「40戸ないと採算が合わない」——管理会社に“切り捨てられる”小規模マンションが増える2026年、収益物件オーナーと管理組合が大規模修繕を“工法”で守る実務【2026年7月】

「うちの管理、来年から受けられません」——ある日突然、そう言われたら

もし理事会の席で、管理会社の担当者から「来期をもって管理委託契約を終了させていただきたい」と切り出されたら、あなたはどう動くでしょうか。あるいは、契約は続けるものの「委託料を今より大幅に上げさせてください」と言われたら。

これは、特別な誰かの話ではありません。2026年のいま、全国の小規模なマンションで、静かに、しかし確実に増えている現実です。私は大規模修繕の現場で20年近く仕事をしてきましたが、ここ1〜2年、「管理会社に見放されそうだ」というご相談が明らかに増えました。

この記事は、築15〜25年で50戸前後、あるいはそれより小さいマンションの理事長さま・修繕委員の方、そして区分マンションを複数お持ちの収益物件オーナーの方に向けて書いています。「管理会社に切り捨てられる」という一見こわい話を、なぜそれが起きるのか、そして工事会社の立場から見て「本当に効く打ち手」は何かまで、順を追って整理します。結論から言えば、鍵は「管理を誰に頼むか」だけでなく、「一番大きな出費である大規模修繕を、どの工法で、いくらで直すか」にあります。

何が起きたのか——日経が報じた「切り捨てられる小型物件」

2026年7月、日本経済新聞が「マンション不都合な真実 あえぐ管理組合」という連載を掲載しました。その第1回(上)の見出しが、そのものずばり「切り捨てられる小型物件」です。記事では、管理会社が小規模マンションに対して「解約通知は突然に」届き、その理由として「40戸ないと採算合わず」という趣旨の業界の声が紹介されています(出典:日本経済新聞「マンション不都合な真実 あえぐ管理組合(上)」2026年7月20日)。

かつて、分譲マンションの管理は「一度受託したら長く続くストックビジネス」でした。ところが、その前提が崩れつつあります。人手不足で管理員や清掃の人件費が上がり、小さな物件ほど「1戸あたりで見たときの手間」が重くなる。管理会社からすれば、同じ労力をかけるなら戸数の多い物件に人を回したい——そういう選別が、静かに始まっているのです。

この連載は全3回で、第2回(中)は大規模修繕をめぐる不透明な取引、第3回(下)は築古マンションが自治の力でよみがえる事例を取り上げています。つまり日経は、「管理」「修繕」「再生」という、マンションの一生に関わる3つの局面をまとめて問い直しているわけです。私が注目したいのは、その入口が「小型物件の切り捨て」だった、という点です。一番弱い立場の物件から問題が噴き出す——それは、業界全体のひずみが、そこに集まっているということでもあります。

私はこのニュースを、単なる「管理会社の都合」とは受け止めていません。これは、日本の分譲マンションが「新築を売る時代」から「古い建物を維持し続ける時代」に本格的に入ったことの、ひとつの表れだと考えています。国土交通省によれば、分譲マンションのストックは全国で数百万戸規模に達し、築40年を超える住戸も年々増えています(出典:国土交通省「マンションに関する統計・データ等」)。維持しなければならない建物が増える一方で、それを支える人手とお金が細っている。その「しわ寄せ」が、まず小さな物件から表面化しているわけです。

なぜ今、小規模マンションが“管理難民”になるのか

「ある日突然、管理会社から契約解約や大幅な委託料増額を告げられ、次の引き受け手も見つからない」——こうした状態は、近年「マンション管理難民」と呼ばれるようになりました。なぜ、いま急に増えているのか。私が現場で感じている要因は、大きく3つに分けられます。

要因1:人件費の上昇と「1戸あたりコスト」の重さ

管理会社の費用の多くは人件費です。管理員・清掃員・フロントの人件費が上がれば、当然、委託料に反映されます。ここで小規模マンションが不利になるのは、「固定的にかかる手間」が戸数で割り切れないからです。総会の運営も、会計も、点検の立ち会いも、20戸でも100戸でも「一式」で発生する作業は少なくありません。戸数が少ないほど、1戸あたりの負担が重くなる。管理会社が「40戸ないと採算が合わない」と口にする背景には、この構造があります。

要因2:制度改正で“事務コスト”がさらに増える

2026年には、マンションの管理をめぐる制度も動いています。国土交通省は、マンションの管理の適正化の推進に関する法律の施行規則を改正しました(出典:国土交通省「施行規則の一部を改正する省令の公布について」)。管理をより丁寧に、透明にしていく方向の改正で、居住者にとっては望ましいものです。

ただ、管理会社の側から見ると、1件の受託にかかる説明・書面・事務の手間は増える方向にあります。丁寧さを求められるほど、「手間の割に実入りの小さい小規模物件」から人手を引き上げたくなる——業界内でそういう見方が広がっているのは、残念ながら事実です。制度は住民の味方ですが、その運用コストが小さな物件を押し出してしまう、という皮肉が起きているのです。

要因3:担い手そのものの不足

建設業も管理業も、いま共通して抱えているのが「人がいない」という問題です。フロント担当者ひとりが持てる物件数には限りがあります。会社として人を増やせないなら、限られた担当者を効率よく配置するしかない。そのとき、真っ先に見直しの対象になるのが小規模物件です。これは意地悪ではなく、経営としての選択です。だからこそ、「相手の善意に期待する」対策には限界があると、私は考えています。

念のため申し添えますが、すべての管理会社が小規模物件を切り捨てているわけではありません。小さな物件を丁寧に支える会社も、管理組合支援に特化した会社もあります。ここでお伝えしたいのは「危機を煽る」ことではなく、「管理会社任せにしない備えを、いまのうちに」という一点です。

数字で見る、管理組合の“お財布事情”

管理難民が深刻なのは、それが「日々の管理」だけでなく「10年に一度の大工事」に直結するからです。ここで、公的な調査データを見てみましょう。

国土交通省の「令和5年度マンション総合調査」によると、長期修繕計画に対して修繕積立金が不足しているマンションは36.6%にのぼります。ほぼ3棟に1棟です。しかも、そのうち「計画に対して20%を超えて不足している」マンションが11.7%を占めます(出典:国土交通省「令和5年度マンション総合調査結果」)。

指標(令和5年度マンション総合調査) 数値
修繕積立金が計画に対して不足しているマンション 36.6%
うち「20%超の不足」 11.7%
月額の修繕積立金(1戸あたり平均) 約13,054円(25年間で約1.8倍)
高経年マンションで世帯主が70歳以上 半数以上

この表を、私はいつも理事長さまに「読者ご自身の財布に置き換えて」ご覧いただくようお願いしています。積立金は25年で約1.8倍に上がったのに、なお3棟に1棟が不足している。しかも住んでいる方は高齢化していて、「これ以上の値上げは厳しい」という声が強い。つまり、「積立金をこれ以上増やしにくいのに、工事費は上がっている」という板挟みが、いまの管理組合の平均像なのです。

もう少し体感的な数字にしてみましょう。1戸あたり月額の修繕積立金が約13,000円だとすると、年間で約15万6千円。50戸のマンションなら、組合全体で年間約780万円が積み上がる計算です。しかし、資材費や人件費が上がった今、外壁・屋上防水・鉄部などをまとめて直す大規模修繕は、規模によっては数千万円に達します。10年から12年かけて積み上げたお金を、ほぼ一度の工事で使い切る——それが多くの組合の実像です。だからこそ、その一度の工事で「足場のかけ方ひとつで数百万円が動く」という事実は、決して他人事ではありません。積立金を増やす努力と同じくらい、「使うときに賢く使う」工夫が効いてくるのです。

そこへ「管理会社に切り捨てられる」が重なると、どうなるか。次の大規模修繕で、頼れる相談相手がいないまま、限られた予算で工事の判断を迫られることになります。

もう一点、見落とされがちなのが「合意形成の難しさ」です。高経年マンションで世帯主の半数以上が70歳を超えているということは、総会に出てくる方の多くが年金生活に入っている、ということでもあります。「今後20年住むかどうか分からない」「値上げはもう受け入れられない」という声が強くなると、必要な工事の決議さえ通りにくくなります。管理会社という“進行役”を失うと、この合意形成がさらに重くのしかかります。だからこそ、「専門的なことを噛み砕いて説明し、判断材料を並べてくれる相手」の価値が、以前より格段に上がっているのです。

収益物件オーナーにとっての意味——空室・利回りと修繕の関係

ここまでは管理組合を主役に書いてきましたが、区分マンションを複数お持ちの収益物件オーナーの方には、もう一段“わがこと”の話があります。管理難民の問題は、そのまま「持っている部屋の資産価値」に跳ね返ってくるからです。

考えてみてください。管理が行き届かず、外壁が汚れ、共用部が傷んだ建物は、入居希望者から敬遠されます。空室が長引けば家賃を下げざるを得ず、利回りは下がる。さらに、修繕がまともに進まない建物は、売却しようとしたときに「大規模修繕の見通しが立たない物件」として評価が下がりやすい。つまり、管理と修繕の停滞は、家賃・空室・売却価格の三方向から、オーナーの収益をじわじわ削っていきます。

私は、収益物件をお持ちのオーナーさまには「区分所有でも、建物全体の修繕方針に一票を投じる意識を持ってください」とお伝えしています。所有戸数が多いほど、その一票の重みは増します。管理組合が“管理難民”に陥りそうなとき、工法や見積もりの知識を持ったオーナーが理事会にいるかどうかで、その物件の10年後は大きく変わります。ご自身の資産を守るという意味でも、修繕のコスト構造を知っておくことは、決して損になりません。

「見放される」が一番痛いのは、大規模修繕のとき

日々の清掃や点検なら、最悪、自主管理という手もあります。掃除当番を決め、会計を輪番でこなす。大変ですが、なんとか回している組合もあります。

けれど、大規模修繕(外壁・屋上防水・鉄部などを12年前後の周期でまとめて直す、マンション最大の工事)は話が別です。数百万円から、規模によっては数千万円が動きます。足場を組み、下地を直し、塗装・防水を重ねる。専門的な判断が連続し、見積書は分厚く、素人がひとつずつ妥当性を確かめるのは容易ではありません。ここで「信頼できる相談相手がいない」状態は、本当に危うい。

私が現場で20年やってきて一番悔しい思いをするのは、「本当は半分の費用で、十分な品質の工事ができたのに」という物件に、後から出会ってしまうときです。相見積もりを取らないまま、あるいは工法の選択肢を知らないまま、言われるがままに契約してしまう。小規模マンションほど、この「情報の非対称」が命取りになります。

