大規模修繕はロープアクセスが提案可能な東京の明誠へ

創業から6000棟超の施工実績

築25〜35年のホテル・旅館は約21.4万室|設備更新と外装修繕を重ねて考え、営業しながら進める方法【2026年10月】

築25〜35年のホテル・旅館は約21.4万室|設備更新と外装修繕を重ねて考え、営業しながら進める方法【2026年10月】

この記事で分かること

「うちのホテル、エレベーターも給湯器も外壁も、同じ時期に寿命が来そうなのだが、何から手を付ければよいのか」——ホテルや旅館のオーナーさま、支配人さまから、こうしたご相談を受ける機会が増えています。

この記事では、次の問いにお答えします。民間集計で築25〜35年の宿泊施設が約21.4万室あるとされる中で、設備更新と外壁・防水の修繕をどう組み合わせれば、営業への影響を抑えながら進められるのか?

きっかけは、2026年9月29日にGoogleアラート(「ホテル工事」)で届いた、ホテルバンクの分析記事です。2026年6月25日から9月17日に主要な予約サイトで在庫や価格が観測された施設のうち、1991年から2001年に開業した施設が2,843施設・214,252室あった、という集計でした(出典:ホテルバンク「築25〜35年のホテル・旅館は21.4万室 — 設備更新が重なる10年、100室で1室1泊50〜250円」)。

私は株式会社明誠の本間と申します。東京都東大和市を拠点に、マンション・ビル・ホテルの大規模修繕を20年以上やってきました。ホテルの現場では、お客さまが泊まっている建物の外壁を直す、という難しさが常に付きまといます。今日は、民間の集計と公的な一次情報を分けて整理しながら、私の現場感覚も交えてお話しします。

結論を先に書きます。築25〜35年は、エレベーターや熱源といった設備の更新周期と、外壁・防水の修繕時期が重なりやすい期間です。だからこそ、設備と外装を別々の予算・別々の業者で考えず、10年単位の一本の計画にまとめてから、営業を止めにくい工法を選ぶほうが、結果として負担を抑えやすくなります。

ただし、これは一般論です。建物ごとに状態は違いますので、最後は調査をして判断することが前提になります。


築25〜35年のホテル・旅館は何室ある?まず数字を整理する

最初に、今回の起点となった数字と、その周辺の公的データを一覧にします。出典が民間か公的機関かを分けて見ていただくと、どこまで信頼してよい数字なのかが分かりやすくなります。

項目 数値 出典の種類
築25〜35年(1991〜2001年開業)の施設数 2,843施設 民間集計(ホテルバンク/メトロエンジン施設マスター)
同・客室数 214,252室 民間集計(同上)
開業年が判明している施設・客室 30,451施設・1,487,004室 民間集計(同上)
開業年判明分に占める割合(室数ベース) 14.4% 民間集計(同上)
2025年の延べ宿泊者数(速報値) 6億5,348万人泊(前年比-0.8%) 公的統計(観光庁「宿泊旅行統計調査」)
2025年の客室稼働率・全体(速報値) 61.8% 公的統計(観光庁)
2025年のホテル・旅館の設備投資実施割合 60.8%(前年より3.3ポイント上昇) 公的金融機関の調査を報じた業界紙(観光経済新聞/日本政策金融公庫調査)

(出典:ホテルバンク、観光庁「宿泊旅行統計調査(2025年12月・第2次速報、2026年1月・第1次速報)及び2025年・年間値(速報値)」、観光経済新聞「25年のホテル・旅館の設備投資実施比率は3.3ポイント増」)

この表で押さえていただきたいのは、21.4万室という数字は、開業年が分かっている約148.7万室のうち約14.4%にあたるという点です。つまり、室数ベースでは、おおむね7室に1室が築25〜35年のゾーンに入っている計算になります(開業年が判明している施設だけの割合です)。

