大規模修繕の施工会社が工事中に倒産したら?管理組合とオーナーの自衛策
「契約した施工会社が、工事の途中で倒産してしまったら——」。ふだんは考えたくもない話だと思います。ですが今、この“まさか”が、決して他人事ではない数字として現れはじめています。
築15年、20年を超えたマンションの理事長さまや、区分マンションを何戸か持つオーナーさまにこそ、今日はこの話を届けたいのです。大規模修繕は、多くの管理組合にとって数千万円から、規模によっては億単位になる一世一代の大仕事です。その相手が、工事の真っ最中に立ち行かなくなったら——足場だけが残り、住民の生活と資産だけが宙に浮く。そんな最悪の展開を避けるために、発注する側が今から準備できることがあります。
私は現場で20年近く、塗装と防水を中心に大規模修繕に携わってきました。正直に申し上げます。今の建設業界の倒産の増え方は、現場にいる人間の肌感覚として、明らかに以前とは違います。今日はニュースの数字を入り口に、「なぜ増えているのか」「発注者にどんな打撃があるのか」「では何をすればよいのか」を、できるだけ噛み砕いてお伝えします。
ニュースの要点:塗装・防水工事の倒産が「過去最多ペース」に
まず、今回の話の起点となったニュースです。企業信用調査で知られる帝国データバンク(TDB)が2026年6月に公表した調査によると、2026年1〜5月に発生した「塗装工事業」と「防水工事業」の倒産は合計80件。これは、通年で2000年以降の最多を記録した2025年(5月までで87件)に次ぐ高い水準です(出典:帝国データバンク「『塗装・防水工事』の倒産動向(2026年 1-5月)」)。
内訳を見ると、塗装工事が56件、防水工事が24件。そして注目すべきは、負債1億円未満の小規模事業者が69件と、全体の約86.3%を占めていることです。つまり、体力の小さな会社から順番に、静かに姿を消しているということです。
TDBはさらに踏み込んで、「今後、原材料の供給不安が解消されなければ、倒産件数は2025年を上回り、2000年以降での最多を更新する可能性もある」と指摘しています(出典:同上、および帝国データバンク プレスリリース(PR TIMES))。塗装・防水は、まさに大規模修繕の中核をなす工事です。その担い手が最多ペースで倒産している——この事実は、発注する側にとって決して無視できない前提だと私は考えています。
もう少し視野を広げると、状況の深刻さがはっきりします。TDBが2026年7月に公表した別の調査「『物価高倒産』の動向(2026年上半期)」では、原材料高や人件費高が引き金となった「物価高倒産」が上半期で556件発生し、前年同期(449件)から23.8%増加。半期としては集計を開始した2018年以降で最多を更新しました。そのうち建設業は151件と業種別で最も多く、前年同期(118件)から約3割増。建設業の倒産は4月以降に増え、2026年6月には単月で最多となる36件に達しています(出典:帝国データバンク「『物価高倒産』の動向(2026年上半期)」)。
数字が続いて恐縮ですが、ここでお伝えしたいのは一つだけです。「安いから」「感じがよかったから」だけで施工会社を選ぶには、今はあまりにリスクの高い時期に入っている、ということです。
なぜ、いま倒産が増えているのか——現場から見た3つの構造要因
ニュースの数字だけを見ると「不景気だから」で片づけたくなります。ですが現場にいる私の実感では、今回の倒産増加には、もう少し具体的で、根の深い理由が3つ重なっています。順番に説明します。
要因1:資材の値上がりと「ナフサ不足」
塗料や防水材の多くは、石油から作られる化学製品です。その原料の川上にあるのが「ナフサ」(原油を精製してできる、プラスチックや塗料原料のもとになる中間製品)です。TDBの調査では、中東情勢の影響によるナフサ不足が、すでに塗料・防水材の納期や価格に影響を及ぼしていると報告されています(出典:ITmedia ビジネスオンライン「『塗装・防水工事』業者の倒産、過去最多ペース」)。
現場では、材料そのものが手に入りにくくなるだけでなく、「見積もりを出した時点の材料価格が、実際に発注する頃には上がっている」という事態が起きます。私自身、この1〜2年で「見積り時と発注時で材料代が変わってしまい、頭を抱える」場面が明らかに増えました。値上がり幅が読めないと、正確な工事金額を提示すること自体が難しくなる。ここが、体力のない会社を追い詰めていきます。
要因2:職人の高齢化と若手不足
もう一つは人の問題です。TDBの物価高倒産の分析でも、若手職人の不足と高齢職人の引退が重なり、現場作業員が足りず、外注費の高騰から「人件費増」による倒産が目立つと指摘されています(出典:前掲・物価高倒産の動向)。
塗装も防水も、機械では代われない、手と経験がものを言う仕事です。腕のいい職人ほど引く手あまたで、単価が上がる。人を確保できない会社は工期を守れず、守れなければ次の仕事が来ない。この悪循環が、静かに小規模事業者の首を絞めています。
要因3:「安値受注」というジレンマ
そして三つ目が、私が最も歯がゆく思う点です。材料も人件費も上がっているのに、受注競争のために価格を上げられない。むしろ「他社より安く」で仕事を取ってしまい、蓋を開けたら利益が出ない——この「安値受注のジレンマ」が、資材高・人件費高と噛み合って、会社の体力をじわじわ削っていきます。
現場で20年やってきて、私が一番悔しい思いをするのは、腕は確かなのに、この価格の綱引きに負けて廃業していく同業を見るときです。安さは、発注者にとって一見ありがたい。けれど「相場より極端に安い見積り」は、実は危険信号かもしれない——今はそう疑うべき時代になったと、私は考えています。
「工事の途中で施工会社が倒産」は、発注者に何をもたらすのか
では、実際に契約した施工会社が工事の途中で倒産すると、管理組合やオーナーにはどんな打撃が及ぶのでしょうか。ここは冷静に、けれど正確に押さえておいてください。
第一に、工事が止まります。足場が組まれたまま、防水の途中で雨仕舞いが不完全なまま、現場が放置されるリスクがあります。梅雨や台風の時期にこれが起きると、雨漏りなど二次被害に直結します。
第二に、支払い済みのお金が返ってこない恐れがあります。大規模修繕では、着工金・中間金として工事費の一部を先に支払うのが一般的です。倒産すると、この前払い分に見合う工事が完了していない差額が、宙に浮きます。
第三に、やり直しに余計な費用と時間がかかります。別の会社に引き継いでもらうにしても、前の会社の施工品質を調査し、責任範囲を切り分ける手間が発生します。多くの場合、費用は当初の想定を上回ります。
そして意外と見落とされがちなのが、第四の点です。工事完了後に発覚した不具合(瑕疵)を、誰も直してくれなくなるリスクです。施工した会社が消えてしまえば、通常の工事保証は事実上、機能しなくなります。
戸あたりの感覚でお伝えします。仮に100戸のマンションで総額1億円の大規模修繕を組み、着工・中間で6割にあたる6,000万円を支払った段階で施工会社が倒産したとします。出来高が5割しかなければ、単純計算で1,000万円分、戸あたり10万円が「払ったのに形になっていない」お金として宙に浮く計算です。これはあくまで単純化した例ですが、「倒産は管理組合の財布を直撃する」という現実を、数字で感じていただければと思います。
もう一つ、見過ごされがちな打撃があります。時間です。倒産した会社の現場を別の会社が引き継ぐには、まず「どこまで、どんな品質で施工されているか」を一から調査し直さなければなりません。防水層のように、いったん仕上げてしまうと内部の状態が見えなくなる工事では、この調査自体が難航します。私も過去に、別の会社が途中まで手掛けた現場の引き継ぎに立ち会ったことがあります。図面と実際の施工が合っておらず、下地の状態を確かめるために一部を剥がして確認する——それだけで数週間が飛びました。理事の皆さまが「早く終わらせたい」と気を揉むなか、工期はずるずると延び、住民説明の負担だけが増えていく。お金の損失は数字で見えますが、この「時間と手間の損失」は、渦中にいる管理組合にとって本当に重いものだと、私は現場で痛感しました。
自衛策1:契約する前に「見抜く」——施工会社の体力チェック
ここからが本題です。発注する側にできる備えを、契約の「前」「時」「進行中」の3段階に分けてお伝えします。まずは契約前、会社選びの段階です。
私はいつも理事長さまに、こうお伝えしています。「相見積りは金額だけでなく、“この会社は3年後も存在しているか”という目で見てください」と。具体的には、次のような点を確認するとよいでしょう。
- 建設業許可の有無と業種:塗装工事業・防水工事業など、該当する業種の許可を持っているか。許可情報は各都道府県や国土交通省の建設業者・宅建業者等企業情報検索システムなどで確認できます。
- 経営事項審査(経審)の評点:公共工事の受注を目指す会社が受ける財務・技術の審査です。数値が公開されていれば、財務の健全性の一つの目安になります。
- 施工実績と継続年数:同規模のマンション大規模修繕の実績があるか。極端に若い会社や、実績が説明できない会社は慎重に。
- 見積りの内訳の明瞭さ:材料・人工・諸経費が項目ごとに分かれているか。「一式」ばかりの見積りは、後で「値上がりしたので追加で」となりやすい。
そして繰り返しますが、相場から極端に安い見積りには理由があります。今の資材高・人件費高のなかで、なぜその価格が出せるのか。合理的な説明ができない安さは、赤字受注か、どこかで手を抜く前提か、あるいは体力の限界での駆け込み受注か——いずれにせよ、発注者にとってのリスク要因です。安さの根拠を、遠慮なく質問してください。
自衛策2:契約に「保証」を組み込む——完成保証と各種保険
会社選びをどれだけ慎重にしても、倒産を100%予見することはできません。だからこそ、「万一倒れても、こちらの損害を抑える仕組み」を契約の段階で用意しておくことが重要です。ここは、知っているかどうかで結果が大きく変わる部分です。
大規模修繕工事「完成保証」
完成保証とは、工事会社が倒産などで工事を続けられなくなったとき、第三者機関が進捗状況と支払い済みの着工金・中間金を調査し、現場の出来高との差額に生じた損害を保証する仕組みです。工事の再開・完了をサポートする制度も登場しています。
ただし、ここには重要な注意点があります。完成保証や保険は、「追加負担ゼロで最後まで工事を完成させてくれる」万能の制度ではありません。補償の対象や上限は制度ごとに異なり、支払い済みの前払い金と出来高の差額を守るタイプが中心です。「入っていれば全部安心」ではなく、「何を、どこまで守る制度なのか」を必ず確認してください。
そしてもう一つ、見落としやすい実務上のポイントがあります。完成保証の保証料は、多くの場合、工事会社が負担します。つまり、管理組合の側から「完成保証を付けてください」と申し入れないと、工事会社は自発的には付けてくれないことがあるのです。これは総会や見積り依頼の段階で、こちらから条件として提示すべき事項です。
大規模修繕工事「かし(瑕疵)保険」
大規模修繕工事かし保険は、工事完了後に施工部分の瑕疵(欠陥・不具合)が判明した場合、補修費用などを保険でカバーする仕組みです。国土交通大臣が指定する住宅瑕疵担保責任保険法人が扱っており、保険金の対象は修補費用・調査費用・仮住居や転居費用など、保険金額はおおむね1,000万円〜5億円と、請負金額等によって設定されます(出典:国土交通省「住宅瑕疵担保履行法および住まいの安心総合支援サイト(大規模修繕工事かし保険)」、住宅瑕疵担保責任保険協会)。
この保険の心強い点は、施工会社が万一倒産して保証が受けられなくなっても、保険法人に直接、補修費用を請求できるケースがあることです。工事後の“もしも”に、施工会社の存続とは切り離した安全網をかけられます。
3つの仕組みを整理すると
保証・保険は名前が似ていて混乱しがちなので、「いつの、何を守るのか」で整理してみます。ご自身のマンションのケースに当てはめて読んでみてください。
| 仕組み | 守るタイミング | 主に守る対象 | 誰が申し入れる/負担するか |
|---|---|---|---|
| 完成保証 | 工事の途中で会社が倒産 | 支払い済みの前払い金と出来高の差額 | 管理組合から申し入れる。保証料は工事会社負担が一般的 |
| 履行保証保険 | 工事の途中で会社が倒産 | 契約が履行されないことによる管理組合の損害 | 契約時に工事会社が付保 |
| かし(瑕疵)保険 | 工事の完了後に欠陥が発覚 | 補修費用・調査費用・仮住居費用など | 工事会社が加入。倒産後は保険法人に直接請求できる場合あり |
大切なのは、どれか一つですべてが守られるわけではないという点です。工事中の倒産に備えるなら完成保証や履行保証保険、工事後の不具合に備えるならかし保険、と役割が分かれています。予算と物件の状況を踏まえ、どこまで備えるかを理事会で話し合う価値があります。
困ったときの公的相談窓口
制度の選び方や、実際にトラブルになったときの相談先も、あらかじめ知っておくと安心です。工事のトラブルは、公益財団法人 住宅リフォーム・紛争処理支援センターの「住まいるダイヤル」で、弁護士と建築士による専門家相談を受けられます(参考:住宅リフォーム・紛争処理支援センター)。「どこに相談すればいいか分からない」で立ち止まらないための、公的な入り口です。
自衛策3:資材高・値上げ局面での「見積りの読み方」
3つ目は、進行中のトラブルを防ぐための視点です。今のような資材が乱高下する時期は、見積りと契約書の「値上がりの扱い」を最初に確認しておくことが、後のもめ事を防ぎます。
私が現場でお勧めしているのは、次の3点です。
まず、材料費の変動をどう扱うか、契約前に明文化すること。「契約後に材料が値上がりした場合、どちらがどこまで負担するのか」を曖昧にしたまま進めると、途中で「追加費用」を巡って対立し、最悪の場合は工事が止まります。スライド条項(一定以上の物価変動があれば金額を調整する取り決め)の有無を確認しましょう。
次に、「一式」ではなく数量と単価で見積りを出してもらうこと。数量が明示されていれば、値上がりの根拠も検証できます。
最後に、極端な短工期・低価格の提案を鵜呑みにしないこと。人手不足のなか、無理な工期は品質の低下か下請けへのしわ寄せにつながりがちです。「なぜその工期・その価格で可能なのか」を、納得できるまで聞いてください。
私が現場で考える「倒産に強い体制」とは
ここまで発注者側の自衛策をお伝えしてきました。最後に、施工する会社を選ぶ一つの視点として、私が大切にしていることをお話しさせてください。少しだけ当社の話にもなりますが、押し売りのつもりはありません。今の時代に「倒産に強い体制とは何か」という、一つの考え方として聞いていただければと思います。
倒産の引き金は、突き詰めれば「材料が高くなった」「人が足りない」「価格を上げられない」の3つでした。逆に言えば、この3つに耐性のある体制ほど、工事の完遂まで走り切れる可能性が高いということです。
私が所属する株式会社明誠は、マンション・ビル・ホテルの大規模修繕を主力に、通常足場工法・ロープアクセス工法(足場を組まない無足場工法)・両者を組み合わせるハイブリッド工法の3つの工法を、建物ごとに中立的に提案しています。足場ありきでもロープありきでもなく、建物にとって最適な工法を選べること自体が、実はコスト耐性につながります。たとえば足場が必須と思われがちな部位でも、ロープアクセスを併用できれば足場コストと工期を圧縮でき、資材高・人件費高の局面でも価格の無理を減らせるからです(ロープアクセスについてはロープアクセス工法のご紹介、大規模修繕全体については大規模修繕工事のご紹介をご覧ください)。
ここで、ロープアクセス工法(足場を組まず、産業用ロープで高所へ直接アプローチする無足場工法)の利点を、あらためて3点で整理させてください。第一に足場コストの削減。大規模修繕の費用のうち仮設足場が占める割合は決して小さくなく、必要な部位だけロープアクセスに置き換えられれば、その分を圧縮できます。第二に工期の短縮。足場の架設・解体という工程そのものが減るため、資材や人が細る局面でも工程の無理を減らせます。第三に入居者・利用者への影響が小さいこと。足場は防犯面の不安や日当たり・眺望への影響を伴いますが、ロープアクセスはその負担を抑えられます。私はこの3点を、単なる技術の売りとしてではなく、「資材高・人手不足の時代に、工事を破綻させないための現実的な選択肢」として捉えています。
もう一つの特徴が、ロープアクセスとしては日本で初めてとなるフランチャイズ展開です。塗装・防水・タイル・電気・看板など各分野の専門職が加盟し、それぞれが直接施工することで、高品質と低価格の両立を目指しています。専門職の裾野が広いということは、材料調達や人員の手当てを一社の体力だけに依存しない、ということでもあります。私はこれを、資材と人が細る時代における、一つの現実的な備えだと考えています。
繰り返しますが、これは「だから当社に発注してください」という話ではありません。どの会社に頼むにしても、「この会社は3つの引き金にどれだけ耐えられるか」という目で見てほしい、というのが私の本当に伝えたいことです。
補足:区分マンションを複数持つオーナーさまへ
ここまでは管理組合の理事長さまを主な想定読者にお話ししてきましたが、収益物件として区分マンションを何戸か保有しているオーナーさまにも、この話は深く関わります。
オーナーさまの場合、修繕は「入居者の満足」と「賃料・資産価値の維持」に直結します。共用部の大規模修繕は管理組合の判断で進みますが、専有部のリフォームや、保有物件の外壁・防水の手入れは、オーナーご自身が発注者になります。ここで施工会社が途中で倒産すれば、空室期間が延び、家賃収入が止まり、資産価値の下落にもつながりかねません。
私がオーナーさまにお伝えしているのは、「工事を、単発の出費ではなく、資産のメンテナンス投資として設計してください」ということです。複数戸を保有しているなら、なおさら、信頼できる施工パートナーを一社見つけておくメリットは大きい。物件ごとにその都度、安さだけで会社を選び直していると、今のような倒産増加局面では、いつか工事中断という形でしっぺ返しを受けるリスクが高まります。
とりわけ築古の区分マンションは、防水や塗装の劣化が進みやすく、資材高の影響を受けやすい工事が中心になります。だからこそ、「値上がり局面でも無理のない工法を提案してくれるか」「万一のときの保証まで一緒に考えてくれるか」を、パートナー選びの基準にしていただきたいのです。ロープアクセスを活用した部分補修など、足場を組まずに機動的に対応できる選択肢を持っておくことは、収益物件の維持コストを平準化するうえでも有効だと、私は考えています。
まとめ:総会の前に、1分だけこの話題を
長くなりましたので、要点を整理します。
- 2026年1〜5月の塗装・防水工事の倒産は80件で、過去最多ペース。背景はナフサ不足による資材高・納期不安、人手不足、安値受注のジレンマ。
- 施工会社が工事中に倒産すると、工事停止・前払い金の宙浮き・やり直し費用・工事後の瑕疵補修不能という打撃が管理組合やオーナーを直撃する。
- 自衛策は3段階。①契約前に会社の体力(許可・実績・見積りの明瞭さ)を見抜く。②契約に完成保証やかし保険を組み込む(保証は自分から申し入れる)。③資材変動の扱いを契約で明文化する。
- 会社を選ぶときは「資材高・人手不足・価格転嫁」の3つの引き金への耐性という視点を持つ。
大規模修繕は、十数年に一度の大仕事です。だからこそ、価格の安さだけでなく、「最後までやり切れる相手か」を見極める。その一手間が、数百万、数千万円の資産を守ることに直結します。
次の理事会や総会で、1分だけでも「うちの施工会社選び、倒産リスクまで見ているだろうか」という話題を出してみてください。それだけで、備えの質はぐっと変わります。工法の選び方や見積りの読み方など、判断に迷う場面があれば、お問合せフォームからご相談だけでも遠慮なくお声がけください。総会前の整理だけでも、お力になれることがあります。
これは私が現場で20年見てきた、嘘偽りのない感想です。次回も、現場で本当に使える話だけをお届けします。
よくある質問(FAQ)
