本間社長ブログ

千葉豪雨で被災した松戸のマンション、復旧費1.5〜2億円に対し積立金は約9,000万円|水災補償なし・ハザードマップは話題にならず——首都圏の管理組合・オーナーが次の大規模修繕で確かめたい7項目【2026年10月】

千葉豪雨で被災した松戸のマンション、復旧費1.5〜2億円に対し積立金は約9,000万円|水災補償なし・ハザードマップは話題にならず——首都圏の管理組合・オーナーが次の大規模修繕で確かめたい7項目【2026年10月】
本間 幸紘

著作者プロフィール

株式会社明誠 代表取締役

本間 幸紘

大規模修繕・外壁工事・ロープアクセス工事に関する情報を、現場経験をもとに分かりやすくお届けします。

この記事で分かること

「うちのマンションは高台じゃないけれど、川からは遠いから大丈夫ですよね」——。東京・神奈川・埼玉・千葉の管理組合の理事さまや、一棟マンションのオーナーさまと長期修繕計画の話をしていると、こうした声をよく耳にします。

ところが、2026年8月の豪雨は、その「川から遠いから大丈夫」という前提を揺さぶりました。

2026年10月26日、千葉県東葛エリアのタウン情報紙「朝日れすかPLUS」が、松戸市の分譲マンション「サンクタス新松戸」(10階建て・90戸、2003年分譲)のその後を報じました。2026年8月13日の線状降水帯による豪雨で1階の全8戸が床上約1.8mまで浸水し、地下の電気室と受水槽が水没。2カ月たった10月下旬になっても各戸の断水が続き、エレベーターは動いていないといいます(出典:朝日れすかPLUS「千葉豪雨、水道もエレベーターも止まったまま 松戸のマンション、再生へHPで発信」2026年10月26日)。

記事のなかで、とくに管理組合やオーナーにとって重い数字が3つあります。

  • 必要な修繕費の見積りは1億5,000万〜2億円
  • 数年内の大規模修繕に向けて積み立ててきた修繕積立金は約9,000万円
  • 管理組合は火災保険の水災補償に入っていなかった

さらに、市は2019年に内水氾濫のハザードマップを公開し、昨年改訂版も出していて、マンションは浸水エリアに含まれていましたが、「管理組合の中で話題にならなかった」と管理組合の方が振り返っています(同出典)。

この記事が答える質問は、次の1つです。

Q. 首都圏のマンション・ビルの管理組合やオーナーは、次の大規模修繕や長期修繕計画の見直しで、水害に対して何を確かめておけばよいのか。

結論を先にお伝えします。

  • 水害のこわさは「建物が壊れること」より、電気・給水・エレベーターといった建物の機能が止まり、その復旧に大きなお金がかかることです。
  • 確かめたいのは、①ハザードマップ ②地下・1階の設備の位置 ③保険の水災補償 ④修繕積立金の余力の4つの土台と、それを大規模修繕に組み込む3つの段取り、あわせて7項目です。
  • 大規模修繕は、浸水対策を「ついで」に検討できる数少ない機会です。外壁や防水の工事と同じテーブルに、止水・設備の高所化・資金計画を載せておくと、理事会やオーナーの判断がしやすくなります。

以下、ニュースの要点 → なぜ「機能が止まる」のか → 千葉県の動き → 7項目 → 大規模修繕への組み込み方、の順にお話しします。

ニュースの要点|松戸のマンションで何が起きたか

まず、報道と管理組合の発表から事実を整理します。

項目 内容
建物 分譲マンション「サンクタス新松戸」(千葉県松戸市、10階建て・全90戸、2003年分譲)
被災日 2026年8月13日夕方(線状降水帯による豪雨)
浸水の状況 敷地外のコンクリート水路側から水があふれ、1階の全8戸が床上約1.8mまで浸水。負傷者2名
設備の被害 地下の電気室(鉄製ドアが水圧で変形)と受水槽が水没。共用部の電気・給水・エレベーターが停止
2カ月後の状況 共用部の電気は使えるようになったが、各戸の断水とエレベーター停止が継続(10月下旬時点)
費用 修繕費の見積りは1億5,000万〜2億円。修繕積立金は約9,000万円
保険 火災保険の水災補償には未加入
管理組合の対応 「復旧」「復興」「治水対策」の3つの作業部会を設置。3D雨水流出解析を進め、公式サイトで情報を公開

