マンション大規模修繕談合、公取委が40社超に排除措置命令へ|関東100件超・東海3県にも拡大、管理組合とオーナーが今すぐ点検すべき7つの自衛策【2026年9月】
皆さまのマンションで進めている、あるいはこれから進める大規模修繕工事の見積もりは、本当に「競争」の結果でしょうか。私はこの数か月、理事長さまからこの質問を何度も受けるようになりました。
結論から申し上げます。公正取引委員会(公取委)は、2026年6月にマンション大規模修繕工事をめぐる談合で施工会社・設計コンサルタント計40社前後に独占禁止法違反を認定し、うち38社程度に排除措置命令を出す方針を固めたと報じられています。対象は2021年秋ごろから関東で100件を超える工事、課徴金は合計16億円規模とされ、2026年7月には調査が東海3県(愛知・岐阜・三重)にも広がりました。9月に入り、毎日新聞は住民側が契約書に「談合発覚時の違約金条項」などの特約を加える自衛の動きを報じています。
私は株式会社明誠の本間と申します。東京都東大和市を拠点に、マンション・ビル・ホテルの大規模修繕を20年以上やってきました。この記事では、この談合問題の全体像を公的な一次情報と報道であたりながら整理し、管理組合の理事長さまやオーナーさまが今すぐ点検できることを具体的にお伝えします。
この記事で答える質問:マンション大規模修繕の談合事件で何が起きたのか、うちの修繕積立金や見積もりに影響はあるのか、管理組合とオーナーは今、何を点検すればよいのか?
結論:まず点検すべき3つのポイント
先に全体像をお示しします。私が理事長さまにお伝えしているのは、次の3点です。
| 優先順位 | 点検すること | 目安の期限 | ポイント |
|---|---|---|---|
| 1. 発注方式の確認 | 過去・現在進行中の修繕工事が「設計監理方式」か「責任施工方式」か、コンサルと施工会社の資本関係はないか | 次の理事会まで | コンサルが施工会社からバックマージンを受け取る覚書を交わしていた事例が今回の核心 |
| 2. 見積もりの中身の再確認 | 総額だけでなく、仮設工事費・下地補修費など内訳を複数社で比較したか | 発注前(今回工事中なら速やかに) | 統一仕様で見積もらせると価格調整が見えにくい |
| 3. 契約条項の見直し | 「談合発覚時の違約金条項」などの特約が入っているか | 次回契約時までに検討 | 住民側の自衛策として報道でも紹介されている |
すでに工事が終わっている管理組合さまも、過去の発注記録を保管しておくことをおすすめします。今回のように数年越しで事実関係が明るみに出るケースがあるためです。
私はいつも理事長さまに、「コンサルタントに一任することと、コンサルタントを信頼することは別の話です」とお伝えしています。チェック役だと思っていた専門家自身が、今回の問題の当事者になっていたからです。
何が起きたのか|公取委が認定した「マンション大規模修繕談合」の全体像
2021年秋から関東で100件超、2025年3月に立入検査
複数の報道によると、談合は2021年秋ごろから始まり、首都圏を中心に100件を超える大規模修繕工事が対象になったとされています。公正取引委員会は2025年3月以降、関係する施工会社・設計コンサルタントへの立入検査に着手しました(出典:日本経済新聞、時事通信)。
2026年6月、40社前後に違反認定・課徴金は計16億円規模
2026年6月12日前後の報道では、公取委が施工会社と設計コンサルタント計40社程度に独占禁止法(不当な取引制限)違反を認定し、うち38社程度に近く排除措置命令を出す方針を固めたと伝えられました。課徴金は合計で約16億円にのぼる見通しとされています(出典:日本経済新聞、時事通信)。本稿執筆時点(2026年9月23日)で、正式な排除措置命令の発出日を確認できる一次情報は見当たらないため、最新の状況は公正取引委員会の公表資料でご確認いただくことをおすすめします。
2026年7月、東海3県にも調査が拡大
2026年7月28日には、公取委が愛知・岐阜・三重の東海3県で、施工会社・設計事務所20社超に立入検査を行ったと報じられました(出典:日本経済新聞)。関東の事案で名前が挙がった企業に加え、東海地方の地元企業も対象になったとされ、関東だけの問題ではなくなっていることがうかがえます。
2026年9月、住民側の「特約」による自衛が報道に
そして今月、毎日新聞は、修繕工事の不正を防ぐために住民が契約書に特約条項を加えるなど、「自衛」に動く管理組合の様子を報じました。関東・東海の広い範囲で、管理組合自身が発注プロセスを見直す動きが出ています(出典:毎日新聞)。
なぜ起きたのか|「設計監理方式」に空いていた死角
多くの管理組合が採用している発注方式は、大きく2つに分かれます。国土交通省の「マンション改修マニュアル」(令和8年3月改訂)でも、この2方式が整理されています(出典:国土交通省「マンション改修マニュアル」)。
- 設計監理方式:調査診断・設計とコンサルタント業務を、施工から切り離す方式。「競争入札等の競争原理を導入して施工会社を選定できる」のが利点とされています。
- 責任施工方式:設計から施工まで一社に任せる方式。工事内容と費用内訳の関係が不明瞭になりやすいという課題が指摘されています。
今回問題になったのは、この設計監理方式そのものの信頼性でした。報道によれば、本来は中立な立場でチェック役を務めるはずの設計コンサルタントが、複数の施工会社を集めて「見積もり合わせ」をさせる際に、あらかじめ受注予定者を決めておき、他の会社には当て馬の見積もりを依頼していたとされています。さらに、コンサルタントが施工会社からバックマージンを受け取る覚書を交わし、工事費が上乗せされていた疑いも指摘されています。
つまり、「専門家に任せているから安心」という前提そのものが崩れていたわけです。私はこれを、現場で20年やってきた立場から見ても、非常に厄介な構造だと感じます。工事の品質や価格の妥当性を見抜く目を、管理組合の理事会だけで持つのは簡単ではありません。だからこそ専門家に依頼するわけですが、その専門家自身の利益相反が管理されていなければ、チェック機能は形だけのものになってしまいます。
国土交通省は2026年4月1日施行の「マンションにおける外部管理者方式等に関するガイドライン」改訂で、外部の専門家が管理組合の意思決定に関わる場面での利益相反防止プロセスを整理しています(出典:国土交通省 報道発表資料)。今回の談合問題とは制度上の直接の対象は異なりますが、「外部専門家と施工会社側の利害関係をどう遮断するか」という論点は共通しています。
私たちの修繕積立金はどうなる?|数字で見る影響
具体的な影響額は各マンションの契約内容によって異なるため、この記事で断定的な数字をお示しすることはできません。ただし、構造として押さえておきたい点が2つあります。
1つ目は、対象が100件を超える規模だということです。関東で100件超、東海3県でも20社超が調査対象になったという規模感からすると、多くの管理組合にとって「うちには関係ない話」と言い切れない広がりを持っています。
2つ目は、談合によって上乗せされた分は、修繕積立金から支払われているという点です。大規模修繕工事は多くの場合、数千万円から数億円単位の工事になります。仮に価格調整によって数%でも上乗せされていたとすれば、修繕積立金の取り崩し額や将来の積立金不足に直結します。私が現場で見てきた感覚では、見積もりの内訳をきちんと比較検討するかどうかで、総額が1割前後変わることは珍しくありません。
| 比較の視点 | 統一仕様・一任型の見積もり | 内訳比較・複数社見積もり型 |
|---|---|---|
| 価格の見えやすさ | 総額のみ比較しがちで調整に気づきにくい | 仮設工事・下地補修などの内訳で異常値に気づきやすい |
| 業者間の提案の自由度 | 同一仕様のため横並びになりやすい | 各社が自由に提案するため似通った金額が並べば違和感に気づける |
| 管理組合の負担 | 少ない(一任できる) | 増える(比較検討の手間がかかる) |
手間をかけるかどうかは、そのまま「気づけるかどうか」に直結します。この点は、次の章で具体的な自衛策としてお伝えします。
築15〜25年の管理組合が「うちの話」と感じる3つのサイン
ここまで読んで、「うちのマンションは大丈夫だろうか」と感じられた理事長さまもいらっしゃると思います。私の経験上、次の3つに当てはまる場合は、一度立ち止まって確認する価値があります。
サイン1:見積もり合わせの参加社が、毎回ほぼ同じ顔ぶれである
地域の施工会社の数が限られているため、ある程度の重複は自然です。ただし、何年も同じ数社しか声がかからず、その中で毎回似たような金額が並ぶ場合は、選定過程を一度見直す価値があります。
サイン2:コンサルタントが「この会社なら安心です」と特定の1社を強く推してくる
中立な立場のはずのコンサルタントが、比較検討の材料を十分に示さないまま特定の業者を推す場合、その業者との関係を確認しておいた方がよいでしょう。
サイン3:見積書の内訳が「一式」表記ばかりで、数量や単価が書かれていない
仮設工事や下地補修など、本来は数量×単価で積算できる項目が「一式○○円」とだけ書かれている見積書は、比較検討そのものが難しくなります。
いずれか1つでも当てはまるからといって、直ちに不正があるという意味ではありません。ただ、これらは「比較検討の材料が不足している状態」のサインでもあり、談合の有無にかかわらず、適正な価格で工事を発注するために確認しておく価値があると、私は考えています。
国が示す「適正発注」の考え方
国土交通省の「マンション改修マニュアル」(令和8年3月改訂)では、発注先を決める方式として「見積合わせ方式」が紹介されています。「複数の発注先候補に見積の提出を求め、見積金額の総額の大小だけではなく、見積内容等を比較検討して発注先を決定する方式」とされており、選定における透明性確保の観点からは「公募サイトや業界紙等による公募が望ましい」との記述もあります(出典:国土交通省「マンション改修マニュアル」)。
ここで強調されているのは、「総額の大小だけで決めない」という点です。総額だけを見て安いところに決めると、後から追加工事費が積み上がるケースもありますし、逆に今回のような価格調整があった場合には、総額の比較だけでは気づきにくいという弱点もあります。
横浜市のマンション管理ポータルサイトのコラムでも、今回のような談合の手口と管理組合の対策が整理されており、業者選定過程の議事録化や、複数業者からの見積もり比較の重要性が紹介されています(出典:横浜市「マンション大規模修繕工事の談合について」)。
管理組合とオーナーが今すぐできる7つの自衛策
私が理事長さまにお伝えしている自衛策を、7つにまとめました。すでに工事が完了している管理組合さまも、次回以降の参考にしていただければと思います。
- 丸投げにしない:専門家に一任するのではなく、修繕委員会が工事項目ごとの仕様をある程度理解したうえで発注プロセスに関わる
- 統一仕様を避ける:全社に同じ仕様書で見積もらせるのではなく、ある程度の自由提案を認め、似通いすぎた金額が並んだら違和感を持つ
- 内訳まで比較する:総額だけでなく、仮設工事費・下地補修費・諸経費などの項目別に複数社を比較する
- 選定プロセスを透明化する:応募書類をコンサルタント1人が受け取るのではなく、理事会にも同じ情報を共有する
- 第三者チェックを入れる:利害関係のない専門家やコンサルタントに、見積書・選定プロセスの検証を依頼する
- 契約条項を見直す:談合が発覚した場合の違約金条項などの特約を、工事請負契約書に加えることを検討する
- 住民全体で意識を共有する:今回のような事案が実際に起きていたという事実を総会などで共有し、発注プロセスへの関心を保つ
いずれも、明日から始められることばかりです。私はこれを、理事会が特別な専門知識を持たなくても実践できる範囲でお伝えするようにしています。
明誠が現場で実践している「談合を起こしにくくする仕組み」
ここからは、当社の取り組みについて少しお話しさせてください。株式会社明誠は、マンション・ビル・ホテルの大規模修繕工事を、通常の足場仮設工法、足場を組まないロープアクセス工法(無足場工法)、両方を組み合わせたハイブリッド工法の3つから、建物にとって最適な工法をご提案できる会社です。この3工法を扱える会社は、日本でも多くありません。
私がこの3工法にこだわる理由の一つは、「工法ありき」で提案しない体制そのものが、価格の妥当性を検証しやすくするからです。足場仮設だけを前提にすると、仮設工事費が総工事費の15〜25%を占めることも珍しくなく、この部分の内訳が見えにくいまま「一式」で計上されがちです。ロープアクセス工法を含めて比較検討すると、仮設費という大きな項目そのものを分解して検討できるようになります。
ロープアクセス工法の技術的な背景や安全基準については、姉妹サイトのロープアクセスドットコムで詳しく解説しています。当社は日本で初めてロープアクセス工事のフランチャイズ展開を行っており、塗装・防水・タイル・電気・看板工事など各分野の専門職が加盟しています。専門職が直接施工する体制のため、中間マージンを重ねにくく、高品質かつ低価格な工事を実現しやすいという特徴があります。この加盟店ネットワークの技術情報もロープアクセスドットコムにまとまっていますので、コンサルタントや管理組合の皆さまが第三者の目で技術的な妥当性を確認したい場合にも、参考にしていただけると思います。
また、当社では見積もりをお出しする際、仮設工事・本工事・諸経費を分けて内訳を明示することを徹底しています。総額だけを見せて「お任せください」とは申し上げません。理事会の皆さまが、他社の見積もりと項目ごとに比較できる状態でご提案するのが、私の考える最低限の誠実さです。
工法選定の考え方については明誠のコンセプト、大規模修繕工事の総合的なご提案については大規模修繕工事のご紹介、ロープアクセス工法そのものについてはロープアクセス工法のご紹介のページで詳しくご紹介しています。
東京都・関東エリアのオーナー・管理組合が使える相談先
「うちの見積もりが適正かどうか、自分たちだけでは判断できない」という場合、まずは第三者に相談することをおすすめします。
- 横浜市など各自治体のマンション管理ポータルサイトでは、大規模修繕に関する相談窓口や講座が案内されています(出典:横浜市マンション管理ポータルサイト)。
- 当社では、収益不動産を所有されるオーナーさま向けに賃貸マンションオーナー向けサービス、管理組合の理事長さま向けに管理組合向けサービスをそれぞれご用意しています。見積もりの内訳確認だけでも構いませんので、お気軽にご相談ください。
- 投資用不動産としてマンション・ビルを保有されているオーナーさまには、収益不動産オーナーさま向けページもご参考にしていただけます。
- 私が代表理事を務める一般社団法人全国建設業支援協会(JCSA)でも、建設業向けの経営支援情報の発信やオンラインセミナー、ビジネスマッチングを行っています。発注する側だけでなく、受注する側の建設業者さまにとっても、適正な取引慣行を学ぶ機会として活用いただければと思います。
よくある質問(FAQ)
Q. 今回の談合事件は、まだ工事をしていない新築マンションにも関係ありますか?
A. 直接的には、これから大規模修繕を計画する既存マンションの管理組合・オーナーさまに関係する話です。ただし、将来的に修繕を迎える新築マンションでも、発注方式や見積もり比較の考え方を早い段階から理事会で共有しておくことは、無駄にはならないと思います。
Q. 過去に大規模修繕を終えているマンションでも、今から確認できることはありますか?
A. あります。当時の発注記録や見積書、コンサルタントとの契約関係を保管しておき、次回の修繕計画や長期修繕計画の見直し時に参考にすることができます。談合の有無を後から証明するのは簡単ではありませんが、記録を残しておくこと自体に意味があると、私は考えています。
Q. コンサルタントに依頼せず、施工会社に直接相見積もりを取ってもよいのでしょうか?
A. 可能です。ただし専門的な仕様書の作成や工事監理まで管理組合だけで行うのは負担が大きいため、利害関係のない第三者(コンサルタントや建築士)に選定プロセスの検証だけを依頼する、といった部分的な活用の仕方もあります。
Q. 見積もりが1社しか集まらない場合、談合を疑うべきでしょうか?
A. 1社しか集まらないこと自体は、地域や時期によって珍しくありません。談合の有無とは別の問題として、複数の候補にあたる努力をしたうえで、それでも1社になった場合は、その内訳を特に丁寧に確認することをおすすめします。
Q. ロープアクセス工法を取り入れると、談合のリスクは下がりますか?
A. 工法そのものが談合を防ぐわけではありません。ただし、足場仮設だけを前提にした見積もりに、ロープアクセス工法という選択肢を加えて比較検討することで、仮設費という大きな項目の内訳がより見えやすくなる、というのが私の実感です。
この記事のポイントまとめ
- 公取委がマンション大規模修繕談合で施工会社等40社前後に違反認定、38社程度に排除措置命令の方針
- 対象は2021年秋から関東で100件超、課徴金は合計16億円規模と報道されている
- 2026年7月には東海3県(愛知・岐阜・三重)にも調査が拡大
- 設計コンサルタントが受注予定者を事前決定し、バックマージンを受け取る覚書があったとされる
- 国交省マニュアルは「総額だけでなく内訳を比較する」発注方式を推奨
- 管理組合の自衛策は「丸投げにしない」「内訳を比較する」「特約を検討する」の3本柱
- 正式な排除措置命令の発出時期は本稿執筆時点で未確定のため、最新情報は公取委の公表資料を確認する
出典・参考資料
- 日本経済新聞「マンション修繕談合、公取委が30社超に排除命令へ 100件以上が対象」
- 時事通信「公取委、マンション修繕工事で談合認定 三十数社に課徴金16億円命令へ」(2026年6月12日)
- 日本経済新聞「東海3県でもマンション修繕談合か 公取委、施工・設計20社超立ち入り」(2026年7月28日)
- 毎日新聞「マンション修繕、不正防ぐには「特約」 住民が汗かいて「自衛」」(2026年9月20日)
- 横浜市「マンション大規模修繕工事の談合について」(2026年2月9日)
- 国土交通省「マンション改修マニュアル」(令和8年3月改訂)
- 国土交通省「マンションにおける外部管理者方式等に関するガイドラインの改訂について」(令和8年4月1日施行)
※本記事は、記事作成時点(2026年9月23日)で確認できる報道・公開情報にもとづいて構成しています。公正取引委員会による排除措置命令・課徴金納付命令の正式な発出内容や日付は変更・確定していく可能性があるため、最新情報は公正取引委員会の公表資料および各報道機関の続報でご確認ください。個別の工事契約が今回の事案の対象かどうかは、この記事だけでは判断できません。気になる点がある場合は、コンサルタントや弁護士など専門家にご相談ください。
▼ロープアクセス工法・無足場工法の詳細解説はこちら
ロープアクセスドットコム|無足場工法専門メディア
この記事の執筆者
本間 幸紘(ほんま ゆきひろ)
株式会社明誠 代表取締役/東京都東大和市
マンション・ビル・ホテルの大規模修繕20年以上の実務経験。3工法(通常足場/ロープアクセス/ハイブリッド)から建物特性に応じて最適提案。日本初のロープアクセス工事フランチャイズ本部を運営。JCSA(一般社団法人 全国建設業支援協会)代表理事。
最終更新:2026年9月23日
今回のニュースは、正直なところ、この業界にいる私にとっても後味のよいものではありません。ただ、こうした事案が明るみに出ることで、発注プロセスを見直すきっかけになるのであれば、業界全体にとって悪いことばかりではないとも思っています。
見積もりの内訳を一緒に確認するだけでも構いません。総会の前段階の整理として、遠慮なくお声がけください。お問合せフォームからご連絡をお待ちしております。
これは私が現場で20年見てきた、嘘偽りのない感想です。次回も、現場で本当に使える話だけをお届けします。
大規模修繕で施工会社が倒産したら?積立金を守る2つの備え
はじめに:「工事の途中で会社が消えたら、私たちの積立金はどうなるのか」
こんにちは、株式会社明誠の本間です。先日、ある管理組合の理事長さまから、こんな相談を受けました。「本間さん、ニュースで建設会社の倒産が増えていると聞いた。もし大規模修繕の途中で施工会社が潰れたら、私たちが何十年もかけて積み立てたお金は、どうなってしまうんですか」と。
正直に申し上げます。この不安は、まったく的外れではありません。資材も人件費も上がり続け、利益の薄い工事を無理に取った会社が、工期の途中で力尽きる。私はこの20年、現場でそういう「中断した工事」をいくつも引き継いできました。足場だけが残され、ベランダのシーリング(外壁の目地を埋める防水材のこと)が半分だけ打たれた建物を見るたびに、悔しい思いをしてきました。
ここからが本題です。2026年に入って、この「工事会社の倒産」というリスクに正面から備える新しい仕組みが、マンション業界で少しずつ使われ始めています。それが「履行保証保険(りこうほしょうほけん)」です。本記事では、この新しい保険の中身と、従来の完成保証や瑕疵保険との違いを整理したうえで、保証だけに頼らずに修繕積立金を守るための「もう一つの備え」——工法の選び方——まで、現場の視点でお伝えします。
1. なぜ今、施工会社の「倒産」を心配すべきなのか
まず、なぜ今このテーマなのかをはっきりさせておきます。背景にあるのは、建設業界全体を覆う「コストの上振れ」と「受注の歪み」です。
中東情勢の混乱を受けて、日本総合研究所は建設投資が2028年に3.8%下振れする可能性を指摘しています。特に防水工事や内装工事といった「後工程」で使う資材への影響が大きく、現に工事を中断する事例も出ている、というのです(出典:日経クロステック「中東情勢の混乱で建設投資に暗雲」)。大規模修繕はまさに、防水・塗装・シーリングといった後工程の塊です。資材が読めない局面では、見積り時点の金額で最後までやり切れる体力があるかどうかが、会社によって大きく分かれます。
ゼネコン最大手の鹿島の桐生雅文社長も、大規模再開発の中止や遅延が各地で相次いでいることについて、「発注者の予算と工事費に乖離(かいり)が生じている」と発言しています(出典:時事通信「建築費高騰『不動産業界と解決』」)。これは超大型の再開発の話ですが、構図はマンションの大規模修繕でもまったく同じです。総会で承認された予算と、実際の工事費が合わない。その差を、無理な値引きで取りに行った会社が、後で立ち行かなくなる。
私が一番怖いと感じるのは、「安いから」という理由だけで選ばれた会社が、その安さの分だけ体力を削っていて、工事の最終盤で資金繰りに詰まるケースです。発注者である管理組合やオーナーには、その会社の財務状況は見えません。だからこそ、価格の安さの「裏側」を、第三者の目でチェックする仕組みが必要になってきたのです。
2. 工事の途中で施工会社が倒産すると、何が起きるのか
「倒産しても、別の会社に頼めばいいのでは」と思われるかもしれません。ところが現場では、そう単純にはいきません。工事会社が途中で倒産すると、管理組合の負担として、次のような費用が次々に発生します。
- 過払い金の損失:出来高(実際に進んだ工事の割合)以上に前払いしていた分が、戻ってこない可能性があります。
- 増嵩(ぞうこう)費用:工事を引き継ぐ会社は、前の会社より高い金額を提示するのが普通です。中断状態の現場はリスクが高く、安く請ける会社はまずいません。
- 破産管財人への対応費用:倒産した会社の資産整理を担う弁護士(破産管財人)とのやり取りに、時間も費用もかかります。
- 出来高精算の費用:どこまで工事が終わっていたのかを第三者に調査してもらい、金額を確定させる作業が要ります。
- 工事停止中の現場管理費:足場や仮設をかけたまま現場が止まれば、その間の管理費や近隣対応の負担が積み上がります。
私の経験上、一度止まった現場を引き継ぐと、当初予算の2〜3割増しになることは珍しくありません。しかも、住民の方々は「いつ終わるのか」が見えない不安の中で、足場に囲まれた暮らしを続けることになります。お金の問題であると同時に、生活の質の問題でもあるのです。
具体的に想像してみてください。たとえば総額6,000万円の大規模修繕で、出来高6割の時点で施工会社が倒産したとします。残りの4割、計算上は2,400万円分の工事が残っています。ところが、中断した現場を引き継ぐ会社は、前の会社の仕事の品質を保証できないため、防水やシーリングを一部やり直す前提で見積もります。結果、残工事が2,400万円では収まらず、3,000万円を超えることもある。差額の600万円は、どこから出すのか。多くの場合、それは修繕積立金の取り崩しか、住民からの一時金徴収になります。
ここで強調したいのは、こうした追加費用は「修繕積立金」から出ていく、ということです。倒産という外から来た災難が、住民が長年かけて積み立てたお金を直撃する。これが、施工会社の倒産が怖い本当の理由です。そして、この直撃をやわらげる手段が、本記事でお伝えする「保証」と「工法選択」の2つの備えなのです。
3. 「積立金が4割で不足」の時代に、倒産は二重の打撃になる
そもそも、いまのマンションは修繕積立金に余裕があるのでしょうか。国の最新調査を見ると、答えははっきり「いいえ」です。
国土交通省の令和5年度マンション総合調査によると、長期修繕計画に対して修繕積立金の積立額が「不足している」と回答した管理組合は36.6%。前回調査から1.8ポイント増えています。さらに、そのうち不足額が計画の20%以上にのぼる管理組合が11.7%を占めます(出典:国土交通省 令和5年度マンション総合調査結果〔概要編〕)。
修繕積立金の平均額そのものは、この25年間で約1.8倍、月額13,054円まで上がってきました。それでも「不足」が4割近いというのは、資材・人件費の高騰に積立てが追いついていないからです。なお、自分のマンションの積立金が妥当な水準かどうかは、国土交通省のマンションの修繕積立金に関するガイドラインで示された専有面積あたりの目安と照らし合わせると、おおよその見当がつきます。
ここに、施工会社の倒産という追加費用が重なると、どうなるか。ただでさえ足りない積立金に、2〜3割増しの引き継ぎ費用がのしかかる。場合によっては一時金の徴収(住民から臨時にお金を集めること)や、修繕積立金の値上げに踏み切らざるを得ません。総会で「値上げ」を通すのがどれほど大変か、理事長さまならよくご存知のはずです。
つまり、倒産リスクへの備えは、単なる保険の話ではありません。「これ以上、住民の財布に負担を増やさないための防衛策」なのです。だからこそ私は、工法選びと並んで、保証の仕組みを理事会で一度議題に上げていただきたいと考えています。
4. 大規模修繕の「3つの保証」を、まず正しく整理する
「保証」と一言で言っても、大規模修繕には性格の異なる制度が複数あります。ここを混同すると、いざという時に「うちの保証は、その場面では使えなかった」ということになりかねません。代表的な3つを表で整理します。
| 制度 | 守る場面 | 仕組みの主体 | 加入 |
|---|---|---|---|
| 工事完成保証 | 工事中に施工会社が倒産 → 工事の「完成」を保証 | 業界団体や施工会社同士の相互保証が中心 | 任意 |
| 履行保証保険 | 工事中に施工会社が倒産 → 発生する追加費用等を「保険」で補償 | 損害保険会社(保険商品) | 任意 |
| 瑕疵(かし)保険 | 工事「完了後」に欠陥が見つかった | 住宅瑕疵担保責任保険法人など | 任意 |
ポイントは2つあります。
1つ目は、「完成前」と「完成後」で守る制度が違うこと。倒産による工事中断に備えるのが完成保証・履行保証保険で、引き渡し後の不具合に備えるのが瑕疵保険です。役割が違うので、どちらか一方だけでは穴が残ります。
2つ目は、いずれも「任意加入」だということ。大規模修繕工事新聞も指摘していますが、工事完成保証や瑕疵保険は、管理組合の側から工事会社に申し入れをしないと、会社のほうから自動的に付けてくれるとは限りません(出典:大規模修繕工事新聞「工事会社倒産のリスク回避」)。「契約に入っていると思い込んでいたら、入っていなかった」——これが一番危ない誤解です。
私はいつも理事長さまに、「契約前に、どの保証が・どの場面で・誰の負担で付くのかを、紙に書き出して確認してください」とお伝えしています。
5. 新しい選択肢「履行保証保険」とは何か
ここからが、今回のニュースの核心です。これまで大規模修繕の業界には、一般の施工業者が広く加入できる「保険会社による完成保証の商品」がほとんどありませんでした。業界団体内の相互保証や、施工会社同士で保証し合う独自の仕組みで対応してきたのが実態です。
そこに登場したのが、損害保険会社による「マンション大規模修繕工事向け履行保証保険」です。一般社団法人マンションあんしんセンターが、日新火災海上保険と組んで提供しているもので、2026年に入って活用が見られるようになっています(出典:マンションあんしんセンター プレスリリース(PR TIMES))。
