
この記事で分かること
「うちの大規模修繕は契約したから、もう金額は変わらないはず」——この記事はその思い込みに、2025年12月12日に全面施行された改正建設業法の「価格転嫁」ルールをもとにお答えします。
きっかけは、ホテル業界向けメディアが報じた「ホテルの工事費が契約後に上がったとき、その差額を払うのは発注者か施工会社か」という記事でした(出典:HotelBank「ホテル工事費が上がったら誰が払うか」)。ホテルの新築・改修工事の話ですが、私はこれを読んで真っ先に、日々ご相談をいただくマンション・ビルの大規模修繕の現場を思い浮かべました。資材価格や労務費が上がり続けるなか、「見積りを取った時点」と「実際に工事が終わる時点」で金額が変わり得るのは、ホテル建設だけの話ではないからです。
私は株式会社明誠の本間と申します。東京都東大和市を拠点に、マンション・ビル・ホテルの大規模修繕を20年近くやってきました。今日は、あまり大きく報じられていないけれど管理組合の理事長さまや収益不動産のオーナーさまに直結する「価格転嫁」の制度を、現場目線でかみ砕いてお伝えします。
結論:価格が変わったときの「ルール」を契約書に書かせる法律です
先に結論からお伝えします。2025年12月12日に全面施行された改正建設業法は、ひとことで言えば「資材や労務費が高騰したときに、その分を誰がどう負担するかを、契約の時点であらかじめ決めておきなさい」という法律です(出典:国土交通省「持続可能な建設業の実現のため、建設業法等改正法が完全施行されます」)。
これまでは、契約後に資材価格が上がっても「契約書にどう書いてあるか」と当事者間の交渉力しだいで、泣き寝入りに近い形になるケースが少なくありませんでした。改正法はこの状態に一定の歯止めをかけるもので、次の表のように「契約前」「契約書」「契約後」の3つの段階でルールを追加しています。
| 段階 | 追加されたルール | 主な義務者 |
|---|---|---|
| 契約前 | 資材高騰などの「おそれ情報」を根拠とともに事前通知 | 受注者(施工会社) |
| 契約書 | 価格変動時の請負代金の変更方法を必ず記載(法定記載事項) | 発注者・受注者双方 |
| 契約後 | 変更協議の申し出には誠実に対応する努力義務(公共工事は義務) | 発注者(管理組合・オーナー等) |
マンションの大規模修繕工事は、多くの場合「建築一式工事」として扱われ、総額が1,500万円を超えることも珍しくありません。この規模になると、後述する「勧告制度」の対象にもなり得ます。つまり、他人事ではなく、これから工事請負契約書を交わす管理組合・オーナーさまご自身の話なのです。
なぜ今、建設業法に「価格転嫁」のルールが追加されたのか
背景にあるのは、建設資材や労務費の継続的な上昇です。国は担い手不足と資材高騰という二重の課題に対応するため、いわゆる「第三次・担い手3法」の柱の一つとして、価格転嫁のルールを整備しました(出典:国土交通省「価格転嫁-第三次・担い手3法」)。
改正はいちどに行われたわけではありません。2024年12月13日に、契約書への価格変動記載義務・通知義務・誠実協議義務を定めた第一段階の規定が施行され(出典:国土交通省「建設業の価格転嫁、ICT活用、技術者専任合理化について、新制度の導入に際して詳細を定めました」)、そこから1年後の2025年12月12日に、原価割れ契約の禁止や発注者への勧告制度を含めた完全施行を迎えました(出典:国土交通省「持続可能な建設業の実現のため、建設業法等改正法が完全施行されます」)。私自身、この1年で「見積り時に想定していなかった材料費の上昇分を、どう請負代金に反映するか」というご相談を、管理組合の理事長さまから受ける機会が明らかに増えたと感じています。数字で言えば、私が昨年ご相談をお受けした大規模修繕案件のうち、契約後に資材価格の変動が話題になったのは体感で3件に1件ほどで、これは数年前にはほとんどなかった頻度です。
改正のポイントは3つ:通知義務・契約書の記載義務・誠実協議義務
① 受注者の「おそれ情報」通知義務
施工会社は、資材の供給不足や価格高騰など、工期や請負代金に影響を与えるおそれのある事象を認識した場合、契約を結ぶまでの間に、その根拠となる情報とあわせて発注者へ通知する義務を負います(出典:国土交通省)。これにより、発注者側も「なぜこの見積りなのか」を事前に把握しやすくなります。
② 契約書への記載義務化(法定記載事項)
価格変動があった場合の請負代金の変更方法・算定方法は、契約書に必ず記載しなければならない「法定記載事項」になりました。国のガイドラインでは、「価格が変動しても金額を変更しない」「変更を一切認めない」といった記載は、建設業法第19条に違反すると明記されています(出典:HotelBank)。私はこれまで、契約書のひな形をそのまま使い、価格変動条項を空欄のまま、あるいは「協議のうえ決定する」という一文だけで済ませている工事請負契約書を、正直かなりの数見てきました。今後はこの部分こそ、きちんと文字にして残す必要があります。
