メタディスクリプション
日本ペイントが6月1日から塗料を最大35%値上げ。大規模修繕の総工費に与える影響を実数で試算し、見積もり凍結条項やロープアクセス工法で値上げ分を相殺する実務策まで、本間が現場目線で解説します。
築15〜25年のマンション理事長さま、収益物件をお持ちのオーナーさま。今この記事を開いてくださったのは、間違いなく正解です。
私は株式会社明誠で長年、大規模修繕の現場に立ってきました。先週、業界紙の見出しを見て、思わず手元の電卓を叩いたほどの話があります。「日本ペイントが6月1日出荷分から塗料を最大35%値上げ」(出典:建設通信新聞 2026年5月19日)。
35%、です。これは消費税の率を二度上乗せするくらいのインパクトで、しかも対象は溶剤系塗料が25〜35%、水性塗料が20〜30%。大規模修繕の工事原価のうち、塗料費が占める割合は決して小さくありません。今ご自宅マンションで「来年の総会で大規模修繕の発注を決める予定です」と仰っている理事長さまが、もし手元の見積もりを6月以降に持ち越したら、何が起きるか。
ここからが本題です。
1. 6月1日からの「塗料ショック」──現場で今、何が起きているか
1-1. 日本ペイントの値上げが意味するもの
建設通信新聞によると、日本ペイントは2026年6月1日出荷分から、溶剤系塗料を25〜35%、水性塗料を20〜30%引き上げます。塗料メーカー大手の価格改定は、業界全体のベンチマークになります。私の経験上、トップメーカーが30%動くと、関西ペイント、エスケー化研、SK化研系の中堅メーカーもおおむね1〜2か月以内に同水準まで追随します。
つまり「日本ペイント以外の塗料を選べば安く済む」という逃げ道は、半年以内に塞がる可能性が高い。これが私の見立てです。
1-2. シンナー不足という、もう一つの深刻な問題
塗料そのものの価格だけでなく、シンナー(希釈用の溶剤)も4月ごろから全国的に供給不足が続いています。日本塗装工業会の地方支部から国に支援要望が出ているという報道(出典:Yahoo!ニュース 2026年5月19日)まで出ているのが現状です。記事では「4月ごろからシンナーや塗料の供給不足、相次ぐ値上げで、工事の見積もりが出せず、7月以降の予定が立たない」と塗装業者の声が紹介されています。
これは、現場の私たちが日々肌で感じている話そのものです。先週も、ある協力会社から「シンナーは入るが、いつ入るかが読めない。来月の現場の段取りが組めない」という相談を受けました。値段が上がるだけでなく、「そもそも仕入れられるかどうかが不確実」という二重苦が、いま塗装業界を覆っています。
1-3. なぜ多くの管理組合は、このニュースをまだ知らないのか
正直に申し上げます。このニュースは建設業界紙では一面級の話題ですが、一般のマンション住民や管理組合の理事長さまには、まったく届いていません。理由はシンプルで、塗料の価格改定は管理組合側からすれば「業者の都合」に見えてしまうからです。
しかし実態は逆です。これは紛れもなく管理組合の修繕予算を直撃する話であり、知らずに6月以降に発注すると、見積もり総額が数十万〜数百万円単位で変わる可能性がある、と私は読んでいます。
2. なぜここまで急騰しているのか──ナフサ・原油・為替の三重苦
2-1. 原料ナフサのひっ迫が引き金
塗料の主原料の一つがナフサです。ナフサは原油から精製される石油化学製品の素で、シンナーや溶剤、樹脂の原料になります。「スギの粉と水だけで作る木質塗料」が富山県で開発されたというニュース(出典:Yahoo!ニュース 2026年5月19日)が話題になっているのも、まさにこのナフサ依存からの脱却を目指したものです。
ナフサが入ってこない理由は複合的ですが、主因として指摘されているのは、(1)中東情勢に伴う原油市場の不安定化、(2)アジアの石化プラントの定期修繕集中、(3)為替の円安基調、の三つです。
2-2. 円安が「輸入塗料」と「国産塗料」の両方を押し上げる
意外と知られていないことですが、国産の塗料も原料の多くは輸入に頼っています。ですから円安は、輸入塗料の値段だけでなく、国産塗料の製造原価まで押し上げます。
