大規模修繕はロープアクセスが提案可能な東京の明誠へ

創業から6000棟超の施工実績

塗料の値上げは大規模修繕のどこに効くのか|溶剤系20〜35%改定の2026年、管理組合とオーナーが見積書で確認すべき3行【2026年8月】

塗料の値上げは大規模修繕のどこに効くのか|溶剤系20〜35%改定の2026年、管理組合とオーナーが見積書で確認すべき3行【2026年8月】

title: “塗料の値上げは大規模修繕のどこに効くのか|溶剤系20〜35%改定の2026年、管理組合とオーナーが見積書で確認すべき3行【2026年8月】”

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excerpt: “2026年、塗料の値上げが相次いでいます。関西ペイントは溶剤系20〜35%、水性15〜30%。大規模修繕の見積書のどこに、いくら効くのか。国土交通省の366事例データで費用構造を分解し、管理組合とオーナーが今すぐ確認すべき3行を解説します。”


この記事で答える質問:塗料メーカーの値上げは、私たちのマンションやビルの大規模修繕工事費を、いくら押し上げるのか? そして、その分をどこで取り戻せるのか?

2026年に入ってから、塗料の値上げのニュースが立て続けに流れています。理事会でこの話題が出て、「うちの工事、いくら高くなるんだ」と不安になった方も多いのではないでしょうか。

先に結論から申し上げます。塗料そのものの値上げが工事総額に与える影響は、多くの物件で1〜2%程度にとどまります。 一方で、同じ工事費の中には、塗料代よりも大きく、しかも「工法の選び方」で動かせる費目が確実に存在します。そこを知らずに値上げの話だけで慌てるのが、一番もったいない。

私は塗装と改修の現場に20年近くいます。値上げの局面は、これで何度目か分かりません。そのたびに感じるのは、慌てて発注を早めた組合よりも、見積書の中身を3行だけ確認した組合のほうが、結果的に安く、良い工事をしているということです。

この記事では、2026年の塗料値上げを時系列で整理したうえで、国土交通省が公表している実データを使って大規模修繕工事費の中身を分解し、管理組合と賃貸オーナーが今すぐできる確認事項までをまとめます。

最終更新:2026年8月28日


1. 結論|塗料の値上げで動くのは工事費の約1%。効いてくるのは「次の長期修繕計画」

1-1. 先に数字で答えます

Q. 塗料が20〜35%値上げされると、大規模修繕工事費はいくら上がる?

A. 工事総額に対しては、おおむね1〜2%程度と見込まれます。 総額1億円の工事なら、100万〜200万円のレンジです。決して小さくはありませんが、「工事費が2割上がる」という話とはまったく違います。

なぜそうなるのか。理由は単純で、塗料代は工事費のごく一部だからです。大規模修繕工事の費用は、材料費だけでなく、仮設足場、人件費(労務費)、諸経費、設計監理費などで構成されています。塗料はそのうちの「塗装工事の材料費」という、さらに内側の一部にすぎません。

具体的な分解は本文の「4. 大規模修繕工事費の中身を分解する」で、国土交通省が366件の長期修繕計画を集計したデータを使って行います。

1-2. 本当に警戒すべきは「今回」ではなく「次回」

私が理事長さまにお伝えしているのは、こういう話です。

今まさに見積もりを取っている工事については、値上げの影響は限定的です。多くの元請会社は、見積提出時点の単価で一定期間は据え置きます(この「一定期間」が何日なのかが重要で、後述します)。

問題は、5年後・10年後の工事です。長期修繕計画に書かれている修繕工事費の想定単価は、多くのマンションで数年前の相場のまま止まっています。塗料に限らず、シーリング材、防水材、そして労務費が継続的に上がっている以上、計画上の金額と実際の金額の乖離は年々広がります。

国土交通省は「長期修繕計画は5年程度ごとに見直すこと」を推奨しています(出典:国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」令和6年6月改定)。この「5年ごと」が、値上げ局面ではこれまで以上に重い意味を持ちます。

1-3. この記事の要点を3行で

  • 塗料値上げの工事総額へのインパクトは1〜2%程度。慌てて発注を前倒しする理由にはなりにくい
  • ただし長期修繕計画の想定単価は確実に古くなっている。次回の見直しでの上振れに備える必要がある
  • 値上げ分を吸収する余地は「材料の値切り」ではなく「仮設のつくり方」にある

