
台風25号が関東を通り過ぎた翌朝、管理組合の理事長さまやオーナーさまは、何から手をつければよいのでしょうか。
結論から申し上げます。台風が去ったあとの72時間でやることは「記録」「届出」「切り分け」の3つです。修理の発注は、その次でかまいません。むしろ急いで発注したことで、あとから保険金が下りず自己負担になった——というご相談を、私は毎年この季節に受けています。
東京都・千葉県・神奈川県を中心に、2026年9月19日からの総雨量は千葉県で450ミリを超え、東京都大島町には9月21日12時40分にレベル5の土砂災害特別警報が発表されました(出典:国土交通省令和8年台風第25号による被害状況等について(第5報)、2026年9月21日20時00分現在)。
私は株式会社明誠の本間と申します。東京都東大和市を拠点に、マンション・ビル・ホテルの大規模修繕を20年以上やってきました。この記事では、台風通過直後の管理組合・オーナーが踏むべき手順を、公的な一次情報にあたりながら整理します。
この記事で答える質問:台風の翌日、マンションの管理組合やオーナーは、記録・罹災証明・火災保険・業者選定のどれを、どの順番で、いつまでにやればよいのか?
結論:台風通過後の72時間で決めるべき3つのこと
先に全体像をお示しします。以下の3つを、この順番で進めるのが私の考える基本形です。
| 優先順位 | やること | 期限の目安 | 根拠・注意点 |
|---|---|---|---|
| 1. 記録 | 被害箇所の写真・動画・発生日時のメモを、片付ける前に残す | 台風通過後24時間以内 | 片付けたあとでは被害の程度を証明しにくくなる |
| 2. 届出 | 加入先の損害保険会社・代理店へ連絡。必要に応じて市区町村へ罹災証明書を申請 | 72時間以内に着手 | 保険金請求権は3年で時効(保険法第95条) |
| 3. 切り分け | 「今回の台風による損害」と「もともとの経年劣化」を分けて把握する | 1〜2週間以内 | 経年劣化は火災保険の支払対象外になるのが一般的 |
そして、この3つが終わるまでは、訪問してきた業者とその場で契約しない。これが4つ目にして、いちばん申し上げたいことです。理由はのちほど詳しく書きます。
私はいつも理事長さまに、「台風の翌日は、工事の話ではなく、証拠の話をしましょう」とお伝えしています。順番を間違えると、あとで取り返しがつかないのは工事ではなく証拠のほうだからです。
台風25号は関東に何を残したのか|国土交通省 第5報の数字
まず、今回の台風25号(アジア名:ドゥージェン)が何をもたらしたのかを、公的な速報値で確認します。国土交通省が公表した被害状況(第5報、2026年9月21日20時00分現在)から、マンション・ビルの管理に関係しそうな項目を抜き出しました。
| 項目 | 内容(2026年9月21日時点の速報) |
|---|---|
| 総雨量(9月19日から) | 伊豆諸島800ミリ超、静岡県500ミリ超、千葉県450ミリ超 |
| 最高レベルの警報 | 東京都大島町に9月21日12時40分、レベル5「土砂災害特別警報」 |
| レベル4 土砂災害危険警報 | 7都県89市区町村に発表 |
| 土砂災害の件数 | 千葉県8件、神奈川県1件、宮崎県2件 |
| 人家被害(千葉県) | 全壊2戸、半壊1戸、一部損壊1戸 |
| 断水 | 千葉市で5戸(水道管の破損) |
| 下水道施設 | 八千代市・松戸市でマンホール蓋が飛散、柏市でマンホール周辺の舗装損傷 |
| 鉄道 | 在来線16事業者37路線が運転見合わせ |
| 航空 | 9月21日は384便が欠航 |
(出典:国土交通省令和8年台風第25号による被害状況等について(第5報))
千葉県管理の小糸川ではレベル5の氾濫発生情報が発表され、県道等では千葉県16区間・茨城県10区間が通行止めとなりました。JR東日本の内房線では姉ヶ崎駅〜長浦駅間に土砂が流入しています。