Q. 施工会社が工事の途中で倒産したら、支払ったお金は必ず返ってきますか?
A. 残念ながら、必ず返ってくるとは言えません。着工金・中間金として前払いした分のうち、出来高に見合わない差額は、倒産手続きのなかで回収が難しくなるのが一般的です。だからこそ、契約前に完成保証などの仕組みを用意しておくことが重要になります。
Q. 完成保証に入っていれば、追加費用なしで工事は必ず完成しますか?
A. いいえ。完成保証や保険は、支払い済みの前払い金と出来高の差額など、一定範囲の損害を守るものが中心で、「追加負担ゼロで最後まで完成させる」万能の制度ではありません。補償の対象と上限を、制度ごとに必ず確認してください。
Q. かし保険と完成保証は何が違いますか?
A. ざっくり言うと、完成保証は「工事の途中で会社が倒れたとき」の前払い金の損害を、かし保険は「工事の完了後に見つかった欠陥」の補修費用を守る仕組みです。守るタイミングが違うので、両方を検討する価値があります。
Q. 安い見積りは避けたほうがよいのですか?
A. 安いこと自体が悪いわけではありません。問題は「なぜその価格が出せるのか」を説明できるかどうかです。資材高・人件費高のなかでの極端な安値は、赤字受注や品質面のしわ寄せの可能性があります。安さの根拠を必ず確認してください。
出典・参考資料
- 帝国データバンク「『塗装・防水工事』の倒産動向(2026年 1-5月)」
- 帝国データバンク「『物価高倒産』の動向(2026年上半期)」
- ITmedia ビジネスオンライン「『塗装・防水工事』業者の倒産、過去最多ペース “ナフサ不足”だけじゃない」
- 国土交通省「住宅瑕疵担保履行法および住まいの安心総合支援サイト(大規模修繕工事かし保険)」
- 住宅瑕疵担保責任保険協会「リフォーム・大規模修繕工事業者向け情報」
- 公益財団法人 住宅リフォーム・紛争処理支援センター「住宅瑕疵担保履行法に基づく瑕疵保険の紹介」
- 国土交通省「建設業者・宅建業者等企業情報検索システム」
▼ロープアクセス工法・無足場工法の詳細解説はこちら
ロープアクセスドットコム|無足場工法専門メディア
大規模修繕の“工事会社選び”が命運を分ける——塗装・防水の倒産が2000年以降で最多ペースに入った2026年、管理組合とオーナーが施工会社の危険サインを見抜き、工法と体制でリスクを下げる実務【2026年7月】
今朝のニュースで、私が思わず手を止めた見出し
今朝、いつものように業界のニュースに目を通していると、ひとつの見出しで手が止まりました。「塗装・防水工事の倒産が2000年以降で最多ペース」。数字を追う仕事を20年近く続けてきた私でも、正直に申し上げて、この数字にはひやりとしました。
私は大規模修繕の現場でずっと働いてきました。マンションやビル、ホテルの外壁を塗り、屋上を防水し、タイルを直す——その仕事を担うのは、多くの場合、地域の中小の専門工事会社です。その塗装・防水の会社が、いま過去に例のないペースで倒産している。これは他人事ではなく、これから大規模修繕を控えている管理組合の理事長さまや、収益物件をお持ちのオーナーさまにとって、「自分の物件の工事は途中で止まらないか」という、きわめて現実的な問題に直結します。
今日は、この倒産増加のニュースを入り口に、「大規模修繕の工事会社選び」で失敗しないための実務を、現場の視点から整理してお伝えします。読み終えるころには、次の理事会や発注判断で「どこを見ればよいか」が具体的に見えているはずです。少し長くなりますが、お付き合いください。
この記事の主役はあくまで工事会社選びです。工法(足場・ロープアクセス)や修繕積立金の話も出てきますが、すべては「安心して任せられる相手をどう見極めるか」につながる材料として読んでいただければと思います。
まず数字で押さえる:2026年の塗装・防水工事の倒産はどれくらい深刻か
1〜5月で80件、2000年以降最多だった前年に次ぐ高水準
出どころのはっきりした一次データから確認します。帝国データバンクの調査によると、2026年1〜5月に発生した「塗装工事」と「防水工事」の倒産は80件(内訳は塗装工事56件、防水工事24件)でした。これは、通年の件数が2000年以降で最多となった2025年(通年206件、うち1〜5月は87件)に次ぐペースだと報告されています(出典:帝国データバンク「『塗装・防水工事』の倒産動向(2026年1-5月)」2026年6月8日)。
負債額別に見ると、1億円未満が69件と全体の約86.3%を占めました。つまり、倒れているのはその多くが小規模事業者だということです。ここが今回の数字のいちばんの肌感覚だと私は思います。大企業が派手に倒れているのではなく、地域で外壁や防水を担ってきた身近な会社が、静かに、しかし数多く姿を消しているのです。
なお、この集計は「負債1000万円以上・法的整理による倒産」が対象です。廃業や事業停止など統計に表れない「静かな撤退」まで含めれば、体感としての数字はさらに大きいと私は受け止めています。
なぜ「川下」の塗装・防水がしわ寄せを受けるのか
塗装工事と防水工事は、大規模修繕という長い工程のなかでも「川下(かわしも)」——つまり仕上げに近い後半の工程に位置します。ここが構造的に弱い立場に置かれやすい。前工程(足場架け、下地補修、シーリング打ち替えなど)が遅れれば、そのしわ寄せは最後の塗装・防水にまとめて降りかかります。工期が押しても、竣工日は動かせないことが多い。結果として、無理な突貫や追加人員の投入で採算が崩れる。私はこの構図を、現場で数えきれないほど見てきました。
専門用語を少しかみ砕くと、「川下工程」というのは、他社の作業が終わらないと自分の作業に入れない、順番の後ろにいる仕事のことです。後ろにいる者ほど、前の遅れを全部かぶる。塗装・防水の会社が資金繰りに苦しみやすいのは、腕の問題ではなく、この立ち位置の問題でもあるのです。
なぜ今、これほど倒産が増えているのか——3つの構造要因
倒産の増加を「たまたま」で片づけると、工事会社選びを誤ります。背景には、当分ゆるまない3つの構造要因があります。
要因1:資材の高騰と、中東情勢によるナフサ不足
塗料や防水材の多くは、ナフサ(原油を精製してつくる石油由来の原料)から生まれる溶剤や樹脂を使っています。養生シートや容器といった副資材もナフサが原料です。帝国データバンクの同じ調査は、中東情勢によるナフサ不足の影響で、すでに塗料・防水材の納期や価格に影響が出ていると指摘しています。現場では、値上がり幅が読めずに工事金額の見積り提示が難しくなったり、資材が入らずに工期が遅れたりするケースが起きています。
私の実感でも、ここ数年で塗料や防水材の見積りは「去年の単価が使えない」状態が続いています。仕入れが上がっても、工事金額に転嫁しきれない会社ほど、体力を削られていきます。
要因2:職人の高齢化・引退による人手不足と、労務費の上昇
もうひとつは人です。塗装も防水も、腕のある職人がいてこそ成り立つ仕事です。ところが高齢化で職人の引退が進み、人手不足が慢性化しています。人が足りなければ、外注費や人件費は上がる。ここでも、上がったコストを工事金額に反映できない会社から、利益が消えていきます。
数字の体感として申し上げると、40戸規模のマンション1棟の外壁改修でも、塗装・防水にかかわる職人は延べで数百人工(にんく=1人が1日働く単位)に及びます。その一人ひとりの単価が上がっている以上、「去年と同じ金額でやります」という見積りは、どこかに無理を隠していると考えたほうが安全です。
要因3:価格転嫁できない下請け構造と、それを正そうとする改正建設業法
3つ目が、いちばん根が深い「価格転嫁できない構造」です。安い工事単価・短い工期で案件を取り合う競争が、いまも各地で起きています。無理な条件で受注し、人件費や工期遅れが想定を超えて不採算に陥り、資金繰りに行き詰まる——帝国データバンクが描くこの流れは、私が現場で見てきた倒産の典型そのものです。
この構造にメスを入れようとしているのが、2025年12月12日に全面施行された改正建設業法です(出典:国土交通省「建設業法・入契法改正(令和6年法律第49号)について」)。ポイントは大きく2つあります。
ひとつは「労務費の基準」です。著しく低い労務費による見積りの提出や、その変更依頼が禁止されました。国は職種ごとに標準的な労務費の基準値を定めて公表しており、2025年12月時点で13の職種分野・99の基準値が示されています(出典:国土交通省「労務費に関する基準ポータルサイト」)。もうひとつは価格転嫁のルール化で、資材高騰時の請負代金の「変更方法」を契約書の法定記載事項とし、資材高騰のおそれがあるときは受注者から発注者へ事前に情報を通知する仕組みが整えられました。
私はこの改正を、現場の人間として素直に歓迎しています。ただし、法律が整っても、実際に適正な単価で発注し、適正な体力の会社を選ぶかどうかは、最後は発注者——つまり管理組合とオーナーの判断にかかっています。だからこそ、次の「会社の見極め方」が重要になるのです。
管理組合・オーナーにとっての本当のリスク——「工事が途中で止まる」だけではない
工事会社が倒産すると何が起きるか。「工事が止まる」だけを想像しがちですが、実務ではもっと広い範囲に影響が及びます。
工期途中の倒産で起きること
第一に、工事の中断です。足場がかかったまま、外壁が下地のまま数か月放置される——これは資産価値にも住民の安全にも直結します。第二に、前払金の焦げつきです。着手金や中間金を支払っていた場合、その回収は簡単ではありません。第三に、瑕疵(かし)保証の空洞化です。「瑕疵保証」とは、工事後に不具合が出たときに施工会社が直す約束のことですが、その会社が消えてしまえば、約束の相手そのものがいなくなります。
修繕積立金は、住民の皆さまが長い年月をかけて積み上げてきた大切なお金です。国のガイドラインでも、段階的に積立額を上げていく方式では計画最終額を基準額の1.1倍以内に収めるなど、無理のない積立の考え方が示されています(出典:国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」(令和6年6月改定))。その積立金を、施工会社の倒産という「工事の質とは別の理由」で毀損させてはいけない。私がこの仕事でいちばん悔しい思いをするのは、良い工事をしたかったのに、相手の資金繰りのせいで話が壊れてしまうときです。
「安値・短工期」に飛びつくと、倒産リスクを自分から抱え込む
ここは正直に申し上げます。相見積りで極端に安い金額や、極端に短い工期を提示してくる会社には、注意が必要です。帝国データバンクの調査も、安い工事単価や短い工期で案件を確保しようとする競争が、その後の不採算化と資金繰りの行き詰まりにつながっていると指摘しています。つまり、いちばん安い見積りに飛びつくことは、いちばん倒れやすい会社を選んでしまうリスクと背中合わせなのです。
もちろん、コストを下げる努力は大切です。私たちも工法の工夫でコストは徹底的に抑えます。ただし「安さの理由」が説明できる安さと、「誰かが無理をしている」安さは、まったく別物だと考えています。
施工会社の“危険サイン”を見抜く7つのチェックポイント
では、実務としてどこを見ればよいか。私が理事長さまやオーナーさまに、いつもお伝えしているチェックポイントを表にまとめます。専門知識がなくても確認できるものばかりです。
| # | 見るポイント | 危険サイン | 確認の仕方 |
|---|---|---|---|
| 1 | 見積りの内訳 | 「一式」ばかりで数量・単価・労務費が見えない | 数量内訳書と労務費の明示を求める |
| 2 | 極端な安値・短工期 | 相場から大きく外れて安い/異様に工期が短い | 他社2〜3社と比較し、安さの根拠を質問 |
| 3 | 建設業許可・経営状況 | 許可の有無や更新状況が確認できない | 許可番号・決算内容・完成保証の有無を確認 |
| 4 | 施工体制 | 元請が何をやり、どこに下請けに出すか不明瞭 | 施工体制台帳・自社施工比率を確認 |
| 5 | 契約書の中身 | 資材高騰時の代金変更方法が書かれていない | 改正建設業法に沿った変更条項の有無を確認 |
| 6 | 保証とアフター | 保証書がない/会社の継続性に不安 | 保証年数・保証主体・第三者保証の有無 |
| 7 | 実績と現場対応 | 近隣・同規模の実績を示せない | 施工実績と、現地調査時の説明の丁寧さ |
この7点は、腕の良し悪しを測るというより、「この会社は最後まで走り切れる体力と誠実さがあるか」を測るための項目です。とくに1番の見積り内訳と、5番の契約書の変更条項は、改正建設業法が後押ししてくれるので、いま強く求めやすくなっています。
私はこれを、必ずワンセットでご提案するようにしています。1社だけを見て決めるのではなく、この7点で複数社を横並びにすると、価格だけでは見えなかった「安心して任せられるかどうか」が浮かび上がってきます。
「工事会社選び」で失敗しないための、見積りと体制の実務
チェックポイントを踏まえて、とくに効く2つの実務を深掘りします。
見積りは「労務費が見えるか」で読む
改正建設業法の労務費の基準は、裏を返せば「労務費をきちんと見積書に書ける会社かどうか」を、発注者が確かめる物差しになります。数量と単価、そして労務費の内訳が明示された見積りは、それだけで一定の誠実さの証拠です。逆に「工事一式◯◯円」としか書かれていない見積りは、安く見えても、どこで無理をしているかが読めません。
大規模修繕は、大規模修繕工事という長い工程の集合体です。足場、下地補修、シーリング、塗装、防水、タイル……それぞれに数量と単価があります。その内訳を開示できる会社は、工程管理も原価管理もできている会社である可能性が高い。私は見積書を「価格表」ではなく「その会社の仕事の設計図」として読むようにしています。
元請の施工体制と、下請構造を確認する
もうひとつは施工体制です。元請会社が自社でどこまで施工し、どの工程をどんな協力会社に任せるのか。ここが不透明だと、いざ一次下請けが倒れたときに、工事全体が止まりやすくなります。逆に、専門工事を担う協力ネットワークが厚く、代替がきく体制であれば、1社の不調が全体の停止に直結しにくい。
管理組合の立場でこれを確認するのは難しく感じるかもしれませんが、遠慮は要りません。管理組合向けの大規模修繕サポートを掲げる会社であれば、施工体制の説明はむしろ歓迎するはずです。説明を面倒がる会社かどうかも、ひとつの判断材料になります。
現場から:私が「これは危ないな」と感じた見積りの話
抽象論だけでは伝わりにくいので、実際にあった話を、物件が特定されない形にして紹介します。あるとき、築20年ほど・50戸規模のマンションの理事長さまから、「3社の相見積りのうち1社が飛び抜けて安いので、そこに決めようと思う」とご相談をいただきました。金額を拝見すると、確かに他の2社より2割ほど安い。ただ、内訳を見ると外壁塗装も屋上防水も「一式」で1行にまとめられ、数量も単価も労務費も書かれていませんでした。
私は正直に申し上げました。「この安さの理由が、見積書からは読み取れません」と。念のため数量を割り戻して概算してみると、その金額では、この規模の外壁面積を適正な人工(にんく)で仕上げるのは相当に厳しい。どこかで工程を削るか、誰かが無理をしないと成立しにくい数字でした。
理事会にお願いして、3社すべてに数量内訳と労務費の明示を求めていただいたところ、その1社だけが対応をためらいました。最終的に管理組合は、金額は少し高くても内訳を開示できる会社を選ばれました。その後、飛び抜けて安かった会社は資金繰りが厳しいという話が地域で聞こえてきた——というのが結末です。私はこのとき、「安さそのもの」ではなく「安さを説明できるかどうか」が、いかに大事な分かれ目かを、あらためて痛感しました。
もちろん、内訳を出せない会社がすべて危ないわけではありません。ただ、住民の皆さまの積立金を預かる判断としては、「説明できる相手」を選ぶほうが、はるかに安全です。私はこれを、必ず理事長さまにお伝えするようにしています。
数字で見る:足場費を抑えると、どこまでコストが動くか
工事会社選びと工法選びは、実はコストの面で深くつながっています。ここは戸あたりの財布感覚でお伝えします。
一般に、マンションの大規模修繕では、足場の架設・解体にかかる費用が工事費全体の2割前後を占めることがあります。仮に総額6,000万円の工事なら、足場だけで1,000万円を超えることも珍しくありません。50戸のマンションなら、単純計算で戸あたり20万円強が「足場」に使われている計算です。ここは工事の品質そのものではなく、あくまで「作業のための仮設」にかかるお金だという点が大切です。
ロープアクセス工法を部分的にでも取り入れられれば、この足場費と、架設・解体に要する日数を圧縮できます。全面をロープアクセスに置き換えられるとは限りませんが、たとえば手すりや庇(ひさし)まわり、部分的な補修、点検・調査などをロープアクセスに切り替えるだけでも、仮設コストと工期の両面で効いてきます。資材も人手も高騰している今だからこそ、「削れるのは品質ではなく仮設」という発想が、積立金を守る現実的な一手になります。
ただし、ここでも正直に申し上げます。工法でコストを下げられても、それを担う施工会社の体力が伴わなければ意味がありません。安い工法を、無理な単価で受けた会社に任せれば、結局は倒産リスクを抱え込むことになる。工法選びと会社選びは、必ずワンセットで考える——これが私の一貫したお願いです。
明誠の考え方——直営と専門職ネットワーク、そして3工法でリスクを分散する
ここからは、私たちがどう考えているかを、自社サービスの紹介として率直にお話しします(利益相反にあたる部分ですので、見出しで明確に区切っておきます)。
専門職のフランチャイズ・ネットワークが「途中で止まらない」体制をつくる
私たち明誠は、塗装・防水・タイル・電気・看板など、各分野の専門職が加盟するフランチャイズのネットワークを持っています。これは日本でも数少ない取り組みだと自負しています。なぜこの体制がリスクに強いか。理由はシンプルで、特定の1社に依存しないからです。ある工程の協力会社が不調でも、同じ品質基準を共有する専門職が代替できる。工事全体が1社の資金繰りで止まる、という事態を構造的に起こしにくくしています。
しかも、各分野の専門職が直接手を動かすため、中間マージンが積み重なりにくく、高品質と低価格を両立しやすい。安さの理由が「誰かの無理」ではなく「体制の合理性」から来ている——私が先ほど申し上げた「説明できる安さ」とは、まさにこのことです。
足場・ロープアクセス・ハイブリッドの3工法で、コストと工期のリスクを下げる
もうひとつの強みが工法です。私たちは、通常の足場を架ける工法、足場を架けないロープアクセス工法、そして両者を部位ごとに使い分ける足場・ロープアクセス・ハイブリッドの3工法から、建物にとって最適なものをご提案できます。
資材も人手も高騰するいまの局面では、工事費の2割前後を占めることもある足場費をどう抑えるかが、コストを左右します。ロープアクセス(産業用ロープで作業員が下降しながら施工する無足場工法)を使えば、足場の架設・解体の費用と工期を圧縮でき、居住者や利用者の生活への影響も小さく抑えられます。一方で、全面改修や複雑な形状には足場が向く場面もある。だからこそ「1工法しか持たない会社」より、「3工法から選べる会社」のほうが、コストと工期のリスクを分散しやすいのです。
ただし、正直に申し上げれば、ロープアクセスにも不向きな条件はあります。大面積を一度に仕上げる工程や、重量物を扱う作業は足場が適します。デメリットも含めて両論をお伝えしたうえで、建物ごとに最適な組み合わせをご提案する——これが私たちの基本姿勢です。
発注前に押さえたい「備えの実務」——完成保証と瑕疵保険
倒産リスクの時代に、会社選びと並んで大切なのが「もしも」への備えです。ここでは、契約前に確認しておきたい2つの仕組みを、素人向けにかみ砕いてご説明します。専門用語が続きますが、いずれも住民の皆さまの積立金を守る盾になるものです。
完成保証——工事が途中で止まらないための保険
「完成保証」とは、万が一、施工会社が工事の途中で倒産しても、第三者(保証会社など)が工事の完成や、別の会社への引き継ぎを保証してくれる仕組みのことです。大規模修繕は数か月にわたる長い工事ですから、その間に施工会社の資金繰りが悪化する可能性はゼロではありません。完成保証がついていれば、工事が宙に浮いて足場だけが残る、という最悪の事態を避けやすくなります。契約前に「完成保証はつきますか」と一言確認するだけで、リスクの見え方は大きく変わります。
瑕疵保険——工事後の不具合に、会社が消えても備える
もうひとつが「瑕疵(かし)保険」です。これは、工事後に外壁のひび割れや防水の不具合など、いわゆる施工不良が見つかったときに、補修費用が保険でカバーされる仕組みです。ポイントは、施工会社が倒産したあとでも保険が機能するという点にあります。先ほど、会社が消えれば瑕疵保証の「約束の相手」もいなくなると申し上げましたが、瑕疵保険はその弱点を補ってくれます。国が登録した保険法人の保険を使えるか、保証年数は何年かを、見積りの段階で確認しておくと安心です。
私はいつも理事長さまに、「工事の品質は現場で守り、万が一の備えは契約で守る」とお伝えしています。この2つは車の両輪です。良い会社を選ぶことと、その良い会社が万が一のときにも住民に迷惑をかけない仕組みを整えること——どちらも、発注者であるみなさまが主導権を持って確認できることなのです。
まとめ:次の理事会で、今日確認したい3つのこと
長くなりましたので、最後に要点を絞ります。塗装・防水工事の倒産が過去最多ペースに入った2026年、大規模修繕の工事会社選びで守っていただきたいのは、次の3つです。
第一に、いちばん安い見積りに飛びつかないこと。安さの理由が説明できるか、労務費が見積書に明示されているかを確認してください。第二に、会社の体力と体制を見ること。建設業許可、決算、保証、施工体制台帳、そして1社が不調でも工事が止まらない協力ネットワークがあるかを確かめてください。第三に、契約書に資材高騰時の変更方法が書かれているかを、改正建設業法を根拠に求めることです。
これは私が現場で20年見てきた、嘘偽りのない感想です。良い工事は、良い会社選びから始まります。工法の比較でも、施工会社の見極めでも、あるいは「うちの物件の場合はどうか」という一点だけでも、無料相談・現地調査からお気軽にお声がけください。総会や理事会の前段階の整理だけでも、きっとお力になれることがあります。次回も、現場で本当に使える話だけをお届けします。
よくある質問(FAQ)
Q1. 相見積りで一番安い会社を選ぶのは、やはり危険なのでしょうか?
安さそのものが悪いわけではありません。問題は「安さの理由が説明できるか」です。工法の工夫や体制の合理性で安いなら合理的ですが、労務費や工期に無理を隠した安さは、工事の中断や倒産リスクと背中合わせです。見積り内訳と労務費の明示を必ず確認してください。
Q2. 工事の途中で施工会社が倒産したら、支払ったお金や積立金はどうなりますか?
前払金の回収や瑕疵保証の履行は容易ではありません。だからこそ、着手前に完成保証(工事完成を第三者が保証する仕組み)の有無や、会社の財務状況を確認しておくことが重要です。積立金という大切な資産を、工事の質とは別の理由で失わないための備えです。
Q3. 「労務費の基準」は、発注者である管理組合にも関係がありますか?
関係します。2025年12月に全面施行された改正建設業法で、著しく低い労務費による見積りは禁止されました。管理組合は「労務費が見積書に明示されているか」を確認することで、無理のない適正な発注ができているかを自分たちで点検できます。
Q4. ロープアクセス(無足場工法)にすれば、必ず費用は下がりますか?
必ずではありません。足場の架設・解体費や工期を圧縮できるため下がる場面は多いのですが、大面積を一度に仕上げる工程や重量物作業では足場が適することもあります。建物の形状や工事範囲によって最適解は変わるため、3工法を比較したうえでの判断が安全です。
Q5. 小さな地域の工事会社は、避けたほうがよいのでしょうか?
一概には言えません。地域の会社にも誠実で腕の良い会社は数多くあります。重要なのは規模の大小ではなく、体力(財務・保証)と体制(1社依存でないか)です。7つのチェックポイントで横並びに比較すれば、規模だけでは見えない実力が見えてきます。
Q6. 今の管理組合で、まず何から手をつければよいですか?
