2026年5月13日、都内タワーマンションの大規模修繕工事で「利益誘導」の疑いが浮上したとの報道が出ました。住戸を実際に購入し、区分所有者として理事に就任した人物が、特定の業者へ工事を流していた疑いです。同じ時期、DeNA系ベンチャーが大規模修繕の見積もり査定と業者選定支援に参入し、「不正を見抜くスマート修繕」として理事会・修繕委員会の支持を集め始めています。私たち施工側から見ても、ここ数年で発注プロセスのあり方は大きく変わりつつあります。本稿では、管理組合の理事長さま・修繕委員さまが「自分のマンションでは何を整えておけば、こうした疑惑から組合員を守れるのか」を、現場20年の目線で5つに絞ってお伝えします。情報は2026年5月15日時点のものです。
1. 何が起きているのか——2026年5月13日の2つのニュースを並べる
まず、今週の業界を揺らした2つのニュースを、感情を抑えて時系列で並べます。私はいつも理事長さまに、ネットの見出しに反応する前に「誰が、いつ、何を発表したのか」を表にして眺めることをお勧めしています。今回もそれをします。
ひとつ目。日経クロステックが2026年5月13日に報じた、「都内タワマン修繕で利益誘導か、理事に就任『疑惑の人物』の正体」という記事です。報道によれば、都内のタワーマンションの大規模修繕工事をめぐり、利益相反取引の疑いが浮上しました。手口の特徴は、住人になりすますのではなく、当該マンションの住戸を実際に購入し、区分所有者の立場で理事に就任していたという点です(出典:日経クロステック「都内タワマン修繕で利益誘導か、理事に就任『疑惑の人物』の正体」)。私はこのニュースを最初に目にしたとき、「これまで噂で聞いていた話が、ついに紙面に出てきたのか」と背筋が伸びる思いでした。
ふたつ目。同じく日経クロステックが「DeNA系ベンチャーが参入、不正見抜く『スマート修繕』」と題して、ディー・エヌ・エー(DeNA)の社内ベンチャー制度から生まれたスタートアップが、大規模修繕の見積もり査定や工事会社の選定支援に参入し、管理組合の人気を博していると伝えました(出典:日経クロステック「DeNA系ベンチャーが参入、不正見抜く『スマート修繕』」)。理事会の前後で見積書を「客観的に査定する」サービスへのニーズが、ここ数年で急速に高まっていることの表れです。
3行でまとめます。第一に、大規模修繕の発注プロセスに不正・利益相反が紛れ込みうる事例が、業界紙ベースで具体的に報じられた。第二に、その不正を「外部の目」で機械的に弾く査定サービスが、いま管理組合に選ばれ始めている。第三に、施工側である私たちにとっても、これは「透明な見積もりが普通になっていく」転換点です。
ここからが本題です。理事長さまにとっては「うちのマンションでは大丈夫か」「では何をすればいいのか」が一番気になるところだと思います。順を追って整理していきます。
2. 「利益相反」とは何か——理事会で言葉の定義をそろえる
ここで一度、専門用語の補足をさせてください。理事会の議論で、私が最初にお願いしているのが「言葉の定義をそろえること」です。利益相反という言葉も、人によって解像度がだいぶ違います。
利益相反取引(りえきそうはんとりひき)とは、ある人が、自分の地位や立場を利用して、本来その地位で守るべき相手の利益と、自分自身の利益とがぶつかる状況で取引を行うことを指します。マンション管理組合の文脈では、たとえば理事が「組合のために最も良い業者を選ぶ」立場でありながら、自分が関係している業者を選ぶように仕向ければ、組合の利益と理事個人の利益がぶつかります。これが典型的な利益相反です。
国土交通省が示している「マンション標準管理規約」では、役員の誠実義務として、組合員のために誠実にその職務を遂行しなければならない旨が明記されています。さらに、役員と組合との利益相反取引について、理事会の承認を得る必要があるとの規定も整備されてきました(出典:国土交通省「マンション標準管理規約(単棟型)」)。標準管理規約はあくまでひな型ですが、ほとんどのマンションの管理規約は、この標準管理規約をベースに作られています。
