
第1章:ナフサショックとは何か。なぜ建設業界を直撃しているのか
ナフサとは、原油を蒸留・精製する過程で得られる沸点30〜180℃の石油留分のことです。ガソリンのように燃料として使うのではなく、エチレンやプロピレンといった基礎化学品に分解され、プラスチック・合成樹脂・塗料・接着剤・合成繊維・断熱材・配管材など、現代社会のあらゆる化学製品の原料となります。住宅やビルの建材において、ナフサ由来の素材は文字通り「細胞」とも言える存在です。
ところが2026年2月末、米国とイスラエルによるイラン攻撃をきっかけに中東情勢が緊迫化し、3月にはホルムズ海峡が事実上の封鎖状態に陥りました。日本が輸入する原油の約9割は中東産が占めており、ホルムズ海峡は日本向け資源輸送の要となるルートです。さらに、日本は輸入ナフサだけでなく、国内で生産するナフサも中東産原油に依存しています。海峡封鎖により、ナフサの供給が一気に細りはじめたのです。
問題を深刻化させているのが、日本のナフサ備蓄構造です。原油には230日分の国家備蓄制度がありますが、ナフサには国家備蓄制度がなく、民間在庫はわずか約20日分しかありません。供給途絶への耐性が著しく低い状況で、今回の中東危機は直撃となりました。
その結果、3月下旬から建材メーカーによる値上げ・受注制限・出荷停止のアナウンスが連日相次いでいます。値上げ幅は、断熱材で40〜50%、塗料で最大80%、ルーフィング(屋根防水シート)で40〜50%という、もはや「値上げ」の域を超えた価格暴騰となっており、過去に経験したウッドショックを大きく上回る規模です。
しかも、ウッドショックは木材という特定素材の問題だったため、樹種の変更など仕様変更でしのぐ余地がありました。今回のナフサショックは断熱材・塗料・配管・床材・シーリング材など複数カテゴリが同時多発的に影響を受けており、代替策を立てにくい構造になっています。これは「値段が上がる問題」から「モノが物理的に手に入らなくなる問題」へとフェーズが移行しているということです。
帝国データバンクの調査によれば、ナフサ関連製品のサプライチェーンに連なる製造業は全国で約4万7000社に上り、集計対象とした全製造業の約3割に相当します。建設業はその下流に位置しており、川上の混乱が時間差で、しかし確実に、現場へと到達してきているのです。
第2章:大規模修繕工事に直接的な打撃。価格高騰と工期遅延の二重苦
マンションやビルの大規模修繕工事において、ナフサ由来の建材が占める割合は極めて高いものがあります。具体的には、外壁塗装に使う塗料とシンナー、目地に充填するシーリング材(コーキング材)、屋上やベランダに施工するウレタン防水・塩ビシート防水、給排水管の塩化ビニル管、断熱材、各種接着剤など、工事の主要工程のほとんどがナフサ由来製品に依存しています。
実際、2026年3月中旬には塗料業界の最大手企業がシンナー製品全般の「最大75%値上げ」という極めて異例の発表を行い、これを皮切りに各社が一斉に記録的な価格引き上げを実施しています。シンナー(有機溶剤)はその成分のほぼ100%がナフサ由来であるため、国際情勢の影響を最も直接的に受ける建材なのです。シンナーは塗料を薄める希釈用だけでなく、現場の洗浄用や接着剤を使用する内装工事などでも大量に消費されます。これが手に入らないということは、外壁塗装、屋根塗装、内装の仕上げといった工事の最終工程が完全に停止することを意味します。
防水材の状況も深刻です。屋根の防水シートであるルーフィングは、2026年5月1日出荷分から約40〜50%の大幅な価格改定が通知されており、4月中旬時点ですでに受注停止の影響により、必要なルーフィングを確保できず工事に着手できない、あるいは工事が進められない現場が増えています。
シーリング材についても、メーカーから価格改定の通知が届いており、資材の入手が極めて厳しい状況となっており、一部メーカーでは受注停止に至っています。配管材についても、信越化学工業や積水化学工業といった大手メーカーが塩ビ管や住宅用樹脂サッシの出荷制限・納期調整を余儀なくされ、クボタケミックスは新規注文受付を一時停止する事態となりました。
こうした状況下で、すでに着工が決まっていた大規模修繕工事の現場では、次のような問題が発生しています。
