大田区の12条点検・外壁全面打診|令和8年度は事務所・複合用途ビルの報告年、締切は10月31日

株式会社明誠の本間幸紘です。東京都東大和市を拠点に、マンション・ビル・ホテルの大規模修繕を20年以上やってきました。

今日は大田区のビルオーナーさま・管理組合さま向けに、建築基準法第12条にもとづく定期報告、いわゆる「12条点検」と、そこで出てくる外壁の全面打診調査を整理します。大田区は蒲田・大森に雑居ビルと複合用途ビルが密集し、羽田空港周辺にはホテルが並び、田園調布や久が原には低層の住宅地が広がる。同じ大田区でも建物の性格がまるで違うので、12条点検の当たり方も物件ごとに変わります。

そして今回は、お急ぎいただきたい話が一つあります。

結論|令和8年度に大田区で報告年次を迎えるのは「30番台」の建物です

先に結論から申し上げます。

論点 大田区での答え
誰が報告するか 建築物の所有者または管理者(ビルオーナー、管理組合、ホテル運営者)
令和8年度が報告年次の用途 用途コード31〜34(物販店舗/飲食店・遊技場・公衆浴場等/複合用途建築物/事務所等)
その報告期間 令和8年5月1日から10月31日まで
区の相談窓口 大田区建築審査課 設備審査担当 03-5744-1391
報告書の提出先 公益財団法人 東京都防災・建築まちづくりセンター(特定建築物 03-5989-1929)
手の届く範囲の打診 おおむね6か月から3年以内に一度
外壁の全面打診 竣工または外壁改修からおおむね10年に一度

つまり、大田区で事務所ビル・テナントビル・飲食店の入った複合用途ビルをお持ちなら、令和8年度(2026年度)の報告期限は10月31日。この記事を書いている9月17日から数えて、残りは6週間ほどです。

私はいつもオーナーさまに、「用途コードと報告年次の2つだけは手帳に書いてください」とお伝えしています。ここを外すと、慌てて調査を手配して足場代が跳ね上がる、という悪循環に入ります。

建築基準法第12条とは何か|4つの報告の違いをほどく

建築基準法第12条は、建物の安全性を所有者みずから点検し、行政に報告させる仕組みです。専門用語が続くので、最初に用語をほどきます。

  • 特定建築物定期調査(法第12条第1項)…建物本体の調査。外壁、屋根、避難経路、防火区画など。今回の主役はここ
  • 防火設備定期検査…防火扉・防火シャッターなど、随時閉鎖または作動できるもの
  • 建築設備定期検査…換気、排煙、非常照明、給排水など
  • 昇降機等定期検査…エレベーター、エスカレーター、小荷物専用昇降機など

大田区も公式ページでこの4本立てを案内しています(出典:大田区「定期調査・検査報告制度」 更新日:2026年3月23日)。

対象になる用途と規模は、東京都都市整備局が一覧表で公開しています(出典:東京都都市整備局「定期報告が必要な特定建築物・防火設備・建築設備・昇降機等及び報告時期一覧」)。

大田区で登場しやすい用途コードと報告時期

大田区の建物構成に合わせて、押さえておきたいところだけ抜き出します。

用途コード 用途と規模の目安 報告時期
13 旅館・ホテル(3階以上の階かつ2,000平方メートル超) 毎年11月1日〜翌年1月31日
22 旅館・ホテル(毎年報告のものを除く)、病院等 3年ごと(令和7年・令和10年…)5月1日〜10月31日
31 物販店舗(毎年報告のものを除く) 3年ごと(令和8年・令和11年…)5月1日〜10月31日
32 飲食店、遊技場、公衆浴場、バー、ダンスホール等 同上(令和8年が報告年)
33 複合用途建築物(共同住宅等の複合用途・事務所等を除く) 同上(令和8年が報告年)
34 事務所その他これに類するもの(5階建て以上かつ延べ2,000平方メートル超のうち一定規模) 同上(令和8年が報告年)
40 下宿・共同住宅・寄宿舎(5階以上の階かつ1,000平方メートル超) 3年ごと(令和6年・令和9年…)5月1日〜10月31日

(出典:前掲 東京都都市整備局)

ここから読み取れることが2つあります。

1つ目。分譲マンション(用途コード40)の次の報告年次は令和9年度です。 令和6年度に出した建物なら、次は令和9年5月1日から10月31日まで。いま動く必要はありませんが、「10年打診」のカウントだけは今のうちに数えておいてください。理由は後述します。

2つ目。蒲田・大森の事務所ビルとテナントビル(用途コード31〜34)は、令和8年度が報告年次です。 大田区は1階が飲食店、上階が事務所という複合用途ビルが非常に多い区です。この層に、いま締切が来ています。

「初回免除」という落とし穴

新築や改築の直後は、検査済証の交付を受けた直後の時期については報告が不要とされています。これを初回免除といいます(出典:前掲 東京都都市整備局 注意6)。

一方で、建築設備と昇降機等は考え方が違い、同じ建物の中で期限が別々に走ります。私の経験上、竣工から数年のビルで「うちはまだ関係ない」と思い込み、エレベーターの初回報告だけ抜けていた、という事例は珍しくありません。

大田区固有の運用|常時閉鎖式防火扉の扱いに注意

ここは大田区だけの話なので、あえて1つの見出しを立てます。

令和6年国土交通省告示第974号(令和6年6月28日公布)および令和7年国土交通省告示第53号(令和7年1月29日公布)により、令和7年7月1日から定期調査・検査の項目、方法、判定基準、調査結果表の見直しが行われました。

そのうえで大田区は、公式ページでこう明記しています。令和7年7月1日以降も、常時閉鎖式防火扉は特定建築物定期調査の対象(出典:前掲 大田区「定期調査・検査報告制度」)。

つまり、他の特定行政庁の運用や一般的な解説記事をそのまま当てはめると、大田区では調査項目が抜ける可能性があります。私は調査会社の見積を見るとき、大田区の物件ならここを口頭で確認するようにしています。報告書が受理されずに戻ってくると、再調査の手間と時間が丸ごと無駄になります。

電子提出が始まっています

大田区では、建築設備定期検査報告の電子受付がすでに始まっており、昇降機等定期検査報告についても令和7年7月1日から電子受付が始まりました(出典:前掲 大田区)。受付機関は建築設備が一般財団法人日本建築設備・昇降機センター、昇降機等が一般社団法人東京都昇降機安全協議会です。

紙前提で段取りを組んでいる管理会社さんもまだいらっしゃるので、見積時に「電子で出せますか」と一言確認しておくと、事務コストが少し下がります。

外壁の全面打診が必要になる4つのトリガー

ここからが本題です。平成20年国土交通省告示第282号では、タイル、石貼り(乾式工法によるものを除く)、モルタル等の劣化・損傷の調査について、次のように定められています。

  • おおむね6か月から3年以内に一度、手の届く範囲の打診等
  • おおむね10年に一度、落下により歩行者等に危害を加えるおそれのある部分の全面的な打診等

(出典:国土交通省「定期報告制度における外壁のタイル等の調査について」)

実務上、全面打診が回ってくるトリガーは次の4つに整理できます。

  1. 竣工から10年を超え、その後の報告時期を迎えた
  2. 外壁改修から10年を超えた(前回の大規模修繕で全面補修していれば、そこが起点になります)
  3. 手の届く範囲の打診や目視で異常が認められた(10年を待たずに全面打診の判断へ)
  4. タイルやモルタルの落下が起きた、または近隣で発生した

大田区で特に効いてくるのが3番と4番です。蒲田駅周辺や大森駅周辺は、建物の壁面が歩道に直接面している物件が多い。商店街のアーケード沿い、通学路沿いのビルとなると、剥落が人身事故に直結します。

私が現場で20年やってきて一番悔しい思いをするのは、事故が起きたあとに「去年やっておけば」と言われる場面です。

ドローン赤外線という選択肢

令和4年1月18日付で告示第282号が一部改正され、打診以外の調査方法として、無人航空機による赤外線調査であってテストハンマーによる打診と同等以上の精度を有するものが明確化されました。判定にあたっては、一般財団法人日本建築防災協会がとりまとめたガイドラインを参照することとされています(出典:前掲 国土交通省)。

ただし大田区には、空港に近いという事情があります。羽田空港周辺は飛行の制限がかかる区域が広く、加えて蒲田・大森の密集市街地では電線と隣棟間隔の問題もある。私は現地を見ずに「ドローンでいけます」とは申し上げません。明誠ではドローンを使った外壁調査も手がけていますが、大田区内ではロープアクセスとの併用提案になるケースが多いのが実感です。

なお、落下防止措置付きの外壁タイルの取扱いについては、令和7年6月30日付の技術的助言が最終改正として示されています(出典:国土交通省 国住参建第1579号)。剥落防止ネットや剥落防止工法を施工済みの建物は、この扱いを調査者と事前にすり合わせておくと手戻りが減ります。

大田区の窓口・提出先を1か所にまとめます

問い合わせ先が分かれているので、表にしておきます。

区分 窓口
定期調査・検査報告の相談 大田区建築審査課 設備審査担当 03-5744-1391
定期調査・検査報告概要書の受付、手数料 大田区建築審査課 管理調査担当 03-5744-1386/03-5744-1615
区役所所在地 〒144-8621 大田区蒲田五丁目13番14号 本庁舎7階14番〜19番
特定建築物・防火設備の提出先 公益財団法人 東京都防災・建築まちづくりセンター(〒160-8353 新宿区西新宿七丁目7番30号 小田急西新宿O-PLACE2階/特定建築物 03-5989-1929、防火設備 03-5989-1937)
建築設備の提出先 一般財団法人 日本建築設備・昇降機センター(03-3591-2421)
昇降機等の提出先 一般社団法人 東京都昇降機安全協議会(03-6304-2225)

(出典:前掲 大田区、大田区「建築審査課」 更新日:2026年4月1日)

報告書そのものは区役所へ直接ではなく、上記の受付機関を経由して提出します。書式は大田区の定期検査報告関係書式のページからダウンロードできます。

大田区で使える打診調査の実務コスト感

お金の話を避けると、理事会も取締役会も動きません。目安としてレンジをお出しします。物件の規模・形状・足場条件で大きく変動しますので、参考値としてお読みください。

項目 目安
外壁全面打診調査(調査費のみ) 250〜500円/平方メートル
仮設足場(一般的な単価) 700〜1,200円/平方メートル
外壁塗装 3,500〜4,500円/平方メートル
防水 5,000〜8,000円/平方メートル

問題は打診調査そのものより、そこに到達するための仮設費です。

私が実際に扱った規模感でお話しすると、10階建て・外周80mの建物で全面打診を行う場合、仮設足場を一式架けると約168万円。これをロープアクセスで行うと約59万円で、差額はおよそ109万円になります。打診調査という「見るだけ」の作業のために足場を架けるのは、正直に申し上げてもったいない。

しかも大田区の場合、蒲田・大森の商業地は隣棟間隔が数十センチという物件がざらにあります。足場を架けるには隣地の承諾が要り、前面道路が狭ければ道路使用許可も要る。承諾取得だけで1か月以上かかった現場も見てきました。

10月31日が締切という前提に立つと、いまから足場を段取りするのは現実的ではありません。 これが、冒頭で「お急ぎいただきたい」と申し上げた理由です。

ロープアクセス工法が大田区の12条打診で選ばれる理由

無足場工法であるロープアクセスは、産業用のロープで作業員が外壁に取り付き、打診・補修・塗装を行う工法です。大田区で選ばれる理由は、大きく3つあります。

1. 狭小敷地・密集市街地でも施工できる
屋上にアンカーを取れれば、地上の足場スペースは不要です。隣棟間隔が取れないビル、前面道路が狭い物件でも成立します。蒲田の雑居ビル密集地では、これが決定打になります。

2. 営業と居住への影響が小さい
1階に飲食店が入るテナントビルで足場を全面に架けると、看板は隠れ、客足は落ちます。ロープアクセスなら作業する面にだけ人が入るので、テナントの営業影響を抑えられます。賃貸マンションなら、バルコニー使用制限の期間が短くなり、退去リスクも下げられます。

3. 工期が短い
足場の架設・解体だけで2週間前後かかることを考えると、調査単独ならロープアクセスのほうが圧倒的に早い。打診調査だけであれば、中規模のビルで数日から1週間程度が目安です。

工法の技術的な背景や資格体系については、姉妹サイトのロープアクセスドットコムで詳しく解説しています。同業の方やフランチャイズ加盟をご検討の方は、そちらのほうが情報が濃いはずです。

安全面について補足します。明誠および全国のフランチャイズ加盟企業では、ロープアクセス工法での高所作業について過去16年間、墜落による労働災害はゼロを維持しています。IRATA(国際産業ロープアクセス協会)水準の技能訓練を受けた作業員が施工にあたり、ISO9001の品質マネジメントシステムのもとで運用しています。日本ロープ高所作業協会の事務局も、当社が担当しています。

明誠のロープアクセス工法の技術詳細と安全管理の考え方も、あわせてご覧ください。装備や墜落制止用器具の運用基準はロープアクセスドットコム側でより踏み込んで扱っています。

12条点検と大規模修繕を一体で組み立てる

私はこれを、ワンセットで提案するようにしています。理由は3つです。

理由1:仮設費が一度で済む
打診調査で足場を架け、1年後に修繕でまた架ける。これが一番もったいないパターンです。調査と補修をロープアクセスで通せば、仮設費は実質ゼロ回になります。

理由2:調査結果がそのまま修繕仕様になる
打診で浮きが出た箇所の面積・位置を図面に落とせば、アンカーピンニング工法の本数も、タイル張替えの数量も、精度の高い見積になります。「一式いくら」の見積から抜け出せます。

理由3:長期修繕計画の裏付けになる
10年周期の全面打診は、長期修繕計画の見直しタイミングと重なります。調査の実データがあると、修繕積立金の議論が感情論になりません。大田区は共同住宅のストックが厚く、平成30年9月時点で区内の住宅131,930棟のうち共同住宅が30,020棟(22.8パーセント)を占めています(出典:大田区「マンション実態調査(令和5年度)報告書」令和6年3月)。それだけ、計画修繕の巧拙が資産価値に効いてくる区だということです。

賃貸マンションやビルをお持ちのオーナーさまにはビルオーナー向けの大規模修繕サービスを、分譲マンションの管理組合さまには管理組合向けのご提案をご用意しています。料金の考え方は明誠の料金に対する姿勢にまとめました。羽田空港周辺のホテルオーナーさまにはホテル向けの大規模修繕のページが参考になるはずです。

明誠のこれまでの施工事例(約6,000棟)は https://rita-construction.com/renew/blog/category/works/ からご覧いただけます。打診調査から補修まで一貫で行った事例も掲載しています。

よくあるご質問

Q. 大田区の事務所ビルですが、令和8年度が報告年だと聞きました。10月31日を過ぎたらどうなりますか。

A. 用途コード31〜34に該当する建物の令和8年度の報告期間は、令和8年5月1日から10月31日までです。期限を過ぎても報告義務がなくなるわけではありませんので、まずは大田区建築審査課 設備審査担当(03-5744-1391)へご相談ください。調査の段取りについては当社でもお手伝いできます。

Q. うちの建物が特定建築物かどうかわかりません。

A. 用途と規模で決まります。東京都都市整備局の報告時期一覧で判定できます。判断がつかない場合は、全体の階数・延べ面積、各用途に供する部分の床面積、各階の用途を整理したうえで、大田区建築審査課へお問い合わせください。

Q. 外壁全面打診の費用はいくらくらいですか。

A. 調査費だけなら250〜500円/平方メートルが目安です。ただし足場を架ける場合、仮設費が700〜1,200円/平方メートル上乗せされます。10階建て・外周80mの建物で、足場約168万円に対しロープアクセス約59万円という差額の例があります。物件により変動しますので、概算お見積りは無料でお出ししています。

Q. 10年経っていなければ全面打診はしなくてよいのですか。

A. 原則としてはおおむね10年周期ですが、手の届く範囲の打診や目視で異常が認められた場合には、落下のおそれがある部分について全面的な打診等を行うこととされています。異常が見つかった時点で、年数に関係なく判断が要ります。

Q. 前回の大規模修繕で外壁を全面補修しました。10年の起点はいつですか。

A. 外壁の改修後10年が一つの目安になります。ただし「どこまで改修したか」の範囲が争点になりやすいので、前回の工事報告書と数量表を保管しておいてください。調査者との事前協議で提示できると話が早く進みます。

Q. 大田区では常時閉鎖式の防火扉はどう扱われますか。

A. 大田区は、令和7年7月1日以降も常時閉鎖式防火扉を特定建築物定期調査の対象とする旨を公式に案内しています。他の特定行政庁の運用と異なる可能性がありますので、調査会社と事前に確認しておくことをおすすめします。

Q. 工期はどれくらいかかりますか。

A. 打診調査単独であれば、中規模のビルでロープアクセス数日から1週間程度が目安です。足場工法の場合は架設・解体だけで2週間前後を見込みます。補修まで一貫で行う場合は、規模により1.5〜3か月程度です。技術的な作業手順はロープアクセスドットコムでも解説しています。

Q. テナントが入っているビルでも調査できますか。

A. できます。ロープアクセスは作業面にのみ人が入るため、看板の隠蔽期間や足場の圧迫感といった営業への影響を抑えられます。作業日程をテナントさまへ事前に掲示し、営業時間を避けた段取りを組むことも可能です。

まとめ|大田区のオーナーさまが今週動くこと3点

長くなりましたので、動くべきことを3つに絞ります。

1. 建物の「用途コード」を特定する
東京都都市整備局の一覧表で用途コードを確認してください。31〜34に当たるなら、令和8年度の報告期限は10月31日です。40(共同住宅)なら次は令和9年度、13(一定規模のホテル)なら毎年11月1日からの報告になります。

2. 竣工年と前回の外壁改修年をカレンダーに落とす
どちらか新しいほうから10年。これが全面打診のカウント開始点です。すでに10年を超えているなら、次の報告年度で全面打診が必要になります。

3. 足場前提の見積だけで判断しない
打診調査の見積を取る段階で、足場・ロープアクセス・ハイブリッドの3通りで比較してください。大田区の密集市街地なら、仮設費で100万円単位の差が出ることがあります。締切まで6週間という状況では、足場の段取り期間そのものがリスクになります。

10月31日までに動けるかどうかが分かれ目です。ご相談だけでも遠慮なくお声がけください。「そもそもうちは対象なのか」という入口の整理だけでも、お力になれることがあります。お問い合わせはこちらから。

次回も、現場で本当に使える話だけをお届けします。

出典・参考資料

本記事の情報の鮮度について:本記事は2026年9月17日時点で公表されている大田区および国土交通省・東京都の公式情報をもとに執筆しています。参照した大田区の定期調査・検査報告制度のページは2026年3月23日更新、建築審査課の業務案内は2026年4月1日更新のものです。用途コードごとの報告年次・報告期間・書式・提出方法については、大田区建築審査課および各受付機関へ直接ご確認ください。制度は年度途中でも改正があり得ます。

この記事の執筆者

本間 幸紘(ほんま ゆきひろ)
株式会社明誠 代表取締役/東京都東大和市
マンション・ビル・ホテルの大規模修繕20年以上の実務経験。3工法(通常足場/ロープアクセス/ハイブリッド)から建物特性に応じて最適提案。日本初のロープアクセス工事フランチャイズ本部を運営。JCSA(一般社団法人 全国建設業支援協会)代表理事。

最終更新:2026年9月17日

目黒区の12条点検・外壁全面打診|対象建築物と報告時期の実務ガイド2026年度版

株式会社明誠の本間幸紘です。東京都東大和市を拠点に、マンション・ビル・ホテルの大規模修繕を20年以上やってきました。

今回は目黒区の建物オーナーさま・管理組合さま向けに、建築基準法第12条第1項にもとづく定期報告、いわゆる「12条点検」と、そこで出てくる外壁の全面打診調査について整理します。目黒区は中目黒・自由が丘・武蔵小山・大橋といったエリアで中高層の共同住宅が密集し、一方で碑文谷・青葉台・駒場のように坂と狭小敷地が続く地区もあります。同じ目黒区でも、打診調査の段取りは物件ごとにまるで違う。ここが今日の本題です。

結論:目黒区で12条点検の対象になる建物と、打診が必要になるタイミング

先に結論からお伝えします。

論点 目黒区での答え
誰が報告するか 建築物の所有者または管理者(管理組合、ビルオーナー、ホテル運営者)
対象になる建物 用途と規模で決まる「特定建築物」。共同住宅・ホテル・物販店舗・事務所などが一定規模を超えた場合
窓口 原則は目黒区建築課監察係。敷地内に延べ面積1万平方メートル超の建築物がある場合は東京都
提出ルート 公益財団法人東京都防災・建築まちづくりセンターを経由
手の届く範囲の打診 おおむね6か月から3年以内に一度
外壁の全面打診 竣工または外壁改修からおおむね10年に一度

つまり、目黒区で共同住宅やビルをお持ちなら、「自分の建物は特定建築物か」「次の報告年度はいつか」「前回の全面打診または外壁改修から何年経ったか」の3つを押さえておけば、慌てずに済みます。

私はいつも理事長さまに、「この3つだけメモしておいてください」とお伝えしています。

建築基準法第12条とは何か(定期調査報告と定期検査報告の違い)

建築基準法第12条は、建物の安全性を所有者みずから点検し、行政に報告させる仕組みです。専門用語が続くので、最初に用語をほどいておきます。

  • 特定建築物の定期調査(第12条第1項)…建物本体の調査。外壁、屋根、避難経路、防火区画など。今回の主役はここ
  • 防火設備の定期検査(第12条第3項)…防火扉・防火シャッターなど
  • 建築設備の定期検査…換気、排煙、非常照明など
  • 昇降機等の定期検査…エレベーター、エスカレーターなど

目黒区も公式ページでこの4本立てを案内しています(出典:目黒区「特定建築物及び特定建築設備等の定期報告」)。

対象建築物の具体的な用途・規模は、東京都都市整備局がPDFの一覧表で公開しています(出典:東京都都市整備局「3.定期報告対象建築物・建築設備等及び報告時期一覧」)。判断に迷う複合用途の建物向けに、フローチャートとケーススタディも用意されています。

報告の頻度は「用途と規模」で決まる

ここを誤解されている方が本当に多い。「毎年やるんですか」と聞かれますが、特定建築物の定期調査は用途と規模で報告年度が定められており、共同住宅は3年ごとというサイクルが一般的です。

東京都の解説では、3年ごとに報告する共同住宅の例として令和6年度・令和9年度・令和12年度が報告年次として示されています(出典:前掲 東京都都市整備局)。この例に当てはまる建物であれば、令和8年度(2026年度)は報告年次ではなく、次は令和9年度の5月1日から10月31日までが報告期間になります。

ただし用途コードによって年次は変わります。ご自身の建物がどのコードなのかは、上記の一覧表PDFか、目黒区建築課監察係(03-5722-9649)でご確認ください。

「初回免除」という落とし穴

新築や改築の直後は、検査済証の交付を受けた日の属する年度の翌年度以降、2回目の報告時期から報告義務が生じます。これを初回免除といいます。

一方で、建築設備と昇降機等は扱いが違い、検査済証交付日の翌日から起算して2年を経過する日までに初回の報告が必要です。同じ建物で期限が別々に走るわけです。

私の経験上、竣工から数年のマンションで「うちはまだ関係ない」と思い込んで、エレベーターの初回報告だけ抜けていた、という事例は珍しくありません。

外壁の全面打診が必要になる4つのトリガー

ここからが本題です。平成20年国土交通省告示第282号では、タイル、石貼り(乾式工法によるものを除く)、モルタル等の劣化・損傷の調査について、次のように定められています。

  • おおむね6か月から3年以内に一度、手の届く範囲の打診等
  • おおむね10年に一度、落下により歩行者等に危害を加えるおそれのある部分の全面的な打診等

(出典:国土交通省「定期報告制度における外壁のタイル等の調査について」)

実務上、全面打診が回ってくるトリガーは次の4つに整理できます。

  1. 竣工から10年を超え、その後の報告時期を迎えた
  2. 外壁改修から10年を超えた(前回の大規模修繕で全面補修していれば、そこが起点になります)
  3. 手の届く範囲の打診や目視で異常が認められた(10年を待たずに全面打診の判断へ)
  4. タイルやモルタルの落下事故が起きた、または近隣で発生した

目黒区のように歩道と建物の距離が近く、商店街や通学路に面した中低層ビルが多い地域では、3番と4番が現実的なリスクになります。私が一番悔しい思いをするのは、事故が起きてから「去年やっておけば」と言われる場面です。

ドローン赤外線という選択肢も明確化されている

令和4年1月18日付で告示第282号が一部改正され、打診以外の方法として無人航空機による赤外線調査で、テストハンマーによる打診と同等以上の精度を有するものが調査方法として明確化されました(出典:前掲 国土交通省)。判定にあたっては、一般財団法人日本建築防災協会がとりまとめたガイドラインを参照することとされています。

ただし目黒区の市街地は、密集市街地・狭小敷地・電線の輻輳という三重苦で、ドローンを飛ばせる物件は限られます。私は現地を見ずに「ドローンでいけます」とは申し上げません。明誠ではドローンを使った外壁調査も手がけていますが、目黒区内ではロープアクセスとの併用提案になるケースが多いのが実感です。

なお、落下防止措置付きの外壁タイルの取扱いについては、令和7年6月30日付の技術的助言が最終改正として示され、令和8年7月21日付の事務連絡で性能検証法が案内されています(出典:前掲 国土交通省 関係資料)。ネットや剥落防止工法を施工済みの建物は、この扱いを調査者と事前にすり合わせておくと手戻りが減ります。

目黒区固有の運用|窓口・提出先・書式

目黒区は特別区ですので、特定行政庁としての窓口は原則として区になります。整理すると次のとおりです。

区分 窓口
特定建築物・防火設備の相談 目黒区建築課 監察係 03-5722-9649
建築設備・昇降機等の相談 目黒区建築課 設備指導係 03-5722-9068
敷地内に延べ面積1万平方メートル超の建築物がある場合 東京都 市街地建築部建築企画課(建築安全担当)03-5388-3344

報告書そのものは区役所へ直接ではなく、公益財団法人東京都防災・建築まちづくりセンター(新宿区西新宿七丁目7番30号、特定建築物 03-5989-1929/防火設備 03-5989-1937)を経由して提出します。建築設備は一般財団法人日本建築設備・昇降機センター、昇降機等は一般社団法人東京都昇降機安全協議会が受付機関です(出典:前掲 目黒区)。

申請書類は目黒区のオンラインサービスページからダウンロードできます。また目黒区は、これまで未報告の建築物に関する相談も受け付けていると明記しています。ここは大事なところです。

「何年も出していない」という建物こそ、放置ではなく相談から入るのが結果的に一番早い。私はそうお伝えしています。

目黒区で使える打診調査の実務コスト感

お金の話を避けると、理事会も取締役会も動きません。目安としてレンジをお出しします(物件の規模・形状・足場条件で大きく変動しますので、参考値としてお読みください)。

項目 目安
外壁全面打診調査(調査費のみ) 250〜500円/平方メートル
仮設足場(一般的な単価) 700〜1,200円/平方メートル
外壁塗装 3,500〜4,500円/平方メートル
防水 5,000〜8,000円/平方メートル