③ 発注者の誠実協議義務
資材価格が高騰し、施工会社から請負代金の変更協議を申し出られた場合、発注者は「根拠を欠く場合等を除き、誠実に協議に応じるよう努める」ことが求められます。公共工事の発注者については、努力義務にとどまらず協議に応じる義務があるとされています(出典:国土交通省)。マンションの管理組合は公共工事の発注者ではありませんが、この考え方は今後、民間の工事請負契約約款にも反映されていきます。
受注者への禁止事項と、発注者への「勧告制度」
全面施行にあわせて、受注者側にも新しい禁止事項が追加されました。原価割れとなるような契約の締結、著しく短い工期での契約、著しく低い労務費での見積り提示は、いずれも禁止されています(出典:HotelBank)。
一方で発注者側にも新たな仕組みが設けられました。見積書に示された金額を著しく下回る金額での契約締結を求めるなど、行き過ぎた値切りを行った発注者に対しては、国土交通大臣等が勧告し、その内容を公表できる制度が新設されています(出典:国土交通省)。
この勧告制度が適用されるかどうかの目安となる工事費用の下限は、次のとおりです。
| 工事の種類 | 勧告対象となる費用の目安 |
|---|---|
| 一般工事 | 500万円以上 |
| 建築一式工事 | 1,500万円以上 |
マンションの大規模修繕工事は、外壁・屋上防水・給排水設備などをまとめて発注する場合、建築一式工事として扱われることが多く、総戸数30戸を超えるような物件では総額が1,500万円を超えるのが一般的です。つまり、多くのマンション大規模修繕は、この勧告制度の射程に入り得る規模だということを、まず知っておいていただきたいと思います。
もう一つの狙い:下請けへの「しわ寄せ」防止
今回の改正は「発注者と元請」の関係だけでなく、「元請と下請・専門工事業者」の関係にも目を向けています。国土交通省が示す今回の法改正全体の柱の一つに「処遇改善」があり、その中では労働者の適正な処遇や労務費の確保、そして受注者が下請に対して原価割れとなるような契約を結ぶことの禁止が掲げられています(出典:国土交通省「価格転嫁-第三次・担い手3法」)。つまり、元請が発注者から適正な代金を受け取れなければ、そのしわ寄せは結局、現場で実際に手を動かす塗装職人や防水職人、電気工事業者といった専門工事業者に及んでしまう、という発想です。
私はこの点を、現場の人間として強く実感しています。多層の下請構造では、価格転嫁のルールが一つ上の層で止まってしまい、実際に施工する職人まで届かないということが起こり得ます。私たち明誠が塗装・防水・タイル・電気・看板工事などの専門職と直接フランチャイズを組んでいるのは、コスト削減だけが目的ではなく、こうした多層構造そのものを薄くし、資材高騰分の情報や協議の結果が、実際に現場で働く職人にきちんと届く体制を作りたいという考えからでもあります。
マンションの大規模修繕契約にとって他人事ではない理由
「うちは民間の工事だから関係ない」と思われるかもしれませんが、私はそうは考えていません。理由は2つあります。
1つ目は、多くのマンション大規模修繕で使われている標準的な工事請負契約書のひな形(民間(七会)連合協定工事請負契約約款)も、改正建設業法と同じ2025年12月12日付で改定され、資材価格の高騰など請負代金に影響を及ぼす事象が発生した場合の変更事由が新設されたことです(出典:HotelBank)。マンションの大規模修繕でこの約款、またはこれに準じた契約書式を使っているケースは少なくありません。
2つ目は、修繕積立金そのものが、そもそも余裕のある管理組合ばかりではないという実態です。国土交通省の令和5年度マンション総合調査によれば、計画上の積立額に対して現在の積立額が不足しているマンションは36.6%にのぼり、そのうち不足の割合が20%を超えるマンションも11.7%あります(出典:国土交通省「令和5年度マンション総合調査結果」)。同じ調査では、大規模修繕で実施される工事項目として外壁塗装工事が87.1%、屋上防水工事が75.0%と、多くのマンションが避けて通れない工事であることも示されています(出典:同上)。
積立金にゆとりがない状態で、契約後に資材高騰分の追加請求が発生すれば、管理組合は臨時徴収や借入れといった、理事長さまにとって最も気の重い判断を迫られることになります。だからこそ、「価格が変わったらどうするか」を契約前にはっきりさせておく今回の改正は、他人事ではなく、むしろ積立金に余裕のない管理組合ほど知っておくべきルールだと私は考えています。
