大規模修繕はロープアクセスが提案可能な東京の明誠へ

創業から6000棟超の施工実績

ホテルの大規模修繕は「客室を止めない」で決まる|稼働率56.2%・ADR過去最高の2026年、機会損失から逆算する無足場という選択【2026年8月】

ホテルの大規模修繕は「客室を止めない」で決まる|稼働率56.2%・ADR過去最高の2026年、機会損失から逆算する無足場という選択【2026年8月】

2026年8月24日 更新

この記事で答える質問:ホテルの大規模修繕で、工事費より大きくなり得る「見えないコスト」は何で、それをいくらまで減らせるのか?

答えを先に書きます。それは「工事のあいだ売れなくなった客室の売上」、いわゆる機会損失です。そして、150室クラスのビジネスホテルであれば、この機会損失は工法の選び方次第で1面あたり2,000万円規模動きます。工事費の値引き交渉で削れる額よりも、はるかに大きい。私が20年近くこの業界にいて、ホテルのオーナーさまと最初に共有するのは、いつもこの話です。

先日、宿泊業界の分析メディアが「地方中核都市のホテル客室のうち、相当割合が1990年代以前の開業である」という趣旨のストック分析を公表していました(民間分析、2026年8月)。数字の細部は各社の集計定義によりますが、「日本のホテルストックは、いま一斉に大規模修繕の適齢期に入っている」という方向性は、現場の実感と一致します。築30年前後というのは、外壁のタイル・塗膜・シーリング・屋上防水が、そろって二巡目に入る時期だからです。

一方で、2026年のホテル経営は「休館して直す」ことがきわめて難しい局面にあります。理由は後述しますが、端的に言えば、1室1泊あたりの単価が過去最高圏にあるからです。止めれば止めただけ、直接的に売上が消えます。

この記事では、公的な一次情報をもとに、ホテル・旅館の大規模修繕を「工事費」ではなく「総コスト(工事費+機会損失)」で考える方法を整理します。マンションの管理組合さま向けの記事とは前提が違いますので、収益不動産としてホテル・宿泊施設・テナントビルをお持ちのオーナーさま、運営会社の施設担当さまに読んでいただきたい内容です。


結論:ホテル改修の総コストは「工事費+止めた客室の売上」。削るべきは後者

先に結論を表にします。

比較軸 一般的な発想 本記事が提案する発想
何を最小化するか 工事費(見積書の総額) 総コスト=工事費+機会損失+クレーム対応コスト
相見積りで見る点 単価と値引き率 仮設計画(何室・何日止まるか)
工法の決め方 「大規模修繕=足場」で自動決定 建物形状・稼働カレンダー・工事範囲から逆算
工期の置き方 業者の空き状況で決まる 稼働率の谷(閑散期)に合わせて先に押さえる
成功の指標 予算内に収まったか 工事期間中のRevPAR(客室単価×稼働率=1室あたり収益)をどれだけ守れたか

ここが本題です。工事費は、相見積りを取っても現実的に削れるのは数%です。ところが機会損失は、仮設計画を変えるだけで半分以下になることがあります。足場を架けるかどうか、架けるとしてどの面に架けるか、そもそも架けずに済ませられる工種はどれか。この設計は、契約前にしか決められません。

私はいつもオーナーさまに、「見積書の金額より先に、仮設計画図と工程表を出させてください」とお伝えしています。金額は交渉できますが、止まった客室は戻ってこないからです。

そして、この「止めない」を可能にする選択肢のひとつが、ロープアクセス工法(無足場工法)です。産業用ロープで作業員が壁面を上下しながら調査・補修・塗装・シーリングを行う工法で、足場を架設しないため、窓が塞がる期間も、共用部が使えなくなる期間も、原理的に生じません。ロープアクセス工法の技術情報や安全基準の一般的な解説は、姉妹サイトのロープアクセスドットコムにまとめています。


2026年のホテル経営環境を、公的統計で確認する

感覚論にしないために、まず数字を押さえます。

客室稼働率と延べ宿泊者数(観光庁)

観光庁の「宿泊旅行統計調査」(2026年5月・第2次速報、2026年6月・第1次速報)によれば、直近の数字は次のとおりです(出典:観光庁 宿泊旅行統計調査(令和8年5月・第2次速報、令和8年6月・第1次速報))。