出典:朝日れすかPLUS(2026年10月26日)、サンクタス新松戸管理組合のプレスリリース(PR TIMES、2026年10月13日)

管理組合はプレスリリースで、いま直面している課題を「生活再建」「財政再建」「治水対策」の3つに整理しています。とくに財政再建については、電気・給排水設備の全面刷新にかかる突発的な費用を精査し、管理組合の財務が破綻しないよう長期的なロードマップを作るとしています(同プレスリリース)。

被災の当事者でありながら、マンション名を出して「こうしておけばよかった、ということがたくさんある。それを、他のマンションの住民にも知ってもらいたい」と情報を公開されている姿勢に、同じ業界にいる者として頭が下がります。この記事も、その思いを首都圏の管理組合・オーナーの皆さまへつなぐつもりで書いています。

なお、松戸市への申請ベースでの8月豪雨による住家被害は、大規模半壊8件(いずれも同マンション)、中規模半壊29件、半壊107件、準半壊48件、一部損壊241件だったと報じられています(朝日れすかPLUS)。

なぜ「建物は残っているのに住めない」のか|地下設備という急所

今回の被害で多くの方が驚いたのは、建物そのものは無事なのに、生活が成り立たなくなったことではないでしょうか。

千葉市でも同じ豪雨で、地下の電気設備が浸水したマンションの停電が続きました。共同通信の報道によると、千葉市内で停電が起きたのは10棟余りで、復旧まで1カ月以上という見通しを示すところもありました。千葉市長は「建物が残っていても機能不全になっている。従来の災害とは違う状況」と説明しています(出典:共同通信「地下設備のリスク浮き彫り 千葉豪雨でマンション停電」熊本日日新聞掲載、2026年8月22日)。

マンションの生活は、ほとんどが共用部の設備に支えられています。

共用設備 置かれやすい場所 浸水すると起きること
受変電設備(高圧の電気を受ける設備) 地下・1階の電気室 共用部の停電。ポンプ・エレベーター・照明・オートロックが止まる
受水槽・給水ポンプ 地下・1階・敷地内 各戸の断水(高層階ほど影響が大きい)
エレベーターの機械・ピット 最下階・地下 運転停止。高齢者や子育て世帯の移動が困難に
排水ポンプ・湧水槽 地下 地下の排水ができず、浸水が長引く
機械式駐車場 地下・ピット 車両の水没、設備の全面更新

受変電設備が水につかると、乾かせば元どおり、とはいきません。多くの場合は部品や機器ごとの交換になり、機器の手配に時間がかかるため、復旧が月単位になることがあります。松戸のマンションで「1億5,000万〜2億円」という規模の見積りになったのも、こうした設備の総入れ替えが前提になるからだと考えられます。

国も2019年の東日本台風(台風第19号)で高層マンションの地下の受変電設備が冠水した被害を受けて、国土交通省と経済産業省が2020年6月に「建築物における電気設備の浸水対策ガイドライン」をまとめています。新築だけでなく既存の建物も対象に、設備の高所配置や止水の考え方が示されています(国土交通省の発表)。

千葉県が「マンションの浸水対策」を呼びかけ|ビジョンとガイドライン周知

千葉県は2026年9月11日、令和8年8月千葉豪雨を踏まえた「『都市型水害に強い千葉県づくり』に向けたビジョン」を公表しました。河川整備だけでは対応が難しい内水氾濫が各地で同時多発的に起きたことを受け、次の3つの新たな視点を掲げています。

  1. 「防ぐ」に加えて「備える」「しのぐ」「早く戻す」
  2. 「避難する・させる」から「危険空間に入らない・入らせない」へ
  3. 「市町村ごとの防災」から「流域・交通ネットワーク単位の防災」へ

続いて2026年9月24日には、県のマンション関連ページで「建築物における電気設備の浸水対策ガイドライン」の活用を呼びかけています。そこでは、千葉豪雨で1時間に100ミリを超える雨により、マンションの地下階などの電気設備や給水設備が浸水し、停電・断水で住み続けることが難しくなる事例が起きたことが説明され、具体的な取り組みとして次のような項目が挙げられています。

