
2026年8月23日 更新
この記事で答える質問
「大規模修繕の決議が総会で通らない」という悩みは、2026年4月に施行された改正区分所有法で本当に解決するのでしょうか。そして、決議のルールが変わったあと、管理組合とオーナーは何から手をつければよいのでしょうか。
株式会社明誠の本間です。建設・改修の現場に20年以上関わってきて、私が一番悔しい思いをするのは、劣化がはっきり見えている建物なのに「決まらない」まま季節がひとつ、ふたつと過ぎていく場面です。
外壁のタイルが浮いている。屋上の防水が切れかけている。理事の皆さまも分かっている。それでも総会で議案が通らない。理由は反対多数ではなく、「欠席が多くて、賛成が過半数に届かなかった」。これが、私がこの十数年、いくつもの管理組合で見てきた現実でした。
その前提が、2026年(令和8年)4月1日に変わりました。老朽化マンション等の管理及び再生の円滑化等を図るための建物の区分所有等に関する法律等の一部を改正する法律(令和7年法律第47号)のうち、区分所有法・被災区分所有法の改正部分が施行されたためです(出典:法務省「老朽化マンション等の管理及び再生の円滑化等を図るための建物の区分所有等に関する法律等の一部を改正する法律について」)。
施行から、この記事を書いている2026年8月23日でおよそ4か月半。秋の理事会シーズンを前に、「何がどう変わったのか」を一次情報だけで整理し、そのうえで現場の人間として「では工事はどう動かすか」をお話しします。正直に申し上げます。この改正は「決めやすくする」改正であって、「お金を増やす」改正ではありません。そこを取り違えると、次の総会で別の壁にぶつかります。
結論:変わったのは「母数」と「ハードルの高さ」の2点
先に結論を申し上げます。大規模修繕に直結する改正は、大きく2系統です。
- 決議の母数が「全区分所有者」から「集会(総会)の出席者」に変わった(建替えなど区分所有権の処分を伴う決議を除く)
- 共用部分の変更決議は原則3/4のままだが、外壁剥落のおそれなど一定の事由があるときは、その除去に必要な範囲で2/3に引き下げられた
この2つだけでも、実務の景色はかなり変わります。法務省が公表している資料には、次のような例が図示されています。従来は賛成2/5で否決だったケースが、改正後は同じ賛成票数で「賛成2/3」となり可決される、というものです(出典:法務省「区分所有法・被災区分所有法の改正について」(令和8年4月))。
決議要件の新旧比較(大規模修繕に関係する部分)
| 決議事項 | 改正前の母数 | 改正前の割合 | 改正後の母数 | 改正後の割合 |
|---|---|---|---|---|
| 共用部分の管理等(普通決議) | 全区分所有者及び議決権 | 過半数(規約で別段の定め可) | 出席区分所有者及びその議決権 | 過半数(規約で別段の定め可) |
| 共用部分の変更(特別決議) | 全区分所有者及び議決権 | 4分の3(区分所有者の割合のみ規約で過半数まで引下げ可) | 出席区分所有者及びその議決権 | 4分の3(規約で過半数まで引下げ可)。一定の事由があるときは3分の2 |
| 共用部分の復旧 | 全区分所有者及び議決権 | 4分の3 | 出席区分所有者及びその議決権 | 3分の2 |
| 規約の設定・変更・廃止 | 全区分所有者及び議決権 | 4分の3 | 出席区分所有者及びその議決権 | 4分の3 |
| 建替え | 全区分所有者及び議決権 | 5分の4 | 所在等不明者を除く区分所有者及び議決権 | 5分の4。一定の客観的事由があるときは3/4 |
(出典:法務省「区分所有法・被災区分所有法の改正について」(令和8年4月)の「決議の多数決要件の緩和に関する対照表」をもとに作成)
ここでいう「一定の事由」とは、共用部分の設置または保存に瑕疵があることによって他人の権利や法律上保護される利益が侵害され、または侵害されるおそれがある場合と、高齢者・障害者等の移動や施設利用の利便性・安全性を向上させるために必要な場合(バリアフリー化)です。前者の具体例として、法務省の資料は耐震性の不足、火災に対する安全性の不足、外壁等の剥落により周辺に危害を生ずるおそれ、給排水管等の腐食等により著しく衛生上有害となるおそれ、を挙げています。