指標 2026年5月 2026年6月
延べ宿泊者数(全体) 5,429万人泊(前年同月比 -3.2%) 4,678万人泊(前年同月比 -6.5%)
うち日本人 3,978万人泊(-0.9%) 3,426万人泊(-4.4%)
うち外国人 1,451万人泊(-9.0%) 1,251万人泊(-11.9%)
客室稼働率(全体) 61.0% 56.2%

なお同調査は、統計精度向上のため令和8年1月分調査から層化基準を「従業者数」から「客室数」へ変更しており、観光庁自身が「対前年比・対前年差には見直しの影響が含まれている可能性がある点に留意」と注記しています。前年比の減少幅をそのまま「需要が減った」と読むのは早計です。ここは正直に申し上げておきます。

それでも、客室稼働率が全体で56〜61%というレンジにあるという事実は動きません。これは「4割前後の客室は、そもそも毎晩空いている」という意味でもあります。後で述べますが、この空き枠の存在こそが、工事計画を組むうえでの余地になります。

客室単価(ADR)は過去最高圏

一方で単価です。民間の宿泊市場分析であるホテルバンクの集計によれば、2026年5月の全国平均ADR(Average Daily Rate=1室あたりの平均販売単価)は32,340円で、月次の過去最高を更新したと報じられています。なおこのADRは予約サイト等で公開されている販売価格(2名1室・税込・全プラン平均)の平均値であり、実際の成約単価とは異なります。業態別では、旅館が33,086円、リゾートホテルが46,167円、ビジネスホテルが15,441円という水準です(出典:HotelBank「全国平均ADR¥32,340で過去最高更新(2026年5月)」/民間集計であり、公的統計ではない点にご留意ください)。

つまり2026年のホテルは、「稼働率は6割前後だが、売れた1室あたりの単価は過去最高」という構造にあります。この構造下で客室を止めるということは、いちばん高く売れる商品を棚から下ろすのと同じです。

施設数そのものも増えている

厚生労働省の「令和6年度衛生行政報告例」では、旅館業の施設数は98,338施設(前年度比5.2%増)、うち旅館・ホテル営業が52,946施設(同3.7%増)、簡易宿所営業が44,901施設(同7.1%増)と報告されています(出典:e-Stat 衛生行政報告例 旅館・ホテル営業の施設数・客室数)。供給が増えている市場では、施設の見た目と快適性がそのまま選ばれる理由になります。外壁の汚れ、シーリングの黒ずみ、バルコニーの錆——予約サイトの写真とクチコミに、想像以上に効きます。


「止めた客室」はいくらになるのか——機会損失の試算

ここからが本題です。実際に金額にしてみます。

前提条件

  • 対象:客室150室のビジネスホテル(東京近郊、地上10階、築28年)
  • ADR:15,000円(前掲のビジネスホテル平均15,441円を丸めた保守的な想定)
  • 稼働率:56.2%(前掲の2026年6月・全体の全国平均。実際にはビジネスホテルの客室稼働率は全体平均より高い水準で推移しているため、本試算は機会損失を控えめに見積もった前提です)
  • 工事:外壁補修+塗装+シーリング打替え+バルコニー防水

ケースA:足場を架け、面ごとに客室を販売停止する

外壁の1面に足場を架けると、その面の客室は窓が塞がり、騒音・振動・粉じん・のぞき見リスクが発生します。実務では、その面の客室を販売停止にするか、大幅な値引きで売るかの二択になります。

1面に面する客室を40室、その面の工事期間を60日とすると——

40室 × 60日 × 15,000円 × 56.2% = 20,232,000円

1面あたり、約2,020万円の売上が消える計算です。4面すべてを順に施工すれば工期は延びますし、角部屋は二重に影響を受けます。もちろん工程は重ねられますが、「足場を架けた面の客室は、その期間ほぼ売り物にならない」という関係は変わりません。

ケースB:足場を架け、全館を値引き販売でしのぐ

販売停止せず、「工事中につき」として全客室を1割引で販売し、工期を120日とすると——

150室 × 120日 × 15,000円 × 56.2% × 10% = 15,174,000円

約1,520万円の値引き原資が必要になります。しかもこれは「1割引なら売れる」と仮定した場合の数字で、実際にはクチコミ評価の低下という、工事後まで尾を引くコストが上乗せされます。

ケースC:ロープアクセス工法で、客室を止めずに施工する

ロープアクセス工法では足場を架設しないため、窓が長期間塞がることがありません。作業員が1本の作業ロープと1本のライフラインで壁面を降下しながら施工するため、1つの客室の窓前を作業員が通過する時間は、その日のうちの数十分から数時間です。