ここで大事なポイントを2つだけ強調させてください。第一に、利益相反は「悪意のある人だけがやること」ではない、ということです。たとえば、理事の知人が施工会社を経営している、理事の親族が管理会社の社員である、といった「うっかりの利益相反」も含めて、規約上は理事会の承認手続きが必要になります。第二に、利益相反は「あった/なかった」の二元論ではなく、「事前にどう開示し、どう手続きを踏んだか」が問われる、ということです。透明性こそが最大の防御だと私は思っています。
正直に申し上げます。私はこれまで20年近く現場をやってきて、悪意ある利益誘導の現場よりも、「悪気はないのに開示プロセスを踏めていない」現場のほうがずっと多いと感じてきました。だからこそ、今回のような報道は、業界全体に「手続きをきちんと整える」きっかけを与えてくれていると受け止めています。
3. 都内タワマン疑惑が示した「新しい手口」——なりすましから「実所有者化」へ
報道で特に注目すべきは、疑惑の人物が「住人になりすました」のではなく、「住戸を実際に購入して区分所有者になった」点です(出典:日経クロステック「都内タワマン修繕で利益誘導か」)。これは、従来想定されていた「外部からの干渉」とは別の次元の話です。
私の経験上、これまで多くの管理組合が想定してきたリスクは、おおむね次の3つでした。
第一に、施工会社の営業担当者が、理事に必要以上に近づくケース。これは、見積もりの透明性を確保する仕組みである相見積もりや公開プレゼンを徹底することで、ある程度抑えられます。
第二に、コンサルタント(設計監理会社)が、特定の施工会社と裏で結託しているケース。いわゆる「談合型」のリスクで、管理組合がコンサルタントを選ぶ段階での透明性が問われます。
第三に、管理会社の利益相反。管理会社が修繕工事をグループ会社に流すリスクです。これも、管理会社経由の発注を避けて組合直接発注に切り替える、あるいはセカンドオピニオンを取るといった対策がよく取られます。
今回の報道は、この3類型のいずれにも当てはまらない、第四のリスクを示唆しています。利益を得たい側が、当該マンションの住戸を実際に購入して区分所有者となり、内部から意思決定に影響を与えるという構造です。タワマンの単価が高いエリアでは、住戸の取得コストよりも、その後の修繕工事から得られる利益のほうが大きいケースが理論上ありえます。
私はいつも理事長さまに、「あなたのマンションが大規模であればあるほど、外からは見えない『大きな金額が動く意思決定の場』として認識されている」とお伝えしています。年間維持管理費よりも、大規模修繕の総額のほうが圧倒的に大きい、という事実は変わりません。だからこそ、組合員1人ひとりの善意に依存する仕組みではなく、手続きそのものが利益相反を弾く設計になっていなければならないのです。
4. 「スマート修繕」が選ばれている理由——理事会が求めているのは「客観性」
一方、明るい話題もあります。DeNAの社内ベンチャー制度から生まれた「スマート修繕」を運営するスタートアップが、見積もり査定や工事会社の選定支援で人気を集めていると報じられました(出典:日経クロステック「DeNA系ベンチャーが参入、不正見抜く『スマート修繕』」)。
私は施工会社の立場ですから、見積もり査定サービスは、ある意味では「お客さまから値引き交渉される入り口」でもあります。それでも、私はこうしたサービスの広がりは、業界にとって明確にプラスだと思っています。理由は3つあります。
ひとつ目。理事会の意思決定の負担が下がります。理事長さまや修繕委員さまの大半は、本業を持っていて、無報酬で組合運営を担っておられます。3社相見積もりを取って、見積項目を1行ずつ突き合わせて、適正かどうかを判断するのは、実務上ほぼ不可能です。客観的な査定が入ることで、理事会の議論は「価格の妥当性」から「自分たちのマンションに何が必要か」に移すことができます。
ふたつ目。利益相反が起きにくい構造ができます。第三者の査定サービスが入ると、特定の業者が極端に高い・低い見積もりを出していれば、それが可視化されます。私の感覚では、第三者の目が入る現場では、最初から不正をしようとする業者は手を引きます。透明性が高いだけで、悪意のあるプレーヤーが現場から消えていく。これはとても健全な動きだと思います。
