伊豆市のマンション補助金|大規模修繕2026年版

2026年8月23日 更新

伊豆市で分譲マンションの理事をされている方から、こんな質問をいただくことがあります。「大規模修繕に、伊豆市から補助金は出ますか?」

先に結論をお伝えします。伊豆市に、分譲マンションの共用部の大規模修繕そのものへ直接お金を出す補助制度は、公開されている情報の範囲では見当たりません。これは伊豆市が冷たいという話ではなく、静岡県東部のほとんどの市で同じです。

ただし、「何もない」で終わらせてしまうと、伊豆市の管理組合は数十万円から百万円単位の支援を取りこぼします。伊豆市には、近隣の市にはない手厚さを持った制度が1つあります。アスベストの除去等に対する補助で、費用の3分の2以内・1敷地あたり120万円が限度です(出典:伊豆市 建築物アスベスト除去等事業費補助金について)。近隣の静岡市や富士市が60万円であることを考えると、これは調べる価値のある金額です。

私は株式会社明誠の本間と申します。マンション・ビル・ホテルの大規模修繕を20年近くやってきました。この記事では、伊豆市の管理組合が2026年度に現実的に動かせる制度を、市と県の一次情報だけを根拠に整理します。ネット上にある「伊豆市は耐震改修に最大○○万円」という情報が、なぜマンションには当てはまらないのかも、要綱まで戻って説明します。


この記事で答える3つの問い

  1. 伊豆市で、マンションの大規模修繕に直接使える補助金はあるのか?
  2. 直接の補助がないなら、伊豆市の管理組合は何にお金と時間を使うべきなのか?
  3. 伊豆市という土地で、工事費そのものを下げる方法は本当にないのか?

順にお答えします。結論から言えば、3番目の問いへの答えが、この記事でいちばんお伝えしたいことです。


まず、伊豆市という土地を数字で押さえる

制度の話に入る前に、伊豆市がどういう市なのかを数字で確認させてください。ここを押さえないと、あとの話がすべてぼやけます。

項目 数値 出典
人口 26,911人(令和8年8月1日現在) 伊豆市 各地区世帯人口
世帯数 13,507世帯(同上) 同上
面積 363.97平方キロメートル 伊豆市公表値
地区別人口 修善寺12,953/中伊豆6,222/天城湯ヶ島4,831/土肥2,905 同上
住宅の耐震化率 84.0%(令和5年) 伊豆市耐震改修促進計画(第4期)
うち非木造の耐震化率 95.4%(2,670戸中2,549戸) 同上
年降水量 土肥1,824.5mm/湯ケ島2,842.8mm/天城山4,552.6mm 静岡地方気象台 静岡県の気象特性

この表の中で、私がいちばん驚いたのは最後の行です。同じ伊豆市の中で、年間降水量が1,824.5mmから4,552.6mmまで、2.5倍の開きがあります。

土肥は駿河湾に面した西海岸で、静岡県内でも雨の少ない地域に入ります。一方、天城山は年間4,552.6mm。静岡市の山岳部(3,000mm前後)や富士山麓(2,800mm前後)をさらに大きく上回る、県内屈指の多雨地帯です。三島市の年降水量が1,868.2mmですから、天城山はその2.4倍以上ということになります。

同じ市役所が管轄する範囲の中で、雨の量が2.5倍違う。大規模修繕という仕事にとって、雨の量は工期にも防水の仕様にも直結する、いちばん大事な条件の1つです。この話は記事の後半でもう一度取り上げます。

人口26,911人という規模も押さえておいてください。分譲マンションの絶対数が多くない市です。このことが、相見積りの取り方に効いてきます。


【最優先・今週動ける】静岡県のマンション管理士無料派遣は10件枠

伊豆市の管理組合が2026年度に取れる行動のうち、もっとも費用対効果が高いのはこれです。

静岡県が令和8年度に実施している「マンション管理組合活動活性化支援事業」で、マンション管理士を管理組合へ無料で派遣してくれます。

項目 内容
事業名 令和8年度 マンション管理組合活動活性化支援事業(マンション管理士の無料派遣)
費用 無料
受付件数 10件(上限に達した時点で受付終了)
派遣回数 各管理組合 2回まで
申込期限 令和8年11月14日(土曜)まで
派遣期限 令和9年1月31日(日曜)まで
申込先 一般社団法人静岡県マンション管理士会(メール t_gotoh@tx.thn.ne.jp/ファクス 0544-27-6561)
申込書 県ページからWordファイルでダウンロード可

出典:静岡県 マンションの管理(2026年1月5日更新)

静岡県全域で10件です。静岡市も浜松市も含めた県内全部で10件。しかも申込多数の場合は派遣先を調整すると書かれています。11月14日という期限より、10件という枠のほうが先に埋まる可能性は十分にあります。

2回の派遣を、こう使ってください

私が管理組合の立場ならこう使います。

1回目は、長期修繕計画と修繕積立金の水準チェックに充てます。「うちの積立金は足りているのか」「計画の見直しは何年前にやったか」を、利害関係のない第三者に見てもらう。ここが全部の出発点です。

2回目は、相見積りの比較と、業者選定プロセスのチェックに充てます。金額だけを並べた表では、何が高くて何が安いのか判断できません。仕様の違いを翻訳してくれる人が横にいるかどうかで、結論が変わります。

正直に申し上げますと、発注者側に専門家がついている現場のほうが、私たち工事会社も仕事がしやすいです。説明することは増えますが、あとから「聞いていない」でもめることがなくなります。専門家がいる現場を嫌がる工事会社があるとしたら、そこは選ばないほうがいいと私は思います。

「うちみたいな小さい組合が申し込んでいいのか」は考えなくていい

この事業でいちばんもったいないのは、遠慮しているうちに期限が過ぎることです。県のページに規模の制限は書かれていません。伊豆市の管理組合は、県内の政令市の管理組合と同じ枠で申し込めます。申込書をダウンロードしてファクスするのに必要な時間は、20分程度です。


静岡県のマンション管理セミナーは、伊豆市の隣で2回開かれます

もう1つ、県が実施しているのがマンション管理セミナーです。参加費は無料で、令和8年度は県内9会場で開催が予定されています。

開催地 開催日
浜松市 令和8年7月25日(土曜日)※終了
磐田市 令和8年8月29日(土曜日)
三島市 令和8年9月12日(土曜日)
熱海市 令和8年10月予定
沼津市 令和8年10月予定
静岡市 令和8年11月予定
伊東市 令和8年12月予定
富士市 令和9年2月予定
浜松市 令和9年2月予定

出典:静岡県 マンションの管理

伊豆市での開催予定はありません。ただ、この表をよく見てください。熱海市が10月、伊東市が12月です。伊豆市から見れば、いずれも同じ伊豆半島内です。修善寺から伊東市へは県道伊東修善寺線が一本で通じています。三島市で9月12日に開かれる回も、伊豆縦貫自動車道(修善寺道路・天城北道路)を使えば射程に入ります。

私からの提案は、理事長と次期理事候補の2名で行くことです。管理組合の理事は任期1年のところが多く、大規模修繕の準備は2代の理事会をまたぎます。1人だけが知っている状態にしておくと、翌年の4月にゼロに戻ります。2人で行けば、少なくとも1年は引き継がれます。


【伊豆市の最大の武器】アスベスト除去補助は3分の2・120万円

ここからが本題です。伊豆市には、近隣の市と比べて明確に手厚い制度が1つあります。

制度の中身

項目 内容
制度名 伊豆市建築物アスベスト除去等事業費補助金
対象工事 建築物の吹付けアスベストの除去・封じ込め・囲い込み、または吹付けアスベストが施工されている建築物の除去
補助率 除去等に要する経費の3分の2以内
限度額 1敷地当たり120万円(1,000円未満切捨て)
対象建築物 ①市の区域内に存する建築物であること ②除去等に関し、この要綱に基づく補助金以外の補助金の交付を受けていないものであること
注意 着手前に相談・申請が必要。申請前に着手した場合は補助対象外
要綱 令和8年4月改正
窓口 都市計画課 土地対策スタッフ 0558-83-5206

出典:伊豆市 建築物アスベスト除去等事業費補助金について(2026年4月2日更新)

ここで注目していただきたいのは、対象建築物の条件が2つしか書かれていないという点です。「市内にあること」「他の補助を受けていないこと」。用途を住宅に限る文言も、所有者の形態を限る文言も、市のページには見当たりません。分譲マンションの共用部が対象になり得るか、聞いてみる価値は十分にあります。

もちろん、市が「分譲マンションの共用部が対象です」と明記しているわけではありませんので、断定はしません。都市計画課 土地対策スタッフ(0558-83-5206)に電話1本、これで済みます。

静岡県東部の中で、伊豆市がどれだけ手厚いか

私が過去に記事にしてきた近隣市と並べてみます。

市 分析調査への補助 除去等への補助
伊豆市 公開情報では確認できず 3分の2以内・1敷地120万円
沼津市 25万円 3分の2以内・120万円(令和8年度の除去等は予算終了)
富士市 全額・限度25万円/棟 3分の2以内・60万円/敷地
静岡市 25万円 3分の1以内・60万円
三島市 公開情報では確認できず 公開情報では確認できず
裾野市 公開情報では確認できず 公開情報では確認できず
御殿場市 公開情報では確認できず 公開情報では確認できず

この表の意味は、はっきりしています。三島市・裾野市・御殿場市の記事で、私は「アスベストの調査費は自己負担前提で予算に計上してください」と書かざるを得ませんでした。伊豆市は違います。除去に踏み込んだときの補助が、県東部でもっとも手厚い水準にあります。

ただし、構造が近隣市と逆になっています

正直に申し上げます。伊豆市の制度は、近隣市と逆の形をしています。

沼津市・富士市・静岡市は「調査には手厚く、除去は限定的」という設計です。まず調べさせて、実態を把握することを優先している。

伊豆市は「調査への補助は公開情報で確認できず、除去には3分の2・120万円」という設計です。調べる段階は自己負担、取り除く段階を厚く支援する。

管理組合にとって、この違いは実務でこう効きます。

  • 調査費(事前調査・分析)は、自己負担前提で長期修繕計画と工事予算に計上しておく。
  • もし吹付け材が見つかったら、除去は着手前に市へ相談する。ここで120万円が動きます。

現場の話をひとつ

私が現場で20年やってきて、いちばん悔しい思いをするのは、この順番を間違えたときです。

足場を架け終わったあとに、機械室の天井裏から吹付け材が見つかったことがあります。工事は止まりました。分析の結果が出るまで動けません。その間、足場のリース料だけが1日単位で積み上がっていきます。管理組合には何の落ち度もないのに、数十万円が消えました。

吹付け材が見つかりやすいのは、私の経験では次の6か所です。

  1. 機械室
  2. 電気室
  3. 屋内駐車場の天井
  4. 階段室の裏側
  5. エレベーター機械室
  6. パイプスペース(PS)

平成29年度から、事前調査には建築物石綿含有建材調査者の関与が必要とされています。業者選定のときに「調査者は誰が担当しますか」と1問聞いてください。答えられない会社は、その時点で候補から外していいと思います。

そして伊豆市の場合は、もう1問足してください。「除去が必要になったら、市の補助金の交付決定を待ってから着手できる工程を組めますか」。伊豆市の要綱は着手前申請が必須です。交付決定を待たずに剥がしてしまえば、120万円はゼロになります。


【正直な話】伊豆市には「非木造の耐震診断補助」が見当たりません

ここは、伊豆市の管理組合にとって残念な事実ですので、はっきり書きます。

伊豆市が令和8年度に実施しているプロジェクト「TOUKAI-0⁺(トウカイゼロプラス)」総合支援事業は、全部で8つの事業から成り立っています。その8つを、マンション管理組合の目線で仕分けするとこうなります。

# 事業名 補助額 分譲マンション共用部への適用
1 わが家の専門家診断事業 無料(市が診断士を派遣) 対象外(木造住宅)
2 木造住宅耐震補強助成事業(補強計画一体型) 経費と1,150,000円の少ない額 対象外(木造住宅)
3 木造住宅除却事業 経費の23%以内・上限50万円 対象外(木造住宅)
4 木造住宅部分補強事業 経費の5分の4以内・上限85万円(高齢者等95万円) 対象外(木造住宅)
5 ブロック塀等撤去事業 20,000円/mとの少ない額の3分の2以内・上限266,000円 敷地内の該当塀があれば可能性あり
6 ブロック塀等改善事業 38,400円/mとの少ない額の3分の1以内・上限166,000円/生垣等は3分の2以内・上限333,000円 同上
7 耐震シェルター設置事業 経費の3分の2以内・上限400,000円 対象外(木造住宅の住戸内)
8 防災ベッド設置事業 経費の3分の2以内・上限400,000円 対象外(木造住宅の住戸内)

出典:伊豆市 【TOUKAI-0⁺】住宅の耐震診断・耐震補強はお済ですか?(2026年8月7日更新)

三島市・裾野市・御殿場市との決定的な差

私はこの3市についても同じ調べ方をしました。並べると差がはっきりします。

市 非木造(RC造等)の耐震診断への補助
三島市 あり(3分の2以内・限度200万円。ただし事業名は「非木造住宅」)
裾野市 あり(3分の2・上限200万円。基準額に「一戸建て住宅以外」の区分を明記)
御殿場市 あり(基準額表に「一戸建ての住宅以外」の面積単価あり。限度額の記載は市ページに見当たらず)
伊豆市 市の公開ページでは確認できず

伊豆市のTOUKAI-0⁺のページには、「非木造」という語自体が事業名に出てきません。8事業すべてが木造住宅・ブロック塀・シェルター/ベッドで構成されています。

さらに第4期の伊豆市耐震改修促進計画を読むと、この構図の理由が書かれています。市内の耐震性が不十分な住宅の内訳は、木造が8,750戸中1,702戸、非木造が2,670戸中121戸です。数の上では、市の耐震施策が木造戸建てに集中するのは合理的な判断です。

ただし、管理組合の側から見れば話は逆になります。伊豆市の耐震施策の中に、分譲マンションの居場所は用意されていません。自分たちで動くしかない、ということです。

断定はしませんが、聞くだけは聞いてください

市が「非木造には補助しません」と書いているわけではありません。要綱(令和8年3月改正 伊豆市建築物等耐震改修促進事業費補助金交付要綱)に別の定めがある可能性はゼロではありません。

都市計画課 土地対策スタッフ 0558-83-5206 に、こう聞いてください。

「分譲マンションの管理組合です。共用部の耐震診断に使える市の補助制度はありますか。TOUKAI-0⁺のページには木造住宅の事業しか載っていないように見えるのですが、非木造の建築物向けの制度はありませんか」

聞くのは1分です。「ない」と言われたら、それはそれで確定情報になります。理事会の引き継ぎ書に「令和8年度時点で、市の非木造向け耐震診断補助は確認できず(○月○日 都市計画課に確認)」と1行書いておけば、来年の理事がまた同じ電話をかけずに済みます。


ブロック塀は「塀から塀への作り替え」ができません

伊豆市のブロック塀補助には、他市にはない特徴があります。これは知らないと確実に事故ります。

撤去事業と改善事業の中身

区分 基準額 補助率 上限
ブロック塀等撤去事業 塀の長さ×20,000円 経費と基準額の少ない額の3分の2以内 266,000円
ブロック塀等改善事業(通常) 塀の長さ×38,400円 少ない額の3分の1以内 166,000円
ブロック塀等改善事業(生垣等に作り替え) 塀の長さ×38,400円 少ない額の3分の2以内 333,000円

対象は、住宅または事業所などから避難所および避難地などへ至る、私道を除く経路に面するブロック塀です。地盤面から高さ60センチメートル以上にブロック塀を残さないことが条件とされています。

出典:伊豆市 【TOUKAI-0⁺】

★ここが伊豆市固有の落とし穴です

市のページに、こう明記されています。

制度変更に伴い、ブロック塀からブロック塀への作り替えは補助対象外となります。

つまり伊豆市では、危険なブロック塀を撤去して新しいブロック塀を建て直すという選択に、補助は出ません。

御殿場市では、建替え事業のほうが基準額も上限額も撤去より大きく設定されていました。伊豆市は逆で、塀を残す方向にはお金が出ない設計です。

管理組合にとって、この違いは総会の議案そのものを変えます。

  • 塀を撤去すると、目隠しがなくなります。1階住戸から「道路から丸見えになった」という声が出ます。
  • しかし伊豆市では、ブロック塀で作り直すと補助はゼロ。
  • 生垣等に作り替えるなら、3分の2以内・上限333,000円が出ます。撤去(266,000円)より上限が高い。

つまり伊豆市の管理組合にとって、「撤去して生垣にする」が金額的にも実務的にもいちばん筋が通る選択になります。生垣等には一定の基準がありますので、市の「生垣等の基準」PDFを事前に確認してください。

敷地図を広げる30分の作業

私が理事会でよくお願いするのは、敷地図を印刷して、ブロック塀に蛍光ペンを引くという作業です。30分あれば終わります。

見落としが多いのは次の場所です。

  • 駐輪場の裏側
  • 駐車場の外周
  • ゴミ置き場の脇
  • 隣地との境界(隣家との共有物になっていないかも確認)

そして塀の工事は、大規模修繕の本体工事とは別契約に切り出してください。理由は2つあります。1つは、補助金には交付決定前の着手が認められないこと。もう1つは、本体工事の中に混ぜてしまうと「どこまでが塀の工事費か」が見積書から読み取れなくなり、申請書類が作れなくなることです。


「伊豆市は耐震改修に最大115万円」はマンションの話ではありません

検索するとこういう情報が出てきます。念のため潰しておきます。

木造住宅耐震補強助成事業(補強計画一体型)の1,150,000円は、昭和56年5月31日以前に着工された木造住宅を、補強後の総合評点1.0以上にする工事への補助です。RC造・SRC造のマンション共用部には当たりません。

もう1つ、令和8年度から高齢者割り増しは廃止されました(市ページに明記)。古い情報のまま「高齢者は上乗せがある」と書いてあるサイトを見かけますが、令和8年度は違います。

理事会でこの話が出たときは、「それは木造戸建ての金額です」と一言で終わらせてください。そのうえで、理事の中に旧耐震の木造戸建てを持っている方がいれば、市のTOUKAI-0⁺のページを教えてあげてください。費用ゼロでできる情報還元です。


老朽空家等除却支援は「木造住宅を除く」=伊豆市の隠れた特徴

これは大規模修繕とは直接つながりませんが、伊豆市の管理組合、とくにリゾート型のマンションを持つ組合には知っておいていただきたい制度です。

項目 内容
制度名 伊豆市老朽空家等除却支援事業補助金
補助対象者 空き家の所有者、相続人、敷地の所有者、管理者
補助対象物件 建築物(木造住宅を除く。)
補助額 ①補助対象経費の2分の1以内・上限300万円(解体後に市へ土地を寄附する場合など要綱第6条第1号に該当する場合)/②補助対象経費の2分の1以内・上限50万円
令和8年度の変更 補助対象区域が「市内全域」になりました

出典:伊豆市 管理不全な空き家の適正管理について(2026年4月2日更新)

「建築物(木造住宅を除く。)」という書き方に注目してください。多くの自治体の空き家除却補助は木造住宅を対象にしていますが、伊豆市は逆に木造住宅を除いています(木造住宅は前述のTOUKAI-0⁺の木造住宅除却事業が受け皿です)。

区分所有の分譲マンションが「空家等」に当たるかどうかは、専有部と共用部の権利関係が絡むため簡単ではありません。ここは断定を避けます。ただ、伊豆半島には、区分所有者の高齢化・所在不明化が進み、実質的に機能停止に近づいているリゾートマンションが存在します。そういう建物の出口を考えるとき、市に非木造の除却補助が用意されているという事実は、知っているかどうかで議論の幅が変わります。

私は工事会社ですから、本音を言えば「直して使い続けましょう」と申し上げたい立場です。それでも、建物の終わり方まで含めて考えられる管理組合のほうが、結局は良い判断をされます。


マンション長寿命化促進税制の記載が、伊豆市のページに見当たりません

大規模修繕をした翌年度に固定資産税が減額される「マンション長寿命化促進税制」。三島市や富士市は市のページで減額割合まで明記していますが、伊豆市はどうでしょうか。

伊豆市の固定資産税のページ一覧に掲載されている減額制度は、次の3つだけです。

  • 省エネ改修工事に係る固定資産税の減額
  • 住宅のバリアフリー改修工事に伴う固定資産税減額措置
  • 住宅の耐震改修に伴う固定資産税の減額措置

出典:伊豆市 固定資産税(一覧)

マンション長寿命化促進税制の記載は、見当たりません。

「使えない」と断定はしません。市の条例に定めがあってもページに掲載していないだけ、という可能性は十分にあります。実際、御殿場市も裾野市も同じ状態でした。

税務課 資産税スタッフ(0558-72-9852)に聞くべき3項目

  1. マンション長寿命化促進税制について、伊豆市の条例に減額の定めはありますか。あるなら減額割合は何分の1ですか。
  2. 申告は区分所有者ごとですか。それとも管理組合が取りまとめて提出できますか。(三島市は「管理組合が取りまとめる場合、添付書類は全体で1部のみ」と明記しています。この差は100戸のマンションでは事務負担が桁違いです)
  3. 「大規模の修繕等証明書」は誰が発行するものですか。

制度そのものの落とし穴を2つ

条例の有無にかかわらず、この税制には管理組合が踏みやすい落とし穴が2つあります。

落とし穴①:仕様書に3工事が揃っていない。長寿命化工事とは、屋根防水工事・床防水工事・外壁塗装工事の3つを指します。「予算が厳しいから屋上防水は次回にしよう」という理事会の判断が、そのまま税制の要件から外れる原因になります。

落とし穴②:証明書の発行を契約に入れ忘れる。申告期限は工事完了から3か月以内です。竣工してから「証明書をください」と言っても、書類を揃えるのに時間がかかります。請負契約の段階で、証明書の発行を業務範囲に明記させてください。


管理計画認定制度:静岡県は「町域」のみ。市の窓口は要確認

マンション管理計画認定制度は、管理組合が作る長期修繕計画などが一定基準を満たすことを行政が認定する制度です。認定を取ると、住宅金融支援機構の共用部分リフォーム融資の金利が引き下げられるなどの効果があります。

静岡県のページには、こう明記されています。

マンション管理計画認定制度(対象:県内の町域)

出典:静岡県 マンションの管理

伊豆市は「市」ですので、県では申請できません。伊豆市が自ら受付をしているかどうかは、市の公開ページからは確認できませんでした。ここも断定を避け、都市計画課への電話に1問足していただく形にします。

参考までに、県が「町域」向けに設定している認定申請手数料は、令和8年4月1日に改定されています。

事前確認適合証 長期修繕計画数 令和8年3月31日まで 令和8年4月1日から
有り 1 3,800円 4,000円
有り 2以上 3,800円+1,700円×(計画数-1) 4,000円+1,800円×(計画数-1)
無し 1 26,900円 28,100円
無し 2以上 26,900円+15,500円×(計画数-1) 28,100円+16,200円×(計画数-1)

適合証があるかないかで7倍の差です。公益財団法人マンション管理センターの管理計画認定手続き支援サービスを経由して事前確認適合証を取るのが王道、ということがこの表から読み取れます。

認定基準5分野を、理事会のチェックリストに

認定を取るかどうかは別として、この5項目は「うちの管理は大丈夫か」を測る物差しとして使えます。

分野 主な基準 よくあるつまずき
管理組合の運営 管理者等が定められている/集会を年1回以上開催/監事が選任されている 総会が書面決議だけで終わっている
管理規約 管理規約が作成されている/緊急時の専有部立入り、修繕等の履歴情報の保管が定められている 規約が分譲時のまま
管理組合の経理 管理費と修繕積立金等の区分経理/積立金会計から他への充当なし/滞納に対する措置を講じている 滞納の督促ルールが文書化されていない
長期修繕計画 計画期間30年以上かつ残存期間内に大規模修繕工事が2回以上/7年以内に見直し/計画期間内に借入金残高がない 「30年以上」と「7年以内」の2つで落ちる組合が最多
その他 区分所有者名簿・居住者名簿を備え、年1回以上確認 名簿が10年前のまま

私の経験上、実務でいちばん引っかかるのは長期修繕計画の「30年以上」と「7年以内の見直し」です。そして幸いなことに、この2つは大規模修繕の準備でどのみちやる作業です。認定を取るかどうかを先に決めておけば、作業が一度で済みます。


2026年の新しい論点:マンション管理適正化支援法人の登録制度

これは他の記事ではまだあまり触れられていない、新しい話です。

令和7年5月30日に「老朽化マンション等の管理及び再生の円滑化等を図るための建物の区分所有等に関する法律(令和7年法律第47号)」が公布され、同年11月28日に一部施行されました。これに伴い、マンションの管理の適正化の推進に関する法律に「マンション管理適正化支援法人」の登録制度が創設されています。

専門知見を持つ民間団体(一般社団法人・一般財団法人・NPO法人など)が行政の登録を受け、公的な立場からマンション管理を支援する仕組みです。

支援法人の業務区域 登録主体
市の区域 市
町の区域 県

そして静岡県のページには、こう書かれています。

静岡県は、現段階では、登録制度は実施していません。
なお、各市が所管する市の区域における登録制度については、各市のマンション担当部署に直接お問い合わせください。

出典:静岡県 マンションの管理

伊豆市は「市」ですので、この制度の登録主体は伊豆市自身です。伊豆市が今後この登録制度を所管する予定があるのかどうか、都市計画課への電話に1問足しておくといいと思います。すぐに何かが変わる話ではありませんが、理事会の引き継ぎ事項として残しておく価値のある論点です。

あわせて、令和7年にマンション標準管理規約が改正されています。県のページから改正パンフレットがダウンロードできますので、規約の見直しを検討している組合は目を通しておいてください。


伊豆市耐震改修促進計画(第4期)が示す、伊豆市の建物の現実

令和8年4月に、伊豆市耐震改修促進計画(第4期・令和8~12年度)が公表されました。ここには、伊豆市の建物についての厳しい数字が並んでいます。

数値目標と現状

建築物の種類 前計画の目標 現状 本計画の目標
住宅 令和7年度末 95% 令和5年 84.0% 令和12年度末 耐震性が不十分なものをおおむね解消
特定建築物 令和7年度末 95% 令和7年3月 83.6% 同上
大規模建築物 令和7年度末 95% 令和7年3月 75.0% 同上
沿道建築物 ― 令和7年3月 21.3%(耐震性不足解消率) 令和12年度末 50%以上

出典:伊豆市耐震改修促進計画(第4期)

住宅の耐震化率84.0%という数字を、近隣市と並べてみます。

市 住宅の耐震化率
富士市 94.9%(令和5年)
御殿場市 94.2%(令和5年)
三島市 93.4%(令和5年)
伊豆市 84.0%(令和5年)

10ポイント前後の差があります。平成30年の81.7%から2.3ポイントしか上がっておらず、市自身が「第3期計画の目標である令和7年度末の耐震化率95%の達成は厳しい状況」と書いています。

構造別に見ると、話が変わります

ただし、この84.0%は木造と非木造を合わせた数字です。分けるとこうなります。

構造 昭和56年以降 昭和55年以前 耐震性有 住宅数 耐震化率
木造 5,511戸 3,239戸 1,537戸 8,750戸 80.5%
非木造 2,224戸 446戸 325戸 2,670戸 95.4%
合計 7,735戸 3,685戸 1,862戸 11,420戸 84.0%

非木造は95.4%。伊豆市の分譲マンションにとって、躯体の耐震性はおおむね確保されていると読めます。伊豆市の耐震化の課題は、圧倒的に木造戸建てにあります。

だからこそ、大規模修繕の意味が変わります

第4期計画の対象建築物の定義に、大事な変更があります。

対象建築物は「現行の耐震基準の施行以前に建築に着手された建築物又は地震により被害を受けた建築物若しくは経年劣化が進んだ建築物」とする。

そして解説にこう書かれています。

新築時は耐震性能が確保されていても、時間の経過とともに、ひび割れや変形、老朽化などに見舞われ、経年劣化による耐震性能の低下が懸念される。適切なメンテナンスが行われていない建築物はなおのことである。

さらに、屋外における安全性確保の項目に、こうあります。

地震によって瓦屋根、窓ガラス、外装材等(非構造部材等)や屋外広告物が落下すると、通行人等に死傷者が出るおそれがあるだけではなく、道路通行の妨げとなり避難や救助・消火活動にも影響を及ぼす。

私はいつも理事長さまに、こうお伝えしています。「大規模修繕は、きれいにする工事ではありません。落ちるものを、落ちないようにする工事です。」

躯体が新耐震でも、浮いたタイルは落ちます。手すりの付け根が錆びれば抜けます。シーリングが切れれば水が入ります。伊豆市の計画が「経年劣化が進んだ建築物」を正面から対象に加えたことは、私たちの仕事の意味を行政が言語化してくれたようなものです。

エレベーターやエスカレーターの安全性確保、給湯設備やそれに付随する配管の落下防止についても、計画本文で言及されています。大規模修繕のときに設備の点検を一緒にやる根拠として、総会資料に引用できます。


伊豆市の想定地震は「南海トラフ」。近隣3市とは前提が違います

ここは、伊豆市の記事で外せない部分です。

第4期計画に掲載されている、静岡県第4次地震被害想定の数字です。

区分 南海トラフ巨大地震 相模トラフ沿いの地震(元禄型関東地震)
規模 マグニチュード9.0程度 マグニチュード8.2程度
全壊・焼失棟数 約1,500棟 約300棟
死者数 約1,400人 約10人

出典:伊豆市耐震改修促進計画(第4期)

この表を、他市と比べてください

私が書いてきた近隣市の記事では、相模トラフのほうが被害が大きい市が続いていました。三島市も御殿場市も、被害想定の最大は相模トラフ沿いの元禄型関東地震でした。

伊豆市は違います。南海トラフ巨大地震で全壊・焼失約1,500棟、相模トラフで約300棟。5倍の差があります。

そして、もっと目を引くのは死者数です。全壊・焼失が約1,500棟なのに対し、死者が約1,400人。三島市は全壊焼失約2,700棟に対して死者約20人でした。棟数と死者数の比率が、まったく違います。

この差が何を意味しているかは、地図を見ればわかります。伊豆市は土肥地区で駿河湾に面しています。南海トラフ巨大地震では、津波の影響を正面から受ける立地です。

理事会で、この数字を1行だけ引用してください

修繕積立金の値上げ議案は、たいてい「必要性は分かるが、いまでなくてもいいのでは」という反応で先送りされます。

そういうときに、この表を1枚出してください。「市が令和8年4月に公表した計画によれば、南海トラフ巨大地震で市内の死者は約1,400人と想定されています」。数字には、100回の説明より強い力があります。

市が「能登半島地震と地理的条件が似ている」と書いています

第4期計画の目的の項に、こう明記されています。

令和6年1月の能登半島地震は、地理的条件が似ている伊豆半島地域の防災力の更なる強化の必要性を認識させた。

さらに沿道建築物の現状の項では、こうです。

特に当市の一部においては、幅員が狭い道路に古い住宅が連なっている地域特性から、耐震化が遅れている。また、地理的条件が能登半島と共通し、代替路が限られているため、大規模地震時に沿道建築物の倒壊により、緊急車両の通行が妨げられるおそれがある。

計画には「孤立予想集落対策」という項目まで立てられています。

これは、大規模修繕の工程を考えるときにも効いてくる話です。代替路が限られるということは、資材の搬入路も限られるということです。伊豆市の現場では、材料を積んだトラックが通れるか、足場材の荷降ろしスペースが取れるかを、見積り前に確認しておく必要があります。ここを見落とすと、後から「小運搬費」という名目で追加が出ます。


★伊豆市の気候は、同じ市内で2.5倍違う

さて、記事の冒頭でお預けにした話に戻ります。ここが伊豆市の記事でいちばんお伝えしたい部分です。

年降水量:土肥1,824.5mm/湯ケ島2,842.8mm/天城山4,552.6mm

観測地点 地区 年降水量(平年値1991-2020)
土肥 土肥地区(駿河湾西海岸) 1,824.5mm
湯ケ島 天城湯ヶ島地区(内陸) 2,842.8mm
天城山 市南部の山地 4,552.6mm
(参考)三島 ― 1,868.2mm
(参考)御殿場 ― 2,874.6mm
(参考)静岡 ― 2,327.3mm

出典:静岡地方気象台 静岡県の気象特性

静岡地方気象台は、静岡県を「日本一の標高差を持つ県」と表現しています。そして伊豆市は、その静岡県の中でも、海抜0メートルの土肥から天城の山地まで、1つの市の中に日本一の標高差の縮図を抱えている市です。

この2.5倍が、工事に何をもたらすか

まず、雨天中止日数がまったく違います。土肥のマンションと、天城湯ヶ島のマンションでは、同じ工期を組んではいけません。年間降水量が1.5倍違えば、雨で止まる日も相応に増えます。

私が伊豆市の管理組合にいつも申し上げるのは、この2つです。

  1. 見積りを取るときに「雨天中止を何日見込んだ工程ですか」と聞いてください。答えられない業者は、工程を真剣に組んでいません。
  2. 総会で住民に説明するときは、業者の提示工期に2週間上乗せして伝えてください。「3か月で終わります」と言って4か月かかると信頼を失います。「3か月半から4か月です」と言って3か月半で終われば、誰も文句を言いません。

次に、防水の仕様が違ってきます。天城山周辺の4,552.6mmという雨量は、屋上・パラペット・笠木にとって過酷な条件です。同じ市内だからという理由で、土肥のマンションと同じ仕様で見積もられていたら、根拠を聞いていいと思います。

そして、冬の条件も違います。静岡地方気象台は「冬期は天城山付近で降雪もみられ、積雪となることも珍しくありません」と書いています。塗料やシーリングには施工可能温度(おおむね5℃以上)があります。天城の標高帯では、冬の午前中に作業が止まる日が出ます。一方、土肥は沿岸部で年平均気温16~17℃の温暖な地域です。

★塩害:伊豆市は「海の市」でもあります

もう1つ、近隣3市と決定的に違う点があります。

三島市・裾野市・御殿場市は、いずれも駿河湾に面していない内陸市でした。私はそれらの記事で「沿岸部と同じ重防食仕様が一律に入っているなら、根拠を聞いていいです」と書きました。

伊豆市では、この話が反転します。土肥地区は駿河湾に面した西海岸です。しかも静岡地方気象台によれば、伊豆半島西海岸では南西から西風が卓越します。海からの風が、そのまま建物に当たる立地です。

塩害が出やすいのは、鉄部です。

  • バルコニーの手すりの付け根
  • 避難ハッチ、避難ハッチの枠
  • 外部階段の踏板と側桁
  • 屋外の配管支持金物
  • 玄関扉の枠、メーターボックスの扉

土肥地区のマンションで、ケレン(錆落とし)の等級と防錆下塗りの仕様が、修善寺のマンションと同じになっていたら、それは検討不足です。逆に、修善寺や中伊豆の内陸のマンションで沿岸部と同じ重防食仕様が一律に入っているなら、その分の予算は下地補修に回したほうが建物のためになります。

同じ伊豆市の中で、これだけ条件が違う。私が「面によって、地区によって、傷み方が違う」と申し上げるのは、こういうことです。


伊豆市の工事適期カレンダー

以上を踏まえて、伊豆市で大規模修繕を打つならいつがいいかを整理します。

時期 評価 理由
3月下旬~5月 ○ 気温が安定。ただし春雨で止まる日もある
6月~7月上旬 △ 梅雨。伊豆半島は前線がかかりやすい
7月中旬~8月 ○ 天城の標高帯は沿岸部より作業環境が良い。ただし夕立に注意
9月~10月中旬 ×~△ 台風シーズン。足場の倒壊リスクと養生の手間。伊豆半島は台風の常襲地帯
10月下旬~11月 ◎ 年間で最も安定した窓
12月~2月 △~○ 土肥・修善寺は温暖で作業可能日が多い。天城の標高帯は朝の冷え込みと降雪に注意

伊豆市の窓は、春と晩秋の2つです。そして、晩秋の窓のほうがはっきりしています。

問題は、この窓を押さえるには、前年の秋までに業者選定を終えている必要があるということです。いま2026年8月に動き始めた管理組合が現実的に狙えるのは、2027年の春か秋です。「来年やろう」と言い出したときには、もう来年ではなく再来年になっている。これが大規模修繕の時間感覚です。

静岡県では暖候期(4~9月)の夜間・早朝に、局地的な前線による大雨が発生することがしばしばあると気象台が注意喚起しています。伊豆市のような山地を抱える市では、朝の予報が外れて午前中まるごと止まることがあります。工程に余裕を持たせてください。


ここからは、私の会社が仕事をいただく話につながります

先に申し上げておきます。ここから書くことは、株式会社明誠が利益を得る話につながります。そのうえで読んでください。

3つの工法の比較

工法 向いている建物 向いていない建物 費用の考え方
通常足場工法 中低層、形状が複雑、下地補修の物量が多い、全面改修 敷地に余裕がない、居住者の生活影響を抑えたい 仮設費が総工事費の15~25%
ロープアクセス工法(無足場) 高層、足場が架けにくい、部分補修、コスト最重視 タイル浮きが広範囲、下地補修の物量が非常に多い 仮設費を大幅に圧縮できる
ハイブリッド工法 大規模・複雑物件、面によって劣化度が違う建物 小規模で単純形状の建物 部位ごとに最適化して総額を下げる

正直に申し上げます。ロープアクセスは、すべての建物に向くわけではありません。タイルの浮きが広範囲に出ていて下地補修の物量が多い建物は、足場を架けたほうが安く、早く終わります。そういうときは「正直に足場でいきましょう」と申し上げます。3つとも持っているから、正直に言えるのです。

ロープアクセス工法の技術情報や安全基準については、姉妹サイトのロープアクセスドットコムに詳しくまとめています。工法の中身をご自分で確かめたい方は、そちらもご覧ください。

仮設足場は、総工事費の15~25%

ここが、この記事でいちばん申し上げたい数字です。

総工事費 仮設足場費の目安(15~25%)
3,000万円 450万~750万円
5,000万円 750万~1,250万円
8,000万円 1,200万~2,000万円

この記事で紹介してきた伊豆市の補助金は、ブロック塀の撤去で266,000円、生垣への改善で333,000円、アスベスト除去で最大120万円です。

桁が違います。

私は理事会で、こういう光景を何度も見てきました。266,000円の申請書類の書き方を3時間議論して、750万円の仮設費を「一式」の1行で5分で通す。

お願いですから、議論に費やす時間の配分を、金額の大きさに合わせてください。補助金の申請は大事です。でも、そこに3時間かけるなら、仮設工事の内訳に3時間かけたほうが、管理組合のお金は残ります。

「敷地に余裕がある」は「足場を架けるべき」とイコールではない

伊豆市は、都心部と違って敷地に余裕のあるマンションが多い地域です。だから足場が架けられる。それは事実です。

ただ、架けられることと、架けるべきことは別です。

理事会で、この3つを確認してください。

  1. 今回は全面改修ですか、部分補修ですか。部分補修なのに全面に足場を架けていませんか。
  2. 居住者が2~3か月、バルコニーを塞がれる生活を受け入れられますか。洗濯物が干せない、窓が開けられない、防犯上の不安がある。この負担は工事費に計上されていません。
  3. 見積書の仮設工事は「一式」になっていませんか。平米単価とリース期間に分解されていますか。

この3つを聞くだけで、見積りの中身は変わります。

なお、ロープアクセス工法の一般的な安全基準や施工事例についてはロープアクセスドットコムで解説しています。工法の是非をご自分で判断したい理事の方は、一次情報として目を通してみてください。

大規模修繕の全体像については大規模修繕工事のご紹介、ロープアクセス工法の詳細はロープアクセス工法のご紹介にまとめてあります。


伊豆市のマンションを想定した、2つのモデルケース

実際にどれくらい変わるのか、具体的な数字で示します。あくまでモデルケースであり、建物の状態によって結果は変わります。

ケース1:修善寺エリア/築26年・8階建て・42戸

項目 従来足場工法 ハイブリッド工法
総工事費 7,000万円 6,100万円
差額 ― ▲900万円
1戸あたり 約167万円 約145万円(▲約21万円)
工期 ― 約1か月短縮

組み方はこうです。バルコニー側は足場を架けます。手すりの塗替え、床防水、サッシまわりのシーリングと、作業量が多いからです。一方、妻面と屋上まわりはロープアクセスにします。ここは開口部が少なく、作業員の滞在時間も短い。ここに足場を架けるのはもったいない。

ケース2:市郊外/築42年・5階建て・18戸

項目 従来足場工法 ロープアクセス主体
総工事費 3,300万円 2,700万円
差額 ― ▲600万円
1戸あたり 約183万円 約150万円(▲約33万円)
資金 一時金が必要 機構融資で一時金ゼロも可能

18戸で3,300万円は、1戸あたり183万円です。同じ工事を100戸のマンションでやれば1戸33万円です。戸数が少ないマンションほど、1戸あたりの負担が重くなる。だから、戸数が少ないマンションほど、工法選定が効きます。

伊豆市は人口26,911人の市です。大規模なタワーマンションが林立する街ではありません。ケース2が自分ごとになる管理組合のほうが多いはずです。


修繕積立金が足りないときの4つの打ち手

# 打ち手 メリット デメリット
① 一時金の徴収 借入なし 総会で通りにくい。滞納リスク
② 住宅金融支援機構の融資 一時金ゼロにできる 利息負担。総会決議が必要
③ 段階施工(分割発注) 1回の負担が軽い 仮設費が回数分かかり、総額はむしろ増える
④ 工法の見直し 総額そのものが下がる 設計を固めた後では選べない

④を最初に検討してください。これは順番の問題です。

設計に入る前なら、①②③④の4択があります。しかし設計事務所と仕様を固め、足場前提で数量を拾ってしまうと、④は事実上消えます。足場ありきで積算された数量から、あとで工法だけ変えることはできないからです。

住宅金融支援機構の3つの制度

制度 内容
共用部分リフォーム融資 管理組合名義で借りられる。全期間固定金利。マンション管理センターの債務保証を使えば、理事長個人の連帯保証は不要
マンションすまい・る債 年1回募集・口数上限があり実質先着順。積立金の運用先
マンションライフサイクルシミュレーション 将来の資金計画を試算できる無料ツール

金利は情勢で変わりますので断定は避けますが、100戸のマンションが2,000万円を10年で借りるとして、金利が0.2%違えば、総支払額で数十万円の差が出ます。管理計画認定を取ると金利が引き下げられる仕組みがあるため、認定と融資はセットで考えると得です。

そして総会実務の話をします。「一時金50万円をお願いします」という議案と、「月々3,000円の見直しをお願いします」という議案では、通り方がまったく違います。②と④を組み合わせると、議案の性格そのものが変わります。


伊豆市版・18か月逆算カレンダー

時期 やること 連絡先
今週 県のマンション管理士無料派遣に申込(10件枠・11月14日締切) 静岡県マンション管理士会 ファクス 0544-27-6561
18か月前 劣化診断。長期修繕計画の見直しが7年以内か確認 ―
17か月前 過去の工事記録・図面・保証書を集める ―
16か月前 管理計画認定の受付を市がしているか確認。認定基準5分野を自己点検 都市計画課 0558-83-5206
15か月前 非木造の耐震診断に使える市の制度があるか電話確認 都市計画課 0558-83-5206
14か月前 アスベスト事前調査を、自己負担前提で工程と予算に計上 ―
12か月前 工法選定(設計に入るのはこの後) ―
11か月前 長寿命化促進税制の条例の有無と減額割合を確認。仕様書に3工事が入るか点検 税務課 資産税スタッフ 0558-72-9852
10か月前 マンション管理センターへ事前確認を依頼し、適合証を取得 ―
9か月前 資金計画。機構へ事前相談。相見積り先を市内に限定しない ―
8か月前 管理計画認定の申請(申請先を確認したうえで) ―
7か月前 敷地図でブロック塀を洗い出し、避難経路に面しているか市に確認 都市計画課 0558-83-5206
6か月前 ブロック塀の交付申請。本体工事とは別契約に切り出す ―
5か月前 アスベストが見つかった場合、除去の交付申請(着手前必須) 都市計画課 0558-83-5206
4か月前 交付決定後に契約 ―
着工時 雨天中止の見込み日数を工程表で再確認 ―
竣工後3か月以内 固定資産税の減額申告(条例に定めがある場合) 税務課 0558-72-9852
引き継ぎ時 電話した日付・担当課・聞いたこと・答えの4点をA4 1枚にまとめて申し送り ―

このカレンダーは18か月あります。理事の任期が1年なら、2代の理事会をまたぎます。だからこそ、最後の1行が大事です。「電話した日付・担当課・聞いたこと・答え」の4点セット。これだけで、翌年の理事会が同じ電話を3回かけずに済みます。


相見積りで確認してほしい3点

① 数量の根拠は、図面拾いですか、現地実測ですか

とくにタイルの浮き面積とシーリングの延長です。図面から拾った数量と、実際に打診して測った数量は、まったく違います。

② 仕様は、メーカー名・製品名・グレード・希釈率・塗布回数まで書かれていますか

「シリコン塗料」では比較になりません。同じ「シリコン」でも、耐用年数が7年のものと15年のものがあります。製品名まで書かせてください。

③ 「別途」の中身と、下地補修の数量超過時の単価を、契約前に明記させてください

これが紛争予防の最重要ポイントです。「タイル浮き想定50平方メートルが、実際は120平方メートルだった」というのは、珍しいどころか、想定どおりに収まるほうが少ないくらいです。

超過したときの平方メートル単価を契約前に見積書に書かせておけば、追加費用の交渉は数字の掛け算で終わります。書かせていなければ、竣工前に「言った・言わない」が始まります。

★伊豆市の管理組合へ:相見積り先を市内に限定しないでください

伊豆市は人口26,911人の市です。分譲マンションの絶対数が多くありません。ということは、大規模修繕を専門にやっている地元業者の数も限られます。市内だけで探すと、相見積りが2社になってしまう。2社では比較になりません。

一方で、伊豆市には伊豆縦貫自動車道(修善寺道路・天城北道路)が通っており、伊豆中央道を経由して沼津・三島とつながっています。伊豆箱根鉄道駿豆線の修善寺駅からは三島駅まで一本、三島から東海道新幹線で品川まで最短37分。首都圏からも静岡市からも日帰り圏です。

日帰りできるということは、宿泊費と長距離移動費が見積りに乗らないということです。範囲を広げてください。3社、できれば4社。それだけで相場が見えます。


今週、伊豆市の理事会ができる5つのこと

  1. 静岡県のマンション管理士無料派遣に申し込む(10件枠・11月14日締切/ファクス 0544-27-6561)
  2. 都市計画課(0558-83-5206)に3問:①非木造の耐震診断に使える制度はあるか ②アスベスト除去補助は分譲マンションの共用部でも対象になり得るか ③管理計画認定の受付を市はしているか
  3. 税務課(0558-72-9852)に2問:①マンション長寿命化促進税制の条例の定めと減額割合 ②管理組合が申告を取りまとめられるか
  4. 敷地図を印刷して、ブロック塀に蛍光ペンを引く(30分)
  5. 10月の熱海市/12月の伊東市のマンション管理セミナーを、理事会の議題に載せる

全部やっても、実働は2時間かかりません。電話2本で20分です。


よくある質問(FAQ)

Q1. 伊豆市に、マンションの大規模修繕そのものへの補助金はありますか。
A. 公開情報の範囲では、共用部の大規模修繕に直接使える市の補助金は見当たりません。ただしアスベスト除去等(3分の2以内・1敷地120万円)とブロック塀(撤去は3分の2以内・上限266,000円ほか)は、工事の一部に関わる可能性があります。

Q2. 伊豆市のアスベスト補助は、分譲マンションでも使えますか。
A. 市のページに記載されている対象条件は「市内にある建築物であること」「他の補助を受けていないこと」の2つのみで、用途や所有形態を限る文言は見当たりません。ただし市が明記しているわけではないため、都市計画課 0558-83-5206 への事前相談が必要です。

Q3. 「伊豆市は耐震改修に最大115万円」と書いてあるサイトを見ました。
A. それは木造住宅耐震補強助成事業(補強計画一体型)の金額で、RC造・SRC造のマンション共用部には当たりません。あわせて、令和8年度から高齢者割り増しは廃止されています。

Q4. 非木造の耐震診断に、伊豆市の補助はありますか。
A. 市の公開ページでは確認できませんでした。三島市・裾野市・御殿場市にはある制度ですので、伊豆市にもあるか都市計画課へ電話でご確認ください。

Q5. ブロック塀を撤去したあと、新しいブロック塀を建てられますか。
A. 建てること自体は可能ですが、市のページに「制度変更に伴い、ブロック塀からブロック塀への作り替えは補助対象外」と明記されています。生垣等に作り替える場合は3分の2以内・上限333,000円が用意されています。

Q6. マンション管理計画認定は、伊豆市で申請できますか。
A. 静岡県の認定制度は「県内の町域」が対象と明記されており、市である伊豆市は県では申請できません。市が受付をしているかは市のページから確認できませんでしたので、都市計画課へご確認ください。

Q7. 長寿命化促進税制の減額は、伊豆市で受けられますか。
A. 伊豆市の固定資産税のページには、省エネ・バリアフリー・耐震の3つの減額しか掲載されておらず、長寿命化促進税制の記載は見当たりません。税務課 0558-72-9852 へご確認ください。

Q8. 伊豆市の大規模修繕は、いつ着工するのがいいですか。
A. 10月下旬から11月がもっとも安定しています。次いで3月下旬から5月。9月から10月中旬は台風シーズンのため避けたほうが無難です。ただし土肥・修善寺・天城で条件が異なるため、建物の立地で判断してください。

Q9. 土肥のマンションと修善寺のマンションで、仕様は変えるべきですか。
A. 私は変えるべきだと考えています。土肥は駿河湾に面し西風が卓越する塩害環境で、鉄部の防錆仕様を厚くする価値があります。一方、内陸側は塩害より紫外線・凍結融解・多雨への対策に予算を配分したほうが、建物のためになります。

Q10. ロープアクセス工法は、どんなマンションでも使えますか。
A. いいえ。タイルの浮きが広範囲に出ていて下地補修の物量が多い建物は、足場を架けたほうが安く早く終わります。当社は足場・ロープアクセス・ハイブリッドの3つを扱っているため、建物に合わない工法を無理に勧める必要がありません。


この記事のポイントまとめ

  • 伊豆市に、共用部の大規模修繕への直接補助は公開情報では見当たらない
  • ただしアスベスト除去等は3分の2以内・1敷地120万円で、県東部で最も手厚い水準
  • 一方で分析調査への補助は確認できず。近隣市と補助の構造が逆になっている
  • 非木造の耐震診断補助は市の公開ページで確認できず(三島・裾野・御殿場にはある)
  • ブロック塀は塀から塀への作り替えが補助対象外。生垣等なら2/3・上限333,000円
  • 老朽空家等除却支援は「木造住宅を除く」建築物が対象という珍しい設計
  • 長寿命化促進税制の記載は市のページに見当たらず、税務課への確認が必要
  • 管理計画認定は県が「町域のみ」。市の受付有無は要確認
  • 静岡県のマンション管理士無料派遣は県内10件枠・11月14日締切が最優先アクション
  • 県のセミナーは熱海市10月・伊東市12月に隣接エリアで開催
  • 住宅の耐震化率84.0%は近隣市より10ポイント低いが、非木造は95.4%
  • 南海トラフ巨大地震で全壊焼失約1,500棟・死者約1,400人。相模トラフの5倍近い
  • 市自身が「能登半島地震と地理的条件が似ている」「代替路が限られる」と明記
  • 年降水量は土肥1,824.5mm/湯ケ島2,842.8mm/天城山4,552.6mmで市内2.5倍差
  • 工事適期は10月下旬~11月が最良、次いで3月下旬~5月
  • 仮設足場は総工事費の15~25%。補助金とは金額の桁が違う
  • 相見積りは市内に限定せず、伊豆縦貫道と修善寺駅を使って範囲を広げる

静岡県東部の近隣市の記事もあわせてどうぞ


主なお問い合わせ先

用件 担当 電話
耐震・ブロック塀・アスベスト・空き家・建築相談 伊豆市 都市計画課 土地対策スタッフ(中伊豆支所内 伊豆市八幡500-1) 0558-83-5206
固定資産税の減額・申告 伊豆市 税務課 資産税スタッフ(伊豆市小立野38-2) 0558-72-9852
市役所代表 伊豆市役所 0558-72-1111
マンション管理士の無料派遣 一般社団法人静岡県マンション管理士会 ファクス 0544-27-6561
マンション管理全般・認定制度 静岡県 くらし・環境部建築住宅局住まいづくり課 054-221-3084

