
今朝、いつものようにニュースに目を通していると、塗装業界の人間なら誰もが二度見するであろう見出しが並んでいました。「日本ペイントHD、蘭アクゾに建築塗料事業の買収を提案 1.4兆円規模」。日本ペイントホールディングスが、塗料世界3位のオランダ・アクゾノーベルに対して、建築用塗料事業を総額75億ユーロ(約1兆3850億円)で買い取りたいと提案した、という内容です。
正直に申し上げます。私はこのニュースを、「業界の遠い話」として読み飛ばすことができませんでした。なぜなら、いま日本の塗装現場で起きていることと、この巨額のM&A(企業の合併・買収)は、間違いなく地続きだからです。
そして、この話の行き着く先にいるのは、私たち施工会社ではありません。マンションの管理組合であり、収益物件をお持ちのオーナーさまです。塗料の値段が上がり、モノが入りにくくなる。その最終的なツケは、12年に一度回ってくる大規模修繕の見積書の一番下の数字に、静かに乗ってきます。
今日は、この「塗料の世界再編」というニュースを入口にして、2026年のいま、管理組合と収益物件オーナーが自分の建物を守るために見積書のどこに線を引くべきかを、現場の言葉でお話しします。相場を当てにいく話ではありません。値上げの波を、工法と発注の仕方でどう受け流すか、という実務の話です。
何が起きたのか——日本ペイントHDが「建築用塗料」だけを1.4兆円で取りに行った
まず、ニュースの中身を整理します。
日本ペイントホールディングス(以下、日本ペイントHD)は2026年7月13日、オランダのアクゾノーベルに対し、その建築用塗料事業の買収を提案していると発表しました。金額は総額75億ユーロ、日本円でおよそ1兆3850億円。実現すれば同社として過去最大級の買収になります(出典:日本経済新聞「日本ペイントHD、蘭アクゾに建築塗料事業の買収を提案 1.4兆円規模」、時事通信)。
ここで大事なのは、「会社ごと」ではなく「建築用塗料事業だけ」を狙った提案だという点です。
実は日本ペイントHDは、これに先立って米国の塗料世界首位シャーウィン・ウィリアムズと組み、アクゾノーベル全体を約2兆円で共同買収する構想を進めていましたが、これは拒否され、2026年6月に断念したと発表しています(出典:日本経済新聞「日本ペイントHD、蘭塗料大手アクゾ・ノーベルの共同買収を断念」)。今回はそこから戦略を切り替え、自分たちの本丸である建築用塗料(住宅・ビル・マンションの外壁や屋根に塗る塗料)だけを単独で取りに行ったわけです。
現時点でアクゾ側の経営陣はこの提案に応じておらず、成立するかどうかは分かりません。ここは断定を避けます。ただ、方向性ははっきりしています。世界の塗料メーカーは、建築用塗料という土俵で、国境を越えた大きな塊になろうとしている。
なぜか。私はここに、2026年の塗料が置かれた苦しい現実が透けて見えると思っています。
その前に起きていたこと——2026年、日本の塗装現場は「塗料が買えない」状態に陥っていた
このニュースを理解するには、この春に日本の塗装現場で何が起きていたかを知っておく必要があります。
一般社団法人日本塗装工業会(全国の塗装工事業者が加盟する業界団体)は、2026年4月14日、国土交通省に対して「中東情勢に伴う塗料原材料の安定供給及び価格高騰に関する緊急要望」を提出しました(出典:一般社団法人日本塗装工業会)。
この要望の背景にある数字が、私には衝撃でした。同会が4月6日〜10日に会員に対して行った緊急アンケート(回答850社)では、塗料の希釈や道具の洗浄に不可欠なシンナーが「通常どおり入手できる」と答えた会社はわずか2.7%。「手に入らない」が55.1%、「数量制限あり」が42.2%。つまり、全国の塗装会社の97%が、シンナーを普通には買えない状態にあったということです(出典:日本塗装時報)。
シンナーが無ければ、溶剤系の塗料はそもそも塗れません。塗料そのものも同じ理由で品薄になりました。