もちろんゼロにはなりません。カーテンを閉めていただくお願い、作業時間帯の調整(チェックアウト後からチェックイン前に集中させる等)、上層階の一部について当日限りの販売調整——こうした運用は必要です。それでも、「60日間まるごと止める」と「その日の午前中だけ配慮いただく」では、機会損失の桁が変わります。

私の実務感覚では、同じ工事範囲であれば、機会損失はケースAの1〜2割程度まで圧縮できることが多いです。ここは物件ごとに条件が違うので断言はしませんが、少なくとも「工事費の差」より「機会損失の差」のほうが大きくなるケースは、決して珍しくありません。

3ケースの比較

ケース 仮設方法 客室影響 概算の機会損失
A 全面足場・面別に販売停止 1面40室 × 60日 約2,020万円/面
B 全面足場・全館1割引で販売継続 150室 × 120日 約1,520万円+評価低下
C ロープアクセス(無足場) 当日・時間帯単位の運用調整 A比で大幅圧縮(物件条件による)

※上記はいずれも本記事の前提条件に基づく試算例であり、実際の金額は建物形状・立地・工事範囲・稼働状況により大きく異なります。


なぜホテルは「足場を架けた瞬間」に損をするのか——5つの経路

機会損失は、客室の販売停止だけではありません。私が現場で見てきた「損の出口」は、少なくとも5つあります。

  1. 客室の販売停止・値引き:前章のとおり。最も大きく、最も見えやすい。
  2. クチコミ評価の低下:「工事中と知らされていなかった」という書き込みは、工事が終わっても半年以上残ります。予約サイトのスコアがわずかに下がるだけでも表示順位や成約率に響く、というのが私が現場で聞いてきた運営側の実感です(公表された統計値ではありません)。
  3. エントランス・車寄せの動線悪化:足場の乗入れ構台(トラックが敷地内に入るための仮設の橋)や資材置き場で、車寄せが使えなくなる期間が生じます。送迎バスや宅配、宴会の搬入にも影響します。
  4. 宴会・レストラン部門の売上減:外を見せる想定の会場に足場が架かると、婚礼や法人宴会のキャンセル・延期が起こります。宿泊部門より単価が高い分、打撃が大きい。
  5. 防犯・保安対応の増加:足場は不審者の侵入経路になり得ます。夜間警備の増強、防犯カメラの仮設、養生シートの管理——目立ちませんが、確実に費用が乗ります。

このうち3〜5は見積書に載りません。だからこそ、発注段階では「工事費が安いほう」に見えてしまうのです。私が一番悔しい思いをするのは、工事が始まってからオーナーさまが「こんなに客室が止まるとは聞いていなかった」とおっしゃる場面です。契約前に一言、仮設計画を確認していただければ防げた話が、あまりにも多い。


法律が求めているのは「調査」——建築基準法第12条とホテルの定期報告

ここで、避けて通れない法的な話をします。ホテル・旅館は、建築基準法上の特殊建築物にあたり、定期報告の対象になります。

定期報告制度の枠組み

建築基準法に基づく定期報告制度は、建築基準法の一部を改正する法律(平成26年法律第54号)により見直され、平成28年6月1日から新たな制度が施行されています。国土交通省は制度の背景として、福山市のホテル火災、長崎市のグループホーム火災、福岡市の診療所火災など、多数の死者を出した火災事故を挙げています(出典:国土交通省「建築基準法に基づく定期報告制度について」)。

調査項目・方法・判定基準は、平成20年3月10日国土交通省告示第282号で定められています。同告示はその後も改正が続いており、直近では令和6年国土交通省告示第974号(令和6年6月28日公布・令和7年7月1日施行)、令和7年国土交通省告示第53号(令和7年1月29日公布・令和7年7月1日施行)が公布されています。

外壁の全面打診は「10年に一度」

実務上いちばん重いのが、外壁の調査です。外壁のタイル張り・モルタル塗り等については、おおむね6か月から3年以内に一度の「手の届く範囲の打診等」に加え、おおむね10年に一度、落下により歩行者等に危害を加えるおそれのある部分の「全面的な打診等」が求められています。実務上は、竣工または外壁改修等から10年を超え、かつ直近3年以内に全面打診等を行っていない場合に、その回の調査で全面打診等が必要になる形です(参考:国土交通省「定期報告制度における外壁のタイル等の調査について」)。

