豊島区のマンション漏水・防災対策|河川の洪水想定は高田だけ。残りを決めるのは内水と20か所の擁壁です【大規模修繕2026年度版】

2026年9月19日 更新

豊島区の要町で、築31年の分譲マンションの理事長さまから「地下の機械室が湿っている」とご相談をいただいたことがあります。屋上からの雨漏りを疑って伺ったのですが、屋上は健全でした。原因は、前の年の夏に道路側の雨水桝が詰まり、通路から流れ込んだ水が地下階段の最下段に溜まり、長い時間をかけて壁の打継ぎ目から染みていたことでした。川からは1キロ以上離れています。それでも、水は来るのです。

私は株式会社明誠の本間幸紘と申します。東京都東大和市を拠点に、20年近くマンション・ビル・ホテルの外壁と向き合ってきました。仮設足場を組む工事も、ロープ1本でぶら下がる無足場の工事も、どちらも現場でやってきた人間です。

豊島区は、23区のなかでも「川のリスクがきわめて限定的なのに、水のトラブルは普通に起きる区」です。理由ははっきりしていて、豊島区の水害は川があふれる話ではなく、降った雨が行き場を失う話だからです。

今日は、豊島区が公表している最新のハザード資料から逆算して、豊島区の分譲・賃貸マンションで先に手を打つべき漏水ポイントと、防災上の共用部の修繕優先度を整理します。


結論:豊島区は「河川の洪水想定は高田だけ、残りは内水と擁壁が決める区」です

先に結論から申し上げます。豊島区で大規模修繕の順番を決めるとき、私が最初に確認するのは屋上ではありません。自分の建物が神田川沿いの高田にあるのか、暗渠になった谷筋の低地にあるのか、区内20か所の土砂災害警戒区域に接しているのかです。

豊島区内に「高潮浸水想定区域」はありません。「津波災害警戒区域」「津波災害特別警戒区域」の指定もありません(出典:豊島区「宅地建物取引業者の方へ(ハザードマップの作成状況等)」/更新日 2026年9月15日)。湾岸区で最優先になる塩害・高潮対策は、豊島区ではほぼ考えなくてよいということです。

さらに、区の公式Q&Aにはこう書かれています。洪水(河川の氾濫等)による浸水の表示は、高田1〜3丁目の神田川浸水想定区域のみ。これが豊島区という区の性格を一言で表しています。

立地 該当エリアの例 主なリスク 最優先の対策
神田川沿いの低地 高田1〜3丁目 外水(河川氾濫)+内水 地下・半地下の止水、受電設備の位置、逆流防止
暗渠化した谷筋・駅周辺の低地 池袋・東池袋・雑司が谷・要町・千川方面の谷地形 内水氾濫(下水道の能力超過) 敷地の雨水桝、地下階段の止水、ドライエリア
斜面・擁壁に接する敷地 高田1・2丁目、駒込1丁目ほか区内20か所 擁壁の劣化・がけ崩れ 擁壁の点検と改修、斜面側の排水と外壁

この3類型のどこに当たるかを、区のハザードマップで先に確定させる。それをやらずに「まず屋上防水から」と進めてしまうと、順番を1つ間違えるだけで数百万円が無駄になります。豊島区の理事会でいつも最初にお伝えしているのは、この一点です。


豊島区のハザード資料を1枚で読む

豊島区は、ハザードマップの作成状況を宅建業者向けページで公式に整理しています。管理組合の書類棚に、この表を1枚コピーして貼っておくだけで議論が早くなります。

災害種別 豊島区の作成状況 根拠法 備考
洪水(外水) 作成済 水防法 表示は高田1〜3丁目の神田川浸水想定区域のみ
雨水出水(内水) 令和8年3月に作成済となった 水防法 東京都下水道局が雨水出水浸水想定区域図を公表
高潮 なし 水防法 区内に高潮浸水想定区域はありません
土砂災害 作成済 土砂災害防止法 区内20か所が警戒区域、うち8か所が特別警戒区域
津波 なし 津波防災地域づくり法 区内に津波災害警戒区域の指定はありません

(出典:豊島区「宅地建物取引業者の方へ(ハザードマップの作成状況等)」/更新日 2026年9月15日、豊島区「豊島区土砂災害ハザードマップ」/更新日 2026年6月25日)

想定されている雨は「1時間153ミリ・総雨量690ミリ」

豊島区洪水・内水ハザードマップが前提にしているのは、時間最大雨量153ミリメートル、総雨量690ミリメートルという降雨です。神田川流域、石神井川及び白子川流域、隅田川及び新河岸川流域の3つの浸水想定から構成されています(出典:豊島区「豊島区洪水・内水ハザードマップ」/更新日 2026年9月15日)。

1時間153ミリという数字は、正直に申し上げてピンと来ないと思います。東京の下水道が標準で想定しているのは1時間50ミリ前後です。つまり設計値の3倍の雨を想定した図だ、ということです。

そして豊島区の場合、この3倍の雨が降ったときに問題になるのは、川からあふれた水ではありません。下水道に入りきらなかった雨水が、道路と敷地に溜まるほうです。

豊島区で最も見落とされている一行

区のハザードマップには、PDFの版に関する注記が付いています。豊島区洪水・内水ハザードマップは令和7年1月発行が最新で、令和6年9月発行版から浸水想定区域・雨水出水区域に変更はない、というものです。一方で、令和8年3月に東京都下水道局が水防法に基づく雨水出水浸水想定区域図を公表しています。

つまり、手元のPDFを見ているだけでは、内水の最新の浸水深は分からないということです。神田川洪水浸水想定区域(青色斜線部分)は外水の浸水深で表示されているため、同じ区域の内水の浸水深を知りたい場合は、東京都下水道局の雨水出水浸水想定区域図を別途確認する必要があります。

現場で管理組合の防災資料を見せていただくと、ここを追えている組合はほとんどありません。豊島区でいちばん実務的な差がつくポイントです。


高田1〜3丁目|区内で唯一、河川の洪水想定が示されているエリア

豊島区の南端、神田川に接する高田1〜3丁目が、区内で唯一「河川の氾濫による浸水」が想定されている地区です。ここに建つマンションでは、他の区域とは優先順位がはっきり変わります。

私が高田の物件で最初に見るのは、次の3つです。

  1. 受変電設備・非常用発電機の設置高さ — 地下や1階の低い位置にあると、浸水時に建物全体が停電します。エレベーターも給水ポンプも止まります。国土交通省の建築物における電気設備の浸水対策ガイドラインが、移設・嵩上げ・防水扉の考え方を整理しています
  2. 地下駐車場・地下倉庫のスロープ最頂部 — 道路面より数センチ低いだけで、水は一気に入ります
  3. 排水の逆流経路 — 1階の浴室・洗濯パンからの逆流は、外から水が入るより先に起きることがあります

そして、高田1・2丁目は令和8年6月24日付の東京都告示で、新たに土砂災害警戒区域に指定されました。神田川の谷と、その北側の台地の縁がぶつかる地形だからです。高田のマンションは、水と斜面の両方を同時に抱える、豊島区で最も条件の厳しい立地だと考えています。


池袋と暗渠の谷筋|豊島区の本命は内水氾濫です

豊島区の大部分は武蔵野台地の上にあります。地図で見ると平らです。しかし実際に歩くと、池袋から要町、千川、雑司が谷へ向かう道は、明らかに上り下りがあります。かつて川が流れ、いまは下水道の幹線として地下に入っている谷筋です。

この谷筋の底に建つマンションで、実際によく起きるのが次の症状です。

  • 大雨のあと、1階エントランスの床タイルの目地から水が滲む
  • 地下階段の最下段付近に、乾いても白い跡(エフロレッセンス)が残る
  • 駐輪場やゴミ置き場の床が、雨のたびに数時間だけ水たまりになる
  • 外壁の地際から50センチ程度の高さに、帯状の汚れと塗膜の膨れが出る

いずれも「雨漏り」とは呼ばれません。だから修繕計画に載らない。でも、これを放置すると躯体の鉄筋が錆び、10年後の大規模修繕で爆裂補修として何百万円かの請求書になって返ってきます。

区の浸水実績は、実は公開資料ではありません。豊島区役所本庁舎5階の防災課、または6階の道路整備課の各窓口でのみ閲覧可能で、平成11年から現在までに区が確認した箇所と、区民から報告を受けた箇所が示されています(出典:豊島区「宅地建物取引業者の方へ」)。

ここは強くお勧めしたいところです。理事長さんか管理会社のフロント担当者に、一度だけ区役所に足を運んでもらってください。自分の建物の前の道路が過去に浸水していたかどうかが分かるだけで、修繕の議論の質が変わります。問い合わせは道路整備課道路整備グループ(03-3981-4878)です。


土砂災害20か所・特別警戒8か所|令和8年6月24日に地図が変わりました

豊島区は平坦な区というイメージがありますが、台地の縁には高低差があります。令和8年6月24日付の東京都告示により、高田1・2丁目が土砂災害警戒区域に新規指定、駒込1丁目の土砂災害(特別)警戒区域が一部解除となりました。これにより区内の指定は警戒区域20か所、うち特別警戒区域8か所となっています。

ここで重要な注意点があります。区が配布している豊島区土砂災害ハザードマップのPDFには、この令和8年6月の変更が反映されていません。区の公式ページにも「令和6年9月発行の豊島区土砂災害ハザードマップは、これらの情報が反映されていませんのでご注意ください」と明記されています。

最新の正確な図面は、東京都の土砂災害警戒区域等マップで確認してください。管理組合の防災資料が数年前のPDFのままなら、いま差し替えるべきタイミングです。

擁壁は「大規模修繕の見積書に載らない場所」の筆頭です

土砂災害警戒区域に接する敷地のマンションで、私がいちばん多く見つける不具合が擁壁の水抜き穴の詰まりです。

擁壁には、背面に溜まった水を逃がすための穴が設けられています。この穴が土や落ち葉、根で塞がると、擁壁の裏に水圧がかかります。結果として起きるのは、擁壁のひび割れ・はらみ・傾きと、擁壁に接した建物側の1階躯体への回り込み漏水です。冒頭の要町の事例も、構図としては同じでした。

ところが、大規模修繕の標準的な見積書は「外壁・屋上・鉄部・シーリング」で組まれます。擁壁は外構扱いか、そもそも項目がありません。見積依頼の段階で「擁壁と敷地排水を含む」と明記する。これだけで見落としが防げます。


豊島区のマンションで水が入る5つのルート

現場で見ている範囲で、豊島区の中高層マンションに水が入る経路を優先度順に並べると、こうなります。

順位 侵入ルート 見つけ方 放置した場合のコスト感
1 屋上・塔屋のドレン詰まり ストレーナー(目皿)を外して手で確認 防水層の全面改修で数百万円規模
2 外壁のひび割れ・タイル浮き 打診調査・赤外線・近接目視 爆裂補修に発展すると1か所あたり数万円〜
3 サッシ廻り・手すり付け根のシーリング切れ 目視。指で押して弾力を見る 室内側の内装復旧費が上乗せ
4 バルコニー・開放廊下の排水口 大雨の翌朝に水たまりが残るか 下階住戸への漏水でトラブル化
5 敷地の雨水桝・擁壁の水抜き穴 蓋を開ける。穴に手を当てる 1階・地下の躯体劣化、機械室の被害

このうち1・3・4は、管理員さんか理事の方が今週できる確認です。特別な道具は要りません。2と5は専門業者の領域になりますが、順番としては1・3・4を先に潰してから診断に入ったほうが、原因の切り分けがはるかに正確になります。


打診調査の費用と、足場かロープアクセスかの分かれ目

外壁の状態を把握する打診調査の費用は、1平方メートルあたり250〜500円程度が目安です(物件の形状、足場の要否、タイルか塗装かで変動します)。外壁塗装は3,500〜4,500円/㎡、防水は5,000〜8,000円/㎡程度がひとつのレンジです。いずれも参考値で、実際の見積は建物ごとに大きく変わります。

大規模修繕の総額でいうと、30戸前後のマンションで3,500〜5,000万円程度、そのうち仮設足場が15〜25%を占めます。ここがロープアクセス工法(無足場工法)で圧縮できる部分です。

分かりやすい比較を1つ挙げます。10階建て・外周80メートル・工期3か月の物件で、仮設足場が約168万円かかるケースでも、ロープアクセスであれば約59万円。差額でおよそ109万円が浮く計算になります。これも目安であり、部位や作業量によって変わりますが、桁の感覚はつかんでいただけると思います。

豊島区で私が「ロープアクセスが効く」と判断するのは、次のような条件です。

  • 隣地との離隔がほとんどない — 池袋周辺や要町・東池袋の細街路沿いに多い形です。足場を組む空間そのものがない
  • 1階が店舗・事務所で、足場による営業影響を避けたい — 豊島区は1階テナント併設のマンションが多い区です
  • 補修範囲が限定的 — 全面改修ではなく、漏水箇所の特定と部分補修から始めたい場合
  • 調査だけ先にやりたい — 足場を組まずに打診・撮影だけ先行できるので、理事会の判断材料を安く早く揃えられます

逆に、外壁の全面打診+全面塗装+バルコニー防水を一気にやるなら、足場を組んだほうが総額で安くなることもあります。ハイブリッド工法といって、低層部と共用廊下側は足場、高層部の外壁面はロープアクセス、という組み合わせが最適解になるケースも豊島区では珍しくありません。工法そのものの技術的な背景は、ロープアクセスドットコムの技術解説で整理しています。

株式会社明誠はこれまでに約6,000棟のマンション・ビル・ホテル大規模修繕を手がけてきました。ロープアクセス工法での高所作業について、明誠および全国のフランチャイズ加盟企業では過去16年間、墜落による労働災害はゼロを維持しています。安全管理の考え方は明誠の安全管理への取り組みに、費用の考え方は大規模修繕の料金の考え方にまとめています。


豊島区で使える助成制度(令和8年度)

豊島区には、水と斜面に関係する管理組合向けの制度がいくつかあります。現行年度の情報を整理します。

① 分譲マンション計画修繕調査費助成

漏水の原因を特定するための劣化診断に、そのまま使える制度です。

項目 内容
助成額 計画修繕調査に要する費用の2分の1(上限20万円)
対象 建築後8年以上を経過した分譲マンションの管理組合
要件 管理規約が整備されている/集会で調査実施の決議がなされている/過去10年以内に同助成を受けていない
対象調査 外壁(塗装・タイル)、防水(屋上・ルーフバルコニー・開放廊下・屋外階段)、鉄部塗装、外構、給排水・電気・消防設備、エレベーター、機械式駐車場
令和8年度の受付 4月1日から開始。予算の範囲内で、超過した場合は受付終了
重要な注意 申請は調査の契約締結前。調査完了は年度内のものが対象

(出典:豊島区「分譲マンション計画修繕調査費助成」/更新日 2026年3月10日)

この制度でいちばん多い失敗は、先に調査業者と契約してしまうことです。契約後の申請は対象外になります。理事会で「まず見積を取って、業者を決めてから区に相談」と進めると、そこで詰みます。順番は、事前相談(住宅・マンション課マンショングループ 03-3981-1385)→ 申請 → 承認通知 → 契約・着手、です。

対象調査に外構が含まれている点も見逃せません。前述の敷地排水や擁壁まわりを診断範囲に入れておけば、豊島区の内水リスクにきちんと届く調査になります。

② 擁壁等対策工事等助成・擁壁等専門家派遣(土砂災害警戒区域内)

土砂災害警戒区域内または特別警戒区域内の急傾斜地にある擁壁・がけについて、補強設計等と対策工事に助成があります。対象となるのは、耐震診断で崩落・倒壊のおそれがあると判断された擁壁等で、擁壁の下端から高さの2倍以内、または上端から水平距離10メートル以内に建築物があること。補強設計・対策工事は原則として特別警戒区域の指定を解除できる水準であることが求められます。

あわせて擁壁等専門家派遣があります。1回の派遣につき専門家1名、2時間以内、同一の擁壁につき2回まで。擁壁の安全性の相談、耐震診断・補強設計・対策工事の相談、公的支援の検討まで見てもらえます。

管理組合として使う場合の実務ポイントを1つ。申請書類には、対象地内の擁壁が区分所有建物の敷地に存する場合で、申請者が管理組合の代表者以外のときは、区分所有者全員の承諾書が必要と定められています。逆に言えば、理事長名で申請すればこの書類が不要ということです。ここを知らずに進めて止まる組合が実際にあります。

(出典:豊島区「土砂災害警戒区域内における豊島区擁壁等対策工事等助成について」、豊島区「土砂災害警戒区域内における豊島区擁壁等専門家派遣」)

なお、この2つの制度のページは最終更新日が2025年3月であり、令和8年度の助成額・予算枠・受付期間については区ホームページ上で現行年度の記載が確認できませんでした。申請を検討される場合は、建築課構造審査グループ(03-3981-0614)へ令和8年度の運用を必ずご確認ください。


豊島区の管理組合が今週できる4つの確認

大がかりな話の前に、費用ゼロでできることから並べます。

  1. ハザードマップの版を確認する — 土砂災害ハザードマップのPDFは令和6年9月発行が最新で、令和8年6月24日の指定変更は反映されていません。高田・駒込周辺の組合は東京都の土砂災害警戒区域等マップで現況を確認してください
  2. 内水の浸水深を都の図で確認する — 区のPDFだけでは分かりません。東京都下水道局の雨水出水浸水想定区域図を見てください
  3. 区役所で過去の浸水実績を閲覧する — 本庁舎5階の防災課、または6階の道路整備課の窓口のみで閲覧できます。自分の建物の前の道路が過去に浸水していたかが分かります
  4. 屋上ドレン・バルコニー排水口・敷地の雨水桝・擁壁の水抜き穴を、実物で見る — 点検記録の紙ではなく、現物です。台風期のいまがいちばん適した時期です

この4つを終えてから診断や見積の話に進むと、業者への発注内容が具体的になり、結果として金額も下がります。順番の問題です。


よくあるご質問

Q. 豊島区は川から離れているので、水害の心配はいらないのでは?

A. 河川の氾濫(外水)による浸水想定が示されているのは高田1〜3丁目だけですが、雨水出水(内水)の想定は令和8年3月に水防法に基づいて作成済となっています。豊島区で実際に多いのは、下水道に入りきらない雨が道路と敷地に溜まるタイプの浸水です。川からの距離だけで判断しないでください。

Q. 漏水の原因調査はいくらくらいかかりますか?

A. 調査範囲によりますが、打診調査は1平方メートルあたり250〜500円程度が目安です。豊島区の分譲マンションであれば、計画修繕調査費助成で費用の2分の1・上限20万円の助成が使えます(令和8年度は4月1日受付開始・予算の範囲内)。無料で概算のお見積りをお出しできますので、まずはご相談ください。

Q. 足場を組まずに外壁を調べられますか?

A. できます。ロープアクセス工法なら足場を組まずに打診・近接目視・撮影まで行えます。隣地と離隔がない物件や、1階に店舗が入っていて営業影響を避けたい物件では特に有効です。詳細はロープアクセス工法のページをご覧ください。

Q. 工期はどれくらい変わりますか?

A. ロープアクセス工法なら足場工法の約60%の工期が目安です。10階建て・外周80メートルのマンションであれば、足場で3か月のところ、ロープアクセスで1.5〜2か月程度という感覚です。作業量と部位によって変動します。

Q. 擁壁の調査も大規模修繕に含められますか?

A. 含められます。ただし標準的な見積書では調査範囲から外れていることが多いので、見積依頼の段階で「擁壁と敷地排水を含む」と明記してください。豊島区の計画修繕調査費助成も対象調査に外構を含んでいます。

Q. 土砂災害警戒区域に指定されたら、何かしなければいけませんか?

A. 指定そのものが直ちに工事を義務づけるものではありません。ただし擁壁の安全性は確認しておくべきです。豊島区には擁壁等専門家派遣があり、専門家1名・2時間以内・同一擁壁につき2回まで相談できます。令和8年度の運用は建築課構造審査グループ(03-3981-0614)へご確認ください。

Q. 台風のあと、まず何を見ればいいですか?

A. 屋上ドレンのストレーナー(落ち葉よけの目皿)、バルコニー排水口、敷地の雨水桝、擁壁の水抜き穴の4か所です。この詰まりを取るだけで、次の大雨での漏水リスクはかなり下がります。管理員さんに依頼できる範囲の作業です。

Q. 賃貸マンションのオーナーでも相談できますか?

A. できます。むしろ収益物件では、漏水を1件起こすと原状回復費と空室期間の両方が効いてきます。資産価値維持の観点からの考え方はオーナー向けの提供価値にまとめています。漏水対応そのものについては漏水調査・補修のページもご覧ください。


まとめ:今週、豊島区の理事会で動けること3つ

  1. ハザード資料を最新版に差し替える — 土砂災害の指定は令和8年6月24日の都告示で変わっています。区配布のPDFは未反映です
  2. 内水の想定を都の図で確認する — 豊島区の水害リスクの本体は内水です。区のPDFだけでは浸水深が分かりません
  3. 屋上ドレン・バルコニー排水・雨水桝・擁壁の水抜き穴を実物で確認する — 費用ゼロで、効果がいちばん確実な作業です

豊島区は、高潮も津波もなく、河川の洪水想定も高田1〜3丁目に限られる区です。リスクの総量で言えば、23区のなかでは軽いほうだと思います。だからこそ、残った2つ——内水と擁壁——に的を絞れば、少ない投資で守り切れる区でもあります。「23区の平均的な修繕計画」をそのまま当てはめるより、豊島区の地形に合わせて順番を組み替えたほうが、確実に費用対効果が上がります。

ご相談だけでも遠慮なくお声がけください。総会の前段階の整理だけでも、お力になれることがあります。管理組合向けのご支援内容は管理組合向けサービス、ご相談はお問合せフォームからどうぞ。工法の技術面をもう一段深く確認されたい方は、ロープアクセスドットコムもあわせてご覧ください。

明誠のこれまでの施工事例(約6,000棟)は https://rita-construction.com/renew/blog/category/works/ からご覧いただけます。


出典・参考資料

本記事の情報の鮮度について:本記事は2026年9月19日時点で公表されている豊島区および東京都・国土交通省の公式情報をもとに執筆しています。制度は年度途中でも改正・予算終了があり得ます。特に擁壁等対策工事等助成および擁壁等専門家派遣については区ホームページの更新日が2025年3月であり、令和8年度の助成額・予算枠・受付期間は公式ページ上で確認できませんでした。実際に申請される前に、必ず豊島区および該当窓口(住宅・マンション課マンショングループ 03-3981-1385/建築課構造審査グループ 03-3981-0614)へ最新の内容をご確認ください。


この記事の執筆者

本間 幸紘(ほんま ゆきひろ)
株式会社明誠 代表取締役/東京都東大和市
マンション・ビル・ホテルの大規模修繕20年以上の実務経験。3工法(通常足場/ロープアクセス/ハイブリッド)から建物特性に応じて最適提案。日本初のロープアクセス工事フランチャイズ本部を運営。JCSA(一般社団法人 全国建設業支援協会)代表理事。

最終更新:2026年9月19日

杉並区のマンション漏水・防災対策|神田川・善福寺川・妙正寺川の3河川と6か所の土砂災害警戒区域から逆算する大規模修繕2026年度版

2026年9月19日 更新

杉並区の成田西で、築28年の分譲マンションの理事長さまから電話をいただいたことがあります。夏の夕立のあと、「1階の集会室の壁際が湿っている」と。屋上からの雨漏りだろうと思って伺ったのですが、上を見ても跡がない。結局、原因は建物の北側、道路との境にある高さ1.8メートルの擁壁でした。擁壁の裏に溜まった水が、水抜き穴の詰まりで逃げ場を失い、地中から1階の躯体へ回り込んでいたのです。

私は株式会社明誠の本間幸紘と申します。東京都東大和市を拠点に、20年近くマンション・ビル・ホテルの外壁と向き合ってきました。仮設足場を組む工事も、ロープ1本でぶら下がる無足場の工事も、どちらも現場でやってきた人間です。

杉並区は、23区のなかで「水のリスクの種類がいちばん少なく、そのぶん一点に集中している区」だと感じています。海に面していないので高潮も津波もない。埋立地もない。そのかわり、神田川・善福寺川・妙正寺川という3本の川が武蔵野台地を刻んだ谷筋に、リスクがきれいに集まります。

今日は、杉並区が公表している最新のハザード資料から逆算して、杉並区の分譲・賃貸マンションで先に手を打つべき漏水ポイントと、防災上の共用部の修繕優先度を整理します。


結論:杉並区は「高潮も津波もない代わりに、3本の川の谷底がすべてを決める区」です

先に結論から申し上げます。杉並区で大規模修繕の順番を決めるとき、私が最初に確認するのは屋上ではありません。自分の建物が台地の上にあるのか、川の谷底にあるのか、谷の縁の崖に接しているのかです。

杉並区は、高潮によるハザードマップを作成していません。津波災害警戒区域も区内にありません(出典:杉並区「わが家の水害ハザードマップ」/更新日 2026年5月27日)。湾岸区で最優先になる塩害・高潮対策は、杉並区ではほぼ考えなくてよい。そのぶん、リスクが3類型に絞り込めます。

立地 該当エリアの例 主なリスク 最優先の対策
善福寺川の谷底 堀ノ内・和田・成田西・成田東・松ノ木・荻窪の一部・西田 外水+内水氾濫(過去に約1,600棟の浸水) 地下・半地下の止水、逆流防止、受電設備の位置
神田川・妙正寺川の谷底 高円寺・阿佐谷・下高井戸・永福・浜田山の低地/清水・井草・下井草の一部 内水氾濫(下水道の能力超過) 開口部の止水、1階住戸の床下、排水ポンプ
谷の縁の急傾斜地 久我山・高井戸・堀ノ内・和泉の4地区(区内6か所指定) 土砂災害(がけ崩れ)・擁壁の劣化 擁壁改修、斜面側の排水と外壁

この3類型のどこに当たるかを、区のハザードマップで先に確定させる。それをやらずに「まず屋上防水から」と進めてしまうと、順番を1つ間違えるだけで数百万円が無駄になります。杉並区の理事会でいつも最初にお伝えしているのは、この一点です。


杉並区のハザードマップを1枚で読む

杉並区が公表している資料は、種類ごとの作成状況が公式に整理されています。管理組合の書類棚に、この表を1枚コピーして貼っておくだけで議論が早くなります。

種別 杉並区の作成状況 作成基準 備考
洪水(水害ハザードマップ) 作成済(令和8年3月改訂版) 想定最大規模降雨 外水(洪水)と内水(下水道の溢水)の両方を表示
高潮 作成していません ー 海に面していないため
津波 該当なし ー 区内に津波災害警戒区域はありません
土砂災害 作成済(令和8年5月29日更新) 土砂災害防止法 区内6か所が警戒区域、うち5か所が特別警戒区域

(出典:杉並区「わが家の水害ハザードマップ」、杉並区「土砂災害ハザードマップ」)

想定されている雨は「1時間153ミリ・総雨量690ミリ」

杉並区の水害ハザードマップが前提にしているのは、時間最大雨量153ミリメートル、総雨量690ミリメートルという想定最大規模の降雨が、杉並区全域に降った場合です。区内を流れる神田川・善福寺川・妙正寺川はいずれも神田川流域にあたり、都市型水害対策連絡会が作成した浸水予想区域図がベースになっています。

1時間153ミリという数字は、正直に申し上げてピンと来ないと思います。東京の下水道が標準で想定しているのは1時間50ミリ前後です。つまり設計値の3倍の雨を想定した図だ、ということです。

見落としやすい注意書きが1行あります

杉並区のページには、こう書かれています。「対象とした地域の河川及び下水道の整備状況:平成28年時点での整備状況です」。

つまり、この図は平成28年時点のインフラ前提でシミュレーションされたものです。そのあとに整備された和田堀公園調節池などの効果は、この色分けには反映されていません。逆に言えば、図の色より実際は少しマシかもしれないが、少なくとも図より悪くはならないという読み方をするのが安全です。私は理事会で、この1行を必ず読み上げるようにしています。

土砂災害は「6か所・4地区」と数が確定している

杉並区で発生するおそれのある土砂災害は、急傾斜地の崩壊(がけ崩れ)です。東京都が土砂災害防止法に基づき、区内6か所を土砂災害警戒区域に指定し、うち5か所が土砂災害特別警戒区域に指定されています。区のハザードマップでは、この6か所を久我山・高井戸・堀ノ内・和泉の4地区に分けて表示しています。

指定は固定ではありません。令和6年10月18日には、和泉4丁目18番の一部について特別警戒区域および警戒区域の解除が東京都から公表されています。指定は増えることも減ることもあるので、10年前の資料で「うちは関係ない」と判断するのはやめていただきたい。これは私の切実なお願いです。

令和8年5月29日から、警報の呼び方が変わりました

もう一点、実務に直結する変更があります。令和8年5月29日から気象庁の新たな防災気象情報の運用が始まり、従来の「土砂災害警戒情報」は「警戒レベル4土砂災害危険警報」に相当する情報として発表されるようになりました。情報の性質・意味そのものに変更はありません(出典:気象庁「新たな防災気象情報について」)。

管理規約の別表や防災マニュアルに旧称のまま書いてある管理組合が、いま非常に多い。次の総会資料を作るときに、ここだけは差し替えをおすすめします。


杉並区の地形と、漏水事故の関係

善福寺川の谷:区内でいちばん実績のある浸水エリア

善福寺川流域では、これまで度重なる浸水被害が発生してきました。杉並区が公表している数字では、平成17年9月の集中豪雨で約1,600棟、平成26年7月の集中豪雨で約60棟の浸水被害です(出典:杉並区「善福寺川流域の浸水対策について」/更新日 2026年7月17日)。

平成17年9月4日の豪雨は、私が同業の先輩から何度も聞かされた「東京の水害の教科書」です。区内の観測所で1時間112ミリを記録し、神田川・環状七号線地下調節池が供用開始後はじめて満水になった。あのとき床上まで水が来たマンションの理事長さまが、いまも「あの日から、うちは1階の受電盤の話ばかりしている」とおっしゃっていたのが忘れられません。

現在は、都による河川の拡幅、環状七号線地下調節池(貯留量54万立方メートル)、下水道の和田・弥生幹線等の整備によって、浸水被害は大きく減少しています。ただし善福寺川で1時間50ミリ対応の護岸整備が完成している整備率は、令和6年度末時点で約63%です。残り4割弱は、まだ途中です。

そしていま、善福寺川上流地下調節池(約30万立方メートル規模)が動き出しました。令和8年5月から都立善福寺川緑地で準備工に着手しています。西荻北・上荻・善福寺・桃井・南荻窪・荻窪・宮前・高井戸東・成田西の各地内が事業区域です。この沿線に建物をお持ちの管理組合さまは、工事期間中の振動・仮囲い・搬出入路と、自分たちの大規模修繕の時期が重ならないかを、いまのうちに突き合わせておいたほうがいい。足場の設置計画そのものに影響します。

台地の上:浸水はしないが、雨水の「量」が変わった

杉並区の大部分は武蔵野台地の上です。標高差はゆるやかで、浸水想定のかからない街区も多い。ただ、台地の上だから安心、とは申し上げられません。

気象庁の統計では、1時間降水量50ミリ以上の短時間強雨の年間発生回数は、直近10年(2014〜2023年)平均が約330回で、統計開始初期の10年(1976〜1985年)平均の約226回と比べて約1.5倍に増えています(出典:気象庁「アメダスで見た短時間強雨発生回数の長期変化について」)。

