藤枝市のマンション補助金|大規模修繕2026年版

2026年8月26日 更新

この記事で答える質問:静岡県藤枝市の分譲マンションで大規模修繕をするとき、市・県・国のどの制度が使えて、どの制度は使えないのか?

先に結論からお伝えします。藤枝市には、マンションの外壁塗装や屋上防水といった大規模修繕工事の工事費そのものを直接補助する市の制度は、2026年8月26日時点でありません。藤枝市の公式サイトにも「現在お住まいの住宅の外壁塗装や屋根塗装の補助金はありません」と明記されています(出典:藤枝市「各種補助事業」)。

ただ、それで話が終わるわけではありません。藤枝市には「大規模修繕の前後を支える制度」が確実に存在します。私はこの記事で、その4つを整理し、そのうえで補助金が薄い地域だからこそ効く「もう一つの原資」の作り方までお話しします。

私は株式会社明誠の本間と申します。マンション・ビル・ホテルの大規模修繕を20年近く手がけ、足場を組む工事と、ロープアクセス工法(産業用ロープで職人が壁面を降りながら施工する無足場工法)の両方を扱ってきました。補助金の相談は毎週のように受けますが、正直に申し上げます。補助金だけを追いかけて工事の中身が薄くなった管理組合を、私は何度も見てきました。この記事は、そうならないための整理です。


結論|藤枝市で使えるのは「工事費補助」ではなく、この4制度

まず全体像を1つの表にまとめます。藤枝市の分譲マンションの管理組合・区分所有者が、2026年度(令和8年度)に現実的に検討できるのは次の4つです。

# 制度名(正式名称) 主体 対象になる場面 出典
① マンション管理計画認定制度/藤枝市の認定申請費補助 藤枝市 管理体制と長期修繕計画を整えるとき 藤枝市
② 藤枝市既存建築物耐震性向上事業 藤枝市 旧耐震マンションの耐震診断をするとき 藤枝市
③ 藤枝市住宅省エネ改修推進事業 藤枝市 断熱・省エネ改修をするとき(主に住戸単位) 藤枝市
④ マンションストック長寿命化等モデル事業 国土交通省 先導性のある大規模改修・再生に挑むとき 国土交通省

この表を見て、「どれも塗装や防水そのものには効かないじゃないか」と思われたはずです。そのとおりです。だからこそ、順番が大事になります。

押さえるべき順番は「①→②→③→④」

私が藤枝市の理事長さまにお会いしたら、この順番でお話しします。

  1. まず①で管理体制を整える。管理計画認定は、それ自体が補助金ではありませんが、後述する融資の条件を有利にし、資産価値の評価にも効きます。
  2. 旧耐震なら②を先に。耐震診断の結果が出ていないまま大規模修繕を発注すると、数年後に足場を組み直す羽目になります。
  3. ③は住戸単位の省エネ改修が中心。共用部の工事とセットで考えると、住民の合意形成の材料になります。
  4. ④は「挑戦枠」。応募のハードルは高いですが、令和8年度の第3回応募期間は2026年9月14日(月)から9月18日(金)と公表されています(出典:国土交通省)。この記事を読んでいる時点で、まだ間に合う可能性があります。

「補助金ゼロ」でも工事費は下げられる

ここが本題の入口です。工事費補助が薄い自治体では、補助金で取れなかった分を、工法の選択で取り返すという発想が要ります。マンションの大規模修繕では、総工事費の15〜25%程度を仮設足場が占めるのが一般的です。この部分に手を入れられるかどうかで、藤枝市の管理組合の負担は大きく変わります。ロープアクセス工法の技術的な背景は、姉妹サイトのロープアクセスドットコムで詳しく解説しています。


藤枝市のマンションは、いま静かに高経年化している

制度の話に入る前に、藤枝市という街の前提を共有させてください。数字を見ると、なぜ市が2023年(令和5年)にわざわざ計画を作ったのかが分かります。

人口約13.9万人、6.2万世帯の「静岡県中部の住宅都市」

藤枝市の人口は139,131人、世帯数は62,286世帯、1世帯あたり2.23人です(2025年6月末時点/出典:藤枝市「人口統計」)。1世帯2.23人という数字は、単身・二人世帯が主流になっていることを示します。分譲マンションでいえば、住民の高齢化と賃貸化が同時に進む局面です。

JR東海道本線の藤枝駅周辺には、駅徒歩圏の分譲マンションが一定量あります。静岡市・焼津市への通勤圏として、1980年代後半から2000年代にかけて供給された物件が中心です。つまり2026年時点で、築25年から築40年のゾーンに入っている建物が多いということになります。

藤枝市は令和5年3月に「マンション管理適正化推進計画」を策定済み

藤枝市は市のサイトでこう述べています。

藤枝市においては、今後、建築後相当の年数を経たマンションが、急激に増大していくものと見込まれており、これらに対して適切な修繕がなされないままに放置されると、老朽化したマンションは、区分所有者等自らの居住環境の低下のみならず、ひいては周辺の住環境や都市環境の低下など、深刻な問題を引き起こす可能性があります。
(出典:藤枝市「分譲マンションの管理について」)

行政がここまで踏み込んだ表現を使うのは、それだけ切迫しているからです。令和2年6月の「マンションの管理の適正化の推進に関する法律」改正を受け、藤枝市は令和5年3月に「藤枝市マンション管理適正化推進計画」を策定しました。

私が藤枝市エリアの現場で感じること

私は静岡県内の物件も見てきました。首都圏の物件と比べたときの藤枝市エリアの特徴は、建物の傷み方が「潮風と紫外線」に寄っていることです。駿河湾から距離があるとはいえ、県中部の平野部は日射が強く、南面のバルコニー手すりや外壁の塗膜劣化が早い傾向があります。

一方で、東京23区のように高額な工事単価に慣れていない管理組合が多く、見積書を見た瞬間に理事会が凍りつく、という場面に何度も立ち会いました。修繕積立金の水準が首都圏より低めに設定されている物件も少なくありません。だからこそ、藤枝市では「補助金をどう取るか」より「工事費をどう設計するか」の比重が大きいと私は考えています。


【制度①】マンション管理計画認定制度と藤枝市の申請費補助

4制度のうち、私が藤枝市の管理組合に最初にお勧めするのがこれです。

制度の概要|「管理が良いマンション」を国の基準で証明する

マンション管理計画認定制度は、管理組合の管理計画が一定の基準を満たす場合に、地方公共団体(藤枝市)が認定する制度です。認定基準には次のような項目が含まれます(出典:国土交通省「マンション管理計画認定制度」)。

  • 管理組合の運営:年1回以上の集会(総会)の開催
  • 管理規約が作成されていること
  • 管理費と修繕積立金が区分経理されていること
  • 長期修繕計画の計画期間が30年以上で、残存期間内に大規模修繕工事が2回以上含まれていること
  • 修繕積立金の平均額が著しく低額でないこと

藤枝市は「認定申請書の作成に要する経費」を一部補助

ここが藤枝市固有のポイントです。藤枝市は、認定申請書の作成に要する経費について一部補助金を交付しています(出典:藤枝市「分譲マンションの管理について」)。

補助額・補助率・年度ごとの予算枠は、公表資料に金額の記載がないため、この記事では断定しません。実際に申請を検討される場合は、藤枝市 建築住宅課(電話:054-643-3481)へ直接ご確認ください。制度の運用は年度ごとに見直されるため、最新情報は市の公式ページでのご確認をお願いします。

認定を取ると、何が具体的に変わるのか

「認定を取っても補助金が増えるわけじゃないなら意味がないのでは」と聞かれることがあります。私の答えは3つです。

効果 内容
融資条件 住宅金融支援機構の共用部分リフォーム融資で、返済期間を1年以上35年以内まで延ばせる(出典:住宅金融支援機構)
金利 一定の工事要件に合致した場合、それぞれ0.2%ずつ金利が引き下げられる仕組みがある(出典:住宅金融支援機構)
資産価値 中古流通時に「管理が評価されるマンション」として説明材料になる

積立金が不足している藤枝市の物件では、2番目の金利差が効きます。仮に借入5,000万円・返済期間20年で0.2%の差が付くと、総返済額は100万円単位で変わってきます。私はこれを、必ずワンセットで理事会にご説明するようにしています。

相談先|マンション管理計画認定制度相談ダイヤル

制度そのものの疑問には、(一社)日本マンション管理士会連合会が運営する相談ダイヤルがあります。

静岡県内であれば、静岡県マンション管理士会の無料相談会も選択肢になります。


【制度②】藤枝市既存建築物耐震性向上事業|旧耐震なら大規模修繕より先に

築40年前後の物件、つまり1981年(昭和56年)5月31日以前に建築確認を受けた「旧耐震」のマンションには、この制度が関わってきます。

耐震診断への補助がある

藤枝市は「藤枝市既存建築物耐震性向上事業」として、建築物の耐震診断をする費用の一部を補助しています(出典:藤枝市「建築物の耐震診断に対する補助」)。

重要な運用ルールが2つあります。

  1. 着手前(契約前)の申請が必要
  2. 同じ対象事業費について、他の補助金と重複して補助を受けることはできない

補助率と上限額は、市の交付要綱で建物用途・規模ごとに定められています。分譲マンション(非木造の共同住宅)に適用される具体的な数字は要綱の確認が要るため、この記事では金額を断定せず、建築住宅課(054-643-3481)への確認をお勧めします。

なぜ「大規模修繕より先に」なのか

これは制度の話ではなく、私の現場感覚の話です。

耐震診断の結果、耐震補強が必要だと判明した場合、補強工事は外壁面に大きく手を入れます。ブレース(斜め材)を入れる、外付けフレームを設置する、袖壁を増設する——いずれも外壁の仕上げをやり直す工事です。

ここで、先に大規模修繕で外壁塗装を終わらせていたらどうなるか。きれいに塗り直した壁を、数年後にまた壊すことになります。 私は静岡県ではありませんが、関東のある団地でこの順番を間違えた現場を見ました。塗装から3年後に耐震補強が決まり、足場を2回組むことになった。単純計算で、仮設費だけが二重に発生します。

正直に申し上げます。旧耐震のマンションで理事会が「まず外壁をきれいにしよう」と言い出したとき、私は工事を受注する立場でありながら「診断が先です」とお伝えしています。順番を間違えると、20年スパンで見たときに管理組合が損をするからです。

藤枝市は南海トラフ地震の想定区域

静岡県は南海トラフ巨大地震の想定区域であり、藤枝市も例外ではありません。静岡県は木造住宅の耐震化について「プロジェクトTOUKAI-0」を長年展開してきました。藤枝市の木造住宅向け制度では、1981年5月以前に建てられた木造住宅の耐震補強計画策定費と工事費を一体で補助する仕組みがあり、補助率100%・上限115万円という水準が案内されています(出典:藤枝市「木造住宅の耐震化の補助」)。

ただし、これは木造住宅向けです。分譲マンション(RC造・SRC造)は対象が異なります。 ここを混同した相談を、私は何度も受けました。ネット記事で「藤枝市は耐震補強に上限115万円」という数字だけを見て、マンションでも使えると思い込んでしまうケースです。制度は建物の構造で切り分けられています。