つまり、「外壁が落ちるかもしれない」という状態が確認できれば、共用部分の変更決議のハードルは3/4から2/3に下がり得る。これは、私たちのような外壁改修を生業にしている側から見ると、かなり大きな変化です。
ただし、ここは正確に理解しておく必要があります。引下げの対象は、その事由に対応するために必要となる共用部分の変更と解されます。「外壁に浮きがあるから、大規模修繕の議案が丸ごと2/3で通る」という意味ではありません。美観目的のグレードアップや、共用部のリニューアルまでを一括りにした議案であれば、原則どおり3/4が必要になる可能性があります。議案をどう切り分けるかが、実務上の要になります。
なお、改正後は規約で共用部分の変更の多数決割合を過半数まで引き下げることも可能になりました(改正前は区分所有者の割合のみ引下げ可)。2/3ルールより射程が広い緩和ですので、規約の見直しをする際は、あわせて検討する価値があります。
ここからが本題です。 順に見ていきます。
なぜ改正されたのか──「2つの老い」を数字で押さえる
制度の理屈を理解するには、背景の数字を押さえるのが一番早い、というのが私の経験則です。法務省の資料には、次のようなデータが並んでいます。
建物の老い:築40年以上が20年で約3.3倍に
- 分譲マンションのストック総数は約713.1万戸(2024年末時点の推計)
- うち旧耐震基準のストックは約103万戸
- 令和2年国勢調査の1世帯当たり平均人員2.2人を掛けると約1,570万人(法務省資料の表記は「約1,600万人」)、国民の1割超が居住している推計
- 築40年以上のマンションは全体の約2割。同資料のグラフでは、2014年末48.5万戸 → 2024年末148万戸 → 2034年末293万戸 → 2044年末483万戸と推移し、10年で約2倍、20年で約3.3倍になる見込み
(出典:法務省「区分所有法・被災区分所有法の改正について」(令和8年4月))
居住者の老い:築40年超では55%の住戸で世帯主が70歳以上
そして、建物が古くなるほど、住んでいる人も高齢化します。国土交通省の令和5年度マンション総合調査によると、世帯主が70歳以上の住戸の割合は完成年次別に次のとおりです。
| 築年数の区分 | 世帯主が70歳以上の住戸の割合 |
|---|---|
| 築10年未満 | 9% |
| 築10年以上20年未満 | 15% |
| 築20年以上30年未満 | 19% |
| 築30年以上40年未満 | 35% |
| 築40年以上 | 55% |
(出典:国土交通省「令和5年度マンション総合調査の結果について」)
築40年を超えると、半数以上の住戸で世帯主が70歳以上。ここに、相続で持ち主が変わったまま連絡先が更新されていない住戸、投資用として買われて所有者が海外にいる住戸、3か月以上の空室が加わります。同調査では、昭和59年(1984年)以前完成のマンションのうち、3か月以上の空室が「0%」と答えた管理組合は32.1%にとどまり、残りは何らかの空室を抱えていました。
この状態で「全区分所有者の過半数」を取るのは、率直に言って難しい。反対されているのではなく、届かない・返ってこない・返す人がいない。だから決まらない。改正法は、この「無関心と不在による否決」を解消することを狙ったものです。
変更点①:決議の母数が「出席者」になった
「出席者」には委任状・議決権行使書も含まれる
改正区分所有法第39条第1項では、集会の議事は、区分所有法または規約に別段の定めがない限り、出席した区分所有者及びその議決権の各過半数で決するとされました。共用部分の変更(第17条第1項)も同様に、母数が出席者になっています。
ここでの「出席者」には注意点があります。法務省の資料は、議決権行使書や委任状により議決権を行使した者を含むと明示しています。つまり、当日会場に来た人だけではありません。書面やオンライン、委任状で意思表示をした人はすべて母数に入ります。
一方で、特別決議には定足数が設けられました。共用部分の変更は改正区分所有法第17条第1項、規約の設定・変更・廃止は同法第31条第1項に、それぞれ定足数が置かれています。いずれも区分所有者の人数と議決権のそれぞれについて過半数の出席が必要です。ここが実務でつまずきやすいところで、多くのマンションが使っている国土交通省のマンション標準管理規約(令和6年6月7日改正時点)は定足数を「半数以上」と定めていました。「半数以上」と「過半数」は違います。ちょうど半数の場合、「半数以上」なら満たしますが、「過半数」は満たしません。
