じ敷地で3期に分けて進める大規模工事です。2021年7月に着工し、当初は2027年10月完成予定でした(出典:世田谷区「世田谷区本庁舎等整備工事の延伸に関する経過」)。
ところが工事は大成建設の工程の見誤りなどで大幅に遅延し、完成予定は2029年4月にずれ込みました。区は同社に対して、すでに約16億円の違約金を請求し、2024年3月から2年間の指名停止処分も科しています(出典:東京新聞「工事遅延で違約金16億円超 損害額は3期工事終了後に確定」、日経クロステック「庁舎工事トラブル巡る世田谷区と大成建設の攻防、交渉18回で違約金16億円に合意」)。
今回の追加違約金1.4億円──「免震接続」実績のない技術者への交代
そこに2025年4月30日、区は約1億4200万円の追加違約金を請求すると発表しました(出典:日本経済新聞「東京都世田谷区の庁舎工事、大成建設に追加違約金 技術者交代で1.4億円」)。理由は、2025年4月1日付で交代した監理技術者Cに、複数の免震構造の建物を事後的に接続して一体化する「免震接続」の実績がなかったことです。区の入札説明書では、やむを得ない理由で監理技術者を変更する場合でも、変更前と同等以上の施工実績を有する者を配置することが求められていました。
違約金の計算式──減点を金額化する仕組み
この1.4億円という金額がどう算出されたのかは、業界関係者にとって非常に重要な情報です。日経クロステックの解説によると、計算式はおおむね次のとおりです(出典:日経クロステック「世田谷区が大成建設に約1.4億円の違約金請求、『免震接続』実績ない監理技術者を配置」)。
- 工期全体のうち施工実績要件を満たす監理技術者を配置できない期間の割合:0.513
- 免震接続実績の技術評価点:4点
- 上記2つを掛け合わせた減点数:2.05点
- 技術評価点1点当たりの価格:約6,900万円
- 違約金額:2.05点 × 6,900万円 ≒ 約1億4,200万円
入札時の技術評価点が、契約後に「1点いくら」という形で違約金に換算される。これが総合評価落札方式の世界で何が起きているかを、最も鮮烈に表した事例だと私は感じました。
大成建設はなぜ実績の足りない技術者を充てざるを得なかったのか
日経クロステックの解説記事「監理技術者縛りの苦悩、大成建設はやむなく交代で違約金1.4億円」では、大成建設側にも「免震接続実績を持つ技術者を、長期化した工期の間ずっと専任で張り付かせ続けることが現実的に難しかった」という事情があったとされています。技術者の家庭事情、健康事情、他の重要案件への配置──現場の最前線にいる人ほど、この苦しさは想像できると思います。
ただし、結果として違約金17億円超という数字は重いものです。「実績要件はあくまで実績要件である」「契約条件は契約条件である」という当然の事実が、業界全体に改めて突き付けられた格好です。
なぜ「監理技術者の差し替え」がここまで問題になったのか
ここで一度、建設業の制度の根っこに戻って整理させてください。少し堅い話になりますが、私は理事会の場でも所有者さまへの説明でも、必ずここから入るようにしています。
監理技術者・主任技術者とは何者か
建設業法第26条は、建設業者が工事を施工するときに「主任技術者」を置くことを義務付けています。さらに、発注者から直接工事を請け負った特定建設業者が、下請契約の請負代金の合計が一定額以上になる場合には、主任技術者に代えて「監理技術者」を置かなければならないと定めています(出典:e-Gov 建設業法(第26条))。
監理技術者の配置が義務付けられる金額基準は、下請契約の合計が5,000万円以上(建築一式工事は8,000万円以上)。専任配置が必要になる請負金額は、原則として4,500万円以上(同・7,000万円以上)でした。これは令和7年2月1日に金額要件が引き上げられました(後述)。
「専任」とは事実上の現場常駐
ここで「専任」とは、ほかの工事現場と兼務せず、当該現場の管理に専念することを意味します。実務上は事実上の現場常駐です。発注者にとって専任制度の意味は明確で、「契約時に評価した実績を持つ技術者が、工事期間中ずっとその現場に張り付いて品質と工程を管理する」という安心の担保になります。
特に世田谷区の本庁舎のような公共施設は、不特定多数の住民が利用する施設として、建設業法施行令第27条に基づき請負金額が一定以上の公共工事については必ず専任の技術者を置くと定められています(出典:国土交通省「技術者制度の概要 参考資料1」)。
罰則──置かなかった場合の100万円以下の罰金
建設業法第52条第1号は、第26条に違反して主任技術者または監理技術者を置かなかった場合、100万円以下の罰金に処すると定めています。さらに、建設業法違反全般としては最大で3年以下の懲役または300万円以下の罰金が科される可能性があるほか、指示処分・営業停止処分・建設業許可の取消処分という重い行政処分の対象にもなります。
私が新人だった頃、現場所長に「監理技術者の配置を間違えると会社が一発で吹き飛ぶぞ」と何度も言われたことを今でも覚えています。実際、ある中堅ゼネコンが過去に主任技術者の不適切配置で営業停止を受け、銀行融資が止まって倒産寸前まで追い込まれた事例も業界では知られています。監理技術者の問題は経営の根幹を揺るがすリスクだという感覚は、業界に染みついています。
2024年・2025年の改正建設業法──専任義務はなぜ緩和されたのか
ここで重要なのが、令和6年(2024年)12月13日と令和7年(2025年)2月1日に段階施行された改正建設業法です。今回の世田谷区の事案を理解するうえで、この改正の背景を押さえる必要があります。
改正の背景──人手不足と工事費高騰
建設業界は、技術者の高齢化と若手の入職減少が同時進行しています。さらに資材高騰で1件当たりの工事規模が大きくなり、専任技術者を配置しなければならない工事が増えています。現場の数に対して、専任で張り付けられる技術者の絶対数が足りない。これが業界の構造的な悩みです。
国土交通省はこの状況を踏まえ、専任義務の合理化を進めました。改正の主な内容を、行政書士事務所などの解説(出典:STパートナーズ「専任現場の兼任に新制度『専任特例1号』」、国土交通省 建設業法解説資料)を参考に整理します。
専任特例1号──2件の現場兼任が可能に
令和6年12月13日施行の「専任特例1号」は、一定の要件を満たす場合、主任技術者・監理技術者が2件の現場を兼任できるようにする制度です。主な要件は次のとおりです。
- 請負代金の額が1億円未満(建築工事の場合は2億円未満)
- 工事現場を1日で巡回できる範囲(移動時間が概ね2時間以内)
- 下請の階層が3次以下
- 監理技術者等と連絡を取る「連絡要員」を現場に配置
- 情報通信技術(ICT)を活用して施工体制と現場の状況を遠隔で確認できる体制を整える
これにより、技術者1人で2現場の管理を行うことが法的に可能になりました。情報通信機器を活用する点が肝で、単純な「2か所兼務OK」ではなく、デジタル技術による遠隔管理を前提とした制度設計になっています。
営業所技術者と現場技術者の兼務も可能に
同じ改正で、建設業者の営業所に置く「専任技術者」と、専任が求められる工事現場の監理技術者・主任技術者との兼務も、一定要件のもとで認められるようになりました。
これは小規模事業者にとっては大きな助けになります。社員数が少ない会社では、営業所と現場の技術者を別々に確保すること自体が大きな負担でした。情報通信機器の整備を条件に、この兼務が可能になったわけです。
令和7年2月1日──金額要件の引き上げ
そして令和7年2月1日には、監理技術者等の専任を要する請負金額の引き上げが施行されました(出典:TSUBOI A. P.「令和7年2月1日より特定建設業許可及び監理技術者等の現場専任の金額要件が緩和されます」)。これにより、専任技術者の配置義務が発生する金額が引き上げられ、中小規模工事の管理体制に余裕が生まれました。
改正は「ザル化」ではなく「ICT条件付きの合理化」
ここで誤解されてはいけないのが、この改正は決して「専任義務のザル化」ではないという点です。情報通信技術の活用、連絡要員の配置、巡回時間の制約──いずれも、遠隔でも実質的に現場管理を担保する仕組みを要件としています。
世田谷区×大成建設の事案は、こうした緩和が始まった直後に起きたことも示唆的です。「緩和されたからといって、契約条件で約束した実績要件まで緩むわけではない」。これが私の読み筋であり、業界全体への警鐘でもあると感じています。
大規模修繕でも起こりうる「監理技術者・主任技術者の交代問題」
ここからは、私が日常的に向き合っているマンション・ビルの大規模修繕工事の現場の話に移します。「公共工事の話でしょう」と思われた方こそ、ここを読んでいただきたい部分です。
大規模修繕で監理技術者・主任技術者が必要になるケース
マンションの大規模修繕は、一般的に1回あたり数千万円から数億円規模になります。50戸クラスの中規模マンションでも、外壁・防水・鉄部塗装・タイル補修を含めると工事金額が1億円を超えることは珍しくありません。請負代金が4,500万円以上(令和7年2月1日以降は引上げ後の基準)になれば、主任技術者の専任配置が必要になります。