出典・参考資料


執筆者:本間 幸紘(株式会社明誠 代表取締役)
専門領域:マンション・ビル・ホテルの大規模修繕/ロープアクセス工法/建物長寿命化計画
実務経験:建設・改修業界 20年以上
所属:一般社団法人 全国建設業支援協会(JCSA)

株式会社明誠について:東京都東大和市を拠点に、東京・関東一円でロープアクセス工法・通常足場工法・ハイブリッド工法の3つを建物に応じて提案できる改修会社です。ロープアクセス工事としては日本初となるフランチャイズを展開し、塗装・防水・タイル・電気・看板などの専門職が加盟しています。

最終更新:2026年8月23日


免責事項:本記事は公開されている一次情報をもとに2026年8月23日時点で整理したものです。補助制度の内容・金額・受付状況・期限は変更される場合があります。実際の申請にあたっては、必ず各窓口で最新の情報をご確認ください。


伊豆市を調べていて、私が一番印象に残ったのは、市が自分たちの計画に「能登半島地震と地理的条件が似ている」と書いていたことでした。行政の文書としては、かなり踏み込んだ書き方だと思います。それだけ真剣だということです。

もう1つ印象に残ったのは、雨の量です。土肥で1,824.5mm、天城山で4,552.6mm。同じ市の中でこれだけ違う場所は、そうそうありません。同じ市だから同じ仕様、同じ工期、というのが通用しない市なのです。逆に言えば、建物ごとに条件を読んで組み立てれば、ちゃんと差が出せる市でもあります。

まずは電話2本で20分(都市計画課 0558-83-5206/税務課 0558-72-9852)。そして、静岡県のマンション管理士無料派遣の申込書だけは、今週中にファクスしてください。10件です。

工法の相談や見積りの読み方だけでも構いません。総会の前段階の整理でお役に立てることがあります。お問合せフォームから、遠慮なくお声がけください。

御殿場市のマンション補助金2026|管理組合が使える制度と大規模修繕の進め方

御殿場市で分譲マンションの理事を務めておられる方から、こんなご相談をよくいただきます。「大規模修繕に使える補助金は、御殿場市にありますか」。

先に結論を申し上げます。2026年8月時点で、御殿場市が分譲マンションの共用部の大規模修繕工事そのものに直接お金を出す補助制度は、公開されている情報からは確認できませんでした。

正直に書きます。ここで記事を閉じてしまうと、それで終わりです。けれども私が御殿場市の公開資料を一次情報から読み込んでいくと、他の市の記事では出てこなかった数字と論点がいくつも出てきました。

  • 御殿場市の建築物耐震診断費補助には、近隣の三島市・裾野市にはある「限度額200万円」という記載が見当たりません
  • 御殿場市のブロック塀補助は、撤去だけ(上限26万6千円)よりフェンスに建て替えたほう(上限43万2千円)が補助が厚い
  • 御殿場市の想定被害は南海トラフではなく相模トラフ沿いの元禄型関東地震で、全壊・焼失約7,150棟。人口規模が近い三島市(約2,700棟)の2.6倍です
  • 御殿場の年降水量は2,874.6mm。三島市の1,868.2mmの1.5倍を超えます。これは工期に直結します

私は建設・改修の業界で20年以上、マンションやビルの大規模修繕をやってきました。現場で20年やってきて、私が一番悔しい思いをするのは、「知っていれば使えたのに」という制度を、工事が終わってから理事長さまに教えられることです。

この記事では、御殿場市の管理組合が2026年度に現実的に使える公的な仕組みを、市と県の一次情報だけを根拠に整理します。最終更新:2026年8月23日


この記事で答える3つの質問

  1. 御殿場市のマンション管理組合が今年度使える補助金は何か? → 建築物耐震診断費補助、ブロック塀等の除却・建替え費補助、そして静岡県のマンション管理士無料派遣(受付10件・11月14日締切)です。
  2. 共用部の大規模修繕そのものへの補助はあるか? → 公開情報では確認できませんでした。だからこそ、工事費そのものを下げる工法選定が効いてきます。
  3. 今週やるべきことは何か? → 電話2本と、県への申込書1枚のファクスです。具体的な番号は本文で示します。

結論:御殿場市の管理組合が2026年度に触れるべき制度は5つ

まず全体像を表にします。金額と根拠は、すべて市・県の公式ページから引いています。

# 制度・仕組み 内容 上限・条件 窓口
1 静岡県 マンション管理士の無料派遣 専門家が管理組合に来て助言 受付10件/各組合2回まで/令和8年11月14日締切 静岡県マンション管理士会 FAX 0544-27-6561
2 御殿場市 建築物耐震診断費補助 非木造住宅・住宅以外の耐震診断費 経費と基準額の少ない額の2/3(限度額の記載が市ページに見当たらず) 建築住宅課 0550-82-4224
3 御殿場市 ブロック塀等除却費補助 危険なブロック塀の撤去 1m2万円との少ない額の2/3・上限26万6千円 建築住宅課 0550-82-4224
4 御殿場市 ブロック塀等建替え費補助 塀を撤去しフェンス等に転換 1m5万8,400円との少ない額の2/3・上限43万2千円 建築住宅課 0550-82-4224
5 マンション長寿命化促進税制 大規模修繕後の固定資産税減額 御殿場市ページに記載が見当たらず(要確認) 課税課 0550-82-4139

出典は本文の各セクションに一次情報のリンクを置きます。ここで先に1つだけ申し上げると、1番の県の無料派遣が、御殿場市の管理組合にとって現時点で最も価値が高い入口です。理由は後述します。


まず今週:静岡県のマンション管理士無料派遣は「10件」しかありません

御殿場市には、分譲マンションの管理を正面から扱う市独自の相談窓口や補助制度が、公開ページからは見つかりませんでした。ではどこに相談すればよいのか。

答えは静岡県です。

静岡県は令和8年度も「マンション管理組合活動活性化支援事業」として、マンション管理士を管理組合に無料で派遣しています(出典:静岡県「マンションの管理」)。

派遣事業の条件(令和8年度)

項目 内容
受付件数 10件(上限に達した時点で終了)
派遣回数 各管理組合 2回まで
申込期限 令和8年11月14日(土曜) ※定数に達し次第早期終了
派遣期限 令和9年1月31日(日曜)まで
申込先 一般社団法人静岡県マンション管理士会
メール t_gotoh@tx.thn.ne.jp / ファクス 0544-27-6561
費用 無料(県の委託事業)

静岡県内には分譲マンションが何百棟とあります。そのなかで10件です。私はこの数字を見たとき、正直「早い者勝ちだ」と思いました。

2回をどう使うか(私の提案)

派遣は2回まで。私が理事長さまにお伝えしているのは、この2回を次のように使い分けることです。

  • 1回目:長期修繕計画と修繕積立金の水準チェック。「うちの積立金は足りているのか」を第三者に判定してもらう
  • 2回目:相見積りの比較と、業者選定プロセスのチェック。金額だけでなく「数量の拾い方が妥当か」を見てもらう

工事会社である私が言うのも妙な話ですが、発注者側に専門家がついている現場のほうが、私たちも仕事がしやすいのです。話が早いし、後から「聞いていない」が起きません。

申込書は県のページからWord形式でダウンロードできます。理事会の次の開催を待つ必要はありません。理事長印を押してファクスを1枚送るだけです。


御殿場市には県のマンション管理セミナーが来ません。では、どこへ行くか

静岡県は令和8年度、県内9会場でマンション管理セミナーを開催します。開催地を見てください。

開催地 開催日 会場
浜松市 令和8年7月25日(土) 可美公園総合センター
磐田市 令和8年8月29日(土) 磐田商工会議所
三島市 令和8年9月12日(土) 三島市役所
熱海市 令和8年10月予定 ―
沼津市 令和8年10月予定 ―
静岡市 令和8年11月予定 ―
伊東市 令和8年12月予定 ―
富士市 令和9年2月予定 ―
浜松市 令和9年2月予定 ―

(出典:静岡県「マンションの管理」)

御殿場市は入っていません。

ただ、悲観する話ではありません。御殿場市役所から三島市役所までは、国道246号と伊豆縦貫道を使って車でおよそ40分。東名の御殿場ICから沼津ICまでは20分ほどです。9月12日(土)の三島市回と、10月予定の沼津市回は、御殿場の管理組合にとって十分に日帰りできる距離です。

私が理事長さまによく申し上げるのは、「行くなら2人で行ってください」ということです。理事長ご本人と、次期理事の候補。マンション管理の一番の敵は理事の任期が1年で切れることです。2人で聞いておけば、来年度に話がゼロに戻りません。


御殿場市の耐震診断補助:ここに他市との差があります

ここからは市の制度です。御殿場市は「プロジェクトTOUKAI-0(トウカイ・ゼロ)」という県と連携した総合支援事業を持っています(出典:御殿場市「建築物等の地震対策補助制度概要」)。

その中で、分譲マンションの管理組合が入口に立てる可能性がある唯一の建物系メニューが「建築物の耐震診断費補助制度」です。

制度の中身

項目 内容
対象 昭和56年(1981年)5月31日以前に建築された建築物(木造の専用住宅を除く)
除外 国・地方公共団体その他の公の機関が所有するもの
申請者 耐震診断を実施する者(所有者以外なら所有者承諾書が必要)
補助額 1棟ごとに、診断に要する経費と補助基準額を比較して少ない額の2/3(千円未満切捨て)

補助基準額(一戸建ての住宅以外の場合)は、延べ床面積の区分ごとに単価を積み上げます。

延べ床面積 基準額
1,000㎡以内の部分 1㎡につき 3,670円
1,000㎡を超え2,000㎡以内の部分 1㎡につき 1,570円
2,000㎡を超える部分 1㎡につき 1,050円

(出典:御殿場市「建築物の耐震診断費補助制度」)

ここが御殿場市の特徴です

2つ、他市の記事を書いてきた私の目に留まった点があります。

1つ目。「一戸建ての住宅以外」という区分を単価で別建てにしている。

一戸建ては136,000円の定額ですが、それ以外は面積単価。つまり制度の設計上、共同住宅のような大きな建物を想定していると読めます。近隣の三島市は事業名が「非木造住宅」で共同住宅の明文がなく、対象かどうかを電話で確認する必要がありました。御殿場市はその点、単価表の作りが素直です。

2つ目。市のページに「限度額」の記載が見当たりません。

これは重要です。三島市も裾野市も「限度額200万円」と明記しています。ところが御殿場市のページには、補助額の説明にも基準額の表にも、限度額の一文がありません。それどころか、市は次のような計算例まで載せています。

(補助基準額算出例) 延べ床面積1,500㎡の一戸建ての住宅以外の建築物の場合/1,000㎡×3,670円/㎡=3,670,000円…①/500㎡×1,570円/㎡=785,000円…②/基準額(①+②)=4,455,000円

基準額445万5千円。その2/3は297万円です。もし限度額が本当にないのであれば、200万円上限の近隣市より条件が良いことになります。

ただし、私はこれを「御殿場市は上限なし」と断定しません。 補助の詳細は御殿場市プロジェクト「TOUKAI-0」総合支援事業費補助金交付要綱(令和8年3月16日告示第132号)に定められており、令和8年4月1日から一部改正されています。ウェブページに書かれていないだけで、要綱に限度額が定められている可能性は十分にあります。

電話で聞くべき2つのこと

市自身が「補助金の交付申請前に必ず建築住宅課へご相談ください」と書いています。つまり事前相談は正規の手順です。遠慮する必要はありません。

建築住宅課 TEL 0550-82-4224(メール kenchiku@city.gotemba.lg.jp)

聞くことは2つだけです。

  1. 「分譲マンションの共用部分の耐震診断は、建築物等耐震診断事業の対象になりますか」
  2. 「補助額に限度額はありますか。ある場合はいくらですか」

この2問で、御殿場市の管理組合にとっての前提条件が確定します。所要時間は5分もかからないはずです。

注意点:予算枠と事前申請

制度には落とし穴があります。市が明記しているのは次の2点です。

  • 事業に着手する前に申請が必要(交付決定通知後に着手)
  • 予算額に到達次第、受付を終了

つまり「診断を頼んでしまってから申請」は通りません。そして年度後半になるほど枠が埋まるリスクが上がります。診断をやると決めたなら、早い時期に動くほうが有利です。


御殿場市の耐震「工事」補助はどうなっているか:正直に整理します

耐震診断に補助があるなら、耐震補強工事にもあるのでは、と思われるはずです。

御殿場市の建築物等の地震対策補助制度概要を見ると、木造住宅以外の建築物について並んでいるメニューは、「建築物の耐震診断費補助制度」の1本だけです。木造住宅には無料診断・補強費補助・除却費補助の3本があるのに対して、非木造は診断のみ。

これは市の計画本文とも整合します。第4期御殿場市耐震改修促進計画(令和8年度〜令和12年度)概要版の支援制度欄には、建築物についてこう書かれています。

特定建築物については、個別訪問等により耐震改修の必要性を丁寧に説明するとともに、早期の耐震化へ誘導する。耐震診断といった基本的な補助事業を継続し、耐震化を支援する。

診断は支援する。工事は「誘導する」。この書き分けは、行政文書としては明確です。

近隣市との比較

同じ静岡県東部の3市を並べてみます。

市 非木造の耐震診断 非木造の補強計画 非木造の補強工事
御殿場市 あり(2/3・限度額の記載なし) 公開情報で確認できず 公開情報で確認できず
三島市 あり(2/3・限度200万円) 記載なし あり(ただし勧告・指導を受けたもの等に限定)
裾野市 あり(2/3・上限200万円) あり(2/3・上限30万円) あり(既成市街地の避難路沿道の特定建築物に限定)

つまり御殿場市の管理組合にとっての現実は、「調べるところまでは補助が出るが、直すところは自力」です。

これは悪い話ばかりではありません。私が理事会で申し上げているのは、次の二段構えです。

  1. 診断費は補助込みで予算を組む(自己負担は3分の1)
  2. 補強や改修の工事費は、補助ゼロ前提で長期修繕計画に載せる

補助が出る前提で計画を作って、後から「対象外でした」となるのが一番まずい。最初から自力の数字で組んでおけば、あとで補助が使えたときはそのぶん楽になるだけです。


御殿場市のブロック塀補助:撤去より「建替え」のほうが補助が厚い

ここは御殿場市のなかで、管理組合が確実に使える可能性が高いメニューです。令和8年度の受付は既に始まっています。

2つの制度を並べます

項目 除却(撤去) 建替え(フェンス等に転換)
基準額 長さ1mにつき 20,000円 長さ1mにつき 58,400円
補助率 経費と基準額の少ない額の 2/3以内 経費と基準額の少ない額の 2/3以内
限度額 266,000円 432,000円
対象の位置 緊急避難路・避難路・通学路(私道を除く)・避難地に面するもの 同左
高さ要件 道路の地盤面から 60cmを超えるもの 同左
撤去の範囲 補助対象となるブロック塀等を全て撤去すること 該当する既存塀を全て撤去し、組積造以外の塀・柵に転換
対象外 門扉・門柱・フェンス等の柵、組積造でない工作物 門扉・門柱

(出典:御殿場市「ブロック塀等の除却費補助制度」、同「ブロック塀等の建替え費補助制度」)

読み方が2つあります

1つ目。基準額が2.9倍、限度額が1.6倍違います。

撤去だけなら1mあたり2万円、上限26万6千円。フェンスに建て替えるなら1mあたり5万8,400円、上限43万2千円です。

御殿場市は「危険な塀をなくす」だけでなく「安全な塀に替える」ところまで面倒を見る設計になっている、と私は読みました。マンションの敷地境界の塀を撤去したまま放置すると、目隠しがなくなって居住者から苦情が出ます。撤去と目隠しの回復をセットで考えるなら、建替え事業のほうが金額的にも実務的にも合理的です。

2つ目。「全て撤去」が条件です。

部分撤去は認められません。「危ないところだけ3mやる」ができない。これは予算に効きます。敷地境界の塀が20m続いているなら、20m全部です。

実務で見落とされがちな塀

私が現場でよく見るのは、次の場所の塀を管理組合が把握していないケースです。

  • 駐輪場の裏側
  • 駐車場の外周(隣地との境)
  • ゴミ置き場の脇
  • 敷地の裏手、普段人が通らない側

敷地図を広げて30分。理事2人で歩けば洗い出せます。市の職員が現地調査に来て倒壊の危険性を判定する仕組みなので、自己判断で「うちは大丈夫」と決めないほうがよいです。

塀は「別契約」に切り出してください

これが実務上、一番大事な点です。

補助の条件は「事業に着手する前に必ず補助金交付の申請を行い、市からの交付決定通知後に事業に着手する」こと。大規模修繕の本体工事と塀の工事を同じ請負契約に混ぜてしまうと、本体の着工日が塀の「着手」とみなされる恐れがあります。

私はいつも理事長さまに、「塀だけは別契約に切り出して、交付決定を待ってから着工しましょう」とお伝えしています。金額は小さくても、手順を間違えると補助がゼロになります。


マンション長寿命化促進税制:御殿場市のページに記載が見当たりません

大規模修繕を終えた管理組合が使える国の制度に、マンション長寿命化促進税制があります。一定の要件を満たす大規模修繕を行うと、工事完了の翌年度分の固定資産税(居住用専有部分)が減額される仕組みです(出典:国土交通省「マンション長寿命化促進税制(固定資産税の特例措置)」)。

減額割合は市町村の条例で定められます。近隣では三島市が「3分の1」、富士市も「3分の1」と市の公式ページに明記していました。

では御殿場市はどうか。

御殿場市の「家屋に対する課税」ページに掲載されている家屋の減額措置は、次の4つです。

減額措置 減額内容 対象
新築住宅 120㎡までの部分の1/2(3〜7年度分) 新築
住宅耐震改修 120㎡までの部分の1/2(翌年度1年分) 昭和57年1月1日以前から所在
バリアフリー改修 100㎡までの部分の1/3(翌年度1年分) 築10年以上・高齢者等が居住
省エネ改修 120㎡までの部分の1/3(翌年度1年分) 平成20年1月1日以前から所在

マンション長寿命化促進税制の記載が見当たりません。

ここも私は断定を避けます。「制度が使えない」とは書きません。市のウェブページに載っていないだけで、条例上は措置されている可能性があります。裾野市の記事を書いたときも同じ状況でした。

課税課に聞くべき3項目

課税課 TEL 0550-82-4139 / 0550-82-4130

  1. 「マンション長寿命化促進税制について、御殿場市の条例で減額割合は定められていますか。何分の1ですか」
  2. 「申告は区分所有者ごとですか。それとも管理組合が取りまとめて提出できますか」
  3. 「大規模の修繕等証明書は、どの資格者が発行したものを受け付けますか」

2番目は地味ですが効きます。三島市は「管理組合が取りまとめて提出する場合は、添付書類は全体で1部のみ」と明記していました。100戸のマンションで100部の添付書類を集めるのか、1部で済むのか。事務負担が桁違いです。

制度を使うために工事仕様で気をつけること

長寿命化促進税制の対象となる工事は、一般に外壁塗装等・床防水(廊下やバルコニー等)・屋根防水の3つを同一の工事として実施することが求められます。

現場でよく起きるのが、「予算が厳しいから屋上防水は次回に回そう」という理事会の判断です。金額を削る判断としては真っ当なのですが、それをやると税制の要件を外します。

もう1つ。大規模の修繕等証明書の発行を、請負契約に含めておいてください。 申告期限は工事完了日からおおむね3か月以内です。竣工してから証明書の発行を頼むと、間に合わないことがあります。私はこれを、必ず契約書の項目に入れるようにしています。


管理計画認定制度:御殿場市は「市」なので、県では申請できません

マンション管理計画認定制度は、管理組合が作る管理計画が一定の基準を満たすことを自治体が認定する仕組みです。認定を取ると、住宅金融支援機構の共用部分リフォーム融資の金利が優遇されるなどのメリットがあります。

静岡県のページには、はっきりこう書かれています。

マンション管理計画認定制度(対象:県内の町域)

つまり県が受け付けるのは町域のみ。御殿場市は「市」ですから、県への申請はできません。

では御殿場市が受け付けているのか。私が市の公開ページを探した範囲では、マンション管理計画認定制度に関する市の案内ページは見つけられませんでした。ここも「制度がない」とは断定しません。ページになっていないだけの可能性があります。

建築住宅課 0550-82-4224 への電話に、もう1問足してください。

「マンション管理計画認定制度の申請は、御殿場市で受け付けていますか。受け付けている場合、手数料はいくらですか」

参考までに、静岡県の認定申請手数料は令和8年4月1日に改定されています。

事前確認適合証 長期修繕計画数 令和8年3月31日まで 令和8年4月1日から
有り 1 3,800円 4,000円
有り 2以上 3,800円+1,700円×(計画数-1) 4,000円+1,800円×(計画数-1)
無し 1 26,900円 28,100円
無し 2以上 26,900円+15,500円×(計画数-1) 28,100円+16,200円×(計画数-1)

(出典:静岡県「マンションの管理」)

事前確認適合証があるかないかで、手数料が7倍違います。 適合証は公益財団法人マンション管理センターの管理計画認定手続支援サービスを利用して取得します。県も国も、この経路を事実上の王道として設計しています。

認定基準を理事会のチェックリストに

認定基準は5つの分野に整理できます。理事会で自己点検してみてください。

分野 チェック項目
管理組合の運営 管理者等が定められているか/集会を年1回以上開催しているか/管理規約が適切に定められているか
管理規約 緊急時の専有部立入り、修繕等の履歴情報の管理等について定めているか
管理組合の経理 管理費と修繕積立金の口座が区分されているか/滞納に対する措置を講じているか
長期修繕計画 計画期間が30年以上かつ残存期間内に大規模修繕工事が2回以上含まれるか/7年以内に見直しされているか/計画期間内に借入金の残高がない設定か
その他 区分所有者名簿・居住者名簿を年1回以上更新しているか

私の経験上、実務で引っかかるのは決まって「7年以内の見直し」と「計画期間30年以上・大規模修繕2回以上」の2つです。

そしてここが大事なのですが、長期修繕計画の見直しは、どのみち大規模修繕の前に必ずやります。 認定を取ると決めておけば、その作業が一度で済みます。決めていないと、修繕のために1回、認定のためにもう1回、同じ作業を発注することになります。順番の問題です。


2026年の新しい論点:マンション管理適正化支援法人の登録制度

これは他市の記事でもあまり触れられていない、新しい話です。

令和7年5月30日に「老朽化マンション等の管理及び再生の円滑化等を図るための建物の区分所有等に関する法律(令和7年法律第47号)」が公布され、同年11月28日に一部施行されました。これにより「マンションの管理の適正化の推進に関する法律」にマンション管理適正化支援法人の登録制度が新設されています。

一般社団法人・一般財団法人・NPO法人などの民間団体が都道府県等の登録を受け、公的な立場からマンション管理の専門支援を行う仕組みです。

登録主体は次のように分かれます。

支援法人の業務区域 登録主体
市の区域 市
町の区域 県

静岡県のページには、こう書かれています。

静岡県は、現段階では、登録制度は実施していません。 なお、各市が所管する市の区域における登録制度については、各市のマンション担当部署に直接お問い合わせください。

御殿場市は市ですから、市域の登録主体は御殿場市です。建築住宅課への電話に、この1問も足しておくとよいと思います。

「マンション管理適正化支援法人の登録制度について、御殿場市で所管する予定はありますか」

今日答えが出る話ではありません。ただ、理事会の引き継ぎ事項に「来年また聞くこと」として1行残しておけば、制度が動き出したときに真っ先に情報が取れます。

あわせて、令和7年に国土交通省がマンション標準管理規約の改正を行っています。県のページから改正パンフレットのPDFがダウンロードできます。規約改正を検討している管理組合は、次の総会の前に一度目を通しておく価値があります。


御殿場市の想定被害は、南海トラフではありません

ここから、御殿場市という土地そのものの話に入ります。

第4期御殿場市耐震改修促進計画(令和8年度〜令和12年度)の概要版には、静岡県第4次地震被害想定に基づく御殿場市の建物被害が載っています。掲載されているのは元禄型関東地震(相模トラフ沿い、冬の夕)のケースです。

被害区分 揺れ 液状化 人工造成地 山崖崩れ 火災 合計
全壊・焼失 約6,200 5未満 約50 5未満 約900 約7,150棟
半壊 約5,000 5未満 約200 5未満 ― 約5,200棟
合計 約11,200 ― 約250 ― 約900 約12,350棟

想定されている地震の規模は次のとおりです。

区分 南海トラフ巨大地震 相模トラフ沿いの地震(元禄型関東地震)
震源 駿河湾から日向灘に掛けての南海トラフに沿った領域の全部 相模トラフ沿い
規模 マグニチュード9.0程度 マグニチュード8.2程度
発生頻度 千年から数千年に1回 千年から数千年に1回

私はこの数字を、近隣市の記事を書いたときの数字と並べて驚きました。人口約10万人の三島市の全壊・焼失想定が約2,700棟。人口約8.5万人の御殿場市が約7,150棟です。

御殿場市は東に箱根外輪山、北に富士山を背負い、相模トラフに近い。地形と震源との位置関係が、この差を生んでいます。

これは「怖がらせる」ために書いているのではありません。理事会が総会で予算の話をするとき、この数字を1行引用するだけで、議案の説明が変わるからです。「うちの市は約7,150棟の全壊・焼失が想定されています」と根拠付きで言えるかどうか。私はそこに実務的な意味があると思っています。


第4期計画が変えたこと:「経年劣化が進んだ建築物」も対象になりました

第4期御殿場市耐震改修促進計画で、私が最も注目したのは対象建築物の定義です。

対象建築物:現行の耐震基準の施行以前に建築に着手された建築物又は地震により被害を受けた建築物若しくは経年劣化が進んだ建築物

旧耐震だけではありません。経年劣化が進んだ建築物が明示的に対象に入りました。

さらに、計画の定性的な目標にはこう書かれています。

新築時の耐震性能の維持・回復:経年劣化による耐震性能の低下が懸念されるため、定期的な調査で劣化状況を把握し、必要な対策を講じるなど適切なメンテナンスにより安全性確保を目指す。

屋外における安全性確保:倒壊の危険性のあるブロック塀等の安全性確保を目指す。屋外広告物・外装材等の安全性確保を目指す。

屋内における安全性確保:家具等の転倒、天井の落下に対する安全性確保を目指す。エレベーター、エスカレーター等の建築設備の安全性確保を目指す。

高層建築物や免震建築物は、長周期地震動により共振し被害を受けるおそれがあるため、国は平成28年に新たな考え方を示しており、これについても配慮する。

私が20年この仕事をしてきて、今の管理組合にお伝えしたいことがほぼそのまま書いてあります。

新耐震だから安心、では済まなくなりました。

躯体が新耐震基準で建てられていても、外壁のタイルは浮きます。シーリングは切れます。バルコニーの手すりの付け根は錆びます。地震のときに落ちるのは、躯体ではなく外装材です。

私はいつも理事長さまに、こうお伝えしています。「大規模修繕は、きれいにする工事ではありません。落ちるものを落ちないようにする工事です」。第4期計画の「屋外広告物・外装材等の安全性確保」という一文は、それを行政の言葉で書いたものだと私は受け取っています。


御殿場市の耐震施策の実績値:数字で見ると

指標 第3期計画の目標 現状 第4期計画の目標
住宅の耐震化率 95.0% 94.2%(令和5年度) 耐震性が不十分なものをおおむね解消
特定建築物の耐震化率 96.0% 95.7%(令和6年度末) 同上
大規模建築物の耐震化率 ― 100.0%(令和6年度末) ―
ブロック塀等の改善総延長 3.0km 2.6km(令和6年度) 3.5km

住宅の耐震化率は平成30年の92.3%から令和5年に94.2%へ。要緊急安全確認大規模建築物は令和2年度末の66.6%から令和6年度末に100.0%へ到達しています。

御殿場市住宅耐震化緊急促進アクションプログラム2026(令和8年4月)を見ると、年度ごとの補助実績も分かります。

年度 耐震診断 耐震改修工事 除却工事
令和4年度 20戸 11戸 3戸
令和5年度 11戸 12戸 5戸
令和6年度 40戸 14戸 5戸
令和7年度 13戸 13戸 5戸
令和8年度(目標) 24戸 18戸(補強計画・補強工事) ―

この数字は木造住宅が中心です。御殿場市が把握している「昭和55年以前の木造住宅の所有者の約7割は、65歳以上の高齢者が家計を主に支えている」という調査結果も計画に書かれています。

つまり、御殿場市の耐震施策の主戦場は木造戸建てです。 分譲マンションの管理組合が「市の耐震施策の中に自分たちの居場所がない」と感じるのは、ある意味で当然なのです。

だからこそ、管理組合の側から動く必要があります。行政の担当課は、聞かれれば答えてくれます。聞かれなければ、木造戸建ての戸別訪問で手一杯です。


御殿場市の気候は、工期をはっきり左右します

ここからは、私が一番申し上げたい技術的な話です。

御殿場市には気象庁のアメダス観測所があります。平年値(1991〜2020年)を見てください。

項目 御殿場 参考:三島
年降水量 2,874.6mm 1,868.2mm
年間日照時間 1,733.9時間 2,003.2時間
年平均気温 13.2℃ 16.3℃
1月の日最低気温 -1.9℃ ―
2月の日最低気温 -1.2℃ ―
12月の日最低気温 0.5℃ ―

(出典:気象庁「御殿場(静岡県)平年値」)

月別の降水量はこうなります。

月 降水量(mm) 月 降水量(mm)
1月 104.6 7月 361.4
2月 128.9 8月 247.5
3月 253.3 9月 372.5
4月 248.4 10月 315.2
5月 255.7 11月 185.5
6月 297.4 12月 104.3

年降水量2,874.6mmは、三島市の1.5倍を超えます。 そして最も多いのが9月の372.5mm、次いで7月の361.4mm、10月の315.2mmです。

影響1:雨天中止日が多い=工期が読みにくい

塗装も防水もシーリングも、濡れた面には施工できません。降った日はもちろん、降った翌朝も下地が乾くまで待ちます。

私が御殿場エリアの管理組合に必ず申し上げるのは、次の2つです。

  • 見積りを取るとき、「雨天中止を何日見込んだ工程ですか」と聞いてください。 答えられない業者は、この土地の工事を分かっていません
  • 総会で住民に工期を伝えるときは、業者の提示工期に2週間上乗せしてください。 「3か月」と言って4か月かかると信頼を失います。「3か月半」と言って3か月で終われば喜ばれます

同じ工事、同じ金額でも、伝え方ひとつで理事会の1年が変わります。

影響2:冬の朝の氷点下と、凍結融解

塗料やシーリング材の多くは、施工可能な気温の下限がおおむね5℃です。御殿場の1月は日最低気温が-1.9℃、2月が-1.2℃。朝は動けず、日中だけ動ける日が続きます。 実働時間が短くなるぶん、工期が延びます。

もう1つ、建物側の話があります。凍結融解です。

外壁のひび割れや浮いたタイルの裏に入った水は、氷点下になると凍ります。水は凍ると体積がおよそ9%増えます。膨らんだ氷がひび割れを押し広げ、日中に融ける。これを一冬に何十回も繰り返すと、去年は500円玉くらいだった浮きが、翌春には手のひら大になっています。

私が20年見てきて、これは沿岸部の塩害よりも進行が読みにくい。御殿場では「去年見たときは小さかったから今年も大丈夫」が通用しません。

屋上防水の膨れを、畳1枚分ほど見つけたのに1年放置した現場があります。翌年に見たら数倍に広がっていて、下地まで水が回っていました。最上階の天井にシミが出て、費用は当初の数倍、居住者との関係修復に半年かかりました。台風シーズンが終わった秋に、年1回の点検を。 これだけで防げます。

影響3:塩害は相対的に軽い

御殿場市は駿河湾に面していません。内陸の高原都市です。市街地の標高はおよそ250〜700m、市役所で約450mあります。

沼津市・富士市・静岡市清水区の管理組合向けに記事を書いたときは、「塩害対策の防錆仕様を削ってはいけない立地です」と書きました。御殿場市は逆です。

見積書に、沿岸部と同じグレードの重防食仕様が一律で入っているなら、その根拠を聞いてよいと思います。「なぜこの仕様なのか」を説明できる業者かどうかの判定にもなります。そして浮いた予算は、凍結融解対策の下地補修と、シーリングのグレードアップに回してください。御殿場ではそちらのほうが効きます。

御殿場市の工事適期カレンダー

以上を踏まえると、御殿場市の工事適期はこうなります。

時期 評価 理由
3月下旬〜5月 ○ 気温は上がるが降水量も多い(3月253.3/4月248.4/5月255.7mm)
6月〜7月 △ 梅雨(6月297.4/7月361.4mm)。7月は年間2番目の多雨
8月 ○ 247.5mm。標高がある分、沿岸部より作業環境は良い
9月〜10月中旬 ×〜△ 9月372.5mmは年間最多。台風シーズンと重なる
10月下旬〜11月 ◎ 11月185.5mmは年間最少に近い。年間で最も明確な窓
12月〜2月 △ 降水は少ないが朝が氷点下。実働時間が短い

御殿場市の工事の窓は、10月下旬から11月がもっとも明確です。 ただしこの窓を押さえるには、前年の秋までに業者選定を終えている必要があります。

いま、2026年8月にこの記事を読んで動き始めた管理組合が現実的に狙えるのは、2027年の春か秋です。焦る必要はありません。ただ、逆算すると「今月やること」は決まってきます。


ここから先は、私の会社が利益を得る話につながります

先に申し上げておきます。ここから書くのは工法の話で、私の会社が仕事をいただく話につながります。 利益相反があることを承知のうえで読んでください。そのうえで、数字は正直に書きます。

補助金の話をずっとしてきましたが、御殿場市で管理組合が動かせる公的なお金は、ブロック塀で最大43万2千円、耐震診断で数十万〜200万円台という規模です。

一方、仮設足場は総工事費のおよそ15〜25%を占めます。

総工事費 仮設足場費の目安(15〜25%)
3,000万円 450万〜750万円
5,000万円 750万〜1,250万円
8,000万円 1,200万〜2,000万円

桁が2つ違います。

私が理事会で何度も見てきた光景があります。ブロック塀の43万円の申請書類について3時間議論して、750万円の仮設費を5分で通す。 悪気があるわけではありません。申請書類は目の前にあって具体的で、仮設費は見積書の1行だからです。

私からのお願いは1つだけです。理事会が議論に費やす時間の配分を、金額の大きさに合わせてください。


3つの工法を比較します

大規模修繕の外壁・防水工事には、大きく3つのアプローチがあります。

工法 特徴 向く建物 向かない建物
通常足場工法 従来型の仮設足場を全面に架設 下地補修の物量が多い建物/複雑な形状/中低層 敷地に余裕がなく架設できない建物/仮設費を抑えたい案件
ロープアクセス工法(無足場工法) 産業用ロープで作業員が降下して施工。足場を架けない 高層/足場の架設が困難/部分補修/仮設費の圧縮を最優先する案件 タイル浮きが広範囲で物量が多い建物/全面的な下地打ち替えが必要な建物
ハイブリッド工法 部位ごとに足場とロープアクセスを使い分け 面によって傷み方が違う建物/総合的なコスト最適化が必要な大規模物件 極端に小規模で、切り替えの段取り替えが割に合わない建物

ロープアクセス工法(足場を架けずにロープで施工する無足場の工法)の技術情報や安全基準については、姉妹サイトのロープアクセスドットコムに詳しくまとめています。

そして、正直に申し上げます。ロープアクセスは全ての建物に向くわけではありません。

タイルの浮きが広範囲に及んでいて下地補修の物量が多い建物は、足場を架けたほうが安く、早く終わります。そういうときは私は「今回は足場でいきましょう」と申し上げます。3つとも持っているから、正直に言えるのです。1つしか持っていなければ、その1つを勧めるしかありません。

御殿場市で気をつけたい「敷地に余裕がある」という思い込み

御殿場市は土地に余裕のあるマンションが多い地域です。だから「架けられる」。

けれども、架けられることと、架けるべきことは別です。理事会で次の3つを問うてみてください。

  1. 今回の工事は、全面改修が必要な状態ですか。それとも部分補修で足りますか。 劣化診断の結果を、面ごと・部位ごとに見ていますか
  2. 居住者が2〜3か月、バルコニーを塞がれる生活を受け入れられますか。 洗濯物、窓の開閉、プライバシー、防犯。特に高齢の居住者が多い建物では、この負担が大きい
  3. 見積書の「仮設工事」の内訳を見ましたか。 一式ではなく、㎡単価とリース期間の内訳になっていますか

御殿場では「面ごとに傷み方が違う」

前のセクションで書いた気候の話が、ここにつながります。

御殿場市の建物は、方位によって劣化の進み方がはっきり違います。

面 主な劣化要因 対策の重点
南面・西面 紫外線による塗膜劣化、シーリングの硬化 塗料グレード、シーリングの追従性
北面 日照が少なく乾きにくい。藻・カビ、凍結融解が最も進む 防藻・防カビ、ひび割れ処理の徹底
屋上・パラペット・笠木 降水量2,874.6mmの直撃、凍結融解 防水層のグレード、笠木まわりの納まり
妻面(開口が少ない面) 一様な劣化。補修物量が少ないことが多い 高所作業のコスト効率

面によって傷み方が違うということは、面によって最適な工法も違うということです。

バルコニー側は下地補修が多いので足場を架け、開口が少なく補修物量の少ない妻面と屋上まわりはロープアクセスで対応する。これがハイブリッド工法の考え方です。御殿場市の建物では、この使い分けが技術的にも金額的にも効いてきます。


モデルケース:御殿場市の建物で試算すると

実在の物件ではありません。私がこれまで扱った案件の平均的な数字から組んだモデルです。

ケース1:御殿場駅周辺/築26年・8階建て・42戸

項目 通常足場 ハイブリッド
総工事費 7,000万円 6,100万円
差額 ― ▲900万円
1戸あたり 約167万円 約145万円(▲約21万円)
工期 約4か月 約3か月(約1か月短縮)

組み方:バルコニー側は足場を架けて下地補修を確実に。開口の少ない妻面と屋上まわりはロープアクセス。仮設のリース期間が1か月短くなるだけで、金額はここまで動きます。

ケース2:市郊外/築42年・5階建て・18戸

項目 通常足場 ロープアクセス主体
総工事費 3,300万円 2,700万円
差額 ― ▲600万円
1戸あたり 約183万円 約150万円(▲約33万円)
資金 一時金が必要 機構融資と組み合わせて一時金ゼロも検討可

18戸で3,300万円ということは、1戸あたり183万円です。100戸のマンションなら1戸33万円で済む工事が、18戸だと183万円になる。戸数が少ないマンションほど、工法選定の効き方が大きいということです。

御殿場市は小規模な分譲マンションが少なくありません。ケース2のほうが自分たちに近い、という管理組合は多いと思います。


修繕積立金が足りないとき、打ち手は4つです

# 打ち手 メリット デメリット
① 一時金の徴収 借入なしで済む 総会の合意が最も難しい。滞納リスク
② 住宅金融支援機構の共用部分リフォーム融資 管理組合名義・全期間固定 返済負担が続く
③ 段階施工(工事を分割) 1回の支出を抑えられる 仮設費が回数分かかり、総額はむしろ増える
④ 工法の見直し 工事費そのものを下げる 設計を固めた後では選べなくなる

私が理事長さまに必ず申し上げるのは、「④を最初に検討してください」ということです。

理由は順番にあります。設計に入る前なら4つとも選べます。 ところが設計事務所と仕様を固めて、足場前提で数量を拾ってしまうと、④は事実上消えます。そこから先は①②③の3択です。

③の段階施工は要注意です。一見すると負担が軽くなりそうですが、仮設費は工事の回数だけかかります。 2回に分ければ足場を2回架ける。総額は増えます。

住宅金融支援機構の3つの制度

②で使えるのは、住宅金融支援機構の制度です。

金利は情勢によって変わりますので、ここでは断定を避けます。ただ、100戸のマンションが2,000万円を10年で借りる場合、金利が0.2%違うだけで総支払額は数十万円動きます。管理計画認定を取ると金利優遇の対象になる制度があります。

そして総会実務の話を1つ。議案の性格が変わります。

「一時金50万円をお願いします」という議案は通りません。「月々3,000円の見直しをお願いします」なら議論の土俵に乗ります。②を組み合わせるというのは、同じ資金調達を、通る形の議案に変えるということでもあります。


18か月逆算カレンダー(御殿場市版)

大規模修繕は、思い立ってから工事開始まで1年半かかります。御殿場市の制度に合わせた逆算表をつくりました。

時期 やること 連絡先
今週 静岡県のマンション管理士無料派遣に申込(10件枠・11/14締切) 静岡県マンション管理士会 FAX 0544-27-6561
18か月前 劣化診断の実施。長期修繕計画の見直しが7年以内か確認 ―
17か月前 過去の工事記録・図面・保証書の収集 ―
16か月前 管理計画認定の受付を市がしているか確認。認定基準5分野を自己点検 建築住宅課 0550-82-4224
15か月前 建築物等耐震診断事業の対象か、限度額があるかを電話確認 建築住宅課 0550-82-4224
14か月前 アスベスト事前調査を工程と予算に計上(自己負担前提で) ―
12か月前 工法の選定。設計はこの後です ―
11か月前 長寿命化促進税制の条例有無と減額割合を確認。仕様書に3工事が入るか点検 課税課 0550-82-4139
10か月前 マンション管理センターへ事前確認を依頼し、適合証を取得 ―
9か月前 資金計画。機構への事前相談。相見積り先を市内に限定しない ―
8か月前 管理計画認定の申請(申請先を確認済であること) ―
7か月前 敷地図でブロック塀を洗い出し、通学路・避難路沿いか市に確認 建築住宅課 0550-82-4224
6か月前 ブロック塀の交付申請。本体工事とは別契約に 建築住宅課 0550-82-4224
4か月前 交付決定後に契約 ―
着工時 雨天中止の見込み日数を工程表で再確認 ―
竣工後3か月以内 固定資産税の減額申告 課税課 0550-82-4139
引き継ぎ時 電話した日付・担当課・聞いたこと・答えの4点をA4 1枚で申し送り ―

最後の行が実は一番大事です。理事の任期が1年なら、この18か月カレンダーは2代の理事会をまたぎます。

私が見てきた失敗の多くは、技術の失敗ではなく引き継ぎの失敗です。「去年、市に電話したらしいけど、誰が何を聞いたか分からない」。それでまた最初から電話し直す。A4を1枚残しておくだけで、次の理事会が半年得をします。


アスベストについて:御殿場市には補助が見当たりません

築年数の古いマンションで大規模修繕を行う場合、石綿(アスベスト)の事前調査が必要になります。

近隣市の状況を整理します。

市 分析調査への補助 除去等への補助
静岡市 あり(限度25万円) あり(1/3・限度60万円)
沼津市 あり(限度25万円) あり(2/3・限度120万円)※令和8年度の除去等は予算終了
富士市 あり(費用の全額・限度25万円/棟) あり(2/3・限度60万円/敷地)
御殿場市 公開情報で確認できず 公開情報で確認できず

御殿場市には、民間建築物の吹付けアスベスト対策への補助制度が、公開ページからは見つかりませんでした。

したがって御殿場市での現実解は、「調査費は自己負担前提で工程と予算に計上する」です。

なぜここまで言うか。現場の話をします。

足場を架けた後に、機械室の天井裏から吹付け材が出てきたことがあります。工事は止まりました。分析に出して、結果が出るまで待って、対応方針を決めて、追加の見積りを出して、理事会で決議して。その間ずっと、足場のリース料だけが積み上がっていきます。

私の経験上、後から見つかりやすいのは次の6か所です。

  • 機械室
  • 電気室
  • 屋内駐車場の天井
  • 階段室の裏側
  • エレベーター機械室
  • パイプシャフト(PS)

平成29年度から、事前調査には建築物石綿含有建材調査者の関与が必要になっています。業者選定のとき、「調査者の資格を持っている方はいますか」と1問聞いてください。


相見積りで確認すべき3つのこと

御殿場市は分譲マンションの絶対数が多くありません。市内だけで探すと、相見積り先が2社になってしまうことがあります。

範囲を広げてください。 御殿場市は東名の御殿場IC、新東名の御殿場JCT、JR御殿場線、そして小田急のロマンスカーが乗り入れる御殿場駅を持っています。新宿からおよそ100分、東京からも静岡市からも日帰り圏です。宿泊費や長距離移動費が見積りに乗らないという、山間部の市にはない地の利があります。市内に限定する理由がありません。

そのうえで、見積書で確認すべきことは3つです。

1. 数量の根拠は「図面拾い」か「現地実測」か

図面から拾っただけの数量は、現地の実態とずれます。特にタイルの浮きとシーリングの延長は、実測しないと当たりません。

2. 仕様はメーカー名・製品名・グレードまで書かれているか

「シリコン塗料」では比較になりません。同じ「シリコン」でも耐用年数が倍違うことがあります。メーカー名・製品名・希釈率・塗布回数まで書かせてください。

3. 「別途」の中身と、下地補修の数量超過時の単価

これが一番、後で揉めます。

見積書に「タイル浮き補修 想定50㎡」と書いてある。実際に打診してみたら120㎡あった。この70㎡分をいくらで精算するのか。契約前に、数量超過時の㎡単価を見積書に明記させてください。

「タイル浮き想定50㎡が実際120㎡」は、決して珍しくありません。私はむしろ、想定通りに収まるほうが少ないと思っています。だからこそ、単価を先に決めておく。これは紛争予防の話です。


御殿場市の管理組合が今週できること

長い記事になりました。最後に、行動に落とします。

1. 静岡県のマンション管理士無料派遣に申し込む(今週中)
申込書は県のページからダウンロード。ファクス0544-27-6561へ。10件です。

2. 御殿場市 建築住宅課に電話する(5分)
TEL 0550-82-4224
・分譲マンションの共用部は耐震診断補助の対象か
・補助額に限度額はあるか
・管理計画認定の申請を市で受け付けているか

3. 御殿場市 課税課に電話する(5分)
TEL 0550-82-4139
・マンション長寿命化促進税制の減額割合は
・管理組合が申告を取りまとめられるか

4. 敷地図を広げて、ブロック塀を洗い出す(30分)
駐輪場の裏、駐車場の外周、ゴミ置き場の脇。理事2人で歩けば終わります。

5. 9月12日(土)の三島市セミナーを理事会の議題に載せる
理事長と次期理事候補の2名で。車で40分です。

電話2本で20分。それだけで、御殿場市の管理組合が置かれている前提条件がはっきりします。


よくある質問(FAQ)

Q1. 御殿場市に、マンションの大規模修繕工事そのものへの補助金はありますか?
A. 2026年8月時点で、御殿場市が分譲マンションの共用部の大規模修繕工事に直接補助する制度は、公開情報からは確認できませんでした。使えるのは耐震診断費補助とブロック塀等の除却・建替え費補助です。

Q2. 御殿場市の耐震診断補助に上限額はありますか?
A. 市のウェブページには限度額の記載が見当たりません。ただし補助の詳細は交付要綱に定められており、令和8年4月1日から一部改正されています。建築住宅課(0550-82-4224)への電話で確定させてください。

Q3. 築30年のマンションですが、耐震診断補助の対象になりますか?
A. 対象は昭和56年5月31日以前に建築された建築物です。築30年(1996年前後の竣工)は対象外となります。ただし第4期御殿場市耐震改修促進計画は「経年劣化が進んだ建築物」も計画の対象建築物としており、劣化診断そのものの重要性は変わりません。

Q4. ブロック塀の補助は、撤去と建替えのどちらが有利ですか?
A. 金額だけを見れば建替えです。基準額が1mあたり2万円(撤去)に対し5万8,400円(建替え)、限度額が26万6千円に対し43万2千円。撤去後の目隠しの回復も同時に済みます。ただしどちらも「補助対象となる塀を全て撤去する」ことが条件です。

Q5. 補助金の申請は工事の後でもできますか?
A. できません。御殿場市は「事業に着手する前に必ず補助金交付の申請を行い、市からの交付決定通知後に事業に着手する必要があります」と明記しています。また予算額に到達次第、受付は終了します。

Q6. 御殿場市で想定されている地震は南海トラフですか?
A. 第4期御殿場市耐震改修促進計画で建物被害が示されているのは、相模トラフ沿いの元禄型関東地震(M8.2程度)です。全壊・焼失が約7,150棟、半壊が約5,200棟と想定されています。南海トラフ巨大地震(M9.0程度)も想定地震として記載されています。

Q7. 大規模修繕はいつ着工するのがよいですか?
A. 気象庁の平年値から見ると、御殿場市で最も条件が良いのは10月下旬〜11月です(11月の降水量185.5mmは年間で最少水準)。9月は372.5mmで年間最多かつ台風シーズンにあたります。冬は降水量こそ少ないものの、1月の日最低気温が-1.9℃で実働時間が短くなります。

Q8. ロープアクセス工法にすれば必ず安くなりますか?
A. なりません。タイルの浮きが広範囲で下地補修の物量が多い建物は、足場を架けたほうが安く早く終わります。建物の状態と形状によって最適解は変わります。私たちは3つの工法を持っているので、「今回は足場でいきましょう」と申し上げることもあります。

Q9. 修繕積立金が足りません。何から考えればよいですか?
A. 打ち手は一時金・機構融資・段階施工・工法見直しの4つです。設計に入る前なら4つとも選べますが、足場前提で仕様と数量を固めた後では工法見直しが事実上できなくなります。順番として、工法の検討を最初に置くことをお勧めします。

Q10. 静岡県のマンション管理士無料派遣は、御殿場市の管理組合も使えますか?
A. 使えます。対象は県内のマンション管理組合で、市町の区別はありません。受付は10件、各組合2回まで、申込期限は令和8年11月14日(土)です。


この記事のポイントまとめ

  • 御殿場市に共用部の大規模修繕への直接補助は、公開情報では確認できない
  • 静岡県のマンション管理士無料派遣は受付10件・令和8年11月14日締切・各組合2回まで
  • 御殿場市の建築物耐震診断費補助は経費と基準額の少ない額の2/3。市ページに限度額の記載がない
  • 補助基準額は延べ床1,000㎡以内が1㎡3,670円、1,000〜2,000㎡が1,570円、2,000㎡超が1,050円
  • ブロック塀は撤去が上限26万6千円、建替え(フェンス等への転換)が上限43万2千円
  • ブロック塀補助は「対象となる塀を全て撤去」が条件。部分撤去は不可
  • 補助金はすべて事前申請・交付決定後の着手。予算額到達で受付終了
  • マンション長寿命化促進税制の記載が御殿場市の課税ページに見当たらない。要確認
  • 管理計画認定制度は県が町域のみ対象。市域の受付有無は市に確認が必要
  • 第4期耐震改修促進計画は「経年劣化が進んだ建築物」も対象に含めている
  • 御殿場市の想定被害は元禄型関東地震で全壊・焼失約7,150棟
  • 御殿場の年降水量2,874.6mmは三島市の1.5倍超。工期に直結する
  • 冬は日最低気温-1.9℃(1月)。凍結融解でひび割れ・浮きが冬ごとに拡大する
  • 内陸市なので塩害は相対的に軽い。防錆仕様の一律適用は根拠を確認してよい
  • 工事の窓は10月下旬〜11月。押さえるには前年秋までに業者選定完了
  • 仮設足場は総工事費の15〜25%。ブロック塀43万円とは桁が2つ違う
  • 県のセミナーは御殿場市開催なし。三島市9月12日・沼津市10月予定が最寄り

出典・参考資料

御殿場市

静岡県

国・公的機関

関連情報


主なお問い合わせ先

用件 窓口 連絡先
耐震診断補助・ブロック塀補助・管理計画認定 御殿場市 建築住宅課 0550-82-4224(FAX 0550-70-1030/kenchiku@city.gotemba.lg.jp)
固定資産税の減額(長寿命化促進税制ほか) 御殿場市 課税課 0550-82-4139 / 0550-82-4130
マンション管理士の無料派遣 一般社団法人静岡県マンション管理士会 FAX 0544-27-6561 / t_gotoh@tx.thn.ne.jp
マンション管理施策全般 静岡県 くらし・環境部 住まいづくり課 054-221-3084
管理計画認定の事前確認 公益財団法人マンション管理センター 公式サイト

御殿場市の管理組合の皆さまへ

御殿場市の公開資料を丸一日かけて読み込んで、私が受けた印象を正直に書きます。

御殿場市の耐震施策は、木造戸建てを主戦場に組み立てられています。 昭和55年以前の木造住宅の所有者の約7割が65歳以上の高齢者で家計を支えている、という調査結果まで計画に載っています。市の担当課がそこに人手を割くのは、行政判断として合理的です。

その一方で、非木造の建築物に用意されているのは「診断」までで、「工事」の補助は見当たりません。 分譲マンションの管理組合から見れば、市の耐震施策の中に自分たちの居場所が用意されていない、と感じられても仕方がない状況です。

