大規模修繕はロープアクセスが提案可能な東京の明誠へ

創業から6000棟超の施工実績

東京23区の単身向け家賃が26カ月ぶり下落|「家賃で吸収する」が効かなくなった賃貸オーナーが、次に触るべき一行【2026年8月】

東京23区の単身向け家賃が26カ月ぶり下落|「家賃で吸収する」が効かなくなった賃貸オーナーが、次に触るべき一行【2026年8月】

この記事で答える質問:東京23区の単身向け家賃が2年ぶりに下がりました。家賃の上昇でコスト増を吸収してきた賃貸オーナーは、これから何で利回りを守ればいいのか?

2026年8月27日、アットホームが2026年7月の募集家賃動向を公表しました。見出しになったのは一行です。25カ月連続で最高値を更新していた東京23区マンションのシングル向きが、26カ月ぶりに下落した(出典:アットホーム調査/2026年8月27日発表)。

下落幅は前年同月比0.1%。金額にすると1戸あたり月100円ほどです。これだけを見れば、慌てる話ではありません。

ただ、私はこのニュースを別の意味で重く受け止めています。「家賃を上げれば、上がったコストは吸収できる」という2年間の前提が、いま静かに終わりかけているからです。

先に結論を申し上げます。下落した0.1%は、1戸あたり年1,400円ほどの話です。一方、外壁の改修工事はいま1戸あたり40万〜90万円かかります。桁が3つ違う。守るべきは家賃の小数点以下ではなく、10年に一度の支出の中身です。

私は塗装と改修の現場に20年近くいます。賃貸オーナーさまとお話ししていて一番もったいないと感じるのは、家賃を1,000円上げるための議論に何時間もかけて、300万円の見積書を1時間で決めてしまうケースです。この記事では、そこを逆にする話をします。

最終更新:2026年8月29日


1. 結論|「家賃で吸収する」から「支出で守る」へ、賃貸経営の主戦場が移る

1-1. 先に数字で答えます

Q. 家賃0.1%の下落は、オーナーの収支をいくら悪化させるか?

A. 東京23区の単身向けマンション(募集家賃 月11万4,147円)で計算すると、1戸あたり月約114円、年約1,370円です。

20戸のマンションでも、年間2万7,000円ほど。これ自体は、経営判断を変えるような数字ではありません。

Q. では、同じ物件で「外壁の改修工事」はいくらかかるか?

A. 国土交通省が公表している実例では、築41年・RC造5階建て20戸(延床約1,365㎡)の外壁全体改修工事で約1,800万円。1戸あたり90万円です(出典:国土交通省「賃貸住宅管理業者向け 計画修繕ガイドブック」)。

家賃0.1%の下落=年1,370円/戸。外壁改修1回=90万円/戸。 その差は約660倍です。

もちろん、修繕は10年以上に一度ですから単純比較はできません。それでも、どちらの数字を先に精査すべきかは、はっきりしていると思います。

1-2. なぜ「今」なのか

2024年から2026年前半にかけて、賃貸オーナーは幸運でした。建築費も修繕費も上がりましたが、それ以上に家賃が上がったからです。東京23区のシングル向きマンションは、25カ月連続で最高値を更新し続けていました。上がったコストは、次の入居者の家賃に乗せられた。

その連鎖に、今回初めてブレーキがかかりました。1カ月の数字なので、これがトレンドの転換かどうかはまだ分かりません。ただ、少なくとも「上がり続けることを前提に計画を立てる」フェーズは終わったと考えて、経営を組み直しておく価値はあります。

1-3. この記事の要点を3行で

  • 下落したのは東京23区マンションのシングル向きだけ。アパートのシングル向きは15カ月連続で最高値更新中で、市場全体が崩れたわけではない
  • 家賃の伸びが止まると、上昇し続ける修繕費との挟み撃ちになる。国交省の試算では、計画修繕の有無で実質利回りがRC造で0.25ポイント変わる
  • 修繕費で削る余地は「材料の値切り」ではなく「仮設のつくり方」にある。ロープアクセス工法やハイブリッド工法が選択肢になるのはここ