私が現場でいつも理事長さまに申し上げているのは、「為替が動くと、塗料はもれなく動く」ということです。為替の方向感がはっきりしない局面では、塗料の価格交渉は買い手側が極めて不利になります。
2-3. 構造的な値上げで、もう「待てば下がる」は通用しない
過去10年、塗料は10〜15%の値上げを段階的に経験してきました。今回の25〜35%という幅は、構造的な要因が一気に表面化したものと私は捉えています。「半年待てば落ち着くだろう」「来期は下がるだろう」という楽観論は、現場の感覚では通用しないフェーズに入っています。
3. 大規模修繕の総工費に与える影響を、実数で試算する
3-1. 100戸マンションのモデルケースで考える
ここから具体的な数字に入ります。築20年・100戸・延床面積8,000㎡規模のマンションを想定し、大規模修繕の概算をシミュレーションしてみます。あくまで一例ですが、現場感覚に近い数字です。
| 項目 | 改修前提算 | 内訳の特徴 |
|---|---|---|
| 外壁塗装(吹付・ローラー含む) | 約2,200万円 | うち材料費(塗料)約30%=660万円 |
| シーリング打ち替え | 約800万円 | 材料費約25%=200万円 |
| 防水(屋上・バルコニー) | 約1,500万円 | 材料費約30%=450万円 |
| 鉄部塗装 | 約400万円 | 材料費約30%=120万円 |
| 仮設足場 | 約1,800万円 | ほぼ全額が手間賃/資材レンタル |
| 共通仮設・諸経費 | 約700万円 | 一式 |
| 合計 | 約7,400万円 | 戸あたり約74万円 |
塗料・シーリング・防水材の材料費合計は、約1,430万円です。ここに今回の値上げ幅(おおむね30%とする)を適用すると、材料費が約429万円上振れする計算になります。
戸あたり換算では、約4万3千円。修繕積立金から見れば、決して小さな差額ではありません。「100戸×4万3千円=429万円」を、もし足場代の見直しや工法の選択で取り戻せたら、これは数字以上に大きな意味を持ちます。
3-2. 「上振れ分」は誰が負担するのか──ここに落とし穴がある
ここで多くの理事長さまが落ちる落とし穴があります。それは、契約書に「塗料の価格変動はスライド条項の対象外」と書かれているケースが意外と多いことです。
つまり、6月1日以降の発注で、塗料価格が想定より30%上がっても、追加見積もりの根拠として施工会社が請求できる文面になっていない、ということがあります。逆に「実費精算」と書かれていれば、上振れ分はすべて発注者(管理組合)負担になります。
私はこれを「契約の読み落とし」と呼んでいます。普段の修繕では問題にならない文言が、こういう値上げ局面で初めて牙を剥きます。理事長さまには、「契約書の単価表と、原材料スライドの条項を、必ず1ページ目に出してください」とお願いしています。
3-3. すでに見積もり済みの管理組合がすべきこと
もしすでに2026年4月や5月の時点で見積もりを取得済みであれば、その見積もりの有効期限を確認してください。一般的な大規模修繕の見積もり有効期限は30日〜90日です。期限切れの直前に再見積もりを取ると、6月の値上げ後の単価が反映され、想定外の総額に跳ね上がる恐れがあります。
逆に、有効期限内であれば、その単価で契約を締結することで、値上げ前の価格を確定できる可能性があります。この一週間が、まさに分水嶺です。
3-4. 50戸クラスでも数百万円が動く
念のため、50戸規模のマンションで同じ計算を回してみます。総工費は概算で4,000万円前後、材料費(塗料・シーリング・防水材)合計は約780万円。ここに30%の上振れを適用すると、約234万円の追加負担になります。戸あたり約4万7千円。100戸でも50戸でも、戸あたり負担で見るとほぼ同じレンジに収まる、というのが私の現場感覚です。
つまり、規模が小さいから影響が軽いということはありません。むしろ50戸クラスの管理組合の方が、修繕積立金の絶対額が少ないため、上振れの体感ダメージは大きくなります。
3-5. 「値上げが定着すると、次の修繕周期まで響く」という視点
