大規模修繕「12年周期」はもう古い?——高耐久仕様で“18年周期”へ。国も認める「長周期化」を、収益物件オーナーと管理組合は積立金不足の時代にどう使いこなすか【2026年6月】
「うちは築12年だから、そろそろ一回目の大規模修繕です」——理事会でこう言われると、なんとなく「12年でやるのが当たり前」だと思い込んでいる方が、いまも本当に多い。先日、ある大手デベロッパーの新築マンションが「購入者が選ぶSUUMO AWARD 2026」を受賞したというニュースが目にとまった。評価された取り組みのひとつが、屋上防水やシーリングの一部を高耐久仕様にして、大規模修繕工事を従来の12年周期から18年周期へと延ばす、という設計だった(出典:大和ハウス工業「『購入者が選ぶSUUMO AWARD 2026』で2部門の優秀賞を受賞」)。
私はこの記事を読んで、「いよいよ来たな」と思った。長く現場でマンションやビルの修繕に立ち会ってきた人間として、「12年周期」という数字がひとり歩きしていることに、前々から危うさを感じていたからだ。
この記事では、そもそも「12年周期」という常識がどこから来たのか、なぜいま国も業界も「長周期化(修繕周期を延ばすこと)」へ動いているのか、そして収益物件オーナー・管理組合がこの流れをどう使えば修繕積立金不足の時代を乗り切れるのかを、私の現場感覚も交えて整理したい。数字はできるだけ公的な一次情報に基づいて示し、断定は避けて「目安」として扱う。
まず事実関係——「12年周期」は法律でもルールでもない
最初に、いちばん大事な事実をお伝えする。「12年で大規模修繕をしなければならない」という法律もルールも、実は存在しない。
多くの管理組合が拠り所にしているのは、国土交通省の「長期修繕計画作成ガイドライン」だ。このガイドラインは令和6年(2026年の2年前、2024年)6月に改定されており、大規模修繕工事の周期について「部材や工事の仕様等により異なるが、一般的に12年〜15年程度」と示している(出典:国土交通省「長期修繕計画標準様式、長期修繕計画作成ガイドライン等の改定について」)。
ここで見落としてはいけないのは、二つある。ひとつは、ガイドラインはあくまで「目安」であって義務ではないこと。もうひとつは、最新版がすでに「12年」ではなく「12年〜15年程度」と、幅を持たせた書き方に変わっていることだ。
私はいつも理事長さまに、こうお伝えしている。「12年という数字は、出発点であってゴールではありません」と。建物の劣化のスピードは、立地(海沿いか内陸か)、日当たり、使っている材料、前回の工事の丁寧さで大きく変わる。同じ築12年でも、まだ十分もつ建物もあれば、すでに待ったなしの建物もある。数字だけで決めるのは、健康診断を受けずに「年齢が来たから手術しましょう」と言うようなものだ。
ではなぜ「12年」がこれほど常識として定着したのか。理由のひとつは、かつてのガイドラインや施工事例の多くが12年前後を標準としてきたこと。もうひとつは、建築基準法に基づく「特定建築物定期調査」のなかで、竣工後一定年数を経た外壁について全面打診等の調査が求められる、という制度的な節目が「だいたい10年〜12年」のあたりに来るからだ。つまり12年というのは、「外壁を全面的に見なければならない時期」と「足場を架けるなら、ついでにまとめて修繕しよう」という発注側の事情が重なってできた、いわば慣習的な数字にすぎない。慣習であるがゆえに、見直す余地は十分にある。
念のため補足すると、外壁の打診調査などの安全に関わる義務まで「延ばしてよい」という話ではない。延ばせるのは、あくまで塗り替えや防水のやり直しといった「修繕の周期」であって、安全点検の義務は別物だ。ここを混同すると危険なので、最初に線を引いておきたい。
なぜいま「18年周期」へ動くのか——三つの構造要因
では、なぜ「12年」から「15年」「18年」へと、業界全体の重心が動き始めているのか。私が現場で感じている要因は、大きく三つある。
一つ目は、材料が確かに進化したこと。 屋上防水のシート、塗膜防水、外壁の塗料、目地のシーリング——いずれもこの10年〜20年で耐久性が目に見えて上がった。かつて「10年もてば御の字」だった部材が、高耐久仕様なら15年、18年と現実的に視野に入るようになっている。先ほどのSUUMO AWARDの事例も、まさに「屋上防水とシーリングを高耐久仕様にしたから周期を延ばせた」という話だった。材料の進化が、長周期化の土台になっている。
二つ目は、修繕積立金の不足という、待ったなしの財政事情。 国土交通省は同じく令和6年6月に「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」も改定した。そこでは、段階的に積立金を増やしていく「段階増額積立方式」について、初期の額は均等積立とした場合の基準額の0.6倍以上、最終の額は1.1倍以内に収める、という新しい考え方が示された(出典:国土交通省「『マンションの修繕積立金に関するガイドライン』の改定について」)。
これは裏を返せば、「将来いきなり倍以上に値上げするような無理な計画は見直しなさい」という国からのメッセージだ。資材も人件費も上がり続けるなか、積立金は思うように増やせない。だとすれば、工事の「回数」そのものを減らすしかない。30年で2回やる工事を1.7回に減らせれば、それだけで生涯コストは下がる。長周期化は、財政の側からも強く求められているのだ。
三つ目は、環境負荷と「住みながら工事」の負担を減らしたいという意識の変化。 工事のたびに足場を架け、住民は洗濯物も干せず、ベランダも使えない数ヶ月を過ごす。これが12年ごとに来るのと18年ごとに来るのとでは、住み心地もテナントの満足度もまるで違う。収益物件であれば、工事期間中の入居者の不満や退去リスクは、そのまま家賃収入に響く。回数を減らせること自体に、はっきりとした価値がある。
ただし——「ただ延ばす」のは一番危ない
ここからが本題だ。長周期化はいいことずくめに見えるが、私は声を大にして言いたい。「お金がないから、とりあえず工事を先送りする」のと、「計画的に周期を延ばす」のは、まったくの別物だ。
正直に申し上げる。現場で20年やってきて、私が一番悔しい思いをするのは、「先送り」を「長周期化」と取り違えた建物に呼ばれたときだ。点検もせず、ただ予算がないからと工事を遅らせ、気づいたときには防水が切れて躯体(建物の骨組み本体)に水が回り、本来なら表面の補修で済んだはずが、コンクリートの中の鉄筋まで錆びて、修繕費が何倍にも膨らんでいる。こうなると、長周期化どころか、緊急工事で一番高い買い物をする羽目になる。
長周期化が成立する建物には、共通点がある。それは「ちゃんと見ている」ことだ。
- 高耐久の材料を、必要な部位に計画的に使っている
- 定期的に専門家が点検し、劣化の兆候を早期につかんでいる
- 小さな不具合を、小さいうちに部分補修している
逆に言えば、この三点がないまま周期だけ延ばすのは、虫歯を放置して「歯医者に行く間隔を空けました」と言っているのと同じだ。延ばしていいのは、手入れをしている建物だけ。ここを取り違えないでいただきたい。
ひとつ、実際の現場の話をさせていただく。数年前、ある築16年のマンションに呼ばれたことがある。一回目の大規模修繕を「予算がないから」と先送りし続け、当初の計画より4年遅れていた建物だった。下から見上げる限りは、塗装の色あせ程度で大きな問題はなさそうに見えた。ところが、ロープアクセスで職人が壁面に降りて間近で見ると、北側のタイル目地のシーリングがやせて切れ、そこから入った水で、一部のタイルが「浮いて」いた。指で押すと、ぽこぽこと音がする。放置すれば、いずれタイルが剥落して通行人に当たる危険もあった。結局、本来なら数十万円の部分補修で済んだはずの箇所が、広範囲の張り替えに発展し、見積もりは当初の何倍にもなった。理事長さまは「下から見ても全然わからなかった」と肩を落としておられた。私が一番悔しいのは、まさにこういう瞬間だ。「延ばす」こと自体が悪いのではない。「見ずに延ばす」ことが、建物とオーナーの両方を傷つけるのだ。
長周期化を支える鍵は「点検」と「部分補修」——ここで工法が効いてくる
では、点検と部分補修を、どうすればコストをかけずに回せるのか。ここで、私たち明誠がこだわってきた工法選択の話が効いてくる。
従来、マンションの外壁を点検しようと思えば、足場を架けるか、ゴンドラを吊るか、あるいは下から双眼鏡で眺めるしかなかった。足場を架ければ数百万円、ゴンドラも大掛かりだ。「点検のためだけにそんな費用は出せない」——これが、多くの管理組合が点検を後回しにしてきた本当の理由だと、私は思っている。
ここで力を発揮するのが、ロープアクセス工法だ。これは産業用のロープを使って、職人が壁面を上下しながら点検・補修を行う「無足場工法(足場を架けない工法)」である。足場を架けないぶん費用を大きく抑えられ、しかも必要な部位だけをピンポイントで点検・補修できる。
私はこれを、長周期化とワンセットで提案するようにしている。仕組みはこうだ。高耐久材料で大きな工事の周期を延ばす一方で、その間にロープアクセスで定期点検と部分補修を機動的に回す。こうすれば、「延ばす」ことのリスク——気づかぬ間の劣化——を最小限に抑えながら、足場を伴う大規模修繕の回数そのものを減らせる。点検が安く小回りよくできるからこそ、安心して周期を延ばせる。これが、私の考える「正しい長周期化」だ。
収益物件オーナーの損得勘定——戸あたりで見ると景色が変わる
収益物件オーナーの方には、ぜひ「戸あたり・年あたり」で損得を見ていただきたい。
仮に、ある工事の総額が同じだとしても、その効果が12年もつのか18年もつのかで、1年あたりのコストはまるで違う。単純化して言えば、12年周期と18年周期では、同じ工事を「1.5倍長く」効かせられる計算になる。30年というスパンで見れば、大規模修繕の回数が一回減るかどうかは、戸あたりにならせば数十万円単位で効いてくる話だ。
ごく単純化した試算で、景色の違いを見ていただきたい。あくまで考え方を示すための仮の数字であり、実際は建物ごとに大きく変わる点はご了承いただきたい。
| 項目 | 12年周期 | 18年周期(高耐久仕様) |
|---|---|---|
| 60年間の大規模修繕回数(目安) | 約5回 | 約3〜4回 |
| 1回あたりの工事費(仮に1回1.2億円とする) | 1.2億円 | 高耐久材で割増、仮に1.35億円 |
| 60年間の累計工事費(概算) | 約6.0億円 | 約4.7〜5.4億円 |
| 周期間の点検・部分補修 | 任意 | 計画的に必須 |
この表で言いたいのは、「高耐久材で1回あたりは少し高くなっても、回数が減るぶん、長い目で見れば累計の負担は軽くなりうる」ということだ。もちろん、これは点検と部分補修をきちんと回し、計画どおりに周期を延ばせた場合の話。手入れを怠れば、この計算は簡単に崩れる。数字のうまみは、あくまで「正しく延ばせたご褒美」だと考えていただきたい。
戸あたりに引き直すとさらに実感が湧く。仮に100戸のマンションで60年間に1回分の大規模修繕(1.2億円)を減らせたとすれば、戸あたり120万円。月額の積立金に換算すれば、60年で割って戸あたり月1,600円ほどの差になる。たかが月1,600円と思われるかもしれないが、これは「同じ建物の品質を保ったまま」生み出せる差だ。値上げ交渉で住民ともめることを思えば、決して小さくない。
加えて、収益物件には「工事をしていない期間こそが稼ぎどき」という側面がある。足場を架けている数ヶ月は、見栄えも住み心地も落ちる。新規の入居づけにも不利だし、既存入居者の不満もたまる。工事の回数が減るということは、満足度の高い「平常運転」の期間が長くなるということ。これは家賃の維持・空室率の低下という形で、じわじわと収益に効いてくる。
もちろん、注意点もある。高耐久材料は初期費用が一般材より高い。短期で売却を予定している物件なら、その投資を回収しきれないこともある。だからこそ、「この建物を、この先何年保有するのか」という出口戦略とセットで、長周期化が得かどうかを判断する必要がある。私は、ここを抜きに「とにかく高耐久がいい」とは決して言わない。
管理組合が総会前に整理しておきたい五つの質問
6月はマンションの総会シーズンだ。理事会・総会で長周期化の話題が出たとき、最低限これだけは整理しておくと議論が前に進む、という五つの質問を挙げておく。
- いまの長期修繕計画の周期は、何年で組まれているか。 その根拠は「12年が常識だから」になっていないか。
- 前回の工事で、どの部位にどんな材料を使ったか。 高耐久仕様だった部位はあるか。記録は残っているか。
- 直近で、専門家による外壁・防水の点検をいつ行ったか。 点検なしに「延ばす/早める」を議論していないか。
- 積立金の計画は、将来いきなり倍増するような無理な前提になっていないか。 国のガイドラインの考え方(初期0.6倍以上・最終1.1倍以内の目安)に照らして無理がないか。
- 次の工事で、足場・ロープアクセス・両者の組み合わせ(ハイブリッド)のどれが自分の建物に合うか、比較検討したか。
この五つに「はい」と答えられない項目があれば、それはそのまま、専門家に相談すべきテーマだということだ。
工法選択で「長周期化」をどう設計するか——足場・ロープ・ハイブリッド
最後に、工法の話を整理しておく。私たち明誠は、通常の足場仮設による工法、足場を架けないロープアクセス工法、そして両者を部位ごとに使い分けるハイブリッド工法の三つを、建物の特性に応じて提案できる。日本でも、この三つを自前で揃えている会社は多くない。
長周期化という観点で言えば、それぞれに役割がある。
- 足場工法は、全面打診や大面積の塗り替えなど「一度にまとめてやり切る」大規模修繕の本番に向く。長周期化のスタート地点で、高耐久材料をしっかり施工する場面だ。
- ロープアクセス工法は、周期と周期の「あいだ」の点検・部分補修に向く。安く小回りが利くからこそ、延ばした期間のリスクを抑えられる。
- ハイブリッド工法は、形状が複雑で足場が架けにくい部分だけロープアクセスを使うなど、大規模・複雑物件で総合コストを最適化したいときに効く。
つまり、長周期化は「材料」だけで決まるのではない。「どの工法で施工し、どの工法で維持していくか」という設計とワンセットで初めて成り立つ。だからこそ、複数の工法を一社で比較提案できることに意味がある、と私は考えている。建物ごとのベストは、必ず比較した先にしかない(大規模修繕工事のご紹介)。
長周期化は「一社でまとめて見られる体制」があってこそ回る
もうひとつ、現場の人間として強くお伝えしたいことがある。長周期化を本当に回そうとすると、「窓口の一本化」がきわめて重要になる、ということだ。
考えてみてほしい。長周期化とは、大きな工事の合間に、塗装・防水・タイル・シーリング、ときには電気設備や看板まで、こまめに点検し、傷んだところだけを直していく営みだ。ところが、これを分野ごとにバラバラの会社へ頼んでいると、何が起きるか。「塗装屋さんは塗装しか見ない」「防水屋さんは防水しか見ない」となり、分野の境目——たとえばタイルとシーリングの取り合い部分——の劣化が、誰の担当でもないまま見落とされる。私はこの「境目の見落とし」で水が入った建物を、いくつも見てきた。
私たち明誠は、ロープアクセス工法を軸に、塗装・防水・タイル・電気・看板といった各分野の専門職がフランチャイズとして加盟する体制をとっている。これは、ロープアクセス工事としては日本で初めてのフランチャイズ展開だ。なぜこの形にこだわったのか。理由はまさに、長周期化のような「長く・こまめに・分野横断で」建物を見続ける営みには、各分野の専門職が一つの窓口に集まっている体制が向いているからだ。専門職がそれぞれの腕を持ち寄ることで、高い品質を保ちながら、中間マージンを削って価格も抑えられる。点検で見つかった小さな不具合を、その場で「ではこの目地はうちの防水班が、このタイルはタイル班が」と振り分けられる。これが、長周期化を絵に描いた餅で終わらせないための、地味だが決定的な土台になる。
理事長さまにも収益物件オーナーさまにも、私はいつもこうお伝えしている。「工法の数」と同じくらい、「分野をまたいで一気通貫で見てくれる窓口があるか」を見てください、と。長く付き合う相手だからこそ、ここは妥協してほしくない。
よくある質問——長周期化をめぐる五つの疑問
最後に、理事会や個別相談で実際によくいただく質問に、私なりにお答えしておく。
Q1. 国が「18年周期にしなさい」と決めたのですか?
いいえ。国の最新ガイドラインは大規模修繕の周期を「一般的に12年〜15年程度」と幅を持たせて示しているだけで、18年を推奨しているわけではない。18年周期は、高耐久材料を使い、点検を組み込んだ建物で「結果として延ばせる」という選択肢です。あくまで建物次第、というのが正確なところだ。
Q2. うちは普通の材料で前回工事をしました。それでも延ばせますか?
慎重に考えたほうがよい。一般材で施工した部位は、メーカーが想定する耐用年数を超えて無理に延ばすと、かえって劣化が一気に進むことがある。まずは専門家の点検で、いまの劣化具合を正確に把握することをおすすめする。延ばせるかどうかは、点検の結果が教えてくれる。
Q3. 高耐久材料にすると、どれくらい費用が上がりますか?
部位や材料によって幅が大きいので、ここで断定はできない。一般に、屋上防水やシーリングを高耐久仕様にすると初期費用は上がるが、そのぶん次の工事までの間隔を延ばせる。「初期費用の増加分」と「延ばせる年数」を天秤にかけて判断するのが筋で、必ず複数の仕様で見積もりを取り、比較していただきたい。
Q4. 周期を延ばすと、その間の点検費がかさみませんか?
だからこそ、点検を安く回せる手段が要になる。足場を架けての点検は高くつくが、ロープアクセスなら必要な部位だけを低コストで点検・補修できる。点検費を抑えられるからこそ、トータルでは長周期化のメリットが出る、という設計が大事だ。
Q5. 収益物件なのですが、近く売却するかもしれません。それでも高耐久にすべき?