ホテルやテナントビルになれば、1棟あたり3億〜10億円規模の大規模修繕も日常です。この規模になると、監理技術者の配置とその専任要件が確実に効いてきます。
私が現場で見てきた「技術者の置き換え」3パターン
正直に申し上げます。大規模修繕の現場でも、契約時の体制図と実際の現場体制が一致しないケースは存在します。私が経験的に見てきたパターンは3つあります。
第1は、契約直後に技術者が異動・転職してしまうケースです。年度替わりの4月や、組織再編のタイミングで起きやすい。代わりに入った技術者が同等の実績を持っているか、施主・管理組合は確認しないと分かりません。
第2は、「契約の顔」と「現場の顔」が違うケースです。営業段階で説明会に出てくる技術者は実績豊富でも、いざ着工すると別の若手が常駐になる。これ自体は教育の機会として悪いことではありませんが、施主側がその差し替えを知らされていない、納得していないままだとトラブルの種になります。
第3は、複数現場の掛け持ちが事実上起きているケースです。改正建設業法の専任特例1号を満たさない条件で、技術者が複数の現場を駆け回っている。私の業界の弱点として、この「事実上の兼務」がグレーに行われていた時期があったことは否定できません。
大規模修繕でも違約金条項を入れる管理組合が増えてきました
ここ数年、首都圏の管理組合と修繕委員会の意識は明らかに高まっています。私が関わる案件でも、見積依頼書の段階で「契約時の主任技術者が変更される場合は事前協議を要する」「変更後の技術者は同等以上の実績を有することを条件とする」といった条項を入れる組合が増えました。
特に築20年を超えるマンションでは、2回目・3回目の大規模修繕に入る組合が多く、過去の修繕で品質トラブルを経験した管理組合ほど、技術者の継続性に強くこだわります。「契約書に技術者の経歴書を添付し、変更時の手順まで定める」という運用は、もはや特殊なものではなくなりつつあります。
国交省も「マンション標準管理委託契約書」で示唆
国土交通省が公表している「マンション標準管理委託契約書」やその関連通知でも、大規模修繕などの重要な業務委託では事業者・技術者の体制と変更時の通知を明文化することが望ましいと示されてきました(出典:国土交通省 マンション施策)。公共工事のような厳格な違約金条項ではなくても、「説明と異なる体制になったら所有者・組合が異議を申し立てる根拠を契約書に書き込んでおく」という発想は、十分に現実的です。
マンション・ビル所有者と発注者が今すぐ確認すべき5つの実務
ここからが本記事の本題です。世田谷区の事案を「自分の建物の発注」に翻訳して、所有者・管理組合理事長・修繕委員のみなさまが明日から動ける5つの実務として整理します。
実務1──契約書に「主任技術者・監理技術者の氏名と実績」を明記する
まず最初の一歩として、契約書(または契約付属書類)に配置予定の主任技術者・監理技術者の氏名・経歴・直近の同種工事実績を明記してもらってください。多くの管理組合が見積書・契約書のフォーマットを工事会社任せにしていますが、ここに技術者の経歴書を貼り込むかどうかは、後の品質を大きく左右します。
私が修繕委員会の説明会に呼ばれたとき、まずこの点をお話しします。「経歴書がない契約書は、入札説明書のない公共工事のようなものです」と。少し大袈裟ですが、それくらい重要な書類です。
実務2──「変更時の事前協議条項」と「同等以上要件」をセットで入れる
次に、やむを得ず技術者を変更する場合のルールを契約に書き込みます。具体的には次の3つです。
- 変更が必要になった場合、施工会社は管理組合・発注者に事前に書面で通知する
- 変更後の技術者は、変更前と同等以上の同種工事実績を有する者を配置する
- 変更にあたって、両者の経歴を比較できる書類(経歴書・施工実績一覧)を提出する
世田谷区の入札説明書がまさにこの構造でした。公共工事の標準ルールを、民間のマンション工事に「縮小コピー」するだけで、リスク管理は一気に強くなります。
実務3──工事中の「現場巡回・写真確認」のルールを決めておく
契約書の文言だけでは現場の実態は分かりません。月1回の修繕委員会では、現場代理人と主任技術者の出席を求めることが現実的な対策です。理事長・修繕委員長が現場を歩く際には、誰がその日の現場責任者なのかを毎回確認するだけでも、抑止力が大きく変わります。
私の経験上、所有者・組合が「現場を見にくる」とわかっている現場は、確実に空気が締まります。これは公共工事も民間工事も変わりません。
実務4──ICT活用条件下での「兼任」を理解しておく
改正建設業法で技術者の兼任が可能になったことは、施工会社にとっては合理化のチャンスです。しかし発注者・所有者にとっては「自分の現場の技術者が他の現場とどう兼任しているか」を確認する権利と必要があります。
具体的には、契約段階で次を確認してください。
- 兼任の有無、兼任先の現場名と工事規模
- 連絡要員の配置と、その方の連絡先
- 遠隔管理のためのICTツール(カメラ、施工管理アプリ等)の運用方針
- 緊急時に主任技術者が現場に駆けつけられる体制
これは過剰な要求ではありません。改正建設業法の専任特例1号を満たすために、施工会社側がもともと用意すべき体制だからです。
実務5──「総合評価方式」の発想を民間修繕でも一部取り入れる
世田谷区の違約金1.4億円が成立した背景には、入札時に技術評価点が「1点いくら」で金額化されているという総合評価方式の構造がありました。民間のマンション修繕でこれを完全に真似するのは難しいですが、評価項目を数値化して、価格と品質を両輪で評価する発想は十分に取り入れられます。
私がご提案するときは、見積比較表に次のような項目を入れていただきます。
- 主任技術者の同種工事実績件数
- 直近5年の事故・クレーム件数
- 工法選定(足場、ロープアクセス、ハイブリッド)の根拠と試算
- 居住者影響を最小化する工程提案
- アフターメンテナンス体制
これだけでも、「単価だけで決めない」という意思表示になり、施工品質に直結します。
失敗・成功事例3つ──私が現場で見てきたリアル
実務の話だけでは具体性が不足するので、私が現場で見てきた3つの事例をお話しします(個別物件が特定されないよう一部を抽象化しています)。
失敗事例1──「契約時の技術者」が翌月から不在になっていたタワーマンション
築15年・250戸のタワーマンションで、2回目の大規模修繕を受注したある中堅ゼネコンが、契約直後に主任技術者を別案件に異動させてしまったケースを聞きました。代わりに着任したのは経験3年の若手で、組合は工事中盤になってからこの事実を知りました。トラブルの原因究明や品質回復に半年かかり、結局、組合と施工会社の間で約1,800万円の追加負担が発生したと聞いています。契約書に変更時条項が無かったことが致命傷でした。
失敗事例2──「兼任が事実上の三現場」になっていた塗装工事
これは私の同業の話です。改正建設業法の専任特例1号が始まる前の事例ですが、ある塗装会社の主任技術者が事実上3つの現場を回していたことが、発注者側の調査で明らかになりました。施工管理アプリのログが残っており、「滞在時間が1日1時間程度の現場が混在していた」と指摘された。契約解除には至らなかったものの、追加工事の発注は二度と来なくなったそうです。
成功事例──ロープアクセス工法×経験豊富な主任技術者で工期を1か月短縮
ある築20年のオフィスビル所有者から、外壁修繕の依頼をいただいたときの話です。当初は通常の足場仮設で見積もり、工期は約4か月の予定でした。私は同じ建物にロープアクセス工法も使えると判断し、足場とロープアクセスのハイブリッド工法を提案しました。
このとき、所有者は私たちの主任技術者の経歴書を細かくチェックされ、「過去5年で同等案件を15件以上経験している方を専任で配置してほしい」という条件を契約に盛り込まれました。結果として工期は当初予定より約1か月短縮でき、テナント様の業務影響も最小限に抑えられました。所有者は次回の修繕も明誠に発注してくださると、口頭でお約束をいただいています。
「契約書に技術者条件を書き込む」ことは、施工会社にとって縛りではなく、信頼関係の土台になります。私はこの経験から確信しています。
私が公共工事入札に挑戦する立場だからこそ伝えたい3つのこと
ここからは私個人の話です。明誠は2026年から本格的に公共工事の入札にも挑戦しています。マンション・ビル・ホテルの大規模修繕で20年以上培ってきた現場力を、公的施設の維持管理にもお役立てしたいと考えてのことです。
世田谷区×大成建設の事案は、公共工事に挑戦する立場として強烈に学ばされました。私が社員にも、加盟いただいているフランチャイズの仲間にも、この機会に改めて共有したい3つのことがあります。
1. 監理技術者・主任技術者を「人」として大切に扱う
技術者の交代が違約金につながる時代になりました。これは裏返せば、技術者個人の経歴と健康こそが会社の経営資産だということです。家庭事情・体調・キャリアパスを尊重しながら、長期間1つの現場に張り付ける環境をどう作るか。人を大事にする会社にしか、専任技術者は残ってくれません。
2. 「契約書通り」を当たり前にする社内文化
