
2026年9月18日 更新
中野区の若宮で、築28年の分譲マンションの理事長さまから相談をいただいたことがあります。「1階の集会室の床が、雨のたびに湿る」と。屋上防水をやり直したばかりで、なぜ直らないのか分からない、というご相談でした。
現場に行って、まず見たのは屋上ではありません。敷地の外、前面道路の高さです。建物の1階床レベルが、道路より20センチ低かった。そして敷地の雨水桝は、その低いほうに向かって水を集める向きに付いていました。屋上防水は無関係だったのです。
私は株式会社明誠の本間幸紘と申します。東京都東大和市を拠点に、20年近くマンション・ビル・ホテルの外壁と向き合ってきました。仮設足場を組む工事も、ロープ1本でぶら下がる無足場の工事も、どちらも現場でやってきた人間です。
中野区は、23区のなかでも「川と暗渠(あんきょ、蓋をされて地下に埋められた水路)の記憶がそのまま水のリスクになる」区だと感じています。海に面していないので高潮も津波もない。そのかわり、妙正寺川・江古田川・神田川という3本の川と、桃園川をはじめとする暗渠の筋が、水の行き先をすべて決めています。
今日は、中野区が公表している最新のハザード資料から逆算して、中野区の分譲・賃貸マンションで先に手を打つべき漏水ポイントと、防災上の共用部の修繕優先度を整理します。
結論:中野区は「高潮も津波もない代わりに、川筋と暗渠と崖が主役の区」です
先に結論から申し上げます。中野区で大規模修繕の順番を決めるとき、私が最初に確認するのは屋上ではありません。自分の建物が川沿いの低地にあるのか、台地の上にあるのか、崖の際にあるのか、それとも暗渠の筋の上にあるのかです。
中野区は、高潮ハザードマップを作成していません。区のハザードマップ作成状況の表には、高潮について「区内に高潮浸水想定区域がない」と明記されています。津波災害警戒区域の指定もありません(出典:中野区「宅地建物取引業者の方へ(水防法に基づくハザードマップ等について)」/更新日 2026年6月24日)。湾岸区で最優先になる高潮・塩害対策は、中野区ではほぼ考えなくてよい。そのぶん、リスクが4つに絞り込めます。
| 立地 | 該当エリアの例 | 主なリスク | 最優先の対策 |
|---|---|---|---|
| 妙正寺川・江古田川の低地 | 鷺宮・白鷺・若宮・大和町・野方・沼袋・新井・江古田・江原町・上高田 | 外水(川の氾濫)+内水 | 1階・地下の開口部の止水/雨水桝の向き |
| 神田川・善福寺川の低地 | 弥生町・南台・本町・中央一丁目付近 | 外水+内水、家屋倒壊等氾濫想定区域 | 擁壁・基礎まわり/1階住戸の床下 |
| 桃園川など暗渠の筋 | 中野・中央・新井の一部(旧水路跡) | 内水氾濫(下水道の能力超過) | 逆流防止・地下ピットの排水 |
| 台地の縁の崖 | 松が丘・上高田・中央・本町五丁目・弥生町 | 土砂災害・擁壁の劣化 | 擁壁改修・斜面側の排水と外壁 |
この4類型のどこに自分の建物が当たるかを、区のハザードマップで先に確定させる。それをやらずに「まず屋上防水から」と進めてしまうと、順番を1つ間違えるだけで数百万円が無駄になります。冒頭の若宮の物件は、まさにその典型でした。中野区の理事会でいつも最初にお伝えしているのは、この一点です。
中野区のハザードマップを1枚で読む
中野区のハザードマップは、水害と土砂災害を1冊の冊子にまとめた「統合版」として発行されています。管理組合の書類棚を整理するときに、この表を1枚コピーして貼っておくだけで議論が早くなります。
| 種別 | 中野区の作成状況 | 水防法準拠 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 洪水(外水) | 作成済 | 〇 | 神田川・妙正寺川・江古田川・善福寺川の流域 |
| 雨水出水(内水) | 一部作成 | × | 都の「雨水出水浸水想定区域図」を別途参照 |