2. 2026年に何が起きたか|主要塗料メーカーの価格改定を時系列で整理

2-1. 一次情報で確認できる改定内容

まず、事実関係を正確に押さえます。噂や又聞きではなく、メーカーが公表している情報に基づいて整理します。

メーカー 対象 改定幅 実施時期 出典
関西ペイント シンナー製品 50%以上 2026年4月2日〜 関西ペイント お知らせ
関西ペイント 溶剤系塗料 20〜35% 2026年6月15日出荷分〜 同上
関西ペイント 水性塗料 15〜30% 2026年6月15日出荷分〜 同上
関西ペイント 粉体系塗料 15〜25% 2026年6月15日出荷分〜 同上
エスケー化研 水性製品 15〜25% 2026年5月11日出荷分〜 2026年4月1日公表
エスケー化研 溶剤製品 20〜30% 2026年5月11日出荷分〜(主力品は4月21日出荷分から先行) 同上
エスケー化研 粉体製品 10〜15% 2026年5月11日出荷分〜 同上
日本ペイント シンナー製品 最大75% 2026年3月19日発注分〜 各社報道

関西ペイントの案内文には、注意して読むべき記述が2つあります。

ひとつは「これまでご注文いただいた製品についても、6月15日出荷分からは価格改定の対象とさせていただきます」という一文。つまり、発注済みでも出荷が改定日以降なら新単価が適用されるということです。工事の着工が遅れた場合、材料費が後から膨らむ可能性がある、という意味になります。

もうひとつは「原材料市況や調達環境の変動状況によっては、追加の価格改定をお願いする場合がございます」という記述。これは2026年内に第2弾がありうる、というメーカー側の予告と読むのが自然でしょう(出典:関西ペイント「中東情勢を背景とした当社製品の価格改定に関するご案内」2026年5月29日)。

2-2. 「運賃は含まない」という但し書き

同じ案内には「本ご案内には運賃改定は含んでおりません」とも書かれています。

これは実務的にはかなり重い一文です。塗料は重量物で、現場までの配送コストが単価に上乗せされます。2024年の物流問題以降、配送コストは全国的に上昇傾向が続いています。塗料本体の値上げ率だけを見ていると、実際の納入単価はもう少し上がるという前提で読んだほうが安全です。

2-3. なぜ「シンナー」の値上げ率が突出しているのか

表を見ると、シンナー(塗料用希釈剤)だけが50〜75%と桁違いです。ここが今回の値上げの震源地です。

シンナーの主原料は、原油を精製して得られるナフサから作られる溶剤類です。塗料本体に比べて原料構成がシンプルなぶん、原油・ナフサ価格の変動がほぼダイレクトに製品価格へ跳ね返ります。塗料本体は樹脂・顔料・添加剤など多様な原料の集合体なので、値上げ率はいくぶんマイルドになる、という構造です。

現場で言えば、溶剤系の塗料を使う工事ほど、今回の値上げの影響を強く受けるということになります。


3. なぜ上がったのか|中東情勢からマンションの外壁まで、4段の連鎖

3-1. 連鎖を1本の線でたどる

管理組合の理事会で「なぜ上がるのか」を説明するとき、私はいつもこの4段で話します。

  1. 中東情勢の緊張 → 原油の供給リスクと海上輸送ルートの不安定化
  2. 原油・ナフサ価格の上昇 → 石油化学製品の原料コストが上昇
  3. 溶剤(シンナー)・樹脂の値上げ → 塗料メーカーの製造原価が上昇
  4. 塗料製品の値上げ → 改修工事の材料費が上昇

関西ペイントは公表文で、「昨今の中東地域における緊張の高まりを背景に、原油・石油化学製品をはじめとする原材料市場や、国際物流を取り巻く環境は依然として極めて不安定な状況が続いております」と説明しています。原材料の代替調達や調達先の多元化を進めたうえで、なお自助努力では対応困難、という順序で書かれている点は、押さえておいてよいでしょう。

3-2. 「値上げは一時的か」を判断する材料

理事会で必ず出る質問が「待てば下がりますか」です。

正直に申し上げます。私には分かりません。 原油価格の見通しを断定できる人は、この業界にはいません。ただ、判断材料としてお伝えしていることが2つあります。

ひとつは、今回の値上げが原料要因だけではないということ。物流費、そして後述する労務費という、原油が下がっても下がりにくい要素が同時に上がっています。仮に原油が落ち着いても、工事費全体が値上げ前の水準に戻る道筋は見えにくい。