【制度③】藤枝市住宅省エネ改修推進事業|住戸単位が主戦場

3つ目は省エネです。ここは2026年度の目玉といえる制度ですが、マンション管理組合にとっては読み方に注意が要ります。

補助額の目安

藤枝市住宅省エネ改修推進事業では、補助上限額として次の水準が案内されています。

到達水準 補助上限額
省エネ基準 76.6万円/戸
ZEH水準 102.5万円/戸
ZEH水準+構造補強工事を行う場合 138.5万円/戸

補助額は「モデル工事費×23%の合計額」「実際の工事費×23%」「補助上限額」のうち、最も低い額とする計算方式が案内されています(出典:藤枝市「藤枝市住宅省エネ改修推進事業」)。

管理組合が誤解しやすいポイント

この制度は「住宅の省エネリフォーム」に対する補助です。窓の断熱改修、床・壁・天井の断熱、高効率設備の導入など、住戸内の工事が中心になります。

一方、マンションの大規模修繕で行う外壁塗装や屋上防水は、それ自体では省エネ改修に該当しません。外壁に外断熱を新設する、共用部の窓(アルミサッシ)を高断熱型に交換する、といった工事内容であれば検討の余地がありますが、共用部改修が対象になるかどうかは工事内容ごとに市の判断が分かれます。契約と工事着手の前に、建築住宅課へ確認してください。

藤枝市の補助制度は、いずれも契約および工事着手前の申請が原則です(出典:藤枝市「各種補助事業」)。見積を取って、施工会社を決めて、契約書に判を押してから「補助金は使えますか」と相談に来られる管理組合が、毎年一定数いらっしゃいます。その時点では、もう手遅れです。

私からの提案|共用部と専有部を同じ総会で扱う

現実的な使い方として、私は次のご提案をしています。

  • 共用部の大規模修繕(外壁・防水・シーリング)は管理組合の工事として発注する
  • 同時期に、希望する区分所有者が住戸の窓断熱改修を行い、この省エネ補助を各自で申請する
  • 足場やロープアクセスの仮設が架かっているタイミングに合わせれば、サッシ交換の施工効率が上がる

管理組合の総会で「共用部の工事に合わせて、ご自宅の窓を替えたい方は補助金が使えます」と案内すると、住民の関心が一気に上がります。大規模修繕の合意形成は「自分ごと化」で決まる、というのが私の20年の実感です。


【制度④】国のマンションストック長寿命化等モデル事業|9月18日が次の締切

4つ目は国の制度です。ハードルは高いですが、金額の桁が違います。

令和8年度の応募スケジュール

国土交通省は令和2年度から「マンションストック長寿命化等モデル事業」を実施しています。令和8年度(2026年度)の第1回では、4者4件の応募に対し、評価委員会の評価を踏まえて1者1件が採択されました(出典:国土交通省「報道発表資料」)。

今後の応募期間は次のとおり公表されています。

回 応募期間
第2回 2026年6月22日(月)〜6月26日(金)※終了
第3回 2026年9月14日(月)〜9月18日(金)

この記事の公開日は2026年8月26日です。第3回まで、あと3週間ほどあります。

どんなマンションが対象になるのか

この事業は「先導性のある取組」を支援するものです。単に古いから、積立金が足りないから、という理由では採択されません。長寿命化に資する改修の計画・工事、あるいは建替えなどで、他のマンションの参考になる先導性が評価されます。

倍率で見れば第1回は4件中1件の採択です。決して簡単ではありません。ただ、応募資料を作る過程そのものが、管理組合にとって「自分たちのマンションの弱点を棚卸しする作業」になります。私は、採択されなかった管理組合が、その資料をそのまま長期修繕計画の見直しに使った例を知っています。

問い合わせ先

  • マンションストック長寿命化等モデル事業評価室事務局
  • メール:info@mansion-hyouka.jp
  • 電話:03-6801-5902(平日10〜16時、12〜13時を除く)
  • (出典:国土交通省「報道発表資料」)

補助金が薄い藤枝市だからこそ効く「もう一つの原資」

ここからが本題です。ここまで読んで、こう感じた方が多いはずです。「結局、藤枝市では大規模修繕の工事費に直接効く補助金はない」と。

そのとおりです。だからこそ、私は工事費の構造そのものを見直すことをご提案しています。

総工事費の15〜25%を占める「仮設足場」

マンションの大規模修繕の見積書を開くと、最初の項目はたいてい「仮設工事」です。外部足場、養生シート、昇降設備、仮設電気。この仮設費が、総工事費の15〜25%程度を占めるのが一般的です。

10戸〜30戸規模の中層マンションで総額3,000万円の工事なら、仮設だけで450万〜750万円。この金額は、藤枝市で使える制度①〜③をすべて足しても届かない水準です。

ロープアクセス工法という選択肢

ロープアクセス工法は、産業用ロープを使って職人が建物の屋上から降下しながら施工する無足場工法です。足場を組まないため、次のような違いが出ます。

項目 通常足場工法 ロープアクセス工法
仮設費 総工事費の15〜25%程度 大幅に圧縮できる
工期 足場架設・解体に各1〜2週間 架設・解体の工程が不要
居住者への影響 全戸のバルコニー・窓が長期間ふさがる 施工中の面のみ一時的
防犯面 足場を伝った侵入リスクが指摘される 足場がないため該当しない
適する部位 全面的な改修、複雑形状 高層部、部分補修、点検

ロープアクセス工法の一般的な安全基準や技術的背景は、ロープアクセスドットコムにまとめています。

私が推すのは「ハイブリッド工法」

ただ、正直に申し上げます。すべての工事をロープアクセスに置き換えられるわけではありません。

大量の下地補修が必要な壁面、タイルの全面張り替え、バルコニー内部の防水——こうした部位は足場を組んだほうが確実で、結果的に安いこともあります。

そこで私が提案しているのが、足場とロープアクセスを部位ごとに使い分けるハイブリッド工法です。

  • 傷みが集中している北面・低層部:足場を架けて丁寧に補修
  • 傷みが軽く手が届きにくい高層部・妻側:ロープアクセスで施工
  • 屋上防水:足場不要のため単独工程で

こうすると、足場の架設面積が減り、仮設費が下がります。同時に、品質が必要な部位には足場を使うので工事の中身は落ちません。株式会社明誠は、通常足場工法・ロープアクセス工法・ハイブリッド工法の3つを建物の特性に応じてご提案できる、日本でも数少ない会社です。詳しくは大規模修繕工事のご紹介とロープアクセス工法のご紹介をご覧ください。

積立金不足には融資という手もある

もうひとつの原資が融資です。制度①で触れたとおり、住宅金融支援機構には管理組合が借主になる「マンション共用部分リフォーム融資」があります。また、積立金を計画的に積み増す「マンションすまい・る債」という仕組みもあります(出典:住宅金融支援機構)。

藤枝市の公式サイトも、これらへのリンクを掲載しています。市が民間の管理組合に向けて機構の融資を案内しているというのは、それだけ「積立金だけでは足りない管理組合が多い」という現実の裏返しだと私は受け止めています。


藤枝市のマンションで大規模修繕を進める12か月スケジュール

制度は「いつ動くか」で使えるかどうかが決まります。藤枝市の管理組合向けに、私が実際にご提案している12か月の流れを共有します。

第1〜3か月|現状把握

  1. 長期修繕計画の確認(計画期間が30年以上あるか、大規模修繕が2回以上含まれるか)
  2. 修繕積立金の残高と、今後10年の収支見込みを整理
  3. 旧耐震の場合、藤枝市既存建築物耐震性向上事業の相談(建築住宅課 054-643-3481)
  4. 建物の劣化状況の一次調査(外壁打診、屋上防水の目視、シーリングの状態)

第4〜6か月|制度の適用可否を確定させる

  1. マンション管理計画認定の要件を満たしているかチェック
  2. 満たしていない項目があれば、規約改正や長期修繕計画の見直しを理事会で議論
  3. 認定申請書の作成費補助について、藤枝市に予算枠と申請時期を確認
  4. 省エネ改修を含める場合、藤枝市住宅省エネ改修推進事業の対象工事を確認

第7〜9か月|工法の比較と見積取得

  1. 足場工法・ロープアクセス工法・ハイブリッド工法の3案で概算を取る
  2. 仮設費が総工事費に占める割合を、案ごとに比較する
  3. 居住者アンケート(工期中の生活影響への許容度を測る)
  4. 見積は最低3社。ただし、金額だけでなく仮設計画の妥当性で比べる

第10〜12か月|合意形成と契約

  1. 理事会で工法・施工会社・資金計画の3点セットを固める
  2. 説明会を開催(藤枝市の制度で使えるもの・使えないものを正直に伝える)
  3. 総会で決議
  4. 補助金を使う工事は、契約前・着手前に申請

最後の1行が、いちばん見落とされます。藤枝市の補助制度は「契約及び工事着手前に申請が必要」と市が明記しています。契約書に判を押した瞬間に、その工事は補助の対象外になります。


藤枝市の管理組合で見てきた「よくある失敗」3つ

制度の話だけでは伝わらないので、現場で実際にあった話を3つお伝えします。物件が特定されないよう、細部は変えています。

失敗①|ネット記事の数字を信じて総会で説明してしまった

ある管理組合の理事長さまが、総会資料に「市の耐震補助で最大115万円が使えます」と書いてしまいました。前述のとおり、これは木造住宅向けの制度の数字です。RC造の分譲マンションには適用されません。

総会当日、区分所有者から指摘が入り、資料を作り直すことになりました。理事長さまは悪気なくネット記事を引用しただけです。ですが、制度は建物の構造・用途で切り分けられているという前提を知らないと、こういう事故が起きます。

私は理事長さまに、こうお伝えしています。「補助金の数字は、市の公式ページか、市の窓口で聞いた内容だけを資料に載せてください」と。

失敗②|足場を組んでから「思ったより傷んでいなかった」

これは私の側の反省でもあります。事前調査が甘いまま全面足場を組み、いざ壁面を近くで見たら補修箇所が想定の半分以下だった、という現場がありました。

足場は組んでしまえば費用は確定します。「思ったより傷んでいなかった」は、管理組合にとって喜ばしいことのはずなのに、支払う金額は減りません。

これを避けるには、足場を組む前に、ロープアクセスで詳細調査をするのが有効です。数十万円の調査費で、数百万円の仮設費の設計が変わります。私はこれを、必ずワンセットでご提案するようにしています。

失敗③|補助金の申請時期を逃して1年待った

省エネ改修の補助を使うつもりだった管理組合が、年度当初の予算枠を確認しないまま夏に相談に来られ、その年度分は既に受付を終えていた、というケースです。

自治体の補助制度は、予算枠に達した時点で受付を終了するものが少なくありません。藤枝市の場合も、令和8年度(2026年度)の交付申請について「受付開始日は未定、受付可能となり次第公表」という案内が出ていた制度がありました。

年度をまたぐと、工事全体が1年後ろにずれます。その1年で、雨漏りが進行することもあります。制度の受付時期を確認するのは、見積を取るより先です。


よくある質問(FAQ)

Q1. 藤枝市に、マンションの外壁塗装や屋上防水そのものへの補助金はありますか?
A. 2026年8月26日時点で、藤枝市には外壁塗装・屋根塗装への補助金はありません。市の公式サイトにも明記されています(出典:藤枝市)。使えるのは、管理計画認定の申請費補助、耐震診断補助、省エネ改修補助、国のモデル事業の4つです。