実際に私が関わった案件でも、似たような場面がありました。総戸数82戸、築29年のマンションで大規模修繕の実施設計を進めていたとき、下地補修に使うシーリング材や外壁塗料の一部で、見積り段階から数か月の間に仕入れ価格が上振れしたことがあります。このときは契約前の段階だったため、施工会社から価格変動の可能性について事前に説明を受け、管理組合の理事会で「その場合はどう扱うか」を先に確認したうえで契約に進むことができました。もしこれが契約後、しかも変更方法が契約書に何も書かれていない状態で起きていたら、理事会は工事を止めるか、根拠のはっきりしない追加請求をそのまま受け入れるかという、望ましくない二択を迫られていたかもしれません。
管理組合・オーナーが契約前後に確認したい4つのチェックポイント
現場で理事長さまにいつもお伝えしているのは、次の4点です。難しい法律用語を丸暗記する必要はありません。契約書と見積書を見るときに、この4つだけ確認してみてください。
| チェック項目 | 見るポイント |
|---|---|
| ① 見積書の内訳 | 材料費・労務費が著しく低い金額になっていないか |
| ② 価格変動時の記載 | 「変更方法」が契約書に具体的に書かれているか |
| ③ 禁止条項の有無 | 「価格が変動しても金額は変更しない」という一文がないか |
| ④ 事前通知・協議窓口 | 資材高騰の「おそれ情報」の連絡先・協議の担当者が明確か |
とくに③は要注意です。工期短縮や価格の安さだけを見て契約書の細部を確認しないまま押印してしまうと、後になって「そもそも変更を認めない契約だった」と気づくことになりかねません。これは建設業法違反の可能性がある記載ですので、もし今お手元の契約書にこうした一文があれば、次回の契約更新や新規発注の際に見直しを検討されることをおすすめします。
明誠にできること:3つの工法とFC体制で、価格転嫁の時代に対応する
ここからは自社のサービスについてお伝えします。私たち株式会社明誠は、通常の足場仮設による工事、足場を組まないロープアクセス工法(無足場工法)、そして両者を組み合わせたハイブリッド工法という3つの選択肢から、建物にとって最適な工法をご提案できる、日本でも数少ない会社です。ロープアクセス工法の一般的な安全基準や事例については、姉妹サイトのロープアクセスドットコムでも詳しく解説していますので、あわせてご覧いただければと思います。
価格転嫁の時代においてこの3工法の使い分けが効いてくるのは、仮設費用そのものを圧縮できる場面があるからです。外壁のひび割れやタイルの浮きなど、部分的な劣化診断であれば、全面に足場を組む前にロープアクセスでピンポイント調査を行うことで、無駄な仮設コストを抑えられるケースがあります。結果として、資材高騰分の変更協議が発生した場合でも、仮設費という別の変数を圧縮しておくことで、総額への影響を和らげやすくなるというのが私の実感です。
また、私たちはロープアクセスとして日本で初めてフランチャイズ展開を行っており、塗装・防水・タイル・電気・看板工事など各分野の専門職が加盟しています。専門職が直接施工する体制のため、中間マージンを抑えた透明性のある見積りを提示しやすいという特徴もあります。価格転嫁のルールが厳格化するこれからの時代こそ、「なぜこの金額なのか」を説明できる見積りの重要性は増していくはずです。
大規模修繕工事のご相談は大規模修繕工事のご紹介ページ、ロープアクセス工法そのものについてはロープアクセス工法のご紹介ページ、管理組合さま向けのサービス詳細は管理組合さま向けページにまとめています。無料調査・お見積りはお問合せフォームから承っております。
まとめ
2025年12月に全面施行された改正建設業法の価格転嫁ルールは、ホテル建設のような大型工事だけの話ではなく、マンションの大規模修繕契約にも直結する制度です。契約前の通知義務、契約書への記載義務、契約後の誠実協議義務という3つの柱を押さえておけば、いざ資材価格が動いたときにも、感情論ではなくルールに基づいた話し合いができます。
なお、この分野の制度は今後も見直しが続く可能性があります。最新の内容は国土交通省の公式ページで随時ご確認いただくことをおすすめします。私自身、現場で20年近く見積書と契約書に向き合ってきましたが、価格が変わること自体は悪いことではなく、それをどう扱うかを事前に決めておかないことの方が、管理組合にとってもオーナーさまにとっても、はるかに大きなリスクだと感じています。次回の契約更新や大規模修繕の発注を控えている方は、まずお手元の契約書を開いて、価格変動条項がどう書かれているかを確認するところから始めてみてください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 改正建設業法の「価格転嫁」ルールは、いつから全面施行されていますか?
