家賃の入金明細を眺めて、「去年と同じ家賃で、ずっと回せるだろうか」とふと不安になったことはないでしょうか。私はこの数年、収益物件をお持ちのオーナーさまとお話しするたびに、その不安が少しずつ濃くなっているのを感じています。
正直に申し上げます。2026年6月16日、不動産調査会社の東京カンテイが発表した5月の分譲マンション賃料調査で、首都圏の平均募集賃料が2カ月ぶりに下落しました。下げ幅そのものは小さいのですが、私はこの数字を「潮目が変わりつつある合図」として受け止めています。
ここからが本題です。賃料という「入り」が頭打ちになったとき、オーナーの利回りを守れる場所は、実は「出」——つまりコストの側にしか残されていません。そして、収益物件にとって最大級の支出である大規模修繕は、「どの工法で直すか」という一点で、総額が大きく変わります。今日は、賃料下落のニュースを入り口に、収益不動産オーナーさまと管理組合の理事長さま・修繕委員のみなさまが、いま何を点検すべきかを、現場の言葉で整理します。
まず、東京カンテイの数字を正しく読む
最初に、ニュースの数字を冷静に押さえておきます。煽るためではなく、判断の土台にするためです。
東京カンテイが2026年6月16日に発表した5月の分譲マンション賃料調査によると、首都圏(東京都・神奈川・埼玉・千葉)の平均募集賃料は1平方メートルあたり4,111円で、前月比0.8%の下落となりました。下落は2カ月ぶりですが、年初来は4,000円台を維持しています。東京23区に限ると5,078円で、前月比0.2%安。こちらも2カ月ぶりの下落でした(出典:日本経済新聞「東京23区の分譲マンション賃料、小幅下落 5月は0.2%安」、住宅新報web「首都圏分譲マンション賃料、2カ月ぶり下落 東京カンテイ5月調査」)。
ここで早合点しないでいただきたいのです。「賃料が下落した=市況が崩れた」ではありません。23区の0.2%安は誤差の範囲とも言える小幅な動きですし、年初来で4,000円台を保っているという事実は、むしろ底堅さの表れでもあります。
私が注目しているのは、下げ幅の大きさそのものではなく、「これまで上がり続けてきた募集賃料が、ついに頭打ちのサインを見せ始めた」という方向性のほうです。賃料は、上げようと思えばいつでも上げられるものではありません。周辺相場と空室リスクという二つの天井に縛られています。その天井が近づいているとすれば、オーナーの戦い方は変わります。
| 区分 | 5月の平均募集賃料(1㎡あたり) | 前月比 | 補足 |
|---|---|---|---|
| 首都圏 | 4,111円 | ▲0.8% | 2カ月ぶり下落/年初来4,000円台を維持 |
| 東京23区 | 5,078円 | ▲0.2% | 2カ月ぶり下落/小幅 |
(東京カンテイ2026年5月調査・上記報道による)
数字を体感に置き換えてみます。仮に70㎡の住戸を貸している場合、首都圏平均の1㎡あたり4,111円なら、月額の募集賃料はおよそ28.8万円。前月比0.8%という下げ幅は、月あたりに直すと2,000円強です。1戸ではわずかでも、10戸、20戸と束ねれば、年間で数十万円の「入りの目減り」になり得ます。これが、賃料下落を軽視できない理由です。
賃料が頭打ちなら、利回りは「コスト側」で守るしかない
収益物件の利回りは、ごく単純化すると「年間の家賃収入 − 年間の経費 ÷ 物件価格」で決まります。家賃収入という分子の上限が見えてきたいま、利回りを守る余地は、経費という側にしか残されていません。
経費の中でも、毎月のように発生する管理費や清掃費は、すでに削るところを削り尽くしているオーナーさまが多いはずです。一方で、十数年に一度しか来ないがゆえに、つい「言い値」で受け入れてしまいがちな支出があります。それが大規模修繕です。
私はいつもオーナーさまに、こうお伝えしています。「大規模修繕は、十数年に一度の“利回り圧縮イベント”です。ここで数百万円から、規模によっては一千万円単位の差が出ると、その後の利回りが何年分も変わってしまいます」と。