問題は打診調査そのものより、そこに到達するための仮設費です。

私が実際に扱った規模感でお話しすると、10階建て・外周80mのマンションで全面打診を行う場合、仮設足場を一式架けると約168万円。これをロープアクセスで行うと約59万円で、差額はおよそ109万円になります。打診調査という「見るだけ」の作業のために足場を架けるのは、正直に申し上げてもったいない。

しかも目黒区の場合、敷地に余裕がなく、隣地との離隔が数十センチという物件がざらにあります。足場を架けるには隣地の承諾が要り、道路使用許可も要る。承諾取得だけで1か月以上かかった現場も見てきました。

ロープアクセス工法が目黒区の12条打診で選ばれる理由

無足場工法であるロープアクセスは、産業用のロープで作業員が外壁に取り付き、打診・補修・塗装を行う工法です。目黒区で選ばれる理由は、ざっくり3つあります。

1. 狭小敷地・密集市街地でも施工できる
屋上にアンカーを取れれば、地上の足場スペースは不要です。隣地との離隔が取れない建物、前面道路が狭い建物でも成立します。

2. 居ながら施工で生活影響が小さい
足場を全面に架けると、バルコニーは数か月使えず、防犯上の不安も出ます。ロープアクセスなら作業する面だけに人が入るので、居住者の日常への影響を抑えられます。賃貸物件なら、退去リスクを下げられる点も見逃せません。

3. 工期が短い
足場の架設・解体だけで2週間前後かかることを考えると、調査単独ならロープアクセスのほうが圧倒的に早い。打診調査だけであれば、中規模マンションで数日から1週間程度が目安です。

工法の技術的な背景や資格体系については、姉妹サイトのロープアクセスドットコムで詳しく解説しています。同業の方やフランチャイズ加盟をご検討の方は、そちらのほうが情報が濃いはずです。

安全面について補足します。明誠および全国のフランチャイズ加盟企業では、ロープアクセス工法での高所作業について過去16年間、墜落による労働災害はゼロを維持しています。IRATA(国際産業ロープアクセス協会)水準の技能訓練を受けた作業員が施工にあたり、ISO9001の品質マネジメントシステムのもとで運用しています。日本ロープ高所作業協会の事務局も、当社が担当しています。

明誠のロープアクセス工法の技術詳細と安全管理の考え方も、あわせてご覧ください。装備や墜落制止用器具の運用基準はロープアクセスドットコム側でより踏み込んで扱っています。

12条点検と大規模修繕を一体で組み立てるメリット

私はこれを、ワンセットで提案するようにしています。理由は3つです。

理由1:仮設費が一度で済む
打診調査で足場を架け、1年後に修繕でまた架ける。これが一番もったいないパターンです。調査と補修をロープアクセスで通せば、仮設費は実質ゼロ回になります。

理由2:調査結果がそのまま修繕仕様になる
打診で浮きが出た箇所の面積・位置を図面に落とせば、アンカーピンニング工法の本数も、タイル張替えの数量も、精度の高い見積になります。「一式いくら」の見積から抜け出せます。

理由3:長期修繕計画の裏付けになる
10年周期の全面打診は、長期修繕計画の見直しタイミングと重なります。調査の実データがあると、修繕積立金の値上げ議論も感情論になりません。

賃貸マンションやビルをお持ちのオーナーさまには、ビルオーナー向けの大規模修繕サービスを、分譲マンションの管理組合さまには管理組合向けのご提案をご用意しています。料金の考え方については明誠の料金に対する姿勢にまとめました。

明誠のこれまでの施工事例(約6,000棟)は https://rita-construction.com/renew/blog/category/works/ からご覧いただけます。打診調査から補修まで一貫で行った事例も掲載しています。

よくあるご質問

Q. 目黒区の分譲マンションですが、うちが特定建築物かどうかわかりません。

A. 用途と規模で決まります。東京都都市整備局の対象建築物一覧PDFとフローチャートで判定できます。判断がつかない場合は、全体の階数・面積、各用途に供する面積、各階の用途を整理したうえで目黒区建築課監察係(03-5722-9649)へお問い合わせください。

Q. 外壁全面打診の費用はいくらくらいですか。

A. 調査費だけなら250〜500円/平方メートルが目安です。ただし足場を架ける場合、仮設費が700〜1,200円/平方メートル上乗せされます。10階建て・外周80mのマンションで、足場約168万円に対しロープアクセス約59万円という差額の例があります。物件により変動しますので、概算お見積りは無料でお出ししています。

Q. 10年経っていなければ全面打診はしなくてよいのですか。

A. 原則としてはおおむね10年周期ですが、手の届く範囲の打診や目視で異常が認められた場合には、落下のおそれがある部分について全面的な打診等を行うこととされています。異常が見つかった時点で、年数に関係なく判断が必要になります。

Q. 前回の大規模修繕で外壁を全面補修しました。起点はいつになりますか。

A. 外壁の改修後10年が一つの目安になります。ただし「どこまで改修したか」の範囲が争点になりやすいので、前回の工事報告書と数量表を保管しておいてください。調査者との事前協議で提示できると話が早いです。

Q. ドローンの赤外線調査で代替できますか。

A. 令和4年1月18日付の告示改正で、打診と同等以上の精度を有する無人航空機による赤外線調査が方法として明確化されています。ただし目黒区は密集市街地と狭小敷地が多く、飛行空間や電線の状況で実施できない物件があります。現地を確認したうえでの判断になります。

Q. 報告を何年も出していません。今から出しても大丈夫でしょうか。

A. 目黒区は、これまで未報告の建築物に関する相談も受け付けていると公式に案内しています。放置するほど是正の範囲が広がりますので、まずは区の建築課監察係へご相談ください。調査の段取りについては、当社でもお手伝いできます。

Q. 工期はどれくらいかかりますか。

A. 打診調査単独であれば、中規模マンションでロープアクセス数日から1週間程度が目安です。足場工法の場合は架設・解体だけで2週間前後を見込みます。補修まで一貫で行う場合は、規模により1.5〜3か月程度です。

Q. 居住者への影響はどの程度ですか。

A. ロープアクセスは作業面にのみ人が入るため、バルコニー使用制限の期間を大幅に短縮できます。事前の掲示と日程周知を丁寧に行えば、居住者の生活への影響は足場工法よりかなり小さく抑えられます。技術的な作業手順はロープアクセスドットコムでも解説しています。

まとめ|目黒区のオーナーさま・管理組合さまが今週動くこと3点

長くなりましたので、動くべきことを3つに絞ります。

1. 建物の「用途コード」と「次の報告年度」を確認する
東京都都市整備局の一覧表PDFで用途コードを特定し、報告年次を手帳に書く。共同住宅で3年周期の例に当たる建物なら、次は令和9年度の5月1日から10月31日です。

2. 竣工年と前回の外壁改修年をカレンダーに落とす
どちらか新しいほうから10年。これが全面打診のカウント開始点です。すでに10年を超えているなら、次の報告年度で調査が必要になります。

3. 足場前提の見積だけで判断しない
打診調査の見積を取る段階で、足場・ロープアクセス・ハイブリッドの3通りで比較してください。目黒区の狭小敷地なら、仮設費で100万円単位の差が出ることがあります。

ご相談だけでも遠慮なくお声がけください。「そもそもうちは対象なのか」という入口の整理だけでも、お力になれることがあります。総会や取締役会にかける前の段階でこそ、外の目を入れる価値があります。お問い合わせはこちらから。

これは私が現場で20年見てきた、嘘偽りのない感想です。次回も、現場で本当に使える話だけをお届けします。

出典・参考資料

本記事の情報の鮮度について:本記事は2026年9月17日時点で公表されている目黒区および国土交通省・東京都の公式情報をもとに執筆しています。参照した目黒区の定期報告案内ページは2025年5月9日更新のもので、令和8年度分の個別の案内は掲載されていないため、報告年次・書式・提出方法については目黒区建築課監察係および受付機関へ直接ご確認ください。制度は年度途中でも改正があり得ます。

この記事の執筆者

本間 幸紘(ほんま ゆきひろ)
株式会社明誠 代表取締役/東京都東大和市
マンション・ビル・ホテルの大規模修繕20年以上の実務経験。3工法(通常足場/ロープアクセス/ハイブリッド)から建物特性に応じて最適提案。日本初のロープアクセス工事フランチャイズ本部を運営。JCSA(一般社団法人 全国建設業支援協会)代表理事。

最終更新:2026年9月17日

目黒区のマンション漏水・防災対策|目黒川の谷底・26か所の土砂災害警戒区域から逆算する大規模修繕2026年度版

2026年9月16日 更新

中目黒で賃貸マンションを1棟、洗足で分譲マンションの理事長をされているオーナーさまから、去年の秋にご相談をいただきました。「9月11日の大雨で、中目黒のほうだけ地下の駐車場に水が入った。洗足は何ともなかった。同じ目黒区内なのに、なぜこんなに違うのか」。

私は株式会社明誠の本間幸紘と申します。東京都東大和市を拠点に、20年近くマンション・ビル・ホテルの外壁と向き合ってきました。仮設足場を組む工事も、ロープ1本でぶら下がる無足場の工事も、どちらも現場でやってきた人間です。

答えは単純でした。中目黒は目黒川が削った谷の底にあり、洗足は荏原台という台地の上にあります。目黒区は海に面していません。それなのに毎年のように水が出るのは、川からあふれる水ではなく、降った雨が谷底に集まってくるからです。

今日は、目黒区が公表している最新のハザード資料から逆算して、目黒区の分譲・賃貸マンションで先に手を打つべき漏水ポイントと、防災上の共用部の修繕優先度を整理します。


結論:目黒区は「谷底の内水」と「斜面の土砂」を別々に見る区です

先に結論です。目黒区の建物では、自分の建物が次の3つのどれに立っているかを地図で確定させてから、修繕の順番を組みます。

立地 該当エリアの例 最優先の対策
目黒川・蛇崩川・立会川の谷底 中目黒、上目黒、青葉台、東山、目黒本町、原町、洗足の谷筋 屋上ドレン清掃/止水板/地下の電気設備の位置確認
台地の縁の斜面地(土砂災害警戒区域) 駒場一丁目、大橋二丁目、青葉台二・三丁目、中目黒一・四丁目、下目黒一・三丁目、三田一丁目、目黒一・三・四丁目、上目黒一丁目 擁壁の水抜き穴/斜面側の外壁とシーリング
台地の上(淀橋台・荏原台) 八雲、柿の木坂、平町、碑文谷、鷹番、中根、自由が丘の高い側 通常の劣化サイクルどおり。ただし雨水の行き先だけは確認

そのうえで、どの立地でも共通して最優先なのは屋上ドレン(屋上の排水口)の清掃履歴です。私が20年見てきた漏水事故の大半は、河川の氾濫ではなく、ドレンの詰まりとシーリングの切れから始まっています。派手な災害より、地味な詰まりのほうが高い確率で建物を傷めます。

目黒区には、読み違えやすい特徴がもうひとつあります。区の面積のうち高潮の想定区域はごくわずかで、洪水の想定も限定的という点です。だから「うちは海から遠いから大丈夫」と思われがちなのですが、実際に被害が出ているのは内水(ないすい)と土砂のほうです。ここからが本題です。


目黒区のハザード資料を4枚で読む

目黒区は、目黒区水害ハザードマップと土砂災害ハザードマップの2種類を公表しています。水害のほうは1枚に「洪水」「雨水出水」「高潮」の3種類がまとめて載っており、いずれも水防法に基づくものです(出典:目黒区「目黒区水害ハザードマップ」/更新日:2026年3月25日)。

理事会でお使いになるなら、この2枚で足ります。順に見ていきます。

1. 洪水(外水氾濫)

目黒川・渋谷川・立会川などが対象で、東京都建設局の「城南地区河川流域浸水予想区域図」に基づきます。想定した雨は総雨量690ミリ、時間最大雨量153ミリで、これは想定し得る最大規模の降雨として設定されたものです(出典:東京都建設局「城南地区河川流域浸水予想区域図」)。

東京の下水道は、おおむね時間50ミリ前後の雨を流せるように整備されてきました。153ミリはその3倍です。インフラ側の能力を大きく超える雨を前提にした地図だと押さえてください。

2. 雨水出水(内水氾濫)— 目黒区でいちばん効く地図

令和8年3月に東京都下水道局が都内の雨水出水浸水想定区域図を新たに作成し、これに伴って目黒区水害ハザードマップの雨水出水部分は、水防法に基づくものになりました(出典:東京都下水道局「城南地区河川流域 雨水出水浸水想定区域図」)。

「内水」とは、川から水が来るより先に、降った雨が足元からあふれてくる現象です。目黒川から離れた碑文谷・原町・洗足あたりでも、周囲より低い窪地なら水はたまります。

目黒区のマンションで実際に起きやすいのは、圧倒的にこちらです。私が呼ばれる漏水・浸水の現場も、9割以上が内水側です。

3. 高潮

東京都港湾局が令和6年12月に高潮浸水想定区域図を改定しました。これにより目黒区内の高潮による浸水面積は縮小し、下目黒2丁目1番、2番、15番が浸水想定区域から外れています(出典:目黒区「目黒区水害ハザードマップ」高潮浸水想定区域図について)。

区域が縮小したこと自体は良いニュースです。ただし、古いハザードマップのコピーを管理室に貼ったままの物件がかなりあります。改定前の図と改定後の図では、対象になる住戸が違います。長期修繕計画の資料として使うなら、差し替えをおすすめします。

4. 土砂災害 — 警戒区域26か所、特別警戒区域16か所

目黒区は23区のなかでも意外に斜面地が多い区です。土砂災害防止法に基づく指定状況は、次のとおりです(出典:目黒区「土砂災害防止法に基づく土砂災害警戒区域等」/更新日:2025年8月6日)。

告示日 告示番号 警戒区域 特別警戒区域 内容
平成30年5月31日 東京都告示第806号 25 18 当初指定(K001〜K025)
令和4年11月18日 東京都告示第1490号 −2 −2 K002・K003を指定解除
令和7年4月25日 東京都告示第573号・第576号 — −2 K009〜K011を解除・区域変更
令和7年4月25日 東京都告示第576号 +3 +3 K026〜K028を新規指定
令和7年7月30日 東京都告示第821号・第829号 — −1 K012を解除・指定
計 26 16

区域を含む町丁は、区の早見表(令和7年4月25日更新)によると駒場一丁目、大橋二丁目、青葉台一・二・三丁目、上目黒一丁目、中目黒一丁目、中目黒四丁目、下目黒一丁目、下目黒三丁目、三田一丁目、目黒一丁目、目黒三丁目、目黒四丁目です。このほかに駒場四丁目6番1号(東京大学の敷地の一部)にも警戒区域があります。

なお区は、この早見表について「記載の町丁全域が区域に該当しているということではない」と注記しています。必ず東京都の土砂災害警戒区域等マップで番地まで確認してください。区の土砂災害ハザードマップは、令和7年4月の東京都による新規指定を受けて令和7年10月に更新されています(出典:目黒区「土砂災害ハザードマップ」/更新日:2026年8月31日)。


令和7年の大雨で、目黒区で何が起きたか

ここは、ハザードマップのシミュレーションより重い情報です。

区の発表によると、令和7年7月10日と令和7年9月11日に区内各地で道路や緑道の冠水、家屋の浸水被害をもたらす大雨があり、特に9月11日の大雨では約400件の被害調査依頼がありました(出典:目黒区「目黒区豪雨対策サポートプランを取りまとめました」/令和7年11月26日発表)。

400件です。海に面していない区で、1日でこれだけの被害申告が出ています。

これを受けて区がまとめたのが「目黒区豪雨対策サポートプラン」です。主な内容は次のとおりです。

新規の取組

  • 浸水被害に対する消毒対応の支援
  • 排水ポンプの貸出(区内に10台程度を配備)
  • 災害時の相談窓口ワンストップ化・コールセンター
  • り災証明書の発行手続のオンライン化

拡充した取組

  • 止水板設置工事費助成の大幅拡充(詳細は後述)
  • 緊急用土のう保管箱の増設(地域偏在の軽減)

私がこの資料を読んで、管理組合さまに一番お伝えしたいのは排水ポンプの貸出が「10台程度」であるという点です。400件の被害が出た日に、区が貸せるポンプは10台。順番は回ってきません。自分の建物の排水は、自分の建物で持つ。これが目黒区の前提条件です。

浸水履歴は「町名・番」まで公表されています

もうひとつ、目黒区で必ず見ていただきたい資料があります。浸水履歴です。平成16年度から令和7年度までに区内で発生し、報告があった浸水被害が記録されています(出典:目黒区「浸水履歴」/更新日:2026年7月28日)。

個人情報保護の観点から「号」は非公表ですが、「町名」と「番」までは公表されています。ここまで細かく出している区は多くありません。

私はいつも理事長さまに「シミュレーションの色より、この履歴を先に見てください」とお伝えしています。実際に水が来た場所は、地形が変わらない限り、また来ます。ただし区も「報告を受けた浸水被害であり、区内で発生した全ての浸水被害を示すものではない」と注記していますので、履歴に載っていない=安全、ではありません。

目黒川沿いには12か所のサイレンがあります

目黒区は、集中豪雨のときに目黒川の水位をサイレンで知らせています。スピーカーは区内の目黒川沿い12か所に設置されています(出典:目黒区「目黒川水位警報」)。

種別 発報条件 鳴り方
警戒水位情報 目黒川の水位が上部まで2.5メートルに達したとき 15秒吹鳴+5秒休みを9回
危険水位警報 目黒川の水位が上部まで1メートルに達したとき 3分吹鳴+1分休みを2回

管理員さんや防災担当理事の方には、この2つの違いを共有しておいてください。15秒刻みが9回なら準備、3分の長鳴りが来たら地下から車を出す。それだけ決めておくと、当日の判断が速くなります。


目黒区の地形と、漏水事故の関係

現場の話に移ります。目黒区は東西に細長く、北から南へ目黒川が流れ、その両側に台地が迫る地形です。この形が、建物の傷み方をはっきり分けます。

谷底の建物で起きること

中目黒・上目黒・東山・青葉台の川沿い、目黒本町・原町の谷筋にある建物では、道路面に水がたまる→半地下駐車場や1階共用廊下に入る→電気室・受水槽室・エレベーターピットが濡れる、という順で問題が出ます。外壁の漏水よりも、設備が止まることのダメージのほうが大きいのが谷底の物件です。エレベーターが2週間止まれば、高齢の居住者から苦情が出ます。賃貸なら退去が出ます。

目黒区は平成23年4月に「目黒区建築物浸水予防対策指導要綱」を定めており、周囲の地面より低い位置に床を有する建築物を計画する際は、浸水予防対策の検討結果報告書の提出を求めています。区はすでに半地下駐車場や地下室をお持ちの方にも、同様の対策をとるよう呼びかけています(出典:目黒区「目黒区建築物浸水予防対策指導要綱」)。「新築時に基準がなかった」ことは、今対策しない理由にはならないというのが区の立場です。

斜面地の建物で起きること

駒場・大橋・青葉台・中目黒一丁目・下目黒一丁目などの斜面地では、話がまったく変わります。擁壁の水抜き穴が詰まって擁壁の裏に水がたまる。斜面側の外壁が常に湿り、塗膜が早く浮く。そして斜面側は足場が組みにくいため、点検が後回しになります。

私が現場で一番悔しい思いをするのは、この「斜面側だけ点検されていなかった」というケースです。足場の見積りを取ったら斜面側の仮設費が跳ね上がり、結局その面だけ見送った。数年後に室内側からカビが出て、初めて全面をやり直す。よくあります。

区は、令和2年の神奈川県逗子市のがけ崩れを踏まえて、国土交通省が示した斜面の自主点検ポイントを案内しています。見るのは3つだけです。斜面に亀裂がないか。浮き石がないか。落石がないか。植生が貧弱な場所は風化が進みやすく、無降雨でも崩れることがあります。変状があれば区(建築課 構造指導係/03-5722-9647)に相談できます。

台地の上の建物で起きること

八雲・柿の木坂・碑文谷・鷹番・中根など台地の上は、浸水・土砂ともにリスクの低い区域です。ただし自分の敷地の雨水がどこへ抜けているかだけは確認してください。台地の上から敷地外へ流した雨が、下の谷に集まります。目黒区が浸透ます・浸透トレンチの助成を出しているのは、この「流域全体で受け止める」考え方に基づくものです。


大規模修繕で先に見るべき漏水ポイント7つ

ここからは、実際に建物のどこを見るかです。目黒区の物件で、私が優先順に並べるとこうなります。

1. 屋上ドレン(排水口)と、その周辺の防水立ち上がり

最優先です。ストレーナー(ゴミよけのかご)が付いているか、直近1年で何回清掃したか。目黒区は住宅地に街路樹と緑が多く、落ち葉が屋上に乗ります。落ち葉1枚が詰まりの起点になります。

清掃の目安は年2回、台風シーズン前(6月)と落葉後(12月)。1回あたりの費用は小規模マンションで2〜4万円程度が目安です(物件の規模と屋上形状により変動します)。

2. 開口部まわりのシーリング

サッシ・面格子・換気口の周囲。目黒区の谷筋は湿度が高く、日照条件も面によって大きく違います。南面と北面でシーリングの寿命が2〜3年ずれるのは普通です。全面一律に交換するより、面ごとに劣化度を見て優先順位を付けたほうが費用対効果は高くなります。打ち替えの単価は、材料と部位にもよりますが1メートルあたり900〜1,600円程度が目安です。

3. 外壁のひび割れ(クラック)と浮き

幅0.3ミリを超えるひび割れは、雨水の侵入経路になり得ます。斜面側・谷側は特に注意してください。打診調査の単価は1平方メートルあたり250〜500円程度が目安です。

4. バルコニー・共用廊下の床防水と立ち上がり

床の防水は切れていないのに、立ち上がり(壁との取り合い)から漏るのが一番多いパターンです。ウレタン防水の改修単価は1平方メートルあたり5,000〜8,000円程度が目安になります。

5. 屋上・塔屋の笠木(かさぎ)とジョイント

笠木の継ぎ目から入った水が壁の中を伝い、離れた場所の天井に出る。「原因が特定できない漏水」と呼ばれるものの多くは、これです。

6. 擁壁の水抜き穴(斜面地の物件)

水抜き穴が土やコケで詰まっていないか。詰まっていれば擁壁の裏に水圧がかかります。外壁の問題ではなく構造の問題なので、優先度は高いと考えてください。

7. 地下ピット・電気室・エレベーターピットの位置

図面で確認してください。地下または1階にあるなら、止水板の設置と、可能なら設備の嵩上げ(かさあげ)を検討します。令和8年度の目黒区の止水板助成は、後述のとおりかなり手厚い内容です。


漏水の緊急対応で、ロープアクセスが強い理由

漏水は待ってくれません。「9月の台風で漏った、来月の総会まで待てない」という状況で、足場を組む選択肢はほぼ取れません。見積り、近隣挨拶、架設で着工まで2〜4週間が普通です。その間も雨は降ります。

明誠のロープアクセス工法なら、屋上からロープを下ろして当日または翌日に調査に入れます。原因箇所を特定し、その場で応急のシーリング補修まで済ませられるケースも少なくありません。

コスト面の差も無視できません。目安として、10階建て・外周80メートル・工期3ヶ月の物件で仮設足場を組むと約168万円。同じ条件でロープアクセスを使えば約59万円で、差額は約109万円です。30戸規模のマンションの大規模修繕総額が3,500〜5,000万円、そのうち仮設足場が15〜25パーセントを占めることを考えると、この差は修繕積立金の使い方を変えます。

なお、これらはあくまで参考値です。建物形状、外周の道路条件、隣地との距離、工事の範囲によって実際の見積りは大きく変わります。現地を見ないで金額を断定する会社には、気をつけてください。

株式会社明誠はこれまでに約6,000棟のマンション・ビル・ホテルの大規模修繕を手がけてきました。ロープアクセス工法での高所作業について、明誠および全国のフランチャイズ加盟企業では過去16年間、墜落による労働災害はゼロを維持しています。作業員はIRATA(国際産業ロープアクセス協会)水準の技能訓練を受けています。

技術的な仕組みや安全基準をもう少し詳しく知りたい方は、同業者・技術者向けの姉妹サイトロープアクセスドットコムにまとめていますので、あわせてご覧ください。

目黒区で特に相性がいいのは、斜面地の物件と、隣地が迫っている谷底の物件です。どちらも足場の架設条件が悪く、仮設費が跳ね上がる立地だからです。斜面側だけロープアクセス、平場側は足場、という組み合わせ(ハイブリッド工法)も現実的な選択肢になります。


防災上の共用部と、修繕の優先度

理事会で議論が割れたときの、優先順位の考え方を書いておきます。

優先度 対象 理由
最優先 屋上ドレン清掃、排水経路の確保 費用が小さく、効果が大きい。今週でもできる
高 電気室・受水槽・EVピットの止水(止水板・嵩上げ) 止まると生活が止まる。令和8年度は助成が手厚い
高 擁壁の水抜き穴(斜面地のみ) 構造リスク。放置すると工事規模が跳ね上がる
中 シーリング打ち替え、防水改修 計画修繕に組み込める。面別の優先順位付けが有効
中 外壁塗装 単価の目安は1平方メートルあたり3,500〜4,500円程度
検討 非常用電源、備蓄倉庫 大規模修繕と同時発注でコスト圧縮できる場合がある

もうひとつ、目黒区固有の重要な情報があります。風水害時には開設されない避難所があるという点です。

区は、下目黒小学校、向原小学校、田道小学校について「浸水想定区域内にあるため、風水害時に避難所の開設は行いません」と明記しています。一方、土砂災害の危険が高まったときに開設するのは、目黒区立第一中学校(大橋二丁目11番1号)、菅刈小学校(青葉台三丁目3番26号)、中目黒小学校(中目黒三丁目13番32号)、大鳥中学校(下目黒三丁目23番18号)の4か所です(出典:目黒区「土砂災害ハザードマップ」)。

管理組合の防災マニュアルに「最寄りの小学校へ避難」とだけ書いてある物件は、災害の種類によって開かない可能性があります。大規模修繕の打ち合わせのついででかまいませんので、記載を見直してください。マンションでは上階への「垂直避難」のほうが現実的なことも多く、その場合は非常用照明が生きているかも修繕時のチェック項目になります。


目黒区で使える令和8年度の助成制度

ここが今年の目玉です。目黒区の止水板助成は、令和7年11月の豪雨対策サポートプランで大幅に拡充されました。

目黒区止水板設置工事助成(令和8年度)

台風やゲリラ豪雨による浸水被害を軽減するため、住宅・店舗・事務所などに止水板等を設置する工事に対して、工事費の一部を助成する制度です。助成額は次のとおりです(出典:目黒区「住宅や店舗に止水板等を設置するための工事に対する助成」/更新日:2026年9月16日)。

区分 条件 限度額 助成率
個人 目黒区内に住所を有する個人 100万円 工事費の10分の9
個人 その他の個人 50万円 工事費の10分の9
法人 申請日の1年以上前から区内に本店または支店等の登記がある法人 150万円 工事費の4分の3
法人 その他の法人 75万円 工事費の4分の3