原因は中東情勢です。ホルムズ海峡をめぐる緊張から原油とナフサ(石油化学製品の原料)の供給不安が広がり、そこから作られるトルエン・キシレンといった溶剤の流通が滞りました。
面白いのは、政府の説明と現場の感覚がまるで違っていたことです。経済産業省の赤澤大臣は2026年4月14日の記者会見で、こう説明しています。「原油や石油製品については、代替調達や備蓄石油の放出により、我が国全体として必要となる量は確保できている」。ではなぜ現場で足りないのか。大臣が挙げた実例が、実に人間くさい。
川上の石油化学メーカーが「4月までは前年並みに供給。5月は未定」とシンナーメーカーに伝えた。すると、シンナーメーカーと卸・小売は5月に備えて4月の出荷を直ちに半減した——。
(出典:経済産業省「赤澤経済産業大臣の閣議後記者会見の概要」2026年4月14日)
政府はこれを「卸の目詰まり」と呼び、4月13日に局長名で「原料調達に課題が生じても、それだけを理由に即座に生産を抑制しないでほしい」という要請を出しました。全体量は足りている。それでも現場には届かない。モノ不足ではなく、不安が作った品切れだったわけです。
私はこの一件を、20年の現場人生で忘れないと思います。材料は、世界のどこかの海峡の話ひとつで、あっけなく止まる。
塗料の値上げは、大規模修繕の見積にどう跳ね返るか
供給が細れば、値段は上がります。2026年に入ってから、大手塗料メーカー各社は相次いで値上げを公表しました。溶剤系塗料で20〜30%台、シンナー類にいたっては大幅な引き上げが公表されたケースもあります(各社の値上げ発表・業界報道による。数字はメーカー・製品ごとに幅があり、実際の見積単価は仕入れルートや時期で変わります)。
ここで、管理組合の理事長さまからよく聞かれる質問に先回りしてお答えします。
「塗料が3割上がったら、大規模修繕の総額も3割上がるんですか?」
答えは、いいえ、です。ここが一番誤解されるところなので、丁寧に説明します。
マンションの大規模修繕工事は、大きく分けて次のような費用でできています。
| 費用の区分 | 中身 | 私の感覚値 |
|---|---|---|
| 仮設工事費 | 足場、養生シート、仮設トイレ、資材置場など | 工事費の約2割 |
| 直接仮設以外の労務費 | 職人の手間(下地処理・塗装・防水・シーリング) | 大きい |
| 材料費 | 塗料、防水材、シーリング材、タイル補修材 | 塗料だけなら数%〜十数% |
| 現場管理費・諸経費 | 現場監督、保険、書類、利益 | 一定割合 |
※上表の「約2割」は、当社がこれまで見積を突き合わせてきた経験にもとづく体感値であり、公的統計に基づく数字ではありません。物件形状や工事内容で大きく上下します。
つまり、塗料そのものが工事費に占める割合は、多くの物件でそこまで大きくありません。塗料が30%上がっても、総額に効いてくるのは数%というのが実務の感覚です。
では、なぜ皆さんの見積が跳ね上がるのか。塗料だけが上がっているのではないからです。 シーリング材も、防水材も、鋼材(足場)も、そして何より職人の労務費が上がっています。全部が同じ方向に動いているとき、総額は静かに、しかし確実に押し上げられます。
国土交通省の「令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査」では、1回目の大規模修繕工事の戸あたり工事金額は「100万円超〜125万円以下」が最も多いという結果でした(出典:国土交通省「マンション大規模修繕工事に関する実態調査」)。この調査は数年前のものです。2026年のいま、同じ内容の工事を同じ金額でできるとは、私は口が裂けても言えません。
だからこそ、見積書に線を引くのです。
見積書の防衛線①:材料費と労務費を「分けて」出してもらう
ここからが本題です。私が理事長さまやオーナーさまにお伝えしている、5つの防衛線をお話しします。
第一の防衛線は、材工分離(ざいこうぶんり)。材料費と手間賃(労務費)を分けて記載してもらう、ということです。