「約7室に1室」が意味すること

14.4%を単純に言い換えると、室数ベースでおおむね7室に1室です。同じ年代に開業した施設が、同じ時期に設備の寿命を迎える。ここに、今回の話の核心があります。

私の経験上、ホテルの改修が難しくなるのは、「今年は給湯、来年はエレベーター、その次に外壁」と、毎年バラバラに予算を組んでしまったときです。足場を組むタイミングと、屋上の設備を入れ替えるタイミングが別々になり、同じ屋上や外壁まわりを何度も触ることになります。

数字を読むときの4つの注意

この集計を使うときは、次の4点を頭に置いてください。

  1. 民間の集計であり、国の公式統計ではありません。 出典は予約サイトの観測データを元にした施設マスターです。
  2. 予約サイトに在庫や価格が出ていない施設は含まれません。 実際の全国の総数とは一致しない可能性があります。
  3. 築年数が分かっている施設だけの割合です。 開業年が不明な施設は分母に入っていません。
  4. ホテル・旅館以外の宿泊施設も含まれる場合があります。 元の施設マスターには、ゲストハウスや民泊などが含まれると見られます。

ですから、「全国で21.4万室がまもなく改修時期を迎える」と断定するのではなく、「民間の集計では、観測できた範囲で約21.4万室がこの年代に当たる」と読むのが適切だと考えています(ホテルバンクの施設マスターには、ホテル・旅館以外の宿泊施設も含まれる可能性があります)。


ホテル・旅館の設備更新は何年周期?エレベーター・熱源・受変電の目安

では、設備のほうは具体的にどのくらいの周期で更新が必要になるのでしょうか。ホテルバンクの記事が示している目安を、そのまま表にします。

設備 更新周期の目安 工事費の目安
エレベーター(制御のリニューアル) 25〜30年(1回目の更新は20〜30年とも記載) 500万円程度から
エレベーター(全撤去・入替) 25〜30年 1,500万円程度から
給湯熱源(同じ方式で更新) 15〜25年 約700万円
熱源機(ヒートポンプへ転換) 15〜25年 約2,600万円
受変電設備(変圧器) 25〜30年 記事中では金額の記載なし

(出典:ホテルバンク。同記事は、国土交通省「長期修繕計画作成ガイドライン」や国土技術政策総合研究所の報告、環境省の指針なども参照して整理されています)

1室1泊あたりにならすと、いくらの負担になるのか

この記事のもう一つの特徴は、設備更新の費用を「1室1泊あたり」に直して見せている点です。計算の考え方は、1巡分の工事費を客室数と更新周期(年)で割り、さらに365日で割る、というものです。ホテルバンクは、モデル施設ごとに次の試算を示しています。

モデル 1室1泊あたりの負担(販売可能室泊ベース)
100室のビジネスホテル 37〜192円
200室のシティホテル 22〜120円
30室の旅館 66〜371円

見出しの「100室で1室1泊50〜250円」というのは、販売された室泊ベースに直した場合の目安だと理解しています。いずれにしても、一度に数千万円、数億円という金額に見える設備更新も、周期でならすと1泊あたり数十円から数百円の単位になるということです。

この考え方は、金融機関や共有持分のオーナーさまへの説明にも使いやすいと、私は感じています。「毎年これだけ積み立てておけば、周期が来たときに慌てずに済む」という話に変換できるからです。

外装修繕を足すと、同じ計算はどう変わるか

ここからは、ホテルバンクの記事には含まれていない、私自身の考察です。設備の周期に、外壁・防水の修繕を加えると、1室1泊あたりの負担はどうなるでしょうか。

仮に、100室のホテルで外装修繕に1億円かかり、15年周期で行うと仮定します(金額・周期とも説明用の仮定であり、実際の費用ではありません)。

  • 1億円 ÷ 100室 ÷ 15年 ÷ 365日 = 約183円(販売可能室泊ベース)
  • 稼働率75.3%(観光庁・ビジネスホテルの2025年速報値)で販売された室泊に直すと、約243円

