塗装・防水工事の倒産が過去最多ペース——2026年1〜5月で80件。あなたの大規模修繕、その施工会社は最後までやり切れるか。収益物件オーナー・管理組合の「業者選定」と「工法」の判断軸【2026年6月】

朝のニュースに、少し背筋の伸びる見出しがありました。「塗装・防水工事の倒産、2026年1〜5月で80件」。帝国データバンクの調査です。数字だけ見ると業界の内輪話のようですが、これは収益物件をお持ちのオーナーさま、そしてマンション管理組合の理事長さま・修繕委員のみなさまにこそ、関わりのある話です。

結論から申し上げます。いま起きているのは「工事を請け負う側」の体力低下です。そして大規模修繕は、その「請け負う側」に建物と数千万円規模の予算を、半年から一年近く預ける取引にほかなりません。預けた相手が工事の途中で力尽きてしまったら——前払いしたお金、約束された保証、組み上げた工程は、どうなるでしょうか。

今日は、報じられた事実を冷静に押さえたうえで、「価格の安さ」だけでは見えない施工会社のリスクをどう見極めるか、そして資材高・人手不足というこの逆風のなかで、足場費を抑えながら品質と完遂力を守る工法の選び方までを、現場の言葉で整理します。煽るためではありません。大切な資産を預ける相手を、納得して選んでいただくためです。

ニュースの要点——塗装・防水の倒産が「過去最多」に次ぐペースで進んでいる

まず、報じられている数字を正確に押さえます。

帝国データバンクの調査によると、2026年1〜5月に発生した「塗装工事」と「防水工事」の倒産は80件。内訳は塗装工事が56件、防水工事が24件です。これは、通年の件数が2000年以降で最多となった2025年(同じ5月までで87件)に次ぐペースで推移しています(出典:帝国データバンク「塗装・防水工事の倒産動向(2026年1-5月)」、帝国データバンク プレスリリース、Yahoo!ニュース(RSK山陽放送))。

注目すべきは、倒産の「規模」です。負債額別で見ると、1億円未満の倒産が69件と、全体の約86.3%を占めました。つまり、倒れているのは大手ではなく、地域で堅実に工事を担ってきた小規模事業者が中心だということです。

なぜ「過去最多」級の水準が続いているのか

帝国データバンクは、塗装・防水工事ではナフサ由来の溶剤が多く使われ、加えて養生シートや塗料の容器といった副資材もナフサを原料としているため、中東情勢によるナフサ不足の影響拡大が懸念される、と指摘しています。現場ではすでに、塗料や防水材の値上がり幅が読みにくく工事金額の見積もり提示が難しくなるケースや、資材調達の遅れによる工期遅延が発生しているといいます。

ここで、前日(6月21日)にお伝えしたニュースとつながります。政府は6月23日から、品薄が続く塗料用シンナーをメーカーから工務店などへ直接販売する仕組みを始めます。これは供給ひっ迫に対する初動の一手であり、流れが変わる入口です。けれども、供給が一夜で元に戻るわけではありません。供給対策が効いてくるまでの「端境期」に、資金体力の薄い事業者から先に力尽きていく——いまの倒産増は、その過渡期の痛みでもあるのです。

塗装・防水は「建設業全体の縮図」でもある

視野を少し広げると、塗装・防水だけの問題ではないことが見えてきます。建設業全体の倒産は、2025年度(2025年4月〜2026年3月)で2,041件にのぼり、前年比5.6%増で過去10年で最多となりました(出典:帝国データバンク「倒産集計 2025年度報」、帝国データバンク「建設業の倒産動向(2025年)」)。

要因別では、建設業の「物価高倒産」が247件で過去最多。資材費や燃料費の高騰を発注元へ価格転嫁できず、利益を削りながら受注を続けた末に行き詰まったケースが目立ちます。さらに「後継者難倒産」は123件で全業種中最多、人手不足を直接の引き金とする倒産も高水準でした(東京商工リサーチによれば、2025年度の人手不足倒産は全業種で442件と調査開始以降で最多。出典:日本経済新聞、東京商工リサーチ「塗装工事業の倒産が急増」)。

要するに、人件費の急騰・工期の延長・建材価格の上昇という重いコストアップに、請負単価の値上げが追いついていない。これが業界を貫く構造的な弱りです。塗装・防水の倒産増は、その縮図にすぎません。

補足——なぜ「ナフサ不足」が塗装・防水を直撃するのか

ここで一度、因果の連鎖を整理しておきます。なぜ中東情勢が、遠く離れた日本の外壁塗装の現場まで届くのか。この道筋を理解しておくと、「この逆風がいつまで続きそうか」を自分なりに見立てられるようになります。

ナフサとは、原油を精製してできる石油化学製品の基礎原料です。プラスチックや合成樹脂、塗料の溶剤など、私たちの身の回りの多くの製品の出発点になっています。塗装・防水工事で使うシンナーは、このナフサを原料とする溶剤の代表格です。さらに、塗料そのものに含まれる樹脂、現場を汚さないために張る養生シート、塗料を入れる容器——こうした副資材の多くもまた、もとをたどればナフサ由来です。

つまり、外壁塗装の現場は「ナフサでできた材料」に幾重にも支えられています。だからこそ、中東情勢を発端にナフサの供給が細ると、溶剤だけでなく、塗料・副資材まで含めて値段が上がり、入手も難しくなる。一つの原料の不足が、現場のあらゆる材料に波及するのです。これが、塗装・防水という分野が今回の供給ショックの影響を特に強く受けている理由です。

そして、この影響は「価格」と「納期」の二つの形で現場を締めつけます。価格が読めなければ、施工会社は見積もりを出しづらくなります。先に安く請けてしまえば、着工までに材料費が上がった分が丸ごと自社の損失になりかねません。納期が読めなければ、工程が組めず、職人の手配も宙に浮きます。資金力の薄い小規模事業者ほど、この「読めなさ」に耐えられず、受注を絞るか、無理を重ねて力尽きていく。倒産統計の数字の裏には、こうした現場の苦しさがあります。

なぜ、これがオーナーと管理組合の問題なのか

ここからが本題です。「業者が大変なのは分かったが、発注する側に何の関係があるのか」と思われるかもしれません。関係は、あります。しかも、見落とされがちな深い関係です。

大規模修繕は、契約から完工まで半年〜1年近くを要する長期の取引です。その間、発注者は施工会社に対して、足場の組み立てから塗装・防水・タイル補修・防水トップコートまで、段階的に工事を進めてもらいます。多くの契約では、着工金や中間金といった前払い的な支払いが発生します。つまり、工事が完了する前に、相応のお金が施工会社の手に渡っているのです。

工事中に施工会社が倒産すると、何が起きるか

もし工事の途中で施工会社が倒産したら、現実にはこうした困りごとが起こり得ます。

第一に、支払い済みの前払金が回収困難になるおそれがあります。倒産した会社の財産は債権者全体で分け合うことになり、発注者が払ったお金がそのまま戻ってくる保証はありません。

第二に、工事が止まり、足場が組まれたまま放置される事態が起こり得ます。足場やシートが架かったままの建物は、見た目の問題だけでなく、強風時の安全リスクや近隣トラブルの種にもなります。残りの工事を別の会社に引き継いでもらうにも、途中まで他社が施工した部分の責任範囲が曖昧になり、引き継ぎ手が見つかりにくくなります。

第三に、完成後の保証が宙に浮きます。塗装や防水には通常、施工会社による数年〜十数年の保証が付きます。けれども、その会社が存在しなくなれば、保証書は紙きれ同然です。雨漏りや塗膜の不具合が起きても、無償補修を求める相手がいません。

管理組合にとっては、これらはそのまま「区分所有者全体の損失」になります。修繕積立金という、住民が長い年月をかけて積み上げてきた大切な原資が、業者の倒産という外的要因で毀損しかねないのです。オーナーさまにとっては、賃貸経営のキャッシュフローと資産価値そのものへの直撃です。

「最安値」がいちばん危ういという逆説

ここで一つ、立ち止まって考えていただきたいことがあります。倒産が増えている局面では、極端に安い見積もりほど警戒が必要だということです。

資材も人件費も上がっているのに、相場から大きく外れた安値を提示できる会社には、理由があります。すでに利益が出ない水準まで受注を取りにいっている、あるいは資金繰りを回すために当座の受注を確保しなければならない——そうした台所事情が背景にあるかもしれません。価格転嫁が追いつかずに倒産が増えているという今の構造は、まさに「安く請けすぎた会社から倒れていく」ことを示しています。

もちろん、安いことが直ちに危険なわけではありません。けれども、「いちばん安いから」という理由だけで決めるのは、いまの時勢では特にリスクの高い選び方になっています。価格は判断材料の一つにすぎず、その会社が工事を最後までやり切れるかという視点を、同じ重さで持つ必要があります。

倒産リスクから資産を守る——施工会社を見極める5つの視点

では、発注する側はどう自衛すればよいのでしょうか。専門家でなくても確認できる、実務的な視点を5つにまとめます。

1. 経営の安定性を、遠慮せず確認する

施工会社の財務状況は、発注者が確認してよい正当な関心事です。建設業許可の有無と種類、許可の更新状況、可能であれば直近の業績の傾向。決算書の開示まで求めるのは難しくても、「何年この地域で営業しているか」「施工実績は継続的にあるか」「元請として完工した大規模修繕の事例はあるか」を質問するだけでも、得られる情報は多くあります。誠実な会社ほど、こうした問いに丁寧に答えます。

2. 見積もりの「透明性」を見る

危ない兆候は、しばしば見積書に表れます。一式表記ばかりで内訳が不透明、相場と比べて極端に安い、追加費用の条件があいまい——こうした見積もりは、後の追加請求や品質の手抜き、あるいは無理な受注の温床になりがちです。逆に、数量・単価・仕様が明確に分かれ、資材高騰リスクへの考え方まで説明してくれる見積もりは、それ自体が会社の健全さの表れです。

3. 前払いの比率と支払い条件を確認する

着工金や中間金の比率が相場に比べて高すぎないか、出来高(実際に進んだ工事量)に応じた支払い設計になっているかを確認します。工事の進捗と支払いが釣り合っていれば、万一の際の損失を小さく抑えられます。出来高払いを基本に据えることは、発注者にとって有効なリスク管理です。

4. 保証とアフターの「実体」を確かめる

保証書の有無だけでなく、その保証を裏づける体制があるかを見ます。保証年数の長さよりも、定期点検の仕組み、不具合時の連絡窓口、そして何より会社が存続している蓋然性が大切です。第三者機関による保証(住宅瑕疵担保責任保険のような仕組み)を併用できるかも、確認の価値があります。

5. 「組織」として施工できる体制かを見る

一人親方や少人数の会社が悪いという話ではありません。けれども、大規模修繕は塗装・防水・タイル・シーリング・電気・看板など、複数の専門工事が組み合わさる総合工事です。特定の職人一人の体調や資金繰りに全体が依存していると、その一点が崩れたときに工事全体が止まります。各工程を担う体制が組織として整っているか、協力会社のネットワークがあるかは、完遂力を測る重要な物差しです。

倒産リスクは、実は「修繕積立金リスク」でもある

マンション管理組合のみなさまには、もう一段踏み込んでお伝えしたいことがあります。施工会社の倒産リスクは、突き詰めれば修繕積立金の毀損リスクに直結する、という点です。

大規模修繕は、十数年に一度の大きな支出です。区分所有者が毎月コツコツと積み立ててきた修繕積立金を取り崩し、ときには借入も併用して、まとまった金額を一度に動かします。その大切な原資を預けた施工会社が工事の途中で倒産すれば、前払金の一部が回収できないだけでなく、別の会社に引き継ぐための追加費用、放置された足場の管理費用、当初の保証が失われたことによる将来の補修費用まで、想定外の負担が次々と積み重なります。

しかも厄介なのは、こうした損失が「総会で承認した予算」を超えて発生することです。理事会や修繕委員会は、区分所有者に対して説明責任を負っています。「いちばん安い会社を選んだら、途中で倒産して積立金を失った」という結末は、組合運営への信頼そのものを揺るがしかねません。だからこそ、業者選定は単なる価格比較ではなく、組合の資産を守るリスク管理として捉える必要があるのです。

近年は、長期修繕計画の見直しや修繕積立金の水準が社会的な関心を集めています。積立金が不足ぎみの組合ほど、目先の安さに引き寄せられやすい構造があります。けれども、倒産が増えるいまの局面では、その「安さ」が最も高くつく選択になりかねません。積立金を守るとは、一円でも安く発注することではなく、預けた一円が確実に工事として形になる相手を選ぶことだ——そう捉え直していただきたいと思います。

工法の選び方が、コストと完遂力を同時に左右する

業者選定と並んで、もう一つ発注者が握っているレバーがあります。工法の選択です。これは、資材高の時代に「適正価格を保ちながら品質を確保する」ための、見落とされがちな鍵になります。

足場費という「見えない大きなコスト」

大規模修繕の費用の内訳を見ると、多くの方が驚かれるのが仮設足場の比率です。建物の規模や形状にもよりますが、足場の架設・解体・賃料は、工事費全体のなかで決して小さくない割合を占めます。資材も人件費も上がっているいま、この足場費が総額を押し上げ、結果として「予算が足りない」「だから安い業者を選ばざるを得ない」という、先ほど述べたリスクの高い選択へと発注者を追い込んでしまうことがあります。

つまり、足場費を合理的に抑えられれば、浮いた分を品質や、体力のあるしっかりした施工会社の適正単価に回せる。工法の選択は、めぐりめぐって倒産リスクの回避にもつながるのです。

無足場(ロープアクセス)という選択肢

ここで、私たち明誠が得意とするロープアクセス工法(無足場工法)が選択肢に入ってきます。これは、産業用ロープを使って職人が外壁に直接アクセスし、足場を架けずに塗装・防水・補修などを行う工法です。建設現場で長く使われてきた確立された技術で、欧米のビルメンテナンスでは一般的な方法です。

ロープアクセスの利点は、主に三つあります。

第一に、足場を架けないことによるコスト圧縮です。足場の架設・解体・賃料が不要になるため、条件の合う建物では総額を抑えられます。先ほどの「浮いた分を品質に回す」が、現実に可能になります。

第二に、工期の短縮です。足場の組み立て・解体に要する日数が不要になるため、工事全体のスケジュールを短くできるケースがあります。工期が短いほど、住民や利用者への影響も、天候による遅延リスクも小さくなります。

第三に、居住者・利用者の生活影響の最小化です。建物全体を足場とシートで覆わないため、室内が暗くならず、開放感が保たれ、防犯面の不安も軽減されます。賃貸物件であれば、入居者の満足度や退去リスクにも関わる、見過ごせないメリットです。

もちろん、ロープアクセスが万能というわけではありません。建物の高さや形状、作業内容によっては足場が適している場面も当然あります。大切なのは、「足場ありき」でも「無足場ありき」でもなく、建物ごとに最適を選べることです。

足場とロープアクセスを使い分ける「ハイブリッド工法」

そこで現実的な解になるのが、ハイブリッド工法です。これは、建物の部位ごとに足場とロープアクセスを使い分ける考え方です。複雑な形状で足場が向く部分には足場を架け、足場の架設が難しい高所や狭小部、コストを抑えたい大面積の壁面にはロープアクセスを使う。こうして全体のコストと品質、工期のバランスを最適化します。

明誠が、通常の足場仮設工法・ロープアクセス工法・ハイブリッド工法の3つを建物特性に応じて提案できることには、こうした背景があります。1つや2つの工法しか持たない会社は、どうしても「自社が持つ工法に建物を当てはめる」提案になりがちです。3つの選択肢を持って初めて、「建物にとって本当に最適なのはどれか」を起点に考えられます。

倒産が増える時代だからこそ、「組織で施工できる体制」が効く

ここまでお読みいただいて、業者選定の視点と工法選択が、実は地続きであることがお分かりいただけたと思います。資材高で利益が削られ、価格転嫁が追いつかず、小規模事業者から倒産していく——この構造のなかで発注者を守るのは、「価格だけで選ばない目」と、「適正価格を成り立たせる工法」、そして「組織として工事を完遂できる施工体制」の三つです。

私たち明誠は、ロープアクセス工事として日本で初めてのフランチャイズ展開を行っています。塗装・防水・タイル・電気・看板といった各分野の専門職が加盟する仕組みをつくることで、一つの職種や一人の職人に全体が依存しない、組織としての施工体制を整えてきました。各工程の専門性が高まることは品質に直結し、無足場による足場費の圧縮と合わせて、高品質と適正価格の両立を可能にしています。

この体制は、発注者から見れば「窓口は一つ、けれど背後には各分野の専門職がそろっている」という安心につながります。塗装は塗装の、防水は防水の、タイルはタイルの専門職が責任を持って担う。一人の職人がすべてを兼ねるのではなく、工程ごとに最適な担い手が入ることで、品質のばらつきが抑えられます。そして、特定の一社や一人に全体が依存しないため、万一どこか一つの工程でつまずいても、工事全体が止まってしまうという最悪の事態を避けやすくなります。倒産が増える時代に発注者が最も恐れる「途中で工事が止まる」というリスクに対して、組織としての厚みが効いてくるのです。

加えて私たちは、一般社団法人全国建設業支援協会(JCSA)を運営し、全国の建設業に向けた経営支援、オンラインセミナー、交流会、ビジネスマッチングにも取り組んでいます。倒産が過去最多級に増えるいまの局面で、業界全体の経営基盤を底上げしようという取り組みは、めぐりめぐって「最後までやり切れる施工会社」を増やすことにつながると考えています。発注者にとっての安心は、健全な業界の上にしか成り立たないからです。

よくあるご質問

最後に、オーナーさまや理事のみなさまから実際に寄せられることの多い疑問に、簡潔にお答えします。

Q. いま見積もりを取っている最中ですが、いったん止めたほうがよいですか。
止める必要はありません。むしろ、いまは見極めの好機です。複数社から相見積もりを取り、価格だけでなく、内訳の明確さ、支払い条件、保証体制、施工実績を並べて比較してください。極端に安い一社があれば、その理由を率直に質問する。誠実な会社ほど、資材高のいま価格をどう考えているかを丁寧に説明してくれます。比較の過程そのものが、リスクの高い相手を見抜くフィルターになります。

Q. 資材が値上がりしているなら、工事は先送りしたほうが得ではありませんか。
一概には言えません。先送りには「劣化が進む」というコストが伴います。外壁のひび割れや防水層の劣化を放置すれば、雨水が躯体に入り込み、本来は表面の補修で済んだものが、躯体補修を要する大工事に発展しかねません。供給と価格の見通しを見ながら、劣化の進行と天秤にかける。そのうえで、足場費を抑えられる工法で総額を適正化すれば、「待つリスク」と「動くコスト」の両方を小さくできます。判断には、建物の現状診断が欠かせません。

Q. ロープアクセスは足場より危なくないのですか。
適切な資格と装備、二重の安全確保を前提に運用される確立された工法です。建設業や高所作業の分野で長く使われてきました。重要なのは、施工する会社がきちんとした安全管理と訓練の体制を持っているかどうかです。工法そのものの優劣ではなく、それを扱う組織の力量を確認してください。

Q. うちの建物はロープアクセスに向いていますか。
建物の高さ、形状、外壁の状態、作業内容によって変わります。だからこそ、足場・無足場・ハイブリッドの3つを比較して提案できる相手に、実際に建物を見てもらうことが大切です。「向き・不向き」は、机上ではなく現場で決まります。

いま、オーナー・管理組合が取るべき三つの行動

最後に、今日のニュースを「自分の建物の判断」に落とし込むために、実務的な行動を三つ提案します。

一つ目は、手元の見積もりを「価格」だけでなく「完遂力」の目で見直すことです。相見積もりのなかに極端な安値があれば、その理由を確認してください。安さの裏に資金繰りの無理が隠れていないか。出来高払いの設計になっているか。保証を裏づける体制があるか。価格表の数字の向こう側にある、会社の体力を見てください。

二つ目は、着工のタイミングと工法を一緒に考えることです。資材の供給は、政府の対策で改善に向かう入口に差しかかっています。慌てて最安値で発注するより、供給と価格の見通しが少し落ち着く局面を見据えつつ、足場費を抑えられる工法で総額を適正化する。この二つを組み合わせることで、「待つことのリスク」と「動くことのコスト」を両方とも小さくできます。

三つ目は、複数の工法を比較できる相手に相談することです。足場一択、無足場一択ではなく、建物ごとに3つの工法から最適を示してくれる相手であれば、コスト・工期・住民影響・完遂力のすべてを天秤にかけた、納得感のある判断ができます。

大規模修繕は、建物の資産価値を守り、入居者の暮らしを支える、長期の投資です。その投資を託す相手が、工事を最後までやり切れるか——倒産が過去最多級に増えるいまだからこそ、この一点を、価格と同じ重さで見ていただきたいと思います。

ご自身の物件で「この見積もりは適正か」「うちの建物ならどの工法が向くか」と迷われたときは、どうぞお気軽にご相談ください。建物を実際に拝見したうえで、3つの工法それぞれの概算と、メリット・デメリットを正直にお伝えします(お問い合わせ、ロープアクセス工法について)。判断の土台をそろえるお手伝いを、現場の目線でいたします。

塗料用シンナー、政府が23日から“直接販売”を開始——供給ひっ迫の転機。止めていたマンション大規模修繕、いつ動かすか。収益物件オーナー・管理組合の判断軸【2026年6月】

塗料用シンナー、政府が23日から“直接販売”を開始——供給ひっ迫の転機。止めていたマンション大規模修繕、いつ動かすか。収益物件オーナー・管理組合の判断軸【2026年6月】

朝のニュースで「シンナーをメーカーから直接買えるようにする」という見出しが流れました。塗装や防水の見積りを手元に、着工のタイミングを計りかねているオーナーさま、あるいは総会で工事の可否を諮ろうとしている管理組合の理事長さまにとっては、見過ごせない一報だったはずです。

結論から申し上げます。これは、ここ数か月続いてきた「材料が高い・入ってこない」という供給ひっ迫に対する、政府の初動の一手です。供給が一夜で元に戻るわけではありません。けれども、流れが変わる「入口」に差しかかったことは確かです。だからこそ今、「待つべきか、動くべきか」「どの工法で進めるか」という判断が、これまで以上に資産の行く先を左右します。

今日は、報じられている事実を冷静に押さえたうえで、収益不動産をお持ちのオーナーさまと、マンション管理組合の理事長さま・修繕委員のみなさまが「自分の建物で何をすべきか」を決めるための要点を、現場の言葉で整理します。煽るためではありません。判断の土台をそろえるためです。

ニュースの要点——政府が「塗料用シンナーの直接販売」を6月23日に開始

まず、いま何が報じられているのかを正確に押さえます。

赤澤亮正経済産業相は2026年6月19日の閣議後会見で、シンナーメーカーから自動車整備事業者や工務店などの需要家に対し、塗料用シンナーを直接販売する仕組みを立ち上げ、6月23日から需要家の注文受付を開始すると明らかにしました(出典:日本経済新聞、NHK、共同通信・朝日新聞ほか)。配送は通販会社アスクルの物流網を活用し、需要家のもとへ直接届けられる形です。

ここで言う「需要家」とは、シンナーを実際に使って仕事をする現場、つまり整備工場や工務店、塗装業者などを指します。これまでは、メーカーから卸・販売店を経て現場に届く流通経路が一般的でした。その経路のどこかで在庫が滞り、現場までモノが回らない——いわゆる「流通の目詰まり」が起きていました。今回の仕組みは、その目詰まりを避け、メーカーから現場へ直接モノを流す「バイパス」を一本通すものだと理解すると分かりやすいと思います。

赤澤経産相は会見で、この措置について「需給ひっ迫による価格上昇を抑制する効果も一定程度期待している」と述べています。供給を増やすだけでなく、値上がりに歯止めをかける狙いもにじみます。

6月2日の「原料を最大1.8倍供給」スキームとセットで動く

今回の直接販売は、単独の思いつきで出てきたものではありません。政府は先立つ2026年6月2日、シンナーの原料を最大1.8倍供給するスキームを発表していました。今回の直接販売は、この増産スキームで生産されたシンナーを、滞りなく現場へ届けるための「出口」にあたります。

つまり、「原料を増やす(入口)」と「現場へ直接届ける(出口)」が、6月2日と6月19日の二段構えでそろった、という構図です。片方だけでは効きません。原料を増やしても流通で詰まれば現場に届かず、流通を整えても元の量が足りなければ品薄は解けません。両方が動いて初めて、供給ひっ迫の緩和に向けた現実的な道筋が見えてきます。

なぜ「直接販売」という、やや異例の手を打つのか

平時であれば、政府が特定の建材の流通に直接手を入れることはそう多くありません。それをあえて行うということ自体が、現場の逼迫が看過できない水準にあることの裏返しでもあります。塗料用シンナーは、外壁塗装をはじめとする工事に欠かせない基礎資材です。これが回らなければ、塗装が止まり、塗装が止まれば大規模修繕の工程全体が止まる。経済活動への波及が小さくないからこそ、踏み込んだ措置がとられた、と読むのが自然でしょう。

そもそも、なぜ塗料・シンナーがここまで逼迫したのか

ここで一度、背景を整理しておきます。経緯を知っておくと、「直接販売でどこまで解決するのか」を冷静に見極められます。

塗料用シンナーは、原油などを原料とする石油化学製品の一種です。塗料を適切な粘度に薄めたり、道具を洗ったりするのに使われ、外壁塗装の現場では欠かせません。そして、この原料となる石油化学品の供給は、2026年に入ってからの中東情勢の緊迫化、とりわけ原油・石油製品の主要な輸送路をめぐる混乱によって、世界的に不安定になりました。

原料が細れば、その川下にあるシンナー・塗料・防水材・シーリング材(目地を埋める弾力性のある材料)の供給と価格に波及します。これは構造上、避けにくい連鎖です。実際、業界向けの情報や塗装会社の発信では、シンナーや塗料について「出荷数量の制限」「価格改定」「入手難」が相次いで伝えられてきました。一部報道や業界情報では、これまで一缶4,000円程度だったシンナーが15,000円を超える実勢価格で取引された例や、大手メーカーが大幅な値上げに踏み切った例も伝えられています(※こうした価格水準は品目・メーカー・時期によって幅があり、すべての現場に一律で当てはまる数字ではありません)。

念のため申し添えます。これらの個別の価格や倍率は、二次的に伝えられている情報を含みます。ご自分の見積りがどの水準にあるかは、内訳を一つずつ確認しないと分かりません。大切なのは、数字の一つひとつに振り回されることではなく、「自分の工事に使う材料が、いまの逼迫の影響を受ける部分はどこか」を見える化することです。

