大規模修繕の費用が10年で3割上がった時代に——工事費の2割強を占める「足場」をどう見直すか
今朝、いつものように建設・不動産のニュースに目を通していたところ、あるホテル業界の記事に手が止まりました。「建設費が数年で4割上がり、人材難もあって計画中の新規開業が消えていく」という趣旨の内容です。あわせて、国内のホテル改装案件が相次いでいるという記事も並んでいました。新しく建てるのは高すぎて割に合わない、だから既存の建物を直して使い続ける——。今、日本中の建物で起きていることが、そのまま見出しになっていると感じました。
これは、ホテルだけの話ではありません。私が20年近く携わってきたマンションやビルの大規模修繕(建物全体を計画的に補修・改修する工事のこと)の世界でも、まったく同じ逆風が吹いています。正直に申し上げます。この5年ほどで、大規模修繕の見積書の数字は、以前とは別物になりました。
今日は、「なぜこんなに上がったのか」という話で終わらせず、「では、その中で何を削れるのか」という一歩踏み込んだところまでお話しします。結論から言えば、私が理事長さまやオーナーさまに必ずお伝えしているのは、工事費の2割強を占める『足場』にこそ、見直しの余地が大きいということです。
建設費は10年で約3割、労務単価は14年連続で上がっている
まず、感覚論ではなく数字で現実を押さえておきましょう。
国土交通省が毎月公表している「建設工事費デフレーター」という指標があります。これは、物価の動きをそろえて、過去と今の建設コストを比べられるようにした“建設版の物価指数”のようなものです。2015年度を100とした基準で見ると、直近では建設総合が130を超え、鉄筋コンクリート造にいたっては135近辺まで来ています。つまり、わずか10年で建設コストがおよそ3割上がったことになります(出典:国土交通省「建設工事費デフレーター」)。
もう一つ、職人の人件費の目安になるのが「公共工事設計労務単価」です。国が毎年見直す、いわば職人1人1日あたりの標準的な賃金の物差しです。2026年3月から適用される最新版では、全国全職種の単純平均で前年度比プラス4.5%。これで14年連続の上昇となり、加重平均は25,834円と、初めて2万5千円を超えました(出典:国土交通省「令和8年3月から適用する公共工事設計労務単価について」)。
資材が上がり、それを扱う職人の賃金も上がる。大規模修繕は、機械で自動化しにくい「人の手」の工事です。だからこそ、この二つの上昇が、そのまま総額に効いてきます。
そして見落とされがちなのが、この高騰が「新しく建てる工事」だけの話ではないという点です。既存の建物を直す大規模修繕こそ、足場を組み、職人が手作業で外壁や防水を仕上げる、人の手への依存度が高い工事です。新築が高くなったから既存を長く使う——その「長く使うための工事」自体も、同じ理由で確実に高くなっている。これが、今オーナーさまや管理組合が直面している構造です。
私はこの数字を、脅すためにお伝えしているのではありません。むしろ逆で、「値上がりは業者のさじ加減ではなく、国の統計にもはっきり出ている構造的なもの」だと知っていただくことで、次の一手を冷静に考えられるようになるからです。
「人が足りない」——値上がりの裏にある、もう一つの現実
冒頭のニュースにあった「人材難」という言葉。これは、私たち施工の現場で最も肌身に感じている問題です。金額の話にばかり目が行きますが、実は今、建設業界が直面している最大の課題は「そもそも工事をやる職人が足りない」ことにあります。
理由は単純ではありません。長年の担い手の高齢化と引退、若い世代の入職の減少、そして2024年から本格的に始まった時間外労働の上限規制——いわゆる「2024年問題」で、一人の職人が働ける時間にも上限がかかるようになりました。人が減り、一人あたりの稼働時間も限られる。結果として、腕のいい職人ほど予定が先まで埋まり、「頼みたくても、すぐには着工できない」という場面が増えています。
これは、オーナーさまや管理組合にとっても他人事ではありません。工事の発注が遅れれば、それだけ順番待ちが長くなり、劣化はその間も進みます。特に7月から8月にかけての酷暑の時期は、職人の熱中症対策のために作業できる時間帯が限られ、無理な突貫工事は事故のもとになります。私は、暑い盛りに現場を預かる立場として、「安く、早く」だけを追いかけて職人に無理をさせることだけは、避けたいと考えています。