仕組みを、できるだけ平易に説明します。
- 契約者は施工会社、被保険者(守られる側)は発注者である管理組合やオーナーです。施工会社が保険をかけ、いざ倒産したときに管理組合が補償を受ける、という形です。
- 補償の対象は、前章で挙げた過払い金や増嵩費用に加え、破産管財人への対応費用、出来高精算の費用、工事停止中の現場管理費など、倒産時に管理組合へ降りかかる幅広い費用です。
- 保険金の支払いだけでなく、工事の再開・完成までセンターが支援する点も、従来の「お金が出て終わり」の仕組みとは異なります。
そして私が最も注目しているのが、保険を引き受ける際に、施工会社の財務状況の審査が行われるという点です。審査を通過した修繕工事会社は、2026年3月末時点で90社(出典:マンションあんしんセンター「履行保証保険の活用」)。つまり管理組合は、この審査結果を「第三者がこの会社の財務を見て、保険を引き受けると判断した」という参考情報として使えるわけです。
価格の安さの裏側が見えない——という第1章の不安に対して、外部の保険会社の審査というモノサシが一つ加わる。これは、発注者にとって小さくない安心材料だと私は思います。
なぜこの仕組みが「新しい」のか、もう少し補足します。これまでの完成保証は、施工会社が所属する業界団体の中で、会員同士が「もし誰かが倒れたら、残りの会員で工事を引き継ぐ」と取り決める相互扶助の形が中心でした。仕組みとしては有効ですが、保証する主体が団体や同業他社であるため、いざというときに保証範囲や負担の解釈をめぐって、当事者間で意見が割れることがありました。
一方、損害保険会社による履行保証保険は、保証の主体が一貫して保険会社であり、補償の内容も保険商品として標準化されています。だからこそ、管理組合が「誰が・いくらまで・どの費用を見てくれるのか」で混乱したり、トラブルに巻き込まれたりするリスクが格段に下がる。ここが、従来型との一番の違いだと私は理解しています。理事会で検討される際は、「うちが使うのは相互扶助型の完成保証なのか、保険会社の履行保証保険なのか」を、まず確認するとよいでしょう。
6. 保証だけでは積立金は守れない——もう一つの備え「工法選択」
ここで、保険会社の回し者のような話で終わらせたくないので、現場の人間として正直に申し上げます。履行保証保険は「倒産という事故が起きた後」の備えであって、そもそも積立金を減らさないための備えではありません。
積立金を減らさないための、もう一つの——そして私が本業として最も力を入れている——備えが、「工法の選択」です。
大規模修繕のコストで、意外と大きな割合を占めるのが「仮設足場」の費用です。建物全体に足場をかけ、解体するだけで、工事費全体の2割前後を占めることも珍しくありません。しかも足場は、それ自体が建物を直しているわけではない「準備の費用」です。
明誠は、ここに3つの選択肢を持っています。
- 通常の足場仮設工法:全面に足場をかける従来型。複雑な形状や、全面的に手を入れる中低層の建物に向きます。
- ロープアクセス工法(無足場工法):産業用ロープで職人が壁面を上下しながら施工する方法です。足場を組まないため足場費を圧縮でき、工期も短く、住民の生活への影響(窓の前に足場が立つ圧迫感や防犯面の不安)も小さく抑えられます。高層や、足場の架設が難しい物件で特に効きます。
- ハイブリッド工法:足場が必要な部位だけ足場をかけ、それ以外はロープアクセスで仕上げる。部位ごとに使い分けて、総額を最適化します。
私はこれを、必ずワンセットで提案するようにしています。なぜなら、足場費を抑えて工事全体のコストに余裕が生まれれば、その分、万が一の引き継ぎ費用が発生しても、積立金へのダメージを小さくできるからです。守りの保険と、攻めのコスト削減。両方を組み合わせて初めて、積立金は本当の意味で守られます。
工法ごとの違いを、もう少し具体的に整理しておきます。
| 比較項目 | 通常足場工法 | ロープアクセス工法 | ハイブリッド工法 |
|---|---|---|---|
| 足場の設置・解体費 | かかる(全面) | ほぼ不要 | 必要部位のみ |
| 工期 | 長め | 短め | 中間 |
| 住民の生活影響 | 大きい(窓前に足場・防犯面) | 小さい | 中間 |
| 向いている建物 | 中低層・全面改修・複雑形状 | 高層・部分補修・足場困難な物件 | 大規模・部位ごとに条件が異なる物件 |
たとえば、外壁の大半は健全で、タイルの浮きやシーリングの劣化など「悪いところがピンポイントで分かっている」建物であれば、全面足場をかけずにロープアクセスで必要箇所だけを直す適正価格のピンポイント施工が効きます。逆に、外壁全面の塗り替えと防水を一気にやる計画なら、足場のほうが作業効率がよく、結果的に安くなることもあります。大切なのは「最初から工法を一つに決めつけない」ことです。
私はこれまで、他社で「全面足場ありき」の見積りしか出てこなかった物件を、ハイブリッドに組み替えることで足場費を大きく圧縮できたケースを何度も見てきました。3つの工法を建物ごとに最適提案できる会社は、日本でもまだ多くありません。詳しくはロープアクセスと足場の両方を提案できる明誠の強みのページもご覧ください。
7. 倒産しにくい・信頼できる施工会社を見分ける実務ステップ
では、理事会として実際に何をすればよいのか。発注前にできる、現実的なステップを整理します。
Step 1:保証の有無を「契約前」に確認する
見積りを取る段階で、「工事完成保証または履行保証保険を付けられますか」と各社に必ず質問してください。任意制度なので、聞かなければ付きません。付けられる会社・付けられない会社の差が、そのまま会社の体力の差を映すこともあります。
Step 2:履行保証保険の「審査通過」を一つの目安にする
前述のとおり、履行保証保険は財務審査を通った会社しか使えません。「この保険を使えますか」という問いは、遠回しに「御社の財務は第三者の審査を通っていますか」と尋ねるのと同じです。一つの判断材料として有効です。
Step 3:見積りの「安さの理由」を説明してもらう
極端に安い見積りには、必ず理由があります。良い理由(足場をロープアクセスに替えて合理的に削っている等)なら歓迎ですが、悪い理由(利益を削って無理に取りにいっている)なら危険信号です。明誠の場合、安さの根拠は「適正価格のピンポイント施工」や工法選択にあることを、図と数字で説明します。
Step 4:複数社で「同じ条件」の見積りを揃える
工法も仕様もバラバラの見積りを並べても、比較になりません。同じ条件で揃えたうえで、価格・保証・財務の3点で評価してください。
8. 落とし穴・注意点——「保証があるから安心」ではない
ここは、あえて慎重にお伝えします。履行保証保険も完成保証も、万能ではありません。
第一に、全額がそのまま戻る制度ではありません。 完成保証は「全費用を補償する制度ではない」と運営側も明言しています(出典:マンションあんしんセンター「完成保証は全費用を補償する制度ではない?」)。補償には条件や上限があり、何でも青天井で面倒を見てくれるわけではない、と理解しておく必要があります。
第二に、任意加入であること。繰り返しになりますが、管理組合から申し入れないと付かないケースがあります。「大手だから大丈夫だろう」という思い込みは禁物です。
第三に、保証はあくまで「倒産後」の話であること。本記事で一貫してお伝えしてきたとおり、倒産そのものを防ぐ力はありません。だからこそ、信頼できる会社選び(第7章)と、積立金に余裕を持たせる工法選択(第6章)を、保証とセットで考えていただきたいのです。
なお、本記事の制度内容は2026年7月時点の情報です。保険の補償範囲や審査要件は変わり得ますので、加入を検討される際は、必ず実施主体であるマンションあんしんセンターや保険会社の最新の公式情報をご確認ください。
9. よくある質問——理事会で出やすい疑問にお答えします
ここでは、私が理事会の場で実際によく受ける質問を、Q&A形式で整理しておきます。
Q1. 履行保証保険の保険料は、誰が払うのですか
契約者は施工会社なので、保険料は基本的に工事費の中に含まれる形になります。つまり最終的には発注者の負担に反映されますが、その金額は倒産時に発生し得る数百万円規模の追加費用に比べれば、はるかに小さいのが通常です。見積りの内訳で「どこにいくら計上されているか」を確認するのが大切です。
Q2. 大手の施工会社なら、保証は要らないのでは
規模の大小と倒産リスクは、必ずしも一致しません。むしろ、大型案件を多く抱える会社ほど、一つの現場の資金繰りが全体に響くこともあります。会社の規模ではなく、財務の健全性と、保証が付くかどうかで判断していただきたいと、私はいつもお伝えしています。
Q3. すでに工事会社を決めてしまいました。今からでも保証は付けられますか
契約前であれば交渉の余地があります。契約後・着工後の追加は難しい場合が多いので、できるだけ早い段階で、施工会社と保険・保証の話を詰めてください。間に合わないようであれば、せめて出来高に対する支払い条件(前払いを抑え、出来高に応じて払う)を見直すだけでもリスクは下がります。
Q4. ロープアクセスは足場より危なくないのですか
産業用ロープによる施工は、労働安全衛生規則に基づくルール(ロープ高所作業の特別教育など)に沿って行います。二重のロープで身体を支える方式が基本で、有資格の職人が作業します。むしろ足場は、設置・解体の作業や、第三者がよじ登れてしまう防犯面のリスクもあります。建物や工事内容に応じて、どちらが安全かつ合理的かを判断するのが筋だと、私は考えています。
10. 明誠が現場で見てきた、もう一歩踏み込んだ知見
明誠は東京・関東一円で、ロープアクセス工法と従来の足場仮設による大規模修繕の両方を提案できる改修会社です。塗装・防水・タイル・電気・看板など各分野の専門職が加盟するフランチャイズ体制で、高品質と低価格を両立しています。
私たちがマンション・ビルのオーナーさまや管理組合さまとお話しするとき、最近とくに増えているのが「途中で工事が止まったらどうしよう」という不安の声です。その背景には、ニュースで流れる建設会社の倒産や、資材高騰の報道があります。
私はこう考えています。不安の正体は「見えないこと」です。会社の財務が見えない、工事費の内訳が見えない、保証が効く範囲が見えない。だから、私たちは見積りの段階から、足場費がいくらで、ロープアクセスに替えるといくら下がり、どの部位にどの工法を使うのかを、できる限り「見える化」してお出しします。保証についても、付けられるものは正直に、付けられないものはなぜかを、その場で説明します。
正直に申し上げて、すべての現場でロープアクセスが最適とは限りません。全面改修が必要な建物では、足場のほうが結果的に安く・確実なこともあります。だからこそ「3つから選べる」ことに意味がある。これは私が現場で20年見てきた、嘘偽りのない感想です。
11. まとめ:今日、理事会で動いていただきたい3つのこと
最後に、本記事を読み終えた方に、今日できる具体的なアクションを3つだけ挙げます。
- 次の大規模修繕の見積りで、各社に「完成保証または履行保証保険を付けられますか」と必ず質問する。 任意制度なので、聞かなければ始まりません。
- 長期修繕計画と現在の積立金残高を照らし合わせ、「不足」になっていないかを確認する。 国の調査では4割近くが不足しています。足りないなら、工法選択でコストを下げる余地がないかを一度検討してください。
- 足場費がいくらかかっているかを、見積りの中で確認する。 ロープアクセスやハイブリッド工法に替えるだけで、総額に余裕が生まれる物件は少なくありません。
「うちの積立金で、本当に最後までやり切れるのか」「途中で何かあったときに、住民に負担をかけずに済むのか」——そうお感じの方は、ぜひ一度お問合せフォームから声をかけてください。総会の前段階の整理だけでも、お力になれることがあります。無料の建物調査・お見積りで、工法ごとの金額の違いまで具体的にお出しします。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。次回も、現場で本当に使える話だけをお届けします。
株式会社明誠 代表取締役 本間
出典・参考資料
- 国土交通省「令和5年度マンション総合調査結果(とりまとめ)」
- 国土交通省「令和5年度マンション総合調査結果〔概要編〕(PDF)」
- 国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」
- 一般社団法人マンションあんしんセンター「従来の完成保証制度とは異なる仕組み 履行保証保険の活用(PR TIMES)」
- 一般社団法人マンションあんしんセンター「大規模修繕工事『完成保証』なら履行保証保険(日新火災海上保険)」
- 一般社団法人マンションあんしんセンター「完成保証は全費用を補償する制度ではない?」
- 大規模修繕工事新聞「工事会社倒産のリスク回避/工事完成保証は管理組合から申し入れを!
▼ロープアクセス工法・無足場工法の詳細解説はこちら
ロープアクセスドットコム|無足場工法専門メディア
【2026年6月】塗料・防水材が「入荷未定」に|ナフサ不足で大規模修繕の工期が遅れる前に、マンション・ビルオーナーがやるべきこと
「来月から外壁の塗り替えに入る予定なのに、塗料が手に入らないかもしれない」。
先日、あるマンションの理事長さまから、こんなご相談をいただきました。総会で修繕予算をようやく通したばかり。なのに「材料が止まっている」という話が耳に入り、不安になられたのです。
結論から申し上げます。この不安は、決して大げさではありません。いま全国の建設現場で、塗料・防水材・接着剤といった「石油から生まれる資材」の品薄が現実に起きています。そして大規模修繕を控えるオーナーさま・管理組合にとって、これは「工期の遅れ」と「コストの上振れ」に直結する話です。
私は塗装・防水・タイルの大規模修繕を20年近くやってきました。正直に申し上げて、材料がここまで読めない局面は、そう何度もありません。この記事では、いま何が起きているのか、それがあなたの建物にどう響くのか、そして慌てず・損せず動くために今この時期にやるべきことを、現場の視点で整理します。
まず、ニュースの要点を3行で
- 中東情勢(イラン戦争)の長期化で、塗料・防水材・接着剤の原料である「ナフサ」由来の化学品が不足し、建設現場で出荷制限・受注停止・納期長期化が広がっています。
- 全国建設業協会は2026年4月30日、国土交通大臣に緊急要望を行い、「工事の中止や遅延が避けられない状況も発生している」と表明しました(出典:全国建設業協会/ブルームバーグ報道)。
- 政府は2026年6月2日、塗料・シンナーの原料となるトルエンなどを最大で例年の約1.8倍まで供給を拡大し、「年度を越えて供給を継続できる」見通しを示しました(出典:時事ドットコム 2026年6月2日)。
つまり「足りない」という事実と、「政府が手を打ち始めた」という事実が、同時に進行している状況です。ここからが本題です。
なぜ塗料や防水材が止まるのか——「ナフサ」という言葉をかみ砕く
ニュースで連呼される「ナフサ」。聞き慣れない方も多いと思いますので、まずここを丁寧に説明します。
ナフサとは、原油を精製してできる「粗製ガソリン」のことです。これがプラスチックや塗料、ゴム、接着剤など、私たちの身の回りのありとあらゆる化学製品の「おおもとの材料」になります。
大規模修繕に関わる流れをごく簡単に書くと、こうなります。
原油 → ナフサ → トルエン・キシレンなど(溶剤の原料) → シンナー・塗料・防水材・接着剤 → 現場
ここで重要なのが「シンナー」です。シンナーは塗料を薄めて塗りやすくする溶剤(うすめ液)で、油性塗料を使う現場では欠かせません。このシンナーの原料であるトルエン・キシレンが、中東からのナフサ供給の目詰まりで不足しているわけです。
さらに、防水工事で使うウレタン防水材やシーリング材(窓まわりや目地を埋める弾力性のある充填材)、屋上の塩ビシート、下地に使う接着剤——これらもほとんどが石油由来です。だから「塗装だけ」の話ではなく、大規模修繕の主要工種がまとめて影響を受けるのです。
私がこの構造をしつこく説明するのには理由があります。原因が「一つの材料」ではなく「石油という川上」にあるため、ある材料を別の材料で代替しようとしても、その代替材料も同じ川から流れてきている、という逃げ場のなさがあるからです。
どの資材が、どれくらい厳しいのか
全国建設業協会が71種類の建設資材について行った2026年4月の調査では、塗料・断熱材・防水剤・ポリ塩化ビニル管(塩ビ管)を中心に、出荷制限・受注停止・数量割り当てが拡大していると報告されています。これまで数日で入手できていた塗料や電線、設備機器までもが「入荷未定」になるなど、納期の長期化が顕著だとされています(出典:ブルームバーグ報道(全国建設業協会の発表))。
大規模修繕に関わる工種に当てはめると、影響の出やすさはおおむね次のように整理できます。
| 工種 | 主に使う資材 | 影響の受けやすさ | 補足 |
|---|---|---|---|
| 外壁塗装(油性) | 油性塗料・シンナー | 大 | 溶剤系の調達が特に逼迫。色番号によっては納期未定も |
| 防水(ウレタン・塩ビシート) | ウレタン材・塩ビシート・接着剤 | 大 | 屋上・バルコニーの工期に直結 |
| シーリング | 変成シリコン等の充填材 | 中〜大 | 目地・サッシまわり。劣化放置は漏水リスク |
| タイル張替・補修 | 接着剤・エポキシ | 中 | 接着剤の納期に左右される |
| 給排水・配管 | 塩ビ管 | 中〜大 | 設備改修を同時に行う場合は要注意 |
※上記は2026年4〜6月時点で報じられている傾向にもとづく整理です。資材ごとの状況は週単位で動いており、メーカーや在庫状況によって差があります。実際の納期は必ず施工会社・メーカーにご確認ください。
水性塗料は比較的影響が小さいと言われますが、すべての部位を水性で賄えるわけではありません。下地や旧塗膜との相性、耐久性の要求によっては油性を選ばざるを得ない場面があり、「水性に切り替えれば解決」という単純な話にはなりません。ここは専門家が現場ごとに判断すべきところです。
政府の対応——「1.8倍供給」は朗報。ただし“即解消”ではない
2026年6月2日、高市首相は中東情勢に関する関係閣僚会議で、塗料やシンナーの流通に目詰まりが生じていることを踏まえ、原料となるトルエンなどを最大で例年の約1.8倍供給する方針を示しました。あわせて、商社経由だけでなく、石油化学メーカーや石油元売りからシンナー・塗料メーカーへ直接供給する仕組みも設けるとしています。ナフサの代替調達は従来の約85%の水準まで回復しているとも説明されました(出典:時事ドットコム 2026年6月2日、NHKニュース)。
これは現場にとって、間違いなく前向きな話です。私も少しほっとしました。
ただし——ここは正直に申し上げます。「方針が示された」ことと「現場に物が届く」ことの間には、必ずタイムラグがあります。原料が増産されてから、それがシンナーや塗料になり、問屋を経て現場に並ぶまでには時間がかかります。色番号ごとの在庫の偏りも残ります。
ですから「政府が動いたからもう大丈夫」と工程を楽観し切るのは早計です。逆に「全部止まるから今すぐ全部発注しろ」と慌てるのも違います。大事なのは、自分の建物の修繕がどの工種に、どの時期に、どれだけ依存しているかを把握したうえで、優先順位をつけて動くことです。
あなたの建物に、具体的にどう響くのか
ここからが、オーナーさま・管理組合にとっての実務の話です。資材逼迫は、主に三つの形で跳ね返ってきます。
1. 工期の遅延
材料が入らなければ、職人がいても工事は進みません。特に梅雨明け後の夏場は防水・塗装の需要が一斉に高まる時期で、ただでさえ職人と材料の取り合いになります。そこに資材不足が重なると、「足場を組んだのに材料待ちで止まる」という最悪の事態が起こり得ます。足場は組んでいる期間そのものが費用ですから、待ち時間がそのまま無駄なコストになります。
2. 見積りの“賞味期限”切れ
資材価格が動いている局面では、見積りの有効期限が短くなりがちです。半年前にもらった見積りが、今はもう通用しない、ということが普通に起こります。総会で承認した予算と、実際の発注額がズレる原因になります。
3. 価格転嫁・スライド条項の発動
公共工事の世界では、資材高騰に対応するため、実勢価格の調査頻度を上げ、設計変更や価格転嫁(いわゆるスライド条項=資材価格が一定以上動いたら契約金額を見直す仕組み)を適切に運用するよう、業界団体から国に要請が出ています。民間の大規模修繕でも、契約書に資材スライドの取り決めがあるかどうかで、もめ方が大きく変わります。
私がいつも理事長さまにお伝えしているのは、「安いか高いかの前に、止まらないか・もめないかを見てください」ということです。資材が読めない時期は、価格の数%より、工期の数週間と契約の一文のほうが、結果的に大きな差になります。
現場で実際に起きたこと
少しだけ、私の現場の話をさせてください。
数年前、ある別の理由で塗料の特定色が全国的に品薄になったことがありました。あるマンションの大規模修繕で、外壁の指定色がちょうどその色番号に当たってしまったのです。足場はすでに全面に架かっている。職人も手配済み。なのに塗料だけが来ない。
あのとき私は、メーカーの担当者に何度も頭を下げ、近い色番号への変更を理事会に提案し、一部の面を先行して別工程に振り替えて、なんとか足場の延長を最小限に抑えました。それでも、当初より工期は10日ほど延びました。足場費にしておよそ数十万円。住民の皆さまにも、ベランダが使えない期間が延びるご不便をおかけしました。
このとき骨身にしみたのは、「材料が読めない時期は、工程を一本道で組んではいけない」ということです。どこかが止まっても全体が止まらないよう、先行できる工種・後回しにできる工種をあらかじめ仕分けしておく。これができるかどうかで、資材逼迫の局面では結果がまるで変わります。
いま起きているナフサ不足は、当時の「一色だけ」とは比べ物にならない、塗料・防水・接着剤を横断する逼迫です。だからこそ、工程の組み方と工法の選び方が、これまで以上にものを言います。
工法の選び方で「工期リスク」は下げられる——足場・ロープアクセス・ハイブリッド
ここで、私たちのような施工会社の出番です。資材が読めない時期に効いてくるのが、「どの工法で工事を組むか」という設計です。
大規模修繕には、大きく三つの工法があります。当社はこの三つすべてを建物の特性に応じて提案できる、日本でも数少ない会社です(→大規模修繕工事のご紹介)。
| 工法 | 仕組み | 資材逼迫期の強み | 向いている建物 |
|---|---|---|---|
| 通常足場工法 | 建物全体に仮設足場を架ける | 面で一気に施工できる | 中低層・複雑形状 |
| ロープアクセス工法(無足場) | 産業用ロープで吊り下がって施工 | 足場の架設・解体が不要。部分先行・部分対応が機動的 | 高層・足場が架けにくい・コスト最重視 |
| ハイブリッド工法 | 部位ごとに足場とロープを使い分け | 「待てる面は後回し、急ぐ面は先行」の工程設計ができる | 大規模・複雑物件 |
注目していただきたいのは、ロープアクセス工法(建物の外壁に足場を架けず、産業用ロープで作業者が吊り下がって作業する無足場の工法)の機動力です。
足場工法は、全面に足場を架けてから工事を始めます。だから「材料待ちで全体が止まる」と、架けっぱなしの足場費がのしかかります。一方ロープアクセスは、足場の架設・解体という大がかりな前後工程がないため、材料が入った面から順に、小さく着手して小さく仕上げることができます。資材が小ロットでしか入らない局面では、この「小回り」が効きます。
そしてハイブリッド工法なら、たとえば「材料が確保できている北面の防水は先に着手し、塗料待ちの南面は工程を後ろにずらす」といった設計が可能です。一本道の工程ではなく、止まりにくい工程を組む。これが資材逼迫期の工期を守るうえで、私が最も重視している点です(→ロープアクセス工法のご紹介)。
なぜ専門職フランチャイズが、資材逼迫期に強いのか
もう一つ、当社の強みをお話しさせてください。
当社は、ロープアクセス工事として日本で初めてフランチャイズ展開を行っており、塗装・防水・タイル・電気・看板といった各分野の専門職が加盟しています。一見すると資材不足とは関係なさそうですが、こういう局面でこそ効いてきます。
理由は二つあります。
一つは、各分野の専門職が直接つながっていること。塗料が厳しければ防水を先に、という工種の組み替えを、間に何社も挟まずに現場の判断で素早くできます。元請—下請—孫請と何層も重なっていると、こうした柔軟な組み替えは時間がかかりますが、専門職が同じネットワークにいれば話が早いのです。
もう一つは、中間マージンを削れること。資材が高騰している局面では、施工側のコストはどうしても上がります。そのなかで仕上がりの品質を落とさず価格を抑えるには、施工体制そのものの無駄を削るしかありません。専門職が直接加盟する仕組みは、いわゆる「中抜き」を減らし、高品質と低価格を両立させるための土台になっています。
私はこれを、必ずワンセットで提案するようにしています。工法の選択肢と、専門職のネットワーク。この二つがそろって初めて、「資材が読めない時期でも、止めずに・もめずに・品質を落とさず」修繕をやり切れるからです。
今この時期に、オーナー・管理組合がやるべき5つのこと
では、具体的に何をすればよいのか。優先度順に5つ挙げます。
1. 修繕の「時期」を施工会社と再確認する
今年〜来年に塗装・防水を予定しているなら、まず施工会社に「現時点で、想定している資材の納期はどうか」を確認してください。色番号・材料メーカーまで踏み込んで聞くのがコツです。
2. 見積りの有効期限と、資材スライドの扱いを確認する
見積りがいつまで有効か。資材価格が一定以上動いたときに契約金額をどう扱うか(スライド条項の有無)。この二点を、契約前に必ず文書で確認してください。後から「言った・言わない」でもめるのが一番つらいので。
3. 工程を「一本道」にしない設計を相談する
材料待ちで全体が止まらないよう、先行できる工種・後回しにできる工種を仕分けてもらいましょう。足場工法だけでなく、ロープアクセスやハイブリッドで工期リスクを下げられないか、複数案を出してもらうのが理想です。
4. 緊急性の高い劣化(漏水・剥落リスク)を優先する
シーリング切れや防水の劣化を放置すると、漏水という二次被害につながります。資材が逼迫していても、安全・漏水に直結する部位は優先して手当てすべきです。「全部待つ」ではなく「危ない所から」です。
5. 総会・理事会で、この状況を共有しておく
6月は総会シーズンです。「資材高騰と納期長期化が起きている」という事実を、今のうちに理事会で共有しておくと、後で工期や金額が動いたときの合意形成がぐっと楽になります。
ただし——慌てて発注すべきではないケースもあります
ここは両論併記で正直にお伝えします。
「資材が止まるなら、今すぐ前倒しで発注しよう」——この判断が、必ずしも正解とは限りません。
たとえば、長期修繕計画上まだ数年先でよい工事を、不安だけで前倒しすると、本来不要な出費を早めることになります。劣化が進んでいない部位を慌てて触る必要はありません。また、価格が高止まりしている今まさに発注すると、割高な単価で契約してしまう可能性もあります。政府の供給拡大策が効いてくれば、半年〜1年で状況が緩む可能性も指摘されています。
だからこそ、判断の軸は「不安」ではなく「劣化の実態と緊急度」であるべきです。漏水・剥落につながる部位は急ぐ。まだ余裕のある部位は、状況を見ながら最適なタイミングを計る。この見極めこそ、専門家に相談する価値のあるところだと、私は考えています。
よくあるご質問(FAQ)
Q1. ナフサ不足はいつまで続きますか?
正確な終息時期を断言できる人はいません。政府は供給拡大と年度を越えた供給継続の見通しを示していますが、中東情勢に左右されるため流動的です。「数か月で楽になる」という見方もあれば「価格は元には戻らない」という見方もあります。確実なのは、今は週単位で状況が動いているということです。
Q2. 水性塗料に変えれば問題は解決しますか?
部分的には有効ですが、万能ではありません。下地や旧塗膜との相性、求める耐久性によっては油性が必要な場面があります。「水性に統一すれば解決」と単純化せず、部位ごとに専門家の判断を仰いでください。
Q3. 見積りが半年前より上がっていました。ぼったくられているのでしょうか?
資材価格が実際に上がっているため、適正な見積りでも金額が上がっている可能性は十分あります。大切なのは、見積りの内訳(材料費・労務費・足場費)が明示され、値上がりの根拠が説明できるかどうかです。複数社で内訳を比べると、適正さが見えてきます。
Q4. 工期が延びると、足場代も増えますか?
足場工法の場合、足場を架けている期間が延びれば、そのぶん費用が増えるのが基本です。だからこそ、材料待ちで止まらない工程設計や、足場に依存しないロープアクセスの活用が、コスト面でも意味を持ちます。
Q5. 今、相談だけしておくことに意味はありますか?