法務省の資料も、この点を「注意が必要」として明記しています。
改正区分所有法31条1項では、定足数について議決権だけでなく区分所有者(組合員)の人数の要件も設けられている。それぞれの定足数は「過半数」であり、現行規約の「半数以上」とは異なる(「過半数」の場合、半数ちょうどは含まれない)ことに注意が必要
(出典:法務省「区分所有法・被災区分所有法の改正について」(令和8年4月))
私はいつも理事長さまに、「決議要件が緩くなった話より先に、定足数の話を確認してください」とお伝えしています。緩和ばかりが報道されますが、入口の定足数はむしろ厳格化されたのが実態です。
「出席者多数決」で何が変わるか──60戸のマンションで試算
数字の体感を持っていただくために、60戸・議決権も60(1戸1議決権)のマンションを例に考えてみます。あくまで単純化した計算例です。
| ケース | 出席(書面・委任状含む) | 賛成 | 改正前の判定(母数60) | 改正後の判定(母数=出席者) |
|---|---|---|---|---|
| 普通決議(工事の実施) | 36 | 24 | 24/60=40% → 否決 | 24/36=66.7% → 可決 |
| 特別決議(共用部分の変更・原則) | 40 | 30 | 30/60=50% → 否決 | 出席40 ≧ 定足数31 を満たし、30/40=75% → 可決 |
| 特別決議(外壁剥落のおそれあり・2/3) | 32 | 22 | 22/60=36.7% → 否決 | 出席32 ≧ 定足数31 を満たし、22/32=68.8% → 可決 |
改正前は「欠席=反対」と同じ扱いになっていたものが、改正後は母数から外れる。同じ賛成票でも結果が変わることが分かると思います。
ただし、3つ目のケースは出席32で、定足数31(区分所有者・議決権の各過半数)をぎりぎり満たしているにすぎません。もし出席が30以下だったら、賛成率がいくら高くても特別決議そのものが成立しません。出席率を上げる努力が不要になったわけではない、というのがここでの結論です。
変更点②:外壁剥落のおそれがあれば、共用部分の変更は2/3
大規模修繕に一番効くのが、この改正だと私は考えています。
2/3に下がるのはどんなときか
改正区分所有法第17条第1項・第5項により、共用部分の変更決議の原則的な多数決割合は3/4のまま維持されつつ、次の事由がある場合には2/3に引き下げられました。
- 共用部分の設置または保存の瑕疵により、他人の権利もしくは法律上保護される利益が侵害され、または侵害されるおそれがある場合
– 法務省の例示:耐震性の不足、火災に対する安全性の不足、外壁等の剥落により周辺に危害を生ずるおそれがあるとき、給排水管等の腐食等により著しく衛生上有害となるおそれがあるとき など - バリアフリー化のために必要な場合
– 法務省の例示:階段しかない5階建てのマンションにエレベーターを設置する など
あわせて、共用部分の復旧決議の多数決割合も2/3に引き下げられました。
「おそれがある」ことを、どう示すか
ここで実務的に重要なのは、「外壁剥落のおそれがある」ことを、誰がどう認定するのかという点です。法務省の資料は具体的な認定手続を定めているわけではなく、「共用部分の設置又は保存に瑕疵があることによって他人の権利若しくは法律上保護される利益が侵害され、又は侵害されるおそれがある場合」という要件を示しているにとどまります。個別の事案でどう判断されるかは、最終的には裁判所の判断になり得る領域です。
だからこそ、客観的な調査記録が要になります。私の経験上、これは「議案書の説得力」の問題であると同時に、「後から争いになったときに残るもの」の問題です。
- 建築基準法第12条に基づく定期調査報告の指摘事項
- 打診調査・赤外線調査の記録(浮きの位置・面積・進行度)
- 剥落した破片の写真、落下位置、通行動線との関係
- 過去の補修履歴と再発の有無