設備更新の試算に外装を足すと、1泊あたりの負担は確かに増えます。それでも、周期でならして見える化しておくと、「今期だけ突出して赤字になる」という状況を避けやすくなります。 これが、私が10年単位の一本の計画をお勧めする理由の一つです。


ホテルの外壁・防水は設備と何が違う?定期報告と10年ごとの全面打診

設備の更新は、止まる前に入れ替える「予防」の話です。一方、外壁や屋上防水は、法律上の点検義務と、劣化の進み方が建物ごとに大きく違うという点で、設備とは性格が異なります。

ホテルは建築基準法の定期報告の対象になる

国土交通省の定期報告制度のパンフレットでは、特殊建築物等の例として、劇場、映画館、病院、ホテル、共同住宅、学校、百貨店などが挙げられています。特定行政庁が指定する建築物の所有者・管理者は、定期に、専門技術を持つ資格者に調査・検査をさせ、その結果を特定行政庁に報告しなければなりません。報告をしなかったり、虚偽の報告をしたりした場合は、罰則(100万円以下の罰金)の対象になるとされています(出典:国土交通省「建築基準法第12条に基づく定期報告制度」パンフレット)。

どの建物が対象になるか、報告の周期はどうなるか、といった細かい点は、自治体(特定行政庁)ごとに異なります。ご自身の施設が対象かどうかは、所在地の建築指導課などで確認してください。

外壁は「おおむね10年に一度」全面的な打診等が求められる

外壁については、国土交通省が次のように整理しています。タイル、石貼り(乾式工法を除く)、モルタル等で、落下により歩行者などに危害を加えるおそれのある部分について、おおむね10年に一度、全面的な打診等を行う、というものです(出典:国土交通省「定期報告制度における外壁のタイル等の調査について」)。

ここで、築25〜35年のホテルを思い浮かべてください。定期報告の対象で、タイル等の外壁である場合、竣工から25年あれば、10年ごとの全面打診等の機会が複数回あった計算になります。調査で「補修が必要」と指摘された箇所を、その都度部分補修で済ませてきたホテルほど、築25年を過ぎたあたりで、補修の積み重ねだけでは追いつかなくなることがあります。私が現場で見てきた実感です。

ドローンによる赤外線調査は「条件付き」で認められている

同じ国土交通省のページによれば、令和4年1月18日の告示改正(平成20年国土交通省告示第282号の改正)で、無人航空機(ドローン)による赤外線調査が、打診の代替手法として認められました。ただし条件があり、「テストハンマーによる打診と同等以上の精度を有する」ことが求められ、判定基準は日本建築防災協会のガイドラインに準拠する、とされています。

つまり、ドローン調査なら何でも打診の代わりになる、という話ではありません。調査会社を選ぶときは、どの基準に沿って、どの精度で判定する調査なのかを、事前に確認していただくことをお勧めします。

なお、同ページには、令和8年7月21日付の事務連絡として「落下防止措置付き外壁タイルの性能検証法について」も掲載されています。外壁タイルの落下防止措置を検討されている場合は、こちらも参照してください。

設備と外装を同じ年に見る理由

ここまでを踏まえて、設備と外装を同じ10年の計画に入れる意味を整理します。

  1. 屋上は設備と防水が同居している。 給湯熱源や空調の室外機が屋上にある場合、設備の入替で防水層に荷重や配管の貫通が生じます。入替のあとに防水をやり直すのか、先に防水を直してから入れ替えるのかで、手戻りが変わります。
  2. 外壁の足場や吊り作業と、設備搬入の動線が重なる。 エレベーターや熱源機の搬入口まわりは、外壁の改修でも作業スペースが必要になります。
  3. 休館や客室の使用制限を、まとめて1回で済ませやすい。 工事のたびに客室を止める回数が増えるほど、稼働の機会損失は積み上がります。

