
2026年8月31日 更新
この記事で答える質問
- 建築物防災週間とは何か。今年(令和8年度秋季)はいつからいつまでか。
- この週間中に行われる「防災査察」では、何を見られるのか。査察の対象になりやすい建物はどこか。
- 令和8年の上半期に、国土交通省へ報告された建築物の事故はどんなものだったのか。
- 外壁タイルの剥落や看板の転倒を防ぐために、所有者・管理者は今週何を確認すればいいのか。
- 点検のために、毎回足場を組まなければいけないのか。組まずに診る方法はあるのか。
1. 結論
今週(2026年8月30日〜9月5日)は、国土交通省が定める「建築物防災週間」の期間中です。この期間、全国の特定行政庁(建築主事を置く自治体)が防災査察を行います。査察の対象は、国交省の通知にはっきり書かれています。「定期報告書が提出されていない建築物等を中心に」です。
そして、令和8年の上半期(1月1日〜6月30日)に国交省へ報告された建築物事故6件のうち、5件が「外まわりの落下・転倒」でした。外壁、タイル、笠木、看板、屋根。すべて、私たち大規模修繕の現場が扱う部位です。
この記事では、国交省が令和8年8月10日付で全国の都道府県知事宛に出した通知(国住事防第11号)の原文をもとに、今週のうちにオーナー・管理組合が確認すべき7項目を整理します。あわせて、「点検のたびに足場を組むしかないのか」という長年の悩みに対する現実的な選択肢も示します。
2. 建築物防災週間とは何か──昭和35年から、年2回
建築物防災週間は、火災、地震、がけ崩れ等による建築物の被害や人的被害を防止し、安心して生活できる空間を確保することを目的として、昭和35年(1960年)以来、毎年2回実施されています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 春季 | 毎年3月1日〜3月7日 |
| 秋季(今回) | 毎年8月30日〜9月5日 |
| 令和8年度秋季の実施期間 | 2026年8月30日(日)〜9月5日(土) |
| 根拠通知 | 国住事防第11号(令和8年8月10日、国土交通省住宅局長) |
| 宛先 | 各都道府県知事(管内特定行政庁へも周知) |
| 所管 | 国土交通省 住宅局 建築指導課 建築物事故調査・防災対策室 |
66年続いている取り組みですが、「名前は聞いたことがあるが、自分の建物に何か関係があるのか分からない」という所有者の方がほとんどだと思います。実際、私が現場で管理組合の理事や一棟オーナーの方とお話ししていても、防災週間の話題が出ることはまずありません。
しかし今年の通知を読むと、この週間は「啓発イベント」ではなく「執行の週」に寄ってきていることが分かります。
2-1. 今年の通知に書かれた8つの取組
令和8年度秋季の通知では、以下の8項目が「建築物防災週間における取組」として列挙されています。
- 住宅・建築物の耐震化の促進
- 大規模地震・火災対策の推進等(密集市街地の防災対策、感震ブレーカーの設置促進)
- 狭あい道路に関する課題解決に向けた取組の推進
- 住宅などの窓及びベランダからの子ども転落事故防止
- 建築物及び昇降機等事故の再発防止
- 防災査察の実施
- 住宅・建築物の所有者・管理者に対する広報活動
- 関係部局及び関係団体との連携
このうち、収益不動産オーナーと管理組合が直接影響を受けるのが、5番と6番です。
2-2. 「防災査察」の対象は、はっきり書かれている
通知の「(6)防災査察の実施」には、こうあります。
防災査察の機会を捉えた是正指導については、適正な維持保全による建築物の安全性を確保するため、定期報告書が提出されていない建築物等を中心に、特定行政庁の職員により、現地において建築物等の状況を調査し必要な指導を実施するなどの取組の推進をお願いします。
──国住事防第11号(令和8年8月10日)より引用
読み替えると、こうなります。
「建築基準法第12条の定期報告を出していない建物には、行政職員が現地に来る可能性がある」
ここが今週の実務上のポイントです。定期報告を出しているかどうか、まず確認してください。
3. 令和8年上半期、国交省に報告された建築物事故6件
今年の通知には、別表として「特定行政庁等より報告を受けた建築物及び昇降機等事故一覧」が添付されています。対象期間は令和8年上半期(2026年1月1日〜6月30日)。この6か月間に、全国の特定行政庁から国交省へ報告が上がった建築物事故は、次の6件です。
| 発生年月日 | 発生場所 | 事故の概要 | 人身被害 |
|---|---|---|---|
| 2026年1月11日 | 北海道内 | 1.5m四方の倉庫屋根が飛散した | なし |
