
「あの東京国際フォーラムが、1年3カ月もまるごと閉まるらしい」。このニュースを見て、「大きな施設は大変だな」で終わらせてしまったとしたら、少しもったいないと私は思います。
なぜなら、これは「築30年前後の建物に何が起きるか」を、日本で一番分かりやすく示してくれた発表だからです。マンションでも、テナントビルでも、ホテルでも、建物が30年目に差しかかると、外壁や屋上だけでなく「建物の心臓部」である設備に寿命が来ます。そのとき、何の準備もしていなければ「閉めて直す」しか選択肢が残らない——今日はその話を、現場20年の視点でお話しします。
東京国際フォーラムが発表した「15カ月の全館休館」——まず事実関係から
最初に、何が発表されたのかを整理します。東京都と東京国際フォーラム(千代田区丸の内)は2026年6月4日、大規模改修工事を行うため、2029年1月1日から2030年3月31日までの15カ月間、全館を休館すると発表しました(出典:読売新聞オンライン「東京国際フォーラム、2029年1月から30年3月末に全館休館…老朽化進み大規模改修工事」)。
休館の対象は、ホールや会議室といった全貸出施設だけではありません。全店舗、駐車場、駐輪場まで含まれ、休館中は敷地内への立ち入りや通行もできなくなると案内されています(出典:展示会とMICE「東京国際フォーラム、2029年1月から15カ月全館休館 大規模修繕で」、東京国際フォーラム公式サイト)。
東京国際フォーラムは1997年1月の開館で、今年で29年。ガラス棟の大屋根で知られる、年間およそ4,000件のイベントが開かれ、2,300万人が訪れる日本有数の施設です(出典:前掲・読売新聞オンライン)。開館以来初めての全館休館であり、施設の側も「苦渋の決断」であったことは、発表文からも伝わってきます。
注目すべきは休館の理由です。報道によれば、改修の中心は受変電設備の更新で、工事中は電気や空調が使えなくなるため、全面的に休館せざるを得ない、とされています(出典:東京新聞「東京国際フォーラムが2029年から全館休館 オープンから約30年、電気設備など大規模改修へ」)。外壁や他の設備の修繕も、この休館期間に合わせて実施されます。
なぜ「閉めるしかない」のか——受変電設備という建物の心臓部
ここで出てきた「受変電設備」という言葉、聞き慣れない方も多いと思いますので補足します。受変電設備とは、電力会社から送られてくる高い電圧の電気を、建物の中で使える電圧に変換して各フロアへ配る設備のことです。屋上や地下にある「キュービクル」と呼ばれる金属の箱、と言えばピンとくる方もいるかもしれません。
人間の体にたとえるなら、外壁が「皮膚」、防水が「雨合羽」だとすれば、受変電設備は「心臓」です。心臓が止まれば、エレベーターも、空調も、照明も、給水ポンプも、すべて止まります。だからこの設備を丸ごと更新するとなると、建物への送電そのものを止める必要があり、「営業しながら」が極めて難しくなるのです。
そして重要なのは、この心臓部の寿命です。受変電設備の主要機器は、一般に20〜30年程度で更新時期を迎えるといわれています。外壁塗装のように「見た目が傷んできたから直す」のではなく、見えない場所で静かに寿命が進行し、ある日突然、停電や火災のリスクという形で表面化します。築29年の東京国際フォーラムが「いま」決断したのは、時期として必然だったと私は見ています。
私が以前ご相談を受けた、築30年・地下1階地上9階のテナントビルでも、まさにこの問題が起きました。受変電設備の更新には全館停電が避けられない。しかしテナントは20社以上入っていて、「1週間閉めてください」とは口が裂けても言えない。最終的には、連休の夜間2晩・各8時間の計画停電に工程を圧縮し、仮設発電機2台でサーバー室など止められない設備だけを生かして乗り切りました。テナント向けの説明会は3回開きました。ここまでやれば「閉めずに」心臓部を直すこともできる——ただし、それには周到な準備と工程設計が要る、という話です。