区の発表によると、拡充前の個人への助成率は4分の3、法人への助成額は100万円でした。個人への助成率は特別区でトップの水準、法人への助成率4分の3も特別区でトップの水準と区は説明しています。この拡充は令和10年度までの期限付きを予定しており、対象は令和7年7月10日以降の設置です。

助成対象になるのは、出入口等に浸水を防ぐ目的で設置する取り外しまたは移動が可能な金属板の設置工事、および止水効果を高めるための内外壁の止水工事・土間コンクリート打設工事です。止水板の購入だけでは対象になりません。

ここは間違えやすいので強調します。工事開始前に申請が必要です。道路公園課 補修調整係(03-5722-9775)への事前相談が前提で、着工後の申請は受け付けられません。また予算の範囲内での助成ですので、検討されている管理組合さま・オーナーさまは、残枠を窓口へご確認ください。

雨水流出抑制施設等(浸透ます・浸透トレンチ・雨水タンク)の助成

流域全体で雨を受け止めるための制度です(出典:目黒区「雨水流出抑制施設等の助成」/更新日:2026年8月7日)。

項目 内容
助成限度額 40万円
浸透ます・浸透トレンチ 標準工事費単価表に設置数量を乗じた額と実際の工事費のいずれか低い額
雨水タンク 5万6千円と実際の工事費のいずれか低い額(原則、浸透施設との併用かつ容量200リットル以上)
対象者 助成対象事業に係る住宅等の所有者で、個人に限る(個人所有の共同住宅も対象)
除外 敷地面積500平方メートル以上の新築住宅

注意点が2つあります。ひとつは、個人所有の共同住宅は対象になるが、法人所有は対象外であること。もうひとつは、こちらも工事着工前の交付申請が必須で、着工日以降の申請は対象外になることです。窓口は都市整備課 開発係(03-5722-9715)です。

予算枠のある事業は、年度途中で受付を終えることがあります。着工前に、残枠と申請順序を窓口へご確認ください。


背景データ:雨の降り方が変わっています

「昔はこんなに漏らなかった」というお声を、本当によくいただきます。感覚の問題ではありません。

気象庁は、全国のアメダスで観測した1時間降水量50ミリ以上の年間発生回数について、1980年ごろと比べて最近10年間はおおむね増加していることを公表しています。強い雨ほど頻度の増加率が高いという評価です(出典:気象庁「大雨や猛暑日など(極端現象)のこれまでの変化」、気象庁「アメダスで見た短時間強雨発生回数の長期変化について」)。

目黒区も、豪雨対策サポートプランのなかで「東京都の役割である河川・下水道施設の取組が長期に渡ることが想定される現状を踏まえ」と書いています。インフラ側の整備には時間がかかる。その間の差は建物側で埋めるしかない——区も同じ認識だということです。区境をまたぐリスクは、国土地理院の重ねるハザードマップでも確認できます。


よくあるご質問

Q. 目黒区は海に面していないのに、なぜ浸水被害が出るのですか?

A. 川からあふれる外水氾濫ではなく、降った雨が下水道の処理能力を超えてあふれる内水氾濫が主な原因です。目黒川が削った谷の底に水が集まる地形のため、令和7年9月11日の大雨では区内で約400件の被害調査依頼がありました。

Q. 自分のマンションが土砂災害警戒区域に入っているか、どこで調べられますか?

A. 目黒区の早見表(令和7年4月25日更新)に該当する13町丁が載っていますが、町丁全域が対象というわけではありません。番地単位の確認は東京都の土砂災害警戒区域等マップで行うのが確実です。目黒区建築課や東京都建設局河川部で公示図書を閲覧することもできます。

Q. 止水板の工事に、いくらくらいかかりますか?

A. 出入口の幅や仕様によって大きく変わりますが、令和8年度の目黒区の助成を使えば、個人であれば工事費の10分の9(限度額100万円または50万円)、法人であれば4分の3(限度額150万円または75万円)が助成されます。事前相談が必須で、着工後の申請は受け付けられませんのでご注意ください。

Q. 漏水の原因調査だけをお願いすることはできますか?

A. できます。ロープアクセス工法なら足場を組まずに屋上から下りて調査できるため、足場を組む場合と比べて着工までの時間も費用も抑えられます。調査だけ、ご相談だけでも構いません。漏水・雨漏り調査のご案内もあわせてご覧ください。

Q. ロープアクセス工法だと工期はどれくらい短くなりますか?

A. 建物の形状によりますが、足場工法のおおむね60パーセント程度の工期が目安です。10階建て・外周80メートルのマンションであれば、足場工法で3ヶ月かかる工事が、ロープアクセスでは1.5〜2ヶ月程度になるケースが多くあります。

Q. 斜面地の物件で、斜面側だけ工事することはできますか?

A. できます。斜面側はロープアクセス、平場側は通常の足場、という組み合わせ(ハイブリッド工法)もご提案しています。斜面側は足場の架設費が跳ね上がりやすい部位なので、目黒区の斜面地の物件ではこの組み合わせが有効なことが多いです。料金の考え方もご参照ください。

Q. 大規模修繕と防災対策を、同時にやる意味はありますか?

A. あります。仮設費・足場費は工事の回数だけかかるため、止水板設置や設備の嵩上げを大規模修繕と同じタイミングで発注すると、共通仮設のコストを1回分に圧縮できます。ただし目黒区の止水板助成には工事着工前の申請という条件があるため、修繕工事のスケジュールに合わせて逆算しておく必要があります。


まとめ:今週、理事会・管理会社に投げられる3点

長くなりました。目黒区の建物で、今週すぐ動けることを3つに絞ります。

1. 水害ハザードマップと浸水履歴を、両方見る

目黒区水害ハザードマップで洪水・雨水出水・高潮の3つを確認し、そのうえで浸水履歴(平成16年度〜令和7年度)で自分の建物の「町名・番」が載っていないかを確認してください。10分で終わります。斜面地の物件は土砂災害ハザードマップもあわせて。

2. 屋上ドレンの清掃記録を、管理会社に出してもらう

直近1年で何回清掃したか。ストレーナーは付いているか。地下ピットがある物件は、排水ポンプの点検記録もあわせて。区が貸せる排水ポンプは区内で10台程度です。順番は回ってきません。台風シーズンの真っ最中ですから、今週が一番効きます。

3. 止水板助成の事前相談を、1本入れる

電気室・受水槽・エレベーターピットが地下または1階にある物件は、道路公園課 補修調整係(03-5722-9775)へ事前相談を入れてください。令和8年度の助成率は個人10分の9、法人4分の3で、令和10年度までの期限付き拡充です。斜面地の物件は、擁壁の水抜き穴の詰まりを現地で確認し、変状があれば建築課 構造指導係(03-5722-9647)へ。

令和10年度までに動けるかどうかが、この助成を使えるかどうかの分かれ目です。理事会で1分だけでもこの話題を出してみてください。調査だけ、ご相談だけでも構いません。総会前の整理の段階から、お力になれることがあります。お問合せフォームからお声がけください。

冒頭のオーナーさまには、結局こうお伝えしました。「中目黒と洗足は、別の建物として修繕計画を立ててください」と。同じ区内、同じ管理会社、同じ塗料でも、立っている地形が違えば傷み方が違う。目黒区で修繕積立金を有効に使う一番の近道は、区内の平均ではなく、自分の建物の地形で考えることだと、私は思っています。

明誠のこれまでの施工事例は https://rita-construction.com/renew/blog/category/works/ からご覧いただけます。ロープアクセス工法の技術情報・安全基準はロープアクセスドットコムにまとめています。


この記事の執筆者

本間 幸紘(ほんま ゆきひろ)
株式会社明誠 代表取締役/東京都東大和市
マンション・ビル・ホテルの大規模修繕20年以上の実務経験。3工法(通常足場/ロープアクセス/ハイブリッド)から建物特性に応じて最適提案。日本初のロープアクセス工事フランチャイズ本部を運営。JCSA(一般社団法人 全国建設業支援協会)代表理事。

最終更新:2026年9月16日


本記事の情報の鮮度について:本記事は2026年9月16日時点で公表されている目黒区および国土交通省・気象庁・東京都の公式情報をもとに執筆しています。制度は年度途中でも改正・予算終了があり得ます。実際に申請される前に、必ず目黒区および該当窓口へ最新の内容をご確認ください。ハザードマップの被害想定は東京都および区が公表したものであり、実際の被害状況と異なることがあります。また、費用に関する記述は当社の見積実績に基づく目安であり、公的な単価ではありません。


出典・参考資料


関連ページ

品川区のマンション漏水・防災対策|台地の縁・目黒川の低地・湾岸埋立地で変わる7つの漏水ポイント

2026年9月16日 更新

五反田で賃貸マンションを2棟、天王洲でオフィスビルを1棟持っておられるオーナーさまから、去年の秋にこう言われました。「同じ会社が管理して、同じ年に外壁を塗ったのに、天王洲のほうだけ傷みが早い。手抜きをされたんじゃないか」。

私は株式会社明誠の本間幸紘と申します。東京都東大和市を拠点に、20年近くマンション・ビル・ホテルの外壁と向き合ってきました。仮設足場を組む工事も、ロープ1本でぶら下がる無足場の工事も、どちらも現場でやってきた人間です。

結論から申し上げると、手抜きではありませんでした。天王洲は東京港に面した埋立地で、五反田は目黒川が刻んだ谷のなかにあります。海からの塩分を含んだ風を1年中受ける建物と、内陸の谷にある建物では、同じ塗料・同じ職人でも傷み方が違います。品川区は、こういう「区内での差」がとりわけ大きい区です。

今日は、品川区が公表している最新のハザード資料から逆算して、品川区の分譲・賃貸マンションで先に手を打つべき漏水ポイントと、防災上の共用部の修繕優先度を整理します。


結論:品川区は「台地・低地・埋立地」の3層で対策を分ける区です

先に結論です。品川区の建物では、自分の建物が次の3つのどれに立っているかを地図で確定させてから、修繕の順番を組みます。

立地 該当エリアの例 最優先の対策
台地の上・台地の縁(斜面地) 上大崎、東五反田(島津山・池田山)、西五反田、北品川の御殿山、荏原の台地部 擁壁の水抜き穴/斜面側の外壁とシーリング
目黒川・立会川沿いの低地 大崎、西五反田、東五反田の川沿い、東大井、南大井、勝島 屋上ドレン清掃/地下・1階の止水対策
湾岸の埋立地 八潮、東品川(天王洲)、勝島、大井ふ頭 塩害を前提とした鉄部・シーリングの前倒し更新

そのうえで、どの立地でも共通して最優先なのは屋上ドレン(屋上の排水口)の清掃履歴です。私が20年見てきた漏水事故の大半は、河川の氾濫ではなく、ドレンの詰まりとシーリングの切れから始まっています。派手な災害より、地味な詰まりのほうが高い確率で建物を傷めます。

品川区には、もうひとつ読み違えやすい特徴があります。荒川沿いのゼロメートル地帯を抱える区とは違い、台地と低地が細かく入り混じっていることです。だからこそ「うちは大丈夫」と「うちは危ない」が隣の街区で入れ替わります。ここからが本題です。


品川区のハザード資料を1枚で読む

品川区は、地震マップ・浸水ハザードマップ・高潮浸水ハザードマップ・多摩川洪水ハザードマップ・津波(立会川)ハザードマップ・土砂ハザードマップを、品川区防災地図(令和8年6月一部修正)として1冊にまとめています(出典:品川区「浸水に関するハザードマップと浸水実績」/更新日:令和8年9月1日)。

理事会でお使いになるなら、この防災地図1冊で足ります。

1. 浸水ハザードマップ(防災地図16〜23ページ)

東京都建設局の「城南地区河川流域浸水予想区域図」に基づいて区が作成したもので、河川からあふれる外水氾濫と、下水道が追いつかない内水氾濫の両方を示しています。想定した雨は総雨量690ミリ、時間最大雨量153ミリです。

東京の下水道は、おおむね時間50ミリ前後の雨を流せるように整備されてきました。153ミリはその3倍です。インフラ側の能力を大きく超える雨を前提にした地図だと押さえてください。

この地図には、平成元年と平成11年に品川区で実際に起きた浸水実績が青枠で重ねてあります。私はいつも理事長さまに「シミュレーションの色より、この青枠を先に見てください」とお伝えしています。実際に水が来た場所は、地形が変わらない限り、また来ます。

2. 雨水出水浸水ハザードマップ(防災地図26・27ページ)

内水氾濫だけを抜き出した地図です。東京都下水道局の「城南地区河川流域 雨水出水浸水想定区域図」(令和8年3月25日公表)に基づきます。品川区のマンションで実際に起きやすいのは、圧倒的にこちらです。

「内水」とは、川から水が来るより先に、降った雨が足元からあふれてくる現象です。目黒川や立会川から離れた荏原・小山あたりでも、窪地なら水はたまります。

さらに区は、落ち葉による雨ますの詰まりで起きる浸水は、シミュレーションに反映しきれないと明記しています。現場の人間として申し上げれば、この「反映しきれない部分」こそが、管理組合さまが自力で減らせる部分です。

3. 高潮・多摩川洪水ハザードマップ(防災地図24・25ページ)

高潮は東京都港湾局の「高潮浸水想定区域図」(令和6年12月19日公表の改定版)に基づき、室戸台風級(中心気圧910hPa)で堤防等の決壊も見込んだ想定です。八潮・東品川・勝島・北品川に物件をお持ちなら、この地図の浸水継続時間を見てください。区は「地盤高が満潮面より低い地域では、堤防等が決壊した場合、台風の通過後でも、日々の潮位変化によって浸水が継続する場合がある」と書いています。水が引かない前提で電気設備の位置を考える必要があります。

多摩川洪水は、国土交通省関東地方整備局京浜河川事務所の資料に基づき、多摩川が決壊して約8時間後に氾濫水が到達した場合を想定したものです(前提は流域48時間総雨量588ミリ)。8時間という猶予は、建物側から見れば土のうを積む、止水板を立てる、地下の車両を出す——手順書があれば間に合う時間です。なければ間に合いません。

4. 土砂ハザードマップ

品川区は23区のなかでも斜面地の多い区で、土砂災害防止法に基づく土砂災害(特別)警戒区域が指定されています。最新の告示は令和8年1月22日です(出典:品川区「土砂災害に備えて」/更新日:令和8年6月9日)。

指定の基準は、傾斜30度以上かつ高さ5メートル以上の傾斜地と、その上端から水平10メートル以内・下端からがけの高さの2倍以内(最大50メートル)の区域です。区が避難情報(高齢者等避難・避難指示)の発令対象としている区域は、次のとおりです。

地区 対象となる町丁(いずれも一部)
品川地区 北品川三・五・六丁目、南品川六丁目
大崎地区 東五反田一・三・四・五丁目、上大崎一・三・四丁目、西五反田三・八丁目
大井地区 東大井三・四丁目
八潮地区 八潮五丁目

御殿山、島津山、池田山といった高台の名前が並んでいるのに気づかれたと思います。品川区の「良い住宅地」は、多くが台地の縁にあります。眺望の良さと、がけのリスクは同じ地形から来ているわけです。


地域特性と漏水事故の関係

ここはハザードマップに書かれていない部分です。私が品川区で見てきた傾向を、正直に申し上げます。

湾岸の埋立地(八潮・東品川・勝島)——塩害とタワー物件の共用部

冒頭のオーナーさまの天王洲の物件が、まさにこれでした。海に面した立地では、塩分を含んだ風が1年中、建物の表面に当たり続けます。塗膜の劣化が早く、鉄部(手すり、避難ハッチ、屋外階段、設備架台)の錆の進行も内陸より速いのが実感です。

タワー物件の漏水で私が一番厄介だと感じるのは、高層部の風圧です。同じ雨でも、高さ100メートルでは横殴りの雨が窓まわりやシーリングの切れ目に押し込まれます。地上で「雨漏りするほどの雨じゃない」と感じる日に、上層階だけ漏るのはこれが理由です。

埋立地では、建物本体と外構の不同沈下にも注意が必要です。エントランスのタイルが浮き、目地が開き、そこから雨が入って地下ピットに回る。見落とされやすい経路です。

目黒川・立会川沿いの低地(大崎・五反田・東大井・南大井)——地下と1階が弱点

目黒川沿いの大崎・五反田は、再開発でビルが建ち並んだ一方、川面との高低差が小さいエリアです。立会川は上流部が暗渠(地下に埋められた水路)になっていて、その谷が刻んだ坂が入り組んでいます。暗渠の上は、地形としては谷の底です。

この帯で私が見てきた漏水は、屋上からではなく下から上がってくるものが多いです。地下駐車場、地下の機械室、1階の店舗。排水ポンプが止まれば、雨が止んでも水位は下がりません。

台地の上と台地の縁(上大崎・東五反田・西五反田・御殿山・荏原)——擁壁が主役

台地の上に建つ建物は、水害リスクとしては区内で最も低いグループです。ただし、台地の縁に建つ建物は話が別です。

斜面地の物件で私が最初に見るのは、擁壁の水抜き穴です。擁壁の壁面に等間隔で開いている、直径5〜7センチほどの穴のことです。あれは飾りではなく、土のなかの水を抜いて擁壁にかかる水圧を下げる装置です。穴が土や植栽の根で詰まると、擁壁の裏に水がたまり、擁壁の変形やはらみにつながります。

そして斜面側の外壁は、足場が組めないことが多い——この話は後ほど申し上げます。


大規模修繕で必ずチェックすべき漏水ポイント7つ

立地を問わず、大規模修繕のときに見ておいていただきたい7点です。私はこれを、ワンセットで提案するようにしています。

1. 屋上防水——防水層の膨れ、立上り部の口開き、保護モルタルのひび割れ。改修の目安はウレタン塗膜で10〜13年、シート防水で13〜20年程度ですが、湾岸の紫外線と塩害を受ける物件は短いほうで見ておくのが安全です。

2. シーリング(目地のゴム状の充填材)——外壁の板と板のあいだ、サッシのまわりを埋めている材料です。硬化して縮み、切れます。漏水の入口として最も件数が多いのがここだと私は考えています。高層部・海側の面から先に切れるのが定石です。

3. バルコニー排水——排水口に落ち葉や土がたまると床に水がたまり、笠木や壁との取り合いから室内側に回ります。共用部の工事だけでは解決しません。居住者さまへの声かけが半分です。

4. 屋上ドレンとストレーナー——ストレーナーは排水口のゴミ受けの網です。これが外れたまま何年も放置されている物件を、私は毎年いくつも見ます。清掃記録の有無だけで、その建物の漏水リスクは大きく変わります。

5. 立上り・パラペット(屋上外周の立ち上がり壁)——防水層が壁面に立ち上がって終わる末端の処理です。ここが浮くと雨は防水層の裏に回り、表面からは見えません。

6. サッシまわり——サッシと外壁の取り合い、窓台の水切り、サッシ自体の劣化。台地の縁や湾岸の高層部では、風で雨が押し込まれる前提で見ます。

7. エキスパンションジョイント(建物どうしの継ぎ目)——棟が分かれた団地型や増築を重ねたビルにあります。動きを許容する構造だからこそ切れやすく、品川区の大規模団地ではここが漏水源になっている例をよく見ます。


漏水の緊急対応でロープアクセスが強い理由

台風が抜けた翌朝、「最上階の3戸で天井から漏っている」という連絡が入る。これが私どもの仕事で一番多い緊急案件です。

このとき、足場を組む工事だと近隣調整・申請・資材搬入・組立で数日から数週間かかります。品川区の場合、これがさらに重くなる条件が揃っています。

  • 台地の縁の斜面地では、足場を建てる平地そのものがない
  • 大崎・五反田の高密度な街区では、隣地との距離が取れず足場の外側に道路占用が必要になる
  • 湾岸のタワー物件では、高さ100メートル超に足場をかける費用と工期が現実的でない

ロープアクセス工法(産業用ロープで屋上から降りて作業する無足場工法)なら、屋上に支点を取れれば、その日のうちに漏水箇所まで降りられます。原因のシーリング1本、ドレン1カ所を直接見て、その場で止水処置を打てるわけです。

私の経験上、漏水の緊急対応で本当に必要なのは「全面工事」ではなく「原因の特定と応急止水」です。そこを数日で押さえられるかどうかで、内装被害の範囲がまるで変わります。工法の詳細はロープアクセス工法のご紹介と、施工事例をまとめたロープアクセスドットコムを、原因調査は漏水・雨漏り調査をご覧ください。

もうひとつ、ハイブリッド工法という選択もあります。足場が組める低層部は足場で、斜面側や高層部はロープアクセスで、と部位ごとに使い分けるやり方です。台地の縁に建つ物件や敷地が変形している物件では、総額でこれが最も安くなるケースが少なくありません。3つの工法を比べてから決められるのは、品川区のような複雑な地形の区ではとりわけ効きます。


防災上の共用部と、修繕の優先度

漏水と防災は、共用部の設備というところで1本につながります。図面を開いて、次の5つがどの階にあるかを確認してください。

共用部 確認すること 修繕優先度の考え方
受電設備(電気室・キュービクル) 地下か1階か屋上か 浸水域なら最優先。水に浸かると全館停電
給水ポンプ・受水槽 地下ピットか屋上か 停止すれば断水。地下設置は止水板とセットで
エレベーター(機械室・ピット) ピットの排水経路 ピット浸水で長期停止。管制運転の設定も確認
自家発電設備 燃料タンクの位置と運転可能時間 浸水域では燃料タンクの位置が生死を分ける
避難通路・屋外階段 鉄部の腐食、床防水、手すりの根元 湾岸物件は塩害で進行が早い。大規模修繕で必ず範囲に入れる

私がこの表を作るとき、いつも最初に見るのは受電設備の階です。地下の電気室が水に浸かると、ポンプもエレベーターも止まり、給水も排水もできなくなります。建物が無事でも、住み続けられなくなる。この一点は、浸水域の物件の管理組合さまに強くお伝えしています。

屋外階段と避難通路の鉄部は、防災と漏水の両方にかかる部位です。錆が進むと階段が避難に使えなくなり、床防水が切れれば下階へ漏れます。湾岸の物件は、ここを大規模修繕の範囲から外さないでください。詳しい考え方はビルオーナーさま向けサービスと管理組合さま向けサービスにまとめています。


品川区の防災補助・耐震助成(令和8年度)

制度の話は、年度で中身が変わります。ここは令和8年(2026年)9月16日時点で区の公式ページに掲載されている内容を、そのまま整理します。

がけ・擁壁の安全化対策支援——令和8年度の改修工事受付は終了

品川区は、がけ・擁壁の安全化対策工事に助成を出しています。ただし区の公式ページには、「令和8年度は予算額に達したため、改修工事の申請受付は終了しました」と明記されています(出典:品川区「がけ・擁壁の安全化対策支援について」/更新日:令和8年6月25日)。

令和8年度の助成内容は、次のとおりです(助成額【A】【B】は拡充されています)。

対象 擁壁の新設 がけ・擁壁の補強 防護壁の新設
土砂災害警戒区域内 工事費の1/2(限度額2,000万円)【A】 工事費の1/2(限度額100万円)【C】 工事費の1/2(限度額200万円)【D】
区内の道路または公共施設に面するもの 工事費の1/2(限度額600万円)【B】 工事費の1/2(限度額100万円)【C】 工事費の1/2(限度額200万円)【D】

道路・公共施設に面するものは、高さ2メートル超かつ傾斜角30度超に限られます。手続きは事前協議→助成申請→区の審査→工事契約→着手届→中間検査→完了検査→交付という流れで、工事契約より前に事前協議と申請を済ませる建て付けです。

令和9年度の受付開始を待ってから動くと、また予算枠との競争になります。擁壁に不安がある物件は、年度が替わる前に事前協議までを済ませておくのが現実的です。窓口は建築課審査担当(構造/03-5742-9172)です。

耐震化支援事業——令和8年度は12月4日が申請期限

品川区の耐震化支援事業は、令和8年4月1日(水)に申請開始、令和8年12月4日(金)が申請期限です(一部の制度は通年受付)。出典は品川区「耐震化支援事業」(更新日:令和8年8月12日)です。

分譲マンションの管理組合さまに関係するメニューは4つあります。

  • 耐震化アドバイザー派遣:理事会や総会の場に建築士を無料で派遣し、耐震診断・耐震改修・建替えの助言を受けられる制度
  • 耐震診断の助成
  • 補強設計の助成
  • 耐震改修工事の助成

申請は窓口と電子申請の両方に対応しています。なお同じページには、特定緊急輸送道路沿道建築物の耐震診断の助成制度は終了した旨も記載されています。該当する物件をお持ちのオーナーさまはご注意ください。

まず使っていただきたいのは、アドバイザー派遣です。費用がかからず、理事会に第三者の建築士が入る。それだけで総会の議論の質が変わります。窓口は建築課 耐震化促進担当(03-5742-6634)です。

予算枠のある事業は、がけ・擁壁助成のように年度途中で受付を終えることがあります。検討されている管理組合さまは、着工前に、残枠と申請順序を窓口へご確認ください。着工後の申請は受け付けられないのが通例です。


背景データ:雨の降り方が変わっています

「昔はこんなに漏らなかった」というお声を、本当によくいただきます。感覚の問題ではありません。

気象庁は、全国のアメダスで観測した1時間降水量50ミリ以上の年間発生回数について、1980年ごろと比べて最近10年間はおおむね増加していることを公表しています。強い雨ほど頻度の増加率が高いという評価です(出典:気象庁「大雨や猛暑日など(極端現象)のこれまでの変化」、気象庁「アメダスで見た短時間強雨発生回数の長期変化について」)。

インフラ側の対策には限界があり、その差は建物側で埋めるしかありません。屋上ドレンの清掃と、シーリングの前倒し更新。地味ですが、これが一番効きます。区境をまたぐリスクは、国土地理院の重ねるハザードマップで確認できます。


まとめ:今週、理事会・管理会社に投げられる3点

長くなりました。品川区の建物で、今週すぐ動けることを3つに絞ります。

1. 品川区防災地図で、自分の建物の4つのリスクを確認する

品川区防災地図(令和8年6月一部修正)で、浸水・雨水出水(内水)・高潮・土砂の4つを順に見る。あわせて平成元年・平成11年の浸水実績の青枠に自分の住所が入っていないかを確認してください。10分で終わります。

2. 屋上ドレンの清掃記録を、管理会社に出してもらう

直近1年で何回清掃したか。ストレーナーは付いているか。地下ピットがある物件は、排水ポンプの点検記録もあわせて。台風シーズンの真っ最中ですから、今週が一番効きます。

3. 擁壁と受電設備を、図面と現地で確認する

斜面地の物件は、擁壁の水抜き穴の詰まりを現地で見る。浸水域の物件は、電気室・給水ポンプ・エレベーターピットの設置階を図面で確認し、地下または1階なら止水板の見積りを1本取っておく。あわせて、がけ・擁壁助成の事前協議は建築課審査担当(03-5742-9172)、耐震化アドバイザー派遣は建築課 耐震化促進担当(03-5742-6634)へ。耐震化支援事業の令和8年度申請期限は12月4日です。

12月までに動けるかどうかが、令和8年度の分かれ目です。理事会で1分だけでもこの話題を出してみてください。調査だけ、ご相談だけでも構いません。総会前の整理の段階から、お力になれることがあります。お問合せフォームからお声がけください。