| 2026年1月11日 | 北海道内 | 屋上部分にある屋外広告物の一部が剥離し地上に落下した | なし |
| 2026年1月11日 | 北海道内 | 強風により屋根のアルミ笠木(幅約2m、重さ約5kg)が外れ、歩道上に落下した | なし |
| 2026年3月5日 | 栃木県内 | 商業施設敷地内の看板が転倒し、3名が負傷した | 重傷1名・軽傷2名 |
| 2026年5月25日 | 神奈川県内 | 外壁タイル(幅2.5m×高さ2m程度)がモルタル下地ごと剥離し、駐輪場屋根に落下した | なし |
| 2026年6月26日 | 栃木県内 | 建築物の外壁が落下し、通行人2名が負傷した | 軽傷2名 |
※出典:国住事防第11号 別表「特定行政庁等より報告を受けた建築物及び昇降機等事故一覧」(対象期間:令和8年1月1日〜6月30日)
この表を、私はしばらく黙って眺めていました。
6件中5件が、建物の「外まわりの落下・転倒」です。倉庫屋根、屋外広告物、アルミ笠木、看板、外壁タイル、外壁。塗装・防水・タイル・看板──つまり、大規模修繕で扱う部位そのものです。
3-1. 「幅2.5m×高さ2m、モルタル下地ごと」の重さ
2026年5月25日、神奈川県内の事故に注目してください。外壁タイルが「モルタル下地ごと」剥離しています。
タイル1枚が落ちたのではありません。幅2.5m×高さ2m、およそ5㎡の面が、下地のモルタルごと剥がれ落ちた。仮に厚さ25mm、比重2.0で概算すると、重量は250kg前後になります(※厚さ・比重は一般的な想定値による概算であり、実際の重量は仕様により異なります)。
幸い落下先が駐輪場の屋根で、人身被害はありませんでした。しかし、これが1か月後の栃木県の事故のように歩道側だったら、結果は違っていたはずです。実際、6月26日の栃木県の事故では通行人2名が負傷しています。
タイルの浮きは、外から見て分かりません。目視では健全に見える面が、打診してみると「コンコン」と乾いた音を返す。これが浮きです。年に何度も遭遇します。そして浮きは、必ずしも1枚単位では発生しません。下地との界面で面的に進行していることがある。だから「モルタル下地ごと」という記述になるのです。
3-2. 3月5日の看板転倒は「防災週間の最中」に起きた
もうひとつ、見落とせない事実があります。
2026年3月5日に栃木県で起きた看板転倒事故(重傷1名・軽傷2名)について、国交省は別の事務連絡でこう記しています。
建築物防災週間中の令和8年3月5日に栃木県那須町で屋外広告物が転倒し、複数の負傷者が出る事案が発生しました。転倒した屋外広告物は、建築基準法第88条に基づき建築基準法令の規定が準用される工作物(準用工作物)に該当することから建築確認の手続が必要であったところ、その手続が行われておらず、屋外広告物条例に基づく屋外広告物の設置許可申請についてもなされておりませんでした。
──「準用工作物に該当する屋外広告物の建築基準法令への適合及び手続の徹底について」(令和8年3月30日 事務連絡)より引用
防災週間の最中に、無確認の看板が倒れて3人が負傷した。これが今年の春の出来事です。だから秋の通知では、屋外広告物への言及が例年より強くなっています。
自社ビルやテナントビルの屋上・壁面に看板を出しているオーナーの方は、この一件を他人事にしないでください。「その看板、建築確認は取っていますか」という問いに、即答できるでしょうか。
4. 定期報告の「対象」は、静かに広がっている
防災査察が「定期報告未提出の建物」を中心に行われる以上、まず押さえるべきは自分の建物が定期報告の対象かどうかです。
ここで、多くのオーナーが見落としている変更があります。
4-1. 事務所ビルの指定範囲が「階数3以上・200㎡超」まで下りた
令和3年12月17日に大阪市北区で発生したビル火災を契機に行われた緊急立入検査で、比較的小規模な雑居ビル等においても、竪穴区画や直通階段等の建築基準法令違反や不十分な維持管理状態のものが一定数存在することが明らかになりました。
これを受け、建築基準法施行令の一部を改正する政令(令和5年政令第34号)により、特定行政庁が定期調査報告の対象として指定できる範囲が、事務所その他これに類する用途の建築物について見直されました。
| 改正前 | 改正後 | |
|---|---|---|
| 事務所等の指定可能範囲 | 階数5以上 かつ 延べ面積1,000㎡超 | 階数3以上 かつ 延べ面積200㎡超 |
これは「全国一律で対象になった」という意味ではありません。特定行政庁が指定できる範囲が広がったという意味です。指定するかどうかは自治体の判断ですが、国交省は今年の通知でこう求めています。