これは、浸水しないエリアのマンションにとっても他人事ではありません。屋上ドレンとバルコニー排水の「単位時間あたりの処理能力」が足りなくなるからです。築30年の建物の排水計画は、30年前の雨を前提に設計されています。私が現場で見てきた漏水の何割かは、防水層の破断ではなく、単純に「流しきれずに溢れた」ことが原因でした。

谷の縁の崖:擁壁は「外壁」より先に劣化していることがある

冒頭の成田西の事例がまさにこれです。久我山・高井戸・堀ノ内・和泉の4地区に指定がありますが、指定されていない小規模な擁壁は区内のいたるところにあります。

擁壁の水抜き穴(内部に溜まった水を逃がす穴)が土や落ち葉で詰まると、擁壁の裏に水圧がかかります。これは擁壁自体の倒壊リスクであると同時に、隣接する建物の地中梁や1階床への漏水経路にもなります。大規模修繕の見積を取るとき、擁壁と敷地排水を調査範囲から外していないか。ここは理事会で一度確認してみてください。


大規模修繕で必ずチェックすべき漏水ポイント7つ

杉並区の物件で、私が調査時に必ず順番どおりに潰していく7か所です。上から順に、事故になったときの被害が大きい順です。

順 部位 見るポイント 放置したときの典型的な被害
1 屋上防水 立上りの端末シール、保護層の浮き、ふくれ 最上階住戸の天井漏水。全面改修で5,000〜8,000円/㎡が目安
2 ルーフドレン(屋上排水口) ストレーナーの詰まり、ドレン廻りの防水の切れ プール状態から一気に室内へ。杉並区は落葉樹が多く詰まりやすい
3 外壁のシーリング 打継ぎ目地・サッシ廻りの硬化、切れ、肉やせ 壁内浸水→鉄筋腐食→爆裂。10〜15年で必ず打替え検討
4 バルコニー床防水と排水 床のひび、ドレン詰まり、排水勾配の不良 下階バルコニーへの漏水。住戸間トラブルの最多原因
5 サッシまわり 下枠の水切り、額縁との取合い、ビス廻り 強風雨時だけ漏る「原因不明の漏水」の正体がここに多い
6 エキスパンションジョイント カバーの変形、止水シートの劣化 棟をまたぐ漏水。調査が最も難しく、放置されやすい
7 外部立上り・地中梁・擁壁 水抜き穴の詰まり、クラック、白華 1階住戸・集会室・機械室への地中からの回り込み

この7か所のうち、1〜6は外部からのアプローチで調査できます。そして外部アプローチの手段が、足場かロープアクセスか、という選択になります。

外壁塗装の㎡単価は3,500〜4,500円、外壁打診調査は250〜500円/㎡、防水改修は5,000〜8,000円/㎡が一般的な目安です。いずれも物件の規模・状態・立地で大きく変動しますので、参考値としてお読みください。実際の金額は必ず現地調査のうえでお出しします。料金の考え方は大規模修繕の料金の考え方にまとめています。


漏水の緊急対応で、ロープアクセスが強い理由

漏水対応でいちばん困るのは、原因箇所が特定できないのに、足場を組まないと近づけないという状況です。

10階建て・外周80メートルのマンションで、仮設足場を全面に組むと、費用は168万円前後、設置だけで1週間前後かかるのが一般的です。同じ範囲をロープアクセス工法(ビル外壁に産業用ロープで直接アプローチする無足場工法)で対応した場合、59万円前後まで下がるケースがあります。差額でおよそ109万円。数字はあくまで一例で、建物形状や作業内容で変わります。

ただ、緊急漏水対応で本当に効くのは金額ではありません。時間です。

  • 足場:仮設計画→近隣周知→資材搬入→組立で、着手まで最短でも数日〜1週間
  • ロープアクセス:屋上のアンカー・支点を確認できれば、当日中に降下して該当箇所を目視・散水試験できる

台風が過ぎた翌日、最上階から「昨日から天井にシミが広がっている」と連絡が来る。そのときに「まず足場のお見積りを」とお答えするのは、私はどうしても嫌なのです。原因が屋上防水なのかサッシなのか外壁クラックなのかを、その日のうちに切り分ける。それができるかどうかで、その後の工事金額が一桁変わることがあります。

株式会社明誠はこれまでに約6,000棟のマンション・ビル・ホテルの大規模修繕を手がけてきました。ロープアクセス工法での高所作業について、明誠および全国のフランチャイズ加盟企業では過去16年間、墜落による労働災害はゼロを維持しています。IRATA(国際産業ロープアクセス協会)水準の技能訓練を受けた作業員が、ISO9001の品質マネジメント体制のもとで作業にあたります。

工法そのものの技術的な仕組み・安全基準・訓練内容については、同業者向けの姉妹サイトロープアクセスドットコムで詳しく解説しています。管理組合さまが業者を比較検討されるとき、「この会社の言っていることは技術的に正しいか」を確かめる材料としてもお使いいただけます。

実際の漏水調査・補修の流れは漏水対応のご案内、工法の全体像はロープアクセス工法のご紹介をご覧ください。屋上や高所に人が上がらずに全景を押さえたい場合はドローン調査と組み合わせることもあります。

杉並区で特に効く場面:狭小敷地と、隣地に迫った建物

杉並区は住宅地としての成熟度が高く、敷地いっぱいに建っていて足場を組む余地がないマンション・ビルが非常に多い区です。隣地との離隔が50センチしかない。前面道路が4メートルで、道路使用許可の条件が厳しい。こういう物件では、そもそも足場という選択肢が取れないことがあります。

このとき、全面ロープアクセス、あるいは足場が組める面だけ足場、組めない面はロープアクセスというハイブリッド工法が効きます。私はこれを、必ずワンセットで提案するようにしています。3つの工法から選べるかどうかで、杉並区のような密集した住宅地では提案の幅がまったく変わります。


防災上の共用部:位置と、修繕の優先度

浸水リスクのあるマンションで、修繕積立金をどこから使うか。私の優先順位はこうです。

優先 共用部 杉並区で確認すべきこと 目安の対応
★★★ 受変電設備・キュービクル 地下または1階のピットにないか。浸水深0.5m以上の街区か かさ上げ、または上階・屋上への移設検討
★★★ 給水ポンプ・受水槽 地下ポンプ室の位置、排水ポンプの実働確認 止水板、逆流防止弁、非常用電源の確保
★★☆ エレベーター機械室・ピット ピット内の湧水、感水検知装置の有無 冠水時管制運転の設定確認
★★☆ 自家発電設備・燃料タンク 浸水想定区域内の地下設置でないか 位置の見直し、防水扉
★★☆ 地下駐車場・機械式駐車場ピット 排水ポンプの能力と非常電源 逆流防止、ピット排水の点検周期短縮
★☆☆ 避難通路・外階段 段差、手すりの腐食、夜間照明 大規模修繕とあわせて更新

国土交通省は「建築物における電気設備の浸水対策ガイドライン」を公表しており、電気室の浸水対策の考え方が整理されています。地下空間については「地下空間における浸水対策ガイドライン」もあります。この2つは、理事会で技術的な議論をするときの共通言語として非常に使えます。

私の経験上、いちばん多い落とし穴は「点検記録はあるが、排水ポンプを実際に動かしたことが数年ない」というパターンです。紙の上では正常でも、いざというときに起動しない。台風期のいま、1度だけ実働させてみてください。費用はかかりません。

賃貸・オーナー物件で共用部の優先順位をどう決めるかはビルオーナー向けのご案内、分譲マンションの管理組合さま向けは管理組合向け大規模修繕のご案内にまとめています。


杉並区で使える水害対策の助成制度(令和8年度)

杉並区は、水害対策の助成メニューが23区のなかでも手厚い区です。ただし対象者の条件をよく読む必要があります。

防水板設置工事費の助成

住宅・店舗・事務所などの地下出入口に防水板を設置する場合、工事費用の4分の3、1つの建物につき上限100万円が助成されます(千円未満切捨て)。防水板はJISの定める止水性能の等級がWs-3相当以上であること、取り外し・移動が可能なものであることが条件です。内外壁の防水工事や土間コンクリート打設などの関連工事も対象に含まれます(出典:杉並区「防水板設置工事費の助成」/更新日 2026年4月1日)。

注意点を正直に申し上げます。この制度の助成対象者は「個人が使用する建築物に防水板の設置および関連工事を行う個人」と明記されています。分譲マンションの管理組合が申請主体になれるかどうかは、この文面だけでは読み切れません。必ず事前相談の段階で、土木計画課(03-5307-0739)に管理組合として使えるかを確認してください。計画の段階で相談すること自体が、この制度の手続きの第1ステップとして定められています。

水害予防住宅 高床化工事の助成

浸水想定0.5メートル以上の箇所を含む街区で、住宅などを高床にする工事に対する助成です。新築・増改築の場合は高床部分の床面積×標準工事費単価×2分の1で上限200万円。標準工事費単価は鉄筋コンクリート造で1平方メートルあたり40,000円、鉄骨造64,000円、木造77,000円です。揚家の場合は工事費の2分の1で上限200万円(出典:杉並区「水害予防住宅 高床化工事の助成」/更新日 2023年4月18日)。

こちらは区ホームページの更新日が2023年4月18日で、助成対象地域の基準も「わが家の水害ハザードマップ(平成31年4月作成)」と記載されています。令和8年3月改訂版のマップとの関係を含め、令和8年度の運用は必ず窓口で確認してください。既存マンションの大規模修繕で使う場面は限られますが、建て替え・附属棟の計画がある組合は検討の余地があります。

雨水浸透施設工事費の助成

雨水浸透ますなどを設置する個人を対象に、費用の一部が助成されます。杉並区は建物の新築・増改築の際に雨水流出抑制施設の設置を求めており、区内の流域対策の目標値は令和19年度までに62万7千立方メートルと設定されています。大規模修繕にあわせて敷地の排水計画を見直す組合には、あわせて検討していただきたいメニューです。

耐震化支援(マンション・ビル)

昭和56年5月以前に建てられた木造以外の建物については、耐震診断・補強設計・耐震改修の費用の一部助成と、無料のアドバイザー派遣があります(出典:杉並区「木造以外の建物の耐震化に関する助成制度」)。防災という観点では、漏水対策より先にこちらが来る建物もあります。


よくあるご質問

Q. うちのマンションが浸水想定区域かどうか、どうやって調べればいいですか?

A. 杉並区の電子地図サービス「すぎナビ」のわが家の水害ハザードマップで、住所から拡大して確認・印刷できます。紙のマップは土木計画課(区役所西棟4階)と各区民事務所でも配布しています。国土交通省の重ねるハザードマップで洪水・土砂災害を重ねて見るのもおすすめです。

Q. 漏水の原因調査だけをお願いすることはできますか?

A. できます。むしろ、その段階でご相談いただくほうが最終的な工事費は下がります。ロープアクセスであれば足場を組まずに当日中の降下調査が可能なケースが多く、屋上防水・サッシ・外壁クラックのどれが原因かを切り分けてから工事範囲を決められます。

Q. 足場とロープアクセス、費用はどれくらい違いますか?

A. 10階建て・外周80メートル・工期3か月規模の例では、仮設足場168万円に対しロープアクセス59万円程度と、100万円超の差が出ることがあります。ただし全面塗替えのように足場のほうが効率的な工事もあります。部位ごとに使い分けるハイブリッド工法で最適化するのが、私の基本の考え方です。

Q. 工期はどれくらい短くなりますか?

A. ロープアクセス工法は足場工法の6割程度の工期で完了するのが目安です。10階建て・外周80メートルのマンションであれば、足場3か月に対しロープアクセス1.5〜2か月が目安になります。足場の組立・解体期間そのものが不要になるためです。

Q. 杉並区は敷地が狭い物件が多いのですが、足場が組めない場合はどうなりますか?

A. 隣地との離隔が取れない、前面道路が狭いといった理由で足場が組めない物件こそ、ロープアクセス工法が本領を発揮します。屋上に支点を取れるかどうかが判断の分かれ目になりますので、まず屋上の状況を拝見させてください。

Q. 善福寺川上流地下調節池の工事期間中でも、大規模修繕はできますか?

A. できますが、事業区域内であれば工程調整が必要です。仮囲い・搬出入路・作業時間帯が競合する可能性があります。工事工程は善福寺川上流地下調節池の公式サイトで公開されていますので、修繕委員会の初回で一度突き合わせることをおすすめします。

Q. 擁壁の調査も大規模修繕に含められますか?

A. 含められます。ただし標準的な見積書では調査範囲から外れていることが多いので、見積依頼の段階で「擁壁と敷地排水を含む」と明記してください。杉並区は谷の縁に擁壁を持つ物件が多く、ここを飛ばすと1階住戸の漏水原因にたどり着けないことがあります。

Q. 台風のあと、まず何を見ればいいですか?

A. 屋上ドレンのストレーナー(落ち葉よけの目皿)、バルコニー排水口、擁壁の水抜き穴の3か所です。この3つの詰まりを取るだけで、次の大雨での漏水リスクはかなり下がります。管理員さんに依頼できる範囲の作業です。


まとめ:今週、杉並区の理事会で動けること3つ

  1. 管理室のハザードマップの版を確認する — 水害ハザードマップは令和8年3月改訂版が最新です。古ければ土木計画課(区役所西棟4階)または各区民事務所で差し替えを
  2. 防災マニュアルの「土砂災害警戒情報」の表記を直す — 令和8年5月29日から「警戒レベル4土砂災害危険警報」に相当する情報として運用されています。久我山・高井戸・堀ノ内・和泉の4地区に該当する組合は特に
  3. 屋上ドレン・バルコニー排水・擁壁の水抜き穴を、実際に見て詰まりを取る — 点検記録の紙ではなく、実物です。台風期のいまがいちばん適した時期です

杉並区は、高潮も津波もない代わりに、神田川・善福寺川・妙正寺川という3本の川がつくった谷筋と、その縁の崖が水の動きをすべて決めている区です。リスクの種類が少ないぶん、当たっているかどうかがはっきり分かれる。だからこそ、「23区の平均的な修繕計画」をそのまま当てはめるのがいちばん危ない区でもあります。自分の建物がどこに立っているかを地図で確定させることから、修繕の議論を始めていただきたいと思います。

ご相談だけでも遠慮なくお声がけください。総会の前段階の整理だけでも、お力になれることがあります。収益不動産としての資産価値維持の考え方はオーナー向けの提供価値、ご相談はお問合せフォームからどうぞ。技術面をもう一段深く確認されたい方は、ロープアクセスドットコムの技術解説もあわせてご覧ください。

明誠のこれまでの施工事例(約6,000棟)は https://rita-construction.com/renew/blog/category/works/ からご覧いただけます。


出典・参考資料

本記事の情報の鮮度について:本記事は2026年9月19日時点で公表されている杉並区および国土交通省・気象庁・東京都の公式情報をもとに執筆しています。制度は年度途中でも改正・予算終了があり得ます。特に高床化工事助成については区ホームページの更新日が2023年4月18日であり、令和8年度の運用内容は窓口でのご確認が必要です。実際に申請される前に、必ず杉並区および該当窓口へ最新の内容をご確認ください。


この記事の執筆者

本間 幸紘(ほんま ゆきひろ)
株式会社明誠 代表取締役/東京都東大和市
マンション・ビル・ホテルの大規模修繕20年以上の実務経験。3工法(通常足場/ロープアクセス/ハイブリッド)から建物特性に応じて最適提案。日本初のロープアクセス工事フランチャイズ本部を運営。JCSA(一般社団法人 全国建設業支援協会)代表理事。

最終更新:2026年9月19日

豊島区のマンション管理計画認定制度|区への手数料は3,900円。ただし独自基準3つ(防災・名簿・町会)が関門です【2026年度版】

豊島区でマンション管理計画認定の相談をいただくと、話はたいてい同じところで止まります。「事前確認適合証はもう取った。それなのに、区から名簿と町会の書類を出してくださいと言われた」。

これは手続きの行き違いではありません。豊島区は、国の認定基準に加えて豊島区独自の認定基準を設けている区だからです。区の公式ページにも「公益財団法人マンション管理センターでは、区独自の認定基準の適合確認は行いません。事前確認適合証を受けた場合であっても、豊島区独自の認定基準に適合しない場合は認定が受けられません」とはっきり書かれています(出典:豊島区「豊島区マンション管理計画認定制度」/更新日:2026年8月14日)。

一方で、豊島区は費用の面では取りに行きやすい区です。マンション管理センターの支援サービスを使って申請すれば、区への基本手数料は3,900円。23区のなかでも低い水準です。

つまり豊島区の管理計画認定は、「お金の関門は低いが、書類の関門が3つある」という構造になっています。この記事では、その3つの関門が具体的に何で、理事会が何を用意すればいいのかを整理します。あわせて、令和9年4月1日に控える国の認定基準見直しと、豊島区が独自に持つ計画修繕調査費助成(費用の2分の1・20万円限度)の使い方までお伝えします。

私は大規模修繕の施工会社の人間で、認定申請の代行はしません。ただ、認定基準の中心にある長期修繕計画・修繕積立金・計画的な修繕の実施は、私が20年以上、豊島区を含む都内の現場で向き合ってきた項目そのものです。パンフレットには書かれない「どこでつまずくか」を、豊島区に絞ってお伝えします。

結論:豊島区は区手数料3,900円・独自基準3つ。実費は約2.4万円から

先に数字から整理します。豊島区で管理計画認定を取るときに、実際に出ていくお金は次のとおりです。

費用の項目 金額 支払先
豊島区への基本手数料(支援サービス利用の場合) 3,900円 豊島区
同/長期修繕計画が複数ある場合の加算(2件目以降1件あたり) 1,600円 豊島区
豊島区への基本手数料(区に直接申請する場合) 29,500円 豊島区
同/長期修繕計画が複数ある場合の加算(2件目以降1件あたり) 15,900円 豊島区
(公財)マンション管理センターへの申請手数料 20,000円 マンション管理センター
合計の目安(支援サービス利用・長期修繕計画1本) 約23,900円 ―

出典はいずれも豊島区「豊島区マンション管理計画認定制度」(更新日:2026年8月14日)です。

この表で目を引くのは、支援サービス経由(3,900円)と区への直接申請(29,500円)で、区の手数料が7.5倍以上違うという点です。区が事前確認を代行せず自前で全項目を審査する分、直接申請のほうが高く設定されています。豊島区の場合、センターへの20,000円を足しても支援サービス経由のほうが安い計算になります(3,900円+20,000円=23,900円 対 29,500円)。長期修繕計画が複数ある団地型では、その差はさらに開きます。

理事会での結論としては、特別な事情がなければ支援サービス経由が合理的です。ただしどちらのルートでも、豊島区独自基準の書類は別途そろえる必要があります。ここが次章の本題です。

なお私はいつも理事長さまに、こうお伝えしています。「認定でお金がかかるのは申請手数料ではなく、認定基準に届いていない項目を直す費用のほうです」。長期修繕計画が古ければその見直し費用、修繕積立金が足りなければ増額の合意形成。時間と労力の大半はそちらにかかります。手数料の2万円台は、正直なところ最後の会計処理にすぎません。

豊島区独自の認定基準3つ|ここが本当の関門

豊島区の独自基準は、「豊島区マンション管理適正化指針に照らして適切なものであること」という枠で定められています。認定申請書(別記第1号様式(豊島区))の第六面と、管理組合が作成する表明保証書で確認される仕組みです。中身は次の3つです。

独自基準①:災害時の対応(防災への取組)

内容:マンション代表者等は、防災用品の備蓄、定期的な防災訓練の実施、当該マンションの実情に応じた防災に関する手引の作成を行い、居住者等への周知徹底を図るよう努めていること。

確認方法:別記第1号様式 第六面「1.防災への取組」のいずれかの項目が「有」であること。

ここは「すべて満たすこと」ではなく「いずれかの項目が有」である点がポイントです。備蓄・訓練・防災手引のうち、実際にやっているものが1つでもあれば要件を満たします。すでに年1回の消防訓練をしている組合なら、追加でやることはほぼありません。

独自基準②:3種類の名簿を備え、年1回以上更新していること

内容:組合員名簿(区分所有者名簿)、居住者名簿、災害時要支援者名簿の3つを備え、それぞれ年1回以上、内容を確認・更新していること。

確認方法:管理組合が作成する表明保証書に、3つの名簿を備え年1回以上更新している旨と、マンションの名称・所在地が記載されていること。

ここが最大の関門です。区の確認資料には「3つのうちいずれか一つが欠けている場合は本項目に該当しない」と明記されています。国の認定基準では組合員名簿・居住者名簿の2種類で足りますが、豊島区は災害時要支援者名簿を追加で求めます。この1本が抜けていて止まる組合を、私は実際に見ています。

「更新」の意味も定義されています。名簿の内容を確認したうえで、変更があれば反映する作業を年1回以上行っていること。作りっぱなしで5年放置、という状態は更新に当たりません。理事の改選期に合わせて毎年確認する運用にしておくのが現実的です。

独自基準③:地域コミュニティの形成(町会・自治会との協議)

内容:マンション代表者等および居住者等が、地域住民との良好なコミュニティの形成に取り組むよう努めていること。町会・自治会に加入していないマンションの代表者は、町会・自治会と加入等について協議していること(※加入そのものは任意)。

確認方法:表明保証書。ただし区が示す「基準を満たしていると判断できる例」に当たらない場合は、町会・自治会加入等協議報告書(別記第2号様式)が必要になり、管理組合と町会・自治会の双方の署名が要ります。

区が示している「満たしていると判断できる例」は次のとおりです。

  • 例1:管理組合員と町会との関係について総会等で議決が行われている(「管理組合全体で町会加入する」「町会加入は各区分所有者の任意とする」など)
  • 例2:管理規約の中に地域コミュニティ(町会)との良好な関係の構築に関する規定がある
  • 例3:管理組合全体で町会に加入している
  • 例4:管理組合員が各個人の判断で町会に加入している

区の判断基準は「町会に入っているかどうか」ではなく、「町会との関係について管理組合の中で議論され、一定の結論が出ているかどうか」です。無関心であることが問題とされています。例4まで含まれていますから、実務上はハードルが高いとは言えません。ただし例1〜4のいずれにも当たらない場合は、町会・自治会に出向いて協議し、双方の署名入りの報告書を作る必要があります。これは日程調整の分だけ時間がかかります。申請の3カ月前には着手しておきたい項目です。

独自基準の手続きで理事会がやること(区の整理)

豊島区は、支援サービス経由で申請する場合に申請担当者が行うことを3点に整理して公表しています。

  1. 豊島区が発行した納付書を用いて、近くの金融機関で申請手数料を納付する
  2. 認定申請書(豊島区の独自基準が反映された書式:別記第1号様式(豊島区))に必要事項を記入し、豊島区に提出する
  3. 豊島区独自基準に関する事項を反映した表明保証書を作成し、豊島区に提出する

手数料が納付書払いである点に注意してください。オンラインで完結せず、金融機関に出向く工程が1つ入ります。

豊島区に申請できるマンション・できないマンション

申請できるのは、豊島区内に所在する分譲マンションです。ワンオーナーの賃貸マンションは対象外と明記されています。申請主体は管理組合の管理者等で、あらかじめ集会(総会)で認定申請を行う旨の決議を得ておく必要があります(豊島区マンション管理計画認定制度に関する事務取扱要綱 第3条)。臨時総会でも構いません。

賃貸オーナーさまの物件は認定制度の対象外ですが、計画的な修繕によって資産価値を保つという考え方は同じです。収益不動産オーナーさま向けのご提案もご用意しています。

豊島区ならではの前提|マンション管理推進条例の届出義務

豊島区の管理組合には、認定制度とは別に、条例に基づく届出義務があります。

豊島区マンション管理推進条例は、区内の分譲マンションに「マンション管理状況届出書」の提出を義務づけています(出典:豊島区「豊島区マンション管理推進条例」/更新日:2026年3月5日)。1棟オーナーの賃貸マンションは除かれ、また「東京におけるマンションの適正な管理の促進に関する条例」の届出対象マンションも除かれます。

区の同ページには「マンションは、区民の7割が居住する主要な居住形態となっています」と記されています。区としてマンション管理を重点政策に置いている背景が、この条例にも独自基準にも表れています。

届出書は押印不要・添付書類不要で、持参・郵送・メール(A0022901@city.toshima.lg.jp)のいずれでも提出できます。様式は別記第1号様式(マンション管理状況届出書兼変更届出書)です。

実務上ここで申し上げたいのは、この届出をきちんと出してきた組合は、管理計画認定の独自基準にすでに半分近く届いているということです。届出の過程で管理規約・長期修繕計画・名簿の整備状況を棚卸ししているからです。逆に届出が長年止まっている組合は、認定以前に現状把握から始めることになります。まずは届出の最終提出日を確認してください。

認定基準の17項目|国基準の骨格

豊島区の独自基準は、あくまで国の基準への上乗せです。土台になる国の認定基準(5分野17項目)を整理します。

1. 管理組合の運営(3項目)

  • 管理者等が定められていること
  • 監事が選任されていること
  • 集会(総会)が年1回以上開催されていること

監事の選任忘れが意外と多いつまずきです。規約上は置くことになっているのに、長年空席のまま回している組合を何度も見てきました。総会議事録で確認できる状態にしておいてください。区の確認資料では、議事録の有効性を「区分所有法第42条における議長および議長が指名する2名の署名(または電子署名)」で確認するとされています。署名欄が空白の議事録は、それだけで差し戻しになり得ます。

2. 管理規約(3項目)

  • 管理規約が作成されていること
  • 災害等の緊急時や管理上必要なときの専有部分への立入り、修繕等の履歴情報の管理等について規約に定められていること
  • 管理組合の財務・管理に関する情報の書面交付(または電磁的方法による提供)について規約に定められていること

標準管理規約(単棟型)でいえば第23条、第32条第6号、第64条第3項に相当する規定です。ここは規約改正が必要になるケースが多く、規約改正は特別決議(区分所有者および議決権の各4分の3以上)ですから、総会1回では終わらないこともあります。

3. 管理組合の経理(3項目)

  • 管理費および修繕積立金等について明確に区分して経理が行われていること
  • 修繕積立金会計から他の会計への充当がされていないこと
  • 直前の事業年度終了日時点で、修繕積立金の3カ月以上の滞納額が全体の1割以内であること

区分経理の確認書類は貸借対照表および収支計算書に限定されており、預金通帳では認められません。区の確認資料に明記されています。

4. 長期修繕計画の作成および見直し等(6項目)

ここが本丸です。

  • 長期修繕計画が「長期修繕計画標準様式」に準拠して作成され、その内容と算定された修繕積立金額が総会で決議されていること(19工事項目、修繕積立金の月当たり㎡単価など10要素を含むこと)
  • 長期修繕計画の作成または見直しが7年以内に行われていること
  • 計画期間が30年以上で、かつ残存期間内に大規模修繕工事が2回以上含まれるように設定されていること
  • 将来の一時的な修繕積立金の徴収を予定していないこと
  • 計画期間全体での修繕積立金の平均額が著しく低額でないこと
  • 計画期間の最終年度において借入金の残高がない計画であること

「残存期間」の起算日は認定申請日です。10年前に作った30年計画をそのまま出すと、残り20年に大規模修繕が2回入らず落ちる、というのがよくあるパターンです。計画期間そのものの延長が必要になります。

5. その他(豊島区ではここに独自基準が入る)

国基準では組合員名簿・居住者名簿の整備が中心ですが、豊島区ではここに前述の防災・3名簿・町会協議が加わります。

認定の3つの経済効果|豊島区で取ると何が変わるか

豊島区の公式ページは、認定のメリットとして次を挙げています。

  • 区分所有者の管理意識が高く保たれ、管理水準を維持向上しやすくなる
  • 一定水準以上の管理がされているマンションとして市場で評価される
  • 認定取得後に大規模修繕工事を行った場合、その翌年度の固定資産税(建物部分)が減額される
  • 住宅金融支援機構の【フラット35】およびマンション共用部分リフォーム融資の金利引き下げ等が適用される

① マンション長寿命化促進税制(固定資産税の減額)

管理計画認定マンションが長寿命化に資する大規模修繕工事を実施した場合、その翌年度の固定資産税(建物部分)が減額される制度です(出典:国土交通省「マンション税制」)。東京都内の物件については東京都主税局のページもあわせてご確認ください。

適用期限にご注意ください。 当初の適用期限は令和7年3月31日でしたが、令和7年度税制改正で2年間延長され、現在は令和9年3月31日までとされています。延長がさらに行われるかどうかは、現時点では確定していません。工事の実施時期が令和8年度中に収まるかどうかは、理事会の判断材料になります。

手続きには「大規模の修繕等証明書」「過去工事証明書」「修繕積立金引上証明書」といった様式が必要です。様式は国土交通省のページからダウンロードできます。工事が終わってから慌てて証明書を集めるのは避けてください。施工者側で証明できる項目がありますので、契約前の段階で施工会社に「長寿命化促進税制の証明書に対応できるか」を確認しておくのが確実です。

② 住宅金融支援機構の融資・債券での優遇

管理計画認定マンションには、【フラット35】の金利引下げ、【フラット50】の利用、マンション共用部分リフォーム融資(マンションすまい・る融資)の金利引下げ、マンションすまい・る債の利率上乗せが用意されています(出典:住宅金融支援機構「マンション共用部分リフォーム融資」)。

大規模修繕で借入れを使う予定がある組合にとっては、金利引下げの効果が手数料23,900円を大きく上回ることがあります。借入額が大きいほど効果も大きくなります。

③ 市場での評価(売却時の説明材料)

認定を受けたマンションは、豊島区のホームページおよび(公財)マンション管理センターの管理計画認定マンション一覧で公表されます(管理者等が公表を希望した場合のみ)。不動産情報サイトのアットホーム「建物ライブラリー」にも情報が掲載されます。

池袋・大塚・巣鴨・目白といった豊島区の中古マンション市場は、築年数の幅が広く、同じ駅・同じ築年で複数の物件が売りに出る場面が珍しくありません。そのときに「管理計画認定マンション」という一行が資料に載るかどうかは、区分所有者にとって無視できない差になります。

豊島区で使えるもう1つの制度|計画修繕調査費助成

認定制度と直接の関係はありませんが、豊島区には大規模修繕の前段階で使える助成があります。分譲マンション計画修繕調査費助成です(出典:豊島区「分譲マンション計画修繕調査費助成」/更新日:2026年3月10日)。

項目 内容(令和8年度)
対象 豊島区内の分譲マンション管理組合
要件 建築後8年以上経過/管理規約が整備されている/集会で調査実施を決議済み/過去10年以内に本助成を受けていない
助成額 計画修繕調査に要する費用の2分の1(20万円限度)
受付開始 令和8年4月1日から(予算の範囲内。予算超過で受付終了)
注意 助成金の申請は調査の契約締結前、調査完了は年度内のものが対象

対象になる調査は、大規模修繕工事のため、または長期修繕計画の作成・更新のために調査業者へ委託して実施する劣化診断調査です。調査対象箇所は外壁(塗装・タイル)、防水(屋上・ルーフバルコニー・開放廊下・屋外階段)、鉄部塗装、外構、給排水設備、電気設備、消防設備、エレベーター、機械式駐車場と広く取られています。