数字だけを見ると「関東全体としては、それほど大きな被害ではなかった」という印象を持たれるかもしれません。ただ、マンションの共用部にとっては、雨量450ミリと暴風という条件がそろった時点で十分に「点検が要る台風」です。ここが、次にお話しする話につながります。
公的な被害統計に、マンションの共用部は出てこない
先ほどの国土交通省の資料をもう一度ご覧ください。「■その他・・・(海岸、住宅、港湾、観光、官庁施設) 被害情報なし」と書かれています。
これは「関東のマンションに何も起きていない」という意味ではありません。国や自治体が災害直後に集計しているのは、全壊・半壊・一部損壊といった「住家の被害認定」に乗る規模の被害と、公共インフラの被害です。
一方、管理組合やオーナーが台風後に直面するのは、たとえばこういった事象です。
- 屋上の防水シートの端部(押さえ金物のまわり)がめくれ上がった
- 笠木(パラペット上部のカバー)のシーリングが切れて、内部に雨水が回った
- タイルの浮きが、雨と風で一気に剥落寸前まで進んだ
- 高置水槽まわりの架台や配管の固定金物が緩んだ
- ルーフドレン(屋上排水口)に飛来物が詰まり、屋上が一時的にプール状態になった
- バルコニーの手すり支柱の根元から雨水が浸入し、下階の天井に染みが出た
これらは、住家被害認定では「被害なし」と判定される規模です。けれども、放置すれば数年後に数百万円から数千万円の補修費になります。 公的な統計に出てこないからこそ、建物の側で自分から見に行く必要があるわけです。
私が現場で20年やってきて、いちばん悔しい思いをするのは、「あの台風のあと、屋上だけでも見ておけば」という場面に立ち会うときです。3年前の台風で端部がめくれていた防水が、その後の3回の台風でじわじわ広がり、最終的に最上階4戸の天井を張り替えることになった管理組合さまがありました。あの時点で端部の補修だけなら、費用は2桁違っていたはずです。
東京・千葉・神奈川のマンションで、台風後に出やすい5つの不具合
台風通過後にご相談が増える箇所を、発生しやすい順に整理します。共通しているのは「地上からは見えない場所」だということです。
1. 屋上防水の端部・立ち上がり
屋上防水は、平らな面(平場)よりも、壁に立ち上がった部分や端部の押さえ金物まわりが先に傷みます。強風で防水シートの端がわずかにめくれると、そこから雨水が防水層の裏側に回り込み、雨が止んでからも建物内部にしみ出し続けます。
「台風から1週間たって天井に染みが出た」というご相談は、ほぼこのパターンです。
2. 笠木・パラペットのシーリング
パラペット(屋上の立ち上がり壁)の上に載っている笠木は、風で持ち上げられる力が集中する部位です。シーリングが切れると、壁の内部を伝って最上階の窓まわりに漏水します。地上からはまず見えません。
3. 外壁タイルの浮き・剥落
タイルの浮きは、台風が原因で新しく発生するというより、もともとあった浮きが、雨水の浸入と風圧で一気に進行するものです。台風の直後にタイルが落ちるケースもあれば、数カ月後に落ちるケースもあります。
外壁タイルについては、建築基準法第12条の定期報告制度で調査方法が定められています。この点はのちほど独立した項目で説明します。
4. 屋上の排水口(ルーフドレン)まわり
飛来した葉やビニール、近隣の樹木の枝がドレンに詰まると、屋上に水が溜まります。RC造の屋上は数センチの滞水でも相当な重量になり、防水層の弱点を一気に露呈させます。台風の翌日にドレンを開けるだけで防げる被害は、決して少なくありません。
5. サッシまわり・目地のシーリング
鉄骨造の建物で私がよく経験するのは、上層階で入った雨水が下層階まで流れてしまうケースです。「4階の住戸で漏水しているから4階が原因」とは限りません。屋上の防水や屋根よりも、外壁の目地や窓まわりのシーリングが原因になっていることが多い、というのが私の経験上の感覚です。
