収益不動産の資産価値は「大規模修繕」で守る時代に——企業の不動産売却18年ぶり高水準が映す“持つ・持たない”の分かれ目【2026年6月】
おはようございます。明誠の本間です。
先日、ある新聞の見出しに目が留まりました。「企業の不動産売却、18年ぶり高水準」。あの味の素さんが、京橋の本社ビルを手放したというのです。私はこの記事を、現場へ向かう車の中で読みました。そして正直に申し上げます。これは収益不動産をお持ちのオーナーさまにとって、他人事ではない話だと感じました。
なぜなら、大きな会社が「不動産を持たない」方向へ舵を切る一方で、個人や中小法人のオーナーさまは、これからも「持ち続ける」前提で資産と向き合っていく方が多いからです。同じ不動産でも、立場が違えば判断はまるで逆になります。そして「持ち続ける」と決めた瞬間から、本当の勝負が始まります。その勝負を左右するのが、ほかでもない大規模修繕(建物全体を一定周期でまとめて直す計画的な工事)なのです。
今日は、このニュースを入り口に、収益ビル・マンション・ホテルをお持ちのオーナーさまが、これからの時代に資産価値をどう守り、どう高めていくのか。現場で20年やってきた私の視点で、できるだけ具体的にお話しします。
「持つ会社」が減り始めた——18年ぶりの売却ラッシュが意味すること
まず、ニュースの中身を正確に押さえておきます。
報道によれば、2025年に上場企業が国内不動産を売却した金額は約1兆2318億円にのぼり、これは18年ぶりの高水準だといいます(出典:日本経済新聞「企業の不動産売却18年ぶり高水準 味の素は本社ビル、資産効率を改善」)。味の素さんは京橋の本社ビルを売却し、近隣の複合ビルへ本社機能を移すと報じられています。ほかにもIHIさんが都内の不動産を、松竹さんや三陽商会さんも保有物件の売却を決めたとされています。
なぜ、いま売るのか。背景には、不動産市況が好調であること、そしてROE(自己資本利益率=株主が出したお金でどれだけ効率よく稼いだかを示す指標)やPBR(株価純資産倍率)の改善を求める投資家からの圧力があると見られています。平たく言えば、「使っていない、あるいは効率の悪い不動産は、持っているより売って身軽になった方が、会社の数字が良く見える」という判断です。
これは、企業経営としては合理的な動きです。本社ビルを所有していれば、固定資産税もかかり、維持管理費もかかり、何より多額の資金が建物に縛り付けられます。その資金を本業に回した方が稼げる、と考える会社が増えているわけです。
ただ、私がここで立ち止まってほしいと思うのは、「だから不動産はもう持つ価値がないのか」という早合点です。話はそう単純ではありません。
法人と個人で逆向きの判断——なぜオーナーは「持ち続ける」前提で考えるべきか
大企業が本社ビルを売るのと、収益不動産オーナーさまが物件と向き合うのとでは、そもそもの目的が違います。
事業会社にとって、本社ビルは「コストセンター」、つまりお金を生まない費用のかたまりです。だから身軽にしたい。一方、オーナーさまにとっての収益物件は「プロフィットセンター」、毎月家賃という収益を生み続ける装置です。性格がまったく逆なのです。
収益物件は、保有し続けて家賃収入を得ながら、出口(売却)のタイミングで売却益も狙える。これが不動産投資の基本構造です。途中で安易に手放してしまえば、その収益装置そのものを失うことになります。ですから多くのオーナーさまは、「いつ売るか」よりも「どう持ち続けるか」を軸に考える方が、長期の収益は安定しやすいのです。
もちろん、これは投資判断であり、私は不動産の専門アドバイザーでも金融の専門家でもありません。売る・持つの最終判断は、税理士さんやファイナンシャルプランナーなど専門家と相談のうえ、ご自身で決めていただくべきものです。私がお伝えできるのは、あくまで「建物を維持する側」から見た現実です。
その現実とは——「持ち続ける」と決めたなら、建物の状態こそが資産価値を決める、という一点に尽きます。
価格はもう「立地と築年数」だけでは決まらない——二極化の本当の分岐点
「うちの物件は駅から近いし、まだ価格は大丈夫」。そうおっしゃるオーナーさまは少なくありません。たしかに立地は重要です。しかし、いま市場で起きているのは、もう一段深い変化です。
国土交通省の不動産価格指数を見ると、マンション(区分所有)の全国指数は2010年平均を100として、2025年12月時点で225.1まで上昇しています(出典:国土交通省「不動産価格指数」)。長い目で見れば、マンション価格は大きく上がってきました。新築価格の高騰が中古価格をも押し上げる流れも続いています。