これは「正常化の入口」か——楽観も悲観もしない読み方

オーナーさま・管理組合のみなさまがいちばん知りたいのは、「で、これで安くなるのか、早く工事できるのか」という点だと思います。ここは、正直にお答えします。

まず、今回の措置は明確に前向きな材料です。政府が増産と直接流通の二段で動いたことで、これまで「お金を出してもモノが手に入らない」状態が、少しずつ緩む方向に向かう可能性が高い。これは、待つことしかできなかった現場にとって、確かな前進です。

一方で、楽観しすぎるのも禁物です。直接販売が始まる6月23日を境に、翌日から価格が平時に戻る、という話ではありません。増産スキームで生産されたシンナーが市中に行き渡り、価格と納期が落ち着くまでには、相応の時間がかかると見ておくのが現実的です。経産相自身が「価格上昇の抑制効果も一定程度期待」と、慎重な言い回しをしている点にも注意が必要です。「一定程度」という言葉には、効果はあるが万能ではない、という含みがあります。

私が現場で20年見てきた感覚で言えば、こうした局面では「戻る前提」と「長引く前提」の両方で段取りを描いておくのが、いちばん安全です。今回のニュースは、振り子が「改善」の方向へ振れ始めたことを示しています。けれど、振り切るまでの速度と幅は、まだ読み切れません。だからこそ、ニュースに一喜一憂して着工を前倒し・後ろ倒しするのではなく、自分の物件の事情に即して判断軸を持つことが大切になります。

オーナー・管理組合に起きる「3つの実害」と、その変化

抽象論ではなく、これまで現場で実際に起きてきたことを3つに整理し、今回のニュースで何が変わり得るかを添えます。

実害1:工期が後ろにずれる——緩む方向だが、まだ前提にはできない

最も直接的なのが工期の遅延です。塗料やシンナー、防水材が予定どおり届かなければ、着工していても途中で手が止まります。賃貸物件であれば、足場が長く架かっている期間そのものが、入居者の生活ストレスや、退去・募集への悪影響につながりかねません。今回の直接販売で、この納期リスクは緩む方向に向かうと期待されます。ただし、現時点では「もう遅延しない」と言い切れる段階ではありません。発注時には、業者に最新の納期見通しを確認し、遅延した場合の代替段取りまで握っておくのが安全です。

実害2:見積りが上振れする・有効期限が短くなる

材料価格が動いている局面では、見積りの「有効期限」が短くなります。半年前に取った見積りが、着工時には通用しないことも起こり得ます。業者側もリスクを織り込むため、安全を見て高めに出してくることがあります。これは業者が不誠実なのではなく、先が読めないがゆえの自衛です。今回の供給対策で値上がりに歯止めがかかれば、この上振れ圧力も和らぐ可能性があります。オーナー側にできるのは、内訳を開示してもらい、「どの材料の、どのリスクを、いくら織り込んだのか」を可視化することです。

実害3:「価格が読めない」局面での相見積りの形骸化

価格が読みにくく、対応できる業者も限られる局面では、相見積り(複数社からの見積り取得)が形だけになりやすいという問題があります。数字の妥当性を判断する「ものさし」を持たないまま、提示された金額を受け入れてしまう——これが、こうした局面で最も避けたい事態です。相見積りは、社数をそろえることが目的ではありません。「同じ条件で」「内訳まで」比べられて初めて意味を持ちます。後述する「工法の比較」は、このものさしを持つための有力な手段でもあります。

価格が読みにくい今こそ「工法の選択」が効く——足場費という大きな見落とし

ここからが、私がいちばんお伝えしたい話です。

供給対策が動き始めたとはいえ、材料費が完全に元の水準へ戻るには時間がかかります。では、材料の値段が読み切れないあいだ、オーナーや管理組合は手をこまねくしかないのか。そうではありません。総工費は材料費だけでできているわけではないからです。

大規模修繕の見積りは、おおまかに「材料費」「仮設費(足場の費用)」「労務費」「諸経費」で構成されます。今回高騰しているのは主に材料費です。材料は品質に直結するため、むやみには削れません。安い材料に替えて数年で再劣化すれば、かえって高くつきます。であれば、見直すべきは「材料以外の費目」、とりわけ仮設費(足場の費用)です。

大規模修繕の見積りで、足場の架設・解体・養生にかかる仮設費は、総工費の少なくない割合を占めます。建物の形状や高さによっては、想像以上の比重になります。ところが、多くのオーナーさまは足場を「工事に必要な、動かせない前提」と捉えていて、ここを検討対象から外してしまいがちです。材料の価格が読みにくい今こそ、この大きな費目に光を当てる価値があります。

ロープアクセス(無足場工法)が、いまの局面で効く理由

私たち明誠が得意とするのが、産業用ロープを使って職人が壁面を上下しながら施工するロープアクセス工法、いわゆる無足場工法です。仮設足場を建物全体に架けず、必要な部位に職人が直接アクセスして、塗装・防水・タイル補修・シーリング打ち替えなどを行います。

この工法が、いまの局面で効く理由は3つあります。

第一に、足場の仮設費を抑えられること。読みにくいのは材料費です。であれば、材料以外の大きな費目を圧縮できれば、総額の振れ幅を和らげられます。ロープアクセスは、足場をフルに組まない分、仮設費の構造そのものが変わります。

第二に、工期を短くしやすいこと。足場の組立・解体には相応の日数がかかります。これを省ける場面では、着工から完了までの期間を圧縮できます。資材の入手がなお不安定な局面では、工事が建物に手をかけている「窓」を短くできること自体が、リスクの低減になります。

第三に、居住者・利用者の生活影響を小さくできること。建物全体を足場とメッシュシートで覆う期間が短い、あるいは限定的であれば、採光・通風・防犯面のストレスが減ります。賃貸物件であれば入居者の満足度に、分譲であれば住民合意の取りやすさに効いてきます。

もちろん、ロープアクセスは万能ではありません。建物の形状、劣化の範囲、作業量によっては、足場を組んだほうが合理的なケースもあります。大切なのは、「足場ありき」でも「無足場ありき」でもなく、建物にとって最適な工法を、コストと工期と品質の三つの軸で選ぶことです。

ハイブリッド工法という第三の選択

明誠が提案できるもう一つの選択肢が、ハイブリッド工法です。これは、足場が必要な部位には足場を組み、ロープアクセスが向く部位には無足場で対応する、という「部位ごとの使い分け」です。

たとえば、劣化が集中している面や作業量の多い面には足場を架けて効率を上げ、点検や部分補修で足りる面はロープアクセスで身軽に対応する。こうすることで、足場をすべてに架けるよりも仮設費を抑えつつ、無足場一本では難しい大がかりな作業もこなせます。大規模・複雑形状の物件で、総コストの最適点を探るときに有効です。

足場一本、無足場一本ではなく、3つの工法を建物特性に応じて比較・提案できる会社は、国内でも多くありません。私たちが大切にしているのは、工法を売ることではなく、建物にとっての最適解を一緒に探すことです。そしてこの「複数の工法で比べる」という姿勢こそ、前章で述べた、価格が読みにくい局面で必要な「ものさし」を持つことにつながります。

見積書の読み方——塗料・シンナー逼迫の局面で確認すべき費目

「内訳で見る」と申し上げても、見慣れていないと、どこを見ればよいか分かりにくいものです。大規模修繕の見積書を、費目ごとに何を確認すべきかという観点で整理します。

一つ目は直接仮設費。足場、養生シート、昇降設備など、工事のための「足場まわり」の費用です。今回の局面で最初に光を当てたいのがここです。総工費に占める割合を確認し、「この建物で、本当にフルの足場が必要か」を業者に問い直してみてください。無足場やハイブリッドで圧縮できる余地があるなら、ここが効きます。

二つ目は材料費(直接工事費のうち材料分)。塗料、シンナー、防水材、シーリング材など、まさに今回逼迫している費目です。見積書では「一式」とまとめられがちですが、できれば主要材料の単価とメーカー・グレードまで開示してもらいましょう。とくに塗料は、シンナーをほとんど使わない水性系への切り替えが供給面で有利になる場面もあります。グレードや耐久性を落とさずに逼迫を回避できる代替があるのか、ないのかを、根拠とともに確認します。

三つ目は労務費。職人の人件費です。これは資材とは別の論理で動きます。工期が延びれば、間接的に膨らむこともあります。工期短縮が労務費にどう効くかも、あわせて見ておきたい点です。

四つ目は諸経費(現場管理費・一般管理費)。現場運営や会社の管理にかかる費用で、総工費に対する比率で見るのが基本です。極端に高い・低い場合は、その理由を尋ねます。

この4つを「同じ条件で」複数社から取り、横に並べる。これが、価格が読みにくい局面で自分の身を守る最も確実な手順です。総額だけを比べると、どこで差がついているのか分からず、結局は「安いところ」か「言われるまま」になりがちです。費目で比べれば、差の理由が見え、交渉の土台ができます。

修繕積立金・長期修繕計画との兼ね合い——資金計画の見直しどき

分譲マンションの管理組合にとって、資材の逼迫と価格変動は長期修繕計画と修繕積立金の問題に直結します。長期修繕計画とは、将来必要になる修繕を時期と概算費用とともに見通した計画で、修繕積立金はその原資です。

ここで起きがちなのが、「計画を立てた当時の単価」と「いま実際にかかる費用」のかい離です。数年前に組んだ長期修繕計画の前提単価は、今回の高騰を織り込んでいません。そのまま進めると、積立金が想定より早く不足したり、一時金の徴収や借入れが必要になったりすることがあります。

だからこそ、いまの局面では長期修繕計画の見直し(再算定)と、工法によるコスト圧縮の検討を、セットで進めることをおすすめします。材料費の動きは読みにくくても、仮設費と工期を工法で抑えられれば、計画全体の総額を平準化できる可能性があります。修繕積立金の値上げ幅を最小限にとどめることは、住民合意の取りやすさにも直結します。総会で「材料が上がったので積立金も上げます」とだけ説明するのと、「材料は上がったが、政府の供給対策の動きも見つつ、工法を見直して総額の振れをこれだけ抑えた」と説明できるのとでは、住民の納得感はまったく違います。

賃貸の収益物件オーナーさまにとっても、構図は同じです。修繕費の上振れは、その期のキャッシュフローと利回りを直接削ります。融資の返済計画とのバランスも崩れかねません。「いくらかかるか」を早めに精緻化し、工法で抑えられる部分を抑えることが、長期の収益を守ることに直結します。

明誠のロープアクセスが「高品質×低価格」を両立できる理由

「無足場で安くなるのは分かったが、品質は大丈夫か」——よくいただくご質問です。ここは正面からお答えします。

明誠のロープアクセス工事は、産業用ロープを用いた国際的な技術基準に沿った手法で行います。命綱を含む二系統のロープで安全を確保し、訓練を受けた技術者が施工します。足場がないこと自体は、品質を落とす理由にはなりません。むしろ、職人が壁面に直接近づいて一面ずつ手で確かめながら進めるため、劣化の発見や部分補修の精度はむしろ高められる場面もあります。

そして、私たちが「高品質でありながら低価格」を実現できている背景には、もう一つの理由があります。明誠は、ロープアクセス工事の分野で日本で初めてのフランチャイズ展開を行っており、塗装・防水・タイル・電気・看板といった各分野の専門職が加盟しています。それぞれの道のプロが、自分の得意領域を担う。だから品質が安定し、中間マージンの構造も無駄をそぎ落とせる。これが、価格と品質を両立できる仕組みです。

繰り返しますが、私たちは無足場を売りたいのではありません。足場が最適な建物には足場を、無足場が向く建物には無足場を、両方を使い分けるべき建物にはハイブリッドを——建物にとっての最適解を、3つの選択肢の中から正直にご提案します。供給が揺れる局面で大切なのは、特定の工法に縛られず、フラットに比べられる相手を持つことです。

いま、オーナー・管理組合が打つべき5つの手

最後に、明日から動ける具体策を5つに絞ってお伝えします。

一つ目は、手元の見積り・計画の「資材リスク」を一枚に書き出すこと。どの工事に、どの材料(塗料・シンナー・防水・シーリング等)が、どれだけ使われるのか。逼迫の影響を受けやすい部分を見える化します。

二つ目は、見積りを「総額」でなく「内訳」で見ること。材料費・仮設費・労務費・諸経費に分け、価格が動いているのがどこかを把握します。とくに仮設費の大きさは、多くの方にとって発見になるはずです。

三つ目は、工法の選択肢を一度フラットに検討すること。いまの足場前提が本当に最適か。無足場やハイブリッドで仮設費と工期を圧縮できないか。建物を見たうえでの比較が、価格の妥当性を測るものさしになります。

四つ目は、業者に「最新の供給・納期見通し」を確認すること。6月23日からの直接販売をはじめ、供給環境は動いています。発注の前に、材料の入手見込みと、遅れた場合の代替段取りを確認しておきましょう。

五つ目は、「待つ」「進める」を感情でなく段取りで決めること。供給が戻る前提と、長引く前提の両にらみで、着工時期と支払いの段取りを描いておく。先延ばしが正解の物件もあれば、いま動くべき物件もあります。決め手は、物件ごとの劣化の進み具合と資金計画です。

よくあるご質問

Q. 6月23日からシンナーが直接買えるようになれば、すぐ工事費は下がりますか。
すぐに平時へ戻るとは見ていません。増産分が市中に行き渡り、価格と納期が落ち着くには時間がかかります。経産相も「価格抑制効果も一定程度期待」と慎重な言い方をしています。改善の方向ではあるが、過度な楽観は禁物です。

Q. 供給が落ち着くまで、工事を待ったほうがいいですか。
一概には言えません。劣化が進んでいる物件は、待つほど被害(雨漏り、躯体劣化、タイル落下のリスク)が広がり、結果的に費用が膨らむことがあります。「待つことの費用」と「いま動く費用」を並べて比べることをおすすめします。

Q. 塗料を水性系に替えれば、供給難を避けられますか。
シンナーをほとんど使わない塗料系統は、供給面で有利になる場面があります。ただし、建物の劣化状況や下地との相性、求める耐久性によって適否が分かれます。一律に「水性なら安心」ではなく、現地を見たうえでの判断が必要です。

Q. 無足場(ロープアクセス)にすれば、安くなりますか。
建物の形状や作業量によります。安くなる物件も、足場のほうが合理的な物件もあります。だからこそ、3つの工法を同じ土俵で比較することに意味があります。

Q. 管理組合として、まず何から始めればよいですか。
長期修繕計画と直近の見積りを手元にそろえ、資材リスクと足場費の比重を確認することからです。そのうえで、複数工法での概算比較を取ると、総会での説明がぐっと通りやすくなります。

まとめ——供給対策が動き出した今は、「工法を見直す」好機でもある

政府は6月23日、塗料用シンナーをメーカーから工務店などへ直接販売する仕組みを始めます。6月2日の「原料を最大1.8倍供給する」スキームとあわせ、入口(増産)と出口(直接流通)の二段で、供給ひっ迫の緩和に向けて動き出しました。これは、待つことしかできなかった現場にとって、確かな前進です。

ただし、価格と納期が平時へ戻るには時間がかかります。だからこそ、ニュースに一喜一憂して着工時期を動かすよりも、自分の物件の事情に即した判断軸を持つことが大切です。そして、材料費がなお読みにくいいまは、これまで「動かせない前提」とされてきた足場費に光を当て、工法そのものを見直す好機でもあります。材料費はすぐには下げられません。けれど、仮設費と工期は、工法の選び方で変えられます。無足場(ロープアクセス)やハイブリッドという選択肢を、いちど自分の物件で検討してみる価値は、いまこそ高いと考えます。

私たち明誠は、足場・ロープアクセス・ハイブリッドの3工法を、建物にとっての最適解という一点から比較・提案できる、数少ない会社です。供給が揺れる局面で「総額をどう守るか」「資産価値をどう維持するか」にお悩みのオーナーさま・管理組合のみなさまは、現状の見積りを片手に、まずはお気軽にご相談ください。建物を拝見し、複数工法での概算比較からお手伝いします。


本記事は2026年6月21日時点の公開情報(日本経済新聞・NHK・共同通信・朝日新聞・日刊自動車新聞ほか)をもとに、株式会社明誠が大規模修繕の実務目線で整理したものです。価格・納期・制度の最新状況は、各一次情報および専門業者にご確認ください。

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マンション大規模修繕、いま“6割が遅延”——中東発「ナフサショック」で防水材・塗料が高騰。収益物件オーナーと管理組合が値上げ局面で資産を守る現実的な打ち手【2026年6月】

マンション大規模修繕、いま“6割が遅延”——中東発「ナフサショック」で防水材・塗料が高騰。収益物件オーナーと管理組合が値上げ局面で資産を守る現実的な打ち手【2026年6月】

朝のニュースで「資材が入ってこない」「マンション修繕が直撃」という見出しが並んでいます。修繕の予定をお持ちのオーナーさま、あるいは管理組合で総会を控えている理事長さまは、思わず手が止まったのではないでしょうか。

結論から申し上げます。いまは「工事費が上がる局面」であると同時に、「工事そのものが予定どおり進まない局面」でもあります。値上げと遅延が同時に来る——これは、過去の単なる「資材高騰」とは性質が違います。だからこそ、待つべきか、進めるべきか、どの工法を選ぶかという判断が、これまで以上に資産の行く先を左右します。

今日は、報じられている事実を冷静に押さえたうえで、収益不動産をお持ちのオーナーさまと、マンション管理組合の理事長さま・修繕委員のみなさまが「自分の建物で何をすべきか」を決めるための要点を、現場の言葉で整理します。煽るためではありません。判断の土台をそろえるためです。

ニュースの要点——「大規模修繕、遅延が6割」の中身

まず、いま何が報じられているのかを正確に押さえます。

日本経済新聞は2026年6月、「マンション大規模修繕、遅延が6割 ナフサ由来の防水材など高騰」と報じました(出典:日本経済新聞)。記事によれば、マンションの計画的な修繕を手がける施工会社への業界団体アンケートで、回答した87社のうち5割超にあたる51社が、「建設資材の納期遅れなどで工期が遅れた」または「今後遅れる可能性がある」と答えています。割合にして、およそ6割の現場が遅延に直面、あるいは身構えている計算です。

同じ時期、朝日新聞も「『足場あるが資材来ない』中東情勢がマンション修繕直撃」と伝えています。外壁補修や屋上防水工事を含む大規模修繕で、住民が総額数億円を見込んでいた工事が、資材の入手難で雲行きが怪しくなっている、という現場の声です。記事はあわせて、価格が読みにくい局面で「談合の影」がちらつく可能性にも触れています(出典:朝日新聞)。

ここで早合点しないでいただきたいのです。「資材が高い」という話は毎年のように聞きます。しかし今回の本質は、「お金を払っても、モノが約束どおりの時期に届かない」という供給そのものの不安定さにあります。値段の問題と、納期の問題が、別々ではなく重なって押し寄せている。私が現場で20年見てきた中でも、この二つが同時に深刻化する局面はそう多くありません。

数字は「平均」で見ず、「自分の物件」で見る

6割という数字は、あくまで業界全体の平均像です。大切なのは、「では、自分の物件はその6割に入るのか、入らないのか」を見極めることです。工事の中身——とくに防水と塗装の比重が大きい計画ほど、今回の影響を受けやすい。逆に、調達済みの資材で着工できる段階にある現場は、影響が限定的なこともあります。平均の数字に一喜一憂するのではなく、自分の計画のどこに資材リスクが潜んでいるかを一枚に書き出す。そこから判断は始まります。

なぜ「ナフサ」が防水材・塗料を直撃するのか

聞き慣れない「ナフサ」という言葉から整理します。専門用語は、知ってさえいれば怖くありません。

ナフサとは、原油を蒸留して得られる石油製品の一種で、プラスチックや合成樹脂、塗料、接着剤、シーリング材(目地を埋める弾力性のある材料)といった、石油化学製品のおおもとの原料です。大規模修繕で使う材料の多くは、実はこのナフサの川下にあります。屋上やバルコニーを守る防水材、外壁を彩り保護する塗料、サッシまわりやタイル目地に打つシーリング材——いずれもナフサ由来の素材を多く含みます。

2026年に入ってからの中東情勢の緊迫化、とくに原油・石油製品の主要な輸送路であるホルムズ海峡をめぐる混乱が、このナフサの調達環境を一気に悪化させました。原料が細れば、その川下にある防水材・塗料・シーリング材の供給と価格に波及するのは、構造上避けられません。

政府は当初、この状況を「サプライチェーンの目詰まり」と表現していました。一時的な物流の滞りであれば、いずれ流れは戻ります。しかし現場の実感は少し違います。国内の石油化学プラントは、この20年で海外からの原料調達に大きく依存する形に再編されてきました。ナフサそのものが多少確保できても、添加剤や副資材といった「脇を固める材料」がそろわなければ製造ラインは動きません。つまり、これは一過性の「詰まり」というより、長く積み重なってきた構造の問題が表面化したもの、という見方が現場には根強くあります。

ここがオーナーさまにとって重要な点です。構造的な問題であるなら、「少し待てば元に戻る」という前提で計画を立てるのは、やや楽観的かもしれません。少なくとも、戻る前提と、長引く前提の両方で段取りを描いておくのが安全だと私は考えています。

マンションだけの話ではない——ビル・ホテルのオーナーも同じ構図

ここまでマンションを中心に述べてきましたが、今回の資材高騰と供給不安は、テナントビルやホテルのオーナーさまにとっても、まったく同じ構図で迫っています。むしろ、収益性に直結する分、影響はより切実かもしれません。

テナントビルでは、外壁や屋上防水の劣化を放置すれば、雨漏りや美観の低下がテナントの退去や賃料交渉に響きます。修繕を先送りしているあいだに資材がさらに高騰すれば、いざ着工というときの費用は膨らむ一方です。一方で、テナントが営業している建物は、足場を長期間架けること自体が、看板の視認性や来店動線、店舗の印象に影響します。ここでも、足場を最小化できる無足場(ロープアクセス)やハイブリッドの価値は大きくなります。

ホテルもまた同様です。客室稼働を止めずに外装を直したい、繁忙期を避けて短期間で仕上げたい——こうした要望と、資材の納期遅延は真っ向からぶつかります。工事が建物に手をかけている期間を短くできること、稼働中の建物への生活・営業影響を抑えられることは、ホテルの収益を守るうえで決定的に重要です。

つまり、マンションでも、ビルでも、ホテルでも、今回の局面で問われていることは同じです。「材料費という動かしにくいコストが上がったいま、それ以外の費目と工期を、工法の選び方でどう抑えるか」。私たちが3つの工法を扱う理由は、まさにこの問いに、建物の用途や事情に応じて答えるためにあります。

値上げの規模——2026年6月という分岐点

では、実際にどれくらい上がっているのか。読者のみなさまが見積りを見るときの「ものさし」として、報じられている水準を整理します。

複数の業界向け情報や資材メーカーの価格改定案内によれば、2026年6月1日出荷分を一つの分岐点として、建設・建材分野で広範な価格改定が進みました。改定幅はおおむね10〜80%と、品目によって大きな開きがあります。代表的な水準として伝えられているのは、屋上防水に使うルーフィング(防水シート)で40〜50%、断熱材で約40%、塗料の希釈などに使うシンナー類で50〜80%、住宅設備建材で20%以上、といった数字です。塗料やシーリング材については、価格以前に「入手そのものが難しい」という声も出ています。

念のため申し添えます。これらは品目ごと・メーカーごとに幅があり、すべての現場に一律で当てはまる数字ではありません。ご自分の見積りがこの幅のどこに位置するのかは、内訳を一つずつ確認しないと分かりません。逆に言えば、内訳さえ見えれば、「どの材料が高騰の影響を受けているのか」「代替や時期の調整で吸収できる部分はどこか」を冷静に検討できます。

数字に振り回されないためにも、見積書を「総額」だけで見るのをやめることをおすすめします。総額は、材料費・足場などの仮設費・労務費・諸経費の合計です。今回高騰しているのは主に材料費です。であれば、材料費以外の部分——とくに仮設費——をどう抑えるかが、総額を守るうえでの現実的なレバーになります。この点は後ほど詳しく述べます。

オーナー・管理組合に起きる「3つの実害」

抽象論ではなく、現場で実際に起きていることを3つに整理します。

実害1:工期が後ろにずれる

最も直接的なのが工期の遅延です。防水材や塗料が予定どおり届かなければ、着工していても途中で手が止まります。賃貸物件であれば、足場が長く架かっている期間そのものが、入居者の生活ストレスや、退去・募集への悪影響につながりかねません。総会で「夏前に終わる予定」と説明していた工事が秋までずれ込めば、住民への説明責任も生じます。遅延は、お金には表れにくいけれど、確実に効いてくるコストです。

実害2:見積りが上振れする・有効期限が短くなる

材料価格が動いている局面では、見積りの「有効期限」が短くなります。半年前に取った見積りが、着工時には通用しないことも起こり得ます。さらに、業者側もリスクを織り込むため、安全を見て高めに出してくることがあります。これは業者が不誠実なのではなく、先が読めないがゆえの自衛です。オーナー側にできるのは、内訳を開示してもらい、「どの材料の、どのリスクを、いくら織り込んだのか」を可視化することです。

実害3:「談合の影」と、相見積りの形骸化

朝日新聞の報道が触れていた「談合の影」は、見過ごせない論点です。価格が読みにくく、対応できる業者も限られる局面では、相見積り(複数社からの見積り取得)が形だけになりやすい。数字の妥当性を判断する「ものさし」を持たないまま、提示された金額を受け入れてしまう——これが、値上げ局面で最も避けたい事態です。相見積りは、社数をそろえることが目的ではありません。「同じ条件で」「内訳まで」比べられて初めて意味を持ちます。次章で述べる「工法の比較」は、このものさしを持つための有力な手段でもあります。

値上げ局面こそ「工法の選択」が効く——足場費という大きな見落とし

ここからが、私がいちばんお伝えしたい話です。

材料費が上がっているとき、多くの方は「材料を安くする方法」を探します。しかし材料は、品質に直結するため、むやみに削れません。安い材料に替えて数年で再劣化すれば、かえって高くつきます。では、どこを見直すか。答えは「材料以外の費目」、とりわけ仮設費(足場の費用)です。

大規模修繕の見積りで、足場の架設・解体・養生にかかる仮設費は、総工費の少なくない割合を占めます。建物の形状や高さによっては、想像以上の比重になります。ところが、多くのオーナーさまは足場を「工事に必要な、動かせない前提」と捉えていて、ここを検討対象から外してしまいがちです。材料費が高騰しているいまこそ、この大きな費目に光を当てる価値があります。