稼働率は何%?営業しながらホテルを改修できるのか

ホテルの改修で一番の悩みは、やはり営業への影響です。観光庁の2025年年間値(速報値)で、施設タイプ別の客室稼働率を確認しておきます。

施設タイプ 2025年の客室稼働率(速報値)
全体 61.8%
旅館 38.4%
リゾートホテル 56.9%
ビジネスホテル 75.3%
シティホテル 74.2%

(出典:観光庁「宿泊旅行統計調査(2025年12月・第2次速報、2026年1月・第1次速報)及び2025年・年間値(速報値)」。速報値のため、確定値で修正される場合があります)

ビジネスホテルとシティホテルは「休めない」

ビジネスホテルの稼働率は75.3%、シティホテルは74.2%と、4室のうち3室近くが埋まっています。この水準のホテルが、外壁改修のために長期間の休館や大規模な客室の使用制限を行うと、機会損失が大きくなります。

旅館・リゾートホテルは「閑散期に寄せる」余地がある

旅館は38.4%、リゾートホテルは56.9%と、稼働率に幅があります。季節による需要の波が大きい施設では、閑散期に工期を寄せる、という選択肢が現実的になります。ただし、台風シーズンや冬場の低温・降雪など、工事そのものに向かない時期もありますので、施工会社と相談しながらカレンダーを組む必要があります。

宿泊者数の動きも見ておく

2025年の延べ宿泊者数は6億5,348万人泊(前年比-0.8%)で、内訳は日本人が4億7,561万人泊(-3.8%)、外国人が1億7,787万人泊(+8.2%)でした。外国人の宿泊が増える一方で、日本人の宿泊が減っている構図です。需要の構成が変わるなかで、改修によって「どの客層にどんな価値を提供するか」も、設備更新と同時に考えておくと、投資の意味づけがしやすくなります。


足場・ロープアクセス・ハイブリッドの3工法をホテル向けに比較する

営業しながらの外装修繕を考えるとき、工法の選び方が結果を左右します。当社は、通常の足場仮設による工事、足場を使わないロープアクセス工法、両者を組み合わせるハイブリッド工法の3つから、建物に合ったものをご提案しています。ホテルの場合の見方を、表にまとめます。

比較項目 通常の足場工法 ロープアクセス工法(無足場) ハイブリッド工法
客室の窓・バルコニーへの影響 足場とメッシュシートで眺望・採光が制限されやすい 窓まわりを覆う範囲が小さくなる場合がある 足場を使う面と使わない面を分けられる
仮設工事 足場の組立・解体が必要 足場の仮設・解体が不要(吊り下げ点の確保などは必要) 必要な面だけ足場を仮設
向いている工事 全面的な塗装・防水・タイル張替えなど、作業量が大きいもの 外壁の点検、部分補修、シーリング、塗装など 面ごとに劣化度合いや条件が違う建物
注意点 仮設期間中の防犯・景観・客室の使用制限 作業量が大きい工事や、風・天候の影響を受けやすい 工程調整が複雑になる
検討の進め方 建物条件にかかわらず検討候補になる 建物の形状・外壁材・作業内容により適否が分かれる 現地調査での判断が前提

ロープアクセスは万能ではない

ここは、正直に申し上げます。ロープアクセス工法は、足場が組めない・組みたくない建物に向いた工法ですが、どんな工事にも向くわけではありません。 作業量が多い全面改修や、風の影響を強く受ける高層の面では、足場のほうが適している場合があります。

私が3つの工法を並べてご提案するのは、特定の工法を売りたいからではなく、建物と営業条件に合った組み合わせを選んでいただくためです。ロープアクセス工法の一般的な解説は、姉妹サイトのロープアクセスドットコムにまとめています。技術情報をご覧になりたい方は、あわせてご参照ください。

