【令和8年度版】新宿区の12条点検・外壁打診調査|延べ面積1万㎡で変わる提出先と全面打診10年ルール

【令和8年度版】新宿区の12条点検・外壁打診調査|延べ面積1万㎡で変わる提出先と全面打診10年ルール

新宿区のマンション・ビル・ホテルで、12条点検(建築基準法第12条第1項の定期調査報告)の対象になるのはどの建物で、報告書はどこに出し、外壁の全面打診はいつ必要になるのか。この記事は、その3点に絞ってお答えします。

株式会社明誠の本間です。東京都東大和市を拠点に、20年近く外壁と防水の現場をやってきました。新宿区は私たちにとって、一区のなかで建物の性格がこれほど振れるエリアはほかにない、という場所です。西新宿の超高層オフィスとタワーレジデンス。歌舞伎町・大久保のホテルと商業ビル。神楽坂・四谷の路地に建つペンシルビル。落合・中井の低中層レジデンス。高田馬場の学生向け共同住宅。同じ「新宿区の12条点検」でも、当たり方と段取りがまったく違います。

そして新宿区には、ほかの区と判定軸が違うポイントがひとつあります。延べ床面積1万㎡を境に、報告書の提出先が区か東京都かに分かれるという線引きです。ここを取り違えると、報告シーズンの終盤に手戻りが出ます。


結論:新宿区で12条点検の対象になる建物と、打診が必要になるタイミング

先に結論からお伝えします。

論点 新宿区での答え
対象建築物 共同住宅、ホテル、旅館、店舗、病院、学校、興行場、百貨店など多数の人が利用する「特定建築物」のうち、用途・規模により区長が指定するもの
報告周期 用途と規模により毎年または3年ごと
報告時期 東京都の運用では報告年度の5月1日〜10月31日
所管の線引き 延べ床面積1万㎡以下は新宿区の所管、1万㎡を超える建築物は東京都の所管
提出先(特定建築物・防火設備) 公益財団法人 東京都防災・建築まちづくりセンター(新宿区西新宿7-7-30 小田急西新宿O-PLACE 2階)
外壁の全面打診 竣工または外壁改修から10年を超えたあと、最初の定期調査のタイミングで実施
報告しなかった場合 建築基準法第101条により100万円以下の罰金が科されることがあります
制度改正 令和7年7月1日施行の告示改正あり。東京都は独自の措置を設けています

このうち、新宿区のオーナーさまが最初につまずくのが「所管の線引き」です。港区などでは「敷地内に1万㎡超の建築物があれば、その敷地内の建物はすべて都所管」という敷地単位の判定を採っていますが、新宿区は建築物の延べ床面積そのもので判定すると明記しています。西新宿の超高層はほぼ都所管、神楽坂の中小ビルは区所管、という分かれ方になります。

詳細は新宿区の定期報告制度のページと、そこからリンクされている定期報告対象・報告時期一覧(PDF)でご確認ください。なお、この新宿区のページは最終更新日が2025年(令和7年)7月1日で、令和7年7月1日施行の改正に合わせて更新されたものです。令和8年度時点でも掲載内容は有効ですが、報告年度そのものや様式は東京都側で更新されることがあるため、東京都都市整備局のページと必ず突き合わせてください。


建築基準法第12条とは何か(1項報告と3項検査の違い)

まず用語の整理からいきます。ここは毎回、理事会でご説明する部分です。

建築基準法第12条は、建物の安全・衛生・防災・避難の現状を所有者や管理者の責任で確かめ、その結果を特定行政庁(建築行政を担当する自治体。新宿区の場合は区長)に報告させる規定です。世の中で「12条点検」と呼ばれているものは、実務上は4種類に分かれます。

区分 対象 周期 新宿区での提出先
特定建築物定期調査(12条1項) 敷地・構造・外部・内部・防火避難 毎年または3年ごと 東京都防災・建築まちづくりセンター(03-5989-1929)
防火設備定期検査(12条3項) 防火扉・防火シャッター等 毎年 東京都防災・建築まちづくりセンター(03-5989-1937)
建築設備定期検査(12条3項) 換気・排煙・非常用照明・給排水 毎年 日本建築設備・昇降機センター(03-3591-2421)
昇降機等定期検査(12条3項) エレベーター・エスカレーター・小荷物専用昇降機 昇降機は毎年 東京都昇降機安全協議会(03-6304-2225)

外壁の打診調査が入ってくるのは、この一番上の特定建築物定期調査です。調査は一級建築士、二級建築士、または特定建築物調査員の資格者が行います。

ひとつ現場目線の話をすると、特定建築物の提出先である東京都防災・建築まちづくりセンターは、新宿区西新宿7-7-30の小田急西新宿O-PLACE 2階にあります。つまり新宿区の物件は、提出先が同じ区内にある。細かい話ですが、書面提出で不備が出たときの往復が短いのは、新宿区のオーナーさまにとって地味なメリットです。

報告しないとどうなるか

新宿区は公式ページのQ&Aで、はっきりこう書いています。報告を怠ることは法令違反であり、建築基準法第101条により100万円以下の罰金が科されることがある、と。

さらに実務上もっと重いのは、そのあとの一文です。万が一、建築に係る事故が発生した場合、定期報告の有無およびその内容は重要な参考資料となることも予想される——つまり、外壁タイルが落ちて誰かが怪我をしたとき、12条点検をやっていたかどうかが問われるということです。私はこの一文を、理事会でも必ず読み上げるようにしています。

共同住宅は「3年ごと」が基本

新宿区のマンションで多いのは3年周期の区分です。東京都は報告年度をあらかじめ定めており、たとえば令和6年度が報告年次だった共同住宅は、次が令和9年度になります。

新築直後には「初回免除」という仕組みもあります。特定建築物定期調査報告と防火設備定期検査報告には初回免除があり、報告時期は検査済証の交付年度によって変わります。一方で建築設備と昇降機は扱いが違い、新築・改築後、検査済証の交付を受けてから2年を超えない時期に初回の定期検査報告が必要です。この2つは混同されやすいので、切り分けて覚えてください。

私はいつも理事長さまに、「検査済証の日付を先に確認してください」とお伝えしています。ここが分かれば、次の報告年度と全面打診の時期が同時に見えてくるからです。


全面打診が必要になる4つのトリガー

ここからが本題です。外壁の打診には2段階あります。

① 通常の打診(手の届く範囲)
外壁の外装仕上げ材(タイル、石張り、モルタルなど)について、手の届く範囲を打診棒などで叩いて確認する調査。定期調査ごとに行います。

② 全面打診等
落下すれば歩行者等に危害を与えるおそれのある部分について、全面を打診する調査。こちらが10年周期です。

平成20年4月1日施行の国土交通省告示第282号で、この調査項目・調査方法・判定基準が明確化されました(出典:国土交通省「建築基準法に基づく定期報告制度について」)。

全面打診等が発動するトリガーは、実務上おおむね次の4つです。

  1. 竣工から10年を超えたあと、最初の定期調査のタイミング
  2. 外壁改修(タイル張替え等)から10年を超えたあと、最初の定期調査のタイミング
  3. 通常の調査で要是正(剥離・浮き・ひび割れ等)と判定された場合
  4. 落下事故が発生した、または落下のおそれが具体的に認められた場合

新宿区で特に気をつけていただきたいのは2番目です。前回の大規模修繕でタイルを張り替えた物件は、竣工年ではなく「外壁改修の完了年」から10年を数えます。平成20年代後半に修繕を終えた物件が、いまちょうどこの10年を迎えつつあります。管理会社の履歴に「外壁改修 完了年月」が残っているかを確認してください。

赤外線・ドローンという選択肢も認められている

令和4年1月18日に告示第282号が一部改正され、無人航空機(ドローン)による赤外線調査が、テストハンマーによる打診と同等以上の精度を有する場合の代替調査方法として位置づけられました。有機系接着剤張り工法のタイルについては、引張接着試験による方法も認められています(出典:国土交通省「定期報告制度における外壁のタイル等の調査について」)。

ただし現場をやってきた人間として、正直なところを申し上げます。赤外線は天候・日射・外装材の構成に結果が左右されます。新宿区は高層建築が密集していて、隣の棟の影が終日かかる面が普通にあります。西新宿はその典型です。日が当たらない面は赤外線の精度が出にくい。だから私は、赤外線で当たりをつけて打診で確定させる組み合わせを推しています。加えて、新宿区は都心のなかでも上空の制約が多く、ドローン単独で全面をカバーできる物件はそれほど多くありません。


令和7年7月1日施行の改正と、東京都独自の措置

ここは令和8年度に報告する方には必ず押さえていただきたい部分です。

令和6年国土交通省告示第974号(令和6年6月28日公布)および令和7年国土交通省告示第53号(令和7年1月29日公布)により、定期調査・検査等の項目、方法、結果の判定基準、調査結果表などが見直され、いずれも令和7年7月1日に施行されました。

そして東京都は、国の改正内容を原則踏襲しつつ、都独自の措置を設けています。新宿区を含む都内各行政庁も基本的にこれに沿った運用です。

区分 東京都独自の措置
特定建築物 「常時閉鎖式防火扉」は、従来どおり特定建築物定期調査で報告を求める
特定建築物 「換気設備」の「物品放置の状況」について、自然換気設備は従来どおり特定建築物定期調査で報告を求める
特定建築物 避難経路上の「窓先の空間」の確保に関する調査を追記(東京都建築安全条例の改正内容の反映)
防火設備 「常時閉鎖式防火扉」は、防火設備定期検査では報告を求めない

出典:東京都都市整備局「2.定期調査・検査制度改正の内容」

実務で効いてくるのは、常時閉鎖式防火扉をどちらの報告に載せるかです。東京都のQ&Aでは、常時閉鎖式防火扉を防火設備定期検査のほうで点検して特定建築物定期調査の欄が未記入だった場合、または建築設備等検査員が記入した場合は要是正の判定になるとされています。常時閉鎖式防火扉は特定建築物として調査する項目なので、建築物調査員が実施する必要があるからです。

つまり、調査会社や検査会社を分けて発注している物件ほど、この改正で取り違えが起きやすい。令和7年7月1日以降に調査した物件は新しい調査結果表を使うという切り替えもあります。報告書が上がってきたら、常時閉鎖式防火扉の欄が埋まっているかを一度目で追ってください。


新宿区固有の実務で押さえるべき3点

① 整理番号は電話では教えてもらえない

これは新宿区の運用で、初めての方が必ず驚くところです。

特定建築物および防火設備の定期報告には整理番号が必要です。そして新宿区は、整理番号について電話での回答は行っていません。すでに整理番号を取得している場合は、区役所へ出向いて過去の定期報告概要書から確認することになります。

整理番号をまだ取得していない物件(新規で定期報告を行う物件)は、区のページから「定期報告新規登録票」(Excel)をダウンロードして記入し、区へFAX等で申し込んで番号を取得します。

相続や売買で物件を取得された直後のオーナーさまは、ここで止まりがちです。報告期限の間際に「整理番号が分からない」と気づくと、来所の時間まで含めて数日は溶けます。報告年度に入った時点で、まず整理番号を手元に確認しておいてください。

② 改善完了(計画)報告書の様式は東京都のものを使い、宛名を直す

要是正の指摘を受けたあとに提出する「改善完了(計画)報告書」について、新宿区のホームページには様式がありません。区のQ&Aは、東京都のホームページから様式をダウンロードし、宛名を「新宿区長」に二重線で修正して、入力後にFAXまたは窓口へ持参するという手順を案内しています。

細かい話に見えますが、要是正が出た直後というのは管理組合も慌てている時期です。様式の入手先が区の外にある、という点だけ先に知っておくと落ち着いて動けます。

③ 窓口は都市計画部 建築調整課

新宿区の定期報告制度の担当は、都市計画部 建築調整課(〒160-8484 新宿区歌舞伎町1-4-1、電話03-5273-4323、FAX 03-3209-9227)です。

延べ床面積1万㎡を超える建築物は東京都の所管となり、特定建築物・防火設備の窓口は東京都都市整備局市街地建築部建築企画課 建築安全担当(03-5388-3344)、建築設備・昇降機は同課 設備担当(03-5388-3349)になります。西新宿や大久保の大規模物件をお持ちの方は、こちらが窓口です。


新宿区が用意している無料の支援制度

新宿区は、12条点検そのものへの補助は設けていませんが、マンションの維持管理の相談を無料で受けられる制度が3本あります。全面打診の結果を受けて修繕の段取りを考える段階で、かなり使えます。

マンション管理相談員派遣(無料・年度3回まで)

区内の分譲マンション管理組合や賃貸マンション所有者を対象に、総会・理事会・専門委員会など区分所有者が集まる場へ、専門家を無料で派遣する制度です。

項目 内容
対象 区内の分譲マンション管理組合、賃貸マンションの所有者
派遣先 総会、理事会、専門委員会など複数の区分所有者が集まる場
時間 1回あたり2時間
回数 1年度につき同一マンションで3回まで(区長が特に必要と認めたときは3回に限らない)
相談員 マンション管理士、一級建築士、建築設備士、弁護士などの資格を有する者、またはマンション問題に知見を有する者で区の委嘱を受けた専門家
費用 無料
申請 派遣希望日の2週間前までに区へ申請(電子申請可)
申請者 分譲は理事会の決定を経て理事長名。管理組合がない場合は区分所有者の概ね5分の1以上かつ議決権の概ね5分の1以上の連名で申請可

出典:新宿区「新宿区マンション管理相談員派遣」(最終更新日:2026年9月1日/実施要領は令和8年9月1日一部改正)

賃貸マンションの所有者も対象である点は、収益不動産をお持ちの方にとって見逃せないところです。申請書と実施要領は令和8年9月1日に一部改正されていますので、古い様式が手元にある方は差し替えてください。

マンション管理相談(無料・予約制)

区内の分譲マンション管理組合役員・区分所有者、賃貸マンション所有者を対象とした予約制の窓口相談です。マンション管理士や一級建築士、弁護士等の資格を持つ相談員が対応します。

項目 内容
日程 原則として毎月第2・第4金曜日(祝日を除く)
令和8年9月以降の相談日 9月11日・25日、10月9日・23日、11月13日・27日、12月11日・25日、令和9年1月8日・22日、2月12日・26日、3月12日・26日
時間 [1]13時〜14時20分/[2]14時30分〜15時50分
場所 新宿区役所 第一分庁舎2階 区民相談室(新宿区歌舞伎町1-5-1)
相談料 無料
予約 住宅課居住支援係 直通03-5273-3567(相談日の2日前まで。その日が祝日の場合は祝日の前日まで)。電子申請も可
注意 相談者は2名以内。賃貸マンションの場合は建物の維持管理に関する相談のみ

出典:新宿区「マンション管理相談」(最終更新日:2026年4月1日)

このほか「分譲マンション無料なんでも相談」も用意されています。

非木造の耐震化支援(令和8年度は締切が迫っています)

12条点検とは別枠ですが、新宿区の建築物等耐震化支援事業には非木造建築物向けのメニューがあり、令和8年度の申請期限が決まっています。外壁の全面打診で足場やロープを上げるなら、同じ時期に耐震の検討を寄せると調査が一度で済みます。

メニュー(非木造) 令和8年度の申請期限
耐震アドバイザー派遣 令和9(2027)年1月末まで
簡易耐震診断 令和8(2026)年12月末まで
耐震診断、補強設計への助成 令和8(2026)年11月末まで
耐震改修工事への助成 令和8(2026)年10月末まで
エレベーター防災対策改修工事への助成 令和8(2026)年10月末まで

出典:新宿区「令和8(2026)年度 建築物等耐震化支援事業の申請受付について」(最終更新日:2026年4月1日)

完了実績報告の提出期限も定められており、上表の多くは令和9(2027)年2月5日(金)まで、エレベーター防災対策改修は令和9(2027)年2月26日(金)までです。窓口は都市計画部 防災都市づくり課 耐震担当(03-5273-3829)。この記事を書いている9月中旬は、耐震改修工事への助成(10月末まで)が最も期限が近いメニューになります。金額や対象要件は各メニューのページで現行年度の内容をご確認ください。


実務コスト感:足場かロープアクセスかで、こんなに違う

ここからは制度の話ではなく、私たちの見積り現場の話です。数字は当社の実務経験にもとづく目安であり、建物形状・立地・高さ・道路条件で変わります。

全面打診でいちばん効くのは、「外壁に人をどう届かせるか」のコストです。打診作業そのものの単価より、アクセス手段の費用のほうが大きくなるケースが多い。

アクセス手段 特徴 向いている建物
枠組足場 全面を安定して調査できる。設営・解体に日数と費用 中低層、複雑形状、修繕工事と同時施工
ゴンドラ 常設ゴンドラがあれば低コスト。可動範囲に制約 常設設備のある高層オフィス
高所作業車 小面積なら機動的。前面道路の幅員・駐車許可が必要 低層、道路条件のよい物件
ロープアクセス(無足場工法) 足場を組まずに全面へ到達。設営が短時間、居ながら調査が可能 高層、足場架設が困難、調査だけ先行したい物件

新宿区で私が特に痛感するのは、足場を組むこと自体のハードルの高さです。神楽坂や荒木町の細い坂道、隣地との離隔がほとんどない四谷のペンシルビル、深夜まで人通りが絶えない歌舞伎町の商業ビル。足場が組めない、あるいは組むと営業に響く物件が本当に多い。

特にホテルです。新宿区はホテル・旅館のストックが非常に厚く、12条点検の特定建築物としてど真ん中に当たります。足場と養生シートで全棟を覆えば、客室からの眺望と採光は確実に落ちます。稼働率と客室単価に直接響くというのは、オーナーさまから何度も聞いてきた話です。

調査のためだけに全面足場を架けて、数週間後に解体する。そのあと大規模修繕でもう一度架ける。この「二度架け」をやってしまうと、費用は素直に倍方向に動きます。私が一番悔しい思いをするのは、ご相談をいただいた時点でもう一度目の足場が解体されたあとだった、というときです。

ロープアクセス工法の技術情報や安全基準については、姉妹サイトのロープアクセスドットコムに詳しくまとめています。


ロープアクセス工法が12条打診で選ばれる理由

私たちが新宿区で全面打診のご相談を受けるとき、ロープアクセス工法をご提案する理由は3つです。

1. 足場を組まない分、調査だけを先に回せる

全面打診は、大規模修繕より先に必要になることがあります。報告年度が先に来るからです。足場なしで全面に到達できれば、「まず打診だけ実施して、結果を見て修繕の規模と予算を決める」という順番が取れます。管理相談員派遣を使って理事会で工法を検討するなら、この順番のほうが素直です。

2. 居住者・テナント・宿泊客への影響が小さい

足場を架ければ、窓は開けにくくなり、防犯面の不安も出ます。新宿区の賃貸マンションやホテルでは、これが直接「稼働率」に響きます。ロープアクセスなら、外壁に人が降りるのは作業する面だけ。バルコニーを塞ぐ期間も、養生シートで全棟が覆われる期間もありません。

3. 調査から補修まで、同じアクセス手段でつながる

打診で浮きが見つかったとき、その場で範囲をマーキングし、部分補修まで同じロープで続けられます。「調査は調査会社、補修は工事会社、足場はまた別」と分かれると、その都度アクセス費用が発生します。

ただし、ロープアクセス工法が常に最適だとは申し上げません。全面的な塗替えや防水改修まで一気にやるなら、足場のほうが総額で有利な場合があります。私たちが足場・ロープアクセス・ハイブリッド(部位ごとの使い分け)の3工法から選べる体制を取っているのは、そのためです。工法の考え方は明誠のコンセプトとロープアクセス工法のご紹介にまとめています。


12条点検を大規模修繕と一体化する3つのメリット

私はこれを、ワンセットで提案するようにしています。

① アクセス費用が1回で済む

先ほどの「二度架け」問題です。全面打診の年度と大規模修繕の着工年度を寄せられれば、足場やロープの設営費は1回分になります。

② 打診結果がそのまま修繕設計の根拠になる

全面打診では、浮きの位置と面積が図面上に落ちます。これは大規模修繕のタイル補修数量を積算する、そのままの基礎データです。別途の劣化診断をやり直す必要が減ります。

③ 「要是正」を放置した期間をつくらない

要是正の指摘を受けたあと、予算取りと総会決議で1年、設計で半年、と時間が流れがちです。その間に剥落事故が起きれば、責任は所有者・管理者に向かいます。新宿区が公式ページで「事故が発生した場合、定期報告の有無およびその内容は重要な参考資料となる」と書いているのは、まさにこの局面の話です。調査と補修の段取りを最初からつないでおけば、この空白を短くできます。

管理組合さま向けのご支援は管理組合のお客様へ、ビル・収益物件のオーナーさま向けはビルオーナーのお客様へにまとめています。ロープアクセスの施工事例や技術解説はロープアクセスドットコムもあわせてご覧ください。


まとめ:新宿区のオーナー・管理組合が今週動くこと3点

長くなりましたので、今週できることに絞ります。

1. 延べ床面積を確認して、区所管か都所管かを確定させる

1万㎡以下なら新宿区(建築調整課 03-5273-4323)、1万㎡超なら東京都(建築企画課 03-5388-3344)。港区のような敷地単位ではなく、建築物の延べ床面積で判定されるのが新宿区です。ここを先に決めてください。

2. 整理番号と、前回の外壁改修完了年月を手元に出す

整理番号は電話で教えてもらえません。未取得なら新規登録票の提出が先に必要です。あわせて「竣工年」ではなく「外壁改修の完了年月」を確認すれば、全面打診の要否がほぼ判定できます。管理会社にメール1本で頼めるはずです。

3. 理事会の日程が決まっているなら、管理相談員派遣を申請する

派遣希望日の2週間前が申請期限です。無料で、1年度に同一マンションで3回まで。全面打診の進め方や工法の選択を、区が委嘱した一級建築士やマンション管理士を交えて議論できます。予約・申請は住宅課居住支援係(03-5273-3567)です。

12条点検は、オーナーさまにとっては「やらされる手続き」に見えるかもしれません。けれど私は、10年に一度、建物の外壁を全面見てもらえる貴重な機会だと思っています。その1回を、報告書だけで終わらせるか、次の10年の修繕計画につなげるか。ここが分かれ目です。

ご相談だけでも遠慮なくお声がけください。報告年度の確認や、足場とロープアクセスのどちらが向く建物かの当たりをつける段階だけでも、お力になれることがあります。お問合せはこちらから承ります。


よくある質問(FAQ)

Q1. 新宿区の賃貸マンションでも12条点検の対象になりますか?
A. 用途と規模が特定建築物の要件に当てはまれば、分譲・賃貸を問わず対象です。判定は新宿区の定期報告対象・報告時期一覧(PDF)または東京都都市整備局の報告時期一覧でご確認ください。

Q2. 延べ床面積がちょうど1万㎡のときは、区と都のどちらですか?
A. 新宿区は「延べ床面積が1万平方メートル以下の建物は新宿区の所管、1万平方メートルを超える建築物は東京都の所管」と案内しています。ちょうど1万㎡は区の所管という整理です。判断に迷う場合は建築調整課(03-5273-4323)へご確認ください。

Q3. 整理番号が分からないのですが、電話で聞けますか?
A. 新宿区は整理番号について電話での回答を行っていません。取得済みであれば区役所へ来所して過去の定期報告概要書から確認する運用です。未取得の場合は「定期報告新規登録票」を提出して取得します。

Q4. 竣工から10年経ったら、その年にすぐ全面打診をするのですか?
A. 竣工または外壁改修から10年を超えたあと、最初に到来する定期調査のタイミングで実施する運用です。共同住宅は3年周期のため、10年ちょうどの年とは限りません。

Q5. 令和7年7月の改正で、うちの報告書は何が変わりますか?
A. 東京都では常時閉鎖式防火扉を従来どおり特定建築物定期調査で報告します。防火設備定期検査のほうで点検して特定建築物側が未記入、または建築設備等検査員が記入した場合は要是正の判定となるため、次回以降は特定建築物定期調査で報告してください(出典:東京都都市整備局)。

Q6. 赤外線調査やドローンで打診の代わりにできますか?
A. 令和4年1月18日の告示第282号一部改正で、テストハンマーによる打診と同等以上の精度を有する場合の代替調査方法として無人航空機による赤外線調査が位置づけられました。ただし新宿区は高層建築が密集し、隣棟の影で日照条件が悪い面が出やすいため、打診との併用を検討する価値があります。


この記事のポイントまとめ

  • 新宿区の12条点検は、延べ床面積1万㎡以下が区所管、1万㎡超が東京都所管(敷地単位ではなく建物単位の判定)
  • 特定建築物・防火設備の提出先は東京都防災・建築まちづくりセンター(新宿区西新宿7-7-30)
  • 報告を怠ると建築基準法第101条により100万円以下の罰金が科されることがある
  • 外壁の全面打診は竣工または外壁改修から10年超で、最初の定期調査時に実施
  • 令和7年7月1日施行の告示改正で、東京都は常時閉鎖式防火扉を特定建築物定期調査で報告する独自措置を採用
  • 整理番号は電話では教えてもらえず、未取得なら新規登録票の提出が必要
  • マンション管理相談員派遣は無料・1回2時間・年度3回まで、申請は派遣希望日の2週間前まで
  • 全面打診と大規模修繕を寄せれば、アクセス費用の二度架けを避けられる

出典・参考資料

本記事の情報の鮮度について:本記事は2026年9月13日時点で公表されている新宿区および国土交通省・東京都の公式情報をもとに執筆しています。新宿区の定期報告制度ページは最終更新日が2025年(令和7年)7月1日であり、令和7年7月1日施行の改正に対応した内容です。制度は年度途中でも改正・予算終了があり得ます。実際に報告・申請される前に、必ず新宿区および該当窓口へ最新の内容をご確認ください。


執筆者:本間 幸紘(株式会社明誠 代表取締役)
専門領域:マンション大規模修繕/ロープアクセス工法/建物長寿命化計画
実務経験:建設・改修業界 20年以上
所属:一般社団法人 全国建設業支援協会(JCSA)

株式会社明誠について:東京都東大和市を拠点に、東京・関東一円でロープアクセス工法・従来足場工法・両者を組み合わせたハイブリッド工法の3つから、建物に合った工法をご提案できる改修会社です。日本初のロープアクセス工事フランチャイズを展開しています。

最終更新:2026年9月13日

ロープアクセス工法の詳細解説・技術情報は、姉妹サイト ロープアクセスドットコム(https://rope-access-method.com/)をご覧ください。

【令和8年度版】港区の12条点検・外壁打診調査|対象建築物と全面打診10年ルール

【令和8年度版】港区の12条点検・外壁打診調査|対象建築物と全面打診10年ルール

港区のマンション・ビル・ホテルで、12条点検(建築基準法第12条第1項の定期調査報告)の対象になるのはどの建物で、外壁の全面打診はいつ必要になるのか。この記事では、その1点に絞ってお答えします。

