大規模修繕の施工会社が工事中に倒産したら?管理組合とオーナーの自衛策
「契約した施工会社が、工事の途中で倒産してしまったら——」。ふだんは考えたくもない話だと思います。ですが今、この“まさか”が、決して他人事ではない数字として現れはじめています。
築15年、20年を超えたマンションの理事長さまや、区分マンションを何戸か持つオーナーさまにこそ、今日はこの話を届けたいのです。大規模修繕は、多くの管理組合にとって数千万円から、規模によっては億単位になる一世一代の大仕事です。その相手が、工事の真っ最中に立ち行かなくなったら——足場だけが残り、住民の生活と資産だけが宙に浮く。そんな最悪の展開を避けるために、発注する側が今から準備できることがあります。
私は現場で20年近く、塗装と防水を中心に大規模修繕に携わってきました。正直に申し上げます。今の建設業界の倒産の増え方は、現場にいる人間の肌感覚として、明らかに以前とは違います。今日はニュースの数字を入り口に、「なぜ増えているのか」「発注者にどんな打撃があるのか」「では何をすればよいのか」を、できるだけ噛み砕いてお伝えします。
ニュースの要点:塗装・防水工事の倒産が「過去最多ペース」に
まず、今回の話の起点となったニュースです。企業信用調査で知られる帝国データバンク(TDB)が2026年6月に公表した調査によると、2026年1〜5月に発生した「塗装工事業」と「防水工事業」の倒産は合計80件。これは、通年で2000年以降の最多を記録した2025年(5月までで87件)に次ぐ高い水準です(出典:帝国データバンク「『塗装・防水工事』の倒産動向(2026年 1-5月)」)。
内訳を見ると、塗装工事が56件、防水工事が24件。そして注目すべきは、負債1億円未満の小規模事業者が69件と、全体の約86.3%を占めていることです。つまり、体力の小さな会社から順番に、静かに姿を消しているということです。
TDBはさらに踏み込んで、「今後、原材料の供給不安が解消されなければ、倒産件数は2025年を上回り、2000年以降での最多を更新する可能性もある」と指摘しています(出典:同上、および帝国データバンク プレスリリース(PR TIMES))。塗装・防水は、まさに大規模修繕の中核をなす工事です。その担い手が最多ペースで倒産している——この事実は、発注する側にとって決して無視できない前提だと私は考えています。
もう少し視野を広げると、状況の深刻さがはっきりします。TDBが2026年7月に公表した別の調査「『物価高倒産』の動向(2026年上半期)」では、原材料高や人件費高が引き金となった「物価高倒産」が上半期で556件発生し、前年同期(449件)から23.8%増加。半期としては集計を開始した2018年以降で最多を更新しました。そのうち建設業は151件と業種別で最も多く、前年同期(118件)から約3割増。建設業の倒産は4月以降に増え、2026年6月には単月で最多となる36件に達しています(出典:帝国データバンク「『物価高倒産』の動向(2026年上半期)」)。
数字が続いて恐縮ですが、ここでお伝えしたいのは一つだけです。「安いから」「感じがよかったから」だけで施工会社を選ぶには、今はあまりにリスクの高い時期に入っている、ということです。
なぜ、いま倒産が増えているのか——現場から見た3つの構造要因
ニュースの数字だけを見ると「不景気だから」で片づけたくなります。ですが現場にいる私の実感では、今回の倒産増加には、もう少し具体的で、根の深い理由が3つ重なっています。順番に説明します。
要因1:資材の値上がりと「ナフサ不足」
塗料や防水材の多くは、石油から作られる化学製品です。その原料の川上にあるのが「ナフサ」(原油を精製してできる、プラスチックや塗料原料のもとになる中間製品)です。TDBの調査では、中東情勢の影響によるナフサ不足が、すでに塗料・防水材の納期や価格に影響を及ぼしていると報告されています(出典:ITmedia ビジネスオンライン「『塗装・防水工事』業者の倒産、過去最多ペース」)。
現場では、材料そのものが手に入りにくくなるだけでなく、「見積もりを出した時点の材料価格が、実際に発注する頃には上がっている」という事態が起きます。私自身、この1〜2年で「見積り時と発注時で材料代が変わってしまい、頭を抱える」場面が明らかに増えました。値上がり幅が読めないと、正確な工事金額を提示すること自体が難しくなる。ここが、体力のない会社を追い詰めていきます。
要因2:職人の高齢化と若手不足
もう一つは人の問題です。TDBの物価高倒産の分析でも、若手職人の不足と高齢職人の引退が重なり、現場作業員が足りず、外注費の高騰から「人件費増」による倒産が目立つと指摘されています(出典:前掲・物価高倒産の動向)。
塗装も防水も、機械では代われない、手と経験がものを言う仕事です。腕のいい職人ほど引く手あまたで、単価が上がる。人を確保できない会社は工期を守れず、守れなければ次の仕事が来ない。この悪循環が、静かに小規模事業者の首を絞めています。
要因3:「安値受注」というジレンマ
そして三つ目が、私が最も歯がゆく思う点です。材料も人件費も上がっているのに、受注競争のために価格を上げられない。むしろ「他社より安く」で仕事を取ってしまい、蓋を開けたら利益が出ない——この「安値受注のジレンマ」が、資材高・人件費高と噛み合って、会社の体力をじわじわ削っていきます。
現場で20年やってきて、私が一番悔しい思いをするのは、腕は確かなのに、この価格の綱引きに負けて廃業していく同業を見るときです。安さは、発注者にとって一見ありがたい。けれど「相場より極端に安い見積り」は、実は危険信号かもしれない——今はそう疑うべき時代になったと、私は考えています。
「工事の途中で施工会社が倒産」は、発注者に何をもたらすのか
では、実際に契約した施工会社が工事の途中で倒産すると、管理組合やオーナーにはどんな打撃が及ぶのでしょうか。ここは冷静に、けれど正確に押さえておいてください。
第一に、工事が止まります。足場が組まれたまま、防水の途中で雨仕舞いが不完全なまま、現場が放置されるリスクがあります。梅雨や台風の時期にこれが起きると、雨漏りなど二次被害に直結します。
第二に、支払い済みのお金が返ってこない恐れがあります。大規模修繕では、着工金・中間金として工事費の一部を先に支払うのが一般的です。倒産すると、この前払い分に見合う工事が完了していない差額が、宙に浮きます。
第三に、やり直しに余計な費用と時間がかかります。別の会社に引き継いでもらうにしても、前の会社の施工品質を調査し、責任範囲を切り分ける手間が発生します。多くの場合、費用は当初の想定を上回ります。
そして意外と見落とされがちなのが、第四の点です。工事完了後に発覚した不具合(瑕疵)を、誰も直してくれなくなるリスクです。施工した会社が消えてしまえば、通常の工事保証は事実上、機能しなくなります。
戸あたりの感覚でお伝えします。仮に100戸のマンションで総額1億円の大規模修繕を組み、着工・中間で6割にあたる6,000万円を支払った段階で施工会社が倒産したとします。出来高が5割しかなければ、単純計算で1,000万円分、戸あたり10万円が「払ったのに形になっていない」お金として宙に浮く計算です。これはあくまで単純化した例ですが、「倒産は管理組合の財布を直撃する」という現実を、数字で感じていただければと思います。
もう一つ、見過ごされがちな打撃があります。時間です。倒産した会社の現場を別の会社が引き継ぐには、まず「どこまで、どんな品質で施工されているか」を一から調査し直さなければなりません。防水層のように、いったん仕上げてしまうと内部の状態が見えなくなる工事では、この調査自体が難航します。私も過去に、別の会社が途中まで手掛けた現場の引き継ぎに立ち会ったことがあります。図面と実際の施工が合っておらず、下地の状態を確かめるために一部を剥がして確認する——それだけで数週間が飛びました。理事の皆さまが「早く終わらせたい」と気を揉むなか、工期はずるずると延び、住民説明の負担だけが増えていく。お金の損失は数字で見えますが、この「時間と手間の損失」は、渦中にいる管理組合にとって本当に重いものだと、私は現場で痛感しました。
自衛策1:契約する前に「見抜く」——施工会社の体力チェック
ここからが本題です。発注する側にできる備えを、契約の「前」「時」「進行中」の3段階に分けてお伝えします。まずは契約前、会社選びの段階です。
私はいつも理事長さまに、こうお伝えしています。「相見積りは金額だけでなく、“この会社は3年後も存在しているか”という目で見てください」と。具体的には、次のような点を確認するとよいでしょう。
- 建設業許可の有無と業種:塗装工事業・防水工事業など、該当する業種の許可を持っているか。許可情報は各都道府県や国土交通省の建設業者・宅建業者等企業情報検索システムなどで確認できます。
- 経営事項審査(経審)の評点:公共工事の受注を目指す会社が受ける財務・技術の審査です。数値が公開されていれば、財務の健全性の一つの目安になります。
- 施工実績と継続年数:同規模のマンション大規模修繕の実績があるか。極端に若い会社や、実績が説明できない会社は慎重に。
- 見積りの内訳の明瞭さ:材料・人工・諸経費が項目ごとに分かれているか。「一式」ばかりの見積りは、後で「値上がりしたので追加で」となりやすい。
そして繰り返しますが、相場から極端に安い見積りには理由があります。今の資材高・人件費高のなかで、なぜその価格が出せるのか。合理的な説明ができない安さは、赤字受注か、どこかで手を抜く前提か、あるいは体力の限界での駆け込み受注か——いずれにせよ、発注者にとってのリスク要因です。安さの根拠を、遠慮なく質問してください。
自衛策2:契約に「保証」を組み込む——完成保証と各種保険
会社選びをどれだけ慎重にしても、倒産を100%予見することはできません。だからこそ、「万一倒れても、こちらの損害を抑える仕組み」を契約の段階で用意しておくことが重要です。ここは、知っているかどうかで結果が大きく変わる部分です。
大規模修繕工事「完成保証」
完成保証とは、工事会社が倒産などで工事を続けられなくなったとき、第三者機関が進捗状況と支払い済みの着工金・中間金を調査し、現場の出来高との差額に生じた損害を保証する仕組みです。工事の再開・完了をサポートする制度も登場しています。
ただし、ここには重要な注意点があります。完成保証や保険は、「追加負担ゼロで最後まで工事を完成させてくれる」万能の制度ではありません。補償の対象や上限は制度ごとに異なり、支払い済みの前払い金と出来高の差額を守るタイプが中心です。「入っていれば全部安心」ではなく、「何を、どこまで守る制度なのか」を必ず確認してください。
そしてもう一つ、見落としやすい実務上のポイントがあります。完成保証の保証料は、多くの場合、工事会社が負担します。つまり、管理組合の側から「完成保証を付けてください」と申し入れないと、工事会社は自発的には付けてくれないことがあるのです。これは総会や見積り依頼の段階で、こちらから条件として提示すべき事項です。
大規模修繕工事「かし(瑕疵)保険」
大規模修繕工事かし保険は、工事完了後に施工部分の瑕疵(欠陥・不具合)が判明した場合、補修費用などを保険でカバーする仕組みです。国土交通大臣が指定する住宅瑕疵担保責任保険法人が扱っており、保険金の対象は修補費用・調査費用・仮住居や転居費用など、保険金額はおおむね1,000万円〜5億円と、請負金額等によって設定されます(出典:国土交通省「住宅瑕疵担保履行法および住まいの安心総合支援サイト(大規模修繕工事かし保険)」、住宅瑕疵担保責任保険協会)。
この保険の心強い点は、施工会社が万一倒産して保証が受けられなくなっても、保険法人に直接、補修費用を請求できるケースがあることです。工事後の“もしも”に、施工会社の存続とは切り離した安全網をかけられます。
3つの仕組みを整理すると
保証・保険は名前が似ていて混乱しがちなので、「いつの、何を守るのか」で整理してみます。ご自身のマンションのケースに当てはめて読んでみてください。
| 仕組み | 守るタイミング | 主に守る対象 | 誰が申し入れる/負担するか |
|---|---|---|---|
| 完成保証 | 工事の途中で会社が倒産 | 支払い済みの前払い金と出来高の差額 | 管理組合から申し入れる。保証料は工事会社負担が一般的 |
| 履行保証保険 | 工事の途中で会社が倒産 | 契約が履行されないことによる管理組合の損害 | 契約時に工事会社が付保 |
| かし(瑕疵)保険 | 工事の完了後に欠陥が発覚 | 補修費用・調査費用・仮住居費用など | 工事会社が加入。倒産後は保険法人に直接請求できる場合あり |
大切なのは、どれか一つですべてが守られるわけではないという点です。工事中の倒産に備えるなら完成保証や履行保証保険、工事後の不具合に備えるならかし保険、と役割が分かれています。予算と物件の状況を踏まえ、どこまで備えるかを理事会で話し合う価値があります。
困ったときの公的相談窓口
制度の選び方や、実際にトラブルになったときの相談先も、あらかじめ知っておくと安心です。工事のトラブルは、公益財団法人 住宅リフォーム・紛争処理支援センターの「住まいるダイヤル」で、弁護士と建築士による専門家相談を受けられます(参考:住宅リフォーム・紛争処理支援センター)。「どこに相談すればいいか分からない」で立ち止まらないための、公的な入り口です。
自衛策3:資材高・値上げ局面での「見積りの読み方」
3つ目は、進行中のトラブルを防ぐための視点です。今のような資材が乱高下する時期は、見積りと契約書の「値上がりの扱い」を最初に確認しておくことが、後のもめ事を防ぎます。
私が現場でお勧めしているのは、次の3点です。
まず、材料費の変動をどう扱うか、契約前に明文化すること。「契約後に材料が値上がりした場合、どちらがどこまで負担するのか」を曖昧にしたまま進めると、途中で「追加費用」を巡って対立し、最悪の場合は工事が止まります。スライド条項(一定以上の物価変動があれば金額を調整する取り決め)の有無を確認しましょう。
次に、「一式」ではなく数量と単価で見積りを出してもらうこと。数量が明示されていれば、値上がりの根拠も検証できます。
最後に、極端な短工期・低価格の提案を鵜呑みにしないこと。人手不足のなか、無理な工期は品質の低下か下請けへのしわ寄せにつながりがちです。「なぜその工期・その価格で可能なのか」を、納得できるまで聞いてください。
私が現場で考える「倒産に強い体制」とは
ここまで発注者側の自衛策をお伝えしてきました。最後に、施工する会社を選ぶ一つの視点として、私が大切にしていることをお話しさせてください。少しだけ当社の話にもなりますが、押し売りのつもりはありません。今の時代に「倒産に強い体制とは何か」という、一つの考え方として聞いていただければと思います。
倒産の引き金は、突き詰めれば「材料が高くなった」「人が足りない」「価格を上げられない」の3つでした。逆に言えば、この3つに耐性のある体制ほど、工事の完遂まで走り切れる可能性が高いということです。
私が所属する株式会社明誠は、マンション・ビル・ホテルの大規模修繕を主力に、通常足場工法・ロープアクセス工法(足場を組まない無足場工法)・両者を組み合わせるハイブリッド工法の3つの工法を、建物ごとに中立的に提案しています。足場ありきでもロープありきでもなく、建物にとって最適な工法を選べること自体が、実はコスト耐性につながります。たとえば足場が必須と思われがちな部位でも、ロープアクセスを併用できれば足場コストと工期を圧縮でき、資材高・人件費高の局面でも価格の無理を減らせるからです(ロープアクセスについてはロープアクセス工法のご紹介、大規模修繕全体については大規模修繕工事のご紹介をご覧ください)。
ここで、ロープアクセス工法(足場を組まず、産業用ロープで高所へ直接アプローチする無足場工法)の利点を、あらためて3点で整理させてください。第一に足場コストの削減。大規模修繕の費用のうち仮設足場が占める割合は決して小さくなく、必要な部位だけロープアクセスに置き換えられれば、その分を圧縮できます。第二に工期の短縮。足場の架設・解体という工程そのものが減るため、資材や人が細る局面でも工程の無理を減らせます。第三に入居者・利用者への影響が小さいこと。足場は防犯面の不安や日当たり・眺望への影響を伴いますが、ロープアクセスはその負担を抑えられます。私はこの3点を、単なる技術の売りとしてではなく、「資材高・人手不足の時代に、工事を破綻させないための現実的な選択肢」として捉えています。
もう一つの特徴が、ロープアクセスとしては日本で初めてとなるフランチャイズ展開です。塗装・防水・タイル・電気・看板など各分野の専門職が加盟し、それぞれが直接施工することで、高品質と低価格の両立を目指しています。専門職の裾野が広いということは、材料調達や人員の手当てを一社の体力だけに依存しない、ということでもあります。私はこれを、資材と人が細る時代における、一つの現実的な備えだと考えています。
繰り返しますが、これは「だから当社に発注してください」という話ではありません。どの会社に頼むにしても、「この会社は3つの引き金にどれだけ耐えられるか」という目で見てほしい、というのが私の本当に伝えたいことです。
補足:区分マンションを複数持つオーナーさまへ
ここまでは管理組合の理事長さまを主な想定読者にお話ししてきましたが、収益物件として区分マンションを何戸か保有しているオーナーさまにも、この話は深く関わります。
オーナーさまの場合、修繕は「入居者の満足」と「賃料・資産価値の維持」に直結します。共用部の大規模修繕は管理組合の判断で進みますが、専有部のリフォームや、保有物件の外壁・防水の手入れは、オーナーご自身が発注者になります。ここで施工会社が途中で倒産すれば、空室期間が延び、家賃収入が止まり、資産価値の下落にもつながりかねません。
私がオーナーさまにお伝えしているのは、「工事を、単発の出費ではなく、資産のメンテナンス投資として設計してください」ということです。複数戸を保有しているなら、なおさら、信頼できる施工パートナーを一社見つけておくメリットは大きい。物件ごとにその都度、安さだけで会社を選び直していると、今のような倒産増加局面では、いつか工事中断という形でしっぺ返しを受けるリスクが高まります。
とりわけ築古の区分マンションは、防水や塗装の劣化が進みやすく、資材高の影響を受けやすい工事が中心になります。だからこそ、「値上がり局面でも無理のない工法を提案してくれるか」「万一のときの保証まで一緒に考えてくれるか」を、パートナー選びの基準にしていただきたいのです。ロープアクセスを活用した部分補修など、足場を組まずに機動的に対応できる選択肢を持っておくことは、収益物件の維持コストを平準化するうえでも有効だと、私は考えています。
まとめ:総会の前に、1分だけこの話題を
長くなりましたので、要点を整理します。
- 2026年1〜5月の塗装・防水工事の倒産は80件で、過去最多ペース。背景はナフサ不足による資材高・納期不安、人手不足、安値受注のジレンマ。
- 施工会社が工事中に倒産すると、工事停止・前払い金の宙浮き・やり直し費用・工事後の瑕疵補修不能という打撃が管理組合やオーナーを直撃する。
- 自衛策は3段階。①契約前に会社の体力(許可・実績・見積りの明瞭さ)を見抜く。②契約に完成保証やかし保険を組み込む(保証は自分から申し入れる)。③資材変動の扱いを契約で明文化する。
- 会社を選ぶときは「資材高・人手不足・価格転嫁」の3つの引き金への耐性という視点を持つ。
大規模修繕は、十数年に一度の大仕事です。だからこそ、価格の安さだけでなく、「最後までやり切れる相手か」を見極める。その一手間が、数百万、数千万円の資産を守ることに直結します。
次の理事会や総会で、1分だけでも「うちの施工会社選び、倒産リスクまで見ているだろうか」という話題を出してみてください。それだけで、備えの質はぐっと変わります。工法の選び方や見積りの読み方など、判断に迷う場面があれば、お問合せフォームからご相談だけでも遠慮なくお声がけください。総会前の整理だけでも、お力になれることがあります。
これは私が現場で20年見てきた、嘘偽りのない感想です。次回も、現場で本当に使える話だけをお届けします。
よくある質問(FAQ)