世田谷区の事案で大成建設が失ったのは1.4億円という金額以上に、「契約書通りに技術者を配置し続けられない会社」というレピュテーションだと私は思っています。私たちのような中小規模の会社は、レピュテーションを一度失うと取り返しがつきません。契約書通りを社内文化にするしか道はないと、私は社員に伝えています。
3. 改正建設業法の活用は「合理化」と「説明責任」のセットで
専任特例1号や金額要件の引き上げは、私たちにとって追い風です。同時に、緩和の恩恵を受けるなら、発注者への説明責任もセットで負うべきだとも考えます。「兼任していますが、ICTでこう管理しています」「連絡要員はこの方です」と、堂々と説明できる体制を整えてから初めて緩和を活用する。これが筋だと、私は信じています。
明誠の3工法と公共・民間両輪のサポート(利益相反のため明示)
ここから先は私の会社のご紹介です。利益相反開示のため、見出しで明確に区切らせていただきます。
株式会社明誠は、マンション・ビル・ホテルの大規模修繕工事を主力とし、通常足場工法・ロープアクセス工法(無足場)・ハイブリッド工法の3工法から、建物特性と発注者のご事情に応じた最適なご提案ができる、日本でも数少ない会社です。日本初のロープアクセス工事のフランチャイズ展開も行っており、塗装・防水・タイル・電気・看板の各専門会社が加盟しています。
加えて、私は一般社団法人全国建設業支援協会(JCSA)を運営し、建設業向けの経営支援、オンラインセミナー、リアル交流会、ビジネスマッチングを行っています。今回の改正建設業法のような制度変更は、JCSAの会員向けにも勉強会の題材としてお届けしています。
工法選定の比較・修繕計画の見直し・契約書の技術者条項のチェックは、ご相談だけでも遠慮なくお声がけください。理事会や修繕委員会の前段階の整理だけでも、お力になれることがあると思います。私は「数を取ること」より「明誠ブランドを長く積み上げること」を優先しています。これは現場で20年やってきた、私の偽らざる感想です。
- 工法の詳細:ロープアクセス工法のご紹介
- 大規模修繕全般:大規模修繕工事のご紹介
- ご相談窓口:お問合せフォーム
結語──「契約と現場の一致」を当たり前にしましょう
私から所有者さま・理事長さま・修繕委員のみなさまへ、最後にお伝えしたいことを3つに絞ります。
第1に、契約書に技術者の氏名と経歴を書き込むこと。これは難しい話ではなく、見積依頼の段階で「経歴書添付をお願いします」と一行加えるだけで動きます。
第2に、変更時の事前協議と同等以上要件を契約に入れること。世田谷区の入札説明書はそのままお手本です。条文の言い回しが分からなければ、私たちでも一緒に整理させていただきます。
第3に、現場巡回のルールを決めて、技術者の顔と名前を覚えること。これだけで現場の空気は変わります。「誰が現場を見ているか」を、所有者が知っている──この当たり前を、ぜひ次の総会・理事会の議題にしてみてください。
次回も、現場で本当に使える話だけをお届けします。
出典・参考資料
- 東京新聞「世田谷区、庁舎の建て替えの『違約金』計17億円超に 大成建設に請求へ 実績を満たさない監理技術者を配置」
- 東京新聞「工事遅延で違約金16億円超 損害額は3期工事終了後に確定 世田谷区庁舎1期棟と区民会館が完成」
- 日本経済新聞「東京都世田谷区の庁舎工事、大成建設に追加違約金 技術者交代で1.4億円」
- 日経クロステック「世田谷区が大成建設に約1.4億円の違約金請求、『免震接続』実績ない監理技術者を配置」
- 日経クロステック「監理技術者縛りの苦悩、大成建設はやむなく交代で違約金1.4億円」
- 日経クロステック「庁舎工事トラブル巡る世田谷区と大成建設の攻防、交渉18回で違約金16億円に合意」
- 世田谷区公式「世田谷区本庁舎等整備工事の延伸に関する経過」
- 世田谷区公式「世田谷区本庁舎等整備工事のお知らせ」
- 世田谷区公式「監理技術者及び主任技術者の専任義務の緩和について」
- e-Gov 法令検索「建設業法(昭和二十四年法律第百号)」
- 国土交通省「建設業法の改正資料(PDF)」
- 国土交通省「技術者制度の概要 参考資料1(PDF)」
- 国土交通省 関東地方整備局「建設工事の適正な施工を確保するための建設業法(令和8.2版)(PDF)」
- 横浜市契約財産局「監理技術者等の専任義務の緩和について(お知らせ)(PDF)」
- 行政書士法人STパートナーズ「専任現場の兼任に新制度『専任特例1号』」
- 行政書士法人TSUBOI A. P.「令和7年2月1日より特定建設業許可及び監理技術者等の現場専任の金額要件が緩和されます」
- 国土交通省「マンション施策ポータル」
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定期報告のオンライン受付が横浜市でスタート──建築基準法第12条、マンション・ビル・ホテル所有者が「報告書のDX」と一緒に見直すべき4つの実務
結論先出し ── 横浜市の発表は「全国の所有者がいま動くべきサイン」です
2026年5月26日、横浜市が建築物等の定期報告のオンライン受付スタートを正式に発表しました(出典:横浜市建築局「3 お知らせ情報一覧」)。建築基準法第12条に基づく定期報告書(建築物、建築設備、防火設備、昇降機、遊戯施設)が、来庁も郵送もなしで、横浜市の専用システム「横浜市定期報告オンラインシステム」からインターネット経由で提出できるようになりました。
この発表は、神奈川県の所有者さまだけのニュースではありません。私はこの一報を見て、「ようやく来たか」と同時に「全国の所有者さま・管理組合さまが、いま自分の物件の定期報告を見直すサインだ」と受け止めました。理由は本文で順を追ってお話ししますが、先に結論だけお伝えします。
第一に、定期報告は「やらないと罰則がある法定義務」であり、最大で100万円以下の罰金が建築基準法に明記されています(出典:建築基準法 第百一条)。第二に、提出のDX化は横浜市が先頭ですが、東京都・大阪市・福岡市など全国の特定行政庁が追随する流れにあります。第三に、報告書を「ただ出す」運用と、「外壁・防水・設備の長期修繕計画と紐付ける」運用とでは、所有者さまの長期コストに数百万円〜数千万円単位の差が出ます。
私は株式会社明誠の本間と申します。マンション・ビル・ホテルの大規模修繕を、足場仮設・ロープアクセス(無足場工法)・ハイブリッドの三つの選択肢で20年近く提案し続けてきました。定期報告そのものを担当する一級建築士の調査会社ではありませんが、外壁打診や是正工事という、定期報告の「結果」を受けて発生する工事の現場には数えきれないほど立ち会ってきました。だからこそお伝えしたい実務があります。本稿は、横浜市の今回のニュースを切り口に、所有者さま・管理組合さま・収益不動産オーナーさまが、ご自身の物件で今週から動ける4つの実務に整理してお届けします。情報は2026年5月28日時点のものです。
1. 横浜市の発表で「具体的に何が変わった」のか
1-1. 5月26日付の正式アナウンスと、3月31日からの段階導入
まずは事実関係を、横浜市のページに沿って淡々と整理します。横浜市は令和8年(2026年)3月31日から、建築基準法第12条に基づく定期報告のオンラインシステムを「試行」として公開していました(出典:横浜市建築局「定期報告のオンラインシステムを試行します」)。試行期間中に利用できた機能は、アカウント登録と、定期調査報告概要書(建築物)・定期検査報告概要書(建築設備、防火設備、昇降機、遊戯施設)の閲覧だけでした。
そして令和8年5月26日、報告書の受付機能が公開され、来庁・郵送なしでの提出が可能になりました(出典:横浜市記者発表「建築物等の定期報告について、オンライン受付をスタートします!」)。システムの名称は「ハマヤモリ」、URLは https://hamayamori.city.yokohama.lg.jp/teikihoukoku です。家を守る、ハマを守る、というニュアンスを含む命名でしょう。
1-2. 「DXすると何が嬉しいのか」を、所有者目線で整理する
行政DXのニュースは、しばしば「業界関係者向けの話」と受け取られがちです。私はそうは思いません。所有者さま・管理組合さまの目線で書き直すと、嬉しさは三つあります。
第一に、移動コストと郵送コストの圧縮です。横浜市建築局建築指導課定期報告受付窓口の所在地は、横浜市中区本町6丁目50番地の10、市庁舎の25階です。郊外の物件所有者さまや、神奈川県外に住む区分所有者さま、収益不動産オーナーさまにとって、報告のたびに窓口へ出向くのは現実的ではありません。郵送も、書留代と返信用封筒の手配が積み重なれば年間で数千円のロスです。
第二に、書類差し戻しリスクの低減です。横浜市のお知らせには「提出される定期報告書の不備(記入漏れ、概要書や測定結果表が添付されていない等)があり、差し替えをお願いするケースが多くなっています」と明記されています(出典:横浜市「定期報告のご提出前に、今一度ご確認ください!」)。オンラインシステムでは入力時の必須チェックが効きやすく、紙運用に比べて差し戻しが減ることが期待できます。