多くの見積書は「外壁塗装 ○○㎡ × 単価○○円 = ○○円」という書き方になっています。この単価の中には、塗料代も職人の手間も一緒くたに入っています。これだと、値上げの説明を受けたときに、本当に材料が上がったのか、それとも別の何かが上がったのかが分からないのです。
「塗料が高騰しているので」という一言で、労務費や諸経費まで一緒に膨らんでいないか。分けて書いてもらえば、そこが見えます。私は自分の会社の見積でも、聞かれれば必ず内訳をお出しします。隠すことは何もありませんし、隠す会社を私は信用しません。
理事会での一言:「材料費と労務費、分けて出していただけますか。値上げの根拠を組合員に説明する必要があるので」。これで十分です。これは値切りではなく、説明責任のための資料請求です。
見積書の防衛線②:「見積の有効期限」と「単価スライド条項」を確認する
第二の防衛線。これは2026年に特に効きます。
塗料の値段が半年で二段階も上がるような局面では、見積書の有効期限が極めて重要になります。総会で承認を取るまでに3か月、契約から着工までに2か月——気づけば、見積を出した時点の材料単価はもう存在しない、ということが普通に起こります。
このとき、施工会社側は2つのどちらかを選びます。
1. 値上がりリスクを見込んで、あらかじめ高めの単価で見積を出しておく
2. 契約後に「材料が上がったので追加をください」と言う
正直に申し上げて、どちらも組合にとって嬉しくありません。1は最初から高い。2は総会をもう一度開く羽目になります。
だから私は、こう提案しています。「材料単価が◯%以上変動した場合は協議する」というスライド条項を、契約書に最初から入れておきましょうと。上がったら上がったで協議する。下がったら下がったで返す。互いに逃げ道を用意しておくほうが、結果として安く、そして揉めません。
なお、日本塗装工業会が国交省に出した緊急要望でも、発注者に対して価格変更・工期延長の協議に応じるよう求める趣旨が盛り込まれています(出典:日本塗装時報)。業界としても、そこは正面から議論しようとしている段階だとご理解ください。
見積書の防衛線③:塗料のグレードは「金額」ではなく「年数あたりの金額」で比べる
第三の防衛線。塗料選びの話です。
外壁に使う塗料には、大まかに次のようなグレードがあります。カッコ内は、あくまで一般的に言われている耐用年数の目安であり、環境(海沿い・日照・立地)によって大きく変わります。
| グレード | 一般的な耐用年数の目安 | 単価 |
|---|---|---|
| ウレタン系 | 短め | 安い |
| シリコン系 | 中くらい | 標準的 |
| フッ素系 | 長め | 高い |
| 無機系・無機ハイブリッド系 | 長め | 高い |
塗料が値上がりすると、多くの管理組合が「じゃあ一段安いグレードに落とそう」と考えます。気持ちはよく分かります。でも、私はここで必ず立ち止まっていただきます。
大事なのは1回の工事費ではなく、次に足場を組むまでの年数で割った金額です。
たとえば、塗料のグレードを一段下げて工事費を数百万円下げられたとします。でも、それによって次の塗り替えが数年早く来るなら、その数年で「足場代をもう一回払う」ことになる。先ほど申し上げたとおり、足場は工事費のおよそ2割を占めます。塗料代を削って足場代を増やす——これは私が現場で一番悔しい思いをする、典型的な失敗です。
長期修繕計画は、国土交通省の「長期修繕計画作成ガイドライン」でも、おおむね12年程度の周期を目安に外壁塗装などを見込むという考え方が示されています(出典:国土交通省「長期修繕計画作成ガイドライン」)。この「12年」を守れる塗料なのか、それとも8年で色褪せる塗料なのか。年数で割って比べる。 これだけで判断はぐっと楽になります。
見積書の防衛線④:メーカー名より「下地処理の仕様」を読む
第四の防衛線。ここは職人としての本音を書かせてください。