このあたりを揃えたうえで議案化すると、「2/3でよい理由」を理事会が自分の言葉で説明できるようになります。私はこれを、必ずワンセットで提案するようにしています。
なお、ここで一点、誤解が生まれやすいので付け加えます。多数決要件が下がることと、工事の必要性が高いことは別問題です。「2/3で通るから」を理由に議案を組むのは順序が逆で、まず劣化の実態があり、その結果として要件が下がる、という順番です。
変更点③:所在等不明区分所有者を母数から外せる
裁判所の裁判が前提。名簿の整備が手続コストを左右する
改正区分所有法第38条の2により、裁判所が認定した所在等不明区分所有者を、すべての決議の母数から除外する制度が創設されました。所在等不明区分所有者は、集会における議決権を有しないこととされます。
法務省の資料は、「所在等不明区分所有者」を必要な調査を尽くしても氏名等や所在が不明な区分所有者と定義し、次のような例を挙げています。
- 住民票など通常アクセスし得る公簿上の住所等を調査しても所在が明らかでない場合
- 区分所有者が死亡しているが、調査をしてもその相続人の存否が不明である場合
これは建替え決議の母数にも及びます。前掲の対照表のとおり、建替え決議は「所在等不明者を除く区分所有者及び議決権の5分の4」となりました。
ポイントは、裁判所の裁判が必要だということです。管理組合が独自に「あの人は不明だから外す」と判断できる制度ではありません。裁判手続が前提になる以上、日頃の組合員名簿・居住者名簿の整備が、そのまま手続コストの差になります。令和5年度マンション総合調査では、「組合員名簿、居住者名簿が適切に備えられている」に適合したのは59.4%でした。4割のマンションは、いざというときの入口で足踏みすることになりかねません。
変更点④:招集通知のルールが厳しくなり、規約の一部が無効になる
見落とされがちですが、実務で真っ先に効いてくるのがここです。改正区分所有法第35条により、次の2点が変わりました。
- すべての会議の招集通知において、会議の目的たる事項および議案の要領を示さなければならない(従来は普通決議の招集通知に議案の要領の記載は不要でした)
- 招集通知の発出から集会の会日までの期間は、規約で1週間より短縮することはできない
そして、改正法附則第2条第3項により、施行日(2026年4月1日)以降、改正区分所有法に抵触する規約の規定は効力を失います。
具体例を挙げます。国土交通省のマンション標準管理規約(令和6年6月7日改正時点)第43条第9項には、緊急を要する場合に理事会の承認を得て5日間を下回らない範囲で招集期間を短縮できる旨の規定がありました。法務省の資料は、この規定は改正法に抵触するため、これに則った招集手続はできないと明記しています。少なくとも1週間前に発送する必要があります。
つまり、規約を改正していないマンションでも、法律のほうが優先して規約の一部が無効になっている状態です。「うちはまだ規約を直していないから、当面は今までどおり」ではありません。
国土交通省は、これに対応するためマンション標準管理規約を令和7年10月17日に改正し、単棟型・団地型・複合用途型の3種類を公表しています(出典:国土交通省「マンション標準管理規約」)。管理組合向けの周知用パンフレット「分譲マンション管理組合の皆さん!管理規約の見直しが必要です!」も無償で公開されていますので、理事会資料としてそのまま配れます。
変更点⑤:管理会社が管理者を兼ねるとき、工事発注の説明が義務になった
いわゆる第三者管理方式(管理会社などの外部専門家が管理組合の管理者=代表者に就任する方式)が広がるなかで、工事の受発注に利益相反の懸念があるとの指摘がありました。
改正では、管理業者が管理組合の管理者(代表者)を兼ね、工事等の受発注者となる場合、自己取引等につき区分所有者への事前説明を義務化しています(マンション管理適正化法=正式名称「マンションの管理の適正化の推進に関する法律」平成12年法律第149号。施行日は令和8年4月1日)。
(出典:法務省「改正法の概要(全体・概要版)」、国土交通省「マンション関係法令」)
私はこの改正を、業界の一員として前向きに受け止めています。管理会社が管理者を兼ねること自体が悪いわけではありません。役員のなり手がいない管理組合にとって、現実的な選択肢のひとつです。ただ、「発注する人」と「受注する人」が同じ側にいるなら、金額の根拠は外から見えるようにしておく。それだけの話だと思っています。