私が現場で見た、小規模ほど“足場費”で損をする構造

ここからが本題です。大規模修繕の見積書を開くと、多くの方が驚くのが「仮設足場」の金額です。建物をぐるりと囲う足場は、工事費全体の中でもおおむね2割前後を占めるとされ、決して小さくありません。しかも足場費は、実際に塗ったり直したりする面積とは別に、「組んで・かけて・ばらす」ことそのものにかかる固定費に近い性格を持っています。

小規模マンションは、この足場費の重さをまともに受けます。戸数が少ないぶん、1戸あたりで足場費を割ると割高になりやすいからです。以前、東京都内のある小規模物件で、当初のプランでは足場だけで見積の大きな部分を占めていたケースがありました。建物の形状を一枚一枚見ていくと、「全面に足場を組まなくても直せる面」がかなりある。そこをロープアクセス工法(産業用ロープで作業員が壁面を昇降し、足場を組まずに施工する無足場の工法)に置き換えることで、足場の範囲を絞り込めた。結果として、居住者の生活への影響も、工事の全体像も、ずいぶん軽くなりました。

私はこれを、「工法でコストを下げる」と呼んでいます。材料や職人の腕を削るのではなく、建物の形と傷み方に合わせて、足場のかけ方そのものを設計し直す。ここに、小規模マンションが生き残るための余地が、まだ十分に残っているのです。詳しくはロープアクセス工法のご紹介もあわせてご覧ください。

足場・ロープアクセス・ハイブリッド——3つの工法をどう選ぶか

「工法でコストを下げる」と言われても、具体的にどう違うのか、イメージしにくいかもしれません。私がご相談の場で必ずお見せするのが、次のような比較の考え方です。大切なのは、どれが一番良いかではなく、「あなたの建物にはどれが合うか」です。

比較の観点 全面足場工法 ロープアクセス工法(無足場) ハイブリッド工法
向いている建物 全面を大きく直す・低中層で複雑な形状 高層・足場を組みにくい・部分補修が中心 大規模で、面ごとに傷み方が違う建物
足場の仮設費 全面にかかる(固定費が重い) 原則かからない 必要な面だけに絞れる
工期 仮設・解体の分だけ長くなりがち 部分作業なら短縮しやすい 全面足場より短くできる場合が多い
居住者の生活影響 窓が長期間ふさがれる・防犯面の不安 影響が短く・限定的 足場部分のみ影響
注意点 費用と工期がかさみやすい 大面積・重作業には不向きなことも 設計・工程管理に経験が要る

この表を見て、「うちは高層で足場が組みにくいから、ロープアクセス中心が合いそうだ」「全面を一気に直したいから足場が向くかもしれない」と、ざっくりでも当たりをつけていただくだけで十分です。実際には、外壁の傷み具合、タイルの浮き、シーリング(外壁の目地を埋める防水材)の劣化などを一枚一枚見て、面ごとに最適な工法を組み合わせていきます。私が「3つの工法を持っている意味」とよく口にするのは、選択肢が多いほど、ムダな足場を減らし、居住者の負担を軽くできるからです。1つの工法しか持たない会社では、どうしても「自分たちのできるやり方」に建物を合わせることになりがちです。私は逆に、建物にやり方を合わせたいのです。

打ち手——管理会社に依存せず、修繕コストを“工法”で守る

では、管理会社の選別が進む時代に、収益物件オーナーや小規模マンションの管理組合は、具体的に何をすればいいのか。私がいつもお伝えしている3つの視点を挙げます。

打ち手1:足場を「かける・かけない」から設計し直す

まず、次の大規模修繕では、足場ありきの見積を鵜呑みにしないことです。建物の形状によっては、全面足場が最適な場合もあれば、ロープアクセスや、足場とロープを部位ごとに使い分けるハイブリッド工法のほうが、コストと工期のバランスが良い場合もあります。当社は、この3つの工法から建物にとって最適なものをご提案できる、日本でも数少ない会社です。「足場を減らせるか」は、実物を見て初めて判断できます。だからこそ、最初の調査が肝心です。

一点だけ、誤解のないように申し上げます。ロープアクセスは「何でも足場より安い魔法」ではありません。全面的に大きく手を入れる必要がある建物や、作業員が同時に多く入る大規模な現場では、足場のほうが効率的なこともあります。大切なのは「工法ありき」で決めないこと。傷んでいる面はどこか、生活への影響をどこまで抑えたいか、工期はどれくらい許容できるか——この条件を並べたうえで、足場・ロープ・ハイブリッドの中から一番合うものを選ぶ。その判断材料を、私たちは無料の建物調査でお出しするようにしています。

打ち手2:相見積もりを“工法違い”で取る

相見積もりというと、同じ足場工事で2〜3社に価格を出させることを想像しがちです。もちろんそれも有効ですが、私がおすすめしたいのは「工法違いの見積もり」を取ることです。全面足場のプランと、無足場・ハイブリッドのプランを並べて比べれば、「自分の建物では、どの直し方が一番割に合うのか」が数字で見えてきます。判断の軸が、価格だけから「価格×工期×生活への影響」に広がります。大規模修繕全体の考え方は大規模修繕工事のご紹介でも整理しています。

このとき、ひとつだけ気をつけていただきたいことがあります。見積書の「一式」という言葉です。項目が「外壁補修 一式」「防水 一式」とだけ書かれていると、何にいくらかかっているのかが分かりません。私はいつも理事長さまに、「一式の中身を、面積や数量で出してもらってください」とお伝えしています。足場の面積、塗る面積、補修する箇所の数——ここが数量で書かれている見積書は、それだけで信頼度が上がります。逆に、そこを濁す見積もりは、あとで追加費用が膨らみやすい。工法を比べる前に、まず「比べられる形の見積書」をもらうこと。これが、限られた積立金を守る最初の一歩です。

打ち手3:小規模ほど「早め・小分け」の相談を

大きな組織を持たない小規模マンションほど、直前に慌てるほど不利になります。積立金の見通し、劣化の進み具合、次の工事の時期。この3つを、総会の1年前くらいから少しずつ整理しておくだけで、いざというときの選択肢がまるで変わります。管理会社に頼れないなら、工事の相談先を早めに複数持っておく。これは、管理難民時代の“保険”のようなものだと私は考えています。

打ち手4:専門職のネットワークで「高品質×低価格」を確保する

小規模マンションのもうひとつの悩みは、「小さな工事だと、良い職人がなかなかつかまらない」ことです。塗装、防水、タイル、シーリング、電気、看板——大規模修繕はいくつもの専門工事の集まりですが、規模が小さいと、それぞれの分野に一流の職人を手配しづらい。ここが、じつは仕上がりの差になって出ます。

当社は、ロープアクセス工法として日本で初めてフランチャイズ展開を行っており、塗装・防水・タイル・電気・看板といった各分野の専門職が加盟しています。だからこそ、小規模な物件でも、分野ごとに“その道のプロ”を組み合わせて、高い品質と抑えたコストの両立を目指せます。私はこれを、必ずワンセットで提案するようにしています。「安かろう悪かろう」でも「高品質だから高い」でもない、その真ん中を狙えるのが、専門職ネットワークの強みだと考えています。

よくあるご質問

Q. 管理会社に解約を告げられました。まず何をすべきですか。
A. あわてて次の1社に飛びつく前に、「日々の管理」と「次の大規模修繕」を切り分けて考えることをおすすめします。管理の引き受け手を探すのと並行して、直近の大きな出費である修繕の見通しを立てておくと、交渉の土台ができます。相談だけでも、状況整理のお手伝いはできます。

Q. うちは30戸未満の小規模ですが、ロープアクセスは割高になりませんか。
A. 一概には言えません。むしろ小規模ほど、足場の固定費が1戸あたりで重くなりやすいため、足場を減らせる工法との相性が良い場合があります。建物の形状と傷み方によって答えは変わりますので、実物を見てのご判断になります。

Q. 積立金がかなり不足しています。工事は先送りすべきでしょうか。
A. 傷みを放置すると、後の工事がかえって高くつくことがあります。先送りの前に、「工法を変えれば、いまの予算でどこまでできるか」を一度確かめてみる価値はあります。何を優先し、何を次回に回すか——その順番を一緒に整理するだけでも、無駄な出費は避けやすくなります。

Q. 自主管理に切り替えても、大規模修繕は乗り切れますか。
A. 乗り切っている組合はあります。ただし、日々の管理と違い、大規模修繕は金額も専門性も一段大きくなります。会計や点検は自主管理でこなしつつ、修繕のような大きな工事だけは、工法や見積もりを客観的に見てくれる工事会社や専門家に早めに相談する——この“いいとこ取り”が現実的だと、私は考えています。

Q. 相見積もりを取ると、いまの管理会社との関係が悪くなりませんか。
A. 相見積もりは、管理組合の当然の権利です。むしろ、複数の工法・価格を比較した記録は、総会で居住者に説明する際の強い裏付けになります。角が立たない進め方も含めて、経験のある工事会社なら心得ています。まずは情報を集めることを優先されて構いません。

まとめ——「切り捨てられる側」から「選ぶ側」へ

管理会社が小規模マンションを選別し始めた、というニュースは、たしかに気の重い話です。けれど私は、これを「受け身で怯える話」で終わらせたくありません。

管理を誰に頼むかは、相手のあることです。しかし、一番大きな出費である大規模修繕を「どの工法で、いくらで直すか」は、あなた自身が主導権を握れる領域です。足場を設計し直し、工法違いで見積もりを比べ、早めに相談先を持つ。この3つを押さえるだけで、「切り捨てられる側」から「工事を選ぶ側」へと、立ち位置は変えられます。小さな物件だからと諦める必要はありません。むしろ小さいからこそ、動きの速さと工夫で、大きな物件に負けない賢い選択ができるのです。

これは、私が現場で20年見てきた、嘘偽りのない感想です。管理会社に見放されそうな小さな物件こそ、工法の工夫で守れる余地が大きい。もし、次の修繕のことで少しでも不安があれば、お問合せフォームから、ご相談だけでも遠慮なくお声がけください。総会の前段階の整理だけでも、お力になれることがあります。次回も、現場で本当に使える話だけをお届けします。

