空室に税金がかかる時代へ——神戸市の「空室税」答申案が“タワマン以外”にも広がった。収益物件オーナーと管理組合が、空室・修繕積立金・大規模修繕を一本の線でつなぐ実務【2026年7月】

今朝、いつものように建設・不動産のニュースに目を通していて、思わず手が止まりました。

「空室税、タワマンに限定せず——神戸、中心部の分譲対象」。

神戸市の有識者会議が2026年7月10日、都心部の空室所有者に課税する、いわゆる「空室税」の答申案を示した、という報道です。しかも当初の議論の入口だったタワーマンションに限らず、対象地区の分譲マンション全体を課税対象とする方向だといいます(出典:神戸市「居住と税制のあり方に関する検討会」、日本経済新聞「神戸中心部の空室税『タワマン以外も』 市検討会が答申案」)。

私はマンションやビル、ホテルの大規模修繕(建物全体を計画的に補修・改修する工事のこと)の現場に20年近く立ってきました。税制の専門家ではありません。それでも、このニュースを「他人事ではない」と感じたのには理由があります。空室は、税金の問題である前に、建物の問題だからです。

空室が増えると、管理費や修繕積立金の集まりが悪くなる。総会の決議が通りにくくなる。工事が先送りされ、建物が傷む。建物が傷むから、さらに空室が埋まらない——。この悪循環を、私は現場で何度も見てきました。神戸市が動いたということは、行政もついに「空室は所有者個人の自由の問題ではなく、街と建物の維持の問題だ」と踏み込んだということです。

今日は、この「空室税」の答申案を入口に、収益物件オーナーさまと管理組合が、空室・修繕積立金・大規模修繕を一本の線でつないで考えるための実務をお話しします。結論から申し上げます。空室対策と修繕コスト削減は、別々のテーマではありません。工法の選び方ひとつで、両方に同時に効きます。

1. まず事実を押さえる——神戸市「空室税」答申案の中身

感情論の前に、報道と一次情報から分かっている事実だけを整理します。

(1)議論の主体
神戸市の「居住と税制のあり方に関する検討会」。2025年5月30日の第1回から議論が重ねられ、2026年7月10日の第6回で答申案が示されました。これはもともと、タワーマンションと地域社会との関わり方に関する有識者会議の報告書で「タワーマンションの空き部屋の所有者に対する法定外税の可能性」が指摘されたことを受けた検討です(出典:神戸市「居住と税制のあり方に関する検討会」)。

「法定外税」とは、地方税法に定めのない、自治体が独自に条例で設ける税のことです。

(2)対象エリア
JR新神戸駅からJR神戸駅にかけて広がる「都心機能誘導地区」、およそ314ヘクタールが想定されていると報じられています。

(3)対象となる物件
分譲マンション。戸建ては含まれません。そして最大のポイントが、タワーマンションに限定しないという方向性です。

(4)「空室」の判定方法
住民票の有無を基本に判断し、住民票がない場合は必要に応じて納税などの実績を調べる、とされています。

(5)これからのプロセス
答申を受けて市が導入を決める場合、市議会での条例可決と、総務大臣の同意が必要になります。つまり、今日時点で税金が確定したわけではありません。ここは冷静に押さえておくべきところです。

(出典:共同通信「『空室税』、タワマンに限定せず 神戸、中心部の分譲対象」)

私が注目したのは、(3) の「タワマンに限定しない」という一点です。ここに、行政の問題意識の本質が表れていると感じました。

2. なぜ「タワマンに限定せず」なのか——空室は“建物全体”を蝕むから

当初の議論は、投資目的で買われ、誰も住んでいないタワーマンションの一室——いわゆる「電気のつかない部屋」への問題意識から始まりました。街の賑わいが失われる、地域コミュニティが成り立たない、防災上も誰がいるのか分からない、といった論点です。

しかし議論が進むにつれて、「それはタワマンだけの話なのか?」という当然の問いが出てきます。中層の分譲マンションでも、相続で取得したまま放置されている住戸、投資で買ったまま貸しても住みもしない住戸、売れ残ったまま塩漬けになっている住戸は、確実に存在します。そして——ここが重要なのですが——建物の維持管理という観点では、空室が中層マンションで起きた方が、影響はむしろ深刻になり得ます。

理由は単純です。総戸数が少ない建物ほど、1戸の空室が組合財政に占める重みが大きいからです。300戸のタワマンで10戸空いても3.3%ですが、30戸のマンションで10戸空けば33%です。管理費と修繕積立金の3分の1が不安定になる。これは、大規模修繕の資金計画を根底から揺るがします。

行政が「タワマンに限定しない」と踏み込んだのは、空室問題の本質が“派手なタワマンの空き部屋”ではなく、“建物を維持する体力の喪失”にあることに、議論が行き着いたからだと私は読んでいます。

3. 数字で見る「空室」——もはや例外ではない

現場感覚だけでは説得力がありません。公的統計で確認しましょう。

空室があるマンションは、全体の34.0%。
国土交通省の「令和5年度マンション総合調査」によれば、空室があるマンションの割合は34.0%。完成年次が古いマンションほど、空室がある割合が高くなる傾向がはっきり出ています。さらに、所在不明・連絡先不通の空室があるマンションは3.3%にのぼります(出典:国土交通省「令和5年度マンション総合調査」)。

3棟に1棟は、すでに空室を抱えている。これが日本のマンションの現在地です。

空き家は全国で900万2千戸、空き家率13.8%。
総務省「令和5年住宅・土地統計調査」では、空き家数は900万2千戸と過去最多、空き家率は13.8%と過去最高を更新しました。しかも見落とされがちですが、空き家のうち共同住宅が502万9千戸(55.9%)を占めます。「空き家=地方の古い戸建て」というイメージは、もう実態と合っていません(出典:総務省統計局「令和5年住宅・土地統計調査」)。

居住者の高齢化も同時進行。
同じマンション総合調査では、70歳以上の居住者の割合は25.9%(前回調査比+3.7ポイント)。1984年(昭和59年)以前に建てられたマンションでは、実に55.9%が70歳以上です。

空室と高齢化。この二つが同時に進むと、管理組合はどうなるか。役員のなり手がいない、決議に必要な賛成が集まらない、値上げが決まらない、工事が決まらない。私が現場でお会いする理事長さまの多くが、まさにこの壁の前で立ち止まっておられます。

4. 空室が管理組合と建物に与える、3つのダメージ

空室を「使っていない部屋があるだけ」と考えると、本質を見誤ります。空室は、次の3つの経路で建物そのものを傷めます。

ダメージ①:修繕積立金と管理費の「回収不能リスク」

空室そのものは滞納ではありません。所有者がきちんと払っていれば問題ないからです。しかし、空室が長期化する住戸ほど、所有者の関心が薄れ、相続が発生し、連絡が取れなくなる確率が上がります。所在不明・連絡先不通が3.3%のマンションで発生しているという数字は、そのなれの果てです。

修繕積立金は、大規模修繕という「まとまった支出」のために10年、20年かけて積むお金です。その原資に穴が空くということは、工事の時期が来ても資金がないという事態に直結します。

ダメージ②:総会決議が「動かなくなる」

大規模修繕の実施や、修繕積立金の値上げは、総会での決議事項です。空室で所有者が不在、あるいは無関心だと、議決権行使書すら返ってきません。反対されるのではなく、「賛成にも反対にも届かない」ことで議案が流れる。これが、実務で一番厄介です。

私が伺った物件でも、「劣化診断では明らかに手を打つべき段階なのに、あと数戸の賛成が集まらず1年先送り」というケースがありました。その1年で外壁のひび割れは進み、雨水が入り、翌年の見積りは上がっていました。先送りには、必ず値札がつきます。

ダメージ③:建物の劣化が「空室をさらに生む」

外壁が汚れ、シーリングが痩せ、鉄部が錆びている建物は、内見の第一印象で確実に負けます。賃貸に出しても決まらない、売りに出しても値がつかない。すると所有者はますます「空けたまま」を選び、管理への関心を失う——。

空室 → 資金不足 → 修繕先送り → 劣化 → さらに空室。この輪を、私は「マンションの静かな下り坂」と呼んでいます。神戸市が税で介入しようとしているのは、この下り坂に入った建物が街に増えることへの危機感なのだと思います。

5. 神戸だけの話ではない——先行事例と、全国への波及

「うちは神戸じゃないから関係ない」と思われた方に、一つだけお伝えしておきたい事例があります。

京都市の「非居住住宅利活用促進税」、いわゆる空き家税です。市街化区域内の、居住実態のない住宅に課税する法定外税として、すでに総務大臣の同意を得て条例が成立しています。課税開始はシステム開発の都合で1年延期され、令和12年度(2030年度)からの予定とされています(出典:京都市「非居住住宅利活用促進税について」)。

つまり日本では、「住まない住宅に自治体が課税する」という枠組みが、すでに一度、国の同意を得て成立しているのです。神戸市の答申案は、その延長線上にあります。

税制の行方を予測するのは私の仕事ではありません。ただ、「空室を抱え続けるコストは、これから上がる方向にある」という流れは、収益物件を持つ立場として頭に入れておいて損はないはずです。固定資産税、管理費、修繕積立金、そして場合によっては空室への課税。持っているだけで出ていくお金が増えていく。

だとすれば、オーナーさまが取り得る手は、突き詰めると3つしかありません。

  1. 貸す(稼働させる)
  2. 売る(手放す)
  3. 持ち続ける(コストを許容する)

そして——1でも2でも3でも、建物の状態が結果を左右します。貸すなら決まりやすさ、売るなら価格、持ち続けるなら維持費。すべて、建物のコンディションが効いてくる。ここで、ようやく大規模修繕の話に戻ってきます。

6. 【現場から】足場は、ときに“空室対策の敵”になる

ここからは、統計ではなく、私が現場で見てきた話をします。

賃貸に出している住戸をお持ちのオーナーさまから、こんなご相談をよくいただきます。

「大規模修繕の期間中は、入居が決まらないんですよ」

これは、感覚ではなく実態です。建物全体に仮設足場を組み、メッシュシートで覆う。すると何が起きるか。

  • 内見の印象が落ちる:足場とシートで外観が見えず、室内も暗くなる
  • 日照・通風が遮られる:既存の入居者からも不満が出る
  • 防犯上の不安:足場は物理的に上階へ登れる経路になります。実際、工事期間中の防犯対策は管理組合の重要議題です
  • プライバシーへの懸念:窓の外を職人が行き来する。特に単身女性の入居者から敬遠されやすい
  • 騒音・臭気:高圧洗浄や塗装の臭いは、内見の日に当たれば決定打になります

結果として、工事期間中は募集を止める、あるいは賃料を下げる。3〜6か月にわたる工事なら、その間の機会損失は決して小さくありません。大規模修繕は資産価値を守るための投資なのに、その工事のやり方次第で、目先の稼働率と収益を削ってしまう。これが、収益物件オーナーさまが抱える、あまり語られないジレンマです。

そして空室税のような制度が現実味を帯びるなら、この「工事期間中に空室が埋まらない」という問題は、単なる機会損失ではなく、課税リスクにもつながりかねない話になります。少なくとも、以前より重く受け止める理由が増えました。

数字にしてみると、無視できない金額になります

抽象論では動けませんので、簡単な試算をしてみます。あくまで考え方を示すための仮の数字で、実際の金額は物件によって大きく変わることを、先にお断りしておきます。

たとえば、賃料10万円の住戸を10戸お持ちのオーナーさまがいるとします。通常であれば、退去が出ても1か月ほどで次が決まる立地です。ところが大規模修繕が始まり、建物全体が足場とシートで覆われた。工期は5か月。この間、たまたま2戸が退去し、募集をかけたものの内見が入らず、工事が終わるまで決まらなかった——。

10万円 × 2戸 × 4か月=80万円。これが、消えた家賃です。さらに「早く決めたい」と考えて賃料を5,000円下げれば、その減額は入居後もずっと続きます。5,000円 × 12か月 × 2戸で、年間12万円。契約が続く限り、この差は毎年効いてきます。

もし工法の見直しで工期を2か月短縮でき、しかも建物がシートで覆われずに済んだなら、この損失の相当部分は発生しません。仮設費の削減額だけでなく、「稼働を止めなかったこと」の価値も、工法選択のリターンに含まれる。私が収益物件のオーナーさまに、必ずこの視点をお伝えする理由です。

7. ロープアクセス(無足場工法)が、空室リスクを下げる理由

私たち明誠が、通常の足場工法に加えてロープアクセス工法(無足場工法)と、両者を組み合わせたハイブリッド工法を扱っているのは、まさにこの問題に答えを出すためです。

ロープアクセス工法とは、屋上から産業用ロープで作業員が降下し、外壁の補修・塗装・防水・シーリング打ち替えなどを行う工法です。足場を組まないため、次のような違いが生まれます。

  • 建物がシートで覆われない:外観が見える。内見にも影響が出にくい
  • 日照・通風が確保される:入居者の生活影響が最小限
  • 足場という“侵入経路”ができない:防犯上の不安が大きく減る
  • 仮設・解体の期間が不要:工期そのものが短くなる
  • 足場費用が発生しない:一般に工事費の2割強を占める仮設費を圧縮できる

つまり、空室リスクを下げながら、同時に工事コストも下げられる。空室対策と修繕コスト削減が、工法選択という一点で交わるのです。

もちろん、ロープアクセスが万能だと申し上げるつもりはありません。正直に、限界もお伝えします。

  • 大量の資材を同時に上げ下げする作業(外壁全面の大規模なタイル張り替えなど)には不向きな場合があります
  • 屋上に支点(アンカー)を確保できない構造では採用できません
  • 複雑な形状や、低層で足場の方が早い建物もあります
  • 有資格の技能者が必要で、施工体制のある会社が限られます

だからこそ、私たちは「ロープありき」で提案しません。建物ごとに、足場・ロープアクセス・ハイブリッドの3つから最適解を選ぶ。これが明誠の立ち位置です(詳しくはロープアクセス工法のページをご覧ください)。

8. 3つの工法を、空室・収益の目線で比べる

一般的な傾向として、次のように整理できます(建物条件により異なります)。

比較軸 通常足場工法 ロープアクセス工法 ハイブリッド工法
仮設費 工事費の2割強を占めることが多い 原則発生しない 必要な部位のみ
工期 仮設・解体の期間が加算される 短くなりやすい 中間
外観・内見への影響 シートで全面が覆われる 影響が小さい 部分的
入居者の生活影響 日照・通風・プライバシーに影響 最小限 部分的
防犯面 侵入経路が生まれるため対策が必要 足場に起因する不安がない 部位により対策
大量施工・重量物 得意 不得意な場合がある 得意な部位に足場を割当
向く建物 中低層、複雑形状、全面改修 高層、足場架設が困難、コスト重視 大規模・複雑で総合最適が必要

見ていただきたいのは、「どれが優れているか」ではなく「どの軸を優先するか」です。全面的にタイルを張り替える必要がある建物なら、足場を組んだ方が結局は安く早い。逆に、外壁の部分補修と塗装・シーリングが中心で、稼働を止めたくない収益物件なら、ロープアクセスの価値が跳ね上がります。

そして実務で最も多いのが、ハイブリッドです。北面は足場、他の3面はロープアクセス。低層部だけ足場、上層はロープ。こうした「使い分け」で、コストと生活影響のバランスを取ります。

現場から——「全面足場」を疑うところから始まる

以前、築30年を超える中層マンションの相談を受けたことがあります。総戸数は50戸ほど、うち数戸が長く空いたままでした。管理会社経由で出てきた見積りは、当然のように建物全面に足場を組む前提。仮設工事だけで総額の2割を優に超えていました(物件が特定されないよう、状況は一部変えて記しています)。

現地を拝見して、まず確認したのは劣化の分布です。実際に手を入れる必要があるのは、雨掛かりの厳しい面と、シーリングの痩せた目地、そして共用廊下側の鉄部が中心。全面をタイルごと張り替えるような工事ではありませんでした。

そこでご提案したのが、部位ごとに工法を切り替えるという考え方です。低層部と作業量の多い面には足場を残す。上層階と、点在する補修が中心の面はロープアクセスで対応する。結果として仮設の範囲は大きく縮み、工期も短くなりました。

理事の方々に一番喜ばれたのは、実は金額ではありませんでした。「建物全体がシートで覆われる期間が短くなったこと」です。日当たりが戻る、洗濯物が干せる、外から建物が見える。住んでいる方にとっては、そこが一番の関心事なのだと、あらためて学びました。

そして空室を抱えていたオーナーの方からは、「募集を止めずに済んだ」と言っていただきました。空室対策とコスト削減が同じ方向を向いた、分かりやすい例だったと思います。

9. 空室と積立金の悪循環を断つ——「第4の選択肢」

修繕積立金が足りない。この相談を受けたとき、多くの現場で提示される選択肢は3つです。

  1. 値上げする(住民の合意が要る/空室所有者の同意は取りにくい)
  2. 借り入れる(利息が乗る/将来世代の負担になる)
  3. 工事を先送りする(劣化が進み、次の見積りはさらに上がる)

どれも痛みを伴います。特に空室を抱えた組合では、1は決議が通らず、3に流れがちです。

私が申し上げたいのは、その手前にある第4の選択肢です。

  1. 工事そのもののコストを、工法で下げる

見積書の「仮設工事」の欄を見てください。総額の2割強がそこに計上されているなら、その2割強は、建物を直すお金ではありません。職人を高所に運ぶための、いわば「移動手段」の代金です。移動手段を変えられるなら、そのお金は建物を直すことにも、積立金を残すことにも回せます。

これは値切りではありません。品質を落とすことでもありません。工法という前提条件そのものを、建物に合わせて設計し直すという話です。私はこれを、「削るのではなく、組み替える」とお伝えしています。

10. オーナーさま・管理組合が、今日からできる5つのこと

① 自分の物件の「空室状況」を数字で把握する
何戸中、何戸が空いているか。そのうち賃貸募集中は何戸か。所在不明の所有者はいないか。管理会社に確認すれば分かります。

② 長期修繕計画の前提を確認する
計画がいつ作られたか。前提となる工事費単価はいつの相場か。建設コストは10年で約3割上がっています。5年以上前の計画なら、金額の前提が現実と乖離している可能性が高いと考えてください。

③ 見積書の「仮設工事」の割合を見る
総額に占める仮設費が何%か。2〜3割を大きく超えているなら、「本当に全面足場が必要か」を一度質問してみる価値があります。理由を丁寧に説明できる会社かどうかも、そこで見えます。

④ 工事期間中の「募集停止リスク」を試算する
賃貸に出している住戸があるなら、工事期間×賃料×想定空室戸数を計算してみてください。この金額が、工法選択の判断材料になります。

⑤ 所有自治体の動きを確認しておく
神戸市が答申段階に入ったこと、京都市の空き家税が2030年度課税開始予定であること。この2つは、他自治体の検討材料になり得ます。管理状況の届出義務化を進める自治体も増えています。

よくあるご質問

Q. 神戸市の空室税は、いつから課税されるのですか?
現時点では答申案が示された段階です。市が導入を決めた場合でも、市議会での条例可決と総務大臣の同意が必要です。開始時期は確定していません。確定情報は必ず神戸市の公式発表でご確認ください。

Q. 賃貸に出していれば課税対象になりませんか?
報道によれば、非居住かどうかは住民票の有無を基本に判断するとされています。制度設計の詳細は今後の条例で定まりますので、断定はできません。税務の個別判断は、必ず税理士や所管自治体にご相談ください。

Q. 空室があると、大規模修繕はできなくなりますか?
できなくなるわけではありません。ただ、資金と決議の両面でハードルが上がります。だからこそ、工事費そのものを工法で圧縮し、必要な決議のハードルを実質的に下げるアプローチが有効になります。

Q. ロープアクセスは、足場より品質が落ちませんか?
落ちません。使う材料も工程も同じです。違うのは「職人がどうやってその場所に行くか」だけです。むしろ足場がない分、施工面に近い距離で作業でき、丁寧に見られるという声もいただきます。

Q. 築40年の中層マンションでも使えますか?
屋上に支点を確保でき、施工範囲が塗装・防水・シーリング・部分補修が中心であれば、多くの場合で採用可能です。まず建物を見せていただくのが確実です。

Q. 相談だけでもいいのですか?
もちろんです。「工事を発注する前提」でなくて構いません。長期修繕計画の金額が今の相場に合っているか、仮設費の割合が妥当か、という整理だけでもお力になれます(施工事例はこちら)。

おわりに——空室は「持ち方」の問題であり、「直し方」の問題でもある

神戸市の答申案は、まだ確定した税制ではありません。けれど、この動きが投げかけている問いは、税とは関係なく重いものです。

「その部屋を、あなたはどう使いますか。その建物を、誰が維持しますか。」

空室を埋めるには、建物が選ばれるものでなければならない。建物が選ばれ続けるには、適切なタイミングで手を入れなければならない。手を入れるには、お金と決議が要る。お金と決議を整えるには、工事のコストが現実的な水準でなければならない——。

すべては、一本の線でつながっています。私たち明誠が、足場・ロープアクセス・ハイブリッドの3つの工法を持ち、日本で初めてロープアクセス工事のフランチャイズを展開してきたのは、この線のどこかで詰まっている建物を、少しでも前に進めたいからです(明誠の考え方はこちら)。

「足場ありきでもロープありきでもなく、この建物にとって一番いい組み合わせを一緒に探しましょう」。理事長さまやオーナーさまに、私はいつもそうお伝えしています。工法は目的ではなく、資産価値を守るための手段だからです。

総会の前段階の整理だけでも、お力になれることがあります。ご相談だけでも遠慮なくお声がけください(お問合せフォームはこちら)。

次回も、現場で本当に使える話だけをお届けします。

出典・参考資料

▼ロープアクセス工法・無足場工法の詳細解説はこちら
ロープアクセスドットコム|無足場工法専門メディア

大規模修繕の“工事会社選び”が命運を分ける——塗装・防水の倒産が2000年以降で最多ペースに入った2026年、管理組合とオーナーが施工会社の危険サインを見抜き、工法と体制でリスクを下げる実務【2026年7月】

今朝のニュースで、私が思わず手を止めた見出し

今朝、いつものように業界のニュースに目を通していると、ひとつの見出しで手が止まりました。「塗装・防水工事の倒産が2000年以降で最多ペース」。数字を追う仕事を20年近く続けてきた私でも、正直に申し上げて、この数字にはひやりとしました。

私は大規模修繕の現場でずっと働いてきました。マンションやビル、ホテルの外壁を塗り、屋上を防水し、タイルを直す——その仕事を担うのは、多くの場合、地域の中小の専門工事会社です。その塗装・防水の会社が、いま過去に例のないペースで倒産している。これは他人事ではなく、これから大規模修繕を控えている管理組合の理事長さまや、収益物件をお持ちのオーナーさまにとって、「自分の物件の工事は途中で止まらないか」という、きわめて現実的な問題に直結します。

今日は、この倒産増加のニュースを入り口に、「大規模修繕の工事会社選び」で失敗しないための実務を、現場の視点から整理してお伝えします。読み終えるころには、次の理事会や発注判断で「どこを見ればよいか」が具体的に見えているはずです。少し長くなりますが、お付き合いください。

この記事の主役はあくまで工事会社選びです。工法(足場・ロープアクセス)や修繕積立金の話も出てきますが、すべては「安心して任せられる相手をどう見極めるか」につながる材料として読んでいただければと思います。


まず数字で押さえる:2026年の塗装・防水工事の倒産はどれくらい深刻か

1〜5月で80件、2000年以降最多だった前年に次ぐ高水準

出どころのはっきりした一次データから確認します。帝国データバンクの調査によると、2026年1〜5月に発生した「塗装工事」と「防水工事」の倒産は80件(内訳は塗装工事56件、防水工事24件)でした。これは、通年の件数が2000年以降で最多となった2025年(通年206件、うち1〜5月は87件)に次ぐペースだと報告されています(出典:帝国データバンク「『塗装・防水工事』の倒産動向(2026年1-5月)」2026年6月8日)。

負債額別に見ると、1億円未満が69件と全体の約86.3%を占めました。つまり、倒れているのはその多くが小規模事業者だということです。ここが今回の数字のいちばんの肌感覚だと私は思います。大企業が派手に倒れているのではなく、地域で外壁や防水を担ってきた身近な会社が、静かに、しかし数多く姿を消しているのです。

なお、この集計は「負債1000万円以上・法的整理による倒産」が対象です。廃業や事業停止など統計に表れない「静かな撤退」まで含めれば、体感としての数字はさらに大きいと私は受け止めています。

なぜ「川下」の塗装・防水がしわ寄せを受けるのか

塗装工事と防水工事は、大規模修繕という長い工程のなかでも「川下(かわしも)」——つまり仕上げに近い後半の工程に位置します。ここが構造的に弱い立場に置かれやすい。前工程(足場架け、下地補修、シーリング打ち替えなど)が遅れれば、そのしわ寄せは最後の塗装・防水にまとめて降りかかります。工期が押しても、竣工日は動かせないことが多い。結果として、無理な突貫や追加人員の投入で採算が崩れる。私はこの構図を、現場で数えきれないほど見てきました。

専門用語を少しかみ砕くと、「川下工程」というのは、他社の作業が終わらないと自分の作業に入れない、順番の後ろにいる仕事のことです。後ろにいる者ほど、前の遅れを全部かぶる。塗装・防水の会社が資金繰りに苦しみやすいのは、腕の問題ではなく、この立ち位置の問題でもあるのです。


なぜ今、これほど倒産が増えているのか——3つの構造要因

倒産の増加を「たまたま」で片づけると、工事会社選びを誤ります。背景には、当分ゆるまない3つの構造要因があります。

要因1:資材の高騰と、中東情勢によるナフサ不足

塗料や防水材の多くは、ナフサ(原油を精製してつくる石油由来の原料)から生まれる溶剤や樹脂を使っています。養生シートや容器といった副資材もナフサが原料です。帝国データバンクの同じ調査は、中東情勢によるナフサ不足の影響で、すでに塗料・防水材の納期や価格に影響が出ていると指摘しています。現場では、値上がり幅が読めずに工事金額の見積り提示が難しくなったり、資材が入らずに工期が遅れたりするケースが起きています。

私の実感でも、ここ数年で塗料や防水材の見積りは「去年の単価が使えない」状態が続いています。仕入れが上がっても、工事金額に転嫁しきれない会社ほど、体力を削られていきます。

要因2:職人の高齢化・引退による人手不足と、労務費の上昇

もうひとつは人です。塗装も防水も、腕のある職人がいてこそ成り立つ仕事です。ところが高齢化で職人の引退が進み、人手不足が慢性化しています。人が足りなければ、外注費や人件費は上がる。ここでも、上がったコストを工事金額に反映できない会社から、利益が消えていきます。

数字の体感として申し上げると、40戸規模のマンション1棟の外壁改修でも、塗装・防水にかかわる職人は延べで数百人工(にんく=1人が1日働く単位)に及びます。その一人ひとりの単価が上がっている以上、「去年と同じ金額でやります」という見積りは、どこかに無理を隠していると考えたほうが安全です。