Q. 施工会社が工事の途中で倒産したら、支払ったお金は必ず返ってきますか?
A. 残念ながら、必ず返ってくるとは言えません。着工金・中間金として前払いした分のうち、出来高に見合わない差額は、倒産手続きのなかで回収が難しくなるのが一般的です。だからこそ、契約前に完成保証などの仕組みを用意しておくことが重要になります。
Q. 完成保証に入っていれば、追加費用なしで工事は必ず完成しますか?
A. いいえ。完成保証や保険は、支払い済みの前払い金と出来高の差額など、一定範囲の損害を守るものが中心で、「追加負担ゼロで最後まで完成させる」万能の制度ではありません。補償の対象と上限を、制度ごとに必ず確認してください。
Q. かし保険と完成保証は何が違いますか?
A. ざっくり言うと、完成保証は「工事の途中で会社が倒れたとき」の前払い金の損害を、かし保険は「工事の完了後に見つかった欠陥」の補修費用を守る仕組みです。守るタイミングが違うので、両方を検討する価値があります。
Q. 安い見積りは避けたほうがよいのですか?
A. 安いこと自体が悪いわけではありません。問題は「なぜその価格が出せるのか」を説明できるかどうかです。資材高・人件費高のなかでの極端な安値は、赤字受注や品質面のしわ寄せの可能性があります。安さの根拠を必ず確認してください。
出典・参考資料
- 帝国データバンク「『塗装・防水工事』の倒産動向(2026年 1-5月)」
- 帝国データバンク「『物価高倒産』の動向(2026年上半期)」
- ITmedia ビジネスオンライン「『塗装・防水工事』業者の倒産、過去最多ペース “ナフサ不足”だけじゃない」
- 国土交通省「住宅瑕疵担保履行法および住まいの安心総合支援サイト(大規模修繕工事かし保険)」
- 住宅瑕疵担保責任保険協会「リフォーム・大規模修繕工事業者向け情報」
- 公益財団法人 住宅リフォーム・紛争処理支援センター「住宅瑕疵担保履行法に基づく瑕疵保険の紹介」
- 国土交通省「建設業者・宅建業者等企業情報検索システム」
▼ロープアクセス工法・無足場工法の詳細解説はこちら
ロープアクセスドットコム|無足場工法専門メディア
塗装・防水工事の倒産が過去最多ペース——2026年1〜5月で80件。あなたの大規模修繕、その施工会社は最後までやり切れるか。収益物件オーナー・管理組合の「業者選定」と「工法」の判断軸【2026年6月】
朝のニュースに、少し背筋の伸びる見出しがありました。「塗装・防水工事の倒産、2026年1〜5月で80件」。帝国データバンクの調査です。数字だけ見ると業界の内輪話のようですが、これは収益物件をお持ちのオーナーさま、そしてマンション管理組合の理事長さま・修繕委員のみなさまにこそ、関わりのある話です。
結論から申し上げます。いま起きているのは「工事を請け負う側」の体力低下です。そして大規模修繕は、その「請け負う側」に建物と数千万円規模の予算を、半年から一年近く預ける取引にほかなりません。預けた相手が工事の途中で力尽きてしまったら——前払いしたお金、約束された保証、組み上げた工程は、どうなるでしょうか。
今日は、報じられた事実を冷静に押さえたうえで、「価格の安さ」だけでは見えない施工会社のリスクをどう見極めるか、そして資材高・人手不足というこの逆風のなかで、足場費を抑えながら品質と完遂力を守る工法の選び方までを、現場の言葉で整理します。煽るためではありません。大切な資産を預ける相手を、納得して選んでいただくためです。
ニュースの要点——塗装・防水の倒産が「過去最多」に次ぐペースで進んでいる
まず、報じられている数字を正確に押さえます。
帝国データバンクの調査によると、2026年1〜5月に発生した「塗装工事」と「防水工事」の倒産は80件。内訳は塗装工事が56件、防水工事が24件です。これは、通年の件数が2000年以降で最多となった2025年(同じ5月までで87件)に次ぐペースで推移しています(出典:帝国データバンク「塗装・防水工事の倒産動向(2026年1-5月)」、帝国データバンク プレスリリース、Yahoo!ニュース(RSK山陽放送))。
注目すべきは、倒産の「規模」です。負債額別で見ると、1億円未満の倒産が69件と、全体の約86.3%を占めました。つまり、倒れているのは大手ではなく、地域で堅実に工事を担ってきた小規模事業者が中心だということです。
なぜ「過去最多」級の水準が続いているのか
帝国データバンクは、塗装・防水工事ではナフサ由来の溶剤が多く使われ、加えて養生シートや塗料の容器といった副資材もナフサを原料としているため、中東情勢によるナフサ不足の影響拡大が懸念される、と指摘しています。現場ではすでに、塗料や防水材の値上がり幅が読みにくく工事金額の見積もり提示が難しくなるケースや、資材調達の遅れによる工期遅延が発生しているといいます。
ここで、前日(6月21日)にお伝えしたニュースとつながります。政府は6月23日から、品薄が続く塗料用シンナーをメーカーから工務店などへ直接販売する仕組みを始めます。これは供給ひっ迫に対する初動の一手であり、流れが変わる入口です。けれども、供給が一夜で元に戻るわけではありません。供給対策が効いてくるまでの「端境期」に、資金体力の薄い事業者から先に力尽きていく——いまの倒産増は、その過渡期の痛みでもあるのです。
塗装・防水は「建設業全体の縮図」でもある
視野を少し広げると、塗装・防水だけの問題ではないことが見えてきます。建設業全体の倒産は、2025年度(2025年4月〜2026年3月)で2,041件にのぼり、前年比5.6%増で過去10年で最多となりました(出典:帝国データバンク「倒産集計 2025年度報」、帝国データバンク「建設業の倒産動向(2025年)」)。
要因別では、建設業の「物価高倒産」が247件で過去最多。資材費や燃料費の高騰を発注元へ価格転嫁できず、利益を削りながら受注を続けた末に行き詰まったケースが目立ちます。さらに「後継者難倒産」は123件で全業種中最多、人手不足を直接の引き金とする倒産も高水準でした(東京商工リサーチによれば、2025年度の人手不足倒産は全業種で442件と調査開始以降で最多。出典:日本経済新聞、東京商工リサーチ「塗装工事業の倒産が急増」)。
要するに、人件費の急騰・工期の延長・建材価格の上昇という重いコストアップに、請負単価の値上げが追いついていない。これが業界を貫く構造的な弱りです。塗装・防水の倒産増は、その縮図にすぎません。
補足——なぜ「ナフサ不足」が塗装・防水を直撃するのか
ここで一度、因果の連鎖を整理しておきます。なぜ中東情勢が、遠く離れた日本の外壁塗装の現場まで届くのか。この道筋を理解しておくと、「この逆風がいつまで続きそうか」を自分なりに見立てられるようになります。
ナフサとは、原油を精製してできる石油化学製品の基礎原料です。プラスチックや合成樹脂、塗料の溶剤など、私たちの身の回りの多くの製品の出発点になっています。塗装・防水工事で使うシンナーは、このナフサを原料とする溶剤の代表格です。さらに、塗料そのものに含まれる樹脂、現場を汚さないために張る養生シート、塗料を入れる容器——こうした副資材の多くもまた、もとをたどればナフサ由来です。
つまり、外壁塗装の現場は「ナフサでできた材料」に幾重にも支えられています。だからこそ、中東情勢を発端にナフサの供給が細ると、溶剤だけでなく、塗料・副資材まで含めて値段が上がり、入手も難しくなる。一つの原料の不足が、現場のあらゆる材料に波及するのです。これが、塗装・防水という分野が今回の供給ショックの影響を特に強く受けている理由です。
そして、この影響は「価格」と「納期」の二つの形で現場を締めつけます。価格が読めなければ、施工会社は見積もりを出しづらくなります。先に安く請けてしまえば、着工までに材料費が上がった分が丸ごと自社の損失になりかねません。納期が読めなければ、工程が組めず、職人の手配も宙に浮きます。資金力の薄い小規模事業者ほど、この「読めなさ」に耐えられず、受注を絞るか、無理を重ねて力尽きていく。倒産統計の数字の裏には、こうした現場の苦しさがあります。
なぜ、これがオーナーと管理組合の問題なのか
ここからが本題です。「業者が大変なのは分かったが、発注する側に何の関係があるのか」と思われるかもしれません。関係は、あります。しかも、見落とされがちな深い関係です。
大規模修繕は、契約から完工まで半年〜1年近くを要する長期の取引です。その間、発注者は施工会社に対して、足場の組み立てから塗装・防水・タイル補修・防水トップコートまで、段階的に工事を進めてもらいます。多くの契約では、着工金や中間金といった前払い的な支払いが発生します。つまり、工事が完了する前に、相応のお金が施工会社の手に渡っているのです。
工事中に施工会社が倒産すると、何が起きるか
もし工事の途中で施工会社が倒産したら、現実にはこうした困りごとが起こり得ます。
第一に、支払い済みの前払金が回収困難になるおそれがあります。倒産した会社の財産は債権者全体で分け合うことになり、発注者が払ったお金がそのまま戻ってくる保証はありません。
第二に、工事が止まり、足場が組まれたまま放置される事態が起こり得ます。足場やシートが架かったままの建物は、見た目の問題だけでなく、強風時の安全リスクや近隣トラブルの種にもなります。残りの工事を別の会社に引き継いでもらうにも、途中まで他社が施工した部分の責任範囲が曖昧になり、引き継ぎ手が見つかりにくくなります。
第三に、完成後の保証が宙に浮きます。塗装や防水には通常、施工会社による数年〜十数年の保証が付きます。けれども、その会社が存在しなくなれば、保証書は紙きれ同然です。雨漏りや塗膜の不具合が起きても、無償補修を求める相手がいません。
管理組合にとっては、これらはそのまま「区分所有者全体の損失」になります。修繕積立金という、住民が長い年月をかけて積み上げてきた大切な原資が、業者の倒産という外的要因で毀損しかねないのです。オーナーさまにとっては、賃貸経営のキャッシュフローと資産価値そのものへの直撃です。
「最安値」がいちばん危ういという逆説
ここで一つ、立ち止まって考えていただきたいことがあります。倒産が増えている局面では、極端に安い見積もりほど警戒が必要だということです。
資材も人件費も上がっているのに、相場から大きく外れた安値を提示できる会社には、理由があります。すでに利益が出ない水準まで受注を取りにいっている、あるいは資金繰りを回すために当座の受注を確保しなければならない——そうした台所事情が背景にあるかもしれません。価格転嫁が追いつかずに倒産が増えているという今の構造は、まさに「安く請けすぎた会社から倒れていく」ことを示しています。
もちろん、安いことが直ちに危険なわけではありません。けれども、「いちばん安いから」という理由だけで決めるのは、いまの時勢では特にリスクの高い選び方になっています。価格は判断材料の一つにすぎず、その会社が工事を最後までやり切れるかという視点を、同じ重さで持つ必要があります。
倒産リスクから資産を守る——施工会社を見極める5つの視点
では、発注する側はどう自衛すればよいのでしょうか。専門家でなくても確認できる、実務的な視点を5つにまとめます。
1. 経営の安定性を、遠慮せず確認する
施工会社の財務状況は、発注者が確認してよい正当な関心事です。建設業許可の有無と種類、許可の更新状況、可能であれば直近の業績の傾向。決算書の開示まで求めるのは難しくても、「何年この地域で営業しているか」「施工実績は継続的にあるか」「元請として完工した大規模修繕の事例はあるか」を質問するだけでも、得られる情報は多くあります。誠実な会社ほど、こうした問いに丁寧に答えます。
2. 見積もりの「透明性」を見る
危ない兆候は、しばしば見積書に表れます。一式表記ばかりで内訳が不透明、相場と比べて極端に安い、追加費用の条件があいまい——こうした見積もりは、後の追加請求や品質の手抜き、あるいは無理な受注の温床になりがちです。逆に、数量・単価・仕様が明確に分かれ、資材高騰リスクへの考え方まで説明してくれる見積もりは、それ自体が会社の健全さの表れです。
3. 前払いの比率と支払い条件を確認する
着工金や中間金の比率が相場に比べて高すぎないか、出来高(実際に進んだ工事量)に応じた支払い設計になっているかを確認します。工事の進捗と支払いが釣り合っていれば、万一の際の損失を小さく抑えられます。出来高払いを基本に据えることは、発注者にとって有効なリスク管理です。
4. 保証とアフターの「実体」を確かめる
保証書の有無だけでなく、その保証を裏づける体制があるかを見ます。保証年数の長さよりも、定期点検の仕組み、不具合時の連絡窓口、そして何より会社が存続している蓋然性が大切です。第三者機関による保証(住宅瑕疵担保責任保険のような仕組み)を併用できるかも、確認の価値があります。
5. 「組織」として施工できる体制かを見る
一人親方や少人数の会社が悪いという話ではありません。けれども、大規模修繕は塗装・防水・タイル・シーリング・電気・看板など、複数の専門工事が組み合わさる総合工事です。特定の職人一人の体調や資金繰りに全体が依存していると、その一点が崩れたときに工事全体が止まります。各工程を担う体制が組織として整っているか、協力会社のネットワークがあるかは、完遂力を測る重要な物差しです。
倒産リスクは、実は「修繕積立金リスク」でもある
マンション管理組合のみなさまには、もう一段踏み込んでお伝えしたいことがあります。施工会社の倒産リスクは、突き詰めれば修繕積立金の毀損リスクに直結する、という点です。
大規模修繕は、十数年に一度の大きな支出です。区分所有者が毎月コツコツと積み立ててきた修繕積立金を取り崩し、ときには借入も併用して、まとまった金額を一度に動かします。その大切な原資を預けた施工会社が工事の途中で倒産すれば、前払金の一部が回収できないだけでなく、別の会社に引き継ぐための追加費用、放置された足場の管理費用、当初の保証が失われたことによる将来の補修費用まで、想定外の負担が次々と積み重なります。
しかも厄介なのは、こうした損失が「総会で承認した予算」を超えて発生することです。理事会や修繕委員会は、区分所有者に対して説明責任を負っています。「いちばん安い会社を選んだら、途中で倒産して積立金を失った」という結末は、組合運営への信頼そのものを揺るがしかねません。だからこそ、業者選定は単なる価格比較ではなく、組合の資産を守るリスク管理として捉える必要があるのです。
近年は、長期修繕計画の見直しや修繕積立金の水準が社会的な関心を集めています。積立金が不足ぎみの組合ほど、目先の安さに引き寄せられやすい構造があります。けれども、倒産が増えるいまの局面では、その「安さ」が最も高くつく選択になりかねません。積立金を守るとは、一円でも安く発注することではなく、預けた一円が確実に工事として形になる相手を選ぶことだ——そう捉え直していただきたいと思います。
工法の選び方が、コストと完遂力を同時に左右する
業者選定と並んで、もう一つ発注者が握っているレバーがあります。工法の選択です。これは、資材高の時代に「適正価格を保ちながら品質を確保する」ための、見落とされがちな鍵になります。
足場費という「見えない大きなコスト」
大規模修繕の費用の内訳を見ると、多くの方が驚かれるのが仮設足場の比率です。建物の規模や形状にもよりますが、足場の架設・解体・賃料は、工事費全体のなかで決して小さくない割合を占めます。資材も人件費も上がっているいま、この足場費が総額を押し上げ、結果として「予算が足りない」「だから安い業者を選ばざるを得ない」という、先ほど述べたリスクの高い選択へと発注者を追い込んでしまうことがあります。