株式会社明誠の本間です。東京都東大和市を拠点に、20年近く外壁と防水の現場をやってきました。港区は私たちが最も多く足を運ぶエリアのひとつです。芝浦港南の湾岸タワー、赤坂・六本木の複合ビル、麻布・高輪の低層レジデンス。同じ区内でも建物の性格がまったく違い、12条点検の当たり方も変わります。

正直に申し上げます。12条点検は「報告書を出して終わり」の手続きだと思われている方が、港区でもまだ多いです。けれども実際には、全面打診の10年周期が大規模修繕の周期とほぼ重なる。ここを意識して段取りを組めるかどうかで、オーナーさまや管理組合が負担する総額は大きく変わります。


結論:港区で12条点検の対象になる建物と、打診が必要になるタイミング

先に結論からお伝えします。

論点 港区での答え
対象建築物 ホテル、百貨店、共同住宅、飲食店など不特定多数が利用する「特定建築物」(用途・規模は区の対象建築物一覧表で確定)
報告周期 用途と規模により毎年または3年ごと
報告時期 東京都の運用では報告年度の5月1日〜10月31日
外壁の全面打診 竣工または外壁改修から10年を超えたあと、最初の定期調査のタイミングで実施
令和8年度に報告する場合 平成28年4月1日以降に打診等を実施していることが前提。未実施なら要是正の指摘対象
提出先 公益財団法人 東京都防災・建築まちづくりセンター(特定建築物・防火設備)
所管行政庁 原則は港区。ただし敷地内に延べ面積1万㎡超の建築物がある場合は東京都所管

この表のうち、港区のオーナーさまが最も引っかかるのが最後の1行です。港区は敷地内に1万㎡を超える建物を抱える大規模複合開発が多く、同じ区内の物件でも「区扱い」と「都扱い」に分かれます。窓口を間違えると、報告シーズンの終盤に慌てることになります。

詳細は港区の定期報告制度のページ(更新日:2026年5月1日)と、東京都都市整備局の定期報告対象建築物・建築設備等及び報告時期一覧をご確認ください。


建築基準法第12条とは何か(1項報告と定期検査の違い)

まず用語の整理からいきます。ここは毎回、理事会でご説明する部分です。

建築基準法第12条は、建物の安全を所有者・管理者の責任で確かめ、その結果を特定行政庁(=建築行政を担当する自治体。港区の場合は原則として港区)に報告させる規定です。世の中で「12条点検」と呼ばれているものは、実務上は4種類に分かれます。

区分 対象 周期 港区での提出先
特定建築物定期調査(12条1項) 敷地・構造・外部・内部・防火避難 毎年または3年ごと 東京都防災・建築まちづくりセンター
防火設備定期検査(12条3項) 防火扉・防火シャッター等 毎年 同上
建築設備定期検査(12条3項) 換気・排煙・非常照明・給排水 毎年 日本建築設備・昇降機センター
昇降機等定期検査(12条3項) エレベーター・エスカレーター等 昇降機は毎年 東京都昇降機安全協議会

外壁の打診調査が入ってくるのは、この一番上の特定建築物定期調査です。調査は一級建築士、二級建築士、または特定建築物調査員の資格者が行います。

共同住宅は「3年ごと」が基本

港区のマンションで多いのは3年周期の区分です。東京都は報告年度をあらかじめ定めており、たとえば令和6年度が報告年次だった共同住宅は、次が令和9年度になります。

新築直後には「初回免除」という仕組みもあります。検査済証の交付を受けた日の属する年度の翌年度以降、2回目の報告時期から報告が必要になる、という扱いです。令和5年度中に検査済証が交付された共同住宅なら、令和6年度の報告は免除され、令和9年度(令和9年5月1日〜10月31日)から報告が必要になります。

私はいつも理事長さまに、「検査済証の日付を先に確認してください」とお伝えしています。ここが分かれば、次の報告年度と全面打診の時期が同時に見えてくるからです。

なお建築設備と昇降機は扱いが違い、検査済証交付日の翌日から起算して2年を経過する日までに初回報告が必要です。特定建築物の初回免除と混同されやすい部分なので、ご注意ください。


全面打診が必要になる4つのトリガー

ここからが本題です。外壁の打診には2段階あります。

① 通常の打診(手の届く範囲)
外壁の外装仕上げ材(タイル、石張り、モルタルなど)について、手の届く範囲を打診棒などで叩いて確認する調査。これはおおむね6か月〜3年ごとの定期調査ごとに行います。

② 全面打診等
落下すれば歩行者等に危害を与えるおそれのある部分について、全面を打診する調査。こちらが10年周期です。

平成20年4月1日施行の国土交通省告示第282号(平成20年国土交通省告示第282号)で、この調査項目・調査方法・判定基準が明確化されました(出典:国土交通省「建築基準法に基づく定期報告制度について」)。

全面打診等が発動するトリガーは、実務上おおむね次の4つです。

  1. 竣工から10年を超えたあと、最初の定期調査のタイミング
  2. 外壁改修(タイル張替え等)から10年を超えたあと、最初の定期調査のタイミング
  3. 通常の調査で要是正(剥離・浮き・ひび割れ等)と判定された場合
  4. 落下事故が発生した、または落下のおそれが具体的に認められた場合

そして東京都の運用では、令和8年度に報告する建物で全面打診等が必要な外装材がある場合、平成28年4月1日以降に打診等を実施している必要があります。実施していなければ要是正の扱いになります。ここは年度がずれると要件もずれるので、公式の最新情報で確認してください。

赤外線・ドローンという選択肢も認められている

令和4年1月18日に告示第282号が一部改正され、無人航空機(ドローン)による赤外線調査が、テストハンマーによる打診と同等以上の精度を有する場合の代替調査方法として位置づけられました。有機系接着剤張り工法のタイルについては、引張接着試験による方法も認められています(出典:国土交通省「定期報告制度における外壁のタイル等の調査について」)。

ただし現場をやってきた人間として、正直なところを申し上げます。赤外線は天候・日射・外装材の構成に結果が左右されます。港区の湾岸エリアのように、風が強く、面によって日照条件がまったく違うタワー物件では、赤外線だけで全面を押さえきるのは難しい場面が少なくありません。打診と赤外線を組み合わせ、赤外線で当たりをつけて打診で確定させる。私はこの形を推しています。


港区固有の運用で押さえるべき3点

① 窓口が「区扱い」と「都扱い」に分かれる

港区の特定建築物・防火設備の担当は、街づくり支援部建築課建築監視担当(電話03-3578-2111 代表/内線2306・2307、所在地:〒105-8511 港区芝公園1-5-25)です。

一方で、敷地内に延べ面積が1万㎡を超える建築物がある場合、その敷地内の建築物はすべて東京都の所管になります。この場合の窓口は東京都都市整備局市街地建築部建築企画課(直通03-5388-3344)です。

港区は大規模複合開発が集中するエリアですから、この線引きに当たる物件がほかの区より多い。所有されている棟が単独では1万㎡に満たなくても、同じ敷地内に大きな棟があれば都扱いになります。まず敷地単位で確認する。これが港区での実務の第一歩です。

② 電子申請の対象が限定されている

令和8年3月27日から、特定建築物定期調査報告のインターネット受付が始まりました。ただし現時点では東京都知事宛または多摩建築指導事務所長宛のみが対象です。つまり港区扱いの物件は、原則として従来どおり書面での提出になります。一方、前述の都扱いに該当する物件であれば電子での報告が視野に入ります。利用には東京都のシステムへの事前アカウント登録が必要です。

なお昇降機等定期検査については、港区は令和8年4月1日から電子提出を開始しています。報告書の副本は受付印付きのPDFで返却される運用です(出典:港区 定期報告制度)。

③ 港区は調査費用の助成が使える可能性がある

港区には分譲マンション等管理支援事業があり、劣化診断の費用助成が用意されています。12条点検そのものへの助成ではありませんが、外壁・屋上・鉄部・給排水管・電気設備等の老朽度調査が対象になるため、全面打診のタイミングと合わせて設計すると効率がよい制度です。

項目 内容
助成額 劣化診断に要した費用の2分の1
上限額 50万円
助成回数 年度内1回限り
対象建築物 区内のマンション(分譲・賃貸)、延べ面積の2分の1以上が居住用、建築後5年以上経過
申込対象 分譲マンションの管理組合、または賃貸マンションの経営者(個人・法人)
完了報告の締切 毎年2月末日
注意点 予算額に達した時点で受付終了。既に契約・実施したものは申請不可。同一項目は助成後10年経過まで再助成の対象外。アスベスト関連経費は対象外

出典:港区「分譲マンション等管理支援事業」(更新日:2026年5月8日)

賃貸マンションのオーナーも対象になっている点は、収益不動産をお持ちの方にとって見逃せないところです。ただし、調査・診断に要した費用のみが対象で、その後の大規模修繕の見積りや長期修繕計画の作成は含まれません。

また、管理アドバイザーの無料派遣(年度にかかわらず合計10回まで)もあります。申請の締切は2月末日、派遣日の締切は第2希望を含めて3月21日です。修繕計画や劣化診断の相談にも使えますので、理事会の初動として有効です。


実務コスト感:足場かロープアクセスかで、こんなに違う

ここからは制度の話ではなく、私たちの見積り現場の話です。数字は当社の実務経験にもとづく目安であり、建物形状・立地・高さ・道路条件で変わります。

全面打診でいちばん効くのは、「外壁に人をどう届かせるか」のコストです。打診作業そのものの単価より、アクセス手段の費用のほうが大きくなるケースが多い。

アクセス手段 特徴 向いている建物
枠組足場 全面を安定して調査できる。設営・解体に日数と費用 中低層、複雑形状、修繕工事と同時施工
ゴンドラ 常設ゴンドラがあれば低コスト。可動範囲に制約 常設設備のある高層オフィス
高所作業車 小面積なら機動的。前面道路の幅員・駐車許可が必要 低層、道路条件のよい物件
ロープアクセス(無足場工法) 足場を組まずに全面へ到達。設営が短時間、居ながら調査が可能 高層、足場架設が困難、調査だけ先行したい物件

港区で私が特に痛感するのは、足場を組むこと自体のハードルの高さです。前面道路が狭い麻布・高輪の坂道、隣地との離隔がほとんどない都心型のペンシルビル、テナントの搬入動線を止められない赤坂の商業ビル。足場が組めない、あるいは組むと営業に響く物件が本当に多い。

調査のためだけに全面足場を架けて、数週間後に解体する。そのあと大規模修繕でもう一度架ける。この「二度架け」をやってしまうと、費用は素直に倍方向に動きます。私が一番悔しい思いをするのは、ご相談をいただいた時点でもう一度目の足場が解体されたあとだった、というときです。

ロープアクセス工法の技術情報や安全基準については、姉妹サイトのロープアクセスドットコムに詳しくまとめています。


ロープアクセス工法が12条打診で選ばれる理由

私たちが港区で全面打診のご相談を受けるとき、ロープアクセス工法をご提案する理由は3つです。

1. 足場を組まない分、調査だけを先に回せる

全面打診は、大規模修繕より先に必要になることがあります。報告年度が先に来るからです。足場なしで全面に到達できれば、「まず打診だけ実施して、結果を見て修繕の規模と予算を決める」という順番が取れます。劣化診断助成と組み合わせるなら、この順番のほうが素直です。

2. 居住者・テナントへの影響が小さい

足場を架ければ、窓は開けにくくなり、防犯面の不安も出ます。港区の賃貸マンションやホテルでは、これが直接「稼働率」に響きます。ロープアクセスなら、外壁に人が降りるのは作業する面だけ。バルコニーを塞ぐ期間も、養生シートで全棟が覆われる期間もありません。

3. 調査から補修まで、同じアクセス手段でつながる

打診で浮きが見つかったとき、その場で範囲をマーキングし、部分補修まで同じロープで続けられます。「調査は調査会社、補修は工事会社、足場はまた別」と分かれると、その都度アクセス費用が発生します。

ただし、ロープアクセス工法が常に最適だとは申し上げません。全面的な塗替えや防水改修まで一気にやるなら、足場のほうが総額で有利な場合があります。私たちが足場・ロープアクセス・ハイブリッド(部位ごとの使い分け)の3工法から選べる体制を取っているのは、そのためです。工法の考え方は明誠のコンセプトとロープアクセス工法のご紹介にまとめています。


12条点検を大規模修繕と一体化する3つのメリット

私はこれを、ワンセットで提案するようにしています。

① アクセス費用が1回で済む

先ほどの「二度架け」問題です。全面打診の年度と大規模修繕の着工年度を寄せられれば、足場やロープの設営費は1回分になります。

② 打診結果がそのまま修繕設計の根拠になる

全面打診では、浮きの位置と面積が図面上に落ちます。これは大規模修繕のタイル補修数量を積算する、そのままの基礎データです。別途の劣化診断をやり直す必要が減ります。

③ 「要是正」を放置した期間をつくらない

要是正の指摘を受けたあと、予算取りと総会決議で1年、設計で半年、と時間が流れがちです。その間に剥落事故が起きれば、責任は所有者・管理者に向かいます。調査と補修の段取りを最初からつないでおけば、この空白を短くできます。

管理組合さま向けのご支援は管理組合のお客様へ、ビル・収益物件のオーナーさま向けはビルオーナーのお客様へにまとめています。ロープアクセスの施工事例や技術解説はロープアクセスドットコムもあわせてご覧ください。


まとめ:港区のオーナー・管理組合が今週動くこと3点

長くなりましたので、今週できることに絞ります。

1. 検査済証の日付と、前回の打診実施日を確認する

この2つが分かれば、次の報告年度と全面打診の要否がほぼ判定できます。管理会社にメール1本で確認できるはずです。

2. 敷地内に延べ面積1万㎡超の建物があるかを確認する

あれば都扱い、なければ港区扱い。窓口が変わります。港区は特にここが分かれやすいエリアです。

3. 劣化診断の費用助成を使えるか、住宅課に問い合わせる

港区の劣化診断費用助成は予算額に達すると受付が終了します。完了報告の締切は2月末日で、申請から助成金支払いまで数か月かかる設計です。年度の後半に動き出すと間に合わないことがあります。窓口は港区街づくり支援部住宅課住宅支援係(電話03-3578-2229、2223、2224)です。

12条点検は、オーナーさまにとっては「やらされる手続き」に見えるかもしれません。けれど私は、10年に一度、建物の外壁を全面見てもらえる貴重な機会だと思っています。その1回を、報告書だけで終わらせるか、次の10年の修繕計画につなげるか。ここが分かれ目です。

ご相談だけでも遠慮なくお声がけください。報告年度の確認や、足場とロープアクセスのどちらが向く建物かの当たりをつける段階だけでも、お力になれることがあります。お問合せはこちらから承ります。


よくある質問(FAQ)

Q1. 港区の賃貸マンションでも12条点検の対象になりますか?
A. 用途と規模が特定建築物の要件に当てはまれば、分譲・賃貸を問わず対象です。判定は港区の対象建築物一覧表または東京都都市整備局の報告時期一覧でご確認ください。

Q2. 竣工から10年経ったら、その年にすぐ全面打診をするのですか?
A. 竣工または外壁改修から10年を超えたあと、最初に到来する定期調査のタイミングで実施する運用です。共同住宅は3年周期のため、10年ちょうどの年とは限りません。

Q3. 赤外線調査やドローンで打診の代わりにできますか?
A. 令和4年1月18日の告示第282号一部改正で、テストハンマーによる打診と同等以上の精度を有する場合の代替調査方法として無人航空機による赤外線調査が位置づけられました。ただし建物条件により適否が分かれるため、打診との併用を検討する価値があります(出典:国土交通省)。

Q4. 報告書はどこに出せばよいですか?
A. 特定建築物・防火設備は公益財団法人 東京都防災・建築まちづくりセンター(電話03-5989-1929)です。ただし敷地内に延べ面積1万㎡超の建築物がある場合は東京都所管となり、窓口が東京都都市整備局市街地建築部建築企画課(直通03-5388-3344)に変わります。

Q5. 打診で浮きが見つかったら、すぐ全面改修が要るのですか?
A. 浮きの分布と面積によります。部分的なら部分補修で対応できる場合もあります。ロープアクセスであれば調査と同じ体制で部分補修まで続けられるため、まず範囲を確定させることをおすすめします。


この記事のポイントまとめ

  • 港区の12条点検は原則区扱い、敷地内1万㎡超なら東京都扱いになる
  • 共同住宅の定期調査は3年周期、報告時期は5月1日〜10月31日が東京都の運用
  • 外壁の全面打診は竣工または外壁改修から10年超で、最初の定期調査時に実施
  • 令和8年度の報告は、平成28年4月1日以降の打診実施が前提となる
  • 港区の劣化診断費用助成は1/2・上限50万円、賃貸マンション経営者も対象
  • 全面打診と大規模修繕を寄せれば、アクセス費用の二度架けを避けられる

出典・参考資料

本記事の情報の鮮度について:本記事は2026年9月13日時点で公表されている港区および国土交通省・東京都の公式情報をもとに執筆しています。制度は年度途中でも改正・予算終了があり得ます。実際に申請・報告される前に、港区および該当窓口へ最新の内容をご確認ください。


執筆者:本間 幸紘(株式会社明誠 代表取締役)
専門領域:マンション大規模修繕/ロープアクセス工法/建物長寿命化計画
実務経験:建設・改修業界 20年以上
所属:一般社団法人 全国建設業支援協会(JCSA)

株式会社明誠について:東京都東大和市を拠点に、東京・関東一円でロープアクセス工法・従来足場工法・両者を組み合わせたハイブリッド工法の3つから、建物に合った工法をご提案できる改修会社です。日本初のロープアクセス工事フランチャイズを展開しています。

最終更新:2026年9月13日

ロープアクセス工法の詳細解説・技術情報は、姉妹サイト ロープアクセスドットコム(https://rope-access-method.com/)をご覧ください。

中央区の管理組合が無料で使える相談・専門家派遣8つ|「有料の制度がタダになる」仕組みを使っていますか

中央区の管理組合が無料で使える相談・専門家派遣8つ|「有料の制度がタダになる」仕組みを使っていますか

2026年9月12日 更新

「東京都のアドバイザー制度、有料なので見送りました」

日本橋のマンションで、修繕委員の方からこう言われたことがあります。長期修繕計画(12年〜30年先までの修繕工事と費用をまとめた計画書)の見直しをどう進めるか、という話の途中でした。

私は株式会社明誠の本間幸紘と申します。東京都東大和市を拠点に、20年近くマンションやビルの外壁と向き合ってきました。足場を組む工事も、ロープ1本でぶら下がる無足場の工事も、両方やってきた人間です。

そのとき私がお伝えしたのは、「中央区なら、その料金は区が全額出してくれますよ」ということでした。

これは中央区の制度設計の特徴です。東京都が有料で提供しているアドバイザー派遣の費用を、中央区が全額助成する。つまり管理組合の持ち出しはゼロになります。ところが「東京都の制度=有料」という情報だけが理事会に伝わっていて、区の助成とセットで考えられていないことが、驚くほど多い。

今日は、中央区のマンション管理組合とビルオーナーが、お金をかけずに使える相談・派遣の制度を8つ、令和8年度の一次情報で整理します。


結論:中央区で無料で使える相談・派遣は8つある

先に一覧でお見せします。

# 制度・窓口 誰が対応するか 費用 申込先
1 マンション管理士派遣 マンション管理士 無料(年度内5回) 中央区都市整備公社 03-3561-5191
2 分譲マンション管理相談 建築士事務所協会・マンション管理士会・公社職員 無料(月2回・要予約) 中央区都市整備公社 03-3561-5191
3 東京都の専門相談 弁護士 または 一級建築士 無料 中央区都市整備公社が受付
4 アドバイザー制度利用助成 東京都のマンションアドバイザー 区が全額助成=実質無料 中央区都市整備公社 03-3561-5191
5 東京都 マンションアドバイザー無料派遣 マンション管理士等 無料(要届出) 東京都防災・建築まちづくりセンター 03-5989-1453
6 東京都 マンション管理士無料派遣(防災力向上・認知症対応) 講習受講済みマンション管理士 無料 東京都マンション管理士会
7 中央区 法律相談(予約制) 弁護士 無料(年度内3回) まごころステーション 03-3546-9590
8 管理組合交流会/管理セミナー 他マンションの役員・講師 無料 中央区都市整備公社 03-3561-5191

これに加えて、国指定の(公財)マンション管理センターの電話相談も無料で使えます。

ここからが本題です。1つずつ、回数・時間・申込方法まで見ていきます。


1. まず電話すべきは「中央区都市整備公社」

中央区のマンション施策は、一般財団法人中央区都市整備公社が実務を担っています。区役所の住宅課に電話するより、こちらが早いことが多い。

私は中央区の案件で理事長さまとお話しするとき、最初にこの番号をメモ用紙に書いてお渡しするようにしています。

中央区都市整備公社 まちづくり支援第一課 電話 03-3561-5191

所在地は中央区八丁堀一丁目25番3号、京華スクエア内です。八丁堀駅からすぐの場所にあります。

マンション管理士派遣

中央区の発表によれば、分譲マンションの維持管理・大規模修繕・建替えなどについて助言・提案等を行うマンション管理士を、管理組合の総会・理事会・勉強会等に無料で派遣しています。

項目 内容
派遣対象 区内に所在する分譲マンションの管理組合
派遣回数 1管理組合につき同一年度内に5回まで
1回の時間 2時間以内
派遣先 利用者の希望する場所
費用 利用者の負担なし
申込 マンション管理士派遣申込書を公社へ提出

(出典:中央区「マンション管理士派遣」、一般財団法人中央区都市整備公社「マンション管理士派遣」)

年度内5回、1回2時間。合計10時間分の専門家の時間が、無料で使えるということです。

これがどういう意味を持つか。大規模修繕の検討は、だいたい次のような順番で進みます。

  1. 劣化の状況を知る(調査・診断をどうするか)
  2. 修繕委員会を立ち上げる(誰が入るか、権限はどこまでか)
  3. 発注方式を決める(責任施工方式か、設計監理方式か)
  4. 業者を選ぶ(何社に声をかけ、何で比べるか)
  5. 総会で決議する(説明資料をどう作るか)

この5つの段階それぞれに1回ずつ管理士を呼ぶと、ちょうど5回です。設計事務所にコンサルティングを依頼すれば数十万円かかる部分の、かなりの割合がここでカバーできます。

私の経験上、修繕委員会が一番揉めるのは(3)の発注方式です。理事会のなかで「知り合いの業者に頼めばいい」という方と「設計事務所を入れないと不安だ」という方が対立する。ここに中立の第三者が1人入るだけで、話の進み方がまったく変わります。

派遣先は「利用者の希望する場所」とされています。つまりマンションの集会室に来てもらえるということです。役員が公社まで出向く必要がない。これは平日日中に働いている理事さまにとって、地味ですが大きい違いです。


2. 月2回・予約制の「分譲マンション管理相談」

派遣まで踏み切る前の、もっと軽い入口がこれです。

中央区都市整備公社では、分譲マンションの計画修繕・維持管理や日常のトラブルなど、管理組合の役員や区分所有者が抱える問題について相談を受け付けています。

項目 内容
対象 (1) 区内の分譲マンション管理組合
(2) 区内の分譲マンション区分所有者
日時 原則として毎月第2・第4月曜日 午後1時/2時/3時(予約制・各回1時間以内)
場所 京華スクエア(中央区八丁堀一丁目25番3号)
相談員 一般社団法人東京都建築士事務所協会(建物維持管理等)
一般社団法人東京都マンション管理士会(管理全般)
中央区都市整備公社職員
費用 無料
予約 03-3561-5191(当日の飛び込みは不可)

(出典:中央区「分譲マンション管理相談」、中央区都市整備公社「分譲マンション管理相談」)

ここで押さえておきたいのは、相談員に建築士事務所協会の建築士が入っていることです。

管理士だけが対応する窓口も多いなかで、建物の維持管理そのものを専門にする建築士が席に座っているのは、修繕を検討している組合にとって意味があります。「外壁のこのひび割れは放置していいのか」「管理会社が出してきた診断報告書の読み方が分からない」——こうした技術寄りの質問が、その場で処理できるからです。

なお、当日その場で申し込むことはできません。第2・第4月曜日と分かっていても、前もって電話が要ります。ここで「今日行けば聞ける」と勘違いして空振りする方が時々いらっしゃいます。


3. 弁護士・一級建築士が出てくる「東京都の専門相談」

意外と知られていないのがこれです。

東京都では、区市の分譲マンション相談窓口で相談を受けた上で「専門家による対応が必要」と認めたものについて、弁護士または一級建築士が対応する専門相談を行っています。無料、完全予約制です。

中央区の場合、申込は中央区都市整備公社で受け付けます。都に直接申し込むのではありません。

(出典:中央区都市整備公社「分譲マンション管理相談」、東京都マンションポータルサイト「専門相談」)

つまり、流れはこうなります。

中央区都市整備公社の管理相談(無料・第2/第4月曜)
 ↓ 専門家の判断が要ると認められた場合
東京都の専門相談(無料・弁護士 or 一級建築士)

一級建築士が無料で見てくれるという点が、修繕を考えている組合にとっては大きい。たとえば「管理会社から提示された修繕見積が妥当かどうか」「調査報告書の書きぶりが工事を煽っていないか」といった、判断に技術的な裏付けが要る話です。

私は工事をする側の人間です。だからこそ申し上げますが、発注する側にも技術が分かる人が1人いてくれたほうが、話は速く、そして公平になります。値切られるのが嫌だから第三者を入れないでほしい、という業者がいるとしたら、それは疑ってかかっていい相手です。


4. 中央区の目玉:有料のアドバイザー制度が「全額助成」で実質無料になる

ここが中央区の最大の特徴です。冒頭で触れた話に戻ります。

東京都(公益財団法人東京都防災・建築まちづくりセンター)が運営するマンションアドバイザー制度は、本来は有料です。ところが中央区は、区内の管理組合がこれを利用する際の費用を全額助成しています。

助成の対象と内容

建替え・改修アドバイザー 管理アドバイザー
コース Aコース(入門編) Bコース(検討書の作成) Aコース(講座編) Bコース(相談編)
内容 建替えか改修かの検討に必要な法律・税制・公的支援等のアドバイス 建替えか改修かを比較検討できるよう、現況や法規制を確認し検討書を作成 基本的な事項をテキストを使いながら解説 具体的な個別の相談内容にアドバイス
対象 区内の分譲マンション管理組合 概ね築30年以上経過している区内の分譲マンション管理組合 区内の分譲マンション管理組合 区内の分譲マンション管理組合
助成額 まちづくりセンターの定める料金を全額助成(テキスト代は対象外) 同左 同左 同左
助成回数 1管理組合につき各1回 1管理組合につき各1回 1管理組合につき同一年度内に各1回 1管理組合につき同一年度内に各1回