2. データを正確に読む|「26カ月ぶり下落」で下落したものは何か

2-1. まず調査の定義を押さえる

ニュースの見出しだけで判断すると、市場全体が下落に転じたように読めてしまいます。実際は違います。アットホームの調査定義を確認しておきます。

項目 内容
調査主体 アットホーム株式会社(調査・分析:アットホームラボ株式会社)
対象データ 不動産情報サイト「アットホーム」で登録・公開された居住用賃貸マンション・アパート(重複物件はユニーク化)
「家賃」の定義 入居者が1カ月に支払う「賃料+管理費・共益費等
面積区分 30㎡以下=シングル向き/30〜50㎡=カップル向き/50〜70㎡=ファミリー向き/70㎡超=大型ファミリー向き
対象エリア 首都圏(東京23区・東京都下・神奈川・埼玉・千葉)、札幌、仙台、名古屋、京都、大阪、神戸、広島、福岡の計13エリア
家賃指数の基準 2015年1月=100

(出典:アットホーム「全国主要都市の賃貸マンション・アパート募集家賃動向(2026年7月)」

重要な点が2つあります。

ひとつは、これが「募集家賃」であって「成約家賃」ではないこと。つまり、募集時点でオーナー・管理会社が提示した金額の平均です。値付けの姿勢が変わったことを先に映す指標であり、実際に決まった賃料の平均とは別物です。

もうひとつは、管理費・共益費を含むこと。管理費を上げて賃料を据え置く、という値付けの調整はこの指標では見えません。

2-2. 下落したのは「東京23区マンションのシングル向き」だけ

同じ発表資料の全体概況を整理します。

区分 2026年7月の状況
マンション全体 首都圏全エリア+名古屋・京都・大阪・神戸・福岡の計10エリアが全面積帯で前年同月超
マンション/東京23区シングル向き 25カ月連続で最高値更新 → 26カ月ぶりに下落(今回のニュース)
マンション/カップル向き 6カ月連続して全エリアで前年同月超。東京23区は14カ月連続で2015年1月以降の最高値を更新
アパート/シングル向き 5カ月連続して全エリアで前年同月超。東京23区は15カ月連続で最高値を更新

こうして並べると、印象がかなり変わるはずです。下落したのは13エリア×4面積帯×2物件種別のうち、たった1マスです。残りはほぼ全面的に上昇継続、しかも東京23区のカップル向きとアパートのシングル向きは最高値を更新し続けています。

私がここで申し上げたいのは「だから心配ない」ということではありません。逆です。最も需要が厚く、最も強気に値付けできていた区画で、最初に頭打ちが出たという事実のほうが示唆的だ、ということです。

2-3. 賃貸経営の背景にある構造

数字の背景として、押さえておきたいストックの状況があります。

  • 民間賃貸住宅は全国に約1,530万戸と推計され、住宅ストック総数の3割近くを占める。毎年新規に概ね30万戸が供給されている(出典:国土交通省「賃貸住宅管理業者向け 計画修繕ガイドブック」
  • 総務省「令和5年住宅・土地統計調査」(確報:2024年9月25日公表)では、空き家数899.5万戸、空き家率13.8%でいずれも過去最高。共同住宅の空き家の約8割は賃貸用(出典:総務省統計局

供給ストックは厚く、空室も増えている。その中で価格が上がり続けてきたのは、都心部の需給が特別にタイトだったからです。その特別さが、少しだけ緩んだ。今回の数字はそう読むのが妥当だと私は考えています。


3. なぜ「シングル向き」から止まったのか

私は不動産市況の専門家ではありませんので、断定は避けます。ただ、現場で建物を見て回っている立場から、思い当たる要因を3つ挙げておきます。いずれも仮説です。

3-1. 単身者の負担限度に近づいた

東京23区のシングル向きマンションの平均募集家賃は月11万4,147円(管理費込み)です。単身の勤労者にとって、この水準は既に重い。家賃負担率が3割を超えてくると、次の値上げは「別の駅を探す」という行動に直結します。金額の絶対水準が、値上げの余地を物理的に削っている可能性があります。

3-2. アパートという代替がある

同じ調査で、アパートのシングル向きは東京23区で15カ月連続の最高値更新中です。これは裏を返せば、マンションから溢れた需要をアパートが吸収しているとも読めます。マンション側だけを見ていると需要減に見えますが、市場全体では移動が起きているだけかもしれません。

3-3. 供給される部屋のミックスが変わった

募集家賃の平均値は、その月にどんな部屋が募集に出たかで動きます。都心の高額物件の募集が一時的に減れば、平均は下がります。0.1%という幅は、こうした構成変化でも十分に説明がつく範囲です。