つまり、足場費を合理的に抑えられれば、浮いた分を品質や、体力のあるしっかりした施工会社の適正単価に回せる。工法の選択は、めぐりめぐって倒産リスクの回避にもつながるのです。
無足場(ロープアクセス)という選択肢
ここで、私たち明誠が得意とするロープアクセス工法(無足場工法)が選択肢に入ってきます。これは、産業用ロープを使って職人が外壁に直接アクセスし、足場を架けずに塗装・防水・補修などを行う工法です。建設現場で長く使われてきた確立された技術で、欧米のビルメンテナンスでは一般的な方法です。
ロープアクセスの利点は、主に三つあります。
第一に、足場を架けないことによるコスト圧縮です。足場の架設・解体・賃料が不要になるため、条件の合う建物では総額を抑えられます。先ほどの「浮いた分を品質に回す」が、現実に可能になります。
第二に、工期の短縮です。足場の組み立て・解体に要する日数が不要になるため、工事全体のスケジュールを短くできるケースがあります。工期が短いほど、住民や利用者への影響も、天候による遅延リスクも小さくなります。
第三に、居住者・利用者の生活影響の最小化です。建物全体を足場とシートで覆わないため、室内が暗くならず、開放感が保たれ、防犯面の不安も軽減されます。賃貸物件であれば、入居者の満足度や退去リスクにも関わる、見過ごせないメリットです。
もちろん、ロープアクセスが万能というわけではありません。建物の高さや形状、作業内容によっては足場が適している場面も当然あります。大切なのは、「足場ありき」でも「無足場ありき」でもなく、建物ごとに最適を選べることです。
足場とロープアクセスを使い分ける「ハイブリッド工法」
そこで現実的な解になるのが、ハイブリッド工法です。これは、建物の部位ごとに足場とロープアクセスを使い分ける考え方です。複雑な形状で足場が向く部分には足場を架け、足場の架設が難しい高所や狭小部、コストを抑えたい大面積の壁面にはロープアクセスを使う。こうして全体のコストと品質、工期のバランスを最適化します。
明誠が、通常の足場仮設工法・ロープアクセス工法・ハイブリッド工法の3つを建物特性に応じて提案できることには、こうした背景があります。1つや2つの工法しか持たない会社は、どうしても「自社が持つ工法に建物を当てはめる」提案になりがちです。3つの選択肢を持って初めて、「建物にとって本当に最適なのはどれか」を起点に考えられます。
倒産が増える時代だからこそ、「組織で施工できる体制」が効く
ここまでお読みいただいて、業者選定の視点と工法選択が、実は地続きであることがお分かりいただけたと思います。資材高で利益が削られ、価格転嫁が追いつかず、小規模事業者から倒産していく——この構造のなかで発注者を守るのは、「価格だけで選ばない目」と、「適正価格を成り立たせる工法」、そして「組織として工事を完遂できる施工体制」の三つです。
私たち明誠は、ロープアクセス工事として日本で初めてのフランチャイズ展開を行っています。塗装・防水・タイル・電気・看板といった各分野の専門職が加盟する仕組みをつくることで、一つの職種や一人の職人に全体が依存しない、組織としての施工体制を整えてきました。各工程の専門性が高まることは品質に直結し、無足場による足場費の圧縮と合わせて、高品質と適正価格の両立を可能にしています。
この体制は、発注者から見れば「窓口は一つ、けれど背後には各分野の専門職がそろっている」という安心につながります。塗装は塗装の、防水は防水の、タイルはタイルの専門職が責任を持って担う。一人の職人がすべてを兼ねるのではなく、工程ごとに最適な担い手が入ることで、品質のばらつきが抑えられます。そして、特定の一社や一人に全体が依存しないため、万一どこか一つの工程でつまずいても、工事全体が止まってしまうという最悪の事態を避けやすくなります。倒産が増える時代に発注者が最も恐れる「途中で工事が止まる」というリスクに対して、組織としての厚みが効いてくるのです。
加えて私たちは、一般社団法人全国建設業支援協会(JCSA)を運営し、全国の建設業に向けた経営支援、オンラインセミナー、交流会、ビジネスマッチングにも取り組んでいます。倒産が過去最多級に増えるいまの局面で、業界全体の経営基盤を底上げしようという取り組みは、めぐりめぐって「最後までやり切れる施工会社」を増やすことにつながると考えています。発注者にとっての安心は、健全な業界の上にしか成り立たないからです。
よくあるご質問
最後に、オーナーさまや理事のみなさまから実際に寄せられることの多い疑問に、簡潔にお答えします。
Q. いま見積もりを取っている最中ですが、いったん止めたほうがよいですか。
止める必要はありません。むしろ、いまは見極めの好機です。複数社から相見積もりを取り、価格だけでなく、内訳の明確さ、支払い条件、保証体制、施工実績を並べて比較してください。極端に安い一社があれば、その理由を率直に質問する。誠実な会社ほど、資材高のいま価格をどう考えているかを丁寧に説明してくれます。比較の過程そのものが、リスクの高い相手を見抜くフィルターになります。
Q. 資材が値上がりしているなら、工事は先送りしたほうが得ではありませんか。
一概には言えません。先送りには「劣化が進む」というコストが伴います。外壁のひび割れや防水層の劣化を放置すれば、雨水が躯体に入り込み、本来は表面の補修で済んだものが、躯体補修を要する大工事に発展しかねません。供給と価格の見通しを見ながら、劣化の進行と天秤にかける。そのうえで、足場費を抑えられる工法で総額を適正化すれば、「待つリスク」と「動くコスト」の両方を小さくできます。判断には、建物の現状診断が欠かせません。
Q. ロープアクセスは足場より危なくないのですか。
適切な資格と装備、二重の安全確保を前提に運用される確立された工法です。建設業や高所作業の分野で長く使われてきました。重要なのは、施工する会社がきちんとした安全管理と訓練の体制を持っているかどうかです。工法そのものの優劣ではなく、それを扱う組織の力量を確認してください。
Q. うちの建物はロープアクセスに向いていますか。
建物の高さ、形状、外壁の状態、作業内容によって変わります。だからこそ、足場・無足場・ハイブリッドの3つを比較して提案できる相手に、実際に建物を見てもらうことが大切です。「向き・不向き」は、机上ではなく現場で決まります。
いま、オーナー・管理組合が取るべき三つの行動
最後に、今日のニュースを「自分の建物の判断」に落とし込むために、実務的な行動を三つ提案します。
一つ目は、手元の見積もりを「価格」だけでなく「完遂力」の目で見直すことです。相見積もりのなかに極端な安値があれば、その理由を確認してください。安さの裏に資金繰りの無理が隠れていないか。出来高払いの設計になっているか。保証を裏づける体制があるか。価格表の数字の向こう側にある、会社の体力を見てください。
二つ目は、着工のタイミングと工法を一緒に考えることです。資材の供給は、政府の対策で改善に向かう入口に差しかかっています。慌てて最安値で発注するより、供給と価格の見通しが少し落ち着く局面を見据えつつ、足場費を抑えられる工法で総額を適正化する。この二つを組み合わせることで、「待つことのリスク」と「動くことのコスト」を両方とも小さくできます。
三つ目は、複数の工法を比較できる相手に相談することです。足場一択、無足場一択ではなく、建物ごとに3つの工法から最適を示してくれる相手であれば、コスト・工期・住民影響・完遂力のすべてを天秤にかけた、納得感のある判断ができます。
大規模修繕は、建物の資産価値を守り、入居者の暮らしを支える、長期の投資です。その投資を託す相手が、工事を最後までやり切れるか——倒産が過去最多級に増えるいまだからこそ、この一点を、価格と同じ重さで見ていただきたいと思います。
ご自身の物件で「この見積もりは適正か」「うちの建物ならどの工法が向くか」と迷われたときは、どうぞお気軽にご相談ください。建物を実際に拝見したうえで、3つの工法それぞれの概算と、メリット・デメリットを正直にお伝えします(お問い合わせ、ロープアクセス工法について)。判断の土台をそろえるお手伝いを、現場の目線でいたします。
塗料用シンナー、政府が23日から“直接販売”を開始——供給ひっ迫の転機。止めていたマンション大規模修繕、いつ動かすか。収益物件オーナー・管理組合の判断軸【2026年6月】
塗料用シンナー、政府が23日から“直接販売”を開始——供給ひっ迫の転機。止めていたマンション大規模修繕、いつ動かすか。収益物件オーナー・管理組合の判断軸【2026年6月】
朝のニュースで「シンナーをメーカーから直接買えるようにする」という見出しが流れました。塗装や防水の見積りを手元に、着工のタイミングを計りかねているオーナーさま、あるいは総会で工事の可否を諮ろうとしている管理組合の理事長さまにとっては、見過ごせない一報だったはずです。
結論から申し上げます。これは、ここ数か月続いてきた「材料が高い・入ってこない」という供給ひっ迫に対する、政府の初動の一手です。供給が一夜で元に戻るわけではありません。けれども、流れが変わる「入口」に差しかかったことは確かです。だからこそ今、「待つべきか、動くべきか」「どの工法で進めるか」という判断が、これまで以上に資産の行く先を左右します。
今日は、報じられている事実を冷静に押さえたうえで、収益不動産をお持ちのオーナーさまと、マンション管理組合の理事長さま・修繕委員のみなさまが「自分の建物で何をすべきか」を決めるための要点を、現場の言葉で整理します。煽るためではありません。判断の土台をそろえるためです。
ニュースの要点——政府が「塗料用シンナーの直接販売」を6月23日に開始
まず、いま何が報じられているのかを正確に押さえます。
赤澤亮正経済産業相は2026年6月19日の閣議後会見で、シンナーメーカーから自動車整備事業者や工務店などの需要家に対し、塗料用シンナーを直接販売する仕組みを立ち上げ、6月23日から需要家の注文受付を開始すると明らかにしました(出典:日本経済新聞、NHK、共同通信・朝日新聞ほか)。配送は通販会社アスクルの物流網を活用し、需要家のもとへ直接届けられる形です。
ここで言う「需要家」とは、シンナーを実際に使って仕事をする現場、つまり整備工場や工務店、塗装業者などを指します。これまでは、メーカーから卸・販売店を経て現場に届く流通経路が一般的でした。その経路のどこかで在庫が滞り、現場までモノが回らない——いわゆる「流通の目詰まり」が起きていました。今回の仕組みは、その目詰まりを避け、メーカーから現場へ直接モノを流す「バイパス」を一本通すものだと理解すると分かりやすいと思います。
赤澤経産相は会見で、この措置について「需給ひっ迫による価格上昇を抑制する効果も一定程度期待している」と述べています。供給を増やすだけでなく、値上がりに歯止めをかける狙いもにじみます。
6月2日の「原料を最大1.8倍供給」スキームとセットで動く
今回の直接販売は、単独の思いつきで出てきたものではありません。政府は先立つ2026年6月2日、シンナーの原料を最大1.8倍供給するスキームを発表していました。今回の直接販売は、この増産スキームで生産されたシンナーを、滞りなく現場へ届けるための「出口」にあたります。
つまり、「原料を増やす(入口)」と「現場へ直接届ける(出口)」が、6月2日と6月19日の二段構えでそろった、という構図です。片方だけでは効きません。原料を増やしても流通で詰まれば現場に届かず、流通を整えても元の量が足りなければ品薄は解けません。両方が動いて初めて、供給ひっ迫の緩和に向けた現実的な道筋が見えてきます。
なぜ「直接販売」という、やや異例の手を打つのか
平時であれば、政府が特定の建材の流通に直接手を入れることはそう多くありません。それをあえて行うということ自体が、現場の逼迫が看過できない水準にあることの裏返しでもあります。塗料用シンナーは、外壁塗装をはじめとする工事に欠かせない基礎資材です。これが回らなければ、塗装が止まり、塗装が止まれば大規模修繕の工程全体が止まる。経済活動への波及が小さくないからこそ、踏み込んだ措置がとられた、と読むのが自然でしょう。
そもそも、なぜ塗料・シンナーがここまで逼迫したのか
ここで一度、背景を整理しておきます。経緯を知っておくと、「直接販売でどこまで解決するのか」を冷静に見極められます。
塗料用シンナーは、原油などを原料とする石油化学製品の一種です。塗料を適切な粘度に薄めたり、道具を洗ったりするのに使われ、外壁塗装の現場では欠かせません。そして、この原料となる石油化学品の供給は、2026年に入ってからの中東情勢の緊迫化、とりわけ原油・石油製品の主要な輸送路をめぐる混乱によって、世界的に不安定になりました。
原料が細れば、その川下にあるシンナー・塗料・防水材・シーリング材(目地を埋める弾力性のある材料)の供給と価格に波及します。これは構造上、避けにくい連鎖です。実際、業界向けの情報や塗装会社の発信では、シンナーや塗料について「出荷数量の制限」「価格改定」「入手難」が相次いで伝えられてきました。一部報道や業界情報では、これまで一缶4,000円程度だったシンナーが15,000円を超える実勢価格で取引された例や、大手メーカーが大幅な値上げに踏み切った例も伝えられています(※こうした価格水準は品目・メーカー・時期によって幅があり、すべての現場に一律で当てはまる数字ではありません)。
念のため申し添えます。これらの個別の価格や倍率は、二次的に伝えられている情報を含みます。ご自分の見積りがどの水準にあるかは、内訳を一つずつ確認しないと分かりません。大切なのは、数字の一つひとつに振り回されることではなく、「自分の工事に使う材料が、いまの逼迫の影響を受ける部分はどこか」を見える化することです。
これは「正常化の入口」か——楽観も悲観もしない読み方
オーナーさま・管理組合のみなさまがいちばん知りたいのは、「で、これで安くなるのか、早く工事できるのか」という点だと思います。ここは、正直にお答えします。
まず、今回の措置は明確に前向きな材料です。政府が増産と直接流通の二段で動いたことで、これまで「お金を出してもモノが手に入らない」状態が、少しずつ緩む方向に向かう可能性が高い。これは、待つことしかできなかった現場にとって、確かな前進です。
一方で、楽観しすぎるのも禁物です。直接販売が始まる6月23日を境に、翌日から価格が平時に戻る、という話ではありません。増産スキームで生産されたシンナーが市中に行き渡り、価格と納期が落ち着くまでには、相応の時間がかかると見ておくのが現実的です。経産相自身が「価格上昇の抑制効果も一定程度期待」と、慎重な言い回しをしている点にも注意が必要です。「一定程度」という言葉には、効果はあるが万能ではない、という含みがあります。
私が現場で20年見てきた感覚で言えば、こうした局面では「戻る前提」と「長引く前提」の両方で段取りを描いておくのが、いちばん安全です。今回のニュースは、振り子が「改善」の方向へ振れ始めたことを示しています。けれど、振り切るまでの速度と幅は、まだ読み切れません。だからこそ、ニュースに一喜一憂して着工を前倒し・後ろ倒しするのではなく、自分の物件の事情に即して判断軸を持つことが大切になります。
オーナー・管理組合に起きる「3つの実害」と、その変化
抽象論ではなく、これまで現場で実際に起きてきたことを3つに整理し、今回のニュースで何が変わり得るかを添えます。
実害1:工期が後ろにずれる——緩む方向だが、まだ前提にはできない
