2026年8月25日 更新
この記事で答える質問:大規模修繕の業者選定で「不透明な受注調整」に巻き込まれないために、管理組合とオーナーは何を見て、何を決めればよいのか?
結論を先に申し上げます
先に結論から書きます。
談合や不透明な受注調整は、「見抜く」ことよりも「起きにくい発注のかたちをつくる」ことのほうが、はるかに確実です。
理由は単純で、談合というのは水面下で行われるものだからです。理事会の会議室に座って、目の前に並んだ3社の見積書を眺めているだけでは、その3社が事前に話をつけていたかどうかは、まず分かりません。分からないものを見抜こうとするから、管理組合の皆さまは疲弊してしまいます。
そこで発想を変えます。「誰が決めるのか」「どうやって候補を集めるのか」「何を根拠に金額の妥当性を判断するのか」——この3点を先に決めておけば、そもそも談合が成立しにくくなる。これが本記事の骨子です。
そして金額の妥当性については、私たちには公的な物差しがあります。国土交通省が実施した「マンション大規模修繕工事に関する実態調査」です。令和3年度版では200社・818件の工事実績が集計されており、戸あたり工事金額は「100〜125万円/戸」が27.0%で最多、次いで「75〜100万円/戸」が24.7%という分布が公表されています(出典:国土交通省令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査)。
この数字を理事会が知っているかどうかで、業者との会話の質はまるで変わります。
以下、順に整理していきます。
| 本記事で扱う論点 | 結論 |
|---|---|
| 談合は見抜けるか | 単体では困難。発注設計で「起きにくく」するのが現実的 |
| 金額の妥当性の物差し | 国交省実態調査(818事例)の戸あたり・㎡あたり分布 |
| 国が警鐘を鳴らしている論点 | 設計コンサルタントの利益相反(平成29年1月通知) |
| 管理組合が最初に確認すべき数字 | 仮設工事費の比率(工事金額の約2割を占める) |
| 困ったときの相談先 | 住まいるダイヤル、マンション管理センター(いずれも公的窓口) |
2026年8月の報道と、国が9年前から鳴らしていた警鐘
2026年8月23日、産経新聞が「住宅クライシス」の連載の中で、マンションの大規模修繕工事における談合と住民のリスクを取り上げました(参考:産経ニュース「お住まいのマンション、管理会社は安心ですか 大規模修繕工事で横行する談合と住民リスク」2026年8月23日)。
正直に申し上げます。私はこの記事を読んで、驚きませんでした。
驚かなかったのは、この論点が今に始まった話ではないからです。国土交通省は平成29年(2017年)1月の時点で、すでに通知を発出して管理組合への注意喚起を行っています。そのタイトルが「設計コンサルタントを活用したマンション大規模修繕工事の発注等の相談窓口の周知について」です。
つまり、国は9年以上前から「この構造は危ない」と言い続けてきた。にもかかわらず、2026年の今も報道されるテーマとして残っている。ここに、この問題の根深さがあります。
なぜ大規模修繕は不透明になりやすいのか
理由を私なりに3つ挙げます。
- 発注が一生に数回しかない。マンションの大規模修繕は12〜15年に一度です。理事も数年で交代しますから、「前回どうやって決めたか」の記憶と資料が組織に残りません。発注者側だけが毎回ゼロからのスタートになります。
- 金額が大きく、内訳が専門的。数千万円から数億円の工事で、しかも「シーリング打ち替え」「爆裂補修」「エポキシ樹脂注入」といった言葉が並びます。素人が見て高いか安いかを判断できる形になっていません。
- 判断を外部の専門家に委ねざるを得ない。だからこそ設計コンサルタントに頼ることになる。ところがその専門家自身が利害関係を持ってしまうと、チェック機能が丸ごと失われます。
この3点目こそが、国交省が正面から取り上げた論点です。
国土交通省が示した「利益相反」の具体像
平成29年1月の通知、そして平成30年5月11日の報道発表資料では、利益相反の事例が驚くほど具体的に書かれています。原文を引用します。
設計コンサルタントが、自社にバックマージンを支払う施工会社が受注できるように不適切な工作を行い、割高な工事費や、過剰な工事項目・仕様の設定等に基づく発注等を誘導するため、格安のコンサルタント料金で受託し、結果として、管理組合に経済的な損失を及ぼす事態
(出典:国土交通省「マンション大規模修繕工事に関する実態調査を初めて実施」平成30年5月11日)
ここに書かれている構造を、順番にほどいてみます。
構造①:「格安のコンサルタント料金で受託」がスタート地点
管理組合から見ると、設計コンサルタント料が安いのはありがたい話です。「A社は300万円、B社は80万円。B社にしよう」——この判断は、感覚的にはまったく自然です。