各特定行政庁におかれては、管内の建築物の建築の動向やその他の事情を勘案しつつ、事務所その他これに類する用途に供する建築物を定期調査報告対象に指定することや、既に指定している場合には指定範囲の拡大について検討するとともに、継続的な違反等の確認及び是正指導に取り組むようお願いします。
──国住事防第11号 別添より引用
つまり、3階建て・延べ200㎡超の小さなテナントビルが、今後お住まいの自治体で定期報告対象になる可能性があるということです。「うちは小さいビルだから関係ない」という前提は、そろそろ更新が必要です。
4-2. 共同住宅も「指定を検討せよ」と書かれている
さらに、賃貸マンション・アパートを持つオーナーにとって重要な一節があります。
各特定行政庁におかれては、管内の建築物の建物の動向やその他の事業を勘案しつつ、共同住宅等を定期報告調査対象に指定することについて検討するとともに、所有者・管理者に対しては、経年劣化による老朽化や損傷が著しい建築物等の適切な維持保全を促し、必要に応じて専門家等に相談するよう、広く働きかけをお願いします。
──国住事防第11号 別添より引用
背景には、実際に起きている事故があります。通知にはこう記されています。
昨今、老朽化や劣化が一要因となり木造共同住宅の屋外階段や煙突、木造のあずまやが倒壊する事故が起こり死傷者が発生しているほか、外壁や庇の落下事故も毎年一定程度発生しています。また、令和7年9月30日には、擁壁及び家屋が倒壊する事案が発生しました。
木造共同住宅の屋外階段の倒壊は、記憶に新しい方も多いはずです。鉄骨階段の腐食も同様で、外階段の踏板の裏側やささら桁の付け根は、外からは絶対に見えません。私たちがロープアクセスで下から覗いて、初めて錆の進行が判明したケースは何度もあります。
5. 外壁:10年ごとの「全面打診等調査」と、足場をめぐる現実
定期報告の中で、大規模修繕と最も密接に関わるのが外壁の調査です。
5-1. ルールの要旨
建築基準法第12条第1項に基づく特定建築物定期調査では、外壁について次の2段構えが求められています(以下は制度の要旨であり、詳細は所管の特定行政庁にご確認ください)。
| 調査の種類 | 頻度 | 内容 |
|---|---|---|
| 通常の定期調査 | おおむね1〜3年ごと(特定行政庁が定める) | 目視・部分打診等による調査 |
| 全面打診等調査 | 10年ごと | 竣工・外壁改修等から10年を超えて最初の調査時に、落下により歩行者等に危害を加えるおそれのある部分について全面打診等 |
「10年ごと」というのは、建物の年齢が10年を超えたら毎回ではなく、10年を経過してから最初の調査の際に全面打診等を行い、以後10年周期で繰り返すという運用です。ここは誤解が多いところなので、所管の特定行政庁または調査資格者に必ず確認してください。
5-2. 「打診のために足場を組むのか」という問題
ここからが本題です。
全面打診は、原則として壁面に手が届く距離まで人が近づく必要があります。タイル面をパルハンマーで叩き、返ってくる音で浮きを判断する。この「音を聴く」作業を、地上から双眼鏡で行うことはできません。
では、どうやって壁面に近づくか。選択肢は主に3つです。
| 方法 | 概要 | コスト感 | 居住者・テナントへの影響 |
|---|---|---|---|
| 仮設足場 | 建物全周に枠組足場を架設 | 大きい(工事費全体の2割前後を占めることが多い) | 大きい(窓が塞がる・防犯上の不安・工期が長い) |
| ゴンドラ・高所作業車 | 屋上から吊るす/地上から伸ばす | 中程度 | 中程度(設置条件・敷地条件の制約が大きい) |
| ロープアクセス(無足場工法) | 産業用ロープで作業員が壁面に降下 | 小さい(足場費が不要) | 小さい(窓を塞がない・準備が短い) |
※足場費が工事費に占める比率は建物形状・階数・敷地条件により大きく変動します。実際の金額は必ず個別見積もりでご確認ください。
打診調査だけのために全周足場を架設する──これは、費用対効果の面で管理組合の総会を通しにくい提案です。実際、「10年目の全面打診が必要なのは分かるが、そのためだけに足場を組む予算がない」という理由で先送りにされているケースを、私は何度も見てきました。
先送りされた結果として起きるのが、5月25日の神奈川県の事故のような剥落です。
5-3. ロープアクセスなら「調査だけ」を単独で発注できる
ロープアクセス工法(無足場工法)を使うと、調査を工事から切り離して単独で発注できるようになります。これが実務上、いちばん大きな違いです。