ロープアクセス(無足場工法)が、いま効く理由

私たち明誠が得意とするのが、産業用ロープを使って職人が壁面を上下しながら施工するロープアクセス工法、いわゆる無足場工法です。仮設足場を建物全体に架けず、必要な部位に職人が直接アクセスして、塗装・防水・タイル補修・シーリング打ち替えなどを行います。

この工法が、いまの局面で効く理由は3つあります。

第一に、足場の仮設費を抑えられること。高騰しているのは材料費です。であれば、材料以外の大きな費目を圧縮できれば、総額の上振れを和らげられます。ロープアクセスは、足場をフルに組まない分、仮設費の構造そのものが変わります。

第二に、工期を短くしやすいこと。足場の組立・解体には相応の日数がかかります。これを省ける場面では、着工から完了までの期間を圧縮できます。資材の入手が不安定な局面では、工事が建物に手をかけている「窓」を短くできること自体が、リスクの低減になります。

第三に、居住者・利用者の生活影響を小さくできること。建物全体を足場とメッシュシートで覆う期間が短い、あるいは限定的であれば、採光・通風・防犯面のストレスが減ります。賃貸物件であれば入居者の満足度に、分譲であれば住民合意の取りやすさに効いてきます。

もちろん、ロープアクセスは万能ではありません。建物の形状、劣化の範囲、作業量によっては、足場を組んだほうが合理的なケースもあります。大切なのは、「足場ありき」でも「無足場ありき」でもなく、建物にとって最適な工法を、コストと工期と品質の三つの軸で選ぶことです。

ハイブリッド工法という第三の選択

明誠が提案できるもう一つの選択肢が、ハイブリッド工法です。これは、足場が必要な部位には足場を組み、ロープアクセスが向く部位には無足場で対応する、という「部位ごとの使い分け」です。

たとえば、劣化が集中している面や作業量の多い面には足場を架けて効率を上げ、点検や部分補修で足りる面はロープアクセスで身軽に対応する。こうすることで、足場をすべてに架けるよりも仮設費を抑えつつ、無足場一本では難しい大がかりな作業もこなせます。大規模・複雑形状の物件で、総コストの最適点を探るときに有効です。

足場一本、無足場一本ではなく、3つの工法を建物特性に応じて比較・提案できる会社は、国内でも多くありません。私たちが大切にしているのは、工法を売ることではなく、建物にとっての最適解を一緒に探すことです。そしてこの「複数の工法で比べる」という姿勢こそ、前章で述べた、値上げ局面で必要な「価格のものさし」を持つことにつながります。

見積書はここを見る——費目別の読み解き方

「内訳で見る」と申し上げても、見慣れていないと、どこを見ればよいか分かりにくいものです。大規模修繕の見積書は、おおまかに次の費目で構成されます。順に、何を確認すべきかを述べます。

一つ目は直接仮設費。足場、養生シート、昇降設備など、工事のための「足場まわり」の費用です。今回の局面で最初に光を当てたいのがここです。総工費に占める割合を確認し、「この建物で、本当にフルの足場が必要か」を業者に問い直してみてください。無足場やハイブリッドで圧縮できる余地があるなら、ここが効きます。

二つ目は材料費(直接工事費のうち材料分)。防水材、塗料、シーリング材など、まさに今回高騰している費目です。見積書では「一式」とまとめられがちですが、できれば主要材料の単価とメーカー・グレードまで開示してもらいましょう。グレードを落とさずに高騰を吸収できる代替があるのか、ないのかを、根拠とともに確認します。

三つ目は労務費。職人の人件費です。これは資材とは別の論理で動きます。工期が延びれば、間接的に膨らむこともあります。工期短縮が労務費にどう効くかも、あわせて見ておきたい点です。

四つ目は諸経費(現場管理費・一般管理費)。現場運営や会社の管理にかかる費用で、総工費に対する比率で見るのが基本です。極端に高い・低い場合は、その理由を尋ねます。

この4つを「同じ条件で」複数社から取り、横に並べる。これが、値上げ局面で自分の身を守る最も確実な手順です。総額だけを比べると、どこで差がついているのか分からず、結局は「安いところ」か「言われるまま」になりがちです。費目で比べれば、差の理由が見え、交渉の土台ができます。

修繕積立金とのにらみ合い——値上げ局面の資金計画

分譲マンションの管理組合にとって、資材高騰は長期修繕計画と修繕積立金の問題に直結します。長期修繕計画とは、将来必要になる修繕を時期と概算費用とともに見通した計画で、修繕積立金はその原資です。

ここで起きがちなのが、「計画を立てた当時の単価」と「いま実際にかかる費用」のかい離です。数年前に組んだ長期修繕計画の前提単価は、今回の高騰を織り込んでいません。そのまま進めると、積立金が想定より早く不足したり、一時金の徴収や借入れが必要になったりすることがあります。

だからこそ、値上げ局面では長期修繕計画の見直し(再算定)と、工法によるコスト圧縮の検討を、セットで進めることをおすすめします。材料費の上昇は避けにくくても、仮設費と工期を工法で抑えられれば、計画全体の総額を平準化できる可能性があります。修繕積立金の値上げ幅を最小限にとどめることは、住民合意の取りやすさにも直結します。総会で「材料が上がったので積立金も上げます」とだけ説明するのと、「材料は上がったが、工法を見直して総額の上振れをこれだけ抑えた」と説明できるのとでは、住民の納得感はまったく違います。

賃貸の収益物件オーナーさまにとっても、構図は同じです。修繕費の上振れは、その期のキャッシュフローと利回りを直接削ります。融資の返済計画とのバランスも崩れかねません。「いくらかかるか」を早めに精緻化し、工法で抑えられる部分を抑えることが、長期の収益を守ることに直結します。

明誠のロープアクセスが「高品質×低価格」を両立できる理由

「無足場で安くなるのは分かったが、品質は大丈夫か」——よくいただくご質問です。ここは正面からお答えします。

明誠のロープアクセス工事は、産業用ロープを用いた国際的な技術基準に沿った手法で行います。命綱を含む二系統のロープで安全を確保し、訓練を受けた技術者が施工します。足場がないこと自体は、品質を落とす理由にはなりません。むしろ、職人が壁面に直接近づいて一面ずつ手で確かめながら進めるため、劣化の発見や部分補修の精度はむしろ高められる場面もあります。

そして、私たちが「高品質でありながら低価格」を実現できている背景には、もう一つの理由があります。明誠は、ロープアクセス工事の分野で日本で初めてのフランチャイズ展開を行っており、塗装・防水・タイル・電気・看板といった各分野の専門職が加盟しています。それぞれの道のプロが、自分の得意領域を担う。だから品質が安定し、中間マージンの構造も無駄をそぎ落とせる。これが、価格と品質を両立できる仕組みです。

繰り返しますが、私たちは無足場を売りたいのではありません。足場が最適な建物には足場を、無足場が向く建物には無足場を、両方を使い分けるべき建物にはハイブリッドを——建物にとっての最適解を、3つの選択肢の中から正直にご提案します。値上げ局面で大切なのは、特定の工法に縛られず、フラットに比べられる相手を持つことです。

いま、オーナー・管理組合が打つべき5つの手

最後に、明日から動ける具体策を5つに絞ってお伝えします。

一つ目は、手元の見積り・計画の「資材リスク」を一枚に書き出すこと。どの工事に、どの材料(防水・塗料・シーリング等)が、どれだけ使われるのか。高騰・入手難の影響を受けやすい部分を見える化します。

二つ目は、見積りを「総額」でなく「内訳」で見ること。材料費・仮設費・労務費・諸経費に分け、高騰しているのがどこかを把握します。とくに仮設費の大きさは、多くの方にとって発見になるはずです。

三つ目は、工法の選択肢を一度フラットに検討すること。いまの足場前提が本当に最適か。無足場やハイブリッドで仮設費と工期を圧縮できないか。建物を見たうえでの比較が、価格の妥当性を測るものさしになります。

四つ目は、相見積りを「同じ条件・同じ内訳」でそろえること。社数を増やすより、条件を統一して内訳まで比べることが、談合の影を遠ざけ、納得して進めるための近道です。

五つ目は、「待つ」「進める」を感情でなく段取りで決めること。資材が戻る前提と、長引く前提の両にらみで、着工時期と支払いの段取りを描いておく。先延ばしが正解の物件もあれば、いま動くべき物件もあります。決め手は、物件ごとの劣化の進み具合と資金計画です。

よくあるご質問

Q. 値上げが落ち着くまで、工事を待ったほうがいいですか。
一概には言えません。劣化が進んでいる物件は、待つほど被害(雨漏り、躯体劣化、タイル落下のリスク)が広がり、結果的に費用が膨らむことがあります。「待つことの費用」と「いま動く費用」を並べて比べることをおすすめします。

Q. 無足場(ロープアクセス)にすれば、安くなりますか。
建物の形状や作業量によります。安くなる物件も、足場のほうが合理的な物件もあります。だからこそ、3つの工法を同じ土俵で比較することに意味があります。

Q. 工事の品質は、足場を組む場合と比べて落ちませんか。
工法によって品質が決まるわけではありません。要は、誰が、どの基準で、どう施工するかです。明誠では各分野の専門職が国際基準に沿って施工し、施工後の確認まで行います。足場・無足場のいずれでも、品質基準は変えません。

Q. 管理組合として、まず何から始めればよいですか。
長期修繕計画と直近の見積りを手元にそろえ、資材リスクと足場費の比重を確認することからです。そのうえで、複数工法での概算比較を取ると、総会での説明がぐっと通りやすくなります。

まとめ——値上げと遅延の局面は、「工法を見直す」好機でもある

中東情勢を発端としたナフサショックは、防水材や塗料といった大規模修繕の根幹材料を直撃し、いまや約6割の現場が遅延に直面・身構える状況です。値上げと遅延が同時に来るこの局面は、たしかにオーナーさまにとって逆風です。

しかし、見方を変えれば、これまで「動かせない前提」とされてきた足場費に光を当て、工法そのものを見直す好機でもあります。材料費は簡単には下げられません。けれど、仮設費と工期は、工法の選び方で変えられます。無足場(ロープアクセス)やハイブリッドという選択肢を、いちど自分の物件で検討してみる価値は、いまこそ高いと考えます。

私たち明誠は、足場・ロープアクセス・ハイブリッドの3工法を、建物にとっての最適解という一点から比較・提案できる、数少ない会社です。値上げ局面で「総額をどう守るか」「資産価値をどう維持するか」にお悩みのオーナーさま・管理組合のみなさまは、現状の見積りを片手に、まずはお気軽にご相談ください。建物を拝見し、複数工法での概算比較からお手伝いします。


本記事は2026年6月20日時点の公開情報(日本経済新聞・朝日新聞ほか)をもとに、株式会社明誠が大規模修繕の実務目線で整理したものです。価格・納期・制度の最新状況は、各一次情報および専門業者にご確認ください。

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公共施設4施設で「外壁打診調査」未実施が発覚——建築基準法12条の“10年ごとの義務”を、収益物件オーナーと管理組合はどう守るか【2026年6月】

朝のニュースで「外壁の調査を実施していなかった」という見出しを見て、ご自分の物件の顔——つまり外壁を、最後にいつ点検したか思い出せたでしょうか。正直に申し上げます。多くのオーナーさまは、ここで言葉に詰まります。

2026年6月16日、静岡県の吉田町が、建築基準法で義務付けられている外壁の全面打診(だしん)などによる調査を、町内の公共施設4施設で実施していなかったと発表しました(出典:静岡新聞「吉田町役場など4施設 外壁調査実施せず」)。打診とは、専用の道具で壁面を叩き、その音の違いから内部の浮きや剥離を見つける調査方法です。

これは行政の不手際という話で片付けられがちですが、私はまったくそう思いません。なぜなら、この「外壁全面打診調査」の義務は、行政の建物だけでなく、一定規模以上のマンションやビル、ホテルを持つ民間のオーナーさま・管理組合にも、まったく同じようにかかっているからです。

ここからが本題です。今日は、このニュースを入り口に、収益不動産をお持ちのオーナーさまと、マンション管理組合の理事長さま・修繕委員のみなさまが、「自分の建物は大丈夫か」を確かめるための要点を、現場の言葉で整理します。

ニュースの要点——吉田町で何が起きたか

まず、報じられた事実を冷静に押さえます。煽るためではなく、判断の土台にするためです。

吉田町は2026年6月16日、町役場を含む公共施設4施設について、建築基準法で義務付けられた外壁の全面打診などの調査を実施していなかったと発表しました。同法は、外壁材が剥がれて歩行者などに危害を及ぼすことを防ぐため、一定の建物に定期的な調査を求めています。

ここで早合点しないでいただきたいのです。「行政ですら忘れていたのだから、民間は仕方ない」という話ではありません。むしろ逆で、専門部署を持つ行政でさえ抜け落ちるほど、この義務は見落とされやすいということです。

私が現場で20年見てきて感じるのは、外壁調査は「やらなくても、すぐには困らない」種類の義務だということです。だからこそ後回しになる。そして、後回しにした建物に限って、ある日タイルが落ちます。順番が逆なのです。

公共施設で見落としが起きる理由は、おそらく担当者の異動や、施設ごとに管理部署が分かれていることにあると私は見ています。これは民間でもまったく同じです。賃貸物件を複数お持ちのオーナーさまほど、「どの物件が、いつ点検対象になるか」を一覧で把握できていないことが多い。管理会社に任せきりで、報告の有無まで確認していないケースもよく見かけます。

つまり今回のニュースは、「規模の大小にかかわらず、外壁調査の義務は抜け落ちやすい」という共通の弱点を、たまたま行政が先に露呈しただけ、と私は受け止めています。

なぜ今、この話題なのか。日本のマンションストックは年々高経年化が進んでいます。築40年を超える分譲マンションは年々増え続けており、それに比例して外壁の経年劣化に直面する建物も増えています。築10年の壁、築20年の壁、築30年の壁——どの節目でも、外壁は確実に老いていきます。吉田町のニュースは、その「老いていく建物をどう管理するか」という、これからの日本全体の課題を、たまたま一足先に映し出したものだと私は受け止めています。

そしてもう一つ、私が強調したいのは「自分の番で事故を起こさない」という発想です。築20年、築30年と引き継がれてきた建物には、歴代のオーナーや理事の判断が積み重なっています。たまたま自分が管理している期間に落下事故が起きれば、責任を問われるのは「今の」所有者・管理者です。前任者の先送りのツケを払わされる前に、自分の代でいったん全面的に診ておく。これが、長く資産を守るうえでの基本姿勢だと考えています。

そもそも「外壁全面打診調査」とは——建築基準法12条の義務

ニュースの背景にある制度を、素人のオーナーさまにも分かるように整理します。

根拠は建築基準法第12条です。この条文は、一定の特定建築物(不特定多数が利用する建物など)の所有者・管理者に対して、専門資格者による定期的な調査と、その結果の行政への報告を義務付けています(出典:国土交通省「定期報告制度における外壁のタイル等の調査について」)。これを一般に「12条点検」「特定建築物定期調査」と呼びます。

対象になる建物

対象は自治体ごとに指定が異なりますが、一般的には共同住宅・ホテル・店舗・事務所などで、規模(階数や床面積)が一定以上のものが含まれます。賃貸マンションや分譲マンション、テナントビル、ホテルは、規模次第で十分に対象になり得ます。

「うちは小さいから関係ない」と思い込む前に、所在地の特定行政庁(都道府県や市区の建築部局)の指定を確認することをお勧めします。東京都の場合、調査・報告の対象や手続きは都市整備局が公開しています(出典:東京都都市整備局「定期調査・検査報告制度」)。

ここで一つ補足します。同じ「マンション」でも、不特定多数が出入りする賃貸マンションやワンルーム投資物件は対象になりやすく、一方で居住者が固定的な分譲マンションは、自治体によって扱いが分かれます。だからこそ「マンションだから対象/対象外」と一括りにせず、所在地の行政庁で個別に確認する必要があるのです。私はオーナーさまに、まずこの一次確認から始めましょう、とお伝えしています。

誰が調査するのか

この調査は、誰でもできるわけではありません。一級建築士・二級建築士、または国土交通大臣の登録を受けた「特定建築物調査員」という資格を持つ専門家が行う必要があります。報告書には資格者の署名が入り、特定行政庁へ提出されます。

逆に言えば、有資格者が関与しない自己点検だけでは、制度上の「調査・報告」を満たしたことになりません。ここを誤解して「うちは管理人が見回っているから大丈夫」と考えているオーナーさまが、実際にいらっしゃいます。見回りは大切な日常管理ですが、12条の定期報告とは別物だとご理解ください。

調査の周期——“10年に一度”の全面打診

定期報告そのものは、自治体の指定に応じておおむね1〜3年ごとに行います。問題はそこに含まれる外壁調査です。

タイルやモルタルなど、落下すれば歩行者に危害を及ぼしうる外壁については、竣工または前回の外壁改修から10年を超えた最初の報告のタイミングで、原則として「全面打診等」による調査が求められます。これは2008年4月に制度が見直されてからのルールで、過去のタイル落下事故を受けて強化された経緯があります(出典:国土交通省「定期報告制度における外壁のタイル等の調査について」)。

つまり、築10年・築20年といった節目は、修繕積立金の使いどきであると同時に、「外壁を全面的に診る義務」が発生する節目でもあるのです。

怠った場合の罰則

調査・報告を怠ったり、虚偽の報告をした場合、建築基準法上は100万円以下の罰金が定められています。罰金そのものより私が重く見るのは、調査を怠った状態でタイルが落ち、誰かが怪我をしたときの責任です。これは次の章で詳しくお話しします。

「うちは関係ない」が一番危ない——オーナーの無過失責任

ここが、収益物件をお持ちのオーナーさまに最もお伝えしたい部分です。

過去、マンションやビルの外壁タイルが落下する事故は各地で起きています。剥がれたタイルが歩道に落ちれば、通行人の頭部を直撃しかねません。実際に人身被害につながった事例も報じられてきました。古い例では1989年に北九州市で外壁タイルが落下し通行人が亡くなる痛ましい事故があり、これが現在の調査制度強化の一つのきっかけになったとされています。

記憶に新しいところでも、2019年には横浜市や京都府舞鶴市、2020年には前橋市で、建物外壁のタイルなどが落下する事故が相次いで報じられました。幸い大事に至らなかったものもありますが、「たまたま下に人がいなかった」だけのケースも少なくありません。運に任せてよい話ではないのです。

外壁タイルやモルタルの剥離は、ある日突然始まるわけではありません。雨水の浸入、温度変化による伸び縮み、躯体(くたい/建物の骨組み)の動きが、10年・20年とかけて少しずつ接着を弱らせていきます。だからこそ「見た目はまだきれい」な段階でも、内部では浮きが進んでいることが珍しくないのです。打診調査が重視されるのは、この目に見えない浮きを音で拾えるからにほかなりません。

私が現場でよく申し上げるのは、「外壁の傷みは、地上から見上げて分かるようになった時点で、かなり進んでいる」ということです。下から見て明らかにひび割れや浮きが分かる状態は、初期ではなく中期以降です。だからこそ、症状が出る前の定期的な調査に意味があります。

工作物責任は「無過失責任」

建物の外壁が原因で他人に損害を与えた場合、民法第717条の「土地工作物責任」が問われます。条文では、工作物の設置・保存に瑕疵(かし/欠陥のこと)があって他人に損害が生じたとき、まず占有者(管理する人)が、そして占有者が必要な注意をしていたと証明できれば所有者が、賠償責任を負うとされています。

そして、ここが肝心です。所有者の責任は「無過失責任」と解されています。つまり「自分は知らなかった」「悪意はなかった」では、原則として免れられません。建物を所有しているという事実だけで、最終的な責任が回ってくる構造なのです。

私はオーナーさまにいつもお伝えしています。「外壁調査は、コストではなく保険です」と。年に一度の点検費用を惜しんだ結果、無過失で数千万円の賠償を負うリスクを抱え続けるのは、収益不動産の経営として割に合いません。

しかも、賠償リスクだけが問題ではありません。外壁の落下事故が一度でも起きれば、その物件は「危ない物件」という評判がつきます。入居者は離れ、空室が増え、賃料を下げざるを得なくなる。最終的には売却時の価格にも響きます。私はこれを「資産価値の静かな目減り」と呼んでいます。目に見える賠償金よりも、こちらのほうが長期では大きいことすらあります。

施設賠償責任保険などに加入していても、点検義務を怠っていた事実があると、保険金の支払いで不利に扱われる可能性も否定できません。「保険に入っているから大丈夫」と調査を後回しにするのは、順序が逆だと私は考えています。

管理組合の理事長さまも他人事ではない

分譲マンションの場合、共用部分である外壁の管理責任は管理組合にあります。理事長さまが「前の理事会から引き継いでいないから分からない」という状態は、決して珍しくありません。だからこそ、総会シーズンの今、「うちの外壁は、いつ、誰が、どう調べたか」を一度棚卸しする価値があります。

調査の壁は「足場」——なぜ先送りされるのか

ここまで読んで、「では調べよう」と思っていただけたなら、次にぶつかるのが費用と手間の問題です。

外壁の全面打診調査を従来のやり方で行う場合、建物の周囲に仮設足場を組むのが一般的でした。ところが、この足場が曲者です。足場の架設・解体だけで、規模によっては調査費用の何倍にもなることがあります。

私が現場で一番悔しい思いをするのは、この「足場代がネックで調査そのものを諦めてしまう」ケースです。義務だと分かっていても、調査のためだけに大きな仮設費をかけるのは気が進まない。その気持ちは、20年現場にいる私にはよく分かります。けれど、その先送りが事故と賠償につながるのです。

なお、制度上も「3年以内に外壁改修や全面打診を行うことが確実な場合」や「落下防止の別途措置を講じている場合」など、一定の条件で取り扱いが変わる場面はあります。ただし、これは免除を狙うための抜け道ではなく、計画的に修繕へつなげるための猶予と捉えるべきだと私は考えています。

ロープアクセスという解——足場を組まずに調査する

ここで、私たちがよくお伝えしている選択肢が「無足場工法」、すなわちロープアクセス工法です。

ロープアクセスとは、産業用のロープを使って作業員が壁面を上下移動しながら、調査や施工を行う方法です。ビルの窓清掃で、ゴンドラではなくロープでぶら下がっている作業を見たことがあるかもしれません。あれの専門技術版とお考えください。詳しくはロープアクセス工法のご紹介で図解しています。

打診・赤外線・目視を無足場で

外壁調査には、打診のほか、赤外線サーモグラフィー(壁面の温度差から内部の浮きを推定する方法)や、近年はドローンを使う手法もあります。ロープアクセスなら、これらの調査を足場なしで、しかも作業員が壁面に直接触れて確認できます。

ドローンや地上からの赤外線だけでは「疑わしい箇所」までしか分からないことがありますが、ロープアクセスは作業員がその場で打診まで行えるため、調査の確度が上がります。足場を組まない分、費用と工期を抑えられるのも大きな利点です。

調査手法ごとの特徴を整理すると、次のようになります。どれか一つが万能なのではなく、建物の条件に応じて組み合わせるのが現実的です。

調査手法 仕組み 長所 留意点
足場+打診 仮設足場上から全面を打診 全面を確実に確認、補修にそのまま移行可 仮設費が高く工期も長い
ロープアクセス+打診 ロープで昇降しながら直接打診 足場不要で低コスト・短工期、生活影響小 一度に扱える面積に限り
赤外線サーモグラフィー 表面温度差から内部の浮きを推定 広範囲を短時間でスクリーニング 天候・時間帯に左右され、確定診断には打診併用が要
ドローン撮影 上空から高解像度撮影・赤外線 高所や複雑形状を安全に俯瞰 飛行規制・風の影響、直接打診はできない

私の実感では、まず赤外線やドローンで全体の当たりをつけ、怪しい面をロープアクセスで直接打診して確定させる、という組み合わせが、確度とコストのバランスに優れています。

調査と補修を“ワンセット”にする

私はこれを、よくワンセットで提案するようにしています。調査で浮きや剥離が見つかったら、同じロープアクセスの体制でそのまま補修まで進める。足場を二度組まずに済むので、トータルコストが大きく変わります。

以前、首都圏の築22年・約60戸のマンションで、足場見積もりにためらっていた管理組合さまに、ロープアクセスでの調査と部分補修をご提案したことがあります。足場を全面に組む前提の当初計画と比べ、仮設費の負担を抑えられ、しかも居住者のみなさまの生活への影響——洗濯物が干せない、窓を開けられない、防犯上の不安——を最小限にできた、と理事長さまに喜んでいただきました。数字以上に、住んでいる方の安心が違ったのです。大規模修繕全体の進め方は大規模修繕工事のご紹介にまとめています。

無足場の業者を選ぶときの3つの確認ポイント

ロープアクセスは専門技術です。だからこそ、依頼先を選ぶときに見ていただきたい点が3つあります。

一つ目は、有資格者が在籍しているかです。産業用ロープアクセスには国際的な技能認証の仕組みがあり、安全管理の体制が整っているかを確認してください。高所作業ですから、ここは妥協できません。

二つ目は、調査だけでなく補修まで一貫してできるかです。調査会社と施工会社が別々だと、足場を二度組むのと同じで手間とコストが二重にかかります。私たちが調査と補修をワンセットでお勧めするのは、この無駄をなくすためです。

三つ目は、塗装・防水・タイル・シーリングといった各専門職をそろえているかです。外壁の不具合は一種類とは限りません。明誠はロープアクセスのフランチャイズネットワークに各分野の専門職が加盟しているため、複数の不具合をまとめて、高い品質で対応できます。窓口を一本化できると、管理組合さまの負担はぐっと軽くなります。

3つの工法から最適を選ぶ——明誠の考え方

ここで誤解のないように申し上げます。私はロープアクセスが万能だとは考えていません。建物の形状や規模、傷み具合によっては、足場を組んだほうが結果的に合理的なこともあります。

明誠が他社と違うのは、足場仮設工法・ロープアクセス工法・両者を部位ごとに使い分けるハイブリッド工法の3つを、すべて自前で提案できることです。だからこそ、「足場ありき」でも「ロープありき」でもなく、その建物にとって本当に合う方法を選べます。

工法 向いている場面 主なメリット 留意点
足場仮設工法 全面改修、複雑な形状、大量の補修箇所 作業範囲が広く安定、大規模施工向き 仮設費が大きい、工期が長め、生活影響大
ロープアクセス(無足場) 調査、部分補修、高層、足場架設が困難な物件 足場費を抑制、工期短縮、生活影響が小さい 一度に扱える作業量に限りがある
ハイブリッド 大規模だが部位で傷みに差がある物件 足場とロープを最適配分し総コスト最適化 計画段階での見極めが要

