
先日、同業の方が書かれた「資材高騰が工事に与える影響」という記事を目にしました。鉄も塗料もシーリング材も設備機器も、ほぼ全部が値上がりしている——現場の実感がそのまま言葉になった内容で、私も思わずうなずきながら読みました。
私は東京・関東を中心に、マンション・ビル・ホテルの大規模修繕工事に長く携わってきました。ロープアクセス工法(産業用ロープを使い、足場を架けずに外壁の作業を行う無足場工法のことです)と、従来の足場仮設工法の両方を扱い、建物に合わせて最適な工法を提案するのが私たちの仕事です。その現場の立場から申し上げると、いま起きている資材高騰は、単なる「一時的な値上がり」ではありません。管理組合やオーナーの皆さまの修繕積立金と、資産価値そのものに、これから何年も影響し続ける構造的な変化だと考えています。
今日は、資材と工事費がどれくらい上がっているのかを公的なデータで確認したうえで、では現実にどう向き合えばいいのか、私なりの考えを率直にお話しします。少し長くなりますが、次の大規模修繕を控えている理事長さん、そして収益物件をお持ちのオーナーさんに、必ず役に立つ内容にします。
結論から——「待てば下がる」という前提はもう捨てたほうがいい
先にいちばん大事なことをお伝えします。「今は高いから、もう少し景気が落ち着いてから工事をしよう」という判断は、いまの局面では危険です。
理由は単純で、建築費は下がっていないからです。むしろ高い水準で高止まりし、ゆるやかに上がり続けています。後ほど公的なデータでお示ししますが、この10年で建築コストは約3割上がりました。そして労務費(職人さんの人件費)の上昇はこれからも続く見通しです。つまり「待つ」という選択は、多くの場合「もっと高くなってから工事する」ことと同じ意味になってしまいます。
もちろん、資金計画が整っていないのに無理に前倒しする必要はありません。ただ、「値下がりを待つ」という前提だけは、いったん頭から外していただきたい。そのうえで、上がり続けるコストをどう吸収するか——ここに知恵の使いどころがあります。
数字で見る「建設資材と工事費の高騰」
感覚の話だけでは意思決定に使えません。公的な統計で、いま何が起きているのかを確認しておきましょう。
建設工事費は10年で約3割上がった
国土交通省は「建設工事費デフレーター」という指標を毎月公表しています。これは、建設工事にかかる費用が基準となる年度と比べてどれだけ変動したかを示す、いわば建築版の物価指数です。2015年度を100として計算されています。
この指標を見ると、建設総合の数値は2025年12月時点で133.2まで上昇しています(国土交通省・建設工事費デフレーター)。基準の100に対して133ですから、この10年で建設コストが約3割上がったということです。数か月前の2025年8月時点でも130.9でしたので、いまも上昇基調が続いていることがわかります。
もう一つ、私が現場の人間として注目しているのが構造別の動きです。同じデフレーターで、木造住宅の指数が149.2、鉄筋コンクリート(RC)造が143.2と、木造がRC造を上回る「逆転」が起きています。もともとRC造のほうが上がりやすいとされてきたのですが、木材価格や住宅系の労務ひっ迫でこの順位が入れ替わったわけです。マンションの多くはRC造ですが、そのRC造でも143という高い水準にあることは、しっかり押さえておいてください。
職人さんの人件費(労務単価)も14年連続で上昇
資材だけではありません。工事費のもう一つの柱である労務費も上がり続けています。国土交通省が毎年見直す「公共工事設計労務単価」は、2026年3月適用分で14年連続の引き上げとなり、全国全職種の単純平均で前年度比プラス4.5%となりました(国土交通省)。
労務単価は公共工事のための基準ですが、民間の大規模修繕工事の職人さんの賃金にも当然影響します。資材が上がり、そのうえ人件費も毎年上がっている——この二重の上昇が、いまの工事費高騰の正体です。
2012年度と比べると工事費は約35%上昇
