大規模修繕はロープアクセスが提案可能な東京の明誠へ

創業から6000棟超の施工実績

「40階建てタワマンの解体費用は1戸540〜800万円」報道を管理組合はどう読むか|改正区分所有法が施行された2026年、解体を語る前に確認すべき5つの一次情報【2026年9月】

「40階建てタワマンの解体費用は1戸540〜800万円」報道を管理組合はどう読むか|改正区分所有法が施行された2026年、解体を語る前に確認すべき5つの一次情報【2026年9月】

2026年9月1日 更新

この記事で答える質問

  • 2026年8月30日に報じられた「タワーマンションの解体費用」の試算は、どういう前提で出された数字なのか。
  • なぜ超高層マンションは、修繕も解体もコストが跳ね上がるのか。国はその理由をどう説明しているのか。
  • 2026年4月1日に施行された改正区分所有法で、老朽化したマンションの扱いはどう変わったのか。
  • 「外壁の剥離」が、なぜ建替え決議の要件緩和事由に入っているのか。オーナーにとって何を意味するのか。
  • 解体や建替えを議論する前に、管理組合とオーナーが現実的にできることは何か。

1. 結論

2026年8月30日、現代ビジネスが「40階建タワマンの解体費用」を試算した記事を公開しました。築20年・40階建て・総戸数500戸・延べ床面積5万5000平方メートルという想定で、50年後(築70年時点)に解体する場合、総額27〜40億円、1戸あたり540〜800万円という数字が示されています。

この数字だけを見ると、「タワマンは終わっている」という話に着地しがちです。しかし、大規模修繕の現場から見ると、この報道はまったく別の読み方ができます。

解体費用が高くなる理由と、修繕費用が高くなる理由は、根っこが同じだからです。

その根っこは「高いところで作業するための仮設コストが、建物の高さに対して指数関数的に効いてくる」という一点に尽きます。そして国土交通省は、この点を修繕積立金のガイドラインのなかで、はっきり言葉にしています。超高層マンションは「外壁等の修繕のための特殊な足場が必要となる」ため、修繕工事費が増大する傾向にある、と。

さらに2026年4月1日、改正区分所有法が施行されました。そこには、「外壁等の剥離により周辺に危害を生ずるおそれ」がある場合、建替え決議の多数決要件が5分の4から4分の3に緩和されるという規定が置かれています。外壁を放置した建物は、法律上「再生を急ぐべき建物」として扱われる時代に入ったということです。

この記事では、報道の試算そのものではなく、その背後にある国の一次情報5点を並べ、解体の話をする前にオーナー・管理組合が確認できることを整理します。


2. 何が報じられたのか──試算の前提を分解する

まず、報道された試算の前提を確認します。前提を見ないまま数字だけが独り歩きするのが、この手の話でいちばん起こりやすい事故だからです。

項目 報道された前提
建物 40階建て・総戸数500戸
延べ床面積 約5万5000平方メートル(約1万6600坪)
現在の築年数 築20年
解体を想定する時期 50年後(築70年時点)
一般的なRC造の解体単価 1坪あたり8〜12万円程度
超高層の割増 2〜4倍(試算では最も低い2倍を採用)
試算総額 27〜40億円
1戸あたり 540〜800万円

注目すべきは「超高層の割増2〜4倍」という部分です。なぜ2倍から4倍になるのか。理由は解体工法にあります。

一般的な中低層のRC造であれば、重機で上から解体していく工法が使えます。しかし超高層になると、地上からのアプローチが物理的に届きません。上階に解体機械を持ち上げる、階上解体工法や、屋根ごと下げていく閉鎖型の解体工法など、特殊な仮設と工程が必要になります。さらに、周辺への飛散・落下防止、粉じん対策、騒音対策、交通規制と、地上での制約も重なります。

つまり、割増の大半は「高所で安全に作業を成立させるためのコスト」です。解体そのものの単価が2倍になるのではなく、そこに至るまでの段取りが2倍以上になる、という構造です。

2-1. この構造は、修繕でもまったく同じ

ここが今日いちばんお伝えしたいところです。

大規模修繕工事の見積書を分解すると、直接仮設・共通仮設(つまり足場と養生)が全体の20〜25%程度を占めることは珍しくありません。建物が高くなるほど、この比率は上がります。40階建ての外壁に枠組足場を架けることは、そもそも現実的ではありません。ゴンドラ設備や特殊な吊り足場が前提になります。