要因3:価格転嫁できない下請け構造と、それを正そうとする改正建設業法

3つ目が、いちばん根が深い「価格転嫁できない構造」です。安い工事単価・短い工期で案件を取り合う競争が、いまも各地で起きています。無理な条件で受注し、人件費や工期遅れが想定を超えて不採算に陥り、資金繰りに行き詰まる——帝国データバンクが描くこの流れは、私が現場で見てきた倒産の典型そのものです。

この構造にメスを入れようとしているのが、2025年12月12日に全面施行された改正建設業法です(出典:国土交通省「建設業法・入契法改正(令和6年法律第49号)について」)。ポイントは大きく2つあります。

ひとつは「労務費の基準」です。著しく低い労務費による見積りの提出や、その変更依頼が禁止されました。国は職種ごとに標準的な労務費の基準値を定めて公表しており、2025年12月時点で13の職種分野・99の基準値が示されています(出典:国土交通省「労務費に関する基準ポータルサイト」)。もうひとつは価格転嫁のルール化で、資材高騰時の請負代金の「変更方法」を契約書の法定記載事項とし、資材高騰のおそれがあるときは受注者から発注者へ事前に情報を通知する仕組みが整えられました。

私はこの改正を、現場の人間として素直に歓迎しています。ただし、法律が整っても、実際に適正な単価で発注し、適正な体力の会社を選ぶかどうかは、最後は発注者——つまり管理組合とオーナーの判断にかかっています。だからこそ、次の「会社の見極め方」が重要になるのです。


管理組合・オーナーにとっての本当のリスク——「工事が途中で止まる」だけではない

工事会社が倒産すると何が起きるか。「工事が止まる」だけを想像しがちですが、実務ではもっと広い範囲に影響が及びます。

工期途中の倒産で起きること

第一に、工事の中断です。足場がかかったまま、外壁が下地のまま数か月放置される——これは資産価値にも住民の安全にも直結します。第二に、前払金の焦げつきです。着手金や中間金を支払っていた場合、その回収は簡単ではありません。第三に、瑕疵(かし)保証の空洞化です。「瑕疵保証」とは、工事後に不具合が出たときに施工会社が直す約束のことですが、その会社が消えてしまえば、約束の相手そのものがいなくなります。

修繕積立金は、住民の皆さまが長い年月をかけて積み上げてきた大切なお金です。国のガイドラインでも、段階的に積立額を上げていく方式では計画最終額を基準額の1.1倍以内に収めるなど、無理のない積立の考え方が示されています(出典:国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」(令和6年6月改定))。その積立金を、施工会社の倒産という「工事の質とは別の理由」で毀損させてはいけない。私がこの仕事でいちばん悔しい思いをするのは、良い工事をしたかったのに、相手の資金繰りのせいで話が壊れてしまうときです。

「安値・短工期」に飛びつくと、倒産リスクを自分から抱え込む

ここは正直に申し上げます。相見積りで極端に安い金額や、極端に短い工期を提示してくる会社には、注意が必要です。帝国データバンクの調査も、安い工事単価や短い工期で案件を確保しようとする競争が、その後の不採算化と資金繰りの行き詰まりにつながっていると指摘しています。つまり、いちばん安い見積りに飛びつくことは、いちばん倒れやすい会社を選んでしまうリスクと背中合わせなのです。

もちろん、コストを下げる努力は大切です。私たちも工法の工夫でコストは徹底的に抑えます。ただし「安さの理由」が説明できる安さと、「誰かが無理をしている」安さは、まったく別物だと考えています。


施工会社の“危険サイン”を見抜く7つのチェックポイント

では、実務としてどこを見ればよいか。私が理事長さまやオーナーさまに、いつもお伝えしているチェックポイントを表にまとめます。専門知識がなくても確認できるものばかりです。

# 見るポイント 危険サイン 確認の仕方
1 見積りの内訳 「一式」ばかりで数量・単価・労務費が見えない 数量内訳書と労務費の明示を求める
2 極端な安値・短工期 相場から大きく外れて安い/異様に工期が短い 他社2〜3社と比較し、安さの根拠を質問
3 建設業許可・経営状況 許可の有無や更新状況が確認できない 許可番号・決算内容・完成保証の有無を確認
4 施工体制 元請が何をやり、どこに下請けに出すか不明瞭 施工体制台帳・自社施工比率を確認
5 契約書の中身 資材高騰時の代金変更方法が書かれていない 改正建設業法に沿った変更条項の有無を確認
6 保証とアフター 保証書がない/会社の継続性に不安 保証年数・保証主体・第三者保証の有無
7 実績と現場対応 近隣・同規模の実績を示せない 施工実績と、現地調査時の説明の丁寧さ

この7点は、腕の良し悪しを測るというより、「この会社は最後まで走り切れる体力と誠実さがあるか」を測るための項目です。とくに1番の見積り内訳と、5番の契約書の変更条項は、改正建設業法が後押ししてくれるので、いま強く求めやすくなっています。

私はこれを、必ずワンセットでご提案するようにしています。1社だけを見て決めるのではなく、この7点で複数社を横並びにすると、価格だけでは見えなかった「安心して任せられるかどうか」が浮かび上がってきます。


「工事会社選び」で失敗しないための、見積りと体制の実務

チェックポイントを踏まえて、とくに効く2つの実務を深掘りします。

見積りは「労務費が見えるか」で読む

改正建設業法の労務費の基準は、裏を返せば「労務費をきちんと見積書に書ける会社かどうか」を、発注者が確かめる物差しになります。数量と単価、そして労務費の内訳が明示された見積りは、それだけで一定の誠実さの証拠です。逆に「工事一式◯◯円」としか書かれていない見積りは、安く見えても、どこで無理をしているかが読めません。

大規模修繕は、大規模修繕工事という長い工程の集合体です。足場、下地補修、シーリング、塗装、防水、タイル……それぞれに数量と単価があります。その内訳を開示できる会社は、工程管理も原価管理もできている会社である可能性が高い。私は見積書を「価格表」ではなく「その会社の仕事の設計図」として読むようにしています。

元請の施工体制と、下請構造を確認する

もうひとつは施工体制です。元請会社が自社でどこまで施工し、どの工程をどんな協力会社に任せるのか。ここが不透明だと、いざ一次下請けが倒れたときに、工事全体が止まりやすくなります。逆に、専門工事を担う協力ネットワークが厚く、代替がきく体制であれば、1社の不調が全体の停止に直結しにくい。

管理組合の立場でこれを確認するのは難しく感じるかもしれませんが、遠慮は要りません。管理組合向けの大規模修繕サポートを掲げる会社であれば、施工体制の説明はむしろ歓迎するはずです。説明を面倒がる会社かどうかも、ひとつの判断材料になります。


現場から:私が「これは危ないな」と感じた見積りの話

抽象論だけでは伝わりにくいので、実際にあった話を、物件が特定されない形にして紹介します。あるとき、築20年ほど・50戸規模のマンションの理事長さまから、「3社の相見積りのうち1社が飛び抜けて安いので、そこに決めようと思う」とご相談をいただきました。金額を拝見すると、確かに他の2社より2割ほど安い。ただ、内訳を見ると外壁塗装も屋上防水も「一式」で1行にまとめられ、数量も単価も労務費も書かれていませんでした。

私は正直に申し上げました。「この安さの理由が、見積書からは読み取れません」と。念のため数量を割り戻して概算してみると、その金額では、この規模の外壁面積を適正な人工(にんく)で仕上げるのは相当に厳しい。どこかで工程を削るか、誰かが無理をしないと成立しにくい数字でした。

理事会にお願いして、3社すべてに数量内訳と労務費の明示を求めていただいたところ、その1社だけが対応をためらいました。最終的に管理組合は、金額は少し高くても内訳を開示できる会社を選ばれました。その後、飛び抜けて安かった会社は資金繰りが厳しいという話が地域で聞こえてきた——というのが結末です。私はこのとき、「安さそのもの」ではなく「安さを説明できるかどうか」が、いかに大事な分かれ目かを、あらためて痛感しました。

もちろん、内訳を出せない会社がすべて危ないわけではありません。ただ、住民の皆さまの積立金を預かる判断としては、「説明できる相手」を選ぶほうが、はるかに安全です。私はこれを、必ず理事長さまにお伝えするようにしています。


数字で見る:足場費を抑えると、どこまでコストが動くか

工事会社選びと工法選びは、実はコストの面で深くつながっています。ここは戸あたりの財布感覚でお伝えします。

一般に、マンションの大規模修繕では、足場の架設・解体にかかる費用が工事費全体の2割前後を占めることがあります。仮に総額6,000万円の工事なら、足場だけで1,000万円を超えることも珍しくありません。50戸のマンションなら、単純計算で戸あたり20万円強が「足場」に使われている計算です。ここは工事の品質そのものではなく、あくまで「作業のための仮設」にかかるお金だという点が大切です。

ロープアクセス工法を部分的にでも取り入れられれば、この足場費と、架設・解体に要する日数を圧縮できます。全面をロープアクセスに置き換えられるとは限りませんが、たとえば手すりや庇(ひさし)まわり、部分的な補修、点検・調査などをロープアクセスに切り替えるだけでも、仮設コストと工期の両面で効いてきます。資材も人手も高騰している今だからこそ、「削れるのは品質ではなく仮設」という発想が、積立金を守る現実的な一手になります。

ただし、ここでも正直に申し上げます。工法でコストを下げられても、それを担う施工会社の体力が伴わなければ意味がありません。安い工法を、無理な単価で受けた会社に任せれば、結局は倒産リスクを抱え込むことになる。工法選びと会社選びは、必ずワンセットで考える——これが私の一貫したお願いです。


明誠の考え方——直営と専門職ネットワーク、そして3工法でリスクを分散する

ここからは、私たちがどう考えているかを、自社サービスの紹介として率直にお話しします(利益相反にあたる部分ですので、見出しで明確に区切っておきます)。

専門職のフランチャイズ・ネットワークが「途中で止まらない」体制をつくる

私たち明誠は、塗装・防水・タイル・電気・看板など、各分野の専門職が加盟するフランチャイズのネットワークを持っています。これは日本でも数少ない取り組みだと自負しています。なぜこの体制がリスクに強いか。理由はシンプルで、特定の1社に依存しないからです。ある工程の協力会社が不調でも、同じ品質基準を共有する専門職が代替できる。工事全体が1社の資金繰りで止まる、という事態を構造的に起こしにくくしています。

しかも、各分野の専門職が直接手を動かすため、中間マージンが積み重なりにくく、高品質と低価格を両立しやすい。安さの理由が「誰かの無理」ではなく「体制の合理性」から来ている——私が先ほど申し上げた「説明できる安さ」とは、まさにこのことです。

足場・ロープアクセス・ハイブリッドの3工法で、コストと工期のリスクを下げる

もうひとつの強みが工法です。私たちは、通常の足場を架ける工法、足場を架けないロープアクセス工法、そして両者を部位ごとに使い分ける足場・ロープアクセス・ハイブリッドの3工法から、建物にとって最適なものをご提案できます。

資材も人手も高騰するいまの局面では、工事費の2割前後を占めることもある足場費をどう抑えるかが、コストを左右します。ロープアクセス(産業用ロープで作業員が下降しながら施工する無足場工法)を使えば、足場の架設・解体の費用と工期を圧縮でき、居住者や利用者の生活への影響も小さく抑えられます。一方で、全面改修や複雑な形状には足場が向く場面もある。だからこそ「1工法しか持たない会社」より、「3工法から選べる会社」のほうが、コストと工期のリスクを分散しやすいのです。

ただし、正直に申し上げれば、ロープアクセスにも不向きな条件はあります。大面積を一度に仕上げる工程や、重量物を扱う作業は足場が適します。デメリットも含めて両論をお伝えしたうえで、建物ごとに最適な組み合わせをご提案する——これが私たちの基本姿勢です。


発注前に押さえたい「備えの実務」——完成保証と瑕疵保険

倒産リスクの時代に、会社選びと並んで大切なのが「もしも」への備えです。ここでは、契約前に確認しておきたい2つの仕組みを、素人向けにかみ砕いてご説明します。専門用語が続きますが、いずれも住民の皆さまの積立金を守る盾になるものです。

完成保証——工事が途中で止まらないための保険

「完成保証」とは、万が一、施工会社が工事の途中で倒産しても、第三者(保証会社など)が工事の完成や、別の会社への引き継ぎを保証してくれる仕組みのことです。大規模修繕は数か月にわたる長い工事ですから、その間に施工会社の資金繰りが悪化する可能性はゼロではありません。完成保証がついていれば、工事が宙に浮いて足場だけが残る、という最悪の事態を避けやすくなります。契約前に「完成保証はつきますか」と一言確認するだけで、リスクの見え方は大きく変わります。

瑕疵保険——工事後の不具合に、会社が消えても備える

もうひとつが「瑕疵(かし)保険」です。これは、工事後に外壁のひび割れや防水の不具合など、いわゆる施工不良が見つかったときに、補修費用が保険でカバーされる仕組みです。ポイントは、施工会社が倒産したあとでも保険が機能するという点にあります。先ほど、会社が消えれば瑕疵保証の「約束の相手」もいなくなると申し上げましたが、瑕疵保険はその弱点を補ってくれます。国が登録した保険法人の保険を使えるか、保証年数は何年かを、見積りの段階で確認しておくと安心です。

私はいつも理事長さまに、「工事の品質は現場で守り、万が一の備えは契約で守る」とお伝えしています。この2つは車の両輪です。良い会社を選ぶことと、その良い会社が万が一のときにも住民に迷惑をかけない仕組みを整えること——どちらも、発注者であるみなさまが主導権を持って確認できることなのです。


まとめ:次の理事会で、今日確認したい3つのこと

長くなりましたので、最後に要点を絞ります。塗装・防水工事の倒産が過去最多ペースに入った2026年、大規模修繕の工事会社選びで守っていただきたいのは、次の3つです。

第一に、いちばん安い見積りに飛びつかないこと。安さの理由が説明できるか、労務費が見積書に明示されているかを確認してください。第二に、会社の体力と体制を見ること。建設業許可、決算、保証、施工体制台帳、そして1社が不調でも工事が止まらない協力ネットワークがあるかを確かめてください。第三に、契約書に資材高騰時の変更方法が書かれているかを、改正建設業法を根拠に求めることです。

これは私が現場で20年見てきた、嘘偽りのない感想です。良い工事は、良い会社選びから始まります。工法の比較でも、施工会社の見極めでも、あるいは「うちの物件の場合はどうか」という一点だけでも、無料相談・現地調査からお気軽にお声がけください。総会や理事会の前段階の整理だけでも、きっとお力になれることがあります。次回も、現場で本当に使える話だけをお届けします。


よくある質問(FAQ)

Q1. 相見積りで一番安い会社を選ぶのは、やはり危険なのでしょうか?
安さそのものが悪いわけではありません。問題は「安さの理由が説明できるか」です。工法の工夫や体制の合理性で安いなら合理的ですが、労務費や工期に無理を隠した安さは、工事の中断や倒産リスクと背中合わせです。見積り内訳と労務費の明示を必ず確認してください。

Q2. 工事の途中で施工会社が倒産したら、支払ったお金や積立金はどうなりますか?
前払金の回収や瑕疵保証の履行は容易ではありません。だからこそ、着手前に完成保証(工事完成を第三者が保証する仕組み)の有無や、会社の財務状況を確認しておくことが重要です。積立金という大切な資産を、工事の質とは別の理由で失わないための備えです。

Q3. 「労務費の基準」は、発注者である管理組合にも関係がありますか?
関係します。2025年12月に全面施行された改正建設業法で、著しく低い労務費による見積りは禁止されました。管理組合は「労務費が見積書に明示されているか」を確認することで、無理のない適正な発注ができているかを自分たちで点検できます。

Q4. ロープアクセス(無足場工法)にすれば、必ず費用は下がりますか?
必ずではありません。足場の架設・解体費や工期を圧縮できるため下がる場面は多いのですが、大面積を一度に仕上げる工程や重量物作業では足場が適することもあります。建物の形状や工事範囲によって最適解は変わるため、3工法を比較したうえでの判断が安全です。

Q5. 小さな地域の工事会社は、避けたほうがよいのでしょうか?
一概には言えません。地域の会社にも誠実で腕の良い会社は数多くあります。重要なのは規模の大小ではなく、体力(財務・保証)と体制(1社依存でないか)です。7つのチェックポイントで横並びに比較すれば、規模だけでは見えない実力が見えてきます。

Q6. 今の管理組合で、まず何から手をつければよいですか?
まずは手元の見積書を1〜2社分、内訳が数量・単価・労務費まで開示されているかという目で読み直してみてください。そのうえで、比較のために工法や体制の異なる会社の話も聞いてみる。理事会で1分でもこの話題を出すことが、最初の一歩になります。


出典・参考資料

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の契約・法務・会計上の判断については、専門家および公的機関の最新情報をご確認ください。数値・制度は2026年7月時点の公表情報に基づいています。

▼ロープアクセス工法・無足場工法の詳細解説はこちら
ロープアクセスドットコム|無足場工法専門メディア

大規模修繕の費用が10年で3割上がった時代に——工事費の2割強を占める「足場」をどう見直すか。建設費高騰と職人不足の逆風を、無足場・ハイブリッド工法で乗り切るオーナーと管理組合の実務【2026年7月】

大規模修繕の費用が10年で3割上がった時代に——工事費の2割強を占める「足場」をどう見直すか

今朝、いつものように建設・不動産のニュースに目を通していたところ、あるホテル業界の記事に手が止まりました。「建設費が数年で4割上がり、人材難もあって計画中の新規開業が消えていく」という趣旨の内容です。あわせて、国内のホテル改装案件が相次いでいるという記事も並んでいました。新しく建てるのは高すぎて割に合わない、だから既存の建物を直して使い続ける——。今、日本中の建物で起きていることが、そのまま見出しになっていると感じました。

これは、ホテルだけの話ではありません。私が20年近く携わってきたマンションやビルの大規模修繕(建物全体を計画的に補修・改修する工事のこと)の世界でも、まったく同じ逆風が吹いています。正直に申し上げます。この5年ほどで、大規模修繕の見積書の数字は、以前とは別物になりました。

今日は、「なぜこんなに上がったのか」という話で終わらせず、「では、その中で何を削れるのか」という一歩踏み込んだところまでお話しします。結論から言えば、私が理事長さまやオーナーさまに必ずお伝えしているのは、工事費の2割強を占める『足場』にこそ、見直しの余地が大きいということです。

建設費は10年で約3割、労務単価は14年連続で上がっている

まず、感覚論ではなく数字で現実を押さえておきましょう。

国土交通省が毎月公表している「建設工事費デフレーター」という指標があります。これは、物価の動きをそろえて、過去と今の建設コストを比べられるようにした“建設版の物価指数”のようなものです。2015年度を100とした基準で見ると、直近では建設総合が130を超え、鉄筋コンクリート造にいたっては135近辺まで来ています。つまり、わずか10年で建設コストがおよそ3割上がったことになります(出典:国土交通省「建設工事費デフレーター」)。

もう一つ、職人の人件費の目安になるのが「公共工事設計労務単価」です。国が毎年見直す、いわば職人1人1日あたりの標準的な賃金の物差しです。2026年3月から適用される最新版では、全国全職種の単純平均で前年度比プラス4.5%。これで14年連続の上昇となり、加重平均は25,834円と、初めて2万5千円を超えました(出典:国土交通省「令和8年3月から適用する公共工事設計労務単価について」)。

資材が上がり、それを扱う職人の賃金も上がる。大規模修繕は、機械で自動化しにくい「人の手」の工事です。だからこそ、この二つの上昇が、そのまま総額に効いてきます。

そして見落とされがちなのが、この高騰が「新しく建てる工事」だけの話ではないという点です。既存の建物を直す大規模修繕こそ、足場を組み、職人が手作業で外壁や防水を仕上げる、人の手への依存度が高い工事です。新築が高くなったから既存を長く使う——その「長く使うための工事」自体も、同じ理由で確実に高くなっている。これが、今オーナーさまや管理組合が直面している構造です。

私はこの数字を、脅すためにお伝えしているのではありません。むしろ逆で、「値上がりは業者のさじ加減ではなく、国の統計にもはっきり出ている構造的なもの」だと知っていただくことで、次の一手を冷静に考えられるようになるからです。

「人が足りない」——値上がりの裏にある、もう一つの現実

冒頭のニュースにあった「人材難」という言葉。これは、私たち施工の現場で最も肌身に感じている問題です。金額の話にばかり目が行きますが、実は今、建設業界が直面している最大の課題は「そもそも工事をやる職人が足りない」ことにあります。

理由は単純ではありません。長年の担い手の高齢化と引退、若い世代の入職の減少、そして2024年から本格的に始まった時間外労働の上限規制——いわゆる「2024年問題」で、一人の職人が働ける時間にも上限がかかるようになりました。人が減り、一人あたりの稼働時間も限られる。結果として、腕のいい職人ほど予定が先まで埋まり、「頼みたくても、すぐには着工できない」という場面が増えています。

これは、オーナーさまや管理組合にとっても他人事ではありません。工事の発注が遅れれば、それだけ順番待ちが長くなり、劣化はその間も進みます。特に7月から8月にかけての酷暑の時期は、職人の熱中症対策のために作業できる時間帯が限られ、無理な突貫工事は事故のもとになります。私は、暑い盛りに現場を預かる立場として、「安く、早く」だけを追いかけて職人に無理をさせることだけは、避けたいと考えています。

だからこそ、「工事そのものを効率化して、必要な人手と日数を減らす」という発想が効いてきます。足場の組立・解体には、それだけで相応の人手と日数がかかります。ここを圧縮できれば、少ない人手でも工事が回り、職人の負担も減る。コストの話と人手の話は、実は同じ根っこでつながっているのです。

「戸あたりいくら」で体感すると、値上がりの重さが分かる

数字を、読者のみなさまの財布の感覚に置き換えてみます。

マンションの大規模修繕は、よく「1戸あたりいくら」で語られます。市場のいくつかの調査を総合すると、この十数年で1戸あたりの修繕費用はおよそ6割ほど上がり、工事内容によっては1戸あたり200万円を超える例も、今では珍しくなくなりました。

50戸のマンションであれば、単純計算で工事全体が数千万円規模になります。以前の相場観のまま長期修繕計画(30年程度の修繕スケジュールと積立額をまとめた計画書のこと)を立てていると、いざ工事の段になって「積立金が足りない」という事態に直面します。

私が現場で一番悔しい思いをするのは、この「足りない」を理由に、本来やるべき防水や外壁の補修を先送りする決断がなされる瞬間です。先送りした2〜3年のあいだに雨水がコンクリートの内部へ回り込み、鉄筋がさびて膨らみ、コンクリートを内側から押し割る。結果として、次の工事はもっと大がかりで、もっと高くつく。値上がり局面での先送りは、時間差でさらに大きな請求書になって返ってくるのです。

だからこそ、「積立金が足りないなら諦める」ではなく、「同じ品質を、どうすれば無理のない金額で実現できるか」を先に考える。ここからが本題です。

現場で見た「足場を減らしたら数百万円変わった」一件

抽象的な話が続きましたので、私が実際に立ち会った現場の話を一つ、物件が特定されない範囲でお伝えします。

数年前、築20年ほど、40戸規模のマンションのご相談を受けました。当初、別の会社から出ていた見積書は、建物全体を足場で囲う前提のもので、総額はおよそ5,000万円台。管理組合の積立金では数百万円ほど足りず、理事会では「一部の工事を次回に回すしかないか」という空気になっていた、というのが最初の状況でした。

私が現地を一周して感じたのは、「この建物は、全面に足場を建てる必要はない」ということでした。道路に面した2面はタイルの浮きや下地のひび割れが多く、ここは足場を組んで面でしっかり直したほうがよい。一方、隣の建物とわずかしか離れていない残りの面は、そもそも足場を建てるのが難しいうえに、劣化は塗膜の傷み程度で、ロープアクセスで十分に対応できる状態でした。

そこで、足場を建てる範囲を建物の半分ほどに絞り、残りをロープアクセスで仕上げるハイブリッドの形に組み替えました。結果として、仮設まわりの費用がまとまった額で圧縮され、当初「次回に先送り」となりかけていた屋上防水まで、今回の予算の中に収めることができました。理事長さまに「先送りせずに全部やれるとは思わなかった」と言っていただけたのは、今でもよく覚えています。

念のため申し添えますが、これは「どの建物でも同じだけ下がる」という話ではありません。この建物が、たまたま「足場を減らせる条件」を備えていたということです。逆に言えば、その条件を見抜けるかどうかで、同じ建物の見積書が数百万円単位で変わってしまう。だからこそ、現地をきちんと見たうえでの工法設計が大事なのです。

見積書の2割強は「足場」——ここに見直しの余地がある

大規模修繕の見積書を広げると、多くの方が「塗装や防水の材料費が高いのだろう」と思われます。ところが、内訳を分解すると、意外な項目が大きな比率を占めています。それが仮設工事、なかでも足場です。

国土交通省が実施した「マンション大規模修繕工事に関する実態調査」では、工事費の内訳のうち仮設工事がおよそ2割強(約22.8%)を占めるという結果が出ています。建物形状によってはさらに比率が上がり、超高層クラスでは仮設が約3割に達する例もあります(出典:国土交通省「マンション大規模修繕工事に関する実態調査」)。

考えてみれば当然の話です。建物をぐるりと足場で囲うには、大量の鋼材を運び、組み、養生シートを張り、工事が終われば今度は解体して運び出す。足場は、それ自体が壁を1ミリも直してくれるわけではないのに、材料費と、組み立て・解体という手間のかかる人件費がまるごとかかります。そして前章で見たとおり、その人件費こそが今、14年連続で上がり続けている部分なのです。

つまり、建設費高騰の逆風を最も強く受けているのが、この「直接は建物を直さない足場」だとも言えます。ならば、ここを建物ごとに見直すことが、コスト最適化の一番の勘所になります。私はこれを、必ず最初にお客さまと確認するようにしています。

足場をかけない選択肢——ロープアクセス(無足場工法)

そこで登場するのが、ロープアクセス工法です。これは、屋上などから垂らした産業用のロープに、訓練を受けた技術者がぶら下がって作業する、足場を組まない工法です。ビルの窓ガラス清掃で職人がロープで降りているのをご覧になったことがあるかと思いますが、あの技術を、塗装・防水・タイル補修・シーリング打ち替えといった修繕工事に応用したものと考えていただくと分かりやすいです。

ロープアクセスの利点は、そのまま足場の弱点の裏返しになります。

  • 足場の材料費・組立解体費が原則かからないため、条件が合えば仮設のコストを大きく圧縮できます
  • 足場の組立・解体の日数が不要なので、工期そのものが短くなる傾向があります
  • 建物の周囲を足場と養生シートで覆わないため、日当たり・視界・防犯面での居住者や利用者への影響が小さい
  • 部分的な補修や、一部の面だけを直したい場合に、必要な箇所だけピンポイントで対応できる

ホテルで言えば、「営業を止めずに、気になる面だけを直したい」というニーズにロープアクセスは非常に向いています。マンションでも、「洗濯物が干せない」「ベランダに他人が上がってくるのが不安」という足場工事中の生活ストレスを、大幅に減らせます。

冒頭のホテル改装のニュースに引きつけて言えば、客室を開けながら外装だけを直したいホテルにとって、足場で建物全体を覆って何か月も“工事中”の見た目になるのは、それ自体が営業上の損失です。無足場で必要な面だけを直せる工法の価値は、こういう場面でこそ効いてきます。

