「建てるときのCO2」まで問われる時代が来た——2026年、改正建築物省エネ法が成立した
正直に申し上げます。今回のニュースを最初に見たとき、私は「ついにここまで来たか」と背筋が伸びる思いがしました。
2026年7月24日、参議院本会議で「建築物のエネルギー消費性能の向上等に関する法律」の一部を改正する法律案、いわゆる改正建築物省エネ法が賛成多数で可決され、成立しました。衆議院ではすでに6月4日に可決されており、この日をもって法律として固まったことになります(出典:参議院 議案情報 第221回国会)。
私は大規模修繕の現場に20年近く立ってきました。マンション、ビル、ホテルの外壁を、足場を組んだり、ロープ一本でぶら下がったりしながら直してきた人間です。その私から見て、この法改正は「建物の価値の測り方そのものが変わる号砲」だと感じています。ここからが本題です。
何が新しいのか——「建てて壊すまで」のCO2を通算する
これまでの省エネの議論は、ほとんどが「建物を使っているとき」のエネルギー、つまり冷暖房や照明でどれだけ電気やガスを使うか、という話でした。
ところが今回の改正では、建物を建てる段階から使う段階までの各段階で出るCO2(二酸化炭素)を通算して評価する「建築物通算炭素排出量評価」という新しいものさしが創設されました(出典:Sustainable Japan「改正建築物省エネ法成立」、一次情報は上記・参議院議案情報)。
平たく言えば、「使うときのCO2」だけでなく「建てるときのCO2」まで含めて、建物一棟の生涯(ライフサイクル)でどれだけ炭素を出すかを見よう、という考え方です。専門用語では、建物を建てる・壊すときに出るCO2を「エンボディドカーボン(建設に埋め込まれた炭素)」、使っているときに出るCO2を「オペレーショナルカーボン(運用時の炭素)」と呼びます。今回の法律は、この両方を合わせて評価する枠組みを日本で初めて法制度に組み込んだ、という点が最大のポイントです。
誰に、どんな義務がかかるのか
条文で新たに設けられた努力義務・義務を、私なりに現場目線で整理すると次のようになります。
- 建築主(発注する側)には、建物のライフサイクル全体のCO2を減らす努力義務がかかります。
- 設計する建築士と、工事を請け負う建設業者には、建築主に対して「どうすればCO2を減らせるか」を説明する努力義務がかかります。
- 建材メーカーには、製造する建築材料などの炭素排出量の原単位(材料あたりのCO2の目安)を表示する努力義務がかかります。
- そして、一定規模以上の特定用途の建物を新築・増築・改築する建築主には、設計段階で通算炭素排出量の削減計画を作成することを義務化し、算定した評価結果とあわせて国土交通大臣に届け出るか通知することが求められます。
さらに、削減措置が著しく不十分だと国が判断した場合には、必要な措置をとるよう勧告できる仕組みも入りました。加えて、省エネ性能や環境負荷低減の程度を評価する認証制度も創設され、認証を取れば建物に認証標章を表示できるようになります。
「努力義務が中心なら、まだ先の話では」と思われた方もいらっしゃるでしょう。私の経験上、こういう制度は「努力義務から始まって、数年で本義務に格上げされる」というのが、日本の建築規制のいつものパターンです。実際、新築住宅・新築非住宅への省エネ基準適合義務化も、長い努力義務の時代を経て2025年4月に全面義務化されました(出典:国土交通省 令和4年度改正建築物省エネ法の概要)。今回の「通算炭素」も、同じ道をたどると見ておくのが安全だと私は考えています。
なぜ今、この法律なのか——2050年カーボンニュートラルという背景
そもそも、なぜ国はここまで建物のCO2にこだわるのか。理事会でこの改正を説明するとき、私はいつも背景から入るようにしています。背景を知ると、これが一過性の話ではないことが腹落ちするからです。
