本間社長ブログ
ほたて貝殻の外壁塗料を大林組が開発|環境配慮型塗料は大規模修繕で選べる?管理組合・オーナーが押さえたい5つの判断軸【2026年10月】
目次
- この記事で分かること
- 結論|新しい塗料より先に、「外壁の周期」と「塗料以外の費用」を見直す
- ニュースの要点|大林組が発表した「スキャロップペイント」とは
- このニュースを読むときの3つの注意点
- 大規模修繕の外壁塗装を、国の資料であらためて確認する
- 塗料より先に見たい「下地」と「シーリング」
- 仮設(足場)の考え方|環境面でも費用面でも効くのは「回数」と「工法」
- 管理組合・オーナーが押さえたい5つの判断軸
- 収益不動産オーナーの視点|環境配慮は「選ばれる物件」の要素になり得る
- いま準備できること|次の修繕に向けた5つのステップ
- 私が現場で感じていること|新しい材料ほど、地味な基本が効いてくる
- よくある質問(FAQ)
- この記事のポイントまとめ
- 出典・参考資料

-
著作者プロフィール
株式会社明誠 代表取締役
本間 幸紘
大規模修繕・外壁工事・ロープアクセス工事に関する情報を、現場経験をもとに分かりやすくお届けします。
この記事で分かること
「環境にやさしい塗料が出てきたと聞いたが、次の大規模修繕で使えるのだろうか」——。こうしたご質問を、これから外壁塗装を含む修繕を迎える管理組合の理事長さまや、収益不動産のオーナーさまからいただく機会が増えてきました。
その背景にあたるニュースが、10月15日に出ました。大林組が、ほたて貝殻を粉砕した粉末を20%配合した外装用の水性ふっ素樹脂塗料「スキャロップペイント」を開発し、3か所の現場に適用したと発表したのです(出典:大林組 ニュースリリース(2026年10月15日))。
この記事が答える質問は、次の1つです。
Q. ほたて貝殻の外壁塗料は、次の大規模修繕で選べるのか。選べないとしたら、いま管理組合やオーナーは何を準備すればよいのか。
結論を先にお伝えします。
- 現時点では「製品化に向けた検討段階」です。 大林組の発表では、今後の方針として「製品化に向けた検討」を進めるとされており、市販塗料として発注できる状態ではありません。
- 今回の適用先は、研究施設の内装、3Dプリンターで造ったベンチや擁壁など3か所です。マンションやビルの外壁の塗替えに使われた実績は、発表資料には記載されていません。
- ただし、ニュースの価値は「今すぐ使えるか」だけではありません。建築の仕上げ材が、性能を保ったままCO2の少ない材料へ置き換わっていく流れの一端を示すニュースとして、次の修繕計画に活かせる視点があります。
- 本当に外壁の寿命を左右するのは、塗料の銘柄よりも先に、下地補修、シーリング、仮設(足場)、施工管理という「塗料以外の要素」です。ここを押さえてこそ、新しい塗料の恩恵も受けられます。
この記事では、①ニュースの中身を数字で整理し、②大規模修繕の外壁塗装の基本を国の資料で確認し、③塗料以外の要素の見方を解説したうえで、④管理組合・オーナーが押さえたい5つの判断軸と、見積書のチェックポイントをお伝えします。
最終更新:2026年10月17日
結論|新しい塗料より先に、「外壁の周期」と「塗料以外の費用」を見直す
細かい話に入る前に、私の考えを3行でまとめます。
- 環境配慮型の塗料は、これから選択肢が増えていく可能性があります。 ただし、特定の新製品が出るのを待って修繕を先送りするのは、建物にとって得策ではありません。
- 外壁塗装の周期は、国のガイドラインで「12〜15年」の幅を持つ目安が示されています。 劣化が進む前に、建物の状態を見て判断することが先です。
- 塗料の差で変わる費用より、足場などの仮設費の方が大きいことが多いのが実情です。環境面でも費用面でも、「何回足場を組むか」を減らす設計が効きます。
私は、20年以上、マンション・ビル・ホテルの大規模修繕に携わってきました。その経験から申し上げると、塗料のニュースに心が動くのは自然なことですが、発注の成否は、塗料の名前ではなく、工事の組み立て方で決まる場面の方がずっと多いと感じています。
ニュースの要点|大林組が発表した「スキャロップペイント」とは
まず、発表された内容を整理します。大林組の発表をもとに、数字を表にまとめました。
| 項目 | 発表内容 |
|---|---|
| 発表日 | 2026年10月15日 |
| 発表者 | 株式会社大林組 |
| 名称 | 外装用水性ふっ素樹脂塗料「スキャロップペイント」 |