第一に、見積もり段階で想定していた予算を大きく超過するリスクです。資材価格が一斉に20〜80%値上がりしているため、工事費総額に占める材料費比率の高い大規模修繕では、当初予算から10〜20%程度のコスト増は避けられない状況になっています。マンション管理組合が長年積み立ててきた修繕積立金が一気に目減りし、追加徴収や工事内容の見直しを迫られるケースが増えるでしょう。
第二に、工期の長期化です。発注しても納期がわからない、3月上旬に発注した断熱材が1ヶ月遅れで入ってきたという声が現場から上がっており、これまでなら3〜4ヶ月で完了していた大規模修繕工事が、半年以上にずれこむ可能性があります。工期の長期化は、足場代の延長費用、現場管理費、仮設費用の増加に直結し、二重三重のコスト増を招きます。
第三に、工事の中断リスクです。屋根のルーフィングを剥がした状態でメーカー出荷が止まれば、雨仕舞いができないまま現場が放置される事態にもなりかねません。これは建物の劣化を加速させ、二次被害を引き起こす重大なリスクです。
第四に、見積もりの有効期限の短期化です。通常、建築工事の見積もりは1〜3ヶ月の有効期限を設けますが、現在の資材価格の乱高下を受けて、見積もり有効期限を「2週間」程度に設定する業者も増えています。これは施主様の意思決定スピードに対する強い圧迫となります。
第3章:従来型の足場大規模修繕工事が抱える「コストの3重構造」
ここまでナフサショックによる資材費高騰についてお話ししてきましたが、実はマンションやビルの大規模修繕工事には、もうひとつ大きなコスト要因が存在します。それが「足場」です。
一般的なマンションの大規模修繕では、建物全体に枠組足場(くさび緊結式足場やクサビ式足場)を組み立て、養生メッシュシートで囲い、その内側で塗装・シーリング・タイル補修・防水工事などを実施します。この足場は、工事費総額のおおよそ20〜30%を占めると言われる、極めて大きなコスト要素なのです。
例えば、10階建て・40戸のマンションで大規模修繕工事を行う場合、工事費総額が4,000万円とすれば、そのうち約800〜1,200万円が足場関連費用ということになります。これは塗料代や人件費に匹敵する大きな金額です。
しかも、足場工事には次のような問題が付随します。
ひとつは設置・解体期間中は実質的な工事ができないという点です。一般的なマンションでは、足場の設置に1〜2週間、解体に1週間程度を要し、その期間中は塗装や補修といった本工事は進みません。工期全体に占める「実工事ができない期間」が無視できないボリュームを占めます。
二つ目に、近隣への影響です。足場と養生シートで建物全体を覆うため、外観が損なわれ、日照や通風が遮られ、入居者の生活に大きな負担をかけます。また、隣地境界が近い建物では、足場の設置すら困難なケースもあります。
三つ目に、雨天による工事中断と工期延長です。足場上での作業は天候に大きく左右されるため、梅雨や台風シーズンと重なると、工事が大幅に遅延します。工期延長はそのまま足場のリース費用増に跳ね返ります。
四つ目に、不必要な部分まで一律に工事せざるを得ないという問題です。足場をかけてしまえば、せっかくだから外壁全面塗装をやろう、シーリングも全面打ち替えしよう、という発想になりがちです。本当は劣化しているのは南面と西面だけで、北面や東面はまだ健全だったとしても、足場をかけて職人を投入する以上、全面工事のほうが効率が良いという判断になります。
ここに、ナフサショックによる塗料・シーリング材の80%近い値上げが加わるとどうなるでしょうか。本来必要のなかった部分にまで、高騰した資材を使って工事をすることになり、コスト増が際限なく膨らみます。これこそが、現在のマンション・ビルオーナーが直面している深刻なジレンマなのです。
第4章:明誠が提案する「ロープアクセス×ピンポイント工事」という解決策
このコスト構造の根本問題を解決する手段として、明誠が15年以上にわたって取り組んできたのが、ロープアクセス工法による大規模修繕工事です。
ロープアクセスとは、産業用ロープと専用器具を使って職人が建物の外壁に直接アクセスし、塗装・シーリング・タイル補修・防水・調査などの作業を行う工法のことです。ヨーロッパを中心に発展してきた手法で、日本でも近年、橋梁点検や高層ビル外装工事などで採用が広がっています。
ロープアクセス工法を採用することで、従来の足場大規模修繕工事に比べて、平均20%程度のコスト削減が可能です。工事費総額4,000万円のマンションであれば、約800万円の節約効果が期待できる計算になります。これは足場費用そのものをほぼ丸ごと削減できることに加え、工期短縮による現場管理費の削減効果も含まれています。