外壁の塗装や防水、タイルの補修——これらは資産を守るために避けて通れない工事です。やらなければ、雨漏りや外壁の剥落といった、もっと大きな損失とリスクを抱え込むことになります。だからこそ、「やるか・やらないか」ではなく、「同じ品質を、いくらで実現するか」が、賃料下落局面のオーナーにとっての本当の論点になります。
修繕費の大半は「足場・仮設」——ここが工法選択で動く
ここで、多くのオーナーさまが意外に思われる事実をお伝えします。外壁の大規模修繕にかかる費用のうち、塗料や防水材といった「材料費」は、全体の一部にすぎません。見積書を開くと、かなりの割合を「仮設費」、とりわけ足場の架設・解体・養生が占めているのです。
材料費は、原油やナフサの相場といった外部要因に左右され、私たち施工側の努力では下げにくい部分です。実際、2026年は中東情勢などを背景に塗料の供給が滞り、現場に影響が出ているとの報道もありました(各種報道による。詳しくは前回の記事「大規模修繕の『資材高騰・工事中断』リスク」でも取り上げています)。つまり、材料費は「下がるのを待つ」しかない領域です。
一方で、仮設費は「工法の選び方」で動かせる領域です。ここに、賃料下落局面のオーナーが利回りを守る、現実的な一手があります。
私たち明誠が、足場仮設・ロープアクセス(産業用ロープを使った無足場の高所作業)・両者を組み合わせたハイブリッドという3つの工法を扱い、建物ごとに最適なものをご提案しているのは、まさにこの「仮設費を建物特性に合わせて最適化する」ためです。日本では、3工法すべてを自社で提案できる会社はまだ多くありません。下の表で、それぞれの考え方を整理します。
| 工法 | 仮設費の考え方 | 向いている建物・場面 | 留意点 |
|---|---|---|---|
| 通常足場工法 | 建物全面に足場を架設。面積が大きいほど費用も工期も増える | 中低層、複雑な形状、全面的な打診・補修が必要な建物 | 足場費が総額を押し上げる。設置・解体に時間がかかる |
| ロープアクセス工法(無足場) | 足場を架けず、屋上から吊ったロープで作業。足場費を圧縮できる | 高層、足場の架設が難しい立地、部分補修、コスト最重視の物件 | 大規模な全面改修や重量物の搬入には不向きな場面がある |
| ハイブリッド工法 | 足場が必要な部位とロープで足りる部位を使い分ける | 大規模・複雑物件で、総合的にコストを最適化したいケース | 設計段階での見極めが品質と費用を左右する |
(工法の特徴は明誠の施工方針による)
ご相談だけでも結構ですので、まずは建物の形状と劣化の状態を見せていただければ、3つの工法のどれが、あるいはどの組み合わせが御物件にとって一番無駄のない選択かを、根拠とともにお示しできます。ロープアクセス工法のご紹介もあわせてご覧ください。
ロープアクセスが効くケース、効かないケース
ここは公平に申し上げます。無足場のロープアクセス工法は万能ではありません。「足場を組まないから、どんな建物でも安くなる」と説明する業者がいたら、私はむしろ慎重に話を聞くべきだと思っています。
ロープアクセスが効くのは、たとえば足場を架けるスペースがない密集地の建物、高層で足場費がかさむ建物、あるいは外壁の一部だけを部分的に補修したいケースです。足場の架設・解体という大きな費用と工期がまるごと不要になるため、条件が合えば仮設費を大きく圧縮できます。居住者やテナントの生活・営業への影響が小さく、足場による圧迫感や防犯面の不安が出にくいことも、収益物件では見逃せない利点です。
一方で、建物の全面にわたって大量の補修が必要なケースや、重量のある資材を頻繁に上げ下ろしする工事では、足場を組んだほうが結果的に効率的で、品質も安定することがあります。「ただし御物件の状態によっては、ロープアクセスより足場のほうが適している」——私はこの一言を、必ずお客さまにお伝えするようにしています。