大いにあります。むしろ今やるべきは「発注」より「整理」です。自分の建物がどの工種にどれだけ依存しているかを把握し、優先順位をつけておくだけで、いざ動くときの判断が速く・正確になります。
まとめ——「止めない・もめない・品質を落とさない」修繕へ
最後に、要点をもう一度整理します。
いま、ナフサ不足によって塗料・防水材・接着剤の品薄が現実に起きており、全国建設業協会も「工事の中止や遅延が避けられない状況」と表明しました。政府は原料供給を例年の約1.8倍に拡大する方針を示しましたが、現場に物が行き渡るまでにはタイムラグがあります。
この局面で大規模修繕を控えるオーナーさま・管理組合がやるべきは、不安に駆られて慌てることでも、楽観して放置することでもありません。自分の建物の劣化の実態と緊急度を把握し、工程を一本道にしない設計と、最適な工法の選択で、工期とコストのリスクを下げることです。
私たちは、足場・ロープアクセス・ハイブリッドの三つの工法から建物にとってベストな組み方を提案でき、塗装・防水・タイルなどの専門職が直接つながるネットワークを持っています。資材が読めない時期だからこそ、この組み合わせが効きます。
総会の前段階の整理だけでも、お力になれることがあります。「うちの修繕、このまま予定通りいくのか」と少しでも不安に感じたら、ご相談だけでも遠慮なくお声がけください(→お問合せフォーム)。資材の状況も、工法の選択肢も、まずは一緒に整理するところから始めましょう。
出典・参考資料
- 時事通信「ナフサ製品『年度越え供給可能』 シンナー原料1.8倍に―高市首相」(2026年6月2日)
- ブルームバーグ(Yahoo!ニュース転載)「ナフサ由来資材足りず、工事中止や遅延は不可避と業界団体-イラン戦争」(全国建設業協会の2026年4月30日緊急要望に関する報道)
- 国土交通省「公式サイト(建設資材・労務単価等)」
- 全国建設業協会「公式サイト」
- ダイヤモンド不動産研究所「ナフサ不足で住宅建設・リフォーム工事がストップ?『接着剤不足』が招く最悪シナリオを徹底検証」
※本記事の数値・日付は、上記の報道・公的情報にもとづき2026年6月5日時点で整理したものです。資材の納期・価格は週単位で変動しており、実際の状況は施工会社・メーカーへ個別にご確認ください。
▼ロープアクセス工法・無足場工法の詳細解説はこちら
ロープアクセスドットコム|無足場工法専門メディア
建設費高騰で、ついに業界団体が「初めて」動いた——労務単価14年連続増・初の2.5万円超の時代に、マンション・ビルオーナーが大規模修繕で“足場を二度組まない”ためにできること【2026年6月】
総会の季節になると、私のところへ「本間さん、今年の修繕、また見積もりが上がったんですが、これ普通なんですか」というご相談が増えます。築20年前後のマンションをお持ちの理事長さま、収益物件を何棟か回しているオーナーさま。皆さま、決まって同じ顔をされます。「自分の物件だけが割高なのか、それとも世の中全体がそうなのか」が分からない、という顔です。
結論から申し上げます。それは、あなたの物件だけの話ではありません。日本全体で、建物を直すコストそのものが構造的に上がり続けています。そして2026年6月、その流れに対して業界団体が「初めて」と言われる動きを取りました。今日は、そのニュースを入り口に、現場で20年やってきた私が「値上げの前に必ず確認すること」を、できるだけ正直にお話しします。
2026年6月、建設業界で「初めて」の協議体ができた
2026年6月1日、デベロッパーが加盟する不動産協会と、建設大手が加盟する日本建設業連合会(以下、日建連)が、建設費高騰への対応を話し合う協議会を設置しました。報道によれば、両者が共同で協議体を設けるのは初めてのことです(出典:日本経済新聞「不動産と建設の業界2団体、建設費高騰で協議会 生産性向上など議論」)。
協議会は1年後をめどに、連携して解決すべき優先課題を整理し、取り組み方針をまとめる想定です。具体的なテーマごとの議論は実務者レベルの幹事会が担い、2026年度中に2〜3カ月に1回ほど開かれる予定とされています。背景には、再開発の停滞があります。建てる側も、発注する側も、「このままでは事業が成り立たない」という危機感を共有し始めた、ということです。
実はこの協議会、降って湧いた話ではありません。不動産協会は2025年11月に、建設費高騰への対応をめぐって日建連へ緊急の申し入れを行い、協議の場の設置を求めていました(出典:建設通信新聞Digital「建設費高騰問題で日建連に異例の申し入れ/実務協議の設置へ調整/不動産協会」)。発注者側が「異例の申し入れ」をするほど、現場の数字は逼迫していた、ということです。
ここで一度、立ち止まっていただきたいことがあります。これは新築の再開発や超大型案件だけの話だと思われがちですが、そうではありません。建物を直すための単価が上がっているという事実は、あなたのマンションやビルの「次の大規模修繕(建物全体を一斉に直す十数年に一度の大工事)」の見積もりにも、確実に効いてきます。ここからが本題です。
値上がりは「直す」だけでなく「建てる」も止め始めている
この建設費高騰は、修繕の現場だけの話ではありません。象徴的なのが、大型ホテルの建て替え計画にまで遅れが出ていることです。報道では、建設費の高騰を背景に、著名なホテルの建て替えで解体工事の着工時期が延期されるなど、計画の見直しが相次いでいるとされています(出典:朝日新聞「帝国ホテルも…建設費高騰で相次ぐ計画遅れ 業界は『異例』の協議会」)。「建てる」という最も体力のある事業者ですら、いったん立ち止まらざるを得ない。それが今の建設コストの水準だ、ということです。
加えて、足元では資材調達の不安も重なっています。中東情勢などを背景に、石油由来の建築資材の供給不安が指摘され、建築資材の品切れ・品薄が相次いでいるという報道もあります。塗料をはじめ、修繕に欠かせない資材が「お金を出しても、すぐには手に入らない」局面が出てきている、ということです。私の周りでも、特定の塗料や副資材の納期が読みにくくなったという声を、現場から実際に耳にします。
私がここで申し上げたいのは、不安を煽ることではありません。むしろ逆で、「価格が下がるのを待つ」という選択肢が現実的ではなくなりつつある、という事実を冷静に共有したいのです。待っている間にも資材費と人件費は上がり、必要な資材が手に入りにくくなる。だとすれば、限られた予算の中で「工法と段取りで賢く削る」ことに知恵を集中させるほうが、ずっと建設的だと私は考えています。
なぜここまで上がったのか——労務単価14年連続増という「構造」
「資材が高い」「人手が足りない」という話は、皆さまも耳にされていると思います。ただ、なんとなくの印象ではなく、公的な数字で押さえておくと、総会での説明がぐっと楽になります。
国土交通省は、令和8年(2026年)3月から適用する公共工事設計労務単価を、全国全職種の単純平均で前年度比4.5%引き上げました。全国全職種の加重平均値は25,834円となり、初めて25,000円を超えています。しかもこれは、平成25年度の改定から数えて14年連続の上昇です(出典:国土交通省「令和8年3月から適用する公共工事設計労務単価について」)。
公共工事設計労務単価というのは、国が公共工事の予算を組むときに使う「職人さん一人を一日雇うといくらか」の基準額です。民間の大規模修繕に直接そのまま使うわけではありませんが、職人さんの賃金相場を映す代表的な指標として、民間工事の見積もりにも影響します。これが14年連続で上がり、ついに一日2.5万円を超えたという事実は、「人件費が一時的に跳ねている」のではなく「もう戻らない水準で上がり続けている」ことを意味します。
資材側も同じ方向です。日建連の整理では、2021年1月と比べて全建設コストは25〜29%ほど上昇しているとされています(2025年8月版の試算)。直近でも建設物価は前年同月比でプラス数%の上昇が続いており、ある調査では2025年8月の建設総合の建設物価指数(東京)は143、前年同月比+3.2%という水準が示されています。
私が現場で20年やってきて、一番悔しい思いをするのは、こうした「構造的な値上がり」を、まるで施工会社のさじ加減のように受け止められてしまうときです。値上がりの大半は、職人さんの正当な賃金と、世界的な資材コストの上昇から来ています。ここを誤解したまま総会で「もっと安い会社はないのか」という議論だけを続けると、肝心の「どこで本当にコストを削れるのか」という話にたどり着けません。
なお、大規模修繕は塗装・防水といった人件費の比重が高い工事が多いのも特徴です。つまり、労務単価の上昇がそのまま効きやすい構造を持っています。一般的な建築物価の上昇率よりも、修繕工事のほうが上振れしやすい、と私は現場感覚として受け止めています。
大規模修繕費は、この10年あまりで「約1.6倍」になった
数字を、皆さまの財布の感覚に置き換えてみます。
民間のコスト試算では、マンション大規模修繕の費用は1戸あたりで、2013年ごろの約93万円から、2025年には約150万円へと、この十数年で約1.6倍に上昇したとされています。2026年の予測値は1戸あたり約161万円という試算もあり、工事内容によっては1戸あたり200万円を超えるケースも珍しくない、というのが各社の見立てです(民間試算のため、あくまで目安としてご覧ください。出典:新東亜工業「マンション大規模修繕の費用推移」)。
100戸のマンションなら、1戸あたり50万円の差は、それだけで総額5,000万円の差です。これは決して小さな端数ではありません。だからこそ、私はオーナーさま・理事会に「総額の数字だけを見て一喜一憂しないでください」とお伝えしています。見るべきは「総額のうち、どこが構造的に動かせない費用で、どこが工夫の余地のある費用か」です。
そして、ここに収益不動産オーナーならではの論点が加わります。修繕の遅れや、見栄えの劣化は、空室率や家賃水準にそのまま跳ね返ります。直近では各地で募集家賃が最高値を更新したという調査も出ており、立地と建物の状態が良ければ賃料を維持・向上できる地合いではあります。逆に言えば、修繕を先送りして建物の印象を落とすことは、いまの市況では「取れるはずの家賃を自ら手放す」ことになりかねません。コスト削減と資産価値維持は、本来セットで考えるべきものなのです。
値上げの前に、私が必ず確認する「3つの工法」
ここからが、私が一番お伝えしたい部分です。建設費が構造的に上がっている時代に、オーナー・管理組合ができる現実的なコスト最適化は、「職人さんの賃金を値切ること」ではありません。それは品質低下と事故のリスクを呼ぶだけで、長い目で見れば最も高くつきます。
私が必ず確認するのは、「その建物に、どの工法が一番合っているか」です。大規模修繕の費用のうち、無視できない割合を占めるのが「仮設足場(建物の周りに組む作業用の足場)」の費用です。建物をぐるりと囲う足場は、組むのにも解体するのにも費用と工期がかかり、しかも工事が終われば撤去してしまう、いわば「直接は建物に残らないコスト」です。ここに手を入れられるかどうかが、総額を左右します。
私の会社では、次の3つの工法を、建物の特性に応じて使い分けています。
- 通常足場工法:従来どおり建物の周囲に仮設足場を組む方法です。複雑な形状や、中低層で全面的に手を入れる物件では、結局これが最も確実で合理的なことも多いです。
- ロープアクセス工法(無足場工法):産業用のロープで作業員が壁面に直接アクセスし、足場を組まずに塗装・防水・タイル補修などを行う方法です。足場費を圧縮でき、工期も短縮しやすく、居住者・利用者の生活への影響も抑えられます。高層物件や、足場が組みにくい敷地、コストを最重視する物件で力を発揮します。
- ハイブリッド工法:建物の部位ごとに足場とロープアクセスを使い分ける方法です。「正面は足場、背面や塔屋まわりはロープ」といった具合に組み合わせ、総合コストを最適化します。
正直に申し上げます。世の中の施工会社の多くは、この3つのうち1つか2つしか持っていません。足場しか持たない会社に相談すれば、当然「足場ありき」の見積もりが出てきます。ロープしか扱わない会社なら、足場が本当は最適な物件にも無理にロープを当てようとするかもしれません。私はこれを、必ず3つ並べて比較したうえでご提案するようにしています。なぜなら、建物にとってベストな工法は、会社の都合ではなく建物の形と状態が決めるものだからです。詳しくはロープアクセス工法のご紹介と大規模修繕工事のご紹介もご覧ください。
もう一つ、私たちには日本で初めてとなるロープアクセス工事のフランチャイズ展開があります。塗装・防水・タイル・電気・看板といった各分野の専門職が加盟しているため、中間に余計な業者を挟まずに、高品質と低価格を両立しやすい体制になっています。建設費が上がる時代ほど、この「無駄な中抜きを減らす」という発想が効いてきます。
「足場を二度組まない」という考え方
建設費高騰の時代に、私が最ももったいないと感じるのは、「足場を何度も組み直すこと」です。
たとえば、外壁塗装のために足場を組み、その数年後に防水のためにまた足場を組み、さらに数年後に省エネ改修でもう一度組む。仮設足場の費用は、組むたびに丸ごとかかります。先ほど申し上げたとおり、足場費は建物に残らないコストです。これを二度、三度と払うのは、構造的に値上がりしている時代には特に大きな損失になります。
だからこそ私は、「次に足場を組むなら、そのタイミングで一緒にやれることはないか」を必ず一緒に考えます。外壁・防水・必要なら省エネ改修まで、一度の仮設で束ねられないか。あるいは、足場を組むほどではない部分はロープアクセスで先に手当てして、足場の規模そのものを小さくできないか。こうした「段取りの設計」こそが、建設費高騰時代のコスト最適化の本丸だと、私は考えています。
現場で実際にあった話——足場の規模を3割減らせた管理組合
少し、現場の具体的な話をさせてください。あるとき、首都圏の築22年・80戸ほどのマンションで、理事長さまから「3回目の大規模修繕の見積もりが、前回の1.4倍近くになってしまった」とご相談をいただいたことがあります。最初に出ていた見積もりは、建物全面に足場を組む前提のものでした。
私は現地で建物を一周し、図面と劣化状況を照らし合わせました。すると、足場が本当に必要なのは正面と妻側(建物の短い側面)のタイル・シーリングの打ち替え部分で、背面とバルコニー側の塗装・防水のかなりの範囲は、ロープアクセスで十分に手が届くことが分かりました。そこで、足場を組む範囲を建物の一部に絞り、残りをロープアクセスで受け持つハイブリッドの組み方に変えました。
結果として、仮設足場の規模を当初案からおおむね3割ほど縮小でき、その分だけ総額を圧縮することができました。さらに副次的な効果として、足場で覆われる期間と面積が小さくなったため、「日当たりが悪くなる」「外から室内が見えて不安」といった居住者の不満も減りました。理事長さまからは「数字が下がったことより、住人からのクレームが減ったことのほうが助かった」と言われたのを、今でも覚えています。
ここで強調したいのは、「ロープアクセスにしたから安くなった」という単純な話ではない、ということです。建物を一度きちんと見て、どの部位にどの工法を当てるのが最適かを設計し直したから、足場の規模を適正化できた。工法は目的ではなく手段です。私はいつも理事長さまに、「まず建物を見せてください、答えはそこにあります」とお伝えしています。
修繕積立金の「値上げ」は、最後の手段にしてほしい
建設費が上がると、多くの管理組合がまっさきに「修繕積立金の値上げ」を検討します。もちろん、計画的な積立は健全な管理の基本ですし、不足しているなら見直しは避けられません。ただ、私は「値上げは最後の手段にしてほしい」とお伝えしています。
理由は二つあります。一つは、値上げが家計に与える負担が想像以上に重いことです。ある調査では、過去に積立金の値上げを経験した世帯の約7割が「家計への影響」を実感し、その半数以上が食費や光熱費といった生活必需費を切り詰めていたという結果が出ています。値上げは「数字の調整」ではなく、住民一人ひとりの暮らしに直結します。
もう一つは、値上げを急ぐ前に、工事側でできる工夫がまだ残っていることが多いからです。専門家からは、積立金の値上げ幅は急激にしすぎず段階的に、という考え方も示されています。だからこそ、いきなり積立金を引き上げる前に、「工法の見直しで総額をどこまで下げられるか」「足場を束ねて回数を減らせないか」を先に検討する順番が大切なのです。値上げの議論と工法の議論を同じテーブルに乗せること。これが、私が総会前のオーナーさま・理事会にお願いしている一番のポイントです。
収益物件オーナーへ——修繕は「出口」も左右する
ここからは、特に収益不動産をお持ちのオーナーさまに向けた話です。
賃貸として運用している物件では、修繕は単なる「コスト」ではなく、家賃と入居率、そして売却時の価格を左右する「投資」です。直近の市況では、各地で募集家賃が最高値を更新したという調査もあり、立地と建物状態が良ければ賃料を維持・向上しやすい地合いが続いています。逆に、外壁の汚れやひび割れ、防水の劣化を放置すれば、内見時の印象が落ち、家賃を下げざるを得なくなります。値下げで失う家賃は、修繕費よりもじわじわと、しかし確実に効いてきます。
さらに見落とされがちなのが、売却(出口)のときです。私の経験上、修繕の履歴がきちんと残っていて、直近で適切に手が入っている物件は、買い手から見て「安心して引き継げる物件」です。逆に、いつ何をやったか分からない物件は、買い手側が将来の修繕リスクを織り込んで価格を引いてきます。つまり、適切な修繕とその記録は、保有中の家賃だけでなく、売るときの価格にも効くのです。
だからこそ私は、収益物件のオーナーさまには「修繕を、保有から出口までの一本の線で考えてください」とお伝えしています。コストを最適化しつつ、建物の価値と記録をきちんと残す。その積み重ねが、最終的な投資リターンを大きく変えます。とりわけ複数棟をお持ちのオーナーさまは、棟ごとに足場を組む時期がばらばらになりがちです。ポートフォリオ全体で「いつ、どの棟に、どの工法で入るか」を一枚の表に落とすだけでも、数年単位で見たときの総支出はずいぶん変わってきます。
総会で必ず聞かれる5つの質問と、私の模範回答
6月は総会のシーズンです。理事長さま・オーナーさまから「総会でどう説明すればいいか」というご相談が一番増える時期でもあります。よく聞かれる5つの質問と、私がいつもお伝えしている答え方を、そのまま置いておきます。
質問1:「なぜ前回より見積もりが上がっているのか」
お答え:施工会社の都合ではなく、職人さんの賃金(労務単価は14年連続で上昇し、ついに一日2.5万円超)と資材費の構造的な上昇が主因です、と公的な数字で説明します。感情論を避け、出典を示すと納得が得られやすくなります。
質問2:「もっと安い会社に頼めば下がるのか」
お答え:賃金や資材の相場は会社をまたいでも大きくは変わりません。本当に差が出るのは「工法の選び方」と「段取り」です、とお伝えします。安さの正体が品質や保証の削減でないか、必ず確認すべきです。
質問3:「修繕積立金を値上げしないと無理なのか」
お答え:値上げの前に、工法見直しで総額をどこまで圧縮できるかを先に検討しましょう、と提案します。値上げ幅は世帯の家計を直撃します。過去に値上げを経験した世帯の多くが家計への影響を実感しているという調査もあり、まず工事側の工夫を尽くす順番が大切です。
質問4:「工事中、住人や利用者の生活はどうなるのか」
お答え:足場は防犯面・採光面・プライバシー面の負担が大きい一方、ロープアクセスを組み合わせると影響を抑えられる部位があります、と具体的に説明します。居住者の納得は、工事をスムーズに進めるうえで欠かせません。
質問5:「今やるべきか、もう少し待つべきか」
お答え:費用は構造的に上がり続けており、「待てば下がる」可能性は低い状況です。ただし、劣化を放置すると後の工事費が膨らむため、長期修繕計画(十数年単位の修繕の計画表)に照らして判断しましょう、とお伝えします。
ロープアクセスが効く物件・効かない物件(両論併記)
公平のために、デメリットもはっきり申し上げます。ロープアクセス工法は万能ではありません。
向いているのは、高層で足場の架設が難しい物件、敷地が狭く足場を建てにくい物件、部分的な補修や点検、そしてコストを最重視する物件です。一方で、外壁を全面的に張り替えるような大がかりな工事や、足場の作業床がどうしても必要になる工程が多い場合は、通常足場のほうが結果的に安全で合理的なこともあります。天候の影響も足場より受けやすく、強風時は作業を止める判断が必要です。
ですから私は、「御社の物件はロープアクセスで全部いけます」とは申し上げません。建物を一度きちんと見せていただいて、足場・ロープ・ハイブリッドの3案を並べ、それぞれの概算と工期、生活への影響をお示ししたうえで、オーナーさま・理事会に選んでいただく。これが一番フェアなやり方だと考えています。
いま、オーナー・理事会が動くべき順番
最後に、具体的な行動の順番を整理します。読み終えたら、ぜひ次の流れで動いてみてください。
- 長期修繕計画を引っぱり出す:次の大規模修繕がいつ予定されているか、積立金の残高はいくらかを確認します。
- 「足場を組む予定」を洗い出す:今後10年でいつ足場を組む計画か。複数回あるなら、束ねられないかを検討します。
- 3工法での比較見積もりを取る:足場前提の1社だけでなく、ロープアクセスやハイブリッドを扱える会社にも声をかけ、工法ごとの違いを見比べます。
- 総会で「数字と出典」で説明する:値上がりの理由を公的データで共有し、感情論ではなく工法と段取りの議論に持っていきます。
この順番で進めるだけでも、「とりあえず積立金を値上げ」という結論に飛びつく前に、いくつもの選択肢が見えてくるはずです。
よくあるご質問(FAQ)
Q. ロープアクセスにすると、どのくらいコストが下がりますか。
A. 物件の形状や工事範囲によって大きく変わるため、一律に「○%下がる」とは申し上げられません。足場費の比重が大きい物件ほど効果は出やすい傾向です。まずは実際の建物で概算を比較するのが確実です。
Q. 築古の収益物件でも相談できますか。
A. もちろんです。むしろ築年数が進んだ物件こそ、限られた予算で資産価値を守る工法選びが重要になります。出口(売却)を見据えた修繕履歴の整え方も含めてご相談いただけます。
Q. 相談すると、必ず工事を発注しないといけませんか。
A. そのようなことはありません。総会前の整理や、見積もりの読み解きだけでもお力になれます。
Q. ホテルやテナントビルでも対応できますか。
A. 対応しています。営業を止めずに進めたいホテルや、テナントの稼働に配慮したいビルでは、足場で全面を覆わずに済むロープアクセスの組み合わせが特に有効なことがあります。稼働への影響を抑えながら必要な部位を直す計画を、一緒に組み立てます。
おわりに
業界団体が初めて協議会をつくったというニュースは、裏を返せば「建設費の高騰は、もう個社の努力だけでは吸収しきれないところまで来ている」という業界からのメッセージでもあります。だからこそ、建物を持つ側にできる工夫——工法の選び方と、足場を二度組まない段取り——の価値が、これまで以上に大きくなっています。
これは私が現場で20年見てきた、嘘偽りのない感想です。総会の前の整理だけでも、見積もりの読み解きだけでも構いません。ご相談だけでも遠慮なくお声がけください(お問合せフォーム)。次回も、現場で本当に使える話だけをお届けします。
出典・参考資料
- 国土交通省「令和8年3月から適用する公共工事設計労務単価について」
- 日本経済新聞「不動産と建設の業界2団体、建設費高騰で協議会 生産性向上など議論」
- 建設通信新聞Digital「建設費高騰問題で日建連に異例の申し入れ/実務協議の設置へ調整/不動産協会」
- 朝日新聞「帝国ホテルも…建設費高騰で相次ぐ計画遅れ 業界は『異例』の協議会」(2026年)
- 日本建設業連合会「建設資材高騰・労務費の上昇等の現状」
- 新東亜工業「マンション大規模修繕の費用推移を解説」(民間試算・目安)
▼ロープアクセス工法・無足場工法の詳細解説はこちら
ロープアクセスドットコム|無足場工法専門メディア
塗料が6月から最大35%値上げ──大規模修繕の見積もりはいつ確定すべきか、私が現場で考えていること
メタディスクリプション
日本ペイントが6月1日から塗料を最大35%値上げ。大規模修繕の総工費に与える影響を実数で試算し、見積もり凍結条項やロープアクセス工法で値上げ分を相殺する実務策まで、本間が現場目線で解説します。
築15〜25年のマンション理事長さま、収益物件をお持ちのオーナーさま。今この記事を開いてくださったのは、間違いなく正解です。
私は株式会社明誠で長年、大規模修繕の現場に立ってきました。先週、業界紙の見出しを見て、思わず手元の電卓を叩いたほどの話があります。「日本ペイントが6月1日出荷分から塗料を最大35%値上げ」(出典:建設通信新聞 2026年5月19日)。
35%、です。これは消費税の率を二度上乗せするくらいのインパクトで、しかも対象は溶剤系塗料が25〜35%、水性塗料が20〜30%。大規模修繕の工事原価のうち、塗料費が占める割合は決して小さくありません。今ご自宅マンションで「来年の総会で大規模修繕の発注を決める予定です」と仰っている理事長さまが、もし手元の見積もりを6月以降に持ち越したら、何が起きるか。
ここからが本題です。
1. 6月1日からの「塗料ショック」──現場で今、何が起きているか
1-1. 日本ペイントの値上げが意味するもの
建設通信新聞によると、日本ペイントは2026年6月1日出荷分から、溶剤系塗料を25〜35%、水性塗料を20〜30%引き上げます。塗料メーカー大手の価格改定は、業界全体のベンチマークになります。私の経験上、トップメーカーが30%動くと、関西ペイント、エスケー化研、SK化研系の中堅メーカーもおおむね1〜2か月以内に同水準まで追随します。
つまり「日本ペイント以外の塗料を選べば安く済む」という逃げ道は、半年以内に塞がる可能性が高い。これが私の見立てです。
1-2. シンナー不足という、もう一つの深刻な問題
塗料そのものの価格だけでなく、シンナー(希釈用の溶剤)も4月ごろから全国的に供給不足が続いています。日本塗装工業会の地方支部から国に支援要望が出ているという報道(出典:Yahoo!ニュース 2026年5月19日)まで出ているのが現状です。記事では「4月ごろからシンナーや塗料の供給不足、相次ぐ値上げで、工事の見積もりが出せず、7月以降の予定が立たない」と塗装業者の声が紹介されています。
これは、現場の私たちが日々肌で感じている話そのものです。先週も、ある協力会社から「シンナーは入るが、いつ入るかが読めない。来月の現場の段取りが組めない」という相談を受けました。値段が上がるだけでなく、「そもそも仕入れられるかどうかが不確実」という二重苦が、いま塗装業界を覆っています。
1-3. なぜ多くの管理組合は、このニュースをまだ知らないのか
正直に申し上げます。このニュースは建設業界紙では一面級の話題ですが、一般のマンション住民や管理組合の理事長さまには、まったく届いていません。理由はシンプルで、塗料の価格改定は管理組合側からすれば「業者の都合」に見えてしまうからです。
しかし実態は逆です。これは紛れもなく管理組合の修繕予算を直撃する話であり、知らずに6月以降に発注すると、見積もり総額が数十万〜数百万円単位で変わる可能性がある、と私は読んでいます。
2. なぜここまで急騰しているのか──ナフサ・原油・為替の三重苦
2-1. 原料ナフサのひっ迫が引き金
塗料の主原料の一つがナフサです。ナフサは原油から精製される石油化学製品の素で、シンナーや溶剤、樹脂の原料になります。「スギの粉と水だけで作る木質塗料」が富山県で開発されたというニュース(出典:Yahoo!ニュース 2026年5月19日)が話題になっているのも、まさにこのナフサ依存からの脱却を目指したものです。
ナフサが入ってこない理由は複合的ですが、主因として指摘されているのは、(1)中東情勢に伴う原油市場の不安定化、(2)アジアの石化プラントの定期修繕集中、(3)為替の円安基調、の三つです。
2-2. 円安が「輸入塗料」と「国産塗料」の両方を押し上げる
意外と知られていないことですが、国産の塗料も原料の多くは輸入に頼っています。ですから円安は、輸入塗料の値段だけでなく、国産塗料の製造原価まで押し上げます。
私が現場でいつも理事長さまに申し上げているのは、「為替が動くと、塗料はもれなく動く」ということです。為替の方向感がはっきりしない局面では、塗料の価格交渉は買い手側が極めて不利になります。
2-3. 構造的な値上げで、もう「待てば下がる」は通用しない
