
賃貸物件を所有していると、必ずと言っていいほど直面するのが「空室」の問題です。一度空室が増え始めると、家賃収入は目に見えて減り、その焦りから多くのオーナーが真っ先に検討するのが「家賃の値下げ」です。
しかし、家賃を下げれば確かに入居は決まりやすくなる一方で、利回りは確実に低下し、一度下げた家賃をふたたび元の水準に戻すことは容易ではありません。さらに、周辺物件との値下げ競争に巻き込まれれば、消耗戦は終わりが見えなくなります。
そんな中、「家賃を下げずに」空室を解消した、注目すべき事例が報じられました。空室だった1室を入居者専用の「マンガラウンジ」に転用したところ、空室だらけだった賃貸物件が約4か月で満室になったというのです。
この記事では、その成功事例の中身を詳しくひも解きながら、収益不動産オーナーが自らの物件経営に活かせるヒントを整理していきます。
事例①:14室中9室が空室だった物件が、約4か月で満室に
報じられた事例の舞台は、愛知県内にある全14室の賃貸物件(フローラルコート美浜)です。
導入前の状況は、決して楽観できるものではありませんでした。全14室のうち、実に9室が空室。入居率はわずか約36%にとどまり、収益物件としては危機的とも言える状態だったのです。
この物件のオーナーが選んだのは、家賃の値下げでも、大々的な広告キャンペーンでもありませんでした。2023年11月、空室となっていた1室を、約4,000冊のマンガを自由に読める「入居者専用コミックラウンジ」へと転用したのです。
ここで注目したいのは、この決断が一見すると「逆行」しているように見える点です。本来であれば家賃収入を生み出すはずの1室を、あえて収益を生まない共用スペースに変えてしまう。賃貸可能な戸数は14室から13室へと、自ら減らすことになります。
ところが結果は、多くの人の予想を覆すものでした。導入から約4か月後の2024年3月には、残る13室すべてに入居者が決まり、満室状態を達成したのです。
さらに重要なのは、この期間に家賃・募集条件・管理会社・広告方法・居室設備のいずれにも大きな変更がなかったという事実です。つまり、値下げという「痛みを伴う対策」をせずに、空室が一気に埋まったことになります。
もちろん、サービスを提供した会社自身も「コミックラウンジだけが満室の唯一の要因であると断定するものではない」と慎重に述べています。賃貸市場のタイミングや立地など、複数の要因が重なった可能性はあるでしょう。
それでも、内見時の印象を大きく変え、他物件との明確な差別化を生んだという点で、この事例が示す意味は小さくありません。「一室単位の収益」ではなく「物件全体の価値と入居率」を見据えた判断が、結果的に空室対策として機能したのです。
事例②:築年数を重ねた物件でも通用する。神戸市「西神糀台ミオ」のケース
もう一つ、参考になる事例があります。JR西日本プロパティーズ株式会社が運営する賃貸物件「西神糀台ミオ」(兵庫県神戸市西区、全52戸、西神中央駅から徒歩7分)のケースです。
この物件では、2025年7月、約6,000冊のマンガと本棚24台を備えた入居者向けコミックラウンジが導入されました。特筆すべきは、転用されたスペースが「7年以上利用されていなかった多目的ホール」だったという点です。
多くの集合住宅には、当初は良かれと思って設けられたものの、実際にはほとんど使われていない共用部が眠っています。集会室、多目的ホール、ロビーの一角――こうした「デッドスペース」を、入居者が本当に使いたくなる空間へと生まれ変わらせたわけです。
導入を決めた同社の担当者は、その理由を「近隣の新築物件に対抗できるコンテンツになると感じた」と振り返っています。築年数を重ねた物件にとって、ピカピカの新築は手強い競争相手です。設備の新しさで勝負するのは難しい。しかし、新築にはない「体験価値」を加えることなら、既存物件にも十分に勝機があるという発想です。
実際に約5,800冊のマンガが並んだ空間を見た担当者は、「率直に『すごい』と感じた。同時に、ここに住みたいと思える空間になったという印象を持った」と評価しています。