冒頭のオーナーさまには、結局こうお伝えしました。「天王洲と五反田は、別の建物として修繕計画を立ててください」と。同じ区内、同じ管理会社、同じ塗料でも、立っている地形が違えば傷み方が違う。品川区で修繕積立金を有効に使う一番の近道は、区内の平均ではなく、自分の建物の地形で考えることだと、私は思っています。


本記事の情報の鮮度について:本記事は2026年9月16日時点で公表されている品川区および国土交通省・気象庁・東京都の公式情報をもとに執筆しています。制度は年度途中でも改正・予算終了があり得ます。実際に申請される前に、必ず品川区および該当窓口へ最新の内容をご確認ください。ハザードマップの被害想定は東京都および区が公表したものであり、実際の被害状況と異なることがあります。


出典・参考資料


関連ページ

ロープアクセス工法の詳しい解説・施工事例はこちら → https://rope-access-method.com/

【令和8年度版】目黒区のマンション管理計画認定制度|独自基準ゼロ・区手数料ゼロ、それでも26棟しか取れていない理由

2026年9月16日 更新

「目黒区って、認定のハードルが高いんでしょうか」——中目黒のマンションの理事長さまから、そうご相談をいただいたことがあります。総会で「認定を取ってはどうか」という話が出たものの、どこから手をつけていいか分からない、と。

私は株式会社明誠の本間幸紘と申します。東京都東大和市を拠点に、20年近くマンション・ビル・ホテルの外壁と向き合ってきました。足場を組む工事も、ロープ1本でぶら下がる無足場の工事も、どちらも自分の手でやってきた人間です。

結論から申し上げます。目黒区の認定基準は、23区のなかでも「素直」なほうです。 区独自の上乗せ基準はひとつもありません。区へ払う申請手数料もゼロ円です。

それでも、令和8年8月10日時点で目黒区の認定マンションは26棟にとどまっています。区内には分譲マンションが何百棟とあることを考えれば、ごく一部です。

つまり、目黒区でつまずくのは基準ではなく、その手前にある2つの入口なのです。ひとつは長期修繕計画。もうひとつは「オンライン申請以外は受け付けない」という目黒区固有の運用です。

今日は、目黒区のマンションが認定を取るために、実際に何をいくらで、どの順番でやるのか——ここに絞ってお話しします。


結論:目黒区の管理計画認定は「3つのゼロと1つの縛り」

先に全体像を置いておきます。

項目 目黒区での扱い
認定主体 目黒区(住宅課 居住支援係)
区への申請手数料 0円(新規・更新とも)
区独自の上乗せ基準 なし(国の基準のみ)
申請ルート オンライン申請のみ。区への直接申請・書面申請は不可
事前確認適合証 必須
システム利用料 1申請あたり10,000円(マンション管理センターへ支払い)
認定の有効期間 認定日から5年間
変更申請 書面のみ(支援システムでは不可)
認定実績 26棟(令和8年8月10日時点)

(出典:目黒区「マンション管理計画認定制度」更新日:2026年8月21日)

ゼロが3つ並びます。区の手数料がゼロ、独自基準がゼロ、書類の窓口持ち込みもゼロ(そもそも受け付けていない)。

そして縛りがひとつ。オンライン申請一択です。ここを知らずに「区役所に書類を持っていけばいいんですよね」と考えていると、最初の一歩で止まります。


認定主体はどこか——目黒区は「区」が審査します

まず、申請先を間違えないでください。

マンション管理適正化法(マンションの管理の適正化の推進に関する法律)にもとづく管理計画認定の事務は、市および東京23区の区域では、その市・区が行います。町村の区域は都道府県が担当します。

目黒区は特別区ですから、目黒区が認定主体です。窓口は住宅課 居住支援係(電話 03-5722-6841)、区役所は目黒区上目黒二丁目19番15号。

目黒区は令和5年4月に「目黒区マンション管理適正化推進計画」を策定し、それに合わせて同月から認定制度の運用を始めました。制度が始まって3年半、認定は26棟です。この数字をどう読むかは後述します。


目黒区の最大の特徴:独自基準が「ない」

23区のなかには、国の基準に区独自の項目を上乗せしているところがあります。たとえば「町会・自治会との連絡担当者を決めていること」「防災訓練を実施していること」といった内容です。

目黒区は違います。区の公式ページに、こう明記されています。

項目5(2)の基準について、目黒区では、国の基準以外の独自基準を設けていません。

つまり、目黒区で満たすべきは国の基準(項目1(1)〜5(1))だけということです。

これは実務上、かなり大きな意味を持ちます。区独自の基準がある区では、その部分が事前確認の対象外になるため、管理組合が自分で書類を用意して区に直接出す必要が出てきます。目黒区ではその二度手間がありません。事前確認適合証が取れれば、そのままオンラインで申請が完結します。

では、その国の基準とは何か。目黒区が示している一覧を、実務の言葉に置き換えて整理します。

1 管理組合の運営

  • 管理者等(理事長など)が定められていること
  • 監事が選任されていること
  • 集会(総会)が年1回以上開催されていること

意外な落とし穴が監事です。規約には監事の定めがあるのに、実際には長らく空席、というマンションが現実にあります。次の総会で選任してください。それだけでクリアします。

2 管理規約

  • 管理規約が作成されていること
  • 災害等の緊急時や管理上必要なときの専有部分への立ち入り、修繕等の履歴情報の管理について定められていること
  • 管理組合の財務・管理に関する情報の書面交付(または電磁的方法による提供)について定められていること

ここでつまずく管理組合が一番多い、というのが私の実感です。昭和・平成初期に作られたままの規約には、この3項目がそっくり抜けていることがあります。規約改正には総会の特別決議(一般に組合員および議決権の各4分の3以上)が必要ですから、気づくのが遅れると1年単位で遅れます。

国土交通省の標準管理規約は令和7年にも改正されていますので、規約を見直すなら最新版を下敷きにするのが早道です。

3 管理組合の経理

  • 管理費と修繕積立金等が明確に区分経理されていること
  • 修繕積立金会計から他の会計への充当がされていないこと
  • 直前の事業年度末時点で、3か月以上の滞納額が全体の1割以内であること

3つ目は数字の話なので、会計担当理事に確認すれば即日で分かります。

4 長期修繕計画の作成及び見直し等

  • 「長期修繕計画標準様式」に準拠して作成され、計画の内容と修繕積立金額が総会で決議されていること
  • 作成または見直しが7年以内に行われていること
  • 計画期間が30年以上で、残存期間内に大規模修繕工事が2回以上含まれること
  • 将来の一時的な修繕積立金の徴収(一時金)を予定していないこと
  • 計画期間全体での修繕積立金の平均額が著しく低額でないこと
  • 計画期間の最終年度に借入金の残高がないこと

目黒区で認定が伸びない最大の理由は、ほぼここに集約されます。 6項目のうち、どれか1つでも外れると通りません。

とくに効いてくるのが「一時金を予定しないこと」と「平均額が著しく低額でないこと」の2つです。修繕積立金を低く抑えたまま、計画の後半で一時金を徴収する前提になっている——そういう長期修繕計画は、決して珍しくありません。

5 その他

  • 組合員名簿・居住者名簿を備え、1年に1回以上は内容の確認を行っていること
  • 都道府県等マンション管理適正化指針に照らして適切であること(目黒区は独自基準なし)

名簿の年1回確認は、やっていても記録が残っていないケースがあります。理事会議事録に「○月○日、名簿の内容確認を実施」と一行残すだけで足ります。


いくらかかるか——目黒区は区の手数料が0円

費用は3層に分かれます。目黒区の公式ページの区分に沿って整理します。

費用の種類 支払先 金額
ア システム利用料 マンション管理センター 1申請あたり10,000円(全パターン共通)
イ 事前確認審査料 各依頼先 パターンにより異なる(下表)
ウ 区への申請手数料 目黒区 0円

事前確認の依頼先は4パターンから選べます。

パターン 内容 事前確認審査料(税込)
1 管理組合が直接マンション管理士に依頼し、事前確認完了後に支援システム経由で申請 委託先のマンション管理士に要確認
2 管理会社等を経由し、マンション管理業協会の「マンション管理適正評価制度」と併せて申請 管理会社等に要確認
3 日本マンション管理士会連合会を経由し、「マンション管理適正化診断サービス」と併せて申請 長期修繕計画1計画あたり10,000円
4 マンション管理センターに事前確認を依頼して申請 長期修繕計画1計画あたり10,000円

(注)パターン1の事前確認を行えるのは、マンション管理センターの事前確認講習を修了したマンション管理士(有効期間5年)に限られます。

つまり、パターン3または4なら、実費は合計20,000円程度(システム利用料10,000円+事前確認審査料10,000円)から見込めます。棟数や長期修繕計画の本数が多い場合は加算されますので、依頼前に見積を取ってください。

パターン2は、すでに管理会社に管理を委託していて、適正評価制度も併せて受けるなら合理的です。管理会社に「認定申請も一緒にお願いできますか」と一言聞くところから始めるのが、実務としては一番速いと思います。


目黒区固有の「縛り」:オンライン申請以外は受け付けない

ここが目黒区でもっとも注意すべき点です。区の公式ページには、こう書かれています。

マンション管理センターが運営する管理計画認定手続支援システムを利用し、インターネットによる申請手続き(オンライン申請)を行ってください。目黒区への直接申請、書面による申請はできません。

紙で区役所に持ち込むという選択肢が、そもそも存在しないということです。

これは裏を返せば、事前確認適合証を取ることが事実上の必須条件だという意味でもあります。支援システムを通す=事前確認を受ける、という一本道だからです。

高齢の理事長さまだけで進めようとすると、この入口で止まります。私がお勧めしているのは、パソコンに明るい組合員を1人、認定担当として理事会に入れてしまうことです。書類を揃えるのは理事会、システムに入力するのはその担当、と分けるだけで、ずいぶん進みが変わります。

変更申請だけは「紙」

もうひとつ、見落としやすい運用があります。

認定の申請を受けた管理計画の変更をしようとするときは、事前に目黒区に相談の上、(中略)目黒区にご提出ください。マンション管理センターの支援システムでは、変更申請を行うことができません。

新規申請はオンラインのみ、変更申請は書面のみ。逆になっているのです。

そして目黒区は、変更申請が必要になる代表例をはっきり書いています。

(注記)申請した時の管理者等(理事長・理事)が全員変わった時は、変更申請が必要です。

理事の任期が1〜2年のマンションでは、認定から2年も経てば申請時の理事が全員入れ替わっているということが普通に起こります。ここで変更申請を出し忘れたまま5年後の更新を迎える、というのが一番ありがちな事故です。

対策はシンプルです。引継書に「管理計画認定:変更申請の要否を確認」の一行を入れておく。それだけで防げます。


認定を取ると何が変わるか——目黒区のマンションにとっての実利

目黒区が挙げている効果は5つです。そのうち、金額として効いてくる3つを見ていきます。

1 固定資産税の減額(マンション長寿命化促進税制)

一定の要件を満たすマンションで、長寿命化に資する大規模修繕工事を実施すると、翌年度の建物部分の固定資産税が減額されます。東京都では2分の1の減額です。

対象工事は、屋根防水・床防水・外壁塗装の3点セット。「外壁だけ」「防水だけ」では対象になりません。

適用期限にご注意ください。 目黒区の公式ページには「措置期間は2年間(令和5年4月1日から令和7年3月31日の予定)」と制度開始時の記載が残っていますが、この措置は2年間延長され、令和9年3月31日までの工事完了が対象となっています(国土交通省・令和7年度税制改正)。

つまり、令和9年3月31日までに工事を終える必要があるということです。今日が令和8年9月16日ですから、残りは1年半。設計・合意形成・発注のリードタイムを考えると、今から動いてぎりぎり間に合うという時間感覚になります。

なお令和7年度からは、管理組合の管理者等が必要書類を提出すれば、区分所有者一人ひとりの申告書がなくても減額の適用を受けられるようになりました。理事長の側の手間はむしろ減っています。

2 住宅金融支援機構の融資・債券が有利になる

  • マンション共用部分リフォーム融資の金利引下げ
  • 【フラット35】維持保全型(区分所有者が売買するときに効きます)
  • マンションすまい・る債の利率上乗せ

修繕積立金が足りず借入を検討している管理組合にとって、金利引下げは実額で効きます。

3 市場評価の向上

同意があれば、認定マンション情報(名称、所在地、認定コード、認定日)が区のホームページとマンション管理センターの閲覧サイトで公表されます。

私はこの3つ目を、理事長さまに一番強くお伝えしています。税と金利は金額で測れますが、資産価値の評価は、修繕積立金の値上げを総会で通すときの説得力そのものになるからです。目黒区は中目黒・自由が丘・学芸大学・都立大学と、中古マンションの流通が活発なエリアです。「うちは区の認定マンションです」と言えるかどうかは、10年後に効いてきます。


工事のコストをどう下げるか——目黒区の建物事情から

ここからが、私が工事屋として一番お話ししたいところです。

認定基準のうち、多くの管理組合が本当に苦しむのは「一時金を予定しないこと」と「積立金の平均額が著しく低額でないこと」です。この2つは、突き詰めれば「将来の工事費をどう見積もるか」という話に行き着きます。

長期修繕計画の工事費は、多くの場合、足場を組む前提で積算されています。そして足場の架設費は、大規模修繕工事の総額のなかで無視できない比率を占めます。

目黒区は、中目黒や大橋のような幹線沿いの中高層、碑文谷・八雲・平町のような低層住宅地、目黒本町・洗足のような密集市街地と、建物の条件がかなり幅広い区です。密集した敷地では、そもそも足場を組むこと自体に無理が出ます。隣地との間隔が詰まっている、前面道路が狭くて資材が入らない、といった物件は目黒区に少なくありません。

ここで選択肢になるのが、ロープアクセス工法(無足場工法)です。産業用ロープで職人が壁面に降りて作業する方法で、足場を架けずに施工できます。

私はいつも、理事長さまにこうお伝えしています。「全部をロープでやる必要はありません」と。

現実的な最適解は、たいていハイブリッド工法です。バルコニー側のように足場を組んだほうが効率のいい面は足場で、妻面や搭屋のようにロープが有利な面はロープで。部位ごとに工法を切り替えて、総額を落とす。明誠は足場工法・ロープアクセス工法・ハイブリッド工法の3つを自社で持っているので、「うちはロープしかできないので全面ロープです」という提案にはなりません。

さらに、ロープアクセスには金額以外の効きどころがあります。足場を組まない面は、居住者の生活影響が小さいのです。窓の外が単管とメッシュシートで塞がれない。洗濯物が干せる。防犯面の不安も減る。長く住み続けている高齢の居住者にとって、これは工期の数字以上に大きな話です。

工法の詳細は、明誠の専門サイトロープアクセスドットコムにまとめています。実際の施工の様子は、写真で見ていただくのが一番早いと思います。

長期修繕計画で「30年後に一時金」とせざるを得なかったマンションが、工法の見直しで一時金をなくせたケースを、私は何度も見てきました。認定基準の「一時金を予定していないこと」は、積立金を上げる以外にも道があるということです。

大規模修繕工事のご紹介とロープアクセス工法のご紹介も、あわせてご覧ください。


逆算スケジュール——総会から認定交付まで

目黒区で認定を取るまでの流れを、時間軸で並べます。目安として見てください。

時期 やること
6〜8か月前 長期修繕計画の状況を確認(見直しは7年以内か/計画期間30年以上か/大規模修繕2回以上か/一時金の有無/最終年度の借入金残高)。必要なら建物調査と計画見直しに着手
5か月前 管理規約の3項目(緊急時の専有部立入り、修繕等の履歴情報の管理、財務・管理情報の書面交付)を点検。不足があれば規約改正を総会議案に
4か月前 監事の選任状況を確認。組合員名簿・居住者名簿の年1回確認の記録を整える
3か月前 事前確認の依頼先(パターン1〜4)を決定。見積を取る。オンライン申請の担当者を決める
2か月前 総会で「認定申請を行うこと」を決議。長期修繕計画と修繕積立金額の決議も必要なら同時に議案化
1〜2か月前 事前確認を受ける。事前確認適合証の発行を待つ
申請 管理計画認定手続支援システムからオンライン申請(区への持ち込みは不可)
交付 区の審査後、認定通知書が郵送で交付。有効期間は認定日から5年間

一番見落とされやすいのが、総会決議のタイミングです。認定申請には集会(総会)の決議が前提であり、決議を経ていない管理組合は事前確認そのものが進みません。事前確認を先に走らせようとしても止まります。

目黒区の管理組合は通常総会が春に集中します。ということは、次の総会の議案に間に合わせるかどうかが、令和8年度の分かれ目です。そして長寿命化促進税制の令和9年3月31日という期限を併せて考えると、動き出しの遅れがそのまま税制の取りこぼしにつながります。


新築マンションは「予備認定」を

区内で新築の分譲が動いている場合は、管理計画認定制度とは別枠の予備認定制度があります。認定主体はマンション管理センターで、分譲業者や再開発事業の施行者が、管理事務の受託予定者(管理会社等)と連名で申請する仕組みです。

購入検討中の方が「このマンションは予備認定を受けているか」を見るのは、管理の質を測るひとつの目安になります。


まとめ|目黒区の理事会が今週できる3つのこと

長くなりましたので、整理します。

  • 目黒区は認定主体が区。区への申請手数料は0円、区独自の上乗せ基準もなし。国の基準だけを満たせば通ります
  • ただしオンライン申請一択。区への直接申請・書面申請は受け付けていません。事前確認適合証は必須です
  • 実費はパターン3・4なら合計20,000円程度から(システム利用料10,000円+事前確認審査料10,000円/長期修繕計画1計画あたり)
  • 変更申請だけは書面。しかも申請時の理事が全員入れ替わったら変更申請が必要。引継書に一行入れておいてください
  • 長寿命化促進税制は令和9年3月31日までの工事完了が条件(区ページには制度開始時の令和7年3月31日という記載が残っていますが、2年延長されています)。対象は屋根防水・床防水・外壁塗装の3点セット、23区の減額は2分の1
  • 認定期間は5年。更新を忘れると失効します

そのうえで、今週、理事会で確認していただきたいのは次の3点です。

  1. 長期修繕計画の最終見直し日はいつか——7年を超えていたら、まずそこからです
  2. 監事は実際に選任されているか——空席なら、次の総会の議案に1行足すだけで済みます
  3. 管理規約に「緊急時の専有部立入り」「修繕履歴の管理」「財務・管理情報の書面交付」の3項目があるか——なければ規約改正が要ります。これだけは半年単位で時間がかかるので、最優先で確認してください

3つとも、お金はかかりません。理事会で1分ずつ確認すれば済む話です。9月中に確認できるかどうかが、春の総会に間に合うかどうかを決めます。

冒頭の26棟という数字に戻ります。目黒区は基準を厳しくしていません。むしろ手数料をゼロにして、独自基準も置かずに、間口を広げている区です。それでも26棟にとどまっているのは、多くの管理組合が「長期修繕計画」と「管理規約」という、認定以前からの宿題を抱えたままだからだと私は見ています。

言い換えれば、認定を取りにいく作業は、そのまま管理の棚卸しになるということです。私はそこに価値があると思っています。

うちのマンションは足場が組めるのか、ロープアクセスで何がどこまでできるのか。そういう工法の相談だけでも構いません。総会の前段階の整理だけでも、お力になれることがあります。お問合せフォームから、遠慮なくお声がけください。

次回も、現場で本当に使える話だけをお届けします。


出典・参考資料


本記事の情報の鮮度について:本記事は2026年9月16日時点で公表されている目黒区および国土交通省・東京都の公式情報をもとに執筆しています。なお、目黒区の公式ページにはマンション長寿命化促進税制の措置期間について制度開始時(令和5年4月1日〜令和7年3月31日)の記載が残っていますが、本記事では国土交通省の公表にもとづき令和9年3月31日までの延長を反映しています。制度は年度途中でも改正・予算終了があり得ます。実際に申請される前に、必ず目黒区住宅課および該当窓口へ最新の内容をご確認ください。

免責:本記事は情報提供を目的としたものであり、個別の申請の可否や税額の判断を保証するものではありません。税制の適用については、税理士および所管の都税事務所にご確認ください。


株式会社明誠|東京都東大和市
マンション・ビル・ホテルの大規模修繕工事/足場工法・ロープアクセス工法(無足場工法)・ハイブリッド工法

ロープアクセス工法の詳細はこちら → https://rope-access-method.com/

【令和8年度版】品川区のマンション管理計画認定制度|オンライン申請なら区手数料0円・独自基準3点の実務手順

2026年9月16日 更新

「認定の申請書一式、管理会社さんに揃えてもらったんです。これで出せますよね」——大井町のマンションの理事長さまから、そうお電話をいただいたことがあります。書類を拝見したところ、国の基準の分は完璧でした。ただ、品川区の窓口に出すには、あと2枚足りませんでした。

私は株式会社明誠の本間幸紘と申します。東京都東大和市を拠点に、20年近くマンション・ビル・ホテルの外壁と向き合ってきました。足場を組む工事も、ロープ1本でぶら下がる無足場の工事も、どちらも自分の手でやってきた人間です。

結論から申し上げます。品川区で管理計画認定を取るなら、国の17基準だけを見ていると必ずつまずきます。 品川区には区独自の認定基準が上乗せされていて、しかもその部分は、事前確認をお願いしたマンション管理士さんのチェック範囲の外にあるからです。

一方で、品川区はオンライン申請なら区への手数料を無料にしています。紙で出すと29,000円かかるものが、ルートを選ぶだけでゼロになる。ここを知らずに紙で出してしまう管理組合が、実際にあります。

今日は、品川区のマンションが認定を取ると何が変わり、いくらかかり、独自基準をどう潰すか——この一点に絞ってお話しします。


結論:品川区で認定を取ると何が変わり、いくらかかるか

先に全体像を置いておきます。

項目 品川区での扱い
認定主体 品川区(都市環境部 住宅課 住宅運営担当)
区への申請手数料(新規・更新) オンライン申請=無料 / 紙で直接申請=29,000円
加算手数料 長期修繕計画が2つ目以降、1計画につき16,000円(紙申請の場合)
独自基準 あり(3項目)。町会・自治会との連絡調整担当者/災害時対応マニュアルまたは防災訓練/区の適正化指針への適合
認定の有効期間 認定日から5年間
申請の前提 管理組合の集会(総会)での決議

(出典:品川区「マンション管理計画認定制度(令和5年4月1日開始)」更新日:令和8年7月1日)

認定を取ると変わるのは、主に次の3つです。

  1. 長寿命化に資する大規模修繕工事を終えると、固定資産税が減額される(東京23区では2分の1)
  2. 住宅金融支援機構の融資条件が良くなる(共用部分リフォーム融資の金利引下げ、フラット35維持保全型、マンションすまい・る債の利率上乗せ)
  3. 管理計画認定マンション閲覧サイトで公表され、売買のときに「管理が良い物件」として見られる

私はこの3つ目を、理事長さまに一番強くお伝えしています。税と金利は金額で測れますが、資産価値の評価は、修繕積立金の値上げを総会で通すときの説得力そのものになるからです。「うちは区の認定を取っているマンションです」と言えるかどうかは、10年後に効いてきます。


認定主体はどこか——品川区は「区」が審査します

まず、申請先を間違えないでください。

マンション管理適正化法にもとづく管理計画認定の事務は、市および東京23区の区域では、その市・区が行います。町村の区域は都道府県(東京都であれば東京都住宅政策本部)が担当します。

品川区は特別区ですから、品川区が認定主体です。窓口は都市環境部 住宅課 住宅運営担当(電話 03-5742-6776)、書類提出先は品川区広町2-1-36 本庁舎6階です。東京都のマンション課に送っても受け付けてもらえません。

東京都のマンションポータルサイトにも、「区市の区域のマンションの認定事務は、各区市が行います」と明記されています(出典:東京都「マンション管理計画認定制度」)。

この「誰が認定するか」が、後で出てくる独自基準の話と直結します。認定主体が区である以上、区が上乗せした基準も区が審査するわけです。


国の認定基準17項目——どこで落ちるのか

国が定める認定基準は、5分野・17項目です。品川区の手引きにも同じ表が載っています。

1. 管理組合の運営

  • 管理者等(理事長など)が定められていること
  • 監事が選任されていること
  • 集会(総会)が年1回以上開催されていること

2. 管理規約

  • 管理規約が作成されていること
  • 災害等の緊急時や管理上必要なときの専有部分への立ち入り、修繕等の履歴情報の管理について定められていること
  • 管理組合の財務・管理に関する情報の書面交付(または電磁的方法による提供)について定められていること

3. 管理組合の経理

  • 管理費と修繕積立金が明確に区分経理されていること
  • 修繕積立金会計から他の会計へ充当されていないこと
  • 直前の事業年度末時点で、3か月以上滞納している修繕積立金の額が全体の1割以内であること

4. 長期修繕計画の作成・見直し等

  • 長期修繕計画が「長期修繕計画標準様式」に準拠して作成され、計画内容と修繕積立金額が総会で決議されていること
  • 作成または見直しが7年以内に行われていること
  • 計画期間が30年以上で、残存期間内に大規模修繕工事が2回以上含まれること
  • 将来の一時金徴収を予定していないこと
  • 計画期間全体での修繕積立金の平均額が著しく低額でないこと
  • 計画期間の最終年度において借入金の残高がないこと

5. その他

  • 組合員名簿・居住者名簿を備え、年1回以上内容を確認していること
  • 都道府県等マンション管理適正化指針(品川区の場合は品川区の指針)に照らして適切であること

(出典:公益財団法人マンション管理センター「管理計画認定手続支援サービス」/国土交通省「マンションの管理計画認定に関する事務ガイドライン」令和8年3月改訂)

私の経験上、ここで足が止まるのはほぼ4番の長期修繕計画です。とくに「計画期間30年以上・大規模修繕2回以上」と「一時金を予定していない」の2つ。

現場で一番悔しい思いをするのは、長期修繕計画の中身が「30年後に一時金500万円」でつじつまを合わせてあるケースです。紙の上では帳尻が合っている。でも認定は通りません。そして何より、その一時金は本当には集まりません。

ここは、修繕積立金を上げるか、工事側のコストを下げるかの二択です。私が工事屋として提案できるのは後者ですが、それについては後ろの章でお話しします。


品川区の独自基準3点——ここが本番です

品川区の認定基準表には、国の17項目に加えて、「5. その他」の中に品川区だけの項目が入っています。

独自基準 内容 必要書類
① 地域との連絡調整 管理組合が町会・自治会との連絡担当者を選任し、町会との交流に努めること 第1号様式「町会・自治会との連絡担当者報告書」
② 防災の実践 災害時の対応マニュアルの作成、または年1回以上の定期的な防災訓練の実施のいずれか1つ以上を、管理組合として実施していること 対応マニュアル、または防災訓練の実施日時・内容が明記された書類
③ 指針適合 品川区マンション管理適正化指針に照らして適切であること (区の審査事項)

(出典:品川区「マンション管理計画認定制度」/品川区マンション管理適正化指針(PDF))

そして、ここが実務で一番刺さるポイントです。

品川区の手引きには、こう書かれています。独自基準に係る必要書類(上の表の①と②)は、事前確認の時点では提出不要。ただし、オンライン申請でも紙申請でも、別途、直接品川区に提出する必要がある、と。