過去10年、塗料は10〜15%の値上げを段階的に経験してきました。今回の25〜35%という幅は、構造的な要因が一気に表面化したものと私は捉えています。「半年待てば落ち着くだろう」「来期は下がるだろう」という楽観論は、現場の感覚では通用しないフェーズに入っています。
3. 大規模修繕の総工費に与える影響を、実数で試算する
3-1. 100戸マンションのモデルケースで考える
ここから具体的な数字に入ります。築20年・100戸・延床面積8,000㎡規模のマンションを想定し、大規模修繕の概算をシミュレーションしてみます。あくまで一例ですが、現場感覚に近い数字です。
| 項目 | 改修前提算 | 内訳の特徴 |
|---|---|---|
| 外壁塗装(吹付・ローラー含む) | 約2,200万円 | うち材料費(塗料)約30%=660万円 |
| シーリング打ち替え | 約800万円 | 材料費約25%=200万円 |
| 防水(屋上・バルコニー) | 約1,500万円 | 材料費約30%=450万円 |
| 鉄部塗装 | 約400万円 | 材料費約30%=120万円 |
| 仮設足場 | 約1,800万円 | ほぼ全額が手間賃/資材レンタル |
| 共通仮設・諸経費 | 約700万円 | 一式 |
| 合計 | 約7,400万円 | 戸あたり約74万円 |
塗料・シーリング・防水材の材料費合計は、約1,430万円です。ここに今回の値上げ幅(おおむね30%とする)を適用すると、材料費が約429万円上振れする計算になります。
戸あたり換算では、約4万3千円。修繕積立金から見れば、決して小さな差額ではありません。「100戸×4万3千円=429万円」を、もし足場代の見直しや工法の選択で取り戻せたら、これは数字以上に大きな意味を持ちます。
3-2. 「上振れ分」は誰が負担するのか──ここに落とし穴がある
ここで多くの理事長さまが落ちる落とし穴があります。それは、契約書に「塗料の価格変動はスライド条項の対象外」と書かれているケースが意外と多いことです。
つまり、6月1日以降の発注で、塗料価格が想定より30%上がっても、追加見積もりの根拠として施工会社が請求できる文面になっていない、ということがあります。逆に「実費精算」と書かれていれば、上振れ分はすべて発注者(管理組合)負担になります。
私はこれを「契約の読み落とし」と呼んでいます。普段の修繕では問題にならない文言が、こういう値上げ局面で初めて牙を剥きます。理事長さまには、「契約書の単価表と、原材料スライドの条項を、必ず1ページ目に出してください」とお願いしています。
3-3. すでに見積もり済みの管理組合がすべきこと
もしすでに2026年4月や5月の時点で見積もりを取得済みであれば、その見積もりの有効期限を確認してください。一般的な大規模修繕の見積もり有効期限は30日〜90日です。期限切れの直前に再見積もりを取ると、6月の値上げ後の単価が反映され、想定外の総額に跳ね上がる恐れがあります。
逆に、有効期限内であれば、その単価で契約を締結することで、値上げ前の価格を確定できる可能性があります。この一週間が、まさに分水嶺です。
3-4. 50戸クラスでも数百万円が動く
念のため、50戸規模のマンションで同じ計算を回してみます。総工費は概算で4,000万円前後、材料費(塗料・シーリング・防水材)合計は約780万円。ここに30%の上振れを適用すると、約234万円の追加負担になります。戸あたり約4万7千円。100戸でも50戸でも、戸あたり負担で見るとほぼ同じレンジに収まる、というのが私の現場感覚です。
つまり、規模が小さいから影響が軽いということはありません。むしろ50戸クラスの管理組合の方が、修繕積立金の絶対額が少ないため、上振れの体感ダメージは大きくなります。
3-5. 「値上げが定着すると、次の修繕周期まで響く」という視点
もう一点、長期目線で重要なのが、塗料の値上げが「定着」するリスクです。大規模修繕は12〜15年周期で繰り返されます。今回の25〜35%値上げが定着すれば、次回の修繕でも同じ単価がベースになります。
私の経験上、一度上がった単価が元に戻ったケースは、過去10年でほぼ記憶にありません。値上げは「ストック」として効いてくる、と申し上げる方が正確かもしれません。だからこそ、今期の修繕計画だけでなく、長期修繕計画の改訂時にも、この値上げ前提を必ず反映してください。
4. 「見積もり凍結条項」を組まないと痛い目に遭う──私が現場で必ず確認すること
4-1. 私が理事長さまに必ず提案する3つの条項
20年現場でやってきて、値上げ局面のたびにトラブルを見てきました。私が今、必ずワンセットで提案するようにしているのが、次の3つの契約条項です。
第一に、「材料価格凍結条項」。発注時点の単価を、工期途中の原材料価格変動にかかわらず維持する条項です。当然、施工会社側はリスクを取ることになりますが、信頼関係のある会社であれば、ある程度のレンジ(例:±10%以内)であれば呑むケースが多いです。
第二に、「価格スライド条項の発動条件と上限」。たとえば「ナフサ価格が契約時から20%以上変動した場合のみ協議」と具体的な数字を入れます。あいまいな条項は、必ず後でもめます。
第三に、「支払いの分割と前払い割合の調整」。値上げが見込まれる材料は、発注後に前払いで仕入れる選択肢もあります。前払い率を高める代わりに、単価を抑える交渉余地は意外と残されています。
4-2. 「言い値」を防ぐための3社相見積もりの活かし方
相見積もりの取り方にもコツがあります。値上げ局面では、特に「材料費の内訳明示」を要件に入れてください。
総額だけで比較すると、塗料グレードや使用量の差が見えません。私はいつも「主要材料の数量×単価まで出してください」とお願いします。これをやると、各社の見積もりの精度が一気に上がり、後の追加請求リスクも下がります。
4-3. 専門委員会だけでは判断しきれない場面では
大規模修繕の経験が浅い理事会や修繕委員会では、ここまで踏み込んだ契約交渉は重荷だと感じる方が多いはずです。私はそういう場面でこそ、第三者の専門家を入れることを推奨しています。コンサルタントが必ずしも必要というわけではありません。施工会社2〜3社から「同じ条件で出してもらえないか」を提案させるだけでも、契約品質は大きく向上します。
4-4. 契約締結のタイミングは、慎重に、しかしスピーディーに
最後に、契約締結のタイミングについて一言申し上げます。
「慎重に検討する」と「先延ばしにする」は、似ているようで全く違います。今回のような明確な値上げ予告が出ている局面では、議論を引き延ばすこと自体がコストです。理事会で「もう少し情報を集めてから」と先送りした結果、6月以降の単価で契約することになり、数百万円単位で総額が膨らんだケースを、私は何度も見ています。
もちろん、よく分からないまま急いで判断するのは論外です。私が理事長さまにお伝えしているのは、「判断材料を1週間以内に揃え、2週間以内に決議する」というスケジュール感です。動ける時間軸を明確にすることで、議論の質も上がります。
5. コストを抑える3つの実務手段──工法選択/工期分割/材料調達
5-1. 工法選択──足場費を圧縮できれば、塗料値上げを相殺できる
ここからは、明誠の本業の話に踏み込ませてください。
大規模修繕の総工費の中で、仮設足場費は全体の20〜25%を占めます。先ほどの100戸マンションの例では、約1,800万円。塗料の値上げ分429万円を相殺するには、足場費を23〜25%削減できれば、ちょうど打ち消せる計算になります。
これを可能にするのが、私たち明誠が提案しているロープアクセス工法(産業用ロープを使った無足場施工)です。建物の形状や規模によりますが、塗装・防水・シーリング工事を全面ロープアクセス化することで、足場費の70〜90%削減を実現したケースが、過去の自社施工で複数あります。
もちろん、すべての建物に向く工法ではありません。低層・複雑形状・足場が立てやすい建物は通常足場が向きますし、高層・直線的・コスト最重視であればロープアクセスが圧倒的に有利です。詳しくはロープアクセス工法のご紹介もご覧ください。
5-2. 工期分割──「全棟一括」から「区画分割」へ
もう一つの実務手段が、工期分割です。総工費が大きすぎる場合、全棟一括発注で1社の言い値になりがちです。これを区画ごと(例:A棟・B棟・C棟)に分割発注し、競合圧をかけ続ける方法があります。
ただし注意点として、足場の架設費は分割するほど割高になります。ここでロープアクセス工法と組み合わせると、分割発注のデメリットが薄まり、競合圧のメリットだけを取り出せる場面があります。これは私たちが「ハイブリッド工法」と呼んでいる提案です。
5-3. 材料調達──大量発注と前倒し仕入れ
最後に材料調達です。発注規模が大きいマンションであれば、塗料メーカーから直接、特別単価を引き出せる場合があります。これは元請けの裁量で決まることが多いので、契約交渉時に「メーカー特別単価の取得可否」を必ず確認してください。
また、値上げ前の最後の駆け込みとして、5月末までに材料を前倒し発注する選択肢もあります。倉庫費は若干かかりますが、35%の値上げ幅と比べれば、十分に元が取れます。
6. ロープアクセス工法で、塗料費高騰の影響を相殺する具体策
6-1. なぜロープアクセスが値上げ局面で強いのか
ロープアクセス工法は、足場の架設と解体にかかる人件費・材料費・搬入搬出費を、産業用ロープと専門技能で代替する工法です。私はこれを「足場費を消す工法」と呼んでいます。
塗料の値上げに弱いのは、塗料の使用量が多い大規模工事です。一方で、足場費の削減幅は、建物の高さと階数に正比例して大きくなります。つまり、塗料費の上振れと足場費の削減幅は、ある意味で同じ方向に動きます。
これが、ロープアクセス工法が値上げ局面で特に強い理由です。
6-2. 居住者の生活への影響も最小化できる
塗料価格の話とは少しずれますが、ロープアクセス工法のもう一つの強みは、居住者の生活影響を最小化できる点です。足場を組まないため、バルコニーが封鎖される期間が大幅に短縮されます。洗濯物が干せない期間が半分以下になったという声もいただいています。
私の経験上、大規模修繕で住民満足度を左右する一番の要素は、工事品質ではなく「日常生活がどれだけ通常通りに送れたか」です。これは数字には出ない、しかし極めて大きな価値です。
6-3. フランチャイズ加盟店による全国対応
明誠は日本で初めてロープアクセス工事のフランチャイズ展開を行っています。塗装、防水、タイル、電気、看板といった各分野の専門職が加盟しており、全国どこでも一定の品質と価格でロープアクセス施工が可能な体制を整えています。これは、私たちが何年もかけて積み上げてきた強みです。
6-4. 過去事例の数字を、率直に共有します
具体的なイメージを掴んでいただくために、過去の事例の数字を率直にお伝えします(個別物件が特定できる情報は伏せます)。
10階建て・80戸クラスの分譲マンションで、当初の通常足場案では足場費が約1,650万円。これをロープアクセス工法に切り替えた結果、足場・ロープ込みの仮設関連費が約490万円に圧縮されました。差額は約1,160万円。同じ工事内容で、です。
別の事例では、ホテル棟の外壁改修で、足場架設が困難な接道条件があり、通常足場案では工期が4か月見込みでした。これをロープアクセスに切り替えたところ、工期2.3か月に短縮。ホテルの営業損失を大幅に圧縮できました。
数字は建物条件で大きく変動しますので、これらをそのまま当てはめることはできません。ただ、「ロープアクセスでここまで効くのか」という肌感を持っていただくには、十分な振れ幅だと思います。
6-5. ハイブリッド工法という第三の選択肢
「全面ロープアクセスは怖い」「住民理解が得られにくい」という管理組合さまには、ハイブリッド工法(足場とロープアクセスの併用)も視野に入れていただきたいです。低層部分は足場、高層部分はロープアクセス、というように部位ごとに最適な工法を選択する設計です。
私が提案で重視しているのは、「無理に一つの工法に統一しない」ということです。建物の形状、住民の生活動線、近隣との接道条件、これらを全部考慮して、最もコスト効果が高い組み合わせを設計します。日本でも、3工法すべてを自社で提案できる会社は数えるほどです。明誠はその数少ない一社です。
7. 補助金・助成金で値上げ分の一部を取り戻す方法
7-1. 自治体の大規模修繕助成は、まだ多くが現役
塗料値上げの直撃を、補助金・助成金で部分的に相殺する方法があります。たとえば東京都内の多くの区市町村では、分譲マンションの長期修繕計画策定や大規模修繕への助成制度を継続しています。
最新の情報は東京都マンションポータルサイトにまとまっています。「自治体マンション施策・支援制度」のページから、ご自身のマンション所在地の自治体を検索できます。
ただし、ここで一つ注意していただきたいのは、助成金は予算枠到達で締切になる点です。「絶対に通る」「必ず使える」と私は申し上げません。あくまで「使える可能性があるので、確認する価値が十分にある」という温度感です。
7-2. 国の制度も並行して確認したい
国土交通省の「長期優良住宅化リフォーム推進事業」など、国の制度も並行して確認の余地があります。マンション全体での申請になるため、管理組合の決議が必要です。詳しくは国土交通省 住宅局のページから、最新の公募状況を確認してください。
7-3. 中小企業庁の「新事業進出補助金」は対象外だが参考に
念のため申し上げますと、5月19日に公募が始まった中小企業庁の新事業進出補助金は、企業の新事業向けで、マンション大規模修繕は対象外です。ただし、収益不動産を法人で保有しているオーナーさまの場合は、リフォーム・リノベーション事業として活用できる可能性が一部あります。法人での運用をされている方は、税理士・行政書士に相談されると良いでしょう。
8. 今こそ「修繕積立金の運用化」と並走させたい長期戦略
8-1. 日経の報じる「積立金 預金から国債運用へ」が示す方向性
日経新聞は5月19日付で、マンション修繕積立金を預金から国債運用へ振り向ける動きが出始めていると報じました(出典:日本経済新聞 2026年5月19日)。物価高をにらみ、3000万円規模の積立金を国債で運用する管理組合の事例が紹介されています。
修繕積立金の運用は、これまで多くの管理組合で「現預金で寝かせる」のが慣習でした。しかし、今回のような材料価格の急騰が続けば、積立金の実質購買力は確実に目減りします。インフレ環境で何もしないことは、それ自体が判断であり、結果として損失を被ることになります。
8-2. 運用は本業外、しかし無関心ではいられない
正直に申し上げます。私は塗装と防水と仮設の専門家であって、資産運用の専門家ではありません。ですから、運用方法の具体的な助言はできません。
しかし、現場の声として、「修繕費の見積もりがどんどん上がる中で、積立金の額面だけは増えていない」というジレンマを、何度も理事長さまから聞いています。塗料費が30%上がるのと同じ速度で積立金が増えていないなら、その差分はどこかで埋めなければなりません。
長期修繕計画の改訂時期と合わせて、「積立金の運用」も検討項目に入れることを、私は強くお勧めしています。
8-3. 短期の値上げ対応と、長期の積立計画は別物として捉える
ここで一つだけ整理させてください。塗料値上げへの短期対応(契約条項、工法選択、補助金)と、長期の積立計画(運用、増額、世代間負担)は、別物として議論すべきです。
短期対応は来月の発注で完結します。長期計画は10年単位の話で、住民の世代交代まで視野に入れます。同じ理事会で両方を一度に決めようとすると、議論が混乱します。
私が理事長さまにいつもお伝えしているのは、「短期は今期の理事会で、長期は来期に向けた専門委員会で」という分け方です。
8-4. 増額決議のタイミングは、住民の納得が9割
積立金の増額は、住民の納得が9割を占める難題です。値上げ局面の今こそ、客観的な根拠(塗料値上げ、人件費上昇、長期金利動向)を住民に丁寧に説明する好機です。
私は理事長さまに、「外部の数字を盾にしてください」とお伝えしています。理事会の主観ではなく、業界紙や公的機関の数字を引用する。これだけで、住民の受け止め方は大きく変わります。
9. 5月22日(金)までに動いていただきたい4つのアクション
ここまで読んでくださった理事長さま、オーナーさまに、今週中に動いていただきたい4つのアクションを整理します。
第一に、手元の見積もりの有効期限を確認してください。期限が5月末以降の場合、6月の値上げ後の単価で再見積もりが出る可能性があります。
第二に、契約書の「価格スライド条項」を確認してください。原材料価格の変動条項がどう書かれているかが、上振れ負担の分かれ目です。
第三に、3社相見積もりを取る場合は、材料費の内訳明示を必須条件にしてください。総額だけの比較は、もはや危険です。
第四に、工法選択の余地が残っているなら、ロープアクセス工法を選択肢に入れて検討してください。足場費の削減で、塗料値上げ分を打ち消せる可能性があります。
10. よくあるご質問──現場で頻繁にいただく3つの問い
Q1. 「値上げ前に駆け込み発注した方がいいですか?」
慎重なご検討をお勧めします。発注を急ぐと、契約条件や工事内容の精査が甘くなる懸念があります。「値上げ前に契約しなければ」というプレッシャーで判断を誤ると、結果的に塗料値上げ分以上の損失を被ることがあります。
私の経験上、最善は「現在の見積もりの有効期限を確認し、その範囲内で品質と価格を見極めて契約する」です。期限切れの場合は、再見積もりの単価上昇を覚悟したうえで、上昇幅の妥当性をチェックします。
Q2. 「ロープアクセスは本当に安全ですか?」
ロープアクセスは欧州・北米を中心に普及している正式な高所作業手法で、IRATA(Industrial Rope Access Trade Association)などの国際資格制度があります。日本国内でも一般社団法人ロープアクセス技術協会が技能認定を行っており、認定者が施工します。
明誠の現場では、二重ロープ(メインロープと安全ロープ)の二重化、毎日の機材点検、現場ごとのリスクアセスメントを徹底しています。20年前の「危ないかもしれない」というイメージは、現在の運用とは大きく異なります。
Q3. 「ロープアクセスだと工事品質は落ちませんか?」
工事品質と工法は、本来別物です。重要なのは、施工者の技能と管理体制です。ロープアクセスでも足場でも、優れた職人が丁寧に施工すれば、品質は同等以上に保てます。
逆に、足場を組んでも職人の技能が低ければ品質は出ません。「足場だから安心」「ロープだから不安」は、いずれも誤った認識です。判断軸は、工法ではなく施工会社の実績と職人の技能です。
11. 結語──現場で20年、私が一番悔しい思いをすること
これは私が現場で20年見てきた、嘘偽りのない感想です。
私が一番悔しい思いをするのは、「もう少し早く相談に来ていただければ、数百万円単位でコストを抑える提案ができたのに」という場面です。塗料値上げのような構造的なコスト要因は、待っても下がりません。動ける一週間、動ける一ヶ月で、結果が大きく変わります。
ご相談だけでも遠慮なくお声がけください。総会の前段階の整理だけでも、お力になれることがあります。大規模修繕の全体設計から工法選択、契約条項のチェックまで、私たちが現場で積み上げてきた知見を、惜しまずお出しします。
次回も、現場で本当に使える話だけをお届けします。
出典・参考資料
- 建設通信新聞「【価格改定】6月1日出荷分から塗料30%前後値上げ/日本ペイント」2026年5月19日
- Yahoo!ニュース「塗装資材の供給不足・価格高騰「ナフサ、なぜ入ってこないのか…」塗装業者の団体が支援要望」2026年5月19日
- Yahoo!ニュース「「スギの粉+水→塗料」に? シンナー要らず「オール富山」の木質塗料とは」2026年5月19日
- 日本経済新聞「マンション修繕積立金、預金から運用へ 物価高にらみ国債に3000万円」2026年5月19日
- 中小企業庁「新事業進出補助金の第4回公募の申請受付を開始しました」2026年5月19日
- 東京都「東京都マンションポータルサイト」
- 国土交通省「住宅局 ホームページ」
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筆者:本間(株式会社明誠 代表)
公開日:2026年5月21日
カテゴリ:本間社長ブログ
▼ロープアクセス工法・無足場工法の詳細解説はこちら
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改正区分所有法(令和8年4月1日施行)でマンション大規模修繕の決議はこう変わる——理事長・修繕委員が今すぐ動くべき7つの実務対策【2026年5月最新】
はじめに——「2つの老い」の時代に、決議だけが昭和のままだった
正直に申し上げます。私は現場で20年近く、大規模修繕の見積りと施工管理を見続けてきましたが、ここ10年で一番悔しい思いをしたのは、「工事をやるべき建物なのに、決議が通らずに先延ばしになる」という場面でした。
築40年を超え、外壁から鉄筋の爆裂が始まっているマンション。明らかに防水層の寿命が来ていて、雨漏りの相談が複数戸から上がっているマンション。それでも、総会で集まる人数が足りず、所在不明の区分所有者がいて、決議の母数すら満たせない——そういう物件は決して珍しくありません。
法務省は今回の改正の背景として、「マンションをはじめとする区分所有建物が高経年化し、居住者も高齢化する『2つの老い』が進行しているという社会経済情勢」を挙げています(出典:法務省民事局「老朽化マンション等の管理及び再生の円滑化等を図るための建物の区分所有等に関する法律等の一部を改正する法律について」)。
要するに、建物が古くなり、住む人も年を取り、相続が起きて区分所有者が散らばっていく。にもかかわらず、決議要件だけは1962年(昭和37年)に作られた区分所有法のままで動いていた——これが日本中のマンションで起きていた事態です。
今回の改正は、その「決議のボトルネック」に大きく手を入れる法律です。私たち施工会社にとっては、「やるべき工事が、やれる順番に回ってくるようになる」ことを意味します。理事長さま・修繕委員さまにとっては、「不在者・所在不明者に振り回されず、合理的な意思決定ができるようになる」ことを意味します。
ここからが本題です。
H2-1 改正区分所有法の3つの柱——大規模修繕の現場目線で読み解く
改正の全体像は、法務省の「改正の概要(1)(全体・概要版)」および「改正の概要(2)(改正区分所有法、被災区分所有法・詳細版)」にまとまっています。読み込むのはかなり骨が折れますが、大規模修繕に関わる部分だけを現場目線で要約すると、次の3本柱になります。
H3-1-1 柱(1):所在不明者を「決議の母数」から外せる仕組み
これが今回最大の改正です。
これまでは、総会の決議で「区分所有者および議決権の各○分の○以上」を計算するとき、所在不明の人も生きて意思を持っている人として母数に含めなければなりませんでした。極端な話、相続が3代続いて住民票も登記もぐちゃぐちゃ、誰が本当の所有者なのか分からない部屋が10戸あれば、その10戸はずっと「反対しているのと同じ扱い」で母数を圧迫し続けたのです。
改正後は、裁判所に申し立てて「所在等不明区分所有者」として認定を受ければ、その人を決議の母数から外せます(出典:法務省「改正の概要(2)」)。実質的に、決議要件のハードルを下げる効果を持つ重要な仕組みです。
私の経験上、この仕組みは「築古マンション×相続未登記の積み重なった物件」で爆発的に効きます。今まで「決議の母数を満たせないから工事を見送り続けてきた」物件が、ようやく前に進めるようになります。
H3-1-2 柱(2):共用部分の「軽微な瑕疵除去」は3分の2へ緩和
共用部分の変更については、これまで「区分所有者および議決権の各4分の3以上」が原則でした。たとえば外壁の意匠を大幅に変える改修などはこの「特別決議」が必要です。
ただし、改正法では、他人の権利または法律上保護される利益が侵害されるおそれがある共用部分の瑕疵を除去するために必要な変更については、決議要件が「4分の3」から「3分の2」に緩和されました(出典:法務省「改正の概要(2)」)。
これは、たとえば「外壁のタイルが剝離して通行人に当たる危険がある」「庇のコンクリートが落下する恐れがある」といった、放置すれば管理組合自身が損害賠償リスクを負うような瑕疵の除去工事を念頭に置いた緩和です。
私たち施工側から見ると、「明らかに必要な安全工事なのに、決議が通らず工期が後ろにずれる」というケースが減ることを意味します。
H3-1-3 柱(3):管理規約の電磁的記録化と総会オンライン化
書面と印鑑の世界だった管理規約の運用にも、ようやくデジタル化の道筋が引かれます。
法務省は「建物の区分所有等に関する法律施行規則及び法務省の所管する法令の規定に基づく民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する規則の一部を改正する省令(法務省令第16号)」も同時に整備しました。電磁的記録による管理規約の保存・閲覧、そして総会のオンライン実施が現実的な選択肢として制度化されました。
国土交通省も、これに合わせて「マンション管理・再生ポータルサイト」で標準管理規約の見直しを進めています。
築20年以上のマンションで管理規約がほぼ昭和の文言のまま放置されているケースは、私の感覚では半数近くにのぼります。今回の改正は、「規約を見直さないと、せっかくの緩和を使えない」状態を生むため、規約改正の議論自体が動きやすい追い風になっています。
H2-2 大規模修繕の決議要件は実務上どう変わるのか——3つのパターンで具体的に整理
ここからは、大規模修繕工事の実務でよく出てくる3つの決議パターンで、改正前後の違いを整理します。
H3-2-1 パターンA:通常の大規模修繕(修繕積立金を使って原状回復)
外壁塗装の塗り替え、屋上防水の張り替え、鉄部塗装、シーリング打ち替え——これらの「現状の機能を維持する」工事は、区分所有法第18条の「共用部分の管理」に該当します。
決議要件は、区分所有者および議決権の各過半数で、改正前後で変わりません。
ただし、ここでも先述の「所在不明者を母数から外せる仕組み」が効きます。たとえば100戸のマンションで20戸が所在不明だった場合、これまでは100戸の過半数=51票が必要でしたが、所在不明20戸を外せれば80戸の過半数=41票で済むようになります。
私はいつも理事長さまに「改正法の真価は、難しい法律論より、母数が変わることで普通の修繕が動きやすくなることにある」とお伝えしています。
H3-2-2 パターンB:機能向上を伴う改修(断熱化・バリアフリー化など)
外壁のタイル張りを塗装仕上げに変えたり、エントランスをバリアフリー化したり、廊下に手すりを増設したり——「形状または効用の著しい変更を伴う」工事は、区分所有法第17条の「共用部分の変更」に該当します。
決議要件は、区分所有者および議決権の各4分の3以上で、これも改正前後で変わりません。
しかしながら、軽微な瑕疵除去のための共用部分変更は3分の2に緩和されたため、大規模修繕の現場では「これは普通の修繕(過半数)か、機能向上の変更か、瑕疵除去(3分の2)か」を仕分ける議論が今まで以上に重要になります。
H3-2-3 パターンC:建替え決議
建替え決議は区分所有法第62条で、原則区分所有者および議決権の各5分の4以上が必要です。改正法では、一定の要件下で3分の2まで緩和される場合があります(出典:法務省「改正の概要(2)」)。
大規模修繕と建替えはそもそも別物ですが、「もう修繕では追いつかないから建替えに切り替える」という判断は、築50年に近づく団地・マンションでは現実の選択肢として浮上します。私が現場で見てきた中でも、外壁の改修だけでも億単位の予算が出てきて、住民が「これなら建替えを真剣に考えたい」と感じる場面が増えています。
| 決議の種類 | 改正前 | 改正後 |
|---|---|---|
| 通常の大規模修繕(共用部分の管理) | 区分所有者・議決権の各過半数 | 同左(ただし所在不明者を母数から除外可) |
| 機能向上を伴う共用部分の変更 | 区分所有者・議決権の各4分の3以上 | 同左(ただし所在不明者を母数から除外可) |
| 軽微な瑕疵除去のための共用部分変更 | 各4分の3以上 | 各3分の2以上に緩和 |
| 建替え決議 | 各5分の4以上 | 一定の要件下で各3分の2まで緩和 |
H2-3 私が現場で目撃した「決議が通らない」3つのパターン
ここで少し、私が現場で20年近く見てきた「決議が通らない」典型例を、固有名詞を伏せた形で紹介させてください。今回の改正によって、それらがどう変わりうるのかも併せてお伝えします。