私は、ロープアクセスによる工事を、足場工事よりも安価に行える可能性が高い建物では、必ず選択肢として提示するようにしています。詳しくはロープアクセス工法のご紹介のページにもまとめていますので、あわせてご覧ください。

ただし、ロープアクセスが「常に正解」ではない

ここは正直に申し上げなければなりません。ロープアクセスは万能ではありません。両論併記でお伝えするのが、私の信条です。

ロープアクセスが不向き、あるいは足場のほうが適しているケースには、たとえば次のようなものがあります。

  • 大量の下地補修が全面に必要な場合:コンクリートのひび割れやタイルの浮きが建物の広い範囲に及んでいると、ロープでの1点ずつの作業より、足場を組んで面で一気に進めるほうが結果的に早く、安くなることがあります
  • バルコニー内部や複雑な入り組んだ形状:ロープを垂らして届きにくい部位が多い建物では、足場のほうが作業性が高い
  • 屋上に安全にロープを固定できる支点が取れない場合:構造上の制約でロープアクセスそのものが成立しないこともあります

大切なのは、「足場かロープか」を白黒で決めつけないことです。工法は目的ではなく手段であり、建物の状態・形状・工事範囲によって最適解は変わります。「ロープアクセスありき」で提案してくる会社があれば、それは足場ありきの会社と、方向が違うだけで同じ危うさをはらんでいる、と私は考えています。

私が一番おすすめしている「ハイブリッド工法」

では、実務で私が最も多くご提案しているのは何かというと、足場とロープアクセスを部位ごとに使い分ける「ハイブリッド工法」です。

たとえば、下地補修が集中する一部の面や、作業が込み入る低層部・バルコニー側は足場を架け、平坦で補修の少ない高層部や、足場を建てにくい隣地ギリギリの面はロープアクセスで対応する。こうして「足場を建てる範囲」を必要最小限に絞り込むことで、仮設コストを削りながら、品質と安全性はしっかり確保します。

3つの工法を、私なりに整理するとこうなります。

工法 仮設コスト 工期 居住者・利用者への影響 向いている建物
通常足場工法 高い(工事費の2〜3割) 長め(組立・解体日数が必要) 大きい(建物全体を覆う) 全面的な下地補修、複雑形状、低中層
ロープアクセス(無足場) 低い 短め 小さい 補修が限定的、高層、足場架設が困難な面
ハイブリッド 中(足場範囲を最小化) 中 中 大規模・複雑で、部位ごとに条件が異なる建物

数字の感覚で言えば、仮に工事費の25%が足場だとして、そのうち半分の面を無足場に切り替えられれば、単純計算で工事全体の1割前後の圧縮につながる可能性があります。5,000万円の工事なら数百万円規模の差です。もちろん建物ごとに条件は変わりますので、これはあくまで「見直す価値がある大きさだ」という体感としてお受け取りください。

この3つを、建物を実際に見たうえで最適に組み合わせて提案できる会社は、日本でもまだ多くありません。私たちが足場もロープアクセスも自前で扱えるようにこだわってきたのは、「持っている工法の側に、建物を合わせてしまわない」ためです。手前味噌になりますが、この考え方は大規模修繕工事のご紹介のページの根っこにある思想でもあります。

工期が短いことは、住む人にも、資産にも効く

コストの話が続きましたので、もう一つ、お金の額面には表れにくい価値についてもお伝えしておきます。それは「工期の短さ」がもたらすものです。

足場を建てる範囲を絞れば、その分だけ工事にかかる日数も短くなります。これは単に「早く終わって嬉しい」という話にとどまりません。マンションであれば、足場と養生シートに囲まれて暮らす期間が短くなり、洗濯物が干せない、窓が開けにくい、日当たりが悪いといった生活のストレスが減ります。防犯面の不安を口にされる住民の方も多く、その期間が短いこと自体が、住む人の安心につながります。

賃貸物件やホテルであれば、工期の短さはそのまま収益に直結します。足場で覆われて「工事中」に見える期間が短ければ、入居者や宿泊客に与える印象も違いますし、営業を止めずに進められれば、その間の家賃や宿泊収入を失わずに済みます。私はよくオーナーさまに、「工期の1か月は、家賃の1か月でもあるのです」とお伝えしています。

資産価値の観点でも同じです。適切な時期に、住む人・使う人への影響を抑えながら計画的に修繕できている建物は、外から見ても手入れが行き届いて見えます。この「きちんと管理されている」という印象こそ、長い目で見た資産価値を静かに支えてくれるのです。

「高品質なのに、なぜ抑えられるのか」という質問へ

工法の話をすると、必ずと言っていいほど「無足場だと品質が落ちるのでは」「安いのには裏があるのでは」というご心配をいただきます。もっともなご懸念ですので、ここも正直にお答えします。

まず品質について。ロープアクセスは、決して“簡易な工法”ではありません。高所でロープに身を預けて作業する以上、技術者には相応の訓練と資格が求められ、安全管理も足場工事とは別の厳しさがあります。むしろ、きちんとした技術者が施工するロープアクセスは、1点ずつ手の届く距離で建物と向き合うため、劣化を近くで見極めながら丁寧に直せるという強みがあります。

そして「なぜ抑えられるのか」について。私たちの場合、塗装・防水・タイル・シーリング・電気・看板といった各分野の専門職が一つのネットワークとしてつながっている点が大きいと考えています。中間に何社も入って手数料が積み重なる構造ではなく、それぞれの専門職が直接、得意分野を担う。だから「高品質を保ちながら、無駄なコストを乗せない」ことが可能になります。足場費という“建物を直さない費用”を建物ごとに見直すのも、突き詰めればこの「無駄を乗せない」という同じ発想の延長線上にあります。

安さのために品質を削るのではなく、そもそも要らないコストを見つけて外す。私が20年やってきて一番大事にしているのは、この順番です。

高騰局面で、オーナーと管理組合が今できる3つのこと

では、値上がりが止まらないこの局面で、具体的に何から動けばよいのか。私がよくお伝えしている3つを挙げます。

1. 長期修繕計画の金額前提を、最新の相場で見直す

数年前に作った計画のままだと、想定金額が実勢とずれています。まずは「今の相場ならいくらか」を一度あててみる。国土交通省の実態調査は、適正な見積りかどうかを管理組合が判断するための指標として公開されていますので、素人の方でも“ものさし”として使えます。

2. 相見積もりのときに「工法の選択肢」を必ず聞く

金額だけを3社並べて比べるのではなく、「うちの建物は足場・ロープ・ハイブリッドのどれが向いていて、それはなぜか」を各社に説明してもらってください。理由をきちんと語れる会社かどうかで、力量はかなり見えます。

3. 先送りしそうな部位こそ、劣化の進行を確認する

予算の都合で削りたくなる防水や外壁の補修ほど、放置すると次回の金額を跳ね上げます。「今やる」「次に回す」を決める前に、その部位が今どういう状態かだけは、専門家に見てもらってから判断してください。

戸あたり数万円の判断の遅れが、数年後に戸あたり数十万円の差になって返ってくる——これは私が現場で何度も見てきた、嘘偽りのない現実です。

積立金が足りないと分かったとき、現実的にどう動くか

「相場を見直したら、やっぱり積立金が足りなかった」。これは今、多くの管理組合が直面している現実です。値上がり局面では、決して珍しいことではありません。ここで慌てて「一律で工事を削る」判断に走る前に、私が整理していただきたい順番があります。

第一に、工法の見直しで削れる分を先に洗い出すこと。前章までにお伝えしたとおり、足場の範囲を建物ごとに最適化するだけで、品質を落とさずに総額を圧縮できる可能性があります。「削る」の前に「無駄を外す」を先にやる。順番を逆にすると、本来やるべき補修まで削ってしまいがちです。

第二に、工事の優先順位を「劣化の進行スピード」で並べ替えること。同じ「先送り候補」でも、放置すると急速に悪化して次回の費用を跳ね上げる部位(防水・シーリング・鉄部のさびなど)と、比較的ゆっくり進む部位があります。財布の都合だけで機械的に削るのではなく、「今やらないと高くつく順」に並べ替えると、限られた予算の効き目が大きく変わります。

第三に、それでも足りなければ、資金計画そのものの相談へ。修繕積立金の見直しや、公的な融資・助成の活用など、選択肢はいくつもあります。ここは専門的な話になりますので、工事の前段階として、早めに情報を集めておくことをおすすめします。

いずれにせよ、「足りない=諦める」ではありません。順番を間違えなければ、打てる手はまだ残っています。

よくいただくご質問

Q. ロープアクセスにすれば、必ず足場より安くなりますか?
いいえ、必ずとは言えません。補修が全面に及ぶ建物では足場のほうが安くなることもあります。だからこそ、現地を見たうえでの判断が欠かせません。

Q. 高層マンションでも対応できますか?
はい、むしろ高層で足場架設が難しい建物ほど、ロープアクセスやハイブリッドの利点が出やすい傾向があります。ただし屋上に安全な支点が取れることが前提です。

Q. 工事中も部屋で普段どおり生活できますか?
足場を建てない範囲では、日当たりや視界への影響が小さく、生活ストレスをかなり抑えられます。ホテルであれば営業を続けながらの部分改修もしやすくなります。

Q. ホテルやビルでも、マンションと同じ考え方でいいですか?
基本は同じです。むしろ営業を止めたくないホテルや、テナントが入っているビルほど、足場で全体を覆わずに済むロープアクセスやハイブリッドの価値が大きくなります。稼働を続けながら、気になる面から直していく、という進め方がしやすくなります。

Q. 見積書のどこを見れば「足場が高すぎる」と分かりますか?
まず「仮設工事」や「共通仮設・直接仮設」という項目の金額と、それが総額に占める割合を確認してください。目安として2〜3割を大きく超えている場合や、足場の範囲を建物全体で一律に計上している場合は、「本当に全面に足場が必要か」を一度質問してみる価値があります。理由をきちんと説明できる会社かどうかも、そこで見えてきます。

Q. まず何から相談すればいいですか?
「工事を発注する」前提でなくて構いません。長期修繕計画の金額が今の相場に合っているか、という整理だけでもお力になれます。

おわりに——工法は、建物に合わせるもの

建設費は10年で約3割、職人の単価は14年連続で上がりました。この流れは、私たち一社の努力で止められるものではありません。けれど、「上がったから諦める」でも「言い値で受け入れる」でもない、第三の道は確かにあります。それが、工事費の2割強を占める足場を、建物ごとに賢く見直すという発想です。

私はいつも理事長さまやオーナーさまに、「足場ありきでもロープありきでもなく、この建物にとって一番いい組み合わせを一緒に探しましょう」とお伝えしています。工法は目的ではなく、資産価値を守るための手段だからです。

修繕積立金や長期修繕計画の前提を見直すだけでも、打てる手はあります。ご相談だけでも遠慮なくお声がけください。総会の前段階の整理だけでも、お力になれることがあります(お問合せフォームはこちら)。

次回も、現場で本当に使える話だけをお届けします。

出典・参考資料

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秦野市のマンション大規模修繕|2026年度に使える補助金・耐震・税制を管理組合向けに徹底解説

「秦野市に、マンションの大規模修繕や耐震で使える補助金はあるのでしょうか」——先日、秦野市内にお住まいの、築30年ほどの管理組合の理事さまから、こんなご相談をいただきました。修繕積立金の残高を見ながら、少しでも組合員の負担を軽くできる制度がないかと探しておられたのです。

私は大規模修繕の現場を20年近く見てきましたが、この「補助金はあるのか」というご質問への答えは、自治体によって本当に差があります。そして秦野市については、私は少し明るいお答えができます。というのも、秦野市は人口16万人規模のまちでありながら、分譲マンションの共用部(管理組合)を対象とした「耐震化」の直接補助を、市独自に用意しているからです。多くの市が木造住宅向けの補助しか持たないなか、これは管理組合にとって見逃せない材料です。

この記事では、2026年度(令和8年度)に秦野市の分譲マンション管理組合が現実的に活用できる制度を、秦野市・神奈川県・国の三層に分けて整理します。結論から申し上げます。秦野市の場合は、①市のマンション耐震化事業補助金を軸に、②神奈川県の無料アドバイザー派遣で足場を固め、③管理計画認定と長寿命化促進税制(節税)を重ね、④最後に工法選択でコストを削る——この順番が王道です。総会前の資料づくりの一助になれば幸いです。

まず全体像:秦野市で管理組合が使える制度マップ

細かい話に入る前に、全体像をお示しします。秦野市の分譲マンション(区分所有のマンション)に関わる修繕・改修・耐震の支援制度は、大きく次のように整理できます。

制度・支援 実施主体 主な対象 支援の形
マンション耐震化事業補助金 秦野市 建築指導課 管理組合(旧耐震のマンション) 診断・改修計画・改修工事費の1/2補助
マンション管理計画認定制度 秦野市 管理組合 認定による融資金利引下げ・節税の入口
マンションアドバイザー派遣事業 神奈川県 管理組合 専門家を無料派遣(相談・助言)
地域防災力強化事業費補助金 神奈川県 旧耐震のマンション 耐震診断・改修費の補助
マンション共用部分リフォーム融資/すまい・る債 住宅金融支援機構 管理組合 共用部工事の融資・積立の運用
マンション長寿命化促進税制 秦野市(課税) 区分所有家屋 固定資産税の減額(節税)
ゼロカーボンな暮らし創出補助金 秦野市 環境共生課 住宅(省エネ設備) 太陽光・蓄電池等の定額補助

ここで最初にお伝えしておきたいのは、これらの制度には「管理組合(共用部)」で使えるものと、「区分所有者個人(専有部)」で使えるものが混ざっているという点です。大規模修繕は共用部の工事ですから、管理組合として本命に据えるべきは、市の耐震化事業補助金・県のアドバイザー派遣・住宅金融支援機構の融資・長寿命化促進税制の組み合わせです。ここを外して、省エネ補助のような個人向け制度ばかり見ていると、「思ったより使えなかった」となりがちです。ここからが本題です。

秦野市のマンション事情と、大規模修繕の「現実」

秦野市は、丹沢山地の玄関口に広がる盆地のまちです。「名水のまち」として知られ、小田急小田原線の秦野駅・渋沢駅を中心に住宅地が広がっています。海に面していない内陸のまちですから、三浦半島のような塩害の心配は小さい一方で、丹沢おろしと呼ばれる冬の強い風、朝晩の寒暖差、そして凍害(水分が凍って膨張し、外壁やタイルを傷める現象)が、建物にとっての手強い相手になります。

私は内陸の現場で、日当たりや風当たりの差によって、同じ建物でも north 面(北面)と south 面(南面)で外壁の傷み方がまるで違う、という光景を何度も見てきました。秦野市のマンションは、塩害こそ少ないものの、こうした気象条件による劣化を「見えないところで」ため込みやすい。だからこそ、定期的な点検と、タイミングを逃さない修繕が、資産価値を守るうえで効いてきます。

大規模修繕とは、外壁塗装や屋上防水、鉄部塗装、シーリング(外壁の目地を埋める防水材)の打ち替えなどを、おおむね12〜15年周期でまとめて行う工事のことです。マンションの資産価値を維持し、居住者の安全を守るために欠かせません。ただ、費用は決して小さくありません。一般的な中規模マンションで、1戸あたり100万円前後の工事費がかかることも珍しくなく、仮に50戸なら単純計算で5,000万円規模になります。

私が理事のみなさまとお話ししていて一番多いお悩みは、やはり「修繕積立金が足りるか不安」というものです。国土交通省の調査でも、修繕積立金が長期修繕計画上の必要額に対して不足しているマンションが一定割合あることが指摘されています(出典:国土交通省「令和5年度マンション総合調査結果」)。だからこそ、使える制度は一つ残らず確認しておきたい。私はいつも、そうお伝えしています。

【秦野市の目玉】マンション耐震化事業補助金

秦野市の管理組合にとって、まず押さえておきたいのが、市が独自に用意している「秦野市マンション耐震化事業補助金」です。秦野市は、住宅の耐震化を促進し、災害に強いまちづくりを進めるために、分譲マンションの耐震診断・耐震改修計画・耐震改修工事に対する補助制度を、平成27年4月1日から実施しています(出典:秦野市「分譲マンションの耐震診断・耐震改修計画・耐震改修工事を支援」)。

対象になるマンション

補助の対象となるのは、次のすべてに当てはまるマンションです(出典:秦野市、同上)。

  • 秦野市内に所在するマンション
  • 昭和56年5月31日以前に建築基準法による建築確認を得て着工したもの(いわゆる「旧耐震基準」の建物)
  • 鉄筋コンクリート造、鉄骨鉄筋コンクリート造、または鉄骨造のもの
  • 住戸数の過半を区分所有者が住居のために使用しているもの
  • 共同住宅の床面積が、延べ面積の過半であるもの

そして補助の対象者は、「管理規約等に基づいて設置された会(=管理組合)で、耐震化事業を実施する決議がなされている」ことが条件です。つまり、総会での決議がスタートラインになるということです。この点は、後で触れる管理計画認定制度や長寿命化促進税制と共通していて、いずれも「管理組合として意思決定できていること」が前提になります。

補助の中身

補助金の内容は、次のとおりです(出典:秦野市、同上)。

対象 補助率 限度額
耐震診断 費用の1/2 1住戸あたり5万円
耐震改修計画 費用の1/2 1住戸あたり5万円
耐震改修工事 費用の1/2 1住戸あたり50万円
改修工事監理 費用の1/2 1住戸あたり3万円

たとえば50戸のマンションが耐震改修工事を行った場合、単純計算で「50万円 × 50戸 = 最大2,500万円」の補助が視野に入ります。もちろん実際には工事費の1/2という上限や予算の範囲がありますので、この満額がそのまま出るとは限りませんが、市の直接補助としては大きな金額です。

なお、この事業による耐震診断・改修計画・改修工事(工事監理を含む)には、耐震診断士(一級建築士)の関与が必要とされています。申請は、市役所の建築指導課の窓口で事前相談をしたうえで、所定の申請書に必要書類を添えて行います(問い合わせ:秦野市 都市部 建築指導課 建築指導担当 電話0463-83-0883、出典:秦野市、同上)。

ここは正直に:あくまで「耐震」の補助です

読者のみなさまに誤解のないよう、正直に申し上げます。この補助はあくまで「耐震化」に対する補助であって、外壁塗装や屋上防水といった通常の大規模修繕そのものに対する直接補助ではありません。対象も旧耐震基準(昭和56年5月31日以前着工)の建物に限られます。ですから、新耐震基準以降のマンションや、耐震性が確保済みのマンションは、この制度の対象外になります。

とはいえ、旧耐震のマンションであれば、耐震改修と大規模修繕は工事の中身が重なる部分も多く、足場(または後述するロープアクセス)を一度架けるタイミングでまとめて計画すれば、トータルコストを抑えられます。「耐震の補助を軸に、大規模修繕を同じ工程で一緒に進める」という発想が、秦野市では特に有効です。

【土台】神奈川県のマンションアドバイザー派遣事業(無料)

市の耐震補助と並んで、私が最初にお勧めしたいのが、神奈川県の「マンションアドバイザー派遣事業」です。これは補助金そのものではありませんが、費用がかからず、最初の一歩として非常に使い勝手のよい支援です。

神奈川県は、マンション管理などに関する専門家を管理組合に無料で派遣し、管理運営や大規模修繕、耐震化についてアドバイスを行っています(出典:神奈川県「マンション施策」)。秦野市は神奈川県内の市ですから、この県の支援の対象になります。

大規模修繕は、管理会社に言われるまま進めてしまうと、「本当にこの工事内容と金額が妥当なのか」を判断できないまま契約に至ってしまうことがあります。私は施工会社の立場ですが、正直に申し上げて、まず中立の専門家に一度、管理組合の状況を診てもらうのは非常に有効だと思っています。費用がかからないのですから、使わない手はありません。

神奈川県は、このアドバイザー派遣のほかにも、役員や区分所有者向けの管理・大規模修繕・耐震化のセミナー、管理組合同士が悩みを共有する交流会、支援団体の登録制度なども用意しています(出典:神奈川県、同上)。「うちのマンションだけで抱え込まない」という意味でも、県の枠組みは心強い味方になります。

県にも耐震の補助制度がある

耐震について、神奈川県には「地域防災力強化事業費補助金」という枠組みがあり、旧耐震基準のマンションの耐震診断・改修を支援しています。マンションの耐震診断で最大50万円、耐震改修工事で最大700万円といった補助が案内されています(金額・要件は年度により変わります)。ただし、県費と市費の関係(どちらか一方か、組み合わせて使えるのか)は、制度の運用によって異なりますので、秦野市の建築指導課と、県の窓口の両方に、必ず事前に確認してください。二重取りできる前提で計画を立てると、あとで齟齬が生じることがあります。

【入口】秦野市のマンション管理計画認定制度

秦野市は、「秦野市マンション管理適正化推進計画」にもとづき、マンション管理計画認定制度を運用しています(出典:秦野市「マンション管理計画認定制度」)。これは、適切に管理されているマンションの管理計画を市が認定する制度です。

認定を受けるには、マンションの管理に関する16項目の基準を満たす必要があり、申請にあたっては、事前に管理組合の集会(総会)で認定申請に係る決議を得ておく必要があります(出典:秦野市、同上)。

認定を取得したマンションには、次のようなメリットが期待できます(出典:秦野市、同上)。

  • 区分所有者の意識の向上、管理水準の維持・向上
  • 市場における評価、地域価値の維持・向上
  • 住宅金融支援機構の「フラット35」および「マンション共用部分リフォーム融資」の金利引下げ

見落とされがちですが、この認定は後述する長寿命化促進税制(固定資産税の減額)の入口にもなります。認定そのものは工事費を直接くれる制度ではありませんが、「融資の金利が下がる」「節税の要件を満たせる」という二段構えの効果があり、大規模修繕を控えた管理組合にとっては、取っておく価値のある「資格」です。認定の具体的な申請手続きや市の窓口については、秦野市に直接ご確認ください。

【本命の資金調達】住宅金融支援機構の共用部分リフォーム融資

積み立ててきた修繕積立金だけでは工事費が足りない——これは、私がお会いする管理組合の多くが抱える現実です。その不足分を計画的に補う本命が、独立行政法人住宅金融支援機構の「マンション共用部分リフォーム融資」です。神奈川県も、マンション施策のページでこの融資を管理組合向けの選択肢として案内しています(出典:神奈川県「マンション施策」、同上)。

これは、管理組合が共用部分の大規模修繕(外壁塗装、屋上防水、給排水管の更新など)を行う際に、住宅金融支援機構から資金を借り入れられる制度です。あわせて、修繕積立金を計画的に積み立てるための「マンションすまい・る債」という仕組みもあり、こちらは工事に向けた「守り」の制度だとご理解ください。融資の具体的な金利や条件は時期によって変わりますので、必ず住宅金融支援機構に直接ご確認ください。

神奈川県・秦野市に「利子補給」はあるのか

ここは正直に申し上げます。東京都には、この共用部分リフォーム融資の利息の一部を都が肩代わりする「利子補給」の制度がありますが、神奈川県には、東京都と同じ形の県独自の利子補給制度は、私が確認した範囲では見当たりませんでした。秦野市にも同様の市独自の利子補給はありません。ですから、秦野市のマンションでは「融資はあるが、その利息を自治体が肩代わりしてくれる制度はない」という前提で考えておくのが現実的です。この点は、次にご説明する固定資産税の減額(節税)で取り返していくことになります。

【節税】マンション長寿命化促進税制(固定資産税の減額)

補助金ではありませんが、実質的な負担軽減として見逃せないのが「マンション長寿命化促進税制」です。これは、一定の要件を満たす長寿命化の大規模修繕工事を行ったマンションについて、翌年度分の家屋の固定資産税が減額される国の制度です(出典:国土交通省「マンション長寿命化促進税制」)。固定資産税は市が課税する税ですから、秦野市においても、この制度にもとづく減額の窓口は秦野市(資産税の担当課)になります。

対象となる工事と要件

対象となるのは、長寿命化に資する大規模修繕工事、具体的には外壁塗装等工事・床防水工事・屋根防水工事のすべてです。そのうえで、マンション(区分所有家屋)が次の要件を満たす必要があります。

  • 築20年以上、総戸数10戸以上であること
  • 過去に1回以上、長寿命化に資する大規模修繕工事を行っていること
  • 「マンション管理計画の認定」を受けている、または令和3年9月1日以降に修繕積立金の額を一定以上に引き上げていること
  • 工事が令和5年4月1日から令和9年3月31日までに完了していること

これらを満たすと、工事が完了した年の翌年度分について、家屋の固定資産税が減額されます。国の資料では減額割合の標準は2分の1とされていますが、実際の減額割合は市の条例で定められるため、ここでは断定を避けます。正確な減額割合と申請方法は、必ず秦野市の資産税担当課にご確認ください。減額を受けるには、工事完了後3か月以内の申告が必要で、対象は1戸あたり床面積100平方メートル相当分まで、また都市計画税は対象外である点にもご注意ください。

先ほどの管理計画認定制度が、この税制の要件(管理計画の認定)とつながっていることに、あらためて気づいていただけたかと思います。認定を取る → 融資の金利が下がる → 長寿命化税制の要件も満たせる。この一本の線でつながっているのが、秦野市の制度活用のキモです。

【おまけ】省エネ・再エネの補助(共用部は要確認)

秦野市には、太陽光発電や蓄電池などの設置を支援する「ゼロカーボンな暮らし創出補助金」があります(出典:秦野市「ゼロカーボンな暮らし創出補助金」)。令和8年度も、補助対象事業に着手する前に、令和8年5月1日以降に市の環境共生課の窓口で事前審査を受ける流れが案内されています。神奈川県の住宅用太陽光発電・蓄電池の補助金と併用できる場合もあります。

ただし、これらの省エネ・再エネ補助は基本的に「住宅(住戸)」を想定した制度で、マンションの共用部への適用可否は制度により異なります。共用部にEV充電設備や共用の太陽光を検討する場合は、共用部が対象になるかどうかを、必ず事前に環境共生課へ確認してください。大規模修繕の主役ではありませんが、「ついでに省エネ化も」と考える組合には、選択肢として知っておいて損はありません。

制度を使う「順番」——ここが一番大事

制度は、バラバラに眺めても力を発揮しません。秦野市の管理組合には、次の順番をお勧めしています。

  1. 神奈川県のマンションアドバイザー派遣(無料)で、現状を診てもらう——まずは中立の専門家に相談。
  2. 管理計画の認定を目指し、修繕積立金と長期修繕計画を整える——融資金利引下げと節税の入口を押さえる。
  3. 旧耐震のマンションなら、市のマンション耐震化事業補助金を軸に計画する——耐震と大規模修繕を同じ工程でまとめる。
  4. 不足資金は住宅金融支援機構の共用部分リフォーム融資で調達する——無理のない返済計画を。
  5. 工事完了後、長寿命化促進税制で固定資産税の減額を申告する——3か月以内の申告を忘れずに。
  6. 工法選択でコストを削る——ここが施工会社の腕の見せどころです(次章)。