しかし、コンサルタント業務には相応の工数がかかります。国交省の令和3年度調査では、設計コンサルタント業務量(合計)の中央値は129.0人・時間(下位25%値86.0人・時間、上位25%値214.8人・時間、n=335)と集計されています。1回目の大規模修繕に限れば、中央値130.1人・時間(下位25%値79.0、上位25%値223.5、n=154)です。そして業務量の内訳で最も比重が大きいのは「工事監理」で全体の47.9%です。
1人日は所定労働8時間ですので、「人・時間」を8で割れば人日に換算できます。中央値129.0人・時間なら、およそ16人日という規模感です。
工数を積み上げれば、それなりの金額になるはずのものが、極端に安い。その差額はどこから埋めているのか——というのが、国が示した問いです。
構造②:「過剰な工事項目・仕様の設定」で工事金額が膨らむ
利益の回収は、設計コンサルタント料ではなく工事金額のほうで行われる、という指摘です。必要のない工事項目が仕様書に入る。あるいは過剰なグレードが指定される。総額が膨らみ、その一部が還流する。
管理組合から見ると、見積書はきれいに揃っています。3社から相見積もりも取っています。ただし、その3社が同じ「膨らんだ仕様書」に基づいて金額を出しているなら、3社比較の意味は大きく減ります。比較できているのは「膨らんだ工事をどこが安くやるか」であって、「その工事が必要かどうか」ではないからです。もちろん施工力や数量の拾い方の差は残りますから、無意味になるわけではありません。ただ、いちばん効く論点が比較の外に出てしまいます。
私はここが一番の落とし穴だと思っています。相見積もりを取ったという安心感が、かえって疑問を封じてしまう。
構造③:「不適切な工作」で選定プロセスが操作される
見積依頼先のリストを誰が作るのか。質問回答をどう配るのか。金額の開札をどこで行うのか。こうした運用の細部で、結果はいくらでも動きます。
だからこそ国交省の通知は、参考となる取組みとして次の2つを例示しています。
「利益相反的な提案をしてきた設計会社を除外して選定した事例」
「施工会社を公募など透明な形で募集し、理事会における投票・審議など公正な手続の下で決定した事例」(出典:国土交通省「設計コンサルタントを活用したマンション大規模修繕工事の発注等の相談窓口の周知について」平成29年1月27日・別紙2)
要するに、公募と、理事会という合議体による記録の残る決定です。地味ですが、これが効きます。
数字で持つ物差し①:戸あたり工事金額(818事例)
ここからが本題です。管理組合が自前で持てる、いちばん強い武器は「相場の分布を知っていること」です。
国土交通省は令和3年度に、814社に配布・200社から回収(回収率24.6%)、工事サンプル878件のうち完了済み818件を集計した実態調査を公表しています。この調査の目的そのものが、「管理組合が適正な発注等に活用すること」です。使わない手はありません。
戸あたり工事金額の分布(令和3年度調査・n=818)

| 戸あたり工事金額 | 割合 |
|---|---|
| 25万円/戸 以下 | 2.1% |
| 〜50万円/戸 | 3.5% |
| 〜75万円/戸 | 9.5% |
| 〜100万円/戸 | 24.7% |
| 〜125万円/戸 | 27.0%(最多) |
| 〜150万円/戸 | 17.4% |
| 〜175万円/戸 | 6.8% |
| 〜200万円/戸 | 2.3% |
| 200万円/戸 超 | 2.8% |
| (無回答) | 3.8% |
(出典:国土交通省令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査。この統計の工事金額には共通仮設費と消費税相当額が含まれていません。ご自身の見積総額と比べる際は、この差を意識してください)
工事回数別の中央値

| 工事回数 | 下位25%値 | 中央値 | 上位25%値 |
|---|---|---|---|
| 1回目(n=331) | 90.9万円/戸 | 110.2万円/戸 | 134.0万円/戸 |
| 2回目(n=194) | 87.8万円/戸 | 106.1万円/戸 | 129.8万円/戸 |
| 3回目以上(n=242) | 76.8万円/戸 | 97.0万円/戸 | 125.7万円/戸 |
この表の使い方を、具体的にお伝えします。
たとえば60戸のマンションで1回目の大規模修繕、提示された見積総額が1億800万円だったとします。戸あたりに割り戻すと180万円/戸です。上の表で見ると、上位25%値の134.0万円/戸を大きく超えています。
ここで大事なのは、「だから高すぎる」と結論づけないことです。機械式駐車場があるのか、タイル張りの面積が大きいのか、給排水管の更生工事を同時にやるのか。条件次第で180万円/戸は十分にあり得ます。