もうひとつは、待つことのコストです。外壁のひび割れやシーリングの劣化は、待っている間も進みます。雨水が入れば鉄筋が錆び、コンクリートが押し割られる(爆裂と呼びます)。そこまで進むと、塗装工事ではなく躯体補修工事になり、単価も工期も別次元になります。塗料が2割上がることより、こちらのほうがはるかに怖い、というのが私の実感です。

3-3. 労務費という、もう一本の値上げ

材料の話に隠れがちですが、大規模修繕工事のコストを長期的に押し上げているのは労務費です。

国土交通省は都道府県別・工種別の公共工事設計労務単価を毎年公表しています。大規模修繕工事の主要3工種である「とび工(仮設工事)」「塗装工(塗装工事)」「防水工(防水・シーリング工事)」は、いずれも継続的に上昇してきました。

参考として、令和3年3月から適用された東京都の単価は、とび工27,900円、塗装工29,200円、防水工29,900円(1日あたり)です(出典:国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」資料編)。その後も建設業の担い手不足を背景に、単価は上昇基調が続いています。最新値は国土交通省の公共工事設計労務単価のページでご確認ください。

同ガイドラインも「労務費は建設業の担い手不足や技能労働者の就労環境の変化等により変動する可能性がありますので、必要に応じて上昇分について考慮することも重要です」と明記しています。塗料の値上げは目立つが、静かに効いているのは人件費のほう、というのが現場の実感です。


4. 大規模修繕工事費の中身を分解する|国交省366事例が示す構成比

4-1. 費目別の割合(一次データ)

ここが本記事の核心です。塗料の値上げがどこに、どれだけ効くのかを知るには、まず工事費の内訳を知る必要があります。

国土交通省は「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」で、長期修繕計画作成ガイドラインに概ね沿って作成された長期修繕計画366事例を収集・分析し、修繕工事費の項目別割合を公表しています。

項目 割合
1. 仮設工事 9.0%
2. 屋根防水 6.1%
3. 床防水 6.1%
4. 外壁塗装等 13.6%
5. 鉄部塗装等 3.4%
6. 建具・金物等 9.7%
7. 共用内部 1.1%
8. 給水設備 8.1%
9. 排水設備 5.8%
10. ガス設備 0.3%
11. 空調・換気設備 0.7%
12. 電灯設備等 4.0%
13. 情報・通信設備 4.1%
14. 消防用設備 3.5%
15. 昇降機設備 4.3%
16. 立体駐車場設備 5.2%
17. 外構・附属施設 2.9%
18. 調査・設計・監理 1.9%
19. 長期修繕計画策定 0.2%
その他 10.0%

(出典:国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」令和6年6月改定 資料編、366事例の平均値)

注意点をひとつ。 この割合は「長期修繕計画の計画期間全体」の修繕工事費の内訳であり、1回の大規模修繕工事だけの内訳ではありません。給水設備・昇降機設備など、大規模修繕とは別のタイミングで実施される項目も含まれています。ただ、塗装・防水・仮設の相対的な大きさを掴む材料としては十分に使えますので、以下ではこの数字を目安として使います。

4-2. モデルケースで試算してみる

数字を体感に変えるため、具体的に置いてみます。

モデル:70戸・総専有床面積4,900㎡・1回目の大規模修繕工事費1億円(戸あたり約143万円)

まず、塗装関係の工事費を拾います。

  • 外壁塗装等(外壁修繕・タイル修繕・塗装等を含む):13.6% → 1,360万円
  • 鉄部塗装等:3.4% → 340万円
  • 合計:1,700万円

このうち、塗料そのものの材料費が占める割合はどれくらいか。工事の仕様や下地の状態によって大きく変わりますが、塗装工事費に占める塗料材料費は概ね2〜3割というのが、私が現場で見てきた感覚値です(この比率は公的統計ではなく、あくまで実務上の目安としてお読みください)。

