
2026年8月30日 更新
この記事で答える質問:
管理会社が「管理者」を務めるマンションで、大規模修繕の発注は誰がどう決めているのか。2026年4月に何が変わり、区分所有者やオーナーは総会の前に何を確認すればいいのか。
私は20年、マンションやビルの外壁の前に立ってきました。その中で、ここ数年で一番はっきり変わったと感じているのが、「見積書を受け取る相手が誰なのか」という一点です。
かつては理事長さまでした。次に修繕委員長さまが増えました。そして今、発注の相手方が管理会社そのものというケースが、静かに、しかし確実に増えています。
その流れに、国が明確に線を引きました。
1. 結論:大規模修繕の発注は「説明できる形」でしか通らなくなった
先に結論を3行で申し上げます。
- 国土交通省は令和7年度、全国112社のマンション管理業者に立入検査を実施し、31社に対して合計49件の是正指導を行いました(令和8年5月29日公表)。前年度は107社中22社。社数も件数も増えています。
- 2026年4月1日、改正マンション管理適正化法が施行され、「第77条の2」が新設されました。管理業者が管理者を務めるマンション(管理業者管理者方式)で、利益相反のおそれがある取引を行う場合、区分所有者への事前の説明会が義務になりました。
- その説明で開示すべき事項には、「相手方以外に提出させた見積もりの内容」と「相手方以外に見積もりさせなかった理由」が含まれます。つまり国は、相見積もりを取ったのか、取らなかったならなぜか、を言語化させる制度にしたということです。
大規模修繕は、多くのマンションにとって修繕積立金の使い道として最大の支出です。その発注が、これからは「誰が決めたか」ではなく「どう説明されたか」で評価されます。
そして正直に申し上げると、この制度は私たち施工会社にとっても、決して楽な話ではありません。説明できない金額は通らなくなるからです。それでいいと思っています。
2. 何が起きたのか──国交省の令和7年度立入検査
2-1. 数字の全体像
まず、国土交通省が公表した一次情報を、そのまま置きます。
| 項目 | 令和7年度 | 令和6年度 |
|---|---|---|
| 立入検査を実施した業者数 | 112社 | 107社 |
| 是正指導を行った業者数 | 31社 | 22社 |
| 是正指導件数(合計) | 49件 | 45件 |
| 是正等が確認された業者 | 31社すべて | - |
(出典:国土交通省「マンション管理業者への全国立入検査結果(令和7年度)について」令和8年5月29日)
前提として、マンション管理業者の登録数は1,735社(令和7年度末現在)、マンションのストック戸数は約713万戸(令和6年末現在)です。112社という検査対象は全体の6.5%程度ですから、これは「業界の悉皆調査」ではなく、抽出調査です。それでも4社に1社以上で是正指導が出ている、という事実は重く見るべきだと思います。
2-2. 是正指導事項の内訳
| # | 適正化法の条項 | 令和7年度 | 令和6年度 |
|---|---|---|---|
| ① | 専任の管理業務主任者の設置義務違反(第56条) | 4件 | 3件 |
| ② | 重要事項説明義務違反(第72条) | 16件 | 14件 |
| ③ | 契約成立時の書面交付義務違反(第73条) | 19件 | 10件 |
| ④ | 財産の分別管理義務違反(第76条) | 5件 | 9件 |
| ⑤ | 管理事務の報告義務違反(第77条) | 5件 | 9件 |
| 合計 | 49件 | 45件 |
指導率で見ると、契約成立時の書面交付義務違反が17.0%(前年度9.3%)と、ほぼ倍増しています。重要事項説明義務違反も14.3%(前年度13.1%)、専任の管理業務主任者の設置義務違反も3.6%(前年度2.8%)と増加しました。
2-3. 現場感覚で読むと、この数字は何を意味するか
私は法律家ではありませんので、あくまで現場の人間としての読み方を申し上げます。