(出典:中央区「分譲マンションアドバイザー制度利用助成」)

テキスト代だけは自己負担ですが、それ以外は区が持ちます。

なぜこれが効くのか。次章で説明する東京都の「無料派遣」は、管理状況届出制度の届出をした要届出マンション(昭和58年以前の建物)に限られるからです。

中央区には晴海・勝どき・月島の湾岸エリアを中心に、築浅のタワーマンションが数多くあります。これらは要届出マンションではないので、東京都の無料派遣の対象外です。そこを中央区の全額助成が埋めている。築年数を問わず、区内の管理組合なら実質無料でアドバイザーを呼べるということです。

この構図を理解している理事会は、私の実感ではかなり少数派です。


5. 東京都のマンションアドバイザー無料派遣(届出制度とセット)

こちらは古い建物向けのルートです。

公益財団法人東京都防災・建築まちづくりセンターは、管理状況届出制度の届出・更新を行った管理組合限定で、管理アドバイザーA・Bコース、建替え・改修アドバイザーAコース、B-0コースを無料で提供しています。

前提となる「管理状況届出制度」

「東京におけるマンションの適正な管理の促進に関する条例」(平成31年3月制定)に基づき、令和2年4月から始まった制度です。

  • 昭和58(1983)年12月31日以前に新築された
  • 居住の用に供する独立部分が6以上ある分譲マンション

この条件に当てはまるマンションは、管理状況の届出が義務付けられています(要届出マンション)。前回の届出から5年以内ごとに更新が必要です。

無料になる回数

状況 無料回数
届出が受理、または更新を届け出た要届出マンション 1回まで無料
上記のうち、管理不全の兆候があるマンション 5回まで無料

1コースあたり2時間程度です。

使えるコース(大規模修繕に効くもの)

講座編(A)

コース 内容
A-2 長期修繕計画作成ガイドライン活用の手引きの解説
A-4 計画修繕工事の進め方
A-5 滞納管理費・修繕積立金督促の仕方

相談編(B)

コース 内容
B-4 修繕計画の作成や修繕積立金等の設定に関すること
B-5① 修繕工事検討段階での相談(劣化状況の調査・診断、修繕工事の検討組織、工事の方式 等)
B-5② 修繕工事準備段階での相談(工事の内容、業者選定の仕方、合意形成 等)

※講座編には有料のテキストが必要なコースがあります。

申込みは申込書をFAX・メール・郵送でセンターへ。申込後1〜2週間程度で担当アドバイザーから日程調整の連絡が入ります。押印書類は郵送が必要です。

(出典:公益財団法人東京都防災・建築まちづくりセンター「マンションアドバイザー無料派遣」)

お問い合わせ:公益財団法人東京都防災・建築まちづくりセンター まちづくり推進課 TEL 03-5989-1453

私がこの制度で一番おすすめするのはB-5①です。「調査・診断をどこに頼めばいいか分からない」という段階で呼べる。ここで判断を誤ると、必要のない工事が数百万円単位で見積書に乗ることがあります。

なお、日本橋・京橋・八丁堀のあたりには昭和58年以前の建物が相当数残っています。「うちは届出したっけ?」が分からない状態は、無料派遣の権利を眠らせているのと同じです。理事が交代すると、この記憶はあっさり消えます。

また、中央区の全額助成(前章)と、東京都の無料派遣(本章)は、どちらも同じアドバイザー制度を指しています。自分のマンションがどちらのルートで無料になるのかは、公社に電話すれば整理してもらえます。二重に申し込む必要はありません。


6. 東京都のマンション管理士無料派遣(防災力向上・認知症対応)

東京都が令和5年度から実施している事業で、令和8年度も継続しています。

防災力向上や認知症対応の講習を受講したマンション管理士が、実践的なノウハウの習得や手続を支援し、円滑な合意形成に向けたアドバイスを行うものです。

令和8年度の募集内容

項目 内容
対象 都内に所在するマンション管理組合
回数 防災力向上・認知症対応 それぞれ2回まで(無料)
通算 令和5〜7年度に派遣を受けている場合、その回数も上限に含まれる
受付期間 令和8年6月23日(火)〜令和9年2月26日(金)
募集数 防災力向上・認知症対応 合わせて160件(達し次第、新規受付を締切)
申込先 東京都マンション管理士会 https://www.kanrisi.org/

(出典:東京都マンションポータルサイト「分譲マンション向けマンション管理士無料派遣(防災力向上・認知症対応)」)

アドバイスの例として公表されているのは次のような内容です。

  • 自主防災組織の設置や強化の方法
  • 災害時にも活用できる居住者等名簿の作成
  • 発災時の緊急対応を定める管理規約の整備方法
  • 認知症の可能性のある居住者への理解や対応方法
  • バリアフリー改修を含む長期修繕計画の策定

注意点を2つ、正直に申し上げます。

1つは、都内全体で160件しか枠がないということ。都内の分譲マンション数を考えれば、これは相当に少ない枠です。受付は9月時点でまだ開いている可能性がありますが、年明けに動こうとすると締め切られていることも考えられます。

もう1つは、過去の利用回数が通算されること。令和5〜7年度にすでに2回使っている場合、そのテーマではもう無料枠が残っていません。申込前に管理会社か前任の理事長さまに確認しておくと、二度手間を防げます。

中央区の湾岸エリアは、高層階からの避難という固有の課題を抱えています。停電時にエレベーターが止まったあと、上層階の高齢居住者をどうするか。この論点は防災力向上のテーマとして相談できる範囲です。そして避難計画は、外壁工事中の仮設計画とも無関係ではありません。

問い合わせ先:東京都住宅政策本部 民間住宅部 マンション課 マンション管理担当 03-5320-5004(直通)

管理が行き詰まっている場合の「伴走型」支援

もう1つ、東京都には管理不全予防・改善支援事業(伴走型)という枠組みがあります。

管理組合や管理規約がない等、管理不全の兆候があり、区分所有者のみでは管理の適正化が困難なマンションに対して、一定期間、マンション管理士を管理組合の役員等として無料で派遣するものです。派遣された管理士は現地調査を行って支援提案書を作成し、説明会を経て外部管理者方式等の導入を支援します。

(出典:東京都マンションポータルサイト「管理不全予防・改善支援事業(伴走型)」)

これは「相談」ではなく「介入」に近い支援です。そもそも理事会が機能していないという段階のマンション向けで、応募は先着順。お問い合わせ先は東京都住宅政策本部 マンション課 マンション施策調整担当(03-5320-7532)です。

自分のマンションがここに当てはまるかもしれない、と思われた場合は、まず中央区都市整備公社に相談されるのが順序として自然です。


7. 中央区の法律相談(令和8年4月からオンライン予約に)

管理費・修繕積立金の滞納、区分所有者間のトラブル、管理委託契約の解約——こうした法律寄りの問題は、中央区の法律相談が使えます。

令和8年度から、オンライン予約が始まりました。 これは実務上かなり大きい変更です。

項目 内容
対象 中央区在住または在勤の方(個人)
相談料 無料
相談時間 1回30分
回数 令和8年度内(令和8年4月1日〜令和9年3月31日)に1人3回まで
予約 相談日の60日前から前日まで/オンラインフォームまたは電話
電話予約 まごころステーション 03-3546-9590(午前8時30分〜午後5時)

相談場所と日時

場所 日程
中央区役所 区民相談室 毎週金曜日 午後1時〜4時
日本橋特別出張所 毎月第2・第4水曜日 午後1時〜4時
月島特別出張所 毎月第1・第3月曜日 午後1時〜4時
晴海特別出張所 毎月第3木曜日 午後1時〜4時

各会場とも13時00分/13時35分/14時10分/14時45分/15時20分の5枠(各30分)です。

(出典:中央区「法律相談(予約制)」掲載日:2026年4月1日)

ここで見逃されがちなのが、「在勤」も対象に含まれる点です。中央区は昼間人口が夜間人口を大きく上回る地域です。区内の会社にお勤めで、区外のマンションの理事をされている方——この方も、中央区の法律相談は使えます。

また、月島・晴海の特別出張所でも相談できるのは湾岸エリアの方にとって現実的です。区役所(築地)まで出向く必要がない。

なお、この相談は個人が対象です。賃貸マンションやビルを法人で所有しているオーナーさまの場合は、対象の考え方が変わりますので、まごころステーション(03-3546-9590)に確認されることをおすすめします。

経済的に余裕のない方向けには、日本司法支援センター(法テラス東京 050-3383-5300)が無料法律相談と弁護士・司法書士費用の立替を行っています。


8. 交流会・セミナー・国のセンター

分譲マンション管理組合交流会

分譲マンションの管理組合の運営に係る知識や情報を交換する会です。入会申込みは随時受け付けられています。対象は区内の分譲マンションの管理組合代表者または区分所有者です。

(出典:中央区「分譲マンション管理組合交流会」)

私はこれを軽視していません。理由は単純で、他のマンションの実際の工事金額と失敗談が聞ける場だからです。

現場で20年やってきて、私が一番悔しい思いをするのは、相場より明らかに高い金額で契約してしまった組合に、工事が終わってから出会うときです。「なんで着工前に一言、近所のマンションに聞かなかったんだろう」と思うことがある。交流会は、その一言を聞ける場所です。

中央区都市整備公社は、このほかに分譲マンション管理セミナーとマンション情報誌の発行も行っています(出典:中央区都市整備公社「マンション管理支援」)。情報誌は、新任の理事さまへの引き継ぎ資料として使い勝手がいい。理事会の役員は1年〜2年で交代することが多く、そのたびに知識がリセットされます。紙で残るものは、意外と効きます。

国の指定センターにも無料で電話できる

(公財)マンション管理センターは、マンション管理適正化法に基づく「マンション管理適正化推進センター」の指定を受けている唯一の団体です。

相談内容 電話番号
管理組合運営、管理規約等 03-3222-1517
建物・設備の維持管理 03-3222-1519
  • 受付:月曜日〜金曜日(祝日・年末年始を除く)9時30分〜17時
  • 1件あたり15分前後でアドバイスできるよう運用
  • メール相談フォームあり(回答は口頭)
  • 面談は事前予約制

(出典:公益財団法人マンション管理センター「相談窓口について」)

公平・中立の立場でアドバイスする窓口で、特定の弁護士や企業を紹介することはしないと明記されています。一方で、専門家レベルの法律相談や、修繕等の個別具体的なアドバイスは行っていない、当事者間の仲裁には立たない、という限界もはっきり書かれています。

賃貸マンションの相談は対象外です。賃貸をお持ちのオーナーさまはご注意ください。


相談に行くとき、何を持っていけばいいか

ここが一番実務的な話です。

無料相談は30分〜2時間と時間が限られています。手ぶらで行くと、状況の説明だけで持ち時間が終わります。私は理事長さまに、3点セットをお持ちくださいとお伝えしています。

持参する3点セット

# 資料 なぜ要るか
1 直近の総会議事録(できれば2期分) 何が決まっていて、何が保留かが一発で伝わる
2 長期修繕計画書 次の工事時期と、積立金の残高・不足額が分かる
3 管理規約(最新の改正版) 決議要件、専有部と共用部の境界がここで決まる

余裕があれば、この3つに加えて直近の決算書(収支報告)と、建物の全景写真・気になる箇所の写真があると話が速く進みます。スマートフォンで撮った写真で構いません。

相談前に決めておくこと

資料より大事なのが、「今日、何を持ち帰りたいか」を1行で決めておくことです。

  • ×「大規模修繕について相談したい」
  • ○「調査・診断を、管理会社に頼むか第三者に頼むかを決めたい」

前者だと一般論で30分が終わります。後者なら、判断材料が手に入る。私はいつも理事長さまに「相談の目的を、総会の議案書の1行のつもりで書いてみてください」とお伝えしています。

中央区の場合、管理士派遣はマンションの集会室に来てもらえるのが強みです。理事会の日程に合わせて呼べば、役員全員が同じ説明を同時に聞ける。これは伝言ゲームによる誤解を防ぐ意味で、かなり効きます。


無料相談で聞いたあと、工事の話はどうなるか

ここは私の立場から、正直に書いておきます。

無料の相談・派遣で得られるのは、中立の情報と判断の枠組みです。実際に足場を組むのか、ロープアクセス工法(産業用ロープで作業員が壁面に降下して施工する、足場を架けない工法)で行くのか、部位ごとに使い分けるのか——具体的な施工の話は、最終的に施工会社との対話になります。

中央区は、建物の性格が地域ごとにはっきり分かれる区です。

日本橋・京橋・八丁堀は、狭い敷地に中低層のビル・マンションが密集しています。隣地との離隔がほとんどなく、道路使用の制約も厳しい。私が八丁堀エリアで関わった建物では、4面のうち1面が隣のビルと50cmしか離れておらず、その面だけ足場が入らないという状況がありました。

このとき使えるのが、足場とロープアクセスを部位ごとに使い分けるハイブリッド工法です。足場が組める3面は足場で、組めない1面はロープで。仮設費を抑えながら、施工品質は落とさない。

晴海・勝どき・月島の湾岸エリアは、逆に超高層です。20階を超える建物に全面足場を架けると、仮設費だけで工事費の3割前後に達することがあります。しかも海に近いため、風の影響を強く受ける。この条件では、足場の一部をロープアクセスに置き換える検討に、はっきり意味が出てきます。

工法ごとの向き・不向きは、ロープアクセス工法のご紹介と、工法解説専門サイトのロープアクセス工法の基礎知識(rope-access-method.com)に整理してあります。無料相談に行かれる前に目を通していただくと、アドバイザーへの質問の質が上がると思います。

特に「うちの建物で無足場工法が成立するのか」を判断したい方は、無足場工法が向く建物・向かない建物の見極め方を先に読んでおかれると、専門家との会話が早く進みます。

私たち明誠がどういう考え方で工法を選んでいるかは明誠の工事に対する考え方に、管理組合さま向け・オーナーさま向けのサービス内容は管理組合の皆さまへ、ビルオーナーの皆さまへにまとめています。

誤解のないように書きますが、無料相談に行ったから見積を取らなければいけない、ということはありません。むしろ順番は逆で、無料相談で判断の軸を作ってから見積を取ったほうが、業者の比較が正確になります。私は自社が比較されることを嫌だと思ったことがありません。比較されて選ばれない仕事は、そもそも受けても長続きしないからです。


まとめ:今週、理事会で動ける3つのこと

長くなったので、今週できることだけに絞ります。

1. 中央区都市整備公社に電話して「うちはどのルートで無料になるか」を聞く

03-3561-5191(まちづくり支援第一課)

築30年超か築浅かで、使える無料枠が変わります。東京都の無料派遣(要届出マンション)なのか、中央区の全額助成(築年数不問)なのか。これは電話1本、5分で整理できる確認です。

2. マンション管理士派遣の申込書を取り寄せておく

年度内5回・1回2時間、集会室まで来てもらえます。年度は3月末で切り替わり、使わなかった回数は繰り越されません。9月の時点で残り半年という事実は、意識しておいて損はないと思います。

3. 3点セットをPDFにして共有フォルダに置く

総会議事録・長期修繕計画書・管理規約。この3つをスキャンしてPDFにし、理事会で共有できる状態にしておく。相談に行くときも、業者に見積を依頼するときも、この3つが起点になります。理事が交代しても消えない形にしておくことが、結局は組合の資産を守ります。


9月です。年度の折り返しを過ぎました。東京都のマンション管理士無料派遣は令和9年2月26日までの受付で、枠は都内160件。中央区の管理士派遣は年度内5回で、3月末にリセットされる。動ける期間は、思っているより短いというのが、カレンダーから見た実際のところです。

中央区の建物は、私たち施工側から見ても難易度の高い物件が多い地域です。日本橋の狭い敷地、晴海の超高層、築地・月島の入り組んだ路地。だからこそ、判断を1人で抱え込まないでいただきたいと思っています。無料で使える窓口が8つもあるのに、使われないまま年度が終わるのを何度も見てきました。

工法や仮設の相談だけでも構いません。総会の前段階の整理だけでも、お力になれることがあります。お問合せフォームから、遠慮なくお声がけください。


出典・参考資料


本記事の情報の鮮度について:本記事は2026年9月12日時点で公表されている中央区、一般財団法人中央区都市整備公社、および東京都・国土交通省の公式情報をもとに執筆しています。制度は年度途中でも改正・予算終了があり得ます。実際に申請される前に、必ず中央区および該当窓口へ最新の内容をご確認ください。なお、中央区のマンション管理支援に関する各ページ(マンション管理士派遣・分譲マンション管理相談・アドバイザー制度利用助成・交流会)は表示上の掲載日が2023年1月18日であり、令和8年度の運用と異なる可能性があります。回数・日時・助成額は、申込前に中央区都市整備公社(03-3561-5191)へ電話でご確認ください。法律相談のページは掲載日2026年4月1日で、令和8年度の情報です。


ロープアクセス工法・無足場工法の技術情報は、専門サイト https://rope-access-method.com/ にまとめています。

千代田区の管理組合が無料で使える相談・専門家派遣8つ|補助金だけ見ていると損をします

千代田区の管理組合が無料で使える相談・専門家派遣8つ|補助金だけ見ていると損をします

2026年9月12日 更新

「補助金、うちは使えないみたいなんですよ」

千代田区内のマンションで、理事長さまからこう言われたことがあります。長期修繕計画(12年〜30年先までの修繕工事と費用をまとめた計画書)の見直しで悩んでいらっしゃって、区の補助金一覧を印刷して、一通り目を通したあとの一言でした。

私は株式会社明誠の本間幸紘と申します。東京都東大和市を拠点に、20年近くマンションやビルの外壁と向き合ってきました。足場を組む工事も、ロープ1本でぶら下がる無足場の工事も、両方やってきた人間です。

そのとき私がお伝えしたのは、「補助金の前に、タダで専門家を呼べる制度から使いませんか」ということでした。

補助金は、使える建物と使えない建物がはっきり分かれます。築年数、用途、耐震性能、届出状況——条件が細かい。一方で相談窓口と専門家派遣は、条件がずっと緩く、そして無料です。それなのに、理事会で話題に上がることが驚くほど少ない。

今日は、千代田区のマンション管理組合とビルオーナーが、お金をかけずに使える相談・派遣の制度を8つ、令和8年度の一次情報で整理します。


結論:千代田区で無料で使える相談・派遣は8つある

先に一覧でお見せします。

# 制度・窓口 誰が対応するか 費用 申込先
1 分譲マンション総合相談窓口 常駐のマンション管理士 無料 まちみらい千代田 03-3233-3223
2 まちづくりアドバイザー派遣 一級建築士・マンション管理士・再開発プランナー等 無料 まちみらい千代田 03-3233-3223
3 マンション管理講座 講師(テーマ別) 無料(一部有料テキスト) まちみらい千代田
4 マンション連絡会 他マンションの理事長同士 無料(要入会) まちみらい千代田
5 マンションアドバイザー無料派遣 マンション管理士等 無料(要届出) 東京都防災・建築まちづくりセンター 03-5989-1453
6 マンション管理士無料派遣(防災力向上・認知症対応) 講習受講済みマンション管理士 無料 東京都マンション管理士会
7 東京都 専門相談 弁護士 または 一級建築士 無料・完全予約制 区の相談窓口を経由
8 区民相談室の専門相談 弁護士・宅地建物取引士・司法書士 等 無料 千代田区 03-5211-4176

これに加えて、国指定の(公財)マンション管理センターの電話相談も無料で使えます。

ここからが本題です。1つずつ、回数・時間・申込方法まで見ていきます。


1. まず電話すべきは「まちみらい千代田」

千代田区のマンション施策は、公益財団法人まちみらい千代田という区の外郭団体が実務を担っています。区役所に電話するより、こちらが早いことが多い。

私は千代田区の案件で理事長さまとお話しするとき、最初にこの番号をメモ用紙に書いてお渡しするようにしています。

分譲マンション総合相談窓口

まちみらい千代田の発表によれば、相談窓口にはマンション管理士が常駐しており、窓口・電話・オンライン(Zoom)で相談を受け付けています。相談内容に応じて、助成制度や専門家派遣といった支援策を案内してくれる仕組みです。

項目 内容
場所 千代田区神田錦町3-21 ちよだプラットフォームスクウェア4階
電話 03-3233-3223
メール kyojyu(at)mm-chiyoda.or.jp
方法 窓口・電話・オンライン(Zoom)/要予約
曜日 月曜日〜金曜日(祝日、年末年始を除く)
時間 午前9時〜午後4時(水曜日は午前10時〜午後4時)

(出典:公益財団法人まちみらい千代田「分譲マンション総合相談窓口」2025年5月22日掲載)

ポイントは、オンライン(Zoom)に対応していることです。理事会の役員さまは平日日中に働いている方がほとんどです。区役所の窓口に行けないから相談しない、という状態が一番もったいない。Zoomなら、昼休みに会議室から30分だけつなぐこともできます。

「何を相談していいか分からない」という段階でも、私は電話していいと思っています。管理士の側が整理してくれます。


2. 年度内6回・1回2時間の「まちづくりアドバイザー派遣」

これが千代田区で一番使い出のある制度だと、私は考えています。

まちみらい千代田では、マンションの維持管理、修繕や建替え、管理組合の運営といった課題に対して、一級建築士・マンション管理士・再開発プランナーなどの資格を持つ専門家を無料で派遣しています。

回数と条件

項目 内容
派遣回数の上限 1団体につき年度内6回
1回の時間 2時間まで
費用 無料
対象(2) マンションの大規模修繕工事や適正な維持・管理に関する勉強会
条件 主たる活動範囲が千代田区内/自主的かつ継続的に活動すること 等
提出書類 まちづくりアドバイザー派遣申請書、構成員名簿
注意 派遣調整に1か月〜1か月半程度かかる場合あり
事前相談 kyojyu(at)mm-chiyoda.or.jp または 03-3233-3223

(出典:公益財団法人まちみらい千代田「管理・コミュニティ支援」)

年度内6回、1回2時間。合計12時間分の専門家の時間が、無料で使えるということです。

これがどういう意味を持つか。大規模修繕の検討は、だいたい次のような順番で進みます。

  1. 劣化の状況を知る(調査・診断をどうするか)
  2. 修繕委員会を立ち上げる(誰が入るか、権限はどこまでか)
  3. 発注方式を決める(責任施工方式か、設計監理方式か)
  4. 業者を選ぶ(何社に声をかけ、何で比べるか)
  5. 総会で決議する(説明資料をどう作るか)

この5つの段階それぞれに1回ずつアドバイザーを呼んで、最後の総会前にもう1回。ちょうど6回です。設計事務所にコンサルティングを依頼すれば数十万円かかる部分の、かなりの割合がここでカバーできます。

私の経験上、修繕委員会が一番揉めるのは(3)の発注方式です。理事会のなかで「知り合いの業者に頼めばいい」という方と「設計事務所を入れないと不安だ」という方が対立する。ここに中立の第三者が1人入るだけで、話の進み方がまったく変わります。

ただし、申請前の事前相談が求められており、調整に1か月〜1か月半かかることがあります。総会の3か月前に思い立っても間に合わない可能性がある。動くなら早めに、というのが実務上の正直なところです。


3. マンション管理講座とマンション連絡会

マンション管理講座

まちみらい千代田は、千代田区内のマンション居住者・所有者を対象に、マンション管理講座を年4回程度開催しています。関心のあるテーマを設定して行うもので、アーカイブ動画も公開されています(出典:まちみらい千代田「管理・コミュニティ支援」)。

アーカイブがあるのは大きい。理事会の役員さまは1年〜2年で交代することが多く、引き継ぎのたびに知識がリセットされます。新任の理事さまに「まずこの動画を2本見てください」とお願いできる状態は、管理組合の財産です。

なお、同ページによるとセミナーの開催は休止中とされています。講座とセミナーは別枠なので、混同しないようご注意ください。

マンション連絡会

マンション管理組合の代表者同士による意見交換・情報交換の会です。入会申請書をまちみらい千代田に提出すると参加できます。

私はこれを軽視していません。理由は単純で、他のマンションの実際の工事金額と失敗談が聞ける場だからです。

現場で20年やってきて、私が一番悔しい思いをするのは、相場より明らかに高い金額で契約してしまった組合に、工事が終わってから出会うときです。「なんで着工前に一言、隣のマンションに聞かなかったんだろう」と思うことがある。連絡会は、その一言を聞ける場所です。


4. 東京都のマンションアドバイザー無料派遣(届出制度とセット)

ここからは東京都の制度です。千代田区内のマンションも当然使えます。

公益財団法人東京都防災・建築まちづくりセンターが運営するマンションアドバイザー制度は、通常は有料ですが、管理状況届出制度の届出・更新を行った管理組合は無料になります。

前提となる「管理状況届出制度」

「東京におけるマンションの適正な管理の促進に関する条例」(平成31年3月制定)に基づき、令和2年4月から始まった制度です。

  • 昭和58(1983)年12月31日以前に新築された
  • 居住用の独立部分が6以上ある分譲マンション

この条件に当てはまるマンションは、管理状況の届出が義務付けられています(要届出マンション)。前回の届出から5年以内ごとに更新が必要です。

(出典:公益財団法人東京都防災・建築まちづくりセンター「マンションアドバイザー無料派遣」)

千代田区は古いビル・マンションが密集している地域です。昭和58年以前の建物は決して少なくありません。「うちは届出したっけ?」が分からない状態は、無料派遣の権利を眠らせているのと同じです。

無料になる回数

状況 無料回数
届出が受理、または更新を届け出た要届出マンション 1回まで無料
上記のうち、管理不全の兆候があるマンション 5回まで無料

1コースあたり2時間程度です。

使えるコース(大規模修繕に効くもの)

無料対象は、管理アドバイザーA・Bコース、建替え・改修アドバイザーAコース、B-0コースです。このうち修繕に直結するものを挙げます。

講座編(A)

コース 内容
A-2 長期修繕計画作成ガイドライン活用の手引きの解説
A-4 計画修繕工事の進め方
A-5 滞納管理費・修繕積立金督促の仕方

相談編(B)

コース 内容
B-4 修繕計画の作成や修繕積立金等の設定に関すること
B-5① 修繕工事検討段階での相談(劣化状況の調査・診断、修繕工事の検討組織、工事の方式 等)
B-5② 修繕工事準備段階での相談(工事の内容、業者選定の仕方、合意形成 等)