やるべきことは、「この物件が、なぜ分布の上位25%を超えるのかを説明してください」と業者に聞くことです。合理的な説明が返ってくるなら問題ありません。返ってこないなら、そこに論点があります。
床面積あたりで見る物差し
戸あたりは住戸面積のばらつきに影響されます。もう一つの物差しが㎡あたりです。
| 床面積あたり工事金額 | 割合 |
|---|---|
| 0.5万円/㎡ 以下 | 3.7% |
| 〜1.0万円/㎡ | 19.9% |
| 〜1.5万円/㎡ | 33.4%(最多) |
| 〜2.0万円/㎡ | 15.4% |
| 〜2.5万円/㎡ | 3.4% |
| 2.5万円/㎡ 超 | 3.7% |
| (無回答) | 20.5% |
工事回数別の中央値は、1回目1.1万円/㎡、2回目1.3万円/㎡、3回目以上1.2万円/㎡です。なお㎡あたりの集計は無回答が20.5%と多く、戸あたりの分布(無回答3.8%)に比べて母数が絞られている点はご留意ください。
私はいつも理事長さまに、「戸あたりと㎡あたり、両方で自分の位置を確認してください」とお伝えしています。片方だけだと、住戸面積が広いマンションや、共用部の比率が高いマンションで判断を誤ります。
数字で持つ物差し②:修繕周期は12〜15年が約7割
「そろそろ12年だから大規模修繕を」という提案を受けた理事会は多いはずです。この12年という数字は、長期修繕計画作成ガイドライン等に基づく一般的な目安で、現行のガイドライン(令和6年6月改訂)では外壁塗装等の修繕周期をおおむね12〜15年として例示しています。
実際のデータを見てみましょう。令和3年度調査で648件のマンションの平均修繕周期を集計した結果です。
- 最も多いのは13年(23.1%)、次いで12年(18.8%)、14年(15.4%)、15年(11.1%)
- 12〜15年に収まるサンプルは全体の68.5%
- 平均修繕周期(n=648)の中央値は14年(下位25%値12.0年、上位25%値15.0年)
そして工事回数別に見ると、平均修繕周期は1回目15.6年、2回目14.0年、3回目12.9年と、回を重ねるほど短くなる傾向が出ています。
築年数のほうも押さえておきましょう。
| 工事回数 | 下位25%値 | 中央値 | 上位25%値 | 平均値 |
|---|---|---|---|---|
| 1回目 | 14年 | 15年 | 18年 | 18.2年 |
| 2回目 | 26年 | 28年 | 32年 | 29.4年 |
| 3回目以上 | 31.5年 | 40年 | 46年 | 37.3年 |
築12年ちょうどで1回目の大規模修繕をやっている管理組合は、実は多数派ではありません。中央値は15年です。もちろん劣化が進んでいれば早めるべきですし、逆に引き延ばせばよいという話でもありません。
ただ、「12年周期だから今年」という理由だけで数千万円の工事を決議するのは、根拠として弱い。劣化診断の結果があって、その結果が周期の判断を裏付けている——この順番であるべきです。診断より先に工事時期が決まっている提案には、私は必ず理由を尋ねます。
数字で持つ物差し③:仮設工事が工事金額の2割強を占める
ここは私の本業に直結する話なので、少し丁寧に書きます。
国交省が平成29年度に実施した最初の実態調査(134社944サンプル)では、大規模修繕工事の工事内訳が金額ベースで公表されています。
| 工事区分 | 金額ベースの構成比 |
|---|---|
| 外壁関係(外壁塗装+外壁タイル) | 24.0% |
| 防水関係(屋根防水+床防水) | 22.0% |
| 仮設工事 | 19.2% |
| その他(鉄部塗装・建具・設備・外構等) | 残余 |
(出典:国土交通省「マンションの大規模修繕工事に関する実態調査について(概要)」)
そして最新の令和3年度調査では、総工事金額の内訳は建築系工事60.3%、仮設工事22.8%、諸経費①②合わせて10.3%となっています(出典:国土交通省「令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査について(概要)」)。平成29年度の19.2%から、比率はむしろ上がっています。
この2割強という数字を、私はいつも「建物を良くしない費用」と呼んでいます。
誤解のないように申し上げます。足場が悪いという意味ではまったくありません。足場は安全に作業するための必須の設備で、必要な現場では迷わず組むべきものです。私の会社も足場工事を日常的に施工しています。
ただ、足場そのものは、工事が終われば解体して撤去されます。外壁の塗膜のようにマンションに残るものではない。工事金額のおよそ5分の1が、完成後には跡形もなく消える費用に充てられている。この事実は、発注者として知っておく価値があります。