- 足場を架設しないので、調査だけを短期間・低コストで実施できる
- 調査結果を持って、必要な範囲だけを補修する計画が立てられる
- 「全面やり替え」か「何もしない」かの二択から抜け出せる
私たち株式会社明誠は、通常の足場仮設による工事、ロープアクセスによる無足場工法、そして両者を部位ごとに使い分けるハイブリッド工法の3つを、建物ごとに選んでご提案しています。ロープアクセス工法の詳細と施工事例は、専門サイト「ロープアクセス工法|無足場工法の専門サイト」にまとめています。
ただし、正直に申し上げます。ロープアクセスが常に最適解ではありません。
- 屋上に十分な支点(アンカー・構造体)が確保できない建物
- バルコニーの手すり内側など、ロープでは物理的に届かない部位が多い建物
- 全面的な下地補修・タイル張替えが広範囲に及ぶことが確定している建物
これらの場合は、素直に足場を組んだほうが安全で、結果的に安く上がります。「調査と軽微な補修はロープ、大規模な下地補修は足場」という切り分けができるのがハイブリッド工法で、私たちが最も多くご提案している形です。
5-4. ドローン赤外線調査という選択肢
近年は、ドローンによる赤外線調査を全面打診等の代替手法として活用できる場面も広がっています。この論点については、以前の記事「「10年に一度の外壁全面打診」は足場なしで乗り切れるか|ドローン赤外線調査の告示改正と、2026年に動いた”打診免除”ルールを一次情報で整理」で詳しく整理しました。あわせてご覧ください。
6. 屋根・笠木・看板:強風で飛ぶものは、全部あなたの責任になる
令和8年上半期の事故6件のうち、3件が2026年1月11日の北海道に集中しています。倉庫屋根の飛散、屋上の屋外広告物の剥離落下、屋根のアルミ笠木の落下。同じ日に同じ地域で3件。おそらく強い低気圧による暴風だったのでしょう。
6-1. 屋根瓦:告示109号は令和4年から強化されている
近年の台風被害を踏まえ、瓦の緊結方法に関する告示(昭和46年建設省告示第109号)が改正され、令和4年(2022年)1月1日に施行されています。
今年の防災週間通知には、こう書かれています。
既存の住宅等で屋根の耐風性能が十分でないものは強風時に周囲の建築物に被害を及ぼすおそれがあるため、同告示に基づく強風対策の周知をお願いします。なお、同対策は地震時の屋根瓦の飛散防止としても寄与するものであることも併せて周知をお願いします。
──国住事防第11号 別添より引用
重要なのは次の一文です。
告示基準に適合しない屋根の改修工事については、住宅・建築物安全ストック形成事業等が活用可能ですので、積極的な活用及び周知をお願いします。なお、同事業については、令和7年度補正予算において耐風診断及び耐風改修に係る補助限度額の引き上げを行っています。
耐風診断・耐風改修の補助限度額は、令和7年度補正予算で引き上げられています。補助の有無・金額は自治体ごとに異なるため、必ず所在地の建築部局にご確認ください。
6-2. アルミ笠木:重さ5kg、幅2m、落下先は歩道
2026年1月11日、北海道内で「強風により屋根のアルミ笠木(幅約2m、重さ約5kg)が外れ、歩道上に落下」しています。
笠木は、パラペット(屋上の立ち上がり)の天端に載せる金属のカバーです。防水層の端部を守る、地味だが重要な部材です。そして建物の最上部にあるため、地上からは絶対に見えません。
笠木の固定は、経年で緩みます。シーリングが切れ、下地の木材が腐り、ビスが効かなくなる。屋上に上がって天端を歩けば、浮きは足裏で分かることがあります。しかし、外側にオーバーハングしている部分の裏側は、屋上からも見えません。
ここも、ロープアクセスで外側から降りて初めて確認できる部位です。「屋上点検はしています」という管理会社の報告があっても、笠木の外側裏面まで見ているとは限りません。今週、聞いてみてください。
6-3. 看板:建築確認を取っていない屋外広告物が「散見される」
先ほど触れた那須町の事故を受け、国交省は令和8年3月30日付の事務連絡で、大阪市の調査結果にも言及しています。
令和7年8月18日に大阪市中央区宗右衛門町で発生したビル火災を受けて大阪市が火災現場を含む地区一帯について調査を実施しているところですが、大阪市によると準用工作物に該当する屋外広告物について、法の規定に適合していないものや、屋外広告物条例に基づく屋外広告物の設置許可申請等が行われていないものもあるとのことです。
──令和8年3月30日 事務連絡より引用
そして、行政側の対応方針として、こう書かれています。