実務上、この助成は管理計画認定と相性が良い制度です。認定基準の「長期修繕計画の作成または見直しが7年以内」を満たすために計画を見直すなら、その根拠となる劣化診断の費用が半分戻る計算になります。順序としては、①劣化診断(助成申請は契約前)→②長期修繕計画の見直しと総会決議→③管理計画認定の申請、という流れが無駄がありません。

ただし注意点が2つあります。契約を結んでしまってからでは申請できないこと、そして予算枠に達すると受付が終了することです。調査会社と話を進める前に、住宅・マンション課マンショングループ(03-3981-1385)へ事前相談を入れてください。区も「申請前には必ずお問い合わせください」と明記しています。

なお、豊島区には分譲マンション建替え・改修アドバイザー制度利用助成(東京都のアドバイザー派遣を利用する際、派遣料の3分の2を助成)もあります。建替えか改修かを検討する段階の組合は、こちらも窓口でご確認ください。

令和9年4月1日の基準見直しをどう考えるか

国は、令和7年のマンション関係法改正を受けて、管理計画認定制度の拡充と認定基準の見直しを行いました。

  • マンションの管理の適正化の推進に関する法律施行規則等の一部を改正する省令(令和8年国土交通省令第70号)/令和8年7月31日公布、令和9年4月1日施行
  • マンションの管理の適正化の推進を図るための基本的な方針の一部を改正する告示(令和8年国土交通省告示第1017号)/令和8年7月31日公布、令和9年4月1日施行

出典は国土交通省「マンション管理計画認定制度」です。

重要なのは、国交省が「地方公共団体への申請日が令和9年4月1日以降となる場合は、見直し後の認定基準が適用されます」と明記している点です。基準日は工事日でも決議日でもなく、区への申請日です。

令和9年4月以降は、分譲時に分譲事業者が管理計画を作成して管理組合の管理者等に引き継ぐ仕組みが導入され、分譲事業者が申請者となる場合の認定基準が新たに定められます。既存の管理組合が申請者となる場合の基準についても見直しが行われます。改正省令の附則では経過措置も設けられています。

ここで誤解していただきたくないのは、「新基準が厳しくなるから急げ」という話ではないということです。見直しの内容は公表されていますので、理事会として必要なのは次の判断です。

  • 令和8年度中(区への申請日が令和9年3月31日まで)に出し切るなら、現行基準で審査を受けられる
  • 長期修繕計画の見直しに時間がかかり、どうしても令和9年度にまたがるなら、新基準を前提に計画を組み直す

どちらが有利かは物件の状況によります。ただ、豊島区の場合は独自基準の書類(とくに町会・自治会加入等協議報告書が必要なケース)に日数がかかりますので、令和8年度中に出し切るつもりなら、逆算するともう時間の余裕は多くありません。

逆算スケジュール|豊島区で令和8年度中に申請を出し切るには

区への申請日を令和9年3月中旬に置いた場合の目安です。

時期 やること
2026年9〜10月 住宅・マンション課マンショングループへ事前相談(豊島区は事前相談が必須)。独自基準3項目の現状を確認
2026年10〜11月 3種類の名簿(組合員・居住者・災害時要支援者)の整備と更新。町会・自治会との関係を理事会で整理し、必要なら協議を申し入れる
2026年11〜12月 長期修繕計画の作成日を確認。7年を超えていれば見直しに着手(劣化診断が必要なら計画修繕調査費助成の事前相談も並行)
2027年1〜2月 総会で「管理計画認定申請の件」と、必要なら長期修繕計画・修繕積立金の改定を決議
2027年2月 (公財)マンション管理センターへ事前確認申請 → 事前確認適合証の交付
2027年3月上旬 豊島区発行の納付書で手数料3,900円を納付。別記第1号様式(豊島区)+表明保証書+独自基準の確認書類を提出

豊島区は「必ず申請準備中に豊島区独自の認定基準を確認し、マンショングループへの事前相談をお願いいたします」と、公式ページで2回にわたって求めています。これは形式的な案内ではありません。独自基準の書類は区でしか判断できないためです。まず電話を入れることが、この制度の実質的な第一歩です。

認定基準と大規模修繕はつながっている

ここからは施工会社としての話です。

認定基準のうち、私たちが実務で関わるのは「長期修繕計画の計画期間全体での修繕積立金の平均額が著しく低額でないこと」という項目です。これは国のマンションの修繕積立金に関するガイドラインが示す目安の下限値を上回っているかで判定されます。下回る場合は、マンション管理士や一級建築士など専門家の理由書が必要になります。

この基準を満たすための方法は、実は2つあります。

1つは、修繕積立金を増額すること。 多くの組合が最初に考える方法で、総会での合意形成が最大の山になります。

もう1つは、長期修繕計画に計上している将来の工事費そのものを見直すことです。こちらを検討していない組合が、私の実感ではかなり多い。

大規模修繕の総工費は、30戸規模のマンションで3,500万〜5,000万円程度がひとつの目安です(建物の規模・形状・劣化状況により大きく変動します)。そのうち仮設足場が占める割合は15〜25%。ここが工法によって動きます。

具体例で申し上げます。10階建て・外周80m・工期3カ月の物件で、通常の枠組足場を架設すると仮設費は168万円程度。同じ範囲をロープアクセス工法(無足場工法)で施工すると59万円程度で、差額は約109万円です。あくまで一例で、バルコニーの形状や近隣との離隔、工事範囲によって変わります。それでも、30年の長期修繕計画に大規模修繕を2回計上すれば、仮設費の差だけで200万円規模の違いが出る計算になります。

工事単価の目安も挙げておきます。

工種 ㎡単価の目安
外壁打診調査 250〜500円/㎡
外壁塗装 3,500〜4,500円/㎡
防水(屋上・開放廊下等) 5,000〜8,000円/㎡

いずれも目安であり、実際の見積は物件により大きく変動します。ただ、長期修繕計画に載っている概算が現在の相場から離れていないかを確認するには十分な材料になります。

株式会社明誠は、これまでに約6,000棟のマンション・ビル・ホテルの大規模修繕を手がけてきました。ロープアクセス工法での高所作業について、明誠および全国のフランチャイズ加盟企業では過去16年間、墜落による労働災害はゼロを維持しています。IRATA(国際産業ロープアクセス協会)水準の技能訓練を受けた作業員が施工にあたり、日本ロープ高所作業協会の事務局も担当しています。工法の技術的な詳細はロープアクセスドットコムで公開していますので、施工者選定の比較材料としてご覧ください。

明誠の工法の考え方はロープアクセス工法の技術詳細、費用の組み立て方については大規模修繕の料金の考え方にまとめています。

なお、池袋周辺のように前面道路が狭く、隣地との離隔が取りにくい物件では、足場の架設そのものに制約がかかることがあります。豊島区は23区のなかでも面積あたりの建物密度が高い区です。足場が組みにくい面をロープアクセスで、組める面は足場で施工するハイブリッド工法が現実解になる物件も少なくありません。3つの工法を比較したうえで判断できる体制を持っているかどうかは、施工会社を選ぶときの確認ポイントのひとつです。

よくあるご質問

Q. 豊島区の管理計画認定は、結局いくらかかりますか?

A. マンション管理センターの支援サービスを使う場合、豊島区への基本手数料3,900円+センターへの申請手数料20,000円で、合計約23,900円が目安です。区に直接申請する場合は区への手数料が29,500円になります。長期修繕計画が複数ある場合は、2件目以降1件あたり1,600円(直接申請なら15,900円)が加算されます。

Q. 事前確認適合証を取れば、豊島区の認定は確実に下りますか?

A. いいえ。豊島区は国基準に加えて独自の認定基準を設けており、マンション管理センターは独自基準の適合確認を行いません。事前確認適合証があっても、防災への取組・3種類の名簿の年1回更新・町会との協議という独自基準を満たしていなければ認定は受けられません。区への本申請時に、独自基準の確認書類を別途ご用意ください。

Q. 災害時要支援者名簿を作っていません。それでも申請できますか?

A. 現状のままでは独自基準②を満たしません。豊島区は組合員名簿・居住者名簿・災害時要支援者名簿の3つすべてを備え、年1回以上更新していることを求めており、1つでも欠けていれば該当しないと明記しています。名簿の整備と最初の更新を済ませてから申請してください。

Q. 町会に加入していないと認定は取れませんか?

A. 町会・自治会への加入そのものは任意です。区が見ているのは「町会との関係について管理組合の中で議論され、一定の結論が出ているか」という点です。総会で「加入は各区分所有者の任意とする」と議決していれば基準を満たす例として区が挙げています。いずれにも当たらない場合は、町会・自治会と協議のうえ、双方の署名が入った町会・自治会加入等協議報告書が必要です。

Q. 長期修繕計画が10年前のものです。認定は無理でしょうか?

A. そのままでは2項目に抵触します。「作成または見直しが7年以内」と、「残存期間内に大規模修繕工事が2回以上」です。見直しが必要ですが、その前段の劣化診断には豊島区の計画修繕調査費助成(費用の2分の1・20万円限度)が使える可能性があります。契約締結前の申請が条件ですので、調査会社と契約する前に区へご相談ください。

Q. 認定を取ると固定資産税はどれくらい下がりますか?

A. マンション長寿命化促進税制により、認定マンションが長寿命化に資する大規模修繕工事を行った場合、その翌年度の建物部分の固定資産税が減額されます。減額の割合や範囲は条例等で定められ、対象となる工事や証明書の要件も細かく決まっています。現行の適用期限は令和9年3月31日です。具体的な減額見込みは、東京都主税局および国土交通省の資料でご確認ください。

Q. 賃貸マンションのオーナーですが、認定は受けられますか?

A. 制度の対象は分譲マンションで、ワンオーナーの賃貸マンションは対象外です。ただし、計画的な修繕によって資産価値と収益性を維持するという考え方は同じです。収益不動産オーナーさま向けのご提案をご覧ください。

Q. 修繕積立金が足りず「著しく低額」と言われそうです。どうすればいいですか?

A. 積立金の増額が基本ですが、それだけではありません。長期修繕計画に計上している将来の工事費そのものを見直す方法もあります。足場費を含めた工法の選択で工事費が下がれば、必要な積立金の水準も変わります。総会に増額議案を出す前に、工事費の側から一度検証されることをおすすめします。

まとめ|豊島区の理事会が今週動くこと3点

豊島区は、費用の面では管理計画認定を取りやすい区です。支援サービス経由なら区への手数料は3,900円。一方で、独自基準3つ(防災・3名簿・町会協議)という書類の関門があります。止まるのはお金ではなく書類です。

今週動けることを3つに絞ります。

  1. 豊島区 住宅・マンション課マンショングループ(03-3981-1385)に電話で事前相談の予約を入れる。区が公式に事前相談を必須としています。確認するのは「独自基準3項目のうち、うちの組合で足りていないもの」の1点です。
  2. 名簿を3本そろえて開く。組合員名簿・居住者名簿・災害時要支援者名簿。1つでも欠けていれば、そこから着手してください。最後に更新した日付も確認します。
  3. 長期修繕計画の表紙の日付を見る。作成または見直しから7年を超えていれば、認定の前にまず見直しが必要です。劣化診断から始めるなら、契約前に計画修繕調査費助成(2分の1・20万円限度)の事前相談を。

管理組合向けのサービス内容は管理組合のみなさまへ、これまでの施工事例(約6,000棟)は施工事例一覧からご覧いただけます。足場を組むべき物件か、ロープアクセスで足りる物件か、両方を組み合わせるべきかの判断材料については、ロープアクセスドットコムの技術解説もあわせてご参照ください。

長期修繕計画に載せる工事費が妥当かどうかの概算検証は、無料でお出しできます。認定の相談だけでも構いません。お問い合わせフォームから遠慮なくお声がけください。総会の前段階の整理だけでも、お力になれることがあります。

出典・参考資料

  1. 豊島区「豊島区マンション管理計画認定制度」(更新日:2026年8月14日)
    https://www.city.toshima.lg.jp/322/machizukuri/sumai/kekaku/mansion/2305291410.html
  2. 豊島区「認定基準、確認対象書類、確認事項、確認方法及び留意点」(PDF/2026年8月14日掲載)
    https://www.city.toshima.lg.jp/documents/44615/20260814154147.pdf
  3. 豊島区「豊島区マンション管理計画認定制度に関する事務取扱要綱」(PDF)
    https://www.city.toshima.lg.jp/documents/44615/outline_nintei_toshima.pdf
  4. 豊島区「豊島区マンション管理推進条例」(更新日:2026年3月5日)
    https://www.city.toshima.lg.jp/322/machizukuri/sumai/kekaku/mansion/028729.html
  5. 豊島区「分譲マンション計画修繕調査費助成」(更新日:2026年3月10日)
    https://www.city.toshima.lg.jp/322/machizukuri/sumai/kekaku/mansion/030404.html
  6. 豊島区「分譲マンション建替え・改修アドバイザー制度利用助成」
    https://www.city.toshima.lg.jp/322/machizukuri/sumai/kekaku/mansion/000740.html
  7. 国土交通省「マンション管理計画認定制度」(令和9年4月1日施行関係を含む)
    https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/keikakunintei.html
  8. 国土交通省「マンション税制(マンション長寿命化促進税制)」
    https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000121.html
  9. 国土交通省「令和8年度税制改正概要」(令和7年12月)
    https://www.mlit.go.jp/page/content/001975596.pdf
  10. (公財)マンション管理センター「管理計画認定手続支援サービス」
    https://www.mankan.or.jp/11_managementplan/mpsupport.html
  11. (公財)マンション管理センター「管理計画認定マンション一覧」
    https://publicview.mankannet.or.jp/
  12. 東京都主税局「長寿命化に資する大規模修繕工事が行われたマンションに対する固定資産税の減額」
    https://www.tax.metro.tokyo.lg.jp/oshirase/2023/daikibo_syuzen.html
  13. 住宅金融支援機構「マンション共用部分リフォーム融資(マンションすまい・る融資)」
    https://www.jhf.go.jp/kanri/mansionreform_kanri/index.html
  14. 東京都マンションポータルサイト「マンション管理計画認定制度」
    https://www.mansion-tokyo.metro.tokyo.lg.jp/kanri/02kanrikeikaku-seido/

本記事の情報の鮮度について:本記事は2026年9月19日時点で公表されている豊島区および国土交通省・東京都の公式情報をもとに執筆しています。豊島区の管理計画認定制度のページは2026年8月14日更新、計画修繕調査費助成のページは2026年3月10日更新のものを参照しました。マンション長寿命化促進税制の適用期限(令和9年3月31日)は令和7年度税制改正による2年延長後の期限であり、さらなる延長の有無は本記事執筆時点で確定していません。制度は年度途中でも改正・予算終了があり得ます。実際に申請される前に、必ず豊島区都市整備部住宅・マンション課マンショングループ(03-3981-1385)および該当窓口へ最新の内容をご確認ください。

この記事の執筆者

本間 幸紘(ほんま ゆきひろ)
株式会社明誠 代表取締役/東京都東大和市
マンション・ビル・ホテルの大規模修繕20年以上の実務経験。3工法(通常足場/ロープアクセス/ハイブリッド)から建物特性に応じて最適提案。日本初のロープアクセス工事フランチャイズ本部を運営。JCSA(一般社団法人 全国建設業支援協会)代表理事。

最終更新:2026年9月19日

※本記事は制度の概要を解説するものであり、個別の申請可否を保証するものではありません。記載の金額はいずれも目安であり、実際の工事費は建物の規模・形状・劣化状況により大きく変動します。

杉並区のマンション管理計画認定制度|区への手数料は当面無料・独自の上乗せ基準なし。令和9年4月の基準見直し前が動きどきです【2026年度版】

杉並区の理事長さまから、先月こんなご相談をいただきました。「隣の渋谷区は今年から独自の基準ができたと聞いた。うちも防災マニュアルを作らないと認定は取れないのか」。

結論からお伝えします。杉並区の認定基準は、国が定める基準と同一です。区の公式ページにも「杉並区の基準は、国が定めるマンション管理適正化指針の基準と同一の内容です」と明記されています(出典:杉並区「マンション管理計画認定制度」)。防災マニュアルの策定やコミュニティ活動の実績を上乗せで求める区も23区内にはありますが、杉並区はそこまでは求めていません。

しかも区への認定手数料は「当面のあいだ無料」です。この2つが揃っている自治体は、正直に申し上げて多くありません。杉並区の管理組合は、23区のなかではかなり動きやすい立場にいます。

ただし、動きやすいことと、ゆっくりしていていいことは別の話です。令和9年4月1日から、国の管理計画認定基準そのものが見直されます。区への申請日が令和9年4月1日以降になる案件には、見直し後の基準が適用されます(出典:国土交通省「マンション管理計画認定制度」)。つまり令和8年度は、杉並区の理事会にとって「今の基準で取れるうちに取るか」を決める年です。

私は大規模修繕の施工会社の人間で、認定申請の代行はしません。ただ、認定基準の骨格である長期修繕計画・修繕積立金・計画的な修繕の実施は、私が20年以上、現場で向き合ってきた項目そのものです。パンフレットには書かれない「どこでつまずくか」を、杉並区に絞ってお伝えします。

結論:杉並区は区手数料ゼロ・独自基準ゼロ。実費は2万円前後から

先に数字から整理します。杉並区で管理計画認定を取るときに、実際に出ていくお金は次のとおりです。

費用の項目 金額の目安 支払先
杉並区への認定手数料 当面のあいだ無料 杉並区
管理計画認定手続支援システム 利用料 1申請あたり10,000円(税込・うち消費税909円) (公財)マンション管理センター
事前確認審査料(パターン③④の場合) 長期修繕計画1計画あたり10,000円(税込・うち消費税909円) (公財)マンション管理センター等
事前確認審査料(パターン①②の場合) 管理組合と委託先のマンション管理士等との個別合意 委託先
合計(目安) 約2万円〜 ―

区への手数料が無料というのは、東京都の町村部で紙申請をすると29,000円、オンライン申請でも4,100円かかることと比べると(出典:東京都マンションポータルサイト「マンション管理計画認定制度」)、決して小さくない差です。

ただし、ここで誤解していただきたくないのは「無料だから何もいらない」という話ではない点です。杉並区の認定には、公益財団法人マンション管理センターが発行する「事前確認適合証」が必須です。区に直接申請するルートは用意されていません。費用がかかるのは、この事前確認の部分です。

私はいつも理事長さまに、こうお伝えしています。「認定でお金がかかるのは申請手数料ではなく、認定基準に届いていない項目を直す費用のほうです」。長期修繕計画が古ければその見直し費用、修繕積立金が足りなければ増額の合意形成。そこに時間と労力の大半がかかります。

杉並区の認定主体はどこか

管理計画認定の申請先は、マンションが所在する市区町村です。ただしこれは「マンション管理適正化推進計画」を策定している自治体に限られます。策定していない町村部では、都道府県が認定主体になります(出典:国土交通省「マンション管理計画認定制度」)。

杉並区は令和5年度を始期とする「杉並区マンション管理適正化推進計画」を策定済みで、令和5年6月から認定制度の運用を開始しています。つまり、杉並区内の分譲マンションは杉並区に申請します。東京都ではありません。

窓口は杉並区 都市整備部 住宅課 空家対策係(〒166-8570 杉並区阿佐谷南1-15-1/電話 03-3312-2111)です。「空家対策係」という名前だけを見ると管理計画認定と関係がなさそうに見えますが、ここが担当です。理事会で「どこに聞けばいいのか」と迷われる方が多いので、先に書いておきます。

なお申請できるのは、2人以上が区分所有する既存のマンションで、申請主体は管理組合の管理者等(総会決議で選任された管理者、または管理組合法人の理事)です。ワンオーナーの賃貸マンションは対象外です。

認定基準の17項目|杉並区は国基準と同一

杉並区の認定基準は、国の基準と同じ内容です。5分野17項目を整理します。

1. 管理組合の運営(3項目)

  • 管理者等が定められていること
  • 監事が選任されていること
  • 集会(総会)が年1回以上開催されていること

監事の選任忘れが、意外と多いつまずきです。規約上は置くことになっているのに、長年空席のまま回している組合を私は何度も見てきました。総会議事録で確認できる状態にしておいてください。

2. 管理規約(3項目)

  • 管理規約が作成されていること
  • 災害等の緊急時や管理上必要なときの専有部分への立入り、修繕等の履歴情報の管理等について規約に定められていること
  • 管理組合の財務・管理に関する情報の書面交付(または電磁的方法による提供)について規約に定められていること

ここは国の「マンション標準管理規約」(令和7年10月改正)に沿った規約改正が必要になるケースが多い項目です(出典:国土交通省「マンション標準管理規約」)。規約改正は特別決議(区分所有者および議決権の各4分の3以上)ですから、総会1回では終わらないこともあります。杉並区も標準管理規約の改正についてという専用ページを設けて周知しています。

3. 管理組合の経理(3項目)

  • 管理費および修繕積立金等について明確に区分して経理が行われていること
  • 修繕積立金会計から他の会計への充当がされていないこと
  • 直前の事業年度終了日時点で、修繕積立金の3カ月以上の滞納額が全体の1割以内であること

4. 長期修繕計画の作成および見直し等(6項目)

ここが本丸です。

  • 長期修繕計画が「長期修繕計画標準様式」に準拠して作成され、その内容と算定された修繕積立金額が総会で決議されていること
  • 長期修繕計画の作成または見直しが7年以内に行われていること
  • 計画期間が30年以上で、かつ残存期間内に大規模修繕工事が2回以上含まれるように設定されていること
  • 将来の一時的な修繕積立金の徴収(一時金)を予定していないこと
  • 計画期間全体での修繕積立金の総額から算定された平均額が著しく低額でないこと
  • 計画期間の最終年度に借入金の残高がない計画となっていること

私の経験上、杉並区の管理組合でひっかかるのは「7年以内の見直し」と「30年・2回」の2点です。とくに阿佐ヶ谷・荻窪・高円寺あたりの築30年を超えた物件では、分譲時の長期修繕計画がそのまま残っていて、計画期間が25年で切れているケースを見かけます。

5. その他(2項目)

  • 組合員名簿・居住者名簿を備え、1年に1回以上は内容の確認を行っていること
  • 都道府県等マンション管理適正化指針に照らして適切なものであること

名簿の「年1回以上の確認」は、記録が残っていることが大事です。理事会議事録に「名簿更新の件」と1行残すだけでも証跡になります。

杉並区に独自の上乗せ基準はあるか

現時点の公表内容では、杉並区は国の基準と同一で、独自の上乗せ基準はありません。これは杉並区の公式ページ(更新日:2026年2月27日)に明記されています。

ただし、ここは正直に申し上げます。23区では独自基準を導入する区が増えています。たとえば隣接する渋谷区は、令和8年4月から区独自の上乗せ基準を設けました。内容は「防災マニュアルを作成していること」に加え、防災対策とコミュニティ活動それぞれについて複数の選択肢から1つ以上を満たすことを求めるもので、事前確認の前に区への事前相談が必須になっています(出典:渋谷区「マンション管理計画認定制度」)。

杉並区の公式ページの更新日が令和8年度に入る前の2026年2月27日である以上、私の立場では「令和8年9月時点で独自基準が追加されていない」と断定はできません。申請を決めた段階で、住宅課空家対策係(03-3312-2111)に電話1本、独自基準の有無を確認してください。これは面倒な作業ではなく、5分で済む保険です。

なお、仮に独自基準が設けられた場合、その独自基準はマンション管理士による事前確認の対象外になります(出典:(公財)マンション管理センター「管理計画認定手続支援サービス」)。事前確認適合証が出ても、区の審査で独自基準に引っかかる可能性があるということです。この構造は知っておいてください。

杉並区での申請ルートと手続きの流れ

杉並区の認定は、次の流れで進みます。

ステップ0:総会決議
認定申請を行う旨を総会で決議します。これがないと事前確認そのものが受けられません。管理規約で別段の定めがある場合はその定めによります。

ステップ1:事前確認を依頼
公益財団法人マンション管理センターの「管理計画認定手続支援システム」を使い、事前確認を依頼します。依頼先は4パターンから選びます。

パターン 依頼先 備考
パターン1 マンション管理士(管理会社所属を含む) 当該マンションの区分所有者・管理委託先担当者であるマンション管理士は不可
パターン2 管理委託先(管理会社等) マンション管理適正評価制度と同時申請可
パターン3 (一社)日本マンション管理士会連合会 マンション管理適正化診断サービスと同時申請可
パターン4 (公財)マンション管理センター 管理組合が直接申込み

ステップ2:事前確認適合証を受領
認定基準に適合していれば、支援システムを通じて事前確認適合証が発行されます。

ステップ3:認定の申請
支援システムを通じて杉並区に認定申請を行います。

ステップ4:認定通知書を受領
審査完了後、区から管理計画認定通知書が郵送されます。

ステップ5:公表(希望制)
公開に承諾した場合、マンション名・所在地・認定日・認定コード等が杉並区ホームページで公表されます。あわせて(公財)マンション管理センターの管理計画認定マンション閲覧サイトにも掲載されます。杉並区は杉並区管理計画認定マンション一覧というPDFも公開しています。

なお、申請手続きができるのは申請者本人、または申請者の委任を受けた代理人(行政書士に限る)です。管理会社の担当者が代わりにシステムを操作することはできませんので、ここは理事長さまご自身の手が必要になります。

認定の3つの経済効果|杉並区で取ると何が変わるか

認定は「名誉」ではありません。実利があります。

効果1:マンション長寿命化促進税制(固定資産税の減額)

長寿命化に資する大規模修繕工事を実施した管理計画認定マンションは、工事完了年の翌年度1年度分の固定資産税が、居住用専有部分について2分の1減額されます(1戸あたり100平方メートル相当分が限度)。

この制度は令和8年4月1日から令和13年3月31日までの5年間、適用期限が延長されました(出典:国土交通省「マンション長寿命化促進税制(固定資産税の特例措置)」、国土交通省「令和8年度税制改正概要」)。

ここで大事な順番の話をします。減額を受けるには「工事の前に認定を取っておく」必要があります。工事が終わってから認定を取っても、その工事は対象になりません。私が一番悔しい思いをするのは、大規模修繕が終わった組合から「あの税制、使えたんですか」と言われるときです。杉並区で令和9年度・令和10年度に大規模修繕を予定している組合は、今から認定の段取りを始めてちょうどいいタイミングです。

申告先は都税事務所です。申告の流れは東京都主税局のページをご確認ください。

効果2:住宅金融支援機構の融資優遇

  • マンション共用部分リフォーム融資(マンションすまい・る融資):管理計画認定の取得により融資金利が年0.2%引下げ。耐震改修・浸水対策・省エネ対策工事を行う場合はさらに年0.2%引下げ。認定取得時は返済期間を1年以上35年以内とすることができます(出典:住宅金融支援機構「マンションすまい・る融資(管理組合申込みの場合)」)。
  • 【フラット35】の金利引下げ・【フラット50】の利用:認定マンションの住戸を購入する方が対象になります。売却時の訴求材料です。
  • マンションすまい・る債の利率上乗せ:積み立てている組合には効いてきます。

大規模修繕で5,000万円を借り入れる場合、金利0.2%の差は無視できる額ではありません。ここは管理会社任せにせず、理事会で試算されることをおすすめします。

効果3:市場評価

認定マンションは(公財)マンション管理センターの閲覧サイトに加え、不動産情報サイト「アットホーム」の建物ライブラリーにも掲載されます(出典:国土交通省「マンション管理計画認定制度」)。杉並区は住宅地としてのブランドが確立しているエリアですから、「管理が見える」ことの資産価値への効きは、都心部以上に大きいと私は見ています。

令和9年4月1日の基準見直しをどう考えるか

ここからが本題です。

令和7年のマンション関係法改正を受け、令和8年7月31日に省令(令和8年国土交通省令第70号)と告示(令和8年国土交通省告示第1017号)が公布されました。施行日は令和9年4月1日です。

内容は大きく2つです。

  1. 分譲時に分譲事業者が管理計画を作成し、管理組合の管理者等に引き継ぐ仕組みの導入(分譲事業者が申請者になれる)
  2. 管理組合の管理者等が申請者となる場合の認定基準の見直し

そして重要なのがこの一文です。「地方公共団体への申請日が令和9年4月1日以降となる場合は、見直し後の認定基準が適用されます」(出典:国土交通省「マンション管理計画認定制度」令和9年4月1日施行関係)。

基準日は「事前確認の依頼日」ではなく「区への申請日」です。杉並区は事前確認適合証が必須ですから、事前確認に要する期間を逆算しなければなりません。改正省令の附則には経過措置も設けられていますので、詳細は改正省令附則による経過措置をご確認ください。

正直に申し上げます。新基準が現行基準より厳しくなるのか緩くなるのかを、私が断定することはできません。ただ、「今の基準で適合することが確認できているなら、令和8年度中に区へ申請を出し切るほうが読みやすい」というのが、段取りを組む立場からの私の見方です。制度の切り替わり時期は、どの分野でも実務が一番混乱します。

逆算スケジュール|杉並区で令和8年度中に申請を出し切るには

令和9年3月31日までに杉並区へ申請するとして、逆算するとこうなります。

時期 やること
令和8年10月 杉並区住宅課空家対策係へ事前相談(独自基準の有無・必要書類の確認)
令和8年10月〜11月 長期修繕計画の現況チェック(見直しから7年以内か/計画期間30年・大規模修繕2回以上か/一時金の予定がないか)
令和8年11月〜12月 必要なら長期修繕計画の見直しを発注。管理規約の不足条項を洗い出し
令和9年1月〜2月 臨時総会または定期総会で「認定申請の件」「長期修繕計画および修繕積立金額の件」「規約改正の件」を決議
令和9年2月 事前確認を依頼(パターン1〜4から選択)
令和9年3月上旬 事前確認適合証の受領
令和9年3月中 支援システムを通じて杉並区へ認定申請

ここで現実的な注意を1つ。長期修繕計画の見直しには通常2〜3カ月かかります。現況調査を入れるならもう少し見てください。今が令和8年9月ですから、見直しが必要な組合は今月中に動き始めないと、令和9年3月の申請には間に合いません。

なお、長期修繕計画の見直し費用については、区によって助成制度を設けている場合があります。杉並区の住まいに関する助成事業は住まいに関する事前協議先・助成事業一覧にまとまっていますので、事前相談のときに一緒に確認されるとよいと思います。あわせて東京都のマンション管理アドバイザー制度や管理状況の届出内容に応じたアドバイザー派遣費用の助成も使えます。杉並区はマンション管理無料相談も実施しています。

認定基準と大規模修繕はつながっている

ここが、施工会社である私が一番お伝えしたいところです。

認定基準の「計画期間全体での修繕積立金の平均額が著しく低額でないこと」という項目。これを満たすために積立金を上げるのは当然として、もう一方の「工事費を適正化する」というアプローチが、ほとんど議論されていません。

たとえば足場です。30戸規模のマンションの大規模修繕は総額3,500万〜5,000万円が目安で、うち仮設足場が15〜25%を占めます。10階建て・外周80m・工期3カ月の物件であれば、通常の枠組足場で約168万円かかるところ、ロープアクセス工法(産業用ロープで作業員が壁面を昇降する無足場工法)なら約59万円まで下がるケースがあります。差額は約109万円です。

外壁塗装は3,500〜4,500円/㎡、打診調査は250〜500円/㎡、防水は5,000〜8,000円/㎡が目安です。いずれも建物の規模・形状・劣化状況によって大きく変動しますので、あくまで参考値としてお読みください。