  • 塗料材料費:1,700万円 × 25% = 約425万円

ここに、今回の値上げ幅を当ててみます。仕様の中心が水性か溶剤系かで変わるので、幅で見ます。

想定値上げ率 増加額 工事総額1億円に対する比率
15%(水性中心) 約64万円 約0.6%
25%(混在) 約106万円 約1.1%
35%(溶剤系中心) 約149万円 約1.5%

結論:塗料値上げによる工事総額の押し上げは、概ね0.6〜1.5%のレンジ。 総額1億円なら64万〜149万円です。

戸あたりに直すと、70戸で約9,000円〜21,000円。修繕積立金の月額に換算すれば、30年計画のごく一部の変動です。これが「1〜2%程度」と申し上げた根拠です。

4-3. では、それより大きいのはどこか

同じ表をもう一度見てください。

仮設工事:9.0% → モデルケースで900万円。

塗料材料費の推定425万円に対し、仮設工事はその倍以上です。しかも仮設工事費の中身は、そのほとんどが足場材のリース費と、とび工の人件費、そして養生費です。

つまり、塗料代を1割値切る交渉より、仮設のつくり方を見直すほうが、動く金額は圧倒的に大きい。これが、私が管理組合やオーナーに一番お伝えしたいことです。


5. 塗料値上げは見積書のどこに現れるか|3つの現れ方

5-1. 現れ方①:単価がそのまま上がる(最も健全)

塗装工事の平米単価が、前回見積もりより素直に上がっているケース。これは正直な見積もりです。上がった理由を聞けば説明できる会社であれば、信頼していい相手だと私は思います。

確認すべきは、「どの塗料を、何回塗りで、どのメーカーの何という製品で」という仕様が明記されているかどうか。ここが「外壁塗装一式」で済まされている見積書は、値上げ局面では特に危険です。

5-2. 現れ方②:見積有効期限が短くなる

これは見落とされがちですが、非常に重要です。

先ほど確認したとおり、関西ペイントは「これまでご注文いただいた製品についても、6月15日出荷分からは価格改定の対象」としています。元請会社にとって、材料の仕入単価は発注時点ではなく出荷時点で決まるわけです。

そのため、値上げ局面では見積書の有効期限が30日、あるいはそれ以下に短縮されることがあります。総会での決議に3か月かかる管理組合の場合、決議した頃には見積もりが失効しているという事態が起こりえます。

5-3. 現れ方③:仕様が静かに下がる(最も注意すべき)

金額を据え置いたまま、塗料のグレードだけが下がっているケース。これが一番厄介です。

たとえば、当初提案がフッ素樹脂塗料だったものがシリコン系に、シリコン系がウレタン系に。塗り回数が3回塗りから2回塗りに。下塗り材が指定品から汎用品に。金額が同じなら誰も気づきません。

しかし塗料のグレードは、次に塗り替えるまでの年数を左右します。目安として、ウレタン系で8〜10年、シリコン系で10〜13年、フッ素系で15年前後とされることが多い。仮に13年もつはずの仕様が10年になれば、30年間で塗り替え回数が1回増える可能性があります。その1回分は、今回の値上げ分をはるかに超える金額です。

見積比較の際は、金額の欄より先に、塗料メーカー名・製品名・塗り回数・希釈率の記載を確認してください。


6. 管理組合とオーナーが見積書で確認すべき3行

前章を踏まえ、実務でそのまま使える確認事項に落とし込みます。理事会で配れるように、3つに絞りました。

6-1. 1行目:「見積有効期限」は何日か

確認する場所: 見積書の表紙、または末尾の但し書き。

なぜ見るか: 総会決議までのスケジュールと突き合わせるためです。有効期限30日の見積もりを、3か月後の総会にかけても意味がありません。

どう動くか: 期限が短い場合は、「臨時総会での決議を前提に、この単価で何日まで押さえられるか」を書面で確認してください。多くの会社は、材料を押さえられる範囲で応じてくれます。応じられない場合も、その理由を説明してもらえば、市況の実態が見えてきます。

なお、極端に安い見積もりの読み方については、大規模修繕の見積もりが安すぎる時|倒産リスクを見抜く5つの兆候でも整理しています。

6-2. 2行目:「塗料メーカー名・製品名・塗り回数」が書かれているか

確認する場所: 塗装工事の内訳明細。

なぜ見るか: 前章の「現れ方③」を防ぐためです。仕様が特定されていない見積もりは、比較する意味がありません。

どう動くか: 「外壁塗装 一式」となっている場合は、必ず内訳を出してもらってください。複数社に相見積もりを取るなら、仕様を発注側で固定してから依頼するのが原則です。仕様がバラバラの見積もりを金額だけで比べると、必ず一番安い=一番グレードが低いものが選ばれます。