もう少し長い目で見てみましょう。国土交通省のデフレーターをもとにすると、2024年度(暫定値)と2012年度を比べた工事費の上昇率は34.8%に達します。十数年で約3分の1以上、工事費が重くなったということです。
これらの数字が意味するのは、「同じ建物に同じ修繕を施すのに、10年前の見積書はもう通用しない」という現実です。前回の大規模修繕のときの金額を基準に予算を組んでいると、いざ見積もりを取ったときに大きく足が出ます。まずこの前提の更新から始めていただきたいと思います。
(データ出典はいずれも国土交通省の公表値です。指標は毎月・毎年更新されますので、実際の計画時点では最新値をご確認ください。)
現場で感じる「見積書の重さ」
数字の話をしましたが、私がこの十数年で肌身に感じてきたことも申し添えておきます。以前は、同じ規模のマンションの大規模修繕であれば、前回の実績金額に少し色を付ければ次の予算の当たりが付きました。ところが、ここ数年はその「感覚」がまったく当てにならなくなりました。
数年前、あるマンションで、前回工事の見積書を握りしめた理事長さんが「これと同じくらいで収まりますよね」とおっしゃったことがあります。しかし実際に積算してみると、足場費も塗料も防水材も、そして職人さんの手間も上がっており、前回よりだいぶ高い金額になりました。「なぜこんなに?」と驚かれたその表情を、私はよく覚えています。悪いのは物価であって、その方でも私でもない。だからこそ、私は数字の背景を一つひとつ丁寧に説明し、どこを工夫すれば総額を抑えられるかを一緒に考えました。物価は変えられませんが、工事の組み立て方は変えられます。ここに私たちの存在意義があると、あらためて感じた出来事でした。
なぜシーリング材・塗料・防水材まで上がるのか——現場から見た理由
「鉄骨や生コンが上がるのはわかる。でも、なぜシーリング材や塗料まで?」というご質問をよくいただきます。ここは現場の人間として少し補足させてください。
大規模修繕で使う塗料、シーリング材(サッシまわりや外壁の目地を埋める、ゴム状の充填材のことです)、防水材の多くは、石油由来の樹脂を原料にしています。原油価格や為替、そして海外からの原材料の輸入コストが、そのまま製品価格に響きます。ここ数年の円安と原材料高が、これらの副資材をじわじわと押し上げてきました。
塗料メーカーの決算を見ても、価格改定を進めながら売上を確保している構図が読み取れます。実際、大手の塗料メーカーが2027年3月期の業績予想を上方修正するといった動きも報じられています。これは裏を返せば、製品価格が上がっているということでもあります。
さらに、これらの副資材は「少量だから影響も小さい」わけではありません。大規模修繕では、外壁全面のシーリング打ち替え、外壁塗装、屋上・バルコニーの防水と、これらの材料を大量に使います。1棟あたりで見れば、副資材の値上がりは決して無視できない金額になります。
この高騰局面で、管理組合とオーナーが取れる4つの現実解
では、上がり続けるコストにどう向き合うか。私が現場で実際にご提案している考え方を、4つに整理してお伝えします。
1. 「工法」でコストを吸収する——足場費という大きな塊を見直す
大規模修繕の見積書を開くと、多くの方が驚かれるのが「仮設工事費」、つまり足場の費用です。建物の規模や形状にもよりますが、工事費全体の2割前後を足場の架設・解体・レンタルが占めることも珍しくありません。
ここに、資材高騰時代の一つの答えがあります。私たちが手がけているロープアクセス工法(無足場工法)は、その名のとおり足場を架けずに、屋上から下ろした産業用ロープで作業員が外壁の作業を行う工法です。足場を組まない分、仮設費用を大きく圧縮でき、工期も短縮できます。
資材や労務が上がっている局面では、「材料費や人件費を値切る」ことには限界があります。むしろ、足場という工事費の大きな塊そのものを減らせるかどうかが、総額を左右します。塗料が1割上がっても、足場費を大きく削れれば、総額では十分に相殺できるケースがあるのです。
もちろん、ロープアクセスがすべての建物に万能というわけではありません。ここは正直にお伝えします。