なぜこれが「業者選定」の話になるのか
理由は2つあります。
1つ目。仮設工事費は、見積書の中で最も比較しやすい項目だからです。足場は「架面積(かけめんせき)×単価」という単純な計算で出せます。専門的な劣化補修の数量に比べて、素人でも検算しやすい。3社の見積を比べるとき、まずここを見ると差が可視化されます。
2つ目。工法の選択肢を持つ業者と持たない業者では、そもそも提案の土俵が違うからです。足場しか持たない会社は、足場を組む前提でしか見積を出せません。無足場工法(ロープアクセス工法)を持つ会社は、「この面は足場、この面はロープ」という組み合わせを提案できます。
ロープアクセス工法というのは、産業用のロープを使って作業員が建物の壁面を降下しながら作業する工法です。足場を架設しないため、仮設費を大きく圧縮でき、工期も短くなります。バルコニーが塞がれない、洗濯物が干せる、窓を開けられる、といった居住者側のメリットも大きい工法です。技術的な安全基準や事例については、姉妹サイトのロープアクセスドットコムに詳しくまとめています。
株式会社明誠は、通常の足場工法・ロープアクセス工法(無足場)・両者を部位ごとに使い分けるハイブリッド工法の3つから、建物の形状と劣化状況に応じて最適な組み合わせをご提案しています。3つの選択肢を持っているというのは、私たちの都合ではなく、発注者が「本当に足場が必要な面はどこか」を検証できる状態をつくるためです。詳しくはロープアクセス工法のご紹介と大規模修繕工事のご紹介をご覧ください。
発注方式の3類型と、それぞれのリスク
業者選定の話をするとき、まず整理すべきは「どの発注方式で行くか」です。代表的な3類型を比較します。
| 方式 | 概要 | 主なメリット | 注意すべき点 |
|---|---|---|---|
| 設計監理方式 | 設計コンサルタントが調査・診断→設計→施工会社選定の協力→工事監理を担い、施工は別会社 | 発注者側に専門家が立つ。第三者の目が入る | コンサルタントが施工側と利害を共有すると、チェック機能が失われる(国交省が注意喚起した論点) |
| 責任施工方式 | 施工会社が調査・診断から施工までを一貫して担う | 窓口が一本化され、責任の所在が明確。中間コストが乗りにくい | 診断した会社が工事も受注するため、過剰工事の抑制は発注者側の見識に依存する |
| 管理会社主導(元請)方式 | 管理会社が元請となり、施工は協力会社が担う | 日常管理との連携がスムーズ。組合側の事務負担が軽い | 元請手数料の透明性、協力会社の選定プロセスがブラックボックス化しやすい |
どの方式が正解か、という問いには一般解がありません。マンションの規模、理事会の体制、修繕積立金の状況、前回工事の経緯によって適解は変わります。
ただし、どの方式を選んでも共通して必要なものが1つあります。それは「決定プロセスの記録」です。誰がいつ何を根拠に決めたか。議事録に残っているか。この一点だけは、方式を問わず外せません。
なお、事業者間で受注予定者や価格を事前に取り決める行為は、独占禁止法(正式名称:私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律)上の「不当な取引制限」に該当し得る行為として、公正取引委員会の所管する規制の対象になります(参考:公正取引委員会「独占禁止法の概要」)。管理組合の側でこれを立証するのは現実的に困難ですが、「立証できない代わりに、成立しにくいプロセスを設計する」という発想に立ち返っていただければと思います。
談合リスクを見抜く7つの視点
ここからが実務です。理事会でそのまま使っていただける形に落とし込みました。
視点1:候補業者のリストを、誰が作ったか
確認すること:見積依頼先の5社は、誰がどうやって選んだのか。
コンサルタントや管理会社が「弊社の推薦です」とリストを持ってきた場合、そのリスト自体が競争の範囲を規定します。少なくとも1社は、管理組合が独自に見つけた会社を入れてください。インターネットで探した会社でも、他のマンションの理事長から紹介された会社でも構いません。
外部から1社入れるだけで、事前の話し合いは格段に成立しにくくなります。
視点2:公募をかけたか
国交省の通知が例示している「施工会社を公募など透明な形で募集」です。掲示板やホームページで公募すれば、誰が応募してくるかを事前に統制できません。
小規模なマンションで公募が現実的でない場合は、せめて「見積依頼先を何社にするか」「どの範囲から選ぶか」を総会または理事会で先に決議しておく。決めた後で追加・削除する場合は理由を議事録に残す。これだけでも効果があります。
視点3:見積書の様式が統一されているか
確認すること:3社の見積書は、同じ項目・同じ数量で比較できる形になっているか。