しかし、ロープアクセス工法の真価は、コスト削減だけにあるのではありません。ナフサショック下の今こそ際立つ、「建物の保全」という観点からの圧倒的な優位性があるのです。それが「ピンポイント工事」という発想です。
従来の足場工事では、前述の通り、せっかく足場をかけたのだから外壁全面を塗り替えよう、シーリングも全面打ち替えようという「全面施工」が前提となります。これは経済合理性からは理解できる判断ですが、建物の保全という観点では、必ずしも最適解ではありません。なぜなら、建物の劣化は決して均等に進行しないからです。
南面・西面は紫外線と西日の影響で塗膜やシーリングの劣化が早く進みますが、北面はそれほどでもありません。雨がかりの多い面は防水層の劣化が進みますが、雨がかりの少ない面は健全な状態を保っています。給湯器の周辺やバルコニー手すり下など、特定の場所だけが集中的に劣化するケースも多々あります。
ロープアクセス工法であれば、こうした「劣化が進んでいる箇所だけ」を選んでピンポイントに工事することが可能です。北面の塗装は8年後でいいけれど、南面のシーリングは今すぐ打ち替えないと雨漏りリスクがある——そんな判断ができ、本当に必要な部分にだけ高騰した資材を投入することで、ナフサショック下でも資材費の影響を最小限に抑えることができるのです。
具体的には、明誠では以下のようなピンポイント工事メニューを提供しています。
外壁打診調査においては、ロープアクセスで職人が直接外壁に触れ、打診棒で全面を打診することで、タイルの浮きやモルタルの剥離をミリ単位で特定します。足場をかけずに全面調査ができるため、調査費用そのものも大幅に抑えられます。
漏水調査においては、雨漏りの原因箇所をロープアクセスで直接確認し、サーモグラフィーや散水試験と組み合わせて原因を特定します。原因が特定できれば、その箇所のみを補修すればよいため、無駄な全面工事を避けられます。
ピンポイントの塗装・シーリング・タイル補修においては、特定された劣化部位だけを補修することで、ナフサショックで高騰した塗料やシーリング材の使用量を必要最小限に抑えます。1棟あたりの資材使用量が10分の1以下になることも珍しくなく、価格高騰の影響を実質的に無効化できます。
防水のピンポイント補修においては、ベランダのドレン廻り、笠木のジョイント、排水溝の継ぎ目など、雨漏りリスクの高い局所だけを集中的に補修することで、屋上全面防水のような大規模工事を先送りすることが可能です。
第5章:建物保全の本質——「予防保全×段階的修繕」という新しいスタンダード
ピンポイント工事が建物保全という観点で優れている理由を、もう少し掘り下げてお話しします。
建物の保全には、大きく分けて2つのアプローチがあります。ひとつは「事後保全」、つまり問題が発生してから対処する方法です。もうひとつが「予防保全」、つまり問題が顕在化する前に手を打つ方法です。
従来の12〜15年周期の大規模修繕工事は、その中間的な存在でした。大きな問題が起きる前に一定周期でまとめて手を入れる、という発想です。しかしこれには、タイミングが画一的なため、まだ補修不要な部分まで工事してしまう、あるいは反対に、周期が来る前に劣化が進行した部分を放置してしまうという欠点があります。
ロープアクセス×ピンポイント工事は、まさにこの欠点を補う「予防保全×段階的修繕」というアプローチを可能にします。年1回程度の建物調査で劣化の進行をモニタリングし、必要な箇所だけを必要なタイミングで補修する。これを繰り返すことで、建物全体は常に健全な状態を保ちつつ、修繕費用は平準化され、ナフサショックのような外的ショックの影響も最小化できます。
ナフサショック下で考えるなら、こんな戦略が現実的です。
2026年春の今、緊急性の高い雨漏り箇所や、明らかに劣化が進んだシーリングの一部だけを、ロープアクセスでピンポイントに補修します。資材の使用量が少ないため、メーカーの受注制限や価格高騰の影響を回避できます。
そして本格的な大規模修繕は、ナフサ供給が安定するであろう2027年〜2028年まで先送りします。その間も、定期的な建物調査で状態をモニタリングし、緊急性のあるものだけはピンポイント補修で対応します。
こうすることで、最も価格が高騰しているタイミングでの大量資材調達を回避し、市況が落ち着いてから本格工事を行うという、極めて合理的な意思決定が可能になります。これは管理組合の修繕積立金を守ることにも直結します。