出典・参考資料

▼ロープアクセス工法・無足場工法の詳細解説はこちら
ロープアクセスドットコム|無足場工法専門メディア

大規模修繕が「新築より賢い」時代に——札幌の旗艦再開発すら工事費高騰で縮小・ホテル撤退。建てるより直すへ転換する2026年、収益物件オーナーと管理組合が資産価値を守る工法とタイミングの実務【2026年7月】

「あの札幌の再開発すら縮んだ」——2026年夏に届いたニュースの意味

正直に申し上げます。この夏、私がいちばん考え込んだニュースは、塗料でも金利でもなく、札幌の再開発でした。あなたが収益物件をお持ちのオーナーさま、あるいはマンションの理事長さまなら、これは決して遠い北の街の話ではありません。むしろ「うちの建物をこの先どうするか」を左右する、とても身近な話だと私は思っています。

何が起きたのか。JR北海道が進めてきた札幌駅南口の大型再開発(北5西1・西2地区)が、当初の計画から規模を大きく縮小し、延べ床面積は約32万6500平方メートルに落ち着くことになりました。従来計画から約6万平方メートル、東京ドーム1個分をゆうに超える面積を削ったことになります。理由ははっきりしています。資材価格の上昇と労務コストの増大による「工事費高騰」です。そして、高層階に入る予定だった外資系の高級ホテル、マリオットとの契約は解除され、ホテル計画そのものが白紙になりました(出典:建設通信新聞Digital「札幌の再開発、規模縮小し32.6万㎡に 高級ホテルも撤退」、札幌市「北5西1・西2地区」)。

スケジュールも後ろ倒しになりました。報道によれば、低層棟(西2)は2027年度に着工して2030年度の竣工、高層棟(西1)はその後2030年度に着工して2034年度の竣工を目指すとされ、建物の高さも従来計画から15メートルほど引き下げられます。当初描かれていた華やかな超高層+高級ホテルの絵姿は、工事費という現実の前に、静かに描き直されたわけです。

私がこのニュースに手を止めたのは、規模の大きさではありません。JR北海道という体力のある事業主体が、しかも札幌の玄関口という一等地で、それでも「予定どおりには建てられない」と判断した、その事実の重さです。資本力のある大手ですら旗艦プロジェクトを削り、目玉のホテルを手放す。ここまで来たか、というのが現場から見た率直な感想でした。

そしてこう考えました。これは「新築がしんどい時代」の象徴的なサインではないか、と。新しく建てる採算が合いにくくなれば、世の中の重心は自然と「いま建っているものを、いかに長く・賢く持つか」へ動きます。つまり、既存の建物を適切に直して価値を保つ——大規模修繕(マンションやビルの外壁・防水などを12年前後の周期でまとめて直す工事)の戦略的な重みが、これまで以上に増すということです。

この記事では、まず「なぜ新築が縮むのか」を建設費の公的データで確かめます。次に、その裏返しとして「既存ストックを長く持つ」ことがなぜ賢い選択になりつつあるのかを、国の統計と政策から整理します。そのうえで、「でも修繕費だって上がっているじゃないか」という当然の反論に正面から向き合い、工法の選び方でコストと工期をどう守るかを、私の現場経験からお伝えします。築15〜25年でそろそろ2回目・3回目の修繕が視野に入っている管理組合の方、区分マンションや一棟物件を複数お持ちのオーナーの方に、「うちの話」として読んでいただけるはずです。

なぜ「新築が縮む」のか——資材と労務、二つの高騰

札幌の一件は、特殊な失敗ではありません。全国どこの現場でも起きている「建設費高騰」が、たまたま目立つ場所で表面化しただけです。ここは体感ではなく、国が出している数字で確かめておきましょう。見積書の妥当性を判断するうえでも、この土地勘は必ず役に立ちます。

なぜ一つの再開発の話を、これほど自分の資産に引きつけて読んでいただきたいのか。理由はシンプルです。大手が動かせる資金は、私たち中小の現場が扱う金額とは桁が違います。その大手ですら採算が合わず計画を縮めるということは、より体力の限られる中小規模の建物では、同じコスト上昇がもっと重くのしかかるということだからです。「大きな話」ほど、実は小さな建物の未来を先取りして見せてくれる。私はいつも、業界のマクロなニュースを、目の前の一棟に翻訳して読むようにしています。

建設工事費デフレーターで見る「10年で約3割」

建設費の水準を示す代表的な公的指標に、国土交通省の「建設工事費デフレーター」があります。これは2015年度を100として、建設工事にかかる費用が何倍になったかを示すものです。最新のデータでは、建設総合でおおむね133前後、木造住宅でも130前後まで上がっています(出典:国土交通省「建設工事費デフレーター」)。

かみ砕くと、2015年に1億円で建てられた(あるいは直せた)ものが、いまは1億3000万円ほどかかる、という意味です。この10年ほどで、建設のコストはざっくり3割上がりました。しかも一度上がったきり下がらず、高い水準で張り付いています。私が20年近くこの業界にいて、これほど長く一方向に上がり続ける局面は記憶にありません。

労務単価は14年連続上昇——「人の値段」が構造的に上がった

もう一つ、材料と並ぶ大きな柱が人件費です。国土交通省が毎年公表する「公共工事設計労務単価」は、令和8年(2026年)3月から適用される最新版で、全国全職種の平均が2万5834円となり、統計上はじめて2万5000円を超えました。前年度比で約4.5%の引き上げ、これで14年連続の上昇です(出典:国土交通省「令和8年3月から適用する公共工事設計労務単価について」)。

この「14年連続」という数字を、私は現場でよく引き合いに出します。材料費は世界情勢で上下しますが、人の値段はそう簡単には下がりません。職人の高齢化と担い手不足は構造的な問題で、賃金を上げなければ次の世代が入ってこない。裏を返せば、労務費の上昇は一過性ではなく、これからも続く前提で計画を組むべきだ、ということです。材料と労務、この二つが同時に、しかも長期で上がっている。だから札幌のような判断が出てくるのです。

正直に言えば、私たち工事会社にとっても、この高騰は他人事ではありません。同じ工事をしても以前より原価がかさむ。それでもお客さまに納得いただける金額に収めるために、どこでムダを削れるかを日々考えています。その答えの一つが、後ほどお話しする「工法の選択」です。

「建てるより直す」へ——既存ストックの価値が相対的に上がる

新築が縮むということは、視点を変えれば「いま建っている建物の価値が、相対的に上がる」ということでもあります。ここは収益物件オーナーの方にこそ、じっくり読んでいただきたい部分です。

築40年超が約2割、10年後には倍増する

国土交通省の統計によると、分譲マンションのストック総数は2024年末時点で約713万戸に達しました。日本の人口の1割以上、およそ1500万人以上がマンションに住んでいる計算です。そのうち、築40年を超えるマンションは約148万戸で、全体のおよそ2割を占めます。そしてこの数は、10年後の2034年末には約293万戸、20年後の2044年末には約482万戸へと膨らむと見込まれています(出典:国土交通省「住宅:マンションに関する統計・データ等」)。

高経年の建物が、これから雪だるま式に増えていく。これは分譲マンションの話ですが、賃貸マンションやビルでも事情は同じです。日本全体が「新しく建てる」から「長く使う」へ、否応なく重心を移していく局面に入っている、ということです。

オーナーの立場で言えば、これは「出口」と「保有」の両面に効いてきます。新築の供給が細れば、中古市場に出てくる築浅の競合も減り、相対的に築古でも手入れの行き届いた物件が選ばれやすくなります。売るにしても貸すにしても、「修繕履歴がきちんと残っている」ことが、これまで以上に価格や客付けの決め手になっていく。私はこれを、長く物件を持つオーナーさまにとって、むしろ追い風だと考えています。

建替えは、多くの場合「現実解」になりにくい

「古くなったなら建て替えればいい」と思われるかもしれません。ですが国土交通省の資料でも、老朽化したマンションを建替えだけで解消するのは現実的ではない、と明確に整理されています。建替えは費用も合意形成も極めてハードルが高く、実際に実現した件数は全国で累計300件あまりにとどまります。148万戸という母数に対して、この数字がいかに小さいかは、あえて説明するまでもないでしょう。だからこそ国は、適切な維持管理と「長寿命化」——つまり大規模修繕をきちんと重ねて建物を長く使うこと——を政策の柱に据えています。

私はこの流れを、悲観ではなく機会だと捉えています。新築の供給が細れば、きちんと手入れされた既存物件の希少価値は上がります。裏を返せば、修繕を怠って傷んだまま放置した物件との差は、これから残酷なほど開いていく。同じ築年数、同じ立地でも、「直してきた建物」と「直してこなかった建物」で、賃料も売却価格もはっきり分かれる時代が来ると私は見ています。大規模修繕は、もはや「仕方なく出ていく出費」ではなく、「資産価値を守り、育てる投資」なのだ——このことは、明誠の大規模修繕工事のご紹介でもお伝えしている、私たちの基本的な考え方です。

「でも修繕費だって上がっているじゃないか」——その通り、だから工法で守る

ここまで読んで、鋭い方はこう思われたはずです。「新築が高いなら、修繕だって同じ建設費高騰の波を受けているだろう」と。まったくそのとおりです。ごまかすつもりはありません。大規模修繕の費用も、この10年で確実に上がりました。だからこそ私は、「上がった前提で、どこを削れるか」を工法から考えることを、いつもお客さまにお伝えしています。ここが今日の記事の、いちばんお伝えしたい実務の話です。

足場という「工事費の2割前後」をどう扱うか

大規模修繕の見積書を開くと、多くの方が意外に感じるのが「仮設足場」の金額の大きさです。建物の形状にもよりますが、足場の設置・解体・養生は、工事費全体の2割前後を占めることも珍しくありません。しかもこの費用は、外壁を1平米直そうが100平米直そうが、建物をぐるりと囲う以上まとまってかかる「固定費」に近い性質を持っています。建設費が高騰している今、この大きな固定費をどう扱うかが、コスト防衛の最初の分かれ目になります。

私がいつもお伝えするのは、「足場をかけるのが当たり前だと思い込まない」という視点です。もちろん足場が最適な建物はたくさんあります。ですが、部位や建物によっては、足場をかけずに直せる方法があるのです。

無足場のロープアクセス——強みと、正直なデメリット

その代表が、ロープアクセス工法です。これは産業用のロープを使い、作業員が屋上から吊り下がって外壁の塗装や補修、防水、タイルの点検・補修などを行う、無足場の工法です。足場という大きな固定費を圧縮できるため、条件が合えばコストを抑えられます。加えて、足場の組立・解体にかかる期間がないぶん工期が短くなりやすく、足場が建物を覆わないので居住者や利用者の日当たり・視界・防犯面への影響も小さく済みます。高層で足場架設が難しい建物や、限られた部位だけを直したいケースでは、特に力を発揮します。詳しくはロープアクセス工法のご紹介にまとめています。