調査という入口の段階から、この3択を前提に相談できるかどうかで、その後の修繕計画の総額は変わってきます。1社の工法ありきで見積もりを取ると、その工法に都合のよい前提で話が進みがちです。複数の工法を比較できる相手に相談することが、結果的にオーナーさまの利益を守ります。

調査結果を“修繕の設計図”に変える

外壁調査は、義務を果たして終わり、ではありません。私は、調査の本当の価値はその後にあると考えています。

全面打診や赤外線で得られるのは、「どの面の、どの高さに、どれくらいの浮き・剥離があるか」という、いわば建物の健康診断書です。この情報があると、長期修繕計画(おおむね30年程度を見据えた修繕の年次計画)の精度が一気に上がります。

たとえば、北面と南面で傷みの進み方が大きく違うことはよくあります。日当たりや風雨の当たり方が違うからです。調査でそれが分かれば、「傷みの早い面を先に、遅い面は次回に」と、工事を分割して資金を平準化する判断ができます。修繕積立金が潤沢でない管理組合さまほど、この「優先順位づけ」が効いてきます。

逆に、調査をせずに「築20年だから全面改修」と一括で発注すると、まだ持つ面まで一度に直すことになり、お金の使い方として効率が落ちます。私が調査を入口に置くことをお勧めするのは、ここに理由があります。診てから、必要なところに、必要な分だけ。これが収益不動産の修繕の基本だと、現場で20年やってきて考えています。

加えて、調査報告書はオーナーさまの「武器」にもなります。売却時に買い手へ建物の状態を示せれば、価格交渉で値引きの口実を与えにくくなりますし、金融機関からの修繕資金の借り入れでも、客観的な根拠資料として説得力を持ちます。調査は守りだけでなく、攻めの材料にもなるのです。

総会でよく聞かれる5つの質問と、私ならこう答える

6月は管理組合の総会が集中する季節です。外壁調査や修繕の話題が出たとき、理事長さま・修繕委員のみなさまが組合員から問われやすい質問を、5つに絞って整理しました。私が理事会に呼ばれたとき、実際にお答えしている内容です。

Q1.「うちは本当に調査の義務があるの?」

まずは所在地の特定行政庁に、自分の建物が12条の定期報告対象かを確認するのが先決です、とお答えします。対象であれば、竣工または前回改修から10年を超えた最初の報告で外壁の全面打診等が求められます。「義務かどうか分からない」状態のまま放置するのが、最もリスクの高い選択です。

Q2.「調査にいくらかかるの?」

建物の規模・形状・調査手法で大きく変わるため、ここで安易な金額は申し上げません。ただ一つ言えるのは、足場を前提にするか無足場(ロープアクセス)にするかで、仮設費の有無の分だけ総額が変わるということです。複数の手法で相見積もりを取ることをお勧めします。

Q3.「調査中、住んでいる人の生活はどうなるの?」

足場を全面に組む場合、工事期間中は窓を開けにくく、洗濯物も干しづらく、防犯面の不安も出ます。ロープアクセスは作業箇所が限定的なので、生活への影響を抑えやすいのが特徴です。居住者の納得感は、総会での合意形成にも直結します。

Q4.「調査でアラが出たら、修繕費が膨らむのでは?」

気持ちは分かります。けれど、浮きや剥離は調べなければ消えるものではありません。むしろ早く見つけて部分補修で済ませるほうが、放置して全面剥離になるより安く済みます。調査と補修をワンセットで考えれば、足場も一度で済みます。

Q5.「今すぐやらないとダメ?総会の後ではダメ?」

緊急性は建物の状態によります。ただ、剥離が進んでいる物件で「次の総会まで」と先送りした結果、その間に落下事故が起きれば、責任は所有者・管理組合に及びます。少なくとも「いつ・どう調べるか」の方針だけは、今回の総会で決めておくことをお勧めします。

総会前にやるべき3つのこと

最後に、明日からでもできる確認事項を3つに絞ってお伝えします。

第一に、築年数の確認です。竣工または前回の外壁改修から10年を超えているなら、外壁の全面打診等の調査が視野に入ります。図面や過去の修繕履歴を引っ張り出してください。

第二に、特定行政庁への該当確認です。所在地の建築部局に、自分の建物が定期報告(12条点検)の対象かどうかを問い合わせます。対象なら、直近の報告がいつだったかも合わせて確認します。

第三に、調査方法の相談です。「足場が高いから」で止まっている場合こそ、無足場という選択肢があることを知っておいてください。調査と補修をワンセットで考えれば、総額の見え方が変わります。

外壁は、建物の安全と資産価値の両方を背負っています。点検を先送りにしてきた年月は、そのまま見えないリスクの蓄積です。総会で1分だけでも「うちの外壁、最後にいつ全面で診ましたか」と問いを投げてみてください。そこから動けるかどうかが分かれ目になります。判断の入口の整理だけでも、私たちでお力になれることがあります。お問合せフォームから、ご相談だけでも遠慮なくお声がけください。

出典・参考資料

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分譲マンション賃料が首都圏で2カ月ぶり下落——「賃料は頭打ち」の局面で収益不動産オーナーが利回りを守る一手は、大規模修繕の“工法選択”にある【2026年6月】

家賃の入金明細を眺めて、「去年と同じ家賃で、ずっと回せるだろうか」とふと不安になったことはないでしょうか。私はこの数年、収益物件をお持ちのオーナーさまとお話しするたびに、その不安が少しずつ濃くなっているのを感じています。

正直に申し上げます。2026年6月16日、不動産調査会社の東京カンテイが発表した5月の分譲マンション賃料調査で、首都圏の平均募集賃料が2カ月ぶりに下落しました。下げ幅そのものは小さいのですが、私はこの数字を「潮目が変わりつつある合図」として受け止めています。

ここからが本題です。賃料という「入り」が頭打ちになったとき、オーナーの利回りを守れる場所は、実は「出」——つまりコストの側にしか残されていません。そして、収益物件にとって最大級の支出である大規模修繕は、「どの工法で直すか」という一点で、総額が大きく変わります。今日は、賃料下落のニュースを入り口に、収益不動産オーナーさまと管理組合の理事長さま・修繕委員のみなさまが、いま何を点検すべきかを、現場の言葉で整理します。

まず、東京カンテイの数字を正しく読む

最初に、ニュースの数字を冷静に押さえておきます。煽るためではなく、判断の土台にするためです。

東京カンテイが2026年6月16日に発表した5月の分譲マンション賃料調査によると、首都圏(東京都・神奈川・埼玉・千葉)の平均募集賃料は1平方メートルあたり4,111円で、前月比0.8%の下落となりました。下落は2カ月ぶりですが、年初来は4,000円台を維持しています。東京23区に限ると5,078円で、前月比0.2%安。こちらも2カ月ぶりの下落でした(出典:日本経済新聞「東京23区の分譲マンション賃料、小幅下落 5月は0.2%安」、住宅新報web「首都圏分譲マンション賃料、2カ月ぶり下落 東京カンテイ5月調査」)。

ここで早合点しないでいただきたいのです。「賃料が下落した=市況が崩れた」ではありません。23区の0.2%安は誤差の範囲とも言える小幅な動きですし、年初来で4,000円台を保っているという事実は、むしろ底堅さの表れでもあります。

私が注目しているのは、下げ幅の大きさそのものではなく、「これまで上がり続けてきた募集賃料が、ついに頭打ちのサインを見せ始めた」という方向性のほうです。賃料は、上げようと思えばいつでも上げられるものではありません。周辺相場と空室リスクという二つの天井に縛られています。その天井が近づいているとすれば、オーナーの戦い方は変わります。

区分 5月の平均募集賃料(1㎡あたり) 前月比 補足
首都圏 4,111円 ▲0.8% 2カ月ぶり下落/年初来4,000円台を維持
東京23区 5,078円 ▲0.2% 2カ月ぶり下落/小幅

(東京カンテイ2026年5月調査・上記報道による)

数字を体感に置き換えてみます。仮に70㎡の住戸を貸している場合、首都圏平均の1㎡あたり4,111円なら、月額の募集賃料はおよそ28.8万円。前月比0.8%という下げ幅は、月あたりに直すと2,000円強です。1戸ではわずかでも、10戸、20戸と束ねれば、年間で数十万円の「入りの目減り」になり得ます。これが、賃料下落を軽視できない理由です。

賃料が頭打ちなら、利回りは「コスト側」で守るしかない

収益物件の利回りは、ごく単純化すると「年間の家賃収入 − 年間の経費 ÷ 物件価格」で決まります。家賃収入という分子の上限が見えてきたいま、利回りを守る余地は、経費という側にしか残されていません。

経費の中でも、毎月のように発生する管理費や清掃費は、すでに削るところを削り尽くしているオーナーさまが多いはずです。一方で、十数年に一度しか来ないがゆえに、つい「言い値」で受け入れてしまいがちな支出があります。それが大規模修繕です。

私はいつもオーナーさまに、こうお伝えしています。「大規模修繕は、十数年に一度の“利回り圧縮イベント”です。ここで数百万円から、規模によっては一千万円単位の差が出ると、その後の利回りが何年分も変わってしまいます」と。

外壁の塗装や防水、タイルの補修——これらは資産を守るために避けて通れない工事です。やらなければ、雨漏りや外壁の剥落といった、もっと大きな損失とリスクを抱え込むことになります。だからこそ、「やるか・やらないか」ではなく、「同じ品質を、いくらで実現するか」が、賃料下落局面のオーナーにとっての本当の論点になります。

修繕費の大半は「足場・仮設」——ここが工法選択で動く

ここで、多くのオーナーさまが意外に思われる事実をお伝えします。外壁の大規模修繕にかかる費用のうち、塗料や防水材といった「材料費」は、全体の一部にすぎません。見積書を開くと、かなりの割合を「仮設費」、とりわけ足場の架設・解体・養生が占めているのです。

材料費は、原油やナフサの相場といった外部要因に左右され、私たち施工側の努力では下げにくい部分です。実際、2026年は中東情勢などを背景に塗料の供給が滞り、現場に影響が出ているとの報道もありました(各種報道による。詳しくは前回の記事「大規模修繕の『資材高騰・工事中断』リスク」でも取り上げています)。つまり、材料費は「下がるのを待つ」しかない領域です。

一方で、仮設費は「工法の選び方」で動かせる領域です。ここに、賃料下落局面のオーナーが利回りを守る、現実的な一手があります。

私たち明誠が、足場仮設・ロープアクセス(産業用ロープを使った無足場の高所作業)・両者を組み合わせたハイブリッドという3つの工法を扱い、建物ごとに最適なものをご提案しているのは、まさにこの「仮設費を建物特性に合わせて最適化する」ためです。日本では、3工法すべてを自社で提案できる会社はまだ多くありません。下の表で、それぞれの考え方を整理します。

工法 仮設費の考え方 向いている建物・場面 留意点
通常足場工法 建物全面に足場を架設。面積が大きいほど費用も工期も増える 中低層、複雑な形状、全面的な打診・補修が必要な建物 足場費が総額を押し上げる。設置・解体に時間がかかる
ロープアクセス工法(無足場) 足場を架けず、屋上から吊ったロープで作業。足場費を圧縮できる 高層、足場の架設が難しい立地、部分補修、コスト最重視の物件 大規模な全面改修や重量物の搬入には不向きな場面がある
ハイブリッド工法 足場が必要な部位とロープで足りる部位を使い分ける 大規模・複雑物件で、総合的にコストを最適化したいケース 設計段階での見極めが品質と費用を左右する

(工法の特徴は明誠の施工方針による)

ご相談だけでも結構ですので、まずは建物の形状と劣化の状態を見せていただければ、3つの工法のどれが、あるいはどの組み合わせが御物件にとって一番無駄のない選択かを、根拠とともにお示しできます。ロープアクセス工法のご紹介もあわせてご覧ください。

ロープアクセスが効くケース、効かないケース

ここは公平に申し上げます。無足場のロープアクセス工法は万能ではありません。「足場を組まないから、どんな建物でも安くなる」と説明する業者がいたら、私はむしろ慎重に話を聞くべきだと思っています。

ロープアクセスが効くのは、たとえば足場を架けるスペースがない密集地の建物、高層で足場費がかさむ建物、あるいは外壁の一部だけを部分的に補修したいケースです。足場の架設・解体という大きな費用と工期がまるごと不要になるため、条件が合えば仮設費を大きく圧縮できます。居住者やテナントの生活・営業への影響が小さく、足場による圧迫感や防犯面の不安が出にくいことも、収益物件では見逃せない利点です。

一方で、建物の全面にわたって大量の補修が必要なケースや、重量のある資材を頻繁に上げ下ろしする工事では、足場を組んだほうが結果的に効率的で、品質も安定することがあります。「ただし御物件の状態によっては、ロープアクセスより足場のほうが適している」——私はこの一言を、必ずお客さまにお伝えするようにしています。

大切なのは、工法を先に決めてしまわないことです。建物の劣化状況を診断したうえで、部位ごとに最適な工法を割り当てる。その積み上げが、結果として一番無駄のない見積りになります。これは、3つの工法を手の内に持っているからこそできる提案です。

「ハイブリッド工法」という第3の解

実務で一番多いのは、実は「全面足場」でも「全面ロープアクセス」でもなく、その中間です。

たとえば、足場が組みやすい低層部やバルコニー側は足場で丁寧に仕上げ、足場費が跳ね上がる高層部や、建物が隣地に迫っていて足場を架けにくい面はロープアクセスで対応する。こうして部位ごとに工法を使い分けるのが、ハイブリッド工法です。

私はこれを、御物件の図面と現地調査の結果を突き合わせて、必ずワンセットで検討するようにしています。「ここは足場、この面はロープ」と一枚の計画図に落とし込むと、全面足場の見積りと比べて仮設費がどれだけ変わるか、はっきりと数字で見えてきます。賃料が頭打ちの局面では、この「仮設費の最適化分」が、そのまま利回りを守る原資になります。

なお、明誠は塗装・防水・タイル・電気・看板といった各分野の専門職が加盟するフランチャイズのネットワークを持っています。工法を使い分けても、それぞれの工程を、その道の専門職が責任をもって施工する。高品質と低価格を両立できるのは、この体制があるからこそだと、私は考えています。

賃料下落局面でこそ「資産価値の維持」が効く理由

賃料が頭打ちのときほど、私が強くお伝えしたいことがあります。それは、「修繕を先送りすると、入りの目減りが二重三重になる」という現実です。

外壁が色あせ、シーリング(外壁の目地を埋める防水材)が切れ、共用部に劣化が目立ってくると、内見に来た方の第一印象が確実に下がります。同じ間取り・同じ立地でも、外観が手入れされている建物とそうでない建物では、募集にかかる時間も、最終的に決まる家賃も変わってきます。賃料相場が下がり気味の局面では、この差がより残酷に効いてきます。

逆に言えば、賃料が頭打ちのいまこそ、適切な大規模修繕で資産価値と「募集力」を保つことの価値が、相対的に高まっているとも言えます。私が現場で20年やってきて一番悔しい思いをするのは、修繕の先送りで建物の魅力が落ち、本来取れたはずの家賃を取りこぼしているケースに出会うときです。

しかも、長寿命化に資する大規模修繕に対しては、一定の要件を満たすと固定資産税の減額措置や自治体の補助制度の対象になる場合があります。ただし、これらは年度ごと・自治体ごとに内容が異なり、予算枠に達すると締め切られることもあります。御物件の所在地で使える制度があるかは、計画の早い段階で確認しておくことをおすすめします(制度の有無・要件は各自治体・年度により異なります)。

オーナーが今すぐできる、3つの点検

「では、何から手をつければいいのか」。賃料下落のニュースを読んだ今日、すぐにできることを3つに絞ってお伝えします。

第一に、長期修繕計画と修繕積立金の残高を、もう一度開いてみてください。次の大規模修繕がいつで、いくら積み上がっているのか。賃料の伸びが鈍るなら、修繕資金の見通しはより保守的に見ておく必要があります。

第二に、直近で大規模修繕の見積りを取っている、あるいは管理会社から提案を受けているなら、その見積りの「仮設費」の欄を確認してください。総額に占める足場費の割合が大きいほど、工法の見直しで圧縮できる余地が残っている可能性があります。

第三に、複数の視点で意見を聞くことです。一社の見積りだけで判断せず、足場・ロープアクセス・ハイブリッドという複数の選択肢を比較できる相手に、一度建物を見てもらう。それだけで、同じ品質をより無駄なく実現する道が見えてくることがあります。

総会シーズンのこの時期、理事会で1分だけでも「次の大規模修繕、工法の選択肢を比べてみないか」という話題を出してみてください。それが、賃料が頭打ちの時代に資産を守る、最初の一歩になります。

見積書の「仮設費」を、こう読み解く

ここで、もう一歩だけ実務に踏み込みます。賃料が頭打ちのいま、私がオーナーさまに一番お見せしたいのは、見積書の「どこを見れば、工法で差が出る部分が分かるか」という勘所です。

大規模修繕の見積書は、おおむね「直接仮設費(足場・養生・昇降設備など)」「外壁補修費」「塗装費」「防水費」「シーリング費」「諸経費」といった項目に分かれています。このうち、塗装や防水といった「実際に建物を直す費用」は、工法を変えてもそれほど大きくは動きません。直す面積と劣化の程度で決まるからです。

大きく動くのは、冒頭の「直接仮設費」です。建物の規模や形状にもよりますが、外壁の大規模修繕では、仮設費が総額の二〜三割を占めることも珍しくありません。全面に足場を組めば、その架設・解体・運搬・養生に相応の費用と日数がかかります。逆に、ロープアクセスやハイブリッドで足場の範囲を絞れれば、この項目を圧縮できる可能性が出てきます。

そこで、御手元に見積書があれば、まず「直接仮設費」が総額の何割を占めているかを電卓で確かめてみてください。その割合が大きいほど、工法の見直しで利回りを守れる余地が残っているサインです。私はいつも、「材料費は相場任せ、でも仮設費はやり方で変えられます」とお伝えしています。

なお、ここで一つ釘を刺しておきます。「仮設費が安い=良い見積り」と短絡してはいけません。足場には、職人が安定した足場の上で隅々まで丁寧に作業できるという品質面の利点があります。ロープアクセスで仮設費を下げても、必要な打診や補修が省かれていては本末転倒です。見るべきは「同じ品質を、どの工法で、いくらで実現しているか」。この視点を外さないことが、賃料下落局面でのコスト判断の肝になります。

収益物件ならではの落とし穴——「工事中の空室・解約」をどう防ぐか

自宅としてお住まいの分譲マンションと違い、収益物件の大規模修繕には、もう一つ固有の論点があります。それは、工事そのものが入居者・テナントの満足度に直結し、家賃収入を左右しかねない、という点です。

足場を全面に組むと、どうしても各住戸の窓がふさがれ、採光や眺望が一時的に損なわれます。バルコニーが使えなくなる期間も生じます。養生シートで建物全体が覆われると、防犯面の不安を口にする入居者もいます。実際、足場の設置期間中に「環境が変わった」として更新を見送る、あるいは賃料の減額を求められる——そうした声を、私は現場で何度も耳にしてきました。賃料が頭打ちの局面で、工事をきっかけに退去や解約が出てしまえば、コスト削減どころか、入りの側でさらに傷を負うことになります。

ここで、無足場のロープアクセス工法が持つ「生活影響の小ささ」が効いてきます。足場を組まないため、建物全体が覆われる期間が短く、窓やバルコニーがふさがれる時間も限定的です。テナント営業中のビルや、稼働を止めたくないホテル、入居者が生活している賃貸マンションでは、この差が満足度の維持、ひいては家賃収入の維持に直結します。

もちろん、これも建物次第です。だからこそ私は、「コストの数字」だけでなく、「工事期間中に入居者・テナントがどれだけ普段どおり過ごせるか」という軸も、必ず御提案の中に入れるようにしています。収益物件のオーナーさまにとっては、工事中の家賃を守ることも、立派なコスト最適化だからです。

「誰に頼むか」も、利回りを守る一部です

最後に、工法と並んで大切な話をひとつ。それは「どの会社に頼むか」です。

どんなに優れた工法を選んでも、施工する職人の技術が伴わなければ、品質は出ません。とりわけロープアクセスは、高所でロープに身を預けて作業する以上、安全管理と技術の裏づけが欠かせません。安さだけを売りに、経験の浅い体制で請け負う業者もないとは言えない世界です。

明誠が、塗装・防水・タイル・電気・看板といった各分野の専門職が加盟するフランチャイズのネットワークで施工しているのは、工法を使い分けても、それぞれの工程をその道のプロが責任をもって仕上げるためです。私はこの体制を、品質と価格を両立させる土台だと考えています。賃料が頭打ちのいまこそ、「安かろう悪かろう」で資産を傷つけない発注先選びが、利回りを守る一部になります。

長期修繕計画は「12年に一度」だけではもう古い

もう一つ、賃料が頭打ちの局面でこそ見直したいのが、長期修繕計画そのものの考え方です。

これまで、大規模修繕といえば「12年に一度」が一つの目安とされてきました。けれども国土交通省は、令和6年(2024年)6月に「長期修繕計画作成ガイドライン」を改定し、既存マンションの長期修繕計画の計画期間を30年以上とすることや、大規模修繕工事の修繕周期の目安を見直すなど、より実態に即した長寿命化の考え方を示しています(出典:国土交通省「マンション管理(長期修繕計画作成ガイドライン等)」)。建材や工法の進化を踏まえ、適切な点検と部分補修を組み合わせて周期を長く取る「長周期化」の発想が、公的なガイドラインの側からも後押しされているということです。

ここで誤解しないでいただきたいのは、「長周期化=手を抜く」ではない、ということです。むしろ逆で、こまめに状態を把握し、傷んだ部位を早め早めに直すからこそ、大がかりな全面改修の回数を減らせる、という発想です。そして、この「こまめな点検と部分補修」こそ、足場を組まずに身軽に動けるロープアクセスが最も得意とするところです。

私はオーナーさまに、こうお話しします。「足場を組む大規模修繕は十数年に一度でも、その間の点検と部分補修を無足場で機動的に回せれば、建物はずっと良い状態を保てます。結果として、十数年単位で見たときの総コストはむしろ下がることがあります」と。賃料の伸びが鈍る時代には、この「長い目で見たコスト」の発想が、利回りを守るうえでますます大切になります。

長期修繕計画は、一度作って終わりの書類ではありません。賃料相場や資材価格、建物の劣化状況に合わせて、数年に一度は見直す「生きた計画」であるべきだと、私は考えています。

数字で見る、工法選択の「効き方」

最後に、工法選択がどれくらい効くのか、ごく簡単なイメージをお持ちいただくために、あくまで考え方の例として整理します(実際の金額は建物の規模・形状・劣化状況で大きく変わるため、ここでの数字は概算のイメージにすぎません)。

たとえば、ある外壁修繕の見積総額のうち、仮設費(足場費)が3割を占めていたとします。残り7割が塗装・防水・補修などの「直す費用」です。この場合、もし建物の条件が合い、足場の一部をロープアクセスやハイブリッドに置き換えて仮設費を圧縮できれば、総額に占める3割の部分にメスを入れられることになります。

ここで大事なのは、「7割の直す費用」は基本的に削らない、という点です。品質に直結する塗装や防水の工程を削ってしまえば、安物買いの銭失いになります。手を入れるのは、あくまで「足場という、やり方次第で変えられる3割」のほうです。同じ品質を保ったまま、仮設の部分だけを最適化する——これが、私たちの提案の基本姿勢です。

戸あたりに換算してみると、効き方はより実感できます。仮に全体で数百万円の差が出たとして、それを総戸数で割れば、1戸あたりの負担や積立金への影響が見えてきます。賃料が月あたり数千円下がる時代に、修繕で1戸あたり数十万円の差をならせるなら、それは何年分もの賃料下落を埋め合わせる力を持ちます。私が「大規模修繕はコントロールできる支出」と申し上げるのは、こういう意味です。

繰り返しますが、ここでの数字はイメージです。御物件で実際にどれだけ効くかは、建物を一度きちんと見せていただいて、図面と現地調査を突き合わせなければ分かりません。だからこそ、思い込みで工法を決めず、まずは現状を診断することから始めていただきたいのです。

「無足場=危ない」は誤解です——安全管理の話

ロープアクセスとお伝えすると、「ロープ1本で高所作業なんて、危なくないのか」とご心配される方が少なくありません。お気持ちはよく分かります。ですので、ここは正面からお答えします。

産業用のロープアクセスは、命を預けるメインロープと、万一に備えるバックアップロープという、独立した2本のロープで身体を支えるのが基本です。1本に不測の事態があっても、もう1本が体を保持する。この「二重の備え」が、無足場作業の安全の土台になっています。高所作業に関する法令やルールに沿って、装備の点検と作業手順を徹底することも欠かせません。

私が一番こだわっているのは、結局のところ「人」です。どれだけ装備が整っていても、扱うのは現場の職人です。だからこそ、技術と安全意識を備えた職人が施工することが、無足場工法の品質と安全をともに支えます。賃料が頭打ちで一円を大切にしたい局面だからこそ、安さの裏で安全や品質が削られていないか——そこを見極める目を、オーナーさまにも持っていただきたいと思っています。

私はこれまで、足場の現場も無足場の現場も、数えきれないほど見てきました。その経験から申し上げれば、事故の多くは「工法そのもの」ではなく、「準備不足」や「無理な工程」から生まれます。逆に言えば、きちんとした計画と訓練された人による施工なら、無足場であっても安心して任せていただける、というのが私の正直な実感です。

なお、点検や部分補修を無足場で機動的に回す体制を整えておけば、台風や地震の後に「気になる箇所だけをすぐ見てもらう」といった機動的な対応もしやすくなります。足場を一から組む必要がないぶん、初動が速いのです。これも、無足場という選択肢を持っておく価値の一つだと、私は考えています。

よくあるご質問(FAQ)

Q1. 賃料が下がっているなら、大規模修繕はむしろ先送りすべきでは?

気持ちはよく分かりますが、私は逆だと考えています。修繕を先送りすると外観や共用部の劣化が進み、募集力が落ちて家賃の取りこぼしが増えます。賃料が頭打ちの局面でこそ、資産価値と募集力を保つ修繕の価値は相対的に高まります。やるか・やらないかではなく、「同じ品質をいくらで実現するか」で考えるのが現実的です。

Q2. ロープアクセス工法は、足場より本当に安くなるのですか?

条件が合えば、足場の架設・解体費がまるごと不要になるため、仮設費を大きく圧縮できます。ただし、全面的に大量の補修が必要な建物や重量物の搬入が多い工事では、足場のほうが適している場合もあります。御物件の形状と劣化状況を診断したうえで判断するのが確実です。安さだけを強調する説明には、慎重になることをおすすめします。

Q3. 自治体の補助金や税の減額は、どの物件でも使えますか?