出口戦略によります。数年内の売却を考えているなら、高耐久材の投資を回収しきれない可能性がある。一方で、長期保有して家賃収入を得続けるなら、長周期化の恩恵は大きい。「あと何年、この建物を持つのか」を先に決めてから、材料と工法を選ぶ——順番を間違えないことが肝心だ。
まとめ——「12年だから」で決めない。建物を見て、延ばせる建物に育てる
長くなったので、最後に要点をまとめたい。
「12年周期」は法律でもルールでもなく、出発点にすぎない。国の最新ガイドラインはすでに「12年〜15年」と幅を持たせ、材料の進化と積立金不足を背景に、業界は18年周期も視野に入れ始めている。大手デベロッパーが長周期化の取り組みで評価を受けたのは、その象徴だ。
ただし、お金がないからの「先送り」と、手入れをしたうえでの「長周期化」は、似て非なるものだ。延ばしていいのは、高耐久材料を計画的に使い、点検と部分補修を続けている建物だけ。そして、その点検と部分補修を安く機動的に回す手段として、ロープアクセスという選択肢がある。
これは私が現場で20年見てきた、嘘偽りのない感想だ。周期の数字に振り回されるのではなく、自分の建物をよく見て、「延ばせる建物」に育てていく。その視点を、ぜひ次の理事会で1分だけでも話題にしてみてほしい。周期をどう設計するか、点検をどう組み込むか——そのあたりの整理だけでも、お力になれることがある。ご相談だけでも遠慮なくお声がけください。次回も、現場で本当に使える話だけをお届けします。
出典・参考資料
- 国土交通省「長期修繕計画標準様式、長期修繕計画作成ガイドライン・同コメント及びマンションの修繕積立金に関するガイドラインの見直しについて」(令和6年6月改定)
- 国土交通省「『マンションの修繕積立金に関するガイドライン』の改定について(段階増額積立方式における適切な引上げの考え方)」
- 大和ハウス工業「『購入者が選ぶSUUMO AWARD 2026』で2部門の優秀賞を受賞」(2026年6月)
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機械式駐車場が、いつのまにか「金食い虫」に——車離れで空き区画3割、駐車場収入の目減りが修繕積立金を直撃する。収益物件オーナーと管理組合が、大規模修繕と一体で考える「平面化」という選択【2026年6月】
「新築のときは満車で抽選だったのに、いまは3割が空き区画」——先日、ある分譲マンションの機械式駐車場をめぐる記事が目にとまった。150戸規模の物件で、交通の便がよい立地ゆえに「クルマを持たない世帯」が増え、駐車場の空きが管理組合全体の財政を揺るがしている、という内容だ。これは特定の一棟だけの話ではない。私が日々、マンションやビルの大規模修繕の現場に立つなかで、ここ数年いちばん相談が増えているテーマのひとつが、まさにこの「機械式駐車場」である。
機械式駐車場は、満車のときは管理組合の貴重な収入源になる。ところが稼働率が落ちた瞬間、点検費と更新費だけが毎年・数年ごとにのしかかる「金食い虫」へと姿を変える。そして厄介なのは、その負担が回りまわって修繕積立金を圧迫し、本来やるべき外壁・防水・タイルといった大規模修繕の足を引っ張ることだ。
この記事では、車離れと機械式駐車場の問題が、なぜ収益物件オーナー・管理組合にとって「駐車場だけの問題」では済まないのかを整理し、大規模修繕と一体で考えるべき現実的な打ち手——とりわけ「平面化」という選択肢と、工事のコストを左右する工法選択について、私の現場感覚も交えてお伝えしたい。数字はできるだけ公的資料や報道に基づいて示し、断定を避けて「目安」として扱う。
まず事実関係——「車離れ」と機械式駐車場は、いま全国共通の悩みになっている
報道では、交通の便がよい地域を中心に、維持費を考えてマイカーを持たない世帯が増え、分譲マンション内の「車離れ」が管理組合財政を揺るがす問題になっていると指摘されている。これは肌感覚とも一致する。私が関わる首都圏の物件でも、築15年を超えたあたりから駐車場の解約が静かに進み、気づけば空き区画が2〜3割、という管理組合は決して珍しくない。
背景には複数の要因が重なっている。住民の高齢化による運転免許の返納、若年層のクルマ離れ、カーシェアの普及、そして車両の大型化で「枠に入らない」ケースが増えていること。国土交通省の資料でも、都市部を中心に駐車需要そのものが変化していることが示されており、各自治体は新築時に一定台数の駐車場を義務づける「附置義務条例」の見直し・緩和を進めている。つまり「とりあえず台数を確保する」時代から、「実需に合わせて絞る」時代へと、制度の前提自体が動いているということだ。
なぜ「駐車場の空き」が修繕積立金を直撃するのか
ここが本題である。機械式駐車場の空きは、二つの経路で管理組合の財政、ひいては修繕積立金に効いてくる。
ひとつめは収入の減少だ。駐車場使用料は、多くのマンションで管理費会計と修繕積立金会計の収入源になっている。区画が埋まっていれば毎月安定して入ってくるはずのお金が、解約が進むほど目減りする。報道や管理の専門家も、駐車場使用者が減れば収入も減り、収支バランスが崩れると繰り返し指摘している。
ふたつめは支出の固定化だ。機械式駐車場は、空いていようと埋まっていようと、機械である以上は定期点検と保守が必要になる。一般に、機械式駐車場の維持費は1台あたり年間でおおよそ1万円〜1万2000円程度が目安とされる(保守点検費の水準として各種解説で示されている数字で、機種や契約で上下する)。さらに重いのが、15〜20年程度で巡ってくる機器の更新(リニューアル)費用だ。
国土交通省の「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」(平成23年4月策定・令和6年6月改定)では、機械式駐車場の修繕工事費の目安が機種別に1台あたり月額換算で示されている。公開されている数値の例を挙げると、2段(ピット1段)昇降式で6,450円/台・月、3段(ピット2段)昇降式で5,840円/台・月、3段(ピット1段)昇降横行式で7,210円/台・月、4段(ピット2段)昇降横行式で6,235円/台・月といった水準だ(いずれもガイドライン記載の目安で、複数事例から算出されたもの)。
仮に1台あたり月6,000円とすれば、年間で約7万2000円、20台分なら年間約144万円が「駐車場のためだけ」に積み立てておくべき修繕費ということになる。空き区画が増え、その台数ぶんの使用料が入ってこなくなれば、その穴は他の区画の住民や、結局は修繕積立金全体で埋めるしかない。外壁や防水のために貯めたお金が、稼働していない機械の維持に吸われていく——これが「金食い虫」の正体だ。
収益物件オーナーにとっては「ネット利回り」の問題でもある
分譲マンションの管理組合だけの話ではない。一棟ものの賃貸マンションや、ビル・ホテルを保有する収益物件オーナーにとって、駐車場は賃料に次ぐ収入源であり、機械式であればそのまま運営コストの一部になる。
私がオーナー様とお話しするとき、いつも申し上げているのは「駐車場は満車を前提にした事業計画になっていませんか」ということだ。新築・購入時の収支表では駐車場100%稼働で計算されていることが多い。ところが10年、15年と経つうちに、入居者のクルマ離れで稼働率が落ち、一方で機械の保守費・更新費は容赦なく発生する。結果として、表面利回りは変わらないように見えても、ネット利回り(実質利回り)が静かに削られていく。修繕費・運営費という、オーナーが唯一コントロールできるコストの最適化を考えるとき、この機械式駐車場の存在は決して小さくない変数だ。
選択肢を整理する——「維持」「縮小・更新」「平面化」
では、稼働率が落ちた機械式駐車場をどうするか。大きく三つの方向がある。私はいつも、この三択を「どれが正解」ではなく「自分の物件はどれに当てはまるか」という順番で考えるようにしている。
第一は現状維持。需要が戻る見込みがある、あるいは立地的に駐車場が必須という物件なら、点検・部品交換を続けながら使い続ける。ただし更新時期が近いなら、その費用を長期修繕計画にきちんと織り込む必要がある。
第二は縮小・更新(リニューアル)。複数基あるうちの稼働の低い系統だけを止める、あるいは更新のタイミングで段数を減らす・最新機種に入れ替えるなどして、維持費を圧縮する考え方だ。
第三が、近年とくに相談が増えている平面化(埋め戻し)である。機械式の地下ピットを撤去・埋め戻して平置き駐車場や駐輪場、宅配ボックス置き場、植栽スペースなどに転換する。初期費用はかかるが、その後の保守費・更新費という「終わりのない出費」を断ち切れるのが最大の利点だ。
平面化工事の費用は、規模や地下ピットの構造によって150万円程度から数千万円規模まで幅があり、工期も数日から数カ月とさまざまだと各種の専門解説で示されている。国土交通省も機械式駐車場の除却に関するガイドライン整備を進めており、判断のための情報は以前より手に入りやすくなっている。撤去・平面化への助成を求める要望が国に出されているという動きもある。重要なのは、平面化は「今ある出費を消す投資」だという視点だ。維持し続けた場合に20年で積み上がる保守・更新費と、いま平面化にかかる費用を並べて比べれば、判断の土俵が見えてくる。
ここで「大規模修繕と一体で考える」ことが効いてくる
私が現場の立場として強くお伝えしたいのは、駐車場の問題は、大規模修繕とセットで考えると一気にコスト効率がよくなるということだ。
理由は単純で、足場や重機の段取り、現場の養生、近隣調整、工事車両の動線確保といった「工事そのもの以外のコスト」は、別々に発注すれば二重にかかる。外壁の大規模修繕で足場を組むタイミングに合わせて、駐車場まわりの工事や平面化を一緒に計画すれば、共通の段取りを使い回せる。長期修繕計画を見直す機会に、機械式駐車場の更新・平面化をどの周期で・どの工事と束ねるかを決めておくと、修繕積立金の山と谷をならしやすくなる。国土交通省の「長期修繕計画作成ガイドライン」も令和6年6月に改定されており、こうした見直しの好機だと私は考えている。
そして、ここからが明誠の本領だ。大規模修繕のコストを左右する最大の変数のひとつが、外壁などにアクセスするための工法選択である。
足場・ロープアクセス・ハイブリッド——「比べられる」ことがコストを守る
大規模修繕というと「ビル全体に足場を組むもの」というイメージが強い。しかし足場は、架設・解体に大きな費用と工期がかかり、敷地が狭い物件や、まさに機械式駐車場が建物に張り付いている物件では、足場を建てる場所そのものに苦労する。
私たち明誠は、ここに対して三つの工法を、建物の特性に応じて提案できる。
| 工法 | 特徴 | 向いている物件 |
|---|---|---|
| 通常足場工法 | 従来型の仮設足場。全面打診や大規模な下地改修に強い | 中低層、複雑形状、全面的な改修が必要な建物 |
| ロープアクセス工法(無足場) | 産業用ロープで施工。足場費を抑え、工期短縮・居住者の生活影響を最小化 | 高層、足場架設が難しい物件、コストを重視する部位 |
| ハイブリッド工法 | 足場とロープアクセスを部位ごとに使い分ける | 大規模・複雑物件で総合コストを最適化したいケース |
たとえば、駐車場や植栽で足場を建てづらい面はロープアクセスで、全面打診や大がかりな下地補修が必要な面は足場で、というように部位ごとに最適な工法を組み合わせれば、足場費という固定費を必要最小限に抑えられる。
ただし、私はロープアクセスを万能だとは申し上げない。全面打診が求められる場合や、広範囲の下地改修・重量のある機材を伴う工事では、足場のほうが効率的で安全なケースがある。ロープアクセスは高い技能と安全管理が前提の工法であり、何でもロープで済むわけではない。だからこそ「3つの工法を比較して、建物にとってのベストを選ぶ」ことに意味がある。
私が思うに、工法選択でいちばん価値があるのは、コストそのものよりも「比べられる=見積もりが透明になる」という点だ。一社・一工法しか出てこなければ、その金額が高いのか妥当なのか判断のしようがない。複数の工法で土俵に乗せて比べられれば、オーナーや管理組合は根拠をもって意思決定できる。機械式駐車場の平面化を「やるか・やらないか」を判断するときと、まったく同じ構図である。
私が現場で必ず確認している3つのこと
機械式駐車場と大規模修繕を一体で相談されたとき、私が最初に確認するのは次の三点だ。
ひとつめは稼働率の推移。いまの空き区画数だけでなく、過去5年でどう動いてきたかを見る。一時的な空きなのか、構造的な車離れなのかで打ち手は変わる。
ふたつめは更新時期と長期修繕計画の整合。機械の更新時期と、外壁・防水の大規模修繕の周期がどれだけ近いか。近ければ束ねる価値が大きい。
みっつめは敷地と工法の相性。駐車場の位置が、足場の架設や工事動線にどう影響するか。ここでロープアクセスやハイブリッドが効いてくる場面が多い。
この三点を押さえるだけで、「とりあえず機械を更新する」「とりあえず足場を全面に組む」といった、もっとも高くつきがちな選択を避けやすくなる。
数字で見る——「30台の機械式駐車場」を20年維持すると、いくら積み上がるか
抽象論ではイメージしづらいので、あくまで目安として簡単な試算をしてみたい。実際の金額は機種・契約・劣化状況で大きく変わるため、「桁感をつかむための計算」として読んでいただきたい。
仮に30台分の機械式駐車場(仮に3段ピット2段昇降式に近い水準と置く)があるとする。国交省ガイドラインの目安をもとに1台あたり月6,000円の修繕費を積み立てるとすれば、年間で30台×6,000円×12カ月=約216万円。これを20年続ければ、修繕費だけで約4,300万円になる計算だ。これに加えて、日常の保守点検費が1台あたり年1万円〜1万2000円程度かかるとすれば、30台で年30万〜36万円、20年で600万〜720万円ほど。両者を合わせると、20年間で機械式駐車場のためにおよそ5,000万円規模の支出を見込んでおく必要がある、というのが大まかな桁感だ。
ここで稼働率が問題になる。30台が満車で、たとえば月2万円の使用料が全区画から入っていれば、年間720万円の収入があり、修繕・保守費を十分にまかなえる。ところが空きが3割(9台)に達すると、収入は約504万円まで落ちる。収入が減っても、機械の保守・更新費はほとんど変わらない。この「収入は変動費、支出は固定費」という非対称こそが、機械式駐車場が財政を蝕む構造的な理由である。
この試算を平面化と並べてみる。仮に平面化に1,500万〜3,000万円かかるとしても、その後20年の保守・更新費(上の例で約5,000万円規模)が消えるなら、長い目で見て収支が逆転する可能性は十分にある。もちろん平面化後は駐車場収入も減るため、収入減と支出減を両にらみで比較しなければならない。だからこそ「なんとなく更新」「なんとなく維持」ではなく、数字を並べた比較が欠かせないのだ。
平面化は「工事」の前に「合意形成」——区分所有のマンションで特に重要
分譲マンションで機械式駐車場の平面化や大規模な更新を行う場合、技術や費用の前に立ちはだかるのが住民の合意形成だ。私が現場で見てきた限り、平面化がうまく進むかどうかは、工事の巧拙よりもむしろ、この合意形成の設計でほぼ決まる。
機械式駐車場の撤去・平面化は、共用部分の変更にあたるため、管理規約や工事内容によっては総会での決議(物件・内容により普通決議または特別多数決議)が必要になる。ここで「駐車場を使っている人」と「使っていない人」の利害が対立しがちだ。使っている人は区画が減ることや工事中の代替を心配し、使っていない人は「自分は使わないのに費用負担するのか」と感じる。
私がおすすめしているのは、感情論になる前に「全員の修繕積立金が、稼働していない機械の維持に使われている」という事実を、先ほどのような数字で共有することだ。平面化は一部の人のための工事ではなく、管理組合全体の財政を守り、外壁・防水といった全員に関わる大規模修繕の原資を守る施策だという理解が広がれば、議論はぐっと前に進む。理事会だけで抱え込まず、早い段階で施工・コンサル側を交えて選択肢と数字を見える化することが、遠回りのようでいて近道だと感じている。
ビル・ホテルのオーナーにとっての「駐車場」と「外装」——稼働を止めない工事という発想
ここまで分譲マンションを中心に述べてきたが、ビルやホテルを保有するオーナーにとっても、駐車場と外装の問題は地続きだ。今週も、大阪市内で大型ホテルの新築着工が報じられ、各地で大型ビルの建替えや改修が動いていることが伝えられている。新築が動く一方で、既存ストックの維持・更新の負担は確実に重くなっている。
ホテルやテナントビルで私が特に重視するのは、「稼働を止めない工事」という発想だ。客室稼働率や賃料収入を落とさずに外壁・防水を直すには、足場で建物全体を覆う期間をできるだけ短くしたい。ここでロープアクセスやハイブリッド工法が効いてくる。営業を続けながら、必要な面だけを順番に、足場の架設・解体期間を最小化して施工する——居住者・利用者の生活影響を最小化できることは、無足場工法であるロープアクセスの大きな強みだ。
駐車場まわりも同じ考え方が使える。機械式駐車場が建物外壁に隣接していて足場を建てにくい、というケースは本当に多い。そういう物件こそ、足場とロープアクセスを部位ごとに使い分けるハイブリッドの出番だ。「足場を建てられないから工事を先送り」という最悪の選択を避けられる。
制度も動いている——附置義務の緩和と、補助・助成という追い風
機械式駐車場をめぐる環境は、物件側の事情だけでなく制度の側からも変わりつつある。かつては新築時に「住戸数に対して一定台数の駐車場を確保せよ」という附置義務が、機械式駐車場を大量に生んだ一因だった。しかし車離れと駐車需要の変化を受けて、国土交通省は附置義務のあり方の見直しを促し、自治体ごとに条例を緩和する動きが広がっている。これは、いま機械式駐車場を減らしたい・平面化したいと考える管理組合やオーナーにとっては追い風だ。台数を維持しなければならないという足かせが緩めば、平面化や転用の選択肢が現実的になる。
さらに、機械式駐車場の撤去・平面化に対する助成を国に求める要望も出されており、自治体によっては駐車場の平面化や、空いたスペースを活用したバリアフリー化・緑化・防災設備の設置などに対して補助制度を用意している場合がある。今週の報道でも、各種の省エネ・設備投資への補助金の話題が並んでいた。こうした制度は年度や自治体によって内容が大きく異なるため、計画段階で必ず最新の情報を確認してほしい。私は、平面化や大規模修繕を検討する際には、使える補助・助成がないかを早い段階で洗い出すようにしている。同じ工事でも、制度を使えるかどうかで実質負担はかなり変わるからだ。
ただし注意したいのは、補助金は「目的」ではなく「手段」だということ。補助があるからやる、ではなく、長期修繕計画と工法選択にもとづいて「やるべき」と判断した工事に、たまたま使える制度があれば活用する、という順番を崩さないことが大切だと考えている。
よくある失敗——「機械の更新だけ」を単独で決めてしまう
最後に、私が「もったいない」と感じる典型的な失敗パターンを挙げておきたい。それは、機械式駐車場の更新時期が来たときに、駐車場だけを単独で判断してしまうことだ。
更新の見積もりが上がってきて、金額の大きさに驚きつつも「機械が止まると困るから」と、長期修繕計画や稼働率の将来見通し、外壁修繕の周期と切り離して更新を決めてしまう。数年後に大規模修繕で足場を組むことになり、「あのとき一緒に検討していれば段取りを共通化できたのに」と気づく——こうしたケースを何度も見てきた。
逆に言えば、駐車場の更新・平面化という「重い意思決定」が必要になったタイミングは、長期修繕計画と工法選択を丸ごと見直す好機でもある。私はいつも、相談をいただいたら駐車場単体の話で終わらせず、「この物件全体で、これから20年のコストをどう設計するか」という視点まで引き上げてお話しするようにしている。
まとめ——駐車場の空きは「赤信号」ではなく「見直しのサイン」
機械式駐車場の空き区画が増えてきたら、それは財政悪化の赤信号であると同時に、長期修繕計画と工法を見直す絶好のサインでもある。収入が減り、保守・更新費が固定でのしかかる構造を放置すれば、修繕積立金は確実に削られ、いざ大規模修繕というときに「お金が足りない」「だから工事を先送り」という悪循環に入ってしまう。