第三に、所有者・管理者・調査会社の三者間の情報共有が同期しやすくなることです。横浜市はかねてから「定期報告の内容や、横浜市から送付される報告結果通知の内容について、建物の所有者と管理者が異なる場合は、両者で共有していただきますよう、お願いいたします」と求めています(出典:横浜市「報告内容等を関係者間で共有してください」)。オンライン化は、この共有を物理的にやりやすくします。
1-3. 全国の特定行政庁に波及する流れ
私が横浜市の発表を「全国向けのサイン」と読むのは、過去のパターンがあるからです。建築物の定期報告書類の「押印不要化」は、2020年12月23日公布の「押印を求める手続きの見直し等のための国土交通省関係省令の一部を改正する省令」で施行されました(出典:横浜市「定期調査・検査報告書の押印が不要になりました」)。あのときも、政令市と東京都が先行し、各自治体に1〜2年かけて広がっていきました。
オンライン受付も同じ道筋をたどると、私は読んでいます。横浜市はDXに比較的積極的な政令市です。横浜市が試行から本格運用に切り替えたタイミングは、他の特定行政庁にとって有力な参考事例になります。所有者さまの立場では、ご自身の物件所在地の特定行政庁の動向を、年に一度はチェックする習慣をつけておくと得です。
2. そもそも建築基準法第12条「定期報告制度」とは何か
2-1. 法律の根拠 ── 三行で押さえる
ここからが本題です。横浜市のニュースを正しく活用するには、定期報告制度そのものを、所有者さま自身の言葉で説明できる必要があります。少し条文に踏み込みますが、3行で要約します。
第一に、定期報告制度の根拠は建築基準法第12条です(出典:建築基準法 第十二条)。第二に、対象となるのは「安全上、防火上又は衛生上特に重要である建築物」として政令で定めるもの、および特定行政庁が指定するものです。第三に、所有者は一級建築士または特定建築物調査員等の有資格者に調査・検査をさせ、その結果を特定行政庁に報告しなければなりません。
「政令で定める」「特定行政庁が指定する」の二段構えになっているのが分かりにくいポイントです。国の政令で全国共通の最低ラインが決まり、その上で各自治体(特定行政庁)が地域の実情に応じて「うちの市ではこれも対象です」と上乗せ指定する、と理解してください。
2-2. 4種類の報告 ── 自分の物件はどれに該当するか
定期報告は大きく分けて4種類です。横浜市の制度説明をベースに整理します(出典:横浜市「建築物昇降機等の定期報告」)。
第一は特定建築物定期調査です。共同住宅、ホテル、店舗、事務所、病院など、不特定多数または避難弱者が利用する建築物のうち、規模や用途で指定されたものが対象です。外壁、天井、避難通路、防火区画など、建築物本体の維持管理状況を一級建築士等が調査します。
第二は建築設備定期検査です。換気設備、排煙設備、非常用の照明装置、給排水設備など、建築物に設置された設備の検査です。第三は防火設備定期検査で、防火扉、防火シャッター、防火スクリーン、耐火クロススクリーンといった随時閉鎖式の防火設備が対象です。第四は昇降機等定期検査で、エレベーター、エスカレーター、観光用エレベーターなどが対象です。
ご自身の物件が何号報告に該当するかは、特定行政庁のホームページか、過去の調査会社からの請求書で確認できます。「うちのマンションは何号の何が対象なのか」を一覧表にしておくと、後の話がぐっと楽になります。
2-3. 罰則 ── 「報告しない」のコストは決して安くない
ここは強調しておきたいところです。定期報告を「報告しなかった」「虚偽の報告をした」場合、建築基準法第101条により100万円以下の罰金が定められています(出典:建築基準法 第百一条)。これは法人にも適用されます(同法第105条)。
正直に申し上げます。「報告していないだけで実害は出ていない」というお声を、私も現場で何度か聞いたことがあります。しかし、平成30年10月1日に横浜市内で発生した、ビル屋上の金属パネル落下による通行人死亡事故のあと、横浜市は所有者・管理者に対し「ご自身の建築物についても安全確認を行ってください」「定期報告の対象であるか否かを確認のうえ、該当する場合は対象時期に必ず報告を行ってください」と異例の呼びかけを行っています(出典:横浜市「平成30年10月に市内で発生した、建築物の部材落下事故を受けて」)。
人が亡くなる事故が起きた後、特定行政庁の姿勢は変わります。報告漏れの所有者には個別連絡や立入調査が入る可能性があります。所有者責任の議論になれば、罰金100万円どころでは済みません。
3. 横浜市の新システム「ハマヤモリ」で何が変わるのか
3-1. システムの基本仕様 ── 試行期間に確認したこと
横浜市の「ハマヤモリ」(横浜市定期報告オンラインシステム)は、2026年3月31日の試行開始時点で、まずアカウント登録と定期報告概要書の閲覧から運用が始まりました。閲覧対象は、定期調査報告概要書(建築物)と、定期検査報告概要書(建築設備、防火設備、昇降機、遊戯施設)の両方です(出典:横浜市「定期報告のオンラインシステムを試行します」)。
私はこの「閲覧を先に開放した」設計を、行政DXとして高く評価しています。報告書受付という業務クリティカルな機能をいきなり本番化するのではなく、まずは閲覧のような読み取り系で運用を慣らす。途中で出てくる不具合は閲覧で吸収する。そして5月の本格運用で受付機能を解放する、という段階的なロールアウトです。
5月26日付の発表で、いよいよ報告書受付がオンラインで完結します。所有者さま、管理組合さま、調査会社さまの三者にとって、運用は確実に楽になります。
3-2. 所有者・管理組合が新システムを使う3つの場面
ハマヤモリは調査会社さまだけのツールではありません。所有者さま・管理組合さまにも、直接の出番が3つあります。
第一は過去の報告書概要書を自分で取り寄せる場面です。これまで定期報告概要書を閲覧するには、横浜市の窓口に出向くか、Web閲覧システム(令和4年9月1日開始)から事前申請する必要がありました(出典:横浜市「定期報告概要書のWeb閲覧が可能になりました」)。ハマヤモリでは、所有者本人のアカウントで自物件の過去報告書を確認できるようになることが期待できます。これは、修繕計画を考えるうえで欠かせない一次情報です。
第二は調査会社からの報告書ドラフトを承認する場面です。報告者は所有者です。調査会社は所有者の代理として書類を作りますが、最終的な責任は所有者にあります。オンライン化により、所有者承認のフローが可視化され、「いつ、誰が、何を承認したか」が記録に残るようになります。
第三は是正指摘事項の追跡と、次回工事計画への反映場面です。定期報告には「要是正」「要重点点検」といった判定区分があります。これらの指摘は、放置すれば次回の報告でまた挙がり、最終的に大規模な是正工事に発展します。オンライン化により、所有者が自分で過去の指摘を時系列で確認でき、長期修繕計画への反映がやりやすくなります。
3-3. ただし注意点 ── オンラインは万能ではない
公平な目線で書きます。ハマヤモリにも限界があります。
ひとつは、過去の紙ベースの報告書がすべて電子化されているわけではない点です。所有歴の長い物件では、紙のファイルが手元にあるかどうか、調査会社さまに問い合わせる手間が当面は残ります。もうひとつは、システム障害時の代替手段です。ハマヤモリが万が一停止した場合の郵送提出ルートは、横浜市は引き続き案内しています。郵送先は「〒231-0005 横浜市中区本町6丁目50番地の10 25階 横浜市建築局建築指導課 定期報告受付窓口宛」です(出典:横浜市「令和4年度の定期報告書の取扱いについて」)。
もう一点。横浜市は2025年6月12日付で、国の告示改正(令和6年国土交通省告示第974号および令和7年国土交通省告示第53号)への対応を発表しています。横浜市では原則として国の改正内容を踏襲しますが、「常時閉鎖式防火扉」については引き続き特定建築物定期調査の対象とし、防火設備定期検査では報告対象としない、という独自取扱いを継続します(出典:横浜市「告示改正に伴う横浜市の対応について」)。同じ建物でも、報告先の自治体によって調査項目の解釈が違うことがある、ということは覚えておいてください。
4. 横浜以外の所有者が、今すぐ動ける4つの実務
横浜市の動きを「対岸の話」にしないために、ここからは全国の所有者さまが今週から動ける4つの実務を、優先順位順に整理します。
4-1. 実務1:自分の物件の「報告周期」を再確認する
最初にやるべきは、報告周期の再確認です。定期報告の周期は、報告対象の種別と自治体の指定で変わります。横浜市の場合、特定建築物は概ね3年ごと、建築設備・防火設備は1年ごと、昇降機は1年ごとです(出典:横浜市「4 報告の周期と時期」)。
ただし、自治体ごとに上乗せ指定があり、報告月も「毎年6〜8月に集中させる」「設備の検査時期は報告日の前3か月以内」など、ローカルルールが細かく決まっています。私が現場で見てきたなかで多い失敗は、「うちは去年出したから今年はいい」と思い込み、実は1年報告の建築設備が抜けていた、というケースです。所有する物件ごとに、4種類の報告それぞれが「いつ、誰が、誰の費用で」やるのかを表にしておいてください。
4-2. 実務2:所有者・管理者・調査会社の三者の役割分担を文書化する