区分 千葉県が挙げる取り組み(要旨)
事前対策(浸水リスクを減らす) 受変電設備や非常用発電機の高所配置/出入口への止水板・防水扉の設置/換気口の高所設置と配管貫通部の止水処理/下水道からの逆流を防ぐ逆流防止弁の設置
復旧対策(浸水した場合) 連絡体制図と設備図面の整備/復旧用の予備品・資機材の確保/非常用電源と燃料の備蓄/電気設備周辺の排水・清掃・点検/建物被害の把握と在館者支援

出典:千葉県「建築物における電気設備の浸水対策ガイドライン」(2026年9月24日更新)

この一覧を見て気づくのは、「止水処理」「逆流防止」「出入口の止水板」など、建物の外まわりの工事と相性がよい項目が多いことです。ここが、大規模修繕と浸水対策をセットで考える理由になります(後ほど詳しく書きます)。

首都圏の管理組合・オーナーが確かめたい7項目

ここからは、松戸のマンションの経験と、千葉県・国のガイドラインを踏まえて、次の大規模修繕や長期修繕計画の見直しの前に確かめておきたいことを7つに絞ってお伝えします。前半4つが「土台」、後半3つが「大規模修繕への組み込み方」です。

1. 洪水だけでなく「内水」のハザードマップを見たか

松戸のマンションは、大きな川のそばではなく、敷地の外を流れる水路からあふれた水で浸水しました。こうした「内水氾濫」(下水道や水路が雨を流しきれずにあふれる水害)は、川の洪水ハザードマップだけでは見落としがちです。

確認のしかたは次のとおりです。

  • お住まいの市区町村の内水ハザードマップ(浸水予想区域図)を確認する
  • 国土地理院の「重ねるハザードマップ」で、洪水・内水・土砂災害を重ねて見る
  • 建物の1階床の高さと前面道路・水路の高さの差を、竣工図や現地で確かめる

松戸のマンションでは、1階が敷地外の水路より一段低い構造になっていたと報じられています(朝日れすかPLUS)。地図の色だけでなく、建物と周りの「高さの関係」を見ておくことが大切です。

2. 受変電設備・受水槽・ポンプが「どこにあるか」を一覧にしたか

意外と多いのが、「電気室がどこにあるか、理事会で誰も知らない」というケースです。竣工図や管理会社の設備台帳を見れば分かりますので、次の表のような一覧を1枚作っておくことをお勧めします。

設備 設置階 地盤面からの高さ 出入口の止水 備考
受変電設備(電気室) 例:地下1階 例:−3.0m 例:なし 鉄扉のみ
受水槽・給水ポンプ
排水ポンプ・湧水槽
エレベーター機械・ピット
非常用発電機(あれば)

この一覧があるだけで、どこを優先して守るべきかが見えてきます。また、設備の図面と連絡体制図を、管理事務室以外の場所(理事長宅やクラウドなど)にも保管しておくことは、千葉県のガイドライン周知ページでも「復旧対策」として挙げられています。

3. 共用部の火災保険に「水災補償」は付いているか

松戸のマンションでは、管理組合が火災保険の水災補償に入っていなかったと報じられています。水災補償は保険料を抑えるために外されることもあり、「火災保険に入っている=水害も補償される」とは限りません。

まずは、管理組合(一棟オーナーの場合はご自身)の保険証券で次の点を確かめてください。

  • 水災補償が付いているか
  • 付いている場合の支払い条件(浸水の高さや損害の割合などの条件は、商品によって異なります)
  • 建物の保険金額が、いまの再調達価額(同じ建物を建て直す費用)に見合っているか
  • 共用部の設備(受変電設備、ポンプ、エレベーターなど)が補償の対象に含まれているか

なお、損害保険料率算出機構は火災保険の水災部分の参考純率を市区町村ごとに5区分(1等地〜5等地)に細分化し、2024年10月以降の契約から多くの損害保険会社がこれを反映した保険料を採用しています(実際の保険料は保険会社によって異なります)。お住まいの地域の区分は、損害保険料率算出機構の「水災等地検索」で調べられます。保険料と、もしもの時の復旧費を比べて判断するための材料になります。保険の契約内容の判断は、保険会社や代理店にご相談ください。