だからこそ、駐車場の三択(維持・縮小更新・平面化)と、大規模修繕の工法選択(足場・ロープアクセス・ハイブリッド)を、別々ではなく一体で検討してほしい。共通の段取りでコストを圧縮し、複数の選択肢を比べて透明な意思決定をする。それが、資産価値と利回りを守る、いちばん地に足のついた方法だと私は考えている。
明誠は、3つの工法を建物特性に応じて比較提案できる、日本でも数少ない会社です。機械式駐車場まわりを含めた大規模修繕の進め方、長期修繕計画の見直しについては、ロープアクセス工法のご案内、施工・サービス一覧、そしてお問い合わせからお気軽にご相談ください。関連する判断軸は、前回の記事「大規模修繕『談合』に公取委が動いた」やブログ一覧でも取り上げています。
よくある質問(FAQ)
Q1. 機械式駐車場の空きが2割を超えたら、すぐ平面化すべきですか。
A. 一概には言えません。立地的に駐車需要が戻る見込みがあるか、機器の更新時期がいつか、長期修繕計画の中でどの工事と束ねられるかによって最適解は変わります。私は「空き2割」を平面化の引き金ではなく、稼働率の推移と更新時期を点検する「見直しのサイン」と捉えることをおすすめしています。
Q2. 平面化の費用はどのくらいかかりますか。
A. 規模や地下ピットの構造によって幅が大きく、各種の専門解説では150万円程度から数千万円規模までと示されています。重要なのは初期費用だけを見るのではなく、維持し続けた場合に将来かかる保守費・更新費(国交省ガイドラインの目安では機種により1台あたり月6,000円前後)と並べて比較することです。正確な費用は現地調査が前提になります。
Q3. 駐車場の使用料収入が減ると、修繕積立金にどう影響しますか。
A. 駐車場使用料は管理費会計・修繕積立金会計の収入源になっていることが多く、稼働率が下がれば収入が目減りします。一方で機械の点検・更新費は固定でかかるため、その差額は他の区画の住民負担や修繕積立金で埋めることになり、結果的に外壁・防水などの大規模修繕に回せる資金が圧迫されます。
Q4. 大規模修繕と駐車場工事は、本当に一緒にやったほうが安いのですか。
A. ケースによりますが、足場・重機の段取り、養生、近隣調整、工事動線といった「工事以外のコスト」を共通化できるため、別々に発注するより効率的になる場合が多いです。長期修繕計画を見直す際に、機械式駐車場の更新・平面化をどの周期で束ねるかを決めておくと、修繕積立金の負担をならしやすくなります。
Q5. ロープアクセス工法なら、どんな物件でも足場より安くなりますか。
A. いいえ。ロープアクセスは足場費を抑え工期短縮や居住者の生活影響の最小化に強い一方、全面打診や広範囲の下地改修、重量機材を伴う工事では足場のほうが効率的・安全な場合があります。高い技能と安全管理が前提の工法です。だからこそ足場・ロープアクセス・ハイブリッドを比較し、建物にとってのベストを選ぶことに価値があります。
※本記事中の数値(機械式駐車場の採用率、維持費・修繕費の目安、平面化工事費の幅など)は、国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」「長期修繕計画作成ガイドライン」、自治体の公開資料、各種報道・専門解説に基づく目安であり、実際の費用・条件は物件ごとに異なります。具体的な判断は現地調査と専門家への相談のうえで行ってください。
参考(公的・一次情報)
– 国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」(令和6年6月改定)https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001747009.pdf
– 国土交通省「長期修繕計画作成ガイドライン」(令和6年6月改定)https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001747006.pdf
– 国土交通省 都市局「駐車対策の現状」https://www.mlit.go.jp/toshi/content/001494239.pdf
– 横浜市「修繕積立金」https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/sumai-kurashi/jutaku/manportal/manage/rule/deposit.html
▼ロープアクセス工法・無足場工法の詳細解説はこちら
ロープアクセスドットコム|無足場工法専門メディア
【2026年5月版】塗料・防水材不足で大規模修繕が止まる──ナフサショックから資産を守るオーナー・管理組合の動き方
【2026年5月版】塗料・防水材不足で大規模修繕が止まる──ナフサショックから資産を守るオーナー・管理組合の動き方
こんにちは、株式会社明誠の本間です。私はマンション・ビル・ホテルの大規模修繕を、足場仮設とロープアクセス、そして両者を組み合わせたハイブリッド工法という三つの選択肢で提案しつづけて20年近くになります。今朝、社員と現場ミーティングをする前に、テレビと建設業界紙の見出しに目を通していて、思わず机を叩きました。
「塗料が入ってこない、防水材も足りない、もう請けられない仕事が増えている」──。中小の塗装業者や防水の一人親方が、顔と名前を出してそう訴えています(出典:「私たちの声は届いていないのか」止まる工事現場、追いつめられる中小建設業者の切実な声(Yahoo!ニュース/TBS NEWS DIG・2026年5月23日))。私の周りでも、4月の連休明けから「塗料の見積りが先週よりまた上がった」「今月中に発注しないと8月以降は何も保証できないと言われた」という声が、加盟店、同業の社長、付き合いの長い問屋から日替わりで届いています。
正直に申し上げます。これは大規模修繕を計画している管理組合と、収益不動産を持つオーナーにとって、来年・再来年の話ではありません。今月、今週の意思決定が、来年の総会で説明できるかどうかを決めます。
この記事では、私が現場で見ている「ナフサショック」の実像と、管理組合・オーナーが資産を守るために何を、いつまでに、どう動かすべきかを、できるだけ具体的にお話しします。9000字を超える長文になりますが、修繕委員会の資料としてもそのまま使えるように構成しました。お時間が許す範囲で、一節ずつでも結構ですから、読み進めていただけると嬉しいです。
1. 今、現場で何が起きているのか
「塗料が、入ってこないんです」。
これは、ある加盟店の若い職長が、先月の私との電話で漏らした一言です。彼が担当している現場は、首都圏の築22年・約160戸のファミリーマンション。長期修繕計画どおりに動いていて、3月に塗装の試験施工まで終わっていました。ところが4月、塗料メーカーから「該当製品は受注を一時停止します。在庫分の出荷で打ち切ります」という通知が突然届いた。代替品の提案を受けたものの、色見本と仕上がりが微妙に違う。住民総会で承認をいただいた色番号ではありません。「色を変えるなら、もう一度説明会と理事会承認が要りますよね」と、彼は半泣きでした。
これは特殊な現場の話ではありません。テイガク屋根修理が公開している建材値上げ・受注停止リストには、2026年5月22日更新時点で塗料・シンナー・断熱材・ルーフィング・屋根材まで、ありとあらゆる主要部材が並んでいます(出典:【2026年5月22日更新】建材資材の値上げと受注停止の影響(テイガク))。塗装業界の児玉塗装も、メーカー別の出荷停止状況を5月11日付で更新し、複数の大手塗料メーカーで主力製品の受注制限が続いていることを公表しています(出典:【2026年5月11日更新】ナフサショック・中東情勢による塗装材料への影響(児玉塗装))。
業界紙の日経クロステック建築は、5月の連載記事で「建材不足でマンション大規模修繕に停止の危機、計画見直しも」と踏み込んだ見出しを掲げました(出典:日経クロステック建築「建材不足でマンション大規模修繕に停止の危機、計画見直しも 中東情勢混迷」)。専門誌が「停止の危機」という言葉を使うのは、それだけ業界内の温度感が逼迫しているということです。
私の経験上、大規模修繕の現場というのは、部材が一品種でも欠けると工程全体が止まります。塗料が来なければ下地補修の次の工程に進めない。防水材がなければ屋上やバルコニーの止水が打てない。シンナーが希釈に使えなければ、刷毛塗りもローラー塗りも始まりません。そして足場を組んだまま工程が止まれば、足場のレンタル料は1日単位で課金され、住民の生活ストレスも積み上がります。これが、今、現場で起きていることです。
2. 原因はホルムズ海峡──「ナフサショック」が建設業を直撃した経緯
なぜ、こんなことになっているのか。原因をできるだけ簡潔に整理します。
ナフサ(粗製ガソリン)は原油を蒸留して取り出される石油化学製品の基礎原料で、プラスチック、合成樹脂、塗料、シンナー、断熱材、ルーフィングなど、現代の建材の大半に使われています。日本は産業用ナフサの多くを中東からの原油に頼っており、原油の主要輸送ルートがホルムズ海峡であることはよく知られています。
2026年2月末以降、中東情勢の緊迫化を背景に、ホルムズ海峡経由の原油輸送に支障が出ました。ナフサの調達価格は急騰し、供給量も不安定化。3月中旬には大手塗料メーカーが「最大75%値上げ」を表明、4月以降は次々と他のメーカーが追随し、出荷停止や受注制限に踏み切る事態になっています(出典:ナフサショック(ナフサ不足)完全解説2026(造改築.com))。
建設業に関わる方には釈迦に説法ですが、念のため業界全体の構造を確認しておきます。
| 部材 | 主な用途 | ナフサとの関係 |
|---|---|---|
| 塗料(アクリル・ウレタン・シリコン・フッ素) | 外壁・鉄部・屋根の塗装 | 樹脂・希釈用シンナーがナフサ由来 |
| シンナー | 塗料の希釈、洗浄 | ほぼ100%ナフサ由来 |
| 防水材(ウレタン・FRP・塩ビシート) | 屋上・バルコニー・廊下の止水 | 樹脂・希釈材がナフサ由来 |
| シーリング材 | サッシ廻り・打継ぎの止水 | 主成分の樹脂がナフサ由来 |
| 断熱材(発泡系) | 外断熱・屋根断熱 | 発泡樹脂がナフサ由来 |
| ルーフィング・アスファルト系防水 | 屋根下葺き・押え工法 | 改質剤がナフサ由来 |
つまり、外装の修繕に使う材料のほぼ全てがナフサに紐づいているということです。一品目だけ我慢すれば乗り切れる、という構造ではありません。
東京新聞の報道では、政府は「足りている」と表明していますが、実際の現場ではすでに供給に明確な支障が出ている、と多くの中小事業者が証言しています(出典:東京新聞「建築資材や日用品…ナフサ由来製品が出荷停止・値上げ 政府『足りている』と言っても、すでに供給に影響が」)。私が会員数百社のJCSA(一般社団法人全国建設業支援協会)の運営に関わっている立場で言わせていただくと、現場の体感と政府発信の温度差は、相当に大きいと言わざるを得ません。
3. 何が、どれだけ値上がりしているのか
「具体的にどれぐらいの値上げなのか」が、管理組合の理事長さま・修繕委員のみなさまにとっては一番気になるところだと思います。私が業界紙・専門メディアから直近1か月で確認できた数字を、表に整理します。
| 部材 | 値上げ幅の例 | 出典 |
|---|---|---|
| 塗料(大手メーカー) | 最大75% | 造改築.com(2026年3月中旬通告) |
| 断熱材(発泡系) | 約40~50% | テイガク/s-housing |
| ルーフィング | 約40~50% | テイガク/新建ハウジング |
| アスファルトシングル屋根材 | 30%(旭ファイバーグラス「リッジウェイ」、2026年7月1日出荷分より) | テイガク |
| シンナー | 出荷停止・量制限 | 児玉塗装/塗装源 |
| 副資材全般 | 段階的に複数回 | 新建ハウジング |
(出典:【値上げ一覧】”ナフサショック”で相次ぐ大幅値上げ(新建ハウジング)、【2026年5月最新】ナフサショックによる建材受注制限・値上げ情報まとめ(髙橋秀樹note)、中東情勢によるナフサ(シンナー)不足について(塗装源))
戸あたりに換算するとどうなるか。100戸規模のマンションで外壁塗装・屋上防水・シーリング打替えを含むフルメニューの大規模修繕を行う場合、私の経験では資材費の比率は工事費全体の25〜35%程度です。仮に資材費が全体の30%、そのうち塗料・防水・シーリングなどナフサ由来材料が半分を占めるとすると、ナフサ由来材料は工事費の約15%を構成します。ここが平均で40%値上がりしたと仮定すると、工事費全体で約5〜8%の押し上げになる計算です。これは造改築.comの試算とほぼ符合します。
100戸規模で工事費1.2億円のマンションなら、600万円〜960万円のコスト増。戸あたりに直すと6万〜10万円です。「修繕積立金月額5,000円の人にとって、丸1年分以上の追加負担」と言い換えれば、理事会での重みが伝わるのではないでしょうか。
ただし注意していただきたいのは、これは「平均的に試算した上振れ幅」であり、個別物件の条件で振れ幅は大きく変わるということです。屋上のアスファルト防水比率が高い物件、外断熱を採用している物件、シーリング量が多いタワー型物件は、もっと影響を受けます。逆に、シート防水中心で塗装面積が比較的少ない低層物件は、影響を抑えやすいケースもあります。「絶対○%値上がりします」と言い切る業者には、私は警戒したほうがよいと考えています。
4. なぜ大規模修繕が「止まる」のか──工程が崩れる3つの理由
値上げ以上に深刻なのが、工程の停止リスクです。私が現場で見ているのは、おおむね次の3つのパターンです。
理由1:部材の納期確約ができない
これまで「発注から2週間で現場に届きます」と言えていた塗料が、今は「6〜8週間、場合によってはそれ以上、しかも数量保証なし」と回答されるケースが出ています。施工会社としては、住民への工程説明や足場貸出会社との契約が、根拠を持って組めなくなります。
理由2:色番号・グレードの変更が頻発する
特定の樹脂や顔料が手に入らないために、メーカーがレシピを微調整したり、廃番にしたりする動きが続いています。総会で承認をいただいた色番号と仕上がりが微妙に違うと、住民代表からは「説明と違う」というクレームが必ず出ます。理事会・修繕委員会の手戻りが発生するため、工程が1〜2か月単位で押します。
理由3:足場が無駄に長く立つ
足場は1日単位の固定費です。私のいる現場感覚で、戸あたり月1万円〜2万円程度の足場関連コストが、何もしなくても発生し続けます。100戸なら月100万〜200万円。部材待ちで足場が1か月延びるだけで、それだけのキャッシュが空気に消えるわけです。これが、私が「無足場工法(ロープアクセス)」を強く提案する最大の理由でもあります。
5. 修繕積立金への影響と、管理組合が今やるべき5つの行動
ここからが本題です。理事長さま・修繕委員のみなさまに、今月から動いていただきたいことを5つに整理します。
(1) 長期修繕計画の前提条件を即時に再確認する
国土交通省の「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」では、機械式駐車場の有無や階数によって積立金の目安水準が示されています(出典:国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」)。多くの長期修繕計画は、こうした目安と過去の単価を前提に組まれています。しかし、今回のナフサショックは前提を崩しに来ています。まずは、現行計画が「いつの単価」を前提にしているかを確認してください。3年以上前の単価で組まれていれば、ほぼ間違いなく見直しが必要です。
(2) 「直近2年以内の見積り」を施工各社に再依頼する
理事会で「業者選定は2年前にやったから今のままで」となりがちですが、それは危険です。直近2年以内、できれば3か月以内の見積りに更新してください。複数社から取り直すのが原則ですが、相見積りの比較条件は揃えること。比較条件の揃え方は、修繕委員だけでは難しい場合、第三者のコンサルタントに「比較表のフォーマット」だけ作ってもらうのも有効です。
(3) 工事仕様書の「代替品許容条項」を確認・追記する
仕様書に「メーカー指定・型番指定」とだけ書いてあると、塗料メーカーの出荷停止が直撃します。「同等性能の代替品を、書面承認のうえで採用できる」旨の条項を追加してください。性能の同等性は、JIS規格の等級、メーカー試験成績書、第三者検査機関の判定など、客観的に確認できる指標を明記すること。「同等品で良いですよね」と現場任せにすると、住民とのトラブルの火種になります。
(4) 「工程遅延時のリスク分担」を契約書で明確化する
足場が延びた場合の足場料金、住民への説明会再開催費用、人件費の追加負担を、誰がどう負担するかを契約書で決めておきます。「資材入手困難の場合は、双方協議のうえ工程と費用を見直す」と一文入れるだけでも、いざというときの揉め事は大きく減ります。
(5) 「工法のセカンドオピニオン」を取る
足場仮設一択で計画が組まれている場合、ロープアクセスやハイブリッドでの代替提案を受けてみるのは、今のタイミングだからこそ価値があります。次章で詳しくお話しします。
6. オーナー側の視点──資産価値を守るための判断基準
ここからは、収益不動産を持っておられるオーナーさま向けです。築年数や用途が違っても、判断軸はそれほど多くありません。
(A) 「先送り」が最もコストの高い選択肢になりつつある
私の経験上、これは大規模修繕を5年単位で見送るときに、いつも申し上げてきたことです。今は、その傾向がさらに強まっています。ナフサショックが少なくとも2026年内は続くという業界の見立てがあり(出典:ナフサショックはいつまで続く?なぜ今、工務店に影響を与えているのか(makehouse))、来年・再来年の単価が今より下がる保証はどこにもありません。むしろ、外壁の劣化を1年放置した結果、追加の躯体補修が必要になり、結果として工事費が大きく膨らむケースを、私は何度も見てきました。
(B) 入居率と賃料水準は「見た目」に強く反応する
築20年を超えた物件で、外壁の汚れや錆だれ、シーリングの劣化が見えてくると、内見時の印象は劇的に落ちます。特に都心の収益マンション・テナントビルでは、「修繕積立を取り崩してでも、まず外観を仕上げたほうが回収が早い」という判断のほうが、長期では合理的なケースが多いです。Yahoo!ニュースの不動産記事でも、東京23区の中古マンションは「資産性重視」が契約理由のトップになったと指摘されています(出典:資産性重視が「契約理由のトップ」に 東京23区新築マンション価格指数(TBS NEWS DIG・2026年5月))。資産性を語るうえで、外観のメンテナンスは無視できない要素です。
(C) 工法選択で、コストとスケジュールは大きく変わる
ここが、私の本業の核心です。同じ建物を、ただ足場で囲んで塗るのか、ロープアクセスで部分施工と組み合わせるのか、ハイブリッドで合理化するのか。選択次第で、見積額もスケジュールも、住民への影響も変わります。
7. 工法選択で守れるコストとスケジュール
私は普段から、お客様には「答えはひとつではない」と申し上げています。建物の形状、住民構成、立地、修繕積立金の残高、そしてオーナーであれば収益計画次第で、最適な工法は変わるからです。
| 工法 | 工事費の傾向 | 工期 | 居住者・利用者への影響 | 適しているケース |
|---|---|---|---|---|
| 通常足場工法 | 標準 | 標準 | 大(眺望・採光・防犯すべてに影響) | 中低層、複雑形状、全面的な躯体補修が必要な場合 |
| ロープアクセス工法(無足場) | 足場費を大幅圧縮できるケースあり | 短縮しやすい | 小(眺望・採光は維持、洗濯物制限は短期間) | 高層、シーリング・部分補修・部分塗装、緊急対応 |
| ハイブリッド工法 | 部位ごとに最適化 | バランス型 | 中(足場区画を限定) | 大規模・複雑物件、コストと工期の両立が必要 |
ロープアクセス工法は、日本ではまだ全国普及率が高くありませんが、明誠は日本で初めてロープアクセス工事のフランチャイズ展開を行っており、塗装・防水・タイル・電気・看板など各分野の専門職が加盟する全国ネットワークを持っています。これは、自社単独では受けきれないボリュームや、繁忙期の人手確保、地方案件への展開に強みを発揮します。