| 原料の工夫 | ほたて貝殻を粉砕した粉末を、塗料に使う炭酸カルシウムの代わりとなる「バイオマスフィラー」として配合 |
| 配合量 | 塗料中に20% |
| 従来の炭酸カルシウム(石灰石原料)の製造時CO2排出量 | 0.0879 kg-CO2/kg |
| ほたて貝殻のCO2排出量 | −0.44 kg-CO2/kg(成長の過程でCO2を吸収・固定するため、マイナスで評価) |
| 耐候性の確認 | 促進耐候性試験を約5,500時間実施(大林組は実環境の約30年に相当すると説明)。従来の水性ふっ素樹脂塗料と同等の光沢保持率・色差を確認 |
| 現場適用 | 3か所(技術研究所の内装、3Dプリンター製ベンチ、ダム仮設建物の3Dプリンター製擁壁) |
| 今後 | 製品化に向けた検討、環境配慮型仕上げ材の適用範囲拡大 |
(出典:大林組 ニュースリリース(2026年10月15日))
「バイオマスフィラー」とは何か
専門用語が出てきましたので、補足します。
塗料は、色のもとになる「顔料」、塗膜を作る「樹脂」、そして量を増やしたり塗膜の性質を整えたりする「フィラー(充填剤)」などで構成されています。このフィラーとして、一般には炭酸カルシウム(石灰石を原料とする白い粉)が広く使われています。
今回の技術は、このフィラーの一部を、ほたて貝殻を砕いた粉に置き換えるというものです。ほたての貝殻の主成分も炭酸カルシウムで、性質が近いため、塗料の材料として使える、という発想です。
大林組によると、ほたて貝殻は焼却しにくく、自然にも分解されにくいため、水産加工で出る貝殻の処分が課題になっていました。つまり、捨てるのに困っていたものを、建築材料として生かすという、資源循環の取り組みでもあります。
数字の読み方|「CO2がマイナス」とは
表にあるCO2排出量の数字は、少し分かりにくいかもしれません。
石灰石から作る炭酸カルシウムは、製造にあたって0.0879 kg-CO2/kgのCO2が出ると整理されています。一方、ほたて貝殻は、育つ過程で海水中のCO2を殻に取り込むため、−0.44 kg-CO2/kgと評価されています。
つまり、フィラーの一部を貝殻粉に置き換えれば、塗料の材料段階でのCO2を減らす方向に働く、というのが大林組の考え方です。ただし、この数字はあくまで「フィラー1kgあたり」の話です。塗料全体、さらに塗装工事全体でどれだけCO2が減るかは、発表資料には示されていません。塗料を貝殻入りにするだけで、建物のCO2が大きく変わるわけではない点は、冷静に受け止めておきたいところです。
「同等の性能」と書かれている意味
もう1つ大切なのが、耐久性です。外壁塗料は、環境への配慮だけでは選べません。美観と防水性を長く保てなければ、修繕の回数が増え、かえって環境負荷も費用も増えてしまいます。
発表では、約5,500時間の促進耐候性試験(人工的に紫外線や雨などを当てて、劣化を早く再現する試験)で、従来の水性ふっ素樹脂塗料と同等の光沢保持率と色の変化(色差ΔE)を示したとされています。色差ΔEは、数字が小さいほど色の変化が少ないことを表します。
ここで私が注意したいのは、促進試験の結果は、実際の建物で何十年も経った結果とは別物だということです。実際の外壁は、日当たり、海風、排気ガス、下地の動き、施工のばらつきなど、試験室にはない条件にさらされます。大林組自身も、今後は製品化に向けて検討を進める段階としています。実建物での追跡データが積み上がるまでには、時間がかかるとみておくのが現実的です。
実は「第2弾」|2024年のシーリング材につながる技術
今回の塗料は、突然出てきた技術ではありません。大林組は2024年6月21日、セメダイン株式会社と共同で、ほたて貝殻粉末を使ったシーリング材「スキャロップシール」を発表しています。
- 2成分形の変成シリコーン系シーリング材で、炭酸カルシウムの約30%を貝殻由来のフィラーに置き換えています。
- 2024年4月にJIS認証を取得しています。
- 一般的な同種のシーリング材とほぼ同等のコストで、同様の耐水性・耐熱性を実現したと説明されています。
- 大阪・関西万博の「ウーマンズ パビリオン」の新築工事で現場適用されました。
シーリング材は、2年前に先行して実用段階に入り、今回その考え方が塗料へ広がった、という流れです。環境配慮型の仕上げ材は、段階的に製品化が進んでいく可能性があると読むのが、現時点では自然だと思います。
このニュースを読むときの3つの注意点