まずは手元の見積書を1〜2社分、内訳が数量・単価・労務費まで開示されているかという目で読み直してみてください。そのうえで、比較のために工法や体制の異なる会社の話も聞いてみる。理事会で1分でもこの話題を出すことが、最初の一歩になります。
出典・参考資料
- 帝国データバンク「『塗装・防水工事』の倒産動向(2026年1-5月)」(2026年6月8日)
- 国土交通省「建設業法・入契法改正(令和6年法律第49号)について」(2025年12月12日全面施行)
- 国土交通省「労務費に関する基準ポータルサイト」
- 国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」(令和6年6月改定)
- 国土交通省「長期修繕計画作成ガイドライン・同コメント及びマンションの修繕積立金に関するガイドラインの改定について」
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の契約・法務・会計上の判断については、専門家および公的機関の最新情報をご確認ください。数値・制度は2026年7月時点の公表情報に基づいています。
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塗装・防水工事の倒産が過去最多ペース——2026年1〜5月で80件。あなたの大規模修繕、その施工会社は最後までやり切れるか。収益物件オーナー・管理組合の「業者選定」と「工法」の判断軸【2026年6月】
朝のニュースに、少し背筋の伸びる見出しがありました。「塗装・防水工事の倒産、2026年1〜5月で80件」。帝国データバンクの調査です。数字だけ見ると業界の内輪話のようですが、これは収益物件をお持ちのオーナーさま、そしてマンション管理組合の理事長さま・修繕委員のみなさまにこそ、関わりのある話です。
結論から申し上げます。いま起きているのは「工事を請け負う側」の体力低下です。そして大規模修繕は、その「請け負う側」に建物と数千万円規模の予算を、半年から一年近く預ける取引にほかなりません。預けた相手が工事の途中で力尽きてしまったら——前払いしたお金、約束された保証、組み上げた工程は、どうなるでしょうか。
今日は、報じられた事実を冷静に押さえたうえで、「価格の安さ」だけでは見えない施工会社のリスクをどう見極めるか、そして資材高・人手不足というこの逆風のなかで、足場費を抑えながら品質と完遂力を守る工法の選び方までを、現場の言葉で整理します。煽るためではありません。大切な資産を預ける相手を、納得して選んでいただくためです。
ニュースの要点——塗装・防水の倒産が「過去最多」に次ぐペースで進んでいる
まず、報じられている数字を正確に押さえます。
帝国データバンクの調査によると、2026年1〜5月に発生した「塗装工事」と「防水工事」の倒産は80件。内訳は塗装工事が56件、防水工事が24件です。これは、通年の件数が2000年以降で最多となった2025年(同じ5月までで87件)に次ぐペースで推移しています(出典:帝国データバンク「塗装・防水工事の倒産動向(2026年1-5月)」、帝国データバンク プレスリリース、Yahoo!ニュース(RSK山陽放送))。
注目すべきは、倒産の「規模」です。負債額別で見ると、1億円未満の倒産が69件と、全体の約86.3%を占めました。つまり、倒れているのは大手ではなく、地域で堅実に工事を担ってきた小規模事業者が中心だということです。
なぜ「過去最多」級の水準が続いているのか
帝国データバンクは、塗装・防水工事ではナフサ由来の溶剤が多く使われ、加えて養生シートや塗料の容器といった副資材もナフサを原料としているため、中東情勢によるナフサ不足の影響拡大が懸念される、と指摘しています。現場ではすでに、塗料や防水材の値上がり幅が読みにくく工事金額の見積もり提示が難しくなるケースや、資材調達の遅れによる工期遅延が発生しているといいます。
ここで、前日(6月21日)にお伝えしたニュースとつながります。政府は6月23日から、品薄が続く塗料用シンナーをメーカーから工務店などへ直接販売する仕組みを始めます。これは供給ひっ迫に対する初動の一手であり、流れが変わる入口です。けれども、供給が一夜で元に戻るわけではありません。供給対策が効いてくるまでの「端境期」に、資金体力の薄い事業者から先に力尽きていく——いまの倒産増は、その過渡期の痛みでもあるのです。
塗装・防水は「建設業全体の縮図」でもある
視野を少し広げると、塗装・防水だけの問題ではないことが見えてきます。建設業全体の倒産は、2025年度(2025年4月〜2026年3月)で2,041件にのぼり、前年比5.6%増で過去10年で最多となりました(出典:帝国データバンク「倒産集計 2025年度報」、帝国データバンク「建設業の倒産動向(2025年)」)。
要因別では、建設業の「物価高倒産」が247件で過去最多。資材費や燃料費の高騰を発注元へ価格転嫁できず、利益を削りながら受注を続けた末に行き詰まったケースが目立ちます。さらに「後継者難倒産」は123件で全業種中最多、人手不足を直接の引き金とする倒産も高水準でした(東京商工リサーチによれば、2025年度の人手不足倒産は全業種で442件と調査開始以降で最多。出典:日本経済新聞、東京商工リサーチ「塗装工事業の倒産が急増」)。
要するに、人件費の急騰・工期の延長・建材価格の上昇という重いコストアップに、請負単価の値上げが追いついていない。これが業界を貫く構造的な弱りです。塗装・防水の倒産増は、その縮図にすぎません。
補足——なぜ「ナフサ不足」が塗装・防水を直撃するのか
ここで一度、因果の連鎖を整理しておきます。なぜ中東情勢が、遠く離れた日本の外壁塗装の現場まで届くのか。この道筋を理解しておくと、「この逆風がいつまで続きそうか」を自分なりに見立てられるようになります。
ナフサとは、原油を精製してできる石油化学製品の基礎原料です。プラスチックや合成樹脂、塗料の溶剤など、私たちの身の回りの多くの製品の出発点になっています。塗装・防水工事で使うシンナーは、このナフサを原料とする溶剤の代表格です。さらに、塗料そのものに含まれる樹脂、現場を汚さないために張る養生シート、塗料を入れる容器——こうした副資材の多くもまた、もとをたどればナフサ由来です。
つまり、外壁塗装の現場は「ナフサでできた材料」に幾重にも支えられています。だからこそ、中東情勢を発端にナフサの供給が細ると、溶剤だけでなく、塗料・副資材まで含めて値段が上がり、入手も難しくなる。一つの原料の不足が、現場のあらゆる材料に波及するのです。これが、塗装・防水という分野が今回の供給ショックの影響を特に強く受けている理由です。
そして、この影響は「価格」と「納期」の二つの形で現場を締めつけます。価格が読めなければ、施工会社は見積もりを出しづらくなります。先に安く請けてしまえば、着工までに材料費が上がった分が丸ごと自社の損失になりかねません。納期が読めなければ、工程が組めず、職人の手配も宙に浮きます。資金力の薄い小規模事業者ほど、この「読めなさ」に耐えられず、受注を絞るか、無理を重ねて力尽きていく。倒産統計の数字の裏には、こうした現場の苦しさがあります。
なぜ、これがオーナーと管理組合の問題なのか
ここからが本題です。「業者が大変なのは分かったが、発注する側に何の関係があるのか」と思われるかもしれません。関係は、あります。しかも、見落とされがちな深い関係です。
大規模修繕は、契約から完工まで半年〜1年近くを要する長期の取引です。その間、発注者は施工会社に対して、足場の組み立てから塗装・防水・タイル補修・防水トップコートまで、段階的に工事を進めてもらいます。多くの契約では、着工金や中間金といった前払い的な支払いが発生します。つまり、工事が完了する前に、相応のお金が施工会社の手に渡っているのです。
工事中に施工会社が倒産すると、何が起きるか
もし工事の途中で施工会社が倒産したら、現実にはこうした困りごとが起こり得ます。
第一に、支払い済みの前払金が回収困難になるおそれがあります。倒産した会社の財産は債権者全体で分け合うことになり、発注者が払ったお金がそのまま戻ってくる保証はありません。
第二に、工事が止まり、足場が組まれたまま放置される事態が起こり得ます。足場やシートが架かったままの建物は、見た目の問題だけでなく、強風時の安全リスクや近隣トラブルの種にもなります。残りの工事を別の会社に引き継いでもらうにも、途中まで他社が施工した部分の責任範囲が曖昧になり、引き継ぎ手が見つかりにくくなります。
第三に、完成後の保証が宙に浮きます。塗装や防水には通常、施工会社による数年〜十数年の保証が付きます。けれども、その会社が存在しなくなれば、保証書は紙きれ同然です。雨漏りや塗膜の不具合が起きても、無償補修を求める相手がいません。
管理組合にとっては、これらはそのまま「区分所有者全体の損失」になります。修繕積立金という、住民が長い年月をかけて積み上げてきた大切な原資が、業者の倒産という外的要因で毀損しかねないのです。オーナーさまにとっては、賃貸経営のキャッシュフローと資産価値そのものへの直撃です。
「最安値」がいちばん危ういという逆説
ここで一つ、立ち止まって考えていただきたいことがあります。倒産が増えている局面では、極端に安い見積もりほど警戒が必要だということです。
資材も人件費も上がっているのに、相場から大きく外れた安値を提示できる会社には、理由があります。すでに利益が出ない水準まで受注を取りにいっている、あるいは資金繰りを回すために当座の受注を確保しなければならない——そうした台所事情が背景にあるかもしれません。価格転嫁が追いつかずに倒産が増えているという今の構造は、まさに「安く請けすぎた会社から倒れていく」ことを示しています。
もちろん、安いことが直ちに危険なわけではありません。けれども、「いちばん安いから」という理由だけで決めるのは、いまの時勢では特にリスクの高い選び方になっています。価格は判断材料の一つにすぎず、その会社が工事を最後までやり切れるかという視点を、同じ重さで持つ必要があります。
倒産リスクから資産を守る——施工会社を見極める5つの視点
では、発注する側はどう自衛すればよいのでしょうか。専門家でなくても確認できる、実務的な視点を5つにまとめます。
1. 経営の安定性を、遠慮せず確認する
施工会社の財務状況は、発注者が確認してよい正当な関心事です。建設業許可の有無と種類、許可の更新状況、可能であれば直近の業績の傾向。決算書の開示まで求めるのは難しくても、「何年この地域で営業しているか」「施工実績は継続的にあるか」「元請として完工した大規模修繕の事例はあるか」を質問するだけでも、得られる情報は多くあります。誠実な会社ほど、こうした問いに丁寧に答えます。
2. 見積もりの「透明性」を見る
危ない兆候は、しばしば見積書に表れます。一式表記ばかりで内訳が不透明、相場と比べて極端に安い、追加費用の条件があいまい——こうした見積もりは、後の追加請求や品質の手抜き、あるいは無理な受注の温床になりがちです。逆に、数量・単価・仕様が明確に分かれ、資材高騰リスクへの考え方まで説明してくれる見積もりは、それ自体が会社の健全さの表れです。
3. 前払いの比率と支払い条件を確認する
着工金や中間金の比率が相場に比べて高すぎないか、出来高(実際に進んだ工事量)に応じた支払い設計になっているかを確認します。工事の進捗と支払いが釣り合っていれば、万一の際の損失を小さく抑えられます。出来高払いを基本に据えることは、発注者にとって有効なリスク管理です。
4. 保証とアフターの「実体」を確かめる
保証書の有無だけでなく、その保証を裏づける体制があるかを見ます。保証年数の長さよりも、定期点検の仕組み、不具合時の連絡窓口、そして何より会社が存続している蓋然性が大切です。第三者機関による保証(住宅瑕疵担保責任保険のような仕組み)を併用できるかも、確認の価値があります。
5. 「組織」として施工できる体制かを見る
一人親方や少人数の会社が悪いという話ではありません。けれども、大規模修繕は塗装・防水・タイル・シーリング・電気・看板など、複数の専門工事が組み合わさる総合工事です。特定の職人一人の体調や資金繰りに全体が依存していると、その一点が崩れたときに工事全体が止まります。各工程を担う体制が組織として整っているか、協力会社のネットワークがあるかは、完遂力を測る重要な物差しです。
倒産リスクは、実は「修繕積立金リスク」でもある
マンション管理組合のみなさまには、もう一段踏み込んでお伝えしたいことがあります。施工会社の倒産リスクは、突き詰めれば修繕積立金の毀損リスクに直結する、という点です。
大規模修繕は、十数年に一度の大きな支出です。区分所有者が毎月コツコツと積み立ててきた修繕積立金を取り崩し、ときには借入も併用して、まとまった金額を一度に動かします。その大切な原資を預けた施工会社が工事の途中で倒産すれば、前払金の一部が回収できないだけでなく、別の会社に引き継ぐための追加費用、放置された足場の管理費用、当初の保証が失われたことによる将来の補修費用まで、想定外の負担が次々と積み重なります。
しかも厄介なのは、こうした損失が「総会で承認した予算」を超えて発生することです。理事会や修繕委員会は、区分所有者に対して説明責任を負っています。「いちばん安い会社を選んだら、途中で倒産して積立金を失った」という結末は、組合運営への信頼そのものを揺るがしかねません。だからこそ、業者選定は単なる価格比較ではなく、組合の資産を守るリスク管理として捉える必要があるのです。
近年は、長期修繕計画の見直しや修繕積立金の水準が社会的な関心を集めています。積立金が不足ぎみの組合ほど、目先の安さに引き寄せられやすい構造があります。けれども、倒産が増えるいまの局面では、その「安さ」が最も高くつく選択になりかねません。積立金を守るとは、一円でも安く発注することではなく、預けた一円が確実に工事として形になる相手を選ぶことだ——そう捉え直していただきたいと思います。
工法の選び方が、コストと完遂力を同時に左右する
業者選定と並んで、もう一つ発注者が握っているレバーがあります。工法の選択です。これは、資材高の時代に「適正価格を保ちながら品質を確保する」ための、見落とされがちな鍵になります。
足場費という「見えない大きなコスト」
大規模修繕の費用の内訳を見ると、多くの方が驚かれるのが仮設足場の比率です。建物の規模や形状にもよりますが、足場の架設・解体・賃料は、工事費全体のなかで決して小さくない割合を占めます。資材も人件費も上がっているいま、この足場費が総額を押し上げ、結果として「予算が足りない」「だから安い業者を選ばざるを得ない」という、先ほど述べたリスクの高い選択へと発注者を追い込んでしまうことがあります。
つまり、足場費を合理的に抑えられれば、浮いた分を品質や、体力のあるしっかりした施工会社の適正単価に回せる。工法の選択は、めぐりめぐって倒産リスクの回避にもつながるのです。
無足場(ロープアクセス)という選択肢
ここで、私たち明誠が得意とするロープアクセス工法(無足場工法)が選択肢に入ってきます。これは、産業用ロープを使って職人が外壁に直接アクセスし、足場を架けずに塗装・防水・補修などを行う工法です。建設現場で長く使われてきた確立された技術で、欧米のビルメンテナンスでは一般的な方法です。
ロープアクセスの利点は、主に三つあります。
第一に、足場を架けないことによるコスト圧縮です。足場の架設・解体・賃料が不要になるため、条件の合う建物では総額を抑えられます。先ほどの「浮いた分を品質に回す」が、現実に可能になります。
第二に、工期の短縮です。足場の組み立て・解体に要する日数が不要になるため、工事全体のスケジュールを短くできるケースがあります。工期が短いほど、住民や利用者への影響も、天候による遅延リスクも小さくなります。
第三に、居住者・利用者の生活影響の最小化です。建物全体を足場とシートで覆わないため、室内が暗くならず、開放感が保たれ、防犯面の不安も軽減されます。賃貸物件であれば、入居者の満足度や退去リスクにも関わる、見過ごせないメリットです。
もちろん、ロープアクセスが万能というわけではありません。建物の高さや形状、作業内容によっては足場が適している場面も当然あります。大切なのは、「足場ありき」でも「無足場ありき」でもなく、建物ごとに最適を選べることです。
足場とロープアクセスを使い分ける「ハイブリッド工法」
そこで現実的な解になるのが、ハイブリッド工法です。これは、建物の部位ごとに足場とロープアクセスを使い分ける考え方です。複雑な形状で足場が向く部分には足場を架け、足場の架設が難しい高所や狭小部、コストを抑えたい大面積の壁面にはロープアクセスを使う。こうして全体のコストと品質、工期のバランスを最適化します。
明誠が、通常の足場仮設工法・ロープアクセス工法・ハイブリッド工法の3つを建物特性に応じて提案できることには、こうした背景があります。1つや2つの工法しか持たない会社は、どうしても「自社が持つ工法に建物を当てはめる」提案になりがちです。3つの選択肢を持って初めて、「建物にとって本当に最適なのはどれか」を起点に考えられます。
倒産が増える時代だからこそ、「組織で施工できる体制」が効く
ここまでお読みいただいて、業者選定の視点と工法選択が、実は地続きであることがお分かりいただけたと思います。資材高で利益が削られ、価格転嫁が追いつかず、小規模事業者から倒産していく——この構造のなかで発注者を守るのは、「価格だけで選ばない目」と、「適正価格を成り立たせる工法」、そして「組織として工事を完遂できる施工体制」の三つです。
私たち明誠は、ロープアクセス工事として日本で初めてのフランチャイズ展開を行っています。塗装・防水・タイル・電気・看板といった各分野の専門職が加盟する仕組みをつくることで、一つの職種や一人の職人に全体が依存しない、組織としての施工体制を整えてきました。各工程の専門性が高まることは品質に直結し、無足場による足場費の圧縮と合わせて、高品質と適正価格の両立を可能にしています。
この体制は、発注者から見れば「窓口は一つ、けれど背後には各分野の専門職がそろっている」という安心につながります。塗装は塗装の、防水は防水の、タイルはタイルの専門職が責任を持って担う。一人の職人がすべてを兼ねるのではなく、工程ごとに最適な担い手が入ることで、品質のばらつきが抑えられます。そして、特定の一社や一人に全体が依存しないため、万一どこか一つの工程でつまずいても、工事全体が止まってしまうという最悪の事態を避けやすくなります。倒産が増える時代に発注者が最も恐れる「途中で工事が止まる」というリスクに対して、組織としての厚みが効いてくるのです。
加えて私たちは、一般社団法人全国建設業支援協会(JCSA)を運営し、全国の建設業に向けた経営支援、オンラインセミナー、交流会、ビジネスマッチングにも取り組んでいます。倒産が過去最多級に増えるいまの局面で、業界全体の経営基盤を底上げしようという取り組みは、めぐりめぐって「最後までやり切れる施工会社」を増やすことにつながると考えています。発注者にとっての安心は、健全な業界の上にしか成り立たないからです。
よくあるご質問
最後に、オーナーさまや理事のみなさまから実際に寄せられることの多い疑問に、簡潔にお答えします。
Q. いま見積もりを取っている最中ですが、いったん止めたほうがよいですか。
止める必要はありません。むしろ、いまは見極めの好機です。複数社から相見積もりを取り、価格だけでなく、内訳の明確さ、支払い条件、保証体制、施工実績を並べて比較してください。極端に安い一社があれば、その理由を率直に質問する。誠実な会社ほど、資材高のいま価格をどう考えているかを丁寧に説明してくれます。比較の過程そのものが、リスクの高い相手を見抜くフィルターになります。
Q. 資材が値上がりしているなら、工事は先送りしたほうが得ではありませんか。
一概には言えません。先送りには「劣化が進む」というコストが伴います。外壁のひび割れや防水層の劣化を放置すれば、雨水が躯体に入り込み、本来は表面の補修で済んだものが、躯体補修を要する大工事に発展しかねません。供給と価格の見通しを見ながら、劣化の進行と天秤にかける。そのうえで、足場費を抑えられる工法で総額を適正化すれば、「待つリスク」と「動くコスト」の両方を小さくできます。判断には、建物の現状診断が欠かせません。
Q. ロープアクセスは足場より危なくないのですか。
適切な資格と装備、二重の安全確保を前提に運用される確立された工法です。建設業や高所作業の分野で長く使われてきました。重要なのは、施工する会社がきちんとした安全管理と訓練の体制を持っているかどうかです。工法そのものの優劣ではなく、それを扱う組織の力量を確認してください。
Q. うちの建物はロープアクセスに向いていますか。
建物の高さ、形状、外壁の状態、作業内容によって変わります。だからこそ、足場・無足場・ハイブリッドの3つを比較して提案できる相手に、実際に建物を見てもらうことが大切です。「向き・不向き」は、机上ではなく現場で決まります。
いま、オーナー・管理組合が取るべき三つの行動
最後に、今日のニュースを「自分の建物の判断」に落とし込むために、実務的な行動を三つ提案します。
一つ目は、手元の見積もりを「価格」だけでなく「完遂力」の目で見直すことです。相見積もりのなかに極端な安値があれば、その理由を確認してください。安さの裏に資金繰りの無理が隠れていないか。出来高払いの設計になっているか。保証を裏づける体制があるか。価格表の数字の向こう側にある、会社の体力を見てください。
二つ目は、着工のタイミングと工法を一緒に考えることです。資材の供給は、政府の対策で改善に向かう入口に差しかかっています。慌てて最安値で発注するより、供給と価格の見通しが少し落ち着く局面を見据えつつ、足場費を抑えられる工法で総額を適正化する。この二つを組み合わせることで、「待つことのリスク」と「動くことのコスト」を両方とも小さくできます。
三つ目は、複数の工法を比較できる相手に相談することです。足場一択、無足場一択ではなく、建物ごとに3つの工法から最適を示してくれる相手であれば、コスト・工期・住民影響・完遂力のすべてを天秤にかけた、納得感のある判断ができます。
大規模修繕は、建物の資産価値を守り、入居者の暮らしを支える、長期の投資です。その投資を託す相手が、工事を最後までやり切れるか——倒産が過去最多級に増えるいまだからこそ、この一点を、価格と同じ重さで見ていただきたいと思います。
ご自身の物件で「この見積もりは適正か」「うちの建物ならどの工法が向くか」と迷われたときは、どうぞお気軽にご相談ください。建物を実際に拝見したうえで、3つの工法それぞれの概算と、メリット・デメリットを正直にお伝えします(お問い合わせ、ロープアクセス工法について)。判断の土台をそろえるお手伝いを、現場の目線でいたします。
マンション大規模修繕、いま“6割が遅延”——中東発「ナフサショック」で防水材・塗料が高騰。収益物件オーナーと管理組合が値上げ局面で資産を守る現実的な打ち手【2026年6月】
マンション大規模修繕、いま“6割が遅延”——中東発「ナフサショック」で防水材・塗料が高騰。収益物件オーナーと管理組合が値上げ局面で資産を守る現実的な打ち手【2026年6月】
朝のニュースで「資材が入ってこない」「マンション修繕が直撃」という見出しが並んでいます。修繕の予定をお持ちのオーナーさま、あるいは管理組合で総会を控えている理事長さまは、思わず手が止まったのではないでしょうか。
結論から申し上げます。いまは「工事費が上がる局面」であると同時に、「工事そのものが予定どおり進まない局面」でもあります。値上げと遅延が同時に来る——これは、過去の単なる「資材高騰」とは性質が違います。だからこそ、待つべきか、進めるべきか、どの工法を選ぶかという判断が、これまで以上に資産の行く先を左右します。
今日は、報じられている事実を冷静に押さえたうえで、収益不動産をお持ちのオーナーさまと、マンション管理組合の理事長さま・修繕委員のみなさまが「自分の建物で何をすべきか」を決めるための要点を、現場の言葉で整理します。煽るためではありません。判断の土台をそろえるためです。
ニュースの要点——「大規模修繕、遅延が6割」の中身
まず、いま何が報じられているのかを正確に押さえます。
日本経済新聞は2026年6月、「マンション大規模修繕、遅延が6割 ナフサ由来の防水材など高騰」と報じました(出典:日本経済新聞)。記事によれば、マンションの計画的な修繕を手がける施工会社への業界団体アンケートで、回答した87社のうち5割超にあたる51社が、「建設資材の納期遅れなどで工期が遅れた」または「今後遅れる可能性がある」と答えています。割合にして、およそ6割の現場が遅延に直面、あるいは身構えている計算です。
同じ時期、朝日新聞も「『足場あるが資材来ない』中東情勢がマンション修繕直撃」と伝えています。外壁補修や屋上防水工事を含む大規模修繕で、住民が総額数億円を見込んでいた工事が、資材の入手難で雲行きが怪しくなっている、という現場の声です。記事はあわせて、価格が読みにくい局面で「談合の影」がちらつく可能性にも触れています(出典:朝日新聞)。
ここで早合点しないでいただきたいのです。「資材が高い」という話は毎年のように聞きます。しかし今回の本質は、「お金を払っても、モノが約束どおりの時期に届かない」という供給そのものの不安定さにあります。値段の問題と、納期の問題が、別々ではなく重なって押し寄せている。私が現場で20年見てきた中でも、この二つが同時に深刻化する局面はそう多くありません。
数字は「平均」で見ず、「自分の物件」で見る
6割という数字は、あくまで業界全体の平均像です。大切なのは、「では、自分の物件はその6割に入るのか、入らないのか」を見極めることです。工事の中身——とくに防水と塗装の比重が大きい計画ほど、今回の影響を受けやすい。逆に、調達済みの資材で着工できる段階にある現場は、影響が限定的なこともあります。平均の数字に一喜一憂するのではなく、自分の計画のどこに資材リスクが潜んでいるかを一枚に書き出す。そこから判断は始まります。
なぜ「ナフサ」が防水材・塗料を直撃するのか
聞き慣れない「ナフサ」という言葉から整理します。専門用語は、知ってさえいれば怖くありません。
ナフサとは、原油を蒸留して得られる石油製品の一種で、プラスチックや合成樹脂、塗料、接着剤、シーリング材(目地を埋める弾力性のある材料)といった、石油化学製品のおおもとの原料です。大規模修繕で使う材料の多くは、実はこのナフサの川下にあります。屋上やバルコニーを守る防水材、外壁を彩り保護する塗料、サッシまわりやタイル目地に打つシーリング材——いずれもナフサ由来の素材を多く含みます。
2026年に入ってからの中東情勢の緊迫化、とくに原油・石油製品の主要な輸送路であるホルムズ海峡をめぐる混乱が、このナフサの調達環境を一気に悪化させました。原料が細れば、その川下にある防水材・塗料・シーリング材の供給と価格に波及するのは、構造上避けられません。
政府は当初、この状況を「サプライチェーンの目詰まり」と表現していました。一時的な物流の滞りであれば、いずれ流れは戻ります。しかし現場の実感は少し違います。国内の石油化学プラントは、この20年で海外からの原料調達に大きく依存する形に再編されてきました。ナフサそのものが多少確保できても、添加剤や副資材といった「脇を固める材料」がそろわなければ製造ラインは動きません。つまり、これは一過性の「詰まり」というより、長く積み重なってきた構造の問題が表面化したもの、という見方が現場には根強くあります。
ここがオーナーさまにとって重要な点です。構造的な問題であるなら、「少し待てば元に戻る」という前提で計画を立てるのは、やや楽観的かもしれません。少なくとも、戻る前提と、長引く前提の両方で段取りを描いておくのが安全だと私は考えています。
マンションだけの話ではない——ビル・ホテルのオーナーも同じ構図
ここまでマンションを中心に述べてきましたが、今回の資材高騰と供給不安は、テナントビルやホテルのオーナーさまにとっても、まったく同じ構図で迫っています。むしろ、収益性に直結する分、影響はより切実かもしれません。
テナントビルでは、外壁や屋上防水の劣化を放置すれば、雨漏りや美観の低下がテナントの退去や賃料交渉に響きます。修繕を先送りしているあいだに資材がさらに高騰すれば、いざ着工というときの費用は膨らむ一方です。一方で、テナントが営業している建物は、足場を長期間架けること自体が、看板の視認性や来店動線、店舗の印象に影響します。ここでも、足場を最小化できる無足場(ロープアクセス)やハイブリッドの価値は大きくなります。
ホテルもまた同様です。客室稼働を止めずに外装を直したい、繁忙期を避けて短期間で仕上げたい——こうした要望と、資材の納期遅延は真っ向からぶつかります。工事が建物に手をかけている期間を短くできること、稼働中の建物への生活・営業影響を抑えられることは、ホテルの収益を守るうえで決定的に重要です。
つまり、マンションでも、ビルでも、ホテルでも、今回の局面で問われていることは同じです。「材料費という動かしにくいコストが上がったいま、それ以外の費目と工期を、工法の選び方でどう抑えるか」。私たちが3つの工法を扱う理由は、まさにこの問いに、建物の用途や事情に応じて答えるためにあります。
値上げの規模——2026年6月という分岐点
では、実際にどれくらい上がっているのか。読者のみなさまが見積りを見るときの「ものさし」として、報じられている水準を整理します。
複数の業界向け情報や資材メーカーの価格改定案内によれば、2026年6月1日出荷分を一つの分岐点として、建設・建材分野で広範な価格改定が進みました。改定幅はおおむね10〜80%と、品目によって大きな開きがあります。代表的な水準として伝えられているのは、屋上防水に使うルーフィング(防水シート)で40〜50%、断熱材で約40%、塗料の希釈などに使うシンナー類で50〜80%、住宅設備建材で20%以上、といった数字です。塗料やシーリング材については、価格以前に「入手そのものが難しい」という声も出ています。