ただ、良いことばかりを並べるのは誠実ではありません。ロープアクセスにも、はっきりとした向き・不向きがあります。まず、建物全面を一度に、しかも大量に塗り替えるような工事では、足場をかけて多人数で一気に進めたほうが結局は速く、安くなる場合があります。ロープでの作業は一度に展開できる人数や範囲に限りがあるからです。また、屋上にロープを固定できる強固な支点が取れない構造では採用できませんし、天候の影響も足場作業より受けやすい。さらに、有資格の技術者が必要なため、施工できる会社そのものが限られます。「無足場だから何でも安い」という単純な話ではないのです。ここを正直にお伝えしないと、あとで「思ったのと違った」となってしまいます。

ハイブリッドという第三の選択

では、どうするか。私が現場で20年やってきて行き着いた答えが、「一棟まるごと同じ工法で縛らない」という考え方です。たとえば、複雑で作業量の多い低層部やバルコニー周りは足場をかけ、単調で高所の外壁面はロープアクセスで、と部位ごとに使い分ける。これがハイブリッド工法です。建物の形状と傷み具合を一つずつ見て、「ここは足場、ここはロープ」とパズルのように組み合わせることで、総額を最も低く抑えられる組み方を探ります。

私はこれを、必ず複数のパターンでお見積りするようにしています。「全面足場だといくら」「一部ロープを組み合わせるといくら」と並べて、判断の材料をお渡しする。工法ありきではなく、その建物にとっての最適解を一緒に探す——足場・ロープアクセス・ハイブリッドの3つを自社で扱えるからこそできる提案だと、私は思っています。ビルオーナーの方はビルオーナーさま向けのご案内、管理組合の方は管理組合さま向けのご案内も、あわせてご覧いただければ、判断の助けになるはずです。

3つの工法の性格を、ざっくり一覧にすると次のようになります。ご自身の建物がどれに近いか、あたりをつける参考にしてください。

観点 通常足場工法 ロープアクセス工法(無足場) ハイブリッド工法
仮設費(固定費) 大きい 小さく抑えやすい 部位を絞れば圧縮できる
工期の傾向 組立・解体の期間が必要 短くなりやすい 中間
全面・大量塗替え 得意 一度に展開できる範囲に限りあり 面は足場、他はロープで最適化
高層・足場架設が難しい建物 不利な場合あり 得意 得意
居住者・利用者への影響 建物を覆うため大きめ 小さい 部位により小さくできる
主な制約 費用と設置スペース 支点確保・天候・有資格者の確保 設計の巧拙で差が出る

表はあくまで一般的な傾向です。実際には建物の形状、劣化の位置、周辺の道路状況などで最適解は変わります。だからこそ、一律に当てはめず一棟ずつ見る必要があるのです。

一つ、具体的な話をさせてください。以前、ある5階建ての賃貸マンションで、当初は全面足場で約1200万円というお見積りが出ていた物件がありました。私が現地を拝見すると、傷んでいたのは主に高所の外壁面と屋上防水で、低層部やエントランス周りはまだ手を入れる段階ではありませんでした。そこで、傷んだ高所面をロープアクセス、複雑な低層部だけ部分足場に切り替えるハイブリッドで組み直したところ、仮設まわりを中心に費用を圧縮でき、工期も2週間ほど短くできました。オーナーさまには「足場代を丸ごと払う前に、本当に全面必要かを一度見てほしい」とお伝えしています。数字を大きく動かすのは、たいてい派手な新工法ではなく、こうした地味な「かけ方の見直し」なのです。

収益物件オーナー・管理組合が2026年後半に動く実務

ここからは、明日から使える具体的な話に落とします。建設費が高い今、損をしないために押さえておきたい実務のポイントを整理します。

見積書の「どこを見るか」

まず、見積書は必ず「工事の内訳が部位ごと・工種ごとに分かれているか」を確認してください。「一式」で大きくまとめられた見積は、金額の妥当性を検証しようがありません。特に、先ほどお話しした仮設足場の金額が独立して書かれているか。ここが独立していれば、「この部分をロープアクセスに置き換えたらいくら変わるか」という比較検討ができます。

次に、材料のグレードと数量の根拠です。建設費高騰の局面では、安く見せるために材料のグレードをこっそり下げる、あるいは必要な数量を少なく見積もる、といったことも起こり得ます。逆に、不安をあおって過剰な仕様を勧められることもあります。相見積もりを取り、金額だけでなく「なぜその仕様・数量なのか」の説明を求めることを、私はいつもおすすめしています。

見積書を受け取ったら、最低でも次の5点はチェックしてみてください。

  • 仮設足場の費用が、独立した項目として金額とともに書かれているか(「一式」で埋もれていないか)
  • 外壁補修・塗装・防水・シーリングなど、工種ごとに数量(平米・メートル)と単価が分かれているか
  • 使用する材料のメーカー名・製品グレードが明記され、なぜその仕様なのか説明があるか
  • 「予備費」「諸経費」の割合が常識的な範囲か、その中身を尋ねて答えが返ってくるか
  • 保証年数とアフター点検の内容が書面に含まれているか

この5点がクリアな見積は、金額の高い・安いに関わらず、話のできる相手だと私は判断します。逆に、どれも曖昧なまま総額だけ大きく出ている見積は、金額の妥当性を検証しようがありません。戸あたりに換算して「1戸あたりいくらの負担か」を出してみると、住民説明のときにも数字の体感がつかみやすくなります。

「待つ」か「今やる」か——タイミングの判断軸

「建設費が高いなら、下がるまで待つべきでは」というご相談も、この夏よくいただきます。私の考えを正直に申し上げます。値下がりを当て込んで待つのは、多くの場合おすすめしません。理由は二つです。一つは、材料費はともかく労務費が構造的に上がり続けており、全体として大きく下がる見通しが立てにくいこと。もう一つ、そして私が現場でより重く見ているのが、建物の劣化は待ってくれないという事実です。

外壁のひび割れや防水の傷みを1年、2年と放置すれば、そのすき間から雨水が入り、鉄筋や躯体そのものを傷めます。そうなると、本来は表面の補修で済んだはずが、躯体補修という桁違いに高い工事になってしまう。私が現場でいちばん悔しい思いをするのは、「あと1年早ければ、この費用は半分で済んだのに」というケースに立ち会うときです。建設費が数%動くかどうかを気にして、劣化による数十%の増額を招いては本末転倒です。ですから判断軸は「建設費が上がるか下がるか」ではなく、「うちの建物の劣化が、待てる段階か、待てない段階か」。まずはそこを、専門家の目で見極めることが先だと私は考えています。

もちろん、緊急性が低く、資金計画上どうしても時期を調整したいケースもあります。その場合でも、点検だけは先に行い、「どこまでなら待てるか」を数字で押さえておく。相談だけでも、待つべきか動くべきかの整理はお手伝いできます。

よくあるご質問(FAQ)

Q. 新築が減ると、中古物件の価値は本当に上がるのですか?
A. 立地や管理状態によります。ただ、新築供給が細り、高経年ストックが増えていく大きな流れの中で、「きちんと修繕され管理された建物」の相対的な希少価値は高まりやすいと考えられます。逆に、修繕を怠った建物との価格差は開きやすくなります。断定はできませんが、維持管理の巧拙が資産価値をこれまで以上に左右する時代になる、というのが私の見立てです。

Q. ロープアクセス工法にすれば、必ず安くなりますか?
A. 必ずではありません。建物全面を一度に塗り替える工事では、足場を組んだほうが結果的に安く・速いこともあります。ロープアクセスが効くのは、高層で足場架設が難しい、限られた部位だけを直したい、居住者への影響を抑えたい、といった条件に合う場合です。建物ごとに複数パターンで見積もって比べるのが確実です。

Q. 修繕積立金が足りません。それでもできることはありますか?
A. あります。まずは点検で劣化の緊急度を仕分けし、「今すぐ必要な部位」と「数年待てる部位」を分けて、工事を段階的に計画するだけでも、資金繰りは大きく変わります。そのうえで工法を工夫して足場などの固定費を抑えれば、限られた予算でも優先度の高い部分を守れます。

Q. タワーマンションや大型ビルでも、工法の使い分けは効きますか?
A. むしろ規模が大きい建物ほど効きます。高層部は足場の架設費が跳ね上がるため、その部分をロープアクセスに置き換えるだけで、仮設費の削減幅が大きくなりやすいからです。一方、低層部の複雑な形状や、一度に広い面を仕上げたい工程では足場が向きます。建物が大きいほど「どこを足場にして、どこをロープにするか」という設計の余地が広がり、ハイブリッドの効果が出やすいと私は感じています。規模の大きな物件こそ、複数パターンの比較見積りをおすすめします。

Q. まず何から始めればよいですか?
A. 建物の現状を専門家に見てもらう「調査」からです。劣化の程度が分からなければ、待てるかどうかも、いくらかかるかも判断できません。明誠では無料の調査・お見積りに対応しています。お問合せフォームからお気軽にご相談ください。

まとめ——札幌のニュースを、自分の資産の話として読む

札幌の旗艦再開発が縮み、高級ホテルが撤退した。このニュースは、資材と労務の高騰がもはや局所的な問題ではなく、日本の建設全体を覆う潮流であることを、はっきりと示しました。新築が採算で縮む時代は、裏を返せば「いま持っている建物を、いかに長く・賢く持つか」が資産戦略の中心になる時代です。国も、建替えではなく長寿命化を政策の柱に据えています。

その主役が、大規模修繕です。ただし、修繕費も同じ高騰の波を受けている以上、「やるかやらないか」だけでなく「どう工法を組んでコストを抑えるか」まで踏み込まなければ、資産は守れません。足場・ロープアクセス・ハイブリッドの3つを建物ごとに使い分ける——私たちがこの3つを自社で持ち、必ず複数パターンで比べてご提案するのは、まさにそのためです。会社としての考え方は明誠の想い(コンセプト)にもまとめています。

これは私が現場で20年見てきた、嘘偽りのない感想です。建設費が高いことを嘆くより、その現実の中で自分の資産をどう守るかに頭を切り替えたオーナーさま・管理組合さまが、10年後に笑っていると私は思います。ご相談だけでも遠慮なくお声がけください。総会の前段階の整理だけでも、お力になれることがあります。次回も、現場で本当に使える話だけをお届けします。

