
2026年9月15日 更新
錦糸町で分譲マンションを1棟お持ちの理事長さまから、去年の秋にこう聞かれました。「荒川が切れたら2週間水が引かないと区のマップに書いてある。そんな災害に、修繕積立金で備える意味はあるんですか」と。
私は株式会社明誠の本間幸紘と申します。東京都東大和市を拠点に、20年近くマンションやビルの外壁と向き合ってきました。仮設足場を組む工事も、ロープ1本でぶら下がる無足場の工事も、両方やってきた人間です。
正直に申し上げます。あの質問には、その場ですぐ答えられませんでした。持ち帰って、区の資料を全部読み直して、次の理事会でこうお伝えしました。「荒川の氾濫に建物単体で勝つことはできません。ただ、墨田区のマンションを実際に傷めているのは、荒川ではなく毎年の雨です」と。
今日は、墨田区が公表している最新のハザード資料から逆算して、墨田区のマンション・ビルで先に手を打つべき漏水ポイントと、防災上の共用部の修繕優先度を整理します。
結論:墨田区は「区全体が同じリスク」だからこそ、順番を間違えないこと
先に結論から申し上げます。墨田区は、文京区や港区のように「台地の上か低地か」で対策が分かれる区ではありません。荒川が氾濫した場合、区の大部分が浸水するおそれがあると区自身が明記しています(出典:墨田区「墨田区水害ハザードマップ(水害への備え)」)。つまり、立地による選別があまり効きません。
では何で順番を決めるか。私は、発生確率と修繕費の大きさで決めます。
| 優先度 | 対象 | 理由 |
|---|---|---|
| 最優先 | 屋上ドレン(排水口)の清掃/屋上防水の平場とパラペット | ほぼ毎年、確実に効く。詰まれば数十万円の補修が数百万円になる |
| 次点 | 外壁シーリング/サッシまわり/バルコニー排水 | 5年〜10年で確実に劣化する。漏水クレームの実質的な発生源 |
| その次 | 電気室・受水槽・給水ポンプの設置階と止水対策 | 発生確率は低いが、起きたときの復旧費と生活影響が桁違い |
| 長期 | 耐震診断・耐震改修 | 助成が拡充されたタイミングを逃さない |
どの立地でも共通して最優先なのは屋上ドレンの清掃履歴です。 私が現場で見てきた漏水事故の大半は、河川の氾濫ではなく、ドレンの詰まりとシーリングの切れから始まっています。派手な災害より、地味な詰まりのほうが、はるかに高い確率で建物を傷めます。
ここからが本題です。
墨田区のハザード資料を1枚で読む
墨田区の水害ハザードマップは、洪水・高潮・雨水出水の3種類が、水防法第15条第3項に基づいて作成・公表されています。2026年8月25日に更新された区の公式ページから、それぞれPDFで確認できます(出典:墨田区「墨田区水害ハザードマップ(水害への備え)」)。
1. 洪水(荒川が氾濫した場合・想定最大規模)
浸水深と浸水継続時間の2枚が公開されています。墨田区の場合、この「継続時間」の図が重要です。区は、場所によっては浸水が2週間以上続く可能性を示しています。建物の1階・地下が2週間水に浸かるということは、電気室が使えない、エレベーターが動かない、給水ポンプが止まる、という話です。
2. 高潮(想定最大規模)
東京湾で発生した高潮が、海岸や河川から氾濫した場合の想定です。こちらも浸水深と浸水継続時間の2枚があります(都全体の図は東京都港湾局の高潮浸水想定区域図で確認できます)。
3. 雨水出水(内水)
ここが、墨田区のマンション・ビルで実際に一番起きている災害です。「内水」とは、下水道や排水路が雨をさばききれずにあふれる現象のことを指します。川から水が来るより先に、降った雨が足元からあふれてくる。
想定最大規模降雨として、時間最大雨量153mm・総雨量690mmが前提に置かれています。これは東京の下水道の整備水準を大きく超える雨量です。インフラ側で受けきれない分は、建物側で受け止めるしかない。 これが、私が屋上ドレンと外壁シーリングを最優先に挙げる理由です。