つまり、この1カ月の数字だけで「家賃下落局面入り」と断定するのは早計です。それでも、経営計画を「上がり続ける前提」から「横ばい前提」に置き換えておくことは、コストのかからないリスク管理です。


4. 家賃が横ばいになると、オーナーの何が壊れるか

4-1. NOIの分解式で見る

賃貸経営の収益は、乱暴に書けばこうです。

NOI(純収益)= 満室想定家賃 ×(1 − 空室率)− 運営費 − 修繕費

これまでの2年間は、左端の「満室想定家賃」が毎月上がっていたので、右側の運営費・修繕費が多少増えても差し引きはプラスでした。

家賃が横ばいになると、この構図が変わります。右側が増えた分は、そのままNOIの減少になる。そして右側の修繕費は、いま確実に増えている側です。

4-2. 修繕費は「上がり続ける」側にある

国土交通省が公表する建設工事費デフレーター(2015年度=100)は、建設総合で130台に達しています。10年で建設コストがおよそ3割上がった計算です(出典:国土交通省「建設工事費デフレーター」。最新値は必ず国交省の公表ページでご確認ください)。

塗料についても、2026年に入って主要メーカーの価格改定が相次いでいます。関西ペイントは溶剤系20〜35%、水性15〜30%を6月15日出荷分から実施しました。この点は先日の記事で詳しく分解しています。

つまり、収入側は横ばい、支出側は上昇。これが2026年後半の賃貸オーナーが置かれている構図です。

4-3. 挟み撃ちを数字で見る

築20年・RC造・20戸・シングル向きのマンションを想定して、ざっくり試算してみます。あくまでモデルケースで、実際の数値は物件ごとに大きく異なります。

項目 従来(家賃上昇局面) これから(家賃横ばい局面)
満室想定家賃(20戸×11.4万円) 年2,736万円(前年比+2〜3%) 年2,736万円(前年比±0%)
家賃上昇による増収 年+55万〜82万円 年±0円
修繕・工事コストの上昇 年数十万円規模で増加 年数十万円規模で増加(継続)
差し引き ほぼ相殺できた そのままNOI減

家賃の上昇が止まった瞬間に、コスト上昇を吸収する原資が消えます。これが「挟み撃ち」の実態です。


5. 国交省データが答えている|計画修繕は「コスト」ではなく「利回り」

ここからが本題です。支出側で何ができるのか。まず、修繕を削ることは解決にならないという国のデータを見てください。

5-1. 計画修繕の有無で、実質利回りはこれだけ変わる

国土交通省が実施したシミュレーション調査の結果です。

構造 計画修繕あり 計画修繕なし
木造 2.13% 1.90% +0.23ポイント
RC造 2.78% 2.53% +0.25ポイント

(出典:国土交通省住宅局「賃貸住宅の計画的な維持管理及び性能向上の推進について〜計画修繕を含む投資判断の重要性〜」平成31年3月/計画修繕ガイドブックに収載。注:木造の計画修繕ありは経営期間30年・なしは22年、RCのありは60年・なしは47年と設定)

注目していただきたいのは、利回りの差だけでなく「経営期間」の差です。計画修繕をしなければ、RC造で60年もつはずの建物が47年で経営終了になる。13年分の家賃収入が丸ごと消えるという試算です。20戸×11.4万円なら、13年で3億5,000万円を超えます。

5-2. オーナー自身が実感していること

計画修繕を実施したことのあるオーナーへのアンケート結果です。

効果 回答率
高い入居率を確保できた 29.3%
家賃水準を維持できた 28.0%
周辺物件に対し競争力が高まった 22.5%
入居期間の長期化につながった 約2割

(出典:「民間賃貸住宅市場の実態把握及び分析に関する調査検討 計画修繕の実態等調査報告書」令和5年3月・国土交通省)

約3割のオーナーが「家賃水準を維持できた」と回答している。これは、今回のニュースの文脈でそのまま効いてくる数字です。家賃が上げにくくなる局面で、維持できるかどうかを分けるのが計画修繕だ、ということです。

