本間社長ブログ
「管理会社が組合の代表」マンションで大規模修繕はどう決まるのか|2026年4月施行の適正化法77条の2が義務づけた事前説明と相見積もり、管理組合・オーナーの使い方【2026年9月】
目次
- この記事の結論を先にお伝えします
- 何が起きたのか:2026年9月20日の報道
- 管理業者管理者方式(第三者管理方式)とは何か
- 数字で見る:管理業者管理者方式はどこまで広がっているか
- 2026年4月1日施行:適正化法77条の2で何が変わったか
- 開示すべき6項目:ここが管理組合・オーナーの武器になる
- 標準契約書の「誠実義務等」(令和7年12月12日策定・改正)
- では、見積書のどこを見るのか:国交省データが示す2つの基準
- 相見積りに「工法の違う1社」を入れると何が見えるか
- 現場で私が見てきたこと
- 管理組合・オーナーが今日からできる5つのこと
- 管理業者管理者方式を「使いこなす」ための3つの条件
- よくあるご質問
- この記事のポイントまとめ
- 出典・参考資料

-
著作者プロフィール
株式会社明誠 代表取締役
本間 幸紘
大規模修繕・外壁工事・ロープアクセス工事に関する情報を、現場経験をもとに分かりやすくお届けします。
2026年9月21日 更新
Q. 管理会社が管理組合の「管理者」を務めているマンションで、大規模修繕工事はどう決まるのでしょうか。管理会社のグループ会社が工事を受注しても、区分所有者は何も言えないのでしょうか。
A. 2026年(令和8年)4月1日に施行された改正マンションの管理の適正化の推進に関する法律(マンション管理適正化法)第77条の2により、管理者である管理業者が「密接な関係を有する者」と取引をするときは、あらかじめ説明会を開催して重要な事実を説明することが義務づけられました。説明すべき内容には、取引の金額(内訳と算出の根拠を含む)、取引相手を選んだ理由、他社から見積りを取った場合はその内容、取らなかった場合はその理由までが含まれます(出典:国土交通省 「マンションの管理の適正化の推進に関する法律施行規則」の一部改正(令和8年4月1日施行)第89条の4、および同省 マンション標準管理者事務委託契約書等の策定・改正について、令和7年12月12日)。つまり、区分所有者には「他にいくらの見積りがあったのか」を聞く法的な足場ができたということです。
この記事の結論を先にお伝えします
昨日(2026年9月20日)、朝日新聞がマンション管理をめぐる特集記事を出しました。朝刊紙面は「(ニュース特集)マンションの管理会社が組合代表、注意点は」、デジタル版は「修繕積立金が突然3倍に 管理会社の利益相反を招くマンションとは」という見出しです。修繕積立金が約3倍になるという通知を受けた投資用マンション所有者の例から、管理組合の代表を管理会社が兼ねる構図を掘り下げた内容でした。
私はこの2本を読んで、現場で何度も見てきた光景を思い出しました。理事会がないマンションで、管理会社が出してきた1社だけの見積書が、そのまま総会にかかる。区分所有者は比較する材料を持っていない。反対する材料もない。だから可決される。
この記事でお伝えしたいことは3つです。
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| ① 法律は変わった | 2026年4月1日施行の適正化法77条の2で、利益相反のおそれがある取引には事前の説明会開催が義務化。開示項目に「他社見積りの内容/取らなかった理由」が入った |
| ② 見るべき数字は2つ | 国交省調査で戸あたり工事金額の中央値は約110万円/戸(1回目)。そして総工事金額に占める仮設工事は平均22.3% |
| ③ 動き方はシンプル | 説明会で開示を求め、相見積りに1社だけ工法の違う会社を入れる。それだけで見積書の中身が読めるようになる |
管理業者管理者方式そのものを否定するつもりは、私にはまったくありません。役員のなり手がいないマンションで、専門家が管理者を務める仕組みは必要です。ただ、発注のプロセスが見えないまま進むことだけは、資産価値の観点から見過ごせない。ここからが本題です。
何が起きたのか:2026年9月20日の報道
2026年9月20日、朝日新聞が「(ニュース特集)マンションの管理会社が組合代表、注意点は」を掲載しました。記事は「管理を任す側が、任される側も兼ねる」という構図を指摘し、役員を務める負担は減るものの、管理への関心が薄れる副作用を心配すべきだと整理しています(出典:朝日新聞デジタル、有料記事)。