なお、この「全面打診」の代替手段としての赤外線調査・ドローン(無人航空機)の位置づけは、2022年(令和4年)1月18日公布・同年4月1日施行の告示改正(令和4年国土交通省告示第110号による平成20年国土交通省告示第282号の一部改正)で明確化され、あわせて一般財団法人日本建築防災協会の赤外線調査ガイドラインが示されています(出典:国土交通省「定期報告制度における外壁のタイル等の調査について」)。この論点は先日の記事「「10年に一度の外壁全面打診」は足場なしで乗り切れるか」で詳しく扱っていますので、あわせてご覧ください。

ホテルの報告頻度は「毎年」か「3年ごと」

報告時期は特定行政庁が定めます。東京都の場合、旅館・ホテルの用途では、3階以上の階にその用途に供する部分(床面積の合計100㎡超)があり、かつ当該用途に供する部分の床面積の合計が2,000㎡を超えるものは毎年(報告時期は11月1日から翌年1月31日)、それ以外で3階以上の階にその用途部分があるもの等は3年ごと(報告時期は5月1日から10月31日)の調査・報告が求められています(出典:東京都都市整備局「定期報告対象建築物・建築設備等及び報告時期一覧」)。基準は自治体ごとに異なりますので、所在地の特定行政庁の一覧であわせてご確認ください。

ここで押さえていただきたいのは、「法律が求めているのは調査であって、足場ではない」という一点です。足場は、調査や補修を行うための手段のひとつにすぎません。手段が目的化した瞬間に、前章の機会損失が発生します。


3つの工法を、ホテルの条件で比べる

株式会社明誠では、通常足場工法・ロープアクセス工法(無足場工法)・ハイブリッド工法の3つを、建物の条件から選び分けてご提案しています。ホテル・宿泊施設という用途に絞って比較すると、次のようになります。

比較項目 通常足場工法 ロープアクセス工法(無足場) ハイブリッド工法
仮設の架設・解体期間 必要(規模により2〜4週間程度) 不要 部分的に必要
客室の窓が塞がる期間 面ごとに数十日単位 実質的に発生しない 足場面のみ発生
車寄せ・エントランスへの影響 乗入れ構台・資材置場で影響大 小さい 限定的
施工できる工種の範囲 ほぼ全て(大面積の張替え等も可) 調査・補修・塗装・シーリング・防水の多くに対応 全工種を最適配分
大面積のタイル全面張替え 適する 不向きな場合がある 該当面のみ足場
天候による中断 比較的少ない 強風時は中止(安全最優先) 面により分散可能
防犯上のリスク 侵入経路になり得る 夜間に構造物が残らない 足場面のみ管理
近隣・道路占用 発生しやすい 少ない 限定的
向いている建物 低層・複雑形状・全面改修 中高層・単純形状・部分補修・営業継続必須 大規模・部位ごとに条件が違う建物

ハイブリッド工法というのは、たとえば「タイルの劣化が集中している北面だけ足場を架け、残り3面はロープアクセスで進める」「1〜2階の低層部だけ足場、3階以上はロープ」といった配分の仕方です。私はこれを、ホテルのご相談では常に選択肢のひとつとしてお出しするようにしています。「全面足場か、全面ロープか」の二択にした瞬間に、最適解を逃すからです。

大規模修繕全体の考え方については大規模修繕工事のご紹介を、ロープアクセス工法の施工範囲や体制についてはロープアクセス工法のご紹介をご覧ください。


ロープアクセスが向くホテル・向かないホテル(両論併記)

自社の工法だからといって、万能だとは申し上げません。正直に、向き不向きを書きます。

向いているケース

  • 営業を止められない(通年稼働、団体・法人契約がある、宴会場を持つ)
  • 中高層(5階以上。高さがあるほど足場費と架設期間の削減効果が大きい)
  • 敷地に余裕がない(隣地が迫っている、前面道路が狭い、車寄せが動線の要)
  • 工事範囲が調査・部分補修・塗装・シーリング・シール打替え中心
  • 足場が架けにくい形状(セットバック=上階が後退している形、円弧状の外壁、庇の張り出し、吹き抜けのアトリウム)
  • 繁忙期に工期がかかってしまう(閑散期の短期集中で終わらせたい)