5-3. 入居者は、思っている以上に建物の状態を見ている

民間賃貸住宅の入居者に「住み替え先を選ぶ際に重視したこと」を聞いた調査です。

項目 重視率
住宅の広さや間取り 81.7%
家賃・管理費の負担水準 81.0%
収納の多さ、使いやすさ 77.2%
住宅の状況(いたみ・劣化等) 77.2%
台所・トイレ・浴室などの使いやすさ、広さ 70.9%
住宅の維持管理 67.3%

(出典:一般財団法人住宅改良開発公社「賃貸住宅市場の動向と将来予測(展望)調査」2020年8月/国交省ガイドブック収載。重視率は「とても重視」+「重視」の合計)

「住宅の状況(いたみ・劣化等)」は、家賃負担水準に次ぐレベルで重視されています。外壁のチョーキング(白い粉)、階段の錆、バルコニーのひび。内見に来た方は、言葉にしないだけで確実に見ています。

5-4. それなのに、計画修繕をしているオーナーは約4割

ここが問題です。国交省の家主アンケート(令和4年度)によれば、

  • 計画的に修繕を実施しているオーナー:約4割
  • 計画修繕を実施していないオーナー:約2割

管理会社側も同様で、計画修繕を実施していない管理業者が全体の約2割。その理由は約4割が「提案したくてもノウハウがない」、約3割が「必要な時に修繕すれば十分」と回答しています。

つまり、多くのオーナーは「修繕の相談相手がいない」状態で放置されているのが現状です。私が現場でお会いするオーナーさまの実感とも、この数字は一致します。


6. 修繕費のどこを削れるのか|答えは「材料」ではなく「仮設」

計画修繕が必要なことは分かった。では、上がり続ける工事費をどう抑えるのか。ここが本題の核心です。

6-1. まず修繕周期を正確に知る

国交省ガイドラインの標準様式に基づく、修繕項目ごとの周期の目安です。

修繕項目 工事区分 修繕周期(年)
仮設工事 仮設 12〜15
屋根防水(補修・修繕) 建物 12〜15
屋根防水(撤去・新設) 建物 24〜30
床防水(補修・塗替) 建物 12〜15
外壁塗装等 建物 12〜15
鉄部塗装等(塗装) 建物 5〜7
建具・金物等(取替) 建物 24〜28
給水設備(取替・貯水槽) 設備 30〜40
排水設備(取替・排水管) 設備 30〜40
昇降機設備(補修) 設備 12〜15

(出典:国土交通省「長期修繕計画作成ガイドライン」の長期修繕計画標準様式第3-2号記載例をもとに簡略化。中高層の単棟型を想定)

ここで気づいていただきたいのは、「仮設工事」が独立した修繕項目として、外壁塗装と同じ12〜15年周期で計上されていることです。

足場は、建物を直しません。にもかかわらず、外壁を塗るたびに、防水をやり直すたびに、同じ回数だけ発生します。分譲マンションの長期修繕計画366事例を集計した国交省データでは、仮設工事は工事費全体の9.0%を占めています。小規模な賃貸物件で外壁改修だけを単独発注する場合、この比率はさらに高くなりやすいというのが、私の実務上の感覚です(物件形状・道路条件に大きく左右されるため、断定はできません)。

6-2. 鉄部塗装の5〜7年周期という落とし穴

表の中で、賃貸オーナーに特に見ていただきたいのが鉄部塗装等の5〜7年です。

外階段、廊下の手すり、鉄扉、避難ハッチ。これらは12〜15年ではなく、5〜7年で塗り直しが必要です。ところが、多くの賃貸物件では「大規模修繕のときにまとめてやる」運用になっている。結果、12年目を迎えるころには錆が進行し、塗装では済まず部材交換になります。

国交省ガイドブックも、手すりについて「錆や腐食によって、美観が損なわれるだけでなく、損壊・崩落の危険性が増大」と明記しています。ここは費用の話であると同時に、安全の話です。

6-3. ロープアクセス工法という選択肢

では、5〜7年ごとの鉄部塗装のために、毎回足場を組むのか。現実的ではありません。

ここで選択肢になるのが、ロープアクセス工法(無足場工法)です。産業用ロープで作業員が建物の外壁を上下し、足場を架けずに調査・補修・塗装を行う工法で、私たちが日本で初めてフランチャイズ展開している分野でもあります。工法の詳細はロープアクセス工法の専門サイトで技術面から解説していますので、興味のある方はそちらもご覧ください。