工事費が下がれば、長期修繕計画に計上する将来の工事費も下がります。結果として、必要な修繕積立金の水準が下がる。認定基準の「著しく低額でない」というハードルに、積立金の値上げだけでなく工事費の側からも近づけるということです。

私はこれを、必ずワンセットでご提案するようにしています。株式会社明誠はこれまでに約6,000棟のマンション・ビル・ホテルの大規模修繕を手がけてきました。ロープアクセス工法での高所作業について、明誠および全国のフランチャイズ加盟企業では過去16年間、墜落による労働災害はゼロを維持しています。IRATA(国際産業ロープアクセス協会)水準の技能訓練を受けた作業員が施工にあたります。工法の詳細は明誠のロープアクセス工法、料金の考え方は大規模修繕の料金の考え方をご覧ください。

工法そのものの技術的な比較検討や、ロープアクセスの訓練体系については、同業者・技術者向けの姉妹サイトロープアクセスドットコムで詳しく解説しています。

よくあるご質問

Q. 杉並区への認定手数料は本当に無料ですか?

A. 杉並区の公式ページには「認定制度の推進を図るため、当面のあいだ区への認定手数料は無料と致します」と記載されています(2026年2月27日更新時点)。ただし事前確認の審査料と管理計画認定手続支援システムの利用料は別途必要です。実費としては2万円前後からとお考えください。「当面のあいだ」という表現ですので、申請前に必ず区へご確認ください。

Q. 杉並区に独自の上乗せ基準はありますか?

A. 公表されている内容では、杉並区の認定基準は国の基準と同一で、独自の上乗せ基準はありません。ただし23区では渋谷区が令和8年4月から独自基準を導入するなど、追加する区が出ています。杉並区のページの更新日は2026年2月27日ですので、申請を決めた段階で住宅課空家対策係(03-3312-2111)へご確認ください。

Q. 大規模修繕の工事が終わってから認定を取っても、税制の減額は受けられますか?

A. 受けられません。マンション長寿命化促進税制は、管理計画認定を受けた状態で長寿命化に資する大規模修繕工事を行った場合が対象です。順番が逆になると適用されません。工事の1年以上前から認定の段取りを始めることをおすすめします。

Q. 長期修繕計画の見直しにはどれくらい時間がかかりますか?

A. 現況調査を含めると2〜3カ月が目安です。総会決議のタイミングも絡みますので、区への申請から逆算して半年程度の余裕を見てください。令和9年3月末までに申請したい場合、見直しが必要な組合は令和8年秋のうちに着手する必要があります。

Q. 令和9年4月の基準見直しで、認定基準は厳しくなりますか?

A. 見直し後の基準は国土交通省から公表されていますが、個々の組合にとって厳しくなるか緩くなるかは、そのマンションの状況によります。断定はできません。確実に言えるのは「区への申請日が令和9年4月1日以降なら新基準が適用される」という一点です。現行基準で適合することが見えているなら、令和8年度中の申請が読みやすいと私は考えています。

Q. 認定を取ると、毎年なにか手続きが必要ですか?

A. 毎年の手続きはありません。認定の有効期間は5年で、5年ごとの更新申請が必要です。有効期間の満了日までに更新申請を行わないと認定は失効します。また認定期間中に管理計画を変更する場合は変更認定申請が必要で、その場合も有効期間は延長されません。

Q. 賃貸マンション1棟でも認定は取れますか?

A. 取れません。管理計画認定制度の対象は2人以上が区分所有する既存の分譲マンションで、申請するのは管理組合の管理者等です。ワンオーナーの賃貸マンションは対象外です。ただし賃貸オーナーさまの物件でも、計画的な修繕による資産価値の維持という考え方は同じです。収益不動産オーナーさま向けのご提案もご用意しています。

Q. 修繕積立金が足りず「著しく低額」と言われそうです。どうすればいいですか?

A. 積立金の増額が基本ですが、それだけではありません。長期修繕計画に計上している将来の工事費そのものを見直す方法もあります。足場費を含めた工法の選択で工事費が下がれば、必要な積立金の水準も変わります。総会に増額議案を出す前に、工事費の側から一度検証されることをおすすめします。

まとめ|杉並区の理事会が今週動くこと3点

杉並区は、23区のなかでは管理計画認定を取りに行きやすい自治体です。区への手数料は当面無料、独自の上乗せ基準もない。そのうえで令和9年4月に国の基準が変わる。条件が良いうちに動くのが、いちばん合理的です。

今週動けることを3つに絞ります。

  1. 杉並区 住宅課空家対策係(03-3312-2111)に電話で事前相談の予約を入れる。確認するのは「独自の上乗せ基準の有無」と「区への手数料が引き続き無料か」の2点です。5分で済みます。
  2. 長期修繕計画の表紙の日付を見る。作成または見直しから7年を超えていれば、認定の前にまず見直しが必要です。ここが最も時間を食う工程です。
  3. 次の総会の議案に「管理計画認定申請の件」を載せるかどうかを、理事会で決める。令和8年度中に区へ申請を出し切るなら、令和9年1〜2月の総会決議が実務上のリミットです。

管理組合向けのサービス内容は管理組合のみなさまへ、これまでの施工事例(約6,000棟)は施工事例一覧からご覧いただけます。足場を組むべき物件か、ロープアクセスで足りる物件か、両方を組み合わせるべきかの判断材料については、ロープアクセスドットコムの技術解説もあわせてご参照ください。

長期修繕計画に載せる工事費が妥当かどうかの概算検証は、無料でお出しできます。認定の相談だけでも構いません。お問い合わせフォームから遠慮なくお声がけください。総会の前段階の整理だけでも、お力になれることがあります。

出典・参考資料

  1. 杉並区「マンション管理計画認定制度」(更新日:2026年2月27日)
    https://www.city.suginami.tokyo.jp/s093/1905.html
  2. 杉並区「マンション管理計画認定制度の手引き」(PDF)
    https://www.city.suginami.tokyo.jp/documents/1905/suginami_nintei_tebiki.pdf
  3. 杉並区「マンションに関する取り組み」
    https://www.city.suginami.tokyo.jp/kurashi/sumai/mansion/index.html
  4. 国土交通省「マンション管理計画認定制度」(令和9年4月1日施行関係を含む)
    https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/keikakunintei.html
  5. 国土交通省「マンション長寿命化促進税制(固定資産税の特例措置)」
    https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000121.html
  6. 国土交通省「令和8年度税制改正概要」(令和7年12月)
    https://www.mlit.go.jp/page/content/001975596.pdf
  7. (公財)マンション管理センター「管理計画認定手続支援サービス」
    https://www.mankan.or.jp/11_managementplan/mpsupport.html
  8. 東京都マンションポータルサイト「マンション管理計画認定制度」
    https://www.mansion-tokyo.metro.tokyo.lg.jp/kanri/02kanrikeikaku-seido/
  9. 東京都主税局「長寿命化に資する大規模修繕工事が行われたマンションに対する固定資産税の減額制度」
    https://www.tax.metro.tokyo.lg.jp/information/update/r5/06/2023060801
  10. 住宅金融支援機構「マンションすまい・る融資(管理組合申込みの場合)」
    https://www.jhf.go.jp/kanri/mansionreform_kanri/index.html
  11. 渋谷区「マンション管理計画認定制度」(独自基準の参考例/更新日:2026年6月3日)
    https://www.city.shibuya.tokyo.jp/kurashi/jutaku/mansion/mansion_kanrikeikakuninteiseido.html

本記事の情報の鮮度について:本記事は2026年9月19日時点で公表されている杉並区および国土交通省・東京都の公式情報をもとに執筆しています。なお、杉並区の管理計画認定制度のページは2026年2月27日更新のもので、令和8年度に入ってからの改定内容が反映されていない可能性があります。本記事では、国の制度部分については国土交通省・東京都の現行情報を優先して記載しました。制度は年度途中でも改正・予算終了があり得ます。実際に申請される前に、必ず杉並区都市整備部住宅課空家対策係および該当窓口へ最新の内容をご確認ください。

この記事の執筆者

本間 幸紘(ほんま ゆきひろ)
株式会社明誠 代表取締役/東京都東大和市
マンション・ビル・ホテルの大規模修繕20年以上の実務経験。3工法(通常足場/ロープアクセス/ハイブリッド)から建物特性に応じて最適提案。日本初のロープアクセス工事フランチャイズ本部を運営。JCSA(一般社団法人 全国建設業支援協会)代表理事。

最終更新:2026年9月19日

※本記事は制度の概要を解説するものであり、個別の申請可否を保証するものではありません。記載の金額はいずれも目安であり、実際の工事費は建物の規模・形状・劣化状況により大きく変動します。

杉並区の12条点検・外壁全面打診|LoGoフォーム電子申請と10年の数え方【令和8年度版】

株式会社明誠の本間幸紘です。東京都東大和市を拠点に、マンション・ビル・ホテルの大規模修繕を20年以上やってきました。

今回は杉並区の12条点検(建築基準法第12条に基づく定期調査・検査報告)について書きます。杉並区は23区のなかでも住宅の比重が大きい区です。荻窪・阿佐ヶ谷・高円寺・西荻窪の各駅まわりには商店街と中小の雑居ビルが密集し、その背後の永福・浜田山・久我山・方南のあたりには昭和50年代から平成初期に建ったタイル張りの分譲マンションや賃貸マンションが数多く残っています。杉並区で建物をお持ちの方から「区役所に持っていけばいいのか」「届出はオンラインでできると聞いた」というご相談を、私は毎年いただきます。

前置きは短くします。条文の解説は他所にもありますので、この記事では杉並区で実際に報告書と届出を出すときの手順と、外壁の全面打診にいくらかかるのかの2点を、現場の数字で書きます。

結論:杉並区の12条点検で押さえるべき5点

先に結論からお伝えします。

論点 結論
対象になるか ホテル・デパート・病院・飲食店など不特定多数が利用する建築物と、一定規模以上の共同住宅が対象。用途・規模の詳細は杉並区が公開する対象建築物報告時期一覧表(PDF)で確認します
報告の頻度 特定建築物定期調査は用途・規模により報告年度が定められている。防火設備・建築設備・昇降機等は、検査済証を受けた日または前回の定期検査報告の日から次回時期が決まる(出典:杉並区「特定建築物の定期調査・検査報告」)
外壁の打診 落下により歩行者等に危害を加えるおそれのある部分の全面打診等は概ね10年に1度(出典:国土交通省「定期報告制度における外壁のタイル等の調査について」)
どこに出すか 報告の4種類それぞれで受付機関が別。区が定める届出類は杉並区役所(阿佐谷南1-15-1)の都市整備部建築課設備担当で、LoGoフォームによる電子申請にも対応
費用の目安 外壁打診調査そのものは250〜500円/㎡が目安。総額を左右するのは仮設費で、足場かロープアクセスかで数十万〜百万円単位の差が出ます

杉並区のオーナーさま・管理組合にとって最初の関門は、「竣工または外壁改修から10年」です。そしてその10年目の調査を、足場を架けて行うのか、無足場のロープアクセス工法で行うのかで、費用も居住者・テナントへの影響もまったく違います。ここを知らずに1社だけの見積で決めてしまう組合さまを、私は何度も見てきました。

建築基準法第12条とは|1項の「調査」と3項の「検査」を分けて覚える

まず用語の整理です。ここを混同したまま管理会社の説明を聞くと、話が噛み合いません。

  • 第12条第1項|特定建築物定期調査……建物本体の調査です。敷地および地盤、建築物の外部、屋上および屋根、建築物の内部、避難施設等を、一級建築士・二級建築士または特定建築物調査員が調査します。外壁の打診はここに含まれます。
  • 第12条第3項|防火設備・建築設備・昇降機等の定期検査……随時閉鎖式の防火設備等、換気設備、排煙設備、非常用の照明装置、給水設備および排水設備、エレベーター・エスカレーター・小荷物専用昇降機・遊戯施設等の検査です。

杉並区のホームページにも、法に定められた資格を有する専門の技術者(一級・二級建築士、特定建築物調査員、防火設備・建築設備・昇降機検査員)により定期的に調査・検査し、特定行政庁に報告する必要があると明記されています。また昇降機については「一台ごとに検査し報告する必要があります」とされています(出典:杉並区「特定建築物の定期調査・検査報告」、ページID 1880/更新日2025年6月9日)。

なお杉並区は、調査員・検査員の紹介は行っていません。区のページでは「管理会社に相談する」「建物の設計・工事を行った建設会社等に相談する」という探し方が案内されており、特定建築物調査員については一般財団法人日本建築防災協会の特建全国名簿、建築設備・昇降機検査員については一般財団法人日本建築設備・昇降機センターの検査員名簿を参考にするよう示されています。

杉並区で報告書を出す先|4種類それぞれ受付機関が違う

杉並区で実務上いちばん間違いが起きるのがここです。「区役所に持っていけばいい」と思っていると空振りします。

報告の種類 提出先(受付機関) 所在地・電話
1. 特定建築物(調査) 公益財団法人 東京都防災・建築まちづくりセンター 新宿区西新宿7-7-30 小田急西新宿O-PLACE 2階/03-5989-1929
2. 防火設備(検査) 同センター 同上/03-5989-1937
3. 建築設備(検査) 一般財団法人 日本建築設備・昇降機センター 港区西新橋1-15-5 内幸町ケイズビル/03-3591-2421
4. 昇降機等(検査) 一般社団法人 東京都昇降機安全協議会 渋谷区代々木1-35-4 代々木クリスタルビル2階/03-6304-2225

(出典:杉並区「特定建築物の定期調査・検査報告」、東京都都市整備局「5.提出先(受付機関)」)

一方で、建築物除却・使用休止届/建築物再使用届/特定建築設備等廃止・使用休止届/同再使用届/建築物等所有者変更届/改善計画書・改善報告書/建築設備検査報告対象外届といった杉並区が定める書式は、杉並区役所(〒166-8570 杉並区阿佐谷南1丁目15番1号)の都市整備部建築課設備担当が窓口です。電話は03-3312-2111(代表)、ファクスは03-5307-0690と案内されています。

また、敷地内に延べ面積が1万㎡を超える建築物がある場合は、特別区ではなく東京都の所管になります。東京都都市整備局 市街地建築部建築企画課(特定建築物・防火設備は03-5388-3344、建築設備・昇降機等は03-5388-3349)が問い合わせ先です。杉並区内でも大規模な複合ビルや事業所建物では、こちらに該当するケースが出てきます。

昇降機等の定期検査報告について、報告書は「報告日の前1ヶ月以内に検査を受けて作成し、期限までに提出」する運用です。東京都昇降機安全協議会は都内35特定行政庁から業務委託を受けて受付・予備審査を行っており、同協議会の昇降機等定期検査報告書事務手数料はエレベーター1,450円、エスカレーター1,070円、小荷物専用昇降機690円、遊戯施設980円(いずれも別途消費税、平成26年4月1日現在の掲載)と公表されています(出典:東京都昇降機安全協議会「定期検査報告制度」)。

杉並区の電子申請|LoGoフォームで届出をオンライン提出できる

杉並区で押さえておくと実務が楽になるのが、LoGoフォームによる電子申請です。区のページでは、書面に代えて報告書を提出できる入力フォームとして次の4種類が案内されています。

  1. 建築物除却・使用休止・再使用・対象外届(第8号様式の3、第8号様式の4、第10号様式の2、第10号様式の3、別記第6号様式)
  2. 建築物等の所有者等変更届(第10号様式の4)
  3. 特定建築物・防火設備の改善報告書等
  4. 定期報告建物番号の新規付番申請

実務上の注意は3点です。添付ファイルは1つのファイルにつき最大20MBのPDFのみ。不足書類や補正が必要な場合は区から連絡が入ります。そして副本の返却はありません。副本を手元に残したい場合は、提出前にPDFを自分で保管しておく段取りにしてください(出典:杉並区「特定建築物の定期調査・検査報告」)。

4番目の「定期報告建物番号の新規付番申請」は、意外と見落とされます。新しく定期報告の対象になった建物や、これまで台帳に載っていなかった建物は、まず建物番号を取らないと報告が進みません。中古で建物を取得された方から「整理番号がわからない」というご相談をいただくことがありますが、その場合はこのフォームが入口になります。

なお、昇降機等の定期検査報告については、杉並区のページで「令和7年度より電子報告の限定運用を開始しました。令和7年度中に全面的に運用を開始予定です」と案内されています。掲載時点の記述ですので、令和8年度の運用状況は東京都昇降機安全協議会または杉並区へご確認ください。特定建築物・防火設備については、東京都が東京都定期調査・検査報告電子システムの運用を始めていますが、こちらは東京都が特定行政庁となる物件についての案内です。杉並区所管(敷地内に1万㎡超の建築物がない場合)の物件で電子報告が使えるかは、受付機関である東京都防災・建築まちづくりセンターと杉並区に確認するのが確実です。

外壁全面打診の「10年」はいつから数えるのか

ここが、杉並区に限らず最も多い質問です。国の告示では、次の事象が生じた日が属する年度の翌年度の4月1日から起算して10年を超え、最初の報告日までに、落下により歩行者等に危害を加えるおそれのある部分の全面打診等が必要とされています。

  • 検査済証の交付を受けた日
  • 外壁の全面改修が完了した日
  • 落下により歩行者等に危害を加えるおそれのある部分の全面的なテストハンマーによる打診等が完了した日

たとえば検査済証の交付年度が平成25年度の共同住宅であれば、起算開始日は平成26年4月1日、全面打診等が必要になるのは令和6年4月1日以降の報告日まで、という数え方になります(出典:国土交通省「定期報告制度における外壁のタイル等の調査について」)。

対象となる外装仕上げ材は、タイル、石貼りなど(乾式工法によるものを除く)、モルタルなどによるものです。乾式工法以外で固定方法が不明な仕上げ材も、原則として調査の対象になります。

例外もあります。 定期調査の実施から3年以内に外壁改修もしくは全面打診等が行われることが確実である場合、または別途歩行者等の安全を確保する対策(壁面直下への落下物防護ネット設置など)を講じている場合は、この限りではないとされています。ただし前者は、建築基準法第8条第2項の維持保全計画書等で時期が明確にされており、かつ計画どおり実施される見込みであることが条件です。調査結果表の特記事項欄に予定時期を記載し、計画書を添付する必要があります。「大規模修繕を予定しているから今回は見送る」という判断をされるなら、この裏づけをセットで用意してください。

ちなみに「歩行者等に危害を加えるおそれのある部分」とは、当該壁面の前面かつ壁の高さの概ね2分の1の水平面内に、公道、不特定または多数の人が通行する私道、構内通路、広場を有するものを指します。杉並区のように前面道路が狭く、建物が歩道や生活道路に近接して建っているケースが多い街では、ほぼ全面が該当するとお考えいただくのが現実的です。

令和7年7月1日施行の告示改正|杉並区所管物件は区への確認を

もう一点、杉並区でこれから報告される方に必ず知っておいていただきたい改正があります。

令和6年国土交通省告示第974号(令和6年6月28日公布)および令和7年国土交通省告示第53号(令和7年1月29日公布)により、定期調査・検査等の項目、事項、方法および結果の判定基準ならびに調査結果表等の見直しが行われ、令和7年7月1日に施行されました。これを受けて東京都建築基準法施行細則(東京都規則第131号)および東京都告示(第765号・第750号)も令和7年6月30日公布・同年7月1日施行で改正されています。

東京都は原則として国の改正内容を踏襲しますが、都独自の措置として次の点を維持・追加しています(出典:東京都都市整備局「2.定期調査・検査制度改正の内容」)。

  • 「常時閉鎖式防火扉」は従来どおり特定建築物定期調査で報告し、防火設備定期検査では報告を求めない
  • 「換気設備」の「物品放置の状況」について、自然換気設備は従来どおり特定建築物定期調査で報告
  • 避難経路上の「窓先の空間」の確保に関する調査を追記(東京都建築安全条例の改正内容を反映)
  • 建築設備では「換気設備」「非常用の照明装置」に「物品の放置の状況」を検査項目として追加

そして実務上の注意として、令和7年7月1日施行の調査・検査結果表は7月1日以降に調査・検査する物件に使用し、6月30日以前に調査・検査した物件は従前の様式を使用するとされています。調査会社から上がってきた報告書の様式が新旧どちらなのか、受け取る側も一度は確認しておくと差し戻しを防げます。

ここで杉並区の方に特に申し添えておきたいのが、東京都が公開している改正Q&Aには「本Q&Aは東京都が特定行政庁となる建築物を対象としています。特別区・11市が特定行政庁となる場合については、各特定行政庁にお問い合わせください」と明記されている点です。杉並区所管の物件については、常時閉鎖式防火扉の扱いなど個別の判断は杉並区 都市整備部建築課設備担当(03-3312-2111)に確認するのが正しい手順になります。都のQ&Aをそのまま当てはめて報告し、後で指摘を受けるのは避けたいところです。

杉並区で外壁打診にかかる費用|足場かロープアクセスかで総額が変わる

ここからが、私が現場で一番お伝えしたい話です。

全面打診の方法として、告示や自治体の解説では主に2通りが示されています。

  1. 調査範囲に足場等を設置してテストハンマーで全面打診する方法
  2. 赤外線装置による調査で、国が指定するガイドライン等による方法

ここで見落とされがちなのが、「足場等」の「等」の部分です。告示が求めているのは「全面的な打診等」であって、枠組足場の架設そのものではありません。ロープアクセス工法でも、作業員が直接外壁に取り付いて打診棒で全面を叩いて打音を確認しますので、打診という行為の中身は足場の場合と同じです。

費用感を数字で置きます。あくまで目安・レンジで、実際の見積は建物の形状・立地・仕上げ材によって大きく変わる前提でお読みください。

項目 目安
打診調査(作業そのもの) 250〜500円/㎡
枠組足場(全面架設) 10階建て・外周80mのモデルケースで約168万円
ロープアクセスによる無足場調査 同条件で約59万円(差額 約109万円)
外壁塗装(大規模修繕時) 3,500〜4,500円/㎡
防水(屋上・バルコニー) 5,000〜8,000円/㎡

つまり、調査費そのものよりも仮設費のほうが総額を左右するのです。打診調査だけのために全面足場を架けると、調査費の何倍もの仮設費がかかります。杉並区のように前面道路が狭く、隣地との離隔が小さい物件では、足場の架設自体に近隣調整や道路占用の手間が加わることも珍しくありません。無足場で上から降りていくロープアクセス工法は、こうした立地条件でこそ効きます。工法の技術的な考え方は明誠のロープアクセス工法のページと、同業者向けにより詳しく解説しているロープアクセスドットコムでも公開しています。

もうひとつ、居住者・テナントへの影響も数字にしておきます。足場を架けると、外周の窓は原則としてシートで覆われ、洗濯物も干せない期間が数週間から数ヶ月続きます。防犯上の不安からご相談をいただくことも多いです。ロープアクセスであれば、作業している面だけが一時的に影響を受け、それも1日〜数日単位で移動していきます。賃貸マンションや商業テナントが入るビルでは、この差が賃料収入や入居者満足度に直結します。料金の考え方については大規模修繕の料金の考え方にまとめています。

杉並区の街の特性から見た打診調査の勘所

杉並区の物件を拝見していて、実務上よく出てくるポイントを3つ挙げます。

① 狭い前面道路と近接する隣地
高円寺・阿佐ヶ谷・西荻窪の駅周辺は、商店街の裏手に細街路が入り込む街並みです。足場を架ける場合、道路使用・占用の手続きに加えて、歩行者の動線確保や隣地への越境調整が発生します。ロープアクセスは屋上からロープを降ろすため、地上に必要なスペースが小さく、この種の調整を大幅に減らせます。

② タイル張りの中低層マンションが多い
5〜8階建てのタイル張りマンションは、足場の単価が高くなる高層物件ほどコスト差が劇的ではありませんが、それでも仮設費の削減効果は確実に出ます。加えて、打診で浮きが見つかったときに同じ仮設で補修まで一気に進められるかどうかが、総額に大きく影響します。

③ 1階に店舗が入る複合用途
飲食店や物販店舗が1階に入る建物では、足場とシートで看板や入口が隠れることが売上に直結します。テナントとの調整が難航しやすいのはここです。無足場であれば、店舗の営業を止めずに進められるケースが多くなります。

明誠がお手伝いできること

株式会社明誠はこれまでに約6,000棟のマンション・ビル・ホテルの大規模修繕を手がけてきました。ロープアクセス工法での高所作業について、明誠および全国のフランチャイズ加盟企業では過去16年間、墜落による労働災害はゼロを維持しています。IRATA(国際産業ロープアクセス協会)水準の技能訓練を受けた作業員が施工し、品質管理はISO9001のマネジメントシステムに沿って運用しています。安全管理の具体的な体制は明誠の安全管理の考え方にまとめています。

明誠の強みは、通常足場・ロープアクセス・両者を組み合わせたハイブリッドの3工法から、建物にとって最適な方法を選べることです。ロープアクセスが常に最適解というわけではありません。低層で形状が複雑な建物、あるいは大規模な改修を伴う場合は足場のほうが合理的です。3工法を持っているからこそ、どちらが有利かを数字で比較してお出しできます。管理組合さま向けの体制は管理組合向けサービス、収益不動産をお持ちのオーナーさま向けはオーナー向けサービスをご覧ください。

これまでの施工事例は施工実績のページからご覧いただけます。杉並区内の物件でも、打診調査から補修・改修まで一貫してお手伝いした実績があります。

日本初のロープアクセス工事フランチャイズ本部として、塗装・防水・タイル・電気・看板の各分野の専門職が加盟しているため、打診で浮きが見つかった際に補修まで同じ体制で進められるのも、結果として費用と工期を抑えられる理由です。加盟に関する技術情報や訓練体制はロープアクセスドットコムで公開しています。

よくあるご質問

Q. 杉並区の小規模な賃貸マンションでも12条点検の対象になりますか?

A. 用途と規模で決まります。共同住宅の場合、階数と延べ面積の要件を満たすものが対象です。杉並区が公開している対象建築物報告時期一覧表(PDF)で用途と規模をご確認ください。判断がつかない場合は、杉並区 都市整備部建築課設備担当(03-3312-2111)にお問い合わせいただくのが確実です。

Q. 外壁の全面打診調査の費用はいくらぐらいですか?

A. 打診作業そのものは250〜500円/㎡が目安ですが、総額を決めるのは仮設費です。10階建て・外周80mのモデルケースで、枠組足場の全面架設が約168万円に対し、ロープアクセス工法なら約59万円程度というレンジ感です。建物の形状や立地で変わりますので、概算のお見積りは無料でお出ししています。

Q. 足場を架けずに全面打診をしても、報告書として認められますか?

A. 告示が求めているのは「全面的な打診等」であって、足場の架設ではありません。ロープアクセス工法でも作業員が直接外壁に取り付いて打診棒で打音を確認しますので、打診そのものの方法は足場の場合と同じです。加えて、赤外線装置による調査で国が指定するガイドライン等による方法も認められています(出典:国土交通省)。

Q. 杉並区では届出をオンラインで提出できますか?

A. できます。建築物除却・使用休止・再使用・対象外届、建築物等の所有者等変更届、特定建築物・防火設備の改善報告書等、定期報告建物番号の新規付番申請の4種類について、LoGoフォームによる電子申請が用意されています。添付は1ファイルにつき最大20MBのPDFのみで、副本の返却はありません。なお特定建築物・防火設備・建築設備・昇降機等の報告書そのものは、それぞれの受付機関へ提出します(出典:杉並区)。

Q. 中古で買った建物の整理番号がわかりません。どうすればいいですか?

A. これまで定期報告の台帳に載っていない建物、または番号が不明な建物は、杉並区の「定期報告建物番号の新規付番申請」フォームから付番を受けるのが入口になります。あわせて所有者が変わっている場合は「建築物等の所有者等変更届」も必要です。どちらもLoGoフォームで提出できます。

Q. 前回の調査で「要是正」が出ました。直したあとに手続きは要りますか?

A. 杉並区では特定建築物改善計画書(第2号様式)・特定建築物改善報告書(第5号様式)、防火設備改善計画書(第3号様式)・防火設備改善完了報告書(第4号様式)、建築設備改善計画書(第4号様式)の様式が用意されています。改善計画を策定したとき、または改善が完了したときに提出します。特定建築物・防火設備の改善報告書等はLoGoフォームでの電子申請にも対応しています。

Q. 調査だけを頼むことはできますか?

A. できます。調査と補修を別々にご検討いただいて構いません。ただ、打診で浮きが見つかった場合、同じ仮設を使って補修まで進めたほうが費用も居住者・テナントへの負担も抑えられます。判断材料としての比較見積りをお出ししますので、どちらが有利か数字でご確認ください。

Q. 工期はどれくらいかかりますか?

A. 打診調査単体であれば、中規模の建物で数日から2週間程度が目安です。大規模修繕と一体で行う場合、ロープアクセス工法なら足場工法の6割程度の工期で進むケースが多く、10階建て・外周80mの建物で足場3か月に対しロープアクセス1.5〜2か月が一つの目安です。

まとめ|杉並区のオーナーさま・管理組合が今週動くこと3点

長くなりましたので、動き方を3点に絞ります。

  1. 竣工年(または直近の外壁改修年)を確認する……その年度の翌年度4月1日から10年を超えていれば、次の定期調査で全面打診が発生します。検査済証の交付年度も合わせて確認すると、初回免除の有無まで判断できます。
  2. 報告書の様式が令和7年7月1日施行の新様式かを確認する……調査日が令和7年7月1日以降なら新様式、6月30日以前なら従前の様式です。杉並区所管物件の個別の取り扱いは、都のQ&Aではなく杉並区建築課設備担当に確認してください。
  3. 足場ありとロープアクセスの2パターンで概算を取る……調査費だけでなく仮設費を含めた総額で比較してください。この1点を守るだけで、数十万円から百万円単位の判断材料が手に入ります。

大規模修繕の検討が視野に入っている組合さま・オーナーさまであれば、明誠の理念と提供価値もあわせてご覧いただけると、私たちの考え方が伝わるかと思います。工法の技術的な裏側をもう一段深く知りたい方は、同業者向けに書いているロープアクセスドットコム(https://rope-access-method.com/)もどうぞ。

12条点検は、法律で決められた義務であると同時に、建物の状態を第三者の目で棚卸しできる数少ない機会でもあります。報告書を出して終わりにするか、次の10年の修繕計画の土台にするかで、10年後の資産価値は変わります。ご相談だけでも遠慮なくお声がけください。総会や予算組みの前段階の整理だけでも、お力になれることがあります。

お問い合わせは明誠のお問い合わせフォームからどうぞ。

出典・参考資料

本記事の情報の鮮度について:本記事は2026年9月19日時点で公表されている杉並区および国土交通省・東京都の公式情報をもとに執筆しています。杉並区の定期報告ページは更新日が2025年6月9日と表示されているため、昇降機等の電子報告の運用状況やLoGoフォームの受付内容が令和8年度に変更されている可能性があります。制度は年度途中でも改正・運用変更があり得ますので、実際に報告・申請される前に、必ず杉並区 都市整備部建築課設備担当(03-3312-2111)および該当の受付機関へ最新の内容をご確認ください。

この記事の執筆者

本間 幸紘(ほんま ゆきひろ)
株式会社明誠 代表取締役/東京都東大和市
マンション・ビル・ホテルの大規模修繕20年以上の実務経験。3工法(通常足場/ロープアクセス/ハイブリッド)から建物特性に応じて最適提案。日本初のロープアクセス工事フランチャイズ本部を運営。JCSA(一般社団法人 全国建設業支援協会)代表理事。