オープン直後の入居者の反応も印象的でした。
- 「コミックルームの鍵を貸してください」
- 「いつから利用できますか」
- 「本当に無料で使えるのですか」
こうした問い合わせが相次いだといいます。とりわけお父さんと子どもが一緒に利用するなど、ファミリー層を中心に高い関心が寄せられ、週末には子どもから大人まで幅広い世代が集う憩いの場になっているとのことです。
さらに興味深いのは、管理会社から「この空間は、有料にすれば売り上げが上がるのではないか」という声が出るほど、無料の共用施設として高く評価された点です。入居者にとっての満足度が、それだけ高かったことの裏返しと言えるでしょう。
この事例は、築年数を重ねた物件であっても、既存の共用部に新しい体験価値を加えることで、入居者満足度の向上と物件の差別化を図れることを具体的に示しています。
「設置して終わり」ではなかった――継続して使われる仕組み
この事例がもう一つ示しているのは、空室対策は「つくって終わり」ではないという点です。
一般的に、共用設備は導入した直後こそ注目されるものの、時間が経つにつれて使われなくなり、結局はデッドスペースに戻ってしまうことが少なくありません。せっかく設けたキッズスペースや集会室が、数年後には物置同然になっている――そんな光景は珍しくないでしょう。
今回の事例では、マンガラウンジが「使われ続ける状態」を保つための工夫が随所に施されていました。毎月の最新刊の補充、数か月ごとの作品の入れ替え、利用者からの「この作品が読みたい」というリクエストへの対応、そして希望した作品が入荷した際の本人へのメール通知。こうした運用によって、入居者が繰り返し足を運ぶ動機が生まれ続けるよう設計されていたのです。
オーナーの視点から見れば、ここに大きな示唆があります。空室対策として何かを導入する際には、「導入時のインパクト」だけでなく、「導入後も継続して入居者に使われ、満足度につながるか」までを見据える必要があるということです。一過性の話題づくりに終わらせず、入居者の定着、ひいては長期入居による安定した稼働率につなげてこそ、本当の意味での空室対策と言えます。
二つの事例から読み取れる、空室対策の本質
ジャンルこそ「マンガ」というユニークなものですが、これらの事例が示している考え方は、すべての賃貸オーナーに通じる普遍的なものです。要点を整理してみましょう。
1. 「家賃を下げる」前に「住みたい理由を加える」
空室が増えたとき、家賃の値下げは最も手軽で、最も即効性があるように見える対策です。しかしそれは、物件の魅力そのものを高める対策ではありません。値下げは「安いから選ばれる」物件をつくるだけで、利回りを確実に削っていきます。
一方で、物件に「ここに住みたい」と思わせる理由を加えることができれば、家賃を維持したまま選ばれる物件になります。今回の事例は、まさにこの発想の転換が成果につながったケースだと言えます。
2. 「一室の収益」より「物件全体の価値」で考える
1室を共用スペースに変えれば、その部屋単体の家賃収入はゼロになります。短期的・部分的に見れば「損」です。
しかし、その1室が呼び水となって他の全室が埋まるなら、物件全体の収益は大きく改善します。空室9室が埋まることと、共用化で1室を手放すこと――どちらが物件全体にとって得かは、計算するまでもありません。部分最適ではなく全体最適で判断する視点が、空室対策では欠かせません。
3. 内見時の「第一印象」を制する
賃貸の意思決定は、内見時の印象に大きく左右されます。間取りや家賃が似た物件が並ぶ中で、最後に決め手となるのは「なんとなく良さそう」「ここなら住んでみたい」という感覚的な魅力です。
ありふれた共用部しかない物件と、思わず「すごい」と声が出る空間がある物件。仲介会社が紹介したくなり、入居希望者の記憶に残るのは、間違いなく後者です。差別化された空間は、内見という勝負どころで強力な武器になります。
4. 眠っている共用部・デッドスペースを資産に変える