解体が高いのは、修繕が高いのと同じ理由です。そして修繕は、解体と違って「今から30年、50年にわたって何度も発生する」費用です。オーナーと管理組合にとって、先に手をつけるべきはどちらか。答えははっきりしています。


3. 国はなぜ「超高層は高い」と明記しているのか

推測ではなく、国の文書を見ます。

国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」(平成23年4月策定、令和6年6月改定)は、修繕積立金の額の目安を、建物の規模別に専有床面積あたりの月額で示しています。

このガイドラインでは、地上20階以上の超高層マンションについて、他の区分とは分けて目安を示しています。

区分(建築延床面積) 月額の目安(平均値)
5,000平方メートル未満 335円/平方メートル・月
5,000〜10,000平方メートル 252円/平方メートル・月
地上20階以上(超高層) 338円/平方メートル・月

※出典:国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」(令和6年6月改定)

そして、なぜ超高層を分けたのかについて、ガイドラインはこう説明しています。超高層マンション(一般に地上20階以上)は、外壁等の修繕のための特殊な足場が必要となるほか、共用部分の占める割合が高くなるため、修繕工事費が増大する傾向にある、と。

国が公式文書で「特殊な足場が必要だから高い」と書いている。これは、大規模修繕を発注する側にとって、非常に重要な一文です。

なぜなら、コスト構造の主犯がはっきり名指しされているからです。主犯がわかっているなら、対策も立てられます。

3-1. 70平方メートルの住戸で計算するといくらか

目安を実額に直します。専有面積70平方メートルの住戸で、338円/平方メートル・月を当てはめると、

  • 338円 × 70平方メートル = 月額 23,660円

これが超高層マンションで国が示す目安の水準です。一方、国土交通省「令和5年度マンション総合調査」で報告された、現在の修繕積立金の額の月額平均は13,054円(駐車場使用料等からの充当額を含む平均は13,378円)です。

もちろん総合調査の平均値は全マンションの平均であり、超高層に限った数字ではありません。単純比較はできません。しかし、目安と実態の間に相当な開きがあるという傾向は読み取れます。


4. 2026年4月1日、改正区分所有法が施行された

ここからが、2026年の新しい前提です。

2025年(令和7年)5月23日、「老朽化マンション等の管理及び再生の円滑化等を図るための建物の区分所有等に関する法律等の一部を改正する法律」(令和7年法律第47号)が成立し、同年5月30日に公布されました。区分所有法および被災区分所有建物の再建等に関する特別措置法の改正部分は、2026年(令和8年)4月1日から施行されています。

この改正の背景を、法務省・国土交通省は「建物の老朽化」と「区分所有者の高齢化」が同時に進む「二つの老い」と表現しています。

4-1. 建替え決議の要件が、条件付きで4分の3に

改正の柱のひとつが、建替え決議の多数決要件の緩和です。

区分 決議要件
原則 区分所有者および議決権の各5分の4以上
一定の事由に該当する場合 区分所有者および議決権の各4分の3以上

そして「一定の事由」として挙げられているのが、次の5つです。

  1. 耐震性の不足
  2. 火災に対する安全性の不足
  3. 外壁等の剥離により周辺に危害を生ずるおそれ
  4. 給排水管等の腐食等により著しく衛生上有害となるおそれ
  5. バリアフリー基準への不適合

3番目に注目してください。「外壁等の剥離により周辺に危害を生ずるおそれ」です。

4-2. オーナーにとって、これは何を意味するのか

この規定は、二つの方向から読めます。

再生を進めたい側から見れば、老朽化が進み外壁が危険な状態にあるマンションについて、建替えの合意形成のハードルが下がったということです。これは制度としては前進です。

一方、資産を持ち続けたいオーナーから見れば、外壁の剥離を放置することが、自分の区分所有権そのものの前提を揺るがしうる、ということでもあります。外壁の状態は、もはや「見た目」や「美観」の問題ではありません。法律が定める建物再生の入口条件の一つになりました。