①〜③はいずれも「書面と説明」の問題です。お金を横領したとか、工事を手抜きしたという話ではありません。契約書を渡していない、渡すのが遅れた、記載が足りない、説明会をやっていない——そういう類です。
ただ、これを「手続きのミスにすぎない」と受け取るのは危険だと考えています。なぜなら、大規模修繕でトラブルになる案件のほとんどが、この「書面と説明」の欠落から始まるからです。
- なぜこの会社に決まったのか、記録がない
- 見積もりが何社から取られたのか、誰も答えられない
- 追加工事の金額が、総会で承認された範囲を超えている
こうしたご相談を受けるとき、たいてい共通しているのは「その時は説明を聞いた気がするが、紙が残っていない」という状態です。書面交付義務違反が増えているという事実は、その入り口が広がっていることを意味します。
そして国土交通省は、今回の公表資料で、次に何を重点的に見るかを明言しました。
特に、昨年改正された適正化法及び同法施行規則が今年4月1日から施行されていることから、今後、管理業者管理者方式のマンションに関して、利益相反のおそれがある場合の取引の事前説明義務等に関しても、重点的に法令遵守の指導を行ってまいります。
(国土交通省 令和8年5月29日 別添資料より)
これが今日の本題です。
3. 「管理業者管理者方式」とは何か
3-1. 理事会のないマンションが、増えている
区分所有法上、マンションの管理は区分所有者で構成される管理組合が主体です。従来は、区分所有者の中から理事を選び、理事会を作り、理事長が管理者を兼ねるのが一般的でした。
これに対して外部管理者方式は、管理組合の外部の人・会社が管理者に就任する方式です。そのうち、マンション管理業者自身が管理者に就任するものを「管理業者管理者方式」と呼びます。理事会を置かない運営も可能になります。
なぜ増えているのか。理由ははっきりしています。
令和5年度マンション総合調査(国土交通省、管理組合1,589件・区分所有者3,102件の有効回収)から、関連する数字を挙げます。
- 世帯主の年齢は「60歳代」27.8%+「70歳以上」25.9%=53.7%。平成15年度調査の31.7%から22ポイント増加
- 完成年次が昭和59年以前のマンションでは、70歳以上が55.9%
- 外部役員について「検討している/将来必要となれば検討したい」が34.6%。その理由は「区分所有者の高齢化」42.7%、「役員のなり手不足」42.3%
(出典:国土交通省「令和5年度マンション総合調査」)
理事のなり手がいない。高齢で負担が重い。だから外部にお願いする。この流れ自体は、私はまったく否定しません。むしろ、担い手のいない理事会が形骸化したまま数千万円の工事を決めるより、専門家が入るほうが健全な場面は現実に多いと感じています。
3-2. ただし、国は2024年の時点で警告していた
国土交通省は令和6年6月7日、「マンションにおける外部管理者方式等に関するガイドライン」を策定しています。その背景説明が、極めて率直です。
このような管理方式については、その運営方法によっては、区分所有者の意思から離れた不適切な管理、管理組合と管理業者との利益相反の発生、管理業者に支払うコストの増大等が生じるおそれがあることから、その導入の判断にあたってはメリット・デメリットを踏まえた慎重な検討が必要です。
(出典:国土交通省「マンションにおける外部管理者方式等に関するガイドラインの策定について」令和6年6月7日)
このガイドラインは第3章で管理業者管理者方式の留意事項を整理し、その中に「大規模修繕工事におけるプロセスや区分所有者に対する情報開示のあり方」という項目が明示的に置かれました。さらに2026年4月1日に改訂され、既存・新築それぞれの導入プロセス、利益相反取引にかかるプロセス、通帳・印鑑等の保管体制などが整理されています。
3-3. なぜ大規模修繕で問題になるのか
構造を一枚の絵にすると、こうなります。
通常の管理組合:発注者=管理組合(理事会)/施工者=工事会社/管理会社=あいだで事務を担う