二つ目は、契約書ベースでの役割分担の文書化です。横浜市が「定期報告の内容や報告結果通知の内容について、所有者と管理者が異なる場合は両者で共有してください」と求めているのは、現実に「報告書がどこかで止まっていた」事案が多発しているからです。
私の経験上、所有者・管理会社・サブリース会社・調査会社・修繕会社の五者が関わる物件では、「誰が報告主体か」が曖昧になりがちです。報告者として法律上の責任を負うのは所有者です。これは管理委託契約や賃貸借契約で「報告業務は管理会社に委託する」と書いていても、最終責任が移転するわけではありません。
文書化のポイントは三つです。第一に、報告者は誰か。第二に、調査会社の選定権・契約締結権は誰が持つか。第三に、是正指摘が出た場合の見積取得、工事発注、費用負担は誰がするか。この三点を、A4一枚にまとめておくだけで、次回の理事会・株主総会で揉めるリスクがぐっと減ります。
4-3. 実務3:「外壁打診」と次回大規模修繕の同期を取る
三つ目は、定期報告の中身、特に外壁打診調査と、次回の大規模修繕計画を同期させることです。これは私たちの本業に直結する話なので、特に丁寧に書きます。
建築基準法上、建築物の外装材にタイル・石貼り(乾式工法を除く)・モルタル等を使用している場合、「落下により歩行者等に危害を加える恐れのある部分」については、原則として全面打診調査が必要です(出典:横浜市「外壁打診調査」)。打診調査の実施周期はおおむね10年ごと(竣工後・外壁改修後10年以内、その後10年経過ごとに1度)と運用されており、特定建築物定期調査の中で求められます。
ここで多くの所有者さまが見落としがちな実務があります。それは、「10年に一度の打診調査」と「12〜15年に一度の大規模修繕」をバラバラにスケジューリングしてしまうことです。打診調査で足場やゴンドラを組み、調査が終わったあと足場を解体し、数年後の大規模修繕でまた足場を組む。これは、所有者さまから見ると仮設費が二度発生することを意味します。
私が現場でいつもお話ししているのは、「打診調査と大規模修繕は、可能な限り同じ仮設で実施しませんか」というご提案です。仮設の重複が消えるだけで、戸あたり数万円〜十数万円のコスト圧縮が見込めます。さらに、ロープアクセス工法(無足場工法)を組み合わせると、打診調査だけは無足場で済ませ、本格修繕時に必要最小限の足場を組むという柔軟な運用が可能です。詳しくはロープアクセス工法のご紹介もご覧ください。
4-4. 実務4:報告書を「次の総会資料」のたたき台にする
四つ目は、報告書の活用方法です。定期報告書は、所有者にとって「行政に出して終わり」の書類ではありません。次回の総会、次回の長期修繕計画見直し、次回の修繕積立金改定のための、第三者が裏付けた一次情報です。
私のお勧めは、報告書を受け取ったその日に、A4一枚の要約を作ってしまうことです。要約に入れるべき項目は三つです。第一に、判定区分が「要是正」「要重点点検」になった項目の一覧。第二に、それぞれの推奨対応時期。第三に、概算費用レンジ。
第三の概算費用レンジは、調査会社さまには出してもらえない場合が多いです。ここは施工会社や修繕コンサルに別途お願いする領域です。私たち明誠でも、加盟店ネットワークの強みを活かして、防水・塗装・タイル・電気・看板といった分野ごとの概算レンジを、目安としてお出ししています。詳しくは大規模修繕工事のご紹介をご覧ください。
5. 定期報告とロープアクセス工法 ── 「無足場で守れる範囲」を知っておく
5-1. 無足場でできる調査と、できない調査
ロープアクセス工法は、すべての定期報告調査を代替できるわけではありません。ここを誤解されると、所有者さまの判断を誤らせます。正直に申し上げます。
ロープアクセス工法が得意なのは、第一に、ピンポイントの外壁打診です。クラック(ひび割れ)や浮きが疑われる箇所の追加打診、定点観測、写真撮影、簡易補修は、ロープアクセスの最も得意とする領域です。第二に、屋上から伸びる縦動線上の点検です。タイル目地、シーリング、ガラリ、躯体クラック等、上から順に見下ろしながらの調査は、ロープアクセスの真骨頂です。
一方、苦手なのは、第一に、バルコニーの天井裏や室内側の点検です。これは仮設足場の方が安定して作業できます。第二に、全面打診で広範囲を一気にカバーするケースです。建物形状によっては、ロープアクセスの作業効率が足場に劣ることがあります。
私たちが「ロープアクセス+足場のハイブリッド工法」を多くのご提案で採用しているのは、この得意・不得意の境界線を一棟ごとに見極めるからです。三つの工法を持っている会社は、日本でも数えるほどしかありません。
5-2. 居住者・テナントへの影響を最小化する観点
定期報告の調査自体は、外壁打診を除けば、居住者さま・テナントさまへの影響は限定的です。しかし、報告で「要是正」となった項目を直す工事は、足場仮設の有無によって居住者影響が大きく変わります。
私の経験上、収益不動産オーナーさまにとって最も痛いコストは、工事費そのものではなく、仮設足場期間中の家賃減額交渉や、テナント退去です。例えば、20戸のRC造マンションで足場期間が1か月延びれば、家賃減額のレンジは戸あたり1万円×20戸=月20万円規模になります。これが2〜3か月続けば60万円。年間収益から確実に削れます。
ロープアクセス工法は、足場を組まずに済む分、この「家賃減額リスク」「テナント退去リスク」を圧縮できます。すべてをロープでやる必要はありません。「足場が必要な部分」と「ロープで足りる部分」を、工事項目ごとに切り分けることが大切です。
5-3. 「定期報告→是正工事→次回大規模修繕」の三段連動
長期で見ると、定期報告は「単発の法的義務」ではなく、「次回の大規模修繕計画への入口」です。私が理事長さまにいつもお伝えしているのは、次の三段連動です。
第一段は、定期報告で現状を客観評価する。第二段は、報告結果を踏まえて3年スパンの短期修繕計画を更新する。第三段は、短期計画を12〜15年スパンの長期修繕計画に組み込み直す。
オンライン化で報告書のデータが扱いやすくなれば、この三段連動を、所有者さま自身がエクセル一枚で管理できるようになります。これは、私たち施工会社の側から見ても、本当に大きな進歩です。
6. 失敗事例から学ぶ「報告書を出して終わり」にしない運用
ここでは、私が現場で実際に見てきた失敗事例を、特定個人・特定物件が分からない形に丸めて3つ紹介します。すべて、報告書を「出すだけ」で終わらせてしまったことが、後の損失につながった例です。
6-1. 事例A:「要是正」を3年放置したマンションのタイル剥落
築22年のRC造マンション、80戸規模です。10年経過時の外壁打診調査で、複数箇所のタイル浮きが「要是正」として報告されました。理事会は当時、修繕積立金が枯渇気味で、「次の大規模修繕でまとめて直そう」と判断し、3年間放置されました。
3年後、玄関アプローチに50cm四方のタイル片が落下。幸い人的被害はゼロでしたが、所有者責任の議論が組合内で噴出し、結果として臨時の打診調査と部分補修で予定外の数百万円が動きました。さらに、近隣からのクレーム対応、保険会社との交渉、行政への報告などの間接コストが半年にわたって発生しました。
私が現場で20年やってきて、私が一番悔しい思いをするのは、こうした事例です。「要是正」は、出た時点で動くべきです。原資が足りなければ、部分的な応急処置と次回大規模修繕への組み込みを同時に設計します。放置だけは絶対にやってはいけません。
6-2. 事例B:ホテルの防火扉指摘を見落とした事業者
築15年のビジネスホテル、客室数120室です。年次の防火設備定期検査で、客室階の防火扉複数枚に「閉鎖時の自閉装置の不具合」が指摘されました。報告書は本社の総務部に届いていましたが、現場の支配人には共有されておらず、9か月後の消防立入検査で指摘されて初めて問題が顕在化しました。
このケースでは、消防査察での口頭警告→是正報告→改善工事という流れになり、本来の定期検査直後に直しておけば1枚あたり10万円台で済んだ修繕が、ホテル稼働を止めずに夜間工事で対応した結果、1枚あたり数十万円規模に膨らみました。
「報告書を見る人と、現場を動かせる人が分離している」のは、特にホテル・商業ビルで起きがちな組織課題です。横浜市が再三求めている「関係者間の情報共有」は、こういう損失を防ぐための仕組みでもあります。
6-3. 事例C:「報告書は出した、でも修繕計画は更新しなかった」
築28年の収益不動産、4棟構成です。各棟の特定建築物定期調査と建築設備定期検査は外注先の調査会社に丸投げ、報告書は受け取って金庫にしまっていました。長期修繕計画は10年前の数字のままで、修繕積立金の根拠は更新されていませんでした。
5年後、テナントから「天井から雨漏りがする」とのクレーム。調査の結果、屋上防水の劣化が想定より進んでおり、過去の報告書にも「防水層に亀裂、要是正」の記載がありました。報告書は出ていた、しかし計画に反映されていなかったということです。
このケースでは、本来であれば3年前に防水改修を計画的に行えば数百万円で済んだ工事が、緊急対応+テナント補償+部分的な内装復旧を含めて1,000万円超まで膨らみました。報告書を計画に紐付けない運用は、所有者さまに必ずどこかで請求書として戻ってきます。