だからこそ、「工事そのものを効率化して、必要な人手と日数を減らす」という発想が効いてきます。足場の組立・解体には、それだけで相応の人手と日数がかかります。ここを圧縮できれば、少ない人手でも工事が回り、職人の負担も減る。コストの話と人手の話は、実は同じ根っこでつながっているのです。
「戸あたりいくら」で体感すると、値上がりの重さが分かる
数字を、読者のみなさまの財布の感覚に置き換えてみます。
マンションの大規模修繕は、よく「1戸あたりいくら」で語られます。市場のいくつかの調査を総合すると、この十数年で1戸あたりの修繕費用はおよそ6割ほど上がり、工事内容によっては1戸あたり200万円を超える例も、今では珍しくなくなりました。
50戸のマンションであれば、単純計算で工事全体が数千万円規模になります。以前の相場観のまま長期修繕計画(30年程度の修繕スケジュールと積立額をまとめた計画書のこと)を立てていると、いざ工事の段になって「積立金が足りない」という事態に直面します。
私が現場で一番悔しい思いをするのは、この「足りない」を理由に、本来やるべき防水や外壁の補修を先送りする決断がなされる瞬間です。先送りした2〜3年のあいだに雨水がコンクリートの内部へ回り込み、鉄筋がさびて膨らみ、コンクリートを内側から押し割る。結果として、次の工事はもっと大がかりで、もっと高くつく。値上がり局面での先送りは、時間差でさらに大きな請求書になって返ってくるのです。
だからこそ、「積立金が足りないなら諦める」ではなく、「同じ品質を、どうすれば無理のない金額で実現できるか」を先に考える。ここからが本題です。
現場で見た「足場を減らしたら数百万円変わった」一件
抽象的な話が続きましたので、私が実際に立ち会った現場の話を一つ、物件が特定されない範囲でお伝えします。
数年前、築20年ほど、40戸規模のマンションのご相談を受けました。当初、別の会社から出ていた見積書は、建物全体を足場で囲う前提のもので、総額はおよそ5,000万円台。管理組合の積立金では数百万円ほど足りず、理事会では「一部の工事を次回に回すしかないか」という空気になっていた、というのが最初の状況でした。
私が現地を一周して感じたのは、「この建物は、全面に足場を建てる必要はない」ということでした。道路に面した2面はタイルの浮きや下地のひび割れが多く、ここは足場を組んで面でしっかり直したほうがよい。一方、隣の建物とわずかしか離れていない残りの面は、そもそも足場を建てるのが難しいうえに、劣化は塗膜の傷み程度で、ロープアクセスで十分に対応できる状態でした。
そこで、足場を建てる範囲を建物の半分ほどに絞り、残りをロープアクセスで仕上げるハイブリッドの形に組み替えました。結果として、仮設まわりの費用がまとまった額で圧縮され、当初「次回に先送り」となりかけていた屋上防水まで、今回の予算の中に収めることができました。理事長さまに「先送りせずに全部やれるとは思わなかった」と言っていただけたのは、今でもよく覚えています。
念のため申し添えますが、これは「どの建物でも同じだけ下がる」という話ではありません。この建物が、たまたま「足場を減らせる条件」を備えていたということです。逆に言えば、その条件を見抜けるかどうかで、同じ建物の見積書が数百万円単位で変わってしまう。だからこそ、現地をきちんと見たうえでの工法設計が大事なのです。
見積書の2割強は「足場」——ここに見直しの余地がある
大規模修繕の見積書を広げると、多くの方が「塗装や防水の材料費が高いのだろう」と思われます。ところが、内訳を分解すると、意外な項目が大きな比率を占めています。それが仮設工事、なかでも足場です。
国土交通省が実施した「マンション大規模修繕工事に関する実態調査」では、工事費の内訳のうち仮設工事がおよそ2割強(約22.8%)を占めるという結果が出ています。建物形状によってはさらに比率が上がり、超高層クラスでは仮設が約3割に達する例もあります(出典:国土交通省「マンション大規模修繕工事に関する実態調査」)。
考えてみれば当然の話です。建物をぐるりと足場で囲うには、大量の鋼材を運び、組み、養生シートを張り、工事が終われば今度は解体して運び出す。足場は、それ自体が壁を1ミリも直してくれるわけではないのに、材料費と、組み立て・解体という手間のかかる人件費がまるごとかかります。そして前章で見たとおり、その人件費こそが今、14年連続で上がり続けている部分なのです。