いいえ。長寿命化に資する大規模修繕への固定資産税の減額措置や自治体の補助制度は、要件・対象・期限が年度ごと・自治体ごとに異なり、予算枠に達すると締め切られることもあります。御物件の所在地で使える制度があるかは、計画の早い段階で個別にご確認ください。

最後に

賃料という「入り」の天井が見えてきたいま、オーナーさまが利回りを守れる場所は、コストの側に移りつつあります。そして、十数年に一度の大規模修繕は、工法の選び方ひとつで総額が大きく変わる、数少ない「コントロールできる支出」です。

私たちが足場・ロープアクセス・ハイブリッドの3つを扱っているのは、御物件にとって一番無駄のない選び方を、根拠とともにお示しするためです。大規模修繕工事のご紹介もご覧いただけます。

総会の前段階の整理だけでも、見積りの仮設費の読み解きだけでも、お力になれることがあります。ご相談だけでも遠慮なくお声がけください(お問合せフォーム)。次回も、現場で本当に使える話だけをお届けします。

出典・参考資料

※本記事の賃料数値は東京カンテイ2026年5月調査および上記報道によります。塗料・材料の供給状況は各種報道によります。固定資産税の減額措置や自治体補助制度の有無・要件・期限は、年度・自治体により異なります。最新の内容は各公的機関の一次情報をご確認ください。本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、特定の投資判断や工事内容を保証するものではありません。

▼ロープアクセス工法・無足場工法の詳細解説はこちら
ロープアクセスドットコム|無足場工法専門メディア

大規模修繕の「資材高騰・工事中断」リスク——ナフサ不足と原油高で膨らむ修繕コストを、工法選択でどう守るか【2026年6月】

大規模修繕の「資材高騰・工事中断」リスク——ナフサ不足と原油高で膨らむ修繕コストを、工法選択でどう守るか【2026年6月】

「見積もりを取ったら、数年前の話より2割も3割も高くなっていた」。最近、マンションの理事長さんやビル・ホテルのオーナーさんから、こうした声を本当によく聞きます。大規模修繕は十数年に一度の大仕事ですから、前回との差に驚かれるのは当然です。そして2026年6月、その「高くなった」背景を裏づけるようなニュースが、いくつも流れてきました。

ひとつは、原油価格の高止まりです。日本総研(日本総合研究所)は、原油高が建設投資を押し下げる方向に働き、とりわけ防水工事や内装工事といった「工事の後工程」で使う資材への影響が大きく、材料の調達が間に合わずに工事を中断する事例も出ている、という趣旨の指摘をしています。実際、防水・塗装を手がける施工会社が「ナフサ不足で材料の一部に受注停止が起き、現場が止まっていたが、ようやく入荷して再開できた」と現場の様子を発信する動きも見られました。

私は東京・関東を中心に、マンション・ビル・ホテルの大規模修繕に長く携わってきました。足場を架ける従来工法だけでなく、ロープアクセス(無足場工法)、そして両者を部位ごとに使い分けるハイブリッド工法まで、建物ごとに最適な工法を提案することを仕事の柱にしています。だからこそ、今回の「資材高騰」「材料が手に入らない」という話は、ニュースの向こう側の出来事ではなく、これから大規模修繕を控えるすべての建物オーナーさんに直結する問題だと受け止めています。

この記事では、まず何が起きているのかを正確に整理し、そのうえで「材料費が上がっている局面で、それでも修繕の総額をどう抑えるか」を、現場の目線でお伝えします。煽るつもりはありません。淡々と、事実と根拠で。なお、本記事は一般的な解説であり、個別の見積もりや工事判断を保証するものではありません。最終的な判断は、必ず現地調査と専門家の確認のうえで行ってください。


何が起きているのか——原油高・ナフサ不足が「修繕材料」を直撃している

防水・塗装の材料は「石油から生まれる」という事実

まず押さえておきたいのは、大規模修繕で使う材料の多くが、石油を原料にしているという事実です。私たちが現場で扱うウレタン防水材、塗料、シーリング材(コーキング)、接着剤——これらは、原油を精製してできる「ナフサ」という基礎原料から、さまざまな化学品を経てつくられています。つまり、原油価格が上がり、ナフサの供給が細ると、その影響が川下の防水材や塗料にまで波及してくる構造になっているのです。

2026年に入ってからの報道では、こうした石油化学系の資材で供給が不安定になり、一部の防水材・塗料で受注が止まる、納期が読めない、といった声が現場から上がっていました。日本総研も、原油高の影響が「工事の後工程で使う資材」に大きく出やすいと指摘しています。後工程というのは、まさに防水や塗装、内装といった、建物の仕上げに近い部分のことです。大規模修繕は外壁塗装・防水・シーリングが工事の中心ですから、ここが直撃を受けるというのは、私たち施工側にとっても他人事ではありません。

「材料が来ないと、工事は止まる」という当たり前の怖さ

資材高騰というと「値段が上がる」話だと思われがちですが、現場にとってより怖いのは「そもそも材料が手に入らず、工事が止まる」ことです。私自身、過去の資材逼迫の局面で、段取りどおりに進めていた現場が、材料の入荷待ちで数日から数週間ストップしてしまう、という経験を何度かしてきました。

足場を架けている現場で工事が止まると、何が起きるか。仮設足場は「架けている期間」に対して費用が発生します。工期が延びれば延びるほど、足場のリース費用や仮設まわりのコストがかさんでいきます。さらに、居住者や利用者にとっては、ベランダが使えない、窓を開けにくい、防犯面で不安、といった生活への負担が長引くことになります。つまり資材の供給不安は、「材料費の上昇」と「工期延長によるコスト増・生活影響の長期化」という、二重の負担としてのしかかってくるのです。

資材だけではない——人件費の上昇という構造要因

もうひとつ、忘れてはいけないのが人件費です。建設業の現場は慢性的な人手不足が続いており、職人さんの労務単価は年々上がっています。円安によって輸入資材の価格が押し上げられ、そこに人件費の上昇が重なる。建築費・修繕費は「高止まり〜緩やかな上昇」が当面続く、というのが多くの専門家のおおむね一致した見方です。

つまり、今回のナフサ不足・原油高は、もともと続いていた資材・労務の上昇トレンドに、供給制約という新たな一撃が加わった、という構図です。「待っていれば安くなる」と先送りするほど、材料費・人件費・そして建物自体の劣化が進む——この三重苦に向き合わざるを得ないのが、いまの大規模修繕の現実だと、私は考えています。


先送りが一番高くつく——「待つ」ことの本当のコスト

劣化は待ってくれない

「資材が高いなら、価格が落ち着くまで工事を待とう」。気持ちはよく分かります。けれど、建物の劣化は私たちの都合を待ってはくれません。外壁のタイルやモルタルの浮き、ひび割れ、防水層の劣化、シーリングの痩せ——これらは時間とともに確実に進みます。

特に怖いのが、外壁の剥落です。タイルやモルタルが浮いたまま放置されれば、いずれ落下し、通行人や居住者に当たる事故につながりかねません。万が一、人身事故が起きれば、建物所有者・管理組合が責任を問われる可能性があります。資材が高いから先送り、という判断が、結果としてはるかに大きな損失を招くリスクをはらんでいるのです。

防水を後回しにすると、修繕範囲が広がる

防水の劣化も同じです。屋上やバルコニーの防水層が切れると、雨水が建物内部に侵入します。最初は小さな雨漏りでも、放置すれば鉄筋を錆びさせ、コンクリートを内側から傷め(中性化・爆裂)、躯体そのものの寿命を縮めます。「防水のやり直しで済んだはずが、躯体補修まで必要になった」というのは、現場で本当によくある話です。材料費の上昇を嫌って先送りした結果、工事範囲そのものが広がってしまっては、本末転倒です。

修繕積立金の不足という、もうひとつの逆風

マンションの場合、ここに修繕積立金の問題が重なります。近年、新築時の積立金が低く設定され、計画どおりに値上げできていない管理組合は少なくありません。資材・人件費が上がる一方で、積立金は計画どおりに増えていない。この「ハサミ状の開き」が、多くの管理組合を悩ませています。だからこそ、限られた予算のなかで「同じ品質をどう安く実現するか」という工夫が、これまで以上に重要になっているのです。


数字で見る——資材と建築費は、どれくらい上がったのか

「高くなった」を感覚ではなく数字で押さえる

「高くなった」という実感を、できるだけ数字で確かめておきましょう。建築工事にかかる費用の動きを示す代表的な指標に、国土交通省が公表している「建設工事費デフレーター」があります。これは、建設工事にかかる費用の物価変動をとらえる指数で、近年は右肩上がりの傾向が続いてきました。木材が高騰した「ウッドショック」以降、セメント・鉄骨・石油化学系資材・労務費と、コストを押し上げる要因が次々に重なり、建築・修繕にかかる費用はコロナ禍前の水準には戻っていない、というのが大方の見方です。

大規模修繕に引き寄せて言えば、外壁の塗装・タイル補修・防水・シーリング、そして仮設足場——このいずれもが値上がり圧力にさらされてきました。材料は石油化学と金属、足場は鋼材、施工は人の手。どこを取っても、上昇トレンドの影響を受けやすい構造になっているのです。だからこそ、前回の修繕から十数年が経っている建物ほど、「前回の感覚」で予算を組むと、現実とのギャップに直面しやすくなります。

「これから下がる」とは考えにくい

では、この先は下がるのか。残念ながら、すぐに大きく下がるとは考えにくい、というのが多くの専門家の見立てです。理由は、値上がりの背景にあるのが一時的な要因ではなく、構造的な要因だからです。慢性的な人手不足による労務費の上昇、円安による輸入資材の高止まり、そして今回のような地政学リスクに端を発する原油・ナフサの供給制約。これらは、数か月待てば解消する、という性質のものではありません。

私は、お客様に「値下がりを待つ前提で計画を立てるのは危険です」と、率直にお伝えするようにしています。期待を持たせる言い方のほうが喜ばれるのは分かっています。それでも、根拠のない楽観で先送りを勧めて、結果的に劣化を進めてしまうほうが、よほど不誠実だと考えるからです。値下がりを待つのではなく、「上がる前提で、いかに賢く直すか」に発想を切り替える。これが、いまの局面での現実的な構えだと思います。


コストを抑える鍵は「工法選択」——足場ありきをやめる

ここからが、私が一番お伝えしたいところです。資材費そのものは、世界の原油市場や為替に左右されるため、私たち施工会社の努力だけでは下げられません。けれど、修繕の「総額」を構成するのは材料費だけではありません。仮設費(足場)、人件費、工期に連動するコスト——ここには、工夫の余地が大きく残されています。なかでも効果が大きいのが、工法の選択です。

3つの工法を比べる

大規模修繕の工法は、大きく次の3つに分けられます。明誠では、この3つを建物ごとに比較し、本当に最適な方法を提案しています。

工法 特徴 向いている建物・場面 コスト・工期への影響
通常足場工法 建物全体に仮設足場を架けて施工する従来型 中低層、形状が複雑な建物、全面的な改修 足場の架設・解体・リース費が発生。架設期間が長いほど費用増
ロープアクセス工法(無足場) 産業用ロープで作業員が降下し、足場を架けずに施工 高層、足場が架けにくい立地、部分補修、コスト最重視 足場費を大幅に圧縮。工期短縮・生活影響の最小化につながりやすい
ハイブリッド工法 足場とロープアクセスを部位ごとに使い分ける 大規模・複雑な建物で総コストを最適化したい場面 必要な部分だけ足場を使い、残りはロープで。総額を抑えやすい

ポイントは、足場費が修繕総額のなかで決して小さくない割合を占める、ということです。資材費が上がっている局面では、なおさらこの「仮設費をどう抑えるか」が効いてきます。足場を架けなければならない部位はしっかり足場を使い、ロープアクセスで対応できる部位はロープに切り替える。この使い分けができるかどうかで、最終的な負担額は大きく変わります。

ロープアクセスが効く理由——「資材高騰の時代」だからこそ

ロープアクセス(無足場工法)は、足場の架設・解体・リースにかかる費用と時間を圧縮できる工法です。資材高騰で材料費が上がっている今、足場という「仮設コスト」を削れる意味は、以前にも増して大きくなっています。

さらに、工期が短くなれば、先ほど触れた「工事中断による工期延長コスト」のリスクも相対的に小さくできます。万が一、材料の入荷待ちが発生しても、足場を長期間架けっぱなしにする工法に比べれば、仮設費の膨張を抑えやすい。居住者・利用者にとっても、ベランダや窓まわりが塞がれる期間が短く済むのは、大きなメリットです。ホテルや商業ビルであれば、営業や稼働を止めずに改修を進めやすい、という強みにもつながります。

もちろん、ロープアクセスが万能なわけではありません。全面打診や大がかりな下地補修が必要な現場では、足場のほうが適している場合もあります。だからこそ「足場ありき」でも「ロープありき」でもなく、建物ごとにフラットに比較できることが大切なのです。

フランチャイズという仕組みが、品質と価格を両立させる

明誠は、ロープアクセス工事の分野で、日本で初めてとなるフランチャイズ展開を進めてきました。塗装・防水・タイル・電気・看板など、各分野の専門職が加盟する仕組みです。専門性の高い職人がネットワークでつながることで、高い品質を保ちながら、中間マージンを抑えた価格を実現しやすくなります。資材費という「外から来る上昇圧力」に対して、施工体制の側で効率を高め、総額を抑える——この両面からのアプローチが、いまの時代には欠かせないと考えています。


現場から——ある中層マンションでの「工法を分けた」判断

少し、現場の話をさせてください。物件が特定されないよう、細部はぼかしてお伝えします。

以前、関東のある中層マンションで、大規模修繕のご相談をいただいたことがあります。当初、別の会社からは「全面に足場を架けて一式で」という見積もりが出ていて、管理組合の理事会は「思っていたより高い」と頭を抱えていらっしゃいました。ちょうど資材価格が上がっていた時期で、材料費はこちらの努力ではどうにもなりません。そこで私たちが提案したのは、建物を部位ごとに見て、足場が本当に必要なところと、ロープアクセスで対応できるところを分ける、という考え方でした。

その建物は、共用廊下側は形状が複雑で下地補修も多く、足場を架けてしっかり作業したほうが安全かつ確実でした。一方、外壁の一部やバルコニー側の塗装・シーリングのやり直しは、ロープアクセスで十分に品質を担保できる範囲でした。そこで、足場が要る面には足場を、それ以外はロープで——というハイブリッドの組み立てにしたのです。結果として、全面足場を前提にした場合に比べ、仮設にかかる費用と工期を圧縮でき、居住者の方々がベランダを使えない期間も短く抑えることができました。

私がこの仕事で大切にしているのは、「うちはこの工法しかできないから、これでいきましょう」と言わないことです。足場屋さんは足場を、ロープ屋さんはロープを勧めがちです。けれど、本当にお客様のためを思うなら、まず建物をフラットに見て、どの組み合わせがいちばん負担を小さくできるかを考えるべきだ、と。資材が高い時代だからこそ、この「見立て」の差が、最終的な金額に効いてくるのだと、現場に立つたびに感じています。


ホテル・商業ビルの大規模修繕——「止めない改修」という視点

資材高騰の話は、マンションだけの問題ではありません。ホテルや商業ビル、テナントビルのオーナーさんにとっては、もうひとつ重い論点があります。それは「改修中に、稼働や営業をどれだけ止めずに済むか」という問題です。

ホテルであれば、客室や外観を覆う足場は、稼働率や宿泊体験に直接響きます。商業ビルであれば、テナントの営業や来館者の動線に足場が影響します。つまり、足場を長期間架けることそのものが、材料費とは別の「機会損失」というコストを生むのです。資材高騰で工事費が上がっているうえに、足場で営業が止まれば、痛みは二重になります。

ここでも、ロープアクセスやハイブリッド工法の価値が際立ちます。足場を最小限に抑え、必要な部位だけ短期間で集中的に直す。外壁・窓まわり・看板といった部位を、稼働を止めずに、あるいは影響を最小化しながら改修していく。インバウンド需要が高止まりし、客室稼働を一日でも落としたくないホテルにとって、「止めない改修」は、コスト面でも体験面でも大きな意味を持ちます。私たちが3つの工法を提案できることの価値は、こうした「稼ぐ建物」でこそ、はっきりと表れると考えています。


よくある質問(FAQ)

Q. 資材が高いので、もう少し値下がりを待ってから工事したほうがよいですか?

値下がりを待つことはおすすめしにくい、というのが私の率直な考えです。資材・人件費の上昇は構造的な要因によるもので、短期での大幅な下落は見込みにくい状況です。むしろ、待っている間に建物の劣化が進み、修繕範囲が広がって総額が増えてしまうリスクのほうが現実的です。まずは点検で現状を把握し、優先順位をつけて計画的に進めるのが安全です。

Q. ロープアクセス(無足場工法)にすれば、必ず安くなりますか?

必ず安くなる、とは言えません。建物の形状や劣化の程度、必要な作業内容によっては、足場を架けたほうが安全かつ合理的な場合もあります。大切なのは「ロープありき」でも「足場ありき」でもなく、建物ごとに3つの工法を比較したうえで、コスト・工期・安全性・生活影響のバランスから最適な方法を選ぶことです。

Q. 見積もりが妥当かどうか、素人でも見分けられますか?

すべてを見分けるのは難しいですが、ポイントはあります。総額だけでなく「内訳」を見てください。材料費・仮設費(足場)・人件費・諸経費の割合が示されているか。特に仮設費は工法選択で大きく動く部分です。複数社から相見積もりを取り、工法の選択肢を持つ会社の説明と比べてみると、判断材料が増えます。


いま、建物オーナー・管理組合ができる5つのこと

最後に、資材が高く、供給も不安定なこの局面で、建物オーナーさんや管理組合の理事長さんが今すぐ着手できることを、5つにまとめます。どれも、大きなお金をかける前にできる「準備」と「確認」が中心です。

第一に、外壁・屋上・バルコニーなど、建物外皮の劣化状況を点検することです。タイルの浮きや剥落、防水層の劣化、シーリングの痩せ、手すりの腐食などは、安全と資産価値に直結します。落下や雨漏りのリスクがある部位は、資材価格に関わらず、優先して手を打つべきです。点検だけなら大きな費用はかかりません。

第二に、長期修繕計画の中身を見直すことです。場当たり的な補修を繰り返すより、いつ・どこを・どの工法で・いくらで直すかを計画として持っておくほうが、トータルコストは下がります。資材高騰を織り込んだうえで、優先順位をつけ直すことが大切です。

第三に、修繕積立金の水準を確認することです。資材・人件費の上昇に対して、積立金が計画どおりに増えているか。不足が見込まれるなら、値上げや一時金、借入なども含めて、早めに選択肢を検討しておくほうが、いざというときに慌てずに済みます。

第四に、見積もりを取る際は、工法の選択肢を持つ会社に相談することです。足場工法しか提案できない会社に依頼すれば、当然、足場ありきの見積もりになります。足場・ロープアクセス・ハイブリッドを比較したうえで、稼働とコストの両面から最適解を出せるかどうか。ここで最終的な負担額が変わってきます。

第五に、見積もりの「内訳」を確認することです。材料費・仮設費(足場)・人件費・諸経費が、それぞれどれくらいの割合か。総額だけでなく内訳を見れば、どこに削減の余地があるかが見えてきます。特に仮設費の比率は、工法選択で大きく動く部分です。

これらは、資材価格が世界情勢で揺れ動くなかでも、建物の側・発注の側でコントロールできる数少ないポイントです。外的な値上がりに振り回されるのではなく、自分たちでできる工夫を積み上げていく。その積み重ねが、最終的な総額と建物の寿命を左右します。


資材高騰の時代こそ、補助金・税制優遇を取りこぼさない

資材価格が上がる局面では、使える公的支援を取りこぼさないことも、実質的なコスト対策になります。マンションの大規模修繕や長寿命化に関しては、自治体によって補助制度が用意されている場合があり、外壁改修・屋上防水・省エネ改修などが対象になることがあります。また、一定の要件を満たす長寿命化に資する大規模修繕工事を行ったマンションについて、固定資産税が減額される制度が設けられている自治体もあります。耐震・バリアフリー・省エネといった改修にあわせて、固定資産税の減額措置が用意されているケースもあります。

ただし、補助金・優遇制度には注意点があります。第一に、制度の有無・対象・補助率・上限額・申請期限は、年度ごと、そして自治体ごとに異なります。第二に、補助金は予算枠が決まっており、枠に達した時点で受付が締め切られることが珍しくありません。「あるはず」と思い込まず、必ず最新の年度の情報を、お住まいの自治体や所管の窓口で確認してください。第三に、多くの制度は「工事の前」に申請・交付決定が必要で、着工後では対象にならないことがあります。計画段階から、補助金・税制優遇の活用可否を専門家とあわせて検討しておくことが、資材高騰時代の賢い進め方だと考えます。

なお、私たちが運営する一般社団法人 全国建設業支援協会(JCSA)でも、建設業向けに経営や制度活用に関する情報発信を行っています。発注する側・施工する側の双方が、こうした制度を正しく知ることが、業界全体の健全なコスト構造につながると考えています。


まとめ——「材料は選べなくても、工法は選べる」

2026年6月、原油高とナフサ不足は、防水・塗装といった大規模修繕の中心的な材料を直撃し、現場では工事中断という形でも影を落としています。日本総研が指摘するように、こうした影響は工事の後工程で大きく出やすく、大規模修繕はまさにその只中にあります。資材費の上昇と供給の不安定さは、当面続く構造的な課題だと考えておくべきでしょう。

けれど、私はこう考えています。材料の価格は選べなくても、工法は選べる、と。足場・ロープアクセス・ハイブリッドの3つから、建物にとって本当に最適な方法を選べば、同じ「直す」でも、かかる費用と建物利用者への影響は大きく変わります。資材が高い時代だからこそ、仮設費を抑え、工期を縮め、稼働を止めない工法選択の価値が、いっそう際立つのです。

「うちの建物の修繕、今の見積もりで本当に最適なんだろうか」。少しでもそう感じたら、まずは現状を点検し、複数の工法で比較してみることから始めてみてください。建物を“長く使える資産”として守っていくために、私たちにできるお手伝いがあれば、いつでもご相談いただければと思います。淡々と、けれど本気で、お一人おひとりの建物に向き合います。

※本記事は2026年6月時点の報道および公開情報に基づく一般的な解説であり、個別の見積もり・工事判断・投資判断を保証するものではありません。資材価格や供給状況は今後変動する可能性があります。実際の修繕にあたっては、必ず現地調査と専門家の確認のうえでご判断ください。

出典・参考

  • 日本総合研究所(日本総研)「足元の原油高で建設投資は27年末に下振れも」(2026年6月/公表資料・報道による)
  • 国土交通省「建設工事費デフレーター」「建設投資見通し」(mlit.go.jp)
  • 防水・塗装施工会社による現場発信「ナフサ不足で停滞していた防水・塗装工事が材料入荷で再開」(2026年6月/報道・各社発信による)
  • 建設資材価格・建築費の動向に関する各種解説(2026年/各種報道・まとめによる)

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インバウンド4,000万人とホテル建設ラッシュの“次”に来るもの——新設の陰で迫る「既存ホテルの大規模修繕」、稼働を止めない無足場(ロープアクセス)改修で客室稼働率と資産価値を守る【2026年6月】

2026年に入っても、ホテルをめぐるニュースが途切れません。神戸では市役所本庁舎の建て替えにあわせて高級ホテルの誘致が決まり、広島では駅前や宮島で新規開業が相次ぎ、北海道の小樽でも「ホテルラッシュ」と報じられるほど建設・計画が立て込んでいます。背景にあるのは、過去最高を更新し続けるインバウンド需要です。けれど私は、こうした「新設」のニュースを見るたびに、その先にある「もうひとつの波」のことを考えます。新しく建つホテルは、いずれすべて、大規模修繕を必要とする既存ホテルになるからです。

私は東京・関東を中心に、マンション・ビル・ホテルの大規模修繕に長く携わってきました。足場を架ける従来工法だけでなく、ロープアクセス(無足場工法)、そして両者を組み合わせるハイブリッド工法まで、建物ごとに最適な工法を提案することを仕事の柱にしています。とりわけホテルの改修は、住む人のための住宅やオフィスとは違う難しさがあります。建物が「稼いでいる最中」に手を入れなければならないからです。

この記事では、まず足元のインバウンドとホテル建設ラッシュの現状を正確に整理します。そのうえで、新設の陰で確実に膨らんでいく「既存ホテルの大規模修繕」という需要、そしてそれを「営業を止めずに・コストを抑えて」実現するための工法選択について、現場の目線でお伝えします。煽るつもりはありません。淡々と、事実と根拠で。なお、本記事は一般的な解説であり、個別の建物に関する判断は、必ず現地調査と専門家の確認を前提にしてください。


何が起きているのか——インバウンド4,000万人とホテル建設ラッシュ

訪日客は過去最高、消費額も9.5兆円に

まず、足元の数字を押さえておきます。日本政府観光局(JNTO)の発表を各種メディアが報じたところによれば、2025年の訪日外客数はおよそ4,268万人に達し、前年比15.8%増で、初めて4,000万人を突破して過去最高を更新しました。インバウンド消費額もおよそ9.5兆円と、前年比16.4%増で、3年連続の過去最高だと報じられています。コロナ禍で一度ほぼゼロまで落ち込んだ訪日需要が、わずか数年で「過去最高」を塗り替え続けている——これが2026年の出発点です。

宿泊の現場にも、その熱ははっきり表れています。報道ベースの観光庁・宿泊旅行統計によれば、2025年12月のホテル全体の客室稼働率はおよそ59.1%、なかでもシティホテルは73.5%と高い水準でした。都道府県別では東京がおよそ80.5%、大阪がおよそ79.1%と、大都市のホテルはほぼ満室に近い日が珍しくない状況です。需要が供給を上回る局面では、客室単価も上がりやすく、ホテル経営にとっては追い風が続いていると言えます。

神戸・広島・小樽——新設ラッシュの最前線

この追い風を受けて、全国で新しいホテルが次々と動き出しています。

象徴的なのが神戸です。2026年6月、阪急阪神不動産などのコンソーシアムが「神戸市役所本庁舎2号館再整備事業」の建設工事に本格着手したと発表しました。報道によれば、新たな2号館は高さ約135メートル、地下2階・地上29階建てで、ヒルトンのラグジュアリーブランド「コンラッド」が4階と20〜28階に入居し、「コンラッド神戸」として2030年の開業を予定しているとされています。コンラッドの兵庫県への進出は初めてで、神戸の新たなランドマークになると報じられています。ここで見落とせないのは、建て替えの対象となった旧2号館が「建築から60年以上が経過した老朽化建物」だったという点です。今まばゆい新築も、時間が経てば必ず更新の時を迎える——その事実を、この事業そのものが示しています。