これは仕組みの問題です。マンション管理センターの事前確認は、事前確認講習を修了したマンション管理士が国の基準への適合を見るもので、地方公共団体の独自基準は事前確認の対象外と明記されています。つまり、マンション管理士さんが「適合しています」と事前確認適合証を出してくれても、品川区の独自基準は誰もチェックしていない状態で残るわけです。

冒頭の大井町の理事長さまで足りなかった2枚が、まさにこれでした。事前確認適合証はお持ちで、書類は完璧だと思っておられた。悪いのは理事長さまではありません。仕組み上、そこは見えないようになっているのです。

私はいつも理事長さまに、こうお伝えしています。「事前確認と区提出は、別々の工程だと思ってください」と。

②の防災要件については、少し補足させてください。「マニュアルの作成」または「年1回以上の防災訓練」のどちらか1つで足ります。理事会の負担を考えると、すでに実施している防災訓練の記録を整えるほうが早いことが多いはずです。実施日時と実施内容が明記されていることが条件なので、写真だけでなく、日付・参加人数・実施項目を書いた記録を残しておいてください。

品川区は大井町・大崎・天王洲を中心に中高層の物件が多く、高層階の居住者にとって防災は「訓練の紙」ではなく生活の問題です。認定のためだけに書類を作るのは、私は正直、もったいないと思っています。


手数料と申請ルート——ルート選びで29,000円が0円になります

品川区の申請ルートは5パターンあります。1〜4は各機関に事前確認を依頼してオンラインで申請する方法、5は品川区へ直接、書類を郵送・持参する方法です。

  1. マンション管理士に事前確認を依頼
  2. 管理委託先(管理会社)に事前確認を依頼(マンション管理業協会の「マンション管理適正評価制度」とワンストップ)
  3. (一社)日本マンション管理士会連合会に事前確認を依頼(「マンション管理適正化診断サービス」とワンストップ)
  4. (公財)マンション管理センターに事前確認を依頼
  5. 品川区に直接申請

区への手数料は、こうなります。

申請方法 基本手数料 加算手数料(長期修繕計画2つ目以降・1計画につき)
オンラインによる申請 無料 —
紙ベースで品川区に直接申請 29,000円 16,000円

(出典:品川区「マンション管理計画認定制度」更新日:令和8年7月1日)

ただし、オンライン=タダではありません。オンライン申請には事前確認が伴い、その依頼先に別途費用がかかります。マンション管理センター経由(パターン④)の場合、公表されている金額は次のとおりです。

  • システム利用料:1申請あたり10,000円(税込)
  • 事前確認審査料:長期修繕計画1計画あたり10,000円(税込)

(出典:公益財団法人マンション管理センター「管理計画認定手続支援サービス」)

パターン①のように個別のマンション管理士に依頼する場合、事前確認審査料は管理組合と管理士の間で決めることになっています(センターは関与しません)。

整理すると、長期修繕計画が1つの標準的なマンションなら、オンラインで約2万円、紙なら29,000円。金額差そのものは大きくありませんが、オンラインには別のメリットがあります。

事前確認適合証を持っていれば、区への提出書類のうち「基本的に必要な書類」1〜7と「必要に応じて提出を求める書類」がすべて不要になるのです。総会議事録の写し、管理規約の写し、貸借対照表、滞納状況の書類、長期修繕計画の写し、名簿の表明保証書——理事会で集めるのが一番大変な束が、まるごと省けます。

紙で直接申請する場合は、正本1部・副本2部。同じ書類を3セット作ることになります。

私が理事長さまにお勧めしているのは、管理会社に管理を委託しているならパターン②、自主管理に近いならパターン④です。どちらにしても、独自基準の2枚(町会連絡担当者報告書と防災の記録)は自分たちで区に出す。ここだけは変わりません。


認定の3つの経済効果——工事とセットで考える

認定は「取って終わり」ではありません。むしろ、認定を持った状態で大規模修繕をやると、お金の戻りが変わるというのが本質です。

① マンション長寿命化促進税制(固定資産税の減額)

過去に長寿命化に資する大規模修繕工事を実施していて、さらに令和5年4月1日から令和9年3月31日までの間に長寿命化工事を完了した、築20年以上かつ10戸以上のマンションは、工事完了の翌年度に課される家屋の固定資産税が減額されます。東京23区における減額割合は2分の1です。

対象となるのは、屋根防水工事・床防水工事・外壁塗装工事——この3つが揃った工事です。1住戸あたり100平方メートル分までが限度となります。

(出典:国土交通省「マンション長寿命化促進税制(固定資産税の特例措置)」/東京都主税局「長寿命化に資する大規模修繕工事が行われたマンションに対する固定資産税の減額制度」)

令和9年3月31日という期限を、私は重く見ています。 2026年9月の今から逆算すると、工事完了まで残り約1年半。大規模修繕は、調査・設計・業者選定・総会決議で1年前後かかるのが普通です。つまり、令和8年度中に動き出さないと間に合わない可能性があるという意味になります。

ただし、この税制には他にも要件があり、適用の可否は個別判断です。断定は避けます。必ず品川都税事務所と税理士にご確認ください。

② フラット35 維持保全型(区分所有者向け)

管理計画認定を受けたマンションを購入する場合、当初5年間の借入金利が年0.25%引き下げられます。他の引下げメニューとの併用も可能です。これは組合ではなく、買う人・売る人に効くメリットです。中古で売りに出したときの見え方が変わります。

(出典:住宅金融支援機構「【フラット35】維持保全型」)

③ マンション共用部分リフォーム融資(管理組合向け)

管理組合が共用部分の修繕資金を借りる場合、管理計画認定の取得により融資金利が年0.2%引き下げられます。耐震改修・浸水対策・省エネ対策工事による引下げ、マンションすまい・る債の積立てによる引下げとも組み合わせられます。

(出典:住宅金融支援機構「マンション共用部分リフォーム融資(管理組合申込み)」)


工事のコストをどう下げるか——品川区の建物事情から

ここからが、私が工事屋として一番お話ししたいところです。

長寿命化促進税制の対象は、屋根防水・床防水・外壁塗装の3点セットです。「外壁だけ」「防水だけ」では対象になりません。3つ揃えるとなると、当然、工事金額は上がります。

そして品川区は、大崎・大井町・天王洲・武蔵小山を中心に、中高層のマンションが多い区です。高層になるほど、足場の架設費が工事費全体に占める割合は大きくなります。敷地に余裕がない物件、前面道路が狭い物件、隣棟間隔が詰まっている物件では、足場を組むこと自体に無理が出ます。

ここで選択肢になるのが、ロープアクセス工法(無足場工法)です。産業用ロープで職人が壁面に降りて作業する方法で、足場を架けずに施工できます。

私はいつも、理事長さまにこうお伝えしています。「全部をロープでやる必要はありません」と。

現実的な最適解は、たいていハイブリッド工法です。バルコニー側のように足場を組んだほうが効率のいい面は足場で、妻面や搭屋のようにロープが有利な面はロープで。部位ごとに工法を切り替えて、総額を落とす。明誠は足場工法・ロープアクセス工法・ハイブリッド工法の3つを自社で持っているので、「うちはロープしかできないので全面ロープです」という提案にはなりません。

さらに、ロープアクセスには金額以外の効きどころがあります。足場を組まない面は、居住者の生活影響が小さいのです。窓の外が単管とメッシュシートで塞がれない。洗濯物が干せる。防犯面の不安も減る。高層階の高齢の居住者にとって、これは工期の数字以上に大きな話です。

工法の詳細は、明誠の専門サイトロープアクセスドットコムにまとめています。実際の施工の様子は、写真で見ていただくのが一番早いと思います。

長期修繕計画で「30年後に一時金」とせざるを得なかったマンションが、工法の見直しで一時金をなくせたケースを、私は何度も見てきました。認定基準の「一時金を予定していないこと」は、積立金を上げる以外にも道があるということです。

大規模修繕工事のご紹介とロープアクセス工法のご紹介も、あわせてご覧ください。


逆算スケジュール——総会から認定交付まで

品川区で認定を取るまでの流れを、時間軸で並べます。目安として見てください。

時期 やること
6〜8か月前 長期修繕計画の作成・見直し状況を確認(7年以内か/30年以上か/大規模修繕2回以上か/一時金の有無)。必要なら建物調査と計画の見直しに着手
5か月前 管理規約の3項目(緊急時の専有部立入り、修繕履歴の管理、財務・管理情報の書面交付)を点検。不足があれば規約改正を総会議案に
4か月前 独自基準の準備開始。町会・自治会の連絡担当者を決める/防災訓練の実施または対応マニュアルの作成
3か月前 事前確認の依頼先を決定(管理会社/マンション管理士/日管連/マンション管理センター)。見積を取る
2か月前 総会で「認定申請を行うこと」を決議。長期修繕計画と修繕積立金額の決議も同時に必要なら議案化
1〜2か月前 事前確認を受ける。適合証の発行を待つ
申請 オンライン申請(または紙で区へ)。独自基準の書類は別途、直接品川区へ提出
交付 区の審査後、認定通知。有効期間は認定日から5年間

一番見落とされやすいのが、総会決議のタイミングです。管理計画認定手続支援サービスの利用規約には、「総会決議を経ていない管理組合の事前確認はできません」と明記されています。事前確認を先に走らせようとしても止まります。

品川区の通常総会が春に集中することを考えると、次の総会の議案に間に合わせるかどうかが、令和8年度の分かれ目になります。


まとめ|品川区の理事会が今週できる3つのこと

長くなりましたので、整理します。

  • 品川区は認定主体が区。オンライン申請なら区への手数料は無料、紙なら29,000円(長期修繕計画2つ目以降は1計画16,000円加算)
  • 独自基準は3点。町会・自治会の連絡担当者/災害時対応マニュアルまたは年1回以上の防災訓練/区の適正化指針への適合。この部分は事前確認の対象外なので、必ず自分たちで区に提出する
  • 事前確認適合証があれば、区への提出書類の大半が不要になる。ルート選びは手数料より書類量で決めたほうが実務的
  • 長寿命化促進税制は令和9年3月31日までの工事完了が条件。対象は屋根防水・床防水・外壁塗装の3点セット。23区の減額は2分の1
  • 認定期間は5年。更新を忘れると失効する

そのうえで、今週、理事会で確認していただきたいのは次の3点です。

  1. 長期修繕計画の最終見直し日はいつか——7年を超えていたら、そこからです
  2. 昨年度、防災訓練をやったか。記録は残っているか——日付・内容が書かれた記録があれば、独自基準②は今日クリアできます
  3. 町会・自治会の窓口になっている人は誰か——実質的に誰かがやっているはずです。それを第1号様式に書いて正式化するだけです

3つとも、お金はかかりません。理事会で1分ずつ確認すれば済む話です。9月中に確認できるかどうかが、春の総会に間に合うかどうかを決めます。

品川区は、独自基準で「地域とのつながり」と「防災」を求めている区です。私はこれを、単なるハードルだとは思っていません。高層マンションが増え続けるこの街で、管理組合が町会と顔をつないでいるか、災害の日に動けるかを制度に組み込んだ、真っ当な設計だと感じています。

うちのマンションは足場が組めるのか、ロープアクセスで何がどこまでできるのか。そういう工法の相談だけでも構いません。総会の前段階の整理だけでも、お力になれることがあります。お問合せフォームから、遠慮なくお声がけください。

次回も、現場で本当に使える話だけをお届けします。


出典・参考資料


本記事の情報の鮮度について:本記事は2026年9月16日時点で公表されている品川区および国土交通省・東京都の公式情報をもとに執筆しています。制度は年度途中でも改正・予算終了があり得ます。実際に申請される前に、必ず品川区および該当窓口へ最新の内容をご確認ください。

免責:本記事は情報提供を目的としたものであり、個別の申請の可否や税額の判断を保証するものではありません。税制の適用については、税理士および所管の都税事務所にご確認ください。


株式会社明誠|東京都東大和市
マンション・ビル・ホテルの大規模修繕工事/足場工法・ロープアクセス工法(無足場工法)・ハイブリッド工法

ロープアクセス工法の詳細はこちら → https://rope-access-method.com/

【令和8年度版】品川区の12条点検・外壁全面打診|報告年度・提出先・無足場の実務

2026年9月16日 更新

大崎、五反田、天王洲アイル、武蔵小山、戸越銀座——品川区でビルやマンションをお持ちの方から、毎年秋にいただくご相談はだいたい同じ形をしています。「12条点検の案内が届いたが、外壁の打診までやる必要があるのか」「前回の打診がいつだったか、資料が見当たらない」「うちの立地では足場が組めない」。

株式会社明誠の本間幸紘です。東京都東大和市を拠点に、マンション・ビル・ホテルの大規模修繕を20年近くやってきました。品川区は、大崎・五反田の再開発オフィス街と、天王洲・東品川の運河沿い高層棟と、武蔵小山・戸越・荏原の木造密集市街地が、ひとつの区の中に並んでいる珍しいエリアです。同じ「品川区の12条点検」でも、建物が建っている場所によって現実的な打診手段がまったく変わります。

この記事は、品川区の実情に即して、12条点検の対象・時期・費用の考え方を整理したものです。


結論:品川区で12条点検の対象になる建物と、全面打診が必要になるタイミング

先に結論からお伝えします。

Q. 品川区で特定建築物の定期報告(12条点検)の対象になるのはどんな建物?

A. 用途と規模で決まります。マンション(共同住宅・下宿・寄宿舎)なら5階以上かつ当該用途部分の床面積が1,000㎡超、事務所ビルなら5階以上で延べ面積2,000㎡超のうち3階以上の部分が1,000㎡超、といったラインが代表的です。正確な線引きは用途コードごとに異なるため、東京都都市整備局の「定期報告対象建築物・建築設備等及び報告時期一覧」で確認してください。品川区もこの東京都の基準に沿って運用しています。

Q. 外壁の全面打診はいつ必要になる?

A. 竣工・外壁改修・前回の全面打診等から10年を超えた建物が、その後の定期報告のタイミングで対象になります。日常的には手の届く範囲の打診等、加えておおむね10年に一度、落下により歩行者等に危害を加えるおそれのある部分について全面打診等を行うこととされています(平成20年国土交通省告示第282号)。

Q. 令和8年度に報告する建物が、いま真っ先に確認すべきことは?

A. 平成28年4月1日以降に打診等を実施しているかどうかです。公益財団法人 東京都防災・建築まちづくりセンターは、令和8年度に報告する方へ向けて「外壁全面打診等が必要な外装材がある建物の場合、平成28年4月1日以降に打診等を実施している必要があります。打診等の調査を行っていない場合、要是正となり、写真添付が必要となります」と明示しています(出典:公益財団法人 東京都防災・建築まちづくりセンター「特定建築物定期調査報告」)。ここが令和8年度の実務上いちばん大きな分岐点です。

Q. 報告の締切は?

A. 3年ごと報告の用途は、その報告年度の5月1日から10月31日までが報告期間です。この記事を公開した2026年9月16日時点で、令和8年度に該当する用途をお持ちなら締切まで残り45日。打診調査は現場の段取りに時間がかかるため、逆算して動きたい時期です。

Q. どこに出す?

A. 敷地内に延べ面積1万㎡を超える建築物がある場合は東京都知事、それ以外は品川区長が特定行政庁です。品川区では特定建築物・防火設備に関する窓口が建築課監察担当(電話 03-5742-6771)、建築設備・昇降機等に関する窓口が建築課審査担当(設備)(電話 03-5742-6774)となっています(出典:品川区「定期報告制度について」更新日:令和8年2月2日)。

ここからが本題です。順に噛み砕いていきます。


建築基準法第12条とは|「報告」と日常の点検は別物

12条点検という言葉はよく使われますが、条文としては大きく二つに分かれます。

第12条第1項が、特定建築物の所有者・管理者が一級建築士・二級建築士または特定建築物調査員に調査させ、その結果を特定行政庁に報告する義務です。これがいわゆる「定期報告」で、区が受け取り、内容を確認します。

第12条第2項が、国・都道府県・建築主事を置く市町村が所有・管理する建築物についての定期点検です。民間の建物には直接かかりません。

つまり、品川区の民間マンション・ビルのオーナーが向き合うのは第1項の定期報告です。ここを取り違えて「点検だけしておけばよい」と考えてしまうと、報告義務の履行漏れになります。

品川区は定期報告制度のページで、この制度の趣旨を「建築物の使用が開始された後も、引き続き、適法な状態を確保し続けることが重要であるという考え方から、定期的な調査や報告を求めることとしています」と説明しています。建てたときに適法だったことと、いま適法であることは別という、きわめて当たり前の、しかし見落とされやすい前提です。

報告した内容は「公開」される

見落とされがちな論点をひとつ。定期報告の概要書は閲覧の対象になります。品川区では、特定建築物・防火設備・建築設備・昇降機等の定期調査/検査報告概要書を区役所 本庁舎6階 建築課で閲覧できます。閲覧時間は午前8時30分〜午後5時(正午〜午後1時を除く)、閲覧手数料は無料。ただしコピーや写真撮影はできず、来庁前に窓口への連絡が必要です。

つまり、報告書の「要是正」がどう書かれているかは、第三者が見に来られる情報です。賃貸ビルであればテナント、分譲マンションであれば購入検討者が、その気になれば確認できる。資産価値の観点から、ここは軽く見るべきではありません。


全面打診が必要になる4つのトリガー

外壁の全面打診等が必要になるのは、次のいずれかに当たるときです。

  1. 竣工から10年を超えた建物で、その後の定期報告の時期を迎えた
  2. 外壁の改修(タイル張替え・塗替え等)から10年を超えた
  3. 前回の全面打診等から10年を超えた
  4. 手の届く範囲の打診等や目視で異常が認められ、落下の危険が疑われる

1〜3は「10年」という時間の話ですが、4は時間と無関係に発生します。品川区の運河沿い・湾岸エリアは潮風と強風にさらされ、タイルの浮きが想定より早く進行するケースがあります。10年を待たずに異常が見つかることは珍しくありません。

打診の代わりに使える調査方法

告示上、全面打診等の「等」には赤外線装置による調査などが含まれます。ただし赤外線は天候・日射・壁面方位・外装材の種類によって精度が大きく変わり、判定できない範囲が残ることがあります。実務では赤外線で全体をスクリーニングし、疑わしい範囲を打診で確定するという組み合わせが現実的です。

なお、令和7年7月17日には国土交通省から「建築物の定期調査報告における落下防止措置付き外壁タイルの取扱いについて(技術的助言)」が通知されています。ピンネット工法など落下防止措置を施した外壁の扱いについて整理された内容で、過去に落下防止措置を行った建物をお持ちの方は、調査を依頼する建築士に必ず共有してください。


令和8年度の品川区で、実務が変わった点

年度が替わると変わるのは補助金だけではありません。定期報告の実務も、令和7年度から令和8年度にかけて複数の変更が入っています。

① 令和7年7月1日から新様式・スプリンクラーが調査項目に追加

令和7年7月1日から定期調査報告の様式が新しくなり、同日からスプリンクラー設備(令和6年国土交通省告示第284号第1第1号または第2号ニに該当するものが対象)が調査項目に追加されました。古い様式で作成すると受付で差し戻される可能性があります。

② 令和8年3月27日からインターネット受付が開始——ただし品川区宛は対象外

東京都防災・建築まちづくりセンターは、令和8年3月27日から特定建築物定期調査報告のインターネット受付を開始しました。ただし対象は東京都知事宛または多摩建築指導事務所長宛のみです。品川区長が特定行政庁となる建物(敷地内に延べ面積1万㎡超の建築物がない場合)は、このインターネット受付の対象外になります。

一方、品川区は独自に「昇降機等」の定期検査報告について電子受付を順次開始していると案内しています。特定建築物(外壁打診を含む本体の調査報告)と昇降機等で、電子化の進み方が違う——ここは品川区の実務として押さえておきたい点です。

③ 事務手数料が令和8年3月に改定

特定建築物定期調査報告に係る事務手数料は、令和8年3月2日付(同年3月24日に一部訂正)で改定が公表されています。前年度の見積書がそのまま通る前提で予算を組んでいると差が出ます。金額は改定内容が随時更新されるため、発注前に東京都防災・建築まちづくりセンターの公表資料で現行額をご確認ください。

④ 東京都建築安全条例の改正(令和7年4月1日施行)

東京都建築安全条例が改正され、令和7年4月1日から施行されています。定期報告の判定に直接影響する改正ではありませんが、是正工事の計画時に関係する場合があります。


令和8年度は共同住宅の報告年度か?

分譲マンションの理事会からいちばん多い質問がこれです。

東京都の資料では、3年ごとに報告が必要な共同住宅の報告年次の例として、令和6年度・令和9年度・令和12年度が示されています。この例に当たる建物であれば、令和8年度は報告年度ではなく、次は令和9年度(令和9年5月1日〜10月31日)ということになります。

ただし、ここには2つの注意点があります。

注意点1:用途コードによって報告年度は違う。同じ「マンション」でも、1階に店舗や診療所が入る複合用途であれば、その建物に適用される用途コードが変わり、報告年度も変わります。必ずご自身の建物の用途コードで一覧を確認してください。

注意点2:初回免除の期間に幅がある。新築・改築後は、検査済証の交付を受けた日の属する年度の翌年度以降の2回目の報告時期から報告が必要になります。たとえば令和5年度中に検査済証が交付された共同住宅なら、令和6年度の報告が免除され、令和9年度から報告が必要になります。令和6年度〜令和8年度に交付された建物なら令和12年度からです。検査済証の取得時期によって、最初の報告までの期間はかなり変わります。

そして、令和9年度が報告年度になる建物にとって、令和8年度の後半(いま)は準備の適期です。理由は単純で、令和9年度に報告する建物で全面打診等が必要な場合、打診等の実施実績が求められるからです。調査だけを単発で発注するより、大規模修繕の劣化診断と一体で組んだほうが、結果的に費用も日程も収まります。この点は後段で詳しく述べます。

建築設備・昇降機等は考え方が違う

建築設備および昇降機等の定期検査報告は、検査済証の交付を受けた日の翌日から起算して2年を経過する日までに初回の報告を提出する必要があります。特定建築物・防火設備の「初回免除」とは取扱いが異なるため、新築のビル・マンションをお持ちの方は混同しないようご注意ください。


実務コスト感|足場・ロープアクセス・ゴンドラをどう選ぶか

12条点検の全面打診で、オーナーにとって最大の費用要因は「外壁にどうやって人を寄せるか」です。打診そのものの人件費より、アクセス手段の仮設費が大きいことは珍しくありません。

3つの手段の比較

手段 向いている建物 主な制約
通常足場 中低層、敷地に余裕がある、同時に補修も行う 仮設費が大きい/組立解体に日数/隣地・道路の占用が必要/防犯面の懸念
ロープアクセス工法(無足場工法) 高層、狭隘地、足場が組めない、調査のみを短期で終えたい 屋上に支点が取れることが前提/一度に投入できる人数に上限
ゴンドラ 屋上に常設ゴンドラがある高層ビル 常設がなければ設置費が高額/凹凸・セットバックのある面は届かない

大切なのは、この3つを1棟の中で使い分けられるかです。品川区のように形状も立地もバラバラな建物が多い区では、「北面と東面は足場、道路に面した南面と西面はロープアクセス」といった組み合わせ(ハイブリッド工法)が、総額でいちばん安く収まることがよくあります。1つの工法しか持たない会社に相談すると、この選択肢が最初から議論に上がりません。

「調査だけ」なら足場を組む理由がほとんどない

打診調査だけを行うのであれば、足場を組む必然性はかなり低くなります。足場は「補修工事を行うための作業床」であって、「壁を叩くための手段」としては明らかに過剰だからです。調査の段階では無足場で行い、要是正箇所が確定してから補修の規模に応じて仮設計画を立てる——この順番のほうが、オーナーの持ち出しは小さくなります。


ロープアクセス工法が品川区の12条打診で選ばれる理由

品川区の地理特性に即して、無足場工法が効く場面を3つ挙げます。

1. 天王洲・東品川・八潮——運河沿いの高層棟で、足場が現実的でない

天王洲アイル周辺から東品川、八潮にかけての運河沿いエリアには、高層のオフィス・住宅棟が並びます。この規模の建物に調査目的で全面足場を架けるのは、費用面でも工期面でも合理的とは言えません。加えて運河沿いは風が強く、足場のメッシュシートが風を受けることによる荷重も無視できません。ロープアクセス工法なら、屋上に適切な支点を確保できれば、風の影響を受けにくい形で壁面にアクセスできます。

塩害環境ではタイルの浮きや鉄部の腐食が内陸より進行しやすいため、10年に一度の全面打診は「義務だから」以上の意味を持ちます。

2. 武蔵小山・戸越・荏原——密集市街地で、そもそも足場を組む空間がない

武蔵小山や戸越銀座、荏原周辺には、商店街と木造住宅が密に並ぶ市街地が広がります。ここに建つ中層のマンションやビルは、隣地との離隔がわずかしかなく、前面道路も狭い。足場を組むには隣地の承諾と道路使用許可が要り、承諾が取れずに計画が止まる例を私は何度も見てきました。

ロープアクセス工法は建物の上から下りてくる工法なので、地上の空間をほとんど使いません。商店街の営業を止めずに調査を進められるのは、この工法の構造上の利点です。

3. 大崎・五反田——稼働中のオフィスで、テナントへの影響を最小化する

大崎・五反田は再開発でオフィスが集積したエリアです。稼働中のオフィスビルで全面足場を架ければ、窓が塞がれて執務環境が悪化し、共用部に仮設が入り、テナントからの問い合わせが増えます。賃貸オーナーにとっては、工事費以上にテナント満足度の低下が痛い。

ロープアクセスによる調査は、1面あたりの作業日数が短く、窓を長期間塞ぎません。事前にテナントへ作業日と時間帯を通知しておけば、通常営業のまま調査を完了できます。

ロープアクセス工法の技術基準・安全管理・施工事例については、ロープアクセスドットコムで詳しくまとめています。工法そのものの考え方は明誠のロープアクセス工法のページもあわせてご覧ください。


12条点検を大規模修繕と一体化するメリット

ここが、オーナーにとって費用面でいちばん効く論点です。

打診調査と劣化診断は、やっていることがほぼ同じ

12条点検の全面打診等は「外壁を叩いて浮きを探す」作業です。大規模修繕の劣化診断も「外壁を叩いて浮きを探し、数量を拾う」作業です。同じ作業を2回発注している管理組合・オーナーが、驚くほど多い。

一体化すれば、アクセス手段(足場やロープ)の費用が1回で済み、調査員の動員も1回で済みます。さらに、法定報告に使える打診記録と、修繕工事の見積根拠になる数量調書が同時に手に入ります。

具体的な進め方としては、次の順序が現実的です。

  1. ロープアクセス(または赤外線+ロープアクセス)で外壁全面の打診を実施
  2. 打診結果を12条点検の定期調査報告書に反映して報告
  3. 同じ打診データから浮き・剥離の数量を拾い、修繕工事の概算を作成
  4. 数量が確定した段階で、足場/ロープアクセス/ハイブリッドの仮設計画を比較検討
  5. 長期修繕計画の更新にデータを反映