だからこそ、原因箇所の特定には、上から下まで通して外壁を見る必要があります。ここでロープアクセス工法が効いてきます。ロープアクセス工法そのものの技術的な解説は、姉妹サイトのロープアクセスドットコムにまとめていますので、工法の中身を知りたい方はそちらもご覧ください。
罹災証明書はマンションでどう使うのか|災害対策基本法 第90条の2
「罹災証明書(りさいしょうめいしょ)」という言葉を聞いたことはあっても、マンションでどう使うのかはご存じない方が多い制度です。簡単に補足しながら整理します。
罹災証明書とは
罹災証明書は、市町村長が、災害による住家の被害の程度を証明する公的な書類です。災害対策基本法第90条の2に基づき、被災者からの申請があった場合、市町村長は遅滞なく住家の被害状況を調査し、証明書を交付することとされています(出典:内閣府(防災担当)災害に係る住家の被害認定)。
被害の程度は、全壊・大規模半壊・中規模半壊・半壊・準半壊・一部損壊といった区分で判定されます。判定の基準は内閣府の「災害に係る住家の被害認定基準運用指針【令和8年6月】」に定められており、地震編・水害編・風害編・液状化等の地盤被害編に分かれています(出典:内閣府災害に係る住家の被害認定基準運用指針 第3編 風害による被害)。
なお、2026年6月24日付で内閣府から「住家の被害認定調査に関する被災者への説明について」という事務連絡が出ており、調査の内容を被災者にわかりやすく説明する運用が求められています(出典:内閣府通知関係)。
マンションの場合の実務的な注意点
ここからが本題です。分譲マンションの場合、住家の被害認定は原則として住戸(専有部分)単位ではなく、1棟の建物として判定される扱いが基本になります。ただし、運用は市区町村によって異なる部分があり、共用部分の被害をどう扱うか、管理組合と各区分所有者のどちらが申請するかについては、お住まいの自治体の窓口に確認するのが確実です。
私が理事長さまにお伝えしているのは、次の3点です。
- 罹災証明書は、被害の証明であって、修理費が出る制度ではない。各種の被災者支援策を受けるための入口として使われます。
- 火災保険の請求に罹災証明書が必須とは限らない。保険会社によっては求められないケースもあるため、まず保険会社に確認してから動くほうが効率的です。
- 申請には期限が設けられている場合がある。多くの市区町村で「災害発生から○カ月以内」といった受付期間を定めているため、自治体のホームページで確認しておく。
罹災証明書と火災保険は別の制度です。どちらか一方だけを見て判断しない——これだけ押さえていただければ十分です。
火災保険の風災・水災補償|保険法第95条の「3年」と、経年劣化との線引き
ここからが、金額に直結するいちばん重要な部分です。
台風被害は火災保険のどこで見るのか
「台風保険」という商品はありません。台風による損害は、加入している火災保険(すまいの保険)の風災補償・水災補償・落雷補償といった補償項目のどれかで見ることになります。どの補償が使えるかは、被害の原因によって変わります。
一般社団法人日本損害保険協会は、「自然災害による住宅の損害については、多くの場合、加入しているすまいの保険(火災保険、地震保険等)で補償されます」としたうえで、次のように明記しています。
自然の消耗もしくは劣化または性質によるさびなどによって生じた損害はお支払いの対象とはなりません。
(出典:一般社団法人日本損害保険協会住宅の修理などに関するトラブルにご注意、2026年7月31日更新)
この一文が、台風後の大規模修繕の話をややこしくする最大の要因です。
経年劣化と災害起因の「切り分け」が勝負どころ
築20年を超えたマンションの屋上防水がめくれたとき、それは「台風の風圧で発生した損害」でしょうか、それとも「もともと接着が弱っていた防水が、たまたま台風の日に剥がれた」のでしょうか。