H3-3-1 ケース1:相続未登記で母数が永遠に埋まらない築45年のマンション
都内のある築45年・80戸規模のマンションで、修繕委員会の方からご相談を受けたことがあります。理事長さまは80代の元教員の方で、ご自身もそろそろ役を降りたいと真剣に悩んでおられました。
そのマンションでは、相続が起きた住戸の登記が放置されたまま2代・3代と進んでおり、実質的に連絡が取れない部屋が15戸ありました。総会の決議で過半数を取ろうにも、80戸の過半数=41票という壁が、登記上の所有者15戸を引いた実質65戸の中で41票取らねばならず、出席率が60%を切ると物理的に通らない、という状態でした。
私はこの理事長さまに、「いまの法律ではどうしようもないところがある」と正直に申し上げました。今回の改正法で、ようやく前に進める道が開けたと思っています。
H3-3-2 ケース2:外壁タイル剝離が再三発生していたが、決議が通らなかったホテル管理組合形態の物件
複合用途のビルで、一部が区分所有・一部が共用というやや特殊な物件です。エントランス上部の庇から外壁タイルが何度か剝離し、警察への通報が2回入っていた物件でした。
私は「これは安全工事として急がなければまずい」と何度も提案しましたが、機能向上を伴う改修と同じ扱いで4分の3決議が必要とされてしまい、一部の所有者が「費用が高い」と反対して通らない状態が続きました。
改正法では、こうした「他人の権利が侵害されるおそれがある瑕疵の除去」については3分の2決議で可能になります。私はこのケースを念頭に、施行から間もないながら「これは3分の2でいけるはずだから、議題の建て付けをこう整理しましょう」と修繕委員さまにお伝えする場面が、最近確実に増えています。
H3-3-3 ケース3:理事会の説明力不足で、住民の不安が決議反対票に化けたマンション
これは法律というより、コミュニケーションの問題です。築25年・120戸のマンションで、大規模修繕の見積りが想定より2割上振れし、修繕積立金からの取り崩しに不安を持った住民が反対票を投じ、決議が1票差で否決されました。
私はこのとき、「決議要件以前に、説明会の質と、見積りの根拠を住民が納得できる形で示せていたか」を、理事長さまと一緒に振り返りました。
改正法で母数が緩むからといって、説明をおろそかにしていいわけではありません。むしろ、母数が緩んだぶん、「数字の説明」と「工法選択の根拠」が今まで以上に問われる時代になります。私はこれを、施工会社として真摯に受け止めなければならないと考えています。
H2-4 理事長・修繕委員が今すぐ動くべき7つの実務対策
ここからは、改正法施行を踏まえて、理事長さま・修繕委員さま・収益物件オーナーさまがいますぐ動ける具体的なアクションを7つに絞ってお伝えします。
H3-4-1 対策(1):所在不明区分所有者の「棚卸し」を今期中にやる
改正法の「所在等不明区分所有者を母数から外す」仕組みを使うためには、まず自分のマンションで実際に何戸が所在不明なのかを正確に把握する必要があります。
具体的には、次のような作業を理事会主導で進めることをおすすめしています。
- 登記簿謄本(不動産登記情報)を全戸分取得し、所有者の住所・氏名を一覧化する
- 住民票上の住所と登記住所の不一致がある戸を抽出する
- 過去2年間の総会・通知発送のうち、返戻になった戸を一覧化する
- 管理会社が把握している連絡先の最新性を確認する
この棚卸しは、外注すれば数万円〜十数万円の費用がかかりますが、私の経験上、「やってみて初めて、想定の2倍の所在不明戸が浮かび上がる」ことが珍しくありません。
H3-4-2 対策(2):長期修繕計画を「改正法前提」で見直す
これまでの長期修繕計画は、4分の3決議が通る前提で組まれているケースが大半です。今回の改正で、瑕疵除去工事は3分の2でいけるようになり、所在不明者を母数から外せば実質的なハードルはさらに下がります。
私はいつも修繕委員さまに、「長期修繕計画は5年単位での見直しが原則。今回の改正は、まさに見直しの絶好のタイミング」とお伝えしています。
特に次の3点を計画書に書き込むことをおすすめします。
- 改正法に基づく決議要件の整理(どの工事がどの決議要件に該当するか)
- 所在不明区分所有者の現状と、母数除外の手続きスケジュール
- 想定される瑕疵除去工事と、それに必要な決議の建て付け
H3-4-3 対策(3):管理規約を「電磁的記録対応」に改正する
改正法では管理規約の電磁的記録化が認められるようになりました。総会のオンライン併用も含めて、規約改正をしない限り、改正法のメリットの一部を使えません。
国土交通省の標準管理規約の見直し版がマンション管理・再生ポータルサイトで順次公開されています。私はいつも理事長さまに、「自分のマンションの管理規約を、標準管理規約と並べて差分をマークするだけでも、議論のたたき台になる」とお伝えしています。
H3-4-4 対策(4):「瑕疵除去工事」を切り出して議題化する
これは特に効きます。これまで「大規模修繕」という大きな塊で4分の3決議をかけていた工事を、
- 安全に関わる瑕疵除去工事(外壁タイル剝離、庇コンクリート爆裂など)→ 3分の2決議
- 機能向上を伴う改修(断熱化、バリアフリー化など)→ 4分の3決議
- 通常の修繕(塗装、防水など現状回復)→ 過半数決議
の3層に分けて議題化することで、それぞれに適切な決議要件で進められるようになります。
私は最近、施工会社の立場として、見積書も「決議要件別の3層構造」で出すように切り替え始めています。理事会の議題作成と決議の取りやすさが、見違えるほど変わります。
H3-4-5 対策(5):工法選択を「決議の取りやすさ」から逆算する
ここで私が一番お伝えしたいのが、工法選択と決議要件は密接に関係しているということです。
たとえば外壁の改修工事の場合、
- 全面足場を架けて従来工法で施工する → 工期長期化・住民の生活影響大・足場費が見積り全体の20〜30%を占める
- ロープアクセス工法(無足場工法)で施工する → 工期短縮・住民の生活影響最小・足場費ゼロ
- 足場とロープアクセスを組み合わせたハイブリッド工法 → 部位ごとに最適化、総額の最適バランス
の3つの選択肢があります。私たち株式会社明誠は、この3工法をすべて自社で提案できる日本でも数少ない会社です。詳しくはロープアクセス工法のご紹介もご覧ください。
なぜこれが決議に効くかというと、ロープアクセス工法やハイブリッド工法は、足場架設による居住者の生活影響を大幅に減らせるため、住民からの反対票が出にくいのです。私の感覚では、足場ありの工事に対して2〜3票分の賛成票を上乗せできる効果があります。
決議が通りやすい工法を最初から提案できる施工会社を選ぶこと——これは見積金額の比較と同じくらい、いやそれ以上に重要な選定軸です。
H3-4-6 対策(6):通常総会の議案書を「改正法準拠」で書き直す
今年の通常総会(多くのマンションで5月〜7月)が、施行後最初の総会になります。議案書のフォーマットを改正法に合わせて書き直すことをおすすめします。
- 決議要件の根拠条文を議案ごとに明示する(区分所有法第17条なのか第18条なのか、改正後の条文番号で書く)
- 所在不明区分所有者の取扱いを冒頭で明示する
- 賛否の集計方法を母数の定義から書き起こす
これは管理会社が標準フォーマットを更新してくれるはずですが、「更新が間に合っていない管理会社もある」ため、自分のマンションの議案書が最新版かどうかは、理事会で必ず確認していただきたいポイントです。
H3-4-7 対策(7):弁護士・マンション管理士に「事前壁打ち」をしておく
改正法の運用は、施行から間もない今がまさに実務の試行錯誤期です。判例も解釈通達も、これから積み上がっていきます。
私はいつも理事長さまに、「決議の建て付けで迷ったら、必ず専門家に事前に当てておくこと」とお伝えしています。具体的には、
- マンション管理士(公益財団法人マンション管理センターの登録名簿で確認可)
- 弁護士(建築・マンション法務に強い専門家)
- 区分所有法に詳しい司法書士
の3者のいずれかに、議案の建て付けを事前にチェックしてもらうのが安心です。費用は数万円〜十数万円ですが、決議が無効になって工事が止まる損失と比べれば桁違いに安い保険です。
H2-5 改正法を機に見直すべき「修繕積立金」と「コスト最適化」
改正法で決議が通りやすくなることは、「やるべき工事が、やれる順番に動き始める」ことを意味します。これは喜ばしいことですが、同時に、修繕積立金の不足を露わにする副作用もあります。
H3-5-1 修繕積立金の不足が「先送りできなくなる」
国土交通省の「令和5年度マンション総合調査結果」によれば、計画上の積立額に対し現状が不足しているマンションは全体の36.6%、うち20%超の不足は11.7%にのぼります。
これまでは「決議が通らないから工事が動かない=積立金不足が顕在化しない」という、ある意味でぬるま湯の構造がありました。改正法で決議が通りやすくなれば、その構造は崩れます。
私はいつも修繕委員さまに、「改正法は決議を緩めるけれど、お金は緩めてくれない。むしろ、お金の話が現実になるのが早まる」とお伝えしています。
H3-5-2 工法選択でコストを2〜3割削れる時代
修繕積立金不足を埋める方法は、(1)値上げ、(2)借入、(3)補助金、(4)工事コストの最適化、の4つです。最も即効性があり、住民の負担を増やさないのが(4)の工事コストの最適化です。
私たち明誠の事例では、ロープアクセス工法やハイブリッド工法を採用することで、従来の全面足場工法と比較して総工費を15〜25%程度削減できたケースが複数あります。これは足場費の削減(見積り全体の20〜30%を占めることが多い)が直接効くためです。
詳しくは大規模修繕工事のご紹介で施工事例とともにまとめています。
H3-5-3 補助金・助成金のフル活用
東京都の「マンション改良工事助成」をはじめ、各自治体には大規模修繕に使える補助金・助成金制度があります。改正法の話と補助金の話は別物ですが、修繕積立金不足の現実問題として、両方を組み合わせて使い倒すのが理にかなっています。
私たち明誠では、施工提案の段階で「使える補助金の洗い出し」も併せて行います。理事会単独でこれを調べきるのは時間的にも情報量的にもかなり厳しいため、施工会社と一緒に進めるのが現実的です。
H2-6 オーナー目線で見る改正法——収益物件への影響
ここまでは管理組合の理事長さま・修繕委員さま目線でお伝えしてきましたが、収益物件をお持ちのオーナーさまにとっても、今回の改正は無視できない論点を含みます。
H3-6-1 区分所有のオフィスビル・店舗ビル・ホテルにも適用
区分所有法は住居用マンションだけの法律ではありません。区分所有のオフィスビル・店舗ビル・ホテル・倉庫にも同じ法律が適用されます。
オーナーさまが複数戸を保有している場合、改正法の決議要件の変化は、ご自身の議決権の影響力にも直結します。たとえば、ビルの過半数を1社で保有している場合は影響が大きくなく、複数オーナーが拮抗している場合は所在不明者の取扱いが争点になりやすい——という具合です。
H3-6-2 賃借人の利益保護条項にも注意
改正法は区分所有者だけでなく、その建物の賃借人の利益にも一定の配慮を求めています。たとえば賃借権の終了に関する手続きや、補償金の算定方法については、法務省が賃貸借終了請求等に伴う補償金の算定方法等に関する調査研究を進めており、今後の運用に注目が必要です。
収益物件オーナーさまにとっては、「自分の物件の入居者を、改正法の手続きでいきなり追い出すことはできない」という安全装置でもありますが、同時に「自分が借りている側になっているケース」では権利関係の整理が必要になることもあります。
H3-6-3 「修繕履歴」が物件価値の差別化要因になる
これは少し先の話ですが、改正法で大規模修繕が動きやすくなれば、「きちんと修繕履歴がある物件」と「ない物件」の差が、これまで以上に売買価格に出るようになります。
私はいつもオーナーさまに、「修繕履歴は資産価値の証明書。施工会社からきちんと写真・図面・施工管理記録を引き取って、PDF化して保管しておいてください」とお伝えしています。明誠でも、施工完了後の引渡資料は紙とデジタルの両方でお渡ししています。
H2-7 私たち施工会社にも問われる「説明責任」と「工法選択」
ここまで読んでくださった理事長さま・オーナーさまには、ぜひ次の視点も持っていただきたいと思います。それは、改正法は施工会社の側にも責任を重くする法律だということです。
H3-7-1 「決議要件別の見積り」が標準になる時代
先ほどお伝えしたとおり、改正法では工事内容によって決議要件が変わります。施工会社の見積書も、これからは「決議要件別の3層構造」で出すのが標準になります。
私は社内でも、見積書のフォーマットを「瑕疵除去工事(3分の2決議)」「機能向上工事(4分の3決議)」「通常修繕(過半数決議)」の3層で整理するよう切り替えています。これは事務作業としてはやや手間が増えますが、理事会の議論を円滑にするための投資だと考えています。
H3-7-2 工法提案の幅が「決議の取りやすさ」を左右する
足場工法しかできない会社、ロープアクセスしかできない会社、両方できる会社——この3者では、提案できる工法の幅が違います。改正法時代には、工法選択の幅が決議の取りやすさを左右する場面が確実に増えます。
私たち明誠は、足場仮設工法、ロープアクセス工法、ハイブリッド工法の3つを建物特性に応じて使い分けられる、日本でも数少ない施工会社です。これは私が現場で20年やってきたなかで、「お客様の選択肢を増やすことが、私たちの存在意義だ」と腹を据えてきた結果です。
H3-7-3 フランチャイズ展開と業界全体のレベルアップ
私たちは日本で初めて、ロープアクセス工事のフランチャイズ展開も進めています。塗装・防水・タイル・電気・看板など、各分野の専門職が加盟することで、高品質と低価格の両立を実現しようとしています。
改正法時代に求められるのは、個社の力だけではなく、業界全体の説明能力と工法選択力の底上げです。私たち明誠は、JCSA(一般社団法人全国建設業支援協会)を通じて、業界全体の経営支援にも取り組んでいます。
H2-8 まとめ——改正法は「決議を緩める」のではなく「決議を健全にする」法律
今回お伝えした7つの実務対策を、もう一度整理しておきます。
- 所在不明区分所有者の「棚卸し」を今期中にやる
- 長期修繕計画を「改正法前提」で見直す
- 管理規約を「電磁的記録対応」に改正する
- 「瑕疵除去工事」を切り出して議題化する
- 工法選択を「決議の取りやすさ」から逆算する
- 通常総会の議案書を「改正法準拠」で書き直す
- 弁護士・マンション管理士に「事前壁打ち」をしておく
私は現場で20年近く、大規模修繕の現場を見てきました。そのなかで何度も思い知らされたのは、「マンションは、住む人がいて、所有する人がいて、それを支える理事会と修繕委員会があって、はじめて動く生き物だ」ということです。
改正区分所有法は、ただ決議要件を緩めただけの法律ではありません。「2つの老い」が進む日本のマンションを、もう一度動ける状態に戻すための、社会的な再起動装置だと私は受け止めています。
施工会社の私たちは、その再起動を支える側として、説明責任と工法選択の幅で応えるしかありません。だからこそ、足場・ロープアクセス・ハイブリッドの3工法を持つこと、そして見積りを決議要件別に整理する姿勢が、これからの大規模修繕には不可欠だと考えています。
これは私が現場で20年見てきた、嘘偽りのない感想です。次回も、現場で本当に使える話だけをお届けします。
もし、改正法を踏まえた長期修繕計画の見直しや、決議要件別の見積りの組み立て方、ロープアクセス・ハイブリッド工法の費用感など、具体的にご相談されたいことがあれば、お問合せフォームから遠慮なくお声がけください。総会の前段階の整理だけでも、お力になれることがあります。
出典・参考資料
- 法務省民事局「老朽化マンション等の管理及び再生の円滑化等を図るための建物の区分所有等に関する法律等の一部を改正する法律について」(最終更新:令和8年1月23日)
- 法務省「改正の概要(1)(全体・概要版)PDF」
- 法務省「改正の概要(2)(改正区分所有法、被災区分所有法・詳細版)PDF」(令和8年4月更新)
- 法務省「新旧対照条文PDF」
- 法務省「区分所有法の賃貸借終了請求等に伴う補償金の算定方法等に関する調査研究について」
- 国土交通省「マンション管理・再生ポータルサイト」
- 国土交通省「令和5年度マンション総合調査結果」
- e-Gov「建物の区分所有等に関する法律」
- 健美家「マンション管理のこれから~令和8年4月の改正区分所有法施行がもたらすものは」(2026年5月19日掲載)
- 公益財団法人マンション管理センター「公式サイト」
- 株式会社明誠「ロープアクセス工法のご紹介」「大規模修繕工事のご紹介」「お問合せフォーム」
※本記事は2026年5月20日時点の情報をもとに作成しています。改正区分所有法の運用は施行から間もないため、最新の解釈・通達・判例については、法務省民事局および国土交通省の公式情報を都度ご確認ください。具体的な決議の建て付けや法的判断については、弁護士・マンション管理士など専門家への個別相談をおすすめします。
▼ロープアクセス工法・無足場工法の詳細解説はこちら
ロープアクセスドットコム|無足場工法専門メディア
墨田区で使える賃貸オーナー向け補助金活用ガイド|NOIと入居率を底上げする2026年度の保存版
墨田区で使える賃貸オーナー向け補助金活用ガイド|NOIと入居率を底上げする2026年度の保存版
墨田区で賃貸マンション・ビル・ホテルを保有しているオーナーさまへ、最初に結論からお伝えします。墨田区の補助制度は「申請窓口の縦割りが厳しい」エリアです。住宅課(民間賃貸支援担当)、不燃・耐震促進課、環境保全課にまたがり、しかも「契約前の交付決定」が大原則。動き方を一歩間違えると、同じ工事内容でも手元に残るキャッシュが100万円単位で変わります。
私は本間と申します。株式会社明誠で大規模修繕工事を本業としつつ、足場仮設・ロープアクセス・両者のハイブリッドという3つの工法を建物特性に応じて使い分け、首都圏の収益不動産オーナーさまの修繕を支えてきました。墨田区は弊社にとってご相談の多いエリアで、押上・錦糸町・両国・本所・向島・京島・東向島あたりの築20〜45年・5〜80戸規模のRC造・SRC造の賃貸マンション、事業用ビル、ホテル・簡易宿所まで、毎月のように現地調査のお声がけを頂戴しています。
そのなかで強く感じるのは、「補助金の存在は知っているが、自分の物件で何にいくら使えるのか正確に説明できるオーナーさまが意外と少ない」という事実です。墨田区は東京スカイツリー周辺の観光資源と、京島・八広・東向島を中心とする木造密集市街地という、まったく性質の異なる二つの顔を持つ区です。賃貸需要は底堅い一方で、築年数の経った物件が23区平均よりも多く、補助制度を絡めた修繕計画の重要性は特に高いエリアと言えます。
本記事では、墨田区の助成制度と国・都の主要制度を「賃貸オーナーの財布」目線で再編集しました。NOI(実質賃料収入:家賃収入から運営経費を差し引いた実質的な収益)、入居率、出口の売却価格まで意識した「使い倒し方」をお話しします。9,000字超ありますので、ブックマークしてお茶を淹れてからお読みいただくのが正解です。
1. なぜ今、墨田区オーナーが補助金を本気で取りに行くべきか
まず大前提として、墨田区の賃貸市場は強い独自色を持っています。スカイツリー開業以降、観光・インバウンド需要によって押上・本所・両国エリアのホテル・簡易宿所の稼働は高水準で推移し、住居系賃貸も錦糸町・押上駅周辺は単身者中心、両国・東向島・曳舟方面はDINKsやファミリー層と、エリアによって入居者層が大きく分かれます。だからこそ、「うちの物件はどの入居者層を狙うのか」が定まらないまま改修するのは、補助金の取り方としても投資としても遠回りになります。
ただ全体傾向として、築20年以上の単身向け1Rのみの物件や、築30年以上で共用部が古びた物件は、空室期間が確実に伸びてきています。私が現場で見てきた限り、最近の入居検討者は内見の30分で窓の断熱性、エアコン、給湯器、共用部の照度、エントランスの清潔感を驚くほど細かく見抜きます。法人サブリースやマンスリー運営会社が入る場合、調達担当はさらに厳密にチェックします。
ここに補助金を入れる意味はシンプルです。自己負担を圧縮しながら設備をひとつ上の等級に押し上げ、入居率と賃料単価を同時に守るという攻めの一手になります。墨田区の場合、SUUMOやLIFULL HOME’Sの集計を見ると、単身向けワンルームの相場は概ね8〜10万円台、2LDKで17〜18万円、3LDKで19〜20万円という水準ですが、同じ駅徒歩圏内でも築年数と設備グレードで月1〜2万円の差はざらに発生します。
入居率1%の改善が、年間どれだけのキャッシュフロー差になるか試算してみてください。たとえば20戸・平均賃料9万円の物件なら、1%の入居率改善は年216,000円。3%改善なら年648,000円です。これに見合う改修投資を補助金併用で行うかどうかの判断は、オーナーさまの経営判断そのものです。
2. 墨田区の独自制度:賃貸オーナーが「直接」使える3制度
墨田区の補助制度のうち、賃貸マンション・ビルのオーナーさまが直接申請者となれる制度を整理します。分譲マンション向け制度(管理組合が申請主体)も後段で触れますが、まずはオーナー直撃の3つから。
2-1. 墨田区 民間賃貸住宅改修支援事業(高齢者世帯等向け)
これは墨田区が住宅セーフティネット政策の一環として整備した、賃貸住宅オーナー専用の改修補助制度です。住宅確保要配慮者(高齢者・障害者・子育て世帯・ひとり親世帯・被災者世帯・DV被害世帯など)が安心して入居できるよう、賃貸オーナーが行う改修・リフォーム工事を補助します(出典:墨田区「墨田区民間賃貸住宅改修支援事業(高齢者世帯等向け改修事業)」)。
| 工事区分 | 補助率 | 補助上限 |
|---|---|---|
| 設備改修(手すり設置・段差解消等) | 対象工事費の2/3 | 1住戸あたり20万円 |
| 浴室・便所の設置・改修 | 対象工事費の2/3 | 1住戸あたり30万円 |
| リフォーム工事 | 対象工事費の2/3 | 1棟あたり100万円 |
ポイントは3つあります。第一に、「2/3補助」というのは自治体制度のなかでも極めて手厚い水準です。第二に、設備改修と浴室・便所改修と建物全体のリフォーム工事を組み合わせると、1住戸の単価アップに加え、1棟あたり100万円の追加補助が組めます。第三に、契約は区内事業者(支店・営業所を含む)と締結する必要がある点に注意です。区外業者だけでは対象外になります。
私が墨田区のオーナーさまに必ずお伝えしているのは、「サ高住・ケアハウスにせよ、と言っているわけではない」ということ。あくまで通常の賃貸住宅で、入居対象者として住宅確保要配慮者を含めることに同意するだけで使える設計です。少子高齢化のなか、シニア単身世帯や子育て世帯は今後も賃貸市場の主要なセグメントになります。物件のターゲットを広げる意味でも、検討する価値は大きい制度です。
2-2. 墨田区 非木造建築物 耐震診断・補強設計・耐震改修工事助成
築古ビル・マンションオーナーさまにとって最も使う場面の多い制度がこちらです。昭和56年5月31日以前の建築(いわゆる旧耐震)が対象で、診断→補強設計→改修工事の3段階それぞれに助成が用意されています(出典:墨田区「耐震改修事業助成金一覧」)。
耐震診断助成(非木造)の助成上限額
| 診断対象床面積 | 助成限度額 |
|---|---|
| 1,000㎡以内 | 50万〜153万円 |
| 1,000〜2,000㎡ | 153万〜204.5万円 |
| 2,000㎡超 | 204.5万円 |
補強設計助成・改修工事助成
補強設計助成は、耐震診断の結果Is値(構造耐震指標)が0.6未満(倒壊の危険あり)と判定され、改修後にIs値0.6以上となる計画であり、補強設計内容について評定機関の評定を取得することが要件です。改修工事助成の補助対象経費は、診断対象床面積×50,200円/㎡または実際に耐震改修に要した費用のいずれか低い額が上限となります。
ここで重要なのは、「旧耐震ビルを売却するときの評価」と「耐震改修済みビルを売却するときの評価」は明確に違うということです。仲介担当に「Is値0.6を超えています」と一行書ける状態にしておくだけで、買い主の与信判断・融資判断・保険査定がスムーズに進みます。出口価格を本気で考えるなら、診断→補強設計だけでも区の補助を入れて早めに動かしておくことを、私は強くおすすめしています。
2-3. 墨田区 地球温暖化防止設備導入助成(高反射率塗装ほか)
これは賃貸物件の屋根・屋上を高反射率塗料(遮熱塗料)で塗装する場合に使える、墨田区の独自制度です。共同住宅の屋上防水改修と組み合わせて使うのが現場的な定石になっています(出典:墨田区「地球温暖化防止設備導入助成制度」)。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 補助率 | 補助対象経費(消費税除く)の10% |
| 補助上限 | 15万円 |
| 主な要件 | 日射反射率(全波長領域)50%以上の高反射率塗料を使用/屋根全体または屋根および壁全面の塗装 |
| 申請時期 | 工事着工の1ヶ月前〜7日前まで |
15万円という金額は単独で見ると派手ではありません。ただ「屋上防水改修+高反射塗装」をセットで計画する場合、塗装費用の一部が戻ってくると考えれば、十分意味のある制度です。さらに副次効果として、最上階の室温が夏場で2〜3℃下がるという報告もあり、最上階入居者からのクレーム(エアコン効きにくい・夏場退去)を抑制できれば、入居率維持にも効いてきます。
注意点は「予算額に達した時点で受付終了」という典型的な自治体制度の性質です。年度後半に申請しても受付終了で空振り、というケースが他制度でも頻発しています。やるなら早く動く、です。
2-4. 太陽光発電・蓄電池・V2H補助も同じ要綱内に
墨田区の地球温暖化防止設備導入助成は、太陽光発電システム・家庭用蓄電池・V2H・雨水利用施設なども補助対象に含まれます(出典:墨田区「墨田区地球温暖化防止設備導入助成金交付要綱」)。賃貸物件への太陽光導入は、共用部電気代の圧縮や、PR訴求(環境配慮型物件)として一部のオーナーさまが導入を始めています。最新の補助単価・上限は年度ごとに変動するため、申請前に必ず公式要綱を確認してください。
3. 分譲マンション制度を「賃貸オーナー」が見るときの注意
墨田区には分譲マンション専用の制度もあります。賃貸オーナーさま向けではないので利用は限定的ですが、誤って「うちでも使える」と思って動いてしまうと無駄足になるため、必ず区別を理解しておいてください。
| 制度 | 内容 | オーナー利用可否 |
|---|---|---|
| 分譲マンション計画修繕調査支援制度 | 調査費の1/3、上限50万円 | 分譲マンション管理組合のみ(賃貸単独オーナーは対象外) |
| 分譲マンションリフォームローン償還助成 | 住宅金融支援機構融資の償還の一部助成 | 分譲マンション管理組合のみ |
ご自身が分譲マンションを「投資用区分」として保有されている場合は、管理組合の総会決議を経て、組合として申請してもらう必要があります。区分オーナー単独では使えません。一方で、自分が大規模修繕の発議をするなど、組合内での発言力次第ではこの制度を組合に使ってもらうよう働きかけることはできます。区分保有メインのオーナーさまは、まず管理会社や理事会への確認をしてみてください。
4. 国の制度:賃貸オーナーが取りに行くべき2本柱
ここからは、墨田区にいながら使える国の補助制度に話を移します。賃貸オーナーさま向けは、2026年度時点で実質的に「先進的窓リノベ2026事業」と「賃貸集合給湯省エネ2026事業」の2本が主役です。
4-1. 先進的窓リノベ2026事業
環境省の主管事業で、窓の断熱改修を強力に後押しします。賃貸オーナーさまも対象です(出典:環境省「先進的窓リノベ2026事業【公式】対象要件の詳細」)。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 補助上限 | 住宅:1戸あたり100万円/非住宅240㎡以下:1棟あたり100万円 |
| 補助下限 | 1申請あたり5万円以上 |
| 対象者 | 個人オーナー・法人オーナー・管理組合等 |
| 申請者 | 登録事業者(オーナーは登録事業者に委任して申請) |
| 申請期間 | 2025年11月28日〜2026年12月31日(予算到達で締切) |