大切なのは、工法を先に決めてしまわないことです。建物の劣化状況を診断したうえで、部位ごとに最適な工法を割り当てる。その積み上げが、結果として一番無駄のない見積りになります。これは、3つの工法を手の内に持っているからこそできる提案です。
「ハイブリッド工法」という第3の解
実務で一番多いのは、実は「全面足場」でも「全面ロープアクセス」でもなく、その中間です。
たとえば、足場が組みやすい低層部やバルコニー側は足場で丁寧に仕上げ、足場費が跳ね上がる高層部や、建物が隣地に迫っていて足場を架けにくい面はロープアクセスで対応する。こうして部位ごとに工法を使い分けるのが、ハイブリッド工法です。
私はこれを、御物件の図面と現地調査の結果を突き合わせて、必ずワンセットで検討するようにしています。「ここは足場、この面はロープ」と一枚の計画図に落とし込むと、全面足場の見積りと比べて仮設費がどれだけ変わるか、はっきりと数字で見えてきます。賃料が頭打ちの局面では、この「仮設費の最適化分」が、そのまま利回りを守る原資になります。
なお、明誠は塗装・防水・タイル・電気・看板といった各分野の専門職が加盟するフランチャイズのネットワークを持っています。工法を使い分けても、それぞれの工程を、その道の専門職が責任をもって施工する。高品質と低価格を両立できるのは、この体制があるからこそだと、私は考えています。
賃料下落局面でこそ「資産価値の維持」が効く理由
賃料が頭打ちのときほど、私が強くお伝えしたいことがあります。それは、「修繕を先送りすると、入りの目減りが二重三重になる」という現実です。
外壁が色あせ、シーリング(外壁の目地を埋める防水材)が切れ、共用部に劣化が目立ってくると、内見に来た方の第一印象が確実に下がります。同じ間取り・同じ立地でも、外観が手入れされている建物とそうでない建物では、募集にかかる時間も、最終的に決まる家賃も変わってきます。賃料相場が下がり気味の局面では、この差がより残酷に効いてきます。
逆に言えば、賃料が頭打ちのいまこそ、適切な大規模修繕で資産価値と「募集力」を保つことの価値が、相対的に高まっているとも言えます。私が現場で20年やってきて一番悔しい思いをするのは、修繕の先送りで建物の魅力が落ち、本来取れたはずの家賃を取りこぼしているケースに出会うときです。
しかも、長寿命化に資する大規模修繕に対しては、一定の要件を満たすと固定資産税の減額措置や自治体の補助制度の対象になる場合があります。ただし、これらは年度ごと・自治体ごとに内容が異なり、予算枠に達すると締め切られることもあります。御物件の所在地で使える制度があるかは、計画の早い段階で確認しておくことをおすすめします(制度の有無・要件は各自治体・年度により異なります)。
オーナーが今すぐできる、3つの点検
「では、何から手をつければいいのか」。賃料下落のニュースを読んだ今日、すぐにできることを3つに絞ってお伝えします。
第一に、長期修繕計画と修繕積立金の残高を、もう一度開いてみてください。次の大規模修繕がいつで、いくら積み上がっているのか。賃料の伸びが鈍るなら、修繕資金の見通しはより保守的に見ておく必要があります。
第二に、直近で大規模修繕の見積りを取っている、あるいは管理会社から提案を受けているなら、その見積りの「仮設費」の欄を確認してください。総額に占める足場費の割合が大きいほど、工法の見直しで圧縮できる余地が残っている可能性があります。
第三に、複数の視点で意見を聞くことです。一社の見積りだけで判断せず、足場・ロープアクセス・ハイブリッドという複数の選択肢を比較できる相手に、一度建物を見てもらう。それだけで、同じ品質をより無駄なく実現する道が見えてくることがあります。
総会シーズンのこの時期、理事会で1分だけでも「次の大規模修繕、工法の選択肢を比べてみないか」という話題を出してみてください。それが、賃料が頭打ちの時代に資産を守る、最初の一歩になります。
見積書の「仮設費」を、こう読み解く
ここで、もう一歩だけ実務に踏み込みます。賃料が頭打ちのいま、私がオーナーさまに一番お見せしたいのは、見積書の「どこを見れば、工法で差が出る部分が分かるか」という勘所です。