正直に申し上げます。ロープアクセスがすべての建物・すべての工事に万能ということではありません。たとえば、躯体側に大面積の爆裂・剥離があり、ハツリと打ち増しを大量に伴う場合は、足場で囲って一気に進めたほうが結果的に安く、安全なケースが多いです。「足場かロープか」ではなく、「どこは足場、どこはロープ、どこはハイブリッドか」を建物ごとに切り分けること。これが、いま単価が上がりつつあるなかで、最もコストを守れる発想だと、私は確信しています。
ロープアクセス工法の詳細はロープアクセス工法のご紹介を、大規模修繕の総合的なご相談は大規模修繕工事のご紹介をご覧ください。
8. 私が現場で見ている「動ける管理組合」の共通点
20年ほど現場をやってきて、ナフサショックのような外部ショックに強い管理組合には、いくつか共通点があると感じます。
ひとつ目は、理事会で「数字の出どころ」が常に共有されていることです。「業者が言っていたから」ではなく、「○月発行の業界紙にこう書いてある」「国交省ガイドラインのこの版にこう書いてある」と、出どころの確認が会議の中で行われています。情報の出どころが明確だと、議論が早く、住民総会の説明も短く済みます。
ふたつ目は、修繕委員のなかに、建築・設備・財務のいずれかの実務経験を持つ住民が、1人は入っていることです。これは「専門家を雇え」という話ではありません。住民の中の経験者を、ちゃんと巻き込めているかどうか、ということです。「お任せください」と全員を黙らせるタイプの理事長さんよりも、「皆さんの知見を貸してください」と言える理事長さんのほうが、こういう局面で強いです。
みっつ目は、業者を「敵」にしないことです。値上げの通告を受けたとき、感情的に業者を責める管理組合と、「これは業者個別の問題ではなく業界全体の問題だ」と切り分けて、共同で対策を考える管理組合では、結果が違います。後者のほうが、最終的に良い条件・良い品質を引き出しています。
私が一番悔しい思いをするのは、頑張って動かれている管理組合が、ほんの少しのコミュニケーションのズレで、業者と疎遠になってしまい、結果として割高な工事を別社に発注してしまうケースです。ナフサショックは、業者と管理組合の信頼関係を試すリトマス紙でもあるな、と最近よく思います。
9. JCSAから業界への呼びかけ──今こそネットワークの出番
ここから少し業界向けの話です。読み飛ばしていただいて構いません。
私が代表理事を務めるJCSA(一般社団法人全国建設業支援協会)では、5月から「ナフサショック対応 緊急情報交換会」をオンラインで月2回、開催しています。会員社からは、「塗料メーカーごとの在庫情報をリアルタイムで共有してほしい」「代替樹脂の試験施工データを共有してほしい」「住民説明用のテンプレを共有してほしい」という声が、毎週のように届いています。
私は、これに本気で応えるつもりです。協会の役割は、平時に勉強会や交流会を開くことだけではないと考えています。こうした非常時に、業界全体で持っている情報を素早くつなぐことこそ、業界団体の存在意義だと思っています。
会員社の皆さまには、6月の交流会で詳細をお伝えしますが、JCSA未加入の方でも、関心のある事業者の方はJCSAのお問合せフォームからご連絡いただければ、緊急情報交換会のオブザーバー参加もご案内できる体制を準備中です。一社で抱え込まず、業界の知恵を持ち寄って乗り越えていきましょう。
10. まとめ:今月、今週、明日できること
長くなりました。最後に、お読みいただいた方がそのまま動けるよう、行動チェックリストを置いておきます。
【管理組合 理事長さま・修繕委員さま】
– [ ] 長期修繕計画の単価前提を、いつの時点のものか確認する
– [ ] 直近の見積りを2〜3社から取り直す(比較条件を揃える)
– [ ] 仕様書に「代替品許容条項」を入れる
– [ ] 工程遅延時のリスク分担を契約書で明確化する
– [ ] 足場工法以外(ロープアクセス・ハイブリッド)のセカンドオピニオンを取る
– [ ] 住民説明会の資料に、ナフサショックの一次情報リンクを添える
【収益不動産オーナーさま】
– [ ] 物件ごとに、「先送りした場合の追加リスク」を試算する
– [ ] 外観の劣化が入居率・賃料に与える影響を、近隣相場と比較して確認する
– [ ] 部分施工で凌げる物件は、ロープアクセスでの早期対応を検討する
– [ ] 長期保有予定の物件は、来年以降の単価高止まりを前提に資金計画を見直す
【同業の経営者さま】
– [ ] 自社の在庫・受注残・代替品試験のステータスを毎週棚卸しする
– [ ] お客様への説明用テンプレを早めに準備する(業界全体の話と自社の対応を分けて書く)
– [ ] 一社で背負わず、業界団体・地域の同業との情報共有を強める
ナフサショックは、私たち建設業にとっても、管理組合・オーナーにとっても、たしかに厳しい局面です。けれど、20年現場をやってきた私の正直な感想は、「こういう時こそ、ちゃんと動いた人と組織だけが、来年・再来年に資産価値で報われる」というものです。
ご相談だけでも遠慮なくお声がけください。総会の前段階の整理だけでも、お力になれることがあります。お問合せはこちらのフォームから、もしくは長年付き合っていただいている管理会社さま経由でも結構です。次回も、現場で本当に使える話だけをお届けします。
出典・参考資料
- TBS NEWS DIG/Yahoo!ニュース「『私たちの声は届いていないのか』止まる工事現場、追いつめられる中小建設業者の切実な声」(2026年5月23日)
- 日経クロステック建築「建材不足でマンション大規模修繕に停止の危機、計画見直しも 中東情勢混迷」
- 造改築.com「ナフサショック(ナフサ不足)完全解説2026|石油化学製品が住宅から消える日」
- 新建ハウジング「【値上げ一覧】”ナフサショック”で相次ぐ大幅値上げ」
- テイガク「【2026年5月22日更新】建材資材の値上げと受注停止の影響」
- 児玉塗装「【2026年5月11日更新】ナフサショック・中東情勢による塗装材料への影響|各メーカーの出荷・受注状況まとめ」
- 東京新聞デジタル「建築資材や日用品…ナフサ由来製品が出荷停止・値上げ 政府『足りている』と言っても、すでに供給に影響が」
- 塗装源「中東情勢によるナフサ(シンナー)不足について」
- 国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」
- TBS NEWS DIG「資産性重視が『契約理由のトップ』に 東京23区新築マンション価格指数 タワマン19%上昇で過去最高」(2026年5月)
- makehouse「ナフサショックはいつまで続く?なぜ今、工務店に影響を与えているのか」
- 髙橋秀樹note「【2026年5月最新】ナフサショックによる建材受注制限・値上げ情報まとめ」
本記事の数値や制度情報は2026年5月25日時点での公開情報をもとに整理しています。最新の業界動向や個別物件のご相談については、株式会社明誠お問合せフォームよりお寄せください。
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【令和8年度開始】東京都の集合住宅向け再エネ助成で屋上防水工事に最大18万円/kW──管理組合が今やるべき3つの準備
結論先出し ── 5月29日の申請開始前に動かないと「来年回し」になります
東京都が令和8年5月22日付プレスリリースで、「集合住宅における再エネ電気導入促進事業」の令和8年度受付を令和8年5月29日(金)から令和9年3月31日(水)まで実施すると発表しました(出典:東京都報道発表「高圧一括受電による集合住宅再エネ100%化を支援」)。
この助成のポイントは、太陽光発電設備の本体に加えて、「架台工事の上乗せ」と「屋上の防水工事」までが助成の対象になっていることです。令和7年度の単価ベースでは、防水工事に最大18万円/kW、架台工事に20万円/kWが上乗せされていました(出典:クール・ネット東京 令和7年度実施要綱)。50kW弱の太陽光を載せれば、屋上防水だけで900万円近い助成枠が動くことになります。
私はこの2週間、いくつかの管理組合さまから「うちの理事会でも検討したい」というご相談をいただきました。正直に申し上げます。ここから動き始めて、年内に発注まで持っていけるかどうかが分かれ目です。本記事では、この助成制度の本質と、管理組合・所有者さまが今月中にやるべきことを、現場目線で整理します。
この助成制度の全体像 ── なぜ「太陽光」と「防水」がセットなのか
高圧一括受電とは何か
「高圧一括受電」とは、マンション全体で一つの大口契約として高圧電力をまとめて受電し、各住戸へ低圧で配分する仕組みです。各戸が個別に東京電力等と契約する従来方式に比べ、電気の調達コストが2〜3割程度下がるケースが一般的です。新築マンションでは導入実績が増えていますが、既存マンションでの導入はまだ少なく、合意形成と既存契約解約のハードルがネックになっていました。
再エネ100%電気の意味
今回の助成は、その高圧一括受電を再エネ100%プランで行うことが大前提です。建物全体で使う電気を、太陽光・風力・水力など再生可能エネルギー由来の電気に切り替えることが条件になります。東京都が「ゼロエミッション東京」の旗印で進めている政策の集合住宅版、と理解していただくのが分かりやすいでしょう。
なぜ太陽光と「架台工事」「防水工事」がセットなのか
私はこの設計を、東京都の制度設計者がよく考えたなと感心しました。屋上に太陽光パネルを載せるためには、当然ながらパネルを支える架台が必要です。そして、その架台を陸屋根(フラットな屋上)に固定する際、既存の防水層を傷めずに済む施工が要ります。
ここで現場の本音を申し上げます。「太陽光を載せたら屋上の防水が早く傷んだ」というトラブルは、業界では決して珍しい話ではありません。私は20年現場をやってきて、屋上に後付けの設備を載せて防水が10年保たなかった事例を、片手では数えきれないほど見てきました。
東京都はこの「防水と太陽光の相性問題」を見越して、太陽光設置の機会に合わせて屋上防水を更新する費用を補助するという、極めて実務的な枠組みを作ったわけです。これは管理組合さまにとって、長期修繕計画の屋上防水工事と、創エネ・再エネ対応をワンセットで前倒しできる、稀有なタイミングです。
令和8年度の概要と、令和7年度との関係
申請スケジュール(公式発表ベース)
東京都の発表によれば、令和8年度の助成金申請期間は令和8年5月29日(金)から令和9年3月31日(水)までです(出典:東京都報道発表)。
ただし、これは「期間の上限」であって、令和7年度同様に申請総額が予算枠に達した時点で前倒し終了する仕組みと考えるのが妥当です。令和7年度の同事業は、令和7年5月22日に受付を開始し、令和8年3月31日をもって受付終了が告知されています(出典:クール・ネット東京 令和7年度ページ)。年度途中での予算到達は珍しくありません。
助成額(令和7年度実績ベース/令和8年度は最新の実施要綱で要確認)
参考までに、令和7年度の助成額をまとめます。令和8年度の正式な助成単価は、5月29日開始時点で公表される実施要綱で必ず確認してください。
| 助成対象 | 助成単価(令和7年度実績) | 上限 |
|---|---|---|
| 受変電設備 | 助成対象経費の2/3 | 850万円/棟 または 8.5万円/戸 |
| 太陽光発電設備(既存集合住宅) | 12万円/kW | 発電出力50kW未満 |
| 太陽光発電設備(新築集合住宅) | 10万円/kW | 発電出力50kW未満 |
| 架台工事上乗せ | 20万円/kW | 陸屋根への施工に限る |
| 防水工事 | 18万円/kW | 既存集合住宅の陸屋根への施工に限る |
(出典:クール・ネット東京 令和7年度実施要綱)
例えば、屋上に45kWの太陽光を載せた場合、令和7年度ベースで以下のような助成総額が見込めます。
- 太陽光発電設備(既存):12万円 × 45kW = 540万円
- 架台工事上乗せ:20万円 × 45kW = 900万円
- 防水工事:18万円 × 45kW = 810万円
- 合計:2,250万円(受変電設備の助成は別途)
これは戸数50戸のマンションであれば、戸あたり45万円相当の補助です。修繕積立金の負担感覚で言えば、月額数百円〜千円の値上げを5年前倒しできるレベルのインパクトがあります。
押さえるべき2つの主体 ── 高圧一括受電事業者と管理組合
この助成のややこしいところは、助成対象者が2系統に分かれる点です。
- 受変電設備など:クール・ネット東京に登録された高圧一括受電事業者が申請(助成金は利用者である管理組合等に還元される設計)
- 太陽光発電設備(架台・防水含む):高圧一括受電が導入される集合住宅の所有者・管理組合等が申請
つまり管理組合さまが直接申請するのは、太陽光・架台・防水のパートです。受変電設備は事業者経由になります。私の経験上、ここを混同して「全部うちが申請するのか」と理事会で議論が止まる組合さまが少なくありません。役割分担をまず明確にすることが第一歩です。
管理組合がつまずきやすい3つの実務ポイント
① 屋上防水の劣化診断は誰が、いつ、どうやるか
私はいつも理事長さまに、こう申し上げています。「補助金の話より先に、まず屋上の現状診断をしてください」と。
なぜか。太陽光のパネル架台は、設置後20年以上はそこに居座り続けます。今の防水層がそのまま20年保つかどうかを見極めずに架台を載せると、5〜10年後に「防水だけ更新したいのに、パネルがあって工事できない」という最悪のケースに陥ります。
診断のやり方は3通りです。
- 足場仮設による全面打診・赤外線調査:精度は高いが費用と工期が大きい
- ロープアクセスによる屋上端部・パラペット点検:足場不要で1〜2日、費用は足場の1/3〜1/5
- ドローン目視+部分的なサンプル採取:初期スクリーニング向き
築15年以上で過去に防水更新履歴がない物件であれば、ロープアクセスで屋上端部と排水ドレン周りを集中的に点検するのが、コストと情報密度のバランスが最も良いと私は考えています。私の会社では、これを単独の見積もりとしても、太陽光・防水のセット提案の前段としても請けています。
② 長期修繕計画への組み込み
築20年前後のマンションでは、第2回大規模修繕の時期がそろそろ視野に入ってきます。この助成を使う最大の意味は、「次回の大規模修繕での屋上防水更新を、補助金付きで前倒しできる」ことです。
ただし、長期修繕計画を改訂せずにこの工事を突っ込むと、後でややこしくなります。修繕積立金の取り崩し計画、次回大規模修繕の工事範囲、第2回・第3回の長期見積もり──このあたりを理事会・修繕委員会で1回は議論にあげることを強くお勧めします。
国土交通省「長期修繕計画作成ガイドライン」(出典:国土交通省)でも、修繕計画は概ね5年ごとに見直すこととされています。今回の助成は、その見直しタイミングを早める良いきっかけになります。
③ 高圧一括受電事業者の選定リスク
ここが一番、私が理事会で「ちょっと待ってください」と申し上げたいポイントです。
高圧一括受電は、契約期間が10〜15年の長期契約になるのが一般的です。途中解約には違約金が発生するケースが多く、また「再エネ100%プラン」と謳いつつ、内訳が非化石証書のみで実質的には通常電気と変わらない、というケースも市場には存在します。
事業者選定の際は、以下を必ず確認してください。
- 契約期間・違約金条項・更新条件
- 「再エネ100%」の中身(実物の再エネ電気か、証書ベースか)
- 各戸への料金体系(メリットが各戸の電気料金にどう還元されるか)
- 撤去・解約時の費用負担
- クール・ネット東京の登録事業者であること
「クール・ネット東京の登録事業者」というのは、東京都が一定の要件を確認した事業者という意味です。これ自体は安心材料ですが、「登録されている=ベストである」ではありません。最低2〜3社からの提案を取り、契約条件を横並びで比較するのが大原則です。
私が現場で見てきた「失敗」と「正解」
失敗例1:「太陽光だけ」設置で防水が劣化した物件
5年ほど前、私は他社さまが施工された築23年の中規模マンション(48戸、陸屋根)の屋上を、管理組合さまからのセカンドオピニオン依頼で見せていただいたことがあります。3年前に屋上に太陽光パネル30kWを設置されていました。
ロープアクセスで端部から見て、まず驚いたのは架台アンカーの周辺の防水シートが波打っていることでした。設置時に既存防水を傷めないよう養生はされていたのですが、3年間の日射と温度変化で、アンカー周りに局所的な応力が集中し、シートの接着が浮き始めていたのです。
このまま放置すれば5年以内に漏水。しかし防水を更新するためには、太陽光パネルを一度撤去する必要がある。撤去・再設置のコストだけで300万円近くかかる見積もりになりました。
もし最初から防水更新と同時に施工していれば、この300万円は不要だったわけです。今回の東京都の助成は、まさにこの種の悲劇を防ぐためにあると言っても過言ではありません。
失敗例2:高圧一括受電の解約条件を読み込んでいなかった理事会
別の物件では、高圧一括受電を導入した10年後に、「やはり各戸が自由に電力会社を選べる方が良い」という意見が住民から出て、解約を検討された組合さまがありました。契約書を見たら、残存期間の電気料金見込み額の30%が違約金として規定されており、撤去費を合わせると総額1,500万円超。結果、解約を断念されました。
これは10年前の話ですが、現在も類似の契約条件は存在します。契約締結時に「将来の出口」をどう設計するかを理事会の議事録に残しておくことが、5年後10年後の理事の方々を救います。
正解例:ロープアクセスで先に防水診断、屋上荷重も同時調査
逆に上手くいった例も紹介します。築18年・60戸のマンションさまでは、最初の相談時点で「太陽光を載せたい、補助金も使いたい」というご要望でしたが、私たちはまず屋上の現状診断から入りました。
具体的にはロープアクセスで以下を1日半で実施。
- 屋上防水層の打診・赤外線調査
- パラペット・笠木周りのシーリング劣化確認
- 構造躯体への追加荷重に対する設計図書のレビュー(管理組合保管の建築確認申請書類)
- 排水ドレン周りの土砂堆積と排水勾配の確認
結果、防水層は部分補修で5年延命可能、構造的には45kWまで載せられる、ただし排水勾配の関係でパネル配置を一部見直す必要あり、という診断書をお渡ししました。
理事会ではこの診断書をもとに、「今年は屋上防水更新と太陽光・架台・受変電をセットで実施」という方針を全戸合意で固められました。設計から実工事まで通して、補助金を含めた管理組合さまの実質負担は、当初想定の40%程度に収まりました。
これが「正解」だと私は思っています。順番が大事なのです。診断 → 計画 → 補助金申請 → 工事、この順序を守れば、補助金は最大化し、リスクは最小化できます。
東京都の脱炭素政策の中での、この助成の位置づけ
ここで一度、視点を引き上げて、東京都全体の動きを整理しておきます。今回の助成は単発の制度ではなく、東京都が進める「ゼロエミッション東京」という大きな政策パッケージの中の一部分です。
東京都は、2030年までに温室効果ガス排出量を2000年比50%削減(カーボンハーフ)、2050年までに実質ゼロを目標として掲げています(出典:東京都環境局 ゼロエミッション東京)。東京都内のCO2排出量のうち、家庭部門が約30%、業務部門が約40%を占めており、合計で7割が「建物起因」と言ってよい構造です。
私が現場で実感するのは、ここ2〜3年、東京都の補助金がはっきりと「建物の脱炭素化」に予算を集中させてきたということです。屋根太陽光、断熱改修、窓改修、エコキュート、EV充電器、そして今回の集合住宅向け再エネ電気導入。一つひとつは単独制度ですが、組み合わせて活用すると、マンション1棟あたり数千万円規模の助成を引き出せる可能性があります。
たとえば、共用部の照明LED化、エレベーター更新時の高効率モーター採用、各戸への省エネガラス導入助成(クール・ネット東京の関連事業)と、今回の太陽光・再エネ電気導入を組み合わせれば、修繕積立金の取り崩し額を相当圧縮しながら、建物の長期価値を上げることができます。今回の助成を単発で見るのではなく、「次回大規模修繕とのパッケージとして組み立てる」視点を、ぜひ理事会に持ち込んでください。
ここからが本題です。では実際に屋上を見るとき、ロープアクセスでは何が分かるのか、現場の具体を一段深くお伝えします。