4. 修繕積立金に「突発的な出費」の余力はあるか

松戸のマンションでは、数年内の大規模修繕に向けて積み立ててきた約9,000万円に対して、復旧の見積りは1億5,000万〜2億円でした。修繕積立金は、本来は計画的な修繕のためのお金です。災害の復旧に使えば、その分、予定していた大規模修繕の資金が足りなくなるという二重の負担になります。

長期修繕計画を見直すときは、次の点を理事会で話し合っておくと安心です。

  • 災害時に積立金を取り崩す場合の手続き(総会決議の要否など、管理規約の確認)
  • 保険でまかなえる部分と、積立金でまかなう部分の想定
  • 設備の高所化や止水板など「被害を小さくする工事」を、計画のどの時期に入れるか

修繕費そのものが上がり続けている点も見逃せません。経済調査会の「マンション修繕費指数」2026年版では、1戸あたりの修繕費が約156万円と、2013年の約1.67倍に増えています(出典:一般財団法人 経済調査会「マンション修繕費指数」2026年版)。限られた積立金で、計画修繕と災害への備えの両方をどう配分するかが、これからの理事会の大きなテーマになります。

5. 大規模修繕の調査に「浸水の弱点チェック」を加えたか

大規模修繕の前には、外壁の打診調査や屋上防水の劣化調査などの建物診断を行います。ここに浸水の弱点チェックを加えるのが、いちばん手間のかからない方法です。

  • 地下・1階の出入口、ドライエリア(地下の採光用の空堀)、換気口の高さ
  • 外壁を貫通する配管まわりのシーリング(すき間を埋めるゴム状の材料)の劣化
  • 敷地の排水溝・雨水ますの詰まりや、逆流防止弁の有無
  • 前面道路・水路側の擁壁や塀の状態

外壁や防水を診る専門職が、同じ日に浸水の弱点も見ておけば、追加の費用や日数を小さく抑えやすくなります。

6. 止水・逆流防止・貫通部の処理を「工事項目」として見積りに入れたか

5で見つかった弱点は、大規模修繕の工事項目として見積りに載せておくと、ほかの工事と並べて比べられます。たとえば次のようなものです。

対策 大規模修繕と組み合わせやすい理由
配管貫通部・外壁開口部の止水処理 シーリング打替えと同じ職種・同じ足場(またはロープ)で施工できる
出入口・ドライエリアへの止水板の設置 共用部の改修と同時に、取付け下地を整えられる
排水設備の逆流防止弁 給排水設備の更新と同じ工程にまとめやすい
擁壁・塀の補修 外構工事として外壁改修と同時期に計画できる

止水板の設置については、自治体が独自に費用の一部を助成している例もあります(東京都は「止水板設置促進アクション」として区市町村の取り組みを後押ししています)。対象や金額は自治体と年度で変わりますので、検討の時点で、お住まいの自治体の最新のページを確認してください。

一方、受変電設備そのものを上の階に移すような工事は、電力会社との協議や建物の構造の検討が要るため、大規模修繕とは別の「設備改修計画」として、長期修繕計画に位置づけるのが現実的です。

7. 「浸水した場合」の復旧手順と連絡先を決めてあるか

どれだけ対策をしても、想定を超える雨では浸水が起こり得ます。国のガイドラインでも、浸水した場合の早期復旧対策を盛り込むよう示されています。

  • 電気・給水・エレベーターの保守会社の緊急連絡先を一覧にする
  • 停電時の給水(仮設水栓・給水車の受け入れ場所)と、上層階への水の運び方を決めておく
  • 1階・低層階の住戸や、高齢の方・お子さんのいる世帯の把握
  • 復旧工事を誰が判断し、どの順番で進めるか(理事会の臨時の意思決定ルール)

松戸のマンションでは、住民とボランティアが週1回、階段で各戸に18リットルの水を届けていると報じられています(朝日れすかPLUS)。こうした「しのぐ」段取りを事前に決めておくだけでも、被災後の負担は大きく変わります。