※講座編には有料のテキストが必要なコースがあります。

申込みは申込書をFAX・メール・郵送でセンターへ。申込後1〜2週間程度で担当アドバイザーから日程調整の連絡が入ります。押印書類は郵送が必要です。

お問い合わせ:公益財団法人東京都防災・建築まちづくりセンター まちづくり推進課 TEL 03-5989-1453

私がこの制度で一番おすすめするのはB-5①です。「調査・診断をどこに頼めばいいか分からない」という段階で呼べる。ここで判断を誤ると、必要のない工事が数百万円単位で見積書に乗ることがあります。


5. 東京都のマンション管理士無料派遣(防災力向上・認知症対応)

東京都が令和5年度から実施している事業で、令和8年度も継続しています。

防災力向上や認知症対応の講習を受講したマンション管理士が、実践的なノウハウの習得や手続を支援し、円滑な合意形成に向けたアドバイスを行うものです。

令和8年度の募集内容

項目 内容
対象 都内に所在するマンション管理組合
回数 防災力向上・認知症対応 それぞれ2回まで(無料)
通算 令和5〜7年度に派遣を受けている場合、その回数も上限に含まれる
受付期間 令和8年6月23日(火)〜令和9年2月26日(金)
募集数 防災力向上・認知症対応 合わせて160件(達し次第、新規受付を締切)
申込先 東京都マンション管理士会 https://www.kanrisi.org/

(出典:東京都マンションポータルサイト「分譲マンション向けマンション管理士無料派遣(防災力向上・認知症対応)」)

アドバイスの例として公表されているのは次のような内容です。

  • 自主防災組織の設置や強化の方法
  • 災害時にも活用できる居住者等名簿の作成
  • 発災時の緊急対応を定める管理規約の整備方法
  • 認知症の可能性のある居住者への理解や対応方法
  • バリアフリー改修を含む長期修繕計画の策定

注意点を2つ、正直に申し上げます。

1つは、都内全体で160件しか枠がないということ。都内の分譲マンション数を考えれば、これは相当に少ない枠です。受付は9月時点でまだ開いている可能性がありますが、年明けに動こうとすると締め切られていることも考えられます。

もう1つは、過去の利用回数が通算されること。令和5〜7年度にすでに2回使っている場合、そのテーマではもう無料枠が残っていません。理事が交代していると、過去の利用履歴が引き継がれていないことがあります。申込前に管理会社か前任の理事長さまに確認しておくと、二度手間を防げます。

問い合わせ先:東京都住宅政策本部 民間住宅部 マンション課 マンション管理担当 03-5320-5004(直通)


6. 弁護士・一級建築士が無料で出てくる「東京都 専門相談」

意外と知られていないのがこれです。

東京都では、区市の分譲マンション相談窓口で相談を受けた上で「専門家による対応が必要」と認めたものについて、弁護士または一級建築士が対応する専門相談を行っています。無料、完全予約制です。

申込みは都に直接ではなく、各区市の相談窓口を経由します。千代田区の場合は、先ほどのまちみらい千代田(03-3233-3223)が入口になります。

(出典:東京都マンションポータルサイト「専門相談」)

つまり、流れはこうなります。

まちみらい千代田に相談(無料・常駐のマンション管理士)
 ↓ 専門家の判断が要ると認められた場合
東京都の専門相談(無料・弁護士 or 一級建築士)

一級建築士が無料で見てくれるという点が、修繕を考えている組合にとっては大きい。たとえば「管理会社から提示された修繕見積が妥当かどうか」「調査報告書の書きぶりが工事を煽っていないか」といった、判断に技術的な裏付けが要る話です。

私は工事をする側の人間です。だからこそ申し上げますが、発注する側にも技術が分かる人が1人いてくれたほうが、話は速く、そして公平になります。値切られるのが嫌だから第三者を入れないでほしい、という業者がいるとしたら、それは疑ってかかっていい相手です。


7. 千代田区 区民相談室の専門相談(管理費滞納・区分所有トラブル)

管理費・修繕積立金の滞納、区分所有者間のトラブル、管理委託契約の解約——こうした法律寄りの問題は、千代田区役所2階の区民相談室が使えます。

主な専門相談(無料)

相談名 日時 相談員 受付
法律相談 水曜日・金曜日(第5週は休み)午後1時〜3時45分 弁護士 予約制 03-5211-4176
不動産相談 第1・第3木曜日 午後1時〜3時30分 宅地建物取引士 先着順
司法書士相談 第2木曜日 午後1時〜3時30分 司法書士 先着順
土地家屋調査士相談 第3木曜日 午後1時〜3時30分 土地家屋調査士 先着順
  • 相談時間は30分以内、電話での相談は受け付けていません
  • 対象は区内在住・在勤・在学者
  • 法律相談は同一案件で原則1回(新たな問題が生じた場合は最大3回まで)
  • 企業・法人の相談、個人事業主の営業上の相談は対象外
  • 係争中の事案・弁護士に依頼済みの案件は対象外

千代田区 総合窓口課 区民相談室 電話 03-5211-4176

(出典:千代田区「区民相談室とその他の相談窓口での相談」)

重要な注意点:この区民相談室のページは、区の表示上の更新日が2022年10月11日となっています。新型コロナウイルス関連の記載も残っており、令和8年度の運用と異なる可能性があります。曜日・時間・予約方法は、訪問前に03-5211-4176へ電話で確認されることをおすすめします。本記事でも、掲載日が現行年度より前であることを明記した上で紹介しています。

また、法人・企業の相談は対象外という制約があります。賃貸マンションやビルを法人で所有しているオーナーさまの場合、この窓口ではなく後述のルートを使うことになります。

法人・事業者の場合

相談名 日時 窓口
ビジネス法律相談 第2金曜日 午後1時〜4時(予約制) まちみらい千代田 03-3233-3222
経営相談 月〜金 午前9時〜午後5時(予約制) 千代田区 商工観光課 03-5211-4344
消費生活相談 月〜金 午前9時〜午後4時30分 消費生活センター(千代田会館8階)03-5211-4314

8. 国の指定センターにも無料で電話できる

(公財)マンション管理センターは、マンション管理適正化法に基づく「マンション管理適正化推進センター」の指定を受けている唯一の団体です。しかも本部は千代田区一ツ橋にあります。

相談内容 電話番号
管理組合運営、管理規約等 03-3222-1517
建物・設備の維持管理 03-3222-1519
  • 受付:月曜日〜金曜日(祝日・年末年始を除く)9時30分〜17時
  • 1件あたり15分前後でアドバイスできるよう運用
  • メール相談フォームあり(回答は口頭)
  • 面談は事前予約制

(出典:公益財団法人マンション管理センター「相談窓口について」)

公平・中立の立場でアドバイスする窓口で、特定の弁護士や企業を紹介することはしないと明記されています。一方で、専門家レベルの法律相談や、修繕等の個別具体的なアドバイスは行っていない、当事者間の仲裁には立たない、という限界もはっきり書かれています。

賃貸マンションの相談は対象外で、その場合は(公財)日本賃貸住宅管理協会が案内されています。ここは間違えやすいので、賃貸をお持ちのオーナーさまはご注意ください。

なお、東京弁護士会マンション管理相談窓口(03-3581-2223)もありますが、こちらは紹介窓口であって電話相談窓口ではなく、相談料は30分5,500円(税込)です。無料と誤解されている方に何度かお会いしたので、念のため書いておきます(出典:東京弁護士会「東京弁護士会マンション管理相談窓口のご案内」)。


相談に行くとき、何を持っていけばいいか

ここが一番実務的な話です。

無料相談は30分〜2時間と時間が限られています。手ぶらで行くと、状況の説明だけで持ち時間が終わります。私は理事長さまに、3点セットをお持ちくださいとお伝えしています。

持参する3点セット

# 資料 なぜ要るか
1 直近の総会議事録(できれば2期分) 何が決まっていて、何が保留かが一発で伝わる
2 長期修繕計画書 次の工事時期と、積立金の残高・不足額が分かる
3 管理規約(最新の改正版) 決議要件、専有部と共用部の境界がここで決まる

余裕があれば、この3つに加えて直近の決算書(収支報告)と、建物の全景写真・気になる箇所の写真があると話が速く進みます。スマートフォンで撮った写真で構いません。

相談前に決めておくこと

資料より大事なのが、「今日、何を持ち帰りたいか」を1行で決めておくことです。

  • ×「大規模修繕について相談したい」
  • ○「調査・診断を、管理会社に頼むか第三者に頼むかを決めたい」

前者だと一般論で30分が終わります。後者なら、判断材料が手に入る。私はいつも理事長さまに「相談の目的を、総会の議案書の1行のつもりで書いてみてください」とお伝えしています。

千代田区の場合、まちみらい千代田のオンライン(Zoom)相談が使えるので、理事会の前半30分を相談の時間にあてるという使い方もできます。役員全員が同じ説明を同時に聞ける。これは伝言ゲームによる誤解を防ぐ意味で、かなり効きます。


無料相談で聞いたあと、工事の話はどうなるか

ここは私の立場から、正直に書いておきます。

無料の相談・派遣で得られるのは、中立の情報と判断の枠組みです。実際に足場を組むのか、ロープアクセス工法(産業用ロープで作業員が壁面に降下して施工する、足場を架けない工法)で行くのか、部位ごとに使い分けるのか——具体的な施工の話は、最終的に施工会社との対話になります。

千代田区のように、隣地との離隔がほとんどなく、道路使用の制約も厳しい土地では、足場が組めない面が出てくることがあります。私が神田・神保町エリアで関わった建物では、4面のうち1面が隣のビルと50cmしか離れておらず、その面だけ足場が入らないという状況がありました。

このとき使えるのが、足場とロープアクセスを部位ごとに使い分けるハイブリッド工法です。足場が組める3面は足場で、組めない1面はロープで。仮設費を抑えながら、施工品質は落とさない。

工法ごとの向き・不向きは、ロープアクセス工法のご紹介と、工法解説専門サイトのロープアクセス工法の基礎知識(rope-access-method.com)に整理してあります。無料相談に行かれる前に目を通していただくと、アドバイザーへの質問の質が上がると思います。

特に「うちの建物で無足場工法が成立するのか」を判断したい方は、無足場工法が向く建物・向かない建物の見極め方を先に読んでおかれると、専門家との会話が早く進みます。

私たち明誠がどういう考え方で工法を選んでいるかは明誠の工事に対する考え方に、管理組合さま向け・オーナーさま向けのサービス内容は管理組合の皆さまへ、ビルオーナーの皆さまへにまとめています。

誤解のないように書きますが、無料相談に行ったから見積を取らなければいけない、ということはありません。むしろ順番は逆で、無料相談で判断の軸を作ってから見積を取ったほうが、業者の比較が正確になります。私は自社が比較されることを嫌だと思ったことがありません。比較されて選ばれない仕事は、そもそも受けても長続きしないからです。


まとめ:今週、理事会で動ける3つのこと

長くなったので、今週できることだけに絞ります。

1. まちみらい千代田に電話して「うちは届出済みか」を確認する

03-3233-3223(月〜金 午前9時〜午後4時、水曜は午前10時から)

昭和58年12月31日以前に新築された、居住用独立部分6戸以上の分譲マンションなら、管理状況届出制度の対象です。届出済みかどうかで、東京都のアドバイザー無料派遣が使えるかが変わります。電話1本、5分で終わる確認です。

2. 「まちづくりアドバイザー派遣」の申請書をダウンロードしておく

年度内6回・1回2時間。調整に1か月〜1か月半かかることがあるため、次の総会から逆算して、今から枠を押さえるのが現実的です。事前相談が要るので、まずは上記の電話と同時に「派遣も検討しています」と伝えておくと一度で済みます。

3. 3点セットをPDFにして共有フォルダに置く

総会議事録・長期修繕計画書・管理規約。この3つをスキャンしてPDFにし、理事会で共有できる状態にしておく。相談に行くときも、業者に見積を依頼するときも、この3つが起点になります。理事が交代しても消えない形にしておくことが、結局は組合の資産を守ります。


9月です。年度の折り返しを過ぎました。東京都のマンション管理士無料派遣は令和9年2月26日までの受付で、枠は都内160件。まちみらい千代田のアドバイザー派遣は調整に1か月半かかることがある。動ける期間は、思っているより短いというのが、カレンダーから見た実際のところです。

千代田区の建物は、私たち施工側から見ても難易度の高い物件が多い地域です。狭い、高い、道路が使えない、テナントが動かせない。だからこそ、判断を1人で抱え込まないでいただきたいと思っています。無料で使える窓口が8つもあるのに、使われないまま年度が終わるのを何度も見てきました。

工法や仮設の相談だけでも構いません。総会の前段階の整理だけでも、お力になれることがあります。お問合せフォームから、遠慮なくお声がけください。


出典・参考資料


本記事の情報の鮮度について:本記事は2026年9月12日時点で公表されている千代田区、公益財団法人まちみらい千代田、および東京都・国土交通省の公式情報をもとに執筆しています。制度は年度途中でも改正・予算終了があり得ます。実際に申請される前に、必ず千代田区および該当窓口へ最新の内容をご確認ください。なお、千代田区「区民相談室とその他の相談窓口での相談」のページは表示上の更新日が2022年10月11日であり、現行年度より前の情報が含まれる可能性があります。相談日時・予約方法は電話(03-5211-4176)でご確認ください。


ロープアクセス工法・無足場工法の技術情報は、専門サイト https://rope-access-method.com/ にまとめています。

中央区のマンション漏水・防災対策|荒川決壊「12時間後」から逆算する共用部の修繕優先順位

中央区のマンション漏水・防災対策|荒川決壊「12時間後」から逆算する共用部の修繕優先順位

2026年9月12日 更新

中央区の洪水ハザードマップ(荒川版)には、他区ではあまり見かけない一文が載っています。

「区内への浸水は、堤防が決壊してから12時間後に到達するとされています」

12時間。長いと見るか、短いと見るか。私は「準備していた建物とそうでない建物で、結果が決定的に分かれる時間」だと考えています。

申し遅れました。株式会社明誠の本間幸紘と申します。東京都東大和市を拠点に、20年近くマンションやビルの外壁と向き合ってきました。足場を組む工事も、ロープ1本でぶら下がる無足場の工事も、両方やってきた人間です。

今日は、中央区が公表している資料を一次情報として、中央区のマンション・ビルで先に手を打つべき漏水ポイントと、防災上の共用部の修繕優先度を整理します。あわせて、令和8年度に拡充された区の助成制度のうち、この話に直結するものをご紹介します。


結論:中央区は「水が引かない前提」で共用部を設計し直す

先に結論を申し上げます。中央区で優先順位をつけるなら、こうなります。

優先度 対策部位 理由(中央区固有の事情)
最優先 電気設備(受変電・キュービクル)の浸水対策 荒川版は水が引きにくい。停電が長引くと高層階が生活不能になる
最優先 屋上防水・ルーフドレン(排水口) 時間最大153mmを想定した降雨。上から入る水が一番早く効く
高 外壁シーリング・サッシまわり 湾岸部は風が強い。横殴りの雨は上からではなく横から入る
高 受水槽・高架水槽とポンプまわり 停電=断水。タワー系では上階ほど影響が大きい
中 開放廊下・バルコニーの排水 避難経路を兼ねる。詰まると数十分で室内へ回る
中 エキスパンションジョイント 複数棟連結の建物で見落とされやすい浸入口

千代田区のように崖地・土砂災害の話は中央区にはほとんど出てきません。中央区で効くのは、「上から入る水」と「引かない水」の二つです。

そしてもうひとつ。中央区には、この話にそのまま使える助成メニューがあります。後半で触れます。


中央区のハザードマップを1枚で読む

中央区が水防法に基づいて作成・公表しているハザードマップは、2種類だけです(出典:中央区「中央区ハザードマップ・浸水実績図」/掲載日2026年9月3日)。

区は内水ハザードマップや土砂災害ハザードマップは作成していません。ここは千代田区(4種類)と大きく違う点です。2種類しかない=リスクが少ない、ではありません。区自身が「マップに反映されていない中小河川や内水の氾濫により、表示とは異なる範囲や深さで浸水することがある」と明記しています。

1. 洪水ハザードマップ(隅田川・神田川・日本橋川版)

東京都が作成した神田川・隅田川、新河岸川、江東内部河川の3流域の浸水予想区域図をもとにしたものです。

想定条件は、総雨量690ミリメートル、時間最大雨量153ミリメートル(1000年に1回程度)。この規模の雨で、河川の氾濫や下水道の排水能力超過が起きた場合の浸水想定です。

ポイントは「下水道施設の排水能力を大きく超えた場合」という但し書きです。つまり、川から水が来る前に、降った雨が行き場を失って地表にあふれる状況が含まれています。私の経験では、実務上こちらのほうが遭遇確率は高い。

2. 洪水ハザードマップ(荒川版)

国が作成した荒川水系荒川洪水浸水想定区域図がベースです。想定は荒川流域平均の3日間総雨量632ミリメートル(1000年に1回程度)で荒川が氾濫した場合。

冒頭の「決壊から12時間後に到達」はこちらです。あわせて区は、荒川版は中小河川の氾濫・高潮・内水氾濫を考慮していない、とも注記しています。荒川版だけを見て安心してはいけないということです。

3. 高潮は区ではなく東京都の資料を見る

高潮については、中央区はハザードマップを作成していません。東京都が公表している東京都高潮浸水想定区域図(令和6年12月改定) を参照するよう案内されています。

中央区は隅田川の河口部と東京湾に面しています。高潮は「東京湾から川をさかのぼってくる水」です。湾岸のタワーマンションにお住まいの方ほど、この資料は一度開いておく価値があります。

4. 浸水実績図——過去に実際どこが浸かったか

中央区は、平成12年7月から現在までに区が確認した、または区民から報告のあった地下室等への浸水・道路冠水の箇所を浸水実績図 として公表しています。

区の記載によれば、令和8年8月の最終更新以降、新たな浸水の確認・連絡はありません。これはこれで良い知らせですが、裏を返せば「実績がない=浸水しない」ではないということでもあります。実績図はあくまで報告ベースであり、区も「区内で発生したすべての浸水箇所を示すものではありません」と注記しています。

それでも、自分の建物の近くに過去の浸水実績の点があるかどうかは、見ておいて損はありません。 5分で確認できます。


中央区の3つの顔と、漏水事故の出方

中央区は、ひとつの区のなかに性格がかなり違うエリアが同居しています。私が見積りに伺うときも、住所を聞いた時点で見る箇所を切り替えます。

湾岸・タワー系(月島・佃・勝どき・晴海・豊海)

中央区の住宅ストックは共同住宅の比率が非常に高く、区の住宅マスタープラン参考資料でも共同住宅が9割を超える水準にあることが示されています(出典:中央区「住宅マスタープラン 参考資料」)。その中心がこのエリアです。

タワーマンションで一番多い漏水は、屋上ではありません。高層階のサッシまわりと外壁シーリングの目地です。

理由は単純で、高いところほど風が強いからです。雨は真下に落ちてくるのではなく、横から、ときには下から吹き上げてきます。地上から双眼鏡で見上げても、幅1ミリの目地の切れは見つかりません。

私が以前調査した湾岸エリアの高層物件では、「最上階が原因だろう」と理事会が考えておられた漏水の原因が、実際には中層階の縦目地シーリングの破断でした。水が壁の中を数層分下ってから室内に出ていた。ロープで降りて全面をなめるように見て、ようやく特定できたケースです。

業務地区・中小ビル系(日本橋・京橋・八重洲・新川)

築40年超の中小ビル、賃貸マンションが密集するエリアです。ここで多いのは、屋上の押えコンクリート(防水層の上に打つコンクリート)の割れと、パラペット(屋上の立上り壁)の笠木シーリング切れ。

上から入った水は、すぐには室内に出ません。数カ月から数年かけて、最上階の天井にシミとして現れます。「去年まで何ともなかった」は、去年から漏っていなかった証拠にはならないのです。

もうひとつ、このエリア特有の事情があります。地下に電気室や受水槽を置いている建物が非常に多い。土地が高いので、設備を上に置くより下に押し込むほうが経済合理的だったわけです。その判断が、いま浸水リスクとして効いてきます。

商業地(銀座・築地)

銀座はテナントビルの塊です。ここでのご相談は、ほぼ必ず「営業を止められない」から始まります。

足場を組むと、看板が隠れます。入口の動線が変わります。それだけで売上に響く。工法の選択が、そのまま経営判断になるエリアです。この点は後ほど詳しく書きます。


大規模修繕で押さえておきたい漏水ポイント7つ

現場で20年やってきて、私が「ここを外すと後で泣く」と思っている7カ所です。

1. 屋上防水層

アスファルト防水、シート防水、ウレタン塗膜防水。それぞれ耐用年数の目安が違います。膨れ、破断、端末(防水層の縁)の口開きを見ます。

2. ルーフドレン(屋上の排水口)

時間153mmの雨を前提にすると、ドレンが1カ所詰まっただけで屋上がプール状になります。要点はストレーナー(ゴミよけの網)の有無と、ドレン周囲の防水の巻き込み。湾岸部は飛来物や塩分を含んだ砂も溜まるので、年2回の清掃を管理仕様に入れておくと安全側に振れます。

3. パラペット笠木・立上り

屋上の縁の部分。日射と雨の両方を最も受けるので、笠木の継ぎ目のシーリングは防水層本体より先に寿命が来ます。

4. 外壁シーリング(目地)

コンクリートの打継ぎ目地、サッシ廻り目地。指で押して弾力がなくなっていたら交換時期です。中央区の高層物件では、ここが最大の弱点になります。

5. サッシまわり

台風時の横殴りの雨は、下から吹き上げてサッシの下枠から入ります。「屋上を直したのにまだ漏る」というご相談の多くは、これが原因です。

6. 開放廊下・バルコニーの排水(雑排水ドレン)

避難経路を兼ねる開放廊下は勾配が緩く、水が滞りやすい。防水の立上り高さが足りているかも確認します。

7. エキスパンションジョイント(建物同士のつなぎ目)

複数棟を連結している建物にあります。地震で動くことを前提にした部位なので、可動部のカバーとシールが劣化していると、そこが浸入口になります。点検リストから漏れがちな筆頭です。

外壁とシーリングの劣化サインは、漏水・雨漏り調査のページにも整理しています。


「12時間」をどう使うか——電気室の話

冒頭の話に戻ります。荒川版の想定では、決壊から区内到達まで12時間。

この12時間でできることは、実はそれほど多くありません。止水板を立てる。土のうを積む。地下駐車場の車を出す。備蓄を上階へ運ぶ。どれも「あらかじめ物があって、手順が決まっていて、動く人が決まっている」場合にだけ成立します。

そして、12時間でどうにもならないものが一つあります。電気室の位置です。

受変電設備が地下や1階にあり、そこが浸水すれば全館停電になります。高層マンションで停電すると、エレベーターが止まり、給水ポンプが止まり、上階は断水します。人が住めなくなる。

荒川版の想定がやっかいなのは、水がなかなか引かないことです。神田川・日本橋川のように数時間で引くタイプではありません。復旧までの日数が長引くほど、住民の生活も、賃貸なら稼働率も、直接傷みます。

電気室を後から動かすのは、非常に大変です。移設が難しい場合は、次の組み合わせで「入れない・濡らさない」を作ります。

  • 防水扉・止水板・防水シャッターで開口部をふさぐ
  • 機器の嵩上げ(かさあげ)で想定浸水深より上に逃がす
  • 止水壁でエリアそのものを囲う
  • ケーブルピット・配管貫通部の止水処理(見落としがち。ここから水が回ります)

最後の項目は本当に見落とされます。扉を立派にしても、床下の配管の穴から水が来たら意味がありません。

私はいつも理事長さま・オーナーさまに、「大規模修繕の設計段階で、電気室の浸水対策も一緒に検討しませんか」とお伝えしています。別々にやると、足場も申請も二度手間になり、確実に割高になるからです。ビルオーナーさま向けのご提案、管理組合さま向けのご提案は、この一体検討を前提に組み立てています。


中央区の助成制度——「電気設備への浸水対策工事」が対象に入っている

ここが、中央区で仕事をしてきて「よくできているな」と思う点です。

区は分譲マンション共用部分改修費用助成を設けており、その対象工事に、修繕工事だけでなく防災対策工事が明記されています。そして防災対策工事のメニューのなかに、こう書かれています。

電気設備への浸水対策工事

(出典:中央区「分譲マンション共用部分改修費用助成」)

つまり中央区は、電気室の浸水対策を「大規模修繕とセットで考えるもの」として制度に組み込んでいるわけです。

区が示している概要は次のとおりです。

項目 内容
対象 区内の分譲マンション(現に住宅として使用)で築20年以上
対象工事(修繕) 壁面の改修、鉄部の塗装・取替え、屋上・バルコニー・外部共用廊下の防水、給排水管の更生・取替え
対象工事(防災) 受水槽・高架水槽の耐震型への取替え、感震器連動型止水弁の設置、エレベーターの地震時管制運転装置、昇降機耐震設計・施工指針(2014年版)に基づく耐震改修、戸開走行保護装置、遮煙性能を有した出入口扉への改修、防災備蓄倉庫、防火水槽、電気設備への浸水対策工事
助成額(設計費) 助成対象部分の設計費(住宅部分に限る)×3分の2/限度額100万円
助成額(工事費) 助成対象工事費(住宅部分に限る)×10%×3分の2/限度額1,000万円
回数 ともに10年間で2回まで

店舗や事務所が入っている複合用途のマンションでは、住宅にかかる部分(面積按分)が対象になります。

もうひとつ、大規模修繕の入口で使えるのが分譲マンション計画修繕調査費助成です。

項目 内容
対象 区内の分譲マンション(現に住宅として使用)で築8年以上
助成額 調査費の3分の1、または助成限度額のいずれか少ない額
限度額(防水・壁面・鉄部等の調査) 60戸以下 250,000円/61〜120戸 360,000円/121戸以上 470,000円
限度額(給排水管の調査) 規模にかかわらず 160,000円
回数 各調査項目とも10年間で1回限り

(出典:中央区「分譲マンション計画修繕調査費助成」)

築8年から使える、というのが地味に重要です。1回目の大規模修繕を12〜15年目に想定するなら、その手前で調査費の一部を補える計算になります。

注意していただきたいこと

正直に書きます。この2つの助成について区が掲載しているページの掲載日は、共用部分改修費用助成が2024年3月29日、計画修繕調査費助成が2023年1月18日です。いずれも令和8年度(現行年度)に入ってからの更新ではありません。

したがって、上の表の助成率・限度額が令和8年度も同一であるかどうかは、区のウェブページだけでは確認できません。 実際の窓口は一般財団法人中央区都市整備公社まちづくり支援第一課(電話 03-3561-5191)です。検討される場合は、必ずこちらへ事前にご確認ください。