賃貸で運用している収益物件のオーナーであれば、話はさらに直接的です。外壁の剥離は、賃料水準、入居率、そして万一の落下時の工作物責任(民法717条)に直結します。


5. 数字で見る「これから20年」──何が起きるのか

一次情報をもう一つ重ねます。国土交通省が公表している、築40年以上のマンションストック数の推移です。

時点 築40年以上のマンション戸数
2023年末(現在) 約137万戸
10年後(2033年末) 約274万戸
20年後(2043年末) 約464万戸

※出典:国土交通省「築40年以上のマンションストック数の推移」

20年で約3.4倍です。そして国交省の資料では、築40年以上のマンションについて、世帯主が70歳以上の住戸の割合が5割を超えているという課題も示されています。

つまり、これから20年のあいだに起こるのは、次の3つが同時進行する状況です。

  1. 修繕が必要な建物が3倍以上に増える
  2. 修繕費を負担する区分所有者が高齢化し、収入が年金中心になる
  3. 建設業の担い手不足により、施工単価は下がりにくい

この3つが重なるとき、「積立金を上げましょう」という正論だけでは、合意は取れません。必要なのは、必要工事量を落とさずに総額を下げる技術的な選択肢です。

5-1. 長期修繕計画のルールも変わった

国土交通省「長期修繕計画作成ガイドライン」も、令和6年6月に改定されています。主な変更点は次のとおりです。

改定項目 従来 令和6年6月改定後
既存マンションの計画期間 25年以上 30年以上(大規模修繕工事2回を含む)
大規模修繕工事の修繕周期 一律の目安 工事事例等を踏まえた「幅のある周期」
省エネ改修 省エネ性能を向上させる改修工事の有効性を追記
昇降機 「昇降機の適切な維持管理に関する指針」に沿った定期点検の重要性を追記

この改定のうち、実務的にいちばん効くのは「修繕周期に幅を持たせた」という部分です。

かつては「大規模修繕は12年周期」という言い方が一人歩きしていました。改定後のガイドラインは、工事事例等を踏まえて一定の幅のある周期を示しています。建物の実態に応じて、周期を伸ばす判断も、計画のなかで正当化できるようになったということです。

ただしここには条件があります。周期を伸ばすには、建物の状態を根拠のあるかたちで把握していなければなりません。つまり、調査・診断の質が、そのまま総額に効いてきます。

5-2. 「段階増額積立方式」に、国が数値の枠をはめた

令和6年6月の改定で、もうひとつ実務に直結する変更が入りました。段階増額積立方式における適切な引上げの考え方です。

段階増額積立方式とは、新築時の積立金を低く設定し、年数の経過とともに段階的に引き上げていく方式です。分譲時の月額負担を軽く見せられるため、広く採用されてきました。しかし国土交通省は、この方式を採用したマンションのなかに、計画期間中の積立金水準が著しく上昇し、予定していた引上げが実現できずに積立不足に陥るリスクを抱えるケースがあることを課題として挙げています。

そこでガイドラインは、均等積立方式とした場合の額を「基準額」と置いたうえで、次の目安を示しました。

段階増額積立方式における目安 基準額(=均等積立方式とした場合の額)との関係
最初の徴収額 基準額の0.6倍以上
最終の徴収額 基準額の1.1倍以内

※出典:国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」(令和6年6月改定)

狙いは明確です。現実的な引上げ幅のうちに早期の増額を完了させ、均等積立方式へ誘導することにあります。

管理組合の実務としては、まず自分たちのマンションが段階増額積立方式なのか均等積立方式なのかを確認し、段階増額であれば、計画上の最終額が基準額の1.1倍以内に収まっているかを見てください。大きく超えている場合、その計画は「将来の総会で必ず揉める計画」だということになります。

そしてここでも、分母である工事費そのものを工法選択で下げられれば、基準額自体が下がります。積立金の議論は、工事費の議論と切り離せません。


6. 解体を語る前に、できること①──「調べる」ための足場を組まない

ここから、現場としての提案に入ります。

大規模修繕の総額を下げようとするとき、多くの管理組合が最初に検討するのは「工事内容を削る」ことです。しかしこれは、次の周期に費用を先送りしているだけで、多くの場合は総額を増やします。

私たちが最初に見るのは、仮設のかけ方です。

6-1. 「調査のために足場を組む」という無駄

建築基準法第12条に基づく定期報告のなかで、竣工または外壁改修から10年を超えた建物には、外壁の全面打診等調査が求められます(タイル張り・モルタル塗り等の場合)。

この調査を行うために、「足場を組むしかない」と言われた経験を持つ管理組合は少なくありません。しかし、調査のためだけに全面足場を架けるのは、費用対効果として明らかに過剰です。