大規模修繕と浸水対策を「同じテーブル」に載せる|工法の選び方

ここまでの7項目のうち、5と6は大規模修繕の工事と一緒に進めると効率的です。そのときに考えたいのが、外壁まわりの工事をどの工法で行うかです。

明誠は、建物ごとに次の3つの工法から比べてご提案しています。

工法 どんな工法か 浸水対策との組み合わせ
通常足場工法 建物の周囲に足場を組んで施工する従来型 外壁全面の改修と同時に、低層部の止水処理・外構工事を進めやすい
ロープアクセス工法(無足場工法) 屋上などの吊元から、メインロープとバックアップロープの2本に接続した作業員が外壁に降りて施工。2点以上の吊元を確保する二重の安全対策が業界の基本 高層部の部分補修やシーリング打替えを低コストで行い、予算を低層部の浸水対策に回しやすい
ハイブリッド工法 部位ごとに足場とロープアクセスを使い分ける 低層部は足場で止水・外構工事、高層部はロープアクセスで補修、と分けて総額を抑えやすい

浸水対策が必要になるのは、ほとんどが地下・1階・低層部です。一方、外壁の補修やシーリング打替えは建物の上から下まで必要になります。そこで、低層部だけ足場を組んで止水・外構工事をまとめ、上の階はロープアクセス工法で補修するハイブリッド工法にすると、仮設費を抑えた分を浸水対策の予算に回すという考え方ができます。

技術的な仕組みや安全基準の詳しい解説は、姉妹サイトのロープアクセスドットコム(無足場工法の専門メディア)にまとめています。明誠の考え方は「明誠のロープアクセス工法」のページでもご覧いただけます。

金額の目安(あくまで試算例)

たとえば、10階建て・外周80m・工期3か月の外壁補修を想定した明誠の試算例では、足場の費用が約168万円、ロープアクセス工法では約59万円で、差額は約109万円でした。また、外壁塗装の単価は一般に1㎡あたり3,500〜4,500円程度、外壁の打診調査は1㎡あたり250〜500円程度がひとつの目安です(いずれも明誠の参考値。建物の状態・仕様・規模で大きく変わります)。

この差額で受変電設備を移すことはできませんが、止水板や貫通部の止水処理、逆流防止弁といった「被害を小さくする工事」の一部をまかなえる可能性はあります。料金の考え方は「大規模修繕の料金の考え方」でも整理しています。

ロープアクセス工法が向かないケースもあります

公平のために書いておくと、ロープアクセス工法がいつも有利なわけではありません。

  • 外壁全面のタイル張替えや、大量の資材を壁面に運ぶ工事
  • 屋上に吊元を確保できない建物
  • 低層で、足場の費用がもともと小さい建物
  • 地下・外構の工事が中心で、外壁の作業が少ない場合

こうした場合は、通常足場や外構工事を中心にした計画のほうが合理的なことが多いです。だからこそ、複数の工法を比べた提案を一度受けてみることをお勧めしています。

一棟オーナー・ビル・ホテルの場合|「止まる期間」がそのまま損失になる

分譲マンションの管理組合だけでなく、収益物件のオーナーさまにとって、設備が止まることは収入が止まることでもあります。

  • 賃貸マンション:断水やエレベーター停止が長引くと、入居者の退去や家賃減額の相談につながりかねません。1階住戸が浸水すれば、原状回復の間は募集もできません。
  • オフィス・テナントビル:停電でテナントの営業が止まれば、賃料の減額や解約の交渉になることがあります。地下に店舗や機械室があるビルは、とくに注意が必要です。
  • ホテル:営業停止の期間は売上がゼロになります。地下の厨房・ボイラー・電気室の位置と、止水の備えを点検しておきたいところです。

明誠では、ビルオーナーさま向けに「ビル・テナントビルの大規模修繕」、ホテル運営者さま向けに「ホテルの大規模修繕」、収益物件全般は「オーナー様向けの修繕の考え方」でご案内しています。分譲マンションの管理組合さまは「管理組合向けサービス」をご覧ください。

明誠の取り組み|3工法と、フランチャイズの専門職ネットワーク

明誠は、これまでに約6,000棟のマンション・ビル・ホテルの大規模修繕に携わってきました。ロープアクセス工法での高所作業では、明誠と全国のフランチャイズ加盟企業で、過去16年間、墜落による労働災害ゼロを続けています(2026年10月時点・明誠調べ)。明誠では、IRATA(国際産業ロープアクセス協会)の基準に準じた技能訓練を作業員に実施しています。安全管理の考え方は「明誠の安全管理」にまとめています。