新しい技術のニュースは、読み方を誤ると、判断を狂わせます。管理組合や不動産オーナーの立場で、私が注意しておきたい点を3つ挙げます。
注意点1|「開発した」と「発注できる」は別の話
今回の発表は、あくまで開発と試験適用の報告です。発表資料には、販売開始の時期も、価格も、塗料メーカーとの提携も書かれていません(開発パートナーに関する記載はありません)。
大規模修繕の発注では、塗料は「仕様書」に銘柄または性能で指定され、複数社の見積りで比較されます。メーカーが流通させていない塗料は、どれだけ話題になっても、見積りには載せようがありません。製品化されるまでは「将来の選択肢」として頭の片隅に置くのが、適切な距離感だと思います。
注意点2|適用先は、外壁の塗替えとは条件が違う
発表された3か所は、研究施設の内装、3Dプリンターで造ったベンチ、ダム仮設建物の擁壁です。いずれも先進的な取り組みですが、居住中のマンションや営業中のホテルの外壁を、何十年も雨風から守るという条件とは、状況が異なります。
外壁の塗替えには、次のような固有の難しさがあります。
- 既存の塗膜やタイルの上に塗るため、下地との相性(付着性)が大切になる。
- 部位によって、ひび割れ、浮き、シーリングの動きなど下地の挙動が違う。
- 居住者や宿泊客がいる中での施工になり、臭気や粉じん、工程への配慮が要る。
- 足場やロープで作業するため、天候や高所作業の制約を受ける。
つまり、新しい塗料が本当に外壁の現場で使えるかどうかは、これからの実証で見えてくる部分が大きいということです。
注意点3|塗料の環境性能と、建物全体の環境負荷は同じではない
外壁修繕で出るCO2や廃棄物は、塗料の材料だけでは決まりません。足場の部材の運搬・組立・解体、高圧洗浄の水、下地補修の材料、工事車両の動き、そして何年ごとに工事を繰り返すかまで含めて考える必要があります。
私は、次のように整理しています。
| 環境負荷を左右する要素 | 管理組合・オーナーが関われる度合い |
|---|---|
| 塗料の材料(フィラーなど) | 製品が選べるようになれば関与できる(現状は限定的) |
| 修繕の周期(何年ごとに塗り替えるか) | 大きい(劣化診断と長期修繕計画で決められる) |
| 足場を組む回数 | 大きい(工事のまとめ方で変えられる) |
| 下地補修の質(やり直しを減らせるか) | 大きい(仕様書と施工管理で決まる) |
| 工法の選び方(足場・ロープ・併用) | 大きい(建物の形状・条件で選べる) |
この表のとおり、今すぐ私たちが動かせる部分は、塗料の中身ではなく、周期・回数・下地・工法です。ここを整えれば、将来、環境配慮型の塗料が選べるようになったときも、その性能を生かしやすくなります。
大規模修繕の外壁塗装を、国の資料であらためて確認する
新しい塗料の話を受け止める前に、土台となる基本を確認しておきましょう。ここがぐらつくと、どんな塗料を選んでも判断を誤りやすくなります。
国交省ガイドラインが示す外壁塗装の周期は「12〜15年」
国土交通省は、令和3年(2021年)9月28日に「長期修繕計画標準様式、長期修繕計画作成ガイドライン・同コメント」と「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」を見直しました。このとき、大規模修繕の周期は、固定の年数ではなく、一定の幅を持たせた目安に改められています。
外壁塗装(塗替)については、修繕周期の参考が12〜15年とされ、改訂前の「12年」から幅を持つ記載に変わりました。想定されている修繕方法は、高圧水洗と下地処理を行ったうえで、アクリルシリコン樹脂系の塗材で仕上げるものです(出典:国土交通省 報道発表資料(令和3年9月28日))。
その後、令和6年6月7日にも、積立金の段階増額方式の考え方などを中心に、両ガイドラインの改定が行われています(出典:国土交通省 報道発表資料(令和6年6月7日))。実際の計画づくりでは、最新のガイドライン本文(国土交通省「マンション管理について」で公開)を確認してください。
大切なのは、この年数は「目安」であって、期限ではないということです。日当たりの強い面、海沿い、交通量の多い道路沿いなど、条件によって劣化の進み方は変わります。逆に、状態が良ければ、先に延ばせる場合もあります。
「塗料のグレード」は、周期と費用のバランスで考える