なお、区は縮尺と中心位置を自由に設定できるWeb版水害ハザードマップも公開しています。自分の建物の住所で開けば、3種類のリスクを1分で確認できます。
地域特性と漏水事故の関係
墨田区の地盤は、区の全域が沖積低地に分類されます。河川や海の働きで運ばれた泥や砂でつくられた、比較的新しい地層です。地下水位が高く、地震の揺れが増幅されやすい。液状化のリスクも、埋立・盛土のエリアや旧河道では相応にあります。
この地盤特性が、建物の漏水にどう効いてくるか。私の経験上、墨田区の物件では次の3つが目立ちます。
1. 不同沈下由来のクラック(ひび割れ)
軟弱地盤の上の建物は、わずかに傾きの差が出ることがあります。それが外壁の開口部の角、つまりサッシの四隅から斜めに走るクラックとして現れる。ここは雨水が最も入りやすい場所のひとつです。打診調査で浮きを探すだけでなく、クラックの方向と発生位置を記録しておくと、次回の修繕で効きます。
2. 地下ピット・地下駐車場の湧水
地下水位が高いので、地下ピットに常時水が溜まる建物が珍しくありません。排水ポンプが動いていることが前提の設計になっている。このポンプが停電で止まったときに何が起きるか、理事会で一度シミュレーションしておく価値があります。
3. 隅田川沿いの塩害と風
墨田区は海に直接面していませんが、隅田川・北十間川・横十間川に沿って風が抜けます。川沿いに建つ中高層の建物は、川側の面だけシーリングの劣化が早いことがあります。外壁は4面が均等に傷むわけではありません。 調査費を節約したい管理組合さまには、まず川側の1面だけロープアクセスで詳細に見て、そこから全体を推定する方法をご提案することがあります。
大規模修繕で必ずチェックすべき漏水ポイント7つ
墨田区に限らずですが、私が調査でまず見る7か所です。理事会の資料にそのまま使っていただいて構いません。
① 屋上防水の平場とパラペット(屋上の立上り部分)
平場よりも、パラペットの立上りと笠木(かさぎ/立上りの天端に被せる部材)の継ぎ目が先に切れます。ここが切れると、雨は壁の中を通って数階下の室内に出ます。原因の特定が最も難しいパターンです。
② 屋上ドレン(排水口)
落ち葉・土砂・鳥の巣。ストレーナー(ゴミよけのカゴ)が外れたまま何年も放置されている建物を、毎年何棟も見ます。清掃は年2回、出水期の前と後が基本です。
③ バルコニーの排水と防水
各戸の私物が置かれていて、排水溝が見えない。これも非常に多い。総会の資料に「バルコニーの排水溝の上に物を置かないでください」の1行を入れるだけで、事故は減ります。
④ 外壁シーリング(コーキング)
打継目地とサッシまわり。10年前後で硬化し、切れます。墨田区の物件では、前述のとおり川側の面から進むことがあります。
⑤ サッシまわり
シーリングだけでなく、サッシ本体の水切り・排水穴(水抜き孔)の詰まりも見ます。ここが詰まると、サッシの下枠から室内側に水が回ります。
⑥ エキスパンションジョイント(建物の継ぎ目部分)
棟が分かれている建物、増築している建物にあります。可動する部分なので、防水的には最も弱い。見落とされがちです。
⑦ 配管の貫通部
外壁を貫通する給排水管・エアコンのスリーブまわり。シーリングが痩せて隙間が空きます。上階のスリーブから入った水が、下階の天井に出ることがあります。
漏水の緊急対応で、ロープアクセスが強い理由
ここは私の本業の話なので、正直に書きます。
漏水が発生したとき、原因箇所が3階より上にある場合、通常の仮設足場だと架設に数日から1週間、費用も数十万円から数百万円かかります。「原因を特定するため」だけに足場を組むのは、管理組合にとって現実的ではありません。
ロープアクセス工法(産業用ロープを使った無足場工法)であれば、屋上にアンカーを取れる建物なら、原則として即日から翌日には作業員が壁面に出られます。調査だけなら半日で終わることも多い。そして、原因が特定できた時点で「この1か所だけ直す」という判断ができます。