最も直接的なのが工期の遅延です。塗料やシンナー、防水材が予定どおり届かなければ、着工していても途中で手が止まります。賃貸物件であれば、足場が長く架かっている期間そのものが、入居者の生活ストレスや、退去・募集への悪影響につながりかねません。今回の直接販売で、この納期リスクは緩む方向に向かうと期待されます。ただし、現時点では「もう遅延しない」と言い切れる段階ではありません。発注時には、業者に最新の納期見通しを確認し、遅延した場合の代替段取りまで握っておくのが安全です。
実害2:見積りが上振れする・有効期限が短くなる
材料価格が動いている局面では、見積りの「有効期限」が短くなります。半年前に取った見積りが、着工時には通用しないことも起こり得ます。業者側もリスクを織り込むため、安全を見て高めに出してくることがあります。これは業者が不誠実なのではなく、先が読めないがゆえの自衛です。今回の供給対策で値上がりに歯止めがかかれば、この上振れ圧力も和らぐ可能性があります。オーナー側にできるのは、内訳を開示してもらい、「どの材料の、どのリスクを、いくら織り込んだのか」を可視化することです。
実害3:「価格が読めない」局面での相見積りの形骸化
価格が読みにくく、対応できる業者も限られる局面では、相見積り(複数社からの見積り取得)が形だけになりやすいという問題があります。数字の妥当性を判断する「ものさし」を持たないまま、提示された金額を受け入れてしまう——これが、こうした局面で最も避けたい事態です。相見積りは、社数をそろえることが目的ではありません。「同じ条件で」「内訳まで」比べられて初めて意味を持ちます。後述する「工法の比較」は、このものさしを持つための有力な手段でもあります。
価格が読みにくい今こそ「工法の選択」が効く——足場費という大きな見落とし
ここからが、私がいちばんお伝えしたい話です。
供給対策が動き始めたとはいえ、材料費が完全に元の水準へ戻るには時間がかかります。では、材料の値段が読み切れないあいだ、オーナーや管理組合は手をこまねくしかないのか。そうではありません。総工費は材料費だけでできているわけではないからです。
大規模修繕の見積りは、おおまかに「材料費」「仮設費(足場の費用)」「労務費」「諸経費」で構成されます。今回高騰しているのは主に材料費です。材料は品質に直結するため、むやみには削れません。安い材料に替えて数年で再劣化すれば、かえって高くつきます。であれば、見直すべきは「材料以外の費目」、とりわけ仮設費(足場の費用)です。
大規模修繕の見積りで、足場の架設・解体・養生にかかる仮設費は、総工費の少なくない割合を占めます。建物の形状や高さによっては、想像以上の比重になります。ところが、多くのオーナーさまは足場を「工事に必要な、動かせない前提」と捉えていて、ここを検討対象から外してしまいがちです。材料の価格が読みにくい今こそ、この大きな費目に光を当てる価値があります。
ロープアクセス(無足場工法)が、いまの局面で効く理由
私たち明誠が得意とするのが、産業用ロープを使って職人が壁面を上下しながら施工するロープアクセス工法、いわゆる無足場工法です。仮設足場を建物全体に架けず、必要な部位に職人が直接アクセスして、塗装・防水・タイル補修・シーリング打ち替えなどを行います。
この工法が、いまの局面で効く理由は3つあります。
第一に、足場の仮設費を抑えられること。読みにくいのは材料費です。であれば、材料以外の大きな費目を圧縮できれば、総額の振れ幅を和らげられます。ロープアクセスは、足場をフルに組まない分、仮設費の構造そのものが変わります。
第二に、工期を短くしやすいこと。足場の組立・解体には相応の日数がかかります。これを省ける場面では、着工から完了までの期間を圧縮できます。資材の入手がなお不安定な局面では、工事が建物に手をかけている「窓」を短くできること自体が、リスクの低減になります。
第三に、居住者・利用者の生活影響を小さくできること。建物全体を足場とメッシュシートで覆う期間が短い、あるいは限定的であれば、採光・通風・防犯面のストレスが減ります。賃貸物件であれば入居者の満足度に、分譲であれば住民合意の取りやすさに効いてきます。
もちろん、ロープアクセスは万能ではありません。建物の形状、劣化の範囲、作業量によっては、足場を組んだほうが合理的なケースもあります。大切なのは、「足場ありき」でも「無足場ありき」でもなく、建物にとって最適な工法を、コストと工期と品質の三つの軸で選ぶことです。
ハイブリッド工法という第三の選択
明誠が提案できるもう一つの選択肢が、ハイブリッド工法です。これは、足場が必要な部位には足場を組み、ロープアクセスが向く部位には無足場で対応する、という「部位ごとの使い分け」です。
たとえば、劣化が集中している面や作業量の多い面には足場を架けて効率を上げ、点検や部分補修で足りる面はロープアクセスで身軽に対応する。こうすることで、足場をすべてに架けるよりも仮設費を抑えつつ、無足場一本では難しい大がかりな作業もこなせます。大規模・複雑形状の物件で、総コストの最適点を探るときに有効です。
足場一本、無足場一本ではなく、3つの工法を建物特性に応じて比較・提案できる会社は、国内でも多くありません。私たちが大切にしているのは、工法を売ることではなく、建物にとっての最適解を一緒に探すことです。そしてこの「複数の工法で比べる」という姿勢こそ、前章で述べた、価格が読みにくい局面で必要な「ものさし」を持つことにつながります。
見積書の読み方——塗料・シンナー逼迫の局面で確認すべき費目
「内訳で見る」と申し上げても、見慣れていないと、どこを見ればよいか分かりにくいものです。大規模修繕の見積書を、費目ごとに何を確認すべきかという観点で整理します。
一つ目は直接仮設費。足場、養生シート、昇降設備など、工事のための「足場まわり」の費用です。今回の局面で最初に光を当てたいのがここです。総工費に占める割合を確認し、「この建物で、本当にフルの足場が必要か」を業者に問い直してみてください。無足場やハイブリッドで圧縮できる余地があるなら、ここが効きます。
二つ目は材料費(直接工事費のうち材料分)。塗料、シンナー、防水材、シーリング材など、まさに今回逼迫している費目です。見積書では「一式」とまとめられがちですが、できれば主要材料の単価とメーカー・グレードまで開示してもらいましょう。とくに塗料は、シンナーをほとんど使わない水性系への切り替えが供給面で有利になる場面もあります。グレードや耐久性を落とさずに逼迫を回避できる代替があるのか、ないのかを、根拠とともに確認します。
三つ目は労務費。職人の人件費です。これは資材とは別の論理で動きます。工期が延びれば、間接的に膨らむこともあります。工期短縮が労務費にどう効くかも、あわせて見ておきたい点です。
四つ目は諸経費(現場管理費・一般管理費)。現場運営や会社の管理にかかる費用で、総工費に対する比率で見るのが基本です。極端に高い・低い場合は、その理由を尋ねます。
この4つを「同じ条件で」複数社から取り、横に並べる。これが、価格が読みにくい局面で自分の身を守る最も確実な手順です。総額だけを比べると、どこで差がついているのか分からず、結局は「安いところ」か「言われるまま」になりがちです。費目で比べれば、差の理由が見え、交渉の土台ができます。
修繕積立金・長期修繕計画との兼ね合い——資金計画の見直しどき
分譲マンションの管理組合にとって、資材の逼迫と価格変動は長期修繕計画と修繕積立金の問題に直結します。長期修繕計画とは、将来必要になる修繕を時期と概算費用とともに見通した計画で、修繕積立金はその原資です。
ここで起きがちなのが、「計画を立てた当時の単価」と「いま実際にかかる費用」のかい離です。数年前に組んだ長期修繕計画の前提単価は、今回の高騰を織り込んでいません。そのまま進めると、積立金が想定より早く不足したり、一時金の徴収や借入れが必要になったりすることがあります。
だからこそ、いまの局面では長期修繕計画の見直し(再算定)と、工法によるコスト圧縮の検討を、セットで進めることをおすすめします。材料費の動きは読みにくくても、仮設費と工期を工法で抑えられれば、計画全体の総額を平準化できる可能性があります。修繕積立金の値上げ幅を最小限にとどめることは、住民合意の取りやすさにも直結します。総会で「材料が上がったので積立金も上げます」とだけ説明するのと、「材料は上がったが、政府の供給対策の動きも見つつ、工法を見直して総額の振れをこれだけ抑えた」と説明できるのとでは、住民の納得感はまったく違います。
賃貸の収益物件オーナーさまにとっても、構図は同じです。修繕費の上振れは、その期のキャッシュフローと利回りを直接削ります。融資の返済計画とのバランスも崩れかねません。「いくらかかるか」を早めに精緻化し、工法で抑えられる部分を抑えることが、長期の収益を守ることに直結します。
明誠のロープアクセスが「高品質×低価格」を両立できる理由
「無足場で安くなるのは分かったが、品質は大丈夫か」——よくいただくご質問です。ここは正面からお答えします。
明誠のロープアクセス工事は、産業用ロープを用いた国際的な技術基準に沿った手法で行います。命綱を含む二系統のロープで安全を確保し、訓練を受けた技術者が施工します。足場がないこと自体は、品質を落とす理由にはなりません。むしろ、職人が壁面に直接近づいて一面ずつ手で確かめながら進めるため、劣化の発見や部分補修の精度はむしろ高められる場面もあります。
そして、私たちが「高品質でありながら低価格」を実現できている背景には、もう一つの理由があります。明誠は、ロープアクセス工事の分野で日本で初めてのフランチャイズ展開を行っており、塗装・防水・タイル・電気・看板といった各分野の専門職が加盟しています。それぞれの道のプロが、自分の得意領域を担う。だから品質が安定し、中間マージンの構造も無駄をそぎ落とせる。これが、価格と品質を両立できる仕組みです。
繰り返しますが、私たちは無足場を売りたいのではありません。足場が最適な建物には足場を、無足場が向く建物には無足場を、両方を使い分けるべき建物にはハイブリッドを——建物にとっての最適解を、3つの選択肢の中から正直にご提案します。供給が揺れる局面で大切なのは、特定の工法に縛られず、フラットに比べられる相手を持つことです。
いま、オーナー・管理組合が打つべき5つの手
最後に、明日から動ける具体策を5つに絞ってお伝えします。
一つ目は、手元の見積り・計画の「資材リスク」を一枚に書き出すこと。どの工事に、どの材料(塗料・シンナー・防水・シーリング等)が、どれだけ使われるのか。逼迫の影響を受けやすい部分を見える化します。
二つ目は、見積りを「総額」でなく「内訳」で見ること。材料費・仮設費・労務費・諸経費に分け、価格が動いているのがどこかを把握します。とくに仮設費の大きさは、多くの方にとって発見になるはずです。
三つ目は、工法の選択肢を一度フラットに検討すること。いまの足場前提が本当に最適か。無足場やハイブリッドで仮設費と工期を圧縮できないか。建物を見たうえでの比較が、価格の妥当性を測るものさしになります。
四つ目は、業者に「最新の供給・納期見通し」を確認すること。6月23日からの直接販売をはじめ、供給環境は動いています。発注の前に、材料の入手見込みと、遅れた場合の代替段取りを確認しておきましょう。
五つ目は、「待つ」「進める」を感情でなく段取りで決めること。供給が戻る前提と、長引く前提の両にらみで、着工時期と支払いの段取りを描いておく。先延ばしが正解の物件もあれば、いま動くべき物件もあります。決め手は、物件ごとの劣化の進み具合と資金計画です。
よくあるご質問
Q. 6月23日からシンナーが直接買えるようになれば、すぐ工事費は下がりますか。
すぐに平時へ戻るとは見ていません。増産分が市中に行き渡り、価格と納期が落ち着くには時間がかかります。経産相も「価格抑制効果も一定程度期待」と慎重な言い方をしています。改善の方向ではあるが、過度な楽観は禁物です。
Q. 供給が落ち着くまで、工事を待ったほうがいいですか。
一概には言えません。劣化が進んでいる物件は、待つほど被害(雨漏り、躯体劣化、タイル落下のリスク)が広がり、結果的に費用が膨らむことがあります。「待つことの費用」と「いま動く費用」を並べて比べることをおすすめします。
Q. 塗料を水性系に替えれば、供給難を避けられますか。
シンナーをほとんど使わない塗料系統は、供給面で有利になる場面があります。ただし、建物の劣化状況や下地との相性、求める耐久性によって適否が分かれます。一律に「水性なら安心」ではなく、現地を見たうえでの判断が必要です。
Q. 無足場(ロープアクセス)にすれば、安くなりますか。
建物の形状や作業量によります。安くなる物件も、足場のほうが合理的な物件もあります。だからこそ、3つの工法を同じ土俵で比較することに意味があります。
Q. 管理組合として、まず何から始めればよいですか。
長期修繕計画と直近の見積りを手元にそろえ、資材リスクと足場費の比重を確認することからです。そのうえで、複数工法での概算比較を取ると、総会での説明がぐっと通りやすくなります。
まとめ——供給対策が動き出した今は、「工法を見直す」好機でもある
政府は6月23日、塗料用シンナーをメーカーから工務店などへ直接販売する仕組みを始めます。6月2日の「原料を最大1.8倍供給する」スキームとあわせ、入口(増産)と出口(直接流通)の二段で、供給ひっ迫の緩和に向けて動き出しました。これは、待つことしかできなかった現場にとって、確かな前進です。
ただし、価格と納期が平時へ戻るには時間がかかります。だからこそ、ニュースに一喜一憂して着工時期を動かすよりも、自分の物件の事情に即した判断軸を持つことが大切です。そして、材料費がなお読みにくいいまは、これまで「動かせない前提」とされてきた足場費に光を当て、工法そのものを見直す好機でもあります。材料費はすぐには下げられません。けれど、仮設費と工期は、工法の選び方で変えられます。無足場(ロープアクセス)やハイブリッドという選択肢を、いちど自分の物件で検討してみる価値は、いまこそ高いと考えます。
私たち明誠は、足場・ロープアクセス・ハイブリッドの3工法を、建物にとっての最適解という一点から比較・提案できる、数少ない会社です。供給が揺れる局面で「総額をどう守るか」「資産価値をどう維持するか」にお悩みのオーナーさま・管理組合のみなさまは、現状の見積りを片手に、まずはお気軽にご相談ください。建物を拝見し、複数工法での概算比較からお手伝いします。
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本記事は2026年6月21日時点の公開情報(日本経済新聞・NHK・共同通信・朝日新聞・日刊自動車新聞ほか)をもとに、株式会社明誠が大規模修繕の実務目線で整理したものです。価格・納期・制度の最新状況は、各一次情報および専門業者にご確認ください。
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大規模修繕の「資材高騰・工事中断」リスク——ナフサ不足と原油高で膨らむ修繕コストを、工法選択でどう守るか【2026年6月】
大規模修繕の「資材高騰・工事中断」リスク——ナフサ不足と原油高で膨らむ修繕コストを、工法選択でどう守るか【2026年6月】
「見積もりを取ったら、数年前の話より2割も3割も高くなっていた」。最近、マンションの理事長さんやビル・ホテルのオーナーさんから、こうした声を本当によく聞きます。大規模修繕は十数年に一度の大仕事ですから、前回との差に驚かれるのは当然です。そして2026年6月、その「高くなった」背景を裏づけるようなニュースが、いくつも流れてきました。