建築主務部局においては、建築パトロールや日常的な防災査察の機会を利用して、このような準用工作物について、屋外広告物条例所管部局や消防部局など関係部局と連携の上、建築確認手続の実施状況などの実態を把握し、法令及び屋外広告物条例に基づく手続の未実施や、これらに基づく基準への不適合があった場合には、情報共有の上で適切に是正指導を行うなど、必要な取組をお願いします。
「防災査察の機会を利用して、看板の建築確認の実施状況を把握する」と明記されています。今週、それが行われます。
看板の安全点検義務とオーナー責任については、「看板の安全点検義務とオーナー責任|道頓堀ビル火災から1年」でも整理しています。テナントビルをお持ちの方は、こちらもご確認ください。
7. エレベーター:戸開走行保護装置が「約6割未設置」という数字
大規模修繕とは直接の守備範囲が違いますが、収益不動産オーナーとして知っておくべき数字が今年の通知に載っています。
令和6年度に定期報告のあったエレベーター約78万台のうち、約4割に当たる31万台に戸開走行保護装置が設置されていますが、依然として、約6割のエレベーターには戸開走行保護装置が設置されていない状況です。
──国住事防第11号より引用(※令和8年1月28日報道発表「エレベーターへの戸開走行保護装置の設置率は4割」)
戸開走行保護装置(UCMP)は、扉が開いたままカゴが動き出す事故を防ぐ装置です。平成21年(2009年)9月28日以降の新設エレベーターには設置が義務付けられていますが、それ以前の既設機には遡及適用されません。
日本のエレベーターの約6割──47万台前後が、この装置なしで動いています。
令和8年上半期の事故一覧には、次の3件のエレベーター事故と、1件の違法設置エレベーター事故(死亡1名)が記載されています。
| 発生年月日 | 発生場所 | 事故の概要 | 人身被害 |
|---|---|---|---|
| 2025年10月19日 | 神奈川県内 | カゴが最上階フロア+490mmのところで停止し、突き上げ状態となっていた | なし |
| 2026年2月22日 | 東京都内 | 4階から展望デッキを結ぶエレベーターが途中停止し、乗客20名が閉じ込め。外部との連絡装置が不通 | なし |
| 2026年6月24日 | 兵庫県内 | エレベーターから降りる際、カゴ床とホールとの間に9cmの段差が発生し、躓いて転倒 | 軽傷1名 |
| 2026年4月28日 | 広島県内 | 【違法設置エレベーター】カゴ枠と2階床の間に利用者の体が挟まれた | 死亡1名 |
既設エレベーターへの戸開走行保護装置の設置には、住宅・建築物安全ストック形成事業および住宅・建築物防災力緊急促進事業が活用可能で、令和7年度補正予算で防災対策改修工事費に係る補助限度額が引き上げられています。
「うちのエレベーターは何年製か」──オーナーの方は、この機会に確認してみてください。平成21年より前なら、まず設置されていません。
8. 使える支援制度の一覧(令和8年度時点)
今年の通知には、防災対策に使える国の支援制度が横断的に整理されています。実際の適用可否・補助率・限度額は自治体によって異なるため、必ず所在地の建築部局にご確認ください。
| 制度名 | 主な対象 | 令和7年度補正・令和8年度当初での動き |
|---|---|---|
| 住宅・建築物安全ストック形成事業 | 耐震・耐風・耐雪・土砂災害対策改修、アスベスト改修、エレベーター防災対策改修 | 耐風診断・耐風改修、耐雪診断・耐雪改修、土砂災害対策改修、防災対策改修工事費の補助限度額をそれぞれ引き上げ |
| 建築物耐震対策緊急促進事業(住宅・建築物防災力緊急促進事業) | 耐震診断義務付け対象建築物 | 事業期間を令和12年度末まで延長 |
| 災害危険区域等建築物防災改修等事業 | 災害危険区域・浸水被害防止区域で既存不適格となった建築物の改修 | 令和7年度補正予算で補助事業額を引き上げ |
| 住宅市街地総合整備事業(水害対策型) | 大規模水害が想定される住宅市街地の水害対策 | 令和8年度当初予算で創設 |
| 建築物火災安全改修事業 | 既存建築物の防火上・避難上の安全性確保 | ── |
| 狭あい道路整備等促進事業 | セットバックに要する測量・分筆・登記・用地取得・道路舗装等 | ── |
税制面でも動きがあります。令和8年度税制改正において、既存住宅のリフォームに係る特例措置について所得税が3年間、固定資産税が5年間延長され、耐震改修促進法に基づき耐震診断が義務付けられる建築物の耐震改修に係る特例措置については固定資産税が3年間延長されました。
補助金の話が出ると、「うちは対象外だろう」と最初から諦めてしまう方が多いのですが、限度額が引き上げられた年は、前年に見送った工事が通ることがあります。今週、自治体の窓口に電話1本入れる価値はあります。