同じ日のデジタル版では「修繕積立金が突然3倍に 管理会社の利益相反を招くマンションとは」の見出しで配信されています。修繕積立金が約3倍になるという通知を受けた投資用マンション所有者の例が紹介され、長期修繕計画の見直しを主導したのが管理組合の代表を兼ねる管理会社だった、という構図が語られています。
この報道は、業界にいる人間から見ると「ついに一般紙が正面から書いた」という印象です。そして重要なのは、この問題に対して国の制度側がすでに手を打っているという事実が、まだ管理組合やオーナーの手元に届いていないことです。
報道と制度の「時差」が損をつくる
私の経験上、制度が変わってから現場に浸透するまでには2〜3年のタイムラグがあります。2026年4月1日に施行された改正法は、施行から5か月半が経ったところ。ちょうど今、改正後はじめての大規模修繕の発注に入るマンションが出てきている時期です。
この時期に、区分所有者が「77条の2って何ですか」と一言聞けるかどうか。そこで数百万円単位の差がつくことがあります。
管理業者管理者方式(第三者管理方式)とは何か
まず言葉の整理をします。
管理者とは、建物の区分所有等に関する法律(区分所有法)第25条に定められた、管理組合を代表して業務を執行する立場のことです。多くのマンションでは、理事会が置かれ、理事長が管理者を兼ねています。
管理業者管理者方式は、この管理者に、マンション管理業者(管理会社)自身が就任する方式です。一般には「第三者管理方式」「外部管理者方式」とも呼ばれます。理事会を置かず、管理会社が管理者として意思決定と業務執行を担います。
導入の背景は「なり手不足」
国土交通省は令和6年(2024年)6月7日に「マンションにおける外部管理者方式等に関するガイドライン」を策定しました。その背景説明には、こうあります。
近年、マンションにおいて、役員の担い手不足等を背景として、マンション管理業者が管理事務を受託するのに加えて管理者として選任される事例や、新築マンションにおいて、管理業者が管理者に就任することを前提として分譲が行われる事例が出てきています。
そして同じ文書は、リスクもはっきり書いています。「区分所有者の意思から離れた不適切な管理、管理組合と管理業者との利益相反の発生、管理業者に支払うコストの増大等が生じるおそれがある」と。
国が「メリットもあるがデメリットもある。慎重に検討を」と言っている制度。それが管理業者管理者方式です。
なぜ「なり手不足」が深刻なのか
令和5年度マンション総合調査(国土交通省、令和6年6月21日公表)の数字を見ると、背景が立体的に見えてきます。
| 項目 | 数値 | 前回調査比 |
|---|---|---|
| 世帯主が70歳以上の割合 | 25.9% | +3.7ポイント |
| うち昭和59年(1984年)以前のマンション | 55.9% | - |
| 賃貸住戸のあるマンションの割合 | 77.8% | +3.1ポイント |
| 空室があるマンションの割合 | 34.0% | -3.3ポイント |
| 計画に対し修繕積立金が不足しているマンション | 36.6% | +1.8ポイント |
出典:国土交通省「令和5年度マンション総合調査結果(とりまとめ)」(令和6年6月21日)
昭和59年(1984年)以前に完成したマンションでは、世帯主の55.9%が70歳以上です。しかも8割近いマンションに賃貸住戸があり、そのオーナーは現地に住んでいません。理事のなり手がいないのは、精神論の問題ではなく人口構成の問題です。
同時に、修繕積立金が計画に足りていないマンションが36.6%もある。工事の質と価格に対して、より敏感にならざるを得ない環境が揃っているわけです。
数字で見る:管理業者管理者方式はどこまで広がっているか
国土交通省は令和5年(2023年)12月4日〜15日に、一般社団法人マンション管理業協会の会員社351社を対象に「第三者管理者方式に関する実態調査」を実施しました。有効回答は152件(回収率43.3%)です。
| 調査項目 | 結果 |
|---|---|
| 第三者管理者方式を導入していると回答した管理業者 | 48社(約32%) |
| その48社が受託している管理組合数の合計 | 1,991件 |
| 新築マンションで「導入している/導入予定」 | 約半数(48%) |