墨田区のように、敷地に余裕がなく、隣地との離隔が取れない建物が多い区では、この差はさらに大きくなります。足場が物理的に組めない面がある建物も珍しくありません。
一方で、全面改修が必要な段階であれば、足場を組んだほうが安いこともあります。明誠では足場・ロープアクセス・両者を部位ごとに使い分けるハイブリッド工法の3つから、建物ごとに最適な組み合わせをご提案しています。工法の詳細と施工事例は、ロープアクセス工法のご紹介と、専門サイトのロープアクセス・メソッド(https://rope-access-method.com/)にまとめてあります。
漏水の原因調査については、漏水・雨漏り調査のページもあわせてご覧ください。
防災上の共用部:どこにあるかを図面で確認する
墨田区のマンション・ビルで、修繕計画に必ず載せていただきたいのが、次の設備の設置階です。
| 設備 | 確認すること | 浸水した場合 |
|---|---|---|
| 受電設備(キュービクル・電気室) | 地下/1階/屋上のどれか | 全館停電。復旧に数週間かかることがある |
| エレベーター機械室・ピット | ピットの排水経路 | 冠水すると長期停止。高層階の生活が成立しない |
| 給水ポンプ・受水槽 | 設置階と点検口の位置 | 断水。在宅避難ができなくなる |
| 自家発電設備 | 燃料タンクの位置と稼働時間 | 停電時の最後の砦。地下設置だと真っ先に沈む |
| 避難通路・非常階段 | 屋外階段の鉄部の腐食状況 | 錆による段板の抜けは、実際に起きています |
特に屋外の非常階段の鉄部は、私が墨田区・江東区エリアで一番ヒヤリとする箇所です。塗装が切れて錆が進行すると、見た目が保たれていても内部から痩せます。ロープアクセスで外壁を見るときは、非常階段の裏側も一緒に確認するようにしています。
なお墨田区には、水害時に近隣住民の避難受入れが可能な集合住宅に対して、防災対策用の資器材を交付する制度があります(出典:墨田区「集合住宅への資器材交付制度」)。マンション単体の話ではなく、地域の避難拠点としての役割を引き受ける制度です。防災課(03-5608-6206)が窓口です。
また区内の公園等には、区民が自由に使える約5キログラムの土のうを保管した土のうステーションが設置されています。エントランスの浸水対策として、場所だけでも掲示板に貼っておくと役立ちます。
墨田区の耐震助成は、令和8年4月1日に拡充されています
ここは年度で内容が変わる部分なので、丁寧に書きます。
墨田区は、令和8年4月1日から不燃化・耐震化の助成制度を拡充しました(出典:墨田区「不燃化・耐震化の助成制度の拡充について」 更新日2026年4月24日)。分譲マンションに関係する主な変更点は次のとおりです。
- 一般緊急輸送道路沿道建築物・非木造建築物・分譲マンションの耐震診断助成額を300万円へ引き上げ(令和8年4月1日から)
- 特定緊急輸送道路沿道建築物の耐震改修工事等の補助率を9/10へ引き上げ
- 住宅耐震改修等助成制度について、令和8年4月1日より非木造(鉄骨造・鉄筋コンクリート造・鉄骨鉄筋コンクリート造)も助成対象に追加
- ブロック塀等の無料耐震相談と撤去工事助成を令和8年4月1日から新規開始
分譲マンション向けの詳細は、区の分譲マンション耐震化促進事業および耐震診断助成事業のページをご確認ください。
要件や申請の順番があり、着工後の申請は受け付けられないのが通例です。窓口は不燃・耐震促進課(耐震は03-5608-6269、不燃化は03-5608-6268)です。予算枠のある事業は年度途中で受付を終えることもありますので、検討されている管理組合さまは、早めに窓口へ残枠を確認されることをおすすめします。
背景データ:雨の降り方が変わっている