管理業者管理者方式:発注者側の意思決定を管理会社が担い、その管理会社のグループ会社が施工者として手を挙げることがある
つまり、発注する側と受注する側が、資本関係でつながる可能性がある。これが「利益相反のおそれ」です。
念のため申し添えますが、管理会社のグループ会社が施工することが、それ自体で悪いわけではありません。日常の管理を熟知している会社は、建物の履歴も設備の癖も分かっています。品質面で有利なことは実際にあります。
問題は、それが「比較の結果」なのか、「比較なしの既定路線」なのか、区分所有者に見えないことです。
この「見えなさ」が最悪の形で表面化したのが、今年相次いで発覚した大規模修繕の談合問題でした。業者選定のプロセスと設計コンサルタントの利益相反については、大規模修繕の業者選定、談合リスクをどう避けるかで国交省818事例の相場データとあわせて整理していますので、本記事とあわせてご覧ください。
4. 2026年4月施行・改正マンション管理適正化法「第77条の2」を読む
ここが今回の記事の中心です。
4-1. 何が義務になったか
改正前の適正化法には、第77条で「管理事務の報告」義務がありました。しかし、管理業者が関係会社に工事を発注するような利益相反行為への対応を定めた条文はありませんでした。
2026年4月1日施行の改正法で新設された第77条の2は、こう定めています(要旨)。
管理業者管理者方式で管理者となった管理業者が、利益相反のおそれがある取引を行う場合、区分所有者に対して説明会を開催し、事前に説明しなければならない。
災害時など、やむを得ず説明会を開けない場合の例外は施行規則第89条の5で明示されましたが、施行通知では、その場合も「事後的に総会などで報告することが望ましい」とされています。
(参考:建設通信新聞「マンション管理適正化法 4月1日施行/利益相反で事前説明が義務化」)
4-2. 「利益相反のおそれがある相手」とは誰か
施行規則第89条の2で対象が示されました。管理業者の親会社、子会社、関連会社などです。標準管理者事務委託契約書では、該当する企業を契約書に列挙することとされています。
つまり、契約書を見れば「この管理会社にとって身内はどこか」が分かる形になった、ということです。これは区分所有者にとって、かなり大きな前進だと私は思います。
4-3. ★核心:開示すべき6項目
施行規則第89条の4が、利益相反のおそれがある場合に開示すべき事項を列挙しています。ここは表で押さえてください。
| # | 開示が求められる事項 | 大規模修繕に置き換えると |
|---|---|---|
| ① | 管理業者と取引相手との関係 | 施工会社は管理会社の子会社か、関連会社か |
| ② | 取引内容 | 工事の範囲・仕様・工期 |
| ③ | 金額(内訳と算出根拠) | 数量、単価、歩掛、仮設費の積算根拠 |
| ④ | 取引する理由 | なぜこの会社なのか |
| ⑤ | 相手方以外に提出させた見積もりの内容 | 相見積もりの中身 |
| ⑥ | 相手方以外に見積もりさせなかった理由 | なぜ他社に声をかけなかったのか |
私が20年この業界にいて、⑤と⑥が法令上の開示事項として明文化されたのは、率直に言って画期的だと感じています。
これまで「相見積もりを取りましたか」と伺うと、返ってくる答えは概ね3種類でした。「取りました(枚数だけ)」「取っていません(理由は特になし)」「その質問には答えられません」。これからは3つ目が成立しません。
さらに標準管理者事務委託契約書のコメントでは、利益相反のおそれがある会社と取引する場合、組合員への事前説明と総会の承認の「両方」が必要とされています。片方では足りません。
4-4. 管理業者管理者方式でなくても、無関係ではない
見落とされがちな点を一つ。
通常の管理委託契約(管理会社が管理事務を受託するだけで、管理者ではない場合)についても、2025年12月12日公表の「マンション標準管理委託契約書」第26条「誠実義務等」に、次の趣旨が盛り込まれました。