外壁用の塗料は、一般に、使われている樹脂の種類によって、アクリル、ウレタン、シリコン、ふっ素といったグレード分けがされます。今回の「スキャロップペイント」は、そのうちふっ素樹脂に分類される塗料です。
一般的に、ふっ素樹脂塗料は耐候性が高いとされ、長い周期を見込む建物で検討されることが多い一方、材料費は高くなる傾向があります。ただし、具体的な耐用年数は、製品・下地・施工条件・立地で大きく変わり、「何年もつ」と一律には言えません。メーカーのカタログ値は、一定の試験条件での目安であり、実際の建物での寿命を保証するものではない点にもご注意ください。
私がオーナーさまやご担当者さまにお伝えしているのは、次の考え方です。
- 塗料の単価だけを比べず、「足場を次に組む時期までに、塗膜がどれだけ持つか」で比べる。
- 長い周期の塗料を選ぶなら、下地補修やシーリングも同じ周期で持つ仕様にそろえる。塗膜だけが長持ちしても、シーリングが先に切れれば、そこから雨水が入ります。
- 建物の将来計画(建替え・売却・用途変更の予定)によっては、あえて標準グレードで周期を短く回す方が合理的な場合もある。
塗り替えの費用は、塗料以外の項目が大きい
外壁塗装を含む大規模修繕の費用は、塗料の価格だけで決まるわけではありません。経済調査会の「マンション修繕費指数」2026年版では、1戸あたりの平均修繕費は156.0万円、そのうち仮設工事(足場など)は38.7万円で、構成比は24.8%とされています(出典:経済調査会「マンション修繕費指数」2026年版を公開、2026年9月29日)。
つまり、修繕費のおよそ4分の1が「仮設」です。塗料の種類を1ランク上げた場合の差額より、足場を組む回数や期間、工法の選び方の方が、総額に与える影響が大きくなる場面は、決して珍しくありません。この点は、後ほど詳しく触れます。
塗料より先に見たい「下地」と「シーリング」
ここからが、私が現場で一番お伝えしたい本題です。ここまで読んでくださった方は、新しい塗料に期待を持たれたかもしれません。だからこそ、塗料の性能を引き出すための土台の話をさせてください。
塗膜は、下地の上に乗っているだけ
外壁塗装は、よく「お化粧」にたとえられます。肌が荒れたまま高価な化粧品を塗っても、きれいには仕上がりません。外壁も同じで、下地にひび割れ、浮き、錆び汁、旧塗膜の剥がれが残っていれば、どんなに高性能な塗料を塗っても、そこから傷み始めます。
現場で私がよく目にするのは、次のような流れです。
- 見積り比較の場面で、塗料のグレードの話ばかりが盛り上がる。
- 下地補修の数量(ひび割れの長さ、浮きの面積など)は「一式」で、中身が見えない。
- 工事が始まってから、想定より補修箇所が多いと分かり、追加費用の相談になる。
こうした行き違いは、塗料の問題ではなく、調査と数量の見積り方の問題です。外壁の浮きやひび割れの数量は、足場を組む前の調査では分かりきらない部分が残ります。だからこそ、契約前に「想定数量」と「数量が増減したときの精算方法」を取り決めておくことが、管理組合を守ります。
シーリングは、塗装と同じ周期でそろえる
外壁には、目地やサッシまわりに、ゴム状のシーリング材が充填されています。シーリング材は、建物の動きを吸収し、雨水の侵入を防ぐ役割を担っています。ところが、紫外線や動きによって、塗膜より先に劣化することも少なくありません。
大規模修繕では、外壁塗装とあわせて、シーリングを打ち替える(古いものを撤去して新しく充填し直す)のが一般的です。理由は単純で、足場を組んでいる間に、まとめて直した方が合理的だからです。
先ほど触れた大林組の「スキャロップシール」は、塗料との密着性が良く、液垂れを抑えられるなど作業性にも優れると説明されています(出典:大林組 ニュースリリース(2024年6月21日))。環境配慮型のシーリング材と環境配慮型の塗料が、同じ考え方でそろっていく流れは、今後の大規模修繕の姿を考えるうえで、参考になります。
見積書で確認したいのは、次のような点です。
| 確認項目 | 見るポイント |
|---|---|
| シーリングの工法 | 「打ち替え」か「増し打ち」か。部位ごとに分けて書かれているか |
| 数量 | 目地の延べ長さ(m)が示されているか |
| 使用材料 | 製品名・種類(変成シリコーン系など)が書かれているか |
| 塗料との組合せ | シーリングの上に塗る塗料との相性が確認されているか |
| 保証 | 塗膜とシーリングで、保証の範囲と年数が分けられているか |
「塗料のカタログ」より「施工の記録」を見る