出典・参考資料

▼ロープアクセス工法・無足場工法の詳細解説はこちら
ロープアクセスドットコム|無足場工法専門メディア

大規模修繕の塗料が「止まる」時代に——ナフサ調達不安で材料不足・値上がりが続く2026年、管理組合と収益物件オーナーが見積書と工法で打つコスト防衛の実務【2026年7月】

「塗料が来ないので、工程が組めない」——2026年夏の現場で起きていること

正直に申し上げます。この夏、私が現場の職人や取引先のメーカー担当者と話していて、一番多く出てくる言葉が「塗料が読めない」です。

読めない、というのは値段だけの話ではありません。「発注してから何日で入るのか」「そもそも希望の色・グレードが確保できるのか」という、納期そのものが揺れているのです。大規模修繕(マンションやビルの外壁・防水などを12年前後の周期でまとめて直す工事)は、足場をかけ、下地を直し、塗って、防水して、と工程が数珠つなぎになっています。真ん中の「塗る」が1週間止まれば、後ろの工程がまるごと後ろにずれます。

先日も、ある管理組合の理事長さまから「見積を取ったら、去年より材料費がずいぶん上がっていて驚いた。何が起きているのか」とご相談をいただきました。私はこの手のご質問に、いつも川上(原料)の話から順にご説明するようにしています。塗料が高い・入りにくいのは、現場のわがままでも、工事会社の便乗値上げでもありません。もっと手前で、日本全体の「材料の入口」が細くなっているからです。

この夏、私のところに届くご相談は、大きく3つに分かれます。「見積が去年より高くて、妥当なのか分からない」。「工事の時期だが、材料が高いので少し待つべきか」。「そもそも、うちの建物にどの工法が合うのか」。どれも、根っこは同じ「材料が不安定な時代に、どう損をせず修繕するか」という問いです。この記事は、その3つの問いにまとめてお答えするつもりで書いています。

この記事では、いま起きている「塗料が止まりかける」現象の正体を、原料であるナフサの話までさかのぼって整理します。そのうえで、管理組合や収益物件オーナーの立場で、修繕積立金をムダに減らさないために見積書のどこを見ればいいのか、そして工法の選び方でコストと工期をどう守れるのかを、現場の視点でお伝えします。築15〜25年でそろそろ2回目・3回目の修繕が視野に入っている方、区分マンションを複数お持ちのオーナーの方は、まさに「うちの話」として読んでいただけるはずです。

なぜ塗料が不足・値上がりするのか——「ナフサ」という川上の話

塗料の値段と納期を左右しているのは、ナフサという石油製品です。ナフサは原油を精製してできる液体で、プラスチックや塗料、溶剤(塗料を薄めたり乾きを調整したりする液体)の大もとの原料になります。ここが細くなると、塗料も防水材もシーリング材も、あらゆる建築材料が一斉に影響を受けます。

問題は、日本がこのナフサを海外に強く依存している点です。報道によれば、日本はナフサの約4割を中東から輸入しており、国産分の約4割も原料は中東由来の原油に頼っています(出典:時事通信「政府、ナフサ備蓄の復活検討 調達不安拡大で、保管が課題」)。つまり、中東情勢が荒れると、輸入も国産も同時に揺らぐ構造になっているのです。

実際、2026年に入ってからの中東情勢の悪化で、中東産ナフサの供給が細り、石油化学各社は米国・オーストラリア・インドなど非中東地域からの代替調達を急いでいます。国内では、エチレン(プラスチックや各種化学品の基礎原料)を作る生産プラントの一部が減産に追い込まれる場面もありました。原料の入口が細れば、その先にある塗料・溶剤の生産も当然しわ寄せを受けます。住宅・建設業界で塗料や溶剤の不足が相次いだのは、この流れの延長線上にある出来事です。

ここで一つ、歴史の話をさせてください。実は日本には、かつてナフサの備蓄制度がありました。しかし1993年、石油化学業界からの「コスト負担が重い」という要望を受けて廃止されています。それから30年あまり、「安く・必要なだけ・都度買えばいい」という前提で回ってきたわけです。ところが2026年、その前提が崩れました。赤沢亮正経済産業相は7月7日、供給の安定に向けてナフサの備蓄を検討する考えを表明しています(出典:時事通信 同上、資源エネルギー庁「中東情勢を踏まえた石油及び関連製品等に関する対応」)。

数字で見ると、事態の深刻さが伝わります。報道や公的資料によれば、国内には12基のエチレン生産プラントがあり、2026年4月初旬の時点でそのうち6基が減産体制に追い込まれ、フル稼働を保てていたのはわずか3基という異常な状況でした。政府・業界は、すでに調達済みの輸入ナフサと国内精製で当面の需要を確保しつつ、中東以外からの輸入を月45万klから90万kl規模へと倍増させて在庫でしのげる期間を半年以上に延ばす、といった綱渡りの対応を進めています(出典:資源エネルギー庁「中東情勢を踏まえた石油及び関連製品等に関する対応」)。日本全体の石油備蓄はおよそ8カ月分ありますが、ナフサそのものを厚く積んでいるわけではない、というのが今回あぶり出された弱点です。

もっとも、備蓄を「検討する」からといって、明日から塗料が潤沢になるわけではありません。ナフサはガソリンに近い性質で揮発しやすく、長期の液体備蓄が難しいという技術的な壁があります。ペレット(固形の樹脂原料)の形で持つ、あるいは原料となる原油の備蓄を厚くする、といった代替案が検討されている段階です。私はこのニュースを「すぐ解決する朗報」ではなく、「材料の不安定さが一過性ではなく、当面続く前提で修繕計画を組みましょう」というサインとして受け止めています。政府が制度の復活まで議論するということは、それだけ根が深いということでもあるからです。

もう少しかみ砕きます。塗料が現場に届くまでには、原油 → ナフサ → 基礎化学品(エチレンなど) → 樹脂・溶剤 → 塗料メーカーでの調合、という長い川の流れがあります。今回の不安は、その一番上流である原油・ナフサで起きています。上流が細ると、下流にいくほど「どこかで止まるかもしれない」という不安が積み重なり、メーカーは在庫を厚めに持とうとし、価格には安全マージンが乗ります。これが、現場から見ると「去年より高い・納期が読めない」という形で表れるわけです。犯人は目の前の工事会社ではなく、この川全体の細りなのだと、まずは知っておいていただきたいのです。

大規模修繕に効く3つの材料——塗料・防水材・シーリング材

「ナフサが原料」と一口に言っても、大規模修繕に直接効いてくる材料は主に3つです。管理組合やオーナーが見積書を読むときの土地勘として、ざっくり押さえておくと役に立ちます。

まず塗料です。外壁塗装や鉄部塗装に使う材料で、樹脂・顔料・溶剤からできています。ナフサ由来の溶剤や合成樹脂の価格・供給に直結するため、今回の影響を最も受けやすい材料です。グレード(アクリル・ウレタン・シリコン・フッ素・無機など、耐久年数が上がるほど高くなる)によっても納期の読みやすさが変わります。

次に防水材です。屋上やベランダ、廊下の床を雨から守る材料で、ウレタン防水や塩ビシート、アスファルト系など複数の工法があります。ウレタン系はとくに石油化学製品との関わりが深く、価格転嫁の波を受けやすい部類です。

3つ目がシーリング材(コーキング材)です。外壁の目地やサッシまわりの隙間を埋める、ゴム状の材料です。地味ですが、ここが切れると雨漏りの入口になります。シーリングも石油化学由来の原料が多く、近年は継続的に値上がり傾向にあります。

先日、あるオーナーさまの物件で、前回の修繕から10年ぶりにシーリングの状態を点検したことがありました。南面のサッシまわりのシーリングが痩せて、指で押すと弾力を失い、ところどころ切れかけていたのです。まだ雨漏りには至っていませんでしたが、あと1〜2年放置していれば、間違いなく水が入り、下地の補修まで必要になっていました。地味な材料ほど、切れると被害が大きい。これは私が現場で何度も見てきた事実です。

ここで一つ、周期の話も添えておきます。塗料の塗り替えはおおむね12年前後を目安に語られますが、防水は屋上で10〜15年、ベランダやバルコニーはそれより短いこともあり、シーリングに至っては塗装より早く傷む部位が出てきます。つまり、大規模修繕は「全部を12年ごとに一度だけ直す」ものではなく、部位ごとに寿命の違う材料の集合体なのです。材料が高い局面では、この寿命の違いを踏まえて「今回どこまで一緒に直すか」を設計できるかどうかが、総額を大きく左右します。足場を一度かけるなら、次に傷みそうな部位もまとめて手当てしておくほうが、足場代を二重に払わずに済む——これは現場の鉄則です。

私が現場で20年やってきて申し上げたいのは、「材料が高い局面ほど、必要な材料をケチると後で高くつく」ということです。たとえば耐久性の低い塗料に切り替えて目先の見積を下げても、次の修繕が早く来れば、足場代を含めた総額ではかえって割高になります。塗料のグレードは、シリコンなら期待耐用がおよそ12〜15年、フッ素や無機系ならさらに長く見込めるとされ、単価が高い材料ほど「1年あたりのコスト」ではむしろ有利になることも珍しくありません。材料高騰は、安いものに逃げる理由ではなく、「本当に必要な仕様を、いかにムダな周辺コストを削って実現するか」を考える理由にすべきだと私は考えています。

管理組合・収益物件オーナーが見積書で張る「5つの防衛線」

では、材料が不安定な2026年に、どうやって修繕積立金を守るのか。私がいつも理事長さまやオーナーさまにお伝えしている、見積書のチェックポイントを5つに整理します。押し売りではなく、相談前のセルフチェックだと思って使ってください。

防衛線 見るポイント なぜ効くか
①材料の「銘柄・グレード・数量」明記 メーカー名・製品名・㎡数まで書いてあるか 「塗料一式」では高騰時に何を削られたか分からない。仕様の透明化が第一
②材料費と施工費(労務)の分離 材料と手間が分けて書いてあるか 値上がりの正体が材料なのか手間なのかを切り分けられる
③有効期限と単価の前提日 見積の有効期限・単価の基準月 材料価格が動く前提で、いつまで有効かを合意しておく
④代替仕様の提示 同等性能の別材料や工法の選択肢があるか 特定材料が欠品しても工程を止めない保険になる
⑤足場・仮設費の内訳 足場面積・単価・共通仮設費 工事費の中で材料以外に削れる大きな塊はここ