各社バラバラの様式で出てきた見積書は、実質的に比較不能です。総額しか比べられません。逆に言えば、総額だけで比較させようとする状況は、それ自体が注意信号です。
内訳明細(数量・単価・金額)を統一様式で提出させる。これは発注者の当然の権利です。
視点4:仮設工事費の比率を計算したか
前述のとおり、仮設工事は工事金額の約2割を占めます。総額のうち仮設工事費が何%か、3社分を電卓で出してください。
比率が異常に高い会社、逆に低すぎる会社の両方に理由を尋ねます。低すぎる場合は、着工後に追加が発生する設計になっている可能性もあります。
そして「この面は本当に足場が必要ですか」と一度は聞いてみてください。この質問に対して、部位ごとの必要性を説明できる会社と、「全面足場が標準です」としか言わない会社では、その後の工事の透明性がまるで違います。
視点5:設計コンサルタント料の水準と業務量を確認したか
国交省が挙げている「事前に検討した方がよい主なポイント」の3つ目が、まさにこれです。
設計コンサルタントの業務量(人・時間)が著しく低く抑えられていないか。特に業務量のウェートの多くを占める工事監理の業務量が低すぎないか。
令和3年度調査での中央値は、業務量合計129.0人・時間(下位25%値86.0、上位25%値214.8)、うち工事監理57.8人・時間(下位25%値35.0、上位25%値95.2)です。
コンサルタント料が相場より極端に安い場合、「工事監理に何人・何時間充てるのか」を書面で出してもらってください。そこが薄い契約は、工事中に現場を見る人がいないということです。
なお参考までに、国土交通省の令和3年度設計業務委託等技術者単価(設計業務)は、主任技師57,400円/人日、技師(B)40,600円/人日、技師(C)32,800円/人日です。1人日は8時間ですから、「人・時間」を8で割れば人日に換算でき、提示金額がどの技術者を何日投入する想定なのかは、おおよそ見当がつきます。
ただしこの単価は、国が発注する公共工事の設計業務委託の積算に用いるもので、民間契約の技術者単価を拘束するものではありません。単価は毎年改定されており令和3年度以降も引き上げが続いていますので、最新値は国土交通省「設計業務委託等技術者単価」でご確認ください。あくまで「桁を確かめる」ための物差しとしてお使いください。
視点6:長期修繕計画の見直しが業務に含まれているか
これは意外に知られていない論点です。令和3年度調査では、設計コンサルタント業務のうち「長期修繕計画の見直し」を実施していない工事が全体の70.7%を占めています。
大規模修繕をやった直後というのは、建物の状態がいちばん正確に分かっているタイミングです。そこで長期修繕計画を更新しないのは、率直に言ってもったいない。次の12〜15年の資金計画が、古い前提のまま放置されることになります。
契約前に「長期修繕計画の見直しは業務範囲に含まれますか」と一言確認してください。含まれないなら、別途どうするかを決めておく。
視点7:決定の場に記録が残る形になっているか
最後は運用の話です。
- 開札(かいさつ/提出された見積金額を封を開けて公開すること)は理事会の場で、複数名の立会いのもとで行っているか
- 選定理由を議事録に残しているか
- 質疑応答の内容を全社に同一に配布しているか(1社だけが得た情報がないか)
これらは技術ではなく、事務手続きです。専門知識がなくてもできます。そして、事前に話をつけたい側にとっては、これがいちばん邪魔になります。
見積書のここを見る——実務チェックリスト
7つの視点をさらに具体化します。理事会の資料にそのまま貼っていただいて構いません。
| チェック項目 | 見るポイント | 判断の目安 |
|---|---|---|
| 戸あたり金額 | 総額÷戸数 | 分布の中央値(1回目110.2万円/戸)と比較。乖離があれば理由を確認 |
| ㎡あたり金額 | 総額÷延べ床面積 | 中央値1.1〜1.3万円/㎡と比較 |
| 仮設工事の比率 | 仮設工事費÷総額 | 目安2割強(令和3年度調査22.8%)。ただし国交省の統計は共通仮設費・消費税を含まない金額なので、見積総額をそのまま分母にすると比率は低めに出ます |
| 数量の根拠 | 補修数量(m・㎡・箇所) | 「一式」表記が多い見積は要注意。数量根拠を求める |
| 単価の妥当性 | 3社の同一項目の単価を横比較 | 同じ数量で単価だけが極端に違う項目を洗い出す |
| 追加工事の扱い | 契約書の変更条項 | 数量増減の精算ルールが明記されているか |
| 工事監理の体制 | 常駐か巡回か、頻度は | 巡回頻度が週1回未満なら理由を確認 |
| 保証内容 | 保証期間と対象範囲 | 部位ごとに年数が違うのが通常。一律表記は要確認 |