念のため申し添えます。これらは品目ごと・メーカーごとに幅があり、すべての現場に一律で当てはまる数字ではありません。ご自分の見積りがこの幅のどこに位置するのかは、内訳を一つずつ確認しないと分かりません。逆に言えば、内訳さえ見えれば、「どの材料が高騰の影響を受けているのか」「代替や時期の調整で吸収できる部分はどこか」を冷静に検討できます。
数字に振り回されないためにも、見積書を「総額」だけで見るのをやめることをおすすめします。総額は、材料費・足場などの仮設費・労務費・諸経費の合計です。今回高騰しているのは主に材料費です。であれば、材料費以外の部分——とくに仮設費——をどう抑えるかが、総額を守るうえでの現実的なレバーになります。この点は後ほど詳しく述べます。
オーナー・管理組合に起きる「3つの実害」
抽象論ではなく、現場で実際に起きていることを3つに整理します。
実害1:工期が後ろにずれる
最も直接的なのが工期の遅延です。防水材や塗料が予定どおり届かなければ、着工していても途中で手が止まります。賃貸物件であれば、足場が長く架かっている期間そのものが、入居者の生活ストレスや、退去・募集への悪影響につながりかねません。総会で「夏前に終わる予定」と説明していた工事が秋までずれ込めば、住民への説明責任も生じます。遅延は、お金には表れにくいけれど、確実に効いてくるコストです。
実害2:見積りが上振れする・有効期限が短くなる
材料価格が動いている局面では、見積りの「有効期限」が短くなります。半年前に取った見積りが、着工時には通用しないことも起こり得ます。さらに、業者側もリスクを織り込むため、安全を見て高めに出してくることがあります。これは業者が不誠実なのではなく、先が読めないがゆえの自衛です。オーナー側にできるのは、内訳を開示してもらい、「どの材料の、どのリスクを、いくら織り込んだのか」を可視化することです。
実害3:「談合の影」と、相見積りの形骸化
朝日新聞の報道が触れていた「談合の影」は、見過ごせない論点です。価格が読みにくく、対応できる業者も限られる局面では、相見積り(複数社からの見積り取得)が形だけになりやすい。数字の妥当性を判断する「ものさし」を持たないまま、提示された金額を受け入れてしまう——これが、値上げ局面で最も避けたい事態です。相見積りは、社数をそろえることが目的ではありません。「同じ条件で」「内訳まで」比べられて初めて意味を持ちます。次章で述べる「工法の比較」は、このものさしを持つための有力な手段でもあります。
値上げ局面こそ「工法の選択」が効く——足場費という大きな見落とし
ここからが、私がいちばんお伝えしたい話です。
材料費が上がっているとき、多くの方は「材料を安くする方法」を探します。しかし材料は、品質に直結するため、むやみに削れません。安い材料に替えて数年で再劣化すれば、かえって高くつきます。では、どこを見直すか。答えは「材料以外の費目」、とりわけ仮設費(足場の費用)です。
大規模修繕の見積りで、足場の架設・解体・養生にかかる仮設費は、総工費の少なくない割合を占めます。建物の形状や高さによっては、想像以上の比重になります。ところが、多くのオーナーさまは足場を「工事に必要な、動かせない前提」と捉えていて、ここを検討対象から外してしまいがちです。材料費が高騰しているいまこそ、この大きな費目に光を当てる価値があります。
ロープアクセス(無足場工法)が、いま効く理由
私たち明誠が得意とするのが、産業用ロープを使って職人が壁面を上下しながら施工するロープアクセス工法、いわゆる無足場工法です。仮設足場を建物全体に架けず、必要な部位に職人が直接アクセスして、塗装・防水・タイル補修・シーリング打ち替えなどを行います。
この工法が、いまの局面で効く理由は3つあります。
第一に、足場の仮設費を抑えられること。高騰しているのは材料費です。であれば、材料以外の大きな費目を圧縮できれば、総額の上振れを和らげられます。ロープアクセスは、足場をフルに組まない分、仮設費の構造そのものが変わります。
第二に、工期を短くしやすいこと。足場の組立・解体には相応の日数がかかります。これを省ける場面では、着工から完了までの期間を圧縮できます。資材の入手が不安定な局面では、工事が建物に手をかけている「窓」を短くできること自体が、リスクの低減になります。
第三に、居住者・利用者の生活影響を小さくできること。建物全体を足場とメッシュシートで覆う期間が短い、あるいは限定的であれば、採光・通風・防犯面のストレスが減ります。賃貸物件であれば入居者の満足度に、分譲であれば住民合意の取りやすさに効いてきます。
もちろん、ロープアクセスは万能ではありません。建物の形状、劣化の範囲、作業量によっては、足場を組んだほうが合理的なケースもあります。大切なのは、「足場ありき」でも「無足場ありき」でもなく、建物にとって最適な工法を、コストと工期と品質の三つの軸で選ぶことです。
ハイブリッド工法という第三の選択
明誠が提案できるもう一つの選択肢が、ハイブリッド工法です。これは、足場が必要な部位には足場を組み、ロープアクセスが向く部位には無足場で対応する、という「部位ごとの使い分け」です。
たとえば、劣化が集中している面や作業量の多い面には足場を架けて効率を上げ、点検や部分補修で足りる面はロープアクセスで身軽に対応する。こうすることで、足場をすべてに架けるよりも仮設費を抑えつつ、無足場一本では難しい大がかりな作業もこなせます。大規模・複雑形状の物件で、総コストの最適点を探るときに有効です。
足場一本、無足場一本ではなく、3つの工法を建物特性に応じて比較・提案できる会社は、国内でも多くありません。私たちが大切にしているのは、工法を売ることではなく、建物にとっての最適解を一緒に探すことです。そしてこの「複数の工法で比べる」という姿勢こそ、前章で述べた、値上げ局面で必要な「価格のものさし」を持つことにつながります。
見積書はここを見る——費目別の読み解き方
「内訳で見る」と申し上げても、見慣れていないと、どこを見ればよいか分かりにくいものです。大規模修繕の見積書は、おおまかに次の費目で構成されます。順に、何を確認すべきかを述べます。
一つ目は直接仮設費。足場、養生シート、昇降設備など、工事のための「足場まわり」の費用です。今回の局面で最初に光を当てたいのがここです。総工費に占める割合を確認し、「この建物で、本当にフルの足場が必要か」を業者に問い直してみてください。無足場やハイブリッドで圧縮できる余地があるなら、ここが効きます。
二つ目は材料費(直接工事費のうち材料分)。防水材、塗料、シーリング材など、まさに今回高騰している費目です。見積書では「一式」とまとめられがちですが、できれば主要材料の単価とメーカー・グレードまで開示してもらいましょう。グレードを落とさずに高騰を吸収できる代替があるのか、ないのかを、根拠とともに確認します。
三つ目は労務費。職人の人件費です。これは資材とは別の論理で動きます。工期が延びれば、間接的に膨らむこともあります。工期短縮が労務費にどう効くかも、あわせて見ておきたい点です。
四つ目は諸経費(現場管理費・一般管理費)。現場運営や会社の管理にかかる費用で、総工費に対する比率で見るのが基本です。極端に高い・低い場合は、その理由を尋ねます。
この4つを「同じ条件で」複数社から取り、横に並べる。これが、値上げ局面で自分の身を守る最も確実な手順です。総額だけを比べると、どこで差がついているのか分からず、結局は「安いところ」か「言われるまま」になりがちです。費目で比べれば、差の理由が見え、交渉の土台ができます。
修繕積立金とのにらみ合い——値上げ局面の資金計画
分譲マンションの管理組合にとって、資材高騰は長期修繕計画と修繕積立金の問題に直結します。長期修繕計画とは、将来必要になる修繕を時期と概算費用とともに見通した計画で、修繕積立金はその原資です。
ここで起きがちなのが、「計画を立てた当時の単価」と「いま実際にかかる費用」のかい離です。数年前に組んだ長期修繕計画の前提単価は、今回の高騰を織り込んでいません。そのまま進めると、積立金が想定より早く不足したり、一時金の徴収や借入れが必要になったりすることがあります。
だからこそ、値上げ局面では長期修繕計画の見直し(再算定)と、工法によるコスト圧縮の検討を、セットで進めることをおすすめします。材料費の上昇は避けにくくても、仮設費と工期を工法で抑えられれば、計画全体の総額を平準化できる可能性があります。修繕積立金の値上げ幅を最小限にとどめることは、住民合意の取りやすさにも直結します。総会で「材料が上がったので積立金も上げます」とだけ説明するのと、「材料は上がったが、工法を見直して総額の上振れをこれだけ抑えた」と説明できるのとでは、住民の納得感はまったく違います。
賃貸の収益物件オーナーさまにとっても、構図は同じです。修繕費の上振れは、その期のキャッシュフローと利回りを直接削ります。融資の返済計画とのバランスも崩れかねません。「いくらかかるか」を早めに精緻化し、工法で抑えられる部分を抑えることが、長期の収益を守ることに直結します。
明誠のロープアクセスが「高品質×低価格」を両立できる理由
「無足場で安くなるのは分かったが、品質は大丈夫か」——よくいただくご質問です。ここは正面からお答えします。
明誠のロープアクセス工事は、産業用ロープを用いた国際的な技術基準に沿った手法で行います。命綱を含む二系統のロープで安全を確保し、訓練を受けた技術者が施工します。足場がないこと自体は、品質を落とす理由にはなりません。むしろ、職人が壁面に直接近づいて一面ずつ手で確かめながら進めるため、劣化の発見や部分補修の精度はむしろ高められる場面もあります。
そして、私たちが「高品質でありながら低価格」を実現できている背景には、もう一つの理由があります。明誠は、ロープアクセス工事の分野で日本で初めてのフランチャイズ展開を行っており、塗装・防水・タイル・電気・看板といった各分野の専門職が加盟しています。それぞれの道のプロが、自分の得意領域を担う。だから品質が安定し、中間マージンの構造も無駄をそぎ落とせる。これが、価格と品質を両立できる仕組みです。
繰り返しますが、私たちは無足場を売りたいのではありません。足場が最適な建物には足場を、無足場が向く建物には無足場を、両方を使い分けるべき建物にはハイブリッドを——建物にとっての最適解を、3つの選択肢の中から正直にご提案します。値上げ局面で大切なのは、特定の工法に縛られず、フラットに比べられる相手を持つことです。
いま、オーナー・管理組合が打つべき5つの手
最後に、明日から動ける具体策を5つに絞ってお伝えします。
一つ目は、手元の見積り・計画の「資材リスク」を一枚に書き出すこと。どの工事に、どの材料(防水・塗料・シーリング等)が、どれだけ使われるのか。高騰・入手難の影響を受けやすい部分を見える化します。
二つ目は、見積りを「総額」でなく「内訳」で見ること。材料費・仮設費・労務費・諸経費に分け、高騰しているのがどこかを把握します。とくに仮設費の大きさは、多くの方にとって発見になるはずです。
三つ目は、工法の選択肢を一度フラットに検討すること。いまの足場前提が本当に最適か。無足場やハイブリッドで仮設費と工期を圧縮できないか。建物を見たうえでの比較が、価格の妥当性を測るものさしになります。
四つ目は、相見積りを「同じ条件・同じ内訳」でそろえること。社数を増やすより、条件を統一して内訳まで比べることが、談合の影を遠ざけ、納得して進めるための近道です。
五つ目は、「待つ」「進める」を感情でなく段取りで決めること。資材が戻る前提と、長引く前提の両にらみで、着工時期と支払いの段取りを描いておく。先延ばしが正解の物件もあれば、いま動くべき物件もあります。決め手は、物件ごとの劣化の進み具合と資金計画です。
よくあるご質問
Q. 値上げが落ち着くまで、工事を待ったほうがいいですか。
一概には言えません。劣化が進んでいる物件は、待つほど被害(雨漏り、躯体劣化、タイル落下のリスク)が広がり、結果的に費用が膨らむことがあります。「待つことの費用」と「いま動く費用」を並べて比べることをおすすめします。
Q. 無足場(ロープアクセス)にすれば、安くなりますか。
建物の形状や作業量によります。安くなる物件も、足場のほうが合理的な物件もあります。だからこそ、3つの工法を同じ土俵で比較することに意味があります。
Q. 工事の品質は、足場を組む場合と比べて落ちませんか。
工法によって品質が決まるわけではありません。要は、誰が、どの基準で、どう施工するかです。明誠では各分野の専門職が国際基準に沿って施工し、施工後の確認まで行います。足場・無足場のいずれでも、品質基準は変えません。
Q. 管理組合として、まず何から始めればよいですか。
長期修繕計画と直近の見積りを手元にそろえ、資材リスクと足場費の比重を確認することからです。そのうえで、複数工法での概算比較を取ると、総会での説明がぐっと通りやすくなります。
まとめ——値上げと遅延の局面は、「工法を見直す」好機でもある
中東情勢を発端としたナフサショックは、防水材や塗料といった大規模修繕の根幹材料を直撃し、いまや約6割の現場が遅延に直面・身構える状況です。値上げと遅延が同時に来るこの局面は、たしかにオーナーさまにとって逆風です。
しかし、見方を変えれば、これまで「動かせない前提」とされてきた足場費に光を当て、工法そのものを見直す好機でもあります。材料費は簡単には下げられません。けれど、仮設費と工期は、工法の選び方で変えられます。無足場(ロープアクセス)やハイブリッドという選択肢を、いちど自分の物件で検討してみる価値は、いまこそ高いと考えます。
私たち明誠は、足場・ロープアクセス・ハイブリッドの3工法を、建物にとっての最適解という一点から比較・提案できる、数少ない会社です。値上げ局面で「総額をどう守るか」「資産価値をどう維持するか」にお悩みのオーナーさま・管理組合のみなさまは、現状の見積りを片手に、まずはお気軽にご相談ください。建物を拝見し、複数工法での概算比較からお手伝いします。
- ロープアクセス(無足場工法)について詳しくは:明誠のロープアクセス工事
- 大規模修繕の進め方・施工事例:大規模修繕のご案内
- 見積り比較・ご相談:お問い合わせ
本記事は2026年6月20日時点の公開情報(日本経済新聞・朝日新聞ほか)をもとに、株式会社明誠が大規模修繕の実務目線で整理したものです。価格・納期・制度の最新状況は、各一次情報および専門業者にご確認ください。
▼ロープアクセス工法・無足場工法の詳細解説はこちら
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大規模修繕の「資材高騰・工事中断」リスク——ナフサ不足と原油高で膨らむ修繕コストを、工法選択でどう守るか【2026年6月】
大規模修繕の「資材高騰・工事中断」リスク——ナフサ不足と原油高で膨らむ修繕コストを、工法選択でどう守るか【2026年6月】
「見積もりを取ったら、数年前の話より2割も3割も高くなっていた」。最近、マンションの理事長さんやビル・ホテルのオーナーさんから、こうした声を本当によく聞きます。大規模修繕は十数年に一度の大仕事ですから、前回との差に驚かれるのは当然です。そして2026年6月、その「高くなった」背景を裏づけるようなニュースが、いくつも流れてきました。
ひとつは、原油価格の高止まりです。日本総研(日本総合研究所)は、原油高が建設投資を押し下げる方向に働き、とりわけ防水工事や内装工事といった「工事の後工程」で使う資材への影響が大きく、材料の調達が間に合わずに工事を中断する事例も出ている、という趣旨の指摘をしています。実際、防水・塗装を手がける施工会社が「ナフサ不足で材料の一部に受注停止が起き、現場が止まっていたが、ようやく入荷して再開できた」と現場の様子を発信する動きも見られました。
私は東京・関東を中心に、マンション・ビル・ホテルの大規模修繕に長く携わってきました。足場を架ける従来工法だけでなく、ロープアクセス(無足場工法)、そして両者を部位ごとに使い分けるハイブリッド工法まで、建物ごとに最適な工法を提案することを仕事の柱にしています。だからこそ、今回の「資材高騰」「材料が手に入らない」という話は、ニュースの向こう側の出来事ではなく、これから大規模修繕を控えるすべての建物オーナーさんに直結する問題だと受け止めています。
この記事では、まず何が起きているのかを正確に整理し、そのうえで「材料費が上がっている局面で、それでも修繕の総額をどう抑えるか」を、現場の目線でお伝えします。煽るつもりはありません。淡々と、事実と根拠で。なお、本記事は一般的な解説であり、個別の見積もりや工事判断を保証するものではありません。最終的な判断は、必ず現地調査と専門家の確認のうえで行ってください。
何が起きているのか——原油高・ナフサ不足が「修繕材料」を直撃している
防水・塗装の材料は「石油から生まれる」という事実
まず押さえておきたいのは、大規模修繕で使う材料の多くが、石油を原料にしているという事実です。私たちが現場で扱うウレタン防水材、塗料、シーリング材(コーキング)、接着剤——これらは、原油を精製してできる「ナフサ」という基礎原料から、さまざまな化学品を経てつくられています。つまり、原油価格が上がり、ナフサの供給が細ると、その影響が川下の防水材や塗料にまで波及してくる構造になっているのです。
2026年に入ってからの報道では、こうした石油化学系の資材で供給が不安定になり、一部の防水材・塗料で受注が止まる、納期が読めない、といった声が現場から上がっていました。日本総研も、原油高の影響が「工事の後工程で使う資材」に大きく出やすいと指摘しています。後工程というのは、まさに防水や塗装、内装といった、建物の仕上げに近い部分のことです。大規模修繕は外壁塗装・防水・シーリングが工事の中心ですから、ここが直撃を受けるというのは、私たち施工側にとっても他人事ではありません。
「材料が来ないと、工事は止まる」という当たり前の怖さ
資材高騰というと「値段が上がる」話だと思われがちですが、現場にとってより怖いのは「そもそも材料が手に入らず、工事が止まる」ことです。私自身、過去の資材逼迫の局面で、段取りどおりに進めていた現場が、材料の入荷待ちで数日から数週間ストップしてしまう、という経験を何度かしてきました。
足場を架けている現場で工事が止まると、何が起きるか。仮設足場は「架けている期間」に対して費用が発生します。工期が延びれば延びるほど、足場のリース費用や仮設まわりのコストがかさんでいきます。さらに、居住者や利用者にとっては、ベランダが使えない、窓を開けにくい、防犯面で不安、といった生活への負担が長引くことになります。つまり資材の供給不安は、「材料費の上昇」と「工期延長によるコスト増・生活影響の長期化」という、二重の負担としてのしかかってくるのです。
資材だけではない——人件費の上昇という構造要因
もうひとつ、忘れてはいけないのが人件費です。建設業の現場は慢性的な人手不足が続いており、職人さんの労務単価は年々上がっています。円安によって輸入資材の価格が押し上げられ、そこに人件費の上昇が重なる。建築費・修繕費は「高止まり〜緩やかな上昇」が当面続く、というのが多くの専門家のおおむね一致した見方です。
つまり、今回のナフサ不足・原油高は、もともと続いていた資材・労務の上昇トレンドに、供給制約という新たな一撃が加わった、という構図です。「待っていれば安くなる」と先送りするほど、材料費・人件費・そして建物自体の劣化が進む——この三重苦に向き合わざるを得ないのが、いまの大規模修繕の現実だと、私は考えています。
先送りが一番高くつく——「待つ」ことの本当のコスト
劣化は待ってくれない
「資材が高いなら、価格が落ち着くまで工事を待とう」。気持ちはよく分かります。けれど、建物の劣化は私たちの都合を待ってはくれません。外壁のタイルやモルタルの浮き、ひび割れ、防水層の劣化、シーリングの痩せ——これらは時間とともに確実に進みます。
特に怖いのが、外壁の剥落です。タイルやモルタルが浮いたまま放置されれば、いずれ落下し、通行人や居住者に当たる事故につながりかねません。万が一、人身事故が起きれば、建物所有者・管理組合が責任を問われる可能性があります。資材が高いから先送り、という判断が、結果としてはるかに大きな損失を招くリスクをはらんでいるのです。
防水を後回しにすると、修繕範囲が広がる
防水の劣化も同じです。屋上やバルコニーの防水層が切れると、雨水が建物内部に侵入します。最初は小さな雨漏りでも、放置すれば鉄筋を錆びさせ、コンクリートを内側から傷め(中性化・爆裂)、躯体そのものの寿命を縮めます。「防水のやり直しで済んだはずが、躯体補修まで必要になった」というのは、現場で本当によくある話です。材料費の上昇を嫌って先送りした結果、工事範囲そのものが広がってしまっては、本末転倒です。
修繕積立金の不足という、もうひとつの逆風
マンションの場合、ここに修繕積立金の問題が重なります。近年、新築時の積立金が低く設定され、計画どおりに値上げできていない管理組合は少なくありません。資材・人件費が上がる一方で、積立金は計画どおりに増えていない。この「ハサミ状の開き」が、多くの管理組合を悩ませています。だからこそ、限られた予算のなかで「同じ品質をどう安く実現するか」という工夫が、これまで以上に重要になっているのです。
数字で見る——資材と建築費は、どれくらい上がったのか
「高くなった」を感覚ではなく数字で押さえる
「高くなった」という実感を、できるだけ数字で確かめておきましょう。建築工事にかかる費用の動きを示す代表的な指標に、国土交通省が公表している「建設工事費デフレーター」があります。これは、建設工事にかかる費用の物価変動をとらえる指数で、近年は右肩上がりの傾向が続いてきました。木材が高騰した「ウッドショック」以降、セメント・鉄骨・石油化学系資材・労務費と、コストを押し上げる要因が次々に重なり、建築・修繕にかかる費用はコロナ禍前の水準には戻っていない、というのが大方の見方です。
大規模修繕に引き寄せて言えば、外壁の塗装・タイル補修・防水・シーリング、そして仮設足場——このいずれもが値上がり圧力にさらされてきました。材料は石油化学と金属、足場は鋼材、施工は人の手。どこを取っても、上昇トレンドの影響を受けやすい構造になっているのです。だからこそ、前回の修繕から十数年が経っている建物ほど、「前回の感覚」で予算を組むと、現実とのギャップに直面しやすくなります。
「これから下がる」とは考えにくい
では、この先は下がるのか。残念ながら、すぐに大きく下がるとは考えにくい、というのが多くの専門家の見立てです。理由は、値上がりの背景にあるのが一時的な要因ではなく、構造的な要因だからです。慢性的な人手不足による労務費の上昇、円安による輸入資材の高止まり、そして今回のような地政学リスクに端を発する原油・ナフサの供給制約。これらは、数か月待てば解消する、という性質のものではありません。
私は、お客様に「値下がりを待つ前提で計画を立てるのは危険です」と、率直にお伝えするようにしています。期待を持たせる言い方のほうが喜ばれるのは分かっています。それでも、根拠のない楽観で先送りを勧めて、結果的に劣化を進めてしまうほうが、よほど不誠実だと考えるからです。値下がりを待つのではなく、「上がる前提で、いかに賢く直すか」に発想を切り替える。これが、いまの局面での現実的な構えだと思います。
コストを抑える鍵は「工法選択」——足場ありきをやめる
ここからが、私が一番お伝えしたいところです。資材費そのものは、世界の原油市場や為替に左右されるため、私たち施工会社の努力だけでは下げられません。けれど、修繕の「総額」を構成するのは材料費だけではありません。仮設費(足場)、人件費、工期に連動するコスト——ここには、工夫の余地が大きく残されています。なかでも効果が大きいのが、工法の選択です。
3つの工法を比べる
大規模修繕の工法は、大きく次の3つに分けられます。明誠では、この3つを建物ごとに比較し、本当に最適な方法を提案しています。
| 工法 | 特徴 | 向いている建物・場面 | コスト・工期への影響 |
|---|---|---|---|
| 通常足場工法 | 建物全体に仮設足場を架けて施工する従来型 | 中低層、形状が複雑な建物、全面的な改修 | 足場の架設・解体・リース費が発生。架設期間が長いほど費用増 |
| ロープアクセス工法(無足場) | 産業用ロープで作業員が降下し、足場を架けずに施工 | 高層、足場が架けにくい立地、部分補修、コスト最重視 | 足場費を大幅に圧縮。工期短縮・生活影響の最小化につながりやすい |
| ハイブリッド工法 | 足場とロープアクセスを部位ごとに使い分ける | 大規模・複雑な建物で総コストを最適化したい場面 | 必要な部分だけ足場を使い、残りはロープで。総額を抑えやすい |
ポイントは、足場費が修繕総額のなかで決して小さくない割合を占める、ということです。資材費が上がっている局面では、なおさらこの「仮設費をどう抑えるか」が効いてきます。足場を架けなければならない部位はしっかり足場を使い、ロープアクセスで対応できる部位はロープに切り替える。この使い分けができるかどうかで、最終的な負担額は大きく変わります。
ロープアクセスが効く理由——「資材高騰の時代」だからこそ
ロープアクセス(無足場工法)は、足場の架設・解体・リースにかかる費用と時間を圧縮できる工法です。資材高騰で材料費が上がっている今、足場という「仮設コスト」を削れる意味は、以前にも増して大きくなっています。
さらに、工期が短くなれば、先ほど触れた「工事中断による工期延長コスト」のリスクも相対的に小さくできます。万が一、材料の入荷待ちが発生しても、足場を長期間架けっぱなしにする工法に比べれば、仮設費の膨張を抑えやすい。居住者・利用者にとっても、ベランダや窓まわりが塞がれる期間が短く済むのは、大きなメリットです。ホテルや商業ビルであれば、営業や稼働を止めずに改修を進めやすい、という強みにもつながります。
もちろん、ロープアクセスが万能なわけではありません。全面打診や大がかりな下地補修が必要な現場では、足場のほうが適している場合もあります。だからこそ「足場ありき」でも「ロープありき」でもなく、建物ごとにフラットに比較できることが大切なのです。
フランチャイズという仕組みが、品質と価格を両立させる
明誠は、ロープアクセス工事の分野で、日本で初めてとなるフランチャイズ展開を進めてきました。塗装・防水・タイル・電気・看板など、各分野の専門職が加盟する仕組みです。専門性の高い職人がネットワークでつながることで、高い品質を保ちながら、中間マージンを抑えた価格を実現しやすくなります。資材費という「外から来る上昇圧力」に対して、施工体制の側で効率を高め、総額を抑える——この両面からのアプローチが、いまの時代には欠かせないと考えています。
現場から——ある中層マンションでの「工法を分けた」判断
少し、現場の話をさせてください。物件が特定されないよう、細部はぼかしてお伝えします。
以前、関東のある中層マンションで、大規模修繕のご相談をいただいたことがあります。当初、別の会社からは「全面に足場を架けて一式で」という見積もりが出ていて、管理組合の理事会は「思っていたより高い」と頭を抱えていらっしゃいました。ちょうど資材価格が上がっていた時期で、材料費はこちらの努力ではどうにもなりません。そこで私たちが提案したのは、建物を部位ごとに見て、足場が本当に必要なところと、ロープアクセスで対応できるところを分ける、という考え方でした。
その建物は、共用廊下側は形状が複雑で下地補修も多く、足場を架けてしっかり作業したほうが安全かつ確実でした。一方、外壁の一部やバルコニー側の塗装・シーリングのやり直しは、ロープアクセスで十分に品質を担保できる範囲でした。そこで、足場が要る面には足場を、それ以外はロープで——というハイブリッドの組み立てにしたのです。結果として、全面足場を前提にした場合に比べ、仮設にかかる費用と工期を圧縮でき、居住者の方々がベランダを使えない期間も短く抑えることができました。
私がこの仕事で大切にしているのは、「うちはこの工法しかできないから、これでいきましょう」と言わないことです。足場屋さんは足場を、ロープ屋さんはロープを勧めがちです。けれど、本当にお客様のためを思うなら、まず建物をフラットに見て、どの組み合わせがいちばん負担を小さくできるかを考えるべきだ、と。資材が高い時代だからこそ、この「見立て」の差が、最終的な金額に効いてくるのだと、現場に立つたびに感じています。
ホテル・商業ビルの大規模修繕——「止めない改修」という視点
資材高騰の話は、マンションだけの問題ではありません。ホテルや商業ビル、テナントビルのオーナーさんにとっては、もうひとつ重い論点があります。それは「改修中に、稼働や営業をどれだけ止めずに済むか」という問題です。
ホテルであれば、客室や外観を覆う足場は、稼働率や宿泊体験に直接響きます。商業ビルであれば、テナントの営業や来館者の動線に足場が影響します。つまり、足場を長期間架けることそのものが、材料費とは別の「機会損失」というコストを生むのです。資材高騰で工事費が上がっているうえに、足場で営業が止まれば、痛みは二重になります。
ここでも、ロープアクセスやハイブリッド工法の価値が際立ちます。足場を最小限に抑え、必要な部位だけ短期間で集中的に直す。外壁・窓まわり・看板といった部位を、稼働を止めずに、あるいは影響を最小化しながら改修していく。インバウンド需要が高止まりし、客室稼働を一日でも落としたくないホテルにとって、「止めない改修」は、コスト面でも体験面でも大きな意味を持ちます。私たちが3つの工法を提案できることの価値は、こうした「稼ぐ建物」でこそ、はっきりと表れると考えています。
よくある質問(FAQ)