早見表:秦野市の管理組合が押さえるべき制度

段階 制度 ポイント
相談 県アドバイザー派遣 無料。まず現状把握
資格づくり 管理計画認定 総会決議が必要。融資・節税の入口
耐震(旧耐震のみ) 市 耐震化事業補助金 改修工事は1戸50万円まで
資金調達 機構 共用部リフォーム融資 利子補給は無し。認定で金利引下げ
節税 長寿命化促進税制 翌年度の固定資産税を減額
省エネ ゼロカーボン補助 共用部の適用可否は要確認

モデルケース:築32年・48戸・旧耐震のマンション

イメージしやすいよう、秦野市内にある「築32年・48戸・旧耐震基準」のマンションを例にしてみます(あくまで一般的な想定で、実際の金額は物件により異なります)。

この管理組合が、まず県のアドバイザー派遣で現状を診てもらい、長期修繕計画と積立金を見直したうえで管理計画の認定を取得。旧耐震ですから、市の耐震化事業補助金を使って耐震診断(1戸5万円まで)と耐震改修工事(1戸50万円まで)に取り組み、同じ足場・工程で外壁塗装や防水などの大規模修繕もまとめて実施します。不足資金は共用部分リフォーム融資でまかない、工事完了後は長寿命化促進税制で翌年度の固定資産税の減額を申告する——。

こうして「相談 → 認定 → 耐震補助 → 融資 → 節税」を一本につなげると、市の直接補助が限られていても、トータルの実質負担は着実に圧縮できます。ポイントは、各制度をバラバラの手続きとして扱わず、一つの修繕計画のなかに組み込むことです。

費用を左右する「工法選択」——足場・ロープアクセス・ハイブリッド

最後に、施工会社として一番お伝えしたいことをお話しします。ここまで補助金や税制の話をしてきましたが、大規模修繕のコストを大きく左右するのは、実は「どの工法で工事をするか」です。

大規模修繕の外部工事には、大きく3つの工法があります。

  • 通常の足場工法:建物の周囲に仮設足場を組む、最も一般的な方法。工事範囲が広い場合や、複雑な形状の建物に向いています。ただし足場の設置・撤去に相応の費用と時間がかかります。
  • ロープアクセス工法(無足場工法):産業用ロープを使い、足場を架けずに作業員が壁面を上下して施工する方法。足場代がかからず、工期の短縮にもつながります。居住者から見ても、窓の外に足場が組まれないため、日当たりやプライバシー、防犯面での不安が小さいのが大きな利点です。
  • ハイブリッド工法:足場とロープアクセスを、建物の部位ごとに使い分ける方法。たとえば、複雑で作業量の多い面は足場、単純な壁面はロープアクセス、というように組み合わせ、全体のコストと工期を最適化します。

私たち明誠は、この3つの工法すべてを、建物の形状・立地・予算に応じて提案できる、日本でも数少ない会社です。多くの施工会社は「足場ありき」で見積もりを出しますが、秦野市のように敷地に余裕のある物件もあれば、隣地との距離が近く足場を組みにくい物件もあります。物件ごとに最適な工法を選ぶことで、足場費と工期を削り、居住者の生活への影響も最小限に抑えることができます。補助金で数十万円を積み上げる努力と同じくらい、あるいはそれ以上に、工法選択はトータルコストに効いてくるのです。

よくあるご質問(FAQ)

Q1. 秦野市には、外壁塗装そのものへの補助金はありますか。
A. 分譲マンションの共用部の外壁塗装そのものを直接補助する市の制度は、私が確認した範囲では見当たりません。ただし、旧耐震のマンションなら市の耐震化事業補助金が使え、長寿命化促進税制で固定資産税の減額も狙えます。「外壁塗装の補助」ではなく、「耐震+節税+融資」の組み合わせで実質負担を下げる、とお考えください。

Q2. 新耐震基準(昭和56年6月以降)のマンションは、耐震化事業補助金を使えますか。
A. 使えません。この補助は昭和56年5月31日以前に建築確認を得て着工した「旧耐震基準」の建物が対象です。新耐震のマンションは、管理計画認定・共用部リフォーム融資・長寿命化促進税制を軸に検討することになります。

Q3. 補助金の申請は、工事を始めてからでも間に合いますか。
A. 間に合いません。耐震化事業補助金は、市役所の建築指導課で事前相談をしたうえで申請する流れです。多くの補助制度は「交付決定の前に工事に着手すると対象外」になります。必ず着工前にご相談ください。

Q4. 管理計画の認定は、大規模修繕をする前に取っておくべきですか。
A. はい、可能であれば先に取っておくことをお勧めします。認定は共用部リフォーム融資の金利引下げや、長寿命化促進税制の要件充足につながります。ただし認定には総会決議と16項目の基準充足が必要ですので、時間に余裕をもって準備してください。

Q5. 制度の金額や要件が、この記事と違っていたらどうすれば。
A. 補助金や税制は年度ごとに見直され、予算の上限に達すると受付が終了することもあります。この記事は執筆時点の公表情報にもとづいていますが、最終的には必ず秦野市(建築指導課・資産税担当課・環境共生課)、神奈川県、住宅金融支援機構の各窓口で、最新の要件と金額をご確認ください。

おわりに

秦野市は、分譲マンションの管理組合を対象にした耐震化の直接補助を市独自に持つ、比較的めぐまれたまちです。とはいえ、外壁塗装や防水といった通常の大規模修繕そのものへの直接補助が薄いのは、多くの市と共通しています。だからこそ、県の無料アドバイザー派遣を入口に、認定・耐震補助・融資・長寿命化税制を一本につなげ、最後は工法選択でコストを削るという組み立てが効いてきます。

私たち明誠は、大規模修繕の工法を「足場・ロープアクセス・ハイブリッド」の3つから最適に提案できる会社として、秦野市の管理組合のみなさまの、資産価値を守る修繕計画をお手伝いします。また、当社が運営する一般社団法人全国建設業支援協会(JCSA)では、建設業の経営支援やビジネスマッチングも行っています。「まず何から手をつければいいか分からない」という段階でも構いません。総会前の資料づくりから、どうぞお気軽にご相談ください。


本記事は2026年7月時点で公表されている情報にもとづいて作成しています。補助金・税制・融資の要件や金額は変更される場合があります。実際のご検討にあたっては、必ず秦野市、神奈川県、住宅金融支援機構の各窓口で最新情報をご確認ください。

▼ロープアクセス工法・無足場工法の詳細解説はこちら
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「修繕積立金が足りない」が当たり前になる時代に——値上げ・借入・工事の先送りの前に、管理組合とオーナーが検討すべき“工法でコストを下げる”第4の選択肢【2026年7月】

今朝、いつものようにニュースに目を通していると、「物価高騰で修繕積立金が不足するマンションが急増している」という記事が流れてきた。分譲マンションは住民全員で共有する建物の一区画にすぎず、購入後に修繕積立金の値上げや一時金の負担がのしかかる——そんな”落とし穴”を指摘する内容だった。

私は大規模修繕の現場に長く身を置いてきたが、この「積立金が足りない」という言葉を、ここ数年で本当に何度聞いたか分からない。マンションの管理組合の理事長からも、ビルや賃貸マンションを持つオーナーからも、口をそろえて相談される。「計画では足りるはずだったのに、いざ工事の見積もりを取ったら全然届かない」と。

結論から言えば、積立金不足への対応は「値上げ」「借入」「先送り」の三択ではない。もう一つ、多くの管理組合とオーナーが見落としている選択肢がある。それが「工法でコストを下げる」という発想だ。この記事では、今なぜ積立金が足りなくなっているのかを公的データで整理したうえで、私たち施工会社の側から見た”現実的な打ち手”を、できるだけ具体的にお伝えしたい。


今朝のニュースが示すもの——「積立金不足」はもはや例外ではない

きっかけになった記事は、物価高騰によって修繕積立金が不足するマンションが急増している、という指摘だった。似た論調の記事は、住宅情報サイトSUUMOでも「インフレでマンション修繕積立金が約4割で不足」という見出しで報じられている。

私がこの手のニュースを重く受け止めるのは、それが一過性の景気の話ではなく、構造的な問題だからだ。資材も人件費も上がり続けている。一方で、多くのマンションは分譲時に設定された積立金の水準のまま走ってきた。両者のギャップが、いよいよ「工事の見積もり」という形で表面化しているのが今だ。

そして、これはマンションだけの話ではない。オフィスビルやホテル、賃貸マンションを保有するオーナーにとっても、外壁・屋上防水・鉄部塗装といった大規模修繕のコストは、そのまま収益を圧迫する。積立金という言葉こそ使わなくても、「修繕にいくらかかり、それをどう賄うか」という本質的な悩みは、収益不動産を持つすべての方に共通している。


データで見る不足の実態——約4割が「計画割れ」、平均積立金は25年で1.8倍

感覚論では動けないので、まずは国が出している一次データで現状を押さえておきたい。

国土交通省が公表した令和5年度マンション総合調査によれば、計画上の積立額に対して現在の積立額が不足しているマンションは36.6%にのぼる。しかも、不足額が計画の20%を超えるマンションが11.7%ある。長期修繕計画に照らして「積立残高が不足していない」と答えた組合は約4割にとどまり、裏を返せば残りの約6割は何らかの不安を抱えているという構図だ。

積立金そのものの水準も上がっている。同じ調査で、修繕積立金の月額平均は13,054円(1戸あたり)となり、25年間で約1.8倍に増えた。つまり、住民はすでにかなりの負担増を受け入れてきた。それでもなお「足りない」という声が絶えないのが、今の局面である。

背景には資材と労務費の上昇がある。国交省の建設工事費デフレーターはこの10年で約3割上昇し、公共工事設計労務単価は14年連続で上がり続けている。工事の”元値”そのものが押し上げられているのだから、25年前の想定で組んだ計画が届かなくなるのは、ある意味当然の帰結だ。

こうした実態を受けて、国も動いた。国交省は令和6年(2024年)6月に「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」を改定し、資材高騰を反映した新しい目安単価を示している。専有床面積あたりの目安は、規模により月額202〜218円/㎡。段階的に積立金を上げていく「段階増額積立方式」についても、初期額は均等積立額の0.6倍以上、最終額は1.1倍以内に収める、という考え方が明記された。国が「無理のない引き上げの目安」をわざわざ示すほど、積立金の水準見直しは全国的な課題になっているということだ。


なぜ足りなくなるのか——3つの構造要因

「うちの管理組合は真面目に積み立ててきたのに、なぜ足りないのか」。理事の方からよく受ける質問だ。理由は主に3つある。

1つ目は、当初設定の低さ。新築分譲時は、販売のしやすさもあって積立金が低めに設定されがちだ。段階増額方式を前提にしていても、いざ増額決議の段になると住民合意が難しく、計画どおりに上げられないケースが多い。

2つ目は、段階増額の”つまずき”。前述のガイドライン改定は、まさにこの段階増額が現場でうまく機能してこなかった反省から来ている。将来の大幅な値上げを前提にした計画は、その将来が来たときに合意形成でつまずきやすい。

3つ目が、資材・労務費の高騰。これは個々のマンションの努力ではどうにもならない外部要因だ。10年で3割という工事費の上昇は、どんなに堅実な積立計画でも吸収しきれない。

重要なのは、この3要因のうち管理組合やオーナーがコントロールできるのは限られているという点だ。だからこそ、「収入(積立金)を増やす」だけでなく、「支出(工事費)そのものを設計しなおす」という発想が要る。

付け加えると、積立金の不足は「気づいた時にはもう遅い」構造になりやすい。大規模修繕は12〜15年周期でやってくるが、その間に資材費がじわじわ上がると、いざ工事の年に見積もりを取って初めてギャップが露見する。日々の管理では見えにくく、数年に一度、まとまった金額として一気に表面化するのだ。だからこそ、次の修繕までまだ時間があるうちに、早めに現状を点検しておくことが何よりの備えになる。


「不足」への典型的な3つの対応と、その副作用

積立金が足りないと分かったとき、多くの管理組合・オーナーが取る対応は、だいたい次の3つに集約される。そして、そのどれにも副作用がある。

(1) 積立金の値上げ・一時金徴収
最も正攻法だが、住民合意のハードルが高い。高経年マンションほど、年金生活の高齢世帯が増えている。国交省の同調査では、高経年マンションで70歳以上の世帯主が半数以上を占めるという結果も出ている。負担増を求めても「これ以上は払えない」という現実に突き当たりやすい。

(2) 金融機関からの借入
住宅金融支援機構などのマンション共用部リフォーム融資を使う手はある。ただし当然ながら利息が乗り、将来の積立金でその返済を賄うことになる。今の不足を未来に付け替えているだけ、という側面は否めない。

(3) 工事範囲の縮小・先送り
最も安易で、最も危険な選択だ。外壁のひび割れや防水の劣化を先送りすれば、雨水が構造躯体に回り、数年後にはるかに高額な補修が必要になる。資産価値も、居住者・利用者の安全も損なう。”節約”のつもりが、長い目では最も高くつく。

私が現場で見てきた限り、この3つだけで議論が煮詰まり、結局「今回は最低限だけ」と工事を痩せさせてしまう組合は少なくない。だが、そこには決定的に抜けている視点がある。


見落とされがちな第4の選択肢——「工法でコストを下げる」

大規模修繕の見積もりを見たことがある方なら分かると思うが、工事費のなかで意外に大きな比率を占めるのが「仮設足場」の費用だ。建物の規模や形状にもよるが、外壁改修工事において足場の仮設・解体・養生が総工費の2〜3割を占めることは珍しくない。

つまり、「何を直すか」を削る前に、「どうやって足場をかけるか」を見直すだけで、工事の中身を減らさずにコストを圧縮できる余地があるということだ。ここが、値上げ・借入・先送りの三択に埋もれてしまいがちな”第4の選択肢”にあたる。

私たち明誠が、通常の足場を組む足場工法に加えて、ロープアクセス工法(無足場工法)、そして両者を組み合わせるハイブリッド工法という3つの選択肢を持っているのは、まさにこの一点のためだ。建物ごとに最適な工法を選び分けることで、「工事の質を落とさずにコストを下げる」ことを本気で狙える。


ロープアクセス(無足場工法)が積立金不足に効く理由

ロープアクセス工法とは、産業用のロープに専門資格を持つ技術者がぶら下がり、外壁の塗装・防水・タイル補修・シーリングの打ち替えといった作業を、足場を組まずに行う工法だ。ビルの窓ガラス清掃をイメージしていただくと近い。積立金不足に悩む管理組合・オーナーにとって、この工法には具体的なメリットがいくつもある。

第一に、足場費の削減。前述のとおり総工費の2〜3割を占めうる足場を、必要な部位だけロープアクセスに置き換えることで、その分のコストを圧縮できる。全面足場が本当に必要な建物ばかりではない。部分的な補修や、高層階だけの作業であれば、無足場のほうが合理的なケースは多い。

第二に、工期の短縮。足場の架設・解体には相応の日数がかかる。ロープアクセスはその工程を省けるため、工事全体の期間を短くできることが多い。工期が短くなれば、共通仮設費や現場管理費も抑えられる。

第三に、居住者・利用者への影響が小さい。全面足場は、窓の外に骨組みとメッシュシートが張り巡らされ、日当たりも眺望も遮られる。防犯上の不安を訴える住民も出る。ロープアクセスなら、そうした生活への負荷を最小限にできる。賃貸マンションやホテルであれば、これは稼働率・入居率の維持に直結する重要なポイントだ。

もちろん、ロープアクセスは万能ではない。大量の資材を上げ下げする必要がある工事や、建物の全面を一度に施工したい場合には、足場のほうが向いている。だからこそ「工法の選択」が意味を持つ。明誠のロープアクセス工事について、より詳しくはロープアクセス工事のご案内(/rope/)をご覧いただきたい。


ロープアクセスをめぐる、よくある3つの誤解

「無足場」と聞くと、まだ身構える方が多い。相談の場でよく耳にする誤解を、3つほど解いておきたい。

誤解1:「危ないのでは?」
ロープアクセスは、命綱と作業ロープの2本を独立してかける「二重系」が基本だ。仮に片方が損傷しても、もう片方で墜落を確実に止める。国際的な技能認定(IRATA等)や国内の労働安全衛生法に基づく特別教育など、技術者は所定の訓練と資格を経て現場に立つ。むしろ、組み立て途中の足場からの墜落・倒壊のリスクを考えれば、適材適所で使えば安全性は十分に確保できる工法だ。

誤解2:「品質が落ちるのでは?」
作業員が壁面に直接張り付いて手作業で仕上げるため、細部の目視と施工はむしろ丁寧になりやすい。塗装・シーリング・タイル補修など、職人の手仕事が品質を決める工程では、足場作業と遜色ない仕上がりを出せる。要は、それを担う技術者の練度の問題であり、無足場だから雑になるわけではない。

誤解3:「対応できる工事が限られるのでは?」
確かに全面改修のすべてを無足場で完結させるのは難しい。しかし、外壁の部分補修、シーリングの打ち替え、鉄部塗装、タイルの浮き調査・補修、屋上まわりの防水補修など、対応できる範囲は想像以上に広い。そして”限られる”からこそ、足場と組み合わせるハイブリッドが生きてくる。


実は今、ホテル・旅館の「改修ラッシュ」も起きている

積立金不足はマンションの文脈で語られがちだが、ここ最近のニュースを眺めていると、ホテルや旅館の改修・リニューアルの話題が目に見えて増えている。全面改修工事に着手して受け入れ再開を目指す温泉ホテルや、閉館した老舗をリブランドして新しい宿として生まれ変わらせる計画など、”建て替え”ではなく”改修で価値を上げる”動きが各地で進んでいる。

これは、インバウンド需要の回復と施設の老朽化が同時に進んでいることの表れだと私は見ている。壊して建て直すには時間もコストもかかりすぎる。だからこそ、既存建物を活かした改修・リニューアルに注目が集まる。ここでも本質は同じで、「いかにコストを抑え、営業への影響を最小化しながら外装・共用部を刷新するか」が勝負になる。

ホテルや旅館の外装改修で全面足場を組めば、客室からの眺望が塞がり、工事期間中の稼働率は確実に落ちる。ロープアクセスやハイブリッド工法で、営業を止めずに——あるいは休業を最小限にして——外装を更新できれば、その差はそのまま収益の差になる。マンションの管理組合であれ、ホテルのオーナーであれ、「工法でコストと影響を下げる」という発想が効く場面は、確実に広がっている。


3工法の使い分け——建物特性で最適解は変わる

「無足場が安いなら全部それでいいのでは」と思われるかもしれないが、話はそう単純ではない。工法にはそれぞれ得意・不得意があり、建物の特性に合わせて選ぶことで初めてコストと品質の両立ができる。整理すると次のようになる。

工法 特徴 向いている建物・工事 コスト面の効き方
通常足場工法 従来型の仮設足場。全面を一度に施工でき、大量の資材搬送に強い 中低層、複雑な形状、外壁全面の大規模な改修 足場費はかかるが、全面同時施工で工程効率は高い
ロープアクセス工法(無足場) 産業用ロープによる無足場施工 高層、足場架設が困難な立地、部分補修、コスト最重視の物件 足場費を削減。工期短縮で共通費も圧縮
ハイブリッド工法 部位ごとに足場とロープアクセスを使い分け 大規模・複雑物件で総合的なコスト最適化が必要なケース 足場が必須の部位だけに絞り、残りを無足場化して総額を最適化

現場では、ハイブリッド工法が効くケースが非常に多い。たとえば、資材の搬入が多いバルコニー側は足場を組み、人が張り付いて作業すれば足りる妻側や高層階はロープアクセスで対応する。こうして「足場が本当に必要な部位」だけに足場費を集中させれば、全面足場よりも総額を抑えつつ、施工品質は落とさずに済む。

こうした使い分けの提案ができる施工会社は、実は全国的にもそう多くない。多くの会社は足場工法か、あるいは無足場工法か、どちらか一方しか手札を持っていないからだ。3つの工法を建物ごとに最適設計できることが、コスト面でも工期面でも効いてくる。明誠の大規模修繕の考え方については大規模修繕のご相談(/sure/)にもまとめている。


数字で考える——工法を変えると総額はどう動くか(イメージ)

具体的な金額感がないとピンとこないと思うので、あくまで考え方を示すためのイメージとして、単純化した例で説明したい。実際の金額は建物の規模・形状・劣化状況で大きく変わるため、以下は正確な見積もりではなく、あくまで「構造の理解」のための試算だとお断りしておく。

たとえば、ある大規模修繕の総額を仮に1億円とする。このうち仮設足場が総額の約25%、つまり2,500万円を占めていたとしよう。もし建物の特性上、足場が本当に必要なのは全体の6割程度で、残り4割はロープアクセスで対応できると判断できたなら、その4割分の足場費——単純計算で1,000万円程度——に手を入れる余地が生まれる。無足場化によってこの部分のコストを圧縮できれば、工事の中身(塗り面積も、補修範囲も)は一切削らずに、総額を数百万円単位で下げられる可能性がある。

ここで強調したいのは、「工事を減らして安くした」のではないという点だ。直すべきところは同じだけ直し、仮設のかけ方だけを最適化して総額を下げる。これが「工法でコストを下げる」の本質だ。積立金が不足しているとき、多くの組合は”工事の中身”を削ろうとするが、先に見直すべきは”仮設のかけ方”のほうなのだ。

もちろん、無足場化できる比率は建物次第で、ゼロのこともあれば半分を超えることもある。だからこそ、複数の工法を扱える会社に「工法別」で見てもらう価値がある。


オーナー視点で見る——「稼働率」と「資産価値」という2つの物差し

ここまで管理組合を主な想定に書いてきたが、賃貸マンション・オフィスビル・ホテルを保有するオーナーにとって、工法選択の意味はさらに大きい。判断の物差しが「積立金」だけでなく、「稼働率」と「資産価値」に広がるからだ。

稼働率の観点では、工事期間中の”営業への影響”が収益を直撃する。全面足場を組んで数か月、窓の外が塞がり、テナントや宿泊客から苦情が出る——これは家賃・宿泊料の値引きや解約、予約キャンセルという形で、目に見えるコストになる。ロープアクセスやハイブリッド工法で足場の設置面積・期間を抑えられれば、営業を止めずに、あるいは影響を最小限にして改修を進められる。ホテルの客室改修や外装リニューアルで、この差は非常に大きい。

資産価値の観点では、適切なタイミングで適切な範囲の修繕を行えることが重要だ。「積立金が足りないから先送り」を続ければ、外装の劣化はそのまま物件の見た目と評価を下げ、賃料相場やバリュエーションに響く。工法を工夫してコストを下げ、必要な修繕を必要な時期に打てるようにすることは、長期的な収益と資産価値を守る投資そのものだ。

私は、修繕を「削るべきコスト」としてだけ捉えてほしくないと思っている。賢く効かせれば、修繕はむしろ収益を守り、伸ばすための手段になる。


積立金不足のマンションが、今すぐできる3ステップ

では、実際に「積立金が足りないかもしれない」と感じている管理組合・オーナーは、何から始めればいいのか。私がいつもお勧めしている順序は次の3つだ。

ステップ1:長期修繕計画と積立残高の”ギャップ”を可視化する
まずは現状把握だ。今の積立残高と、直近の大規模修繕に必要な概算額を突き合わせ、どれだけ不足しているかを数字で出す。国交省のガイドライン(月額202〜218円/㎡の目安)は、自分たちの積立水準が全国の目安と比べて高いか低いかを判断する良い物差しになる。

ステップ2:工事の見積もりを”工法別”で取る
ここが最も見落とされるポイントだ。多くの見積もりは全面足場を前提に作られている。同じ工事内容で「足場工法」「ロープアクセス」「ハイブリッド」の3パターンを比較できれば、削らずに下げられる余地が見えてくる。相見積もりを取る際は、無足場工法に対応できる会社を必ず一社は入れておくことをお勧めしたい。

ステップ3:修繕の”優先順位”を専門家と整理する
不足が大きい場合でも、すべてを一度にやる必要はない。安全・防水に直結する部位を優先し、それ以外は次期に回すという判断も現実的だ。ただし、この優先順位づけは素人判断では危うい。劣化の進行度を正しく読める専門家と一緒に整理してほしい。

この3ステップは、特別な準備がなくても今日から着手できる。そして、どの段階でも「工法の選択肢を持っているか」が結果を大きく左右する。


なぜ明誠は「高品質かつ低価格」を両立できるのか——フランチャイズという仕組み

「工法を選べるのは分かった。ではなぜ、それで品質を落とさずに価格を抑えられるのか」。もっともな疑問だと思う。ここには、私たちが築いてきた仕組みの話がある。

明誠は、ロープアクセス工事として日本で初めてのフランチャイズ展開を進めてきた。塗装・防水・タイル・電気・看板といった各分野の専門職の会社が加盟し、それぞれの得意領域で腕を振るうネットワークになっている。これが効くのは、中間マージンを重ねずに、各工程を専門職が直接担えるからだ。元請けが下請けに丸投げし、そこからまた孫請けへ——という多層構造をなくせば、その分だけ価格は下げられる。そして、専門職が自分の分野を責任を持って施工するから、品質はむしろ上がる。

もう一つ、私たちはJCSA(一般社団法人全国建設業支援協会)の運営も手がけている。建設業向けの経営支援、オンラインセミナー、リアルの交流会、ビジネスマッチングを通じて、全国の建設事業者とつながり、技術と情報を共有している。この裾野の広さが、地域を問わず一定水準以上の施工体制を確保できる背景にある。

「安かろう悪かろう」ではなく、「仕組みで無駄を削ったから、その分お客様に還元できる」。これが、私たちが工法の選択とあわせて大切にしている考え方だ。


まとめ——修繕は「削る」より「賢く効かせる」

今朝のニュースが伝えていたように、修繕積立金の不足はもはや一部のマンションの問題ではない。国交省の調査でも約4割が計画割れという水準にあり、資材・労務費の高騰を考えれば、この傾向はしばらく続くだろう。

だが、不足への答えは「値上げ・借入・先送り」の三択だけではない。工事の中身を削る前に、工事の”やり方”=工法を見直す——この第4の選択肢を持てるかどうかで、管理組合の負担も、オーナーの収益も、そして建物の資産価値も変わってくる。

私たち明誠は、足場工法・ロープアクセス工法・ハイブリッド工法の3つを、建物ごとに最適に組み合わせて提案できる、日本でも数少ない会社だと自負している。ロープアクセスのフランチャイズ・ネットワークを通じて、塗装・防水・タイル・電気・看板といった各分野の専門職が加盟し、高品質と低価格を両立できる体制も整えている。

「積立金が足りない」「工事費が想定を超えた」「営業を止めずに改修したい」——そんなお悩みがあれば、まずは現状を一緒に整理するところからで構わない。工法を含めた最適な打ち手を、建物の特性に合わせてご提案する。ご相談はお問い合わせ(/contact/)からお気軽にどうぞ。

修繕は、削るものではなく、賢く効かせるもの。その一点を、この記事を通じてお伝えできていれば嬉しい。


[出典・参考]
– 国土交通省「令和5年度マンション総合調査結果」(修繕積立金の不足割合36.6%、不足20%超11.7%、月額平均13,054円、高経年マンションの世帯主高齢化)
– 国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」令和6年6月改定(目安単価202〜218円/㎡・月、段階増額の考え方)
– 国土交通省「建設工事費デフレーター」「公共工事設計労務単価」(工事費の上昇)
– Googleアラート(2026年7月7日ダイジェスト/分譲マンション関連ニュース)を起点に執筆