発表から休館まで「2年半」ある理由——大規模修繕は段取りが9割
もう一つ、この発表で見逃せないのは時間軸です。発表が2026年6月、休館の開始は2029年1月。つまり2年半も前にアナウンスしているのです。なぜそんなに早いのか。
第一の理由は、利用者への配慮です。コンサートや国際会議は、2年から3年先の会場を押さえて動きます。直前に「来年から閉めます」と言えば、主催者は行き場を失い、施設は信頼を失います。テナントビルなら入居者の移転や契約満了の調整、マンションなら総会での決議に、それぞれ相応の時間がかかるのと同じ構図です。
第二の理由は、工事そのものの準備です。受変電設備のような特注の機器は、発注から納品まで1年以上かかることが珍しくありません。加えて、調査・設計・施工者の選定・近隣調整と、着工前にやるべきことは山ほどあります。私の経験上、大規模修繕の成否は、着工してからの腕前よりも、着工までの段取りで7割方決まります。
これをご自身の建物に引き付けると、こういうことです。「30年目の壁」が築25年で見えてきたなら、検討を始めるのは築22〜23年がちょうどいい。劣化診断(建物の傷み具合を専門家が調べる調査)に半年、計画と合意形成に1年、施工者選定と準備に1年。これで、ようやく東京国際フォーラムと同じ「2年半前スタート」です。決して早すぎることはありません。
「止まる15カ月」の重み——工事費よりも痛い機会損失
オーナーの立場で考えるべきは、「工事費がいくらか」だけではありません。年間2,300万人が訪れる施設が15カ月閉まるということは、その間の貸出収入、店舗のテナント収入、駐車場収入が、まるごと止まるということです。
私はこれを「二つ目の工事費」と呼んでいます。一つ目は見積書に載る工事費。二つ目は、見積書には載らないけれど確実に発生する、営業を止めることによる機会損失です。収益不動産では、この二つ目が一つ目を上回ることも珍しくありません。
身近な数字に置き換えてみましょう。仮に月額家賃20万円のテナントが10区画入ったビルなら、月の収入は200万円。これが15カ月止まれば3,000万円です。工事費を1割削る交渉に時間をかけるより、「止める期間を3カ月縮める」工程を組むほうが、手元に残るお金が大きくなるケースは、実際にいくらでもあります(金額は説明のための仮定の試算です)。
さらに、いまは工事費そのものが上がり続けている局面です。国土交通省が定める公共工事設計労務単価(公共工事の予定価格に使われる職人さんの日当の基準)は、令和8年3月適用分で全国全職種平均25,834円となり、初めて25,000円を超えました。14年連続の上昇です(出典:国土交通省「令和8年3月から適用する公共工事設計労務単価について」)。「待てば安くなる」が通用しない時代に、機会損失まで膨らませてしまうのは、オーナーにとって二重の痛手です。
あなたの建物にも来る「30年目の壁」——設備は外壁より先に音を上げる
「うちはまだ築20年だから関係ない」と思われた方にこそ、お伝えしたいことがあります。大規模修繕というと、足場を組んで外壁を塗り直す姿を思い浮かべる方が多いのですが、建物の寿命を左右するのは、実は外から見えない部分です。
マンションの修繕周期の目安として、国土交通省の長期修繕計画作成ガイドライン(マンションの修繕を30年以上先まで見通して計画するための国の指針。令和6年6月改定)では、外壁塗装や屋上防水はおおむね12〜15年程度の周期で計画することが例示されています。一方で、受変電設備や給水設備、エレベーターといった設備系は、2回目の大規模修繕が終わった後、つまり築25〜35年のゾーンで更新時期が集中します(出典:国土交通省「長期修繕計画作成ガイドライン・同コメント等の改定について」、同ガイドライン本文PDF)。