マンションの管理組合向けの進め方は分譲マンション管理組合のお客様へ、ビル・収益物件のオーナー向けはビル・施設オーナーのお客様へにまとめています。

品川区の無料支援を先に使う

品川区は、分譲マンションの管理組合向けに複数の無料支援を用意しています(出典:品川区「マンション支援」更新日:令和8年4月1日)。

  • マンション建替・修繕相談:毎月第3火曜日 午後1時〜午後4時、1回80分程度、同一年度に3回まで。相談員は弁護士・一級建築士・マンション管理士。場所は品川区役所 本庁舎6階 住宅課内ほか。申込は1週間前まで
  • 一級建築士派遣:1回2時間程度、1組合につき3回まで。申込は1週間前まで
  • マンション管理相談:毎月第2・第4水曜日 午後1時〜午後4時、1回50分程度、同一年度に3回まで。相談員はマンション管理士
  • マンション管理士派遣:1回2時間程度、1組合につき3回まで
  • マンション建替え・改修アドバイザー制度利用助成:区内の分譲マンションを対象に、(公財)東京都防災・建築まちづくりセンターが実施するアドバイザー制度を利用した場合の派遣料を1回まで全額助成。予算に限りがあるため、希望する場合は事前に相談が必要

窓口は品川区 都市環境部 住宅課 住宅運営担当(電話 03-5742-6776)です。

一級建築士派遣は、12条点検の相談にそのまま使えます。「うちの建物は令和何年度が報告年度なのか」「前回の打診記録が見当たらないがどうすればよいか」といった論点を、無料で第三者の建築士に整理してもらえる。業者に見積を取る前にこれを使うと、話が早くなります。

品川区には「計画修繕調査費の助成」はない

正直にお伝えします。中央区や墨田区などが設けている分譲マンション計画修繕調査費助成(調査費の一部を区が補助する制度)に相当する制度は、品川区では確認できませんでした。品川区のマンション支援は、相談・派遣・アドバイザー派遣料助成という「専門家の知見を無料で使える」設計になっており、調査費そのものへの補助という形はとっていません。

したがって品川区の管理組合・オーナーは、調査費は自己負担を前提に、そのぶん一体発注で総額を下げるという戦略が現実的です。ここで工法の選択肢を3つ持っているかどうかが効いてきます。

なお、品川区の助成制度は年度ごとに見直されます。この記事の執筆時点で確認できなかっただけで、今後新設される可能性はあります。検討時には必ず住宅課へ直接ご確認ください。

管理計画認定制度との関係

品川区はマンション管理計画認定制度を令和5年4月1日から運用しています(出典:品川区「マンション管理計画認定制度」更新日:令和8年7月1日)。認定基準には「長期修繕計画の作成または見直しが7年以内に行われていること」「計画期間が30年以上で、残存期間内に大規模修繕工事が2回以上含まれること」などが含まれます。

12条点検の打診データは、長期修繕計画を実態に合わせて見直すための一次資料になります。法定報告のために取ったデータが、そのまま認定申請の土台になるという関係です。

申請手数料は、オンラインによる申請は区の手数料が無料、紙ベースで品川区に直接申請する場合は基本手数料29,000円(長期修繕計画が複数ある場合は2つ目以降に加算手数料16,000円)となっています。ただしオンライン申請では、事前確認の依頼先で別途審査手数料・システム利用料がかかるため、依頼先への事前確認が必要です。認定期間は認定を受けた日から5年間で、有効期間内に更新しなければ失効します。

認定を取得すると、住宅金融支援機構のマンション共用部分リフォーム融資の金利引き下げ、マンションすまい・る債の利率上乗せ、区分所有者側ではフラット35維持保全型の金利引き下げ、長寿命化に資する大規模修繕工事を行った場合の固定資産税の減額といった優遇があります。

標準管理規約が令和7年10月に改正されている

もうひとつ、品川区が注意喚起している論点があります。国土交通省は令和7年のマンション関係法(区分所有法等)の改正を踏まえ、令和7年10月にマンション標準管理規約を改正しました。総会の開催手続きや決議要件といった管理組合の運営上重要な内容が含まれるため、各マンションの管理規約も見直しが必要になります。

大規模修繕の決議要件に関わる部分でもあるので、12条点検の結果を受けて工事を検討する管理組合は、規約の状態も並行して確認しておくと手戻りが減ります。


まとめ|品川区のオーナー・理事長が今週確認したい3点

長くなったので、実務の要点を3つに絞ります。

1. 前回の打診がいつだったかを、記録で確認する

令和8年度に報告する建物なら、平成28年4月1日以降に打診等を実施している必要があります。記録が見当たらない場合、報告書は「要是正」となり写真添付が必要になります。まず管理会社や過去の報告書控えを当たってください。

2. 自分の建物の報告年度を、用途コードで確定する

「マンションだから3年ごと」で止めず、複合用途かどうか、検査済証の交付年度はいつかまで確認します。判断がつかない場合は、①全体の階数・面積 ②各用途に供する面積 ③各階の用途 を整理したうえで、品川区 建築課監察担当(03-5742-6771)へ問い合わせるのが確実です。

3. 調査と修繕を分けて発注していないか、見直す

12条点検の打診と大規模修繕の劣化診断は作業がほぼ重なります。別々に発注していれば、アクセス費用を二重に払っている可能性があります。品川区の一級建築士派遣(無料・1組合3回まで)を使って、発注の枠組みそのものを点検してみてください。

足場が組めない立地でお困りでしたら、株式会社明誠へのお問い合わせからご相談ください。品川区の物件についても、通常足場・ロープアクセス・ハイブリッドの3案で概算を比較したうえでご提案します。


よくある質問(FAQ)

Q. 定期報告を出さないとどうなりますか。

A. 建築基準法第12条第1項に基づく報告は所有者・管理者の義務です。未報告のまま放置すれば是正指導の対象になりますし、外壁が落下して第三者に被害が出た場合、管理上の責任を問われる根拠にもなります。報告書の概要書は区役所で閲覧できるため、未報告・要是正の状態は第三者からも見える情報になります。

Q. 賃貸マンション(ワンオーナー)でも対象ですか。

A. 12条点検の定期報告は、所有形態ではなく用途と規模で決まります。ワンオーナーの賃貸マンションでも、規模要件に当たれば対象です。一方、品川区のマンション管理計画認定制度は分譲マンションが対象で、ワンオーナーの賃貸マンションは対象外です。制度によって対象が異なる点にご注意ください。

Q. 赤外線調査だけで済ませられますか。

A. 告示上の「全面打診等」に赤外線調査が含まれる場合はありますが、天候・日射条件・壁面方位・外装材の種類によって判定できない範囲が生じます。実務では、赤外線でスクリーニングし、疑わしい箇所を打診で確定する組み合わせをおすすめしています。調査を依頼する建築士と、どの範囲をどの手法で見るかを事前に詰めてください。

Q. ロープアクセスで本当に外壁全面を打診できますか。

A. 屋上に適切な支点が確保できれば、壁面を上から下へ帯状に区切って順に打診していく形で、全面をカバーできます。バルコニーの奥や大きなセットバックなど、ロープでは届きにくい部位はあるため、事前調査で部位ごとにアクセス手段を割り付けます。届かない部位だけ部分足場を併用するのがハイブリッド工法の考え方です。

Q. インターネットで報告書を提出できますか。

A. 令和8年3月27日から特定建築物定期調査報告のインターネット受付が始まっていますが、対象は東京都知事宛または多摩建築指導事務所長宛のみです。品川区長が特定行政庁となる建物は対象外となります。なお品川区は「昇降機等」の定期検査報告について電子受付を順次開始していると案内しているため、設備側は今後の運用拡大に注意してください。

Q. 報告書の様式はどこで手に入りますか。

A. 公益財団法人 東京都防災・建築まちづくりセンターのサイトから、特定建築物定期調査報告書等のExcel版・PDF版と作成要領がダウンロードできます。令和7年7月1日から新様式に変わっているため、古い様式を使い回さないようご注意ください。


この記事のポイントまとめ

  • 品川区で12条点検の対象になるかは用途と規模で決まる。判断は東京都都市整備局の一覧で確認する
  • 令和8年度に報告する建物は、平成28年4月1日以降に打診等を実施している必要がある。未実施なら要是正・写真添付
  • 3年ごと報告の共同住宅は、東京都資料の例では令和6・9・12年度が報告年次。令和9年度が次の建物は、いまが準備の適期
  • 新築・改築後は初回免除があり、検査済証の交付年度により最初の報告時期が変わる
  • 建築設備・昇降機等は検査済証交付日の翌日から2年以内に初回報告。特定建築物とは考え方が違う
  • 提出先は、敷地内に1万㎡超の建築物がなければ品川区長。窓口は建築課監察担当(03-5742-6771)
  • インターネット受付(令和8年3月27日開始)は都知事・多摩建築指導事務所長宛のみで、品川区長宛は対象外
  • 報告概要書は品川区役所本庁舎6階 建築課で無料閲覧できる。第三者から見える情報である
  • 令和7年7月1日から新様式・スプリンクラー設備が調査項目に追加。事務手数料は令和8年3月に改定
  • 品川区には計画修繕調査費の助成は確認できない。代わりに一級建築士派遣・マンション管理士派遣・アドバイザー制度利用助成(派遣料1回全額)が無料で使える
  • 管理計画認定はオンライン申請なら区の手数料が無料、紙申請は基本29,000円。認定期間は5年
  • 打診調査と大規模修繕の劣化診断を一体化すれば、アクセス費用の二重払いを避けられる
  • 天王洲・東品川の高層棟、武蔵小山・戸越の密集市街地、大崎・五反田の稼働中オフィス——いずれもロープアクセス工法が有効に働く条件がそろっている

出典・参考資料


本記事の情報の鮮度について:本記事は2026年9月16日時点で公表されている品川区および国土交通省・東京都の公式情報をもとに執筆しています。制度は年度途中でも改正・予算終了があり得ます(品川区のマンション建替え・改修アドバイザー制度利用助成は予算に限りがあり、予算枠に達し次第受付終了となります)。実際に申請・報告される前に、必ず品川区および該当窓口へ最新の内容をご確認ください。


執筆者:本間 幸紘(株式会社明誠 代表取締役)
専門領域:マンション大規模修繕/ロープアクセス工法/建物長寿命化計画
実務経験:建設・改修業界 20年以上
所属:一般社団法人 全国建設業支援協会(JCSA)

株式会社明誠について:東京都東大和市を拠点に、東京・関東一円で通常足場工法・ロープアクセス工法(無足場工法)・ハイブリッド工法の3つから建物に最適な工法をご提案する改修会社です。日本初のロープアクセス工事フランチャイズを展開しています。会社の考え方はこちら。

関連リソース:ロープアクセス工法の技術情報・安全基準・施工事例はロープアクセスドットコム(https://rope-access-method.com/)で公開しています。

最終更新:2026年9月16日

【令和8年度版】江東区の12条点検・外壁全面打診はいつ必要か|報告時期と無足場の選択肢

最終更新:2026年9月16日

「うちのマンション、江東区の12条点検っていつ出すんでしたっけ?」——豊洲や東陽町の理事会にお邪魔すると、私はこの質問を毎年のように受けます。この記事では、江東区で建築基準法第12条第1項の定期調査報告が必要になる建物はどれか、外壁の全面打診はいつ求められるのかに、区と国の一次情報だけで答えます。

私は株式会社明誠(東京都東大和市)で、20年近く外壁の改修現場に立ってきました。足場を組む工事も、ロープでぶら下がる工事も、両方を自分の目で見てきた立場から、制度の話と現場の段取りの話をつなげてお伝えします。


結論:江東区で12条点検の対象になる建物と、全面打診が必要になるタイミング

先に結論だけ置きます。

Q. 江東区で特定建築物の定期調査報告が必要なマンション・ビルは?
A. 江東区が定める定期報告対象一覧表に載る用途・規模に該当する建物です。分譲・賃貸マンション(下宿・共同住宅・寄宿舎/用途コード40)なら、5階以上の階でその用途の床面積が100平方メートルを超え、かつ当該用途の床面積合計が1,000平方メートルを超えるものが対象で、3年ごとの報告になります(出典:江東区定期報告対象建築物)。

Q. 外壁の全面打診はいつ必要?
A. タイル、石貼り等(乾式工法によるものを除く)、モルタル等の外装仕上げ材は、おおむね6か月から3年以内に一度の「手の届く範囲の打診等」に加え、おおむね10年に一度、落下により歩行者等に危害を加えるおそれのある部分の全面的な打診等を行うこととされています(出典:国土交通省定期報告制度における外壁のタイル等の調査について)。根拠は平成20年国土交通省告示第282号です。

Q. 江東区で今、いちばん締切が近いのは?
A. 江東区の一覧表では、物販店舗(用途コード31)・飲食店等(32)・複合用途建築物(33)・事務所(34)が令和8年の5月1日から10月31日までの報告期間にあたります。つまり令和8年度の受付は10月31日で締まります。共同住宅(40)は令和9年の5月1日から10月31日までなので、今は準備の年です(出典:同上、江東区ページ更新日2025年7月4日時点の掲載内容)。

ここからが本題です。順番にほどいていきます。


建築基準法第12条とは:1項の「調査」と3項の「検査」は別物です

建築基準法第12条は、建物の所有者・管理者に対して、防災上の現状を有資格者に見てもらい、その結果を特定行政庁(江東区の場合は江東区長)へ定期的に報告することを義務づけた条文です。江東区はこの制度の目的を「建築物の防災上の現状を的確に把握して、災害を未然に防止しようとするもの」と説明しています(出典:江東区定期報告制度について)。

現場でよく混ざるのが、第1項と第3項の違いです。私はいつも理事長さまに、この表をお見せしています。

区分 根拠 対象 通称
特定建築物の定期調査 法第12条第1項 建物本体(敷地・外部・屋上・内部・避難施設等) 12条点検、特定建築物定期調査
防火設備の定期検査 法第12条第3項 防火扉・防火シャッター等 防火設備定期検査
建築設備の定期検査 法第12条第3項 換気・排煙・非常用照明・給排水 建築設備定期検査
昇降機等の定期検査 法第12条第3項 エレベーター、エスカレーター等 昇降機定期検査

外壁の打診が出てくるのは、このうち第1項の「特定建築物の定期調査」です。江東区が示す調査項目は、①敷地及び地盤、②建築物の外部、③屋上及び屋根、④建築物の内部、⑤避難施設等、⑥その他の6分野。外壁(窓サッシ等含む)は②に入ります(出典:江東区特定建築物の定期調査報告)。

調査ができるのは、一級建築士・二級建築士または特定建築物調査員です。ここは資格要件ですので、業者選定のときに資格者証を見せてもらってください。

「初回免除」を知らずに慌てる管理組合が多い

新築マンションで理事会に入ったばかりの方がよくつまずくのが、初回の報告時期です。江東区の説明はこうです。

当該特定建築物に係る検査済証の交付を受けた日が属する年度の翌年度以降で、特定建築物の定期報告時期一覧が示す報告時期の次の報告時期が定期報告の時期になります。

江東区が挙げている例をそのまま引くと、用途が共同住宅(用途コード40)で検査済証の交付日が令和元年5月27日の場合、検査済証の年度は令和元年度、初回の定期報告の時期は令和6年5月〜10月になります(出典:前掲・江東区特定建築物の定期調査報告)。

東京都も同じ考え方を「初回免除」として整理しており、共同住宅のように3年ごと報告の用途では、検査済証交付の直後に来る報告時期は免除され、その次の回から報告が必要になります(出典:東京都都市整備局3.定期報告対象建築物・建築設備等及び報告時期一覧)。

私の経験上、ここを読み違えて「まだ先だと思っていた」となる管理組合は少なくありません。竣工から6〜8年目で一度、検査済証の交付日を管理会社に確認しておくと安心です。


全面打診が必要になる4つのトリガー

「築何年で打診?」という聞かれ方をしますが、実務上は次の4つのどれかに当たったら、と考えたほうが正確です。

  1. 竣工からおおむね10年を経過して、その後の最初の定期調査を迎えるとき
  2. 外壁改修(全面打診または落下防止措置)からおおむね10年を経過したとき
  3. 手の届く範囲の打診や目視で異常が認められ、要調査と判定されたとき
  4. 外壁タイル等の落下・剥落が実際に起きたとき

1と2の根拠が平成20年国土交通省告示第282号、3と4は現場判定と行政指導の世界です。私が江東区の湾岸エリアで一番怖いと感じているのは、3と4を待ってしまうパターンです。海に近い建物は、潮風で目地やシーリングが痛みやすく、劣化の進み方が内陸とは違います。

令和4年の告示改正で「ドローン赤外線」も選べるようになりました

ここは新しい話なので、しっかり押さえてください。国土交通省は令和4年1月18日付けで平成20年国土交通省告示第282号を一部改正し、打診以外の調査方法として、無人航空機(ドローン)による赤外線調査であって、テストハンマーによる打診と同等以上の精度を有するものを明確化しました(出典:前掲・国土交通省ページ)。

精度の判定にあたっては、一般財団法人日本建築防災協会の委員会がまとめた「定期報告制度における赤外線調査(無人航空機による赤外線調査を含む)による外壁調査ガイドライン」を参照することとされています。地上設置型の赤外線装置による調査も同じガイドラインが判断基準です。

さらに、落下防止措置付きの外壁タイルの扱いについては、令和7年6月30日付 国住参建第1579号(最終改正)の技術的助言が、性能検証法については令和8年7月21日付 事務連絡が出ています(出典:前掲・国土交通省ページ)。制度は今も動いています。江東区には東京五輪前後に建った建物も多く、この新しい助言が効いてくる物件が出てくるはずです。

正直に申し上げます。赤外線やドローンは万能ではありません。天候、日射条件、隣接距離、飛行の許可、タイルの仕上げによっては、精度が出ないこともあります。打診・赤外線・ロープアクセスを、部位ごとに使い分けるというのが、私が現場で辿り着いた答えです。ロープアクセス工法の技術情報や安全基準は、姉妹サイトのロープアクセスドットコムに詳しくまとめています。


江東区固有の運用:窓口・報告時期・提出先・電子申請

ここが自治体ごとにいちばん違うところです。江東区の令和8年9月時点の運用を整理します。

用途コード別の報告時期(江東区)

用途コード 主な用途 規模の目安 報告時期
13 旅館又はホテル 3階以上かつ2,000平方メートル超 毎年11月1日〜翌年1月31日
22 旅館又はホテル(13を除く) 地階・3階以上等 令和7年5月1日〜10月31日(3年ごと)
28 共同住宅等と他用途の複合(34を除く) 5階以上かつ1,000平方メートル超 令和7年5月1日〜10月31日(3年ごと)
31 物品販売業を営む店舗等(14を除く) 地階・3階以上、500平方メートル超等 令和8年5月1日〜10月31日(3年ごと)
32 飲食店、遊技場、公衆浴場等 地階・3階以上、500平方メートル超等 令和8年5月1日〜10月31日(3年ごと)
33 複合用途建築物(28・34を除く) 3階以上かつ500平方メートル超 令和8年5月1日〜10月31日(3年ごと)
34 事務所その他これに類するもの 5階建て以上・延べ2,000平方メートル超のうち3階以上かつ1,000平方メートル超 令和8年5月1日〜10月31日(3年ごと)
40 下宿、共同住宅、寄宿舎 5階以上かつ1,000平方メートル超 令和9年5月1日〜10月31日(3年ごと)
41 高齢者等の就寝の用に供する共同住宅等 地階・3階以上、2階300平方メートル以上 令和9年5月1日〜10月31日(3年ごと)

(出典:江東区定期報告対象建築物/同ページ更新日2025年7月4日時点の掲載内容。規模要件は原典の注記を伴いますので、該当判断は原典と区へご確認ください)

注意点として、共同住宅(高齢者等の就寝の用に供するものを除く)の住戸内は調査・検査の報告対象から除かれます。専有部に立ち入る話ではない、と理事会でご説明いただければ、居住者の理解も早いです。

報告書の提出先は「区役所」ではありません

江東区で私がいちばん多く説明するのがここです。

  • 特定建築物定期調査報告書の提出先:公益財団法人 東京都防災・建築まちづくりセンター 建築防災部 建築防災課(〒160-8353 東京都新宿区西新宿7-7-30 小田急西新宿O-PLACE 2階/電話 03-5989-1929)。様式も同センターのサイトからダウンロードします。
  • 改善計画書・改善完了報告書、各種届出(所有者変更、除却・使用休止、再使用、新規登録票)の提出先:江東区役所 都市整備部 建築調整課 建築紛争係(区役所5階30番/〒135-8383 東京都江東区東陽4-11-28/電話 03-3647-9767)。
  • 届出・報告の電子申請:江東区はLoGoFormによる電子申請窓口を用意しています。
  • 令和3年4月1日から、改善報告等の押印は不要になりました。

(出典:前掲・江東区定期報告制度についておよび特定建築物の定期調査報告)

敷地内に1万平方メートル超の建物があると「都扱い」になります

豊洲・有明・東雲のタワーマンションや大規模複合施設をお持ちの方は、ここが分かれ道です。敷地内に延べ面積が10,000平方メートルを超える建築物がある場合、所管は江東区ではなく東京都になります。窓口は東京都都市整備局 市街地建築部 建築企画課(建築安全担当 直通 03-5388-3344)です(出典:前掲・江東区定期報告対象建築物、東京都都市整備局ページ)。

定期報告概要書の閲覧先も変わります。区扱いなら江東区役所5階の建築調整課窓口(閲覧は無料、写しの交付は1件300円)、1万平方メートル超なら東京都の電子閲覧システムです。

江東区は湾岸開発で大規模物件が集中しているため、私の実感では「都扱い」に当たる割合が23区のなかでも高いエリアです。管理会社が変わったタイミングで所管を取り違え、提出先で往復してしまった管理組合を、私は実際に見ています。


実務コスト感:打診面積と仮設の組み方で総額が変わる

ここからは公的資料ではなく、私が江東区・湾岸エリアで実際に見積を出してきた肌感覚です。公的な単価表ではないことを、先にお断りします。建物形状、階数、隣地条件、タイルの種類で大きく振れます。

  • 12条調査そのもの(有資格者の調査・報告書作成)は、中規模マンションで数十万円規模に収まることが多い
  • 総額を左右するのは調査費より「外壁の高所にどうやって手を届かせるか」の費用
  • 枠組足場を全面に架けると、仮設費だけで数百万円から一千万円超になる物件もある
  • ロープアクセスで打診する場合、足場を組まないため仮設費の項目自体がほぼ消える
  • ただし、屋上のアンカー・支持物の条件が悪いと、ロープを下ろせない面が出る

私が一番悔しい思いをするのは、「全面打診のためだけに」足場を組んでしまった案件に、後から相談をいただくときです。同じ足場で塗装も防水もシーリングもできたのに、調査だけで解体してしまった。数百万円が、調査という名目で一度きり消えていくわけです。

工法ごとの向き不向きは、ロープアクセス工法のご紹介で整理しています。

進め方 仮設費 居住者への影響 向いている場面
全面足場で調査 大きい 大(窓の開閉制限・防犯懸念・工期長) 調査後すぐ大規模修繕に入る場合
ロープアクセスで調査 ほぼ不要 小(架設・解体期間がない) 調査単独、部分補修、高層・狭隘地
ハイブリッド(足場+ロープ) 中 中 低層部は足場、高層部・張り出し部はロープ
赤外線・ドローン併用 小 小 条件が合う面の一次スクリーニング

ロープアクセス工法が12条の全面打診で選ばれる理由

私がロープアクセス工法(産業用ロープで作業員が壁面に取り付く無足場工法)を12条調査でお勧めするのは、主に3つの理由からです。

1. 居ながらでできる
足場を組むと、窓が開けにくくなり、バルコニーに他人が近づく不安が生まれ、洗濯物も干しにくくなります。江東区のタワー型・板状型どちらでも、居住者からの苦情のほとんどは仮設由来です。ロープなら架設・解体の期間がなく、作業も上から下へ短時間で通過していきます。

2. 調査単独でも成立する
「調査だけで足場は過剰」というケースに、そのまま対応できます。全面打診の結果、補修が必要な箇所が限定的なら、同じロープでそのまま部分補修まで抜けられるのも実務上は大きい。調査と補修で二度仮設を組む必要がありません。

3. 高層・狭隘地に強い
豊洲・東雲のような高層物件や、亀戸・大島のように隣地が迫る密集地では、足場そのものが架けにくい面が出ます。そこだけロープで拾う、という組み方ができます。

一方で、ロープアクセスにも限界があります。屋上のパラペット形状、支持物の強度、風の条件によっては下ろせない面があり、その場合はゴンドラや足場を部分的に併用します。安全基準や適用条件については、ロープアクセスドットコムで技術的な解説をしていますので、業者選定の判断材料にしていただければと思います。

明誠が足場・ロープアクセス・ハイブリッドの3つを持っている理由は、会社の考え方(コンセプト)にも書いています。工法を売りたいのではなく、建物ごとに一番安く安全に終わる組み合わせを選びたいというだけの話です。


12条点検を大規模修繕と一体化する3つのメリット

私はこれを、可能なかぎりワンセットで提案するようにしています。

メリット1:仮設費が一度で済む
全面打診と外壁改修を別々に発注すると、高所へのアクセス費用を二重に払うことになります。同じ年度で束ねられれば、その分を工事本体に回せます。

メリット2:長期修繕計画の根拠になる
全面打診の結果は、浮き・欠損の面積が数字で出ます。これは修繕積立金の見直しや長期修繕計画の改定を総会に諮るとき、感覚論ではない根拠になります。管理組合向けの進め方は管理組合さま向けサービスにまとめました。

メリット3:要是正指摘への対応が早い
定期調査報告で「要是正」の指摘が出た場合、江東区へ改善計画書・改善完了報告書を提出する流れになります(前掲・江東区特定建築物の定期調査報告)。修繕工事とセットで動いていれば、改善完了までのリードタイムが短くなります。賃貸ビル・一棟オーナーさまの場合はビルオーナーさま向けサービスもご覧ください。

なお、江東区が令和4年3月にまとめた「マンション実態調査報告書」によれば、区内の調査対象マンションは全体で4,242件(分譲1,517件、賃貸2,725件)とされています(出典:江東区マンション実態調査報告書(令和4年3月)/調査時点の数値)。これだけのストックが、10年周期の全面打診をどこかの年度で迎えるわけです。


よくある質問(FAQ)

Q1. 江東区で12条点検を出さないとどうなりますか?
A. 建築基準法第12条第1項・第3項に基づく報告義務であり、報告しないこと自体が法令違反にあたります。加えて、外壁が落下して通行人に被害が出た場合、所有者・管理者の管理責任が問われます。制度の目的は「災害を未然に防止すること」だと江東区も明記しています。

Q2. 築何年から全面打診が必要ですか?
A. 竣工または外壁改修からおおむね10年を経過した後の定期調査で、落下により歩行者等に危害を加えるおそれのある部分について全面的な打診等を行うこととされています(平成20年国土交通省告示第282号)。年数だけでなく、部分打診で異常が見つかった場合も対象になります。

Q3. 打診の代わりにドローンの赤外線調査でもよいのですか?
A. 令和4年1月18日付けの告示一部改正で、テストハンマーによる打診と同等以上の精度を有する無人航空機の赤外線調査が明確化されました。精度の判定は日本建築防災協会の外壁調査ガイドラインによります(出典:国土交通省)。条件が合わない面もあるため、打診との併用設計が現実的です。