もう1つ、塗料選びで見落とされがちなのが、施工品質を確認する方法です。塗料は、メーカーが定める「塗布量」「乾燥時間」「塗り回数」を守って、はじめて設計どおりの性能が出ます。
- 規定の塗布量が守られているか(薄めすぎ、塗り重ね不足がないか)
- 下塗り、中塗り、上塗りの各工程で、写真や記録が残されるか
- 雨天や低温・高湿の日に塗っていないか
- 監理者(管理組合の側に立つ専門家)が工程ごとに立ち会うか
私は、見積りの提案を受ける際、「材料の名前」より先に、「この工程を、誰が、どうやって確認するのか」をお尋ねになることをおすすめしています。ここが曖昧な提案は、塗料が優れていても、リスクが残ります。
仮設(足場)の考え方|環境面でも費用面でも効くのは「回数」と「工法」
次に、先ほどの数字に戻ります。修繕費の約4分の1を占める仮設費は、環境面でも、無視できない要素です。
足場を組むたびに、材料・運搬・人手が動く
足場は、鋼材の部材をトラックで運び込み、組み立て、工事中は維持し、終われば解体して運び出します。この一連の作業には、資材の運搬、組立・解体の人手、期間中の安全管理が伴います。1回の足場にこれだけの手間がかかる以上、足場を組む回数を減らすことは、費用の面でも、環境負荷の面でも意味があります。
現場でよく相談を受けるのは、次のようなケースです。
- 外壁は今回の工事で直したが、屋上防水や鉄部の塗装を別時期にしたため、数年後にまた足場や養生が必要になった。
- 設備の更新(給排水管や外灯など)と外壁修繕の時期が合わず、同じ壁面に何度も手を入れることになった。
長期修繕計画の段階で、外壁・防水・鉄部・設備の工事を、できるだけ同じタイミングにまとめられないかを検討しておくと、仮設の無駄を減らせます。もちろん、積立金の資金繰りとの兼ね合いもありますので、無理にまとめるべきという話ではありません。ただ、「バラバラにしたら足場が何回必要か」を、一度計算してみる価値はあります。
足場・ロープアクセス・ハイブリッドという3つの選択肢
明誠では、建物の形状や条件に応じて、次の3つの工法から、最適な組合せをご提案しています。
| 工法 | 特徴 | 向いている建物の例 |
|---|---|---|
| 通常の足場仮設 | 建物全体を足場で囲う標準的な工法。面積の大きい全面改修に向く | 形状が単純で、全面を一度に改修したい建物 |
| ロープアクセス(無足場)工法 | ロープで外壁に降りて作業する。足場を組まないため、建物条件によっては、仮設の費用・期間・圧迫感を抑えやすい | 部分補修、調査、点検、営業中のホテルやビル、足場が組みにくい立地 |
| ハイブリッド工法 | 足場とロープアクセスを部位ごとに使い分ける | 一部の面だけ足場が組みにくい、または工事の範囲が部分的に分かれる建物 |
ロープアクセス工法の基本や、安全面の考え方は、姉妹サイトロープアクセスドットコムでも詳しく解説しています。また、明誠のロープアクセス工法のご紹介もあわせてご覧ください。
ここで誤解のないようにお伝えしておきたいのは、ロープアクセスがどんな建物でも最適、という話ではないということです。外壁全面の塗替えで、広い面積に長い工期がかかる場合は、足場の方が効率的なこともあります。大切なのは、工法を最初から決め打ちせず、3つの工法で比較して選ぶことです。
営業中のホテル・入居中のビルでは、工法が収益を左右する
収益不動産のオーナーさまにとっては、工法は費用だけでなく、収益への影響でもあります。
- ホテルや旅館では、足場とシートで客室の眺望が遮られると、客室の販売に影響が出ることがあります。
- 賃貸マンションやテナントビルでは、足場による防犯面の不安、洗濯物や採光の制約が、入居者の不満につながることがあります。
- 長い工期は、その分、入居者への配慮や苦情対応の負担が増えます。
環境配慮型の塗料が使えるかどうかより前に、工事の期間と範囲を、収益への影響を踏まえて組み立てることが、オーナーの実利に直結します。この観点は、ホテルのオーナーさま向けのご案内や、ビルオーナーさま向けのご案内でも詳しくご説明しています。
管理組合・オーナーが押さえたい5つの判断軸
ここまでの内容を、次の大規模修繕に向けた「判断軸」として整理します。環境配慮型塗料が製品化されたときにも、そのまま使える見方です。
判断軸1|周期は「年数」ではなく「劣化診断」で決める
国のガイドラインは、外壁塗装の周期を12〜15年の幅で示していますが、実際に塗り替える時期は、建物の状態を調べて決めるのが基本です。