オーナーの皆さま、理事の皆さまが確認すべきは、事前説明があるかどうかだけではありません。
- 見積の内訳が、数量×単価で分解されているか(「外壁改修工事一式」で終わっていないか)
- 相見積を取ったのか、取っていないならその理由が説明されているか
- 工法の選択肢が提示されたか、それとも1つの工法しか出てこなかったか
3つ目が、私たちが最もお役に立てるところです。
変更点⑥:管理不全の共用部分を裁判所選任の管理人に管理させる制度と、自治体からの勧告
もうひとつ、外壁に直結する改正があります。改正区分所有法第46条の8から第46条の14により、管理不全の専有部分・共用部分の管理制度が創設されました。区分所有者が共用部分を管理せず放置していることで他人の権利が侵害されるおそれがある場合に、裁判所が選任する管理人に管理させる仕組みです。
法務省の資料は、活用が想定される場面として、「共用部分である外壁が剝落するおそれがある場合」、「共用部分である廊下やテラスに危険物や悪臭を放つゴミが放置されている場合」を挙げています。同様に、所在等不明区分所有者の専有部分に特化した財産管理制度(第46条の2から第46条の7)も新設されました。
さらに行政サイドでは、外壁剥落等の危険な状態にあるマンションに対する報告徴収、助言指導・勧告、あっせん等が措置されました(マンション再生法=正式名称「マンションの再生等の円滑化に関する法律」平成14年法律第78号。令和7年改正で「マンションの建替え等の円滑化に関する法律」から名称が変更されました。およびマンション管理適正化法。施行日は令和7年11月28日)。
法務省の概要資料が掲げるKPI(目標)には、「外壁剥落等の危険なマンションを10年後に概ね解消できる水準」という表現が入っています。あわせて、管理計画認定の取得割合を約3%(令和6年)から20%へ、マンションの再生等の件数を472件(令和6年)から1,000件へ、という数値目標も示されています。
これが何を意味するか。「外壁の劣化を放置している」という状態が、行政の関与を招き得る領域に入ったということです。従来は「管理組合の内部問題」で済んでいたものが、そうではなくなりつつある。ビルやマンションを収益資産としてお持ちのオーナーの皆さまにとっては、資産価値の話であると同時に、管理責任の話にもなってきたということです。
決議は通りやすくなった。でも、お金は増えていない
ここで冷や水を浴びせるようで恐縮ですが、正直に申し上げます。
改正法は「決め方」を変えましたが、「原資」は1円も増やしていません。国土交通省の令和5年度マンション総合調査が示す現実は、かなり厳しいものです。工事費そのものの高騰については大規模修繕の費用高騰は、賃料上昇では埋まらない(2026年8月19日)で、借入で賄う場合の金利負担については大規模修繕の資金は「金利」で目減りする時代へ(2026年8月20日)で、それぞれ詳しく整理していますので、あわせてご覧ください。
| 指標 | 令和5年度の数値 |
|---|---|
| 月/戸当たり修繕積立金の額(平均) | 13,054円 |
| 現在の修繕積立金残高が計画に対して不足していると回答 | 36.6% |
| 不足していない | 39.9% |
| 不明 | 23.5% |
| 長期修繕計画を作成している管理組合 | 88.4% |
| 25年以上の長期修繕計画に基づいて修繕積立金を設定している割合 | 59.8% |
| 長期修繕計画を5年目安で定期的に見直している | 約63%(残る約37%は「定期的には」見直していない) |
(出典:国土交通省「令和5年度マンション総合調査の結果について」)
さらに、管理計画認定制度の認定基準に照らすと、同調査で回答のあった1,589組合のうち基準を満たしていたのは4.8%でした。項目別に見ると、
- 「長期修繕計画の計画期間が30年以上かつ残存期間内に大規模修繕工事が2回以上含まれている」に適合:42.5%
- 「計画期間全体での修繕積立金の平均額が著しく低額でない」に適合:37.4%