| 通常総会の議長を「管理者業務の担当者」が務める | 81% |
| 総会決議なしで発注できる金額の上限規定がある | 15%(上限額は10万円〜140万円) |
| 監事の報酬が「報酬はない」 | 53% |
| 保管口座等の印鑑を「管理者として自社が保管」 | 60%(監事選任ケース) |
出典:国土交通省「第三者管理者方式に関する実態調査(12月調査)」
なお、管理組合側から見た普及率は別の数字になります。令和5年度マンション総合調査では、区分所有者以外の第三者が管理者となっているマンションは3.7%にとどまっています。
つまり、既存のマンション全体ではまだ少数派。しかし新築では管理業者の約半数が導入または導入予定という構図です。これから供給される投資用ワンルームや自己居住用マンションでは、購入した時点ですでに管理業者管理者方式、ということが珍しくなくなります。
この調査で私がいちばん気になった数字
「通常総会の議長を管理者業務の担当者が務める」が81%。
議長が管理会社の社員である総会で、管理会社のグループ会社への工事発注が議案にかかる。この構図そのものが違法なわけではありません。ただ、区分所有者の側に判断材料がなければ、実質的な審議は成立しにくい。ここが、今回の法改正が手をつけた部分です。
2026年4月1日施行:適正化法77条の2で何が変わったか
令和7年5月23日、「老朽化マンション等の管理及び再生の円滑化等を図るための建物の区分所有等に関する法律等の一部を改正する法律」(令和7年法律第47号)が成立し、同月30日に公布されました(出典:法務省「老朽化マンション等の管理及び再生の円滑化等を図るための建物の区分所有等に関する法律等の一部を改正する法律について」)。
この一括法は、区分所有法、被災区分所有法、マンション管理適正化法、マンション建替え等円滑化法をまとめて改正するもので、区分所有法・被災区分所有法の改正部分、および本稿で扱うマンション管理適正化法の改正部分は、いずれも2026年(令和8年)4月1日から施行されています。
新設された第77条の2の中身
従来のマンション管理適正化法では、第77条で管理業者が区分所有者に管理事務を報告する義務は定められていましたが、利益相反のおそれのある行為そのものを規律する条文はありませんでした。
改正法で追加された第77条の2は、管理者となった管理業者が「密接な関係を有する者」と取引を行うとき(管理受託契約・管理者受託契約の締結を除く)は、あらかじめ説明会を開催し、区分所有者等に対して当該取引の重要な事実を説明しなければならないと定めています。
ただし書きとして、災害その他やむを得ない事由により取引を速やかに行う必要があると認められる場合は除外されます。ただしこの例外はかなり狭く、マンションの管理の適正化の推進に関する法律施行規則第89条の5は、共用部分の損傷により居住者の日常生活に支障が生じるおそれがあると認められる場合で、その旨の決議が集会でなされている場合に限定しています。「災害が起きたから説明会は不要」と広く読める規定ではありません。また業界団体宛ての施行通知では、やむを得ず開催できない場合も「事後的に総会などで報告することが望ましい」とされています(出典:建設通信新聞「マンション管理適正化法 4月1日施行/利益相反で事前説明が義務化」)。
誰が「密接な関係を有する者」なのか
施行規則第89条の2が、対象を具体化しました。管理業者の親会社、子会社、関連会社などが該当します。標準管理者事務委託契約書では、この条項で示された対象企業を契約書に列挙することとされています。
ここが実務的に効きます。契約書を見れば、どの会社が「利益相反のおそれのある取引先」なのかが名前で分かるということです。
開示すべき6項目:ここが管理組合・オーナーの武器になる
施行規則第89条の4は、説明会で開示すべき事項を具体的に定めました。私が読んで「これは大きい」と思ったのが、この6項目です。
| # | 開示すべき事項 | 管理組合・オーナー側の読み方 |
|---|---|---|
| 1 | 管理業者と取引相手との関係 | 資本関係・役員兼任の有無を確認する |
| 2 | 取引を行おうとする年月日 | 総会までの検討期間が足りているか |
| 3 | 取引の内容 | 工事の範囲・仕様がどこまでか |
| 4 | 取引の金額(内訳および算出の根拠を含む) | 数量×単価まで見る。ここが本丸 |