つまり「30年目の壁」とは、外壁・防水・設備という周期の異なる工事が、同じ時期に束になって押し寄せてくる壁のことです。東京国際フォーラムが外装の修繕を受変電設備の更新と同じ休館期間にまとめたのも、この「束になって来る」性質を逆手に取り、止める期間を一度で済ませる判断だったと読み解けます。
実は、こうした動きは東京国際フォーラムだけではありません。横浜の大型コンベンション施設であるパシフィコ横浜の国立大ホールも、2027年5月からの休館が伝えられています(出典:展示会とMICE「パシフィコ横浜国立大ホール休館 2027年5月から」)。1990年代に建てられた大型施設が、申し合わせたように修繕期へ入り始めているのです。バブル期からその直後にかけて建てられた建物の「30年目」が、いま一斉に到来している——これが2020年代後半の偽らざる風景だと、私は現場で感じています。
国内の分譲マンションストックは約700万戸にのぼり、築40年超のマンションが今後急増していくことが国の統計で示されています(出典:国土交通省「マンションに関する統計・データ等」)。30年目の壁は、特別な建物だけの話ではなく、これから日本中の建物が順番に直面していく話なのです。
「閉めないと直せない工事」と「閉めずに直せる工事」の見分け方
では、何が「閉めないと直せない工事」で、何が「閉めずに直せる工事」なのか。私が現場でオーナーさまにご説明するときの、ざっくりした整理をお見せします。
閉める(止める)ことが避けにくい工事
- 受変電設備の全面更新(全館停電を伴う)
- 給水・排水の本管の全面更新(長時間の断水を伴う場合)
- エレベーターの更新(その号機は数週間使えない)
- 構造体に手を入れる耐震改修の一部
閉めずにできることが多い工事
- 外壁の補修・塗装、タイルの浮き補修
- 屋上・バルコニーの防水
- シーリング(外壁の目地のゴム状の防水材)の打ち替え
- 鉄部塗装、手すり・看板まわりの補修
ポイントは二つあります。第一に、「閉めずにできる工事」を普段から計画的に済ませておけば、いざ「閉めないと直せない工事」が来たときに、束ねる工事の量を減らし、止める期間を短くできるということ。第二に、「閉める工事」ですら、工程の工夫次第で「夜間だけ」「連休だけ」「一部系統だけ」に圧縮できる余地があるということです。先ほどのテナントビルの計画停電の例が、まさにそれです。
逆に言うと、長期修繕計画を放置して30年目を迎えると、外壁も防水も設備も一斉に限界が来て、「全部まとめて、閉めて直すしかない」状況に追い込まれます。全館休館は、決断としては立派ですが、オーナーとしては本来できるだけ避けたい「最後の手段」のはずです。
マンション管理組合の場合——「お金」と「合意」の二つの準備
ここまで主にテナントビルやホテルを例にしてきましたが、分譲マンションの管理組合には、もう一段固有の難しさがあります。「お金」と「合意」です。
お金の面では、修繕積立金(毎月積み立てる将来の修繕のための資金)が、設備更新まで見込んだ水準になっているかが分かれ目です。外壁と防水だけを前提にした積立額のまま30年目を迎えると、受変電設備や給水設備の更新費用が丸ごと不足します。国土交通省はガイドラインで、計画期間30年以上・大規模修繕2回を含む長期修繕計画に基づいて積立額を設定することを標準としています(出典:前掲・国土交通省ガイドライン)。いまの積立額が「何を含んだ計画」から逆算されたものか、一度確認してみてください。
また、東京都内の分譲マンションであれば、劣化診断や計画の見直しに使える助成制度が用意されています(出典:東京都マンションポータルサイト「分譲マンションの修繕への助成」)。お住まいの自治体にも同様の制度があることが多いので、「調査のお金がないから先送り」の前に、まず制度を調べる価値があります。