営業しながら進めるための3つの工夫

営業中のホテルの外装修繕では、工法以外にも次の工夫が効きます。

  1. 作業面を分ける。 全面を一度に覆わず、面ごとに順番に進めることで、客室の使用制限を最小限にします。
  2. 作業時間帯を調整する。 チェックアウト後からチェックイン前の時間帯に、騒音や振動の出る作業を寄せます。
  3. 宿泊者向けの周知を用意する。 工事の予定を事前に案内し、苦情を未然に減らします。

詳しい進め方は、ホテルオーナーさま向けのご案内にもまとめています。


築25年超のホテルで見落とされやすい外装の劣化サイン5つ

設備の故障は、お客さまからのクレームや停止で気付きやすいものです。ところが外壁や防水は、傷みが進んでいても日常業務の中では目に入りにくく、気付いたときには漏水や落下の危険が出ている、ということが起こります。私が築古のホテルを拝見するとき、まず目を向ける場所を5つ挙げます。

  1. 客室の窓まわりのシーリングのひび割れ・肉やせ。 窓の周囲のゴム状の目地材は、紫外線や温度変化で硬くなり、すき間が出てきます。ここから雨水が入ると、客室の壁紙の浮きやカビにつながります。
  2. 外壁タイルの浮き・目地の欠け。 見た目に異常がなくても、内部で浮いていることがあります。10年ごとの全面打診等が求められている背景には、こうした見えない劣化の把握があると考えられます。
  3. 屋上やバルコニーの防水層のふくれ・ひび割れ。 排水口まわりに水がたまっている、落ち葉や砂がたまっている、といった状態も要注意です。
  4. 鉄部のさび(非常階段、手すり、設備架台)。 さびは膨張して周囲のコンクリートを割ることがあります。宿泊者が使う非常階段は、安全面からも優先度が高い場所です。
  5. 外壁の汚れ・変色のムラ。 汚れ方が不自然に偏っている面は、雨水の流れ方や、内部の水の侵入を示すことがあります。

客室で起きるサインも、外装の劣化とつながっている

外装の不具合は、客室の側に先に現れることもあります。たとえば、特定の客室で壁紙が浮く、天井に薄いしみが出る、といった状況が繰り返される場合は、外壁・窓まわり・屋上のどこかで水が入っている可能性があります。客室の補修だけを繰り返すのではなく、原因となる外装側を一度調べることをお勧めします。

私の経験上、客室の内装の補修費は、原因が外装にある場合、直しても再発して積み上がります。内装を直す前に、外装側を点検する。この順番を守るだけで、無駄な出費を減らせる場面は少なくありません。

築古ビルを持つオーナーさまにも共通する話

ここまで、ホテルを中心にお話ししましたが、収益用のビルやテナントビルを所有されているオーナーさまにも、同じ構図が当てはまります。エレベーター、受変電、給排水、屋上防水、外壁と、築25年から35年にかけて、更新が重なる時期になります。空室対策や賃料の維持と、修繕の時期をどう並べるかは、ホテルと同じように、10年単位で見ると判断しやすくなります。


設備更新と外装修繕を一本の計画にまとめる7つのステップ

ここからは、オーナーさま・支配人さまが今期から動ける手順を、順番に整理します。

  1. 開業年と過去の改修履歴を一覧にする。 エレベーター、給湯・空調熱源、受変電、屋上防水、外壁(塗装・タイル・シーリング)の最終更新年を、1枚の表にします。
  2. 定期報告の指摘事項を拾い出す。 直近の調査報告書にある「要是正」「要重点点検」などの指摘を、未対応のまま残っていないか確認します。
  3. 現地調査を依頼する。 外壁と屋上、バルコニー、設備まわりをまとめて調べます。調査会社と施工会社が同じである必要はなく、見積り比較ができるよう、調査結果は自社で保管しておくことをお勧めします。
  4. 優先順位を安全・法令・収益の順で付ける。 落下の危険、漏水、法令上の是正を先に、客室の魅力向上は次に置きます。
  5. 周期でならした年間負担を試算する。 先ほどの「1室1泊あたり」の考え方で、設備と外装を合算します。
  6. 工法と工程の案を複数もらう。 足場、ロープアクセス、ハイブリッドの3案を並べ、客室の使用制限日数と総額を比較します。
  7. 資金計画と金融機関への相談を前倒しする。 設備投資は、融資の審査や補助制度の確認に時間がかかるため、工事の1年以上前から動き始めるのが安全です。