6-3. 3行目:「仮設工事費」がいくらで、その根拠は何か

確認する場所: 内訳明細の冒頭、仮設工事の項目。

なぜ見るか: モデルケースで見たとおり、仮設工事は工事費の約9%を占め、塗料材料費の推定額を上回る規模です。ここが最も大きく動かせる余地のある費目です。

どう動くか: 「足場の架設面積は何㎡か」「単価は㎡あたりいくらか」「リース期間は何か月で計上されているか」を確認してください。工期が延びれば足場のリース期間も延び、費用は増えます。逆に言えば、工期を短縮できる工法は、仮設費を直接圧縮します


7. 値上げを「工法」で吸収するという発想

7-1. 足場・ロープアクセス・ハイブリッドの3択

私が代表を務める株式会社明誠では、大規模修繕工事の提案にあたって、必ず3つの工法を比較したうえでお出しするようにしています。

工法 仮設コスト 工期 居住者・テナントへの影響 向いている建物
通常足場工法 高い(工事費の1割前後) 標準 目隠しシート・防犯面の負担が大きい 中低層、外壁の劣化が広範囲、複雑形状
ロープアクセス工法(無足場工法) 大幅に圧縮できる 短縮しやすい 窓を塞がない期間が長い 高層、足場架設が困難、部分補修中心
ハイブリッド工法 部位ごとに最適化 部位により短縮 足場設置範囲を限定できる 大規模・複雑形状で総合最適が必要

ロープアクセス工法とは、産業用のロープと下降器を使って、作業員が建物の屋上から吊り下がって施工する無足場の工法です。ヨーロッパの高所作業技術をルーツに持ち、日本でも高層建築の外壁補修や調査で採用が広がっています。ロープアクセス工法の技術的な解説や安全基準の考え方は、姉妹サイトのロープアクセスドットコムに詳しくまとめていますので、仕組みから知りたい方はそちらもご覧ください。

7-2. 「無足場なら必ず安い」は誤りです

ここは正直に申し上げておきます。ロープアクセスが常に安いわけではありません。

外壁の劣化が全面に及んでいて、全面打診・全面塗装が必要な物件では、足場を組んだほうが施工効率が高く、結果的に安くなることは普通にあります。また、バルコニーが深い、庇が張り出している、屋上にアンカーを取れる構造がない、といった条件では、ロープアクセスの適用範囲が限られます。

適しているのは、こういうケースです。

  • 劣化が部分的で、全面足場を組むほどではない
  • 高層で、足場の架設・解体だけで工期と費用が膨らむ
  • 敷地に余裕がなく、隣地との離隔が取れない
  • 店舗やホテルが入っていて、営業を止めたくない
  • 賃貸物件で、足場設置期間中の入居者退去や賃料減額のリスクを避けたい

逆に不向きなケースも明記します。外壁全面の大規模な躯体補修、重量物の搬出入を伴う工事、屋上にロープの支点を確保できない構造。こうした場合は、素直に足場を組むほうが安全で確実です。

だからこそ、私は3工法を並べて提案します。選択肢が1つしかない会社の見積もりは、その1つが最適だから出てきたのか、それしかできないから出てきたのか、発注側からは区別がつきません。

7-3. ハイブリッドという中間解

実務で最も効くのは、この中間解です。

たとえば、劣化の激しい北面と、シーリングの打ち替えが必要な妻壁だけに足場を架け、南面と東西面はロープアクセスで対応する。あるいは、外壁は足場、屋上防水と高所の看板・設備まわりはロープアクセスで並行施工する。

こうすると、足場の架設面積そのものが減り、リース期間も短くなります。前章の「3行目」で確認した仮設工事費が、ここで直接動きます。

モデルケースの仮設工事900万円のうち、仮に3割を圧縮できれば270万円。これは塗料値上げによる増加額(推定64万〜149万円)を上回ります。 数字の桁が違う、という話です。

なお、工法の詳細と施工実績はロープアクセス工法のご紹介、大規模修繕工事全体の進め方は大規模修繕工事のご紹介にまとめています。


8. 長期修繕計画と修繕積立金にどう反映するか

8-1. 修繕積立金の目安(国交省ガイドライン)