Q4. 報告書は江東区役所に持っていけばよいですか?
A. 特定建築物定期調査報告書の提出先は、公益財団法人 東京都防災・建築まちづくりセンター(新宿区西新宿)です。改善報告書や所有者変更届などは江東区役所5階の建築調整課 建築紛争係が窓口になります。届出・報告は電子申請も可能です。

Q5. うちは豊洲のタワーマンションですが、区と都のどちらですか?
A. 敷地内に延べ面積10,000平方メートルを超える建築物がある場合は東京都の所管です。東京都都市整備局 市街地建築部 建築企画課(建築安全担当 03-5388-3344)へご確認ください。

Q6. 調査だけ頼むことはできますか?
A. できます。明誠でも、調査のみ・調査+部分補修・調査+大規模修繕の3つの入り方でお受けしています。工法の選定だけのご相談も歓迎です。


まとめ:江東区のオーナー・理事会が今週動くこと3点

長くなりましたので、今週できることだけに絞ります。

  1. 検査済証の交付日を確認する。管理会社か、竣工図書一式の中にあります。ここが分からないと、初回免除の計算も次回報告年度の逆算もできません。
  2. 自分の建物の用途コードを確定させる。事務所・複合用途・物販・飲食が入っている建物は、江東区の一覧表で令和8年5月1日〜10月31日の報告期間にあたります。共同住宅単独なら令和9年度です。
  3. 前回の全面打診がいつだったかを議事録で探す。10年を超えていれば、次回の調査で全面打診の話が出ます。そのとき、足場を組むのか、ロープで行くのか、一体化するのか——この判断は総会の半年前には始めておきたいところです。

10月31日までに動けるかどうかが、令和8年度分の分かれ目になります。理事会で1分だけでも、この話題を出してみてください。江東区の物件であれば、現地を見ずとも図面と竣工年から、おおよその段取りはお答えできます。ご相談だけでも遠慮なくお問合せフォームからお声がけください。総会の前段階の整理だけでも、お力になれることがあります。

ロープアクセス工法そのものについて、もう少し技術的に知りたい方はロープアクセスドットコムもあわせてご覧ください。


この記事のポイントまとめ

  • 江東区の12条点検は用途コード別に報告年度が決まる(共同住宅は3年ごと)
  • 令和8年度の報告期間は事務所・複合用途等が10月31日まで、共同住宅は令和9年度
  • 外壁の全面打診はおおむね10年に一度、告示第282号が根拠
  • 令和4年1月18日の告示改正でドローン赤外線調査が明確化された
  • 報告書の提出先は区役所ではなく東京都防災・建築まちづくりセンター
  • 敷地内に1万平方メートル超の建物があれば所管は東京都になる
  • 足場を組まず打診できるロープアクセスなら仮設費を一度で済ませられる

執筆者:本間 幸紘(株式会社明誠 代表取締役)
専門領域:マンション大規模修繕/ロープアクセス工法/建物長寿命化計画
実務経験:建設・改修業界 20年以上
所属:一般社団法人 全国建設業支援協会(JCSA)

株式会社明誠について:東京都東大和市を拠点に、東京・関東一円でロープアクセス工法と従来足場工法の両方、さらに両者を組み合わせたハイブリッド工法を提案できる改修会社。日本初のロープアクセス工事フランチャイズを展開しています。


出典・参考資料

本記事の情報の鮮度について:本記事は2026年9月16日時点で公表されている江東区および国土交通省・東京都の公式情報をもとに執筆しています。制度は年度途中でも改正・運用変更があり得ます。実際に調査・報告される前に、江東区役所 都市整備部 建築調整課(03-3647-9767)および該当窓口へ最新の内容をご確認ください。また、費用に関する記述は当社の見積実績に基づく目安であり、公的な単価ではありません。

関連リソース:ロープアクセス工法の技術情報・安全基準はロープアクセスドットコム(https://rope-access-method.com/)にまとめています。

江東区の管理組合・オーナーが無料で使える相談と派遣9選|10月3日のよろず相談会は9月18日17時締切、耐震化アドバイザーは8回まで無料

江東区の管理組合・オーナーが無料で使える相談と派遣9選|10月3日のよろず相談会は9月18日17時締切、耐震化アドバイザーは8回まで無料

2026年9月15日 更新

「うちは賃貸なので、区の相談窓口は関係ないと思っていました」

先月、東陽町の賃貸マンションのオーナーさまから、そう言われました。築31年、5階建て24戸。外壁の塗り替えをそろそろ考えたいが、どこに聞けばいいのか分からない、というご相談でした。

私は株式会社明誠の本間幸紘と申します。東京都東大和市を拠点に、20年近くマンションやビルの外壁の仕事をしてきました。足場を組む工事も、ロープ1本でぶら下がる無足場の工事も、両方の現場を経験してきた人間です。

このオーナーさまの思い込みは、江東区に限っては外れています。江東区の無料メニューは、分譲マンションの管理組合だけでなく、賃貸マンションの所有者も対象に含めているものが複数あるのです。マンションアドバイザー派遣事業も、10月3日に開かれるマンションよろず相談会も、対象に賃貸オーナーが明記されています。

そしてもうひとつ。そのよろず相談会の申込締切は、2026年9月18日(金曜日)17時です。この記事を公開している時点で、残り3日しかありません。

今日は、江東区のマンション管理組合と賃貸マンションオーナーさまが、お金をかけずに使える相談・派遣を9つ、令和8年度(2026年4月1日から2027年3月31日まで)の情報で整理します。


結論:江東区で無料で使える相談・派遣は9つある

先に一覧でお示しします。

# 制度・窓口 誰が対応するか 費用 申込先
1 マンションよろず相談会 マンション管理士・弁護士・一級建築士 無料(10月3日・1件1時間) 住宅課 03-3647-9473
2 分譲マンション無料相談会(区) マンション管理士 無料(毎月第2水曜・1件1時間) 住宅課 03-3647-9473
3 分譲マンション専門相談(東京都) 弁護士・一級建築士 無料(1回20分) 区の窓口経由で都へ
4 マンションアドバイザー派遣事業 管理/建替え・改修アドバイザー 派遣料無料 住宅課 03-3647-9473
5 耐震化アドバイザー派遣制度 区に登録した建築士 無料(同一建物8回まで) 安全都市づくり課 03-3647-9764
6 建築・測量登記無料相談 建築士・土地家屋調査士 無料(予約不要) 建築調整課 03-3647-9754
7 東京都 マンション管理士無料派遣 マンション管理士 無料(防災・認知症 各2回まで) 東京都マンション管理士会
8 分譲マンション総合相談窓口(東京都) 相談員 無料 03-6427-4900
9 消費者相談(江東区消費者センター) 消費生活相談員 無料(予約不要) 03-3647-9110

これに加えて、勉強会や交流会に講師を派遣する「マンション支援事業」、調査費の3分の1を助成する「マンション計画修繕調査支援事業」もあります。後者は費用助成なので9つの外に置きますが、後半で触れます。

ここからが本題です。


1. マンションよろず相談会:管理士・弁護士・建築士が同じ日に揃う

江東区の窓口をひととおり見てきた私の感覚で言うと、この相談会が一番お得です。理由は3つあります。

3職種が同じ日に揃う

区の公式ページには、次のように書かれています。

項目 内容
名称 マンションよろず相談会~集合住宅に関するさまざまなお悩みに対応~
相談員 マンション管理士、弁護士、一級建築士
日時 2026年10月3日(土曜日)9時30分~12時30分
場所 文化センター6階
対象 区内の分譲マンションにお住まいの方、区内賃貸マンションのオーナーの方
定員 申込順15件・1件1時間以内
費用 無料
募集期間 2026年9月4日(金曜日)8時30分~9月18日(金曜日)17時まで
申込 電話または窓口(住宅課 03-3647-9473)

(出典:江東区「分譲マンション相談会」/更新日 2026年8月31日)

普通、こういう相談会は職種が1つです。マンション管理士の相談会に行けば、規約や総会の話はできますが、「この外壁はあと何年もつのか」を聞いても専門外です。逆に建築士の相談会では、管理会社との契約の話は踏み込めません。

よろず相談会は、そこが違います。区が示している相談テーマは、維持管理、売買や契約、建築・設備・耐震、隣人トラブル、そして賃貸マンションの維持管理まで。1件1時間という枠も、他の窓口(20分〜30分が多い)と比べて長い。

賃貸マンションのオーナーも対象

冒頭の東陽町のオーナーさまに私がお伝えしたのは、この一点です。「区内賃貸マンションのオーナーの方」が対象に明記されている。区の無料窓口は分譲マンションの管理組合向けが中心ですが、この相談会は違います。

収益不動産として賃貸マンションを持っておられる方は、修繕のタイミングと資金計画を一人で抱え込みがちです。管理組合のように議論する相手がいませんから、判断がすべて自分に返ってくる。だからこそ、外部の専門家に1時間もらえる機会は貴重だと思います。

締切は9月18日17時

申込は9月18日(金曜日)17時まで。定員15件の申込順です。この記事をお読みになった時点で枠が残っているかは分かりませんが、電話1本の確認で済みます。住宅課 03-3647-9473。

もし今回間に合わなくても、次の2で触れる毎月の相談会があります。


2. 分譲マンション無料相談会:毎月第2水曜、1件1時間

区が原則として毎月1回開いている、マンション管理士による無料相談会です。

項目 内容
相談員 マンション管理士
対象 区内分譲マンションの管理組合役員、区分所有者等
日時 原則毎月第2水曜日の午後
定員 予約制・6件(1件1時間以内)
費用 無料
申込 電話または窓口(住宅課 03-3647-9473)

(出典:江東区「分譲マンション相談会」)

ここで気をつけていただきたいのが、募集期間の告知のされ方です。区のページには、原則として毎月21日号の区報に掲載し、25日頃から第1金曜日までを募集期間としている、と書かれています(GWや年末年始を挟む場合は11日号に掲載されることもあるとの注釈つき)。

つまり、申し込める期間は月の下旬から翌月第1金曜日までの10日ほどしかありません。「来月の理事会の前に相談したい」と思った時点で募集が終わっていた、ということが起こりやすい仕組みです。

私が理事長さまにお勧めしているのは、区報の21日号を毎月見る習慣をつけるか、住宅課に電話して「次回の募集はいつからですか」と先に聞いておくことです。定員6件という枠も、決して大きくありません。

相談時間は1件1時間。冒頭に述べたとおり、他区の相談会が30分のところが多いなかで、江東区は長いほうです。1時間あれば、議事録を広げて具体的な話ができます。


3. 分譲マンション専門相談(東京都):区の相談を受けた次の段階

区の相談会で「これは弁護士や建築士の領域だ」と判断された場合に進める、東京都の相談枠があります。

項目 内容
実施 東京都都市整備局
位置づけ 区における相談体制の補完
対象となる相談 特に弁護士、一級建築士に相談することが必要と考えられる相談
弁護士相談 月3回 13時〜15時(完全予約制)
建築士相談 月1回 13時〜15時(完全予約制)
相談時間 1回20分程度
申込 区の窓口を経由して都へ申込

(出典:江東区「分譲マンション相談会」)

区のページには、まず区の分譲マンション無料相談会に参加し、東京都での相談が適切と相談員が判断した場合に利用できる、と明記されています。いきなり都に申し込む窓口ではありません。

この順番は、意外と知られていません。「管理会社との契約でもめている」「施工不良の疑いがある」といった、法律や技術の専門性が要る話でも、入口は区の相談会です。2の毎月第2水曜の枠を押さえることが、都の専門相談への通り道になっています。

制度が階段になっている、ということです。私はこれを、理事長さまにホワイトボードに描いてお見せするようにしています。


4. マンションアドバイザー派遣事業:区が派遣料を負担する

ここからが、江東区の主力メニューです。

公益財団法人東京都防災・建築まちづくりセンターが実施する「マンション管理アドバイザー制度」と「マンション建替え・改修アドバイザー制度」のアドバイザーを、区が無料で派遣します。

項目 内容
派遣内容 マンション管理アドバイザー制度(講座編・相談編)/マンション建替え・改修アドバイザー制度(入門編・検討書の作成)
派遣対象 区内の分譲マンション管理組合(管理組合設立に向けて結成された区分所有者の任意の団体を含む)および区内にある賃貸マンションの所有者
費用 派遣料は無料(選択コースにより必要なテキスト代、キャンセル時の違約金等は申請者負担)
申請期限 派遣希望日の30日前まで
申請者名義 分譲は管理組合理事長名、賃貸は所有者名

(出典:江東区「マンションアドバイザー派遣事業」/更新日 2026年3月13日)

ここで押さえていただきたい点が3つあります。

① 管理組合がなくても申請できる

派遣対象に「管理組合設立に向けて結成された区分所有者の任意の団体を含む」とあります。理事会が機能していない、そもそも管理組合がない、という物件でも、設立に向けた任意の団体であれば申請できるということです。

江東区の内陸側、東陽・木場・南砂・大島のあたりには、20戸前後の中層マンションが数多くあります。「うちは組合がないから相談もできない」という思い込みは、ここで外れます。

② 賃貸マンションの所有者も対象

ここでも賃貸オーナーが対象です。江東区の無料メニューの設計思想が、区内のマンションストック全体の維持管理水準を上げることにある、と読めます。

③ 30日前という締切

派遣希望日の30日前まで。1で触れたよろず相談会が「3日後が締切」なのに対して、こちらは「1か月先の予定を今決める」制度です。

理事会の年間スケジュールを立てる段階で、アドバイザーを呼ぶ回を決めておく。これだけで使い勝手がまるで変わります。私が現場で見ていて一番もったいないと感じるのは、「使えたはずの無料枠を、締切を知らずに逃している」ケースです。

なお申請は電子申請にも対応しており、区の公式ページから「江東区マンション【管理】アドバイザー派遣申請」「江東区マンション【建替え・改修】アドバイザー派遣申請」のフォームに進めます。辞退届や完了報告書も電子申請が用意されています。窓口に行く時間が取りにくい理事長さまには、こちらが現実的だと思います。

管理計画認定を目指すならCコースの派遣料助成も

区は、管理計画認定の取得を促進するため、まちづくりセンターのマンション管理アドバイザーCコース(支援編)を利用して管理計画認定を取得した管理組合に、アドバイザー派遣料を助成しています。あわせて、認定を取得した管理組合には、マンション内に掲示できる区独自の管理計画認定証が進呈されます。

(出典:江東区「マンション管理計画認定制度」/更新日 2026年9月1日)

管理計画認定制度は、マンション管理適正化法に基づき、管理状況が一定水準にあることを自治体が認定する制度です。認定を受けると、住宅金融支援機構のフラット35やマンション共用部分リフォーム融資、マンションすまい・る債の優遇、マンション長寿命化促進税制の適用要件への該当といった効果が期待できます。

なお江東区の認定基準には区独自の基準が含まれており、認定基準の資料では該当箇所に下線が引かれています。申請を検討している管理組合は、まず区の住宅課住宅指導係に事前相談を行うよう、区が明記しています。ここは飛ばせません。


5. 耐震化アドバイザー派遣制度:同一建物で8回まで無料

住宅課ではなく、安全都市づくり課が所管している無料派遣です。私は、江東区のメニューのなかでこれが一番「回数が太い」と思っています。

項目 内容
派遣される専門家 区が委託した派遣機関(一般社団法人東京都建築士事務所協会江東支部)が選任し、区に登録した建築士
派遣対象者 派遣対象建築物を所有する個人・法人(中小企業に限る)、分譲マンションの管理組合(管理組合法人を含む)
対象建築物 昭和56年5月31日以前に建築(工事着工)された非木造の建築物ほか、区の助成要綱に定める建築物
回数の上限 同一の派遣対象建築物につき原則8回
費用 無料
令和8年度の申請受付期限 2026年12月28日(月曜日)
問合せ 都市整備部 安全都市づくり課 安全都市づくり係 03-3647-9764

(出典:江東区「耐震化アドバイザー派遣制度」/更新日 2026年4月1日)

助言の中身は「合意形成」まで含む

区が示しているアドバイザーの業務は、次の3つです。

  1. 耐震計画、構造及び設備等の建築技術的事項の助言
  2. 耐震診断・耐震設計及び耐震改修に関する事項等の助言
  3. 管理組合等の合意形成に関する事項等の助言

3つ目を太字にしました。技術の話だけでなく、総会で決議までもっていくプロセスの助言が業務に入っている。これは大きいと思います。耐震改修が進まない理由は、技術的に難しいからではなく、住民の合意が取れないからであることのほうが多いからです。

提出書類は4点(分譲マンションの場合)

  1. 耐震化アドバイザー派遣申請書(別記第1号様式)
  2. 建築確認通知書、検査済証の写し、または台帳記載事項証明書
  3. 委任状(申請者以外が代理で手続きする場合)
  4. マンション管理規約の写し

このうち2番の「建築確認通知書、検査済証」が、実務では一番のつまずきどころです。築40年を超える物件では、書類が管理会社の倉庫の奥にあるか、そもそも所在不明ということが起こります。台帳記載事項証明書で代替できますので、早めに確認しておかれるとよいと思います。

なお、令和6年11月1日から新様式になっていますので、申請書は区の公式ページから最新のものをダウンロードしてください。

耐震化の費用助成との併用ができる

区のページには「耐震化の費用助成制度との併用ができます」と明記されています。アドバイザーの助言を受けながら、診断や改修の助成を申請していく流れが想定されています。

受付期限は2026年12月28日。年内です。昭和56年5月31日以前に着工された建物をお持ちの管理組合・オーナーさまは、年度が変わるのを待たずに動かれるほうが確実です。


6. 建築・測量登記無料相談:予約不要で建築士に聞ける

ここまで紹介した窓口は、すべて予約制でした。予約なしで行けるのが、この相談です。

項目 内容
相談員 一般社団法人東京都建築士事務所協会江東支部会員、東京土地家屋調査士会江東支部会員
開催日時 原則毎月第2水曜日(8月と2月は第1水曜日)13時00分〜15時00分(受付は14時50分まで)
開催場所 原則として区役所庁舎2階ホール(エレベーター前)
相談内容 新築・増改築・耐震・空家・大雨浸水の改修等に関するプラン、資金、日照問題、登記、土地測量等
費用 無料
予約 不要

(出典:江東区「建築・測量登記無料相談」/更新日 2026年3月16日)

区のページには「設計図面や資料のある方はご持参ください」「事前予約等は必要ありませんので、お気軽にお越しください」と書かれています。

相談テーマに「大雨浸水の改修等」が入っているのが、江東区らしいところだと思います。区の東半分は海抜ゼロメートル地帯を含む低地です。豪雨時の地下ピットや機械式駐車場の浸水、受変電設備の位置といった相談は、この窓口が受け止めてくれます。

なお、2の分譲マンション無料相談会も原則第2水曜日の午後です。日程が重なる月であれば、午前に管理士、午後に建築士、と1日でまとめてしまう使い方も考えられます。開催日は年度によって変わりますので、事前に区の案内チラシでご確認ください。


7. 東京都のマンション管理士無料派遣:防災・認知症の2テーマ

区の制度とは別枠で、東京都が実施している無料派遣があります。防災力向上と認知症対応の研修を受けたマンション管理士が派遣される事業です。

項目 内容
対象 都内に所在するマンション管理組合
回数 防災力向上・認知症対応 各2回まで(無料)
回数の通算 令和5〜7年度に本事業の派遣を受けている場合、その回数も上限に含まれる
令和8年度の受付期間 2026年6月23日(火曜日)〜2027年2月26日(金曜日)
募集数 防災力向上・認知症対応あわせて160件(達したときは新規申込を締切)
申込 東京都マンション管理士会のホームページから

(出典:東京都マンションポータルサイト「分譲マンション向けマンション管理士無料派遣(防災力向上・認知症対応)」)

アドバイスの例として都が挙げているのは、自主防災組織の設置や強化の方法、災害時にも活用できる居住者等名簿の作成、発災時の緊急対応を定める管理規約の整備方法、カード式防災マニュアル等の効果的な手法(防災力向上)、認知症の可能性のある居住者への理解や対応方法、地域包括支援センター等との連携方法、バリアフリー改修を含む長期修繕計画の策定(認知症対応)などです。

江東区は、荒川と隅田川に挟まれた低地と、湾岸の埋立地からなる区です。水害対策は避けて通れないテーマですし、豊洲・東雲・辰巳の大規模マンションでは、初期入居層の高齢化が同時に進みます。防災と高齢化は、江東区の管理組合にとって同じ時期に来る課題です。

注意点は2つ。過去の派遣回数が通算でカウントされることと、160件という募集上限があることです。令和5年度から続いている事業ですので、すでに使っている管理組合は残り回数を確認してから動かれるとよいと思います。

区のアドバイザー派遣(4)と都の無料派遣(7)は別枠です。両方を組み合わせれば、年間で確保できる専門家の時間はかなりのものになります。


8. 分譲マンション総合相談窓口:管理状況届出の相談はここ

東京都には「東京におけるマンションの適正な管理の促進に関する条例」があり、これに基づく管理状況届出制度が令和2年4月から始まっています。

項目 内容
届出が必要なマンション 昭和58(1983)年12月31日以前に新築された分譲マンションのうち、居住の用に供する独立部分が6戸以上のもの
任意の届出 これ以外の分譲マンションも任意で届出可能
更新 前回の届出から5年以内ごとに更新の届出が必要
届出方法 管理状況届出システムへの入力、または区への届出書の提出
届出先(郵送・持参) 江東区都市整備部住宅課住宅指導係(区役所5階1番窓口)
届出制度の相談 分譲マンション総合相談窓口(公益財団法人東京都防災・建築まちづくりセンター)03-6427-4900
条例に関する問合せ 東京都住宅政策本部マンション課 03-5320-5004

(出典:江東区「「東京におけるマンションの適正な管理の促進に関する条例」に基づく管理状況届出制度」/更新日 2026年3月2日)

区のページには、届出がない場合(更新を含む)、条例に基づき調査または指導勧告を行う場合があると書かれています。これは「使える制度」というより「果たすべき義務」ですが、無料の相談窓口が用意されているという意味で、9つのなかに入れました。

そして私が申し上げたいのは、ここが更新漏れの起きやすい制度だということです。5年以内ごとの更新。理事が1年や2年で交代する管理組合では、5年前に誰が何を届け出たかの記憶が組織から消えています。届出書の控えがファイルに残っていなければ、まず総合相談窓口(03-6427-4900)に電話して、自分のマンションの届出状況を確認するところからです。


9. 消費者相談:管理会社・工事業者とのトラブル窓口

管理組合の相談は住宅課、区分所有者個人の消費者トラブルは消費者センター。窓口が分かれます。

項目 内容
名称 江東区消費者センター 消費者相談
相談専用ダイヤル 03-3647-9110
相談時間 9時30分〜16時30分
休業日 日曜日・祝日、第2・第4月曜日(祝日と重なる場合は火曜日も休み)、土曜日不定休、年末年始
対象 江東区在住・在勤・在学の方
相談方法 電話または来所(予約不要)
費用 無料(通話料は自己負担)

(出典:江東区「消費者相談」/更新日 2026年3月31日)

時間外や休館日で急ぐ場合は、東京都消費生活総合センター(03-3235-1155、祝日・年末年始を除く月曜〜土曜の9時〜17時)が案内されています。

私がこの窓口を記事に入れているのには、理由があります。大規模修繕の時期が近づくと、区分所有者のご自宅に「お宅の外壁、危ないですよ」と訪問してくる業者が増えるからです。

足場も組まずに外から見ただけで「危ない」と断定できる範囲は、実はそれほど広くありません。屋上の防水層も、タイルの浮きも、外から見えない部分に本当の劣化が出ます。訪問を受けて不安になった区分所有者の方が、理事会を通さずに個別に契約してしまう。そういう事例を、私は何度か見てきました。

区のページには、相談は原則ご本人からとしたうえで、判断力が低下していたり病気などで電話が難しい場合は、介護や見守りをしている方からの相談も受け付ける、と書かれています。高齢の区分所有者が多いマンションでは、この一文を掲示板に貼っておく価値があると思います。


番外:無料ではないが効く支援

無料ではないので9つの外に置きますが、江東区には費用助成と活動支援のメニューもあります。

マンション計画修繕調査支援事業

大規模修繕の前に行う建物調査の費用を助成する制度です。

項目 内容
対象住宅 区内の建築後7年以上経過した耐火建築物の民間マンション
助成対象 防水、外壁・内壁・天井・床などの壁面、鉄製品(設備を含む)、給水管及び排水管に関する調査費
助成金額 調査費用の3分の1(千円未満切捨て)。ただし戸数規模ごとの助成限度額まで
助成限度額 60戸以下 219,000円/61〜90戸 282,000円/91〜120戸 287,000円/121〜200戸 388,000円/201〜300戸 520,000円/301〜400戸 624,000円/401〜500戸 709,000円/501戸以上 793,000円
申込資格 10年以内に調査費の助成を受けていないこと、調査を実施する1か月前までに申請すること 等

(出典:江東区「マンション計画修繕調査支援事業」)

分譲マンション管理組合の場合は、管理組合が適正に運営されていると認められること、調査の実施について管理組合で決議されていることが条件です。賃貸マンション所有者の場合は、管理が適正に行われていると認められること、住民税または法人税を滞納していないことが条件になります。

注意点:このページの更新日は2023年4月7日です。助成率・限度額・申込資格は年度ごとに変わり得ますので、令和8年度の内容は必ず住宅課(03-3647-9473)にご確認ください。この記事の数字は、あくまで公表されている内容の引き写しです。

もうひとつ実務的な注意を。調査を実施する1か月前までに申請という条件があります。「業者に調査してもらってから助成を申請しよう」という順番では、対象外になります。順番が逆です。4のアドバイザー派遣(30日前まで)と同じで、江東区の制度は「先に区へ、あとから実行」が基本形だとお考えください。

マンション支援事業

管理組合や専門家の情報交換・ネットワーク化を促進するための活動を支援する事業です。

項目 内容
支援対象 区内のマンション居住者等の自発的参加の機会が保障されている、集合住宅問題・管理組合運営等に関するセミナー、講演会・勉強会・交流会など
支援基準 おおむね5つ以上の管理組合等または非営利団体が開催、30名以上の参加見込み、営利活動を目的としないもの 等
支援の内容 講師の派遣、事務用品等の提供(資料用紙、筆記用具、郵送料等)

(出典:江東区「マンション支援事業」/更新日 2026年2月27日)

これは、1つの管理組合では使えません。近隣の管理組合と組んで勉強会を開く形になります。同じ築年数・同じ工法のマンションが並んでいる地域では、有効な使い方だと思います。

区のセミナー

区は、初めて理事に就任した方向けの「江東区マンション管理基礎セミナー」を例年6月頃に、「マンションセミナー」を例年1月に開催しています。令和8年度の基礎セミナーは2026年6月27日に開催済みで、区のページには来年度も6月頃の開催を予定している旨が記載されています(出典:江東区「江東区マンション管理基礎セミナー」/更新日 2026年6月30日)。

このほか、区の公式サイトには「江東区マンションセミナー(令和8年1月24日)」「江東区マンション再生セミナー(令和8年2月28日)」の案内ページが用意されています。冬に向けて、詳細が順次公開されていくことになります。