塗料メーカーの再編ニュースを見て、「うちのマンションは大丈夫か、○○社の塗料が使えなくなるのでは」と心配される方がいるかもしれません。念のため申し上げると、その心配はほぼ要りません。塗料は代替が効きます。 同等性能の製品は各社が持っていますし、仮に世界の再編でブランドが変わっても、建物に必要な性能を満たす製品は必ず調達できます。
私が本当に心配してほしいのは、そこではありません。
塗膜(とまく:塗った塗料の膜)の寿命を決めるのは、塗料のグレードよりも、その下に何をしたかです。
- 高圧洗浄で汚れとチョーキング(劣化して粉を吹いた状態)をきちんと落としたか
- ひび割れ(クラック)を、幅に応じた正しい方法で処理したか
- 浮いているタイルや爆裂(鉄筋が錆びて膨張しコンクリートを押し出した状態)を、塗る前に直したか
- シーリング(目地に詰めるゴム状の充填材)を打ち替えたか、それとも上から重ねただけか
- 下塗り材(プライマー・シーラー)を、素地に合ったものを規定量使ったか
高級な塗料を、汚れた壁にペタッと塗る。これほど無駄なお金の使い方はありません。逆に、標準的なシリコン系でも、下地処理が丁寧なら12年しっかり持ちます。私は自信を持ってそう言えます。
見積書で見るべきは、塗料の商品名の欄ではなく、その上に並んでいる「洗浄」「下地処理」「シーリング」の項目が、きちんと数量と単価をもって書かれているかどうかです。 ここが「一式」で済まされている見積書は、私なら質問します。
見積書の防衛線⑤:工事費で最も大きな塊は、塗料ではなく「足場」だと知る
そして、第五の防衛線。これが今日、一番お伝えしたいことです。
ここまで塗料の話をしてきて、こう言うのは妙に聞こえるかもしれません。でも、事実です。
塗料が20%上がっても、工事費全体に効くのはせいぜい数%。一方、足場は工事費のおよそ2割を占めます。 つまり、塗料の単価を1円単位で削る努力より、「そもそもその足場、全面に必要ですか?」という問いのほうが、桁ひとつ大きい。
これは私の会社の宣伝がしたくて言っているのではありません。理事会で3時間かけて塗料のグレードを議論した組合が、足場の仮設計画については施工会社の提案をそのまま受け入れている——そういう場面を、私は何度も見てきました。時間の使い方が、逆なのです。
(ここから先は自社サービスの話を含みます。判断材料のひとつとしてお読みください。)
工法を変えるという選択肢——ロープアクセスとハイブリッド工法
株式会社明誠では、マンション・ビル・ホテルの大規模修繕を、3つの工法から建物に合わせて提案しています。
1. 通常の足場仮設工法
従来どおり、建物の周囲に足場を組む方法です。作業効率が高く、全面的な補修や複雑な形状の建物に向きます。
2. ロープアクセス工法(無足場工法)
産業用ロープで作業員が屋上から吊り下がり、足場を組まずに施工する方法です。足場の架設費・解体費がまるごと不要になるため、足場費(工事費の約2割)を大きく圧縮できる可能性があります。工期も短くなりやすく、足場のシートで建物が覆われないため、居住者の生活影響や、収益物件であれば入居募集への悪影響を最小限にできます。
3. ハイブリッド工法
建物を部位ごとに切り分け、足場が必要な面(大規模な補修が必要な面、開口部の多い面など)には足場を組み、ロープで足りる面(傷みの少ない面、隣地が迫って足場が組めない面)はロープアクセスで対応する方法です。全面足場と全面ロープの、いいとこ取りです。
塗料が上がる。労務費も上がる。それでも総額を抑えたいなら、「削る」のではなく「組み替える」。私はこれを、必ずワンセットでご提案するようにしています。詳しくは大規模修繕工事のご紹介と明誠の3工法の考え方をご覧ください。収益物件をお持ちのオーナーさま向けの考え方はマンション・ビルオーナーさま向けページにまとめています。
正直に申し上げます——ロープアクセスが向かない建物もあります
両論併記のために、デメリットもはっきり書きます。ロープアクセス工法は万能ではありません。