Q. 資材が高いので、もう少し値下がりを待ってから工事したほうがよいですか?
値下がりを待つことはおすすめしにくい、というのが私の率直な考えです。資材・人件費の上昇は構造的な要因によるもので、短期での大幅な下落は見込みにくい状況です。むしろ、待っている間に建物の劣化が進み、修繕範囲が広がって総額が増えてしまうリスクのほうが現実的です。まずは点検で現状を把握し、優先順位をつけて計画的に進めるのが安全です。
Q. ロープアクセス(無足場工法)にすれば、必ず安くなりますか?
必ず安くなる、とは言えません。建物の形状や劣化の程度、必要な作業内容によっては、足場を架けたほうが安全かつ合理的な場合もあります。大切なのは「ロープありき」でも「足場ありき」でもなく、建物ごとに3つの工法を比較したうえで、コスト・工期・安全性・生活影響のバランスから最適な方法を選ぶことです。
Q. 見積もりが妥当かどうか、素人でも見分けられますか?
すべてを見分けるのは難しいですが、ポイントはあります。総額だけでなく「内訳」を見てください。材料費・仮設費(足場)・人件費・諸経費の割合が示されているか。特に仮設費は工法選択で大きく動く部分です。複数社から相見積もりを取り、工法の選択肢を持つ会社の説明と比べてみると、判断材料が増えます。
いま、建物オーナー・管理組合ができる5つのこと
最後に、資材が高く、供給も不安定なこの局面で、建物オーナーさんや管理組合の理事長さんが今すぐ着手できることを、5つにまとめます。どれも、大きなお金をかける前にできる「準備」と「確認」が中心です。
第一に、外壁・屋上・バルコニーなど、建物外皮の劣化状況を点検することです。タイルの浮きや剥落、防水層の劣化、シーリングの痩せ、手すりの腐食などは、安全と資産価値に直結します。落下や雨漏りのリスクがある部位は、資材価格に関わらず、優先して手を打つべきです。点検だけなら大きな費用はかかりません。
第二に、長期修繕計画の中身を見直すことです。場当たり的な補修を繰り返すより、いつ・どこを・どの工法で・いくらで直すかを計画として持っておくほうが、トータルコストは下がります。資材高騰を織り込んだうえで、優先順位をつけ直すことが大切です。
第三に、修繕積立金の水準を確認することです。資材・人件費の上昇に対して、積立金が計画どおりに増えているか。不足が見込まれるなら、値上げや一時金、借入なども含めて、早めに選択肢を検討しておくほうが、いざというときに慌てずに済みます。
第四に、見積もりを取る際は、工法の選択肢を持つ会社に相談することです。足場工法しか提案できない会社に依頼すれば、当然、足場ありきの見積もりになります。足場・ロープアクセス・ハイブリッドを比較したうえで、稼働とコストの両面から最適解を出せるかどうか。ここで最終的な負担額が変わってきます。
第五に、見積もりの「内訳」を確認することです。材料費・仮設費(足場)・人件費・諸経費が、それぞれどれくらいの割合か。総額だけでなく内訳を見れば、どこに削減の余地があるかが見えてきます。特に仮設費の比率は、工法選択で大きく動く部分です。
これらは、資材価格が世界情勢で揺れ動くなかでも、建物の側・発注の側でコントロールできる数少ないポイントです。外的な値上がりに振り回されるのではなく、自分たちでできる工夫を積み上げていく。その積み重ねが、最終的な総額と建物の寿命を左右します。
資材高騰の時代こそ、補助金・税制優遇を取りこぼさない
資材価格が上がる局面では、使える公的支援を取りこぼさないことも、実質的なコスト対策になります。マンションの大規模修繕や長寿命化に関しては、自治体によって補助制度が用意されている場合があり、外壁改修・屋上防水・省エネ改修などが対象になることがあります。また、一定の要件を満たす長寿命化に資する大規模修繕工事を行ったマンションについて、固定資産税が減額される制度が設けられている自治体もあります。耐震・バリアフリー・省エネといった改修にあわせて、固定資産税の減額措置が用意されているケースもあります。
ただし、補助金・優遇制度には注意点があります。第一に、制度の有無・対象・補助率・上限額・申請期限は、年度ごと、そして自治体ごとに異なります。第二に、補助金は予算枠が決まっており、枠に達した時点で受付が締め切られることが珍しくありません。「あるはず」と思い込まず、必ず最新の年度の情報を、お住まいの自治体や所管の窓口で確認してください。第三に、多くの制度は「工事の前」に申請・交付決定が必要で、着工後では対象にならないことがあります。計画段階から、補助金・税制優遇の活用可否を専門家とあわせて検討しておくことが、資材高騰時代の賢い進め方だと考えます。
なお、私たちが運営する一般社団法人 全国建設業支援協会(JCSA)でも、建設業向けに経営や制度活用に関する情報発信を行っています。発注する側・施工する側の双方が、こうした制度を正しく知ることが、業界全体の健全なコスト構造につながると考えています。
まとめ——「材料は選べなくても、工法は選べる」
2026年6月、原油高とナフサ不足は、防水・塗装といった大規模修繕の中心的な材料を直撃し、現場では工事中断という形でも影を落としています。日本総研が指摘するように、こうした影響は工事の後工程で大きく出やすく、大規模修繕はまさにその只中にあります。資材費の上昇と供給の不安定さは、当面続く構造的な課題だと考えておくべきでしょう。
けれど、私はこう考えています。材料の価格は選べなくても、工法は選べる、と。足場・ロープアクセス・ハイブリッドの3つから、建物にとって本当に最適な方法を選べば、同じ「直す」でも、かかる費用と建物利用者への影響は大きく変わります。資材が高い時代だからこそ、仮設費を抑え、工期を縮め、稼働を止めない工法選択の価値が、いっそう際立つのです。
「うちの建物の修繕、今の見積もりで本当に最適なんだろうか」。少しでもそう感じたら、まずは現状を点検し、複数の工法で比較してみることから始めてみてください。建物を“長く使える資産”として守っていくために、私たちにできるお手伝いがあれば、いつでもご相談いただければと思います。淡々と、けれど本気で、お一人おひとりの建物に向き合います。
※本記事は2026年6月時点の報道および公開情報に基づく一般的な解説であり、個別の見積もり・工事判断・投資判断を保証するものではありません。資材価格や供給状況は今後変動する可能性があります。実際の修繕にあたっては、必ず現地調査と専門家の確認のうえでご判断ください。
出典・参考
- 日本総合研究所(日本総研)「足元の原油高で建設投資は27年末に下振れも」(2026年6月/公表資料・報道による)
- 国土交通省「建設工事費デフレーター」「建設投資見通し」(mlit.go.jp)
- 防水・塗装施工会社による現場発信「ナフサ不足で停滞していた防水・塗装工事が材料入荷で再開」(2026年6月/報道・各社発信による)
- 建設資材価格・建築費の動向に関する各種解説(2026年/各種報道・まとめによる)
▼ロープアクセス工法・無足場工法の詳細解説はこちら
ロープアクセスドットコム|無足場工法専門メディア
大規模修繕の施工会社が「倒産」する時代へ——塗装・防水工事業者の倒産が2000年以降最多ペース、オーナー・管理組合が今すぐ確認すべき発注先の見極め方【2026年6月】
工事が始まって、足場が建って、養生シートが張られた。あとは仕上がりを待つだけ——そう思っていた矢先に、施工会社から「会社をたたむことになりました」と連絡が入る。前払いした工事代金はどうなるのか。途中で止まった工事は誰が引き継ぐのか。10年保証のはずだったアフター保証は、もう紙切れなのか。
正直に申し上げます。これは、私が大げさに脅しているのではありません。2026年に入ってから、塗装・防水工事業者の倒産が「2000年以降で最も多いペース」で進んでいます。大規模修繕を控えた管理組合の理事長さま、そして収益物件を持つオーナーさまにとって、「どの工法で、いくらで直すか」と同じくらい——いや、それ以上に「どの会社に頼むか」が、いま資産を守れるかどうかの分かれ目になりつつあります。
私は大規模修繕の現場で20年近くやってきました。足場を組む工事も、ロープアクセス(産業用ロープで宙吊りになり、足場を架けずに外壁や屋上を施工する無足場工法)の工事も、その両方を組み合わせたハイブリッド工法も手がけています。その立場から、今日は「施工会社が消えるリスク」という、これまであまり正面から語られてこなかったテーマを、データと現場の両面からお話しします。
いま何が起きているのか——塗装・防水工事の倒産「80件」という数字
まず、事実から確認します。
帝国データバンク(TDB)が2026年6月8日に公表した調査によると、2026年1〜5月に発生した「塗装工事」と「防水工事」の倒産は合計80件。内訳は塗装工事が56件、防水工事が24件でした(出典:帝国データバンク「『塗装・防水工事』の倒産動向(2026年 1-5月)」)。
この80件という数字が、なぜ深刻なのか。理由は二つあります。
一つは、通年の倒産件数が「2000年以降で最多」を記録した2025年(1〜5月で87件)に次ぐペースで推移していること。つまり、過去四半世紀でいちばん倒産が多かった年に、肩を並べる勢いで増えているということです。
もう一つは、倒産した会社の顔ぶれです。負債額別で見ると、1億円未満の倒産が69件と全体の約86.3%を占めました(出典:帝国データバンク プレスリリース(PR TIMES))。これは、街の塗装屋さん・防水屋さんといった、地域に根ざした小規模事業者が真っ先に倒れているという意味です。塗装・防水は、マンションやビルの大規模修繕で必ず発生する工種です。その担い手が細っていくということは、いざ工事をしようと思ったときに「頼める会社が見つからない」「見つかっても割高になる」という形で、発注する側にも跳ね返ってきます。
別の調査会社・東京商工リサーチ(TSR)も同様の警鐘を鳴らしています。塗装工事業の倒産は2025年に143件と、23年ぶりの高水準に達しました(出典:東京商工リサーチ「『塗装工事業』の倒産143件 23年ぶり高水準」)。一過性の話ではなく、業界全体が構造的に揺れている、と捉えるべき局面です。
私は、この数字を最初に見たとき、現場で一緒に汗を流してきた職人さんたちの顔が浮かびました。腕は確かなのに、経営の体力が続かず店じまいする——現場で20年やってきて、私がいちばん悔しい思いをするのは、こういうときです。
なぜ倒産が増えているのか——「中東情勢」から始まる連鎖
倒産が増えている背景には、いくつもの要因が重なっています。順番に解きほぐします。
引き金は塗料・防水材の不足と値上がり
直接の引き金は、塗料と防水材の調達難です。中東情勢の悪化を起点に、塗料や防水材の原料となるナフサ(原油を精製してできる石油化学製品の基礎原料)の供給が不安定になりました。
塗装・防水工事は、ナフサ由来の溶剤(シンナーなど)に大きく依存しています。さらに、養生に使う保護シートや塗料を入れる容器といった副資材も、原料をたどればナフサに行き着く。つまり、工事の本丸も脇役も、まとめて値上がり・納期遅延の波に飲み込まれている状態です。
TDBも「塗料・防水材の値上げ幅が不透明で工事の見積もりが出しづらい」「資材調達の遅れで工期に遅延が生じている」ケースが出ていると指摘しています。私の現場でも、5月の連休前あたりから「いつもの材料がいつ入るか読めない」という声が職人さんから上がるようになりました。今後、ナフサ製品の供給不安が解消されなければ、倒産件数は2025年を上回り、2000年以降の最多を更新する可能性もある——TDBはそこまで踏み込んで警告しています。
値上げを「すぐに転嫁できない」小さな会社が倒れる
材料が上がっても、それを工事代金にすぐ反映できれば、会社は持ちこたえられます。問題は、小規模な専門工事会社ほど、価格転嫁の交渉力が弱いことです。
元請けから「この金額でやってくれ」と言われれば、断れば次の仕事が来ないかもしれない。だから無理を承知で受ける。材料費は上がっているのに受注単価は据え置き——この差が、薄い利益を食いつぶしていきます。負債1億円未満の小規模事業者が倒産の86.3%を占めたという事実は、まさにこの構造を映しています。建設業は、元請けから一次下請け、二次下請けへと仕事が流れる重層構造になっており、下にいくほど価格交渉の余地が小さくなる。倒産の波が「いちばん下」から来ているのは、偶然ではありません。
人件費(労務単価)の上昇も同時進行
追い打ちをかけているのが、人件費の上昇です。国土交通省が定める公共工事設計労務単価は、令和8年(2026年)3月適用分で全国全職種の加重平均が25,834円となり、初めて2万5千円を突破しました。平成25年度の改定から14年連続の上昇で、今回は前年度比4.5%の引き上げです(出典:国土交通省「令和8年3月から適用する公共工事設計労務単価について」)。
職人さんの待遇が改善されるのは、業界の未来にとって良いことです。私も賛成です。ただ経営の現実として、材料費と人件費が同時に上がるなかで受注単価だけが上がらなければ、体力のない会社から順に資金繰りが行き詰まる。倒産の増加は、その帰結でもあるのです。
建設業の「担い手」はそもそも減り続けてきた
もう一段、大きな構図も押さえておきます。
国土交通省の建設業許可業者数調査によると、令和6年度末(2025年3月末)時点の建設業許可業者数は483,700業者で、2年連続の増加でした。一見、回復しているように見えます。しかし、業者数が最も多かった平成12年3月末と比べると、約11万7千業者(約19.5%)少ない水準にとどまっています。令和6年度の1年間だけでも、7,252業者が廃業の届出を出しています(出典:国土交通省「全国の建設業許可業者数は2年連続で増加〜令和6年度末の建設業許可業者数調査の結果〜」)。
加えて、現場で働く職人さんの高齢化も進んでいます。私の周りでも、腕のいい職人さんほど年齢が上がり、若い担い手への技能の引き継ぎが追いついていない。倒産で会社が消えるということは、その会社が抱えていた技術や職人さんのネットワークごと、地域から失われるということでもあります。一度失われた施工力は、すぐには戻りません。
つまり、この四半世紀で「工事を担う会社の母数」そのものが細ってきた。そこに今回の倒産ラッシュが重なります。母数が減り、そのなかでも経営体力のある会社とない会社の二極化が進む——大規模修繕を発注する側から見れば、「頼める会社」を選ぶ目が、これまで以上に問われる時代になった、ということです。
オーナー・管理組合に降りかかる「3つの実害」
ここからが本題です。施工会社が工事の途中で倒産すると、発注した管理組合やオーナーには、具体的にどんな実害が及ぶのか。私が現場で見聞きしてきた範囲で、大きく3つあります。
実害1:工事が止まり、足場が宙に浮く
最も困るのが、工事の中断です。足場を架けたまま施工会社が消えると、その足場の解体も、残りの工事も、宙に浮きます。新しい会社を探して引き継いでもらうにも、「前の会社がどこまでやったのか」「下地はどう処理されているのか」が分からなければ、引き受ける側もリスクを取れません。結果として、再見積もり・再契約に数カ月かかり、その間ずっと足場が建ったまま、というケースもあります。
居住者にとっては、洗濯物も干せず、防犯上も不安な状態が長引く。賃貸オーナーにとっては、入居者からのクレームや、最悪の場合は退去にもつながりかねません。
実害2:前払い金・出来高の回収が難しくなる
工事代金の一部を前払いしていた場合、倒産した会社からその回収はほぼ望めません。出来高(実際に終わった工事の分)を超えて支払っていた金額は、原則として戻ってこないと考えるのが現実的です。
私はいつも理事長さまに、「支払いは出来高に応じて、検査を挟みながら段階的に」とお伝えしています。契約のときに支払い条件をどう設計するかで、いざというときの傷の深さがまったく変わってくるからです。
実害3:アフター保証・瑕疵担保が「消える」
見落とされがちですが、いちばん長く効いてくるのがこれです。大規模修繕では、防水や塗装に5年・10年といった保証を付けるのが一般的です。ところが、保証を出した会社が倒産してしまえば、その保証は実質的に履行されません。数年後に屋上から雨漏りが起きても、「保証してくれるはずの会社が、もう存在しない」。
これは、工事が無事に終わったケースでも起こり得ます。だからこそ「無事に完成したから安心」ではなく、「10年後まで責任を取り続けられる会社か」という視点が要るのです。
現場で見た、ある「引き継ぎ工事」の話
少し具体的な話をします。物件が特定されないよう細部はぼかしますが、私が以前、別の会社が途中で立ち行かなくなった現場の引き継ぎを相談されたことがありました。
足場はすでに建っていました。外壁の下地補修まではどうにか終わっているように見えたのですが、いざ調べてみると、ひび割れの補修(シーリングの打ち替えなど)が一部しか終わっておらず、しかも、どこをどう処理したのかの記録がほとんど残っていない。引き継ぐ側からすると、「見えている範囲はやり直す前提で見積もるしかない」状態でした。結果として、管理組合は当初の予定より工期も費用も膨らみ、居住者は半年近く、足場と養生シートに囲まれた暮らしを強いられました。
このとき私が痛感したのは、「安いから」という理由だけで会社を選ぶと、いちばん高くつくのは発注したオーナー・管理組合の側だ、ということです。最初の見積もりが多少高くても、最後まで責任を持ってやり切れる会社に頼むほうが、トータルでは確実に安く済む。これは精神論ではなく、私が現場で何度も見てきた事実です。
発注先をどう見極めるか——理事会で使えるチェックの観点
では、倒産リスクの高い会社をどう避け、長く付き合える会社をどう選ぶか。専門的な財務分析まではできなくても、理事会レベルで確認できる観点があります。ここは表にまとめます。
| 確認の観点 | 具体的に見るところ | なぜ大事か |
|---|---|---|
| 経営の安定性 | 建設業許可の有無と業歴、決算書の提示可否 | 許可は5年ごとの更新制。業歴が長く決算を開示できる会社は一定の体力がある |
| 施工体制 | 自社施工か、下請けへの丸投げか | 重層下請けが深いほど、どこか一社の倒産で全体が止まりやすい |
| 資材の調達力 | 塗料・防水材の仕入れルート、メーカーとの取引 | 調達難の局面で「材料が入らず工事が止まる」リスクを左右する |
| 保証スキーム | 保証の主体は誰か、メーカー保証や第三者保証の有無 | 施工会社が倒れても、メーカー保証や保証会社が残れば被害を抑えられる |
| 支払い条件 | 出来高払いに応じるか、過大な前払いを求めないか | 健全な会社ほど無理な前払いを求めない |
すべてを完璧に調べる必要はありません。ただ、「この5つを質問してみて、誠実に答えてくれるか」だけでも、会社の姿勢はかなり見えてきます。逆に、相見積もりで極端に安い金額を出してきた会社には、「なぜこの値段でできるのか」を必ず確認してください。材料費も人件費も上がっているなかで不自然に安い見積もりは、どこかに無理がある——その無理が、数年後の倒産や手抜きという形で跳ね返ってくることがあるからです。
工法の選択が、施工会社の「健全さ」にもつながる理由
ここで、工法の話を絡めます。一見、倒産リスクと工法は無関係に思えるかもしれません。しかし、私の経験上、両者は深いところでつながっています。
大規模修繕の費用のなかで、足場の仮設・解体は決して小さくない割合を占めます。建物の規模や形状にもよりますが、足場費が工事全体の2〜3割に達することも珍しくありません。この足場費は、外壁や屋上を「直す」ためのお金ではなく、職人さんがそこに「行くため」のお金です。
ロープアクセス(無足場工法)を適切に使えば、この足場費を大きく圧縮できます。高層階や、足場を架けにくい形状の建物では、特に効果が出ます。足場という大きな固定費を削れる会社は、その分、無理な安値競争に巻き込まれずに、適正な利益を確保しながら良い仕事ができる。つまり、工法の引き出しが多い会社ほど、経営としても健全でいられる余地があるのです。
もちろん、ロープアクセスが万能というわけではありません。バルコニーの内側や、広い面を一気に塗る作業など、足場のほうが向く場面も確実にあります。だからこそ私は、足場・ロープアクセス・ハイブリッドの3つを、建物ごとに使い分けることをお勧めしています。「足場ありき」でも「無足場ありき」でもなく、その建物にとっていちばんコストと品質のバランスが良い組み合わせを選ぶ。これが、結果として工事費を圧縮し、発注先の会社の体力にも余裕を生みます。
ロープアクセス工法そのものについては「ロープアクセス工法のご紹介」、3工法を組み合わせた大規模修繕の進め方については「大規模修繕工事のご紹介」で詳しくお伝えしています。
「足場を二度組まない」という発想がコストを左右する
もう一つ、お伝えしたいのが「足場を二度組まない」という考え方です。
大規模修繕では、外壁の塗装・防水と同時に、屋上防水やシーリングの打ち替え、鉄部の塗装など、複数の工事をまとめて行います。ところが、計画がばらばらだと、ある工事のために足場を組み、解体し、数年後に別の工事のためにまた足場を組む——という二度手間が起きます。足場費が工事全体の2〜3割を占めることを思えば、これは大きな無駄です。
ロープアクセスやハイブリッド工法をうまく使うと、この「足場の重複」を避けやすくなります。たとえば、足場が要る面は足場で一気に仕上げ、ロープアクセスで届く部分や、後から発生した小規模な補修は無足場で対応する。こうして固定費を抑えられれば、浮いた予算を本当に必要な補修や、修繕積立金の温存に回せます。修繕積立金が上昇し続けるいまの局面では、この「足場の二度組みを避ける」発想が、長期修繕計画全体の体力を左右します。
「専門職が束になる」体制が、調達難と人手不足への答えになる
倒産の最大の要因が、小規模な専門工事会社の「一社単独での経営の弱さ」にあるなら、その裏返しが答えになります。すなわち、塗装・防水・タイル・電気・看板といった各分野の専門職が、緩やかに束になって動ける体制です。