日本は2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」を国際的に掲げ、その途中目標として2030年度に温室効果ガスを2013年度比で46%削減することを目指しています(出典:国土交通省 令和4年度改正建築物省エネ法の概要)。
ここで問題になるのが、建物の存在感の大きさです。日本のエネルギー消費のうち、住宅・建築物を含む民生部門は約3分の1を占めるとされ、ここを削らずに国全体の目標は達成できません。だからこそ、新築の省エネ基準適合義務化(2025年4月に全面義務化)、中規模の非住宅建築物の省エネ基準引き上げ、そして今回の「建てるときのCO2まで通算する」という一手が、段階的に打たれてきたわけです。流れは一貫しています。「建物のエネルギーとCO2を、少しずつ、しかし確実に締めていく」——これが国の方針です。
私はこれを、脅しではなく「予告」として受け止めています。予告された変化に、早く手を打った建物ほど有利になる。それだけの話です。
なぜこれが「既存の収益物件オーナー・管理組合」の話なのか
ここで、多くの方がこう思うはずです。「うちは新築じゃない。もう建っているマンションやビルの話なのだから、関係ないのでは」と。
私は、まったく逆だと考えています。この法改正は、すでに建っている建物を持っている人にこそ効いてくる話です。理由を順にお話しします。
当面の対象は大規模建築から——でも方向は一つ
今回の削減計画の義務がかかる「一定規模以上の特定用途建築物」の具体的な線引きは、これから政令で定められます。報道によれば、国土交通省は当面、延べ床面積5,000平方メートル以上の事務所を対象とする方針で、2028年度にも施行が見込まれています。制度の運用状況を踏まえて対象を広げることも検討されている、と報じられています(出典:日本経済新聞「大規模オフィス、CO2排出量を報告義務」、中日新聞「大規模建築のCO2算定を義務化 28年度にも」)。
つまり、いきなり中小のマンションや一棟ビルすべてに計画義務がかかるわけではありません。ですが、対象を段階的に拡大していく方針が示されている以上、「今は対象外だから」と構えている時間は、そう長くないと見るべきです。制度の方向は一つ、「建物のCO2を見える化し、減らす」で固まっています。
「増築・改築」に計画義務——大規模改修は射程に入りうる
もう一つ、私が現場の人間として見逃せないと思っているのが、義務の対象が「新築」だけでなく「増築・改築」にも及ぶという点です。
大規模修繕や改修が一定の規模になれば、法的には「改築」や「増築」として扱われる場面が出てきます。たとえば外皮を大きく作り替えるような改修、増床を伴う改修などです。すべての修繕が対象になるわけではありませんが、「既存だから制度と無縁」とは言い切れない、というのが正確なところです。だからこそ、オーナーさまや管理組合の理事長さまには、早いうちに「自分の建物のCO2」を意識していただきたいのです。
建物のCO2には「運用時」と「建設時」の2種類がある
話を分かりやすくするために、もう少しだけ「建物のCO2」を分解させてください。理事会でそのまま使えるように、噛みくだいてお話しします。
運用時のCO2は「断熱・遮熱・設備」で下げる
一つ目は、先ほど触れた運用時のCO2です。冷暖房、給湯、照明、換気など、住んだり使ったりしている間に消費するエネルギーから出る炭素です。
分譲マンションでも一棟ビルでも、ここを下げる王道は「建物の外皮(外壁・屋根・窓)の性能を上げること」と「設備を効率の良いものに替えること」です。夏の西日で室温が上がりきってしまう建物と、外壁や屋上に断熱・遮熱の手が入っている建物とでは、同じエアコンでも消費電力がまるで違います。私は現場で、屋上の防水改修に合わせて断熱を入れた建物の管理員さんから「最上階の住戸のクレームが減った」という声を、何度も聞いてきました。数字にも人の暮らしにも、はっきり効くところです。
建設時のCO2は「建て替えより直す」を有利にする