賃貸オーナーにとっての意味は、大きく3つです。

① 部分的な工事が現実的な価格でできる
足場を組む前提だと、「錆びた手すりだけ塗る」ための工事は割に合いません。仮設費が工事本体より高くなってしまうからです。ロープアクセスなら、必要な箇所だけを、必要なタイミングで直せます。5〜7年周期の鉄部塗装を、周期どおりに実施できるようになる。これが長期的には一番効きます。

② 工事中の稼働率を落としにくい
足場を組むと、防犯上の不安、日照・眺望の悪化、洗濯物が干せない、といった理由で、工事期間中の空室が埋まりにくくなります。1戸の空室が3カ月続けば、11.4万円×3=34万円の機会損失です。20戸のうち2戸で起きれば68万円。工事費の値引き交渉で得られる金額より、稼働の維持で守れる金額のほうが大きいケースは珍しくありません。

③ 調査だけでも頼める
長期修繕計画を作る前段階の「いま建物がどうなっているか」の確認を、足場なしで実施できます。国交省も賃貸住宅の修繕・点検時期セルフチェックという無料ツールを公開していますので、まずはご自身で当たりをつけてから、専門家の調査に進むのが合理的です。

6-4. ロープアクセスが向かないケースも正直に書きます

営業のために都合のいいことばかり書いても仕方がないので、向かないケースも挙げます。

  • 外壁を全面的に張り替える/タイルを広範囲に貼り替えるような、材料の搬出入が大量に発生する工事
  • バルコニーの内側など、ロープでのアプローチが構造的に困難な部位が主体の工事
  • 足場を使った全面改修を、10年以上先送りにしてきた物件。劣化が進みすぎている場合は、結局足場を組んだほうが安く確実です

私たちがハイブリッド工法(足場とロープアクセスを部位ごとに使い分ける方法)を提案するのは、まさにこの中間領域があるからです。全部を足場で囲うのでも、全部をロープでやるのでもなく、部位ごとに安い方を選ぶ。これが現時点でいちばん総額が下がるやり方だと考えています。


7. 実データでモデルケース|国交省の事例3件で「1戸あたり」を見る

抽象論では判断できませんので、国交省ガイドブックに実額で掲載されている大規模修繕の事例3件を、1戸あたりに割り戻してみます。

事例 建物 工事内容 工事費 1戸あたり 家賃(11.4万円)換算
物件A 築34年・RC造4階建8戸(延床約335㎡) 外壁全体改修(屋上除く) 約700万円 約87.5万円 約7.7カ月分
物件B 築41年・RC造5階建20戸(延床約1,365㎡) 外壁全体改修 約1,800万円 約90.0万円 約7.9カ月分
物件C 築28年・木造2階建12戸(延床約266㎡) 外壁全体改修(屋根塗替・バルコニー防水打ち直し含む) 約470万円 約39.2万円 約3.4カ月分

(出典:国土交通省「賃貸住宅管理業者向け 計画修繕ガイドブック」Case Study

1戸あたり40万〜90万円。家賃の3.4〜7.9カ月分。これが、10年から15年に一度必ずやってくる支出の実額です。

冒頭の数字と並べてみます。

  • 家賃0.1%の下落 = 1戸あたり 年1,370円
  • 外壁改修1回 = 1戸あたり 40万〜90万円

家賃下落のニュースに反応するエネルギーの10分の1でも、この見積書の精査に向けたほうが、収支への効き目は圧倒的に大きい。私が申し上げたいのは、その一点です。

7-1. では、いくら積み立てておくべきか

国交省ガイドブックには、積立額の設定例が具体的に載っています。

項目 数値
戸数 18戸
戸あたり月額家賃 10万円
年間家賃収入 2,160万円
長期修繕計画35年間の修繕費合計 9,500万円
毎月の修繕積立額(9,500万円÷420カ月) 22万6,190円
戸あたり月額積立額 1万2,566円

(出典:同ガイドブック「修繕資金積立額設定の例」)

家賃10万円に対して、月1万2,566円。家賃の約12.6%を修繕に積み立てる計算です。

これを見て「そんなに?」と思われた方は、率直に申し上げて、修繕資金が不足する可能性が高いです。逆に言えば、この12%前後という比率を知っているだけで、経営判断の精度がまったく変わります。