- 外壁のチョーキング(手で触ると白い粉が付く現象)の程度
- ひび割れ、浮き、シーリングの割れ・肉やせ
- 防水層の状態、鉄部の錆び
- 雨漏りや結露などの、居住者・入居者からの報告
調査は、足場を組む前の目視、打診、必要に応じた赤外線調査、ドローン、ロープアクセスによる近接調査などを組み合わせて行います。周期を延ばす根拠も、前倒しする根拠も、調査の記録です。新しい塗料の登場を理由に、調査を後回しにしないことが大切です。
判断軸2|仕様書は「銘柄指定」より「性能指定」で書く
塗料は、発注の際、銘柄(特定の商品名)で指定する方法と、求める性能で指定する方法があります。
銘柄だけで指定すると、競争が働きにくくなったり、そのメーカーの都合に左右されたりします。性能で指定する場合は、たとえば次のような項目を仕様書に盛り込みます。
| 性能の項目 | 仕様書での書き方の例 |
|---|---|
| 耐候性 | 促進耐候性試験の時間、光沢保持率・色差の基準を示す(JIS規格など公的な試験方法に基づくもの) |
| 付着性 | 既存塗膜や下地との付着性の確認方法(試験塗りや引張試験など) |
| 施工条件 | 塗布量、塗り回数、乾燥時間、施工できる気温・湿度 |
| 環境性能 | 揮発性有機化合物(VOC)の扱い、再生材料の使用など、求める環境配慮の水準 |
| 保証 | 塗膜の保証年数、保証の範囲(剥がれ・膨れなど)と免責の条件 |
こうした書き方にしておくと、将来、ほたて貝殻入りのような環境配慮型塗料が製品化されたときも、性能の基準を満たすかどうかで、公平に比較できます。特定の新製品を待つより、「性能で選べる仕様書」を準備しておく方が、有効な備えになります。
判断軸3|環境価値と費用の「見合い」を、数字で確認する
環境配慮型の材料は、導入初期には、従来品より価格が高くなることがあります。一方、大林組のシーリング材は「ほぼ同等のコスト」と説明されているように、普及とともに価格差が縮まっていくケースもあります。
判断のときは、次の3つを分けて考えると整理しやすくなります。
- 追加費用はいくらか(同等性能の従来品と比べた差額)
- その追加費用で、何が得られるか(CO2削減の量、廃棄物の削減、自治体や取引先への説明材料など)
- 性能は同等以上か(耐久性、保証、施工実績)
なお、国は公共工事を中心に、環境に配慮した物品を優先して調達する「グリーン購入法」の枠組みを運用しています。経済産業省は令和8年度についても、公共工事の特定調達品目に関する提案募集を行っており、温室効果ガス排出削減や資源循環に資する提案を重視する姿勢を示しています(出典:経済産業省 グリーン購入法の特定調達品目に関する提案募集について(公共工事))。民間のマンションや収益物件に直接適用される制度ではありませんが、建設資材の環境配慮が社会の大きな流れであることは確かです。
補助金や助成金の対象になる環境配慮型の改修があるかどうかは、自治体ごとに異なります。最新の制度は、お住まいの自治体の窓口や公式サイトで確認してください。当社でも、ご相談の際に確認をお手伝いします。
判断軸4|「塗料以外の費用」を、先に固める
先ほどの数字のとおり、修繕費の約4分の1は仮設費です。さらに、下地補修、シーリング、防水、鉄部塗装といった項目が続きます。
見積書を比較するときは、塗料の単価ではなく、工事全体の内訳をそろえて並べることをおすすめします。
| 比較したい項目 | 確認の視点 |
|---|---|
| 仮設(足場・養生) | 面積(㎡)、期間、工法(足場・ロープ・併用)の根拠 |
| 下地補修 | ひび割れ・浮き・爆裂の想定数量と、増減時の精算方法 |
| シーリング | 打ち替え・増し打ちの区分、延べ長さ(m) |
| 塗装 | 塗料の種類、塗り回数、塗布量(㎡あたり) |
| 防水・鉄部 | 外壁と同時に行うか、別時期か、その理由 |
| 現場管理・諸経費 | 現場代理人の配置、写真記録、検査の回数 |
| 保証・アフター | 保証の年数と範囲、定期点検の有無 |
内訳が「一式」で書かれている項目は、金額の妥当性が見えません。複数社に見積りを依頼する場合は、同じ条件の数量表で比較できるよう、発注側で仕様をそろえることが、判断を誤らないための近道です。
判断軸5|居住者・入居者・宿泊客への「説明の言葉」を用意する
最後の判断軸は、少し毛色が違います。それは、工事の内容を、住んでいる方・利用する方にどう伝えるかです。