制度の趣旨と対象工事の考え方は参考になりますが、金額を前提に予算を組むのは危険です。ここは正直にお伝えしておきます。


耐震助成は令和8年度に拡充——ただし「10月まで」

防災の話をするうえで外せないのが耐震助成です。こちらは令和8年度に拡充されており、区のページも2026年5月1日付で更新されています(出典:中央区「建築物の耐震助成制度」)。

対象は昭和56年5月31日以前に工事に着手した旧耐震基準の建築物です。分譲マンション・賃貸マンションの概要は次のとおりです。

木造以外の建築物(一般)

用途 項目 助成率・限度額
分譲マンション 耐震診断 診断費用の3分の2(限度額200万円)
分譲マンション 補強設計 設計費用の3分の2(限度額200万円)
分譲マンション 耐震補強工事 工事費用の2分の1(限度額3,300万円)
賃貸マンション 耐震診断 診断費用の3分の2(限度額200万円)
賃貸マンション 補強設計 設計費用の3分の2(限度額100万円)
賃貸マンション 耐震補強工事 工事費用の2分の1(限度額1,650万円)

緊急輸送道路沿道等建築物(沿道に建つ場合は助成が手厚くなります)

用途 項目 助成率・限度額
分譲マンション 耐震診断 診断費用の3分の2(限度額400万円)
分譲マンション 補強設計 設計費用の3分の2(限度額200万円)
分譲マンション 耐震補強工事 工事費用の3分の2(限度額3,300万円)
賃貸マンション 耐震補強工事 工事費用の3分の2(限度額1,650万円)

分譲マンションは管理組合が申請者であること、賃貸マンションは所有者が個人または中小企業であることなど、条件があります。自分の建物が沿道に該当するかは、中央区の緊急輸送道路網図で確認できます。

そして、ここが今日一番お伝えしたい実務情報です。

区は、「令和8年度中に事業に着手したい場合は、令和8年10月までにご相談ください」と明記しています。あわせて「年度の途中であっても、申込上限に達した時点で受付を終了します」とも書かれています。

この記事を公開している9月中旬から数えると、残りは1カ月弱です。管理組合の場合、理事会で議題に乗せるだけでも1回分の会議が必要になります。該当しそうな建物をお持ちなら、今週のうちに電話1本(都市整備部建築課耐震化推進係 03-3546-5459)を入れておくのが現実的です。

もう1点、重要な注意事項があります。区は「契約後に区に申請した事業は、助成対象となりません」と明記しています。診断も設計も工事も、契約前に交付申請して決定を受ける必要があります。段取りを間違えると、金額の問題ではなく、そもそも対象外になります。


漏水の緊急対応でロープアクセスが強い理由

正直に申し上げます。台風が来た翌日に「漏っている」とご連絡をいただいても、足場を組む工法では、その日のうちに原因を見に行けません。

仮設足場は、計画・申請・資材搬入・組立で、規模にもよりますが数日から2週間程度かかります。その間、水は入り続けます。

ロープアクセス工法(無足場工法)なら、屋上にアンカーを取り、産業用ロープで壁面を降りながら調査できます。人と道具だけで動けるので、ご連絡をいただいたその日か翌日には壁面に取り付けるケースが少なくありません。

緊急時の強みは、大きく3つです。

  • 初動が早い:原因特定までの日数が短く、被害の拡大を止めやすい
  • 部分補修ができる:全面足場を組まずに、傷んだ数メートルだけを直せる
  • 居住者・テナントへの影響が小さい:足場による日照・防犯・営業影響がない

中央区は、この3つ目が特に効きます。銀座・日本橋のテナントビルでは営業を止められない。月島・晴海のタワーマンションでは、そもそも高層階に足場を架けること自体が大工事になります。

もちろん、ロープアクセスが万能だと申し上げるつもりはありません。全面的に防水層を張り替えるような工事は、足場を組んだほうが確実で、結果的に安く上がることもあります。だからこそ明誠では、足場・ロープアクセス・両方を組み合わせるハイブリッド工法の3つから、建物ごとに最適な組み合わせをご提案しています。

工法ごとの比較や施工事例は、ロープアクセス専門サイトにも詳しくまとめています。


背景データ:雨の降り方が変わっている

「昔はこんなに漏らなかった」というお声を、本当によくいただきます。感覚の問題ではありません。

気象庁は、全国のアメダスで観測した1時間降水量50mm以上の年間発生回数が、統計期間の初めごろと比べて増加していることを公表しています(出典:気象庁「大雨や猛暑日など(極端現象)のこれまでの変化」)。気象庁の分析では、1時間50mm以上の短時間強雨はおよそ1.5倍、80mm以上はおよそ1.7倍に増えているとされています。

一方、東京都下水道局は区部全域で1時間75mm降雨への対応を目標に整備を進めています(出典:東京都下水道局「浸水への備えを万全に!」)。

中央区のハザードマップが前提にしている時間最大153mmは、下水道の整備目標の2倍を超える雨です。インフラ側で受けきれない分は、建物側で受け止めるしかない。これが、私が屋上ドレンと外壁シーリング、そして電気室の浸水対策を優先に挙げる理由です。


まとめ:今週、理事会・管理会社に投げられる4点

長くなりました。中央区の建物で、今週すぐ動けることを4つに絞ります。

1. 荒川版と隅田川版、両方のハザードマップで自分の建物を確認する

中央区ハザードマップのページから2種類のPDFを開き、自分の建物の想定浸水深をメモする。あわせて東京都の高潮浸水想定区域図も1回だけ見る。合わせて10分です。

2. 電気室・受水槽・給水ポンプの設置階を、図面で確認する

地下または1階にあるなら、止水板・嵩上げ・貫通部止水の見積りを1本取っておく。大規模修繕の検討に入るときの材料になります。区の共用部分改修費用助成に「電気設備への浸水対策工事」が入っていることも、あわせて公社(03-3561-5191)に確認してください。

3. 屋上ドレンの清掃記録を、管理会社に出してもらう

直近1年で何回清掃したか。ストレーナーは付いているか。これだけで台風シーズンのリスクがかなり変わります。

4. 旧耐震の建物なら、10月までに耐震助成の相談電話を入れる

令和8年度中の着手を考えるなら、区の案内は「令和8年10月まで」。契約前の申請が必須です。該当しそうなら、判断は理事会でなく、まず相談から。

10月までに動けるかどうかが、今年の分かれ目です。理事会で1分だけでもこの話題を出してみてください。調査だけ、ご相談だけでも構いません。お問合せフォームからお気軽にお声がけください。


本記事の情報の鮮度について:本記事は2026年9月12日時点で公表されている中央区および国土交通省・気象庁・東京都の公式情報をもとに執筆しています。制度は年度途中でも改正・予算終了があり得ます。特に分譲マンション共用部分改修費用助成(掲載日2024年3月29日)および分譲マンション計画修繕調査費助成(掲載日2023年1月18日)は、令和8年度時点での助成率・限度額が同一であるかを区のウェブページだけでは確認できません。実際に申請される前に、必ず中央区および一般財団法人中央区都市整備公社へ最新の内容をご確認ください。ハザードマップの被害想定は国土交通省および東京都が公表したものであり、実際の被害状況と異なることがあります。


出典・参考資料


関連ページ

ロープアクセス工法の詳しい解説・施工事例はこちら → https://rope-access-method.com/

千代田区のマンション漏水・防災対策|神田川版と荒川版ハザードマップから逆算する修繕優先順位

千代田区のマンション漏水・防災対策|神田川版と荒川版ハザードマップから逆算する修繕優先順位

2026年9月12日 更新

「うちは都心のビルだから、水害は関係ないでしょう」——千代田区内の理事長さまから、実際にこう言われたことがあります。

私は株式会社明誠の本間幸紘と申します。東京都東大和市を拠点に、20年近くマンションやビルの外壁と向き合ってきました。足場を組む工事も、ロープ1本でぶら下がる無足場の工事も、両方やってきた人間です。

千代田区は、区自身が洪水ハザードマップを2種類発行しています。神田川版と荒川版です。さらに高潮ハザードマップ、土砂災害ハザードマップもあります。都心3区のなかでも、リスクの重なり方がかなり特殊な区です。

今日は、その公表資料から逆算して、千代田区のマンション・ビルで先に手を打つべき漏水ポイントと、防災上の共用部の修繕優先度を整理します。


結論:千代田区で優先すべきは「上から」と「地下」の二正面

先に結論から申し上げます。

優先度 対策部位 理由(千代田区固有の事情)
最優先 屋上防水・ドレン(排水口) 時間最大153mmを想定した区の洪水想定。上から入る水が一番早く効く
最優先 地下・半地下の共用設備 受変電設備、給水ポンプ、機械式駐車場が地下にある建物が多い
高 外壁シーリング・サッシまわり 台風時の横殴りの雨は、上からではなく横から入る
高 バルコニー・開放廊下の排水 落ち葉と土砂で詰まると、数十分で室内へ回る
中 崖地・擁壁に接する外壁面 駿河台、富士見、紀尾井町、永田町などは土砂災害警戒区域が存在

千代田区の場合、「川から水が来る」よりも先に、降った雨がそのまま建物の中に入るほうが確率としては高い。私が現場で見てきた漏水事故の大半は、河川氾濫ではなく、屋上ドレンの詰まりとシーリングの切れです。

ここからが本題です。


千代田区のハザードマップを1枚で読む

千代田区が公表しているハザードマップは、次の4種類です(出典:千代田区「ハザードマップ(洪水・高潮・土砂災害)」/2025年12月18日更新)。

1. 洪水ハザードマップ(神田川版)

神田川、日本橋川、隅田川が、想定しうる最大規模の降雨(総雨量690mm・時間最大雨量153mm)で氾濫した場合の想定です。飯田橋駅・水道橋駅の周辺で想定浸水深が大きく、南は内幸町駅の周辺まで影響が及びます。

区の資料には「浸水継続時間」も記載されています。神田川・日本橋川は水位の上昇が早く、その代わり数時間で水が引く、という性格です。つまり「短時間で一気に来る」タイプ。準備の時間がほとんどない、と読むべきです。

2. 洪水ハザードマップ(荒川版)

平成28年5月に国土交通省が指定・公表した浸水想定に基づくもので、荒川流域の72時間総雨量632mm(1,000年に一回程度)で荒川の堤防が決壊した場合の想定です。新御茶ノ水駅・神田駅の付近で0.5m以上3m未満、秋葉原駅周辺から岩本町駅周辺にかけて影響が想定されています。

こちらは神田川版と逆で、水がなかなか引かないタイプです。電気室が地下にある建物では、復旧までの日数がそのまま資産価値の毀損につながります。

3. 高潮ハザードマップ

令和6年12月に東京都が指定した区域に基づく想定です。都心部でも、東京湾から河川をさかのぼる形で影響が出る可能性がある、ということです。

4. 土砂災害ハザードマップ

意外に思われるかもしれませんが、千代田区には土砂災害警戒区域が数十カ所指定されています。外神田二丁目、神田駿河台一〜四丁目、神田猿楽町一・二丁目、富士見一・二丁目、一番町、三番町、紀尾井町、永田町一・二丁目、隼町の各一部です。多くは特別警戒区域(レッドゾーン)も併存しています(出典:千代田区「土砂災害(特別)警戒区域」)。

なお区は令和7年11月に、東京都による指定解除を受けて土砂災害ハザードマップを改訂しています。自分の建物が今どの区分にあるかは、最新版で確認するのが確実です。


地域特性と漏水事故の関係——千代田区の3つの顔

千代田区は、ひとつの区のなかに性格の違う3つのエリアが同居しています。私が見積りに伺うときも、住所を聞いた時点で見るべき箇所を切り替えます。

低地・下町側(神田・岩本町・秋葉原方面)

荒川版・神田川版の両方で浸水想定が出るエリアです。中小規模の築40年超のビル・賃貸マンションが密集しています。

このエリアで多いのは、屋上の押えコンクリート(防水層の上に打つコンクリート)が割れて、その隙間から水が入るパターン。それと、パラペット(屋上の立上り壁)の天端(てんば=上端部)の笠木シーリング切れです。上から入った水が、数年かけて最上階の天井に染みとして出てきます。

台地・崖地側(駿河台・富士見・一番町・紀尾井町・永田町)

土砂災害警戒区域が集中するエリアです。斜面地に建つ建物は、地下側の外壁が土に接していることが多い。地面からの水(土圧をともなう浸透水)は、上からの雨漏りとは対処が違います。

擁壁のクラック(ひび割れ)と、擁壁と建物の間の排水経路。ここを大規模修繕のタイミングで見ておかないと、後から単独工事になって割高になります。

業務地区・タワー系(丸の内・大手町・番町の高層物件)

高さがあると、風の当たり方が変わります。高層階のサッシまわりと、外壁シーリングの目地。ここが千代田区の高層物件で一番よく漏る場所です。地上から見上げても、まず見つかりません。

私が以前調査した番町エリアの14階建てでは、11階の1住戸だけ雨漏りが続いていました。理事会は「屋上が原因だろう」と考えておられましたが、ロープで降りて見たら、原因は13階の縦目地シーリング約1.2mの破断でした。水が壁の中を2層分下って、11階で出ていた。足場を組まずに、その日のうちに原因を特定できたケースです。


大規模修繕で押さえておきたい漏水ポイント7つ

現場で20年やってきて、私が「ここを外すと後で泣く」と思っている7カ所です。

1. 屋上防水層
アスファルト防水、シート防水、ウレタン塗膜防水。それぞれ耐用年数の目安が違います。膨れ・破断・端末の口開きを見ます。

2. ルーフドレン(屋上の排水口)
時間153mmの雨を前提にすると、ドレンが1カ所詰まっただけで屋上がプール状になります。ストレーナー(ゴミよけの網)の有無と、周囲の防水の巻き込みが要点。落ち葉が多い緑地隣接の建物は、年2回の清掃を管理仕様に入れておくと安全側に振れます。

3. パラペット笠木・立上り
屋上の縁の部分。ここは日射と雨の両方を最も受ける場所です。笠木の継ぎ目のシーリングは、防水層本体より先に寿命が来ます。

4. 外壁シーリング(目地)
コンクリートの打継ぎ目地、サッシ廻り目地。触って弾力がなくなっていたら交換時期です。千代田区の高層物件では、ここが最大の弱点になります。

5. サッシまわり
台風時の横殴りの雨は、下から吹き上げてサッシの下枠から入ります。「屋上を直したのに漏る」ケースの多くはこれです。

6. バルコニー・開放廊下の排水(雑排水ドレン)
避難通路を兼ねている開放廊下は、勾配が緩く水が滞りやすい。防水の立上り高さが足りているかも見ます。

7. エキスパンションジョイント(建物同士のつなぎ目)
複数棟を連結している建物にあります。地震で動くことを前提にした部位なので、可動部のカバーとシールが劣化していると、そこが浸入口になります。ここは点検リストから漏れがちです。

外壁とシーリングの詳しい劣化サインは、漏水・雨漏り調査のページにも整理しています。


漏水の緊急対応でロープアクセスが強い理由

正直に申し上げます。台風が来た翌日に「漏っている」とご連絡をいただいても、足場を組む工法では、その日のうちに原因を見に行けません。

仮設足場は、計画・申請・資材搬入・組立で、規模にもよりますが数日から2週間程度かかります。その間、水は入り続けます。

ロープアクセス工法(無足場工法)なら、屋上にアンカーを取って、産業用ロープで壁面を降りながら調査できます。人と道具だけで動けるので、連絡をいただいたその日か翌日には壁面に取り付けるケースが少なくありません。

緊急時の強みは、大きく3つです。

  • 初動が早い:原因特定までの日数が短く、被害の拡大を止めやすい
  • 部分補修ができる:全面足場を組まずに、傷んだ数メートルだけを直せる
  • 居住者・テナントへの影響が小さい:足場による日照・防犯・営業影響がない

千代田区はテナントビルが多く、営業を止められないというご事情が非常に多い区です。足場を組むと、看板が隠れる、入口の動線が変わる、というだけで売上に響きます。工法の選択が、そのまま経営判断になります。

工法ごとの比較は、ロープアクセス専門サイトの工法解説ページにも詳しくまとめています。


防災上の共用部——修繕の優先度をどうつけるか

漏水対策と防災は、共用部の話になると重なります。千代田区の浸水想定を前提に、優先度を整理します。

共用部 千代田区での注意点 優先度
受変電設備(キュービクル) 地下・1階に置く建物が多い。浸水すると全館停電 ★★★
給水ポンプ・受水槽 停電すると上階が断水。荒川版想定では復旧が長引く ★★★
エレベーター機械室・ピット ピットへの浸水で長期停止。高層ほど生活影響が大きい ★★★
自家発電設備 燃料の備蓄量と、燃料タンクの設置階を確認 ★★
避難通路(開放廊下・階段) 排水詰まりと、防水立上りの高さ ★★
機械式駐車場ピット 排水ポンプの能力と、非常電源の有無 ★★

このうち電気室の位置は、後から動かすのが非常に大変です。移設が難しい場合は、防水扉、止水板、防水シャッターといった「入れない」対策と、機器の嵩上げ(かさあげ)を組み合わせることになります。

私はいつも理事長さまに、「大規模修繕の設計段階で、電気室の浸水対策も一緒に検討しませんか」とお伝えしています。別々にやると、足場も申請も二度手間になるからです。ビルオーナーさま向けのご提案、管理組合さま向けのご提案では、この一体検討を前提に組み立てています。


千代田区の耐震助成——防災投資として使えるもの

漏水と直接は違いますが、防災の話をするうえで外せないのが耐震助成です。

千代田区は、マンションの耐震化促進助成を実施しています。対象は、区内の民間建築物のうち、木造以外・過半の用途が共同住宅・昭和56年5月31日以前に建築確認を得た建築物などの条件を満たすものです(出典:千代田区「マンションの耐震化促進助成」/2026年4月6日更新)。

区の案内資料(令和7年4月時点の版)では、次のような助成率・限度額が示されています。

区分 一般道路沿道の分譲マンション
アドバイザー派遣 助成率10/10(診断の必要性の助言は3回まで)
耐震診断 助成率10/10・限度額700万円
補強設計 助成率10/10・限度額750万円
耐震改修等 助成率1/3・限度額1億6,733万円

(出典:千代田区「マンションの耐震化促進助成制度のご案内」PDF)

この案内PDFは令和7年4月時点の内容です。 区のページ自体は令和8年4月6日に更新され、令和8年度実施分の相談を受け付けている旨が記載されていますが、令和8年度の助成率・限度額が同一であるかは、案内PDFだけでは確認できません。申請を検討される場合は、建築指導課構造審査係(03-5211-4313)へ事前にご相談ください。区の案内にも「予算額に達する場合は、年度途中で受付を締め切る場合があります」と明記されています。

このほか、区は分譲マンションの耐震化促進モデル助成も設けています。


背景データ:雨の降り方が変わっている

「昔はこんなに漏らなかった」というお声を、本当によくいただきます。感覚の問題ではありません。

気象庁は、全国のアメダスで観測した1時間降水量50mm以上の年間発生回数が、統計期間の初めごろと比べて増加していることを公表しています(出典:気象庁「大雨や猛暑日など(極端現象)のこれまでの変化」)。気象庁の分析では、1時間50mm以上の短時間強雨はおよそ1.5倍、80mm以上はおよそ1.7倍に増えているとされています。

一方、東京都下水道局は区部全域で1時間75mm降雨への対応を目標に整備を進めています(出典:東京都下水道局「浸水への備えを万全に!」)。

千代田区の洪水ハザードマップが前提にしている時間最大153mmは、下水道の整備目標を大きく上回る雨です。インフラ側で受けきれない分は、建物側で受け止めるしかない。これが、私が屋上ドレンと外壁シーリングを最優先に挙げる理由です。


まとめ:今週、理事会・管理会社に投げられる3点

長くなりました。千代田区の建物で、今週すぐ動けることを3つに絞ります。

1. 自分の建物のハザード区分を、最新版で1回だけ確認する
千代田区ハザードマップのページから、神田川版・荒川版・高潮・土砂災害の4つを見て、自分の建物がどれに該当するかをメモする。5分で終わります。

2. 屋上ドレンの清掃記録を、管理会社に出してもらう
直近1年で何回清掃したか。ストレーナーは付いているか。これだけで、台風シーズンのリスクがかなり変わります。

3. 電気室・給水ポンプの設置階を、図面で確認する
地下または1階にあるなら、止水板や嵩上げの見積りを1本取っておく。大規模修繕の検討に入るときの材料になります。

10月までに動けるかどうかが、今シーズンの分かれ目です。理事会で1分だけでもこの話題を出してみてください。調査だけ、ご相談だけでも構いません。お問合せフォームからお気軽にお声がけください。


本記事の情報の鮮度について:本記事は2026年9月12日時点で公表されている千代田区および国土交通省・気象庁・東京都の公式情報をもとに執筆しています。制度は年度途中でも改正・予算終了があり得ます。実際に申請される前に、千代田区および該当窓口へ最新の内容をご確認ください。ハザードマップの被害想定は、国土交通省荒川下流河川事務所と東京都が公表したものであり、実際の被害状況と異なることがあります。


出典・参考資料


関連ページ

ロープアクセス工法の詳しい解説・施工事例はこちら → https://rope-access-method.com/

【令和8年度版】中央区のマンション管理計画認定制度|区の手数料4,100円だけで終わらない「実額」と独自基準

【令和8年度版】中央区のマンション管理計画認定制度|区の手数料4,100円だけで終わらない「実額」と独自基準

2026年9月12日 更新

「中央区は認定の手数料が4,100円らしいですね。安いですね」——先日、日本橋のマンションの理事長さまからそう言われました。

半分は正しく、半分は誤解です。4,100円は中央区に支払う分だけの金額で、認定を取るまでに実際に出ていくお金はこれではありません。

私は株式会社明誠の本間幸紘と申します。東京都東大和市を拠点に、20年近くマンションやビルの外壁と向き合ってきました。足場を組む工事も、ロープ1本でぶら下がる無足場の工事も、両方やってきた人間です。

今日は、中央区にあるマンションが管理計画認定を取るとき、実際にいくらかかり、どこに申し込み、いつまでに動けばいいのかを整理します。中央区には、他区にはない申請ルートの縛りと、独自基準が1項目あります。


結論:中央区の認定は「区に4,100円、センターに2万円前後」

先に結論から申し上げます。

論点 中央区での答え
認定の主体 中央区(マンション管理適正化推進計画を策定済みの特別区)
運用開始 令和5年7月3日から
申請ルート (公財)マンション管理センターの「管理計画認定手続支援サービス」経由のみ
区の窓口での申請 不可。新規・更新申請の窓口受付は行っていません
事前確認適合証 必須。センターから発行を受けてから区へ本申請
区の認定申請手数料 4,100円(長期修繕計画が2本目以降は1件あたり1,800円加算)
独自基準 あり。「中央区マンション管理適正化指針に照らして適切なものであること」の1項目
担当課 都市整備部住宅課計画指導係(03-3546-5466)

(出典:中央区「マンション管理計画認定制度」、中央区「手数料一覧」(PDF))

そして、区の4,100円とは別に、マンション管理センターへの支払いが発生します。

センターへの支払い 金額
システム利用料 1申請あたり10,000円(税込、内消費税909円)
事前確認審査料(管理組合が直接センターに申し込む場合) 長期修繕計画1計画あたり10,000円(税込、内消費税909円)

(出典:(公財)マンション管理センター「管理計画認定手続支援サービス」)

つまり、長期修繕計画が1本の一般的なマンションが管理組合自身で申請する場合、10,000円+10,000円+4,100円=24,100円が最低ラインになります。事前確認を個別のマンション管理士や管理会社に依頼する場合、その審査料は管理組合と相手方の相談で決まるため、金額は変わります。

区の手数料だけを見て予算を組むと、総会で説明した金額と実際の支出がずれます。ここは最初に押さえてください。


中央区は「区の窓口では受け付けない」——千代田区とは正反対

23区の管理計画認定は、区によって申請ルートがはっきり分かれます。

中央区は、マンション管理センターの発行する「事前確認適合証」を先に取得し、同じ支援サービス上から区へ本申請する流れです。区のページには、区の窓口による新規・更新申請の受付は行っていない旨が明記されています(出典:中央区「マンション管理計画認定制度」)。

隣の千代田区は逆で、マンション管理センターを通さず区の指定した法人へ直接相談する方式です。隣接する区でも、やることがまるで違います。

私が現場でよく見るのは、「近くのマンションがこうやって取ったらしい」という情報をそのまま持ち込んで、手順が噛み合わないケースです。管理会社が複数区にまたがる物件を担当している場合も、担当者が区ごとの違いを取り違えることがあります。まず自分のマンションが何区にあるかを起点に確認してください。

国の手続きの流れとしては、(0)総会決議 →(1)事前確認申請 →(2)事前確認適合証の発行 →(3)認定申請 →(4)認定通知書の発行、という順です(出典:国土交通省「マンション管理計画認定制度」)。中央区はこの(1)〜(3)をセンターの支援サービス上で一貫して行う形になります。

なお、この支援サービスで手続きできるのは、申請者本人か、申請者から委任を受けた代理人(行政書士に限る)のみです。管理会社に丸投げできる作業ではない点も、総会前に共有しておくべきところです。


認定基準は5分野16項目+中央区独自の1項目

中央区の認定基準は、国の基準に沿った5分野の項目で構成されています。

1)管理組合の運営(3項目)

  • 管理者等が定められていること
  • 監事が選任されていること
  • 集会(総会)が年1回以上開催されていること

2)管理規約(3項目)

  • 管理規約が作成されていること
  • 災害等の緊急時や管理上必要なときの専有部への立入り、修繕等の履歴情報の管理等が定められていること
  • 管理組合の財務・管理に関する情報の書面交付(または電磁的方法による提供)が定められていること

3)管理組合の経理(3項目)

  • 管理費・修繕積立金等が明確に区分経理されていること
  • 修繕積立金会計から他会計への充当がされていないこと
  • 直前の事業年度末時点で、3か月以上の修繕積立金滞納額が全体の1割以内であること

4)長期修繕計画の作成・見直し等(6項目)

  • 長期修繕計画が「長期修繕計画標準様式」に準拠して作成され、その内容と修繕積立金額が総会で決議されていること
  • 長期修繕計画の作成または見直しが7年以内に行われていること
  • 計画期間が30年以上で、残存期間内に大規模修繕工事が2回以上含まれること
  • 将来の一時的な修繕積立金の徴収を予定していないこと
  • 計画期間全体での修繕積立金の平均額が著しく低額でないこと
  • 計画期間の最終年度に借入金の残高がないこと

5)その他(2項目)