ガイドブックには、より簡便な目安も併記されています。

  • 例1:物件建築費に対する一定割合を年間積立額の目安とする(建築費1億円なら年1%=100万円。10年で1,000万円)
  • 例2:大規模修繕工事費が年間の総家賃収入を超えない程度とする

そして、修繕資金の確保手段として、賃貸住宅修繕共済(共済掛金は経費算入可)、積立型の金融商品、住宅金融支援機構などの賃貸住宅リフォーム融資、修繕資金信託などが紹介されています。積み立てが間に合わない場合の選択肢も、制度としては用意されているということです。


8. 賃貸オーナーが、この3カ月でやっておくべき5つのこと

家賃の伸びが止まったというニュースを受けて、実際に何をするか。優先順位順に5つ挙げます。

① 自分の物件の「最後の外壁工事はいつか」を確認する

これが分からないオーナーさまは、驚くほど多いです。外壁塗装の周期は12〜15年、鉄部塗装は5〜7年。前回から何年経っているかを確認するだけで、次の支出のタイミングが見えます。書類が見つからない場合は、購入時の重要事項説明書や、前オーナー・前管理会社への確認から始めてください。

② 長期修繕計画があるか確認する。なければ作る

国交省は、分譲マンションでは計画期間30年以上・大規模修繕2回以上を含む計画が一般的だとしたうえで、民間賃貸住宅もこれを参考にすべきとしています。新築時に施工会社や建築士から交付されている場合があるので、まず「あるかどうか」の確認からです。

③ 修繕積立額を「家賃の◯%」で言えるようにする

前章の12.6%はあくまで一例ですが、自分の物件で何%になるのかを一度計算しておく。これだけで、毎年の資金繰りの見え方が変わります。

④ 見積書は「仮設工事費」の行から読む

工事の見積を取る際、多くの方は材料のグレードと総額を見ます。私がお勧めしているのは、仮設工事費の行を最初に見て、その金額の根拠(架面積の単価×数量)を質問することです。ここに納得がいけば、残りの費目は比較的判断しやすくなります。

⑤ 「足場を組まない選択肢はあるか」を1社には聞いておく

すべての工事にロープアクセスが向くわけではありません。ただし、選択肢として検討したうえで足場を選ぶのと、足場しか知らずに足場を選ぶのとでは、意味がまったく違います。相見積もりを取る3社のうち1社は、無足場工法を扱える会社を入れておくことをお勧めします。工事の進め方や当社の施工体制についてはサービス案内ページもあわせてご覧ください。


9. よくある質問

Q1. 家賃が下がり始めたのなら、修繕を先送りしたほうが手元資金は守れるのでは?

A. 短期的にはそうですが、国交省の試算では逆の結果が出ています。計画修繕を実施した場合の実質利回りは、木造で2.13%(未実施1.90%)、RC造で2.78%(未実施2.53%)。加えて、未実施の場合は経営期間そのものがRC造で60年→47年と13年短くなる想定です。先送りは、手元資金の確保と引き換えに、経営期間と利回りを削る行為になります。

また、ガイドブックは「不具合や劣化が進行し、腐朽や破損が生じてから修繕を行う場合の方が、計画修繕と比較して工事費がかさむ」と明記しています。外壁から雨水が浸入すれば、入居者に一時退去してもらう必要が生じ、宿泊費や所持物の補償まで発生します。

Q2. 家賃0.1%の下落は、うちの物件にも波及しますか?

A. 現時点では、東京23区のマンション・シングル向き(30㎡以下)という限られた区画の話です。同じ調査で、アパートのシングル向きは東京23区で15カ月連続の最高値更新、マンションのカップル向きも14カ月連続の最高値更新中です。ご自身の物件がどの区画に属するかで、読み方は変わります。一方で、「上がり続ける前提」で立てた事業計画を横ばい前提に置き換えて再計算しておくことは、どの区画のオーナーにとっても損のない備えだと思います。

Q3. ロープアクセス工法にすると、工事費はどのくらい下がりますか?