なお「約37%」は、まったく見直していないという意味ではありません。修繕工事の直前・直後に見直している組合が相当数を占め、「見直していない」と答えた組合はごく一部です。それでも、5年ごとの定点観測をしていなければ、資材価格や労務費の変動を計画に取り込めないという点は変わりません。
つまり、議案が通る条件は緩くなったのに、通した工事を払える組合は多数派ではない。ここが2026年秋の一番のねじれだと、私は見ています。
そして、この「決議は通るがお金が足りない」局面で起きやすいのが、工事範囲の削り合いです。塗装のグレードを落とす、シーリングの打ち替えを打ち増しに変える、屋上防水を先送りする。どれも一時的には金額が下がりますが、次の周期で戻ってきます。私が現場で20年見てきて、一番もったいないと思うのがこのパターンです。
だから「工法」で総額を下げる──足場・ロープアクセス・ハイブリッド
削るべきは、建物に残る部分ではなく、建物に残らない部分です。
大規模修繕の見積のなかで、工事が終われば跡形もなく消えるものがあります。仮設足場です。建物の規模や形状によりますが、足場の架設・解体・養生・仮設費が総工事費に占める割合は決して小さくありません。ここを圧縮できれば、塗装や防水の仕様を落とさずに総額を下げられます。
明誠が提案できる工法は3つです。
| 工法 | 概要 | 向いているケース | 留意点 |
|---|---|---|---|
| 通常足場工法 | 従来型の仮設足場を架設して施工 | 中低層、複雑な形状、全面的な改修 | 架設・解体の期間とコスト、居住者の防犯・採光への影響 |
| ロープアクセス工法(無足場工法) | 産業用ロープで作業員が壁面に降下して施工 | 高層、足場の架設が難しい立地、部分補修、調査 | 一度に投入できる人数・資機材に制約。全面的な大規模改修では工程設計が要 |
| ハイブリッド工法 | 部位ごとに足場とロープアクセスを使い分ける | 大規模・複雑物件で総合的なコスト最適化が必要なケース | 工程管理の精度が品質を左右する |
ロープアクセス工法の技術的な背景や一般的な安全基準、事例については、姉妹サイトのロープアクセスドットコムに詳しくまとめています。工法の考え方を理事会で共有する際の資料としてもお使いいただけます。
今回の法改正との関係で、私が特にお伝えしたいのは次の2点です。
1. 「外壁剥落のおそれ」の確認は、足場を組まなくてもできる
共用部分の変更決議を2/3で通すには、その前提となる劣化の実態把握が要ります。ところが、「調べるために足場を組む」となると、調査の段階で数百万円が飛び、そこで議論が止まってしまう。これが従来の構造的な問題でした。
ロープアクセスなら、足場を架設せずに近接目視・打診・写真記録まで行えます。高層のビルやマンションでも、常設ゴンドラや仮設足場に頼らずに壁面へアプローチできるため、調査のための初期コストを大きく圧縮できます。「まず調べる」という一歩目のハードルが下がることが、そのまま議案の質につながります。建築基準法第12条の定期報告における外壁全面打診と調査手法の関係については、「10年に一度の外壁全面打診」は足場なしで乗り切れるか(2026年8月22日)で告示・ガイドラインをもとに整理しています。
ただし、正直に申し上げると、万能ではありません。極端に張り出した庇の下や、ロープの支点が取れない構造では、他の手段の併用を検討すべき部位もあります。「うちの建物ではどこまでロープアクセスで見られるか」は、図面と現地を見ないと確定しません。
2. 決議が2/3で通っても、資金が足りなければ「部分補修」から動ける
全面改修の議案が通らない、あるいは通っても着工が先になる。その間に外壁が落ちるリスクは待ってくれません。
ロープアクセスは、浮きが確認された部位だけを狙って、短工期・低コストで先行補修するという動き方ができます。足場を組む工事では「一部だけ直す」が費用的に成立しにくいのですが、無足場ならそれが選択肢になる。大規模修繕の本工事は次年度以降に据えつつ、危険な部位だけ今年のうちに手当てする——という組み立てが可能になります。
このあたりの実務は、ロープアクセス工法のご紹介と大規模修繕工事のご紹介でも整理しています。
現場から:私が理事会でよく聞かれること
制度の話ばかりだと実感が湧きにくいので、この数か月、実際に理事会でいただいた質問を3つご紹介します。個別の物件が特定されないよう、内容は一般化しています。