環境配慮型の塗料や工法を選んだ場合、「なぜその選択をしたのか」を、分かりやすい言葉で説明できると、理解と協力を得やすくなります。たとえば、次のような視点です。
- 管理組合の総会では、費用と性能、環境面の考え方を、数字を添えて説明する。
- 賃貸オーナーであれば、入居者向けのお知らせで、工事の期間・騒音・臭気への配慮を具体的に伝える。
- ホテルや商業施設では、営業への影響を抑える工夫(作業時間帯、工法の選択)をあらかじめ整理する。
環境配慮を売り文句にしすぎると、「結局いくら高くなるのか」という疑問が先に立ちます。費用の根拠を示したうえで、環境面は「あわせて得られる価値」として添えるくらいが、合意形成の面では無理がないと、私は考えています。
収益不動産オーナーの視点|環境配慮は「選ばれる物件」の要素になり得る
賃貸マンション、テナントビル、ホテルなどの収益不動産を持つオーナーさまにとって、環境配慮は、単なる社会貢献にとどまらない側面があります。
- 一部の金融機関や投資家に、環境・社会への配慮を物件評価に取り入れる動きがあるとされます。
- 企業テナントの中には、入居するビルの環境配慮の水準を、選定の条件に挙げるところがあります。
- 宿泊施設では、サステナビリティへの取り組みを発信する事業者も見られます。
ただし、こうした評価がどの程度まで家賃や稼働率に反映されるかは、物件の用途・立地・テナント層によって異なり、一概には言えません。私は、まず建物の資産価値を守る基本(雨漏りを防ぎ、外観を保つ)を固めたうえで、環境配慮を上乗せする順序が、現実的だと考えています。
新築が建築費の高騰で難しくなっている今、既存の建物を長く、きれいに使うことの価値は、むしろ高まっています。こうした観点は、先日の記事ホテルのリブランド改装でも触れました。
いま準備できること|次の修繕に向けた5つのステップ
「製品が出るまで待つ」のではなく、いま準備できることを、順に整理します。
- 現状の把握:前回の修繕時期、使用した塗料、保証の残り年数、直近の不具合を一覧にする。
- 劣化診断の実施:専門業者による調査(目視・打診・必要に応じて赤外線やドローン、ロープアクセスの近接調査)を依頼する。
- 長期修繕計画の見直し:外壁・防水・鉄部・設備の時期を並べ、足場を組む回数を減らせるか検討する。最新の工事単価も反映する。
- 仕様書の整備:塗料は性能指定を基本に、下地補修の数量・精算方法、シーリング、検査・記録の要件を明記する。
- 複数社の比較:工法(足場・ロープアクセス・ハイブリッド)も含めて、同じ条件で見積りを取り、内訳を比較する。
この5つは、新しい塗料が出ても出なくても、役に立つ手順です。環境配慮型の材料が選べるようになった時点で、仕様書に1行を加えるだけで検討できる状態にしておくことが、いちばん賢い備えだと思います。
私が現場で感じていること|新しい材料ほど、地味な基本が効いてくる
少し個人的な話をさせてください。
私が現場に出始めた頃と比べて、塗料もシーリング材も、本当に良くなりました。低臭気、水性化、高耐候、遮熱、防汚など、選べる性能は大きく広がっています。その一方で、現場で起きる不具合の原因をたどると、材料そのものより、下地の見落とし、塗布量不足、乾燥前の重ね塗り、シーリングとの相性、そして記録の不足といった、基本の部分に行き着くことが多いというのが、20年あまり続けてきた私の実感です。
だからこそ、環境配慮型の新しい材料が出てくる時代にこそ、次の2つを大切にしたいと思っています。
- 新しい材料は、実績と保証を確認しながら、段階的に取り入れる。
- 材料が新しくなるほど、調査・仕様・監理という地味な基本を、丁寧に行う。
ほたて貝殻の塗料は、建設業界が資源循環にまじめに取り組んでいる、前向きなニュースだと受け止めています。製品化が進み、実際の外壁での実績が積み上がれば、管理組合やオーナーさまの選択肢が、また1つ増えるでしょう。そのときに慌てず、性能と費用を冷静に比べられるよう、いまから土台を整えておきましょう。
よくある質問(FAQ)
Q1. ほたて貝殻入りの塗料「スキャロップペイント」は、いつから使えますか?
A. 発売時期は発表されていません。大林組は今後の方針として「製品化に向けた検討」を挙げており、現時点で一般の大規模修繕に発注できる状態ではありません(出典:大林組 ニュースリリース(2026年10月15日))。
Q2. 貝殻を入れると、塗料の耐久性は落ちませんか?