みっつ目。「適正価格」の社会的なコンセンサスが形成されやすくなります。これまで大規模修繕の単価は、地域・物件・時期によってブラックボックスでした。スマート修繕のような査定サービスが蓄積したデータが業界に共有されることで、「築20年・100戸・首都圏なら戸あたり〜万円」という相場観が、組合側にも私たち施工側にも共有されていきます。
ただし、私はいつも理事長さまに、こうした査定サービスを使う際の注意点を3つだけお話ししています。第一に、査定はあくまで「価格の妥当性」を見るものであって、「工事品質の妥当性」を保証するものではないこと。第二に、価格だけで業者を選ぶと、結果的に工事品質や保証で痛い目を見ることがあること。第三に、査定サービスにも「合う合わない」があるので、複数の選択肢を比較してから入れるべきだということです。
ここからが本題です。査定サービスを入れる入れないにかかわらず、理事会が自分たちでやっておくべき「自衛策」が5つあります。次のセクションで、私が現場で20年関わってきた立場からまとめます。
5. 理事長が今すべき5つの自衛策——発注プロセスを「ガラス張り」にする
ここからは実務編です。5つの自衛策を、優先順位順に並べます。
自衛策①:利益相反開示シートを「全役員候補」に提出してもらう
理事候補・修繕委員候補に立候補する段階で、本人と家族の利害関係を申告するシートを書いてもらいます。書式は1枚で十分です。記載項目の例は次のとおりです。
第一に、本人または家族が、建設業・不動産業・管理業に関わる仕事をしているか。第二に、過去5年以内に、当該マンションの建設・管理・修繕に関わった事業者と取引や関係があったか。第三に、本人または家族が、当該マンションの住戸取得時に「投資目的」を主目的としていたか。
私の経験上、このシートの最大の効果は、提出された情報を細かく審査することよりも、「申告した/していなかった」という事実そのものを記録に残すことです。万が一あとから問題が起きた場合、組合は「ルールに沿った手続きを踏んでいた」と説明できます。組合員1戸あたりにすれば、たった1枚の紙ですが、戸数100戸のマンションなら100枚分の自衛策になります。
自衛策②:見積もり仕様書を「組合主導」で作る
私は理事長さまから「3社見積もりを取りたい」と言われた時、必ず確認することがあります。「では、見積もりの仕様書はどなたが作りますか?」という質問です。
仕様書を作る人が、実は最も発注プロセスへの影響力を持ちます。仕様書に「○○工法」「○○メーカー材料」と書き込まれていれば、そのメーカー・工法を扱える業者しか入札できません。逆に、仕様書がふわっとしていれば、各社の提案がバラバラになり、見積もり比較自体ができなくなります。
私の現場では、組合の側で「外壁の何㎡をこの仕様で」「防水の何㎡をこの仕様で」と明示した仕様書を作っていただき、私たちはそれに沿って金額を入れる、という流れを基本にしています。仕様書を組合主導で作るためには、設計監理者(コンサルタント)の選定が肝になります。
国土交通省が公表しているマンション大規模修繕工事に関する実態調査でも、設計監理方式の採用率が一定割合あり、組合の意思決定支援としての設計監理の重要性が指摘されています(出典:国土交通省「マンション大規模修繕工事に関する実態調査(令和3年度)」)。設計監理者を入れる場合は、その人選そのものを利益相反の対象として開示・採決の対象にする運用を、私はいつも提案しています。
自衛策③:見積もり開封を「公開」する
私が現場で見てきて一番うれしいのは、見積もり開封会を区分所有者に公開しているマンションです。開封会では、3社(または5社)の見積もり封筒を、組合員の見ている前で開けて、各社の総額を発表します。