正直に申し上げます。この2つを完全に分けることは、現実には簡単ではありません。だからこそ、台風の直前と直後で状態が変わったことを示す記録が、決定的な意味を持ちます。
私が管理組合さまにお願いしているのは、次のような記録の取り方です。
- 前回の大規模修繕や定期調査の報告書・写真を保管しておく(これが「台風前」の証拠になります)
- 台風の翌日、同じアングルから写真を撮る
- 撮影日時が自動で記録される形で保存する(スマートフォンの写真でかまいません)
- 剥がれた部材や飛散物を、片付ける前に撮ってから片付ける
派手な準備は要りません。「前」と「後」の2枚があるかどうか、それだけです。
請求権は3年で消える(保険法第95条)
保険法第95条は、保険給付を請求する権利について、これを行使することができる時から3年間行使しないときは、時効によって消滅すると定めています。
つまり、2026年9月21日の台風で発生した損害について保険金を請求できる期間は、原則として2029年9月ごろまでということになります(起算点の考え方は保険会社・契約内容によって異なる場合があるため、加入先にご確認ください)。
「3年もあるなら急がなくていい」と受け取られそうですが、私の実感は逆です。3年たつと、それが台風による損害だったことを証明するのが難しくなる。 実務上の期限は、時効の3年ではなく、記録が鮮明なうちの数週間だとお考えください。
なお、保険や補償の内容は契約ごとに異なります。私は保険の専門家ではありませんので、最終的な判断は加入先の損害保険会社・代理店にご確認いただくようお願いしています。
要注意|「保険金で自己負担なく直せます」という訪問業者
台風のあと、いちばん多いご相談がこれです。そして、いちばんお金を失いやすいのもこれです。
国が公表している相談事例
独立行政法人国民生活センターは「ご用心 災害に便乗した悪質商法」というページで、実際の相談事例を公表しています(2026年6月29日更新)。工事・建築に関する事例を引用します。
- 地震後「屋根の点検をする」と業者から訪問を受け、屋根工事の契約をした。その後、屋根工事を解約したら契約前に行われたブルーシート設置代金を請求された。
- 台風で自宅の屋根瓦がずれ、見積もりのつもりで業者を呼んだら、屋根にビニールシートをかけられ高額な作業料金を提示された。
- 屋根の無料点検後、このまま放置すると雨漏りすると言われ高額な契約をさせられた。
「保険金」を口実にした勧誘の事例も並んでいます。
- 台風の後片づけをしていたら、業者が来訪し、損害保険を使って無料で雨どい修理ができる、経年劣化で壊れたものも保険でできると言われた。
- 先日の台風で雨どいが壊れ外壁もはがれた。「火災保険で修理できる」という業者が突然来訪し、保険請求手続の代行と住宅修理を依頼したがやめたい。
(出典:独立行政法人国民生活センターご用心 災害に便乗した悪質商法)
相談件数の規模
日本損害保険協会のまとめによると、訪問販売によるリフォーム工事(屋根工事、壁工事、増改築工事、塗装工事、内装工事)に関する全国の消費生活センター・国民生活センターへの相談は、2007年度以降、毎年5,000件を超えています。住宅修理に保険金が使えると言って勧誘された事例に関する相談は、2010年度から合計で11,261件(2020年8月時点)に達しました(出典:一般社団法人日本損害保険協会住宅の修理などに関するトラブルにご注意)。
国民生活センターは2026年3月4日にも「自然災害に関連する消費者トラブルを未然に防ぐために-熊本地震から10年・東日本大震災から15年-」を公表し、改めて注意を呼びかけています。
見分け方と相談先
私が管理組合さま・オーナーさまにお伝えしている見分け方は、次の3つです。
| 危ないサイン | なぜ危ないか |
|---|---|
| 「自己負担ゼロで直せます」と先に言う | 保険金が下りるかどうかは、保険会社の査定前には誰にも分かりません |