Q2. 築25年の分譲マンションですが、管理計画認定は取れますか?
A. 築年数そのものは認定基準ではありません。長期修繕計画が30年以上の計画期間を持ち、残存期間内に大規模修繕工事が2回以上含まれていること、修繕積立金が著しく低額でないこと、年1回以上の総会開催などが基準になります(出典:国土交通省)。詳しくは本文の「【制度①】」を参照してください。

Q3. 賃貸マンションのオーナーですが、藤枝市の制度は使えますか?
A. マンション管理計画認定制度は分譲マンションの管理組合が対象のため、賃貸物件では対象外です。耐震診断補助や省エネ改修補助は、建物用途と工事内容によって適用可否が変わります。建築住宅課(054-643-3481)にご確認ください。

Q4. 補助金の申請は、工事契約の後でも間に合いますか?
A. 藤枝市は「各補助制度は契約及び工事着手前に申請が必要」と明記しています(出典:藤枝市)。契約後の申請は対象外になります。なるべく早い段階で市にご相談ください。

Q5. ロープアクセス工法にすると、工事の品質は落ちませんか?
A. 部位によります。高層部の外壁塗装、シーリング打ち替え、部分的な躯体補修、タイルの打診調査などはロープアクセスに適しています。一方、下地補修が広範囲に及ぶ壁面やバルコニー内部の工事は足場のほうが確実です。だから私は、足場とロープアクセスを部位ごとに使い分けるハイブリッド工法をご提案しています。

Q6. 国のマンションストック長寿命化等モデル事業は、いつまでに応募すればよいですか?
A. 令和8年度の第3回応募期間は2026年9月14日(月)〜9月18日(金)と公表されています(出典:国土交通省)。応募には計画資料の準備が要るため、検討される場合は早めに評価室事務局(03-6801-5902)へご相談ください。


この記事のポイントまとめ

  • 藤枝市に外壁塗装・屋根塗装への直接補助はなく、市が公式に明記している
  • 使えるのは管理計画認定の申請費補助・耐震診断補助・省エネ改修補助・国のモデル事業の4つ
  • 藤枝市の補助制度はすべて契約前・工事着手前の申請が原則
  • 管理計画認定は融資の返済期間35年・金利引下げにつながる実利がある
  • 国のモデル事業 令和8年度第3回の応募期間は2026年9月14日〜18日
  • 補助が薄い地域では、総工事費の15〜25%を占める仮設費の設計が最大の節約余地
  • 旧耐震なら、大規模修繕より耐震診断を先に行うほうが20年スパンで得になる

おわりに

藤枝市は、マンションの工事費に直接効く補助金という点では、決して手厚い自治体ではありません。この記事で正直にそう書いたのは、期待させてから落とすほうが管理組合にとって残酷だからです。

ですが、藤枝市は令和5年3月にマンション管理適正化推進計画を策定し、管理計画認定の申請費補助という形で「管理を良くする努力」を支える姿勢を示しています。行政が支えているのは工事費ではなく、管理の質です。私はこの設計自体は、長い目で見て正しいと思っています。

そして、工事費の側は、私たち施工会社が工法の選択で下げられます。足場を全面に組むか、ロープアクセスで済ませるか、部位ごとに使い分けるか。この判断は、建物を実際に見なければできません。

ご相談だけでも遠慮なくお声がけください。総会の前段階の整理だけでも、お力になれることがあります。お問合せフォームからお気軽にどうぞ。


出典・参考資料

※本記事の制度内容は2026年8月26日時点の公表情報に基づきます。補助制度は年度ごとに要件・予算枠が見直されます。申請前に藤枝市 建築住宅課(電話:054-643-3481)および各制度の公式ページで最新情報をご確認ください。


執筆者:本間 幸紘(株式会社明誠 代表取締役)
専門領域:マンション大規模修繕/ロープアクセス工法/建物長寿命化計画
実務経験:建設・改修業界 20年以上
所属:一般社団法人 全国建設業支援協会(JCSA)

株式会社明誠について:東京都東大和市を拠点に、東京・関東一円でロープアクセス工法と従来足場工法の両方を提案できる改修会社。日本初のロープアクセス工事フランチャイズを展開し、塗装・防水・タイル・電気・看板などの専門職が加盟しています。ロープアクセスの技術情報はロープアクセスドットコムにまとめています。

最終更新:2026年8月26日

「中古マンションが選ばれる時代」を直す側から読む——新築1億円超・中古成約2.2倍の2026年、オーナーと管理組合が“選ばれ続ける建物”になるための大規模修繕と工法最適化【2026年7月】

「築40年の中古マンションが、いま選ばれている」——そのニュース、直す側から見ると景色が違います

先日、ある記事が私の周りで少し話題になりました。「家を買うなら新築、はもう変わったのか。なぜ築40年前後の中古マンションが選ばれるのか」という趣旨のものです(出典:ITmedia ビジネスオンライン 2026年7月25日)。

この記事を読んでいて、私は「なるほど、買う側の価値観がここまで動いたか」と感じました。同時に、20年近く大規模修繕の現場に立ってきた人間として、もう一歩踏み込んだことを考えました。中古が選ばれる時代になったとして、では「選ばれ続ける中古」と「選ばれない中古」を分けるものは何か、ということです。

この記事は、賃貸マンションや収益ビルをお持ちのオーナーさま、築古の区分マンションを投資でお持ちの方、そして管理組合の理事長さま・修繕委員の方に向けて書いています。「うちの物件も築年数が気になってきた」「新築を建てる時代ではないと聞くが、では手持ちの建物をどうすればいいのか」——そんな漠然とした期待や不安を、公的なデータと、工事会社の立場から見た「本当に効く打ち手」に翻訳するのが狙いです。

結論から申し上げます。2026年のいま、建物で長く収益を上げる勝ち筋は「新しく建てる」ことではなく、「今ある建物を、正しい工法で、適正なコストで直し続けて活かす」ことに移っています。そして、その「直し方」の巧拙が、これからの中古市場で選ばれるかどうかを左右します。ここからが本題です。

数字で見る「新築離れ・中古選好」——2026年の市場構造

感覚論ではなく、公的なデータで現在地を確認します。

新築マンションは、ついに平均1億円台へ

不動産経済研究所の調査によると、2026年上半期(1〜6月)の首都圏の新築分譲マンションの平均価格は1億135万円となり、半期として初めて1億円台に乗りました。1平方メートルあたりの単価も151.4万円と高水準です(出典:日本経済新聞 2026年7月 不動産経済研究所 首都圏新築分譲マンション市場動向、不動産経済研究所 マンション市場動向)。

先ほどのITmediaの記事によれば、首都圏の新築マンションの平均価格は2015年には約5,500万円でした。それが10年で1億円を超えた計算になります。給料が2倍になった方はほとんどいませんから、「新築は現実的な選択肢から外れつつある」というのが、多くの購入検討者の実感でしょう。

中古の成約は、新築供給の約2.2倍

一方で、中古はどうか。東日本不動産流通機構(東日本レインズ)の集計では、2025年の首都圏の中古マンション成約件数は49,114件で、前年比31.9%増、3年連続の増加となりました。成約の平均価格は5,200万円で13年連続の上昇、1平方メートルあたりの単価も82.98万円で13年連続の上昇です(出典:東日本レインズ 季報 Market Watch)。

新築の供給が細る一方、中古は動いている。ITmediaの記事では、2025年の首都圏の新築マンション供給戸数が2万1,962戸と、オイルショック後の1973年以来という低水準まで落ち込み、中古の成約件数はその約2.2倍に達したと紹介されています。市場の主役が、静かに新築から中古へ移っているのです。

価格高騰は「二極化」も生んでいる

価格の上昇は、都心だけの話ではなくなってきました。不動産情報サービスのLIFULLは、都心の価格高騰の波が神奈川・埼玉・千葉にも及び、千葉県の船橋市・柏市、埼玉県さいたま市浦和区などが牽引して「局地バブル」ともいえる状態になり、同じ県内でも値上がりするエリアとそうでないエリアに分かれる二極化が進んでいると指摘しています(出典:株式会社LIFULL プレスリリース(2026年))。

これは買う側にとっては悩ましい話ですが、建物を持つ側にとっては示唆に富みます。立地という「動かせない条件」で差がつく以上、動かせる条件——つまり建物の状態と管理の質——で勝負するしかない物件も出てくるということです。同じエリア、同じ築年数でも、手入れの行き届いた建物が選ばれ、放置された建物が沈む。二極化の時代は、修繕の差がより残酷に効いてくる時代でもあるのです。

なぜ「築40年前後」が選ばれるのか

さらに興味深いのは、選ばれている中古の「築年数」です。リノベーション会社の調査では、利用者の8割以上が中古マンションを第一候補として検討し、首都圏で購入したマンションの平均築年数は36.5年、築40年前後の物件も珍しくないとされています(出典:ITmedia ビジネスオンライン 2026年7月25日)。

理由は、大きく3つに整理できます。1つ目は価格。築40年前後になると価格が下がりきって安定期に入り、買った後に価値が急落しにくい。浮いた予算をリノベーション(内装や設備の刷新)に回せます。2つ目は立地。築40年前後に建てられたマンションは、駅の近くや公園のそばなど、いまでは新築が建てられない一等地に建っていることが多い。3つ目は総量。そもそも数が多く、選択肢が豊富です。

私はこの3つの理由を読んで、あらためて思いました。買う人は「古いこと」を嫌っているのではない。「価値が読めないこと」を嫌っているのだ、と。

「選ばれる中古」と「選ばれない中古」を分けるもの=修繕の質

ここが、オーナーさまと管理組合にとって一番大事なところです。

築40年でも選ばれる物件がある一方で、同じ築40年でも見向きもされない物件があります。何が違うのか。立地や間取りももちろんありますが、私が現場で20年見てきて確信しているのは、「外から見える手入れの状態」と「これから直せる状態かどうか」が、想像以上に効いているということです。

買う人・借りる人は、外壁のひび割れ、鉄部のサビ、廊下やバルコニーの防水の傷みを、素人でも敏感に感じ取ります。そして中古の購入者の多くは、購入前に管理組合の「重要事項調査報告書」(そのマンションの管理・修繕の状況をまとめた書類)を確認します。ここには修繕積立金の残高、これまでの修繕履歴、長期修繕計画(今後の修繕の予定表)が載っています。積立金が枯渇していたり、大規模修繕が何年も先送りにされていたりすると、それだけで候補から外れることがあります。

とくに近年は、住宅ローンを扱う金融機関や、中古を仲介する不動産会社が、この管理状態を以前よりシビアに見るようになりました。「管理を買う」という言葉があるとおり、いまや中古マンションの評価は、部屋の内装以上に「建物全体がどう管理され、これからどう直されていくか」で決まります。オーナーさま個人の一室がどれだけ綺麗でも、建物全体の修繕が滞っていれば、その一室まで評価を下げられてしまう。ここに、区分所有という仕組みの難しさと、管理組合の役割の重さがあります。

正直に申し上げます。建物は、放っておけば必ず古びます。ですが「古びた建物」と「手入れされた建物」は、同じ築年数でもまったく別の資産です。前者は買い叩かれ、後者は選ばれる。この差を生むのが、計画的な大規模修繕(12年前後の周期で行う建物全体の改修工事)なのです。