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別物件の修繕計画・資金計画については専門家にご相談ください。

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老朽化マンションは「建て替え」か「大規模修繕」か——2026年4月施行の改正区分所有法で決議のハードルは下がった。それでも多くの管理組合が大規模修繕を選ぶ理由と、コストを最適化する工法戦略【2026年7月】

老朽化マンションは「建て替え」か「大規模修繕」か——2026年4月施行の改正区分所有法で決議のハードルは下がった。それでも多くの管理組合が大規模修繕を選ぶ理由と、コストを最適化する工法戦略【2026年7月】

先日、「老朽化マンション再生へ法改正、建て替えの道広がるも、立ちはだかるコストの壁」という記事を目にしました。旧耐震基準で建てられたマンションが次々と寿命を迎える一方で、建て替えはほとんど進んでいない——その現実を、今年4月に施行された改正区分所有法とあわせて解説した内容でした。読みながら、私は現場でお会いする理事長さんやオーナーさんの顔を思い浮かべていました。「うちのマンションも、そろそろ考えないといけない」。ここ数年、そうおっしゃる方が本当に増えているからです。

私は東京・関東を中心に、マンション・ビル・ホテルの大規模修繕工事に長く携わってきました。従来の足場を架ける工法と、産業用ロープを使って足場を架けずに外壁作業を行うロープアクセス工法(無足場工法)の両方を扱い、建物ごとに最適な工法を提案するのが私たちの仕事です。その立場から、今日はあえて「建て替え」の話から始めたいと思います。なぜなら、建て替えという選択肢を正しく理解して初めて、「では大規模修繕でどこまで延命できるのか」「そのコストをどう抑えるのか」という現実的な判断ができるからです。

法律が変わり、建て替えのハードルは確かに下がりました。それでも、日本のほとんどのマンションにとっての現実解は、いまも「適切な大規模修繕による長寿命化」です。今日はその理由を公的なデータで確認したうえで、上がり続ける工事費のなかで資産価値を守るための工法戦略を、私なりに率直にお話しします。少し長くなりますが、築30年・40年を超えるマンションの理事長さん、そして収益物件をお持ちのオーナーさんに、必ず判断材料になる内容にします。

結論から——「建て替えか修繕か」は二択ではなく、順番の問題

先にいちばん大事なことをお伝えします。「建て替え」と「大規模修繕」は、対立する二択ではありません。多くのマンションにとって、正しい問いは「どちらを選ぶか」ではなく「まず何をして、いつ次の判断をするか」という順番の問題です。

というのも、後ほど数字でお示しするとおり、建て替えが実現するマンションは全体のごくわずかです。合意形成の難しさ、一戸あたり数千万円規模の追加負担、仮住まいの費用と期間——これらの壁は、法律が変わったからといって一夜で消えるものではありません。だからこそ現実には、ほとんどのマンションが「適切な修繕を重ねて建物の寿命を延ばしながら、いずれ来る大きな決断のための資金と合意を育てていく」という道を歩みます。

今回の法改正は、この道のりの「最後の決断」を少しだけ下しやすくしてくれました。しかし、そこにたどり着くまでの数十年を支えるのは、やはり日々の管理と、計画的な大規模修繕です。「建て替えの道が広がったから、修繕はほどほどでいい」という発想は、むしろ逆です。建て替えという最終手段を現実的な選択肢として残すためにこそ、それまでの修繕を丁寧に、かつコストを抑えて続けることが欠かせません。

何が変わったのか——2026年4月施行の改正区分所有法

まず、今回の法改正の中身を正確に押さえておきましょう。ここを曖昧にしたまま「建て替えしやすくなったらしい」という噂だけが独り歩きすると、判断を誤ります。

改正の背景にある「2つの老い」

2024年(令和6年)の国会で改正区分所有法が成立し、2026年(令和8年)4月1日に施行されました(法務省)。この改正の背景にあるのが、「2つの老い」という言葉です。ひとつは建物の老い、つまり高経年化。もうひとつは居住者の老い、つまり高齢化です。建物が古くなると同時に、そこに住む方々も高齢になり、修繕や再生の合意形成が難しくなっていく——この二重の課題に、マンションの新築から再生までのライフサイクル全体で対応しようというのが、今回の改正の狙いです。

私が現場で感じてきた実感とも、この「2つの老い」はぴたりと重なります。築年数の古いマンションほど、理事会の担い手が高齢化し、総会での意思決定に時間がかかります。工事の必要性は誰もが分かっているのに、決議が集まらずに先送りになる——そういう現場を、私は何度も見てきました。今回の改正は、まさにその「決められない」を法律の側から少しでも解きほぐそうとするものだと理解しています。

建て替え決議の要件が「5分の4」から「4分の3」へ

改正の目玉のひとつが、建て替え決議の要件緩和です。これまで建て替えには区分所有者と議決権の各5分の4以上の賛成が必要でした。改正後は、一定の要件に該当する場合、この割合が4分の3へと引き下げられます(法務省)。

一定の要件とは、たとえば耐震基準を満たしていない場合、火災に対する安全性が不足している場合、高齢者の移動に著しい支障がある場合などです。旧耐震基準で建てられた古いマンションの多くは、この要件に当てはまる可能性があります。5分の4というのは、100戸のマンションなら80戸の賛成が必要という水準です。これが4分の3、つまり75戸で足りるようになる。数字だけ見れば小さな差に思えるかもしれませんが、合意形成の現場では、この5戸分の差が決議の成否を分けることは珍しくありません。

建て替え以外の再生手法も「5分の4」の多数決で可能に

もうひとつ、私が実務上とても重要だと考えているのが、建て替え以外の再生手法についての緩和です。これまで、建物と敷地の一括売却、一棟まるごとのリノベーション、建物の取り壊しといった手法は、原則として区分所有者全員の同意が必要でした。全員同意というのは、現実にはほぼ不可能に近いハードルです。改正後は、これらについても5分の4の多数決で決議できるようになりました(法務省)。

これが意味するのは、「建て替えか、そのまま我慢して住み続けるか」という極端な二択だった状況に、いくつもの中間の選択肢が加わったということです。たとえば、建て替えの費用負担が重すぎる場合でも、一棟リノベーションで建物を刷新する、あるいは敷地ごと売却して住み替える、といった道が現実的な決議事項になりました。再生の選択肢が広がったことは、マンションを持つすべての方にとって前向きな変化だと思います。

「所在不明の区分所有者」を決議の母数から外せるように

さらに、実務者の視点から見逃せないのが、所在等が分からない区分所有者への対応です。改正法では、裁判所の決定により、所在等不明区分所有者を集会の決議の母数から除外できる仕組みが整いました。所在等不明区分所有者は議決権を持たないものとして扱われます(法務省)。

これは地味な改正に見えて、現場では非常に大きな意味を持ちます。古いマンションほど、相続が繰り返されて所有者が分からなくなった住戸、連絡が取れない投資家の住戸が混じっています。従来はそうした一戸の「行方不明票」が分母に居座り、決議を事実上不可能にしていました。この母数調整の仕組みは、真面目に建物と向き合っている区分所有者の意思が、きちんと決議に反映されるようにするための重要な手当てです。

大規模修繕は「出席者の多数決」で決めやすくなる

そして、私たちの本業に最も近い改正がこれです。大規模修繕のように区分所有権の処分を伴わない事項については、集会に出席した人による多数決で決めてよい方向へと、決議が円滑化されます。あわせて、共用部分の変更についても、規約で定めることで区分所有者数の要件を過半数まで緩和できるようになり、バリアフリー基準への適合のための変更などは3分の2以上の賛成に緩められます。

平たく言えば、「総会に来ていない人、無関心な人のせいで、必要な修繕がいつまでも決まらない」という状況を減らすための改正です。大規模修繕は本来、建物の安全と資産価値を守るための当たり前のメンテナンスです。それが決議のハードルの高さゆえに先送りされ、傷みが進んでからようやく着手する——そういう悪循環を断ち切る後押しになると、私は期待しています。

それでも建て替えは進まない——数字が示す現実

法律は前に進みました。では、これで老朽化マンションの建て替えが一気に進むのかというと、話はそう単純ではありません。ここで公的なデータを見ておきましょう。

築40年超のマンションは約137万戸

国土交通省の統計によると、マンションのストック総数は2024年度末で約713万戸に達しています。そして、そのうち築40年を超えるマンションは、2023年末時点で約137万戸あります(国土交通省)。築40年というのは、多くのマンションで大規模修繕を2回、3回と重ね、設備の更新も本格化する時期です。この137万戸という数字は、これからさらに増え続けていきます。

建て替えの累計実績は、たった323件

一方で、実際に建て替えられたマンションはどれくらいあるのでしょうか。国土交通省の集計では、マンション建て替えの実績は累計で323件、2025年3月末時点で発表ベースとして初めて300件を超えました(国土交通省)。

この二つの数字を並べてみてください。築40年超のマンションが約137万戸あるのに対し、建て替えの累計はわずか323件です。戸数に換算しても、これまで建て替えられたのは全国で数万戸にすぎません。老朽化のスピードに、建て替えの実績がまったく追いついていない——これが日本のマンションが直面している、動かしがたい現実です。マンション敷地売却制度による再生も、累計で10件・約600戸程度(2023年3月時点、国土交通省)にとどまっています。

なぜ建て替えは進まないのか

理由は主に3つあります。第一に、費用です。建て替えには、既存住戸の取り壊しから新築までの莫大な費用がかかります。容積率に余裕があって、増えた分の住戸を売却して費用を賄える立地でなければ、区分所有者一人ひとりに数千万円規模の追加負担が生じることも珍しくありません。第二に、合意形成の難しさです。決議要件が下がったとはいえ、4分の3や5分の4の賛成を集めるのは容易ではありません。とくに高齢の区分所有者にとっては、「残りの人生で、多額の負担と数年間の仮住まいを引き受けてまで新しい建物にしたいか」という問いは重いものです。第三に、仮住まいと期間の問題です。建て替えには数年単位の時間がかかり、その間の住まいをどうするか、賃貸中の住戸のオーナーであれば家賃収入がどうなるか、といった現実的な課題が立ちはだかります。

つまり、法改正で「決議のハードル」は下がっても、その先にある「費用のハードル」「合意のハードル」「時間のハードル」は依然として高い。だからこそ、多くのマンションにとっての現実解は、いまも「適切な大規模修繕による長寿命化」なのです。

長寿命化という現実解——大規模修繕で建物はどこまで持つのか

「建て替えが進まないなら、古いマンションはどうすればいいのか」。その答えが、計画的な大規模修繕による長寿命化です。

鉄筋コンクリート造のマンションは、適切なメンテナンスを続ければ、物理的には60年、条件がよければそれ以上使い続けることができるとされています。逆に言えば、メンテナンスを怠れば、その寿命は大きく縮みます。マンションの寿命を決めるのは、建てられた年ではなく、その後どれだけ手をかけてきたか——これは私が現場で確信していることです。

大規模修繕は、一般的に12年前後の周期で行われます。外壁の塗装や補修、屋上やバルコニーの防水、鉄部の塗装、シーリングの打ち替え、給排水管の更新といった工事を通じて、建物の劣化を食い止め、機能を回復させていきます。1回目、2回目、3回目と回を重ねるごとに、更新すべき設備は増え、工事の内容は重くなっていきます。だからこそ、築30年、40年を超えたマンションでは、「いかに質を落とさずにコストを抑えるか」が、長寿命化を続けられるかどうかの分かれ道になります。

長寿命化を実現するうえで、私が特に大切だと考えているのが、工事の前段階での劣化診断です。外壁のタイルやモルタルが浮いていないか、コンクリートの中性化がどこまで進んでいるか、防水層がどれだけ傷んでいるか——こうした建物の「今の状態」を正確に把握しないまま、周期だけで一律に工事を発注すると、必要な補修が漏れたり、逆に不要な工事に費用をかけたりしてしまいます。ここでもロープアクセスは力を発揮します。足場を架けずに外壁の近くまで作業員が接近できるため、打診調査(壁を専用の道具で叩いて浮きや剥離を調べる調査のことです)を機動的に行い、傷んでいる箇所を的確に見つけ出すことができます。正確な診断があってこそ、限られた予算を本当に必要な工事に集中させることができるのです。

そして、国も長寿命化を後押ししています。国土交通省は「マンションストック長寿命化等モデル事業」などを通じて、老朽化マンションの再生や長寿命化に取り組む管理組合を支援しています。建て替えという最終手段の手前で、建物を大切に使い続ける取り組みが、政策としても重視されているということです。

工事費が上がり続けるいま、コストをどう抑えるか

ここで避けて通れないのが、工事費の高騰です。建て替えを見送って大規模修繕で延命する、という判断をしたとしても、その修繕自体のコストがこの10年で大きく膨らんでいます。

国土交通省が公表する建設工事費デフレーターを見ると、建設総合の指数は基準の2015年度を100として、近年は130を超える水準まで上昇しています。つまり、この10年で建設コストは約3割上がったということです。加えて、職人さんの人件費の目安となる公共工事設計労務単価は、14年連続で引き上げられています。資材が上がり、人件費も上がる。この二重の上昇のなかで、以前と同じ内容の修繕をしようとすれば、当然、費用は膨らみます。

とくに古いマンションでは、修繕積立金の不足が深刻な課題になりがちです。分譲当初に「当面は安く」と低めに設定された積立金が、そのまま据え置かれてきたケースは少なくありません。国土交通省も修繕積立金に関するガイドラインを示し、段階的な増額よりも、長期にわたって均等に積み立てる方式が望ましいとの考え方を打ち出しています。積立金が計画に対して不足しているのであれば、工事の直前になって慌てるのではなく、早い段階で長期修繕計画とセットで見直しておくことが、結果として住民の負担を平準化することにつながります。

修繕積立金には限りがあります。工事費が上がったからといって、積立金が自動的に増えるわけではありません。そこで私が申し上げたいのは、「工事の質を落としてコストを下げる」のではなく、「工事のやり方(工法)を最適化してコストを下げる」という発想です。同じ品質の外壁補修や防水を、より少ない仮設費用と短い工期で実現できれば、限られた積立金の効き目は大きく変わります。ここに、私たちのような施工会社が価値を出せる余地があると考えています。

足場か、ロープアクセスか——3つの工法を建物に合わせて選ぶ

大規模修繕のコストのなかで、意外に見落とされがちなのが「仮設足場」の費用です。外壁工事のために建物の周囲に足場を組み、工事が終われば解体する。この足場の架設・解体には、決して小さくない費用と時間がかかります。工事費全体のなかで、足場をはじめとする仮設費用が相当な割合を占めることも珍しくありません。

私たちは、この仮設のあり方から見直すことで、コストと工期、そして居住者の皆さまの負担を同時に軽くできると考えています。そのために持っているのが、3つの工法という選択肢です。

ロープアクセス工法(無足場工法)とは

ロープアクセス工法は、産業用のロープを使い、作業員が屋上などから吊り下がって外壁の点検や補修、塗装、防水、シーリングの打ち替えといった作業を行う工法です。足場を架けないため「無足場工法」とも呼ばれます。足場の架設・解体が不要なので、その分の費用と工期を削減でき、工事期間も短くできます。

高経年で高齢化が進んだマンションにとって、この工法にはもうひとつ大きな利点があります。足場を組まないため、窓の外に他人が立つ期間が短く、日当たりや通風、防犯上の不安といった居住者のストレスを最小限に抑えられるのです。「2つの老い」を抱えたマンションで、長期間にわたって足場に囲まれて暮らすことの負担は、想像以上に大きいものです。工事中の生活影響を軽くできることは、合意形成の面でも見逃せない価値だと私は考えています。

3つの工法の比較

もちろん、ロープアクセスがすべての建物に最適というわけではありません。建物の形状、高さ、工事の内容によって、最適な工法は変わります。私たちは次の3つを、建物ごとに使い分けています。

工法 特徴 向いている建物・場面
通常の足場工法 従来型の仮設足場を組んで施工。作業範囲が広く、大量の部位を一度に扱える 中低層、複雑な形状、全面的な補修が必要な建物
ロープアクセス工法(無足場) 産業用ロープによる無足場施工。足場費を削減し、工期を短縮。居住者の生活影響も最小 高層、足場の架設が難しい立地、コストと工期を重視する建物、部分的な補修
ハイブリッド工法 足場とロープアクセスを部位ごとに使い分ける 大規模・複雑な物件で、総合的なコスト最適化が必要なケース

ここで強調しておきたいのは、「どの工法が優れているか」ではなく、「この建物にはどの工法の組み合わせが最適か」を提案できることこそが価値だ、という点です。足場かロープか、という二択ではなく、両方を知り尽くしたうえで、部位ごとに最適な方を選ぶ。全面は足場で効率よく、狭小部や一部の高所はロープアクセスで、というように組み合わせるハイブリッド工法が、結果として総額を最も抑えられるケースは少なくありません。

私たちのロープアクセスの取り組みについてはこちらのページで、大規模修繕全般の考え方についてはこちらのサービス案内で、それぞれ詳しくご紹介しています。あわせてご覧いただければと思います。

フランチャイズという仕組みが、高品質と低価格を両立させる

もうひとつ、コストの面でお伝えしておきたいことがあります。私たちは、ロープアクセス工事において、日本で初めてとなるフランチャイズ展開を行っています。塗装、防水、タイル、電気、看板工事など、各分野の専門職の会社が加盟しているネットワークです。

なぜこれがコストに効くのか。大規模修繕は、外壁塗装だけで完結する工事ではありません。防水、タイルの補修、鉄部の塗装、電気設備、時には看板の付け替えまで、多くの専門分野が関わります。これらを、それぞれの分野に長けた専門職が、ロープアクセスという共通の技術基盤のうえで連携して施工する。だからこそ、品質を保ちながら、余分な中間コストを抑えた価格を実現できるのです。

老朽化したマンションほど、修繕すべき部位は多岐にわたります。ひとつの窓口で、各分野の専門職を適材適所に配置できる体制は、限られた修繕積立金を最大限に活かすうえで、大きな意味を持つと考えています。

理事長さん・オーナーさんが、いま取るべき行動

ここまで、法改正の中身、建て替えが進まない現実、そして大規模修繕でコストを抑える工法戦略についてお話ししてきました。最後に、築30年・40年を超えるマンションの理事長さん、そして収益物件をお持ちのオーナーさんに向けて、いま取っていただきたい行動を整理します。

第一に、自分のマンションの「立ち位置」を正確に知ることです。旧耐震か新耐震か、容積率に余裕があるか、築何年でこれまで何回大規模修繕をしてきたか。これらによって、建て替えが現実的な選択肢になり得るのか、それとも長寿命化に軸足を置くべきなのかが変わってきます。今回の法改正で建て替え決議の要件が下がったとはいえ、それが現実的かどうかは、建物と敷地の条件次第です。

第二に、長期修繕計画と修繕積立金を、いまの工事費水準で見直すことです。工事費はこの10年で約3割上がりました。前回の大規模修繕のときの金額を前提に組まれた計画は、すでに現実と乖離している可能性があります。積立金が不足するなら、値上げか、工法の見直しによるコスト圧縮か、あるいはその両方か。早く気づくほど、打てる手は多くなります。

第三に、次の大規模修繕にあたっては、足場ありきで考えず、工法の選択肢を広げて見積もりを取ることです。「足場を組むのが当たり前」という前提を一度外し、ロープアクセスやハイブリッド工法を含めて比較検討すれば、同じ品質でもコストと工期、居住者の負担が変わってくることがあります。少なくとも、比較の土俵に乗せる価値は十分にあります。

第四に、決議が難しいという理由だけで、必要な修繕を先送りしないことです。今回の法改正は、まさにこの「決められない」を解きほぐすためのものでした。所在不明者を母数から外せる仕組みや、出席者による多数決の円滑化を活かせば、これまで止まっていた意思決定が動き出す可能性があります。

よくいただく質問——建て替えと大規模修繕をめぐって

現場で理事長さんやオーナーさんからよくいただく質問に、いくつかお答えしておきます。

「法律が変わったのだから、建て替えを目指すべきでは?」

決議のハードルが下がったこと自体は前向きな変化ですが、それがそのまま「建て替えを目指すべき」を意味するわけではありません。建て替えが現実的に成り立つのは、容積率に余裕があって増えた住戸を売却でき、区分所有者の追加負担を抑えられる、恵まれた立地の建物です。多くのマンションでは、まず長期修繕計画を精査し、大規模修繕でどこまで延命できるかを見極めたうえで、それでも難しい場合の選択肢として再生手法を検討する、という順番が現実的です。焦って結論を出す必要はありません。

「築40年を超えたら、もう修繕してもムダではないか?」

そんなことはありません。鉄筋コンクリート造は、適切なメンテナンスを続ければ60年、条件がよければそれ以上使えるとされています。築40年は、多くの建物にとってまだ折り返し地点です。むしろこの時期に給排水管の更新や外壁・防水の的確な補修を行えるかどうかが、その後の20年の資産価値を大きく左右します。「もう古いから」と手を抜くのではなく、「あと何年、どう使うか」を決めて、それに見合った修繕を計画的に行うことが大切です。

「収益物件のオーナーとして、工事中の家賃収入が心配」

これは投資用にマンションを一室、あるいは一棟お持ちのオーナーさんから、非常に多くいただく声です。ここでこそ、工期を短くできる工法の選択が効いてきます。足場に長期間囲まれると、入居者の満足度が下がり、退去や家賃交渉のリスクが高まります。ロープアクセスやハイブリッド工法で工期を圧縮し、生活影響を抑えられれば、こうしたリスクを小さくできます。工法の選択は、施工品質だけでなく、オーナーの収益にも直結する経営判断だと私は考えています。

おわりに——建物の寿命は、選び取れる

「老朽化マンション再生へ法改正、建て替えの道広がるも、立ちはだかるコストの壁」。冒頭に紹介した記事の見出しは、いまのマンションが置かれた状況を的確に言い表しています。道は広がった。けれど、壁はまだ高い。

私は、この壁を「大規模修繕という現実的な手段で、時間をかけて越えていくもの」だと捉えています。建て替えという最終手段を、いざというときに選べるように残しておくためにも、それまでの数十年を支える修繕を、質を落とさず、しかしコストは賢く抑えて続けていく。そのために、足場とロープアクセスという二つの技術を建物ごとに最適に組み合わせる——これが、私たちが提供できる価値です。

マンションの寿命は、建てられた瞬間に決まっているわけではありません。その後、どう手をかけ、どんな判断を積み重ねるかで、いくらでも延ばすことができます。建物の寿命は、選び取れるのです。次の大規模修繕をどうするか、あるいは建て替えを含めて再生をどう考えるか——お悩みの理事長さん、オーナーさんがいらっしゃれば、まずは建物の状態を一緒に見るところから、お手伝いさせてください。ご相談はこちらのお問い合わせページからお気軽にどうぞ。


本記事は2026年7月時点の公表情報にもとづいています。改正区分所有法の具体的な適用や決議要件の判断、個別の建て替え・修繕の可否については、専門家や管轄の窓口にご確認ください。工事費や建物の寿命に関する数値は一般的な目安であり、個別の建物の状態によって異なります。

出典(公的一次情報)
– 法務省「老朽化マンション等の管理及び再生の円滑化等を図るための建物の区分所有等に関する法律等の一部を改正する法律について」
– 国土交通省「マンションに関する統計・データ等」(マンションストック数、築40年超戸数、建替え等実績)
– 国土交通省「建設工事費デフレーター」「公共工事設計労務単価」

▼ロープアクセス工法・無足場工法の詳細解説はこちら
ロープアクセスドットコム|無足場工法専門メディア

建設資材の高騰が大規模修繕を直撃する——シーリング材・塗料・防水材が値上がりする局面で、管理組合とオーナーが取るべきコスト戦略とは【2026年7月】

先日、同業の方が書かれた「資材高騰が工事に与える影響」という記事を目にしました。鉄も塗料もシーリング材も設備機器も、ほぼ全部が値上がりしている——現場の実感がそのまま言葉になった内容で、私も思わずうなずきながら読みました。

私は東京・関東を中心に、マンション・ビル・ホテルの大規模修繕工事に長く携わってきました。ロープアクセス工法(産業用ロープを使い、足場を架けずに外壁の作業を行う無足場工法のことです)と、従来の足場仮設工法の両方を扱い、建物に合わせて最適な工法を提案するのが私たちの仕事です。その現場の立場から申し上げると、いま起きている資材高騰は、単なる「一時的な値上がり」ではありません。管理組合やオーナーの皆さまの修繕積立金と、資産価値そのものに、これから何年も影響し続ける構造的な変化だと考えています。

今日は、資材と工事費がどれくらい上がっているのかを公的なデータで確認したうえで、では現実にどう向き合えばいいのか、私なりの考えを率直にお話しします。少し長くなりますが、次の大規模修繕を控えている理事長さん、そして収益物件をお持ちのオーナーさんに、必ず役に立つ内容にします。

結論から——「待てば下がる」という前提はもう捨てたほうがいい

先にいちばん大事なことをお伝えします。「今は高いから、もう少し景気が落ち着いてから工事をしよう」という判断は、いまの局面では危険です。

理由は単純で、建築費は下がっていないからです。むしろ高い水準で高止まりし、ゆるやかに上がり続けています。後ほど公的なデータでお示ししますが、この10年で建築コストは約3割上がりました。そして労務費(職人さんの人件費)の上昇はこれからも続く見通しです。つまり「待つ」という選択は、多くの場合「もっと高くなってから工事する」ことと同じ意味になってしまいます。

もちろん、資金計画が整っていないのに無理に前倒しする必要はありません。ただ、「値下がりを待つ」という前提だけは、いったん頭から外していただきたい。そのうえで、上がり続けるコストをどう吸収するか——ここに知恵の使いどころがあります。

数字で見る「建設資材と工事費の高騰」

感覚の話だけでは意思決定に使えません。公的な統計で、いま何が起きているのかを確認しておきましょう。

建設工事費は10年で約3割上がった

国土交通省は「建設工事費デフレーター」という指標を毎月公表しています。これは、建設工事にかかる費用が基準となる年度と比べてどれだけ変動したかを示す、いわば建築版の物価指数です。2015年度を100として計算されています。

この指標を見ると、建設総合の数値は2025年12月時点で133.2まで上昇しています(国土交通省・建設工事費デフレーター)。基準の100に対して133ですから、この10年で建設コストが約3割上がったということです。数か月前の2025年8月時点でも130.9でしたので、いまも上昇基調が続いていることがわかります。

もう一つ、私が現場の人間として注目しているのが構造別の動きです。同じデフレーターで、木造住宅の指数が149.2、鉄筋コンクリート(RC)造が143.2と、木造がRC造を上回る「逆転」が起きています。もともとRC造のほうが上がりやすいとされてきたのですが、木材価格や住宅系の労務ひっ迫でこの順位が入れ替わったわけです。マンションの多くはRC造ですが、そのRC造でも143という高い水準にあることは、しっかり押さえておいてください。

職人さんの人件費(労務単価)も14年連続で上昇

資材だけではありません。工事費のもう一つの柱である労務費も上がり続けています。国土交通省が毎年見直す「公共工事設計労務単価」は、2026年3月適用分で14年連続の引き上げとなり、全国全職種の単純平均で前年度比プラス4.5%となりました(国土交通省)。