最終更新:2026年9月19日

技術情報・工法の詳細は姉妹サイト ロープアクセスドットコム(https://rope-access-method.com/) もあわせてご覧ください。

中野区の12条点検・外壁打診調査|令和8年度の報告年度と全面打診のタイミング【2026年版】

中野区でビルやマンションを所有されている方から、この時期になると決まって同じご相談をいただきます。「まちづくりセンターから定期報告の通知が来たのだけれど、外壁の全面打診というのは何をどこまでやるのか」という内容です。

私は東京都東大和市を拠点に、マンション・ビル・ホテルの大規模修繕を20年以上やってきました。中野区の物件も、中野坂上の事務所ビルから鷺宮・野方あたりの中規模マンションまで、これまで数多く見てきています。

この記事では、中野区で建築基準法第12条第1項の定期調査報告が必要になる建物はどれか、令和8年度(2026年度)に報告年度を迎えるのはどの用途か、そして竣工10年を超えた建物に求められる外壁全面打診をどう段取りするかを、実務の順番どおりに整理します。

結論:中野区で令和8年度に報告年度を迎えるのは「用途コード30番台」の建物です

先に結論からお伝えします。中野区の特定建築物定期調査報告は、用途と規模によって「毎年」または「3年ごと」の報告年度が決められています。中野区が公表している一覧によれば、令和8年(2026年)に報告年度を迎えるのは、用途コード30番台のグループです。

用途コード 主な用途 中野区での報告年(3年ごと)
21・22・23・24・28 児童福祉施設等、病院、旅館・ホテル、学校、共同住宅等との複合建築物 2022年・2025年・2028年
31・32・33・34 物品販売店舗、飲食店・遊技場・公衆浴場等、複合用途建築物、事務所 2023年・2026年・2029年
40・41 共同住宅・寄宿舎(5階以上かつ1,000㎡超)、高齢者等の就寝用共同住宅 2021年・2024年・2027年

(出典:中野区「定期報告とは」2024年4月23日更新)

つまり、中野区内で事務所ビル(5階建て以上・延べ面積2,000㎡超のうち3階以上の用途床面積が1,000㎡超)、物販店舗、飲食店やカフェ、複合用途ビルをお持ちの方は、令和8年度が報告年度にあたります。

そして報告期間は令和8年5月1日から令和8年10月31日までです。この記事が公開される9月19日時点で、残りはおよそ6週間。調査会社の繁忙期は9月から10月に集中しますので、まだ調査業者を押さえていない場合は、今週中に動き出す判断をおすすめします。

一方、分譲マンション・賃貸マンション(用途コード40)をお持ちの方は、令和9年度(2027年度)が次の報告年度です。ただし後述のとおり、外壁の全面打診は報告年度とは別の「10年サイクル」で走っています。ここが最も誤解されやすいポイントなので、順を追って説明します。

建築基準法第12条とは何か──「調査」と「検査」は別物です

建築基準法第12条は、不特定多数の人が使う建物について、専門資格者が定期的に状態を調べ、特定行政庁に報告することを求めている条文です。中野区の場合、特定行政庁は原則として中野区そのものになります。

用語が紛らわしいので、最初に整理しておきます。

  • 第12条第1項|特定建築物定期調査報告:敷地・一般構造・構造強度・防火避難の状況を「一級建築士・二級建築士または特定建築物調査員」が調査します。外壁打診はここに含まれます。
  • 第12条第3項|防火設備・建築設備・昇降機等の定期検査報告:防火扉やシャッター、換気・排煙設備、非常用照明、エレベーターなどを検査します。

一般に「12条点検」と呼ばれるとき、実際には第1項の調査を指していることがほとんどです。私が現場で理事長さまや管理会社さんとお話しするときも、まずこの区別から入るようにしています。

もう一点、よく混同されるのが消防法の消防用設備等点検です。中野区も公式ページで「建築基準法に基づく定期調査・検査報告制度は、消防法に基づく消防用設備等点検とは異なる制度です」と注意を促しています。両方が必要な建物は珍しくありません。

中野区で定期報告の対象になる主な建物

中野区が公表している一覧から、マンション・ビルのオーナーさまに関係が深いものを抜き出します。

用途 対象となる規模
共同住宅・寄宿舎(用途コード40) 5階以上の階における用途床面積の合計が100㎡超、かつ延べ用途面積1,000㎡超
共同住宅等と他用途の複合建築物(用途コード28) 同上(5階以上かつ1,000㎡超)
事務所その他これに類するもの(用途コード34) 5階建て以上で延べ面積2,000㎡超のうち、3階以上の用途床面積100㎡超かつ用途床面積1,000㎡超
旅館・ホテル(用途コード13) 3階以上の階における用途床面積100㎡超、かつ2,000㎡超(毎年報告)
飲食店・展示場・遊技場等(用途コード32) 地階または3階以上で100㎡超、2階部分500㎡以上、用途床面積500㎡超

注意点として、共同住宅の住戸内は調査・検査の報告対象から除かれます(高齢者・障害者等の就寝用を除く)。調査が入るのは共用部と外部が中心です。居住者の方に「部屋の中を見せてくださいと言われるのでは」と心配されることがありますが、通常はそこまで立ち入りません。

判断に迷う場合、中野区は「①全体の階数・面積、②各用途に供する面積、③各階の用途等」を整理したうえで所管の特定行政庁に問い合わせるよう案内しています。なお、敷地内に延べ面積1万㎡を超える建築物がある場合は、特別区であっても東京都(市街地建築部建築企画課)が所管になります(出典:東京都都市整備局「3.定期報告対象建築物・建築設備等及び報告時期一覧」)。中野駅周辺の再開発で生まれる大規模複合ビルは、この1万㎡ラインを意識しておく必要があります。

全面打診が必要になるトリガーは4つあります

ここからが本題です。定期調査の中でも、費用と段取りに最も大きく響くのが外壁の全面打診(打診とは、専用のハンマーや打診棒で外壁を叩き、反響音の違いから内部の浮きを判定する調査のことです)。

中野区は公式ページで、こう明記しています。

竣工から10年を超えた建築物は、全面打診等の調査を10年ごとに行う必要があります。

(出典:中野区「建築物定期検査報告の種類」2026年4月1日更新)

根拠となるのは平成20年国土交通省告示第282号です。同告示では、タイル・石張り(乾式工法を除く)・モルタル等の外装仕上げ材について、おおむね6か月から3年以内ごとに手の届く範囲の打診等を行い、加えておおむね10年に一度、落下により歩行者等に危害を加えるおそれのある部分の全面的な打診等を行うこととされています(出典:国土交通省「定期報告制度における外壁のタイル等の調査について」)。

実務上、全面打診のスイッチが入るのは次の4パターンです。

  1. 竣工から10年を超えた(初回のトリガー。ここを起点に10年周期が回り出します)
  2. 外壁の改修工事から10年を超えた(大規模修繕でタイル補修・全面塗替えをしていれば、そこからカウントし直せます)
  3. 手の届く範囲の打診で「要調査」と判定された(部分打診で浮きや剥離が見つかると、10年を待たずに全面調査へ)
  4. 実際に落下事故・剥落が起きた(この場合は定期報告の周期とは無関係に、即時対応です)

2番目のパターンが最大の節税ポイントです

私が理事長さまやオーナーさまにいつもお伝えしているのは、2番目の「外壁改修から10年」をどう使うかという話です。

大規模修繕でタイルの浮き補修と外壁の全面塗替えを行い、その内容がきちんと記録として残っていれば、そこが新しい起点になります。つまり大規模修繕と全面打診の周期を意図的に揃えてしまえば、10年の間に「全面打診のためだけの高所作業」を二重に発注せずに済むわけです。

逆に、大規模修繕の2年後に全面打診の年が来てしまうと、同じ外壁に対して2年おきに高所作業の費用を払うことになります。中野区内で私が拝見した物件でも、この「周期のズレ」で無駄な出費が発生していたケースは少なくありません。

中野区固有の運用──提出先は区役所ではありません

ここは毎回つまずかれる点なので、はっきり書いておきます。

中野区が特定行政庁ではあるのですが、特定建築物定期調査報告書と防火設備定期検査報告書の提出先(受付機関)は中野区役所ではなく、公益財団法人 東京都防災・建築まちづくりセンターです。

報告の種類 提出先(受付機関) 連絡先
特定建築物・防火設備 公益財団法人 東京都防災・建築まちづくりセンター(新宿区西新宿7-7-30 小田急西新宿O-PLACE 2階) 特定建築物 03-5989-1929/防火設備 03-5989-1937
建築設備 一般財団法人 日本建築設備・昇降機センター(港区西新橋1-15-5) 03-3591-2421
昇降機等・遊戯施設 一般社団法人 東京都昇降機安全協議会(渋谷区代々木1-35-4) 03-6304-2225

制度の相談窓口は中野区役所(中野区中野四丁目11番19号/代表 03-3389-1111)の都市基盤部 建築課です。書類の提出と相談で窓口が分かれている、と覚えておいてください。

電子化は進行中です

提出方法についても動きがあります。特定建築物と防火設備については、窓口へ持参するか、事前に東京都のシステム(東京都定期調査・検査報告電子システム)のアカウント登録を行って電子で報告する、という2通りが用意されています。

さらに中野区は、令和8年度より昇降機等定期検査報告のインターネットによる電子提出の受付を開始すると公表しました。区の説明では「必要な調整を行いながら段階的に進める」とあるため、移行期は紙と電子が混在します。管理会社さんや調査会社に依頼する際は、どちらで出すのかを事前に確認しておくとやり取りがスムーズです。

初回報告時期の「初回免除」に注意

新築・改築した建物には初回免除があります。中野区の案内では「検査済証の交付を受けた日の属する年度の翌年度以降の2回目の報告時期から報告してください」となっています。

たとえば令和5年度中に検査済証が交付された共同住宅であれば、令和6年度の報告が免除となり、令和9年度(令和9年5月1日〜10月31日)から報告が必要になります。検査済証の取得時期によって最初の報告までの期間に幅が出るので、新築マンションを取得されたオーナーさまは一度確認しておくとよいと思います。

なお、建築設備・昇降機等は扱いが異なり、検査済証の交付を受けた日の翌日から起算して2年を経過する日までに初回報告が必要です。こちらは免除がありません。

中野区の建物事情と、打診調査の現実的なハードル

中野区で現場に入ると、他の区とは少し違う難しさに毎回ぶつかります。

ひとつは敷地の狭さと隣棟間隔の近さです。中野区は木造住宅密集地域を多く抱えており、その周辺に建つ中小規模のビルやマンションも、隣地境界までの距離がほとんどないという物件が珍しくありません。東中野、新井薬師前、沼袋、野方あたりの西武新宿線沿線は特にその傾向が強いと感じます。

足場を架けるには、建物の外壁から最低でも60〜80cm程度の空きが必要です。隣家の庇が迫っていたり、私道を挟んですぐ向かいが住宅だったりすると、足場の組み立て自体が成立しない、あるいは近隣への補償交渉が必要になります。私が中野区の現場で一番時間を取られるのは、実は工事そのものではなく、この足場を架けるための近隣調整です。

もうひとつは単身者向け賃貸の稼働率です。中野駅周辺から鷺宮にかけては学生・単身者向けのワンルームマンションが集積しています。足場を組んでシートで囲うと、入居者からの「部屋が暗い」「窓が開けられない」「防犯が不安」というクレームが一気に出ます。空室期や退去シーズンと重なると、オーナーさまの収益に直接響きます。

そして中野駅周辺は、旧中野サンプラザを含む中野四丁目新北口駅前エリアの再開発が進行中です。周辺の交通規制や資材搬入動線の制約も、年々シビアになっている印象があります。

こうした事情が重なる中野区では、「足場を架けずに外壁へアクセスする」選択肢の価値が、他のエリアより一段高くなります。

実務コスト感──打診調査は「調査費」より「足場費」が効きます

金額の話をします。あくまで目安であり、物件の形状・階数・立地・仕上げ材によって大きく変動しますが、判断の物差しとして使っていただければと思います。

項目 費用の目安
外壁打診調査(打診作業そのもの) 250〜500円/㎡
仮設足場の設置・解体 800〜1,200円/㎡
外壁塗装(下地調整・上塗りまで) 3,500〜4,500円/㎡
屋上防水(改修工法) 5,000〜8,000円/㎡

ここで気づいていただきたいのは、打診という作業自体は㎡あたり数百円なのに、そこへ辿り着くための足場が㎡あたり1,000円前後かかるという構造です。調査のために足場を架けると、調査費より仮設費のほうが高くつくという逆転が起こります。

具体的な比較を挙げます。10階建て・外周80m・工期3か月というモデルケースで、仮設足場を架ける場合と、ロープアクセス工法(産業用ロープで屋上から降下しながら作業する無足場工法)を使う場合の高所アクセス費用の差は、おおむね次のようになります。

工法 高所アクセス費用の目安 差額
仮設足場 約168万円 —
ロープアクセス工法 約59万円 約109万円の圧縮

これは参考値で、実際の見積は建物形状・屋上のアンカー設置可否・外壁の劣化度合いによって変わります。それでも、打診調査のためだけに足場を架けるかどうかが、数十万円から百万円超の差になるという感覚は持っておいて損はありません。

もう一点、工期です。ロープアクセス工法は足場の組立・解体という工程が丸ごと不要になるため、同規模の工事で足場工法の6割程度の工期で完了することが多いです。上記のモデルケースなら、足場3か月に対してロープアクセスは1.5〜2か月が目安になります。賃貸オーナーさまにとっては、この1か月強の差がそのまま収益への影響として効いてきます。

中野区の12条点検でロープアクセス工法が選ばれる理由

私が中野区の物件でロープアクセス工法を提案する理由は、突き詰めると3つです。

1. 隣棟間隔が足りなくても外壁に触れる

ロープアクセス工法は屋上に支点を取り、外壁に沿って降下します。地上に足場を組む必要がないため、隣地に越境しません。中野区のように敷地が詰まっているエリアでは、これが工法選定を左右する決定打になることがあります。技術的な仕組みは姉妹サイトのロープアクセスドットコムで、支点の取り方から降下器材の種類まで詳しく解説しています。

2. 居住者・テナントの生活と営業を止めない

シート養生で建物全体を覆わないため、採光・通風・眺望が確保されます。窓の開閉もできますし、外から部屋が見えない状態は保たれます。1階に店舗が入っているビルでも、看板が隠れません。中野ブロードウェイ周辺のように路面の視認性が売上に直結する立地では、この差は小さくないと思います。

3. 調査と補修を一気通貫でやれる

これが実務上、いちばん効きます。打診で浮きを見つけたその場から、アンカーピンニング(浮いたタイルに穴を開けてピンと樹脂で躯体に留め直す補修)に移れます。足場工法だと「調査 → 報告 → 見積 → 総会決議 → 改めて足場を架けて補修」となり、高所アクセスの費用を二度払うことになりがちです。ロープアクセスなら調査と部分補修を同じ降下作業の中で処理できます。

安全面についても触れておきます。株式会社明誠および全国のフランチャイズ加盟企業では、ロープアクセス工法での高所作業について過去16年間、墜落による労働災害はゼロを維持しています。作業員はIRATA(国際産業ロープアクセス協会)水準の技能訓練を受けており、ISO9001の品質マネジメントシステムに基づいて施工手順を管理しています。私は日本ロープ高所作業協会の事務局も担当しており、業界全体の安全基準づくりにも関わっています。

なお、令和4年1月18日付けの告示改正で、無人航空機(ドローン)による赤外線調査が、テストハンマーによる打診と同等以上の精度を有するものとして明確化されました(出典:国土交通省「定期報告制度における外壁のタイル等の調査について」)。精度の判定にあたっては、一般財団法人日本建築防災協会の赤外線調査ガイドラインを参照することが推奨されています。

ただし赤外線調査は、天候・日射条件・外壁の方位によって精度が左右されます。中野区のように隣棟間隔が狭く、ドローンの飛行経路を確保しにくい市街地では、適用できる面と適用しにくい面が出ます。私は「南面・西面は赤外線、北面や隣棟が近い面はロープアクセスで打診」といった組み合わせをご提案することもあります。工法の使い分けの詳細はロープアクセスドットコムの技術記事もあわせてご覧ください。

明誠の高所作業の技術的な考え方は明誠のロープアクセス工法の技術詳細にまとめています。

12条点検を大規模修繕と一体化する3つのメリット

最後に、私が中野区のオーナーさま・管理組合さまへ繰り返しお伝えしている提案の型を共有します。12条点検の全面打診を、大規模修繕の事前調査として設計するという考え方です。

メリット1:高所アクセス費用が一度で済む

先ほど触れたとおり、これが最も大きい効果です。調査のためのロープ降下と、補修のためのロープ降下を分けずに済みます。

メリット2:長期修繕計画の精度が上がる

全面打診をすると、外壁全面の浮き率が数字で出ます。「浮き面積が全体の3%」なのか「12%」なのかで、タイル補修の必要数量が変わり、次回大規模修繕の概算工事費が変わります。長期修繕計画の見直しにそのまま使える一次データが手に入るわけです。

メリット3:管理計画認定・長寿命化の議論につながる

調査結果は、マンション管理計画認定制度の申請や、長期修繕計画の見直しの根拠資料になります。理事会で「なんとなく修繕積立金が足りない気がする」と言い合うより、浮き率の実測値を出したほうが、話は前に進みます。

私はこれを、ほぼワンセットでご提案するようにしています。管理組合さま向けのご提案の考え方は管理組合さま向け大規模修繕サービス、ビル・テナントオーナーさま向けはビルオーナーさま向けの修繕サービスにまとめています。費用の考え方については大規模修繕の料金の考え方もご参照ください。

株式会社明誠はこれまでに約6,000棟のマンション・ビル・ホテルの大規模修繕を手がけてきました。通常の仮設足場工法、ロープアクセス工法、そして両者を部位ごとに使い分けるハイブリッド工法という3つの選択肢から、建物の形状と予算に合わせてご提案できるのが私たちの強みです。これまでの施工事例は明誠の施工事例一覧からご覧いただけます。

よくあるご質問

Q. 中野区で外壁打診調査の費用はどれくらいですか?

A. 打診作業そのものは250〜500円/㎡が目安です。ただし高所へのアクセス方法によって総額が大きく変わります。仮設足場を架ける場合は800〜1,200円/㎡の仮設費が上乗せされ、調査費より足場費のほうが高くなることもあります。無料で概算お見積りを提示できますので、図面と竣工年をお知らせいただければ試算します。

Q. うちのマンションは4階建てですが、定期報告の対象になりますか?

A. 共同住宅(用途コード40)の場合、5階以上の階における用途床面積の合計が100㎡を超え、かつ延べ用途面積が1,000㎡を超えるものが対象です。4階建てであれば、原則として定期報告の対象外となる可能性が高いです。ただし対象外でも、外壁タイルが落下して通行人がケガをすれば、民法第717条の工作物責任は所有者に及びます。報告義務の有無と、安全管理の責任は別物とお考えください。

Q. 全面打診はいつやればよいのでしょうか?

A. 竣工または直近の外壁改修から10年を超えた建物は、10年ごとに全面打診等が必要とされています。手の届く範囲の打診で「要調査」と判定された場合は、10年を待たずに全面調査へ進みます。私のおすすめは、大規模修繕の実施時期と打診の周期を意図的に揃えてしまう段取りです。

Q. 報告書はどこに出せばよいですか?

A. 中野区が特定行政庁ですが、特定建築物と防火設備の報告書の提出先は公益財団法人 東京都防災・建築まちづくりセンター(電話 特定建築物 03-5989-1929)です。建築設備は日本建築設備・昇降機センター、昇降機等は東京都昇降機安全協議会が受付機関になります。制度のご相談は中野区役所 都市基盤部 建築課へどうぞ。

Q. ドローンの赤外線調査で打診の代わりになりますか?

A. 令和4年1月18日の告示改正により、無人航空機による赤外線調査で打診と同等以上の精度を有するものは、調査方法として認められることが明確化されました。ただし天候・日射・外壁の方位で精度が変わるため、条件を満たさない面は打診による確認が要ります。中野区のように隣棟間隔が狭く飛行経路を取りにくい市街地では、赤外線とロープアクセス打診の組み合わせが現実的な選択になることが多いです。

Q. 調査中、入居者に迷惑はかかりませんか?

A. ロープアクセス工法であれば足場もシート養生も不要ですので、採光・通風・眺望が確保され、窓の開閉もできます。作業時間帯の事前告知と、ベランダへの立ち入り可否の確認だけ行えば、通常の生活を続けていただけます。中野区のような単身者向け賃貸が多いエリアでは、この点を評価いただくことが多いです。

Q. 報告を出さないとどうなりますか?

A. 建築基準法第12条に基づく報告は法令上の義務であり、報告を怠った場合や虚偽の報告をした場合には罰則の規定があります。それ以上に実務的な問題は、外壁の浮きを把握しないまま放置して剥落事故が起きたときのリスクです。私が現場で一番悔しい思いをするのは、少し早く調べていれば防げた落下事故の話を聞いたときです。

Q. 工期はどれくらいかかりますか?

A. 打診調査だけであれば、中規模マンション1棟でロープアクセス工法なら数日から1週間程度です。調査に続けて大規模修繕まで行う場合、10階建て・外周80m規模で足場工法が約3か月、ロープアクセス工法が1.5〜2か月が目安になります。

まとめ|中野区のオーナーさまが今週動くこと3点

長くなりましたので、今週中に手を付けられることを3つに絞ります。

1. 自分の建物の用途コードと報告年度を確認する

中野区の定期報告とはのページで、用途と規模の表を確認してください。事務所・物販・飲食・複合用途(30番台)なら令和8年度が報告年度で、締切は10月31日です。整理番号(014-○○-○○○○)をお持ちでない場合は、区のページから概要調査票をダウンロードしてメール送付すれば発行されます。

2. 竣工年または直近の外壁改修年を調べ、10年経過を判定する

竣工図書か、前回の大規模修繕の工事報告書を引っ張り出してください。竣工から10年を超えているなら、全面打診の対象です。前回の外壁改修から10年以内なら、まだ猶予があります。

3. 大規模修繕の予定時期と、打診の周期を重ねられないか検討する

長期修繕計画の表を広げて、次回の大規模修繕がいつかを確認します。打診の年と修繕の年が3年以内に接近しているなら、まとめてしまえないかを理事会で議題に上げる価値があります。

中野区は敷地条件が厳しい物件が多く、足場が前提だと選択肢が狭まります。私たちは3つの工法から建物に合うものをご提案できますので、「うちは足場が架けられないと言われた」という段階でも、打つ手は残っていることが多いです。ご相談だけでも遠慮なくお問い合わせフォームからお声がけください。総会の前段階の整理だけでも、お力になれることがあります。


出典・参考資料

本記事の情報の鮮度について:本記事は2026年9月19日時点で公表されている中野区および国土交通省・東京都の公式情報をもとに執筆しています。制度は年度途中でも改正・運用変更があり得ます。実際に報告される前に、中野区都市基盤部建築課および受付機関へ最新の内容をご確認ください。


この記事の執筆者

本間 幸紘(ほんま ゆきひろ)
株式会社明誠 代表取締役/東京都東大和市
マンション・ビル・ホテルの大規模修繕20年以上の実務経験。3工法(通常足場/ロープアクセス/ハイブリッド)から建物特性に応じて最適提案。日本初のロープアクセス工事フランチャイズ本部を運営。JCSA(一般社団法人 全国建設業支援協会)代表理事。

最終更新:2026年9月19日

技術情報の詳細は姉妹サイト ロープアクセスドットコム(https://rope-access-method.com/) でも公開しています。

世田谷区の管理組合が無料で使える相談・派遣10選|マンション相談は第4月曜・三茶、管理講座は10月10日で申込は10月2日まで【令和8年度版】

2026年9月18日 更新

「本間さん、うちの管理組合は理事が1年交代でしてね。毎年ゼロから勉強し直しなんですよ」

今年の春、経堂のマンションの理事長さまから、そう伺いました。築33年、62戸。2回目の大規模修繕をそろそろ考えなければいけない、という時期でした。輪番制で理事が回るタイプの組合で、前年度の検討が引き継がれないまま、また同じ議論を最初からやり直している、と。

私は株式会社明誠の本間幸紘と申します。東京都東大和市を拠点に、20年近くマンションやビル、ホテルの外壁の仕事をしてきました。足場を組んで囲う工事も、ロープ1本でぶら下がる無足場の工事も、どちらの現場も自分の足で踏んできた人間です。

その理事長さまにお伝えしたのは、ひとつだけでした。世田谷区には、30分の無料相談から、専門家がマンションまで出向いてくれる派遣制度まで、段階に応じた窓口が揃っている。まず使えるものを一覧にして、引き継ぎ資料にしてしまいましょう、と。

世田谷区は23区でもっとも人口が多い区で、成城・二子玉川・下北沢・経堂・烏山と、マンションの性格が地域ごとにまるで違います。区の相談体制も、それを反映して「5つの総合支所を専門家が巡回する」という、他区にはあまりない形をとっています。近い会場を選べる、というのが世田谷区の相談窓口の一番の特徴です。

今日は、世田谷区のマンション管理組合とビルオーナーさまが、お金をかけずに使える相談・派遣を10個、令和8年度(2026年4月1日から2027年3月31日まで)の一次情報で整理します。


結論:世田谷区で無料で使える相談・派遣は10ある

先に一覧でお示しします。

# 制度・窓口 誰が対応するか 費用・回数 申込先
1 世田谷区住宅相談「マンション相談」 一級建築士+マンション管理士 無料/30分・第4月曜 住まいサポートセンター 03-6379-1420
2 住宅まちづくり総合相談 一級建築士 無料/30分・5総合支所を巡回 同上
3 住まいの法律相談 弁護士 無料/30分・月2回 同上
4 登記相談/土地家屋調査士相談 司法書士/土地家屋調査士 無料/30分 同上
5 マンション管理講座・相談会 外部講師+管理士+一級建築士 無料/年3回・相談会は最大5組 居住支援課 03-5432-2504
6 東京都マンションアドバイザー無料派遣(A・Bコース) マンション管理士等 無料/要届出1回・管理不全の兆候ありは5回 まちづくりセンター 03-5989-1453
7 世田谷区マンション管理アドバイザー制度利用助成(Cコース) マンション管理士等 派遣料の2分の1/同一マンション2回まで 居住支援課 03-5432-2504
8 分譲マンション専門相談 都が認めた専門家 無料/区の窓口経由 居住支援課 03-5432-2504
9 分譲マンション総合相談 マンション管理士 無料 まちづくりセンター 03-6427-4900
10 東京都マンション管理士無料派遣(防災力向上・認知症対応) マンション管理士 無料/令和9年2月26日まで受付 東京都マンション管理士会

電話番号は、実質2つ押さえておけば足ります。住まいサポートセンター(03-6379-1420)が1〜4の窓口相談の予約口。世田谷区 居住支援課(03-5432-2504)が5・7・8の派遣・講座の入口です。

ここからが本題です。


1. 世田谷区住宅相談「マンション相談」:第4月曜、三茶で30分

世田谷区の住宅相談には複数のメニューがありますが、管理組合が最初に使うべきなのはマンション相談です。

区の公式ページには、次のように書かれています(出典:世田谷区「世田谷区住宅相談」、2026年5月1日更新)。

  • 相談員:一級建築士、マンション管理士
  • 相談時間:30分無料(予約優先)
  • 会場・日時:三茶しゃれなあどオリオン(三茶昭和ビル5階)/第4月曜日 午後1時30分〜午後3時30分(面談のみ)
  • 対象:世田谷区在住・在勤・在学の方
  • 予約:住まいサポートセンター 03-6379-1420(月曜〜金曜 午前8時30分〜午後5時)

相談内容として区が挙げているのは、マンションの維持管理や大規模修繕の相談、維持管理や大規模修繕の計画・工事実施について、建替え円滑化方法の相談、管理組合の運営や集会の開催に関する相談です。修繕の話が正面から受けてもらえる枠だ、ということです。

注意点が2つあります。ひとつは月1回・第4月曜のみという点。しかも面談のみで、オンライン枠はありません。もうひとつは30分という枠の短さです。理事会で論点を1つか2つに絞ってから行かないと、状況説明で終わってしまいます。

もうひとつ、祝日と8月13日〜15日、12月27日〜1月5日は相談が休止になります。第4月曜が祝日に当たる月は事前に確認してください。


2. 住宅まちづくり総合相談:一級建築士が5つの総合支所を巡回する

「第4月曜は理事が集まれない」という組合には、こちらのほうが使いやすいはずです。一級建築士による住宅まちづくり総合相談は、世田谷区内の5つの総合支所を巡回しています。

会場と日時(令和8年度)

会場 日時
世田谷総合支所 区民相談室(区役所西棟2階) 第2月曜日 13:30〜15:30(オンライン相談可)
北沢総合支所 区民相談室(北沢タウンホール4階) 第1水曜日 13:30〜15:30
玉川総合支所 区民相談室(庁舎4階) 第2・第4木曜日 13:30〜15:30
砧総合支所 区民相談室(庁舎3階) 第1・第3金曜日 13:30〜15:30
烏山総合支所 区民相談室(庁舎4階) 第2・第4火曜日 13:30〜15:30
三茶しゃれなあどオリオン(三茶昭和ビル5階) 第4月曜日 13:30〜15:30
三茶しゃれなあどビーナス(三茶昭和ビル6階) 第1月曜日 午後6時30分〜午後8時30分(夜間)

(出典:世田谷区「世田谷区住宅相談」、2026年5月1日更新)

管理組合の実務で効いてくるのは、下2つの枠です。

夜間枠(第1月曜・三茶しゃれなあどビーナス・18:30〜20:30)。平日日中に動ける理事がいない組合でも、仕事帰りに寄れます。世田谷区のこの夜間枠は、23区の住宅相談のなかでも珍しい設計です。

オンライン枠(第2月曜・世田谷総合支所)。区役所まで出向かなくても、一級建築士に相談できます。

そして、この相談で区が受け付けているものの中に、「図面や見積書の見方やアドバイス」が明記されています。これは管理組合にとって、かなり大きい。施工会社から出てきた大規模修繕の見積書を、利害関係のない一級建築士に30分見てもらえる、ということだからです。

私どもも見積書を出す側ですから、はっきり申し上げておきます。第三者の目が1回入っている組合との打ち合わせは、話が速いです。数量の拾い方や仮設の考え方について、最初から論点が共有されているからです。明誠が料金の内訳をどう考えているかは、大規模修繕の料金の考え方にまとめています。


3. 住まいの法律相談・登記相談・土地家屋調査士相談

管理組合の悩みは、技術の話ばかりではありません。世田谷区の住宅相談には、士業別の枠も用意されています。いずれも30分無料・予約優先、予約は住まいサポートセンター(03-6379-1420)です。

住まいの法律相談(弁護士)

  • 北沢総合支所 区民相談室:第1火曜日 13:30〜15:30
  • 三茶しゃれなあどオリオン:第4月曜日 13:30〜15:30

区が挙げている相談内容に「規約、約款などに関することや民事調停や少額訴訟の手続き」が含まれています。管理規約の解釈でもめている、修繕積立金の滞納をどう処理するか決めきれない、といった場面で使えます。