ロープアクセス工法(無足場工法)であれば、産業用ロープで作業員が壁面に直接アプローチし、打診調査を行うことができます。足場の架設・解体・養生が不要になるため、調査段階のコストは大きく変わります。

さらに副次的な効果として、次の点があります。

  • 居住者の生活影響が小さい:足場を組むと、窓が開けられない、洗濯物が干せない、日照が落ちる、防犯上の不安が生じる、といった問題が数か月続きます。ロープアクセスであれば、作業日のみの影響で済みます。
  • 賃貸物件の場合、入居率への影響が小さい:足場と養生シートに覆われた建物は、内見時の印象を確実に落とします。
  • 工期が短い:架設と解体の期間がまるごと不要になります。

6-2. 診断の精度が上がると、計画の精度が上がる

そして、調査コストが下がることの本当の意味は、「調査を十分にできるようになる」ことです。

部分的な調査で「たぶん全面補修が必要でしょう」と見積もるのと、全面を打診したうえで「補修が必要なのはこの範囲だけです」と特定するのとでは、工事数量がまったく変わります。長期修繕計画の精度も、当然変わります。

令和6年6月改定のガイドラインが修繕周期に幅を認めた以上、「幅のどちら側に寄せられるか」を決めるのは診断の質です。


7. 解体を語る前に、できること②──工法を「選ぶ」という発想を持つ

大規模修繕の工法は、ひとつではありません。

工法 特徴 向いている建物
通常足場工法 枠組足場等を全面に架設する従来型。作業性が高く、大量の工事数量をこなせる 中低層、外壁の劣化範囲が広い、複雑な形状
ロープアクセス工法(無足場工法) 産業用ロープで壁面にアプローチ。足場費・工期・生活影響を大幅に削減 高層・超高層、足場架設が困難な立地、部分補修が中心、調査・診断
ハイブリッド工法 部位ごとに足場とロープアクセスを使い分ける 大規模・複雑物件で、総額最適化が必要なケース

多くの施工会社は、このうち1つ、多くても2つの選択肢しか持っていません。そうすると、建物に工法を合わせるのではなく、工法に建物を合わせる提案になります。

40階建てのタワーマンションに、通常足場しか選択肢がない会社が見積もれば、その見積書は必然的に高くなります。そして管理組合は、「大規模修繕とはこういう金額なのだ」と受け止めることになります。

株式会社明誠は、通常足場・ロープアクセス・ハイブリッドの3つを自社で持ち、建物ごとに最適な組み合わせをご提案しています。ロープアクセス工事としては日本で初めてとなるフランチャイズ展開を行い、塗装・防水・タイル・電気・看板の各分野の専門職が加盟することで、高品質と適正価格を両立する施工体制を構築しました。工法比較の考え方については、ロープアクセス工法の専門サイトでも詳しく解説しています。

7-1. ハイブリッドという現実解

実務でいちばん多いのは、実はハイブリッドです。

たとえば、低層部(1〜5階)は工事数量が多く人の出入りも多いため足場を架け、6階以上はロープアクセスで対応する。あるいは、バルコニー側は足場、外周面はロープアクセス。屋上防水は足場不要、外壁補修だけロープアクセス。

「全部足場」か「全部ロープ」かの二択にしない。これだけで、総額が2割前後変わることは珍しくありません。

7-2. 収益不動産・ホテルでは、工事費よりも「営業への影響」が効く

ここまでは分譲マンションを前提に書いてきましたが、賃貸マンション、テナントビル、ホテルのオーナーにとっては、判断軸がもうひとつ加わります。工事期間中の収益への影響です。

影響項目 通常足場工法 ロープアクセス工法
建物外観 数か月間、養生シートで全面が覆われる 作業日のみ、作業面に限定
内見・集客 印象が落ち、成約率に影響しやすい 影響は限定的
ホテルの客室稼働 窓の眺望・採光が長期間失われる 作業時間帯の調整で対応可能
店舗テナントの視認性 看板・ファサードが隠れる 隠れる期間が短い
防犯上のリスク 足場が侵入経路になりうる 該当なし
近隣への影響 長期の設置による苦情リスク 期間が短く、苦情も出にくい

工事費が仮に同額だったとしても、3か月にわたって全客室の眺望が失われるホテルと、作業日だけ調整すればよいホテルでは、事業として意味がまったく違います。

ホテル・商業ビルのオーナー様からご相談をいただく際、私たちが最初にうかがうのは、工事のご予算ではなく「繁忙期はいつか」「稼働率をどこまで落とせるか」です。工法の選択は、そこから逆算します。