労務単価は公共工事のための基準ですが、民間の大規模修繕工事の職人さんの賃金にも当然影響します。資材が上がり、そのうえ人件費も毎年上がっている——この二重の上昇が、いまの工事費高騰の正体です。

2012年度と比べると工事費は約35%上昇

もう少し長い目で見てみましょう。国土交通省のデフレーターをもとにすると、2024年度(暫定値)と2012年度を比べた工事費の上昇率は34.8%に達します。十数年で約3分の1以上、工事費が重くなったということです。

これらの数字が意味するのは、「同じ建物に同じ修繕を施すのに、10年前の見積書はもう通用しない」という現実です。前回の大規模修繕のときの金額を基準に予算を組んでいると、いざ見積もりを取ったときに大きく足が出ます。まずこの前提の更新から始めていただきたいと思います。

(データ出典はいずれも国土交通省の公表値です。指標は毎月・毎年更新されますので、実際の計画時点では最新値をご確認ください。)

現場で感じる「見積書の重さ」

数字の話をしましたが、私がこの十数年で肌身に感じてきたことも申し添えておきます。以前は、同じ規模のマンションの大規模修繕であれば、前回の実績金額に少し色を付ければ次の予算の当たりが付きました。ところが、ここ数年はその「感覚」がまったく当てにならなくなりました。

数年前、あるマンションで、前回工事の見積書を握りしめた理事長さんが「これと同じくらいで収まりますよね」とおっしゃったことがあります。しかし実際に積算してみると、足場費も塗料も防水材も、そして職人さんの手間も上がっており、前回よりだいぶ高い金額になりました。「なぜこんなに?」と驚かれたその表情を、私はよく覚えています。悪いのは物価であって、その方でも私でもない。だからこそ、私は数字の背景を一つひとつ丁寧に説明し、どこを工夫すれば総額を抑えられるかを一緒に考えました。物価は変えられませんが、工事の組み立て方は変えられます。ここに私たちの存在意義があると、あらためて感じた出来事でした。

なぜシーリング材・塗料・防水材まで上がるのか——現場から見た理由

「鉄骨や生コンが上がるのはわかる。でも、なぜシーリング材や塗料まで?」というご質問をよくいただきます。ここは現場の人間として少し補足させてください。

大規模修繕で使う塗料、シーリング材(サッシまわりや外壁の目地を埋める、ゴム状の充填材のことです)、防水材の多くは、石油由来の樹脂を原料にしています。原油価格や為替、そして海外からの原材料の輸入コストが、そのまま製品価格に響きます。ここ数年の円安と原材料高が、これらの副資材をじわじわと押し上げてきました。

塗料メーカーの決算を見ても、価格改定を進めながら売上を確保している構図が読み取れます。実際、大手の塗料メーカーが2027年3月期の業績予想を上方修正するといった動きも報じられています。これは裏を返せば、製品価格が上がっているということでもあります。

さらに、これらの副資材は「少量だから影響も小さい」わけではありません。大規模修繕では、外壁全面のシーリング打ち替え、外壁塗装、屋上・バルコニーの防水と、これらの材料を大量に使います。1棟あたりで見れば、副資材の値上がりは決して無視できない金額になります。

この高騰局面で、管理組合とオーナーが取れる4つの現実解

では、上がり続けるコストにどう向き合うか。私が現場で実際にご提案している考え方を、4つに整理してお伝えします。

1. 「工法」でコストを吸収する——足場費という大きな塊を見直す

大規模修繕の見積書を開くと、多くの方が驚かれるのが「仮設工事費」、つまり足場の費用です。建物の規模や形状にもよりますが、工事費全体の2割前後を足場の架設・解体・レンタルが占めることも珍しくありません。

ここに、資材高騰時代の一つの答えがあります。私たちが手がけているロープアクセス工法(無足場工法)は、その名のとおり足場を架けずに、屋上から下ろした産業用ロープで作業員が外壁の作業を行う工法です。足場を組まない分、仮設費用を大きく圧縮でき、工期も短縮できます。

資材や労務が上がっている局面では、「材料費や人件費を値切る」ことには限界があります。むしろ、足場という工事費の大きな塊そのものを減らせるかどうかが、総額を左右します。塗料が1割上がっても、足場費を大きく削れれば、総額では十分に相殺できるケースがあるのです。

もちろん、ロープアクセスがすべての建物に万能というわけではありません。ここは正直にお伝えします。

2. ただし「足場が向く建物」もある——ハイブリッドという発想

ロープアクセスが力を発揮するのは、高層で足場を架けにくい建物、周囲に足場を建てるスペースが取りにくい建物、そしてコストを最優先したい物件です。一方で、外壁の劣化が全面的に激しく大量の下地補修が必要な場合や、複雑な形状で作業効率が落ちる場合には、従来の足場のほうが適していることもあります。

そこで私たちがよくご提案するのが、ハイブリッド工法です。これは、足場が有利な部位には足場を架け、ロープアクセスが有利な部位はロープで対応する、というように、建物を部位ごとに使い分ける考え方です。「全部足場」でも「全部ロープ」でもなく、その建物にとっての最適配分を探る。これができる会社は、日本でもまだ多くありません。

大切なのは、複数の工法を持っている会社に相談することです。足場工事しかできない会社に相談すれば足場の見積もりしか出てきませんし、ロープしかできない会社ならロープの提案しか出てきません。工法の選択肢を持っている会社であれば、「あなたの建物なら、この配分がいちばん安く、住民への影響も小さい」という比較そのものを提示できます。

3つの工法を一覧で比較する

言葉だけではイメージしにくいので、3つの工法の特徴を整理します。あくまで一般的な傾向であり、実際の適否は建物ごとに変わりますが、判断の出発点にしてください。

比較項目 通常足場工法 ロープアクセス工法(無足場) ハイブリッド工法
仮設(足場)費 大きい ほぼ不要 部位限定で圧縮
工期 長め 短め 中程度
大量の下地補修 得意 部分補修向き 部位で使い分け
高層・足場困難な建物 苦手なことも 得意 得意
住民の生活・視界への影響 大きい(建物を覆う) 小さい 中程度
防犯面 足場からの侵入リスク リスク小 部位で異なる

足場を建物全体に架けると、工事期間中はバルコニーが覆われ、洗濯物が干しにくくなったり、窓からの視界がふさがれたりします。防犯の面でも、足場が侵入経路になり得るという不安の声を、私は現場で何度も伺ってきました。ロープアクセスはこうした生活への影響を小さく抑えられるのが、コスト以外の大きな利点です。ここは、実際に住んでいる方の満足度に直結する部分なので、オーナーさんにも管理組合さんにも、ぜひ重視していただきたいところです。

タイルの浮き・剥落は「安全」の問題でもある

コストの話に偏りましたが、大規模修繕にはもう一つ、絶対に外せない視点があります。安全です。とくに外壁タイルの浮きや剥落は、通行人や住民に危険が及びかねない深刻な劣化です。

建築基準法では、一定規模以上の建物について、外壁の全面打診調査など定期的な調査・報告が求められています(特定建築物の定期調査報告制度)。打診調査とは、専用の道具で壁を軽く叩き、その音でタイルやモルタルの浮きを見つける調査のことです。この調査自体にも、従来は足場やゴンドラが必要でした。ロープアクセスなら、この調査を機動的に、かつ低コストで行える場合があります。資材が高騰している今こそ、「危険な箇所だけを的確に見つけて、必要な範囲を直す」という無駄のない進め方が効いてきます。

足場費の圧縮を、数字でイメージしてみる

抽象的な話が続いたので、ごく簡単なモデルで「足場費の圧縮」を体感してみましょう。あくまで考え方を示すための単純化した例で、実際の金額ではない点はご了承ください。

たとえば、ある大規模修繕の総額を仮に5,000万円とし、そのうち仮設(足場)費が2割の1,000万円を占めていたとします。資材高騰で塗料・防水材などの材料費が1割上がると、材料費部分が仮に2,000万円だった場合は200万円の増額です。ここだけ見れば「200万円も高くなった」と頭を抱えたくなります。

しかし、もし建物の条件が合い、足場をロープアクセスに置き換えて仮設費を大きく圧縮できたとしたら、その削減幅が材料費の増額を上回ることも十分あり得ます。総戸数50戸のマンションなら、数百万円の差は一戸あたり数万円の負担差に相当します。「材料が上がった分をどこで取り戻すか」を考えたとき、いちばん大きなレバーが足場費だ——このイメージだけでも持ち帰っていただければと思います。

繰り返しになりますが、これはあくまで考え方の説明です。実際の削減幅は建物の形状・劣化状況・工事範囲によって変わりますので、必ず現地を見たうえでの見積もりで判断してください。

3. 修繕積立金の「前提」を国のガイドラインで見直す

工事費が上がっているということは、修繕積立金の水準も見直しが必要だということです。ここは避けて通れない話です。

国土交通省は「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」を令和6年(2024年)6月に改定しました(国土交通省)。このガイドラインでは、計画期間全体における修繕積立金の平均額の目安が、専有面積あたりの月単価で示されています。たとえば、地上20階未満で建築延床面積5,000㎡未満のマンションでは平均335円/㎡・月、5,000㎡以上〜10,000㎡未満では平均252円/㎡・月といった目安が示されています。

これを体感できる数字に換算してみましょう。仮に専有70㎡のお住まいで、目安が月300円/㎡だとすると、月額はおよそ2万1,000円になります。「うちの積立金は㎡あたりいくらだろう」と、一度この物差しで確認してみてください。目安を大きく下回っているなら、将来の工事のときに一時金や借入で穴埋めせざるを得なくなる可能性があります。

また同じ改定では、「段階増額積立方式」——最初は安く、あとから段階的に上げていく積み立て方——について、引き上げ幅の考え方も整理されました。均等に積み立てた場合の金額を基準額とすると、計画の初期額は基準額の0.6倍以上、最終額は1.1倍以内が一つの目安とされています。急に何倍にも跳ね上げる計画は、合意形成の面でも無理が出やすい、ということです。

(金額はいずれもガイドライン上の目安であり、建物の規模・築年数・仕様によって適正額は変わります。詳しくは国土交通省の公表資料をご確認ください。)

4. 「長期修繕計画」を高騰前提でつくり直す

修繕積立金と対になるのが、長期修繕計画です。国土交通省は「長期修繕計画作成ガイドライン」も同時に改定しています。ポイントは、計画に織り込む工事費の単価を、いまの高い水準で見直すことです。

10年前、あるいは5年前につくった長期修繕計画のままでは、想定している工事費が実勢と合っていない可能性が高い。計画上は足りているように見えても、実際に工事の時期が来たら大幅に不足する——これがいちばん怖いパターンです。数年に一度は、最新の工事費水準で計画を見直す。これを習慣にしていただきたいと思います。

オーナーの皆さまへ——高騰は「収益」の問題でもある

ここまでは主に管理組合の理事長さんを念頭にお話ししてきましたが、収益物件をお持ちのオーナーさんにとって、資材高騰はもう一段深い意味を持ちます。修繕費の増加は、そのまま賃貸経営の収支を圧迫するからです。

外壁やシーリング、防水の劣化を放置すれば、漏水やタイルの浮き・剥落につながり、入居者の安全と満足度を損ないます。結果として、空室や賃料下落という形で収益に跳ね返ってきます。逆に、適切なタイミングで、無駄のないコストで修繕を行えば、建物の資産価値と収益力を長く保てます。

だからこそ、工事費が上がっている今だからこそ、「いくらで直すか」だけでなく「どの工法で、どの範囲を、どの順番で直すか」という戦略が効いてきます。足場費を圧縮し、工期を短くできれば、その分だけ工事期間中の入居者への影響も小さくなり、退去リスクも抑えられます。コストと収益は、工法選びを通じてつながっているのです。

「専門職のネットワーク」が高騰時代の武器になる理由

資材高騰への対抗策として、もう一つお伝えしておきたいことがあります。それは、各分野の専門職が連携できる体制の強さです。

大規模修繕は、塗装、防水、シーリング、タイル補修、そして時には電気設備や看板の工事まで、多くの専門工事が組み合わさって成り立ちます。これらをバラバラに別々の会社へ発注すると、それぞれに管理費や諸経費が乗り、工程の段取りにも無駄が生まれます。資材が上がっている今、この「間接コストの重複」は、想像以上に効いてきます。

私たちは、塗装・防水・タイル・電気・看板といった各分野の専門職がネットワークとして加盟する体制を築いてきました。日本で初めてロープアクセス工事のフランチャイズ展開を始めたのも、この「専門職を束ねて高品質と低価格を両立する」という考えからです。一つの窓口で複数の専門工事を段取りよくまとめられれば、間接コストを抑えつつ、各工程の品質は専門職が担保する——高騰局面でこそ生きる仕組みだと考えています。

もちろん、体制の大小だけで会社を選ぶ必要はありません。ただ、「この工事は塗装屋さん、あれは防水屋さんとバラバラに探すのは大変だ」と感じておられるなら、専門職をまとめて動かせる会社に相談する価値は大きいと思います。

夏場の大規模修繕で、もう一つ気にかけていただきたいこと

季節の話も少しだけ。この記事を書いている7月は、まさに夏本番です。夏場の工事では、職人さんの熱中症対策が欠かせません。近年は猛暑が厳しく、屋外作業の安全確保はますます重要になっています。

ここでも工法選びが関わってきます。足場を全面に架けてシートで覆うと、建物の内側は熱がこもりやすく、住民の皆さまの窓を開けづらくする一因にもなります。一方、無足場のロープアクセスは建物を覆いませんので、風通しや採光への影響を抑えられます。工期が短くなれば、暑い時期に工事が長引く負担も軽くできます。

コスト、安全、そして住民の快適さ。この三つは別々のようでいて、実は工法という一点でつながっています。夏の工事を検討されている方は、ぜひこの視点も加えてみてください。

見積もりを取るときに、ぜひ確認していただきたいこと

最後に、実務で役立つチェックポイントをお伝えします。相見積もりを取る際、次の点を各社に確認してみてください。

一つ目は、仮設(足場)費が総額のどれくらいを占めているか。ここが大きいなら、無足場やハイブリッドで圧縮できる余地があるかもしれません。二つ目は、使用する塗料・シーリング材・防水材のグレードと数量の内訳。同じ「外壁塗装一式」でも、材料のグレードで金額も耐久年数も変わります。三つ目は、税込か税抜かの明示。工事は金額が大きいので、消費税分だけで数十万円から数百万円変わります。四つ目は、その会社が扱える工法の種類。一つの工法しか扱えない会社の見積もりは、比較の土俵が最初から限られています。

これらを揃えて初めて、フェアな比較ができます。数字の大小だけでなく、「なぜその金額なのか」を説明できる会社を選んでいただきたいと思います。

積立金が足りないと分かったら——優先順位で考える

見直してみたら積立金が足りない、というケースは実際に少なくありません。そうなったとき、慌てて工事を全部先送りするのは得策ではありません。放置は劣化を進め、結果的に将来の工事費をさらに膨らませるからです。

現実的な選択肢は、大きく三つあります。一つは、修繕積立金の段階的な増額です。先ほど触れた国のガイドラインの考え方に沿って、無理のない範囲で計画的に引き上げます。二つ目は、金融機関の管理組合向けローンや、住宅金融支援機構などの融資制度の活用です。三つ目、そしてここが工法の出番ですが、工事の範囲と工法を最適化して総額そのものを抑えることです。

とくに三つ目は、資金計画に踏み込む前にまず検討すべきだと私は考えています。「積立金が足りないから増額」と結論を急ぐ前に、「そもそもこの工事、足場を全面に架けずに済ませられないか」「本当に今直すべき部位はどこか」を精査する。ここで数百万円単位の差が出ることは珍しくありません。増額や借入は、工法を最適化したうえで、それでも足りない分を補う手段と位置づけるのが健全だと思います。

資材高騰は今後どうなるのか——私の見立て

「これから資材はどうなりますか」とよく聞かれます。正直に申し上げると、私は相場を予言する立場にはありません。ただ、公的データが示す方向性ははっきりしています。労務単価は14年連続で上がり、建築費は高止まりしています。人手不足という構造的な要因がある以上、労務費が急に下がるとは考えにくい。つまり、劇的に安くなる展開を期待して待つより、「上がっている前提」で最適な手を打つほうが現実的だ、というのが私の見立てです。

この点は断定を避けます。相場は為替や国際情勢で動きますし、私の予想が外れることもあるでしょう。ただ、少なくとも「待てば必ず安くなる」という前提に賭けるのはリスクが大きい、とだけはお伝えしておきます。

よくあるご質問(FAQ)

Q. ロープアクセスは足場より必ず安いのですか?必ずではありません。建物の形状や劣化の程度によっては足場のほうが総額で有利なこともあります。だからこそ、両方を扱える会社で比較することが大切です。私たちは「ロープありき」ではなく、建物にとって得な方を正直にご提案します。

Q. 無足場だと工事の品質は落ちませんか?工法が違っても、求められる品質基準は同じです。ロープアクセスは訓練を受けた作業員が行い、塗装・防水・シーリングといった各工程の品質管理も足場工事と同様に行います。むしろ工期が短くなる分、住民の負担は軽くなります。

Q. 前回の大規模修繕から何年で検討すべきですか?一般には12年前後を一つの目安に周期的な修繕が計画されることが多いですが、建物の立地や劣化状況で変わります。まずは現状の点検と、長期修繕計画の見直しから始めるのが安全です。

Q. 相談だけでも費用はかかりますか?現状のご相談や点検のご依頼だけでも構いません。いきなり工事の契約を迫るようなことはいたしません。まずはお気軽にお声がけください。

おわりに

資材高騰のニュースを見るたびに、私は現場のことを思います。材料が上がっても、職人さんの手間が増えても、住民の皆さまにとって「安心して長く住める建物」を届けるという仕事の本質は変わりません。変わらない目的のために、変わり続けるコストとどう折り合うか。その答えの一つが、工法の選択肢を持つことだと、私は考えています。

上がり続けるコストは、たしかに悩ましい。けれど、足場という大きな費用を見直し、国のガイドラインで積立金と計画を点検し、建物に合った工法を選ぶ。この三つを丁寧にやるだけで、打てる手はまだたくさんあります。

「うちの建物なら、どの工法がいちばんコストを抑えられるだろう」——そんな疑問が浮かんだら、見積もりのご依頼でなくても構いません。まずは現状の点検やご相談だけでも、お気軽にお声がけください。ロープアクセスと足場の両方を扱う立場から、あなたの建物にとって本当に得な選び方を、正直にお話しします。

次の大規模修繕が、資産価値を守る良い工事になりますように。現場から、心を込めて。

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参考(公的一次情報)

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の工事費・積立金の適正額や税務・法務上の判断を保証するものではありません。数値は記事作成時点の公表値に基づいており、最新値は各出典元をご確認ください。

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マンション管理の“見える化”が資産価値を左右する時代へ——神戸市が2026年7月から管理状況届出を義務化。収益物件オーナーと管理組合が認定制度・大規模修繕・工法選択で先手を打つ実務【2026年7月】

2026年7月、神戸市で「マンション管理の届出」が義務になりました

2026年7月1日、神戸市で分譲マンションの「管理状況の届出」が義務になりました。これは、神戸市が2025年9月11日に公布した「神戸市マンション管理の適正化の推進に関する条例」に基づくもので、条例そのものの施行は2026年4月1日、そのうち管理状況の届出義務化については2026年7月1日からと段階的に始まっています(出典:神戸市「マンション管理状況の届出・情報開示」)。

制度の狙いは大きく二つあります。一つは、市がマンションの管理の実態を把握し、その状況に応じた支援を行えるようにすること。もう一つが、私が今日いちばんお伝えしたいポイントなのですが、「管理状況の見える化によってマンションの市場評価の向上を図る」こと、つまり資産価値に直結させることです。届け出た内容は、届出者の意向に基づいて、届出の翌月から5年間、神戸市のホームページで公開されます(出典:神戸市 前掲)。

ニュースとしては「また役所の手続きが一つ増えた」くらいに読み流されてしまいそうな話です。実際、NHKも「神戸市は市内の分譲マンションの適切な管理につなげようと、管理組合などに対して大規模修繕の実施状況といった管理に関する届け出を今月から求める」と、淡々と報じています。ですが、収益物件を運用しているオーナーさまや、資産としてのマンションを預かる管理組合の理事長さまにとって、この動きは決して他人事ではありません。ここからが本題です。

なぜ「届出の義務化」が、オーナーと管理組合にとって重い意味を持つのか

正直に申し上げます。私はこの十数年、外壁や防水の現場に立ちながら、「管理がしっかりしている建物」と「そうでない建物」の差が、年々くっきり分かれてきたと感じています。そして今回の神戸市の動きは、その差を「行政と市場が公式に見える化する」という点で、これまでとは意味合いが違います。

これまで、マンションの管理の良し悪しは、外からはなかなか分かりませんでした。エントランスが綺麗かどうか、掲示板が整っているか——せいぜいその程度で、長期修繕計画があるのか、修繕積立金が足りているのか、大規模修繕をいつやったのかは、買う側にも借りる側にも見えなかったのです。

それが、届出制度によって「総会を開いているか」「管理規約があるか」「修繕積立金をいくらに設定しているか」「修繕を計画的に実施しているか」といった中身が、行政に把握され、場合によっては公開されます。つまり、管理の実態が資産価値の一部として値付けされる時代に、はっきり足を踏み入れたということです。管理を放置してきた建物は、売るときも貸すときも、これから確実に不利になっていきます。

私はいつも理事長さまに、「修繕は建物のためだけでなく、皆さまの資産の“通知表”を良くするための投資です」とお伝えしています。今回の制度は、その通知表が本当に外から見えるようになった、という話なのです。

これは「神戸だけ」の話ではありません——全国に広がる潮流

ここで多くの方が「うちは神戸じゃないから関係ない」と思われるかもしれません。ですが、それは危険な読み方だと私は考えています。管理状況の届出制度は、すでに全国に広がりつつある大きな流れの一部だからです。

先行しているのは東京都です。東京都は2019年3月に「東京におけるマンションの適正な管理の促進に関する条例」を制定し、これに基づいて2020年4月から管理状況届出制度を始めています。一定の要件に当てはまるマンションの管理組合は、運営体制の整備、管理規約の設定、総会の開催、管理費・修繕積立金の額の設定、修繕の計画的な実施などの状況を届け出ることになっています(出典:東京都マンションポータルサイト「管理状況届出制度」)。

つまり、東京都が2020年に始めた仕組みを、神戸市が2026年に義務化という形で続いた、という構図です。私の経験上、こういう制度は先行自治体で回り始めると、他の政令市や中核市が追随していくのが常です。今はまだ「うちの街にはない」としても、数年のうちに同じ届出を求められる可能性は十分にあります。今のうちに「いつ来ても出せる状態」に管理を整えておくことが、結局はいちばんの近道です。

そして、この自治体の動きの背景には、国そのものの法整備があります。次はそこを整理します。

国も動いている——マンション管理適正化法と区分所有法の改正

自治体の届出制度の土台になっているのが、国の「マンションの管理の適正化の推進に関する法律」(マンション管理適正化法)です。この法律に基づいて、都道府県や東京都の特別区・市などが「マンション管理適正化推進計画」を作り、その中で管理状況の把握や後述する認定制度を運用しています。

さらに近年、この分野の法改正が相次いでいます。マンション管理適正化法の改正法は2025年11月28日に一部が施行され、老朽化した建物の建替えや売却をしやすくするための改正区分所有法は2026年4月1日に施行されました(出典:国土交通省「管理計画認定制度」)。区分所有法(マンションの所有関係を定めた法律)というのは、私たち施工側から見ても「合意形成のルールブック」のような存在で、ここが変わるということは、大規模修繕や建替えの意思決定のやり方そのものが変わっていくということを意味します。

言い換えれば、「国が枠組みを整え、自治体が届出で実態を把握し、市場が管理の良し悪しで値付けをする」——この三段構えが、いま同時に動き出しているのです。この流れの中で、管理組合とオーナーが具体的に何を求められるのか。その答えの中心にあるのが、次にお話しする「管理計画認定制度」です。

管理計画認定制度とは何か——認定基準を分解して読む

「管理計画認定制度」とは、管理組合が作った管理計画を自治体が審査し、一定の基準を満たしていれば「きちんと管理されているマンション」として認定する制度です(出典:国土交通省「管理計画認定制度」)。神戸市の場合、この認定を受けるための基準の一つとして、まさに今回義務化された「管理状況の届出」を行っていることが求められます(出典:神戸市「マンション管理計画認定制度」)。届出と認定は、別々の制度でありながら、しっかり地続きになっているわけです。

認定の基準は多岐にわたりますが、私たち大規模修繕に携わる立場から見て特に重要なのは、次の二つです。

一つ目は、管理費と修繕積立金が区分して経理されていること。修繕積立金が日常の管理費に紛れ込まず、いざというときの工事のためにきちんと分けて管理されているか、ということです。二つ目、そして私がいちばん強調したいのが、長期修繕計画(今後の修繕を30年単位で見通した計画)の計画期間が30年以上あり、かつ、その残りの期間に大規模修繕工事が2回以上含まれる内容になっていることです(出典:国土交通省「報道発表:マンションの管理の適正化の推進を図るための基本的な方針」)。

ここに、私たちのような施工会社が本気で関わるべき理由があります。「30年で大規模修繕2回以上」というのは、単に計画書を作れば済む話ではありません。その計画の中身が現実的か——工事費の見積もりが妥当か、工法の選び方が建物に合っているか、積立金が足りるのか——という、施工の実務そのものが問われるのです。絵に描いた計画は、認定の場でも、実際の工事の場でも、必ずどこかで綻びます。

認定を取ると、具体的に何が変わるのか

「手間をかけて認定を取って、何かいいことがあるのか」——理事会でよく出る質問です。メリットははっきりしています。

管理計画認定を受けたマンションは、住宅金融支援機構の「フラット35」や「マンション共用部分リフォーム融資」で金利の引下げを受けられます。さらに、認定を受けたマンションを中古で取得する購入者も、フラット35で金利の引下げを受けられます(出典:国土交通省「住宅:管理計画認定制度」)。

この「買う人の金利が下がる」という点が、資産価値の観点では見逃せません。同じ立地・同じ築年数のマンションが二つ並んでいて、片方は認定あり・買い手のローン金利が優遇される、もう片方は認定なし。中古市場でどちらが選ばれ、どちらが高く売れるか。答えは考えるまでもありません。管理の良し悪しが、そのまま売却価格や賃料の底堅さに効いてくる時代になった、ということです。

収益物件オーナーさまの視点で言えば、これは「出口戦略」に直結します。将来売却するにせよ、賃貸で回し続けるにせよ、認定という“公式のお墨付き”があることは、資産としての建物の競争力そのものです。私は、区分所有のマンションを複数お持ちのオーナーさまには、「管理組合の総会で認定取得を議題に上げるだけでも、あなたの資産を守る一手になります」とお伝えしています。

認定の“肝”は、結局「長期修繕計画と大規模修繕の実行力」

ここまでお読みいただくと、届出も認定も、突き詰めれば「修繕をきちんと計画し、きちんと実行できているか」に行き着くことがお分かりいただけると思います。制度が新しくなっても、建物を守る本質は変わりません。変わったのは、その本質が「見えるようになった」ことです。