登記相談(司法書士)

  • 北沢総合支所 区民相談室:第3水曜日 13:30〜15:30
  • 三茶しゃれなあどオリオン:第4月曜日 13:30〜15:30

土地家屋調査士相談

  • 三茶しゃれなあどオリオン:第4月曜日 13:30〜15:30

境界確定の手順、建物の調査・測量。共用部分の範囲や隣地との境界が絡む修繕では、ここが効いてきます。

不動産相談(宅地建物取引士)も、世田谷総合支所(第1月曜・オンライン可)ほか5会場で受け付けています。賃貸マンションのオーナーさまはこちらの枠が使いやすいでしょう。

第4月曜の三茶しゃれなあどオリオンは、建築士・マンション管理士・弁護士・司法書士・土地家屋調査士・宅建士が同じ日に揃う日です。論点が複数ある組合は、この日に照準を合わせるのが効率的です。


4. マンション管理講座・相談会:令和8年度第1回は10月10日、申込期限は10月2日

区が年3回開いている、講座と個別相談のセット企画です。世田谷区の公式ページは2026年9月18日に更新されており、令和8年度の日程が公表されています(出典:世田谷区「マンション管理講座・相談会」、2026年9月18日更新)。

令和8年度の開催内容

回 開催日 講座テーマ 会場
第1回 令和8年10月10日(土曜日) マンション防災について 玉川せせらぎホール 第4・第5集会室
第2回 令和8年12月5日(土曜日) 検討中 北沢タウンホール 第1・第2集会室
第3回 令和9年2月予定 検討中 未定

第1回の内訳は、講座が午前10時〜11時30分、無料相談会が午前11時30分〜12時。講師は村上陽一氏(株式会社世田谷サービス公社 地域防災支援センター所長)です。

申込のポイントは3つあります。

ひとつめ。申込期間は2026年9月1日(火)〜10月2日(金)。この記事の公開時点で、締切まで2週間あまりです。

ふたつめ。講座と相談会で申込先が別です。

  • 講座:オンライン申込(https://logoform.jp/f/Na239)または せたがやコール 03-5432-3333(年中無休 8:00〜21:00)
  • 無料相談会:都市整備政策部 居住支援課 03-5432-2504(平日 8:30〜17:00)

みっつめ。定員の決まり方が違います。講座は会場75名で、超えた場合は抽選。相談会は最大5組・先着順です。相談会を狙うなら、申込は早いほうがいい。

無料相談会では、マンション管理士(一般社団法人 東京都マンション管理士会 世田谷支部)と一級建築士が、30分の個別相談に応じます。対象は管理講座を受講した区内分譲マンションの居住者・管理組合役員等なので、講座とセットで申し込む必要があります。

第1回のテーマは防災ですが、相談会の中身はテーマに縛られません。外壁の劣化、長期修繕計画の見直し、修繕積立金の不足——修繕の相談をここで持ち込むことができます。むしろ、防災の講座を聞いたあとのほうが、外壁タイルの剥落リスクのような話は理事同士で共有しやすくなります。地震時にタイルが落ちるかどうかは、防災の話であり、修繕の話でもあるからです。

第2回・第3回の申込開始は、区のおしらせ「せたがや」の開催1か月前の1日号に掲載される予定です。12月5日の回なら、11月1日号を確認してください。


5. 東京都マンションアドバイザー無料派遣:届出済みなら専門家が組合に来てくれる

ここからは、専門家がマンションまで出向いてくれる制度です。窓口に行くのではなく、来てもらう。理事会の場でそのまま相談できるので、合意形成の速度が変わります。

公益財団法人 東京都防災・建築まちづくりセンターの「マンションアドバイザー制度」は、条例に基づく管理状況の届出を行った管理組合限定で、A・Bコースと建替え・改修アドバイザーAコースを無料で利用できます(出典:東京都防災・建築まちづくりセンター「マンションアドバイザー無料派遣」)。

無料派遣の回数

対象 無料回数
届出が受理された要届出マンション 1回まで無料
届出が受理されたマンションのうち、管理不全の兆候があるマンション 5回まで無料

「要届出マンション」とは、昭和58(1983)年12月31日以前に新築された、居住用の独立部分が6戸以上の分譲マンションを指します。世田谷区内には、この条件に当てはまる物件が数多くあります。築40年を超えていれば、まず該当すると思ってください。

大規模修繕に直結するコースを挙げます。1回あたり2時間程度です。

講座編(Aコース)

  • A-2:長期修繕計画作成ガイドライン活用の手引きの解説
  • A-4:計画修繕工事の進め方

相談編(Bコース)

  • B-4:修繕計画の作成や修繕積立金等の設定に関すること
  • B-5①:修繕工事検討段階での相談(建物・設備等の劣化状況の調査・診断、修繕工事の検討組織、修繕工事の方式等)
  • B-5②:修繕工事準備段階での相談(修繕工事の内容、業者選定の仕方、合意形成等)
  • B-6:その他マンションの維持管理に関すること

実務的におすすめしたいのは、B-5①を先に1回入れることです。「そもそも今、調査から始めるべきなのか」「足場を組む前提で考えていいのか」という段階の疑問を、利害関係のない専門家にぶつけられます。ここで工法の選択肢が整理できていると、そのあと施工会社を呼んだときの打ち合わせが、まるで違う密度になります。

申込は、申込書に記入のうえFAX・メール・郵送で東京都防災・建築まちづくりセンターへ。申込後1〜2週間程度でアドバイザーから日程調整の連絡が来ます。問い合わせは03-5989-1453です。

ひとつ、事前に共有しておくべき点があります。無料派遣で相談した内容は、東京都・世田谷区と共有されます。これは条例施行や耐震化促進の基礎資料として使われるもので、行政目的以外には使われない、と明記されています。総会で「なぜ区に情報が行くのか」と質問が出たときのために、押さえておいてください。


6. 世田谷区独自のCコース派遣料2分の1助成

Aコース・Bコースの無料枠を使い切った、あるいはもっと踏み込んだ成果物が欲しいという組合には、Cコース(支援編)という選択肢があります。こちらは有料ですが、世田谷区が令和6年6月1日から派遣料の2分の1を助成しています(出典:世田谷区「マンション管理アドバイザー制度利用助成」、2024年10月3日更新)。

助成対象となるCコースと派遣料

コース 内容 派遣料
C-1 管理組合の設立・実体化に向けた体制整備 191,400円
C-2 総会準備に向けた取り組み 95,700円
C-3 管理組合運営体制の整備 214,500円
C-4 管理規約の設定案又は改定案 357,500円
C-5 管理費の設定案及び見直し案 95,700円
C-6 修繕積立金の設定案 95,700円
C-7 長期修繕計画見直し案及び修繕積立金見直し案 95,700円
C-8 大規模修繕工事計画案 191,400円

助成額は派遣料の2分の1で、同一のマンションにつき2回まで。たとえばC-8(大規模修繕工事計画案)なら、191,400円のうち区の助成が約95,700円、組合の負担は約95,700円という計算になります。C-7とC-8を1回ずつ使えば、長期修繕計画の見直しと工事計画案の2点セットが、合計約14万円強の自己負担で手に入る、ということです。

コンサルティング会社に同等の検討を依頼した場合の費用感と比べると、これはかなり有利な条件です。

助成条件は3つあり、すべてを満たす必要があります。

  1. 東京都のマンション管理条例に基づく要届出マンションで、届出を行っていること
  2. 届出から5年以内であること
  3. 管理不全の兆候のあるマンションであること(管理組合・管理者等・管理規約・総会開催・管理費・修繕積立金・修繕の計画的な実施のうち、いずれかが「無い」と回答しているマンション)

3つめは誤解されやすいので補足します。「管理不全」という言葉は強く聞こえますが、判定基準は届出時の回答内容です。たとえば長期修繕計画に基づく修繕の計画的な実施ができていないと回答していれば、これに該当します。荒れた物件だけの話ではありません。

手続きの順番にも注意してください。アドバイザー制度の利用申し込みの前に、区へ助成の申請をする必要があります。先に派遣を受けてしまうと助成が受けられません。また、完了報告書の提出期限は交付決定を受けた年度の末日までで、これを過ぎると交付取消しになります。令和8年度に申請するなら、令和9年3月31日までに派遣と報告まで終える段取りが要ります。逆算すると、秋のうちに動き出すのが現実的です。

事前相談は、世田谷区 都市整備政策部 居住支援課(03-5432-2504)へ。

なお、このページの最終更新日は2024年10月3日です。制度そのものは継続していますが、派遣料や助成条件が令和8年度に改定されている可能性は否定できません。申請前に必ず居住支援課へ現在の金額をご確認ください。


7. 東京都の相談窓口:専門相談・総合相談・管理士無料派遣

区の窓口で解決しきらない場合、東京都側にもう一段の受け皿があります。

分譲マンション専門相談
区市の相談窓口で相談したうえで、専門家による対応が必要と都が認めたものについて実施されます。申込先は世田谷区です。居住支援課(03-5432-2504)に相談してください。区の相談が「入口」、専門相談が「二段目」という位置づけになります。

分譲マンション総合相談
公益財団法人 東京都防災・建築まちづくりセンターが、マンション管理士による総合相談に応じます。専用電話 03-6427-4900。管理・建替え・改修のいずれも対象です。

東京都マンション管理士会 相談専用電話
一般社団法人 東京都マンション管理士会が、管理に関する相談とマンション管理士の紹介に応じています。電話 03-5829-9774。

東京都リフォーム総合相談窓口
分譲マンションの専有部分についても相談できます。電話 03-5989-1683。共用部分は管理組合、専有部分は区分所有者——この線引きで悩む相談が持ち込まれたときの案内先として、理事会が知っておくと便利です。

マンション管理士無料派遣(防災力向上・認知症対応)
東京都が実施する分譲マンション向けの管理士派遣です。令和8年度の申込期間は令和8年6月23日(火)から令和9年2月26日(金)まで。防災力向上・認知症対応を合わせて160件の募集数に達し次第、新規の申込みは締め切られます(出典:東京都マンションポータルサイト「分譲マンション向けマンション管理士無料派遣(防災力向上・認知症対応)」)。申込は東京都マンション管理士会から行えます。

「防災」の派遣ではありますが、外壁の落下リスクや避難経路の安全性は防災の検討項目そのものです。修繕の優先順位を考える材料として、十分に使えます。

ひとつ補足しておくと、世田谷区は「マンション管理適正化支援法人の登録は行わない」という方針を公表しています(出典:世田谷区「マンション管理適正化支援法人について」、2025年12月22日更新)。支援法人経由のルートは世田谷区にはない、ということです。上に挙げた区と都の窓口が、現時点での支援の全体像になります。


8. 世田谷区で大規模修繕を考えるときの費用感

無料相談を使う前に、おおよその桁を頭に入れておくと、相談の中身が濃くなります。

総工費の目安。30戸規模のマンションの大規模修繕で、3,500万円〜5,000万円というレンジが一般的です。このうち仮設足場が15〜25%を占めます。つまり、600万円〜1,200万円が「工事そのものではない部分」に使われている計算になります。

㎡単価の目安。外壁塗装が3,500〜4,500円/㎡、外壁の打診調査が250〜500円/㎡、屋上防水が5,000〜8,000円/㎡。いずれも劣化状況と施工条件で大きく変動しますので、参考値としてお考えください。

足場とロープアクセスの差。10階建て・外周80m・工期3か月という条件で試算すると、仮設足場が約168万円に対し、ロープアクセス工法なら約59万円。差額はおよそ109万円です。もちろん物件形状や作業範囲によって変わりますが、桁としてはこのくらいの開きが出ます。

世田谷区は、成城や深沢のように隣地との距離が近い低中層マンションが多い地域と、二子玉川や三軒茶屋のように高層物件が集まる地域が混在しています。足場が組みにくい敷地条件の物件では、ロープアクセス工法を部分的に組み合わせるハイブリッド工法が現実的な選択肢になることが少なくありません。全面をロープに切り替えるのではなく、足場が入らない面だけをロープで処理する、という考え方です。

工法の技術的な比較や、ロープアクセスの安全基準について深く知りたい方は、姉妹サイトのロープアクセスドットコムに同業者向けの詳しい解説をまとめています。管理組合の技術担当理事の方が読んでも理解できる内容です。工法そのものの概要は明誠のロープアクセス工法の技術詳細をご覧ください。

株式会社明誠はこれまでに約6,000棟のマンション・ビル・ホテルの大規模修繕を手がけてきました。ロープアクセス工法での高所作業について、明誠および全国のフランチャイズ加盟企業では過去16年間、墜落による労働災害はゼロを維持しています。IRATA(国際産業ロープアクセス協会)水準の技能訓練を受けた作業員が施工にあたり、安全管理の考え方は明誠の安全管理への取り組みにまとめています。訓練体制や資格制度の詳細はロープアクセスドットコム側で公開しています。

これまでの施工事例(約6,000棟)は https://rita-construction.com/renew/blog/category/works/ からご覧いただけます。世田谷区内の物件も含まれています。


9. 無料相談を最大限に活かす3つの準備

30分の枠を無駄にしないために、持っていくものを決めておいてください。

準備1:直近3年分の総会議事録

修繕の議論がどこまで進んでいるか、相談員が最初に知りたいのはここです。議事録があれば、状況説明の5分が1分で済みます。

準備2:長期修繕計画と修繕積立金の残高

「積立金がいくら足りないか」は、相談の質を決める数字です。残高と、次回修繕の予定額。この2つだけでも構いません。

準備3:外壁の写真を5枚

ひび割れ、浮き、雨だれ、鉄部のサビ、バルコニーの防水。スマートフォンで撮ったもので十分です。言葉で「劣化しています」と説明するより、写真1枚のほうが伝わります。

この3点をPDFで1つのファイルにまとめておくと、どの窓口に行っても、東京都のアドバイザー派遣に切り替えても、そのまま使い回せます。輪番制で理事が交代する組合なら、この3点セットを引き継ぎ資料にしてしまうのが一番効きます。冒頭でお話しした経堂の理事長さまには、これをお勧めしました。


よくあるご質問

Q. 世田谷区の無料相談は、賃貸マンションのオーナーでも使えますか?

A. 窓口によって分かれます。世田谷区住宅相談(マンション相談・住宅まちづくり総合相談・法律相談・不動産相談など)は、世田谷区在住・在勤・在学の方が対象なので、区内にお住まいまたはお勤めのオーナーさまはご利用いただけます。一方、東京都のマンションアドバイザー派遣とCコース助成は分譲マンションの管理組合が対象です。ビル1棟や賃貸マンションの修繕計画のご相談は、明誠のビルオーナー向けページからもお受けしています。

Q. 窓口相談とアドバイザー派遣、どちらを先に使うべきですか?

A. 課題がまだ整理できていない段階なら、30分の窓口相談が先です。論点を絞る作業に向いています。「調査から始めるべきか」「足場かロープか」のように論点が固まってきたら、アドバイザー派遣のB-5①に切り替えると、2時間かけて掘り下げられます。総会に出す資料が欲しい段階になったら、Cコース(C-7・C-8)です。この3段階で考えると迷いません。

Q. 管理状況の届出をしていません。それでも相談できますか?

A. 世田谷区住宅相談と管理講座・相談会は、届出の有無を問いません。ただし東京都のアドバイザー無料派遣とCコース助成は、届出が受理されていることが条件です。しかもCコース助成は「届出から5年以内」という条件も付きます。届出そのものの手続きは居住支援課(03-5432-2504)で聞けますので、まずそこから始めるのが近道です。

Q. Cコース助成の「管理不全の兆候」に、うちは当てはまりますか?

A. 届出時に、管理組合・管理者等・管理規約・総会開催・管理費・修繕積立金・修繕の計画的な実施の7項目のうち、いずれか1つでも「無い」と回答していれば該当します。たとえば長期修繕計画に沿った修繕ができていない、というだけで条件を満たします。ご自身の組合の届出内容が分からない場合は、居住支援課で確認できます。

Q. 相談は無料でも、そのあと工事を頼まされませんか?

A. 区や都の相談窓口は、マンション管理士会・建築士事務所協会・弁護士会などから派遣された相談員が対応するもので、特定の業者を紹介する場ではありません。工事業者の選定は、あくまで管理組合が別途行うことになります。

Q. 大規模修繕の費用はどれくらいが目安ですか?

A. 30戸規模のマンションで3,500〜5,000万円というレンジが一般的です。うち仮設足場が15〜25%を占めます。外壁塗装は3,500〜4,500円/㎡、屋上防水は5,000〜8,000円/㎡が目安ですが、劣化状況と足場条件で大きく変動します。概算のお見積りは無料でお出しできますので、明誠のお問い合わせフォームからお気軽にご連絡ください。

Q. ロープアクセス工法にすると工期はどれくらい短くなりますか?

A. 足場工法の約60%が目安です。10階建て・外周80mのマンションであれば、足場工法で3か月かかるところ、ロープアクセス工法なら1.5〜2か月程度。足場の組立・解体に必要な期間がまるごと不要になるためです。居住者の方がバルコニーを使えない期間も、その分短くなります。

Q. 管理組合として、明誠に相談することはできますか?

A. もちろんです。工法の選択肢を知りたい、他社の見積りの妥当性を確認したい、といった段階でも構いません。管理組合向けのサービスページに、ご相談から着工までの流れをまとめています。


まとめ:今週、世田谷区の管理組合が動けること3つ

長くなりましたので、動くべきことだけ3つに絞ります。

1. 10月10日の管理講座に申し込む(締切は10月2日)

令和8年度第1回、玉川せせらぎホール。講座のあとに一級建築士とマンション管理士の個別相談が付いて、どちらも無料です。相談会は最大5組・先着順なので、狙うなら早めに。講座は せたがやコール 03-5432-3333、相談会は居住支援課 03-5432-2504。申込先が別なので、両方に電話してください。

2. 管理状況の届出が済んでいるか確認する

東京都のアドバイザー無料派遣も、世田谷区のCコース助成も、ここが入口条件です。Cコース助成はさらに「届出から5年以内」という条件が付きます。済んでいるかどうか分からなければ、居住支援課(03-5432-2504)に電話1本で確認できます。

3. 3点セットを1つのファイルにまとめる

総会議事録・長期修繕計画・外壁の写真5枚。これを1冊にしておけば、どの窓口に行っても即座に本題に入れます。次の理事会で、誰が用意するかだけ決めてしまってください。

世田谷区は、相談の入口が地域ごとに分散している区です。近くの総合支所で受けられるのは利点ですが、裏を返せば「どこに何があるか分かりにくい」ということでもあります。この記事が、その地図の代わりになれば嬉しく思います。

10月2日という締切がある以上、次の理事会を待っていると間に合わない可能性があります。1分だけでも、この話題をメールで共有してみてください。工法の選択肢や概算のご相談だけでも、私どもでお力になれることがあります。


出典・参考資料


本記事の情報の鮮度について:本記事は2026年9月18日時点で公表されている世田谷区および東京都・国土交通省の公式情報をもとに執筆しています。制度は年度途中でも改正・予算終了があり得ます。特にマンション管理アドバイザー制度利用助成については、参照した世田谷区公式ページの更新日が2024年10月3日であり、令和8年度の派遣料・助成条件に変更が加えられている可能性があります。また、東京都のマンション管理士無料派遣は募集数160件に達し次第締め切られます。実際に申請される前に、必ず世田谷区 都市整備政策部 居住支援課(03-5432-2504)および該当窓口へ最新の内容をご確認ください。


この記事の執筆者

本間 幸紘(ほんま ゆきひろ)
株式会社明誠 代表取締役/東京都東大和市
マンション・ビル・ホテルの大規模修繕20年以上の実務経験。3工法(通常足場/ロープアクセス/ハイブリッド)から建物特性に応じて最適提案。日本初のロープアクセス工事フランチャイズ本部を運営。JCSA(一般社団法人 全国建設業支援協会)代表理事。

最終更新:2026年9月18日

大田区の管理組合が無料で使える相談・派遣10選|管理士相談は毎月第3木曜、建築士は第1・3水曜、訪問相談は件数上限あり【令和8年度版】

2026年9月18日 更新

「本間さん、うちは管理会社さんに任せきりでね。でも今度の大規模修繕だけは、第三者の目を一度入れておきたいんですよ。ただ、コンサル料が何十万もかかるんでしょう」

去年の秋、大森北のマンションの理事長さまから、そう言われました。築29年、48戸。1回目の大規模修繕から14年が経っていて、そろそろ2回目を考えなければいけない、という段階の物件です。

私は株式会社明誠の本間幸紘と申します。東京都東大和市を拠点に、20年近くマンションやビル、ホテルの外壁の仕事をしてきました。足場を組んで囲う工事も、ロープ1本でぶら下がる無足場の工事も、どちらの現場も自分の足で踏んできた人間です。

その理事長さまにお伝えしたのは、ひとつだけでした。大田区には、マンション管理士が組合まで出向いてくれる訪問相談がある。費用はかかりません。まずそこを使って、課題の棚卸しだけでもしてしまいましょう、と。

大田区は23区でもっとも面積が広い区で、蒲田・大森・田園調布・池上・羽田と、マンションの性格が地域ごとにまるで違います。区の支援メニューも、それを反映して「来てもらう」「出向いてもらう」「専門家を呼ぶ」の3系統に分かれています。使い分けができると、動きがずいぶん速くなります。

今日は、大田区のマンション管理組合とビルオーナーさまが、お金をかけずに使える相談・派遣を10個、令和8年度(2026年4月1日から2027年3月31日まで)の一次情報で整理します。


結論:大田区で無料で使える相談・派遣は10ある

先に一覧でお示しします。

# 制度・窓口 誰が対応するか 費用・回数 申込先
1 マンション管理無料相談会 マンション管理士 無料/毎月第3木曜・3枠 都マンション管理士会大田支部 03-6410-9542
2 マンション管理等訪問相談 マンション管理士(組合へ訪問) 無料/年間件数に上限あり 建築調整課 住宅政策担当 03-5744-1416
3 マンション管理等アドバイザー派遣制度 まちづくりセンターのアドバイザー 派遣料無料 建築調整課 住宅政策担当 03-5744-1416
4 分譲マンション管理セミナー 外部の専門家(弁護士等) 無料/年2回 住宅・空家相談窓口 03-5744-1343
5 マンション交流会 他組合の理事・区職員 無料/申込不要 同上
6 マンション個別相談会 マンション管理士 無料/抽選4組 同上
7 一級建築士による無料建築相談 一級建築士 無料/第1・第3水曜 建築調整課 03-5744-1383(予約制)
8 法律相談 弁護士 無料/25分・対面+オンライン 広聴広報課 03-5744-1135(予約制)
9 不動産取引相談/消費者生活センター 宅建業協会相談員/消費生活相談員 無料 03-5744-1135/03-3736-0123
10 東京都・国の相談窓口 管理士・建築士等 無料 都マンション課 03-5320-5004 ほか

このうち2・3・7は、区役所の建築調整課 住宅政策担当(電話03-5744-1416)が入口になります。4〜6は住宅・空家相談窓口(03-5744-1343)。番号はこの2つを押さえておけば、ほぼ足ります。

ここからが本題です。


1. マンション管理無料相談会:毎月第3木曜、区役所1階南ロビー

区役所に出向いて、マンション管理士に直接聞ける枠です。予約制で、費用はかかりません。

区の公式ページには、次のように書かれています(出典:大田区「マンション管理無料相談会(参加費無料、事前予約制)」、2026年9月1日更新)。

  • 日時:毎月第3木曜日。相談時間は(1)午後1時(2)午後2時(3)午後3時 から選択
  • 会場:大田区役所本庁舎 1階南ロビー(中央の入口から入ってすぐ左のスペース)
  • 相談員:マンション管理士
  • 申込:東京都マンション管理士会 大田支部/電話 03-6410-9542/メール tokyomankan.otasibu@gmail.com

令和8年度の残りの開催日は、公表されている日程表によると次のとおりです。

開催日 曜日
令和8年10月15日 木曜日
令和8年11月19日 木曜日
令和8年12月17日 木曜日
令和9年1月21日 木曜日
令和9年2月18日 木曜日
令和9年3月18日 木曜日

(令和8年9月17日の回は本記事公開時点で終了しています)

ひとつ注意点があります。申込先の電話は留守番電話に設定されています。区の案内では「区役所での相談会に申し込みたい」旨を録音すれば、担当者から折り返し連絡が来る、とされています。かけて誰も出ないからといって、諦めないでください。

区が挙げている相談例は、管理組合の運営、大規模修繕工事の検討や準備、管理規約の改定、そして「東京におけるマンションの適正な管理の促進に関する条例」についての相談です。修繕の話が正面から受けてもらえる枠だ、ということです。

私は理事長さまに、この枠を「見積書を持っていく場」としてお勧めしています。管理会社から出てきた大規模修繕の概算を1枚持って、「この金額感、どう思われますか」と聞く。第三者の管理士がどこに引っかかるかを聞くだけで、理事会の議論の質が変わります。


2. マンション管理等訪問相談:管理士が組合まで来てくれる

大田区の支援メニューで、私がいちばん価値が高いと思っているのがこれです。

東京都マンション管理士会大田支部のマンション管理士が管理組合を訪問し、抱えている問題や取り組むべき課題の整理を支援して、解決の方向性や区・都の支援策の使い方を助言してくれます。費用はかかりません(出典:大田区「マンション管理等訪問相談」)。

理事会に専門家が来てくれる、という形です。理事1人が区役所に行って話を聞いて帰ってくるのと、理事会全員が同じ説明を同じ場で聞くのとでは、その後の合意形成のスピードがまるで違います。

対象:「東京におけるマンションの適正な管理の促進に関する条例」に基づく管理状況の届出を行っている、区内の管理組合等(管理組合設立に向けて準備している区分所有者の団体を含む)

申請:派遣希望日の30日前までに、管理組合等の代表者名で「大田区マンション管理等訪問相談員派遣申請書」を提出。日程調整が必要なので、区は事前連絡を求めています

窓口:建築調整課 住宅政策担当(大田区蒲田五丁目13番14号)/電話 03-5744-1416

ここで、見落とされがちな一文を引いておきます。区のページには「マンション管理士を派遣する年間件数が決まっているため、上限に達し次第、申込みの受付けを終了します」と書かれています。

つまり、早い者勝ちの制度です。私は理事長さまに「総会で決めてから申し込もう」ではなく、「理事会で方向が固まった時点で、まず枠を取ってください」とお伝えしています。9月は、年度の折り返しです。枠が残っているうちに動く意味があります。

なお、このページの更新日は2025年4月15日(令和7年4月15日)です。令和8年度の年間派遣件数そのものは公表されていないため、現時点の受付状況は建築調整課へ直接ご確認ください。本記事では「上限あり・先着」という制度の枠組みのみをお伝えしています。


3. マンション管理等アドバイザー派遣制度:都のアドバイザーを区が無料で呼ぶ

2の訪問相談が「区の管理士」だとすると、こちらは「都のアドバイザー」を区の制度で呼ぶ仕組みです。

区内マンションの適切な管理運営と維持管理水準の向上を図るため、(公財)東京都防災・建築まちづくりセンターが実施する「マンション管理アドバイザー制度」および「マンション建替え・改修アドバイザー制度」によるアドバイザーを、大田区が無料で派遣します(出典:大田区「マンション管理等アドバイザー派遣制度」)。

対象要件が少し特殊なので、丁寧に読んでください。区が挙げているのは次の2つを両方満たす管理組合です。

  1. 「東京におけるマンションの適正な管理の促進に関する条例」に基づく管理状況の届出を行っていること
  2. まちづくりセンターのマンションアドバイザー無料派遣を受けることができない管理組合であること

2つめが分かりにくいので、まちづくりセンター側の無料派遣の枠を並べます。区のページに書かれている内容は次のとおりです。

区分 まちづくりセンターの無料派遣
届出が受理された要届出マンション 1回まで無料
届出が受理され、管理不全の兆候があるマンション 5回まで無料
要届出マンション以外で、管理不全の兆候のないマンション 無料派遣の対象外

要するに、まちづくりセンターの無料枠を使い切った組合、あるいはそもそも都の無料枠の対象にならない組合を、大田区が独自に拾い上げる制度だということです。「もう都の1回は使ってしまった」という組合ほど、この区の制度を知る価値があります。

派遣内容:マンション管理アドバイザー制度の「講座編」「相談編」、マンション建替え・改修アドバイザー制度の「入門編」「検討書の作成」。各コースの詳細は区が公開している制度案内パンフレット(PDF)にまとまっています

申請:派遣希望日の30日前までに、管理組合理事長名(設立準備中の団体は代表者名)または所有者名で申請書(第1号様式)を提出

注意点:派遣料以外の費用(テキスト代、違約金等)は申請者の負担です。また、派遣申請後に辞退すると違約金が発生します。日程は理事会でしっかり固めてから申請してください

こちらのページの更新日は2025年4月1日(令和7年4月1日)です。令和8年度の運用に変更がないかどうかは、申請前に建築調整課(03-5744-1416)へ一度ご確認ください。

「検討書の作成」コースは、大規模修繕か改修か建替えかで理事会が割れているときに効きます。私の経験上、割れているのは意見ではなく前提となる情報であることが多い。第三者がつくった検討書が1冊あるだけで、話が前に進みます。


4〜6. セミナー・交流会・個別相談会:年2回、次は令和9年3月予定

大田区は分譲マンション管理セミナーを年2回、参加費無料で開いています(出典:大田区「分譲マンション管理セミナー、交流会、個別相談会」、2026年8月14日更新)。

令和8年度第1回は、令和8年9月6日(日曜日)に開催されました。内容は次のとおりでした。

  • 日時:令和8年9月6日(日曜日)午後1時から3時
  • 会場:消費者生活センター 2階 大集会室(大田区蒲田五丁目13番26-101号)
  • テーマ:管理組合の基礎知識と改正関係
  • 講師:香川 希理 氏(香川総合法律事務所 代表弁護士)
  • 定員:先着60名

そして重要なのはここです。区のページには「令和8年度第2回セミナー・相談会 令和9年3月開催予定」と明記されています。

セミナー本体(第1部)のあとに、第2部としてマンション交流会とマンション個別相談会が同時間帯で開かれます。第1回の例では、次のような構成でした。

区分 内容 申込
マンション交流会 セミナー終了後、同会場でそのまま開催 事前申込不要
マンション個別相談会 別室でマンション管理士に個別相談 事前申込制・抽選4組

(注)交流会と個別相談会は同じ時間帯のため、両方には参加できません。

個別相談会は抽選4組と狭き門ですが、交流会のほうは申込不要です。私は、こちらを軽く見ないでほしいと思っています。他の組合の理事長と、修繕の話を生でできる場は、そう多くありません。「うちは前回いくらでやった」「その業者はどうだった」という情報は、どんな資料よりも実務的です。

申込先は〒144-8621 大田区蒲田5-13-14 大田区住宅相談窓口(建築調整課住宅政策担当内)、FAX 03-5744-1558、電話 03-5744-1343。第1回はFAX・郵送・電子申請フォームの3通りで受け付けていました。

令和9年3月回の具体的な日程・テーマ・申込開始日は、本記事公開時点では未公表です。第1回の受付開始が開催の約1か月前(令和8年8月1日)だったことを踏まえると、令和9年1月末から2月初旬には区のページを見に行っておくとよさそうです。