- 紹介手数料・仲介料・謝礼など、実際の業務を伴わない金銭を、管理組合の承認を経ずに授受してはならない
- 工事発注プロセスについて、工事費用の内訳や積算根拠を管理組合に説明する
- 理事会から求めがあった場合は、相見積もりを取得する
つまり、理事会があるマンションでも、「求めれば相見積もりを取ってもらえる」ことが標準契約書に明記されたということです。ご自身のマンションの管理委託契約書を、一度この目で読み直してみてください。
5. 総会の前に確認する6つのチェックポイント
ここまでを、区分所有者・オーナーの手元で使える形に落とします。管理者や管理会社から大規模修繕の提案が出てきたら、この6つを紙で求めてください。
- 施工会社と管理会社の資本関係。親会社・子会社・関連会社に該当するか。該当するなら、契約書の列挙欄に載っているか
- 相見積もりの社数と、各社の見積書の中身。「取りました」ではなく、他社の見積書そのものを見せてもらう
- 相見積もりを取っていない場合、その理由。公募したが応募がなかった、というのも理由になり得ます。ただしその事実の記録が必要です
- 金額の内訳と算出根拠。特に仮設(足場)費、直接仮設と共通仮設の区分、諸経費率
- 事前説明会が開催されたか、議事の記録があるか。開催されていない場合、その根拠条文(施行規則第89条の5に該当するか)
- 総会承認の決議事項に、利益相反取引であることが明記されているか
なお、2026年4月には改正区分所有法も施行され、総会決議の多数決要件そのものが見直されています。決議のハードルと出席者多数決のルールについては、大規模修繕が「決まらない」時代は終わるのかにまとめました。また、提示された金額が安すぎる場合の見抜き方は、大規模修繕の見積もりが安すぎる時をご参照ください。
このうち4番の「仮設費」について、次章で少し踏み込みます。ここが私たち施工会社の本業であり、区分所有者・オーナーにとって最も金額が動く一行だからです。
6. 「相見積もりが取れない」を作らないために──工法という選択肢
6-1. 足場前提の見積書は、比較の土俵が狭い
相見積もりを取るとき、多くの管理組合は「同じ仕様で3社に出してもらう」という取り方をします。公平で、正しいやり方です。
ただ、ひとつだけ申し上げたいことがあります。その「同じ仕様」が、はじめから全面足場を前提に書かれていた場合、比較しているのは工事費の一部分だけになります。
マンションの大規模修繕において、仮設足場は工事費全体の2割前後を占めることが珍しくありません(建物形状・階数・敷地条件により変動します。金額は必ず個別見積もりでご確認ください)。仕様書が「全面足場」で固定されていれば、その2割は3社とも動きません。3社の競争は、残り8割の中だけで起きているのです。
6-2. ロープアクセス工法(無足場工法)という比較軸
ロープアクセス工法(無足場工法)は、産業用ロープで作業員が屋上から降下し、外壁の補修・塗装・シーリング・打診調査などを行う工法です。足場を架けないため、次の点が変わります。
- 仮設費の構造が変わる(架設・解体・養生・足場レンタル期間の費用が発生しない)
- 工期が短くなりやすい(足場の架設・解体に要する日数がなくなる)
- 居住者・テナントの生活影響が小さい(窓の外に足場と養生シートが張り付く期間が短い、または生じない)
- 防犯上の不安が減る(足場は侵入経路になり得ます)
- 部分補修・優先順位付けの発注がしやすい(傷んでいる面から直せる)
私たち株式会社明誠は、通常の足場仮設による工事、ロープアクセス工法(無足場工法)、そして両者を部位ごとに使い分けるハイブリッド工法の3つを、建物ごとに選べる体制を取っています。工法別の考え方や施工事例については、ロープアクセス工法の専門サイト(rope-access-method.com)に整理していますので、比較検討の材料としてご覧いただければと思います。
6-3. ハイブリッド工法という現実解