向かないケース・注意が必要なケース

  • 外壁タイルの大面積張替えや、下地からの大規模なはつり補修(傷んだコンクリートを削り取って直す工事)が必要な場合。作業量が多く、資材の揚重(クレーン等で資材を上げ下ろしすること)が伴う工種は、足場のほうが合理的です。
  • 屋上に十分な支持点が確保できない建物。ロープを緊結する堅固な支持物が取れないと成立しません。事前調査の段階で確認します。
  • 強風地域・高層階での長期工程。安全のため、風速基準を超えれば作業は中止します。工程に天候予備日を織り込む必要があります。
  • 足場を利用した他工事(サッシ交換、外断熱、窓リノベ)を同時に行いたい場合。足場を共用したほうが総額は下がります。

つまり、判断軸は「どちらが優れているか」ではなく、「この建物の、この工事範囲で、どちらが総コストを下げるか」です。ロープアクセス工法の一般的な安全基準や適用事例については、ロープアクセスドットコムでも整理しています。

安全の裏付けは法令にある

ロープアクセスは「命綱一本の危険な作業」というイメージを持たれることがありますが、日本では法令上の枠組みが整備されています。労働安全衛生規則第539条の2から第539条の9に「ロープ高所作業」の規定が置かれ、平成28年1月1日から施行されています(従事者の特別教育を義務づける同規則第36条第40号は平成28年7月1日施行)。作業計画の作成、ライフライン(主となるロープとは別の墜落制止用ロープ)の設置、十分な強度を有し損傷のないロープの使用、堅固な支持物への緊結、要求性能墜落制止用器具の使用などが義務づけられ、従事者には特別教育が必要です(出典:厚生労働省「ロープ高所作業における危険の防止」関係資料安全衛生情報センター「ロープ高所作業における危険の防止を図るための労働安全衛生規則の一部を改正する省令等の施行について」)。

発注者としてご確認いただきたいのは、この特別教育の修了証と、作業計画書、そしてライフラインの二重化です。この3点を出せない業者には、私はホテルの壁面をお任せしません。


発注前に決めておきたい7項目——ホテル版チェックリスト

理事会のないホテルでは、意思決定が早い分、確認漏れも起きやすくなります。契約前にこれだけは、という7項目を挙げます。

  1. 仮設計画図と工程表を、見積書と同時に出させる。「何面に、何日、何が架かるか」を図で確認する。
  2. 販売停止・値引きが必要な客室数と日数を、業者に書面で出させる。口頭の「ほとんど影響ありません」は根拠になりません。
  3. 稼働カレンダーを先に渡す。繁忙日・団体予約・宴会予定を共有したうえで工程を組ませる。
  4. 足場を使う工種と、使わなくてよい工種を仕分ける。すべてを同じ仮設で括らない。
  5. 緊急時の対応体制を確認する。漏水や剥落が発生したとき、何時間で人が来られるか。
  6. 法定調査(建築基準法第12条)と修繕工事の関係を整理する。調査と補修を別発注にするか、一体にするかで総額が変わります。
  7. 保険と資格の確認。請負業者賠償責任保険の付保状況、ロープ高所作業特別教育の修了状況、施工体制台帳。

このうち2番が、いちばん効きます。「止まる客室数 × 日数 × ADR × 稼働率」という一行の計算式を、契約前に業者と共有する。それだけで、提案の中身が変わります。


工期をどこに置くか——稼働の谷を読む

前掲の観光庁統計を月別に並べると、宿泊需要には明確な波があります。2026年の数字では、5月が延べ5,429万人泊・稼働率61.0%であるのに対し、6月は4,678万人泊・稼働率56.2%と、1か月で約750万人泊、稼働率で4.8ポイント落ちています(出典:観光庁 宿泊旅行統計調査)。

一般に、日本の宿泊需要は6月と1〜2月に谷が来ます。ここに工期を置けるかどうかで、機会損失は大きく変わります。ところが、この時期は施工会社にとっても閑散期ではありません。マンションの大規模修繕も同じ時期を狙うため、良い職人から先に埋まります。

私はホテルのオーナーさまには、「工事の1年前から動いてください」とお伝えしています。理由は3つです。

  • 閑散期の工程は、半年前には埋まり始める
  • 調査(外壁打診・赤外線・散水試験)に、実質1〜2か月かかる
  • 調査結果が出てからでないと、正しい工事範囲と金額が決まらない

逆に言えば、「見積りだけ先に」というご依頼が、いちばん危ないのです。調査なしの見積りは、たいてい「予備費」という名の不確実性を含んでいます。それが後の増額につながります。