2. ただし「足場が向く建物」もある——ハイブリッドという発想
ロープアクセスが力を発揮するのは、高層で足場を架けにくい建物、周囲に足場を建てるスペースが取りにくい建物、そしてコストを最優先したい物件です。一方で、外壁の劣化が全面的に激しく大量の下地補修が必要な場合や、複雑な形状で作業効率が落ちる場合には、従来の足場のほうが適していることもあります。
そこで私たちがよくご提案するのが、ハイブリッド工法です。これは、足場が有利な部位には足場を架け、ロープアクセスが有利な部位はロープで対応する、というように、建物を部位ごとに使い分ける考え方です。「全部足場」でも「全部ロープ」でもなく、その建物にとっての最適配分を探る。これができる会社は、日本でもまだ多くありません。
大切なのは、複数の工法を持っている会社に相談することです。足場工事しかできない会社に相談すれば足場の見積もりしか出てきませんし、ロープしかできない会社ならロープの提案しか出てきません。工法の選択肢を持っている会社であれば、「あなたの建物なら、この配分がいちばん安く、住民への影響も小さい」という比較そのものを提示できます。
3つの工法を一覧で比較する
言葉だけではイメージしにくいので、3つの工法の特徴を整理します。あくまで一般的な傾向であり、実際の適否は建物ごとに変わりますが、判断の出発点にしてください。
| 比較項目 | 通常足場工法 | ロープアクセス工法(無足場) | ハイブリッド工法 |
|---|---|---|---|
| 仮設(足場)費 | 大きい | ほぼ不要 | 部位限定で圧縮 |
| 工期 | 長め | 短め | 中程度 |
| 大量の下地補修 | 得意 | 部分補修向き | 部位で使い分け |
| 高層・足場困難な建物 | 苦手なことも | 得意 | 得意 |
| 住民の生活・視界への影響 | 大きい(建物を覆う) | 小さい | 中程度 |
| 防犯面 | 足場からの侵入リスク | リスク小 | 部位で異なる |
足場を建物全体に架けると、工事期間中はバルコニーが覆われ、洗濯物が干しにくくなったり、窓からの視界がふさがれたりします。防犯の面でも、足場が侵入経路になり得るという不安の声を、私は現場で何度も伺ってきました。ロープアクセスはこうした生活への影響を小さく抑えられるのが、コスト以外の大きな利点です。ここは、実際に住んでいる方の満足度に直結する部分なので、オーナーさんにも管理組合さんにも、ぜひ重視していただきたいところです。
タイルの浮き・剥落は「安全」の問題でもある
コストの話に偏りましたが、大規模修繕にはもう一つ、絶対に外せない視点があります。安全です。とくに外壁タイルの浮きや剥落は、通行人や住民に危険が及びかねない深刻な劣化です。
建築基準法では、一定規模以上の建物について、外壁の全面打診調査など定期的な調査・報告が求められています(特定建築物の定期調査報告制度)。打診調査とは、専用の道具で壁を軽く叩き、その音でタイルやモルタルの浮きを見つける調査のことです。この調査自体にも、従来は足場やゴンドラが必要でした。ロープアクセスなら、この調査を機動的に、かつ低コストで行える場合があります。資材が高騰している今こそ、「危険な箇所だけを的確に見つけて、必要な範囲を直す」という無駄のない進め方が効いてきます。
足場費の圧縮を、数字でイメージしてみる
抽象的な話が続いたので、ごく簡単なモデルで「足場費の圧縮」を体感してみましょう。あくまで考え方を示すための単純化した例で、実際の金額ではない点はご了承ください。
たとえば、ある大規模修繕の総額を仮に5,000万円とし、そのうち仮設(足場)費が2割の1,000万円を占めていたとします。資材高騰で塗料・防水材などの材料費が1割上がると、材料費部分が仮に2,000万円だった場合は200万円の増額です。ここだけ見れば「200万円も高くなった」と頭を抱えたくなります。
しかし、もし建物の条件が合い、足場をロープアクセスに置き換えて仮設費を大きく圧縮できたとしたら、その削減幅が材料費の増額を上回ることも十分あり得ます。総戸数50戸のマンションなら、数百万円の差は一戸あたり数万円の負担差に相当します。「材料が上がった分をどこで取り戻すか」を考えたとき、いちばん大きなレバーが足場費だ——このイメージだけでも持ち帰っていただければと思います。