A. 物件の形状・高さ・道路条件・工事範囲によって大きく変わるため、「◯%下がります」という言い方はできません。分かっているのは、仮設工事が分譲マンションの長期修繕計画366事例平均で工事費の9.0%を占めること、そして小規模物件の部分改修ではその比率がさらに高くなりやすいことです。足場を組まないことで消える費用の絶対額は、見積を取れば1分で分かります。まず両方の見積を並べてみるのが確実です。工法ごとの適用条件や施工手順については、ロープアクセス工法の技術解説サイト明誠のロープアクセス工事ページにまとめてあります。

Q4. 工事中に入居者が退去してしまうのが心配です

A. これは、工事費の議論より先に検討すべき論点です。足場は防犯不安、日照・眺望の悪化、洗濯物が干せないといった負担を入居者にかけます。1戸の空室が3カ月続けば、東京23区の単身向け平均家賃で約34万円の機会損失です。ロープアクセス工法は施工範囲が限定される代わりに、建物全体を囲わないため生活への影響を小さくできます。また、国交省ガイドブックも「住戸内の修繕工事期間中は家賃を得ることができないため、その点も考慮して提案する必要がある」と管理業者に求めています。工期と稼働は、必ず工事費とセットで見てください。

Q5. 管理会社に相談しても、修繕の提案が出てきません

A. 珍しいことではありません。国交省の管理業者アンケートでは、計画修繕を実施していない管理業者が全体の約2割を占め、その理由として約4割が「提案したくてもノウハウがない」と回答しています。管理業務と修繕工事は、必要な知見が異なります。管理会社を責めるのではなく、修繕については別途、施工側の専門家に直接相談するという切り分けが現実的です。国交省の賃貸住宅の修繕・点検時期セルフチェックで当たりをつけてから相談すると、話が早く進みます。


10. まとめ

  • 2026年7月、東京23区マンションのシングル向き募集家賃が26カ月ぶりに下落(前年同月比0.1%安、月11万4,147円)。ただし下落したのはこの1区画のみで、アパートのシングル向きは15カ月連続で最高値更新中
  • 家賃0.1%の下落は1戸あたり年1,370円。一方、外壁改修は国交省の実例で1戸あたり40万〜90万円。精査すべき優先順位ははっきりしている
  • 国交省の試算では、計画修繕の有無で実質利回りが木造+0.23/RC+0.25ポイント、経営期間がRC造で13年変わる
  • 修繕費で動かせる余地は「材料の値切り」ではなく「仮設のつくり方」。仮設工事は外壁塗装と同じ12〜15年周期で発生し、分譲マンション366事例では工事費の9.0%を占める
  • 鉄部塗装は5〜7年周期。足場前提だと周期どおりに実施できず、結果として部材交換になる。ロープアクセス工法・ハイブリッド工法が効くのはここ

出典・参考資料

※本記事に記載した統計・制度・金額は、記事作成時点で公表されている情報に基づくものです。数値や制度は変更される可能性がありますので、最新の情報は必ず各公式サイトでご確認ください。モデルケースの試算は一般的な前提を置いたものであり、個別物件の収支を保証するものではありません。税務・法務の個別判断については専門家にご相談ください。


最後に

「家賃が下がった」というニュースは不安を煽ります。けれど数字を分解してみると、動いたのは1戸あたり年1,400円ほどで、その何百倍もの金額が、10年に一度の見積書の中で決まっていることが分かります。

私が賃貸オーナーさまにいつもお願いしているのは、家賃表と長期修繕計画を、同じテーブルに並べて見てくださいということだけです。収入側だけを見ていると、支出側の12%が視界から消えてしまう。

外壁の状態を見て「あと何年もつか」を判断するだけなら、足場は要りません。ロープアクセスなら半日で調査できます。判断材料が足りないと感じられたら、お問合せフォームからご相談だけでも遠慮なくお声がけください。工事のご依頼が前提でなくても構いません。

これは私が現場で20年見てきた、嘘偽りのない感想です。次回も、現場で本当に使える話だけをお届けします。


執筆者:本間 幸紘(株式会社明誠 代表取締役)
専門領域:マンション大規模修繕/ロープアクセス工法/建物長寿命化計画
実務経験:建設・改修業界 20年以上
所属:一般社団法人 全国建設業支援協会(JCSA)

株式会社明誠について:東京都小平市を拠点に、東京・関東一円でロープアクセス工法・従来足場工法・両者を組み合わせたハイブリッド工法の3工法から、建物にとって最適な方法をご提案できる改修会社です。日本初のロープアクセス工事フランチャイズを展開し、塗装・防水・タイル・電気・看板工事などの専門職が加盟しています。

最終更新:2026年8月29日