待つほど高くなる——建築補修の物価は上がり続けている

「もう1年待とうか」というご相談を、毎月のように受けます。気持ちはよく分かります。ただ、数字は待つことに厳しい。

一般財団法人建設物価調査会の「建設物価 建設資材物価指数」(東京・2015年平均=100)では、建築補修の指数は2026年7月分で146.2、前年同月比+4.6%の上昇と報告されています。別系列の「建設物価 建築費指数」(東京・同基準)では、集合住宅(鉄筋コンクリート造)の工事原価が2026年7月分で146.5、事務所(鉄骨造)が145.3という水準です(参考:建設物価 建設資材物価指数建設物価 建築費指数)。

年4〜5%というのは、1億円の工事なら1年で400〜500万円という意味です。これに加えて、2026年は資金調達環境も変わりました。金利上昇が修繕資金に与える影響については、「大規模修繕の資金は「金利」で目減りする時代へ」で整理しています。工事費そのものの高騰については「大規模修繕の費用高騰は、賃料上昇では埋まらない」もあわせてご覧ください。

つまり、「待つ」という判断には、①物価上昇、②劣化進行による工事範囲の拡大、③金利、という3つのコストが乗ります。このうち②がいちばん怖い。タイルの浮きは、放置すれば広がっていきます。シーリングの破断から入った水は、鉄筋を錆びさせ、爆裂を起こし、外壁の一部を落とします。外壁は「そのうち直す」が効かない部位です。


調査から着工までの流れ——ホテルの場合の標準スケジュール

「いつから動けばいいか」というご質問が多いので、標準的な流れを表にしておきます。私どもが実際にホテル案件でお預かりするときの目安です。

段階 内容 目安期間 発注者側でやること
① 現地確認 外観目視、図面確認、屋上の支持点確認 1〜2日 竣工図・過去の修繕履歴の用意
② 劣化調査 外壁打診・赤外線調査・散水試験・防水層の確認 2週間〜1か月 調査日の客室・共用部の調整
③ 調査報告と工事範囲の確定 劣化図の作成、工種と数量の確定 2週間 予算枠の確認
④ 工法比較と仮設計画 足場/ロープ/ハイブリッドの比較資料、機会損失試算 1〜2週間 稼働カレンダーの提供
⑤ 見積り・契約 内訳明細、工程表、施工体制の確認 2〜4週間 保険・資格・体制台帳の確認
⑥ 着工準備 近隣説明、宿泊者への告知文、作業計画書 2週間 予約サイトへの掲載文の調整
⑦ 施工 工事範囲・工法により変動 1〜5か月 週次の進捗確認

①から⑥までで、順調に進んでもおよそ3〜4か月かかります。閑散期に施工したいのであれば、その半年から1年前に①を始めておくのが安全です。

宿泊者への告知文は、業者ではなくホテル側の資産です

意外に見落とされるのが、⑥の「宿泊者への告知文」です。予約サイトの施設説明欄や予約確認メールに、工事の期間・時間帯・影響範囲を書いておくかどうかで、クチコミの内容がまるで違ってきます。

「工事をしている」ことがマイナスなのではありません。「聞いていなかった」がマイナスなのです。むしろ「客室を止めずに外壁の改修を進めています。ご滞在中はご不便をおかけします」と先に伝えたホテルで、「きちんと手入れをしている施設だ」という趣旨の書き込みがついたことが何度もあります。改修は、伝え方次第で信頼の材料になります。


テナントビル・賃貸マンションでも、同じ計算が成り立つ

ここまでホテルを例に書いてきましたが、この「総コスト=工事費+機会損失」という考え方は、収益不動産全般に当てはまります。

オフィスビルの場合

三菱地所リアルエステートサービスの調査によれば、東京主要7区(千代田・中央・港・新宿・渋谷・品川・江東)の大型オフィスビル(延床3,000坪以上)の空室率は、即日入居可能な区画に限れば2026年5月末時点で1.14%、募集中の全区画を対象とした潜在空室率でも2.38%という水準です(出典:三菱地所リアルエステートサービス「東京オフィスマーケット動向 空室率・平均募集賃料調査」/民間調査)。空室率が1%台というのは、「空けたら埋まらない」ではなく「空けている余裕がない」市場という意味です。

オフィスビルで足場を架ければ、テナントからは「窓が塞がる」「日照が落ちる」「防犯が不安」というクレームが来ます。賃料の減額請求に発展することもあります。テナントビルにおける機会損失は、賃料減額と、更新時の退去リスクという形で表れます。