つまり、建設費高騰の逆風を最も強く受けているのが、この「直接は建物を直さない足場」だとも言えます。ならば、ここを建物ごとに見直すことが、コスト最適化の一番の勘所になります。私はこれを、必ず最初にお客さまと確認するようにしています。
足場をかけない選択肢——ロープアクセス(無足場工法)
そこで登場するのが、ロープアクセス工法です。これは、屋上などから垂らした産業用のロープに、訓練を受けた技術者がぶら下がって作業する、足場を組まない工法です。ビルの窓ガラス清掃で職人がロープで降りているのをご覧になったことがあるかと思いますが、あの技術を、塗装・防水・タイル補修・シーリング打ち替えといった修繕工事に応用したものと考えていただくと分かりやすいです。
ロープアクセスの利点は、そのまま足場の弱点の裏返しになります。
- 足場の材料費・組立解体費が原則かからないため、条件が合えば仮設のコストを大きく圧縮できます
- 足場の組立・解体の日数が不要なので、工期そのものが短くなる傾向があります
- 建物の周囲を足場と養生シートで覆わないため、日当たり・視界・防犯面での居住者や利用者への影響が小さい
- 部分的な補修や、一部の面だけを直したい場合に、必要な箇所だけピンポイントで対応できる
ホテルで言えば、「営業を止めずに、気になる面だけを直したい」というニーズにロープアクセスは非常に向いています。マンションでも、「洗濯物が干せない」「ベランダに他人が上がってくるのが不安」という足場工事中の生活ストレスを、大幅に減らせます。
冒頭のホテル改装のニュースに引きつけて言えば、客室を開けながら外装だけを直したいホテルにとって、足場で建物全体を覆って何か月も“工事中”の見た目になるのは、それ自体が営業上の損失です。無足場で必要な面だけを直せる工法の価値は、こういう場面でこそ効いてきます。
私は、ロープアクセスによる工事を、足場工事よりも安価に行える可能性が高い建物では、必ず選択肢として提示するようにしています。詳しくはロープアクセス工法のご紹介のページにもまとめていますので、あわせてご覧ください。
ただし、ロープアクセスが「常に正解」ではない
ここは正直に申し上げなければなりません。ロープアクセスは万能ではありません。両論併記でお伝えするのが、私の信条です。
ロープアクセスが不向き、あるいは足場のほうが適しているケースには、たとえば次のようなものがあります。
- 大量の下地補修が全面に必要な場合:コンクリートのひび割れやタイルの浮きが建物の広い範囲に及んでいると、ロープでの1点ずつの作業より、足場を組んで面で一気に進めるほうが結果的に早く、安くなることがあります
- バルコニー内部や複雑な入り組んだ形状:ロープを垂らして届きにくい部位が多い建物では、足場のほうが作業性が高い
- 屋上に安全にロープを固定できる支点が取れない場合:構造上の制約でロープアクセスそのものが成立しないこともあります
大切なのは、「足場かロープか」を白黒で決めつけないことです。工法は目的ではなく手段であり、建物の状態・形状・工事範囲によって最適解は変わります。「ロープアクセスありき」で提案してくる会社があれば、それは足場ありきの会社と、方向が違うだけで同じ危うさをはらんでいる、と私は考えています。
私が一番おすすめしている「ハイブリッド工法」
では、実務で私が最も多くご提案しているのは何かというと、足場とロープアクセスを部位ごとに使い分ける「ハイブリッド工法」です。
たとえば、下地補修が集中する一部の面や、作業が込み入る低層部・バルコニー側は足場を架け、平坦で補修の少ない高層部や、足場を建てにくい隣地ギリギリの面はロープアクセスで対応する。こうして「足場を建てる範囲」を必要最小限に絞り込むことで、仮設コストを削りながら、品質と安全性はしっかり確保します。
3つの工法を、私なりに整理するとこうなります。
| 工法 | 仮設コスト | 工期 | 居住者・利用者への影響 | 向いている建物 |
|---|---|---|---|---|
| 通常足場工法 | 高い(工事費の2〜3割) | 長め(組立・解体日数が必要) | 大きい(建物全体を覆う) | 全面的な下地補修、複雑形状、低中層 |
| ロープアクセス(無足場) | 低い | 短め | 小さい | 補修が限定的、高層、足場架設が困難な面 |
| ハイブリッド | 中(足場範囲を最小化) | 中 | 中 | 大規模・複雑で、部位ごとに条件が異なる建物 |