ひとつは、原油価格の高止まりです。日本総研(日本総合研究所)は、原油高が建設投資を押し下げる方向に働き、とりわけ防水工事や内装工事といった「工事の後工程」で使う資材への影響が大きく、材料の調達が間に合わずに工事を中断する事例も出ている、という趣旨の指摘をしています。実際、防水・塗装を手がける施工会社が「ナフサ不足で材料の一部に受注停止が起き、現場が止まっていたが、ようやく入荷して再開できた」と現場の様子を発信する動きも見られました。
私は東京・関東を中心に、マンション・ビル・ホテルの大規模修繕に長く携わってきました。足場を架ける従来工法だけでなく、ロープアクセス(無足場工法)、そして両者を部位ごとに使い分けるハイブリッド工法まで、建物ごとに最適な工法を提案することを仕事の柱にしています。だからこそ、今回の「資材高騰」「材料が手に入らない」という話は、ニュースの向こう側の出来事ではなく、これから大規模修繕を控えるすべての建物オーナーさんに直結する問題だと受け止めています。
この記事では、まず何が起きているのかを正確に整理し、そのうえで「材料費が上がっている局面で、それでも修繕の総額をどう抑えるか」を、現場の目線でお伝えします。煽るつもりはありません。淡々と、事実と根拠で。なお、本記事は一般的な解説であり、個別の見積もりや工事判断を保証するものではありません。最終的な判断は、必ず現地調査と専門家の確認のうえで行ってください。
何が起きているのか——原油高・ナフサ不足が「修繕材料」を直撃している
防水・塗装の材料は「石油から生まれる」という事実
まず押さえておきたいのは、大規模修繕で使う材料の多くが、石油を原料にしているという事実です。私たちが現場で扱うウレタン防水材、塗料、シーリング材(コーキング)、接着剤——これらは、原油を精製してできる「ナフサ」という基礎原料から、さまざまな化学品を経てつくられています。つまり、原油価格が上がり、ナフサの供給が細ると、その影響が川下の防水材や塗料にまで波及してくる構造になっているのです。
2026年に入ってからの報道では、こうした石油化学系の資材で供給が不安定になり、一部の防水材・塗料で受注が止まる、納期が読めない、といった声が現場から上がっていました。日本総研も、原油高の影響が「工事の後工程で使う資材」に大きく出やすいと指摘しています。後工程というのは、まさに防水や塗装、内装といった、建物の仕上げに近い部分のことです。大規模修繕は外壁塗装・防水・シーリングが工事の中心ですから、ここが直撃を受けるというのは、私たち施工側にとっても他人事ではありません。
「材料が来ないと、工事は止まる」という当たり前の怖さ
資材高騰というと「値段が上がる」話だと思われがちですが、現場にとってより怖いのは「そもそも材料が手に入らず、工事が止まる」ことです。私自身、過去の資材逼迫の局面で、段取りどおりに進めていた現場が、材料の入荷待ちで数日から数週間ストップしてしまう、という経験を何度かしてきました。
足場を架けている現場で工事が止まると、何が起きるか。仮設足場は「架けている期間」に対して費用が発生します。工期が延びれば延びるほど、足場のリース費用や仮設まわりのコストがかさんでいきます。さらに、居住者や利用者にとっては、ベランダが使えない、窓を開けにくい、防犯面で不安、といった生活への負担が長引くことになります。つまり資材の供給不安は、「材料費の上昇」と「工期延長によるコスト増・生活影響の長期化」という、二重の負担としてのしかかってくるのです。
資材だけではない——人件費の上昇という構造要因
もうひとつ、忘れてはいけないのが人件費です。建設業の現場は慢性的な人手不足が続いており、職人さんの労務単価は年々上がっています。円安によって輸入資材の価格が押し上げられ、そこに人件費の上昇が重なる。建築費・修繕費は「高止まり〜緩やかな上昇」が当面続く、というのが多くの専門家のおおむね一致した見方です。
つまり、今回のナフサ不足・原油高は、もともと続いていた資材・労務の上昇トレンドに、供給制約という新たな一撃が加わった、という構図です。「待っていれば安くなる」と先送りするほど、材料費・人件費・そして建物自体の劣化が進む——この三重苦に向き合わざるを得ないのが、いまの大規模修繕の現実だと、私は考えています。
先送りが一番高くつく——「待つ」ことの本当のコスト
劣化は待ってくれない
「資材が高いなら、価格が落ち着くまで工事を待とう」。気持ちはよく分かります。けれど、建物の劣化は私たちの都合を待ってはくれません。外壁のタイルやモルタルの浮き、ひび割れ、防水層の劣化、シーリングの痩せ——これらは時間とともに確実に進みます。
特に怖いのが、外壁の剥落です。タイルやモルタルが浮いたまま放置されれば、いずれ落下し、通行人や居住者に当たる事故につながりかねません。万が一、人身事故が起きれば、建物所有者・管理組合が責任を問われる可能性があります。資材が高いから先送り、という判断が、結果としてはるかに大きな損失を招くリスクをはらんでいるのです。
防水を後回しにすると、修繕範囲が広がる
防水の劣化も同じです。屋上やバルコニーの防水層が切れると、雨水が建物内部に侵入します。最初は小さな雨漏りでも、放置すれば鉄筋を錆びさせ、コンクリートを内側から傷め(中性化・爆裂)、躯体そのものの寿命を縮めます。「防水のやり直しで済んだはずが、躯体補修まで必要になった」というのは、現場で本当によくある話です。材料費の上昇を嫌って先送りした結果、工事範囲そのものが広がってしまっては、本末転倒です。
修繕積立金の不足という、もうひとつの逆風
マンションの場合、ここに修繕積立金の問題が重なります。近年、新築時の積立金が低く設定され、計画どおりに値上げできていない管理組合は少なくありません。資材・人件費が上がる一方で、積立金は計画どおりに増えていない。この「ハサミ状の開き」が、多くの管理組合を悩ませています。だからこそ、限られた予算のなかで「同じ品質をどう安く実現するか」という工夫が、これまで以上に重要になっているのです。
数字で見る——資材と建築費は、どれくらい上がったのか
「高くなった」を感覚ではなく数字で押さえる
「高くなった」という実感を、できるだけ数字で確かめておきましょう。建築工事にかかる費用の動きを示す代表的な指標に、国土交通省が公表している「建設工事費デフレーター」があります。これは、建設工事にかかる費用の物価変動をとらえる指数で、近年は右肩上がりの傾向が続いてきました。木材が高騰した「ウッドショック」以降、セメント・鉄骨・石油化学系資材・労務費と、コストを押し上げる要因が次々に重なり、建築・修繕にかかる費用はコロナ禍前の水準には戻っていない、というのが大方の見方です。
大規模修繕に引き寄せて言えば、外壁の塗装・タイル補修・防水・シーリング、そして仮設足場——このいずれもが値上がり圧力にさらされてきました。材料は石油化学と金属、足場は鋼材、施工は人の手。どこを取っても、上昇トレンドの影響を受けやすい構造になっているのです。だからこそ、前回の修繕から十数年が経っている建物ほど、「前回の感覚」で予算を組むと、現実とのギャップに直面しやすくなります。
「これから下がる」とは考えにくい
では、この先は下がるのか。残念ながら、すぐに大きく下がるとは考えにくい、というのが多くの専門家の見立てです。理由は、値上がりの背景にあるのが一時的な要因ではなく、構造的な要因だからです。慢性的な人手不足による労務費の上昇、円安による輸入資材の高止まり、そして今回のような地政学リスクに端を発する原油・ナフサの供給制約。これらは、数か月待てば解消する、という性質のものではありません。
私は、お客様に「値下がりを待つ前提で計画を立てるのは危険です」と、率直にお伝えするようにしています。期待を持たせる言い方のほうが喜ばれるのは分かっています。それでも、根拠のない楽観で先送りを勧めて、結果的に劣化を進めてしまうほうが、よほど不誠実だと考えるからです。値下がりを待つのではなく、「上がる前提で、いかに賢く直すか」に発想を切り替える。これが、いまの局面での現実的な構えだと思います。
コストを抑える鍵は「工法選択」——足場ありきをやめる
ここからが、私が一番お伝えしたいところです。資材費そのものは、世界の原油市場や為替に左右されるため、私たち施工会社の努力だけでは下げられません。けれど、修繕の「総額」を構成するのは材料費だけではありません。仮設費(足場)、人件費、工期に連動するコスト——ここには、工夫の余地が大きく残されています。なかでも効果が大きいのが、工法の選択です。
3つの工法を比べる
大規模修繕の工法は、大きく次の3つに分けられます。明誠では、この3つを建物ごとに比較し、本当に最適な方法を提案しています。
| 工法 | 特徴 | 向いている建物・場面 | コスト・工期への影響 |
|---|---|---|---|
| 通常足場工法 | 建物全体に仮設足場を架けて施工する従来型 | 中低層、形状が複雑な建物、全面的な改修 | 足場の架設・解体・リース費が発生。架設期間が長いほど費用増 |
| ロープアクセス工法(無足場) | 産業用ロープで作業員が降下し、足場を架けずに施工 | 高層、足場が架けにくい立地、部分補修、コスト最重視 | 足場費を大幅に圧縮。工期短縮・生活影響の最小化につながりやすい |
| ハイブリッド工法 | 足場とロープアクセスを部位ごとに使い分ける | 大規模・複雑な建物で総コストを最適化したい場面 | 必要な部分だけ足場を使い、残りはロープで。総額を抑えやすい |
ポイントは、足場費が修繕総額のなかで決して小さくない割合を占める、ということです。資材費が上がっている局面では、なおさらこの「仮設費をどう抑えるか」が効いてきます。足場を架けなければならない部位はしっかり足場を使い、ロープアクセスで対応できる部位はロープに切り替える。この使い分けができるかどうかで、最終的な負担額は大きく変わります。
ロープアクセスが効く理由——「資材高騰の時代」だからこそ
ロープアクセス(無足場工法)は、足場の架設・解体・リースにかかる費用と時間を圧縮できる工法です。資材高騰で材料費が上がっている今、足場という「仮設コスト」を削れる意味は、以前にも増して大きくなっています。
さらに、工期が短くなれば、先ほど触れた「工事中断による工期延長コスト」のリスクも相対的に小さくできます。万が一、材料の入荷待ちが発生しても、足場を長期間架けっぱなしにする工法に比べれば、仮設費の膨張を抑えやすい。居住者・利用者にとっても、ベランダや窓まわりが塞がれる期間が短く済むのは、大きなメリットです。ホテルや商業ビルであれば、営業や稼働を止めずに改修を進めやすい、という強みにもつながります。
もちろん、ロープアクセスが万能なわけではありません。全面打診や大がかりな下地補修が必要な現場では、足場のほうが適している場合もあります。だからこそ「足場ありき」でも「ロープありき」でもなく、建物ごとにフラットに比較できることが大切なのです。
フランチャイズという仕組みが、品質と価格を両立させる
明誠は、ロープアクセス工事の分野で、日本で初めてとなるフランチャイズ展開を進めてきました。塗装・防水・タイル・電気・看板など、各分野の専門職が加盟する仕組みです。専門性の高い職人がネットワークでつながることで、高い品質を保ちながら、中間マージンを抑えた価格を実現しやすくなります。資材費という「外から来る上昇圧力」に対して、施工体制の側で効率を高め、総額を抑える——この両面からのアプローチが、いまの時代には欠かせないと考えています。
現場から——ある中層マンションでの「工法を分けた」判断
少し、現場の話をさせてください。物件が特定されないよう、細部はぼかしてお伝えします。
以前、関東のある中層マンションで、大規模修繕のご相談をいただいたことがあります。当初、別の会社からは「全面に足場を架けて一式で」という見積もりが出ていて、管理組合の理事会は「思っていたより高い」と頭を抱えていらっしゃいました。ちょうど資材価格が上がっていた時期で、材料費はこちらの努力ではどうにもなりません。そこで私たちが提案したのは、建物を部位ごとに見て、足場が本当に必要なところと、ロープアクセスで対応できるところを分ける、という考え方でした。
その建物は、共用廊下側は形状が複雑で下地補修も多く、足場を架けてしっかり作業したほうが安全かつ確実でした。一方、外壁の一部やバルコニー側の塗装・シーリングのやり直しは、ロープアクセスで十分に品質を担保できる範囲でした。そこで、足場が要る面には足場を、それ以外はロープで——というハイブリッドの組み立てにしたのです。結果として、全面足場を前提にした場合に比べ、仮設にかかる費用と工期を圧縮でき、居住者の方々がベランダを使えない期間も短く抑えることができました。
私がこの仕事で大切にしているのは、「うちはこの工法しかできないから、これでいきましょう」と言わないことです。足場屋さんは足場を、ロープ屋さんはロープを勧めがちです。けれど、本当にお客様のためを思うなら、まず建物をフラットに見て、どの組み合わせがいちばん負担を小さくできるかを考えるべきだ、と。資材が高い時代だからこそ、この「見立て」の差が、最終的な金額に効いてくるのだと、現場に立つたびに感じています。
ホテル・商業ビルの大規模修繕——「止めない改修」という視点
資材高騰の話は、マンションだけの問題ではありません。ホテルや商業ビル、テナントビルのオーナーさんにとっては、もうひとつ重い論点があります。それは「改修中に、稼働や営業をどれだけ止めずに済むか」という問題です。
ホテルであれば、客室や外観を覆う足場は、稼働率や宿泊体験に直接響きます。商業ビルであれば、テナントの営業や来館者の動線に足場が影響します。つまり、足場を長期間架けることそのものが、材料費とは別の「機会損失」というコストを生むのです。資材高騰で工事費が上がっているうえに、足場で営業が止まれば、痛みは二重になります。
ここでも、ロープアクセスやハイブリッド工法の価値が際立ちます。足場を最小限に抑え、必要な部位だけ短期間で集中的に直す。外壁・窓まわり・看板といった部位を、稼働を止めずに、あるいは影響を最小化しながら改修していく。インバウンド需要が高止まりし、客室稼働を一日でも落としたくないホテルにとって、「止めない改修」は、コスト面でも体験面でも大きな意味を持ちます。私たちが3つの工法を提案できることの価値は、こうした「稼ぐ建物」でこそ、はっきりと表れると考えています。
よくある質問(FAQ)
Q. 資材が高いので、もう少し値下がりを待ってから工事したほうがよいですか?
値下がりを待つことはおすすめしにくい、というのが私の率直な考えです。資材・人件費の上昇は構造的な要因によるもので、短期での大幅な下落は見込みにくい状況です。むしろ、待っている間に建物の劣化が進み、修繕範囲が広がって総額が増えてしまうリスクのほうが現実的です。まずは点検で現状を把握し、優先順位をつけて計画的に進めるのが安全です。
Q. ロープアクセス(無足場工法)にすれば、必ず安くなりますか?
必ず安くなる、とは言えません。建物の形状や劣化の程度、必要な作業内容によっては、足場を架けたほうが安全かつ合理的な場合もあります。大切なのは「ロープありき」でも「足場ありき」でもなく、建物ごとに3つの工法を比較したうえで、コスト・工期・安全性・生活影響のバランスから最適な方法を選ぶことです。