  • 組合員名簿・居住者名簿を備え、年1回以上内容を確認していること
  • 中央区マンション管理適正化指針に照らして適切なものであること

(出典:中央区「中央区管理計画認定基準」(PDF)、中央区マンション管理適正化推進計画(PDF))

最後の1項目が、中央区の独自部分です。そして実務上、ここには注意点があります。

マンション管理センターは、地方公共団体の独自基準を事前確認の対象外としています(出典:(公財)マンション管理センター)。つまり、事前確認適合証が出ても、指針への適合は中央区が別途見る部分だということです。事前確認が通ったから認定も確実、とは言い切れません。

では「中央区マンション管理適正化指針」に何が書かれているか。推進計画の別添として公表されていて、管理組合の運営、管理規約、共用部分の範囲と管理費用の明確化、経理、長期修繕計画の作成・見直し、発注等の適正化、良好な居住環境の維持・向上——といった留意事項が並びます。

このうち私が工事屋として気になるのは2つです。

ひとつは発注等の適正化。事業者の選定に係る意思決定の透明性確保や利益相反への注意が、はっきり書かれています。外部の専門家が管理者や役員に就任している場合は、発注ルールの整備が必要だとも明記されています。大規模修繕の業者選定で「なぜこの会社なのか」を説明できる記録を残しておくことは、認定のためというより管理組合自身のためになります。

もうひとつは防災・減災とコミュニティ形成。防災に係る計画の作成・周知、訓練の実施、被災時を想定した管理規約上の取り決め、火災保険への加入が挙げられています。


中央区の「助言・指導」は防災まで見る

中央区は、令和6(2024)年度から分譲マンションの実態調査を順次実施し、判断基準に満たない管理組合へ助言・指導を行う方針を示しています。令和7(2025)年度からは、東京都の管理状況届出制度の対象マンションも調査対象に加わります。

その判断基準の目安がこちらです。

区分 該当すると 内容
管理組合の運営・管理規約 指導・勧告の対象 管理組合がない/管理者が定められていない/年1回以上総会が開催されていない/管理規約がない
管理組合の経理 助言の対象 管理費が設定されていない/修繕積立金が設定されていない/区分経理されていない
修繕の計画的な実施 助言の対象 大規模修繕工事の実施時期に到達しているのに実施されていない/長期修繕計画が作成されていない
管理組合の防災対策 助言の対象(一定規模かつ全項目該当) 自主防災組織がない/防災マニュアルがない/防災用品の備蓄がない/避難行動要支援者名簿がない/防災訓練の定期的な実施がない

(出典:中央区マンション管理適正化推進計画 別紙1(PDF))

「大規模修繕工事の実施時期に到達しているのに実施されていない」が助言の対象に入っている——ここは読み飛ばさないでいただきたいところです。工事を先送りしていること自体が、行政から見て課題として記録される仕組みになっています。

中央区の推進計画には、この調査の裏づけとなる数字も載っています。令和3(2021)年提出データと平成28(2016)年の分譲マンション実態調査を合わせると、区内で管理不全の恐れのあるマンションが36棟、管理不全の兆候があるマンションが93棟、合計129棟。昭和58(1983)年以前築のマンションでは、長期修繕計画が作成されていないものが44棟、大規模修繕工事の実施時期に到達しているのに未実施のものが26棟ありました。

防災については、昭和58年以前築マンションで防災用品を備蓄しているのは23.6%。東京都全体の31.0%、23区の25.1%を下回っています。認定を狙う・狙わないにかかわらず、ここは理事会で一度議題にする価値があります。


中央区はマンション居住率94.2%——だからこそ認定が効く

中央区の特徴を、数字で押さえておきます。

  • マンションに居住する世帯の割合:94.2%(令和2年国勢調査)
  • 共同住宅に住む世帯のうち、11階建て以上に住む割合:64.6%
  • 区内の分譲マンション棟数:977棟(令和4年3月時点)
  • そのうち築40年以上:18.3%
  • 築45年以上の棟数の予測:令和3年54棟 → 令和13年231棟(約4.3倍) → 令和33年677棟(約12.5倍)

(出典:中央区マンション管理適正化推進計画(PDF))

区民のほぼ全員がマンションに住み、その3分の2が11階建て以上の高層に住んでいる。これが中央区です。10年で高経年マンションが4倍以上に増えるという予測も、他区ではあまり見ない数字です。

高層で、敷地に余裕がなく、築年数が今後一気に上がる。この3つが重なる地域では、修繕の計画性そのものが資産価値の差になります。管理計画認定は、その計画性を第三者が確認した証明として市場に出せる仕組みです。売買時に「認定済み」と書けることの意味は、日本橋・京橋・月島といった流動性の高いエリアほど大きくなります。


認定で効いてくる経済メリット

1)マンション長寿命化促進税制(固定資産税の減額)

管理計画認定マンションが長寿命化に資する大規模修繕工事を行うと、工事完了年の翌年度分の建物部分の固定資産税が減額されます。

  • 対象工事の完了期限:令和5年4月1日〜令和9年3月31日
  • 減額割合:1戸あたり100㎡の床面積相当分までの固定資産税額について、東京23区は2分の1
  • 主な要件:築20年以上/総戸数10戸以上/過去に長寿命化工事(外壁塗装等工事・床防水工事・屋根防水工事のすべて)を実施済み
  • 認定マンションの場合、令和3年9月1日以降に修繕積立金の額を認定基準まで引き上げたことが必要
  • 申告期限:工事完了日から3か月以内、物件が所在する区にある都税事務所へ(eLTAXによる電子申告も可)

(出典:東京都主税局「長寿命化に資する大規模修繕工事が行われたマンションに対する固定資産税の減額制度」、国土交通省「マンション税制」)

順番に強い制約があります。減額申告の時点と、賦課期日(工事完了日の翌年1月1日)の時点の両方で、認定を受けている必要があります。工事を終えてから認定を取りに行くのでは間に合わない場合がある、ということです。私が理事会で最も強くお伝えしているのはこの点です。

もうひとつ。耐震改修・バリアフリー改修・省エネ改修の固定資産税減額とは、同じ年度に併用できません。省エネ改修と長寿命化を同じ工事でまとめて考えている管理組合は、どちらを取るかを設計段階で整理しておく必要があります。

2)フラット35・フラット50

管理計画認定マンションは、住宅金融支援機構の【フラット35】の金利引下げの対象になり、返済期間が最長50年の【フラット50】も利用できます。買い手側が使える制度なので、売却時の競争力に効いてきます。引下げ幅や条件は改定があるため、住宅金融支援機構の公式ページで最新の内容をご確認ください。

3)共用部分リフォーム融資・すまい・る債

マンション共用部分リフォーム融資の金利引下げと、マンションすまい・る債の利率上乗せが受けられます。大規模修繕を借入で進める管理組合にとって、金利差は総返済額で数百万円単位の違いになり得ます。


中央区の支援メニューを先に使う

中央区は、一般財団法人中央区都市整備公社と連携した支援メニューを持っています。認定を目指す準備段階でこそ効く制度です。

制度 内容
マンション管理士派遣 維持管理・大規模修繕・建替えなどについて助言・提案を行うマンション管理士を、総会・理事会・勉強会に無料で派遣
分譲マンション管理相談 建築士事務所協会・マンション管理士会の協力で、長期修繕計画の作成方法や見直し方法の相談に対応
分譲マンション計画修繕調査費助成 建物・給排水管の調査診断を実施した場合に調査費用の一部を助成
分譲マンション共用部分改修費用助成 築20年以上の分譲マンションが共用部分の修繕工事・防災対策工事を行う場合、設計費用と工事費用の一部を助成
分譲マンションアドバイザー制度利用助成 東京都防災・建築まちづくりセンターのアドバイザー制度の利用費用を助成

共用部分改修費用助成の内容は次のとおりです。

  • 設計費用:助成対象部分にかかる設計費(住宅部分に限る)×2/3、限度額100万円
  • 工事費用:助成対象工事費(住宅部分に限る)×10%×2/3、限度額1,000万円
  • 申請回数:10年間で2回まで
  • 対象工事:壁面の改修、鉄部の塗装・取替え、屋上・バルコニー・外部共用廊下の防水、給排水管の更生・取替え、および受水槽の耐震型取替えやエレベーターの耐震改修などの防災対策工事

(出典:中央区「分譲マンション共用部分改修費用助成」、中央区マンション管理適正化推進計画(PDF))

この助成のページは掲載日が2024年3月29日で、令和8年度の枠や要件が同じかどうかは公表情報からは確認できませんでした。金額・対象・受付状況は、必ず中央区都市整備公社まちづくり支援第一課(03-3561-5191)へ直接ご確認ください。

順番としては、マンション管理士派遣で長期修繕計画と修繕積立金の現状を見てもらう → 足りない部分を総会で決議 → 事前確認申請、が無理のない流れです。派遣は無料で、認定申請の前段階の相談に使えます。


【重要】令和9年4月1日から認定基準が見直されます

令和7年のマンション関係法改正を受けて、国土交通省は令和8年7月31日に次の2本を公布しました。いずれも令和9年4月1日施行です。

  • マンション管理適正化法施行規則等の一部を改正する省令(令和8年国土交通省令第70号)
  • マンションの管理の適正化の推進を図るための基本的な方針の一部を改正する告示(令和8年国土交通省告示第1017号)

改正の柱は2つです。

  1. 分譲事業者が申請者になれる仕組みの新設。分譲時に分譲事業者が管理計画を作成し、管理組合の管理者等に引き継ぐ流れが導入されます。
  2. 管理組合の管理者等が申請者となる場合の認定基準の見直し。

そして実務上いちばん効くのが、この切り分けです。

地方公共団体への申請日が令和9年4月1日以降となる場合は、見直し後の認定基準が適用されます。

(出典:国土交通省「マンション管理計画認定制度」令和9年4月1日施行関係)

申請日が令和9年3月31日までなら現行基準、4月1日以降なら新基準。詳細なガイドラインの見直しは今後予定されています。

中央区の場合、申請日は「区への本申請の日」であり、その前にセンターの事前確認が入ります。事前確認には日数がかかるため、現行基準で出したいなら、逆算して年内には事前確認申請に着手しておくのが現実的です。切り替え直前は申請が混み合うのが常です。


逆算スケジュール——3月決算の管理組合なら

中央区には千代田区のような「会計年度内完結」の縛りは公表されていませんが、総会決議が必須である以上、定時総会が起点になることは変わりません。

時期 やること
総会の6〜4か月前 マンション管理士派遣を申し込み、長期修繕計画・修繕積立金・管理規約の現状を点検
総会の3か月前 長期修繕計画の見直しが必要か判断。必要なら調査診断・設計の着手(計画修繕調査費助成の対象になり得ます)
定時総会 認定申請を行う旨を決議(制度上の必須手続き)。必要なら規約改正・積立金改定も同時に決議
総会後 議事録を整備。マンション管理センターの支援サービスで事前確認申請
事前確認完了後 事前確認適合証を添えて、同サービス上から中央区へ本申請(手数料4,100円)
区の審査 認定通知書の交付

3月決算の管理組合なら、6月の定時総会で決議して夏のうちに事前確認へ進むのが無理のないペースです。9月に読んでいただいている今なら、令和8年度中の申請はまだ十分に射程に入ります。

ひとつ注意点を。認定基準のうち「長期修繕計画の作成または見直しが7年以内」は、見落とされやすい項目です。前回の見直しが8年前だと、それだけで外れます。まず見直しの年月日を確認してください。


認定と大規模修繕は、セットで考えたほうが得です

私はこの2つを、ワンセットでご提案するようにしています。

理由は単純です。認定基準の中心は長期修繕計画と修繕積立金であり、それは大規模修繕の実施計画そのものだからです。別々に検討すると、長期修繕計画を2回つくり直すことになります。

そして工法の選択は、長期修繕計画の金額に直結します。足場の仮設費は工事費全体の2割前後を占めることが珍しくありません。ロープアクセス工法(産業用ロープで昇降しながら施工する無足場工法)を部分的にでも採り入れられれば、その分を削れる可能性があります。総額が下がれば、修繕積立金の㎡単価にも余裕が生まれ、「平均額が著しく低額でない」の判定を通しやすくなります。

中央区は、11階建て以上のマンションが64.6%を占める高層の街です。敷地に余裕がなく、道路の占用調整が難しい立地も多い。私が現場を見るとき、真っ先に確認するのは「そもそも足場が架けられるか」「架けるとして近隣調整に何か月かかるか」です。架けにくい建物こそ、ロープアクセスやハイブリッド工法(足場とロープアクセスを部位ごとに使い分ける方法)の出番になります。

ロープアクセス工法の安全基準や技術的な背景は、姉妹サイトのロープアクセスドットコムで詳しく解説しています。工法を比べる前に一度目を通していただくと、判断の軸が定まるはずです。

明誠は、通常の足場仮設による工事、無足場工法であるロープアクセス、そしてその両方を部位ごとに使い分けるハイブリッド工法の3つの工法から建物にとって最適なものをご提案できる、日本でも数少ない会社です。詳しくは明誠のロープアクセス工法のご紹介をご覧ください。

分譲マンションの管理組合さま向けのご提案は管理組合さま向けサービスにまとめています。


まとめ+今週動くこと3点

中央区の管理計画認定は、区の手数料が4,100円と低い一方、申請はマンション管理センター経由に限定され、センターへの支払いが別に発生します。独自基準が1項目あり、それは事前確認の対象外です。そして令和9年4月1日に認定基準の見直しが施行されます。

今週のうちに、理事会で次の3点だけ確認してみてください。

  1. 長期修繕計画の前回見直しはいつか。7年以内でなければ、他が整っていても基準を外れます。
  2. 計画期間が30年以上あり、残存期間に大規模修繕工事が2回以上入っているか。これも落ちやすい項目です。
  3. 予算は「区の4,100円」だけで見ていないか。センターのシステム利用料と事前確認審査料を含めた総額を、総会資料の段階で示しておくこと。

この3つが見えれば、令和8年度中に出すか、令和9年度に新基準で出すかの判断ができます。

10月から11月にかけて動けるかどうかが分かれ目です。理事会で1分だけでもこの話題を出してみてください。総会の前段階の整理だけでも、お力になれることがあります。お問い合わせはこちらのフォームからどうぞ。


この記事のポイントまとめ

  • 中央区の認定主体は中央区。運用開始は令和5年7月3日
  • 申請はマンション管理センターの支援サービス経由のみ。区の窓口では新規・更新を受け付けない
  • 区の手数料は4,100円(長期修繕計画が複数なら2本目以降1件1,800円加算)
  • センターのシステム利用料10,000円+事前確認審査料が別途必要(管理組合が直接申し込む場合は1計画10,000円)
  • 独自基準「中央区マンション管理適正化指針に照らして適切なものであること」があり、これは事前確認の対象外
  • 令和6年度から実態調査と助言・指導を実施。大規模修繕の先送りや防災対策の不備も判断基準に入る
  • 令和9年4月1日以降の申請日には、見直し後の認定基準が適用される
  • 長寿命化促進税制は令和9年3月31日完了分まで。23区の減額割合は2分の1、申告は工事完了から3か月以内

関連リソース


出典・参考資料


本記事の情報の鮮度について:本記事は2026年9月12日時点で公表されている中央区および国土交通省・東京都の公式情報をもとに執筆しています。中央区の管理計画認定制度ページの掲載日は2025年6月2日(令和7年度内)、共用部分改修費用助成ページの掲載日は2024年3月29日です。令和8年度に入ってからの手数料・助成要件の改定は、執筆時点で公表を確認できませんでした。制度は年度途中でも改正・予算終了があり得ます。実際に申請される前に、中央区 都市整備部住宅課計画指導係(03-3546-5466)、(公財)マンション管理センター(03-6261-1274)、一般財団法人中央区都市整備公社まちづくり支援第一課(03-3561-5191)へ最新の内容をご確認ください。


執筆者:本間 幸紘(株式会社明誠 代表取締役)
専門領域:マンション大規模修繕/ロープアクセス工法/建物長寿命化計画
実務経験:建設・改修業界 20年以上
所属:一般社団法人 全国建設業支援協会(JCSA)

株式会社明誠について:東京都東大和市を拠点に、通常足場工法・ロープアクセス工法(無足場工法)・ハイブリッド工法の3つから建物に最適な工法をご提案できる改修会社です。日本初のロープアクセス工事フランチャイズを展開し、塗装・防水・タイル・電気・看板などの専門職が加盟しています。

最終更新:2026年9月12日

ロープアクセス工法の詳細解説は、姉妹サイトロープアクセスドットコム(https://rope-access-method.com/)をご覧ください。

【令和8年度版】千代田区のマンション管理計画認定制度|手数料18,000円・まちみらい千代田ルートの全手順

【令和8年度版】千代田区のマンション管理計画認定制度|手数料18,000円・まちみらい千代田ルートの全手順

2026年9月12日 更新

「管理計画認定、うちも取ったほうがいいんでしょうか」——千代田区内の管理組合の理事長さまから、この質問をいただく回数が明らかに増えました。

私は株式会社明誠の本間幸紘と申します。東京都東大和市を拠点に、20年近くマンションやビルの外壁と向き合ってきました。足場を組む工事も、ロープ1本でぶら下がる無足場の工事も、両方やってきた人間です。

今日お話しするのは、千代田区にあるマンションが管理計画認定を取ると何が変わり、いくらかかり、いつまでに動けばいいのかという一点です。千代田区は、他の自治体とは申請ルートが違います。ここを知らずに動くと、遠回りになります。


結論:千代田区で認定を取ると何が変わり、いくらかかるか

先に結論から申し上げます。

論点 千代田区での答え
認定の主体 千代田区(マンション管理適正化推進計画を策定済みの特別区)
受付開始 令和5年4月1日から
事前相談・申請窓口 (公財)まちみらい千代田(区が指定した指定認定事務支援法人)
マンション管理センター経由 使いません。「事前確認適合証」は不要
認定申請手数料 18,000円(長期修繕計画が複数ある場合は1件あたり9,000円加算)
更新申請手数料 18,000円(加算額は同じ)
独自基準 なし。国が定める認定基準と同様
有効期間 5年間(5年ごとの更新認定)
主な経済効果 長寿命化促進税制、フラット35の金利引下げ、共用部分リフォーム融資の金利引下げ

(出典:千代田区「千代田区マンション管理計画認定制度」、(公財)まちみらい千代田「千代田区マンション管理計画認定制度」)

千代田区は令和4年12月にマンション管理適正化推進計画を策定し、令和7年11月に改定しています。この改定版は「千代田区第4次住宅計画」の一部として公表されています。


認定主体はどこか——千代田区は「区が認定する」

マンション管理計画認定制度の認定主体は、マンション管理適正化法に基づく推進計画を策定した市・特別区です。市以外の町村部は都道府県が担います(出典:国土交通省「マンション管理計画認定制度」)。

千代田区は特別区で、推進計画を策定済みです。したがって千代田区が認定主体になります。東京都に申請するのではありません。ここを取り違えている理事会に、私は何度か出会いました。

ただし千代田区の場合、実際の窓口は区役所ではなく(公財)まちみらい千代田です。区が「指定認定事務支援法人」として指定しており、事前相談から申請受付までを一貫して担っています。最終審査だけが千代田区役所の住宅課に回ります。


認定基準——国の基準そのまま、5分野16項目

千代田区は独自基準を設けておらず、国が定める認定基準と同じです。まちみらい千代田が公開しているチェックリストに沿って整理すると、確認項目は5分野・16項目になります。

1)管理組合の運営(3項目)

  • 管理者(理事長)等が定められていること
  • 監事が選任されていること
  • 集会(総会)が年1回以上開催されていること

2)管理規約(3項目)

  • 管理規約が作成されていること
  • 緊急時や管理上必要なときの専有部分への立入り、修繕等の履歴情報の管理が定められていること
  • 財務・管理に関する情報の書面交付(または電磁的方法による提供)が定められていること

3)管理組合の経理(3項目)

  • 管理費と修繕積立金等が明確に区分経理されていること
  • 修繕積立金会計から他会計への充当がされていないこと
  • 直前の事業年度末時点で、3か月以上の修繕積立金滞納額が全体の1割以内であること

4)長期修繕計画の作成及び見直し等(6項目)

  • 国のガイドラインにある19項目が計上され、各項目に費用が入っていること
  • 計画期間が30年以上で、残存期間内に大規模修繕工事が2回以上あること
  • 計画期間の始期が、承認・見直しの決議日を起点に適切に設定されていること
  • 将来の一時的な修繕積立金の徴収を予定していないこと
  • 計画期間全体の修繕積立金の平均額が著しく低額でないこと
  • 計画期間の最終年度に借入金の残高がないこと

5)その他(1項目)

  • 組合員名簿・居住者名簿を備え、年1回以上内容を確認していること

(出典:(公財)まちみらい千代田、国土交通省「マンション管理計画認定基準」)

正直に申し上げます。この16項目のうち、実務で最後まで引っかかるのは4)の長期修繕計画です。特に「修繕積立金の平均額が著しく低額でない」の判定。まちみらい千代田では「修繕積立金㎡単価算出表」というExcel様式に、機械式駐車場の種類・台数、計画期間当初残高、専有部分の総床面積などを入れて㎡単価を算出します。ここで基準を割ると、値上げの総会決議から組み立て直しになります。


千代田区独自の申請ルート——マンション管理センターを通さない

全国の多くの自治体では、(公財)マンション管理センターの「管理計画認定手続支援サービス」で事前確認を受け、「事前確認適合証」を添えて自治体に申請します。

千代田区は、このルートを採っていません。

千代田区の公式ページには、区内マンションの管理状況をより詳しく把握するため、マンション管理センターを通じての申請を行っていない旨が明記されています。マンション管理センターの事前審査(有料)の代わりに、まちみらい千代田への無料の事前相談を使う形です。

もう一点、千代田区ならではの運用があります。(一社)マンション管理業協会の「マンション管理適正評価制度」や(一社)日本マンション管理士会連合会の「マンション管理適正化診断サービス」を受けていても、千代田区では改めて認定審査を行います。他制度の実績で簡略化されることはありません。

私はこれを、不利な仕組みだとは見ていません。手数料18,000円のなかに、まちみらい千代田のマンション管理士による事前チェックが含まれていると考えれば、費用対効果はむしろ良いほうです。相談も窓口・オンラインの両方に対応しています(連絡は原則メール)。


手数料と申請の実務——金額と所要期間

手数料一覧(千代田区)

区分 基本手数料 加算手数料(長期修繕計画が複数の場合1件あたり)
新規認定申請 18,000円 9,000円
更新認定申請 18,000円 9,000円
変更(管理組合の運営) 3,100円 1,700円
変更(管理規約) 2,600円 1,600円
変更(管理組合の経理) 3,000円 1,800円
変更(長期修繕計画) 6,200円 3,100円
変更(その他) 1,900円 1,300円
変更(上記以外の事項) 2,000円 900円

このほか、認定を受けていることを証明する「認定証明書」を千代田区住宅課で発行でき、1通400円です。

所要期間の目安

  • まちみらい千代田の事前確認:書類がそろってから2〜3週間(最長1か月程度)
  • 千代田区役所の最終審査:2〜3週間(最長1か月程度)
  • 書類に疑義がなくスムーズに進んだ場合:合計2週間程度で済むこともある

申請書類は原則データ提出です。認定申請書・表明保証書・チェックリストはWord、修繕積立金㎡単価算出表はExcel、その他はPDFで、オンラインストレージ経由で送ります。


認定で効いてくる3つの経済効果

1)マンション長寿命化促進税制(固定資産税の減額)

管理計画認定マンションが長寿命化に資する大規模修繕工事を行うと、翌年度分の建物部分の固定資産税が減額されます。

  • 対象工事の完了期限:令和5年4月1日〜令和9年3月31日
  • 減額割合:1戸あたり100㎡の床面積相当分までの固定資産税額について、東京23区は2分の1
  • 主な要件:築20年以上/総戸数10戸以上/過去に長寿命化工事(外壁塗装等工事・床防水工事・屋根防水工事のすべて)を実施済み
  • 認定マンションの場合、令和3年9月1日以降に修繕積立金の額を認定基準まで引き上げたことが要件
  • 申告期限:工事完了日から3か月以内、物件所在区の都税事務所へ

(出典:東京都主税局「長寿命化に資する大規模修繕工事が行われたマンションに対する固定資産税の減額制度」、国土交通省「マンション税制」)

千代田区は特別区なので、固定資産税は東京都が課税します。申告先は区役所ではなく千代田都税事務所です。ここも間違えやすいところです。

そして順番が大事です。減額申告時点と賦課期日(工事完了の翌年1月1日)時点の両方で認定を受けている必要があります。工事を終えてから認定を取りに行くのでは間に合わないケースがある——私が理事会で最も強くお伝えしているのはこの点です。

2)【フラット35】維持保全型・【フラット50】

管理計画認定マンション(既存)は、住宅金融支援機構の【フラット35】の金利引下げの対象になり、返済期間が最長50年の【フラット50】も利用できます。売却時に買い手が使える制度なので、資産価値の面で効いてきます。引下げ幅と期間は制度改定があるため、【フラット35】維持保全型の公式ページで最新の条件をご確認ください。

3)マンション共用部分リフォーム融資・すまい・る債

住宅金融支援機構のマンション共用部分リフォーム融資では、管理計画認定の取得により融資金利が年0.2%引き下げられます。耐震・浸水対策・省エネ工事による引下げやマンションすまい・る債による引下げと併用でき、条件を満たせば合計で年0.6%まで下がります。また、すまい・る債の利率上乗せも受けられます。

大規模修繕の資金計画で、金利0.2%は小さくありません。借入額1億円・償還20年なら、総返済額で数百万円単位の差になります。


【重要】令和9年4月1日から認定基準が見直されます

ここからが本題です。

令和7年のマンション関係法改正を受けて、国土交通省は令和8年7月31日に次の2本を公布しました。いずれも令和9年4月1日施行です。

  • マンション管理適正化法施行規則等の一部を改正する省令(令和8年国土交通省令第70号)
  • マンションの管理の適正化の推進を図るための基本的な方針の一部を改正する告示(令和8年国土交通省告示第1017号)

改正の柱は2つです。

  1. 分譲事業者が申請者になれる仕組みの新設。分譲時に分譲事業者が管理計画を作成し、管理組合の管理者等に引き継ぐ流れが導入されます。
  2. 管理組合の管理者等が申請者となる場合の認定基準の見直し。

そして実務上、いちばん効くのがこの一文です。

地方公共団体への申請日が令和9年4月1日以降となる場合は、見直し後の認定基準が適用されます。

(出典:国土交通省「マンション管理計画認定制度」令和9年4月1日施行関係)