もう一点、長期目線で重要なのが、塗料の値上げが「定着」するリスクです。大規模修繕は12〜15年周期で繰り返されます。今回の25〜35%値上げが定着すれば、次回の修繕でも同じ単価がベースになります。
私の経験上、一度上がった単価が元に戻ったケースは、過去10年でほぼ記憶にありません。値上げは「ストック」として効いてくる、と申し上げる方が正確かもしれません。だからこそ、今期の修繕計画だけでなく、長期修繕計画の改訂時にも、この値上げ前提を必ず反映してください。
4. 「見積もり凍結条項」を組まないと痛い目に遭う──私が現場で必ず確認すること
4-1. 私が理事長さまに必ず提案する3つの条項
20年現場でやってきて、値上げ局面のたびにトラブルを見てきました。私が今、必ずワンセットで提案するようにしているのが、次の3つの契約条項です。
第一に、「材料価格凍結条項」。発注時点の単価を、工期途中の原材料価格変動にかかわらず維持する条項です。当然、施工会社側はリスクを取ることになりますが、信頼関係のある会社であれば、ある程度のレンジ(例:±10%以内)であれば呑むケースが多いです。
第二に、「価格スライド条項の発動条件と上限」。たとえば「ナフサ価格が契約時から20%以上変動した場合のみ協議」と具体的な数字を入れます。あいまいな条項は、必ず後でもめます。
第三に、「支払いの分割と前払い割合の調整」。値上げが見込まれる材料は、発注後に前払いで仕入れる選択肢もあります。前払い率を高める代わりに、単価を抑える交渉余地は意外と残されています。
4-2. 「言い値」を防ぐための3社相見積もりの活かし方
相見積もりの取り方にもコツがあります。値上げ局面では、特に「材料費の内訳明示」を要件に入れてください。
総額だけで比較すると、塗料グレードや使用量の差が見えません。私はいつも「主要材料の数量×単価まで出してください」とお願いします。これをやると、各社の見積もりの精度が一気に上がり、後の追加請求リスクも下がります。
4-3. 専門委員会だけでは判断しきれない場面では
大規模修繕の経験が浅い理事会や修繕委員会では、ここまで踏み込んだ契約交渉は重荷だと感じる方が多いはずです。私はそういう場面でこそ、第三者の専門家を入れることを推奨しています。コンサルタントが必ずしも必要というわけではありません。施工会社2〜3社から「同じ条件で出してもらえないか」を提案させるだけでも、契約品質は大きく向上します。
4-4. 契約締結のタイミングは、慎重に、しかしスピーディーに
最後に、契約締結のタイミングについて一言申し上げます。
「慎重に検討する」と「先延ばしにする」は、似ているようで全く違います。今回のような明確な値上げ予告が出ている局面では、議論を引き延ばすこと自体がコストです。理事会で「もう少し情報を集めてから」と先送りした結果、6月以降の単価で契約することになり、数百万円単位で総額が膨らんだケースを、私は何度も見ています。
もちろん、よく分からないまま急いで判断するのは論外です。私が理事長さまにお伝えしているのは、「判断材料を1週間以内に揃え、2週間以内に決議する」というスケジュール感です。動ける時間軸を明確にすることで、議論の質も上がります。
5. コストを抑える3つの実務手段──工法選択/工期分割/材料調達
5-1. 工法選択──足場費を圧縮できれば、塗料値上げを相殺できる
ここからは、明誠の本業の話に踏み込ませてください。
大規模修繕の総工費の中で、仮設足場費は全体の20〜25%を占めます。先ほどの100戸マンションの例では、約1,800万円。塗料の値上げ分429万円を相殺するには、足場費を23〜25%削減できれば、ちょうど打ち消せる計算になります。
これを可能にするのが、私たち明誠が提案しているロープアクセス工法(産業用ロープを使った無足場施工)です。建物の形状や規模によりますが、塗装・防水・シーリング工事を全面ロープアクセス化することで、足場費の70〜90%削減を実現したケースが、過去の自社施工で複数あります。
もちろん、すべての建物に向く工法ではありません。低層・複雑形状・足場が立てやすい建物は通常足場が向きますし、高層・直線的・コスト最重視であればロープアクセスが圧倒的に有利です。詳しくはロープアクセス工法のご紹介もご覧ください。