| 瑕疵保険 | 大規模修繕瑕疵(かし)保険への加入有無。施工の不具合が見つかったときに補修費用が保険でまかなわれる制度です | 加入する場合、保険料が見積に計上されているか |
「一式」という表記について、少しだけ補足します。「外壁補修 一式 800万円」という書き方では、何をどれだけ直すのかが分かりません。着工後に「思ったより傷んでいたので追加で」となったとき、当初の800万円が何を含んでいたのかを検証できないのです。
タイル補修なら「浮き部注入○○箇所」「タイル張替え○○㎡」、シーリングなら「打ち替え○○m」。数量が書いてある見積書は、それだけで誠実さの証拠です。
私が現場で見てきたこと
数字の話が続きましたので、現場の話を1つ書かせてください。
数年前のことです。都内のある中規模マンションで、2回目の大規模修繕のご相談をいただきました。すでに他社の見積が出ていて、総額は約1億2,000万円。80戸ですから、戸あたり150万円です。
理事長さまは「高い気はするが、根拠がない」とおっしゃいました。この「根拠がない」という感覚が、実はいちばん苦しいところなのです。
私が最初にお願いしたのは、見積書の内訳を1枚だけ見せていただくことでした。仮設工事の項目です。総額に対する仮設工事費の比率は、27%を超えていました。
現地を拝見して、理由が分かりました。その建物は、一部の面が隣地と非常に近接しており、足場を架けるには隣地の使用許可を取ったうえで、狭小部用の特殊な架設を組む前提になっていたのです。だから高い。業者が不当に上乗せしていたわけではありませんでした。
そこで私がご提案したのは、離隔の取れない面をロープアクセス、道路に面した面を通常の足場とするハイブリッド工法でした。屋上のパラペット(屋上の外周に立ち上がっている低い壁のこと)に支点を確保できるかを確認し、バルコニー側は足場を残して居住者の出入り動線を守る。この組み合わせで、仮設費は当初提示の半分以下に収まりました。
このとき理事長さまに申し上げたのは、「相手が悪かったのではなく、選択肢が1つしかなかったのです」ということでした。
私が現場で20年やってきて、一番悔しい思いをするのは、悪意のある業者に出会ったときではありません。誰も悪くないのに、選択肢を知らなかったせいで数千万円が余計に出ていく場面に、後から立ち会うときです。
だから私は、3つの工法の比較表を必ずワンセットでお出しするようにしています。ロープアクセスを売りたいからではありません。「足場が最適です」という結論になる建物も、実際にたくさんあります。大事なのは、比較したという事実が理事会の記録に残ることです。
修繕積立金36.6%不足時代の意思決定
もう一つ、避けて通れない前提条件を確認しておきます。お金の話です。
国土交通省が令和6年6月21日に公表した「令和5年度マンション総合調査結果」によると——
- 計画上の修繕積立金の積立額に対して、現在の積立額が不足しているマンションの割合は36.6%(前回調査より+1.8ポイント)
- 計画期間25年以上の長期修繕計画に基づいて修繕積立金の額を設定しているマンションの割合は59.8%(前回調査より+6.2ポイント)
- 居住者の高齢化が進み、世帯主が70歳以上の割合は25.9%(前回調査より+3.7ポイント)。昭和59年(1984年)以前に完成したマンションでは、70歳以上の割合が55.9%
- 賃貸住戸のあるマンションの割合は77.8%、空室があるマンションの割合は34.0%
(出典:国土交通省「高経年マンションに居住する70歳以上の世帯主が半数以上に〜令和5年度マンション総合調査結果(とりまとめ)〜」令和6年6月21日)
この4つの数字を並べると、管理組合が置かれた状況が見えてきます。
3組合に1組合以上が積立不足で、居住者の4分の1が70歳以上。築40年超のマンションでは半数以上が70歳以上。この状況で「積立金を値上げしましょう」「一時金を集めましょう」という決議を通すのが、どれほど難しいか。
だからこそ、発注の透明性は「正義の問題」であると同時に、「資金繰りの問題」なのです。仮に1回目の中央値110.2万円/戸で80戸なら工事金額は約8,800万円。これが相場より1割高い水準で発注されれば、差は約880万円になります。その880万円は、次の12〜15年の資金計画から消えます。
賃貸住戸のあるマンションが77.8%という数字も見逃せません。区分所有者のなかに投資目的のオーナーがいるということは、意思決定の場に「利回り」の視点が入るということです。オーナーにとって、根拠の薄い工事費は直接、投資収益を毀損します。逆に、透明性の高い発注は、賃貸オーナーからも支持を得やすい。理事会の合意形成という観点からも、プロセスの可視化は効いてきます。
収益不動産をお持ちのオーナーさまについては、ビル・テナントオーナーさま向けのご案内もご用意しています。
公的な相談窓口という切り札