また、明誠は日本初のロープアクセス工事フランチャイズ本部として、塗装・防水・タイル・電気・看板の各分野の専門職と組んで施工しています。浸水対策のように「外壁のシーリング」「防水」「電気設備」がまたがる工事では、こうした専門職どうしの連携が力を発揮します。加盟店の連携の仕組みや同業の方向けの技術情報は、姉妹サイトのロープアクセスドットコムで発信しています。これまでの工事の様子は明誠の施工事例からご覧いただけます。

施工エリアは、東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県・茨城県・栃木県・群馬県の全域と、山梨県東部・静岡県東部です(ホテル案件は全国対応)。

理事会・オーナーが今日からできる3ステップ

最後に、何から始めればよいか、順番を整理しておきます。

  1. ハザードマップと保険証券を並べて見る:内水を含むハザードマップで建物の位置を確認し、共用部の火災保険に水災補償が付いているかを確かめます。これは今日からでもできます。
  2. 設備の位置の一覧を作る:竣工図や設備台帳から、受変電設備・受水槽・ポンプ・エレベーターの設置階と出入口の状況を1枚にまとめます。管理会社に依頼すれば、多くの場合すぐに分かります。
  3. 次の建物診断に「浸水の弱点チェック」を加えてもらう:大規模修繕の前の調査で、低層部の止水・貫通部・排水を一緒に見てもらい、対策を工事項目として見積りに入れます。

この3ステップの結果は、総会資料や長期修繕計画の見直し、オーナーの事業計画にもそのまま使えます。

本間の見立て|「建物を直す」から「建物の機能を守る」へ

20年以上、外壁や屋上の現場に立ってきて、大規模修繕というと「外壁を塗り直す」「防水をやり直す」という、目に見える部分の工事を思い浮かべる方が多いと感じています。

けれども今回の千葉豪雨は、建物の価値は、外観だけでなく「電気が来て、水が出て、エレベーターが動くこと」にあるという当たり前のことを、あらためて教えてくれました。外壁がきれいでも、地下の電気室が水につかれば、そのマンションには住めなくなります。

松戸のマンションの管理組合の方は、「きちんと危機感を持っていたなら、水路側の擁壁を検討したり、止水板を用意したり、できたかもしれない」と語っています(朝日れすかPLUS)。この言葉は、これから大規模修繕を迎えるすべての管理組合・オーナーへのメッセージだと受け止めています。

大規模修繕は、建物の弱点を洗い出し、まとめて手を打てる貴重な機会です。外壁・防水の工事と同じテーブルに、浸水対策と資金計画を載せる。施工会社の側からも、その提案を当たり前に出していく。それが、修繕積立金を本当に生きる形で使うことにつながると考えています。

よくあるご質問

Q. 川から遠いマンションでも、浸水の心配はありますか?

あります。今回の松戸のマンションのように、下水道や水路が雨を流しきれずにあふれる「内水氾濫」は、大きな川から離れた場所でも起こります。お住まいの市区町村の内水ハザードマップと、建物の1階の高さと周りの道路・水路の高さの関係を確認しておくことをお勧めします。

Q. 浸水対策の費用はどのくらいかかりますか?

対策の内容と建物の規模で大きく変わります。配管貫通部の止水処理や止水板の設置は、大規模修繕と同時に行えば仮設や段取りを共通化でき、単独で行うより費用を抑えやすくなります。受変電設備を上の階に移すような工事は規模が大きく、電力会社との協議も必要になるため、設備改修計画として別に検討するのが一般的です。まずは調査のうえで、項目ごとの見積りを比べてみてください。

Q. 大規模修繕と浸水対策は、同時にやったほうがよいですか?

外壁のシーリング打替えや低層部の改修と、止水処理・止水板の取付けは、同じ職種や同じ仮設で施工できることが多いため、同時に行うと効率的です。ただし、設備の移設のように別の検討が必要なものもありますので、「同時にできるもの」と「別に計画するもの」を分けて考えるのが現実的です。