A. 2024年12月13日に契約書への記載義務・通知義務などの第一段階が施行され(出典:国土交通省)、2025年12月12日に原価割れ契約の禁止や勧告制度を含めて完全施行されました(出典:国土交通省)。
Q2. 「契約後に価格は一切変更しない」という契約書は問題がありますか?
A. 国のガイドラインでは、そうした記載は建設業法第19条に違反するとされています(出典:HotelBank)。次回契約時には記載内容の見直しをおすすめします。
Q3. マンションの大規模修繕は、この改正法の対象になりますか?
A. 建築一式工事として1,500万円以上の規模になるケースが多く、勧告制度の対象規模に該当し得ます。契約の当事者としてルールを知っておく意味は大きいと考えます。
Q4. 資材が値上がりしたら、必ず追加費用を払わなければなりませんか?
A. 必ずしもそうとは限りません。契約書に定められた変更方法や協議のプロセスに沿って、根拠情報をもとに話し合うことが前提であり、一方的な値上げ請求に応じる義務はありません。
Q5. 修繕積立金が不足している管理組合は、どう備えればよいですか?
A. まずは長期修繕計画と積立金残高を現状のまま見直すことが第一歩です。国交省調査では積立不足のマンションが36.6%にのぼっており、資材高騰による変更協議が発生した場合の資金余力を、平時から把握しておくことが重要です(出典:国土交通省)。
Q6. 賃貸マンションのオーナーは、この改正にどう関わればよいですか?
A. ご自身が発注者となる大規模修繕・改修工事では、見積書の内訳確認と契約書の価格変動条項の確認を、管理会社や施工会社に直接確認されることをおすすめします。
Q7. ロープアクセス工法は、価格転嫁の負担を減らすことに役立ちますか?
A. 部分的な劣化診断など、全面足場が不要な場面では仮設コストを圧縮できることがあり、総額への影響を和らげる選択肢の一つになり得ます。ただし建物の規模や劣化状況によって適否は異なります。
Q8. 今回の改正は、元請から下請への支払いにも関係しますか?
A. 関係します。改正の柱の一つである「処遇改善」では、下請に対する原価割れ契約の禁止や適正な労務費の確保が掲げられており、価格転嫁のしわ寄せが末端の専門工事業者に及ばないようにする狙いがあります(出典:国土交通省)。
この記事のポイントまとめ
- 改正建設業法の価格転嫁ルールは2025年12月12日に全面施行
- 契約前の通知義務・契約書の記載義務・契約後の誠実協議義務が3本柱
- 建築一式工事1,500万円以上は発注者への勧告制度の対象になり得る
- 下請への原価割れ契約禁止など「処遇改善」も改正の重要な柱
- マンション修繕積立金は36.6%が計画額に対して不足している実態
- ロープアクセス工法など仮設コストを抑える選択肢を知っておく価値がある
執筆者:本間 幸紘(株式会社明誠 代表取締役)
専門領域:マンション大規模修繕/ロープアクセス工法/建物長寿命化計画
実務経験:建設・改修業界 20年以上
所属:一般社団法人 全国建設業支援協会(JCSA)
株式会社明誠について:東京都東大和市を拠点に、東京・関東一円でロープアクセス工法と従来足場工法の両方を提案できる改修会社。日本初のロープアクセス工事フランチャイズを展開しています。
最終更新:2026年9月26日
出典・参考資料
- 国土交通省「持続可能な建設業の実現のため、建設業法等改正法が完全施行されます」
- 国土交通省「建設業の価格転嫁、ICT活用、技術者専任合理化について、新制度の導入に際して詳細を定めました」
- 国土交通省「価格転嫁-第三次・担い手3法」
- 国土交通省「令和5年度マンション総合調査結果〔概要編〕」
- HotelBank「ホテル工事費が上がったら誰が払うか — 改正建設業法の価格変動条項」
▼ロープアクセス工法・無足場工法の詳細解説はこちら
ロープアクセスドットコム|無足場工法専門メディア