9. 9月5日までに確認する7項目
ここまでの内容を、実際に動ける形に落とし込みます。今週中に確認してください。すべて、電話や書類確認でできることです。
① 直近の定期報告書(建築基準法第12条)が提出されているか
管理会社または前任の理事から、定期調査報告書・定期検査報告書の写しを受け取っていますか。報告年月日と受理印を確認してください。提出していない建物が、今週の防災査察の主対象です。
② 外壁の「全面打診等調査」を最後に行ったのはいつか
竣工(または前回の外壁改修)から10年を超えていませんか。超えているのに全面打診等の記録がない場合、次の定期報告で指摘される可能性が高いと考えてください。
③ 屋上の笠木・パラペット天端の点検記録があるか
「屋上点検をしています」ではなく、「笠木の固定状態を確認しましたか」と具体的に聞いてください。外側にオーバーハングした部分の裏面まで見ているかどうかが分かれ目です。
④ 看板・屋外広告物の建築確認と設置許可を取っているか
自社ビル・テナントビルの屋上看板、壁面看板、袖看板。建築基準法第88条の準用工作物に該当する場合、建築確認が必要です。設置業者に確認書類の有無を照会してください。屋外広告物条例に基づく設置許可の更新も同様です。
⑤ エレベーターの製造年と、戸開走行保護装置の有無
平成21年9月以前に設置された機なら、まず未設置です。保守会社に確認し、補助制度の対象になるか自治体に問い合わせてください。
⑥ 外階段・バルコニー手すり・庇の付け根に腐食がないか
木造・鉄骨の外階段は、踏板の裏側とささら桁の付け根が最も危険です。庇の付け根、バルコニー手すりの支柱基部も同様。いずれも外からは見えません。
⑦ 修繕積立金・修繕予算の残高と、直近3年の支出予定
上記①〜⑥で「要対応」が出た場合、原資があるか。ここを確認しておかないと、指摘を受けてから慌てることになります。
10. オーナーと管理組合で、優先順位は変わる
同じ「防災週間」でも、立場によって最初に手をつけるべきところは違います。
10-1. 一棟所有オーナー(収益不動産)の場合
最優先は、④の看板と⑥の外階段です。理由は3つあります。
- 第三者への加害リスクが直接オーナーに来る。通行人が負傷すれば、工作物責任(民法第717条)の議論になります。管理組合のような合議体を挟まないぶん、責任の所在が明確です。
- 保険が効かない可能性がある。建築確認を取っていない看板の事故は、保険会社との交渉が難航することがあります。
- 是正のコストが読める。看板の点検・補強、外階段の防錆処理は、いずれも百万円単位で収まることが多く、判断しやすい。
賃料や稼働率と違って、こうした安全対策は「やっても収益が増えない支出」に見えます。しかし、事故が1件起きたときの逸失利益と対応コストを考えれば、これは保険料に近い性質の支出です。
10-2. 分譲マンション管理組合の場合
最優先は、①の定期報告と②の全面打診等調査です。
管理組合の場合、意思決定に総会を経る必要があるため、「気づいてから動くまで」に半年〜1年かかります。だからこそ、指摘を受ける前に、次年度予算に調査費を積んでおくことが実務的な解になります。
そして、ここで工法の選択が効いてきます。全面打診のために足場を組む前提で予算を立てると、調査費だけで数百万円規模になり、総会を通りにくい。ロープアクセスで調査を先行させれば、「まず正確な現状把握、その結果を見て工事範囲を決める」という二段構えが取れます。
なお、2026年4月1日施行の改正マンション管理適正化法により、管理業者管理者方式のマンションでは利益相反のおそれがある取引について事前説明が義務化され、「相手方以外に提出させた見積もりの内容」「相見積もりをさせなかった理由」が開示事項になりました。この点は「マンション管理業者31社に是正指導・49件|「管理者が発注者」になった2026年、大規模修繕の見積書で必ず確認する6項目」で詳しく整理しています。
10-3. ホテル・商業施設の場合
最優先は、③の笠木と④の看板、そして「営業を止めない点検手段」の確保です。
ホテルや商業施設では、足場を架設すること自体が営業機会の損失に直結します。客室の窓が塞がれば稼働率が落ち、店舗の看板が隠れれば売上が落ちる。点検のたびに足場を組むという選択肢が、そもそも現実的でないのがこの業態です。
だからこそ、ロープアクセスによる調査・部分補修は、ホテル・商業施設との相性が最もよい工法だと考えています。夜間や閑散期に、営業を止めずに壁面を診る。詳細は「ロープアクセス工法|無足場工法の専門サイト」の施工事例をご覧ください。