私が忘れられない現場があります。ある築38年、80戸ほどの中規模マンションで、外壁のタイルが一部浮いていました。理事会では「まだ落ちていないから、次の大規模修繕まで待とう」という声が大半でした。私は打診調査(棒で叩いて浮きを探す検査)の結果をお見せしながら、「浮いているタイルは、いつ落ちてもおかしくありません。人に当たれば取り返しがつきません」とお伝えしました。結局、部分補修を先行することになり、剥落を未然に防げました。あのとき先送りしていたら、と考えると、私は今でも背筋が寒くなります。手入れの差は、資産価値の差であると同時に、人の安全の差でもあるのです。

「建て替え」という選択肢は、思うほど簡単ではない

「そこまで古いなら、いっそ建て替えては」と思われる方もいるでしょう。ですが、区分所有マンションの建て替えは、現実にはきわめてハードルが高いのが実情です。建て替えには原則として区分所有者の多数の合意が必要で、加えて解体・新築の費用負担、工事期間中の仮住まい、権利関係の調整など、乗り越えるべき壁がいくつも重なります。合意形成に何年もかかり、途中で頓挫する例も少なくありません。

制度面では区分所有法の見直しなど、建て替えや管理を円滑にしようとする動きも進んでいます。それでも「壊して建て直す」より「直して活かす」ほうが、時間・費用・合意形成のいずれの面でも現実的な選択肢であることが多い。だからこそ、市場全体としても中古を直して使う流れが強まっているのだと、私は現場で実感しています。壊すのは一瞬ですが、住み続けられる建物を守るのは、地道な修繕の積み重ねなのです。

賃貸・収益物件のオーナーにとっての「直す価値」

収益物件をお持ちのオーナーさまには、もう少し踏み込んだ話をさせてください。大規模修繕は「守りの支出」だと捉えられがちですが、実際には「攻めの投資」にもなり得ます。

外壁がくすみ、鉄部にサビが浮いた建物と、清掃・塗装が行き届いた建物では、内見に来た入居希望者の第一印象がまるで違います。第一印象は、成約率と家賃水準に直結します。私の経験上、修繕直後の物件で「募集して数週間で決まった」「近隣より家賃を下げずに済んだ」というお声を、オーナーさまから何度もいただいてきました。空室が1戸埋まるか埋まらないかで、年間の家賃収入は大きく変わります。戸あたりの修繕費を、この「空室を減らす効果」と「家賃を維持する効果」まで含めて考えると、見え方が変わってくるはずです。

ここでロープアクセス工法がもう一つ効いてきます。足場を組む工事は、その間の防犯不安や生活の不便から、既存入居者の退去につながることさえあります。足場を組まない、あるいは最小限にできれば、入居者を止めずに、収益を止めずに直せる。私はこれを、必ずワンセットでご提案するようにしています。

資産価値を守る大規模修繕——ただし、コストの壁がある

とはいえ、「では大規模修繕をしっかりやりましょう」で話が終わらないのが、2026年の難しさです。工事費そのものが上がり続けているうえに、それを支える修繕積立金が足りていないマンションが少なくありません。

修繕積立金ガイドラインは、令和6年に改定されている

国土交通省は「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」を令和6年(2024年)6月に改定しました。ポイントは、当初の積立額を低く抑えて後から段階的に上げていく「段階増額積立方式」で、計画どおりの値上げができず積立金が不足するケースが目立ってきたことを踏まえ、”適切な引上げの考え方”を示した点です。すでに徴収済みの積立金の残高も考慮して、今後の目安を出す計算に見直されています(出典:国土交通省 報道発表資料 令和6年6月 ガイドライン改定、修繕積立金に関するガイドライン(PDF))。

私はいつも理事長さまに、こうお伝えしています。「積立金の値上げは、住民の理解という一番のハードルがあります。だからこそ、同じ品質の工事をいかに賢く安く実現するか——つまり工法の選び方が、値上げ幅そのものを左右するんです」と。

コストの壁を越える鍵は「工法」——株式会社明誠の3工法最適提案

大規模修繕のコストで、意外と見落とされているのが「足場代」です。従来の大規模修繕は、建物全体に仮設足場(外壁を囲う鉄骨の作業床)を組みます。この足場の設置・解体・レンタルだけで、工事全体の2〜3割を占めることも珍しくありません。しかも足場は、住戸の窓をふさぎ、防犯上の不安を生み、居住者の生活に長期間の影響を与えます。

ここで、私たち株式会社明誠が強みとしているのが「3つの工法を、建物にとって中立的に提案できる」ことです。他社の多くは「足場ありき」か「ロープありき」のどちらか一方しか持っていません。私たちは両方を持っているからこそ、建物ごとに最適解を選べます。

3工法の比較

工法 概要 向いている建物 コスト・工期の傾向
通常足場工法 建物全体に仮設足場を組む従来型 中低層、外壁が複雑な形状、全面的な打診・補修が必要な建物 足場費がかさむが、面での作業は安定
ロープアクセス工法(無足場工法) 屋上から産業用ロープで吊り下がり、足場を組まずに直接施工 高層、足場が組みにくい狭小地、部分補修、コスト最重視の建物 足場費を大幅に削減、工期短縮、生活影響が小さい
ハイブリッド工法 必要な部位にだけ足場を使い、それ以外はロープアクセスで施工 大規模・複雑で、総合的なコスト最適化が要る建物 全面足場より安く、全面ロープより確実

ロープアクセス(無足場工法)の3つのメリット

ロープアクセス工法とは、屋上から産業用ロープでぶら下がって高所を施工する、足場を組まない工法です。私がこの工法をご提案するとき、必ずお伝えするメリットは次の3点です。

1つ目は、足場コストの削減です。足場を組まない、あるいは最小限で済むぶん、工事全体の費用を抑えられます。2つ目は、工期の短縮です。足場の設置・解体という工程がなくなるため、着手から完了までが早い。3つ目は、居住者・利用者への影響が小さいことです。窓が長期間ふさがれず、賃貸物件なら入居者の生活を止めずに直せる。稼働中のホテルや満室のビルで、この違いは決定的です。

以前、狭い敷地に隣家がびっしり迫った物件で、「足場を組むスペースがなく、他社に断られた」というご相談を受けたことがあります。私たちはロープアクセスで屋上から吊り下がり、外壁の補修と塗装をやり切りました。理事長さまから「足場が無理だと言われて諦めかけていた」とお礼をいただいたとき、この工法を持っている意味を、あらためて実感しました。足場ありきの発想では「できない」で終わる工事が、手段を増やすだけで「できる」に変わる。これが、複数の工法を持つことの本当の価値だと私は思っています。

ただし、ロープアクセスが「不向き」なケースもあります

工事会社として、良い面だけを申し上げるつもりはありません。ロープアクセスにも不向きな場面があります。たとえば、外壁のタイルが広範囲に浮いていて全面的な打診・張り替えが必要な場合や、バルコニー内部の込み入った補修が多い場合は、足場を組んで面で作業したほうが確実で、結果的に安くなることもあります。だからこそ「ロープありき」で押し切らず、建物を実際に見てから工法を決めることが大事なのです。私はこの中立性こそが、お客さまの資産を守る近道だと考えています。

大規模修繕の全体像や工法の選び方については、大規模修繕工事のご紹介とロープアクセス工法のご紹介もあわせてご覧ください。

管理計画認定・長寿命化税制も「選ばれる建物」の武器になる

もう一つ、”選ばれ続ける建物”にするうえで知っておきたい制度があります。マンションの「管理計画認定制度」です。これは、長期修繕計画や修繕積立金の状況など、一定の基準を満たした管理組合を自治体が認定する仕組みです。認定を受けると、管理状態が「見える化」され、中古として売買されるときの安心材料になります。

さらに、認定を受けたマンションなどで一定の長寿命化工事(大規模修繕)を行うと、工事が実施された翌年度の建物部分の固定資産税が、おおむね6分の1〜2分の1減額される制度もあります(詳細・要件は自治体によって異なるため、必ず所在地の自治体と最新の国の資料でご確認ください/出典:国土交通省 マンション管理・再生ポータル)。

「きちんと直して、認定を取り、税の軽減も受ける」。この3点セットが揃った建物は、いざ売るときにも貸すときにも強い。私はこれを、資産価値を守るための”ワンセット”として、理事会でよくご説明しています。

オーナー・管理組合が今日からできる5つのチェック

難しく考える必要はありません。まずは次の5点を確認してみてください。

  1. 直近の大規模修繕はいつ実施したか(前回から12年以上経っていれば要検討)。
  2. 長期修繕計画は5年以内に見直されているか(令和6年改定のガイドラインに沿っているか)。
  3. 修繕積立金は、計画に対して不足していないか。段階増額方式なら、次の値上げは現実的か。
  4. 外壁・鉄部・屋上防水に、素人目にもわかる劣化サインが出ていないか。
  5. 見積りを取るとき、足場・ロープアクセス・ハイブリッドの3工法で比較検討したか。

とくに5つ目は、多くの管理組合で抜けています。足場前提の1社見積りだけで判断すると、本来削れたはずの足場費を丸ごと払うことになりかねません。3工法で比較すると聞くと難しく感じるかもしれませんが、要は「同じ工事を、どの手段で高所に届かせるか」を並べて見比べるだけです。手段が変われば費用も工期も変わる。それを知らずに1つの前提で判断してしまうのは、あまりにもったいない。

もう一つ添えるなら、大規模修繕は「最安の1社」を選ぶ入札ではありません。私は理事長さまに、金額だけでなく「劣化診断の丁寧さ」「工法提案の中立性」「工事中の居住者対応」まで含めて比べてくださいとお伝えしています。安さだけで選んだ結果、必要な補修が抜け落ち、数年後にまた足場を組む羽目になっては本末転倒だからです。

よくある質問(FAQ)

Q. ロープアクセス工法は、足場より品質が落ちませんか?
A. 施工内容が同じであれば、仕上がりの品質に差はありません。ロープアクセスは「作業員が高所へアプローチする手段」の違いであって、塗装や防水・補修そのものの工程は足場工事と同じです。ただし前述のとおり、全面的な打診・張り替えが必要な建物では足場のほうが適することもあります。

Q. 中古で売る予定はないのですが、それでも大規模修繕は必要ですか?
A. はい。売らずに保有し続ける場合でも、外壁の剥落は事故・賠償のリスクになり、劣化の放置は結局のところ将来の修繕費を膨らませます。長く貸して収益を得るためにも、計画的な修繕が最も確実な資産防衛です。

Q. 修繕積立金が足りていません。工事を諦めるしかないですか?
A. 諦める前に、工法の見直しと工事範囲の優先順位づけをおすすめします。3工法の比較で足場費を圧縮できれば、限られた予算でも必要な部位を守れる場合があります。まずは建物を見せていただくのが早道です。

Q. 大規模修繕の周期は何年ですか?
A. 一般的には12年前後を目安とすることが多いですが、建物の立地(海沿いは塩害で劣化が早いなど)や前回工事の仕上げ材によって適切な周期は変わります。周期はあくまで目安で、実際には定期的な点検で劣化の進み方を見ながら判断するのが望ましいと、私は考えています。