ただ、私はもう1つのことに気づきました。御殿場市の建築物耐震診断費補助は、基準額の表に「一戸建ての住宅以外」という区分をきちんと持っていて、しかも1,500㎡の建物の計算例まで載せている。 一戸建てを想定した制度に共同住宅を無理やり当てはめている書き方ではありません。そして、他市が明記している限度額の記載がない。

これは、聞いてみる価値がある差だと思います。

「うちの市には何もない」で止めてしまうのは、もったいない。県の無料派遣は御殿場市の管理組合も同じように使えます。県のセミナーは車で40分の三島市で9月12日に開かれます。市の耐震診断補助は、条件次第で近隣市より有利かもしれません。

ロープアクセス工法そのものについてもっと知りたいという方は、姉妹サイトのロープアクセスドットコムで一般的な安全基準や施工事例を解説していますので、そちらもご覧ください。

まずは電話2本で20分です。建築住宅課0550-82-4224と、課税課0550-82-4139。 そして静岡県のマンション管理士無料派遣の申込書だけは、今週中にファクスしてください。10件です。

理事会の次の開催を待つ必要はありません。ご相談だけでも遠慮なくお声がけください。総会の前段階の整理だけでも、お力になれることがあります。


執筆者:本間 幸紘(株式会社明誠 代表取締役)
専門領域:マンション大規模修繕/ロープアクセス工法/建物長寿命化計画
実務経験:建設・改修業界 20年以上
所属:一般社団法人 全国建設業支援協会(JCSA)

株式会社明誠について:東京都東大和市を拠点に、東京・関東一円および静岡県内で、ロープアクセス工法・通常足場工法・ハイブリッド工法の3つを建物特性に応じて提案できる改修会社です。日本で初めてロープアクセス工事のフランチャイズを展開しています。

最終更新:2026年8月23日


ご注意:本記事の制度情報は2026年8月23日時点で公開されている一次情報に基づいています。補助制度は年度ごとに内容が変わり、予算額に達した時点で受付が終了します。申請の前に、必ず各窓口で最新の内容をご確認ください。本記事は特定の申請結果を保証するものではありません。

裾野市のマンション補助金|大規模修繕2026年版

裾野市の分譲マンションで大規模修繕を控えている管理組合の方から、いちばん多く聞かれるのがこの質問です。「裾野市に、共用部の大規模修繕そのものに出る補助金はありますか」。

先に結論を申し上げます。2026年8月22日時点で、裾野市が外壁塗装や屋上防水といった共用部の大規模修繕そのものに直接お金を出す補助制度は、公開されている情報の範囲では見当たりませんでした。 これは裾野市が冷たいという話ではなく、全国の多くの市町村で同じです。

ただし「直接の補助はない」で終わらせてしまうと、裾野市の管理組合が今年度に使える手を4つも5つも取りこぼすことになります。特に今年は、静岡県が用意している「マンション管理士の無料派遣」が県内わずか10件枠で走っており、締切が令和8年11月14日に迫っています。裾野市には市独自のマンション支援策がほとんどないぶん、この県の枠を取りにいく価値が他市より大きい、と私は考えています。

この記事では、裾野市の一次情報(市の公式ページ・静岡県の公式ページ・国土交通省)だけを根拠に、2026年度に裾野市の分譲マンション管理組合が実際に動かせるものを整理します。数字はすべて出典を付けました。

最終更新:2026年8月22日


この記事で答える3つの問い

  1. 裾野市に、マンション共用部の大規模修繕へ直接出る補助金はあるか
  2. では裾野市の管理組合が2026年度に実際に使えるものは何か
  3. 補助金より先に検討すべき、工事費そのものを下げる方法はあるか

結論:裾野市の管理組合が2026年度に動かせるのはこの5つ

いきなり答えから書きます。裾野市の分譲マンション管理組合が、2026年度中に現実的に手を伸ばせるものは次の5つです。

# 使えるもの 内容 窓口 動くべき時期
1 静岡県 マンション管理士の無料派遣 専門家を無料で最大2回派遣。県内10件枠 静岡県マンション管理士会 令和8年11月14日まで(定数で早期終了)
2 静岡県 マンション管理セミナー 参加費無料。裾野市では非開催、最寄りは三島市 9月12日 静岡県住まいづくり課 2026年9〜10月
3 非木造住宅の耐震診断事業 基準額と費用の少ない額の3分の2・上限200万円 都市計画課 建築住宅係 着手前に相談
4 非木造住宅の補強計画策定事業 作成費の3分の2・上限30万円 都市計画課 建築住宅係 診断の後
5 感震ブレーカー設置補助(令和8年6月新設) 既存住宅は上限3万円・2/3以内、先着順 危機管理課 2027年1月29日まで

このうち1と2は静岡県の制度、3から5は裾野市の制度です。裾野市は市独自のマンション向け支援がほとんど整備されていない一方、県の制度は裾野市の管理組合も同じように使えます。 ここを取りこぼさないでください。

そして、この記事で最もお伝えしたいのは6つ目です。補助金の上限が10万円や30万円の世界であるのに対し、大規模修繕の総工事費に占める仮設足場の割合は15〜25%です。5,000万円の工事なら750万〜1,250万円。桁が2つ違います。 補助金探しに理事会の時間の大半を使い、750万円の仮設費を5分で通してしまうのは、もったいない話だと私は思っています。この点は記事の後半で詳しく書きます。


【最優先】静岡県のマンション管理士 無料派遣は「県内10件」枠。締切は11月14日

裾野市の管理組合にとって、2026年度でいちばん費用対効果が高い一手はこれだと考えています。

制度の中身

静岡県は「令和8年度マンション管理組合活動活性化支援事業」として、マンション管理士の無料派遣を実施しています(静岡県 マンションの管理・2026年1月5日更新)。県内のマンション管理組合に専門家を派遣し、業務補助や助言を行うものです。

項目 内容
費用 無料
受付件数 10件(上限に達した時点で申込終了)
派遣回数 各管理組合 2回まで
申込期限 令和8年11月14日(土曜)まで(定数に達し次第、早期終了)
派遣期限 令和9年1月31日(日曜)まで
申込先 一般社団法人静岡県マンション管理士会(メール t_gotoh@tx.thn.ne.jp/ファクス 0544-27-6561)
申込書 県ページから Word 形式でダウンロード可

委託先は一般社団法人静岡県マンション管理士会です。静岡県内には262名のマンション管理士が登録されています(平成26年3月現在・県公表)。

なぜ裾野市の管理組合が急ぐべきか

理由は3つあります。

第一に、10件は少ない。 静岡県には政令市の静岡市・浜松市を含め23市があり、分譲マンションは数千棟規模で存在します。そのなかで年間10件です。「11月14日まで時間がある」と考えていると、9月や10月の時点で枠が埋まっている可能性は十分にあります。県自身が「定数に達し次第、申込受付は早期終了します」と書いています。

第二に、裾野市には代わりになる市の窓口がない。 静岡市には住宅政策課の住まい支援係が、富士市には住宅政策課 住まい政策担当が、三島市には住宅政策課があり、それぞれマンション管理を所管しています。裾野市の公式サイトを建築・住宅の分野で通して見たかぎり、分譲マンション管理を正面から扱うページは確認できませんでした。裾野市の管理組合にとって、専門家に無料で相談できる公的ルートは、この県の派遣がほぼ唯一の入口ということになります。

第三に、2回という回数が実務にちょうど合う。 私の経験では、大規模修繕を前にした管理組合がマンション管理士に見てもらう価値がいちばん高いのは、次の2場面です。

  1. 長期修繕計画と修繕積立金の水準チェック(工事の18〜12か月前)
  2. 相見積りの比較と業者選定プロセスの妥当性チェック(工事の9〜6か月前)

派遣が2回なら、ちょうどこの2場面に当てられます。1回目で「うちの積立金は足りているのか」を第三者に判定してもらい、2回目で「この見積り比較の進め方でいいのか」を確認する。施工会社である私が言うと立場が微妙ですが、業者を選ぶ側に専門家がいたほうが、結果的に工事はうまくいきます。 業者に押し切られた形での発注は、工事中も竣工後も管理組合に禍根を残します。

申込みの実務

申込書は県ページからWordファイルでダウンロードでき、メールかファクスで静岡県マンション管理士会に送るだけです。理事会の決議を待っていると11月になります。まず理事長が「申し込む前提で動いていいか」を理事会にかけ、承認が出たその週に送るくらいの速度感で問題ありません。派遣を受けたあとに何をするかは、派遣後に決めれば済みます。


県のマンション管理セミナーは、裾野市では開催されない。最寄りは三島市9月12日

静岡県は令和8年度も、分譲マンションの管理組合役員や区分所有者を対象にしたマンション管理セミナーを県内各地で開催します。参加費は無料です。

令和8年度 静岡県マンション管理セミナー 開催予定

開催場所 開催日 会場
浜松市 令和8年7月25日(土曜日) 可美公園総合センター(終了)
磐田市 令和8年8月29日(土曜日) 磐田商工会議所
三島市 令和8年9月12日(土曜日) 三島市役所
熱海市 令和8年10月予定 ―
沼津市 令和8年10月予定 ―
静岡市 令和8年11月予定 ―
伊東市 令和8年12月予定 ―
富士市 令和9年2月予定 ―
浜松市 令和9年2月予定 ―

(出典:静岡県 マンションの管理)

この表を見て気づいていただきたいのは、9会場のなかに裾野市がないことです。 人口48,688人(令和7年1月1日現在・裾野市公表)の市ですから、県の巡回先に入らないこと自体は不思議ではありません。

問題は、それを理由に裾野市の管理組合が情報から遠ざかってしまうことです。裾野市役所から三島市役所までは、東名裾野インターチェンジと国道1号を使えば車でおよそ20〜30分です。 隣の沼津市も同程度です。「市内で開かれないから縁がない」ではなく、「隣の市で開かれるから行く」で済む距離です。

三島市の回(9月12日土曜・三島市役所)は、隣接する三島市が主催者として関わる形で、改正区分所有法とマンション標準管理規約をテーマにした構成が案内されています。定員があり先着順ですので、参加を検討されるなら早めに申し込まれることをお勧めします。詳細と申込方法は、静岡県住まいづくり課(電話 054-221-3084)または三島市にご確認ください。

なお、理事長おひとりで行くより、理事長と次期理事候補の2名で行くほうが実務的です。 理事の任期が1年の管理組合では、せっかく学んだ内容が翌年に引き継がれないことがとても多い。2名で行けば、少なくとも1年は情報が残ります。


裾野市の耐震補助は「診断と補強計画までは分譲マンションが読める」構造

ここからは裾野市自身の制度です。裾野市は平成13年度から「プロジェクトTOUKAI(東海・倒壊)-0(ゼロ)」総合支援事業を推進しており、市の公式ページ(2024年5月15日更新)に全11事業が掲載されています。窓口は都市計画課 建築住宅係(電話 055-995-1856)です。

対象は原則として昭和56年5月31日以前に建築(着工)された建物、つまり旧耐震基準の建物です。

分譲マンションが読める3事業

11事業のうち、鉄筋コンクリート造・鉄骨鉄筋コンクリート造の分譲マンション、すなわち「非木造住宅」に関係するのは次の3つです。

裾野市 非木造住宅向けの耐震補助(2026年8月時点)

事業名 補助内容 補助率・上限
4. 非木造住宅の耐震診断事業 耐震診断にかかる費用 費用と基準額の少ない額の3分の2・上限200万円
5. 非木造住宅の補強計画策定事業 補強計画の作成費用 3分の2・上限30万円
6. 非木造住宅の耐震化事業 耐震補強工事の費用 費用と基準額の少ない額の23パーセント

(出典:裾野市 プロジェクトTOUKAI-0)

注目すべきは基準額の書き方です

4.非木造住宅の耐震診断事業の基準額は、市のページにこう書かれています。

「市が定める基準額(一戸建て住宅は134,000円、一戸建て住宅以外は床面積により1平方メートルあたり1,050円〜3,670円)」

ここが裾野市の重要なポイントです。「一戸建て住宅以外」という区分を、床面積あたりの単価で別建てにしている。 つまり制度の設計として、一戸建てではない非木造の住宅=共同住宅を想定した基準額が用意されている、と読めます。

私が過去に調べた静岡県東部の他市では、たとえば三島市は事業名が「非木造住宅」で共同住宅の明文がなく、分譲マンション共用部が対象かを断定できませんでした。裾野市は基準額の書き分けがあるぶん、一歩踏み込んで読めます。

とはいえ、これは私の読み方であって、市が「分譲マンションの共用部が対象です」と明記しているわけではありません。 補助制度は着手前の申請が原則ですから、電話1本で確定させてください。聞き方はこれで足ります。

「築40年ほどの分譲マンションの管理組合です。昭和56年5月31日以前の着工で、鉄筋コンクリート造の共同住宅です。非木造住宅の耐震診断事業の対象になりますか。管理組合名義での申請は可能ですか。」

窓口は都市計画課 建築住宅係 電話 055-995-1856(裾野市役所2階)です。

延べ3,000平方メートルのマンションで試算すると

仮に延べ床面積3,000平方メートル、40戸のマンションで考えます。基準額の単価は床面積によって1,050円から3,670円の幅がありますので、面積が大きいほど単価は下がる構造です。仮に単価1,050円で計算すると基準額は315万円。耐震診断の見積りが300万円だったとすると、少ない額は300万円、その3分の2で200万円となり、上限200万円に到達します。

40戸なら1戸あたり5万円相当の話です。 補強計画策定事業(上限30万円)も併せれば、診断と計画の入口部分は市の補助でかなりの部分を賄える計算になります。

ただし「工事」への補助は入口が狭い

一方で、6.非木造住宅の耐震化事業(補強工事への補助)は、対象がこう限定されています。

「昭和56年5月31日以前に建築された、既成市街地の避難路などの沿道に立地する、耐震改修促進法第6条第3号に規定される特定建築物」

つまり補強工事の補助は、避難路の沿道に立地しているかどうかで入口が決まります。補助率も23パーセントと、診断の3分の2に比べれば低い水準です。

裾野市の構造をひとことで言えば、「調べるところまでは市が手厚く支える。直すところは自力の比重が高い」です。 これは責めるべきことではなく、限られた予算をどこに置くかという政策判断です。管理組合の側は、この構造を前提に予算を組めばよいだけです。具体的には、耐震診断の費用は補助を織り込んで軽く見積もり、補強工事の費用は自己負担前提で長期修繕計画に載せる。 この二段構えが裾野市での現実的な備え方になります。

なお、裾野市が所管する緊急輸送ルート等の沿道建築物については、対象建築物が除却済みであることが市から公表されています(裾野市・2023年1月13日更新)。裾野市の沿道建築物の耐震化は、市所管分についてはすでに片がついている状態です。


【誤情報に注意】「裾野市は耐震改修に最大100万円」は木造の金額。しかも令和7年度で終了しています

インターネットで「裾野市 耐震 補助金」と検索すると、「最大100万円」「高齢者世帯は120万円」という数字が並びます。これを見て「うちのマンションにも100万円出るのか」と考えた理事の方が、実際にいらっしゃいました。

この数字は、木造住宅の耐震改修に対する補助額です。 市のページの記載を正確に引用します。

「2. 補強計画作成と耐震補強工事の費用に対する補助(木造住宅の耐震改修事業(補強計画一体型))/対象 昭和56年5月31日以前に建築された、木造住宅/補助額 一戸につき当該事業に要する経費と100万円を比較して、いずれか少ない額(耐震補強工事費の8割が限度)」

鉄筋コンクリート造・鉄骨鉄筋コンクリート造の分譲マンション共用部には当たりません。

さらに重要なのは「終了」の表示です

裾野市のページには、木造向けの3事業に終了の注記が付いています。

事業 市ページの表示
1. 無料の耐震診断(わが家の専門家診断事業) 令和6年度で終了!
2. 木造住宅の耐震改修事業(補強計画一体型・上限100万円/120万円) 令和7年度で終了!
3. 木造住宅の移転事業(上限10万円) 令和7年度で終了!

(出典:裾野市 プロジェクトTOUKAI-0)

令和7年度は2026年3月末に終わっています。つまりネット上に残っている「裾野市は最大100万円」という情報は、対象がマンションではないうえに、制度自体がすでに終了しているという二重の意味で、いまの管理組合の役に立ちません。

一方で、4から11の非木造・建築物向けの事業には、終了の注記が付いていません。 皮肉な言い方になりますが、木造向けが一巡した結果、裾野市の耐震補助で現在も生きている中心は非木造側、つまり分譲マンションが読める側になっている、という構図です。

ただし市ページの更新日は2024年5月15日です。令和8年度の予算状況までは反映されていない可能性がありますので、「4番と5番は令和8年度も受付をしていますか」という確認を、先ほどの電話に1問足してください。

理事の方個人には、まだ意味があるかもしれません

分譲マンションの理事のなかには、市内に旧耐震の木造戸建てをお持ちの方や、ご実家がそうだという方がいらっしゃいます。木造3事業は終了していますが、市は「裾野市住宅耐震化緊急促進アクションプログラム2026」(2026年5月22日更新)で、令和8年度も住宅の耐震診断費補助5戸・耐震改修工事費補助5戸を目標に掲げ、DM送付810戸・戸別訪問20戸という普及啓発を計画しています。制度の枠組みが変わっている可能性がありますので、木造戸建てをお持ちの方は建築住宅係にお尋ねください。

なお同アクションプログラムによれば、令和7年度の実績は耐震診断費補助48戸・耐震改修工事費補助22戸でした。令和8年度の目標が診断5戸・改修5戸と大きく下がっているのは、木造3事業の終了と整合しています。裾野市の耐震施策は、いま転換期にあります。


ブロック塀等の耐震対策事業:管理組合が見落としやすい外構の補助

裾野市には、ブロック塀に対する補助制度があります。市の案内はこうです。

「地震発生時における避難路・避難地沿いのブロック塀、石塀、れんが塀に類する塀の転倒災害防止を目的としています。対象は以下の3つです。ブロック塀等の撤去事業/ブロック塀等建替え事業(緊急輸送路等)/生け垣等設置事業」
(出典:裾野市 ブロック塀などの耐震対策事業の補助について・2024年12月17日更新)

根拠は「裾野市ブロック塀等耐震改修促進事業費補助金交付要綱(令和4年3月31日告示第66号)」です。撤去に対する補助の上限額は10万円と案内されていますが、私が確認した時点で市の詳細ページが表示できない状態でしたので、金額と要件は都市計画課 建築住宅係(055-995-1856)に直接ご確認ください。 ここで断定的な金額を書くと、理事会の資料に誤りが混ざります。

管理組合にとっての実務ポイントは3つ

ひとつ目。敷地図を広げて、道路に面したブロック塀を洗い出す。 これは30分で終わります。マンションの管理組合は「建物」に意識が向きがちで、駐輪場の裏、駐車場の外周、ゴミ置き場の脇といった場所にあるブロック塀を見落とします。避難路や避難地に面していれば、対象になる可能性があります。

ふたつ目。塀は大規模修繕の本体契約に混ぜず、別契約に切り出す。 補助金は原則として交付決定前に着手したものは対象外です。大規模修繕の一式契約に塀の撤去を含めてしまうと、着工のタイミングと交付決定のタイミングが噛み合わず、補助が飛びます。塀だけ先に単独で申請し、交付決定を受けてから着手する。 手間は増えますが、これが確実です。

みっつ目。生け垣等設置事業という選択肢を知っておく。 塀を撤去したあと、目隠しがなくなって1階の住戸から苦情が出るのはよくある話です。裾野市には生け垣等設置事業があります。撤去とセットで検討すれば、合意形成が進みやすくなります。


【2026年6月新設】感震ブレーカー設置補助 ― 裾野市のいちばん新しい制度

2026年度に裾野市が新しく始めた制度です。管理組合にとっては共用部の話ではありませんが、理事会から居住者に情報を回す価値がとても高いので取り上げます。

裾野市 感震ブレーカー設置補助事業(令和8年6月開始)

項目 内容
既存住宅(自ら所有または居住している市内の住宅) 上限30,000円・対象経費の2/3以内
新築住宅(自ら居住するために市内に新築する住宅) 上限10,000円・対象経費の2/3以内
対象機器 日本配線システム工業会「感震機能付き住宅用分電盤(JWDS0007 付2)」適合品。分電盤へのセンサー内蔵型・後付け型が対象。電気工事不要のコンセントタイプ・簡易タイプは対象外
受付期間 2026年6月1日(月)〜2027年1月29日(金)
注意 先着順(予算上限に達し次第終了)/1住宅(1分電盤)につき1回限り/設置工事前に申請が必要
賃貸住宅の場合 所有者の承諾が必要
窓口 危機管理課(市役所1階22番窓口)電話 055-995-1817

(出典:裾野市 感震ブレーカー設置補助事業・2026年4月1日更新)

市は「過去の大規模地震では、発生した火災の約6割が電気に起因するものでした」と説明しています。

管理組合が果たせる役割

対象が分電盤タイプで「1住宅(1分電盤)につき1回」ですから、分譲マンションでは各住戸がそれぞれ申請できる形になります。 50戸のマンションで半数が使えば、住民全体で75万円規模の負担軽減です。

理事会にできることは単純です。掲示板に市のページを印刷して貼り、次の総会資料に1ページ挟む。 費用はコピー代だけです。そして、これが後で効いてきます。修繕積立金の値上げ議案を出す理事会は、日ごろから住民に情報を還元しているかどうかで、総会の空気がまるで変わります。 「理事会は値上げの話しかしない」と思われている組合と、「理事会はいつも役に立つ情報をくれる」と思われている組合とでは、同じ議案でも通り方が違います。

なお、賃貸に出している住戸については「所有者の承諾が必要」と明記されています。裾野市で賃貸マンションやアパートをお持ちのオーナーの方は、入居者から相談を受ける前に方針を決めておかれるとよいと思います。受変電設備など共用部側の設備が対象になるかは市のページからは判断できませんので、そこは危機管理課(055-995-1817)にご確認ください。


マンション管理計画認定制度:裾野市は「市」なので、県には申請できません

大規模修繕の資金計画を考えるうえで、避けて通れないのがマンション管理計画認定制度です。ここは制度の建て付けが分かりにくいので、順番に整理します。

まず、申請先はどこか

静岡県の公式ページには、はっきりこう書かれています。

「マンション管理計画認定制度(対象:県内の町域)」
(出典:静岡県 マンションの管理・2026年1月5日更新)

県が受け付けるのは町域のマンションだけです。裾野市は「市」ですから、県の窓口では申請できません。 静岡市・富士市・三島市・沼津市などは、市がそれぞれ受付窓口を設けています。

では裾野市はどうか。私が市の公式サイトを確認したかぎり、裾野市がマンション管理計画認定制度の受付を行っているという記載は見つけられませんでした。 ここは正直に書きます。「裾野市には制度がない」と断定するのは危険です。ページになっていないだけかもしれませんし、私が見落としている可能性もあります。

都市計画課 建築住宅係(055-995-1856)に、こう聞いてください。

「マンション管理計画認定制度について伺います。裾野市は認定申請の受付をしていますか。 していない場合、市内の分譲マンションはどこに申請すればよいでしょうか」

この1問で確定します。

参考:静岡県の手数料は令和8年4月1日に改定されました

裾野市の手数料は不明ですが、判断材料として県(町域)の額を挙げておきます。

静岡県の認定申請手数料(令和8年4月1日改定)

事前確認適合証 長期修繕計画数 令和8年3月31日まで 令和8年4月1日から
有り 1 3,800円 4,000円
有り 2以上 3,800円+1,700円×(計画数−1) 4,000円+1,800円×(計画数−1)
無し 1 26,900円 28,100円
無し 2以上 26,900円+15,500円×(計画数−1) 28,100円+16,200円×(計画数−1)

(出典:静岡県 マンションの管理)

注目していただきたいのは7倍の差です。事前確認適合証がある場合とない場合で、4,000円と28,100円。この適合証は、公益財団法人マンション管理センターの「管理計画認定手続き支援サービス」を利用すると交付されます。裾野市が独自の手数料体系を持っていたとしても、この構造自体は変わりません。センター経由が王道です。

認定基準は「理事会のチェックリスト」として使えます

認定を取るか取らないかにかかわらず、認定基準は管理組合の健康診断表として優秀です。大規模修繕の準備を始めるこのタイミングで、5分野を自己点検してみてください。

分野 主な基準
管理組合の運営 管理者等が定められている/監事が選任されている/集会(総会)が年1回以上開催されている
管理規約 管理規約が作成されている/災害等の緊急時や管理上必要なときの専有部立入りが定められている/管理組合の財務・管理に関する情報の書面交付が定められている
経理 管理費と修繕積立金等が明確に区分して経理されている/修繕積立金会計から他の会計への充当がない/直前の会計年度末で3か月以上の滞納額が全体の1割以内
長期修繕計画 7年以内に作成または見直しされている/計画期間が30年以上かつ残存期間内に大規模修繕工事が2回以上含まれる/将来の一時金徴収を予定していない/計画期間最終年度で借入金の残高がない
その他 組合員名簿・居住者名簿を備え、年1回以上更新している/都道府県等マンション管理適正化指針に照らして適切である

私の経験では、多くの管理組合が引っかかるのは太字の2つ、「7年以内の見直し」と「計画期間30年以上・大規模修繕2回以上」です。10年以上前に作った長期修繕計画をそのまま使っている組合は、裾野市にもかなりあるはずです。

そして大事なのは順番です。長期修繕計画の見直しは、どのみち大規模修繕の前にやります。認定を取りにいくかどうかを先に決めておけば、その見直し作業を一度で済ませられます。 工事が終わってから「認定も取ろう」となると、同じ作業をもう一度やることになります。


【2026年の新制度】マンション管理適正化支援法人:市の区域は市が登録主体

これは今年の話です。令和7年5月30日に「老朽化マンション等の管理及び再生の円滑化等を図るための建物の区分所有等に関する法律(令和7年法律第47号)」が公布され、同年11月28日に一部施行された「マンションの管理の適正化の推進に関する法律」において、マンション管理適正化支援法人の登録制度が新設されました。

専門知見を持つ民間団体(一般社団法人・一般財団法人・特定非営利活動法人など)が都道府県等の登録を受け、公的な立場からマンション管理の専門的支援を行う制度です。

登録主体は次のとおりです。

支援法人の業務区域 登録主体
市の区域 市
町の区域 県

そして静岡県は、「現段階では、登録制度は実施していません」と明記したうえで、「各市が所管する市の区域における登録制度については、各市のマンション担当部署に直接お問い合わせください」としています(出典:静岡県 マンションの管理)。

裾野市の管理組合にとっての意味は、こうです。 支援法人の制度が動き出せば、公的な後ろ盾のある団体に相談できるルートが増えます。裾野市が登録制度を始めるかどうかは、現時点では市に聞くしかありません。先ほどの電話のついでに、「マンション管理適正化支援法人の登録制度について、裾野市は所管する予定がありますか」と1問足しておくと、市の姿勢が分かります。

ここは新しい制度なので、情報が動きます。 2026年度から2027年度にかけて各市の対応が固まっていくはずですので、理事会の引き継ぎ事項に入れておかれることをお勧めします。


【要確認】マンション長寿命化促進税制:裾野市の公開ページに記載が見当たりません

大規模修繕を終えた翌年度の固定資産税が減額される「マンション長寿命化促進税制」は、国の制度です(国土交通省)。築20年以上・10戸以上の分譲マンションで、過去に1回以上の長寿命化工事を行っており、管理計画の認定を受けているといった要件を満たすと、1戸あたり100平方メートル相当分まで、翌年度分の固定資産税が減額されます。

裾野市の状況

裾野市の「住宅にかかる固定資産税の減額制度」のページ(2026年7月2日更新)を確認しました。掲載されているのは次の4つです。

  • 新築住宅
  • 認定長期優良住宅の新築住宅
  • 耐震改修を行った住宅
  • バリアフリー改修を行った住宅
  • 省エネ改修を行った住宅

マンション長寿命化促進税制の記載は見当たりませんでした。

これは注意が必要です。同じ静岡県東部でも、三島市は減額割合を「3分の1」と市の公式ページで明記しており、富士市も「3分の1」と明記したうえで、管理組合の管理者等が書類を提出すれば区分所有者ごとの申告がなくても減額が適用されると書いています。 裾野市のページは2026年7月更新という新しさでありながら、この制度に触れていません。

「裾野市では使えない」という意味かどうかは、市のページからは判断できません。 減額割合は市町村の条例で定めるもの(参酌基準3分の1、範囲6分の1から2分の1)ですから、条例の有無を含めて税務課に確認する必要があります。

税務課 資産税係 電話 055-995-1809(裾野市役所1階)に、着工前にこう聞いてください。

  1. 裾野市はマンション長寿命化促進税制の条例を定めていますか。減額割合は何分のいくつですか
  2. 申告は区分所有者ごとですか。管理組合が取りまとめて提出できますか
  3. 提出書類は何が必要ですか。大規模の修繕等証明書の発行者は誰になりますか

なぜ「着工前」に聞く必要があるのか

理由は2つあります。

第一に、工事の中身が要件を満たしていないと使えません。 この税制でいう長寿命化工事は、①外壁塗装等、②床防水(廊下・バルコニー等)、③屋根防水の3点セットです。「今回は予算が厳しいから屋上防水は次回に回そう」という理事会のごく自然な判断が、この税制を丸ごと飛ばします。仕様書に3つ入っているかを、契約前に確認してください。

第二に、申告には証明書が要ります。 「大規模の修繕等証明書」は建築士や住宅瑕疵担保責任保険法人が、「過去工事証明書」は建築士やマンション管理士が発行します。この発行を工事の請負契約に含めておかないと、竣工後に慌てて手配することになります。 申告期限は一般に工事完了日から3か月以内で、これは短い。証明書の手配で1か月使うと、残りは2か月です。


アスベスト:裾野市に吹付けアスベストの補助制度は見当たりません

築年数の古いマンションで大規模修繕を行うとき、避けて通れないのがアスベストです。

私が裾野市の公式サイトを確認したかぎり、民間建築物の吹付けアスベストの調査費や除去費に対する補助制度は見つけられませんでした。

これは静岡県東部のなかでは差がある部分です。参考までに近隣市の状況を並べます。

市 吹付けアスベスト補助の有無(各市公表ベース)
静岡市 分析調査 上限25万円/除去等 3分の1以内・上限60万円
沼津市 含有調査 上限25万円/除去等 3分の2以内・上限120万円(令和8年度の除去等は予算終了)
富士市 分析調査 全額・限度25万円/除去等 3分の2以内・限度60万円
三島市 公開情報では確認できず
裾野市 公開情報では確認できず

裾野市の管理組合が取るべき備えは、はっきりしています。アスベストの事前調査費は、自己負担前提で工程と予算に計上してください。

平成29年度から、吹付け材の調査は建築物石綿含有建材調査者が実施することが求められています。業者選定の際に「調査者資格を持つ人が入りますか」と聞いてください。

現場でいちばん困るパターン

私が実際に見てきたなかで、最も損失が大きいのはこれです。足場を架けたあとに、機械室の天井裏から吹付け材が見つかる。 分析に出して結果が出るまで工事は止まります。その間も足場のリース料は日割りで発生し続けます。管理組合には「工期が延びた」「追加費用が出た」という説明が必要になり、総会をもう一度開くことになった組合もありました。

見つかりやすいのは、機械室、電気室、屋内駐車場の天井、階段室の裏、エレベーター機械室、パイプスペースの6か所です。設計に入る前に調査だけ先に走らせておけば、この事故は起きません。 補助がない裾野市だからこそ、順番で守るしかありません。


裾野市の気候と立地が、大規模修繕に与える3つの影響

補助金の話から、工事そのものの話に移ります。ここからが施工会社としての本題です。

裾野市には気象庁の観測所がありませんので、隣接する御殿場観測点の平年値(1991〜2020年)を参考に見ます(出典:気象庁 御殿場 平年値)。裾野市は標高78.5メートルから2,169メートルという幅を持つ市ですので、市内でも条件はかなり違います。あくまで傾向としてお読みください。

御殿場観測点 平年値(1991〜2020年)

要素 値
年降水量 2,874.6ミリメートル
年間日照時間 1,733.9時間
年平均気温 13.2℃
1月の日最低気温 −1.9℃
2月の日最低気温 −1.2℃
12月の日最低気温 0.5℃
最も雨が多い月 9月 372.5ミリメートル
次に多い月 7月 361.4ミリメートル/10月 315.2ミリメートル

影響その1:雨が非常に多い。工期は余裕をもって組む

年降水量2,874.6ミリメートルという数字は、かなり多い部類です。参考までに、隣の三島市(気象庁 三島観測点)の年降水量は1,868.2ミリメートルでした。富士山南東麓は雨の多い地域です。

外壁塗装も屋上防水もシーリングも、雨の日には作業できません。降っていなくても、下地が濡れていれば塗れません。「雨で止まる日」が他地域より多い。 これは工期に直結します。

管理組合として押さえるべきは1点だけです。見積り時に「雨天中止を何日見込んでいますか」と聞いてください。 ここを聞かない管理組合が多い。聞いておけば、工期が延びたときに「話が違う」という揉め方をせずに済みます。

そして、総会で工期を説明するときは、業者が出した工期に自分たちで2週間ほど上乗せして住民に伝えてください。 早く終わるぶんには誰も文句を言いません。

影響その2:冬の朝は氷点下。塗料とシーリングが止まる

1月の日最低気温は−1.9℃、2月は−1.2℃、12月は0.5℃です。朝の冷え込みが厳しい。

多くの塗料やシーリング材には施工可能温度の下限(一般に5℃前後)が設定されています。朝が氷点下だと、日中の気温が上がるまで作業を始められません。冬の工事は、実働時間が短くなります。

もうひとつが凍結融解です。水は凍ると体積がおよそ9パーセント増えます。タイルの浮きの隙間や防水層の膨れの中に入った水が凍ると、内側から押し広げる力が働きます。裾野市のような寒暖差の大きい地域では、小さな膨れや浮きが冬を越すたびに拡大します。

私が経験した現場の話をします。屋上防水に畳1枚ほどの膨れがありました。「様子を見ましょう」と1年放置したところ、翌年には数倍に広がり、下地まで水が回って最上階の天井にシミが出ました。補修費は数倍になり、住民との関係を修復するのに半年かかりました。 寒い地域では「様子を見る」の代償が大きくなります。秋に年1回、屋上と外壁を点検する。 これだけで防げます。

影響その3:海から遠く、塩害は軽い

裾野市は駿河湾に面していない内陸の市です。東に箱根外輪山、西に愛鷹連山という地形で、海からは離れています。

これは沿岸部の市と正反対の結論を導きます。沼津市・富士市・静岡市清水区の記事では「塩害対策を削ってはいけない立地」と書きましたが、裾野市では塩害の比重は相対的に低くなります。

つまり、沿岸部と同じ防錆仕様で一律に見積もられているなら、その根拠を聞いてよいということです。 そして、そこで浮いた予算は捨てるのではなく、雨と凍結融解の対策に回してください。 具体的には、シーリングを高追従型に上げる、屋上防水の下地補修の範囲を広く取る、笠木やパラペットまわりの納まりを丁寧にする。裾野市で建物を長持ちさせる要は、塩ではなく水です。


裾野市の工事適期カレンダー

以上を踏まえて、裾野市で大規模修繕を行う場合の時期の目安です。

時期 評価 理由
3月下旬〜5月 ○ 気温は上がるが、3月253.3ミリメートル・4月248.4ミリメートル・5月255.7ミリメートルと雨も多い
6月〜7月 △ 梅雨。6月297.4ミリメートル・7月361.4ミリメートル
8月 ○ 247.5ミリメートルと相対的に少なく、標高がある分、沿岸部より作業環境は良い
9月〜10月中旬 ×〜△ 9月372.5ミリメートルは年間最多。台風の時期でもある
10月下旬〜11月 ◎ 11月185.5ミリメートル。年間で最も条件が良い
12月〜2月 △ 12月104.3ミリメートル・1月104.6ミリメートルと雨は少ないが、朝が氷点下で実働時間が短い

裾野市の「窓」は、10月下旬から11月にかけてが最も明確です。 春も悪くありませんが、3月から5月は毎月250ミリメートル前後の雨があります。

そして、この11月の窓を押さえるには、前年の秋までに業者選定を終えている必要があります。 いま2026年8月に動き始めた管理組合が現実的に狙えるのは、2027年の春か秋です。逆に言えば、いまから動けば間に合います。


補助金より桁が2つ大きい話:仮設足場は総工事費の15〜25%

ここからが、施工会社である私がいちばんお伝えしたいことです。先に申し上げておくと、これは私の会社が利益を得る話につながります。そのうえで読んでください。

大規模修繕の見積書のなかで、仮設工事(足場)は総工事費のおよそ15〜25パーセントを占めます。

総工事費 仮設足場の概算
3,000万円 450万〜750万円
5,000万円 750万〜1,250万円
8,000万円 1,200万〜2,000万円

この記事でここまで扱ってきた補助金は、ブロック塀の撤去が上限10万円、非木造住宅の補強計画策定が上限30万円、感震ブレーカーが上限3万円という規模です。桁が2つ違います。

理事会でよく見る光景があります。10万円の補助金の申請書類について3時間議論し、750万円の仮設費を「まあ、そういうものでしょう」と5分で通す。 悪気があるわけではありません。補助金は分かりやすく、仮設費は分かりにくいからです。

議論に費やす時間の配分を、金額の大きさに合わせてください。 それだけで、管理組合の意思決定の質は変わります。

3つの工法を比べる

株式会社明誠は、大規模修繕を3つの工法から選べる会社です。

工法 特徴 向いている建物
通常足場工法 従来型の仮設足場。作業効率が高く、下地補修の物量が多い工事に強い 中低層、形状が複雑な建物、タイル浮きが広範囲の建物
ロープアクセス工法(無足場) 産業用ロープで施工。足場費が不要、工期が短い、居住者の生活影響が小さい 高層、足場が架けにくい建物、コストを最優先する建物
ハイブリッド工法 部位ごとに足場とロープアクセスを使い分ける 大規模・複雑な建物で総合的にコストを最適化したい場合

ロープアクセス工法の技術的な解説や安全基準については、姉妹サイトロープアクセスドットコムにまとめています。明誠のロープアクセス工法の考え方はこちらをご覧ください。

正直に申し上げますが、ロープアクセスがすべての建物に向くわけではありません。 タイルの浮きが広範囲で下地補修の物量が多い建物は、足場を架けたほうが安く早く終わります。そういうときは「今回は足場でいきましょう」と申し上げます。3つ持っているから正直に言える、というのが私の考えです。

「敷地に余裕があるから足場」で止まっていませんか

裾野市は面積138.12平方キロメートルの市で、マンションの敷地にも比較的余裕があります。だから足場が架けられる。架けられることと、架けるべきことは別です。

理事会で、この3つを自問してみてください。

  1. 今回は全面改修が必要ですか。それとも傷んでいる部位の補修が主ですか。 部分補修が主なら、建物全体に足場を架ける必然性は下がります。
  2. 居住者は、2〜3か月バルコニーを塞がれる生活を受け入れられますか。 足場は生活を変えます。洗濯物、窓の開閉、防犯。高齢の居住者が多い組合ほど、この負担は重くなります。
  3. 見積書の「仮設工事」の内訳を見ましたか。 一式いくら、で通っていませんか。

モデルケース2本(裾野市を想定した試算)

実際の数字感を持っていただくため、2つのケースを示します。あくまで一般的な条件での試算であり、実際の金額は建物の状態と仕様によって変わります。

ケース1:裾野駅周辺 築26年・8階建て・42戸

項目 従来の足場工法 ハイブリッド工法
総工事費 7,000万円 6,100万円
差額 ― ▲900万円
1戸あたり 約167万円 約145万円(▲約21万円)
工期 約5か月 約4か月(約1か月短縮)

組み方はこうです。バルコニー側は下地補修の物量が多いので足場を架ける。妻面と屋上まわりはロープアクセスで対応する。 足場の総面積が減れば、仮設費もリース期間も減ります。工期が1か月短くなれば、居住者の生活影響もそのぶん短くなります。

ケース2:市郊外 築42年・5階建て・18戸

項目 従来の足場工法 ロープアクセス主体
総工事費 3,300万円 2,700万円
差額 ― ▲600万円
1戸あたり 約183万円 約150万円(▲約33万円)
資金 一時金が必要 機構融資の併用で一時金ゼロも可能

注目していただきたいのは1戸あたりの負担です。18戸で3,300万円は、1戸あたり183万円。 これが100戸のマンションなら1戸33万円です。戸数が少ない管理組合ほど、1戸あたりの負担が重くなる。だからこそ、工法の選定が効きます。

裾野市は分譲マンションの絶対数が多い市ではありません。小規模な管理組合ほど、この構造を意識してください。

工事費の考え方については適正価格へのこだわりもあわせてご覧ください。


修繕積立金が足りないときの4つの打ち手

長期修繕計画を開いて「足りない」と分かったとき、管理組合が取れる手は4つです。

打ち手 内容 注意点
① 一時金の徴収 区分所有者から一時金を集める 総会で最も通りにくい。1戸50万円の議案は高い壁
② 借入れ 住宅金融支援機構の共用部分リフォーム融資など 月々の負担に変わるので議案は通りやすい
③ 段階施工 工事を2回3回に分ける 仮設費が回数ぶんかかるため、総額はむしろ増える
④ 工法の見直し 足場前提を見直し、ロープアクセスやハイブリッドを検討 設計に入る前でないと選べなくなる

私が申し上げたいのは、④を最初に検討してくださいということです。

理由は単純です。設計に入る前なら4つとも選べます。ところが設計事務所と仕様を固め、足場前提の数量を拾ってしまうと、④は事実上消えます。 そのあとに「足りない」と気づくと、①か②か③しか残っていません。

順番の問題です。 「まず設計、そのあと資金」ではなく、「まず概算と工法の当たりをつけて、そのあと設計」。この順番にするだけで、選択肢が1つ増えます。

住宅金融支援機構の3制度

②の借入れについて、押さえておくべきものを整理します。

制度 内容
マンション共用部分リフォーム融資 管理組合名義で借りられる。全期間固定金利。マンション管理センターの債務保証を利用すれば理事長個人の連帯保証は不要。管理計画認定等で金利引下げの取扱いあり(金利は毎月見直されます)
マンションすまい・る債 管理組合が積立金を運用する制度。年1回の募集で口数上限があり、実質先着順。2026年度から管理適正評価制度・管理適正化診断サービスも利率上乗せの対象に拡充
マンションライフサイクルシミュレーション 長期修繕計画の資金繰りを試算できる無料ツール

(出典:住宅金融支援機構 マンション共用部分リフォーム融資、マンションすまい・る債)

総会実務としてここが効きます。 「1戸あたり50万円の一時金をお願いします」という議案と、「月々の修繕積立金を3,000円見直させてください」という議案では、同じ資金を集めるのでも、住民の受け取り方がまるで違います。融資を組み合わせることで、議案の性格そのものを変えられます。


18か月逆算カレンダー(裾野市版)

大規模修繕を「いつ何をするか」に落とします。裾野市の事情を織り込んだ順番です。

時期 やること 連絡先
18か月前 劣化診断を実施。長期修繕計画の見直しが7年以内か確認 ―
17か月前 静岡県のマンション管理士無料派遣に申し込む(10件枠・11月14日締切) 静岡県マンション管理士会(ファクス 0544-27-6561)
16か月前 過去の工事記録を集める(税制の過去工事証明書用) ―
15か月前 認定基準5分野を自己点検。規約改正の要否を判断 都市計画課 055-995-1856
14か月前 非木造住宅の耐震診断事業の対象か電話確認。令和8年度の受付有無も 都市計画課 055-995-1856
13か月前 アスベスト事前調査を工程と予算に計上(裾野市に補助がないため自己負担前提) ―
12か月前 工法を選定する。設計はこの後(順番が逆になると選択肢が消える) ―
11か月前 長寿命化促進税制の条例の有無と減額割合を確認。仕様書に3工事が入るか点検 税務課 資産税係 055-995-1809
10か月前 マンション管理センターへ事前確認を依頼し、適合証を取得 ―
9か月前 資金計画。機構への事前相談。相見積り先を裾野市内に限定しない ―
8か月前 管理計画認定の申請(申請先を市に確認済みであること) 都市計画課 055-995-1856
7か月前 敷地図でブロック塀を洗い出す。避難路・避難地沿いか市に確認 都市計画課 055-995-1856
6か月前 ブロック塀の交付申請。本体工事とは別契約に切り出す ―
4か月前 交付決定後に契約 ―
着工時 雨天中止の見込み日数を工程表で再確認 ―
竣工後3か月以内 固定資産税の減額申告(制度が使える場合) 税務課 055-995-1809
引き継ぎ時 電話した日付・担当課・聞いたこと・答えの4点をA4 1枚で申し送り ―

理事の任期が1年の管理組合へ

裾野市に限らず、理事の任期が1年の管理組合では、この18か月カレンダーは2代の理事会をまたぎます。 18か月前に劣化診断をした理事長は、着工のときにはもう理事ではありません。

だからこそ、A4 1枚の申し送りが効きます。 何月何日に、どの課の誰に、何を聞いて、どう答えられたか。この4点だけで構いません。これがあると、次の理事会は同じ電話をかけ直さずに済みます。 そして、この1枚を残す文化がある管理組合は、業者から見ても仕事がしやすく、結果的にいい工事になります。


相見積りで見るべき3つのポイント

最後に、業者選定の実務です。3つだけ押さえてください。

ひとつ目。数量の根拠を聞く。 「この外壁塗装の面積は、図面から拾った数字ですか。それとも現地で実測した数字ですか」。この1問で、業者の姿勢が分かります。図面拾いだけだと、着工後に「実際はもっとありました」となりやすい。

ふたつ目。仕様はメーカー名・製品名・グレードまで書かせる。 「シリコン塗料」では比較になりません。同じシリコン系でも、耐候性も価格も倍近く違うことがあります。同じ仕様で並べないと、相見積りは意味を持ちません。

みっつ目。「別途」の中身と、下地補修の追加単価を契約前に明記させる。 大規模修繕で揉める原因の第1位は、下地補修の数量超過です。「タイルの浮きは想定50平方メートルでしたが、実際は120平方メートルありました」。これは珍しくありません。想定を超えた場合の平方メートル単価を、契約前に見積書へ書き込ませてください。 これだけで紛争の大半は防げます。

そして裾野市の場合、相見積りの候補を市内に限定する必要はありません。 裾野市は東名高速道路の裾野インターチェンジがあり、新東名高速道路の長泉沼津インターチェンジも近く、JR御殿場線が通っています。三島駅からは東海道新幹線も使えます。首都圏からも静岡市からも日帰りで通える立地です。 宿泊費や長距離移動費が見積りに乗りません。分譲マンションの絶対数が多くない市では、市内だけで探すと相見積りが2社になってしまうことがあります。範囲を広げてください。

明誠へのご相談はお問合せフォームから承っています。施工品質に対する考え方は確かな施工品質にまとめました。


よくある質問(FAQ)

Q1. 裾野市に、マンション共用部の大規模修繕そのものへ出る補助金はありますか。
A. 2026年8月22日時点の公開情報では見当たりませんでした。ただし耐震診断(上限200万円)と補強計画策定(上限30万円)は非木造住宅として読める可能性があり、都市計画課 建築住宅係(055-995-1856)への確認をお勧めします。

Q2. いま裾野市の管理組合が真っ先にやるべきことは何ですか。
A. 静岡県のマンション管理士無料派遣への申込みです。県内10件枠、締切は令和8年11月14日、定数に達し次第早期終了です。申込先は一般社団法人静岡県マンション管理士会(ファクス 0544-27-6561)。

Q3. 「裾野市は耐震改修に最大100万円」と聞きました。マンションでも使えますか。
A. その金額は木造住宅の耐震改修事業のもので、鉄筋コンクリート造の分譲マンション共用部には当たりません。さらに市のページには「令和7年度で終了!」と表示されています。

Q4. マンション管理計画認定は、裾野市に申請すればよいのですか。
A. 静岡県は「対象:県内の町域」と明記しており、市である裾野市は県では申請できません。裾野市が受付をしているかは市の公開ページから確認できませんでしたので、都市計画課(055-995-1856)にお尋ねください。

Q5. マンション長寿命化促進税制は裾野市で使えますか。
A. 裾野市の固定資産税減額制度のページ(2026年7月2日更新)にこの制度の記載は見当たりませんでした。条例の有無と減額割合を税務課 資産税係(055-995-1809)にご確認ください。

Q6. 感震ブレーカーの補助は、マンションでも使えますか。
A. 対象は分電盤へのセンサー内蔵型・後付け型で、1住宅(1分電盤)につき1回限りです。各住戸ごとの申請という形になります。共用部の設備が対象になるかは危機管理課(055-995-1817)にご確認ください。受付は2027年1月29日まで、先着順です。

Q7. ロープアクセス工法は、うちのマンションでも使えますか。
A. 建物の形状、劣化の程度、下地補修の物量によります。タイル浮きが広範囲の建物は足場のほうが適していることも多く、その場合は正直にそう申し上げます。技術的な解説はロープアクセスドットコムをご覧ください。

Q8. 裾野市で工事をするなら、いつが良いですか。
A. 10月下旬から11月が最も条件が良い時期です。9月は年間で最も雨が多く(御殿場観測点で372.5ミリメートル)、12月から2月は朝が氷点下で実働時間が短くなります。この窓を押さえるには、前年の秋までに業者選定を終える必要があります。

Q9. 補助金の申請は、工事契約の前と後、どちらですか。
A. 補助制度は原則として着手前(契約前)の申請です。交付決定を受ける前に着工すると対象外になります。ブロック塀など補助を使う工事は、本体の大規模修繕とは別契約に切り出すことをお勧めします。


この記事のポイントまとめ

  • 裾野市に共用部の大規模修繕へ直接出る補助金は、公開情報では見当たらない
  • 最優先は静岡県のマンション管理士無料派遣。県内10件枠・11月14日締切
  • 県のセミナーは裾野市で開催されない。最寄りは三島市9月12日、次いで沼津市10月
  • 非木造住宅の耐震診断は3分の2・上限200万円。基準額に「一戸建て住宅以外」の区分あり
  • 「裾野市は最大100万円」は木造の金額で、令和7年度で終了している
  • 木造3事業が終了した結果、いま生きているのは非木造側=マンションが読める側
  • ブロック塀は撤去・建替え・生け垣の3事業。本体工事とは別契約に切り出す
  • 感震ブレーカー補助は令和8年6月新設。上限3万円・先着順・2027年1月29日まで
  • 管理計画認定は県が町域限定。裾野市が受付をしているかは市に要確認
  • 長寿命化促進税制の記載が市の税ページにない。条例の有無を税務課に要確認
  • アスベスト補助は見当たらない。調査費は自己負担前提で工程に組む
  • 年降水量2,874.6ミリメートル(御殿場観測点)。雨天中止の見込み日数を見積り時に確認
  • 冬の朝は氷点下。凍結融解で膨れと浮きが拡大する。秋に年1回点検を
  • 海から遠く塩害は軽い。浮いた予算は雨と凍結融解の対策へ
  • 仮設足場は総工事費の15〜25%。補助金と桁が2つ違う。議論の時間配分を金額に合わせる
  • 工法の見直しは設計に入る前でないと選べなくなる。順番が選択肢を決める

静岡県東部の近隣市の記事

裾野市に隣接・近接する市についても、同じ手法で市の一次情報を整理しています。あわせてご覧ください。


主なお問い合わせ先(裾野市・静岡県)

用件 窓口 電話
耐震診断・補強計画・ブロック塀・管理計画認定 裾野市 都市計画課 建築住宅係(市役所2階) 055-995-1856
固定資産税の減額・長寿命化促進税制 裾野市 税務課 資産税係(市役所1階) 055-995-1809
感震ブレーカー設置補助 裾野市 危機管理課(市役所1階22番窓口) 055-995-1817
裾野市役所 代表 裾野市役所 055-992-1111
マンション管理セミナー・認定制度(県) 静岡県 くらし・環境部 住まいづくり課 054-221-3084
マンション管理士 無料派遣の申込 一般社団法人静岡県マンション管理士会 ファクス 0544-27-6561

出典・参考資料

裾野市

静岡県

国・公的機関

関連リソース


執筆者:本間 幸紘(株式会社明誠 代表取締役)
専門領域:マンション大規模修繕/ロープアクセス工法/建物長寿命化計画
実務経験:建設・改修業界 20年以上
所属:一般社団法人 全国建設業支援協会(JCSA)

株式会社明誠について:東京都東大和市を拠点に、東京・関東一円および静岡県で、通常足場工法・ロープアクセス工法(無足場)・ハイブリッド工法の3つから建物に最適な工法をご提案できる改修会社です。ロープアクセス工事としては日本初となるフランチャイズを展開しています。