| 高潮 | 未作成 | ー | 区内に高潮浸水想定区域がない |
| 津波 | 該当なし | ー | 津波災害警戒区域の指定なし |
| 土砂災害 | 作成済 | ー | 区内22か所が警戒区域 |
| 造成宅地防災区域 | 指定なし | ー | 区内に指定なし |
(出典:中野区ハザードマップ/更新日 2026年8月7日、中野区「宅地建物取引業者の方へ」/更新日 2026年6月24日)
最新版は「令和8年7月発行」です
中野区の最新のハザードマップは、令和8年7月発行のものです。令和8年度版では、次の4点が改訂されています。
- 防災気象情報の変更
- 風水害タイムラインの変更・追加
- 学校の統廃合に伴う避難所の変更
- 家屋倒壊等氾濫想定区域図(氾濫流・河岸浸食)の追加
管理組合の立場から見て、いちばん重いのは4番目です。「家屋倒壊等氾濫想定区域」とは、川があふれたときの水の勢いや、川岸が削られることで建物そのものが壊れるおそれがある範囲を示した図です。浸水深の図とは意味がまったく違います。水に浸かるかどうかではなく、建物が持ちこたえるかどうかの話だからです。
この図が令和8年度版で新しく入ったことを、私が訪問した中野区の管理組合で知っていた方は、まだ多くありませんでした。管理室に置いてあるハザードマップが令和7年以前のものなら、それは差し替えのタイミングです。配布窓口は防災危機管理課(区役所8階)、総合案内窓口(1階)、区内15か所の区民活動センター、区内4か所のすこやか福祉センターです。
想定されている雨は「1時間153ミリ」
中野区の水害ハザードマップが前提にしているのは、1時間最大雨量153ミリ、総降雨量690ミリという想定最大規模の降雨です。これは東京都が公表する「浸水予想区域図」に基づくもので、川からあふれる外水氾濫と、下水道からあふれる内水氾濫を合わせて表示しています。
1時間153ミリという数字は、正直に申し上げてピンと来ないと思います。東京の下水道が標準で想定しているのは1時間50ミリ前後です。つまり設計値の3倍の雨を想定した図だ、ということです。
なお注意点として、色分けの元になっている「浸水予想区域図」そのものは、平成30年に更新されたものが最新です(出典:中野区ハザードマップ)。冊子は令和8年7月に改訂されましたが、浸水深の想定そのものは平成30年時点のものだ、ということは押さえておいてください。
令和8年3月に、内水の「法定図」が出ました
もう1つ、管理組合として押さえておきたい動きがあります。令和8年3月、東京都が水防法第13条の2第1項の規定により排水施設等を指定し、「雨水出水浸水想定区域図」を作成・公表しました。
中野区自身が、自区のハザードマップについて「雨水出水(内水)は水防法準拠ではない」と表の中で明示しています。区のハザードマップに反映されているのは「洪水浸水想定区域」の想定結果であって、「雨水出水浸水想定区域」の結果ではないのです。河川周辺の内水の想定については、東京都下水道局の神田川流域 雨水出水浸水想定区域図を見に行く必要があります。
私はいつも理事長さまに、「区のマップと都の区域図、2枚セットで見てください」とお伝えしています。ここは見落とされやすいところです。
浸水履歴は昭和60年から町丁目別に公開されています
中野区は、昭和60年7月14日から現在までの浸水被害記録を、町丁目ごとのPDFで公開しています(出典:中野区の水害被害記録一覧/更新日 2025年12月22日)。新井、江古田、江原町、上鷺宮、上高田、鷺宮、白鷺、中央、中野、沼袋、野方、東中野、本町、松が丘、丸山、南台、大和町、弥生町、若宮の19町名分と、統合版があります。
しかもこの記録、街区(番地)単位で、床上・床下・小規模事業所の別に件数が載っています。ここまで細かく公開している区は多くありません。