つまり、申請日が令和9年3月31日までなら現行基準、4月1日以降なら新基準という切り分けです。詳細なガイドラインの見直しは今後予定されています。

私の経験上、こういう切り替えの直前は駆け込みで申請が混み合います。審査期間は他の管理組合の申請状況にも左右されると、まちみらい千代田も明記しています。余裕を持った動き出しをおすすめします。


千代田区の逆算スケジュール——「会計年度内完結」と2月中旬の締切

千代田区の申請には、他の自治体であまり見ない制約が2つあります。

制約1:管理組合の会計年度内に、申請から区の認定審査まで完了させる必要がある

会計年度をまたぐと、直近前年度末の資料一式(総会資料・議事録を含む)の提出が追加で必要になります。

制約2:毎年2月中旬ごろが年度の締切

これを過ぎると4月1日以降の受付になります。

この2つを踏まえて、逆算するとこうなります。

時期 やること
認定を目指す会計年度の前半 管理規約・長期修繕計画・修繕積立金の現状を点検。㎡単価を試算
総会の3か月前 長期修繕計画の見直しが要るか判断。要るなら設計・見積の着手
定時総会 認定申請を行う旨を決議(制度上の必須手続き)。必要なら規約改正・積立金改定も同時に決議
総会後の理事会 役職決定。議事録を整備(提出書類になります)
総会後すみやかに まちみらい千代田へメールで事前相談。様式一式をダウンロード
提出から2〜3週間 事前確認。指摘があれば追加資料を提出
事前確認完了後 手数料18,000円を納付
納付後2〜3週間〜1か月 千代田区役所の最終審査 → 認定通知書

3月決算の管理組合なら、6月の定時総会で決議して夏のうちに動き出すのが無理のないペースです。9月に読んでいただいている今なら、まだ今年度中に間に合う可能性は十分あります。

ひとつ注意点を。認定申請時の役員(管理者を含む)が全員交代した場合は再申請になります。理事の任期が1年の管理組合では、ここが落とし穴になりやすいところです。


認定と大規模修繕は、セットで考えたほうが得です

私はこれを、ワンセットで提案するようにしています。

理由は単純です。認定基準の中心は長期修繕計画と修繕積立金であり、それは大規模修繕の実施計画そのものだからです。別々に検討すると、長期修繕計画を2回つくり直すことになります。

そして工法の選択は、長期修繕計画の金額に直結します。足場の仮設費は工事費全体の2割前後を占めることが珍しくありません。ロープアクセス工法(ロープでぶら下がって施工する無足場工法)を部分的にでも採り入れられれば、その分を削れる可能性があります。長期修繕計画の総額が下がれば、修繕積立金の㎡単価にも余裕が生まれます。

千代田区は都心3区のひとつで、狭小敷地や隣地との離隔が取れない物件、道路占用の調整が難しい立地が多い地域です。私が現場を見るとき、真っ先に確認するのは「そもそも足場が架けられるか」です。架けられない、あるいは架けると近隣調整に数か月かかる——そういう建物こそ、ロープアクセスやハイブリッド工法(足場とロープアクセスを部位ごとに使い分ける方法)の出番になります。

ロープアクセス工法の安全基準や技術的な背景は、姉妹サイトのロープアクセスドットコムで詳しく解説しています。工法を比べる前に一度目を通していただくと、判断の軸が定まるはずです。

明誠は、通常の足場仮設による工事、無足場工法であるロープアクセス、そしてその両方を部位ごとに使い分けるハイブリッド工法の3つの工法から建物にとって最適なものをご提案できる、日本でも数少ない会社です。詳しくは明誠のロープアクセス工法のご紹介をご覧ください。

分譲マンションの管理組合さま向けのご提案は管理組合さま向けサービスにまとめています。


まとめ+今週動くこと3点

千代田区の管理計画認定は、手数料18,000円、まちみらい千代田への無料事前相談から始まる独自ルート。独自基準はなく、国の5分野16項目がそのまま基準です。そして令和9年4月1日に認定基準の見直しが施行されます。

今週のうちに、理事会で次の3点だけ確認してみてください。

  1. 長期修繕計画の計画期間が30年以上あり、残存期間に大規模修繕工事が2回以上入っているか。ここが外れていると、他が整っていても通りません。
  2. 直近前年度末の修繕積立金の滞納状況。3か月以上の滞納額が全体の1割を超えていないか。
  3. 管理組合の会計年度末はいつか。千代田区は会計年度内完結が条件で、2月中旬が年度の締切です。

この3つが見えれば、今年度に出すか、令和9年度に新基準で出すかの判断ができます。

10月から11月にかけて動けるかどうかが分かれ目です。理事会で1分だけでもこの話題を出してみてください。ご相談だけでも遠慮なくお声がけください。総会の前段階の整理だけでも、お力になれることがあります。お問い合わせはこちらのフォームからどうぞ。


この記事のポイントまとめ

  • 千代田区の認定主体は千代田区。窓口は(公財)まちみらい千代田
  • マンション管理センターの事前確認適合証は不要。事前相談は無料
  • 手数料は新規・更新とも18,000円(長期修繕計画が複数なら1件9,000円加算)
  • 独自基準はなく、国の5分野16項目がそのまま基準
  • 会計年度内完結が条件、毎年2月中旬ごろが年度の締切
  • 令和9年4月1日以降の申請日には見直し後の認定基準が適用される
  • 長寿命化促進税制は令和9年3月31日完了分まで。23区の減額割合は2分の1

関連リソース


出典・参考資料


本記事の情報の鮮度について:本記事は2026年9月12日時点で公表されている千代田区および国土交通省・東京都の公式情報をもとに執筆しています。なお、千代田区の制度ページの更新日は2026年2月24日(令和7年度内)です。令和8年度に入ってからの手数料改定は、執筆時点で公表を確認できませんでした。制度は年度途中でも改正・運用変更があり得ます。実際に申請される前に、(公財)まちみらい千代田(03-3233-3223/kyojyu@mm-chiyoda.or.jp)および千代田区 環境まちづくり部 住宅課(03-5211-4312)へ最新の内容をご確認ください。


執筆者:本間 幸紘(株式会社明誠 代表取締役)
専門領域:マンション大規模修繕/ロープアクセス工法/建物長寿命化計画
実務経験:建設・改修業界 20年以上
所属:一般社団法人 全国建設業支援協会(JCSA)

株式会社明誠について:東京都東大和市を拠点に、通常足場工法・ロープアクセス工法(無足場工法)・ハイブリッド工法の3つから建物に最適な工法をご提案できる改修会社です。日本初のロープアクセス工事フランチャイズを展開し、塗装・防水・タイル・電気・看板などの専門職が加盟しています。

最終更新:2026年9月12日

ロープアクセス工法の詳細解説は、姉妹サイトロープアクセスドットコム(https://rope-access-method.com/)をご覧ください。

【令和8年度版】中央区の12条点検・外壁打診調査|事務所・店舗ビルは令和8年10月31日が報告期限です

【令和8年度版】中央区の12条点検・外壁打診調査|事務所・店舗ビルは令和8年10月31日が報告期限です

2026年9月12日 更新

先に、いちばん急ぐ話から申し上げます。

中央区で事務所ビル・店舗ビル・複合用途ビルをお持ちの方。令和8年度(2026年度)は、あなたの建物の定期報告の年です。締切は令和8年10月31日。残り約7週間です。

私は株式会社明誠の本間幸紘と申します。東京都東大和市を拠点に、20年近く建物の外壁と向き合ってきました。足場を組む工事も、ロープ1本でぶら下がる工事も、両方やってきた人間です。

今日は、中央区の12条点検について「いつ・誰が・どこへ報告するのか」と、「外壁の全面打診はいつ必要になるのか」を、区の最新資料をもとに整理します。銀座・日本橋・京橋・築地・月島と、用途の入り混じったビルが密集する中央区ならではの落とし穴も、現場目線でお伝えします。


結論:中央区の12条点検の全体像

論点 中央区での答え
特定行政庁 中央区
根拠法令 建築基準法第12条第1項
調査する人 一級建築士・二級建築士・特定建築物調査員
報告書の提出先 公益財団法人 東京都防災・建築まちづくりセンター(受付機関)
各種届出の提出先 延べ面積10,000㎡以下は中央区 建築課 建築監察係、10,000㎡超は東京都
事前準備 整理番号の新規取得(電子申請可)
事務所・店舗・複合用途の報告年 令和8年度(2026年5月1日〜10月31日) ← 今年です
共同住宅(用途コード40)の報告年 2024年→次は2027年(令和9年度)5月1日〜10月31日
手の届く範囲の打診 おおむね6か月から3年以内に一度
外壁の全面打診等 おおむね10年に一度

(出典:中央区「建築物等の定期報告」(掲載日:2026年5月11日)、国土交通省「定期報告制度における外壁のタイル等の調査について」)


令和8年度に報告年を迎えるのは、どの建物か

中央区の定期報告は、建物の用途と規模で決まる「用途コード」ごとに報告時期が定められています。区が公開している定期報告対象一覧表(令和8年度版)から、令和8年(2026年)5月1日〜10月31日が報告期間となる用途を抜き出すと、次のとおりです。

用途コード 用途 規模要件(いずれかに該当)
31 百貨店、マーケット、物品販売業を営む店舗(毎年報告のものを除く) 地階または3階以上の階の当該用途部分が100㎡超/当該用途部分の合計が500㎡以上
32 展示場、キャバレー、ナイトクラブ、バー、ダンスホール、遊技場、公衆浴場、待合、料理店、飲食店 地階または3階以上の階の当該用途部分が100㎡超/当該用途部分の合計が500㎡以上
33 複合用途建築物(共同住宅等の複合用途および事務所等のものを除く) 3階以上の階の当該用途部分が100㎡超/当該用途部分の合計が500㎡超
34 事務所その他これに類するもの 当該用途部分の合計が1,000㎡超。ただし5階建て以上かつ延べ面積2,000㎡超の建築物のうち、3階以上の階の当該用途部分が100㎡超のものに限る

(出典:中央区「建築物等の定期報告」)

中央区がどういう街かを思い浮かべてください。銀座、日本橋、京橋、八重洲、茅場町。事務所・店舗・飲食店・複合用途——令和8年度に報告年を迎える用途が、そのまま中央区の主力ストックです。

私が中央区のオーナーさまに毎年申し上げているのは、この一点です。3年に1回の報告年は「その年になってから動く」のでは遅い。調査で「要是正」が出れば、改善工事の段取りが要ります。全面打診の年に当たっていれば、仮設の手配が要ります。9月に気づいて10月31日に間に合わせるのは、正直、綱渡りです。

一方で、共同住宅(用途コード40:5階以上の階の当該用途部分が100㎡超、かつ当該用途部分の合計が1,000㎡超)は2024年が報告年でしたので、次は令和9年度(2027年5月1日〜10月31日)です。マンション管理組合さまにとって令和8年度は「準備の年」にあたります。


12条第1項と第3項——混同されやすいので整理します

第12条第1項:特定建築物定期調査

建築物そのもの——敷地、構造、防火区画、避難施設、そして外壁——を調べるのが第1項です。中央区は、ホテル、百貨店、病院、事務所、共同住宅などの特定建築物について、所有者・管理者に調査と報告を義務づけています。

外壁打診調査が登場するのは、この第1項の中です。

第12条第3項:防火設備・建築設備・昇降機等の定期検査

一方、設備側は第3項です。中央区の場合、それぞれ受付窓口が異なります。

種別 主な対象 報告時期 受付機関
防火設備 随時閉鎖式防火扉、防火シャッター等(防火ダンパーを除く) 毎年(用途コードにより締切が異なる) 公益財団法人 東京都防災・建築まちづくりセンター
建築設備 換気設備、排煙設備、非常用の照明装置、給排水設備 毎年 一般財団法人 日本建築設備・昇降機センター
昇降機等 エレベーター、エスカレーター、小荷物専用昇降機 毎年(遊戯施設等は6か月ごと) 一般社団法人 東京都昇降機安全協議会

(出典:中央区「建築物等の定期報告」)

なお、共同住宅の住戸内は定期報告の対象から除かれます。「室内に立ち入られるのか」というご質問をよくいただきますが、対象外です。

令和7年7月1日施行の制度見直しにご注意

見落とされがちな新しい動きがあります。令和6年国土交通省告示第974号および令和7年国土交通省告示第53号により、定期報告の検査対象・検査項目・検査方法等の見直しが行われ、令和7年7月1日に施行されています。

東京都内の各行政庁は基本的に国の告示改正に従いつつ、常時閉鎖式防火扉については引き続き特定建築物定期報告にて報告を求めるなど、一部で独自の措置を設けています(出典:中央区「建築物等の定期報告」)。

つまり、前回(3年前)と同じ感覚で調査を発注すると、項目が合わない可能性があります。調査資格者に「令和7年7月施行の見直しを反映した内容か」を必ず確認してください。


中央区固有の実務——ここでつまずく方が多い3点

つまずき1:報告書は「区役所」ではなく「受付機関」へ

千代田区など他区の感覚で「区の窓口に持っていけばいい」と思っていると、差し戻されます。中央区では、特定建築物および防火設備の定期報告の受付は公益財団法人 東京都防災・建築まちづくりセンターが代行しています。

項目 内容
受付機関 公益財団法人 東京都防災・建築まちづくりセンター
所在地 新宿区西新宿七丁目7番30号 小田急西新宿O-PLACE 2階
電話(特定建築物) 03-5989-1929
電話(防火設備) 03-5989-1937

建築設備は日本建築設備・昇降機センター(03-3591-2421)、昇降機等は東京都昇降機安全協議会(03-6304-2225)です。種類によって窓口が3つに分かれている——これが中央区の実務上の第一関門です。

つまずき2:整理番号がないと、そもそも受け付けてもらえない

特定建築物および防火設備の定期報告には整理番号が必要です。整理番号が付番されていない建築物は、報告書を出しても受付されません。

新規取得は、区の登録用紙に記入のうえ電子申請で提出します(建築課窓口・郵送も可)。竣工したばかりの物件、あるいは相続や売買で取得した物件で「前所有者の時代に登録されていなかった」ケースは、実際にあります。

締切間際に整理番号がないことに気づく——これが一番きつい。報告年の建物は、まず整理番号の有無から確認してください。

つまずき3:届出の提出先は「延べ面積10,000㎡」で分かれる

所有者の変更、建物の除却・使用休止、再使用などの届出は、報告書とは別ルートです。

  • 延べ面積 10,000㎡以下 → 中央区 都市整備部建築課建築監察係(〒104-8404 築地一丁目1番1号 本庁舎5階/電話 03-3546-5462)
  • 延べ面積 10,000㎡超 → 東京都

中央区は日本橋・八重洲・京橋の再開発で延べ面積1万㎡超の大規模ビルが増え続けています。建て替えや権利変換で規模が変わった建物は、届出先そのものが変わっている可能性があります。

なお、中央区の建築課で特定建築物等の定期調査報告書の審査を所管しているのは建築監察係(03-3546-5455)です(出典:中央区「建築課」)。判断に迷ったら、ここへ電話するのが最短です。


全面打診が必要になる4つのトリガー

ここからが外壁の話です。

平成20年国土交通省告示第282号では、外装仕上げ材等におけるタイル、石貼り等(乾式工法によるものを除く)、モルタル等の劣化・損傷の状況の調査について、二段構えが定められています(出典:国土交通省)。

  1. おおむね6か月から3年以内に一度、手の届く範囲の打診等
  2. おおむね10年に一度、落下により歩行者等に危害を加えるおそれのある部分の全面的な打診等

この「10年」が動き出すトリガーは、実務上おおよそ次の4つです。

トリガー1:竣工から10年が経過した。 最も基本的なパターンです。竣工から10年を経てから最初に迎える定期調査で、全面打診等が求められます。

トリガー2:外壁改修から10年が経過した。 一度大規模修繕で外壁を改修していれば、そこから10年で再びカウントが回ります。

トリガー3:前回調査で「要是正」「要調査」が出ている。 手の届く範囲の打診や目視で異常が認められた場合、落下により歩行者等に危害を加えるおそれのある部分について全面的な打診等が求められます。10年を待たずに前倒しになります。

トリガー4:実際に落下や剥離が発生した。 1枚でも落ちたら、その壁面は「異常が認められた」状態です。

中央区で、この判断が特に重い理由

中央区の歩道と建物の距離を思い出してください。銀座中央通り、日本橋の交差点、築地場外。歩行者と外壁の距離が、他の街より近い。

「落下により歩行者等に危害を加えるおそれのある部分」——告示のこの表現は、中央区では文字どおりの意味を持ちます。一日に何万人が建物の足元を歩いているか。その数字を思えば、全面打診の範囲を安易に狭めるべきではない、というのが私の考えです。


中央区の建物ストックが示す、これからの10年

数字を見ておきましょう。

中央区が令和5年7月に策定した「中央区マンション管理適正化推進計画」によれば、区内の状況は次のとおりです。

指標 数値
分譲マンション棟数(令和4年3月時点) 977棟
地域別の棟数割合 日本橋48.4%/京橋34.9%/月島16.8%
地上10階以上の高層マンションの割合 約8割(10〜14階が71.0%)
マンション居住率(令和2年国勢調査) 94.2%
築45年以上の棟数(令和3年) 54棟
同(令和13年予測) 231棟(約4.3倍)

この表から、私が読み取っていることを3つ申し上げます。

論点1:10階以上が8割——足場が「高くつく」街

中央区の分譲マンションは、地上10〜14階が71.0%を占めます。高さが増えれば、足場の架設費・解体費は当然に増えます。調査のためだけに全面足場を組むという判断は、中央区では特に費用対効果が厳しくなります。

論点2:日本橋地域に半数——敷地に余白がない

全棟数の48.4%が日本橋地域に集中しています。日本橋・人形町・小伝馬町あたりの敷地条件をご存じの方なら、想像がつくはずです。隣地境界まで建物が迫り、前面道路は狭く、歩行者は多い。足場を建てるには道路占用許可や隣地使用承諾の調整が要り、着工までに時間がかかります。

論点3:高経年マンションが10年で4.3倍——「大規模修繕の波」が来る

築45年以上が令和3年の54棟から、令和13年には231棟へ。約4.3倍です。これは、全面打診と大規模修繕が同時に押し寄せる10年が始まるということでもあります。職人も足場も有限です。波の後ろに並ぶほど、条件は悪くなります。


実務コスト感——仮設の選び方で調査費は大きく変わる

外壁の全面打診等は、手の届かない高さまで人が近づかなければできません。そのための「仮設」の選び方で、費用構造がまったく変わります。

一般的に、外壁調査の単価は使用する仮設方法によって変動し、足場の設置を伴う場合が最も費用が高く、次いでゴンドラ、ロープアクセス、高所作業車といった順に変動する傾向があるとされています(民間の調査会社各社が公開している費用解説による一般的な傾向)。

公的な統一単価が存在する領域ではありませんので、金額を断定することはできません。構造の違いだけ整理しておきます。

仮設方法 費用構造の特徴 中央区での向き・不向き
仮設足場 架設・解体・養生で固定費が大きい。調査だけのために組むと割高になりやすい 敷地に余白がある物件。大規模修繕と同時なら合理的
ゴンドラ 屋上に設置スペースと固定条件が必要。設置・移動に時間がかかる 屋上に既存ゴンドラ設備がある大型ビル
ロープアクセス(無足場工法) 仮設の固定費が小さい。人が下りられる面なら直接打診できる 敷地に余白がない物件、営業を止めたくない物件
高所作業車 道路占用・搬入経路の確保が前提。届く高さに限界 低中層かつ前面道路に余裕がある物件

同じ建物で複数の仮設方法を比較見積りする——これが最も確実な判断方法です。「足場一択」で見積りを取ってしまうと、比較対象がないまま金額を飲むことになります。

ロープアクセス工法の安全基準や技術的な背景については、姉妹サイトのロープアクセスドットコムで詳しく解説しています。


ロープアクセス工法が中央区の12条打診で選ばれる4つの理由

ここからは私の専門分野の話をさせてください。

明誠は、通常の足場仮設による工事、無足場工法であるロープアクセス、そしてその両方を部位ごとに使い分けるハイブリッド工法の3つの工法から建物にとって最適なものをご提案できる、日本でも数少ない会社です。詳しくは明誠のロープアクセス工法のご紹介と私たちの考え方をご覧ください。

理由1:仮設の固定費が小さい

足場は「組んで、解体する」という作業そのものに大きなコストと日数がかかります。ロープアクセスは屋上にアンカーを取り、そこから人が下りる。10階以上が8割を占める中央区では、この差が金額として大きく出ます。

理由2:営業を止めずに調査できる

これは中央区で最も効く理由だと思っています。

1階が店舗、中層階がオフィス、上層階が住宅。中央区にはこの構成のビルが本当に多い。足場を組んで建物全体をメッシュシートで覆えば、店舗の看板は隠れ、飲食店の客足は落ち、オフィスの窓は暗くなります。テナントから賃料の減額交渉が来れば、それはオーナーさまの実損です。

ロープアクセスなら建物を覆いません。看板は見えたまま、窓も塞ぎません。足場からの侵入という防犯上の不安も生じにくい。銀座や日本橋のように「建物を止められない」立地では、この差が決定的です。

理由3:複雑な形状・狭小敷地に対応しやすい

セットバックした上層階、入り組んだバルコニー、隣地との数十センチの隙間。足場が建てられない面でも、ロープなら下りられる場合があります。

私が20年やってきて一番悔しい思いをするのは、「足場が建てられないので、その面は目視で済ませました」という調査報告書を見たときです。見ていない面から、タイルは落ちます。

理由4:打診という「本物のデータ」が取れる

令和4年1月18日付けで平成20年国土交通省告示第282号が一部改正され、打診以外の調査方法として、無人航空機(ドローン)による赤外線調査であって、テストハンマーによる打診と同等以上の精度を有するものが明確化されました。同等以上の精度の判定にあたっては、一般財団法人日本建築防災協会が取りまとめたガイドラインを参照することとされています(出典:国土交通省)。

ドローン赤外線は、条件が整えば有力な選択肢です。私も否定しません。ただし中央区の空を考えてください。ビルとビルの離隔が近く、ビル風が強く、上空の飛行調整も簡単ではありません。

その点、ロープアクセスによる打診は、人の耳で「浮き」の音を拾う方法です。調査員が壁に触れ、テストハンマーで叩き、その場でチョークを入れて記録できる。浮きを見つけた瞬間に周辺を追加で叩いて範囲を確定できる。この機動性は、遠隔からの調査にはない強みです。

さらに言えば、調査と是正を同じ体制でつなげられるのがロープアクセスの最大の利点です。浮きを見つけたその日のうちに、同じ職人がアンカーピンニングの下地処理に入れる。調査会社と施工会社が別々だと、ここで一度仮設が解体され、また架け直すことになります。

ロープアクセスの安全基準や施工事例はロープアクセスドットコムにまとめてあります。工法を選ぶ前に一度目を通していただけると、判断の軸が定まるはずです。


12条点検を大規模修繕と一体化するメリット

私はこれを、必ずワンセットでご提案するようにしています。

メリット1:仮設費の二重払いを避けられる。 12条点検の全面打診で足場を組み、その2年後に大規模修繕でまた足場を組む。全面打診の周期(おおむね10年)と大規模修繕の周期(おおむね12〜15年)は、無関係ではなく揃えられるものです。長期修繕計画を見直すときに、報告年度を線表に書き込んでみてください。

メリット2:調査結果が、そのまま修繕の設計根拠になる。 全面打診で作成した浮き・欠損の展開図は、大規模修繕の数量拾いの基礎資料そのものです。別々に発注すれば、同じ調査を2回やることになります。

メリット3:合意形成が進みやすい。 「法律で決まっているから調査します」だけでは総会は動きません。「外壁の浮きが◯㎡見つかりました。同じ仮設で修繕まで行えば、別々にやるより仮設費が1回分で済みます」と説明すれば、話は前に進みます。理事会が動くのは、危機感と数字が揃ったときです。

分譲マンションの管理組合さま向けのご提案は管理組合さま向けサービス、ビル・収益物件のオーナーさま向けはビルオーナーさま向けサービスにまとめています。

参考:外壁タイルの「落下防止措置」に関する国の動き

外壁タイルまわりでは、国土交通省から比較的新しい技術的助言が出ています。令和7年6月30日付 国住参建第1579号「建築物の定期調査報告における落下防止措置付き外壁タイルの取扱いについて」【最終改正】が公表されています(出典:国土交通省)。

落下防止措置を施したタイルの定期調査上の取扱いは、修繕方法の選定にも関わる論点です。修繕方針を決める段階で、設計者・調査資格者と最新の助言内容を確認されることをおすすめします。


まとめ——中央区のオーナーさま・理事長さまが今週動くこと3点

1. 自分の建物の「用途コード」を確認する

事務所(34)・店舗(31)・飲食等(32)・複合用途(33)に該当するなら、令和8年10月31日が今年の報告期限です。区の定期報告対象一覧表で規模要件を突き合わせてください。判断に迷えば建築課建築監察係(03-3546-5455)へ。

2. 整理番号の有無を確認する

整理番号がなければ報告は受け付けられません。相続・売買で取得した物件、竣工間もない物件は特にご注意ください。電子申請で取得できます。

3. 竣工日または前回外壁改修からの経過年数を数える

10年を超えているなら、今回の報告で全面打診の対象になる可能性が高い。足場・ゴンドラ・ロープアクセス・高所作業車で比較見積りを取る——この一手間が、そのまま費用差になります。

12条点検は、書類を出すための作業ではありません。建物から何も落ちない状態を作るための総点検です。人の往来が日本有数の中央区では、その意味がひときわ重くなります。

調査の方法、仮設の選び方、大規模修繕との統合タイミング。ご相談だけでも遠慮なくお声がけください。お問い合わせはこちらのフォームからどうぞ。


よくある質問(FAQ)

Q1. 中央区の12条点検の報告書は、どこに提出しますか。
A. 特定建築物および防火設備は、公益財団法人 東京都防災・建築まちづくりセンター(新宿区西新宿七丁目7番30号 小田急西新宿O-PLACE 2階/特定建築物 03-5989-1929、防火設備 03-5989-1937)が受付機関です。建築設備は一般財団法人 日本建築設備・昇降機センター、昇降機等は一般社団法人 東京都昇降機安全協議会となります(出典:中央区)。

Q2. 事務所ビルの報告は今年ですか。
A. 用途コード34(事務所その他これに類するもの)は3年ごとの報告で、令和8年(2026年)5月1日から10月31日までが報告期間です。規模要件は、当該用途部分の合計が1,000㎡超で、かつ5階建て以上・延べ面積2,000㎡超の建築物のうち3階以上の階の当該用途部分が100㎡超のものに限られます。