広島も活況です。報道や各種まとめによれば、2026年は市電「八丁堀」至近に158室規模のホテルが開業するなど駅前エリアで新規開業が相次ぎ、宮島でも有名リゾート系の宿が54室規模で開業を予定しているとされています。北海道の小樽でも、観光客の回復を背景にホテルの建設・計画が少なくとも複数件、同時並行で進んでいると報じられています。インバウンドの「数の拡大」を受けて、客室という器を増やす動きが全国で続いているのです。

一方で、業界では「2020年以降の建設ラッシュで人材が枯渇し、運営や施工の質を保つのが難しくなっている」という声も聞かれます。器が増えるスピードに、それを良好な状態に保つ人手と技術が追いついていない——この“ねじれ”は、これから新設ホテルが歳を重ねるにつれて、より深刻なテーマになっていくはずです。


新設ラッシュの「次」に必ず来るもの——大規模修繕という宿命

建物は必ず劣化する——おおむね10〜15年で最初の節目

華やかな開業ニュースの陰で、私がいつも意識しているのは「建物は竣工した瞬間から劣化が始まる」という当たり前の事実です。どんなに立派なホテルでも、外壁の塗膜やシーリング(目地材)は紫外線や雨風で少しずつ傷み、タイルは温度変化の繰り返しで浮きが生じ、屋上やバルコニーの防水層は経年で性能が落ちていきます。一般に、外装の塗装やシーリングはおおむね10〜15年、屋上防水も15年前後を一つの目安として、計画的な更新が必要になるとされています。

つまり、2024年から2027年にかけて全国で開業する大量の新設ホテルは、2035年から2040年代にかけて、ほぼ一斉に「最初の大規模修繕」の時期を迎えることになります。今のホテル建設ラッシュは、十数年後の「ホテル大規模修繕ラッシュ」の予約表でもあるのです。さらに言えば、いま現在もすでに、築十数年から数十年を数える既存ホテルが全国に膨大に存在しています。建設ラッシュの裏側で、「直すべきホテル」の母数は静かに、しかし確実に積み上がっています。

ホテルの外皮が背負う「特別な責任」

なぜホテルの大規模修繕が、そんなに大事なのか。それは、ホテルの外壁・屋上・バルコニーといった「建物の外皮」が、ほかの建物以上に重い責任を背負っているからです。

第一に、安全です。ホテルには不特定多数の宿泊客や通行人が出入りします。外壁タイルやモルタルの剥落は、そのまま落下事故のリスクであり、万一の事故はオーナー・運営者にとって重大な賠償責任に直結します。第二に、防水・耐久です。外壁や屋上の防水性能が落ちれば、雨漏りが客室や共用部の内装を傷め、最悪の場合は客室を閉じて補修せざるを得なくなります。稼働率がそのまま収益に響くホテルにとって、「使えない客室」は売上の直接の損失です。第三に、印象です。後で詳しく触れますが、外観の古さや汚れは、宿泊客の満足度や口コミ評価に静かに効いてきます。安全・耐久・印象——この3つを同時に守る最前線が、ホテルの外皮なのです。

立地が違えば、傷み方も違う

もうひとつ付け加えておきたいのは、ホテルの外皮の傷み方は、立地によって大きく変わるという点です。今回ニュースになった神戸・小樽は、いずれも海に近い街です。海沿いの建物は、潮風に含まれる塩分の影響(塩害)で、鉄部のサビや塗膜の劣化、コンクリートの中性化が進みやすい傾向があります。観光地として人気の高い臨海エリアのホテルほど、外装のメンテナンスサイクルを内陸より短めに見ておく必要がある、ということです。

一方、都市部の高層ホテルは、足場をかけにくい立地条件そのものが課題になります。隣接する建物との距離が近く、敷地に余裕がない都市型ホテルでは、そもそも建物全体に足場を架けること自体が難しかったり、架けられても通行や近隣への影響が大きくなったりします。リゾート地のホテルなら景観への配慮、都市部のホテルなら足場の物理的制約——立地ごとに異なるこうした条件を踏まえて工法を選べるかどうかが、ホテル改修の成否を分けます。画一的に「足場を架けて全面改修」とするのではなく、その建物がどこに、どう建っているかから逆算して提案することが大切だと、私は考えています。


ホテルの大規模修繕が、マンションと決定的に違う3つの理由

私は分譲マンションの大規模修繕も数多く手がけてきましたが、ホテルの改修には、マンションとは明確に異なる難しさがあります。ここを理解しているかどうかで、提案の質はまったく変わります。

理由1.営業を止められない——「稼働=収益」だから

分譲マンションの大規模修繕は、住民の生活への配慮は必要ですが、建物が「収益を生む稼働」をしているわけではありません。一方ホテルは、客室が埋まること自体が収益です。工事のために客室を閉じたり、足場で景観や採光を損なって予約が減ったりすれば、その分がそのまま売上の減少になります。とくにインバウンドで稼働率が高止まりしている今、「工事のために売上を落とす」コストは、平時よりはるかに重くのしかかります。だからこそホテルの改修では、「いかに営業を止めず、稼働を維持したまま直すか」が、最優先の設計条件になります。

理由2.景観・ブランドが、そのまま資産価値になる

ホテルにとって、外観は単なる見た目ではなく、ブランドそのものです。とりわけインバウンドの高付加価値層や、ラグジュアリーブランドを冠したホテルでは、建物の佇まいや清潔感が、客室単価を支える重要な要素になります。大規模修繕は本来、その価値を「守り・高める」ための投資ですが、工事の進め方を誤ると、工事期間中の景観悪化でかえってブランドを傷つけてしまうこともあります。足場が建物全体を数か月覆い、宿泊客が「工事中のホテル」という印象を持って帰る——これは、せっかくの改修が逆効果になりかねない典型例です。

理由3.繁忙期を外す「工期設計」が命になる

ホテルには明確な繁忙期と閑散期があります。観光シーズンやイベント時期に大がかりな工事をぶつければ、最も稼げる時期の収益を自ら削ることになります。逆に、稼働が落ち着く時期を見極めて工事を計画できれば、収益への影響を最小限に抑えられます。マンションの修繕が「住民合意のスケジュール」で動くのに対し、ホテルの修繕は「収益カレンダー」で動く——この発想の違いを共有できる施工会社かどうかは、見積金額そのものと同じくらい重要です。


「稼働を止めない修繕」を可能にする工法の選択肢

では、営業を止めず、景観を損なわず、繁忙期を避けてホテルを直すには、どうすればよいのか。鍵を握るのが、「工法の選択肢を複数持っているかどうか」です。大規模修繕というと、建物全体に足場を架ける大がかりな工事をイメージしがちですが、ホテルのように稼働を重視する建物では、それが最適とは限りません。私たちは、建物の特性に応じて、大きく3つの工法から最適な方法をご提案しています。

工法 特徴 向いている建物・場面
通常足場工法 建物の周囲に仮設足場を架けて施工する従来型。広い面を一度に、安定して施工できる。 中低層、複雑な形状、外壁全面を一括で改修したい場合
ロープアクセス工法(無足場) 産業用ロープで作業員が懸垂し、足場を架けずに施工する。足場費を抑え、工期を短縮しやすく、宿泊客や通行人の動線・景観への影響を最小化できる。 高層、足場の架設が難しい立地、部分補修、稼働とコストを最重視するホテル
ハイブリッド工法 足場とロープアクセスを部位ごとに使い分ける。総合的にコストと工期を最適化できる。 大規模・複雑な物件で、全体最適を図りたい場合

足場を組む従来工法は、外壁全面をまとめて改修するような大がかりな工事に強い一方、足場の設置・撤去に費用と時間がかかり、足場が建物を覆う期間は景観・採光・出入りに影響します。ホテルでは、これが予約数や満足度の低下につながることがあります。その点、ロープアクセス工法は足場を架けないため、足場費を抑え、工期を短縮しやすく、宿泊客への影響を小さくできます。一方で、外壁全面を一気に施工する場面では足場のほうが効率的なこともあり、万能ではありません。だからこそ、「足場ありき」でも「ロープありき」でもなく、3つの選択肢から建物ごとに最適解を選べることが、結果としてホテルの稼働とコストを守ることにつながります。


ロープアクセス(無足場工法)がホテル改修で効く理由

私たちが力を入れているロープアクセス工法(無足場工法)は、まさに「稼働を止めたくないホテル」のために生まれたような工法です。その強みを、もう少し具体的にお伝えします。

足場費と工期を圧縮できる

足場を架ける従来工法では、足場の架設と撤去そのものに、相応の費用と日数がかかります。建物が大きく、高くなるほど、その負担は膨らみます。ロープアクセス工法は、産業用ロープで作業員が建物の上部から懸垂しながら作業するため、足場を架けません。その結果、足場費がかからず、架設・撤去にかかる工期も不要になります。とくに、外壁の一部にだけ劣化が出ているような部分補修や、高層部・狭小地で足場をかけにくい立地では、コストと工期の両面で効果が大きく出ます。高層ホテルや、隣接建物との距離が近くて足場を組みにくい都市型ホテルでは、この強みが際立ちます。

「チェックアウト〜チェックイン」の隙間で直せる

ロープアクセスの大きな利点は、施工の柔軟さです。足場という大きな構造物を建てないため、作業エリアを限定し、宿泊客の動線や景観をふさがずに作業できます。業界では、客室の窓まわりの補修などを、その客室がチェックアウトしてからチェックインまでの空き時間に合わせて進める、といった「営業を止めない段取り」も実践されています。足場で建物全体を覆い、数か月にわたって「工事中のホテル」にしてしまうのではなく、必要な部位を、必要なタイミングで、ピンポイントに直していく——この発想が、稼働を維持しながらの修繕を可能にします。実際、「数か月にわたる外壁工事の最中も、ホテルは営業を続けられた」という事例も報告されています。

もちろん、外壁全面を一度に塗り替えるような大規模改修では、足場のほうが効率的なこともあります。だからこそ、足場・ロープ・ハイブリッドという3つの選択肢を持ち、建物ごとに使い分けられることが重要なのです。「稼働を止めたくない」「景観を損ねたくない」「足場費を抑えたい」というホテルならではのニーズに対して、ロープアクセスやハイブリッドという答えを用意できるかどうかで、提案の幅はまったく変わってきます。


インバウンド時代に問われる「資産価値の維持・向上」

建物のコンディションが、客室単価を支える

インバウンド需要が「数の拡大」から「質の深化」へと移りつつある、と各種の市場分析は指摘しています。つまり、ただ部屋数を増やすだけでなく、高付加価値な滞在体験を提供し、より高い単価を取れるホテルが評価される時代に入りつつある、ということです。この流れのなかで、建物のコンディションはこれまで以上に重要になります。どれだけ内装やサービスを磨いても、外壁が汚れていたり、タイルにひびが入っていたり、雨漏りの染みが残っていたりすれば、宿泊客が抱く印象は確実に下がります。外装の状態は、口コミ評価や写真映え、そして最終的には客室単価という形で、収益に静かに効いてくるのです。

大規模修繕は、こうした「資産価値を守り、高める」ための計画的な投資です。場当たり的に劣化を放置し、雨漏りや剥落が起きてから慌てて直すのでは、結局コストはかさみ、その間の機会損失も膨らみます。長期修繕計画にもとづいて、いつ・どこを・どの工法で・いくらで直すのかを描いておくことが、遠回りのようで一番の近道になります。

「直す投資」を、収益カレンダーに織り込む

ホテルの大規模修繕は、コストではなく、将来の稼働と単価を守るための投資です。だからこそ、その投資をいつ・どう実行するかを、収益のカレンダーに織り込んで考えることが大切です。閑散期に、稼働への影響が小さい工法で、優先順位の高い部位から手を入れていく。この設計ができれば、「直すための損失」を最小限に抑えながら、建物を長く稼ぐ資産として維持できます。新設ラッシュで競合が増えるこれからの市場では、「きれいで安全な状態を保ち続けられるホテル」かどうかが、選ばれる理由のひとつになっていくはずです。


高品質と低価格を両立させる「専門職ネットワーク」という選択肢

ホテルの大規模修繕は、塗装、防水、タイル補修、シーリング、電気、看板など、複数の専門工事の集合体です。これらをどう束ねるかで、品質とコストは大きく変わります。私たちは、各分野の専門職がネットワークとして連携する仕組みを築くことで、それぞれの工事を専門性の高い職人が担いながら、中間マージンを抑えて高品質と低価格を両立させることを目指しています。

ロープアクセスの分野では、専門職が加盟するフランチャイズの仕組みを通じて、塗装・防水・タイル・電気・看板といった各分野の技術を、地域を越えて提供できる体制づくりも進めています。一社ですべてを抱え込むのではなく、得意分野を持つ専門職が連携することで、難易度の高い建物にも、適正な価格で品質を担保しながら対応できる——これが、これからのホテル改修に求められる体制だと考えています。全国でホテルが増えていくということは、全国で「直せる技術」を持つ担い手が必要になるということでもあります。

また、建設業界全体の底上げという観点から、私たちは一般社団法人全国建設業支援協会(JCSA)の運営にも関わっています。建設業の経営支援に役立つ情報発信、オンラインセミナー、交流会、事業者同士のビジネスマッチングなどを通じて、業界全体の技術と経営の質を高めていく取り組みです。建設ラッシュで人手と技術が逼迫しがちな時代だからこそ、こうした業界横断のネットワークが持つ意味は大きいと感じています。


ホテルオーナー・運営者が今すぐできる5つのチェック

最後に、ホテルや宿泊施設を所有・運営している方が、今すぐ着手できる確認事項を5つにまとめます。どれも、大きなお金をかける前にできる「点検」が中心です。

第一に、外壁・屋上・バルコニーなど、建物外皮の劣化状況を把握することです。タイルの浮きや剥落、シーリングの劣化、屋上防水の傷み、手すりの腐食などは、安全と資産価値に直結します。落下事故のリスクがある部位は、優先して点検すべきです。打診調査やドローン、ロープアクセスによる近接目視など、稼働を止めずに状態を確認する方法もあります。

第二に、長期修繕計画の有無と中身を見直すことです。竣工から何年が経ち、次の大規模修繕の目安はいつなのか。場当たり的な補修を繰り返すより、いつ・どこを・どの工法で・いくらで直すかを計画として持っておくほうが、トータルコストは下がり、金融機関や投資家への説明力も上がります。

第三に、繁忙期と閑散期を踏まえた「工事の時期」を考えておくことです。最も稼げる時期に大がかりな工事をぶつけないだけで、収益への影響は大きく変わります。早めに計画しておくことで、閑散期に合わせた段取りが組みやすくなります。

第四に、雨漏りや剥落といった「すでに出ている不具合」を放置しないことです。小さな雨漏りも、放っておけば内装被害や客室の閉鎖につながり、結果的に大きな出費になります。早期の対処が、最終的なコストを抑えます。

第五に、大規模修繕を検討する段階で、複数の工法を提案できる会社に相談することです。足場工法しか選択肢がない会社に依頼すれば、足場ありきの見積もりになります。足場・ロープアクセス・ハイブリッドを比較したうえで、稼働とコストの両面から最適解を出せるかどうか。ここで、最終的な負担額と営業への影響が大きく変わってきます。見積もりを取る際は、「御社で対応できる工法は何種類ありますか」「営業を続けながらの施工は可能ですか」と一言聞いてみると、その会社の引き出しの多さが見えてきます。


まとめ——新設ラッシュの裏で、「直す力」がホテルの価値を決める

2026年、インバウンド4,000万人時代を背景に、神戸・広島・小樽をはじめ全国でホテルの建設ラッシュが続いています。華やかな開業ニュースは、観光立国へ向かう日本の勢いを映していますが、私はその陰に、もうひとつの確実な未来を見ています。今まばゆい新築ホテルも、十数年後には一斉に大規模修繕の時期を迎え、そして今この瞬間にも、築年数を重ねた既存ホテルが全国で更新の時を待っているという事実です。

ホテルの大規模修繕は、マンションとは違い、「営業を止められない」「景観がブランドそのもの」「繁忙期を外す工期設計が命」という固有の難しさを抱えています。だからこそ、足場・ロープアクセス・ハイブリッドの3工法から、稼働とコストの両面で本当に最適な方法を選べることが、ホテルの収益と資産価値を守る決め手になります。とりわけロープアクセス(無足場工法)は、足場費と工期を抑え、宿泊客への影響を小さくしながら必要な部位を直せる、ホテル改修にとって心強い選択肢です。

「うちのホテルは、次の修繕をどう進めればいいだろう」。少しでもそう感じたら、まずは現状の点検と、長期の視点での計画づくりから始めてみてください。建物を“稼ぎ続ける資産”として長く守っていくために、私たちにできるお手伝いがあれば、いつでもご相談いただければと思います。

※本記事は2026年6月時点の報道および公開情報に基づく一般的な解説であり、特定の建物に関する診断・助言ではありません。実際の修繕の要否・時期・工法は、必ず現地調査と建築士・専門業者の確認のうえでご判断ください。

出典・参考

  • 日本政府観光局(JNTO)/観光庁 訪日外客数・インバウンド消費額(2025年実績、各種報道による:訪日客約4,268万人・前年比15.8%増、消費額約9.5兆円・前年比16.4%増)
  • 観光庁 宿泊旅行統計(2025年12月/ホテル全体稼働率約59.1%、シティホテル約73.5%、東京約80.5%、大阪約79.1%/報道による)
  • 阪急阪神不動産 ニュースリリース/共同通信ほか「神戸市役所本庁舎2号館再整備事業」(高さ約135m・地下2階地上29階、コンラッド神戸2030年開業予定、2026年6月)
  • 広島・小樽の新規ホテル開業に関する各種報道・まとめ(2026年)
  • ホテル・旅館の無足場(ロープアクセス)改修に関する各種業界解説・施工事例

▼ロープアクセス工法・無足場工法の詳細解説はこちら
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収益不動産を“宿泊用途”で活かす時代の落とし穴——「グレーゾーン民泊」に国がメス、建築基準法適合と大規模修繕で資産価値を守る方法【2026年6月】

「築古のビルを民泊や宿泊用途で回せば、賃貸より利回りが上がるらしい」。インバウンドが戻り、宿泊需要が高止まりするなかで、そんな話に心が動いた収益不動産オーナーさんは少なくないと思います。けれど2026年6月、その追い風に冷や水を浴びせるようなニュースが流れました。日本経済新聞が「『グレーゾーン民泊』に国がメス 投資うまみで違法建築横行」と報じ、国が宿泊用途の建物に対する建築基準法適合の確認を、これまでより厳しく求める方向に動き出したのです。

私は東京・関東を中心に、マンション・ビル・ホテルの大規模修繕に長く携わってきました。足場を架ける従来工法だけでなく、ロープアクセス(無足場工法)、そして両者を組み合わせるハイブリッド工法まで、建物ごとに最適な工法を提案することを仕事の柱にしています。だからこそ今回の動きは、単なる「民泊規制の話」ではなく、収益不動産を持つすべての方にとっての「建物の安全と資産価値の話」だと受け止めています。

この記事では、まず何が起きたのかを正確に整理し、そのうえで宿泊用途を考えるオーナーさんが直面する具体的なリスク、そして「建築基準法への適合」と「資産価値の維持」を、大規模修繕という機会にどうまとめて解決していくかを、現場の目線でお伝えします。煽るつもりはありません。淡々と、事実と根拠で。なお、本記事は制度の解説であって、個別の法的助言ではありません。最終的な判断は、必ず所管行政庁や専門家にご確認ください。


何が起きたのか——「グレーゾーン民泊」に国がメスを入れる方針

旅館業の許可に「建築士の適合確認」が求められる方向へ

2026年6月、日本経済新聞は「『グレーゾーン民泊』に国がメス 投資うまみで違法建築横行」と題し、宿泊ビジネスをめぐる規制強化の動きを報じました。報道によれば、国土交通省と厚生労働省は2026年5月、自治体に対して通知を出し、宿泊事業の「適正化」を促しています。

ポイントは、床面積が200平方メートル以下の建築物が旅館業法上の営業許可を取得する際に、建築士による建築基準法への適合を示す書類の提出を求める、という点です。これまで小規模な物件では、こうした確認が必須とされていませんでした。つまり「小さい建物だから細かいチェックは入らない」という、これまでの“すき間”が埋められていく方向にあるということです。

報道ではあわせて、こうした規制強化が金融機関の融資判断にも波及しうると指摘されています。グレーゾーンで運営されてきた宿泊物件は、建築基準法をめぐる扱いが厳しくなることで、金融機関からの評価が下がり、金利の引き上げや追加担保の要求、場合によっては融資そのものが受けられなくなる可能性がある、というわけです。

違法民泊は予約サイトからも排除されていく

宿泊をめぐる「適正化」の流れは、今回の通知だけではありません。報道ベースでは、観光庁が2026年度に、違法な民泊を予約サイトから排除するためのシステム運用を進めるとされています。届出や許可のない物件、あるいは法令に適合していない物件は、そもそも集客の入り口である予約プラットフォームから締め出されていく——そういう時代に入りつつあるということです。

「行政から指導が来なければ大丈夫」「指摘されてから直せばいい」という発想は、もう通用しにくくなっています。集客チャネル、金融機関、行政の三方向から、適法性を問われる構造が整いつつあるのです。


なぜ「グレーゾーン」が生まれるのか——3つの法律の交差点

宿泊用途の物件で「グレーゾーン」が生まれてしまう背景には、関係する法律が複数あり、それぞれの線引きが分かりにくいという事情があります。ここを整理しておくと、自分の物件がどの土俵に立っているのかが見えてきます。

1.住宅宿泊事業法(民泊新法)——年間180日という上限

いわゆる民泊の代表的な枠組みが、住宅宿泊事業法、通称「民泊新法」です。観光庁の公式サイトによれば、この法律は平成29年(2017年)6月に成立し、平成30年(2018年)6月に施行されました。最大の特徴は、人を宿泊させる日数の上限が年間180日とされている点です。算定期間は毎年4月1日正午から翌年4月1日正午までと定められています。

民泊新法では、「住宅宿泊事業者」「住宅宿泊管理業者」「住宅宿泊仲介業者」という3つのプレーヤーが位置づけられ、それぞれに役割と義務が課されています。事業を始めるには都道府県知事等への届出が必要で、家主が不在となる物件では、管理業務を登録された住宅宿泊管理業者に委託することが義務づけられています。「届出さえすれば自由」ではなく、衛生確保、騒音防止の説明、近隣からの苦情対応、宿泊者名簿の作成・備付けといった義務がついてくる、という点は押さえておきたいところです。

2.旅館業法——180日を超えて回すなら原則「許可」

「年180日では物足りない、もっと稼働させたい」となると、土俵は旅館業法に移ります。原則として、宿泊料を受けて反復継続的に人を宿泊させる事業は、旅館業法に基づく許可が必要です。180日を超えて宿泊事業を行うのであれば、民泊新法の届出ではなく、旅館業(簡易宿所や旅館・ホテル営業など)の許可が前提になります。

ここで効いてくるのが、今回報じられた「200平方メートル以下でも建築士の適合確認書類を求める」という運用の厳格化です。旅館業の許可を取る段階で、建物が建築基準法に適合しているかどうかが、これまで以上にはっきりと問われるようになる、ということです。

3.建築基準法——「用途」と「安全」を担保する土台

そして三つ目が建築基準法です。住宅として建てられた建物を、不特定多数が泊まる宿泊施設として使う場合、建物の「用途」が変わります。一定規模を超える用途変更には、建築確認の手続きが必要になりますし、宿泊施設として求められる防火・避難の基準(非常用照明、排煙、防火区画、避難経路の確保など)を満たさなければなりません。

「住宅としては合法だった建物」が、「宿泊施設としては不適合」になる——この“ねじれ”こそが、グレーゾーンの正体です。住宅としての見た目は何も変わらないのに、使い方を変えた瞬間に求められる基準が跳ね上がる。ここを軽く見たまま運営を始めてしまうと、後から大きな手戻りが発生します。


2025年4月の建築基準法改正が、じわりと効いてくる

宿泊用途を考えるうえで見落とせないのが、2025年4月に施行された建築基準法の改正です。報道や専門解説によれば、この改正で、これまで「4号特例」として建築確認の審査の一部が省略されていた小規模な木造建築物などの扱いが見直されました。従来の4号建築物は「新2号建築物」「新3号建築物」に振り分けられ、延べ面積200平方メートルを超えるものや階数が2以上のものは、原則として建築確認の審査対象が広がっています。

この改正は新築だけの話ではありません。既存の建物を増改築したり、用途を変更したりする場面でも、求められる図書や審査の範囲が変わってきます。つまり、「築古の建物を宿泊用途に転用しよう」と考えたとき、以前なら簡略化されていた確認手続きが、今はより本格的に問われる可能性があるということです。

宿泊事業の入り口(旅館業許可・民泊届出)でも、建物の改修・用途変更の場面でも、「建築基準法にきちんと適合しているか」を証明する必要性が、確実に高まっている。これが2026年6月時点の、収益不動産オーナーを取り巻く制度環境です。


収益不動産オーナーが直面する3つのリスク

では、こうした流れのなかで宿泊用途を検討する、あるいはすでに運営しているオーナーさんは、具体的に何を恐れるべきなのでしょうか。私が現場で感じている「効いてくるリスク」を、3つに整理します。

リスク1.行政指導・営業停止のリスク

最も直接的なのが、行政からの指導や是正命令、最悪の場合の営業停止です。建築基準法に不適合のまま宿泊事業を続けていれば、是正を求められ、改修が完了するまで営業ができないという事態も起こりえます。稼働を前提に資金計画を立てている物件で営業が止まれば、ローンの返済原資が一気に細ります。これは収益不動産にとって致命傷になりかねません。

リスク2.金融機関の評価低下と融資のリスク

前述のとおり、報道では規制強化が金融機関の評価に波及しうると指摘されています。適法性に疑義がある物件は、担保価値が割り引かれ、金利が上がったり、追加の担保を求められたり、借り換え・新規融資が難しくなったりする可能性があります。収益不動産の出口(売却)を考えるときにも、「適法に運営できる建物か」は買い手と金融機関が必ず見るポイントです。適合性は、もはや資産価値そのものに直結しています。