大規模修繕の見積書は、おおむね「直接仮設費(足場・養生・昇降設備など)」「外壁補修費」「塗装費」「防水費」「シーリング費」「諸経費」といった項目に分かれています。このうち、塗装や防水といった「実際に建物を直す費用」は、工法を変えてもそれほど大きくは動きません。直す面積と劣化の程度で決まるからです。
大きく動くのは、冒頭の「直接仮設費」です。建物の規模や形状にもよりますが、外壁の大規模修繕では、仮設費が総額の二〜三割を占めることも珍しくありません。全面に足場を組めば、その架設・解体・運搬・養生に相応の費用と日数がかかります。逆に、ロープアクセスやハイブリッドで足場の範囲を絞れれば、この項目を圧縮できる可能性が出てきます。
そこで、御手元に見積書があれば、まず「直接仮設費」が総額の何割を占めているかを電卓で確かめてみてください。その割合が大きいほど、工法の見直しで利回りを守れる余地が残っているサインです。私はいつも、「材料費は相場任せ、でも仮設費はやり方で変えられます」とお伝えしています。
なお、ここで一つ釘を刺しておきます。「仮設費が安い=良い見積り」と短絡してはいけません。足場には、職人が安定した足場の上で隅々まで丁寧に作業できるという品質面の利点があります。ロープアクセスで仮設費を下げても、必要な打診や補修が省かれていては本末転倒です。見るべきは「同じ品質を、どの工法で、いくらで実現しているか」。この視点を外さないことが、賃料下落局面でのコスト判断の肝になります。
収益物件ならではの落とし穴——「工事中の空室・解約」をどう防ぐか
自宅としてお住まいの分譲マンションと違い、収益物件の大規模修繕には、もう一つ固有の論点があります。それは、工事そのものが入居者・テナントの満足度に直結し、家賃収入を左右しかねない、という点です。
足場を全面に組むと、どうしても各住戸の窓がふさがれ、採光や眺望が一時的に損なわれます。バルコニーが使えなくなる期間も生じます。養生シートで建物全体が覆われると、防犯面の不安を口にする入居者もいます。実際、足場の設置期間中に「環境が変わった」として更新を見送る、あるいは賃料の減額を求められる——そうした声を、私は現場で何度も耳にしてきました。賃料が頭打ちの局面で、工事をきっかけに退去や解約が出てしまえば、コスト削減どころか、入りの側でさらに傷を負うことになります。
ここで、無足場のロープアクセス工法が持つ「生活影響の小ささ」が効いてきます。足場を組まないため、建物全体が覆われる期間が短く、窓やバルコニーがふさがれる時間も限定的です。テナント営業中のビルや、稼働を止めたくないホテル、入居者が生活している賃貸マンションでは、この差が満足度の維持、ひいては家賃収入の維持に直結します。
もちろん、これも建物次第です。だからこそ私は、「コストの数字」だけでなく、「工事期間中に入居者・テナントがどれだけ普段どおり過ごせるか」という軸も、必ず御提案の中に入れるようにしています。収益物件のオーナーさまにとっては、工事中の家賃を守ることも、立派なコスト最適化だからです。
「誰に頼むか」も、利回りを守る一部です
最後に、工法と並んで大切な話をひとつ。それは「どの会社に頼むか」です。
どんなに優れた工法を選んでも、施工する職人の技術が伴わなければ、品質は出ません。とりわけロープアクセスは、高所でロープに身を預けて作業する以上、安全管理と技術の裏づけが欠かせません。安さだけを売りに、経験の浅い体制で請け負う業者もないとは言えない世界です。
明誠が、塗装・防水・タイル・電気・看板といった各分野の専門職が加盟するフランチャイズのネットワークで施工しているのは、工法を使い分けても、それぞれの工程をその道のプロが責任をもって仕上げるためです。私はこの体制を、品質と価格を両立させる土台だと考えています。賃料が頭打ちのいまこそ、「安かろう悪かろう」で資産を傷つけない発注先選びが、利回りを守る一部になります。
長期修繕計画は「12年に一度」だけではもう古い