A. 大林組は、約5,500時間の促進耐候性試験で、従来の水性ふっ素樹脂塗料と同等の光沢保持率・色差を確認したと発表しています。ただし、促進試験は実際の建物での長期の結果とは別物ですので、実建物での実績や保証の内容を確認することが大切です。
Q3. 外壁塗装の周期は、何年ごとが目安ですか?
A. 国土交通省は、令和3年9月の見直しで、外壁塗装(塗替)の修繕周期の参考を「12〜15年」の幅で示しました(出典:国土交通省 報道発表資料)。実際の時期は、劣化診断の結果で判断します。
Q4. 環境配慮型の塗料を選ぶと、費用は高くなりますか?
A. 製品や時期によります。大林組のシーリング材「スキャロップシール」は、一般的な同種製品とほぼ同等のコストと説明されていますが、今回の塗料の価格は未発表です。製品化後に、同等性能の従来品との差額を確認してください。
Q5. 塗料以外で、外壁修繕の費用に大きく影響するものは何ですか?
A. 仮設(足場など)です。経済調査会の「マンション修繕費指数」2026年版では、1戸あたり平均修繕費156.0万円のうち、仮設は38.7万円(構成比24.8%)でした(出典:経済調査会)。
Q6. 足場を使わない工法でも、外壁塗装はできますか?
A. 建物の形状や工事の範囲によっては、ロープアクセス(無足場)工法で対応できる場合があります。全面改修では足場が適する建物もありますので、足場・ロープアクセス・ハイブリッドの3工法を比較して選ぶことをおすすめします。詳しくはロープアクセスドットコムをご覧ください。
Q7. 新しい塗料を待つべきか、今の時期に修繕すべきか、どう判断すればよいですか?
A. 劣化診断の結果で判断してください。雨漏りやタイルの浮きなど、放置すると被害が拡大する不具合がある場合は、新製品を待たずに必要な補修を行うことが、結果として修繕積立金を守ることにつながります。
この記事のポイントまとめ
- 大林組が、ほたて貝殻粉20%配合の外装用水性ふっ素樹脂塗料を発表した(2026年10月15日)。
- 現時点は製品化の検討段階で、大規模修繕の見積りに載せられる塗料ではない。
- 外壁塗装の周期の参考は、国のガイドラインで12〜15年の幅が示されている。
- 費用と環境負荷は、塗料より「足場の回数」「下地補修」「シーリング」で変わる。
- 仕様書は性能指定で整え、新しい材料が出たときに比較できる状態にしておく。
出典・参考資料
- 株式会社大林組「ほたて貝殻の粉末を利用した水性ふっ素樹脂塗料「スキャロップペイント」を開発」(2026年10月15日)
- 株式会社大林組「ほたて貝殻の粉末を利用したシーリング材「スキャロップシール」を開発」(2024年6月21日)
- 国土交通省「「長期修繕計画標準様式、長期修繕計画作成ガイドライン・同コメント」及び「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」の見直しについて」(令和3年9月28日)
- 国土交通省「「長期修繕計画作成ガイドライン・同コメント」及び「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」の改定について」(令和6年6月7日)
- 国土交通省「住宅:マンション管理について」
- 一般財団法人 経済調査会「「マンション修繕費指数」2026年版を公開」(2026年9月29日)
- 経済産業省「グリーン購入法の特定調達品目に関する提案募集について(公共工事)」(令和8年度)
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環境にやさしい材料が次々に登場する時代は、現場にとっても、発注される皆さまにとっても、前向きな変化です。だからこそ私は、新しいものに飛びつくのでも、頭から疑うのでもなく、調査・仕様・監理という基本を丁寧に積み上げながら、良いものを段階的に取り入れていく姿勢を大切にしたいと思っています。外壁や修繕計画について、現地調査と概算のお見積りは無料で承っていますので、お問い合わせフォームから、ご相談だけでもお気軽にどうぞ。大規模修繕の進め方はこちら、費用を抑える考え方はこちらでも解説しています。次回も、現場で本当に使える話だけをお届けします。
この記事の執筆者
本間 幸紘(ほんま ゆきひろ)
株式会社明誠 代表取締役/東京都東大和市
マンション・ビル・ホテルの大規模修繕20年以上の実務経験。3工法(通常足場/ロープアクセス/ハイブリッド)から建物特性に応じて最適提案。日本初のロープアクセス工事フランチャイズ本部を運営。JCSA(一般社団法人 全国建設業支援協会)代表理事。
最終更新:2026年10月17日
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