そして、長期修繕計画で「30年に大規模修繕2回以上」を無理なく成立させようとしたとき、真正面からぶつかるのが工事コストと工期の問題です。大規模修繕は、一般的にマンションで12年周期前後を目安に行われますが、そのたびに数千万円から、規模によっては億単位の費用がかかります。この費用の中で、実は意外なほど大きな割合を占めるのが「足場代」です。

足場は、工事そのものの品質には直接寄与しません。あくまで職人が作業するための“仮設”です。ところが、建物をぐるりと囲って組み、工事が終われば解体する。この架設・解体の費用と期間が、総工費と工期を確実に押し上げます。私が「長期修繕計画を現実的なものにしたいなら、まず工法から考えましょう」とお伝えするのは、このためです。

「最安の1社」に飛びつくと、かえって“見える化”で不利になる

先日も、あるオーナー向けメディアで「最安の1社に違和感」という趣旨の、大規模修繕をめぐる体験談が話題になっていました。6,500万円規模の修繕議案で、いちばん安い見積もりに疑問を持ったという、一棟物件オーナーの話です。私はこの感覚を、現場の人間として強く支持します。

正直に申し上げます。大規模修繕で「最安」だけを基準に選ぶのは、これからの時代、かなり危うい判断です。理由は二つあります。

一つは品質です。安さの中身が「必要な工程を削った安さ」であれば、数年後に不具合が出て、結局やり直しになります。もう一つが、まさに今日のテーマである「見える化」です。管理状況が届け出され、公開され、認定の対象になる時代には、「安かろう悪かろうの修繕を繰り返している履歴」そのものが、資産の評価を下げる材料になりかねません。

では、品質を落とさずにコストを下げるにはどうするか。ここで効いてくるのが、冒頭からお話ししている工法の選択肢を持っているかどうかです。

私が現場で見てきた、「工法を選べる会社」と「選べない会社」の差

現場で20年近くやってきて、私が一番もどかしい思いをするのは、「この建物なら足場を全面に組む必要はないのに」という物件に、判で押したように総足場の見積もりが出ているのを見るときです。

理由は単純で、多くの施工会社は自分たちの持っている工法でしか提案できないからです。足場屋さんは足場で、ロープの会社はロープで組み立てる。建物にとって何が最適かではなく、自社にとって何が売りやすいかで工法が決まってしまう。これは、発注する側からは非常に見えにくい構造的な問題です。

私どもが大切にしているのは、足場仮設・ロープアクセス(無足場工法)・その両方を組み合わせるハイブリッド工法の三つを、建物ごとに最適に選び分けて提案するという姿勢です。私はこれを、必ずワンセットで比較したうえでご提案するようにしています。工法を「選べる」ということは、無駄な足場を省ける、工期を縮められる、居住者の生活への影響を減らせる——つまり、コストと品質と暮らしやすさを同時に最適化できる、ということなのです。この考え方は、ロープアクセス工法のご紹介や大規模修繕工事のご紹介でも詳しくお伝えしています。

ロープアクセス(無足場工法)とは何か——素人向けに整理します

専門用語が続いたので、ここで「ロープアクセス工法」という言葉を、はじめての方向けに整理させてください。

ロープアクセス工法とは、産業用のロープを使い、作業員が建物の上から吊り下がって外壁の調査・補修・塗装・防水などを行う、足場を組まない工法(無足場工法)のことです。ビルの窓ガラス清掃で、ゴンドラや足場なしに人が降りてくる光景を見たことがある方もいらっしゃると思います。あのイメージに近い、確立された技術です。

この工法の利点は、大きく三つあります。第一に、足場の架設・解体が不要になるため、その分の費用と期間を圧縮できること。第二に、建物を丸ごと囲わないので、居住者や利用者の採光・通風・眺望への影響、そして「足場を伝った侵入」という防犯上の不安を大きく減らせること。第三に、部分的な補修や高所の一部だけの工事など、足場を組むには大げさすぎる工事にも、機動的に対応できることです。

もちろん万能ではありません。塗装の全面塗り替えのように、建物全体を長期間・面で押さえる工事では、足場のほうが効率的な場合もあります。だからこそ、「どこをロープで、どこを足場で」と使い分けるハイブリッド工法が生きてきます。大切なのは、工法ありきではなく、建物ありきで考えることです。

三つの工法を、正直に比較します

理事会や、オーナーさま同士でご検討いただけるよう、三つの工法の特徴を私なりに整理しておきます。あくまで一般的な傾向であり、実際は建物の形状・階数・劣化状況によって変わりますので、目安としてお読みください。

工法 主な特徴 費用・工期の傾向 向いている建物 留意点
通常足場工法 建物全体に仮設足場を組む従来型 足場費と工期がかさみやすい 中低層、複雑な形状、全面塗替え 生活への影響・防犯面の配慮が必要
ロープアクセス工法(無足場) 産業用ロープで上から施工 足場費を圧縮、工期短縮 高層、足場架設が難しい物件、部分補修 面で押さえる大規模工事は不向きな場合あり
ハイブリッド工法 足場とロープを部位ごとに使い分け 総合コストを最適化 大規模・複雑物件で最適化したいケース 精度の高い事前調査と設計力が前提

この表で私がお伝えしたいのは、「どれが一番か」ではありません。あなたの建物にとってどれが一番かを、正しく判定できる会社を選んでください、ということです。三つを比較できて初めて、「なぜこの工法なのか」を管理組合として説明でき、その説明こそが、届出や認定の場でも、住民への合意形成の場でも、強い武器になります。

数字を、オーナーさまの財布感覚に落とすと

大規模修繕の金額は、桁が大きすぎて実感が湧きにくいものです。そこで、戸あたりで考えてみましょう。

たとえば50戸のマンションで大規模修繕に6,000万円かかるとすると、単純計算で1戸あたり120万円の負担です。仮に工法の最適化によって総額の1割を圧縮できれば、総額で600万円、1戸あたり12万円が浮く計算になります。修繕積立金の議論で「月あたり数百円の値上げ」を巡って総会が紛糾することを思えば、工法選択で生まれるこの差がいかに大きいか、お分かりいただけると思います。

もちろん、これはあくまで概算の一例であり、実際の削減額は建物によって大きく変わります。断定はできません。ですが、「足場を当たり前と思わずに、まず工法から見直す」という発想を持つだけで、財布に返ってくるものが確かにある——これは、現場で20年見てきた私の実感です。

賃貸マンション・ビル・ホテルのオーナーさまへ——制度の“外”にいても本質は同じ

ここまで分譲マンションと管理組合を中心にお話ししてきましたが、一棟の賃貸マンションやテナントビル、ホテルを単独で所有されているオーナーさまにも、ぜひ立ち止まっていただきたいことがあります。

届出制度や管理計画認定は、区分所有のマンションが主な対象です。ですから、一棟所有の賃貸物件やビルは、多くの場合、制度の直接の対象にはなりません。ですが、だからといって「管理を見える化する必要がない」わけでは決してありません。むしろ賃貸物件のオーナーさまは、分譲マンションのように複数の区分所有者で費用を分け合うのではなく、外壁も屋上防水もエレベーターも、数百万円から一千万円を超える出費を、ご自身一人で、しかも工事をしたその年に丸ごと背負うことになります。この負担の重さは、私も現場で何度も目の当たりにしてきました。

だからこそ、賃貸物件やビル、ホテルのオーナーさまにとって、工法選択によるコストと工期の最適化は、分譲マンション以上に切実な意味を持ちます。とりわけホテルや稼働中の店舗が入るビルでは、「工事のために営業を止められない」「利用者の動線を塞げない」という制約が強く、足場を全面に組むことが売上の逸失に直結します。私どもがロープアクセスやハイブリッド工法を、稼働を止めずに進める提案としてよくご案内するのは、まさにこうした収益への影響を最小化するためです。制度の内側にいるか外側にいるかにかかわらず、「計画的に、建物に合った工法で、生活と営業への影響を抑えて直す」という本質は、まったく同じなのです。

管理組合が、いま動くべき順番

制度の話と工法の話をつなげて、管理組合として今から何をすべきかを、順番で整理します。

第一に、自分の街の届出制度の有無を確認すること。神戸市や東京都のように、すでに届出が求められる、あるいは近く求められる可能性があります。お住まいの自治体名と「マンション 管理状況 届出」で調べるか、自治体の窓口に問い合わせてみてください。神戸市であれば、相談窓口として「すまいるネット」(神戸市すまいの安心支援センター、電話078-647-9955)が設けられています(出典:神戸市「マンション管理状況の届出・情報開示」)。

第二に、長期修繕計画を点検すること。計画期間は30年以上あるか、その中に大規模修繕が2回以上組み込まれているか、修繕積立金は区分経理されているか。これは管理計画認定の基準そのものです。

第三に、次回の大規模修繕を、工法から見直すこと。前回と同じ会社に同じ足場で、と自動的に決めてしまう前に、ロープアクセスやハイブリッドを含めて比較する。この一手間が、コストと工期、そして資産価値の三つに効いてきます。

第四に、その検討過程を記録に残すこと。「なぜこの工法・この金額にしたか」を議事録に残しておくことは、届出・認定の時代において、管理組合の説明責任を果たす何よりの備えになります。

よくあるご質問(FAQ)

届出をしないと罰則があるのですか。
制度は自治体ごとに設計が異なります。神戸市は2026年7月1日から届出を義務としていますが、罰則や運用の詳細は自治体によって違うため、必ずお住まいの自治体の公式情報をご確認ください。ここで「必ずこうなる」と断定はいたしません。

賃貸専用のマンションやビルも対象ですか。
届出制度は分譲マンション(区分所有のマンション)を主な対象としています。一棟を単独所有する賃貸マンションやテナントビルは、制度の直接の対象外であることが多いです。ただし、後述するように、賃貸・自社ビルであっても「計画的な修繕と工法選択で資産価値を守る」という考え方は全く同じです。

管理計画認定は義務ですか。
いいえ、認定制度は義務ではなく、取得を目指す任意の制度です。ただしフラット35の金利引下げなど、取得によるメリットがあります(出典:国土交通省「住宅:管理計画認定制度」)。

うちは築古で積立金も不足しています。もう手遅れですか。
手遅れということはありません。むしろ、そういう建物こそ工法の最適化による効果が大きく出やすいのが実情です。まずは現状の劣化と計画を正直に把握するところからです。

デメリット・注意点も、正直にお伝えします

良いことばかりお話しするのはフェアではありませんので、両面をお伝えします。

届出制度には、当然ながら書類作成の手間がかかります。理事の負担も増えますし、慣れない管理組合には最初のハードルが高く感じられるはずです。ここは、管理会社や専門家、私どものような施工会社の力もうまく借りていただくのがよいと思います。

また、管理計画認定は「取れば安心」という魔法ではありません。認定は管理の枠組みが整っていることの証であって、実際の建物の劣化が止まるわけではありません。認定を取ったからと修繕の手を緩めれば本末転倒です。制度はあくまで、私たちが本来やるべき「建物を守る」という営みを、後押しし、可視化するための道具だとお考えください。

そして工法についても、ロープアクセスが常に安いわけでも、ハイブリッドが常に最適なわけでもありません。ただし○○の場合は不向き、という判断を含めて正直に提案できるかどうか。そこにこそ、施工会社の力量が表れます。

まとめ——制度が変わっても、建物を守る本質は変わりません

神戸市の届出義務化、東京都の先行事例、そして国のマンション管理適正化法の改正。これらが指し示しているのは、「管理の良し悪しが、これまで以上に、はっきりと資産価値になる」という一つの方向です。

その中で、収益物件オーナーさまと管理組合にできる最も確実な備えは、派手なものではありません。長期修繕計画を現実的に整え、次の大規模修繕を工法から見直し、その過程をきちんと記録に残す。この地道な積み重ねが、届出・認定の時代に、あなたの資産を静かに、しかし確実に守ります。

私どもは、足場・ロープアクセス・ハイブリッドの三つを建物ごとに比較してご提案できる、数少ない会社です。工法の比較や長期修繕計画の点検は、お問合せフォームからご相談だけでも遠慮なくお声がけください。総会や理事会の前段階の整理だけでも、お力になれることがあります。次回も、現場で本当に使える話だけをお届けします。

出典・参考資料

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路線価が5年連続で上がっても、収益物件の“建物価値”は勝手に下がる——2026年の路線価2.9%上昇局面で、収益物件オーナーと管理組合が大規模修繕と工法選択で資産を守る実務【2026年7月】

2026年の路線価は「5年連続の上昇」——まず何が起きたのかを整理します

2026年7月1日、国税庁が令和8年分の路線価を公表しました。全国約31万地点の標準宅地の平均は前年より2.9%のプラス。上昇は5年連続で、算出方法が現在の形になった2010年(平成22年)以降で最大の伸びとなりました(出典:日本経済新聞「路線価5年連続上昇、伸び2.9%で過去最大」2026年7月1日)。

地域差も大きく開きました。東京都は前年比9.4%プラスで全国最高。駅前再開発が進む盛岡やさいたまなど5都市は上昇率が10%を超え、都道府県庁所在地の最高路線価は、バブル期の1991年公表分以来、実に35年ぶりに「下落した都市がゼロ」となりました(出典:日本経済新聞「路線価、東京は平均9.4%上昇で全国最高」2026年6月)。ちなみに全国で最も高いのは41年連続で東京都中央区銀座5丁目の文具店「鳩居堂」前、1平方メートルあたり5,336万円でした。

数字だけ見れば、不動産を持っている人にとっては明るいニュースに映るかもしれません。ですが、収益物件を運用しているオーナーさまや、資産としてマンションを守る立場の管理組合の理事長さまにこそ、私はここで一度立ち止まっていただきたいのです。なぜなら、この「路線価が上がった」という話は、あくまで土地の話だからです。

まず言葉を整理させてください。今回発表された路線価は「相続税路線価」と呼ばれるもので、相続税・贈与税を計算するときの土地の評価に使われます。公示地価のおおむね8割の水準に設定されています。よく混同される固定資産税は、これとは別の「固定資産税評価額」(公示地価のおおむね7割)を使い、3年ごとに評価替えが行われます。次の基準年度は令和9年度(2027年度)です。名前が似ているので現場でもよく混同されますが、いずれも「土地の値付け」であって、あなたが持っている建物そのものの価値を測るものではありません。

「土地は上がる、建物は下がる」——収益物件オーナーが直視すべき非対称性

ここからが本題です。路線価が上がっても、その上に建っている建物の価値は、勝手には上がりません。むしろ、何もしなければ経年で下がり続けます。

不動産は「土地」と「建物」という、まったく性質の違う二つの資産が合わさったものです。土地は減価しません。景気や再開発や訪日客需要で上下しますが、すり減ってなくなることはない。一方で建物は、鉄筋コンクリート造でも法定耐用年数は47年。会計上も物理的にも、時間とともに確実に価値が目減りしていきます。外壁は色あせ、防水は寿命を迎え、タイルは浮き、鉄部は錆びる。これは20年近く現場を見てきた私の実感として、例外のない事実です。

つまり、今回の路線価上昇でオーナーの資産は「土地の含み益」は増えたように見えても、「建物の実質価値」は放置している限り静かに削られ続けているのです。この非対称性を、私はいつも「土地は世の中が決める、建物はあなたが決める」とお伝えしています。土地の値段は投資マネーや金利や再開発が決めるもので、個人のオーナーにはコントロールできません。けれど建物の価値だけは、オーナー自身の判断——つまり適切な大規模修繕をやるかやらないか——で、大きく変えられるのです。

正直に申し上げます。路線価が上がって喜んでいる裏で、建物の劣化を10年放置した収益物件は、売却の査定でも、賃貸の稼働率でも、確実に見劣りします。土地は高いのに建物がボロボロ、というアンバランスな物件を、私は現場で何度も見てきました。買い手も入居希望者も、まず目に入るのは建物の外観です。土地の路線価は登記簿にも外観にも書いてありません。

路線価上昇が収益物件オーナーの財布に効く「3つの実務インパクト」

「土地の話」と言っても、路線価の上昇はオーナーの手元のお金に無関係ではありません。むしろ、じわじわと効いてきます。ここは税務の入口だけ整理し、詳細はご自身の顧問税理士にご確認いただく前提で読んでください。

1. 相続・贈与のコストが上がる

相続税路線価が上がるということは、その土地を相続・贈与するときの評価額が上がるということです。収益物件を次の世代に引き継ぐ予定のオーナーにとっては、5年連続の上昇は「引き継ぎコストの上昇」を意味します。特に東京の9.4%という数字は、相続を数年内に見据える方にとっては小さくない変化です。ただし賃貸経営中の物件には「貸家建付地」や「貸家」の評価減など複数の実務論点があり、ここは断定を避けます。必ず税理士にご相談ください。

2. 固定資産税・都市計画税も中期的に上がりやすい

固定資産税評価額は路線価とは別物ですが、地価上昇局面では2027年度(令和9年度)の評価替えで上振れする可能性があります。収益物件は毎年のランニングコストとして固定資産税がのしかかりますから、地価が上がる局面は「保有コストがじわり増える局面」でもあると身構えておくべきです。

3. 売却・担保評価では「建物の状態」が効いてくる

土地評価が上がれば、金融機関の担保評価や売却価格の土地部分は追い風になります。ところが実際の取引では、建物の修繕履歴・劣化状態・長期修繕計画の有無が、買い手の指値や金融機関の姿勢を大きく左右します。土地が高く評価されても、建物の状態が悪ければ「この物件は買った直後に数千万円の修繕がいる」と見なされ、その分だけ値を引かれます。つまり、上がった土地評価を実際の手取りに変えられるかどうかは、建物側の状態管理にかかっているのです。

この3つを並べると、共通して見えてくることがあります。オーナーが自分の意思で動かせる変数は、税率でも地価でもなく、「建物をどう維持するか」だけだ、ということです。

建物の価値は「大規模修繕」でしかコントロールできない

では、建物の価値を守る具体的な手段は何か。答えはシンプルで、計画的な大規模修繕です。

大規模修繕とは、外壁塗装・タイル補修・屋上防水・鉄部塗装・シーリング打ち替えなどをまとめて行う、建物の「延命と価値維持」のための工事です(初出なので補足すると、日常の小修繕とは規模も費用も桁が違う、十数年に一度の大工事を指します)。国土交通省のガイドラインでも、分譲マンションでは長期修繕計画を作り、計画的に大規模修繕を実施することが標準とされています(出典:国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」)。

ここで大事なのは、大規模修繕は「劣化を止める」だけでなく「資産価値の下落を緩やかにする」投資だという視点です。何もしなければ建物価値は一直線に落ちていきますが、適切なタイミングで修繕を入れると、価値の下落カーブが緩やかになり、寿命そのものも延びます。私はこれを、路線価という「土地の追い風」に対する「建物側の守り」だと捉えています。追い風が吹いている今こそ、建物という帆を破れたまま放置していないかを点検すべきなのです。

ところが現実には、多くの現場で長期修繕計画が実態と合っていません。計画上の積立額では実際の工事費に足りない、という積立金不足の問題は、資材高騰と人件費上昇が続くこの数年、全国のマンションで深刻化しています。土地評価が上がって資産が増えたつもりでいる裏で、建物を直すための現金が足りない——これが、いま多くの収益物件と分譲マンションが抱える本当の姿です。

上がる税負担の局面でキャッシュを守る——「工法選択」というコスト差

積立金が足りない、税負担は増える、資材も高い。この三重苦の局面で、オーナーと管理組合が最後にコントロールできる現実的な変数が、大規模修繕の「工法選択」です。

大規模修繕というと、多くの方が反射的に「建物全体を足場で覆う工事」を思い浮かべます。ですが工事のやり方は、実は一つではありません。私たち明誠は、次の3つの工法を、建物の形状・高さ・劣化状況・予算に応じて使い分け、最適な組み合わせをご提案しています。

工法 特徴 向いている建物
通常の足場仮設工法 従来型。全面を覆うため広範囲の作業に強い 中低層、劣化が全面に及ぶ物件
ロープアクセス工法(無足場) 産業用ロープで施工。足場代が不要、工期短縮、居住者・利用者への影響が小さい 高層、足場が組みにくい、部分補修主体、コスト最重視
ハイブリッド工法 足場とロープアクセスを部位ごとに使い分け 大規模・複雑形状で総合コストの最適化が必要

なぜ工法選択がコストに効くのか。理由は単純で、足場の仮設・解体費は大規模修繕の総額の中でも大きな割合を占めるからです。建物を丸ごと足場で覆えば、その分だけ数百万円単位の固定費が乗ります。ロープアクセス工法(無足場工法。ブランコ作業とも呼ばれる、産業用ロープで外壁にアクセスする技術)を使えば、この足場代を大きく圧縮できる場面があります。特に、劣化が一部に集中している物件や、高層で足場が組みにくい物件では、差がはっきり出ます。

私はいつもオーナーさまに、「足場ありきで考えないでください」とお伝えしています。全面足場が最適な建物もあれば、ロープアクセス主体でコストを大きく抑えられる建物もある。両方の引き出しを持っていない会社は、どうしても自社が持っている工法に寄せた提案になりがちです。足場しか持たない会社は足場を、ロープしか持たない会社はロープを勧める。これは私が現場で20年見てきて、一番オーナーが損をしていると感じてきた構造です。

だからこそ明誠は、3つの工法をすべて自社の選択肢として持ち、建物にとってのベストを中立に提案することにこだわっています。詳しくはロープアクセス工法のご紹介や大規模修繕工事のご紹介のページもご覧ください。上がる税負担の局面で手元の現金を守るには、工事の総額そのものを工法で下げるのが、最も即効性のある一手です。

数字を「戸あたり」に落とすと、判断が具体的になります

工法選択のインパクトを、読者の財布感覚に落としてみます。あくまで一般的な目安ですが、たとえば総戸数50戸のマンションで、足場の仮設・解体に600万円かかると仮定すると、戸あたり12万円です。この部分を工法の工夫で仮に半分に圧縮できれば、戸あたり6万円が浮く計算になります。金額の絶対値だけ見ると小さく感じるかもしれませんが、積立金が不足している総会の場では、この「戸あたり数万円」が値上げ提案を通せるかどうかの分かれ目になることを、私は何度も見てきました。

収益物件のオーナーであれば、この差は毎年の手取り家賃と直接比較できます。工法選択で修繕費を数百万円圧縮できれば、それは実質的に「数年分の空室リスクを吸収できるバッファ」になります。路線価が上がって資産が増えたことより、目の前の修繕費を工法で下げることのほうが、キャッシュフローには即効で効くのです。

収益物件オーナーと管理組合が「今日」できる4つの確認

ここまでを、明日の理事会や、来週の相談の場で使える実務に落とします。特別なことは要りません。次の4つを確認するだけです。

第一に、長期修繕計画がいつ作られ、いつ見直されたかを確認してください。5年以上見直していない計画は、いまの資材高騰・人件費上昇を反映しておらず、ほぼ確実に金額が実態とずれています。

第二に、修繕積立金の残高と、次回大規模修繕の想定額のギャップを把握してください。足りないなら、値上げ・借入・工法見直しの3つの選択肢があります。工法見直しは、住民の負担を増やさずに差を埋められる有力な手段です。

第三に、次回の大規模修繕を「足場前提」で見積もっていないかを確認してください。足場ありきの一択で進めると、本来なら圧縮できたはずのコストを取りこぼします。建物診断の段階で、無足場やハイブリッドの可能性も含めて検討することをおすすめします。建物の状態を正確に知るための点検・調査は、工法を選ぶ前提として欠かせません。

第四に、相見積もりを取るときは、必ず「工法の違う複数社」から取ってください。同じ足場工法の3社から取っても、比較になるのは金額だけです。工法の異なる提案を並べて初めて、あなたの建物にとっての最適解が見えてきます。

ただし、すべての物件でロープアクセスが最適というわけではありません。劣化が全面に及んでいる場合や、大規模な改修を伴う場合は、足場を組んだほうが結果的に安く確実なこともあります。ここは正直にお伝えしておきます。大切なのは「工法ありき」ではなく「建物ありき」で選ぶことです。

現場から——「土地が上がった」オーナーが、建物で数百万円を取り戻した話

少し具体的な話をさせてください。個人が特定されないよう細部は伏せますが、以前ご相談をいただいた、都内で築22年の一棟賃貸マンションをお持ちのオーナーさまの例です。

そのオーナーさまは、路線価の上昇で「土地の評価が上がったから、そろそろ売って利益を確定しようか」と考えておられました。ところが仲介に査定を出すと、想定より数千万円低い数字が返ってきた。理由は建物でした。外壁のタイルが数か所浮き、屋上防水も寿命を超え、「引き渡し後すぐに大規模修繕が必要」と買い手側に見なされ、その修繕見込み額がまるごと指値として引かれていたのです。

私がお手伝いしたのは、売り急ぐ前に建物診断を入れ、劣化の実態を正確に把握することでした。結果、全面足場を組む前提だった当初の想定に対し、劣化が集中していた妻側と共用廊下まわりをロープアクセスとハイブリッドで先行補修する計画に組み替えました。足場費を大きく圧縮できたぶん、同じ予算で直せる範囲が広がり、建物の見え方が変わりました。

そのオーナーさまは結局、売却を一度見送り、修繕後に賃料を据え置いたまま稼働率を戻す道を選ばれました。土地の上昇分を焦って現金化するより、建物を整えて保有を続けるほうが、長い目で見た手取りは大きいと判断されたのです。私はこのとき改めて、「土地は世の中が決めるが、建物はオーナーが決められる」という言葉の意味を、現場で確かめた思いがしました。

地方の収益物件オーナーへ——「路線価が上がらない」ことのリスクも同じ結論に行き着きます

ここまで「路線価が上がった」という前提で書いてきましたが、両面を正直にお伝えします。今回の発表で全国平均は上がったものの、上昇をけん引したのは東京をはじめとする都市部と再開発エリアでした。地方や郊外には、横ばい、あるいは下落した地点も少なくありません。都道府県庁所在地の最高路線価は35年ぶりに下落ゼロになりましたが、それはあくまで「各県のいちばん高い地点」の話であって、県内全域が上がったわけではないのです。

では、路線価が上がらないエリアの収益物件オーナーは、この話と無関係かというと、まったく逆です。土地の値上がりという追い風が期待しにくい以上、資産価値を守る手立ては「建物をどれだけ良い状態に保てるか」に、さらに強く集約されます。土地で稼げないなら、建物で差をつけるしかない。地方物件ほど、大規模修繕の巧拙が売却価格や入居率に直結するのです。

私はよく、地方で収益物件を運用されているオーナーさまから「うちは土地が上がらないから、修繕にお金をかけても回収できない」というご相談を受けます。ですが、これは順序が逆だと考えています。土地が上がらないからこそ、入居者に選ばれ続ける建物の状態を保つことが、空室という最大の損失を防ぐ現実的な方法です。空室が1戸増えれば、戸あたり数万円の工法差など一瞬で吹き飛びます。路線価が上がる都市部でも、上がらない地方でも、結論は同じ——オーナーがコントロールできるのは建物だけ、という一点に行き着きます。

次の大規模修繕までに、オーナーが自分の目で見るべき5つの劣化サイン

「建物の価値を守れ」と言われても、専門家でなければ何を見ればいいか分かりにくいものです。そこで、私が現場でオーナーさまにお伝えしている、素人でも自分の目でチェックできる5つの劣化サインを挙げておきます。難しい道具は要りません。