合意の面では、住民のみなさんに「見えない設備」の重要性をどう伝えるかが鍵になります。外壁のひび割れは写真で示せますが、受変電設備の劣化は写真では伝わりません。私はいつも理事長さまに、「停電したらエレベーターも水も止まります、という生活の言葉に翻訳して説明しましょう」とお伝えしています。専門用語のまま総会に出せば反対され、生活の言葉に翻訳すれば通る。20年間、何度も見てきた光景です。
閉めずに直すための工法——足場・ロープアクセス・ハイブリッド
ここからは、私たちの専門分野である「建物の外まわりを、営業や生活を止めずに直す」方法の話をします。手前味噌に聞こえないよう、それぞれの長所と短所を正直に並べます。
通常足場工法は、建物の周りに仮設の足場を組んで施工する従来型の方法です。作業性が高く、面で広く直す工事に向いています。一方で、足場の架設・解体に時間と費用がかかり、建物がシートで覆われるため、テナントの看板が隠れる、ホテルでは眺望が失われる、マンションでは防犯面の不安が出る、といった「営業・生活への圧迫」が避けられません。
ロープアクセス工法(無足場工法)は、産業用ロープで技術者が屋上から降下して施工する方法です。足場を組まないため、足場費用がまるごと不要になり、工期も短縮できます。建物を覆わないので、店舗やホテルは営業しながら、マンションは普段の生活を保ったまま、外壁補修や防水、シーリングの打ち替えができます。ただし、広い面を一度に塗り替えるような工事では、足場を組んだほうが効率的な場合もあります(詳しくはロープアクセス工法のご紹介をご覧ください)。
ハイブリッド工法は、この二つを部位ごとに使い分ける方法です。たとえば、低層部の広い面は足場で、高層部や塔屋・狭い面はロープアクセスで、といった具合に組み合わせ、建物全体での費用と工期、営業への影響を最適化します。
私はいつもオーナーさまに、「工法ありき」ではなく「止めたくないものは何か」から逆算しましょう、とお伝えしています。テナントの売上か、客室の稼働か、住民の暮らしか。守りたいものが決まれば、足場・ロープアクセス・ハイブリッドのどれを、どの部位に使うべきかは、おのずと絞られてきます。この3つの工法を建物特性に応じて比較提案できる会社は、日本ではまだ多くありません(大規模修繕全体の進め方は大規模修繕工事のご紹介にまとめています)。
30年目に慌てないために——長期修繕計画の「設備」の欄を見てほしい
ここまで読んでくださった方に、今日からできる具体的な行動をお伝えします。6月は多くの管理組合で通常総会の季節、法人オーナーにとっても計画を見直しやすい時期です。
1.長期修繕計画の「設備更新」の欄を確認する。 外壁や防水の周期は書かれていても、受変電設備・給水設備・エレベーターの更新時期と概算費用が空欄、あるいは「未定」となっている計画を、私は数えきれないほど見てきました。国のガイドラインは計画期間30年以上・2回の大規模修繕を含む計画を標準としています(出典:前掲・国土交通省ガイドライン)。まず自分の建物の計画に「心臓部」が載っているかを確かめてください。
2.「閉めずにできる工事」の積み残しを点検する。 外壁のひび割れ、タイルの浮き、シーリングの劣化、屋上防水の膨れ。これらを放置したまま30年目を迎えると、設備更新と束になって「全部まとめて閉めて直す」コースに近づきます。部分的な点検・補修であれば、ロープアクセスで足場を組まずに、費用を抑えて実施できます。
3.「止めた場合の損失額」を一度計算してみる。 月の賃料収入×止まる月数。この単純な掛け算をするだけで、工事の工程設計にどれだけ価値があるかが、数字で見えてきます。修繕の見積もりを比較するときも、「工事費の安さ」だけでなく「止める期間の短さ」を採点項目に入れることをお勧めします。
「束ねる」か「分ける」か——工事のまとめ方にも戦略がある