実務では、「全部足場」か「全部ロープ」かの二択になることはほとんどありません。
- バルコニー側は足場を架けて手すり・床防水までまとめて施工する
- 隣地に寄っていて足場が架けられない妻壁側はロープアクセスで対応する
- 高層部の外壁補修と打診調査だけロープアクセスにして、足場の設置期間そのものを短縮する
こうした部位ごとの使い分け=ハイブリッド工法が、総額と居住者影響の両方でバランスが取れることが多い、というのが現場の実感です。
6-4. 正直に申し上げます。ロープアクセスが向かないケース
押し売りにならないよう、はっきり書いておきます。次のような場合、ロープアクセス工法はお勧めしません。
- 外壁の全面的な劣化が進み、大面積の下地補修が必要な建物。作業面積あたりの効率で足場が上回ります
- 屋上に十分な支点(アンカー等)が確保できない建物。安全確保が第一です。支点新設のコストが足場費を上回ることもあります
- バルコニー内部や共用廊下の床防水など、水平面の作業が工事の主体になる場合。ロープの土俵ではありません
工法は目的ではなく手段です。建物の状態と、オーナー・管理組合が守りたいもの(総額なのか、工期なのか、居住者の生活なのか)から逆算して決めるべきだと考えています。だからこそ、私たちは3工法を持ったうえで、「今回は足場です」と申し上げることもあります。
7. 賃貸オーナー・ビルオーナーには関係ない話か
いいえ、構造はまったく同じです。
一棟所有の賃貸マンションやテナントビルでも、実務上は管理会社に運営を任せているオーナーさまが大多数です。そして修繕の提案は、たいてい管理会社から上がってきます。
このとき、
- 提案されてきた施工会社は、管理会社のグループ会社ではないか
- 他社に見積もりを取ったか
- 足場費を含む内訳の説明を受けたか
——この3点は、分譲マンションの区分所有者が確認すべきこととまったく同じです。
違うのは、分譲には第77条の2という法的な後ろ盾ができたのに対し、一棟所有のオーナーには「自分で聞く」以外の仕組みがないという点です。
賃貸経営では、修繕費は利回りを直接削る支出です。総務省の令和5年住宅・土地統計調査では、空き家は899.5万戸、空き家率13.8%と過去最高を記録しました(出典:総務省統計局)。選ばれる建物であり続けるための修繕は避けられない。だからこそ、その一回一回の発注が適正かどうかが、10年後の手残りを分けます。
8. 3カ月以内にやること(5つ)
- 管理委託契約書を出してくる。第26条(誠実義務等)に相当する条項があるか、あるなら何と書いてあるかを読む
- 管理者が誰かを確認する。理事長か、外部の専門家か、管理会社そのものか。管理会社なら管理業者管理者方式です
- 管理業者管理者方式なら、契約書の「利益相反のおそれがある会社」の列挙欄を見る。空欄なら、なぜ空欄なのかを確認する
- 次回大規模修繕の予定時期を、長期修繕計画で確認する。3年以内なら、今から工法の比較検討を始めてよいタイミングです
- 足場を前提としない見積もりも一度取ってみる。金額だけでなく、仕様書の書き方がどう変わるかを見るためです
(4と5については、株式会社明誠の大規模修繕やお問い合わせ窓口からご相談いただければ、工法比較のたたき台をお出しします。相見積もりの1社としてお使いいただく形で構いません。)
FAQ
Q1. うちのマンションが管理業者管理者方式かどうか、どうすれば分かりますか。
A. 管理規約と、管理組合が締結している契約書を見てください。管理者の氏名・名称欄に管理会社の社名が入っていれば管理業者管理者方式です。理事長個人の氏名なら従来型です。新築分譲では、当初から管理会社が管理者に就任する前提で分譲される事例もありますので、購入時の重要事項説明書も確認してください。
Q2. 第77条の2の事前説明会は、どのタイミングで開かれますか。
A. 条文上は「利益相反のおそれがある取引を行う場合、事前に」です。大規模修繕であれば、施工会社を決める総会の前ということになります。総会当日に初めて資料が配られるようなら、その時点で手続きに疑問を投げてよい、と私は考えます。