二つ目が建設時のCO2、つまりエンボディドカーボンです。コンクリート、鉄、アルミ、そうした資材を作って運んで組み立てるだけで、建物は膨大なCO2を生み出します。
ここが今回の法改正で新しく光の当たった部分です。そして、既存の建物を持つオーナーさまにとっては、実は追い風になり得る話でもあります。なぜなら、建て替えは新しい建物を一から作る分、大量のエンボディドカーボンを発生させます。一方、既存の建物を活かして直す「改修(ストック活用)」は、その炭素を新たに出さずに済むからです。「建てるより直すほうが、炭素の面でも有利」——この考え方が、これから制度の後押しを受けていくと私は見ています。
「建てるより直す」が、制度でも後押しされる
私はこれまでもこのブログで、「建てるより直す時代」という話を繰り返してきました。工事費の高騰、資材の値上がり、人手不足。こうした事情から、建て替えるより既存の建物を長く大切に使うほうが、経済的に合理的になる場面が増えています。
今回の法改正は、そこに「炭素」というもう一つの理由を加えました。既存ストックを直して使い続けることが、資産の面でも、環境規制の面でも、両方から評価される時代に入ったということです。
私の経験上、これは収益物件オーナーさまにとって、非常に相性の良い流れです。既存の建物の価値を、大がかりな建て替え投資なしに、修繕と改修で高めていける。それを制度が後押ししてくれる。20年この仕事をしてきて、ここまで「直す側」に順風が吹いたことは、そう多くありません。明誠が大切にしてきた「足場仮設とロープアクセス、両方の選択肢から建物に最適な工法を提案する」という姿勢も、まさにこの「直して価値を上げる」時代に噛み合うものだと考えています。
大規模修繕は、省エネ改修の絶好機
ここで強くお伝えしたいのが、「大規模修繕は、省エネ改修を同時に進める絶好のタイミングだ」ということです。
マンションの大規模修繕は、およそ12年周期で巡ってきます(長期修繕計画の一般的な目安)。このとき、外壁や屋上に一斉に手が入ります。せっかく外皮に触れるこの機会に、防水や塗装と一緒に遮熱・断熱の手を入れておけば、運用時のCO2も光熱費も同時に下げられます。工事を別々に発注するより、一度でまとめたほうが、足場代も手間も大きく節約できるのです。
現場で20年やってきて、私が一番もったいないと感じるのは、この「一度きりの機会」を、ただの塗り替えで終わらせてしまうケースです。以前、ある築古のマンションで、前回の大規模修繕では外壁を普通の塗料で塗り替えただけ、という物件を拝見しました。屋上防水も、断熱を入れずに防水層だけをやり直していた。最上階の理事さんは「毎年夏になると寝室が暑くてたまらない」とこぼしておられました。次の修繕で遮熱塗装と屋上の断熱を提案し、色も一新したところ、体感は目に見えて変わったそうです。同じ足場を組むなら、同じロープでぶら下がるなら、「守るだけの工事」で終わらせず「価値を足す工事」にする。この差が、10年後・20年後の資産価値に効いてきます。
もう一つ申し添えると、省エネ改修は住民合意のハードルも下げてくれます。「積立金が上がるのに、見た目が新しくなるだけ」では、総会で反対の声が出やすい。ですが「光熱費が下がる」「夏の暑さがやわらぐ」「資産価値の維持につながる」という具体的な便益がセットになれば、住民の納得感はまるで違います。私はこれを、合意形成のための「もう一つの武器」だと考えています。
省エネ改修で効く工事は何か——外皮を制する者が炭素を制する
では、既存の建物で実際にCO2と光熱費に効く工事は何か。現場の実感を交えて、要点だけお伝えします。
| 部位 | 主な工事 | 期待できる効果 |
|---|---|---|
| 外壁 | 断熱・遮熱塗装、ひび割れ・タイル補修 | 夏の熱負荷を抑え、劣化進行も止める |
| 屋上・屋根 | 防水改修+断熱 | 最上階の暑さ・寒さを緩和、雨漏り防止 |