私たちは、ロープアクセス工事のフランチャイズという形で、各分野の専門職に加盟していただく仕組みを国内でいち早く立ち上げました。専門職が一つのネットワークでつながることで、資材の調達も、繁忙期の人手のやりくりも、一社で抱えるより格段に安定します。一社だけでは材料が手に入らない局面でも、ネットワーク全体で融通し合えれば、工事を止めずに進められる。これが、高品質と低価格を両立できる理由でもあります。調達難・人手不足・価格転嫁という、いま小規模事業者を倒産に追い込んでいる三つの圧力に対して、ネットワークで立ち向かう——これが私たちの考える、現実的な処方箋です。
加えて、私たちは一般社団法人全国建設業支援協会(JCSA)を運営し、全国の建設業者に向けて経営支援の情報発信やオンラインセミナー、交流会、ビジネスマッチングの場を提供しています。倒産が増えるこの局面だからこそ、業界全体の経営体力を底上げする取り組みにも、力を入れています。発注するオーナー・管理組合の皆さまにとっても、「経営を学び続けている会社か」は、長く付き合えるかどうかの一つの目安になるはずです。
もし工事の途中で施工会社が倒産したら——初動でやるべきこと
「すでに工事が進んでいる最中に、施工会社の様子がおかしい」。そんなときに慌てないために、初動の考え方を整理しておきます。あくまで一般的な手順であり、実際には弁護士など専門家への相談を前提にしてください。
第一に、支払いと出来高の状況を急いで突き合わせること。これまでいくら支払い、工事が実際にどこまで進んでいるのかを、写真や工程表とともに記録に残します。前払いが出来高を上回っているほど、損失は大きくなります。
第二に、足場や資材、現場の鍵といった「現場の管理権」がどうなっているかを確認すること。工事が止まったまま足場が放置されると、安全面・防犯面のリスクが続きます。誰が責任をもって現場を管理するのか、早い段階で整理が必要です。
第三に、保証書や契約書、施工記録を手元にそろえること。引き継ぎを別の会社に頼む場合でも、どこまでどう施工されたかの記録があるかどうかで、再見積もりの精度と費用がまったく変わってきます。
そして第四に、複数の会社から引き継ぎの相談を受けること。一社だけの言い値で決めると、足元を見られかねません。私のところにも、こうした引き継ぎのご相談は少なくありません。緊急時こそ、冷静に複数の選択肢を比べることが、被害を最小限にとどめる近道です。
よくあるご質問(FAQ)
Q. 相見積もりで一番安い会社を選ぶのは危険ですか? 安いこと自体が悪いわけではありません。問題は「なぜ安いのか」を説明できるかどうかです。材料費も人件費も上がっているなかで、根拠なく極端に安い見積もりは、利益を削りすぎているか、どこかを省いている可能性があります。安さの理由を質問し、納得できる答えが返ってくるかを確かめてください。
Q. 大手なら倒産の心配はないと考えてよいですか? 規模が大きいほど一般に体力はありますが、「大手だから心配ない」と言い切ることはできません。むしろ、自社でどこまで施工するのか、下請けへの依存度はどうか、という施工体制のほうが、現場の安定性に直結します。会社の規模だけでなく、実際に手を動かす体制を確認することをお勧めします。
Q. 保証はどうやって守ればよいですか? 施工会社の保証だけに頼らず、塗料・防水材のメーカー保証や、第三者の保証会社による保証を併用できないかを確認してください。施工会社が万一倒産しても、メーカー保証や第三者保証が残っていれば、被害を抑えられる場合があります。
Q. 施工会社の「経営の健全さ」は素人でも確認できますか? 完全な財務分析は難しくても、手がかりはあります。建設業許可の番号と業歴、過去の施工実績、決算書を見せてもらえるか、業界団体や経営支援の取り組みに参加しているか——こうした点を質問するだけでも、会社の透明性や姿勢が見えてきます。隠さず答えてくれるかどうかが、一つの判断材料になります。
Q. 工事はまだ数年先ですが、いま何をしておけばよいですか? 長期修繕計画の見直しと、発注先選びの基準づくりです。倒産が増える局面では、「いつ・いくらで・どの会社に頼むか」を早めに整理しておくほど、いざというときに慌てずに済みます。総会の前段階の整理だけでも、第三者の目を入れておく価値があります。
6月の総会シーズン、理事会で話してほしいこと
ちょうど今、6月はマンションの通常総会が集中する時期です。大規模修繕を数年内に控えている管理組合では、この機会にぜひ、次の3点を議題に少しだけ触れてみてください。
第一に、「発注先候補の会社の、経営の安定性をどう確認するか」。安さだけでなく、長く責任を取れる会社かどうかを選定基準に入れる、という共通認識を持つことです。
第二に、「契約時の支払い条件と保証の中身」。出来高払いを基本にする、保証はメーカー保証や第三者保証も併せて確認する、という方針を、発注前に固めておくことです。
第三に、「工法の選択肢を一社の言いなりにしない」。足場かロープアクセスか、あるいはその組み合わせか。複数の工法で提案を受け、それぞれのコストと工期、居住者への影響を比較したうえで決める。これだけで、見積もりの妥当性がぐっと判断しやすくなります。
なお、本記事は施工会社選定の一般的な考え方を整理したものであり、特定の会社の経営状態を保証・断定するものではありません。最終的なご判断は、複数の見積もりと専門家の助言を踏まえて行ってください。
まとめ——「直す技術」だけでなく「続く会社」を選ぶ時代に
塗装・防水工事業者の倒産が2000年以降で最多ペースに達したという今回のニュースは、単なる業界の内輪話ではありません。大規模修繕を発注する管理組合・オーナーにとって、「工事の途中や保証期間中に、頼んだ会社が消えるかもしれない」という、新しいリスクが現実になったということです。
これからの発注先選びでは、「直す技術があるか」だけでなく、「10年後まで責任を取り続けられる経営体力があるか」を、同じ重さで見てほしい。そして、足場・ロープアクセス・ハイブリッドの3つの工法を建物ごとに最適に組み合わせ、工事費そのものを圧縮することが、結果として、発注する側にも施工する側にも余裕を生みます。工事費に無理がなければ、施工会社は適正な利益のなかで丁寧な仕事ができ、その余裕が10年後の保証履行にもつながっていく。発注の仕方ひとつが、巡り巡って自分たちの資産を守ることになるのです。
これは私が現場で20年見てきた、嘘偽りのない感想です。資産価値を守る大規模修繕は、技術と経営の両輪が回って初めて成り立ちます。総会の前段階の整理や、工法ごとの概算比較だけでも、お力になれることがあります。お問合せフォームから、ご相談だけでも遠慮なくお声がけください。次回も、現場で本当に使える話だけをお届けします。
出典・参考資料
- 帝国データバンク「『塗装・防水工事』の倒産動向(2026年 1-5月)」(2026年6月8日公表)
- 帝国データバンク プレスリリース「塗装・防水工事、中東情勢の影響拡大懸念 すでに資材調達に制約 倒産件数は2000年以降最多を更新する可能性も」(PR TIMES)
- 東京商工リサーチ「『塗装工事業』の倒産143件 23年ぶり高水準」
- 国土交通省「令和8年3月から適用する公共工事設計労務単価について(14年連続の上昇)」(2026年2月17日報道発表)
- 国土交通省「全国の建設業許可業者数は2年連続で増加〜令和6年度末の建設業許可業者数調査の結果〜」(2025年5月16日報道発表)
※本記事は2026年6月12日時点の公表情報に基づいています。制度・統計の最新状況は各一次情報をご確認ください。投資・売買・税務に関する助言を目的としたものではありません。
▼ロープアクセス工法・無足場工法の詳細解説はこちら
ロープアクセスドットコム|無足場工法専門メディア
【2026年6月】塗料・防水材が「入荷未定」に|ナフサ不足で大規模修繕の工期が遅れる前に、マンション・ビルオーナーがやるべきこと
「来月から外壁の塗り替えに入る予定なのに、塗料が手に入らないかもしれない」。
先日、あるマンションの理事長さまから、こんなご相談をいただきました。総会で修繕予算をようやく通したばかり。なのに「材料が止まっている」という話が耳に入り、不安になられたのです。
結論から申し上げます。この不安は、決して大げさではありません。いま全国の建設現場で、塗料・防水材・接着剤といった「石油から生まれる資材」の品薄が現実に起きています。そして大規模修繕を控えるオーナーさま・管理組合にとって、これは「工期の遅れ」と「コストの上振れ」に直結する話です。
私は塗装・防水・タイルの大規模修繕を20年近くやってきました。正直に申し上げて、材料がここまで読めない局面は、そう何度もありません。この記事では、いま何が起きているのか、それがあなたの建物にどう響くのか、そして慌てず・損せず動くために今この時期にやるべきことを、現場の視点で整理します。
まず、ニュースの要点を3行で
- 中東情勢(イラン戦争)の長期化で、塗料・防水材・接着剤の原料である「ナフサ」由来の化学品が不足し、建設現場で出荷制限・受注停止・納期長期化が広がっています。
- 全国建設業協会は2026年4月30日、国土交通大臣に緊急要望を行い、「工事の中止や遅延が避けられない状況も発生している」と表明しました(出典:全国建設業協会/ブルームバーグ報道)。
- 政府は2026年6月2日、塗料・シンナーの原料となるトルエンなどを最大で例年の約1.8倍まで供給を拡大し、「年度を越えて供給を継続できる」見通しを示しました(出典:時事ドットコム 2026年6月2日)。
つまり「足りない」という事実と、「政府が手を打ち始めた」という事実が、同時に進行している状況です。ここからが本題です。
なぜ塗料や防水材が止まるのか——「ナフサ」という言葉をかみ砕く
ニュースで連呼される「ナフサ」。聞き慣れない方も多いと思いますので、まずここを丁寧に説明します。
ナフサとは、原油を精製してできる「粗製ガソリン」のことです。これがプラスチックや塗料、ゴム、接着剤など、私たちの身の回りのありとあらゆる化学製品の「おおもとの材料」になります。
大規模修繕に関わる流れをごく簡単に書くと、こうなります。
原油 → ナフサ → トルエン・キシレンなど(溶剤の原料) → シンナー・塗料・防水材・接着剤 → 現場
ここで重要なのが「シンナー」です。シンナーは塗料を薄めて塗りやすくする溶剤(うすめ液)で、油性塗料を使う現場では欠かせません。このシンナーの原料であるトルエン・キシレンが、中東からのナフサ供給の目詰まりで不足しているわけです。
さらに、防水工事で使うウレタン防水材やシーリング材(窓まわりや目地を埋める弾力性のある充填材)、屋上の塩ビシート、下地に使う接着剤——これらもほとんどが石油由来です。だから「塗装だけ」の話ではなく、大規模修繕の主要工種がまとめて影響を受けるのです。
私がこの構造をしつこく説明するのには理由があります。原因が「一つの材料」ではなく「石油という川上」にあるため、ある材料を別の材料で代替しようとしても、その代替材料も同じ川から流れてきている、という逃げ場のなさがあるからです。
どの資材が、どれくらい厳しいのか
全国建設業協会が71種類の建設資材について行った2026年4月の調査では、塗料・断熱材・防水剤・ポリ塩化ビニル管(塩ビ管)を中心に、出荷制限・受注停止・数量割り当てが拡大していると報告されています。これまで数日で入手できていた塗料や電線、設備機器までもが「入荷未定」になるなど、納期の長期化が顕著だとされています(出典:ブルームバーグ報道(全国建設業協会の発表))。
大規模修繕に関わる工種に当てはめると、影響の出やすさはおおむね次のように整理できます。
| 工種 | 主に使う資材 | 影響の受けやすさ | 補足 |
|---|---|---|---|
| 外壁塗装(油性) | 油性塗料・シンナー | 大 | 溶剤系の調達が特に逼迫。色番号によっては納期未定も |
| 防水(ウレタン・塩ビシート) | ウレタン材・塩ビシート・接着剤 | 大 | 屋上・バルコニーの工期に直結 |
| シーリング | 変成シリコン等の充填材 | 中〜大 | 目地・サッシまわり。劣化放置は漏水リスク |
| タイル張替・補修 | 接着剤・エポキシ | 中 | 接着剤の納期に左右される |
| 給排水・配管 | 塩ビ管 | 中〜大 | 設備改修を同時に行う場合は要注意 |
※上記は2026年4〜6月時点で報じられている傾向にもとづく整理です。資材ごとの状況は週単位で動いており、メーカーや在庫状況によって差があります。実際の納期は必ず施工会社・メーカーにご確認ください。
水性塗料は比較的影響が小さいと言われますが、すべての部位を水性で賄えるわけではありません。下地や旧塗膜との相性、耐久性の要求によっては油性を選ばざるを得ない場面があり、「水性に切り替えれば解決」という単純な話にはなりません。ここは専門家が現場ごとに判断すべきところです。
政府の対応——「1.8倍供給」は朗報。ただし“即解消”ではない
2026年6月2日、高市首相は中東情勢に関する関係閣僚会議で、塗料やシンナーの流通に目詰まりが生じていることを踏まえ、原料となるトルエンなどを最大で例年の約1.8倍供給する方針を示しました。あわせて、商社経由だけでなく、石油化学メーカーや石油元売りからシンナー・塗料メーカーへ直接供給する仕組みも設けるとしています。ナフサの代替調達は従来の約85%の水準まで回復しているとも説明されました(出典:時事ドットコム 2026年6月2日、NHKニュース)。
これは現場にとって、間違いなく前向きな話です。私も少しほっとしました。
ただし——ここは正直に申し上げます。「方針が示された」ことと「現場に物が届く」ことの間には、必ずタイムラグがあります。原料が増産されてから、それがシンナーや塗料になり、問屋を経て現場に並ぶまでには時間がかかります。色番号ごとの在庫の偏りも残ります。
ですから「政府が動いたからもう大丈夫」と工程を楽観し切るのは早計です。逆に「全部止まるから今すぐ全部発注しろ」と慌てるのも違います。大事なのは、自分の建物の修繕がどの工種に、どの時期に、どれだけ依存しているかを把握したうえで、優先順位をつけて動くことです。
あなたの建物に、具体的にどう響くのか
ここからが、オーナーさま・管理組合にとっての実務の話です。資材逼迫は、主に三つの形で跳ね返ってきます。
1. 工期の遅延
材料が入らなければ、職人がいても工事は進みません。特に梅雨明け後の夏場は防水・塗装の需要が一斉に高まる時期で、ただでさえ職人と材料の取り合いになります。そこに資材不足が重なると、「足場を組んだのに材料待ちで止まる」という最悪の事態が起こり得ます。足場は組んでいる期間そのものが費用ですから、待ち時間がそのまま無駄なコストになります。
2. 見積りの“賞味期限”切れ
資材価格が動いている局面では、見積りの有効期限が短くなりがちです。半年前にもらった見積りが、今はもう通用しない、ということが普通に起こります。総会で承認した予算と、実際の発注額がズレる原因になります。
3. 価格転嫁・スライド条項の発動
公共工事の世界では、資材高騰に対応するため、実勢価格の調査頻度を上げ、設計変更や価格転嫁(いわゆるスライド条項=資材価格が一定以上動いたら契約金額を見直す仕組み)を適切に運用するよう、業界団体から国に要請が出ています。民間の大規模修繕でも、契約書に資材スライドの取り決めがあるかどうかで、もめ方が大きく変わります。
私がいつも理事長さまにお伝えしているのは、「安いか高いかの前に、止まらないか・もめないかを見てください」ということです。資材が読めない時期は、価格の数%より、工期の数週間と契約の一文のほうが、結果的に大きな差になります。
現場で実際に起きたこと
少しだけ、私の現場の話をさせてください。
数年前、ある別の理由で塗料の特定色が全国的に品薄になったことがありました。あるマンションの大規模修繕で、外壁の指定色がちょうどその色番号に当たってしまったのです。足場はすでに全面に架かっている。職人も手配済み。なのに塗料だけが来ない。
あのとき私は、メーカーの担当者に何度も頭を下げ、近い色番号への変更を理事会に提案し、一部の面を先行して別工程に振り替えて、なんとか足場の延長を最小限に抑えました。それでも、当初より工期は10日ほど延びました。足場費にしておよそ数十万円。住民の皆さまにも、ベランダが使えない期間が延びるご不便をおかけしました。
このとき骨身にしみたのは、「材料が読めない時期は、工程を一本道で組んではいけない」ということです。どこかが止まっても全体が止まらないよう、先行できる工種・後回しにできる工種をあらかじめ仕分けしておく。これができるかどうかで、資材逼迫の局面では結果がまるで変わります。
いま起きているナフサ不足は、当時の「一色だけ」とは比べ物にならない、塗料・防水・接着剤を横断する逼迫です。だからこそ、工程の組み方と工法の選び方が、これまで以上にものを言います。
工法の選び方で「工期リスク」は下げられる——足場・ロープアクセス・ハイブリッド
ここで、私たちのような施工会社の出番です。資材が読めない時期に効いてくるのが、「どの工法で工事を組むか」という設計です。
大規模修繕には、大きく三つの工法があります。当社はこの三つすべてを建物の特性に応じて提案できる、日本でも数少ない会社です(→大規模修繕工事のご紹介)。
| 工法 | 仕組み | 資材逼迫期の強み | 向いている建物 |
|---|---|---|---|
| 通常足場工法 | 建物全体に仮設足場を架ける | 面で一気に施工できる | 中低層・複雑形状 |
| ロープアクセス工法(無足場) | 産業用ロープで吊り下がって施工 | 足場の架設・解体が不要。部分先行・部分対応が機動的 | 高層・足場が架けにくい・コスト最重視 |
| ハイブリッド工法 | 部位ごとに足場とロープを使い分け | 「待てる面は後回し、急ぐ面は先行」の工程設計ができる | 大規模・複雑物件 |
注目していただきたいのは、ロープアクセス工法(建物の外壁に足場を架けず、産業用ロープで作業者が吊り下がって作業する無足場の工法)の機動力です。
足場工法は、全面に足場を架けてから工事を始めます。だから「材料待ちで全体が止まる」と、架けっぱなしの足場費がのしかかります。一方ロープアクセスは、足場の架設・解体という大がかりな前後工程がないため、材料が入った面から順に、小さく着手して小さく仕上げることができます。資材が小ロットでしか入らない局面では、この「小回り」が効きます。
そしてハイブリッド工法なら、たとえば「材料が確保できている北面の防水は先に着手し、塗料待ちの南面は工程を後ろにずらす」といった設計が可能です。一本道の工程ではなく、止まりにくい工程を組む。これが資材逼迫期の工期を守るうえで、私が最も重視している点です(→ロープアクセス工法のご紹介)。
なぜ専門職フランチャイズが、資材逼迫期に強いのか
もう一つ、当社の強みをお話しさせてください。
当社は、ロープアクセス工事として日本で初めてフランチャイズ展開を行っており、塗装・防水・タイル・電気・看板といった各分野の専門職が加盟しています。一見すると資材不足とは関係なさそうですが、こういう局面でこそ効いてきます。
理由は二つあります。
一つは、各分野の専門職が直接つながっていること。塗料が厳しければ防水を先に、という工種の組み替えを、間に何社も挟まずに現場の判断で素早くできます。元請—下請—孫請と何層も重なっていると、こうした柔軟な組み替えは時間がかかりますが、専門職が同じネットワークにいれば話が早いのです。
もう一つは、中間マージンを削れること。資材が高騰している局面では、施工側のコストはどうしても上がります。そのなかで仕上がりの品質を落とさず価格を抑えるには、施工体制そのものの無駄を削るしかありません。専門職が直接加盟する仕組みは、いわゆる「中抜き」を減らし、高品質と低価格を両立させるための土台になっています。
私はこれを、必ずワンセットで提案するようにしています。工法の選択肢と、専門職のネットワーク。この二つがそろって初めて、「資材が読めない時期でも、止めずに・もめずに・品質を落とさず」修繕をやり切れるからです。
今この時期に、オーナー・管理組合がやるべき5つのこと
では、具体的に何をすればよいのか。優先度順に5つ挙げます。
1. 修繕の「時期」を施工会社と再確認する
今年〜来年に塗装・防水を予定しているなら、まず施工会社に「現時点で、想定している資材の納期はどうか」を確認してください。色番号・材料メーカーまで踏み込んで聞くのがコツです。
2. 見積りの有効期限と、資材スライドの扱いを確認する
見積りがいつまで有効か。資材価格が一定以上動いたときに契約金額をどう扱うか(スライド条項の有無)。この二点を、契約前に必ず文書で確認してください。後から「言った・言わない」でもめるのが一番つらいので。
3. 工程を「一本道」にしない設計を相談する
材料待ちで全体が止まらないよう、先行できる工種・後回しにできる工種を仕分けてもらいましょう。足場工法だけでなく、ロープアクセスやハイブリッドで工期リスクを下げられないか、複数案を出してもらうのが理想です。
4. 緊急性の高い劣化(漏水・剥落リスク)を優先する
シーリング切れや防水の劣化を放置すると、漏水という二次被害につながります。資材が逼迫していても、安全・漏水に直結する部位は優先して手当てすべきです。「全部待つ」ではなく「危ない所から」です。
5. 総会・理事会で、この状況を共有しておく
6月は総会シーズンです。「資材高騰と納期長期化が起きている」という事実を、今のうちに理事会で共有しておくと、後で工期や金額が動いたときの合意形成がぐっと楽になります。
ただし——慌てて発注すべきではないケースもあります
ここは両論併記で正直にお伝えします。
「資材が止まるなら、今すぐ前倒しで発注しよう」——この判断が、必ずしも正解とは限りません。
たとえば、長期修繕計画上まだ数年先でよい工事を、不安だけで前倒しすると、本来不要な出費を早めることになります。劣化が進んでいない部位を慌てて触る必要はありません。また、価格が高止まりしている今まさに発注すると、割高な単価で契約してしまう可能性もあります。政府の供給拡大策が効いてくれば、半年〜1年で状況が緩む可能性も指摘されています。
だからこそ、判断の軸は「不安」ではなく「劣化の実態と緊急度」であるべきです。漏水・剥落につながる部位は急ぐ。まだ余裕のある部位は、状況を見ながら最適なタイミングを計る。この見極めこそ、専門家に相談する価値のあるところだと、私は考えています。
よくあるご質問(FAQ)
Q1. ナフサ不足はいつまで続きますか?