賃貸マンションの場合

賃貸マンションでは、機会損失は次の3つで表れます。

  1. 工事期間中の内見・成約の減少(足場と養生シートがあると、内見のキャンセル率が上がります)
  2. 既存入居者からの賃料減額請求・クレーム
  3. 退去の増加(特に単身者向けは、更新のタイミングと工事が重なると効きます)

賃貸マンションの空室対策と修繕の関係については、「大規模修繕の費用高騰は、賃料上昇では埋まらない」でも触れています。

共通する判断軸

用途が違っても、判断軸は同じ3つです。

判断軸 確認すること
止まる収益 何室・何区画が、何日、いくら分止まるか
法定義務 建築基準法第12条の定期報告・外壁調査のサイクル
劣化の進行速度 調査結果に基づく、待った場合の工事範囲の広がり

この3つを数字にしてから工法を選べば、「安いほうを選んだつもりが高くついた」という結末は避けられます。


私が現場で見てきたこと

ある地方都市のビジネスホテルで、こんなことがありました。築29年、120室。オーナーさまは「足場を架けて一気に直す」つもりで、すでに他社の見積りをお持ちでした。金額は妥当でした。

私が伺って、まず仮設計画図を見せていただきました。4面に順次足場を架け、総工期は約5か月。そこで、稼働カレンダーを一緒に広げて、止まる客室と日数を数えました。答えは、延べ4,000室泊超。当時のその施設のADRと稼働率で計算すると、3,000万円を超えていました。見積書の総額の、およそ3分の1にあたる額です。

オーナーさまは、しばらく黙っておられました。それから、「その計算、うちの経理も誰もしていなかった」とおっしゃいました。

このとき比べた2案を、数字で並べます。

項目 当初の全面足場案 採用したハイブリッド案
仮設 4面に順次足場 1面のみ足場、3面+塔屋はロープアクセス
総工期 約5か月 約4か月
販売停止の規模 延べ4,000室泊超 角部屋中心の限定的な範囲
機会損失の概算 3,000万円超 大幅に圧縮
工事費の総額 足場案から劇的な差はなし

最終的にご採用いただいたのは、ハイブリッドでした。タイルの浮きが集中していた1面だけ足場を架け、残りの3面と塔屋(屋上に突き出た階段室・機械室部分)まわりはロープアクセス。工期は約4か月に縮み、販売停止は角部屋を中心とした限定的な範囲にとどまりました。工事費の総額そのものは、足場案から劇的には下がっていません。下がったのは、止めた客室の売上のほうです。

私はこれを、必ずワンセットで提案するようにしています。工事費の見積りと、機会損失の試算を、同じ紙の上に並べて出す。そうしないと、比べるべきものが比べられないからです。

これは私が現場で20年見てきた、嘘偽りのない感想です。次回も、現場で本当に使える話だけをお届けします。


【自社サービスのご案内】明誠がホテル・宿泊施設でできること

※本セクションは当社サービスの紹介です。中立的な情報をお求めの方は読み飛ばしてください。

株式会社明誠は、マンション・ビル・ホテルの大規模修繕工事を手がける改修会社です。通常足場工法・ロープアクセス工法(無足場工法)・ハイブリッド工法の3つを、同じ社内で設計・施工できることを強みにしています。日本で初めてロープアクセス工事のフランチャイズを展開し、塗装・防水・タイル・電気・看板といった各分野の専門職が加盟することで、高品質と適正価格の両立を図っています。

ホテル・宿泊施設については、次のようなご相談を承っています。

  • 建築基準法第12条に基づく外壁全面打診調査(ロープアクセスによる直接打診)
  • 赤外線調査・発光液散水試験による漏水原因の特定
  • 外壁タイル補修・塗装・シーリング(目地に充填する防水材)打替え
  • 屋上・バルコニー・庇の防水改修
  • 看板・サイン・外装金物の点検と補修
  • 上記を営業を継続しながら行うための仮設計画と工程設計

「まず、止まる客室が何室・何日になるかを一緒に数えるところから」で結構です。ご相談だけでも遠慮なくお声がけください。お問合せフォームからご連絡いただければ、現地を拝見したうえで、工法別の比較資料をお出しします。


よくある質問(FAQ)