「昔はこんなに漏らなかった」というお声を、本当によくいただきます。感覚の問題ではありません。
気象庁は、全国のアメダスで観測した1時間降水量50mm以上の年間発生回数について、統計期間の初めごろと比べて増加していることを公表しています(出典:気象庁「日本の気候変動2025」)。強い雨ほど、頻度の増加率が高いという評価です。
墨田区の雨水出水ハザードマップが前提にしている時間最大153mmは、繰り返しになりますが、下水道の整備水準を大きく超える雨です。区とインフラ側の対策には限界があり、その差は建物側で埋めるしかありません。
なお、区の境界を越えたハザード情報は、国土地理院の重ねるハザードマップで自分の建物の位置をピンポイントに確認できます。墨田区の場合、荒川の対岸(足立区・葛飾区)や、隅田川の対岸(台東区・中央区)に関係する物件をお持ちなら、江東5区(墨田区・江東区・足立区・葛飾区・江戸川区)で策定された大規模水害対策の広域避難の考え方にも目を通しておくと、理事会での説明がしやすくなります。
まとめ:今週、理事会・管理会社に投げられる3点
長くなりました。墨田区の建物で、今週すぐ動けることを3つに絞ります。
1. Web版ハザードマップで、自分の建物の3つのリスクを確認する
墨田区Web版水害ハザードマップで住所を入れ、洪水・高潮・雨水出水の3つを順に見る。特に洪水の「浸水継続時間」をメモしてください。10分で終わります。
2. 屋上ドレンの清掃記録を、管理会社に出してもらう
直近1年で何回清掃したか。ストレーナーは付いているか。地下ピットがある物件は、排水ポンプの点検記録もあわせて。台風シーズンの真っ最中ですから、今週が一番効きます。
3. 電気室・給水ポンプ・エレベーターピットの設置階を、図面で確認する
地下または1階にあるなら、止水板の見積りを1本取っておく。あわせて、耐震診断助成の残枠を不燃・耐震促進課(03-5608-6269)に電話で確認する。着工前の申請が前提なので、順番を間違えないようにしてください。
10月までに動けるかどうかが、今シーズンの分かれ目です。理事会で1分だけでもこの話題を出してみてください。調査だけ、ご相談だけでも構いません。総会前の整理の段階から、お力になれることがあります。お問合せフォームからお声がけください。
冒頭の理事長さまには、結局こうお伝えしました。「荒川の想定は、避難の計画で備えるものです。建物の修繕で備えるのは、毎年来る雨のほうです」と。この2つを混ぜないことが、墨田区で修繕積立金を有効に使う一番の近道だと、私は思っています。
本記事の情報の鮮度について:本記事は2026年9月15日時点で公表されている墨田区および国土交通省・気象庁・東京都の公式情報をもとに執筆しています。制度は年度途中でも改正・予算終了があり得ます。実際に申請される前に、必ず墨田区および該当窓口へ最新の内容をご確認ください。ハザードマップの被害想定は東京都および区が公表したものであり、実際の被害状況と異なることがあります。
出典・参考資料
- 墨田区「墨田区水害ハザードマップ(水害への備え)」(更新日:2026年8月25日)
- 墨田区「墨田区Web版水害ハザードマップ」
- 墨田区「大規模水害対策(江東5区)」
- 墨田区「集合住宅への資器材交付制度」
- 墨田区「土のうステーション」
- 墨田区「不燃化・耐震化の助成制度の拡充について」(更新日:2026年4月24日)
- 墨田区「分譲マンション耐震化促進事業」
- 墨田区「耐震診断助成事業」
- 東京都港湾局「高潮浸水想定区域図」
- 東京都建設局「隅田川及び新河岸川洪水浸水想定区域図」
- 気象庁「日本の気候変動2025 —大気と陸・海洋に関する観測・予測評価報告書—」
- 国土地理院「重ねるハザードマップ」
関連ページ
ロープアクセス工法の詳しい解説・施工事例はこちら → https://rope-access-method.com/