この運用には3つの効果があります。第一に、組合員に「自分たちの管理組合は透明にやってくれている」という安心感が広がります。第二に、各社の見積もり総額のレンジが組合員にも見えるので、価格交渉の議論が感情論にならず、データに基づいたものになります。第三に、業者側にも「組合員の前で見積もりが開かれる」という緊張感が伝わるので、見積もり段階での甘えがなくなります。
理事長さまに私がいつもお伝えしているのは、「公開開封会を1回やるだけで、その後の運営が驚くほど楽になります」ということです。
自衛策④:第三者査定または相見積もり比較表を、総会前に必ず提示
戸数100戸のマンションで、大規模修繕の総額が1億円を超えるケースは珍しくありません。1戸あたり100万円の判断を、組合員に総会で求めるわけです。説明資料の質が、可決・否決の分かれ目になります。
私の経験上、説明資料に欠かせないのは次の3点です。
第一に、見積もり比較表。各社の見積金額を、項目ごとに横並びにしたシンプルな表です。総額だけでなく、足場工事費・外壁塗装費・防水工事費・シーリング工事費・諸経費の主要項目別に並べます。
第二に、第三者査定(または相場参照)の有無。スマート修繕のようなサービスを使った場合は、その査定結果を別添でつけます。査定を使わない場合でも、過去の自社管理組合の実例や、業界紙の公表値などを参考値として記載します。
第三に、リスク説明。価格の安さだけで業者を選んだ場合に想定される、施工品質・保証・アフターサービスのリスクを、淡々と書き込みます。私はいつも理事長さまに、「リスクを書くことを恐れないでください。書いてあったほうが、組合員からの信頼は上がります」とお伝えしています。
自衛策⑤:契約締結後の「変更契約」プロセスを文書化する
意外と盲点になるのが、契約締結後の追加変更です。私の経験上、利益相反のグレーゾーンが発生しやすいのは、ここです。工事が始まってから「思ったより劣化が進んでいたので、追加工事をしましょう」という話は、必ず出てきます。これ自体は施工上やむを得ない場合が多いのですが、追加金額が大きくなるほど、組合員から見ると「最初の契約はなんだったのか」という不信感が生まれます。
文書化のポイントは3つです。第一に、追加変更が発生した場合の意思決定プロセス(理事会承認か、修繕委員会承認か、追加見積もりの取り方)を事前に決めておくこと。第二に、追加金額が一定額(たとえば総額の5%)を超える場合は、必ず複数業者から見積もりを取り直すルールを置くこと。第三に、追加変更の議事録を、必ず組合員に開示すること。
私は契約書の最初の打ち合わせで、「追加変更が出る前提でルールを決めておきましょう」と理事長さまに必ずお伝えしています。これは私たち施工側にとっても、後から組合とトラブルにならないための共通の安全装置だからです。
6. 第三者査定サービスを「使う場合」と「使わない場合」の判断軸
スマート修繕のような第三者査定サービスを使うかどうかは、管理組合ごとに事情が異なります。私が理事長さまから相談されたときに使っている判断軸を、表でお見せします。
| 判断要素 | 使うべきケース | 使わなくても回るケース |
|---|---|---|
| 戸数 | 50戸以上で1億円超の工事 | 50戸未満で総額が小さい |
| 過去の修繕履歴 | 過去の見積もりに不透明な経緯がある | 過去の修繕が組合員から信頼されている |
| 設計監理者の有無 | 設計監理者がいないor選任に懸念 | 信頼できる設計監理者がすでにいる |
| 理事会の経験値 | 初めての大規模修繕、修繕委員も初めて | 過去に複数回経験している |
| 業者からの提案の妥当性に不安があるか | 不安がある | 不安はないが念のため確認したい |
私はいつも理事長さまに、「査定サービスは、設計監理者の代わりではなく、設計監理者の作業を補強するもの、と理解してください」とお伝えしています。査定サービスが見ているのは主に「価格の妥当性」であって、「工事仕様の妥当性」「現場管理の妥当性」「アフターサービスの妥当性」は、別の専門家の目が必要です。
正直に申し上げます。私は施工会社の経営者ですが、第三者査定サービスを否定したことは一度もありません。むしろ、複数のプロの目が入ったうえで選ばれる現場のほうが、施工側もやりがいがあります。理由はシンプルで、「価格だけで選ばれた現場」は、施工品質に投資する余地が小さく、結果的にお客さまに迷惑をかけるからです。