東京国際フォーラムは、受変電設備の更新という「閉めるしかない工事」に、外装などの修繕を束ねました。閉める期間が一度で済むからです。これは合理的な判断ですが、「束ねるのが常に正解」というわけではない点も、正直にお伝えしておきます。
束ねる利点は、止める期間・仮設費・近隣調整が一度で済むこと。欠点は、一度に出ていくお金が大きくなり、工事の規模が膨らむぶん、計画の難易度も上がることです。
分ける利点は、資金繰りが平準化され、「閉めずにできる工事」を営業しながら先に片付けられること。欠点は、足場を二度組むなど、仮設費が重複し得ることです。
私が現場でお勧めしている考え方は、こうです。「閉めるしかない工事」を核に据え、その時期に重なる工事だけを束ねる。閉めずにできる工事は、束を小さくするために、むしろ前倒しで分けて済ませておく。たとえば、外壁の部分補修やシーリングの打ち替えをロープアクセスで先行実施しておけば、30年目の「束」から外壁工事の大部分を外せます。結果として、止める期間は短く、一度に動くお金も小さくできます。
このあたりの組み立ては、建物の形状、テナント構成、資金計画によって正解が変わります。だからこそ、足場とロープアクセスの両方を持ち、束ね方・分け方から一緒に考えられる施工者を選ぶことが、オーナーの利益に直結すると私は考えています。
「法定点検はしているから大丈夫」の落とし穴——点検と劣化診断は別物
最後にもう一つ、オーナーさまとの会話でよくすれ違いが起きるポイントに触れておきます。「うちは毎年ちゃんと点検しているから大丈夫」というお話です。
たしかに、一定規模の建物には、建築基準法に基づく定期報告(建物や設備の状態を有資格者が調査し、行政に報告する制度)や、電気設備の保安点検が義務付けられています。これらは安全を守るうえで欠かせない仕組みです。しかし、法定点検の目的はあくまで「いま危険な状態でないか」の確認であって、「あと何年もつか」「いつ・いくらかけて更新すべきか」を教えてくれるものではありません。
その「あと何年もつか」を調べるのが劣化診断です。外壁なら打診調査(タイルやモルタルを軽く叩いて浮きを探す調査)や赤外線調査、設備なら機器ごとの劣化度評価。これらの結果を長期修繕計画に反映して、はじめて「30年目の壁」の正確な高さと時期が見えてきます。
ここでもロープアクセスは役に立ちます。従来、外壁の打診調査は足場かゴンドラが必要で、「調査のためだけに数百万円」という壁がありました。ロープアクセスなら足場なしで技術者が直接壁面に到達できるため、調査費用を大きく抑えられます。「まず正確に知る」ことのハードルが下がった分、計画づくりは確実にやりやすくなっています。点検記録は毎年ファイルされているのに、劣化診断は一度もしたことがない——そんな建物こそ、最初の一歩として診断をご検討ください。
よくあるご質問(FAQ)
Q1.受変電設備の更新は、必ず全館停電になりますか?
規模と構成によります。系統を分けて部分的に切り替えられる場合もあれば、夜間・休日の計画停電に圧縮できる場合もあります。早い段階で電気設備の専門家を交えて工程を検討することが、停電時間を最小化する一番の近道です。
Q2.築20年ですが、何から手を付けるべきですか?
まず長期修繕計画の更新をお勧めします。2回目の大規模修繕と設備更新が重なる「30年目の壁」までに10年あれば、修繕積立金の見直しも、工事の分散も、十分間に合います。
Q3.ロープアクセスはどんな建物でも使えますか?
屋上にロープを固定できる構造があれば、多くの建物で使えます。ただし、広い面の全面塗り替えなど、足場のほうが効率的なケースもあります。だからこそ、両方の工法を持つ会社に「どちらが得か」を比較させるのが、オーナーにとって一番損のない頼み方だと私は思います。
Q4.工事費の高騰は、待てば落ち着きますか?