5-2. 工期分割──「全棟一括」から「区画分割」へ
もう一つの実務手段が、工期分割です。総工費が大きすぎる場合、全棟一括発注で1社の言い値になりがちです。これを区画ごと(例:A棟・B棟・C棟)に分割発注し、競合圧をかけ続ける方法があります。
ただし注意点として、足場の架設費は分割するほど割高になります。ここでロープアクセス工法と組み合わせると、分割発注のデメリットが薄まり、競合圧のメリットだけを取り出せる場面があります。これは私たちが「ハイブリッド工法」と呼んでいる提案です。
5-3. 材料調達──大量発注と前倒し仕入れ
最後に材料調達です。発注規模が大きいマンションであれば、塗料メーカーから直接、特別単価を引き出せる場合があります。これは元請けの裁量で決まることが多いので、契約交渉時に「メーカー特別単価の取得可否」を必ず確認してください。
また、値上げ前の最後の駆け込みとして、5月末までに材料を前倒し発注する選択肢もあります。倉庫費は若干かかりますが、35%の値上げ幅と比べれば、十分に元が取れます。
6. ロープアクセス工法で、塗料費高騰の影響を相殺する具体策
6-1. なぜロープアクセスが値上げ局面で強いのか
ロープアクセス工法は、足場の架設と解体にかかる人件費・材料費・搬入搬出費を、産業用ロープと専門技能で代替する工法です。私はこれを「足場費を消す工法」と呼んでいます。
塗料の値上げに弱いのは、塗料の使用量が多い大規模工事です。一方で、足場費の削減幅は、建物の高さと階数に正比例して大きくなります。つまり、塗料費の上振れと足場費の削減幅は、ある意味で同じ方向に動きます。
これが、ロープアクセス工法が値上げ局面で特に強い理由です。
6-2. 居住者の生活への影響も最小化できる
塗料価格の話とは少しずれますが、ロープアクセス工法のもう一つの強みは、居住者の生活影響を最小化できる点です。足場を組まないため、バルコニーが封鎖される期間が大幅に短縮されます。洗濯物が干せない期間が半分以下になったという声もいただいています。
私の経験上、大規模修繕で住民満足度を左右する一番の要素は、工事品質ではなく「日常生活がどれだけ通常通りに送れたか」です。これは数字には出ない、しかし極めて大きな価値です。
6-3. フランチャイズ加盟店による全国対応
明誠は日本で初めてロープアクセス工事のフランチャイズ展開を行っています。塗装、防水、タイル、電気、看板といった各分野の専門職が加盟しており、全国どこでも一定の品質と価格でロープアクセス施工が可能な体制を整えています。これは、私たちが何年もかけて積み上げてきた強みです。
6-4. 過去事例の数字を、率直に共有します
具体的なイメージを掴んでいただくために、過去の事例の数字を率直にお伝えします(個別物件が特定できる情報は伏せます)。
10階建て・80戸クラスの分譲マンションで、当初の通常足場案では足場費が約1,650万円。これをロープアクセス工法に切り替えた結果、足場・ロープ込みの仮設関連費が約490万円に圧縮されました。差額は約1,160万円。同じ工事内容で、です。
別の事例では、ホテル棟の外壁改修で、足場架設が困難な接道条件があり、通常足場案では工期が4か月見込みでした。これをロープアクセスに切り替えたところ、工期2.3か月に短縮。ホテルの営業損失を大幅に圧縮できました。
数字は建物条件で大きく変動しますので、これらをそのまま当てはめることはできません。ただ、「ロープアクセスでここまで効くのか」という肌感を持っていただくには、十分な振れ幅だと思います。
6-5. ハイブリッド工法という第三の選択肢
「全面ロープアクセスは怖い」「住民理解が得られにくい」という管理組合さまには、ハイブリッド工法(足場とロープアクセスの併用)も視野に入れていただきたいです。低層部分は足場、高層部分はロープアクセス、というように部位ごとに最適な工法を選択する設計です。
私が提案で重視しているのは、「無理に一つの工法に統一しない」ということです。建物の形状、住民の生活動線、近隣との接道条件、これらを全部考慮して、最もコスト効果が高い組み合わせを設計します。日本でも、3工法すべてを自社で提案できる会社は数えるほどです。明誠はその数少ない一社です。