Q. 見積もりが妥当かどうか、素人でも見分けられますか?
すべてを見分けるのは難しいですが、ポイントはあります。総額だけでなく「内訳」を見てください。材料費・仮設費(足場)・人件費・諸経費の割合が示されているか。特に仮設費は工法選択で大きく動く部分です。複数社から相見積もりを取り、工法の選択肢を持つ会社の説明と比べてみると、判断材料が増えます。
いま、建物オーナー・管理組合ができる5つのこと
最後に、資材が高く、供給も不安定なこの局面で、建物オーナーさんや管理組合の理事長さんが今すぐ着手できることを、5つにまとめます。どれも、大きなお金をかける前にできる「準備」と「確認」が中心です。
第一に、外壁・屋上・バルコニーなど、建物外皮の劣化状況を点検することです。タイルの浮きや剥落、防水層の劣化、シーリングの痩せ、手すりの腐食などは、安全と資産価値に直結します。落下や雨漏りのリスクがある部位は、資材価格に関わらず、優先して手を打つべきです。点検だけなら大きな費用はかかりません。
第二に、長期修繕計画の中身を見直すことです。場当たり的な補修を繰り返すより、いつ・どこを・どの工法で・いくらで直すかを計画として持っておくほうが、トータルコストは下がります。資材高騰を織り込んだうえで、優先順位をつけ直すことが大切です。
第三に、修繕積立金の水準を確認することです。資材・人件費の上昇に対して、積立金が計画どおりに増えているか。不足が見込まれるなら、値上げや一時金、借入なども含めて、早めに選択肢を検討しておくほうが、いざというときに慌てずに済みます。
第四に、見積もりを取る際は、工法の選択肢を持つ会社に相談することです。足場工法しか提案できない会社に依頼すれば、当然、足場ありきの見積もりになります。足場・ロープアクセス・ハイブリッドを比較したうえで、稼働とコストの両面から最適解を出せるかどうか。ここで最終的な負担額が変わってきます。
第五に、見積もりの「内訳」を確認することです。材料費・仮設費(足場)・人件費・諸経費が、それぞれどれくらいの割合か。総額だけでなく内訳を見れば、どこに削減の余地があるかが見えてきます。特に仮設費の比率は、工法選択で大きく動く部分です。
これらは、資材価格が世界情勢で揺れ動くなかでも、建物の側・発注の側でコントロールできる数少ないポイントです。外的な値上がりに振り回されるのではなく、自分たちでできる工夫を積み上げていく。その積み重ねが、最終的な総額と建物の寿命を左右します。
資材高騰の時代こそ、補助金・税制優遇を取りこぼさない
資材価格が上がる局面では、使える公的支援を取りこぼさないことも、実質的なコスト対策になります。マンションの大規模修繕や長寿命化に関しては、自治体によって補助制度が用意されている場合があり、外壁改修・屋上防水・省エネ改修などが対象になることがあります。また、一定の要件を満たす長寿命化に資する大規模修繕工事を行ったマンションについて、固定資産税が減額される制度が設けられている自治体もあります。耐震・バリアフリー・省エネといった改修にあわせて、固定資産税の減額措置が用意されているケースもあります。
ただし、補助金・優遇制度には注意点があります。第一に、制度の有無・対象・補助率・上限額・申請期限は、年度ごと、そして自治体ごとに異なります。第二に、補助金は予算枠が決まっており、枠に達した時点で受付が締め切られることが珍しくありません。「あるはず」と思い込まず、必ず最新の年度の情報を、お住まいの自治体や所管の窓口で確認してください。第三に、多くの制度は「工事の前」に申請・交付決定が必要で、着工後では対象にならないことがあります。計画段階から、補助金・税制優遇の活用可否を専門家とあわせて検討しておくことが、資材高騰時代の賢い進め方だと考えます。
なお、私たちが運営する一般社団法人 全国建設業支援協会(JCSA)でも、建設業向けに経営や制度活用に関する情報発信を行っています。発注する側・施工する側の双方が、こうした制度を正しく知ることが、業界全体の健全なコスト構造につながると考えています。
まとめ——「材料は選べなくても、工法は選べる」
2026年6月、原油高とナフサ不足は、防水・塗装といった大規模修繕の中心的な材料を直撃し、現場では工事中断という形でも影を落としています。日本総研が指摘するように、こうした影響は工事の後工程で大きく出やすく、大規模修繕はまさにその只中にあります。資材費の上昇と供給の不安定さは、当面続く構造的な課題だと考えておくべきでしょう。
けれど、私はこう考えています。材料の価格は選べなくても、工法は選べる、と。足場・ロープアクセス・ハイブリッドの3つから、建物にとって本当に最適な方法を選べば、同じ「直す」でも、かかる費用と建物利用者への影響は大きく変わります。資材が高い時代だからこそ、仮設費を抑え、工期を縮め、稼働を止めない工法選択の価値が、いっそう際立つのです。
「うちの建物の修繕、今の見積もりで本当に最適なんだろうか」。少しでもそう感じたら、まずは現状を点検し、複数の工法で比較してみることから始めてみてください。建物を“長く使える資産”として守っていくために、私たちにできるお手伝いがあれば、いつでもご相談いただければと思います。淡々と、けれど本気で、お一人おひとりの建物に向き合います。
※本記事は2026年6月時点の報道および公開情報に基づく一般的な解説であり、個別の見積もり・工事判断・投資判断を保証するものではありません。資材価格や供給状況は今後変動する可能性があります。実際の修繕にあたっては、必ず現地調査と専門家の確認のうえでご判断ください。
出典・参考
- 日本総合研究所(日本総研)「足元の原油高で建設投資は27年末に下振れも」(2026年6月/公表資料・報道による)
- 国土交通省「建設工事費デフレーター」「建設投資見通し」(mlit.go.jp)
- 防水・塗装施工会社による現場発信「ナフサ不足で停滞していた防水・塗装工事が材料入荷で再開」(2026年6月/報道・各社発信による)
- 建設資材価格・建築費の動向に関する各種解説(2026年/各種報道・まとめによる)
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大規模修繕の施工会社が「倒産」する時代へ——塗装・防水工事業者の倒産が2000年以降最多ペース、オーナー・管理組合が今すぐ確認すべき発注先の見極め方【2026年6月】
工事が始まって、足場が建って、養生シートが張られた。あとは仕上がりを待つだけ——そう思っていた矢先に、施工会社から「会社をたたむことになりました」と連絡が入る。前払いした工事代金はどうなるのか。途中で止まった工事は誰が引き継ぐのか。10年保証のはずだったアフター保証は、もう紙切れなのか。
正直に申し上げます。これは、私が大げさに脅しているのではありません。2026年に入ってから、塗装・防水工事業者の倒産が「2000年以降で最も多いペース」で進んでいます。大規模修繕を控えた管理組合の理事長さま、そして収益物件を持つオーナーさまにとって、「どの工法で、いくらで直すか」と同じくらい——いや、それ以上に「どの会社に頼むか」が、いま資産を守れるかどうかの分かれ目になりつつあります。
私は大規模修繕の現場で20年近くやってきました。足場を組む工事も、ロープアクセス(産業用ロープで宙吊りになり、足場を架けずに外壁や屋上を施工する無足場工法)の工事も、その両方を組み合わせたハイブリッド工法も手がけています。その立場から、今日は「施工会社が消えるリスク」という、これまであまり正面から語られてこなかったテーマを、データと現場の両面からお話しします。
いま何が起きているのか——塗装・防水工事の倒産「80件」という数字
まず、事実から確認します。
帝国データバンク(TDB)が2026年6月8日に公表した調査によると、2026年1〜5月に発生した「塗装工事」と「防水工事」の倒産は合計80件。内訳は塗装工事が56件、防水工事が24件でした(出典:帝国データバンク「『塗装・防水工事』の倒産動向(2026年 1-5月)」)。
この80件という数字が、なぜ深刻なのか。理由は二つあります。
一つは、通年の倒産件数が「2000年以降で最多」を記録した2025年(1〜5月で87件)に次ぐペースで推移していること。つまり、過去四半世紀でいちばん倒産が多かった年に、肩を並べる勢いで増えているということです。
もう一つは、倒産した会社の顔ぶれです。負債額別で見ると、1億円未満の倒産が69件と全体の約86.3%を占めました(出典:帝国データバンク プレスリリース(PR TIMES))。これは、街の塗装屋さん・防水屋さんといった、地域に根ざした小規模事業者が真っ先に倒れているという意味です。塗装・防水は、マンションやビルの大規模修繕で必ず発生する工種です。その担い手が細っていくということは、いざ工事をしようと思ったときに「頼める会社が見つからない」「見つかっても割高になる」という形で、発注する側にも跳ね返ってきます。
別の調査会社・東京商工リサーチ(TSR)も同様の警鐘を鳴らしています。塗装工事業の倒産は2025年に143件と、23年ぶりの高水準に達しました(出典:東京商工リサーチ「『塗装工事業』の倒産143件 23年ぶり高水準」)。一過性の話ではなく、業界全体が構造的に揺れている、と捉えるべき局面です。
私は、この数字を最初に見たとき、現場で一緒に汗を流してきた職人さんたちの顔が浮かびました。腕は確かなのに、経営の体力が続かず店じまいする——現場で20年やってきて、私がいちばん悔しい思いをするのは、こういうときです。
なぜ倒産が増えているのか——「中東情勢」から始まる連鎖
倒産が増えている背景には、いくつもの要因が重なっています。順番に解きほぐします。
引き金は塗料・防水材の不足と値上がり
直接の引き金は、塗料と防水材の調達難です。中東情勢の悪化を起点に、塗料や防水材の原料となるナフサ(原油を精製してできる石油化学製品の基礎原料)の供給が不安定になりました。
塗装・防水工事は、ナフサ由来の溶剤(シンナーなど)に大きく依存しています。さらに、養生に使う保護シートや塗料を入れる容器といった副資材も、原料をたどればナフサに行き着く。つまり、工事の本丸も脇役も、まとめて値上がり・納期遅延の波に飲み込まれている状態です。
TDBも「塗料・防水材の値上げ幅が不透明で工事の見積もりが出しづらい」「資材調達の遅れで工期に遅延が生じている」ケースが出ていると指摘しています。私の現場でも、5月の連休前あたりから「いつもの材料がいつ入るか読めない」という声が職人さんから上がるようになりました。今後、ナフサ製品の供給不安が解消されなければ、倒産件数は2025年を上回り、2000年以降の最多を更新する可能性もある——TDBはそこまで踏み込んで警告しています。
値上げを「すぐに転嫁できない」小さな会社が倒れる
材料が上がっても、それを工事代金にすぐ反映できれば、会社は持ちこたえられます。問題は、小規模な専門工事会社ほど、価格転嫁の交渉力が弱いことです。
元請けから「この金額でやってくれ」と言われれば、断れば次の仕事が来ないかもしれない。だから無理を承知で受ける。材料費は上がっているのに受注単価は据え置き——この差が、薄い利益を食いつぶしていきます。負債1億円未満の小規模事業者が倒産の86.3%を占めたという事実は、まさにこの構造を映しています。建設業は、元請けから一次下請け、二次下請けへと仕事が流れる重層構造になっており、下にいくほど価格交渉の余地が小さくなる。倒産の波が「いちばん下」から来ているのは、偶然ではありません。
人件費(労務単価)の上昇も同時進行
追い打ちをかけているのが、人件費の上昇です。国土交通省が定める公共工事設計労務単価は、令和8年(2026年)3月適用分で全国全職種の加重平均が25,834円となり、初めて2万5千円を突破しました。平成25年度の改定から14年連続の上昇で、今回は前年度比4.5%の引き上げです(出典:国土交通省「令和8年3月から適用する公共工事設計労務単価について」)。
職人さんの待遇が改善されるのは、業界の未来にとって良いことです。私も賛成です。ただ経営の現実として、材料費と人件費が同時に上がるなかで受注単価だけが上がらなければ、体力のない会社から順に資金繰りが行き詰まる。倒産の増加は、その帰結でもあるのです。
建設業の「担い手」はそもそも減り続けてきた
もう一段、大きな構図も押さえておきます。
国土交通省の建設業許可業者数調査によると、令和6年度末(2025年3月末)時点の建設業許可業者数は483,700業者で、2年連続の増加でした。一見、回復しているように見えます。しかし、業者数が最も多かった平成12年3月末と比べると、約11万7千業者(約19.5%)少ない水準にとどまっています。令和6年度の1年間だけでも、7,252業者が廃業の届出を出しています(出典:国土交通省「全国の建設業許可業者数は2年連続で増加〜令和6年度末の建設業許可業者数調査の結果〜」)。
加えて、現場で働く職人さんの高齢化も進んでいます。私の周りでも、腕のいい職人さんほど年齢が上がり、若い担い手への技能の引き継ぎが追いついていない。倒産で会社が消えるということは、その会社が抱えていた技術や職人さんのネットワークごと、地域から失われるということでもあります。一度失われた施工力は、すぐには戻りません。
つまり、この四半世紀で「工事を担う会社の母数」そのものが細ってきた。そこに今回の倒産ラッシュが重なります。母数が減り、そのなかでも経営体力のある会社とない会社の二極化が進む——大規模修繕を発注する側から見れば、「頼める会社」を選ぶ目が、これまで以上に問われる時代になった、ということです。
オーナー・管理組合に降りかかる「3つの実害」
ここからが本題です。施工会社が工事の途中で倒産すると、発注した管理組合やオーナーには、具体的にどんな実害が及ぶのか。私が現場で見聞きしてきた範囲で、大きく3つあります。
実害1:工事が止まり、足場が宙に浮く
最も困るのが、工事の中断です。足場を架けたまま施工会社が消えると、その足場の解体も、残りの工事も、宙に浮きます。新しい会社を探して引き継いでもらうにも、「前の会社がどこまでやったのか」「下地はどう処理されているのか」が分からなければ、引き受ける側もリスクを取れません。結果として、再見積もり・再契約に数カ月かかり、その間ずっと足場が建ったまま、というケースもあります。
居住者にとっては、洗濯物も干せず、防犯上も不安な状態が長引く。賃貸オーナーにとっては、入居者からのクレームや、最悪の場合は退去にもつながりかねません。
実害2:前払い金・出来高の回収が難しくなる
工事代金の一部を前払いしていた場合、倒産した会社からその回収はほぼ望めません。出来高(実際に終わった工事の分)を超えて支払っていた金額は、原則として戻ってこないと考えるのが現実的です。
私はいつも理事長さまに、「支払いは出来高に応じて、検査を挟みながら段階的に」とお伝えしています。契約のときに支払い条件をどう設計するかで、いざというときの傷の深さがまったく変わってくるからです。
実害3:アフター保証・瑕疵担保が「消える」
見落とされがちですが、いちばん長く効いてくるのがこれです。大規模修繕では、防水や塗装に5年・10年といった保証を付けるのが一般的です。ところが、保証を出した会社が倒産してしまえば、その保証は実質的に履行されません。数年後に屋上から雨漏りが起きても、「保証してくれるはずの会社が、もう存在しない」。
これは、工事が無事に終わったケースでも起こり得ます。だからこそ「無事に完成したから安心」ではなく、「10年後まで責任を取り続けられる会社か」という視点が要るのです。
現場で見た、ある「引き継ぎ工事」の話
少し具体的な話をします。物件が特定されないよう細部はぼかしますが、私が以前、別の会社が途中で立ち行かなくなった現場の引き継ぎを相談されたことがありました。
足場はすでに建っていました。外壁の下地補修まではどうにか終わっているように見えたのですが、いざ調べてみると、ひび割れの補修(シーリングの打ち替えなど)が一部しか終わっておらず、しかも、どこをどう処理したのかの記録がほとんど残っていない。引き継ぐ側からすると、「見えている範囲はやり直す前提で見積もるしかない」状態でした。結果として、管理組合は当初の予定より工期も費用も膨らみ、居住者は半年近く、足場と養生シートに囲まれた暮らしを強いられました。
このとき私が痛感したのは、「安いから」という理由だけで会社を選ぶと、いちばん高くつくのは発注したオーナー・管理組合の側だ、ということです。最初の見積もりが多少高くても、最後まで責任を持ってやり切れる会社に頼むほうが、トータルでは確実に安く済む。これは精神論ではなく、私が現場で何度も見てきた事実です。
発注先をどう見極めるか——理事会で使えるチェックの観点
では、倒産リスクの高い会社をどう避け、長く付き合える会社をどう選ぶか。専門的な財務分析まではできなくても、理事会レベルで確認できる観点があります。ここは表にまとめます。