7. 「足場」と「ロープアクセス」の選択肢を持つことが、利益相反対策にもなる
少しだけ自社の話をさせてください。私は株式会社明誠で、通常の足場工法とロープアクセス工法、そして両者を組み合わせたハイブリッド工法の、3つの工法を提案できる体制を作ってきました。これは、利益相反対策とも密接に関係しています。
なぜか。1工法しか提案できない業者は、「自社が得意な工法に持ち込むためのプレゼン」をしがちです。たとえば、足場会社は「足場工法が最適です」と必ず言うし、ロープアクセス専業会社は「ロープでやれば工費が下がります」と必ず言います。これは利益相反というよりも、能力の偏りに起因する「無自覚なバイアス」です。
理事長さまの立場では、業者の説明が偏っていることが、最初は分かりません。だからこそ、「複数の工法を比較できる業者を入れる」「複数の工法を扱える業者を相見積もりに混ぜる」ことが、結果的に利益相反対策になります。明誠が提供しているのは、その「工法選択の比較軸」そのものなのです。
具体的な工法選択の例については、自社サービス紹介として、ロープアクセス工法のご紹介、大規模修繕工事のご紹介もあわせてご覧ください。理事会の資料に組み込んでいただいても結構です。
ここで利益相反の話に戻ります。組合員の前で工法ごとのメリット・デメリットを並べて説明できれば、「なぜこの工法を選んだのか」が議事録に残ります。逆に、1工法しか提示されないまま採決された案件は、後から「他の選択肢はなかったのか」と問題化しやすい。私の経験上、これは大規模修繕に限らず、組合運営全般に当てはまる教訓です。
8. 修繕積立金との関係——透明な発注プロセスは、値上げ議論を救う
大規模修繕の不正・利益相反リスクは、修繕積立金の議論とも切り離せません。国土交通省は2024年に「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」を改訂し、長期修繕計画の見直し頻度や、修繕積立金の段階増額の考え方を整理しています(出典:国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」)。
私はいつも理事長さまに、「修繕積立金の値上げは、組合員にとって最もシビアな議論です。だからこそ、過去の修繕工事の発注プロセスが透明であったかどうかが、値上げの説得力を左右します」とお話ししています。
具体的には、こういうことです。値上げ提案の総会で、組合員から必ず出る質問の1つが「これまでの修繕工事の発注は、本当に適正だったのか」です。ここで答えられないと、議論は一気に紛糾します。逆に、過去5年の修繕工事について、「見積もり比較表」「公開開封会の議事録」「第三者査定の結果」「追加変更の経緯」が整理されていれば、値上げ議論は驚くほどスムーズに進みます。
戸あたりで考えると分かりやすいです。100戸のマンションで月額1,000円の値上げは、組合全体で年120万円の追加収入になります。10年で1,200万円。これは中規模工事1件分の予算規模です。値上げ議論の出口は、過去の発注プロセスの透明性にかかっている、と言っても言い過ぎではありません。
9. 私が現場で見てきた「不正が起きないマンション」の共通点5つ
20年近く現場をやってきて、私が「このマンションは大丈夫だな」と感じる組合には、共通点があります。5つだけ挙げます。
第一に、理事長と修繕委員長が別の人になっている。1人に意思決定が集中していないので、自然に相互チェックが効きます。
第二に、議事録が組合員に毎月配信されている。配信方法はメール・掲示板・郵送のどれでも構いません。とにかく「誰が何を発言したか」が共有されていることが大事です。
第三に、業者の現場担当者と組合の窓口が、必ず2人以上で会っている。1対1の打ち合わせを避けるだけで、グレーゾーンの会話が起きにくくなります。