「業者の説明が腑に落ちない。でも、どこに聞けばいいか分からない」
こういうとき、多くの管理組合が別の業者にセカンドオピニオンを求めます。それも有効ですが、その業者もまた受注を狙う立場です。
公的な窓口があります。しかも無料です。
| 窓口 | 運営 | 内容 | 連絡先 |
|---|---|---|---|
| 住まいるダイヤル | (公財)住宅リフォーム・紛争処理支援センター | 建築士等によるアドバイス。施工費用については「見積チェックサービス」(無料) | 0570(016)100 |
| 建物・設備の維持管理のご相談 | (公財)マンション管理センター | マンションの維持管理全般の相談 | 03(3222)1519 |
(出典:国土交通省「設計コンサルタントを活用したマンション大規模修繕工事の発注等の相談窓口の周知について」平成29年1月27日、および「マンションの大規模修繕工事に関する実態調査について(概要)」)
特に「見積チェックサービス」が無料である点は、もっと知られてよいと思います。数千万円の意思決定の前に、第三者の建築士に見積を見てもらえる制度があるのです。
ただし、利用には条件があります。対象は契約前・着工前の見積書で、確認できるのは1〜2通。大規模修繕の場合、図面から個々の数量を確認するところまでは行いません。設計・監理に関するものや、すでに施工業者等とトラブルが起きている場合は対象外です。回答は電話のみで、最長60分という枠もあります(出典:(公財)住宅リフォーム・紛争処理支援センター「リフォームの相談」)。
それでも、契約前に第三者の建築士と60分話せる機会に、費用がかからない。使わない手はないと思います。
私自身、施工会社の立場ですが、これを使ってくださいと申し上げることに何のためらいもありません。むしろ、第三者のチェックを歓迎しない会社があるとしたら、そちらのほうが問題です。
なお、これらの窓口の案内は、前述の平成29年1月27日通知でも周知されています(出典:国土交通省「設計コンサルタントを活用したマンション大規模修繕工事の発注等の相談窓口の周知について」)。
さらに、国交省は長期修繕計画作成ガイドラインや修繕積立金に関するガイドラインも公表しています(参考:国土交通省マンションに関する統計・データ等)。理事会の資料づくりの土台として、一度目を通しておく価値があります。
今日から理事会でできる5つのこと
長くなりましたので、明日の理事会で実際に動かせる形にまとめます。
- 国交省の実態調査PDFを印刷して、理事会の全員に配る。戸あたり金額の分布グラフ1枚で構いません。共通の物差しを全員が持つところから始まります。
- 現在の見積(またはこれから取る見積)について、戸あたり金額と仮設工事比率を電卓で出す。5分で終わります。
- 見積依頼先に、理事会が独自に見つけた1社を加える。これだけで競争の前提が変わります。
- 見積様式を統一し、「一式」表記の項目には数量根拠を求める。発注者として当然の要求です。
- 開札と選定理由を議事録に残す運用を決議する。次の12年後の理事会への申し送りにもなります。
どれも専門知識を必要としません。必要なのは「決めておく」ことだけです。
よくある質問(FAQ)
Q1. 相見積もりを3社取れば、談合は防げますか?
A. 3社が同じ仕様書に基づいて金額を出している場合、比較できるのは「その工事をいくらでやるか」だけで、「その工事が必要か」は検証できません。仕様の妥当性を別途チェックする仕組みと、候補業者を管理組合側でも1社以上加えることをおすすめします。詳しくは本文の「談合リスクを見抜く7つの視点」をご覧ください。
Q2. 設計監理方式と責任施工方式、どちらが安全ですか?
A. どちらにも固有の注意点があり、一般的な優劣はありません。設計監理方式は第三者の目が入る一方、そのコンサルタントが利害関係を持つと機能不全に陥ります(出典:国土交通省 平成30年5月11日報道発表)。責任施工方式は窓口が一本化される一方、診断者と施工者が同一である点を発注者が意識しておく必要があります。
Q3. うちの見積金額が適正かどうか、無料で確認する方法はありますか?
A. (公財)住宅リフォーム・紛争処理支援センターの「住まいるダイヤル」(0570-016-100)に、施工費用の見積チェックサービス(無料)があります。(公財)マンション管理センター(03-3222-1519)でも維持管理全般の相談が可能です。
Q4. 大規模修繕は本当に12年ごとにやらないといけませんか?
A. 法律で義務づけられた周期ではありません。国交省の令和3年度調査では平均修繕周期の中央値は14年で、12〜15年に収まるサンプルが68.5%でした。1回目の実施時の築年数は中央値15年です。劣化診断の結果に基づいて判断するのが本筋です。
Q5. 足場を組まない工法にすると、品質が落ちませんか?