ハザードマップは「これから起きうること」、浸水履歴は「実際に起きたこと」です。私の経験上、修繕の優先順位を決めるときに効くのは、圧倒的に後者です。自分の敷地の番地、あるいは周囲の番地に件数が立っているかどうか。ここは確認していただきたい。総会資料に1枚貼るだけで、議論の温度がまったく変わります。
中野区で使える漏水・防災の地形の読み方
妙正寺川・江古田川の低地:鷺宮・白鷺・若宮・大和町・野方・沼袋・新井・江古田・江原町
中野区北部を東西に蛇行しながら流れるのが妙正寺川です。杉並区の妙正寺池に源を発し、哲学堂公園付近で江古田川を合流して新宿区に抜けます。流域面積21.4平方キロメートル、延長9.7キロメートル。江古田川は流域面積5.0平方キロメートル、延長1.6キロメートルです(出典:中野区内の河川)。
このエリアで押さえておきたいのは、平成17年9月4日の水害です。妙正寺川・善福寺川で甚大な被害が出て、東京都は河川激甚災害対策特別緊急事業の指定を受けました。中野区内では妙正寺川の新昭栄橋から葛橋の間で、平成21年度末までに緊急かつ集中的に護岸整備と河床の掘り下げが行われています。
20年前の水害の記憶が、いま築30年前後のマンションの「効かない対策」として残っているケースを、私は何度も見ています。当時、各戸の玄関前に止水板を置いた。土のうを積んだ。その運用が、理事会のメンバーが入れ替わるうちに引き継がれずに消えている。設備は残っているのに、誰も使い方を知らない。これは工事以前の問題です。
このエリアで私が見てきた漏水は、次の3つが多い。
- 1階住戸の床下と玄関ポーチまわり:建物が道路より低い位置にあると、道路の表面水が敷地内に入り、雨水桝があふれる。排水設備の容量ではなく、地面のレベル差の問題であることが多い
- 外壁の水切り(みずきり、壁面を伝う水を切って落とすための部材)の欠損:低層で軒が浅い建物ほど、壁を伝う水量が多くなる
- バルコニー側の排水口(ドレン)の詰まり:桜や欅の落ち葉が多い地域ほど顕著です
神田川・善福寺川の低地:弥生町・南台・本町・中央一丁目付近
神田川は三鷹市の井の頭池に源を発し、流域面積105.0平方キロメートル、延長24.6キロメートルの一級河川です。中野区弥生町地先で善福寺川を、中央一丁目地先で桃園川下水道幹線を合流します(出典:中野区内の河川)。都内の中小河川では最大規模です。
ここで「桃園川下水道幹線」という名前が出てくるのが、中野区の特徴です。かつての桃園川は、いまは暗渠になって下水道幹線として使われ、地上は桃園川緑道になっています。地図の上では川が見えないのに、地下には川があって、雨が降ると水が集まってくる。この構造が、中野・中央エリアの内水リスクの正体です。
暗渠の筋の上に建つ建物で、私が実際に見てきたのは次の3つです。
- 排水管の逆流:下水道本管の水位が上がると建物側の排水が流れず、地下階の床排水口や地下ピットから逆流する
- 地下駐車場スロープからの流入:スロープの上端に段差がなく、道路の表面水がそのまま流れ込む
- 地下ピットへの湧水:地下水位が高いエリアで、コンクリートの打継ぎ部から少しずつ滲む
このうち1番目は、大規模修繕の対象と思われていないことが多い。ですが逆流防止弁(排水が逆向きに流れないようにする弁)の設置と点検は、防水工事より優先度が高い場合があります。漏水の原因の切り分けについては漏水対応の考え方にも整理しています。
崖の際:松が丘・上高田・中央・本町五丁目・弥生町
中野区では、東京都が土砂災害防止法に基づく基礎調査結果を踏まえ、区内22か所を土砂災害警戒区域(イエローゾーン)に、うち9か所を土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)に指定しています(出典:中野区「土砂災害警戒区域」/更新日 2026年8月7日)。
| 町名 | 警戒区域(イエロー) | 特別警戒区域(レッド) |
|---|---|---|
| 松が丘 | 4か所 | 1か所 |
| 上高田 | 9か所 | 5か所 |
| 中央 | 3か所 | 0か所 |
| 東中野 | 0か所 | 0か所 |