Q1. ホテルの外壁全面打診は、営業を続けたまま実施できますか?
A. 多くのケースで可能です。建築基準法が求めているのは調査であって足場ではないため、ロープアクセス工法による直接打診で対応できる場合があります。ただし屋上に堅固な支持物が確保できることが前提で、建物形状によっては足場や高所作業車が適する場合もあります。詳しくは本文の「法律が求めているのは『調査』」を参照してください。

Q2. ホテルの定期報告は何年に1回ですか?
A. 特定行政庁が定めます。東京都の場合、旅館・ホテル用途では、3階以上の階にその用途部分(床面積の合計100㎡超)があり、かつ当該用途に供する部分の床面積の合計が2,000㎡を超えるものは毎年(11月1日〜翌年1月31日)、それ以外の一定規模のものは3年ごと(5月1日〜10月31日)とされています(出典:東京都都市整備局)。所在地の自治体の一覧でご確認ください。

Q3. 工事による機会損失は、どう計算すればよいですか?
A. 基本式は「販売停止または値引きの対象となる客室数 × 日数 × ADR × 想定稼働率」です。本文の試算では、150室・ADR15,000円・稼働率56.2%・1面40室・60日という前提で、1面あたり約2,020万円という結果になりました。前提が変われば金額も変わります。

Q4. ロープアクセスは足場より安いのですか?
A. 工事費だけを比べると、必ずしも常に安いとは限りません。中高層で工事範囲が調査・部分補修中心の場合は足場費と架設期間の削減効果が大きく出やすい一方、大面積のタイル張替えなど作業量の多い工種では足場のほうが合理的です。総コスト(工事費+機会損失)で比較することをおすすめします。

Q5. ロープアクセスの安全性はどう担保されているのですか?
A. 労働安全衛生規則第539条の2〜第539条の9(平成28年1月1日施行)により、作業計画の作成、ライフラインの設置、ロープの点検、堅固な支持物への緊結、要求性能墜落制止用器具の使用などが義務づけられ、従事者には特別教育が必要です(出典:安全衛生情報センター)。発注時には特別教育修了証と作業計画書の提示をお求めください。

Q6. 今は稼働が良いので、数年後に工事したいのですが。
A. 判断はオーナーさまのものですが、建築補修の資材物価指数は2026年7月分で前年同月比約4.6%の上昇と報告されており、待つほど工事費は上がる傾向にあります。加えて、外壁の浮きや漏水は放置すると工事範囲そのものが広がります。少なくとも調査だけは先に実施し、劣化の進行速度を把握したうえでご判断されることをおすすめします。


この記事のポイントまとめ

  • ホテル改修の総コストは「工事費+止めた客室の売上」で考える
  • 2026年6月の客室稼働率は56.2%、全国平均ADRは過去最高圏にある
  • 150室・ADR15,000円の前提で、足場1面の販売停止は約2,020万円の機会損失
  • 建築基準法が求めるのは「調査」であって「足場」ではない
  • 外壁全面打診は竣工・外壁改修から10年経過後の最初の調査で必要
  • 東京都のホテルは規模により毎年または3年ごとの定期報告対象
  • 足場・ロープアクセス・ハイブリッドは総コストで選び分ける
  • 契約前に「仮設計画図」と「止まる客室数×日数」を書面で出させる
  • 建築補修の資材物価は前年同月比約4.6%上昇(2026年7月分)、待つほど高くなる

免責事項

本記事は2026年8月24日時点で公開されている情報をもとに作成しています。法令・告示・自治体の運用基準および統計値は改正・更新される可能性があります。実際のご判断にあたっては、所在地の特定行政庁および各制度の公式情報をあわせてご確認ください。また、本記事中の試算は特定の前提条件に基づく例示であり、個別物件における金額を保証するものではありません。


執筆者:本間 幸紘(株式会社明誠 代表取締役)
専門領域:マンション・ビル・ホテルの大規模修繕/ロープアクセス工法(無足場工法)/建物長寿命化計画
実務経験:建設・改修業界 20年以上
所属:一般社団法人 全国建設業支援協会(JCSA)

株式会社明誠について:東京都東大和市を拠点に、東京・関東一円でマンション・ビル・ホテルの大規模修繕工事を手がける改修会社。通常足場工法・ロープアクセス工法(無足場工法)・ハイブリッド工法の3つから、建物にとって最適な工法をご提案します。日本初のロープアクセス工事フランチャイズを展開し、塗装・防水・タイル・電気・看板の専門職が加盟しています。

最終更新:2026年8月24日


出典・参考資料

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