数字の感覚で言えば、仮に工事費の25%が足場だとして、そのうち半分の面を無足場に切り替えられれば、単純計算で工事全体の1割前後の圧縮につながる可能性があります。5,000万円の工事なら数百万円規模の差です。もちろん建物ごとに条件は変わりますので、これはあくまで「見直す価値がある大きさだ」という体感としてお受け取りください。
この3つを、建物を実際に見たうえで最適に組み合わせて提案できる会社は、日本でもまだ多くありません。私たちが足場もロープアクセスも自前で扱えるようにこだわってきたのは、「持っている工法の側に、建物を合わせてしまわない」ためです。手前味噌になりますが、この考え方は大規模修繕工事のご紹介のページの根っこにある思想でもあります。
工期が短いことは、住む人にも、資産にも効く
コストの話が続きましたので、もう一つ、お金の額面には表れにくい価値についてもお伝えしておきます。それは「工期の短さ」がもたらすものです。
足場を建てる範囲を絞れば、その分だけ工事にかかる日数も短くなります。これは単に「早く終わって嬉しい」という話にとどまりません。マンションであれば、足場と養生シートに囲まれて暮らす期間が短くなり、洗濯物が干せない、窓が開けにくい、日当たりが悪いといった生活のストレスが減ります。防犯面の不安を口にされる住民の方も多く、その期間が短いこと自体が、住む人の安心につながります。
賃貸物件やホテルであれば、工期の短さはそのまま収益に直結します。足場で覆われて「工事中」に見える期間が短ければ、入居者や宿泊客に与える印象も違いますし、営業を止めずに進められれば、その間の家賃や宿泊収入を失わずに済みます。私はよくオーナーさまに、「工期の1か月は、家賃の1か月でもあるのです」とお伝えしています。
資産価値の観点でも同じです。適切な時期に、住む人・使う人への影響を抑えながら計画的に修繕できている建物は、外から見ても手入れが行き届いて見えます。この「きちんと管理されている」という印象こそ、長い目で見た資産価値を静かに支えてくれるのです。
「高品質なのに、なぜ抑えられるのか」という質問へ
工法の話をすると、必ずと言っていいほど「無足場だと品質が落ちるのでは」「安いのには裏があるのでは」というご心配をいただきます。もっともなご懸念ですので、ここも正直にお答えします。
まず品質について。ロープアクセスは、決して“簡易な工法”ではありません。高所でロープに身を預けて作業する以上、技術者には相応の訓練と資格が求められ、安全管理も足場工事とは別の厳しさがあります。むしろ、きちんとした技術者が施工するロープアクセスは、1点ずつ手の届く距離で建物と向き合うため、劣化を近くで見極めながら丁寧に直せるという強みがあります。
そして「なぜ抑えられるのか」について。私たちの場合、塗装・防水・タイル・シーリング・電気・看板といった各分野の専門職が一つのネットワークとしてつながっている点が大きいと考えています。中間に何社も入って手数料が積み重なる構造ではなく、それぞれの専門職が直接、得意分野を担う。だから「高品質を保ちながら、無駄なコストを乗せない」ことが可能になります。足場費という“建物を直さない費用”を建物ごとに見直すのも、突き詰めればこの「無駄を乗せない」という同じ発想の延長線上にあります。
安さのために品質を削るのではなく、そもそも要らないコストを見つけて外す。私が20年やってきて一番大事にしているのは、この順番です。
高騰局面で、オーナーと管理組合が今できる3つのこと
では、値上がりが止まらないこの局面で、具体的に何から動けばよいのか。私がよくお伝えしている3つを挙げます。
1. 長期修繕計画の金額前提を、最新の相場で見直す
数年前に作った計画のままだと、想定金額が実勢とずれています。まずは「今の相場ならいくらか」を一度あててみる。国土交通省の実態調査は、適正な見積りかどうかを管理組合が判断するための指標として公開されていますので、素人の方でも“ものさし”として使えます。
2. 相見積もりのときに「工法の選択肢」を必ず聞く
金額だけを3社並べて比べるのではなく、「うちの建物は足場・ロープ・ハイブリッドのどれが向いていて、それはなぜか」を各社に説明してもらってください。理由をきちんと語れる会社かどうかで、力量はかなり見えます。
3. 先送りしそうな部位こそ、劣化の進行を確認する
予算の都合で削りたくなる防水や外壁の補修ほど、放置すると次回の金額を跳ね上げます。「今やる」「次に回す」を決める前に、その部位が今どういう状態かだけは、専門家に見てもらってから判断してください。