とくに①と⑤は大切です。材料が不安定なときほど「塗装一式◯◯円」という丸めた見積は危険で、中で何が起きているか見えません。逆に、銘柄と数量まで開示された見積は、材料が動いても交渉の土台になります。

相見積もり(複数社から見積を取ること)を取るときも、この5点をそろえておくと比較の精度が上がります。よくあるのは、A社とB社で「一式」の中身が違うのに、総額だけを並べて「B社のほうが安い」と判断してしまうケースです。実際には、B社は下地補修の数量を少なく見込んでいただけで、工事が始まってから「追加です」と言われて結局高くなる、ということが起こり得ます。数量と仕様をそろえて初めて、フェアな比較になります。私はご相談のとき、他社さんの見積を持ってきていただければ、どこがそろっていないかを一緒に読み解くようにしています。

そしてもう一つ、断っておきたいことがあります。ここで挙げた5つは「安い会社を選ぶためのチェックリスト」ではありません。むしろ、極端に安い見積が出てきたときに「どこを削ったのか」を見抜くための道具です。相場から大きく外れて安い見積には、必要な下地補修を省く、耐久性の低い材料に落とす、といった理由が隠れていることがあります。私が一番悔しい思いをするのは、目先の安さで選んだ工事が数年で傷んで、結局オーナーさまが二度払いになる場面です。

戸あたりいくら効くのか——数字で「材料高騰」を体感する

材料費の話は、率(パーセント)で言われてもピンと来ないものです。そこで、財布の感覚に落として考えてみます。

仮に50戸のマンションで大規模修繕の総額が6,000万円だったとします。1戸あたりに直すと120万円。ここで材料費が全体の3割を占め、その材料が2割上がったとすると、総額は約360万円増え、1戸あたりでは7万円強の負担増です。これは修繕積立金にそのまま効いてきます。「材料が2割上がった」という一行のニュースが、各戸にとっては数万円単位の現実になる、ということです。

一方で、仮設費が総額の2割を占め、工法の見直しでその仮設費を仮に3割圧縮できたとすると、総額でおよそ360万円、1戸あたり7万円強を取り返せる計算になります。つまり、材料高騰で膨らんだぶんを、仮設の工夫でちょうど相殺できる可能性がある、ということです。数字はあくまで一例で、建物ごとに前提は変わりますが、「材料で上がったぶんを、材料以外で取り返す」という戦い方が現実的だと分かっていただけると思います。私が見積のご相談で必ず仮設費の話をするのは、ここに一番大きな交渉の余地があるからです。

「工法でコストを下げる」——足場・ロープアクセス・ハイブリッドの使い分け

材料の値段は、正直なところ一工事会社の努力で下げきれるものではありません。ナフサの話がそうであるように、川上の相場は現場の外で決まります。だからこそ私は、「材料で削れないなら、材料以外で削る」という発想を大事にしています。その最大の対象が、仮設——とくに足場です。

大規模修繕の工事費のうち、足場を含む仮設費は一般に2割前後を占めるとされます。建物の形状や高さによって幅はありますが、材料と並ぶ大きなコストの塊であることは間違いありません。ここに手を入れられるかどうかで、総額は大きく変わります。

明誠では、建物の特性に応じて3つの工法から最適な組み合わせをご提案しています。1つ目は通常の足場工法。全面をしっかり囲うため、広範囲の作業や複雑な形状に向きます。2つ目がロープアクセス工法(産業用ロープで作業員が降下しながら施工する無足場工法)。足場を組まないぶん仮設費を抑えられ、工期も短く、足場で囲われないため居住者や利用者の生活・営業への影響も小さくできます。3つ目が、その両方を部位ごとに使い分けるハイブリッド工法です。

たとえば、下地補修が多い低層部は足場でしっかり作業し、傷みの少ない高層部の塗装や部分補修はロープアクセスで、というように分ければ、足場面積そのものを減らせます。全面足場を前提にしていた見積が、工法の組み替えで仮設費を圧縮できることは珍しくありません。材料が高い今だからこそ、この「仮設で取り返す」発想が効いてきます。

具体的なイメージをお伝えします。ある中高層の建物で、当初は全面に足場を組む前提で見積が出ていました。しかし現地を拝見すると、劣化が集中しているのは下層階のバルコニーまわりと、屋上の防水でした。上層階の外壁は塗膜こそ傷んでいるものの、下地は健全。そこで、下層部と屋上は足場と部分的な仮設で丁寧に、上層階の塗装はロープアクセスで、という組み合わせをご提案しました。足場をかける面積が減れば、その分の材料費・組立解体の手間・近隣への影響がまとめて軽くなります。しかも、足場で建物全体を囲わないため、居住者の方の採光や通風、テナントの看板の見え方といった「暮らしと商売への影響」も小さくできました。これは、材料の値段を1円も動かさずに実現できるコスト削減です。

居住者・利用者への影響が小さいという点は、実は工期にも効きます。足場の組立・解体には日数がかかり、その間は建物全体が幕で覆われます。ロープアクセスやハイブリッドで仮設を軽くできれば、工期そのものを短縮できる場合があり、住民の負担期間も、賃貸物件なら「工事中で見栄えが悪い」期間も短くなります。コスト・工期・生活影響の3つを同時に軽くできるのが、工法を選べることの本当の価値だと私は考えています。

ただし、両論を正直にお伝えします。ロープアクセスは万能ではありません。下地補修が全面にわたる、装飾が複雑で大量の材料や道具を同時に扱う、といった現場では、足場のほうが安全で結果的に安いこともあります。だからこそ「無足場ありき」でも「全面足場ありき」でもなく、建物を実際に見てから決めるべきなのです。私はこの見極めを、必ず現地調査とセットでご提案するようにしています。工法を3つとも自社の選択肢として持っているからこそ、どれかに誘導せず、建物にとって本当にベストな組み合わせを中立に選べる——これが明誠の一番の強みだと思っています。大規模修繕全体の考え方は大規模修繕工事のご紹介でも整理しています。

それでも今、動くべき理由——「先送り」が一番高くつく

材料が高い局面では、「値段が落ち着くまで工事を先送りしようか」という声も出ます。お気持ちはよく分かります。ですが、私はここを慎重にお考えいただきたいと思っています。

第一に、材料価格がすぐ下がる保証はありません。政府がナフサ備蓄という制度論にまで踏み込んでいる以上、供給の不安定さは当面続く前提で見ておくのが現実的です。「下がるまで待つ」が「ずっと待つ」になりかねません。

第二に、修繕の先送りは劣化の先送りではないということです。シーリングの切れや塗膜の劣化を放置すれば、雨水が入り、下地の鉄筋やコンクリートまで傷みます。そうなると、次の工事は塗り直しでは済まず、下地補修という重い工事が増え、かえって高くつきます。私が現場で見てきた「一番もったいないパターン」は、数年の先送りで補修範囲が倍増したケースです。塗料が数割高くなること以上に、下地まで傷んだときの追加費用のほうが、金額としてはよほど大きくなります。

第三に、修繕積立金の設計です。国土交通省は長期修繕計画(30年程度の期間で、いつ・何を・いくらで直すかをあらかじめ決めておく計画)の標準様式や、修繕積立金の目安を示すガイドラインを公表しており、計画的な積立と工事の実施を推奨しています(参考:国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」)。材料高騰は、この長期計画が前提にしていた工事費の数字を狂わせます。5年前・10年前に組んだ計画の金額のままでは、いざ工事という段になって「積立が足りない」という事態になりかねません。だからこそ、いま必要なのは「先送り」ではなく、「工法の見直しを含めた計画の再点検」です。同じ予算でも、仮設費を圧縮できれば、材料が上がったぶんを吸収できる可能性があります。

賃貸経営の視点でも同じことが言えます。外壁や共用部の見た目・防水性能は、そのまま空室率や賃料維持に直結します。雨漏りやタイルの浮きを放置した建物は、入居者にすぐ見抜かれます。収益物件オーナーの方は、修繕を「コスト」ではなく「資産価値と収益を守る投資」として、下げるべきは総額、守るべきは性能、という順で考えていただきたいと思います。物件タイプ別のご相談は管理組合向けのご案内やマンション・ビルオーナー向けのご案内もご参照ください。

よくある質問(FAQ)

Q. 塗料の値上がりは、いつ落ち着きますか。
A. 断定はできません。原料であるナフサの供給が中東情勢に左右されており、政府も備蓄制度の復活を検討する段階です。少なくとも当面は不安定さが続く前提で修繕計画を立てるのが安全だと、私は考えています。

Q. 材料が高いので、安いグレードの塗料に変えれば得ですか。
A. 一概には言えません。耐久年数の低い塗料に落とすと次の修繕周期が早まり、足場代を含めた総額でかえって高くつくことがあります。守るべき性能は守り、仮設費など材料以外で総額を下げるのが基本の考え方です。

Q. ロープアクセス(無足場工法)にすれば必ず安くなりますか。
A. 建物によります。仮設費を抑えられるケースは多い一方、下地補修が全面にわたる現場などでは足場のほうが適することもあります。現地調査のうえ、足場・ロープアクセス・ハイブリッドから最適な組み合わせを選ぶことをおすすめします。

Q. まだ工事の時期ではありませんが、今できることはありますか。
A. 現状の劣化診断と、長期修繕計画の前提数字(材料費・仮設費)の見直しから始めるのが有効です。診断だけ、計画の整理だけでも、将来のコストの読み違いを防げます。

Q. 見積を1社しか取っていません。それでも大丈夫でしょうか。
A. できれば複数社での比較をおすすめします。ただ、単純な金額比較だけでは、安い理由(材料グレードや下地補修の範囲)が見えません。本記事の「5つの防衛線」を使って、仕様と内訳をそろえた上で比べると、正しい比較ができます。

まとめ——材料で削れないなら、仮設と計画で守る

2026年の塗料不足・値上がりは、現場の都合ではなく、ナフサという川上の供給不安から来ています。中東依存という構造、1993年に廃止された備蓄制度、そして政府による備蓄再検討——この流れを見れば、材料の不安定さが当面続く前提で修繕を考えるのが現実的だと分かります。

その前提に立てば、管理組合や収益物件オーナーが取るべき手は明確です。見積書は銘柄・数量・仮設費の内訳まで開示させて透明化する。守るべき性能は守り、削るのは仮設費など材料以外の塊から。そして「下がるまで待つ」ではなく、工法の見直しを含めて計画を再点検する。材料で削れないなら、仮設と計画で守る——これが私の結論です。材料の値段は、正直なところ私たち工事会社にも、そして政府にもすぐには動かせません。だからこそ、動かせるところ——仕様の透明化、工法の選択、計画の前倒しの点検——に、いま手をつけておく価値があります。