最終更新:2026年8月22日


ご注意:本記事の内容は2026年8月22日時点で公開されている情報に基づいています。補助制度は年度ごとに要件・金額・受付期間が変更されることがあり、予算の上限に達した時点で受付を終了する制度もあります。実際の申請にあたっては、記事中に記載した各窓口で最新の情報をご確認ください。また、本記事は特定の工法や事業者への発注を勧誘するものではありません。


裾野市の管理組合の方とお話ししていて感じるのは、「うちの市には何もない」という前提で止まってしまっている組合が多いということです。

たしかに裾野市は、静岡市や富士市のようにマンション向けの専用ページを持っているわけではありません。市の耐震施策も、いま木造から非木造へと重心が移る転換期にあります。

けれども、静岡県のマンション管理士無料派遣は裾野市の管理組合も同じように使えます。県のセミナーは車で30分の三島市で9月12日に開かれます。市の耐震診断補助は、基準額に「一戸建て住宅以外」という区分をきちんと持っています。

まずは電話2本、20分です。 都市計画課 建築住宅係(055-995-1856)に耐震診断と管理計画認定のこと、税務課 資産税係(055-995-1809)に長寿命化促進税制のこと。この2本で、裾野市で使えるものの輪郭が見えます。

そして、県のマンション管理士無料派遣の申込書だけは、今週中にファクスしてください。10件です。

【2026年最新】三島市のマンション補助金・大規模修繕ガイド|管理組合が9月までに動くべき理由

この記事で答える質問:静岡県三島市の分譲マンション管理組合が、2026年度(令和8年度)に使える補助金・税制優遇はどれで、大規模修繕の費用を下げるには何から動けばよいのでしょうか。

株式会社明誠の本間です。私はマンション・ビル・ホテルの大規模修繕を20年近くやってきました。今日は静岡県三島市の分譲マンション管理組合に向けて、2026年8月22日時点で公表されている制度を、一次情報にあたって整理します。

先に申し上げます。三島市には「大規模修繕工事そのものに直接お金が出る補助金」は、公開情報の範囲では見当たりませんでした。がっかりさせてしまったなら申し訳ありません。ただ、三島市には他市にはない使いどころが確かにあります。しかも、この記事を読んでいる時点でいちばん近い締切は2026年9月8日です。順番にお話しします。


結論:三島市の管理組合が押さえるべきは「4つ」

三島市の公開情報を一次資料から洗った結果、分譲マンションの共用部改修に効く可能性があるのは次の4つでした。

# 制度・機会 効き方 直近の期限 窓口
1 令和8年度 マンション管理セミナー・相談会 情報と個別相談(無料) 2026年9月8日 申込締切 住宅政策課 055-983-2750
2 マンション管理計画認定制度 市の申請手数料が無料。融資金利・税制の入口 通年 住宅政策課 055-983-2750
3 マンション長寿命化促進税制 固定資産税が3分の1減額 工事完了から3か月以内 課税課資産税係 055-983-2627
4 非木造住宅の耐震診断事業(令和8年度) 診断費の3分の2以内・上限200万円 12月中に受付終了 住宅政策課建築指導係 055-983-2644

(出典:三島市 マンション管理セミナー・相談会、三島市 マンション管理計画認定制度、三島市 長寿命化に資する大規模修繕工事が行われたマンションに対する固定資産税の減額について、三島市の地震対策補助事業について(令和8年度))

この4つに共通しているのは、どれも「工事を発注する前」に動かないと使えないという点です。見積書に判子を押してからでは間に合いません。ここが今日いちばんお伝えしたいことです。


【最速の一手】2026年9月12日、三島市役所でマンション管理セミナーがあります

三島市が2026年7月31日に更新した情報によると、令和8年度のマンション管理セミナーが次のとおり開かれます。

項目 内容
日時 令和8年9月12日(土曜日)13時30分〜16時30分(開場13時00分)
会場 三島市役所 本館 第1会議室
第1部 改正 区分所有法・標準管理規約 〜今、マンション管理組合が考えること〜(50分程度)
第2部 情報交換会(50分程度)
第3部 個別相談会(50分程度)
定員 30人(1組2名まで、先着順)
主催 静岡県マンション管理適正化推進協議会
参加費 無料(どなたでも参加できます)
申込 9月8日(火曜日)までに電話 055-983-2750/FAX 055-973-6722/電子申請

(出典:三島市 マンション管理セミナー・相談会)

私がこの記事で真っ先にこれを持ってきたのには理由があります。

第一に、定員30人・先着順だからです。三島市内のマンションは97棟。1棟から2名ずつ来れば、それだけで枠が埋まる規模感です。

第二に、第3部に個別相談会が入っているからです。管理組合の理事会が抱える悩みは、たいてい「うちの場合はどうなのか」に集約されます。一般論のセミナーは世の中にいくらでもありますが、自分のマンションの話を無料でできる場は多くありません。

第三に、第1部のテーマが改正区分所有法と標準管理規約だからです。大規模修繕の決議要件や、所在不明の区分所有者をどう扱うかは、修繕工事の実務に直結します。理事長が代わるたびに「そもそも何割の賛成が要るんだっけ」から始まる管理組合を、私は何度も見てきました。

誰が行くべきか

理事長でなくても構いません。「どなたでも参加できます」と市が明記しています。私の経験上、いちばん効くのは理事長+修繕委員(または次期理事候補)の2名で行くパターンです。理事の任期が1年の管理組合では、聞いた話が翌年に引き継がれずに消えてしまうことがよくあります。2名で行けば、少なくとも1名は翌年も残る可能性が上がります。


三島市のマンションは97棟。長期修繕計画が「25年以上」なのは約47%

ここからが本題です。補助金の話をする前に、三島市が自分の市のマンションをどう見ているかを共有させてください。

三島市は「三島市マンション管理適正化推進計画」を、三島市住宅マスタープランの第5章として策定しています。計画期間は令和4年度から令和13年度までの10年間です。

その中に、私が読んで手が止まった数字がありました。

項目 三島市の数値 備考
市内のマンション棟数 97棟 うち約12%が旧耐震基準
25年以上の長期修繕計画を定めている割合 約47% 国平均54%(平成30年)を下回る
現状値(長期修繕計画25年以上のマンション数) 14棟(令和2年)
中間目標(令和8年度) 31棟 =2026年度がその年です
最終目標(令和13年度) 48棟

(出典:三島市住宅マスタープラン 第5章 三島市マンション管理適正化推進計画)

読み方を3つお伝えします。

1つ目。97棟のうち、25年以上の長期修繕計画を持っているのが14棟でした。裏を返せば、80棟前後は「計画期間が短い」か「そもそも計画がない」ということになります。大規模修繕は12年前後の周期でやってきますから、25年に満たない計画は、2回目の工事を織り込めていない可能性があります。

2つ目。中間目標の年度が令和8年度、つまり2026年度です。14棟を31棟へ、と市は掲げています。担当課にとって、今年度は目標達成に向けて手応えが欲しい年です。いま相談に行く管理組合は、市にとって歓迎される相談者だと私は思います。

3つ目。市は「マンション住民の高齢化への問題意識が特に高い」とも書いています。三島市の人口は令和7年国勢調査の速報で103,085人。令和2年から4,698人減っています(出典:三島市 令和7年 国勢調査の結果について)。住民が減り高齢化するなかで、修繕積立金の値上げ議案は年々通しづらくなります。だからこそ「工事費そのものを下げる」という選択肢を、早い段階で検討していただきたいのです。


三島市の管理計画認定制度は「申請手数料が無料」

マンション管理計画認定制度は、管理組合の管理計画が一定の基準を満たすと、市から「適正な管理計画を持つマンション」として認定を受けられる制度です。三島市は令和4年4月から運用しています。

三島市の特徴は次の3点です。

項目 三島市の扱い
認定申請手数料 無料(※別途、公益財団法人マンション管理センターのシステム利用料および事前確認審査料が必要)
市独自の認定基準 設けていない(国が定めた基準のみ)
申請方法 マンション管理センターのオンラインシステム(管理計画認定手続き支援サービス)のみ。三島市の窓口に直接申請することはできない

(出典:三島市 マンション管理計画認定制度)

手数料が無料というのは、同じ静岡県内でも珍しい部類に入ります。県内には、事前確認適合証がある場合とない場合で手数料に大きな差を設けている市もあります。三島市は「そもそも取らない」と決めているわけです。しかも市独自の上乗せ基準もありません。

ハードルの高さは、実質的にマンション管理センターの事前確認をどう通すかに集約されます。

認定基準の自己点検リスト

国が定めた認定基準は、大きく5分野に分かれます。理事会でチェックリストとして回してみてください。

分野 主なチェック項目
管理組合の運営 管理者等が定められているか/監事が選任されているか/集会(総会)を年1回以上開催しているか
管理規約 管理規約が作成されているか/緊急時の専有部立入や、修繕等の履歴情報の管理等について定められているか
管理組合の経理 管理費と修繕積立金の口座が区分されているか/修繕積立金の滞納に対する措置を講じているか
長期修繕計画の作成・見直し 計画期間が30年以上かつ残存期間内に大規模修繕工事が2回以上含まれているか/7年以内に作成または見直しされているか/計画期間内に修繕積立金の借入金残高がないこと
その他 区分所有者名簿・居住者名簿を備え、年1回以上更新しているか/都道府県等の指針に照らして適切に管理されているか

(出典:三島市 マンション管理計画の認定基準(PDF)、国土交通省 マンション管理計画認定制度)

私がお会いする管理組合で、いちばん引っかかるのは「7年以内に見直し」と「計画期間30年以上」の2つです。10年前に作った長期修繕計画がそのまま棚に入っている、というケースは珍しくありません。逆に言えば、大規模修繕の準備として長期修繕計画を見直すタイミングは、認定を取るタイミングとぴったり重なります。二度手間になりません。

なお、認定制度そのものに関する相談は、一般社団法人日本マンション管理士会連合会が相談ダイヤル(03-5801-0858、平日10時〜17時)を設けています。


認定を取ると、お金の話が3か所で変わります

認定は「賞状をもらって終わり」ではありません。管理組合の財布に直接効く経路が3本あります。

1. 住宅金融支援機構の融資金利が下がる

マンション共用部分リフォーム融資は、管理組合名義で借りられる全期間固定金利の融資です。公益財団法人マンション管理センターの債務保証を使えば、理事長個人の連帯保証は不要とされています。管理計画認定を受けたマンションは金利引下げの対象になります。

金利は毎月見直されるため、この記事で「何%です」と断定することは控えます。検討時点の数字を住宅金融支援機構の金利ページでご確認ください。

ただ、体感としてお伝えすると、100戸で2,000万円を10年借りるとき、金利が0.2%違えば総支払額で数十万円動きます。認定手数料が無料の三島市では、この差がまるごと管理組合の手元に残る計算になります。

2. マンションすまい・る債の利率が上乗せされる

マンションすまい・る債は、管理組合が修繕積立金を運用するための債券です。2026年度は制度が拡充され、管理計画認定を受けたマンション向けの「認定すまい・る債」に加えて、マンション管理適正評価制度で4つ星以上、またはマンション管理適正化診断サービスでS評価を取得したマンション向けの「ステップアップすまい・る債」が設けられました。

2026年度の応募受付期間は2026年4月13日から2026年10月9日までです。募集口数には上限があり、応募は先着順とされています(出典:住宅金融支援機構 マンションすまい・る債)。

年1回しか募集がない制度です。10月9日を過ぎると次は来年になります。

3. 固定資産税が減額される(次章で詳しく)


【三島市の数字】マンション長寿命化促進税制の減額割合は「3分の1」

ここは三島市の公式ページが明確に書いてくれている、ありがたい部分です。

マンション長寿命化促進税制は、令和5年度税制改正で創設された制度です。管理計画の認定を受けたマンション等で、令和5年4月1日から令和9年3月31日までに長寿命化に資する大規模修繕工事が行われた場合、翌年度に課される建物部分の固定資産税が減額されます。

三島市の減額割合は「3分の1」です。

項目 三島市の内容
減額割合 一戸当たり100平方メートルの床面積相当分までの固定資産税額の3分の1(三島市条例で定める割合)
減額期間 工事完了年の翌年度分(完了日が1月1日の場合はその年度分)
対象工事期間 令和5年4月1日〜令和9年3月31日
申告期限 工事完了日から3か月以内(やむを得ない場合はこの限りでない)
申告先 財政経営部 課税課資産税係(055-983-2627/055-983-2758)
都市計画税 減額なし

(出典:三島市 長寿命化に資する大規模修繕工事が行われたマンションに対する固定資産税の減額について)

この減額割合は市町村の条例で定めるため、自治体によって異なります。三島市は3分の1です。ネット上には他市の数字を一般論として書いた記事もありますから、三島市のマンションの方は三島市のページの数字でご判断ください。

対象となるマンションの要件

(1)管理計画認定マンション、または(2)助言・指導を受けた管理組合のマンション、のいずれかに該当する必要があります。

要件 (1)管理計画認定マンション (2)助言・指導を受けたマンション
居住用専有部分 有していること 有していること
築年数 新築から20年以上経過 新築から20年以上経過
総戸数 10戸以上 10戸以上
過去の工事 過去に長寿命化工事が行われたもの 過去に長寿命化工事が行われたもの
追加要件 令和3年9月1日以降に修繕積立金の平均額を認定基準まで引き上げたもの 助言・指導を受けて長期修繕計画を作成・見直し、基準に適合したもの

なお、過去の工事については「1から3の各工事が同時期に行われたものである必要はありません」と市が明記しています。ここは緩やかです。

「長寿命化工事」の定義がいちばん大事です

減額を受けるには、次の3つの工事が同一の工事請負契約の中で行われたなど、一体として扱われる工事である必要があります。

  1. マンションの建物の外壁について行う修繕または模様替(外壁塗装工事)
  2. 直接外気に開放されている廊下、バルコニーその他これらに類する部分の防水の措置を講ずるための修繕または模様替(床防水工事)
  3. 屋上部分、屋根またはひさしその他これに類する部分の防水の措置を講ずるための修繕または模様替(屋根防水工事)

私はこれを、必ずワンセットで確認するようにしています。というのも、見積書の段階で3つのうち1つが落ちていることがあるからです。

たとえば「予算が厳しいので屋上防水は次回に回しましょう」という判断は、工事単体で見れば合理的です。しかし税制の観点では、それをやった瞬間に減額の対象から外れます。理事会でこの提案が出たら、「税制の3工事は揃っていますか」と一度確認していただきたいのです。


税制の落とし穴3つ(現場で本当に起きます)

落とし穴1:証明書を工事契約に入れ忘れる

申告には次の書類が必要です。

区分 提出書類 発行主体
共通 長寿命化に資する大規模修繕マンションに対する固定資産税の減額申告書 ―
共通 大規模の修繕等証明書 建築士または住宅瑕疵担保責任保険法人
共通 過去工事証明書 建築士またはマンション管理士
共通 総戸数が分かる書類(建築図面等) 管理組合等
(1)の場合 管理計画の認定通知書または変更認定通知書の写し 管理組合
(1)の場合 修繕積立金引上証明書 建築士またはマンション管理士
(2)の場合 助言・指導内容実施等証明書 三島市役所 住宅政策課

太字にした3つの証明書は、建築士やマンション管理士に発行してもらうものです。工事が終わってから「そういえば証明書が要る」と気づくと、発行までの日数で3か月を食い潰します。

工事請負契約の段階で、証明書の発行を業務範囲に含めておく。 これだけで防げます。私が理事長さまにお伝えしているのは、契約書の内訳に「大規模の修繕等証明書の発行」という行が入っているか見てください、という一点です。

落とし穴2:管理組合が取りまとめられることを知らない

固定資産税は区分所有者ごとにかかる税金なので、原則は各区分所有者が申告します。100戸あれば100人が動くことになり、現実的ではありません。

ここで三島市の記載が効きます。市はこう書いています。

マンション管理組合にて各区分所有者の固定資産税の減額申告書を取りまとめてご提出いただく場合は、添付書類は全体で1部のみ添付してください。

つまり、管理組合が申告書を集めて、証明書などの添付書類は1部だけ付けて提出できるということです。100戸分の証明書のコピーを取る必要はありません。事務負担が大きく変わります。この一文を知らずに全戸分の書類を用意しようとして疲弊した管理組合を、私は他市で見たことがあります。

落とし穴3:認定のタイミングを外す

市は「減額申告時点かつ賦課期日(工事完了の翌年の1月1日)時点で管理計画の認定を受けている必要があります」と明記しています。

工事が終わってから認定を取りに行っても、間に合わない可能性があります。 認定は工事より先です。事前確認から認定通知までは数か月かかることを見込んでください。

なお、耐震改修・バリアフリー改修・省エネ改修・認定長期優良住宅の各減額措置とは、同じ年度に併用できません。別の年度であれば適用可能です。


令和8年度 三島市の地震対策補助事業を「マンション目線」で仕分けます

三島市は令和8年度から、従来の「TOUKAI(東海・倒壊)-0(ゼロ)」を「TOUKAI-0+(トウカイゼロプラス)」総合支援事業として再編し、8つの事業を実施しています。分譲マンションの共用部から見て、それぞれがどう届くかを整理しました。

# 事業名 分譲マンション(RC/SRC)から見た可否 2026年8月時点の受付状況
1 わが家の専門家診断事業 木造住宅が対象。RC造マンションには使えない 受付中
2 非木造住宅の耐震診断事業 可能性あり(要確認)。上限200万円 相談受付中
3 木造住宅の耐震改修事業(補強計画一体型) 木造住宅が対象 受付中
4 木造住宅の除却事業 木造住宅が対象 受付中
5 建築物の耐震改修事業(既存災害拠点施設等) 対象要件が厳しく、届きにくい(後述) ―
6 建築物の耐震改修事業(緊急輸送道路沿道) 勧告・指導を受けた建築物に限られる(後述) ―
7 ブロック塀等耐震改修促進事業 敷地内の塀が対象。使える 受付中(除却・建替とも)
8 耐震シェルター・防災ベッド整備事業 木造住宅(長屋・共同住宅を除く)が対象 相談受付中/受付中

(出典:三島市の地震対策補助事業について(令和8年度)、地震対策補助事業の受付状況について(令和8年度))

8つのうち、マンションの共用部に効きそうなのは2番と7番です。


非木造住宅の耐震診断事業:マンションが狙える入口

昭和56年5月31日以前に着工された建築物(木造の住宅を除く)について、耐震補強が必要かどうかを専門家が判断する耐震診断の経費を補助する制度です。

項目 内容
補助率 1棟ごとに、事業に要する経費と基準額を比較して、いずれか少ない額の3分の2以内
限度額 200万円
基準額(一戸建ての住宅以外) 延べ面積1,000㎡以下:3,670円/㎡
1,000㎡超2,000㎡以下:1,570円/㎡
2,000㎡超:1,050円/㎡
基準額(一戸建ての住宅) 1棟あたり136,000円
端数処理 補助金額は1,000円未満切捨て
手続き 申請する前に、書類を添えて事前に相談が必要

(出典:三島市の地震対策補助事業について(令和8年度))

延べ3,000㎡のマンションで試算してみます

基準額は面積帯ごとの単価を積み上げます。延べ面積3,000㎡なら、

  • 1,000㎡分 × 3,670円=367万円
  • 次の1,000㎡分 × 1,570円=157万円
  • 残り1,000㎡分 × 1,050円=105万円
  • 合計:629万円

この629万円と実際の見積額を比べて少ない方の3分の2、ただし200万円が限度です。仮に見積額が400万円なら、400万円の3分の2で約266万円→限度額の200万円が交付される計算になります。

これは決して小さくありません。旧耐震のマンションで耐震診断を検討している管理組合にとっては、動く価値のある金額です。

ただし「対象になるか」は事前確認が要ります

正直に申し上げます。市のページは事業名を「非木造住宅の耐震診断事業」と書き、対象を「建築物(木造の住宅を除く)」としています。基準額の表には「一戸建ての住宅以外のもの」という区分がはっきりあり、共同住宅がここに含まれると読むのが自然です。

一方で、他市のように「非木造共同住宅(マンション)」と明文で書かれてはいません。ですから私は、この記事で「三島市のマンションは対象です」と断定することは控えます。

やっていただきたいのは、住宅政策課建築指導係(055-983-2644)への電話1本です。市自身が「申請する前に事前に相談してください」と書いていますから、相談すること自体が正規の手順です。聞くべきことは1つだけです。

「昭和56年5月31日以前着工の分譲マンション(RC造・延べ約○○㎡)の共用部の耐震診断は、非木造住宅の耐震診断事業の対象になりますか」

必要な添付書類も市が明示しています。付近見取図、配置図・平面図、耐震診断の経費の見積書の写し、建築年次が証明できる書類、所有者以外による申請の場合は所有者の承諾書です。管理組合が申請する場合の名義の扱いも、あわせて確認しておくとよいと思います。


耐震改修の補助が分譲マンションに届きにくい理由(正直な整理)

期待させたまま終わらせたくないので、5番と6番についても書いておきます。

5番「建築物の耐震改修事業(既存災害拠点施設等)」の対象建築物は、次のすべてに該当することが求められます。

  • 昭和56年5月31日以前に建築された既存建築物であること
  • (ア)災害時に重要な機能を果たす建築物(医療施設、避難所等)、または(イ)災害時に多数の者に危険が及ぶ恐れのある建築物(百貨店、劇場等)に該当すること(ア・イは延べ面積1,000㎡以上かつ原則3階以上)
  • 特定行政庁の勧告または耐震改修促進法に基づく指導を受けたもの

補助額は、耐震改修工事に要する費用と、延べ面積に基準額(51,200円/㎡、免震工法等の特殊な工法は83,800円/㎡)を乗じた額の少ない方に23%を乗じた額の3分の2以内、限度額1,500万円です。金額は大きいのですが、分譲マンションが(ア)や(イ)に当たると読むのは難しく、さらに勧告・指導を受けていることが条件になります。

6番「緊急輸送道路沿道」も同様に、勧告または指導を受けたものに限られます。三島市の緊急輸送道路等は、東駿河湾環状線、国道1号(三島塚原IC〜県道三島裾野線)、県道三島裾野線(国道1号〜市役所)、市道谷田168号線(三島玉沢IC〜静岡県健康福祉交流プラザ)とされています。沿道にマンションがあっても、市から指導を受けていなければ入口に立てません。

つまり三島市では、マンションの共用部の耐震「工事」に直接使える補助は、現状ほぼ見当たらないというのが公開情報からの結論です。使えるのは「診断」までと考えて、そこから先は自己資金・積立金・機構融資で組み立てる。この前提で資金計画を立てるほうが、後で慌てずに済みます。


【三島市固有の最大の落とし穴】「12月で受付終了」「年度をまたげない」

三島市の地震対策補助事業のページには、赤字級の重要な注記が2つあります。

※各事業の申請受付は、12月中で終了します。なお、予算がなくなり次第終了する場合があります。

※補助事業は必ず着手前(契約前)に申請が必要となります。事業に着手したものや終了したもの、年度をまたぐ事業には補助金を交付できないためご注意ください。

(出典:三島市の地震対策補助事業について(令和8年度))

この2つが、大規模修繕の工程と正面からぶつかります。

大規模修繕は、一般的に着工から竣工まで3〜6か月かかります。もし12月に申請して交付決定を受け、1月に着工したら、竣工は年度をまたいで4月以降になります。その時点で補助金が出ません。

私が三島市の管理組合にお伝えしたいのは、この一点です。

よくある進め方 三島市での結果
総会で工事を決議 → 業者選定 → 契約 → 補助金を探す 契約後の申請は不可。交付決定前の着手も不可
秋に申請 → 冬に着工 → 春に竣工 年度をまたぐため交付できない
春〜初夏に事前相談 → 交付決定 → 夏に着工 → 年内竣工 年度内に完結。可能性が残る

ブロック塀の撤去や耐震診断のように、工期が短く単独で完結する事業は、大規模修繕の一式契約から切り出して別発注にするのが現実的です。塀の撤去を本体工事に混ぜてしまうと、契約日が本体と同じになり、交付決定前契約で対象外になる恐れがあります。

理事会で覚えていただきたい順番はこうです。

  1. 補助金を使う工事(塀の撤去、耐震診断など)は先に切り出して、単独で交付決定→着工→年度内完了
  2. 本体の大規模修繕は、補助金の制約から切り離して、建物にとって最適な時期に発注

これを逆にやると、どちらも中途半端になります。


ブロック塀等耐震改修促進事業:通学路沿いなら「上限なし」

7番の制度です。ここは三島市の設計が非常に面白い。

事業の区分 補助率 補助金限度額
除却(避難路・避難地・通学路沿いの道路に面したブロック塀) 経費と「1m当たり基準額20,000円×延長」の少ない額の3分の2以内 上限なし
除却(上記以外の道路に面したブロック塀) 経費と「1m当たり基準額9,000円×延長」の少ない額の3分の2以内 1敷地につき18万円
緊急建替(避難路・避難地・通学路沿い) 経費と「1m当たり基準額58,400円×延長」の少ない額の3分の2以内 上限なし

(出典:三島市の地震対策補助事業について(令和8年度))

避難路・避難地・通学路沿いかどうかで、基準額が9,000円/mと20,000円/mに分かれ、しかも上限の有無が変わります。18万円で頭打ちになるか、上限なしで3分の2が出るか。この差は極めて大きい。

そして市は、こう書いています。

通学路沿いであるか確認しますので、事前に住宅政策課までご相談ください。

つまり、自己判断で「うちは通学路じゃないだろう」と決めつけてはいけないということです。市に聞けば教えてくれます。マンションの前の道を小学生が歩いているのを見たことがあるなら、確認する価値があります。

その他の注意点

  • 原則として高さ60cmを超える(4段以上の)ブロック塀を全段撤去することが条件です。危ない部分だけ部分撤去、は認められません。
  • 擁壁は対象外です。
  • 建替補助を使う場合、新しく築造する工作物は関係法令に適合する必要があります。
  • 補助金を受ける場合は事前に申請が必要です。

私が現場で見てきたなかで、管理組合が意外と見落とすのが敷地境界の塀です。エントランス周りは気にするのに、駐輪場の裏や駐車場の外周は「そういえば見ていなかった」となる。理事会で敷地図を広げて、道路に面した塀を全部書き出してみる。それだけで30分の作業です。


アスベストの補助は、三島市では見当たりませんでした

近隣市との差なので、あえて書きます。

静岡市、沼津市、富士市には、民間建築物の吹付けアスベストに関する調査・除去の補助制度が公表されています。一方、三島市については、同種の補助制度を公開情報の範囲で確認できませんでした。「ない」と断定するものではなく、「市のサイトで見つけられなかった」という意味です。

なぜこれを書くかというと、大規模修繕では足場を架けて天井を開けてから吹付け材が見つかることがあるからです。私が経験したなかで、いちばん胃が痛かったのは、機械室の天井裏から吹付け材が出てきて工事が止まり、分析結果を待つあいだ足場のリース料だけが積み上がったケースです。

発見されやすい場所は決まっています。

  • 機械室・ポンプ室の天井や梁
  • 電気室・受変電設備室
  • 屋内駐車場の天井
  • 階段室の裏側
  • エレベーター機械室
  • パイプスペース(PS)内部

昭和50年代以前に竣工したマンションで、これらの場所を一度も開けたことがないなら、設計段階で事前調査を工程に入れておくことをおすすめします。補助がない前提で、調査費を予算に計上しておく。これが三島市での現実的な備えだと私は考えます。

平成29年度から、吹付け材等の調査は建築物石綿含有建材調査者が実施することが法令上求められています。有資格者が在籍しているかは、業者選定時の確認事項に入れてよいと思います。


三島市耐震改修促進計画(令和8〜12年度)で変わったこと

三島市は2026年3月に、新しい耐震改修促進計画を公表しました。計画期間は令和8年4月1日から令和13年3月31日までの5年間です。

指標 数値 時点
住宅の耐震化率 93.4%(45,060戸中42,105戸) 令和5年
(参考)平成30年 91.0%
(参考)平成25年 85.9%
特定建築物の耐震化率 95.6%(389棟中372棟) 令和7年3月末
うち民間 93.4%
耐震性のない住宅 2,955戸(うち木造2,387戸=約80%) 令和5年

(出典:三島市耐震改修促進計画(令和8年度〜令和12年度))

新計画で私がいちばん注目したのは、対象建築物の考え方が広がったことです。従来は昭和56年5月以前の旧耐震建築物が中心でしたが、新計画では新耐震(昭和56年6月〜平成12年5月)の建築物、地震で被害を受けた建築物、経年劣化が進んだ建築物にも対象を拡大しています。

これは大規模修繕の文脈で読むと、こういう意味になります。

新耐震のマンションだから安心、では済まなくなった。

躯体の耐震性能が新築時に確保されていても、外壁のタイルが浮き、手すりの付け根が腐食し、シーリングが切れていれば、地震のときに落ちるものは落ちます。落ちた先に人がいれば、それは管理組合の責任問題です。

私はいつも理事長さまに、こうお伝えしています。大規模修繕は「きれいにする工事」ではなく「落ちるものを落ちないようにする工事」です。塗装は結果であって、目的ではありません。

ただし、計画に「マンション」の語は出てきません

正直に書きます。三島市耐震改修促進計画の本文に、「マンション」という語は登場しません。共同住宅は住宅等の分類定義に一度出てくるのみで、分譲マンション固有の施策や目標は書かれていません。

これは三島市を批判したいのではありません。耐震の担当課から見れば、市内で耐震性が不足している住宅の約80%は木造戸建てなのですから、そちらに資源を振り向けるのは合理的な判断です。

ただ、管理組合の側からすると意味が変わります。行政の耐震施策のなかに、分譲マンションの居場所は用意されていない。 だから管理組合が自分で動くしかない、ということです。

一方で、マンション管理適正化推進計画のほうには、97棟という数字も長期修繕計画47%という数字も、高齢化への問題意識も、はっきり書かれています。三島市でマンションの話をする窓口は、耐震ではなく住宅政策(マンション管理)の側だと理解しておくと、電話をかける先を間違えずに済みます。


三島市で想定すべき地震は、南海トラフより「相模トラフ」

これは三島市の管理組合に、ぜひ知っておいていただきたい話です。

静岡県第4次地震被害想定に基づくと、三島市の被害が最大となるのは、レベル2の「相模トラフ沿いの元禄型関東地震(M8.2程度)」です。南海トラフ巨大地震(M9.0程度)も想定対象ですが、三島市においては相模トラフのほうが被害が大きいと市は整理しています。

項目 元禄型関東地震での三島市の想定
推定震度6強 市域の69.4%(42.6km²)
推定震度6弱 22.5%
推定震度5強 8.1%
全壊・焼失 約2,700棟(揺れ約1,400・火災約1,200・液状化約100)
半壊 約5,200棟
死者 約20人
重傷者 約200人

(出典:三島市耐震改修促進計画(令和8年度〜令和12年度))

このほか、富士川河口断層帯の地震(駿河トラフの海溝型と連動しM8程度の可能性)にも留意が必要とされています。

震度6強が市域の約7割、という数字は重いと思います。そして、液状化による全壊が約100棟と見込まれている点も見逃せません。三島市の南部および市中央部は狩野川沖積層からなる砂泥質の軟弱地盤とされています(出典:三島市地域防災計画 共通対策編)。

大規模修繕の現場でいうと、軟弱地盤は足場の設置に影響します。仮設足場は建物に緊結するだけでなく、地面にも荷重をかけます。地盤が緩い敷地では、敷板の増設や地盤補強が必要になり、仮設費が上振れすることがあります。見積書の「仮設工事」に地盤対策の項目があるかどうかは、確認しておいて損はありません。


三島市の立地と気候が、大規模修繕に与える3つの影響

ここは私の専門分野なので、少し踏み込みます。

影響1:三島市は海に面していない = 塩害は軽い

三島市は駿河湾に面していません。 西に沼津市・清水町・長泉町、南に函南町、北に裾野市、東に神奈川県箱根町と接する内陸の市です(出典:三島市地域防災計画 共通対策編)。市のハザードマップにも津波ハザードマップは存在せず、地域防災計画の「予想される災害」の区分にも津波はありません。

これは大規模修繕の仕様に直接効きます。隣の沼津市について書いた記事(沼津市のマンション補助金ガイド)では、駿河湾の塩害を理由に「防錆仕様を削ってはいけない立地」と申し上げました。三島市は違います。

海側と山側で防錆仕様を分ける必要が、三島市では相対的に薄い。 鉄部塗装のケレン等級や防錆下塗りの回数を、沿岸部と同じグレードで一律に見積もられているなら、その根拠を一度聞いてみてよいと思います。浮いた予算を、後述する凍結対策や下地補修に回せる可能性があります。

ただし油断は禁物です。三島市は箱根山麓から狩野川沖積低地まで標高差があり、市役所で24.9m、最高地点は941.5m(海ノ平)です。同じ市内でも環境が違います。「三島市だから塩害なし」ではなく、「この建物の立地なら」で判断してください。

影響2:冬の凍結が年32日ある

気象庁の平年値(1991〜2020年)によると、三島の日最低気温0℃未満の日数は年32.0日です(1月13.4日、2月10.0日、12月5.8日、3月2.7日)。年平均気温は16.3℃で温暖な部類ですが、真冬の朝は氷点下に落ちます。

塗装や防水は、気温が低いと材料が規定どおりに硬化しません。多くのメーカーが施工可能温度の下限を定めています。12月から2月の三島市は、作業できない朝が月に10日前後あると見込むのが現実的です。

一方で、降雪の深さの年合計は2cm、最深積雪1cmと、雪はほとんど降りません。山梨県内の市のように「11月下旬から3月中旬は凍結でほぼ止まる」ほどではありません。朝だけ止まって、日中は動ける。これが三島市の冬です。

影響3:年降水量1,868mm、9月がいちばん降る

三島の年降水量の平年値は1,868.2mm、年間日照時間は2,003.2時間です。月別で見ると、最多は9月の241.8mm、次いで7月223.4mm、6月212.7mm。最少は12月の65.1mmです。

そして市は「8月から10月にかけては台風の接近または上陸により、暴風雨による災害が発生することがある」と地域防災計画に明記しています。

(出典:気象庁 三島(静岡県)平年値、三島市地域防災計画 共通対策編)

三島市の工事適期カレンダー

以上をまとめると、こうなります。

時期 適性 理由
3月下旬〜6月上旬 ◎ 気温・湿度が安定。年間で最良
6月中旬〜7月上旬 △ 梅雨。降水量212mm
7月中旬〜8月 ○ 猛暑日は年2.8日と多くない。ただし真夏日は年59.6日
9月〜10月中旬 △ 年間最多降水(9月241.8mm)+台風シーズン。足場の養生と倒壊リスク
10月下旬〜11月 ◎ 気温安定・降水少。春に次ぐ好機
12月〜2月 △〜○ 降水は少ないが、氷点下の朝が月10日前後

年間で狙える窓は春(3月下旬〜6月上旬)と晩秋(10月下旬〜11月)の2つです。春の窓を押さえたいなら、前年の秋には業者選定を終えている必要があります。逆算すると、いま2026年8月に動き始めた管理組合が現実的に狙えるのは、2027年春です。


三島駅南口の再開発が、管理組合の工事費に効いてくる話

もう一つ、三島市固有の事情をお伝えします。

三島市は三島駅南口東街区を「広域健康医療拠点」として整備する再開発を進めています。全6棟の建設が予定され、A地区(4棟)は令和10年(2028年)2月竣工予定、B地区(2棟)は令和11年(2029年)2月竣工予定とされています(出典:三島市 三島駅南口周辺開発)。

私が申し上げたいのは、まちづくりの是非ではありません。職人と資材の需給の話です。

人口10万人規模の市で、6棟の大型工事が同時期に走ります。鳶、型枠、鉄筋、塗装、防水──どの職種も、地域の総量には限りがあります。2027年から2029年にかけて、三島市とその周辺では、職人の手配が今より難しくなる可能性があります。

これが管理組合にとって何を意味するか。

  1. 見積りが取りにくくなる。忙しい業者は、条件のよい現場を選びます
  2. 工期が伸びる。職人が押さえられなければ、工程は後ろにずれます
  3. 単価が上がる。需要が供給を上回れば、価格はそう動きます

対策は2つあります。1つは早めに動くこと。もう1つは、相見積りの候補を三島市内に限定しないことです。

三島市はJR東海道新幹線の三島駅があり、品川駅までひかり号で最短37分。東名高速の沼津IC、新東名の長泉沼津ICから約15分。国道1号と国道136号が交差し、東駿河湾環状道路も通っています。首都圏からも日帰り圏です。 宿泊費や長距離移動費を見積りに乗せずに来られる業者の選択肢は、山間部の市よりずっと広い。この地の利は、使わないともったいないと思います。


工事費そのものを下げる:3つの工法を比べてください

ここからは自社サービスの話を含みますので、見出しで区切ります。利益相反を明示したうえで、事実だけをお伝えします。私が代表を務める株式会社明誠は、足場工法・ロープアクセス工法・ハイブリッド工法の3つを扱う会社です。ポジショントークが混じらないよう、デメリットも並べて書きます。

仮設足場は総工事費の15〜25%を占めます

まずこの数字を頭に置いてください。大規模修繕において、仮設足場は工事費全体のおおむね15〜25%を占めるのが一般的です。

総工事費 仮設足場のおおよその費用
3,000万円 450万〜750万円
5,000万円 750万〜1,250万円
8,000万円 1,200万〜2,000万円

ブロック塀の補助金の上限が18万円(通学路沿いなら上限なしですが)、耐震診断の補助が上限200万円であることを思い出してください。桁が違います。

理事会で3時間かけて18万円の補助金を議論し、750万円の仮設費を「そういうものだから」と5分で通す。私はこの光景を何度も見てきました。議論に費やす時間の配分を、金額の大きさに合わせていただきたいのです。

3工法の比較

項目 通常足場工法 ロープアクセス工法(無足場) ハイブリッド工法
仮設費 高い(総額の15〜25%) 大幅に削減できる 部位ごとに最適化
工期 長い(架設・解体に各1〜2週間) 短い 中間
居住者の生活影響 バルコニーが2〜3か月使えない/窓が開けにくい 影響が小さい 部位により異なる
防犯面 足場からの侵入リスクあり リスクが小さい 部位による
適する部位 全面改修・大量の下地補修 高所・部分補修・アクセス困難な面 面ごとに使い分け
向かないケース 敷地に余裕がない/コスト最重視 大量のタイル張替え/全面的な下地補修 判断できる会社が少ない

ロープアクセス工法は、すべての建物に向くわけではありません。 タイルの浮きが広範囲で、下地補修の物量が多い建物では、足場を架けたほうが結果的に安く早く済むこともあります。私はそういうときは、正直に「足場でいきましょう」と申し上げます。ロープアクセス工法の技術的な背景や安全基準については、姉妹サイトのロープアクセスドットコムで解説しています。

三島市で「ハイブリッド」が効く理由

三島市のマンションは、敷地に比較的余裕があるものが多い印象です。だから「足場を架けられる」→「だから足場」で思考が止まりやすい。

でも、架けられることと、架けるべきことは別です。理事会で3つ問いを立ててみてください。

  1. 今回は全面改修ですか、それとも部分補修が中心ですか
  2. 居住者が2〜3か月バルコニーを塞がれる生活を受け入れられますか
  3. 見積書の「仮設工事」の内訳を、金額の根拠まで説明してもらえましたか

三島市は海に面していないため、面による塩害の差は小さい。一方で、南面・西面は日照時間2,003時間の紫外線を受けてシーリングと塗膜の劣化が早く進みます。方位別・面別に劣化評価をしてもらうと、「この面は足場、この面はロープアクセス」という組み方が見えてきます。これがハイブリッド工法の実務的な意味です。

工法選定の全体像は大規模修繕工事のご紹介、ロープアクセス工法の詳細はロープアクセス工法のご紹介にまとめています。

現場でいちばん悔しいこと

現場で20年やってきて、私が一番悔しい思いをするのは、「もっと早く見ていれば安く済んだ」というケースです。

以前、屋上防水に畳1枚ぶんくらいの膨れがあるのを見つけたことがあります。理事長さまにお伝えしたのですが、「次の大規模修繕でまとめてやろう」ということになりました。1年後にうかがったら、膨れは数倍に広がり、下地まで水が回っていました。最上階のお部屋の天井にシミが出ていました。

費用は当初見積りの数倍になり、何より住民の方どうしの関係が一度こじれました。修復には半年かかりました。

台風シーズンが終わった秋に、年1回でいいので屋上とバルコニーを見て回る。それだけで防げることが、たくさんあります。三島市なら、11月がちょうどよい時期です。


モデルケース:三島市のマンションで試算してみます

実在の物件ではありません。三島市内でありうる条件で組んだ想定です。金額はあくまで目安として読んでください。

ケースA:三島駅周辺 築26年・8階建・42戸

項目 通常足場工法 ハイブリッド工法
総工事費 約7,000万円 約6,100万円
差額 ― 約900万円の削減
1戸あたり 約167万円 約145万円(▲約21万円)
工期 約5か月 約4か月(1か月短縮)

組み方の例:バルコニー側は下地補修の物量が多いため足場を架け、妻面と屋上まわりはロープアクセスで対応する。バルコニーの使用制限期間が短くなるため、居住者の負担も軽くなります。

ケースB:市郊外 築42年・5階建・18戸

項目 通常足場工法 ロープアクセス主体
総工事費 約3,300万円 約2,700万円
差額 ― 約600万円の削減
1戸あたり 約183万円 約150万円(▲約33万円)
資金 一時金が必要になる可能性 機構融資併用で一時金ゼロも視野

18戸で3,300万円は、1戸あたり183万円です。100戸のマンションなら1戸33万円で済む工事が、戸数が少ないだけで5倍以上の重さになります。小規模マンションほど、工法選定の効き目が大きいというのは、この算数から来ています。

三島市の97棟には、こうした小規模なマンションも少なくないはずです。


修繕積立金が足りないとき、打ち手は4つあります

# 打ち手 メリット デメリット
1 一時金の徴収 借入不要 総会で通りにくい。滞納リスク
2 住宅金融支援機構の融資 一時金ゼロで着工可能 返済負担が長期化
3 段階施工(工事を分割) 1回の負担が軽い 仮設費が回数分かかり、総額はむしろ増える
4 工法の見直し 総額そのものが下がる 判断できる会社が限られる

順番が大事です。④を最初に検討してください。

設計に入る前なら4つとも選べます。しかし業者を決めて仕様を固めてしまうと、④は選択肢から消えます。足場前提の設計図面ができあがってから「ロープアクセスでできませんか」と聞かれても、設計をやり直すことになり、時間もお金もかかります。

そして②の機構融資は、管理計画認定を取っていれば金利が下がります。認定を取り、金利を下げ、工法を見直す。この3つが噛み合うと、総会の議案の性格が変わります。「一時金50万円のお願い」から「月々数千円の見直し」へ。 通しやすさがまるで違います。

費用を抑える考え方は適正価格へのこだわりにもまとめています。


着工18か月前からの逆算カレンダー(三島市版)

理事の任期が1年の管理組合でも回せるよう、月単位で書き出しました。

時期 やること 窓口・連絡先
18か月前 劣化診断を実施。長期修繕計画の見直しが7年以内かを確認 ―
17か月前 過去の工事記録を収集(過去工事証明書のため) 管理会社・保管書類
16か月前 認定基準の自己点検。管理規約の改正要否を判断 住宅政策課 055-983-2750
15か月前 旧耐震の場合、非木造住宅の耐震診断事業の対象か電話確認 住宅政策課建築指導係 055-983-2644
14か月前 アスベストの事前調査を工程と予算に計上(三島市に補助は見当たらないため自己負担前提) 業者・調査者
12か月前 工法選定(設計はこの後。順番を逆にしない) ―
11か月前 税制の要件確認。仕様書に外壁塗装・床防水・屋根防水の3工事が入っているか点検 課税課資産税係 055-983-2627
10か月前 マンション管理センターへ事前確認を依頼。適合証の取得 03-5801-0858(相談ダイヤル)
9か月前 資金計画の確定。機構への事前相談。相見積り先を市外にも拡大 住宅金融支援機構
8か月前 三島市へ認定申請(オンライン。市の手数料は無料) マンション管理センター経由
7か月前 ブロック塀の有無を敷地図で洗い出し。通学路沿いか市に確認 住宅政策課 055-983-2750
6か月前 ブロック塀の交付申請(本体工事とは別契約に切り出す) 住宅政策課 055-983-2644
4か月前 交付決定を受けてから契約。着工前契約は不可 ―
着工 年度内に完了する工程か再確認(年度をまたぐと補助金は交付されない) ―
竣工後3か月以内 固定資産税の減額申告(管理組合が取りまとめ可。添付書類は全体で1部) 課税課資産税係 055-983-2627
引き継ぎ時 「電話した日付・担当課・聞いたこと・答え」の4点をA4 1枚で申し送り ―

最後の行が地味ですが、いちばん効きます。理事の任期が1年だと、せっかく市に確認した内容が翌年に消えてしまいます。A4で1枚、4項目。これだけで次の理事会が半年ぶん先に進めます。


相見積りで見るべき3点

工法の話をした流れで、見積書の読み方も書いておきます。

1. 数量の根拠は「図面拾い」か「現地実測」か

下地補修の数量は、図面から拾った推定値なのか、実際に建物を叩いて調べた実測値なのかで、精度がまったく違います。図面拾いだけの見積りは、着工後に数量が跳ね上がることがあります。

2. 仕様はメーカー名・製品名・グレードまで書かれているか

「弾性塗料」「ウレタン防水」だけでは比較できません。同じウレタン防水でも、材料と工程で耐用年数が変わります。3社の見積りを並べたとき、仕様が揃っていなければ金額の比較に意味がありません。

3. 「別途」の中身と、下地補修の追加単価

見積書の「別途」は要注意です。何が別途なのかを明示させてください。そして、下地補修の想定数量を超えた場合の㎡単価を、契約前に見積書へ書かせる。 これは紛争予防として、私がいつも申し上げていることです。着工後に「追加です」と言われてから単価を交渉するのは、圧倒的に不利です。


よくある質問(FAQ)

Q1. 三島市に、マンションの大規模修繕そのものへの補助金はありますか?

A. 公開情報の範囲では見当たりませんでした。効くのは、管理計画認定制度(市の申請手数料は無料)、マンション長寿命化促進税制(固定資産税の3分の1減額)、非木造住宅の耐震診断事業(上限200万円)、ブロック塀等耐震改修促進事業の4つです。

Q2. 三島市のマンション長寿命化促進税制の減額割合は?

A. 一戸当たり100平方メートルの床面積相当分までの固定資産税額の3分の1です。減額されるのは工事完了年の翌年度分で、都市計画税は減額されません(出典:三島市)。

Q3. 管理計画認定の申請にお金はかかりますか?

A. 三島市への認定申請手数料は無料です。ただし、公益財団法人マンション管理センターのシステム利用料と事前確認審査料は別途かかります。申請は同センターのオンラインシステムのみで、三島市の窓口では受け付けていません。

Q4. 築30年のマンションですが、耐震診断の補助は使えますか?

A. 対象は昭和56年5月31日以前に着工された建築物です。築30年(1996年前後の竣工)であれば新耐震のため対象外です。旧耐震かどうかは建築確認の日付でご確認ください。判断に迷う場合は住宅政策課建築指導係(055-983-2644)へ事前にご相談ください。

Q5. 補助金の申請はいつまでにすればよいですか?

A. 三島市の地震対策補助事業は、各事業の申請受付が12月中で終了します。予算がなくなり次第終了する場合もあります。加えて「年度をまたぐ事業には補助金を交付できない」と明記されているため、年度内に完了する工程で組む必要があります(出典:三島市)。

Q6. ブロック塀の撤去、うちは補助が18万円までですか?

A. 避難路・避難地・通学路沿いの道路に面したブロック塀であれば、基準額20,000円/mで上限なしです。それ以外の道路沿いは基準額9,000円/mで1敷地18万円が上限です。市が「通学路沿いであるか確認しますので、事前にご相談ください」と案内していますので、自己判断せず住宅政策課へお問い合わせください。

Q7. ロープアクセス工法は、どんなマンションでも使えますか?

A. いいえ。タイルの浮きが広範囲で下地補修の物量が多い建物では、足場を架けたほうが安く早く済むこともあります。屋上にアンカーを設置できる構造かどうかも条件になります。技術的な考え方はロープアクセスドットコムをご覧ください。

Q8. 9月12日のセミナーは、理事長でなくても参加できますか?

A. 三島市は「どなたでも参加できます」と案内しています。定員30人(1組2名まで、先着順)、参加費は無料です。申込は9月8日(火曜日)までに電話055-983-2750、FAX 055-973-6722、または電子申請で受け付けています。

Q9. アスベストの調査費用に、三島市の補助はありますか?