第一に、外壁のひび割れ(クラック)です。髪の毛より細いひびでも、そこから雨水が入ると内部の鉄筋が錆び、コンクリートを内側から押し割る「爆裂」につながります。特に、ひびから白い筋(エフロレッセンスと呼ばれる、内部の成分が溶け出した跡)が垂れていたら、水が回っているサインです。

第二に、タイルの浮きです。タイル張りの建物なら、手の届く範囲を軽く叩いてみて、乾いた高い音ではなく「ポンポン」と空洞のような音がしたら、下地から浮いている可能性があります。タイルの落下は、通行人への事故に直結する最も危険な劣化です。実際に、外壁タイルの落下事故は毎年のように報道されています。

第三に、屋上・バルコニーの防水層です。防水シートの端がめくれていないか、水たまりが引かずに残っていないか、植物が生えていないかを見てください。防水の寿命は一般に10〜15年程度で、切れると一気に雨漏りが顕在化します。

第四に、鉄部(手すり・階段・扉枠)の錆です。塗装が剥げて赤錆が出ていたら、塗り替えのサインです。放置すると母材そのものが痩せ、交換という高額工事になります。

第五に、シーリング(目地のゴム状の充填材)の劣化です。窓周りやパネルの継ぎ目のゴムが、ひび割れて硬くなっていたり、痩せて隙間ができていたら、そこが雨漏りの入り口になります。

この5つのうち2つ以上に心当たりがあれば、次の大規模修繕は「まだ先」ではなく「そろそろ本気で計画する時期」だと考えてください。私の経験上、劣化は気づいてから工事するまでに、計画・合意形成・見積もりで1年以上かかります。気づいた時が、動き出すべき時なのです。

ホテル・商業テナントを持つオーナーへ——「閉めずに直す」が収益を守る

明誠はマンションだけでなく、ホテルやビルの大規模修繕も数多く手がけてきました。今回の路線価上昇の背景には、訪日客需要と都市部のオフィス・宿泊需要の底堅さがあります。つまり、ホテルや商業テナントを持つ収益物件オーナーにとっては、稼働を止めずに建物を維持することの価値が、これまで以上に高まっているということです。

ホテルの大規模修繕で全館を足場で覆えば、その期間の客室は事実上売れなくなります。仮に1泊2万円の客室が100室あるホテルなら、単純計算で1日あたり200万円、1か月で約6,000万円の機会損失です。ここでロープアクセス工法が効いてきます。稼働している客室の外側を、営業を止めずにピンポイントで補修できるのです。全館を閉めて一気に直す時代から、「稼ぎながら直す」時代へ——訪日客需要が旺盛な今だからこそ、この工法の価値が際立ちます。

私は、稼働を止めないことそのものが、収益物件にとっての資産防衛だと考えています。路線価が土地の価値を押し上げても、建物が半年間稼げなければ、その間のキャッシュフローは戻ってきません。工法選択は、単なる工事費の話ではなく、営業損失を含めた「収益全体の最適化」の話なのです。

よくあるご質問(FAQ)

Q. 路線価が上がったら、すぐ売ったほうが得ですか?
A. 一概には言えません。売却価格の土地部分は追い風ですが、建物の状態が悪ければその分だけ値を引かれます。売る前に建物の劣化状態と修繕履歴を整えるほうが、手取りが増えるケースは多くあります。売却か保有かの判断こそ、建物の状態把握が前提になります。

Q. 修繕積立金が足りません。どうすればいいですか?
A. 選択肢は値上げ・借入・工法見直しの3つです。住民負担を増やさずに差を埋めやすいのは工法見直しなので、まずは足場前提でない見積もりを取ってみることをおすすめします。

Q. ロープアクセスは足場より本当に安いのですか?
A. 建物によります。劣化が一部に集中している物件や高層物件では大きく下がることが多い一方、全面的な改修が必要な場合は足場のほうが結果的に安いこともあります。だからこそ、両方を持つ会社に中立に比較してもらうことが重要です。

Q. 診断や相談だけでも頼めますか?
A. もちろんです。工事の受注を前提とせず、建物診断と工法比較だけのご相談も承っています。総会や決算の前の整理としてお使いください。

ロープアクセスという「稼働を止めない」選択肢について(自社サービスのご紹介)

ここは自社サービスの紹介として、見出しを分けて明確にお伝えします。

賃貸マンションやビル、ホテルの収益物件で大規模修繕をためらう最大の理由は、「工事期間中に稼働が落ちる」ことです。全面足場を組めば、景観も日当たりも悪くなり、入居者からの不満やホテルの客室稼働率の低下につながります。ロープアクセス工法(無足場工法)の大きな価値は、この「稼働を止めない」点にあります。足場を組まないので、居住者・利用者の生活への影響を最小限に抑えながら、必要な部位だけをピンポイントで直せるのです。

明誠は、ロープアクセス工事において日本で初めてフランチャイズ展開を行い、塗装・防水・タイル・電気・看板など各分野の専門職が加盟する体制で、高品質と低価格を両立しています。マンション・ビルのオーナーさま向けの詳しいご案内はオーナー・管理会社向けサービスのページにまとめています。

私たちは「工事を売る」よりも先に、「この建物にはどの工法が本当に合うのか」を一緒に考える相談相手でありたいと思っています。ご相談だけでも遠慮なくお声がけください。お問い合わせは、総会や決算の前の整理だけでも構いません。

まとめ:路線価が示すのは「立地の価値」、あなたが決めるのは「建物の価値」

2026年の路線価は5年連続で上がり、東京は9.4%、全国でも2.9%上昇しました。これは日本の不動産に世界のお金が集まっている証であり、土地を持つ人にとっては追い風です。

けれど、その追い風を実際の手取りに変えられるかどうかは、建物側の状態にかかっています。土地の値段は世の中が決めますが、建物の価値だけは、オーナーであるあなた自身が、大規模修繕という判断で決められます。税負担が増える局面だからこそ、工事の総額を工法で下げ、手元の現金を守る。これが、私が今日いちばんお伝えしたかったことです。

路線価の発表は、年に一度、自分の資産と向き合う良いきっかけです。土地の数字に一喜一憂する前に、その上に建っている建物の劣化状態と、次の大規模修繕の計画を、理事会で1分だけでも話題に出してみてください。これは私が現場で20年見てきた、嘘偽りのない感想です。次回も、現場で本当に使える話だけをお届けします。

出典・参考資料

※本記事の税務に関する記述は制度の一般的な説明であり、個別の相続税・固定資産税の取り扱いは、必ず税理士等の専門家にご確認ください。

▼ロープアクセス工法・無足場工法の詳細解説はこちら
ロープアクセスドットコム|無足場工法専門メディア

大規模修繕の「夏工事」で誰が責任を負うのか——熱中症対策が罰則付きで義務化された今、収益物件オーナーと管理組合が知るべき工期・工法の判断軸【2026年7月】

「工事のことは施工会社に任せているのだから、現場の暑さ対策までオーナーが気にする必要はない」——もし、いまお持ちの物件やお住まいのマンションで夏場の大規模修繕を検討していて、そうお考えなら、今日の話は他人事ではありません。2025年6月から、職場の熱中症対策は「罰則付きの義務」になりました。そして、その義務が二度目の夏を迎えるのが、まさにこの2026年の夏です。

私は20年近く、マンション・ビル・ホテルの大規模修繕の現場に立ってきました。正直に申し上げます。真夏の工事は、職人にとっても、建物にとっても、そして発注者であるオーナーさま・管理組合さまにとっても、一年でいちばんリスクの高い季節です。今日はその理由と、発注者の立場でいま何ができるのかを、現場目線でお話しします。

この夏、工事現場で熱中症が起きたら——まず何が変わったのかを整理する

2025年6月、熱中症対策は「努力目標」から「罰則付きの義務」になった

まず、制度の話から始めます。ここは数字と条文の話なので、少しだけお付き合いください。

2025年6月1日に施行された改正・労働安全衛生規則(ろうどうあんぜんえいせいきそく=働く人の安全と健康を守るための国のルール)によって、一定の暑さの環境で作業する労働者への熱中症予防措置が、事業者(=施工会社)に義務付けられました。対象となるのは、WBGT(暑さ指数)が28度以上、または気温が31度以上の環境で、連続して1時間を超える作業、または1日の合計が4時間を超える作業です(出典:厚生労働省 職場における熱中症対策の強化について(令和7年6月1日施行))。

WBGTという言葉は聞き慣れないかもしれません。これは気温だけでなく湿度と日射・輻射(ふくしゃ=地面や壁からの照り返し)を加味した「体感に近い暑さの指標」で、屋外の工事現場ではふつうの気温より数度高く出ることも珍しくありません。つまり、天気予報が「31度」でも、足場の中や屋上では体感的にもっと過酷、ということです。

義務化された措置の柱は、大きく二つです。ひとつは、体調異常が起きたときにすぐ報告・対応できる体制の整備。もうひとつは、症状の悪化を防ぐための措置と手順を、あらかじめ定めて現場全員に周知しておくこと。これに違反した場合、6か月以下の懲役または50万円以下の罰金が科される可能性があります(出典:同上/keiyaku-watch 労働安全衛生規則改正の解説)。

ここで強調したいのは、これが「気をつけましょう」というスローガンではなく、罰則を伴う法的義務になったという点です。現場の空気は、去年から明らかに変わりました。

数字が語る現実——建設業は熱中症死傷の「最多業種」

制度が厳しくなった背景には、深刻な数字があります。

厚生労働省の確定値によれば、2024年(令和6年)に職場で発生した熱中症による死傷者(死亡または休業4日以上)は1,257人で、統計上の過去最多を更新しました。前年からおよそ14%の増加です。そして、その全体の約4割が建設業と製造業で発生しています(出典:厚生労働省「令和6年 職場における熱中症による死傷災害の発生状況」)。

さらに、業種別に2020年からの5年間を合計してみると、建設業が961人と最も多いというデータもあります(出典:同上)。私たちの業界は、残念ながら熱中症災害の「常連」なのです。

戸あたりの感覚に置き換えると、たとえば100戸規模のマンションの大規模修繕には、繁忙期で延べ数百人日の職人が入ります。真夏にその人数が炎天下や足場の中で作業をする——数字を知ったうえで現場を見ると、この季節の工事がいかにギリギリの綱渡りかが分かっていただけると思います。

そしてもう一点、見落とされがちな事実があります。熱中症は「屋外の炎天下」だけで起きるわけではない、ということです。足場にメッシュシートを張った内部、風の抜けない屋上のパラペット(屋上の立ち上がり部分)際、閉め切った地下ピットなど、建物の工事にはむしろ熱がこもりやすい場所が数多くあります。天気予報の気温だけを見て「今日はそこまで暑くないから大丈夫」と判断するのは危険だ、というのが現場の実感です。だからこそ国も、気温ではなくWBGT(暑さ指数)を基準に据えたのだと私は理解しています。

発注者(オーナー・管理組合)は本当に「無関係」なのか

直接の義務は施工会社。だが「時期」と「工期」を握るのは発注者

ここからが本題です。法律上、熱中症対策の直接の義務を負うのは、労働者を雇う施工会社です。オーナーさまや管理組合さまが条文上の義務者になるわけではありません。

ただ、私はいつも理事長さまやオーナーさまにこうお伝えしています。「工事の“時期”と“工期”を最終的に決めているのは、実は発注者側です」と。

総会の日程、住民合意のタイミング、予算年度の都合——さまざまな事情から、「どうしても夏に着工したい」「お盆前に足場を払いたい」という要望が出ます。その気持ちはよく分かります。しかし、無理な工期が現場にしわ寄せされると、いちばん危険なのは職人の身体であり、次に危ういのが工事の品質です。発注者が「安全に無理のないスケジュールか」という視点を持つだけで、現場は大きく変わります。

もうひとつ知っておいていただきたいのは、万が一、現場で重大な事故が起きれば、工事はストップし、原因究明と再発防止で工期は大幅に遅れるということです。結果として、住民の生活影響が長引き、仮設費用がかさむ。安全は「コスト」ではなく、工期と資産を守る「保険」だと、私は考えています。

私が現場で見た「真夏の突貫」の危うさ

現場で20年やってきて、私が一番悔しい思いをするのは、無理なスケジュールのせいで職人にも建物にも良いことがなかった、というケースに出くわしたときです。

以前、ある築18年のマンションで、総会の関係から「8月中に外壁塗装まで終わらせたい」という強い要望をいただいたことがありました。連日WBGTが高く、午後は作業を中断せざるを得ない日が続きました。工程は詰まり、職人は朝5時台から動く。こういうとき、無理を通せば必ずどこかにひずみが出ます。私はそのとき、理事会に「9月にずらす部位を作りましょう」と提案し、乾燥時間に余裕のいる塗装工程を涼しい時間帯と時期に振り分けました。工期は数日延びましたが、仕上がりと安全は守れた。あのときの判断は、いまでも間違っていなかったと思っています。

逆のケースもあります。あるビルのオーナーさまは、当初「なるべく早く、安く」というご希望でした。しかし現地を一緒に確認しながら、屋上防水は真夏を避けたほうが硬化不良のリスクが小さいこと、外壁の一部はロープアクセスに切り替えれば足場の架設期間そのものを減らせることをご説明したところ、「それなら急いで夏にまとめてやる必要はないね」とご納得いただけました。工期は結果的に短くなり、足場の仮設費も圧縮できた。急がないことが、結果的に安く・安全に・きれいに仕上がる——夏の工事では、この逆説がしばしば成り立ちます。私はいつも、こうした判断材料をできるだけ包み隠さずお伝えするようにしています。

猛暑期の大規模修繕で起きやすい、3つの品質リスク

暑さは職人の身体だけでなく、工事の「質」にも直結します。発注者として知っておくと、施工会社との会話が変わる3点をお話しします。

リスク1:塗装——気温と乾燥時間のミスマッチ

塗料には、それぞれ適した施工温度と乾燥時間があります。真夏は塗膜(とまく=塗った塗料の膜)の表面だけが先に乾き、内部が乾ききらないうちに次の工程へ進んでしまう「早期乾燥」の失敗が起きやすい季節です。表面はきれいでも、数年後に膨れや剥がれとして出てくることがあります。「夏は乾きが速いから工事が早く進む」というのは、必ずしも正しくありません。

リスク2:防水——シート・ウレタンの施工不良

屋上やバルコニーの防水も、暑さに敏感な工事です。ウレタン防水(液体状の防水材を塗り重ねる工法)は高温で硬化が早まりすぎ、シート防水は熱で伸縮します。炎天下の屋上はWBGTが極端に高くなる場所でもあり、職人の消耗と施工品質が同時に問われる、いわば夏工事の「最前線」です。

リスク3:職人の集中力低下がもたらす「見えない手抜き」

これは私がいちばん気にしている点です。暑さで集中力が落ちれば、下地処理の一手間を省いたり、養生(ようじょう=周囲を汚さないための保護)が甘くなったりする。悪意のある手抜きではなく、過酷な環境が生む「無意識のミス」です。だからこそ、職人が無理なく動ける環境をつくることは、発注者にとっても品質を守る話につながるのです。

猛暑の現場で、私たちが実際にやっていること

制度や工法の話が続きましたので、現場で実際にどんな手を打っているのかも、具体的にお話しします。発注者の皆さまが施工会社を見極めるときの「質問のヒント」にもなるはずです。

まず、作業開始前と作業中に、現場でWBGT(暑さ指数)を測ります。数値を「見える化」して職人全員で共有し、基準を超える時間帯は作業内容を入れ替える。炎天下で神経を使う高所作業は午前中の涼しいうちに、比較的軽い準備作業は午後に回す、といった具合です。次に、こまめな休憩と水分・塩分の補給を工程に最初から織り込みます。「時間が押しているから休憩を削る」——この“休めない風潮”こそが、いちばん危ない。私はいつも職長に「工程より人だ」と伝えています。

さらに、単独作業をできるだけ避け、複数人で互いの体調を見合える体制をつくります。熱中症は本人が気づかないうちに進むことがあるためです。ロープアクセスの現場では、そもそも安全管理上つねに複数人で連携して作業しますので、この「相互監視」が自然に働くという利点もあります。

具体的な話をひとつ。ある真夏の外壁補修で、私たちは午後1時から3時の最も暑い2時間を、外壁面での作業ではなく、日陰での準備・段取りの時間にあてる工程を組んだことがあります。一見すると「昼の2時間、外壁を止めるなんて非効率だ」と思われるかもしれません。しかし結果として、熱中症による中断や体調不良がゼロで、手直しもなく、トータルの日数はむしろ当初計画どおりに収まりました。暑い時間に無理に手を動かすより、涼しい時間に集中して進めるほうが、最後まで見れば速くて確実だった——現場でこういう経験を重ねるほど、私は「工程は人の限界に合わせて組む」ことの大切さを実感しています。

こうした一つひとつは地味で、見積書の金額には表れにくい部分です。だからこそ、発注者の皆さまには「安いだけの見積もり」の裏で、こうした安全のための手間がきちんと確保されているかを見ていただきたいのです。過去には、修繕積立金の不足や、施工途中での会社の体力不足が工事の質に影を落とすケースも見てきました(関連する話題は本間社長ブログでも折に触れてお伝えしています)。安さの理由が「安全の削減」であってはいけません。

「足場」と「ロープアクセス」——猛暑期に効く工法の違い

ここで、私たちが3つの工法(通常の足場、無足場のロープアクセス、両者を組み合わせるハイブリッド)を扱う立場から、夏の工事に関わる工法の違いをお話しします。

足場は輻射熱がこもり、工期も長引きやすい

一般的な枠組足場にメッシュシートを張ると、風が通りにくくなり、内部に熱がこもりやすくなります。足場の中の体感温度が外より高くなる、というのは現場ではよく知られた話です。加えて、足場は架設と解体に時間と費用がかかるため、どうしても総工期が長くなり、その分だけ猛暑にさらされる期間も延びます。

ロープアクセス(無足場工法)で酷暑曝露を減らす

一方、ロープアクセス工法(産業用ロープで職人が壁面に直接アクセスして施工する無足場の工法)は、足場の架設・解体が不要なぶん総工期を短縮しやすく、結果として職人が炎天下にいる総時間を圧縮できる可能性があります。開けた空間で作業するため熱がこもりにくく、必要な面だけを機動的に施工できるので、涼しい時間帯に作業を集中させる、といった柔軟な工程も組みやすい。私はこれを、猛暑期の一つの有力な選択肢としてご提案することがあります。

居住者・利用者の生活への影響という点でも、足場を長期間組まないぶん、窓を塞がれる期間が短く、防犯面の不安も小さくできます。詳しくはロープアクセス工法のご紹介もご覧ください。

この「生活・営業を止めない」という利点は、ホテルや商業施設の改修では特に効いてきます。足元では新しいホテルの建設計画があちこちで報じられていますが、一方で、いま稼働している既存のホテルや店舗をどう維持していくかという課題も、同じ重さで存在します。客室の稼働を止めず、宿泊客の目に触れる足場を長期間立てずに外壁や防水を直したい——こうしたご相談は、夏の繁忙期を控えたこの時期に増えます。私は、稼働を止めないことそのものが売上に直結する物件ほど、ロープアクセスやハイブリッドの価値が大きいと感じています。

ただし万能ではない——ロープアクセスが不向きなケース

両論併記で正直に申し上げます。ロープアクセスは万能ではありません。全面打診(外壁を叩いて浮きを網羅的に調べる作業)や、大量の資材を長期間揚げ下ろしする大規模な改修では、足場のほうが効率的で安全な場合があります。バルコニーの形状や建物の構造によっては、ロープでのアクセスそのものが難しいこともあります。

だからこそ、私はこれを、必ず建物ごとに見極めてご提案するようにしています。「足場だけ」でも「ロープだけ」でもなく、部位ごとに使い分けるハイブリッド工法が最適解になることも少なくありません。足場とロープアクセスの両方を持っている会社だからこそ、涼しい季節に足場工程を、猛暑期にロープ工程を、といった季節を意識した工程設計もできます。総合的なご提案は大規模修繕工事のご紹介にまとめています。

夏工事という切り口で3工法を並べてみる

工法選びを「夏の工事」という視点で整理すると、それぞれの得手不得手が見えやすくなります。あくまで一般的な傾向であり、実際は建物ごとに判断が必要ですが、比較の入り口としてご覧ください。

観点 通常の足場工法 ロープアクセス(無足場)工法 ハイブリッド工法
猛暑期の熱のこもりやすさ メッシュシート内に熱がこもりやすい 開放空間で熱がこもりにくい 部位により使い分け
総工期の傾向 架設・解体があり長くなりがち 短縮しやすい 中間
炎天下での職人の総曝露時間 長くなりやすい 圧縮しやすい 中間
全面打診・大規模改修への適性 高い 部位により制約あり 高い
居住者の生活影響(窓塞ぎ等) 大きくなりやすい 小さくしやすい 中間
向いている場面 全面改修・大量資材の揚重 部分補修・高層・工期最優先 大規模で総合最適が要るとき

大切なのは、この表のどれか一列が「正解」なのではない、という点です。建物の高さや形状、劣化の範囲、住民の合意状況、そして季節——これらを掛け合わせて初めて、その物件にとっての最適解が決まります。私が「まず現地を見せてください」と申し上げるのは、このためです。

「安全」と「コスト」は対立しない——長期収益で考える

ここまで読んで、「安全を優先すると工期が延びて、費用がかさむのではないか」と感じた方もいらっしゃるかもしれません。その心配は自然なものです。しかし私は、猛暑期の工事に関しては、安全とコストはむしろ同じ方向を向くことが多いと考えています。

理由は三つあります。第一に、事故が起きればその時点で工事は止まり、原因究明・是正・工期延長のすべてがコストとして跳ね返ります。第二に、暑さによる施工不良(塗装の膨れ、防水の硬化不良など)は、数年後の手直し工事という「見えない追加費用」を生みます。表面的に安く早く仕上げたつもりが、次の修繕周期を待たずに再工事、では元も子もありません。第三に、足場の架設期間が長引けば、それ自体が仮設費という日割りのコストになります。工期短縮は、安全であると同時に、費用面でも効いてくるのです。

収益不動産のオーナーさまにとって、修繕は単年度の出費ではなく、長期の資産価値と収益を守るための投資です(工法選択と資産価値の関係については、過去の本間社長ブログ記事でも繰り返しお話ししてきました)。修繕積立金や工事予算は限られています。だからこそ、「その年の総会に間に合わせる」という短期の都合だけで工法や時期を決めるのではなく、10年・20年先の資産価値まで見据えて判断していただきたい。私はいつも、目先の見積金額の大小だけでなく、「この工事が何年もつのか」「次の修繕までの総コストはどうか」という視点をお持ちいただくようお願いしています。建設業経営者の皆さまとの情報交換の場(当社が運営する一般社団法人全国建設業支援協会=JCSAの活動)でも、この「長期で見るコスト」の考え方は、業界全体でもっと共有されるべきだと感じています。

発注者が今夏できる、現実的な5つの備え

では、オーナーさま・管理組合さまが、この夏の工事に向けて具体的に何をすればよいか。押し売りではなく、契約前の整理として役立つ5点を挙げます。

  • 1. 見積・契約段階で「熱中症対策の体制」を確認する:施工会社に、WBGTの測定方法、休憩・給水の計画、異常時の連絡体制を質問してみてください。きちんと答えられる会社は、現場管理の質も高い傾向があります。
  • 2. 工期に「夏の余白」を持たせる:猛暑日は作業中止もあり得ます。最初から余裕のある工程を組んでおけば、無理な突貫を防げます。
  • 3. 乾燥時間の要る工程(塗装・防水)の時期を相談する:真夏を避けられる部位は避ける、という発想を持つだけで品質リスクは下がります。
  • 4. 工法を「足場ありき」で決めない:無足場のロープアクセスやハイブリッドを含め、複数の工法を比較検討する。夏工事では工期短縮が安全にも直結します。
  • 5. 施工写真・報告書での品質確認方法を、着工前に決めておく:無足場工事でも、施工写真と施工報告書で仕上がりを確認できます(ご希望に応じて動画記録も可能です)。「どう確認するか」を先に握っておくと安心です。

これらは、どの工法・どの会社で工事をする場合でも役に立つチェックポイントです。私は、相談だけでもこうした整理のお手伝いができればと思っています。

よくあるご質問(FAQ)

Q. 発注者(管理組合・オーナー)が、施工会社の熱中症対策違反で罰せられることはありますか?
A. 労働安全衛生規則上の義務者は、労働者を雇う施工会社です。発注者が同条文で直接罰せられるわけではありません。ただし、無理な工期を求めた結果として事故や品質不良が起きれば、工期遅延や追加費用という形で発注者側にも影響が及びます。安全に無理のないスケジュールかどうかを確認することが、結果的にご自身の資産を守ることにつながります。

Q. 夏に工事をするのは避けたほうがよいのでしょうか?
A. 一概に避けるべき、とは申し上げません。適切な工程管理と工法選択をすれば、夏でも品質の高い工事は可能です。大切なのは、乾燥時間の要る工程の時期を調整し、工期に余白を持たせ、職人が無理なく動ける環境を確保することです。

Q. ロープアクセスなら熱中症のリスクはゼロになりますか?
A. いいえ、ゼロにはなりません。屋外作業である以上、暑さのリスクは残ります。ただし、足場内に熱がこもりにくいことや、総工期を短縮して炎天下の総時間を減らせる可能性があることは、猛暑期の一つの利点だと考えています。建物ごとに最適な工法は異なりますので、比較のうえで判断することをおすすめします。

Q. 安全対策をしっかりやる会社は、やはり工事費が高くなるのでしょうか?
A. 一概にそうとは言えません。確かに、休憩や測定、複数人での体制づくりには手間がかかります。しかし前段でお話ししたとおり、事故や施工不良による手直し、足場の長期化による仮設費を避けられれば、トータルの費用はむしろ抑えられることが少なくありません。見積書の総額だけでなく、「その金額で何年もつのか」「安全と品質の裏づけがあるか」まで含めて比較していただくのが、結局はいちばん損のない選び方だと私は考えています。

Q. まだ工事の時期も決めていない段階でも、相談してよいものでしょうか?
A. もちろんです。むしろ、時期や工法を決める前の段階でご相談いただくほうが、選択肢を広くお示しできます。私たちは、足場・ロープアクセス・ハイブリッドの3つの工法を建物に合わせてご提案できる数少ない会社です。現地を拝見したうえで、夏を避けるべき工程、無足場に切り替えられる部位などを、フラットにお伝えします。

むすびに

熱中症対策の義務化は、職人を守るためのルールです。しかし私は、それが同時に、発注者であるオーナーさま・管理組合さまの資産と工事品質を守るルールでもあると考えています。無理のない時期に、無理のない工期で、建物に合った工法で——この当たり前を積み重ねることが、猛暑の時代の大規模修繕では何より効きます。

これは私が現場で20年見てきた、嘘偽りのない感想です。夏の工事の進め方や工法の比較で迷ったら、お問合せフォームからご相談だけでも遠慮なくお声がけください。総会や着工の前段階の整理だけでも、お力になれることがあります。次回も、現場で本当に使える話だけをお届けします。

出典・参考資料

▼ロープアクセス工法・無足場工法の詳細解説はこちら
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