「1戸あたり100万円」という上限の意味を、現場感覚で噛み砕いてご説明します。これは1住戸の窓を全て高断熱化したときの実質的な総額に近い水準です。築古マンションのアルミサッシをアルゴンガス入り複層・トリプル樹脂サッシに刷新するイメージで、外気温の影響を一気に小さくできます。賃貸でこの工事を入れると、内見時の体感が明らかに変わります。「暖かい」「結露が少ない」「音が静か」が、入居決定の最後の一押しになるケースを、私は実際に何度も見てきました。
夏冬の電気代圧縮、冬の結露・カビクレーム抑制(特に共用廊下側窓・キッチン換気扇周り)、夏のエアコン稼働時間短縮による光熱費メリット。賃貸でも入居者の光熱費が下がれば、それは間接的に「賃料を据え置ける/上げられる」要因になります。窓リノベは派手な改修ではありませんが、入居率と賃料単価の両方に効く、地味で強い投資だと私は捉えています。
4-2. 賃貸集合給湯省エネ2026事業
これは賃貸集合住宅専用に設計された珍しい制度で、賃貸オーナーさまが従来型給湯器をエコジョーズ・エコフィールに交換する際に使えます(出典:資源エネルギー庁「賃貸集合給湯省エネ2026事業」、賃貸集合給湯省エネ2026事業【公式】)。
| 給湯器種別 | 通常 | 共用廊下・浴室への排水工事を伴う場合 |
|---|---|---|
| 追い焚き機能なし(エコジョーズ/エコフィール) | 5万円/台 | 8万円/台 |
| 追い焚き機能あり | 7万円/台 | 10万円/台 |
対象工事の起算日は2025年11月28日以降の着工です。古い給湯器が壊れる前に計画的に交換することで、共用部断水・住戸トラブル・夜間出動対応を予防しつつ、補助金で実質負担を圧縮できます。
賃貸給湯器交換は、放っておくと「夜中の故障 → 即日対応 → 高い緊急工事費」というパターンに陥りがちです。計画交換に補助金を組み合わせることで、緊急対応費の年間支出を平準化できる。ここがオーナー経営の核心です。
注意点は、補助金の申請主体が「賃貸集合給湯省エネ事業者」として登録された施工会社である点。オーナーさまが直接申請することはできません。物件の給湯器交換を依頼する施工会社が登録事業者かどうかを、必ず事前確認してください。
5. 東京都の本命:ささエール住宅 貸主応援事業
東京都の住宅セーフティネット制度のなかに、「東京ささエール住宅 貸主応援事業」という、賃貸オーナーさまにとって極めて魅力的なパッケージ補助制度があります(出典:東京都住宅政策本部「貸主応援事業(補助金)」、「東京ささエール住宅貸主応援事業」募集(2026年4月10日))。
| 補助メニュー | 概要 |
|---|---|
| 耐震改修費補助金 | 1棟あたり新規登録住戸×250万円 |
| 住宅設備改善費補助金 | バリアフリー化・断熱改修等の設備改修 |
| 見守り機器設置費等補助金 | 高齢入居者の見守り機器設置費 |
| 少額短期保険等保険料補助金 | 入居者の家財・賠償保険料補助 |
「1棟あたり住戸数×250万円」は、賃貸補助の世界では破格の水準です。20戸の物件なら5,000万円が理論上の上限になります。令和7年度(2026年度)から補助要件が一部緩和され、より貸主が使いやすくなっています。
ただし、この補助を受けるには物件を「東京ささエール住宅」として登録する必要があります。住宅確保要配慮者(高齢者・障害者・子育て世帯・低所得世帯・外国人等)の入居を拒まない物件、というのが基本要件です。
私の現場感覚で言えば、墨田区はもともと多様な世帯が混在するエリアで、「単身高齢者を断っていなかった」「外国人テナントを既に複数受け入れている」というオーナーさまが多いです。この場合、「登録するだけで、実質的な賃貸運営は今までと変わらないのに数千万円規模の改修補助を活用できる」という、極めてオイシイ構造になります。ご興味があれば、登録要件の確認から私どもでお手伝いできます。
6. ホテル・簡易宿所オーナー向けの視点
墨田区はスカイツリー・両国国技館・浅草に近く、訪日観光客向けのホテル・簡易宿所・民泊運営オーナーさまが多いエリアでもあります。住宅系制度の多くはこれらの宿泊施設には適用されませんが、外壁塗装・屋上防水・耐震改修については、墨田区の地球温暖化防止設備導入助成(高反射率塗装)、非木造建築物耐震改修助成のいずれも、用途要件次第で対象になり得ます。
宿泊施設は「お客さまの目線で見られている」感度が住宅系賃貸より遥かに高く、外観の経年劣化はOTA(オンライン旅行代理店)レビューに即座に反映されます。OTAスコアが0.1下がるとADR(平均客室単価)が500〜1,000円落ちる、というのが業界の経験則です。観光地立地のホテル・簡易宿所では、補助金を活用した外観リフレッシュの投資効果は住宅系より大きいと私は見ています。
7. 補助金活用の「順番」――NOI最大化のための実務ロードマップ
ここからが本題です。墨田区オーナーさまにとって実際にどの順番で動くべきかを、私が現場で実践している進め方でお話しします。
Step 1:物件診断と「使える制度」のマッピング(無料・2週間)
まず私どもにご相談いただくか、信頼できる施工会社に現地調査を依頼してください。築年数・構造・規模・劣化状況に応じて、使える制度を一覧化します。墨田区は窓口が分散しているので、この棚卸し作業を1度やっておくと、その後3〜5年の修繕計画が一気に組みやすくなるのが特徴です。
Step 2:補助制度の交付決定 → 着工
ほぼ全ての自治体制度・国制度・都制度に共通する大原則は、「契約前または着工前に申請して交付決定を受けること」です。これを怠ると、たとえ要件を満たしていても補助は出ません。私が見てきた最悪のケースは、施工会社に契約してしまった後に「補助金ありますよ」と言われて、結局1円も貰えなかった、というものです。
Step 3:複数制度の重複適用と「部位分け」
墨田区の地球温暖化防止設備導入助成、国の先進的窓リノベ2026、賃貸集合給湯省エネ2026、都のささエール住宅貸主応援事業は、それぞれ対象工事が違うため重複適用は可能です。ただし「同一の工事費を二度補助対象にする」のは禁止です。部位ごとに切り分け、見積書・契約書を制度別に分離するのが実務の定石になります。
私はいつもオーナーさまに「1つの大規模修繕プロジェクトを、3〜4本の補助申請に分解する」とお伝えしています。これは制度設計に詳しい施工会社でないと組めない作業です。
Step 4:補助金は雑収入計上――税理士との事前相談を
これが意外と見落とされがちなのですが、受給した補助金は雑収入として課税対象になります(一部、圧縮記帳が認められる制度もあります)。改修工事費そのものは「修繕費」か「資本的支出」かで税務処理が分かれ、損金算入できる範囲が大きく変わります。「補助金で得した分が、税金で持っていかれた」という残念な結末にならないよう、必ず顧問税理士と事前にすり合わせてください。
8. 工法選択:足場・ロープアクセス・ハイブリッドの賢い使い分け
ここで弊社の専門領域である3つの工法の選び方をお話しします。墨田区は隅田川沿いの中高層物件、京島・八広エリアの2〜3階建て木造密集物件、押上・本所の事業用ビル、両国の住居系マンションと、物件のバリエーションが豊富なため、工法選択の判断軸を持っておくことが特に重要です。
| 工法 | 適する物件 | コスト感 | 入居者・利用者への影響 |
|---|---|---|---|
| 通常足場 | 中低層・複雑形状・全面塗装 | 標準 | 足場架設期間中の窓開閉制限・採光低下 |
| ロープアクセス工法 | 高層・部分補修・足場架設困難物件 | 足場費分削減 | 居住者の生活影響を最小化 |
| ハイブリッド工法 | 大規模・複雑物件 | 総合最適 | 必要箇所のみ足場、残りはロープ |
特に賃貸オーナーさまにお伝えしたいのは、「足場架設期間中の入居者クレームと退去リスク」です。3ヶ月足場が架かると、防犯不安・採光低下・洗濯物干せない問題が必ず噴出します。私の経験上、退去予告が足場架設のタイミングに重なるケースは、ロープアクセスやハイブリッド工法を選んだ物件より明らかに少なくなります。
ロープアクセス工法は、弊社が日本で初めてフランチャイズ展開している工法でもあり、塗装・防水・タイル・電気・看板の各専門職が加盟しています。一棟丸ごとの大規模修繕でも、部分的な改修でも、対応の幅が広いのが特徴です。詳しくはロープアクセス工法のご紹介・大規模修繕工事のご紹介をご覧ください。
9. 墨田区オーナーが押さえておくべき申請上の落とし穴
最後に、墨田区で補助金申請を進める際に特に注意すべき5つの落とし穴を挙げます。
落とし穴1:契約前の交付決定が大原則
繰り返しになりますが、契約・着工後に申請しても補助は出ません。施工会社からの見積もりを取り、内容を固めてから、契約締結の前に申請書類を区に提出するのが正しい順序です。
落とし穴2:予算枠到達で年度途中終了
地球温暖化防止設備導入助成・耐震改修助成・国の先進的窓リノベ2026・賃貸集合給湯省エネ2026いずれも、予算枠到達時点で受付終了です。「来年度の枠でもいいや」と先送りした結果、年度後半に予算終了、翌年度は制度設計が変更されて条件が悪くなる、というケースも珍しくありません。
落とし穴3:区内事業者要件
民間賃貸住宅改修支援事業(高齢者世帯等向け)は、区内事業者(支店・営業所含む)との契約が要件です。区外業者のみで完結する契約は対象外。弊社のように墨田区での施工実績を持つ会社を選ぶことで、この要件を満たしやすくなります。
落とし穴4:補助金の確定通知が来るまで「内定」ではない
申請して交付決定通知が出るまで、補助金は確定していません。「申請したから貰える」ではなく「交付決定が出たから貰える」のが正確な表現です。施工会社に支払いを行う前に、必ず交付決定通知の有無を確認してください。
落とし穴5:補助金の還元タイミング
国の賃貸集合給湯省エネ2026事業のように、施工事業者が補助金を受領してオーナーに還元する仕組みの制度では、還元方法・タイミングを契約書で明確に取り決めておく必要があります。「いつ、どの口座に、いくら還元されるか」を書面化するだけで、後のトラブルを大きく減らせます。
10. 出口戦略:耐震・断熱改修済み物件の売却価格
賃貸オーナーさまの最終ゴールは、保有期間中のNOI最大化と、出口での売却価格最大化の両立です。墨田区の補助金は、この両方に効きます。
築古ビル・マンションを売却する際、買い主側が必ずチェックするのは「耐震基準(旧耐震/新耐震/Is値)」「省エネ性能(断熱等級・一次エネルギー消費量)」「修繕履歴と長期修繕計画」の3点です。補助金を使って耐震改修・窓断熱・給湯省エネを進めることは、買い主のデューデリで「減点されない物件」を作る投資でもあります。
私が現場で見ている限り、墨田区の収益不動産取引で「旧耐震・断熱無改修・長期修繕計画なし」の物件は、表面利回りで0.5〜1.0ポイント高めの利回り設定をしないと売れなくなってきています。逆に言えば、改修済み物件は売却時のキャップレートで明確に有利なポジションを取れます。
築年数なりの劣化は、賃料の下落圧力として静かに効いてきます。補助金を活用した「先回り投資」は、利回り改善より物件価値そのものを底上げする効果が大きいと、私は20年の現場経験から実感しています。
11. ご相談からプロジェクト開始までの流れ
「自分の物件で使える制度を整理してほしい」「補助金を最大化する修繕計画を組んでほしい」「ロープアクセスか足場か、コスト最適化の相談に乗ってほしい」――そういったご相談は、いつでもお寄せください。
私どもは1棟ごとの現地調査から、補助金マッピング、修繕計画の策定、施工、補助金申請の書類サポートまで、ワンストップでご支援できます。1棟の現地調査と利回り改善シミュレーションだけでも、ご相談を承ります。
まとめ:墨田区オーナーが2026年度に必ず検討すべき制度
| 制度 | 主な補助上限 | 賃貸オーナー直接利用 |
|---|---|---|
| 墨田区 民間賃貸住宅改修支援事業 | 1住戸20〜30万円/1棟100万円 | ◯ |
| 墨田区 非木造建築物 耐震診断・補強設計・改修工事助成 | 診断50〜204.5万円/改修は床面積×50,200円/㎡ | ◯ |
| 墨田区 地球温暖化防止設備導入助成(高反射率塗装ほか) | 補助対象経費の10%・上限15万円 | ◯ |
| 国 先進的窓リノベ2026事業 | 1戸あたり100万円 | ◯(登録事業者経由) |
| 国 賃貸集合給湯省エネ2026事業 | エコジョーズ1台5〜10万円 | ◯(登録事業者経由) |
| 東京都 ささエール住宅 貸主応援事業 | 1棟あたり住戸数×250万円ほか | ◯(要:物件登録) |
| 墨田区 分譲マンション計画修繕調査支援制度 | 1/3・上限50万円 | ×(管理組合のみ) |
| 墨田区 分譲マンションリフォームローン償還助成 | 償還の一部 | ×(管理組合のみ) |
お持ちの物件で、まだこの補助金の検討を始めていないオーナーさまは、ぜひ一度お問合せください。1棟の現地調査と利回り改善シミュレーションだけでも、私どもがお力になります。
これは私が現場で20年見てきた、嘘偽りのない感想です。次回も、墨田区で本当に使える話だけをお届けします。
出典・参考資料
- 墨田区「墨田区民間賃貸住宅改修支援事業(高齢者世帯等向け改修事業)」
- 墨田区「耐震改修事業助成金一覧」
- 墨田区「地球温暖化防止設備導入助成制度」
- 墨田区「墨田区地球温暖化防止設備導入助成金交付要綱」
- 墨田区「分譲マンション計画修繕調査支援制度」
- 墨田区「分譲マンションリフォームローン償還助成」
- 墨田区「住宅に関する助成制度」
- 墨田区「助成金・補助金、貸付制度」
- 墨田区「防火・耐震化改修促進助成事業」
- 墨田区「不燃化特区」
- 墨田区「マンション 管理組合の皆様へ(マンションガイド)」
- 環境省「先進的窓リノベ2026事業【公式】対象要件の詳細」
- 環境省「断熱窓への改修促進等による住宅の省エネ・省CO2加速化支援事業(先進的窓リノベ2026事業)について」
- 資源エネルギー庁「賃貸集合給湯省エネ2026事業について」
- 経済産業省・資源エネルギー庁「賃貸集合給湯省エネ2026事業【公式】」
- 資源エネルギー庁「給湯省エネ2026事業について」
- 東京都住宅政策本部「住宅セーフティネット制度(東京ささエール住宅・居住サポート住宅)」
- 東京都住宅政策本部「貸主応援事業(補助金)」
- 東京都「東京ささエール住宅貸主応援事業 募集(2026年4月10日)」
- 東京都住宅政策本部「既存住宅の省エネ診断・省エネ設計への補助」
- 国土交通省「建築物耐震対策 緊急促進事業 交付申請マニュアル」
- 株式会社明誠「ロープアクセス工法のご紹介」
- 株式会社明誠「大規模修繕工事のご紹介」
- 株式会社明誠「お問合せフォーム」
▼ロープアクセス工法・無足場工法の詳細解説はこちら
ロープアクセスドットコム|無足場工法専門メディア
新宿区で使える賃貸オーナー向け補助金活用ガイド|入居率とNOIを底上げする2026年度の保存版
新宿区で使える賃貸オーナー向け補助金活用ガイド|入居率とNOIを底上げする2026年度の保存版
新宿区で賃貸マンション・ビルを保有しているオーナーさまへ、ひとつだけ先にお伝えしたいことがあります。新宿区の補助制度は、知らずに自費で改修した瞬間に「数百万円〜数千万円の取りこぼし」が発生する設計になっています。区民向け・管理組合向け・事業者向けに窓口が散らばっており、しかも「契約前の交付決定」が大原則なので、動き方を間違えると同じ工事内容でも結果が大きく変わります。
私は本間と申します。株式会社明誠で大規模修繕工事を本業としつつ、足場仮設・ロープアクセス・両者のハイブリッドという3つの工法を組み合わせて、首都圏の収益不動産オーナーさまの修繕を支えてきました。新宿区は弊社にとって受注の多いエリアのひとつで、築15〜40年・5〜80戸規模のRC造・SRC造の賃貸/事業用ビルの改修ご相談を毎月のように頂戴しています。
そのなかで強く感じるのは、「補助金の存在は知っているが、自分の物件で何にいくら使えるのか正確に説明できるオーナーさまが意外と少ない」ということです。新宿区は東京都内でもとくに制度が厚いエリアで、耐震・省エネ・エレベーター防災・長期修繕計画支援まで、ピースが多い分だけ全体像が見えにくいのです。
本記事では、新宿区の助成制度と国の主要制度を「賃貸オーナーの財布」目線で再編集しました。NOI(実質賃料収入:家賃収入から運営経費を引いた実質的な収益)、入居率、出口の売却価格まで意識した「使い倒し方」をお話しします。9,000字超ありますので、ブックマークしてお茶を淹れてからお読みいただくのが正解です。
1. なぜ今、新宿区オーナーが補助金を本気で取りに行くべきか
まず大前提として、新宿区の賃貸市場は強いです。ただ、強いがゆえに「設備が古いだけで埋まらない」「家賃を下げないと決まらない」という静かな現象が、築20年を超えた物件で広がっています。
私が現場で見てきた限り、最近の入居検討者が見ているのは「家賃」と「築年数」だけではありません。窓の断熱性、エアコン、給湯器、共用部の照度、エントランスの清潔感——いわゆる「住み心地に直結する設備」を、内見の30分でかなり見抜きます。法人賃貸のサブリースになると、運営会社の調達担当者がもっと細かく見ます。
ここに補助金を入れる意味はシンプルで、自己負担を圧縮しながら設備をひとつ上の等級に押し上げ、入居率と賃料単価を同時に守るという攻めの一手になるからです。
入居率1%の改善は、年間どれだけのキャッシュフロー差になるか。20戸・平均月額11万円・年間賃料2,640万円の物件なら、入居率1%は約26万円の年間賃料増です。これが3%動けば年間約79万円。新宿区の補助金1件分の自己負担を、入居率の改善だけで吸収できるケースは決して少なくありません。
加えて新宿区は、収益還元法(家賃収入を期待利回りで割り戻して物件価格を算定する評価方法)で値付けされる物件が多いエリアです。設備改善でNOIが伸びれば、売却時の物件価値そのものが上振れします。出口を見据えるオーナーさまほど、補助金を「短期の費用圧縮」ではなく「物件価値の底上げ装置」と捉え直してください。
私はいつもオーナーさまにお伝えしています。「補助金は申請して終わりではなく、NOI改善のレバレッジとして経営計画に組み込むものですよ」と。ここを腹落ちさせてから読み進めていただくと、本記事の制度紹介がぐっと頭に入りやすくなるはずです。
2. 新宿区オーナーが真っ先に押さえるべき「非木造耐震改修助成」——制度の主役
新宿区の助成制度のうち、収益不動産オーナーへのインパクトが最も大きいのが「非木造建築物の耐震改修工事への助成」です。築古ビル・マンションを保有していて、1981年6月以前の旧耐震基準で建てられた物件をお持ちなら、この制度を知らないと数百万円〜数千万円を取りこぼします。
新宿区の非木造:耐震改修工事への助成は、診断・補強設計・改修工事をシリーズで助成する制度です。建物用途や構造、緊急輸送道路沿道かどうかで助成率・上限額が変わります。2025年4月1日改定の最新版で整理します。
2-1. 対象になる建物の条件
対象は次の全てに該当する建築物です(出典:新宿区/非木造:耐震改修工事への助成)。
- 昭和56年(1981年)5月31日以前に着工された建築物
- 構造が鉄骨造、鉄筋コンクリート造、鉄骨鉄筋コンクリート造
- 延べ面積の過半が住宅・共同住宅・寄宿舎・下宿として使用される、または緊急輸送道路沿道、または特定建築物に該当
旧耐震基準のRC造・SRC造のマンション、店舗ビル、事務所ビルは、ほぼここに乗ります。区分所有の場合は管理組合の総会決議または持分の合計が過半となる共有者の承諾が必要です。
2-2. 助成金額の整理(賃貸オーナー目線)
オーナー目線で使える主な助成区分を整理します。
| 建物用途 | 助成対象事業費の単価/補助率 | 助成上限額 |
|---|---|---|
| 一般住宅・共同住宅(分譲マンション以外) | 耐震改修工事費×23%(単価39,900円/㎡) | 助成対象事業費の上限4,000万円 |
| マンション(分譲マンション) | 耐震改修工事費×1/3(単価51,700円〜56,900円/㎡) | 助成対象事業費の上限4,000万円 |
| 特定建築物等 | 耐震改修工事費×23%(単価57,000円〜62,700円/㎡) | 助成対象事業費の上限1,000万円 |
| 防災上特に重要な特定建築物(病院・避難所等) | 耐震改修工事費×23%(単価57,000円〜62,700円/㎡) | 助成対象事業費の上限2,000万円 |
| 緊急輸送道路沿道(住宅・マンション・その他) | 助成対象事業費×5/6 | 助成対象事業費の上限1億円 |
緊急輸送道路沿道の物件で上限1億円というのは、首都圏でも有数の手厚さです。新宿区は緊急輸送道路マップで対象路線を公開しています。靖国通り、明治通り、青梅街道、新目白通りなどの主要幹線沿いに物件をお持ちなら、ここは必ずチェックしてください。
2-3. 賃借人がいる場合の「加算」を見落とさない
新宿区の制度設計で個人的に「よく作り込んだな」と感じるのが、緊急輸送道路沿道で賃借人がいる場合の加算です。耐震改修工事中に発生する賃料減少の補填的な性格を持ち、次のいずれか低い額が上乗せされます(新宿区/非木造:耐震改修工事への助成)。
- 単価で算出した額の合計(賃貸住宅12万円/住戸、貸店舗等は面積帯別に36万〜360万円/契約)
- 2ヵ月分の賃料合計×2/3
- 助成対象事業費×1/15
賃借人がいる築古ビルオーナーにとっては、「工事中の家賃減収」が補助金加算で部分的にカバーされる設計です。私は、緊急輸送道路沿道の物件オーナーさまにご提案するとき、本体助成と加算をワンセットで試算するようにしています。
2-4. 段階的改修にも対応
令和5(2023)年4月から、複数年度にまたがる「段階的改修工事」も助成対象になりました。Is値(構造耐震指標:1981年新耐震基準で想定される地震動に対する建物の耐震性能を示す指標)0.6相当以上を最終的に確保することを条件に、工事工程表と各段階の補強設計評定を提出すれば、無理のないキャッシュフローで耐震化を進められます。
ただし令和9年度末までに最終工事を完了させる期限があります。築古物件をお持ちのオーナーさまは、いま動き出さないと最終工事のスケジュールが厳しくなります。
2-5. 必ず守るべきルール——契約は交付決定後
これは新宿区の助成全般に共通する大事なルールですが、契約は必ず助成金交付決定後に締結する必要があります。すでに着工してしまっている工事は対象外です。
「相見積もりを取って、ハンコを押してから区役所に行った」では遅いのです。私が現場で20年やってきて、一番悔しい思いをするのが、「事前相談に来てくれていれば数百万円受けられたのに」という案件です。本記事を読んでくださっているオーナーさまには、絶対にそのパターンを踏んでほしくありません。
3. 耐震診断・補強設計の助成——「まず診断から」が定石
築古物件を保有していて、まだ耐震診断を受けたことがないオーナーさまは、耐震改修工事より前に「診断」と「補強設計」の助成から入るのが定石です。
新宿区の非木造:耐震診断、補強設計への助成では、診断と補強設計それぞれに助成枠が用意されています。分譲マンションの耐震診断は助成率が高く、診断結果は売却時の重要書類にもなります。
私の経験上、これは「補助金を取りに行く」というより「物件カルテを作る」感覚で先に動くことをお薦めします。診断結果がIs値0.6未満なら、その後の改修工事助成にスムーズに乗れますし、0.6以上なら「うちの物件は耐震性能を満たしています」とPRに使えます。入居募集や売却時の根拠資料として、診断書1冊の威力は大きいのです。
4. 令和8年度「省エネルギー及び創エネルギー機器等補助制度」——5月25日受付開始
新宿区の年度替わりで毎年注目されるのが、令和8年度新宿区省エネルギー及び創エネルギー機器等補助制度です。2026年5月25日から受付開始となっており、個人住宅・集合住宅共用部・事業所の3区分で実施されます(新宿区/令和8年度省エネルギー及び創エネルギー機器等補助制度)。
賃貸オーナーが該当するのは「事業所」もしくは「集合住宅共用部」枠です。詳細な補助額・要件は令和8年4月中旬に区ホームページで公表され、5月25日から受付が始まる流れです。
4-1. 過去の制度内容から読む「狙いどころ」
過去年度(令和5〜7年度)の制度内容を見ると、賃貸オーナー・事業者枠で使いやすかったのは次のメニューです(出典:新宿区/省エネルギー及び創エネルギー機器等補助制度)。
- 太陽光発電システム:1kWあたり10万円、上限80万円
- LED照明:施工経費(税抜)の50%、上限50万円(再エネ電力導入で60万円)
- 高効率空調設備:施工経費(税抜)の50%、上限50万円(再エネ電力導入で70万円)
- 窓・ガラスの断熱改修:個別単価あり
- エネルギー管理システム(BEMS):施工経費の一部
令和8年度も同様の傾向であれば、賃貸物件の共用部LED化、エントランス太陽光、共用空調の更新は1物件で100〜200万円の補助を組める計算になります。
4-2. 賃貸オーナーが狙うべき3つの組み合わせ
私が新宿区のオーナーさまにご提案するとき、よく使う3つの組み合わせは次のとおりです。
①「共用部LED+人感センサー」セット
共用廊下・エントランス・駐車場・駐輪場のLED化+人感センサーは、月次電気代の削減と、内見時の「清潔感・先進感」の両方を狙えます。LED補助50万円+既存照明撤去費の経費化で、自己負担率を実質3〜4割に圧縮できます。
②「外壁塗装+遮熱塗料/高反射率塗料」セット
塗装は10年に一度の大規模修繕と同時施工にすると、足場費を完全に共用できるため、補助金とのレバレッジが最大化します。夏場の最上階の暑さは退去理由の上位常連で、遮熱塗装は体感温度を確実に下げます。
③「太陽光+共用空調更新」セット
屋上スペースに余裕があるなら、太陽光発電と共用空調の同時更新が効きます。再エネ電力導入による補助上限引き上げを狙うパターンで、空調補助が50万円→70万円に底上げされます。
4-3. 重要な注意点——施工・支払完了後申請
新宿区の省エネ補助は、「先に工事して、支払いも済ませてから申請する」後払い方式です。耐震改修助成(交付決定後に契約)とは真逆のフローなので、混乱しないように現場ではいつも明確に区別してご説明しています。
予算枠到達で年度途中に締切となるケースがあるので、動くなら年度の前半に動くのが鉄則です。
5. エレベーター防災対策改修支援事業——意外と知られていない高額補助
新宿区で意外と取りこぼされがちなのが、新宿区エレベーター防災対策改修支援事業です。築20年超のRC造マンション・ビルをお持ちなら、ここは必ずチェックしてください(新宿区/エレベーター防災対策改修支援事業)。
5-1. 対象工事と上限額
助成対象は、既設エレベーターの主要機器の耐震補強、戸開走行保護装置の設置、地震時管制運転装置の設置、リスタート運転機能・自動診断・仮復旧運転機能のうち、1項目以上を行う改修工事です。
助成額は助成対象事業費×2/3で、項目ごとの上限は次のとおりです。
| 工事項目 | 上限額 |
|---|---|
| 主要機器の耐震補強 | 608万円 |
| 戸開走行保護装置の設置 | 190万円 |
| 地震時管制運転装置の設置 | 152万円 |
主要機器の耐震補強だけで上限608万円は、エレベーター更新を控えているオーナーさまにとって非常に大きな金額です。
5-2. 対象建築物の要件
対象になるのは次の要件を満たす建築物です。
- 特定建築物で、耐火建築物または準耐火建築物
- 地階を除く階数が3階以上
- 長期修繕計画または維持保全計画があり、エレベーターを修繕項目として設定している
- 構造躯体が地震に対して安全な構造である
「長期修繕計画にエレベーター修繕を入れていれば対象」という条件は重要です。長期修繕計画を作っていない、または何年も更新していないオーナーさまは、まず計画を整備するところから始める必要があります。
私が現場で見てきた限り、新宿区の築20〜30年クラスのRC造賃貸ビルは、ほぼこの要件に乗ります。「エレベーターの異常停止が増えてきた」「30年経過で更新を考えている」というオーナーさまは、更新前に必ず本制度の事前相談へお進みください。
6. 国の主要制度——新宿区助成と「重ね取り」する
新宿区の助成だけでなく、国の主要制度との重ね取りも忘れてはいけません。賃貸オーナーが2026年度に最も効率よく使えるのは、次の3つです。
6-1. 賃貸集合給湯省エネ2026事業
経済産業省・資源エネルギー庁の賃貸集合給湯省エネ2026事業は、既存賃貸集合住宅(戸数2戸以上)のオーナーを直接対象にした補助金です。