7. 補助金・助成金で値上げ分の一部を取り戻す方法
7-1. 自治体の大規模修繕助成は、まだ多くが現役
塗料値上げの直撃を、補助金・助成金で部分的に相殺する方法があります。たとえば東京都内の多くの区市町村では、分譲マンションの長期修繕計画策定や大規模修繕への助成制度を継続しています。
最新の情報は東京都マンションポータルサイトにまとまっています。「自治体マンション施策・支援制度」のページから、ご自身のマンション所在地の自治体を検索できます。
ただし、ここで一つ注意していただきたいのは、助成金は予算枠到達で締切になる点です。「絶対に通る」「必ず使える」と私は申し上げません。あくまで「使える可能性があるので、確認する価値が十分にある」という温度感です。
7-2. 国の制度も並行して確認したい
国土交通省の「長期優良住宅化リフォーム推進事業」など、国の制度も並行して確認の余地があります。マンション全体での申請になるため、管理組合の決議が必要です。詳しくは国土交通省 住宅局のページから、最新の公募状況を確認してください。
7-3. 中小企業庁の「新事業進出補助金」は対象外だが参考に
念のため申し上げますと、5月19日に公募が始まった中小企業庁の新事業進出補助金は、企業の新事業向けで、マンション大規模修繕は対象外です。ただし、収益不動産を法人で保有しているオーナーさまの場合は、リフォーム・リノベーション事業として活用できる可能性が一部あります。法人での運用をされている方は、税理士・行政書士に相談されると良いでしょう。
8. 今こそ「修繕積立金の運用化」と並走させたい長期戦略
8-1. 日経の報じる「積立金 預金から国債運用へ」が示す方向性
日経新聞は5月19日付で、マンション修繕積立金を預金から国債運用へ振り向ける動きが出始めていると報じました(出典:日本経済新聞 2026年5月19日)。物価高をにらみ、3000万円規模の積立金を国債で運用する管理組合の事例が紹介されています。
修繕積立金の運用は、これまで多くの管理組合で「現預金で寝かせる」のが慣習でした。しかし、今回のような材料価格の急騰が続けば、積立金の実質購買力は確実に目減りします。インフレ環境で何もしないことは、それ自体が判断であり、結果として損失を被ることになります。
8-2. 運用は本業外、しかし無関心ではいられない
正直に申し上げます。私は塗装と防水と仮設の専門家であって、資産運用の専門家ではありません。ですから、運用方法の具体的な助言はできません。
しかし、現場の声として、「修繕費の見積もりがどんどん上がる中で、積立金の額面だけは増えていない」というジレンマを、何度も理事長さまから聞いています。塗料費が30%上がるのと同じ速度で積立金が増えていないなら、その差分はどこかで埋めなければなりません。
長期修繕計画の改訂時期と合わせて、「積立金の運用」も検討項目に入れることを、私は強くお勧めしています。
8-3. 短期の値上げ対応と、長期の積立計画は別物として捉える
ここで一つだけ整理させてください。塗料値上げへの短期対応(契約条項、工法選択、補助金)と、長期の積立計画(運用、増額、世代間負担)は、別物として議論すべきです。
短期対応は来月の発注で完結します。長期計画は10年単位の話で、住民の世代交代まで視野に入れます。同じ理事会で両方を一度に決めようとすると、議論が混乱します。
私が理事長さまにいつもお伝えしているのは、「短期は今期の理事会で、長期は来期に向けた専門委員会で」という分け方です。
8-4. 増額決議のタイミングは、住民の納得が9割
積立金の増額は、住民の納得が9割を占める難題です。値上げ局面の今こそ、客観的な根拠(塗料値上げ、人件費上昇、長期金利動向)を住民に丁寧に説明する好機です。
私は理事長さまに、「外部の数字を盾にしてください」とお伝えしています。理事会の主観ではなく、業界紙や公的機関の数字を引用する。これだけで、住民の受け止め方は大きく変わります。
9. 5月22日(金)までに動いていただきたい4つのアクション