| 本町 | 2か所 | 0か所 |
| 弥生町 | 4か所 | 3か所 |
| 計 | 22か所 | 9か所 |
指定状況は動きます。中野区の場合、次のような変更が公式に整理されています。
- 2021年(令和3年)5月28日:東中野五丁目(区域番号114001-K014)の土砂災害(特別)警戒区域の指定が解除
- 2023年(令和5年)6月21日:上高田四丁目(114001-K011)で警戒区域の一部縮小、特別警戒区域の全域が指定解除
- 2024年(令和6年)6月21日:上高田四丁目(114001-K009)の特別警戒区域の指定が解除
- 2024年(令和6年)6月21日:弥生町六丁目(114001-K021)の特別警戒区域が一部縮小
- 2024年(令和6年)6月21日:中央一丁目(114001-K023)が警戒区域として新たに指定
ここで注目していただきたいのは、解除もあれば、新規指定もあるという点です。「うちは前に確認したから大丈夫」は通用しません。中野区は区域番号ごとに図面PDFを公開しているので、自分の敷地に近い番号の図面を1枚ダウンロードして、管理室のファイルに綴じておくのがいちばん確実です。
上高田が9か所と突出しているのは、妙正寺川が削った谷と、その北側の台地の高低差が大きいためです。上高田・松が丘のエリアは、崖の上と下で建物の対策がまったく変わります。崖の上なら擁壁と排水、崖の下なら建物背面の外壁と基礎まわり。同じ町名でも真逆になるということです。
中野区の治水施設は「まちを守る施設」であって「建物を守る施設」ではありません
中野区の水害リスクを語るとき、避けて通れないのが治水施設の話です。中野区内・周辺には次の調節池があります(出典:中野区内の河川)。
| 調節池名 | 貯留量(立方メートル) | 上部利用形態 |
|---|---|---|
| 妙正寺川第一 | 30,000 | 公園・住宅 |
| 妙正寺川第二 | 100,000 | 哲学堂公園等 |
| 上高田 | 160,000 | 上高田運動施設 |
| 落合 | 50,000 | 落合公園 |
| 鷺宮 | 35,000 | 白鷺せせらぎ公園 |
| 北江古田(江古田川) | 17,000 | 江古田の森公園 |
さらに大きいのが、神田川・環状七号線地下調節池です。延長4.5キロメートル、内径12.5メートル、貯留量は約54万立方メートル。環状七号線の路面下、約40メートルの深さに造られたトンネルです。第一期事業(青梅街道〜甲州街道間 約2.0キロメートル、最大貯留量約24万立方メートル)は昭和63年度に着手し、平成9年4月から取水を開始。第二期事業(延長2.5キロメートル、貯留量30万立方メートル)は平成20年3月に全施設が完成しています。
これらの施設によって、中野区の河川溢水の被害は確実に減ってきました。区自身も、豪雨対策実施計画のなかで「河川改修工事や環状七号線地下調節池の整備などにより河川溢水の被害は減少してきている」と書いています。
ただし、同じ文章はこう続きます。「低地での道路冠水や下水道からの内水氾濫による住宅への浸水被害などの都市型水害が発生しています」(出典:中野区豪雨対策実施計画)。
つまり、川はかなり抑え込めた。残っているのは内水だ、というのが中野区の現在地です。
「環七の下に巨大な調節池があるからうちは大丈夫」という理解は、だから危険です。調節池が守っているのは川の水位であって、あなたの建物の地下ピットではありません。建物ごとの対策は、建物ごとにやるしかない。
中野区のマンションで、修繕の順番をどう決めるか
ここからは実務の話です。私が中野区の管理組合さまにお伝えしている、順番の決め方です。
第1優先:水の入口を止める(数万円〜数十万円)
費用対効果がいちばん高いのは、実は工事ではありません。
- 雨水桝・ドレンの清掃と、桝の蓋の向きの確認
- 地下階の逆流防止弁の作動確認(書類ではなく実働で)