ロープアクセスでの屋上診断の実際 ── 1日でわかること
「屋上診断はロープアクセスで」と申し上げると、よく「目視で何が分かるんですか」という質問をいただきます。正直に申し上げます。目視だけで分かることは、想像以上に多いです。
私が現場で1日でチェックする項目を、参考までに列挙します。
- 防水層の物理的劣化:シート防水のジョイント開き、塗膜防水のクラック・剥離、アスファルト防水の浮き
- パラペット笠木周りのシーリング:充填材の硬化・断裂、笠木ジョイントからの雨水侵入痕
- 排水ドレン周辺:土砂・落葉の堆積、勾配の崩れ、ドレン金具の腐食
- 既設配管・架台の固定状況:エアコン室外機台、アンテナ、避雷針などのアンカー部
- 打診による浮き診断:必要に応じてサンプリング的に実施(テストハンマーまたは赤外線併用)
- 屋根面の温度分布(赤外線カメラ併用時):水分滞留箇所の特定
これらをロープアクセスで体系的に見れば、「あと何年保つか」「太陽光を載せて大丈夫か」「補強が必要な箇所はどこか」の3点が、現場1日+報告書作成2〜3日で出せます。費用感覚としては、中規模マンション(50戸前後)であれば20〜40万円程度が目安です。
「いきなり大規模修繕の見積依頼」よりも、まずこの屋上診断単独でお声がけいただく方が、管理組合さまの選択肢を狭めません。私たちはこの診断を、太陽光・防水のセット提案前の入口商品として位置づけており、診断後に他社施工を選ばれても全く構いません。情報を持って意思決定していただくことが、結局は管理組合さま、そして業界全体のためになると考えているからです。
工法の選び方 ── 「足場」「ロープアクセス」「ハイブリッド」のどれが向くか
私の会社、株式会社明誠は、大規模修繕工事において通常足場工法・ロープアクセス工法・ハイブリッド工法の3つを建物特性に応じて使い分けることができる、日本でも数少ない会社です。今回の助成案件のように「屋上工事+部分的な外壁・パラペット工事」が中心になる場合の使い分けを、簡単に整理します。
屋上点検・防水工事におけるロープアクセスの強み
- 足場架設不要のため工期が短い(屋上1棟分の防水診断なら1〜2日)
- 居住者の生活影響が小さい(足場による日照阻害・洗濯物干せない問題なし)
- コストが足場の1/3〜1/5になることも多い
- 足場を架けにくい複雑形状・狭隘地でも対応可能
特に「補助金の申請前提で診断書を急ぎたい」という場面では、ロープアクセスは強力な選択肢です。
足場が向くケース/ハイブリッドが活きるケース
ロープアクセスが万能というわけではありません。以下のような場合は、足場、もしくはハイブリッド工法が向きます。
- 外壁全面の塗装・タイル補修も同時に実施するなら、結局足場を架けた方が総合的に安い
- 大量の資材(架台パーツ、防水材ロール、太陽光モジュール)を屋上に揚重する場合、足場経由の方が安全
- 第2回大規模修繕の一環として総合的に実施するなら、足場前提で工程を組み、ロープは補助的に使う
ハイブリッド工法は、例えば「外壁は足場、屋上端部とバルコニー側溝の補修はロープアクセスで先行」というふうに、部位ごとに最適工法を組み合わせるやり方です。これにより、全面足場の半分弱の費用で、同等の品質を実現できる場合があります。
私はこれを、必ずワンセットで提案するようにしています。「3工法から、お宅にとって最も合理的な組み合わせを設計します」と。
理事会で必ず聞かれる7つの質問(FAQ)
Q1:うちのマンションは陸屋根じゃないけど対象になりますか
防水工事の助成は既存集合住宅の陸屋根への施工に限ると明記されています(出典:クール・ネット東京 令和7年度実施要綱)。勾配屋根の物件は防水工事分の助成対象外ですが、太陽光本体と受変電設備は別途検討の余地があります。
Q2:管理組合の決議は普通決議でいいですか、特別決議が必要ですか
工事の規模と「共用部分の変更」の度合いによって変わります。屋上に太陽光を新設し、防水も全面更新する場合、区分所有法上の「共用部分の重大変更」にあたる可能性が高く、原則として特別決議(区分所有者・議決権の各3/4以上)が必要と整理されるケースが多いです(出典:マンション管理センター)。実際の判断は管理規約と物件状況によりますので、専門家にご相談ください。
Q3:今ある電力契約はどうなりますか
高圧一括受電を導入すると、共用部・各戸の電力契約は新しい一括受電事業者経由に切り替わります。各戸の住民さまの合意取得は、理事会で最も時間がかかる部分です。「全戸書面同意」が事業者から求められるケースが大半なので、説明会と同意書回収のスケジュールを早めに組んでください。
Q4:賃貸住戸が多いマンションでも可能ですか
可能ですが、賃借人の同意取得や、賃料への影響などを整理する必要があります。区分所有者が法人で、賃貸経営を主たる目的としているマンションの場合は、所有者単位の合意で進められるケースが多くなります。
Q5:太陽光のメンテナンスは誰がやるんですか
これは契約スキームによります。事業者所有・管理組合借り受け(PPAモデル)か、管理組合所有かで分かれます。前者の場合、メンテナンスは事業者責任。後者の場合は管理組合が外部委託することになり、年間維持費が10〜30万円程度別途必要になります。
Q6:補助金申請の事務は誰がやりますか
申請書類は管理組合さま単独でも可能ですが、実務上は施工会社や太陽光事業者が代行するケースがほとんどです。私の会社では、必要書類のドラフト作成と現場写真・図面の整備をセットでお引き受けしています。
Q7:補助金の入金はいつになりますか
一般論として、工事完了報告 → 完了検査 → 助成金確定 → 入金、というフローで工事完了から3〜6ヶ月かかります。資金繰り上、補助金が「後から入る」設計であることを理事会で共有しておくことが重要です。
今月中(5月末)にやるべきこと ── 管理組合チェックリスト
5月29日の受付開始までに、以下のうち最低3つは着手しておきたいところです。
- 屋上の現状診断(簡易でも良いので、防水・排水・荷重の3点)に着手
- 過去5年の電気料金(共用部・各戸の合算可能なら)の整理
- 高圧一括受電事業者2〜3社の提案依頼(NDA前提でも可)
- 第2回大規模修繕の修繕積立金残高と、長期修繕計画上の屋上防水更新時期の確認
- 6月理事会の議題に「東京都の集合住宅再エネ助成について」を追加
- クール・ネット東京の最新情報ページ(こちら)をブックマーク
- 信頼できる施工会社・太陽光事業者・設計事務所の連絡先を確保
「今月中に全部やる」必要はありません。まず屋上を見ること、まず情報を集めること、この2つから始めれば十分です。
東京都外のオーナーさま・管理組合さまへ ── 他自治体の動きと、共通する考え方
ここまで東京都の制度を中心に書いてきましたが、実は同種の集合住宅向け再エネ・防水関連助成は、他の自治体でも徐々に拡充されてきています。
横浜市、川崎市、さいたま市、千葉市など、いわゆる首都圏政令指定都市では、マンション省エネ改修やZEH-M(ゼッチ・マンション)対応工事への助成メニューが整備されつつあります。大阪市、京都市、神戸市など関西の主要都市でも、独自の脱炭素マンション支援が動き始めています。
これらの自治体助成と、東京都の今回の制度との共通点を3つ挙げます。
- 「電気の脱炭素化」と「建物の躯体性能改善」をセットで評価する設計が増えている
- 既存マンションの大規模修繕タイミングと噛み合わせることが想定されている
- 書類の煩雑さは年々増しており、専門家の代行ニーズが高い
私の会社は東京都を中心に活動していますが、ロープアクセス工法のフランチャイズを通じて全国の地域パートナーと連携しています。日本初となる、ロープアクセス工事のフランチャイズ展開を行っており、塗装・防水・タイル・電気・看板工事など、各分野の専門職が加盟しています。お住まいの地域の自治体助成と組み合わせて、「高品質×低価格×地元工事店」の組み合わせを設計できる体制を整えてきました。
「うちは東京じゃないから関係ない」と思われた方こそ、お住まいの市区町村の最新の補助金検索ページを一度開いてみることをお勧めします。意外な助成枠が眠っているケースが、本当に少なくありません。
まとめ ── 「順番」を間違えなければ、この助成は活きます
私はこの東京都の助成制度を、マンション管理組合さまにとって今年最大級の機会と見ています。理由は3つです。
- 屋上防水更新という、本来は単独では「億の自己負担」になる工事に、まとまった公的助成が入る
- 太陽光・受変電とセットで実施することで、長期の電気料金削減も同時に得られる
- 申請開始から年度末まで10ヶ月あり、理事会の合意形成と工事実施のスケジュールが現実的に組める
ただし、何度も申し上げますが、順番を間違えると逆効果になります。診断なしで太陽光を載せて屋上を傷める。事業者選定を急いで違約金リスクを背負う。長期修繕計画を見直さずに突っ込んで、後年の修繕予算に穴が空く──こうした「失敗」は、すべて順番のミスから生まれます。
私はいつも理事長さまに、こう申し上げています。「補助金は急がず、でも逃さず」。9月の防水点検シーズンまでに屋上診断、10月までに事業者選定の絞り込み、12月の臨時総会で決議、年明けから工事──このペースで、十分間に合います。
ご相談だけでも遠慮なくお声がけください。屋上の現状診断や、高圧一括受電事業者からの提案内容のセカンドオピニオンなど、契約前段階の整理だけでも、お力になれることがあります。私たちは大規模修繕の総合提案として、ロープアクセス工法のご紹介、大規模修繕工事のご紹介、そしてお問合せフォームでご質問を承っています。
次回も、現場で本当に使える話だけをお届けします。
出典・参考資料
- 東京都「高圧一括受電による集合住宅再エネ100%化を支援|5月(令和8年度報道発表)」
- クール・ネット東京「令和7年度 集合住宅における再エネ電気導入促進事業」
- 東京都環境局「集合住宅における再エネ電気導入先行実装事業」
- 国土交通省「長期修繕計画作成ガイドライン」
- 公益財団法人マンション管理センター「マンション管理に関する各種情報」
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中東発「ナフサショック」が大規模修繕を直撃|塗料1か月待ち時代に、収益物件オーナーと管理組合が今やるべき5つの判断【2026年5月】
はじめに ── 今朝、現場の塗装職長から「在庫6月末で尽きるかも」と電話がありました
おはようございます。株式会社明誠の本間です。
今朝、私は協力会社の塗装職長から1本の電話を受けました。
「社長、ぶっちゃけ言うと、いつも使っているメーカーの塗料、次の発注からは納期1か月で見ておいてください。在庫、本気で6月末には尽きる可能性があります」
電話を切ってすぐ、私は朝日新聞の記事を確認しました。「ナフサ不足で塗装業者から悲鳴 塗料の在庫『6月末で尽きてしまう』」という見出しが目に飛び込んできました(出典:朝日新聞 2026年5月20日)。同じ日、Yahoo!ニュースでは石川県塗装工業会が「橋に塗る塗料が納入1か月待ち、塗装資材の安定供給を」と緊急要望を出しています(出典:Yahoo!ニュース 2026年5月20日)。
これは、現場の一部の話ではありません。私は20年近くこの業界で仕事をしてきましたが、塗料・シーリング・防水材といった大規模修繕の根幹資材が、ここまで一斉に揺らぐ局面は東日本大震災直後以来です。
ここからが本題です。本記事では、収益物件を保有するオーナー様、そしてマンション管理組合の理事長様に向けて、今この瞬間に確認していただきたい5つの判断を、現場の本音とともにお伝えします。
H2-1:なぜ「ナフサショック」が大規模修繕に直撃するのか
ナフサと塗料・建設資材の関係
まず用語を整理します。ナフサとは、原油を蒸留して得られる軽質油の一種で、プラスチック、合成樹脂、塗料、シーリング材、防水材といった石油化学製品の出発原料です。建設現場で使う主要資材の多くが、このナフサ由来の合成樹脂を含んでいます。
ナフサが高騰・不足すると、川下で何が起きるか。
まず塗料:ウレタン系・シリコン系・フッ素系といった主流の樹脂塗料は、ほぼ全量がナフサ由来の合成樹脂をベースにしています。次にシーリング材:マンションの外壁目地に詰めるあの白い・黒いゴム状の材料も、ポリウレタン系やポリサルファイド系といったナフサ由来の樹脂です。防水材もウレタン防水、塩ビシート防水、改質アスファルト防水のいずれも、ナフサ系の樹脂・添加剤に依存しています。
つまり、大規模修繕の工事費の中で「材料費」の50〜70%を占める仕上げ材は、ほぼ全てナフサ価格の影響をストレートに受けるのです。これが、私が「ナフサショックは大規模修繕にとって直撃の問題だ」と申し上げる理由です。
朝日新聞・石川県報道が示す「6月末で在庫が尽きる」現場
朝日新聞が報じた関西の住宅向け塗装業者の言葉が、私には刺さりました。「うちは大丈夫です」と顧客には言い切る。しかし内心は不安でいっぱい、というのです(出典:朝日新聞 2026年5月20日)。
石川県塗装工業会の事例では、浅野川にかかる橋の塗装工事で、塗料納入に1か月かかったとされています。橋梁塗装は構造物の長寿命化に直結する工事ですから、自治体側もこれを待たざるを得ません。
私が痛感したのは、「我慢して待てる工事」と「待てない工事」の差です。橋梁の再塗装は、極論を言えば数か月遅れても倒壊するわけではない。一方、マンションの屋上防水工事で梅雨入りまでに完了させたかった案件が、塗料1か月待ちで7月にずれ込むと、雨季の漏水リスクを丸ごと住民が背負うことになります。
経産省ガソリン補助金41.8円/Lが示す原油・原料価格の異常事態
もう一つ、私が見逃せないと感じているのが、経済産業省が2026年5月20日に発表したガソリン補助金の支給額です。1リットルあたり41.8円。経産省自身、6月にも基金が枯渇する可能性に言及しています(出典:Yahoo!ニュース 2026年5月20日)。
ガソリン1Lに対して41.8円の補助が必要というのは、原油・石油由来製品の市況がそれだけ異常事態だということです。建設現場では、職人の通勤・資材運搬・重機燃料のすべてに軽油・ガソリンが使われます。資材費だけでなく輸送費にも、ナフサショックは波及します。
私はこの数字を見て、「これは数か月で収まる話ではない」と判断しました。長期化を前提に経営判断を組み直す局面に入ったと考えています。
H2-2:実例で見る「価格と工期」の二重打撃
大手3社は増収営業増益、しかし末端工事業者は痛手
ここで一つ、誤解されやすい点を整理させてください。
総合塗料メーカー大手3社(日本ペイントホールディングス、関西ペイント、エスケー化研系列など)の2027年3月期業績予想は、全社が増収営業増益を見込んでいます(出典:Yahoo!ニュース 2026年5月20日)。
これだけ見ると「塗料業界は元気じゃないか」と思われるかもしれません。しかし、これはメーカー視点の話です。原料高を製品価格に転嫁できる大手メーカーは利益を確保できるが、末端の塗装工事会社、ひいては発注者であるオーナー様・管理組合は、その値上げを正面から引き受ける構図なのです。
正直に申し上げます。我々のような工事会社にとって、メーカーが増益でも嬉しくはありません。むしろ、値上げを発注者にどう説明し、どう仕様調整で吸収するかという胃の痛い仕事が増えるだけです。
健美家報道「2027年エアコン省エネ基準改正+ナフサショック」収益物件オーナー直撃
不動産投資情報誌「健美家」が2026年5月20日に配信した記事のタイトルが、私の今日のテーマと完全に一致していました。「2027年エアコン価格が改定? ナフサショックで新築の工期遅れ? 収益物件オーナーが」(出典:健美家 2026年5月20日)。
健美家の指摘は、新築のみならず既存物件の修繕にも波及するというものです。エアコン省エネ基準は2027年の改正でハードルが上がります。室外機の更新や、断熱性能を上げる外壁修繕とセットで考える収益物件オーナー様にとっては、ナフサショックと省エネ基準のダブルパンチが2027年問題として迫っています。
防水・塗装・シーリング、各工程への影響度合い
私の体感ベースで、影響度合いを整理します。あくまで現場の声に基づく目安で、すべての物件に当てはまるわけではありません。
| 工程 | 主原料 | 価格影響 | 工期影響 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 外壁塗装(シリコン・フッ素) | ナフサ系樹脂 | ★★★ | ★★ | メーカー指定品の確保が課題 |
| 屋上防水(ウレタン) | ウレタン樹脂 | ★★★ | ★★★ | 梅雨前需要と重なり最も逼迫 |
| シーリング | ポリウレタン系 | ★★ | ★★ | 主剤・硬化剤の納期長期化 |
| タイル張替 | モルタル+接着剤 | ★ | ★ | セメント系で影響軽微 |
| 鉄部塗装(錆止め・上塗り) | アルキド樹脂 | ★★ | ★★ | 代替品流通あり |
ご覧の通り、屋上防水(ウレタン)が最も逼迫しています。梅雨入り前に終わらせたい工事と、ナフサショックの真っ只中が重なるからです。
H2-3:大規模修繕の現場で何が起きるか ── 私が見てきた3つのリスク
リスク①:工期遅延 ── 足場リース料は1日単位で発生する
ここで現場の話を一つ。
私が以前担当した築20年・96戸のマンションで、塗料納期が3週間遅れたことがありました。その3週間、足場は組んだまま動けません。足場のリース料は、1日単位で発生します。物件規模にもよりますが、私の現場感覚で月あたり数十万円〜100万円超のリース費用が積み増しになるケースは珍しくありません。
これが、「足場が組んであるのに何もできない」という最悪のシナリオです。発注者から見れば、何も進んでいないのに毎日お金が消えている。私が一番悔しい思いをするのは、こういう場面です。
リスク②:仕様変更 ── 「同等品」への切替で品質低下リスク
塗料が確保できない場合、現場では「同等品」と称した代替品への切替が提案されることがあります。
これ自体は悪いことではありません。問題は「同等品の定義が曖昧」なまま発注書に書かれることです。たとえば塗膜の耐用年数、紫外線劣化への耐性、伸び率、これらが似ているようで微妙に違う製品同士が「同等品」として処理されてしまうと、5年後・10年後に外壁の劣化進行が想定より早く出てきます。
私はいつも理事長さまにこうお伝えしています。「同等品の切替が出てきたら、必ず製品名・メーカー名・JIS規格番号を文書で残してください」と。
リスク③:入札不調 ── 見積もり段階で塗料単価が確定しない
管理組合の理事会で予算化された金額に対し、入札してきた業者がすべて予算オーバー、というケースが今年4月から増えています。
理由は単純で、業者が仕入れ価格をリアルタイムで読めないのです。3か月前なら塗料単価をある程度固定で出せたものが、今は2週間後にメーカー値上げが入るかもしれない。だから業者は安全マージンを乗せて見積もる。結果、予算と入札額が乖離する。
私の経験上、これは2026年いっぱい続く可能性が高いと見ています。
H2-4:ロープアクセス工法が今、選ばれる理由
ここまで、ナフサショックが大規模修繕に与える影響をお話してきました。ここからは少しだけ、明誠の話をさせてください。
足場仮設費削減で資材高騰分を吸収
ロープアクセス工法のご紹介でも詳しくご説明していますが、ロープアクセス工法は産業用ロープを用いて職人が建物の壁面に直接アクセスする無足場工法です。
メリットを一言で言えば、足場を組まないので、足場代がかからないこと。これは平時でも工事費全体の10〜30%程度の削減効果がありますが、ナフサショックで資材価格が上昇している今、「材料費の上昇分を、足場代の削減で相殺する」という現実的な戦略が成立します。
もちろん、すべての工事にロープアクセスが向くわけではありません。面の広い外壁全面塗装で工期を短縮したい場合は足場のほうが適していることも多いですし、複雑形状の中低層では足場が向くケースもあります。
工期短縮で居住者・テナントの生活影響を最小化
ロープアクセス工法のもう一つの強みが、工期短縮です。
足場を組むには通常3〜7日、解体にも同程度かかります。これに対しロープアクセスは、設営は半日〜1日。シート養生やバルコニーへの工事員出入りで居住者にお願いする期間が、足場工法に比べて短くなります。