値上げの話は、最終的に修繕積立金の話につながります。ここは国土交通省が明確な目安を示しているので、そのまま使えます。

計画期間全体における修繕積立金の平均額の目安(機械式駐車場分を除く/円・㎡・月)

地上階数/建築延床面積 事例の3分の2が包含される幅 平均値
20階未満・5,000㎡未満 235〜430円 335円
20階未満・5,000〜10,000㎡未満 170〜320円 252円
20階未満・10,000〜20,000㎡未満 200〜330円 271円
20階未満・20,000㎡以上 190〜325円 255円
20階以上 240〜410円 338円

(出典:国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」令和6年6月改定

ご自身のマンションの数字を出す計算式は単純です。

Z(円/㎡・月)=(計画期間当初の修繕積立金残高 + 計画期間全体で集める修繕積立金総額 + 専用使用料等からの繰入額総額)÷ 総専有床面積 ÷ 計画期間(月数)

必要な数字はすべて長期修繕計画に載っています。理事会で15分もあれば出せます。

注意点: ガイドライン自身が「目安の範囲に収まっていないからといって、直ちに不適切であると判断される訳ではありません」と明記しています。物件ごとに形状・立地・共用施設が違うためです。あくまで健康診断の基準値のようなもの、とお考えください。

8-2. 段階増額積立方式の「0.6倍以上・1.1倍以内」ルール

令和6年6月の改定で追加された、実務上とても重要な考え方です。

段階増額積立方式における月あたりの徴収金額は、均等積立方式とした場合の月額を基準額として、計画の初期額は基準額の0.6倍以上、計画の最終額は基準額の1.1倍以内とする。

言い換えれば、「最初はうんと安く、最後にドンと上げる」という計画は望ましくない、と国が明示したということです。

しかも、ガイドラインには重要な留意事項が付いています。「工事費高騰等の状況を踏まえた長期修繕計画の見直しにあたって、管理適正化のために現在の修繕積立金額の額を大幅に引上げる等を制限するものではない」。

つまり、今回のような値上げ局面での積立金引き上げは、この0.6〜1.1倍ルールに縛られないという整理です。これは総会での説明材料として、そのまま使えます。

8-3. マンション長寿命化促進税制も確認を

修繕積立金の引き上げを検討するなら、あわせて確認しておきたいのがこの制度です。

マンション長寿命化促進税制は、管理計画認定を受けた一定のマンションで、修繕積立金の額を一定以上に引き上げたうえで大規模修繕工事を行った場合、翌年度分の固定資産税が減額される制度です。減額割合は6分の1から2分の1以下の範囲で市町村(特別区にあっては都)の条例で定められ、参酌基準は3分の1。1戸あたり100㎡相当分までが対象です。

適用には管理計画認定やマンション管理士・建築士による修繕積立金引上証明書の発行など、複数の要件があります。詳細は国土交通省のマンション管理のページで最新の要件をご確認ください。制度は変更される可能性がありますので、実際の判断は必ず公式情報と専門家への確認のうえで行ってください。

8-4. 次の見直しで入れておくべき3つの前提

長期修繕計画の見直しにあたって、私が入れておくことをおすすめしている前提です。

  1. 材料費の上昇を年率で織り込む — 個別の値上げを追いかけるのではなく、一定の上昇率を前提に置く。国土交通省の建設工事費デフレーターには「建築補修」の区分があり、改修工事の物価変動を追う指標として使えます
  2. 労務費の上昇を別枠で見る — 材料と労務は動き方が違います。公共工事設計労務単価の推移が参考になります
  3. 工法の選択肢を計画段階で残す — 「全面足場」を前提に金額を積んでいる計画は、実施時点で工法を変える余地が消えていることがあります

積立金そのものの目減りという観点では、大規模修繕の資金は「金利」で目減りする時代へもあわせてお読みいただくと、資金計画の全体像がつかみやすいと思います。


9. 賃貸オーナーの場合|見るべき数字が管理組合とは違う

9-1. オーナーにとっては「工事費」より「工期×空室リスク」

収益物件をお持ちの方の場合、判断軸が管理組合とは変わります。

分譲マンションの管理組合にとって、大規模修繕は「資産価値の維持」であり、費用は修繕積立金という既に積んだ原資から出ます。一方、賃貸オーナーにとっては、工事期間中の稼働低下が直接キャッシュフローに効きます。