「西神糀台ミオ」のように、長年使われていない共用部を抱えた物件は決して珍しくありません。管理費や固定資産税を払い続けながら、何も価値を生んでいないスペースは、いわば「眠っている資産」です。
それを入居者が本当に使いたくなる空間へと再生できれば、物件の魅力は一段引き上がります。新しく土地や建物を取得しなくても、既存の空間の使い方を変えるだけで価値を生み出せる――これは多くのオーナーが見落としがちな視点です。
「マンガ」でなくてもいい。大切なのは「選ばれる理由」をつくること
ここで強調しておきたいのは、空室対策の答えが「マンガラウンジ」そのものにあるわけではない、ということです。
今回の事例で本当に効いていたのは、マンガという題材以上に、「この物件に住みたい」と思わせる明確な理由を意図的につくり出したこと、そして部分ではなく物件全体の価値で意思決定をしたことです。
物件の立地、築年数、戸数、入居者層によって、最適な「選ばれる理由」は変わります。ファミリー層が多い物件、単身者中心の物件、学生向けの物件では、響く魅力もそれぞれ異なるでしょう。共用部のリニューアル、外観・エントランスの刷新、設備のグレードアップなど、打ち手は一つではありません。
重要なのは、「家賃を下げる」という選択肢に飛びつく前に、「この物件に付加価値を加えて選ばれる物件にできないか」という発想を持つことです。
建物そのものの価値を見直すことも、立派な空室対策
付加価値による差別化と並んで忘れてはならないのが、建物そのものの状態です。
どんなに魅力的な共用設備を用意しても、外壁がひび割れ、タイルが浮き、エントランスの防水が劣化して雨漏りが起きているような物件では、内見者の第一印象は大きく損なわれます。逆に、外観が美しく整い、清潔感のある建物は、それだけで「きちんと管理されている」という安心感を与え、入居の決め手になります。
大規模修繕は、単なる「建物の延命メンテナンス」ではありません。外観の刷新によって物件の印象を一新し、入居者に「ここに住みたい」と思わせる――これもまた、家賃を下げずに物件価値を高める、極めて本質的な空室対策なのです。
「空室が気になり始めた」「築年数が経ってきて入居付けに苦戦している」という段階は、物件全体の価値を見直す絶好のタイミングでもあります。共用部の使い方を工夫する付加価値づくりと、建物そのものをリフレッシュする大規模修繕。この二つを組み合わせることで、家賃を下げずに「選ばれ続ける物件」へと再生させることは十分に可能です。
もし自社物件の空室対策や、建物の状態に応じた最適な修繕プランについてお悩みでしたら、お気軽にご相談ください。建物の状況を丁寧に見極めたうえで、物件にとって本当にベストな打ち手をご提案いたします。
大規模修繕・空室対策のご相談は株式会社明誠へ
株式会社明誠は、創業から6000棟超の施工実績を持つ、マンション・ビル・ホテルの総合改修工事会社です。従来の足場仮設による大規模修繕工事、足場を組まない無足場工法「ロープアクセス」、そして両者を組み合わせた「ハイブリッド工法」という3つの工法を扱い、建物の形状・ご予算・長期計画に合わせて、御物件にとって本当にベストな工法をご提案できる、日本でも数少ない会社です。
さらに、塗装・防水・タイル・電気・看板工事など、各分野の専門職が加盟するフランチャイズのネットワークを持ち、それぞれの工程をその道のプロが責任をもって施工することで、高品質と低価格を両立しています。
「空室が気になり始めた」「外壁の劣化で物件の印象が落ちている」「建物の状態に合わせた最適な修繕プランを知りたい」——そうしたお悩みがありましたら、ご相談だけでもお気軽にお声がけください。建物の状況を丁寧に見極めたうえで、根拠とともに最適な一手をご提案いたします。
【会社名】 株式会社明誠
【所在地】 〒207-0004 東京都東大和市清水5-1003-57
【連絡先】 TEL:042-508-3567/FAX:042-508-3568
【Webサイト】 https://meiseitosou.com/