Q. ハイブリッド工法とは、具体的にどういう使い分けですか?
A. たとえば、面での補修が必要な低層部や複雑な形状の部分には足場を組み、平滑で作業しやすい高層部の外壁はロープアクセスで施工する、といった使い分けです。「全面足場」より足場費を抑えつつ、「全面ロープ」では届きにくい作業も確実に行えるため、大規模で複雑な建物の総合コスト最適化に向いています。

Q. まず何から相談すればいいですか?
A. まずは建物を実際に見せていただく無料調査からで大丈夫です。図面や過去の修繕履歴があれば、より精度の高いご提案ができます。工法を決めるのはその後で構いません。「うちの建物はどの工法が向いているのか」を一緒に整理するところから始めましょう。

おわりに

中古が選ばれる時代とは、裏を返せば「手入れの差がそのまま資産価値の差になる時代」です。新築という選択肢が遠のいたぶん、いま建物をお持ちの方には、直して活かすという確かな勝ち筋が残されています。しかもその勝ち筋は、正しい工法を選べば、思っているよりコストを抑えて実現できることがあります。値上げありき、足場ありきで諦める前に、一度立ち止まって選択肢を並べてみてほしいのです。

これは私が現場で20年見てきた、嘘偽りのない感想です。足場かロープか、という二択で悩む前に、まずは「この建物にとって何が最適か」をご一緒に考えさせてください。総会の前段階の整理や、工法比較のためのご相談だけでも遠慮なくお声がけください。お力になれることがあります(お問合せフォームはこちら)。次回も、現場で本当に使える話だけをお届けします。

出典・参考資料

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税制・補助制度の適用可否や法的判断を保証するものではありません。制度の要件・金額・期限は年度や自治体によって異なるため、実際の適用にあたっては所在地の自治体および国の最新の一次情報をご確認ください。


株式会社明誠(東京都東大和市)は、マンション・ビル・ホテルの大規模修繕工事を手がけ、通常足場工法・ロープアクセス工法(無足場工法)・ハイブリッド工法の3つから、建物にとって最適な工法を中立的にご提案できる、日本でも数少ない会社です。無料調査・お見積りを承っております。

▼ロープアクセス工法・無足場工法の詳細解説はこちら
ロープアクセスドットコム|無足場工法専門メディア

マンション管理の“見える化”が資産価値を左右する時代へ——神戸市が2026年7月から管理状況届出を義務化。収益物件オーナーと管理組合が認定制度・大規模修繕・工法選択で先手を打つ実務【2026年7月】

2026年7月、神戸市で「マンション管理の届出」が義務になりました

2026年7月1日、神戸市で分譲マンションの「管理状況の届出」が義務になりました。これは、神戸市が2025年9月11日に公布した「神戸市マンション管理の適正化の推進に関する条例」に基づくもので、条例そのものの施行は2026年4月1日、そのうち管理状況の届出義務化については2026年7月1日からと段階的に始まっています(出典:神戸市「マンション管理状況の届出・情報開示」)。

制度の狙いは大きく二つあります。一つは、市がマンションの管理の実態を把握し、その状況に応じた支援を行えるようにすること。もう一つが、私が今日いちばんお伝えしたいポイントなのですが、「管理状況の見える化によってマンションの市場評価の向上を図る」こと、つまり資産価値に直結させることです。届け出た内容は、届出者の意向に基づいて、届出の翌月から5年間、神戸市のホームページで公開されます(出典:神戸市 前掲)。

ニュースとしては「また役所の手続きが一つ増えた」くらいに読み流されてしまいそうな話です。実際、NHKも「神戸市は市内の分譲マンションの適切な管理につなげようと、管理組合などに対して大規模修繕の実施状況といった管理に関する届け出を今月から求める」と、淡々と報じています。ですが、収益物件を運用しているオーナーさまや、資産としてのマンションを預かる管理組合の理事長さまにとって、この動きは決して他人事ではありません。ここからが本題です。

なぜ「届出の義務化」が、オーナーと管理組合にとって重い意味を持つのか

正直に申し上げます。私はこの十数年、外壁や防水の現場に立ちながら、「管理がしっかりしている建物」と「そうでない建物」の差が、年々くっきり分かれてきたと感じています。そして今回の神戸市の動きは、その差を「行政と市場が公式に見える化する」という点で、これまでとは意味合いが違います。

これまで、マンションの管理の良し悪しは、外からはなかなか分かりませんでした。エントランスが綺麗かどうか、掲示板が整っているか——せいぜいその程度で、長期修繕計画があるのか、修繕積立金が足りているのか、大規模修繕をいつやったのかは、買う側にも借りる側にも見えなかったのです。

それが、届出制度によって「総会を開いているか」「管理規約があるか」「修繕積立金をいくらに設定しているか」「修繕を計画的に実施しているか」といった中身が、行政に把握され、場合によっては公開されます。つまり、管理の実態が資産価値の一部として値付けされる時代に、はっきり足を踏み入れたということです。管理を放置してきた建物は、売るときも貸すときも、これから確実に不利になっていきます。

私はいつも理事長さまに、「修繕は建物のためだけでなく、皆さまの資産の“通知表”を良くするための投資です」とお伝えしています。今回の制度は、その通知表が本当に外から見えるようになった、という話なのです。

これは「神戸だけ」の話ではありません——全国に広がる潮流

ここで多くの方が「うちは神戸じゃないから関係ない」と思われるかもしれません。ですが、それは危険な読み方だと私は考えています。管理状況の届出制度は、すでに全国に広がりつつある大きな流れの一部だからです。

先行しているのは東京都です。東京都は2019年3月に「東京におけるマンションの適正な管理の促進に関する条例」を制定し、これに基づいて2020年4月から管理状況届出制度を始めています。一定の要件に当てはまるマンションの管理組合は、運営体制の整備、管理規約の設定、総会の開催、管理費・修繕積立金の額の設定、修繕の計画的な実施などの状況を届け出ることになっています(出典:東京都マンションポータルサイト「管理状況届出制度」)。

つまり、東京都が2020年に始めた仕組みを、神戸市が2026年に義務化という形で続いた、という構図です。私の経験上、こういう制度は先行自治体で回り始めると、他の政令市や中核市が追随していくのが常です。今はまだ「うちの街にはない」としても、数年のうちに同じ届出を求められる可能性は十分にあります。今のうちに「いつ来ても出せる状態」に管理を整えておくことが、結局はいちばんの近道です。

そして、この自治体の動きの背景には、国そのものの法整備があります。次はそこを整理します。

国も動いている——マンション管理適正化法と区分所有法の改正

自治体の届出制度の土台になっているのが、国の「マンションの管理の適正化の推進に関する法律」(マンション管理適正化法)です。この法律に基づいて、都道府県や東京都の特別区・市などが「マンション管理適正化推進計画」を作り、その中で管理状況の把握や後述する認定制度を運用しています。

さらに近年、この分野の法改正が相次いでいます。マンション管理適正化法の改正法は2025年11月28日に一部が施行され、老朽化した建物の建替えや売却をしやすくするための改正区分所有法は2026年4月1日に施行されました(出典:国土交通省「管理計画認定制度」)。区分所有法(マンションの所有関係を定めた法律)というのは、私たち施工側から見ても「合意形成のルールブック」のような存在で、ここが変わるということは、大規模修繕や建替えの意思決定のやり方そのものが変わっていくということを意味します。

言い換えれば、「国が枠組みを整え、自治体が届出で実態を把握し、市場が管理の良し悪しで値付けをする」——この三段構えが、いま同時に動き出しているのです。この流れの中で、管理組合とオーナーが具体的に何を求められるのか。その答えの中心にあるのが、次にお話しする「管理計画認定制度」です。

管理計画認定制度とは何か——認定基準を分解して読む

「管理計画認定制度」とは、管理組合が作った管理計画を自治体が審査し、一定の基準を満たしていれば「きちんと管理されているマンション」として認定する制度です(出典:国土交通省「管理計画認定制度」)。神戸市の場合、この認定を受けるための基準の一つとして、まさに今回義務化された「管理状況の届出」を行っていることが求められます(出典:神戸市「マンション管理計画認定制度」)。届出と認定は、別々の制度でありながら、しっかり地続きになっているわけです。

認定の基準は多岐にわたりますが、私たち大規模修繕に携わる立場から見て特に重要なのは、次の二つです。

一つ目は、管理費と修繕積立金が区分して経理されていること。修繕積立金が日常の管理費に紛れ込まず、いざというときの工事のためにきちんと分けて管理されているか、ということです。二つ目、そして私がいちばん強調したいのが、長期修繕計画(今後の修繕を30年単位で見通した計画)の計画期間が30年以上あり、かつ、その残りの期間に大規模修繕工事が2回以上含まれる内容になっていることです(出典:国土交通省「報道発表:マンションの管理の適正化の推進を図るための基本的な方針」)。

ここに、私たちのような施工会社が本気で関わるべき理由があります。「30年で大規模修繕2回以上」というのは、単に計画書を作れば済む話ではありません。その計画の中身が現実的か——工事費の見積もりが妥当か、工法の選び方が建物に合っているか、積立金が足りるのか——という、施工の実務そのものが問われるのです。絵に描いた計画は、認定の場でも、実際の工事の場でも、必ずどこかで綻びます。

認定を取ると、具体的に何が変わるのか

「手間をかけて認定を取って、何かいいことがあるのか」——理事会でよく出る質問です。メリットははっきりしています。

管理計画認定を受けたマンションは、住宅金融支援機構の「フラット35」や「マンション共用部分リフォーム融資」で金利の引下げを受けられます。さらに、認定を受けたマンションを中古で取得する購入者も、フラット35で金利の引下げを受けられます(出典:国土交通省「住宅:管理計画認定制度」)。

この「買う人の金利が下がる」という点が、資産価値の観点では見逃せません。同じ立地・同じ築年数のマンションが二つ並んでいて、片方は認定あり・買い手のローン金利が優遇される、もう片方は認定なし。中古市場でどちらが選ばれ、どちらが高く売れるか。答えは考えるまでもありません。管理の良し悪しが、そのまま売却価格や賃料の底堅さに効いてくる時代になった、ということです。

収益物件オーナーさまの視点で言えば、これは「出口戦略」に直結します。将来売却するにせよ、賃貸で回し続けるにせよ、認定という“公式のお墨付き”があることは、資産としての建物の競争力そのものです。私は、区分所有のマンションを複数お持ちのオーナーさまには、「管理組合の総会で認定取得を議題に上げるだけでも、あなたの資産を守る一手になります」とお伝えしています。

認定の“肝”は、結局「長期修繕計画と大規模修繕の実行力」

ここまでお読みいただくと、届出も認定も、突き詰めれば「修繕をきちんと計画し、きちんと実行できているか」に行き着くことがお分かりいただけると思います。制度が新しくなっても、建物を守る本質は変わりません。変わったのは、その本質が「見えるようになった」ことです。

そして、長期修繕計画で「30年に大規模修繕2回以上」を無理なく成立させようとしたとき、真正面からぶつかるのが工事コストと工期の問題です。大規模修繕は、一般的にマンションで12年周期前後を目安に行われますが、そのたびに数千万円から、規模によっては億単位の費用がかかります。この費用の中で、実は意外なほど大きな割合を占めるのが「足場代」です。