7. 一級建築士による無料建築相談:第1・第3水曜、予約制

修繕の話を「建築の専門家」に聞きたいときの枠です。

  • 日時:第1水曜日・第3水曜日 午後1時から午後4時(祝日を除く)
  • 場所:区役所本庁舎1階ロビー
  • 相談員:東京都建築士事務所協会大田支部所属の一級建築士等
  • 相談内容:新築、増築、耐震診断、改修、工事管理など
  • 予約:予約制/電話 03-5744-1383

出典:大田区「一級建築士による無料建築相談」(2026年3月4日更新)。なお区のページには「9月は日程が変更になります。お問い合わせください」との注記があります。9月にご利用の場合は、事前に電話でご確認ください。

「改修」「工事管理」が相談内容に入っているのが、この枠の使いどころです。大規模修繕の工事監理を誰が担うのか——管理会社なのか、設計監理方式で別の設計事務所を入れるのか。ここは金額にして数百万円が動く判断です。第三者の一級建築士に30分聞けるなら、聞いておいて損はありません。

私は、外壁の打診調査の報告書を持っていくことをお勧めしています。打診調査(外壁を専用の道具で叩き、内部の浮きを音で判別する調査)の結果は、素人が読むと「浮きが○㎡」という数字の羅列に見えます。それがこの建物にとってどれくらい深刻なのかを建築士に訳してもらう。その一手間で、理事会の温度が変わります。

打診調査の㎡単価は、私どもがお受けしている案件ではおおむね250〜500円/㎡が目安です。外壁塗装は3,500〜4,500円/㎡、屋上防水は5,000〜8,000円/㎡といったレンジになります。いずれも物件の状態と規模で大きく振れますので、参考値としてご覧ください。


8〜9. 弁護士の法律相談・不動産取引相談・消費者生活センター

管理費の滞納、区分所有者間のトラブル、工事契約の解釈——法律の話になったときの窓口です。

法律相談(無料)

  • 日時:毎週 月曜日・水曜日・金曜日(祝日、12月29日〜1月4日を除く)
  • 時間枠:午後1時30分/1時55分/2時20分/2時45分/3時10分(相談時間は25分)
  • 場所:区民相談室(区役所本庁舎2階)
  • 予約:予約制/電話 03-5744-1135(メール予約不可)。相談希望日の2週間前から受付
  • 対象:大田区に在住・在勤・在学の方
  • オンライン相談あり(午後1時30分〜1時55分の枠、LoGoフォームから申込。画面共有は不可)

出典:大田区「法律相談(無料)」(2026年8月5日更新)。

ひとつ注意があります。区の案内では「原則として、同じ内容の相談は一度だけです。繰り返しの相談はできません」とされています。25分1回きり、と考えて臨んでください。事実関係を時系列で1枚にまとめて持っていくだけで、密度が段違いになります。

区以外の窓口としては、東京都内の3弁護士会が共同運営する法律相談センターの電話無料相談(0570-200-050、月〜金 午前10時〜午後4時、15分程度)があります。区外の物件についてのご相談は、こちらが窓口になります。

不動産取引相談(無料)

  • 日時:第1木曜日・第3木曜日 午後1時から午後4時(受付は午後3時まで)
  • 場所:区民相談室(区役所本庁舎2階)
  • 相談員:宅地建物取引業協会相談員
  • 予約不要・受付順

出典:大田区「不動産取引相談(無料)」(2026年8月5日更新)。予約不要というのは、地味ですが大きな利点です。

大田区立消費者生活センター

訪問販売や電話勧誘で結んでしまった工事契約について相談できる窓口です。

  • 相談専用電話:03-3736-0123
  • 受付:月曜日から金曜日 午前9時から午後4時30分まで(祝日、年末年始を除く)
  • 所在地:大田区蒲田五丁目13番26-101号

出典:大田区「消費生活相談」。

正直に申し上げます。私が現場で20年やってきて、いちばん悔しい思いをするのは、飛び込みの業者に「今すぐ工事しないと危ない」と言われて契約してしまった後のご相談です。屋上に上がってみると、そもそも手を入れる必要がなかった、ということが実際にあります。

契約書にハンコを押す前に、この番号に電話してください。クーリング・オフが使える期間かどうかも、ここで確認できます。


10. 東京都・国の相談窓口:大田区の枠を使い切ったら

東京都:マンション管理士無料派遣(防災力向上・認知症対応)

東京都が令和5年度から実施している事業です。防災力向上や認知症対応の講習を受けたマンション管理士が、実践的なノウハウの習得や合意形成のアドバイスを行います。

  • 対象:都内に所在するマンション管理組合
  • 回数:1管理組合につき、防災力向上と認知症対応それぞれ2回まで(無料)
  • 注意:派遣回数は通算。令和5〜7年度に派遣を受けている場合、その回数も上限に含まれます
  • 受付期間:令和8年6月23日(火)から令和9年2月26日(金)まで
  • 募集数:防災力向上・認知症対応 合わせて160件。達し次第、新規申込を締切
  • 申込:東京都マンション管理士会のHPから
  • 問合せ:東京都 住宅政策本部 民間住宅部 マンション課 03-5320-5004

出典:東京都マンションポータルサイト「分譲マンション向けマンション管理士無料派遣(防災力向上・認知症対応)」。

都内全体で160件という枠です。9月時点で残りが何件かは公表されていませんので、使うと決めたら早めに動いてください。

東京都:管理状況の届出とアドバイザー派遣費用の助成

大田区の制度(上記2・3)は、いずれも条例に基づく管理状況の届出が入口条件になっています。まだ届出をしていない組合は、そこが最初の一歩です。届出制度の詳細は東京都マンションポータルサイト「管理状況届出制度」に、大田区での手続きは大田区の管理状況届出制度のページにまとまっています。

国:(公財)マンション管理センター

全国の管理組合向けに、電話相談を受け付けています。

長期修繕計画の標準様式や修繕積立金ガイドラインなど、国が示している基準の原典にあたれるのが強みです。国土交通省のマンション政策のページもあわせてご覧ください。


何を持っていけばいいか:3点セットだけ用意してください

どの窓口を使うにしても、持参資料で相談の質が決まります。私がいつもお伝えしているのは、次の3点です。

資料 なぜ必要か どこにあるか
直近の総会議事録(2〜3期分) 組合が何を決めて、何を決めていないかが分かる 管理会社または理事長保管
長期修繕計画書 次の修繕の時期と積立金の過不足が一目で分かる 管理会社または理事長保管
管理規約(最新版) 工事の決議要件(普通決議か特別決議か)を判断できる 同上

この3点が揃っていれば、初回の25分や50分で「何から手をつけるか」まで踏み込めます。逆にこれがないと、相談員は一般論しか言えません。

余裕があれば、直近の修繕履歴(いつ何をいくらでやったか)と、外壁の写真を数枚。スマホで撮ったもので十分です。特にひび割れや鉄部の錆は、写真があると建築士の話が具体的になります。


大規模修繕の工法は、無料相談で先に「選択肢」を知っておく

ここからは、私の本業の話を少しだけさせてください。

無料相談で第三者の意見をもらった後、実際の工事に進むとき、大田区のマンションで判断が分かれるのが足場をどうするかです。

蒲田や大森の商業地に建つ物件、羽田周辺の敷地に余裕のない物件、田園調布や久が原の傾斜地に建つ物件——大田区は、足場を組むこと自体が難しい立地が少なくありません。

参考までに、私どもがよくお示しする比較を挙げます。10階建て・外周80m・工期3か月のマンションの場合、仮設足場の費用はおよそ168万円。同じ範囲をロープアクセス工法(建物の屋上からロープで吊り下がって施工する無足場工法)で行うとおよそ59万円。差額は約109万円です。30戸規模の大規模修繕の総額が3,500〜5,000万円というレンジのなかで、仮設足場が占める割合は15〜25%。ここが削れるかどうかは、積立金の議論に直結します。

もちろん、ロープアクセスが常に正解ではありません。躯体の劣化が広範囲に及んでいる物件は、足場を組んでしっかり囲ったほうが結果的に安く済みます。私どもは通常の足場工法、ロープアクセス工法、そして部位ごとに使い分けるハイブリッド工法の3つから、建物に合うものをご提案しています。詳しくは明誠のロープアクセス工法の技術詳細と大規模修繕の料金の考え方をご覧ください。

工法そのものの技術的な比較や、ロープアクセスの安全基準について深く知りたい方は、姉妹サイトのロープアクセスドットコムに、同業者向けの詳しい解説をまとめています。管理組合の技術担当理事の方が読んでも理解できる内容です。

株式会社明誠はこれまでに約6,000棟のマンション・ビル・ホテルの大規模修繕を手がけてきました。ロープアクセス工法での高所作業について、明誠および全国のフランチャイズ加盟企業では過去16年間、墜落による労働災害はゼロを維持しています。IRATA(国際産業ロープアクセス協会)水準の技能訓練を受けた作業員が施工にあたり、安全管理の考え方は明誠の安全管理への取り組みにまとめています。訓練体制や資格制度の詳細はロープアクセスドットコム側で公開しています。

これまでの施工事例(約6,000棟)は https://rita-construction.com/renew/blog/category/works/ からご覧いただけます。大田区内の物件も含まれています。


よくあるご質問

Q. 大田区の無料相談は、賃貸マンションのオーナーでも使えますか?

A. 窓口によって分かれます。マンション管理無料相談会・訪問相談・アドバイザー派遣は分譲マンションの管理組合が対象です。一方、一級建築士による無料建築相談、法律相談、不動産取引相談は大田区に在住・在勤・在学の個人が対象なので、区内にお住まいのオーナーさまはご利用いただけます。ビル1棟の修繕計画のご相談は、明誠のビルオーナー向けページからもお受けしています。

Q. 訪問相談とアドバイザー派遣、どちらを先に使うべきですか?

A. 課題がまだ整理できていない段階なら訪問相談が先です。マンション管理士が課題の棚卸しから助言してくれます。「大規模修繕か改修か建替えか」のように論点が絞れている段階なら、アドバイザー派遣の検討書作成コースのほうが成果物が残る分、総会で使いやすくなります。

Q. 管理状況の届出をしていません。それでも相談できますか?

A. 相談会(毎月第3木曜)や一級建築士相談、法律相談は届出の有無を問いません。ただし訪問相談とアドバイザー派遣は、条例に基づく管理状況の届出を行っていることが条件です。届出そのものの手続きも相談会で聞けますので、まずそこから始めるのが近道です。

Q. 相談は無料でも、そのあと工事を頼まされませんか?

A. 区の相談窓口はマンション管理士会や建築士事務所協会、弁護士会から派遣された相談員が対応するもので、特定の業者を紹介する場ではありません。区は「特定の弁護士の紹介はしておりません」と明記しています。工事業者の選定は、あくまで管理組合が別途行うことになります。

Q. 大規模修繕の費用はどれくらいが目安ですか?

A. 30戸規模のマンションで3,500〜5,000万円というレンジが一般的です。うち仮設足場が15〜25%を占めます。外壁塗装は3,500〜4,500円/㎡、屋上防水は5,000〜8,000円/㎡が目安ですが、劣化状況と足場条件で大きく変動します。概算のお見積りは無料でお出しできますので、明誠のお問い合わせフォームからお気軽にご連絡ください。

Q. ロープアクセス工法にすると工期はどれくらい短くなりますか?

A. 足場工法の約60%が目安です。10階建て・外周80mのマンションであれば、足場工法で3か月かかるところ、ロープアクセス工法なら1.5〜2か月程度。足場の組立・解体に必要な期間がまるごと不要になるためです。居住者の方がバルコニーを使えない期間も、その分短くなります。

Q. 令和9年3月のセミナーはいつから申し込めますか?

A. 本記事公開時点で日程・申込開始日とも未公表です。令和8年度第1回は開催の約1か月前(令和8年8月1日)から受付が始まりました。令和9年1月末ごろから大田区のセミナーページを確認されることをお勧めします。

Q. 管理組合として、明誠に相談することはできますか?

A. もちろんです。工法の選択肢を知りたい、他社の見積りの妥当性を確認したい、といった段階でも構いません。管理組合向けのサービスページに、ご相談から着工までの流れをまとめています。


まとめ:今週、大田区の管理組合が動けること3つ

長くなりましたので、動くべきことだけ3つに絞ります。

1. 管理状況の届出が済んでいるか確認する

訪問相談もアドバイザー派遣も、ここが入口条件です。済んでいなければ、まずここから。建築調整課 住宅政策担当(03-5744-1416)に電話1本で確認できます。

2. 訪問相談の枠を押さえる

年間件数に上限があり、達し次第終了です。9月は年度の折り返し。理事会で方向が固まっているなら、総会を待たずに問い合わせてください。派遣希望日の30日前までの申請が必要なので、逆算するとあまり時間はありません。

3. 3点セットを1つのファイルにまとめる

総会議事録・長期修繕計画・管理規約。これを1冊にしておけば、どの窓口に行っても即座に本題に入れます。次の理事会で、誰が用意するかだけ決めてしまってください。

大田区は、支援の入口が複数ある区です。裏を返せば、どこから入ればいいか分かりにくい。この記事が、その地図の代わりになれば嬉しく思います。

9月中に動けるかどうかが分かれ目です。次の理事会で1分だけでも、この話題を出してみてください。 工法の選択肢や概算のご相談だけでも、私どもでお力になれることがあります。


出典・参考資料


本記事の情報の鮮度について:本記事は2026年9月18日時点で公表されている大田区および国土交通省・東京都の公式情報をもとに執筆しています。制度は年度途中でも改正・予算終了があり得ます。特にマンション管理等訪問相談およびマンション管理等アドバイザー派遣制度については、参照した大田区公式ページの更新日が令和7年(2025年)4月時点であり、令和8年度の運用に変更が加えられている可能性があります。実際に申請される前に、必ず大田区建築調整課 住宅政策担当(03-5744-1416)および該当窓口へ最新の内容をご確認ください。


この記事の執筆者

本間 幸紘(ほんま ゆきひろ)
株式会社明誠 代表取締役/東京都東大和市
マンション・ビル・ホテルの大規模修繕20年以上の実務経験。3工法(通常足場/ロープアクセス/ハイブリッド)から建物特性に応じて最適提案。日本初のロープアクセス工事フランチャイズ本部を運営。JCSA(一般社団法人 全国建設業支援協会)代表理事。

最終更新:2026年9月18日

中野区のマンション漏水・防災対策|妙正寺川・江古田川の浸水履歴と22か所の土砂災害警戒区域から逆算する大規模修繕2026年度版

2026年9月18日 更新

中野区の若宮で、築28年の分譲マンションの理事長さまから相談をいただいたことがあります。「1階の集会室の床が、雨のたびに湿る」と。屋上防水をやり直したばかりで、なぜ直らないのか分からない、というご相談でした。

現場に行って、まず見たのは屋上ではありません。敷地の外、前面道路の高さです。建物の1階床レベルが、道路より20センチ低かった。そして敷地の雨水桝は、その低いほうに向かって水を集める向きに付いていました。屋上防水は無関係だったのです。

私は株式会社明誠の本間幸紘と申します。東京都東大和市を拠点に、20年近くマンション・ビル・ホテルの外壁と向き合ってきました。仮設足場を組む工事も、ロープ1本でぶら下がる無足場の工事も、どちらも現場でやってきた人間です。

中野区は、23区のなかでも「川と暗渠(あんきょ、蓋をされて地下に埋められた水路)の記憶がそのまま水のリスクになる」区だと感じています。海に面していないので高潮も津波もない。そのかわり、妙正寺川・江古田川・神田川という3本の川と、桃園川をはじめとする暗渠の筋が、水の行き先をすべて決めています。

今日は、中野区が公表している最新のハザード資料から逆算して、中野区の分譲・賃貸マンションで先に手を打つべき漏水ポイントと、防災上の共用部の修繕優先度を整理します。


結論:中野区は「高潮も津波もない代わりに、川筋と暗渠と崖が主役の区」です

先に結論から申し上げます。中野区で大規模修繕の順番を決めるとき、私が最初に確認するのは屋上ではありません。自分の建物が川沿いの低地にあるのか、台地の上にあるのか、崖の際にあるのか、それとも暗渠の筋の上にあるのかです。

中野区は、高潮ハザードマップを作成していません。区のハザードマップ作成状況の表には、高潮について「区内に高潮浸水想定区域がない」と明記されています。津波災害警戒区域の指定もありません(出典:中野区「宅地建物取引業者の方へ(水防法に基づくハザードマップ等について)」/更新日 2026年6月24日)。湾岸区で最優先になる高潮・塩害対策は、中野区ではほぼ考えなくてよい。そのぶん、リスクが4つに絞り込めます。

立地 該当エリアの例 主なリスク 最優先の対策
妙正寺川・江古田川の低地 鷺宮・白鷺・若宮・大和町・野方・沼袋・新井・江古田・江原町・上高田 外水(川の氾濫)+内水 1階・地下の開口部の止水/雨水桝の向き
神田川・善福寺川の低地 弥生町・南台・本町・中央一丁目付近 外水+内水、家屋倒壊等氾濫想定区域 擁壁・基礎まわり/1階住戸の床下
桃園川など暗渠の筋 中野・中央・新井の一部(旧水路跡) 内水氾濫(下水道の能力超過) 逆流防止・地下ピットの排水
台地の縁の崖 松が丘・上高田・中央・本町五丁目・弥生町 土砂災害・擁壁の劣化 擁壁改修・斜面側の排水と外壁

この4類型のどこに自分の建物が当たるかを、区のハザードマップで先に確定させる。それをやらずに「まず屋上防水から」と進めてしまうと、順番を1つ間違えるだけで数百万円が無駄になります。冒頭の若宮の物件は、まさにその典型でした。中野区の理事会でいつも最初にお伝えしているのは、この一点です。


中野区のハザードマップを1枚で読む

中野区のハザードマップは、水害と土砂災害を1冊の冊子にまとめた「統合版」として発行されています。管理組合の書類棚を整理するときに、この表を1枚コピーして貼っておくだけで議論が早くなります。

種別 中野区の作成状況 水防法準拠 備考
洪水(外水) 作成済 〇 神田川・妙正寺川・江古田川・善福寺川の流域
雨水出水(内水) 一部作成 × 都の「雨水出水浸水想定区域図」を別途参照
高潮 未作成 ー 区内に高潮浸水想定区域がない
津波 該当なし ー 津波災害警戒区域の指定なし
土砂災害 作成済 ー 区内22か所が警戒区域
造成宅地防災区域 指定なし ー 区内に指定なし

(出典:中野区ハザードマップ/更新日 2026年8月7日、中野区「宅地建物取引業者の方へ」/更新日 2026年6月24日)

最新版は「令和8年7月発行」です

中野区の最新のハザードマップは、令和8年7月発行のものです。令和8年度版では、次の4点が改訂されています。

  • 防災気象情報の変更
  • 風水害タイムラインの変更・追加
  • 学校の統廃合に伴う避難所の変更
  • 家屋倒壊等氾濫想定区域図(氾濫流・河岸浸食)の追加

管理組合の立場から見て、いちばん重いのは4番目です。「家屋倒壊等氾濫想定区域」とは、川があふれたときの水の勢いや、川岸が削られることで建物そのものが壊れるおそれがある範囲を示した図です。浸水深の図とは意味がまったく違います。水に浸かるかどうかではなく、建物が持ちこたえるかどうかの話だからです。

この図が令和8年度版で新しく入ったことを、私が訪問した中野区の管理組合で知っていた方は、まだ多くありませんでした。管理室に置いてあるハザードマップが令和7年以前のものなら、それは差し替えのタイミングです。配布窓口は防災危機管理課(区役所8階)、総合案内窓口(1階)、区内15か所の区民活動センター、区内4か所のすこやか福祉センターです。

想定されている雨は「1時間153ミリ」

中野区の水害ハザードマップが前提にしているのは、1時間最大雨量153ミリ、総降雨量690ミリという想定最大規模の降雨です。これは東京都が公表する「浸水予想区域図」に基づくもので、川からあふれる外水氾濫と、下水道からあふれる内水氾濫を合わせて表示しています。

1時間153ミリという数字は、正直に申し上げてピンと来ないと思います。東京の下水道が標準で想定しているのは1時間50ミリ前後です。つまり設計値の3倍の雨を想定した図だ、ということです。

なお注意点として、色分けの元になっている「浸水予想区域図」そのものは、平成30年に更新されたものが最新です(出典:中野区ハザードマップ)。冊子は令和8年7月に改訂されましたが、浸水深の想定そのものは平成30年時点のものだ、ということは押さえておいてください。

令和8年3月に、内水の「法定図」が出ました

もう1つ、管理組合として押さえておきたい動きがあります。令和8年3月、東京都が水防法第13条の2第1項の規定により排水施設等を指定し、「雨水出水浸水想定区域図」を作成・公表しました。

中野区自身が、自区のハザードマップについて「雨水出水(内水)は水防法準拠ではない」と表の中で明示しています。区のハザードマップに反映されているのは「洪水浸水想定区域」の想定結果であって、「雨水出水浸水想定区域」の結果ではないのです。河川周辺の内水の想定については、東京都下水道局の神田川流域 雨水出水浸水想定区域図を見に行く必要があります。

私はいつも理事長さまに、「区のマップと都の区域図、2枚セットで見てください」とお伝えしています。ここは見落とされやすいところです。

浸水履歴は昭和60年から町丁目別に公開されています

中野区は、昭和60年7月14日から現在までの浸水被害記録を、町丁目ごとのPDFで公開しています(出典:中野区の水害被害記録一覧/更新日 2025年12月22日)。新井、江古田、江原町、上鷺宮、上高田、鷺宮、白鷺、中央、中野、沼袋、野方、東中野、本町、松が丘、丸山、南台、大和町、弥生町、若宮の19町名分と、統合版があります。

しかもこの記録、街区(番地)単位で、床上・床下・小規模事業所の別に件数が載っています。ここまで細かく公開している区は多くありません。

ハザードマップは「これから起きうること」、浸水履歴は「実際に起きたこと」です。私の経験上、修繕の優先順位を決めるときに効くのは、圧倒的に後者です。自分の敷地の番地、あるいは周囲の番地に件数が立っているかどうか。ここは確認していただきたい。総会資料に1枚貼るだけで、議論の温度がまったく変わります。


中野区で使える漏水・防災の地形の読み方

妙正寺川・江古田川の低地:鷺宮・白鷺・若宮・大和町・野方・沼袋・新井・江古田・江原町

中野区北部を東西に蛇行しながら流れるのが妙正寺川です。杉並区の妙正寺池に源を発し、哲学堂公園付近で江古田川を合流して新宿区に抜けます。流域面積21.4平方キロメートル、延長9.7キロメートル。江古田川は流域面積5.0平方キロメートル、延長1.6キロメートルです(出典:中野区内の河川)。

このエリアで押さえておきたいのは、平成17年9月4日の水害です。妙正寺川・善福寺川で甚大な被害が出て、東京都は河川激甚災害対策特別緊急事業の指定を受けました。中野区内では妙正寺川の新昭栄橋から葛橋の間で、平成21年度末までに緊急かつ集中的に護岸整備と河床の掘り下げが行われています。

20年前の水害の記憶が、いま築30年前後のマンションの「効かない対策」として残っているケースを、私は何度も見ています。当時、各戸の玄関前に止水板を置いた。土のうを積んだ。その運用が、理事会のメンバーが入れ替わるうちに引き継がれずに消えている。設備は残っているのに、誰も使い方を知らない。これは工事以前の問題です。

このエリアで私が見てきた漏水は、次の3つが多い。

  1. 1階住戸の床下と玄関ポーチまわり:建物が道路より低い位置にあると、道路の表面水が敷地内に入り、雨水桝があふれる。排水設備の容量ではなく、地面のレベル差の問題であることが多い
  2. 外壁の水切り(みずきり、壁面を伝う水を切って落とすための部材)の欠損:低層で軒が浅い建物ほど、壁を伝う水量が多くなる
  3. バルコニー側の排水口(ドレン)の詰まり:桜や欅の落ち葉が多い地域ほど顕著です

神田川・善福寺川の低地:弥生町・南台・本町・中央一丁目付近

神田川は三鷹市の井の頭池に源を発し、流域面積105.0平方キロメートル、延長24.6キロメートルの一級河川です。中野区弥生町地先で善福寺川を、中央一丁目地先で桃園川下水道幹線を合流します(出典:中野区内の河川)。都内の中小河川では最大規模です。

ここで「桃園川下水道幹線」という名前が出てくるのが、中野区の特徴です。かつての桃園川は、いまは暗渠になって下水道幹線として使われ、地上は桃園川緑道になっています。地図の上では川が見えないのに、地下には川があって、雨が降ると水が集まってくる。この構造が、中野・中央エリアの内水リスクの正体です。

暗渠の筋の上に建つ建物で、私が実際に見てきたのは次の3つです。

  1. 排水管の逆流:下水道本管の水位が上がると建物側の排水が流れず、地下階の床排水口や地下ピットから逆流する
  2. 地下駐車場スロープからの流入:スロープの上端に段差がなく、道路の表面水がそのまま流れ込む
  3. 地下ピットへの湧水:地下水位が高いエリアで、コンクリートの打継ぎ部から少しずつ滲む

このうち1番目は、大規模修繕の対象と思われていないことが多い。ですが逆流防止弁(排水が逆向きに流れないようにする弁)の設置と点検は、防水工事より優先度が高い場合があります。漏水の原因の切り分けについては漏水対応の考え方にも整理しています。

崖の際:松が丘・上高田・中央・本町五丁目・弥生町

中野区では、東京都が土砂災害防止法に基づく基礎調査結果を踏まえ、区内22か所を土砂災害警戒区域(イエローゾーン)に、うち9か所を土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)に指定しています(出典:中野区「土砂災害警戒区域」/更新日 2026年8月7日)。

町名 警戒区域(イエロー) 特別警戒区域(レッド)
松が丘 4か所 1か所
上高田 9か所 5か所
中央 3か所 0か所
東中野 0か所 0か所
本町 2か所 0か所
弥生町 4か所 3か所
計 22か所 9か所

指定状況は動きます。中野区の場合、次のような変更が公式に整理されています。

  • 2021年(令和3年)5月28日:東中野五丁目(区域番号114001-K014)の土砂災害(特別)警戒区域の指定が解除
  • 2023年(令和5年)6月21日:上高田四丁目(114001-K011)で警戒区域の一部縮小、特別警戒区域の全域が指定解除
  • 2024年(令和6年)6月21日:上高田四丁目(114001-K009)の特別警戒区域の指定が解除
  • 2024年(令和6年)6月21日:弥生町六丁目(114001-K021)の特別警戒区域が一部縮小
  • 2024年(令和6年)6月21日:中央一丁目(114001-K023)が警戒区域として新たに指定

ここで注目していただきたいのは、解除もあれば、新規指定もあるという点です。「うちは前に確認したから大丈夫」は通用しません。中野区は区域番号ごとに図面PDFを公開しているので、自分の敷地に近い番号の図面を1枚ダウンロードして、管理室のファイルに綴じておくのがいちばん確実です。

上高田が9か所と突出しているのは、妙正寺川が削った谷と、その北側の台地の高低差が大きいためです。上高田・松が丘のエリアは、崖の上と下で建物の対策がまったく変わります。崖の上なら擁壁と排水、崖の下なら建物背面の外壁と基礎まわり。同じ町名でも真逆になるということです。


中野区の治水施設は「まちを守る施設」であって「建物を守る施設」ではありません

中野区の水害リスクを語るとき、避けて通れないのが治水施設の話です。中野区内・周辺には次の調節池があります(出典:中野区内の河川)。

調節池名 貯留量(立方メートル) 上部利用形態
妙正寺川第一 30,000 公園・住宅
妙正寺川第二 100,000 哲学堂公園等
上高田 160,000 上高田運動施設
落合 50,000 落合公園
鷺宮 35,000 白鷺せせらぎ公園
北江古田(江古田川) 17,000 江古田の森公園

さらに大きいのが、神田川・環状七号線地下調節池です。延長4.5キロメートル、内径12.5メートル、貯留量は約54万立方メートル。環状七号線の路面下、約40メートルの深さに造られたトンネルです。第一期事業(青梅街道〜甲州街道間 約2.0キロメートル、最大貯留量約24万立方メートル)は昭和63年度に着手し、平成9年4月から取水を開始。第二期事業(延長2.5キロメートル、貯留量30万立方メートル)は平成20年3月に全施設が完成しています。

これらの施設によって、中野区の河川溢水の被害は確実に減ってきました。区自身も、豪雨対策実施計画のなかで「河川改修工事や環状七号線地下調節池の整備などにより河川溢水の被害は減少してきている」と書いています。

ただし、同じ文章はこう続きます。「低地での道路冠水や下水道からの内水氾濫による住宅への浸水被害などの都市型水害が発生しています」(出典:中野区豪雨対策実施計画)。

つまり、川はかなり抑え込めた。残っているのは内水だ、というのが中野区の現在地です。

「環七の下に巨大な調節池があるからうちは大丈夫」という理解は、だから危険です。調節池が守っているのは川の水位であって、あなたの建物の地下ピットではありません。建物ごとの対策は、建物ごとにやるしかない。


中野区のマンションで、修繕の順番をどう決めるか

ここからは実務の話です。私が中野区の管理組合さまにお伝えしている、順番の決め方です。

第1優先:水の入口を止める(数万円〜数十万円)

費用対効果がいちばん高いのは、実は工事ではありません。

  • 雨水桝・ドレンの清掃と、桝の蓋の向きの確認
  • 地下階の逆流防止弁の作動確認(書類ではなく実働で)
  • 排水ポンプの試運転と、非常用電源の有無の確認
  • 止水板・土のうの保管場所と、使い方を知っている人が今の理事会にいるか

ここまでは、多くの場合で数万円から数十万円の範囲です。にもかかわらず、台風のときに効く度合いがいちばん大きい。

第2優先:外壁の打診調査で、浸入経路を特定する(250〜500円/平方メートルが目安)

漏水の相談で私がいちばん多く見る失敗は、原因の切り分けをせずに工事に入ってしまうことです。屋上防水をやり直したのに直らない。外壁を塗り直したのに直らない。冒頭の若宮の事例がまさにそうでした。

外壁の打診調査(打診棒で壁面を叩き、内部の浮きを音で判別する調査)の費用は、1平方メートルあたり250〜500円が一般的な目安です。ただし建物の高さ・形状・調査範囲によって変動しますので、あくまでレンジとお考えください。

ここでロープアクセス工法(産業用ロープで屋上から下降して作業する無足場の工法)が効いてきます。中野区は、前面道路が狭く、隣地との距離がない物件が非常に多い。足場が架けられない、あるいは架けると駐車場や通路が使えなくなるという物件が多数あります。ロープアクセスなら、地面の条件に左右されずに調査と補修が同時にできます。工法の技術的な詳細は、姉妹サイトのロープアクセスドットコムで解説しています。

第3優先:防水と外壁の本工事(規模により大きく変動)

参考までに、㎡単価の一般的な目安を挙げておきます。

工種 ㎡単価の目安
外壁塗装 3,500〜4,500円/平方メートル
打診調査 250〜500円/平方メートル
屋上・バルコニー防水 5,000〜8,000円/平方メートル

30戸規模のマンションの大規模修繕であれば、総工費のレンジはおおむね3,500万〜5,000万円、そのうち仮設足場が15〜25%を占めるのが一般的です。いずれも物件の規模・形状・劣化状況によって大きく変動しますので、参考値としてご覧ください。