ただ、この「上昇」は全部の物件に等しく恵みをもたらすわけではありません。市場関係者の多くが指摘するのは、二極化です。都心・駅近・築浅・そして「管理状態の良い物件」は価格が底堅い。一方で、郊外・築古・そして「修繕に不安のある物件」は価格が伸びにくく、調整を受けやすい。
ここで注目していただきたいのが、「管理状態の良し悪し」「修繕への備え」が、立地や築年数と並ぶ価格の分岐点として、はっきり語られるようになったことです。同じ駅、同じ築年数でも、外壁がきれいで修繕履歴が整った建物と、シーリング(目地のゴム状の防水材)がひび割れ、外壁に汚れが目立つ建物とでは、買い手の評価がまったく違います。私は仲介会社の方から、「修繕履歴がしっかりしている物件は、商談が早い」という話を何度も聞いてきました。
つまり、これからの収益不動産は、「建物をどう維持してきたか」という履歴そのものが、資産価値として値付けされる時代に入ったのです。
数字で見る「修繕の備え不足」——36.6%という現実
では、世の中のオーナーや管理組合は、その備えが十分にできているのでしょうか。残念ながら、データは厳しい現実を示しています。
国土交通省の令和5年度マンション総合調査によれば、計画上の積立額に対して現在の修繕積立金が不足しているマンションは36.6%にのぼります(出典:国土交通省「令和5年度マンション総合調査結果」)。3棟に1棟以上が、計画通りにお金を貯められていないということです。
同じ調査では、修繕積立金の額(駐車場使用料等からの充当額を除く月・戸当たり)の平均は13,054円。長期修繕計画(これから数十年でいつ・何を・いくらで直すかを定めた計画書)を作成している管理組合は88.4%ある一方で、25年以上の計画期間で積立額を設定しているのは62.4%にとどまります。
この数字を、私は現場の感覚と重ねて読みます。計画は作ったものの、資材価格や人件費の上昇に積立額が追いついていない。気づいたときには、いざ大規模修繕という段になって「お金が足りない」。だから工事を先送りする。先送りしている間に劣化が進み、いざ着工すると追加の補修が増えてさらに費用がかさむ——この悪循環を、私は何度も見てきました。
賃貸オーナーさまの場合、管理組合という仕組みがない分、この「備え」はすべてご自身の判断にかかってきます。毎月の家賃が入ってくると、つい修繕の積み立てを後回しにしてしまう。お気持ちはよく分かります。ですが、後回しにしたツケは、必ず建物の劣化と価値の下落という形で返ってきます。
私が現場で20年見てきた、「価値が落ちる建物」と「落ちない建物」の差
少し、現場の話をさせてください。
私はこれまで、数えきれないほどのマンションやビルの外壁に、足場やロープでよじ登り、手で叩き、目で見てきました。築20年を超えた建物を前にすると、その建物が「どう扱われてきたか」が、手に取るように分かります。
価値が落ちない建物には、共通点があります。劣化が「小さいうちに」手当てされているのです。たとえば、シーリングの軽いひび割れ。これを早めに打ち替えておけば、水は壁の中に入りません。ところが放置すると、雨水が外壁の内部に回り、鉄筋を錆びさせ、コンクリートを内側から押し割る「爆裂」という現象を引き起こします。こうなると、補修費は桁が一つ変わります。
私が一番悔しい思いをするのは、「あと2年早く相談してくださっていれば、この費用の半分で済んだのに」という現場に立ち会うときです。タイル(外壁に貼られた化粧材)が浮いて、いつ落ちてもおかしくない状態になっている。下は人が通る歩道。こうなると、資産価値どころか、第三者への落下事故という賠償リスクまで背負うことになります。
逆に、価値が落ちない建物のオーナーさまは、決まって「早めの点検」を習慣にされています。派手なことではありません。年に一度、専門家の目で建物をぐるりと見てもらう。それだけで、大きな出費の芽を小さいうちに摘めるのです。私はいつもオーナーさまに、「建物は人間の体と同じで、人間ドックが一番安い投資です」とお伝えしています。
大規模修繕は「コスト」ではなく「資産価値の維持装置」
ここからが本題です。
大規模修繕というと、多くの方が「大きな出費」「できれば避けたいもの」と捉えがちです。気持ちは分かります。一回あたり数百万円から、規模によっては数千万円、大型物件なら億単位になることもあります。