| 窓・開口部 | 内窓・高断熱ガラスへの更新 | 熱の出入りが最も大きい部分を改善 |
| 設備 | 照明のLED化、給湯・空調の更新 | 共用部・専有部の消費電力を削減 |
遮熱・断熱塗装と防水を一体で施工する
とくに費用対効果が高いと私が感じているのは、外壁の遮熱・断熱塗装と屋上防水を一体で行う方法です。どうせ足場やロープで外皮に触れるなら、色を塗り替えるだけでなく、熱を跳ね返す・逃がさない機能まで持たせる。これで見た目も、資産の寿命も、光熱費も、まとめて手当てできます。屋上防水・漏水対策は、放っておくと躯体そのものを傷める大敵ですから、省エネと防水はセットで考えるのが賢いやり方です。
遮熱塗料は、屋根や外壁の表面温度を下げることで、室内に伝わる熱を抑える塗料です。屋上防水の上から遮熱仕様にすれば、防水層自体の熱による劣化もやわらぎ、防水の寿命を延ばす効果も期待できます。つまり一つの工事で「暑さ対策」「光熱費削減」「防水の長寿命化」の三つを同時に狙える。私が「必ずワンセットで」と申し上げるのは、こうした重なりがあるからです。もちろん、建物の向きや形状、既存の劣化状況によって最適な仕様は変わりますので、そこは現地を見て判断するのが鉄則です。
ここでロープアクセス(無足場工法)が効く理由
そして、私が「必ずワンセットで提案するようにしています」とお伝えしているのが、ロープアクセス工法(無足場工法)という選択肢です。
ロープアクセスとは、産業用のロープで職人が建物の外壁を上下しながら施工する工法で、大がかりな仮設足場を組まずに外壁の点検・補修・塗装ができます。この工法が省エネ改修の時代に効く理由は、大きく三つあります。
一つ目はコストです。足場の架設・解体費が丸ごと不要になる、あるいは大幅に減るため、浮いた予算を断熱・遮熱といった性能向上の工事に回せます。二つ目は工期です。足場を組む・ばらす時間がない分、工事が早く終わり、その間の居住者・テナントの負担も軽くなります。三つ目は、ここが今回の話とつながるのですが、足場そのものが持つCO2です。仮設足場は大量の鋼材を現場まで運び、組み、また運び出します。この運搬と設置にもエネルギーがかかっています。無足場で工事ができれば、この分の環境負荷も抑えられる、という見方ができるのです。
もちろん、ロープアクセスが万能というわけではありません。作業量が非常に多い全面改修や、部位によっては足場のほうが効率的な場合もあります。だからこそ明誠では、足場・ロープ・その両方を組み合わせるハイブリッドの三つから、建物ごとに最適な組み合わせをご提案しています。
コストと環境性能を両立させる「工法の選び方」
「省エネ改修は良さそうだが、費用が上がるのでは」——これは、理事会でもオーナーさまとの打ち合わせでも、必ず出るご質問です。ここは正直にお話しします。
性能を上げれば、材料費は多少上がります。ですが、工法の選び方次第で、その上乗せ分を足場費の削減で吸収できる場面は少なくありません。次の表は、あくまで考え方の整理ですが、工法ごとの向き・不向きの目安です。
| 工法 | 向いている場面 | コストの考え方 |
|---|---|---|
| 通常足場工法 | 全面改修、複雑な形状、作業量が多い | 足場費はかかるが大量施工で単価は安定 |
| ロープアクセス(無足場) | 部分補修、高層、足場架設が難しい建物 | 足場費が不要で総額を圧縮しやすい |
| ハイブリッド | 大規模・複雑物件で総合最適が必要 | 部位で使い分け、全体コストを最適化 |
数字の体感としては、たとえば足場費が総工費の2〜3割を占めるような物件で、その一部を無足場に置き換えられれば、戸あたりの負担はまとまった額で変わってきます。具体的な削減幅は建物の形状・高さ・工事範囲で大きく変わりますので、断定は避けますが、「費用の考え方から相談したい」という段階からお手伝いできます。
環境性能が、賃料・空室・資産価値に効く時代へ