- 屋上に支点(アンカー)が取れない建物では、そもそも施工できません。屋上の構造物や躯体の状態を必ず現地で確認する必要があります。
- 外壁の劣化が全面的に進んでいる建物では、補修する面積が広すぎて、ロープでの作業効率が足場に劣る場合があります。この場合は足場のほうが安く、早い。
- 低層で敷地に余裕のある建物は、足場の架設費がそもそも安く済むため、ロープにする金銭的メリットが小さいことがあります。
- バルコニー内部など、ロープでは届きにくい部位は、別途の段取りが必要です。
だから私たちは、「まず現地を見せてください」としか言えません。図面と写真だけで「ロープなら安くなります」と言い切る会社があったら、私はむしろ警戒します。建物ごとに答えは違うからです。
塗料の世界再編は、管理組合とオーナーにとって何を意味するのか
最後に、冒頭のニュースに戻ります。
日本ペイントHDがアクゾノーベルの建築用塗料事業を1.4兆円で取りに行った。この動きが意味するのは、建築用塗料が、規模を持たなければ原料の調達も価格交渉も生き残れない産業になりつつある、ということだと私は読んでいます。
原料は石油から来ます。その石油は、海峡ひとつの緊張で止まる。2026年春に日本の塗装現場が経験したのは、まさにそれでした。世界中の塗料メーカーが同じ不安を抱えているからこそ、巨大な塊になろうとしている。
では、この構造変化は建物の所有者にとって何を意味するか。私の見立ては、次の3点です。
1. 「安い塗料を探す」戦略の賞味期限は切れつつある
原料コストの上昇は、業界全体に等しくかかります。特定のメーカーだけが安く出し続けられる状況は、そう長くは続かないでしょう。材料単価の勝負から降りて、工法と工程で戦うほうが合理的です。
2. 見積の「時間的な鮮度」がこれまで以上に重要になる
半年前の見積は、もう別の建物の見積です。総会のスケジュールと見積の有効期限を、逆算して組んでください。
3. 修繕積立金の前提が古くなっている可能性がある
5年前・10年前に作った長期修繕計画の金額は、いまの材料費・労務費を織り込んでいません。値上げのニュースを見たら、塗料の心配をする前に、長期修繕計画の数字を見直す。これが一番効きます。
よくある質問
Q1. 塗料が値上がりしているなら、大規模修繕を数年先送りしたほうが得ではないですか?
A. おすすめしません。値下がりを待つ根拠がないうえに、先送りしている間に劣化は進みます。ひび割れから水が入って鉄筋が錆びれば、塗装だけでは済まなくなり、躯体の補修という高額な工事が追加されます。ただし、「全部を一度にやる」以外の選択肢はあります。緊急性の高い部位だけを先に直す(ピンポイント施工)という考え方も含めて、点検・調査からご相談ください。
Q2. 見積書で「一式」と書かれている項目が多いのですが、問題ですか?
A. すべてが悪いとは言いません。ただ、金額の大きい項目——足場、下地処理、シーリング、塗装——が「一式」で書かれているなら、数量と単価の内訳を求めてください。比較検討のしようがありませんし、後から追加請求が出やすくなります。
Q3. 塗料メーカーの再編で、うちのマンションで使っている塗料が製造中止になったらどうなりますか?
A. 同等性能の代替品は必ず存在します。むしろ、既存の塗膜との相性(付着性)の確認のほうが実務的には重要で、これは施工会社が試験や調査で確認します。ブランド名にこだわりすぎる必要はありません。
Q4. 値上げを理由に、契約後に追加請求されました。応じるべきですか?
A. まず契約書を確認してください。単価スライドや物価変動に関する条項があるか、その発動条件を満たしているか。条項がないのに一方的な請求であれば、根拠資料(メーカーの値上げ通知など)の提示を求め、協議の場を持つのが筋です。個別の契約解釈については、管理組合の顧問弁護士やマンション管理士にご相談ください。
Q5. ロープアクセス工法にすると、工事の品質は落ちませんか?