しかし、視点を変えてみてください。先ほど見たように、いまや「修繕の状態」そのものが資産価値の値付けに直結する時代です。だとすれば、大規模修繕は単なる出費ではなく、資産価値を維持し、ときに高めるための「投資」と捉えるべきものです。
私は、これを「資産価値の維持装置」と呼んでいます。きちんと修繕された建物は、家賃を維持でき、空室を埋めやすく、出口で高く売れる。逆に修繕を怠った建物は、家賃を下げざるを得ず、空室が増え、売るに売れなくなる。同じ建物が、修繕という一手で正反対の道をたどるのです。
ですから私は、収益物件のオーナーさまにこそ、修繕を「守り」ではなく「攻め」の経営判断として位置づけていただきたいと考えています。物件の利回りを守るのは、新しい入居者を探すこと以上に、いまある建物の価値を落とさないことなのですから。
足場を二度組まない——工法選択が利回りを左右する
では、その大規模修繕を、いかに賢く行うか。ここで効いてくるのが「工法の選択」です。
実は、大規模修繕の費用のうち、決して小さくない割合を占めるのが「足場代」です。建物の周りに仮設足場を組み、終わったら解体して撤去する。この足場の架設・解体だけで、工事全体の2割前後を占めることも珍しくありません。しかも足場は、組んでいる間ずっとレンタル料がかかり、工期が延びればその分コストも膨らみます。
私が現場で20年やってきて確信しているのは、「足場を二度組まない」ことの大切さです。たとえば外壁塗装と防水工事を別々の年に発注すれば、足場を二度組むことになります。これは本当にもったいない。同時に行えば、足場代は一回で済みます。だから私は、複数の工事はできる限り「一つの足場でまとめて」提案するようにしています。
そして、もう一歩進んだ選択肢があります。そもそも足場を組まずに工事ができないか、という発想です。これが、無足場工法(足場を架設せずに行う施工方法)、なかでもロープアクセス工法という選択です。
ロープアクセスという選択肢が、なぜ収益物件と相性がいいのか
ロープアクセス工法とは、産業用のロープを使い、技術者が建物の屋上から吊り下がって、外壁の点検・補修・塗装・防水などを行う工法です。橋梁やダム、高層ビルの点検で発展してきた技術で、私たちはこれをマンション・ビル・ホテルの大規模修繕に応用しています。
この工法が収益物件と相性がいい理由を、私は3つお伝えしています。
第一に、足場代を大きく削減できることです。足場を組まないので、その費用がまるごと不要になる。部分的な補修や、高層階だけの工事では、コスト差がとくに大きく出ます。
第二に、工期が短く、入居者・利用者への影響が小さいことです。足場を組むと、組むだけで数日、解体にも数日かかります。その間、窓の外に人が立ち、足場用のネットで日当たりや眺望がさえぎられる。賃貸物件なら入居者の不満につながり、ホテルなら稼働への影響が出ます。ロープアクセスなら、必要な場所だけを、必要な期間だけ施工できます。私はこれを「住みながら、営業しながら直せる工法」とお伝えしています。
第三に、足場を組みにくい立地でも施工できることです。隣地との距離が近い、前面道路が狭い、敷地形状が複雑——足場の架設が難しい物件ほど、ロープアクセスの価値は際立ちます。
もちろん、ロープアクセスが万能だと申し上げるつもりはありません。建物全体を一度に塗り替えるような大規模な工事や、複雑な造作を伴う工事では、足場の方が効率的なこともあります。ですから私たちは、足場・ロープアクセス・そして両者を部位ごとに使い分けるハイブリッド工法の3つから、その建物にとって本当に最適な組み合わせをご提案しています。3つの工法を建物特性に応じて選べる会社は、日本でもまだ多くありません。私はここに、現場叩き上げの会社としての矜持を持っています。
工法の詳しい比較は、ロープアクセス工法のご紹介と大規模修繕工事のご紹介のページでも整理していますので、あわせてご覧ください。
総会・理事会で、今月できること
6月は、マンション管理組合にとって総会シーズンです。賃貸オーナーさまにとっても、年度の折り返しに向けて、修繕計画を見直すよい時期です。
私から、今月できることを3つ提案させてください。
ひとつ目は、長期修繕計画の「賞味期限」を確認することです。計画は作って終わりではありません。国の調査でも、5年ごとを目安に見直している管理組合が63.2%です(出典:国土交通省「令和5年度マンション総合調査結果」)。前回の見直しから5年以上経っているなら、資材高騰を反映できていない可能性が高い。まずはここを点検してください。