正確な終息時期を断言できる人はいません。政府は供給拡大と年度を越えた供給継続の見通しを示していますが、中東情勢に左右されるため流動的です。「数か月で楽になる」という見方もあれば「価格は元には戻らない」という見方もあります。確実なのは、今は週単位で状況が動いているということです。
Q2. 水性塗料に変えれば問題は解決しますか?
部分的には有効ですが、万能ではありません。下地や旧塗膜との相性、求める耐久性によっては油性が必要な場面があります。「水性に統一すれば解決」と単純化せず、部位ごとに専門家の判断を仰いでください。
Q3. 見積りが半年前より上がっていました。ぼったくられているのでしょうか?
資材価格が実際に上がっているため、適正な見積りでも金額が上がっている可能性は十分あります。大切なのは、見積りの内訳(材料費・労務費・足場費)が明示され、値上がりの根拠が説明できるかどうかです。複数社で内訳を比べると、適正さが見えてきます。
Q4. 工期が延びると、足場代も増えますか?
足場工法の場合、足場を架けている期間が延びれば、そのぶん費用が増えるのが基本です。だからこそ、材料待ちで止まらない工程設計や、足場に依存しないロープアクセスの活用が、コスト面でも意味を持ちます。
Q5. 今、相談だけしておくことに意味はありますか?
大いにあります。むしろ今やるべきは「発注」より「整理」です。自分の建物がどの工種にどれだけ依存しているかを把握し、優先順位をつけておくだけで、いざ動くときの判断が速く・正確になります。
まとめ——「止めない・もめない・品質を落とさない」修繕へ
最後に、要点をもう一度整理します。
いま、ナフサ不足によって塗料・防水材・接着剤の品薄が現実に起きており、全国建設業協会も「工事の中止や遅延が避けられない状況」と表明しました。政府は原料供給を例年の約1.8倍に拡大する方針を示しましたが、現場に物が行き渡るまでにはタイムラグがあります。
この局面で大規模修繕を控えるオーナーさま・管理組合がやるべきは、不安に駆られて慌てることでも、楽観して放置することでもありません。自分の建物の劣化の実態と緊急度を把握し、工程を一本道にしない設計と、最適な工法の選択で、工期とコストのリスクを下げることです。
私たちは、足場・ロープアクセス・ハイブリッドの三つの工法から建物にとってベストな組み方を提案でき、塗装・防水・タイルなどの専門職が直接つながるネットワークを持っています。資材が読めない時期だからこそ、この組み合わせが効きます。
総会の前段階の整理だけでも、お力になれることがあります。「うちの修繕、このまま予定通りいくのか」と少しでも不安に感じたら、ご相談だけでも遠慮なくお声がけください(→お問合せフォーム)。資材の状況も、工法の選択肢も、まずは一緒に整理するところから始めましょう。
出典・参考資料
- 時事通信「ナフサ製品『年度越え供給可能』 シンナー原料1.8倍に―高市首相」(2026年6月2日)
- ブルームバーグ(Yahoo!ニュース転載)「ナフサ由来資材足りず、工事中止や遅延は不可避と業界団体-イラン戦争」(全国建設業協会の2026年4月30日緊急要望に関する報道)
- 国土交通省「公式サイト(建設資材・労務単価等)」
- 全国建設業協会「公式サイト」
- ダイヤモンド不動産研究所「ナフサ不足で住宅建設・リフォーム工事がストップ?『接着剤不足』が招く最悪シナリオを徹底検証」
※本記事の数値・日付は、上記の報道・公的情報にもとづき2026年6月5日時点で整理したものです。資材の納期・価格は週単位で変動しており、実際の状況は施工会社・メーカーへ個別にご確認ください。
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【2026年5月版】塗料・防水材不足で大規模修繕が止まる──ナフサショックから資産を守るオーナー・管理組合の動き方
【2026年5月版】塗料・防水材不足で大規模修繕が止まる──ナフサショックから資産を守るオーナー・管理組合の動き方
こんにちは、株式会社明誠の本間です。私はマンション・ビル・ホテルの大規模修繕を、足場仮設とロープアクセス、そして両者を組み合わせたハイブリッド工法という三つの選択肢で提案しつづけて20年近くになります。今朝、社員と現場ミーティングをする前に、テレビと建設業界紙の見出しに目を通していて、思わず机を叩きました。
「塗料が入ってこない、防水材も足りない、もう請けられない仕事が増えている」──。中小の塗装業者や防水の一人親方が、顔と名前を出してそう訴えています(出典:「私たちの声は届いていないのか」止まる工事現場、追いつめられる中小建設業者の切実な声(Yahoo!ニュース/TBS NEWS DIG・2026年5月23日))。私の周りでも、4月の連休明けから「塗料の見積りが先週よりまた上がった」「今月中に発注しないと8月以降は何も保証できないと言われた」という声が、加盟店、同業の社長、付き合いの長い問屋から日替わりで届いています。
正直に申し上げます。これは大規模修繕を計画している管理組合と、収益不動産を持つオーナーにとって、来年・再来年の話ではありません。今月、今週の意思決定が、来年の総会で説明できるかどうかを決めます。
この記事では、私が現場で見ている「ナフサショック」の実像と、管理組合・オーナーが資産を守るために何を、いつまでに、どう動かすべきかを、できるだけ具体的にお話しします。9000字を超える長文になりますが、修繕委員会の資料としてもそのまま使えるように構成しました。お時間が許す範囲で、一節ずつでも結構ですから、読み進めていただけると嬉しいです。
1. 今、現場で何が起きているのか
「塗料が、入ってこないんです」。
これは、ある加盟店の若い職長が、先月の私との電話で漏らした一言です。彼が担当している現場は、首都圏の築22年・約160戸のファミリーマンション。長期修繕計画どおりに動いていて、3月に塗装の試験施工まで終わっていました。ところが4月、塗料メーカーから「該当製品は受注を一時停止します。在庫分の出荷で打ち切ります」という通知が突然届いた。代替品の提案を受けたものの、色見本と仕上がりが微妙に違う。住民総会で承認をいただいた色番号ではありません。「色を変えるなら、もう一度説明会と理事会承認が要りますよね」と、彼は半泣きでした。
これは特殊な現場の話ではありません。テイガク屋根修理が公開している建材値上げ・受注停止リストには、2026年5月22日更新時点で塗料・シンナー・断熱材・ルーフィング・屋根材まで、ありとあらゆる主要部材が並んでいます(出典:【2026年5月22日更新】建材資材の値上げと受注停止の影響(テイガク))。塗装業界の児玉塗装も、メーカー別の出荷停止状況を5月11日付で更新し、複数の大手塗料メーカーで主力製品の受注制限が続いていることを公表しています(出典:【2026年5月11日更新】ナフサショック・中東情勢による塗装材料への影響(児玉塗装))。
業界紙の日経クロステック建築は、5月の連載記事で「建材不足でマンション大規模修繕に停止の危機、計画見直しも」と踏み込んだ見出しを掲げました(出典:日経クロステック建築「建材不足でマンション大規模修繕に停止の危機、計画見直しも 中東情勢混迷」)。専門誌が「停止の危機」という言葉を使うのは、それだけ業界内の温度感が逼迫しているということです。
私の経験上、大規模修繕の現場というのは、部材が一品種でも欠けると工程全体が止まります。塗料が来なければ下地補修の次の工程に進めない。防水材がなければ屋上やバルコニーの止水が打てない。シンナーが希釈に使えなければ、刷毛塗りもローラー塗りも始まりません。そして足場を組んだまま工程が止まれば、足場のレンタル料は1日単位で課金され、住民の生活ストレスも積み上がります。これが、今、現場で起きていることです。
2. 原因はホルムズ海峡──「ナフサショック」が建設業を直撃した経緯
なぜ、こんなことになっているのか。原因をできるだけ簡潔に整理します。
ナフサ(粗製ガソリン)は原油を蒸留して取り出される石油化学製品の基礎原料で、プラスチック、合成樹脂、塗料、シンナー、断熱材、ルーフィングなど、現代の建材の大半に使われています。日本は産業用ナフサの多くを中東からの原油に頼っており、原油の主要輸送ルートがホルムズ海峡であることはよく知られています。
2026年2月末以降、中東情勢の緊迫化を背景に、ホルムズ海峡経由の原油輸送に支障が出ました。ナフサの調達価格は急騰し、供給量も不安定化。3月中旬には大手塗料メーカーが「最大75%値上げ」を表明、4月以降は次々と他のメーカーが追随し、出荷停止や受注制限に踏み切る事態になっています(出典:ナフサショック(ナフサ不足)完全解説2026(造改築.com))。
建設業に関わる方には釈迦に説法ですが、念のため業界全体の構造を確認しておきます。
| 部材 | 主な用途 | ナフサとの関係 |
|---|---|---|
| 塗料(アクリル・ウレタン・シリコン・フッ素) | 外壁・鉄部・屋根の塗装 | 樹脂・希釈用シンナーがナフサ由来 |
| シンナー | 塗料の希釈、洗浄 | ほぼ100%ナフサ由来 |
| 防水材(ウレタン・FRP・塩ビシート) | 屋上・バルコニー・廊下の止水 | 樹脂・希釈材がナフサ由来 |
| シーリング材 | サッシ廻り・打継ぎの止水 | 主成分の樹脂がナフサ由来 |
| 断熱材(発泡系) | 外断熱・屋根断熱 | 発泡樹脂がナフサ由来 |
| ルーフィング・アスファルト系防水 | 屋根下葺き・押え工法 | 改質剤がナフサ由来 |
つまり、外装の修繕に使う材料のほぼ全てがナフサに紐づいているということです。一品目だけ我慢すれば乗り切れる、という構造ではありません。
東京新聞の報道では、政府は「足りている」と表明していますが、実際の現場ではすでに供給に明確な支障が出ている、と多くの中小事業者が証言しています(出典:東京新聞「建築資材や日用品…ナフサ由来製品が出荷停止・値上げ 政府『足りている』と言っても、すでに供給に影響が」)。私が会員数百社のJCSA(一般社団法人全国建設業支援協会)の運営に関わっている立場で言わせていただくと、現場の体感と政府発信の温度差は、相当に大きいと言わざるを得ません。
3. 何が、どれだけ値上がりしているのか
「具体的にどれぐらいの値上げなのか」が、管理組合の理事長さま・修繕委員のみなさまにとっては一番気になるところだと思います。私が業界紙・専門メディアから直近1か月で確認できた数字を、表に整理します。
| 部材 | 値上げ幅の例 | 出典 |
|---|---|---|
| 塗料(大手メーカー) | 最大75% | 造改築.com(2026年3月中旬通告) |
| 断熱材(発泡系) | 約40~50% | テイガク/s-housing |
| ルーフィング | 約40~50% | テイガク/新建ハウジング |
| アスファルトシングル屋根材 | 30%(旭ファイバーグラス「リッジウェイ」、2026年7月1日出荷分より) | テイガク |
| シンナー | 出荷停止・量制限 | 児玉塗装/塗装源 |
| 副資材全般 | 段階的に複数回 | 新建ハウジング |
(出典:【値上げ一覧】”ナフサショック”で相次ぐ大幅値上げ(新建ハウジング)、【2026年5月最新】ナフサショックによる建材受注制限・値上げ情報まとめ(髙橋秀樹note)、中東情勢によるナフサ(シンナー)不足について(塗装源))
戸あたりに換算するとどうなるか。100戸規模のマンションで外壁塗装・屋上防水・シーリング打替えを含むフルメニューの大規模修繕を行う場合、私の経験では資材費の比率は工事費全体の25〜35%程度です。仮に資材費が全体の30%、そのうち塗料・防水・シーリングなどナフサ由来材料が半分を占めるとすると、ナフサ由来材料は工事費の約15%を構成します。ここが平均で40%値上がりしたと仮定すると、工事費全体で約5〜8%の押し上げになる計算です。これは造改築.comの試算とほぼ符合します。
100戸規模で工事費1.2億円のマンションなら、600万円〜960万円のコスト増。戸あたりに直すと6万〜10万円です。「修繕積立金月額5,000円の人にとって、丸1年分以上の追加負担」と言い換えれば、理事会での重みが伝わるのではないでしょうか。
ただし注意していただきたいのは、これは「平均的に試算した上振れ幅」であり、個別物件の条件で振れ幅は大きく変わるということです。屋上のアスファルト防水比率が高い物件、外断熱を採用している物件、シーリング量が多いタワー型物件は、もっと影響を受けます。逆に、シート防水中心で塗装面積が比較的少ない低層物件は、影響を抑えやすいケースもあります。「絶対○%値上がりします」と言い切る業者には、私は警戒したほうがよいと考えています。
4. なぜ大規模修繕が「止まる」のか──工程が崩れる3つの理由
値上げ以上に深刻なのが、工程の停止リスクです。私が現場で見ているのは、おおむね次の3つのパターンです。
理由1:部材の納期確約ができない
これまで「発注から2週間で現場に届きます」と言えていた塗料が、今は「6〜8週間、場合によってはそれ以上、しかも数量保証なし」と回答されるケースが出ています。施工会社としては、住民への工程説明や足場貸出会社との契約が、根拠を持って組めなくなります。
理由2:色番号・グレードの変更が頻発する
特定の樹脂や顔料が手に入らないために、メーカーがレシピを微調整したり、廃番にしたりする動きが続いています。総会で承認をいただいた色番号と仕上がりが微妙に違うと、住民代表からは「説明と違う」というクレームが必ず出ます。理事会・修繕委員会の手戻りが発生するため、工程が1〜2か月単位で押します。
理由3:足場が無駄に長く立つ
足場は1日単位の固定費です。私のいる現場感覚で、戸あたり月1万円〜2万円程度の足場関連コストが、何もしなくても発生し続けます。100戸なら月100万〜200万円。部材待ちで足場が1か月延びるだけで、それだけのキャッシュが空気に消えるわけです。これが、私が「無足場工法(ロープアクセス)」を強く提案する最大の理由でもあります。
5. 修繕積立金への影響と、管理組合が今やるべき5つの行動
ここからが本題です。理事長さま・修繕委員のみなさまに、今月から動いていただきたいことを5つに整理します。
(1) 長期修繕計画の前提条件を即時に再確認する
国土交通省の「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」では、機械式駐車場の有無や階数によって積立金の目安水準が示されています(出典:国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」)。多くの長期修繕計画は、こうした目安と過去の単価を前提に組まれています。しかし、今回のナフサショックは前提を崩しに来ています。まずは、現行計画が「いつの単価」を前提にしているかを確認してください。3年以上前の単価で組まれていれば、ほぼ間違いなく見直しが必要です。
(2) 「直近2年以内の見積り」を施工各社に再依頼する
理事会で「業者選定は2年前にやったから今のままで」となりがちですが、それは危険です。直近2年以内、できれば3か月以内の見積りに更新してください。複数社から取り直すのが原則ですが、相見積りの比較条件は揃えること。比較条件の揃え方は、修繕委員だけでは難しい場合、第三者のコンサルタントに「比較表のフォーマット」だけ作ってもらうのも有効です。
(3) 工事仕様書の「代替品許容条項」を確認・追記する
仕様書に「メーカー指定・型番指定」とだけ書いてあると、塗料メーカーの出荷停止が直撃します。「同等性能の代替品を、書面承認のうえで採用できる」旨の条項を追加してください。性能の同等性は、JIS規格の等級、メーカー試験成績書、第三者検査機関の判定など、客観的に確認できる指標を明記すること。「同等品で良いですよね」と現場任せにすると、住民とのトラブルの火種になります。
(4) 「工程遅延時のリスク分担」を契約書で明確化する
足場が延びた場合の足場料金、住民への説明会再開催費用、人件費の追加負担を、誰がどう負担するかを契約書で決めておきます。「資材入手困難の場合は、双方協議のうえ工程と費用を見直す」と一文入れるだけでも、いざというときの揉め事は大きく減ります。
(5) 「工法のセカンドオピニオン」を取る
足場仮設一択で計画が組まれている場合、ロープアクセスやハイブリッドでの代替提案を受けてみるのは、今のタイミングだからこそ価値があります。次章で詳しくお話しします。
6. オーナー側の視点──資産価値を守るための判断基準
ここからは、収益不動産を持っておられるオーナーさま向けです。築年数や用途が違っても、判断軸はそれほど多くありません。
(A) 「先送り」が最もコストの高い選択肢になりつつある
私の経験上、これは大規模修繕を5年単位で見送るときに、いつも申し上げてきたことです。今は、その傾向がさらに強まっています。ナフサショックが少なくとも2026年内は続くという業界の見立てがあり(出典:ナフサショックはいつまで続く?なぜ今、工務店に影響を与えているのか(makehouse))、来年・再来年の単価が今より下がる保証はどこにもありません。むしろ、外壁の劣化を1年放置した結果、追加の躯体補修が必要になり、結果として工事費が大きく膨らむケースを、私は何度も見てきました。
(B) 入居率と賃料水準は「見た目」に強く反応する
築20年を超えた物件で、外壁の汚れや錆だれ、シーリングの劣化が見えてくると、内見時の印象は劇的に落ちます。特に都心の収益マンション・テナントビルでは、「修繕積立を取り崩してでも、まず外観を仕上げたほうが回収が早い」という判断のほうが、長期では合理的なケースが多いです。Yahoo!ニュースの不動産記事でも、東京23区の中古マンションは「資産性重視」が契約理由のトップになったと指摘されています(出典:資産性重視が「契約理由のトップ」に 東京23区新築マンション価格指数(TBS NEWS DIG・2026年5月))。資産性を語るうえで、外観のメンテナンスは無視できない要素です。
(C) 工法選択で、コストとスケジュールは大きく変わる
ここが、私の本業の核心です。同じ建物を、ただ足場で囲んで塗るのか、ロープアクセスで部分施工と組み合わせるのか、ハイブリッドで合理化するのか。選択次第で、見積額もスケジュールも、住民への影響も変わります。
7. 工法選択で守れるコストとスケジュール
私は普段から、お客様には「答えはひとつではない」と申し上げています。建物の形状、住民構成、立地、修繕積立金の残高、そしてオーナーであれば収益計画次第で、最適な工法は変わるからです。
| 工法 | 工事費の傾向 | 工期 | 居住者・利用者への影響 | 適しているケース |
|---|---|---|---|---|
| 通常足場工法 | 標準 | 標準 | 大(眺望・採光・防犯すべてに影響) | 中低層、複雑形状、全面的な躯体補修が必要な場合 |
| ロープアクセス工法(無足場) | 足場費を大幅圧縮できるケースあり | 短縮しやすい | 小(眺望・採光は維持、洗濯物制限は短期間) | 高層、シーリング・部分補修・部分塗装、緊急対応 |
| ハイブリッド工法 | 部位ごとに最適化 | バランス型 | 中(足場区画を限定) | 大規模・複雑物件、コストと工期の両立が必要 |
ロープアクセス工法は、日本ではまだ全国普及率が高くありませんが、明誠は日本で初めてロープアクセス工事のフランチャイズ展開を行っており、塗装・防水・タイル・電気・看板など各分野の専門職が加盟する全国ネットワークを持っています。これは、自社単独では受けきれないボリュームや、繁忙期の人手確保、地方案件への展開に強みを発揮します。
正直に申し上げます。ロープアクセスがすべての建物・すべての工事に万能ということではありません。たとえば、躯体側に大面積の爆裂・剥離があり、ハツリと打ち増しを大量に伴う場合は、足場で囲って一気に進めたほうが結果的に安く、安全なケースが多いです。「足場かロープか」ではなく、「どこは足場、どこはロープ、どこはハイブリッドか」を建物ごとに切り分けること。これが、いま単価が上がりつつあるなかで、最もコストを守れる発想だと、私は確信しています。
ロープアクセス工法の詳細はロープアクセス工法のご紹介を、大規模修繕の総合的なご相談は大規模修繕工事のご紹介をご覧ください。
8. 私が現場で見ている「動ける管理組合」の共通点
20年ほど現場をやってきて、ナフサショックのような外部ショックに強い管理組合には、いくつか共通点があると感じます。
ひとつ目は、理事会で「数字の出どころ」が常に共有されていることです。「業者が言っていたから」ではなく、「○月発行の業界紙にこう書いてある」「国交省ガイドラインのこの版にこう書いてある」と、出どころの確認が会議の中で行われています。情報の出どころが明確だと、議論が早く、住民総会の説明も短く済みます。
ふたつ目は、修繕委員のなかに、建築・設備・財務のいずれかの実務経験を持つ住民が、1人は入っていることです。これは「専門家を雇え」という話ではありません。住民の中の経験者を、ちゃんと巻き込めているかどうか、ということです。「お任せください」と全員を黙らせるタイプの理事長さんよりも、「皆さんの知見を貸してください」と言える理事長さんのほうが、こういう局面で強いです。
みっつ目は、業者を「敵」にしないことです。値上げの通告を受けたとき、感情的に業者を責める管理組合と、「これは業者個別の問題ではなく業界全体の問題だ」と切り分けて、共同で対策を考える管理組合では、結果が違います。後者のほうが、最終的に良い条件・良い品質を引き出しています。
私が一番悔しい思いをするのは、頑張って動かれている管理組合が、ほんの少しのコミュニケーションのズレで、業者と疎遠になってしまい、結果として割高な工事を別社に発注してしまうケースです。ナフサショックは、業者と管理組合の信頼関係を試すリトマス紙でもあるな、と最近よく思います。
9. JCSAから業界への呼びかけ──今こそネットワークの出番
ここから少し業界向けの話です。読み飛ばしていただいて構いません。
私が代表理事を務めるJCSA(一般社団法人全国建設業支援協会)では、5月から「ナフサショック対応 緊急情報交換会」をオンラインで月2回、開催しています。会員社からは、「塗料メーカーごとの在庫情報をリアルタイムで共有してほしい」「代替樹脂の試験施工データを共有してほしい」「住民説明用のテンプレを共有してほしい」という声が、毎週のように届いています。
私は、これに本気で応えるつもりです。協会の役割は、平時に勉強会や交流会を開くことだけではないと考えています。こうした非常時に、業界全体で持っている情報を素早くつなぐことこそ、業界団体の存在意義だと思っています。
会員社の皆さまには、6月の交流会で詳細をお伝えしますが、JCSA未加入の方でも、関心のある事業者の方はJCSAのお問合せフォームからご連絡いただければ、緊急情報交換会のオブザーバー参加もご案内できる体制を準備中です。一社で抱え込まず、業界の知恵を持ち寄って乗り越えていきましょう。
10. まとめ:今月、今週、明日できること
長くなりました。最後に、お読みいただいた方がそのまま動けるよう、行動チェックリストを置いておきます。
【管理組合 理事長さま・修繕委員さま】
– [ ] 長期修繕計画の単価前提を、いつの時点のものか確認する
– [ ] 直近の見積りを2〜3社から取り直す(比較条件を揃える)
– [ ] 仕様書に「代替品許容条項」を入れる
– [ ] 工程遅延時のリスク分担を契約書で明確化する
– [ ] 足場工法以外(ロープアクセス・ハイブリッド)のセカンドオピニオンを取る
– [ ] 住民説明会の資料に、ナフサショックの一次情報リンクを添える
【収益不動産オーナーさま】
– [ ] 物件ごとに、「先送りした場合の追加リスク」を試算する
– [ ] 外観の劣化が入居率・賃料に与える影響を、近隣相場と比較して確認する
– [ ] 部分施工で凌げる物件は、ロープアクセスでの早期対応を検討する
– [ ] 長期保有予定の物件は、来年以降の単価高止まりを前提に資金計画を見直す
【同業の経営者さま】
– [ ] 自社の在庫・受注残・代替品試験のステータスを毎週棚卸しする
– [ ] お客様への説明用テンプレを早めに準備する(業界全体の話と自社の対応を分けて書く)
– [ ] 一社で背負わず、業界団体・地域の同業との情報共有を強める
ナフサショックは、私たち建設業にとっても、管理組合・オーナーにとっても、たしかに厳しい局面です。けれど、20年現場をやってきた私の正直な感想は、「こういう時こそ、ちゃんと動いた人と組織だけが、来年・再来年に資産価値で報われる」というものです。