繰り返しになりますが、これはあくまで考え方の説明です。実際の削減幅は建物の形状・劣化状況・工事範囲によって変わりますので、必ず現地を見たうえでの見積もりで判断してください。
3. 修繕積立金の「前提」を国のガイドラインで見直す
工事費が上がっているということは、修繕積立金の水準も見直しが必要だということです。ここは避けて通れない話です。
国土交通省は「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」を令和6年(2024年)6月に改定しました(国土交通省)。このガイドラインでは、計画期間全体における修繕積立金の平均額の目安が、専有面積あたりの月単価で示されています。たとえば、地上20階未満で建築延床面積5,000㎡未満のマンションでは平均335円/㎡・月、5,000㎡以上〜10,000㎡未満では平均252円/㎡・月といった目安が示されています。
これを体感できる数字に換算してみましょう。仮に専有70㎡のお住まいで、目安が月300円/㎡だとすると、月額はおよそ2万1,000円になります。「うちの積立金は㎡あたりいくらだろう」と、一度この物差しで確認してみてください。目安を大きく下回っているなら、将来の工事のときに一時金や借入で穴埋めせざるを得なくなる可能性があります。
また同じ改定では、「段階増額積立方式」——最初は安く、あとから段階的に上げていく積み立て方——について、引き上げ幅の考え方も整理されました。均等に積み立てた場合の金額を基準額とすると、計画の初期額は基準額の0.6倍以上、最終額は1.1倍以内が一つの目安とされています。急に何倍にも跳ね上げる計画は、合意形成の面でも無理が出やすい、ということです。
(金額はいずれもガイドライン上の目安であり、建物の規模・築年数・仕様によって適正額は変わります。詳しくは国土交通省の公表資料をご確認ください。)
4. 「長期修繕計画」を高騰前提でつくり直す
修繕積立金と対になるのが、長期修繕計画です。国土交通省は「長期修繕計画作成ガイドライン」も同時に改定しています。ポイントは、計画に織り込む工事費の単価を、いまの高い水準で見直すことです。
10年前、あるいは5年前につくった長期修繕計画のままでは、想定している工事費が実勢と合っていない可能性が高い。計画上は足りているように見えても、実際に工事の時期が来たら大幅に不足する——これがいちばん怖いパターンです。数年に一度は、最新の工事費水準で計画を見直す。これを習慣にしていただきたいと思います。
オーナーの皆さまへ——高騰は「収益」の問題でもある
ここまでは主に管理組合の理事長さんを念頭にお話ししてきましたが、収益物件をお持ちのオーナーさんにとって、資材高騰はもう一段深い意味を持ちます。修繕費の増加は、そのまま賃貸経営の収支を圧迫するからです。
外壁やシーリング、防水の劣化を放置すれば、漏水やタイルの浮き・剥落につながり、入居者の安全と満足度を損ないます。結果として、空室や賃料下落という形で収益に跳ね返ってきます。逆に、適切なタイミングで、無駄のないコストで修繕を行えば、建物の資産価値と収益力を長く保てます。
だからこそ、工事費が上がっている今だからこそ、「いくらで直すか」だけでなく「どの工法で、どの範囲を、どの順番で直すか」という戦略が効いてきます。足場費を圧縮し、工期を短くできれば、その分だけ工事期間中の入居者への影響も小さくなり、退去リスクも抑えられます。コストと収益は、工法選びを通じてつながっているのです。
「専門職のネットワーク」が高騰時代の武器になる理由
資材高騰への対抗策として、もう一つお伝えしておきたいことがあります。それは、各分野の専門職が連携できる体制の強さです。