賃貸オーナー様で「テナント満室で、空室期間を作りたくない」という案件、私はロープアクセスをまずシミュレーションするようにしています。
「3工法から最適提案できる」会社の優位性
明誠は、通常足場工法・ロープアクセス工法・両者を組み合わせたハイブリッド工法の3つから、建物特性とご予算に応じて最適な提案ができる、日本でも数少ない会社です。
なぜこの「3工法持っている」ことが、ナフサショックの時代に効くのか。
ナフサショックは、すべての建物に均等に襲ってくるわけではありません。たとえば、屋上防水だけが急を要するなら、ロープアクセスは使えませんから足場が必要です。逆に、外壁の補修が中心で全面塗装は次回でいいなら、ロープアクセスでスポット施工して足場代をゼロにできます。
「足場一択」「ロープ一択」の会社では、今回のような原料ショックの最中、選択肢が硬直して逃げ場がありません。3工法を持っていると、部位ごと・季節ごとに最適な工法を組み合わせることで、資材高騰の影響を最小化できます。
明誠は、この3工法対応に加え、日本で初めてロープアクセス工事のフランチャイズ展開を行っており、塗装・防水・タイル・電気・看板など各分野の専門職が加盟しています。詳しくは大規模修繕工事のご紹介もご覧ください。
H2-5:収益物件オーナーが今やるべき5つの判断
ここからが、本記事で一番お伝えしたい部分です。収益物件オーナー様向けに、2026年5〜6月のうちに動いていただきたい5つの判断を整理しました。
判断①:長期修繕計画の前倒し可否を6月総会前にチェック
築15年を超えた物件で、「次の大規模修繕は2027年予定」と書いてある長期修繕計画をお持ちのオーナー様は、まず計画書を取り出してください。
ナフサショックが長期化すれば、2027年の工事費は2026年比で5〜10%、場合によってはそれ以上の上昇もあり得ます。逆に、2026年内に発注できれば、現時点の単価で固定できる可能性があります。
私はいつも「長期修繕計画は1年単位で見直してください」とお伝えしています。今年は特に、計画前倒しの是非を真剣に検討する時期です。
判断②:見積もり有効期限を従来90日→30日に短縮交渉
業者から出てくる見積書には、必ず「有効期限」が書かれています。従来は90日(3か月)が一般的でした。
しかし、ナフサショック下では、業者にとって90日先の単価固定はリスクが高すぎます。だから安全マージンを乗せた高い見積もりになる。
逆に発注者側から「有効期限30日でいいので、その代わり単価を抑えてください」と提案すると、業者は安全マージンを下げられます。3か月後に再見積もりするのは確かに面倒ですが、結果的に総額を抑えられるケースを私は何件か見ています。
判断③:塗料ブランドの「同等品許容範囲」を仕様書で明文化
リスク②で触れた「同等品問題」を防ぐため、仕様書の段階で「同等品許容範囲」を明文化してください。
たとえば、
「シリコン樹脂系塗料 ◯◯メーカー △△グレード を標準とする。同等品への変更は、JIS K 5658に適合し、かつ塗膜耐用年数12年以上の製品に限る。変更時は書面で承諾を得ること」
ここまで書いておけば、同等品トラブルの大半は防げます。仕様書を作るのは設計事務所やコンサルタントの仕事ですが、オーナー様・理事長様が「ここを書いておいてほしい」とお願いするだけで、大きく変わります。
判断④:足場・ロープアクセスのハイブリッド工法をシミュレーション
3工法のどれが最適かは、建物条件と工事内容で変わります。
私がご提案するなら、こうです。
- 屋上防水が急を要し、外壁は次回で良い物件:屋上のみ足場(or 移動足場)で短工期施工
- 外壁の部分補修・シーリング打替がメイン、全面塗装は不要:ロープアクセスで部位限定施工
- 全面塗装が必要だが、コストを抑えたい中高層:ハイブリッド工法(低層階は足場、中高層階はロープアクセス)
これを「シミュレーション」として複数案で見積もり比較するのが、ナフサショック下では効果的です。1社だけに任せず、明誠のように3工法持つ会社に提案させていただくか、複数社に相見積もりを取って比較してください。
判断⑤:補助金(令和8年度エネルギー需給構造高度化基準認証推進事業費補助金等)を併用
修繕工事と省エネ・脱炭素を組み合わせると、各種補助金の対象になることがあります。
2026年5月20日に経済産業省が公募開始した「令和8年度エネルギー需給構造高度化基準認証推進事業費補助金」(出典:経済産業省 2026年5月20日)など、エネルギー関連の補助金は事業者向けが多いですが、収益物件オーナー様にも適用可能なメニューがあります。
また、東京都のマンションポータルサイトでは、断熱改修・省エネ改修と組み合わせた助成金情報が随時更新されます。
ただし、補助金は予算枠到達で締切となるものが大半です。「絶対通る」「必ず取れる」とお約束はできません。早めの情報収集と申請準備が重要です。
H2-6:管理組合理事長へ ── 総会で必ず聞かれる質問と模範回答
私は管理組合の総会に呼ばれることが多いのですが、ナフサショックが報道されてから、必ずと言っていいほど聞かれる質問が3つあります。
質問1:「来年の修繕、本当に間に合うのか」
私の回答は、こうです。
「間に合わせる方法は2つあります。1つは前倒しで2026年内に契約を済ませること。もう1つは、工法を変えて工期を圧縮することです。たとえばロープアクセス工法を併用すれば、足場架設・解体の期間がカットでき、結果として全体工期が短縮されます」
質問2:「価格上昇分は積立金で吸収できるのか」
これは正直、物件ごとに状況が違います。築古マンションで積立金不足の場合、一時金徴収か、借入か、工事内容の優先順位付けの3択を冷静に話し合っていただくしかありません。
私からは「優先順位付けのご相談には乗ります」とお答えしています。屋上防水・外壁シーリングが最優先、外壁の全面塗装はもう一周ずらしてもよい、といった現実的な順位付けは、現場感覚を持った業者の意見が役に立つ場面です。
質問3:「他社の見積もりと比べて高くないか」
これは正直、ありがたい質問です。私はいつも「ぜひ比べてください」とお答えします。
ただし、比べ方が重要です。「総額」だけで比べると、安い見積もりに大事な工程が抜けていたり、グレードの低い材料が紛れていたりします。仕様書ベースで、材料グレード・施工面積・工期・保証年数を揃えて比較してください。明誠では、相見積もり用の仕様書フォーマットもお渡ししています。
質問4:「ロープアクセスは本当に安全なのか」
これも繰り返し聞かれます。私の回答は決まっています。「法令に基づく作業手順と、二重ロープによるバックアップが基本です」と。
ロープアクセスは厚生労働省の労働安全衛生規則改正(2022年4月施行)で、特別教育の対象となるロープ高所作業として明確に位置付けられています。明誠のフランチャイズ加盟社では、必要な特別教育を受けた職人が、必ずメインロープとバックアップロープの二系統で作業しています。
私は新人にも、お客様にも、いつもこう言います。「安全はコストではなく、最初に守る前提条件です」。この前提が崩れる現場は、どれだけ安くても請けません。
H2-7:私が現場で20年見てきた、嘘偽りのない感想
正直に申し上げます。
私はこの業界に入って20年近くになりますが、「数十年に一度のショック」は10年に1回くらいは起きるというのが、現場感覚です。リーマンショック、東日本大震災、コロナ禍、そして今回のナフサショック。そのたびに、「準備していた会社」と「していなかった会社」で結果が大きく分かれてきました。
オーナー様や理事長様も同じです。今回のショックを「うちには関係ない」と素通りした物件と、「いったん業者と話して、計画を見直しておこう」と動いた物件では、2027年・2028年の修繕費総額で数百万円〜千万円単位の差が出る可能性があります。
「足場一択」「ロープ一択」の会社では、今回のような状況で動きが取れません。これは批判ではなく、構造的な事実です。私たち明誠は、ロープアクセス工事の日本初フランチャイズ展開を通じて、全国の専門職と組んで、この難局でも発注者の側に立った提案ができる体制を整えてきました。
これは私が現場で20年見てきた、嘘偽りのない感想です。
補足:戸あたり換算で考えると分かりやすい
数字の話を、もう少し読者の感覚に近い形で言い直します。
たとえば100戸のマンションで、修繕積立金から3億円を投じる大規模修繕を予定していたとします。ナフサショックで材料費が10%上昇すると、単純計算で3,000万円。これを戸あたりに換算すると、1戸あたり30万円の追加負担です。
修繕積立金が潤沢な物件であれば吸収できますが、私が見る限り、築20年超の物件の半数は追加徴収か借入を検討せざるを得ない水準です。30万円を月割すれば、1戸あたり月2,500円を1年間徴収する規模になります。
ここを冷静に試算するか、目を背けるかで、数年後の組合運営の安定感が大きく変わります。私が「総会前に1分だけ話題に出してください」と申し上げているのは、こういう理由です。
H2-8:まとめ ── 2026年6月までに動く理由
最後にもう一度、本記事の要点を整理します。
第1に、ナフサショックは塗料・防水・シーリングといった大規模修繕の根幹資材を直撃しています。朝日新聞の報道では、関西の塗装業者で「6月末で在庫が尽きる」可能性が指摘されました。
第2に、ガソリン補助金41.8円/L(経済産業省2026年5月20日発表)が示すように、これは数か月で収まる話ではありません。長期化を前提に経営判断を組み直す局面に入っています。
第3に、収益物件オーナー様・管理組合理事長様が今やるべき5つの判断は、①長期修繕計画の前倒し可否確認、②見積有効期限30日交渉、③同等品許容範囲の仕様書明文化、④3工法のハイブリッドシミュレーション、⑤補助金併用、の5つです。
そして第4に、6月総会前に動くことに意味があります。6月以降、塗料納期はさらに長期化する見通しです。理事会で1分だけでも、この話題を出してみてください。
ご相談だけでも遠慮なくお声がけください。総会の前段階の整理だけでも、お力になれることがあります。「うちの物件はロープアクセスが向くのか」「ハイブリッド工法のシミュレーションだけ出してほしい」といった軽いご依頼も大歓迎です。
次回も、現場で本当に使える話だけをお届けします。
出典・参考資料
- 朝日新聞「ナフサ不足で塗装業者から悲鳴 塗料の在庫『6月末で尽きてしまう』」(2026年5月20日)
- Yahoo!ニュース「橋に塗る塗料が納入 1か月待ち 『塗装資材の安定供給を』中東情勢受け、石川県塗装工業会が要望」(2026年5月20日)
- Yahoo!ニュース「ガソリン補助金、1リットル40円台で高止まり 6月にも基金枯渇か」(2026年5月20日)
- Yahoo!ニュース「総合塗料3社の通期見通し、全社増収営業増益…中東リスクの見方は?」(2026年5月20日)
- 健美家「2027年エアコン価格が改定? ナフサショックで新築の工期遅れ? 収益物件オーナーが」(2026年5月20日)
- 経済産業省「令和8年度エネルギー需給構造高度化基準認証推進事業費補助金の公募について」(2026年5月20日)
- 東京都「マンションポータルサイト」
- 厚生労働省「ロープ高所作業に係る労働安全衛生規則の改正」
関連サービス
- ロープアクセス工法のご紹介 ── 無足場工法で工期短縮・コスト削減
- 大規模修繕工事のご紹介 ── 3工法から最適提案
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塗料が6月から最大35%値上げ──大規模修繕の見積もりはいつ確定すべきか、私が現場で考えていること
メタディスクリプション
日本ペイントが6月1日から塗料を最大35%値上げ。大規模修繕の総工費に与える影響を実数で試算し、見積もり凍結条項やロープアクセス工法で値上げ分を相殺する実務策まで、本間が現場目線で解説します。
築15〜25年のマンション理事長さま、収益物件をお持ちのオーナーさま。今この記事を開いてくださったのは、間違いなく正解です。
私は株式会社明誠で長年、大規模修繕の現場に立ってきました。先週、業界紙の見出しを見て、思わず手元の電卓を叩いたほどの話があります。「日本ペイントが6月1日出荷分から塗料を最大35%値上げ」(出典:建設通信新聞 2026年5月19日)。
35%、です。これは消費税の率を二度上乗せするくらいのインパクトで、しかも対象は溶剤系塗料が25〜35%、水性塗料が20〜30%。大規模修繕の工事原価のうち、塗料費が占める割合は決して小さくありません。今ご自宅マンションで「来年の総会で大規模修繕の発注を決める予定です」と仰っている理事長さまが、もし手元の見積もりを6月以降に持ち越したら、何が起きるか。
ここからが本題です。
1. 6月1日からの「塗料ショック」──現場で今、何が起きているか
1-1. 日本ペイントの値上げが意味するもの
建設通信新聞によると、日本ペイントは2026年6月1日出荷分から、溶剤系塗料を25〜35%、水性塗料を20〜30%引き上げます。塗料メーカー大手の価格改定は、業界全体のベンチマークになります。私の経験上、トップメーカーが30%動くと、関西ペイント、エスケー化研、SK化研系の中堅メーカーもおおむね1〜2か月以内に同水準まで追随します。
つまり「日本ペイント以外の塗料を選べば安く済む」という逃げ道は、半年以内に塞がる可能性が高い。これが私の見立てです。
1-2. シンナー不足という、もう一つの深刻な問題
塗料そのものの価格だけでなく、シンナー(希釈用の溶剤)も4月ごろから全国的に供給不足が続いています。日本塗装工業会の地方支部から国に支援要望が出ているという報道(出典:Yahoo!ニュース 2026年5月19日)まで出ているのが現状です。記事では「4月ごろからシンナーや塗料の供給不足、相次ぐ値上げで、工事の見積もりが出せず、7月以降の予定が立たない」と塗装業者の声が紹介されています。
これは、現場の私たちが日々肌で感じている話そのものです。先週も、ある協力会社から「シンナーは入るが、いつ入るかが読めない。来月の現場の段取りが組めない」という相談を受けました。値段が上がるだけでなく、「そもそも仕入れられるかどうかが不確実」という二重苦が、いま塗装業界を覆っています。
1-3. なぜ多くの管理組合は、このニュースをまだ知らないのか
正直に申し上げます。このニュースは建設業界紙では一面級の話題ですが、一般のマンション住民や管理組合の理事長さまには、まったく届いていません。理由はシンプルで、塗料の価格改定は管理組合側からすれば「業者の都合」に見えてしまうからです。
しかし実態は逆です。これは紛れもなく管理組合の修繕予算を直撃する話であり、知らずに6月以降に発注すると、見積もり総額が数十万〜数百万円単位で変わる可能性がある、と私は読んでいます。
2. なぜここまで急騰しているのか──ナフサ・原油・為替の三重苦
2-1. 原料ナフサのひっ迫が引き金
塗料の主原料の一つがナフサです。ナフサは原油から精製される石油化学製品の素で、シンナーや溶剤、樹脂の原料になります。「スギの粉と水だけで作る木質塗料」が富山県で開発されたというニュース(出典:Yahoo!ニュース 2026年5月19日)が話題になっているのも、まさにこのナフサ依存からの脱却を目指したものです。
ナフサが入ってこない理由は複合的ですが、主因として指摘されているのは、(1)中東情勢に伴う原油市場の不安定化、(2)アジアの石化プラントの定期修繕集中、(3)為替の円安基調、の三つです。
2-2. 円安が「輸入塗料」と「国産塗料」の両方を押し上げる
意外と知られていないことですが、国産の塗料も原料の多くは輸入に頼っています。ですから円安は、輸入塗料の値段だけでなく、国産塗料の製造原価まで押し上げます。
私が現場でいつも理事長さまに申し上げているのは、「為替が動くと、塗料はもれなく動く」ということです。為替の方向感がはっきりしない局面では、塗料の価格交渉は買い手側が極めて不利になります。
2-3. 構造的な値上げで、もう「待てば下がる」は通用しない
過去10年、塗料は10〜15%の値上げを段階的に経験してきました。今回の25〜35%という幅は、構造的な要因が一気に表面化したものと私は捉えています。「半年待てば落ち着くだろう」「来期は下がるだろう」という楽観論は、現場の感覚では通用しないフェーズに入っています。
3. 大規模修繕の総工費に与える影響を、実数で試算する
3-1. 100戸マンションのモデルケースで考える
ここから具体的な数字に入ります。築20年・100戸・延床面積8,000㎡規模のマンションを想定し、大規模修繕の概算をシミュレーションしてみます。あくまで一例ですが、現場感覚に近い数字です。
| 項目 | 改修前提算 | 内訳の特徴 |
|---|---|---|
| 外壁塗装(吹付・ローラー含む) | 約2,200万円 | うち材料費(塗料)約30%=660万円 |
| シーリング打ち替え | 約800万円 | 材料費約25%=200万円 |
| 防水(屋上・バルコニー) | 約1,500万円 | 材料費約30%=450万円 |
| 鉄部塗装 | 約400万円 | 材料費約30%=120万円 |
| 仮設足場 | 約1,800万円 | ほぼ全額が手間賃/資材レンタル |
| 共通仮設・諸経費 | 約700万円 | 一式 |
| 合計 | 約7,400万円 | 戸あたり約74万円 |
塗料・シーリング・防水材の材料費合計は、約1,430万円です。ここに今回の値上げ幅(おおむね30%とする)を適用すると、材料費が約429万円上振れする計算になります。
戸あたり換算では、約4万3千円。修繕積立金から見れば、決して小さな差額ではありません。「100戸×4万3千円=429万円」を、もし足場代の見直しや工法の選択で取り戻せたら、これは数字以上に大きな意味を持ちます。
3-2. 「上振れ分」は誰が負担するのか──ここに落とし穴がある
ここで多くの理事長さまが落ちる落とし穴があります。それは、契約書に「塗料の価格変動はスライド条項の対象外」と書かれているケースが意外と多いことです。
つまり、6月1日以降の発注で、塗料価格が想定より30%上がっても、追加見積もりの根拠として施工会社が請求できる文面になっていない、ということがあります。逆に「実費精算」と書かれていれば、上振れ分はすべて発注者(管理組合)負担になります。
私はこれを「契約の読み落とし」と呼んでいます。普段の修繕では問題にならない文言が、こういう値上げ局面で初めて牙を剥きます。理事長さまには、「契約書の単価表と、原材料スライドの条項を、必ず1ページ目に出してください」とお願いしています。
3-3. すでに見積もり済みの管理組合がすべきこと
もしすでに2026年4月や5月の時点で見積もりを取得済みであれば、その見積もりの有効期限を確認してください。一般的な大規模修繕の見積もり有効期限は30日〜90日です。期限切れの直前に再見積もりを取ると、6月の値上げ後の単価が反映され、想定外の総額に跳ね上がる恐れがあります。
逆に、有効期限内であれば、その単価で契約を締結することで、値上げ前の価格を確定できる可能性があります。この一週間が、まさに分水嶺です。
3-4. 50戸クラスでも数百万円が動く
念のため、50戸規模のマンションで同じ計算を回してみます。総工費は概算で4,000万円前後、材料費(塗料・シーリング・防水材)合計は約780万円。ここに30%の上振れを適用すると、約234万円の追加負担になります。戸あたり約4万7千円。100戸でも50戸でも、戸あたり負担で見るとほぼ同じレンジに収まる、というのが私の現場感覚です。
つまり、規模が小さいから影響が軽いということはありません。むしろ50戸クラスの管理組合の方が、修繕積立金の絶対額が少ないため、上振れの体感ダメージは大きくなります。
3-5. 「値上げが定着すると、次の修繕周期まで響く」という視点
もう一点、長期目線で重要なのが、塗料の値上げが「定着」するリスクです。大規模修繕は12〜15年周期で繰り返されます。今回の25〜35%値上げが定着すれば、次回の修繕でも同じ単価がベースになります。
私の経験上、一度上がった単価が元に戻ったケースは、過去10年でほぼ記憶にありません。値上げは「ストック」として効いてくる、と申し上げる方が正確かもしれません。だからこそ、今期の修繕計画だけでなく、長期修繕計画の改訂時にも、この値上げ前提を必ず反映してください。
4. 「見積もり凍結条項」を組まないと痛い目に遭う──私が現場で必ず確認すること