Q3. マンション(共同住宅)の次の報告はいつですか。
A. 用途コード40(下宿、共同住宅、寄宿舎)は3年ごとで、直近は2024年5月1日〜10月31日が報告期間でした。したがって次は令和9年度(2027年)5月1日〜10月31日です。令和8年度は準備期間として使うのが現実的です。

Q4. 外壁の全面打診は何年ごとですか。
A. 平成20年国土交通省告示第282号により、おおむね10年に一度、落下により歩行者等に危害を加えるおそれのある部分について全面的な打診等を行うこととされています。加えて、おおむね6か月から3年以内に一度、手の届く範囲の打診等が求められます(出典:国土交通省)。

Q5. マンションの部屋の中も調査されますか。
A. 共同住宅の住戸内は定期報告の対象から除かれます。同様に、住戸内のホームエレベーター等も報告対象外です。

Q6. 全面打診に必ず足場が必要ですか。
A. 足場以外に、ゴンドラ、ロープアクセス(無足場工法)、高所作業車などの選択肢があります。費用は仮設方法によって変動し、足場を伴う場合が最も高くなる傾向があるとされています。建物形状・立地・調査面積によって最適解が変わりますので、複数の仮設方法で比較見積りを取ることをおすすめします。


この記事のポイントまとめ

  • 中央区の特定行政庁は中央区。ただし報告書の提出先は受付機関(東京都防災・建築まちづくりセンター等)
  • 令和8年度(2026年5月1日〜10月31日)は事務所・店舗・飲食・複合用途の報告年
  • 共同住宅(用途コード40)の次回報告は令和9年度(2027年)
  • 報告には整理番号が必須。ない建物は先に新規取得を
  • 令和7年7月1日施行の制度見直し(令和6年告示974号・令和7年告示53号)を反映した調査かを確認
  • 全面打診はおおむね10年に一度。仮設の選び方で費用は大きく変わる

関連リソース


出典・参考資料


本記事の情報の鮮度について:本記事は2026年9月12日時点で公表されている中央区および国土交通省・東京都の公式情報をもとに執筆しています。制度は年度途中でも改正・運用変更があり得ます。実際に報告・申請される前に、必ず中央区 都市整備部建築課および該当する受付機関へ最新の内容をご確認ください。


執筆者:本間 幸紘(株式会社明誠 代表取締役)
専門領域:マンション大規模修繕/ロープアクセス工法/建物長寿命化計画
実務経験:建設・改修業界 20年以上
所属:一般社団法人 全国建設業支援協会(JCSA)

株式会社明誠について:東京都東大和市を拠点に、通常足場工法・ロープアクセス工法(無足場工法)・ハイブリッド工法の3つから建物に最適な工法をご提案できる改修会社です。日本初のロープアクセス工事フランチャイズを展開し、塗装・防水・タイル・電気・看板などの専門職が加盟しています。

最終更新:2026年9月12日

ロープアクセス工法の詳細解説は、姉妹サイトロープアクセスドットコム(https://rope-access-method.com/)をご覧ください。

【令和8年度版】千代田区の12条点検・外壁打診調査|対象建築物と全面打診10年ルール

【令和8年度版】千代田区の12条点検・外壁打診調査|対象建築物と全面打診10年ルール

2026年9月12日 更新

「うちのビル、12条点検って何年おきにやるんでしたっけ」——千代田区内のオーナーさまから、この夏だけで3件、同じ質問をいただきました。

この記事で答えるのは、「千代田区にあるマンション・ビルは、いつ・誰に・どこへ12条点検を報告し、外壁の全面打診はいつ必要になるのか」という一点です。

私は株式会社明誠の本間幸紘と申します。東京都東大和市を拠点に、20年近く建物の外壁と向き合ってきました。足場を組む工事も、ロープ1本でぶら下がる工事も、両方やってきた人間として、今日は制度の話を「現場でどう効いてくるか」まで含めてお話しします。


結論:千代田区で12条点検の対象になる建物と、全面打診が必要になるタイミング

先に結論から申し上げます。

論点 千代田区での答え
誰が指定するか 千代田区長(特定行政庁) が指定した一定規模以上の建築物
根拠法令 建築基準法第12条第1項、千代田区建築基準法施行細則第8条
誰が調査するか 一級建築士・二級建築士・特定建築物調査員
報告先 原則として千代田区 環境まちづくり部 建築指導課 安全対策担当(例外あり/後述)
共同住宅の報告周期 3年ごと。東京都の報告年次は令和6年度・令和9年度・令和12年度
手の届く範囲の打診 おおむね6か月から3年以内に一度
外壁の全面打診等 おおむね10年に一度(竣工・外壁改修等から10年を経た後の最初の調査時)

(出典:千代田区「定期調査報告等」、東京都都市整備局「3.定期報告対象建築物・建築設備等及び報告時期一覧」、国土交通省「定期報告制度における外壁のタイル等の調査について」)

ここで千代田区のオーナーさま・理事長さまに強く申し上げたいことが一つあります。

共同住宅(マンション)の次の報告年度は令和9年度です。つまり令和8年度(2026年度)は、多くの分譲マンションにとって「報告の谷間」にあたります。

私の経験上、この谷間の年こそが一番危ない。「今年は報告がないから」と何もしないまま令和9年5月を迎え、慌てて調査会社を探し、全面打診が必要だと言われて仮設費の見積りに驚く——この流れを、私は何度も見てきました。

令和9年度の報告受付は令和9年5月1日から10月31日までです。逆算すると、調査・是正・大規模修繕との調整を落ち着いて進められるのは、まさに今からの1年間です。


建築基準法第12条とは何か——「1項の調査」と「3項の検査」は別物です

まず用語を整理させてください。ここを混同されている管理組合さまが本当に多いのです。

第12条第1項:特定建築物定期調査(建物本体)

建築物そのもの——敷地、構造、防火区画、避難施設、そして外壁——を調べるのが第1項の定期調査です。千代田区では、区長が指定した一定規模以上の建築物の所有者または管理者が、調査資格者に調査させ、その結果を特定行政庁に報告する義務を負います(千代田区)。

外壁打診調査が出てくるのは、この第1項の中です。

第12条第3項:防火設備・建築設備・昇降機等の定期検査

一方、第3項に基づくのは設備側の検査です。千代田区建築基準法施行細則第10条第1項および第11条により、次のものが対象になります。

  • 防火設備:防火扉、防火シャッター、耐火クロススクリーン、ドレンチャー等(熱や煙で作動するもの)
  • 建築設備:換気設備、排煙設備、非常用の照明装置、給排水設備
  • 昇降機等:エレベーター(ホームエレベーターを除く)、エスカレーター、小荷物専用昇降機(テーブルタイプを除く)、いす式階段昇降機など

窓口も分かれています。特定建築物と防火設備は建築指導課 安全対策担当、建築設備と昇降機等は建築指導課 設備審査係です。

なぜこの制度があるのか

千代田区の公式ページには、制度の趣旨がはっきり書かれています。適正な維持保全がなされていない状態で地震や火災が起きれば大きな災害を招く恐れがある、という考え方です。区は令和3年12月17日の大阪市北区のビル火災を例として挙げています。

正直に申し上げます。私たち施工側から見ると、12条点検は「お上に出す書類仕事」ではありません。落下事故が起きる前に、落ちそうな場所を見つけ出すための最後の網です。タイル1枚、モルタル片ひとかけらでも、10階から落ちれば人の命に関わります。

報告しないとどうなるか

定期報告は建築基準法上の義務です。報告を怠ったり虚偽の報告をしたりした場合には、同法の罰則規定の対象となり得ます。加えて、外壁が落下して通行人に被害が及べば、民法第717条の工作物責任という別の問題も待っています。

私はいつも理事長さまに、「罰則より先に、事故そのものを考えましょう」とお伝えしています。


全面打診が必要になる4つのトリガー

ここからが本題です。「うちは全面打診が要るのか、要らないのか」を見分ける判断軸を整理します。

平成20年国土交通省告示第282号では、外装仕上げ材等におけるタイル、石貼り等(乾式工法によるものを除く)、モルタル等の劣化・損傷の状況の調査について、次の二段構えが定められています(国土交通省)。

  1. おおむね6か月から3年以内に一度、手の届く範囲の打診等
  2. おおむね10年に一度、落下により歩行者等に危害を加えるおそれのある部分の全面的な打診等

この「10年」が動き出すトリガーは、実務上おおよそ次の4つです。

トリガー1:竣工から10年が経過した

最も基本的なパターンです。竣工から10年を経てから最初に迎える定期調査の際に、全面打診等が求められます。

千代田区のマンションで言えば、平成28年(2016年)前後に竣工した物件が、令和9年度の報告でちょうどこの山に当たります。

トリガー2:外壁改修から10年が経過した

一度大規模修繕で外壁を改修していれば、そこから10年で再びカウントが回ります。前回の大規模修繕が平成28〜29年だったマンションは要注意です。

トリガー3:前回調査で「要是正」「要調査」の判定が出ている

手の届く範囲の打診や目視で異常が認められた場合、落下により歩行者等に危害を加えるおそれのある部分について、全面的な打診等による確認が求められます。10年を待たずに前倒しになるパターンです。

トリガー4:実際に落下や剥離が発生した

言うまでもありません。1枚でも落ちたら、その壁面は「異常が認められた」状態です。

見落とされがちな「初回免除」の落とし穴

新築・改築後の特定建築物には「初回免除」という仕組みがあります。検査済証の交付を受けた日の属する年度の翌年度以降の2回目の報告時期から報告が必要になる、というものです(東京都都市整備局)。

都のページにある3年周期の共同住宅の例では、令和5年度中に検査済証が交付された建築物は令和6年度の報告が免除となり、令和9年度(令和9年5月1日から10月31日まで)から報告が必要になるとされています。

ここが落とし穴です。検査済証の取得時期によって、最初の報告までの期間には幅が出ます。「新築だからまだ関係ない」と思っていた築11年のマンションが、実は令和9年度が初回報告で、しかも築10年超なので全面打診の対象——という組み合わせが起こり得るのです。

私はこの確認を、必ず検査済証の日付から逆算するようにしています。


千代田区固有の運用——提出先が2つに分かれます

ここは千代田区のオーナーさまが最も間違えやすいところです。

原則:千代田区役所へ

千代田区内の特定建築物の定期調査報告は、原則として区の窓口が所管します。

項目 内容
担当課(特定建築物・防火設備) 環境まちづくり部 建築指導課 安全対策担当
電話 03-5211-4315
担当課(建築設備・昇降機等) 環境まちづくり部 建築指導課 設備審査係
電話 03-5211-4311
所在地 〒102-8688 東京都千代田区九段南1-2-1
開庁時間 月〜金 8時30分〜17時(祝日・年末年始を除く)

(出典:千代田区「定期調査報告等」)

区のページからは、建築物除却使用休止届/建築物再使用届/建築物等の所有者等変更届、特定建築物定期調査報告に関する改善計画書/完了報告書などの様式がダウンロードできます。所有者が変わったときの変更届を出し忘れて、報告通知が旧所有者に届き続けている——という事例も、私は実際に見ています。

例外:敷地内に延べ面積1万㎡超の建築物がある場合は「東京都」へ

ここが千代田区で特に効いてくるポイントです。

東京都都市整備局によれば、特別区の区域であっても、敷地内に延べ面積が1万㎡を超える建築物がある場合は、東京都 市街地建築部 建築企画課が所管となります。

  • 特定建築物・防火設備:建築安全担当 直通 03-5388-3344
  • 建築設備・昇降機等:設備担当 直通 03-5388-3349

千代田区は大手町・丸の内・大手門・飯田橋・秋葉原と、延べ面積1万㎡を超える大規模建築物が23区の中でも際立って多いエリアです。大規模複合ビルや大規模タワーマンションを保有されているオーナーさまは、そもそも提出先が区ではなく都になる可能性が高い。ここを間違えると、受付そのものが差し戻されます。

都所管分は電子報告が可能に

東京都所管の定期報告については、東京都定期調査・検査報告電子システムによるオンライン提出の運用が始まっています。事前に都のシステムのアカウント登録を行い、その後、受付機関である公益財団法人 東京都防災・建築まちづくりセンターのシステムからアカウント登録のうえ提出する流れです(東京都都市整備局「5.提出先(受付機関)」)。

収受印付き副本の返却は行われませんが、収受印のない報告書データを都のシステムからPDFでダウンロードでき、都の受理書は受付機関から交付されるとされています。

ただし、これは東京都所管の定期報告に関する説明です。千代田区所管分の提出方法や書式は区の運用に従いますので、実際の提出前に建築指導課へご確認いただくのが確実です。区によって書式や提出方法が異なる場合がある、という注意は東京都のページにも明記されています。

報告時期は「用途」と「規模」で決まる

特定建築物の報告年度は、建物の用途と規模によって定められた用途コードで決まります。東京都の一覧では、共同住宅は3年ごとで、報告年次は令和6年度・令和9年度・令和12年度の並びです。

用途判断に迷う場合は、①全体の階数・面積、②各用途に供する面積、③各階の用途等を整理したうえで所管の特定行政庁に問い合わせるよう、東京都が案内しています。千代田区には店舗・事務所・住宅が同居した複合用途のビルが多く、この判断が一筋縄でいかないケースが少なくありません。


千代田区の建物ストックから見た、実務上の論点

数字で見ておきましょう。

公益財団法人まちみらい千代田が実施した令和5年度千代田区マンション実態調査では、区内の分譲マンション509棟を対象にアンケートおよび現地調査が行われました(まちみらい千代田・2024年7月17日公開)。

509棟。この数字を、私は「決して多くはないが、一棟あたりの難易度が突出して高い集団」と受け止めています。理由は3つあります。

論点1:敷地に余白がない

千代田区の物件は、隣地境界ギリギリまで建っているものが多い。番町・麹町の高級マンションでも、神田・岩本町の中規模マンションでも、足場を建てようとすると隣地の協力が要る、あるいは歩道を占用しなければならない、という状況が頻繁に起こります。

私が神田で見た現場では、建物の三方が公道と隣地に囲まれ、足場を組むために道路使用許可と隣地使用承諾の両方を取る必要がありました。この調整だけで、着工までに数か月を要したと伺っています。

論点2:通行量が多い=落下リスクの帰結が重い

「落下により歩行者等に危害を加えるおそれのある部分」——告示のこの表現は、千代田区では文字通りの意味を持ちます。オフィスワーカー、観光客、通学路。人通りが少ない立地とは、事故が起きたときの結果の重さが違います。

だからこそ、全面打診の範囲判断を安易に狭めるべきではない、というのが私の考えです。

論点3:オフィス併設・テナント入居で「止められない」

千代田区のビルは、1階が店舗、中層階がオフィス、上層階が住宅という複合構成が珍しくありません。足場を組んで建物全体をメッシュシートで覆えば、店舗の看板は隠れ、オフィスの窓は暗くなり、テナントから減額交渉が来る——これは収益不動産オーナーさまにとって実損です。

12条点検の外壁調査は、建物の稼働を止めずにどう実施するか、が千代田区では最大の論点になります。


実務コスト感——仮設の選び方で調査費は大きく変わる

外壁の全面打診等は、手の届かない高さまで人が近づかなければできません。そのための「仮設」をどう選ぶかで、費用構造がまったく変わります。

一般的に、外壁調査の単価は使用する仮設方法によって変動し、足場の設置を伴う場合が最も費用が高く、次いでゴンドラ、ロープアクセス、高所作業車といった順に変動する傾向があるとされています(民間の調査会社各社が公開している費用解説による一般的な傾向)。

ここは公的な統一単価が存在しない領域ですので、金額を断定することはできません。私の実務感覚として、構造の違いだけ整理しておきます。

仮設方法 費用構造の特徴 千代田区での向き・不向き
仮設足場 架設・解体・養生で固定費が大きい。調査だけのために組むと割高になりやすい 敷地に余白がある物件。大規模修繕と同時なら合理的
ゴンドラ 屋上に設置スペースと固定条件が必要。設置・移動に時間がかかる 屋上に既存ゴンドラ設備がある大型ビル
ロープアクセス(無足場工法) 仮設の固定費が小さい。人が下りられる面なら直接打診できる 敷地に余白がない物件、稼働を止めたくない物件
高所作業車 道路占用・搬入経路の確保が前提。届く高さに限界 低中層かつ前面道路に余裕がある物件

ロープアクセスによる打診調査を扱う事業者の公開情報では、足場を伴う調査に比べて㎡あたりの費用を抑えられた事例が紹介されています。ただし、これは建物形状・階数・調査面積・立地条件によって大きく動く数字ですので、「一律に安くなる」と受け取っていただくのは適切ではありません。同じ建物で複数の仮設方法を比較見積りするのが、最も確実な判断方法です。

ロープアクセス工法の安全基準や技術的な背景については、姉妹サイトのロープアクセスドットコムで詳しく解説しています。


ロープアクセス工法が12条打診で選ばれる理由

ここからは、私の専門分野の話をさせてください。

明誠は、通常の足場仮設による工事、無足場工法であるロープアクセス、そしてその両方を部位ごとに使い分けるハイブリッド工法の3つの工法から建物にとって最適なものをご提案できる、日本でも数少ない会社です。詳しくは明誠のロープアクセス工法のご紹介と私たちの考え方をご覧ください。

12条点検の外壁調査でロープアクセスが選ばれる理由は、主に次の4点です。

理由1:仮設の固定費が小さい

足場は「組んで、解体する」という作業そのものに大きなコストと日数がかかります。調査のためだけに全面足場を架けるのは、費用対効果の面で厳しい判断になりがちです。ロープアクセスは、屋上にアンカーを取り、そこから人が下りる。仮設の固定費を圧縮できます。

理由2:居ながら調査ができる

建物をメッシュシートで覆いません。テナントの看板は見えたまま、住戸の窓も塞ぎません。防犯面の不安——足場から侵入されるのではないかという懸念——も生じにくい。千代田区のように「建物を止められない」立地では、この差が効きます。

理由3:複雑な形状・狭小敷地に対応しやすい

セットバックした上層階、入り組んだバルコニー、隣地との隙間。足場が建てられない面でも、ロープなら下りられる場合があります。私が20年やってきて一番悔しい思いをするのは、「足場が建てられないので、その面は目視で済ませました」という調査報告書を見たときです。

理由4:打診という「本物のデータ」が取れる

ここは大事なところなので、丁寧に申し上げます。

令和4年1月18日付けで平成20年国土交通省告示第282号が一部改正され、打診以外の調査方法として、無人航空機(ドローン)による赤外線調査であって、テストハンマーによる打診と同等以上の精度を有するものが明確化されました。同等以上の精度の判定にあたっては、一般財団法人日本建築防災協会が取りまとめた「定期報告制度における赤外線調査(無人航空機による赤外線調査を含む)による外壁調査ガイドライン」を参照することとされています(国土交通省)。

ドローン赤外線は、条件が整えば有力な選択肢です。私も否定しません。ただし千代田区という土地柄を考えると、飛行に関する調整のハードルは決して低くない。皇居周辺をはじめとする飛行の制約、隣接建物との離隔、風の条件——都心部ならではの難しさがあります。

その点、ロープアクセスによる打診は、人の耳で「浮き」の音を拾う方法です。調査員が壁に触れ、テストハンマーで叩き、その場でチョークを入れて記録できる。浮きを見つけた瞬間に、その周辺を追加で叩いて範囲を確定できる。この機動性は、遠隔からの調査にはない強みだと私は考えています。

さらに言えば、調査と是正を同じ体制でつなげられるのがロープアクセスの最大の利点です。浮きを見つけたその日のうちに、同じ職人がアンカーピンニングの下地処理に入れる。調査会社と施工会社が別々だと、ここで一度仮設が解体され、また架け直すことになります。

ロープアクセスの一般的な安全基準や事例はロープアクセスドットコムにまとめてあります。工法選定の前に一度目を通していただけると、判断の軸が定まるはずです。


12条点検を大規模修繕と一体化するメリット

私はこれを、必ずワンセットでご提案するようにしています。

メリット1:仮設費の二重払いを避けられる

12条点検の全面打診で足場を組み、その2年後に大規模修繕でまた足場を組む。これほどもったいない話はありません。全面打診の周期(おおむね10年)と、大規模修繕の周期(おおむね12〜15年)は、無関係ではなく揃えられるものです。

長期修繕計画を作り直すときに、12条点検の報告年度を線表に書き込んでみてください。多くのマンションで、「1回分の仮設を統合できる」ポイントが見つかります。

メリット2:調査結果が、そのまま修繕の設計根拠になる

全面打診で作成した浮き・欠損の展開図は、大規模修繕の数量拾いの基礎資料そのものです。別々に発注すれば、同じ調査を2回やることになります。

メリット3:管理組合の合意形成が進みやすい

「法律で決まっているから調査します」だけでは、総会は動きません。しかし「12条点検で外壁の浮きが◯㎡見つかりました。このまま放置すると通行人への落下リスクがあります。同じ仮設で修繕までやれば、別々にやるより仮設費が1回分で済みます」と説明すれば、話は前に進みます。

私の経験上、理事会が動くのは危機感と数字が揃ったときです。12条点検は、その両方を提供してくれる制度でもあります。

分譲マンションの管理組合さま向けのご提案は管理組合さま向けサービス、ビル・収益物件のオーナーさま向けはビルオーナーさま向けサービスにまとめています。

参考:外壁タイルの「落下防止措置」に関する国の動き

外壁タイルまわりでは、国土交通省から比較的新しい技術的助言が出ています。令和7年6月30日付 国住参建第1579号「建築物の定期調査報告における落下防止措置付き外壁タイルの取扱いについて」【最終改正】、および令和8年7月21日付 事務連絡「落下防止措置付き外壁タイルの性能検証法について」が公表されています(国土交通省)。

落下防止措置を施したタイルの定期調査上の取扱いは、修繕方法の選定にも関わる論点です。修繕方針を決める段階で、設計者・調査資格者と最新の助言内容を確認されることをおすすめします。


まとめ——千代田区のオーナーさま・理事長さまが今週動くこと3点

長くなりましたので、行動に落とし込みます。

1. 検査済証の交付日と、前回の定期報告の年度を確認する

書類を1枚探すだけです。検査済証の交付年度から、初回免除を踏まえた報告年度が逆算できます。共同住宅なら、次は令和9年度(令和9年5月1日〜10月31日)が本番です。

2. 延べ面積が1万㎡を超えるかどうかを確認する

超えていれば提出先は東京都(市街地建築部 建築企画課/03-5388-3344)、超えていなければ千代田区(建築指導課 安全対策担当/03-5211-4315)です。ここを確認しておくだけで、来年の慌ただしさがひとつ減ります。

3. 前回の大規模修繕からの経過年数を、長期修繕計画に重ねてみる

外壁改修から10年が近いなら、全面打診と次回大規模修繕を一体で考える価値があります。仮設を1回に統合できるかどうか、線表の上で確認してみてください。

12条点検は、書類を出すための作業ではありません。建物から何も落ちない状態を作るための、10年に一度の総点検です。千代田区のように人の往来が多い街では、その意味がひときわ重くなります。

調査の方法、仮設の選び方、大規模修繕との統合タイミング。ご相談だけでも遠慮なくお声がけください。総会の前段階の整理だけでも、お力になれることがあります。お問い合わせはこちらのフォームからどうぞ。


よくある質問(FAQ)

Q1. 千代田区の12条点検は、どこに報告すればよいですか。
A. 原則は千代田区 環境まちづくり部 建築指導課 安全対策担当(03-5211-4315)です。ただし敷地内に延べ面積1万㎡を超える建築物がある場合は、東京都 市街地建築部 建築企画課(建築安全担当/03-5388-3344)が所管となります(出典:千代田区、東京都都市整備局)。

Q2. マンション(共同住宅)の次の報告はいつですか。
A. 東京都の報告年次では共同住宅は3年ごとで、令和6年度・令和9年度・令和12年度の並びです。令和9年度の報告期間は令和9年5月1日から10月31日までとされています。令和8年度は報告年度にあたらないケースが多いため、準備期間として使うのが現実的です。

Q3. 外壁の全面打診は何年ごとですか。
A. 平成20年国土交通省告示第282号により、おおむね10年に一度、落下により歩行者等に危害を加えるおそれのある部分について全面的な打診等を行うこととされています。加えて、おおむね6か月から3年以内に一度、手の届く範囲の打診等が求められます(出典:国土交通省)。

Q4. ドローンの赤外線調査で打診の代わりになりますか。
A. 令和4年1月18日付けの告示第282号の一部改正により、無人航空機による赤外線調査であって、テストハンマーによる打診と同等以上の精度を有するものが調査方法として明確化されました。同等以上の精度の判定は、日本建築防災協会がとりまとめたガイドラインを参照することとされています。適用可否は建物条件によりますので、調査資格者にご確認ください。

Q5. 全面打診に必ず足場が必要ですか。
A. 足場以外に、ゴンドラ、ロープアクセス(無足場工法)、高所作業車などの選択肢があります。費用は仮設方法によって変動し、足場を伴う場合が最も高くなる傾向があるとされています。建物形状・立地・調査面積によって最適解が変わりますので、複数の仮設方法で比較見積りを取ることをおすすめします。


この記事のポイントまとめ

  • 千代田区の12条第1項報告は原則として区の建築指導課が窓口
  • 敷地内に1万㎡超の建築物があると提出先は東京都に変わる
  • 共同住宅の次の報告年度は令和9年度(5月1日〜10月31日)
  • 全面打診はおおむね10年に一度、竣工・外壁改修から起算
  • 仮設の選び方で調査費は変わる。比較見積りが最も確実

関連リソース


出典・参考資料


本記事の情報の鮮度について:本記事は2026年9月12日時点で公表されている千代田区および国土交通省・東京都の公式情報をもとに執筆しています。制度は年度途中でも改正・運用変更があり得ます。実際に報告・申請される前に、必ず千代田区 環境まちづくり部 建築指導課および該当窓口へ最新の内容をご確認ください。


執筆者:本間 幸紘(株式会社明誠 代表取締役)
専門領域:マンション大規模修繕/ロープアクセス工法/建物長寿命化計画
実務経験:建設・改修業界 20年以上
所属:一般社団法人 全国建設業支援協会(JCSA)

株式会社明誠について:東京都東大和市を拠点に、通常足場工法・ロープアクセス工法(無足場工法)・ハイブリッド工法の3つから建物に最適な工法をご提案できる改修会社です。日本初のロープアクセス工事フランチャイズを展開し、塗装・防水・タイル・電気・看板などの専門職が加盟しています。

最終更新:2026年9月12日

ロープアクセス工法の詳細解説は、姉妹サイトロープアクセスドットコム(https://rope-access-method.com/)をご覧ください。

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