もう一つ、賃料が頭打ちの局面でこそ見直したいのが、長期修繕計画そのものの考え方です。
これまで、大規模修繕といえば「12年に一度」が一つの目安とされてきました。けれども国土交通省は、令和6年(2024年)6月に「長期修繕計画作成ガイドライン」を改定し、既存マンションの長期修繕計画の計画期間を30年以上とすることや、大規模修繕工事の修繕周期の目安を見直すなど、より実態に即した長寿命化の考え方を示しています(出典:国土交通省「マンション管理(長期修繕計画作成ガイドライン等)」)。建材や工法の進化を踏まえ、適切な点検と部分補修を組み合わせて周期を長く取る「長周期化」の発想が、公的なガイドラインの側からも後押しされているということです。
ここで誤解しないでいただきたいのは、「長周期化=手を抜く」ではない、ということです。むしろ逆で、こまめに状態を把握し、傷んだ部位を早め早めに直すからこそ、大がかりな全面改修の回数を減らせる、という発想です。そして、この「こまめな点検と部分補修」こそ、足場を組まずに身軽に動けるロープアクセスが最も得意とするところです。
私はオーナーさまに、こうお話しします。「足場を組む大規模修繕は十数年に一度でも、その間の点検と部分補修を無足場で機動的に回せれば、建物はずっと良い状態を保てます。結果として、十数年単位で見たときの総コストはむしろ下がることがあります」と。賃料の伸びが鈍る時代には、この「長い目で見たコスト」の発想が、利回りを守るうえでますます大切になります。
長期修繕計画は、一度作って終わりの書類ではありません。賃料相場や資材価格、建物の劣化状況に合わせて、数年に一度は見直す「生きた計画」であるべきだと、私は考えています。
数字で見る、工法選択の「効き方」
最後に、工法選択がどれくらい効くのか、ごく簡単なイメージをお持ちいただくために、あくまで考え方の例として整理します(実際の金額は建物の規模・形状・劣化状況で大きく変わるため、ここでの数字は概算のイメージにすぎません)。
たとえば、ある外壁修繕の見積総額のうち、仮設費(足場費)が3割を占めていたとします。残り7割が塗装・防水・補修などの「直す費用」です。この場合、もし建物の条件が合い、足場の一部をロープアクセスやハイブリッドに置き換えて仮設費を圧縮できれば、総額に占める3割の部分にメスを入れられることになります。
ここで大事なのは、「7割の直す費用」は基本的に削らない、という点です。品質に直結する塗装や防水の工程を削ってしまえば、安物買いの銭失いになります。手を入れるのは、あくまで「足場という、やり方次第で変えられる3割」のほうです。同じ品質を保ったまま、仮設の部分だけを最適化する——これが、私たちの提案の基本姿勢です。
戸あたりに換算してみると、効き方はより実感できます。仮に全体で数百万円の差が出たとして、それを総戸数で割れば、1戸あたりの負担や積立金への影響が見えてきます。賃料が月あたり数千円下がる時代に、修繕で1戸あたり数十万円の差をならせるなら、それは何年分もの賃料下落を埋め合わせる力を持ちます。私が「大規模修繕はコントロールできる支出」と申し上げるのは、こういう意味です。
繰り返しますが、ここでの数字はイメージです。御物件で実際にどれだけ効くかは、建物を一度きちんと見せていただいて、図面と現地調査を突き合わせなければ分かりません。だからこそ、思い込みで工法を決めず、まずは現状を診断することから始めていただきたいのです。
「無足場=危ない」は誤解です——安全管理の話
ロープアクセスとお伝えすると、「ロープ1本で高所作業なんて、危なくないのか」とご心配される方が少なくありません。お気持ちはよく分かります。ですので、ここは正面からお答えします。
産業用のロープアクセスは、命を預けるメインロープと、万一に備えるバックアップロープという、独立した2本のロープで身体を支えるのが基本です。1本に不測の事態があっても、もう1本が体を保持する。この「二重の備え」が、無足場作業の安全の土台になっています。高所作業に関する法令やルールに沿って、装備の点検と作業手順を徹底することも欠かせません。