第6章:ロープアクセス工事を行える会社が少ないという課題と、明誠のFC本部としての取り組み
これだけメリットの多いロープアクセス工法ですが、実は日本国内でこれを実施できる会社は非常に限られているのが現状です。なぜならロープアクセス工事には、産業ロープ技術者の認定資格、専用器具、安全管理体制、現場経験の蓄積など、多くの要件が必要となるためです。
明誠では、この状況を改善するために、ロープアクセス工事のフランチャイズ(FC)本部としての機能も担っています。全国のオーナー様がロープアクセス工法のメリットを享受できるよう、各地域でロープアクセス施工が可能な会社を増やし、ノウハウと安全管理体制を共有することで、業界全体の底上げに貢献しています。
明誠は、通常の足場による大規模修繕工事とロープアクセス工法による無足場工事の両方を手がけており、建物の状態や立地条件、ご予算に応じて最適な工法を提案できる、日本でも数少ない事業形態となっています。
第7章:今、マンション・ビルオーナー様が取るべき行動
最後に、ナフサショックという未曾有の事態に直面している今、マンション・ビルオーナー様、管理組合の皆様が取るべき具体的な行動を整理します。
第一に、来期以降の大規模修繕計画を一度立ち止まって見直すことです。当初の計画通り12〜15年周期の全面工事を強行することは、ナフサショック下では極めて高コストになります。一度立ち止まり、本当にすべての工事が「今」必要なのか、見極める時間を持つべきです。
第二に、建物の現状を正確に把握することです。ロープアクセスによる外壁打診調査や漏水調査は、足場をかけずに、コストを抑えて実施できます。まずは「どこが本当に劣化しているのか」「どこは健全なのか」を客観的に把握することから始めましょう。
第三に、緊急性の高い箇所だけを先行してピンポイント補修することです。雨漏りや明らかな剥離など、放置すると建物全体に被害が広がる箇所は、市況に関わらず早急に対処する必要があります。ロープアクセス工法を使えば、こうしたピンポイント補修を低コスト・短工期で実施できます。
第四に、本格的な大規模修繕工事は、ナフサ市況の安定を待って実施することを検討する。ナフサショックは中東情勢次第ですが、政府の備蓄放出や代替調達ルートの確立などにより、いずれは沈静化に向かいます。最も価格が高騰しているタイミングを避けることは、合理的な判断です。
第五に、信頼できる相談相手を見つけることです。今のような不透明な時期に「今すぐ契約しないと値上がりします」と契約を急がせる業者には注意が必要です。客観的な状況を冷静に説明し、複数の選択肢を提示してくれる業者こそが、信頼できるパートナーです。
おわりに——危機を機会に変える発想を
ナフサショックは、確かに建設業界にとって深刻な危機です。資材価格の高騰、納期遅延、受注停止——どれも避けがたい現実です。しかし見方を変えれば、これは「従来の大規模修繕工事のあり方そのものを見直す機会」でもあります。
足場をかけて全面工事をするのが当たり前、12〜15年周期で大金をかけるのが常識——そうした既成概念を一度脇に置き、本当に必要な工事を、必要な箇所に、必要なタイミングで行う。ロープアクセス×ピンポイント工事という発想は、コスト削減だけでなく、建物の保全という本質的な価値においても、従来工法を上回る選択肢になりうるのです。
明誠は、こうした新しい建物保全のあり方を、日本中のオーナー様にお届けしたいと考えています。ナフサショックという危機の中だからこそ、賢く、合理的に、そして長期的視点で建物を守る選択をしていただきたいと願っています。
弊社は通常の足場による大規模修繕工事と無足場工法によるロープアクセス工事の両方から最適なご提案が出来る日本でも数少ない事業形態で、ロープアクセスによる工事は通常の足場による工事と比べて平均20%ほど安く工事が可能です。一方でロープアクセスで工事を行える会社が非常に少ないため、ロープアクセスによる工事が行える会社を増やすためにFC本部として安価に施工が出来る会社を増やしています。事業内容として外壁打診調査、漏水調査、ピンポイントの塗装、防水、タイル補修など建物の事であれば何でも行っています。また空室対策、不動産管理、地震保険や補助金助成金申請サポート、各専門の士業の御紹介などオーナー様の様々なお困りごとをトータルでサポートもしております。相談は無料ですので、お悩みがある方は、お気軽にお問い合わせください。