| 「保険会社との交渉はすべて当社が行います」 | 保険金の請求は加入者本人が行うのが原則です |
| 「今日中に契約すれば」と急かす | 台風後の相見積もりを取らせないための典型的な話法です |
そして、経年劣化による損傷と知りながら、自然災害による損傷として申請することは、保険金の不正請求にあたります。業者にすすめられた場合でも応じないでください。国民生活センターも「うその理由で保険金を請求することは絶対にやめましょう」と明確に注意喚起しています。
公的な相談先を挙げておきます。
- 消費者ホットライン:188(いやや)/全国の消費生活センターにつながります
- 保険金に関する災害便乗商法 相談ダイヤル(日本損害保険協会):0120-309-444 受付:平日 午前9〜12時、午後1〜5時
- そんぽADRセンター(日本損害保険協会):03-4332-5241 受付:平日 午前9時15分〜午後5時
- 警察相談専用電話:#9110
また、被災した住宅の補修工事ができる事業者を探すための「住まい再建事業者検索サイト」が、国土交通省の協力のもと一般社団法人住宅リフォーム推進協議会によって開設されています。
「急がせてくる相手からは買わない」。これは工事に限った話ではありませんが、台風後は特にそうです。
見えない高所を、どうやって確認するか|足場・ドローン・ロープアクセスの比較
さて、記録を取ろうにも、屋上の端部も笠木も外壁の上層部も、地上からは見えません。ここで選択肢を整理します。
| 確認方法 | 着手までの早さ | 近接目視・打診 | 費用感(目安) | 向いている場面 |
|---|---|---|---|---|
| 仮設足場 | 架設に数日〜2週間 | ◎ 全面を手で触れる | 高い(大規模修繕総額の15〜25%が仮設費) | 本補修とセットで行うとき |
| ドローン(赤外線・可視光) | 早い(当日〜数日) | △ 触れない。飛行制限あり | 比較的安い | 全体像の把握、第一報 |
| ロープアクセス工法 | 早い(数日) | ◎ 手で触れて打診できる | 足場より大幅に安い | 台風後の緊急調査、部分補修 |
| ハイブリッド(足場+ロープ) | 中 | ◎ | 部位ごとに最適化 | 大規模・複雑形状の物件 |
金額の目安
参考値として、10階建て・外周80m・工期3カ月という条件のマンションで比較した場合、仮設足場が約168万円に対し、ロープアクセス工法では約59万円という試算になったことがあります(差額はおよそ109万円)。もちろん、建物の形状、屋上の吊元(ロープを固定する支点)の有無、施工面積によって大きく変動しますので、あくまで一例としてお考えください。
工種別の㎡単価の目安も挙げておきます。
- 外壁打診調査:250〜500円/㎡
- 外壁塗装:3,500〜4,500円/㎡
- 防水工事:5,000〜8,000円/㎡
- 30戸規模マンションの大規模修繕 総額:3,500〜5,000万円(うち仮設足場が15〜25%)
台風後の「とりあえず見たい」という段階で足場を架けるのは、費用面でも時間面でも現実的ではありません。ロープアクセス工法なら、足場を組まずに、作業員が手で触れて打診しながら上から下まで確認できます。 台風の翌週に屋上と外壁を見て、「補修が要るのはこの3カ所、残りは次回の大規模修繕まで持ちます」という切り分けができる。これが私たちの一番の使いどころです。
安全面についても触れておきます。株式会社明誠および全国のフランチャイズ加盟企業では、ロープアクセス工法による高所作業について過去16年間、墜落による労働災害はゼロを維持しています。IRATA(国際産業ロープアクセス協会)水準の技能訓練を受けた作業員が対応し、ISO9001の品質マネジメントシステムを運用しています。明誠の安全管理の考え方は明誠の安全管理についてに、工法そのものの説明はロープアクセス工法のご紹介にまとめています。