11. 台風シーズンとの重なりは、偶然ではない
建築物防災週間の秋季が「8月30日〜9月5日」に設定されているのは、9月1日の防災の日(関東大震災の日)を含むためです。しかし実務的には、この時期が台風シーズンの入口であることのほうが意味を持ちます。
強風で飛ぶものは、飛ぶ前に留めるしかありません。台風が来てから屋上に上がることはできない。今週のうちに、飛びそうなものを洗い出す。それが、この週間の実務的な使い方です。
台風・豪雨のあとの点検については、「台風・豪雨のあとの建物点検は「72時間」で決まる|令和8年8月千葉豪雨に学ぶ、足場を組まずに屋上・外壁を診る手順」で手順をまとめています。今週は「前」の点検、来月以降は「後」の点検。セットでお考えください。
12. 施工会社として、正直に書いておきたいこと
ここまで「点検してください」「確認してください」と繰り返してきました。工事会社がこれを書くと、営業目的に見えるのは承知しています。
だから、逆のことも書きます。
防災週間だからといって、慌てて工事を発注する必要はありません。
この時期、「行政の査察が入りますよ」「今すぐ点検しないと危険です」といった煽り方で営業をかける業者が出てきます。私たちの業界の悪い癖です。
冷静に考えてください。防災査察で指摘を受けたとしても、その場で工事を命じられるわけではありません。多くの場合、是正指導と報告の督促です。そこから調査・見積・比較検討をして、必要な工事を必要な範囲で行えばいい。
今週やるべきなのは、工事の発注ではなく「現状の把握」です。前ページの7項目は、すべて書類確認と問い合わせでできることです。費用はかかりません。
そのうえで、調査が必要だと判明したら、複数社から見積もりを取ってください。私たちも、そのうちの1社として声をかけていただければ十分です。工法の選択肢を3つ持っている会社として、「足場を組むべきです」と正直に申し上げる場面もあります。
現場を20年見てきて思うのは、建物の事故は「知らなかった」ではなく「知っていたが後回しにした」から起きるということです。5月25日に神奈川で落ちたタイルも、6月26日に栃木で落ちた外壁も、おそらく誰かが一度は「そろそろ見たほうがいい」と思っていたはずです。
今週は、その「そろそろ」を「今」に変えるための1週間です。
よくある質問(FAQ)
Q1. 建築物防災週間の期間中、必ず行政の査察が来るのですか?
A. 必ず来るわけではありません。国交省の通知(国住事防第11号)は、特定行政庁に対して「定期報告書が提出されていない建築物等を中心に」現地調査と必要な指導を実施するよう求めています。つまり、対象の選定は各特定行政庁の判断です。
ただし、定期報告を提出していない建物は、優先度が高いと考えるのが自然です。また、今年は屋外広告物について「建築パトロールや日常的な防災査察の機会を利用して、建築確認手続の実施状況などの実態を把握」するよう求める事務連絡(令和8年3月30日)が出ています。看板を設置している建物は、例年より注意が必要です。
Q2. 外壁の全面打診等調査は、必ず足場を組まないとできませんか?
A. いいえ。全面打診等調査の「等」には、赤外線調査などの他の手法も含まれ得ます。また、打診そのものを行う場合でも、壁面に近づく手段は仮設足場だけではありません。ゴンドラ、高所作業車、そしてロープアクセス(無足場工法)が選択肢になります。
ロープアクセスなら足場費が不要になるため、調査だけを単独で発注することが現実的になります。ただし、屋上に十分な支点が確保できない建物や、バルコニー内側など物理的に届きにくい部位が多い建物では、足場のほうが適切です。どの手法が使えるかは建物ごとに異なるため、調査資格者と施工会社の双方に相談することをおすすめします。詳しくはロープアクセス工法の専門サイトをご覧ください。
Q3. 3階建て・延べ面積250㎡の小さなテナントビルですが、定期報告の対象になりますか?
A. 所在地の特定行政庁が指定しているかどうかによります。令和5年政令第34号により、事務所その他これに類する用途の建築物について、特定行政庁が定期調査報告の対象として指定できる範囲が「階数5以上かつ延べ面積1,000㎡超」から「階数3以上かつ延べ面積200㎡超」へ拡大されました。
これは自動的に全国で対象になったという意味ではなく、各特定行政庁が指定するかどうかを判断します。国交省は今年の通知で、指定の検討および既に指定している場合の指定範囲の拡大の検討を求めています。所在地の市区町村の建築部局に、自分の建物が対象かどうかを直接確認してください。
Q4. 看板に建築確認が必要かどうかは、どう判断すればいいですか?