うちの建物ならどの工法の組み合わせが最適なのか、いまの見積は妥当なのか。ご相談だけでも遠慮なくお声がけください。総会前の整理や、現状の劣化診断だけでも、お力になれることがあります。現地を見ずに「安くします」とは申しません。建物を拝見したうえで、材料が高い時代でも総額を抑える現実的な道筋を、正直にお示しします。次回も、現場で本当に使える話だけをお届けします。

ご相談はお問合せフォームからどうぞ。

出典・参考資料

本記事は2026年7月17日時点の公開情報に基づきます。制度・価格の最新状況は各一次情報をご確認ください。記載の費用割合・耐用年数は一般的な目安であり、建物の規模・形状・劣化状況により変動します。

▼ロープアクセス工法・無足場工法の詳細解説はこちら
ロープアクセスドットコム|無足場工法専門メディア

大規模修繕「12年周期」はもう古い?——高耐久仕様で“18年周期”へ。国も認める「長周期化」を、収益物件オーナーと管理組合は積立金不足の時代にどう使いこなすか【2026年6月】

「うちは築12年だから、そろそろ一回目の大規模修繕です」——理事会でこう言われると、なんとなく「12年でやるのが当たり前」だと思い込んでいる方が、いまも本当に多い。先日、ある大手デベロッパーの新築マンションが「購入者が選ぶSUUMO AWARD 2026」を受賞したというニュースが目にとまった。評価された取り組みのひとつが、屋上防水やシーリングの一部を高耐久仕様にして、大規模修繕工事を従来の12年周期から18年周期へと延ばす、という設計だった(出典:大和ハウス工業「『購入者が選ぶSUUMO AWARD 2026』で2部門の優秀賞を受賞」)。

私はこの記事を読んで、「いよいよ来たな」と思った。長く現場でマンションやビルの修繕に立ち会ってきた人間として、「12年周期」という数字がひとり歩きしていることに、前々から危うさを感じていたからだ。

この記事では、そもそも「12年周期」という常識がどこから来たのか、なぜいま国も業界も「長周期化(修繕周期を延ばすこと)」へ動いているのか、そして収益物件オーナー・管理組合がこの流れをどう使えば修繕積立金不足の時代を乗り切れるのかを、私の現場感覚も交えて整理したい。数字はできるだけ公的な一次情報に基づいて示し、断定は避けて「目安」として扱う。

まず事実関係——「12年周期」は法律でもルールでもない

最初に、いちばん大事な事実をお伝えする。「12年で大規模修繕をしなければならない」という法律もルールも、実は存在しない。

多くの管理組合が拠り所にしているのは、国土交通省の「長期修繕計画作成ガイドライン」だ。このガイドラインは令和6年(2026年の2年前、2024年)6月に改定されており、大規模修繕工事の周期について「部材や工事の仕様等により異なるが、一般的に12年〜15年程度」と示している(出典:国土交通省「長期修繕計画標準様式、長期修繕計画作成ガイドライン等の改定について」)。

ここで見落としてはいけないのは、二つある。ひとつは、ガイドラインはあくまで「目安」であって義務ではないこと。もうひとつは、最新版がすでに「12年」ではなく「12年〜15年程度」と、幅を持たせた書き方に変わっていることだ。

私はいつも理事長さまに、こうお伝えしている。「12年という数字は、出発点であってゴールではありません」と。建物の劣化のスピードは、立地(海沿いか内陸か)、日当たり、使っている材料、前回の工事の丁寧さで大きく変わる。同じ築12年でも、まだ十分もつ建物もあれば、すでに待ったなしの建物もある。数字だけで決めるのは、健康診断を受けずに「年齢が来たから手術しましょう」と言うようなものだ。

ではなぜ「12年」がこれほど常識として定着したのか。理由のひとつは、かつてのガイドラインや施工事例の多くが12年前後を標準としてきたこと。もうひとつは、建築基準法に基づく「特定建築物定期調査」のなかで、竣工後一定年数を経た外壁について全面打診等の調査が求められる、という制度的な節目が「だいたい10年〜12年」のあたりに来るからだ。つまり12年というのは、「外壁を全面的に見なければならない時期」と「足場を架けるなら、ついでにまとめて修繕しよう」という発注側の事情が重なってできた、いわば慣習的な数字にすぎない。慣習であるがゆえに、見直す余地は十分にある。

念のため補足すると、外壁の打診調査などの安全に関わる義務まで「延ばしてよい」という話ではない。延ばせるのは、あくまで塗り替えや防水のやり直しといった「修繕の周期」であって、安全点検の義務は別物だ。ここを混同すると危険なので、最初に線を引いておきたい。

なぜいま「18年周期」へ動くのか——三つの構造要因

では、なぜ「12年」から「15年」「18年」へと、業界全体の重心が動き始めているのか。私が現場で感じている要因は、大きく三つある。

一つ目は、材料が確かに進化したこと。 屋上防水のシート、塗膜防水、外壁の塗料、目地のシーリング——いずれもこの10年〜20年で耐久性が目に見えて上がった。かつて「10年もてば御の字」だった部材が、高耐久仕様なら15年、18年と現実的に視野に入るようになっている。先ほどのSUUMO AWARDの事例も、まさに「屋上防水とシーリングを高耐久仕様にしたから周期を延ばせた」という話だった。材料の進化が、長周期化の土台になっている。

二つ目は、修繕積立金の不足という、待ったなしの財政事情。 国土交通省は同じく令和6年6月に「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」も改定した。そこでは、段階的に積立金を増やしていく「段階増額積立方式」について、初期の額は均等積立とした場合の基準額の0.6倍以上、最終の額は1.1倍以内に収める、という新しい考え方が示された(出典:国土交通省「『マンションの修繕積立金に関するガイドライン』の改定について」)。

これは裏を返せば、「将来いきなり倍以上に値上げするような無理な計画は見直しなさい」という国からのメッセージだ。資材も人件費も上がり続けるなか、積立金は思うように増やせない。だとすれば、工事の「回数」そのものを減らすしかない。30年で2回やる工事を1.7回に減らせれば、それだけで生涯コストは下がる。長周期化は、財政の側からも強く求められているのだ。

三つ目は、環境負荷と「住みながら工事」の負担を減らしたいという意識の変化。 工事のたびに足場を架け、住民は洗濯物も干せず、ベランダも使えない数ヶ月を過ごす。これが12年ごとに来るのと18年ごとに来るのとでは、住み心地もテナントの満足度もまるで違う。収益物件であれば、工事期間中の入居者の不満や退去リスクは、そのまま家賃収入に響く。回数を減らせること自体に、はっきりとした価値がある。

ただし——「ただ延ばす」のは一番危ない

ここからが本題だ。長周期化はいいことずくめに見えるが、私は声を大にして言いたい。「お金がないから、とりあえず工事を先送りする」のと、「計画的に周期を延ばす」のは、まったくの別物だ。

正直に申し上げる。現場で20年やってきて、私が一番悔しい思いをするのは、「先送り」を「長周期化」と取り違えた建物に呼ばれたときだ。点検もせず、ただ予算がないからと工事を遅らせ、気づいたときには防水が切れて躯体(建物の骨組み本体)に水が回り、本来なら表面の補修で済んだはずが、コンクリートの中の鉄筋まで錆びて、修繕費が何倍にも膨らんでいる。こうなると、長周期化どころか、緊急工事で一番高い買い物をする羽目になる。

長周期化が成立する建物には、共通点がある。それは「ちゃんと見ている」ことだ。

  • 高耐久の材料を、必要な部位に計画的に使っている
  • 定期的に専門家が点検し、劣化の兆候を早期につかんでいる
  • 小さな不具合を、小さいうちに部分補修している

逆に言えば、この三点がないまま周期だけ延ばすのは、虫歯を放置して「歯医者に行く間隔を空けました」と言っているのと同じだ。延ばしていいのは、手入れをしている建物だけ。ここを取り違えないでいただきたい。

ひとつ、実際の現場の話をさせていただく。数年前、ある築16年のマンションに呼ばれたことがある。一回目の大規模修繕を「予算がないから」と先送りし続け、当初の計画より4年遅れていた建物だった。下から見上げる限りは、塗装の色あせ程度で大きな問題はなさそうに見えた。ところが、ロープアクセスで職人が壁面に降りて間近で見ると、北側のタイル目地のシーリングがやせて切れ、そこから入った水で、一部のタイルが「浮いて」いた。指で押すと、ぽこぽこと音がする。放置すれば、いずれタイルが剥落して通行人に当たる危険もあった。結局、本来なら数十万円の部分補修で済んだはずの箇所が、広範囲の張り替えに発展し、見積もりは当初の何倍にもなった。理事長さまは「下から見ても全然わからなかった」と肩を落としておられた。私が一番悔しいのは、まさにこういう瞬間だ。「延ばす」こと自体が悪いのではない。「見ずに延ばす」ことが、建物とオーナーの両方を傷つけるのだ。

長周期化を支える鍵は「点検」と「部分補修」——ここで工法が効いてくる

では、点検と部分補修を、どうすればコストをかけずに回せるのか。ここで、私たち明誠がこだわってきた工法選択の話が効いてくる。

従来、マンションの外壁を点検しようと思えば、足場を架けるか、ゴンドラを吊るか、あるいは下から双眼鏡で眺めるしかなかった。足場を架ければ数百万円、ゴンドラも大掛かりだ。「点検のためだけにそんな費用は出せない」——これが、多くの管理組合が点検を後回しにしてきた本当の理由だと、私は思っている。

ここで力を発揮するのが、ロープアクセス工法だ。これは産業用のロープを使って、職人が壁面を上下しながら点検・補修を行う「無足場工法(足場を架けない工法)」である。足場を架けないぶん費用を大きく抑えられ、しかも必要な部位だけをピンポイントで点検・補修できる。

私はこれを、長周期化とワンセットで提案するようにしている。仕組みはこうだ。高耐久材料で大きな工事の周期を延ばす一方で、その間にロープアクセスで定期点検と部分補修を機動的に回す。こうすれば、「延ばす」ことのリスク——気づかぬ間の劣化——を最小限に抑えながら、足場を伴う大規模修繕の回数そのものを減らせる。点検が安く小回りよくできるからこそ、安心して周期を延ばせる。これが、私の考える「正しい長周期化」だ。