| 確認の観点 | 具体的に見るところ | なぜ大事か |
|---|---|---|
| 経営の安定性 | 建設業許可の有無と業歴、決算書の提示可否 | 許可は5年ごとの更新制。業歴が長く決算を開示できる会社は一定の体力がある |
| 施工体制 | 自社施工か、下請けへの丸投げか | 重層下請けが深いほど、どこか一社の倒産で全体が止まりやすい |
| 資材の調達力 | 塗料・防水材の仕入れルート、メーカーとの取引 | 調達難の局面で「材料が入らず工事が止まる」リスクを左右する |
| 保証スキーム | 保証の主体は誰か、メーカー保証や第三者保証の有無 | 施工会社が倒れても、メーカー保証や保証会社が残れば被害を抑えられる |
| 支払い条件 | 出来高払いに応じるか、過大な前払いを求めないか | 健全な会社ほど無理な前払いを求めない |
すべてを完璧に調べる必要はありません。ただ、「この5つを質問してみて、誠実に答えてくれるか」だけでも、会社の姿勢はかなり見えてきます。逆に、相見積もりで極端に安い金額を出してきた会社には、「なぜこの値段でできるのか」を必ず確認してください。材料費も人件費も上がっているなかで不自然に安い見積もりは、どこかに無理がある——その無理が、数年後の倒産や手抜きという形で跳ね返ってくることがあるからです。
工法の選択が、施工会社の「健全さ」にもつながる理由
ここで、工法の話を絡めます。一見、倒産リスクと工法は無関係に思えるかもしれません。しかし、私の経験上、両者は深いところでつながっています。
大規模修繕の費用のなかで、足場の仮設・解体は決して小さくない割合を占めます。建物の規模や形状にもよりますが、足場費が工事全体の2〜3割に達することも珍しくありません。この足場費は、外壁や屋上を「直す」ためのお金ではなく、職人さんがそこに「行くため」のお金です。
ロープアクセス(無足場工法)を適切に使えば、この足場費を大きく圧縮できます。高層階や、足場を架けにくい形状の建物では、特に効果が出ます。足場という大きな固定費を削れる会社は、その分、無理な安値競争に巻き込まれずに、適正な利益を確保しながら良い仕事ができる。つまり、工法の引き出しが多い会社ほど、経営としても健全でいられる余地があるのです。
もちろん、ロープアクセスが万能というわけではありません。バルコニーの内側や、広い面を一気に塗る作業など、足場のほうが向く場面も確実にあります。だからこそ私は、足場・ロープアクセス・ハイブリッドの3つを、建物ごとに使い分けることをお勧めしています。「足場ありき」でも「無足場ありき」でもなく、その建物にとっていちばんコストと品質のバランスが良い組み合わせを選ぶ。これが、結果として工事費を圧縮し、発注先の会社の体力にも余裕を生みます。
ロープアクセス工法そのものについては「ロープアクセス工法のご紹介」、3工法を組み合わせた大規模修繕の進め方については「大規模修繕工事のご紹介」で詳しくお伝えしています。
「足場を二度組まない」という発想がコストを左右する
もう一つ、お伝えしたいのが「足場を二度組まない」という考え方です。
大規模修繕では、外壁の塗装・防水と同時に、屋上防水やシーリングの打ち替え、鉄部の塗装など、複数の工事をまとめて行います。ところが、計画がばらばらだと、ある工事のために足場を組み、解体し、数年後に別の工事のためにまた足場を組む——という二度手間が起きます。足場費が工事全体の2〜3割を占めることを思えば、これは大きな無駄です。
ロープアクセスやハイブリッド工法をうまく使うと、この「足場の重複」を避けやすくなります。たとえば、足場が要る面は足場で一気に仕上げ、ロープアクセスで届く部分や、後から発生した小規模な補修は無足場で対応する。こうして固定費を抑えられれば、浮いた予算を本当に必要な補修や、修繕積立金の温存に回せます。修繕積立金が上昇し続けるいまの局面では、この「足場の二度組みを避ける」発想が、長期修繕計画全体の体力を左右します。
「専門職が束になる」体制が、調達難と人手不足への答えになる
倒産の最大の要因が、小規模な専門工事会社の「一社単独での経営の弱さ」にあるなら、その裏返しが答えになります。すなわち、塗装・防水・タイル・電気・看板といった各分野の専門職が、緩やかに束になって動ける体制です。
私たちは、ロープアクセス工事のフランチャイズという形で、各分野の専門職に加盟していただく仕組みを国内でいち早く立ち上げました。専門職が一つのネットワークでつながることで、資材の調達も、繁忙期の人手のやりくりも、一社で抱えるより格段に安定します。一社だけでは材料が手に入らない局面でも、ネットワーク全体で融通し合えれば、工事を止めずに進められる。これが、高品質と低価格を両立できる理由でもあります。調達難・人手不足・価格転嫁という、いま小規模事業者を倒産に追い込んでいる三つの圧力に対して、ネットワークで立ち向かう——これが私たちの考える、現実的な処方箋です。
加えて、私たちは一般社団法人全国建設業支援協会(JCSA)を運営し、全国の建設業者に向けて経営支援の情報発信やオンラインセミナー、交流会、ビジネスマッチングの場を提供しています。倒産が増えるこの局面だからこそ、業界全体の経営体力を底上げする取り組みにも、力を入れています。発注するオーナー・管理組合の皆さまにとっても、「経営を学び続けている会社か」は、長く付き合えるかどうかの一つの目安になるはずです。
もし工事の途中で施工会社が倒産したら——初動でやるべきこと
「すでに工事が進んでいる最中に、施工会社の様子がおかしい」。そんなときに慌てないために、初動の考え方を整理しておきます。あくまで一般的な手順であり、実際には弁護士など専門家への相談を前提にしてください。
第一に、支払いと出来高の状況を急いで突き合わせること。これまでいくら支払い、工事が実際にどこまで進んでいるのかを、写真や工程表とともに記録に残します。前払いが出来高を上回っているほど、損失は大きくなります。
第二に、足場や資材、現場の鍵といった「現場の管理権」がどうなっているかを確認すること。工事が止まったまま足場が放置されると、安全面・防犯面のリスクが続きます。誰が責任をもって現場を管理するのか、早い段階で整理が必要です。
第三に、保証書や契約書、施工記録を手元にそろえること。引き継ぎを別の会社に頼む場合でも、どこまでどう施工されたかの記録があるかどうかで、再見積もりの精度と費用がまったく変わってきます。
そして第四に、複数の会社から引き継ぎの相談を受けること。一社だけの言い値で決めると、足元を見られかねません。私のところにも、こうした引き継ぎのご相談は少なくありません。緊急時こそ、冷静に複数の選択肢を比べることが、被害を最小限にとどめる近道です。
よくあるご質問(FAQ)
Q. 相見積もりで一番安い会社を選ぶのは危険ですか? 安いこと自体が悪いわけではありません。問題は「なぜ安いのか」を説明できるかどうかです。材料費も人件費も上がっているなかで、根拠なく極端に安い見積もりは、利益を削りすぎているか、どこかを省いている可能性があります。安さの理由を質問し、納得できる答えが返ってくるかを確かめてください。
Q. 大手なら倒産の心配はないと考えてよいですか? 規模が大きいほど一般に体力はありますが、「大手だから心配ない」と言い切ることはできません。むしろ、自社でどこまで施工するのか、下請けへの依存度はどうか、という施工体制のほうが、現場の安定性に直結します。会社の規模だけでなく、実際に手を動かす体制を確認することをお勧めします。
Q. 保証はどうやって守ればよいですか? 施工会社の保証だけに頼らず、塗料・防水材のメーカー保証や、第三者の保証会社による保証を併用できないかを確認してください。施工会社が万一倒産しても、メーカー保証や第三者保証が残っていれば、被害を抑えられる場合があります。
Q. 施工会社の「経営の健全さ」は素人でも確認できますか? 完全な財務分析は難しくても、手がかりはあります。建設業許可の番号と業歴、過去の施工実績、決算書を見せてもらえるか、業界団体や経営支援の取り組みに参加しているか——こうした点を質問するだけでも、会社の透明性や姿勢が見えてきます。隠さず答えてくれるかどうかが、一つの判断材料になります。
Q. 工事はまだ数年先ですが、いま何をしておけばよいですか? 長期修繕計画の見直しと、発注先選びの基準づくりです。倒産が増える局面では、「いつ・いくらで・どの会社に頼むか」を早めに整理しておくほど、いざというときに慌てずに済みます。総会の前段階の整理だけでも、第三者の目を入れておく価値があります。
6月の総会シーズン、理事会で話してほしいこと
ちょうど今、6月はマンションの通常総会が集中する時期です。大規模修繕を数年内に控えている管理組合では、この機会にぜひ、次の3点を議題に少しだけ触れてみてください。
第一に、「発注先候補の会社の、経営の安定性をどう確認するか」。安さだけでなく、長く責任を取れる会社かどうかを選定基準に入れる、という共通認識を持つことです。
第二に、「契約時の支払い条件と保証の中身」。出来高払いを基本にする、保証はメーカー保証や第三者保証も併せて確認する、という方針を、発注前に固めておくことです。
第三に、「工法の選択肢を一社の言いなりにしない」。足場かロープアクセスか、あるいはその組み合わせか。複数の工法で提案を受け、それぞれのコストと工期、居住者への影響を比較したうえで決める。これだけで、見積もりの妥当性がぐっと判断しやすくなります。
なお、本記事は施工会社選定の一般的な考え方を整理したものであり、特定の会社の経営状態を保証・断定するものではありません。最終的なご判断は、複数の見積もりと専門家の助言を踏まえて行ってください。
まとめ——「直す技術」だけでなく「続く会社」を選ぶ時代に
塗装・防水工事業者の倒産が2000年以降で最多ペースに達したという今回のニュースは、単なる業界の内輪話ではありません。大規模修繕を発注する管理組合・オーナーにとって、「工事の途中や保証期間中に、頼んだ会社が消えるかもしれない」という、新しいリスクが現実になったということです。
これからの発注先選びでは、「直す技術があるか」だけでなく、「10年後まで責任を取り続けられる経営体力があるか」を、同じ重さで見てほしい。そして、足場・ロープアクセス・ハイブリッドの3つの工法を建物ごとに最適に組み合わせ、工事費そのものを圧縮することが、結果として、発注する側にも施工する側にも余裕を生みます。工事費に無理がなければ、施工会社は適正な利益のなかで丁寧な仕事ができ、その余裕が10年後の保証履行にもつながっていく。発注の仕方ひとつが、巡り巡って自分たちの資産を守ることになるのです。
これは私が現場で20年見てきた、嘘偽りのない感想です。資産価値を守る大規模修繕は、技術と経営の両輪が回って初めて成り立ちます。総会の前段階の整理や、工法ごとの概算比較だけでも、お力になれることがあります。お問合せフォームから、ご相談だけでも遠慮なくお声がけください。次回も、現場で本当に使える話だけをお届けします。
出典・参考資料
- 帝国データバンク「『塗装・防水工事』の倒産動向(2026年 1-5月)」(2026年6月8日公表)
- 帝国データバンク プレスリリース「塗装・防水工事、中東情勢の影響拡大懸念 すでに資材調達に制約 倒産件数は2000年以降最多を更新する可能性も」(PR TIMES)
- 東京商工リサーチ「『塗装工事業』の倒産143件 23年ぶり高水準」
- 国土交通省「令和8年3月から適用する公共工事設計労務単価について(14年連続の上昇)」(2026年2月17日報道発表)
- 国土交通省「全国の建設業許可業者数は2年連続で増加〜令和6年度末の建設業許可業者数調査の結果〜」(2025年5月16日報道発表)
※本記事は2026年6月12日時点の公表情報に基づいています。制度・統計の最新状況は各一次情報をご確認ください。投資・売買・税務に関する助言を目的としたものではありません。
▼ロープアクセス工法・無足場工法の詳細解説はこちら
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中東発「ナフサショック」が大規模修繕を直撃|塗料1か月待ち時代に、収益物件オーナーと管理組合が今やるべき5つの判断【2026年5月】
はじめに ── 今朝、現場の塗装職長から「在庫6月末で尽きるかも」と電話がありました
おはようございます。株式会社明誠の本間です。
今朝、私は協力会社の塗装職長から1本の電話を受けました。
「社長、ぶっちゃけ言うと、いつも使っているメーカーの塗料、次の発注からは納期1か月で見ておいてください。在庫、本気で6月末には尽きる可能性があります」
電話を切ってすぐ、私は朝日新聞の記事を確認しました。「ナフサ不足で塗装業者から悲鳴 塗料の在庫『6月末で尽きてしまう』」という見出しが目に飛び込んできました(出典:朝日新聞 2026年5月20日)。同じ日、Yahoo!ニュースでは石川県塗装工業会が「橋に塗る塗料が納入1か月待ち、塗装資材の安定供給を」と緊急要望を出しています(出典:Yahoo!ニュース 2026年5月20日)。
これは、現場の一部の話ではありません。私は20年近くこの業界で仕事をしてきましたが、塗料・シーリング・防水材といった大規模修繕の根幹資材が、ここまで一斉に揺らぐ局面は東日本大震災直後以来です。
ここからが本題です。本記事では、収益物件を保有するオーナー様、そしてマンション管理組合の理事長様に向けて、今この瞬間に確認していただきたい5つの判断を、現場の本音とともにお伝えします。
H2-1:なぜ「ナフサショック」が大規模修繕に直撃するのか
ナフサと塗料・建設資材の関係
まず用語を整理します。ナフサとは、原油を蒸留して得られる軽質油の一種で、プラスチック、合成樹脂、塗料、シーリング材、防水材といった石油化学製品の出発原料です。建設現場で使う主要資材の多くが、このナフサ由来の合成樹脂を含んでいます。
ナフサが高騰・不足すると、川下で何が起きるか。
まず塗料:ウレタン系・シリコン系・フッ素系といった主流の樹脂塗料は、ほぼ全量がナフサ由来の合成樹脂をベースにしています。次にシーリング材:マンションの外壁目地に詰めるあの白い・黒いゴム状の材料も、ポリウレタン系やポリサルファイド系といったナフサ由来の樹脂です。防水材もウレタン防水、塩ビシート防水、改質アスファルト防水のいずれも、ナフサ系の樹脂・添加剤に依存しています。
つまり、大規模修繕の工事費の中で「材料費」の50〜70%を占める仕上げ材は、ほぼ全てナフサ価格の影響をストレートに受けるのです。これが、私が「ナフサショックは大規模修繕にとって直撃の問題だ」と申し上げる理由です。
朝日新聞・石川県報道が示す「6月末で在庫が尽きる」現場
朝日新聞が報じた関西の住宅向け塗装業者の言葉が、私には刺さりました。「うちは大丈夫です」と顧客には言い切る。しかし内心は不安でいっぱい、というのです(出典:朝日新聞 2026年5月20日)。
石川県塗装工業会の事例では、浅野川にかかる橋の塗装工事で、塗料納入に1か月かかったとされています。橋梁塗装は構造物の長寿命化に直結する工事ですから、自治体側もこれを待たざるを得ません。
私が痛感したのは、「我慢して待てる工事」と「待てない工事」の差です。橋梁の再塗装は、極論を言えば数か月遅れても倒壊するわけではない。一方、マンションの屋上防水工事で梅雨入りまでに完了させたかった案件が、塗料1か月待ちで7月にずれ込むと、雨季の漏水リスクを丸ごと住民が背負うことになります。
経産省ガソリン補助金41.8円/Lが示す原油・原料価格の異常事態
もう一つ、私が見逃せないと感じているのが、経済産業省が2026年5月20日に発表したガソリン補助金の支給額です。1リットルあたり41.8円。経産省自身、6月にも基金が枯渇する可能性に言及しています(出典:Yahoo!ニュース 2026年5月20日)。
ガソリン1Lに対して41.8円の補助が必要というのは、原油・石油由来製品の市況がそれだけ異常事態だということです。建設現場では、職人の通勤・資材運搬・重機燃料のすべてに軽油・ガソリンが使われます。資材費だけでなく輸送費にも、ナフサショックは波及します。
私はこの数字を見て、「これは数か月で収まる話ではない」と判断しました。長期化を前提に経営判断を組み直す局面に入ったと考えています。
H2-2:実例で見る「価格と工期」の二重打撃
大手3社は増収営業増益、しかし末端工事業者は痛手
ここで一つ、誤解されやすい点を整理させてください。
総合塗料メーカー大手3社(日本ペイントホールディングス、関西ペイント、エスケー化研系列など)の2027年3月期業績予想は、全社が増収営業増益を見込んでいます(出典:Yahoo!ニュース 2026年5月20日)。