ドローンとロープアクセスの使い分けについてはドローンによる外壁調査も参考になるかと思います。技術的な詳細をさらに深掘りしたい方は、ロープアクセスドットコムで工法別の比較を解説しています。
建築基準法第12条の定期報告と、台風後の調査は「まとめられる」
ここは、費用を抑えたい管理組合さま・ビルオーナーさまにぜひ知っていただきたい話です。
制度の概要
建築基準法第12条に基づく定期報告制度では、対象となる建築物の所有者・管理者に、定期的な調査と特定行政庁への報告が義務づけられています。外壁のタイル、石貼り(乾式工法によるものを除く)、モルタル等の劣化・損傷の調査については、平成20年国土交通省告示第282号により、次のように定められています。
- おおむね6カ月から3年以内に一度:手の届く範囲の打診等
- おおむね10年に一度:落下により歩行者等に危害を加えるおそれのある部分の全面的な打診等
(出典:国土交通省定期報告制度における外壁のタイル等の調査について)
さらに令和4年1月18日付で同告示が一部改正され、打診以外の調査方法として、無人航空機(ドローン)による赤外線調査であって、テストハンマーによる打診と同等以上の精度を有するものが明確化されました。判定にあたっては、一般財団法人日本建築防災協会が取りまとめた「定期報告制度における赤外線調査(無人航空機による赤外線調査を含む)による外壁調査ガイドライン」が参照されます。
直近では、令和7年6月30日付 国住参建第1579号「建築物の定期調査報告における落下防止措置付き外壁タイルの取扱いについて(技術的助言)【最終改正】」、および令和8年7月21日付事務連絡「落下防止措置付き外壁タイルの性能検証法について」が発出されています。
台風後の調査とセットにする発想
ここでお伝えしたいのは、台風後の緊急調査と、12条の定期調査(とくに10年に一度の全面打診)のタイミングが近いなら、まとめて実施したほうが合理的だということです。
- 台風後の緊急調査:屋上・外壁の被害箇所を特定する
- 12条の全面打診調査:外壁タイル等の浮き・損傷を網羅的に把握する
この2つは、高所にアクセスする手段が共通です。ロープアクセスで1回上がるだけで、両方の目的を満たせる可能性があります。調査の記録は、そのまま火災保険の資料にも、次回大規模修繕の長期修繕計画の見直し材料にもなります。
私はこれを、ワンセットで提案するようにしています。同じ場所に2回上がるのは、お金の使い方としてもったいないからです。
私が現場でお願いしている「台風翌日の記録の取り方」7手順
具体的な手順に落とし込みます。管理会社さんや理事の方が、当日ご自身でできる範囲のことです。
手順1:安全の確保を最優先にする
台風の直後は、飛散物、割れたガラス、倒木、浮いた金物など危険が残っています。屋上や高所に自分で上がるのは避けてください。 地上と共用廊下から見える範囲で十分です。高所は専門業者に任せてください。
手順2:片付ける前に撮る
これがいちばん重要です。剥がれた部材、飛来物、水たまり、天井の染み——片付けたくなる気持ちは分かりますが、まず撮影してからにしてください。
手順3:全景と近景を両方撮る
「どこの建物の、どの面の、どのあたりか」が分かる引きの写真と、損傷の状態が分かる寄りの写真。この2枚をセットで撮ると、あとの説明が圧倒的に楽になります。
手順4:日時が記録される形で保存する
スマートフォンで撮れば撮影日時は自動で記録されます。写真を加工したり、日時情報が消える形で共有アプリに上げ直したりしないでください。原本を残しておきます。
手順5:住戸からの報告を集約する
「天井に染みが出た」「窓枠から水が入った」という住戸内の被害は、理事会や管理会社で早めに集約しておきます。発生日時と場所を一覧にしておくと、原因箇所の推定が進みます。