この「仮設足場15〜25%」が、中野区ではとくに効いてきます。たとえば10階建て・外周80メートル・工期3か月の物件で、仮設足場が約168万円かかるケースがあるとします。同じ範囲をロープアクセスで対応できれば、概算で59万円程度。差額はおよそ109万円です。これも物件条件で変わりますが、足場が架けにくい中野区の路地奥の物件ほど、この差は開きます。料金の考え方については大規模修繕の料金の考え方にまとめています。

ちなみに株式会社明誠は、これまでに約6,000棟のマンション・ビル・ホテルの大規模修繕を手がけてきました。ロープアクセス工法での高所作業について、明誠および全国のフランチャイズ加盟企業では過去16年間、墜落による労働災害はゼロを維持しています。IRATA(国際産業ロープアクセス協会)水準の技能訓練を受けた作業員が施工にあたります。安全管理の考え方は明誠の安全管理をご覧ください。


雨の降り方そのものが変わっています

気象庁の「日本の気候変動2025」によれば、アメダスで観測された1時間降水量50ミリ以上の短時間強雨の発生回数は、1976〜2024年の49年間で約1.5倍に増加しています。1時間80ミリ以上では約1.7倍です(出典:気象庁「日本の気候変動2025」、気象庁「アメダスで見た短時間強雨発生回数の長期変化について」)。

観測地点が増えたからではありません。1,300地点あたりに換算したうえでの比較です。

つまり、20年前に建てた建物の防水性能は、20年前の雨を前提にしているということです。設計時に想定していなかった降り方を、いま実際に受けている。中野区のように川と暗渠が入り組み、下水道に一気に水が集まる地形では、この差がそのまま漏水事故として出てきます。

現場で20年やってきて、私が一番悔しい思いをするのは、「あと1年早く相談してもらえていれば、この金額で済んだのに」という場面です。躯体(建物の骨組み)に水が回って鉄筋が錆びると、費用は一気に跳ね上がります。


よくあるご質問

Q. 中野区は高潮も津波もないと聞きましたが、水害の心配は少ないということですか?

A. 中野区には高潮浸水想定区域がなく、津波災害警戒区域の指定もありません。ただし、これは高潮・津波のリスクがないという意味であって、水害のリスクがないという意味ではありません。中野区で主役になるのは、妙正寺川・江古田川・神田川の外水氾濫と、下水道からあふれる内水氾濫です。区の水害ハザードマップと、東京都下水道局の神田川流域 雨水出水浸水想定区域図の両方をご確認ください。

Q. 「家屋倒壊等氾濫想定区域図」とは何ですか?浸水深の図と何が違うのですか?

A. 浸水深の図が「どれくらいの深さまで水に浸かるか」を示すのに対し、家屋倒壊等氾濫想定区域図は「川の水の勢い(氾濫流)や川岸が削られること(河岸浸食)で、建物そのものが壊れるおそれがある範囲」を示した図です。令和8年7月発行の中野区ハザードマップから新しく追加されました(34〜37ページ)。管理室のマップが令和7年以前のものなら、差し替えをおすすめします。

Q. 自分の建物の番地に過去の浸水被害があったかは、どこで確認できますか?

A. 中野区の水害被害記録一覧で、昭和60年7月14日から現在までの記録を町丁目別のPDFで確認できます。街区(番地)単位で、床上・床下・小規模事業所の別に件数が載っています。個人情報保護の観点から「号」までは表示されていません。

Q. 自分の建物が土砂災害警戒区域に入っているかは、どこで確認できますか?

A. 中野区「土砂災害警戒区域」のページで、区域番号ごとの図面PDFが公開されています。松が丘・上高田・中央・本町・弥生町の該当箇所です。東京都土砂災害警戒区域等マップでも位置を確認できます。ご不明な点は中野区総務部防災危機管理課防災対策係(電話 03-3228-8933)へどうぞ。

Q. 崖側の外壁からの漏水は、大規模修繕で直りますか?

A. 地中に接している部分からの浸入であれば、通常の外壁塗装や屋上防水では止まりません。まず調査で浸入経路を特定することが先決です。原因の切り分けができていない状態で工事に入るのが、費用が無駄になる最大のパターンです。漏水対応の考え方にも詳しくまとめています。

Q. 前面道路が狭くて足場が架けられません。外壁の点検はどうすればよいですか?

A. ロープアクセス工法であれば、屋上からロープで下降しながら打診調査と補修が同時にできます。地面の条件に左右されないのが最大の利点です。中野区のように路地が細く、隣地との距離がない物件では特に有効です。上空からの俯瞰が必要な場合はドローン調査と組み合わせることもあります。技術的な詳細はロープアクセスドットコムでも解説しています。

Q. 打診調査の費用はどれくらいですか?

A. 一般的な目安は1平方メートルあたり250〜500円ですが、建物の高さ・形状・調査範囲により変動します。足場を架けずにロープアクセスで実施する場合、足場費用がまるごと不要になるぶん、総額が抑えられるケースが多くあります。料金の考え方もご参照ください。

Q. 漏水の緊急対応は、どれくらいで来てもらえますか?

A. 状況によりますが、ロープアクセスであれば足場の設置を待つ必要がないため、当日から翌営業日での初動が可能なケースが多くあります。現地調査と概算のご提示までは無料で承っており、管理組合向けのご説明資料もご用意しています。まずは状況をお電話かフォームでお知らせください。


まとめ:今週、中野区の理事会で動けること3つ

  1. 管理室のハザードマップの版を確認する — 中野区ハザードマップは令和8年7月発行が最新です。家屋倒壊等氾濫想定区域図が新たに入りました。古ければ区役所8階の防災危機管理課または各区民活動センターで差し替えを
  2. 自分の番地の浸水履歴を1枚プリントして、総会資料に貼る — 昭和60年からの記録が街区単位で公開されています。「これから起きうること」より「実際に起きたこと」のほうが、修繕の順番を決める材料になります
  3. 地下階の逆流防止弁と排水ポンプを、実際に動かしてみる — 点検記録の紙ではなく、実働です。台風期のいまがいちばん適した時期です

中野区は、高潮も津波もない代わりに、妙正寺川・江古田川・神田川の3本の川と、桃園川をはじめとする暗渠の筋、そして台地の縁の崖という地形が、水の動きをすべて決めている区です。だからこそ、「23区の平均的な修繕計画」がいちばん当てはまらない区でもあります。自分の建物がどこに立っているかを地図で確定させることから、修繕の議論を始めていただきたいと思います。

ご相談だけでも遠慮なくお声がけください。総会の前段階の整理だけでも、お力になれることがあります。管理組合さま向けのサービス内容は管理組合向け大規模修繕のご案内、賃貸・オーナー物件はビルオーナー向けのご案内、収益不動産としての資産価値維持の考え方はオーナー向けの提供価値にまとめています。お問い合わせはお問合せフォームからどうぞ。

明誠のこれまでの施工事例(約6,000棟)は https://rita-construction.com/renew/blog/category/works/ からご覧いただけます。


出典・参考資料

本記事の情報の鮮度について:本記事は2026年9月18日時点で公表されている中野区および国土交通省・東京都の公式情報をもとに執筆しています。ハザードマップの版や土砂災害警戒区域の指定状況は年度途中でも改訂・変更があり得ます。実際にご判断される前に、中野区および該当窓口へ最新の内容をご確認ください。


この記事の執筆者

本間 幸紘(ほんま ゆきひろ)
株式会社明誠 代表取締役/東京都東大和市
マンション・ビル・ホテルの大規模修繕20年以上の実務経験。3工法(通常足場/ロープアクセス/ハイブリッド)から建物特性に応じて最適提案。日本初のロープアクセス工事フランチャイズ本部を運営。JCSA(一般社団法人 全国建設業支援協会)代表理事。

最終更新:2026年9月18日

渋谷区のマンション漏水・防災対策|谷底の内水氾濫と11か所の土砂災害警戒区域から逆算する大規模修繕2026年度版

2026年9月18日 更新

渋谷区の桜丘で、築25年の賃貸マンションのオーナーさまから電話をいただいたことがあります。夕方の集中豪雨のあと、「地下の機械式駐車場のピットに水が溜まっている」と。現場に行くと、駐車場の入口スロープは乾いていました。水は外から流れ込んだのではなく、建物の排水管を逆流して、地下から湧き上がっていたのです。

私は株式会社明誠の本間幸紘と申します。東京都東大和市を拠点に、20年近くマンション・ビル・ホテルの外壁と向き合ってきました。仮設足場を組む工事も、ロープ1本でぶら下がる無足場の工事も、どちらも現場でやってきた人間です。

渋谷区は、23区のなかでも「地形の高低差がそのまま水のリスクになる」区だと感じています。海に面していないので高潮も津波もない。そのかわり、渋谷川・宇田川が刻んだ深い谷と、その両側に迫る崖が、水の行き先をすべて決めています。

今日は、渋谷区が公表している最新のハザード資料から逆算して、渋谷区の分譲・賃貸マンションで先に手を打つべき漏水ポイントと、防災上の共用部の修繕優先度を整理します。


結論:渋谷区は「高潮がない代わりに、谷底の内水と崖が主役の区」です

先に結論から申し上げます。渋谷区で大規模修繕の順番を決めるとき、私が最初に確認するのは屋上ではありません。自分の建物が台地の上にあるのか、谷底にあるのか、崖の際にあるのかです。

渋谷区は、高潮ハザードマップについて「作成予定なし」と明記しています。雨水出水(内水)単独のハザードマップも「未作成(作成時期未定)」です(出典:渋谷区「洪水ハザードマップ・浸水実績」/更新日 2026年4月30日)。湾岸区で最優先になる高潮・塩害対策は、渋谷区ではほぼ考えなくてよい。そのぶん、リスクが3つに絞り込めます。

立地 該当エリアの例 主なリスク 最優先の対策
渋谷川・宇田川の谷底 渋谷・道玄坂・桜丘町・渋谷駅周辺・東・広尾の低地 内水氾濫(下水道の能力超過) 地下階の逆流防止・排水ポンプ・受電設備の位置
神田川・玉川上水沿いの低地 本町・初台・幡ヶ谷・笹塚・西原の一部 神田川流域の外水+内水 開口部の止水・1階住戸の床下
台地の縁の崖(崖線・急傾斜地) 本町三丁目/西原一丁目・三丁目/元代々木町/代々木五丁目/神宮前六丁目/神山町/広尾五丁目/恵比寿四丁目 土砂災害・擁壁の劣化 擁壁改修・斜面側の排水と外壁

この3類型のどこに自分の建物が当たるかを、区のハザードマップで先に確定させる。それをやらずに「まず屋上防水から」と進めてしまうと、順番を1つ間違えるだけで数百万円が無駄になります。渋谷区の理事会でいつも最初にお伝えしているのは、この一点です。


渋谷区のハザードマップを1枚で読む

渋谷区が公表している資料は、種類ごとの「作成状況」が公式に整理されています。管理組合の書類棚を整理するときに、この表を1枚コピーして貼っておくだけで議論が早くなります。

種別 渋谷区の作成状況 作成基準 備考
洪水 作成済(日本語版は令和8年4月改訂版) 想定最大規模降雨 外水と内水の両方を加味
雨水出水(内水)単独 未作成 ー 作成時期未定
高潮 未作成 ー 作成予定なし
津波 該当なし(海に面していない) ー ー
土砂災害 作成済(令和元年9月26日の都指定を受けて作成) 土砂災害防止法 区内11か所が警戒区域

(出典:渋谷区「洪水ハザードマップ・浸水実績」、渋谷区「渋谷区土砂災害ハザードマップ」)

想定されている雨は「1時間153ミリ」

渋谷区の洪水ハザードマップが前提にしているのは、1時間最大雨量153ミリ、24時間総雨量690ミリという想定最大規模の降雨です。対象は「神田川流域」と「渋谷川流域」の2つ。水防法第14条に基づく外水氾濫に加えて、雨水出水(内水氾濫)も加味した図になっています。

1時間153ミリという数字は、正直に申し上げてピンと来ないと思います。東京の下水道が標準で想定しているのは1時間50ミリ前後です。つまり設計値の3倍の雨を想定した図だ、ということです。

令和8年3月に、内水の「法定図」が出ました

もう1つ、管理組合として押さえておきたい動きがあります。令和8年3月、東京都下水道局が水防法に基づく雨水出水浸水想定区域図を公表しました。渋谷区に関係するのは次の2つです。

渋谷区のハザードマップは、水防法上は「洪水ハザードマップ」としての要件は満たすが、「雨水出水ハザードマップ」としての要件は満たさない――区自身がそう注記しています。だから、内水(地面に降った雨が下水道からあふれる現象)のリスクを正確に見るなら、都の区域図を別に見に行く必要がある。ここは見落とされやすいところです。

私はいつも理事長さまに、「区のマップと都の区域図、2枚セットで見てください」とお伝えしています。

過去の浸水実績は地図情報システムで見られます

渋谷区は、過去に浸水実績があった箇所を渋谷区地図情報システムで公開しています。以前は区役所11階の窓口でしか見られませんでしたが、令和2年8月31日からインターネットで閲覧できるようになりました。

ハザードマップは「これから起きうること」、浸水実績は「実際に起きたこと」です。私の経験上、修繕の優先順位を決めるときに効くのは、圧倒的に後者です。自分の敷地の周囲200メートルに実績の印が打たれているかどうか。ここは必ず確認していただきたい。


渋谷区の地域特性と漏水事故の関係

谷底エリア:渋谷駅周辺・桜丘・道玄坂下・東

渋谷という地名のとおり、渋谷駅の一帯はすり鉢の底です。周囲の宮益坂・道玄坂・スペイン坂という「坂」の名前が、そのまま高低差を物語っています。

谷底のマンション・ビルで私が見てきた漏水は、外から入る水より、内から上がる水のほうが多い。具体的には次の3つです。

  1. 排水管の逆流:下水道本管の水位が上がると、建物側の排水が流れず、地下階の床排水口や地下ピットから逆流する
  2. 地下駐車場スロープからの流入:スロープの上端に段差がなく、道路の表面水がそのまま流れ込む
  3. 地下ピットへの湧水:地下水位が高いエリアで、コンクリートの打継ぎ部から少しずつ滲む

このうち1番目は、大規模修繕の対象と思われていないことが多い。ですが逆流防止弁(排水が逆向きに流れないようにする弁)の設置と点検は、防水工事より優先度が高い場合があります。

なお、渋谷駅東口の地下約25メートルには、約4,000立方メートルの雨水を一時的に貯められる「渋谷駅東口雨水貯留施設」が2020年8月31日から供用されています。1時間50ミリを超える強い雨のときに取水し、雨が止んでからポンプで古川幹線へ排水する仕組みです(出典:広報東京都「渋谷をまもる雨水貯留施設」)。

ただし、これはまちを守る施設であって、個別の建物を守る施設ではありません。「渋谷駅前に貯留施設ができたからうちは大丈夫」という理解は危険です。建物ごとの対策は、建物ごとにやるしかない。

神田川流域:本町・初台・幡ヶ谷・笹塚

区の北西部、神田川と旧玉川上水に沿ったエリアです。ここは渋谷川流域とは別の系統で、外水(川があふれる)と内水の両方が想定されています。

このエリアで多いのは、築30年以上の中規模マンションで、1階住戸の床下と玄関ポーチまわりの問題です。建物が道路より低い位置にあると、道路の表面水が敷地内に入り、雨水枡があふれる。排水設備の容量ではなく、地面のレベル差の問題であることが多い。

崖の際:本町三丁目、西原、元代々木町、代々木五丁目、神宮前六丁目、神山町、広尾五丁目、恵比寿四丁目

渋谷区では、令和元年9月26日に東京都が区内11か所を土砂災害警戒区域に指定し、そのうち9か所を土砂災害特別警戒区域に指定しました。令和5年6月21日には、うち1か所(元代々木町)が解除のうえ新たに指定されています(出典:渋谷区「土砂災害防止法に基づく土砂災害警戒区域等の指定について」)。

所在地 警戒区域(イエロー) 特別警戒区域(レッド)
本町三丁目 あり あり
西原一丁目 あり あり
元代々木町(2か所) あり 1か所あり/1か所なし
西原三丁目 あり あり
代々木五丁目 あり あり
神宮前六丁目 あり あり
神山町 あり あり
広尾五丁目 あり あり
恵比寿四丁目(2か所) あり 1か所あり/1か所なし

神宮前六丁目や神山町、広尾五丁目といった、いわゆる「高級住宅地」「商業の一等地」の名前が並ぶのが渋谷区の特徴です。地価が高いエリアだから安全、ということはまったくない。

崖の際に建つマンションで私が見てきた漏水は、空から降る水ではなく、横から来る水です。冒頭の等々力の例と同じ構造で、建物の一方が地中に接していると、屋上防水をいくらやっても直りません。

擁壁(斜面を支えるコンクリートの壁)の水抜き穴が詰まっているのも定番です。水抜き穴は擁壁の背面の水圧を逃がすためのものですが、土砂や落ち葉で埋まると機能しない。大規模修繕の足場を組んだついでに、擁壁の水抜き穴の清掃を組み込むだけで、数十万円で効果が出ることがあります。


大規模修繕で必ずチェックすべき漏水ポイント7つ

ここからが本題です。渋谷区の物件で、私が調査のときに必ず見る7か所を順番に挙げます。優先度の高い順です。

1. 屋上防水の立上りと笠木

屋上の防水層そのものより、壁に立ち上がった部分の端部が先に切れます。特に笠木(パラペットの天端の金物)のジョイントは、シーリングが10年前後で硬化して隙間ができる。谷底エリアは風の巻き込みが強く、横殴りの雨が笠木の裏から入ります。

2. ドレン(排水口)まわり

屋上の排水口です。落ち葉とビニール袋で詰まっているケースが、渋谷区では本当に多い。街路樹の多い明治通り・青山通り沿い、それと神宮の森に近い神宮前・代々木エリアは特にです。

1時間50ミリを超える雨では、ドレンが1つ詰まっただけで屋上が数センチのプールになります。ドレンの清掃は年2回、台風期の前と落葉期の後。これは費用がほとんどかかりません。

3. バルコニー排水と手すり壁の付け根

バルコニーの床防水と、手すり壁(腰壁)の立上りの取り合い部分。ここは動きが大きく、ひび割れが入りやすい。下階の天井に染みが出る漏水の、かなりの割合がここです。

4. 外壁のシーリング(目地の弾性材)

タイル張りでも吹付けでも、コンクリートの打継ぎ目地には必ずシーリングが入っています。耐用年数の目安は10〜15年。硬くなってひび割れると、そこから雨水が壁の中に入り、内部の鉄筋を錆びさせます。

5. サッシまわり

窓枠とコンクリートの取り合い。築20年を過ぎたマンションで、原因不明の漏水があったら、私はまずここを疑います。外からは見えにくく、内装を剥がさないと確認できないことも多い箇所です。

6. エキスパンションジョイント

建物が複数棟に分かれていて、渡り廊下でつながっている場合の継ぎ目です。地震で動くことを前提に、あえて隙間を設けてカバーをかけてある。このカバーの下の防水が切れていても、外からはまず見えません。

7. 地下階・地下ピットの逆流防止と排水ポンプ

谷底エリアでは、これを7番目ではなく1番目に持ってくることもあります。逆流防止弁が固着していないか、排水ポンプが実際に動くか。年1回の実働試験をやっている管理組合は、私の実感で3割もありません。

漏水の原因調査と工法の選び方については、漏水対応の考え方にもまとめています。


漏水の緊急対応でロープアクセスが強い理由

ここは、私がいちばんお伝えしたい話です。

漏水は、いつも都合の悪いときに起きます。金曜の夕方、台風の直撃日、年末年始。そして足場は、その日には組めません。

仮設足場を架けるには、道路使用許可、近隣への挨拶、資材の搬入、組立てで、どんなに急いでも1週間から10日はかかります。渋谷区のように前面道路が狭く、交通量が多く、隣地との距離がないエリアでは、さらに時間がかかることも珍しくない。

ロープアクセス工法は、屋上にロープを固定できれば、その日のうちに原因箇所まで到達できます。作業員2名と装備一式で現場に入り、午前中に調査、午後に応急処置。これが現実的にできる。

私が渋谷区の物件で実際にやったのは、雨漏りの通報を受けた日の午後に屋上からロープで下降し、ひび割れを特定してシーリングで応急止水、翌週に本復旧という流れでした。足場を待っていたら、その間の10日間、雨のたびに室内に水が入り続けていたはずです。

コストの話も正直に

費用の目安も申し上げます。10階建て・外周80メートル・工期3か月のマンションで、仮設足場が約168万円かかるところ、ロープアクセスなら約59万円という比較になることがあります(差額の目安は約109万円)。もちろん、建物の形状・工事内容・作業条件で大きく変わりますので、あくまで参考値としてお考えください。

緊急の部分補修であれば、調査から応急処置まで数万円〜十数万円のレンジで収まるケースも多くあります。足場を組むかどうかで、桁が変わります。

株式会社明誠はこれまでに約6,000棟のマンション・ビル・ホテルの大規模修繕を手がけてきました。ロープアクセス工法での高所作業について、明誠および全国のフランチャイズ加盟企業では、過去16年間、墜落による労働災害はゼロを維持しています。作業員はIRATA(国際産業ロープアクセス協会)水準の技能訓練を受けた者に限っています。

工法そのものの技術的な詳細は、姉妹サイトのロープアクセスドットコムで解説しています。同業者の方やフランチャイズ加盟をご検討の方は、そちらをご覧ください。明誠側の工法紹介はロープアクセス工法のご紹介にまとめています。

足場とロープアクセスを組み合わせる「ハイブリッド」という選択

渋谷区の物件では、道路に面した2面だけ足場を架け、隣地との隙間がない2面はロープアクセスという組み合わせが、いちばん合理的になることがよくあります。

「足場かロープか」の二者択一ではありません。部位ごとに使い分けて、総額を下げる。これができる会社は、日本でもまだ多くありません。


防災上の共用部:位置と修繕優先度

漏水の話と防災の話は、実は同じ1本の線でつながっています。水が入って壊れると、いちばん困るのが防災設備だからです。

共用部 渋谷区での注意点 修繕・対策の優先度
受電設備(キュービクル) 地下に置いている建物は要注意。浸水で停電すると、エレベーターも給水ポンプも全停止 ★★★ 地下設置なら嵩上げ・防水扉を最優先で検討
給水ポンプ・受水槽 地下ピット内設置が多い。浸水で断水が長期化 ★★★ 受電設備とセットで
エレベーター(ピット) ピットに水が入ると復旧に1〜2週間。管制運転装置の有無を確認 ★★ 地震時管制・浸水時の停止位置を確認
非常用発電機 設置階と燃料タンクの位置。地下だと浸水で使えない ★★ 年1回の実負荷試験
避難通路・バルコニー隔て板 隔て板の前に私物が置かれていないか。劣化して割れていないか ★★ 大規模修繕で一斉交換が合理的
外部階段・避難ハッチ 鉄部の腐食。渋谷区は谷底の湿気が高いエリアがある ★★ 4〜6年周期の鉄部塗装

国土交通省は、電気設備の浸水対策と、地下空間の浸水対策について、それぞれガイドラインを公表しています。地下に受電設備がある建物は、一度これに目を通しておくだけで、理事会の議論の質が変わります。

私はこれを、必ずワンセットで提案するようにしています。外壁の防水と、地下の電気設備。この2つは、別々の話に見えて、同じ「水を建物に入れない」という1つのテーマです。


渋谷区で使える助成・支援制度

分譲マンションの耐震化支援事業

渋谷区は、区内の分譲マンションの耐震診断・補強設計・耐震改修工事の費用の一部を助成しています(出典:渋谷区「一般分譲マンションの耐震化支援事業」/更新日 2026年4月10日)。

主な対象条件は次のとおりです。

  • 昭和56年6月1日前に建築工事に着手したもの(いわゆる旧耐震)
  • 分譲マンションであること
  • 地階を除く階数が原則として3階以上であること
  • 複合用途の場合、延べ面積の過半が居住の用途であること
  • 2以上の区分所有者が存すること
  • 診断結果や補強設計の内容について、評定などを取得すること

助成額と助成率は区のパンフレットに整理されています(分譲マンション耐震化支援事業パンフレット(PDF))。金額は延べ面積などの条件で変わりますので、必ず最新のパンフレットと窓口で確認してください。

ここで1つ注意点があります。明治通り・山手通りなどの一般緊急輸送道路、国道20号・国道246号・首都高速道路などの特定緊急輸送道路に接する建物は、この事業ではなく別の沿道建築物耐震化促進事業が対象になります。渋谷区は幹線道路が多い区ですから、自分の建物がどちらに当たるかを先に確認したほうが早い。

(注)既定の予算額に達した場合は終了となりますので、事前に受付状況をお問い合わせください。問い合わせ先は木密・耐震整備課整備促進係(03-3463-2647)です。

分譲マンション耐震化促進アドバイザー派遣(無料)

渋谷区は、分譲マンション耐震化促進アドバイザー派遣を無料で行っています。「何から始めればいいかわからない」という段階であれば、まずこれを使うのが早い。

止水板の助成について(渋谷区の状況)

近隣の世田谷区・港区・品川区・大田区などは止水板設置等の助成制度を設けていますが、渋谷区について、2026年9月18日時点で同種の制度は公式サイト上で確認できませんでした。制度は年度途中で新設されることもありますので、浸水対策をご検討の際は、渋谷区の土木部企画管理課(03-3463-2773)に直接ご確認いただくのが確実です。


渋谷区で「今週動けること」を決めるための、雨の話

最後に、数字を1つだけ。

気象庁の「日本の気候変動2025」によれば、アメダスで観測された1時間降水量50ミリ以上の短時間強雨の発生回数は、1976〜2024年の49年間で約1.5倍に増加しています。1時間80ミリ以上では約1.7倍です(出典:気象庁「日本の気候変動2025」、気象庁「アメダスで見た短時間強雨発生回数の長期変化について」)。

観測地点が増えたからではありません。1,300地点あたりに換算したうえでの比較です。

つまり、20年前に建てた建物の防水性能は、20年前の雨を前提にしているということです。設計時に想定していなかった降り方を、いま実際に受けている。渋谷区のように谷が深く、下水道に一気に水が集まる地形では、この差がそのまま漏水事故として出てきます。

現場で20年やってきて、私が一番悔しい思いをするのは、「あと1年早く相談してもらえていれば、この金額で済んだのに」という場面です。躯体(建物の骨組み)に水が回って鉄筋が錆びると、費用は一気に跳ね上がります。


よくあるご質問

Q. 渋谷区は高潮ハザードマップがないと聞きましたが、本当に安全ということですか?

A. 渋谷区は海に面していないため、高潮ハザードマップは「作成予定なし」と公式に整理されています。ただし、これは高潮のリスクがないという意味であって、内水氾濫のリスクがないという意味ではありません。むしろ渋谷区で主役になるのは内水です。区の洪水ハザードマップと、東京都下水道局の雨水出水浸水想定区域図の両方をご確認ください。

Q. 自分の建物が土砂災害警戒区域に入っているかは、どこで確認できますか?

A. 渋谷区土砂災害ハザードマップの地図面(本町/西原・元代々木町・代々木/神宮前・神山町/広尾・恵比寿の4エリアの詳細図)と、東京都土砂災害警戒区域等マップで確認できます。区役所本庁舎11階の土木部企画管理課でも閲覧できます。

Q. 崖側の外壁からの漏水は、大規模修繕で直りますか?

A. 地中に接している部分からの浸入であれば、通常の外壁塗装や屋上防水では止まりません。まず調査で浸入経路を特定することが先決です。原因の切り分けができていない状態で工事に入るのが、費用が無駄になる最大のパターンです。漏水対応の考え方にも詳しくまとめています。

Q. 前面道路が狭くて足場が架けられません。外壁の点検はどうすればよいですか?

A. ロープアクセス工法であれば、屋上からロープで下降しながら打診調査と補修が同時にできます。地面の条件に左右されないのが最大の利点です。渋谷区のように隣地との距離がない物件では特に有効です。上空からの俯瞰が必要な場合はドローン調査と組み合わせることもあります。技術的な詳細はロープアクセスドットコムでも解説しています。

Q. 打診調査の費用はどれくらいですか?

A. 一般的な目安は1平方メートルあたり250〜500円ですが、建物の高さ・形状・調査範囲により変動します。足場を架けずにロープアクセスで実施する場合、足場費用がまるごと不要になるぶん、総額が抑えられるケースが多くあります。料金の考え方もご参照ください。

Q. 漏水の緊急対応は、どれくらいで来てもらえますか?

A. 状況によりますが、ロープアクセスであれば足場の設置を待つ必要がないため、当日から翌営業日での初動が可能なケースが多くあります。まずは状況をお電話かフォームでお知らせください。

Q. 地下の受電設備の嵩上げも相談できますか?

A. 電気設備そのものの工事は専門の電気工事会社が行いますが、明誠は日本初のロープアクセス工事フランチャイズ本部として、塗装・防水・タイル・電気・看板の各分野の専門職が加盟しています。建物全体としての取りまとめが可能です。まずはお問合せフォームからご相談ください。

Q. 相談は無料ですか?

A. 現地調査と概算のご提示までは無料で承っています。管理組合向けのご説明資料もご用意しています。


まとめ:今週、渋谷区の理事会で動けること3つ

  1. 管理室のハザードマップの版を確認する — 洪水ハザードマップ日本語版は令和8年4月改訂版が最新です。古ければ区役所本庁舎11階または各出張所で差し替えを
  2. 東京都下水道局の雨水出水浸水想定区域図で、自分の敷地を確認する — 令和8年3月公表の法定図です。渋谷区のマップだけでは内水の法定リスクは読み切れません
  3. 地下階の逆流防止弁と排水ポンプを、実際に動かしてみる — 点検記録の紙ではなく、実働です。台風期のいまがいちばん適した時期です

渋谷区は、高潮も津波もない代わりに、渋谷川・宇田川の谷と、台地の縁の崖という地形が水の動きをすべて決めている区です。だからこそ、「23区の平均的な修繕計画」がいちばん当てはまらない区でもあります。自分の建物がどこに立っているかを地図で確定させることから、修繕の議論を始めていただきたいと思います。

ご相談だけでも遠慮なくお声がけください。総会の前段階の整理だけでも、お力になれることがあります。管理組合さま向けのサービス内容は管理組合向け大規模修繕のご案内、賃貸・オーナー物件はビルオーナー向けのご案内、収益不動産としての資産価値維持の考え方はオーナー向けの提供価値にまとめています。

明誠のこれまでの施工事例(約6,000棟)は https://rita-construction.com/renew/blog/category/works/ からご覧いただけます。


出典・参考資料

本記事の情報の鮮度について:本記事は2026年9月18日時点で公表されている渋谷区および国土交通省・東京都の公式情報をもとに執筆しています。制度は年度途中でも改正・予算終了があり得ます。実際に申請される前に、必ず渋谷区および該当窓口へ最新の内容をご確認ください。


この記事の執筆者

本間 幸紘(ほんま ゆきひろ)
株式会社明誠 代表取締役/東京都東大和市
マンション・ビル・ホテルの大規模修繕20年以上の実務経験。3工法(通常足場/ロープアクセス/ハイブリッド)から建物特性に応じて最適提案。日本初のロープアクセス工事フランチャイズ本部を運営。JCSA(一般社団法人 全国建設業支援協会)代表理事。

最終更新:2026年9月18日

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