戸あたり数万円の判断の遅れが、数年後に戸あたり数十万円の差になって返ってくる——これは私が現場で何度も見てきた、嘘偽りのない現実です。
積立金が足りないと分かったとき、現実的にどう動くか
「相場を見直したら、やっぱり積立金が足りなかった」。これは今、多くの管理組合が直面している現実です。値上がり局面では、決して珍しいことではありません。ここで慌てて「一律で工事を削る」判断に走る前に、私が整理していただきたい順番があります。
第一に、工法の見直しで削れる分を先に洗い出すこと。前章までにお伝えしたとおり、足場の範囲を建物ごとに最適化するだけで、品質を落とさずに総額を圧縮できる可能性があります。「削る」の前に「無駄を外す」を先にやる。順番を逆にすると、本来やるべき補修まで削ってしまいがちです。
第二に、工事の優先順位を「劣化の進行スピード」で並べ替えること。同じ「先送り候補」でも、放置すると急速に悪化して次回の費用を跳ね上げる部位(防水・シーリング・鉄部のさびなど)と、比較的ゆっくり進む部位があります。財布の都合だけで機械的に削るのではなく、「今やらないと高くつく順」に並べ替えると、限られた予算の効き目が大きく変わります。
第三に、それでも足りなければ、資金計画そのものの相談へ。修繕積立金の見直しや、公的な融資・助成の活用など、選択肢はいくつもあります。ここは専門的な話になりますので、工事の前段階として、早めに情報を集めておくことをおすすめします。
いずれにせよ、「足りない=諦める」ではありません。順番を間違えなければ、打てる手はまだ残っています。
よくいただくご質問
Q. ロープアクセスにすれば、必ず足場より安くなりますか?
いいえ、必ずとは言えません。補修が全面に及ぶ建物では足場のほうが安くなることもあります。だからこそ、現地を見たうえでの判断が欠かせません。
Q. 高層マンションでも対応できますか?
はい、むしろ高層で足場架設が難しい建物ほど、ロープアクセスやハイブリッドの利点が出やすい傾向があります。ただし屋上に安全な支点が取れることが前提です。
Q. 工事中も部屋で普段どおり生活できますか?
足場を建てない範囲では、日当たりや視界への影響が小さく、生活ストレスをかなり抑えられます。ホテルであれば営業を続けながらの部分改修もしやすくなります。
Q. ホテルやビルでも、マンションと同じ考え方でいいですか?
基本は同じです。むしろ営業を止めたくないホテルや、テナントが入っているビルほど、足場で全体を覆わずに済むロープアクセスやハイブリッドの価値が大きくなります。稼働を続けながら、気になる面から直していく、という進め方がしやすくなります。
Q. 見積書のどこを見れば「足場が高すぎる」と分かりますか?
まず「仮設工事」や「共通仮設・直接仮設」という項目の金額と、それが総額に占める割合を確認してください。目安として2〜3割を大きく超えている場合や、足場の範囲を建物全体で一律に計上している場合は、「本当に全面に足場が必要か」を一度質問してみる価値があります。理由をきちんと説明できる会社かどうかも、そこで見えてきます。
Q. まず何から相談すればいいですか?
「工事を発注する」前提でなくて構いません。長期修繕計画の金額が今の相場に合っているか、という整理だけでもお力になれます。
おわりに——工法は、建物に合わせるもの
建設費は10年で約3割、職人の単価は14年連続で上がりました。この流れは、私たち一社の努力で止められるものではありません。けれど、「上がったから諦める」でも「言い値で受け入れる」でもない、第三の道は確かにあります。それが、工事費の2割強を占める足場を、建物ごとに賢く見直すという発想です。
私はいつも理事長さまやオーナーさまに、「足場ありきでもロープありきでもなく、この建物にとって一番いい組み合わせを一緒に探しましょう」とお伝えしています。工法は目的ではなく、資産価値を守るための手段だからです。
修繕積立金や長期修繕計画の前提を見直すだけでも、打てる手はあります。ご相談だけでも遠慮なくお声がけください。総会の前段階の整理だけでも、お力になれることがあります(お問合せフォームはこちら)。
次回も、現場で本当に使える話だけをお届けします。
出典・参考資料
- 国土交通省「建設工事費デフレーター」
- 国土交通省「令和8年3月から適用する公共工事設計労務単価について」
- 国土交通省「マンション大規模修繕工事に関する実態調査」