Q. 管理組合の火災保険に水災補償が付いているか、どう確かめればよいですか?

管理組合で保管している保険証券、または管理会社や保険代理店に確認してください。水災補償の有無に加えて、支払い条件や保険金額、共用部の設備が補償対象に含まれているかも確かめておくと安心です。契約内容の見直しは、保険会社や代理店にご相談ください。

Q. 修繕積立金を災害の復旧に使うことはできますか?

管理規約の定めによります。国土交通省のマンション標準管理規約(第28条)では、修繕積立金の取り崩し先として「不測の事故その他特別の事由により必要となる修繕」が挙げられており、これに準じた規約であれば災害復旧に充てることができます。取り崩しは総会の決議事項(同第48条)とされているのが一般的で、使った分だけ計画修繕の資金が減ります。災害時の取り扱いを、平時のうちに理事会で確認しておくことをお勧めします。

Q. ロープアクセス工法は安全ですか?

ロープアクセス工法では、作業員がメインロープとバックアップロープの2本に接続し、2点以上の吊元を確保する二重の安全対策をとるのが業界の基本です。明誠と全国のフランチャイズ加盟企業では、過去16年間、墜落による労働災害ゼロを続けています(2026年10月時点・明誠調べ)。

Q. 浸水対策の相談だけでもできますか?

はい。建物診断や、いま手元にある見積り・長期修繕計画の読み解きだけでもご相談いただけます。外壁・防水と浸水対策をあわせて比べたい場合も、お問い合わせフォームからお気軽にご連絡ください。

まとめ

  • 令和8年8月千葉豪雨で、松戸市の分譲マンションは1階が床上約1.8m浸水し、地下の電気室と受水槽が水没。2カ月後も断水とエレベーター停止が続いています。
  • 修繕費の見積りは1億5,000万〜2億円で、修繕積立金約9,000万円を大きく上回ります。管理組合は水災補償に未加入で、ハザードマップの浸水エリアも話題にならなかったと振り返っています。
  • 千葉県は「都市型水害に強い千葉県づくり」ビジョンを公表し、マンションの電気設備の浸水対策ガイドラインの活用を呼びかけています。
  • 管理組合・オーナーが確かめたいのは、内水ハザードマップ・設備の位置・水災補償・積立金の余力の4つの土台と、調査への浸水チェック追加・止水工事の見積り計上・復旧手順の準備の3つの段取りです。
  • 大規模修繕は、浸水対策を外壁・防水と同じテーブルで検討できる貴重な機会です。

出典・参考資料


▼ロープアクセス工法・無足場工法の詳細解説はこちら
ロープアクセスドットコム|無足場工法専門メディア

水害の備えは、起きてみないと実感しにくいものです。だからこそ、大規模修繕という節目に、外壁や防水と一緒に「建物の機能を守る」ことを考えていただければと思います。ハザードマップの見方や、浸水対策を含めた見積りの比較だけでも、お問い合わせフォームからお気軽にお声がけください。次回も、現場で本当に使える話だけをお届けします。


この記事の執筆者

本間 幸紘(ほんま ゆきひろ)
株式会社明誠 代表取締役/東京都東大和市
マンション・ビル・ホテルの大規模修繕20年以上の実務経験。3工法(通常足場/ロープアクセス/ハイブリッド)から建物特性に応じて最適提案。日本初のロープアクセス工事フランチャイズ本部を運営。JCSA(一般社団法人 全国建設業支援協会)代表理事。

最終更新:2026年10月26日


関連記事(姉妹サイト)

ロープアクセス工法の詳細や実例については、姉妹サイト「ロープアクセスドットコム」の以下の記事もぜひご覧ください。

▶ ロープアクセスドットコムの関連記事を見る


本間社長の著書のご案内

『大規模修繕工事 職人だから言える本当の話 —— 見積書では見えない業界の裏側と、修繕積立金を守る発注術』(Kindle版)を出版しています。20年以上の現場経験から、管理組合・オーナーが修繕積立金を守るための発注術と、業界の内幕を書き下ろしました。

▶ Amazonで見る(Kindle版)

← 前の記事 記事一覧 次の記事 →

お気軽にご相談ください!