手順6:加入先の保険会社・代理店へ連絡する
業者に連絡する前に、保険会社・代理店へ連絡します。日本損害保険協会も「住宅の修理を業者と契約する前に、ご契約している損害保険会社または損害保険代理店へご相談ください」としています。
手順7:複数社から見積もりを取る
国民生活センターも「契約を迫られても、その場では決めず、できれば複数社から見積もりを取って比較検討しましょう」とアドバイスしています。台風後は各社とも立て込みますが、相見積もりを取る数日は、あとの数百万円を守る時間です。
費用の目安|緊急調査から本補修まで
管理組合の予算感をつかんでいただくために、段階ごとの目安を整理します。いずれも物件の規模・形状・立地で大きく変動しますので、参考値としてご覧ください。
| 段階 | 内容 | 費用の目安 | 期間の目安 |
|---|---|---|---|
| ① 緊急調査 | 屋上・外壁の被害箇所特定(ロープアクセスによる近接目視・打診) | 数万円〜数十万円(規模による) | 半日〜2日 |
| ② 応急処置 | シーリング打ち替え、防水端部の仮復旧、ドレン清掃 | 数万円〜100万円程度 | 1〜3日 |
| ③ 外壁打診調査 | 12条定期報告に対応した全面打診等 | 250〜500円/㎡ | 数日〜2週間 |
| ④ 本補修 | 防水改修、タイル補修、塗装 | 防水5,000〜8,000円/㎡、塗装3,500〜4,500円/㎡ | 1〜3カ月 |
| ⑤ 大規模修繕 | 30戸規模の全体改修 | 総額3,500〜5,000万円(うち仮設15〜25%) | 3〜6カ月 |
①と②を先にやるというのが、私の一貫したおすすめです。被害の全体像が分からないまま④や⑤の見積もりを取っても、金額の妥当性を判断できないからです。
そして、①の段階でロープアクセスを使えば、足場を架けずに済みます。大規模修繕の総額に対して仮設費が15〜25%を占めることを考えると、「調べるためだけに足場を架けない」という判断は、そのまま数十万円から数百万円の違いになります。 料金の考え方については大規模修繕の料金の考え方にまとめています。
賃貸物件のオーナーさまの場合は、入居者対応のスピードが空室リスクに直結します。収益物件オーナーさま向けのご提案、分譲マンションの管理組合さまは管理組合さま向けサービスもあわせてご覧ください。漏水に特化したご相談は漏水調査・漏水対応からどうぞ。
明誠のこれまでの施工事例(約6,000棟)は施工事例一覧からご覧いただけます。実際の建物でどう判断したかを見ていただくのが、いちばん分かりやすいかと思います。
よくあるご質問
Q. 台風の翌日に、まず誰に連絡すればよいですか?
A. 加入している損害保険会社または保険代理店です。工事業者への連絡はそのあとで問題ありません。日本損害保険協会も、修理契約の前に保険会社・代理店へ相談するよう呼びかけています(出典:日本損害保険協会)。
Q. 火災保険の請求は、いつまでにすればよいですか?
A. 保険法第95条により、保険給付を請求する権利は行使できる時から3年で時効消滅します。ただし実務上は、被害の証拠が鮮明なうちに動いたほうが有利です。起算点の考え方は契約により異なるため、加入先にご確認ください。
Q. 経年劣化でも保険は使えますか?
A. 一般的には対象外です。日本損害保険協会は「自然の消耗もしくは劣化または性質によるさびなどによって生じた損害はお支払いの対象とはなりません」と明記しています。経年劣化と知りながら災害による損傷として申請することは、不正請求にあたります。
Q. 罹災証明書はマンションでも取れますか?
A. 災害対策基本法第90条の2に基づき、市町村長が住家の被害の程度を証明する制度です。分譲マンションでは1棟の建物として判定されるのが基本ですが、共用部分の扱いや申請者については運用が市区町村によって異なります。お住まいの自治体の窓口にご確認ください。