| 5 | 取引を行おうとする理由 | 「グループだから」は理由にならない |
| 6 | 相手方以外から見積りを取った場合はその内容/取らなかった場合はその理由 | 相見積りの有無が制度的に可視化される |
とくに4番と6番です。
4番の「内訳および算出の根拠」。これは総額だけの見積書では説明義務を果たしたことにならない、という意味に読めます。大規模修繕の見積書は、本来なら「外壁塗装 ○○㎡ × ○,○○○円/㎡」という形で数量と単価が並びます。それが出てこない見積書は、そもそも比較ができません。
6番の「見積りを取らなかった理由」。建設通信新聞の解説によれば、標準管理者事務委託契約書のコメントでは、利益相反のおそれのある会社と取引する場合、組合員への事前説明と総会の承認の両方が必要とされ、相見積りを求める記載がされています。工事業者を公募したが他に参加者がいなかった場合も、その会社に発注する理由となり得る、という整理です。
つまり「公募して他に手が挙がらなかった」は理由になるが、「最初から1社しか当たっていない」は説明として弱い、ということになります。
標準契約書の「誠実義務等」(令和7年12月12日策定・改正)
国土交通省は令和7年12月12日、改正法の施行に向けて3つの文書を策定・改正しました。
| 文書 | 区分 | 主な内容 |
|---|---|---|
| マンション標準管理者事務委託契約書 | 【策定】 | 管理業者の業務内容、印鑑等の保管、利益相反取引の制限 等 |
| マンション標準管理委託契約書 | 【改正】 | 定期の説明会開催による組合員等への報告義務、契約行為の相手方、利益相反取引の制限 等 |
| マンション標準管理規約(書き換え表) | 【策定】 | 管理者に関する基本的事項、管理者の退任・辞任・解任時の措置、利益相反取引に関する事項 等 |
出典:国土交通省「マンション標準管理者事務委託契約書、マンション標準管理委託契約書、管理業者管理者方式を採用した場合におけるマンション標準管理規約(書き換え表)を策定・改正しました」(令和7年12月12日)
利益相反取引については、いずれも第26条「誠実義務等」に規定されました。
管理業者管理者方式でないマンションにも効く
ここを見落としてほしくありません。理事会がある一般的なマンションが結ぶ「マンション標準管理委託契約書」の側にも、第26条の誠実義務が置かれました。
そのコメントでは、透明性確保のため、紹介手数料・仲介料・謝礼など、実際の業務を伴わない金銭を管理組合の承認を経ずに授受してはならないことが明記されています。さらに工事発注プロセスについても、工事費用の内訳や積算根拠を管理組合に説明し、理事会から求めがあった場合は相見積りを取得することとされました。
理事会のあるマンションでも、理事会が「求めれば」相見積りが出てくる。これは理事長が知っているかどうかで結果が変わる話です。
私はいつも理事長さまに「標準管理委託契約書の第26条だけは読んでおいてください」とお伝えしています。1ページで済みますし、次の大規模修繕のときに効いてきます。
では、見積書のどこを見るのか:国交省データが示す2つの基準
ここからは、私が20年以上現場でやってきた側の話です。
制度が整っても、見積書を読む目がなければ使いこなせません。幸い、国土交通省は比較の基準になるデータを公表しています。「令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査」です。設計コンサルタント業務または施工の受注実績を持つ企業814社に配布し、200社から回収(回収率24.6%)、工事完了済みの818件を集計したものです。
基準①:戸あたり工事金額
| 大規模修繕工事の回数 | 下位25%値 | 中央値 | 上位25%値 |
|---|---|---|---|
| 1回目(n=331) | 90.9万円/戸 | 110.2万円/戸 | 134.0万円/戸 |
| 2回目(n=194) | 87.8万円/戸 | 106.1万円/戸 | 129.8万円/戸 |
| 3回目以上(n=242) | 76.8万円/戸 | 97.0万円/戸 | 125.7万円/戸 |
全体の分布では「100〜125万円/戸」が27.0%で最多、次いで「75〜100万円/戸」が24.7%でした。工事金額そのものは、1回目の中央値が8,665万円、2回目が7,660万円、3回目以上が8,703万円です。