A. 工法と品質は別の問題です。品質を決めるのは下地処理と職人の腕、そして施工管理の体制です。当社はロープアクセスの技術者に加え、塗装・防水・タイル・電気・看板といった各分野の専門会社がフランチャイズとして加盟しており、専門職が専門部位を担当します。ロープだから雑になる、ということはありません。
Q6. 収益物件のオーナーです。空室が出ている時期に工事をすべきでしょうか?
A. 工事期間中に足場とシートで建物が覆われると、内見のたびに説明が必要になり、募集に響きます。ロープアクセスやハイブリッド工法は建物を覆わないため、この影響を抑えられます。工事時期と募集時期は、必ずセットで考えてください。
まとめ——値上げの波は、工法と発注で受け流す
長くなりましたので、要点を整理します。
- 日本ペイントHDが、アクゾノーベルの建築用塗料事業に約1兆3850億円の買収提案(2026年7月13日発表、成立は未定)。世界の塗料業界は再編局面に入っている。
- その背景には、2026年春に日本の塗装現場を襲ったシンナー・塗料の供給難(日本塗装工業会の調査で、シンナーを通常どおり入手できる会社は2.7%)と、相次ぐ値上げがある。
- しかし、塗料代が20〜30%上がっても、大規模修繕の総額に効くのは数%。総額を押し上げているのは、材料・労務・仮設の全方位的な上昇である。
- 管理組合・オーナーが張るべき防衛線は5つ。①材工分離で内訳を出させる ②見積の有効期限と単価スライド条項 ③塗料は「年数で割った金額」で比較 ④塗料名より下地処理の仕様を読む ⑤工事費の最大の塊は足場。
- そして最後の一手が、工法の組み替え。ロープアクセス工法・ハイブリッド工法で足場費そのものを圧縮する。ただし建物によって向き不向きがあり、現地調査なしに断定はできない。
塗料が上がったというニュースを見て、理事会で「どこを削るか」の議論を始める前に、まず「どこを組み替えられるか」を考えてみてください。削れば建物が痩せます。組み替えれば、建物は痩せずに費用だけが下がる余地があります。
私は現場で20年、建物が痩せていくのを見てきました。修繕積立金が足りないから、塗料のグレードを落とす。足場代がもったいないから、次の工事まで我慢する。その積み重ねが、10年後、20年後の資産価値の差になって、はっきりと表れます。
見積書を前に迷われたら、ご相談だけでも遠慮なくお声がけください。総会の前段階の整理だけでも、お力になれることがあります。お問合せはこちらから。現地を拝見したうえで、足場・ロープアクセス・ハイブリッドの3つを並べて、正直な金額と正直なデメリットをお出しします。
次回も、現場で本当に使える話だけをお届けします。
出典・参考資料
- 経済産業省「赤澤経済産業大臣の閣議後記者会見の概要(2026年4月14日)」
- 国土交通省「マンション大規模修繕工事に関する実態調査」
- 国土交通省「長期修繕計画作成ガイドライン」
- 一般社団法人日本塗装工業会「中東情勢に伴う塗料原材料の安定供給及び価格高騰に関する緊急要望」
- 日本塗装時報「シンナー等の供給が危機的状況に 発注者は価格変更・工期延長の協議に対応を」
- 日本経済新聞「日本ペイントHD、蘭アクゾに建築塗料事業の買収を提案 1.4兆円規模」
- 日本経済新聞「日本ペイントHD、蘭塗料大手アクゾ・ノーベルの共同買収を断念」
- 時事通信「日本ペイント、オランダ大手に買収提案=建築塗料部門、総額1.4兆円」
※本記事に記載した工事費の構成比(足場が工事費の約2割 等)は、当社がこれまで見積を比較してきた経験にもとづく体感値であり、公的統計に基づく数値ではありません。物件の規模・形状・劣化状況により大きく変動します。また、契約・税務・法務に関する個別のご判断は、専門家(弁護士・マンション管理士・税理士等)にご相談ください。