- 排水ポンプの試運転と、非常用電源の有無の確認
- 止水板・土のうの保管場所と、使い方を知っている人が今の理事会にいるか
ここまでは、多くの場合で数万円から数十万円の範囲です。にもかかわらず、台風のときに効く度合いがいちばん大きい。
第2優先:外壁の打診調査で、浸入経路を特定する(250〜500円/平方メートルが目安)
漏水の相談で私がいちばん多く見る失敗は、原因の切り分けをせずに工事に入ってしまうことです。屋上防水をやり直したのに直らない。外壁を塗り直したのに直らない。冒頭の若宮の事例がまさにそうでした。
外壁の打診調査(打診棒で壁面を叩き、内部の浮きを音で判別する調査)の費用は、1平方メートルあたり250〜500円が一般的な目安です。ただし建物の高さ・形状・調査範囲によって変動しますので、あくまでレンジとお考えください。
ここでロープアクセス工法(産業用ロープで屋上から下降して作業する無足場の工法)が効いてきます。中野区は、前面道路が狭く、隣地との距離がない物件が非常に多い。足場が架けられない、あるいは架けると駐車場や通路が使えなくなるという物件が多数あります。ロープアクセスなら、地面の条件に左右されずに調査と補修が同時にできます。工法の技術的な詳細は、姉妹サイトのロープアクセスドットコムで解説しています。
第3優先:防水と外壁の本工事(規模により大きく変動)
参考までに、㎡単価の一般的な目安を挙げておきます。
| 工種 | ㎡単価の目安 |
|---|---|
| 外壁塗装 | 3,500〜4,500円/平方メートル |
| 打診調査 | 250〜500円/平方メートル |
| 屋上・バルコニー防水 | 5,000〜8,000円/平方メートル |
30戸規模のマンションの大規模修繕であれば、総工費のレンジはおおむね3,500万〜5,000万円、そのうち仮設足場が15〜25%を占めるのが一般的です。いずれも物件の規模・形状・劣化状況によって大きく変動しますので、参考値としてご覧ください。
この「仮設足場15〜25%」が、中野区ではとくに効いてきます。たとえば10階建て・外周80メートル・工期3か月の物件で、仮設足場が約168万円かかるケースがあるとします。同じ範囲をロープアクセスで対応できれば、概算で59万円程度。差額はおよそ109万円です。これも物件条件で変わりますが、足場が架けにくい中野区の路地奥の物件ほど、この差は開きます。料金の考え方については大規模修繕の料金の考え方にまとめています。
ちなみに株式会社明誠は、これまでに約6,000棟のマンション・ビル・ホテルの大規模修繕を手がけてきました。ロープアクセス工法での高所作業について、明誠および全国のフランチャイズ加盟企業では過去16年間、墜落による労働災害はゼロを維持しています。IRATA(国際産業ロープアクセス協会)水準の技能訓練を受けた作業員が施工にあたります。安全管理の考え方は明誠の安全管理をご覧ください。
雨の降り方そのものが変わっています
気象庁の「日本の気候変動2025」によれば、アメダスで観測された1時間降水量50ミリ以上の短時間強雨の発生回数は、1976〜2024年の49年間で約1.5倍に増加しています。1時間80ミリ以上では約1.7倍です(出典:気象庁「日本の気候変動2025」、気象庁「アメダスで見た短時間強雨発生回数の長期変化について」)。
観測地点が増えたからではありません。1,300地点あたりに換算したうえでの比較です。
つまり、20年前に建てた建物の防水性能は、20年前の雨を前提にしているということです。設計時に想定していなかった降り方を、いま実際に受けている。中野区のように川と暗渠が入り組み、下水道に一気に水が集まる地形では、この差がそのまま漏水事故として出てきます。
現場で20年やってきて、私が一番悔しい思いをするのは、「あと1年早く相談してもらえていれば、この金額で済んだのに」という場面です。躯体(建物の骨組み)に水が回って鉄筋が錆びると、費用は一気に跳ね上がります。