※この工事金額に共通仮設費は含まれていません。また令和3年度の調査であり、その後の資材価格・労務費の上昇は反映されていません。現在の見積りと比べる際は、水準そのものではなく「自分のマンションが分布のどのあたりにいるか」を見る指標として使ってください。
基準②:仮設工事が占める割合
こちらが、私がいちばんお伝えしたい数字です。
| 工事回数 | 建築系工事 | 仮設工事 | 諸経費① | その他 |
|---|---|---|---|---|
| 全体 | 59.0% | 22.3% | 9.3% | 6.2%ほか |
| 1回目 | 63.6% | 19.4% | 9.4% | 3.0%ほか |
| 2回目 | 60.3% | 22.8% | 9.5% | 3.8%ほか |
| 3回目以上 | 58.8% | 25.3% | 9.6% | 3.2%ほか |
出典:同上(国土交通省 令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査)
総工事金額の約2割が仮設工事。そして1回目19.4%、2回目22.8%、3回目以上25.3%と、回数が進むほど仮設の比率が高い集計結果になっています(同調査のグラフ値。なお同資料の要約文には異なる傾向の記載があるため、ここでは集計グラフの数値を参照しています)。
この2割をどう扱うかで、総額は大きく動きます。そして仮設工事=足場の話ですから、ここは工法の選択がそのまま金額に出る領域です。
ちなみに建築系工事の内訳を見ると、全体で外壁塗装28.8%、床防水15.7%、建具・金物等15.3%、屋根防水12.9%、シーリング工事9.1%、鉄部等塗装8.8%、外壁タイル7.1%、共用内部2.4%。外壁塗装と防水で半分近くを占めます。
相見積りに「工法の違う1社」を入れると何が見えるか
ここで、私たち株式会社明誠が提案している無足場工法の話をさせてください。宣伝として読んでいただいても構いませんが、見積書を比較する道具として使えるという点だけは受け取っていただきたいのです。
足場とロープアクセスの差額は、ここまで開くことがあります
参考値として(いずれも当社の積算にもとづく試算です)、10階建て・外周80m・工期3か月のマンションで仮設計画を比較した場合、枠組足場の仮設費が約168万円、ロープアクセス工法(無足場工法)なら約59万円と、約109万円の差が出るケースがあります。もちろん建物形状・工事範囲・工期によって大きく変動しますので、あくまでレンジの目安です。
なぜ差が出るのか。ロープアクセス工法は、屋上に支点を設けて産業用ロープで作業員が懸垂下降し、外壁の打診調査・補修・塗装・シーリング・防水などを行う工法です。足場の組立・解体・リース期間がまるごと不要になります。
技術的な詳細や安全基準については、姉妹サイトのロープアクセスドットコムで体系的に解説しています。工法そのものの仕組みを理解してから見積りを読むと、「仮設22.3%」の意味が変わって見えるはずです。
単価の目安も、あえて書いておきます
比較の物差しがないと、見積書は読めません。東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県でのマンション大規模修繕において、私たちが日常的に見ているレンジは次のとおりです。
| 工種 | ㎡単価の目安 |
|---|---|
| 外壁打診調査 | 250〜500円/㎡ |
| 外壁塗装 | 3,500〜4,500円/㎡ |
| 屋上・バルコニー防水 | 5,000〜8,000円/㎡ |
30戸規模のマンションの大規模修繕であれば、総工費3,500〜5,000万円程度、うち仮設が15〜25%というのが、私たちが日常的に見ているレンジです。いずれも物件の規模・劣化状況・足場架設の難易度で大きく変動しますので、断定できる数字ではありません。それでも「レンジを知っている」ことと「知らない」ことの差は、総会での発言力の差になります。
料金の考え方については、明誠の大規模修繕の料金の考え方にまとめています。
1社入れるだけで、見積書の構造が浮かび上がる
相見積りを3社取るとき、3社とも足場工法だと、比較できるのは「同じ土俵の中での値引き幅」だけです。仮設の2割は、3社とも似たような金額で並びます。