もう一つ、収益物件オーナーさまに強調したいのが、環境性能が「規制対応」だけの話ではなくなってきている、という点です。
省エネ性能や環境負荷の低さは、今回創設された認証制度のように「見える化」される方向に進んでいます。見える化されれば、それは入居者やテナント、金融機関、買い手が建物を選ぶときの判断材料になります。光熱費の安い建物、環境性能の高い建物が選ばれやすくなれば、それは賃料や空室率、ひいては資産価値に効いてきます。マンション・ビルのオーナーさま向けのご提案でも、私はこの「守りの修繕から、価値を上げる修繕へ」という発想の転換を、いつもお伝えしています。
ホテル・宿泊施設のオーナーさまへ——「止められない営業」と省エネ改修
ここで一点、ホテルや商業ビルを持つオーナーさまにも触れさせてください。私はマンションだけでなく、ホテルの大規模修繕の現場にも数多く立ってきました。
ホテルや稼働中の商業施設で一番の悩みは、「営業を止められない」ことです。客室や店舗を閉めれば、そのぶん売上が消えます。ところが従来型の全面足場を組むと、外観が覆われ、窓がふさがれ、宿泊体験そのものが損なわれます。ここでも無足場のロープアクセスは強力な選択肢になります。足場で建物全体を覆わずに、必要な面だけを、必要なぶんだけ直していける。営業を続けながら、遮熱塗装や防水、外壁補修を進められるわけです。
ホテルは客室の冷暖房負荷が非常に大きい業態ですから、外皮の断熱・遮熱改修は光熱費に直接効きます。省エネ改修は、環境対応であると同時に、はっきりと収益改善の投資になります。ホテルオーナーさま向けのご提案でも、私は「営業を止めない工法設計」と「光熱費の下がる外皮改修」を、必ずセットでお話ししています。
管理組合・オーナーが今からできる実務ステップ
最後に、では明日から何をすればよいのか。理事会でそのまま議題にできる形で、実務のステップをまとめます。
- 自分の建物のエネルギーの弱点を知る。 まずは共用部の電気・ガスの使用状況、最上階や西側住戸の暑さ・寒さのクレーム、屋上防水と外壁の劣化度を洗い出します。ここが省エネ改修の優先順位を決める出発点になります。
- 長期修繕計画に「省エネ改修」を組み込む。 次の大規模修繕のタイミングで、防水・塗装と一緒に断熱・遮熱を入れられないかを検討します。別々に工事するより、足場を一度で使い回せるぶん、はるかに経済的です。定期的な点検・調査で現状を正確につかむことが、計画づくりの土台になります。
- 補助金・支援制度の併用を確認する。 省エネ改修は、国や自治体の補助・支援の対象になる場合があります。年度や制度で内容が変わり、予算枠に達すると締め切られることもありますので、最新の公募情報を必ず確認してください(この記事では特定の制度の採否は保証できません)。
- 総会で「制度が変わった」ことを共有する。 今回の法改正のように、建物のCO2が資産価値と規制の両面で問われ始めたという事実を、理事会・総会で1分でも共有しておく。これだけで、次の修繕の合意形成がずっとスムーズになります。
- 工法から相談できる専門家に、早めに声をかける。 見積書が出てから工法を悩むのではなく、計画の段階で「足場か、ロープか、その組み合わせか」を一緒に考えられる会社に相談する。ここで総額が大きく変わります。
私はいつも理事長さまに、「省エネ改修は、環境のためだけにやるものではありません」とお伝えしています。光熱費が下がり、建物が長持ちし、資産価値が守られる。住まう人の快適さも上がる。環境への貢献は、その結果としてついてくるものです。順番を間違えなければ、これは損な話ではありません。
よくあるご質問(改正建築物省エネ法と大規模修繕)
理事会やオーナーさまとの打ち合わせで実際によく出るご質問を、Q&A形式で整理しておきます。
Q. うちは築20年のマンションです。今回の法改正で、何か新しい義務がかかりますか。