7. 私から所有者・管理組合へ伝えたい3つのこと
ここまで、横浜市のニュースを切り口に、定期報告の制度、新システムの中身、全国の所有者が今動ける4つの実務、そして失敗事例までお話ししてきました。最後に、私から所有者さま・理事長さま・収益不動産オーナーさまへ、3つだけお伝えします。
第一に、定期報告は「行政手続き」ではなく「資産防衛の情報源」だということです。年に数万円〜十数万円かけて取得する報告書には、第三者の目で見た物件のレントゲン写真のような価値があります。これを金庫にしまうのは、本当にもったいない。要約一枚を作る、総会の議題に必ず入れる、長期修繕計画に紐付ける。それだけで、報告書は所有者さまの最強の味方になります。
第二に、「報告主体は所有者」という法的事実を、絶対に他人事にしないことです。管理会社に委託していても、サブリースに出していても、定期報告の最終責任は所有者にあります。私はいつも理事長さま・オーナーさまに、「報告書には、ご自分の目を必ず通してください」とお伝えしています。専門用語が分からなければ、調査会社や私たちのような施工会社に聞いてください。「分からないから読まない」は、所有者さまにとって最も損な選択です。
第三に、DX化の波は確実に来ているので、早めに乗ったほうが楽だということです。横浜市の今回の動きは、間違いなく他の特定行政庁が追随します。早めにオンライン提出に慣れておけば、引っ越し・売却・買い増しで物件所在地が変わっても、運用がスムーズです。所有不動産が複数ある方ほど、メリットは大きくなります。
8. 株式会社明誠ができること(自社サービスのご紹介)
ここからは利益相反の開示として、私たち株式会社明誠が提供できるサービスを明示的に区切ってご紹介します。
私たちは、定期報告そのものの調査・報告書作成を主業務とする調査会社ではありません。一級建築士による定期報告は、独立した第三者性のある調査会社さまに依頼されることをお勧めします。私たちの強みは、定期報告で「要是正」「要重点点検」と判定された箇所の、是正工事と次回大規模修繕の設計・施工にあります。
具体的には、次の3つの工法から、建物特性に応じた最適な提案ができます。第一に、通常の足場仮設工法。第二に、産業用ロープによる無足場工法(ロープアクセス工法)。第三に、両者を部位ごとに使い分けるハイブリッド工法です。さらに、日本初のロープアクセス工事フランチャイズ展開を通じて、塗装・防水・タイル・電気・看板など各分野の専門職と連携できる体制を持っています。中間マージンを最小化し、所有者さまの修繕積立金を一円でも長持ちさせる設計を、私は本気で目指しています。
定期報告書の読み解きや、是正指摘事項の概算費用感が知りたい方は、まずはお問合せフォームからご相談だけでも遠慮なくお声がけください。総会の前段階の整理だけでも、お力になれることがあります。
9. まとめ ── 横浜市の発表から、私たちが受け取るべきメッセージ
最後に、本稿の要点を箇条書きで整理しておきます。
横浜市は2026年5月26日、建築基準法第12条に基づく定期報告のオンライン受付を本格スタートしました。試行は3月31日から始まっており、システム名称は「ハマヤモリ」、URLは https://hamayamori.city.yokohama.lg.jp/teikihoukoku です。建築物・建築設備・防火設備・昇降機・遊戯施設の5種類の報告が、来庁・郵送なしでオンライン提出できます。
この動きは、横浜市の所有者さまだけの話ではありません。過去の押印不要化や書式DXがそうだったように、政令市の先行事例は、必ず他の特定行政庁に波及します。所有者さま・管理組合さま・収益不動産オーナーさまは、自分の物件所在地の特定行政庁の動向を、年に一度はチェックする習慣をつけてください。
そして、報告書は「出して終わり」にしない。報告周期を表にする、所有者・管理者・調査会社の役割分担を文書化する、外壁打診と次回大規模修繕の仮設費を同期する、報告書を総会資料のたたき台にする。この4つの実務を、今週から始めていただきたいと私は思います。
定期報告は、地味な法定手続きに見えて、所有者さまにとって最強の資産防衛ツールです。横浜市のDXは、その価値を再認識する絶好のきっかけです。これは私が現場で20年見てきた、嘘偽りのない感想です。次回も、現場で本当に使える話だけをお届けします。
出典・参考資料
- 横浜市建築局「定期報告制度」
- 横浜市建築局「3 お知らせ情報一覧」(令和8年5月26日「定期報告のオンライン受付をスタートします!」)
- 横浜市記者発表「建築物等の定期報告について、オンライン受付をスタートします!」
- 横浜市定期報告オンラインシステム「ハマヤモリ」(外部サイト)
- 横浜市建築局「4 報告の周期と時期」
- e-Gov法令検索「建築基準法(昭和二十五年法律第二百一号)」(第12条、第101条、第105条)
- 国土交通省「令和6年国土交通省告示第974号」
- 国土交通省「令和7年国土交通省告示第53号」
- 横浜市建築局「外壁打診調査」(PDF)
- 株式会社明誠「ロープアクセス工法のご紹介」
- 株式会社明誠「大規模修繕工事のご紹介」
- 株式会社明誠「お問合せフォーム」
▼ロープアクセス工法・無足場工法の詳細解説はこちら
ロープアクセスドットコム|無足場工法専門メディア
大規模修繕の「中間マージン」問題に向き合う — 現場叩き上げの私が、フランチャイズと無足場工法で出した一つの答え
2026年5月、私が朝の打ち合わせ前に目にした記事のひとつが、「マンション大規模修繕に潜む闇 — 工事費を吊り上げ、管理会社にマージンを支払う」というタイトルでした(出典:ライブドアニュース/日下部理絵氏)。同じ週に、東洋経済オンラインからは「築46年、修繕ゼロの老朽化マンションが辿った“住人のいる廃墟”という末路」という記事も配信されています(出典:東洋経済オンライン)。
立場の異なる二本の記事が、同じ週に同じ業界の課題を取り上げている。これは偶然ではないと、私は受け止めました。マンションの大規模修繕は、いま再び「価格の妥当性」と「資金枯渇の現実」を、社会から問い直されています。
ここからが本題です。本稿では、こうした報道に触れて改めて整理したい三つのことを、現場で20年近く修繕に関わってきた立場から、できるだけ具体的にお話しします。第一に、なぜ大規模修繕の費用は膨らみがちなのか。第二に、国土交通省や公的機関が示す「適正な水準」とはどのレンジなのか。第三に、私たち株式会社明誠が「フランチャイズ運営」と「ロープアクセス工法(無足場工法)」という二つの仕組みで出した答えは、どこに位置するのか。
押し売りのつもりはありません。理事長さま、修繕委員さま、収益不動産のオーナーさまが、ご自分のマンションやビルを今日から守るために使える情報を、淡々と並べていきます。
1. 報道で改めて問われた「大規模修繕の業界構造」
1-1. 「闇」と書かれる側にいる業界の人間として
冒頭で紹介した記事のタイトルは、強い言葉です。「闇」と書かれた業界の中に、私自身も身を置いています。正直に申し上げます。記事に書かれているような事例が、業界の隅々まで100%存在しないとは、私には言い切れません。だからこそ、まずは事実関係を冷静に分解する必要があります。
記事のなかで日下部氏が指摘されているのは、おおよそ次の構造です。第一に、管理会社が大規模修繕の発注プロセスを実質的に握っている場合、施工会社が見積もりに「協力金」「紹介手数料」を上乗せして提示し、それが間接的に管理会社に流れることがある。第二に、見積金額のレンジが大きく、相見積もりを取りづらい構造になっている。第三に、結果として戸あたりの工事費が想定の1.3〜1.5倍に膨らむ事例が報告されている、というものです。
1-2. 現場で20年見てきた「分岐点」
私の経験上、こうした話は「すべての管理会社がそうだ」というわけではありません。むしろ、誠実に動いてくださる管理会社さま、フロント担当者さまは数多くいらっしゃいます。問題は、組合と施工会社のあいだに入る「中間プレイヤー」が複数重なったとき、その合計マージンが見えなくなる、という構造です。
私が現場で20年見てきた「分岐点」は、ほとんどの場合、次の3つに集約されます。
第一に、相見積もり段階で「設計監理方式」「責任施工方式」「コンサル方式」のどれを選ぶかを、組合側が理解しているかどうか。第二に、見積項目(「諸経費」「現場管理費」「一般管理費」「安全対策費」など)を、外部の第三者が査読できる状態に揃えられているかどうか。第三に、施工会社の「自社施工率」が分かっているかどうか。この3点が整理できているマンションは、私の体感では、戸あたりコストが2〜3割は変わってきます。
1-3. 「廃墟化」という反対側の闇
もう一本の東洋経済の記事は、まったく逆の問題を指摘しています。修繕積立金が不足し、大規模修繕そのものが実施できない。その結果、外壁タイルの剥落から雨水が躯体に侵入し、住人がいるのに「廃墟」と呼ばれてしまう物件が現実に存在する、という話です。