ここに無足場工法または足場とロープアクセスを併用するハイブリッド工法の1社を入れると、仮設費という項目そのものが動く。そのとき初めて、「この建物にとって足場は本当に必要か」「必要なのは北面だけではないか」という議論が始まります。
私はこれを、ワンセットでご提案するようにしています。足場を否定したいのではありません。足場が最適な建物は確実にあります。低層で複雑な形状、全面打ち替えが必要なタイル、住戸バルコニー内部まで手を入れる工事。こうしたケースでは足場のほうが安く、早く、安全です。
大事なのは「比べた結果、足場を選んだ」という記録が残ること。管理業者管理者方式のマンションなら、これが施行規則第89条の4の6番(他社見積りの内容)への回答そのものになります。
3つの工法の使い分けについては明誠のロープアクセス工法の技術詳細をご覧ください。
現場で私が見てきたこと
正直に申し上げます。私がいちばん悔しい思いをするのは、工事が終わってから呼ばれるときです。
数年前、都内のあるマンションで、大規模修繕の直後に外壁の一部から漏水が出たとご相談をいただきました。伺ってみると、工事そのものは決して手を抜いた内容ではありませんでした。ただ、足場を架けた範囲と、劣化が進んでいた範囲がずれていたのです。
そのマンションは中庭側に複雑な入隅があり、そこは足場が架けにくいという理由で、施工範囲から外されていました。悪意があったとは思いません。仮設計画上そうなった、というだけの話です。
ですが、もし発注前に「その入隅はどう施工するのか」という質問が1つ出ていたら。ロープアクセスなら入隅にも支点を取れますから、その部分だけを無足場で拾う提案ができたはずです。質問が1つあるかないかで、数年後の漏水修繕費が変わる。これが現場の実感です。
緊急の漏水対応については明誠の漏水対応にも実例をまとめていますが、いちばん安く済むのは「発注前に聞いておく」ことです。
私たちが数字で語れること
株式会社明誠はこれまでに約6,000棟のマンション・ビル・ホテルの大規模修繕を手がけてきました。ロープアクセス工法での高所作業について、明誠および全国のフランチャイズ加盟企業では過去16年間、墜落による労働災害はゼロを維持しています。
作業員はIRATA(国際産業ロープアクセス協会)水準の技能訓練を受けており、品質マネジメントはISO9001に基づいて運用しています。また、日本ロープ高所作業協会の事務局を担当しています。
私たちは日本で初めてロープアクセス工事のフランチャイズ本部を立ち上げました。塗装・防水・タイル・電気・看板といった各分野の専門職が加盟しており、中間マージンを重ねずに各工種の専門会社が直接施工する構造になっています。高品質と低価格を両立させるための仕組みです。
安全管理の考え方は明誠の安全管理に、これまでの施工事例は明誠の施工事例一覧にまとめています。
管理組合・オーナーが今日からできる5つのこと
制度の話を、実務に落とし込みます。
1. 自分のマンションが管理業者管理者方式かどうかを確認する
管理規約を見てください。「管理者」が誰かが書いてあります。理事長が管理者なら従来型。管理会社名が入っていれば管理業者管理者方式です。2026年4月1日以降に新規購入した方は、宅地建物取引業法施行規則の改正により、重要事項説明で管理業者管理者方式を採用しているか否かの説明を受けているはずです。
2. 管理委託契約書の「第26条 誠実義務等」を読む
令和7年12月12日改正の標準管理委託契約書に準拠した契約であれば、第26条に誠実義務が置かれています。管理業者管理者方式なら、標準管理者事務委託契約書の別紙に利益相反のおそれのある取引先企業が列挙されているはずです。名前を確認してください。
3. 大規模修繕の話が出たら、説明会の開催予定を聞く
適正化法77条の2により、管理者である管理業者が密接な関係を有する者と取引をするなら、事前の説明会開催が必要です。「説明会はいつですか」と聞くだけで、話が動きます。
4. 説明会では6項目の開示を求める
施行規則第89条の4の6項目です。とくに「取引の金額の内訳および算出の根拠」と「他社から見積りを取った場合はその内容、取らなかった場合はその理由」。この2つを議事録に残してください。
5. 相見積りに、工法の違う1社を入れる
これが、私からの実務的なご提案です。足場工法の会社を3社比べるのではなく、無足場工法またはハイブリッド工法を提案できる会社を1社入れる。仮設の22.3%が動くかどうかを見てください。ロープアクセス工法そのものの安全基準や適用条件についてはロープアクセスドットコムに判断材料をまとめてあります。