大規模修繕は、塗装、防水、シーリング、タイル補修、そして時には電気設備や看板の工事まで、多くの専門工事が組み合わさって成り立ちます。これらをバラバラに別々の会社へ発注すると、それぞれに管理費や諸経費が乗り、工程の段取りにも無駄が生まれます。資材が上がっている今、この「間接コストの重複」は、想像以上に効いてきます。
私たちは、塗装・防水・タイル・電気・看板といった各分野の専門職がネットワークとして加盟する体制を築いてきました。日本で初めてロープアクセス工事のフランチャイズ展開を始めたのも、この「専門職を束ねて高品質と低価格を両立する」という考えからです。一つの窓口で複数の専門工事を段取りよくまとめられれば、間接コストを抑えつつ、各工程の品質は専門職が担保する——高騰局面でこそ生きる仕組みだと考えています。
もちろん、体制の大小だけで会社を選ぶ必要はありません。ただ、「この工事は塗装屋さん、あれは防水屋さんとバラバラに探すのは大変だ」と感じておられるなら、専門職をまとめて動かせる会社に相談する価値は大きいと思います。
夏場の大規模修繕で、もう一つ気にかけていただきたいこと
季節の話も少しだけ。この記事を書いている7月は、まさに夏本番です。夏場の工事では、職人さんの熱中症対策が欠かせません。近年は猛暑が厳しく、屋外作業の安全確保はますます重要になっています。
ここでも工法選びが関わってきます。足場を全面に架けてシートで覆うと、建物の内側は熱がこもりやすく、住民の皆さまの窓を開けづらくする一因にもなります。一方、無足場のロープアクセスは建物を覆いませんので、風通しや採光への影響を抑えられます。工期が短くなれば、暑い時期に工事が長引く負担も軽くできます。
コスト、安全、そして住民の快適さ。この三つは別々のようでいて、実は工法という一点でつながっています。夏の工事を検討されている方は、ぜひこの視点も加えてみてください。
見積もりを取るときに、ぜひ確認していただきたいこと
最後に、実務で役立つチェックポイントをお伝えします。相見積もりを取る際、次の点を各社に確認してみてください。
一つ目は、仮設(足場)費が総額のどれくらいを占めているか。ここが大きいなら、無足場やハイブリッドで圧縮できる余地があるかもしれません。二つ目は、使用する塗料・シーリング材・防水材のグレードと数量の内訳。同じ「外壁塗装一式」でも、材料のグレードで金額も耐久年数も変わります。三つ目は、税込か税抜かの明示。工事は金額が大きいので、消費税分だけで数十万円から数百万円変わります。四つ目は、その会社が扱える工法の種類。一つの工法しか扱えない会社の見積もりは、比較の土俵が最初から限られています。
これらを揃えて初めて、フェアな比較ができます。数字の大小だけでなく、「なぜその金額なのか」を説明できる会社を選んでいただきたいと思います。
積立金が足りないと分かったら——優先順位で考える
見直してみたら積立金が足りない、というケースは実際に少なくありません。そうなったとき、慌てて工事を全部先送りするのは得策ではありません。放置は劣化を進め、結果的に将来の工事費をさらに膨らませるからです。
現実的な選択肢は、大きく三つあります。一つは、修繕積立金の段階的な増額です。先ほど触れた国のガイドラインの考え方に沿って、無理のない範囲で計画的に引き上げます。二つ目は、金融機関の管理組合向けローンや、住宅金融支援機構などの融資制度の活用です。三つ目、そしてここが工法の出番ですが、工事の範囲と工法を最適化して総額そのものを抑えることです。
とくに三つ目は、資金計画に踏み込む前にまず検討すべきだと私は考えています。「積立金が足りないから増額」と結論を急ぐ前に、「そもそもこの工事、足場を全面に架けずに済ませられないか」「本当に今直すべき部位はどこか」を精査する。ここで数百万円単位の差が出ることは珍しくありません。増額や借入は、工法を最適化したうえで、それでも足りない分を補う手段と位置づけるのが健全だと思います。
資材高騰は今後どうなるのか——私の見立て
「これから資材はどうなりますか」とよく聞かれます。正直に申し上げると、私は相場を予言する立場にはありません。ただ、公的データが示す方向性ははっきりしています。労務単価は14年連続で上がり、建築費は高止まりしています。人手不足という構造的な要因がある以上、労務費が急に下がるとは考えにくい。つまり、劇的に安くなる展開を期待して待つより、「上がっている前提」で最適な手を打つほうが現実的だ、というのが私の見立てです。