よくあるご質問
Q. 中野区は高潮も津波もないと聞きましたが、水害の心配は少ないということですか?
A. 中野区には高潮浸水想定区域がなく、津波災害警戒区域の指定もありません。ただし、これは高潮・津波のリスクがないという意味であって、水害のリスクがないという意味ではありません。中野区で主役になるのは、妙正寺川・江古田川・神田川の外水氾濫と、下水道からあふれる内水氾濫です。区の水害ハザードマップと、東京都下水道局の神田川流域 雨水出水浸水想定区域図の両方をご確認ください。
Q. 「家屋倒壊等氾濫想定区域図」とは何ですか?浸水深の図と何が違うのですか?
A. 浸水深の図が「どれくらいの深さまで水に浸かるか」を示すのに対し、家屋倒壊等氾濫想定区域図は「川の水の勢い(氾濫流)や川岸が削られること(河岸浸食)で、建物そのものが壊れるおそれがある範囲」を示した図です。令和8年7月発行の中野区ハザードマップから新しく追加されました(34〜37ページ)。管理室のマップが令和7年以前のものなら、差し替えをおすすめします。
Q. 自分の建物の番地に過去の浸水被害があったかは、どこで確認できますか?
A. 中野区の水害被害記録一覧で、昭和60年7月14日から現在までの記録を町丁目別のPDFで確認できます。街区(番地)単位で、床上・床下・小規模事業所の別に件数が載っています。個人情報保護の観点から「号」までは表示されていません。
Q. 自分の建物が土砂災害警戒区域に入っているかは、どこで確認できますか?
A. 中野区「土砂災害警戒区域」のページで、区域番号ごとの図面PDFが公開されています。松が丘・上高田・中央・本町・弥生町の該当箇所です。東京都土砂災害警戒区域等マップでも位置を確認できます。ご不明な点は中野区総務部防災危機管理課防災対策係(電話 03-3228-8933)へどうぞ。
Q. 崖側の外壁からの漏水は、大規模修繕で直りますか?
A. 地中に接している部分からの浸入であれば、通常の外壁塗装や屋上防水では止まりません。まず調査で浸入経路を特定することが先決です。原因の切り分けができていない状態で工事に入るのが、費用が無駄になる最大のパターンです。漏水対応の考え方にも詳しくまとめています。
Q. 前面道路が狭くて足場が架けられません。外壁の点検はどうすればよいですか?
A. ロープアクセス工法であれば、屋上からロープで下降しながら打診調査と補修が同時にできます。地面の条件に左右されないのが最大の利点です。中野区のように路地が細く、隣地との距離がない物件では特に有効です。上空からの俯瞰が必要な場合はドローン調査と組み合わせることもあります。技術的な詳細はロープアクセスドットコムでも解説しています。
Q. 打診調査の費用はどれくらいですか?
A. 一般的な目安は1平方メートルあたり250〜500円ですが、建物の高さ・形状・調査範囲により変動します。足場を架けずにロープアクセスで実施する場合、足場費用がまるごと不要になるぶん、総額が抑えられるケースが多くあります。料金の考え方もご参照ください。