足場は、工事そのものの品質には直接寄与しません。あくまで職人が作業するための“仮設”です。ところが、建物をぐるりと囲って組み、工事が終われば解体する。この架設・解体の費用と期間が、総工費と工期を確実に押し上げます。私が「長期修繕計画を現実的なものにしたいなら、まず工法から考えましょう」とお伝えするのは、このためです。

「最安の1社」に飛びつくと、かえって“見える化”で不利になる

先日も、あるオーナー向けメディアで「最安の1社に違和感」という趣旨の、大規模修繕をめぐる体験談が話題になっていました。6,500万円規模の修繕議案で、いちばん安い見積もりに疑問を持ったという、一棟物件オーナーの話です。私はこの感覚を、現場の人間として強く支持します。

正直に申し上げます。大規模修繕で「最安」だけを基準に選ぶのは、これからの時代、かなり危うい判断です。理由は二つあります。

一つは品質です。安さの中身が「必要な工程を削った安さ」であれば、数年後に不具合が出て、結局やり直しになります。もう一つが、まさに今日のテーマである「見える化」です。管理状況が届け出され、公開され、認定の対象になる時代には、「安かろう悪かろうの修繕を繰り返している履歴」そのものが、資産の評価を下げる材料になりかねません。

では、品質を落とさずにコストを下げるにはどうするか。ここで効いてくるのが、冒頭からお話ししている工法の選択肢を持っているかどうかです。

私が現場で見てきた、「工法を選べる会社」と「選べない会社」の差

現場で20年近くやってきて、私が一番もどかしい思いをするのは、「この建物なら足場を全面に組む必要はないのに」という物件に、判で押したように総足場の見積もりが出ているのを見るときです。

理由は単純で、多くの施工会社は自分たちの持っている工法でしか提案できないからです。足場屋さんは足場で、ロープの会社はロープで組み立てる。建物にとって何が最適かではなく、自社にとって何が売りやすいかで工法が決まってしまう。これは、発注する側からは非常に見えにくい構造的な問題です。

私どもが大切にしているのは、足場仮設・ロープアクセス(無足場工法)・その両方を組み合わせるハイブリッド工法の三つを、建物ごとに最適に選び分けて提案するという姿勢です。私はこれを、必ずワンセットで比較したうえでご提案するようにしています。工法を「選べる」ということは、無駄な足場を省ける、工期を縮められる、居住者の生活への影響を減らせる——つまり、コストと品質と暮らしやすさを同時に最適化できる、ということなのです。この考え方は、ロープアクセス工法のご紹介や大規模修繕工事のご紹介でも詳しくお伝えしています。

ロープアクセス(無足場工法)とは何か——素人向けに整理します

専門用語が続いたので、ここで「ロープアクセス工法」という言葉を、はじめての方向けに整理させてください。

ロープアクセス工法とは、産業用のロープを使い、作業員が建物の上から吊り下がって外壁の調査・補修・塗装・防水などを行う、足場を組まない工法(無足場工法)のことです。ビルの窓ガラス清掃で、ゴンドラや足場なしに人が降りてくる光景を見たことがある方もいらっしゃると思います。あのイメージに近い、確立された技術です。

この工法の利点は、大きく三つあります。第一に、足場の架設・解体が不要になるため、その分の費用と期間を圧縮できること。第二に、建物を丸ごと囲わないので、居住者や利用者の採光・通風・眺望への影響、そして「足場を伝った侵入」という防犯上の不安を大きく減らせること。第三に、部分的な補修や高所の一部だけの工事など、足場を組むには大げさすぎる工事にも、機動的に対応できることです。

もちろん万能ではありません。塗装の全面塗り替えのように、建物全体を長期間・面で押さえる工事では、足場のほうが効率的な場合もあります。だからこそ、「どこをロープで、どこを足場で」と使い分けるハイブリッド工法が生きてきます。大切なのは、工法ありきではなく、建物ありきで考えることです。

三つの工法を、正直に比較します

理事会や、オーナーさま同士でご検討いただけるよう、三つの工法の特徴を私なりに整理しておきます。あくまで一般的な傾向であり、実際は建物の形状・階数・劣化状況によって変わりますので、目安としてお読みください。

工法 主な特徴 費用・工期の傾向 向いている建物 留意点
通常足場工法 建物全体に仮設足場を組む従来型 足場費と工期がかさみやすい 中低層、複雑な形状、全面塗替え 生活への影響・防犯面の配慮が必要
ロープアクセス工法(無足場) 産業用ロープで上から施工 足場費を圧縮、工期短縮 高層、足場架設が難しい物件、部分補修 面で押さえる大規模工事は不向きな場合あり
ハイブリッド工法 足場とロープを部位ごとに使い分け 総合コストを最適化 大規模・複雑物件で最適化したいケース 精度の高い事前調査と設計力が前提

この表で私がお伝えしたいのは、「どれが一番か」ではありません。あなたの建物にとってどれが一番かを、正しく判定できる会社を選んでください、ということです。三つを比較できて初めて、「なぜこの工法なのか」を管理組合として説明でき、その説明こそが、届出や認定の場でも、住民への合意形成の場でも、強い武器になります。

数字を、オーナーさまの財布感覚に落とすと

大規模修繕の金額は、桁が大きすぎて実感が湧きにくいものです。そこで、戸あたりで考えてみましょう。

たとえば50戸のマンションで大規模修繕に6,000万円かかるとすると、単純計算で1戸あたり120万円の負担です。仮に工法の最適化によって総額の1割を圧縮できれば、総額で600万円、1戸あたり12万円が浮く計算になります。修繕積立金の議論で「月あたり数百円の値上げ」を巡って総会が紛糾することを思えば、工法選択で生まれるこの差がいかに大きいか、お分かりいただけると思います。

もちろん、これはあくまで概算の一例であり、実際の削減額は建物によって大きく変わります。断定はできません。ですが、「足場を当たり前と思わずに、まず工法から見直す」という発想を持つだけで、財布に返ってくるものが確かにある——これは、現場で20年見てきた私の実感です。

賃貸マンション・ビル・ホテルのオーナーさまへ——制度の“外”にいても本質は同じ

ここまで分譲マンションと管理組合を中心にお話ししてきましたが、一棟の賃貸マンションやテナントビル、ホテルを単独で所有されているオーナーさまにも、ぜひ立ち止まっていただきたいことがあります。

届出制度や管理計画認定は、区分所有のマンションが主な対象です。ですから、一棟所有の賃貸物件やビルは、多くの場合、制度の直接の対象にはなりません。ですが、だからといって「管理を見える化する必要がない」わけでは決してありません。むしろ賃貸物件のオーナーさまは、分譲マンションのように複数の区分所有者で費用を分け合うのではなく、外壁も屋上防水もエレベーターも、数百万円から一千万円を超える出費を、ご自身一人で、しかも工事をしたその年に丸ごと背負うことになります。この負担の重さは、私も現場で何度も目の当たりにしてきました。

だからこそ、賃貸物件やビル、ホテルのオーナーさまにとって、工法選択によるコストと工期の最適化は、分譲マンション以上に切実な意味を持ちます。とりわけホテルや稼働中の店舗が入るビルでは、「工事のために営業を止められない」「利用者の動線を塞げない」という制約が強く、足場を全面に組むことが売上の逸失に直結します。私どもがロープアクセスやハイブリッド工法を、稼働を止めずに進める提案としてよくご案内するのは、まさにこうした収益への影響を最小化するためです。制度の内側にいるか外側にいるかにかかわらず、「計画的に、建物に合った工法で、生活と営業への影響を抑えて直す」という本質は、まったく同じなのです。

管理組合が、いま動くべき順番

制度の話と工法の話をつなげて、管理組合として今から何をすべきかを、順番で整理します。

第一に、自分の街の届出制度の有無を確認すること。神戸市や東京都のように、すでに届出が求められる、あるいは近く求められる可能性があります。お住まいの自治体名と「マンション 管理状況 届出」で調べるか、自治体の窓口に問い合わせてみてください。神戸市であれば、相談窓口として「すまいるネット」(神戸市すまいの安心支援センター、電話078-647-9955)が設けられています(出典:神戸市「マンション管理状況の届出・情報開示」)。

第二に、長期修繕計画を点検すること。計画期間は30年以上あるか、その中に大規模修繕が2回以上組み込まれているか、修繕積立金は区分経理されているか。これは管理計画認定の基準そのものです。

第三に、次回の大規模修繕を、工法から見直すこと。前回と同じ会社に同じ足場で、と自動的に決めてしまう前に、ロープアクセスやハイブリッドを含めて比較する。この一手間が、コストと工期、そして資産価値の三つに効いてきます。

第四に、その検討過程を記録に残すこと。「なぜこの工法・この金額にしたか」を議事録に残しておくことは、届出・認定の時代において、管理組合の説明責任を果たす何よりの備えになります。

よくあるご質問(FAQ)

届出をしないと罰則があるのですか。
制度は自治体ごとに設計が異なります。神戸市は2026年7月1日から届出を義務としていますが、罰則や運用の詳細は自治体によって違うため、必ずお住まいの自治体の公式情報をご確認ください。ここで「必ずこうなる」と断定はいたしません。

賃貸専用のマンションやビルも対象ですか。
届出制度は分譲マンション(区分所有のマンション)を主な対象としています。一棟を単独所有する賃貸マンションやテナントビルは、制度の直接の対象外であることが多いです。ただし、後述するように、賃貸・自社ビルであっても「計画的な修繕と工法選択で資産価値を守る」という考え方は全く同じです。

管理計画認定は義務ですか。
いいえ、認定制度は義務ではなく、取得を目指す任意の制度です。ただしフラット35の金利引下げなど、取得によるメリットがあります(出典:国土交通省「住宅:管理計画認定制度」)。

うちは築古で積立金も不足しています。もう手遅れですか。
手遅れということはありません。むしろ、そういう建物こそ工法の最適化による効果が大きく出やすいのが実情です。まずは現状の劣化と計画を正直に把握するところからです。

デメリット・注意点も、正直にお伝えします

良いことばかりお話しするのはフェアではありませんので、両面をお伝えします。

届出制度には、当然ながら書類作成の手間がかかります。理事の負担も増えますし、慣れない管理組合には最初のハードルが高く感じられるはずです。ここは、管理会社や専門家、私どものような施工会社の力もうまく借りていただくのがよいと思います。

また、管理計画認定は「取れば安心」という魔法ではありません。認定は管理の枠組みが整っていることの証であって、実際の建物の劣化が止まるわけではありません。認定を取ったからと修繕の手を緩めれば本末転倒です。制度はあくまで、私たちが本来やるべき「建物を守る」という営みを、後押しし、可視化するための道具だとお考えください。

そして工法についても、ロープアクセスが常に安いわけでも、ハイブリッドが常に最適なわけでもありません。ただし○○の場合は不向き、という判断を含めて正直に提案できるかどうか。そこにこそ、施工会社の力量が表れます。

まとめ——制度が変わっても、建物を守る本質は変わりません

神戸市の届出義務化、東京都の先行事例、そして国のマンション管理適正化法の改正。これらが指し示しているのは、「管理の良し悪しが、これまで以上に、はっきりと資産価値になる」という一つの方向です。

その中で、収益物件オーナーさまと管理組合にできる最も確実な備えは、派手なものではありません。長期修繕計画を現実的に整え、次の大規模修繕を工法から見直し、その過程をきちんと記録に残す。この地道な積み重ねが、届出・認定の時代に、あなたの資産を静かに、しかし確実に守ります。