リスク3.第三者事故と賠償のリスク

そして忘れてはならないのが、宿泊客や通行人の安全に関わるリスクです。防火・避難の基準を満たさない建物で万一の火災や事故が起きれば、人命に関わるだけでなく、オーナーが重い賠償責任を負う可能性があります。外壁タイルやモルタルの剥落、手すりやバルコニーの劣化なども同じです。不特定多数が出入りする宿泊施設は、自分や家族だけが使う建物よりも、はるかに高い安全水準が求められる——この感覚は、収益化を考える前提として持っておくべきだと思います。


宿泊用途と「建物の安全」は地続き——大規模修繕の出番

ここまで読んで、「では建築基準法に適合させ、安全も確保するには、結局どうすればいいのか」と感じた方も多いはずです。私がお伝えしたいのは、宿泊用途への適合と、建物そのものの安全・資産価値の維持は、実はバラバラの工事ではなく、地続きだということです。そして、それらをまとめて解決する最大の機会こそが、大規模修繕です。

宿泊施設として問われる安全基準の多くは、建物の外皮(外壁・屋上・バルコニー)や避難経路と密接に関わります。たとえば外壁タイルの浮きや剥落は、通行人や宿泊客への落下事故のリスクであり、外壁の防水性能の低下は、雨漏りによる内装劣化や避難経路の不具合にもつながります。屋上防水の劣化を放置すれば、最上階の居室や共用部に被害が及びます。これらはすべて、大規模修繕で計画的に手を入れるべき部位です。

逆に言えば、宿泊用途を見据えるなら、行き当たりばったりの補修ではなく、「建物全体をどう適法・安全な状態に保ち、長期にわたって稼ぐ資産にしていくか」という長期修繕計画の視点で考えることが、遠回りのようで一番の近道になります。修繕積立金が話題になる今、計画的な備えの重要性は、分譲マンションだけでなく収益物件にも等しく当てはまります。


宿泊用途で実際につまずきやすい「不適合パターン」

制度の話だけだとイメージしにくいので、私が現場で見聞きしてきた、宿泊用途への転用でつまずきやすい典型的なパターンを挙げておきます。自分の物件に当てはまるものがないか、チェックリスト代わりに読んでみてください。

ひとつ目は、用途変更の手続きをしないまま運営を始めてしまうケースです。住宅や事務所として建てられた建物を、確認手続きを経ずに宿泊施設として使い始める。見た目は何も変わらないので問題が表に出にくいのですが、許可申請や行政の調査の段階で「用途が違う」と指摘されると、是正までの間、営業が止まってしまいます。

ふたつ目は、防火・避難の設備が宿泊施設の基準を満たしていないケースです。不特定多数が泊まる施設には、非常用照明、排煙のための窓や設備、火災を一定範囲で食い止める防火区画、そして安全に逃げられる避難経路の確保が求められます。住宅としては不要だったこれらの基準が、宿泊用途では一気に問われます。とくに、内装をおしゃれにリノベーションすることばかりに目が向き、防火・避難という地味な部分が後回しになっている物件は要注意です。

三つ目は、いわゆる「既存不適格」の扱いを誤解しているケースです。建てた当時は適法でも、その後の法改正で現在の基準に合わなくなっている建物は少なくありません。住宅としてそのまま使う分には問題なくても、用途を変えたり大きく改修したりするタイミングで、現行基準への適合を求められることがあります。「昔からあるから大丈夫」という思い込みは、宿泊用途では通用しないことがあるのです。

四つ目は、外壁や屋上といった建物外皮の劣化を「内装ほど気にしていない」ケースです。宿泊客は室内のきれいさには敏感ですが、外壁タイルの浮きや屋上防水の劣化は目に見えにくく、つい後回しになります。しかし、落下事故や雨漏りは、内装の古さよりはるかに重大なトラブルにつながります。安全と資産価値という観点では、外皮こそ優先して点検すべき部位です。

これらはいずれも、「気づいたときには手戻りが大きい」という共通点があります。だからこそ、運営を始める前、あるいは大規模修繕を計画する段階で、まとめて洗い出しておくことが大切なのです。


大規模修繕の「工法選択」が、コストと稼働を左右する

大規模修繕というと、「建物全体に足場を架けて、数か月かけて行う大がかりな工事」というイメージが強いと思います。もちろんそれが最適なケースも多いのですが、収益不動産、とりわけ宿泊稼働中の物件では、「いかに稼働を止めず、コストを抑えて、必要な部位を直すか」が極めて重要になります。ここで効いてくるのが、工法の選択肢を複数持っているかどうかです。

私たちは、建物の特性に応じて、大きく3つの工法から最適な方法をご提案しています。それぞれの特徴を整理すると、次のとおりです。

工法 特徴 向いている建物・場面
通常足場工法 建物の周囲に仮設足場を架けて施工する従来型。広い面を一度に、安定して施工できる。 中低層、複雑な形状、外壁全面を一括で改修したい場合
ロープアクセス工法(無足場) 産業用ロープで作業員が懸垂し、足場を架けずに施工する。足場費を抑え、工期を短縮しやすく、居住者・宿泊客の生活や動線への影響を最小化できる。 高層、足場の架設が難しい立地、部分補修、コストと稼働を最重視する物件
ハイブリッド工法 足場とロープアクセスを部位ごとに使い分ける。総合的にコストと工期を最適化できる。 大規模・複雑な物件で、全体最適を図りたい場合

足場を組む従来工法は、外壁全面をまとめて直すような大がかりな改修に強い一方、足場の設置・撤去に費用と時間がかかり、足場が建物を覆う期間は景観や採光、出入りにも影響します。宿泊稼働中の物件では、これが集客や満足度の低下につながることもあります。

その点、ロープアクセス工法は足場を架けないため、足場の架設・撤去にかかるコストと工期を抑えられ、建物の利用者への影響を小さくできるのが強みです。とくに、外壁の一部補修や、高層部・足場をかけにくい立地での作業では、その効果が大きく出ます。一方で、広い面を一気に施工する場面では足場のほうが効率的なこともあり、万能ではありません。

だからこそ、「足場ありき」でも「ロープありき」でもなく、建物の形状・立地・劣化状況・稼働状況を見て、足場・ロープ・ハイブリッドの3つから本当に最適な工法を選べることが、結果としてオーナーさんのコストと稼働を守ることにつながります。複数の工法を一社の中で比較・提案できる会社は、実はそれほど多くありません。見積もりを取る際は、「御社で対応できる工法は何種類ありますか」と一言聞いてみると、その会社の引き出しの多さが見えてきます。


ロープアクセスが「稼働を止めない修繕」を可能にする理由

宿泊稼働中の物件にとって、工事期間中に営業を止めずに済むかどうかは、収益を大きく左右します。ここで、私たちが力を入れているロープアクセス工法(無足場工法)の強みを、もう少し具体的にお伝えします。

足場を架ける従来工法では、足場の架設と撤去そのものに相応の費用と日数がかかります。さらに、足場が建物を覆っている間は、外観が損なわれ、窓からの採光が遮られ、足場を伝った侵入を防ぐための防犯対策も必要になります。宿泊施設では、こうした要素が宿泊客の満足度や予約数に直接響くことがあります。

ロープアクセス工法は、産業用ロープで作業員が建物の上部から懸垂しながら作業するため、足場を架けません。その結果、足場費がかからず、架設・撤去の工期も不要になります。建物の利用者から見ても、生活動線や出入り口がふさがれにくく、日常への影響を小さく抑えられます。とくに、外壁の一部にだけ劣化が出ているような部分補修や、高層部・狭小地で足場をかけにくい立地では、コストと工期の両面で効果が大きく出ます。

もちろん、外壁全面を一度に塗り替えるような大規模な改修では、足場のほうが効率的なこともあります。だからこそ、足場・ロープ・ハイブリッドという3つの選択肢を持ち、建物ごとに使い分けられることが重要なのです。「稼働を止めたくない」「足場費を抑えたい」というニーズに対して、ロープアクセスやハイブリッドという答えを持っているかどうかで、提案の幅はまったく変わってきます。


高品質と低価格を両立させる「専門職ネットワーク」という選択肢

大規模修繕は、塗装、防水、タイル補修、電気、看板など、複数の専門工事の集合体です。これらをどう束ねるかで、品質とコストは大きく変わります。私たちは、各分野の専門職がネットワークとして連携する仕組みを築くことで、それぞれの工事を専門性の高い職人が担いながら、中間マージンを抑えて高品質と低価格を両立させることを目指しています。

ロープアクセスの分野では、専門職が加盟するフランチャイズの仕組みを通じて、塗装・防水・タイル・電気・看板といった各分野の技術を、地域を越えて提供できる体制づくりも進めています。一社ですべてを抱え込むのではなく、得意分野を持つ専門職が連携することで、難易度の高い建物にも、適正な価格で品質を担保しながら対応できる——これが、これからの大規模修繕に求められる体制だと考えています。

また、建設業界全体の底上げという観点から、私たちは一般社団法人全国建設業支援協会(JCSA)の運営にも関わっています。建設業の経営支援に役立つ情報発信、オンラインセミナー、交流会、事業者同士のビジネスマッチングなどを通じて、業界全体の技術と経営の質を高めていく取り組みです。オーナーさんにとっては、「きちんとした技術とネットワークを持つ会社かどうか」を見極めるひとつの目安にしていただければと思います。


オーナーが今すぐできる5つのチェック

最後に、宿泊用途を検討している、あるいはすでに運営している収益不動産オーナーさんが、今すぐ着手できる自衛策を5つにまとめます。どれも、お金をかける前にできる「確認」が中心です。

第一に、自分の物件が今どの土俵に立っているのかを整理することです。民泊新法(年180日)なのか、旅館業の許可が必要な水準で回しているのか。届出や許可の内容と、実際の運営実態が一致しているかを、まず棚卸ししてください。

第二に、建築基準法への適合状況を確認することです。住宅として建てられた建物を宿泊用途で使っている場合、用途変更や防火・避難の基準を満たしているか。これは自己判断が難しい領域なので、建築士など専門家の目を入れるのが安全です。今回の運用厳格化で、許可・更新の場面で適合確認を求められる可能性が高まっています。

第三に、外壁・屋上・バルコニーなど、建物外皮の劣化状況を点検することです。タイルの浮きや剥落、防水の劣化、手すりの腐食などは、安全と資産価値に直結します。落下事故のリスクがある部位は、優先して手を打つべきです。

第四に、長期修繕計画の有無と中身を見直すことです。場当たり的な補修を繰り返すより、いつ・どこを・どの工法で・いくらで直すかを計画として持っておくほうが、トータルコストは下がり、金融機関や買い手への説明力も上がります。

第五に、大規模修繕を検討する段階で、複数の工法を提案できる会社に相談することです。足場工法しか選択肢がない会社に依頼すれば、足場ありきの見積もりになります。足場・ロープアクセス・ハイブリッドを比較したうえで、稼働とコストの両面から最適解を出せるかどうか。ここで、最終的な負担額が大きく変わってきます。


まとめ——「適法であること」が、これからの資産価値を決める

2026年6月の「グレーゾーン民泊」報道は、宿泊ビジネスの一部の話に見えて、実は収益不動産を持つすべての方への警鐘だと、私は受け止めています。行政・金融・集客プラットフォームの三方向から、「その建物は適法か、安全か」が問われる時代に入りました。建築基準法への適合は、もはやコストではなく、資産価値そのものを守るための投資です。

そして、その適合と安全を、計画的に・コストを抑えて・稼働を止めずに実現する最大の機会が、大規模修繕です。足場・ロープアクセス・ハイブリッドの3工法から建物にとって本当に最適な方法を選べば、同じ「直す」でも、かかる費用と建物利用者への影響は大きく変わります。

「うちの建物は今のままで大丈夫だろうか」。少しでもそう感じたら、まずは現状を点検し、長期の視点で計画を立てることから始めてみてください。建物を“稼ぐ資産”として長く守っていくために、私たちにできるお手伝いがあれば、いつでもご相談いただければと思います。

※本記事は2026年6月時点の報道および公開情報に基づく解説であり、個別の法的・税務的助言ではありません。制度や運用は変更される場合があります。実際の届出・許可・改修にあたっては、必ず所管の行政庁および建築士・専門家にご確認ください。

出典・参考

  • 日本経済新聞「『グレーゾーン民泊』に国がメス 投資うまみで違法建築横行」(2026年6月)
  • 観光庁 民泊制度ポータルサイト「minpaku」/住宅宿泊事業法(民泊新法)とは?(mlit.go.jp)
  • 国土交通省・厚生労働省 自治体向け通知(2026年5月/報道による)
  • 建築基準法改正(2025年4月施行・4号特例の見直し)に関する各種解説

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マンション大規模修繕で16億円の談合課徴金——公取委が38社処分へ、設計コンサル方式の死角と管理組合・オーナーが今すぐやるべき発注先の見極め方【2026年6月】

マンション大規模修繕で16億円の談合課徴金——公取委が38社処分へ、設計コンサル方式の死角と管理組合・オーナーが今すぐやるべき発注先の見極め方【2026年6月】

「うちのマンションの修繕、本当に適正な金額だったのだろうか」。2026年6月、そう胸がざわついた管理組合の理事長さん、収益物件オーナーさんは、決して少なくないはずです。公正取引委員会が、関東地方のマンション大規模修繕工事をめぐる大規模な談合を認定し、施工会社と設計コンサルタントの計38社へ排除措置命令を出す方針を固めた——そんな報道が、6月12日に一斉に流れました。課徴金は計約16億円。対象とされた工事は100件以上にのぼると報じられています。

私は東京・関東を中心に、マンション・ビル・ホテルの大規模修繕に長く携わってきました。足場を架ける従来工法だけでなく、ロープアクセス(無足場工法)、そして両者を組み合わせるハイブリッド工法まで、建物ごとに最適な工法を提案することを仕事の柱にしています。だからこそ今回のニュースは、業界の一員として残念に思うと同時に、「この機会に、発注する側が損をしない知識を持ってほしい」という気持ちで受け止めています。

この記事では、今回の談合事件で何が起きたのかを整理したうえで、なぜこうした構造的な問題が繰り返されるのか、そして管理組合の理事長さんや不動産オーナーさんが「次の修繕で同じ轍を踏まない」ために今すぐできる自衛策を、現場の目線でお伝えします。煽るつもりはありません。淡々と、事実と根拠で。


何が起きたのか——公取委が認定した「関東マンション修繕談合」の全体像

38社に排除措置命令、計16億円の課徴金へ

報道各社によると、公正取引委員会は2026年6月11日、関東地方のマンション大規模修繕工事をめぐり、施工会社と設計コンサルタント計約40社が独占禁止法違反(不当な取引制限=いわゆる談合)にあたると認定する方針を固めました。このうち38社に対して再発防止を求める排除措置命令を出し、あわせて計約16億円の課徴金納付命令を出す方針とされています(毎日新聞・時事通信・日本経済新聞など、2026年6月12日報道)。

排除措置命令の対象とされたのは、報道によれば工事施工会社が36社、設計コンサルタントが2社です。施工会社には長谷工リフォーム、シミズ・ビルライフケア、大京穴吹建設といった、マンション管理や修繕の世界では名の知られた会社の名前が挙がっています。設計コンサルタント側は翔設計、リノシスコーポレーションの2社が対象と報じられました。日本経済新聞は、談合の対象となった工事は100件以上にのぼると伝えています。

念のため申し添えると、本稿執筆時点(2026年6月14日)では、これらはあくまで「公取委が命令を出す方針を固めた」という段階の報道であり、正式な命令の確定や各社の主張は今後の手続きの中で明らかになっていきます。個社を断罪することが目的ではありません。発注する側として、この構造をどう読み解くかが大切です。

談合の手口——「見積もり合わせ」と「入札」の事前調整

報道によれば、各社は遅くとも2021年秋ごろ以降、関東地方のマンションを対象に、外壁・内装・防水といった修繕工事の見積もり合わせや入札の際に、あらかじめ工事価格や受注者を調整していたとされています。

ここで重要なのは、「見積もり合わせ(あいみつ)」という、管理組合にとってごく当たり前の手続きが舞台になっていたという点です。理事会では、複数の施工会社から見積もりを取り、いちばん条件の良い会社を選ぶ——これは健全なプロセスのはずです。ところが、その複数社が裏でつながり、「今回はA社が取る番だから、B社とC社はわざと高く出す」という調整がなされていたとすれば、管理組合がどれだけ真剣に比較検討しても、結果は最初から決まっていたことになります。

つまり、競争が働いているように「見える」状態が人工的に作られていた、というのが談合の本質です。理事の皆さんが手を抜いていたわけではありません。仕組みそのものに、見抜きにくい死角があったのです。


なぜ起きたのか——「設計監理方式(設計コンサルタント方式)」の死角

設計コンサルタント方式とは何か

今回の事件を理解するうえで欠かせないのが、大規模修繕の発注方式の話です。マンションの大規模修繕には、大きく分けて二つの進め方があります。

一つは「設計監理方式(設計コンサルタント方式)」。管理組合がまず設計コンサルタント(設計事務所)と契約し、建物の調査診断・修繕設計・施工会社選定の支援・工事中の監理までを任せる方式です。専門家が組合の代理人として施工会社を厳しくチェックしてくれる、という建前で、近年は主流とされてきました。

もう一つは「責任施工方式」。調査診断から設計、施工までを一つの施工会社にまとめて任せる方式です。窓口が一本化されて分かりやすい反面、第三者のチェックが入りにくいと言われてきました。

設計監理方式は本来、「組合の味方である専門家が、施工会社を監視する」ことで透明性を高める仕組みです。ところが今回問題になったのは、その「組合の味方」であるはずの設計コンサルタント側が、施工会社と通じていた疑いがある、という点です。番犬が泥棒と組んでいたら、いくら立派な番犬小屋を建てても意味がありません。これが「設計監理方式の死角」と呼ばれる理由です。

国交省が9年前から鳴らしていた「3つの不適切事例」

実はこの問題、降って湧いた話ではありません。国土交通省は、平成29年(2017年)1月27日付で「設計コンサルタントを活用したマンション大規模修繕工事の発注等の相談窓口の周知について(通知)」を出し、設計コンサルタントと施工会社の癒着やバックマージンに対して、すでに警鐘を鳴らしていました。今からおよそ9年も前のことです。

この通知の中で、国交省は次のような不適切な事例を紹介しています。

第一に、コンサルタントに業務を依頼したのに、実際に調査診断や設計を行っていたのは、そのコンサルタントではなく施工会社の社員だったというケース。第三者のチェックという建前が、最初から崩れている例です。

第二に、設計会社が、施工会社の候補数社のうち特定の1社の見積金額が低くなるよう操作し、その1社が施工会社として内定するように仕向けたというケース。まさに今回の談合報道と重なる構図です。

第三に、コンサルタントが、自社にバックマージン(リベート)を支払う施工会社が受注できるよう不適切な工作を行い、割高な工事費や、過剰な工事項目・仕様にもとづく発注を誘導したというケース。組合のお金が、知らないうちに余分に抜かれていく構図です。

私が現場で見てきた範囲でも、「コンサルさんに任せていたのに、後から相見積もりを取ったら数千万円も差が出た」という相談は、決して珍しくありませんでした。国がここまで具体的に注意喚起していたにもかかわらず、構造が温存され、今回の大規模な摘発につながった——そう捉えるのが自然だと思います。


管理組合・オーナーが受ける「見えない損失」

談合や不適切コンサルの怖いところは、被害が「見えにくい」ことです。詐欺のように一目で分かる被害ではなく、「相場より少し高い金額を、納得して払ってしまう」という形で表れます。具体的には、次のような損失が考えられます。

割高な工事費とバックマージン

談合によって競争が働かないと、工事価格は下がりません。本来なら相見積もりで削れたはずの金額が、そのまま管理組合の負担になります。さらにバックマージンが上乗せされていれば、その分は純粋に「組合の修繕積立金が、工事と関係のない誰かの懐に流れた」ことになります。

修繕積立金は、区分所有者一人ひとりが毎月コツコツ積み立てた、いわば共有の貯金です。近年は資材費や人件費の高騰で修繕費そのものが上がり、積立金不足に悩む組合も増えています。その貴重な原資が、不透明な仕組みで目減りしていたとすれば、これほど悔しいことはありません。

過剰な工事項目・仕様という「水増し」

もう一つ見落とされがちなのが、「やらなくてもよい工事まで盛り込まれる」というタイプの損失です。国交省の指摘にもあったとおり、過剰な工事項目や過剰な仕様の設定によって、工事費が膨らむことがあります。

たとえば、まだ十分に機能している防水層をすべて撤去してやり直す、本来は部分補修で足りる外壁を全面的に塗り替える、といった具合です。専門知識のない管理組合からすれば、「専門家がそう言うのだから必要なのだろう」と受け入れてしまいがちです。けれども、その判断をする専門家自身が利益相反の立場にいたとしたら——。ここに、設計監理方式の根深い難しさがあります。


今すぐできる、5つの自衛策

では、管理組合の理事長さんや収益物件のオーナーさんは、次の修繕で同じ轍を踏まないために何をすればよいのでしょうか。専門家でなくても実践できる、現実的な5つの自衛策をお伝えします。

1. 設計コンサルタントと施工会社の「資本・人的関係」を確認する。 契約前に、コンサルタントと候補施工会社の間に資本関係や役員の兼任、過去の継続的な取引がないかを確認しましょう。「御社と、推薦いただく施工会社さんとの関係を教えてください」と率直に尋ねるだけでも、相手の反応から多くが分かります。

2. コンサルタントへの報酬体系を明確にする。 設計監理料を、工事費に対する%ではなく定額(あるいは業務内容に応じた積算)で契約すると、「工事費が高いほどコンサルの報酬も増える」という利益相反が起きにくくなります。バックマージンの有無も、契約書で明示的に否定してもらいましょう。

3. 相見積もりは「組合主導」で、候補社も自分たちで探す。 コンサルタントが用意した候補社だけで相見積もりを取ると、その時点で競争が閉じている可能性があります。組合として独自に1〜2社を候補に加える、あるいはまったく別ルートから見積もりを取ってみる。これだけで、提示金額の妥当性を客観的に検証できます。

4. 国や自治体の相談窓口・指標を活用する。 国土交通省は、管理組合が適正な見積りかどうかを検討する際の指標となるよう、マンション大規模修繕工事に関する実態調査を実施・公表しています。工事費の目安を知るだけでも、「明らかに高い見積もり」に気づけます。各自治体もマンション管理の相談窓口を設けています。

5. 「発注方式そのもの」を比較検討する。 設計監理方式が唯一の正解ではありません。後述する責任施工方式や、複数の工法を扱える施工会社への直接相談など、選択肢を広げて比較することが、結果的に最も強い防衛策になります。


見積書のどこを見ればいいか——理事長が押さえる5つのチェックポイント

「専門用語ばかりで、見積書のどこを見ればいいのか分からない」。これは、私が管理組合の理事長さんから最もよくいただく相談です。建築の素人であっても、次の5点を押さえるだけで、見積もりの不自然さにはかなり気づけるようになります。

第一に、仮設費(足場代)の内訳です。 大規模修繕の見積もりの中で、足場をはじめとする仮設費は大きな割合を占めます。ここが「仮設工事 一式」とだけ書かれていたら要注意です。足場の面積(㎡)、単価、設置期間が明示されているかを確認してください。ロープアクセスやハイブリッド工法という選択肢を検討すれば、この仮設費そのものを見直せる余地が生まれます。

第二に、「一式」表記の多さです。 見積書に「一式」が並んでいると、何にいくらかかっているのかが分かりません。本来は、項目ごとに数量と単価が積み上げられているのが健全な見積もりです。「一式」が多い見積もりは、後から金額を動かしやすく、比較もしにくいため、内訳の明示を求めましょう。

第三に、数量の根拠(数量拾い)です。 外壁補修やタイルの張り替えは、「想定数量」で見積もられることが多い項目です。実際の劣化範囲を調査したうえでの数量なのか、それとも経験則で多めに積んでいるのか。この差が、過剰な工事項目につながります。調査診断の報告書と見積もりの数量が整合しているかを照らし合わせてください。

第四に、予備費の割合です。 工事中に追加で見つかる劣化に備える予備費は必要ですが、過大に計上されていると、使われなかった分がそのまま費用になりかねません。予備費が総額の一定割合を大きく超える場合は、その根拠を確認しましょう。

第五に、諸経費率です。 現場管理費や一般管理費などの諸経費は、工事の規模に応じてある程度の幅に収まるのが通常です。複数社の見積もりを並べたとき、諸経費率が極端に高い会社があれば、その理由を尋ねる価値があります。

これらは、専門家でなくても「質問できる」ポイントです。そして、誠実な施工会社やコンサルタントであれば、こうした質問に丁寧に答えてくれます。逆に、質問をはぐらかしたり、「お任せください」の一点張りだったりする相手は、慎重に見極めたほうがよいでしょう。


修繕積立金との関係——「高い工事」は将来の積立計画も狂わせる

談合や不適切コンサルによる割高な工事の影響は、その一回の工事費だけにとどまりません。マンションの修繕は、12年前後の周期で繰り返される長期戦です。一度の工事で想定より多く積立金を使ってしまえば、次回・次々回の修繕に向けた資金計画が狂い、最悪の場合は一時金の徴収や借入れが必要になります。

国土交通省は、長期修繕計画と修繕積立金のあり方についてガイドラインを示し、計画的な積立てを促してきました。近年は資材費・人件費の高騰で修繕単価そのものが上昇しており、積立金が不足する組合も少なくありません。そうした厳しい環境だからこそ、「一回の工事で適正な金額に抑える」ことの重みが増しています。

私は、大規模修繕を「資産価値を守るための投資」だと考えています。投資である以上、同じ効果ならコストは低いほうがよく、同じコストなら効果は高いほうがよい。談合によって競争が失われると、この当たり前の経済原理が働かなくなります。発注する側が知識を持ち、複数の選択肢を比較することは、目先の一工事だけでなく、マンションの数十年先の財務を守ることにつながるのです。

収益物件のオーナーさんにとっては、この問題はより直接的に利回りに響きます。修繕費が割高になれば、その分だけ実質利回りは下がります。建物の資産価値を維持しながら、修繕コストを適正化する——その両立こそが、長期で収益を最大化する王道だと、私は現場で繰り返し実感してきました。


<明誠のサービス紹介>工法の選択肢を増やすという発想——足場・ロープアクセス・ハイブリッド

ここからは、私たち株式会社明誠が大規模修繕で大切にしている考え方を、サービス紹介としてお伝えします。利益相反を避けるため、見出しで明確に区切っておきます。読み飛ばしていただいてもかまいません。

今回の談合事件の根っこには、「管理組合が、工事の中身や価格の妥当性を自分で判断しにくい」という情報の非対称性があります。私たちが解決策の一つとして提案しているのが、工法の選択肢を増やし、コスト構造を見える化するというアプローチです。