見積りを比べるときのチェックポイント

複数社から見積りを取ると、金額だけで判断したくなります。ホテルの場合は、次の項目の差を確認してください。

確認項目 見るポイント
客室の使用制限 何室を、何日間、どの時間帯に止める想定か
仮設費 足場・昇降機・養生などの仮設費が、見積りのどこに入っているか
騒音・振動の作業 宿泊者に影響する作業を、時間帯でどう分けるか
保証・アフター 保証年数と、保証の対象範囲
調査方法 打診か、ドローン赤外線か。基準は何に準拠するか

資金はどう考える?ホテル・旅館の設備投資実施割合は60.8%

設備更新や外装修繕の資金面について、公的金融機関の調査を報じた記事を確認しておきます。

観光経済新聞によると、日本政策金融公庫が生活衛生関係営業を対象に行った調査で、2025年のホテル・旅館の設備投資の実施割合は60.8%で、前年より3.3ポイント上昇しました。投資の目的としては、補修・更新が挙げられています。一方、設備投資を行わなかった事業者の理由では、自己資金の不足が最も多く挙がったとのことです。調査は3月上旬に3,290社を対象に行われ、3,134社から有効回答があり、そのうちホテル・旅館は186社でした(出典:観光経済新聞「25年のホテル・旅館の設備投資実施比率は3.3ポイント増 補修・更新目的-日本公庫調査」)。

この数字から言えること

ホテル・旅館の回答は186社と、母数は限られます。また、記事は業界紙による報道であり、元の調査報告書の全体を確認したものではありません。そのため、「ホテル・旅館の6割が設備投資をしている」と読むのは妥当ですが、「自分のホテルも同じようにすべきだ」という根拠にはなりません。

それでも、補修・更新を目的とした投資が増えていることと、自己資金の不足が壁になっていることは、私の現場感覚とも一致します。ご相談の多くは、「必要なことは分かっているが、資金の段取りがつかない」というところで止まっているからです。

段取りを組むときの考え方

資金面では、次の3点を意識していただくと、判断がしやすくなります。

  • 一度に全部をやらず、優先順位で分ける。 安全・法令対応は先に、客室の魅力向上は資金に余裕が出てから、という順番です。
  • 周期でならした積立を始める。 毎年の営業キャッシュフローの中で、設備・外装の積立枠を決めておきます。
  • 金融機関・自治体の制度は、最新の公式情報で確認する。 制度の内容や募集期間は変わりますので、所管の公式ページで最新情報をご確認ください。

施工会社に相談する前に用意しておきたい資料

初めて外装修繕の相談をするとき、「何を用意すればよいか分からない」というお声をよく頂きます。完璧な資料は要りません。次のものが手元にあれば、最初の打合せがぐっと進みやすくなります。

  • 竣工図面(立面図・平面図・屋上伏図)と、検査済証の写し
  • 直近の定期報告書と、指摘事項への対応記録
  • 過去の改修工事の契約書・仕様書・保証書
  • 客室や共用部での雨漏り・結露・剥落などの発生記録(日付と場所)
  • 年間の稼働カレンダー(繁忙期・閑散期・大型の予約が入る時期)

特に最後の稼働カレンダーは、工程づくりの要です。外装の工事は、天候と稼働の両方を見ながら日程を決める仕事です。客室の使用制限をどの時期に寄せられるかが分かれば、工法の選択肢も絞り込みやすくなります。