補助額は、エコジョーズ・エコフィール(高効率ガス/石油給湯器)への交換で1台あたり5万円、追いだき機能付きで1台あたり7万円。共用廊下を横断するドレン水排水経路新設工事を伴う場合は、それぞれ8万円/10万円に増額されます。
20戸の物件で給湯器が一斉に更新時期を迎えていれば、追いだき機能付きで最大140〜200万円の補助が組める計算です。給湯器交換は退去のたびに発生しがちな出費なので、まとめて一括交換することで補助金とのレバレッジを最大化できます。
申請は登録された「賃貸集合給湯省エネ事業者」が代行する方式で、オーナーさまが直接申請することはできません。信頼できる事業者を選んでまとめて発注するのが正攻法です。
6-2. 先進的窓リノベ2026事業
環境省の先進的窓リノベ2026事業は、内窓設置、外窓交換、カバー工法、ガラス交換などの高断熱改修に対する補助金です。賃貸物件も対象になります。
補助上限は次のとおりです。
- 住宅:1戸あたり100万円
- 延床面積240㎡以下の非住宅建築物:1棟あたり100万円
- 延床面積240㎡を超える非住宅建築物:1棟あたり1,000万円
工事の着手期間は2025年11月28日〜2026年12月31日、補助総額5万円以上の工事が対象です。
築古物件の「結露・カビ・冷暖房効率」の問題は、入居率の静かな下落要因です。内窓設置で1戸あたり10〜30万円の補助を組めれば、断熱性能を一気に上げつつ、テナント満足度と賃料維持の両方を取りに行けます。
6-3. 東京都の補助制度——「マンション改良工事助成」は予算枠注意
東京都のマンション改良工事助成制度は、住宅金融支援機構と連携した利子補給型の助成です。分譲マンションの管理組合向けの色が強いですが、区分所有を多数保有するオーナーさまは、管理組合と連携して活用できます。
ただし令和7年度の受付は予算上限到達で終了しています。令和8年度の枠は4月以降に再公表される見込みですので、ご活用予定なら早めの動き出しが必須です。
7. 新宿区マンション管理計画認定制度——「認定」がもたらす金融・税制メリット
これは「補助金そのもの」ではないですが、新宿区マンション管理計画認定制度は収益不動産オーナーさまに知っておいてほしい制度です(新宿区/マンション管理計画認定制度)。
7-1. 認定取得で受けられるメリット
認定を受けると、次のメリットが期待できます。
- 市場評価の向上:適正に管理されているマンションとして市場で評価される
- 金融優遇措置:住宅金融支援機構の金利優遇、フラット35の借入金利引下げ、マンション共用部分リフォーム融資の金利引下げ
- 税制優遇:長寿命化工事を実施するなど一定要件を満たすと固定資産税の減額措置の対象
区分所有の収益マンションをお持ちのオーナーさまにとって、金融優遇と固定資産税減額は、長期保有コストに直接効く価値です。
7-2. 認定の前提として「長期修繕計画」が必要
認定には「現行の長期修繕計画があり、計画期間が30年以上で大規模修繕工事を2回以上含むこと」など複数の要件があります。長期修繕計画を作っていない管理組合は、まず計画作成からのスタートです。
新宿区はこの点も支援しており、長期修繕計画の作成等委託経費を補助しています。補助対象経費の50%、上限20万円です(新宿区/長期修繕計画の作成・見直しをしませんか)。
「長期修繕計画→管理計画認定→金融優遇+固定資産税減額」という一連の流れを設計できるオーナーさまは、長期保有のキャッシュフローを構造的に底上げできます。
8. オーナーが押さえるべき「税務上の罠」——補助金を雑収入で計上
ここまで補助金の話を中心にお伝えしましたが、現場で意外と質問が多いのが税務処理です。私は税理士ではないので一般論ですが、必ず押さえてほしいポイントを整理します。個別のご判断は必ず顧問税理士にご相談ください。
8-1. 補助金は「雑収入」として課税対象
補助金は受給時に雑収入として益金計上するのが原則です。「タダでもらえるから丸々得」という単純な話ではなく、結局その年の所得に乗って課税される点に注意が必要です。
ただし、補助金で取得した固定資産については圧縮記帳という会計処理を選択できる場合があり、これを活用すると当期の課税所得を圧縮できます。
8-2. 「修繕費」と「資本的支出」の境目
賃貸オーナーの実務でいちばん悩むのが、修繕費か資本的支出かの判定です。
- 修繕費:その年に全額損金算入できる(節税効果が大きい)
- 資本的支出:固定資産として計上し、減価償却で複数年に按分(節税効果は分散)
外壁塗装の塗り替えは多くの場合「修繕費」ですが、断熱性能を高める塗料や、明らかに耐用年数を延ばす工事は「資本的支出」と判定されることがあります。補助金を活用した「高断熱サッシ」「太陽光発電」「LED一斉更新」は資本的支出に該当する可能性が高いので、税理士と事前に協議してください。
8-3. 固定資産税の減額措置との組み合わせ
マンション管理計画認定を取得し、長寿命化工事を実施した場合、固定資産税の減額措置の対象になります。補助金で初期投資を圧縮しつつ、その後の保有コストも下げられる「二段構え」の節税効果です。
「補助金は雑収入で課税」「資本的支出は減価償却で按分」「固定資産税は減額」——この3点をワンセットで税理士と協議いただくのが、賃貸オーナーの正攻法です。
9. 工法選びがNOIに効く——足場・ロープアクセス・ハイブリッド
ここからは私の本業のお話です。補助金は「工法選び」で実額が大きく変わります。同じ補助金額・同じ仕上げでも、工法によって自己負担額に数百万円の差が出るのは、新宿区のような高密度市街地ではよくある話です。
9-1. 通常足場工法
従来型の仮設足場による施工です。安全性と作業効率が高く、複雑な施工にも対応できます。中低層のマンションやビル、外壁が複雑な形状の物件に向きます。
ただし、新宿区の幹線道路沿いや密集地では、足場架設のための道路占用許可、近隣調整、車両動線の確保が大きな負担になります。足場費用が総工事費の20〜30%を占めることも珍しくありません。
9-2. ロープアクセス工法(無足場工法)
産業用ロープによる無足場施工です。足場費を完全に削減でき、工期も短縮されます。
新宿区のような高密度市街地では、ロープアクセスの利点が際立ちます。
- 隣接ビルとの距離が近く、足場が組みにくい物件
- 道路占用許可が取りにくい商業地・幹線道路沿いの物件
- 居住者・テナントの生活影響を最小化したい物件
- コストを最重視するオーナー物件
弊社・株式会社明誠は、日本初のロープアクセス工事フランチャイズ展開を行っており、塗装・防水・タイル・電気・看板など各分野の専門職が加盟しています。高品質×低価格を同時に実現できる強みです。
9-3. ハイブリッド工法
足場とロープアクセスを部位ごとに使い分ける工法です。
- 1〜3階の低層部とエントランス:通常足場(細かい作業が多いため)
- 4階以上の高層部・ベランダ側:ロープアクセス(足場費を削減)
新宿区の中高層RC造マンション・ビルでは、このハイブリッドが最もコスト最適化されるケースが多いです。私の経験上、総工事費が同じ仕様の足場工法と比べて10〜25%圧縮できることもあります。
3工法を比較できる業者は日本でも非常に少ないので、相見積もりを取る際は「ロープアクセスの見積もりも併せて欲しい」と必ず伝えてみてください。
工法選びの詳細は、ロープアクセス工法のご紹介と大規模修繕工事のご紹介もあわせてご覧ください。
10. 病院・介護施設オーナー向けの追加ポイント
新宿区は東京医大病院・国立国際医療研究センターをはじめ、医療施設・介護施設のオーナーさまからのご相談も多いエリアです。一般賃貸とは別軸で押さえるべきポイントがあります。
10-1. 「防災上特に重要な特定建築物」の上限引き上げ
新宿区の非木造耐震改修助成では、病院・避難所等の「防災上特に重要な特定建築物」は上限額が2,000万円に引き上げられています(新宿区/非木造:耐震改修工事への助成)。
旧耐震基準の病院・診療所をお持ちのオーナーさまは、通常の特定建築物(上限1,000万円)の2倍枠を取りに行ける可能性があります。
10-2. BCP・防災対応がストレートに収益貢献
医療・介護施設はBCP(事業継続計画)策定が義務化されており、耐震・エレベーター防災・非常用電源の整備は、介護報酬・診療報酬の加算評価にも関わります。
「補助金で初期投資を圧縮しつつ、加算評価で経常収益を底上げする」という二段構えで設計できれば、医療・介護施設オーナーにとっては理想的な投資判断になります。
10-3. 入居者の高齢化を見据えたバリアフリー化
賃貸住宅オーナーでも、入居者の高齢化に伴うバリアフリー需要は無視できません。共用廊下の段差解消、エントランスの自動ドア化、エレベーターのオーラルアナウンス機能などは、長期入居率の安定に直結します。
11. 申請の進め方——8つのステップで全体像を掴む
新宿区の助成制度は、原則として「事前相談→交付申請→交付決定→契約→工事→完了報告→助成金交付」の流れで進みます。耐震改修と省エネ補助で順序が異なる点に注意しつつ、私が現場でいつもオーナーさまにお伝えしている8ステップを整理します。
- 物件の劣化診断・現地調査:明誠など信頼できる業者にまず現地を見てもらう
- 長期修繕計画の整備:エレベーター防災や管理計画認定の前提
- 耐震診断(築古・旧耐震物件のみ):診断助成を活用
- 補強設計(耐震改修を行う場合):補強設計助成を活用
- 区への事前相談:耐震・エレベーターは契約前必須、省エネは事前相談推奨
- 交付申請→交付決定:通常2〜4週間
- 契約・工事着工:必ず交付決定後
- 完了報告→助成金交付:年度内完了が原則
私が一番悔しい思いをするのは、ステップ5を飛ばして「先に契約してしまった」ご相談です。本記事を読んでくださっているオーナーさまは、絶対にそのパターンを踏まないでください。
12. 9000字超の本記事を読み終えた方への、次の一歩
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます。情報量が多かったので、要点だけ最後にまとめます。
- 新宿区の主役制度は「非木造耐震改修助成」。緊急輸送道路沿道なら上限1億円
- 令和8年度省エネ・創エネ補助は5月25日から受付開始。詳細は4月中旬公表
- エレベーター防災対策改修支援は意外な穴場。主要機器耐震補強で上限608万円
- 国の賃貸集合給湯省エネ2026、先進的窓リノベ2026は賃貸オーナーを直接対象
- マンション管理計画認定は金融・税制両面の長期メリット
- 補助金は雑収入で課税。資本的支出か修繕費かは税理士と事前協議
- 工法選びでNOIが変わる。足場・ロープアクセス・ハイブリッドの3択で再見積もりを取る価値あり
築年数なりの劣化は、賃料の下落圧力として静かに効いてきます。出口を見据えた修繕投資は、利回り改善より物件価値そのものを底上げします。新宿区はそのための制度がしっかり用意されているエリアです。
お持ちの新宿区物件で、まだ補助金活用の検討を始めていないオーナーさまは、ぜひ一度お問合せください。1棟の現地調査と、利回り改善シミュレーションだけでもご相談を承ります。相見積もりに「ロープアクセス・ハイブリッドでの見積もり」を1社追加することで、自己負担が想像以上に変わるケースがあります。
お問合せフォームはこちら。総会の前段階の整理、社内稟議の前段階の検討、どちらでもお力になれることがあります。
これは私が現場で20年見てきた、嘘偽りのない感想です。次回も、現場で本当に使える話だけをお届けします。
出典・参考資料
- 新宿区「非木造:耐震改修工事への助成」(2025年4月1日更新)
- 新宿区「非木造:耐震診断、補強設計への助成」
- 新宿区「特定緊急輸送道路沿道建築物への助成」
- 新宿区「建築物等耐震化支援事業」
- 新宿区「緊急輸送道路マップ(PDF)」
- 新宿区「令和8年度新宿区省エネルギー及び創エネルギー機器等補助制度」(2026年4月1日更新)
- 新宿区「省エネルギー及び創エネルギー機器等補助制度」
- 新宿区「エレベーター防災対策改修支援事業」
- 新宿区「マンション管理計画認定制度」
- 新宿区「長期修繕計画の作成・見直しをしませんか」
- 経済産業省 資源エネルギー庁「賃貸集合給湯省エネ2026事業 公式サイト」
- 環境省「先進的窓リノベ2026事業 公式サイト」
- 東京都「マンション改良工事助成制度/マンションポータルサイト」
- 国土交通省「マンション管理計画認定制度」
※本記事の補助金額・要件は2026年5月時点の公開情報に基づきます。最新の制度内容・受付状況は必ず新宿区および各実施機関の公式ページでご確認ください。本記事は税務上の助言を提供するものではなく、個別の税務判断は必ず顧問税理士にご相談ください。
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ナフサ危機で外壁・防水工事が「止まる」——大規模修繕の発注を凍らせる前に、理事長が今すぐ押さえるべき5つの実務対策【2026年5月最新】
1. 何が起きているのか——2026年5月14日に並んだ3つのニュース
まず、今週の業界を揺らした3つのニュースを、感情を抑えて時系列で並べます。私はいつも理事長さまに、ネット記事の見出しに反応する前に「誰が、いつ、何を発表したのか」を表に並べてから議論することをお勧めしています。今回もそれをします。
ひとつ目。鹿児島県の発表です。中東情勢の影響でナフサ原料の建築資材が不足し、県営住宅や職員宿舎などの改修工事6件で作業が一時中断していることが、5月14日に明らかになりました。当初4月に発注予定だった県営住宅の屋根防水工事についても、発注が見送られているとされています(出典:Yahoo!ニュース「【中東情勢の影響】ナフサ原料の建築資材が不足―県営住宅・職員宿舎6件で外壁改修が一時中断」(2026年5月14日))。私はこの記事を最初に目にしたとき、「ついに公共工事の発注側が動けなくなる事態に踏み込んだのか」と背筋が伸びる思いでした。県営住宅は、地方自治体が住民に対して責任を負う居住空間です。そこに手を入れる工事の停止は、軽い意思決定ではありません。
ふたつ目。塗料メーカー大手の日本ペイントが、塗料類全般および直送運賃の価格を6月1日出荷分から改定すると発表しました(出典:新建ハウジング「日本ペイント、塗料類全般を値上げ 6月1日出荷分から」(2026年5月13日))。塗料の値上げは、私たち施工側にとっては、見積もりを出し直さなければならないほどのインパクトを持つ事象です。マンション大規模修繕は、外壁塗装が工事費全体の3〜4割を占めるからです。
みっつ目。ダイヤモンド・オンラインが、断熱材で40%、塗料で80%という高騰を伝えました。建材ごとに上昇率の差はあるものの、住宅のほぼ全領域に影響が及んでおり、木造に限らず鉄骨造やRC造、新築だけでなくリフォームも、すべてが影響圏内にあるとされています(出典:ダイヤモンド・オンライン「断熱材40%、塗料80%高騰…家づくり総額が数百万円上がる『ナフサ危機』新築・リフォーム前に確認したい影響」(2026年5月14日))。マンション管理組合の理事長さまは「うちは新築じゃないから関係ない」と思われるかもしれませんが、ここはぜひ受け止めていただきたい点です。RC造のリフォームも、塗料も防水も影響圏内です。むしろ既存マンションの大規模修繕は、新築よりも材料費が工事費に占める割合が大きい——だからこそ、価格高騰のしわ寄せが直撃しやすい構造にあります。
3行でまとめます。第一に、外壁改修・防水工事の現場で、ナフサ系資材の不足を理由とした「工事中断」が現実に発生し始めた。第二に、塗料メーカーが正式に値上げを発表し、6月以降に動く工事の見積もり前提が一段階引き上がる。第三に、これは新築だけの話ではなく、既存マンションの大規模修繕の発注プロセスにもまもなく波及する。
ここからが本題です。理事長さまにとっては「うちのマンションでは何をすればいいのか」が一番気になるところだと思います。順を追って整理していきます。
2. 「ナフサ危機」とは何か——理事会で言葉の定義をそろえる
ここで一度、専門用語の補足をさせてください。ニュース報道で頻出するようになった「ナフサ」という言葉ですが、理事会の議論で、私が最初にお願いしているのが「言葉の定義をそろえること」です。
ナフサ(粗製ガソリン)とは、原油を蒸留して得られる軽質留分のひとつで、主に石油化学工業の原料として使われます。プラスチック、合成樹脂、塗料、接着剤、断熱材(ウレタンフォーム)、防水材の主原料となるエチレン・プロピレン・ベンゼンといった石油化学基礎製品の親元です。経済産業省の資源エネルギー庁は、ナフサ価格は中東情勢、原油価格、為替の3要素で決まると整理しています(出典:資源エネルギー庁「石油精製・石油化学」)。今回の高騰は、中東情勢の悪化と為替の円安が同時に効いた結果です。
ここで大事なポイントを2つだけ強調させてください。第一に、ナフサ価格の上昇は、すぐに製品価格に反映されるわけではありません。塗料メーカーや断熱材メーカーは、ナフサから原料樹脂を作り、樹脂から建材を作るという2段階の工程を経るため、ナフサ高騰から建材値上げまでには通常2〜6か月のタイムラグがあります。今回、5月時点で値上げが発表されているのは、半年前のナフサ上昇を反映したものです。逆に言えば、いまの中東情勢が悪化したままだと、年末から来春にかけてさらに第2波・第3波の値上げが続く可能性があります。
第二に、ナフサ危機は「あった/なかった」の二元論ではなく、「いつまで続くか」の問題です。私の経験上、過去のナフサショック(2008年、2022年)でも、上昇局面は半年から1年半続きました。理事会で「もう少し待てば落ち着く」と判断するのは危険です。下がらない前提で発注計画を組み直すほうが、結果的に組合の損失を抑えられます。
正直に申し上げます。私はこれまで20年近く現場をやってきて、「待っていれば下がる」と言い続けて結局3年間発注を引き延ばし、最終的に当初の1.5倍の予算で発注せざるを得なくなった管理組合をいくつも見てきました。だからこそ、今回のような報道があったタイミングで、理事会が「動かす前提」「動かさない前提」の両方をシミュレーションすることが大事だと、私は思っています。
3. 影響を受ける建築資材の全体像——マンション大規模修繕の何が高くなるのか
ここで一度、マンション大規模修繕で使われる建築資材のうち、ナフサ危機の影響を受けるものを整理しておきます。理事会で「うちの工事のどこに効くのか」を共有できるよう、分類して並べました。
第一カテゴリは塗料です。外壁塗装に使われるアクリル樹脂塗料、ウレタン樹脂塗料、シリコン樹脂塗料、フッ素樹脂塗料は、いずれも合成樹脂を原料としており、その樹脂はナフサ由来です。ダイヤモンド・オンラインの報道では塗料80%高騰とされており(出典:ダイヤモンド・オンライン)、グレードによって上昇幅は異なるものの、塗料費全体で見て3〜5割の上昇は織り込んでおく必要があります。塗料は外壁塗装で大規模修繕の総工事費の25〜30%を占めるため、塗料費1.5倍は、総工事費の10〜15%押し上げに相当します。
第二カテゴリは防水材です。屋上やバルコニーの防水工事に使われるウレタン防水、塩ビシート防水、アスファルト防水のうち、ウレタン防水と塩ビシート防水はナフサ由来の樹脂を多く含みます。鹿児島県が屋根の防水工事の発注を見送ったとされる背景(出典:Yahoo!ニュース)も、ここに直結しています。アスファルト系の改質アスファルトシートは比較的影響が小さいものの、施工に使われる接着剤やプライマーはやはりナフサ由来です。
第三カテゴリは断熱材です。外断熱改修やバルコニー床改修で使われる硬質ウレタンフォーム、押出法ポリスチレンフォーム、ビーズ法ポリスチレンフォームは、いずれもナフサ由来の樹脂を原料とします。断熱材40%高騰の報道(出典:ダイヤモンド・オンライン)は、これらすべてを含んだ平均値です。マンション大規模修繕で外断熱工事を予定している組合は、特に影響が大きくなります。
第四カテゴリは接着剤・シーリング材です。タイル張替工事に使う有機系接着剤、外壁目地のシーリング材(ウレタン系、変成シリコン系、ポリサルファイド系)も、いずれもナフサ由来の合成樹脂を原料とします。シーリングの全面打ち替えは大規模修繕の標準工程ですから、これも避けて通れません。
第五カテゴリは配管材です。給排水管の更新工事に使う塩ビ管、ポリブテン管、架橋ポリエチレン管は、すべて樹脂製品です。給排水管更新を大規模修繕に組み込んでいる組合では、ここも上昇圧力にさらされます。
私はいつも理事長さまに、「大規模修繕の見積書を見るときは、塗料・防水・シーリングの3つの単価変動を必ずチェックしてください」とお伝えしています。この3つが工事費の半分以上を占めるからです。ナフサ危機の局面では、この3つが同時に上がる——これが理事会にとって最も厄介な構造です。
4. 大規模修繕への波及シナリオ——3つのリスクを時系列で並べる
ニュースの整理と資材の整理を終えたうえで、いよいよ「では、マンション大規模修繕にどう波及するのか」を時系列で考えてみます。私の経験上、これから6〜18か月で、3つのリスクが順に顕在化する可能性があります。
第一のリスクは、見積書の有効期限切れです。一般的に大規模修繕の見積書は、提出から60〜90日が有効期限とされます。今年2〜3月に取った見積書をベースに、夏の総会で予算承認を取り、秋に契約締結——というスケジュールを組んでいる組合は要注意です。日本ペイントの6月1日値上げ(出典:新建ハウジング)が反映された見積もりが、契約直前に提示されると、当初想定よりも工事費が大幅に膨らむ事態が起こり得ます。私はいつも理事長さまに、「見積書の有効期限と発注時期の関係を、契約前に必ず確認してください」とお伝えしています。
第二のリスクは、工事中断・工期延長です。鹿児島県のケース(出典:Yahoo!ニュース)が示すように、資材が入手できなければ工事は止まります。マンション大規模修繕でも、塗料・防水材・断熱材の納入遅延が発生すれば、足場架設を済ませた状態で工事が止まるという最悪のシナリオがあり得ます。足場のリース料は1日単位で発生するため、工事が止まっているのに足場代が積み上がるという、組合にとって耐え難い構造になりかねません。私の経験上、これは資材高騰そのものよりも、組合の財務に打撃を与えやすい事象です。
第三のリスクは、長期修繕計画の前提崩壊です。多くの管理組合が、5年前または10年前に策定した長期修繕計画をベースに、修繕積立金の額を決定しています。しかし、ナフサ危機が常態化すれば、その計画上の単価では工事ができなくなります。すると、修繕積立金を一気に増額するか、一時金を徴収するか、工事内容を圧縮するかのいずれかを選ばざるを得ません。国土交通省の調査では、すでに修繕積立金が10年で平均5割増加しているとの報道もあり(出典:Yahoo!ニュース「分譲マンション『修繕積立金』10年間で平均5割『負担増』」(2026年5月14日))、組合員の負担余力は決して大きくありません。
ここからが本題です。3つのリスクを並べた上で、では理事長さまが今すぐ取れる行動は何か。次の章で5つに整理します。
5. 理事長が今すぐ取れる5つの実務対策
ここからは、私が実際に管理組合さまにお伝えしている対策を、優先度の高い順に5つ並べます。今週の理事会で1つ、来月までにあと2つ、というペースで進めていただければ十分です。
対策1:既存の長期修繕計画を「資材高騰」前提で再シミュレーション
最初にやっていただきたいのは、いまの長期修繕計画書を引っ張り出して、「資材費1.3倍」「資材費1.5倍」の2パターンで再シミュレーションすることです。専用のツールは要りません。Excelでも十分です。塗料・防水・シーリング・断熱材の項目に1.3〜1.5倍を掛け、残りの労務費・足場費・諸経費はそのままで合計を出すだけです。
これをやると、いま予定している大規模修繕の総額が、楽観シナリオでもプラス5〜8%、悲観シナリオでプラス10〜15%膨らむことが目に見えてきます。次回の総会で「いまの修繕積立金で足りるのか」「足りないなら、いつから・いくら積み増すのか」を議論する素材になります。私の経験上、数字を見ないまま「とりあえず据え置き」を続けると、3年後に必ず深刻な議論が押し寄せます。
対策2:見積書の有効期限を短縮し、再見積もり前提で契約条項を整える
第二に、すでに大規模修繕の見積書を取っている組合は、その有効期限を確認してください。発注予定日が有効期限を超える場合は、施工会社に早めに連絡し、再見積もりのスケジュールを擦り合わせるのが安全です。
それ以上に大事なのが、契約書の「材料費スライド条項」の確認です。公共工事では当然のように使われるスライド条項(材料費が一定割合以上上昇した場合に契約金額を見直す条項)が、民間の大規模修繕では入っていないケースが少なくありません。スライド条項がない契約で工事中に材料費が急騰した場合、施工会社が泣くか、組合が追加負担を飲むか、最悪のケースでは工事が止まるかの3択になります。
私はいつも理事長さまに、「契約書ひな型にスライド条項を最初から組み込み、上下5%・10%・15%の3段階で『どこから組合と協議するか』を明文化しておくのが、結果的にお互いにとって安全」とお伝えしています。これは押し売りでも何でもなく、組合と施工会社の双方を守る発想です。
対策3:設計コンサルタント・施工会社に「材料調達ルート」を質問項目として渡す
第三に、業者選定や設計監理契約のヒアリング項目に、「材料の調達ルート」を必ず加えてください。具体的には、塗料・防水材・断熱材それぞれについて、メーカーと商社・問屋の関係、在庫保有月数、納期見通し、代替メーカーの有無、を質問するのです。
これは、工事中断リスクを発注前にスクリーニングする最も実務的な手段です。複数メーカーと直接の取引関係を持つ施工会社、特定問屋に強い施工会社、フランチャイズや連合体で在庫情報を共有している施工会社は、納期遅延リスクをある程度コントロールできます。一方、小規模な施工会社のなかには、目の前の問屋にしか発注ルートを持っておらず、その問屋で品切れが起きたら一緒に止まってしまうケースもあります。
正直に申し上げます。これまで管理組合さまは、施工会社選定で「価格」と「実績」を重視されてきました。これからの局面では、それに「調達力」を加えていただきたいのです。明誠でも、ロープアクセスのフランチャイズ加盟店ネットワークを通じて、塗料・防水材の調達情報を共有する仕組みを少しずつ整えています。詳しくはロープアクセス工法のご紹介もご参照ください。
対策4:足場費の圧縮で、資材高騰分を吸収する設計を検討する
第四に、ぜひ検討していただきたいのが、足場仮設費の圧縮です。大規模修繕の総工事費に占める足場仮設費の割合は、建物形状や階数にもよりますが10〜20%にも達します。ここを圧縮できれば、資材高騰分の一部または全部を吸収できる可能性があります。
具体的な選択肢は3つあります。第一に、すべての作業を従来型の枠組足場で行う通常工法。第二に、外壁塗装や調査などを産業用ロープアクセス工法で行う無足場工法。第三に、足場が必要な部位(タイル張替、大規模なシーリング打ち替え、笠木交換など)は足場、それ以外(点検、補修、塗装の一部)はロープアクセスで行うハイブリッド工法です。
明誠では、この3つの工法から、建物の形状・階数・工事内容・近隣条件に応じて最適なご提案ができる体制を整えています。日本のなかで、この3つを自社で扱える会社は実は多くありません。たとえば10階建てのマンションで全面足場をかけると、足場費だけで3,000万円を超えるケースが珍しくありませんが、適切な部位でロープアクセスを併用すると、足場費を1,500〜2,000万円に抑えられることがあります。差額の500〜1,500万円は、そのまま資材高騰分の吸収原資になります。
私はいつも理事長さまに、「資材費を下げるのは難しい。労務費を下げるのはもっと難しい。でも、足場費は工法の選択で大きく変えられる」とお伝えしています。これは、私の20年の現場経験で得た数少ない確信のひとつです。
対策5:補助金・補正予算情報を継続的に追う仕組みを作る
第五に、補助金・補正予算の情報を継続的に追ってください。2026年5月14日には、政府が物価高対策で補正予算編成を検討しているとの報道が出ています(出典:TBS NEWS DIG「物価高対策で補正予算編成を検討 電気ガス補助金7月から再開」(2026年5月14日))。電気・ガス補助だけでなく、住宅・建築関連の支援策が組み込まれる可能性があります。
国の常設制度としては、国土交通省の「マンションストック長寿命化等モデル事業」が長期修繕計画の策定や先進的な修繕工事を支援しています(出典:国土交通省「マンションストック長寿命化等モデル事業」)。また、東京都および23区・市町村レベルでは、分譲マンションの修繕に対する助成制度が整備されています(出典:東京都マンションポータルサイト)。ナフサ危機を受けて拡充される可能性もあるため、年に数回はチェックする習慣をつけていただきたいのです。