何を用意していけばいいか:3点セット+1

無料の窓口へ手ぶらで行くと、一般論しか返ってきません。私が理事長さまに毎回お伝えしているのは、次の3点を持参することです。

3点セット

# 書類 なぜ要るか
1 総会議事録(直近2〜3年分) 何が決議済みで何が未決議かが分かる。相談員は最初にここを見る
2 長期修繕計画書 次の大規模修繕の時期と想定費用の前提が分かる
3 管理規約(+使用細則) 工事の決議要件、専有と共用の区分、理事会の権限が書かれている

賃貸マンションのオーナーさまの場合は、3の代わりに直近の修繕履歴(いつ、どこを、いくらで直したか)をまとめたメモをお持ちください。

+1:修繕積立金の残高と滞納額

修繕積立金の現在残高と滞納額を数字で言えるようにしておいてください。この2つがあるかないかで、相談の解像度がまるで変わります。

「積立金は足りていますか」と聞かれて「たぶん足りないと思います」と答える理事長さまを、私は何度も見てきました。残高が分からないと、工法の選択肢も絞れません。

写真があればもっといい

外壁のひび割れ、タイルの浮き、鉄部のさび、屋上の防水層の膨れ。スマートフォンで撮った写真で構いません。建築の話をするとき、写真1枚が説明の10分を短縮します。撮影日を記録しておくと、劣化の進み方を後から追えます。

5の耐震化アドバイザーを使う場合は、もう1点

建築確認通知書、検査済証の写し、または台帳記載事項証明書。これは相談の場で出てくる書類ではなく、申請の必須書類です。所在を確認しておかれると、いざ申請という段階で止まりません。


江東区の物件で、私が工法の話を急がない理由

ここで少しだけ工法の話に触れます。

江東区は、性格の違う2つのマンションストックが同居している区です。

ひとつは、湾岸の高層・超高層マンション。豊洲、有明、東雲、辰巳、枝川のあたりです。ここでは、そもそも足場を組むという前提が成り立ちにくい。高さが出るほど仮設足場の費用と工期は跳ね上がりますし、海に近い立地は風の条件も厳しい。塩分を含んだ風にさらされる面と、そうでない面とで、劣化の進み方も変わります。

もうひとつは、内陸の中低層マンション。東陽、木場、南砂、大島、亀戸寄りの一帯です。こちらは隣地との距離が取れない物件が多く、道路も狭い。大型車両の搬入経路が限られる立地で足場を組む前提だけで予算を組むと、見積金額が想定を大きく超えることがあります。仮設足場の費用が工事全体の2割から3割を占めることも珍しくありません。

性格は違いますが、どちらも「足場一択では最適解になりにくい」という点では共通しています。

そこで選択肢に入るのが、ロープアクセス工法(無足場工法)です。産業用ロープで作業員が壁面に取り付き、足場を組まずに塗装や補修を行う工法です。私は「ロープアクセスならいつでも安い」とは申し上げません。全面的にタイルを貼り替えるような工事では、足場のほうが向く場面もあります。私が提案しているのは、部位ごとに足場と無足場を使い分けるハイブリッド工法という選び方です。この考え方は明誠の考え方にまとめています。

無足場工法の技術的な中身、適した建物の条件、安全管理の考え方は、ロープアクセス工法の専門サイト(rope-access-method.com)に整理しています。区の相談会やアドバイザー派遣に行かれる前にこちらのサイトに目を通しておかれると、相談員から引き出せる話の質が上がります。「足場とロープアクセスの使い分けは、うちの建物だとどう考えますか」という質問ができるようになるからです。

ただ、この判断は劣化の実態が分かってからの話です。だから私は、区や都の無料派遣で劣化と工法の考え方を先に聞いていただくことをお勧めしています。工法を決めてから調査する順番では、選択肢が残りません。

管理組合向けのサービス全体像は管理組合さま向けサービスのご案内にまとめてあります。


まとめ:今週動くこと3点

長くなりました。江東区の管理組合の理事長さま、賃貸マンションのオーナーさまが、今週できることを3点に絞ります。

① 9月18日(金)17時までに、10月3日のよろず相談会に申し込む

マンション管理士・弁護士・一級建築士が同じ日に揃い、1件1時間。分譲の区分所有者も賃貸のオーナーも対象です。定員15件の申込順ですので、まず住宅課(03-3647-9473)に電話して枠の有無を確認してください。締切は9月18日(金曜日)17時です。

② 住宅課(03-3647-9473)に、管理状況届出の状況を確認する

昭和58年12月31日以前に新築された6戸以上の分譲マンションは、条例に基づく管理状況の届出が義務です。しかも5年以内ごとに更新が必要です。前回いつ届け出たかが分からなければ、分譲マンション総合相談窓口(03-6427-4900)でも確認できます。あわせて、毎月第2水曜の無料相談会の次回募集期間も聞いておくと、10月以降の動きが決まります。

③ 3点セットを1冊のファイルにまとめる

総会議事録(直近2〜3年分)、長期修繕計画書、管理規約。この3つをファイル1冊にまとめておく。理事が交代しても引き継げます。修繕積立金の残高と滞納額をメモに書き添えておくと、相談の質が変わります。

昭和56年5月31日以前に着工された建物をお持ちなら、耐震化アドバイザー派遣(同一建物8回まで無料、令和8年度の受付期限は2026年12月28日)もあわせてご検討ください。建築確認通知書か検査済証、なければ台帳記載事項証明書の所在確認から始まります。


無料の窓口は、使わなければゼロですが、使えば専門家の時間そのものです。江東区は、よろず相談会が年に数回、毎月の無料相談会が年12回、アドバイザー派遣が派遣料無料、耐震化アドバイザーが8回まで、都の管理士派遣が各2回。これを使い切っている管理組合と、1回も使っていない管理組合の差は、5年後の修繕積立金残高に出ます。

冒頭の東陽町のオーナーさまは、あのあとマンションアドバイザー派遣の申請を出されました。外壁の調査をどこまでやるかの相談は、そこから動き始めています。

大規模修繕の工法や見積書の読み方について、総会前の段階の整理だけでもお力になれることがあります。お問合せフォームからご相談だけでも遠慮なくお声がけください。どの制度をどの順番で使うかの整理からご一緒できます。


出典・参考資料


本記事の情報の鮮度について:本記事は2026年9月15日時点で公表されている江東区および国土交通省・東京都の公式情報をもとに執筆しています。マンション計画修繕調査支援事業のページは更新日が2023年4月で、助成率・限度額・申込資格が現在も同一であることの確認は取れていません。制度は年度途中でも改正・予算終了があり得ます。実際に申請される前に、必ず江東区および該当窓口へ最新の内容をご確認ください。


株式会社明誠|東京都東大和市
大規模修繕・足場工法・ロープアクセス工法(無足場工法)・ハイブリッド工法
ロープアクセス工法の専門情報:https://rope-access-method.com/

墨田区の管理組合が無料で使える相談・派遣8選|管理ドクターは年4回×2時間、要支援認定なら年8回まで

墨田区の管理組合が無料で使える相談・派遣8選|管理ドクターは年4回×2時間、要支援認定なら年8回まで

2026年9月15日 更新

「区役所の1階でやっていた相談会、行こうと思ったらなくなっていたんですよ」

今年の夏、錦糸町のマンションの理事長さまから、そう言われました。築38年、48戸。長期修繕計画は分譲時のまま一度も見直されていない、という物件です。

私は株式会社明誠の本間幸紘と申します。東京都東大和市を拠点に、20年近くマンションやビルの外壁の仕事をしてきました。足場を組む工事も、ロープ1本でぶら下がる無足場の工事も、両方の現場を経験してきた人間です。

その相談会は、なくなっていませんでした。庁舎の改修工事に伴って、令和8年4月から会場が東京都マンション管理士会墨田支部(石原二丁目)に移り、予約制になっただけです。毎月第2土曜日の午後、区内の分譲マンションの区分所有者であれば無料で相談できる。中身は変わっていません。

情報が更新されたことを知らないまま「もう使えない」と思い込んでいる。これが、私が現場で一番もったいないと感じる瞬間です。

墨田区は、私の見る限り、23区のなかでも管理組合向けの無料メニューが厚い区です。特に「マンション管理ドクター派遣制度」は、マンション管理士を年4回、1回2時間まで無料で理事会に呼べる。さらに健康診断で「要支援」と判定されれば、2年間で16回まで使える集中治療支援に切り替わります。

今日は、墨田区のマンション管理組合とオーナーさまが、お金をかけずに使える相談・派遣・診断を8つ、令和8年度(2026年4月1日から2027年3月31日まで)の情報で整理します。


結論:墨田区で無料で使える相談・派遣は8つある

先に一覧でお示しします。

# 制度・窓口 誰が対応するか 費用 申込先
1 分譲マンション管理ドクター派遣制度 マンション管理士 無料(年4回・1回2時間以内) 住宅課計画担当 03-5608-6215
2 管理ドクター集中治療支援 マンション管理士 無料(2年で16回・年8回以内) 住宅課計画担当 03-5608-6215
3 分譲マンションの健康診断制度 マンション管理士 診断書・改善工程表の交付 住宅課計画担当 03-5608-6215
4 マンション管理無料相談会 東京都マンション管理士会墨田支部 無料(毎月第2土曜・30分) 03-5608-6215/専用フォーム
5 すみだ消費者センター 消費生活相談員 無料(電話・来所) 03-5608-1773
6 東京都 マンション管理士無料派遣 マンション管理士 無料(防災・認知症 各2回まで) 東京都マンション管理士会
7 (公財)マンション管理センター 電話相談 マンション管理士等 無料(15分程度) 03-3222-1517 ほか
8 大規模修繕相談室・住まいるダイヤル 建築士等 無料 各団体の窓口

これに加えて、都のアドバイザー派遣料を区が肩代わりする「分譲マンションアドバイザー制度利用助成」や、劣化診断費用の一部を助成する「分譲マンション計画修繕調査支援制度」もあります。こちらは費用助成なので8つの外に置きますが、後半で触れます。

ここからが本題です。


1. 分譲マンション管理ドクター派遣制度:墨田区の主力

墨田区の支援メニューのなかで、私が「まず理事会で使ってください」とお勧めしているのがこれです。

内容と回数

区の公式ページには、次のように書かれています。

項目 内容
派遣される専門家 マンション管理士(国家資格)
対象 区内の分譲マンション管理組合(組合が未組織なら区分所有者3名以上の合意でも可)
支援方法 助言・アドバイス
派遣回数 同一年度内4回まで
派遣時間 1回あたり2時間以内
費用 無料

(出典:墨田区「墨田区分譲マンション管理ドクター派遣制度」)

ここで注目していただきたいのは、管理組合が組織されていなくても、区分所有者3名以上の合意があれば使えるという点です。墨田区には、20戸前後の小規模マンションで、そもそも理事会が機能していない物件が少なくありません。「組合がないから相談できない」という思い込みは、ここで外れます。

相談できる内容

区が示している支援内容は、次のとおりです。

  • 管理組合の設立、運営、管理規約に関すること
  • 管理費、修繕積立金等に関すること
  • 管理委託契約等に関すること
  • 修繕計画・修繕積立金等の見直しに関すること
  • 会計処理体制の整備に関すること
  • 大規模修繕の実施に関すること
  • 建替え・改修に関すること
  • 管理計画認定に関すること
  • その他マンションの維持管理に関すること

太字にした2つが、私の仕事と直接つながる部分です。大規模修繕の進め方も、管理計画認定(マンション管理適正化法に基づく、管理状況が一定水準にあることを自治体が認定する制度)の準備も、この無料枠で相談できます。

申請の流れ

  1. 区に事前相談(どちらのメニューが使えるかを確認)
  2. 集会等で利用の決議(組合が未組織の場合は不要)
  3. 希望日の2週間前までに申請書を提出
  4. 区から派遣決定通知、その後マンション管理士から日程調整の連絡
  5. 派遣の実施
  6. 2週間以内に派遣内容確認書を提出

私がここで強調したいのは、2週間前までという締切です。「来週の理事会に呼びたい」では間に合いません。理事会の年間スケジュールを立てる段階で、派遣を使う回を決めておく。これだけで年4回の枠が生きます。


2. 管理ドクター集中治療支援:年8回、2年で16回

同じドクター派遣制度のなかに、もう一段深いメニューがあります。

項目 内容
対象 健康診断制度の診断で要支援マンションと認定された管理組合
派遣回数 2年間で16回まで(同一年度内8回まで)
派遣時間 1回あたり2時間以内
費用 無料

支援方法も、単なる助言にとどまりません。

  • 改善計画書の作成
  • 意見の整理及び助言
  • 議事録及び対応策の資料作成
  • 関係資料の収集及び提供
  • 総会及び理事会の開催支援

(出典:墨田区「墨田区分譲マンション管理ドクター派遣制度」)

議事録の作成や総会の開催支援まで無料で入ってもらえる制度を、私は他区であまり見たことがありません。理事のなり手がいない、議事録を書ける人がいない、総会が成立しない。この三重苦にはまっている管理組合にとって、年8回の伴走は現実的な突破口になります。

ただし入口は「要支援マンションと認定されること」です。その入口が次の健康診断制度です。


3. 分譲マンションの健康診断制度:診断書と改善工程表がもらえる

マンション管理士を派遣して、管理状況そのものを診断してもらう制度です。

診断後に受け取れるのは、次の2点です。

  • 診断書……(1)現在の管理状況、(2)課題を放置した場合のリスク、(3)改善策をまとめたもの
  • 改善工程表……課題解決までの道筋を示したもの

(出典:墨田区「墨田区分譲マンションの健康診断制度」)

対象は区内の分譲マンションの管理組合で、管理組合が組織されていない場合は区分所有者1名以上でも申請できます。ドクター派遣(3名以上)よりさらに入口が広い。

資格要件は4つ

  1. 「墨田区分譲マンションの適正管理に関する条例」に基づく管理状況の届出を行っていること
  2. 次のいずれかに該当すること
  3. 管理組合が組織されていない
  4. 管理者等が設置されていない
  5. 管理規約がない、または分譲時から改正されていない
  6. 年1回以上の総会開催および総会議事録がない
  7. 管理費が適正に設定されていない
  8. 修繕積立金が適正に積み立てられていない
  9. 長期修繕計画が作成されていない、または作成しているが見直されたことがない
  10. 計画的な修繕が実施されていない
  11. その他マンションの管理運営に課題がある
  12. 過去3年以内に本制度による診断を受けていないこと
  13. 他の区分所有者と診断結果を共有すること

太字にした3つは、私が現場で見る築30年超の物件のかなりの割合が当てはまる項目です。冒頭にご紹介した錦糸町の理事長さまのマンションも、「長期修繕計画が分譲時から見直されていない」で要件を満たしていました。

最初の関門は「管理状況の届出」

要件1にあるとおり、条例に基づく管理状況の届出を済ませていることが前提です。墨田区は「墨田区分譲マンションの適正管理に関する条例」を持っており、管理状況の届出はこの条例に基づく仕組みです。届出がまだであれば、そこから始まります。

順番はこうです。届出 → 健康診断 → 要支援認定 → 集中治療支援(年8回)。届出という入口を通っていない管理組合は、その先のメニューにたどり着けません。逆に言えば、届出さえ済ませておけば、無料枠が一気に開きます。

私はこの順番を、理事長さまにホワイトボードに書いてお見せするようにしています。制度は点で存在しているように見えて、実は階段になっています。


4. マンション管理無料相談会:毎月第2土曜、次回は10月10日

ここが冒頭の理事長さまの話につながります。

これまで毎月第2土曜日の午後、区役所1階で開かれていたマンション管理無料相談会は、庁舎改修工事に伴い、令和8年4月以降は会場を変更し、予約制で実施されています。

項目 内容
主催 (一社)東京都マンション管理士会 墨田支部
日時 毎月第2土曜日 13:00〜16:00(お一人30分まで)
会場 東京都マンション管理士会 墨田支部(墨田区石原二丁目26番7号)
対象 区内分譲マンションの区分所有者等
費用 無料
申込 電話(03-5608-6215)または専用フォーム、開催日の前日正午まで
当日の問合せ 墨田支部 03-6413-8727

2026年の残りの開催日は、10月10日、11月14日、12月12日。2027年は1月9日、2月13日、3月13日です。

(出典:墨田区「【令和8年4月から会場変更】分譲マンションの管理に関する無料相談会を開催します」/更新日 2026年3月13日)

区が挙げている相談事例は次の4つです。

  • 管理組合の運営に関する相談
  • 管理会社の選定に関する相談
  • 大規模修繕工事の検討や準備の相談
  • 管理規約の改定に関する相談

土曜の午後という時間帯は、平日に動けない理事の方でも参加しやすい枠です。1人30分と短いので、聞きたいことを事前に3つに絞っておかれると濃い時間になります。


5. すみだ消費者センター:管理会社・工事業者とのトラブル窓口

管理組合の相談は住宅課、区分所有者個人の消費者トラブルは消費者センター。窓口が分かれます。

項目 内容
名称 すみだ消費者センター(消費者相談室)
電話 03-5608-1773
受付 月曜〜土曜 9:00〜16:30(祝日・年末年始を除く/土曜は電話のみ)
対象 墨田区に在住・在勤・在学の方
費用 無料

(出典:墨田区「消費生活相談窓口のご案内(すみだ消費者センター)」)

私がこの窓口を記事に入れているのには、理由があります。大規模修繕の時期が近づくと、区分所有者のご自宅に「お宅の外壁、危ないですよ」と訪問してくる業者が増えるからです。

足場も組まずに外から見ただけで「危ない」と断定できる範囲は、実はそれほど広くありません。屋上の防水層も、タイルの浮きも、外から見えない部分に本当の劣化が出ます。訪問を受けて不安になった区分所有者の方が、理事会を通さずに個別に契約してしまう。そういう事例を、私は何度か見てきました。

土曜も電話相談を受けている窓口があることは、掲示板に貼っておく価値があると思います。


6. 東京都のマンション管理士無料派遣:防災・認知症の2テーマ

区の制度とは別枠で、東京都が実施している無料派遣があります。防災力向上と認知症対応の研修を受けたマンション管理士が派遣される事業です。

項目 内容
対象 東京都内の分譲マンションの管理組合
回数 防災力向上・認知症対応 各2回まで
費用 無料
令和8年度の受付期間 2026年6月23日(火)〜2027年2月26日(金)
件数 防災・認知症あわせて160件(上限)

(出典:東京都マンションポータルサイト「分譲マンション向けマンション管理士無料派遣(防災力向上・認知症対応)」、東京都「マンション管理士無料派遣事業の受付を開始」)

墨田区は、荒川と隅田川に挟まれた低地が広がる区です。水害対策と高齢化対応は、どちらも管理組合が避けて通れないテーマになっています。区のドクター派遣(年4回)と都の無料派遣(各2回)は別枠なので、併用すれば年間で最大8回、専門家の時間を無料で確保できる計算になります。

ただし160件という上限があります。年度後半に申し込もうとして枠が埋まっていた、という話は他区でも聞きます。使う予定があるなら、早めに動かれるほうが確実です。


7. (公財)マンション管理センター:国指定の相談窓口

国土交通大臣の指定を受けた「マンション管理適正化推進センター」です。墨田区も公式サイトの相談窓口ページで紹介しています。

相談内容 電話
管理組合運営、管理規約等 03-3222-1517
建物・設備の維持管理 03-3222-1519

受付は月曜から金曜(祝日・年末年始を除く)の9時30分から17時。1件あたり15分前後のアドバイスとされています(出典:(公財)マンション管理センター「相談窓口について」)。

公平・中立の立場が原則です。特定の業者を紹介したり、個別の見積金額の妥当性を判定したりする窓口ではありません。標準管理規約や法令に照らして一般的な考え方を確認する場、とご理解いただくのがよいと思います。


8. 大規模修繕相談室・住まいるダイヤル:建築士に直接聞ける窓口

墨田区が公式に案内している、区外の無料窓口が2つあります。

窓口 内容
大規模修繕相談室(東京都建築士事務所協会) 建築士に大規模修繕に関する相談ができる
住まいるダイヤル(住宅リフォーム・紛争処理支援センター) 国土交通大臣指定。マンションの修繕・建替え等の相談に対応

(出典:墨田区「分譲マンションの相談窓口」)

マンション管理士に聞くべきことと、建築士に聞くべきことは違います。規約・総会・管理会社の話は管理士、劣化診断・工事仕様・見積の考え方は建築士。私はこの使い分けを理事長さまにお伝えしています。


番外:無料ではないが効く費用助成

無料ではないので8つの外に置きますが、墨田区には費用助成のメニューもあります。

助成 主な内容 出典
分譲マンションアドバイザー制度利用助成 都の「マンション管理アドバイザー」「マンション建替え・改修アドバイザー」の派遣料を、管理アドバイザーA・Bコースと建替え・改修Aコースは全額、建替え・改修Bコースは2/3助成 墨田区「分譲マンションアドバイザー制度利用助成」
分譲マンション計画修繕調査支援制度 大規模修繕の前に行う建物調査(劣化診断等)の費用を助成 墨田区「分譲マンション計画修繕調査支援制度」

アドバイザー制度利用助成は、対象が「条例に規定する管理状況の届出書を提出している管理組合」で、ここでも届出が前提になります。回数は同一管理組合で一年度あたり、管理アドバイザーA・Bコースは各コース1回ずつ。手続きは年度単位で、申請と同じ年度内(2月末まで)に派遣を完了して完了報告を出す必要があります。

順番にもご注意ください。防災・建築まちづくりセンターに派遣を申し込む前に、区へ助成申請書を出すのが正しい流れです。先に派遣を申し込んでしまうと、助成の対象外になる可能性があります。

助成制度についての問合せは区の住宅課計画担当(03-5608-6215)、アドバイザー派遣そのものの申込は(公財)東京都防災・建築まちづくりセンター まちづくり推進課(03-5989-1453)と、窓口が分かれています。

なお、これらの助成ページの更新日は2025年3月です。令和8年度の助成率・上限額・予算残額は年度ごとに変わり得ますので、動かれる前に区の窓口で最新の内容をご確認ください。


何を用意していけばいいか:3点セット+1

無料の窓口へ手ぶらで行くと、一般論しか返ってきません。私が理事長さまに毎回お伝えしているのは、次の3点を持参することです。

3点セット

# 書類 なぜ要るか
1 総会議事録(直近2〜3年分) 何が決議済みで何が未決議かが分かる。相談員は最初にここを見る
2 長期修繕計画書 次の大規模修繕の時期と想定費用の前提が分かる
3 管理規約(+使用細則) 工事の決議要件、専有と共用の区分、理事会の権限が書かれている

+1:修繕積立金の残高と滞納額

修繕積立金の現在残高と滞納額を数字で言えるようにしておいてください。この2つがあるかないかで、相談の解像度がまるで変わります。

「積立金は足りていますか」と聞かれて「たぶん足りないと思います」と答える理事長さまを、私は何度も見てきました。残高が分からないと、工法の選択肢も絞れません。

写真があればもっといい

外壁のひび割れ、タイルの浮き、鉄部のさび、屋上の防水層の膨れ。スマートフォンで撮った写真で構いません。建築の話をするとき、写真1枚が説明の10分を短縮します。撮影日を記録しておくと、劣化の進み方を後から追えます。


墨田区の物件で、私が工法の話を急がない理由

ここで少しだけ工法の話に触れます。

墨田区は、隅田川と荒川に挟まれた低地に、中低層の住宅と中小の工場・店舗が密に混ざって建っている区です。両国、錦糸町、菊川、八広、押上のあたりには、隣地との距離が数十センチしか取れない物件が数多くあります。道路も狭く、大型車両の搬入経路が限られる。こうした条件で足場を組む前提だけで予算を組むと、見積金額が想定を大きく超えることがあります。仮設足場の費用が工事全体の2割から3割を占めることも珍しくありません。

そこで選択肢に入るのが、ロープアクセス工法(無足場工法)です。産業用ロープで作業員が壁面に取り付き、足場を組まずに塗装や補修を行う工法です。私は「ロープアクセスならいつでも安い」とは申し上げません。全面的にタイルを貼り替えるような工事では、足場のほうが向く場面もあります。私が提案しているのは、部位ごとに足場と無足場を使い分けるハイブリッド工法という選び方です。この考え方は明誠の考え方にまとめています。

無足場工法の技術的な中身、適した建物の条件、安全管理の考え方は、ロープアクセス工法の専門サイト(rope-access-method.com)に整理しています。区の相談会や派遣に行かれる前にこちらのサイトに目を通しておかれると、相談員から引き出せる話の質が上がります。

ただ、この判断は劣化の実態が分かってからの話です。だから私は、区や都の無料派遣で劣化と工法の考え方を先に聞いていただくことをお勧めしています。工法を決めてから調査する順番では、選択肢が残りません。

管理組合向けのサービス全体像は管理組合さま向けサービスのご案内にまとめてあります。


まとめ:今週動くこと3点

長くなりました。墨田区の管理組合の理事長さまが、今週できることを3点に絞ります。

① 住宅課計画担当(03-5608-6215)に電話して、管理状況の届出の有無を確認する

墨田区の無料メニューは、条例に基づく管理状況の届出が入口になっているものが複数あります。届出が済んでいるかどうかが分からなければ、まずここを確認する。届出がまだなら、そこから始まります。あわせて、今年度のドクター派遣の残り回数も聞いておくと、年度末までの使い方が見えます。

② 3点セットを1冊のファイルにまとめる

総会議事録(直近2〜3年分)、長期修繕計画書、管理規約。この3つをファイル1冊にまとめておく。理事が交代しても引き継げます。修繕積立金の残高と滞納額をメモに書き添えておくと、相談の質が変わります。

③ 10月10日(土)の無料相談会を、10月9日(金)正午までに予約する

次回の無料相談会は10月10日(土)13時から16時、会場は東京都マンション管理士会墨田支部(石原二丁目26番7号)です。申込は前日正午まで、電話(03-5608-6215/平日のみ)か専用フォームから。1人30分ですから、聞きたいことを3つに絞って持っていかれるとよいと思います。

東京都のマンション管理士無料派遣は令和9年2月26日まで受付ですが、160件に達した時点で締切です。防災や認知症対応のテーマで使う予定があるなら、年度後半を待たないほうが確実です。


無料の窓口は、使わなければゼロですが、使えば専門家の時間そのものです。墨田区はドクター派遣が年4回、要支援認定なら年8回、都の派遣が各2回、毎月の相談会が年12回。これを使い切っている管理組合と、1回も使っていない管理組合の差は、5年後の修繕積立金残高に出ます。

冒頭の錦糸町の理事長さまは、あのあと健康診断制度の事前相談に電話をされました。長期修繕計画の見直しは、そこから動き始めています。

大規模修繕の工法や見積書の読み方について、総会前の段階の整理だけでもお力になれることがあります。お問合せフォームからご相談だけでも遠慮なくお声がけください。どの制度をどの順番で使うかの整理からご一緒できます。


出典・参考資料


本記事の情報の鮮度について:本記事は2026年9月15日時点で公表されている墨田区および国土交通省・東京都の公式情報をもとに執筆しています。ドクター派遣制度・健康診断制度・アドバイザー制度利用助成の各ページは、更新日が2024年から2025年のものを含みます。制度は年度途中でも改正・予算終了があり得ます。実際に申請される前に、必ず墨田区および該当窓口へ最新の内容をご確認ください。


株式会社明誠|東京都東大和市
大規模修繕・足場工法・ロープアクセス工法(無足場工法)・ハイブリッド工法
ロープアクセス工法の専門情報:https://rope-access-method.com/

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