7-3. 「安いから無足場」ではない

念のため申し上げておきますが、ロープアクセス工法は万能ではありません。

  • 外壁の劣化が全面に及び、補修数量が膨大な場合
  • 大型の外装材を交換する場合(重量物の揚重が必要)
  • 複数工種が同時並行で、常時多人数が壁面に取り付く必要がある場合

こうしたケースでは、足場を架けたほうが工期も費用も有利になります。「安いから無足場」ではなく、「この建物のこの部位には、この工法が合理的だから」という説明ができるかどうかが、施工会社を見極めるポイントです。

3工法を持つ会社であれば、自社にとって不利な結論(=足場を架けたほうがよい、という結論)も含めて、フラットに比較できます。


8. 解体を語る前に、できること③──合意形成の「材料」をそろえる

改正区分所有法の施行により、老朽化マンションの再生に関する決議は取りやすくなりました。しかし、決議が取りやすくなったことと、正しい判断ができることは別問題です。

管理組合の総会で必要なのは、次の3点セットです。

材料 内容 誰が用意するか
① 現況の客観的データ 外壁全面打診の結果、劣化度の分布、緊急性の判定 調査会社/施工会社
② 複数工法での費用比較 通常足場/ロープアクセス/ハイブリッドの3案比較 施工会社(3工法を持つ会社に限る)
③ 積立金への影響シミュレーション 各案を採用した場合の30年間のキャッシュフロー 管理会社/管理組合

このうち②が揃わないまま総会にかけられるケースが、現実には非常に多いのが実情です。1社1案の見積書を見て「高い」「安い」を議論しても、判断の軸が立ちません。

8-1. 相見積もりの取り方には順番がある

相見積もりを取ること自体は正しいのですが、「同じ仕様で3社」より先にやるべきことがあります。それは「工法の選択肢を洗い出す」ことです。

  1. まず、建物の現況を客観的に把握する(全面打診等調査)
  2. 次に、その建物で成立する工法を洗い出す(足場/ロープ/ハイブリッド)
  3. そのうえで、工法ごとの概算を並べる
  4. 最後に、採用する工法を決めてから、同一仕様で相見積もりを取る

この順番を逆にすると、「全部足場」という前提のまま3社の価格だけを比べることになり、いちばん大きな削減余地を見逃します。


9. オーナー・管理組合の実務チェックリスト

今日から費用をかけずに確認できる項目を整理します。

# 確認項目 確認先
1 直近の定期報告(建築基準法第12条)を提出しているか 管理会社/特定行政庁
2 竣工または外壁改修から10年を超えているか。全面打診等調査は済んでいるか 管理組合の記録
3 長期修繕計画の計画期間は30年以上か(令和6年6月改定に適合しているか) 長期修繕計画書
4 修繕積立金は、国交省ガイドラインの目安(超高層は338円/平方メートル・月)と比べてどの水準か 管理費等の明細
5 前回の大規模修繕の見積書で、仮設費が総額の何%だったか 過去の見積書
6 過去にロープアクセス工法での比較見積もりを取ったことがあるか 管理組合の記録
7 管理規約は、改正区分所有法(2026年4月1日施行)に対応した見直しを検討しているか 管理規約/管理会社

7番目については補足します。改正区分所有法の施行に伴い、国土交通省はマンション標準管理規約の改正も行っています。既存の管理規約が改正法の内容と整合しているかは、一度確認しておく価値があります。


10. よくある質問

Q1. タワーマンションは本当に解体できないのですか。

「できない」と断定できる根拠は、公的にはありません。報道されているのは、現行の技術・費用水準で試算すると、非常に高額になるという試算です。50年後の技術水準、解体工法、建設市場の状況は誰にもわかりません。

現時点で確実に言えるのは、解体を議論する段階に至る前の50年間で、修繕にどれだけの費用がかかるかは、今の判断で変えられるということです。

Q2. 修繕積立金が国のガイドラインの目安より低い場合、すぐに値上げすべきですか。

値上げの判断は管理組合の総会事項であり、私たちが決められることではありません。ただし判断の順番として、「必要額を確定させてから、不足額を決める」ことをおすすめします。