第四に、複数年契約・複数年保証の縛りを、根拠を持って判断している。「とりあえず5年保証」「とりあえず10年契約」ではなく、「なぜこの年数か」を議事録に残しているということです。
第五に、組合員向けの説明会を、総会以外に最低1回開いている。総会だけだと議題が多すぎて深い議論ができません。修繕工事のテーマだけで1時間時間を取る勉強会を、総会の3カ月前に開いている組合は、ほぼ間違いなく不正リスクが低い印象です。
10. 業界が向かっている方向——「透明な発注」が標準になる時代
最後に、業界の見立てを少しだけお伝えします。私はこれを、現場の感覚と、業界紙の報道、そして公的資料の動向から読み解いています。
ひとつ目。第三者査定サービスは、今後さらに広がります。スマート修繕のような事業者だけでなく、設計監理会社、専門家団体、自治体の窓口など、複数のプレーヤーが「査定機能」を提供する流れが続くと見ています。
ふたつ目。利益相反開示は、標準管理規約のレベルでさらに強化されていくと予想されます。国土交通省の動きを見ていると、マンション管理組合のガバナンス強化は、政策の優先順位として高いまま推移しています(出典:国土交通省「マンション管理に関する施策」)。
みっつ目。施工会社側のコンプライアンス対応が、選定基準として明示される時代になります。これまでは「価格」「工期」「実績」が3大選定軸でしたが、ここに「コンプライアンス体制」「情報開示の姿勢」が加わります。
私は、この流れを歓迎しています。透明な発注プロセスが標準になることで、現場で本当に良い仕事をしている業者が、正しく評価される時代がやってきます。私たち明誠も、その流れに沿って「ガラス張りの見積もり」「ガラス張りの工程管理」「ガラス張りのアフターサービス」を続けていきます。
まとめ:理事長さまに今すぐ持ち帰っていただきたい3つのこと
長くなりましたので、最後に3つだけ持ち帰っていただきたいことをまとめます。
第一に、利益相反は「悪意ある人だけの問題」ではない。理事候補全員から開示シートを取る運用を、次の総会から始めてください。1枚の紙でできる自衛策です。
第二に、見積もりプロセスは「ガラス張り」にする。仕様書を組合主導で作り、相見積もりを取り、開封会を組合員に公開し、議事録に残す。この4ステップだけで、不正リスクは大きく下がります。
第三に、第三者の目を入れることに、構えなくていい。設計監理者でも、第三者査定サービスでも、信頼できる施工会社のセカンドオピニオンでも構いません。1人で判断しないことが、理事長さまご自身を守ります。
これは私が現場で20年見てきた、嘘偽りのない感想です。今回のニュースを「他人事」ではなく「自分のマンションの点検のきっかけ」として活かしていただければ、業界全体にとっても大きな前進だと思います。
ご相談だけでも遠慮なくお声がけください。総会の前段階の整理だけでも、お力になれることがあります。次回も、現場で本当に使える話だけをお届けします。
出典・参考資料
- 日経クロステック「都内タワマン修繕で利益誘導か、理事に就任『疑惑の人物』の正体」(2026年5月13日)
- 日経クロステック「DeNA系ベンチャーが参入、不正見抜く『スマート修繕』」(2026年5月13日)
- 国土交通省「マンション標準管理規約(単棟型)」
- 国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」
- 国土交通省「マンション大規模修繕工事に関する実態調査(令和3年度)」
- 国土交通省「マンション管理に関する施策」
- 公益財団法人マンション管理センター「マンション管理組合運営支援」
- 株式会社明誠「ロープアクセス工法のご紹介」
- 株式会社明誠「大規模修繕工事のご紹介」
- 株式会社明誠「お問合せフォーム」
※本記事の情報は2026年5月15日時点のものです。最新の制度・規約・統計情報については、各引用先の最新公表資料をご確認ください。本記事は、特定の管理組合・施工会社・査定サービスを推奨または批判する目的のものではなく、報道されている事実関係をもとに、管理組合運営の一般的なリスク管理について整理したものです。