A. 三島市については、民間建築物の吹付けアスベストに関する補助制度を公開情報の範囲で確認できませんでした。近隣の静岡市・沼津市・富士市には制度が公表されています。三島市では調査費を自己負担前提で予算に計上しておくことをおすすめします。


この記事のポイントまとめ

  • 三島市に大規模修繕への直接補助は見当たらない。効くのは認定制度・税制・耐震診断・ブロック塀の4つ
  • 直近の締切は2026年9月8日(9月12日開催のマンション管理セミナー申込)。定員30人・先着順
  • 三島市のマンションは97棟。25年以上の長期修繕計画があるのは約47%で国平均を下回る
  • 管理計画認定の市手数料は無料。市独自の上乗せ基準もない
  • マンション長寿命化促進税制の三島市の減額割合は3分の1。外壁塗装・床防水・屋根防水を同一契約で実施が要件
  • 税制の申告は工事完了から3か月以内。管理組合が取りまとめれば添付書類は全体で1部
  • 非木造住宅の耐震診断事業は経費の3分の2以内・上限200万円(対象可否は事前相談が必要)
  • 地震対策補助事業は12月中に受付終了、かつ年度をまたぐ事業は交付不可
  • ブロック塀は通学路沿いなら上限なし(基準額20,000円/m)、それ以外は1敷地18万円
  • 三島市は海に面していないため塩害は軽い。一方で氷点下の朝が年32日、9月は年間最多降水
  • 三島駅南口で全6棟の再開発が2028〜2029年竣工。職人・資材の需給は今後タイトになる可能性
  • 仮設足場は総工事費の15〜25%。補助金より先に、ここを検討する価値がある

静岡県東部の近隣市の記事もあわせてどうぞ

三島市の管理組合の方から「隣の市はどうなっているのか」と聞かれることがよくあります。制度は市ごとに違いますので、比較材料としてお使いください。


主なお問い合わせ先

用件 窓口 電話
マンション管理計画認定制度・セミナー 三島市 計画まちづくり部 住宅政策課 三島住まい推進室 055-983-2750
耐震診断・ブロック塀等の補助 三島市 住宅政策課 建築指導係 055-983-2644
固定資産税の減額申告 三島市 財政経営部 課税課 資産税係 055-983-2627/055-983-2758
三島市役所(代表) 〒411-8666 静岡県三島市北田町4-47 055-975-3111
管理計画認定制度の相談 一般社団法人 日本マンション管理士会連合会 03-5801-0858(平日10〜17時)

出典・参考資料

※本記事は2026年8月22日時点で公表されている情報をもとに作成しています。補助制度は年度ごとに内容・予算・受付期間が変更されることがあります。申請の前に、必ず各窓口の最新情報をご確認ください。また、本記事は税務・法務の助言を目的としたものではありません。個別の判断は、所管課および専門家にご相談ください。


執筆者:本間 幸紘(株式会社明誠 代表取締役)
専門領域:マンション大規模修繕/ロープアクセス工法/建物長寿命化計画
実務経験:建設・改修業界 20年以上
所属:一般社団法人 全国建設業支援協会(JCSA)

株式会社明誠について:東京都東大和市を拠点に、東京・関東一円でロープアクセス工法と従来足場工法の両方を提案できる改修会社です。日本初のロープアクセス工事フランチャイズを展開し、塗装・防水・タイル・電気・看板などの専門職が加盟しています。

最終更新:2026年8月22日


三島市の管理組合の方へ。この記事でいちばんお伝えしたかったのは、補助金の金額ではなく順番です。工法を決める前に長期修繕計画を開き、契約する前に市に電話をする。それだけで、使える制度の数が変わります。

まずは9月8日までに、セミナーの申込みだけでも入れてみてください。それが難しければ、電話2本で20分です。住宅政策課(055-983-2750)と建築指導係(055-983-2644)。理事会で1分だけでも、この話題を出していただけたらと思います。

ご相談だけでも遠慮なくお声がけください。総会の前段階の整理だけでも、お力になれることがあります。お問合せフォームからどうぞ。

富士市のマンション補助金|大規模修繕2026年版

2026年8月21日 更新

富士市の分譲マンションで大規模修繕を控えている理事会の方から、いちばん多くいただく質問はこれです。

「富士市に、マンションの大規模修繕そのものに出る補助金はありますか?」

先に結論を申し上げます。2026年8月時点で、富士市が共用部の大規模修繕工事そのものに直接お金を出す補助制度は、市の公開情報からは確認できませんでした。

ただ、ここで読むのをやめないでください。富士市には、他の市にはない「管理組合にとって手続きのハードルがいちばん低い」仕組みが2つあります。しかも、そのどちらも市が意図的にそう設計したことが、市の公式文書から読み取れます。

  • 管理計画認定の申請手数料が「無料」(静岡市は3,800円〜26,900円)
  • マンション長寿命化促進税制の申告を、管理組合が一括で出せる(区分所有者ひとりひとりの申告書がなくても減額が適用される)

私は株式会社明誠の本間と申します。マンション・ビル・ホテルの大規模修繕を、足場工法・無足場のロープアクセス工法・両者のハイブリッド工法の3つから提案する会社をやっています。この記事では、富士市の分譲マンション管理組合が2026年度に本当に使える制度を、市の一次情報だけを根拠に整理します。


この記事で答える5つの質問

  1. 富士市に、マンション共用部の大規模修繕への直接補助はあるか
  2. 富士市の管理計画認定制度は、なぜ手数料が無料なのか
  3. 長寿命化促進税制の申告を、理事会が一括でできるとはどういうことか
  4. 分譲マンションは、富士市の耐震補助やアスベスト補助の対象になるか
  5. 補助金より先に、富士市の管理組合が着手すべきことは何か

結論:富士市の管理組合が今すぐ確認すべき4制度

まず全体像を表にします。金額と根拠は、すべて富士市の公式ページから引いています。

制度 分譲マンション共用部への適用 補助率・限度額 窓口
大規模修繕そのものへの直接補助 公開情報では確認できず ― ―
マンション管理計画認定制度 ○ 市が受付。手数料は無料 手数料0円(別途センター利用料) 住宅政策課 0545-55-2814
マンション長寿命化促進税制 ○ 固定資産税を3分の1減額 1戸100㎡相当分まで・1年度分 資産税課 0545-55-2744
既存建築物耐震性向上事業(耐震診断) △ 「非木造建築物」が対象。要確認 基準額と経費の少ない額の2/3以内・1棟最大300万円 建築土地対策課 0545-55-2791
民間建築物吹付けアスベスト対策助成 △ 対象者は「所有者又は管理者等」 分析調査=全額(25万円/棟)/除去等=2/3以内(60万円/敷地) 建築土地対策課 0545-55-2791
ブロック塀等耐震改修促進事業 ○ 敷地の道路沿いの塀が対象 撤去 上限26万6千円/改善(新設)上限33万3千円 建築土地対策課 0545-55-2791

この記事の要点を一言でいうと、「富士市は、お金を配る制度ではなく、管理組合が手続きしやすくする制度で支援している市」です。そしてその設計思想を知っているかどうかで、総会に出す議案の中身が変わります。


富士市の分譲マンションは75棟しかない。だから相場が見えない

制度の話に入る前に、富士市という街の数字を押さえておきます。ここが理事会の判断に直結します。

富士市マンション管理適正化推進計画(令和5年12月策定)に、市自身がこう書いています。

本市のマンション棟数は、令和3年4月時点で 75 棟、そのうち 12 棟(16%)が築 40 年を超える状況(出典:富士市「富士市マンション管理適正化推進計画」)

築年数の内訳はこうです。

築年数 棟数 割合
10年未満 9棟 12%
10年以上20年未満 20棟 26.5%
20年以上30年未満 20棟 26.5%
30年以上40年未満 14棟 19%
40年以上 12棟 16%

そして計画は、10年後には26棟(35%)、20年後には46棟(61%)が築40年超になると見込んでいます。

75棟。これは決して多い数字ではありません。私が申し上げたいのは、この「少なさ」が管理組合に不利に働くという話です。

分譲マンションの絶対数が少ない街では、大規模修繕を専門にやっている地元の施工会社が育ちにくくなります。すると理事会は「相見積りを3社取ろう」と思っても、そもそも比較できる母数が限られる。近隣の話を聞こうにも、隣のマンションが工事をしたのが12年前、ということが普通に起こります。

相場感がない状態で見積書を1枚だけ見ると、人はその金額を「そういうものだ」と受け入れてしまう。現場で20年やってきて、私が一番悔しい思いをするのはこの瞬間です。

ただ、富士市には救いがあります。東名高速 富士IC・新東名 新富士IC、東海道新幹線 新富士駅、国道1号富士由比バイパスと、交通の便が非常に良い。静岡市からも沼津市からも、日帰りで職人が動ける距離です。宿泊費や長距離移動費が見積りに乗らない立地というのは、山間部の市にはない富士市の強みです。相見積りの候補を市内に限定する必要はありません。


富士市の最大の特徴①:管理計画認定の手数料が「無料」

ここからが本題です。

マンション管理計画認定制度は、マンションの管理状態が国の基準を満たしていることを自治体が認定する仕組みです。2022年(令和4年)4月から始まりました。富士市は市長が認定を行う自治体で、窓口は都市整備部住宅政策課 住まい政策担当(市庁舎7階北側/電話 0545-55-2814)です。

そして、市のページにこう書かれています。

認定申請にかかる手数料は無料です。ただし、(公財)マンション管理センターのシステム利用料及び事前確認審査料が必要となります。(出典:富士市「マンション管理認定制度について」)

なぜ無料なのか。市が推進計画に理由を書いている

これは単なる「たまたま無料」ではありません。富士市マンション管理適正化推進計画に、政策判断としてこう明記されています。

(公財)マンション管理センター等の管理計画認定手続き支援サービスを利用し、市に提出する認定申請書に「事前確認適合証」の添付を必須とすることで、申請手数料を無料にすることとします。

つまり富士市は、「専門家の事前確認を必ず通してもらう代わりに、市の審査手数料はゼロにする」という取引をしているわけです。

比較すると、この意味がはっきりします。同じ静岡県内でも、静岡市は事前確認適合証ありで3,800円、なしで26,900円の手数料がかかります。富士市は、事前確認を通す前提であれば市に払う手数料が0円。管理組合の負担は、マンション管理センターのシステム利用料と事前確認審査料だけです。

認定を取ると、何が変わるのか

市のページが挙げている効果は6つです。

  1. 区分所有者の管理への意識が高く保たれ、管理水準を維持向上しやすくなる
  2. 適正に管理されたマンションとして、市場において評価される
  3. 適正に管理されたマンションが存在することで、地域価値の維持向上につながる
  4. 住宅金融支援機構融資の「フラット35」やマンション共用部分リフォーム融資の金利引下げが受けられる
  5. 「マンションすまい・る債」における利率上乗せが受けられる
  6. マンション長寿命化促進税制の適用対象となる

理事会にとって現実的に効くのは4・5・6です。特に6は、この記事の次の章でくわしく説明します。

富士市の認定マンションは、現在3件

市は認定を受けたマンションを実名で公表しています。

マンション名 所在地 建築年月 戸数
エンゼルハイム富士壱番館 富士市水戸島 1988年10月 51戸
エンゼルハイム富士弐番館 富士市水戸島 1989年9月 68戸
エンゼルハイム富士参番館 富士市水戸島 1990年4月 84戸

3件とも水戸島、3件とも築35年以上、合計203戸。私はこの一覧を見たとき、率直に「もったいない」と思いました。75棟あるうちの3棟しか取っていない。そして取っているのは、いずれも築年数が古く、管理に本気で取り組んできたであろう組合です。

築年数が古いマンションほど認定のメリットが大きい、というのは理屈のうえでも正しい。長寿命化促進税制は築20年以上が要件ですし、共用部リフォーム融資の金利引下げが効くのは借入をする組合です。

認定の基準は、そのまま理事会のチェックリストになる

富士市は独自基準を設けていません。国の基準そのままです。推進計画に掲げられた主な数値要件を並べます。

分野 主な基準(要旨)
経理 修繕積立金の3か月以上の滞納額が、全体の1割以内であること
長期修繕計画 作成または見直しが7年以内に行われていること
長期修繕計画 計画期間が30年以上で、残存期間内に大規模修繕工事が2回以上含まれること
長期修繕計画 計画期間の最終年度において、借入金の残高のない計画であること
名簿 組合員名簿・居住者名簿を備え、1年に1回以上内容の確認を行っていること
運営 管理者等が定められ、集会(総会)が年1回以上開催されていること
規約 管理規約を作成し、必要に応じて改正していること
その他 静岡県マンション管理適正化指針に照らして適切であること

正直に申し上げます。認定を取るかどうか以前に、この表を理事会で読み合わせるだけで価値があります。「うちは長期修繕計画を最後にいつ見直した?」という問いが出るだけで、その理事会は一歩前に進んでいます。

認定基準の詳細は市が管理計画の認定基準(PDF)を公開しています。


富士市の最大の特徴②:長寿命化税制を、管理組合が一括申告できる

ここが、私が今回いちばん驚いた一次情報です。

マンション長寿命化促進税制は、一定の要件を満たすマンションで長寿命化に資する大規模修繕工事を行うと、翌年度の固定資産税が減額される制度です。富士市の資産税課のページには、減額割合が明確に書かれています。

1戸あたりの居住部分が100平方メートルまでに相当する固定資産税額の3分の1を減額(出典:富士市「大規模の修繕等が行われたマンションに対する減額を受ける場合」)

減額割合は市町村の条例で決まるため、市によっては公開ページから読み取れないことがあります。富士市は3分の1と明記しています。ここは助かります。

「区分所有者の申告書がなくても適用される」という一文

そのうえで、同じページの末尾にこう書かれています。

なお、マンション管理組合の管理者等から、減額に必要な書類の提出があった場合は、区分所有者から減額の申告書の提出がなかったとしても、減額が適用されます。

この一文の実務上の意味は、非常に大きい。

固定資産税は区分所有者ひとりひとりに課税されます。原則どおりなら、50戸のマンションなら50人が個別に申告書を出さなければならない。転勤中の方、相続で連絡がつきにくい方、賃貸に出していて市外に住んでいる方——現実には、全員から3か月以内に書類を回収するのは至難の業です。

富士市は、そこを理事長がまとめて出せるようにしている。私はこれを、他の自治体の記事を書いてきた中で初めて明文で見ました。

理事会の実務としてはこうなります。工事の完了日から3か月以内に、資産税課 家屋担当(市庁舎3階南側/電話 0545-55-2744)へ、管理者等として必要書類を提出する。それだけで区分所有者全員に減額が及ぶ。

要件と必要書類

区分 内容
対象期間 令和5年4月1日〜令和9年3月31日に工事完了
家屋の要件① 築後20年以上経過している10戸以上のマンション
家屋の要件② 長寿命化工事を過去に1回以上適切に行っている
家屋の要件③ 修繕積立金が確保されている(市の助言・指導を受けて長期修繕計画を見直し積立金を引き上げた場合、または管理計画認定マンションで令和3年9月1日以降に認定基準適合のため積立金を引き上げた場合)
工事の要件 2回目以降の長寿命化工事であること
工事の中身 屋根防水工事・床防水工事・外壁塗装等工事
減額の内容 1戸100㎡相当分までの固定資産税額の3分の1
減額の期間 工事完了日の属する年の翌年1月1日を賦課期日とする年度の1年間
申告期限 工事完了日から3か月以内
併用不可 耐震改修・バリアフリー改修・省エネ改修・長期優良住宅化改修の減額とは併用不可
対象外 都市計画税は減額されない

必要書類は7点です。

  1. 大規模の修繕等が行われたマンションに対する固定資産税の減額申告書
  2. 大規模の修繕等証明書
  3. 過去工事証明書
  4. 総戸数がわかる書類
  5. 管理計画認定通知書(管理計画認定マンションの場合)
  6. 修繕積立金引上証明書(同上)
  7. 助言・指導内容実施等証明書(助言・指導を受けた管理組合の場合)

理事会が見落としがちな2つの落とし穴

ひとつ目。工事の仕様書に「屋根防水・床防水・外壁塗装等」の3つが入っているか。この3点セットが揃っていないと、長寿命化工事として認められません。設計段階で「屋上防水は次回に回そう」と決めた瞬間に、この税制は消えます。私はこれを、必ず仕様確定の前に確認するようお伝えしています。

ふたつ目。「大規模の修繕等証明書」と「過去工事証明書」は、誰かが発行しなければ存在しない書類です。証明書の発行を工事契約や設計監理業務の中に含めておかないと、竣工後に慌てて探すことになります。3か月という期限は、想像よりずっと短い。

様式は市が減額申告書(PDF)を公開しています。各証明書の様式は国土交通省のマンション長寿命化促進税制のページからたどれます。


富士市が本当に困っているのは「長期修繕計画」だった

補助金の話をひととおりしたところで、富士市の管理組合にとっての本丸をお話しします。

富士市マンション管理適正化推進計画に、こんな調査結果が載っています。市内の分譲マンションが、修繕積立金の金額を何を根拠に決めているかという調査です。

修繕積立金の金額設定の根拠 棟数 割合
長期修繕計画(25年以上)に基づく 19棟 25%
長期修繕計画(25年未満)に基づく 4棟 5%
分譲時のまま 9棟 12%
なし 2棟 3%
不明 41棟 55%

55%が「不明」。そして市自身が、こう書いています。

令和3年度の 25 年以上の長期修繕計画に基づき修繕積立金を設定している管理組合の割合は 25%であり、国の平成 30 年度マンション総合調査の結果に基づく全国平均の 53.6% より低い

全国平均の半分以下です。市はこれを成果指標に据え、令和13年度までに54%へ引き上げるという目標を掲げています。

私はこの数字を見て、富士市の理事会に一番お伝えしたいことが決まりました。

補助金を探すより先に、長期修繕計画を開いてください。

理由は3つあります。

  1. 管理計画認定の基準に「7年以内の見直し」「計画期間30年以上」が入っている。ここが崩れていると認定が取れない
  2. 長寿命化促進税制の要件③(修繕積立金の確保)が、計画の見直しと積立金の引上げを前提にしている
  3. そもそも、計画がなければ工事金額が高いのか安いのか判断できない

つまり、この記事で紹介した富士市の「手数料無料」「一括申告」という優しい制度は、長期修繕計画がある組合しか使えないのです。入口はそこにしかありません。

市は「今後も5年に1度をめどに、定期的に市内のマンション管理組合に対しアンケート等を実施」するとしています。次の調査で「不明」を選ばずに済む状態にしておく。それがこの5年の宿題です。


分譲マンションは耐震補助の対象になるのか——正直な答え

富士市の耐震補助は「プロジェクトTOUKAI-0」の枠組みで、富士市既存建築物耐震性向上事業として運用されています。RC・SRCのマンションは「非木造建築物」に入ります。

耐震診断:使える可能性がある

市のページには「昭和56年5月31日以前に建築された非木造建築物を所有の方は、耐震診断・補強計画・耐震補強工事を行うことで補助金を受けることができます」とあり、共同住宅を除外する文言はありません。

構造・用途 延べ面積 補助基準額
木造以外の一戸建て住宅 ― 130,000円/戸
その他の建築物 1,000㎡未満の部分 2,000円/㎡
その他の建築物 1,000㎡以上2,000㎡未満の部分 1,500円/㎡
その他の建築物 2,000㎡以上の部分 1,000円/㎡

補助額は「基準額と耐震診断経費を比較して少ない額の3分の2以内」、1棟最大300万円まで(出典:富士市「非木造建築物の耐震対策について」)。

延べ3,000㎡のマンションで計算すると、1,000㎡×2,000円+1,000㎡×1,500円+1,000㎡×1,000円=450万円が基準額。その3分の2は300万円で、限度額にちょうど届きます。

補強計画・補強工事:要件が厳しい

一方、補強計画と耐震補強工事は、次の要件をすべて満たす建築物が対象です。

  • 昭和56年5月31日以前に建築された建築物(木造住宅以外)
  • 耐震改修促進法または建築基準法の認定
  • 災害時の拠点となる建築物、又は不特定多数の者が利用する建築物
  • 敷地に接する道路の中心線以内の面積が500㎡以上
  • 地上3階以上の耐火または準耐火建築物
  • 延べ面積1,000㎡以上

問題は3つ目です。分譲マンションは「特定多数」が利用する建築物であって、「不特定多数」とは通常呼びません。一般の分譲マンションがこの要件に該当するかは、市のページからは判断できませんでした。

ここは断定を避けます。静岡市のように「3階以上かつ延べ面積1,000㎡以上の非木造共同住宅(マンション)」と明文で書いている市もあれば、富士市のように書いていない市もある。建築土地対策課 建築安全推進担当(0545-55-2791)に電話で1行確認するのが確実です。聞くべきことはシンプルです。

「分譲マンションは、既存建築物耐震性向上事業の耐震診断・補強計画・補強工事の対象になりますか」

なお、この事業は「年度毎の予算の範囲内で交付する補助事業」と明記されています。予算枠がある制度は、早く動いた組合が有利です。

富士市固有のリスク:富士川河口断層帯

富士市耐震改修促進計画(第4期・令和8〜12年度)は、富士市が備えるべき地震を3つ挙げています。

想定地震 規模 静岡県全体の被害想定
南海トラフ巨大地震 マグニチュード9.0程度 全壊・焼失 約30万棟/死者 約105,000人
相模トラフ沿いの地震(元禄型関東地震) マグニチュード8.2程度 全壊・焼失 約2.7万棟/死者 約6,000人
富士川河口断層帯における地震 駿河トラフの海溝型地震と連動しM8程度の可能性 ―

3つ目の富士川河口断層帯は、まさに富士市の足元を走る断層帯です。計画は「駿河トラフで発生する海溝型地震と連動して同時に活動すると推定されており、この場合、海溝型地震と併せてマグニチュード8程度の地震となる可能性がある」としています。

一方で、富士市の耐震化はかなり進んでいます。

区分 耐震化率 時点
住宅全体 94.9% 令和5年
うち非木造住宅 96.3% 令和5年
多数の者が利用する特定建築物 93.9% 令和6年度末
要緊急安全確認大規模建築物 100% 令和6年度末
沿道建築物 耐震診断を完了し耐震性を確保 ―

非木造住宅の耐震化率96.3%。富士市の分譲マンションにとって、躯体の耐震性はほぼ解決済みの論点だと言っていい数字です。

だからこそ、計画の次の一文が効いてきます。

新築時は耐震性能が確保されていても、時間の経過とともに、ひび割れや変形、老朽化などに見舞われ、経年劣化による耐震性能の低下が懸念される。適切なメンテナンスが行われていない建築物はなおのことである。

そして——

地震によって瓦屋根、窓ガラス、外装材等(以下「非構造部材等」という。)や屋外広告物が落下すると、通行人等に死傷者が出るおそれがある

躯体が新耐震でも、浮いたタイル・傷んだ手すり・劣化したシーリングは落ちます。大規模修繕は美観の問題ではなく、安全の問題です。私が理事長さまに毎回お伝えしているのは、この一点です。

計画は「リフォーム工事に併せて耐震改修工事を行うことは、所有者等にとって費用及び手間を軽減できるという面で有効である」とも書いています。足場を2回架けるか、1回で済ませるか。これは工程の問題であると同時に、数百万円単位の金額の問題です。


アスベスト:調査は全額補助、除去は自己負担を覚悟する

民間建築物吹付けアスベスト対策助成制度は、大規模修繕の隠れたリスクに直結します。

補助対象事業 補助額 限度額
分析調査事業(吹付け建材のアスベスト含有の有無に係る分析調査) 費用の全額 25万円/棟
除去等事業(除去、封じ込め又は囲い込みの工事) 費用の3分の2以内 60万円/敷地

補助対象者は「補助申請建築物の所有者又は管理者等」と書かれています。管理者=管理組合の理事長が申請できる余地のある表現です。ただし受理されるかは個別判断ですので、事前に建築土地対策課へご確認ください(出典:富士市「アスベスト対策事業(補助制度)」)。

補助率の落差から読み取るべきこと

調査は全額、除去は3分の2で上限60万円。この落差には意味があります。

調査は手厚い。だから先に走らせる。除去は薄い。だから自己負担前提で長期修繕計画に載せる。これが富士市での正しい読み方です。

実際の除去工事は、面積によっては数百万円規模になります。60万円で足りる想定は危険です。

平成29年度から「建築物石綿含有建材調査者」(アスベストの調査ができる有資格者)の関与が義務付けられています。また、市のページには「補助制度については令和2年度末で終了予定でしたが、延期することとなりました」とあり、終期は明示されていません。制度が続いているうちに調査だけでも終わらせるのが賢い判断だと私は思います。

現場で本当にあった話

これは私が経験した話です。築40年を超えるマンションで、足場を架けて外壁の下地を開けたところ、機械室の天井裏から吹付け材が出てきました。

工事は止まります。調査、分析、対策方針の決定、追加の総会——全部やり直しです。足場は架かったまま、日数だけが過ぎていく。仮設足場は借りている期間ぶんお金がかかりますから、待っているだけで費用が積み上がります。

吹付け材が見つかりやすいのは、機械室・電気室・屋内駐車場の天井・階段室の裏・エレベーター機械室・パイプスペースです。設計に入る前に、この6か所だけでも調査しておく。分析調査は全額補助なのですから、やらない理由がありません。

なお注意点として、市は「除去等事業の補助を受ける場合は、工事を実施する前に助成金の交付申請手続きをし、交付決定を受けていただく必要があります」「交付申請の後、交付決定日(工事着手可能日)まで期間を要する場合があります」と明記しています。工程表を組むときは、この待ち時間を必ず見込んでください。


ブロック塀:撤去は「すべて撤去」が条件

敷地の道路沿いにブロック塀があるマンションは、富士市ブロック塀等耐震改修促進事業を確認する価値があります。

対象は「道路に面し、高さが60センチメートルを超えるもの」。そして重要な条件があります。

撤去する場合、すべて撤去することが条件となります。

部分撤去は認められません。

対象事業 対象区域 補助額
撤去(通学路・避難路等) 小学校の通学路、緊急輸送路、避難地に面するもの 工事費と「1mにつき20,000円」の少ない方の3分の2(上限26万6千円)
撤去(道路) 通学路・避難路等以外の市内全域の道路 工事費と「1mにつき9,200円」の少ない方の2分の1(上限10万円)
改善(新設) 小学校の通学路、緊急輸送路、避難地に面するもの 工事費と「1mにつき38,400円」の少ない方の3分の2(上限33万3千円)

(出典:富士市「危険なブロック塀等の撤去・改善を支援します。」)

塀は「別契約」に切り出す

ここで実務上の注意を申し上げます。市はこう明記しています。

補助制度を利用される場合には、手続きが必要ですので、事前に建築土地対策課へ相談をお願いします。なお、手続き前に補助対象事業を進めた場合には、補助の対象になりませんのでご注意ください。

大規模修繕の総合契約に塀の撤去を混ぜ込むと、契約日が交付決定より前になって補助対象から外れる恐れがあります。塀だけは別契約に切り出し、交付決定を待ってから着工する。この段取りだけで26万6千円が残ります。

市はブロック塀の点検と改善(PDF)を公開しています。理事会で配って、まず自分たちの塀が何段あるかを確認するところからで十分です。


誤解しやすい制度を、先回りで仕分けしておきます

「富士市 マンション 補助金」で検索すると、実は分譲マンションの共用部には使えない制度がたくさん出てきます。総会で「あの補助金は使えないの?」と聞かれる前に、理事会で答えを用意しておきましょう。

制度 分譲マンション共用部への適用 理由
富士市木造住宅耐震補強事業(上限100万円) × 対象は「昭和56年5月以前に建築された木造住宅」。RC・SRCは対象外
耐震シェルター・防災ベッド設置(上限40〜50万円) × 旧耐震の木造住宅が対象
市民ゼロカーボンチャレンジ補助金 × 「市内の自ら居住する住宅において対象設備等を導入・改修すること」が要件。加えて令和8年6月30日で受付終了
富士市空き家リフォーム支援補助金 × 空き家が対象
富士地域材使用住宅取得費補助金(富士ヒノキの家) × 住宅取得が対象

とくに「富士市は耐震改修に最大100万円」という情報は、ネット上でよく見かけます。これは木造住宅の補強計画一体型の金額(耐震評点1.0未満の木造住宅が、工事後に1.0以上かつ0.3ポイント以上上がる場合、経費の10分の8と比較して少ない額・上限1戸100万円)であって、RC・SRCのマンション共用部には当たりません。ここを混同したまま総会に持ち込むと、後で訂正するはめになります。

ただし、木造の制度が無意味かというとそうではありません。理事の方が市内に旧耐震の木造戸建てを所有していることは珍しくない。掲示板に市のTOUKAI-0パンフレットを貼るだけで、区分所有者の何人かは助かります。理事会が「住民のために動いている」と伝わる、費用ゼロの一手です。


補助金の桁と、仮設足場の桁を並べてみてください

ここまで富士市の補助制度を細かく見てきました。最後に、少し引いた視点でお話しします。

大規模修繕工事において、仮設足場は総工事費のおおむね15〜25%を占めます。実額にするとこうです。

総工事費 仮設足場の概算(15〜25%)
3,000万円 450万〜750万円
5,000万円 750万〜1,250万円
8,000万円 1,200万〜2,000万円

一方、この記事で紹介した富士市の補助金は、ブロック塀撤去で上限26万6千円、アスベスト除去で上限60万円です。

桁が2つ違います。

私は補助金を軽んじているのではありません。取れるものは取るべきです。ただ、理事会が議論に費やす時間の配分は、金額の大きさに合わせるほうが合理的だと申し上げたい。補助金の書類に3回の理事会を使い、工法の検討には30分しか使わない——それでは順番が逆です。

「敷地に余裕があるから足場」で思考を止めない

富士市は、静岡市や沼津市の中心部と比べて敷地に余裕のあるマンションが多い。だからこそ「足場が組めるのだから足場でいい」と、そこで検討が終わってしまいがちです。

理事会で3つだけ問いを立ててみてください。

  1. 今回は全面改修なのか、部分補修なのか
  2. 居住者が2〜3か月バルコニーを塞がれる生活を受け入れられるか
  3. 見積書の「仮設工事」という費目の内訳は何か

3つの工法を並べて考える

私の会社は、足場・ロープアクセス・ハイブリッドの3つから提案しています。施工会社である私が言うのですから、当然そこには利害があります。そのうえで、フラットに比較表を置きます。

項目 通常足場工法 ロープアクセス工法(無足場) ハイブリッド工法
仮設費 大(総工事費の15〜25%) 小 中
工期 長い 短い やや短い
居住者への影響 大(バルコニー使用制限・視線・防犯) 小 中
全面改修への適性 ◎ △(部位による) ○
部分補修・緊急対応 △(架設に時間) ◎ ○
足場が組めない面 × ◎ ◎

ロープアクセス工法がすべての建物に向くわけではありません。全面的な下地補修が必要な建物、タイルの浮きが広範囲に及ぶ建物は、足場を架けたほうが結果的に安く早いこともあります。ここを正直に言わない会社は、私は信用しません。

だから私は、部位ごとに使い分けるハイブリッド工法を提案することが多いのです。ロープアクセス工法の技術的な解説や安全基準については、姉妹サイトのロープアクセスドットコムにまとめています。工法そのものを知りたい理事の方は、そちらのほうが読みやすいはずです。明誠のサービスとしての説明はロープアクセス工法のご紹介をご覧ください。

富士市でのモデルケース

実際の建物条件で金額は変わりますので、あくまで考え方の例として2本挙げます。

ケース1:富士駅周辺/築26年・8階建て・42戸
全面足場で7,000万円の見積り。バルコニー側は足場、妻面と屋上まわりはロープアクセスというハイブリッドに組み替えて6,100万円。差額900万円、1戸あたり約21万円。工期は約1か月短縮。

ケース2:市郊外/築42年・5階建て・18戸
足場で3,300万円。ロープアクセス主体に切り替えて2,700万円。差額600万円、1戸あたり約33万円。さらに住宅金融支援機構の共用部分リフォーム融資を使い、一時金の徴収をゼロに。

ケース2で注目していただきたいのは、18戸で3,300万円=1戸あたり183万円という重さです。戸数が少ないマンションほど、1戸の負担は跳ね上がります。富士市の75棟には、こういう規模の建物が相当数あるはずです。


修繕積立金が足りないとき、打ち手は4つある

総会で「お金が足りない」となったとき、選択肢は4つです。

打ち手 内容 注意点
① 一時金の徴収 区分所有者から工事直前にまとめて集める 反対が最も出やすい。合意形成に時間
② 借入 住宅金融支援機構の共用部分リフォーム融資など 管理組合名義。全期間固定。マンション管理センターの債務保証で理事長個人の連帯保証は不要
③ 段階施工 工事を2回・3回に分ける 仮設費が回数ぶんかかり、総額はむしろ増える
④ 工法の見直し 足場前提の仕様を組み直す 設計に入る前でないと選べない

私が申し上げたいのは順番です。④を最初に検討してください。

設計に入る前なら選択肢は4つあります。しかし設計事務所と仕様を固め、業者選定に入ってしまうと、④は事実上消えます。仮設計画を含んだ図面と数量が確定した後で「やっぱりロープアクセスで」とはなりません。

管理計画認定を取っていれば、②の金利が引き下げられます。「一時金50万円」という議案と、「月々3,000円の積立金見直し」という議案は、同じ金額を集める話でも、総会での通り方がまったく違う。ここが認定を取る現実的なメリットです。

住宅金融支援機構の制度はマンション共用部分リフォーム融資とマンションすまい・る債の2本立てです。すまい・る債は年1回募集・口数上限があり実質的に先着順ですので、検討するなら年度の早い段階で。


富士市の気候・立地が、外壁に与える3つの影響

富士市には、この街ならではの劣化要因があります。

要因 起きること 仕様への反映
駿河湾からの塩害(田子の浦・海沿いエリア) 鉄部から先に傷む。手すりの付け根、避難ハッチ、外部階段 ケレン等級と防錆下塗りの仕様を、海側と山側で分ける
富士山からの吹き下ろしと強風 シーリングの追従疲労、笠木・パラペットからの雨水浸入、飛来物による塗膜の傷 高追従型シーリング、笠木まわりの重点点検
日照時間の長さと紫外線 南面・西面の塗膜劣化が北面より明らかに早い 方位別の劣化評価。全面同一グレードは無駄が出る

ここが重要なのですが、方位や面によって傷み方が違うということは、面によって最適な工法も違うということです。

海側の鉄部が集中している面は、点検と補修を頻繁にやりたい。だからロープアクセスで機動的に。全面的に下地を打ち直す必要がある面は、足場を架けたほうが早い。これがハイブリッド工法が富士市で効く、技術的な理由です。

屋上防水の膨れを1年放置した話

以前、屋上防水に畳1枚ほどの膨れができているのを見つけたことがありました。理事会にお伝えしたのですが、「次の大規模修繕でまとめてやりましょう」となり、1年が経ちました。

翌年、膨れは数倍に広がっていました。下地まで水が回り、最上階の天井にシミが出ていた。補修費用は当初の数倍になり、シミが出た住戸の方との関係を修復するのに半年かかりました。

膨れは、放っておくとまず間違いなく大きくなります。中に入った水が夏に膨張し、冬に収縮し、防水層を内側から押し広げていくからです。台風シーズンが終わった秋に、年1回の屋上点検を——これは費用のかからない予防策です。


富士市の大規模修繕、工事に適した時期はいつか

静岡県東部は温暖なので、山梨県内の市のように「冬は施工条件を下回るからできない」という制約はほとんどありません。ただし富士市には別の事情があります。

時期 評価 理由
3月下旬〜6月上旬 ◎ 気温・湿度とも安定。最も条件が良い
6月中旬〜7月上旬 △ 梅雨。塗装・防水は乾燥待ちで工期が延びる
7月中旬〜8月 ○ 猛暑。作業効率は落ちるが施工は可能
9月〜10月中旬 △ 台風シーズン。足場の倒壊リスクと養生の手間
10月下旬〜11月 ◎ 空気が乾き、条件が良い
12月〜2月 ○ 温暖なので作業可能日が多い。ただし強風日に注意

年間で本当に良い窓は、春と晩秋の2つ。そしてこの窓は、市内の他のマンションも狙っています。

春の窓を押さえたければ、前年の秋までに業者選定を終えている必要があります。逆算すると、いま8月に理事会で話題に出すのは、決して早すぎません。


着工18か月前からの逆算カレンダー

理事の任期が1年という管理組合がほとんどです。だからこそ、やるべきことを日付に落としておく。それが次の理事会への最大の引き継ぎになります。

時期 やること 連絡先
18か月前 劣化診断を実施。長期修繕計画の最終見直しが7年以内かを確認 ―
17か月前 過去の大規模修繕の記録を集める(過去工事証明書に必要) ―
16か月前 管理計画認定の基準を、理事会で自己点検。規約改正の要否を判断 住宅政策課 0545-55-2814
15か月前 アスベスト分析調査を交付申請(全額補助なので先に走らせる) 建築土地対策課 0545-55-2791
14か月前 分譲マンションが耐震診断補助の対象か電話で確認 建築土地対策課 0545-55-2791
12か月前 工法を選定(足場/ロープアクセス/ハイブリッド)。設計はこの後 ―
11か月前 長寿命化促進税制の要件と減額割合を確認。仕様に3工事が入るか点検 資産税課 0545-55-2744
10か月前 マンション管理センターへ事前確認を依頼、適合証を取得 03-5801-0858
9か月前 資金計画。機構融資の事前相談。相見積り先を市外にも広げる ―
8か月前 富士市へ管理計画認定を申請(手数料無料) 住宅政策課 0545-55-2814
6か月前 ブロック塀の交付申請。塀は別契約に切り出す 建築土地対策課 0545-55-2791
4か月前 交付決定を受けてから契約 ―
竣工後3か月以内 長寿命化促進税制の申告(管理組合が一括で提出可) 資産税課 0545-55-2744
引き継ぎ時 電話した日付・担当課・聞いたこと・答えをA4 1枚にまとめて次期理事会へ ―

最後の行を軽く見ないでください。「いつ、どこに、何を聞いて、どう答えられたか」の4点セットをA4 1枚で残す。これができている管理組合は、理事が交代しても議論が振り出しに戻りません。


相見積りで、必ず確認していただきたい3点

工法を決めた後、複数社から見積りを取る段階でのお願いです。

1. 数量の根拠は、図面拾いか現地実測か
図面から拾った数量と、実際に測った数量は違います。とくに築年数の古い建物では、竣工図と現況が一致しないことが珍しくない。「どちらで出しましたか」と一言聞くだけで、その会社の姿勢が分かります。

2. 仕様は、メーカー名・製品名・グレードまで書かせる
「シリコン系塗料」では比較になりません。同じシリコン系でも、耐用年数が倍違う製品があります。メーカー名と製品名が入って、初めて3社の金額が同じ土俵に乗ります。

3. 「別途」の中身と、下地補修が想定を超えたときの追加単価
見積書の「別途」は、後から請求される項目だと考えてください。何が別途なのかを契約前に確認する。そして下地補修は、開けてみないと数量が確定しません。想定数量を超えた場合の㎡単価を、契約前に見積書へ明記させてください。これが工事中の紛争を防ぐ、いちばん確実な方法です。

大規模修繕全体の進め方については大規模修繕工事のご紹介にまとめています。


よくある質問(FAQ)

Q1. 富士市に、マンション共用部の大規模修繕そのものへの補助金はありますか。
A. 2026年8月時点の市の公開情報からは確認できませんでした。ただし、管理計画認定(申請手数料無料)とマンション長寿命化促進税制(固定資産税の3分の1減額)は分譲マンションが対象です。

Q2. 管理計画認定の手数料は本当に無料ですか。
A. 市のページに「認定申請にかかる手数料は無料です」と明記されています。ただし公益財団法人マンション管理センターのシステム利用料と事前確認審査料は別途必要です(出典:富士市)。

Q3. 長寿命化促進税制は、区分所有者全員が申告しなければいけませんか。
A. 富士市の場合、管理組合の管理者等から必要書類の提出があれば、区分所有者からの申告書がなくても減額が適用されると市が明記しています。申告期限は工事完了日から3か月以内、窓口は資産税課 家屋担当(0545-55-2744)です。

Q4. 分譲マンションは富士市の耐震補助の対象になりますか。
A. 耐震診断は「非木造建築物」が対象で、共同住宅を除く文言はありません。ただし補強計画・補強工事は「不特定多数の者が利用する建築物」等の6要件をすべて満たす必要があり、一般の分譲マンションが該当するかは市の公開情報から判断できませんでした。建築土地対策課(0545-55-2791)へご確認ください。

Q5. アスベストの調査費用は補助されますか。
A. 分析調査は費用の全額が補助され、限度額は25万円/棟です。除去等工事は3分の2以内・60万円/敷地が限度で、実際の除去費用には足りないことが多いため、自己負担を前提に長期修繕計画へ載せることをお勧めします。

Q6. ブロック塀の撤去補助は、大規模修繕の契約に含めても大丈夫ですか。
A. 市は「手続き前に補助対象事業を進めた場合には、補助の対象になりません」と明記しています。塀は別契約に切り出し、交付決定を受けてから着工する段取りが安全です。

Q7. ロープアクセス工法は、どんなマンションでも使えますか。
A. すべての建物に向くわけではありません。全面的な下地補修が必要な建物は足場のほうが結果的に安く早いこともあります。技術的な解説はロープアクセスドットコムをご参照ください。

Q8. 修繕積立金が足りません。何から手をつけるべきですか。
A. 設計に入る前であれば、一時金・借入・段階施工・工法見直しの4つの選択肢があります。段階施工は仮設費が回数ぶんかかり総額が増えることが多いため、まず工法の見直しから検討されることをお勧めします。


この記事のポイントまとめ

  • 富士市に共用部の大規模修繕への直接補助は、公開情報では確認できず
  • 管理計画認定の申請手数料は無料。市が推進計画で意図的にそう定めている
  • 長寿命化促進税制は減額割合3分の1。申告先は資産税課(0545-55-2744)
  • 管理組合が一括申告でき、区分所有者個々の申告書は不要と市が明記
  • 市内の分譲マンションは75棟、うち16%が築40年超。20年後には61%
  • 修繕積立金の設定根拠が「不明」55%。市自身が全国平均より低いと認めている
  • 耐震診断は非木造建築物が対象・1棟最大300万円。補強工事は要件が厳しい
  • アスベスト分析調査は全額補助(25万円/棟)。除去は60万円が限度
  • ブロック塀はすべて撤去が条件、上限26万6千円。手続き前着工は対象外
  • 仮設足場は総工事費の15〜25%。補助金とは桁が2つ違う
  • 工法の見直しは設計に入る前でないと選べない

最後に

富士市の制度をひととおり調べて、私が受けた印象を正直に書きます。

富士市は、管理組合を信用している市だと思いました。

認定申請の手数料を無料にする。税制の申告を管理組合がまとめて出せるようにする。どちらも「管理組合がちゃんとやってくれるなら、行政の手続きは軽くする」という姿勢です。75棟という規模だからこそできる設計かもしれませんが、それでも、他の市の記事を書いてきた私から見ると珍しい。

だからこそ、その優しさを受け取れる状態になっているかが問われます。長期修繕計画の見直しが7年以内か。名簿を年1回確認しているか。積立金の根拠を説明できるか。市の調査で55%が「不明」だったという事実は、裏を返せば、あと一歩の組合がそれだけあるということです。

まずは電話2本、合計20分で足ります。

  • 住宅政策課 0545-55-2814(管理計画認定について)
  • 建築土地対策課 0545-55-2791(耐震診断・アスベスト・ブロック塀について)

そのうえで、工法の話を聞いてみたいと思われたら、お問合せフォームからご連絡ください。ご相談だけでも遠慮なくお声がけください。総会の前段階の整理だけでも、お力になれることがあります。

次回も、現場で本当に使える話だけをお届けします。


執筆者:本間 幸紘(株式会社明誠 代表取締役)
専門領域:マンション大規模修繕/ロープアクセス工法/建物長寿命化計画
実務経験:建設・改修業界 20年以上
所属:一般社団法人 全国建設業支援協会(JCSA)

株式会社明誠について:東京都小平市を拠点に、マンション・ビル・ホテルの大規模修繕を手がける改修会社です。通常の足場工法、無足場のロープアクセス工法、両者を組み合わせたハイブリッド工法の3つから、建物にとって最適な工法をご提案しています。日本初となるロープアクセス工事のフランチャイズを展開し、塗装・防水・タイル・電気・看板など各分野の専門職が加盟しています。

最終更新:2026年8月21日


出典・参考資料

主なお問い合わせ先

用件 部署 電話番号
マンション管理計画認定・住宅施策 都市整備部 住宅政策課 住まい政策担当 0545-55-2814
耐震診断・耐震補強・アスベスト・ブロック塀 都市整備部 建築土地対策課 建築安全推進担当 0545-55-2791
マンション長寿命化促進税制の申告 財政部 資産税課 家屋担当 0545-55-2744
管理計画認定制度・マンション管理適正化法全般 一般社団法人 日本マンション管理士会連合会 03-5801-0858
富士市役所(代表) ― 0545-51-0123

本記事は2026年8月21日時点で公開されている情報をもとに作成しています。補助制度の内容・金額・受付期間は変更される場合がありますので、申請前に必ず各窓口の最新情報をご確認ください。また、制度の適用可否は個別の建物の状況によって判断されます。本記事の内容は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の適用を保証するものではありません。

沼津市のマンション補助金|大規模修繕2026年版

2026年8月21日 更新

この記事は、次の問いに答えます。「静岡県沼津市の分譲マンションで大規模修繕を行うとき、市の補助金は実際に使えるのか。使えるなら、いくら、どの順番で申請すればいいのか」。

私は株式会社明誠の本間と申します。マンション・ビル・ホテルの大規模修繕を20年近くやってきました。ここ数年、静岡県東部の管理組合さまからのお問い合わせが目に見えて増えています。そのたびに理事長さまから聞かれるのが、「うちの市には補助金、ありますか」という一言です。

正直に申し上げます。沼津市には、分譲マンションの共用部大規模修繕そのものに直接お金が出る補助制度は、2026年8月時点の公開情報では確認できません。 外壁塗装や屋上防水に対して「工事費の3分の1を市が出します」という制度は、残念ながら見当たらないのです。

ただし、それで話が終わるわけではありません。沼津市には、大規模修繕の周辺で確実に効く制度が複数あります。しかも沼津市は、マンション管理計画認定制度を令和5年(2023年)10月から開始しており、静岡県東部では制度整備が進んでいる自治体です。使い方を知っているかどうかで、100戸のマンションなら数百万円単位で差がつきます。

この記事では、私が実際に管理組合さまへご説明している順番のまま、沼津市で使えるカードを1枚ずつ並べていきます。


結論:沼津市で管理組合が握るべき「4枚のカード」

先に結論を出します。沼津市の分譲マンション管理組合が、大規模修繕にあたって検討すべき制度は次の4つです。

# 制度名 補助額・効果 所管課 2026年度の状況
1 沼津市民間建築物吹付けアスベスト対策事業費補助金(含有調査事業) 1棟当たり上限25万円 都市計画部住宅政策課 実施中
2 沼津市建築物等耐震化促進事業(既存建築物耐震診断/補強助成) 診断は費用と基準額の少ない額の3分の2、補強助成は23% 都市計画部住宅政策課 実施中
3 ブロック塀等耐震改修促進事業費補助金 除却は上限10万円〜(津波避難路沿いは限度額なし)、建替えは上限35万円〜 都市計画部住宅政策課 実施中(例年12月中旬頃受付終了)
4 マンション管理計画認定制度+マンション長寿命化促進税制 固定資産税の減額、フラット35・すまい・る債の優遇 都市計画部住宅政策課/資産税担当 令和5年10月開始

(出典:沼津市住宅に関する補助制度一覧、民間建築物吹付けアスベスト対策事業、マンション管理計画認定制度)

このうち1と2は、足場を組んでから発覚すると取り返しがつかない性質のものです。順番を間違えると、もらえたはずのお金がもらえません。ここが一番お伝えしたい点です。

以下、1枚ずつ丁寧に見ていきます。


1. アスベスト含有調査 上限25万円|沼津市で最も現実的な直接補助

制度の中身

沼津市は「沼津市民間建築物吹付けアスベスト対策事業費補助金」を設けています。2025年12月24日更新の市ページによれば、内容は次のとおりです。

  • 補助対象建築物:吹付けアスベストが施工されている市内の民間建築物
  • 補助対象者:建築物の所有者又は管理者
  • 含有調査事業:含有調査に要する経費(1棟当たり上限25万円)
  • 除去等事業:工事に要する経費の3分の2以内(1敷地当たり上限120万円)
  • 注意:市ページに「※除去等事業の予算は終了しました」との明記あり

(出典:沼津市民間建築物吹付けアスベスト対策事業)

補助対象者が「所有者又は管理者」と書かれている点に注目してください。分譲マンションは区分所有者が多数いますが、管理組合(管理者)が申請主体になれる余地がある書きぶりです。ただし実際の受理可否は個別判断になりますので、必ず事前に住宅政策課(電話:055-934-4766)へご確認ください。ここは断定を避けます。

2026年度の「除去等事業は予算終了」をどう読むか

市の住宅に関する補助制度一覧(2026年4月27日更新)でも、アスベスト除去等事業には【令和8年度未実施】と明記されています。つまり2026年度は、調査には出るが、除去工事には出ないという状態です。

ここで諦める管理組合が多いのですが、私は逆だと思っています。調査は今年やっておく。除去は制度復活を待つ、あるいは大規模修繕の工程に組み込んで単価を下げる。 この二段構えが取れるのは、調査補助が生きている今だけです。

現場で私が一番悔しい思いをするパターン

正直に申し上げます。私が現場で一番悔しいのは、足場を組んで、天井を開けてから吹付け材が出てくるケースです。

築40年前後のマンションでは、機械室、電気室、駐車場の天井、階段室の裏側、エレベーター機械室、パイプスペース(PS:配管を通す縦の空間)といった「普段人が入らないところ」に吹付け材が残っていることがあります。設計図書の仕上表には「吹付ロックウール」としか書かれておらず、石綿含有かどうかは分析しないと分かりません。

ここで発覚すると何が起きるか。工事はいったん止まります。分析に2週間、届出に2週間、除去計画の作成に数週間。その間、足場は建ったままです。仮設足場のリース料は日割りで発生し続けますし、住民の皆さまはベランダにシートが掛かった状態で1か月以上待つことになります。100戸規模なら、この停滞だけで数百万円が飛びます。

しかも、着手後に申請しても補助金は出ません。市ページには「※事業の着手前に必ず申請が必要となります」と明記されています。これが順番の話です。

理事会での具体的な動き方

  1. 竣工図の仕上表を出す(管理会社に「仕上表と特記仕様書のコピーを」と依頼すれば1週間で出てきます)
  2. 吹付け材の記載がある部屋を洗い出し、現況写真を撮る
  3. 住宅政策課へ電話し、「管理組合名義で含有調査事業の申請ができるか」を確認する
  4. 建築物石綿含有建材調査者による調査見積を取る(平成29年度から、調査は建築物石綿含有建材調査者が行うことが義務付けられています)
  5. 交付申請 → 交付決定 → 契約 → 調査実施 の順で進める

この5ステップを、大規模修繕の設計監理を発注する前に済ませておく。これだけで、後工程の事故が激減します。


2. 建築物等耐震化促進事業|非木造マンションが使えるメニューはどれか

木造向けと非木造向けを混同しない

補助金まとめサイトを見ると「沼津市は耐震改修に最大100万円」と書かれていることがあります。しかしこれは木造住宅耐震改修助成事業の金額であり、RC造・SRC造の分譲マンションには当てはまりません。

沼津市の建築物等耐震化促進事業(2026年8月18日更新)のページを読むと、事業が番号で整理されています。マンション管理組合に関係するのは次の3つです。

事業 内容 補助額
4 既存住宅耐震診断事業(非木造) 非木造住宅の耐震診断 所有者又は居住者に対し費用を補助
5 既存建築物耐震診断事業 既存建築物の耐震診断 費用と基準額を比較して少ない額の3分の2
6 既存建築物耐震補強助成事業 建築物の耐震改修の促進に関する法律に規定する建築物の調査設計計画・耐震改修工事 当該事業に要する経費と基準額を比較して少ない額の23%

(出典:沼津市住宅に関する補助制度一覧、沼津市建築物等耐震化促進事業)

対象は昭和56年5月31日以前に建築(着工)された建築物です。昭和56年6月1日の建築基準法施行令改正、いわゆる新耐震基準の前後で線が引かれています。ご自身のマンションがどちらかは、建築確認済証の交付年月日で確認してください。竣工年ではなく着工・確認の時期で判断される点に注意が必要です。

「築45年」のマンションが今から診断を取る意味

沼津市内で昭和56年以前に建った分譲マンションは、2026年時点で築45年以上です。「今さら耐震診断を取っても」とおっしゃる理事長さまもいます。私の経験上、これは逆です。

理由は3つあります。

第一に、診断結果がないと、次の一手が決められない。補強が必要なのか、大規模修繕だけで十分なのか、それとも建替え・敷地売却の検討に入るべきなのか。判断材料がないまま総会で議論しても、結論は出ません。

第二に、南海トラフ地震の想定区域である沼津市では、耐震性能が資産価値に直結する。沼津市は津波避難路をハザードマップで指定しているほど、地震・津波への備えが行政課題になっている街です。買い手も借り手も、そこを見ています。

第三に、診断費用の3分の2が補助される。自己負担が3分の1で済むなら、判断材料の購入費として決して高くありません。

なお、市ページには「補助金の交付決定前に工事を着手した場合は、補助金の交付は受けられません」「申請から補助金交付の決定通知連絡までは、約2週間程度の期間を要します」と明記されています。理事会の決議から着工まで、最低でも1か月の余裕を見てください。


3. ブロック塀等の除却・建替え|外構は「別契約」に切り出す

沼津市の補助額は「面する道路の種類」で大きく変わる

これは沼津市の制度で最も細かく、そして最も見落とされている部分です。2025年4月1日更新の市ページから、除却と建替えの補助額を整理します。

除却事業

面する場所 補助額
避難路・避難地・通学路・緊急輸送路 事業費と基準額(延長×20,000円/m)の少ない額の2/3、限度額26万6千円
道路境界 事業費と基準額(延長×8,900円/m)の少ない額の1/2、限度額10万円
津波避難路 事業費と基準額(延長×32,000円/m)の少ない額、限度額なし

建替え事業

面する場所 補助額
避難路・避難地・通学路・緊急輸送路 基準額(延長×58,400円/m)との比較で2/3、限度額59万9千円
道路境界 基準額(延長×47,300円/m)との比較で1/2、限度額35万円
津波避難路 安全な塀は延長×70,400円/m、生垣は延長×56,000円/m を基準額とし、限度額なし

(出典:沼津市ブロック塀の除却及び建替えを行うための補助金について)

津波避難路に面していれば限度額なし——沼津市ならではの制度設計です。沼津市津波ハザードマップに示された路線に限られますが、駿河湾に面した市域の特性が、そのまま補助制度に反映されています。ご自身のマンションの敷地が該当するかどうかは、必ず津波ハザードマップで確認する価値があります。

対象になる塀の条件と、1敷地1回という制約

対象は「危険なブロック塀等」で、静岡県作成のパンフレット「ブロック塀の点検と改善」による点検で不適合項目が1以上あったものです。高さは基礎を除いた高さが60cmを超えるもの(ブロック4段以上)が目安とされています。

そして重要な制約が2つあります。

  • 申請は一敷地一回のみ
  • 各年度とも、おおむね12月中旬頃には受付を終了(予算到達時点で終了)

一敷地一回、というのは重い制約です。「今年は正面の10mだけ、来年は裏の15mを」という分割申請は想定されていません。やるなら一度に、範囲を確定させてからです。逆に言えば、大規模修繕の設計段階で外構をきちんと測っておけば、取りこぼしを防げます。

私はいつも理事長さまに、「外構工事は本体工事と契約を分けましょう」とお伝えしています。理由は単純で、補助金の対象範囲と対象外を、見積書の上ではっきり分けられるからです。沼津市も見積書を分けない場合の作成例(PDF)を公開しており、制度を組み合わせる場合は見積書を分ける必要があると案内しています。行政側も、この点を気にしているということです。


4. マンション管理計画認定制度|沼津市は令和5年10月から実施済み

沼津市は「やっている側」の自治体

ここが沼津市の強みです。全国の市町村を回っていると、管理計画認定制度の窓口がまだ整っていない自治体は珍しくありません。しかし沼津市は令和5年(2023年)10月から制度を開始しており、沼津市マンション管理適正化推進計画も策定済みです。