足場を組んで防音・防塵シートで建物を覆えば、日照と通風が落ち、洗濯物が干せず、防犯上の不安も出ます。入居者からの賃料減額交渉や、更新時期の退去につながることは珍しくありません。

仮に月額賃料8万円の部屋が20戸あり、工事期間中の3か月間で2戸が退去し、次の入居まで2か月空いたとします。8万円×2戸×2か月=32万円の機会損失。原状回復費と広告料を加えれば、簡単に50万円を超えます。

これは、前章で試算した塗料値上げの増加額(総額1億円の工事で64万〜149万円)と、同じ桁の話です。オーナーにとっては、材料費の1割より、工期の1か月のほうが重いということがしばしば起こります。

9-2. だから工期が意思決定変数になる

ロープアクセス工法やハイブリッド工法が賃貸物件で選ばれる理由は、単価が安いからではなく、足場の架設・解体期間そのものが不要または短縮できるからです。

一般的な中規模マンションで、足場の架設に1〜2週間、解体に1週間程度。これに加えて、足場が建っている全期間、入居者は窓の外に他人が通る可能性を意識して生活することになります。

部分補修中心の工事であれば、ロープアクセスで施工日数を大幅に短縮できるケースがあります。ただし、これも物件条件次第です。「うちの物件でどちらが有利か」は、屋上の支点条件と劣化範囲を実際に見ないと判断できません。

9-3. 値上げ局面でオーナーがやるべきこと

  • 来年度の修繕予算に、材料費上昇分を明示的に上乗せしておく(丸めた予備費ではなく、根拠のある数字で)
  • 緊急性のある部分補修と、周期的な全面改修を分けて考える。漏水やタイル浮きは待てないが、美観目的の塗り替えは時期をずらせる
  • 複数工法での見積もりを取る。1社1工法の見積もりでは、比較の土俵が作れない

10. 私が現場で見てきたこと

10-1. 「安くなった見積書」が一番高くついた話

数年前、ある管理組合から相談を受けたことがあります。相見積もりを取ったところ、1社だけ2割ほど安い金額を出してきた。その会社に決めるべきか、という相談でした。

内訳を見せていただいて、すぐに分かりました。塗料のグレードが1段階下がり、塗り回数が3回から2回になっていたのです。しかも見積書の表記は「外壁塗装工事 一式」。金額の内訳がなければ、誰も気づけません。

私はその場で、両方の見積書を並べて、10年後・20年後の累計コストを電卓で叩いてお見せしました。塗り替え周期が3年短くなると、30年間で1回分の足場費と塗装費が余分に発生する。試算すると、当初の2割の差は、20年で逆転していました。

現場で20年やってきて、私が一番悔しい思いをするのは、こういう「見えない差」で判断が曲がってしまう場面です。塗料の値上げが話題になる今こそ、金額の欄より仕様の欄を見ていただきたい。

10-2. 足場を組まずに済んだ物件のこと

もうひとつ。高層の賃貸マンションで、外壁の一部にひび割れとシーリングの劣化が見つかった案件がありました。

当初、設計事務所からは全面足場での改修が提案されていました。しかしオーナーさまが一番気にされていたのは、工事費ではなく「入居者に出ていかれること」でした。満室に近い稼働で回っている物件です。

私たちは屋上のパラペットと構造を確認したうえで、劣化の集中している面だけロープアクセスで先行補修し、全面改修は次の周期まで延ばすという段階施工をご提案しました。結果として、その年に足場は1本も組まずに済みました。

これは、たまたま条件が合ったから成立した話です。すべての物件でできることではありません。ただ、「足場ありき」で考えていたら、この選択肢は出てこなかった。それだけは確かです。

10-3. 値上げの局面で、私が理事長さまにお伝えしていること

私はこうお伝えしています。

「値上げのニュースで慌てて発注を早めるより、見積書の3行を確認するほうが、金額としては大きく効きます

有効期限。仕様。仮設費。この3つです。塗料が2割上がったことより、この3行の確認漏れのほうが、最終的な支払額を大きく動かします。


よくある質問(FAQ)

Q1. 塗料が値上げされたので、大規模修繕を前倒しで発注したほうがいいですか?