ご相談だけでも遠慮なくお声がけください。総会の前段階の整理だけでも、お力になれることがあります。お問合せはこちらのフォームから、もしくは長年付き合っていただいている管理会社さま経由でも結構です。次回も、現場で本当に使える話だけをお届けします。
出典・参考資料
- TBS NEWS DIG/Yahoo!ニュース「『私たちの声は届いていないのか』止まる工事現場、追いつめられる中小建設業者の切実な声」(2026年5月23日)
- 日経クロステック建築「建材不足でマンション大規模修繕に停止の危機、計画見直しも 中東情勢混迷」
- 造改築.com「ナフサショック(ナフサ不足)完全解説2026|石油化学製品が住宅から消える日」
- 新建ハウジング「【値上げ一覧】”ナフサショック”で相次ぐ大幅値上げ」
- テイガク「【2026年5月22日更新】建材資材の値上げと受注停止の影響」
- 児玉塗装「【2026年5月11日更新】ナフサショック・中東情勢による塗装材料への影響|各メーカーの出荷・受注状況まとめ」
- 東京新聞デジタル「建築資材や日用品…ナフサ由来製品が出荷停止・値上げ 政府『足りている』と言っても、すでに供給に影響が」
- 塗装源「中東情勢によるナフサ(シンナー)不足について」
- 国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」
- TBS NEWS DIG「資産性重視が『契約理由のトップ』に 東京23区新築マンション価格指数 タワマン19%上昇で過去最高」(2026年5月)
- makehouse「ナフサショックはいつまで続く?なぜ今、工務店に影響を与えているのか」
- 髙橋秀樹note「【2026年5月最新】ナフサショックによる建材受注制限・値上げ情報まとめ」
本記事の数値や制度情報は2026年5月25日時点での公開情報をもとに整理しています。最新の業界動向や個別物件のご相談については、株式会社明誠お問合せフォームよりお寄せください。
▼ロープアクセス工法・無足場工法の詳細解説はこちら
ロープアクセスドットコム|無足場工法専門メディア
ナフサ危機で外壁・防水工事が「止まる」——大規模修繕の発注を凍らせる前に、理事長が今すぐ押さえるべき5つの実務対策【2026年5月最新】
1. 何が起きているのか——2026年5月14日に並んだ3つのニュース
まず、今週の業界を揺らした3つのニュースを、感情を抑えて時系列で並べます。私はいつも理事長さまに、ネット記事の見出しに反応する前に「誰が、いつ、何を発表したのか」を表に並べてから議論することをお勧めしています。今回もそれをします。
ひとつ目。鹿児島県の発表です。中東情勢の影響でナフサ原料の建築資材が不足し、県営住宅や職員宿舎などの改修工事6件で作業が一時中断していることが、5月14日に明らかになりました。当初4月に発注予定だった県営住宅の屋根防水工事についても、発注が見送られているとされています(出典:Yahoo!ニュース「【中東情勢の影響】ナフサ原料の建築資材が不足―県営住宅・職員宿舎6件で外壁改修が一時中断」(2026年5月14日))。私はこの記事を最初に目にしたとき、「ついに公共工事の発注側が動けなくなる事態に踏み込んだのか」と背筋が伸びる思いでした。県営住宅は、地方自治体が住民に対して責任を負う居住空間です。そこに手を入れる工事の停止は、軽い意思決定ではありません。
ふたつ目。塗料メーカー大手の日本ペイントが、塗料類全般および直送運賃の価格を6月1日出荷分から改定すると発表しました(出典:新建ハウジング「日本ペイント、塗料類全般を値上げ 6月1日出荷分から」(2026年5月13日))。塗料の値上げは、私たち施工側にとっては、見積もりを出し直さなければならないほどのインパクトを持つ事象です。マンション大規模修繕は、外壁塗装が工事費全体の3〜4割を占めるからです。
みっつ目。ダイヤモンド・オンラインが、断熱材で40%、塗料で80%という高騰を伝えました。建材ごとに上昇率の差はあるものの、住宅のほぼ全領域に影響が及んでおり、木造に限らず鉄骨造やRC造、新築だけでなくリフォームも、すべてが影響圏内にあるとされています(出典:ダイヤモンド・オンライン「断熱材40%、塗料80%高騰…家づくり総額が数百万円上がる『ナフサ危機』新築・リフォーム前に確認したい影響」(2026年5月14日))。マンション管理組合の理事長さまは「うちは新築じゃないから関係ない」と思われるかもしれませんが、ここはぜひ受け止めていただきたい点です。RC造のリフォームも、塗料も防水も影響圏内です。むしろ既存マンションの大規模修繕は、新築よりも材料費が工事費に占める割合が大きい——だからこそ、価格高騰のしわ寄せが直撃しやすい構造にあります。
3行でまとめます。第一に、外壁改修・防水工事の現場で、ナフサ系資材の不足を理由とした「工事中断」が現実に発生し始めた。第二に、塗料メーカーが正式に値上げを発表し、6月以降に動く工事の見積もり前提が一段階引き上がる。第三に、これは新築だけの話ではなく、既存マンションの大規模修繕の発注プロセスにもまもなく波及する。
ここからが本題です。理事長さまにとっては「うちのマンションでは何をすればいいのか」が一番気になるところだと思います。順を追って整理していきます。
2. 「ナフサ危機」とは何か——理事会で言葉の定義をそろえる
ここで一度、専門用語の補足をさせてください。ニュース報道で頻出するようになった「ナフサ」という言葉ですが、理事会の議論で、私が最初にお願いしているのが「言葉の定義をそろえること」です。
ナフサ(粗製ガソリン)とは、原油を蒸留して得られる軽質留分のひとつで、主に石油化学工業の原料として使われます。プラスチック、合成樹脂、塗料、接着剤、断熱材(ウレタンフォーム)、防水材の主原料となるエチレン・プロピレン・ベンゼンといった石油化学基礎製品の親元です。経済産業省の資源エネルギー庁は、ナフサ価格は中東情勢、原油価格、為替の3要素で決まると整理しています(出典:資源エネルギー庁「石油精製・石油化学」)。今回の高騰は、中東情勢の悪化と為替の円安が同時に効いた結果です。
ここで大事なポイントを2つだけ強調させてください。第一に、ナフサ価格の上昇は、すぐに製品価格に反映されるわけではありません。塗料メーカーや断熱材メーカーは、ナフサから原料樹脂を作り、樹脂から建材を作るという2段階の工程を経るため、ナフサ高騰から建材値上げまでには通常2〜6か月のタイムラグがあります。今回、5月時点で値上げが発表されているのは、半年前のナフサ上昇を反映したものです。逆に言えば、いまの中東情勢が悪化したままだと、年末から来春にかけてさらに第2波・第3波の値上げが続く可能性があります。
第二に、ナフサ危機は「あった/なかった」の二元論ではなく、「いつまで続くか」の問題です。私の経験上、過去のナフサショック(2008年、2022年)でも、上昇局面は半年から1年半続きました。理事会で「もう少し待てば落ち着く」と判断するのは危険です。下がらない前提で発注計画を組み直すほうが、結果的に組合の損失を抑えられます。
正直に申し上げます。私はこれまで20年近く現場をやってきて、「待っていれば下がる」と言い続けて結局3年間発注を引き延ばし、最終的に当初の1.5倍の予算で発注せざるを得なくなった管理組合をいくつも見てきました。だからこそ、今回のような報道があったタイミングで、理事会が「動かす前提」「動かさない前提」の両方をシミュレーションすることが大事だと、私は思っています。
3. 影響を受ける建築資材の全体像——マンション大規模修繕の何が高くなるのか
ここで一度、マンション大規模修繕で使われる建築資材のうち、ナフサ危機の影響を受けるものを整理しておきます。理事会で「うちの工事のどこに効くのか」を共有できるよう、分類して並べました。
第一カテゴリは塗料です。外壁塗装に使われるアクリル樹脂塗料、ウレタン樹脂塗料、シリコン樹脂塗料、フッ素樹脂塗料は、いずれも合成樹脂を原料としており、その樹脂はナフサ由来です。ダイヤモンド・オンラインの報道では塗料80%高騰とされており(出典:ダイヤモンド・オンライン)、グレードによって上昇幅は異なるものの、塗料費全体で見て3〜5割の上昇は織り込んでおく必要があります。塗料は外壁塗装で大規模修繕の総工事費の25〜30%を占めるため、塗料費1.5倍は、総工事費の10〜15%押し上げに相当します。
第二カテゴリは防水材です。屋上やバルコニーの防水工事に使われるウレタン防水、塩ビシート防水、アスファルト防水のうち、ウレタン防水と塩ビシート防水はナフサ由来の樹脂を多く含みます。鹿児島県が屋根の防水工事の発注を見送ったとされる背景(出典:Yahoo!ニュース)も、ここに直結しています。アスファルト系の改質アスファルトシートは比較的影響が小さいものの、施工に使われる接着剤やプライマーはやはりナフサ由来です。
第三カテゴリは断熱材です。外断熱改修やバルコニー床改修で使われる硬質ウレタンフォーム、押出法ポリスチレンフォーム、ビーズ法ポリスチレンフォームは、いずれもナフサ由来の樹脂を原料とします。断熱材40%高騰の報道(出典:ダイヤモンド・オンライン)は、これらすべてを含んだ平均値です。マンション大規模修繕で外断熱工事を予定している組合は、特に影響が大きくなります。
第四カテゴリは接着剤・シーリング材です。タイル張替工事に使う有機系接着剤、外壁目地のシーリング材(ウレタン系、変成シリコン系、ポリサルファイド系)も、いずれもナフサ由来の合成樹脂を原料とします。シーリングの全面打ち替えは大規模修繕の標準工程ですから、これも避けて通れません。
第五カテゴリは配管材です。給排水管の更新工事に使う塩ビ管、ポリブテン管、架橋ポリエチレン管は、すべて樹脂製品です。給排水管更新を大規模修繕に組み込んでいる組合では、ここも上昇圧力にさらされます。
私はいつも理事長さまに、「大規模修繕の見積書を見るときは、塗料・防水・シーリングの3つの単価変動を必ずチェックしてください」とお伝えしています。この3つが工事費の半分以上を占めるからです。ナフサ危機の局面では、この3つが同時に上がる——これが理事会にとって最も厄介な構造です。
4. 大規模修繕への波及シナリオ——3つのリスクを時系列で並べる
ニュースの整理と資材の整理を終えたうえで、いよいよ「では、マンション大規模修繕にどう波及するのか」を時系列で考えてみます。私の経験上、これから6〜18か月で、3つのリスクが順に顕在化する可能性があります。
第一のリスクは、見積書の有効期限切れです。一般的に大規模修繕の見積書は、提出から60〜90日が有効期限とされます。今年2〜3月に取った見積書をベースに、夏の総会で予算承認を取り、秋に契約締結——というスケジュールを組んでいる組合は要注意です。日本ペイントの6月1日値上げ(出典:新建ハウジング)が反映された見積もりが、契約直前に提示されると、当初想定よりも工事費が大幅に膨らむ事態が起こり得ます。私はいつも理事長さまに、「見積書の有効期限と発注時期の関係を、契約前に必ず確認してください」とお伝えしています。
第二のリスクは、工事中断・工期延長です。鹿児島県のケース(出典:Yahoo!ニュース)が示すように、資材が入手できなければ工事は止まります。マンション大規模修繕でも、塗料・防水材・断熱材の納入遅延が発生すれば、足場架設を済ませた状態で工事が止まるという最悪のシナリオがあり得ます。足場のリース料は1日単位で発生するため、工事が止まっているのに足場代が積み上がるという、組合にとって耐え難い構造になりかねません。私の経験上、これは資材高騰そのものよりも、組合の財務に打撃を与えやすい事象です。
第三のリスクは、長期修繕計画の前提崩壊です。多くの管理組合が、5年前または10年前に策定した長期修繕計画をベースに、修繕積立金の額を決定しています。しかし、ナフサ危機が常態化すれば、その計画上の単価では工事ができなくなります。すると、修繕積立金を一気に増額するか、一時金を徴収するか、工事内容を圧縮するかのいずれかを選ばざるを得ません。国土交通省の調査では、すでに修繕積立金が10年で平均5割増加しているとの報道もあり(出典:Yahoo!ニュース「分譲マンション『修繕積立金』10年間で平均5割『負担増』」(2026年5月14日))、組合員の負担余力は決して大きくありません。
ここからが本題です。3つのリスクを並べた上で、では理事長さまが今すぐ取れる行動は何か。次の章で5つに整理します。
5. 理事長が今すぐ取れる5つの実務対策
ここからは、私が実際に管理組合さまにお伝えしている対策を、優先度の高い順に5つ並べます。今週の理事会で1つ、来月までにあと2つ、というペースで進めていただければ十分です。
対策1:既存の長期修繕計画を「資材高騰」前提で再シミュレーション
最初にやっていただきたいのは、いまの長期修繕計画書を引っ張り出して、「資材費1.3倍」「資材費1.5倍」の2パターンで再シミュレーションすることです。専用のツールは要りません。Excelでも十分です。塗料・防水・シーリング・断熱材の項目に1.3〜1.5倍を掛け、残りの労務費・足場費・諸経費はそのままで合計を出すだけです。
これをやると、いま予定している大規模修繕の総額が、楽観シナリオでもプラス5〜8%、悲観シナリオでプラス10〜15%膨らむことが目に見えてきます。次回の総会で「いまの修繕積立金で足りるのか」「足りないなら、いつから・いくら積み増すのか」を議論する素材になります。私の経験上、数字を見ないまま「とりあえず据え置き」を続けると、3年後に必ず深刻な議論が押し寄せます。
対策2:見積書の有効期限を短縮し、再見積もり前提で契約条項を整える
第二に、すでに大規模修繕の見積書を取っている組合は、その有効期限を確認してください。発注予定日が有効期限を超える場合は、施工会社に早めに連絡し、再見積もりのスケジュールを擦り合わせるのが安全です。
それ以上に大事なのが、契約書の「材料費スライド条項」の確認です。公共工事では当然のように使われるスライド条項(材料費が一定割合以上上昇した場合に契約金額を見直す条項)が、民間の大規模修繕では入っていないケースが少なくありません。スライド条項がない契約で工事中に材料費が急騰した場合、施工会社が泣くか、組合が追加負担を飲むか、最悪のケースでは工事が止まるかの3択になります。
私はいつも理事長さまに、「契約書ひな型にスライド条項を最初から組み込み、上下5%・10%・15%の3段階で『どこから組合と協議するか』を明文化しておくのが、結果的にお互いにとって安全」とお伝えしています。これは押し売りでも何でもなく、組合と施工会社の双方を守る発想です。
対策3:設計コンサルタント・施工会社に「材料調達ルート」を質問項目として渡す
第三に、業者選定や設計監理契約のヒアリング項目に、「材料の調達ルート」を必ず加えてください。具体的には、塗料・防水材・断熱材それぞれについて、メーカーと商社・問屋の関係、在庫保有月数、納期見通し、代替メーカーの有無、を質問するのです。
これは、工事中断リスクを発注前にスクリーニングする最も実務的な手段です。複数メーカーと直接の取引関係を持つ施工会社、特定問屋に強い施工会社、フランチャイズや連合体で在庫情報を共有している施工会社は、納期遅延リスクをある程度コントロールできます。一方、小規模な施工会社のなかには、目の前の問屋にしか発注ルートを持っておらず、その問屋で品切れが起きたら一緒に止まってしまうケースもあります。
正直に申し上げます。これまで管理組合さまは、施工会社選定で「価格」と「実績」を重視されてきました。これからの局面では、それに「調達力」を加えていただきたいのです。明誠でも、ロープアクセスのフランチャイズ加盟店ネットワークを通じて、塗料・防水材の調達情報を共有する仕組みを少しずつ整えています。詳しくはロープアクセス工法のご紹介もご参照ください。
対策4:足場費の圧縮で、資材高騰分を吸収する設計を検討する
第四に、ぜひ検討していただきたいのが、足場仮設費の圧縮です。大規模修繕の総工事費に占める足場仮設費の割合は、建物形状や階数にもよりますが10〜20%にも達します。ここを圧縮できれば、資材高騰分の一部または全部を吸収できる可能性があります。
具体的な選択肢は3つあります。第一に、すべての作業を従来型の枠組足場で行う通常工法。第二に、外壁塗装や調査などを産業用ロープアクセス工法で行う無足場工法。第三に、足場が必要な部位(タイル張替、大規模なシーリング打ち替え、笠木交換など)は足場、それ以外(点検、補修、塗装の一部)はロープアクセスで行うハイブリッド工法です。
明誠では、この3つの工法から、建物の形状・階数・工事内容・近隣条件に応じて最適なご提案ができる体制を整えています。日本のなかで、この3つを自社で扱える会社は実は多くありません。たとえば10階建てのマンションで全面足場をかけると、足場費だけで3,000万円を超えるケースが珍しくありませんが、適切な部位でロープアクセスを併用すると、足場費を1,500〜2,000万円に抑えられることがあります。差額の500〜1,500万円は、そのまま資材高騰分の吸収原資になります。
私はいつも理事長さまに、「資材費を下げるのは難しい。労務費を下げるのはもっと難しい。でも、足場費は工法の選択で大きく変えられる」とお伝えしています。これは、私の20年の現場経験で得た数少ない確信のひとつです。
対策5:補助金・補正予算情報を継続的に追う仕組みを作る
第五に、補助金・補正予算の情報を継続的に追ってください。2026年5月14日には、政府が物価高対策で補正予算編成を検討しているとの報道が出ています(出典:TBS NEWS DIG「物価高対策で補正予算編成を検討 電気ガス補助金7月から再開」(2026年5月14日))。電気・ガス補助だけでなく、住宅・建築関連の支援策が組み込まれる可能性があります。
国の常設制度としては、国土交通省の「マンションストック長寿命化等モデル事業」が長期修繕計画の策定や先進的な修繕工事を支援しています(出典:国土交通省「マンションストック長寿命化等モデル事業」)。また、東京都および23区・市町村レベルでは、分譲マンションの修繕に対する助成制度が整備されています(出典:東京都マンションポータルサイト)。ナフサ危機を受けて拡充される可能性もあるため、年に数回はチェックする習慣をつけていただきたいのです。
私の経験上、補助金は「いつでも申請できる」ものではなく、「予算枠到達で締切」になる制度がほとんどです。情報を待つのではなく、取りに行く姿勢が結局は組合の利益につながります。詳しくは大規模修繕工事のご紹介のなかでも継続的に発信していきます。
6. 明誠の3工法×フランチャイズで何ができるか——施工側からの率直な話
ここから少しだけ、私たち施工側からの話をさせてください。押し売りにならないよう、事実だけを淡々と書きます。
明誠は、マンション・ビル・ホテルの大規模修繕工事を主な業務としています。通常足場工法、ロープアクセス工法(無足場工法)、両者を組み合わせたハイブリッド工法の3つを、自社で扱える数少ない会社のひとつです。日本のなかで、この3工法を1社で提案できる会社は片手で数えられるほどしかありません。
なぜこれが今回のナフサ危機の文脈で意味を持つのか、3つの理由を挙げます。
第一に、工法の選択肢が多いほど、コスト最適化の余地が大きいからです。先ほどの対策4で書いた通り、足場費の圧縮は資材高騰分の有力な吸収手段になります。1工法しか持たない会社は、足場の有無を切り替えられません。
第二に、ロープアクセス工法のフランチャイズ展開を日本で初めて行っている会社として、各分野の専門職(塗装、防水、タイル、電気、看板)と全国で連携できる仕組みを持っているからです。この連携網は、資材調達の局面でも機能します。複数の加盟店が異なるメーカー・問屋と取引関係を持つため、特定の品目で在庫が逼迫しても、別ルートを探す余地があります。
第三に、JCSA(一般社団法人全国建設業支援協会)の運営を通じて、業界全体の情報収集と発信に関わっているからです。ナフサ危機のような業界横断的な事象では、特定の会社だけでなく業界全体の動きを掴むことが、発注側にも施工側にも価値を持ちます。
繰り返しになりますが、これは押し売りではありません。私は、組合さまが他社さまから見積もりを取ることを止めません。むしろ、複数社に同条件で見積もりを依頼し、価格・実績・調達力の3軸で比較していただくのが、組合員さまにとって最も誠実な発注プロセスだと考えています。そのうえで、もし「3つの工法を組み合わせて見積もりを取ってみたい」「いまの長期修繕計画を資材高騰前提で見直したい」というご要望があれば、お問合せフォームからご相談だけでも遠慮なくお声がけください。総会の前段階の整理だけでも、お力になれることがあります。
7. 補助金・公的支援との組み合わせ——いま追っておくべき5本
最後に、ナフサ危機の局面で追っておくべき補助金・公的支援を5本に絞ってご紹介します。それぞれ、年度や予算枠で内容が変わるため、最新情報は必ず一次情報サイトで確認してください。
第一に、国土交通省「マンションストック長寿命化等モデル事業」(出典:国土交通省)。先進的な改修工事や、長期修繕計画の策定支援に充てられる事業です。
第二に、国土交通省「住宅・建築物省エネ改修推進事業」(出典:国土交通省 住宅・建築物の省エネルギー対策)。外断熱改修や窓改修など、省エネ性能の向上を伴う改修工事に活用できる支援制度の総称です。
第三に、東京都「分譲マンション総合相談窓口・各種助成」(出典:東京都マンションポータルサイト)。長期修繕計画の作成、修繕工事、管理状況の届出に応じた助成や相談支援が用意されています。
第四に、23区・市町村レベルの分譲マンション修繕助成。区によって名称・対象・上限額が異なります。たとえば千代田区、中央区、港区などはマンション施策に力を入れています。お住まいの自治体名と「マンション 修繕 助成」で検索するのが最短ルートです。
第五に、政府の補正予算動向(出典:TBS NEWS DIG)。電気・ガス補助の文脈で語られていますが、物価高対策として住宅・建築関連の臨時支援が組み込まれる可能性があります。補正予算は通年制度ではないため、発表のタイミングで一気に動く必要があります。
私の経験上、補助金は「うちのマンションは対象だろうか」と迷っているうちに締切になります。年度初頭の4月、補正予算の検討が始まる秋、年度末の駆け込み——この3つのタイミングで一度ずつ自治体の助成ページを覗いていただくだけで、機会損失は大きく減ります。
8. 出典・参考資料
- Yahoo!ニュース(読売新聞配信)「【中東情勢の影響】ナフサ原料の建築資材が不足―県営住宅・職員宿舎6件で外壁改修が一時中断」(2026年5月14日)
- Yahoo!ニュース「中東情勢の影響で塗料など入手困難…県営住宅など工事6件中断 鹿児島」(2026年5月14日)
- 新建ハウジング「日本ペイント、塗料類全般を値上げ 6月1日出荷分から」(2026年5月13日)
- ダイヤモンド・オンライン「断熱材40%、塗料80%高騰…家づくり総額が数百万円上がる『ナフサ危機』新築・リフォーム前に確認したい影響」(2026年5月14日)
- Yahoo!ニュース「断熱材が40%値上がり ナフサの供給不安定が住宅の建築現場に影響 建築資材の品薄状態」(2026年5月14日)
- TBS NEWS DIG「物価高対策で補正予算編成を検討 電気ガス補助金7月から再開 ガソリン補助継続で財源枯渇の懸念」(2026年5月14日)
- Yahoo!ニュース「分譲マンション『修繕積立金』10年間で平均5割『負担増』それでも費用が足りず高額な一時金請求」(2026年5月14日)
- 国土交通省「マンションストック長寿命化等モデル事業」
- 国土交通省「住宅・建築物の省エネルギー対策」
- 東京都「東京都マンションポータルサイト」
- 資源エネルギー庁「石油精製・石油化学」
最後に一言だけ。私は、この種の業界ニュースを目にするたびに、現場で会う組合員のみなさまのお顔が浮かびます。理事長を引き受けてくださっているのは、たいていの場合「やってもいいよ」と手を挙げてくださった善意の方です。そんな方に、ナフサ危機の細かい話まで全部を負わせるのは、私たち施工側にも申し訳ない気持ちがあります。だからこそ、私たちが情報を整理し、選択肢を並べて差し出す——それが施工会社としての本分だと、私は思っています。次回も、現場で本当に使える話だけをお届けします。
▼ロープアクセス工法・無足場工法の詳細解説はこちら
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