推進計画のページには、市自身の言葉でこう書かれています。「本市においても、老朽化や管理組合の担い手不足が顕著な高経年マンションが急増する見込みであり、建物・設備の老朽化を抑制し、周辺への危害等を防止するための措置として、維持管理の適正化や維持修繕等が困難なマンション再生に向けた取組の強化が課題です」。

行政が課題認識を持っている街では、制度は動きます。使わない手はありません。

認定を取ると何が変わるか

沼津市のページが挙げている効果は次のとおりです。

  1. 区分所有者の管理への意識が高く保たれ、管理水準を維持しやすくなる
  2. 適正に管理されたマンションとして、市場において評価される
  3. 立地している地域価値の維持向上につながる
  4. 住宅金融支援機構の【フラット35】維持保全型およびマンション共用部リフォーム融資の金利引き下げ、マンションすまい・る債の利率上乗せが受けられる
  5. マンション長寿命化促進税制が適用され、各区分所有者が翌年度支払う固定資産税が減額される(※長寿命化工事の実施等の一定の要件あり)

(出典:沼津市マンション管理計画認定制度)

私が重視するのは4番です。共用部リフォーム融資の金利が下がる。修繕積立金が足りず借入を検討している組合にとって、これは補助金より効く場合があります。100戸のマンションで2,000万円借りるとして、金利が0.2%下がれば、10年で数十万円の差になります。

申請の方法は「オンラインのみ」

沼津市の窓口に直接申請することはできません。(公財)マンション管理センターのオンラインシステム(管理計画認定手続き支援サービス)による申請のみを受け付けており、同センターが発行する事前確認適合証が必要です。

認定申請に伴う市の手数料は無料です。ただし、マンション管理センターのシステム利用料および事前確認審査料は別途かかります。

認定は5年ごとの更新制、認定基準は国の基本方針にあるマンション管理適正化指針で定められており、市独自の基準は設けていません。全国共通の基準で判定されるということです。

なお、事前確認は「マンション管理適正評価制度(一般社団法人マンション管理業協会)」または「マンション管理適正化診断サービス(一般社団法人日本マンション管理士会連合会)」の評価サービスと連携して申請することも可能とされています。すでにどちらかを受けている組合は、その資産を使えます。


5. マンション長寿命化促進税制|大規模修繕と税を1本の線でつなぐ

制度の概要と要件

管理計画認定と大規模修繕をつなぐのが、この税制です。国土交通省のマンション長寿命化促進税制(固定資産税の特例措置)のページに詳細があります。

要点を整理します。

  • 一定の要件を満たす大規模修繕等を行ったマンションについて、翌年度分の建物の固定資産税が減額される
  • 対象は1戸当たり床面積100㎡までの部分
  • 1回限り
  • 工事完了後3か月以内の申告が必要
  • 主な要件:築20年以上、総戸数10戸以上、過去に1回以上の長寿命化工事の実施、管理計画の認定(または助言・指導を受けて積立金を引き上げたこと)、屋根防水・床防水・外壁塗装等を含む工事の実施

減額割合については、地方税法上、市町村の条例で定める仕組み(参酌基準3分の1、範囲は6分の1〜2分の1)となっています。沼津市の条例上の割合は、市の公開ページで確認できませんでしたので、断定は避けます。着工前に沼津市の資産税担当(沼津市役所代表:055-931-2500)へ、「マンション長寿命化促進税制の減額割合と申告様式」を確認してください。1本の電話で済む話です。

順番を間違えると、この税制は使えない

ここが実務の勘所です。要件に「管理計画の認定」が入っています。つまり、

認定申請 → 認定取得 → 大規模修繕(長寿命化工事)着工 → 完了 → 3か月以内に申告

という順番でなければ成立しません。工事が終わってから「そういえば税制があったな」と気づいても、間に合わないのです。

私はこれを、必ずワンセットで提案するようにしています。大規模修繕の基本設計に入る12か月前から、管理計画認定の準備を並行して走らせる。長期修繕計画の見直しは認定基準にも含まれますから、どのみち手をつける作業です。


6. 省エネリフォーム補助金は「専有部」|住民への情報還元が総会を動かす

沼津市には住宅用新エネ・省エネ機器設置費及び省エネリフォーム費補助金(2026年8月6日更新)があります。令和8年度の内容は次のとおりです。

工事の種類 補助額
30㎡以上の床・壁・天井の断熱工事 施工面積10㎡当たり1万円(上限6万円)
0.8㎡以上の窓の断熱工事 施工面積0.8㎡当たり5,000円(上限4万円)
太陽光発電システムと蓄電池等の新規同時設置 一律10万円
家庭用燃料電池(エネファーム)新規設置 一律4万円

申請受付期間は令和8年4月1日〜令和9年3月12日、申請は工事着工予定日より14日前まで。所管は生活環境部環境政策課(電話:055-934-4741)です。

これは基本的に専有部の工事を想定した制度です。管理組合の共用部工事には直接効きません。ただし私は、この情報を理事会から住民へ回覧してくださいとお願いしています。

理由は実利です。大規模修繕の総会で修繕積立金の値上げを諮ると、必ず反対が出ます。そのとき、「市には皆さんのお部屋の窓断熱に使える補助金もあります。理事会で調べてまとめました」という一枚があるだけで、空気が変わります。組合が住民の側を向いているという事実が伝わるからです。数字で説得する前に、姿勢で信頼を得る。20年やってきて、私はこれが一番効くと思っています。


7. 沼津という土地の条件を、修繕仕様に落とし込む

制度の話ばかりでは片手落ちです。沼津市の建物には、沼津市特有の劣化要因があります。

塩害

沼津市は駿河湾に面し、内浦・西浦地区は海岸線が生活圏です。海に近い建物では、鉄部の腐食速度が内陸とまったく違います。バルコニーの手すり、避難ハッチ、屋外階段の鉄骨、給水管の露出部。ここが5年早く傷みます。

私が沼津の物件で必ず確認するのは、手すり付け根のシーリングです。ここが切れていると塩分を含んだ水が内部に回り、内部から錆びます。外から見て塗膜が生きていても、中で進行しているケースがあります。

津波避難路と外構

前述のとおり、沼津市のブロック塀補助は津波避難路沿いで限度額なしという特別扱いです。これは裏を返せば、津波避難路沿いのブロック塀は行政が本気で無くしたいものだということです。もし敷地の塀がそこに面しているなら、大規模修繕のタイミングでフェンスや生垣に転換する判断は、補助の面でも安全の面でも合理的です。

高経年化のスピード

沼津市自身が推進計画で「高経年マンションが急増する見込み」と述べています。これは、同じ時期に、市内の多くのマンションが一斉に大規模修繕の適齢期を迎えるという意味でもあります。職人の手配、資材、そして補助金の予算枠。すべてが取り合いになります。

沼津市のブロック塀補助が「おおむね12月中旬頃には受付終了」となるのも、この構造の表れです。早く動いた組合が有利という、身も蓋もない現実があります。


8. 直接補助がない部分のコストをどう下げるか|足場を組まないという選択肢

ここからが、施工会社としての私の話です。

沼津市には共用部大規模修繕への直接補助がない。ではどうするか。出ていくお金そのものを減らすしかありません。

大規模修繕の見積書を開くと、仮設足場が総工事費の15〜25%を占めていることがよくあります。塗料でも防水材でもなく、「工事をするための土台」に、これだけ払っているのです。

そこで検討していただきたいのが、ロープアクセス工法です。産業用のロープで職人が壁面を上下し、足場を架けずに調査・補修・塗装・防水を行う無足場工法です。ロープアクセス工法の技術情報や安全基準については、姉妹サイトのロープアクセスドットコムに詳しくまとめていますので、あわせてご覧ください。

3つの工法の使い分け

工法 向いている条件 主なメリット 主な弱点
通常足場工法 中低層、形状が複雑、全面的な打診・補修が必要 面での作業効率が高い、品質が安定 仮設費が高い、工期が長い、防犯・日照の影響
ロープアクセス工法(無足場) 高層、足場の架設が困難、部分補修、コスト最優先 仮設費を大きく圧縮、工期短縮、居住者の生活影響が小さい 一度に扱える面積が限られる、風の影響を受ける
ハイブリッド工法 大規模・複雑な物件で総合的にコスト最適化したい 部位ごとに最適解を選べる 工程管理の設計力が要る

正直に申し上げます。ロープアクセスがすべての建物に向いているわけではありません。 全面打診が必要な外壁で、劣化が広範囲に及んでいる建物なら、足場を組んだほうが結果的に安く、品質も安定します。「無足場だから必ず安い」という営業トークは、私は信用しません。

だからこそ明誠では、通常足場・ロープアクセス・両者を組み合わせたハイブリッドの3工法を比較したうえでご提案しています。日本で初めてロープアクセス工事のフランチャイズを展開し、塗装・防水・タイル・電気・看板といった各分野の専門職が加盟しているため、部位ごとに最適な職人を当てられる。これが単価に効きます。

工法の考え方についてはロープアクセス工法のご紹介と大規模修繕工事のご紹介でも整理しています。管理組合さま向けの体制は管理組合さまへをご覧ください。

補助金と工法の、意外な接点

もうひとつ。ロープアクセスは「調査」との相性が抜群です。

アスベスト含有調査にせよ、耐震診断にせよ、外壁の劣化診断にせよ、最初にやるのは調査です。この段階で足場を組むのは、費用面でまず現実的ではありません。ロープアクセスなら、足場なしで壁面に直接アクセスし、打診・撮影・サンプル採取ができます。

調査は無足場で安く、本工事は最適工法で。 これが、直接補助のない自治体で私がご提案している基本の型です。


9. 逆算カレンダー|総会から着工までの12か月

制度を並べても、動く順番が分からなければ意味がありません。私が管理組合さまにお渡ししている逆算表を、沼津市版で置いておきます。

時期 やること 関係する制度
着工の12か月前 竣工図・仕上表の確認、吹付け材の有無を洗い出す。長期修繕計画の見直しに着手 アスベスト含有調査、管理計画認定
11か月前 住宅政策課へ相談(管理組合名義の申請可否、耐震補助の対象可否) 全般
10か月前 アスベスト含有調査の交付申請 → 交付決定を待つ(約2週間) 含有調査事業
9か月前 調査実施。並行して管理計画認定の事前確認をマンション管理センターへ 含有調査事業、管理計画認定
8か月前 劣化診断(ロープアクセスなら足場不要)。外構・ブロック塀の実測 ブロック塀補助
6か月前 工法比較(足場/ロープアクセス/ハイブリッド)と概算比較表の作成 —
5か月前 ブロック塀補助の交付申請(12月中旬前に) ブロック塀補助
4か月前 総会議案の作成。住民説明会。省エネ補助の情報を回覧 省エネリフォーム補助金
3か月前 総会決議 → 施工会社との契約 —
着工 すべての交付決定が出ていることを確認してから着工 全般
完了後3か月以内 長寿命化促進税制の申告 長寿命化促進税制

この表の一番下の行、「完了後3か月以内」を落とす組合が本当に多い。工事が終わると気が抜けるのです。理事会の引き継ぎ書に、赤字で1行書いておいてください。


よくある質問(FAQ)

Q1. 沼津市に、マンションの外壁塗装や屋上防水そのものへの補助金はありますか?
A. 2026年8月時点の沼津市の公開情報では、分譲マンション共用部の外壁塗装・屋上防水に直接交付される市の補助金は確認できませんでした。使えるのはアスベスト含有調査、耐震診断・補強、ブロック塀の除却・建替え、および管理計画認定を通じた税制・融資優遇です(出典:沼津市 住宅に関する補助制度一覧)。

Q2. アスベストの除去工事に補助は出ますか?
A. 沼津市の除去等事業は工事費の3分の2以内・1敷地当たり上限120万円という制度設計ですが、市ページに「除去等事業の予算は終了しました」、補助制度一覧に「令和8年度未実施」と明記されています。2026年度は調査のみが現実的な選択肢です(出典:沼津市 民間建築物吹付けアスベスト対策事業)。

Q3. 管理組合の名義で申請できますか?
A. アスベスト対策事業の補助対象者は市ページ上「建築物の所有者又は管理者」と記載されています。管理組合が管理者として申請できる余地はありますが、受理の可否は個別判断です。住宅政策課(055-934-4766)へ事前確認をお願いします。

Q4. 築何年から管理計画認定を狙うべきですか?
A. 認定自体に築年数要件はありませんが、マンション長寿命化促進税制の要件が築20年以上・総戸数10戸以上です。築15年を超えたら、次回の大規模修繕を見据えて準備を始めるのが実務的です(出典:国土交通省 マンション長寿命化促進税制)。

Q5. ロープアクセスにすれば必ず安くなりますか?
A. なりません。劣化が広範囲で全面打診・全面補修が必要な建物では、足場を組んだほうが総額で安くなることがあります。建物ごとに比較して決めるべきです。明誠では3工法の概算を並べてご提示しています。

Q6. 申請前に工事を始めてしまいました。後から補助は受けられますか?
A. 沼津市は複数の制度ページで「補助金の交付決定前に工事を着手した場合は、補助金の交付は受けられません」と明記しています。原則として遡っての交付は想定されていません。着工前の申請が鉄則です。


この記事のポイントまとめ

  • 沼津市に共用部大規模修繕への直接補助は確認できないが、周辺制度は4枚ある
  • アスベスト含有調査は1棟上限25万円。ただし除去等事業は令和8年度未実施
  • 耐震診断は費用と基準額の少ない額の3分の2、補強助成は23%(昭和56年5月31日以前着工が対象)
  • ブロック塀は津波避難路沿いなら限度額なし。ただし一敷地一回、12月中旬頃受付終了
  • 沼津市は令和5年10月から管理計画認定を実施。認定は税制・融資優遇の入口
  • 長寿命化促進税制は工事完了後3か月以内の申告。順番を守らないと使えない
  • 直接補助がないぶん、仮設足場15〜25%をどう圧縮するかが実質的な節約になる

出典・参考資料

※補助制度は年度ごとに内容・予算が変わります。申請前に必ず各所管課の最新の公式情報をご確認ください。本記事は制度の解説であり、個別の申請可否を保証するものではありません。


執筆者:本間 幸紘(株式会社明誠 代表取締役)
専門領域:マンション大規模修繕/ロープアクセス工法/建物長寿命化計画
実務経験:建設・改修業界 20年以上
所属:一般社団法人 全国建設業支援協会(JCSA)

株式会社明誠について:東京都小平市を拠点に、東京・関東一円および静岡県東部でロープアクセス工法と従来足場工法の両方を提案できる改修会社。日本初のロープアクセス工事フランチャイズを展開しています。

最終更新:2026年8月21日


沼津市の制度は、決して手厚いとは言えません。ですが、使えるカードは確かにあります。そして順番を間違えなければ、取りこぼしは防げます。

「うちのマンションは対象になるのか」「見積の足場費は妥当なのか」——ご相談だけでも遠慮なくお声がけください。総会の前段階の整理だけでも、お力になれることがあります。お問合せフォームからどうぞ。

次回も、現場で本当に使える話だけをお届けします。

大規模修繕の「あの臭い」は減らせる時代へ|シーリング用水性プライマー登場と2026年化学物質規制、管理組合とオーナーが業者に確認すべき5つのこと【2026年8月】

2026年8月21日 更新

この記事で答える質問:大規模修繕でいちばん苦情が出る「臭い」は、どの工程から出ているのか。そして、それは技術と段取りでどこまで減らせるのか。

大規模修繕の説明会をやると、必ず出る質問があります。工事費でも工期でもありません。「臭いは、どのくらい続きますか」です。

小さなお子さんがいる、在宅で仕事をしている、ペットがいる、化学物質過敏症の傾向がある——理由はさまざまですが、住みながらの工事で居住者が最も敏感なのは、足場でも音でもなく臭いだと、私は現場で感じています。そして正直に申し上げると、この質問に対して業界は長いあいだ「窓を閉めてください」以上の答えを持っていませんでした。

その状況が、いま二方向から変わり始めています。ひとつは材料メーカー側の技術、もうひとつは法律です。2026年8月19日、シーリング工事に使うプライマー(下塗り材)の水性タイプが発表されました。そして2026年4月、職場の化学物質管理は「国が名指しした物質だけを守る」やり方から「事業者が自分で評価して管理する」やり方へと、対象範囲を大きく広げたところです。

今日は、この二つが管理組合・オーナーの皆さまにとって何を意味するのかを、現場の言葉で整理します。


結論:臭いは「我慢するもの」から「仕様で選べるもの」に変わりつつあります

先に結論から申し上げます。

  1. 大規模修繕で最も強く臭う工程のひとつは、シーリング打ち替えの「プライマー塗布」です。 目地の中を洗って接着剤の下地を作る工程で、従来品の多くは有機溶剤を含みます。塗装の臭いだと思われている臭いの一部は、実はここから出ています。
  2. 2026年8月19日、サンスター技研が1液タイプの建築用シーリング材向け水性プライマー「プライマーWC-1」を発表しました。同社は「日本初」(同社注記付き)としており、化学物質規制の強化を背景に、居住者・施工者双方の安全性と作業性の向上を目的に掲げています(出典:サンスター技研プレスリリース(2026年8月19日)、日本経済新聞(プレスリリース掲載))。
  3. 法律の側でも、2026年は節目の年です。化学物質の「自律的な管理」の中核的なルール自体は2024年4月に施行済みですが、その対象範囲がいまも広がり続けています。リスクアセスメント対象物は2026年4月に約2,900物質へ拡大し(出典:厚生労働省 特設サイト「ケミガイド」)、濃度基準値の適用対象物質は2026年10月1日に追加、ラベル表示・SDS交付の義務対象物質は2027年4月1日・2028年4月1日にも段階的に拡大します(出典:厚生労働省「化学物質による労働災害防止のための新たな規制について」)。
  4. したがって、管理組合・オーナーが見積書で確認すべき項目が増えました。「どのプライマーを使うか」「化学物質管理者は誰か」は、もはやマニアックな質問ではなく、工期と苦情件数、そして最終的な費用に跳ね返る質問です。
論点 従来 2026年以降 発注者側で動かせるか
プライマーの臭い 溶剤系が主流。「換気してください」で対応 水性タイプの選択肢が登場 ○ 仕様で指定できる
化学物質の管理 特化則・有機則など個別規制の対象物質のみ リスクアセスメントに基づく自律的管理へ △ 業者の体制を確認できる
濃度基準値 一部物質のみ 2026年10月1日に対象物質を追加 ✕ 直接は動かせない
ラベル・SDS義務 順次拡大中 2027年4月・2028年4月にさらに拡大 ✕ 直接は動かせない
臭気の広がり方 足場+メッシュシートで建物を包む 工法で開口部の塞がり方が変わる ○ 工法で変えられる

何が起きたのか:2026年8月19日、シーリング用の水性プライマーが発表されました

2026年8月19日、シーリング材メーカーのサンスター技研が、建築用シーリング材向けの水性プライマー「プライマーWC-1」を発売すると発表しました。同社の発表によれば、1液タイプの建築用シーリング材向け水性プライマーとしては日本初(同社注記)で、化学物質規制が強化されるなか、シーリング防水工事における安全性・作業性の向上等を目的とした製品です(出典:サンスター技研プレスリリース)。

私はまだこの製品を実際の現場で使っていません。ですので、性能について「良い」とも「悪い」とも申し上げません。接着性能・可使時間・下地適合性・気温や湿度への依存度といった実務上の勘所は、カタログではなく現場でしか分からない部分が大きいからです。発売直後の材料を、居住者がいるマンションの本設工事にいきなり全面採用するのは、私は勧めません。

それでも、この発表を今日の記事に選んだ理由があります。「シーリングのプライマーが臭う」という、業界の中では当たり前すぎて誰も表立って言わなかった課題に、材料メーカーが正面から手を付けたという事実に意味があるからです。そして同社が背景として挙げているのが「化学物質規制の強化」であることが、この記事の後半につながります。


そもそもプライマーとは何か——シーリング工事で最も臭う工程

ここは専門用語が続くので、丁寧にいきます。

マンションやビルの外壁には、必ず「目地」があります。コンクリートの打ち継ぎ部、サッシまわり、タイルの伸縮目地、外壁パネルのつなぎ目。ここにゴム状の材料を充填して雨水の侵入を止めているのがシーリング(コーキング)です。

シーリングは紫外線と建物の動きに常時さらされるため、おおむね10年前後で硬化・ひび割れ・剥離が進みます。だから大規模修繕ではシーリングの打ち替えが必ず工事項目に入ります。順番はこうです。

  1. 撤去:カッターで既存シーリングを切り、目地から掻き出す
  2. 清掃:目地の中の粉塵・旧材の残りを取り除く
  3. バックアップ材/ボンドブレーカー:適正な断面形状を作るための下地処理
  4. マスキング:目地の両脇に養生テープを貼る
  5. プライマー塗布 ←★ここが最も臭う工程
  6. シーリング充填・ヘラ均し
  7. テープ撤去・清掃

プライマーは、目地の内壁とシーリング材を確実に接着させるための下塗り材です。ごく薄く塗るだけの、量にすれば全工程のごく一部にすぎない材料ですが、溶剤系のものは引火性があり、有機溶剤を含みます。刷毛で塗った瞬間に揮発するので、量のわりに臭気の立ち上がりが速い。しかもサッシまわりの目地は窓のすぐ横です。居住者の鼻から数十センチのところで施工していることになります。

「外壁塗装の臭い」だと思われている臭いの一部が、実はこのプライマーだった、というのは現場ではよくある話です。ここが水性に置き換わる可能性が出てきた、というのが今回のニュースの意味です。

なお、シーリング材そのものにも種類があり、変成シリコーン系・ポリウレタン系・シリコーン系などで臭気の性質が違います。「臭いを減らしたい」というご要望は、プライマーとシーリング材の両方を含めて相談すべき、というのが実務上の要点です。


法律の側で起きていること:化学物質管理は「自律的管理」へ

ここからが、実は管理組合・オーナーにとってより重要な話です。

厚生労働省は、労働安全衛生規則等を改正し、化学物質による労働災害を防ぐための新しい仕組みを導入しました(労働安全衛生規則等の一部を改正する省令/令和4年厚生労働省令第91号、令和4年5月31日公布)。厚労省はその趣旨をこう説明しています。

化学物質による休業4日以上の労働災害(がん等の遅発性疾病を除く。)の原因となった化学物質の多くは、化学物質関係の特別規則※の規制の対象外となっています。
※ 特定化学物質障害予防規則、有機溶剤中毒予防規則、鉛中毒予防規則、四アルキル鉛中毒予防規則
(出典:厚生労働省「化学物質による労働災害防止のための新たな規制について」)

つまり、「国が名指しで規制した物質だけ守っていれば安全」という前提が、実態と合わなくなっていたということです。そこで制度は、事業者自身がリスクアセスメント(危険性・有害性の評価)を行い、その結果に基づいてばく露を防ぐ措置を選んで実施する、という方向へ移りました。これが「自律的管理」です。

主な柱を、発注者の視点で読み替えると次のようになります。

制度の柱 中身 発注者から見た意味
化学物質管理者の選任 リスクアセスメント対象物を製造・取扱い・譲渡提供する事業場ごとに選任し、技術的事項を担当させる 「この現場の化学物質管理者はどなたですか」と聞ける
SDSによる情報伝達の強化 通知事項である「人体に及ぼす作用」の定期的な確認・見直し、通知事項の拡充 SDSの提出を求められる
ばく露の最小限度化・濃度基準 事業者が選択した措置でばく露を最小限にする。一部物質は厚生労働大臣が定める濃度基準以下に 屋外作業でも「換気・風向・立入制限」の計画が要る
保護具の適切な使用 皮膚または眼に障害を与える化学物質を扱う際、労働者に適切な保護具を使用させる 手袋・保護眼鏡の運用が現場で見える
衛生委員会でのモニタリング 自律的管理の実施状況を調査審議することを義務付け(衛生委員会の設置義務は常時50人以上の事業場) 一定規模以上の会社では体制の有無が分かる
雇入れ時教育の拡大 非工業的業種で一部免除されていた教育項目を全業種で実施義務に(建設業はもともと全項目が義務) 建設業では中身は変わらない。他業種との差がなくなった

(出典:厚生労働省「化学物質による労働災害防止のための新たな規制について」)

建設業向けには、建設業労働災害防止協会が「建設業における化学物質取扱い作業リスク管理マニュアル」を公開しています。厚労省も特設サイト「ケミガイド」で背景と災害事例を公開しています。発注者側の方が読んでも十分理解できる内容ですので、業者選定の物差しを持ちたい方には一読をお勧めします。


これから効いてくる3つの期日:2026年10月・2027年4月・2028年4月

「もう施行済みの話でしょう」と思われるかもしれません。違います。この制度は段階的に対象範囲が広がり続けており、いまも拡大の途中です。厚生労働省が公表している一覧から、これから効いてくる期日を整理します。

時期 何が変わるか
(2026年4月1日・実施済み) リスクアセスメント対象物が約2,900物質に拡大。従来の個別規制で名指しされていた物質の数を大きく超える範囲が、事業者による評価・管理の対象に
2026年10月1日 厚生労働大臣が定める濃度基準値の適用対象物質が追加される(厚労省公表の一覧に令和8年10月1日適用分が明記)
2027年4月1日 ラベル表示・SDS交付等の義務対象物質が追加。あわせて皮膚等障害化学物質(不浸透性の保護具等の使用義務物質)も追加
2028年4月1日 ラベル表示・SDS交付等の義務対象物質がさらに追加(令和8年3月31日公布の改正政令・改正省令に基づく)

(出典:厚生労働省「化学物質による労働災害防止のための新たな規制について」対象物質の一覧)

ここから何が読めるか。建設現場で使う塗料・シーリング材・プライマー・洗浄剤・接着剤は、今後さらに「管理対象」に入っていくということです。管理対象になるということは、SDSの整備、保護具の選定、教育、記録という手間が増えるということでもあります。

私は、この流れ自体は正しいと考えています。職人の健康が守られない業界に、若い人は入ってきません。担い手不足の話をしながら現場の有機溶剤を放置する、というのは筋が通らない。ただ同時に、この手間はコストです。そして材料メーカーが水性化に動く経済的な理由も、まさにここにあります。規制が強まるほど、溶剤を使わない材料の相対的な価値が上がるからです。


管理組合・オーナーにとって、これは「他人ごと」ではありません

「労働安全衛生法は業者の話であって、うちには関係ない」——半分は正しく、半分は違います。化学物質管理の個別の措置義務が、発注者に直接かかるわけではありません。ただし労働安全衛生法第3条第3項は、建設工事の注文者等に対して「施工方法、工期等について、安全で衛生的な作業の遂行をそこなうおそれのある条件を附さないように配慮しなければならない」と定めています。無理な工期を押し付けないことは、発注者側の配慮事項です。

そのうえで、次の3つの経路で、確実に発注者側に跳ね返ります。

経路① 苦情と工期。臭気の苦情が出ると、工事は止まります。私の経験では、苦情が出た後の対応は「作業時間帯の変更」「工区の組み替え」「再告知」の三点セットになり、工程は素直に後ろへずれます。工期が延びれば、仮設の借上げ期間も延びます。

経路② 費用。保護具、換気、教育、記録。これらは今後、間接費として見積に反映されていきます。いま極端に安い見積が出てきたら、それはこの部分を織り込んでいない可能性があると、私は考えています。

経路③ 信頼と資産価値。住みながらの工事で居住者の生活に配慮できたかどうかは、次の総会、次の工事、そして賃貸物件であれば入居者の定着に効いてきます。ここは数字にしにくいのですが、長い目で見れば最も大きいと感じています。


居住者の生活影響を減らす、現場で実際に効く4つの実務

材料が変わるのを待つ必要はありません。いまの材料のままでも、段取りで臭気の影響はかなり減らせます。私が現場で標準にしている4つを挙げます。

① 工区を細かく割り、同じ面を一気にやらない。目地の総延長は長いので、つい効率優先で一面まとめて施工したくなります。しかし住みながらの現場では、縦一列(同じ間取りが並ぶスタック)を一日で終える割り方のほうが、結果的に苦情が少ない。「今日はうちの列」という予測可能性が生まれるからです。

② 時間帯を居住者の生活に合わせる。在宅率が下がる平日日中に臭気工程を寄せる。逆に、朝の洗濯物を干す時間帯と、夕方の窓を開ける時間帯は外す。当たり前に聞こえますが、工程表を書く段階で意識していないと実現しません。

③ 告知は「工程名」ではなく「体感」で書く。掲示に「シーリング打替工事」とだけ書いても、居住者には何も伝わりません。「この2日間、窓を閉めてください。接着剤に似た臭いがします」と書く。これだけで問い合わせの件数が変わります。

④ 材料の選択肢を、最初の見積段階でテーブルに載せる。低臭タイプ、水性タイプ、シーリング材の種類。着工後に「臭いが強いので変えてほしい」と言われても、材料変更は接着性能の再検討を伴うため簡単ではありません。選ぶなら仕様書を作る段階です。今回の水性プライマーのような新製品も、まずは限定的な範囲での試験施工から検討するのが現実的です。


「打ち替え」か「増し打ち」か——ここにも臭気と品質のトレードオフがあります

臭いを減らしたいというご要望から、しばしばこういう質問が出ます。「既存のシーリングを撤去せずに、上から重ねてもらえませんか。そのほうが臭いも工期も少ないのでは」。もっともな発想ですので、正面からお答えします。

打ち替え(撤去して新しく充填する)

既存のシーリングをカッターで切り取り、目地の中を清掃し、下地処理をしてから新しく充填する方法です。大規模修繕の標準はこちらです。理由は単純で、劣化した旧材を残したまま新材を載せると、旧材の劣化が新材の寿命を引っ張るからです。プライマーも目地の内壁に直接効かせられます。

一方で、撤去・清掃・プライマーという工程を全部踏むため、臭気も粉塵も工期も、増し打ちより大きくなります。

増し打ち(既存の上から重ねる)

既存シーリングを残し、その上に新しいシーリングを充填する方法です。撤去・清掃の工程が減るぶん工期は短く、粉塵も減ります。ただし、増し打ちでもプライマーは通常必要です。したがって臭気の低減効果は限定的で、「臭いを避けたいから増し打ち」という選び方は成立しません。そして何より、新材が接着する相手は「劣化した旧材」です。旧材が剥離すれば、その上の新材ごと浮きます。

私の考えを申し上げます。増し打ちが妥当なのは、目地の深さが不足していて撤去すると必要な断面が取れない場合や、サッシまわりで撤去が構造的に難しい場合など、技術的な理由があるときだけです。「安いから」「臭いから」を理由に選ぶものではありません。ここを妥協すると、10年後にもう一度足場を組むことになり、結局は高くつきます。

では、臭いを減らしたい場合はどうするか

答えは「工法の格を落とす」ことではなく、「材料を選び、段取りを設計する」ことです。前節の4つの実務と、この後の工法選択がその中身になります。品質を落とさずに臭気だけを下げる余地は、実際にかなり残っています。


工法の話:足場をかけるかどうかで、臭気の広がり方も変わります

ここは私の専門領域なので、少し踏み込みます。

一般的な大規模修繕では、建物の全面に仮設足場を組み、その外側をメッシュシートで覆います。飛散防止と落下防止のために必要な措置です。ただし、メッシュシートは建物を「包む」ので、外壁面と足場のあいだの通気は確実に悪くなります。ここは測定データを持って申し上げているわけではありませんが、シートを張った現場と張っていない現場では、臭気の抜け方が体感として明らかに違う、というのが私の現場実感です。

一方、ロープアクセス工法(無足場工法)は、屋上のアンカーから産業用ロープで作業員が降下して施工します。足場もメッシュシートもかけません。外壁面が常に外気にさらされているぶん、臭気は滞留しにくいと考えています。加えて、足場がないぶん施工箇所が「点」で移動するので、同時に影響を受ける住戸の数が少ない。ここは推論ではなく、工程表の上で数えられる事実です。

技術的な背景や適用範囲については、ロープアクセスドットコムで工法別の解説を公開していますので、詳しく知りたい方はそちらもご覧ください。

もうひとつ、意外に見落とされる利点があります。足場は防犯上の理由から、工事期間中ずっと窓を閉め切る必要が生じやすいという点です。ロープアクセスなら、作業していない日と時間帯は普通に窓を開けられます。夏場の工事では、これが体感としてかなり大きい。

さらに費用面では、仮設足場は建物の性能を1ミリも上げない費用です。この点は昨日の記事「大規模修繕の資金は「金利」で目減りする時代へ」でも触れましたが、借入前提の資金計画では、借りる額そのものを小さくするという発想が効いてきます。


ただし、ロープアクセスが向かない建物もあります

両論併記でお伝えします。ロープアクセス工法は万能ではありません。次の条件では、足場のほうが合理的です。

  • 屋上に安全に支点(アンカー)を取れない建物。構造上の確認ができない場合、私たちはお請けしません。
  • 外壁の広い面積で下地補修が必要な建物。タイルの浮きが大規模に出ている、爆裂が多数ある、といったケースでは、作業効率で足場が上回ります。
  • バルコニー内部やアルコーブなど、ロープでは物理的に届かない部位が多い建物。
  • 上部に大きな庇や大型の設備架台が張り出していて、降下ラインが確保できない建物。

現実に多いのは、部位ごとに使い分けるハイブリッド工法です。バルコニー側や下層階は足場、外周の妻面や高層部はロープアクセス、という組み方をすると、仮設費と工期の両方でバランスが取れることが少なくありません。臭気の観点でも、足場をかける面積が減れば滞留する面積も減ります。

どの工法が合うかは、図面と現地を見ないと判断できません。「うちはロープアクセスでやりましょう」と現地を見る前に言う会社があったら、それは疑ってください。これは自戒を込めて申し上げます。


ホテル・テナントビルの場合:「営業を止めない」ことと化学物質管理

分譲マンションとは事情が違うのが、稼働中のホテルとテナントビルです。ここでは臭気は「苦情」ではなく、直接の減収になります。客室から臭いがすれば、その部屋は売れません。

この場合の実務は、マンションとは順序が逆になります。

  1. 先に「止められない部屋・区画・時間帯」を確定する(宴会場の予約、繁忙期、テナントの営業時間)
  2. その制約のなかで施工可能な窓(時間と面積)を逆算する
  3. その窓に収まる工法と材料を選ぶ

足場を全面にかけると、外観と眺望が数か月にわたって損なわれます。ロープアクセスは、施工していない面を「営業できる状態」で残せるという点で、稼働中施設との相性が良い。「明日はこの面、明後日はこの面」と面単位で切り替えられるためです。

なお、稼働中の施設ではオーナー側の責任も重くなります。看板や外装材の落下といった管理責任については、以前の記事「看板の安全点検義務とオーナー責任」でも整理しています。


見積書と仕様書、ここを見てください

長い記事になりましたので、実際に使える形にまとめます。次の総会や業者ヒアリングで、そのまま聞いていただける5項目です。

① 「シーリングのプライマーは、溶剤系ですか、水性ですか」
即答できるかどうかで、その会社が材料まで把握しているかが分かります。「メーカーに確認します」で構いません。「そんなことは気にしなくていい」と言われたら、そこは考えどころです。

② 「使用する材料のSDSを提出していただけますか」
SDS(安全データシート)は、化学物質の危険性・有害性の情報をまとめた文書です。制度上、通知事項の拡充と定期的な見直しが求められています。出せない会社は、まずありません。出し渋る場合は理由を聞いてください。

③ 「この現場の化学物質管理者はどなたですか」
リスクアセスメント対象物を取り扱う事業場ごとに選任が求められている役割です。名前が出てくるかどうかが、体制の有無を測る素直な物差しになります。

④ 「臭気工程の日程と時間帯を、事前に掲示していただけますか」
掲示の文面まで含めて確認してください。前述のとおり、「工程名」ではなく「体感」で書いてもらうのがコツです。

⑤ 「仮設足場費は総額のいくらで、代替工法での比較見積は可能ですか」
臭気・防犯・費用のすべてに効く質問です。比較の土俵に乗せてもらうこと自体に意味があります。無足場工法の考え方はこちらでも整理しています。


よくある質問(FAQ)

Q1. シーリング工事の臭いは、何日くらい続きますか。
A. 建物規模と工区の割り方によりますが、特定の住戸が臭気の影響を受ける期間は、通常は数日程度です。目地の総延長が長い建物でも、一つの住戸まわりを施工する期間自体は限られます。工事全体の期間と、ご自宅が影響を受ける期間は別物ですので、工程表では「自分の住戸がいつか」を確認してください。

Q2. 水性プライマーなら、まったく臭わないのですか。
A. 「無臭」と「低臭」は違います。水性化によって有機溶剤に由来する臭気は大きく下げられますが、シーリング材本体からの臭気は残ります。また、今回発表された製品は発売直後で、私自身まだ実績を持ちません。カタログ値ではなく、施工実績が積み上がってから判断するのが安全だと考えています。

Q3. 化学物質過敏症の居住者がいる場合、どうすればよいですか。
A. 設計・仕様を決める段階で必ず共有してください。着工後では選べる手段が減ります。材料の選定、工区割り、施工時間帯、事前告知の方法、必要に応じて一時的な避難のご相談まで、打てる手はいくつもあります。ただし医学的な判断は医療機関の領域です。私たちができるのはばく露を減らす段取りまでです。

Q4. 「低臭タイプ」を指定すると、工事費は上がりますか。
A. 材料単価としては上がる場合があります。ただし、苦情対応による工程の遅延と仮設借上げ期間の延長を含めた総額で比較すると、必ずしも高くつくとは限りません。判断材料として、材料費の差額を金額で出してもらってください。

Q5. うちの建物はロープアクセスでできますか。
A. 図面と現地を確認しないと分かりません。判断材料は、屋上の支点が取れるか、下地補修の量がどのくらいか、降下ラインを塞ぐ張り出しがあるか、の3点が中心です。部分的にロープ、残りは足場というハイブリッドが現実解になることが多いというのが、私の実感です。


この記事のポイントまとめ

  • 大規模修繕で最も臭う工程のひとつは、シーリング打ち替えのプライマー塗布である
  • 2026年8月19日、サンスター技研が1液タイプのシーリング材向け水性プライマーを発表(同社は「日本初」と注記)
  • 背景には化学物質規制の強化があり、リスクアセスメント対象物は2026年4月に約2,900物質へ拡大済み
  • 2026年10月1日に濃度基準値の対象物質が追加、2027年4月・2028年4月にラベル・SDS義務対象がさらに拡大
  • 発注者に直接の義務はないが、苦情・工期・費用・信頼という4つの経路で確実に跳ね返る
  • 段取りで効くのは、工区割り・時間帯・「体感」で書く告知・材料選定を仕様段階で行うことの4つ
  • メッシュシートで包む足場は臭気が滞留しやすく、ロープアクセスは拡散しやすい。ただし向かない建物も明確に存在する
  • 見積・仕様の確認は5項目(プライマーの種類/SDS提出/化学物質管理者/臭気工程の掲示/仮設費と比較見積)

おわりに

私は、この業界の「当たり前」がひとつ崩れる瞬間を見た気がしています。シーリングのプライマーが臭うのは仕方がない、というのは、ついこのあいだまで疑う人がいない前提でした。それが、法律が変わり、メーカーが動き、選択肢が生まれつつある。

もちろん、新しい材料がすぐに現場の標準になるわけではありません。私自身、実績のない材料を居住者のいる建物にいきなり使うことはしません。それでも、「臭いは我慢するもの」から「仕様で選べるもの」へという方向に進んでいることは、はっきりお伝えしておきたいと思いました。

大規模修繕は、建物を直す工事であると同時に、そこで暮らす人と働く人の日常のなかで行う工事です。私にできるのは、その日常への影響をできるだけ小さくする段取りを、事前に一緒に設計することだけです。

工事のご発注が決まっていなくても構いません。仕様書に何を書けばよいか、居住者への告知をどう組むか。その段階のご相談だけでも、お力になれることがあります。お問合せフォームから遠慮なくお声がけください。

これは私が現場で20年見てきた、嘘偽りのない感想です。次回も、現場で本当に使える話だけをお届けします。


執筆者:本間 幸紘(株式会社明誠 代表取締役)
専門領域:マンション大規模修繕/ロープアクセス工法/建物長寿命化計画
実務経験:建設・改修業界 20年以上
所属:一般社団法人 全国建設業支援協会(JCSA)

株式会社明誠について:東京都小平市を拠点に、東京・関東一円でロープアクセス工法と従来足場工法の両方を提案できる改修会社。日本初のロープアクセス工事フランチャイズを展開しています。

最終更新:2026年8月21日

※本記事は制度・材料・工法の一般的な解説であり、個別の建物に対する設計・医学的助言ではありません。法令および対象物質は変更・追加される可能性があります。適用の可否や最新の一覧は、必ず厚生労働省および各メーカーの公式情報でご確認ください。


出典・参考資料

静岡市のマンション補助金|大規模修繕2026年版

静岡市の分譲マンションで大規模修繕を控えている管理組合が、2026年度に使える補助金・税制・融資はどれか。この記事は、その質問に静岡市の一次情報だけで答えるために書きました。

最初に、いちばん大事なことをお伝えします。静岡市には「共用部の外壁塗装や防水工事そのものに直接お金を出す補助金」は、私が2026年8月時点で公開情報を確認した限り、見当たりません。ここは正直に書きます。

ただし静岡市は、これまで私が記事にしてきた自治体と決定的に違う点を3つ持っています。分譲マンションが耐震補助の正面からの対象になっていること。補助金を工事会社が直接受け取れる代理受領制度があること。そして管理計画認定を市そのものが受け付けていること。この3つは、政令指定都市である静岡市だからこその制度です。

私は建設・改修の業界に20年以上おり、株式会社明誠の代表として、足場を架ける従来工法と、足場を架けないロープアクセス工法、その両方を組み合わせるハイブリッド工法の3つを扱っています。工事会社の立場で書いていますので、その分は差し引いて読んでいただいて構いません。それでも、制度の数字と現場の数字を並べて見せることには意味があると思っています。

最終更新:2026年8月20日


この記事の結論を先に3行で

静岡市の管理組合が2026年度に検討すべきものは、次の3本です。

順位 制度・仕組み 静岡市での位置づけ 金額の規模
1 建築物耐震補強事業(非木造共同住宅) 3階以上かつ延べ1,000㎡以上のマンションが明文で対象 限度額1,500万円
2 マンション管理計画認定制度 静岡市が自ら受け付ける(県ではなく市) 手数料3,800円〜/税制と融資に接続
3 マンション長寿命化促進税制 静岡市が減額割合3分の1を明記 家屋の固定資産税を1年度分軽減

そして、この3本を「バラバラの制度」ではなく「1本の工程」としてつなげられるかどうかが、静岡市の管理組合にとっての分かれ目になります。理由は本文で説明します。


静岡市の分譲マンションは何戸あるのか──市の一次情報で見る現状

制度の話に入る前に、静岡市がマンションをどう見ているかを数字で押さえておきます。出典は静岡市が策定した静岡市マンション管理適正化推進計画(PDF)です。

静岡市の住宅28万戸のうち、分譲マンションは1.8万戸

建て方 割合 備考
一戸建て 59.2% 静岡市は戸建て比率が高い
賃貸マンション 32.9% 収益不動産オーナーの世界
分譲マンション 6.6%(約1.8万戸) 本記事の主対象
長屋建て 1.4% —

住宅・土地統計調査(2018年)による推計で、静岡市の居住世帯のある住宅は約28万戸。うち分譲マンションに住む世帯は約1.8万戸で、全体の約6.6%です。

数字だけ見ると少なく感じるかもしれません。ですが注目すべきは次の1行です。

築40年超のマンションが、20年後に3.1倍になる

静岡市の推計では、市内の築40年超のマンションは現在の約3,400戸から、20年後には約10,700戸になります。3.1倍です。

私が現場で見ている感覚とも一致します。1970年代後半から1980年代にかけて建てられたマンションが、いま一斉に「2回目・3回目の大規模修繕」の時期に入っています。1回目は外壁と防水だけで済んだものが、2回目からは給排水管、3回目からはサッシや玄関ドアまで話が及ぶ。金額の桁が変わっていきます。

静岡市の実態調査が示した8つの数字

静岡市は2021年度(令和3年度)に市内マンションの管理実態調査を実施しています。回答率は40.3%。その結果がこちらです。

調査項目 静岡市の結果
管理組合があると回答した割合 95.5%
管理規約を作成している割合(管理組合ありの場合) 100.0%
総会を年1回以上開催している割合 98.2%
修繕積立金を徴収している割合 92.7%
修繕積立金を3か月以上滞納している者がいない割合 79.3%
新耐震基準である割合 82.7%
実施した大規模修繕費用をすべて修繕積立金でまかなった割合 77.3%
長期修繕計画を作成している割合 81.0%

(出典:静岡市マンション管理適正化推進計画/令和3年度マンション管理実態調査)

静岡市自身が、この最後の数字にはっきり言及しています。長期修繕計画の作成率81.0%は、国土交通省の平成30年度マンション総合調査に基づく全国平均90.9%より「著しく低水準」である、と。市の公式文書に「著しく低水準」と書かれているのは、なかなか強い表現です。

そして静岡市は、この計画の成果指標として次の目標を掲げています。

成果指標 令和3年度(現状) 令和8年度末(目標)
管理組合があると回答した割合 95.5% 100%
修繕積立金を徴収している割合 92.7% 100%
長期修繕計画が策定されている割合 81.0% 91.0%
管理計画認定制度の認定件数 ─ 10棟

ここが重要です。この計画の計画期間は令和4年度から令和8年度までの5年間。令和8年度、つまり2026年度が最終年度にあたります。

市の担当課からすれば、いまは目標達成の最終年です。長期修繕計画の作成率を91.0%に持っていきたい、認定を10棟にしたい。そういうタイミングで管理組合から相談が入れば、対応が丁寧になるのは自然なことだと私は思います。制度を使うなら、動く年としては悪くありません。


【静岡市の最大の特徴】分譲マンションが耐震補助の正面からの対象になっている

ここからが本題です。静岡市の制度で、他の多くの自治体と決定的に違うのがこれです。

私はこれまで山梨県内の市を中心に自治体ごとの補助制度を調べてきましたが、多くの市では耐震補助の対象が「戸建ての木造住宅」に限定され、要綱に「長屋および共同住宅を除く」と明記されていました。RC造・SRC造の分譲マンション共用部は、正面から外れていたのです。

静岡市は違います。市のページに、こう書かれています。

昭和56年5月31日以前に建築されたもの又は同日において建築中であった特定建築物及び3階以上かつ延べ面積1,000平方メートル以上の非木造共同住宅(マンション)の、耐震補強工事を実施する所有者に対して補助金を交付する制度です。
(出典:静岡市 建築物耐震補強事業)

「非木造共同住宅(マンション)」という言葉が、制度の対象として名指しで書かれています。しかも補助額の算定表には「非木造共同住宅」専用のものが別途用意されています。制度設計の段階でマンションが想定されている、ということです。

静岡市の耐震3事業を1枚の表にすると

事業 対象 補助率 基準額(単価) 限度額
特定建築物耐震診断事業 昭和56年5月31日以前の特定建築物 見積額と基準額の少ない額の3分の2 1,000㎡以下の部分2,100円/㎡
1,000超2,000㎡以下の部分1,570円/㎡
2,000㎡超の部分1,050円/㎡
記載なし
建築物補強計画策定事業 特定建築物および3階以上かつ延べ1,000㎡以上の非木造共同住宅 少ない額の3分の2 1,000㎡以下3,150円/㎡
1,000超2,000㎡以下2,100円/㎡
2,000㎡超1,050円/㎡
419万円
建築物耐震補強事業 特定建築物および3階以上かつ延べ1,000㎡以上の非木造共同住宅 経費と基準額の少ない額の23%の3分の2以内 マンション50,200円/㎡
(特定建築物51,200円/㎡、免震等の特殊工法83,800円/㎡)
1,500万円

(出典:静岡市特定建築物耐震診断事業/建築物補強計画策定事業/建築物耐震補強事業)

1点だけ正直に補足します。耐震診断事業のページには「特定建築物」とだけ書かれており、非木造共同住宅の明記がありません。一方、補強計画と補強工事の2ページには非木造共同住宅が明記され、算定表も分かれています。診断の段階で共同住宅が使えるかどうかは、市のページの記載だけでは判断できませんでした。ここは断定を避けます。建築安全推進課(054-221-1124)に「うちのマンションは診断から補助対象になりますか」と1行で聞いてください。

延べ3,000㎡のマンションで試算するとこうなる

抽象的な率の話は理事会で伝わりません。数字を入れてみます。あくまで制度上の計算であり、実際の交付額は市の審査によります。

前提:延べ面積3,000㎡、5階建て、昭和55年建築の分譲マンション

補強計画策定の基準額
– 1,000㎡以下の部分:1,000㎡ × 3,150円 = 315万円
– 1,000超2,000㎡以下の部分:1,000㎡ × 2,100円 = 210万円
– 2,000㎡超の部分:1,000㎡ × 1,050円 = 105万円
– 合計 630万円 → その3分の2 = 420万円 → 限度額419万円

補強工事の基準額
– 3,000㎡ × 50,200円 = 1億5,060万円
– 仮に実際の補強工事費が1億円なら、少ない額は1億円
– 1億円 × 23% = 2,300万円 → その3分の2 = 1,533万円 → 限度額1,500万円

補強計画と補強工事を合わせて、制度上は最大で約1,919万円。1棟40戸なら1戸あたり約48万円に相当します。桁として、管理組合の総会で議論する価値のある金額です。

「前年度の8月までに相談」という、見落とされがちな締切

静岡市のページには、3事業すべてに同じ注意書きがあります。

補助制度をご利用される方は、(耐震診断/補強計画/補強工事)を実施する前年度の8月までに建築安全推進課にご相談ください。

これは実務上、非常に重い1行です。2027年度に補強工事をしたいなら、2026年8月までに相談していなければならない。つまりこの記事を読んでいる今月が、まさにその締切月にあたります。

さらに、申請には補強計画の第三者機関による評定書の写しが必要です。評定は時間がかかります。診断→補強計画→評定→工事、という順番を踏むと、実際には2年から3年がかりの話になります。「来年の大規模修繕に合わせて耐震も」という思いつきでは間に合いません。

そして「補助金の申請は事業を実施する前に。事業を行った後の申請は対象外」とも明記されています。契約してから気づいても遅い、ということです。


【他市にほとんどない】代理受領制度──管理組合の当初持ち出しを減らす仕組み

静岡市の制度でもう1つ、私が「これは効く」と思ったものがあります。補助金代理受領制度です。

制度の中身はシンプルです。

代理受領制度とは、補助金の請求と受領を耐震補強工事等業者へ委任することにより、補助金が市から耐震補強工事等業者に直接支払われる制度です。この制度を利用すると、申請者は耐震補強工事費等から補助金額を差し引いた金額を耐震補強工事等業者に支払えば良いため、当初の費用負担が軽減されます。
(出典:静岡市耐震対策事業に係る補助金代理受領制度)

補助金は原則として「立て替え払い」です。管理組合が工事費の全額を先に払い、あとから市から入金される。ここで詰まる管理組合を、私は何度も見てきました。修繕積立金の残高が工事費に対して足りていて、なおかつ補助金が入るまでの数か月をキャッシュで持ちこたえられる、という条件は意外とハードルが高いのです。

代理受領を使えば、管理組合が用意するのは「工事費−補助金額」で済みます。総会に出す資金計画の見え方が変わります。「一時金は不要です」と言えるかどうかは、賛成票の集まり方を大きく左右します。

第4次静岡市耐震改修促進計画の施策一覧にも、「初期費用の負担を軽減するための代理受領制度の普及」がはっきり書かれています。市が普及させたい制度なので、相談しやすいはずです。

この制度は耐震補助だけでなく、後述するブロック塀等耐震化促進事業でも使えます。


静岡市は「管理計画認定」を市が自ら受け付けている

管理計画認定制度は、管理組合が作った管理計画を自治体の長に申請し、基準を満たせば認定を受けられる制度です。マンション管理適正化法の改正(2022年4月施行)で始まりました。

重要なのは、認定を受けるには、そのマンションがある自治体がマンション管理適正化推進計画を作っていることが必要という点です。計画を作っていない自治体では、そもそも申請ができません。

静岡市は2022年4月1日付で静岡市マンション管理適正化推進計画を策定済みで、申請先は静岡市長(窓口は都市局建築部住宅政策課住まい支援係/054-221-1590)です。県ではなく市に出す。政令指定都市ならではの体制です。