A. 現時点で削減計画の作成が義務化される「一定規模以上の特定用途建築物」の具体的な線引きは、これから政令で定まります。報道では当面5,000平方メートル以上の事務所から始まる方針とされ、一般的な既存マンションにただちに義務がかかるわけではありません。ただし、対象を段階的に広げる方針が示されており、また大規模な改築・増築には計画義務が及びます。「今は対象外」でも、次の大規模修繕を省エネの視点で設計しておく価値は十分にあります。
Q. 省エネ改修をすると、修繕費はどのくらい上がりますか。
A. 断熱・遮熱の材料を加える分、材料費は上がります。ただし工法の選び方次第で、その上乗せ分を足場費の削減で吸収できる場面が少なくありません。上がり幅は建物の高さ・形状・工事範囲で大きく変わるため、一律の数字は申し上げられません。まずは現地を見て、工法とセットでお見積りするのが正確です。
Q. 足場を使わないロープアクセスで、本当に外壁全体を直せるのですか。
A. 部分補修や高層物件の外壁塗装・シール打ち替え・防水などは、無足場でも十分に対応できます。一方で作業量が非常に多い全面改修では足場が効率的な場合もあります。だからこそ、足場・ロープ・ハイブリッドの三つから、建物ごとに最適な組み合わせを選ぶことが大切です。
Q. 補助金は使えますか。
A. 省エネ改修は国や自治体の補助・支援の対象になる場合があります。ただし制度は年度ごとに変わり、予算枠に達すると締め切られます。採否を保証することはできませんので、必ず最新の公募情報をご確認のうえ、計画に織り込んでいくことをおすすめします。
Q. 何から始めればいいですか。
A. まずは建物の現状把握です。外壁・屋上の劣化度、最上階や西側住戸の暑さ、共用部の光熱費。この三つを押さえるだけで、次の修繕で優先すべき省エネ改修が見えてきます。調査だけのご相談でも構いません。
まとめ:制度は「直して価値を上げる」時代の追い風になる
2026年の改正建築物省エネ法は、「建物のCO2を、建てるときから使うときまで通算して評価する」という新しいものさしを日本にもたらしました。当面の義務の対象は大規模な建物からですが、方向はもう一つに定まっています。建物の環境性能が、規制でも、資産価値でも問われる時代です。
そしてこの流れは、既存の建物を大切に直して使い続ける——私たちが20年やってきた「直す」という仕事にとって、間違いなく追い風です。大規模修繕という12年に一度の機会に、防水・塗装と一緒に省エネの手を入れる。足場の要る・要らないから工法を最適化して、浮いた予算を性能向上に回す。これができる会社は、まだ日本に多くありません。
これは私が現場で20年見てきた、嘘偽りのない感想です。制度の話は難しく聞こえますが、やることはシンプルで、「次の修繕を、少しだけ賢く設計する」だけです。総会前の整理だけでも、長期修繕計画の見直しだけでも構いません。ご相談だけでも遠慮なくお声がけください。次回も、現場で本当に使える話だけをお届けします。
出典・参考資料
- 参議院「議案情報 第221回国会(特別会)建築物のエネルギー消費性能の向上等に関する法律の一部を改正する法律案」
- 国土交通省「令和4年度改正建築物省エネ法の概要」(新築への省エネ基準適合義務化の経緯)
- 国土交通省「改正建築物省エネ法・建築基準法等に関する解説資料とQ&A」
- 日本経済新聞「大規模オフィス、CO2排出量を報告義務 改正建築物省エネ法成立」(対象規模・時期に関する報道)
- 中日新聞「大規模建築のCO2算定を義務化 28年度にも、改正法成立」(対象規模・時期に関する報道)
- Sustainable Japan「改正建築物省エネ法成立。建築物通算炭素排出量削減を努力義務化」(改正内容の解説)
※本記事は2026年7月31日時点の情報にもとづいています。制度の詳細や対象範囲、施行時期は今後の政令等で定まります。補助金・支援制度の採否や適用可否を保証するものではありません。実際のご検討にあたっては、最新の公的情報をご確認ください。