4-1. 私が理事長さまに必ず提案する3つの条項
20年現場でやってきて、値上げ局面のたびにトラブルを見てきました。私が今、必ずワンセットで提案するようにしているのが、次の3つの契約条項です。
第一に、「材料価格凍結条項」。発注時点の単価を、工期途中の原材料価格変動にかかわらず維持する条項です。当然、施工会社側はリスクを取ることになりますが、信頼関係のある会社であれば、ある程度のレンジ(例:±10%以内)であれば呑むケースが多いです。
第二に、「価格スライド条項の発動条件と上限」。たとえば「ナフサ価格が契約時から20%以上変動した場合のみ協議」と具体的な数字を入れます。あいまいな条項は、必ず後でもめます。
第三に、「支払いの分割と前払い割合の調整」。値上げが見込まれる材料は、発注後に前払いで仕入れる選択肢もあります。前払い率を高める代わりに、単価を抑える交渉余地は意外と残されています。
4-2. 「言い値」を防ぐための3社相見積もりの活かし方
相見積もりの取り方にもコツがあります。値上げ局面では、特に「材料費の内訳明示」を要件に入れてください。
総額だけで比較すると、塗料グレードや使用量の差が見えません。私はいつも「主要材料の数量×単価まで出してください」とお願いします。これをやると、各社の見積もりの精度が一気に上がり、後の追加請求リスクも下がります。
4-3. 専門委員会だけでは判断しきれない場面では
大規模修繕の経験が浅い理事会や修繕委員会では、ここまで踏み込んだ契約交渉は重荷だと感じる方が多いはずです。私はそういう場面でこそ、第三者の専門家を入れることを推奨しています。コンサルタントが必ずしも必要というわけではありません。施工会社2〜3社から「同じ条件で出してもらえないか」を提案させるだけでも、契約品質は大きく向上します。
4-4. 契約締結のタイミングは、慎重に、しかしスピーディーに
最後に、契約締結のタイミングについて一言申し上げます。
「慎重に検討する」と「先延ばしにする」は、似ているようで全く違います。今回のような明確な値上げ予告が出ている局面では、議論を引き延ばすこと自体がコストです。理事会で「もう少し情報を集めてから」と先送りした結果、6月以降の単価で契約することになり、数百万円単位で総額が膨らんだケースを、私は何度も見ています。
もちろん、よく分からないまま急いで判断するのは論外です。私が理事長さまにお伝えしているのは、「判断材料を1週間以内に揃え、2週間以内に決議する」というスケジュール感です。動ける時間軸を明確にすることで、議論の質も上がります。
5. コストを抑える3つの実務手段──工法選択/工期分割/材料調達
5-1. 工法選択──足場費を圧縮できれば、塗料値上げを相殺できる
ここからは、明誠の本業の話に踏み込ませてください。
大規模修繕の総工費の中で、仮設足場費は全体の20〜25%を占めます。先ほどの100戸マンションの例では、約1,800万円。塗料の値上げ分429万円を相殺するには、足場費を23〜25%削減できれば、ちょうど打ち消せる計算になります。
これを可能にするのが、私たち明誠が提案しているロープアクセス工法(産業用ロープを使った無足場施工)です。建物の形状や規模によりますが、塗装・防水・シーリング工事を全面ロープアクセス化することで、足場費の70〜90%削減を実現したケースが、過去の自社施工で複数あります。
もちろん、すべての建物に向く工法ではありません。低層・複雑形状・足場が立てやすい建物は通常足場が向きますし、高層・直線的・コスト最重視であればロープアクセスが圧倒的に有利です。詳しくはロープアクセス工法のご紹介もご覧ください。
5-2. 工期分割──「全棟一括」から「区画分割」へ
もう一つの実務手段が、工期分割です。総工費が大きすぎる場合、全棟一括発注で1社の言い値になりがちです。これを区画ごと(例:A棟・B棟・C棟)に分割発注し、競合圧をかけ続ける方法があります。
ただし注意点として、足場の架設費は分割するほど割高になります。ここでロープアクセス工法と組み合わせると、分割発注のデメリットが薄まり、競合圧のメリットだけを取り出せる場面があります。これは私たちが「ハイブリッド工法」と呼んでいる提案です。
5-3. 材料調達──大量発注と前倒し仕入れ
最後に材料調達です。発注規模が大きいマンションであれば、塗料メーカーから直接、特別単価を引き出せる場合があります。これは元請けの裁量で決まることが多いので、契約交渉時に「メーカー特別単価の取得可否」を必ず確認してください。
また、値上げ前の最後の駆け込みとして、5月末までに材料を前倒し発注する選択肢もあります。倉庫費は若干かかりますが、35%の値上げ幅と比べれば、十分に元が取れます。
6. ロープアクセス工法で、塗料費高騰の影響を相殺する具体策
6-1. なぜロープアクセスが値上げ局面で強いのか
ロープアクセス工法は、足場の架設と解体にかかる人件費・材料費・搬入搬出費を、産業用ロープと専門技能で代替する工法です。私はこれを「足場費を消す工法」と呼んでいます。
塗料の値上げに弱いのは、塗料の使用量が多い大規模工事です。一方で、足場費の削減幅は、建物の高さと階数に正比例して大きくなります。つまり、塗料費の上振れと足場費の削減幅は、ある意味で同じ方向に動きます。
これが、ロープアクセス工法が値上げ局面で特に強い理由です。
6-2. 居住者の生活への影響も最小化できる
塗料価格の話とは少しずれますが、ロープアクセス工法のもう一つの強みは、居住者の生活影響を最小化できる点です。足場を組まないため、バルコニーが封鎖される期間が大幅に短縮されます。洗濯物が干せない期間が半分以下になったという声もいただいています。
私の経験上、大規模修繕で住民満足度を左右する一番の要素は、工事品質ではなく「日常生活がどれだけ通常通りに送れたか」です。これは数字には出ない、しかし極めて大きな価値です。
6-3. フランチャイズ加盟店による全国対応
明誠は日本で初めてロープアクセス工事のフランチャイズ展開を行っています。塗装、防水、タイル、電気、看板といった各分野の専門職が加盟しており、全国どこでも一定の品質と価格でロープアクセス施工が可能な体制を整えています。これは、私たちが何年もかけて積み上げてきた強みです。
6-4. 過去事例の数字を、率直に共有します
具体的なイメージを掴んでいただくために、過去の事例の数字を率直にお伝えします(個別物件が特定できる情報は伏せます)。
10階建て・80戸クラスの分譲マンションで、当初の通常足場案では足場費が約1,650万円。これをロープアクセス工法に切り替えた結果、足場・ロープ込みの仮設関連費が約490万円に圧縮されました。差額は約1,160万円。同じ工事内容で、です。
別の事例では、ホテル棟の外壁改修で、足場架設が困難な接道条件があり、通常足場案では工期が4か月見込みでした。これをロープアクセスに切り替えたところ、工期2.3か月に短縮。ホテルの営業損失を大幅に圧縮できました。
数字は建物条件で大きく変動しますので、これらをそのまま当てはめることはできません。ただ、「ロープアクセスでここまで効くのか」という肌感を持っていただくには、十分な振れ幅だと思います。
6-5. ハイブリッド工法という第三の選択肢
「全面ロープアクセスは怖い」「住民理解が得られにくい」という管理組合さまには、ハイブリッド工法(足場とロープアクセスの併用)も視野に入れていただきたいです。低層部分は足場、高層部分はロープアクセス、というように部位ごとに最適な工法を選択する設計です。
私が提案で重視しているのは、「無理に一つの工法に統一しない」ということです。建物の形状、住民の生活動線、近隣との接道条件、これらを全部考慮して、最もコスト効果が高い組み合わせを設計します。日本でも、3工法すべてを自社で提案できる会社は数えるほどです。明誠はその数少ない一社です。
7. 補助金・助成金で値上げ分の一部を取り戻す方法
7-1. 自治体の大規模修繕助成は、まだ多くが現役
塗料値上げの直撃を、補助金・助成金で部分的に相殺する方法があります。たとえば東京都内の多くの区市町村では、分譲マンションの長期修繕計画策定や大規模修繕への助成制度を継続しています。
最新の情報は東京都マンションポータルサイトにまとまっています。「自治体マンション施策・支援制度」のページから、ご自身のマンション所在地の自治体を検索できます。
ただし、ここで一つ注意していただきたいのは、助成金は予算枠到達で締切になる点です。「絶対に通る」「必ず使える」と私は申し上げません。あくまで「使える可能性があるので、確認する価値が十分にある」という温度感です。
7-2. 国の制度も並行して確認したい
国土交通省の「長期優良住宅化リフォーム推進事業」など、国の制度も並行して確認の余地があります。マンション全体での申請になるため、管理組合の決議が必要です。詳しくは国土交通省 住宅局のページから、最新の公募状況を確認してください。
7-3. 中小企業庁の「新事業進出補助金」は対象外だが参考に
念のため申し上げますと、5月19日に公募が始まった中小企業庁の新事業進出補助金は、企業の新事業向けで、マンション大規模修繕は対象外です。ただし、収益不動産を法人で保有しているオーナーさまの場合は、リフォーム・リノベーション事業として活用できる可能性が一部あります。法人での運用をされている方は、税理士・行政書士に相談されると良いでしょう。
8. 今こそ「修繕積立金の運用化」と並走させたい長期戦略
8-1. 日経の報じる「積立金 預金から国債運用へ」が示す方向性
日経新聞は5月19日付で、マンション修繕積立金を預金から国債運用へ振り向ける動きが出始めていると報じました(出典:日本経済新聞 2026年5月19日)。物価高をにらみ、3000万円規模の積立金を国債で運用する管理組合の事例が紹介されています。
修繕積立金の運用は、これまで多くの管理組合で「現預金で寝かせる」のが慣習でした。しかし、今回のような材料価格の急騰が続けば、積立金の実質購買力は確実に目減りします。インフレ環境で何もしないことは、それ自体が判断であり、結果として損失を被ることになります。
8-2. 運用は本業外、しかし無関心ではいられない
正直に申し上げます。私は塗装と防水と仮設の専門家であって、資産運用の専門家ではありません。ですから、運用方法の具体的な助言はできません。
しかし、現場の声として、「修繕費の見積もりがどんどん上がる中で、積立金の額面だけは増えていない」というジレンマを、何度も理事長さまから聞いています。塗料費が30%上がるのと同じ速度で積立金が増えていないなら、その差分はどこかで埋めなければなりません。
長期修繕計画の改訂時期と合わせて、「積立金の運用」も検討項目に入れることを、私は強くお勧めしています。
8-3. 短期の値上げ対応と、長期の積立計画は別物として捉える
ここで一つだけ整理させてください。塗料値上げへの短期対応(契約条項、工法選択、補助金)と、長期の積立計画(運用、増額、世代間負担)は、別物として議論すべきです。
短期対応は来月の発注で完結します。長期計画は10年単位の話で、住民の世代交代まで視野に入れます。同じ理事会で両方を一度に決めようとすると、議論が混乱します。
私が理事長さまにいつもお伝えしているのは、「短期は今期の理事会で、長期は来期に向けた専門委員会で」という分け方です。
8-4. 増額決議のタイミングは、住民の納得が9割
積立金の増額は、住民の納得が9割を占める難題です。値上げ局面の今こそ、客観的な根拠(塗料値上げ、人件費上昇、長期金利動向)を住民に丁寧に説明する好機です。
私は理事長さまに、「外部の数字を盾にしてください」とお伝えしています。理事会の主観ではなく、業界紙や公的機関の数字を引用する。これだけで、住民の受け止め方は大きく変わります。
9. 5月22日(金)までに動いていただきたい4つのアクション
ここまで読んでくださった理事長さま、オーナーさまに、今週中に動いていただきたい4つのアクションを整理します。
第一に、手元の見積もりの有効期限を確認してください。期限が5月末以降の場合、6月の値上げ後の単価で再見積もりが出る可能性があります。
第二に、契約書の「価格スライド条項」を確認してください。原材料価格の変動条項がどう書かれているかが、上振れ負担の分かれ目です。
第三に、3社相見積もりを取る場合は、材料費の内訳明示を必須条件にしてください。総額だけの比較は、もはや危険です。
第四に、工法選択の余地が残っているなら、ロープアクセス工法を選択肢に入れて検討してください。足場費の削減で、塗料値上げ分を打ち消せる可能性があります。
10. よくあるご質問──現場で頻繁にいただく3つの問い
Q1. 「値上げ前に駆け込み発注した方がいいですか?」
慎重なご検討をお勧めします。発注を急ぐと、契約条件や工事内容の精査が甘くなる懸念があります。「値上げ前に契約しなければ」というプレッシャーで判断を誤ると、結果的に塗料値上げ分以上の損失を被ることがあります。
私の経験上、最善は「現在の見積もりの有効期限を確認し、その範囲内で品質と価格を見極めて契約する」です。期限切れの場合は、再見積もりの単価上昇を覚悟したうえで、上昇幅の妥当性をチェックします。
Q2. 「ロープアクセスは本当に安全ですか?」
ロープアクセスは欧州・北米を中心に普及している正式な高所作業手法で、IRATA(Industrial Rope Access Trade Association)などの国際資格制度があります。日本国内でも一般社団法人ロープアクセス技術協会が技能認定を行っており、認定者が施工します。
明誠の現場では、二重ロープ(メインロープと安全ロープ)の二重化、毎日の機材点検、現場ごとのリスクアセスメントを徹底しています。20年前の「危ないかもしれない」というイメージは、現在の運用とは大きく異なります。
Q3. 「ロープアクセスだと工事品質は落ちませんか?」
工事品質と工法は、本来別物です。重要なのは、施工者の技能と管理体制です。ロープアクセスでも足場でも、優れた職人が丁寧に施工すれば、品質は同等以上に保てます。
逆に、足場を組んでも職人の技能が低ければ品質は出ません。「足場だから安心」「ロープだから不安」は、いずれも誤った認識です。判断軸は、工法ではなく施工会社の実績と職人の技能です。
11. 結語──現場で20年、私が一番悔しい思いをすること
これは私が現場で20年見てきた、嘘偽りのない感想です。
私が一番悔しい思いをするのは、「もう少し早く相談に来ていただければ、数百万円単位でコストを抑える提案ができたのに」という場面です。塗料値上げのような構造的なコスト要因は、待っても下がりません。動ける一週間、動ける一ヶ月で、結果が大きく変わります。
ご相談だけでも遠慮なくお声がけください。総会の前段階の整理だけでも、お力になれることがあります。大規模修繕の全体設計から工法選択、契約条項のチェックまで、私たちが現場で積み上げてきた知見を、惜しまずお出しします。
次回も、現場で本当に使える話だけをお届けします。
出典・参考資料
- 建設通信新聞「【価格改定】6月1日出荷分から塗料30%前後値上げ/日本ペイント」2026年5月19日
- Yahoo!ニュース「塗装資材の供給不足・価格高騰「ナフサ、なぜ入ってこないのか…」塗装業者の団体が支援要望」2026年5月19日
- Yahoo!ニュース「「スギの粉+水→塗料」に? シンナー要らず「オール富山」の木質塗料とは」2026年5月19日
- 日本経済新聞「マンション修繕積立金、預金から運用へ 物価高にらみ国債に3000万円」2026年5月19日
- 中小企業庁「新事業進出補助金の第4回公募の申請受付を開始しました」2026年5月19日
- 東京都「東京都マンションポータルサイト」
- 国土交通省「住宅局 ホームページ」
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筆者:本間(株式会社明誠 代表)
公開日:2026年5月21日
カテゴリ:本間社長ブログ
▼ロープアクセス工法・無足場工法の詳細解説はこちら
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大規模修繕の利益相反リスクと「スマート修繕」——理事長が今すべき発注プロセス透明化と業者選定5つの自衛策【2026年最新】
2026年5月13日、都内タワーマンションの大規模修繕工事で「利益誘導」の疑いが浮上したとの報道が出ました。住戸を実際に購入し、区分所有者として理事に就任した人物が、特定の業者へ工事を流していた疑いです。同じ時期、DeNA系ベンチャーが大規模修繕の見積もり査定と業者選定支援に参入し、「不正を見抜くスマート修繕」として理事会・修繕委員会の支持を集め始めています。私たち施工側から見ても、ここ数年で発注プロセスのあり方は大きく変わりつつあります。本稿では、管理組合の理事長さま・修繕委員さまが「自分のマンションでは何を整えておけば、こうした疑惑から組合員を守れるのか」を、現場20年の目線で5つに絞ってお伝えします。情報は2026年5月15日時点のものです。
1. 何が起きているのか——2026年5月13日の2つのニュースを並べる
まず、今週の業界を揺らした2つのニュースを、感情を抑えて時系列で並べます。私はいつも理事長さまに、ネットの見出しに反応する前に「誰が、いつ、何を発表したのか」を表にして眺めることをお勧めしています。今回もそれをします。
ひとつ目。日経クロステックが2026年5月13日に報じた、「都内タワマン修繕で利益誘導か、理事に就任『疑惑の人物』の正体」という記事です。報道によれば、都内のタワーマンションの大規模修繕工事をめぐり、利益相反取引の疑いが浮上しました。手口の特徴は、住人になりすますのではなく、当該マンションの住戸を実際に購入し、区分所有者の立場で理事に就任していたという点です(出典:日経クロステック「都内タワマン修繕で利益誘導か、理事に就任『疑惑の人物』の正体」)。私はこのニュースを最初に目にしたとき、「これまで噂で聞いていた話が、ついに紙面に出てきたのか」と背筋が伸びる思いでした。
ふたつ目。同じく日経クロステックが「DeNA系ベンチャーが参入、不正見抜く『スマート修繕』」と題して、ディー・エヌ・エー(DeNA)の社内ベンチャー制度から生まれたスタートアップが、大規模修繕の見積もり査定や工事会社の選定支援に参入し、管理組合の人気を博していると伝えました(出典:日経クロステック「DeNA系ベンチャーが参入、不正見抜く『スマート修繕』」)。理事会の前後で見積書を「客観的に査定する」サービスへのニーズが、ここ数年で急速に高まっていることの表れです。
3行でまとめます。第一に、大規模修繕の発注プロセスに不正・利益相反が紛れ込みうる事例が、業界紙ベースで具体的に報じられた。第二に、その不正を「外部の目」で機械的に弾く査定サービスが、いま管理組合に選ばれ始めている。第三に、施工側である私たちにとっても、これは「透明な見積もりが普通になっていく」転換点です。
ここからが本題です。理事長さまにとっては「うちのマンションでは大丈夫か」「では何をすればいいのか」が一番気になるところだと思います。順を追って整理していきます。
2. 「利益相反」とは何か——理事会で言葉の定義をそろえる
ここで一度、専門用語の補足をさせてください。理事会の議論で、私が最初にお願いしているのが「言葉の定義をそろえること」です。利益相反という言葉も、人によって解像度がだいぶ違います。
利益相反取引(りえきそうはんとりひき)とは、ある人が、自分の地位や立場を利用して、本来その地位で守るべき相手の利益と、自分自身の利益とがぶつかる状況で取引を行うことを指します。マンション管理組合の文脈では、たとえば理事が「組合のために最も良い業者を選ぶ」立場でありながら、自分が関係している業者を選ぶように仕向ければ、組合の利益と理事個人の利益がぶつかります。これが典型的な利益相反です。
国土交通省が示している「マンション標準管理規約」では、役員の誠実義務として、組合員のために誠実にその職務を遂行しなければならない旨が明記されています。さらに、役員と組合との利益相反取引について、理事会の承認を得る必要があるとの規定も整備されてきました(出典:国土交通省「マンション標準管理規約(単棟型)」)。標準管理規約はあくまでひな型ですが、ほとんどのマンションの管理規約は、この標準管理規約をベースに作られています。