私の経験上、補助金は「いつでも申請できる」ものではなく、「予算枠到達で締切」になる制度がほとんどです。情報を待つのではなく、取りに行く姿勢が結局は組合の利益につながります。詳しくは大規模修繕工事のご紹介のなかでも継続的に発信していきます。
6. 明誠の3工法×フランチャイズで何ができるか——施工側からの率直な話
ここから少しだけ、私たち施工側からの話をさせてください。押し売りにならないよう、事実だけを淡々と書きます。
明誠は、マンション・ビル・ホテルの大規模修繕工事を主な業務としています。通常足場工法、ロープアクセス工法(無足場工法)、両者を組み合わせたハイブリッド工法の3つを、自社で扱える数少ない会社のひとつです。日本のなかで、この3工法を1社で提案できる会社は片手で数えられるほどしかありません。
なぜこれが今回のナフサ危機の文脈で意味を持つのか、3つの理由を挙げます。
第一に、工法の選択肢が多いほど、コスト最適化の余地が大きいからです。先ほどの対策4で書いた通り、足場費の圧縮は資材高騰分の有力な吸収手段になります。1工法しか持たない会社は、足場の有無を切り替えられません。
第二に、ロープアクセス工法のフランチャイズ展開を日本で初めて行っている会社として、各分野の専門職(塗装、防水、タイル、電気、看板)と全国で連携できる仕組みを持っているからです。この連携網は、資材調達の局面でも機能します。複数の加盟店が異なるメーカー・問屋と取引関係を持つため、特定の品目で在庫が逼迫しても、別ルートを探す余地があります。
第三に、JCSA(一般社団法人全国建設業支援協会)の運営を通じて、業界全体の情報収集と発信に関わっているからです。ナフサ危機のような業界横断的な事象では、特定の会社だけでなく業界全体の動きを掴むことが、発注側にも施工側にも価値を持ちます。
繰り返しになりますが、これは押し売りではありません。私は、組合さまが他社さまから見積もりを取ることを止めません。むしろ、複数社に同条件で見積もりを依頼し、価格・実績・調達力の3軸で比較していただくのが、組合員さまにとって最も誠実な発注プロセスだと考えています。そのうえで、もし「3つの工法を組み合わせて見積もりを取ってみたい」「いまの長期修繕計画を資材高騰前提で見直したい」というご要望があれば、お問合せフォームからご相談だけでも遠慮なくお声がけください。総会の前段階の整理だけでも、お力になれることがあります。
7. 補助金・公的支援との組み合わせ——いま追っておくべき5本
最後に、ナフサ危機の局面で追っておくべき補助金・公的支援を5本に絞ってご紹介します。それぞれ、年度や予算枠で内容が変わるため、最新情報は必ず一次情報サイトで確認してください。
第一に、国土交通省「マンションストック長寿命化等モデル事業」(出典:国土交通省)。先進的な改修工事や、長期修繕計画の策定支援に充てられる事業です。
第二に、国土交通省「住宅・建築物省エネ改修推進事業」(出典:国土交通省 住宅・建築物の省エネルギー対策)。外断熱改修や窓改修など、省エネ性能の向上を伴う改修工事に活用できる支援制度の総称です。
第三に、東京都「分譲マンション総合相談窓口・各種助成」(出典:東京都マンションポータルサイト)。長期修繕計画の作成、修繕工事、管理状況の届出に応じた助成や相談支援が用意されています。
第四に、23区・市町村レベルの分譲マンション修繕助成。区によって名称・対象・上限額が異なります。たとえば千代田区、中央区、港区などはマンション施策に力を入れています。お住まいの自治体名と「マンション 修繕 助成」で検索するのが最短ルートです。
第五に、政府の補正予算動向(出典:TBS NEWS DIG)。電気・ガス補助の文脈で語られていますが、物価高対策として住宅・建築関連の臨時支援が組み込まれる可能性があります。補正予算は通年制度ではないため、発表のタイミングで一気に動く必要があります。
私の経験上、補助金は「うちのマンションは対象だろうか」と迷っているうちに締切になります。年度初頭の4月、補正予算の検討が始まる秋、年度末の駆け込み——この3つのタイミングで一度ずつ自治体の助成ページを覗いていただくだけで、機会損失は大きく減ります。
8. 出典・参考資料
- Yahoo!ニュース(読売新聞配信)「【中東情勢の影響】ナフサ原料の建築資材が不足―県営住宅・職員宿舎6件で外壁改修が一時中断」(2026年5月14日)
- Yahoo!ニュース「中東情勢の影響で塗料など入手困難…県営住宅など工事6件中断 鹿児島」(2026年5月14日)
- 新建ハウジング「日本ペイント、塗料類全般を値上げ 6月1日出荷分から」(2026年5月13日)
- ダイヤモンド・オンライン「断熱材40%、塗料80%高騰…家づくり総額が数百万円上がる『ナフサ危機』新築・リフォーム前に確認したい影響」(2026年5月14日)
- Yahoo!ニュース「断熱材が40%値上がり ナフサの供給不安定が住宅の建築現場に影響 建築資材の品薄状態」(2026年5月14日)
- TBS NEWS DIG「物価高対策で補正予算編成を検討 電気ガス補助金7月から再開 ガソリン補助継続で財源枯渇の懸念」(2026年5月14日)
- Yahoo!ニュース「分譲マンション『修繕積立金』10年間で平均5割『負担増』それでも費用が足りず高額な一時金請求」(2026年5月14日)
- 国土交通省「マンションストック長寿命化等モデル事業」
- 国土交通省「住宅・建築物の省エネルギー対策」
- 東京都「東京都マンションポータルサイト」
- 資源エネルギー庁「石油精製・石油化学」
最後に一言だけ。私は、この種の業界ニュースを目にするたびに、現場で会う組合員のみなさまのお顔が浮かびます。理事長を引き受けてくださっているのは、たいていの場合「やってもいいよ」と手を挙げてくださった善意の方です。そんな方に、ナフサ危機の細かい話まで全部を負わせるのは、私たち施工側にも申し訳ない気持ちがあります。だからこそ、私たちが情報を整理し、選択肢を並べて差し出す——それが施工会社としての本分だと、私は思っています。次回も、現場で本当に使える話だけをお届けします。
▼ロープアクセス工法・無足場工法の詳細解説はこちら
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港区で使える賃貸オーナー向け補助金活用ガイド|入居率とNOIを伸ばす2026年度の保存版
港区で使える賃貸オーナー向け補助金活用ガイド|入居率とNOIを伸ばす2026年度の保存版
港区で賃貸マンション・ビルを保有しているオーナーさまへ、ひとつだけ先にお伝えしたいことがあります。港区の補助金は「住民のためのもの」ではなく、「物件オーナーの利回りを底上げするもの」として読み解くと、見える景色が変わります。
私は本間と申します。株式会社明誠で大規模修繕工事を本業としつつ、足場仮設・ロープアクセス・両者のハイブリッドという3つの工法を組み合わせて、首都圏の収益不動産オーナーさまの修繕を支えてきました。港区は弊社にとって最も問い合わせの多いエリアのひとつで、築15〜35年・5〜50戸規模のRC造賃貸の改修ご相談を毎月のように頂戴しています。
そのなかで強く感じるのは、「補助金の存在は知っているが、自分の物件で何にいくら使えるのか正確に説明できるオーナーさまが意外と少ない」ということです。区民向け・管理組合向け・事業者向けの3層に分かれていて、賃貸オーナーは「結局どれに該当するの?」と迷うのが普通だと思います。
本記事では、港区の助成制度と国の主要制度を「賃貸オーナーの財布」目線で再編集しました。NOI(実質賃料収入)、入居率、出口の売却価格まで意識した「使い倒し方」をお話しします。9,000字超ありますので、ブックマークしてお茶を淹れてからお読みいただくのが正解です。
1. なぜ今、港区オーナーが補助金を本気で取りに行くべきか
まず大前提として、港区の賃貸市場は強いです。ただ、強いがゆえに「設備が古いだけで埋まらない」「家賃を下げないと決まらない」という静かな現象が、築20年を超えた物件で広がっています。
私が現場で見てきた限り、最近の入居検討者が見ているのは「家賃」と「築年数」だけではありません。窓の断熱性、エアコン、給湯器、共用部の照度、エントランスの清潔感——いわゆる「住み心地に直結する設備」を、内見の30分でかなり見抜きます。法人賃貸のサブリースになると、運営会社の調達担当者がもっと細かく見ます。
ここに補助金を入れる意味はシンプルで、自己負担を圧縮しながら設備をひとつ上の等級に押し上げ、入居率と賃料単価を同時に守るという攻めの一手になるからです。
入居率1%の改善は、年間どれだけのキャッシュフロー差になるか。20戸・平均月額12万円・年間賃料2,880万円の物件なら、入居率1%は約29万円の年間賃料増です。これが3%動けば年間約86万円。港区の補助金1件分の自己負担を、入居率の改善だけで吸収できるケースは決して少なくありません。
加えて港区は、収益還元法で値付けされる物件が多いエリアです。設備改善でNOIが伸びれば、売却時の物件価値そのものが上振れします。出口を見据えるオーナーさまほど、補助金を「短期の費用圧縮」ではなく「物件価値の底上げ装置」と捉え直してください。
2. 港区の主役は「地球温暖化対策助成制度」——2026年度のメニューを読み解く
港区がオーナーに対して打ち出している中核の制度が、港区地球温暖化対策助成制度(令和8年度/2026年度)です。
申請期間は2026年4月1日(水)〜2027年1月29日(金)、完了報告期限は2027年2月26日(金)。年度をまたぐ申請はできず、必ず工事着工前に申請するルールです。これは港区の助成全般に共通する大事なルールで、すでに着工してしまっている工事は対象外になります。
助成対象は「区民」「管理組合」「中小企業者・個人事業者」の3区分に分かれます。賃貸オーナーは法人か個人事業者に該当するのが基本ですが、自社が管理組合の役員を兼ねるケース(一棟物の区分所有や、自社1棟をマンション管理組合方式で運営しているケース)では「管理組合枠」も視野に入ります。
2-1. オーナー・法人が真っ先に狙うべき助成メニュー
2026年度のメニューのうち、賃貸オーナーが直接活用しやすい主なものを、上限額とあわせて整理します(出典は港区地球温暖化対策助成制度)。
| メニュー | 中小企業者・個人事業者の上限 | 管理組合の上限 |
|---|---|---|
| 太陽光発電システム | 100万円 | 100万円 |
| 事業所用高効率空調機器(エアコン) | 50万円 | — |
| 省エネ診断に基づく設備改修(LED照明等) | 100万円 | — |
| 管理組合等向けLED照明 | — | 100万円 |
| 管理組合等向け人感センサー付照明 | — | 25万円 |
| 管理組合等向け高効率空調機器 | — | 100戸以下250万円/101戸以上600万円 |
| 高断熱サッシ | — | 1,000万円 |
| 日射調整フィルム | 40万円 | 40万円 |
| 高反射率塗料等 | 100万円 | 100万円 |
| 電気自動車等用充電設備 | 急速50万円/台、普通10万円/台 | 同左 |
ご覧のとおり、高断熱サッシは管理組合枠で最大1,000万円、高効率空調機器も101戸以上の物件で最大600万円と、桁の違う支援額が用意されています。区分所有の収益マンションを保有しているオーナーさまであれば、管理組合と連携してこれを取りにいく価値は非常に大きいです。
2-2. 賃貸オーナー目線でとくに効く3つの組み合わせ
すべて使うのは現実的でないので、私が現場でよくお薦めする組み合わせを3つ挙げます。
①「高反射率塗料+日射調整フィルム」セット
夏場の最上階の暑さは、退去理由の上位常連です。高反射率塗料を屋上に塗布し、西日が強い窓に日射調整フィルムを貼ると、体感温度がはっきり下がります。中小企業者で最大100万円+40万円=140万円の助成枠です。塗装は10年に一度の大規模修繕と同時施工にすると、足場費を完全に共用できるため、補助金とのレバレッジが最大化します。
②「LED+人感センサー」セット
共用廊下・エントランス・駐車場・駐輪場のLED化+人感センサーは、月額の電気代削減と、内見時の「清潔感・先進感」の両方を狙えます。管理組合枠でLED 100万円+人感センサー25万円=125万円。電気代の月次キャッシュフローと、入居決定率の両方に効くのが強みです。
③「高断熱サッシ+高効率空調」セット
これは大物です。管理組合枠でサッシ1,000万円+空調 最大600万円=1,600万円。共用部全体の断熱性能と空調を一気に刷新できます。築30年超の物件で、退去のたびに値下げ交渉が入っているオーナーさまは、この枠の活用を検討する価値があります。
2-3. 新築・大規模建替えなら「新築建築物省エネ補助」も視野に
港区はリフォーム以外に、新築建築物への省エネルギー機器等設置費補助も用意しています。LED照明・高効率空調などで区の基準に達した新築建築物に対し、対象経費の3分の1、上限500万円の補助です(港区/新築建築物への省エネルギー機器等補助)。
築年数が極端に古く、改修より建替えのほうが収益還元上有利と判断したケースで使えます。出口戦略として「建替え→再ファイナンス→再販」を想定するオーナーさまには、最初の事業計画段階から織り込んでおきたい制度です。
3. 築古ビルオーナー必読——民間建築物耐震化促進事業
港区で築古ビル・マンションを保有していて、1981年6月以前の旧耐震基準で建てられた物件をお持ちなら、この制度を知らないと数百万円〜数千万円を取りこぼします。
港区の民間建築物耐震化促進事業は、診断・補強設計・改修工事をシリーズで助成する制度です。建物用途や構造により助成率・上限額は変動しますが、概略の数字は次のとおりです。
3-1. 耐震診断助成
- 助成割合:診断費用の3分の2(分譲マンションは10分の10)
- 助成限度額:20万円〜450万円(建物用途・構造で変動)
築古ビルや旧耐震マンションをお持ちで、まだ耐震診断を受けたことがないオーナーさまは、まずここから入るのが定石です。分譲マンションは費用の全額が助成対象になり、診断結果は売却時の重要書類にも使えます。
3-2. 補強設計助成
- 助成割合:補強設計費用の3分の2
- 助成限度額:50万円〜500万円
診断で「耐震性能不足」と判定された建物について、補強設計の段階で助成が入ります。設計だけで数百万円かかるため、ここでの取りこぼしは利回りに直結します。
3-3. 改修工事助成
- 助成割合:改修工事費の2分の1(一般緊急輸送道路沿道建築物は3分の2)
- 助成限度額:100万円〜7,000万円
ここが本丸です。最大7,000万円という枠は、首都圏でもトップクラスの規模感です。とくに緊急輸送道路沿道の建物に該当する場合は補助率も3分の2に跳ね上がります。お持ちの物件が緊急輸送道路沿いかどうかは、東京都建設局の路線図で必ず確認してください。
3-4. オーナーが見落としやすい「分譲マンション等耐震化支援事業」
港区は分譲マンション等耐震化支援事業という制度も別建てで用意しており、耐震化に向けた計画案策定費用を助成しています。「いきなり工事費を出すのは怖い」というオーナーさまでも、まずは計画案づくりに踏み出せる入口の制度です。
4. 国の制度——「賃貸住宅省エネ2026」シリーズはオーナー直撃
港区の助成と並走させたいのが、国の住宅省エネ2026キャンペーンです。賃貸オーナーが直接対象になるメニューが揃っているので、港区の助成との「重複適用ルール」を踏まえながら設計します。
4-1. 賃貸集合給湯省エネ2026事業
既存賃貸集合住宅の従来型給湯器を、エコジョーズ等の省エネ給湯器に交換する工事を1台あたり最大10万円補助する事業です(資源エネルギー庁/賃貸集合給湯省エネ2026事業)。
- 追い焚き機能なしのエコジョーズ/エコフィール交換:5万円/台
- 共用廊下を通ってドレンレールを設置:8万円/台
- 追い焚き機能ありの交換:7万円/台
- 浴室にドレン水排水設置:10万円/台
20戸の賃貸マンションで全戸を順次入れ替えると、最大200万円規模の補助になります。築15年を超えた給湯器は故障リスクが急上昇し、退去のトリガーになりやすい設備のひとつ。故障してからの「緊急工事」は補助対象外になりがちなので、稼働中のうちに計画的に交換するのが鉄則です。
4-2. 先進的窓リノベ2026事業
先進的窓リノベ2026事業は、断熱性能の高い窓(内窓・外窓・ガラス交換)への改修を補助する制度です。戸建住宅で最大100万円、240㎡超の非住宅で最大1,000万円という、定額補助としては大規模な内容です。
ポイントは所有者の定義に「賃貸に供する個人または法人」が明記されていることです。賃貸オーナーがオーナー判断で実施しても対象になります。港区の高断熱サッシ助成と組み合わせる場合は、同一工事・同一部位での重複申請はできないのが原則ですので、棟ごと・部位ごとに使い分ける設計が必要です。
4-3. みらいエコ住宅2026事業
みらいエコ住宅2026事業は、断熱改修・エコ住宅設備の設置などのリフォームをまとめて支援する制度で、最大100万円の補助があります。窓・断熱材・節水型トイレ・高効率エアコンなど、入居率改善に効く設備が一通り対象です。
4-4. マンションストック長寿命化等モデル事業
国土交通省のマンションストック長寿命化等モデル事業は、老朽マンションの改修・建替えを支援する公募型のモデル事業です。先導的再生モデルタイプと管理適正化モデルタイプの2系統があり、それぞれ「計画支援」と「改修工事支援」が用意されています。
公募型なので採択ハードルはありますが、1棟あたりの支援額が大きいのが魅力です。築40年級の物件で、抜本的な再生プロジェクトを構想しているオーナーさまは、計画段階から専門家を入れて提案を組む価値があります。
5. 税務の「三段ロケット」——補助金は雑収入で課税される
ここからは、オーナーさまにとって最も腹落ちしやすい税の話です。補助金は「もらって終わり」ではなく、税務処理まで含めた現金キャッシュフロー設計が本質です。
5-1. 補助金は雑収入として課税される
国・自治体からの補助金は、原則として受給した年度の雑収入として法人税・所得税の課税対象になります。100万円の補助金を受給したら、実質手取りは法人税等を引いた約65〜70万円という計算です。
ここで重要なのは、補助金収益と工事費(または減価償却費)を同一年度内でぶつけ、課税所得を圧縮する設計です。期またぎで補助金だけ先に入ると、雑収入だけが計上され、納税額が膨らむ事故が起きます。
5-2. 修繕費 vs 資本的支出——分岐で税効果が大きく変わる
工事費の処理は、修繕費(その年度の損金)と資本的支出(減価償却で複数年に按分)の二択で、税効果のタイミングが大きく変わります。
- 修繕費:原則として「建物の通常の維持管理・原状回復」に該当する工事。塗装の塗り直し、防水の打ち直し、給湯器の同等品交換などが代表例
- 資本的支出:建物の価値を高める・耐用年数を延ばす工事。耐震補強、屋根の全面葺き替え、グレードアップを伴うサッシ交換などが該当する可能性
実務では「修繕費に寄せられるかどうか」で、その年の税効果が大きく変わります。判断は税理士マターですが、現場サイドでも工事項目の分け方や見積書の書き方で、税理士の判定をやりやすくする工夫はできます。明誠では税理士と連携した見積書の書き分けを、ご希望に応じて行っています。
5-3. 固定資産税の減額措置——「居住部分1/2以上」の壁に注意
省エネ改修工事を行った住宅は、翌年度の固定資産税が1/3減額される措置があります(東京都主税局/省エネ改修固定資産税の減額)。
ただし「居住部分の割合が当該家屋の1/2以上」という要件があり、純粋な賃貸専用住宅(オーナー自身が住んでいない)は対象外、もしくは賃貸部分は減額の対象外になります。店舗併用・オーナー居住の一部併用ビルでは使えるケースがあるので、税理士に必ず確認してください。
「使えると思ったら、賃貸部分は除外だった」というのは、よくあるショートサーキットです。
5-4. 補助金+損金算入+固定資産税減額の「三段ロケット」
ここまでをまとめると、賃貸オーナーが補助金を最大化する道筋は次の三段です。
- 港区+国の補助金で初期工事費の自己負担を圧縮
- 修繕費/資本的支出の切り分けで、税負担のタイミングを最適化
- 固定資産税の減額措置を、適用可能な物件(併用住宅等)でフル活用
この三段が決まれば、表面的な工事費から実質負担まで一気に下がります。「補助金だけで決めない」「税効果まで含めて意思決定する」が、オーナーさまにいちばん伝えたいことです。
6. 港区オーナー特有の落とし穴——5つのチェックリスト
港区で実際に多い相談から、見落としがちなポイントを5つ挙げます。
6-1. 「申請より着工が先」だと一発アウト
港区の助成は、原則として工事着工前の申請が必須です。すでに発注してしまった工事を後から申請しても通りません。「リフォーム業者から見積もりを取ったあと、勢いで契約してしまった」というケースが意外と多いので、契約書にサインする前に補助金担当に一報を入れるのがオーナーの仕事です。
6-2. 「予算枠到達で締切」のリスク
港区も国の制度も、予算枠到達次第で受付終了になる方式が多いです。とくに国の住宅省エネ2026シリーズは、過去年度の例から見ても、夏〜秋にかけて枠が逼迫します。「年度末まで余裕がある」と考えていると、夏前に締切られて翌年度待ちというパターンに陥ります。
6-3. 複数制度の重複申請ルール
国の補助金は、同一工事・同一部位への重複申請は原則不可です。ただし、別の部位(例:給湯器は国の補助、サッシは港区の補助)であれば併用できるケースがあります。設計段階で「どの工事にどの補助金を当てるか」のマッピングをしておかないと、後で取りこぼしが発生します。
6-4. 賃貸オーナーは「区民」枠を使えないケースが多い
港区の助成メニューには「区民」「管理組合」「中小企業者・個人事業者」の3区分がありますが、賃貸用に保有している物件は「区民」枠を使えないことが多いです。法人所有なら「中小企業者」、個人なら「個人事業者」での申請になります。区民枠で見積もって落胆するパターンは、見積比較段階で避けられるミスです。
6-5. 「補助金ありき」の業者選定は危険
補助金を入口にする業者選定は、見落としポイントの宝庫です。補助金額に合わせて単価を上振れさせる業者は残念ながら存在します。補助金は工事費の値引き材料ではなく、適正価格に対する公的支援であるべきです。
明誠が大規模修繕でお伝えしているのは、「補助金ありの見積」と「補助金なしの見積」を両方並べて検討すること。価格妥当性が一目で見えます。
7. ロープアクセス工法で「補助金×足場費削減」のダブル効果
ここで、明誠の本業である大規模修繕工事の工法選択の話に少しだけ触れさせてください。補助金活用と切っても切り離せないからです。
港区は高層・狭小・隣地距離が小さい物件が多く、足場仮設のコストが想像以上に高くつくエリアです。15階建てのRC造で外周にゴンドラ足場を組むと、足場費だけで全工事費の2〜3割になることもあります。
ここにロープアクセス工法を組み込むと、足場費が大幅に圧縮できます。ロープアクセスは産業用ロープでビルの壁面を移動しながら塗装・防水・タイル補修・コーキング打ち替えを行う工法で、足場が必要ない=足場費がゼロになります。
そのうえで、全面改修は足場、部分補修やコーキング・シーリング更新はロープアクセス、最上階の屋上防水は足場といったハイブリッド設計が、港区のような都心物件では最適解になることが多いです。
| 工法 | 適用シーン | 強み |
|---|---|---|
| 通常足場工法 | 全面改修・大面積塗装・複雑な外装デザイン | 作業効率と品質の安定性 |
| ロープアクセス(無足場)工法 | 部分補修・コーキング更新・調査診断 | 足場費ゼロ・工期短縮・居住者影響最小 |
| ハイブリッド工法 | 大規模物件・部位ごとに最適化したい | コストと品質の両立 |
補助金で材料費・設備費は圧縮できます。足場費は補助金で削れません。足場費を削れるのは工法選択だけ。補助金×工法最適化の掛け算こそ、オーナーさまが取りこぼしているレバーです。
私が「日本初のロープアクセス工事フランチャイズ」を立ち上げたのも、塗装・防水・タイル・電気・看板工事の各分野のプロを束ねて、1棟あたりの足場費を構造的に下げるためでした。港区では複数のフランチャイズ加盟店と連携しながら、年間で数十棟規模のロープアクセス工事を回しています。
8. 出口戦略——補助金は「売却価格」も底上げする
補助金活用の議論は、どうしても「短期の自己負担」に意識が向きがちですが、収益還元法で値付けされる港区物件では、NOIの伸びがそのまま物件価値の伸びになります。
利回り還元の式は単純です。
物件価値 ≒ NOI ÷ キャップレート
港区の優良賃貸マンションのキャップレートを4.0%と仮定すると、年間NOIが10万円伸びれば、理論上の物件価値は250万円押し上がります。年間50万円伸びれば、1,250万円の物件価値上昇です。
補助金で省エネ設備を整え、断熱性能を上げ、共用部のグレードを上げる——これらが入居率と賃料維持に効くなら、補助金は「物件価値を底上げする投資装置」として機能します。
築20〜30年の物件を5〜10年後に売却するシナリオなら、「補助金を使った長期修繕計画の刷新」を売却ストーリーに織り込むのがお薦めです。買い手の投資家から見ても、「補助金を活用して計画的に修繕してきた物件」は安心材料になります。
9. 港区オーナーが2026年度に取るべき3つの行動
長くなりましたので、2026年度に港区オーナーが取るべき動きを3つに集約します。
①「お持ちの物件の補助金マップ」を6月中に作る
保有している全物件について、築年数・構造・規模・前回大規模修繕時期を一覧化し、どの物件にどの補助金が当たりうるかをマッピングしてください。これがないと、夏以降の予算逼迫局面で動けません。明誠でもこのマップ作成だけのご相談を承っています。
②耐震診断が未済の旧耐震物件は、診断助成を即取りに行く
1981年6月以前築の物件で耐震診断未済なら、6月〜7月のうちに港区の建築課に診断助成の事前相談を入れてください。診断結果は売却時の重要書類にもなりますし、補強設計助成・改修工事助成の入口にもなります。
③大規模修繕の長期計画を、補助金の枠で再設計する
「次の大規模修繕は5年後」と決めているオーナーさまほど、補助金を起点に「2026年度内にできる工事」「2027年度に動かす工事」へ前倒し・後ろ倒しの設計をしてください。年度内の枠を逃さない動きが、5年スパンで見ると大きな差になります。
10. 最後に——「相談だけでも」のご提案
ここまで読んでくださったオーナーさまは、おそらく「自分の物件でいくらまで補助金が取れるのか」「次の修繕計画と税効果をどう設計するか」を具体的に詰めたい段階にあるはずです。
明誠では、港区を含む首都圏の収益不動産オーナーさま向けに、次の3点を無料で承っています。
- 1棟の現地調査と劣化診断(足場ありの精密診断ではなく、ロープアクセスやドローンを併用した非破壊診断)
- 補助金マッピングと利回り改善シミュレーション(自治体・国の制度と税効果まで含めた試算)
- 大規模修繕の長期工程の再設計(足場・ロープアクセス・ハイブリッドの工法比較込み)
「すぐ工事するつもりはないけれど、補助金の使える選択肢を知っておきたい」というオーナーさまこそ、お気軽にご相談ください。現地調査と試算だけでも、ご相談を承ります。
港区の物件は、ポテンシャルもコスト圧力も両方が大きいエリアです。補助金は「物件価値を底上げするレバー」、工法選択は「足場費を構造的に削るレバー」。この2本のレバーを掛け合わせて、お持ちの資産の出口価値を最大化していきましょう。
私たちも、その伴走者でありたいと思っています。
参考リンク(出典)
- 港区/地球温暖化対策助成制度
- 港区/新築建築物への省エネルギー機器等を導入した際の経費を補助します
- 港区/民間建築物耐震化促進事業(補強設計・改修工事助成)
- 港区/分譲マンション等耐震化支援事業
- 港区/建築物耐震診断助成事業
- 資源エネルギー庁/賃貸集合給湯省エネ2026事業
- 先進的窓リノベ2026事業(公式)
- 国土交通省/みらいエコ住宅2026事業
- 国土交通省/マンションストック長寿命化等モデル事業
- 東京都主税局/省エネ改修工事をした住宅に対する固定資産税の減額
▼ロープアクセス工法・無足場工法の詳細解説はこちら
ロープアクセスドットコム|無足場工法専門メディア