断定はできませんが、職人さんの日当の基準である労務単価は14年連続で上昇しており(出典:前掲・国土交通省)、少なくとも「待てば下がる」と期待できる材料は乏しいのが実情です。必要な修繕を先送りすると、劣化が進んで工事範囲が広がり、かえって高くつくことが多い、というのが私の実感です。
Q5.「閉めずに直す」工程は、結局割高になりませんか?
ケースバイケースですが、判断の物差しは「工事費の差額」と「止めずに済んだ収益」の比較です。夜間作業や仮設発電機で工事費が1〜2割増えても、テナント収入が止まらないなら、トータルでは閉めるより安く済むことが多い、というのが現場の感覚です。見積もりの段階で、この比較表を施工者に作らせてみてください。作れない会社なら、工程設計の経験が浅いと判断してよいと思います。
Q6.発表から休館まで2年半は長すぎませんか?うちはそんなに待てません。
劣化が進んでいる場合は、応急処置と本工事の二段構えにします。落下の危険があるタイルの浮きや漏水は、ロープアクセスで即応的に部分補修し、時間を稼いだうえで本工事の計画を練る。「急ぐ箇所」と「練る計画」を切り分けるのが鉄則です。
まとめ——「閉める決断」の前に、できることがある
東京国際フォーラムの全館休館は、年間2,300万人を迎える施設が、安全のために15カ月の沈黙を選んだ、重い決断です。私はこの決断に敬意を持っています。同時に、現場で20年やってきた人間として、こうも思うのです。「閉めて直す」が最後の手段なら、その手前には「閉めずに直す」ための工夫が、まだいくつも残されている、と。
外壁や防水を計画的に直しておく。設備の寿命を長期修繕計画に書き込んでおく。止めたくないものから逆算して、足場・ロープアクセス・ハイブリッドを使い分ける。この積み重ねが、30年目の壁を「全館休館」ではなく「営業しながらの修繕」で越えるための、いちばん確実な道筋です。2029年の東京国際フォーラムの休館が明けたとき、「うちは閉めずに乗り切れた」と言えるオーナーさまが一人でも増えるように。私たちも現場から、そのお手伝いを続けていきます。
ご自身の建物の長期修繕計画に「設備」がきちんと載っているか不安な方、閉めずに直す工程が組めるのか知りたい方は、ご相談だけでも遠慮なくお声がけください。総会の前段階の整理だけでも、お力になれることがあります(お問合せフォーム)。
お知らせ(株式会社明誠のサービス)
株式会社明誠は、マンション・ビル・ホテルの大規模修繕を、通常足場工法・ロープアクセス工法・ハイブリッド工法の3つから建物に合わせてご提案しています。日本初のロープアクセス工事のフランチャイズ網により、塗装・防水・タイル・電気・看板など各分野の専門職が連携し、高品質と適正価格の両立を目指しています。
出典・参考資料
- 読売新聞オンライン「東京国際フォーラム、2029年1月から30年3月末に全館休館…老朽化進み大規模改修工事」(2026年6月4日)
- 東京新聞「東京国際フォーラムが2029年から全館休館 オープンから約30年、電気設備など大規模改修へ」(2026年6月4日)
- 展示会とMICE「東京国際フォーラム、2029年1月から15カ月全館休館 大規模修繕で」(2026年6月5日)
- 東京国際フォーラム「公式サイト」
- 国土交通省「令和8年3月から適用する公共工事設計労務単価について」
- 国土交通省「長期修繕計画作成ガイドライン・同コメント等の改定について」/「長期修繕計画作成ガイドライン(令和6年6月改定・PDF)」
- 国土交通省「マンションに関する統計・データ等」
※本記事の休館期間・工事内容は2026年6月6日時点の発表・報道に基づきます。工事の進捗により変更となる可能性があります。