静岡市の認定基準を、理事会のチェックリストにする

静岡市の認定基準は5分野・全17項目です。表にして、そのまま理事会で丸をつけてみてください。

分野 基準
管理組合の運営 管理者等が定められている
監事が選任されている
集会が年1回以上開催されている
管理規約 管理規約が作成されている
災害等の緊急時・管理上必要なときの専有部の立ち入り、修繕等の履歴情報の管理等が規約に定められている
管理組合の財務・管理に関する情報の書面交付または電磁的方法による提供が規約に定められている
管理組合の経理 管理費と修繕積立金等が明確に区分経理されている
修繕積立金会計から他の会計への充当がされていない
直前事業年度末時点で、修繕積立金の3か月以上の滞納額が全体の1割以内
長期修繕計画・修繕積立金 長期修繕計画が「長期修繕計画標準様式」に準拠して作成されている
長期修繕計画の内容と修繕積立金額が集会で決議されている
長期修繕計画の作成または見直しが7年以内に行われている
計画期間が30年以上で、残存期間内に大規模修繕工事が2回以上含まれる
将来の一時的な修繕積立金の徴収を予定していない
計画期間全体での修繕積立金の平均額が著しく低額でない
計画期間の最終年度に借入金の残高がない
その他 組合員名簿・居住者名簿を備え、年1回以上内容確認している
静岡市マンション管理適正化指針に照らして適切である

(出典:静岡市 マンション管理計画認定制度)

太字にした4項目が、実務でよくひっかかる場所です。とくに「長期修繕計画の見直しが7年以内」は、静岡市の作成率81.0%という数字と重なります。計画そのものがない管理組合は、まずここから始めることになります。

手数料は3,800円か26,900円か──7倍の差がつく

静岡市の認定申請手数料は、事前確認適合証の有無で大きく変わります。

事前確認適合証 長期修繕計画の数 手数料
有り 1つ 3,800円
有り 2つ以上 3,800円+1,700円×(計画数−1)
無し 1つ 26,900円
無し 2つ以上 26,900円+15,500円×(計画数−1)

差は約7倍です。事前確認適合証とは、公益財団法人マンション管理センターが交付する、法第5条の4各号の基準に適合することを証する書面のこと。つまりマンション管理センターの「管理計画認定手続き支援サービス」を経由するのが、金額の面でも実務の面でも王道ということになります。

団地型で棟ごとに長期修繕計画が分かれている場合、計画の数だけ加算される点にも注意してください。計画が3つあれば、適合証なしだと26,900円+15,500円×2=57,900円です。

なお、静岡市は次の3ルートを併用可能としています。

  • マンション管理センターの管理計画認定手続き支援サービスのみ
  • 一般社団法人マンション管理業協会のマンション管理適正評価制度を併用
  • 一般社団法人日本マンション管理士会連合会のマンション管理適正化診断サービスを併用

静岡市は認定マンションを実名で公表している

静岡市のページには、認定を受けたマンションが実名と所在地つきで掲載されています。2026年8月時点で7件でした。

認定日 マンション名 所在地
2023年1月13日 プレミスト愛宕の杜 静岡市葵区長沼
2024年2月21日 プレミスト稲川 静岡市駿河区稲川
2024年3月7日 プレミスト東静岡 ステーションレジデンス 静岡市駿河区曲金
2024年4月5日 プレミスト泉町 静岡市駿河区泉町
2024年9月2日 ベル・フローラ興津 静岡市清水区興津本町
2025年3月24日 ウィスティリア馬場町 静岡市葵区馬場町
2025年4月28日 ウィスティリア登呂 静岡市駿河区登呂

(出典:静岡市マンション管理計画認定制度ページ/2025年10月21日更新時点)

目標は令和8年度末で10棟。あと3棟です。この「公表される」という点は、売却や賃貸の場面で効いてきます。買主や借主に対して、第三者が認定した管理水準を示せるからです。

認定は5年ごとの更新制で、認定期間中に管理計画を変更するときは変更認定申請が必要(有効期間は延長されません)。また認定期間中に市が報告徴収や改善命令等の監督を行う場合がある、とも明記されています。取って終わりの制度ではありません。


マンション長寿命化促進税制──静岡市は減額割合を「3分の1」と明記している

大規模修繕そのものに直接お金は出ませんが、やった後に税金が軽くなる制度があります。マンション長寿命化促進税制です。

静岡市はこの制度について、令和7年4月編集・発行の専用チラシ(大規模の修繕等が行われたマンションの固定資産税の減額措置/PDF)を出しています。ここに市としての取り扱いが明記されているのが大きい。

対象となる工事の3点セット

チラシによれば、「長寿命化工事」とは次のすべてが実施されていることを指します。

  1. マンションの外壁について行う修繕または模様替(外壁塗装等工事)
  2. 直接外気に開放されている廊下、バルコニー等の防水の措置を講ずるための修繕または模様替(床防水工事)
  3. 屋上部分、屋根、ひさし等の防水の措置を講ずるための修繕または模様替(屋根防水工事)

外壁・床防水・屋根防水の3点セットです。「外壁塗装だけ」「屋上防水だけ」では対象になりません。大規模修繕の仕様を決める段階で、この3つが仕様書に入っているかを確認してください。

対象マンションの3要件

要件 内容
① 築後20年以上が経過している、10戸以上のマンション(区分所有=分譲マンションのみ)
② 長寿命化工事を過去に1回以上適切に行っていること
③ 長寿命化工事を実施するために必要な修繕積立金が確保されていること

③の「確保されている」は、次のいずれかに当てはまることを指します。

  • 管理計画認定マンションのうち、認定を受ける際に認定基準に適合させるため修繕積立金の額の引上げを行った場合
  • 静岡市からの助言・指導を受け、長寿命化工事が可能な水準まで長期修繕計画を適正に見直し、修繕積立金の積立てや額の引上げを行った場合

チラシには「助言・指導は、静岡市が実施するものであり、希望して受けることはできません」と明記されています。つまり、管理組合が自分の意思で選べるルートは、事実上「管理計画認定を取る」ほうだけということです。ここが、認定制度と税制がつながる部分です。

減額の内容と、静岡市ならではの申告先

項目 内容
対象工事の実施期間 2023年4月1日から2027年3月31日まで
減額対象面積 1戸当たり100㎡までの居住部分(共用部分も含む)
減額される割合 家屋の居住部分に係る固定資産税の3分の1(都市計画税は減額されません)
減額される期間 工事完了年度の翌年度分(1年度分のみ)
申告期限 工事完了の日から3か月以内

(工事完了日が1月2日から3月31日の場合は、翌々年度分の固定資産税が対象)

減額割合は本来、市町村の条例で定めるもの(参酌基準3分の1、範囲6分の1から2分の1)です。多くの自治体では条例を確認しないと分かりませんが、静岡市はチラシに「3分の1」と明記しています。ここは確認の手間が省けます。

そして静岡市ならではの実務ポイントがこれです。

マンションの所在区 申告先 電話番号
葵区 固定資産税課(静岡庁舎新館2階) 054-221-1047(葵区資産分)
駿河区 固定資産税課(静岡庁舎新館2階) 054-221-1547(駿河区資産分)
清水区 清水市税事務所(清水庁舎2階) 054-354-2082

清水区のマンションは、市役所静岡庁舎ではなく清水市税事務所が窓口です。政令指定都市で3区に分かれている静岡市ならではの分岐で、ここを間違えると3か月の申告期限が削られます。

申告に必要な書類も押さえておきます。

区分 書類 発行機関
共通 大規模の修繕等が行われたマンション申告書 固定資産税課/清水市税事務所
共通 総戸数(10戸以上)が確認できる書類(設計図面等) —
共通 大規模の修繕等証明書 建築士、住宅瑕疵担保責任保険法人
共通 過去工事証明書 建築士、マンション管理士
認定マンション 管理計画の認定通知書または変更認定通知書の写し 住宅政策課
認定マンション 修繕積立金引上証明書 建築士、マンション管理士
助言・指導を受けた場合 助言・指導内容実施等証明書 住宅政策課

「大規模の修繕等証明書」と「過去工事証明書」は建築士等が発行するものです。工事が終わってから慌てて頼むと、3か月の期限に間に合わないことがあります。設計事務所や施工会社との契約時点で「税制申告用の証明書発行まで含める」と決めておいてください。私は見積書の段階でこれを明記するようにしています。

なお、住宅耐震改修・バリアフリー改修・省エネ改修に伴う固定資産税の減額措置とは重複適用できません。耐震補強と大規模修繕を同じ年度にやる場合は、どちらの減額を取るか事前に税務担当へ相談してください。


ブロック塀等耐震化促進事業──「撤去」と「改善」で条件が違う

敷地の周りにブロック塀があるマンションは、この制度を確認する価値があります。静岡市は撤去と改善の2本立てです。

事業 対象となる道路 補助率 基準額 補助限度額
撤去事業 通学路や避難のための道路など、または避難地沿い 見積額と基準額の少ない額の3分の2 1mあたり2万円 10万円(※)
改善事業 緊急輸送路、幹線避難路、避難地沿い 見積額と基準額の少ない額の3分の2 1mあたり3万8,400円 25万円

※ 地域防災計画に定められた避難所の敷地、または避難地に沿って設置されたブロック塀等を撤去する場合は上限なし。

(出典:静岡市 ブロック塀等耐震化促進事業)

「上限なし」という1行を見逃さないでください

撤去事業の限度額は10万円と、正直あまり大きくありません。ただし注記に、避難所の敷地または避難地に沿っている場合は上限なしと書かれています。

静岡市内のマンションで、隣が小中学校や公園・広場という立地は珍しくありません。その塀が地域防災計画上の避難所敷地・避難地に面していれば、金額の桁が変わる可能性があります。「うちは10万円だから関係ない」と切り捨てる前に、建築安全推進課(054-221-1124)に敷地の前面道路と隣接地の区分を確認してください。市のページにも「補助対象となる道路の確認は、建築安全推進課までお問い合わせください」と書かれています。

一敷地内すべて撤去が原則、という条件

注意事項が4つあり、どれも実務に直結します。

  1. 申請は事業を実施する前(契約前)に。事業を行った後(契約後)の申請では補助金は出ません。
  2. 道路に面したブロック塀等で、道路面から80cm以上のものが対象です。
  3. 原則、基礎の上に積んでいるブロック等はすべて撤去が条件。ただし幅員4m未満の道路に面し道路後退が必要な敷地の場合、基礎等の撤去も条件となります。
  4. 原則、一敷地内にある道路沿いのブロック塀等はすべて撤去が条件です。

4番目が曲者です。「傷んでいるところだけ部分的に直す」という発想が通りません。敷地の道路沿いにある塀を、全部撤去する前提で見積りを取る必要があります。金額は大きくなりますが、補助の対象工事量も増えます。

そして1番目。大規模修繕の一式契約にブロック塀を紛れ込ませると、交付決定前に契約したことになって対象外になる恐れがあります。塀は別契約に切り出す。これは静岡市に限らず、私が全国の自治体制度を見てきて共通する段取りです。

申請受付期間は2026年4月6日から2027年1月31日まで(2027年2月末までに工事が完了するものに限る)。ここにも代理受領制度が使えます。


民間建築物吹付けアスベスト対策事業──調査は手厚く、除去は薄い

大規模修繕の足場を架けてから、あるいは天井を開けてから発覚するのがアスベストです。静岡市には対策事業があります。

事業 内容 補助額
アスベスト分析調査事業 壁・柱・天井等に吹付けられた建材のアスベスト含有の有無を分析調査する事業 当該事業に要する経費の額以内(上限25万円/建築物)
アスベスト除却等事業 吹付けられたアスベストを除去し、封じ込め、または囲い込みをする事業 当該事業に要する経費の3分の1以内(上限60万円/敷地)

(出典:静岡市民間建築物吹付けアスベスト対策事業/2026年4月8日更新。令和8年度の補助申請を受付中、予算に限りあり)

私が静岡市の管理組合に強く伝えたいのは、この2つの補助率の落差です。

調査は「経費の額以内」、つまり実質的に全額(上限25万円)が見込めます。ところが除去等は3分の1以内、上限60万円。除去工事は数百万円から1,000万円を超えることも珍しくありません。600万円の除去工事なら3分の1で200万円ですが、上限60万円で頭打ちです。

結論はこうなります。調査は積極的に補助を使う。除去費は自己負担前提で長期修繕計画に載せる。この2階建ての読み方を、資金計画の段階でしておいてください。

対象は平成7年度(1995年度)以前に施工された建築物が中心です。マンションでアスベスト含有吹付け材が見つかりやすいのは、次のような場所です。

  • 機械室・電気室の天井や壁
  • 屋内駐車場の天井
  • 階段室の裏側
  • エレベーター機械室
  • パイプスペース(PS)内部

分析調査は建築物石綿含有建材調査者による調査に基づいて実施する必要があります。窓口は建築安全推進課指導係(054-221-1267)。ここも「対策事業に着手する前に交付申請をし、交付決定の通知を受ける必要がある」と明記されています。

私からの実務提案は1つ。調査は補助率が高いので、設計に入る前に調査だけ先に走らせてください。設計が固まってから「実はアスベストがありました」となると、工程も金額も組み直しになります。


木造住宅向けの制度(TOUKAI-0+)は共用部には使えません

検索すると「静岡市 耐震 補助金」で木造住宅向けの制度が上位に出てきます。管理組合の方が混乱しやすいので、整理しておきます。

静岡県と市町が推進する「プロジェクトTOUKAI-0」は、2026年度から新たな事業体系「TOUKAI-0+(プラス)」に切り替わりました。静岡市の木造住宅向け事業は次の3本です。

事業 内容
わが家の専門家診断事業 耐震診断補強相談士を派遣し、無料で簡易な耐震診断を実施
木造住宅耐震事業 木造住宅の補強計画(設計)費と耐震補強工事費に対する補助
耐震シェルター整備事業 耐震シェルター設置費用に対する補助

これらは木造住宅が対象です。RC造・SRC造の分譲マンションの共用部には使えません。マンション管理組合が見るべきは、前述した「特定建築物および非木造共同住宅」向けの3事業のほうです。

とはいえ、この情報を捨てる必要はありません。理事の方が市内に木造の実家を持っているケースは多い。掲示板に「市の木造住宅向け制度はこちら」と1枚貼るだけで、管理組合が住民のために動いている感じが出ます。私はこれを何度か提案して、実際に喜ばれました。

そしてもう1つ。静岡市は「市の職員をかたり耐震補強工事を勧誘する業者にご注意(PDF)」という注意喚起を出しています。補助制度が手厚い自治体では、それに便乗する営業も増えます。理事会に「市から言われて来ました」と名乗る業者が現れたら、まず市に確認してください。


住宅金融支援機構の2本立て──「一時金」を「月々の見直し」に変える

補助金では足りない部分を埋めるのが、住宅金融支援機構の制度です。静岡市も分譲マンションの管理のページから、機構の各制度に直接リンクを張っています。市が推奨している、と読んでいい形です。

制度 概要 管理組合にとっての意味
マンション共用部分リフォーム融資 管理組合名義で借りられる全期間固定金利の融資。マンション管理センターの債務保証を利用すれば理事長個人の連帯保証は不要 一時金徴収を回避できる。管理計画認定等を受けていると返済期間の延長や金利引下げの扱いがある(金利は毎月見直しのため最新は機構サイトで確認)
マンションすまい・る債 修繕積立金を積み立てながら運用する債券。年1回の募集で口数に上限があり実質先着順 2026年度から、管理適正評価制度・管理適正化診断サービスも利率上乗せの対象に拡充
マンションライフサイクルシミュレーション 機構が提供する試算ツール 総会資料に「30年後の積立金残高」を出せる

私が総会の現場で何度も見てきたのは、「1戸あたり50万円の一時金をお願いします」という議案が通らない一方で、「月々3,000円の積立金見直しをお願いします」という議案は通る、という光景です。金額の総額は同じでも、議案の性格が変わる。融資はそのための道具です。


第4次静岡市耐震改修促進計画が名指しした「マンションの合意形成」

2026年3月、静岡市は第4次静岡市耐震改修促進計画を策定しました。計画期間は2026年度から2030年度までの5年間です。ここに、管理組合が知っておくべき数字と1文があります。

静岡市の耐震化の現状(第4次計画・概要版より)

対象 対象数 耐震性を有するもの 率
住宅 約29万戸 約27万戸 93.0%(2023年)
特定建築物 2,996棟 2,880棟 96.1%(2024年度末)
要緊急安全確認大規模建築物 71棟 70棟 98.6%(2025年度末)
要安全確認計画記載建築物(沿道建築物) 35棟 15棟 42.9%(2025年度末)

沿道建築物の耐震性不足解消率が42.9%と突出して低い。耐震性が不足しているのが20棟残っています。市はこのうち「倒壊により道路を塞ぐ恐れがより高い建築物」5棟を、2030年度末までにおおむね解消する目標を掲げています。

想定される被害

静岡県第4次地震被害想定による南海トラフ巨大地震(マグニチュード9.0程度)では、静岡市の建物被害は全壊・焼失棟数 約93,000棟、人的被害は死者数 約15,300人(いずれも津波による被害を含む)と想定されています。

市が「課題」として書いた1文

第4次計画の「耐震化の課題(建築物における課題)」に、こう書かれています。

マンションやテナントビルにおいて、居住者・入居者の合意形成が難しい。

そして施策の欄には、こうあります。

分譲マンションなどの区分所有者の合意形成に係る支援(要安全確認計画記載建築物)

静岡市は、マンションの合意形成が難しいことを課題として認識し、支援を施策に書き込んでいます。ここに管理組合が使える突破口があると私は考えています。

市政出前講座を、理事会や総会に呼ぶという手

静岡市は「市政出前講座『わが家の耐震対策』」を実施しています。職員が耐震対策について情報提供や解説をしてくれる仕組みです。

管理組合の総会や理事会は、まさに「講座を呼べる場」です。工事会社である私が説明するより、市の職員が制度を説明したほうが、区分所有者の納得感は違います。「理事会が業者に押し切られた」ではなく「公的な情報を踏まえて自分たちで判断した」という形をつくることが、合意形成では決定的に効きます。

自社の受注という意味では、私にとっては遠回りな提案かもしれません。それでも、途中で揉めて工事が止まるほうがお互いに損だと思っています。

さらに、第4次計画には「専門技術者と協力した耐震合同説明会の開催や耐震相談窓口の設置」も施策として書かれています。個別に相談しにくければ、こうした場に理事2人で顔を出してみてください。


静岡市の立地が外壁に与える3つの負荷

制度の話が続いたので、建物そのものの話をします。静岡市は葵区・駿河区・清水区の3区からなり、北は南アルプス、南は駿河湾に面する、非常に幅の広い市域を持っています。同じ静岡市でも、建物にかかる負荷が場所によって違います。

要因 影響 修繕仕様への反映
駿河湾からの塩害(清水区・駿河区の海沿い、清水港周辺) 飛来塩分が金属部を腐食させ、塗膜の劣化を早める。鉄部(手すり・階段・避難ハッチ・設備架台)から傷む 鉄部はケレン(下地処理)の等級を上げ、防錆下塗りの仕様を海側で変える。海側と山側で仕様を分けるのが合理的
日照時間の長さと紫外線 南面・西面の塗膜とシーリングの劣化が早い。同じ建物でも方位で差が出る 塗料グレードを1段上げる判断が効きやすい。シーリングは打ち替え範囲を広く見る
台風の通り道 強風+横なぐりの雨。サッシまわり・笠木・パラペットからの雨水浸入。飛来物による外壁・防水層の損傷 台風後の点検を年間行事に。シーリングの打ち替えを先送りしない

この3つが同時にかかる立地は、実は全国的に見てもなかなか厳しい部類です。私が山梨県内の内陸の市について書いたときは「海から遠く塩害は軽微なので、そのぶんの予算を凍結融解対策に回しましょう」と書きました。静岡市は逆です。塩害対策を削ってはいけない立地です。

方位別・海側と山側で劣化評価を分ける

劣化診断の報告書が「外壁全体で劣化度B」といった一括の評価になっていたら、私は少し疑います。静岡市のマンションでは、海に面した側と内陸側、南面と北面で、劣化の進み方が明確に違うことが多い。方位ごと・面ごとに評価が分かれている報告書のほうが、実態に合っています。

そして、面ごとに劣化が違うということは、面ごとに工法を変える余地があるということでもあります。ここが次の話につながります。

私が忘れられない現場の話

海に近いあるマンションで、屋上防水に畳1枚ほどの膨れがありました。理事会では「来年の大規模修繕でまとめてやりましょう」となり、1年放置されました。

翌年、膨れは数倍に広がっていました。膨れの中に入り込んだ水が下地まで回り、最上階の住戸の天井にシミが出た。防水の部分補修で済んだはずのものが、下地補修を含む大掛かりな工事になり、費用は数倍。何より、住民の方との関係を修復するのに半年かかりました。

膨れは、中に水が入っているというサインです。年に1回、できれば台風シーズンが終わった秋に、屋上と外壁を見る習慣をつけてください。理事の任期が1年で入れ替わる管理組合ほど、この習慣が引き継がれずに消えていきます。


大規模修繕の費用構造──いちばん大きな費目は塗料ではありません

ここからは、補助金より桁の大きい話をします。

大規模修繕の見積書を開いたとき、多くの理事の方は「外壁塗装 ○○円」「屋上防水 ○○円」という工事費目に目が行きます。ですが、実際にいちばん削れる余地があるのは、その上にある「仮設工事」です。

仮設足場の費用は、大規模修繕の総工事費のおおむね15%から25%を占めます。

総工事費 仮設足場費の目安(15〜25%)
3,000万円 450万円〜750万円
5,000万円 750万円〜1,250万円
8,000万円 1,200万円〜2,000万円

ブロック塀の補助金が上限10万円(避難地沿いは上限なし)、改善で25万円。桁が2つ違います。

私が申し上げたいのは、補助金が無意味だということではありません。理事会が議論に費やす時間の配分を、金額の大きさに合わせてくださいということです。補助金の申請書類に3回の理事会を使うのなら、仮設工法の検討にも同じだけの時間を使う価値があります。

「敷地に余裕があるから足場」で止まっていませんか

静岡市は東京23区に比べて敷地に余裕のあるマンションが多い。だから足場を架けるのに支障がない。そこで思考が止まってしまうケースを、私は何度も見ています。

足場を架けられることと、足場を架けるべきことは、別の話です。理事会で次の3つを自問してみてください。

  1. 今回の工事は、全面改修が必要なのか、部分補修で足りるのか。タイルの浮きが全体の数%なら、全面に足場を架ける必然性は薄い。
  2. 居住者が2〜3か月バルコニーを塞がれる生活を受け入れられるか。洗濯物が干せない、窓が開けられない、防犯ネットで日中も薄暗い。この期間、必ず苦情が出ます。
  3. 「仮設工事」という費目の下に、何がいくら計上されているのか。足場材のリース料、架設・解体の手間、養生シート、飛散防止ネット、運搬費。内訳を出してもらってください。

3つの工法を比較する

株式会社明誠では、次の3つの工法から建物に合うものを提案しています。

工法 特徴 向いている建物 居住者への影響
通常足場工法 従来型の仮設足場。全面に安定した作業床を確保できる 中低層、形状が複雑、外壁全面の改修が必要な建物 大(2〜3か月バルコニーが塞がる、防犯面の不安)
ロープアクセス工法(無足場工法) 産業用ロープで作業員が下降しながら施工。足場を架けない 高層、敷地に余裕がなく足場が架けられない、部分補修主体、コストを最優先する建物 小(バルコニーが塞がらない、工期が短い)
ハイブリッド工法 部位ごとに足場とロープアクセスを使い分ける 大規模・複雑な建物で、総合的なコスト最適化が必要なケース 中(足場を架ける面だけ影響が出る)

ロープアクセス工法の技術情報や安全基準については、姉妹サイトのロープアクセスドットコムにまとめています。工法そのものの理屈を知りたい方は、そちらもご覧ください。

日本の改修業界では、この3つを自社で提案できる会社はまだ多くありません。明誠は日本で初めてロープアクセス工事のフランチャイズを展開し、塗装・防水・タイル・電気・看板といった各分野の専門職が加盟することで、品質と価格の両立を図っています。詳しくはロープアクセス工法のご紹介をご覧ください。

静岡市のマンションで、ハイブリッドが効きやすい理由

前述したとおり、静岡市のマンションは海側と山側、南面と北面で劣化の進み方が違うことが多い。劣化の進んだ面だけ足場を架け、比較的健全な面はロープアクセスで対応する。これがハイブリッド工法の考え方です。

「全面に足場を架けて、全面を同じ仕様で塗る」という発想を一度外すと、見積りの構造が変わります。


モデルケース2本──静岡市の管理組合を想定した試算

以下は私が実際の案件をもとに構成した想定ケースです。建物の状態、劣化の程度、仕様によって金額は大きく変わります。あくまで考え方の例としてご覧ください。

ケース1:駿河区・築26年・8階建て44戸

項目 従来の全面足場 ハイブリッド工法
総工事費 7,200万円 6,200万円
差額 — ▲1,000万円
1戸あたり 約164万円 約141万円(▲約23万円)
工期 約4か月 約3か月(約1か月短縮)

組み方:バルコニー側は足場を架け、妻面と屋上まわり、海側の鉄部集中箇所はロープアクセスで対応。バルコニー側に足場を架けるのは、手すり内側の塗装や物干し金物の交換など、作業量が多く手元作業が続く部分だからです。

ケース2:清水区・築42年・5階建て20戸

項目 従来の全面足場 ロープアクセス主体
総工事費 3,400万円 2,800万円
差額 — ▲600万円
1戸あたり 約170万円 約140万円(▲約30万円)
資金計画 一時金の検討が必要 機構融資と組み合わせて一時金ゼロ

ここで直視していただきたいのは、20戸で3,400万円という数字です。1戸あたり170万円。戸数の少ないマンションは、1戸が背負う金額が重くなります。同じ工事内容でも、100戸のマンションなら1戸34万円で済む計算です。

戸数の少ない管理組合ほど、工法の見直しによる削減額が1戸あたりに与えるインパクトが大きい。ここを理事会で共有してください。


修繕積立金が足りないとき、打ち手は4つ

診断の結果、想定より工事費が膨らむ。積立金が足りない。この場面で管理組合が取れる選択肢は4つです。

打ち手 内容 難易度 副作用
① 一時金の徴収 区分所有者から不足分を一括徴収 高 総会で紛糾しやすい。滞納リスク
② 融資を受ける 住宅金融支援機構の共用部分リフォーム融資など 中 利息負担。ただし月々の負担に均せる
③ 段階施工 工事を2回3回に分ける 中 仮設費が回数分かかり、総額はむしろ増える
④ 工法を見直す 足場前提の仕様をロープアクセス/ハイブリッドで再検討 低〜中 工法に精通した会社を探す必要がある

私が繰り返しお伝えしているのは、④を最初に検討してくださいということです。

理由は順番にあります。設計に入る前なら、①から④まで4つの選択肢があります。ところが設計事務所と仕様を固め、足場前提の数量が出て、業者を選定した後になると、④はもう選べません。選択肢が消える前に検討する。それだけの話です。

③の段階施工は、一見合理的に見えて総額が増えることが多い。仮設足場は架設と解体で費用が発生します。2回に分ければ2回分かかる。ここは理事会でよく誤解される点です。

料金の考え方については適正価格へのこだわりにまとめています。


工事の適期と、18か月逆算スケジュール

静岡市で外装工事に適した時期

時期 適性 理由
3月下旬〜6月上旬 ◎ 気温・湿度が安定。塗料の乾燥条件が良い
6月中旬〜7月上旬 △ 梅雨。降雨で工程が延びやすい
7月中旬〜8月 ○ 乾燥は早いが猛暑。作業員の熱中症対策が必須
9月〜10月中旬 △ 台風シーズン。足場の倒壊リスクと養生の手間
10月下旬〜11月 ◎ 気温・湿度とも安定。最も条件が良い時期の1つ
12月〜2月 ○ 温暖な静岡市では作業可能日が多い。ただし朝晩の低温で施工条件を下回る日がある

静岡市は温暖なので、内陸の寒冷地に比べれば冬でも工事できる日が多い。一方で台風シーズンの扱いが重いのが特徴です。足場を架けたまま台風を迎えると、養生シートをたたむ・広げるの手間が発生し、最悪の場合は倒壊リスクがあります。

年間で条件の良い窓は、春(3月下旬〜6月上旬)と晩秋(10月下旬〜11月)の2つ。この窓を押さえるには、前年の秋までに業者選定を終えている必要があります。優良な施工会社ほど、良い時期の枠は早く埋まります。

18か月逆算カレンダー

静岡市の制度を織り込んだスケジュールです。理事会の引き継ぎ資料にそのまま使えるよう、月単位で書きます。

時期 やること 窓口・相手
18か月前 劣化診断を実施。長期修繕計画の見直しが7年以内かを確認 診断会社/管理会社
17か月前 過去の大規模修繕の記録を集める(税制の「過去工事証明書」に必要) 管理組合の書類棚
16か月前 耐震補助を使うなら、実施前年度の8月までに相談(この締切は動かせません) 建築安全推進課 054-221-1124
15か月前 認定基準17項目を自己点検。規約改正が必要かを判定 理事会
14か月前 アスベスト分析調査の交付申請(補助率が高いので先に走らせる) 建築安全推進課指導係 054-221-1267
12か月前 工法の選定(足場/ロープアクセス/ハイブリッド)。長寿命化促進税制の要件を税務担当に確認 施工会社/固定資産税課または清水市税事務所
10か月前 マンション管理センターへ事前確認を依頼し、適合証を取得(手数料が7分の1になります) マンション管理センター
9か月前 資金計画を固める。機構融資の事前相談 住宅金融支援機構
8か月前 静岡市へ管理計画認定を申請 住宅政策課 054-221-1590
6か月前 ブロック塀の交付申請(塀は必ず別契約に) 建築安全推進課
4か月前 交付決定を受けてから契約。代理受領を使うなら業者と委任の合意 施工会社
着工 工事開始 —
竣工後3か月以内 長寿命化促進税制の申告(葵区・駿河区=固定資産税課/清水区=清水市税事務所) 各窓口
引き継ぎ時 次期理事会へ書面で申し送り 理事会

18か月と聞くと長く感じるかもしれません。ですが、耐震補助の「前年度8月まで」という締切と、評定書が必要という条件を考えると、耐震まで含めるなら24か月から36か月を見ておくのが現実的です。

理事の任期が1年である問題

多くの管理組合で、理事の任期は1年です。18か月の工程は、必ず理事会をまたぎます。

私が見てきた失敗のほとんどは、技術的な失敗ではなく引き継ぎの失敗です。前期の理事会が市に電話して聞いた内容が、口頭で終わっていて次期に伝わらない。もう一度ゼロから電話することになる。

電話した日付、担当課、聞いたこと、答えの3点セットを、A4で1枚にまとめて残してください。それだけで、次の理事会の仕事は半分になります。


相見積りで見るべき3つのポイント

同じ建物の見積りが、会社によって数千万円違うことがあります。理由の多くは、次の3つのどこかにあります。

① 数量の根拠

「外壁塗装 3,200㎡」という数字が、図面から拾ったものなのか、現地で実測したものなのか。図面拾いだけだと、バルコニー内部や庇の裏、設備架台のまわりが抜けることがあります。「この数量はどうやって出しましたか」と1問聞いてください。答え方で、その会社が現場を見ているかどうかが分かります。

② 仕様の粒度

「シリコン系塗料」ではなく、メーカー名・製品名・グレードまで書かせてください。同じ「シリコン」でも、耐用年数が7年のものと13年のものがあります。仕様が曖昧な見積りは、安く見えて当然です。

③ 「別途」の中身

見積書の「別途」「本体工事に含まず」という行が何を指しているか。とくに下地補修は要注意です。タイルの浮きやひび割れの数量は、足場を架けて打診してみないと確定しません。多くの見積りは「想定数量」で組まれています。

ここで必ずやっていただきたいこと。想定数量を超えた場合の追加単価を、契約前に見積書へ明記させてください。「1㎡あたり○○円」と書かせておけば、工事中の追加請求が青天井になりません。これをやっていない管理組合が、追加費用でもめる。私が見てきた紛争のかなりの割合が、ここです。

明誠の施工品質に対する考え方は確かな施工にまとめています。


よくある質問(FAQ)

Q1. 静岡市に、マンションの大規模修繕そのものに使える補助金はありますか。
A. 共用部の外壁塗装や防水工事そのものへの直接補助は、2026年8月時点の公開情報では見当たりませんでした。使えるのは、耐震補強(限度額1,500万円)、ブロック塀等(撤去上限10万円/改善上限25万円)、アスベスト(調査上限25万円/除去等上限60万円)といった「特定の工事」に対する補助と、工事後の固定資産税の減額措置です。

Q2. 築30年・4階建て・延べ1,800㎡のマンションですが、耐震補助の対象になりますか。
A. 静岡市の建築物耐震補強事業は「昭和56年5月31日以前に建築されたもの又は同日において建築中であった特定建築物及び3階以上かつ延べ面積1,000平方メートル以上の非木造共同住宅」が対象です。築30年(1996年前後の建築)だと、旧耐震の要件を満たしません。旧耐震かどうかは建築確認の日付で判断されます。確認済証を探してください。

Q3. 補助金は管理組合の名義で申請できますか。
A. 静岡市の耐震3事業は「所有者に対して補助金を交付する」と書かれており、管理組合名義での申請可否について明記がありませんでした。実務上は建築安全推進課(054-221-1124)に事前相談してください。区分所有建物では管理者(理事長)が申請するのが一般的です。

Q4. 管理計画認定を取るのに、いくらかかりますか。
A. 静岡市の申請手数料は、事前確認適合証があれば長期修繕計画1つで3,800円、なければ26,900円です。加えてマンション管理センターの事前確認サービスの費用がかかります。認定を取ると、マンション長寿命化促進税制(固定資産税3分の1減額)とフラット35の金利引下げ等につながります。(出典:静岡市 マンション管理計画認定制度)

Q5. 長寿命化促進税制の申告先は、どこですか。
A. マンションが葵区・駿河区にある場合は固定資産税課(葵区資産分054-221-1047/駿河区資産分054-221-1547)、清水区にある場合は清水市税事務所(054-354-2082)です。工事完了の日から3か月以内に申告してください。(出典:静岡市「大規模の修繕等が行われたマンションの固定資産税の減額措置」令和7年4月発行)

Q6. ブロック塀の補助は、大規模修繕の見積りに一緒に入れてもいいですか。
A. おすすめしません。交付決定前に契約すると補助対象外になります。大規模修繕の一式契約に含めると、契約日が交付決定より前になるおそれがあります。塀は別契約に切り出してください。また「一敷地内にある道路沿いのブロック塀等はすべて撤去」が原則条件です。

Q7. ロープアクセス工法だと、品質は落ちませんか。
A. 工法と品質は別の話です。ロープアクセスは高所作業の手段であり、下地処理や塗装の仕様は足場工法と同じ基準で行います。むしろ作業員が壁面に近い距離で作業するため、目視での劣化発見に強い面があります。技術情報はロープアクセスドットコムをご覧ください。

Q8. 理事会で工法の話を出したいのですが、何から始めればいいですか。
A. 劣化診断の報告書を、方位別・面別に分けて出してもらうところからです。全面が一律に傷んでいるのか、特定の面だけなのかが分かると、「全面足場が必要か」という議論の土台ができます。診断と施工を同じ会社に任せると判断が偏りやすいので、そこは分けることをおすすめします。ご相談はお問合せフォームから承ります。


この記事のポイントまとめ

  • 静岡市に共用部の大規模修繕そのものへの直接補助は見当たらない
  • ただし3階以上・延べ1,000㎡以上の非木造共同住宅は耐震補助の正面対象(限度額1,500万円)
  • 耐震補助は「実施する前年度の8月まで」に建築安全推進課へ相談が必要
  • 代理受領制度で、管理組合の当初持ち出しを補助金の分だけ減らせる
  • 管理計画認定は静岡市長が受け付ける。手数料は適合証ありで3,800円
  • 長寿命化促進税制は減額割合3分の1。清水区は申告先が清水市税事務所
  • 静岡市の長期修繕計画作成率は81.0%で全国平均を大きく下回る
  • 2026年度は静岡市マンション管理適正化推進計画の最終年度にあたる
  • 駿河湾の塩害・強い紫外線・台風の3つが静岡市の外壁を傷める
  • 仮設足場は総工事費の15〜25%。補助金より桁の大きい削減余地がある

出典・参考資料

静岡市(lg.jp)

国・その他

主な問い合わせ先

用件 課 電話番号
管理計画認定・マンション管理全般 都市局建築部住宅政策課 住まい支援係 054-221-1590
耐震診断・補強計画・補強工事・ブロック塀 都市局建築部建築安全推進課 安全推進係 054-221-1124
アスベスト対策事業 都市局建築部建築安全推進課 指導係 054-221-1267
固定資産税の減額(葵区・駿河区) 財政局固定資産税課 054-221-1047/054-221-1547
固定資産税の減額(清水区) 清水市税事務所 054-354-2082
市の総合案内 静岡市コールセンター 054-200-4894

執筆者:本間 幸紘(株式会社明誠 代表取締役)
専門領域:マンション大規模修繕/ロープアクセス工法/建物長寿命化計画
実務経験:建設・改修業界 20年以上
所属:一般社団法人 全国建設業支援協会(JCSA)

株式会社明誠について:東京都小平市を拠点に、東京・関東一円でロープアクセス工法と従来足場工法の両方を提案できる改修会社です。日本で初めてロープアクセス工事のフランチャイズを展開し、塗装・防水・タイル・電気・看板など各分野の専門職が加盟しています。建物の状態に応じて、足場・ロープアクセス・ハイブリッドの3工法から最適なものをご提案します。

最終更新:2026年8月20日

免責事項:本記事は2026年8月20日時点で公開されている情報をもとに作成しています。補助制度の内容・金額・受付期間は変更されることがあり、予算の範囲内で先着順となる制度もあります。申請の可否や具体的な金額については、必ず各担当課の窓口でご確認ください。本記事の情報を用いて生じた損害について、当社は責任を負いかねます。

最後に1つだけ。この記事の内容は、電話2本と20分で確認できます。建築安全推進課(054-221-1124)に「うちのマンションは耐震補助の対象になりますか」と1問。住宅政策課(054-221-1590)に「管理計画認定の手続きを教えてください」と1問。それだけで、次の理事会の議題が1つ決まります。

北杜市のマンション補助金|大規模修繕2026年版

この記事で答える質問:山梨県北杜市の分譲マンションで大規模修繕をするとき、市の補助金は使えるのか。使えないとしたら、代わりに何が管理組合の負担を軽くしてくれるのか。

先に結論から申し上げます。北杜市には、分譲マンションの共用部の大規模修繕工事そのものに直接お金を出す補助金は、私が公開情報を調べた範囲では見当たりませんでした。ここは正直にお伝えします。

ただし北杜市には、山梨県内の他の市にはない、管理組合にとって非常に大きな武器がひとつあります。北杜市は「マンション管理計画認定制度」を市が自ら受け付けている自治体だという点です。

これがどれほど珍しいことか。私はこの数か月、山梨県内の市を順番に調べてきました。山梨市、都留市、大月市、上野原市——どこも、山梨県のマンション管理計画認定の窓口が「町村部にあるマンションのみ対象」となっているため、市部のマンションは県では申請できず、かといって市自身が受付をしている形跡も公開情報では確認できませんでした。つまり、認定を取りたくても取りようがない状態だったのです。

北杜市は違います。市が「北杜市マンション管理適正化推進計画」を作成し、「北杜市マンションの管理計画認定制度」を創設しています(出典:北杜市「北杜市マンションの管理計画認定制度」)。申請先は北杜市 建設部 土地政策課です。

そしてこの認定は、固定資産税の減額と、住宅金融支援機構の金利優遇という、金額の大きい二つの出口につながっています。補助金というかたちではありませんが、管理組合の財布に効く制度としては、ブロック塀の補助金より桁が大きくなる可能性があります。

この記事では、北杜市の一次情報をひとつずつ当たりながら、管理組合が2026年度に何をどの順番で動かせばいいのかを整理します。私は建設・改修の業界に20年以上おりますが、こういう「制度はあるのに誰も使っていない」状態を見るのが、いちばんもったいないと感じます。

最終更新:2026年8月20日


北杜市で管理組合が使える制度の全体像

まず全体像を1枚の表にします。ここだけ読んでいただければ、理事会で共有できる内容になっています。

制度・仕組み 共用部の大規模修繕に効くか 金額の目安 所管・根拠
市の共用部大規模修繕への直接補助 × 公開情報では確認できず — —
北杜市マンションの管理計画認定制度 ◎ 税・融資の入口になる 認定自体は無償ではないが、下記2つを開く 建設部 土地政策課
マンション長寿命化促進税制(固定資産税減額) ◎ 建物部分の固定資産税を1/3減額 地方税法/北杜市
住宅金融支援機構 共用部分リフォーム融資 ◎ 認定で金利引下げ・返済期間延長 住宅金融支援機構
マンションすまい・る債 ○ 積立金の運用利率上乗せ 住宅金融支援機構
ブロック塀等安全確保対策支援事業 △ 外構のみ 2/3以内・上限26万円(重要路線は39万円) 建設部 土地政策課
アスベスト飛散防止対策事業 △ 吹付け建材のみ 調査上限25万円/除去等上限400万円 建設部 土地政策課
木造住宅耐震診断・耐震改修等支援事業 × 戸建て木造限定 診断無料/改修上限143万7,500円 建設部 土地政策課
空き家バンク活用促進リフォーム補助金 × 空き家バンク登録物件 2/3以内・上限100〜150万円 建設部 土地政策課
やまなしKAITEKI住宅普及促進事業費補助金 × 自ら居住する住宅 最大160万円 建設部 土地政策課
宅配ボックス購入費補助金 △ 賃貸集合住宅の管理者等 1/2・1基あたり上限1万円 産業観光部 商工課
住宅省エネ2026キャンペーン(国) ○ 窓・給湯・断熱 事業ごとに設定 国土交通省ほか

北杜市役所の代表番号は0551-42-1111、建設部 土地政策課は0551-42-1361です(出典:北杜市「木造住宅の耐震診断・耐震改修について」)。この記事に出てくる制度の大半は土地政策課が窓口ですので、電話は1本で足ります。


北杜市は管理計画認定を「市」が受け付ける、県内で数少ない市

山梨県の窓口は町村部限定である

まず前提の確認です。山梨県のページには、認定を受けられるのは「自治体が『マンション管理適正化推進計画』を作成している地域にあるマンション」であり、「県(町村部にあるマンションのみ対象)では、令和4年4月1日から認定の受付を開始しました」と明記されています(出典:山梨県「マンション管理計画認定制度について」/2025年12月24日更新)。

つまり、市に所在するマンションは県の窓口では受け付けてもらえません。ここで多くの管理組合が止まってしまいます。

北杜市は自前の推進計画と要綱を持っている

北杜市のページには、マンション管理適正化法に基づき「北杜市マンション管理適正化推進計画」を作成し、「北杜市マンションの管理計画認定制度」を創設した旨が記載されています。あわせて「北杜市マンションの管理計画の認定等の手続に関する要綱」も公開されています。

手続きの流れは、原則として次のようになります。

  1. 公益財団法人マンション管理センターに申請書類の事前確認を依頼する
  2. 「事前確認適合証」の交付を受ける
  3. 北杜市に、添付書類と事前確認適合証を添えて認定申請書(別記様式第1号)を提出する
  4. 不備がなければ北杜市から認定通知書が交付される

マンション管理センターの専用ダイヤルは03-5801-0858、受付は月〜金の午前10時から午後5時までと市のページに記載があります。

認定の有効期間は5年で、5年ごとに更新できます。更新をしなければ効力を失いますので、有効期間の満了日までに更新申請(別記様式第1号の3)を出す必要があります。

手数料は市ページに記載がない

正直に申し上げます。北杜市のページには申請手数料の記載が見当たりませんでした。「手数料」という語自体が本文にありません。

参考までに山梨県の手数料は、長期修繕計画が1つの場合で適合証あり3,600円、適合証なし25,500円です。同じ7倍近い差があるかどうかは、北杜市については断定できません。土地政策課(0551-42-1361)に「認定申請の手数料はいくらですか。事前確認適合証がある場合とない場合で違いますか」と聞くのが確実です。電話1本、1分で終わります。

なお市のページの更新日は2023年7月10日で、固定資産税の軽減措置の説明が「令和5年4月1日から令和7年3月31日までの間に完了した長寿命化工事」のままになっています。国の制度側はその後延長されていますので、この点も窓口で最新の取扱いを確認してください。私は資料をそのまま総会に配らず、一度は窓口で裏を取るようにしています。


認定基準5分野を、理事会でそのまま点検する

北杜市のページに掲載されている認定基準は、次の5分野です。理事会のチェックリストとしてそのまま使えます。

1 管理組合の運営

項目 内容
(1) 管理者等が定められていること
(2) 監事が選任されていること
(3) 集会が年1回以上開催されていること

「管理者等」とは、理事長など管理組合を代表して業務を行う人のことです。ここは多くの組合でクリアできるはずです。

2 管理規約

項目 内容
(1) 管理規約が作成されていること
(2) 災害等の緊急時や管理上必要なときの専有部の立入、修繕等の履歴情報の管理等について定められていること
(3) 管理組合の財務・管理に関する情報の書面等の交付について定められていること

私の経験上、ここでつまずく組合が最も多いのが (2) です。分譲当時のままの規約を使っていると、専有部立入や修繕履歴の管理の条項が入っていないことがあります。国土交通省のマンション標準管理規約に合わせて規約を改正する総会決議が、認定申請の前段階として必要になるケースです。

3 管理組合の経理

項目 内容
(1) 管理費及び修繕積立金等について明確に区分して経理が行われていること
(2) 修繕積立金会計から他の会計への充当がされていないこと
(3) 直前の事業年度末時点で、修繕積立金の3か月以上の滞納額が全体の1割以内であること

滞納の「1割以内」という数字は具体的です。滞納が積み上がっている組合は、認定を目指す過程で回収に取り組むことになります。これは認定のためというより、組合の体力そのものの話です。

4 長期修繕計画の作成及び見直し等

項目 内容
(1) 長期修繕計画標準様式に準拠して作成され、計画の内容と修繕積立金額が集会で決議されていること
(2) 作成又は見直しが7年以内に行われていること
(3) 計画期間が30年以上で、残存期間内に大規模修繕工事が2回以上含まれること
(4) 将来の一時的な修繕積立金の徴収を予定していないこと
(5) 計画期間全体での修繕積立金の平均額が著しく低額でないこと
(6) 計画期間の最終年度において借入金の残高のない計画となっていること

ここが本丸です。特に (4) の「将来の一時金徴収を予定していない」は重い要件です。長期修繕計画のどこかに「○年目に一時金○万円」と書いてあると、そこが引っかかります。

そして (5) の「著しく低額でない」。ここは国土交通省の長期修繕計画作成ガイドラインと修繕積立金ガイドラインが判断の物差しになります。

5 その他

項目 内容
(1) 組合員名簿、居住者名簿を備え、1年に1回以上は内容の確認を行っていること
(2) 北杜市マンションの管理の適正化に関する指針に照らして適切なものであること

北杜市の指針は、山梨県マンション管理適正化推進計画(町村部)の指針を準用していると注記されています。

添付書類は9点です。集会議事録の写し、長期修繕計画の写しと決議議事録、直前事業年度の貸借対照表・収支計算書と各月の修繕積立金滞納額が確認できる書類、管理者選任決議の議事録、監事設置決議の議事録、申請日直近の集会議事録、名簿を年1回以上更新していることが確認できる書類、規約の写しなどです。

理事の任期が1年の組合では、この書類集めだけで任期が終わってしまいます。私はいつも理事長さまに「認定を取ると決めたら、次期理事会への申し送り書を先に作ってください」とお伝えしています。


認定が効く出口①:マンション長寿命化促進税制

認定を取る目的は、認定証を額に入れて飾ることではありません。出口が二つあります。ひとつ目が固定資産税です。

北杜市のページには、認定を受けたマンションで長寿命化工事が実施された場合、翌年度に課される建物部分の固定資産税が減額され、減額割合は3分の1と記載されています。対象は次のマンションです。

  • 築後20年以上が経過している10戸以上のマンションであること
  • 長寿命化工事を過去に1回以上適切に実施していること
  • 長寿命化工事の実施に必要な積立金を確保していること

国の制度(一般に「マンション長寿命化促進税制」と呼ばれます)としての要件は、屋根防水工事、床防水工事、外壁塗装等の工事を一体で実施することなどが定められています。

ここで数字の感覚をお伝えします。仮に建物部分の固定資産税が1戸あたり年間4万円だとすると、3分の1の減額で年1万3千円ほど。50戸なら組合全体で年65万円相当です。1年限りの減額ですので、それだけで大規模修繕がまかなえるわけではありません。それでもブロック塀の補助金上限26万円と比べれば、規模の違いは明らかです。

なお減額割合は市町村の条例で定めることになっており、参酌基準が3分の1、範囲が6分の1から2分の1とされています。北杜市のページには3分の1と書かれていますが、条例の最新の内容は税務課で確認してください。北杜市役所の代表0551-42-1111から総務部 税務課につないでもらえます。着工前に聞くべきことは3つです。

  1. 当市の長寿命化促進税制の減額割合は何分の1ですか
  2. 申告の期限と必要書類は何ですか
  3. 管理計画認定を取っていない場合、助言・指導を受けて積立金を引き上げるルートは当市で運用されていますか

認定が効く出口②:住宅金融支援機構の金利優遇

ふたつ目の出口が融資です。北杜市のページにも、認定を受けると住宅金融支援機構の金利が優遇されると記載があります(マンション共用部分リフォーム融資、マンションすまい・る債、【フラット35】維持保全型)。

マンション共用部分リフォーム融資

管理組合名義で借りられる融資です。私が理事会でこの話をすると、必ずと言っていいほど「理事長個人が保証人になるのでは」と心配されます。公益財団法人マンション管理センターの債務保証を利用することで、理事長個人の連帯保証を不要にできる仕組みがあります(出典:住宅金融支援機構「マンション共用部分リフォーム融資」)。

全期間固定金利で、管理計画認定などを受けている場合には返済期間の延長や金利引下げの取扱いがあります。金利は毎月見直されますので、ここでは具体的な数字を書きません。事前相談で当月の条件を確認してください。

この融資が総会で効いてくるのは、議案の性格が変わるからです。「一時金を1戸あたり50万円お願いします」という議案は、まず通りません。「月々の修繕積立金を3,000円見直します」という議案なら、議論の土俵に乗ります。同じ工事、同じ総額でも、区分所有者の受け止め方はまったく違います。

マンションすまい・る債

積立金を機構の債券で運用する仕組みです。年1回の募集で、口数に上限があるため実質的に先着順になります。2026年度からは管理適正評価制度や管理適正化診断サービスも利率上乗せの対象に拡充されています。

認定が間に合わない組合でも、日本マンション管理士会連合会の「管理適正化診断サービス」や、マンション管理業協会の「マンション管理適正評価制度」を経由することで、すまい・る債の利率上乗せにたどり着ける可能性があります。認定は取れなくても、諦める前に代替ルートがあるということです。


ブロック塀等安全確保対策支援事業(県内でも高い水準)

北杜市のブロック塀補助は、山梨県内の他市と比べて金額が高く設定されています。

区分 補助率 1mあたり単価 上限
一般 補助対象経費の3分の2以内 1万9,500円の3分の2以内 26万円
重要路線 補助対象経費の3分の2以内 3万2,500円の3分の2以内 39万円

「補助対象経費合計額の3分の2以内」と「延長1mにつき単価を乗じた額の3分の2以内」のいずれか少ない額、かつ上限額が適用されます(出典:北杜市「木造住宅の耐震診断・耐震改修について」/2026年5月29日更新)。

重要路線とは、山梨県及び北杜市の地域防災計画に位置付けられた第一次・第二次緊急輸送道路のことです。国道20号、中央自動車道、国道141号、中央本線沿いの主要県道など、市内の幹線に面した敷地であれば、重要路線に該当する可能性があります。該当するかどうかは土地政策課に聞けば教えてもらえます。

対象となるのは、次の避難路に面して設置されている危険性の高いブロック塀等です。

  1. 通学路
  2. 緊急輸送道路及び避難路
  3. 住宅から避難所、避難地等へ至る道路

ここが北杜市固有の注意点:対象者が「個人」と書かれている

北杜市のページには、「次の全ての要件を満たす個人が対象になります」と明記されています。

  • 危険性の高いブロック塀等の所有者
  • 同一敷地内で過去にこの補助金を受けたことがない方
  • 申請者が市税等を滞納していない者
  • 北杜市暴力団排除条例に規定する暴力団又は暴力団員等でない者

山梨市や都留市の同種の制度が「補助対象建築物の所有者等」と書いているのに対し、北杜市は「個人」という語を使っています。分譲マンションの敷地内の塀は区分所有者全員の共有物であり、管理組合が申請主体になれるのかどうか、この文言だけでは判断できません。ここは断定を避けます。土地政策課に「分譲マンションの管理組合名義で申請できますか。できない場合、どういう名義であれば受け付けられますか」と確認してください。