3つの工法を、建物ごとに使い分ける

大規模修繕というと、多くの方が「建物全体に足場を架ける」イメージを持たれます。ですが、工法は一つではありません。

工法 特徴 向いている建物
通常足場工法 従来型の仮設足場による施工。広い面を一度に施工でき、複雑な形状にも対応 中低層、形状が複雑な物件
ロープアクセス工法(無足場) 産業用ロープで職人が昇降して施工。足場の架設費が不要で、工期短縮・居住者の生活影響の最小化につながる 高層、足場の架設が難しい物件、コストを重視する物件
ハイブリッド工法 足場とロープアクセスを部位ごとに使い分け、総合的にコストを最適化 大規模・複雑で、総合コスト最適化が必要な物件

足場を架けるか架けないかで、仮設費(足場代)は大きく変わります。一般に足場の架設・解体・賃料は工事費の中でも大きな割合を占めるため、ロープアクセスを適切に組み合わせると、その部分のコスト構造が分かりやすくなります。「なぜこの金額なのか」を発注者が理解しやすくなる——これは、不透明な見積もりに対する一つの抑止力になります。

私たち明誠は、この3つの工法をすべて自社で扱い、建物の高さ・形状・劣化状況・居住者の事情に応じて「この建物にとってのベスト」を提案できる、日本でも数少ない会社です。一つの工法しか持たない会社は、どうしても自社の得意な工法に話を寄せがちです。複数の選択肢を同じテーブルに並べて比較できることが、発注者の納得につながると考えています。

なぜ「工法の選択肢」が談合に強いのか

談合が成立するのは、限られたプレイヤーが同じ土俵で価格を調整できるからです。ところが、足場工法しか想定していなかった案件に「ロープアクセスならこの部分はこの費用」という別の物差しが入ると、価格の妥当性を測る基準が一つ増えます。物差しが増えるほど、不当に高い金額は目立ちます。工法の多様性は、結果として価格の透明性を高めるのです。

加えて、私たちはロープアクセス工事として日本で初めてフランチャイズ展開を行い、塗装・防水・タイル・電気・看板といった各分野の専門職が加盟する体制を築いています。専門職が直接施工に関わることで、中間マージンを抑え、高品質と低価格の両立を目指しています。


発注方式の選び方——設計監理方式と責任施工方式、どちらが正解か

「では、設計監理方式はやめて責任施工方式にすればいいのか」と問われると、答えは単純ではありません。どちらにも長所と短所があります。

設計監理方式は、信頼できる第三者のコンサルタントに当たれば、施工会社を厳しくチェックしてもらえる強みがあります。問題は、その「信頼できる第三者」をどう見極めるかです。今回の事件は、方式そのものが悪いというより、運用における利益相反のチェックが甘かった点に本質があると私は見ています。

責任施工方式は、窓口が一本化されて話が早く、設計から施工まで一貫した責任を負ってもらえる安心感があります。一方で、第三者の目が入りにくいため、施工会社の誠実さに大きく依存します。だからこそ、責任施工方式を選ぶ場合は、施工会社の実績・財務の健全性・工法の説明の丁寧さを、組合側がしっかり見極める必要があります。

私からの提案は、「方式を先に決めない」ことです。まずは複数の施工会社・コンサルタントに会い、見積もりと説明の中身を比較したうえで、自分たちのマンションに合った進め方を選ぶ。そのプロセス自体が、最良の自衛策になります。手間はかかりますが、何千万円、ときに億単位の工事です。手間をかける価値は十分にあります。


現場で見た「油断」——「うちは大丈夫」と思っていた組合ほど危ない

最後に、私自身が現場で見聞きしてきた話を、個人や物件が特定されない範囲でお伝えします。談合や不適切コンサルの被害に遭う組合には、いくつか共通する「油断」があると感じています。

一つめは、「前回と同じところに頼めば安心」という油断です。あるご相談では、十数年前の修繕を担当した会社にそのまま二回目もお願いしようとしていました。継続は悪いことではありません。けれども、相見積もりを一度も取らずに発注を続けると、価格が適正かどうかを検証する機会が永遠に訪れません。私たちが参考見積もりを出したところ、工法の組み合わせを見直すだけで仮設費の構成が大きく変わり、理事会の皆さんが「比べてみて初めて分かった」とおっしゃっていたのが印象的でした。

二つめは、「専門家に任せておけば間違いない」という油断です。これは決して理事の皆さんを責める話ではありません。本業を持ちながら無償で組合運営を担う理事の方々が、建築の専門家を信頼するのはごく自然なことです。だからこそ、その信頼を裏切る一部の事業者の存在が、いっそう罪深いのだと思います。専門家を信頼することと、専門家を一切チェックしないことは、別物です。

三つめは、「急いで決めなければ」という油断です。総会の日程や劣化の進行を理由に、十分な比較検討をしないまま発注へ進んでしまうケースです。確かに、雨漏りや外壁の浮きなど、安全に関わる劣化は急ぐべきです。けれども、緊急対応と本工事の発注は切り分けられます。まずは応急処置で安全を確保し、本工事はじっくり比較する——この二段構えが、結果的に組合を守ります。

私は職人の世界から叩き上げてきた人間です。ロープ一本で外壁にぶら下がり、タイルの一枚一枚を打診しながら、「この建物をあと何十年もたせるか」を考えてきました。だからこそ、発注者の大切なお金が不透明な仕組みで失われるのを見ると、本当に悔しい。今回のニュースを、業界が襟を正す機会にしなければならないと、強く思っています。


よくある質問(FAQ)

Q. 今回の談合に関わった会社に発注した管理組合は、お金を取り戻せますか。
A. 個別の事案については、弁護士など専門家への相談が必要です。一般論として、独占禁止法違反が確定した場合、損害賠償請求の可能性が論じられることはありますが、立証や手続きのハードルは高いのが実情です。本記事は法的助言ではありませんので、具体的な対応は専門家にご確認ください。

Q. うちのマンションの過去の修繕が適正だったか、今から確認できますか。
A. 当時の見積書・契約書・工事仕様書が残っていれば、第三者の施工会社やコンサルタントにセカンドオピニオンを求めることができます。次回の修繕計画を立てる良い機会にもなります。

Q. ロープアクセスにすれば必ず安くなりますか。
A. いいえ。建物の形状や劣化状況によっては、足場工法のほうが適切で結果的に経済的な場合もあります。大切なのは「必ず安い工法」を探すことではなく、「この建物にとって最適な工法」を複数の選択肢の中から選ぶことです。

Q. 設計コンサルタントを使うこと自体が悪いのですか。
A. そうではありません。誠実なコンサルタントは、管理組合にとって心強い味方です。問題は利益相反のある一部の事業者です。報酬体系の透明化と、施工会社との関係の確認で、多くのリスクは下げられます。


まとめ——「見えない損失」を、知識で防ぐ

今回の公取委による談合認定は、マンション修繕業界にとって厳しいニュースです。けれども、発注する側にとっては「自分たちのお金の守り方」を学び直す機会でもあります。

ポイントを振り返ります。談合は、競争が働いているように見える状態を人工的に作る行為であり、理事会が手を抜いていたから起きたものではありません。背景には設計監理方式の利益相反という構造的な死角があり、国は9年前から警鐘を鳴らしていました。被害は割高な工事費やバックマージン、過剰な工事項目という「見えない損失」として表れます。そして自衛策は、コンサルと施工会社の関係確認、報酬体系の透明化、組合主導の相見積もり、公的指標の活用、そして発注方式と工法の選択肢を広げること——この5つです。

私たち明誠は、足場・ロープアクセス・ハイブリッドの3工法を建物ごとに提案し、コスト構造を見える化することで、発注者の皆さまが「納得して選べる」修繕を目指しています。大規模修繕は、マンションやビルの資産価値を守り、入居者・利用者の暮らしを支える大切な投資です。その一円一円が、正しく建物のために使われる——そんな当たり前を、業界の一員として取り戻していきたいと、今回のニュースを見て改めて思いました。

次の修繕で迷われたときは、工法の選択肢から一緒に考えてみませんか。お問い合わせをお待ちしています。

工法ごとの考え方や費用構造については、株式会社明誠の公式サイトで、足場工法・ロープアクセス工法(無足場)・ハイブリッド工法それぞれの特徴と、建物に応じた選び方をご案内しています。具体的なご相談はお問い合わせフォームからお気軽にどうぞ。

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出典

  • マンション修繕談合、38社に排除命令へ 計16億円課徴金方針(毎日新聞/Yahoo!ニュース、2026年6月12日):https://news.yahoo.co.jp/articles/5ea9e87a5718b6e476fa0be0807558072a4e8a37
  • マンション修繕談合、30社超に排除命令へ 100件以上が対象(日本経済新聞、2026年6月):https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUD034M00T00C26A6000000/
  • 公取委、マンション修繕工事で談合認定 三十数社に課徴金16億円命令へ(時事ドットコム、2026年6月12日):https://www.jiji.com/jc/article?k=2026061200061&g=eco
  • 公正取引委員会(一次情報トップ):https://www.jftc.go.jp/
  • 国土交通省「住宅:マンション管理」:https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_hous

▼ロープアクセス工法・無足場工法の詳細解説はこちら
ロープアクセスドットコム|無足場工法専門メディア

【2026年6月】塗料・防水材が「入荷未定」に|ナフサ不足で大規模修繕の工期が遅れる前に、マンション・ビルオーナーがやるべきこと

「来月から外壁の塗り替えに入る予定なのに、塗料が手に入らないかもしれない」。

先日、あるマンションの理事長さまから、こんなご相談をいただきました。総会で修繕予算をようやく通したばかり。なのに「材料が止まっている」という話が耳に入り、不安になられたのです。

結論から申し上げます。この不安は、決して大げさではありません。いま全国の建設現場で、塗料・防水材・接着剤といった「石油から生まれる資材」の品薄が現実に起きています。そして大規模修繕を控えるオーナーさま・管理組合にとって、これは「工期の遅れ」と「コストの上振れ」に直結する話です。

私は塗装・防水・タイルの大規模修繕を20年近くやってきました。正直に申し上げて、材料がここまで読めない局面は、そう何度もありません。この記事では、いま何が起きているのか、それがあなたの建物にどう響くのか、そして慌てず・損せず動くために今この時期にやるべきことを、現場の視点で整理します。


まず、ニュースの要点を3行で

  • 中東情勢(イラン戦争)の長期化で、塗料・防水材・接着剤の原料である「ナフサ」由来の化学品が不足し、建設現場で出荷制限・受注停止・納期長期化が広がっています。
  • 全国建設業協会は2026年4月30日、国土交通大臣に緊急要望を行い、「工事の中止や遅延が避けられない状況も発生している」と表明しました(出典:全国建設業協会/ブルームバーグ報道)。
  • 政府は2026年6月2日、塗料・シンナーの原料となるトルエンなどを最大で例年の約1.8倍まで供給を拡大し、「年度を越えて供給を継続できる」見通しを示しました(出典:時事ドットコム 2026年6月2日)。

つまり「足りない」という事実と、「政府が手を打ち始めた」という事実が、同時に進行している状況です。ここからが本題です。


なぜ塗料や防水材が止まるのか——「ナフサ」という言葉をかみ砕く

ニュースで連呼される「ナフサ」。聞き慣れない方も多いと思いますので、まずここを丁寧に説明します。

ナフサとは、原油を精製してできる「粗製ガソリン」のことです。これがプラスチックや塗料、ゴム、接着剤など、私たちの身の回りのありとあらゆる化学製品の「おおもとの材料」になります。

大規模修繕に関わる流れをごく簡単に書くと、こうなります。

原油 → ナフサ → トルエン・キシレンなど(溶剤の原料) → シンナー・塗料・防水材・接着剤 → 現場

ここで重要なのが「シンナー」です。シンナーは塗料を薄めて塗りやすくする溶剤(うすめ液)で、油性塗料を使う現場では欠かせません。このシンナーの原料であるトルエン・キシレンが、中東からのナフサ供給の目詰まりで不足しているわけです。

さらに、防水工事で使うウレタン防水材やシーリング材(窓まわりや目地を埋める弾力性のある充填材)、屋上の塩ビシート、下地に使う接着剤——これらもほとんどが石油由来です。だから「塗装だけ」の話ではなく、大規模修繕の主要工種がまとめて影響を受けるのです。

私がこの構造をしつこく説明するのには理由があります。原因が「一つの材料」ではなく「石油という川上」にあるため、ある材料を別の材料で代替しようとしても、その代替材料も同じ川から流れてきている、という逃げ場のなさがあるからです。


どの資材が、どれくらい厳しいのか

全国建設業協会が71種類の建設資材について行った2026年4月の調査では、塗料・断熱材・防水剤・ポリ塩化ビニル管(塩ビ管)を中心に、出荷制限・受注停止・数量割り当てが拡大していると報告されています。これまで数日で入手できていた塗料や電線、設備機器までもが「入荷未定」になるなど、納期の長期化が顕著だとされています(出典:ブルームバーグ報道(全国建設業協会の発表))。

大規模修繕に関わる工種に当てはめると、影響の出やすさはおおむね次のように整理できます。

工種 主に使う資材 影響の受けやすさ 補足
外壁塗装(油性) 油性塗料・シンナー 大 溶剤系の調達が特に逼迫。色番号によっては納期未定も
防水(ウレタン・塩ビシート) ウレタン材・塩ビシート・接着剤 大 屋上・バルコニーの工期に直結
シーリング 変成シリコン等の充填材 中〜大 目地・サッシまわり。劣化放置は漏水リスク
タイル張替・補修 接着剤・エポキシ 中 接着剤の納期に左右される
給排水・配管 塩ビ管 中〜大 設備改修を同時に行う場合は要注意

※上記は2026年4〜6月時点で報じられている傾向にもとづく整理です。資材ごとの状況は週単位で動いており、メーカーや在庫状況によって差があります。実際の納期は必ず施工会社・メーカーにご確認ください。

水性塗料は比較的影響が小さいと言われますが、すべての部位を水性で賄えるわけではありません。下地や旧塗膜との相性、耐久性の要求によっては油性を選ばざるを得ない場面があり、「水性に切り替えれば解決」という単純な話にはなりません。ここは専門家が現場ごとに判断すべきところです。


政府の対応——「1.8倍供給」は朗報。ただし“即解消”ではない

2026年6月2日、高市首相は中東情勢に関する関係閣僚会議で、塗料やシンナーの流通に目詰まりが生じていることを踏まえ、原料となるトルエンなどを最大で例年の約1.8倍供給する方針を示しました。あわせて、商社経由だけでなく、石油化学メーカーや石油元売りからシンナー・塗料メーカーへ直接供給する仕組みも設けるとしています。ナフサの代替調達は従来の約85%の水準まで回復しているとも説明されました(出典:時事ドットコム 2026年6月2日、NHKニュース)。

これは現場にとって、間違いなく前向きな話です。私も少しほっとしました。

ただし——ここは正直に申し上げます。「方針が示された」ことと「現場に物が届く」ことの間には、必ずタイムラグがあります。原料が増産されてから、それがシンナーや塗料になり、問屋を経て現場に並ぶまでには時間がかかります。色番号ごとの在庫の偏りも残ります。

ですから「政府が動いたからもう大丈夫」と工程を楽観し切るのは早計です。逆に「全部止まるから今すぐ全部発注しろ」と慌てるのも違います。大事なのは、自分の建物の修繕がどの工種に、どの時期に、どれだけ依存しているかを把握したうえで、優先順位をつけて動くことです。


あなたの建物に、具体的にどう響くのか

ここからが、オーナーさま・管理組合にとっての実務の話です。資材逼迫は、主に三つの形で跳ね返ってきます。

1. 工期の遅延

材料が入らなければ、職人がいても工事は進みません。特に梅雨明け後の夏場は防水・塗装の需要が一斉に高まる時期で、ただでさえ職人と材料の取り合いになります。そこに資材不足が重なると、「足場を組んだのに材料待ちで止まる」という最悪の事態が起こり得ます。足場は組んでいる期間そのものが費用ですから、待ち時間がそのまま無駄なコストになります。

2. 見積りの“賞味期限”切れ

資材価格が動いている局面では、見積りの有効期限が短くなりがちです。半年前にもらった見積りが、今はもう通用しない、ということが普通に起こります。総会で承認した予算と、実際の発注額がズレる原因になります。

3. 価格転嫁・スライド条項の発動

公共工事の世界では、資材高騰に対応するため、実勢価格の調査頻度を上げ、設計変更や価格転嫁(いわゆるスライド条項=資材価格が一定以上動いたら契約金額を見直す仕組み)を適切に運用するよう、業界団体から国に要請が出ています。民間の大規模修繕でも、契約書に資材スライドの取り決めがあるかどうかで、もめ方が大きく変わります。

私がいつも理事長さまにお伝えしているのは、「安いか高いかの前に、止まらないか・もめないかを見てください」ということです。資材が読めない時期は、価格の数%より、工期の数週間と契約の一文のほうが、結果的に大きな差になります。


現場で実際に起きたこと

少しだけ、私の現場の話をさせてください。

数年前、ある別の理由で塗料の特定色が全国的に品薄になったことがありました。あるマンションの大規模修繕で、外壁の指定色がちょうどその色番号に当たってしまったのです。足場はすでに全面に架かっている。職人も手配済み。なのに塗料だけが来ない。

あのとき私は、メーカーの担当者に何度も頭を下げ、近い色番号への変更を理事会に提案し、一部の面を先行して別工程に振り替えて、なんとか足場の延長を最小限に抑えました。それでも、当初より工期は10日ほど延びました。足場費にしておよそ数十万円。住民の皆さまにも、ベランダが使えない期間が延びるご不便をおかけしました。

このとき骨身にしみたのは、「材料が読めない時期は、工程を一本道で組んではいけない」ということです。どこかが止まっても全体が止まらないよう、先行できる工種・後回しにできる工種をあらかじめ仕分けしておく。これができるかどうかで、資材逼迫の局面では結果がまるで変わります。

いま起きているナフサ不足は、当時の「一色だけ」とは比べ物にならない、塗料・防水・接着剤を横断する逼迫です。だからこそ、工程の組み方と工法の選び方が、これまで以上にものを言います。


工法の選び方で「工期リスク」は下げられる——足場・ロープアクセス・ハイブリッド

ここで、私たちのような施工会社の出番です。資材が読めない時期に効いてくるのが、「どの工法で工事を組むか」という設計です。

大規模修繕には、大きく三つの工法があります。当社はこの三つすべてを建物の特性に応じて提案できる、日本でも数少ない会社です(→大規模修繕工事のご紹介)。

工法 仕組み 資材逼迫期の強み 向いている建物
通常足場工法 建物全体に仮設足場を架ける 面で一気に施工できる 中低層・複雑形状
ロープアクセス工法(無足場) 産業用ロープで吊り下がって施工 足場の架設・解体が不要。部分先行・部分対応が機動的 高層・足場が架けにくい・コスト最重視
ハイブリッド工法 部位ごとに足場とロープを使い分け 「待てる面は後回し、急ぐ面は先行」の工程設計ができる 大規模・複雑物件

注目していただきたいのは、ロープアクセス工法(建物の外壁に足場を架けず、産業用ロープで作業者が吊り下がって作業する無足場の工法)の機動力です。

足場工法は、全面に足場を架けてから工事を始めます。だから「材料待ちで全体が止まる」と、架けっぱなしの足場費がのしかかります。一方ロープアクセスは、足場の架設・解体という大がかりな前後工程がないため、材料が入った面から順に、小さく着手して小さく仕上げることができます。資材が小ロットでしか入らない局面では、この「小回り」が効きます。

そしてハイブリッド工法なら、たとえば「材料が確保できている北面の防水は先に着手し、塗料待ちの南面は工程を後ろにずらす」といった設計が可能です。一本道の工程ではなく、止まりにくい工程を組む。これが資材逼迫期の工期を守るうえで、私が最も重視している点です(→ロープアクセス工法のご紹介)。


なぜ専門職フランチャイズが、資材逼迫期に強いのか

もう一つ、当社の強みをお話しさせてください。

当社は、ロープアクセス工事として日本で初めてフランチャイズ展開を行っており、塗装・防水・タイル・電気・看板といった各分野の専門職が加盟しています。一見すると資材不足とは関係なさそうですが、こういう局面でこそ効いてきます。

理由は二つあります。

一つは、各分野の専門職が直接つながっていること。塗料が厳しければ防水を先に、という工種の組み替えを、間に何社も挟まずに現場の判断で素早くできます。元請—下請—孫請と何層も重なっていると、こうした柔軟な組み替えは時間がかかりますが、専門職が同じネットワークにいれば話が早いのです。

もう一つは、中間マージンを削れること。資材が高騰している局面では、施工側のコストはどうしても上がります。そのなかで仕上がりの品質を落とさず価格を抑えるには、施工体制そのものの無駄を削るしかありません。専門職が直接加盟する仕組みは、いわゆる「中抜き」を減らし、高品質と低価格を両立させるための土台になっています。

私はこれを、必ずワンセットで提案するようにしています。工法の選択肢と、専門職のネットワーク。この二つがそろって初めて、「資材が読めない時期でも、止めずに・もめずに・品質を落とさず」修繕をやり切れるからです。


今この時期に、オーナー・管理組合がやるべき5つのこと

では、具体的に何をすればよいのか。優先度順に5つ挙げます。

1. 修繕の「時期」を施工会社と再確認する
今年〜来年に塗装・防水を予定しているなら、まず施工会社に「現時点で、想定している資材の納期はどうか」を確認してください。色番号・材料メーカーまで踏み込んで聞くのがコツです。

2. 見積りの有効期限と、資材スライドの扱いを確認する
見積りがいつまで有効か。資材価格が一定以上動いたときに契約金額をどう扱うか(スライド条項の有無)。この二点を、契約前に必ず文書で確認してください。後から「言った・言わない」でもめるのが一番つらいので。

3. 工程を「一本道」にしない設計を相談する
材料待ちで全体が止まらないよう、先行できる工種・後回しにできる工種を仕分けてもらいましょう。足場工法だけでなく、ロープアクセスやハイブリッドで工期リスクを下げられないか、複数案を出してもらうのが理想です。

4. 緊急性の高い劣化(漏水・剥落リスク)を優先する
シーリング切れや防水の劣化を放置すると、漏水という二次被害につながります。資材が逼迫していても、安全・漏水に直結する部位は優先して手当てすべきです。「全部待つ」ではなく「危ない所から」です。

5. 総会・理事会で、この状況を共有しておく
6月は総会シーズンです。「資材高騰と納期長期化が起きている」という事実を、今のうちに理事会で共有しておくと、後で工期や金額が動いたときの合意形成がぐっと楽になります。


ただし——慌てて発注すべきではないケースもあります

ここは両論併記で正直にお伝えします。

「資材が止まるなら、今すぐ前倒しで発注しよう」——この判断が、必ずしも正解とは限りません。

たとえば、長期修繕計画上まだ数年先でよい工事を、不安だけで前倒しすると、本来不要な出費を早めることになります。劣化が進んでいない部位を慌てて触る必要はありません。また、価格が高止まりしている今まさに発注すると、割高な単価で契約してしまう可能性もあります。政府の供給拡大策が効いてくれば、半年〜1年で状況が緩む可能性も指摘されています。

だからこそ、判断の軸は「不安」ではなく「劣化の実態と緊急度」であるべきです。漏水・剥落につながる部位は急ぐ。まだ余裕のある部位は、状況を見ながら最適なタイミングを計る。この見極めこそ、専門家に相談する価値のあるところだと、私は考えています。


よくあるご質問(FAQ)

Q1. ナフサ不足はいつまで続きますか?
正確な終息時期を断言できる人はいません。政府は供給拡大と年度を越えた供給継続の見通しを示していますが、中東情勢に左右されるため流動的です。「数か月で楽になる」という見方もあれば「価格は元には戻らない」という見方もあります。確実なのは、今は週単位で状況が動いているということです。

Q2. 水性塗料に変えれば問題は解決しますか?
部分的には有効ですが、万能ではありません。下地や旧塗膜との相性、求める耐久性によっては油性が必要な場面があります。「水性に統一すれば解決」と単純化せず、部位ごとに専門家の判断を仰いでください。

Q3. 見積りが半年前より上がっていました。ぼったくられているのでしょうか?
資材価格が実際に上がっているため、適正な見積りでも金額が上がっている可能性は十分あります。大切なのは、見積りの内訳(材料費・労務費・足場費)が明示され、値上がりの根拠が説明できるかどうかです。複数社で内訳を比べると、適正さが見えてきます。

Q4. 工期が延びると、足場代も増えますか?
足場工法の場合、足場を架けている期間が延びれば、そのぶん費用が増えるのが基本です。だからこそ、材料待ちで止まらない工程設計や、足場に依存しないロープアクセスの活用が、コスト面でも意味を持ちます。

Q5. 今、相談だけしておくことに意味はありますか?
大いにあります。むしろ今やるべきは「発注」より「整理」です。自分の建物がどの工種にどれだけ依存しているかを把握し、優先順位をつけておくだけで、いざ動くときの判断が速く・正確になります。


まとめ——「止めない・もめない・品質を落とさない」修繕へ

最後に、要点をもう一度整理します。

いま、ナフサ不足によって塗料・防水材・接着剤の品薄が現実に起きており、全国建設業協会も「工事の中止や遅延が避けられない状況」と表明しました。政府は原料供給を例年の約1.8倍に拡大する方針を示しましたが、現場に物が行き渡るまでにはタイムラグがあります。

この局面で大規模修繕を控えるオーナーさま・管理組合がやるべきは、不安に駆られて慌てることでも、楽観して放置することでもありません。自分の建物の劣化の実態と緊急度を把握し、工程を一本道にしない設計と、最適な工法の選択で、工期とコストのリスクを下げることです。

私たちは、足場・ロープアクセス・ハイブリッドの三つの工法から建物にとってベストな組み方を提案でき、塗装・防水・タイルなどの専門職が直接つながるネットワークを持っています。資材が読めない時期だからこそ、この組み合わせが効きます。

総会の前段階の整理だけでも、お力になれることがあります。「うちの修繕、このまま予定通りいくのか」と少しでも不安に感じたら、ご相談だけでも遠慮なくお声がけください(→お問合せフォーム)。資材の状況も、工法の選択肢も、まずは一緒に整理するところから始めましょう。


出典・参考資料

※本記事の数値・日付は、上記の報道・公的情報にもとづき2026年6月5日時点で整理したものです。資材の納期・価格は週単位で変動しており、実際の状況は施工会社・メーカーへ個別にご確認ください。

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