管理業者管理者方式を「使いこなす」ための3つの条件
最後に、バランスを取った話をさせてください。
私は管理業者管理者方式に反対ではありません。役員のなり手がいないマンションで、誰も管理者を引き受けられないまま長期修繕計画が10年放置される。そのほうが、資産価値にとってはよほど危険です。
国交省の実態調査には、管理会社側の前向きな取り組みも記録されています。たとえば大規模修繕の検討体制について、「区分所有者による修繕委員会を設置している」という趣旨の回答が約15件あり、「管理組合内で修繕委員会を立ちあげて複数業者からの相見積もりで検討するのを通常としており、第三者管理者方式でもこの点は特に変わらない」という回答もありました。
さらに踏み込んだ例として、「当社が管理者となった場合は当社元請の工事は一切行わないこととしていることから、建物診断、仕様設計、施工、工事監理とも社外の事業者によって実施することとしている」という回答もあります。ここまでやっている管理会社もあるのです。
その上で、使いこなすための条件を3つ挙げます。
| 条件 | 確認する場所 |
|---|---|
| ① 監事が機能しているか | 実態調査では監事の報酬が「報酬はない」が53%。無報酬の監事にどこまで監査を期待できるかは、現実的に考える必要があります |
| ② 印鑑・通帳の保管体制が分離されているか | 実態調査では「管理者として自社が保管」が6割前後。自社保管の場合、管理事務の部署とは別部署で保管しているかを確認 |
| ③ 発注の上限規定が妥当か | 総会決議なしで発注できる上限を設けているのは15%、金額は10万円〜140万円。上限がない場合、何が総会にかかるのかを規約で確認 |
いずれも、国土交通省「第三者管理者方式に関する実態調査」に基づく数字です。
投資用マンションをお持ちのオーナーさまは、とくに③を見てください。実態調査では、第三者管理者方式を導入しているマンションのうち投資用が1,055組合と、自己居住用の306組合を大きく上回っています。現地に住んでいないオーナーほど、規約の確認が資産防衛になります。
オーナーさま向けの考え方は明誠のオーナー向けサービスにまとめています。
よくあるご質問
Q. 管理業者管理者方式だと、大規模修繕の工事会社は自分たちで選べないのですか?
A. 選べます。適正化法77条の2により、管理者である管理業者が密接な関係を有する者と取引をする場合は事前の説明会が必要で、標準管理者事務委託契約書のコメントでは組合員への事前説明と総会の承認の両方が必要とされています。総会で否決されれば、その発注は成立しません。
Q. 説明会で「内訳は企業秘密なので出せない」と言われたらどうすればいいですか?
A. 施行規則第89条の4は、開示すべき重要な事実として「取引の金額(内訳および算出の根拠を含む)」を挙げています。企業秘密を理由に総額だけの提示で済ませるのは、条文の趣旨に沿いにくい対応です。議事録に質問と回答を残したうえで、必要に応じて都道府県のマンション管理相談窓口や地域のマンション管理士会にご相談ください。
Q. 理事会があるマンションには関係のない話ですか?
A. いいえ。令和7年12月12日改正のマンション標準管理委託契約書にも第26条「誠実義務等」が置かれ、工事費用の内訳や積算根拠を管理組合に説明すること、理事会から求めがあった場合は相見積りを取得することが記載されました。理事会がある場合でも、求めれば相見積りが出てきます。
Q. 大規模修繕の適正価格の目安はありますか?
A. 国土交通省の令和3年度実態調査では、戸あたり工事金額の中央値が1回目で約110万円/戸、2回目で約106万円/戸、3回目以上で約97万円/戸でした。ただし共通仮設費は含まれておらず、その後の資材・労務費の上昇も反映されていません。水準そのものより、分布の中での位置を確認する指標としてお使いください。
Q. ロープアクセス工法にすると、工期はどれくらい変わりますか?
A. 建物形状と工事範囲によりますが、足場の組立・解体期間(一般に往復で2〜4週間程度)がなくなる分、全体工期が短縮されるケースが多くあります。10階建て・外周80m程度の物件で、足場工法3か月に対し1.5〜2か月が目安になることがあります。ただしバルコニー内部の工事量が多い場合は足場のほうが効率的で、一概には言えません。