ここで大事なポイントを2つだけ強調させてください。第一に、利益相反は「悪意のある人だけがやること」ではない、ということです。たとえば、理事の知人が施工会社を経営している、理事の親族が管理会社の社員である、といった「うっかりの利益相反」も含めて、規約上は理事会の承認手続きが必要になります。第二に、利益相反は「あった/なかった」の二元論ではなく、「事前にどう開示し、どう手続きを踏んだか」が問われる、ということです。透明性こそが最大の防御だと私は思っています。
正直に申し上げます。私はこれまで20年近く現場をやってきて、悪意ある利益誘導の現場よりも、「悪気はないのに開示プロセスを踏めていない」現場のほうがずっと多いと感じてきました。だからこそ、今回のような報道は、業界全体に「手続きをきちんと整える」きっかけを与えてくれていると受け止めています。
3. 都内タワマン疑惑が示した「新しい手口」——なりすましから「実所有者化」へ
報道で特に注目すべきは、疑惑の人物が「住人になりすました」のではなく、「住戸を実際に購入して区分所有者になった」点です(出典:日経クロステック「都内タワマン修繕で利益誘導か」)。これは、従来想定されていた「外部からの干渉」とは別の次元の話です。
私の経験上、これまで多くの管理組合が想定してきたリスクは、おおむね次の3つでした。
第一に、施工会社の営業担当者が、理事に必要以上に近づくケース。これは、見積もりの透明性を確保する仕組みである相見積もりや公開プレゼンを徹底することで、ある程度抑えられます。
第二に、コンサルタント(設計監理会社)が、特定の施工会社と裏で結託しているケース。いわゆる「談合型」のリスクで、管理組合がコンサルタントを選ぶ段階での透明性が問われます。
第三に、管理会社の利益相反。管理会社が修繕工事をグループ会社に流すリスクです。これも、管理会社経由の発注を避けて組合直接発注に切り替える、あるいはセカンドオピニオンを取るといった対策がよく取られます。
今回の報道は、この3類型のいずれにも当てはまらない、第四のリスクを示唆しています。利益を得たい側が、当該マンションの住戸を実際に購入して区分所有者となり、内部から意思決定に影響を与えるという構造です。タワマンの単価が高いエリアでは、住戸の取得コストよりも、その後の修繕工事から得られる利益のほうが大きいケースが理論上ありえます。
私はいつも理事長さまに、「あなたのマンションが大規模であればあるほど、外からは見えない『大きな金額が動く意思決定の場』として認識されている」とお伝えしています。年間維持管理費よりも、大規模修繕の総額のほうが圧倒的に大きい、という事実は変わりません。だからこそ、組合員1人ひとりの善意に依存する仕組みではなく、手続きそのものが利益相反を弾く設計になっていなければならないのです。
4. 「スマート修繕」が選ばれている理由——理事会が求めているのは「客観性」
一方、明るい話題もあります。DeNAの社内ベンチャー制度から生まれた「スマート修繕」を運営するスタートアップが、見積もり査定や工事会社の選定支援で人気を集めていると報じられました(出典:日経クロステック「DeNA系ベンチャーが参入、不正見抜く『スマート修繕』」)。
私は施工会社の立場ですから、見積もり査定サービスは、ある意味では「お客さまから値引き交渉される入り口」でもあります。それでも、私はこうしたサービスの広がりは、業界にとって明確にプラスだと思っています。理由は3つあります。
ひとつ目。理事会の意思決定の負担が下がります。理事長さまや修繕委員さまの大半は、本業を持っていて、無報酬で組合運営を担っておられます。3社相見積もりを取って、見積項目を1行ずつ突き合わせて、適正かどうかを判断するのは、実務上ほぼ不可能です。客観的な査定が入ることで、理事会の議論は「価格の妥当性」から「自分たちのマンションに何が必要か」に移すことができます。
ふたつ目。利益相反が起きにくい構造ができます。第三者の査定サービスが入ると、特定の業者が極端に高い・低い見積もりを出していれば、それが可視化されます。私の感覚では、第三者の目が入る現場では、最初から不正をしようとする業者は手を引きます。透明性が高いだけで、悪意のあるプレーヤーが現場から消えていく。これはとても健全な動きだと思います。
みっつ目。「適正価格」の社会的なコンセンサスが形成されやすくなります。これまで大規模修繕の単価は、地域・物件・時期によってブラックボックスでした。スマート修繕のような査定サービスが蓄積したデータが業界に共有されることで、「築20年・100戸・首都圏なら戸あたり〜万円」という相場観が、組合側にも私たち施工側にも共有されていきます。
ただし、私はいつも理事長さまに、こうした査定サービスを使う際の注意点を3つだけお話ししています。第一に、査定はあくまで「価格の妥当性」を見るものであって、「工事品質の妥当性」を保証するものではないこと。第二に、価格だけで業者を選ぶと、結果的に工事品質や保証で痛い目を見ることがあること。第三に、査定サービスにも「合う合わない」があるので、複数の選択肢を比較してから入れるべきだということです。
ここからが本題です。査定サービスを入れる入れないにかかわらず、理事会が自分たちでやっておくべき「自衛策」が5つあります。次のセクションで、私が現場で20年関わってきた立場からまとめます。
5. 理事長が今すべき5つの自衛策——発注プロセスを「ガラス張り」にする
ここからは実務編です。5つの自衛策を、優先順位順に並べます。
自衛策①:利益相反開示シートを「全役員候補」に提出してもらう
理事候補・修繕委員候補に立候補する段階で、本人と家族の利害関係を申告するシートを書いてもらいます。書式は1枚で十分です。記載項目の例は次のとおりです。
第一に、本人または家族が、建設業・不動産業・管理業に関わる仕事をしているか。第二に、過去5年以内に、当該マンションの建設・管理・修繕に関わった事業者と取引や関係があったか。第三に、本人または家族が、当該マンションの住戸取得時に「投資目的」を主目的としていたか。
私の経験上、このシートの最大の効果は、提出された情報を細かく審査することよりも、「申告した/していなかった」という事実そのものを記録に残すことです。万が一あとから問題が起きた場合、組合は「ルールに沿った手続きを踏んでいた」と説明できます。組合員1戸あたりにすれば、たった1枚の紙ですが、戸数100戸のマンションなら100枚分の自衛策になります。
自衛策②:見積もり仕様書を「組合主導」で作る
私は理事長さまから「3社見積もりを取りたい」と言われた時、必ず確認することがあります。「では、見積もりの仕様書はどなたが作りますか?」という質問です。
仕様書を作る人が、実は最も発注プロセスへの影響力を持ちます。仕様書に「○○工法」「○○メーカー材料」と書き込まれていれば、そのメーカー・工法を扱える業者しか入札できません。逆に、仕様書がふわっとしていれば、各社の提案がバラバラになり、見積もり比較自体ができなくなります。
私の現場では、組合の側で「外壁の何㎡をこの仕様で」「防水の何㎡をこの仕様で」と明示した仕様書を作っていただき、私たちはそれに沿って金額を入れる、という流れを基本にしています。仕様書を組合主導で作るためには、設計監理者(コンサルタント)の選定が肝になります。
国土交通省が公表しているマンション大規模修繕工事に関する実態調査でも、設計監理方式の採用率が一定割合あり、組合の意思決定支援としての設計監理の重要性が指摘されています(出典:国土交通省「マンション大規模修繕工事に関する実態調査(令和3年度)」)。設計監理者を入れる場合は、その人選そのものを利益相反の対象として開示・採決の対象にする運用を、私はいつも提案しています。
自衛策③:見積もり開封を「公開」する
私が現場で見てきて一番うれしいのは、見積もり開封会を区分所有者に公開しているマンションです。開封会では、3社(または5社)の見積もり封筒を、組合員の見ている前で開けて、各社の総額を発表します。
この運用には3つの効果があります。第一に、組合員に「自分たちの管理組合は透明にやってくれている」という安心感が広がります。第二に、各社の見積もり総額のレンジが組合員にも見えるので、価格交渉の議論が感情論にならず、データに基づいたものになります。第三に、業者側にも「組合員の前で見積もりが開かれる」という緊張感が伝わるので、見積もり段階での甘えがなくなります。
理事長さまに私がいつもお伝えしているのは、「公開開封会を1回やるだけで、その後の運営が驚くほど楽になります」ということです。
自衛策④:第三者査定または相見積もり比較表を、総会前に必ず提示
戸数100戸のマンションで、大規模修繕の総額が1億円を超えるケースは珍しくありません。1戸あたり100万円の判断を、組合員に総会で求めるわけです。説明資料の質が、可決・否決の分かれ目になります。
私の経験上、説明資料に欠かせないのは次の3点です。
第一に、見積もり比較表。各社の見積金額を、項目ごとに横並びにしたシンプルな表です。総額だけでなく、足場工事費・外壁塗装費・防水工事費・シーリング工事費・諸経費の主要項目別に並べます。
第二に、第三者査定(または相場参照)の有無。スマート修繕のようなサービスを使った場合は、その査定結果を別添でつけます。査定を使わない場合でも、過去の自社管理組合の実例や、業界紙の公表値などを参考値として記載します。
第三に、リスク説明。価格の安さだけで業者を選んだ場合に想定される、施工品質・保証・アフターサービスのリスクを、淡々と書き込みます。私はいつも理事長さまに、「リスクを書くことを恐れないでください。書いてあったほうが、組合員からの信頼は上がります」とお伝えしています。
自衛策⑤:契約締結後の「変更契約」プロセスを文書化する
意外と盲点になるのが、契約締結後の追加変更です。私の経験上、利益相反のグレーゾーンが発生しやすいのは、ここです。工事が始まってから「思ったより劣化が進んでいたので、追加工事をしましょう」という話は、必ず出てきます。これ自体は施工上やむを得ない場合が多いのですが、追加金額が大きくなるほど、組合員から見ると「最初の契約はなんだったのか」という不信感が生まれます。
文書化のポイントは3つです。第一に、追加変更が発生した場合の意思決定プロセス(理事会承認か、修繕委員会承認か、追加見積もりの取り方)を事前に決めておくこと。第二に、追加金額が一定額(たとえば総額の5%)を超える場合は、必ず複数業者から見積もりを取り直すルールを置くこと。第三に、追加変更の議事録を、必ず組合員に開示すること。
私は契約書の最初の打ち合わせで、「追加変更が出る前提でルールを決めておきましょう」と理事長さまに必ずお伝えしています。これは私たち施工側にとっても、後から組合とトラブルにならないための共通の安全装置だからです。
6. 第三者査定サービスを「使う場合」と「使わない場合」の判断軸
スマート修繕のような第三者査定サービスを使うかどうかは、管理組合ごとに事情が異なります。私が理事長さまから相談されたときに使っている判断軸を、表でお見せします。
| 判断要素 | 使うべきケース | 使わなくても回るケース |
|---|---|---|
| 戸数 | 50戸以上で1億円超の工事 | 50戸未満で総額が小さい |
| 過去の修繕履歴 | 過去の見積もりに不透明な経緯がある | 過去の修繕が組合員から信頼されている |
| 設計監理者の有無 | 設計監理者がいないor選任に懸念 | 信頼できる設計監理者がすでにいる |
| 理事会の経験値 | 初めての大規模修繕、修繕委員も初めて | 過去に複数回経験している |
| 業者からの提案の妥当性に不安があるか | 不安がある | 不安はないが念のため確認したい |
私はいつも理事長さまに、「査定サービスは、設計監理者の代わりではなく、設計監理者の作業を補強するもの、と理解してください」とお伝えしています。査定サービスが見ているのは主に「価格の妥当性」であって、「工事仕様の妥当性」「現場管理の妥当性」「アフターサービスの妥当性」は、別の専門家の目が必要です。
正直に申し上げます。私は施工会社の経営者ですが、第三者査定サービスを否定したことは一度もありません。むしろ、複数のプロの目が入ったうえで選ばれる現場のほうが、施工側もやりがいがあります。理由はシンプルで、「価格だけで選ばれた現場」は、施工品質に投資する余地が小さく、結果的にお客さまに迷惑をかけるからです。
7. 「足場」と「ロープアクセス」の選択肢を持つことが、利益相反対策にもなる
少しだけ自社の話をさせてください。私は株式会社明誠で、通常の足場工法とロープアクセス工法、そして両者を組み合わせたハイブリッド工法の、3つの工法を提案できる体制を作ってきました。これは、利益相反対策とも密接に関係しています。
なぜか。1工法しか提案できない業者は、「自社が得意な工法に持ち込むためのプレゼン」をしがちです。たとえば、足場会社は「足場工法が最適です」と必ず言うし、ロープアクセス専業会社は「ロープでやれば工費が下がります」と必ず言います。これは利益相反というよりも、能力の偏りに起因する「無自覚なバイアス」です。
理事長さまの立場では、業者の説明が偏っていることが、最初は分かりません。だからこそ、「複数の工法を比較できる業者を入れる」「複数の工法を扱える業者を相見積もりに混ぜる」ことが、結果的に利益相反対策になります。明誠が提供しているのは、その「工法選択の比較軸」そのものなのです。
具体的な工法選択の例については、自社サービス紹介として、ロープアクセス工法のご紹介、大規模修繕工事のご紹介もあわせてご覧ください。理事会の資料に組み込んでいただいても結構です。
ここで利益相反の話に戻ります。組合員の前で工法ごとのメリット・デメリットを並べて説明できれば、「なぜこの工法を選んだのか」が議事録に残ります。逆に、1工法しか提示されないまま採決された案件は、後から「他の選択肢はなかったのか」と問題化しやすい。私の経験上、これは大規模修繕に限らず、組合運営全般に当てはまる教訓です。
8. 修繕積立金との関係——透明な発注プロセスは、値上げ議論を救う
大規模修繕の不正・利益相反リスクは、修繕積立金の議論とも切り離せません。国土交通省は2024年に「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」を改訂し、長期修繕計画の見直し頻度や、修繕積立金の段階増額の考え方を整理しています(出典:国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」)。
私はいつも理事長さまに、「修繕積立金の値上げは、組合員にとって最もシビアな議論です。だからこそ、過去の修繕工事の発注プロセスが透明であったかどうかが、値上げの説得力を左右します」とお話ししています。
具体的には、こういうことです。値上げ提案の総会で、組合員から必ず出る質問の1つが「これまでの修繕工事の発注は、本当に適正だったのか」です。ここで答えられないと、議論は一気に紛糾します。逆に、過去5年の修繕工事について、「見積もり比較表」「公開開封会の議事録」「第三者査定の結果」「追加変更の経緯」が整理されていれば、値上げ議論は驚くほどスムーズに進みます。
戸あたりで考えると分かりやすいです。100戸のマンションで月額1,000円の値上げは、組合全体で年120万円の追加収入になります。10年で1,200万円。これは中規模工事1件分の予算規模です。値上げ議論の出口は、過去の発注プロセスの透明性にかかっている、と言っても言い過ぎではありません。
9. 私が現場で見てきた「不正が起きないマンション」の共通点5つ
20年近く現場をやってきて、私が「このマンションは大丈夫だな」と感じる組合には、共通点があります。5つだけ挙げます。
第一に、理事長と修繕委員長が別の人になっている。1人に意思決定が集中していないので、自然に相互チェックが効きます。
第二に、議事録が組合員に毎月配信されている。配信方法はメール・掲示板・郵送のどれでも構いません。とにかく「誰が何を発言したか」が共有されていることが大事です。
第三に、業者の現場担当者と組合の窓口が、必ず2人以上で会っている。1対1の打ち合わせを避けるだけで、グレーゾーンの会話が起きにくくなります。
第四に、複数年契約・複数年保証の縛りを、根拠を持って判断している。「とりあえず5年保証」「とりあえず10年契約」ではなく、「なぜこの年数か」を議事録に残しているということです。
第五に、組合員向けの説明会を、総会以外に最低1回開いている。総会だけだと議題が多すぎて深い議論ができません。修繕工事のテーマだけで1時間時間を取る勉強会を、総会の3カ月前に開いている組合は、ほぼ間違いなく不正リスクが低い印象です。
10. 業界が向かっている方向——「透明な発注」が標準になる時代
最後に、業界の見立てを少しだけお伝えします。私はこれを、現場の感覚と、業界紙の報道、そして公的資料の動向から読み解いています。
ひとつ目。第三者査定サービスは、今後さらに広がります。スマート修繕のような事業者だけでなく、設計監理会社、専門家団体、自治体の窓口など、複数のプレーヤーが「査定機能」を提供する流れが続くと見ています。
ふたつ目。利益相反開示は、標準管理規約のレベルでさらに強化されていくと予想されます。国土交通省の動きを見ていると、マンション管理組合のガバナンス強化は、政策の優先順位として高いまま推移しています(出典:国土交通省「マンション管理に関する施策」)。
みっつ目。施工会社側のコンプライアンス対応が、選定基準として明示される時代になります。これまでは「価格」「工期」「実績」が3大選定軸でしたが、ここに「コンプライアンス体制」「情報開示の姿勢」が加わります。
私は、この流れを歓迎しています。透明な発注プロセスが標準になることで、現場で本当に良い仕事をしている業者が、正しく評価される時代がやってきます。私たち明誠も、その流れに沿って「ガラス張りの見積もり」「ガラス張りの工程管理」「ガラス張りのアフターサービス」を続けていきます。
まとめ:理事長さまに今すぐ持ち帰っていただきたい3つのこと
長くなりましたので、最後に3つだけ持ち帰っていただきたいことをまとめます。
第一に、利益相反は「悪意ある人だけの問題」ではない。理事候補全員から開示シートを取る運用を、次の総会から始めてください。1枚の紙でできる自衛策です。
第二に、見積もりプロセスは「ガラス張り」にする。仕様書を組合主導で作り、相見積もりを取り、開封会を組合員に公開し、議事録に残す。この4ステップだけで、不正リスクは大きく下がります。
第三に、第三者の目を入れることに、構えなくていい。設計監理者でも、第三者査定サービスでも、信頼できる施工会社のセカンドオピニオンでも構いません。1人で判断しないことが、理事長さまご自身を守ります。
これは私が現場で20年見てきた、嘘偽りのない感想です。今回のニュースを「他人事」ではなく「自分のマンションの点検のきっかけ」として活かしていただければ、業界全体にとっても大きな前進だと思います。
ご相談だけでも遠慮なくお声がけください。総会の前段階の整理だけでも、お力になれることがあります。次回も、現場で本当に使える話だけをお届けします。
出典・参考資料
- 日経クロステック「都内タワマン修繕で利益誘導か、理事に就任『疑惑の人物』の正体」(2026年5月13日)
- 日経クロステック「DeNA系ベンチャーが参入、不正見抜く『スマート修繕』」(2026年5月13日)
- 国土交通省「マンション標準管理規約(単棟型)」
- 国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」
- 国土交通省「マンション大規模修繕工事に関する実態調査(令和3年度)」
- 国土交通省「マンション管理に関する施策」
- 公益財団法人マンション管理センター「マンション管理組合運営支援」
- 株式会社明誠「ロープアクセス工法のご紹介」
- 株式会社明誠「大規模修繕工事のご紹介」
- 株式会社明誠「お問合せフォーム」
※本記事の情報は2026年5月15日時点のものです。最新の制度・規約・統計情報については、各引用先の最新公表資料をご確認ください。本記事は、特定の管理組合・施工会社・査定サービスを推奨または批判する目的のものではなく、報道されている事実関係をもとに、管理組合運営の一般的なリスク管理について整理したものです。
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