私はこの二つの闇は、表裏一体だと考えています。費用が膨らみすぎる構造は、結果的に「次の修繕積立金」を圧迫します。積立金が足りないマンションは、必要な工事を先送りにせざるを得ない。先送りされた躯体は、さらに痛んで次回の工事費を押し上げる。負のスパイラルの始まりです。
2. なぜ工事費が膨らむのか — マージン構造を分解する
2-1. 「3階建てマージン」の典型例
ここで一度、「中間マージン」と呼ばれているものの中身を、構造的に分解してみます。私が現場で見てきた典型例は、次の三層構造です。
一段目は、元請けゼネコンや設計事務所が取る「元請けマージン」です。書類作成、行政対応、長期保証、近隣調整など、価値ある業務に対する正当な対価が含まれます。これ自体は「闇」ではありません。問題は、ここに二段目・三段目が加わるときです。
二段目は、施工管理会社が下請けに発注する際の「中間取りまとめマージン」。三段目は、その下請けがさらに孫請けに出すときの「再委託マージン」です。塗装・防水・タイル・シーリング・足場と、工種ごとに別の専門会社が入る大規模修繕では、ここで5%×3層=15%前後が、純粋な施工以外のコストとして積み上がります。
加えて、「協力金」や「紹介料」と呼ばれるグレーゾーンの慣行が一部に残っていることは、業界誌の特集や国会の議事録などでも繰り返し指摘されてきました(参考:衆議院・国土交通委員会の議事録)。私はこの種の慣行に組みする気はありません。一方で、「中間取りまとめ」という機能自体には、現場品質を担保するうえで価値があることも事実です。
2-2. 「諸経費」のブラックボックスを開ける
理事長さま向けに、もう少し実務的な話をします。見積書のいちばん下のほうにある「諸経費」「現場管理費」「一般管理費」の合計が、工事金額の何%になっているかを必ず見てください。
私の経験上、健全な水準は、工事金額の10〜18%のレンジに収まります。これが20%を超えてくるあたりから、「中間マージンが厚めに乗っているか、現場の効率が悪く管理工数が膨らんでいるか、どちらかの可能性が高い」と、私はお伝えしています。25%を超えていたら、私なら必ず、内訳の根拠を文書で求めます。
ここで気をつけたいのは、「諸経費が低いほど良い」という単純な話ではない、ということです。安全対策費や近隣対応費が異常に低い見積もりは、現場で必要な作業を省略している可能性があります。低すぎる見積もりは、工期遅延、品質低下、最悪の場合は事故という形で、結局は組合に跳ね返ってきます。
2-3. 戸あたり費用の「相場感」
国土交通省が公表しているマンション大規模修繕工事に関する実態調査結果では、第1回大規模修繕の戸あたり工事費は、戸数規模やグレードによって幅はあるものの、概ね100万円〜125万円のレンジに、最頻値が分布しているとされています。第2回目、第3回目になると、これに加えて給排水管更新、エレベーター改修、サッシ周りの劣化対応が加わり、戸あたり150万円〜200万円のレンジへ拡大するケースが多くなります。
私はいつも理事長さまに、「この数字を“相場”ではなく“判断ライン”として持ってください」とお伝えしています。戸あたり費用が公的データの最頻値レンジから、±20%以内に収まっていれば、まずは妥当性の議論の土俵に乗っています。±30%を超えるなら、上下どちらにブレていても、必ず根拠の説明を求めてください。
3. 国土交通省が示す「健全な修繕計画」のレンジ
3-1. 修繕積立金ガイドラインの更新
国土交通省はマンションの修繕積立金に関するガイドラインを公表しており、概ね5年ごとに改定が行われています。直近の改定では、専有面積あたりの月額目安が、20階未満の中規模マンションで月額平米あたり235円〜335円、20階以上の高層マンションで月額平米あたり335円〜430円、というレンジで示されています。
このレンジを下回っている場合、第2回・第3回の大規模修繕を迎える段階で、確実に資金ショートの危険信号が灯ります。「うちのマンションの平米単価はいくらか」を、まずは管理組合の総会資料で確認してみてください。
3-2. 長期修繕計画は「12年で完結しない」
長期修繕計画は、しばしば「12年ごとの大規模修繕」を中心に語られます。しかし、国交省のガイドラインでも、給排水管・エレベーター・機械式駐車場・玄関ドア・サッシなど、12年周期と異なるサイクルを持つ部位が多数存在することが明示されています。
私が現場でいちばん悔しい思いをするのは、「12年ごとの足場架設」だけが意識されていて、その間にロープアクセスでこまめに点検・補修できるはずの不具合が見過ごされ、結果として次回の工事規模が膨らむケースです。ここからは、私たちが取り組んでいる「もう一つの道」の話に入っていきます。
3-3. 公的相談窓口の活用
理事長さまや修繕委員さまには、外部の公的相談窓口の存在も、強くお伝えしておきたいところです。公益財団法人マンション管理センター、一般社団法人マンション計画修繕施工協会(MKS)、各自治体のマンション相談窓口など、利害関係のない第三者に話を聞ける場が公的に整備されています。
「相見積もりを取る前に、まず相談だけしてみる」という使い方ができる窓口です。私自身、組合の相談に同席した際に、こうした窓口の存在を組合の方に紹介することがあります。
4. 私が現場で見てきた「3つの分かれ道」
4-1. 分かれ道その1:相見積もりを取れるか、取れないか
相見積もりを「取れる組合」と「取れない組合」のあいだには、見えない壁があります。取れない理由はだいたい次の3つです。第一に、管理会社が「うちの提携先以外に出すと保証が切れる」と説明する。第二に、過去の理事会議事録に「特定の会社に随意契約」と書かれており、新理事が手を出しにくい。第三に、そもそも相見積もりの仕様書(数量内訳書)を組合側で揃えられない。
この壁を越えるための最初の一歩は、私の経験上、「外部に詳細な数量内訳書を作ってくれる第三者を見つけること」です。マンション管理士、建築士、修繕コンサル、いずれでも構いません。仕様が固まりさえすれば、相見積もりは2社でも3社でも取れます。
4-2. 分かれ道その2:工法を1つに固定しているか
もうひとつの分かれ道は、「足場架設工法しか前提にしていない総会資料」になっているかどうかです。前述のとおり、12年ごとに全周足場を架けることは、コストでも工期でも住民負担でも、決して小さな選択ではありません。
私はこれまで、足場架設・ロープアクセス工法(無足場)・両者を組み合わせたハイブリッド工法という、3つの選択肢を建物特性に応じて使い分けてきました。日本でこの3工法すべてを自社の意思決定で出し分けられる会社は、数えるほどしかありません。後ほど詳しくお話ししますが、ここで申し上げたいのは、「工法選定を1つに固定して総会に上げないでください」ということです。比較したうえで足場架設を選ぶのと、最初から足場架設しか検討しないのとでは、後で見えてくる景色がまったく違います。
4-3. 分かれ道その3:「中間マージン」を可視化するか
3つ目は、見積書の透明性です。先ほど触れた諸経費比率に加えて、私は次の3項目を必ずチェックします。
第一に、施工内訳のうち、元請けが直接施工する割合(自社施工率)。第二に、外注工種ごとの単価が、業界標準(公益財団法人建設物価調査会等の刊行物)と比べて妥当か。第三に、「予備費」「設計変更費」がどのくらい計上されており、その執行ルールが事前に明文化されているか。
この3点を1枚のシートにまとめて、組合の合意形成資料に添付する。これだけで、「中間マージンが見えない」という不安は、相当程度コントロールできます。
5. 明誠が選んだ答え(1)— フランチャイズで中間層を圧縮する
5-1. 日本初のロープアクセス工事フランチャイズ
ここから、私たち株式会社明誠の取り組みについて、できるだけフラットに書きます。
明誠は、ロープアクセス工法を中核とした工事ネットワークを、日本で初めてフランチャイズ形式で全国展開している会社です。塗装・防水・タイル・シーリング・電気・看板など、各分野の専門職会社が加盟しており、案件ごとに、もっとも適した加盟店が現場を担当します。
なぜフランチャイズという形を選んだかというと、目的は単純です。中間層を圧縮するためです。元請け→管理会社→ゼネコン→専門工事会社→孫請け、と段が重なるほど、マージンは積み上がります。フランチャイズ本部が直接、現場の専門工事会社に発注できる仕組みにすれば、層を1〜2段、構造的にカットできます。
5-2. 「フランチャイズ=品質が下がる」という誤解
フランチャイズと聞くと、「品質にばらつきが出るのではないか」とご心配される方もいらっしゃいます。私はこの問いを、加盟店審査と教育研修で正面から受け止めるしかないと考えています。
加盟店の選定では、ロープアクセスの産業用ロープ作業に係る労働安全衛生規則(特別教育)の修了は最低条件です。そのうえで、塗装・防水・タイルなどの工種別の有資格者比率、過去5年間の事故ゼロ実績、第三者保険の加入状況などを満たした会社のみを加盟させています。
研修については、年に複数回、安全・品質・施工技術のアップデートを行い、加盟店どうしが現場ノウハウを共有する場を設けています。フランチャイズ本部が「営業だけして現場は加盟店任せ」では、フランチャイズの意味がありません。私は本部の責任を、品質の最終ラインを担うことだと位置付けています。