A. 工法と品質は別の軸です。品質を左右するのは、下地補修の数量をどこまで正確に拾えているか、材料の仕様が適切か、工事監理が機能しているかであって、足場かロープかではありません。外壁タイル等の全面打診調査(建築基準法第12条の定期調査報告に関して、平成20年国土交通省告示第282号で求められるもの)でも、ロープアクセスは足場と併用・使い分けが可能です。重要なのは、部位ごとに適切な工法が選ばれているかと、工事監理の体制が確保されているかです。技術的な解説はロープアクセスドットコムにまとめています。
Q6. 修繕積立金が足りません。工事を先送りしてもよいですか?
A. 先送りは劣化の進行によって将来の工事費を押し上げる可能性があります。積立不足のマンションは36.6%(令和5年度マンション総合調査)にのぼり、珍しい状況ではありません。工事範囲の優先順位づけ、工法の見直しによる仮設費の圧縮、借入や補助制度の活用など、複数の選択肢を並べて検討されることをおすすめします。
この記事のポイントまとめ
- 談合は見抜くより、公募と記録で「起きにくい発注」を設計するほうが確実
- 戸あたり工事金額は100〜125万円/戸が最多(27.0%)、1回目の中央値は110.2万円/戸
- 仮設工事は工事金額の約2割。工法の選択肢が原価に直結する
- 国交省は平成29年から設計コンサルタントの利益相反に注意喚起している
- 修繕積立金の不足は36.6%。発注の透明性は資金繰りの問題でもある
- 住まいるダイヤルの見積チェックサービスは無料。使わない手はない
最後に
大規模修繕の業者選定というのは、理事の皆さまにとって、人生で数えるほどしか経験しない仕事です。分からなくて当たり前ですし、分からないことを恥じる必要はまったくありません。
ただ、「分からないから任せる」と「分からないから確認する」の間には、決定的な差があります。確認するために必要なのは、専門知識ではなく、この記事に書いたような公的な数字と、いくつかの質問です。
正直に申し上げます。私たち施工会社にとって、数量根拠を求められ、仮設費の比率を計算され、第三者に見積をチェックされるのは、決して楽な話ではありません。それでも、そういう管理組合さまとお付き合いさせていただいた工事のほうが、結果として現場は締まりますし、竣工後のお付き合いも長く続きます。
これは私が現場で20年見てきた、嘘偽りのない感想です。次回も、現場で本当に使える話だけをお届けします。
見積書の1枚目だけでも構いません。「これって高いんでしょうか」という段階でのご相談も、遠慮なくお声がけください。現地の無料調査とお見積りに対応していますので、総会の前段階の整理だけでも、お力になれることがあります。お問合せフォームからどうぞ。
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執筆者:本間 幸紘(株式会社明誠 代表取締役)
専門領域:マンション大規模修繕/ロープアクセス工法/建物長寿命化計画
実務経験:建設・改修業界 20年以上
所属:一般社団法人 全国建設業支援協会(JCSA)
株式会社明誠について:東京都東大和市を拠点に、東京・関東一円でロープアクセス工法(無足場工法)と従来の足場工法の両方、およびその組み合わせであるハイブリッド工法を提案できる改修会社。日本初のロープアクセス工事フランチャイズを展開しています。
最終更新:2026年8月25日
※本記事に記載した制度・調査結果は執筆時点の公表内容に基づくものです。制度は変更される可能性がありますので、最新の情報は各公式サイトでご確認ください。また、個別の紛争に関する法的判断については、専門家にご相談ください。
出典・参考資料
- 国土交通省「マンション大規模修繕工事に関する実態調査を初めて実施〜工事を発注しようとする管理組合等が適正な見積りかどうか検討する際の指標となります〜」(平成30年5月11日)
- 国土交通省「マンションの大規模修繕工事に関する実態調査について(概要)」(PDF)
- 国土交通省「令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査」(PDF)
- 国土交通省「高経年マンションに居住する70歳以上の世帯主が半数以上に〜令和5年度マンション総合調査結果(とりまとめ)〜」(令和6年6月21日)
- 国土交通省「マンションに関する統計・データ等」
- 国土交通省「令和3年度 設計業務委託等技術者単価について」(令和3年2月19日・PDF)
- 公正取引委員会「公正取引委員会ウェブサイト」
- (公財)住宅リフォーム・紛争処理支援センター「住宅リフォームに関する相談」
- (公財)マンション管理センター「建物・設備の維持管理のご相談」
- 産経ニュース「お住まいのマンション、管理会社は安心ですか 大規模修繕工事で横行する談合と住民リスク」(2026年8月23日・報道)