Q. 足場とロープアクセスを組み合わせることはできますか?
A. できます。明誠ではハイブリッド工法と呼んでおり、部位ごとに使い分けます。たとえばバルコニー側は足場、足場が架けにくい中庭側や道路に面した狭小部はロープアクセス、という組み方です。仮設費を抑えつつ、施工性が必要な部位には足場を確保できます。
Q. 相見積りを取るのは、管理会社に失礼になりませんか?
A. なりません。むしろ2026年4月の法改正以降、相見積りの取得は管理業者の側にとっても「説明責任を果たした記録」になります。施行規則第89条の4は、他社見積りを取らなかった場合はその理由まで説明するよう求めています。相見積りは、管理組合と管理会社の双方を守る手続きです。
Q. うちは築45年で3回目の大規模修繕です。もう建て替えを考えるべきでしょうか?
A. 判断材料は複数あり、一律には申し上げられません。令和3年度実態調査では3回目以上の工事の戸あたり中央値は97.0万円/戸で、1回目より低くなっています。一方で仮設工事の比率は25.3%と最も高い。工事範囲が絞られる分、仮設の効率が総額を左右しやすい段階です。無足場工法で仮設を圧縮できれば、修繕を継続する選択肢の経済性が変わることがあります。まずは劣化診断からご相談ください。
この記事のポイントまとめ
- 2026年4月1日施行の適正化法77条の2で、利益相反のおそれがある取引に事前説明会が義務化された
- 開示6項目には「金額の内訳と算出根拠」「他社見積りの内容/取らなかった理由」が含まれる
- 理事会のあるマンションでも、標準管理委託契約書26条で相見積りを求められる
- 国交省調査の戸あたり中央値は1回目110.2万円/戸、仮設工事は総額の平均22.3%
- 相見積りに工法の違う1社を入れると、仮設費という項目そのものが動く
出典・参考資料
- 国土交通省「マンション標準管理者事務委託契約書、マンション標準管理委託契約書、管理業者管理者方式を採用した場合におけるマンション標準管理規約(書き換え表)を策定・改正しました」(令和7年12月12日)
- 国土交通省「「マンションの管理の適正化の推進に関する法律施行規則」の一部改正について」(令和8年4月1日施行。第89条の2〜第89条の5)
- 国土交通省「マンションにおける外部管理者方式等に関するガイドラインの策定について」(令和6年6月7日)
- 国土交通省「第三者管理者方式に関する実態調査(12月調査)」(令和5年12月実施)
- 国土交通省「令和5年度マンション総合調査結果(とりまとめ)」(令和6年6月21日)
- 国土交通省「令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査」
- 法務省「老朽化マンション等の管理及び再生の円滑化等を図るための建物の区分所有等に関する法律等の一部を改正する法律について」(令和7年法律第47号)
- 建設通信新聞「マンション管理適正化法 4月1日施行/利益相反で事前説明が義務化」(2026年2月10日公開・6月12日最終更新)
- 朝日新聞「(ニュース特集)マンションの管理会社が組合代表、注意点は」(2026年9月20日・有料記事)
※本記事の制度に関する記述は2026年9月21日時点の情報に基づきます。制度は変更される場合がありますので、実際の手続きの際は各官公庁の最新情報をご確認ください。工事金額はいずれも目安・参考値であり、物件の規模・形状・劣化状況により大きく変動します。
▼ロープアクセス工法・無足場工法の詳細解説はこちら
ロープアクセスドットコム|無足場工法専門メディア
この記事の執筆者
本間 幸紘(ほんま ゆきひろ)
株式会社明誠 代表取締役/東京都東大和市
マンション・ビル・ホテルの大規模修繕20年以上の実務経験。3工法(通常足場/ロープアクセス/ハイブリッド)から建物特性に応じて最適提案。日本初のロープアクセス工事フランチャイズ本部を運営。JCSA(一般社団法人 全国建設業支援協会)代表理事。
最終更新:2026年9月21日
制度の条文を読むのは、正直に申し上げて面白い作業ではありません。ですが今回の77条の2は、管理組合とオーナーの側に「聞いていい」という根拠をくれた改正です。総会の前に、理事会で1分だけでもこの話題を出してみてください。それだけで、次の大規模修繕の見え方が変わります。
見積書の読み方だけでも構いません。ご相談は明誠のお問い合わせフォームから遠慮なくお声がけください。次回も、現場で本当に使える話だけをお届けします。