私どもは、足場・ロープアクセス・ハイブリッドの三つを建物ごとに比較してご提案できる、数少ない会社です。工法の比較や長期修繕計画の点検は、お問合せフォームからご相談だけでも遠慮なくお声がけください。総会や理事会の前段階の整理だけでも、お力になれることがあります。次回も、現場で本当に使える話だけをお届けします。

出典・参考資料

▼ロープアクセス工法・無足場工法の詳細解説はこちら
ロープアクセスドットコム|無足場工法専門メディア

修繕積立金が10年で5割増、それでも足りない——「住民格差」で大規模修繕が止まる前に。収益物件オーナーと管理組合がいま打つべき手【2026年6月】

修繕積立金が10年で5割増、それでも足りない——「住民格差」で大規模修繕が止まる前に。収益物件オーナーと管理組合がいま打つべき手【2026年6月】

先日、ある管理組合の理事長さまから、こんなご相談をいただきました。「毎月きちんと積み立ててきたつもりなのに、二回目の大規模修繕の見積もりを取ったら、積立金がまるで足りない。住民から一時金を集めるしかないと言われて、頭を抱えている」——。

これは、決して珍しい話ではありません。むしろ、いま全国のマンションで静かに進行している「共通の悩み」です。

ちょうどこの数日、分譲マンションの修繕積立金がこの10年で平均5割も上がったにもかかわらず、それでも修繕費が足りず、高額な一時金が請求されるケースがあるというニュースが出ていました。さらに深刻なのは、その負担をめぐって住民の間に温度差が生まれ、合意がまとまらずに大規模修繕そのものが止まってしまうという現象です。

今日は、このニュースの中身を整理したうえで、収益物件をお持ちのオーナーさま、そしてマンションの管理組合の理事長さま・修繕委員のみなさまが、「積立金が足りない」という壁にぶつかったとき、どう判断し、何から手を付ければいいのかを、現場の目線でお話しします。読み終えたときに「うちの管理組合でも、一度この観点で点検してみよう」と思っていただけたら幸いです。


まず何が起きているのか——「10年で5割増、それでも足りない」というニュースの中身

報じられたのは「積立金不足が修繕を止める」という現実

きっかけは、弁護士JPニュースが報じた一本の記事です。分譲マンションの修繕積立金は10年間で平均5割ほど負担が増えているにもかかわらず、それでも費用が足りず、住民に高額な一時金が請求されるケースがあるという内容でした。そして、その負担をめぐって入居時の一体感が薄れ、住民間の「格差」から合意形成が難しくなり、修繕が前に進まなくなる、という構図が描かれていました(出典:弁護士JPニュース「分譲マンション『修繕積立金』10年間で平均5割“負担増” それでも費用が足りず高額な一時金請求も」2026年6月)。

私がこの記事を読んで「これは多くの方に知っておいてほしい」と思ったのは、問題が「お金が足りない」だけにとどまっていないからです。お金の不足が、人間関係の対立を生み、その対立が建物の劣化を放置させる——この負の連鎖こそが、いちばん怖いところなのです。

国の数字でも「5割増」は裏付けられている

「5割増」という数字は、感覚論ではありません。国土交通省のデータでも、分譲マンションで必要とされる修繕積立金の平均は、2011年度の一戸あたり月額1万4,210円から、2021年度には月額2万1,420円へと、10年で約5割上昇しています。

つまり、住民のみなさんは「払う額」をきちんと増やしてきたのです。それでも足りない。ここに、この問題の根の深さがあります。値上げが足りなかったというより、そもそも当初の積立計画が低く設定されすぎていたことと、近年の資材高騰が重なった結果なのです。

実際、国の調査では、現在の積立額が長期修繕計画に対して不足しているマンションは全体の約36.6%にのぼると報告されています(出典:国土交通省「令和5年度マンション総合調査の結果について」)。およそ3棟に1棟が、計画どおりにはお金が貯まっていない計算です。


なぜ足りなくなるのか——「段階増額方式」という仕組みのカラクリ

新築の約99%が「最初は安く、あとから上げる」方式

ここで、多くのオーナーさま・理事長さまに知っておいていただきたいのが、修繕積立金の「集め方」には二つの方式があるということです。

一つは「均等積立方式」。これは、長期修繕計画の全期間で必要なお金を、最初からならして毎月一定額で集めていく方式です。家計でいえば、毎月決まった額を貯金箱に入れていくイメージで、見通しが立てやすいのが利点です。

もう一つが「段階増額積立方式」。こちらは、販売時は積立金を低めに設定しておき、5年・10年といった節目ごとに段階的に引き上げていく方式です。新築マンションの長期修繕計画の約99%がこの段階増額方式を採用している、というのが実態です。

なぜ新築でこの方式が多いのか。正直に申し上げます。販売時の月々の負担を少しでも軽く見せたほうが、マンションは売りやすいからです。これは販売側の事情であって、住民のためというより、売り手のための設定になりがちな構造があるのです。

「上げます」と決めても、住民の合意がいる

段階増額方式の落とし穴は、「あとから上げる」ことが計画書に書いてあっても、実際の値上げには総会での合意が必要だという点です。最初に安く設定された月々の負担に慣れた住民にとって、「来月から積立金を1.5倍にします」という提案は、なかなか受け入れがたいものです。

その結果、値上げの議案が否決されたり、先送りされたりして、計画よりも積み立てが進まない。気づいたときには、大規模修繕の直前になって「数十万円から百万円規模の一時金をお願いします」という事態になってしまう。これが、冒頭の理事長さまが直面したことの正体です。

令和6年改定で「上げ幅のルール」ができた

この問題を重く見て、国土交通省は令和6年6月、「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」を改定しました(出典:国土交通省「『長期修繕計画作成ガイドライン・同コメント』及び『マンションの修繕積立金に関するガイドライン』の改定について」令和6年6月)。

改定の目玉は、段階増額方式における「適切な引き上げの考え方」が示されたことです。具体的には、段階増額方式の月あたり徴収額について、均等積立方式とした場合の金額を基準額としたとき、計画の初期額は基準額の0.6倍以上、最終額は1.1倍以内にとどめるべき、という目安が新たに盛り込まれました。

平たく言えば、「最初を極端に安くして、あとで急激に跳ね上げるようなやり方は、もうやめましょう」という国からのメッセージです。これからマンションを買うオーナーさまにとっては、この比率を逸脱した計画は要注意という判断材料になります。


あなたのマンションは大丈夫か——ガイドラインの「目安額」で自己診断する

「うちの積立金は、足りているのか、足りていないのか」。これを判断する手がかりが、令和6年6月改定の修繕積立金ガイドラインに示された専有面積あたりの目安額です(出典:国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン(令和6年6月改定)」)。

ガイドラインは、実際に作成された長期修繕計画の事例を集め、その「平均値」を専有面積1㎡あたりの月額で示しています。代表的な目安は次のとおりです。

建物の規模(地上階数/建築延床面積) 月額の目安(平均値の例)
20階未満/建築延床5,000㎡未満 約335円/㎡・月
20階未満/建築延床5,000〜10,000㎡未満 約252円/㎡・月
20階未満/建築延床10,000㎡以上 約271円/㎡・月
20階以上(タワー型など) 別途の目安(一般に高め)

※上記は全国の事例から算出された参考値です。実際の必要額は、建物の形状・立地・仕様・これまでの修繕履歴によって大きく変わります。正確な判断は専門家による長期修繕計画の見直しが前提です。

たとえば、専有面積70㎡・建築延床8,000㎡規模のマンションなら、「252円 × 70㎡ = 月額約1万7,640円」が一つの目安になります。ご自宅やお持ちの収益物件の積立金が、この水準を大きく下回っていないか。まずはここを確認してみてください。下回っているなら、いま足りていても、いずれ不足する可能性が高いというサインです。

ただし、ここで一つ申し添えたいことがあります。この目安額は、あくまで「これまでの相場」を集計したものです。ここ数年の資材・人件費の高騰は、まだ十分には織り込まれていない可能性があります。つまり、目安どおりに積み立てていても、これから工事をすると「目安では足りなかった」ということが起こり得る。だからこそ、次にお話しする「工事費そのものを下げる」という発想が効いてくるのです。


「一時金か、借入か」——足りないと分かったときの3つの選択肢と落とし穴

積立金の不足が判明したとき、管理組合が取り得る道は、大きく分けて三つです。それぞれにメリットと落とし穴があります。

選択肢1:一時金を徴収する。
最も直接的な方法ですが、冒頭の事例のとおり、住民間の合意形成が最大の壁になります。現金に余裕のある住民とそうでない住民、住んでいる区分所有者と賃貸に出しているオーナー、終の棲家と考える高齢世帯と将来売却を考える若い世帯——立場が違えば、一時金への賛否は割れます。ここで対立が深まると、修繕そのものが止まります。

選択肢2:金融機関から借り入れる。
住宅金融支援機構などの「マンション共用部分リフォーム融資」を使う方法です。一時金の重さを将来に分散できる利点がありますが、当然ながら利息という追加コストが発生します。借入には総会の特別決議が必要なことも多く、ここでも合意のハードルは残ります。

選択肢3:積立金を計画的に増額する。
本来あるべき正攻法ですが、すでに工事が目前に迫っている場合には間に合いません。早く気づけば気づくほど選べる選択肢だと言えます。

なお、いずれの選択肢にも共通するのが「住民の合意」という関門です。マンションの大規模修繕や借入、修繕積立金の変更は、区分所有法や管理規約に基づいて、総会での決議が必要になります。普通決議で足りる事項もあれば、特別決議(おおむね組合員および議決権の各4分の3以上の賛成)が求められる事項もあります。つまり、いくら理事会が「これがベストだ」と考えても、住民の理解を得られなければ前に進みません。だからこそ、住民が納得しやすい「負担の軽い案」を用意できるかどうかが、合意形成の成否を大きく左右します。負担が軽ければ軽いほど、反対する理由は減っていくからです。

私は、この三つはどれも「お金の集め方」をいじる話にすぎない、という点に注意していただきたいと思っています。どの道を選んでも、支払う総額(=工事費)そのものは変わりません。住民の負担を本当に軽くしたいなら、集め方だけでなく、工事費そのものを下げるという、もう一つの軸を持つことが大切なのです。


私が現場で最も効くと感じる一手——「工法の見直し」で修繕費そのものを下げる

大規模修繕費の中で、意外と大きい「足場費」という固定費

ここからは、私たちが日々現場で向き合っている「工事費の中身」の話です。

マンションの大規模修繕というと、塗装や防水、タイルの補修といった「仕上げ」に目が行きがちです。ですが、実は工事費のなかで無視できない割合を占めるのが、足場の仮設費用です。建物の周囲にぐるりと足場を組み、工事が終わったら解体して撤去する。この足場代だけで、工事全体のおおよそ2割前後を占めることも珍しくありません(建物の形状や規模によって変動します)。

しかも足場は、「修繕した成果」として建物に残るものではありません。工事のために一時的に必要なだけの、いわば“消えていく費用”です。ここに修繕積立金の少なくない部分が吸い込まれている、という事実は、もっと知られてよいと私は考えています。