ふたつ目は、修繕積立金の水準を、現在の工事相場と突き合わせることです。計画当時の金額のままでは、いざというとき足りないかもしれません。値上げは住民や共同オーナーの合意が要りますから、早く議題に上げるほど、丁寧な説明の時間がとれます。
みっつ目は、次の大規模修繕で「足場を二度組まない」設計になっているかを確認することです。外壁・防水・鉄部塗装などを、できるだけ一つの工事機会にまとめられないか。工法をロープアクセスやハイブリッドに切り替える余地はないか。この一手で、総工費が大きく変わることがあります。
総会の場で、1分でもこの話題を出してみてください。「修繕の備えは足りているか」「足場代は減らせないか」。この二つの問いが、数年後のあなたの資産価値を守ります。
「持ち続ける」と決めたなら、まず長期修繕計画の棚卸しから
冒頭の話に戻ります。大企業が不動産を手放す時代に、あなたはその収益物件を持ち続けるのか。これは経営判断であり、私が口を出すことではありません。
ただ、もし「持ち続ける」と決めたのなら、やるべきことは明確です。建物の価値を、計画的に守り続けること。そのために、長期修繕計画を棚卸しし、積立の備えを点検し、次の工事を賢い工法で行うこと。この地道な積み重ねこそが、二極化の時代に「価値が落ちない側」に立つための、唯一の確実な方法だと私は考えています。
国土交通省も、長期修繕計画の作成・見直しの考え方を「長期修繕計画作成ガイドライン」として公開しています(出典:国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン/長期修繕計画作成ガイドライン」)。まずはこうした公的な資料に一度目を通すだけでも、見えてくるものがあります。
よくある質問(FAQ)
Q. 築浅なので、まだ大規模修繕は関係ないのでは?
建物にもよりますが、外壁やシーリング、防水は新築から10〜15年程度で最初の本格的な手当ての時期を迎えるのが一般的です。築浅のうちから劣化の進み方を把握しておくと、最初の大規模修繕を最小コストで迎えられます。早すぎる相談はありません。
Q. ロープアクセスにすると、品質は足場より落ちませんか?
作業の中身は、足場であってもロープであっても、人の手で行う点検・補修・塗装です。大切なのは技術者の技量と管理体制です。私たちはフランチャイズに塗装・防水・タイル・電気・看板など各分野の専門職が加盟する体制で、高品質と低価格の両立をめざしています。工法の違いより、誰がどう施工するかが品質を決めます。
Q. まず何から始めればいいですか?
建物の現状を知ることからです。点検は、その後の判断のすべての土台になります。費用感や工法の向き不向きは、建物を一度見てからでないと正確には申し上げられません。
まとめ——価値は「持ち方」で決まる
今日は、企業の不動産売却が18年ぶり高水準になったというニュースを入り口に、収益不動産オーナーさまが資産価値を守るために何ができるかを、現場の視点でお話ししました。
要点を3つに絞ります。第一に、不動産価値はもう「立地と築年数」だけでなく、「どう維持されてきたか」で二極化していること。第二に、大規模修繕は出費ではなく「資産価値の維持装置」であり、攻めの経営判断であること。第三に、足場を二度組まない設計と、足場・ロープアクセス・ハイブリッドの最適な工法選択が、利回りと出口価格を左右すること。
これは私が現場で20年見てきた、嘘偽りのない感想です。大きな会社が身軽になる時代だからこそ、持ち続けると決めたオーナーさまには、建物という資産にきちんと手をかけていただきたい。それが、いちばん確実な資産防衛だと信じています。
点検や工法の見直しは、ご相談だけでも遠慮なくお声がけください。総会や来期予算の前段階で、現状を整理するだけでも、お力になれることがあります。お問合せフォームからお気軽にどうぞ。次回も、現場で本当に使える話だけをお届けします。
出典・参考資料
- 日本経済新聞「企業の不動産売却18年ぶり高水準 味の素は本社ビル、資産効率を改善」
- 国土交通省「令和5年度マンション総合調査結果について」
- 国土交通省「不動産価格指数」
- 国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン・長期修繕計画作成ガイドライン」
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の不動産の売買・投資・税務に関する助言ではありません。個別の判断にあたっては、税理士・不動産鑑定士などの専門家にご相談ください。