収益物件オーナーの損得勘定——戸あたりで見ると景色が変わる

収益物件オーナーの方には、ぜひ「戸あたり・年あたり」で損得を見ていただきたい。

仮に、ある工事の総額が同じだとしても、その効果が12年もつのか18年もつのかで、1年あたりのコストはまるで違う。単純化して言えば、12年周期と18年周期では、同じ工事を「1.5倍長く」効かせられる計算になる。30年というスパンで見れば、大規模修繕の回数が一回減るかどうかは、戸あたりにならせば数十万円単位で効いてくる話だ。

ごく単純化した試算で、景色の違いを見ていただきたい。あくまで考え方を示すための仮の数字であり、実際は建物ごとに大きく変わる点はご了承いただきたい。

項目 12年周期 18年周期(高耐久仕様)
60年間の大規模修繕回数(目安) 約5回 約3〜4回
1回あたりの工事費(仮に1回1.2億円とする) 1.2億円 高耐久材で割増、仮に1.35億円
60年間の累計工事費(概算) 約6.0億円 約4.7〜5.4億円
周期間の点検・部分補修 任意 計画的に必須

この表で言いたいのは、「高耐久材で1回あたりは少し高くなっても、回数が減るぶん、長い目で見れば累計の負担は軽くなりうる」ということだ。もちろん、これは点検と部分補修をきちんと回し、計画どおりに周期を延ばせた場合の話。手入れを怠れば、この計算は簡単に崩れる。数字のうまみは、あくまで「正しく延ばせたご褒美」だと考えていただきたい。

戸あたりに引き直すとさらに実感が湧く。仮に100戸のマンションで60年間に1回分の大規模修繕(1.2億円)を減らせたとすれば、戸あたり120万円。月額の積立金に換算すれば、60年で割って戸あたり月1,600円ほどの差になる。たかが月1,600円と思われるかもしれないが、これは「同じ建物の品質を保ったまま」生み出せる差だ。値上げ交渉で住民ともめることを思えば、決して小さくない。

加えて、収益物件には「工事をしていない期間こそが稼ぎどき」という側面がある。足場を架けている数ヶ月は、見栄えも住み心地も落ちる。新規の入居づけにも不利だし、既存入居者の不満もたまる。工事の回数が減るということは、満足度の高い「平常運転」の期間が長くなるということ。これは家賃の維持・空室率の低下という形で、じわじわと収益に効いてくる。

もちろん、注意点もある。高耐久材料は初期費用が一般材より高い。短期で売却を予定している物件なら、その投資を回収しきれないこともある。だからこそ、「この建物を、この先何年保有するのか」という出口戦略とセットで、長周期化が得かどうかを判断する必要がある。私は、ここを抜きに「とにかく高耐久がいい」とは決して言わない。

管理組合が総会前に整理しておきたい五つの質問

6月はマンションの総会シーズンだ。理事会・総会で長周期化の話題が出たとき、最低限これだけは整理しておくと議論が前に進む、という五つの質問を挙げておく。

  1. いまの長期修繕計画の周期は、何年で組まれているか。 その根拠は「12年が常識だから」になっていないか。
  2. 前回の工事で、どの部位にどんな材料を使ったか。 高耐久仕様だった部位はあるか。記録は残っているか。
  3. 直近で、専門家による外壁・防水の点検をいつ行ったか。 点検なしに「延ばす/早める」を議論していないか。
  4. 積立金の計画は、将来いきなり倍増するような無理な前提になっていないか。 国のガイドラインの考え方(初期0.6倍以上・最終1.1倍以内の目安)に照らして無理がないか。
  5. 次の工事で、足場・ロープアクセス・両者の組み合わせ(ハイブリッド)のどれが自分の建物に合うか、比較検討したか。

この五つに「はい」と答えられない項目があれば、それはそのまま、専門家に相談すべきテーマだということだ。

工法選択で「長周期化」をどう設計するか——足場・ロープ・ハイブリッド

最後に、工法の話を整理しておく。私たち明誠は、通常の足場仮設による工法、足場を架けないロープアクセス工法、そして両者を部位ごとに使い分けるハイブリッド工法の三つを、建物の特性に応じて提案できる。日本でも、この三つを自前で揃えている会社は多くない。

長周期化という観点で言えば、それぞれに役割がある。

  • 足場工法は、全面打診や大面積の塗り替えなど「一度にまとめてやり切る」大規模修繕の本番に向く。長周期化のスタート地点で、高耐久材料をしっかり施工する場面だ。
  • ロープアクセス工法は、周期と周期の「あいだ」の点検・部分補修に向く。安く小回りが利くからこそ、延ばした期間のリスクを抑えられる。
  • ハイブリッド工法は、形状が複雑で足場が架けにくい部分だけロープアクセスを使うなど、大規模・複雑物件で総合コストを最適化したいときに効く。

つまり、長周期化は「材料」だけで決まるのではない。「どの工法で施工し、どの工法で維持していくか」という設計とワンセットで初めて成り立つ。だからこそ、複数の工法を一社で比較提案できることに意味がある、と私は考えている。建物ごとのベストは、必ず比較した先にしかない(大規模修繕工事のご紹介)。

長周期化は「一社でまとめて見られる体制」があってこそ回る

もうひとつ、現場の人間として強くお伝えしたいことがある。長周期化を本当に回そうとすると、「窓口の一本化」がきわめて重要になる、ということだ。

考えてみてほしい。長周期化とは、大きな工事の合間に、塗装・防水・タイル・シーリング、ときには電気設備や看板まで、こまめに点検し、傷んだところだけを直していく営みだ。ところが、これを分野ごとにバラバラの会社へ頼んでいると、何が起きるか。「塗装屋さんは塗装しか見ない」「防水屋さんは防水しか見ない」となり、分野の境目——たとえばタイルとシーリングの取り合い部分——の劣化が、誰の担当でもないまま見落とされる。私はこの「境目の見落とし」で水が入った建物を、いくつも見てきた。

私たち明誠は、ロープアクセス工法を軸に、塗装・防水・タイル・電気・看板といった各分野の専門職がフランチャイズとして加盟する体制をとっている。これは、ロープアクセス工事としては日本で初めてのフランチャイズ展開だ。なぜこの形にこだわったのか。理由はまさに、長周期化のような「長く・こまめに・分野横断で」建物を見続ける営みには、各分野の専門職が一つの窓口に集まっている体制が向いているからだ。専門職がそれぞれの腕を持ち寄ることで、高い品質を保ちながら、中間マージンを削って価格も抑えられる。点検で見つかった小さな不具合を、その場で「ではこの目地はうちの防水班が、このタイルはタイル班が」と振り分けられる。これが、長周期化を絵に描いた餅で終わらせないための、地味だが決定的な土台になる。

理事長さまにも収益物件オーナーさまにも、私はいつもこうお伝えしている。「工法の数」と同じくらい、「分野をまたいで一気通貫で見てくれる窓口があるか」を見てください、と。長く付き合う相手だからこそ、ここは妥協してほしくない。

よくある質問——長周期化をめぐる五つの疑問

最後に、理事会や個別相談で実際によくいただく質問に、私なりにお答えしておく。

Q1. 国が「18年周期にしなさい」と決めたのですか?
いいえ。国の最新ガイドラインは大規模修繕の周期を「一般的に12年〜15年程度」と幅を持たせて示しているだけで、18年を推奨しているわけではない。18年周期は、高耐久材料を使い、点検を組み込んだ建物で「結果として延ばせる」という選択肢です。あくまで建物次第、というのが正確なところだ。

Q2. うちは普通の材料で前回工事をしました。それでも延ばせますか?
慎重に考えたほうがよい。一般材で施工した部位は、メーカーが想定する耐用年数を超えて無理に延ばすと、かえって劣化が一気に進むことがある。まずは専門家の点検で、いまの劣化具合を正確に把握することをおすすめする。延ばせるかどうかは、点検の結果が教えてくれる。

Q3. 高耐久材料にすると、どれくらい費用が上がりますか?
部位や材料によって幅が大きいので、ここで断定はできない。一般に、屋上防水やシーリングを高耐久仕様にすると初期費用は上がるが、そのぶん次の工事までの間隔を延ばせる。「初期費用の増加分」と「延ばせる年数」を天秤にかけて判断するのが筋で、必ず複数の仕様で見積もりを取り、比較していただきたい。

Q4. 周期を延ばすと、その間の点検費がかさみませんか?
だからこそ、点検を安く回せる手段が要になる。足場を架けての点検は高くつくが、ロープアクセスなら必要な部位だけを低コストで点検・補修できる。点検費を抑えられるからこそ、トータルでは長周期化のメリットが出る、という設計が大事だ。

Q5. 収益物件なのですが、近く売却するかもしれません。それでも高耐久にすべき?
出口戦略によります。数年内の売却を考えているなら、高耐久材の投資を回収しきれない可能性がある。一方で、長期保有して家賃収入を得続けるなら、長周期化の恩恵は大きい。「あと何年、この建物を持つのか」を先に決めてから、材料と工法を選ぶ——順番を間違えないことが肝心だ。

まとめ——「12年だから」で決めない。建物を見て、延ばせる建物に育てる

長くなったので、最後に要点をまとめたい。

「12年周期」は法律でもルールでもなく、出発点にすぎない。国の最新ガイドラインはすでに「12年〜15年」と幅を持たせ、材料の進化と積立金不足を背景に、業界は18年周期も視野に入れ始めている。大手デベロッパーが長周期化の取り組みで評価を受けたのは、その象徴だ。

ただし、お金がないからの「先送り」と、手入れをしたうえでの「長周期化」は、似て非なるものだ。延ばしていいのは、高耐久材料を計画的に使い、点検と部分補修を続けている建物だけ。そして、その点検と部分補修を安く機動的に回す手段として、ロープアクセスという選択肢がある。

これは私が現場で20年見てきた、嘘偽りのない感想だ。周期の数字に振り回されるのではなく、自分の建物をよく見て、「延ばせる建物」に育てていく。その視点を、ぜひ次の理事会で1分だけでも話題にしてみてほしい。周期をどう設計するか、点検をどう組み込むか——そのあたりの整理だけでも、お力になれることがある。ご相談だけでも遠慮なくお声がけください。次回も、現場で本当に使える話だけをお届けします。

出典・参考資料

▼ロープアクセス工法・無足場工法の詳細解説はこちら
ロープアクセスドットコム|無足場工法専門メディア

お気軽にご相談ください!