打合せでは、「この予算でここまで」という上限だけを伝えるのではなく、「営業上これだけは止められない」という条件を先に共有してください。私はいつもオーナーさまに、そうお伝えしています。条件が先に分かれば、足場、ロープアクセス、ハイブリッドのどれが合うかを、より現実的に比べられるからです。


よくある質問(FAQ)

Q1. 築25〜35年のホテル・旅館は、全国にどのくらいありますか?
A. 民間の集計(ホテルバンク)では、予約サイトで観測できた宿泊施設(ゲストハウス・民泊等を含む可能性があります)のうち、1991〜2001年開業が2,843施設・214,252室で、開業年が判明している客室の14.4%にあたります。ただし民間の集計であり、国の公式統計ではありません。(出典:ホテルバンク)

Q2. エレベーターの更新は何年が目安ですか?
A. 同記事では、エレベーターの更新周期の目安は25〜30年とされ、制御のリニューアルが500万円程度から、全撤去・入替が1,500万円程度からとされています。実際の費用は機種や台数、建物条件で変わります。

Q3. ホテルの外壁調査は法律で決まっていますか?
A. 一定規模以上のホテルは、建築基準法第12条に基づく定期報告制度の対象となる特殊建築物等に含まれ得ます(特定行政庁の指定が前提です)。外壁のタイル等については、おおむね10年に一度、全面的な打診等を行うとされています。対象かどうかや報告の周期は自治体で異なるため、所在地の特定行政庁に確認してください。(出典:国土交通省)

Q4. ドローンの赤外線調査は、打診の代わりになりますか?
A. 令和4年1月18日の告示改正で、無人航空機による赤外線調査が打診の代替手法として認められました。ただし、テストハンマーによる打診と同等以上の精度を有することが条件で、判定基準は日本建築防災協会のガイドラインに準拠します。

Q5. 営業しながら外壁を直すことはできますか?
A. 建物の条件と工事内容によりますが、作業面を分ける、作業時間帯を調整する、足場を使わないロープアクセス工法を部分的に取り入れるなどの方法で、客室の使用制限を抑えられる場合があります。可否は現地調査で判断します。

Q6. ロープアクセス工法は、足場より安いのですか?
A. 足場の仮設・解体費が発生しない分、条件によっては総額を抑えられる場合があります。ただし、作業量が多い工事や、風の影響を受けやすい面では、足場のほうが適している場合もあります。3工法の見積りを並べて比較することをお勧めします。


この記事のポイントまとめ

  • 民間集計では、築25〜35年の宿泊施設は約21.4万室(開業年判明分の室数の14.4%)
  • エレベーターは25〜30年、給湯熱源は15〜25年が更新周期の目安
  • 外壁は、おおむね10年に一度の全面的な打診等が求められる
  • 2025年の客室稼働率はビジネスホテル75.3%、旅館38.4%と、営業への影響の大きさが異なる
  • 設備と外装を一本の10年計画にして、3工法の見積りを並べて比べる

出典・参考資料


▼ロープアクセス工法・無足場工法の詳細解説はこちら
ロープアクセスドットコム|無足場工法専門メディア


この記事の執筆者

本間 幸紘(ほんま ゆきひろ)
株式会社明誠 代表取締役/東京都東大和市
マンション・ビル・ホテルの大規模修繕20年以上の実務経験。3工法(通常足場/ロープアクセス/ハイブリッド)から建物特性に応じて最適提案。日本初のロープアクセス工事フランチャイズ本部を運営。JCSA(一般社団法人 全国建設業支援協会)代表理事。

最終更新:2026年10月2日

築25年を過ぎたホテルは、建物も設備も、働いてきた年月の分だけ疲れています。けれど、周期を知り、設備と外装を一本の計画にまとめるだけで、慌てずに済む場面はぐっと増えます。まずは開業年と最終更新年を、1枚の表にしてみてください。ご相談だけでも遠慮なくお声がけいただければ、お問合せフォームから承ります。これは私が現場で20年以上見てきた実感です。次回も、現場で本当に使える話だけをお届けします。


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