Q. 漏水の緊急対応は、どれくらいで来てもらえますか?
A. 状況によりますが、ロープアクセスであれば足場の設置を待つ必要がないため、当日から翌営業日での初動が可能なケースが多くあります。現地調査と概算のご提示までは無料で承っており、管理組合向けのご説明資料もご用意しています。まずは状況をお電話かフォームでお知らせください。
まとめ:今週、中野区の理事会で動けること3つ
- 管理室のハザードマップの版を確認する — 中野区ハザードマップは令和8年7月発行が最新です。家屋倒壊等氾濫想定区域図が新たに入りました。古ければ区役所8階の防災危機管理課または各区民活動センターで差し替えを
- 自分の番地の浸水履歴を1枚プリントして、総会資料に貼る — 昭和60年からの記録が街区単位で公開されています。「これから起きうること」より「実際に起きたこと」のほうが、修繕の順番を決める材料になります
- 地下階の逆流防止弁と排水ポンプを、実際に動かしてみる — 点検記録の紙ではなく、実働です。台風期のいまがいちばん適した時期です
中野区は、高潮も津波もない代わりに、妙正寺川・江古田川・神田川の3本の川と、桃園川をはじめとする暗渠の筋、そして台地の縁の崖という地形が、水の動きをすべて決めている区です。だからこそ、「23区の平均的な修繕計画」がいちばん当てはまらない区でもあります。自分の建物がどこに立っているかを地図で確定させることから、修繕の議論を始めていただきたいと思います。
ご相談だけでも遠慮なくお声がけください。総会の前段階の整理だけでも、お力になれることがあります。管理組合さま向けのサービス内容は管理組合向け大規模修繕のご案内、賃貸・オーナー物件はビルオーナー向けのご案内、収益不動産としての資産価値維持の考え方はオーナー向けの提供価値にまとめています。お問い合わせはお問合せフォームからどうぞ。
明誠のこれまでの施工事例(約6,000棟)は https://rita-construction.com/blog/category/works/ からご覧いただけます。
出典・参考資料
- 中野区「中野区ハザードマップ」(更新日 2026年8月7日/最新版は令和8年7月発行)
- 中野区「土砂災害警戒区域」(更新日 2026年8月7日/区内22か所・特別警戒区域9か所)
- 中野区「宅地建物取引業者の方へ(水防法に基づくハザードマップ等について)」(更新日 2026年6月24日)
- 中野区「中野区の水害被害記録一覧」(更新日 2025年12月22日/昭和60年7月14日以降の浸水履歴)
- 中野区「中野区内の河川」(神田川・妙正寺川・江古田川・善福寺川、調節池施設概要、神田川・環状七号線地下調節池)
- 中野区「中野区豪雨対策実施計画を策定しました」
- 東京都下水道局「神田川流域 雨水出水浸水想定区域図」(令和8年3月公表)
- 東京都建設局「浸水リスク検索サービス」
- 東京都建設局「浸水予想区域図について」
- 東京都「東京都土砂災害警戒区域等マップ」
- 気象庁「日本の気候変動2025」
- 気象庁「アメダスで見た短時間強雨発生回数の長期変化について」
- 国土交通省「建築物における電気設備の浸水対策ガイドライン」
- 国土交通省「地下空間における浸水対策ガイドライン」
- 国土交通省「重ねるハザードマップ」
本記事の情報の鮮度について:本記事は2026年9月18日時点で公表されている中野区および国土交通省・東京都の公式情報をもとに執筆しています。ハザードマップの版や土砂災害警戒区域の指定状況は年度途中でも改訂・変更があり得ます。実際にご判断される前に、中野区および該当窓口へ最新の内容をご確認ください。
この記事の執筆者
本間 幸紘(ほんま ゆきひろ)
株式会社明誠 代表取締役/東京都東大和市
マンション・ビル・ホテルの大規模修繕20年以上の実務経験。3工法(通常足場/ロープアクセス/ハイブリッド)から建物特性に応じて最適提案。日本初のロープアクセス工事フランチャイズ本部を運営。JCSA(一般社団法人 全国建設業支援協会)代表理事。
最終更新:2026年9月18日