これだけ見ると「塗料業界は元気じゃないか」と思われるかもしれません。しかし、これはメーカー視点の話です。原料高を製品価格に転嫁できる大手メーカーは利益を確保できるが、末端の塗装工事会社、ひいては発注者であるオーナー様・管理組合は、その値上げを正面から引き受ける構図なのです。
正直に申し上げます。我々のような工事会社にとって、メーカーが増益でも嬉しくはありません。むしろ、値上げを発注者にどう説明し、どう仕様調整で吸収するかという胃の痛い仕事が増えるだけです。
健美家報道「2027年エアコン省エネ基準改正+ナフサショック」収益物件オーナー直撃
不動産投資情報誌「健美家」が2026年5月20日に配信した記事のタイトルが、私の今日のテーマと完全に一致していました。「2027年エアコン価格が改定? ナフサショックで新築の工期遅れ? 収益物件オーナーが」(出典:健美家 2026年5月20日)。
健美家の指摘は、新築のみならず既存物件の修繕にも波及するというものです。エアコン省エネ基準は2027年の改正でハードルが上がります。室外機の更新や、断熱性能を上げる外壁修繕とセットで考える収益物件オーナー様にとっては、ナフサショックと省エネ基準のダブルパンチが2027年問題として迫っています。
防水・塗装・シーリング、各工程への影響度合い
私の体感ベースで、影響度合いを整理します。あくまで現場の声に基づく目安で、すべての物件に当てはまるわけではありません。
| 工程 | 主原料 | 価格影響 | 工期影響 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 外壁塗装(シリコン・フッ素) | ナフサ系樹脂 | ★★★ | ★★ | メーカー指定品の確保が課題 |
| 屋上防水(ウレタン) | ウレタン樹脂 | ★★★ | ★★★ | 梅雨前需要と重なり最も逼迫 |
| シーリング | ポリウレタン系 | ★★ | ★★ | 主剤・硬化剤の納期長期化 |
| タイル張替 | モルタル+接着剤 | ★ | ★ | セメント系で影響軽微 |
| 鉄部塗装(錆止め・上塗り) | アルキド樹脂 | ★★ | ★★ | 代替品流通あり |
ご覧の通り、屋上防水(ウレタン)が最も逼迫しています。梅雨入り前に終わらせたい工事と、ナフサショックの真っ只中が重なるからです。
H2-3:大規模修繕の現場で何が起きるか ── 私が見てきた3つのリスク
リスク①:工期遅延 ── 足場リース料は1日単位で発生する
ここで現場の話を一つ。
私が以前担当した築20年・96戸のマンションで、塗料納期が3週間遅れたことがありました。その3週間、足場は組んだまま動けません。足場のリース料は、1日単位で発生します。物件規模にもよりますが、私の現場感覚で月あたり数十万円〜100万円超のリース費用が積み増しになるケースは珍しくありません。
これが、「足場が組んであるのに何もできない」という最悪のシナリオです。発注者から見れば、何も進んでいないのに毎日お金が消えている。私が一番悔しい思いをするのは、こういう場面です。
リスク②:仕様変更 ── 「同等品」への切替で品質低下リスク
塗料が確保できない場合、現場では「同等品」と称した代替品への切替が提案されることがあります。
これ自体は悪いことではありません。問題は「同等品の定義が曖昧」なまま発注書に書かれることです。たとえば塗膜の耐用年数、紫外線劣化への耐性、伸び率、これらが似ているようで微妙に違う製品同士が「同等品」として処理されてしまうと、5年後・10年後に外壁の劣化進行が想定より早く出てきます。
私はいつも理事長さまにこうお伝えしています。「同等品の切替が出てきたら、必ず製品名・メーカー名・JIS規格番号を文書で残してください」と。
リスク③:入札不調 ── 見積もり段階で塗料単価が確定しない
管理組合の理事会で予算化された金額に対し、入札してきた業者がすべて予算オーバー、というケースが今年4月から増えています。
理由は単純で、業者が仕入れ価格をリアルタイムで読めないのです。3か月前なら塗料単価をある程度固定で出せたものが、今は2週間後にメーカー値上げが入るかもしれない。だから業者は安全マージンを乗せて見積もる。結果、予算と入札額が乖離する。
私の経験上、これは2026年いっぱい続く可能性が高いと見ています。
H2-4:ロープアクセス工法が今、選ばれる理由
ここまで、ナフサショックが大規模修繕に与える影響をお話してきました。ここからは少しだけ、明誠の話をさせてください。
足場仮設費削減で資材高騰分を吸収
ロープアクセス工法のご紹介でも詳しくご説明していますが、ロープアクセス工法は産業用ロープを用いて職人が建物の壁面に直接アクセスする無足場工法です。
メリットを一言で言えば、足場を組まないので、足場代がかからないこと。これは平時でも工事費全体の10〜30%程度の削減効果がありますが、ナフサショックで資材価格が上昇している今、「材料費の上昇分を、足場代の削減で相殺する」という現実的な戦略が成立します。
もちろん、すべての工事にロープアクセスが向くわけではありません。面の広い外壁全面塗装で工期を短縮したい場合は足場のほうが適していることも多いですし、複雑形状の中低層では足場が向くケースもあります。
工期短縮で居住者・テナントの生活影響を最小化
ロープアクセス工法のもう一つの強みが、工期短縮です。
足場を組むには通常3〜7日、解体にも同程度かかります。これに対しロープアクセスは、設営は半日〜1日。シート養生やバルコニーへの工事員出入りで居住者にお願いする期間が、足場工法に比べて短くなります。
賃貸オーナー様で「テナント満室で、空室期間を作りたくない」という案件、私はロープアクセスをまずシミュレーションするようにしています。
「3工法から最適提案できる」会社の優位性
明誠は、通常足場工法・ロープアクセス工法・両者を組み合わせたハイブリッド工法の3つから、建物特性とご予算に応じて最適な提案ができる、日本でも数少ない会社です。
なぜこの「3工法持っている」ことが、ナフサショックの時代に効くのか。
ナフサショックは、すべての建物に均等に襲ってくるわけではありません。たとえば、屋上防水だけが急を要するなら、ロープアクセスは使えませんから足場が必要です。逆に、外壁の補修が中心で全面塗装は次回でいいなら、ロープアクセスでスポット施工して足場代をゼロにできます。
「足場一択」「ロープ一択」の会社では、今回のような原料ショックの最中、選択肢が硬直して逃げ場がありません。3工法を持っていると、部位ごと・季節ごとに最適な工法を組み合わせることで、資材高騰の影響を最小化できます。
明誠は、この3工法対応に加え、日本で初めてロープアクセス工事のフランチャイズ展開を行っており、塗装・防水・タイル・電気・看板など各分野の専門職が加盟しています。詳しくは大規模修繕工事のご紹介もご覧ください。
H2-5:収益物件オーナーが今やるべき5つの判断
ここからが、本記事で一番お伝えしたい部分です。収益物件オーナー様向けに、2026年5〜6月のうちに動いていただきたい5つの判断を整理しました。
判断①:長期修繕計画の前倒し可否を6月総会前にチェック
築15年を超えた物件で、「次の大規模修繕は2027年予定」と書いてある長期修繕計画をお持ちのオーナー様は、まず計画書を取り出してください。
ナフサショックが長期化すれば、2027年の工事費は2026年比で5〜10%、場合によってはそれ以上の上昇もあり得ます。逆に、2026年内に発注できれば、現時点の単価で固定できる可能性があります。
私はいつも「長期修繕計画は1年単位で見直してください」とお伝えしています。今年は特に、計画前倒しの是非を真剣に検討する時期です。
判断②:見積もり有効期限を従来90日→30日に短縮交渉
業者から出てくる見積書には、必ず「有効期限」が書かれています。従来は90日(3か月)が一般的でした。
しかし、ナフサショック下では、業者にとって90日先の単価固定はリスクが高すぎます。だから安全マージンを乗せた高い見積もりになる。
逆に発注者側から「有効期限30日でいいので、その代わり単価を抑えてください」と提案すると、業者は安全マージンを下げられます。3か月後に再見積もりするのは確かに面倒ですが、結果的に総額を抑えられるケースを私は何件か見ています。
判断③:塗料ブランドの「同等品許容範囲」を仕様書で明文化
リスク②で触れた「同等品問題」を防ぐため、仕様書の段階で「同等品許容範囲」を明文化してください。
たとえば、
「シリコン樹脂系塗料 ◯◯メーカー △△グレード を標準とする。同等品への変更は、JIS K 5658に適合し、かつ塗膜耐用年数12年以上の製品に限る。変更時は書面で承諾を得ること」
ここまで書いておけば、同等品トラブルの大半は防げます。仕様書を作るのは設計事務所やコンサルタントの仕事ですが、オーナー様・理事長様が「ここを書いておいてほしい」とお願いするだけで、大きく変わります。
判断④:足場・ロープアクセスのハイブリッド工法をシミュレーション
3工法のどれが最適かは、建物条件と工事内容で変わります。
私がご提案するなら、こうです。
- 屋上防水が急を要し、外壁は次回で良い物件:屋上のみ足場(or 移動足場)で短工期施工
- 外壁の部分補修・シーリング打替がメイン、全面塗装は不要:ロープアクセスで部位限定施工
- 全面塗装が必要だが、コストを抑えたい中高層:ハイブリッド工法(低層階は足場、中高層階はロープアクセス)
これを「シミュレーション」として複数案で見積もり比較するのが、ナフサショック下では効果的です。1社だけに任せず、明誠のように3工法持つ会社に提案させていただくか、複数社に相見積もりを取って比較してください。
判断⑤:補助金(令和8年度エネルギー需給構造高度化基準認証推進事業費補助金等)を併用
修繕工事と省エネ・脱炭素を組み合わせると、各種補助金の対象になることがあります。
2026年5月20日に経済産業省が公募開始した「令和8年度エネルギー需給構造高度化基準認証推進事業費補助金」(出典:経済産業省 2026年5月20日)など、エネルギー関連の補助金は事業者向けが多いですが、収益物件オーナー様にも適用可能なメニューがあります。
また、東京都のマンションポータルサイトでは、断熱改修・省エネ改修と組み合わせた助成金情報が随時更新されます。
ただし、補助金は予算枠到達で締切となるものが大半です。「絶対通る」「必ず取れる」とお約束はできません。早めの情報収集と申請準備が重要です。
H2-6:管理組合理事長へ ── 総会で必ず聞かれる質問と模範回答
私は管理組合の総会に呼ばれることが多いのですが、ナフサショックが報道されてから、必ずと言っていいほど聞かれる質問が3つあります。
質問1:「来年の修繕、本当に間に合うのか」
私の回答は、こうです。
「間に合わせる方法は2つあります。1つは前倒しで2026年内に契約を済ませること。もう1つは、工法を変えて工期を圧縮することです。たとえばロープアクセス工法を併用すれば、足場架設・解体の期間がカットでき、結果として全体工期が短縮されます」
質問2:「価格上昇分は積立金で吸収できるのか」
これは正直、物件ごとに状況が違います。築古マンションで積立金不足の場合、一時金徴収か、借入か、工事内容の優先順位付けの3択を冷静に話し合っていただくしかありません。
私からは「優先順位付けのご相談には乗ります」とお答えしています。屋上防水・外壁シーリングが最優先、外壁の全面塗装はもう一周ずらしてもよい、といった現実的な順位付けは、現場感覚を持った業者の意見が役に立つ場面です。
質問3:「他社の見積もりと比べて高くないか」
これは正直、ありがたい質問です。私はいつも「ぜひ比べてください」とお答えします。
ただし、比べ方が重要です。「総額」だけで比べると、安い見積もりに大事な工程が抜けていたり、グレードの低い材料が紛れていたりします。仕様書ベースで、材料グレード・施工面積・工期・保証年数を揃えて比較してください。明誠では、相見積もり用の仕様書フォーマットもお渡ししています。
質問4:「ロープアクセスは本当に安全なのか」
これも繰り返し聞かれます。私の回答は決まっています。「法令に基づく作業手順と、二重ロープによるバックアップが基本です」と。
ロープアクセスは厚生労働省の労働安全衛生規則改正(2022年4月施行)で、特別教育の対象となるロープ高所作業として明確に位置付けられています。明誠のフランチャイズ加盟社では、必要な特別教育を受けた職人が、必ずメインロープとバックアップロープの二系統で作業しています。
私は新人にも、お客様にも、いつもこう言います。「安全はコストではなく、最初に守る前提条件です」。この前提が崩れる現場は、どれだけ安くても請けません。
H2-7:私が現場で20年見てきた、嘘偽りのない感想
正直に申し上げます。
私はこの業界に入って20年近くになりますが、「数十年に一度のショック」は10年に1回くらいは起きるというのが、現場感覚です。リーマンショック、東日本大震災、コロナ禍、そして今回のナフサショック。そのたびに、「準備していた会社」と「していなかった会社」で結果が大きく分かれてきました。
オーナー様や理事長様も同じです。今回のショックを「うちには関係ない」と素通りした物件と、「いったん業者と話して、計画を見直しておこう」と動いた物件では、2027年・2028年の修繕費総額で数百万円〜千万円単位の差が出る可能性があります。
「足場一択」「ロープ一択」の会社では、今回のような状況で動きが取れません。これは批判ではなく、構造的な事実です。私たち明誠は、ロープアクセス工事の日本初フランチャイズ展開を通じて、全国の専門職と組んで、この難局でも発注者の側に立った提案ができる体制を整えてきました。
これは私が現場で20年見てきた、嘘偽りのない感想です。
補足:戸あたり換算で考えると分かりやすい
数字の話を、もう少し読者の感覚に近い形で言い直します。
たとえば100戸のマンションで、修繕積立金から3億円を投じる大規模修繕を予定していたとします。ナフサショックで材料費が10%上昇すると、単純計算で3,000万円。これを戸あたりに換算すると、1戸あたり30万円の追加負担です。
修繕積立金が潤沢な物件であれば吸収できますが、私が見る限り、築20年超の物件の半数は追加徴収か借入を検討せざるを得ない水準です。30万円を月割すれば、1戸あたり月2,500円を1年間徴収する規模になります。
ここを冷静に試算するか、目を背けるかで、数年後の組合運営の安定感が大きく変わります。私が「総会前に1分だけ話題に出してください」と申し上げているのは、こういう理由です。
H2-8:まとめ ── 2026年6月までに動く理由
最後にもう一度、本記事の要点を整理します。
第1に、ナフサショックは塗料・防水・シーリングといった大規模修繕の根幹資材を直撃しています。朝日新聞の報道では、関西の塗装業者で「6月末で在庫が尽きる」可能性が指摘されました。
第2に、ガソリン補助金41.8円/L(経済産業省2026年5月20日発表)が示すように、これは数か月で収まる話ではありません。長期化を前提に経営判断を組み直す局面に入っています。
第3に、収益物件オーナー様・管理組合理事長様が今やるべき5つの判断は、①長期修繕計画の前倒し可否確認、②見積有効期限30日交渉、③同等品許容範囲の仕様書明文化、④3工法のハイブリッドシミュレーション、⑤補助金併用、の5つです。
そして第4に、6月総会前に動くことに意味があります。6月以降、塗料納期はさらに長期化する見通しです。理事会で1分だけでも、この話題を出してみてください。
ご相談だけでも遠慮なくお声がけください。総会の前段階の整理だけでも、お力になれることがあります。「うちの物件はロープアクセスが向くのか」「ハイブリッド工法のシミュレーションだけ出してほしい」といった軽いご依頼も大歓迎です。
次回も、現場で本当に使える話だけをお届けします。
出典・参考資料
- 朝日新聞「ナフサ不足で塗装業者から悲鳴 塗料の在庫『6月末で尽きてしまう』」(2026年5月20日)
- Yahoo!ニュース「橋に塗る塗料が納入 1か月待ち 『塗装資材の安定供給を』中東情勢受け、石川県塗装工業会が要望」(2026年5月20日)
- Yahoo!ニュース「ガソリン補助金、1リットル40円台で高止まり 6月にも基金枯渇か」(2026年5月20日)
- Yahoo!ニュース「総合塗料3社の通期見通し、全社増収営業増益…中東リスクの見方は?」(2026年5月20日)
- 健美家「2027年エアコン価格が改定? ナフサショックで新築の工期遅れ? 収益物件オーナーが」(2026年5月20日)
- 経済産業省「令和8年度エネルギー需給構造高度化基準認証推進事業費補助金の公募について」(2026年5月20日)
- 東京都「マンションポータルサイト」
- 厚生労働省「ロープ高所作業に係る労働安全衛生規則の改正」
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