5-3. コストはどれくらい下がるか
数字の話をします。あくまで私の現場感覚と、過去案件の事例平均ですが、フランチャイズ加盟店による直接施工に切り替えたケースでは、同条件の足場架設工事と比較して、戸あたり10〜25%の工事費削減が実現できたケースが多くあります。20%を超える削減ができたのは、ロープアクセス工法と組み合わせて足場費を圧縮できた建物に集中しています。
ここで強調したいのは、「安いから良い」のではない、ということです。中間マージンを圧縮した分を、現場の職人さんへの正当な対価と、長期保証の原資、そして安全対策の手厚さに振り向ける。これが、私たちがフランチャイズで実現したいことの本丸です。
明誠の大規模修繕の考え方をもう少し詳しく知りたい方は、大規模修繕工事のご紹介ページをご覧ください。
6. 明誠が選んだ答え(2)— ロープアクセス工法というもう一つの選択肢
6-1. ロープアクセス工法とは何か
ロープアクセス工法とは、産業用の二重ロープにより、職人が直接建物の外壁面を上下移動しながら、塗装・防水・タイル補修・シーリング打ち替え・点検などを行う工法です。欧米では、橋梁・洋上風力・高層ビルなど、足場が物理的に困難な現場で先に発達しました。日本では、ここ10年ほどで急速に普及し始めています。
業界全体の動向は、一般社団法人ロープアクセス技術協会などが情報発信を行っています。私たちもこうした業界団体の動きに合わせて、安全基準や教育プログラムを継続的にアップデートしています。
6-2. ロープアクセスの強みと弱み(両論併記)
公平を期すために、強みと弱みを両論併記します。
強みは、まず足場費が大幅に削減できることです。建物の規模・形状にもよりますが、足場費そのものを工事原価から差し引けるケースで、総工事費の15〜30%程度の圧縮が見込めます。第二に、工期が短縮できます。足場の組立・解体に必要な期間(規模によっては2〜4週間)が不要になります。第三に、住民・利用者の生活影響が最小限です。窓の前に足場が立ち、視界も日照も遮られる、洗濯物が干せない、防犯リスクが上がる、といったストレスを大幅に軽減できます。
一方で、弱みもあります。第一に、強風時・降雨時に作業中止となる頻度が、足場工事より高い傾向があります。第二に、大型のクラック補修や、躯体に近い大規模なはつり作業など、ロープでは生産性が出にくい工種があります。第三に、近隣からの視覚的な「工事中感」が薄いぶん、近隣説明会の重要性が逆に高まります。
私はこれを、「足場架設と対立する工法」ではなく、「足場架設では得られない選択肢の幅」と捉えています。
6-3. ハイブリッド工法という現実解
実務では、足場架設・ロープアクセス・ハイブリッドの3つから選びます。ハイブリッド工法は、たとえばバルコニー側だけ部分足場、外周はロープアクセス、屋上防水は単管足場、といった部位ごとの最適化を行う考え方です。
ハイブリッド工法を採用した場合、純粋な足場工事と比べて10〜20%、純粋なロープアクセスと比べて品質安定性で優位、という「いいとこ取り」が可能になります。私はこれを必ずワンセットで提案するようにしています。建物ごとに最適解は異なるので、「足場かロープかの二択」ではなく、「3つの選択肢のなかで建物にとって何が一番良いか」を、組合と一緒に考えるためです。
ロープアクセスの技術的な詳細は、ロープアクセス工法のご紹介ページで写真とあわせて解説していますので、必要に応じてご参照ください。
7. 管理組合・オーナーが今日からできる5つの自衛策
7-1. 5つのチェックリスト
ここまでの話を、今日から動ける形に落とし込みます。理事長さま、修繕委員さま、収益不動産のオーナーさまに、ぜひ持ち帰っていただきたいチェックリストは次の5項目です。
第一に、自分のマンションの修繕積立金の平米単価が、国土交通省ガイドラインのレンジに収まっているかを確認する。これは総会資料とマンション修繕積立金ガイドラインを見比べるだけで、その日のうちにできます。
第二に、見積書の「諸経費」「現場管理費」「一般管理費」の合計が、工事費の何%かを電卓で計算する。20%を超えていれば、内訳を文書で質問する。
第三に、相見積もりを取る前に、外部の第三者(マンション管理士、修繕コンサル、公的相談窓口)に「数量内訳書のフォーマット」だけでも見てもらう。
第四に、工法選定を「足場架設のみ」で総会に上げない。足場・ロープアクセス・ハイブリッドの3工法を比較した資料を、必ず議案書に添付する。
第五に、見積書の「予備費」と「設計変更費」の執行ルールを、契約書本文または覚書で事前に明文化する。
7-2. 「総会の3カ月前」が分かれ目
私の経験上、これらを動かすには、総会開催の3カ月前から動き始める必要があります。1カ月前から動き出すと、相見積もりを取り切る前に総会日を迎え、結局「管理会社の提示案を承認」の流れに飲まれてしまいます。
理事会で1分だけでもこの話題を出してみてください。3カ月前から動けたかどうかが、その回の大規模修繕の「透明性スコア」を決めます。
7-3. 「相談だけでも」の使い方
最後に、自衛策の延長線上で、私たち明誠への相談の使い方も、率直に書きます。
私たちは、相見積もりに呼ばれた段階だけでなく、その「前段階」での相談こそ、もっとも価値を提供できると考えています。たとえば、「いまの長期修繕計画の数字が、ガイドラインと比べて高いのか低いのかだけ見てほしい」「3工法のうち、自分のマンションに向くのはどれか、感触だけ知りたい」といったご相談です。
お問合せフォームからは、こうした「相談だけ」のご依頼でも受け付けています。お見積もりが必須ではありません。総会の前段階の整理だけでも、お力になれることがあります。
8. JCSAから業界全体へ — 透明性を「制度」ではなく「文化」に
8-1. 一般社団法人全国建設業支援協会(JCSA)の立ち位置
私はもう一つ、明誠とは別に一般社団法人全国建設業支援協会(JCSA)を運営しています。JCSAは、全国の建設業経営者向けに経営支援情報を発信し、オンラインセミナーやリアル交流会、ビジネスマッチングを行う非営利の組織です。
なぜ業界団体まで運営しているかというと、目的は二つあります。一つは、フランチャイズ加盟店だけでなく、業界全体の経営力が底上げされなければ、結局は「マージン構造の闇」は無くならない、という現場感覚があるためです。もう一つは、私自身が現場叩き上げで20年やってきて、業界の先輩方や同業の経営者の方々から受け取ったものを、次の世代に渡したい、という個人的な思いがあるためです。
8-2. 透明性は制度より文化
業界の透明性を上げるためには、規制やガイドラインの強化も必要です。同時に、「透明性は気持ちの良いものだ」「中間マージンを隠さなくても、付加価値で対価を得られるのだ」という文化を、業界の内側から作っていく必要がある、と私は考えています。
私たちが取り組んでいるフランチャイズ運営も、ロープアクセス工法の普及も、JCSAの経営支援活動も、突き詰めれば「透明性の文化を業界に根付かせる」という、ひとつのゴールに向かっています。
8-3. 収益不動産オーナーさまへ — マンション以外の視点
ここまで主に区分所有マンションの管理組合を念頭に書いてきましたが、賃貸マンション・ビル・ホテルを所有されている収益不動産オーナーさまにも、補足を残しておきます。
オーナー所有物件の場合、意思決定者が一人または少数で済む反面、修繕の先送りが直接、家賃下落・空室率上昇・売却査定額の下落として、ご自身の資産に跳ね返ります。私の経験上、外壁の劣化サイン(クラック・チョーキング・タイル浮き)が見えてから5年以内に手当てができたか否かで、10年スパンの資産価値の差は、戸あたり数十万円〜数百万円のオーダーで開いていきます。ロープアクセスを使った部分補修なら、足場架設前提と比べて初動コストを大幅に抑えられるため、「いきなり大規模ではなく、まずは応急的に押さえる」という選択肢を持てます。
8-4. 読者の皆さまへ
最後に、ここまで読んでくださった理事長さま、修繕委員さま、オーナーさまへ。
冒頭の「闇」という言葉に、私は最初、業界の人間としてカチンと来た部分がありました。けれど、読み返すうちに、「闇」と書かれてしまうほど、業界の構造が外部から見えにくくなっている、という事実を受け止めるべきだと感じました。
私たち明誠は、フランチャイズで中間層を圧縮し、ロープアクセスで足場費を圧縮し、ハイブリッドで建物ごとに最適化し、JCSAで業界全体の経営支援を行うという、4つの仕掛けで「透明性の文化」をつくっていきたいと考えています。
これは私が現場で20年見てきた、嘘偽りのない感想です。次回も、現場で本当に使える話だけをお届けします。
出典・参考資料
- ライブドアニュース(日下部理絵氏)「マンション大規模修繕に潜む闇…『工事費を吊り上げ、管理会社にマージンを支払う』ことが業界…」
- 東洋経済オンライン「[『トイレも使えず…』築46年、修繕ゼロの《老朽化マンション》が辿った“住人のいる廃墟”という末路](https://toyokeizai.net/arti
▼ロープアクセス工法・無足場工法の詳細解説はこちら
ロープアクセスドットコム|無足場工法専門メディア