「法改正を理由に、管理会社から規約改正を急かされている。急ぐべきか」
急ぐ必要があるかどうかは、現在の規約の中身次第です。招集期間を5日に短縮できる規定のように、すでに効力を失っている条項があるなら、実務が混乱する前に直したほうがよいでしょう。一方で、規約を直さなくても改正法は適用されます。焦って総会を1回増やすより、次の定期総会の議案に組み込むほうが、費用も手間も抑えられるケースが多いと感じています。国土交通省が公表している標準管理規約の新旧対照表とパンフレットを、まず理事会で回覧するところからで十分です。
「2/3でよくなったなら、劣化診断はしなくていいのでは」
これは逆だと思います。要件を下げる根拠が診断結果そのものですから、診断の重みはむしろ増しました。それに、診断をせずに議案を出すと、総会で「本当に落ちるのか」と聞かれたときに答えられません。改正後は出席者ベースの決議になった分、その場にいる人を納得させられるかどうかで結果が決まります。写真と数量が入った報告書は、そのための道具です。
「所在不明の住戸が3戸ある。裁判所の手続をすれば、すぐ外せるのか」
「必要な調査を尽くしても不明」であることが前提で、裁判所の裁判が必要です。時間も費用もかかります。私がお勧めしているのは、まず名簿の棚卸しから始めることです。前述のとおり、名簿が適切に備えられている管理組合は約6割にとどまります。連絡が取れないと思われていた住戸のうち何戸かは、単に名簿が古いだけ、ということも珍しくありません。
2026年秋、管理組合とオーナーが確認したい7つのこと
秋の理事会・総会シーズンに向けて、そのまま議題にできる形でまとめます。
- 定足数の条文を確認する — 規約の「半数以上」は、改正法の「過半数」と一致しません。特別決議を予定しているなら、招集前に確認を。
- 招集通知のテンプレートを直す — すべての決議で「議案の要領」が必要になりました。発送は会日の1週間前まで(規約で短縮不可)。
- 組合員名簿・居住者名簿を棚卸しする — 所在等不明者の除外制度を使うにも、使わないにも、ここが起点です。
- 外壁・屋上の劣化状況を客観的な記録として残す — 打診・近接目視・写真。2/3ルールを使う根拠であり、行政対応の備えでもあります。
- 管理会社が管理者を兼ねている場合、工事発注の事前説明の運用を確認する — 内訳・相見積・工法の選択肢が示されているか。
- 長期修繕計画と修繕積立金を、決議の前に突き合わせる — 通ったのに払えない、が一番つらい展開です。定期的な見直しをしていない組合は約37%あります。
- 足場ありき/なしありきで考えず、3工法を比較した見積を1度は取ってみる — 総額の差が、仕様を落とさずに済む余地になります。
よくある質問(FAQ)
Q1. 改正区分所有法はいつから適用されますか。うちの管理規約はまだ古いままです。
A. 区分所有法・被災区分所有法の改正部分は令和8年(2026年)4月1日から施行されています。原則として施行日前に生じた事項にも適用され、既存のマンションにも適用されます。また、施行日以降、改正法に抵触する規約の規定は効力を失います(改正法附則第2条第3項)。規約が古いままでも、法律のほうが優先します(出典:法務省)。
Q2. 大規模修繕工事の決議は、何分の何で通るようになったのですか。
A. 工事の内容によります。共用部分の管理にあたる通常の修繕は出席者の過半数(普通決議)、共用部分の変更にあたる工事は出席者の4分の3が原則です。ただし、外壁剥落のおそれなど一定の事由がある場合、または高齢者等のバリアフリー化に必要な場合は3分の2に引き下げられます。この引下げはその事由に対応するために必要となる変更についてのものと解されますので、工事一式がまるごと2/3になるわけではない点にご注意ください。なお特別決議には、区分所有者・議決権の各過半数という定足数があります。
Q3. 「外壁剥落のおそれ」は誰が判断するのですか。
A. 法令上、特定の機関による認定手続が定められているわけではありません。「共用部分の設置又は保存に瑕疵があることによって他人の権利若しくは法律上保護される利益が侵害され、又は侵害されるおそれがある場合」という要件に該当するかどうかは、個別の事案ごとに判断されることになります。争いになれば最終的には裁判所の判断となり得るため、打診調査・赤外線調査・写真記録などの客観的な資料を揃えておくことが実務的な備えになります。