必要額は、長期修繕計画で想定している工法によって変わります。工法を見直さないまま積立金だけを上げると、本来不要な額まで積み立てることになりかねません。

Q3. ロープアクセス工法は、足場と比べて品質が落ちませんか。

工法と品質は別の軸です。品質を決めるのは、施工する職人の技能と、施工管理の体制です。

ロープアクセス工法は、労働安全衛生規則に基づくロープ高所作業の規定(第36条第40号、特別教育の義務化等)の枠組みのなかで行われる正規の作業方法です。塗装・防水・タイル補修の各工種について、足場作業と同等の品質基準で管理できます。

ただし、工事数量が非常に多い場合は、足場のほうが効率的で結果的に安くなるケースもあります。だからこそ、3工法から比較する意味があります。

Q4. 「外壁等の剥離により周辺に危害を生ずるおそれ」は、誰がどう判定するのですか。

改正区分所有法における具体的な認定の運用については、施行後の実務の積み重ねを見ていく必要があります。現時点で確実なのは、この認定の前提となるのは客観的な建物調査の結果であるということです。

言い換えれば、日常的に外壁の状態を把握し、記録を残している管理組合ほど、いざというときの判断材料を持っているということになります。

Q5. 賃貸のオフィスビルや店舗ビルのオーナーにも関係しますか。

区分所有法は分譲マンションの制度ですが、外壁の維持管理義務と定期報告の義務は、賃貸ビルにも同様にかかります。むしろ単独所有の賃貸ビルのほうが、合意形成が不要な分、判断のスピードで有利です。

そして外壁の落下事故が起きた場合、所有者は民法717条の工作物責任を問われます。テナントビル・ホテルの場合、営業補償の問題も加わります。

Q6. 相談だけでも可能ですか。

可能です。現地を拝見したうえで、通常足場・ロープアクセス・ハイブリッドの3案でご提案します。工法の比較検討そのものが、管理組合の総会資料として使える材料になります。


11. まとめ

  • 2026年8月30日の報道で示された「40階建てタワマンの解体費用27〜40億円、1戸540〜800万円」という試算の割増要因は、高所で安全に作業を成立させるための仮設コストです。
  • 同じ構造は修繕にも働きます。国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」(令和6年6月改定)は、地上20階以上について「外壁等の修繕のための特殊な足場が必要となる」ため工事費が増大すると明記し、目安を338円/平方メートル・月としています。
  • 一方、令和5年度マンション総合調査における修繕積立金の月額平均は13,054円です。目安と実態には開きがあります。
  • 2026年4月1日施行の改正区分所有法では、「外壁等の剥離により周辺に危害を生ずるおそれ」がある場合、建替え決議の要件が5分の4から4分の3に緩和されました。外壁の管理状態は、法律上の意味を持つようになりました。
  • 同じ令和6年6月の改定で、段階増額積立方式について「最初は基準額の0.6倍以上、最終は1.1倍以内」という目安が示されました。計画上の最終額が基準額を大きく超えていれば、その計画は将来必ず揉めます。
  • 築40年以上のマンションは、2023年末の約137万戸から、2043年末には約464万戸に増える見込みです。
  • 「長期修繕計画作成ガイドライン」は令和6年6月に改定され、既存マンションの計画期間は30年以上(大規模修繕工事2回を含む)、修繕周期は幅のある設定に変わりました。周期を伸ばす判断を支えるのは、診断の質です。
  • 解体を語る前にできることは3つ。①調査のために足場を組まない、②工法を3つから選ぶ、③合意形成の材料を揃える。

点検のために、毎回足場を組む必要はありません。そして、大規模修繕の総額を決めているのは、多くの場合、工事の内容ではなく仮設の組み方です。


参考・一次情報


執筆者

本間 幸紘(ほんま ゆきひろ)
株式会社明誠 代表取締役

マンション・ビル・ホテルの大規模修繕工事を専門とし、通常の足場仮設工法・ロープアクセス工法(無足場工法)・両者を組み合わせたハイブリッド工法の3つから、建物ごとに最適な工法をご提案しています。ロープアクセス工事としては日本で初めてとなるフランチャイズ展開を行い、塗装・防水・タイル・電気・看板の各分野の専門職が加盟することで、高品質かつ適正価格の施工体制を構築しています。

また、一般社団法人 全国建設業支援協会(JCSA)を運営し、全国の建設業者に向けた経営支援情報の発信、オンラインセミナー、交流会、ビジネスマッチングを行っています。

株式会社明誠
TEL:042-508-3567
Mail:info@meiseitosou.com

最終更新日:2026年9月1日