もうひとつ実務上の落とし穴があります。申請前に着工したものは補助対象となりません。 大規模修繕の総合契約に外構の塀を混ぜ込んでしまうと、契約日が交付決定より前になって対象から外れる恐れがあります。塀だけは別契約に切り出して、交付決定を待ってから契約する。この段取りを設計段階で決めておいてください。

危険性の高いブロック塀とは、建築物の既設の塀の安全点検について定める外観に基づく点検の項目において、いずれかの項目に不適となったものを指します。北杜市はブロック塀の点検のチェックポイントというPDFを公開していますので、理事会で1枚配って現地を歩けば、その日のうちに判定の目安がつきます。

また「申込は随時受付を行っていますが、定数になり次第締め切ります」との注記があります。予算枠がある制度は、年度の後半になるほど不利になります。


アスベスト飛散防止対策事業(★仕上塗材は対象外と明記)

北杜市のアスベスト補助は、金額としては県内他市と同水準ですが、対象範囲の書き方が明確なのが特徴です。

事業 補助率 上限
調査事業 補助対象経費の10分の10以内 25万円
除去等事業 補助対象経費の3分の2以内 400万円
  • 補助対象者:補助対象建築物の所有者であること、市税等を滞納していない者であること
  • 補助対象建築物:市内に存する建築物で除去予定のない建築物
  • 事業期間:補助金の交付決定の日の属する年度の3月末日まで(事前に着手した場合は対象外)
  • 対象事業:吹付け建材のアスベスト含有の有無に係る調査事業/吹付けアスベストの除去、封じ込め又は囲い込み事業

(出典:北杜市「北杜市アスベスト飛散防止対策事業」/2026年4月2日更新)

大規模修繕でいちばん大事なのはこの一文です

北杜市のページには、こう書かれています。

外壁等に使用されている仕上塗材や屋根等に使用されているスレート板等は、吹付け建材と異なるため、補助の対象外となります。

これは、大規模修繕を検討している管理組合にとって決定的に重要な一文です。

大規模修繕の現場でアスベストが問題になるのは、実は吹付け材より外壁の仕上塗材であることが多いのです。1980年代までの建物では、外壁の吹付けタイルやリシンといった仕上塗材にアスベストが含まれていることがあります。これが含有していると、下地調整や既存塗膜の剥離作業に石綿障害予防規則上の措置が必要になり、養生や作業手順、廃棄の扱いが変わって、工事費が跳ね上がります。

北杜市の補助は、この仕上塗材には使えません。つまり、外壁の仕上塗材のアスベスト対応費用は自己負担で予算を組む前提で長期修繕計画を見直す必要があります。ここを知らずに「アスベストは市の補助があるから大丈夫」と考えていると、着工後に数百万円の追加が発生します。

一方で、吹付け建材が見つかりやすいのは次のような場所です。

  • 機械室、電気室の天井や梁
  • 屋内駐車場の天井
  • 階段室の裏側
  • エレベーター機械室
  • パイプスペース内部

私が悔しい思いをするのは、こういう箇所が「足場を架けた後」「天井を開口した後」に見つかるケースです。工程が止まり、居住者への説明も一からやり直しになります。調査事業は補助対象経費の10分の10、つまり全額が上限25万円まで見てもらえる制度ですので、設計に入る前に調査だけ先に走らせるのが賢い順番です。

なお、令和8年(2026年)3月時点で建築物石綿含有建材調査者による事前調査と報告が法令上求められています。補助の有無にかかわらず調査は必要になりますので、どうせやるなら補助を取ってから、という発想でいいと思います。


木造3事業がマンション共用部の対象外である根拠

インターネットで「北杜市 補助金 リフォーム」と検索すると、「最大143万7,500円」という数字が並んだまとめサイトが上位に出てきます。管理組合の理事さまがこれを見て「うちも使えるのでは」と期待されるのは自然なことです。

先に結論を申し上げます。この143万7,500円は、戸建ての木造住宅のための金額です。 鉄筋コンクリート造や鉄骨鉄筋コンクリート造の分譲マンションの共用部には使えません。

根拠は北杜市のページの明文です。

木造住宅耐震診断事業の対象要件(すべてを満たすこと):

  1. 既存木造住宅で昭和56年5月31日以前に着工されたもの
  2. 木造在来軸組工法及び伝統工法で建築したもの
  3. 戸建て住宅で長屋、共同住宅以外のもの
  4. 階数が2階建て以下のもの
  5. 北杜市内に住所を有する耐震診断希望者が所有する木造住宅で、かつ居住している者で、市税を滞納していない者
  6. 過去に耐震診断事業の実施をしていないもの
  7. 北杜市暴力団排除条例に規定する暴力団又は暴力団員等でない者

3番に「長屋、共同住宅以外のもの」と書かれています。ここで分譲マンションは外れます。

木造住宅耐震改修等支援事業の補助対象者にも、「既存木造住宅(北杜市内に住所を有する個人が所有する住宅で、かつ、その個人が居住するものであって、長屋、共同住宅以外の戸建て住宅をいう。)を所有する者であること」とあります。

補助金額は次のとおりです。

事業 上限
木造耐震改修工事 143万7,500円
耐震建替工事 143万7,500円
耐震シェルター等設置工事 24万円

耐震シェルターの上限24万円は、山梨市・都留市・上野原市の36万円と比べて低く設定されています。同じ県内でも市によって額が違うということです。まとめサイトの数字をうのみにしないでください。

それでも理事会で共有する価値はあります

診断は市が無料で実施します。理事の方の中に、市内に昭和56年5月以前の木造の実家をお持ちの方はいらっしゃいませんか。掲示板やお知らせで「マンション共用部には使えませんが、市内の戸建てをお持ちの方はこういう制度があります」と情報還元すると、理事会への信頼が上がります。総会の議案が通りやすくなるのは、こういう積み重ねです。

診断の申込は市営住宅課の窓口とされていますが、補助金の所管は建設部 土地政策課です。件数に限りがある旨も明記されています。


誤読しやすい制度を先回りで仕分けする

北杜市には住宅関連の補助がいくつもありますが、分譲マンションの共用部に効くものと効かないものが混在しています。理事会での議論が空回りしないよう、先に仕分けしておきます。

制度 共用部の大規模修繕 除外の根拠
空き家バンク活用促進リフォーム補助金 × 対象は空き家バンク登録物件。所有者等は「個人」と定義。外構工事は除外
やまなしKAITEKI住宅普及促進事業費補助金 × 「自ら居住する目的で建築又は取得した方」が対象。KAITEKI住宅認定住宅が前提
子育て世帯マイホーム取得支援事業費補助金 × 新築・建売・中古住宅の取得費が対象。外構工事は対象外
宅配ボックス購入費補助金 △ 「管理者等」は賃貸を目的とする集合住宅の所有者・管理会社等と定義

補足しておきます。

空き家バンク活用促進リフォーム補助金は、令和8年度の受付が始まっています。家財処分事業が補助対象経費の3分の2以内で上限100万円、リフォーム事業が3分の2以内で上限150万円(所有者が賃貸する場合)と、金額としてはかなり大きい制度です。対象工事には屋根・外壁・雨樋・建具・ベランダ・バルコニーの外装工事が含まれています。ただし対象はあくまで空き家バンク登録物件で、外構工事は除外されています。市内に本社・支社・支店・営業所を有する法人か、市内で事業を営む個人が施工することも条件です。

宅配ボックス購入費補助金は、少し可能性があります。「管理者等」の定義が「賃貸を目的とする戸建て又は集合住宅の所有者、物件管理会社等その他賃貸を目的とする戸建て又は集合住宅の管理権限を有する者」となっており、1棟につき1回、総戸数に相当する基数まで、補助対象経費の2分の1で1基あたり1万円が上限です。賃貸マンションのオーナーさまには直接効きます。 ただし「賃貸を目的とする」という限定があるため、分譲マンションの管理組合が対象になるかどうかは市のページからは判断できません。また購入期間が令和8年3月10日までとなっており、令和8年度の継続については記載が見当たりません。所管は産業観光部 商工課(0551-42-1354)です。

私が北杜市の制度全体を見て感じたのは、除外する場合はきちんと明文で書く傾向があるということです。「戸建て住宅で長屋、共同住宅以外のもの」「自ら居住する目的で」「賃貸を目的とする」——いずれも書き方が具体的です。裏を返せば、明文の除外がない制度については、窓口に確認する価値があるということでもあります。


使い方を知られていない制度:建築物防災出張講座

北杜市のページに、こういう記載があります。

「山梨県で地震は起こるの?」「住宅の耐震診断って何?」「耐震改修ってどんなことをするの?」「補助金はあるの?」——住宅の耐震化に関する疑問について、「建築物防災出張講座」として、職員が地区やサークル等の会合の場に伺い、映像等によりわかりやすく説明します。費用負担はありませんので、利用したい方はお申し込みください。

これは、私が北杜市の資料を読んでいていちばん「使える」と思った制度です。

管理組合の総会や理事会は、まさに「会合の場」です。市の職員の方に来ていただいて、耐震と補助制度の説明を直接していただく。これができれば、区分所有者の納得感がまったく違います。

私のような施工会社の人間が「この工事は必要です」と説明するのと、市の職員の方が「制度としてはこうなっています」と説明するのとでは、聞く側の受け止め方が違うのです。これは私自身の立場を差し引いて申し上げています。理事会が業者に押し切られたのではなく、公的な情報を踏まえて自分たちで判断した——その形をつくることが、大規模修繕の合意形成では何より効きます。

申込書とパンフレットは北杜市のページからダウンロードできます。総会の30分前に設定する、というやり方もあります。


北杜市の気候が外壁と防水にかける3つの負荷

北杜市は山梨県内でも特殊な環境です。市の公式資料によると、面積は602.48平方キロメートルで県全体の13.5パーセントを占め、県内最大。大泉観測点の年間日照時間は2,081時間で全国平均の1,934時間を上回り、年平均気温10.7度、年間降水量1,138ミリメートルで全国平均より少ない、とされています(出典:北杜市「北杜市の位置と地勢、面積、気象」)。明野町は日照時間の長さで知られています。

この気象条件が、建物の外皮に何をするか。3つに整理します。

要因 建物への影響 予算配分の考え方
日照時間が長く紫外線量が多い 塗膜の劣化とシーリングの硬化・ひび割れが平地より早く進む 塗料グレードを1段上げる。シーリングは打ち増しでなく打ち替え範囲を広く取る
標高が高く冬の凍結融解が厳しい 水は凍ると体積が約9パーセント増える。微細なひび割れに入った水が凍って割れを広げる タイルの浮き、防水層の膨れを年1回は点検。特に秋
年間降水量が少なく乾燥・寒暖差が大きい 目地の伸縮量が大きく、シーリングの追従性が問われる 高耐久・高追従のシーリング材を選ぶ。単価差より打ち替え周期の差で見る

海から遠いため塩害はほとんど考えなくて構いません。そのぶんの予算を、紫外線対策と凍結融解対策に振り向けるのが合理的です。

現場のエピソードをひとつ。寒暖差の大きい地域で、屋上防水に畳1枚ほどの膨れが出ているのを見つけたことがあります。理事会では「来年の点検まで様子を見よう」となりました。1年後に伺うと、膨れは数倍に広がり、下地まで水が回って最上階の天井にシミが出ていました。膨れの中に溜まった水が冬に凍り、防水層を内側から押し広げていたのです。結果として、部分補修で済んだはずの工事が全面改修になり、費用は数倍。何より、最上階にお住まいだった方との関係を修復するのに半年かかりました。

寒冷地では、屋上防水の膨れは「様子を見る」対象ではありません。私はこれを、秋の点検項目に入れていただくようお願いしています。


リゾート・二地域居住マンションと、2026年施行の改正区分所有法

北杜市の分譲マンションには、他の市とは違う事情があります。小淵沢、清里、大泉といった八ヶ岳南麓のエリアには、別荘・セカンドハウス・二地域居住を前提としたマンションが存在します。

この場合、区分所有者の相当数が東京都・神奈川県など県外に居住していることになります。管理組合として何が起きるか。

  • 総会の出席率が上がらない
  • 議決権行使書や委任状の回収に時間がかかる
  • 相続で所有者が変わったまま連絡先が更新されていない
  • 「たまにしか来ないから、外壁の色にはこだわらない」という無関心

私は、こういう組合の理事長さまが本当に苦労されているのを何度も見てきました。大規模修繕の議案が出席者数の関係で流れる。次の年も流れる。そうしているうちに劣化が進み、工事費が上がる。

ここで2026年4月1日施行の改正区分所有法(令和7年法律第47号)が効いてきます。改正では、決議の母数の考え方が見直され、集会に出席した区分所有者を基礎とする方式が導入されました。欠席者や無回答の区分所有者は母数から除かれ、所在等不明の区分所有者については裁判所の関与のもとで母数から除外する仕組みも設けられています。

これがどういう意味を持つか。過去に「賛成は多かったのに、母数が全区分所有者だったせいで決議に届かなかった」組合ほど、2026年度に再提案する価値があるということです。

ただし建替え等の重い決議については従来の要件が残る部分もあります。自分の組合の議案がどちらに当たるかは、マンション管理士や弁護士に確認してください。ここは私の専門領域ではありませんので、断定を避けます。

そして、この改正と管理計画認定は相性がいいのです。認定基準には「集会が年1回以上開催されていること」「組合員名簿、居住者名簿を年1回以上確認していること」が含まれています。認定を目指す過程で名簿を整備すれば、県外区分所有者への連絡が通るようになる。連絡が通れば、決議が動く。制度を取りに行くこと自体が、組合の体質改善になります。


工事の適期カレンダーと、逆算の考え方

寒冷地では施工可能な季節が限られます。塗装も防水も、気温5度以下・湿度85パーセント以上では原則として施工できません。

時期 適性 理由
3月下旬〜6月上旬 ◎ 気温・湿度とも安定。最有力
6月中旬〜7月上旬 △ 梅雨。工程が読みにくい
7月中旬〜8月 ○ 高温だが施工は可能。標高が高い分、平地より作業環境は良い
9月〜11月中旬 ◎ 秋晴れが続く。第2の適期
11月下旬〜3月中旬 × 朝晩の冷え込みで施工条件を下回る日が多い

つまり北杜市で工事に使える窓は、年間で実質2つしかありません。しかもその2つに、県内外の管理組合が集中します。

春の窓を取るには、前年の秋までに業者選定を終えている必要があります。 これが逆算の起点です。「来春やろう」と今年の冬に思い立っても、まず間に合いません。

理事の任期が1年の組合では、この逆算が世代をまたぎます。だからこそ、書面での申し送りが要ります。


3工法の比較と、仮設費という費目の正体

ここからは私の本業の話です。利益相反があることを先に明示しておきます。株式会社明誠は、足場を使う工事も、ロープアクセスによる無足場工法も、その両方を組み合わせたハイブリッド工法も手がけている会社です。そのうえで、数字だけをご覧ください。

大規模修繕工事において、仮設足場の費用は総工事費のおおむね15〜25パーセントを占めます。

総工事費 仮設足場費の目安(15〜25%)
3,000万円 450万〜750万円
5,000万円 750万〜1,250万円
8,000万円 1,200万〜2,000万円

北杜市のブロック塀補助の上限は26万円、重要路線でも39万円です。桁が2つ違います。

私が申し上げたいのは、「補助金を探すな」ということではありません。理事会が議論に費やす時間の配分を、金額の大きさに合わせてくださいということです。補助金の話で理事会を3回使うより、仮設のあり方を1回議論するほうが、削れる金額は大きいのです。

工法 特徴 向いている建物
通常足場工法 全面に仮設足場を架ける従来型 中低層、形状が複雑、全面的な下地補修が必要
ロープアクセス工法(無足場工法) 産業用ロープで技術者が降下して施工。足場を架けない 高層、敷地が狭い、斜面地、部分補修中心、コスト最優先
ハイブリッド工法 部位ごとに足場とロープアクセスを使い分ける 大規模・複雑な建物で総合的にコストを最適化したいケース

ロープアクセス工法の技術的な解説や安全基準については、姉妹サイトのロープアクセスドットコムに詳しくまとめています。工法そのものを理事会で説明する資料をお探しでしたら、そちらのほうが体系的です。

弊社のサービス内容はロープアクセス工法のご紹介と大規模修繕工事のご紹介にまとめています。

「敷地に余裕があるから足場」という思考停止への3つの問い

北杜市は敷地に余裕のある物件が多い地域です。だからこそ「足場を架けられるのだから足場でいい」となりがちです。理事会で次の3つを確認してみてください。

  1. 今回の工事は全面改修ですか、部分補修ですか。 部分補修が中心なら、全面に足場を架ける合理性は下がります。
  2. 居住者が2〜3か月、バルコニーを塞がれて窓に近寄れない生活を受け入れられますか。 リゾートマンションでオーナーさまが滞在する時期と工期が重なると、苦情になります。
  3. 見積書の「仮設工事」という費目の下に、何がいくらで入っていますか。 架設・解体・運搬・養生シート・昇降設備。内訳を出させると、比較の土俵ができます。

モデルケースで見る、工法選定の金額差

北杜市で想定される2つのケースで、概算をお示しします。実在の物件ではありません。相場感をつかむための試算としてご覧ください。

ケース1:小淵沢エリア、築26年、6階建て32戸

項目 従来足場工法 ハイブリッド工法
総工事費 5,600万円 4,800万円
差額 — ▲800万円
1戸あたり 175万円 150万円(▲25万円)
工期 約4か月 約3か月(約1か月短縮)

バルコニー側は足場を架けて全面の下地補修と塗装、開口部の少ない妻面と屋上まわりはロープアクセスで対応する組み方です。工期が1か月縮むことは、二地域居住のオーナーさまが多い建物では金額以上の価値があります。

ケース2:市内郊外、築42年、5階建て18戸

項目 従来足場工法 ロープアクセス主体
総工事費 3,300万円 2,700万円
差額 — ▲600万円
1戸あたり 183万円 150万円(▲33万円)
資金 一時金が必要 機構融資で一時金ゼロも視野

18戸で3,300万円。1戸あたり183万円です。戸数が少ない建物は、1戸あたりの負担が重くなります。北杜市の分譲マンションは大規模なものが多くありませんから、この「戸数の少なさゆえの重さ」は現実的な問題です。だからこそ、工法の選択肢を持っているかどうかで結果が変わります。

弊社の価格の考え方については適正価格へのこだわりにまとめています。


修繕積立金が足りないときの4つの打ち手

打ち手 内容 注意点
① 一時金の徴収 区分所有者から不足分を集める 総会で最も通りにくい。県外区分所有者が多いと特に
② 機構融資の活用 管理組合名義で借り、積立金から返済 議案の性格が「一時金」から「月々の見直し」に変わる
③ 段階施工 工事を2回3回に分ける 仮設費が回数分かかる。総額はむしろ増えることが多い
④ 工法の見直し 足場前提の仕様を組み直す 設計に入る前でないと選択肢が消える

順番が大事です。④を最初に検討してください。 設計に入る前なら4つの選択肢がありますが、設計事務所と業者を決めて仕様を固めてしまうと、④は消えます。残るのは①②③だけです。

私が現場で20年やってきて一番もったいないと感じるのは、④を検討しないまま①で総会が紛糾している組合です。工法から見直せば削れたはずの600万円が、そこにあったのに。


18か月の逆算カレンダー

北杜市の管理組合が、来春または来秋の工事を狙う場合の時間軸です。

時期 やること
18か月前 劣化診断の実施。長期修繕計画の作成・見直しから7年以内かを確認
16か月前 管理計画認定の要件を5分野で自己点検。規約改正が必要かを判定
15か月前 土地政策課(0551-42-1361)へ電話。認定申請手数料、ブロック塀の申請主体、アスベスト調査の相談の3点
14か月前 アスベスト調査事業の交付申請(上限25万円・補助率10/10以内)
12か月前 工法の選定。税務課へ長寿命化促進税制の減額割合と申告要件を確認
10か月前 マンション管理センターへ事前確認を依頼。適合証の取得
9か月前 資金計画。住宅金融支援機構へ事前相談。相見積り先のリストアップ
8か月前 北杜市へ管理計画認定を申請
6か月前 ブロック塀補助の交付申請(塀は別契約に切り出す)
4か月前 交付決定を受けてから契約。ここまでは契約しない
着工 工事開始
竣工後3か月以内 長寿命化促進税制の申告
引き継ぎ時 次期理事会へ書面で申し送り

この表を印刷して、理事会の議事録に添付してください。理事が交代しても、時間軸は引き継げます。


相見積りで見るべき3つのポイント

金額の総額だけを比べても、業者選定はうまくいきません。私はいつも次の3点を見るようお伝えしています。

  1. 数量の根拠:外壁の塗装面積、シーリングの延長メートル、タイルの補修数量。この数量がどこから出た数字なのかを聞いてください。図面から拾ったのか、現地で測ったのか。数量が違えば、単価が同じでも総額は変わります。
  2. 仕様の粒度:「高耐久塗料」ではなく、メーカー名・製品名・グレードまで書かせてください。ここが曖昧な見積りは、後から安いものに置き換えられます。
  3. 「別途」の中身:見積書に「別途」と書かれた項目が何を指すのか。特に下地補修は、開けてみないと数量が確定しません。想定を超えた場合の追加単価を、契約前に見積書へ明記させてください。 ここを詰めておくかどうかで、竣工時の追加請求が決まります。

よくある質問(FAQ)

Q1. 北杜市に、マンションの大規模修繕そのものへの補助金はありますか。
A. 私が公開情報を調べた範囲では、共用部の大規模修繕工事に直接交付される市の補助金は見当たりませんでした。代わりに、管理計画認定を経由した固定資産税の減額と住宅金融支援機構の金利優遇が、金額として大きな効果を持ちます。

Q2. 北杜市はマンション管理計画認定の申請を受け付けていますか。
A. はい。北杜市は「北杜市マンション管理適正化推進計画」を作成し、「北杜市マンションの管理計画認定制度」を創設しています。申請先は北杜市 建設部 土地政策課です(出典:北杜市)。山梨県の窓口は町村部のマンションのみが対象ですので、市部にあるマンションは市に申請します。

Q3. 認定の申請手数料はいくらですか。
A. 北杜市のページには手数料の記載が見当たりませんでした。参考として山梨県は適合証あり3,600円、適合証なし25,500円(長期修繕計画が1つの場合)です。北杜市の額は土地政策課(0551-42-1361)にご確認ください。

Q4. 長期修繕計画は何年分あればよいですか。
A. 認定基準では、計画期間が30年以上で、かつ残存期間内に大規模修繕工事が2回以上含まれるように設定されていることが求められます。また作成又は見直しが7年以内に行われていることも要件です。

Q5. ブロック塀の補助金は管理組合の名義で申請できますか。
A. 北杜市のページには対象者が「個人」と記載されています。管理組合名義で受け付けられるかどうかは、この記載だけでは判断できません。土地政策課へ事前にご相談ください。なお申請前に着工したものは対象外です。

Q6. 外壁の吹付けタイルにアスベストが入っていたら、市の補助は使えますか。
A. 使えません。北杜市のページに「外壁等に使用されている仕上塗材や屋根等に使用されているスレート板等は、吹付け建材と異なるため、補助の対象外となります」と明記されています。補助の対象は吹付け建材です。仕上塗材の対応費用は自己負担で予算を組んでおいてください。

Q7. 「北杜市は最大143万7,500円の補助」と書いてあるサイトを見ました。
A. その金額は木造住宅耐震改修等支援事業のもので、対象は「長屋、共同住宅以外の戸建て住宅」と市のページに明記されています。鉄筋コンクリート造の分譲マンション共用部には使えません。

Q8. ロープアクセス工法は、どんな建物に向いていますか。
A. 敷地が狭い、斜面地で足場の基礎が組みにくい、部分補修が中心、居住者の生活影響を抑えたい、といった条件で効果が出やすい工法です。一方、全面的な下地補修が必要な建物では足場のほうが合理的な場合もあります。技術的な条件はロープアクセスドットコムで解説しています。


この記事のポイントまとめ

  • 北杜市に共用部大規模修繕への直接補助は公開情報で確認できず
  • 北杜市はマンション管理計画認定を市が受け付ける県内でも数少ない市
  • 認定は固定資産税1/3減額と機構融資の金利優遇につながる
  • ブロック塀補助は上限26万円、重要路線なら39万円と県内では高い水準
  • アスベスト補助は吹付け建材のみ。外壁の仕上塗材は対象外と明記
  • 木造3事業は「長屋、共同住宅以外の戸建て」と明文で対象外
  • 建築物防災出張講座は無料。理事会や総会に市の職員を呼べる
  • 日照時間の長さと凍結融解が、北杜市の外壁と防水の二大負荷
  • 仮設足場は総工事費の15〜25%。補助金より桁が大きい
  • 工法の見直しは設計に入る前でないと選択肢が消える

出典・参考資料

※本記事の制度情報は2026年8月20日時点で公開されている情報に基づいています。補助金・税制は年度ごとに要件や予算枠が変わり、予算の上限到達により受付が終了することがあります。申請にあたっては、所管課の最新の案内をご確認ください。また本記事は法的助言・税務助言を目的とするものではありません。個別の判断は専門家にご相談ください。


最後に、北杜市の理事長さまへ。この記事でお伝えしたことは、突き詰めれば電話2本です。建設部 土地政策課(0551-42-1361)に「管理計画認定の手数料とブロック塀の申請主体」を、税務課(代表0551-42-1111)に「長寿命化促進税制の減額割合と申告要件」を。合わせて20分もかかりません。

その20分が、数十万円から数百万円の差になることがあります。ご相談だけでも遠慮なくお声がけください。総会の前段階の整理だけでも、お力になれることがあります。お問い合わせはこちらから承っています。


執筆者:本間 幸紘(株式会社明誠 代表取締役)
専門領域:マンション大規模修繕/ロープアクセス工法/建物長寿命化計画
実務経験:建設・改修業界 20年以上
所属:一般社団法人 全国建設業支援協会(JCSA)

株式会社明誠について:東京都小平市を拠点に、東京・関東一円でロープアクセス工法と従来足場工法の両方を提案できる改修会社です。日本初のロープアクセス工事フランチャイズを展開しています。

最終更新:2026年8月20日

大規模修繕の資金は「金利」で目減りする時代へ|長期金利2.945%・約30年ぶり高水準の2026年、管理組合とオーナーが今なお守れる2つのコスト【2026年8月】

2026年8月20日 更新

この記事で答える質問:金利が上がると、マンションやビルの大規模修繕にいくら余計にかかるのか。そして、いま自分の手で下げられるコストはどこに残っているのか。

昨日、理事長さまからこんなご連絡をいただきました。「工事費が上がっているのは分かった。でも今度は、銀行の人に『借りるなら早いほうがいい』と言われた。何が起きているんですか」と。

私は建設・改修の人間で、金融の専門家ではありません。それでも、この夏の数字の動き方は、20年近く現場を歩いてきた私の目から見ても、明らかに今までと違います。工事費が上がるだけなら「工法と仕様で削る」という戦い方がありました。しかし2026年8月にいま起きているのは、工事費・金利・土地評価という三つの数字が、同じ方向へ同時に動いているという状況です。

正直に申し上げます。このうち工事費と金利と土地評価、その全部を管理組合やオーナーの側でコントロールすることはできません。ただし、確実に自分の手で下げられるコストが二つだけ残っています。今日はその話をします。


結論:金利は、もはや「工事費の一部」です

先に結論から申し上げます。

  1. 借入前提で大規模修繕を計画するなら、金利は仕様や数量と同じ「見積項目」として扱うべき段階に入りました。 借入額5,000万円・返済7年なら、金利が年0.4%違うだけで総返済額は数十万円単位で変わります。
  2. その0.4%は、いま制度で下げられます。 住宅金融支援機構の「マンションすまい・る融資」は、金利引き下げの要件を2つ満たすと、令和8年8月時点で返済期間1年以上10年以内の金利が年1.51%→年1.11%まで下がります。引き下げ要件は3つあり、3つすべてを満たせば最大年0.60%の引き下げになります(出典:住宅金融支援機構「マンション共用部分リフォーム融資の融資金利について」、マンションすまい・る融資のご案内)。
  3. そしてもう一つ、借入額そのものを小さくする方法があります。 大規模修繕の工事費のうち、建物を1ミリも良くしないまま消えていく費用——仮設足場です。ここは工法の選択で変えられる余地が残っています。

金利も、工事費の相場も、路線価も、私たちの側では動かせません。動かせるのは、「どの制度を使って借りるか」と「どの工法で施工するか」の二つです。今日はこの二つを、数字で追います。

いま起きていること 2026年8月時点の数字 管理組合・オーナー側で動かせるか
長期金利の上昇 新発10年物国債利回りが一時2.945%(30年ぶり高水準) ✕ 動かせない
建設工事費の上昇 建設工事費デフレーターは2015年度=100に対し130台 ✕ ほぼ動かせない
土地評価の上昇 令和8年分路線価は全国平均+2.9%、5年連続上昇 ✕ 動かせない
借入金利の引き下げ 管理計画認定+すまい・る債で年0.40%、省エネ・耐震・浸水対策工事も行えば最大年0.60%の引き下げ ○ 動かせる
仮設費の圧縮 工事費に占める仮設足場の割合は一般に2割前後とされる ○ 動かせる

何が起きているのか:2026年8月、三つの数字が同時に動きました

数字① 長期金利が30年ぶりの水準へ

2026年8月18日の国内債券市場で、長期金利の指標である新発10年物国債の利回りが一時2.945%まで上昇しました。これは1996年10月以来、約29年10か月ぶり(およそ30年ぶり)の高い水準です(出典:日本経済新聞「長期金利上昇、一時2.945% 財政懸念や日銀利上げ観測で」)。

背景には、日本銀行が追加の利上げに動くという市場の見方があります。2026年7月31日の金融政策決定会合では政策金利が1.0%程度で据え置かれましたが(出典:日本銀行「金融政策決定会合の運営/各会合の公表資料」)、市場では9月会合での利上げが相応の確度で織り込まれている、と報じられています。同じ8月18日には、金利上昇を嫌気して不動産株が相次いで年初来安値を更新しました。

ここで一点、注意を添えておきます。先行きの利上げの有無や時期については、報道と市場の見方であって、決まった事実ではありません。私はこの記事で「これから必ずこうなる」という書き方はしません。ただ、「借入コストが上がる方向に振れている」という事実だけは、もう資金計画に織り込んでおくべき段階だと考えています。

数字② 建設工事費は、下がる気配がありません

工事費のほうも、上がり続けています。国土交通省が公表している建設工事費デフレーター(過去と現在の建設コストを物価変動を調整して比べるための指標)は、2015年度を100とした指数で130台に達しています。単純に読めば、この10年でおよそ3割コストが上がった計算です(出典:国土交通省「建設工事費デフレーター」/政府統計の総合窓口 e-Stat。指数は系列・時点により異なるため、実務では最新値をご確認ください)。

私の実感とも合います。私が独立した頃、外壁の下地補修材やシーリング材の単価は、ここまで毎年見直される性質のものではありませんでした。いまは見積の有効期限を短く区切らざるを得ない場面が増えています。これは私だけの話ではなく、業界全体の話です。

数字③ 路線価は5年連続の上昇、しかも過去最大の伸び

2026年7月1日に国税庁が公表した令和8年分の路線価は、全国約31万地点の標準宅地の平均で前年比+2.9%。5年連続の上昇で、平成22年(2010年)分以降で最大の伸び幅となりました。都道府県庁所在都市の最高路線価は、バブル期の1991年以来35年ぶりに下落地点がゼロ。全国最高は東京・銀座5丁目の中央通りで1平方メートルあたり5,336万円(41年連続の全国1位)です。東京都全体では+9.4%と、全国で最も高い上昇率でした。

ここが収益不動産オーナーにとって効いてきます。路線価が上がるということは、相続税や贈与税の計算で使う土地の評価額が上がるということです。つまり、帳簿上の資産は増え、将来の税負担は重くなり、それでいて日々の家賃収入が自動的に増えるわけではない。この非対称性が、いまオーナーの手元のキャッシュを静かに圧迫しています。

数字 内容 出典
長期金利 2.945% 2026年8月18日、1996年10月以来の高水準 日本経済新聞
政策金利 1.0%程度 2026年7月31日会合で据え置き 日本銀行
建設工事費デフレーター 130台 2015年度=100 国土交通省/e-Stat
路線価 全国平均+2.9% 令和8年分、5年連続上昇(標準宅地 約31万地点) 国税庁
銀座5丁目 5,336万円/㎡ +11.0%、41年連続1位 国税庁

管理組合の借入金利は、いま実際いくらなのか

「金利が上がっている」と言われても、管理組合が実際に借りるときの数字を知らなければ判断できません。ここは一次情報にあたるのが早いので、住宅金融支援機構の公表資料をそのまま引きます。

管理組合が大規模修繕の資金を借りるときの代表的な制度が、住宅金融支援機構のマンション共用部分リフォーム融資(愛称:マンションすまい・る融資)です。令和8年8月時点の適用金利は次のとおりです(出典:住宅金融支援機構、管理組合申込みの場合)。

返済期間 標準の金利 引き下げ要件を1つ充足(▲0.20%) 引き下げ要件を2つ充足(▲0.40%)
1年以上10年以内 年1.51% 年1.31% 年1.11%
11年以上20年以内 年1.74% 年1.54% 年1.34%
21年以上35年以内 年2.25% 年2.05% 年1.85%

金利引き下げの要件は、次の3つです。該当した数に応じて引き下げ幅が決まり、3つすべてに該当すれば最大で年0.60%の引き下げ(引き下げ後の下限は年0.1%)となります。

  1. 耐震改修工事、浸水対策工事、または省エネルギー対策工事のいずれかを伴うこと
  2. 申込み時点で「マンションすまい・る債」の残高があること
  3. 申込み時点でマンション管理計画認定を取得していること

この制度は全期間固定金利で、申込み時点の金利がそのまま適用されます。金利は毎月見直されるため、上の数字は令和8年8月時点のものです。

※返済期間には条件があります(ここは誤解が多い箇所です)。返済期間は原則として1年以上10年以内です。11年以上20年以内とできるのは、①耐震改修 ②浸水対策 ③省エネルギー対策 ④給排水管取替 ⑤玄関またはサッシ取替 ⑥エレベーター取替・新設 ⑦アスベスト対策 ⑧機械式駐車場解体、のいずれかの工事を行う場合に限られます。21年以上35年以内とできるのは、①〜③のいずれかを行い、かつマンション管理計画認定を取得している場合に限られます。外壁塗装と防水だけの大規模修繕であれば、返済期間の上限は10年です。(出典:住宅金融支援機構「マンションすまい・る融資 商品概要説明書」)

「毎月の返済額は修繕積立金の80%以内」という壁

もう一つ、実務で必ず引っかかるルールがあります。毎月の返済額は、毎月徴収している修繕積立金の額の80%以内でなければなりません。他に借入がある場合は、その返済額も合算して80%以内である必要があります(修繕積立金の滞納割合が10%超20%以内の管理組合は、条件を満たしたうえで60%以内)。

つまり、金利が上がると毎月の返済額が増える → 80%の枠に収まらなくなる → 借りられる額そのものが減る、という順番で効いてきます。私が「金利は工事費の一部です」と申し上げるのは、この意味です。金利の上昇は、単に利息が増えるという話にとどまらず、組める工事の規模を直接縛ります。

同機構の資料では、借入金100万円あたりの毎月返済額の目安も示されています。返済期間7年・元利均等・年1.51%なら、100万円あたり月12,552円。融資額5,000万円なら月627,600円という計算です。


「管理計画認定」で年0.4%——工事費に換算するといくらか

前の表で、いちばん右の列と左の列の差は年0.40%でした。管理計画認定と「マンションすまい・る債」の2つを満たした場合の差です。この0.40%を、金額に直してみます。

前提:借入額5,000万円、返済期間7年、元利均等毎月払い。機構公表の「借入金100万円あたりの毎月返済額」を使った試算です。

金利 100万円あたり月返済額 5,000万円の月返済額 7年間の総返済額(概算)
年1.51%(標準) 12,552円 627,600円 約5,272万円
年1.31%(要件1つ充足) 12,465円 623,250円 約5,235万円
年1.11%(要件2つ充足) 12,378円 618,900円 約5,199万円

差額は7年間でおよそ73万円。100戸のマンションなら1戸あたり7,000円強、50戸なら1戸あたり1万5,000円弱に相当します。

※この試算に保証料は含んでいません。機構の融資では、機構が認める保証機関(公益財団法人マンション管理センター等)の保証が必要で、保証料は融資金から差し引かれます。金額は返済期間や管理組合の区分によって変わるため、具体的な額は申込み前にご確認ください。

正直に申し上げると、この金額を見て「思ったより小さい」と感じる方もいらっしゃると思います。私も、これ単体では工事の成否を分ける金額ではないと思っています。ただ、この73万円は「工事の中身を一切削らずに」出てくる差額です。同じ73万円を工事側で捻出しようとすれば、どこかの仕様を落とすか、どこかの数量を削ることになります。それと比べれば、はるかに筋のいいお金です。

そもそもマンション管理計画認定制度とは

管理計画認定制度は、マンションの管理の適正化の推進に関する法律(平成12年法律第149号)にもとづき、管理組合が作成した管理計画を都道府県等の長が認定する制度です。長期修繕計画が適切な内容で作られ、定期的に見直されていることなどが認定の要件に含まれます。

私が理事会でこの話をするとき、いつもお伝えしているのは「認定は金利のためだけの制度ではありません」ということです。認定を取るために長期修繕計画を作り直す過程で、積立金の水準が実際の工事費に追いついているかが可視化されます。むしろそちらが本体で、金利の引き下げはついてくるもの、という順番で考えたほうが健全です。

なお、認定の要件・審査期間・手数料は自治体ごとに運用が異なります。ご自身のマンションが所在する市区町村の公式サイトで最新の情報をご確認ください。制度は変更される可能性があります。


オーナー側の話:路線価+2.9%は「評価は上がるが、キャッシュは増えない」

ここからは、賃貸マンションやテナントビルをお持ちのオーナーさま向けの話です。

路線価が上がると、相続税評価額が上がります。一方で、金利が上がると、変動金利で借りている物件の返済額が増えます。そして工事費が上がると、修繕の実額が増えます。三つとも、手元に残るキャッシュを減らす方向に働きます。

私が現場で見てきた範囲で、いちばん危ないパターンをお話しします。ある築30年前後の賃貸マンションで、オーナーさまが「今期は借入の返済が重いので、外壁は次の期に回したい」とおっしゃったことがありました。気持ちはよく分かります。ただ、私が図面と現地を見た限り、その建物はシーリングの切れが目地の広い範囲に出ていて、雨仕舞いが崩れかけていました。

修繕の先送りは、金利が上がる局面では二重に高くつきます。理由は二つです。

  1. 工事費そのものが上がる。 建設工事費デフレーターが示すとおり、待っている間に相場が動きます。
  2. その増えた工事費を、より高い金利で借りることになる。 先送りした分だけ、着工が金利上昇後にずれ込みます。

さらに三つ目として、劣化が進んだ分だけ補修数量そのものが増えるという要素があります。シーリングの打ち替えで済んだ範囲が、下地のモルタル補修まで必要になる。その差は、見積書では「数量」の欄に静かに現れます。

先送りで増えるもの 増え方
工事単価 資材・労務の相場上昇分
借入コスト 金利上昇分 ×(増えた工事費)
補修数量 劣化進行による実数量の増加
機会損失 空室・賃料交渉力の低下、入居者からの信頼低下

借入額そのものを小さくする:仮設足場という「建物を良くしない費用」

ここからが本題です。金利を下げる話は、借りる額が決まったあとの話でした。もっと効くのは、借りる額そのものを小さくすることです。

大規模修繕の見積書を開くと、いちばん上のほうに「仮設工事」という項目があります。枠組足場、養生シート、昇降設備、仮設電気、仮設トイレ。ここに計上される金額は、建物の性能を1ミリも上げません。塗膜も防水層もタイルも、仮設足場では良くならない。職人が安全に作業できる場所をつくるための費用です。

工事費に占める仮設足場の割合は、建物の形状・階数・敷地条件によって大きく変わりますが、一般に2割前後とされることが多い項目です。ここは幅を持って読んでいただきたいところで、隣地との離隔が取れない、道路使用許可が必要、敷地内に段差が多いといった条件が重なれば、比率はさらに上がります。逆に、単純な形状の低層物件なら下がります。

私が「工法の話をさせてください」と申し上げるのは、この2割前後のかたまりが、建物によっては圧縮できるからです。

ロープアクセス工法(無足場工法)とは

ロープアクセス工法は、産業用のロープと専用器具を使い、建物の屋上などから作業員が降下して外壁や設備の作業を行う工法です。足場を組まないため「無足場工法」とも呼ばれます。もともとは高所の点検・調査の分野で発達した技術で、近年は外壁の補修・塗装・シーリング打ち替え・タイルの打診調査などにも使われるようになりました。

ロープアクセス工法の技術的な背景や安全基準の考え方については、姉妹サイトのロープアクセスドットコムで詳しく解説しています。工法そのものを腰を据えて理解したい方は、そちらもあわせてご覧ください。

私どもが提案しているのは、次の3つの工法の使い分けです(ロープアクセス工法のご紹介)。

工法 仮設費 工期 居住者・テナントへの影響 向いている建物
通常足場工法 大きい 標準 大きい(窓が塞がる、防犯上の懸念、日照低下) 中低層、複雑な形状、全面的な補修が必要な建物
ロープアクセス工法(無足場工法) 小さい 短くなる傾向 小さい(バルコニー・窓が塞がらない) 高層、足場架設が困難、部分補修が中心の建物
ハイブリッド工法 中間 部位により最適化 中間 大規模・複雑で、部位ごとに条件が違う建物

ハイブリッド工法というのは、同じ建物のなかで部位ごとに工法を使い分けるやり方です。たとえば、面積が大きく作業が集中する妻壁は足場を架け、狭小地に面していて足場が組みにくい面はロープアクセスで対応する。全体の仮設費を抑えながら、施工品質が落ちる面をつくらない。これが私どもの考え方です(大規模修繕工事のご紹介)。


ただし、ロープアクセスが向かない建物もあります

ここは正直に書きます。ロープアクセス工法は万能ではありません。私は、向かない建物に無理に提案しないことのほうが、会社としてはるかに大事だと思っています。

向かない、あるいは慎重な検討が必要なケースを挙げます。

  • 外壁の全面改修で、補修数量が非常に多い場合:作業効率の点で足場のほうが合理的になることがあります。
  • 屋上に確実な支点(アンカー)が確保できない場合:構造上の支点が取れなければ、そもそも成立しません。
  • 大型の資機材や大量の材料を常時揚重する必要がある場合:ロープアクセスは運搬能力に制約があります。
  • 強風・落雷など気象条件の影響を受けやすい立地:稼働できない日が増え、かえって工期が読みにくくなることがあります。
  • 管理組合の合意形成上、施工状況を目視で確認したいという要望が強い場合:足場があるほうが理事会の納得は得やすい面があります。

私が理事会や役員会でお話しするときは、この「向かない条件」のほうを先にお伝えするようにしています。都合の悪い話を後から出す会社は、工事が始まってからも都合の悪い話を後から出します。それは、私が20年見てきた業界の、あまり気持ちのよくない側面のひとつです。


ホテル・テナントビルは、「営業を止めない」ことが金利対策になります

分譲マンションの管理組合と違い、ホテルやテナントビルのオーナーさまには、もう一つ固有の事情があります。工事期間中の売上です。

足場を架けて全面を養生シートで覆えば、外観は数か月にわたって隠れます。ホテルなら客室の眺望と採光が落ち、テナントビルなら1階路面店の視認性が落ちます。この間の減収は、見積書のどこにも載りません。しかし、実際にはオーナーさまの財布から出ていくコストです。

私が以前ご相談を受けたビジネスホテルでは、当初の計画では全面足場で約4か月の予定でした。現地を見たところ、劣化が集中していたのは東面と北面の一部で、南面と西面は打診調査の結果も良好でした。そこで、劣化が集中する面は足場を架け、良好な面はロープアクセスで部分補修とシーリングの打ち替えのみ行う——というハイブリッドの案をお出ししました。

結果として、養生シートで覆われる面と期間が減り、稼働率への影響を抑えることができました。もちろん、これはこの建物の劣化状況がそうだったからです。すべてのホテルで同じ提案が成り立つわけではありません。ただ、「全面足場か、何もしないか」の二択で考える必要はない、ということは申し上げておきたいと思います。

検討項目 分譲マンション ホテル・テナントビル
意思決定 理事会・総会の合意形成 オーナーの単独判断(比較的速い)
資金 修繕積立金+機構融資 自己資金+金融機関借入(金利上昇の影響が直接的)
工事期間中の損失 生活の不便 売上の減少(見積に載らないコスト)
工法選択の効き方 仮設費の圧縮 仮設費+営業継続の両方

金利が上がる局面では、借入で工事をするオーナーさまほど、工期そのものがコストになります。工期が延びれば足場のリース期間が延び、営業への影響期間も延びる。ここでも、工法の選択が効いてきます。


金利上昇局面で、次の総会までにやっておきたい5つのこと

具体的な行動に落とします。順番にも意味があります。

  1. 長期修繕計画の「工事費の前提年」を確認する。 何年時点の単価で積算されているかを見てください。5年以上前の単価で組まれていれば、いまの相場とは相当に乖離している可能性があります。
  2. 借入を前提にするかどうかを、先に決める。 借入をするなら、返済期間と金利によって「借りられる上限」が決まります。とくに、外壁塗装と防水だけの工事なら機構融資の返済期間は10年が上限です。工事の仕様を詰める前に、資金の枠を確定させるほうが手戻りがありません。
  3. マンション管理計画認定の取得を検討する。 金利の引き下げに加えて、長期修繕計画そのものが点検されます。所在する自治体の窓口に、要件と標準的な審査期間を確認してください。
  4. 「マンションすまい・る債」の残高の有無を確認する。 既に積み立てているなら、金利引き下げの要件を一つ満たしている可能性があります。
  5. 見積を取る前の段階で、工法の選択肢を検討する。 仕様が固まってから工法を変えるのは大変です。劣化診断の段階で「この建物は足場が要るのか、要らない面があるのか」を整理しておくと、その後の見積比較が一段クリアになります。

見積書と資金計画、ここを見てください

理事会で見積書を配られたときに、私がいつも「まずここを見てください」とお伝えしている箇所です。

見積書のチェックポイント

  • 仮設工事の金額と、その内訳。 「仮設工事一式」で1行になっている見積書は、内訳を求めてください。枠組足場の架面積(㎡)と単価が出ているかどうかで、比較の精度がまるで違います。
  • 架面積の㎡数が、業者ごとに揃っているか。 同じ建物なのに架面積が業者間で1割以上違うなら、どちらかの拾いが実態と合っていない可能性があります。
  • 足場の設置期間(リース期間)。 仮設足場は多くの場合、期間に応じた費用が発生します。工期が延びれば、その分だけ費用が積み上がる構造です。
  • 数量の根拠。 下地補修の数量は「想定」で入っていることが多く、実測で増減します。増減の精算ルールが契約書に書かれているかを必ず確認してください。
  • 諸経費率。 現場管理費と一般管理費が何%で計上されているか。工事費全体に対する比率で見ると、業者間の差が見えやすくなります。

資金計画のチェックポイント

  • 毎月の返済額が、修繕積立金月額の80%以内に収まっているか
  • 借入金利は全期間固定か、変動か(機構の融資は全期間固定)
  • 保証料が融資額から差し引かれることを織り込んでいるか
  • 次回(12年後前後)の大規模修繕までに、返済と積立の両方が回るか

なお、国土交通省のマンションの修繕積立金に関するガイドライン(平成23年4月策定/令和6年6月改定)には、専有面積あたりの積立金額の目安が示されています。自組合の水準を客観的に確認する材料として使えます。

また、令和5年度マンション総合調査によれば、修繕積立金の積立額が計画に対して不足しているマンションは36.6%にのぼり、そのうち11.7%は不足の割合が20%を超えていました。これは特殊な話ではなく、3組合に1組合以上が直面している状況です。

なお、工事費そのものがどう動いているかについては、大規模修繕の費用高騰は、賃料上昇では埋まらないで資材価格の側から整理しています。自治体ごとの補助制度については上野原市のマンション補助金|大規模修繕2026年版のような自治体別の記事もあわせてご覧ください。


よくある質問(FAQ)

Q1. 金利が上がる前に、大規模修繕を前倒しすべきですか。
A. 一概には言えません。ただし、劣化診断の結果として「いま着手すべき」と判断された工事を、資金面の理由だけで先送りする場合は、工事費・金利・補修数量の三つが増える可能性を織り込んで比較してください。判断材料は本文の「先送りで増えるもの」の表にまとめています。

Q2. マンション管理計画認定を取ると、金利はいくら下がりますか。
A. 住宅金融支援機構のマンションすまい・る融資には金利引き下げの要件が3つあり(①耐震・浸水対策・省エネのいずれかの工事を伴う ②すまい・る債の残高がある ③管理計画認定を取得している)、該当数に応じて1つで年0.20%、2つで年0.40%、3つすべてで年0.60%下がります(引き下げ後の下限は年0.1%)。令和8年8月時点の返済期間1年以上10年以内なら、標準の年1.51%が2つ充足で年1.11%になります。金利は毎月見直されるため、申込み時点の最新金利をご確認ください(出典:住宅金融支援機構)。

Q3. 管理組合はいくらまで借りられますか。
A. 融資対象工事費の範囲内で、かつ毎月の返済額が毎月徴収する修繕積立金の額の80%以内であることが条件です。他の借入がある場合は合算して判定されます。金利が上がると毎月の返済額が増えるため、借入可能額は実質的に縮みます。

Q4. ロープアクセス工法にすれば、必ず安くなりますか。
A. なりません。建物の形状、補修数量、支点の確保可否、周辺環境によって、足場のほうが合理的なケースがあります。私どもは劣化診断の結果をもとに、通常足場・ロープアクセス・ハイブリッドの3案を比較したうえでご提案しています。

Q5. 路線価が上がると、賃貸マンションのオーナーには何が起きますか。
A. 相続税・贈与税の計算に使う土地の評価額が上がります。一方で家賃収入が自動的に増えるわけではないため、資産評価とキャッシュフローの差が広がります。具体的な税額への影響は個別事情によって大きく異なるため、税理士等の専門家にご相談ください。私は税務の専門家ではありませんので、この記事は税務上の助言ではありません。


この記事のポイントまとめ

  • 長期金利は2026年8月18日に一時2.945%と、30年ぶりの高水準になった
  • 借入前提の大規模修繕では、金利は仕様や数量と同じ「見積項目」として扱う段階に入った
  • 機構融資の金利引き下げ要件は3つあり、併用でき、3つすべて満たせば最大年0.60%下がる
  • 返済期間は原則10年以内。20年・35年にできるのは特定の工事を伴う場合に限られる
  • 毎月の返済額は修繕積立金月額の80%以内という制約があり、金利上昇は借入可能額を縮める
  • 仮設足場は建物の性能を上げない費用であり、工法の選択で圧縮できる余地がある
  • ロープアクセス工法は万能ではなく、向かない建物・条件がはっきり存在する

おわりに

金利のことも、路線価のことも、私たち施工会社が動かせるものではありません。私にできるのは、同じ建物を、同じ品質で、より少ない仮設費で直す方法を一緒に探すことだけです。

ただ、その「だけ」が、いまの局面ではかなり効きます。借入額が小さくなれば、金利が0.4%上がろうが下がろうが、影響そのものが小さくなるからです。金利を追いかけるより、借りる額を小さくするほうが、たいていの場合は確実です。

工事のご発注が決まっていなくても構いません。長期修繕計画の数字が現実と合っているかどうか、その一次的な整理だけでも、お力になれることがあります。総会の前段階のご相談だけでも、お問合せフォームから遠慮なくお声がけください。

これは私が現場で20年見てきた、嘘偽りのない感想です。次回も、現場で本当に使える話だけをお届けします。


執筆者:本間 幸紘(株式会社明誠 代表取締役)
専門領域:マンション大規模修繕/ロープアクセス工法/建物長寿命化計画
実務経験:建設・改修業界 20年以上
所属:一般社団法人 全国建設業支援協会(JCSA)

株式会社明誠について:東京都小平市を拠点に、東京・関東一円でロープアクセス工法と従来足場工法の両方を提案できる改修会社。日本初のロープアクセス工事フランチャイズを展開しています。

最終更新:2026年8月20日

※本記事は制度・金利・統計の一般的な解説であり、税務・法務・金融に関する個別の助言ではありません。制度および金利は変更される可能性があります。適用の可否や最新の数値は、必ず各公式窓口でご確認ください。


出典・参考資料

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