Q4. 委任状や議決権行使書を出した人は「出席者」に入りますか。
A. 入ります。法務省の資料は、出席者には議決権行使書や委任状により議決権を行使した者を含むと明記しています。したがって、書面での意思表示を集める活動は、改正後もそのまま議決の成否に効いてきます。
Q5. 管理会社が管理者を兼ねている場合、大規模修繕の発注で何が変わりますか。
A. 管理業者が管理組合の管理者を兼ね、工事等の受発注者となる場合、自己取引等について区分所有者への事前説明が義務化されました(マンション管理適正化法、令和8年4月1日施行)。区分所有者の側としては、説明の有無に加えて、見積内訳の粒度、相見積の有無、工法の選択肢が示されているかを確認されるとよいと思います。
Q6. 足場を組まずに外壁の状態を調べることはできますか。
A. ロープアクセス工法(無足場工法)であれば、仮設足場を架設せずに近接目視や打診、写真記録を行えます。高層建物でも常設ゴンドラや仮設足場に頼らずに壁面へアプローチできるため、調査段階のコストを抑えやすくなります。ただし、庇の張り出しやロープの支点条件によっては他の手段の併用を検討すべき部位もあるため、図面と現地の確認が前提になります。
この記事のポイントまとめ
- 改正区分所有法は2026年4月1日施行。既存マンションにも適用され、抵触する規約は失効する
- 決議の母数が全区分所有者から出席者へ。委任状・議決権行使書の提出者も出席者に含まれる
- 共用部分の変更は原則3/4のまま。外壁剥落のおそれ等があれば、その除去に必要な範囲で2/3に引き下げ
- 特別決議には区分所有者・議決権の各過半数という定足数。規約の「半数以上」とは異なる
- 修繕積立金が計画に不足する管理組合は36.6%。決議が通っても原資は増えない
- 総額を下げるなら、建物に残らない仮設費から。3工法の比較が現実的な打ち手になる
執筆者:本間 幸紘(株式会社明誠 代表取締役)
専門領域:マンション・ビル・ホテルの大規模修繕/ロープアクセス工法(無足場工法)/建物長寿命化計画
実務経験:建設・改修業界 20年以上
所属:一般社団法人 全国建設業支援協会(JCSA)
株式会社明誠について:東京都東大和市を拠点に、東京・関東一円でマンション・ビル・ホテルの大規模修繕を手がける改修会社です。通常足場工法、ロープアクセス工法(無足場工法)、両者を組み合わせたハイブリッド工法の3つから、建物にとって最適な工法をご提案します。ロープアクセス工事としては日本で初めてとなるフランチャイズ展開を行っており、塗装・防水・タイル・電気・看板などの専門職が加盟しています。
免責事項:本記事は2026年8月23日時点で公表されている情報をもとに作成しています。法令および制度の運用は変更される場合がありますので、実際の手続にあたっては、所管官庁の最新の公表資料および専門家の助言をあわせてご確認ください。本記事は法的助言を提供するものではありません。
大規模修繕の議案づくりでお困りのことがあれば、お問合せフォームからお気軽にお声がけください。現地調査とお見積りは無料です。総会前の整理だけでも、お力になれることがあります。次回も、現場で本当に使える話だけをお届けします。
出典・参考資料
- 法務省「老朽化マンション等の管理及び再生の円滑化等を図るための建物の区分所有等に関する法律等の一部を改正する法律について」(令和7年7月24日掲載/最終更新 令和8年1月23日)
- 法務省民事局「区分所有法・被災区分所有法の改正について」(令和8年4月)
- 法務省「マンションの管理・再生の円滑化等のための改正法(改正の概要)」
- 国土交通省「マンション関係法令」(令和7年マンション関係法改正関連情報)
- 国土交通省「令和5年度マンション総合調査の結果について」
- 国土交通省「マンション標準管理規約」(令和7年10月17日改正)
- 国土交通省「マンション管理計画認定制度」
- e-Gov法令検索「建物の区分所有等に関する法律(昭和37年法律第69号)」
- 関連リソース:ロープアクセスドットコム(ロープアクセス工法の技術情報・安全基準の解説)