A. 建築基準法第88条に基づき、一定の規模を超える広告塔・広告板等は「準用工作物」として建築基準法令の規定が準用され、建築確認の手続が必要になります。規模の要件は建築基準法施行令に定められており、屋上に設けるものと地上に自立するもので基準が異なります。
判断に迷う場合は、設置業者に確認申請の写しを求めるのが最も早い方法です。書類が出てこない場合は、所在地の建築部局に建物の情報を伝えて相談してください。令和8年3月5日に栃木県那須町で発生した看板転倒事故(重傷1名・軽傷2名)では、建築確認も屋外広告物条例に基づく設置許可申請も行われていませんでした。
Q5. 防災週間を機に、点検や改修に使える補助金はありますか?
A. あります。屋根の耐風改修については住宅・建築物安全ストック形成事業が活用可能で、令和7年度補正予算において耐風診断および耐風改修に係る補助限度額が引き上げられています。同事業は耐雪診断・改修、土砂災害対策改修、アスベスト改修、既設エレベーターの戸開走行保護装置設置にも使えます。
ただし、補助制度は自治体ごとに創設状況・補助率・限度額が異なります。国の事業として枠があっても、お住まいの自治体が制度化していなければ使えません。まずは所在地の建築部局・住宅部局に電話で確認してください。防災週間中は広報活動が強化されているため、窓口で情報を得やすい時期でもあります。
まとめ:今週の1週間で、費用ゼロでできること
| # | 確認項目 | 確認先 | 所要 |
|---|---|---|---|
| ① | 直近の定期報告書の提出状況 | 管理会社・前任理事 | 電話1本 |
| ② | 外壁の全面打診等調査の実施履歴 | 管理会社・調査会社 | 電話1本 |
| ③ | 屋上笠木・パラペット天端の点検記録 | 管理会社 | 電話1本 |
| ④ | 看板の建築確認・設置許可の有無 | 設置業者・建築部局 | 電話2本 |
| ⑤ | エレベーター製造年と戸開走行保護装置 | 保守会社 | 電話1本 |
| ⑥ | 外階段・庇・手すり基部の腐食状況 | 目視+専門家相談 | 30分 |
| ⑦ | 修繕積立金・修繕予算の残高 | 会計資料 | 30分 |
建築物防災週間は、2026年9月5日(土)までです。
上の7項目は、どれも工事の発注を伴いません。書類を1枚確認し、電話を1本かけるだけです。それでも、この7つが埋まっていれば、あなたの建物の防災上の弱点はかなりの精度で見えてきます。
そして、もし「調査が必要そうだ」という結論になったら──足場を組む前に、足場を組まずに診る方法があるかどうかを、一度検討してみてください。それだけで、判断に使える予算の幅は大きく変わります。
参考・一次情報
- 国土交通省「建築物防災週間における防災対策の推進について(令和8年度秋季)」(令和8年8月10日 国住事防第11号):https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/build/content/002016499.pdf
- 国土交通省「建築物等における事故・災害対策」:https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/build/jutakukentiku_house_tk_000037.html
- 国土交通省「準用工作物に該当する屋外広告物の建築基準法令への適合及び手続の徹底について」(令和8年3月30日 事務連絡):https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/build/content/002003554.pdf
- 国土交通省「瓦の緊結方法に関する基準の強化(昭和46年建設省告示第109号)」:https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/build/content/S46-109.pdf
- 国土交通省 報道発表「民間建築物における吹付けアスベスト等飛散防止対策に関する調査(令和6年度)の結果」(令和8年2月6日):https://www.mlit.go.jp/report/press/house05_hh_001118.html
- 国土技術政策総合研究所「建物事故予防ナレッジベース」:https://www.tatemonojikoyobo.nilim.go.jp/kjkb/
- 一般社団法人 日本ビルヂング協会連合会「国土交通省/建築物防災週間(令和8年度 秋季)の実施について」:https://www.jboma.or.jp/news/2026/08/7953/
執筆者
本間 幸紘(ほんま ゆきひろ)
株式会社明誠 代表取締役
マンション・ビル・ホテルの大規模修繕工事を専門とし、通常の足場仮設工法・ロープアクセス工法(無足場工法)・両者を組み合わせたハイブリッド工法の3つから、建物ごとに最適な工法をご提案しています。ロープアクセス工事としては日本で初めてとなるフランチャイズ展開を行い、塗装・防水・タイル・電気・看板の各分野の専門職が加盟することで、高品質かつ適正価格の施工体制を構築しています。
また、一般社団法人 全国建設業支援協会(JCSA)を運営し、全国の建設業者に向けた経営支援情報の発信、オンラインセミナー、交流会、ビジネスマッチングを行っています。
株式会社明誠
TEL:042-508-3567
Mail:info@meiseitosou.com
- 大規模修繕・工法のご相談:https://rope-access-method.com/
最終更新日:2026年8月31日