Q. 屋上に上がって自分で確認してもよいですか?
A. 台風直後の屋上は、飛散物、濡れた防水面、浮いた金物などで滑落や負傷のリスクがあります。上がるのは避けて、専門業者にご依頼いただくことをおすすめします。安全帯や親綱の設置がない屋上での作業は、法令上も推奨されません。
Q. 調査のためだけに足場を架ける必要はありますか?
A. 調査段階では、ロープアクセス工法やドローン調査で対応できる場合が多くあります。仮設足場は大規模修繕総額の15〜25%を占めるため、調査だけを目的に架設するのは費用効率がよくありません。本補修の範囲が確定してから判断されるのが合理的です。
Q. ロープアクセスは打診調査にも使えますか?
A. 使えます。作業員が手で触れてテストハンマーで打診できるため、ドローンによる赤外線調査では判断しきれない箇所も確認できます。建築基準法第12条の定期報告に対応した調査としても実施可能です。
Q. 相見積もりを取ると、対応が遅れませんか?
A. 応急処置と本補修を分けて考えると解決します。ドレン清掃や仮の止水といった応急処置は速やかに行い、本補修の見積もりは複数社から取る。この二段構えが、速さと妥当性を両立させる方法です。
この記事のポイントまとめ
- 台風通過後の72時間でやるのは「記録」「届出」「切り分け」の3つ
- 2026年9月19日からの総雨量は千葉県450ミリ超、大島町にレベル5警報が発表された
- 公的な被害統計にマンションの共用部被害は表れないため、自分から点検する必要がある
- 火災保険の請求権は保険法第95条で3年の時効。ただし実務上の勝負は最初の数週間
- 経年劣化による損害は火災保険の支払対象外になるのが一般的
- 「自己負担ゼロで直せます」という訪問業者とはその場で契約しない
- 調査段階で足場を架けず、ロープアクセスで上から下まで見て切り分ける
出典・参考資料
- 国土交通省「令和8年台風第25号による被害状況等について(第5報 2026年9月21日20時00分現在)」
- 国土交通省「災害・防災情報:令和8年台風第25号による被害状況等について」
- 内閣府(防災担当)「災害に係る住家の被害認定」(災害に係る住家の被害認定基準運用指針【令和8年6月】、災害に係る住家被害認定業務 実施体制の手引き【令和7年5月】を含む)
- 国土交通省「定期報告制度における外壁のタイル等の調査について」(平成20年国土交通省告示第282号、令和4年1月18日改正)
- 独立行政法人国民生活センター「ご用心 災害に便乗した悪質商法」(2026年6月29日更新)
- 一般社団法人日本損害保険協会「住宅の修理などに関するトラブルにご注意」(2026年7月31日更新)
- 一般社団法人住宅リフォーム推進協議会「住まい再建事業者検索サイト」(国土交通省協力)
※本記事に記載した制度・補償の内容は、記事作成時点の公開情報にもとづくものです。制度は変更される場合がありますので、最新の情報は各公式サイトでご確認ください。保険の適用可否は契約内容により異なるため、加入先の損害保険会社・代理店にご確認ください。
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この記事の執筆者
本間 幸紘(ほんま ゆきひろ)
株式会社明誠 代表取締役/東京都東大和市
マンション・ビル・ホテルの大規模修繕20年以上の実務経験。3工法(通常足場/ロープアクセス/ハイブリッド)から建物特性に応じて最適提案。日本初のロープアクセス工事フランチャイズ本部を運営。JCSA(一般社団法人 全国建設業支援協会)代表理事。
最終更新:2026年9月22日
台風のあとの数日は、理事会も管理会社さんも一気に忙しくなります。その中で「まず記録、次に保険、業者はそのあと」という順番だけ覚えて帰っていただければ、この記事の役目は果たせたと思います。
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これは私が現場で20年見てきた、嘘偽りのない感想です。次回も、現場で本当に使える話だけをお届けします。