ここまで読んでくださった理事長さま、オーナーさまに、今週中に動いていただきたい4つのアクションを整理します。
第一に、手元の見積もりの有効期限を確認してください。期限が5月末以降の場合、6月の値上げ後の単価で再見積もりが出る可能性があります。
第二に、契約書の「価格スライド条項」を確認してください。原材料価格の変動条項がどう書かれているかが、上振れ負担の分かれ目です。
第三に、3社相見積もりを取る場合は、材料費の内訳明示を必須条件にしてください。総額だけの比較は、もはや危険です。
第四に、工法選択の余地が残っているなら、ロープアクセス工法を選択肢に入れて検討してください。足場費の削減で、塗料値上げ分を打ち消せる可能性があります。
10. よくあるご質問──現場で頻繁にいただく3つの問い
Q1. 「値上げ前に駆け込み発注した方がいいですか?」
慎重なご検討をお勧めします。発注を急ぐと、契約条件や工事内容の精査が甘くなる懸念があります。「値上げ前に契約しなければ」というプレッシャーで判断を誤ると、結果的に塗料値上げ分以上の損失を被ることがあります。
私の経験上、最善は「現在の見積もりの有効期限を確認し、その範囲内で品質と価格を見極めて契約する」です。期限切れの場合は、再見積もりの単価上昇を覚悟したうえで、上昇幅の妥当性をチェックします。
Q2. 「ロープアクセスは本当に安全ですか?」
ロープアクセスは欧州・北米を中心に普及している正式な高所作業手法で、IRATA(Industrial Rope Access Trade Association)などの国際資格制度があります。日本国内でも一般社団法人ロープアクセス技術協会が技能認定を行っており、認定者が施工します。
明誠の現場では、二重ロープ(メインロープと安全ロープ)の二重化、毎日の機材点検、現場ごとのリスクアセスメントを徹底しています。20年前の「危ないかもしれない」というイメージは、現在の運用とは大きく異なります。
Q3. 「ロープアクセスだと工事品質は落ちませんか?」
工事品質と工法は、本来別物です。重要なのは、施工者の技能と管理体制です。ロープアクセスでも足場でも、優れた職人が丁寧に施工すれば、品質は同等以上に保てます。
逆に、足場を組んでも職人の技能が低ければ品質は出ません。「足場だから安心」「ロープだから不安」は、いずれも誤った認識です。判断軸は、工法ではなく施工会社の実績と職人の技能です。
11. 結語──現場で20年、私が一番悔しい思いをすること
これは私が現場で20年見てきた、嘘偽りのない感想です。
私が一番悔しい思いをするのは、「もう少し早く相談に来ていただければ、数百万円単位でコストを抑える提案ができたのに」という場面です。塗料値上げのような構造的なコスト要因は、待っても下がりません。動ける一週間、動ける一ヶ月で、結果が大きく変わります。
ご相談だけでも遠慮なくお声がけください。総会の前段階の整理だけでも、お力になれることがあります。大規模修繕の全体設計から工法選択、契約条項のチェックまで、私たちが現場で積み上げてきた知見を、惜しまずお出しします。
次回も、現場で本当に使える話だけをお届けします。
出典・参考資料
- 建設通信新聞「【価格改定】6月1日出荷分から塗料30%前後値上げ/日本ペイント」2026年5月19日
- Yahoo!ニュース「塗装資材の供給不足・価格高騰「ナフサ、なぜ入ってこないのか…」塗装業者の団体が支援要望」2026年5月19日
- Yahoo!ニュース「「スギの粉+水→塗料」に? シンナー要らず「オール富山」の木質塗料とは」2026年5月19日
- 日本経済新聞「マンション修繕積立金、預金から運用へ 物価高にらみ国債に3000万円」2026年5月19日
- 中小企業庁「新事業進出補助金の第4回公募の申請受付を開始しました」2026年5月19日
- 東京都「東京都マンションポータルサイト」
- 国土交通省「住宅局 ホームページ」
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筆者:本間(株式会社明誠 代表)
公開日:2026年5月21日
カテゴリ:本間社長ブログ