足場を組まない「ロープアクセス工法」という選択肢

そこで近年、注目が高まっているのが、足場を組まずに作業員がロープで建物外壁を昇降しながら施工する「ロープアクセス工法(無足場工法)」です。ビルの窓ガラス清掃で、上からロープで降りてくる作業を見たことがあるかもしれません。あの技術を、塗装・防水・タイル補修・シーリング打ち替えといった修繕工事に応用したものです。

ロープアクセス工法には、修繕積立金の不足に悩む管理組合にとって、見逃せない利点があります。

比較項目 通常の足場工法 ロープアクセス工法(無足場) ハイブリッド工法
足場の仮設・解体費 必要(工事費の約2割前後) 不要 必要な部位のみ
工期 長め(足場の組立・解体に日数) 短縮しやすい 中間
居住者の生活影響 窓周りが覆われ採光・防犯面の不安 影響が小さい 部位により異なる
防犯面 足場が侵入経路になるリスク リスクが低い 部位により異なる
適する建物 中低層・複雑な形状 高層・足場架設が難しい物件 大規模・複雑物件の総合最適

足場費がまるごと不要になれば、その分だけ工事費が下がり、結果として一時金の額を圧縮したり、借入を回避できたりする可能性が出てきます。これは「集め方」をいじる三つの選択肢とは、まったく次元の違うアプローチです。

「全部ロープ」でも「全部足場」でもない——ハイブリッドという発想

ただし、ここは正直にお伝えしなければなりません。ロープアクセス工法が万能というわけではありません。 大規模な打ち替えや、足場がないと品質・安全を確保しにくい部位もあります。低層で形状が複雑な建物では、足場を組んだほうが結果的に合理的なこともあります。

だからこそ私たちは、「足場かロープか」の二択ではなく、建物の部位ごとに最適な工法を組み合わせる「ハイブリッド工法」を基本に考えています。手の届きにくい高層部や、足場架設が難しい面はロープアクセスで、足場が必要な部位は足場で。こうして全体の総コストを最適化するのです。

通常足場・ロープアクセス・ハイブリッドの3つの工法から、建物にとって本当にベストな組み合わせを提案できる会社は、日本でもまだ多くありません。私たちが大切にしているのは、「自社が得意な工法に当てはめる」のではなく、「その建物にとっていちばん無駄のない工法を選ぶ」という姿勢です。

「百万円」を住民一人あたりに換算してみる

数字を体感に落とし込んでみましょう。仮に、総戸数50戸のマンションで、工法の見直しによって工事費全体を800万円圧縮できたとします。これを単純に戸数で割れば、一戸あたり16万円の負担軽減です。一時金として「一戸あたり50万円お願いします」と言われていたのが「34万円で済みます」となれば、合意形成のハードルはぐっと下がります。

金額の大小もさることながら、私が現場で実感するのは、「負担が減る」という事実そのものが、住民の対立をやわらげるということです。お金の話で人間関係がこじれるのを防ぐためにも、まず工事費を下げる努力をする。これは、技術の問題であると同時に、コミュニティを守る問題でもあるのです。


収益物件オーナーにとっての「修繕積立金問題」——利回りを守る視点

ここまでは管理組合の理事長さま・修繕委員のみなさまを主な読者として想定してお話ししてきました。ですが、この問題は区分マンションを賃貸に出している収益物件オーナーにとっても、決して他人事ではありません。むしろ、立場が違うぶん、別の難しさがあります。

賃貸に出しているオーナーは、その住戸に自分が住んでいるわけではありません。それでも、修繕積立金は所有者として支払う義務があり、一時金の請求が来れば、当然オーナーが負担します。家賃収入から見れば、これは利回りを直撃する想定外の支出です。たとえば年間の家賃収入が120万円の住戸で、50万円の一時金を求められれば、その年の手残りはほぼ吹き飛びます。

さらに悩ましいのが、総会での意思決定です。賃貸に出しているオーナーは総会に足を運びにくく、気づいたときには値上げや一時金が決まっていたということが起こりがちです。私がお伝えしたいのは、収益物件のオーナーこそ、「他人任せにしない」姿勢が利回りを守るということです。委任状を出して終わりにせず、長期修繕計画と積立金の水準にだけは目を通しておく。それだけで、突然の一時金に慌てる確率はぐっと下がります。

そして、もしオーナーとして修繕委員や理事に関わる機会があるなら、ぜひ「工法の見直し」を議題に出してみてください。工事費が下がれば、それは管理組合全体の利益であると同時に、オーナー自身の利回りを守ることに直結します。コスト感覚を持った所有者が一人いるだけで、管理組合の議論は驚くほど現実的になります。これは、私が数多くの現場でお手伝いしてきた中での、率直な実感です。


制度を味方につける——管理計画認定制度と長寿命化促進税制

工事費を下げるのと並行して、ぜひ活用していただきたいのが、国や自治体の制度です。

一つが、「マンション管理計画認定制度」です。これは、修繕積立金の積立てや長期修繕計画の作成など、管理状況が一定の基準を満たすマンションを、自治体が「適切に管理されている」と認定する仕組みです(出典:国土交通省「住宅:管理計画認定制度」)。

認定を受けるメリットは、主に次のようなものです。市場で「管理が行き届いたマンション」として評価されやすくなること。修繕積立金の運用に使える「マンションすまい・る債」の利率の上乗せを受けられること。そして、2023年度の税制改正で創設された「マンション長寿命化促進税制」(一定の要件を満たす大規模修繕工事を行ったマンションへの固定資産税の特例措置)の対象となり得ること、などです。

自治体の動きも進んでいます。たとえば神戸市では、令和4年9月から管理計画認定制度の受付が始まり、認定の前提としてマンションの「管理状況の届出」を求める運用がとられています(出典:神戸市「マンション管理計画認定制度」)。こうした「管理状況を行政に届け出る」流れは、今後ほかの自治体にも広がっていくと見られます。お住まいの、あるいは収益物件のある自治体の制度を、一度確認しておくことをおすすめします。

なお、これらの制度の要件・上限額・期限は年度や自治体によって変わります。「予算枠に達した時点で締め切られる」補助制度もあるため、検討される際は各制度の公募要領や自治体の最新の案内をご確認のうえで進めてください。


今日からの「次の一歩」——まず3つだけ点検してください

長くなりましたので、読み終えてすぐに動けるよう、要点を整理します。

第一に、自分のマンションの積立方式を確認すること。長期修繕計画書を開いて、「均等積立方式」か「段階増額方式」かを見てください。段階増額方式なら、将来の値上げが本当に計画どおり実行されているか、要チェックです。

第二に、ガイドラインの目安額と、いまの積立額を比べること。専有面積あたりの月額が目安を大きく下回っているなら、いずれ不足するサインです。

第三に、次の大規模修繕の見積もりを取るときに、工法の選択肢を比較すること。「足場ありき」で一社だけに見積もりを取るのではなく、ロープアクセスやハイブリッドを含めて、複数の工法で比べてみてください。ここで工事費が変われば、一時金や借入の話そのものが不要になることもあります。

この三つは、専門家でなくても、理事会や修繕委員会で今日から話題にできることです。


よくあるご質問(修繕積立金と大規模修繕)

最後に、現場でよくいただくご質問にお答えしておきます。

Q. 修繕積立金が不足していると、すぐに大規模修繕はできないのでしょうか。
A. そんなことはありません。不足が判明しても、借入の活用、工事範囲の優先順位づけ、そして工法の見直しによる工事費の圧縮など、打てる手はいくつもあります。大切なのは、足りないと分かった時点で早めに専門家に相談し、選べる選択肢が多いうちに動くことです。先送りするほど、劣化が進んで工事費が膨らみ、選択肢が狭まっていきます。

Q. ロープアクセス工法は、足場工法より品質が劣るのではないですか。
A. 工法によって品質が決まるわけではなく、施工する職人の技術と管理体制で決まる、というのが私の考えです。ロープアクセスは、技能を認定された作業員が間近で外壁に向き合うため、むしろ細部の状態を目視しやすいという面もあります。一方で、足場が向く部位があるのも事実です。だからこそ、部位ごとに最適な工法を組み合わせるハイブリッドの発想が活きてきます。

Q. 工法を見直すと、本当にどのくらい費用が下がるのですか。
A. 建物の高さ・形状・劣化状況によって幅があるため、一律に「何割下がる」とは申し上げられません。足場費は工事費の2割前後を占めることが多く、その全部または一部が圧縮できれば、相応のコスト効果が見込めます。正確な金額は、建物を実際に診断したうえでお出しするお見積もりでご確認いただくのが確実です。

Q. 自分のマンションの積立金が適正か、どこに相談すればいいですか。
A. まずは管理会社や、利害関係のない第三者の専門業者に、長期修繕計画と積立金水準の点検を依頼するのが第一歩です。複数の意見(セカンドオピニオン)を取ることで、提示された計画が妥当かどうかを冷静に判断できます。私たちも、こうした点検のご相談を承っています。


大規模修繕の「工法」と「費用」のご相談について(自社サービスのご案内)

ここからは、私たちのサービスのご案内です。押し売りをするつもりはありません。ただ、「うちの積立金で、本当にこの工事ができるのか」「足場を組まずに費用を下げられないか」と迷っておられるなら、判断材料を一緒に整理するお手伝いはできます。

私たちは、マンション・ビル・ホテルの大規模修繕を、通常の足場工法・ロープアクセス工法(無足場)・両者を組み合わせたハイブリッド工法の3つから、建物にとって最適な形でご提案しています。ロープアクセス工法については、塗装・防水・タイル・電気・看板など各分野の専門職が加盟するロープアクセス工事のフランチャイズを展開し、高品質と低価格の両立をめざしています。

「まず自分のマンションの状態を知りたい」という方には、建物診断・長期修繕計画の見直しのご相談から承っています。具体的なお見積もりやセカンドオピニオンのご依頼は、お問い合わせ窓口よりお気軽にどうぞ。相談だけでも構いません。

あわせて、資材高騰やサプライチェーンの動きについては、これまでの記事もご参考になさってください(資材高騰と工事中断リスクを工法選択でどう守るか/今夏の大規模修繕に省エネ改修と補助金をどう組み込むか)。


修繕積立金が足りない、という現実は、決して恥ずかしいことでも、誰かの怠慢でもありません。多くは、新築時の設定と、その後の資材高騰という、住民の力では避けにくい事情が重なった結果です。大事なのは、足りないと分かったときに、「集め方」だけでなく「かかり方」にも手を入れられると知っておくことだと、私は思います。

今回ご紹介したニュースは、決して特別なマンションだけの話ではありません。築年数を重ねたすべての建物が、いつか必ず向き合うテーマです。だからこそ、まだ余裕のある今のうちに、長期修繕計画と積立金、そして工法の選択肢を一度きちんと点検していただきたいのです。早めに手を打てば打つほど、選べる道は広く、住民の負担は軽く済みます。

お金の話は、ときに住民同士の関係をぎくしゃくさせます。だからこそ、対立が深まる前に、工事費そのものを一円でも下げる工夫をする。それが、建物の資産価値を守るだけでなく、そこに暮らす人たちの穏やかな関係を守ることにもつながると、私は現場で何度も感じてきました。みなさまのマンションが、次の大規模修繕を気持ちよく乗り越えられるよう、心から願っています。

▼ロープアクセス工法・無足場工法の詳細解説はこちら
ロープアクセスドットコム|無足場工法専門メディア

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