A. 値上げだけを理由に前倒しする合理性は高くありません。工事総額への影響は概ね0.6〜1.5%程度と試算されるためです。ただし、外壁のひび割れや漏水など劣化が進行している場合は、値上げとは別の理由で早期着手を検討すべきです。詳しくは本文の「1. 結論」をご覧ください。

Q2. 2026年の塗料値上げ幅は具体的にどれくらいですか?

A. 関西ペイントは溶剤系塗料20〜35%、水性塗料15〜30%、粉体系塗料15〜25%を2026年6月15日出荷分から実施しています。シンナー製品は4月2日から50%以上の改定です(出典:関西ペイント)。エスケー化研も5月11日出荷分から水性15〜25%、溶剤20〜30%、粉体10〜15%の改定を行っています。

Q3. 見積書を取り直したら金額が同じでした。安心していいですか?

A. 金額が同じでも仕様が変わっている可能性があります。塗料メーカー名・製品名・塗り回数・下塗り材の指定を、前回見積もりと1行ずつ突き合わせてください。塗料のグレードが下がっていると、塗り替え周期が短くなり、長期では割高になることがあります。

Q4. 無足場のロープアクセス工法にすれば工事費は必ず安くなりますか?

A. いいえ。外壁全面の改修が必要な物件では、足場を組んだほうが施工効率が高く、結果的に安くなることがあります。部分補修中心、高層、敷地に余裕がない、営業や入居を止めたくない、といった条件で有利になりやすい工法です。物件ごとの比較が必要です。ロープアクセス工法の技術的な解説はロープアクセスドットコムにまとめています。

Q5. 値上げを理由に修繕積立金を引き上げると、国のガイドラインに抵触しませんか?

A. 抵触しません。国土交通省のガイドラインは段階増額積立方式について「初期額は基準額の0.6倍以上、最終額は1.1倍以内」という考え方を示していますが、あわせて「工事費高騰等の状況を踏まえた長期修繕計画の見直しにあたって、管理適正化のために現在の修繕積立金額の額を大幅に引上げる等を制限するものではない」と明記されています(出典:国土交通省)。


この記事のポイントまとめ

  • 塗料値上げの工事総額へのインパクトは概ね0.6〜1.5%。慌てた前倒し発注の根拠にはなりにくい
  • 関西ペイントは溶剤系20〜35%、水性15〜30%を2026年6月15日出荷分から実施
  • 国交省366事例では外壁塗装等13.6%、仮設工事9.0%。動かせる余地は仮設側に大きい
  • 見積書で見るべきは3行——有効期限、塗料の製品名と塗り回数、仮設工事費の根拠
  • 賃貸オーナーは工事費より工期と稼働低下のほうが金額インパクトが大きい場合がある

出典・参考資料

※本記事に記載した制度・価格・単価は、記事作成時点で公表されている情報に基づくものです。制度や価格は変更される可能性がありますので、最新の情報は必ず各公式サイトでご確認ください。また、本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務・法務判断については専門家にご相談ください。


最後に

値上げのニュースは不安を煽ります。しかし数字を分解してみると、動いているのは工事費の1%前後で、それより大きい費目が、まだ手つかずで残っていることが分かります。

私はこれを、必ずワンセットでご提案するようにしています。「材料の値上げをどう受け止めるか」と「仮設をどうつくるか」は、同じテーブルで話すべき問題だからです。

見積書の3行を確認するだけなら、理事会で30分もかかりません。それでも判断に迷われるようでしたら、お問合せフォームからご相談だけでも遠慮なくお声がけください。総会の前段階の整理だけでも、お力になれることがあります。

これは私が現場で20年見てきた、嘘偽りのない感想です。次回も、現場で本当に使える話だけをお届けします。


執筆者:本間 幸紘(株式会社明誠 代表取締役)

専門領域:マンション大規模修繕/ロープアクセス工法/建物長寿命化計画

実務経験:建設・改修業界 20年以上

所属:一般社団法人 全国建設業支援協会(JCSA)

株式会社明誠について:東京都小平市を拠点に、東京・関東一円でロープアクセス工法と従来足場工法の両方を提案できる改修会社。日本初のロープアクセス工事フランチャイズを展開し、塗装・防水・タイル・電気・看板工事などの専門職が加盟しています。

最終更新:2026年8月28日