この点は断定を避けます。相場は為替や国際情勢で動きますし、私の予想が外れることもあるでしょう。ただ、少なくとも「待てば必ず安くなる」という前提に賭けるのはリスクが大きい、とだけはお伝えしておきます。
よくあるご質問(FAQ)
Q. ロープアクセスは足場より必ず安いのですか?必ずではありません。建物の形状や劣化の程度によっては足場のほうが総額で有利なこともあります。だからこそ、両方を扱える会社で比較することが大切です。私たちは「ロープありき」ではなく、建物にとって得な方を正直にご提案します。
Q. 無足場だと工事の品質は落ちませんか?工法が違っても、求められる品質基準は同じです。ロープアクセスは訓練を受けた作業員が行い、塗装・防水・シーリングといった各工程の品質管理も足場工事と同様に行います。むしろ工期が短くなる分、住民の負担は軽くなります。
Q. 前回の大規模修繕から何年で検討すべきですか?一般には12年前後を一つの目安に周期的な修繕が計画されることが多いですが、建物の立地や劣化状況で変わります。まずは現状の点検と、長期修繕計画の見直しから始めるのが安全です。
Q. 相談だけでも費用はかかりますか?現状のご相談や点検のご依頼だけでも構いません。いきなり工事の契約を迫るようなことはいたしません。まずはお気軽にお声がけください。
おわりに
資材高騰のニュースを見るたびに、私は現場のことを思います。材料が上がっても、職人さんの手間が増えても、住民の皆さまにとって「安心して長く住める建物」を届けるという仕事の本質は変わりません。変わらない目的のために、変わり続けるコストとどう折り合うか。その答えの一つが、工法の選択肢を持つことだと、私は考えています。
上がり続けるコストは、たしかに悩ましい。けれど、足場という大きな費用を見直し、国のガイドラインで積立金と計画を点検し、建物に合った工法を選ぶ。この三つを丁寧にやるだけで、打てる手はまだたくさんあります。
「うちの建物なら、どの工法がいちばんコストを抑えられるだろう」——そんな疑問が浮かんだら、見積もりのご依頼でなくても構いません。まずは現状の点検やご相談だけでも、お気軽にお声がけください。ロープアクセスと足場の両方を扱う立場から、あなたの建物にとって本当に得な選び方を、正直にお話しします。
次の大規模修繕が、資産価値を守る良い工事になりますように。現場から、心を込めて。
関連ページ
参考(公的一次情報)
- 国土交通省「建設工事費デフレーター」 https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/jouhouka/sosei_jouhouka_tk4_000112.html
- 政府統計の総合窓口(e-Stat)建設工事費デフレーター 時系列 https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?tclass=000001009114
- 国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」(令和6年6月改定・PDF) https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001747009.pdf
- 国土交通省 報道発表「長期修繕計画作成ガイドライン・マンションの修繕積立金に関するガイドラインの改定について」 https://www.mlit.go.jp/report/press/house03_hh_000204.html
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の工事費・積立金の適正額や税務・法務上の判断を保証するものではありません。数値は記事作成時点の公表値に基づいており、最新値は各出典元をご確認ください。