私が一番こだわっているのは、結局のところ「人」です。どれだけ装備が整っていても、扱うのは現場の職人です。だからこそ、技術と安全意識を備えた職人が施工することが、無足場工法の品質と安全をともに支えます。賃料が頭打ちで一円を大切にしたい局面だからこそ、安さの裏で安全や品質が削られていないか——そこを見極める目を、オーナーさまにも持っていただきたいと思っています。
私はこれまで、足場の現場も無足場の現場も、数えきれないほど見てきました。その経験から申し上げれば、事故の多くは「工法そのもの」ではなく、「準備不足」や「無理な工程」から生まれます。逆に言えば、きちんとした計画と訓練された人による施工なら、無足場であっても安心して任せていただける、というのが私の正直な実感です。
なお、点検や部分補修を無足場で機動的に回す体制を整えておけば、台風や地震の後に「気になる箇所だけをすぐ見てもらう」といった機動的な対応もしやすくなります。足場を一から組む必要がないぶん、初動が速いのです。これも、無足場という選択肢を持っておく価値の一つだと、私は考えています。
よくあるご質問(FAQ)
Q1. 賃料が下がっているなら、大規模修繕はむしろ先送りすべきでは?
気持ちはよく分かりますが、私は逆だと考えています。修繕を先送りすると外観や共用部の劣化が進み、募集力が落ちて家賃の取りこぼしが増えます。賃料が頭打ちの局面でこそ、資産価値と募集力を保つ修繕の価値は相対的に高まります。やるか・やらないかではなく、「同じ品質をいくらで実現するか」で考えるのが現実的です。
Q2. ロープアクセス工法は、足場より本当に安くなるのですか?
条件が合えば、足場の架設・解体費がまるごと不要になるため、仮設費を大きく圧縮できます。ただし、全面的に大量の補修が必要な建物や重量物の搬入が多い工事では、足場のほうが適している場合もあります。御物件の形状と劣化状況を診断したうえで判断するのが確実です。安さだけを強調する説明には、慎重になることをおすすめします。
Q3. 自治体の補助金や税の減額は、どの物件でも使えますか?
いいえ。長寿命化に資する大規模修繕への固定資産税の減額措置や自治体の補助制度は、要件・対象・期限が年度ごと・自治体ごとに異なり、予算枠に達すると締め切られることもあります。御物件の所在地で使える制度があるかは、計画の早い段階で個別にご確認ください。
最後に
賃料という「入り」の天井が見えてきたいま、オーナーさまが利回りを守れる場所は、コストの側に移りつつあります。そして、十数年に一度の大規模修繕は、工法の選び方ひとつで総額が大きく変わる、数少ない「コントロールできる支出」です。
私たちが足場・ロープアクセス・ハイブリッドの3つを扱っているのは、御物件にとって一番無駄のない選び方を、根拠とともにお示しするためです。大規模修繕工事のご紹介もご覧いただけます。
総会の前段階の整理だけでも、見積りの仮設費の読み解きだけでも、お力になれることがあります。ご相談だけでも遠慮なくお声がけください(お問合せフォーム)。次回も、現場で本当に使える話だけをお届けします。
出典・参考資料
- 日本経済新聞「東京23区の分譲マンション賃料、小幅下落 5月は0.2%安」(2026年6月16日)
- 住宅新報web「首都圏分譲マンション賃料、2カ月ぶり下落 東京カンテイ5月調査」
- 東京カンテイ「市況レポート:賃料月別推移」
- 国土交通省「マンション管理(長期修繕計画標準様式・作成ガイドライン等/令和6年6月改定)」
※本記事の賃料数値は東京カンテイ2026年5月調査および上記報道によります。塗料・材料の供給状況は各種報道によります。固定資産税の減額措置や自治体補助制度の有無・要件・期限は、年度・自治体により異なります。最新の内容は各公的機関の一次情報をご確認ください。本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、特定の投資判断や工事内容を保証するものではありません。