Q3. ロープアクセス工法だと、足場工法より必ず安くなりますか。
A. 必ず安くなるとは申し上げられません。仮設足場の費用が発生しない分は下がりますが、作業効率は施工面積・劣化状況・支点の確保状況で大きく変わります。全面的な下地補修が必要な建物では足場のほうが総額で有利なこともあります。工法別の考え方はrope-access-method.comにまとめていますが、最終的には現地調査に基づく個別見積もりでの比較が必要です。
Q4. 管理会社のグループ会社が施工することは、法律違反ですか。
A. 違反ではありません。改正法が求めているのは「取引の禁止」ではなく「事前説明と情報開示」です。開示すべき6項目(本記事第4章)を満たしたうえで総会の承認を得ていれば、適法に発注できます。逆に言えば、説明も開示もないまま進む発注が問題視されている、ということです。
Q5. 相見積もりを取ろうとしたら、管理会社に「仕様が揃わないので比較できない」と言われました。
A. よくあるご相談です。仕様を揃えるのは正しいのですが、その仕様書を誰が書いたかを確認してください。管理会社側が作成した仕様書であれば、その仕様が特定の工法や特定の会社に有利になっていないかという視点は持っておいてよいと思います。第三者の設計事務所やコンサルタントに仕様書だけレビューしてもらう、という方法もあります(設計コンサルタント自身の利益相反にも注意が必要です)。
まとめ
2026年は、マンション管理の透明化が制度として動き出した年でした。
- 国交省の令和7年度立入検査は、112社中31社・49件の是正指導。契約成立時の書面交付義務違反が前年比で倍増
- 2026年4月1日施行の改正適正化法第77条の2で、管理業者管理者方式における利益相反取引の事前説明会が義務化
- 施行規則第89条の4は、相見積もりの内容と、相見積もりを取らなかった理由まで開示事項に含めた
- 標準管理委託契約書の改正で、理事会がある通常の管理組合でも「求めれば相見積もり」が明文化された
私たち施工会社の側から見れば、これは「説明できない金額は通らない時代になった」ということです。歓迎しています。工法を3つ持っていることの価値も、説明の材料が増えるという一点にあります。
大規模修繕は、多くのマンションにとって12年に一度しか来ません。だからこそ、その1回で、聞くべきことを聞いてください。国は今年、聞いていいことの範囲を、はっきり広げました。
執筆者
本間 幸紘(株式会社明誠 代表取締役)
マンション・ビル・ホテルの大規模修繕を20年にわたり手がける。通常の足場仮設工法、ロープアクセス工法(無足場工法)、両者を組み合わせたハイブリッド工法の3工法を建物特性に応じて提案。日本初となるロープアクセス工事のフランチャイズを展開し、塗装・防水・タイル・電気・看板の各専門職が加盟。一般社団法人 全国建設業支援協会(JCSA)代表理事として、建設業向けの経営支援・オンラインセミナー・ビジネスマッチングも行う。
株式会社明誠
TEL:042-508-3567 / meiseitosou.com
ロープアクセス工法専門サイト:rope-access-method.com
最終更新日:2026年8月30日
参考・一次情報
- 国土交通省「マンション管理業者への全国立入検査結果(令和7年度)について」令和8年5月29日
- 国土交通省「(別添)マンション管理業者への全国立入検査結果(令和7年度)」(PDF)
- 国土交通省「マンションにおける外部管理者方式等に関するガイドラインの策定について」令和6年6月7日(令和8年4月1日改訂)
- 国土交通省「令和5年度マンション総合調査」
- 国土交通省「住宅:マンション管理」
- 総務省統計局「令和5年住宅・土地統計調査」
- 建設通信新聞「マンション管理適正化法 4月1日施行/利益相反で事前説明が義務化」2026年2月10日


